16章 建具工事 13節 オーバーヘッドドア

16章 建具工事
13節 オーバーヘッドドア
16.13.1 適用範囲
この節では、主として建築物の屋外に面して設置する標準的なオーバーヘッドドアを対象としている。
16.13.2 形式及び機構
(a) セクション材料の種類を表16.13.1に示す。「標仕」では特記がなければ、スチールタイプとしている。
なお、その他アルミニウムタイプとファイバーグラスタイプのセクション材を組み合わせたコンビネーションタイプもある。
表16.13.1_セクション材料による区分.jpeg
表16.13.1 セクション材料による区分(JIS A 4715 : 2008)
(b) オーバーヘッドドアは、平成12年建設省告示第1458号において適用除外となっている部位に設置される場合が多い。したがって、耐風圧性能は、一般にJIS A 4715(オーバーヘッドドア構成部材)による強さの区分により特記される。強さによる区分を超える風圧力の場合は16.1.7(a)(1)を参照されたい。
なお、平成12年建設省告示第1458号において適用除外となっている部位に対する風圧力について、(-社) 日本シャッター・ドア協会では、「シャッター・オーバーヘッドドア耐風圧強度計算基準」を使用している。
(c) 開閉方式による区分を表16.13.2に示す。「標仕」では、特記がなければ、バランス式としている。
なお、開口高さが 4mを超えると、バランス式では手動での操作が困難になるのでチェーン式が望ましい。
表16.13.2 開閉方式による区分(JIS A 4715 : 2008)
表16.13.2_開閉方式による区分.jpeg
(d) 収納形式による区分を表16.13.3及び図16.13.1に示す。「標仕」では適用を特記としている。
表16.13.3 収納方式による区分(JIS A 4715 : 2008)
表16.13.3_収納方式による区分.jpg
図16.13.1_収納方式による区分(スタンダード).jpeg図16.13.1_収納方式による区分(ローヘッド).jpeg図16.13.1_収納方式による区分(ハイリフト).jpeg図16.13.1_収納方式による区分(バーチカル).jpeg
図16.13.1 収納方式による区分(JIS A 4715 : 2008)
(e) 「標仕」では、電動式の場合では16.11.2(h)と同様に、見えない場所から操作するオーバーヘッドドアには、障害物感知装置を設けることとしている。
なお、電動式オーバーヘッドドアは、シャッターより降下速度が速いので、障害物に直接接触する前に停止する光電センサー等を用いた非接触形障害物感知装置とするのが望ましい。
(f) 一般的な各部の名称を図16.13.2に示す。
図16.13.2_各部の名称.jpeg
図16.13.2 各部の名称(JIS A 4715 : 2008)
(g) 開口の幅と高さ
セクション材料及び収納形式により開口の最大幅と最大高さは異なる。「標仕」で想定している数値を表16.13.4及び5に示す。表16.13.4に示すセクション材料別の最大開口幅での耐風圧性は、750Paである。したがって、要求される耐風圧性が大きくなれば、最大開口幅が表16.13.4より小さくなる。
表16.13.4 セクション材料による最大開口幅
表16.13.4_セクション材料による最大開口幅.jpeg
表16.13.5 収納形式による最大開口高さ
表16.13.5_収納形式による最大開口高さ.jpeg
(h) オーバーヘッドドアについては、「標仕」で要求する品質を満たすものとして、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)で評価した製品があるので参考にするとよい。
16.13.3 材 料
(a) セクション材料による区分は、特記がなければスチールタイプとされている。この場合の鋼板は、JIS A 4715に規定されているJIS G 3302 (溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯)又はJIS G 3312(塗装溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯)とされており、めっき付着量は、一般的にZ06又はF06を満足するものが使用されている。
(b) セクションに使用するアルミ板は、JIS H 4001(アルミニウム及びアルミニウム合金の焼付け塗装板及び条)とされている。
(c) セクションに使用するアルミニウム形材は、JIS H 4100(アルミニウム及びアルミニウム合金の押出形材)とされている。
(d) セクションに使用するファイバーグラス板は、JIS A 5701(ガラス繊維強化ポリエステル波板)とされている。
ファイパーグラス(ガラス繊維強化プラスチック:FRP (Fiberglass Reinforced Plastics))は、強度のあるガラス繊維を強化材とし、不飽和ポリエステル樹脂を用いて成形加工した複合材料である。
(e) ガイドレールは、「標仕」では、特記がない場合、JIS G 3302による溶融亜鉛めっき鋼板で、めっきの付着量Z27を満足するものとされている。
なお、海岸部等の環境下で腐食のおそれがある場合は、ステンレスの使用を検討する。
(f) ワイヤロープは、JIS G 3525(ワイヤロープ)又はJIS G 3535(航空機用ワイヤロープ)とされている。
(g) アルミニウム形材の表面は、JIS H 8602(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜)に規定される複合皮膜の性能の種類B以上のものとされている。
16.13.4 形状及び仕上げ
ガイドレール及び支持金物は、溶接部分の補修を除いて塗装は行われていない。また、意匠を考慮した場合でも、ガイドレールの内側はローラーが走行するので、塗装は行われていない。
図16.13.3に一般的な断面を示す。
図16.13.3_ガイドレールの断面の例.jpeg
図16.13.3 ガイドレールの断面の例
16.13.5 工 法
(a) 加工、組立及び取付けは形状、寸法、取合い等を正確に行い、耐風圧性が低下しないように注意する。
(b) JIS A 4715(オーバーヘッドドア構成部材)の抜粋を次に示す。
JIS A 4715:2008
1.適用範囲
この規格は、建物及び工作物に使用するオーバーヘッドドア構成部材(1)(以下、構成部材という。)について規定する。
(1) まだ組み立てていない状態のもの。
なお、組み立てたオーバーヘッドドアを、以下、ドアという。
備考 オーバーヘッドドアとは開口部に対して上下に組み立てられた複数のセクションを天井又は壁に沿ってほぽ水平又は垂直に送り込んで収納するドアをいう。
3. 構成部材の名称(図16.13.2参照)
4. 種 類
4.1 セクション材料による区分(表16.13.1参照)
4.2 強さによる区分 強さによる区分は、次による。
50 風圧力 500Paに耐えるもの。
75 風圧力 750Paに耐えるもの。
100 風圧力 1,000Paに耐えるもの。
125 風圧力 1,250Paに耐えるもの。
4.3 開閉方式による区分(表16.13.2参照)
4.4 収納形式による区分(表16.13.3及び図16.13.1参照)
5. 品質及び機能
5.1 外観
外観は、使用上有害なねじれ、曲がり、さびなどの欠点があってはならない。
5.2 構成部材の品質
5.2.1 セクション
セクションの強度は、9.2に規定する方法で試験を行い、残留たわみは、セクション長さの1/100以下でなければならない。(9.2省略)
5.2.2 ワイヤロープ
ワイヤロープの引張強度は、ワイヤロープ1本にかかるドア重量の1/2に対して、安全率を5以上とする。また、ワイヤロープには変形、ほつれがあってはならない。
5.2.3 シャフト
シャフトは次による。
a) シャフトは、円滑な回転を保持する伸直な形状のものとする。
b) シャフトは、ドア重量を支え、かつ、スプリングによるねじりモーメントに対し十分な強度をもつものとする。
5.2.4 スプリング
スプリングは. ドアの重量及び収納形式に対応した良好なバランスを与える適切なものとする。
5.3 開閉機能
5.3.1 バランス式・チェーン式
バランス式及びチェーン式の開閉機能は、9.3に規定する開閉操作力試験を行い、表1の規定に適合しなければならない。(9.3省略)
表1 開閉方式による操作力
JIS A 4715_表1_開閉方式による操作力.jpeg
5.3.2 電動式
電動式の開閉機能は、9.3に規定する方法によって開閉試験を行い、次の規定に適合しなければならない。(9.3省略)
a) 開閉は、円滑に作動するものとする。
b) 開閉時の平均速度は、毎分5~20mとする。
c) 開閉中に、任意の位置で停止できるものとする。
d) 開閉の際、上限及び下限において自動的に停止するものとする。
e) 開閉中、押しボタンスイッチを逆方向に操作しても、逆方向に作動しないものとする。
f) 閉動作中、障害物感知装置が作動した場合、ドアは自動的に停止し、又は停止後IJf.l動作に転じて自動停止すること。
g) 障害物感知装置が作動したままの状態で停止した場合、又は作動不良の状態になったとき、再度閉信号を受けてもドアは閉動作をしてはならない。ただし、停止後自動的に開動作に転じる機構のものを除く。
h) 障害物感知装置が作動したままの状態で停止し、開信号を受けた場合は、ドアは開動作をしなければならない。
i) 電源遮断時においては、手動による開閉が可能でなければならない。
6. 構 造
6.1 セクション
セクションは、ヒンジによって屈曲可能に結合でき、セクションの上下には相じゃくり部をもつ機構とする。
6.2 スプリング
ねじりコイルばねを使用する。
6.3 ワイヤドラム
ワイヤロープの径に応じた溝付ドラムとする。
6.4 ワイヤロープ
JIS G 3525又はJIS G 3535による。
6.5 ガイドレール
ガイドレールの断面はほぼ溝形で、その内側をローラの回転部が滑らかに移動し、かつ、容易に逸脱しない形状のものとする。
6.6 電動開閉機 電動機の容量及び電源は、表2による。
表2 電動機の容量及び電源
JIS A 4715_表2_電動機の容量及び電源.jpeg
6.7 電装品
電動式ドアにおける電装品は、次による。
a) 制御盤は、押しボタンスイッチ又はリミットスイッチからの信号によってドアの開・閉・停の動作を制御できるものとし、開閉動作中に逆動の押しボタンが押されても、逆動作しない回路とする。
b) 押しボタンスイッチは、押しボタン操作によって制御盤に信号を送り、開・閉・停の動作を操作できるものとする。
c) リミットスイッチは、ドアの開放又は閉鎖の動作を、その上限又は下限の位置で自動的に停止できるものとする。
d) 障害物感知装置は、光電センサなどの非接触形のものが望ましい。
e) 開口部の用途、環境などによって光電センサ以外の障害物感知装置を使用する場合の機能・構造・試験方法については、受渡当事者間の協議による。
f) 押し切り形(2)の押しボタンを使用し、かつ、押しボタン操作をする人がドアの開閉状態の安全を確認できる場合は障害物感知装置の設置を省略してもよい。
(2) 押しボタンを押している間だけドアが作動し、ボタンから手を離すとドアが停止する機構のスイッチ。

16章 建具工事 14節 ガラス

16章 建具工事
14節 ガラス
16.14.1 適用範囲
この節では、主として建具に取り付けるガラス工事を対象としている。
板ガラスは、近年外装材としても活用され、その用途が広がっている。例えば、メタルカーテンウォールでは開口部以外にも使用され、アトリウムやトップライトを形成している。また、建具枠に納めるのではなく、壁面がガラスのみで形成される点支持工法(DPG工法とも呼ばれる。)等も出現している。
16.14.2 材 料
(a) 建築用板ガラスの種類と厚さ及び特性を、表16.14.1に示す。
なお、ガラスの厚さを「ミリ」と表示する場合は、製品記号であって、寸法単位の「mm」ではないことに注意する。
表16.14.1 板ガラスの種類と厚さ及び特性
表16.14.1_板ガラスの種類と厚さ及び特性.jpeg
(b) ガラス厚さの設定
外部に面する帳壁に使用するガラスの厚さは、平成12年建設省告示第1458号に定められている(16.1.7 (d)参照)。
また、平成12年建設省告示第1458号において適用除外となっている部位(高さ13m以下)に対する風圧力について、板硝子協会では、平成12年建設省告示第1458号に提示される計算式をそのまま適用することを提案している。
なお、「標仕」の適用範囲外ではあるが、2~3辺支持状態のガラス及び点支持工法(DPG工法とも呼ばれる。)等の場合での、ガラス厚さの算定もガラスメーカーの提案式が、カタログや技術資料に掲載されているので、該当する場合には参考にするとよい。
(c) 板ガラスの概要
(1) フロート板ガラス(JIS R 3202)
溶解したガラス(約1,600℃)を溶融した金属(錫)の上に浮かべて製板するフロートシステムにより生産される透明、かつ、極めて平滑なガラス。
現在、流通する板ガラスの主流である。厚さは、2ミリから25ミリまで14種類ある。すり板ガラスは JIS R 3202の附属書 Aに規定されている。
(2) 型板ガラス(JIS R 3203)
2本の水冷ローラーの間に、直接溶解したガラスを通して製板するロールアウト法により生産されるガラス。下部のローラーで型付けされる。
型は、旧来のものが数種類に整理されており、選択には注意が必要である。
(3) 網人板ガラス(JIS R 3204)
(2)のロールアウト法の2本のローラーの間に、同時に網(線)を挿入して生産されるガラス(火造りともいう。)。網入板ガラスは、防火設備(旧乙種防火戸)用として認定されているが、線入板ガラスは防火設備(旧乙種防火戸)用として使用できない。
(4) 熱線吸収板ガラス(JIS R 3208)
フロートシステムにより生産される板ガラスで、ガラス原材料に日射吸収特性に優れた金属を加え、着色し生並されるガラス。
ガラスの色は、国内生産品はグリーンのみである。
熱線吸収効果で、日射を 30~40%程度吸収し、冷房負荷の軽減効果がある。
(5) 熱線反射ガラス(JIS R 3221)
ガラスの片面に金属の反射薄膜を付け、生産されるガラス。ミラー効果、可視光線を遮り、窓際のまぶしさや局部的な昇温の防止、冷房負荷の軽減効果等がある。
現在、次の2種類の製法がある。
① オンライン熱反
フロートシステムにより生涯されるガラスに、その徐冷の前工程で、金属をスプレーする製法。反射色調は、シルバー系がある。反射膜は、室外側でも室内部でも使用できるとされているが、反射膜の耐久性上、室内側が望ましい。
② スパッタ熱反〈高遮へい性熱線反射ガラス〉
フロート板ガラスを製品化したのち、所定の寸法に切断し、真空容器内に入れ、電圧をかけて金属薄膜を付ける製法。
オンライン熱反に比べて反射膜の反射率が高く、熱線吸収率も高い。一般には、高性能熱線反射ガラスと呼ばれている。
反射色調は、使用する金属により多彩で、10数種のものが市販されている。反射膜は,室内部に限定される。
(6) 合わせガラス(JIS R 3205)
2枚以上のガラスの間に接着力の強い特殊樹脂フィルム(中間膜)を挟み、高温高圧で接着し、生産されるガラス。同類には、合成樹脂を注入し、接着するものもある。
破損しても中間膜によって破片の大部分が飛散しない性質がある。
用途は、住宅や学校用の安全ガラスのほか、高層階のバルコニーの手すりや中間膜を種々変えた装飾用等がある。使用する板ガラスは、原則としてJISに規定されるものの組合せであり、製品の種類は多岐にわたる。また、耐貫通性に優れた厚い中間膜を使用した合わせガラスは防犯合わせガラスとして製品化されているが、地震時や台風時の飛来物に対しても防災上の効果がある。
(7) 強化ガラス(JIS R 3206)
ガラスを強化炉で 650~700℃程度まで加熱したのち、両表面に空気を吹き付け急冷してガラス表面付近に強い圧縮応力層を形成し、耐風圧強度を約 3倍に高めたガラス。破損時の破片は、細粒状になるので鋭利な破片は生じにくい性質がある。強化型板ガラスは、型の凹凸度合いが少ないものに限られる。
熱処理後のガラスは、切断加工はできない。
用途は、枠のない強化ガラスドアや手すり等のほか、住宅や学校用の安全ガラス、点支持工法(DPG工法とも呼ばれる。)等がある。
強化ガラス内部では、表面の圧縮力と内部側の引張力がバランスを保っており、製造過程で混入した微細な異物に起因する傷や表面の傷が成長して、圧縮応力層内(ガラス厚の1/6)を超えて内部の引張応力層に達すると、応カバランスが崩れ外力が加わっていない状態でも不意に破損することがある。これを自然破綻と呼んでいる。
強化ガラスが破損するときには、一瞬にしてガラスの全面が細かい粒状の破片になるが、粒が離れずに塊となって脱落することがある。このように強化ガラスが破損し脱落して人にけがを負わせるおそれがある場合や、破損時に人が転落する危険性がある場合には、強化合わせガラス仕様にするとよい。
使用に際しては、板硝子協会「強化ガラス・倍強度ガラス使用手引書」等を参考にするとよい。
自然破損を防ぐための手段としこ、製造時にヒートソーク処理を実施することが有効であるが、破損をゼロにする技術は現在のところない。ヒートソーク処理とは、強化加工後に再加熱処理を実施し、強化ガラスに微細な不純物が含まれていた場合、強制的に破損させる方法てある。
(8) 倍強度ガラス(JIS R 3222)
強化ガラスと同様な加熱処理を行い、耐風圧強度を約 2倍に高めたガラス(HSガラスとも呼ばれる。)である。熱処理後のガラスは、切断加工はできない。
破損時の破片は、フロート板ガラスの割れ方に近い形態である。用途は、一般窓ガラス用であるが、フロート板ガラスでは厚さが不足するような風圧力が大きく、かつ、開口面積が大きい部位に使用する。
倍強度ガラスは熱処理をしてしいるため、理論上製造過程で混入した微細な異物に起因する自然破損は起こり得る。通常、倍強度ガラスにはヒートユニクー処理は行わない。
使用に際しては、「強化ガラス・倍強度ガラス使用手引書」等を参考にするとよい。
(9) 複層ガラス(JIS R 3209)
一般に2枚のガラスをスペーサーで一定の間隔(一般に6又は12mm)に保ち、その周囲を封着材(一般にブチルゴム等)で密閉し、内部に乾燥空気(内部の圧力は外気圧に近い。)を満たしたガラスである。
なお、現在では、中空層側のガラス面に特殊金属をコーティングして断熱性及び日射遮蔽性を高めた製品であるLow-E複層ガラス(日射取得型:適度に日射熱を採り入れる寒冷地に適したタイプ、日射遮蔽型:室内への日射熱の侵入を低減する温暖地に適したタイプ)が多く使用されるようになった。また、それに併せて内部を真空にした真空ガラスや内部にガスを封入した製品もある。
使用するガラスは、原則としてJISに規定されるものの組合せであり、製品の種類は多岐にわたる。また、断熱効果が高く、冷暖房負荷の軽減効果と結露防止効果がある。
(10) 耐熱板ガラス
網入板ガラス以外で防火性能を有するガラスであり、低膨張防火ガラス、耐熱強化ガラス、耐熱結品化ガラスがある。
当項については、「標仕」には記載されていないが近年使用例が増えている。防火設備において、主構成材料として位置付けられており、また、品種によっては特定防火設備の認定実績を有するものもある。
詳細については、製造所に確認するとよい。
品質については、(-社)カーテンウォール・防火開口部協会、板硝子協会及びガラスブロック工業会が定めた「耐熱板ガラス品質規格」がある。
耐熱板ガラスで耐熱強化ガラスは、熱処理をしているため、製造過程で混入した微細な異物に起因する自然破損は強化ガラス同様に起こり得る。製造時のヒートソーク処理、破損脱落時の安全性、はめ替え等のメンテナンス等を十分に考慮することが望ましい。
(d) ガラス留め材
建具枠に板ガラスを固定させ、かつ、板ガラスの耐風圧性、建具としての気密性、水密性及び耐震性等が確保できるものをいう。
材料(工法、コストとも連動する。)は、次のものがあるが、各種性能はそれぞれ特長があるので、指定は特記による。
ただし、防火設備に使用する板ガラスの留め材は、建築基準法に基づく防火性能の認定を受けた材料に限定され、また、昭和46年建設省告示第109号では、「帳壁として窓にガラス入りのはめごろし戸(網入ガラス入りのものを除く。)を設ける場合にあっては、硬化性のシーリング材を使用しないこと。(ただし書きあり。)」としている。
(i) シーリング材
JIS A 5758(建築用シーリング材)に規定されるタイプGが用いられるが、その適用等は9章7節を参照する。また、各種性能を確保するためには、シーリング材の充填幅(目地幅)に一定の制限がある。
(ii) グレイジングガスケット
JIS A 5756(建築用ガスケット)付属書JA(参考)[ 建築用ガスケットの種類 ]JA.2に規定されるグレイジングガスケット(Gl)には、図16.14.1に示すグレイジングチャンネル、グレイジングビートの2種類がある。
ガスケットの材質は、JIS A 5756 4.4[主成分による区分]表4に規定される5種類がある(表16.14.2参照)。
(iii) 構造ガスケットは「標仕」17章を参照する。
表16.14.2 ガスケットの主成分による区分(JIS A 5756 : 2013)
表16.14.2_ガスケットの主成分による区分.jpeg
図16.14.1_グレイジングガスケットの例(イ).jpeg図16.14.1_グレイジングガスケットの例(ロ).jpeg
図16.14.1_グレイジングガスケットの例(ハ).jpeg図16.14.1_グレイジングガスケットの例(ニ).jpeg
図16.14.1 グレイジングガスケットの例(JIS A 5756 : 2013)
(e) セッティングブロック
建具下辺のガラス溝内に置き、ガラスの自重を支え、建具とガラスの接触を妨げる小片であり、一般にガラスの横幅寸法のおおよそ1/4の所に2箇所設置する。
なお、開き窓、軸が偏心したたて軸回転窓及びたてすべり出し窓では、戸先にガラス重量をかけない工夫として、軸近傍の下かまちと戸先の縦かまちとにセッティングブロックを設置することもある。

