18章 塗装工事 6節 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗り(NAD:Non-Aqueous-Dispersion)

18章 塗装工事
6節 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗り(NAD:Non-Aqueous-Dispersion)
18.6.1 一般事項
この節は、コンクリート、モルタル等で構成される建築物内部の平滑な着色仕上げを対象としている。
18.6.2 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗り
(1) 材 料
JIS K 5670(アクリル樹脂系非水分散形塗料)に規定されており、アクリル樹脂系非水分散形ワニスを主要な塗膜形成要素とする、分散粒子融着乾燥形の塗料である。一般的に、水を媒体として樹脂を分散安定化させたものなどをエマルションと呼ぶが、有機溶剤を媒体として樹脂を分散させたものが非水分散形ワニスで、通‘常 NAD (Non Aqueous Dispersion)等と略称されている。塗料は溶剤系塗料に比べ溶剤臭が少なく、常温で比較的短時間で硬化し、耐水性や耐アルカリ性に優れた塗膜が得られる。アクリル樹脂系非水分散形ワニスには、有機溶剤中毒予防規則の第三種有機溶剤等が用いられており、関係法令等に基づいた保管や塗装作業等に十分な配慮が必要である。
なお、有機溶剤中毒予防規則については、18.1.4を参照されたい。
(2) 塗 装
(ア) 下塗り、中塗り、上塗りには同一材料を使用する。
(イ) 使用するシンナーが不適切であると、塗装作業性が低下して、仕上りに欠陥を生じるため、塗料の製造所が指定するシンナーを使用する。
(ウ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り又は吹付け塗りとし、吹付け塗りの場合は、塗料に適したノズルの径や種類を選定する。
(エ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.6.1に示す。
表18.6.1 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.6.1_アクリル樹脂系非水分散形塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg

18章 塗装工事 7節 耐候性塗料塗り(DP)

18章 塗装工事
7節 耐候性塗料塗り(DP)
18.7.1 一般事項
この節は、長期間にわたる耐候性や美装性を要求される建築物外部の鉄骨、亜鉛めっきを施された鉄骨、鋼製建具及びコンクリート外壁等に対する着色塗装仕上げをする場合に適用する。
塗装の仕様には、海岸や工業地帯等の厳しい腐食環境における重防食仕様といわれるものと、一般的な腐食環境におけるものとがあり、この節では後者の一般的な腐食環境を前提としたものである。
平成25年版の「標仕」の耐候性塗料塗りでは、溶剤系塗料が適用されていた。しかし昨今では、環境保全や健康安全への配慮から、建築現場における塗装では、光化学オキシダントの低減、有機溶剤中毒の抑制や防止などを目的として、光化学活性の少ない弱溶剤系塗料が使用されている。このため平成28年版「標仕」から、耐候性塗料塗りに弱溶剤系塗料が採用された。
使用する材料の規格番号が、鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面の金属系素地とコンクリート面及び押出成形セメント板面のセメント系素地で異なっているため、注意が必要である。
なお、令和4年版「標仕」から、鉄鋼面及び亜鉛めっき面の錆止め塗料の記載を3節に移行した。
18.7.2 鉄鋼面の耐候性塗料塗り
(1) 材 料
(ア) ジンクリッチプライマー(JIS K 5552)
 18.3.2(2)(エ)を参照する。
(イ) 構造物用さび止めペイント(JIS K 5551)
 18.3.2(2)(オ)を参照する。
(ウ) 鋼構造物用耐候性塗料(JIS K 5659)
JIS K 5659に規定されているもので、種類はA種(溶剤形塗料)とB種(水性塗料)の2種類あり、各種類の中には各々、上塗り塗料と中塗り塗料がある。上塗り塗料は耐候性により等級が規定されており、品質が最も高いものを1級とし、順に2級、3級としている。「標仕」では、上塗り塗料の等級は特記されることになっている。上塗り塗料と中塗り塗料は、主剤と硬化剤からなる常温乾燥形の塗料である。使用に当たり、中塗り塗料の標準工程間隔時間が7日以内と制限があることに注意する必要がある。
JIS K 5659 A種は、旧規格JIS K 5657(鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料)と旧規格JIS K 5659(鋼構造物用ふっ素樹脂塗料)を統合し、両塗料の中間のグレードとして、アクリルシリコン樹脂系の耐候性区分を取り込んで制定された規格である。したがって、当該規格の1級の品質は旧規格JIS K 5659の品質に相当し、3級の品質は旧規格JIS K 5657の品質に相当するとしていた。最近では、ふっ素樹脂塗料は1級、シリコーン樹脂塗料は 1~2級、ポリウレタン樹脂塗料 は 2~3級に該当している。
2018年JIS K 5659の改定に伴い、水系塗料が規定に加わった。種類が、有機溶剤を主要な揮発成分としたA種と、水を主要な抑発成分としたB種に分類されたが、B種に関しては、2022年1月時点では JISマーク表示の認証を受けている製品がない。このため(-社)日本塗料工業会では、水系塗料を用いる建築物の鉄部仕様に対する適用性の検討及び現行の溶剤系仕様と性能を比較することを目的とし、「鉄部建築工事における高耐久水性仕様検証ワーキング」を立ち上げ実証実験を行っている。その成果については、2020年9月から日本建築学会大会学術講演会及び日本建築仕上学会大会学術講演会で発表を行っている。
弱溶剤系の鋼構造物用耐候性塗料に用いる材料は、労働安全衛生法に定めている第3種有機溶剤(ミネラルスピリットなど)を用いた塗料である。溶解力の強いトルエンやキシレンなどと比べて、溶解力の弱い第3種有機溶剤を用いた塗料で、弱溶剤系塗料と呼ばれている。弱溶剤系塗料は従来の溶剤系塗料に比べ、溶解力や臭気が低く、塗装時に既存塗膜をリフティングさせることが少なく、新設工事に用いるほか途替工事にも用いられている。
(2) 塗 装
(ア) 「標仕」の鉄鋼面は、屋外の鉄骨を主な対象としている。
(イ) 構造物用さび止めペイントA種及び鋼構造物用耐候性塗料中塗り塗料は、その上に塗装されるまでの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間に十分注意する。
(ウ) 下塗りとして弱溶剤系塗料を使用した場合、その後の工程の中塗り、上塗りも弱溶剤系塗料を使用する。
(エ) 使用する塗料、シンナー、調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。
(オ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。
(カ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を表18.7.1に示す。
(キ) 下塗りとして用いる反応硬化形エポキシ樹脂系塗料の標準工程間隔時間には、 7日以内と制限があるため、「標仕」表18.7.1では、「錆止め塗料塗り」の次に、工程1「研磨紙ずり」を設けている。
表18.7.1 鉄鋼面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.7.1_鉄鋼面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.7.3 亜鉛めっき鋼面の耐候性塗料塗り
(1) 材 料
(ア) 鋼構造物用耐候性塗料(JIS K 5659)
 18.7.2(1)を参照する。
(イ) 変性エポキシ樹脂プライマー
 18.3.2(2)(イ)を参照する。
(2) 塗 装
(ア) 全ての塗装工程を鋼製建具等の製造工場で行う場合は、現場に搬入して組立後の補修方法等について事前に検討及び協議をしておく必要がある。
(イ) 下塗りとして弱溶剤系塗料を使用した場合、その後の工程の中塗り、上塗りも弱溶剤系塗料を使用する。
(ウ) 使用する塗料、シンナー、調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。
(エ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。
(オ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.7.2に示す。
表18.7.2 亜鉛めっき鋼面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.7.2_亜鉛めっき鋼面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.7.4 コンクリート面及び押出成形セメント板面の耐候性塗料塗り
(1) 材 料
(ア) 反応形合成樹脂シーラーおよび弱溶剤系反応形合成樹脂シーラー
JASS 18 M-201に規定されているエポキシ樹脂を主成分とする反応硬化形塗料であり、セメント系素地との接着性に優れている。
塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。
(イ) 常温乾燥形ふっ素樹脂塗料用中塗り(常温乾燥形ふっ素樹脂塗料用中塗りおよび弱溶剤系常温乾燥形ふっ素樹脂塗料用中塗り)
JASS 18 M-405に規定されている反応硬化形塗料で、エポキシ樹脂系やポリウレタン系のものがある。塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。
(ウ) アクリルシリコン樹脂塗料用中塗り(アクリルシリコン樹脂塗料用中塗りおよび弱溶剤系アクリルシリコン樹脂塗料用中塗り)
JASS 18 M-404 に規定されている反応硬化形塗料で、エポキシ樹脂系やポリウレタン系のものがある。塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。
(エ) 2液形ポリウレタンエナメル用中塗り(2液形ポリウレタンエナメル用中塗りおよび弱溶剤系2液形ポリウレタンエナメル用中塗り)
JASS 18 M-403に規定されている反応硬化形塗料で、エポキシ樹脂系やポリウレタン系のものがある。塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。
(オ) 建築用耐候性上塗り塗料
JIS K 5658(建築用耐候性上塗り塗料)は、旧規格JIS K 5656(建築用ポリウレタン樹脂塗料)と旧規格JIS K 5658(建築用ふっ素樹脂塗料)を統合したうえで、両塗料の中間となる耐候性グレードとしてアクリルシリコン樹脂系を取り込み、主要原料として、ふっ素樹脂、シリコーン樹脂又はポリウレタン樹脂を用いるもので、主剤と硬化剤を混合して使用する塗料としている。
耐候性による等級区分が設定されており、品質が最も高いものを 1級とし、順に2級、3級とされ、1級の品質は旧規格JIS K 5658の品質に相当し、3級の品質は旧規格 JIS K 5656の品質に相当するとしていた。「標仕」では、A種が主要 原料ふっ素樹脂(1級)、B種が主要原料シリコーン樹脂(2級)、C種が主要原 科ポリウレタン樹脂(3級)のように、等級が主要原料 により限定されているが、 JIS K 5658では樹脂系と各級を一致させないとしている。最近では、ふっ素樹脂 は1級、シリコーン樹脂は1~2級、ポリウレタン樹脂は2~3級に該当している。
弱溶剤系の建築用耐候性塗料塗りには、労働安全衛生法に定めている第3種有機溶剤(ミネラルスピリットなど)を用いた材料を使用する。溶解力の強いトルエンやキシレンなどと比べて、溶解力の弱い第3種有機溶剤を用いた塗料で、弱溶剤系塗料と呼ばれている。弱溶剤系塗料は従来の溶剤系塗料に比べ、溶解力や臭気が低く、塗装時に既存塗膜をリフティングさせることが少なく、新設工事に用いるほか塗替工事にも用いられている。
容器には規格番号と名称に加えて、等級及び主要樹脂成分の一般名称(ふっ素樹脂、シリコーン樹脂又はポリウレタン樹脂のいずれか)を表示することが規定されている。
(2) 塗 装
(ア)「標仕」のコンクリート面及び押出成形セメント板面は、外壁等を主な対象としている。
(イ) 全ての塗装工程を製造工場で行う場合は、現場に搬入して組立後の補修方法等について事前に検討及び協議をしておく必要がある。
(ウ) コンクリート面に耐候性塗料塗りを適用する場合の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.6を適用する。
(エ) 下塗りとして弱溶剤系液料を使用した場合、その後の工程の中塗り、上塗りも弱溶剤系塗料を使用する。
(オ) 使用する塗料、シンナー、;調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。
(カ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。
(キ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.7.3に示す。
表18.7.3 コンクリート面及び押出成形セメント板面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.7.3_Con面及びEPC面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg

