1章 各章共通事項 1節 共通事項

建築工事監理指針 1章 各章共通事項


1節 共通事項

1.1.1 一般事項

(1) 公共建築工事標準仕様書(以下「標仕」という。)は、公共工事標準請負契約約款(以下「公共約款」という。)に準拠した契約書により発注される公共建築工事において使用する材料(機材)、工法等について標準的な仕様を取りまとめたものであり、当該工事の設計図書に適用する旨を記載することで請負契約における契約図書の一つとして適用されるものである。「標仕」の適用により、建築物の品質及び性能の確保、設計図書作成の効率化並びに施工の合理化を図ることを目的として、建築、電気設備及び機械設備工事の「標仕」が制定されている。「標仕」は国土交通省をはじめとする各府省庁が官庁営繕事業を実施するための「統一基準」として位置づけられており、その改定周期は3年となっている。また、地方公共団体等の公共建築工事においても広く用いられている。

(2) 適用範囲については、「標仕」1.1.1 (1)に新築及び増築と明記されており、官庁営繕工事における適用の対象としては、一般的な事務庁舎を主に想定している。ただし、想定と異なる特殊な条件がある場合の適用に際しては、その工事工種を十分検討し、必要に応じて特記により補足等を行わなければならない。
また、改修工事については、別に国土交通省大臣官房官庁営繕部において、「公共建築改修工事標準仕様書」が、木造工事については、「公共建築木造工事標準仕様書」が制定されている。

(3) 公共工事に関する標準請負契約約款としては、中央建設業審議会で定める公共約款があり、各省庁等の国の機関、都道府県等の地方公共団体、独立行政法人等の機関や電気事業者、ガス事業者等の民間企業に対し、これを実施約款に採用することが勧告されている。国土交通省においても勧告を受けて工事請負契約書(以下、この節では「契約書」という。)を改正し、公共約款の改正に対応している。平成22年7月26日には公共約款が改正され、契約当事者間の対等性確保、施工体制の合理化、不良不適格業者の排除等について改善が図られ、平成29年7月25日の改正では、法定福利費の適正な負担等の規定が新設された。また、令和2年12月21日の改正では、民法や建設業法などの改正に合わせ譲渡制限の特約や契約不適合の責任、契約解除等の内容が改正された。契約不適合の責任は、改正民法の「瑕疵」が「契約の内容に適合しないもの」と文言が改められたことを踏まえ、約款もこれまでの「瑕疵担保」から「契約不適合責任」に変更された。
なお、「標仕」は、公共約款が適用されることを前提として作成されているので、公共約款に基づかない契約書が適用された工事の場合には、注意が必要である。

(4) 「標仕」に規定している事項は、一般的に契約書の規定により定められた現場代理人に対する内容となっており、契約を履行するに当たっての最終的な責任は、当該工事請負契約の受注者が負うものである。ただし、工事請負契約が双務契約であり、契約書第9条に基づき、発注者からの権限の一部を委任された監督職員は、その責務を全うすべく、誠意をもって職務を行わなければならない(善良なる管理者としての注意義務)。

(5) 「標仕」の1章には、契約書の補足事項のほか、2章以降の各章に共通する事項がまとめられている。大きくは①材料や施工の承諾、検査等、工事を実施していくうえでの手順を定めた事項、②配置すべき技術者の役割や、施工中の安全確保等に関し発注者が期待し求めている事項、③工期の変更や、工事検査等に関し、発注者が的確な判断を下すために監督職員が対応すべき事項を定めており、各章を部分的に適用する場合には、基本となるこれらの事項が欠落しないよう留意しなければならない。また、「標仕」の2章以降の各章において、1節の一般事項は、2節以降の規定と併せて適用される。

(6) 契約書と設計図書とを併せて、ここでは、「契約図書」という。
契約書第1条(総則)によれば、「設計図書」には、別冊の図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書がある。「仕様書」とは、材料・製品・工法等について、要求する特定の形状・構造・寸法・成分・能カ・精度・性能・製造方法・試験方法等を定め、文書化したものであり、一般的には、工事に対する設計者の指示のうち、図面では表すことができない点を文章・数値等で表現したものといえる。

本来仕様書は、建物の設計与条件や設計基準に基づき個々の建築工事ごとに定めるべき事項であるが、類似施設をよく発注したり、同じ仕様を用いることが多い場合等は、発注者としての標準的な仕様を「標準仕様(あるいは共通仕様)」としてあらかじめ作成しておき、個々の建築工事ごとに決定すべき仕様のみを「特記仕様」として、質的水準の統一や設計図書作成の合理化を図る発注方式が、わが国においては多くみられる。

契約書第18条(条件変更等)においては、設計図書間に相違があった場合、監督職員に確認を請求することになっているが、「標仕」においては、契約条件の明確化を図るため、「標仕」1.1.1 (4)で、設計図書間の優先順位を定めている(図1.1.1参照)。しかし、常に材料の品質や施工技術に関し全体的な均衡を考慮し、疑義が生じた場合には速やかに協議を行わなければならない。


図1.1.1 工事請負契約における図書

1.1.2 用語の定義

(1) 「標仕」1.1.2では、「標仕」において基本となる用語について定めている。

(2) 契約書に関する監督職員の権限については、契約書第9条(監督職員)で規定されている。「標仕」1.1.2(ウ) から(キ) までの用語は、受注者等の措置に対して、監督職員がその権限の範囲内において行う承諾、指示、協議、検査及び立会いについて定めている。

建設工事の性質上、工事完成後に施工の適否を判定することが困難となる部位があることや、施工後に不具合があることを発見しても、その修復に対する費用や工期の延長による影響が大きいことから、施工中の監督については、公共工事の品質を確保するうえで、その重要性が高い。

(3)「標仕」では「検査」という用語を、1.6.0のように定義して使用している。しかし、一般的には、監督職員が工事の過程で行う確認のための「配筋検査等」、検査職員が行う「完成検査」、受注者等が行う「受入検査」、専門工事業者が行う「自主検査」等、広く「検査」という用語が使用されている。

「監督職員の検査」を受けるための前提として、受注者等は、施工状況や材料の試験結果等について事前に確認し、その内容を品質管理記録として作成した後、監督職員に提出し、監督職員は必要に応じて立会い等により設計図書との適否を判断する(図1.1.2参照)。

図1.1.2 「標仕」で定める監督職員の業務

(4) 基本要求品質、品質計画及び品質管理の概念が導入されたのは、平成9年版の「建築工事共通仕様書」からであるが、その背景、考え方及び今後の展開は、次のとおりである。

(ア) 工事目的物の品質を確保するためには、発注者は受注者に「要求品質」を明確に伝え、受注者は責任をもって実現することが重要である。従来、工事に使用する材料については、JIS等に示された性能を満足することを要求品質としてきたが、施工結果(材料を加工し取り付けた後の、工事目的物の部位等)についての品質や性能については、監督職員と現場代理人が工事目的物の品質レベルについて合意形成を行い、施工計画書等に反映するとともに、施工において合意品質のつくり込みを行ってきた。

しかし、発注者としての要求品質を明確化していくことが基本であるため、各章ごとに基本要求品質を規定している。

(イ) 「基本要求品質」とは、工事目的物の引渡し(不可視部分については一工程の施工)に際し、施工の各段階における完成状態が有している品質をいい、3章以降の各章の一般事項において、①使用する材料、②仕上り状態、③機能・性能について、発注者としての基本的な要求事項を定めている。

なお、「施工の各段階」とは、次の工程に引き継ぐまでの一区切りと考えると分かりやすい。

① 「使用する材料」に関しては、「所定のものであること」としているが、一般的に、工事に使用する材料は、建築物に要求される性能を満たすものが設計担当者により選定され、設計図書に指定されている。このため、「標仕」で規定する基本要求品質の実現においては、工事において定められた品質の材料が正しく使用されたことを工事完了後においても確認できるようにしておくことが重要である。

なお、材料に関する具体的な品質の証明の例は、後述するJISマーク等の確認・記録による方法がある。

② 建築工事の「仕上り状態」としては、多分に主観的なものであるが、これを何らかの方法で客観的な状態として定めて、合意の品質を形成するようにする。これには、最終的な仕上りだけでなく、施工の各工程における出来形においても同様に考える必要がある。

③ 「機能・性能」としては、材料レベルでは普遍的な要求となっているが、建築物としての機能・性能は直接設計図書に示されることは少ない。また、出来上がった建築物の機能・性能を直接測定することも容易ではない。したがって、この要求に対しては、定量的な確認ができない場合、設計で意図する性能・機能を満足させるようなつくり込みをどのように行うか、具体的な施工のプロセスの管理に置き換えて、これを実施させることと考えればよい。

これらの要求事項の詳細は、各章の基本要求品質の記述を参考にされたい。

なお、具体的な規定がないものについては、実際の工事に当たって、この基本的な要求事項をどの程度のレベルで実現するかを、後述の「品質計画」において明らかにしておく必要がある。

各章に規定する基本要求品質における「所定」とは、「標仕」の各節の規定をはじめとした設計図書、法令等により遵守すべき事項として定量的に定まっている仕様をいう。これに対して、建物の仕様の中には、立地条件、用途、施工部位等に応じて、一律に定めることができないものが多くある。このため「所要の状態」として、受注者等が品質計画の中で施工の目標を定め、監督職員が承諾することによって、工事目的物の所要の状態についての合意品質を形成する(「標仕」 1.2.2参照)。

(ウ) 「品質計画」とは、施工計画書の一部をなすもので、設計図書で要求された品質(基本要求品質を含む。)を満たすために、受注者等が、工事において使用予定の材料、仕上げの程度、性能、精度等の目標、品質管理及び体制について具体的に記載したものをいい、監督職員は、この品質計画が当該工事に相応して妥当なものであることを確認して、承諾することになる。

なお、監督職員は事前に十分な検討を行い、工事目的物に要求される品質や、設計意図等を総合的に判断する必要がある。

(エ) 「品質管理」とは、品質計画における目標を施工段階で実現するために行う工事管理の項目、方法等をいい、品質計画の一部をなすものである。品質計画における目標が高いレベルであればよりち密な管理を行う必要があり、目標とする品質によって受注者等が行う施工管理は変わってくる。また、監督職員の検査を行う段階についてもあらかじめ定めておくとよい。

(オ) 仕様規定は分かりやすいというメリットはあるものの、その性能がよく分からないままに、それに従うことが要請される。一方、性能規定は要求品質を明確に示すことにより、新しい材料、工法の開発等に指標を与えるものとなる。

1.1.3 官公署その他への届出手続等

工事の施工に必要な官公署への手続きには提出時期が定められていて、手続きが遅れると工事の進み方に影響するものがあるので、事前に届出の確認をし、工程の遅れの原因にならないようにする。必要な手続きのうち建築工事にかかわる主なものを表1.1.1に示す。

なお、設備工事にかかわるものについては、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「電気設備工事監理指針」及び「機械設備工事監理指針」を参照されたい。

1.1.4 工事実績情報システム(CORINS)への登録

(1) 国土交通省では、平成5年12月の中央建設業審議会の建議に基づき、入札・契約手続の透明性、客観性及び競争性をより一層高めるとともに、客観的な基準により信頼のおける建設業者を選定するための施策として、工事実績情報の登録を推進している。

(2) 「標仕」では、特記された場合には、受注時、変更時(工期、技術者(現場代理人、主任技術者、監理技術者)等に変更があった場合)及び完成時の定められた期間内に登録機関へ登録申請を行い、登録されたことを証明する資料(登録内容確認害の写し)を提出するとしている。ただし、期間には、行政機関の休日に関する法律(昭和 63年法律第91号)に定める行政機関の休日は含まないとされている。

なお、変更時と工事完成時の間が10日に満たない場合は、変更時の登録されたことを証明する資料の提出を省略できるものとされている。

表1.1.1 主な官公署への申請手続一覧表

(3) (-財)日本建設情報総合センター(JACIC)では、全国の公共発注機関(国の機関、地方公共団体及び公共・公益法人等)及び公共公益施設の整備に関する事業を営む法人(鉄道、空港、電力等)が発注した工事請負金額500万円以上の工事実績データをデータベース化し、各発注機関へ情報サービスする工事実績情報システム(コリンズ)を構築し運営している。

また、JACICでは、平成17年4月から「コリンズの工事経歴検索システム」の運用を開始している。

(4) 国土交通省はじめ各発注機関では、公共工事における一般競争入札及び公募型指名競争人札等の技術審査においてコリンズデータにより、応募してきた建設会社の施工実績や手持ち工事の状況等を適切に把握するとともに、建設業法で義務付けられている監理技術者の専任制のチェック等に活用しており、監督職員は担当する工事についての登録内容を確認し、正確な情報が速やかに登録されるように指導しなければならない。

1.1.5 書面の書式及び取扱い

(1) 書面の書式
契約書及び「標仕」では、書面により記録を整備することが求められており、その書式については、国の機関の「統一基準」である「公共建築工事標準書式」のほか、監督職員との協議によるとしている。また、書面の取り扱いと押印等の見直しが行われ、「標仕」1.1.5(2)では書面での提出が必要な「監督職員の承諾」等は電子メール等を利用できるようになり、「標仕」1.1.2(セ) の「書面」の「押印」が削除され「公共建築工事標準書式」の各書式からも押印欄が削除された。
なお、「公共建築工事標準書式」は国土交通省のホームページに掲載されているので活用するとよい。

(2) 施工管理体制に関する書類の提出

(ア) 建設業法に基づく適正な施工体制の確保等を図るため、発注者から直接建設工事を請け負った建設業者は、請負金額が 4,000万円(建築ー式工事の場合は 6,000万円)以上の場合は、全ての下請負業者を含む施工体制台帳を作成し、工事現場ごとに備え置くことになっている。ただし、建設業法施行規則第14条の2第3項及び4項では、記載すべき事項が、電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等に記録され、必要に応じて当該工事現場において電子計算機その他の機器を用いて明確に紙面に表示されるときは、当該記録をもって施工体制台帳ヘの記載及び添付害類に代えることができるとされている。

また、施工体制台帳に基づいて、施工体系図を作成し、現場の見やすい場所に掲げる必要がある。

なお、公共工事の場合は、請負金領に関係なく下請契約を締結した場合には施工台帳を作成して、施工体系図を工事関係者及び公衆が見やすい場所に掲げる必要がある。

建設業法の抜粋を次に示す。

建設業法
(昭和24年5月 24日 法律第100号 最終改正 令和3年5月28日)

(施工体制台帳及び施工体系図の作成等)
第24条の8
特定建設業者は、発注者から直接建設工事を、請け負った場合において、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の,請負代金の額(当該下請契約が2以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が政令で定める金領以上になるときは、建設工事の適正な施工を確保するため、国土交通省令で定めるところにより、当該建設工事について、下請負人の商号又は名称、当該下請負人に係る建設工事の内容及び工期その他の国土交通省令で定める事項を記載した施工体制台帳を作成し、工事現場ごとに備え置かなければならない。

2.前項の建設工事の下請負人は、その請け負った建設工事を他の建設業を営む者に請け負わせたときは、国土交通省令で定めるところにより、同項の特定建設業者に対して、当該他の建設業を営む者の商号又は名称、当該者の請け負った建設工事の内容及び工期その他の国土交通省令で定める事項を通知しなければならない。

3.第1項の特定建設業者は、同項の発注者から請求があったときは、同項の規定により備え置かれた施工体制台帳を、その発注者の閲覧に供しなければならない。

4.第1項の特定建設業者は、国土交通省令で定めるところにより、当該建設工事における各下請負人の施工の分担関係を表示した施工体系図を作成し、これを当該工事現場の見やすい場所に掲げなければならない。
建設業法

(イ) 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成12年11月27日 法律第127号、最終改正令和3年5月19日)が施行され情報の公表や不正行為等に対する措置、適正な施工体制の確保等に関する措置が位置付けられ、公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針(平成13年3月9日 閣議決定)が制定されたことを踏まえ、国土交通省においては従来の取組みをさらに充実させるとともに、新たに取り組む事項を盛り込んでいる。
なお、適正化指針は、平成23年8月9日(閣議決定。一部変更 令和4年5月20日)に変更されている。また、入契適正化法では施工体制台帳の提出等に関して次のように定めている。

公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律
(平成12年11月27日 法律第127号 最終改正令和3年5月19日)

(施工体制台帳の作成及び提出等)
第15条
公共工事についての建設業法第24条の8第1項、第2項及び第4項の規定の適用については、これらの規定中「特定建設業者」とあるのは「建設業者」と、同条第1項中「締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が2以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が政令で定める金額以上になる」とあるのは「下請契約を締結した」と、同条第4項中「見やすい場所」とあるのは「工事関係者が見やすい場所及び公衆が見やすい場所」とする。

2 .公共工事の受注者(前項の規定により読み替えて適用される建設業法第24条の8第1項の規定により同項に規定する施工体制台帳(以下単に「施工体制台帳」という。)を作成しなければならないこととされているものに限る。)は、作成した施工体制台帳(同項の規定により記載すべきものとされた事項に変更が生じたことに伴い新たに作成されたものを含む。)の写しを発注者に提出しなければならない。この場合においては、同条第3項の規定は、適用しない。

3.前項の公共工事の受注者は、発注者から、公共工事の施工の技術上の管理をつかさどる者(次条において「施工技術者」という。)の設置の状況その他の工事現場の施工体制が施工体制台帳の記載に合致しているかどうかの点検を求められたときは、これを受けることを拒んではならない。
公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律

1.1.6 設計図書等の取扱い

(1) 事務処理要領第12 (1.0.2(エ) 参照)に基づく監督に関する図書は、表1.0.1を参照のこと。工事においては、仕様書等において適用される図書に基づいて施工を行うこととなるが、必要な図書は、受注者の負担で整備するとしている。
なお、監督職員は、計画通知図書(副本)を、建築基準法第89条第2項に基づき、現場に保管し、管理しなければならない。

(2) 工事において使用する工事関係図書や、それらの内容等については無断で第三者に公表すると、建物用途等により完成後における安全や防犯上問題が生じることが考えられる。また、これらの図書の帰属によっては、著作権上の問題が生じることもあるので、「標仕」では、原則として受注者等が工事関係図書を工事の施工の目的以外で第三者に使用又は閲覧させることを禁止している。
なお、漏洩についても禁止している。

1.1.7 関連工事等の調整

契約書第2条(関連工事の調整)では、受注者が施工する工事と発注者の発注に係る第三者の施工する他の工事が、躯体工事と設備工事のように施工上密接に関連する場合において、発注者の調整義務と受注者の工事全体の円滑な施工の協力に関して規定されており、「標仕」1.1.7はこれを受けている。

当該施設の内容や工事の進捗等に精通した監督職員が、関連工事等との調整を行うことは、施工品質の確保、契約の適正な履行、工期の遵守等にとって重要であり、受注者は、当該契約の内容を履行するだけでなく、関連工事等の受注者と協力して、工程や納まり等を検討することで、工事目的物全体の品質確保や、施工における合理化を図ることができる。

なお、平成31年版「標仕」までは「別契約の関連工事」と記載されていたが、令和4年版から「関連工事等」に修正された。公共約款第2条の表現と整合されたものであるが、仮設足場などを関係者に無償で利用させる場合など、関連工事との調整は、必ずしも「別契約」とは限らないこともある。

1.1.8 疑義に対する協議等

(1) 「標仕」では、設計図書の内容や現場の納まり等で疑義が生じた場合、受注者等は監督職員と協議することが定められている。疑義が生じた場合に受注者等が独自の解釈で施工を行うと、設計意図に反する結果となる場合があり、手戻りによって受注者等の不利益となるばかりでなく、工期が遅れたり、修正等によって発注者が要求する本来の品質が確保できなくなる可能性があるなど、これらの問題を未然に防止するために設けられた規定である。

また、監督職員が設計図書の内容に疑義を抱いた場合においても、設計担当者等に疑義の内容を確認し、設計図書の訂正や変更が生じた場合は、速やかに契約書の規定に従い、受注者に対する措置を講ずる。

(2) 受注者等にとって、疑義が生じる原因には、次のようなものが考えられる。

① 受注者等に起困するもの:理解が不十分、思い違い等
② 監督職員に起因するもの:思い違い、不徹底、調整不足等
③ 設計図書に起因するもの:誤びゅう、脱漏、不均衡、不整合[当該工事及び関連工事]等
④ 契約条件に起因するもの:誤びゅう、脱漏、不整合等

(ア) ①は、契約図書の内容が正しい場合で、受注者等が設計図書の内容を完全に把握できなかったり、間違って理解した場合に生じるものであるが、監督職員は受注者等に十分な説明を行い、設計図書に従って施工がなされるように指導する必要がある。この場合は、「協議」に至らないことが多い。