材料は、クロロプレンゴム系、EPDM(エチレンプロピレンゴム)系、塩化ビニル系があり、ポリプロピレン製があり、一般に、厚さ6ミリ以上の比較的大きいガラスには、クロロプレンゴム系が、それより軽いガラスには、塩化ビニル系を使用することが多い。ポリプロピレン製は樹脂製建具のセッティングブロックとして使用される。
なお、ガラス留め材をシリコーン系シーリング材とし、セッテングブロックにクロロプレンゴム系又はEPDM(エチレンプロビレンゴム)系を使用する場合は、セッテングブロック材料の可塑剤により、シーリング材が変色する原因となるため、耐シリコーンタイプの材料が特記されるか、又はシーリング材とセッティングブロックとを接触させない工夫がされていることを確認することが必要である。
セッティングブロックの形状寸法は、通常、次式により定める。
さらに、合わせガラスの中間膜や複層ガラスの封着材等に悪影響を与えないようにするため、セッティングブロックの材質と他の有機材との適合性を確認することも必要である。
L = W / ( n × t × f) ただし、t < a、b / a ≦ 1、L ≧ b
L:セッティングブロック1個の長さ(cm)
W:ガラスのの質量 ( N )
n:セッティングブロックの個数(一般に2箇所)
t:ガラスの厚さ(cm)
f:セッティングブロックの許容荷重( N/cm2
 クロロプレン系、EPDM系、ポリプロピレン製で 50、
 塩化ビニル系で 30
a:セッティングブロックの幅(cm)
b:セッティングブロックの厚さ(cm)
セッティングブロック.jpeg
計算例
5ミリガラスで1.5m2の窓ガラスに塩化ビニル系を使用する場合
t = 0.5 
よって、W= 0.5 × 1.5 × 104 × 2.5 × 10-3 × 9.8 ≒ 190 (N)
n = 2、f =30(塩化ビニル系)
よってL= 190 / ( 2 x 0.5x 30 ) ≒ 7(cm)
aは、t + ( 0.6~1.0) ≒ 1.2 (cm)、
b ≦ aより
bは、0.6~0.8 (cm)
よって、L × a × bは、
7 × 1.2 × 0.8 (cm)となる。

16.14.3 ガラス溝の寸法,形状等
(a) ガラス溝の寸法、形状とは、図16.14.2に示す面クリアランス(a)、エッジクリアランス (b) と掛り代 (c) の寸法、形状を指し、「標仕」表16.14.1に必要な値が定められている。
一般に枠見込み 70及び100mmのアルミニウム製建具では、「標仕」表16.14.1の値を標準としている。これらの値は、「標仕」16.2.2(b)の外部に面するアルミニウム製建具の種別A、B及びC種に合致し、また、耐震性は、16.1.7(a)(6)よりRC造又はSRC造を想定したもの(層間変形角が1/300程度)である。したがって、層間変位が大きい楊合は、「標仕」表16.14.1は、そのまま適用することができない場合がある。また、ガラスに種々の機能が追加されている場合は別途検討が必要である。
これらの寸法の意味は、次のとおりであるが、要求性能によって必要寸法が変わり、サッシ枠の見込み寸法に影響するため、指定は特記による。
なお、引違い戸、片引戸や上げ下げ戸等の障子では、枠見込み70mmのサッシにおいて、面クリアランスを5mm以上確保することが難しいので、「標仕」表16.14.1の(注)にあるように排水機構を設けて面クリアランスを3.5mm程度とする場合もある。
図16.14.2_ガラス溝の寸法.jpeg
図16.14.2 ガラス溝の寸法
(1) 面クリアランス(a)
建具の気密性、水密性を確保するため、ガラス留め材の機能が十分に発揮できる寸法である。したがって、ガラス留め材の種類によって、当然変わる値である。例えば、ガラス留め材がシーリング材の場合は、シーリング材の確実な充填ができる値が、最小値となる。また、グレイジングガスケットの場合は、ガスケットの形状に合った値が必要になる。
(2) エッジクリアランス (b)
建具の耐震性(層間変位追従性)を確保し、かつ、ガラスのはめ込みが無理なく行える寸法である。また、建具の下辺では、セッティングブロックの厚さを確保する寸法も必要となる。
耐震性により定まる値は、建具が受ける変形量により決まり、その変形量は建具の開閉形態によって異なる(16.1.7(a)(6)参照)。
ガラスのはめ込みにより定まる値は、建具のガラスはめ込み形式によって異なる。
エッジクリアランスの値は、四方押縁形式では、耐震性により定まる値で決まる。また、やり返しでガラスをはめ込む形式では、ガラスのはめ込みにより定まる値(やり返しができる寸法)で決まる。
(3) 掛り代(c)
建具の気密性、水密性を確保するため、ガラス留め材の機能が十分に発揮できかつ、ガラスの耐風圧性を確保する寸法である。また、ガラスの小口が屈折により室内から光って見えないことを条件とすることも検討しなければならない。
建具の気密性、水密性は、面クリアランスと同様ガラス留め材の種類によって、変わる値である。シーリング材の楊合には、バックアップ材の寸法、形状も影響する。
ガラスの耐風圧性は、強風時にガラスがたわんで、枠から外れないために必要となる寸法で、当然風圧力の大きさとガラス厚さによって変わる値である。
ガラスの小口が見えるかどうかは、掛り代にガラス留め材のガラス溝よりの突出寸法を加えた値によるため、当然ガラス留め材の種類によって変わり、一般にグレイジングガスケットの場合が、シーリング材の場合より突出寸法が大きい。
(b) 水抜き孔
外部に面する建具とは、雨掛りの部位を想定している。
複層ガラス、合わせガラス及び網(線)入板ガラスの小口部分は、次の理由により、長期に水と接触することを避けなければならない。
(i) 複層ガラスでは、2枚のガラスの間に使用されている封着材の接着性能が水分の影響を受け、低下するおそれがある。
(ii) 合わせガラスでは、2枚のガラスの間に使用されている特殊樹脂フィルムが水分の影響を受け、白濁したり、はく離したりするおそれがある。
(iii) 網(線)入板ガラスでは、ガラスの小口に突出する線材が水分の影響で発錆するおそれがある。
したがって、この条件に適合する建具では、万ーガラス回りのガラス留め材に不具合が生じ、建具のガラス溝内に雨水が浸入した場合、速やかに雨水を排出するため、建具の下枠に水抜き孔を設けることとしている。
水抜き孔の直径を6mm以上とするのは、雨水が流れ出る最小値である。また、水抜き孔から雨水が浸入しないようにすることが重要である。
水抜き孔を2箇所とするのは、建具の下枠が完全な水平とは限らないことを想定したものであり、また、セッティングブロックや枠内の突起物が雨水の排出をせき止めることが想定される場合は、セッティングブロック又は突起物の中間に 1箇所追加する。
16.14.4 工 法
(a) 板ガラスの切断、小口処理
(1) 板ガラスの切断は、ガラス切りと呼ばれる工具によってガラス表面に傷をつけ、その傷に沿って折り割る作業である。クリアカット〈クリーンカット〉とは、折り割った状態のきれいな切断面(小口)をいい、JISに記述される許容限度を超える切口欠点がない状態を指す。しかし、10mmを超える厚板ガラスで、幅の広さが異なる状態で折り割ると.切断面が斜めになることがある。
大きな傾斜は、エッジクリアランスの確保に支際があり、また、切断面の大きな欠け等も熱割れ等の要因となるので、修正しなければならない。修正は、粗ずり( F120~200程度の湿式研磨)で行うのが一般的である。
(2) 板ガラスの端部が建具枠にのみ込まない納まりは、一般的ではないが、例えば、建物の出隈部で隅部に縦枠を設けず、ガラスを直交させ、ガラス間をシーリング材で連続させる場合や1階エントランスに設けるガラススクリーン工法〈ガラス方立工法、リブガラス工法〉の場合が該当する。
いずれの場合も、ガラス切断面が、シーリング材の接着面であったり、人の手に触れる部分となる。したがって、施工性や安全性から、小口加工が必要になる。仕上げの程度は、特記が必要である。シーリング材の接着面となる部分の仕上げの程度は、粗ずり( F120 ~ 200程度の湿式研磨)又はつや消し(同#300程度)が、また、人の手に触れる部分の仕上げ程度は、磨き( 同#500程度)が一般的である。
なお、後者の場合で、小口の形状を平面とするかかまぽこ状(丸み角)とする かは設計担当者と打ち合わせて決める。
なお、これらの例は、本来「標仕」の適用範囲外であり、いずれか一方のガラスは、片側縦辺のエッジクリアランスがない状態となる。また、面外力に対するガラスの支持状態も四辺単純支持ではない。更に、ガラス突付け部の気密性、水密性もシーリング材のみに期待する納まりである。したがって、十分な検討や実験を伴わないと、建具に要求される各種性能が確認できないので注意する。
(3) 網(線)入板ガラスでは、その小口が長期に水と接触すると発錆するおそれがある。16.14.3(b)のように水抜き孔を設けても、長期を想定すると湿気による発錆も考えられる。したがって、使用する場所に応じて防錆用テープ又はガラス用防錆塗料を施すなどの適切な防錆処理をする。
(b) ガラスのはめ込み
(1) シーリング材を使用する場合(16.14.3及び「標仕」9章7節参照)
シーリング材の硬化には、ガス(2成分シリコーン系では、R2NOH)の発生を伴い、また、高温高湿下では硬化不良を引き起こすおそれがある。したがって、シーリング材充填部が密閉となるような養生を行ってはならない。
① ガラスの両側とも、シーリング材を使用する場合
セッティングブロックをガラス溝内の所定の位置に配置したのち、面クリアランス、エッジクリアランス及び掛り代が適切になるように、面内・面外・両方向ともガラスを建具の中央に置く。次いで、シーリング材の充填深さが適切になるようにバックアップ材を挿入したのち、シーリング材を充填する。
② ガラスの内外溝のうち、一方のみをシーリング材を使用し、他方の溝はグレージングビードとする場合 .
先付けグレイジングビードとセッティングブロックをガラス溝内の所定の位置に配置したのち、エッジクリアランス及び掛り代が適切になるようにガラスを建具の中央に置く。次いで、反対側溝部について、シーリング材の充填深さが適切になるようにバックアップ材を挿入したのち、シーリング材を充填する。
(2) グレイジングガスケットを使用する場合
(i) グレイジングチャンネルの場合
かまちが分割できる可動部分(障子)に限られる。
グレイジングチャンネルをガラスに巻き付ける際、継目が上辺中央で、隙間が生じないようにする。
グレイジングチャンネルを巻き付けたガラスを分割したかまちにはめ込み、最後にかまちを組み直して完了となる。セッティングブロックは使用しない。
(ii) グレイジングビードの場合
セッティングブロックをガラス溝内の所定の位置に配置したのち、面クリアランス、エッジクリアランス及び掛り代が適切になるように、面内・面外両方向ともガラスを建具の中央に置く。次いで、グレイジングビードを両面から、ガラスと枠との間に押し込み完了となる。継目は上辺中央で隙間が生じないようにする。
(iii) グレイジングビード(先・後付け)の場合
先付けグレイジングビードとセッティングブロックをガラス溝内の所定の位置に配置したのち、エッジクリアランス及び掛り代が適切になるようにガラスを建具の中央に置く。次いで、あと付けグレイジングビードをガラスと枠との間に押し込み完了となる。継目は上辺中央で隙間が生じないようにする。
(c) 養生及び清掃
(1) ガラスのはめ込み後は、ガラスに気付かずに人が衝突したり、物を当てることのないように「ガラスに注意」等のラベルを張る。また、傷防止等必要に応じてガラス全体を養生する。
なお、日射熱吸収の大きいガラスでは、養生材の張付けによって、ガラスが熱割れしないことを確認することが必要である。
(2) ガラスの清掃は、建物完成期日直前に行う。清掃は、一般に水で表面をふき取るが、工事中にガラス面に固着した異物を除去するために薬品類を使用する場合は、周囲部材に影響のないことを確認する。熱線反射ガラスの清掃は、反射膜面を低つけないように注意し、中性洗剤以外の薬品等は使用しない。
また、清掃に当たっては、カッター、金属へら(スクレーパー)等の金属類を用いない。
16.14.5 ガラスブロック積み
(a) 壁部分に、壁用金属枠を用いて現場にて1個ずつ積む工法を対象とし、工場生産されるガラスブロックパネルは対象としていない。
(b) 材 料
(1) ガラスブロック
JIS A 5212(ガラスブロック(中空))には、表16.14.3に示す製品がある。
なお、ガラスブロック(中空)の海外製品は、JISと寸法許容差等が異なるため、(-社)公共建築協会では「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」において、品質性能基準を定め評価しているので参考にするとよい。
表16.14.3 ガラスブロックの寸法等
表16.14.3_ガラスブロックの寸法等.jpeg
(2) 壁用金属枠
壁用金属枠はSUS304又はアルミニウム合金等腐食しにくい材質とし、下枠の外部側に水抜き孔(径6mm以上、間隔 1.0~1.5m)を設けたものとする。図16.14.3にアルミニウム合金製の形状例を示す。
図16.14.3_アルミニウム合金製壁用金属枠の例.jpeg
図16.14.3 アルミニウム合金製壁用金属枠の例
(3) 力 骨
一般には、図16.14.4に示すはしご状複筋又は単筋を使用する。50mm幅のタイプは縦筋として、35mm幅のタイプは横筋として使用する。材質はSUS304で径 5.5mmである。
なお、伸縮目地の横筋等には、同質、同径の丸鋼も使用する。
図16.14.4_力骨の例.jpeg
図16.14.4 力骨の例
(4) 緩衝材
開口部周囲(下枠を除く。)と中間縦目地(伸縮目地)に使用する弾力性、復元性、耐久性のある材料で、一般には合成ゴム発泡体で幅75mm、厚さは5及び10mmの2種類がある。通常はガラスブロック製造所の指定するものを使用する。
(5) 滑り材
壁用金属枠の面内方向部分に張付け、充填モルタルと同枠間を滑らす目的の材科である。一般には厚さ1.2mm程度の塩化ビニル又はブチルゴム製の粘着層付きのテープで幅は25及び50mmの2種類がある。
(6) アンカーピース
カ骨を所定の位置とするため壁用金属枠に組み込む部品で、一般的には SUS304である。鋼製サッシや鋼製枠を使用する場合には、電食防止のために絶縁する必要がある。通常はガラスブロック製造所の指定するものを使用する。
(7) 水抜きプレート
壁用金属枠の下枠溝内に組み込み、ガラスブロック壁内に浸入した雨水を排水孔に導く機能をもつもので、一般的には塩化ビニル製である。通常はガラスブロック製造所の指定するものを使用する。図16.14.5に形状例を示す。
図16.14.5_水抜きプレートの形状例.jpeg
図16.14.5 水抜きプレートの形状例
(c) 工 法
(1) 耐風圧性
ガラスブロック壁面の耐風圧性能が建築基準法(平成12年建設省告示第1458号)に適合した工法は特記される。
(2) 工法詳細
(i) 目地幅の標準寸法は、10mmである。8mm以下にすると.内蔵される力骨(φ5.5 mm)との接触や、モルタルの充填性が悪くなり望ましくない。逆に、15mmを超える幅では、目地モルタルの仕上げが悪くなり、また、目地モルタルのひび割れも発生しやすくなるので、標準寸法に設定するのがよい。
曲面に積む場合は、最小半径をガラスブロックの幅寸法の10倍以上にしないと、上記の目地幅範囲を確保できない。なお、目地幅は、原則として外側 15mm以下、内側6mm以上を確保する。
(ii) ガラスブロック壁面が大きくなると、開口周辺の緩衝材や滑り材だけでは、ガラスブロックの熱変形や地震時の躯体の変形に追従できなくなる。したがって、開口部の幅が 6mを超える場合には、6m以内ごとに 10~ 25mm幅の縦方向の伸縮目地を設ける必要がある。図16.14.6に伸縮目地の納まりを例示する。
図16.14.6_伸縮目地の納まりの例.jpeg
図16.14.6 伸縮目地の納まりの例
(iii) 風圧を受けた場合の壁用金属枠の変形を押さえるため450mm以下の間隔で、壁用金属枠を躯体に固着し、モルタルを密実に充填する。
(iv) 力骨の設置間隔は、要求されるガラスブロック壁面への風圧力に対応した間隔であることが必要である。実験結果による力骨の設置間隔は、図16.14.7のようになっている。最大間隔(標準目地幅10mmの場合)は、縦横とも620mmである。
図16.14.7_風圧力の大きさと力骨の設置間隔.jpeg
図16.14.7 風圧力の大きさと力骨の設置間隔(実験結果)
(v) ガラスブロック壁面の標準施工例を図16.14.8に示す。
図16.14.8_ガラスブロック壁面の標準施工例.jpeg
図16.14.8 ガラスブロック壁面の標準施工例
参考文献
14節ガラス参考文献.jpg