18章 塗装工事 8節 つや有合成樹脂エマルションペイント塗り(EP-G)

18章 塗装工事
8節 つや有合成樹脂エマルションペイント塗り(EP-G)
18.8.1 一般事項
この節は、建築物の内外壁面、天井等のコンクリート面、モルタル面、せっこうプラスター面、せっこうボード面及びその他のボード面等並びに屋内の木部、鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面に用いる、つや有合成樹脂エマルションペイント塗り仕上げを対象としている。
つや有合成樹脂エマルションペイント塗りは、ホルムアルデヒド発散建築材料に指定されていない塗料を利用した塗装仕様である。屋内の木部、鉄鋼面、亜鉛めっき鋼面に対して、本塗り仕様と同様の用途に適用できる塗装仕様として、4節の合成樹脂調合ペイント塗り及びフタル酸樹脂エナメル塗りがある。しかし、合成樹脂調合ペイント(JIS K 5516)及びフタル酸樹脂エナメル(JIS K 5572)はホルムアルデヒド発散建築材料に指定されており、特記によりF☆☆☆☆以外の材料が指定されている場合には、内装としての使用面積が制限されることになる。つや有合成樹脂エマルションペイント塗りは、ホルムアルデヒド発散建築材料に指定されている塗料を使用していないため、建築基準法のシックハウス症候群対策による規制を受けない。
つや有合成樹脂エマルションペイントは水系塗料であり、合成樹脂調合ペイントやフタル酸樹脂エナメルと比較して、揮発性有機化合物(VOC)の発生が少なく、ホルムアルデヒドの発散等級はF☆☆☆☆である。
18.8.2 コンクリート面、モルタル面、せっこうプラスタ一面、せっこうボード面、その他ボード面等のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り
(1) 材 料
(ア) 合成樹脂エマルションシーラー
JIS K 5663(合成樹脂エマルションペイント及びシーラー)に規定される品質のものとする。
(イ) つや有合成樹脂エマルションペイント(JIS K 5660)
JIS K 5660に規定されており、合成樹脂エマルションと着色顔料、体質顔料、補助剤、添加剤等から構成される水系塗料である。
水による希釈が可能で、水を加えて登料に流動性をもたせることができ、臭気が少なく溶剤の揮散による大気汚染や中毒の危険性が少ない塗料である。そのため、従来のアクリル樹脂エナメルを使用していた部位に使われるようになってきている。
塗布された塗料は、水分が蒸発するとともに樹脂粒子が接近融着して連続塗膜を形成する。気温 –5℃以下では凍結するため、低温保管を避ける。また、気温 5℃以下では施工を避ける。
塗装用具や塗膜硬化機構は、9節に述べる「合成樹脂エマルションペイント」と同様であり、一度硬化乾燥すると表面光沢のある耐水性を有する塗膜になる。
(2) 塗 装
(ア) 「標仕」では、天井面等の見上げの部分においては、外観上特に問題がないため、工程3「研磨紙ずり」を省略することとしている。
(イ) コンクリート面に、つや有合成樹脂エマルションペイント塗りを適用する場合の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.5を適用する。
(ウ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り、吹付け塗りのいずれかとする。
(エ) 塗料の塗付けは、同じ方向にそろえ、1日の工程終了は区切りのよい所まで塗装する。途中で終了したり塗り残したりすると、色むらや光沢むら等の仕上り外観に異常を生じることがある。
(オ) 希釈に使用する水は、水道水を標準として、水道水以外の水を使用する場合は、事前に各材料との適合性を確認する必要がある。
(カ) つや有合成樹脂エマルションペイントは水系塗料であるが、塗料の飛散、粉じんの吸入、皮膚や目への付着等、安全衛生に注意する。
(キ) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.8.1に示す。
(ク) 各工程の工程間隔時間及び最終養生時間は、十分確保する。工程間隔時間及び最終養生時間が短いと研磨紙ずりの時に目詰りしたり、研磨目が出たりして、仕上り外観を損ねる場合がある。
(ケ) 下塗りに用いる合成樹脂エマルションシーラーは、上塗塗料の製造所の指定する水系塗料とする。
表18.8.1 つや有合成樹脂エマルションペイント渡りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.8.1_つや有合成樹脂EP塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.8.3 木部のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り
(1) 材 料
(ア) 合成樹脂エマルションシーラー
 18.8.2(1)(ア)を参照する。
(イ) 合成樹脂エマルションパテ(JIS K 5669)
 JIS K 5669に規定される耐水形薄付け用とする。
(ウ) つや有合成樹脂エマルションペイント
 18.8.2(1)(イ)を参照する。
(2) 塗 装
(ア) 上塗りとの適合性を確保するため、合成樹脂エマルションシーラーはつや有合成樹脂エマルションペイントの製造所が指定する水系塗料とする。
(イ) 合成樹脂エマルションパテの耐水性は、エポキシ樹脂パテのような反応硬化形樹脂パテと比較すると、十分ではない。したがって、塗膜のふくれやはがれを防止するために、浴室や洗面所等の水回り部分への適用は避ける。
(ウ) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を表18.8.2に示す。
表18.8.2 木部のつや有合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.8.2_木部のつや有合成樹脂EP塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.8.4 鉄鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り
(1) 材 料
(ア) 鉛・クロムフリーさび止めペイント2種
 18.3.2(2)(ア)を参照する。
(イ) 水系さび止めペイント
 18.3.2(2)(ウ)を参照する。
(ウ) つや有合成樹脂エマルションペイント
 18.8.2(1)(イ)を参照する。
(2) 塗 装
(ア) 水系さび止めペイント又は鉛・クロムフリーさび止めペイント2種の性能を発揮させるためには、素地ごしらえを十分に行い、鉄鋼面に良くなじませるように塗装する。
(イ) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.8.3に示す。
表18.8.3 鉄鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.8.3_鉄鋼面のつや有合成樹脂EP塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.8.5 亜鉛めっき鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り
(1) 材 料
(ア) 水系さび止めペイント
 18.3.2(2)(ウ)を参照する。
(イ) つや有合成樹脂エマルションペイント
 18.8.2(1)(イ)を参照する。
(2) 塗 装
塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.8.4に示す。
表18.8.4 亜鉛めっき鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.8.4_亜鉛めっき鋼面のつや有合成樹脂EP塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg

18章 塗装工事 9節 合成樹脂エマルションペイント塗り(EP)

18章 塗装工事
9節 合成樹脂エマルションペイント塗り(EP)
18.9.1 一般事項
この節は、建築物の内外壁面や天井等のコンクリート面、モルタル面、せっこうプラスター面、せっこうボード面、その他ボード面等に対する合成樹脂エマルションペイント塗りに適用する。平滑で汎用的な着色仕上げを対象としている。
18.9.2 合成樹脂エマルションペイント塗り
「標仕」18.9.2では、合成樹脂エマルションペイント塗りは、表18.9.1により種別は特記による。特記がなければB種と規定している。美粧性が求められる場合には、中塗りの1回目のあとに研磨紙ずりを行い、2回目の中塗りを行うことで平滑性と塗膜の原みを持たせた仕上げとなるA種を適用する。
(1)材 料
(ア) 合成樹脂エマルションシーラー
 18.8.2(1)(ア)を参照する。
(イ) 合成樹脂エマルションペイント
 JIS K 5663(合成樹脂エマルションペイント及びシーラー)に規定されており、合成樹脂エマルションをベースとして、着色顔料や体質顔料、補助剤、添加剤等 を加えた水系のつや消し塗料である。
水による希釈が可能で加水して塗料に流動性をもたせることができ、臭気が少なく溶剤揮散による大気汚染や中毒の危険性が少ない塗料である。
塗付された塗料は、水分が蒸発するとともに樹脂粒子が接近融着して、連続塗膜を形成する。気温 −5℃以下では凍結するため、低温保管を避ける。また、気温5℃以下では施工を避ける。
JISでは1種(主として外部用)及び2種(内部用)が規定されているが、「標仕」では1種のみをコンクリート面、モルタル面、せっこうプラスタ一面、せっこうボード面、その他ボード面等に適用している。その他木部の着色仕上げには使用可能であるが、金属面には使用できない。
(2) 塗 装
(ア) 飲料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.9.1に示す。
(イ) (ア) 以外は、18.8.2(2)に準ずる。
表18.9.1 合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.9.1_合成樹脂EP塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg

18章 塗装工事 10節 ウレタン樹脂ワニス塗り(UC)

18章 塗装工事
10節 ウレタン樹脂ワニス塗り(UC)
18.10.1 一般事項
この節は、建築物内部の建具、手すり、床等の木質系部材に対する仕上げを対象としている。
18.10.2 ウレタン樹脂ワニス塗り
(1) 材 料
(ア) 油性顔料着色剤
一般的にはピグメントステインと呼称される着色剤であり、顔料をボイル油や合成樹脂などで練り合わせて添加剤や溶剤を加えたものである。その品質は JASS 18 M-306に規定されている。油性顔料済色剤は1液形油変性ポリウレタンワニス塗りの場合に特記により適用する。
なお、ピグメントステイン(油性顔料着色剤)のみを利用した建築物外部及び内部の木部仕上げについては、18.11.2(1)に[ピグメントステイン塗り]として示している。
(イ) 溶剤形顔料着色剤
18.5.2(1)(イ)を参照する。
なお、溶剤形顔料着色剤は2液形ポリウレタンワニス塗りの場合に特記により適用する。
(ウ) 1液形油変性ポリウレタンワニス(JASS 18 M-301)
イソシアネートと乾性油との反応により得られる、ウレタン結合を有する樹脂を主要な塗膜形成要素とした透明の酸化重合形塗料である。その品質は「JASS 18 塗装工事」M-301に規定されている。
(エ) 2液形ポリウレタンワニス(JASS 18 M-502)
ポリオールとイソシアネート化合物を、主要な塗膜形成要索とした透明の2液反応硬化形塗料で、その品質はJASS 18 M-502に規定されている。
常温で硬化乾燥して溶剤が蒸発すると、ポリオールとイソシアネート樹脂が反応してウレタン結合を有する透明塗膜を形成する。
(2) 塗 装
(ア) 「標仕」では、塗装種別をA種(3回塗り)とB種(2回塗り)としており、特記がなければB種としている。
(イ) 「標仕」表18.10.1の (注)3に示すように着色は特記により行う。また、(注)4に示すように、下塗りとの相性を考慮して、1液形湘変性ポリウレタンワニスの場合は油性顔料着色剤(JASS 18 M-306(ピグメントステイン))とし、2液形ポリウレタンワニスの場合は溶剤形顔料着色剤を使用する。
着色を行わない場合は、素地の色調を活かした木地(生地)仕上げとなる。
(ウ) 下塗り、中塗り及び上塗りの工程には、同一材料を使用する。
「標仕」には規定されていないが、上塗りに 2液形ポリウレタンワニスを使用する場合は、下塗りに2液形ポリウレタンシーラー、中塗りには 2液形ポリウレタンサンディングシーラーを使用する塗装工程も一般的である。2液形ポリウレタンシーラー及び2液形ポリウレタンサンデイングシーラーの品質はJASS 18 M-302に規定されている。
(エ) 下塗りは、素地に塗料を十分に浸透させることにより、吸込みが均ーになり、むらを防止するとともに登股の付着性を向上させる。
(オ) 1液形油変性ポリウレタンワニスは、油性成分の酸化重合により硬化するため、最短でも24時間程度の硬化時間を必要とする。したがって、乾燥硬化の不良による縮みやしわの発生に注意する。余裕をもった工程間隔時間及び最終養生時間が必要であり、特に、厚膜になると縮みやしわが発生しやすいため、厚塗りを避ける。
なお、ワニスの乾燥塗膜には、塗重ね時間の制約があり、長時間放置してから塗り重ねると層間はく離を生じやすくなるため注意する。
(カ) シンナーは、塗装方法や乾燥条件に応じて使い分けるのが一般的である。肌あれや発泡等の仕上り塗膜の欠陥を生じるため、塗料の製造所が指定するシンナーを用いる。
(キ) 塗装方法は、はけ塗り又はローラーブラシ塗りとする。
(ク) 2液形ポリウレタンワニスに使用しているイソシアネート化合物は反応性が強く、粘膜や皮膚に触れるとかぶれることがあるため、使用の際は安全衛生上十分な措置を講ずる。
(ケ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.10.1に示す。
表18.10.1 ウレタン樹脂ワニス塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.10.1_ウレタン樹脂ワニス塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg

18章 塗装工事 11節 ステイン塗り

18章 塗装工事
11節 ステイン塗り
18.11.1 一般事項
この節は、建築物の屋内における木部のオイルステイン塗り並びに建築物の屋外及び屋内における木部のピグメントステイン塗り仕上げを対象としている。
18.11.2 ステイン塗り
(1) ピグメントステイン塗り
(ア) ピグメントステイン(油性顔料着色剤)は18.10.2(1)(ア) で解説したように、顔料をボイル油や合成樹脂などで練り合わせて添加剤や溶剤を加えたものである。ビグメントステインは染料でなく顔料を使用しているため、オイルステインより耐候性は良好であり、屋外にも使用される。ピグメントステインは既調合製品であり、品質はJASS 18 M-306に規定されている。
(イ) 塗装は、着色むらが生じないように、はけ塗り又は吹付け塗りとする。塗付け後は、材料が乾き切らないうちに全面をふき、むらが生じないように余分な材料を軽くふき取る。
(ウ) 有機溶剤を用いるため、塗装作業時には換気に注意する。また、作業に使用した紙や布片等は自然発火する可能性があるため、水を入れた容器中に入れた後、乾かしてから処分する。
(エ) ピグメントステインの気温20℃における標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は、24時間以上である。
(2) オイルステイン塗り
(ア) オイルステイン(油性染料着色剤)は、18.5.2(1)(ウ)に示したように、油溶性染料を芳香族、脂肪族炭化水素系溶剤(ミネラルターペン等)と少量の油ワニスあるいは合成樹脂ワニスに溶解した着色剤である。品質はJISや日本建築学会材料規格等で規定されていないため、製造所の技術資料や公的試験結果等を参考に適切なものを選定して特記する必要がある。
オイルステインには海外からの輸入品も多い。また、原料として石油由来の溶剤やワニスではなく、自然素材由来の溶剤やワニスを使用することにより安全性に配慮するという製品がある。しかし、自然素材由来であってもホルムアルデヒドが放散する可能性があるため、屋内に使用するオイルステインではホルムアルデヒド放散量の確認が必要である。
(イ) 塗装は、着色むらが生じないように、はけ塗り又は吹付け渡りとする。塗付け後は、材料が乾き切らないうちに全面をふき、むらが生じないように余分な材料を軽くふき取る。
(ウ) 有機溶剤を用いるため、塗装作業時には換気に注泣?:する。また、作業に使用した紙や布片等は自然発火する可能性があるため、水を入れた容器中に入れた後、乾かしてから処分する。
(エ) オイルステインの気温20℃における標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は、24時間以上である。