(イ) ②は、契約図書の内容が正しい場合で、監督職員が設計図書の内容を間違って理解していたり、「指示」や「調整」の内容を全ての関係者に周知しなかったり、中途半端な「指示」や「調整」を行った場合に生じるものであるが、このようなことがないように、設計図書を十分把握するとともに、序節で説明した「監督職員の立場及び業務」を十分に理解し、的確な業務を行わなければならない。
なお、監督職員が間違った指示を行いそれに従って工事が進められ、その結果として受注者に損害を与えた場合には、発注者としての責任が生じるばかりでなく、監督職員個人にも予算執行職員等の責任に関する法律による弁償責任を求められる場合がある(1.0.2(オ) 参照)。

(ウ) ③及び④は、設計図害及び契約条件が不備な場合に生じるものであるが、契約内容の変更にかかわるため、監督職員は、受注者等及び発注者側の関係者(設計者、関連工事の担当監督職員等)と十分な調整を行う必要がある。
なお、この場合は、内容の軽重を問わず「協議」の対象となる。

(3) 契約書第18条(条件変更等)では、設計図書や質問回答書等の相互の不一致がある場合、設計図書に誤りやもれがある場合、設計図書の表示が不明確な場合、設計図書に示された施工条件が実際と一致しない場合及び工事の施工条件について予期し得ない特別の状態が生じた場合は、受注者等は、その旨を発注者に通知し、確認を請求しなければならず、発注者は、確認の請求を受けたとき又は自らその事実を発見したときは、受注者の立会いのうえ、調査を行い、必要と考えられる指示を含めて一定機関内に書面により結果を通知しなければならない。
協議を行った結果、設計図内の訂正又は変更を行う場合は、契約行第18条第4項第一号から第三号の規定に従って行うこととなる。

契約内容の変更については、契約書第19条から第25条までに設計図書、工期、請負代金額の変更に係る事項が定められており、該当する規定に従って適切な措置を行わなければならない。

(4) 「標仕」1.1.8(3)では、設計図書の訂正又は変更に至らない事項については記録を整備することが定められている。このうち発注者と受注者との協議対象となる事項について、監督職員と現場代理人とが事前に整理を行うことによって、現場における業務や書類の簡素化に努めなければならない。
1.1.9 工事の一時中止に係る事項

契約書第20条(工事の中止)では、工事用地の確保ができないときや、自然的又は人為的な事象であって受注者の責に帰すことができない事由により工事が施工できない場合には、発注者は工事を中止させなければならない。また、この場合以外でも発注者は、必要があるときは工事を一時中止させることができると規定している。

これを受けて「標仕」では、人為的な事象の具体的例を示し、発注者が工事の一時中止の必要性を認められる状態にまで達しているかどうかについて判断するため、受注者等にその状況を監督職員に報告することを求めている。
なお、「標仕」で定めた場合以外でも工事現場の状態が変動し、工事の施工に支障が生じていると監督職員が判断した場合には、現場代理人に報告を求めるなど、状況を的確に把捉し、適切な現場運営に努めなければならない。

工事の一時中止については、「営繕工事請負契約における設計変更ガイドライン(案)」(平成27年5月(令和2年6月一部改定))中の工事中止ガイドラインを参照されたい。

1.1.10 工期の変更に係る資料の提出

(1) 工期の変更方法については、契約書第24条(工期の変更方法)に発注者と受注者が協議して定めることが原則的に規定されているが、「標仕」1.1.10では、協議対象となる事項について、必要な変更日数の算出根拠、変更工程表その他発注者との協議に必要な資料を受注者が作成し、監督職員に提出することを求めている。

(2) 契約書第23条(発注者の請求による工期の短縮)第1項では、特別の理由があるときは、発注者は工期の短縮等をすることができると規定されているが、工期の短縮等の協議対象となる事項について、可能な短縮日数の算出根拠、変更工程表その他発注者との協議に必要な資料を受注者等が作成し、監督職員に提出することを求めている。

これは、発注者が工期短縮等の請求を行う場合に、可能な短縮R数、工期を短縮した場合の全体工程への影響、請負代金額の変更、受注者の損害等について発注者が的確に把握し、受注者と協議して施工能力上可能な日数を定める際の根拠とするものである。

(3) 契約書第23条は、工期の短縮等について発注者から請求を行う場合の規定であるのに対し、契約書第24条は、条件変更等による設計図書の変更等による工期の変更のほか、受注者からの請求による工期の延長、工事の一時中止による工期の変更について、発注者と受注者が提出された資料を基に、協議する場合の規定である。

いずれの場合においても、一定期間内に協議が整わない場合には、発注者が工期の変更決定を行うことになるので、監督職員としては、契約書第21条(著しく短い工期の禁止)を鑑み、当該工事の延長又は短縮を行う場合は、工事に従事する者の労働時間その他の労働条件が適正に確保されるように、やむを得ない事由により工事等の実施が困難であると見込まれる日数等を考慮し、提出された資料の内容について現場の工程や施工体制が的確に反映されているか検討しておく必要がある。

1.1.11 特許の出願等

工事の施工上の必要から行った考案や技術開発に関する権利が、発注者又は受注者のどちらにどの程度帰属するかは、一律に定めることができない。このため、「標仕」では、特許の出願等をしようとする場合は、あらかじめ発注者と協議するとしており、受注者が一方的に権利を主張することを制限している。
なお、契約書第8条(特許権等の使用)は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権等の日本国の法令に基づき保護される第三者の権利の対象となっている工事材料、施工方法等の使用責任についての規定であり、この使用責任は、原則として受注者が負うとしている。ただし、発注者が工事材料、施工方法等を指定した場合で、設計図書 に特許権等の対象であることが明示されておらず、受注者が特許権等の対象であることを知らなかった場合には、発注者が使用に関して要した費用を負担するとしている。

1.1.12 埋蔵文化財その他の物件

契約書第1条(総則)第1項に日本国の法令を遵守することが明記されているとおり、埋蔵文化財を発見した場合には、「文化財保護法」等、関係法令に従い、適正に処理しなければならない。

「標仕」では、工事に関連した埋蔵文化財その他の物件に係る権利は、発注者と受注者の契約において、発注者に帰属するものとしている。また、文化財としての判断を行う場合があるので、埋蔵物を発見した場合は、直ちにその状況を監督職員に報告することを受注者等に求めているので、報告を受けた場合は、直ちに関係者と打ち合わせ、その後の措置を受注者等に指示しなければならない。

発注者と受注者の契約において、権利の帰属を約することができる「発見者としての権利」は、埋蔵物の発見に関連して受注者が発見者となる場合(受注者が文化財発掘作業を行わせた場合)における受注者(=発見者)の権利のみである。

しかし、これに加えて、作業員が発見者となる場合(偶然に作業員が発見した場合)においても、通常は当該作業員を雇用する受注者が、関係機関との調整や当該作業員への助言等を通じて当該文化財の取り扱いに関与するものと思われるため、公共建築の進捗に権限と責任を有する発注者としても、広く受注者が行う発見者たる作業員への助言、関係機関との調整等の行為に関与していく権利をも含む趣旨で「発見にかかる権利」としている。

1.1.13 関係法令等の遵守

法令の遵守は契約書第1条(総則)でも明記されており当然のことであるが、「標仕」改定の時点では想定されていない法令の改正等への対応も考慮した規定である。

1章 各章共通事項 2節 工事関係図書

建築工事監理指針 1章 各章共通事項


2節 工事関係図書

1.2.1 実施工程表

(1) 工程表は、工事の施工順序、所要時間等を示した表で、一般に次の2つの表示方法がある。

(ア) バーチャート:各施工ごとに横線で施工の開始・終了の月日を示し、順序と期間を表したもの

(イ) ネットワーク:工程の計画に当たって、全体工事のなかで、各作業がどのような相互関係にあるかを〇(イベント)と→(アロー)の組合せによって表したもの

(2) 「標仕」1.2.1(2)の「関連工事等」とは、同一工事場所において、施工上密接に関連する工事を意味しており、関連工事と当該工事と調整のうえ、対応することが必要である。

(3) 工事契約時に提出する工程表とは別に、工事の実施を工期全体にわたり作成された実施工程表は、工事の羅針盤のようなもので、これにより施工の順序及び工期全体が監視できる。したがって、条件変更等による場合(大きな設計変更があった場合等)は速やかに実施工程表を訂正させなければならない。
特に工期末には、関連工事等とも多くの作業が錯そうするため、施設の総合試運転や化学物質の濃度測定等に必要な期間を確保できるように各関連工事の受注者等間で調整出来るようなものでなければならない。

なお、工程表に示す主な事項及び工程表作成に当たって考慮すべき主な事項は、次のとおりである。

(ア) 気候、風土、慣習等の影響
(イ) 施工計画書、製作図及び施工図の作成並びに承諾の時期
(ウ) 主要材料等の現場搬入時期
(エ) 試験の時期及び期間
(オ) 検査及び施工の立会いを受ける時期(監督職員、検査職員、建築主事、消防署等)
(カ) 電気設備及び機械設備並びにその他の工事の工程(特に大型機器の搬入時期等)
(キ) 各仮設物の設置期間
(ク) 総合試運転調整の期間
(ケ) 上記の各事項に対する余裕

(4) 全体工程表のほか、補足的な目的で週間工程表、月間工程表、工種別工程表(コンクリート工事、塗装工事等個々の工種別)等を必要に応じて作成させる。
「標仕」1.2.1(5)の、補足の工程表は、監督職員の指示によって作成すると定められている。これは、その工事の受注者等が直接必要としない場合でも、監督職員として調整又は確認のために必要な場合(例えば、養生期間の確認等)や関連工事の受注者等に必要な場合(例えば、機械室、電気室の仕上げ施工が電気設備、機械設備の施工を制約する。)等を考慮しているからである。
また、完成間近になってくると、様々な仕上げ工事が入り乱れるため、そうした状況を的確に把握するためにも、週聞工程表(今週、来週を含む。)で補足するのがよい。

(5) 契約図内に「概成工期」(「標仕」1.1.2(ヌ)参照)として明示されている場合には、実施工程表に概成工期の明記が必要となる。概成工期とは、施設の総合試運転調竪 を行うのに支節のない状態にまで各工事を完了させる工期である。この時期におけ る各工事の進捗状況は、建築工事においては概ね各室とも仕上げを完了し、外構の 埋設配管及び給排水管の接続が完了している状態をいう。

1.2.2 施工計画書

(1) 施工計画書は、監理技術者又は主任技術者が当該工事で実際に施工することを具体的な文書にし、そのとおりに施工すると明示したものであり、記載内容は、仮設計画、安全・環境対策、工程計画、品質計画、養生計画等である。
なお、施工計画瞥には次の2種類がある。

(ア) 総合施工計画書
工事の着手に先立ち、総合仮設を含めた工事の全般的な進め方や、主要工事の施工方法、品質目標と管理方針、直要管理事項等の大要を定めた、総合的な計画書が受注者等によって作成される。

(イ) 工種別の施工計画書
ー工程の施工の着手前に、総合施工計画害に基づいて、工種別の施工計画を定めたものであり、施工要領書と呼ばれるものを含む。原則として、設計図書と相違があってはならない。

また、個別の工事について具体的に検討することなく、どの工事にも共通的に利用できるように便宜的に作成されたものでないことが必要である。

(2) 「標仕」1.2.2(2)の「関連工事等」とは、同一工事場所において、施工上密接に関連する工事を意味しており、関連工事と当該工事と調整のうえ、対応することが必要である。

(3) 品質計画は、受注者等が施工計画書で基本要求品質を満たすよう作成し、監督職員がこれを審査して承諾することにより、品質が定まり、これに基づき施工を実施しようとするものである。このため、監督職員の承諾のない品質計画により作業が行われることのないよう、監督職員は速やかに計画の内容を検討し承諾するようにしなければならない。

なお、施工上密接に関連する工事がある場合は、該当する工事関係者と調整を行う必要がある。

(4) 「標仕」1.2.2 (4)の規定は、施工計画書には受注者等の責任において定めるべき仮設計画等も含み記載したものが提出され、監督職員は、これを承諾するが、この際、承諾したのは「品質計画」に関する部分である。ただし、その他についても施工計画曹の概要は把握しておく必要がある。

1.2.3 施工図等

設計図書は、そのままでは施工や部品の製作には不十分な場合があるので、工事の実施に際しては施工図、現寸図等を作成する必要がある。これらは必要部分について作成されるが、設計図書と相違がないか確認するとともに、設計図のとおりに施工した場合に、工事完成後の建物等の維持管理、利用者の安全性・利便性等に関して問題が残らないように十分検討して施工図等を作成する必要がある。
また、関連工事等の納まりについては、該当する工事関係者と十分な検討を行う必要がある。

ただし、これらによって設計図書に指定されたものと変わる場合には、必要に応じて設計変更の手続(「標仕」1.1.8参照)を行う。

なお、「標仕」1.2.3 (2)の「関連工事等」とは、同一工事場所において、施工上密接に関連する工事を意味し、関連工事と当該工事と調整のうえ、対応することが必要である。

1.2.4 工事の記録等

(1) 記録の内容
(ア) 「標仕」1.2.4(1)は、平成31年版までは「工事の全般的な経過を記載した書面」と記載されていたが令和4年版からは「契約書に基づく履行報告に当たり、報告に用いる書式等は、特記による。」に修正された。これは「契約書」第11条(履行報告)の発注者への報告に対し内容や時期が異なるため、特記とすることで明確化された。また、記録には工事写真が含まれることから令和4年版から「記録等」に修正された。

(イ) 「標仕」1.2.4(2)の規定は、「標仕」1.1.8(1)を受けると同時に、契約書第18条(条件変更等)及び19条(設計図書の変更)をも受けている。
つまり、軽易な事項を除いて、設計図書と異なる材料、施工等については、全て記録しておかなければならない。

(ウ) 「標仕」1.2.4(3)(4)の場合及び特に問題となるおそれのある施工のときは、その部分を詳細に記録するために工事写真、見本品、試験成績書等によって補うようにする。

なお、工事写真に関する参考図書として、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「営繕工事写真撮影要領(平成28年版)による工事写真撮影ガイドプック 建築工事編及び解体工事編 平成30年版」がある。

(2) 記録に関する注意事項

(ア) 工事現場における記録は、機会を失うと記録を残せないものが多い。必要な記録を確実に残すには、実施工程を組み立てる際に記録の必要なものと、そうでないものを適切に区分し、計画的に記録しておくことが必要である。

また、設計図書に定められた品質証明や試験結果、施工記録はその都度整理しておく。特に、今までの事故例等を調べ、後に問題を残しそうな施工や材料については、集中的に記録を残すというような工夫も必要である。

(イ) 記録として残すかどうかは、「品質を証明するために必要であるか否か」を判断して決める。

また、これらの記録は、今後の情報公開に向けて必要な資料を適切に残しておくという観点が重要となる。

(ウ) 工事の記録は、受注者等が作成して監督職員に請求されたときは提出又は提示することになっている。監督職員は、記録を受け取る際に内容を十分検討し確認する必要がある。

なお、令和4年版「標仕」から1.2.4 (1)の契約書に基づく履行報告が「監督職員から請求されたときに提示又は提出する」記録等から外されたのは、「契約」第11条により監督職員の請求が無い場合でも提出が必要とされているためである。

(エ) 記録の残し方は、合理的なものとし、受注者等に無理な負担がかからないようにする。また、小規模工事等で内容が満足できるものであれば数種類の提出図書を一つにまとめてもよい。

1章 各章共通事項 3節 工事現場管理

建築工事監理指針 1章 各章共通事項


3節 工事現場管理

1.3.1 施工管理

工事現場における施工管理は、まず施工管理体制を確立し、品質・工程・安全等についての計画的な管理を実施するものである。

契約書により、工事現場には現場代理人、専任の主任技術者又は専任の監理技術者及び専門技術者を置くように定められている。これらの者の資格等については「建設業法」(昭和24年 法律第100号、最終改正令和3年9月30日)に定められている(表1.3.1参照)。

表1.3.1 建設業法における技術者制度

なお、建設業法第27条 第1項で行われている技術検定の合格者は、監理技術者又は主任技術者の資格として扱われている。また、現場代理人、主任技術者及び監理技術者並びに専門技術者は兼務が認められている。

さらに、入契適正化法及び適正化指針では工事現場においても、適正な施工体制の確保に関する一層の取組みが求められている。

適正化指針の抜粋を次に示す。

公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針
(平成13年3月9日閣議決定、一部変更 令和4年5月20日)第2 入札及び契約の適正化を図るための措置3 主として入札及び契約からの談合その他の不正行為の排除の徹底に関する事項(2) 一括下請負等建設業法違反への適切な対応に関すること
法第11条は、各省各庁の長等に対し、入札及び契約に関し、同条第1号又は第2号に該当すると疑うに足りる事実があるときは、建設業許可行政庁等に通知しなければならないこととしている。これは、不正行為の疑いがある場合に発注者がこれを見過ごすことなく毅然とした対応を行うことによって、発生した不正行為に対する処分の実施を促すとともに、再発の防止を図ろうとするものである。建設業許可行政庁等において、建設業法に基づく処分やその公表等を厳正に実施するとともに、各省各庁の長等において、その職員に対し、法の趣旨の徹底を図り、適切な対応に努めるものとする。
各省各庁の長等は、法第11条の規定に基づく建設業許可行政庁等への通知義務の適切な実施のために、現場の施工体制の把握のための要領を策定し、公表するとともに、それに従って点検等を行うほか、一括下請負等建設業法(昭和24年 法律第100号)違反の防止の観点から、建設業許可行政庁との情報交換等の連携を図るものとする。

5 主として契約された公共工事の適正な施工の確保に関する事項

(5) 施工体制の把握の徹底等に関すること

公共工事の品質を確保し、目的物の整備が的確に行われるようにするためには、工事の施工段階において契約の適正な履行を確保するための監督及び検査を確実に行うことが重要である。特に、監督業務については、監理技術者の専任制等の把握の撒底を図るほか、現場の施工体制が不適切な事案に対しては統一的な対応を行い、その発生を防止し、適正な施工体制の確保が図られるようにすることが重要である。

このため、各省各庁の長等は、監督及び検査についての基準を策定し、公表するとともに、現場の施工体制の把握を撤底するため、次に掲げる事項等を内容とする要領の策定等により統一的な監督の実施に努めるものとする。

イ 現場施工に着手するまでの期間や工事の完成後、検査が終了し、事務手続、後片付け等のみが残っている期間など監理技術者を専任で置く必要がない期間を除き、監理技術者の専任制を撒底するため、工事施工前における監理技術者惰格者証の確認及び監理技術者の本人確認並びに工事施工中における監理技術者が専任で置かれていることの点検を行うこと。

ロ 現場の施工体制の把握のため、工事施工中における法第15条第2項の規定により提出された施工体制台帳及び同条第1項の規定により掲示される施工体系図に基づき点検を行うこと。

ハ その他元請業者の適切な施工体制の確保のため、工事着手前における工事実績を記人した工事カルテの登録の確認、工事施工中の建設業許可を示す標識の掲示、労災保険関係成立累の掲示、建設業退職金共済制度の適用を受ける事業主に係る工事現場であることを示す標識の掲示等の確認を行うこと。
公共工事の適正な施工を確保するためには、元請業者だけではなく、下請業者についても適正な施工体制が確保されていることが重要である。このため、各省各庁の長等においては、施工体制台帳に基づく点検等より、元請下請を含めた全体の施工体制を把握し、必要に応じ元請業者に対して適切な指導を行うものとする。

なお、施工体制台帳は、建設工事の適正な施工を確保するために作成されるものであり、公共工事については、法第15条第1項及び第2項により、下請契約を締結する全ての工事について、その作成及び発注者への写しの提出が義務付けられたところである。各省各庁の長等は、施工体制台帳の作成及び提出を求めるとともに、粗雑工事の誘発を生ずるおそれがある場合等工事の適正な施工を確保するために必要な場合にこれを適切に活用するものとする。

公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針

これら指針等に基づき、監理技術者の専任制の徹底(監理技術者資格者証の把握、同一性の把握、常駐の把握)、適切な施工体制の確保(施工体制台帳、施工体系図、施工体制の把握)等について点検を行う必要がある。

次に、建設業法及び契約書で定められた技術者等、施工体制台帳等について述べる。

(ア) 建設業法及び契約書で定められた技術者等
(a) 現場代理人
現場に常駐し、現場の運営取締りを行う者である。受注者の代理として広い権限を与えられているが、請負代金額の変更、請負代金の請求受領等の権限は与えられていない。