17章 カーテンウォール工事 1節 共通事項

17章 カーテンウォール工事
1節 共通事項

17.1.1 一般事項
(1) 「標仕」のカーテンウォールは、事務庁舎等の一般的なカーテンウォール(以下、この草では「CW」という。)を対象としており、「メタルカーテンウォール」と「プレキャストコンクリートカーテンウォール」として、CWの構成材料による分類を採用している。これは、CWの専門工事業者の仕事の区分とも一致している。
その他のCWの分類方法としては、次のようなものもある。
(ア) 躯体への取付け形態による分類
(イ) 層間変位に対する追従機構(ファスナ一方式)による分類
(ウ) 躯体とCWとの位置関係による分類
取付け形態による分類は、図17.1.1のように4タイプになる。
図17.1.1_取付け形態によるCWの分類.jpg
図17.1.1 取付け形態によるCWの分類
材料と取付け形態による分類を組み合わせると表17.1.1のようになる。
表17.1.1 材料による分類と取付け形態による分類との組合せ
表17.1.1_材料による分類と取付け形態による分類との組合せ.jpg
(2) CW工事に関する用語を、次に示す。
(ア) カーテンウォール(CW)
工場生産された部材で構成される非耐力外壁のうち、地震や強風による建物の変形に対して、破損することなく追従できる壁。
なお、建築基準法では、「屋外に面する帳壁」としている。
建具工事とCW工事の違いは、建具工事が開口部の工事であるのに対し、CW工事は、開口部を含む外壁の工事となっている。
CWの設計は、デザインだけでなく、各種性能を満足するようバランスのとれたものが求められる。
(イ) 材料別での用語
(a) メタルカーテンウォール(以下、この章では「メタルCW」という。)主要構成部材に金属系材料を用いたCWである。
アルミニウム合金押出形材による方立方式が一般的である。このほか、アルミニウム合金押出形材や鋼材等の枠組みに表面材を工場で一体に取り付けた組立ユニット、アルミニウム合金押出形材を工場で一体に組み立てたユニットサッシ、アルミニウム合金を鋳造した部材等がある。
特徴は、軽量でシャープなデザインが実現できることである。仕上げは金属、ガラスが多いが、石を乾式ファスナー等を用いて組み込んだ事例もある。
メタルCWには、CWの製造所があらかじめ大きさと性能を特定の範囲で定めたスタンダードタイプと、新規に設計・製作するオーダーメードタイプがある。
後者が、当然割高となるため、前者を多少変更して使うイージーオーダータイプもある。
(b) プレキャストコンクリートカーテンウォール(以下、この平では「PCCW」という。)
主要構成部材にコンクリート系の部材(Precast Concrete Panel、以下、この章では「PC版」という。)を用いたCWである。
特徴としては、形状の自由度が高いことと石やタイル等の仕上げ材を先付け〈打込み〉できることである。
PCCWは、ほとんどが新規に設計・製作するオーダーメードタイプである。
なお、PC版をPCa版と呼ぶこともある。その理由は、「PC」が(Precast Concrete)の略号であると同時に「プレストレストコンクリート(Prestressed Concrete :ストランドを緊張して圧縮応力を加えたコンクリート)」の略号でもあるので、混同を避けるためである。プレストレストコンクリートのプレキャストコンクリート部材をPC-PCa部材と略号で示すこともある。しかし、本指針では「標仕」と整合させ「PC」とした。
(ウ) 取付け形態別での用語
(a) 層間方式
層間に渡る大型部材を、上下階の梁又はスラブ間(層間)に架け渡す方式。
(b) スパンドレル方式
腰壁部分と下がり壁部分を一体化した部材(主に梁を覆う部材)を、同一階の梁又はスラブに取り付ける方式。中間の開口部が横連窓となることが多い。
(c) 柱・梁方式
(b)と同様な梁を覆う部材と柱を覆う部材を組み合わせる方式。
梁を覆う部材は(b)と、柱を覆う部材は(a)と同様に取り付ける。
外観は、柱を覆う部材が連続する柱通し形と、梁を覆う部材が連続する梁通し形がある。
(d) 方立方式〈マリオン方式〉
細長い方立を上下階の梁又はスラブ間(層間)に架け渡す方式。
方立問に無目(横架材)を渡し、方立と無目に囲まれた部分に、ガラスや金属板等をはめ込む方式〈ノックダウン方式〉が一般的であるが、方立間に組立ユニットを取り付ける方式もある。
(エ) 取付け用金物
CW部材の取付けに使用する金物で、躯体付け金物、部材付け金物、連結用金物等の総称。CW部材の取付けの際に、躯体や製品の寸法誤差を吸収するためのルーズホールと、CW部材が層間変位等に追従するためのスライドホールが組み込まれる。また、CW部材の取付けの際に、上下方向を調整するためのボルト等の機構が組み込まれる。
(オ) 層間変位
地震や強風によって各階に生じる水平方向の変位において、当該階と上階若しくは下階との相対変位。層間変位の単位は、図17.1.2のように、分子を1とする分数表示によるラジアン角(層間変形角)で示すのが一般的である。層間変位量とは、層間変形角に層間高さを乗じた値となる。このほか、各階の階高が変化する鉛直相対変位もある。
なお、相対変位とは、ある部材を基準として測定した他の部材の変位である。
図17.1.2_層間変形のラジアン角による表示.jpg
図17.1.2 層間変位のラジアン角による表示
(3) CWの仕事の流れは、一般的に次のようになる。
デザイン決定
   ↓
 性能設定
   ↓
 詳細設計
   ↓
 製  作
   ↓
 施  工
   ↓
 完成検査
デザインと性能設定の決定は、基本的に設計担当者が行うが、各部の納まりまで全て設計図書に記載するのは難しく、詳細設計において変更が起こり得る。
なお、詳細設計とは、設計図を基に、CW部材の製作上の要因、CWに隣接する部位との施工上の要因等を考慮し、かつ、要求性能を満たすように実施される設計行為である。
性能設定は、建物のグレードを考慮しながら、設定値が特記される。当然、高いグレードとすればコストアップするだけでなく、性能の実現のためにデザインの変更が必要になる。デザイン及びコストとのバランスも必要である。
詳細設計では、製作上及び施工上の種々の要因も考慮しなければならず、施工者及びCWの製造所との構報交換が必要になる。
(4) CW工事の工程管理
詳細設計は、多大な時間を要するため、検討を早めに開始する必要がある。詳細設計の開始が遅れたり、時間を費やし過ぎると、その後の施工図の作成工程やCW部材の製作工程が圧縮され、施工図の修正や検討ミス、コスト増を引き起こす。また、最悪の場合には、CW部材の製作が取付け工程に間に合わないことも起こり得る。したがって、詳細設計の承諾は、全体工程と十分に調整することが重要であり、取付け時期から製作工程等を逆算して期日を設定する必要がある。
詳細設計に多大な時間がかかる要因としては、次のようなことが挙げられる。
(a) CWの設計においては、デザインと要求性能がともすれば整合しないことがある。このような対立は、総合的な判断で解決する必要がある。
表17.1.2は、メタルCWの方立方式での、部材と性能の代表的な関連を例示したものである。例えば、方立や無目の見付け幅及び見込み幅は、デザイン上はできるだけ小さくしたいという要求がある一方、主に耐震性、耐風圧性からは、ある程度の幅が必要であるという不整合が起きる。また、PCCWでも、 PC版間及びPC版と他部材の取合いの目地幅は、デザインと耐震性(パネル長さが長い場合は耐温度性も考慮する)で調整が必要である。
表17.1.2 CW部材と性能の関連項目
表17.1.2_CW部材と性能の関連項目.jpeg
(b) CW部材の割付けの遅れ
外壁のデザイン決定、特に、CW部材の割付けが遅れると、躯体付け金物が、躯体鉄骨の製作工程に反映できないばかりでなく、コンクリートに埋め込まれる場合には、コンクリートの打ち分けが必要となるなど、全体工程にも影響を与えるおそれがある。
(c) 色調決定の遅れ
例えば、アルミニウム合金押出形材では、表面処理から着色工程まで連続工程となっているため、表面処理が着手できず、押出工程まで影響することもある。また、石やタイル打込みPC版では、石やタイルのでき上りが遅れると、 PC版が製作できない。
(d) CWの実大性能試験を行う場合は、試験体の製作、試験期間及び試験結果のフィードバックに数筒月を要するため、詳細設計の検討開始をより一層早めなくてはならない。
(5) CWの製造所の仕様
CWを設計、製作、施工するに当たっては、決定すべき事項が非常に多く、また、それらが製造所の製造方式等によって異なるため、一律に決めることができない。
また、設計担当者、監督職員、施工者が、全ての詳細を判断するのは難しい。このため「標仕」17.1.1 (2)では、設計図書に定める事項以外の仕様は、監督職員の承諾を受けて、各CWの製造所の仕様とすることができるとされている。JIS等の規定のない材料を使用する場合などは品質確認の観点から、材料に関する情報、性能証明、施工方法、保証及び管理体制の確認が必要となる。監督職員は、CWの製造所から提出される材料証明、製作要領書、試験結果等の資料を確認し、承諾を行う。
さらに、新しい技術を導入する場合には、「標仕」では規定しきれないことが予想される。この場合も製造所の仕様を参考にするとよい。
17.1.2 基本要求品質
(1) 「標仕」には、CWの種類に応じた材料が規定されている。メタルCWの主要材料は、素材のJISが指定されており、一般的に、JISに適合することの証明を CWの製造所から提出させる。PCCWの主要材料のうち、コンクリート材料は、 PCCWの製造所の標準調合でよいが、強度を日常的な品質管理賓料から確認する。鉄筋類は、JISが指定されており、一般的に、JISに適合することの証明をPCCWの製造所から提出させる。
材料のJISについては、2節以降の材料の項を参照されたい。
また、補助材料の中で具体的な品質を規定していないものがある。それらは、 CWの製造所が一般に使用しているものとしてよいが、材質等が確認できる資料又は実績を確認する。
(2) 「標仕」には、CWの寸法許容差を規定している。
CWは、多数の部材を取り付けるため、部材の精度は当然であるが、さらに、取付け精度が適切でないと、その性能を満足しない。「所定の形状及び寸法を有する」とは、取り付けた後の、CWとしてどの程度の精度を確保するかについて、あらかじめ「品質計画」において提案させ、これによってプロセスの管理を行うことと考えればよい。
CWの見え掛り部の「所要の仕上り状態」としては、取付け後の傷、汚れ、反り、へこみ、著しい色むら等の許容限度、これらの限度を超えた場合の処置方法も含めて「品質計画」で提案させるようにする。
(3) CWは、17.1.3に示す各種の性能が要求され、必要な性能値が設計図書に特記される。性能値には、次の項目がある。
(ア) 耐力性:風圧力、地震の作用による慣性力に耐える性能
(イ) 変位追従性:地震、風による建物の層間変位追従性
        地震、荷重による建物の鉛直相対変位追従性(参考)
        外気温と日射熱によるCW部材の熱伸縮追従性
(ウ) 遮断性:水密性、気密性、遮音性、断熱性、防耐火性、日射遮へい性
(エ) その他性能:避雷対策、発音・金属摩擦音等の防止、風切り音対策、
        結総防止対策、積雪・落雷対策等
風圧力の大きさ、耐火性能のレベル及び高さ31mを超える建物の層間変形角は、法令に定められた基準がある。高さ31m以下の層間変形角及びその他の性能は、建物のグレード等に応じて設計担当者により特記される。設計担当者が性能を決めるときの参考として、(-社)建築開口部協会「カーテンウォール性能基準」や (-社)日本建築学会「JASS 14 カーテンウォール工事」がある。
17.1.3 に示す性能は、取り付けられた状態のCWに要求する性能であるが、性能の確認は事実上不可能である。このため、CW工事での「所定の性能を有する」とは、性能が確保できるCW部材の取付け方法等について「品質計画」で明らかにし、定められた方法が手順どおり行われたことを、どのように確認し、記録していくかを提案させ、実施させることと考えてよい。
なお、性能確認のためにCWの実大性能試験を行う場合は、検討期間が長期に渡ること及び多領の経費を要するので、試験の実施の有無と試験内容等については、特記されなければならない。
試験内容についての参考としては、「カーテンウォール性能基準」がある。また、 CWの製造所のカタログに掲載されている標準品で性能が表示されているものについては、その性能が確認されている。
17.1.3 性 能
(1) 一般事項
「標仕」17.1.3(3)では、CWの性能の確認方法等は特記によるとしている。しかし、製品としての性能を確認することは容易でないため、特記がなければ、一般的な建物の場合には、性能の確認及び判定方法が確認できる適切な資料を施工者に提供させ、これにより監督職員が承諾する。
なお、適切な費料としては、次のようなものがある。
(a) 信頼できる基準・指針等に基づく計算書等又は工法仕様
(b) 類似の製品の過去の試験成績書等
(c) 類似の製品を使用した完成建物等による試験成績書等
(d) 使用する部材(サッシ等)の試験成績書等(ただし、この場合は、部分的な試験によって、CWとしての性能を判定することの妥当性についての検討が必要である。)
(2) 耐力性
(ア) 耐風圧性
(a) 一般事項
CW部材に作用する外力のうち、風圧力は面外方向のみに作用する。
(b) 性能値
当該部分の風圧力(Pa N/m2)又は平成12年建設省告示第1454号に基づく基準風速及び地表面粗度区分が特記され、後者の場合は、平成12年建設省告示第1458号に定める算定式に基づき算定する。平成12年建設省告示第 1454号に規定されている地表面粗度区分については、令和2年12月に一部改正され、従前設けられていた都市計画区域内・外の区分が削除されている点に留意されたい(改正内容の施行は令和4年1月)。
なお、設計者は、特記で基準風速の割増しを行うこともある。
また、高さ60mを超える建物については、指定性能評価機関の性能評価を受けることになっている。このような建物では、(-社)日本建築学会「建築物荷重指針 同解説」6章[風荷重]を用いる場合もある。
平成12年建設省告示第1458号では、「高さ13m以下の建築物」、「高さ13mを超える建築物の高さ13m以下の部分で、高さ13mを超える部分の構造耐力上の影響を受けない部分及び1階の部分又はこれに類する屋外からの出入口(専ら避難に供するものを除く。)を有する階の部分」の屋外に面する帳壁は適用除外とされている。高さ13m以下のCW部材に作用する風圧力については、「建築物荷重指針・同解説」に定める計算式によるほか、(-社)日本サッシ協会又は板硝子協会の提案する計算方法(16.2.2 (1)及び16.14.2(2)参照)によって算定することができる。また、同告示に規定する計算式を、高さ13m以下にそのまま適用することも技術的には可能であり、「カーテンウォール性能基準」や「JASS 14 カーテンウォール工事」では、この高さの範囲でも同様に適用されている。
(c) 要求性能
性能値に加え、CW部材の自重による長期荷重を考慮し、次のような設定を行う。
① CW部材は、面外方向に移動しないこと。
② CW部材、支持金物等は、破損、脱落しないこと。
③ ガラスを除くCW部材の変形は、原則として、支点澗距離の1/150以下、絶対値20mm以下で、かつ、有害な変形及び残留変形がないこと。ただし、4.0mを超える材のたわみについては、たわみ量を20mmに限定せず支点間距離の 1/200程度を特記することが多い。アトリウム等で、支点間距離が長大になるものについては、別途検討が必要である。CW部材の変形を問題とするのは、CW部材に組み込まれるガラスの破損防止のためであり、ガラスの支持辺となる部材が、風圧によって面外に過度に変形することで、ガラスの発生応力が想定値より大きくなるのを防止するためである。したがって、変形量を必要以上に小さく設定することは、あまり意味をもたない。一般的に、メタルCWで問題となり、PCCWでは特殊なケースを除き問題にはならない。
(d) 性能の確認
CW実大性能試験又はJIS A 1515(建具の耐風圧性試験方法)による試験を行う場合を除き、CW部材の自重による長期荷重に風圧力を加え、主要部材の発生応力度及び変形量を構造計算によって求め、要求性能を確認する。性能確認の詳細については、(-社)日本建築学会「実務者のための建築物外装材耐風設計マニュアル」に掲げる構造計算書の内容も参考になる。
(イ) 耐震性(慣性力)
(a) 一般事項
CW部材に作用する外力のうち、地震の作用による慣性力には、面外、面内、鉛直の3方向がある。
(b) 性能値
建物の剛性等によって決まる値であり、部材の自重に乗じる震度が特記されるのが一般的である。
特記がない場合は、一般的に次の値を用いることが多い。