18章 塗装工事 12節 木材保護塗料塗り(WP)

18章 塗装工事
12節 木材保護塗料塗り(WP)
18.12.1 一般事項
この節は、建築物の屋外における木部の木材保護塗料塗りを対象としている。木材保護塗料塗りは、外壁、門柱、バルコニー等の屋外で使用される木質系素地に対する半透明塗装仕上げに用いられる。仕上り面は木質系素地の木目が見えるため、木材の質感を生かした着色仕上げとなる。
18.12.2 木材保護塗料塗り
(1) 材 料
木材保護塗料は、樹脂(アルキッド樹脂、亜麻仁油等)及び新色顔料のほかに、防腐、防かび、防虫効果を有する薬剤を含むことを特徴とする既調合の半透明塗料である。しかし、木材保護塗料に含まれる木材保存剤成分は、主として塗膜の耐久性を向上させるために配合されているもので、いわゆる木材保存剤と比較すると防腐、防かび、防虫効果は低いことに注意する必要がある。
木材保護塗料の品質は、「JASS 18 塗装工事」M-307に規定されている。
なお、JASS 18 M-307は、2013年の「JASS 18」改定(第7次)時より「かび抵抗性」に関する試験項目が追加されている。
「標仕」においてJASS 18 M-307への適合は、「かび抵抗性」を含む最新の規格への適合を要求している。したがって、「かび抵抗性」が確認されていない旧 JASS 18 M-307への適合のみでは不十分である。
(2) 塗 装
(ア) 「標仕」では、塗装種別をA種(3回塗り)とB種(2回塗り)としており、種別の選定は特記により、特記がなければB種としている。
(イ) 木材保護塗料塗りは、素地の状態がそのまま仕上りに影響するため、表18.2.1にしたがった適切な素地ごしらえが必要である。
(ウ) 木材保護塗料は、木材内部に十分浸み込ませることが重要である。また、木材保護塗料は原液で使用することを基本とし、希釈はしない。木材保護塗料は、塗り回数が多くなるにしたがって、木質系素地への浸透性が低下するので、A種の上塗り(2回目)では塗付け量を0.04kg/m2としている。
(エ) 木材保護塗料塗りは、屋外で使用される木質系素地に対して適用される。11節に示したピグメントステイン塗りは屋内及び屋外における木部に適用できる。屋外での耐候性を比較すると、一般に、ピグメントステイン塗りより木材保護塗料塗りの方が優れている。
(オ) 各塗装工程での標準工程間隔時間及び最終養生時間を、表18.12.1に示す。
表18.12.1 木材保護塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.12.1_木材保護塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg

18章 塗装工事 13節 「標仕」以外の塗装仕様

18章 塗装工事
13節 「標仕」以外の塗装仕様
18.13.1 「標仕」以外の塗装仕様の位置付け
「標仕」に規定されている塗料以外にも新しい塗料が開発されているが、まだ塗装の標準化がされていないこと、また、使用実績も少ないことから一般的な仕様とはなっていない。
しかし、塗装に要求される性能が高まりつつある中で、特記による適用も考えられることから、本節では参考としてこれらの塗料に対する仕様の例を示す。
また、従来の「標仕」には規定されていたが、諸般の事情により平成25年版以降の改定において「標仕」では規定されていない仕様についても、特記による適用の可能性があるので、参考として示している。
18.13.2 合成樹脂エマルション模様塗料塗り(EP-T)
合成樹脂エマルション模様塗料塗りは、建築物の内壁面や天井等のコンクリート面、モルタル面、せっこうプラスター面、せっこうボード面、その他ボード面等に対するスチップル等の模様仕上げに用いられる塗装である。
(1) 材 料
(ア) 合成樹脂エマルションシーラー
 18.8.2(1)(ア)を参照する。
(イ) 合成樹脂エマルションペイント
 18.9.2(1)(イ)を参照する。
(ウ) 合成樹脂エマルション模様塗料(JIS K 5668)
JIS K 5668に規定されており、合成樹脂エマルション、顔料、充填材、添加剤等を配合した高粘度形塗料で、吹付けやローラー塗りでスチップル模様やゆず肌模様等の表面テスクチャーがあり、表面光沢がほとんどない硬化塗膜を形成する。
平成31年版「標仕」のA種では、色調の調整や色替えにJIS K 5663(合成樹脂エマルションペイント及びシーラー)の合成樹脂エマルションペイント1種を仕上げ塗りとして用いていた。
JISでは1種(屋外用)、2種(屋内用)、3種(屋内の天井用)等が規定されているが、平成31年版「標仕」では、上塗りに2種を用い、下塗りと仕上げ塗りには合成樹脂エマルションペイントの1種を用いていた。
(2) 塗 装
(ア) 色調の調整は、一部可能であるが、涙彩色になると粘性が変化して仕上り模様が異なることもあるため、適切な粘度で塗装する必要がある。
(イ) 各材料の希釈割合は、塗料の製造所の指定とする。
合成樹脂エマルション模様塗料は、希釈割合や吹付け塗装ガンの種類、ノズル口径、吹付け圧力、ローラーブラシの種類等によって、表面模様の仕上りや外観が変化するので十分注意する。また、現場においては、あらかじめ塗り見本により仕上りの状態を確認しておく。
(ウ) 材料の保管、調合(水希釈乱、かくはん等)、使用有効期限等は、各材料の製造所の仕様を遥守する
(エ) 合成樹脂エマルション校様塗料塗りは、一般的には次のような塗装方法を適用する。
(a) 下塗りは、はけ塗り、吹付け塗り又はローラーブラシ塗り
(b) 仕上げ塗りと上塗りは、ローラーブラシ塗り又は吹付け塗り
(オ) 希釈に使用する水は、水道水を標準とする。
(カ) 各工程間の工程間隔時間及び最終養生時間が不十分であると、仕上り模様が変化することがあるため注意する。
18.13.3 コンクリート系素地に対する透明塗装
打放しコンクリートの外観を生かした透明塗装である。コンクリートの外観が濡れ色になるのを防止するため、下塗りの段階で、濡れ色にならないタイプの浸透性吸水防止材を塗付する場合が多い。透明塗装用の塗料としては、常温乾燥形ふっ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、ポリウレタン樹脂等をビヒクルとしたクリヤ塗料が使用されている。
表18.13.1に塗装仕様の例を示す。この塗装仕様はコンクリート系素地のみではなく、石材等にも適用されている例がある。また、簡易な仕上げとして塗装種別B種のように、浸透性吸水防止材のみを塗り付ける仕様もある。
表18.13.1 コンクリート系素地面に対するクリヤ塗装の工程例
表18.13.1_コンクリート系素地に対するクリヤ塗装の工程例.jpg
18.13.4 抗菌塗料
MRSA(メチシリン耐性黄色プドウ球菌)による院内感染や0-157対策のため、部位によっては抗菌塗料を用いた塗装が実施されている。よく知られているように、ペニシリン等の抗生物質は多くの細菌性疾息の治療に役立つが、一方では、抗生物質に耐性を有する細菌が病院等の施設にはびこり、各種感染症の原因となることが問題となっている。このような院内感染の原因となる細菌の約1割がMRSAである。この細菌はペニシリン系の抗生物質であるメチシリンに耐性を有しており、通常、健康な人であればほとんど感染の心配はないといわれているが、抵抗力の弱い新生児、老人、入院患者等には感染する場合があり、問題となっている。
抗菌塗料は、このような背景から開発された塗料であり、簡単に説明すれば塗料中に抗菌作用のある薬剤(溶出タイプ)や銀イオン(接触タイプ)等を混人した塗料である。
抗菌塗料の性能は、抗菌性の他に、効果の持続性や安全性により評価される。表18.13.2には、溶出タイプと接触タイプの塗料の特徴を示す。溶出タイプ抗菌塗料は各種抗菌剤が利用されるため抗菌性は高いが、抗菌剤の特徴により細菌に対する効果が異なったり、耐性菌を生じる可能性も否定できない。また、安全性に関しても接触タイプより低い。
一方、接触タイプの抗菌塗料としては銀イオンを混入した製品が多い。銀イオンの抗菌メカニズムについてはまだ完全に解明されていないようであるが、細菌の基本代謝経路の酵素阻害や、細胞膜の物質移動阻害を起こすと考えられている。接触タイプ抗菌塗料は、表18.13.2に示すように適応できる菌種が広く、持統性も高いが、塗膜の汚れ等によって接触が阻害され効果が低下する。したがって、必要最小限の抗菌剤を混入している場合も多い。
さらに、抗菌塗料には、以下のような性能が要求される。
(ア) 消毒剤や塗膜の洗浄に耐える塗膜を形成すること。
(イ) 水性のエマルション塗料で臭気も少ない塗料であること。
(ウ) 乾燥が早く、塗装の工期が短期間で済むこと。
(エ) 特殊な工法や工具を利用するのでなく、一般的な塗装技能で施工可能であること。
(オ) 各種素地や旧塗膜に対して付着性が良好であること。
このような要求性能を満足するため、現状ではアクリル樹脂エマルションを中心とした合成樹脂エマルション塗料を利用した抗菌塗料が多い。
表18.13.2 抗菌塗料のタイプ別比較
表18.13.2_抗菌塗料のタイプ別比較.jpg
18.13.5 粉体塗料
従来から、建築用塗料としては「溶剤系塗料」が一般的であり、これは塗膜形成成分である樹脂に顔料を加えて、作業性の向上を図る目的から有機溶剤で希釈されたものであり、大気中へ放出される揮発性成分が全量の1/2程度含まれている。昨今では、環境保全や健康安全への配慮から、非溶剤系塗料への変換が世界的な規模で強く求められており、建築施工の現場における塗装では、有機溶剤を含まない「水系塗料」あるいはトルエンやキシレン、ベンゼンのような有機溶剤ではなく、光化学反応性が低い溶剤を用いた「弱溶剤系塗料」の適用が推進されている。
「溶剤系塗料」に対して、塗料中に有機溶剤や水等の溶媒を全く用いず、塗膜形成成分を粉末化して、塗装工場で静電塗装によって吹付けた後に加熱して、塗膜を形成させるのが「粉体塗料」である。従来の建築分野では、住宅用の門扉やフェンス等ごく限れられた工場製の既製部材 部品についてのみに適用されていたが、VOCを100%削減して、塗装対象の素地に付着しなかった塗料の回収及び再使用が可能で廃棄物も低減できるため、環境保全の観点からは工場塗装において大きな注目を集めている。
既に、民間建築工事の一部ではあるが、アルミニウム合金製サッシ、カーテンウォール及び鋼製建具等に対する工場塗装において「粉体塗料」が適用されている。従来の「溶剤系塗料」に対する塗装仕様とは異なり、下塗りは不要であり、塗膜の付着性確保や素地に対する防食性の観点から、適切な素地ごしらえ(陽極酸化皮膜処理や化成皮膜処理)との組合せが重要となる。現在の建築分野で適用されている「粉体塗料」は海外製品のポリエステル系が主流であるが、硬化形式による塗膜性能の差が顕著であり、製品による性能のばらつきも見られる。特に、日本国内では建築外装に対して、耐候性に優れるふっ素樹脂を含む複合樹脂粉体塗料が採用されている。
2018年10月には、日本建築仕上学会編「建築用アルミニウム合金材料 粉体塗装仕様標準指針・同解説」が発行され、塗装仕様の標準化と使用材料の品質規格及び使用上の留意事項が示されている。採用に当たっては、参考にすることが望ましい。
18.13.6 高日射反射率塗料
高日射反射率塗料は、JIS K 5675(屋根用高日射反射率塗料)に規定されており、太陽光のうち、熱に関与するといわれている近赤外領域を塗膜表面で反射させるという高機能性塗料で、近年開発された技術である。都市部のヒートアイランド現象の緩和や省エネルギー対策を目的として実用化され、特に改修工事における採用が増加している。原理としては、日射熱、特に熱に関与する近赤外線を選択的に反射する、濃色(特に黒や茶色系)の特殊顔料を使用することにより効果を出している。また、平成22年2月5日の閣議決定に基づき、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」の特定調達品目に指定されたことから、大きな注目を集めている。環境省の「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」(令和4年2月25日変更閣議決定)では、高日射反射率塗料とは、日射反射率の高い顔料を含有する塗料であり、建物の屋上・屋根等において、金属面等に塗装を施す工事に使用されるものとしている。その判断の基準としては、次の(ア) 及び(イ) が規定されている。
(ア) 近赤外波長域日射反射率が表18.13.3に示す数値以上であること。
(イ) 近赤外波長域の日射反射率保持率の平均が80%以上であること。
表18.13.3 近赤外波長城日射反射率
表18.13.3_近赤外波長域日射反射率.jpg
なお、近赤外波長域日射反射率、明度L*値、日射反射率保持率の測定及び算出方法は、JIS K 5675によるとしている。
JIS K 5675に適合する資材は、本基準を満たすものとしている。
参考文献
参考資料.jpeg

19章 内装工事 1節 一般事項

19章内装工事
1節 一般事項
19.1.1 適用範囲
この章は、建物内部のビニル床シート張り、カーペット敷き、合成樹脂塗床、フローリング張り、畳敷き、せっこうボード張り、壁紙張り等の工事並びに断熱・防露工事等を対象としている。
19.1.2 基本要求品質
(a) 内装工事で使用する材料については、工業製品にあってはJIS、農林物資にあってはJASが指定されている。また、意匠上重要な部位にあっては、設計者から.そのほかの仕様が設計図書等に細かく指定される。JISやJASに適合することの確認方法については、他の材料と同様であるが、設計者からの特別な指定に適合することの証明としては、例えば、色・柄・材料等を見本品等により決定し、これにより確認するようにするとよい。
(b) 内装工事は、多様な材料により構成されるため、一律の仕上り状態を定めることは困難である。一般に内装工事に分類される工事種目としては、何らかの下地材料の上に施工がなされるものであり、また、何らかの仕上げの下地となることもある。
したがって、「所要の仕上り状態」としては、内装工事だけについて考えるのではなく、下地となるコンクリート工事、左官工事、金属工事、木工事等との仕上り精度とのバランス、最終的な仕上りとなる塗装工事やほかの内装材料等の仕上り状態とのバランスを考慮して定めるようにするとよい。
(c) 内装工事の完成後の性能として「標仕」19.1.2(c)では、床と断熱・防露工事について定めている。
床の出来上りとしては、「著しい不陸がないこと」としているが、その許容範囲は、部屋の用途によって一律には定められない。対象とする部屋の用途ごとにどこまでの不陸が許容できるかを定めるようにする。一般的な事務室にあっては、床のレベル計測により定めるのではなく、実際に出来上がった床を人間が歩いた時の感性による評価を考慮するとよい。この場合、(b) に示したように、単に内装工事による仕上げだけを考えるのではなく、下地の完成状態も含めて総合的に考える必要がある。床衝撃音は、床下地の構成方法によって発生する場合が多く、内装工事によるものばかりではない。床嗚りは、完成後の不具合として現れるものもあるが、少なくとも完成時においてこれが認められないことを要求事項としている。
断熱・防露工事にあっては、「断熱性に影響を与える厚さの不ぞろい、欠け等の欠陥がないこと」としているが、一般的な成形断熱材を打込み工法とする場合、コンクリート打込み時等に生じた欠け等の許容する程度、許容範囲を超えた場合の補修方法等について具体的に定めるようにするとよい。断熱材現場発泡工法を採用する場合にあっては、断熱材の吹付け厚さの管理方法として吹付け厚さの許容範囲を具体的に定め、合わせて許容範囲を超えた楊合の補修方法を定めるようにする。
(d) ホルムアルデヒド放散量について、「標仕」では、基本要求品質の事項として概括的規定を設けていない。しかし、個別に、JIS又はJAS等で放散量等の品質基準が規定されている材料については、特品がなければF☆☆☆☆のものを使用するとしている。したがって、市場性、部位、使用環境等を考慮してその他の放散量のものを使用する場合は、設計図書に特記されている内容を十分確認し、要求品買を確保する必要がある。
なお、ホルムアルデヒド放散量に関する工事監理上の注意事項等は、10節を参照されたい。