(b) 主任技術者又は監理技術者の設置(建設業法第26条第1項及び第2項)
建設業者は、請け負った工事を施工する場合は必ず現場に主任技術者を置くこと、また、発注者から直接工事を請け負い、そのうち4.000万円(建築ー式工事の場合は6,000万円)以上を下請契約をして工事を施工する場合(特定建設業)は、監理技術者を現場に置くことになっている。

(c) 主任技術者及び監理技術者の要件

① 主任技術者(建設業法第7条第二号)
高等学校(旧制実業学校を含む。)卒5年以上の実務経験、大学若しくは高等専門学校(旧制専門学校を含む。)卒3年以上の実務経験を有する者で在学中に国土交通省令で定める学科を修めた者。
建設業に係わる建設工事に関し10年以上の実務経験を有する者。
国土交通大臣が前記と同等以上と認定した者(昭和47年建設省告示第352号)。

② 監理技術者(建設業法第15条第二号)
国土交通大臣が定める試験に合格した者又は国土交通大臣が定める免許を受けた者(昭和63年建設省告示第1317号)。

主任技術者の資格を有し、発注者から直接請け負い、その請負金額が4,500万円以上(平成6年12月28日以前の工事については3,000万以上、昭和 59年10月1日以前の工事については1.500万円以上)のものに関して2年以上の指導監督的な実務経験を有する者。

国土交通大臣が前記と同等以上と認定した者(平成元年建設省告示第128号(建設大臣特別認定者))。

ただし、指定建設業に係る監理技術者は、ー級施工管理技士等の国家資格者又は国土交通大臣の認定を受けた者(国土交通大臣特別認定者)。

(d) 技術者の現場専任制度(建設業法第26条第3項)

① 公共性のある施設若しくは工作物又は多数の者が利用する施設若しくは工作物に関する重要な建設工事で、請負金額が3,500万円(建築ー式工事の場合は7,000万円)以上の場合は、工事の安全、かつ、適正な施工を確保するために、主任技術者又は監理技術者を、現場ごとに、専任で置くことになっている。

② 現場専任制度は、元請・下請にかかわらず適用される。ただし、令和元年6月12日に公布、令和2年10月1日から施行された建設業法改正により、次のとおり規制が合理化された。

・元請の監理技術者については、監理技術者補佐を専任で置く場合は、2現場までの兼任が容認される。その場合の監理技術者を特例監理技術者と呼ぶ(建設業法第26条第3項ただし書き、第4項)。

なお、監理技術者補佐となる必要な資格は、建設業法施行令第28条による。

・型枠工事又は鉄筋工事の下請の主任技術者について、3.500万円未満の下請負工事で、下請負人の主任技術者が行うべき職種とともに、二次下請負以下の主任技術者の職務を行うことについて注文者の承諾と下請建設業者の合意を得た場合、二次下請以下の主任技術者の設置は不要となる(建設業法第26条の3)。

③ ①の公共性のある施設若しくは工作物又は多数の者が利用する施設若しくは工作物に関する重要な建設工事は、次による(建設業法施行令第27条第 1項)。

1) 国又は地方公共団体が注文者である施設又は工作物に関する建設工事

2) 鉄道、軌道、索道、道路、橋、護岸、堤防、ダム、河川に関する工作物、砂防用工作物、飛行場、港湾施設、漁港施設、運河、上水道又は下水道及び電気事業用施設(電気事業の用に供する発電、送電、配電又は変電その他の電気施設をいう。)又はガス事業用施設(ガス事業の用に供するガスの製造又は供給のための施設をいう。)に関する建設工事

3) 石油パイプライン事業法(昭和47年法律第105号)第5条第2項第二号に規定する事業用施設、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第五号に規定する電気通信事業者(同法第9条第一号に規定する電気通信回線設備を設置するものに限る。)が同条第四号に規定する電気通信事業の用に供する施設、放送法(昭和25年法律第132号)第2条第二十三号に規定する基幹放送事業者又は同条第二十四号に規定する基幹放送局提供事業者が同条第一号に規定する放送の用に供する施設(鉄骨造又は鉄筋コンクリート造の塔その他これに類する施設に限る。)、学校、図書館、美術館、博物館又は展示場、社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条第1項に規定する社会福祉事業の用に供する施設、病院又は診療所、火葬場、と畜場又は廃棄物処理施設、熱供給事業法(昭和47年法律第88号)第2条第4項に規定する熱供給施設、集会場又は公会堂、市場又は百貨店、事務所、ホテル又は旅館、共同住宅、寄宿舎又は下宿、公衆浴場、興行場又はダンスホール、神社、寺院又は教会、工場、ドック又は倉庫、展望塔に関する建設工事

④ 専任で置く期間は、原則として、元請の場合は契約工期々間、下請の場合は現場稼働期間と考えてよい。

⑤ 専任が必要な建設工事のうち、密接な関係のある二以上の建設工事を同一の建設業者が同一の場所又は近接した場所において施工する場合には、同一の専任の主任技術者がこれらの建設工事を管理することができるという特例がある(建設業法施行令第27条第2項)。

(e) 監理技術者資格者証制度
① 工事現場に専任で置かなければならない監理技術者のうち、国、地方公共団体等が発注者となる公共工事における監理技術者(特例監理技術者を含む)は、監理技術者資格者証の交付を受けた者で、かつ、5年以内に国土交通大臣の登録を受けた講習を受講した者でなければならない(建設業法第26条第5項)。

② 資格者証は、監理技術者資格を有している者に交付される。その有効期限は5年である(建設業法第27条の18)。

③ 資格者証を必要とする監理技術者が置かれている工事現場では、発注者から請求があった場合には、資格者証を提示することになっている(建設業法第26条第6項)。当該工事にかかわる職務に従事しているときは、常時資格者証を携帯している必要がある。

④ 監理技術者資格者証の取得等に関しては、(-財)建設業技術者センターのホームページを参照されたい。

(イ) 施工体制台帳及び施工体系図
(a) 施工体制台帳の作成
① 発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者で、当該建設工事を施工するために総額4,000万円(建築ー式工事の場合は6.000万円)以上の下請契約を締結したものは、全ての下請負業者を含む施工体制台帳を作成し、工事期間中現場ごとに備え付けることになっている(建設業法第24条の8第1項)。

建設業法の改正により平成27年4月から、公共工事においては、下請け金額の額にかかわらず、下請業者に工事を発注した場合は、施工体制台帳を整備しなければならなくなった。

なお、平成24年より、施工体制台帳の記載事項及び下請負人が特定建設業者に通知すべき事項に、健康保険等の加入状況が追記されている。

② 施工体制台帳を作成した特定建設業者は、発注者から請求があったときは、施工体制台帳をその発注者の閲覧に供することになっている(建設業法第 24条の8第3項)。

ただし、公共工事については、作成した施工体制台帳の写しを発注者に提出するとされている(1.1.5(2)参照)。発注者は、不正行為の疑いに足る事実を見つけた場合は、許可行政庁に通知しなければならない。

(b) 施工体系図の作成
施工体制台脹を作成する特定建設業者は、作成した施工体制台帳に碁づいて、施工体系図を作成し、現場の見やすいところに掲げる(1.1.5(2)参照)(建設業法第24条の8第4項)。

なお、公共工事については、施工体系図は現場の見やすい場所及び公衆が見やすい場所に掲げる。

1.3.2 施工管理技術者

(1) 施工管理技術者は品質確保の観点から工事内容及び工法に相応した施工の管理と指導を行う者をいう。受注者は工事に相応した能力を有する者を施工管理技術者として選定し、資格者証や工事経歴等、資格や能力を証明する資料を提出し、監督職員はこれらを確認して受領する。

(2) 「標仕」では、既製コンクリート杭地業、鋼杭地業、場所打ちコンクリート杭地業、レディーミクストコンクリートの製造工場、鉄骨製作工場、鉄骨工事の溶接作業及び溶融亜鉛めっき高カボルト接合について施工管理技術者が定められている。

(3) 建設工事が多様化・高度化してきている現在では受注者(元請負人)の施工管理には限界があり、施工の質を確保するためには、専門工事業者の技術力と責任能力を評価、活用し、専門工事においても自主的施工管理体制を確立させることが重要である。

1.3.3 電気保安技術者

「標仕」に規定されている電気保安技術者は当該工事の電気工作物の工事を行う場合に設置されるものであり、例えば、電動式のシャッターや自動ドアの取付け工事期間において、電気工作物の保安業務を行う。

(ア) 電気工作物の工事、維持等の保安業務は、電気工作物の電圧、容量に関係なく 人命、財産保護等にとって重要なことである。「標仕」では、電気工作物の工事、維持等の適切な保安体制を確立するための電気保安技術者について規定している。

(イ) 「標仕」1.3.3(1)(ア) で定められている「電気工作物の工事に必要な資格を有する者」とは、表1.3.2による資格を有する者をいい、「同等の知識及び経験を有する者」とは、表1.3.3の学歴又は資格を有する者を想定している。

表1.3.2 電気主任技術者の適用範囲

表1.3.3 学歴又は資格に応じた適用範囲

(ウ) 電気保安技術者は、その電気工作物が事業用電気工作物と一般用電気工作物によって立場が多少異なる。

(a) 事業用電気工作物では、電気事業法において、事業用電気工作物の設置者は、電気設備の技術基準の維持業務(第39条)、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するための保安規程の作成・遵守(第42条)、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせるために主任技術者の選任(第43条)が定められている。

官庁営繕工事を行ううえでの国土交通省の保安規程は、官庁営繕部及び各地方整備局ごとに定められているが、この規程において電気工作物にかかわる工事の受注者は、工事に必要な資格を有する電気保安技術者を工事現場に置くように定めている。したがって、この電気保安技術者は、発注者が定めた電気主任技術者の業務を補佐する工事担当技術者(監督職員)の指示に従って電気工作物の保安業務を行う。

例として、「地方整備局営繕工事事業用電気工作物保安規程」の抜粋と電気保安体制図を図1.3.1に示す。

図1.3.1 電気保安体制図(国土交通省営繕工事の場合の例)

(b) 一般用電気工作物では、電気事業法の保安規程・主任技術者制度は適用されない。したがって、工事現場ごとに、監督職員と電気保安技術者により電気工作物の保安体制を確立し、電気工作物の工事、維持等の保安業務を行う。

地方整備局営繕工事事業用電気工作物保安規程

(工事の実施)
第11条 工事の実施における保安業務の執行は、次の各号に定めるものとする。
ー 請負者は、当該電気工作物に該当する資格を有する者又はそれと同等の知識及び経験を有すると認められる者を電気保安技術者として工事現場におくものとする。

二 工事担当技術者は、電気保安技術者を指揮するものとする。

三 工事担当技術者は、電気保安技術者に対し、電気工作物の保安上の支障のないことを確認するための自主検査を執行させるものとする。

四 工事担当技術者は、あらかじめ自主検査の要領を電気保安技術者に作成させ、提出を受けるものとする。

五 法第50条の2第1項に定める使用前自主検査は、主任技術者の監督の下に、工事担当技術者が指揮し、執行するものとする。

2 局長は、前項に関し必要な条文を当該工事請負契約に含めるものとする。

(エ) 事業用電気工作物とは、一般用電気工作物以外の危気工作物をいい、それに接続される電路、シャッター及び自動ドアの電動機等の工事も事業用電気工作物にかかわる工事に含まれる。

(オ) 一般用電気工作物とは、次に挙げる電気工作物をいう。ただし、火薬類取締法(昭和25年法律第149号)第2条第1項に規定する火薬類(煙火を除く。)を製造する事業場に設置するもの及び鉱山保安法施行規則(平成16年経済産業省令第96号)が適用される鉱山のうち、同令第1条第2項第八号に規定する石炭坑に設置するものを除く。

(a) 他の者から600V以下の電圧で受電するもの。

(b) 同一の構内に設置する600V以下の小出力発電設備の出力の合計が50kW未満のもの。ただし、小出力発電設備とは次の設備をいう。

① 太陽電池発電設備であって出力50kW未満のもの。
② 風力発電設備であって出力20kW未満のもの。
③ 水力発電設備であって出力20kW未満及び最大使用水量毎秒 1m3未満のもの(ダムを伴うものは除く。)。
④ 内燃力を原動機とする火力発電設備であって出力10kW未満のもの。
⑤ 燃料電池発電設備(固体高分子型又は固体酸化物型のものであって、燃料・改質系統設備の最高使用圧力が0.1MPa(液体燃料を通ずる部分にあっては、 1.0MPa)未満のものに限る。)であって出力10kW未満のもの。

1.3.4 工事用電力設備の保安責任者

(1) 工事用電力は、工事の進捗に伴って負荷設備が変わるため、工程と諸条件を把握して受電容量に応じた保安責任者により適切な保安管理を行う。受電容量1,000kW以上の場合は、専任となる。監督職員は受注者が定めた保安責任者について報告を受ける。

(2) 工事用電力の保安責任者となる電気主任技術者の適用範囲は、表1.3.2を参照する。

1.3.5 施工条件

(1) 建設工事は、工事ごとの条件によって工程及び工事費等に大きな影響がある。施工条件は契約条件であるので、設計図書に正確に明示するとともに、適正な施工の確保と建設業就労者の長時間労働の是正や週休2日の推進を図るために、必要な工期の確保が大切である。

建設産業における所定労働時間は、労働基準法第32条により、平成9年4月1日からは全ての事業場で週40時間労働制となっている。国土交通省は、主要公共発注機関に対して「建設産業における労働時間短縮推進要綱」を策定し、「建設産業における週所定労働時間40時間制の実施について」(平成9年3月25日建設省経労発第18号)を通知して主旨の徹底を図っている。さらに、「建設業働き方改革加速化プログラム」を平成30年3月20日に策定し、将来の担い手確保を図るなど、建設現場における週休2日制を推進している。

「標仕」1.3.5(1)では、建設業における週休2日制の定着を図る目的から、特に施工日及び施工時間についての規定を設けている。

施工日及び施工時間は、次による。

(ア) 「標仕」1.3.5(1)(ア) の休日に関する規定は、監督職員が現場での監督業務を行える状況の中で工事施工することが原則であることから、行政機関の休日に関する法律に定める行政機関の休日には工事を行わないことの原則を明文化したものである。

(イ) 設計図書に定められた施工日又は施工時間を変更する場合又は施工時間が定められていない場合で夜間に工事を施工する場合には、近隣住民や近接建物の勤務時間、施設管理の方法との調整が必要になることから、「標仕」1.3.5 (1)(イ) 及び(ウ) では、あらかじめ監督職員の承諾を受けることが規定されている。

(2) 「標仕」1.3.5 (2)で規定されているその他の施工条件については、次の(ア) 、(イ) のどちらに分類されるか、発注者ば受注者に対して十分説明する必要がある。

(ア) 施工中の影響等を考慮し、必要な契約条件として発注者が示し、受注者が必ず履行しなければならないもの。

(イ) 工事着手後でないと確定しない事項について発注者が考え方を示したもので、受注者の責任において異なる方法への変更が可能なもの。

(ア) は契約事項として受注者が必ず履行しなければならないものであるのに対して、(イ) は工事の着手後に決定されるもので、受注者の責任において契約条件で示されたものとは異なる方法とすることが可能なものも含まれている。したがって、監督職員は、発注当初に明示された施工条件がどちらに分類されるか、受注者に対して十分説明する必要がある。

なお、条件明示は発注者が適切に行うべきものであるが、当初の契約段階では全てを明確に示すことができない場合もあり、監督職員の調整業務が必要になる。

また、契約変更・設計変更も含めて条件を明確にするのは発注者の責務であり、監督職員としては、事前に現地や設計図書の調査を行い、発注者に対して条件明示するよう進言する必要があることを認識しておかなければならない。

(3) 適正化指針5 (4)では、次の状況が発生した場合は、発注者と受注者が対等な立場で協議を行い、設計図書の変更を行うこと、また、施工に必要な工期や工事費用が確保されるよう、適切に変更契約を締結することが規定されている。

(ア) 設計図書に示された施工条件と実際の工事現場の状態が一致しない場合
(イ) 設計図書に示されていない施工条件について予期することができない状態が生じた場合
(ウ) 災害の発生などやむを得ない事由が生じた場合
(エ) その他必要な場合

1.3.6 品質管理

(1) 設計図内で要求された品質を実現するため、品質計画に基づき、品質管理を行う。品質計画には、施工の目標とする品質、品質管理及び管理の体制等が具体的に記載されている(「標仕」1.2.2 (3)参照)。施工管理における確認、試験等は品質計画に基づき、適切な時期に行うよう指導する。

(2) 確認が必要な項目は、品質計画に基づき、試験・検査等の品質管理を行う。

(3) 品質管理の結果が管理値を外れるなど疑義が生じた場合には、監督職員と協議を行い、品質計画に従って適切な処理を施す。また、その原因を検討し、再発防止のための必要な処置をとる。

(4) 試験・検査等に必要な工事期間は、全体工期に適切に考慮する。

1.3.7 施工中の安全確保

(1) 建設産業は、天候や周辺条件等に大きく影響される個々の異なる現場条件の下で、施上の進捗に伴って多くの労働者の入替えがあるなど、安全性確保の面から特殊な業態を有するものであり、安全管理は最も重要な課題である。

(2) 建設工事の安全対策は安全設備等のハードな対策のほかに、本来の安全対策の基本である安全体制の確立とともに具体的な実施内容を定めて、改善を図るなどの自主的な対策を進めるような方向が求められている。
このことから、行政、発注者、総合工事業者、専門工事業者、経営者、現場技術者及び現場作業員がそれぞれの立場でそれぞれの役割と責任を踏まえて、安全対策に具体的に取り組むことが重要である。

(3) 安全のための技術基準
(ア) 建設工事の施工に伴う災害には、図1.3.2のように被害が工事関係者に限定されるものとしての労働災害と、被害が工事関係者以外にも及ぶものとしての公衆災害とがある。

図1.3.2 建設工事の施工に伴う災害

(イ) 「建設工事公衆災害防止対策要綱 建築工事等編」(令和元年9月2日 国土交通省告示496号)は、労働安全衛生法、建築基準法、騒音規制法、振動規制法等の諸法令により、個別に規制が行われているものを除き、「公衆災害」を防止するために必要な計画、設計及び施工の基準を示したものである。具体的な内容は、発注者及び施工者が建設工事の施工に当たって公衆災害を防止するうえで一般的に守るべき最小限の事項を定めたものであり、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「公共建築工事標準仕様書(建築工事編) 令和4年版」に巻末資料として掲載されている。

この要綱には、建築工事等編のほかに土木工事を対象とした土木工事編もある。

(ウ) 「建築工事安全施工技術指針」(平成7年5月25日 建設省営監発第13号、最終改正 平成27年1月20日 国営整第216号)は、建築工事(建築設備工事を含 む。)における現場内の事故・災害を防止し、施工の安全を確保することを目的として作成されたもので、平成27年の改正で異常気象(大雨、強風、大雪、雷等)、大地震及び大津波への対応として、最新の気象情報等の収集と安全施工に関する技術的方策を講ずることが追加されている。

指針の構成は、第I編 総則、第II編 一般・共通事項及び第Ⅲ編 各種工事となっており、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「公共建築工事標準仕様書(建築工事編) 令和4年版」に巻末資料として掲載されている。

(エ) 受注者等の工事現場における安全に関する管理体制
(a) 安全体制は、工事現場の安全衛生に関する管理を現場代理人が責任者となって関係法令等に従って行うことになっている。また、「労働安全衛生法」により受注者等は、災害防止協議会を設置するなどのほか、関係請負人の労働者の数が常時50人以上となる場合には、統括安全衛生責任者及び元方安全衛生管理者を選任し、下請業者には安全衛生費任者を選任させ、安全衛生管理体制を確立することになっている(第15条、第16条)(図1.3.3参照)。


図1.3.3 作業所における安全衛生管理体制の一例

(b) 緊急連絡体制は、工事関係者が一体となって安全施工するために工事関係機関との連絡体制及び専門工事業者間の連絡体制が確立されるよう整備していなければならない(図1.3.4及び図1.3.5参照)。


図1.3.4 緊急連絡体制の一例


図1.3.5 緊急時の業務分担の一例

図1.3.6 事故報告書の例

(c) 防火管理のための組織を確立し、火元責任者及び危険物取扱責任者を明確にしておくとともに防災訓練の実施をする(図1.3.7参照)。

図1.3.7 防火管理組織編成表の一例

火気使用時はもとより、作業で火花等が発生する場合は消火器等の配置、付近の可燃物の撤去、防炎シート等による火気使用箇所周辺の養生と火花の飛散防止措置及び作業終了後の残火確認を確実に実施する。