① 水平方向(面内力、面外力)に対する震度:1.0
② 鉛直方向(鉛直力)に対する震度 :0.5
(c) 要求性能
慣性力に対する要求性能について、「カーテンウォール性能基準」と「JASS14 カーテンウォール工事」ではいずれも、水平方向及び鉛直方向の慣性力に対し、各部材はほとんど補修の必要なしに継続使用に耐えうるものとし、初期性能を損なわない損傷限界に留まるものとしている。
性能値に加え、CW部材の自重による長期荷重を考慮して、次のような設定を行う。
① CW部材は、面内及び面外方向に移動しないこと。
② CW部材、支持金物等は、破損、脱落しないこと。
③ ガラスを除くCW部材は、有害な変形及び残留変形がないこと。
(d) 性能の確認
CW部材の自重による長期荷重に慣性力を加え、主要部材の発生応力度及び変形量を構造計算によって求め、要求性能を確認する。一般的なCW実大性能試験等では、慣性力に対する性能確認は困難である。
(3) 変位追従性
(ア) 層間変位追従性
(a) 一般事項
建物の変形は、中高層建物では、通常地震による変形が卓越するが、超高層建物では、風圧力による変形が問題になることもある。
(b) 性能値と要求性能
性能値は、建物剛性によって決まるため、次の2段階の要求性能に対する変形角(1/X)が特記されるのが一般的である。
① CW部材は、ほとんど補修の必要なしに継続使用できる。
② CW部材は、破損・脱落しない。特に、ガラス等が破損・脱落しないことが不可欠である。
中層建物での一般的な層間変位の値は、16.1.7(1)(カ) を参照するとよい。
また、高さ31mを超える建物の帳壁は、昭和46年建設省告示第109号(最終改正令和2年12月7日)により、1/150の層間変位に対して脱落しないことと規定されているので、条件に当てはまる場合はこれに従う。
ただし、中層建物でも、純鉄骨造で剛性の比較的小さい建物や、偏心している建物で、面により層間変形角が異なる場合等、建物構造の地震時の変形に対応して、鉄骨造に対しては1/150 〜 1/120、剛性の高いものに関しては1/200程度を目標とすることが多い。
なお、一般的な性能値の参考としては、「カーテンウォール性能基準」や「JASS 14 カーテンウォール工事」がある。
(c) 取付方式による層間変位追従性
一般的に、CW部材の取付けは、次のようにすることが多い(図17.1.1参照)。
① 層間方式で、面内剛性の高いCW部材(PC版等)では、一般に回転方式〈ロッキング方式〉、水平移動方式〈スウェイ方式又はスライド方式〉及び半水平移動・半回転方式〈ハーフロッキング方式〉のいずれかの方式で構造躯体へ取り付け、層間変位に追従させる。
方式の選択は、CW部材の形状(縦長部材か横長部材か等)、割付け(開口部の割付け等)、層間変位の性能値等によって決まるため、一概には選択できないが、できるだけ回転方式とすることが望ましい。
② 層間方式で、面内剛性の低いサッシ(ユニットサッシを含む。)では、サッシ枠を平行四辺形に変形させて層間変位に追従させる。
③ スパンドレル方式では、腰部分のCW部材は、梁・スラブと一緒に挙動するため、層間変位とは直接かかわらないが、腰部分のCW部材間に取り付けられるサッシ等(開口部のCW部材(横連窓))には、層間変位が集中することに注意が必要である。
④ 方立方式は、一端一点支点と考え、実質的に回転方式と類似した取付けとなる。
(d) 性能の確認
CW実大性能試験を行う場合を除き、層間変位が生じた状態でのCW主要部材の動きを計算によって求め、要求性能を確認する。
(c)①の場合では、CW部材に過度の応力が生じず、目地に充填されるシーリング材が設計伸縮率・せん断変形率範囲内にあることを計算により求め、確認する。これらの計算方法は、(-社)日本建築学会「外壁接合部の水密設計および施工に関する技術指針・同解説」を参考にするとよい。
(c)②の場合では、サッシのガラス溝底とガラスの小口が接触して、ガラスが破損しないことなどを計算により求め、確認する(16.1.7 (1)(キ) 参照)。
また、CW主要部材の動きにより、部材どうしがぶつかったり、目地に充填されるシーリング材が過度に圧縮されることがないことを確認する。
(イ) 鉛直相対変位追従性(参考)
(a) 一般事項
従来、わが国ではあまり設定していない条件であり、一般的な性能値がないのが現状である。長スパン梁や片持梁にCW部材が取り付く場合では、地震時の梁のたわみや梁の長期クリープによって、局部的に層間距離(鉛直距離)が変化(鉛直相対変位)することも想定される。
米国では、積載荷重による梁のたわみや、柱の温度変化による鉛直相対変位に対する追従性が要求されているようである。参考としてその内容を(b)から(d)に示す。
(b) 性能値
性能値は、梁の剛性等によって決まるため、変形最(mm)が指定されるのが一般的である。
(c) 要求性能
CW部材がほとんど補修なしに継続使用できること。
(d) 性能の確認
一般的に、鉛直相対変位が生じた状態でのCW主要部材の動きを計算によって求め、(3)(ア) と同様の事項を確認する。
(ウ) 熱伸縮追従性
(a) 一般事項
CW部材は、外気温や日射熱の影響によって伸縮する。特に、熱伸縮量の大きいメタルCW部材が顕著である。CW部材の取付け部は、熱伸縮に対しスライドできるようにし、熱伸縮品をCW部材問の目地で吸収するのが一般的である。
目地にシーリング材を充填する場合は、熱伸縮によってシーリング材が、圧縮・引張・せん断変形するので、シーリング材の設計伸縮率・せん断変形率を考慮した目地幅が必要となる。
(b) 性能値
性能値は、「外壁接合部の水密設計および施工に関する技術指針・同解説」による、温度ムープメントの符定式より求めた熱伸縮量が特記されるのが一般的である。9章7節を参考にするとよい。
(c) 要求性能
性能値に対して、次のような設定を行う。
① CW部材及びその取付け部に損傷が発生しないこと。
② CW部材間の目地に充填される水密性確保のためのシーリング材に、損傷が発生しないこと。
(d) 性能の確認
一般的に、CW主要部材の動きを計算によって求め、要求性能を確認する。シーリング材の設計伸縮率.せん断変形率に関しては、9章7節を参考にするとよい。
(4) 遮断性
(ア) 水密性
(a) 一般事項
水密性は、「外壁接合部の水密設計および施工に関する技術指針・同解説」に定義されているように、圧力差、重力、毛細管現象、気流等によって生じる室内側へ雨水の浸入を防止する性能であり、目地をシーリング材又はガスケットで塞ぐフィルドジョイント構法や、屋外側を開放又は半開放とし、室内側のウインドバリアに気密性の機能をもたせ、等圧原理により水密性と気密性を確保するオープンジョイント構法がある。
フィルドジョイント構法については、確実なシール施工ができる納まりとすること、(2) 耐力性及び(3) 変位追従性の変形によって、シーリング材に損傷が生じないような目地幅とすること、また、シーリング材に損傷が生じても、実害のある漏水とならないようにする工夫(例えば、二重シーリング工法や排水機構の採用)が重要である。
(b) 性能値
水密性は、耐風圧性と異なり、それが損なわれたとしても直ちに人的被的をきたすものではなく、また、建物条件によっても異なるため、性能値は、室内外の圧力差(Pa又はN/m2、JIS A 4706(サッシ)では等級)が特記されるのが一般的である。
なお、CWではFIX部と可動部に分けて設定し、可動部の設定にはJIS A 4706を参考にする。
本来ならば、性能値は、建物建設地で、降雨時にどの程度の風が吹くかを過去の気象観測結果より推定して定めるほうがよい。建設地における過去の気象観測データに基づいた降雨を伴う風速から算定する方法は、「外壁接合部の水密設計および施工に関する技術指針・同解説」を参照されたい。
一般的な性能値の参考としては、JIS A 4706や表17.1.3に示す「カーテン ウォール性能基準」がある。スタンダードで用意されている製品の水密性能は、グレード3までである。
表17.1.3 水密性能(カーテンウォール性能基準)
表17.1.3_水密性能.jpg
(c) 要求性能
性能圧力差(上限圧力差又は平均圧力差)においてCWから漏水しないこと。
(d) 性能の確認
CW実大性能試験や、JIS A 1517(建具の水密性試験方法)に類する試験(海外で実施されているプロペラで風を当てる試験も含める。)以外では、性能の確認は困難である。したがって、過去に実施された類似の断面を有するCW又はサッシの実大性能試験の結果を参考にして確認する。
(イ) 気密性
(a) 一般事項
気密性は、暖冷房負荷、建物全体のスタックアクション(煙突効果)、遮音性に影響する性能である。
不定形材料(主にシーリング材)が充填されている目地は、不定形材料が確実に接着していれば、通気しない。したがって、ここでいう「気密性」とは、定形材料で気密性を確保している部位(主に可動サッシや等圧工法等)に限定される。
(b) 性能値
気密性は、水密性と同様に、建物条件によっても異なるため、性能値は、圧力差10Paに対する単位壁面積、単位時間当たりの通気量(m3/m2h、JIS A 4706では等級)が、特記されるのが一般的である。
なお、一般的な性能値の参考としては、JIS A 4706や表17.1.4に示す「カーテンウォール性能基準」がある。一般的に、中高層建物では2グレード(JIS等級A-4)、超高層建物では3グレード(0.5等級)が目安である(図17.1.3参照)。
表17.1.4 可動サッシ部の気密性能(カーテンウォール性能基準)
表17.1.4_可動サッシ部の気密性能.jpg
図17.1.3_気密等級線.jpg
図17.1.3 気密等級線
(c) 要求性能
性能値を上回る通気量がないこと。
(d) 性能の確認
CW実大性能試験や、JIS A 1516(建具の気密性試験方法)に類する試験以外では、性能の確認は困難である。したがって、過去に実施された類似の断面を有するCW又はサッシの実大性能試験の結果を参考にして確認する。
(ウ) 遮音性
(a) 一般事項
遮音性は、主に外部からの騒音を遮断し、室内の用途に適した音環境が得られるようにするためにある。特に音楽ホール、スタジオ、会議室、ホテル客室等、室内の許容騒音レベルが小さい場合や建物が飛行場の近くや交通量の激しい道路に面する場合等は、特記により、別途外部騒音の調査等が必要となる。
(b) 性能値
建物条件や外部環境によって異なるため、性能値は、JIS A 4706に規定されている遮音等級線が特記されるのが一般的である。
なお、一般的な性能値の参考としては、「カーテンウォール性能基準」がある。また、CWの場合は、外壁全体の総合的な遮音性能としてとらえる必要がある。
全面ガラスのCWを採用した建物では、ガラス部分で外壁の遮音性が決まるため、開口部を含めた総合透過損失が、ガラスの透過損失を下回らないように設定するのが一般的である。
当該JISの概略的な考え方は、特定の周波数(125、500、4,000Hz)ごとに 5dB刻みで設定した透過損失値を結んだ等級線に対し、対象サッシの透過損失値がその等級線を上回るかどうかで、そのサッシの遮音性を規定している。室内許容騒音の値L1 (dB)と、外部騒音の値L2 (dB)が設定されれば、CWに要求される必要透過損失量が求められる。この計算式等の詳細は、「JASS 14」 2節[性能]を参照するとよい。
(c) 要求性能
性能値を下回らないこと。
(d) 性能の確認
CW実物大の試験及び竣工後の実測以外では、性能の確認は困難である。したがって、過去に実施された類似の断面を有するCW若しくはサッシの実物大試験又は類似のほかの建物の実測結果を参考にして確認する。
なお、総合透過損失は、構成部材ごとの透過損失と面積が分かれば、概算値を計算で求めることができる。
(エ) 断熱性
(a) 一般事項
断熱性は、冷暖房負荷に大きく影響し、省資源、省エネルギー、建物のランニングコスト、ひいては、ライフサイクルコストの面からも重要な性能である。
(b) 性能値
断熱性は、水密性と同様に、建物条件によっても異なるため、性能値は、普通、熱貫流率(W/m2・K、JIS A 4706では等級)又は熱韓流抵抗値(m2K/W、熱貫流率の逆数)が特記されるのが一般的である。
なお、一般的な性能値の参考としては、JIS A 4706や「カーテンウォール性能基雄」がある。
また、CWの場合は、外壁全体の総合的な断熱性能としてとらえる必要がある。
全面ガラスのCWを採用した建物では、ガラス部分で外璧の断熱性が決まるため、開口部を含めた総合熱貫流率が、ガラスの熱貫流率を上回らないように設定することもある。
なお、結露防止については、断熱性能のほか、室内の温湿度条件、防湿層の有無等が関連するため、設計仕様として図示又は特記される。
ガラス内面の結露水の処理は、一般的にサッシの結露受けに集めるが、その後の処理として、ふき取り式(自然乾燥)とするか、排出式(直接外部へ排出と室内のドレンヘ排出する2方法がある。)とするかを設計担当者に確認しておく必要がある。
(c) 要求性能
性能値を下回らないこと。
(d) 性能の確認
一般的に、CW各部の熱貫流率を計算により求め、要求性能を確認する。
各種CW外壁材の熱抵抗値(熱貫流率の逆数)は、「JASS 14 カーテンウォール工事」解説表2.11.3[各種カーテンウォール外壁材の熱抵抗値]を参照するとよい。
また、建築物のエネルギー消費性能向上に関する法律(平成27年法律第 53号)【建築物省エネ法】に適用できないが、JIS A 2105(カーテンウォールの熱性能ー熱貫流率の計算)が定められている。カーテンウォールのフレームを含む全部材を対象とした評価方法とされているので参考にするとよい。
省エネ性能向上に向け、日射遮へい物が附属した場合の熱貫流率及び日射熱取得率の簡易的計算法のJIS化が進められている。
ガラス内面での結露水は、サッシの結露受けの外にこぼれないことを確認する。また、結露水を外部に直接排出する方法は、排水孔からの風嗚り音、雨水の逆流等に十分な注意が必要である。寒冷地では、つららの発生や凍結にも注意が必要である。
(オ) 防耐火性
(a) 一般事項
CWの耐火性能は、外部火災及び内部火災に対しての延焼防止性が求められ、外壁非耐力壁としての性能及び延焼のおそれのある部分の開口部に対する性能が必要である。性能水準は、耐火性能の要否、用途、規模、立地等により決められる。
また、CW部材を柱及び梁の耐火構造の一部として利用する場合は、柱及び梁の耐火構造として認定されていなければならない。
CW(外壁非耐力壁)及び開口部に関して、建築基準法令に次のような規定があり、要求性能は、特記される。
① 法第2条第九号の二及び第九号の三:耐火建築物又は準耐火建築物の外壁非耐力壁及び開口部
② 法第64条:防火又は準防火地域内の耐火又は準耐火建築物以外の開口部
③ 令第107条及び令第107条の2:外壁非耐力壁としての耐火又は準耐火構造
④ 令第109条及び平成12年建設省告示策1360号の防火戸等とその構造
⑤ 令第112条第10項:防火区画と外壁が取り合う部分の耐火構造の壁又はひさし等
なお、延焼のおそれのある部分のCWの開口部については、従来から防火性能の検証方法及び試験装置の制約から防火設備に準じた仕様で実施されていた。平成20年5月9日付けの国土交通省住宅局建築指導課長通知(国住指発第619号)で「カーテンウォールの構造方法について(技術的助言)」が紹介されているので参考にするとよい。
(b) 性能の確認
法令を満足するよう施工されていること。
なお、CW部材は、工場で製作される部材であり、防火区画との間に隙間が生じる。法令には明確な規定はないが、その隙間を適切な防火材料でふさぐ必要がある(層間ふさぎという。)。
層間ふさぎについては、「JASS 14」解説図2.2.2[火炎防止層]、解説図 2.2.3 [ 層間ふさぎの実例 ]及び解説表 2.2.1[火炎防止層の耐火性能 ]等を参考にするとよい。
令和3年10月「層間ふさぎの試験方法」が(-社)建築性能基準推進協会から示され、本試験方法により性能が確かめられた層間ふさぎを適用することが想定される。代表的な層間ふさぎは同技術的助言で対応されることになるが、本試験による層間ふさぎの運用は特定行政庁等の主事判断に委ねられることになる。
本試験方法は小規模試験体(層間ふさぎ)を対象とし、層間ふさぎの遮熱・遮炎性能を確認することを目的としている。原則として試験において性能を確認できた範囲を適用範囲とする。本試験方法では通常の床に求められる非損傷性能については対象外とし、層間ふさぎに床としての性能を付与させる場合には載荷加熱試験により非損傷性能についても確認する必要がある。
また、メタルCWの場合での、防火区画と外璧が取り合う部分の耐火構造の壁についても、同解説図及び表が参考になる。
(カ) その他性能
避雷対策、発音・金属摩擦音等の防止、風切り音対策、結露防止対策、積雪・落雷対策等は「JASS 14」等で確認する。