19章 内装工事 2節 ビニル床シート,ビニル床タイル及びゴム床タイル張り

19章内装工事
2節 ビニル床シート、ビニル床タイル及びゴム床タイル張り
19.2.1 適用範囲
(a) この節は、ビニル床シート、ビニル床タイル及びゴム床タイル張り工事を対象としている。
(b) ビニル床シート張り工事作業の流れを図19.2.1に示す。
図19.2.1_ビニル床シート張り工事の作業の流れ.jpg
図19.2.1 ビニル床シート張り工事の作業の流れ
(c) 施工計画書等
(1) 施工計画内の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
① 工程表(必要に応じて室別・場所別の工程表の作成)
② 製造所名及び施工業者名
③ 材質、色調別に応じた施工箇所
④ 接着剤の種類(施工箇所別)
⑤ 工法(割付け、継目、見切り部分の納まり等)
⑥ 施工時及び施工後の換気方法
⑦ 養生方法
⑧ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文内の書式とその管理方法等
(2) 見本品を提出させ、色調等を設計担当者と打ち合わせて決定する。
(3) 施工図の検討は、次の事項について行う。
(i) タイルの割付け図、模様合せ(シートの場合は、はぎ目、継目の位置)
(ii) 隅部、柱回り、設備関係器具回りの切込み、取合い
(iii) 他の仕上材との取合い(見切り・目地)
(iv) 床改め口回りの納まり
(4) 床仕上げの施工に関する品質確保の一例として、 日本建設インテリア事業共同組合連合会では「床仕上管理士」及び「組合派遣指導員」・「企業内工事指導員」制度を設けており、この「床仕上管理士」の現場への常駐及び「組合派遣指導員」・「企業内工事指導員」の施工現場への派遣による自主的施工管理体制を確立し自主施工検査証を交付している。
19.2.2 材 料
(a) 張付け床材の分類
張付け床材の分類を図19.2.2に示す。
図19.2.2_張付け床材の分類 2.jpg
図19.2.2 張付け床材の分類
(b) ビニル床シート
(1) JIS A 5705(ビニル系床材)に規定されている床シートの種類を表19.2.1に示す。
表19.2.1 床シートの種類(JIS A 5705 : 2010)
表19.2.1_床シートの種類(JIS A5705) 2.jpg
(2) 特 性
(i) 弾性、耐摩耗性、耐水性、耐薬品性に優れている。
(ii) 熱に弱い。
(iii) 広幅、長尺シートで目地部分の溶接が可能な製品が多く、これらは、止水性及び防塵性が高い。
(iv) 床衝撃音吸収性、保温性及び抗菌性を付与したものがある。
(c) ビニル床タイル
(1) JIS A 5705に規定されている床タイルの種類を表19.2.2に示す。
表19.2.2 床タイルの種類(JIS A 5705 : 2010)
表19.2.2_床タイルの種類(JIS A5705) 2.jpg
(2) 接着形床タイルの特性
                                      