特に発泡プラスチック系の保温材(硬質ウレタンフォーム等)は、急激な燃焼と同時に多量の黒煙を発生し重大な事故を引き起こす危険があるため、周辺や下階への火花の飛散・落下がないように確実な対応を行う。

(4) 「標仕」1.3.7(2)の規定は、「労働安全衛生法」第30条第2項を受けたものであり、同項で、建築工事、設備工事等同一現場で2以上の受注者に工事を発注する場合、作業が同一の場所において行われることによって生じる労働災害を防止するための措置を講ずる特定元方事業者を、発注者が指名するとなっている。建築工事、設備工事等として分離発注される場合には、労働安全衛生規則第643条の規定により建築工事の受注者(建築工事の受注者が2以上あるときは、最初の受注者)を指名することになる。

(5) 「標仕」1.3.7 (6)では、工事施工に当たっての近隣等との折衝は受注者等が行い、その経過を記録して監督職員に報告すると定められている。

この場合で、地域住民と工事の施工上必要な折衝を行う場合は、あらかじめその概要を監督職員に報告するとしている。

また、工事に関して第三者から説明の要求や苦情があった場合は直ちに誠意をもって対応することと定めている。対応が遅れると感情的なトラブルとなる場合があるので注意する。対応を優先することを原則としているが、緊急を要しない場合は、状況を共有するためにあらかじめ要求や苦情の概要を監督職員に報告の上、対応を行うとしている。

1.3.8 交通安全管理

建設工事では、材料及び土砂等の搬送並びに仮設工事における一時的な道路の占有等により、現場周辺の交通にも影響を与える。交通障害や安全を損うことがないよう計画するとともに、所轄の警察署や道路管理者、地方公共団体等関係機関と打合せのうえ、交通安全管理を行うよう指導する。
なお、官公署その他への届出手続きは「標仕」1.1.3による。

1.3.9 災害等発生時の安全確保

災害及び事故等が発生した場合は、人命の安全確保を全てに優先させる。併せてニ次被害の発生を予防するための安全対策を確保する。
発生時の連絡体制は1.3.7(3)(エ)(b)による。事故等が発生した時は、受注者等から速報が監督職員に連絡されるように着工当初に体制づくりとその内容及び手続きについて十分に打合せを行うことが重要である。

また、監督職員は、電話連絡等により上司に事故の概要報告を行うとともに、受注者等と連絡を取り、二次災害の防止策の報告を受けたうえで、事故原因等を把握し、復旧方法等を検討する必要がある(図1.3.6参照)。これらの対策は速やかに実施されなければならない。

なお、国土交通省においては、「建設工事事故データベースシステム」を運用しており、直轄発注機関のほか、各都道府県政令指定都市、機構等が発注する公共工事で発生した一定規模以上の事故情報を収集して工事事故防止に向けた対策の検討・立案に利用している。また、このシステムの入力項目は、「発注者用」と「受注者用」の記載事項が設けられている。

1.3.10 施工中の環境保全等

(1) 安全管理や建設副産物の処理の適正化及び再利用と並んで、周辺環境の保全も建設産業にとって重要な課題である。現場施工時には、施工計画にのっとり責任者を明確にするとともに、明示した条件のもとに工事の指導に当たる。

なお、土壌汚染対策法(平成14年5月29日法律第53号、最終改正平成29年6月2日)により、一定規模以上の形質の変更時(法第3、4条)又は形質変更時要届出区域内において土地の形質の変更をしようとする者(法第12条)は、施行方法等の計画を都道府県知事に届け出るとされている。この届出等に基づき、都道府県知事が「汚染のおそれがある」と判断したとき又は有害物質使用特定施設の廃止時等には、指定機関による土壌汚染状況調査が必要になる場合(法第3~5条)があるので注意する。

(2) 爆発性、発火性、引火性のものや労働者に健康障害を生じさせるおそれのあるものの製造者は、人体への影響や取扱い上の注意点を容器への表示や安全データシート(SDS)の交付等により、提供先に通知することが労働安全衛生法等で定められている。作業所では、仕上げ塗材、塗料、シーリング材、接着剤その他の化学製品を取り扱う場合には、容器のラベルの確認やSDSの掲示又は備え付け等により、取扱い上の注意点等を作業者に伝達する(化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針 平成24年3月16日)。

容器への表示ラベルやSDSにおける記載内容は、JIS Z 7253「ラベル.作業場内の表示及びSDSによる情報伝達の内容及びその方法」に示されているので、これを参考として次に示す。

JIS Z 7253: 2019

5 ラベル、作業場内の表示及びSDSによる情報伝達の内容及びその方法

5.1 ラベル、作業場内の表示及びSDSによる情報伝達の内容
供給者は、産業用又は業務用に製造された化学品に関わる危険有害性情報を収集し、JIS Z 7252に従って分類を実施する。化学品をJIS Z 7252 に従って分類した結果.いずれかの危険有害性クラスのいずれかの危険有害性区分に該当する場合には、ラベル及び SDSを作成しまた作業場内の表示を行うことによって情報伝達を行う。また、この規格以外に特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律、労働安全衛生法、毒物及び劇物取締法等の国内法令に規定が記載されている場合は.この規格に優先する。

5.2 ラベルによる情報伝達方法
供給者は.産業用又は業務用に製造された化学品を供給するときは,容器又は包装に箇条6に規定するラベル要素などを印刷するか又はラベル要素などを印刷したラベルを貼付する。ただし、小さい容器等容器又は包装にラベル要素などの全てを印刷することが困難な場合、又はラベル要素などの全てを印刷したラベルを貼付することが困難な場合は、国内法令によって容器又は包装に印刷、若しくは印刷したラベルを貼付することが求められる事項以外のラベル要素などについてはこれらを印刷したタグを容器又は包装に結び付ける等によって表示してもよい(附属書F参照)。

なお、”ラベル要素”などはラベル要素に国内法令によって表示が求められる事項(例えば、消防法令によって表示が求められる”危険等級”など)を追加したものであり、具体的な内容は、次による。

ー 危険有害性を表す絵表示
一 注意喚起語
ー 危険有害性情報
ー 注意書き
ー 化学品の名称
ー 供給者を特定する情報
ー その他国内法令によって表示が求められる事項

5.3 作業場内の表示による情報伝達方法
5.3.1 一般
産業用又は業務用に製造された化学品の危険有害性に関する明確な情報の伝達が作業場内においても徹底しなければならない。また作業場で用いられる化学品の危険有害性に関する情報の内容について、化学品を取り扱う者が理解できるよう周知されなければならない。

受領者が作業環境に関する特定の指示書を作成する場合には、関連するSDSに記載された事項を考慮することが望ましい。

5.3.2 作業場の容器への表示
受領者は、作業場に供給された容器に貼付されたラベルを作業場内でもそのまま添付しておきラベルの情報を活用できるようにする。また作業場に供給された容器以外の作業場内で使用する容器にもラベルの情報を活用できるようにする。

5.3.3 作業場内の表示の代替手段
作業場の容器への表示は,通常5.3.2によって行うが容器にラベルを貼付することが困難である場合は,容器に入っている化学品に関し,危険有害性等の知見のあるものについてはその化学品のラベル要素などをラベル以外の方法で化学品を取り扱う者に伝えることによって代替することができる。この場合、作業場においてより適切で必要な情報が容器へのラベル貼付と同様に化学品を取り扱う者に有効に伝達されるようにする。また、容器の取違えを防止するため、容器に化学品の名称(略称、記号、番号などで代替することができる。)を表示する。化学品の名称の表示は、タンク名、配管名などを周知した上で,当該タンク、配管などの内容物を示すフロー図、作業手順書又は作業指示書によって、化学品を取り扱う者に化学品の名称を伝えることを含む。

容器にラベルを貼付することの代替手段の例を、次に示す。

ー 作業場にラベルに記載された情報を掲示する。
ー 作業場にラベルを一覧の形で備え付ける。この場合に、SDSを利用してもよい。

注記 容器にラベルを貼付することが困難である場合の例

ー 反応中の化学物質が入っているもの、内容物が短時間に入れ替わるものなどラベルと内容物との一致が困難なもの
ー 小さい容器、多くの成分を含んでいるもの
ー ラベルの貼付によって視認性及び作業性に支障が生じる場合

5.4 SDSによる情報伝達方法

産業用又は業務用に製造された化学品を5.1に従って分類し、危険有害性クラス及び危険有害性区分に該当する化学品を事業者に供給をするときは、受領者にSDSを提供することによって、危険有害性を通知する。ただし、受領者が承諾した場合は,電子媒体の交付、ファクシミリ(FAX)などの方法で提供してもよい。

混合物の場合は、JIS Z 7252で規定する混合物のGHS分類基準に基づき、危険有害性があると判断され、かつ、成分が健康及び環境の各危険有害性クラスに対するSDSを作成する濃度(表1参照)以上含有する場合は、情報伝達を行うことが望ましいが、表1に示す濃度より低い場合でも、GHS分類基準に基づき、危険有害性があると判断される場合には、SDSを提供することが望ましい。国内法令によって情報伝達が求められている場合は、この限りではない。

組成及び成分についての機密情報は、D.4を遵守すれば別の方法で提供してもよい。

また、供給者は、化学品について新たな知見が得られたときにはSDSを更新し、受領者に最新版を提供するのがよい。

さらに、同一の化学品を同一の受領者に反復して供給する場合は、受領者から請求された場合を除き、既にSDSの提供が行われている場合には、SDSの提供を省略してもよい。

表1- 健康及び環境の各危険有害性クラスに対するSDSを作成する濃度

JIS Z 7253: 2019

(3) 「標仕」1.3.10(3)では、工事期間中の作業環境の改善、工事現場の美化等に努めることが定められている。

参考までに、作業環境の改善、工事現場の美化等の実施内容の例を表1.3.4に示す。

表1.3.4 作業環境の改善、工事現場美化等の実施内容の例

1.3.11 発生材の処理等

(1) 建築物の解体作業や土工事等、建築物の生産過程において建設副産物の発生は避けられない。しかし、従来の生産手法を見直し、建設副産物の発生を抑制するとともに、発生した副産物を有効に活用し、資源の有効利用を図ることにより、地球環境に優しい建設生産システムの確立を行うことが重要であり国土交通省の建設リサイクル推進計画が策定されている。

建設行為は、物を造り出す生産行為ととらえることもできるが、地球資源の側面からみると、多種多様な資源を利用した消費行為でもある。大量な資源を消費するため、生産方式を見直し、資源の有効活用を図り、ひいては、地球環境の保全に努めなければならない。これらの目的を実現するために、個々の建設工事において推進すべき対策として、次のようなものが考えられる。

(ア) 建設副産物の発生抑制
使用材料の計画的な搬入や、こん包材を減らした材料の選定、規格材料を考慮した設計等、資源の有効利用を図るよう、きめ細かく配慮する。

(イ) リサイクル活動の推進
建設副産物のうち、当該工事において活用できるものについては、積極的に活用することが必要であるが、活用できない場合であっても、再資源化工場において処理・リサイクルが可能なように適切に分別し、搬出することによりリサイクルに努める。また、再生材(建設工事以外から発生したものを含む。)を積極的に活用することによって、資源循環の円滑化を図る。

(ウ) 建設副産物の処理の適正化
発生材の処理については、(3)に示す方法により、適正に処理する。
また、新築工事の設計においても、将来の建物解体時の建設副産物による影響を考慮し、材料を選定する必要がある。

(2) 「標仕」1.3.11(1)では、上記(ア) 建設副産物の発生抑制、(イ) リサイクル活動の推進、(ウ) 建設副産物の処理の適正化を個々の建設工事において推進するため、発生材の再利用、再資源化及び再生質源の積極的活用に努めることを受注者に求めている。設計図書に定められた以外に、発生材の再利用、再資源化及び再生資源の活用を行う提案がある場合は、積極的に監督職員と協議することを期待しており、必要に応じて設計図書の変更を行うことを明確にしている。

(3) 「標仕」1.3.11(2)は、発生材の処理についての規定であるが、その方法等について次に示す。

(ア) 建設副産物の種類とその具体例を図1.3.8に示す。

図1.3.8 建設副産物の種類と具体例

(イ) 発生材のうち、引渡しを要するものは特記されたものだけでよいことになっているが、事前に施設の管理官署と引き渡す品目及び引渡し時期等について協議しておく。

なお、引き渡す時は、必ず特記を確認し関係者が立会い、品目、数量等を調書と照合し、確認を行う。

(ウ) 特別管理産業廃棄物の種類及び処理方法は特記によるとされている。

特記により施設管理者に引き渡す場合は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(昭和45年法律第137号、最終改正平成29年6月16日。以下、この節では「廃棄物処理法」という。)に従い施設管理者が保管するとされている。

現在、PCB廃棄物は、「ポリ塩化ビフェニル廃業物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(平成13年法律第65号、最終改正平成28年5月2日)により、所有者に対して、保管及び処分の状況の届出のほか、処理施設での処理が義務付けられている。PCB廃棄物の処理施設としては、日本環境安全事業(株)(JESCO) の事業所が全国5箇所(北悔道、東京、他田、大阪、北九州)に整備され、適正処理が推進されている。

なお、PCB使用安定器を中心としたPCBに関する情報については、経済産業省及び環境省のホームページに掲載されているので参照するとよい。

(エ) 引渡しを要しないもののうち、廃棄物となるものについては、受注者(排出事業者)が廃業物処理法に基づき処理する。処理の方法としては次の二とおりがある。

なお、委託処理のフローは図1.3.9に示すとおりである。

(a) 自己処理・・・処理基準に基づき、受注者が自ら処理する。

(b) 委託処理・・・委託基準に従い、廃棄物処理業(収集運搬業・処分業)の許可を持つ業者に処理を委託する。

図1.3.9 廃業物処理のフロー

(オ) 産業廃棄物を委託処理する場合には、受注者等は、廃棄物の種類・性状等を十分に把握し、委託基準に従い、次の措置を講ずる。

(a) 委託する廃棄物の種類に応じた許可を有する収集運搬業者、処分業者と、それぞれ書面により処理委託契約を締結する。

(b) 処理委託契約書には、必要事項を記載するとともに、委託する処理業者の許可証等を添付する。

(c) 中間処理業者に委託する場合には、処理委託契約書に中間処理後の最終処分の場所を記載する。

(d) 処理の再委託は、原則禁止されている。ただし、真にやむを得ない場合には、受注者(排出事業者)の書面による承諾があれば再委託できるとされており、この場合、受注者はその承諾書を5年問保管しなければならない。

なお、e文書法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成16年12月1日 法律第149号)及び環境省の所管する法令に係る民聞事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則(平成17年3月29日 環境省令第9号)により、平成17年4月から産業廃業物処理委託契約にも電子契約が認められている。

また、平成23年4月より、受注者の処理責任を撤底するため、受注者に処理状況の確認の努力義務が課せられた。これに基づき、最終処分終了までの処理が適正に行われているかを確認するための必要な措置を講ずることが求められている。

(カ) 産業廃棄物管理票

(a) 処理委託した産業廃棄物を搬出する際には、受注者等は産業廃棄物管理票(以下、この項では「マニフェスト」という。)を交付し、廃棄物が適正に最終処分されたことを確認する。

(b) 受注者等は、マニフェストの交付から90日以内(特別管理産業廃棄物の場合は 60日以内)にD票が、180日以内にE票が返送されてこない場合には、廃棄物の処理状況を確認するとともに、都道府県知事等に報告しなければならない。

(c) 監督職員は、これらの処理が適正になされていることを受注者等が保管しているマニフェストにより確認する。

(d) マニフェストの流れを、図1.3.10に示す。

図1.3.10 マニフェストの流れ(収集運搬業者1社で中間処理業者に委託する場合)

なお、上記のマニフェストによる確認方法以外に、廃棄物処理法の規定による情報処理センター((公財)日本産業廃棄物処理振典センター)の運営する電子情報処理組織(JWNET)への登録(電子マニフェスト)を使用して確認する方法もある。工事完成検査資料として、マニフェストの写しの提出を求められた場合、電子マニフェスト使用時はJWNETが検収・発行するCD-ROMを提出する。

(キ) 発生材の処理に関しては、資源の有効利用、廃棄物の適正処理の観点から、「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」(平成12年5月31日 法律第104号、最終改正 令和3年5月19日。以下、この節では「建設リサイクル法」という。)により、コンクリート、コンクリート及び鉄から成る建設資材、木材及びアスファルト・コンクリートについては、その分別解体・再資源化が義務付けられている。また、「資源の有効な利用の促進に関する法律」(平成3年4月26日 法律第48号、最終改正 令和4年5月20日)により、発生土、再生砕石、再生アスファルト・コンクリートの積極的な利用に努めるとされている。

さらに、関係法令を踏まえ、具体的内容を示した指針として「建設副産物適正処理推進要綱」(平成5年1月12日 建設省経建発第3号、平成14年5月30日 改正)があり、建設発生土、建設廃棄物等の発生抑制・再利用推進、適正処理の確保のために、建設工事の発注者及び施工者に対して、管理体制の整備、遵守すべき計画、設計、施工等の基準が明らかにされている(国土交通省大臣官房官庁 営繕部監修「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和4年版」巻末資料参照)。

(ク) 建設リサイクル法は、特定の建設資材について、その分別解体等及び再資源化等を促進するための措置とともに解体工事業者の登録制度の実施を行うことにより、再生資源の十分な利用及び廃棄物の減量等を通じて、資源の有効な利用の確保及び廃棄物の適正な処理を図るとしている。特定建設資材廃業物(政令に規定されている特定建設資材が廃棄物となったもの)には、コンクリート塊、建設発生木材、アスファルト・コンクリート塊が規定されており、これらを用いた建築物等に係る解体工事又はこれらの資材を使った新築工事等の発注者は、都道府県知事に工事内容を届けるとともに、工事の受注者は、原則として分別解体及び分別解体に伴って生じた特定建設資材廃棄物を再資源化しなければならない。

(ケ) 再生砕石に混入する石綿(アスベスト)対策について、解体現場に対する対応として、国土交通省、厚生労働省及び環境省の三省合同で、解体工事及び廃棄物の処理に係る関係団体あてに、「再生砕石への石綿含有産業廃業物の混入防止等の徹底について(通知)」(平成22年9月9日 国総建第112号他)が出され、分別解体の徹底、廃棄物の適正処理を始めとする関係法令等の遵守、解体等の作業における労働者の石綿への暴露防止対策の徹底について周知された。その通知における留意事項を次に示す。

(a) 解体工事業を営む者は、建設リサイクル法に基づく特定建設資材廃棄物(コンクリート、コンクリート及び鉄からなる建設費材、木材、アスファルト・コンクリート)に、特定建設資材廃棄物の再資源化に支障を来す石綿含有産業廃棄物等の有害物質が付着・混入することがないよう、分別解体を徹底すること。

(b) 建設工事の元請業者等事業者は、廃棄物の処理を委託する場合には、廃業物処理法に基づく委託基準を遵守すること。また、石綿含有産業廃棄物が再生砕石等リサイクル製品に混入することがないよう、廃棄物処理法に基づく保管基準及び処理基準を遵守するとともに、下請負人に対してもその遵守を撒底させること。

(c) 産業廃業物処理業者は、廃業物の処理を行う場合には、石綿含有産業廃棄物が再生砕石等リサイクル製品に混入することがないよう、廃棄物処理法に基づく処理基準を遵守すること。

1.3.12 養 生

(1) 「標仕」1.3.12の規定は工事の施工済み部分についてのものである。建具工事におけるガラスの取付け完了時点、内装工事における塗床仕上げ完了時点、玄関・ 階段室等の施工中の通路となる部分の仕上げ完了時点等において、合板、紙、布等を用いて、他の材料の搬入並びに交通による汚損を防止するために行うものである。

例えば、玄関出入口の戸や玄関床仕上げの施工済み部分の養生をせずに他の作業を行った場合は、これらに対して汚損を与えるおそれがある。汚損を補修しても当初要求の品質及び出来ばえが得られない場合があるので注意する。

なお、工事の施工途中での各工事に必要な養生については、工種別の施工計画書の中で明確にし、これに従って実施することになる。

(2) 増築工事や同一敷地内での工事の場合は(1)のほかに、既存の施設等に汚損を与えないようにする。また、安全対策(人・交通)を目的とした養生のための設備の計画を十分検討して実施する。この場合に、養生のための設備について、設計図書で条件明示されることもある。