17章 カーテンウォール工事 2節 メタルカーテンウォール

17章 カーテンウォール工事
2節 メタルカーテンウォール
17.2.1 一般事項
(1) この節は、メタルCWのうち、次の形態を対象としている。
(ア) 方立方式
(イ) 組立ユニット(ユニットサッシを含む。)による層間方式、スパンドレル方式及び柱・梁方式
なお、アルミニウム合金を鋳造した部材によるCWは、採用事例が少なく設計の要求によって多様な条件を設定する必要があるため、大規模工事でないと対応が難しい。「標仕」では寸法許容差が規定されていないので、仕様を含めて特記を確認する。
(2) 一般的な作業の流れを図17.2.1に示す。
図17.2.1_メタルCW作業の流れ.jpeg
図17.2.1 メタルCW作業の流れ
17.2.2 材料
(1) 一般的に使用する金属材料は、主部材、接合用材料及び取付け用金物も含め、表17.2.1から表17.2.3がある。
表17.2.1 材料の種類 品質・許容応力度
表17.2.1_材料の種類・品質・許容応力度.jpg
表17.2.2 接合部に使用する材料
表17.2.2_接合部に使用する材料.jpeg
表17.2.3 製作に使用する溶接棒
表17.2.3_製作に使用する溶接棒.jpeg
(2) シーリング材
(ア) シーリング材は、主に部材間の目地に充填するものと、ガラスの取付けに用いるものがある。このほか、メタルCW部材に隣接する他部材との目地に使用するものもある。
(イ) シーリング材の種類は、「標仕」17.2.2(2)で特記によるとされている。その参考として、CWにおいて被着体別に使用されるシーリング材の例を表17.2.4に示す。
(3) ガラスは、16.14.2(1)による。
(4) ガラス取付け材料
(ア) シーリング材
ガラスを留めるシーリング材は、「標仕」9.7.2 (1)により、種類は特記による。
(イ) 構造ガスケット
構造ガスケットは、建築構成材の開口部に取り付けて、板ガラス等と支持枠を直接支持し、風圧力に抵抗する耐力を保持するとともに、水密性及び気密性を確保するためのガスケットである。ロックストリップガスケット又はジッパーガスケットともいう。
構造ガスケットは、JIS A 5760(建築用構造ガスケット)に基づき、材質、形状等は特記による。材質には、黒色のクロロプレン系又はEPDM(エチレンプロビレンジエンゴム)系がある。
取付け形態別に数種類が製品化されているが、図17.2.2に示す主にメタルCWに使用するH型及びC型と、主にPCCWに使用するY型が一般的である。
製品の寸法は、使用するガラスの厚さや支持枠の寸法等によって異なる。
JISA 5760の抜粋を表17.2.5及び表17.2.6に示す。
表17.2.4 CW工事における被着体の組合せとシーリング材の種類(参考)
表17.2.4_CW工事における被着体の組合せとシーリング材の種類.jpg
図17.2.2_構造ガスケットの種類.jpg
図17.2.2 構造ガスケットの種類(JIS A 5760 : 2013)
表17.2.5 構造ガスケットの一般性能(JIS A 5760 : 2013)
表17.2.5_構造ガスケットの一般性能.jpeg
表17.2.6 構造ガスケットの特別性能(JIS A 5760 : 2013)
表17.2.6_構造ガスケットの特別性能.jpeg
(5) 断熱材
通常、パネル裏面に施工するのが一般的である。断熱材の種類は特記によるが、一般的にはポリウレタン、ポリスチレン系の発泡体及びグラスウール等の成形板がある。さらに、断熱と結露防止の目的で、ひる石系の材料を吹き付けることもある。断熱材の種類によっては、アルミニウム等を腐食させるものもあるため、その選択には注意が必要である。
(6) 摩擦低減材〈滑り材〉
摩擦低減材は、部材の熱伸縮による発音の防止及びCW部材取付け金物のスライドホール部(滑動部)の滑り性能の確保のために使用される。摩擦低減材の材質と使用形態は、ふっ素樹脂系のシート材(テフロン(商標)等)を金物間に挟んで使用する場合及び接触して滑動する金物に直接滑り塗料を塗り付ける場合がある。
(7) 取付け用金物
取付け用金物は、熱伸縮及び層間変位追従時の挙動や、風圧等の外力に対して安全であることを、計算等により確認することが直要である。
取付け用金物には、次の機能が要求され、一般的に2種類の長孔(スライドホールとルーズホール)が設けられている。
(a) CW部材の自重やCW部材に加わる外力を躯休へ伝達する機能
(b) 躯体の変位やCW部材の熱伸縮に追従させる機能(スライドホール)
(c) CW部材の取付けに際し、躯体精度、部材精度を吸収する機能(ルーズホール)
CW部材の取付け用金物の位置は、取付け躯体との関連で決まるため、一律ではない。したがって、取付け用金物の形状材質等は、メタルCWの製造所の仕様によるとしている。一般的に取付け用金物は、アルミニウム合金の押出形材や形鋼等を組み合わせて製作しているので、使用実績を確認するとよい。
「標仕」で、屋外に使用する場合のボルト・ナット類をステンレス製としているのは、防錆性を考慮したものである。
現場締付けの場合は、施工性を考慮し、溶融亜鉛めっき製を使用する場合もある。
なお、屋上工作物等、構造上大きな荷重を受けるために、認定を受けた溶融亜鉛
めっき高カボルトが使われる。この場合の高カボルトの機械的等級はF8Tである。
取付け用金物の代表的な例を、図17.2.3に示す。
(8) 外壁非耐力壁としての耐火構造
耐火材料は、耐火構造を構成するための材料であり、耐火構造は、性能別に国土交通省告示によって指定されている。
一般的に、CWの耐火材料は、30分又は1時間耐火の要求性能に基づき、乾式又は湿式の材料を、外壁を構成する材料や構造によって使い分けている。
乾式材料としては、セメント系を中心に各種の材料があるが、けい酸カルシウム板が多く使われている。また、湿式材料としては、金属パネル裏面に吹き付けるロックウールが使われている。
図17.2.3_方立方式での取付け用金物の例(横断面).jpeg
図17.2.3_方立方式での取付け用金物の例.jpeg
図17.2.3 方立方式での取付け用金物の例
17.2.3 形状及び仕上げ
(1) 「標仕」表17.2.1の単一材、組立ユニットとは、次のものをいう。ただし、鋳物は除く。
なお、同表中、形材の寸法許容差項目の曲がり、ねじれ及び平面度の許容差測定法は、JIS H 4100(アルミニウム及びアルミニウム合金の押出形材)に準ずる。
(ア) 単一材
単一材とは、ノックダウン方式等、部材単体で工事現場に取り付けられるように加工した部材で、形材とパネル材がある。
① 形材
アルミニウム合金押出形材又は形鋼等の形材を、所定の寸法に切断した棒状の部材。
② パネル材
アルミニウム合金板材又は鎖板を、切断あるいは血げ加工した1枚の部材。
(イ) 組立ユニット
アルミニウム合金押出形材や鋼材等、剛性の高い細長い部材で骨組を作り、それに表面材を工場で一体に取り付けた部材。工場で一体に組み立てたユニットサッシも含まれる。
(2) 仕上げ
「標仕」では、製品の見え掛り部分の仕上げは、特記によるとされている。金属材料の表面仕上げの種類は、通常次のとおりである。
(a) アルミニウム
① JIS H 8601(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜)
② JIS H 8602(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜)
③ 塗装(アクリル系、ウレタン系、ふっ素系)
表面仕上げの種類とその特徴は、14.2.2を参照されたい。
(b) 鋼材
屋内の見え掛り部分の仕上げは、塗装仕上げ(電気亜鉛めっき+ 錆止め+ 仕上げ塗装)が一般的である。屋外の場合は、周囲の環境が大きく影響するので注意する。
(c) ステンレス
一般的な表面仕上げは、14.2.3を参照されたい。
(3) 取付け用金物の防錆処理
「標仕」17.2.3(3)では、屋内で使用する取付け用金物(一般に耐火被覆される部分)の表面処理は、「標仕」表14.2.2のE種(JIS H 8610(電気亜鉛めっき)4級、めっきの最小厚さ12μm)、屋外(一般に雨掛りとなる部位)で使用する場合は、同表A種(JIS H 8641(溶融亜鉛めっき)、HDZT77 (jJ文庫77?m以上))としている。また、屋内に使用するボルト及びナットの表面処理はF種(JIS H 8610 3級、めっきの最小厚さ8μm)とし、ステンレス製とする場合には防錆処理は不要である。
(4) ガラス溝の寸法 形状等
メタルCWでのガラス溝の寸法・形状とは、次に示す面クリアランス、エッジクリアランス(サッシ下辺での水抜き機構を含む。)及び掛り代の確保を意味しており、要求性能によって必要寸法が変わるため、特記を原則とし、特記がない場合はメタルCWの製造所の仕様によるとしている(16.14.3及び(-社)日本建築学会「JASS 17 ガラス工事」参照)。
(a) 面クリアランス
CWの気密性、水密性を確保するため、ガラス回りのシーリング材が、十分に機能するための寸法である。適正値は、シーリングが確実に施工でき、かつ、設定された層間変位時のガラスの移動・回転に対してシーリング材が損傷を受けない値となる。
(b) エッジクリアランス
ガラスの層間変位追従性、ガラスのはめ込み作業性及びサッシ下辺での排水性を確保するための寸法である。適正値は、設定された層間変位時にガラス小口がサッシのガラス溝底と接しないこと(16.1.7(1)(キ) 参照)、無理なくガラスのはめ込み作業が行えること、さらに、サッシ下辺では、セッティングブロックの厚さを考慮し、長期に水と接触することを嫌う複層ガラス、合わせガラス及び網(線)入板ガラスを使用する場合は、速やかな排水が可能な隙間が必要となる。
(c) 掛り代
建具の気密性、水密性を確保するため、ガラス回りのシーリング材が十分に機能し(バックアップ材の形状も影響する。)、かつ、ガラスの耐風圧性を確保(強風時にガラスがたわみ、枠から外れない。)するための寸法である。また、ガラスの小口が屈折により室内から光って見えないことを条件とする場合には、別に検討する必要がある。
17.2.4 製 作
(1) メタルCWの製作は、CWの製造所の自主規格、製作図、製作要領書及び製作工程計画に基づき行われる。工場での製作工程は、図17.2.1を参照されたい。
(2) 接触腐食の対策
方立やパネル等に使用されるアルミニウム合金と、異種金属である鋼製下地金物とを接触させて使用することがある。屋内で使用する場合は、それぞれの通常の皮膜や塗膜による絶縁で問題にならないが、雨掛り部分や湿潤環境等で使用する場合は、膜膜塗装や絶縁シート等を用いて絶縁を確実にすることが重要である。
(3) 溶接加工に対する注意事項
溶接加工すると、表面仕上げ塗膜の変色や部材のゆがみは避けられない。再塗装できる場合を除き、溶接加工後に表面仕上げ塗装することが重要である。また、ゆがみの防止は、適切な溶接工程と矯正工程により対応する。
なお、防錆処理は、一般部、溶接部とも行うが、特に溶接部は適切な防錆処理が必要である。ただし、アルミニウム合金の場合は、通常の使用条件では耐食性に問題がないため、見え隠れ部分では防錆処理は行われていない。
17.2.5 取付け
(1) 躯体付け金物の取付け
(ア) 躯体付け金物の取付けは、躯体コンクリートヘ埋め込む場合と、鉄骨部材(梁)ヘ固定する場合がある。
躯体コンクリートに埋め込む場合には、躯体付け金物のアンカーと躯体鉄筋の位置に注意するほか、コンクリート打込み時に位置がずれないように注意する。
鉄骨部材へ溶接固定する場合は、本体鉄骨の製作に合わせてあらかじめ鉄骨工場で行う。また、所定の溶接長を確保するなど、必要な強度が得られるように注意する。
(イ) 躯体付け金物の取付け位置の寸法許容差
「標仕」表17.2.2に示す値は、「JASS 14 カーテンウォール工事」に準じたものである。取付け用金物(連結金物又は部材付け金物)には、この誤差を吸収するためのルーズホールを設けておき、取付け墨を基に取付け位置の仮調整を行ってボルト締め等を行う。
取付け用金物の位置決めの例を、図17.2.4に示す。
図17.2.4_取付け用金物の位置決めの例.jpeg
図17.2.4 取付け用金物の位置決めの例
(「カーテンウォールってなんだろう」より)
(2) 主要部材の取付け
(ア) CW部材等の取付けは、所定の取付け順序及び方法によって行う。取付けに際しては、安全を十分に確保するとともに、部材に損傷を与えないように注意する。また、仮留め時には、部材の脱落に十分注意する。
(イ) 主要部材の取付け位樅の寸法許容差
「標仕」表17.2.3に示す値は、「JASS 14 カーテンウォール工事」に準じたものである。
(ウ) CW部材は、建物の層間変他に対して追従し、部材の損傷・脱落防止を図っている。したがって、本留め後は、その挙動を拘束しないように仮留めボルト等は速やかに撤去する必要がある。
(エ) 取付け位置を調整し、許容差内にあることを確認した後、精度吸収のためのルーズホール部は、ボルト締め又は溶接で固定する。
一方、変位追従のためのスライドホール部は、滑動する必要があり、滑動を阻止するような強固なボルト締めや溶接等を行ってはならない。一般的には、手締め〈当たり締め〉程度とし、緩止めを施す。
溶接箇所は、腐食を防止するため、溶接スラグ、錆、水分、汚れ等を除去し、「標仕」表18.3.2のA種の錆止め塗料を途り付ける。
なお、「標仕」7.8.2で、耐火被覆材の接着する面の塗装範囲は、特記によると規定されているのは、錆止め塗装によって耐火被覆材の接着性が阻害される場合があるためである。
(3) 耐火構造
外壁の耐火構造と、延焼のおそれのある部分での防火設備は、法令に指定又は認定されている材料、工法に従って施工する(防火戸については16.1.3参照)。
上階への延焼と火炎を防止するための層間ふさぎ(CW部材と躯体との隙間の耐火処理)の施工は、次の事項に留意して行う。
(a) 関連工事の進捗に合わせ、適切な時期に施工する。
(b) 耐火材を隙間に吹き付ける場合は、耐火材の飛散によって、周辺部材が廊食、汚染しないように適切な養生を行う。
(c) CW部材の挙動によって、耐火材が脱落しないように取り付ける。
(d) 施工後の雨水等による耐火被覆材の流出防止処置を確実に行う。
17.2.6 ガラスの取付け
(1) メタルCWでのガラスの取付け方法は、「標仕」では、特記によるとしている。方法としては、シーリング材又は構造ガスケットによる4辺支持などがあるが、材料、支持方法等は特記による。
シーリング材によるガラスの取付けは、4辺支持のほか、2辺支持、構造シーラントで接着した辺も支持辺とみなすSSG構法もある。いずれの場合も、ガラス支持辺では、ガラスの内外両面ともにシーリング材を充填する方法が一般的であるが、次のような場合には、ガラス内外面のいずれか一方に、先付け又はあと付けグレイジングビードを使用する場合がある。
(ア) スパンドレル部等、梁によってガラス内面側のシーリング施工ができない部位
(イ) トップライト〈スカイライト〉等、将来内部からのガラス交換作業が、コストの点で不利な部位(ガラス内面側のシーリング材切断が困難)
(ウ) 超高層建物で、ガラス外面側のシーリング施工が困難な部位
(エ) ガラス外面側のシーリング材による汚れを極力避けたい場合
(2) CWでは、スパンドレル部や大きな開口部(ガラス板厚が増し、1枚当たりの質量が大きくなる。)のように、ガラスの取付け作業が困難な場合が多くある。ガラスの取付けを外部側、室内側のどちらからとするか、サッシ枠にどのように納めるか(左右又は上下やり返しの可否)、専用機械〈グレイジングマシーン〉を使用するかなど、施工性の検討が必要である。
また、高層建物で次のような場合は、将来のガラス交換コストが割高になる。
(ア) サッシ枠の形状や内装との関連で、ガラスの脱着が外部側に限定される場合
(イ) エレベーター等の機器では、内部揚重ができない大型ガラスの場合
(3) 構造ガスケットの枠への取付けは、四隅を先に決め、次に各辺の中央部を決め、たるみが出ないように均ーに納める。
構造ガスケットヘの板ガラスの取付けは、耐風圧性を確保するため、掛り代を左右均等に納める。
なお、「JASS 17 ガラス工事」では、構造ガスケットによる複層ガラスの施工は行わないとしている。これは、構造ガスケットは、ガスケットの先端(リップ部という。)の圧着(接着ではない。)で止水するため、施工時にリップ部に傷等の欠陥が生じると、ガラス溝内へ雨水が浸入するおそれがあること、また、ガラス小口とガラス溝底(ゴム)との隙間がシール工法に比べ小さく、ガラスに悪影響を与えやすい構造であるため、ガスケットのガラス溝部に排水機構を設け、さらに、複層ガラス小口の封着処理を増強しなければならないためである。したがって、複層ガラスを採用する場合は、小口の封着処理の強化を維持できるような処理が特記されていることを確認しておく必要がある。同じ観点から、合わせガラス及び網(線)入ガラスの小口処理も同様である。
また、CWではないが、これらのガラスを使用することの多い、勾配の少ないトップライトでは、さらに条件が悪くなるので同様の特記が必要となる。
17.2.7 シーリング材の施工及び試験
メタルCWの目地は、CW部材及びガラスの熱伸縮や層間変位による挙動が繰り返され、かつ、大きいため、シーリング材にとっては厳しい環境となる。シーリング施工に際し、次の事項の確認が重要である。
なお、シーリング材の施工及び試験は、「標仕」9章7節による。
(ア) 「標仕」9.7.5では、外部に面する金属、コンクリート、建具等に使用する場合は、プライマーを含めた事前の接着性試験を行うこととしている。CW部材の表面仕上げには、シーリング材との接着性があまりよくないもの(ふっ素樹脂等)があるため、接着性試験での確認が直要である。ただし、同じ材料の組合せで、過去に実施した信頼できる資料(試験成績書等)がある場合は、これにより代用できる。
(イ) CWの納まりによっては、例えば、方立方式の方立と無目の納まりのようにCW部材の取付けとシーリング施工を交互に行う(相番作業という。)場合がある。
複雑な納まりでは、連統した止水ラインが得られるように、実大見本や施工計画書等で適切な施工順序を確認することが重要である。
(ウ) CWでは、複数の仕上げ材に応じて成分の我なるシーリング材を連続させる(打ち継ぐ)箇所が生じる場合がある。異種シーリング材の施工順序によっては、連続性(打継ぎ接着性)が損なわれる組合せ(例えば、変成シリコーン系とポリサルファイド系、シリコーン系と他のシーリング材等)があるため、施工計画書等で施工順序を明確にし、周知させる必要がある。
なお、一般的に、メタルCWでは、工場で先行シールする箇所のシーリング材は、シーリング材の連続性を考慮してポリサルファイド系を使用している。
(エ) 2段階止水工法として、室内側の二次シールに中空状ガスケットを使用する場合では、中空状ガスケットの交点に隙間が生じ、気密性、水密性等の不良箇所となりやすいので、交点周辺にシールをするなど注意が必要である。
17.2.8 養 生
CW部材は、取付け完了後に、上階や同一階における他の工事に起因するじんあい等の付着、堆積によって変色、汚染等の化学的劣化のほか、排水経路の目詰まり、物の接触、衝突による破損等の不具合を生じることがある。
これらを防止するために工場で部材の養生が行われるが、工事現場における養生の管理方法によって、清掃の難易、引渡し時の仕上り具合に影響を及ぼす。
一般的に、じんあい等が付着した箇所は、雨が滞留しやすくなり、汚れがますます付着し、放置しておくと固着して除去し難くなり、腐食等を生じて素材を傷める場合がある。部材の表面仕上げに悪影響を与える物質は、早急に除去する必要があり、全面清掃のほかに汚れの状況に応じて中間で清掃することが望ましい。また、上階で溶接作業を行う場合は、溶接火花の飛散によるガラスの損傷等を防止するために必ず防炎シートで周囲を養生する。
養生材の選定に当たっては、日射及び大気汚染によって材料が変化し、除去時に接着材等が残存することがないよう注意する。
また、長期に渡る養生材の貼付によるウォータースポットにも注意する。ウォータースポットとは、アルミニウムの陽極酸化塗装複合皮膜表面に雨水等の水分が長時間付着し、塗膜と皮膜界面や、皮膜の微細孔中まで浸透した結果、部分的に水に濡れた状態となり、皮膜のもつ透明感が消え、乳白色になることで生じる斑点模様のことである。

17章 カーテンウォール工事 3節 PCカーテンウォール

17章 カーテンウォール工事
3節 PCカーテンウォール
17.3.1 一般事項
(1) 「標仕」では、PCCWを対象としている。
(2) 一般的な作業の流れを図17.3.1に示す。
図17.3.1_PCCW作業の流れ.jpeg
図17.3.1 PCCW作業の流れ
17.3.2 材料
(1) コンクリート
(ア) 普通コンクリートや軽量コンクリートのほか、特殊な軽量骨材を用いた軽量コンクリート及び炭素繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、鋼繊維等を混入し、鉄筋で補強しない材料(CFRC、GRC、VFRC、SFRC等)も使用されている。「標仕」では、実績が最も多く、PCCWの製造所で一般的に取り扱っている普通コンクリートや軽量コンクリート1種を使用することとしている。
「標仕」に規定されたコンクリートの品質は一般的な値であり、多くの PCCWの製造所では、スランプは12cm(スランプの許容差は、「標仕」表6.5.1による。)が標準的である。
(イ) コンクリートの調合は、所要強度、ワーカビリティー、均一性、耐久性等が得られるものが必要である。調合設計では、次に示した事項を考慮して所定の品質が得られるように決定する。
(a) 品質基準強度
(b) 脱型時強度
(c) コンクリート製造条件及び強度の標準偏差
(d) 加熱養生条件
一般的に、PCCWの製造所では、それぞれ基雄とする標準調合を定めており、強度等の条件が合う場合は、PCCWの製造所の標準調合を使用する方が問題が少ない。
(2) 鉄筋類
一般的に、主筋には、JIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に規定される SD295の異形棒鋼(径:D13、D10)を使用することが多い。また、これらの異形鉄筋を格子状に溶接した鉄筋格子も使用されている。
さらに、PC版の形状が、薄い平板の場合や乾燥収縮等のひび割れ防止のために、 JIS G 3551(溶接金網及び鉄筋格子)の溶接金網の線径6mmを主筋として使用する ことも多い。また、細部の補強等には、JIS G 3532(鉄線)の普通鉄線又はJIS G 3551の溶接金網の線径 3.2mm程度のものも使用されている。
JIS G 3551の溶接金網には丸鉄線と異形鉄線があり、一般的には、丸鉄線を使用することが多いが、異形鉄線も使用される。溶接金網を主筋に用いる場合の引張強度は、SD295に準じた引張強度とすることが多い。
(3) シーリング材
(ア) シーリング材は、PC版間の目地に充填するものが主であるが、このほか、PC版に先付け(打込み)したサッシ枠回り及び張り石間並びにPC版に隣接する他部材との目地に使用するものもある。
(イ) シーリング材の種類は、「標仕」17.3.2(4)で特記によると規定されている。その参考として、CWにおいて被着体別に使用されるシーリング材の例を表17.2.4に示す。
(ウ) 17.2.2の表17.2.4では、PCCWの部材間目地に使用するシーリング材を2成分形変成シリコーン系(MS-2、耐久性による区分9030)としている。これは、 PC版間の目地やPC版に隣接する他部材との目地に、水密や気密性能のほかに、地震時の建物層間変位による目地変形に追従する性能が必要なためである。
(4) 断熱材
PC版の裏面に直接施工するのが一般的である。断熱材の種類は特記によるが、一般的には、現場発泡形のポリウレタンが多い。そのほか、ポリウレタン、ポリスチレン系の発泡体及びグラスウール等の成形板がある。さらに、断熱と結露防止の目的でひる石系の材料を吹き付けることもある。断熱材の種類によっては、アルミニウム等を腐食させるものもあるため、その選択には注意が必要である。
また、断熱材は、工事中の雨掛りを避けるため、一般的に、現場でPC版を取り付けた後に施工することが多い。
(5) ガラスは、16.14.2による。ガラス取付け材料は、17.2.2(4)による。
(6) 取付け用金物と摩擦低減材〈滑り材〉
PC版の部材付け金物の位置は、取付け躯体との関連で決まるため一律ではない。したがって、取付け用金物の形状・材質等は、PCCWの製造所の仕様によるとしている。一般的に、取付け用金物は、形鋼や鋼板等SS400材を組み合わせて製作するものと、専用品として市販しているものとがあり、使用実績を確認するとよい。取付け用金物の防錆処理は、「標仕」17.3.3(3)では、屋外に使用する鋼材、ボルト及びナットの表面処理は表14.2.2のC種、屋内に使用する鋼材の表面処理は、同表E種、ボルト及びナットは同表F種としている。
取付け用金物は、PC版の層間変位追従時の挙動や風圧等の外力に対して安全であることを、計算等により確認することが重要である。
摩擦低減材は、スライドホール部(滑動部)の滑り性能を確保するため、金物間に挟んで使用する。材質は、ステンレス板、ステンレス板等にカーボングラファイトを加工したもの、フッ索樹脂系のシート(テフロン(商標))等があり、摩擦係数は、0.2〜0.3程度のものが多い。
取付け用金物に要求される機能及びCW部材の留付けについては、17.2.2(7)を参照されたい。
(7) 先付け材料
PC版の型枠に先付けし、コンクリートに埋め込む(打ち込む)ものには、タイル、石材等の仕上げ材料とサッシ枠やゴンドラ用ガイドレール及びPC版の部材付け金物やあと付けするサッシ等の取付け金物がある。
(a) タイル等の仕上げ材は、特記による。
(b) サッシ枠やゴンドラ用レール等は、特記による。
(c) PC版の部材付け金物は、PCCWの製造所の仕様による。
(d)あと付けするサッシ等の取付け金物は、それぞれの製造所の仕様による。
17.3.3 形状及び仕上げ
(1) PC版の製作精度
製作精度は、層間変位追従性や目地幅等に直接かかわるが、PC版は、単品ごとに製造するコンクリート製品であるため、製作精度をあまり厳しく設定すると現実の問題として製造が困難になる。
「標仕」17.3.3(1)に規定されているPC版の見え掛り部分の寸法許容差は、標準的な大きさ(4m × 2.5m程度)の平板状PC版の寸法許容差であり、標準を大きく上回る版、リブ付き形状版、パラペット部を含む長大版並びにL形コーナー版等では、PC版の形状、大きさと建物の条件等を考慮し、PCCWの諸性能に影響を与えない範囲で寸法許容差を決めることが重要である。
受注者等が受入検査として行うPC版の寸法検査の頻度は、辺長、開口部の内法寸法、先付け金物位置については全数、その他についてはロット単位の検査で確認するとよい。
(2) PC版に先付けする表面仕上材
表面仕上材は、美観だけではなく、耐久性にも影響を与えるので、その選択には十分な配慮が必要である。また、仕上材の種類や材料によっては、PC版製作に先立ち、試験体を製作して付着力又はアンカー耐力等の確認が必要である。
(3) Y型構造ガスケットの取付け溝
一般的に、PCCWでは、PC版にサッシ枠を使用しないで直接ガラスを留める場合は、Y型構造ガスケット(17.2.2 (4)(イ) 参照)を使用する。
Y製構造ガスケットをPC版にはめ込むための溝の形状例を、図17.3.2に示す(「JASS 14 カーテンウォール工事」参照)。溝幅・位置等の精度は、ガラスのはめ込みやガスケットのガラス保持性及び水密性に影響するため、十分な精度管理が必要である。
 図17.3.2_Y型構造ガスケットによるPC版へのガラスの嵌め込み(ポツ窓).jpeg
 図17.3.2_Y型構造ガスケットによるPC版へのガラスの嵌め込み.jpeg
図17.3.2 Y型構造ガスケットによるPC版へのガラスのはめ込み
17.3.4 製作
(1) 型枠の製作
型枠は、PC版の仕上げ程度及び製品精度に影響を与えるので、所定の要求品質が得られるものとする。一般的に、PC版の型枠は次のような理由から、鋼製の型枠を使用する。
(a) 剛性があり、組立及び脱型時の外力や振動による変形が小さい。
(b) 脱型が容易で、反復使用ができ、製品のばらつきが少ない。
(c) 吸水による変形がない。
(d) 加熱等の養生条件に耐える。
(e) コンクリートの品質に有害な影響を与えない。
なお、型枠の製作は、十分な精度管理が必要であるので、PCCWの製造所の型枠寸法許容差を確認する。
(2) 鉄筋の組立
(ア) 配筋は特記によるが、特記がない場合、監督職員は、PCCWの製造所が行うPC版の構造計算を確認して、承諾をする。
(イ) 鉄筋は、所定の形状に合わせ正確に配筋する。鉄筋は、型枠とは別の場所で組み立てられた後、運搬、仮置きされることが多く、その間に変形したり、あるいは型枠内でコンクリート打込み作業中に位置がずれることのないように堅固に組み立てたものとする。また、断面の小さな部分やひび割れの生じやすい部分は、配筋図に記載されていなくとも必要に応じて補強筋を配することが重要である。
なお、製造上やむを得ない場合や、実績がありPC版の性能上問題がないと思われる場合は、監督職員の承諾を受けて鉄筋の組立を溶接とすることができるが、溶接による鉄筋の断面欠損が生じないようにすることが重要である。
(ウ) PC版の鉄筋のかぶり厚さは、「標仕」表5.3.6により、耐久性上有効なタイルや石材仕上げ等がある場合は20mm、有効な仕上げがない場合は30mmを最小値とする。また、鉄筋相互のあきは「標仕」5.3.5(4)による。
(3) コンクリートの打込みは、各種の振動機(バイプレーター)を用いて密実に締め固め、気泡、豆板、クレーター状の跡等が生じないように行う。また、振動のかけ過ぎはコンクリートの分離を招くので、状況により適切な時間を選択しなければならない。
(4) コンクリートの養生及び脱型
(ア) PC版は、脱型強度を確保するため一般に加熱養生を行う。加熱養生は、次のような事項を考慮して養生計画を立てる。
(a) 加熱開始までの前置き時間
コンクリート打込み後、水引き前後の初期硬化開始直後の加熱養生は、コンクリートの強度発現性に悪影響を与えるため、前置き時間を2〜3時間とることが必要である。
(b) 養生温度の上昇勾配と下降勾配
上昇及び下降勾配は、15℃/h以下が望ましく、20℃/hを超えてはならない。
(c) 最高養生温度
最高養生温度は、40〜50℃前後が望ましく、70℃以上では有害とされている。
(d) 部材を養生槽から取り出したときの部材温度と外気温との差
20℃以下が望ましく、冬期等で、温度差が大きいと急激な収縮により内部応力が働き、ひび割れの要因となるので注意が必要である。
加熱養生条件の例を図17.3.3に示す。
図17.3.3_加熱養生条件の例.jpeg
図17.3.3 加熱養生条件の例
(イ) PC版の脱型は、脱型強度の確認後、有害なひび割れや欠け等が生じないように注意して行う。脱型時のコンクリート強度は12N/mm2以上とし、PC版の形状、大きさ等により適宜強度を増す。一般的には12〜15 N/mm2程度である。
17.3.5 取付け
(1) 躯体付け金物の取付けは、17.2.5(1)に準じる。
なお、PC版は重いため、次に示す取付け躯体の梁は、PC版を取り付けた時の梁のたわみやねじれが、許容値以内に納まることを確認し、必要に応じて適切な補強を行う必要がある。
(ア) 階段、パイプシャフト、ダクトスペース、エレベーターシャフト部分等、スラブと一体でない梁
(イ) 屋上に突出した柱上部(設備機器等の目隠し取付け用等)の梁
(ウ) スラブコンクリートを打ち込む前の梁
(2) 主要部材の取付け
「標仕」表17.3.2に示す部材の取付け位置の寸法許容差は、「JASS 14 カーテンウォール工事」に準じたものである。その他の安全作業、仮留めボルト等のあと処理及び取付け部の固定と防錆処理は、17.2.5(2)に準じる。
(3) 耐火構造
外墜の耐火梢造、延焼のおそれのある部分での防火設備及び層間ふさぎの施工は、17.2.5(3)に準じる。
17.3.6 ガラスの取付け
ガラスの取付けは、17.2.6に準ずる。
17.3.7 耐火被覆の施工
PC版が、躯体(柱、梁)の耐火構造を兼ねる合成耐火構造とする場合は、法令に基づき認定されている材料、工法に従って施工する。
なお、PC版自体のみならず、PC版の目地にも同等の耐火性能が必要であり、耐火目地材や、有効に火熱を遮断するシリコーンゴム製ガスケットが設置されていなければならない。
17.3.8 シーリング材の施工及び試験
シーリングの施工及び試験は、17.2.7に準ずる。
17.3.9 養 生
養生は、17.2.8に準ずる。
参考文献
参考文献.jpeg