(i) 単層ビニル床タイル
①耐摩耗性、耐薬品性、耐アルカリ性に優れている。また、単層であるため、摩耗が生じても意匠の変化が起きにくい。
② バインダー含有量が比較的多く、柔軟性に優れている。
(ii) 複層ビニル床タイル
① 耐水性、耐油性、耐摩耗性、耐薬品性、耐アルカリ性に優れているが、反面、熱による伸縮性が大きいため、強力な接着剤(ビニル共重合樹脂系溶剤形等)で確実に接着しておく必要がある。
② 印刷層を積層したものは、透明感があり、意匠性に優れている。
(iii) コンポジションビニル床タイル
① 無機充填剤の含有量が多いため、耐シガレット性に優れているが、反面、耐薬品性、耐アルカリ性、耐酸性、耐油性に劣る。
② 温度変化や多少の湿気にも伸縮が少ない。また、なじみ、納まり等の施工性がよい。
③ 維持管理の容易さに優れている。
(3) 置敷形床タイルの特性
(i) 置敷きビニル床タイル及び薄形置敷きビニル床タイルは、粘着はく離形接着剤を用いて施工を行う。使用時にはずれが生じにくいが、簡単にはがすことが可能で、張替えや再施工が容易な床タイルである。
① 耐水性、耐油性、耐薬品性、耐庶耗性に優れる。
② ガラス不織布等を積層し、温度変化による伸縮性を小さくしてあるため、寸法安定性に優れる。
③ フリーアクセスフロア等のOA床に施工されるものとして、帯電防止性能を付与したものがある。
(ii) 置敷きビニル床タイルと薄形置敷きビニル床タイルは、厚さによって種類分けされている。JISの規定値として、残留へこみ量が異なっている。
(d) 特殊機能床材
(1) 帯電防止床材は、電子計算機室、OA室、工場等の静電気を嫌う部位に使われる床材である。
(i) ビニル床タイルやビニル床シートに帯電防止剤や導電性充填材を練り込み、電気抵抗値を小さくしたもの。
(ii) 帯電防止剤練込み形のビニル床タイルは、吸水による伸びが大きいので、エポキシ樹脂系又はウレタン樹脂系の反応硬化形接着剤を使用する。
(iii) 実用上の注意
① 帯電防止剤練込み形のビニル系床材の抵抗値は、湿度の影響を大きく受ける。
② 歩行による人体帯電は履物の影響もあるので、静電気帯電防止靴(JIS T8103)を着用する必要がある。
(2) 視覚障害者用床タイルは、バリアフリー新法により公共建築等に使用される表面に凹凸のあるタイルである。警告型と誘導型の2種があり、これを組み合わせて使用される。
(3) 耐動荷重性床シートは、移動荷重による耐久性を高めたもので、医療施設、生産施設等に使われる床材である。
(4) 防滑性床材は、床材の表面にエンボス形状を付与することや硬質粒子を配合することにより、防滑性を高めたもので、床面の水ぬれ等によるすべり転倒を軽減させる部位に使われる床材である。
(e) ゴム床タイル
天然ゴム、合成ゴム等を主原料とした弾性質の床材料で、厚さは通常 3.0、4.0、5.0、6.0、9.0mmである。
特性は次のとおりである。
(i) ゴム特有の弾性がある。
(ii) 耐摩耗性が大きい。
(iii) 耐油性が劣る。
(iv) 熱による伸縮が大きい。
(f) リノリウム
「標仕」には規定されていないが、あまに油、松脂、コルク、木粉、石灰石等の天然素材を練り込んで、ジュート(麻布)を裏打ちとして成形されたもので、燃焼時にも有毒ガスの発生が少なく医療福祉施設等で使われている。
(g) 接着剤
(1) 床用接着剤の概要
(i) 接着剤の区分
① JIS A 5536(床仕上げ材用接着剤)では、1)ホルムアルデヒド放散、2)床材の形状、3)用途及び 4)主成分により、次のように区分されている。
1) ホルムアルデヒド放散による区分
ホルムアルデヒド放散による区分を表19.2.3に示す。
表19.2.3 ホルムアルデヒド放散による区分(JIS A 5536 : 2007)
表19.2.3_ホルムアルデヒド放散による区分(JIS A5536).jpg
2) 適用床材の形状による区分
床タイル用、床シート用及び床タイル・床シート用に区分されている。
3) 用途による区分
用途による区分は、「平場用」と「垂直面用」に区分され、平場用は更に「一般形」と「耐水形」に区分される。
なお、「標仕」ではJISほど細かく区分していないが、JISの「平場用 – 一般形の接着剤」は「標仕」の「一般の床」に用いる接着剤、また、「平場用 – 耐水形の接着剤」は「いわゆる耐水、耐動荷重、化学実験室等」に用いる接着剤と同様である。
4) 主成分による区分
主成分による区分を図19.2.3に示す。
図19.2.3_主成分による区分 2.jpg
図19.2.3 主成分による区分
② JISによる区分の表示例を図19.2.4に示す。
図19.2.4_JIsによる区分の表示例(JIS A5536) 2.jpg
図19.2.4 JISによる区分の表示例(JIS A 5536 : 2007)
(ii) エマルション・ラテックス形接着剤と溶剤形接着剤
接着剤は一般に液状である。主成分である合成樹脂やゴムは本来固体であるが、溶媒に溶かすことによって液状となっている。
溶媒として溶剤(アルコールやアセトン等)を使用したものが「溶剤形」であり、水を使用したものが「水溶液形」又は「エマルション形」である。
主成分が「ゴム」である場合の「エマルション」を特に「ラテックス」と呼ぶ。ゴムや合成樹脂は、そのままでは水に溶けないが、細かな粒子とすることで水中に「分散」させて、「水溶液」と同様に扱えるようにしたものが「エマルション」である。ゴムや合成樹脂をエマルションにすることを「乳化」という。
① エマルション・ラテックス形接着剤の特性
水系の接着剤であるから引火の危険がなく、安全性、作業性に優れる。しかし、水の蒸発によって接着力が発現するため、低温での使用に適さない。
1) エマルション形接着剤:合成樹脂を水に分散させた接着剤
2) ラテックス形接着剤:天然ゴム又は合成ゴムを水に分散させた接着剤
② 溶剤形接着剤の特性
溶剤形接着剤は一般的に水系のものに比較して、低温での使用が可能である。ゴム系については適切な待ち時間をとって使用する。使用時は換気を良くし、火気に注意する。
(iii) 反応硬化形接着剤
接着剤塗布後の硬化に至るプロセスが、溶媒(溶剤や水)の揮発による乾燥硬化であるのに対し、接着剤自体が化学反応を起こし硬化するのが、反応硬化形接着剤である。
これにはエポキシ樹脂系接着剤やウレタン樹脂系接着剤がある。
反応硬化形接着剤の化学反応を起こすタイプには、主剤と硬化剤を混合する 2液混合形と下地や空気中の水分と反応する1液形がある。
(iv) 接着剤の種類別特性
① 酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤
乾燥固化すると硬い接着層により強い接着力が得られる。
塗布作業性が良く、特に初期粘着性に優れている。本来は張付け可能時間が短い接着剤であるが、品質改良により、現在はほとんどの製品において張付け可能時間の延長が図られ、施工作業に見合った張付け可能時間が得られるようになった。
溶剤(アルコール)系の接着剤なので引火、毒性に注意し、施工時には、火気・換気等に配慮しなければならない。消防法上の危険物に相当し、集積制限を受ける。貯蔵・保管は、直射日光を避け、換気の良い室内で行なう。
また、水系接着剤と異なり、凍結することがないので、寒冷地での冬期使用が可能である。
酢酸ビニル樹脂は、本来、水によって軟化するものではなく、耐水性のある合成樹脂といえるが、アルカリ性水分との接触で接着力の小さい水溶性物質に変質(化学変化)する。
セメントが介在した下地からの水分は強いアルカリ性水分であることから、下地水分を含んだモルタル下地に対して酢酸ビニル樹脂系接着剤を使用すれば、接着力が低下し、はがれ、浮き、反り等の障害を起こすことになる。
そのため、結果的には水系接着剤と同様に、この酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤であっても、湿気のおそれのある下地には使用できない。
② ビニル共重合樹脂系エマルション形接着剤
塗布作業性と初期粘着性に優れ、張付け可能時間が長く、コストも比較的安いという長所をもつが、接着力は比較的小さい。
品質的には、後述の合成ゴム系ラテックス形接着剤とほぼ同等で、酢酸ビニル樹脂系エマルション形接着剤に比べ、共重合とすることで作業性の大幅な改善がなされているが、接着強さは逆に低下している。
水系の接着剤なので、引火・毒性がなく、容易にふき取れ、床材料を汚すことが少ないが、凍結することがあり、寒冷地での冬期使用は難しい。
湿気のおそれのある下地には、再乳化によって接着力が低下し、はがれ、浮き、反り等の事故を起こすことがあるので使用できない。また、鋼板下地には錆を発生させるので直接使用はできない。
③ ビニル共重合樹脂系溶剤形接着剤
ここでいうビニル共重合樹脂とは、酢酸ビニル樹脂にアクリル樹脂やエチレン樹脂等の他の成分を共重合させた合成樹脂を意味する(共重合体:2種類又はそれ以上の化学的に異なった分子がつながったもの)。
特性として、主成分をアクリル樹脂と共重合させたものは、接着性が大幅に高まり、従来の酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤では困難とされていた軟質のビニル床系材料にも優れた接着力を発揮することから、適用範囲が広まり、様々な床材料の直張り施工に使用される。
その他の諸特性は、前述の酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤とほぼ同等であり、塗布作業性や初期粘着性に優れている。
引火・毒性、消防法上の集積制限、湿気のおそれのある下地に使用できないことなども前述の酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤と同じである。
JIS A 5536により、酢酸ビニル樹脂系溶剤形とビニル共重合樹脂系溶剤形とに分類区分されている。現状は、まだ上記分類が完全には認識されておらず、両者が混同されていることがあるので十分注意する必要がある。
④ アクリル樹脂系エマルション形接着剤
塗布作業性、初期粘着性に優れ、接着力は他のエマルション形やラテックス形に比較して大きい。塩化ビニル樹脂分の高い床材に最適で適用範囲が広く、特に、ビニル床シートの直張り施工に多く使用されている。
近年、ビニル幅木の垂直面施工において、溶剤形接着剤による室内空気質汚染対策及び危険物の使用回避等から、同施工にアクリル樹脂系エマルション形接着剤の使用が増えている。
また、タイルカーペットや二重床のビニル床タイルの張替えを安易にして、使用時にはずれを防止する粘着性を付与したアクリル樹脂系エマルション形(ピールアップ形)接着剤もある。
凍結、寒冷地での冬期使用、保管、湿気のおそれのある下地、鋼板等への使用は、他のエマルション形接着剤と同様である。
⑤ エポキシ樹脂系接着剤
様々な床材料に対して強い接着力が得られることから適用範囲が広い。また、塗布作業性が良く、初期粘着性にも優れている。
この接着剤はコストが比較的高く、2液混合の手間がいるといった欠点はあるが、エポキシ樹脂のもつ高接着力、耐水、耐酸、耐アルカリ、耐薬品等.他の接着剤にない優れた特性が高く評価され、特に湿気のおそれのある下地に対しての耐湿用接着剤としての採用が多い。