例えば、外部開口部及び外装面全体を組立パネル及びシートを用いて養生する場合等である。

1.3.13 後片付け

(1) 工事完成時点では建築物等の内外部について、後片付け及び清掃を行って引渡しをする。後片付けのための工事期間は、全体工期に適切に考慮する。

(2) 建物等の内部については、天井裏、二重壁、床下等の点検口を利用して工具類の置忘れ、使用材料及び足場材や脚立等の残置について、その有無を確認する。もしこれらのものがあった場合は撤去、片付けを行う。特に地下倉庫や二重床下、配管ピット内等の清掃を忘れやすいので注意する。

(3) 建物等の外部については、「標仕」2.4.1 (1)及び「標仕」3.2.4の規定に留意する。この場合に公道の側溝及び桝並びに隣地境界部分の片付け及び清掃に留意する。

また、市街地で外装の水洗いを行う場合は、洗浄水の飛散等に十分配慮して行う。

1.3.14 工事の保険

(1) 工事の保険は、契約書第57条において、「設計図書に定めるところにより火災保険、建設工事保険その他の保険に付さなければならない。」とされており、国土交通省では、現場説明内において、その保険の加入期間は、原則として、工事着工の時とし、その終期は工事完成期日後14日として契約するように指導している。これは契約書第32条において工事の検査及び引渡しが、完成通知を受けた日から14日」以内に行うように規定されているためである。

(2) 工事で利用される主な保険は、火災保険、建設工事保険、組立保険、労働災害保険、請負業者賠償責任保険等であり、それぞれ次に示す役割がある。

(ア) 火災保険
出来上がる建物の価値に応じて掛けられる保険で、工事目的物がその保険の対象となる。

(イ) 建設工事保険
請負契約額に応じて掛けられる保険で、工事目的物がその保険の対象となる。建築物を主として対象としている。

(ウ) 組立保険
請負契約額に応じて掛けられる保険で、工事目的物がその保険の対象となる。鉄骨組立、機械の設置等を主な対象としている。

(エ) 労働災害総合保険
労災保険には強制加入としているが、最近の補償金額は高額のため、労働者の災害に対してこの保険がある。

(オ) 請負業者賠償責任保険
第三者に対して起こした事故等では、(ア) から(エ) までの保険は対象とならない。また、元請業者でなく、下請業者が起こした事故の場合、一般的には元請業者の責任と見られ、当面は工事の元請業者が、直接的な補償に当たらなければならず、元請業者と下請業者の間の請求は後になることが多い。このため、元請業者はこの保険に加入していることが多い。

(カ) 労働者を使用する事業所が法律に基づき加入しなければならない労働者災害補償保険以外の、建設工事に関連する主な保険の名称とその特徴等を表1.3.5に示す。

表1.3.5 建設工事に関連する保険の名称とその特徴等

1章 各章共通事項 4節 材料

建築工事監理指針 1章 各章共通事項


4節 材 料

1.4.1 環境への配慮

(1)「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」は、循環型社会のためには再生品等の供給面の取組みに加え、需要面からの取組みが重要であるとの観点から、平成12年5月に循環型社会形成推進基本法の個別法の一つとして制定されたものである(参考資料の資料1 1.3(6)参照)。

同法は、国等の公的機関が率先して環境物品等(環境負荷低減に資する製品・サービス)の調達を推進するとともに、環境物品等に関する適切な情報提供を促進することにより、需要の転換を図り、持続的発展が可能な社会の構築を推進することを目指している。また、事業者及び国民についても、できる限り環境物品等を選択するよう定められている。「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」に特定調達品目及びその判断の基準等が規定されており、毎年見直しが行われている(参考資料の資料1 1.3 (7)参照)。

なお、この基本方針の「19.公共工事」における特定調達品目及びその判断の基準等の中に、配慮事項として、「資材(材料及び機材を含む)の梱包及び容器は、可能な限り簡易であって、再生利用の容易さ及び廃棄時の負荷低減に配慮されていること。」と規定されている。

(2) 平成14年7月に建築基準法が改正され、「シックハウス症候群」の原因物質の一つと考えられるホルムアルデヒドに関する規制が設けられた。平成18年4月には、改正大気汚染防止法が施行され、揮発性有機化合物の排出抑制の取組みが始まった。

このような地球環境保全や健康安全に関わる法規制が整備されてきたことを受けて、「標仕」では、使用する材料の選定に当たっては揮発性有機化合物の放散による健康への影響に配慮するとされている。

(3) 石綿(アスベスト)に関しては、平成18年9月に改正された労働安全衛生法施行令により石綿等の製造等が全面禁止とされ、石綿障害予防規則により更なる石綿暴露防止対策の充実が図られた。また、平成18年10月には建築基準法が改正され、石綿の飛散のおそれのある建築材料の使用が規制された。

「標仕」においても、工事に使用する材料は石綿を含有しないものとされている。

1.4.2 材料の品質等

(1) 工事で使用する材料については、設計図書にその品質、性能が規定されている。一般的な工業製品にあっては、通常、日本産業規格(以下「JIS」という。)の規格番号によって指定され、木材等の林産物にあっては、日本農林規格(以下「JAS」という。)が指定される。

「標仕」1.4.2 (1)では、設計図書に定める品質性能を有する新品としているが、これは通常材料に保証される品質が製造所から出荷された状態のものであり、この品質性能を前提に設計されているからである。

なお、リサイクル製品(再生クラッシャラン等)で、一般的に流通しているものは品質が確認された時点で、「新品」としての扱いと考えられる。

「新品」を明確化した背景としては、年をまたいだ製造年の電線ケーブルが検収時に引き取りを拒否された事例があり、「優越的地位の乱用」に当たるおそれがあるとして、電線の取引慣行是正に向けた通達「電線の取引条件の改善に向けた取組について(要請)(平成29年3月29日付20170323製局第5号、国土建推第37号)」が関連業団体へ発出された。

このことを踏まえ、標仕における「新品」については、製造時期(有効期限がある材料は除く)のみを判断基準とすることがないようにした。

(2) 工事材料の品質性能を証明する資料の内容等は、受注者等にゆだねており、監督職員は、提出された資料が妥当なものかどうかを判断する。

なお、品質性能を証明する資料の整備は、受注者等が「標仕」1.4.4(1)に規定する監督職員の検査を受ける以前に行っておくようにさせる。

ただし、後述するようにJIS、JASのマークが表示された材料については、そのマーク自体が所定の品質を滴たしている証明となるため、改めて証明資料を要求する必要はない。

材料の使用量が少ないもの、軽易な材料等は、品質を証明する資料そのものの人手が困難なものも少なくない。このような場合は、あらかじめ監督職員が承諾のうえ、使用材料の重要度に応じて、証明資料の提出を省略させてもよい。

(3) 製材等(製材、集成材、合板及び単板積層材)、フローリング又は再生木質ボード(パーティクルボード、繊維板及び木質セメント板)を使用する場合は、グリーン購入法に基づく「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」に「判断の基準」が定められており、一部を除き合法性が証明されたものとされている(環境省ホームページ参照)。また、合法性の確認については林野庁作成の「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」(平成18年2月15日)(林野庁ホームページ参照)に準拠して行うとされている。

「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」には合法性の確認方法として、次の三つの証明方法が示されている。

(ア) 森林認証及びCoC認証を活用した証明方法
(イ) 関係団体の認定を得て事業者が行う証明方法
(ウ) 個別企業等の独自の取組による証明方法

また、三つの証明方法に加え、新たに、都道府県等による森林や木材等の認証制度を活用する方法について、「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する基本方針(平成29年5月23日 農林水産省、経済産業省、国土交通省告示第1号)により追加された。

(4)「標仕」1.4.2 (4)では、工事現場でコンクリートに使用するせき板の材料として合板を使用する場合は、「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」に準拠した内容の板面表示等により、合法性を確認し、監督職員に報告するとされている。

この、合板型枠に表示されている板面表示の例を、図1.4.1に示す。


図1.4.1 合板型枠の板面表示の例

(5) 使用に当たって調合を要する材料は、その調合が適切でない場合は、所定の品質性能を発揮できないことも考えられる。このため、「標仕」1.4.2(5)ではあらかじめ使用条件を考慮して調合表により確認するとしている。このとき、必要に応じて、同様な調合による使用実績等を確認しておくとよい。

(6) 仕上げ工事に使用する材料の場合は、完成する建築物のイメージを決定する重要な要索となる。この完成建築物のイメージは、設計担当者が設計時に想定しているため、これに沿うようにする必要がある。「標仕」ではこれについて、「監督職員の承諾を受ける」としているが、ここでいう監督職員は、発注者の代理人としての位置付けである。

設計担当者が色彩を決定するのに必要な時間を勘案し、受注者等に工事に使用する材料製造所等を、できるだけ早く確定するように依頼するとよい。

この場合、出来上りのイメージを確認できるようにするため、必要に応じて見本の提出を依頼する。ただし、高価な材料の場合等は、見本品を入手するのに過大なコスト、時間がかかるものもある。受注者等や材料製造所等に必要以上の負担をかけるおそれがある場合には、製造所等より借り受けて確認するようにするとよい。

(7)「標仕」で規定しているJIS等の規格は、逐次見直しや改正が行われる。特に、JISについては、近年国際規格との整合を図るための見直しが数多く行われており、「標仕」を制定したときと実際の工事施工時では、規格の内容が異なっているばかりか、規格そのものが廃止になる場合もある。

「標仕」で規定している規格類が改正されている場合には、改正された内容を確認し、発注者が求める要求品質を満足している場合には改正された規格によるものとしてもよい。規格類が廃止された場合には、要求品質に合致する製品が入手可能であるかを受注者等に調査をさせ、入手不可能の場合は、設計担当者と打ち合わせ、使用材料の変更を検討する必要がある。

(8) JIS制度、JAS制度の概要

(ア) JISマーク表示制度
(a) JISマーク表示制度とは、品質の内容や試験方法等を具体的にJISで規定して、そのJISに適合する製品には、JIS適合品であることを示す特別の表示を付けることができるという制度である。通常JISマークの表示されている製品については、的確な品質管理のもとに製造されているものとして、当該JISに適合している品質であることが保証されている。

(b) JISマーク表示制度の概要
① 国により登録された民間の第三者機関(登録認証機関)から認証を受けることにより、JISマークを表示することができる制度となっている。
なお、登録認証機関の選択は事業者に任せられている。

② JISのうち、製品に対する品質要求事項、品質確認のための試験方法、表示に関する事項が完備されたものが、原則、JISマークの認証の対象となる。また、事業者自らが行う「自己適合宣言」を行うこともできることになっている。自己適合宣言とは、平成17年10月1日施行の「工業標準化法」の改正に伴う「新JIS制度」において新たに創設された該当JIS規格適合を証明する方法で、JIS認証の取得に代えて、自社の責任において該当JIS規格に適合していることを宣言するものであり、採用する製造者が増えている。 JISマークの表示はされないため、JISマークの代わりとなる表示や、「JIS Q 1000に基づきJIS A○○○○に適合」等の表示がない場合は、「適合宣言書」等、製造者等の適合宣言の方法について、確認する。

なお、建築基準法関係法令等で規定されている材料等では、その要求事項に対して補足することが必要となる場合がある。

③ JISマーク対象事業者は、国内外の製造(又は加工)業者に加え、販売業者、国内の輸入業者、国外の輸出業者についても対象となっている。また、ある特定のロットに限る認証を取得することもできることになっている。
現在のJISマーク制度では、申請事業者の品質管理体制及び製品試験の審査を実施する方法となっており、登録認証機関が実施する製品試験を原則としている。

④ 現行のJISでは、産業界のグローバル化の流れに対応し、認証指針、品質管理、製品試験に国際基準が導入されている。

⑤ JISマークのデザインは次の3種類となっている(図1.4.1参照)。
(イ) 鉱工業品のJISに適合していることを示すマーク

(ロ) 加工技術のJISに適合していることを示すマーク

(ハ) 性能、安全度等の特定側面について定められたJISに適合していることを示す。


図1.4.1 JISマーク

⑥ JISマークとともに表示される事項は、次のとおりである(図1.4.2参照)。
(ア) JIS規格の番号は、省略される場合がある。

(イ) 種類・等級は、JIS規格に規定されている場合である。

(ウ) 認証番号は、登録認証機関と認証取得者の両方が一つの番号で特定できるように設定されている。また、認証番号から事業者名を調べることができる。


図1.4.2 JISマークの例

(c) 試験事業者登録制度(JNLA)
① 登録の対象となる試験の範囲は、JISで定める全ての鉱工業品の試験となっている。

② 試験事業者の登録は、試験所に対する国際的な基準(ISO/ IEC17025)に基づいて登録が行われる。

(イ) JAS制度
(a) JAS制度とは、「日本農林規格等に関する法律」(昭和25年 法律第175号)に基づいて、農林物資の品質の改善、生産の合理化、取引の公正化及び使用又は消費の合理化を図るためのものであり、農林水産大臣が制定した日本農林規格(JAS)による検査に合格した製品にJASマークを貼付することを認める「JAS規格制度」と、農林水産大臣が制定した品質表示基準に従った表示を全ての製造業者又は販売業者等に義務付ける「品質表示基準制度」の二つの制度から成っている。

「標仕」では、木工事に使用する木材の規格やコンクリート用型枠に使用する合板等についてJASを適用している。

(b) JAS制度の概要
① 民間の高度な流通管理を促進するとともに、流通方法に特色のある農林物資についての消費者の選択に資するため、流通の方法についての基準を内容とするJAS規格の制定が可能となっている。

② JASマークを貼付することができる製造業者等の認定は、民間の第三者機関(登録認定機関)がこれを認定する仕組みとなっており、登録認定機関から認定を受けた製造業者等がJASマークを貼付する仕組みとなっている。

③ 製造業者等に加えて、製造工程を管理し、かつ、製品がJAS規格に適合するかどうかの検査を行う能力を有する販売業者又は輸入業者も、登録認定機関の認定を受けてJASマークを貼付することができる。

1.4.3 材料の搬入

工事に使用する材料が現場に搬入されたかどうかは、受注者等の報告を受けて「標仕」1.4.4(1)に規定されている監督職員の検査を適時行うことになる。ただし、建築工事に使用する膨大な材料の全てを行うことは現実的でない。このため材料の検査は、主要な材料について行うようにするとよい。どの材料が主要であるかは、工事によって異なるものであり、一律に定めることはできない。このため、工事ごとの主要な材料が何であるのかを工種別の施工計画書の品質計画で確定するようにする。主要な材料以外のものとしては、例えば、ねじ、釘等の補助的な材料があり、これらについて は、あらかじめ監督職員が承諾した場合は、「標仕」1.4.3に規定されている搬入の報告や「標仕」1.4.4(1)に規定されている監督職員の検査を省略することができるが、製造業者の信頼度、見本、カタログ等を十分に検討して承諾する。

1.4.4 材料の検査等

(1) 「標仕」1.4.4(1)では、現場に搬入した材料について、その種別ごとに監督職員の検査を受けることにしている。これは、工事に使用する材料として特定できるのは、工事現場搬入時となるからである。この監督職員の検査に当たっては、使用する材料が設計図書に定める品質及び性能に合致していることを、「標仕」1.4.2 (2)により受注者等から提出された資料によって確認することで行う。ただし、1.4.3に記述したように軽易な材料については、これを省略してもよい。

工事用材料のうち、JIS規格品又は品質、性能等が特記されている場合で、選択可能な数社の材料がある場合の材料選定については、受注者等が行う。監督職員は、特定のものを指示するようなことをしてはならない。決定後は必ずその結果の報告を受けるものとする。

また、製品名及び製造所が指定された場合は、指定以外の材料を使用することを認めてはならない。しかし、種々の関係からやむを得ず認めようとする場合には、材料の品質、性能等の証明となる資料を添付した「同等品使用願」を提出するよう通知する。

設計図書に品質が明示されていない材料については、受注者等が市販のどのような粗悪品でも使用してよいというものではなく、また、監督職員が特定の高価な材料の使用を指示してもよいということでもない。当該現場で使用する他の材料と比べてバランスの取れた、いわゆる「均衡を得た品質」(契約書第13条)のものを用いるようにする。

なお、材料は、製造工場により品質管理がなされたものとする。

(2) 「標仕」1.4.4 (1)による監督職員の検査の結果、合格となった材料と同じ種類の材料については、その材料の製造が管理された条件で行われていることが確認できるものについては、以後はその都度材料の検査を行う必要はなく、必要な証明書類を確認し、状況に応じて抽出検査とすればよい。しかし、製造時のばらつきの大きい材料については、必要に応じて受注者等に指示をして検査を行う必要がある。

(3) 一般的に、材料・そのものにJISマーク、JASマーク等が表示された材料については、前述したように所要の品質があることが確認できるため、設計図書に適合するものとして扱ってよい。また、後述する「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」等によって評価された材料にあっては、評価書の写しを確認することにより設計図書に適合するものとして取り扱ってもよい。

なお、使用する材料によっては、製造工場から出荷されたものを直接工事現場で使用しないで、所要の加工を施した後に現場に搬入される鉄筋や鉄骨のようなものもある。このような材料の場合は、「標仕」でいう現場搬入時に品質証明をすることが困難となるため、通常、現場搬入前の材料について、検査を行うことも行われている。鉄骨工事に使用する鋼材の場合は、「標仕」7.2.10(2)に規定する規格品証明書又はそれに代わるものとして「建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン」の鉄骨工事使用鋼材等報告書により、品質証明を行うとしており、製造工場から現場搬入までの履歴が確認できるものとなっている。

しかし、鉄筋工事に使用する棒鋼の場合は、製造工場から加工工場に一旦搬入されて、加工後現場に搬入されるが、鋼材で行われているレベルの管理はなされていないのが実状である。このため、現実的な対応として、鉄筋の加工工場における材料管理の状況を把握し、適切な管理がなされていることを確認することも有効な方法と考えられる。

(4) 契約書では工事用材料の品質及び検査等について規定しており、第13条第4項では工事現場に搬入した材料の搬出禁止、第13条第5項では不合格材料の場外搬出を規定している。

(5) 工事用材料等の事前評価制度
(ア) 建槃材料・設備機材等品質性能評価事業(以下、この項において「評価事業」という。)

(-社)公共建築協会では、営繕工事に使用されている「公共建築工事標準仕様書(建築工事編・電気設備工事編・機械設備工事編)」に品質及び性能等が規定されている建築材料・設備機材等並びに(-社)公共建築協会が重要と認め、指定する材料等について評価を行う事業を実施している。これは、各工事現場ごとに確認する必要があった材料等の品質性能をあらかじめ評価を行うことにより、監督行為のなかの確認業務の簡素化及び迅速化を図るものである。

評価の対象としている材料等は、国内製品に限らず広く海外製品にも及んでおり、建設業の国際化にも貢献するとともに、材料等の情報を幅広く得られるものとなっている。

評価の内容は、材料が「公共建築工事標準仕様書」に規定されている品質及び性能等を有していることの確認のほか、製造工場における品質管理体制の確認も行っている。

評価事業は、平成6年3月より実施されており、評価の完了した材料について「建築材料・設価機材等品質性能評価書」を発行するとともに、年度当初に発行している「建築材料・設備機材等品質性能評価事業評価名簿」に掲載される。

工事における評価材料の使用に当たっては、この評価書の写しによる確認のほか、評価名簿により適切に確認を行うことができる。

(イ) 公共住宅用資機材品質性能評価事業
前述の評価事業と同様の目的で、(-財)ベターリビングにより、公共住宅の建設に使用されている「公共住宅建設工事共通仕様書」において品質性能が規定されている資機材について、評価を行う事業が実施されている。

(ウ) これらの評価制度において、両工事標準仕様書に規定されている品質性能が同等な材料(例:板ガラス、ビニル系床材)にあっては、どちらの機関により評価がなされたものであっても同等に扱ってよい。

1.4.5 材料の検査に伴う試験

(1) 工事において使用する材料は、1.4.4に記述するようにJISマーク等の表示のある材料、材料評価事業等により評価された材料を用いるのが一般的である。しかし、これら以外の材料の使用が禁止されているわけではなく、試験等によって所定の品質・性能を有することが確かめられればよい。通常、設計図書で指定されたJIS等の規格には品質・性能だけでなくその試験方法も規定されており、材料試験に当たっては、当該JIS等により行う。

なお、材料の品質・性能は、異なった試験方法による結果からは所要の品質・性能であることの確認ができない。このため、設計図書に試験方法の指定のない場合は、受注者等から提案された試験方法でよいかどうかを十分検討し、必要に応じて設計担当者とも打ち合わせのうえ、承諾しなければならない。