18章 塗装工事 1節 共通事項

18章 塗装工事
01節 共通事項

18.1.1 一般事項
(1) この章は、美装及び防食を目的とした建築物の内外部の塗装工事を対象としている。
対象とする素地は、木部、鉄鋼面・亜鉛めっき鋼面及びモルタル面・プラスター面等の左官塗り面、コンクリート面・ALCパネル面・押出成形セメント板面、せっこうボード・その他のボード面等である。
「標仕」での塗装工事は、一般的な工事現場(一部工場等)で行う常温での塗装を想定しており、工場等で行う焼付け塗装については対象外である。
なお、「標仕」各節名称(    )内の略号は、原則的には「JASS 18 塗装工事」に準拠したものである。
(2) 作業の流れを図18.1.1に示す。
図18.1.1_塗装工事の作業と流れ.jpeg
図18.1.1 塗装工事の作業の流れ
(3) 施工計画書の記載事項は、概ね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
① 工程表(色見本の決定、施工(全体、部屋別、階別等)等の時期)
② 製造所名、施工業者名及び作業の管理組織
③ 塗装箇所及び素地若しくは下地の材料の種類による塗料の種別(防火材料の指定がある場合には認定品)並びに工程
④ 色調別による塗装範囲
⑤ 工場及び現場塗装の区分
⑥ 工法(はけ、吹付け、ローラー等)
⑦ 養生方法(施工中及び完了後)
⑧ 塗料の保管方法、安全管理の方法等
⑨ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
18.1.2 基本要求品質
(1) 塗装は建築物の内外部に施され、仕上げとしての美装の目的のみでなく、各種劣化外力(雨水、結露水、飛散・浮遊物質、二酸化炭素ガス、紫外線等)から塗装された材料を保護することによって、建築物の耐久性を向上させることを目的としている。
塗膜の性能に影響を及ぼす要因の一つとして、使用する塗料の耐久性があげられる。これは上塗り塗料だけでなく、中塗り、下塗り及び素地ごしらえに用いる材料についても同様である。これらの材料によって総合的な塗膜が構成され、硬化塗膜としての性能を発揮する。
したがって、塗装に使用する塗料その他の材料は、定められた品質及び性能を有するものとし、そのことが分かるように整理しておかなければならない。
(2) 塗装仕上り面の出来ばえとしての要求は、各塗り工程の種別であるA種、B種等としてグレードを指定される。実際の工事に際しては、要求に合わせて塗装部位ごとに、どの程度の出来ばえとするかをあらかじめ品質計画で定めておくことが必要である。
この仕上り面は、最終の上塗りだけではなく、各塗り工程ごとで考えるようにする。例えば、下塗りであれば次に塗る中塗りとの付着性を確保できるような面の状態となるように仕上げるとともに、所定の表面状態とする。
塗料の種類と塗装工程の組合せによっても、塗装の仕上りが異なることに注意することが重要である。
「標仕」では、一般的な塗装工程を考慮して、指定する標準的な工法、塗付け量、工程間隔時間及び最終養生時間等を守れば、所要の表面状態を確保できるようになっている。
(3) 硬化塗膜に対する要求性能としては、使用する塗料だけではなく適正な塗装工程との組合せで示されている。
塗膜は、所定の材料を所定の塗付け量、塗り工程で施工することによって要求される耐久性を有し、素地の耐火性等の性能を損なうものであってはならない。そのためには、これらの性能を阻害するような欠陥がない塗膜にすることは当然である。
塗膜の構成は耐久性に及ぼす影響が大きく、例えば、素地や塗膜の表面を調整するために使用するパテ材料の介在が著しい場合には耐久性が劣ってくる。このようなことを避けるためには、塗り工程の前に施す素地ごしらえの段階で、適切な処理を十分に行うことが重要である。
塗料に対する防火材料の認定は、所定の塗膜厚さで基材と同等の防火性能をもっものとして認められているものである。出来ばえを重視して、いたずらに厚く塗り過ぎることは防火性能に悪影響を及ぽすため、避けなければならない。
18.1.3 材料
(1)「標仕」では、屋内で使用する材料の選定に当たっては、揮発性有機化合物の放散による健康への影響に配慮することにしている。
本章では、シックハウス症候群の原因物質の一つであると考えられているホルムアルデヒドに関して、屋内で使用する塗料からの放散量は、JIS等の材料規格において放散等級の規定がある場合には特記によることとし、特記がなければ、F☆☆☆☆の塗料を用いることにしている。
建築基準法に関連するシックハウス症候群対策及びホルムアルデヒド放散量等の詳細、また、告示対象及び告示対象外でJIS等に放散等級等が規定されている塗料の表示とその確認方法等は、19章10節を参照されたい。
(2)「標仕」では、防火材料の指定がある場合は、建築基準法に基づき、指定又は認定を受けたものとしている。防火材科の確認は、(-社)日本塗料工業会の防火材料等証明書又は製品容器の表示マークによればよい。図18.1.2に表示マークの例を示す。
図18.1.2_製品容器の表示マークの例.jpeg
図18.1.2 製品容器の表示マークの例
(3) 塗料の色は、繊細なものであり、大量の塗料を現場において混合して同じ色調とすることは不可能に近い。このため、上塗塗料は指定した色の色彩や品質にばらつきが生じないよう、製造所において調合を行う。
製造所での調合には、所定の期間が必要であるため、工程に適合する時期に設計担当者と色彩計画を打ち合わせて決定する。
なお、一度に調色することが可能な少量の場合に限って、標仕では、同一の上塗登料の製造所の塗料を用いて現場調色することを認めている。
(4) 「標仕」では、塗装に用いる副資材は上塗塗料の製造所が指定する製品とすることを規定している。
(5) 「標仕」で規定された塗付け量は被塗物に塗り付けた量を示し、ロスを含まない。塗付け量を測定する場合は平らな面で行う。また、施工時に調整用として加えたシンナー等は含まないものとする。
(6) 塗料の種類と適用素地
(ア)「標仕」で規定している塗料の種類と適用素地との組合せを、表18.1.1に示す。
(イ)「標仕」では規定していないその他の主な塗料の種類と特徴を、表18.1.2に示す。
表18.1.1 塗料の種類と適用素地
表18.1.1_塗料の種類と適用素地.jpg
表18.1.2 「標仕」に規定されていない主な塗料の種類と特徴
表18.1.2_[標仕」に規定されていない主な塗料の種類と特徴.jpg
18.1.4 施工一般
(1) 塗装準備
(ア) 塗料の状態
(a) 搬入された塗料及び溶剤(シンナー)は、消防法等による危険物に指定されているものが多く、保管、貯蔵に当たっては、これら法令等を厳守しなければならない。
(b) 消防法関連法令とその略称を表18.1.3に示す。
表18.1.3 消防法関連法令とその略称
表18.1.3_消防法関連法令とその略称.jpeg
(c) 危険物と指定された塗料容器には、危険物の類別、危険物の等級について図18.1.3の例に示すような表示をすることが義務付けられており、この内容に応じた対応をしなければならない。
図18.1.3_危険物の種類、等級の表示の例.jpeg
図18.1.3 危険物の種別、等級の表示の例
なお、消防法で定められる第四類(引火性液体)となる危険物の等級区分は、次のとおりである。
① 危険等級 Ⅰ :特殊引火物(発火点が100℃以下のもの又は引火点が−20℃以下で沸点が40℃以下のもの)
② 危険等級Ⅱ:第一石油類(引火点21℃未満のもの)とアルコール類(炭素の原子数が1~3個までの飽和一価アルコール)
③ 危険等級Ⅲ:第二石油類(引火点が21℃以上70℃未満のもの)、第三石油類(引火点が70℃以上200℃未満のもの)、第四石油類(引火点が200℃以上250℃未満のもの)、動植物油類(引火点が 250℃未満のもの)
(d) 現場で使用する塗料関係の危険物の指定、貯蔵等についての消防法及び関連法令の関連部分の抜粋を次に示す。
危険物の指定及び貯蔵に関する法令
消防法(昭和23年法律第186号、最終改正令和3年5月19日法律第36号)
(用語の定義)
第2条
この法律の用語は左の例による。
⑦ 危険物とは、別表第1の品名欄に掲げる物品で、同表に定める区分に応じ同表の性質欄に掲げる性状を有するものをいう。
(危険物等の貯蔵等の基準設定の市町村条例への委任)
第9条の4
危険物についてその危険性を勘案して政令で定める数量(以下「指定数量」という。)未満の危険物及びわら製品、木毛その他の物品で火災が発生した場合にその拡大が速やかであり、又は消火の活動が著しく困難となるものとして政令で定めるもの(以下「指定可燃物」という。)その他指定可燃物に類する物品の貯蔵及び取扱いの技術上の基準は、市町村条例でこれを定める。
② 指定数量未満の危険物及び指定可燃物その他指定可燃物に類する物品を貯蔵し、又は取り扱う場所の位置、構造及び設備の技術上の基準(第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準を除く。)は、市町村条例で定める。
(危険物の貯蔵及び取扱いの制限等)
第10条
指定数量以上の危険物は、貯蔵所(車両に固定されたタンクにおいて危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「移動タンク貯蔵所」という。)を含む。以下同じ。)以外の場所でこれを貯蔵し、又は製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所でこれを取り扱ってはならない。ただし、所轄消防長又は消防署長の承認を受けて指定数量以上の危険物を、10日以内の期間、仮に貯蔵し、又は取り扱う場合は、この限りでない。
② 別表第1に掲げる品名(第11条の4第1項において単に「品名」という。)又は指定数量を異にする2以上の危険物を同一の場所で貯蔵し、又は取り扱う場合において、当該貯蔵又は取扱いに係るそれぞれの危険物の数量を当該危険物の指定数量で除し、その商の和が1以上となるときは、当該場所は、指定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱つているものとみなす。
③ 製造所、貯蔵所又は取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱いは、政令で定める技術上の基準に従つてこれをしなければならない。
④ 製造所、貯蔵所及び取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準は、政令でこれを定める。
(危険物取扱者)
第13条
政令で定める製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、甲種危険物取扱者(甲種危険物取扱者免状の交付を受けている者をいう。以下同じ。)又は乙種危険物取扱者(乙種危険物取扱者免状の交付を受けている者をいう。以下同じ。)で、 6月以上危険物取扱いの実務経験を有するもののうちから危険物保安監督者を定め、総務省令で定めるところにより、その者が取り扱うことができる危険物の取扱作業に関して保安の監督をさせなければならない。
② 製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、前項の規定により危険物保安監督者を定めたときは、遅滞なくその旨を市町村長等に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする。
③ 製造所、貯蔵所及び取扱所においては、危険物取扱者(危険物取扱者免状の交付を受けている者をいう。以下同じ。)以外の者は、甲種危険物取扱者又は乙種危険物取扱者が立ち会わなければ、危険物を取り扱ってはならない。
別表第1 (第2条、第10条、第11条の4関係)第四類抜粋
危険物の指定及び貯蔵に関する法令_別表第1第四類抜粋.jpeg
備 考

引火性液体とは、液体(第三石油類、第四石油類及び動植物油類にあっては、1気圧において、温度20度で液状であるものに限る。)であって、引火の危険性を判断するための政令で定める試験において引火性を示すものであることをいう。
十一
特殊引火物とは、ジエチルエーテル、二硫化炭素その他1気圧において、発火点が100度以下のもの又は引火点が零下20度以下で沸点が40度以下のものをいう。
十二
第一石油類とは、アセトン、ガソリンその他1気圧において引火点が21度未満のものをいう。
十三
アルコール類とは、1分子を構成する炭素の原子の数が1個から3個までの飽和一価アルコール(変性アルコールを含む。)をいい、組成等を勘案して総務省令で定めるものを除く。
十四
第二石油類とは、灯油、軽油その他1気圧において引火点が21度以上70度未満のものをいい、塗料類その他の物品であって、組成等を勘案して総務省令で定めるものを除く。
十五
第三石油類とは、重油、クレオソート油その他1気圧において引火点が70度以上200度未満のものをいい、塗料類その他の物品であって、組成を勘案して総務省令で定めるものを除く。
十六
第四石油類とは、ギヤー油、シリンダー油その他1気圧において引火点が200度以上250度未満のものをいい、塗料類その他の物品であって、組成を勘案して総務省令で定めるものを除く。
十七
動植物油類とは、動物の脂肉等又は植物の種子若しくは果肉から抽出したものであつて、1気圧において引火点が250度未満のものをいい、総務省令で定めるところにより貯蔵保管されているものを除く。
危険物の規制に関する政令(昭利34年政令第306号、最終改正令和元年12月13日 政令第183号)
(危険物の指定数量)
第1条の11
法第9条の4の政令で定める数量(以下「指定数量」という。)は、別表第三の類別欄に掲げる類、同表の品名欄に掲げる品名及び同表の性質欄に掲げる性状に応じ、それぞれ同表の指定数量欄に定める数量とする。
(指定可燃物)
第1条の12
法第9条の4の物品で政令で定めるものは、別表第4の品名欄に掲げる物品で、同表の数量欄に定める数量以上のものとする。
(貯蔵所の区分)
第2条 法第10条の貯蔵所は、次のとおり区分する。
1 屋内の場所において危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「屋内貯蔵所」という。)
(屋内貯蔵所の量準)
第10条 屋内貯蔵所(次項及び妨3項に定めるものを除く。)の位置、構造及び設備の技術上の基準は、次のとおりとする。(省略)
別表第3 (第1条の11 関係)第四類 抜粋
危険物の指定及び貯蔵に関する法令_別表第3第四類抜粋.jpeg
別表第4 (第1条の12関係)
危険物の指定及び貯蔵に関する法令_別表第4.jpg
備 考