このほか、工場、実験室、屋外等の特殊条件の場所に使用されることも多い。
使用に当たっては混合比を正確にし、よく練り混ぜてから塗布しなければならず、混合した残りは保存できない。また、反応によって硬化するのであるから、特に低温時での硬化に時間がかかることに注意する。
引火・毒性等の注意すべきことは他の溶剤系の接着剤と同じであるが、反応性のため、特に、皮膚等への接触を避けるようにする。
⑥ ウレタン樹脂系接着剤
様々な床材料に対して強い接着力が得られ、適用範囲が広い。
床材料の施工に使用されるウレタン樹脂系接着剤のほとんどが、水分との化学反応による湿気硬化形の1液性で.反応硬化形接着剤の中では作業性が良く、初期粘着性にも優れている。特に湿気のおそれのある下地の耐湿用接着剤として、土間コンクリート、開放廊下、工場等の場所に多く採用されている。また、2液混合形のものは、ほとんど使用されていない。
含有する溶剤は、塩化ビニル樹脂に対して強い溶解性があるので、接着剤塗布後の待ち時間を適切にとらないと、床材のふくれや軟化を起こしやすくなる。
湿気硬化形であるため、一度缶から出した接着剤は戻すことができない。また、開缶後の余った接着剤は保管期間が短くなるので、短時間の内に使い切ることが望ましい。
引火・毒性等の取扱いに関する注意事項は他の溶剤系接着剤と同様である。エポキシ樹脂系接着剤と同様、反応性なので皮膚等への接触を避ける。
⑦ 合成ゴム系ラテックス形接着剤
床用接着剤に用いられる合成ゴム系ラテックス形接着剤はほとんどがスチレン・ブタジエンゴム(SBR)であると考えてよい。
塗布作業性と初期粘着性に優れ、張付け可能時間が長く、コストも比較的安いという長所をもつが、接着力は比較的小さい。
アクリル樹脂系エマルション形接着剤同様に、ビニル幅木の垂直面施工用途にも使用されている。
水系の接着剤なので、引火・毒性はないが、凍結することがあり、寒冷地での冬期使用は、接着強さの発現が遅れるため避けることが望ましい。
湿気のおそれのある下地には、再乳化によって接着力が低下しはがれ、浮き,反り等の事故を起こすことがあるので使用できない。錆板下地には錆を発生させるので直接使用できない。
⑧ 合成ゴム系溶剤形接着剤
ここでいう合成ゴムとは、主としてクロロプレンゴム(CR)又はアクリルニトリル・ブタジエンゴム(NBR)を指すことが多い。
合成ゴム系溶剤形接着剤は、様々な床材料に対して高い接着性を示し、初期接着力に優れるため、硬い材料やくせのある材料を使用する場合、又は垂直面の施工を行う場合には下地への納まりが良い。
しかし、合成ゴム系溶剤形接着剤が床材料の施工に使用されるのは、垂直面やその補助的な場所であって広い平場での直張り施工にはほとんど使用されない。これは、その使用方法が下地と材料への両面塗布が必要であることや塗布性の悪さによるものといえる。
配合添加する樹脂の影響で、ビニル系床材を沿色汚染させることがある。
また、一般に耐水性は良くないので.湿気のある下地には使用できない。
1) クロロプレン系
ビニル系床材又は軟質塩化ビニル幅木の可塑剤の移行を受けやすく、軟化して接着力の低下と、床材料の縮みやはがれを引き起こすことがある。
2) ニトリル系
ゴム系ではあるが、硬い皮膜が得られ、可塑剤の移行を受けにくいので、軟質のビニル系床材(特にビニル床シートや軟質塩化ビニル幅木、単層及び複層ビニル床タイル)に使用する場合は、このニトリル系を採用する。
溶剤系の接着剤なので引火・毒性に注意し、施工時には、火気・換気等に配慮しなければならず、保管時にも、消防法上の集積制限や夏期の高温に注意する。
水系接着剤と異なり、凍結することがないので、寒冷地での冬期使用が可能である。しかし,塗布量が過多であったり、溶剤が多く含まれた状態で施工すると、基材が変色することがある。
(2) 接着剤のホルムアルデヒド
「標仕」では、接着剤のホルムアルデヒド放散量は、特記がなければF☆☆☆☆としているので、放散量が指定されたものであることを確認して、接着剤の選定を行う必要がある。
なお、JISの規格品を使用する場合、規格品としての扱いができないものなどを使用する場合の確認方法等については、19.10.5を参照されたい。
(3) その他の床材用接着剤
海外資材等で「標仕」に規定されていない材料を、特記により使用する場合は、床材とともに接着剤もJIS適合品以外のものを使用する場合もある。この場合の接着剤は、床材製造所の指定するものを使用するが、品質については JIS A 5536に準じたものであることを確認する必要がある。
なお、ホルムアルデヒド放散量の確認については、(2)と同様である。
(h) 下地処理材
モルタル下地の袖修に使う材料で 0.5 ~ 1mm程度の薄塗りで使用するポリマーセメントモルタルである。
酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂エマルションを主体とするもので、現場でポルトランドセメント、砂、水等を混ぜて、地べらや金ごてで仕上げる。
19.2.3 施 工
(a) 下地
(1) 木質下地の場合
(i) 下地合板は、たわみ・振動のない構造とする。
(ii) 下地合板は、不陸、目違いのないように張り付ける。
(iii) 釘頭は、合板面より沈め気味に打ち込む。
(2) コンクリート及びモルタル旅りの下地の場合
(i) 一般階でも施工後、窓の開閉、開口部等の養生に注意し、水や湿気が浸入しないようにする。
(ii) 下地は平滑で表面強度が十分ある状態とする。
(b) 下地の乾燥
施工に先立ち、下地の乾燥を確認する(9.2.4 (a)参照)。
下地乾燥の判断法の一例として、高周波水分計を用いて確認する方法がある。また、その他の簡易判断法としては次のフィルム法がある。
(i) 約1m2の下地に普通ポルトランドセメントを薄くまき、ポリエチレンフィルムをかぶせ周囲を密封し、2時間後にセメントをかき集め軽く吹いて飛散すればよい。
(ii) 約1m2の下地にポリエチレンフィルムを敷き、翌朝、フィルム下面に結露がなければよい。
また、春から雨期にかけては、地下階の床や土間コンクリートでは表面結露を生じることが多いので季節的にはこの時期の施工は避けたほうがよい。しかし、やむを得ず施工する場合には、ジェットヒーター等で床面の温度上昇を図ると同時に換気を良くする必要がある。
(c) 張付け
(1) 張付けに先立ち、下地面の清掃を十分に行う。
(2) シート類は、長手方向に縮み、幅の方向に伸びる性質があるので長目に切断して仮敷きし、24時間以上放置して巻きぐせをとり、なじむようにする。
(3) 接着剤は、製造所の指定するくし目ごてを用いて塗布する。異なるくし目ごてを用いると張付け後シート類の表面にくし目が目立つ場合がある。
(4) 接着剤塗布後、状況に応じた待ち時間を適切にとり、シート類を張り付ける。
(5) シート類の張付け後は、表面に出た余分の接着剤をふき取り、ローラー等で接着面に気泡が残らないように圧着する。
(6) ビニルを表層とした床シートは、防湿・防塵等の目的で、はぎ目及び継手を熱溶接する場合が多い。この場合の工法を次に示す(図19.2.5参照)。
(i) 床シート張付け後、接着剤が完全に硬化してから、はぎ目及び継手を電動溝切り機又は溝切りカッターで溝切りを行う。
(ii) 溝は、深さを床シート厚の2/3程度とし、V字型又はU字型の均ーな幅とする。
(iii) 熱溶接機を用いて、溶接部を材料温度160〜200℃の温度で、床シートと溶接棒を同時に溶融し、溶接棒を余盛りが断面両端にできる程度に加圧しながら溶接する。
図19.2.5_ビニル床シートの熱溶接.jpg
図19.2.5 ビニル床シートの熱溶接
(iv) 溶接完了後、溶接部が完全に冷却したのち、余盛りを削り取り平滑にする。
(7) 床タイル類の張付け
(i) 冬期の施工では、張付け時の圧着を特に十分に行う必要がある。
(ii) ラテックス形接着剤やエマルション形接着剤は、床材の伸縮を完全に防止できないので、目地部のせり上がりや目地部に隙間が発生する場合がある。したがって、施工環境によっては、接着剤の種類を変える必要がある。
(iii) タイル類の張付け後の圧着は (5) のシート類と同じにする。
(iv) ゴム床タイルの張付けにゴム系溶剤形接着剤を用いるときは、接着剤を下地及びタイル裏面に塗布し指触乾燥後、張り付ける。次いで、木づち又はゴムづちでたたいて圧着する。
(8) 立上げ幅木
床面にこぼれた水や薬品が壁際から床下地へまわるのを防ぐ目的で、ビニル床シートを床面から壁に向かって、立ち上げて張り付け、幅木と床を一体に立ち上げる工法がある。シートを立ち上げると、小端処理をする必要がでてくる(図 19.2.6参照)。
処理方法としては、次のようなものがある。
① 小端をシリコーンシーリング材等でシールする方法
② キャップをかぶせる方法(金属見切りやビニル製ウォールキャップ等)
③ 入り幅木にする方法
図19.2.6_立上げ幅木の木端処理方法 2.jpg
図19.2.6 立上げ幅木の小端処理方法
(9) 表面仕上げ及び養生
(i) 張上げ後、特に通行の頻度の高いところ、材料の搬出入口、便所、洗面所の出人口等の水掛りとなるおそれのあるところでは、布やシートを掛けるなどして十分養生する。
(ii) 完全に接着強度が出るまで(1 ~ 2週間)は、水ぶき等を避ける。また、局部的な荷重を加えないように注意する。
(iii) 表面仕上げは、床材をクリーナーで洗浄後、製造所の指定するワックス類を塗布し、乾燥つや出しして仕上げる。
床材の表面処理として特殊な防汚加工(UV加工:紫外線硬化樹脂の塗工等)を施しているものがあるので、これらの床材ヘワックス類の塗布を行う場合は、製造所に確認し、必要に応じて行う。
(d) 施工時等の換気
接着剤塗布から施工時や表面仕上げ時は、室内空気汚染物質の濃度が高くなるので、作業中や養生時は、換気を十分に行い濃度の低減に努める。
(e) リサイクル
床施工時の余材・端材の発生量は、施工面積の約5%にのぼる。これらの余材・端材のうち、再資源化できる材料については、再資源化に積極的に取り組むことが望ましい。
再資源化の方法として、インテリアフロア工業会では、余材・端材のリサイクルシステムを開発している。
ビニル系床材は、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」における「特定調達品日」として追加された。判断の基準は、再生ビニル樹脂系材料の合計韮品が製品の総重量比で15%以上使用されていることであり、配慮事項は、工事施工時に発生する端材の回収、再生利用システムについて配慮されていることである。備考として、JIS A 5705(ビニル系床材)に規定されるビニル系床材の種類で記号KSに該当するものについては、判断の基準の対象とする「ビニル系床材」に含まれないものとする. となっている。
19.2.4 寒冷期の施工
張付け時の室温が5℃以下又は接着剤の硬化前に5℃以下になるおそれがある場合は、接着剤が硬化せず、所要の接着強度が得られないので施工を中止する。
やむを得ず施工する場合は、ジェットヒーター等による採暖等を行う。
なお、全国月別平均気温は、参考資料の資料3を参照されたい。