(2) 材料試験の計画書の記載事項は、概ね次のとおりである。
(ア) 試験方法
(イ) 試験時期
(ウ) 試験場所、試験機関

(3) 試験場所の決定に当たっては、試験が適切に行われるかどうかを判断する。また、試験機関の選定に当たっては、原則として、当事者と利害関係のない第三者機関とする。

(4) 材料の品質、性能の確認のために各地にある試験機関において試験を行う場合は、試験機関が信頼のおける機関か否かを判断し、信頼できる場合は、監督職員は試験に立ち会わなくてもよい。

しかし、試験機関の信頼性が確認できない場合及び工事現場で試験を行う場合は、原則として、監督職員が立ち会う。

(5) 受注者は、材料や施工の検査に伴う試験(「標仕」1.4.5及び1.5.6)を行った場合は、その結果について直ちに記録を作成し、監督職員に報告するとされている。試験の結果によっては、「標仕」1.1.8による協議の対象となる場合もあるので注意する。

(6) 試験により材料の品質性能を確認する場合の注意
(ア) 一般的に試験は、現場で使用する材料から抽出した試験体を用いて行うが、この試験体は、監督職員立会いのもとで採取し、封印又は検印を行い、必要事項を明確に表示させ、試験機関等に送付する。試験機関には他の試験体も多く、取り違えるおそれもあるため注意をする。

(イ) 試験用材料の抽出に当たっては、使用する工事材料を代表するように無作為に行う必要がある。一般の工業製品で製造時に品質管理をされたものであれば、製造ロットごとに必要な数量の試験体を抽出すればよい。

なお、製品が品質管理をされて製造されているかどうかは、例えば、製造工場がJISマーク表示認証を取得した製品を製造する工場であるか、ISO 9000sに基づく品質システムの審査登録を受けているかどうかなどにより確認することができる。

(ウ) 使用予定の材料が、品質管理をされて製造されたことが確認できない場合は全数現物の試験を行う必要があるが、これは現実的ではないため、原則として、そのような材料は使用させない。

(7) 試験所認定制度とは、国際基準(ISO/IEC 17025 : JIS Q 17025(試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項))に基づき、権威ある認定機関が試験機関について審査を行い、当該基準を満たす試験機関に対して特定分野の試験を行う能力を有することを認定する制度である(図1.4.3参照)。


図1.4.3 試験所認定制度の概念図

1.4.6 材料の保管

個別材料の保管に当たっての注意事項は、2章以降の各章に示されている当該材料の保管に関する解説を参照されたい。また、搬入時の検査で合格した材料であっても、現場保管中に破損、変質等により工事に使用することが適当でなくなる可能性がある。監督職員は、工事に使用することが適当でないと判断した場合は、その旨を指示し、工事現場外に搬出させる。

1章 各章共通事項 5節 施工

建築工事監理指針 1章 各章共通事項


5節 施工

1.5.1 施 工

(1) 建築工事の施工は、工場等の流れ作業により同じ物を造るのとは異なり、建物ごとに図面が作成され、施工計画・実施工程等が組まれ、関連する他工事と調整を図りながら施工されるものであり、天候等を含め工程を阻害する要因も多く、これらにも常に対応していかなければならない。

工事における施工計画書、施工図、実施工程表等は、監督職員が一度承諾したものであっても、工事が長期にわたる場合等にあっては施工条件が変化することがある。この場合は、再度検討し変更しなければならない場合があるので、常に工事全体の状況を把握しておく必要がある。

(2) 工事の施工に当たり、施工方法が設計図書に定められている場合は、これを遵守することはもちろんであるが、工法について指定されていないものは、受注者に施工方法等は任されている(契約書第1条第3項)。その場合は関連する他の工事との調整を図り、設計の意図する機能を満足するものであるか、十分に検討する必要がある。

関連する設備工事等で、コンクリート打込み等により隠ぺい状態となる部分の施工は、当該関連工事等の施工の検査が完了するまで行わないことになっている。しかし、「関連工事の検査」が工程の都合等により行い難い場合には、設備工事の監督職員等関係者と打ち合わせ、工事写真等による記録を残して工事を進めることができる(契約書第14条第5項及び「標仕」1.5.1(2))。

1.5.2 技能士

(1) 技能士とは、「職業能力開発促進法」(昭和44年法律第64号)に基づき労働者の有する技能を検定(技能検定)し、この合格者に対して与えられる称号であり、検定職種ごとに特級、一級、二級、三級等に区分するものと、単一等級として等級を区分しないものがある。「標仕」では、このうちの一級技能士又は単一等級の有資格者を、施工品質の向上を図る目的で自ら作業するとともに作業指導を行う者としている。

なお、単一等級としては、ALCパネル施工、樹脂接着剤注入施工等がある。

(2) 技能検定試験の程度は、特級は一級技能士合格後技能労働者として5年以上の実務経験の者が通常有すべき技能の程度、ー級は技能労働者として7年以上の実務経験の者が通常有すべき技能の程度、二級は技能労働者として2年以上の実務経験の者が通常有すべき技能の程度、三級は技能労働者として6箇月以上の実務経験の者が通常有すべき技能の程度であり、単一級は一級と同程度の技能を有する者とされている。

(3) 参考資料の資料2に建槃工事関連の技能検定職種(36職種)の一級及び単ー等級の技能検定合格者数を掲載している。

1.5.3 技能資格者

(1) 建物の構造耐力を左右する重要な部分の施工に当たっては、十分な能力を有する者が施工を行うことにより品質・性能の確保を図る必要がある。また、特殊な技術力が必要な超音波探傷試験等では、試験担当者の技量要件を明確にして、品質確認の信頼性を確保することが重要である。このため「標仕」では、(2)の(ア) から(キ) までに示す部分の施工については一定の技量を有する者が施工を行うとしている。

なお、技能資格者は、施工中、有資格者であることが分かるようにしておく必要がある。

(2) 技能資格者とは、平成8年9月の閣議決定「公益法人に対する検査等の委託等に関する基準」に基づき、技量や技術の判定基準等を示し、これを満たす者としている。

なお、「標仕」で規定している技能資格者には、次のようなものがある。
(ア) 杭の継手の溶接を行う技能資格者(4.3.7参照)
(イ) 鉄筋のガス圧接及び溶接継手の作業を行う技能査格者(5.4.2、5.6.2参照)
(ウ) 鉄筋のガス圧接、機械式継手及び溶接継手の試験を行う技能資格者(5.4.3、5.5.3、5.6.4参照)
(エ) 鉄筋、鉄骨等の溶接作業を行う技能資格者(4.5.3、7.6.3参照)
(オ) 鉄骨の溶接部の試験を行う技能資格者(7.6.11参照)
(カ) スタッド溶接作業を行う技能資格者(7.7.2参照)
(キ) 溶融亜鉛めっき高カボルトの締付け作業を行う技能資格者(7.7.2参照)

(3)「標仕」では規定されていないが、現場における作業管理・調整能力等に優れていると認められた技能資格者として登録基幹技能者がいる。

登録基幹技能者とは、現場施工における十分な経験を有し、上級の職長として技術者及び他の職長との調整能力、一般の技能者に対する施工管理・指導能力に優れ、建設生産現場において要となる技能者のことである。

基幹技能者の資格制度については、国土交通省が「建設産業政策大綱」(平成7年)以来、その整備を促進しており、平成8年「建設産業人材確保・育成推進協議会」において策定された「基幹技能者の確保・育成・活用に関する基本指針」に基づいて、各専門工事業団体が独自に資格の認定を行っている。令和4年3月末現在、40職種で登録基幹技能者に係る民間資格が整備されている。

登録基幹技能者制度は、平成20年4月1日から、建設業法施行規則に登録講習制度として位置付けられた。同日以降に国土交通大臣に登録をした機関が実施する登録基幹技能者講習を終了した者(登録基幹技能者)は、新たに経営事項審査で加点評価されることとなった。

登録基幹技能者制度のより一層の普及・活用と、可能な限り信頼性・専門性の高い公的資格保有者の配置を推進していく観点から、登録基幹技能者のうち、専門工事に関する実務経験年数が、建設業法(昭和24年法律第100号)に定める主任技術者と同等以上と認められるものについて、主任技術者の要件を満たす者として位置付けることとし、建設業法施行規則及び施工技術検定規則の一部を改正する省令(平成29年国土交通省令第67号)により、許可を受けようとする建設業の種類に応じて国土交通大臣が認める登録基幹技能者については、主任技術者の要件を満たすとされた。

1.5.4 ー工程の施工の確認及び報告

(1) 施工の管理は、ー工程の施工の確認の積重ねであり、この確認及び報告をスムーズに行うことが品質管理の最大のポイントである。

ー工程が完了した場合は、速やかに、受注者等の自主検査として設計図書に指定されたとおりであることを計測等により確認させ、監督職員に文書により報告させる。これを受け監督職員は、施工検査を行う。

(2) この報告をスムーズに行えるようにするためには、施工計画書作成の中で、出来上りに対する許容差、計測の方法、それらを記入する報告書の書式等を品質計画として定めておく。

(3) 品質管理の責任を明確にするため、「標仕」1.5.4での確認及び報告は、監督職員が承諾した者が行うとしている。一般的には、建設業法で現場専任が義務付けられている(1.3.1(ア)(d)参照)主任技術者又は監理技術者がこの任に当たることを想定している。

1.5.5 施工の検査等

(1) 「標仕」の施工の検査は、監督職員の検査について定めたものであり、工程の進捗状況を見ながら、施工後の検査・確認が困難なものにあっては、作業中でも時期を失せず検査を行う必要がある。

(2) 「標仕」では、同一の材料・工法等で繰り返し施工する場合で、最初に監督職員が検査を行い、一定の品質を確保できると判断される場合は、以降を抽出検査として監督職員の検査の合理化を図っている。ただし、施工の品質は材料の品質と比べるとばらつきが大きいことが予想されるので、監督職員が必要と認める場合は、随時受注者等に指示し検査を行うことができるとしている。

(3) 見本施工は、施工手順を含めた仕上り程度を見るために実施することが特記された場合に限り行うものであり、場合によっては監督職員及び設計担当者の立会いのもとに施工することもあるので注意する。

1.5.6 施工の検査等に伴う試験

(1) 施工の検査等に伴う試験は、設計図書に定められた品質及び性能を有することが試験によらなければ証明できない場合に行うものであり、設計図書で設定されている場合と、品質計画による監督職員と受注者等の合意により行う場合とがある。

(2) 施工の検査に伴う試験といえども破壊試験は極力避け、工事写真又は非破壊試験として超音波探傷・磁気探査等の工学試験器による判定とし、やむを待ず破壊試験を行う場合は、最小限の破壊試験で判定する。

(3) 試験により材料の品質性能を確認する場合の注意事項は、1.4.5 (6)による。

1.5.7 施工の立会い等

監督職員の重要な業務は施工の確認である。確認の方法には様々なものがあるが、設計図書に規定された必要事項を確認するため、現場において施工の立会いを行うことは有効なことといえる。しかし、立会いを行うに当たっては、適切な時期に行うことが重要であり、時期を失すると意味のないものとなる。このため、立会いの日時について早めに受注者等と打合せを行い、必要な指示をする。
なお、監督職員の都合により適切な時期に立会いができない場合には、その後の工程に支障を来すので、契約書第14条で設計図書に指定されている場合でも、監督職員の立会いを受けることなく施工を行うことができるとしている。ただし、この場合は受注者等に対して、施工を適切に行ったことを証明する記録を整備し、監督職員の求めに応じて提出させる必要がある。

1.5.8 工法等の提案

(1) 契約後のVE提案(VECP : Value Engineering Change Proposal)は、施工の合理化及びコストの縮減という観点から提案されるものであるが、ここでは、施工方法の代案で、安全、かつ、合理的なものについて提案された場合は、監督職員はそれを受け協議することになっている。所要の品質及び性能が確保されるのは当然であるが、明らかに工事費が異なる場合には設計変更の処理を行う。

(2) 現在、地球規模で環境問題が顕在化する中で、開発と環境を十分調和させながら豊かな環境を創造していくことが課題となっている。

このため、「環境基本計画」(平成24年4月 閣議決定)、「地球温暖化対策推進大綱」(平成14年3月地球温暖化対策推進本部決定)、「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」(平成12年5月法律第104号、最終改正令和3年5月19日)等が策定された。

官庁施設整備に当たっては、従来から環境負荷の低減に資する技術を積極的に採用してきたところであるが、さらに、この目的に合った民間の開発した新技術を発展させる目的から「標仕」の規定で環境保全に有効な工法について提案があれば協議すると定められている。この場合、環境保全に有効な工法における材料は、原則として、指定されたものを用いることとなっている。

(3) 「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日働き方改革実現会議決定)において、建設業については、一定の猶予期間を置いたうえで、時間外労働の罰則付き上限の制限の一般則を適用するとされた。これを受け、国土交通省では、平成29年6月に「建設業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議」、同年7月には、「建設業の働き方改革に関する協議会」が設置された。これらの会議における議論も踏まえ、国土交通省大臣官房官庁営繕部では営繕工事における働き方改革に向け、各種取組を実施するとしており、生産性向上については、施工合理技術の施工者提案を積極的に活用するとしている。

i-Construction(アイ・コンストラクション)の推進等の政府の方針を路まえ、所要の品質及び性能が確保され、現場の生産性向上に有効な工法について、受注者からの提案があれば協議することを定めたものである。

1.5.9 化学物質の濃度測定

(1) 「標仕」では、建築物の室内空気中に含まれるホルムアルデヒド等の化学物質の濃度測定を実施する場合は、次の事項について特記するとされている。

(ア) 濃度測定実施の時期(記載例:施工完了時)
(イ) 測定する化学物質の種類(記載例:ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレン)
(ウ) 測定方法(記載例:パッシプ型採取機器により行う。)
(エ) 測定対象室及び測定箇所数(記載例:測定対象室(図示)、測定箇所数(図示))

(2) 濃度測定の測定結果は、まとめて提出を受ける。

(3) 濃度測定の具体的な方法等に関しては、原生労働省ホームページの「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会」に、技術資料が掲載されている。

1章 各章共通事項 6節 工事検査及び技術検査

建築工事監理指針 1章 各章共通事項


6節 工事検査及び技術検査

1.6.0 「標仕」における検査の定義

「標仕」において検査と称されているものは、次のように分類される。

(ア) 公共工事の発注者(検査職員)が、会計法や地方自治法に基づく請負契約についての給付の完了の確認をするため必要な検査(会計法第29条の11)
(イ) 公共工事の発注者(技術検査官)が、公共工事品確法及び入契適正化法に基づいて行う技術的検査
(ウ) 監督職員が工事を監督していく過程で行う検査・確認
(エ) 建築主事又は消防等の行政機関が行う検査
(オ) 受注者が施工管理や品質管理のために工事材料や下請負の専門工事業者に対して行う受入検査
(カ) 下請負の専門工事業者が行う自主検査

(ア) は、受注者への支払いの適否を確認する検査で、会計法(地方自治法)上、規定された検査職員が行う。この検杢は「工事検査」と称され、工事が完成したときの「完成検査」、設計図書において工事の完成に先立って引渡しを受けるべきことを指定した部分(指定部分)「完済部分検査」及び受注者が請求した部分払の対象を確認するときの「既済部分検査」の三つがある。

(イ) は、工事の施工において、技術的観点から工事中及び完成時の施工状況の確認及び評価を行う技術検査をいう。技術検査は、原則として「工事検査」時に実施するが、必要に応じて、工事の施工途中でも実施する場合がある。その例としては、出来形及び品質を確認するうえで重要となる時期や発注者が特に必要と認めた時期(事故発生時等)がある(中間技術検査)。

(ウ) は、監督職員が工事監督の一環として行う確認を中心とした行為であり、「標仕」では「監督職員の検査」という用語として定義し、(ア) と(イ) とは異なるものとしている。「標仕」の2章以降の各章において、この「監督職員の検査」という用語は頻繁に出てくるが、配筋検査等がこれに該当する。

建築においては、実際の施工を行うのはほとんどの場合が、専門工事業者である。監督職員は、直接の契約相手先ではない専問工事業者に対して検査(確認)を行うのではなく、受注者等が元請けとして確認したものを検査する。また、(ウ) の前に行う元請けとして専門工事業者の施工内容をチェックし合否の判断を下す行為が、(オ) の受入検査である。一方、これに先立ち専門工事業者が自ら施工段階に行う検査が(カ) の自主検査であり、鉄骨製作工場において工場の品質管理担当者が行う製品検査がこれに該当する。

1.6.1 工事検査

工事検査は、発注者が自ら又はその補助者(検査命令を受けた検査職員)が会計法又は地方自治法に基づき請負契約についての給付の完了の確認を行うために受注者に対して行う検査である。民間工事では、一般的に、工事監理者が工事の検査を施主に代わって行うが、予算決算及び会計令(昭和22年4月)では検査を行う者(検査職員)と監督職員との兼職を禁止しているので、原則として監督職員が工事検査を行うことはできない。

工事検査は、「標仕」1.1.2(ナ) に記述してあるように、
(ア) 工事が全て完成した場合(「標仕」1.6.1(1))
(イ) 指定部分の工事が完成した場合(「標仕」1.6.1(1))
(ウ) 契約書の規定により受注者から部分払の請求があった場合(「標仕」1.6.1(2))

この三つの場合に実施される。工事がそれぞれ該当する要件に達したときに受注者は監督職員を通して工事の完成等を通知することになっている。検査に先立ち監督職員は、検査に必要な設計図書類、工事関係図苫等がきちんと整備されていることを確認しておく必要がある。

なお、契約書第32条第3項のとおり、受注者は、工事検査に必要な資機材、労務等を提供する。また、契約書第32条第2項では、発注者又は検査職員は、必要があると認められるときは、その理由を受注者に通知して、工事目的物を最小限度破壊して検査することができ、この場合においての、検査又は復旧に直接要する費用は、受注者の負担としている。

1.6.2 技術検査

技術検査は、公共工事品確法及び入契適正化法に基づき、技術的観点から行う検査である。「標仕」1.1.2(ニ) では、技術検査は「公共工事品確法に基づき、工事中及び完成時の施工状況の確認及び評価をするために発注者又は検査職員が行う検査をいう。」と定義している。地方整備局工事技術検査要領においては、1.6.1の「検査職員」としてではなく、技術検査適任者である「技術検査官」が行うとしているが、通常、「検査職員」と同一の職員が行っている。その実施については、「標仕」1.6.2 (1)で規定されているように工事検査と併せて行われるもの、中間技術検査として行われるものがある。

このうち、中間技術検査はその性格上、工事の適切な時期に行う必要があるため、他の技術検査と異なり受注者等の意見を聞いて検査日を決めることになる。
技術検査は、国土交通省では、地方整価局工事技術検査要領において、工事の適正、かつ、能率的な施工を確保するとともに工事に関する技術水準の向上に資することを目的として実施される検査と定めている。

1.6.3 工事成績

技術検査を終了した場合、技術検査官は、地方整備局工事技術検査要領(第6工事成績の評定)及び請負工事成績評定要領に基づき工事成績を評定する。また、工事完成時には、工事中の施工状況を把握する者(技術評価官)も工事成績評定を実施し、工事成績及び工事の技術的難易度の評定結果を工事完成後に受注者に通知することを地方整備局の所掌する直轄事業については、請負工事成績評定要領に定めている。

1章 各章共通事項 7節 完成図等

建築工事監理指針 1章 各章共通事項


7節 完成図等

1.7.1 完成時の提出図書

完成時の提出図書としては、完成図及び保全に関する資料がある。一つの工事が分割されて発注される場合は、一般的に工事目的物の完成時に完成図等を提出させればよいが、部分的に完成した状態で途中から受注者が変わる可能性がある場合には、部分的に完成した工事における完成範囲を表現した完成図等を提出させる必要がある。

1.7.2 完成図等

(1) 完成図は、「標仕」1.7.2(1)に「工事目的物の完成時の状態を表現したもの」と定められているとおり、設計変更の内容のほか、受注者等との協議の結果を反映したものでなければならない。また、記入内容は、特記がなければ「標仕」表1.7.1によるとしている。監督職員は、「国有財産台帳等取扱要領について(平成13年5月24日財理第1859号)」を参考に受注者等を指導して完成図を作成させ受領する。

なお、既存の完成図を修正すると特記された場合は、工事の内容を盛り込んだものに修正する。

(2) 令和4年版「標仕」では、完成図の作成方法及び提出方法は、削除された。これは、完成図を電子媒体又は紙媒体のいずれの形式とするかは、それぞれの発注者の実情に合った形式があるためであり、完成図の提出が特記されている場合は、確認して作成させる。