可燃性液体類とは、法別表第1備考第十四号の総務省令で定める物品で液体であるもの、同表備考第十五号及び第十六号の総務省令で定める物品で1気圧において温度20度で液状であるもの、同表備考第十七号の総務省令で定めるところにより貯蔵保
管されている動植物油で1気圧において温度20度で液状であるもの並びに引火性液体の性状を有する物品(1気圧において、温度20度で液状であるものに限る。)で1気圧において引火点が250度以上のものをいう。
危険物の規制に関する規則(昭和34年総理府令第55号、最終改正令和3年7月21日総務省令第71号)
(品名から除外されるもの)
第1条の3
5 法別表第1 備考第十四号の組成等を勘案して総務省令で定めるものは、可燃性液体品が40パーセント以下であって、引火点が40度以上のもの(燃焼点が60度未満のものを除く。)とする。
6 法別表第1 備考第十五号及び十六号の組成を勘案して総務省令で定めるものは、可燃性液体量が40パーセント以下のものとする。
(e) 危険物貯蔵所の構造等に関して関係法令等には、主として次のような事項が定められている。
① 不燃材料で造った独立した平屋建てとし、周囲の建物から規定どおり離す。
② 屋根は軽量な不燃材料で葺き、天井は設けない。
③ 建物内の置場は、耐火構造の室を選ぶ。
④ 床には不浸透性の材料を敷く。
⑤ 消火に有効な消火器、消火砂等を備える。
⑥ 十分な換気を図る。
⑦ 窓及び出入口には防火設備を設ける。
⑧ 戸には戸締りを設け、「塗料置場」「火気厳禁」等の表示を行う。
(イ) 塗料の取扱い
(a) 塗料、シンナー等、化学物質を用いて施工する場合には、労慟安全衛生、環境対応への処置を行わなければならない。
(b) 有機溶剤中覇予防について
有機溶剤を使用して作業する場合の労働者の健康障害を防止するための措置については、労働安全衛生法、有機溶剤中誨予防規則等で、作業主任者の選任や取扱い上の注意事項等の掲示等が定められている。
① 有機溶剤作業主任者を選任しなければならない作業場所は、有機溶剤中毒予防規則第1条に次のように定められている。
1)船舶の内部
2)車両の内部
3)タンクの内部
4)ピットの内部
5)坑の内部
6)ずい道の内部
7)暗きょ又はマンホールの内部
8)箱桁の内部
9)ダクトの内部
10)水管の内部
11)屋内作業場及び前各号に掲げる場所のほか、通風が不十分な場所
「通風が不十分な場所」とは、天井、床及び周壁の総表面積に対する窓その他の直接外気に向かって解放しうる開口部の面積の比率が3%以下の屋内作業場をいう。
通風が不十分な船舶の内部及び車両の内部については上記同様に取り扱う。
② 有機溶剤作業主任者の職務は、有機溶剤中毒予防規則第19条の2に次のように定められている。
事業者は、有機溶剤作業主任者に次の事項を行わせなければならない。
1) 作業に従事する労働者が、有機溶剤により汚染され又はこれを吸入しないように、作業の方法を決定し、労働者を指揮すること。
2) 局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を1箇月を超えない期間ごとに点検すること。
3) 保護具の使用状況を監視すること。
4) タンクの内部において有機溶剤業務に労働者が従事するときは、第26条各号に定める措置が講じられていることを確認すること。
(c) 安全データシート(SDS)
塗料は、複数の化学物質から構成されており、その有害物による労働者の労働災害を防止したり環境への影響を考慮して、製造業者はSDS (Safety Data Sheet:安全データシート)の交付を労働安全衛生法等で義務付けられている。
その内容には、次のようなことが記載されており、施工に当たっては、これらを十分に確認し、安全・衛生対策を講じて作業を進めるとともに、廃棄物の取扱いにおいても、(g)に示すような廃棄上の注意事項に基づき処理しなければならない。
1) 安全データシートを作業場所の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けるなどの方法により、労働者の利用に供すること。
2) 安全データシートを活用して、安全衛生教育を行うこと。
3) 安全データシートを確認して、化学物質に関わる労働災害を防止するために必要な処置を講ずること。
4) 廃棄物処理に際して安全データシートの「廃棄上の注意」に基づいた処理を行うこと。
5) 安全データシート「環境影響情報」等に基づき、第三者等への現境管理を行うこと。
6) 安全衛生委貝会において、取り扱う化学物質の有害性、その他の性質について関係者の理解を深めるとともに、その適切な取扱い方法について調査を行うこと。
(d) 製造物責任法(PL法)への対応
製造業者は、取扱い説明書、技術資料、警告ラベル、安全データシート(SDS)等を完備し、「製造物責任法(PL法)」(平成6年法律第85号)に基づいて対応し、施工業者への情報提供を徹底し、施工業者はこれら情報に従った作業及び廃棄物処理等をしなければならない。
(e) 化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)
① 職場で化学物質を取り扱う際に、その危険性又は有害性、適切な取扱方法等を知らなかったことによる爆発、中毒等の労働災害が発生している。このような労働災害を未然に防止するには、その化学物質の危険性又は有害性の情報が確実に伝達され、伝達を得た事業場は、その情報を活用して適切な化学物質管理を推進することが重要である。
国際的には、平成15年に引火性や発がん性等の危険有害性の各項目にかかわる分類を行い、その分類に基づいて絵表示や注意喚起語等を含むラベル及び安全データシート(SDS)を作成・交付することなどを内容とする「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)」が、国際連合から勧告として公表された。このGHS国連勧告を踏まえ、表示・文書交付制度を改普した改正労働安全衛生法が、平成18年12月1日に施行された。容器にはGHSに対応するラベル表示をして、文書としてはGHSに対応する情報を含む安全データシート(SDS)を提供しなければならない。
国内では平成23年まで、MSDS(化学物質等安全データシート)と呼ばれていたが、国際整合の観点からGHSで定義されているSDSに統一された。
(参考GHS : Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)
② GHSに対応するラベルの例を図18.1.4に示す。ラベルには、「製品の名称」、「注意喚起語」、「絵表示(標章)」、「危険有害性情報」、「注意書き」、「供給者の特定」の情報が盛り込まれる。これらの概要を次に示す。
1) 「製品の名称」は、該当品の名称が記載される。
「成分」は、表示義務対象物質に該当するものが記載される。
2) 「注意喚起語」は、GHS付属書3又はJIS Z 7253 (GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法 – ラベル、作業場内の表示及び安全データシート(SDS))附属書Aに割り当てられた「注意喚起語」の欄に示されている文言(「危険」又は「警告」)が記載される。
なお、危険有害性クラス及び危険有害性区分等が決定されない場合は、注意喚起語の記載を要しない。
3) 「絵表示(標章)」は、GHS付属書3又はJIS Z 7253附属書Aに割り当てられた「絵表示」の欄に記載されている標章が記載される。
なお、危険有害性クラス及び危険有害性区分等が決定されない場合は、絵表示(標章)の記載を要しない。
4) 「危険有害性情報」は、GHS付属書3又はJIS Z 7253付属書Aに割り当てられた「危険有害性情報」の欄に示されている文言が記載される。なお、危険有害性クラス及び危険有害性区分等が決定されない場合は、記載を要しない。
5) 「注意書き」は、貯蔵又は取扱い上の注意等が記載される。
6) 「供給者の特定」は、表示する者の氏名(法人の場合は法人名)、住所及び地話番号等が記載される。
図18.1.4_GHSに基づくラベル表示の例.jpeg
図18.1.4 GHSに基づくラベル表示の例
(f)化学物質に関するリスクアセスメント実施義務化への対応
労働者の安全を確保するため、化学物質の管理が非営に重要な事項である。 2012年、胆管がんが発症した事例が相次いだことから、2014年6月、労働安全衛生法が改正され、SDSが交付義務の対象となっている化学物質についてリスクアセスメント実施が義務付けられることとなり、2016年6月1日に施行された。
1) リスクアセスメント実施が義務付けられるのは、塗料を扱う全ての事業者である。
2) 化学物質を取り扱う際に生じるおそれのある負傷・疾病の重駕度と発生の可能性を調査し、労働災害が発生するリスクの大きさを評価するものである。
(g) 廃棄物処理への対応
塗料をはじめ各種の産業廃棄物は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(昭和45年法律第137号)等によって規制されているが、特に留意すべき事項は次のとおりである。
1) 廃棄物の減量化とリサイクルの推進
2) 廃棄物処理に関する信頼性と安全性の確保
3) 不法投棄対策等
工事に当たっては、これら法律に従って産業廃棄物を適正に処理することになるが、特に不法投棄防止のため、産業廃棄物管理票(マニフェスト)(1.3.11参照)が全ての産業廃棄物に適用されている。
したがって、産業廃棄物の発生時には、施工者が産業廃棄物の運搬又は処分の資格を有する業者との委託基準に準じて委託契約した業者に「マニフェスト」を交付し、明確な指示を与えて、処理しなければならない。
(ウ) 塗装作業への塗料の調整
(a) 希釈(粘度調整)
原則として、調合された塗料をそのまま使用する。しかし、貯蔵中に均ーな品質を保持するため施工時の条件に適した粘度より若干高い粘度の製品になっている場合、施工時の素地の状態により粘度を下げる必要がある場合、気温が低い場合等には、所定のシンナーや水等により希釈し塗装に適した状態に粘度を調整することができる。
(b) こし分け
塗料は貯蔵中に分離、沈殿、皮ばり、凝集等の現象を生じている場合があり、使用直前によく混合し、均ーな状態とする。
この場合、かくはん等で再分散しない沈殿物、皮ばり、凝集等は、必要に応じてこし分けする。これらの操作が不十分な場合には、塗装後の膜厚に色の分離や光沢低下等の欠陥を生じる場合がある。
(2) 塗装工法
(ア) 研 磨
塗装面を研磨する目的は、次に示すとおりであり、目的に応じた施工をする。なお、研磨紙等は、JIS R 6251(研磨布)及びJIS R 6252 (研磨紙)による。
① 下地表面に付着している汚れ等を除去し、付着性向上のために行う場合で、鉄鋼面、亜鉛めっき鋼面の塗装によく用いられる。鋳止めを工場で塗装し、現場に搬入後、次の工程を塗装する場合等に行う研磨がこれに当たる。この場合、塗装された下塗りの塗膜厚を減少させないように行う必要がある。
② パテ処理面等を平滑にし、仕上げの平滑度を上げる場合に用いるもので、パテを厚付けした場合には、先に粗目の研磨紙で荒研ぎし、次に細かい目の研磨紙で目的の平滑度を得る。
(イ)パテの塗付け工法
被塗物の不陸、凹凸、穴等を処理して塗装仕上げの精度を高めるために用いる工法で、素地面に直接施工する場合と、各工程間に行う場合がある。
パテは、硬化後研磨を行うため、厚塗りを行う必要がある。このためひび割れが 生じないように、顔料や充槙材の配合が多くなっている。また、一般の塗料と比べて塗膜性能の向上を期待するものではないため、塗付け量は必要最小限とする。
パテ処理の工法には、パテかい、パテしごき、パテ付けの3種類がある。
① パテかい
局部的にパテ処理するもので、素地とパテ面との肌違いが仕上げに影響するため、注意しなければならない。
② パテしごき
素地とパテ面との肌がそろう程度に平滑になるようパテを残し、過剰なパテをしごき取る。
③ パテ付け
パテで全面を平滑にするもので、特に美装性を要求される仕上げの場合に行う。パテが厚塗りされるため、耐久性能を要求される仕上げの場合は不適当である。
(ウ)塗料の塗装工法
(a) はけ塗り
はけの毛間に塗料をよく含ませて、はけ目を均ーに塗り広げる伝統的な塗装手段である。
はけ塗りの特徴は、はけの材質、形状、寸法等を、塗料の種類、素地の種類、被塗物の形状等に応じて選択して用いることによって、いかなる素地や部位においても、均ーな塗膜厚さに仕上げることができる。
はけ塗りのチェックポイントは、次のとおりである。
1) 指定の塗料に適合した毛の種類、長さ、形状を用いているか。
2) はけは、よく洗浄され、ぬけ毛の生じないものを用いているか。
3) はけ塗りは、むらきり、はけ目通し等の操作をしながら、均ーに塗装しているか。
4) 仕上り面に、だれ、すけ、むら等が生じておらず、均ーに塗られているか。
(b) 吹付け塗り
吹付け塗りは、塗料を霧化状態にして被抱物に吹きむらのないように吹き付け、均ーな塗膜を形成する。
吹付け塗りは、エアスプレ一方式とエアレススプレ一方式がある。
① エアスプレ一方式
塗料を圧縮空気によって霧化させながら、その空気圧力でスプレーガンにより吹付け塗装する方法である。適用できる塗料の種類に限界があり、高い粘度では均ーに霧化せず、低粘度に希釈するため一般的に膜厚は薄い。また、塗装時の飛散が多く風の影響を受けやすいなどの欠点がある。
エアスプレ一方式の場合のチェックポイントは、次のとおりである。
1) 塗装開始前に周辺部分は十分に養生されており、また、適切な施工条件となっているか。
2) 塗料が所定の粘度に調整されているか。
3) スプレー塗装時の所定空気圧力に設定されているか。
4) 塗装作業の被塗物とスプレーガンとの距離が一定に保たれているか。
5) スプレーガンの運行速度は一定であるか。
6) スプレーバターンの形状は膜厚が均ーで、だれ、すけ、むら等の発生はないか。
② エアレススプレ一方式
塗料自体にポンプで10 ~ 20MPa程度の圧力を加え、スプレーガンのノズルチップから霧化して吹き付ける方法である。塗料自体に圧力を加えることができるため、高粘度や高濃度の塗料が塗装可能で、厚膜に仕上げられ、エアスプレ一方式に比べ飛散ロスも少なく効率的な施工ができる。
エアレススプレ一方式の場合のチェックポイントは、次のとおりである。
1) 塗料が所定の状態になっているか。
2) 塗料に適合したノズルチップが選定されているか。
3) 塗料が所定の圧力に加圧され、均ーに霧化し、スプレーパターンにテールが発生していないか。
4) 被塗物とスプレーガンとの距離及び運行速度は一定か。
5) 仕上り塗膜は厚さが均一で、だれ、すけ、むら等の発生はないか。
(c) ローラーブラシ塗り
ローラーブラシ塗りは、昭和30年代にアメリカから導入された塗装工法で、現在では、建築工事における塗装工法の主流となっている。ローラーブラシを構成しているアクリル又はポリエステル繊維等による塗料の含みがはけより多く、1回で広い面積に対して能率よく塗装できることが特徴である。隅角部、ちり回り等は、小ばけや専用ローラーを用いて均ーに塗る。
ローラーブラシ塗りのチェックポイントは、次のとおりである。
1) 塗料に適合した大きさ、毛の種類のローラーブラシを使用しているか。
2) 塗付け量に適合した毛の長さのローラーブラシを使用しているか。
3) 塗装時におけるローラーの回転は適切な速度で均ーに塗られているか。
4) 塗装作業はローラーマークをそろえて塗られているか。
5) 隅角部、ちり回り等は専用ローラー、小ばけ等で先行して塗られているか。
6) 仕上り面に、だれ、すけ、むら等が生じていないか。
(エ)各塗装工程の工程間隔時間及び最終養生時間
各塗装工程の工程間隔時間及び最終養生時間は、用いる塗料の乾燥硬化機構によって決まる。したがって、乾燥硬化の違いにより、次の工程に移る間隔時間を定める必要があり、また、最終工程には塗膜の使用可能までの時間を定める必要もある。
なお、工程間隔時間及び最終養生時間には、良好な塗膜形成と塗膜層間の付着性を得るために、塗料の種類によって次の工程に入るまでに一定時間以上必要な場合と、ある時間から定められた一定時間以内に次の工程に移らなければならない場合とがある。特に、水系塗料(水を主要な揮発成分とする塗料)では、気温が低く湿度が高いときに乾燥硬化が遅くなる。図18.1.5に示すように塗装・乾燥として最適な温度は20℃であるが、気温がそれよりも低くなるほど乾燥硬化が遅くなるため、良好な塗膜形成を確保するには、20℃施工時の標準工程間隔時問及び最終養生時間よりもそれぞれ長い時間が必要である。湿度についても高くなるほど乾燥硬化が遅くなることから、同様な注意を要する。
18.1.5 見 本
(1) 見本の作製
施工に先立ち、色彩計画によって決定された色、光沢、模様等の仕上げの状態について、見本塗板を作製する。
この場合、各工程が確認できるような工程塗りの見本とすることが望ましい。
(2) 見本の保管
設計担当者の確認を受けた標準見本は、最終検査時まで直射日光の当たらない場所で保管する必要がある。しかし、合成樹脂調合ペイント等の油変性塗膜は直接日光の当たらない場所に保管してあっても、徐々に反応が進行して色が変わるため、初期とは異なった色調になる場合もある。これらの見本については、事前に協議して合意を得て保管する。
18.1.6 施工管理
(1) 建築物の塗装は、内外装に施され、仕上げとしての美装のためだけでなく、各種劣化外力から被塗物を保陵することによって、建築物の耐久性を向上させることを目的としている。
このため、各種の素地に塗装された塗膜が所定の品質を確保できるように施工管理を行う必要がある。
塗装工事にかかわる具体的な施工管理の項目は、概ね次のとおりである。
(ア) 塗装工程
(a) 塗装前の素地の状態
(b) 使用材料
(c) 塗装方法
(d) 下塗り、中塗りの工程後の下地の状態(塗り工程の間隔時間、養生)
(イ) 塗付け量等
下塗り、中塗りの工程ごとに見本塗板との比較を行い、最終工程完了後「標仕」18.1.7により塗装面の確認を行う(18.1.7参照)。
(2) 施工時の条件
(ア) 乾燥硬化機構の種類
建設現場で用いられる塗料は、一般的に自然乾燥形塗料といわれ、その乾燥硬化機構には次の4種類がある。
① 揮発乾燥
塗料中の溶剤が蒸発するだけで塗膜を形成するもの。
(代表例:ラッカーエナメル)
② 揮発酸化乾燥
塗料中の溶剤が蒸発しながら樹脂が空気中の酸素と反応することで、塗膜を形成するもの。
(代表例:合成樹脂調合ペイント、油性系さび止めペイント)
③ 分散粒子融着乾燥
水又は溶剤中に分散している樹脂粒子が、水又は溶剤が蒸発することで融着し塗膜を形成するもの。
(代表例:合成樹脂エマルションペイント、非水分散形塗料)
④ 反応硬化乾燥(重合乾燥)
塗膜形成要素である樹脂と副要素である硬化剤を混合することによって反応が起こり、塗膜を形成するもの。
(代表例:2液形エポキシ樹脂エナメル、常温乾燥形ふっ素樹脂エナメル)
(イ) 乾燥硬化の条件
塗料は含有成分を蒸発させたり、化学反応を生じさせて、乾燥硬化するため、施工時の温湿度に関する条件が重要となる。
図18.1.5は、一般的な塗装と養生に適する温湿度条件を示す。
図18.1.5_塗装作業と養生に適する温湿度条件.jpeg
図18.1.5 塗装作業と養生に適する温湿度条件
(ウ) 養生
塗装工事における養生には、塗装しない部分に塗料が付着して汚れないようにする方法と、塗装した後の乾燥硬化過程で塗膜を正常に形成するため塗膜面に汚れが付着しないようにし、降雨、強風、直射日光等が当たるのを防いだり、温湿度を調節する方法がある。
18.1.7 塗装面の確認等
(1) 塗料及び塗膜の欠陥
塗装工事における欠陥の種類は、塗料状態における塗料の欠陥、塗装作業中における塗料の欠陥、塗装作業後における塗膜の欠陥及び塗装終了後の時間経過における塗膜の欠陥に分類でき、これらの欠陥の多くの場合は適切な予防処置を施すことにより避けることができる。これらの原因と対策を表18.1.4に示す。
(2) 塗装面の確認
塗装面の確認は、「標仕」表18.1.1による目視を標準としている。しかし、錆止め塗料塗りの場合は、塗付け量又は膜厚が防錆性能に大きく影響するため、次の方法により、これらの量又は厚さを確認することとしている。
(a) 現場における錆止め塗料塗りの場合は、膜厚測定が困難な場合が多いため、使用量から単位面積当たりの塗付け量を推定することを標準としている。
(b) 工場における鋳止め塗料塗りの場合は、電磁膜厚計等による膜厚測定の確認を標準とし、試験ロットの構成等は、施工者が品質計画で定めることとしている。
鋼製建具の工場錆止め塗装の膜厚に対する確認方法の例を以下に示す。
① 枠及び戸はそれぞれ別なロットとし、1組の作業班が1日に塗装した枠又は戸の全てについて、30個又はその端数を1ロットとする。
② 1ロットから1枠又は1枚を無作為に抽出し、膜厚を以下のように測定する。
1) 枠については、縦枠2箇所(左・右)及び上枠の中央部付近各1箇所、計3箇所を1回の試験とする。
2) 戸の両面について、上段、中段及び下段の中央部付近各1箇所、計6箇所を1回の試験とする。
3) 1箇所について3点測定し、その平均値をその箇所の膜厚とする。
③ 1回の試験の平均値が、規定された膜厚以上、かつ、全ての箇所の膜厚が規定された膜厚の85%以上の場合をロットの合格とし、これ以外を不合格とする。
④ 不合格となったロットは、全てについて再塗装し、上記に準じて再度確認を行う。
表18.1.4 塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その1)
表18.1.4_塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その1).jpeg
表18.1.4 塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その2)
表18.1.4_塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その2).jpeg
表18.1.4 塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その3)
表18.1.4_塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その3).jpeg