1.7.3 保全に関する資料

(1) 建築物等の利用に関する説明書等
「標仕」に定められている「建築物等の利用に関する説明書」(以下「説明書」という。)は、施設管理者が利用していくうえで必要な事項をまとめたものであり、工事完成後、建物とともに、その管理者に引渡しを行う。作成に当たっては、技術的知識のない事務系職員であっても理解できるよう、専門用語による記述をできるだけ避けること、写真等を使って部位と名称が明確に分かるようにするなど、平易で分かりやすい資料となるよう心掛ける。また、関連工事等にかかわる説明書との内容の調整を十分行うよう受注者等を指導するとともに、なるべく1冊にまとめるよう、関連工事等の監督職員と打合せをする。

建物使用聞始後のクレームの原因の一つに、設計者が意図した使い方と異なる使われ方がされている場合がある。作成に当たっては、この点にも配慮が必要である。

なお、国土交通省では、「建築物等の利用に関する説明書作成の手引き(本編)(平成28年12月版)」「建築物等の利用に関する説明書作成の手引き(防災編)(平成 28年12月版)」を国土交通省ホームページで紹介しているので、参考にするとよい。

記載事項は、概ね次のとおりとする。
なお、以下の記載事項には、設計者が記載する内容が含まれていることに留意する必要がある。

(a) 概要    :目的、説明書の概要
(b) 使用の手引き:設計主旨、施設概要、使用条件、使用方法、将来の改修・修繕における留意事項
(c) 保全の手引き:保全の概要、保全の方法、点検対象・周期一覧表、測定等対象・周期一覧表、取扱資格者一覧表、届出書類一覧表、設計及び工事担当者一覧表、主要な材料・機材一覧表、官公署連絡先ー買表
(d) 保全計画  :保全計画の概要、中長期保全計画、年度保全計画
(e) 保全台帳  :保全台帳の概要、建築物等の概要、点検及び確認記録、修繕履歴、その他の項目の記録

監督職員は、保全に関する資料の提出時に受注者等から内容の説明を受けるとともに、引渡しの際には、施設管理者が説明書の内容を十分理解できるよう受注者等を同席させるなど、必要な事項が伝わるよう配慮することが望ましい。

1.7.4 建設業者が営業所ごとに保管する図書
次の図書については、受注した建設工事ごとに、当該建設工市の目的物の引き渡しをしたときから10年間保管する(建設業法第40条の三)。

(ア) 完成図
(イ) 打合せ記録
(ウ) 施工体系図

参 考 文 献

2章 仮設工事 1節 共通事項

2章 仮設工事


1節 共通事項

2.1.1 一般事項

(1) 仮設については、公共工事標準請負契約約款に基づく工事請負契約書第1条第3項において、「仮設、施工方法その他工事目的物を完成するために必要な一切の手段については、この契約書及び設計図書に特別の定めがある場合を除き、受注者がその責任において定める。」と規定しており、受注者がその責任において履行することができる。

したがって、「標仕」2章では、工事の施工に当たり発注者として示すべき最低限の事項について規定している。

(2) 仮設工事計画に当たっては、仮設物によって建物の品質を損なうことなく、安全で効率的な作業を行えるよう検討する必要がある。また、現場近隣の環境保全に配慮するとともに、仮設資材の有効活用も省資源対策上必要である。

(3) (1)で述べたとおり仮設計画は監督職員の承諾事項ではないが、参考までに工事の総合仮設をまとめた施工計画書の記載事項を示すと、概ね次のようになる。

① 工事目的物の位置と敷地との関係(配置と高低)
② 仮囲いの位置、構造及び主要部材の種類
③ 材料運搬経路と主な作業動線
④ 仮設物等の配置(監督職員事務所、受注者事務所、休憩所、危険物貯蔵所、材料置場、下小屋、廃棄物分別置場等)
⑤ 排水経路、工事用電力並びに水道の引込み位置及び供給能力
⑥ 足場並びに仮設通路の位置、構造及び主要部材の種類
⑦ 揚重機(リフト、クレーン、エレベーター、ゴンドラ等)の種類及び配置
⑧ 作業構台の位置、構造及び主要部材の種類
⑨ 墜落防止及び落下物防止並びに感電防止の施設
⑩ 近隣の安全に対する処置(近隣使用道路の配置計画図等)

2.1.2 仮設材料

(1) 一般事項

仮設に使用する材料は、それぞれの用途に応じ、品質、性能等が適正でなければならない。一般に仮設材料は、工事現場において長期間にわたり、かつ、繰り返し使用されることから、品質の確認が容易で性能の低下が生じにくいものでなければならない。

また、仮設材料には、その品質又は使用方法等について労働安全衛生法、消防法、 JIS (日本産業規格)、その他団体等の定める基準による規制等を受けるものがあるので、これらについてあらかじめ検討・確認しておくことが必要である。

特に、足場を構成する仮設機材については、長期間繰り返して使用されるうちにその強度が低下し倒壊事故等重大な災害につながるところから、労働安全衛生法令及び厚生労慟大臣が定める規格に規定される要件を具備するものを使用することが必要である。また、生産、流通段階での安全性の確保を図るために、(-社)仮設工業会では仮設機材に対し、材科、構造及び強度等を規定した認定基準を定めている。

さらに、経年仮設機材(現場で一度でも使用されたことのある仮設機材)が、繰り返し使用されている間の品質、性能等確保のために、原生労働省から経年仮設機材の適正な管理のための通達「経年仮設機材の管理指針」(平成8年4月4日労働省基発第223号の2)(以下、この章では「管理指針」という。)が示されている。

(2) 仮設機材の強度等の確認及び適正な管理
作業現場の安全確保には、仮設機材の製造時における強度等の確認・保証及び経年仮設機材の適正な管理が重要である。仮設機材の強度等の確認・保証について、(-社)仮設工業会では、製造時における足場用機材は、厚生労働大臣が定める規格及び認定基準に適合する旨を、刻印等により機材の全数に表示することを行っている。その表示等は、機材の種類により表2.1.1のとおりである。

なお、足場用機材の規格等に定めるもの以外のものの使用に当たっては、当該機材の製造者あるいは使用者により強度等について確認されたものであることが必要である。

現在製造されている主要な仮設機材は、防錆処理としてめっき、特に、浴融亜鉛めっきが施されているため、錆による肉厚の減少の懸念が少なくなった一方で、より長期にわたって使用される傾向となっており、経年による性能低下がないように適正に管理された仮設機材の使用が必要となる。仮設機材は、変形(曲がり、へこみ、反り等)及び損傷(亀裂、摩耗等)が直接性能低下の要因となるので、経年仮設機材の適正な管理は欠かすことができない。

このことから、厚生労働省の管理指針で規定している経年仮設機材に対して行う管理は、各機材ごとに定められた部位及び項目ごとに変形、損傷、錆等の程度による「選別」、経年仮設機材をいつでも使用できる状態に保持するための「整備」、機材を再使用可能な状態に復元する「修理」(部品交換を含む。)、さらに、性能試験、廃棄及び表示にわたるまで一連の管理基準等が明らかにされている。管理指針に基づき、(-社)仮設工業会では、仮設機材の整備、修理等を行っている機材センター等に対し、「適用工場制度」により、管理が適正である工場を認定し、経年仮設機材が適正な管理のもとに作業現場に提供されるようにしている。

表2.1.1 主な仮設機材とその表示

2章 仮設工事 2節 縄張り、遣方

2章 仮設工事


2節 縄張り、遣方、足場等

2.2.1 敷地の状況確認及び縄張り

(1) 敷地の状況確認
着工に先立ち受注者等が確認する敷地状況には次のような項目があり、監督職員は、受注者等から報告を受け、必要があれば確認、調査等に立ち会う。

(a) 敷地境界の確認
不明確な点があれば、関係者(20.5.1 (3)参照)の立会いを受けて明確にし、記録を残しておく。

(b) 既存構造物、地下埋設物の確認
建築物、工作物、地下鉄あるいは地中に埋設されたガス管、電線、電話ケーブル、給排水管、埋蔵文化財等を設計図書により確認するとともに、関係機関の協力を得て、設計図書に示されたもの以外に地下埋設物がないかを確認する。また、これらの埋設物が工事の障害となるおそれがある場合には、敷地境界、桝やマンホール等から位置を調べ、必要があれば試掘により確認して、必要な対策を講ずる。

なお、土壊汚染に関しては、1.3.10(1)を参照するとよい。

(c) 敷地の高低差及び既存樹木等の確認
敷地の高低差や既存樹木等に関しては、設計図書の指定による敷地の現場測量図等と、着工時の敷地の状況とが整合しているか確認する。また、現状測量図がない場合、必要な測量を実施するなど監督職員と協議する。

(d) 敷地周辺状況の確認
敷地周辺の交通屈や交通規制(特に通学路に注意)及び架空配線等を考慮し、建設機械や資材等の搬出入口の位置が適切かどうかを確認する。道路を占用・使用して工事を実施する場合は、事前に道路管理者及び署察署長に届ける。また、その工事エリアに柵や覆いを設けたり、交通整理員を配置するなどにより、道路交通の事故防止のための必要措置を講ずる(道路法施行令第2章参照)。テレビ電波等受信障害調査が実施されている場合は、工事中に障害が起きる可能性を考慮し、事前調査結果や近隣関係者との対応状況を確認しておく。

(e) 騒音・振動の影牌調査
騒音・振動については、周辺の環境に影響を与える工事や作業条件を事前に確認し、参考資料の資料1等を参照し、適切な処戦を検討しておく。

(f) 近隣建物調査
杭打ち工事、根切り工事等近隣に影響を与えるおそれのある工事を行う場合は、近隣建築物、工作物等に振動によるひび割れ、はく落、沈下等の事故が生じた場合の現状確認の資料とするため、関係者の立会いを求め、できるだけ写真、測量等により現状を記録しておく。さらに、工事中は常時これらの建築物等を観察し、必要な場合、悪影響を与えないよう事前の措置を講ずる。

(g) 排水経路と排水管の流末処理の確認
敷地の排水及び新設する建築物の排水管の勾配(通常1/100〜1/75)が、排水予定の排水本管・公設桝(市町村等で管理する桝)・水路等まで確保できるか、生活・事業系廃水(汚水)と雨水との区分の必要があるかなどを確認する。また、汚水の放流及び放流先(水路・溝等)の、地元管理者の同意の有無を確認しておく。

(2) 縄張り
建築物等の位置を決定するため、建築物外周の柱心、壁心が分かるよう縄等を張ることを縄張りという。建築物の位置と敷地の関係、道路や隣接建築物との関係等は、縄張りを行って確認する。

その際、監督職員は、縄張りの検査を行い、必要に応じて設計担当者の立会いを求め、建物位置を確認し、最終的に決定する。決定に当たっては、次の点に留意する。

(a) 敷地境界の確認
(b) 法規上の制約(斜線、延焼のおそれ、日影限界、避難距離等)
(c) 境界との離れ(設計図書に明示されている寸法確認、民法、施工上の問題等)

2.2.2 ベンチマーク

ベンチマークは、建築物等の高低及び位置の基準であり、移動するおそれのない既存の工作物あるいは新設した木杭、コンクリート杭等に高さの基準をしるしたものである。ベンチマークは、正確に設置し、移動のないようにその周囲を養生する必要がある(図2.2.1)。また、ベンチマークは、通常2箇所以上設け相互にチェックできるようにする。


図2.2.1 ベンチマークの例

監督職員は、ベンチマークの検査を行い、これを基にして敷地及び周辺道路の高低を測量させ、グランドライン(GL)を決定する。GLとは、基準となる地盤面の高さ又はその高さを表す線であり、現状地盤高や設計地盤高とは異なる場合がある。設計図書には設計GLだけが表示されていることが多いので、その場合には、設計GLと GLとの位置関係を明確にする。

なお、「JASS 2 仮設工事」や(-社)日本建築学会「建築学用語辞典」では、ベンチマークという用語を位置を決めるための基準点にも用いている。このように現在では、ベンチマークが高さと位置の両方を兼ねた基準として設けられる場合もある。

2.2.3 遣 方

(1) 遣方は、通常、図2.2.2のようなものであり、建築物の位置及び水平の基準を明確に表示し、次の (ア)から(ウ)のようにしてつくる。しかし、規模の大きな建築物等では遣方をつくらず、その都度測量機器を用いて、ベンチマークや固定物あるいは新設した杭等に設けた基準点から、建物のレベルあるいは建築物の基準墨を出すことが多い。


図2.2.2 遣方の例

(ア) 建築物隅角部、その中問部、根切り線の交差部等の要所で、根切り範囲から少し離れ、根切り後の移動のない位置に地杭〈水杭〉を打ち込む。昔から地杭の頭をいすか切りしているが、「いすか切り地杭」は、その頭部に物が当たったり、たたいたりした場合に、変状で移動をすぐに発見できるようにするための工夫である。

(イ) 地杭に高さの基準をしるし、かんな掛けを施した水貫の上端をその基準に合わせて水平に取り付ける。

(ウ) 工事に支障のない所に逃げ心(基準点)を設け、養生しておく。

(2) 監督職員は、追方の検査を行う。遣方の検査は、墨出しの順序を変えるなど、受注者等が行った方法とできるだけ異なった方法でチェックする。また、その工事現場専用の検査用鋼製巻尺を使用して実施する。

(3) 墨出し
墨出しとは、設計図書に示されたとおりの建築物を造るために、建築物各部の位置及び高さの基準を工事の進捗に合わせて、建築物の所定位置に表示する作業をいい、その建築物の出来上り精度に直接影響する大切な作業である。設計図書どおりの建築物を造るためには、建築物の着工から竣工に至る全工事期間を通じて一貫した位置及び高さの基準が必要である。

そのために、建築物の内外及び敷地周囲に基準高、通り心(基準墨又は親墨)、逃げ心等(ベンチマーク、基準点)を設けて、建物内の墨出し及び検査のための基準にしている。これを図面化し、「墨出し基準図」とし種々の要点を記入しておくとよい(図2.2.3)。


図2.2.3 墨出し基準図の例

墨出しの内容には、大別して表2.2.1に含まれるようなものがあるが、このうちの基準となる墨出しは、仮設工事の範ちゅうに入り、監督職員は、それらの検査を行う。

表2.2.1 施工段階の墨出し・計測作業の例

また、それぞれの墨出しは、次の(a)から(c)のような目的をもって行われる。

(a) 敷地及びその周辺の位置等の確認のための墨出し
(b) 施工のための墨出し
(c) 計測管理のための墨出し

捨コンクリートや1階床の墨出しは、上階の基準墨の基準となるので、建築物周囲の基準点から新たに測り出し、特に正確を期す必要がある。2階より上では、通常建築物の四隅の床に小さな穴を開けておき、下げ振り等により1階から上階に基準墨を上げている。この作業を「墨の引通し」という。

(4) 測量機器
墨出しに用いる一般的な測量機器には、セオドライト(又はトランシット)、レベル、鋼製巻尺、下げ振り、墨つぼ、さしがね、スタッフ(箱尺)、コンベックスルール等がある。計測距離が長い場合には、光波による計測器(光波測距儀)が用いられる。レベルやセオドライトに加えて、トータルステーション等の測定機器も用いられている。トータルステーションは光波測距像と電子式セオドライトを一体化した角度と距離を同時に測定できる測定機器である。

レベルやセオドライト、光波測距儀等の測定器は調整を必要とするので、作業所での使用に際して、事前に専門の業者により、検査、調整をさせる必要がある。
鋼製巻尺は、JIS B 7512(鋼製巻尺)に規定されている1級のものを使用する。

JIS 1級の鋼製巻尺でも1mにつき0.1mm程度の誤差が許容されており、50m巻尺では ±5mm程度の誤差を生じる可能性がある。したがって、通常は工事着手前にテープ合わせをし、同じ精度を有する巻尺を2本以上用意して、1本は基準巻尺として保管しておく。テープ合わせの際には、それぞれの鋼製巻尺に一定の張力を与えて相互の差を確認する必要がある。建築現場では、特に規定しない場合、通常50Nの張力としている。

また、鋼製巻尺は温度により伸縮するので、測定時の気温により温度補正を行う。標準温度20℃に対して、50m巻尺では10℃の温度差で5.75mm伸縮する。

2章 仮設工事 2節 足場等

2章 仮設工事


2節 縄張り、遣方、足場等

2.2.4 足場等

(1) 足場、作業構台、仮囲い等の仮設設備は、施工の安全確保、公衆災害防止のために重要なものである。このため、足場、作業構台、仮囲い等の仮設設備は、2.1.2で述べた適切な性能を有する材料の使用とともに、「標仕」2.2.4 (1)においては、労慟安全衛生法、建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)その他関係法令等に基づき、適切な構造と保守管理をすることを定めている。これら関係法令等の関係条項は、(9)に示す。

また、足場、作業構台、仮囲い等の設置や使用時においては、労働災害防止のために必要な保護具(保護帽、墜落制止用器具等)の着用、使用が必要である。

なお、平成30年6月8日公布の労働安全衛生法施行令の一部改正により、胴ベルト型(U字つりを除く)安全帯及びフルハーネス型安全帯を指す法令用語として、「安全帯」は「墜落制止用器具」に改められた。

(2) 建設工事は、工事の竣工に向け、現場の状態が日々変化し、その進捗に合わせ、仮設設備は盛替えが必要になる。本設工事が円滑に進むよう適切な時期に、適正な盛替えを施す事前計画と工程管理が必要である。

また、仮設設備が不安全状態になると、危険な施工を強いることになりかねず、施工品質、工程、安全、環境等に悪影響を及ぼすことになる。良好な仮設設備維持のためには、組立・盛替え後の保守点検を始め、作業開始前、地震・悪天候後の保守点検を確実に行い、異常があれば補修・修理し、常に適正な状態にしておくことが必要である。加えて、足場、仮囲い等の仮設設備の設置,解体時、使用時においては、架空線、埋設物、周辺環境影響(騒音・粉じん抑止、路面・周辺清掃、照明確保等)、工事車両、一般交通車両、歩行者などに対し、事故・災害防止、環境保全のための防護・保護措置が必要になるので、これらについても十分に配慮する。

(3) 足場、作業構台等は、「標仕」2.2.4 (4)において、関連工事等の関係者にも無償で使用させるよう定めている。これは、関連工事等の関係者間における一連の工程に著しいずれ、むだ等が生じ、関連工事等の関係者間での無用なトラプルがないようにするためである。

なお、関連工事等の関係者各々が、自らの工事の都合において、これらの構造を部分的な改造を含め改変すること、設置期間を延長することなどは、「標仕」2.2.4 (4)の規定外のことである。

(4) 足 場
(ア) 足場とは、作業者を作業箇所に近接させて作業をさせるために設ける仮設の作業床及びこれを支持する仮設物のことである。

足場の設置では、労慟安全衛生法、建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)その他関係法令等の遵守とともに、足場組立・解体等作業や、足場上作業の安全性を高めるために、「標仕」2.2.4 (2)は、「(別紙)手すり先行工法等に関するガイドライン」における「手すり先行工法による足場の組立て等に関する基準」、「働きやすい安心感のある足場に関する基準」に適合させることが必要であることを定めている。ただし、建築工事は、建築物の形状、周辺状況、作業方法等が様々に異なることから、工事要件に見合う足場形式の選定が必要であり、労慟安全衛生法、建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)その他関係法令等を遵守のうえに、工事を安全で効率的に実施するための各種足場(表2.2.2参照)の適用を排除するものではない。

次に、足場設置時及び足場使用時の概観的な諸条件を示すので、これらの条件を満たす足場設置計画及び使い方をするとよい。

(a) 足場に使用する部材は、所定の構造、強度等を有し、その状態が2.1.2で述べた適正な部材であること。

(b) 足場は、人、物等の積載荷重、風荷重等に十分に耐えうる安定した堅固な構造とすること。また、足場は、作業中又は足場内を通行中に、できるだけ動揺がない構造にすること。

(c) 足場には、昇降設備、手すり・さん等の墜落防止設備、メッシュシート・幅木等の物体落下防止設備を配備したものとすること。

(d) 足場上の作業、足場内の通行に対し、必要な広さを有する作業床を設けること。

なお、床材(作業床)と建地(支柱)の隙問は12cm未満とする。つり足場を除き床材間の隙間は 3cm以下、つり足場は作業床に隙間がないようにする。

(e) 作業目的物と足場作業床の間隔は可能な限り近接して設けること。

(f) 足場作業床上の作業や通行の妨げとなる不要材料は、排除すること。また、足場上には長期に部材を仮置かないこと。

(g) 足場組立・解体作業等中に墜落の危険がある場合、足場上の作業内容によって、やむを得ず臨時に手すり・さん等の墜落防止設備を取り外しての作業の場合、足場から身を乗り出すなど墜落の危険がある作業の場合等では、墜落制止用器具等を使用すること。

(h) 作業の都合で、やむを得ず臨時に手すり・さん等の墜落防止設備、メッシュシート等の物体落下防止設備を取り外した場合は、作業終了後に必ず復旧すること。

(イ) 足場は、工事の種類、規模、構造、敷地及び隣接地の状況、工期等に応じ、施工性と安全作業に適したものを選定し、足場に関する関係法令等に従って堅固に設置する。

(ウ) 足場の材料は、著しい損傷、変形、腐食等があってはならない。特に木材は強度上箸しい欠点となる割れ、節、木目の傾斜等がないものを使用する。

(エ) 鋼管足場用部材及び附属金具、合板足場板は、厚生労働大臣の定める規格に適合するものを使用しなければならない。そのほかの足場部材は、その種類に応じ JISや、2.1.2に示す認定基埠に適合し、所定の性能、品質が保証されたものを使用することが必要である。

(オ) 鋼管足場の部材及び附属金具等の経年品は、厚生労働省通達の管理指針に基づき、2.1.2(2)により適正に管理されたものを使用する。

(カ) 足場に関する関係法令により定められた構造及び規格等に適合する足場以外は、試験、構造計鉢等によりその安全性を確認する。

(キ) 足場の計画では、倒壊・破壊に対する安全性、墜落に対する安全性、資材等の落下に対する安全性を考慮しなければならない。特に倒壊事故につながる風荷重が大きく作用する工事用シート、パネル等を取り付ける場合は風荷重の検討を十分に行い、壁つなぎ材を適切に設置するなどの対策が必要である。

(ク) 足場には、足場の構造、材料に応じて、作業床の最大積載荷重を定め、これを足場の見やすい箇所に表示し、作業者に周知する。この最大積載荷重を超えて積載してはならない。

(ケ) つり足場、張出し足場、高さ5m以上の足場の組立、解体又は変更の作業では、足場組立て等作業主任者の選任と、その氏名、職務を作業場の見やすい箇所に掲示することが必要である。また、足場の組立て、解体又は変更の作業に係る業務(地上又は堅固な床上における補助作業の業務を除く。)に従事する作業者は、この業務に関する特別教脊を受けた者とすることが必要である。

(コ) 足場の組立て、解体又は変更時の点検は、点検表を作成し実施する。

点検者は、足場の組立て等を行った事業者で足場の組立て等を担当した者以外の、足場に関し十分な知識と経験を有する者及び足場の組立て等の注文者で、足場に関し十分な知識と経験を有する者の両者により,点検を行うことが必要である。

なお、「十分な知識と経験を有する者」としては、次の者が適切な,点検者と想定されるので参考にされたい。

(a) 足場の組立て等作業主任者であって、労働安全衛生法(以下「法」という。)第19条の2に基づく足場の組立て等作業主任者能力向上教脊を受けた者
(b) 法第81条に規定する労働安全コンサルタント(試験の区分が土木又は建築である者)や厚生労働大臣の登録を受けた者が行う研修を修了した者等、法第 88条に基づく足場の設置等の届出に係る「計画作成参画者」に必要な資格を有する者

(c) 全国仮設安全事業協同組合が行う「仮設安全監理者資格取得講習」、建設業労働災害防止協会が行う「施工管理者等のための足場点検実務研修」を受けた者等、足場の点検に必要な専門的知識の習得のために行う教脊、研修又は講習を修了するなど、足場の安全点検について、上記(a)又は(b)に掲げる者と同等の知識・経験を有する者

(サ) 足場からの墜落・転落災害を防止するため、厚生労働省から「足場からの墜落・転落災害防止総合対策推進要綱」が平成27年5月に発出されているので、足場の設置に当たっては、この内容を踏まえることが必要である。

また、墜落制止用器具を使用して行う作業については、厚生労働省から「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」が平成30年6月に発出されているので、これに基づくことが必要である。

なお、屋根工事及び小屋組の建方工事における墜落事故防止対策として、「標仕」 2.2.4(3)においては、JIS A 8971(屋根工事用足場及び施工方法)の施工標準に基づく足場及び装備機材を設置するとしている。

表2.2.2に、屋根面に設ける足場と装備機材との標準的な組合せを示す。
なお、詳細は同規格の「附属書A(規定)施工標準」によるものとする。
表2.2.2 屋根面に設ける足場と装備機材の組合せ(JIS A 8971より引用)

また、「足場先行工法に関するガイドライン」(平成18年2月10日付 基発第 0210001号)5 (12)には、小屋組における屋根からの墜落防止として次の3項目の措置を講ずることが示されている。

①屋根からの墜落防止のため、足場の建地を屋根の軒先の上に突き出し、その建地に手すりを設けること。手すりは、軒先から75cm(参考値[安衛則 563条]:85cm)以上(「建設業労働災害防止規程」では、90cm以上である。)の高さの位置に設け、かつ、中さんを設けること。(図2.2.4)


図2.2.4 屋根からの墜落防止措置の例

② 軒先と建地との間隔は、30cm以下とすること。

③ 屋根勾配が 6/10以上である場合又はすべりやすい材料の屋根下地の場合には、20cm以上の幅の作業床を2m以下の間隔で設置すること。(図2.2.5)


図2.2.5 屋根足場の設置の例

注図:建設業労働災害防止協会発行[木造家屋建築工事の作業指針
作業主任者技能溝習テキスト]より。(一部改変)
※:建設業労働災害防止協会
[建設業労慟災害防止規程]による数値

(シ) 足場の種類は、用途別及び構造別に分類を表2.2.3に示す。

表2.2.3 足場の用途別・構造別分類

(ス) 各足場の例を図2.2.6に示す。






図2.2.6 各足場の例

(セ) 足場の安全基準について、労働安全衛生規則等を踏まえて、その概要を表2.2.4に示す。

表2.2.4 足場の安全基準

(5) 仮囲い

(ア) 仮囲いは、工事現場周辺の道路・隣地との隔離、出入口以外からの入退場の防止、盗難の防止、通行人の安全、隣接物の保護等のために必要である。仮囲いは、工事現場の周囲に工事期間中を通し、建築基準法施行令、建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)等に従って設ける。

(イ) 木造の建築物で、高さが13m若しくは軒の高さが9mを超えるもの又は木造以外で2階以上の建築物の工事を行う場合は、高さ1.8m以上の仮囲いを設ける。ただし、上記と同等以上の効力を有するほかの囲いがある場合又は工事現場の周辺若しくは工事の状況により危害防止上支障がない場合は、仮囲いを設けなくてもよい(建築基準法施行令第136条の2の20)。

(ウ) 仮囲いは、風、振動等に対して倒壊したり、仮囲いの一部が外れ飛散したりしない堅固な構造とする。

(エ) 仮囲いに出入口を設ける場合において、施錠できる構造とし、出入口は必要のない限り閉鎖しておく。また、出入口の開閉による車両等の出入りには、交通誘導員を配置するなどして、一般車両、歩行者等の通行に支障のないようにする。

(オ) 道路を借用して仮囲いを設置する場合は、道路管理者と所轄警察署長の許可を得る。

(6) 仮設通路
(ア) 階段
(a) 高さ又は深さが1.5mを超える箇所で作業を行うときは作業者が安全に昇降するための階段等を設ける(労働安全衛生規則第526条)。階段は、作業者が昇降するために、足場内や工事の進捗に従い建築物内外の仮設通路面等に設ける。

(b) 階段は踏外し、転倒等を防止するために、勾配、踏面、蹴上げ等に留意し適切かつ堅固に設ける。また、踏面は踏板面に滑り止め又は滑り止め効果のあるものを設ける。

(c) 踊り場は階段と一体となって機能する仮設通路であり、労働安全衛生規則第552条を準用し、高さが 8m以上の階段には、7m以内ごとに踊り場を設ける。枠組足場では建枠1層又は2層ごとに設けることが多い。

(d) 階段部分の縁や床面開口部及び踊り場で墜落の危険のある箇所には、高さ 85cm以上の丈夫な手すり及び高さ35cm以上50cm以下の中桟を設ける(労慟安全衛生規則第552条)。一般には、安全性を高めるため高さ90cm以上の丈夫な手すり及び内法が45cmを超えない間隔で中さんを設ける(建設業労働災害防止協会「建設業労働災害防止規程」、(-社)仮設工業会「墜落防止設備等に関する技術基準」参照)。

(e) 足場に使用されている階段は、専用踏板と足場用鋼管とで構成する階段(図2.2.7)と足場導用の階段枠(図2.2.8)の2種類がある。


図2.2.7 専用踏板と足場用鋼管とで構成する階段の例


図2.2.8 足場専用の階段枠の例

(仮設機材認定基準とその解説より)
(f) 枠組足場に使用する階段は、鋼管足場用の部材及び附属金具の規格(厚生労働省告示)、JIS A 8951(鋼管足場)の標準建枠高(階段の高さ)やスパン(階段の輻)寸法に合った専用規格階段を用いるとよい。階段は建枠横架材に架け渡し、上下連結部分は強風時の吹上げ力、衝撃、振動等で脱落、滑り、変形等が生じないように取り付ける。

なお、足場専用の階段枠は、(-社)仮設工業会の認定基準があり、その強度及び性能を定め、保証している。

枠組足場に使用する階段の計画例を図2.2.9に示す。


図2.2.9 階段計画の例

(イ) 登り桟橋

(a) 登り桟橋は、足場の昇降又は材料運搬等に用いるために設置された仮設の斜路で、足場板を斜めに架け渡し、適切な間隔に滑り止めのための横桟を打ち付け、手すり、中さん等を設けた構造である。

(b) 登り桟橋は、労働安全衛生規則第552条の架設通路の規定により、図2.2.10のような構造となる。

図2.2.10 登り桟橋

(c) 登り桟橋の幅は90cm以上確保することが望ましい。また、登り桟橋上が、雷、氷等により滑りが予想され、やむを得ずこの状態で登り桟橋を使用する場合に は、あらかじめ滑りを防止する処置を施す必要がある。

(ウ) その他の仮設通路
その他の仮設通路としては、様々なものが使用されてきているが、代表的なものとして、次のようなものがある。これらを用いる場合は、施工条件等や取扱い説明等に沿った適正な配置、使い方をしていくことが必要である。

(a) ハッチ式床付き布枠と昇降はしごが一体となった通路(図2.2.11(イ))は、足場において、足場昇降階段の設置が困難な場合や、緊急的な昇降に使用される。


図2.2.11 その他の仮設通路 (イ)

(b) ベランダ用昇降設備(図2.2.11(ロ))は、枠組足場等から、躯体内部に渡る通路であり、特に、ベランダ等の手すりの立上りを越えるために使用される。


図2.2.11 その他の仮設通路 (ロ)

(c) 鉄骨用通路(図2.2.11(ハ))は、鉄骨上に設けられ材料置き場や足場を結ぶ通路として使用される。


図2.2.11 その他の仮設通路 (ハ)

(7) 落下物に対する防護

(ア) 工事用シート等
工事現場からの飛来・落下物により、工事現場周辺の通行人や隣家への危害を防止するために、足場の外側面に工事用シート、パネル等を取り付ける(建築基準法施行令第136条の5第2項、建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)第27参照)。また、労働安全衛生規則(第537条、第538条)では、足場等からの飛来・落下物による労働災害を防止するため、その危険のおそれのあるときは、幅木、防網(メッシュシート等)を取り付けることが定められている。

① 工事用シートは、帆布製のものと網地製のもの(メッシュシート)の2種類があり、JIS A 8952(建築工事用シート)の1類(シートだけで落下物の危害防止に使用できる)に適合するもの又はこれと同等以上の性能を有するものを使用する。シートは、通常、風荷重を緩和するメッシュシートが多く使用される。

なお、これについては、(-社)仮設工業会の認定基準がある。

② シートの取付けは、原則として、足場に水平材を垂直方向 5.5m以下ごとに設け、シートに設けられた全てのはとめを用い、隙間やたるみがないように緊結材を使用して足場に緊結する(シートに設けられたはとめの間隔は、 JIS A 8952では45cm以下としている。(-社)仮設工業会の認定基準では35 cm以下としている。)(図2.2.12)。緊結材は、引張強度が0.98kN以上のものを使用する。

③ その他にパネル、ネットフレーム等がある。

パネルは、パネル材とフレーム等で構成されたもので、工事騒音の外部への伝播を防止・軽減する役目も果たす防音パネルが一般的に用いられる。
なお、防音と落下物防護を兼ねた防音シートは、防音パネルと同様に用いられている。

ネットフレームは、金属網部(エキスパンドメタル)とフレームを溶接した構造であり、いずれも主に枠組足場に取り付けられる。

④ 建築工事用垂直ネットは、建築工事現場の鉄骨工事で飛来、落下物による災害を防ぐために、鉄骨(つり足場)等の外側面に垂直に取り付けられる。このネットは、合成繊維製の織網生地の織製ネット及び網製ネットで仕立てた、網目の寸法が 13〜18mmのもので、JIS A 8960(建築工事用垂直ネット)に適合するものを使用する。

なお、これについては、(-社)仮設工業会の認定基準がある。

(イ) 防護棚
外部足場から、ふ角75度を超える範囲又は水平距離 5m以内の範囲に隣家、一般の交通等に供せられている場所がある場合には、落下物による危害を防止するため、防護棚(朝顔)を設けなければならない(建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)第23参照)。

① 防護棚のはね出しは、水平面に対し 20〜30゜の角度で、足場から水平距離で 2m以上とする。

② 防護棚は、1段目を地上10m以下、2段目以上は下段より10m以下ごとに設ける。通常、1段目は、地上5m以下に設けるのが望ましい。

③ 一般的に、防護棚は厚み1.6mmの鋼板が用いられてきたが、アルミ合金製の本体フレームにFRP製万能板の使用が増えている。


図2.2.12 工事用シートの取付け例

(8) 作業構台
作業構台には、地下工事等の材料の集積、建設機械の設置等のための乗入れ構台と、建築置材等の一部を仮置きして、建築物の内部に取り込むことなどのための荷受け構台(荷上げ構台)がある。

作業構台上は、常に整理整頓を行うとともに、作業構台自体の状態の保守管理を行い、点検結果を記録及び保管することが必要である。

(a) 乗入れ構台
① 乗入れ構台は、根切り、地下構造物、鉄骨建方、山留め架構の組立、解体等の工事を行う際に、自走式クレーン車・トラック類・生コン車・コンクリートポンプ車等の走行と作業、各資材の仮置き等に使用する。

② 乗入れ構台は、関係法令に従って設ける。(労働安全衛生規則第575条の2〜 8)

③ 使用する鋼材については、JIS適合品又は同等以上の強度をもつものとし、断面欠損や曲がり等、構造耐力上、欠点のないものを用いる。

④ 乗入れ構台の構造は、各種施工機械・車両の重量及びその走行や作業時の衝撃荷重、仮置き資材の荷重、構台の自重、地震・風・雪等の荷重に十分耐え得るものとする。

⑤ 乗入れ構台の計画上の要点は次のとおりである。
1) 乗入れ構台の規模と配置
規模は、敷地及びその周辺の状況、掘削面積、掘削部分の地盤性状、山留め工法、各工事で採用する工法等の条件により決定する。配置は、施工機械・車両の配置や動線、施工機械の能力、作業位置等により決定する。市街地工事では、駐車スペースの確保が難しいことから、可能な限り、余裕のある面積を確保する。

2) 乗入れ構台の幅員
通常計画される幅員は 4〜10mであるが、使用する施工機械、車両・アウトリガーの幅、配置及び動線等により決定する。構台に曲がりがある場合は、車両の回転半径を検討し、コーナ一部分の所要寸法を考慮して幅員を決定する。

3) 乗入れ構台の高さ、勾配等
・高さは、地下躯体(主として1階の梁・床)の作業性を考慮して決める。

・躯体コンクリート打込み時に、乗入れ構台の大引下の床の均し作業ができるように、大引下端を床上端より20〜 30cm程度上に設定する。

・乗込みスロープの勾配が急になると、施工機械・車両の出入りに支障となるおそれがあるので、通常は1/10 ~ 1/6程度とする。

・敷地境界から乗入れ構台までの距離が短い場合は、乗入れ構台のスロープが敷地境界から外に出ないよう留意することが必要である。

⑥ 一般的な乗入れ構台の架構形式と各部材の名称を図2.2.13に示す。

(b) 荷受け構台(荷上げ構台)
① 荷受け構台は、クレーンやリフト、エレベーター類からの材料の取込みに使用される作業構台で、材料置場と兼用することもある。

② 荷受け構台は、関係法令に従って設ける。(労働安全衛生規則第575条の2〜8)

③ 使用する材科は、木材にあっては割れ、腐れ、著しい断面欠損、曲がり等、鋼材にあっては著しい断面欠損、曲がり等、構造耐力上の欠点のないものを用いる。

④ 荷受け構台は、資機材の搬出入に適した位置に設け、揚重機の能力、揚重材料の形状・寸法・数量に応じた形状、規模のものとし、積載荷重等に対して十分に耐える安全な構造のものとする。

⑤ 設置位置は、材料の取込み及び水平運搬に便利な位置を選び、2〜3階に1箇所の割りで設置し、他の階にはそこから運ぶようにしていることがある。また、工事の進捗に伴って転用が必要な場合があるので、移動方法を考慮して設置位置を決めることが必要である。

なお、荷受け構台への資機材の仮置きはできる限り短期間とする。

⑥建築物本体の鉄骨を利用して、荷受け構台を建物外部にはね出して設置した計画例と足場に設けた例を図2.2.14に示す。


図2.2.13 乗入れ構台の架構形状と各部材の名称


図2.2.14 荷受け構台の例

(9) 関係法令等
足場、仮設通路、仮囲い等に関係する関係法令等を次に示す。

(a) 主な関係法令等
① 労働安全衛生法、同施行令、労働安全衛生規則
② 建築基準法、同施行令、同施行規則
③ 建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)

(b) 主な労働安全衛生法関係
① 足場関連
・事業者の講ずべき措置等
労働安全衛生法第20条、第21条、第23条~第25条、第26条

・計画の届出等
労働安全衛生法第88条、労働安全衛生規則第86条

・計画の届出をすべき機械等
労働安全衛生規則第85条

・資格を有する者の参画に係わる工事又は仕事の範囲
労慟安全衛生規則第92条の2

・計画の作成に参画する者の資格
労慟安全衛生規則第92条の3

・作業主任者
労働安全衛生法第14条

・作業主任者を選任すべき作業
労働安全衛生法施行令第6条策十五号

・作業主任者の選任
労働安全衛生規則第16条

・足場の組立等作業主任者の選任
労働安全衛生規則第565条

・足場の組立等作業主任者の職務
労働安全衛生規則第566条

・安全衛生教育(特別教育)
労働安全衛生法第59条第3項、労働安全衛生規則第37条~第39条

・材料等
労働安全衛生規則第559条

・鋼管足場に使用する鋼管等
労働安全衛生規則節560条

・構造
労働安全衛生規則第561条

・作業床の設置等
労慟安全衛生規則第518条~第523条

・最大積載荷重
労働安全衛生規則第562条

・作業床
労働安全衛生規則第563条

・足場の組立等の作業
労働安全衛生規則第564条

・点検
労働安全衛生規則第567条

・つり足場の点検
労働安全衛生規則第568条

・鋼管足場
労働安全衛生規則第570条~第573条

・つり足場
労働安全衛生規則第574条、第575条

② 通路(登り桟橋含む)関連
・通路等
労働安全衛生規則第540条~第544条

・架設通路
労働安全衛生規則第552条

③ 階段関連
・昇降するための設備の設置等
労働安全衛生規則第526条

④ 作業構台(乗入れ構台・荷受け構台)関連
・作業構台
労働安全衛生規則第575条の2~8

⑤ 飛来落下物防護関連
・高所からの物体投下による危険の防止
労働安全衛生規則第536条

・物体の落下による危険の防止
労働安全衛生規則第537条、第563条第1項第六号

・物体の飛来による危険の防止
労働安全衛生規則第538条

・保護帽の着用
労働安全衛生規則第539条

(c) 建築基準法施行令関係
・仮囲い
建築基準法施行令第136条の2の20

・落下物に対する防護
建築基準法施行令第136条の5

・工事用材料の集積
建築基準法施行令第136条の7

(d) 建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)
・飛来落下による危険防止 第11
・仮囲い、出入ロ     第23
・歩行者用仮設通路    第24
・乗入れ構台       第25
・荷受け構台       第26
・外部足場        第27
・防設棚         第28