18章 塗装工事 2節 素地ごしらえ

18章 塗装工事
02節 素地ごしらえ
18.2.1 一般事項
素地ごしらえは、塗装対象となる素地面の汚れ及び付着物を取り去り、素地に対する塗料の付着性を確保するとともに、素地面を塗装に適した状態に調整するために、塗装に先立って実施する作業である。どんなに性能が優れた塗料を使用しても、素地ごしらえが不適切であれば塗装直後の仕上りが良好でないばかりか、早い時期に塗膜のはく離や素地の劣化を招くことになる。したがって、素地ごしらえが塗装仕上げの良否を決定するといっても過言ではなく、塗装工事において特に重要な工程である。
素地ごしらえの方法は、塗装対象である木部、金属、モルタル、コンクリート、ボード類等の素地の種類によって大きく異なる。
18.2.2 木部の素地ごしらえ
(1) 材 料
(ア) 木部下塗り用調合ペイント
「JASS 18 塗装工事 」M-304の品質に適合するものとする。「標仕」では、合成樹脂調合ペイント塗り及びつや有合成樹脂エマルションペイント塗りに対する木部の素地ごしらえにおける節止めに適用している。
(イ) セラックニス
JASS 18 M-308の品質に適合するものとする。セラックニスは、昆虫の分泌物をベースとしたものをアルコール類に溶解してワニス状にしたもので、アルコール以外の溶剤には溶解しない点を生かし、節部分のやにやしみ止めに用いられる。「標仕」では、合成樹脂調合ペイント及びつや有合成樹脂エマルションペイント以外の塗料塗りの節止めに適用され、その種類はJASS 18 M-308白ラックニス1種とされている。
(ウ) 合成樹脂エマルションパテ
合成樹脂エマルション、顔料、充填材等を配合して作られた高粘度のもので、 JIS K 5669(合成樹脂エマルションバテ)に規定されている。表18.2.1に示すように耐水形と一般形があり、それぞれに厚付け用と薄付け用がある。主として、コンクリート、モルタル用として開発されたものである。
なお、「標仕」では、屋内の木部については使用部位を限定していないため、耐水形を用いることとしている。しかし、耐水性はエポキシ樹脂系パテ等に比較して劣るので、より耐候性や耐水性を要求される外部には適用しないことにしている。
パテの使用は、塗膜の性能に影響するので、特に美装性が必要な場合以外はできるだけ使用しない方がよい。
表18.2.1 合成樹脂エマルションパテ
表18.2.1_合成樹脂エマルションパテ.jpg
(2) 標仕の表18.2.1に規定される素地ごしらえの工程を行った後に、着色剤等を用いて色むら直しをする場合の詳細は各節の塗り仕様において規定されており、監理指針においても各節で解説されている。
(3) 工程間隔時間の考え方
材料の標準工程間隔時間(18.1.6 (2)(ウ) 参照)を表18.2.2に示す。工程間隔時間は温湿度条件により異なり、ここでは、標準工程間隔時間として気温20℃における時間を表示している。一般的に、高温においては時間が短く、低温においては時間が長くなる。
表18.2.2 木部の素地ごしらえ用材料の種類と標準工程間隔時間
表18.2.2_木部の素地ごしらえ用材料の種類と標準工程間隔時間.jpg
18.2.3 鉄鋼面の素地ごしらえ
(1) 一般事項
「標仕」18.2.3では、鉄鋼面に対する素地ごしらえの種別をA、B、Cの3種類と規定している。
A種は化学薬品を用いる化成皮膜処理である。
B種は、ブラスト法を用いて鉄鋼面の錆を落とし、消浄な鋼材表面を得る素地ごしらえで、この上に施される塗膜の耐久性が向上する。7節[耐候性塗料塗り]の仕様には、必ず適用する。
C種は、主として、電動工具、手工具等を使用して、不安定な黒皮や赤錆を除去する一般的な素地ごしらえである。
錆落しの工程で「酸漬け」を適用するA種及び「ブラスト法」を適用するB種は、製作工場で行われる。
(2) 油類除去
(ア) 動・植物袖(防錆油等)は、80~100℃に加熱したアルカリ性脱脂剤で分解、洗浄して除去する。
(イ) 溶剤には石油系溶剤等を用いるが、火気厳禁として排気や換気に十分留意する。
(3) 錆落し
(ア) 黒皮〈ミルスケール〉は、次の方法で除去する。
(a) 硫酸5~15%の水溶液を 50 ~70℃に加熱したもので酸洗いした後、直ちに水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムの希( 1~2%)アルカリ性溶液につけて中和し、湯洗いする。
(b) ショットブラスト、グリットブラスト、サンドブラスト等の方法を用いて除去する。
(イ) 赤錆は、デイスクサンダー、ワイヤブラシ、スクレーパー、研磨紙等で取り除くことができる。
(ウ) 素地ごしらえが終わったら、直ちに錆止め塗料を塗り付けなければならない。
(4) 化成皮膜処理
鉄にりん酸塩溶液を作用させると、化学的に結合して安定したりん酸塩鉄の皮膜を生成する。このような処理をりん酸塩処理といい、この皮膜が鉄鋼面の発錆を抑え塗膜の付着性を向上させて鉄鋼面を保護する。
なお、このような処理面は、空気中の水分等により塗装に有害な酸化皮膜を生じやすいため、処理した後は直ちに錆止め塗料を塗り付けなければならないが、出来ない場合は、適切な処理を行う。
18.2.4 亜鉛めっき鋼面の素地ごしらえ
(1) 一般事項
亜鉛めっき鋼面に施された塗膜は、はく離することが多いため、素地ごしらえに十分な注意が必要である。「標仕」18.2.4では、亜鉛めっき鋼面に対する素地ごしらえの種別として、A、Bの2種類を規定している。
A種は塗装工場で行われる化成皮膜処理による素地ごしらえで、一般的に塗装工場で実施される塗装前の工程として化成皮膜処理を施す場合に適用される。
一方、JIS規格が規定される表面処理亜鉛めっき鋼板の素地ごしらえはB種であり、亜鉛めっき鋼板の製造工程に含まれており、鋼板製造工場で行われている。特に、鋼製建具等に使用される亜鉛めっき鋼板は、鋼板製造工場において「化成皮膜処理」まで施しており、工事現場ではB種とする。B種は汚れ、付着物の除去と脱脂のみを実施する素地ごしらえである。
(2) 油類除去は、18.2.3(2)に準ずる。
(3) 化成皮膜処理
亜鉛にりん酸塩溶液又は六価クロムを含まないクロメートフリー溶液を作用させると、化学的に結合して安定したりん酸亜鉛又はクロメートフリー亜鉛の皮膜を形成する。このような処理をりん酸塩処理又はクロメートフリー処理といい、この皮膜が亜鉛めっき鋼面の発錆を抑え亜鉛めっきと塗料との反応を抑制して、塗膜の付着性を向上させる。六価クロムは有害化学物質であるため、平成28年版「標仕」の改定から、使用しないこととなった。
(4) エッチングプライマー(JIS K 5633)
亜鉛めっき鋼面に対するエッチングプライマー塗りによる素地ごしらえは、塗膜の付着性を安定的に確保することが難しく平成28年版の「標仕」改定により「標仕」 18.3.2(2)においてJIS K 5629鉛酸カルシウムさび止めペイントが削除されたことから、併せて削除されている。
18.2.5 モルタル面及びせっこうプラスタ一面の素地ごしらえ
(1) 作業の流れを次に示す( “破線囲み”は「標仕」表18.2.4のA種の場合)。「標仕」では、特記がなければ、B種となっている。美粧性が求められる用途にはパテしごき、研磨紙ずりを行うことにより平滑性を持たせた素地ごしらえを行うA種を適用する。
18.2.5_モルタル面及びせっこうプラスター面の素地ごしらえ作業の流れ.jpg
(2) 乾 燥
(ア) 水分とアルカリによる影響
(a) 水分の場合
素地の含水量が多いところに塗った塗膜は、蒸発する水分を密閉したことになるため、次のような現象が生じる。
1) 塗膜が、被塗面に付着しない。
2) 塗膜と被塗面との間に水が介在し、一部塗膜が水に押し上げられてふくれができる。
(b) アルカリの場合
アルカリ性の強い場合は、塗膜自体が侵されて次のような欠陥を生じる。
1) 塗膜中の顔料が変退色する。
2) 塗膜がはく離する。
(イ) アルカリが塗膜に作用するのは、水分があるためであり、水に溶けた状態で塗膜に作用する。乾燥して塗装可能となる時期には、素地表面も弱アルカリ性となり、モルタルでは、その期間が夏期で2週間程度である。
(ウ) 塗装対象素地ごとの材齢による乾燥期間の目安は、表18.2.3に示す日数以上とする。
(エ) 素地のpH値経時変化を図18.2.1に、素地の乾燥速度を図18.2.2に示す。
表18.2.3 材齢による乾燥の目安
表18.2.3_材齢による乾燥の目安.jpg
図18.2.1_素地のpH時経時変化.jpg
図18.2.1 素地のpH時経時変化
図18.2.2_素地の乾燥速度.jpg
図18.2.2 素地の乾燥速度
(オ) 一般的に、素地の含水率の測定には高周波静電容量式水分計、pH(水素イオン濃度指数)の測定にはpH試験紙、pHメーター等が用いる場合がある。
(3) 汚れ、付着物除去
せっこうプラスター等の壁面は、汚れや付着物、ぜい弱層等を除く目的以外には、原則として研磨紙を掛けない方がよい。研磨紙を掛けると、塗料の吸込みが促進され、仕上り状態に悪影響を与える。また、粉末が付着していると、塗料の付着を妨げる。
汚れ、付着物の除去は、ブラシ類、研磨紙、ウエス等で素地を傷つけないように行う。
(4) 吸込止め
(ア) 一般的には、合成樹脂エマルションシーラーを使用するが、アクリル樹脂系非水分散形塗料塗りの場合は、塗料の製造所により適用する材料が異なるので塗料の製造所の仕様による。
(イ) 壁紙による仕上げの場合は、壁紙専用の材料を使用する。
(5) 穴埋め、パテかい
(ア) モルタル素地のひび割れや穴埋めは、外部及び水掛り部分には建築用下地調整塗材C-1を用い、屋内には合成樹脂エマルションパテ(耐水形)を用いる。
(イ) 合成樹脂エマルションパテは耐水形でも、外部及び結露しやすい箇所に使用すると、はく離の原因となるため使用を避ける。
(ウ) 壁紙による仕上げの場合は、壁紙専用のパテを使用する。
(6) 研磨紙ずり
(ア) 補修箇所が十分乾燥した後、表面を研磨紙ずりして平らにする。
なお、せっこうプラスター等にはPl20-220程度の細かいものを使用する。
(イ) 研磨紙ずり後、素地面を布でふいて付培した粉末等を取り除く。
(7) パテしごき
パテしごきは、パテを全面にへら付けし、表面に過剰のパテを残さないよう十分しごき取る。
建築用下地調整塗材C-1の施工に当たっては、次の点に注意する。
(a) 混和液と粉体の練混ぜは、混和液に粉体を徐々に加えてよくかくはんする。
練混ぜが十分でないと粉体に固まりが生じ、仕上り不良や強度不足となる場合がある。
(b) かくはん機で必要以上に練り混ぜると気泡が発生し、仕上り面に気泡跡が残る場合がある。
(c) 再調合する場合には、使用機材に付着している前回調合した材料を完全に洗い落として使用しないと、可使時間が短くなる。
(d) 素地表面に露出している金物については、防錆処理を行った後に塗り付ける。
(e) 施工後の降雨、降雪、気温の低下、直射日光や強風によるドライアウト等により、硬化不良を起こす場合がある。
(f) 壁紙による仕上げの場合は、壁紙専用の下地調整塗材又はパテを使用する。
18.2.6 コンクリート面、ALCパネル面及び押出成形セメント板面の素地ごしらえ
(1) コンクリート面及びALCパネル面の素地ごしらえ
(ア) 作業の流れを次に示す( “破線囲み” は「標仕」表18.2.5のA種の場合、 “一点鎖線囲み” は、ALCパネル面の場合)。
18.2.6_.コンクリート面、ALC面の素地ごしらえ作業の流れ.jpg
(イ) コンクリート面の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.5と表18.2.6に分かれているが、表18.2.5の素地ごしらえは、7節[耐候性塗料塗り]以外の塗料塗りに適用する。
(ウ) 乾燥、汚れ・付着物除去、研磨紙ずり及びパテしごきは、18.2.5による。また、材齢による乾燥の目安は表18.2.3による。
(エ) 下地調整塗りは、良好な仕上り及び耐久性を確保するため建築用下地調整務材を全面に塗り付ける。下地調整塗材 C-1は 0.5〜1mm程度、C-2は1〜3mm程度、 CM-2は3~10mm程度、Eは0.5~1mm程度の範囲で下地の不陸に応じて使い分ける。
(オ) 屋内で、コンクリート面等に素地ごしらえをして合成樹脂エマルションペイントを直接塗装する場合は、建築用下地調整塗材を全面に平滑に塗り付けた後、全面にパテしごきを行う必要がある。この場合、「標仕」表18.2.5のA種を用いるのが望ましい。
(カ) 仕上材が壁紙の場合、吸込止め、下地調整塗り、パテしごきに用いる「標仕」表18.2.5の塗料その他は壁紙専用のものとする。
(2) コンクリート面及び押出成形セメント板面の素地ごしらえ
(ア) 作業の流れを次に示す( “破線囲み” は「標仕」表18.2.6のA種の場合、”一点鎖線囲み”は、コンクリート面の場合)。
18.2.6_.コンクリート面、ECP面の素地ごしらえ作業の流れ.jpg
(イ) コンクリート面の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.5と表18.2.6に分かれているが、表18.2.6の素地ごしらえは、7節[耐候性塗料塗り]に適用する。
(ウ) 乾燥、汚れ・付着物除去及び研磨紙ずりは、18.2.5による。また、材齢による乾燥の目安は表18.2.3による。
(エ) 吸込止め及びパテしごきに使用する材料は、上に塗り重ねる塗料の製造所の仕様による。
(オ) 吸込み止めには、JASS 18 M-201(反応形合成樹脂シーラーおよび弱溶剤系反応形合成樹脂シーラー)を用いる。
18.2.7 せっこうボード面及びその他ボード面の素地ごしらえ
(1) 作業の流れを次に示す( “破線囲み” は「標仕」表18.2.7のA種の場合)。
18.2.7_せっこうボード面等の素地ごしらえ作業の流れ.jpg
(ア) 各ボードの継目処理部分は、十分に乾燥させてから、ボード面を傷つけないように汚れ、付着物を除去する。
(イ) 穴埋め、パテかいは、「標仕」18.2.7に規定するボード面に対して、合成樹脂エマルションパテ(一般形)を使用することにしているが、これは屋内の水掛りでないところに用いることを前提として、主要な要求性能である「仕上りの良さ」を考慮したものである。
(ウ) 大壁面や大空間では、素地面とパテ等の肌違いによる光沢むらが目立ちやすいため、「標仕」表18.2.7のA種を用いることが望ましい。
なお、素地がせっこうボードの継目処理工法の場合は、仕上りを考慮してA種とし、穴埋め、パテかい及びパテしごきには、せっこうボード用目地処理材(ジョイントコンパウンド)を使用する。
(エ) 仕上材が仕上塗材の場合、パテは、仕上塗材の製造所の仕様による。壁紙による仕上げの場合に用いるパテは、壁紙専用の製品とする。
(2) けい酸カルシウム板面の素地ごしらえ
(ア) 表面がぜい弱であるけい酸カルシウム板面の施工に当たっては、汚れや付着物を除去した後、吸込止めとしてJASS 18 M-201に基づく塗料を全面に塗り付けてから、穴埋めやパテかいを行う。
(イ) 表面補強効果がある JASS 18 M-201は、上塗塗料の製造所が指定するものとする。
(ウ) 屋内で塗装する場合、吸込止めに用いる材料は、作業者や居住者の健康配慮のため、上に塗り重ねる塗料の製造所の仕様による水性塗料で行う。

18章 塗装工事 3節 錆止め塗料塗り

18章 塗装工事
03節 錆止め塗料塗り
18.3.1 一般事項
この節は、建築物内外の一般部、構造体、鋼製建具、設備機器類等の鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面の下塗りである錆止め塗料塗りを対象としている。令和4年版「標仕」から、鉄鋼面及び亜鉛めっき面の錆止め塗料を3節にまとめた。
18.3.2 塗料種別
(1) 鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面の防錆を目的として、下塗りに使用される錆止め塗料は、JIS K 5621(一般用さび止めペイント)、JIS K 5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)、「JASS 18 塗装工事」M-109、M-111、JPMS 28、耐候性塗料塗りで使用するJIS K 5552、JIS K 5551等がある。
(2) 「標仕」で採用されている各種錆止め塗料の特徴は、次のとおりである。
(ア) 鉛・クロムフリーさび止めペイント(JIS K 5674)
JIS K 5674に規定されており、鉛及びクロムを含まない錆止め顔料を、ビヒクル(加工乾性袖(ボイル油)又は合成樹脂ワニス)に分散させてつくる鋳止め塗料である。1種は溶剤系塗料(有機溶剤を揮発成分とする塗料)、2種は水系塗料(水を主要な揮発成分とする塗料)であり、錆止め顔料の種類は特定されていないが、りん酸亜鉛、亜りん酸亜鉛等のほかにも種々の顔料を使用するとしている。りん酸イオンは鋼面を不動態化させて、防錆効果を示す。色調は赤錆色、白色、灰色等がある。
(イ) 水系さび止めペイント(JASS 18 M-111)
水系さび止めペイントの品質は、JASS 18 M-111に規定されている。
JASS 18 M-111に規定される水系さび止めペイントの耐複合サイクル防食性は、一般用さび止めペイント1種及び2種の耐複合サイクル防食性よりも1優れており、シアナミド鉛さび止めペイントの耐複合サイクル防食性と同等である。
(ウ) ジンクリッチプライマー(JIS K 5552)
JIS K 5552に規定されており、70%以上含まれている金属亜鉛が防錆効果を示す錆止め塗料である。
JISではアルキルシリケートをビヒクルとした1種(無機)と、エポキシ樹脂をビヒクルとした2種(有機)が規定されており、「標仕」表18.3.4では品質や施工性等から、下塗り(1回目)には2種を用いることにしている。
(エ) 構造物用さび止めペイント(JIS K 5551)
JIS K 5551に規定されており、種類はA種、B種、C種、D種及びE種がある。
2018年JIS K 5551の改定に伴い、水系塗料が規定に加わった。A種とB種は有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形エポキシ樹脂系塗料であり、C種は有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形変性エポキシ樹脂系塗料又は反応硬化形変性ウレタン樹脂系塗料、D種とE種は水を主要な揮発成分とする反応硬化形エポキシ 樹脂系塗料である。塗膜厚さによる区分があり、A種とD種は約30μm(標準形)、B種、C種及びE種は約60μm(厚膜形)となっており、「標仕」表18.3.4では品質や施工性の観点から、下塗り2回目と3回目にはA種を用いることとしている。当該規格では製品の形態(荷姿)に1液形と多液形があり、主剤と硬化剤からなる多液形が使用されることが多い。下塗りとして用いる反応硬化形エポキシ樹脂系塗料の標準工程間隔時間には、7日以内と制限があるため、「標仕」表18.7.1では、「鋳止め塗料塗り」の次に、工程1「研磨紙ずり」を設けている。
(オ) 一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイント(JPMS 28)
変性エポキシ樹脂と顔料、分散剤等を主成分とする。一液形であるため、作業性に優れており、平成25年版「標仕」で採用されていた鉛酸カルシウムさび止めペイントより防錆効果が優れている。
鉛酸カルシウムさび止めペイントについては、主に、平成25年版「標仕」の建具工事において使用されていたが、関連業界による共同実験の結果、一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントが、代替品として適していることが実証されたため、廃止された。
亜鉛めっき鋼面の素地ごしらえに採用されていたエッチングプライマー塗りは、鉛酸カルシウムさび止めペイントの付着性確保のために塗布するものなので併せて廃止された。これにより「標仕」の18章[塗装工事]より、鉛、クロムを使用した仕様が完全に廃止された。一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントの色調は、白色、灰色、赤錆色などがある。
上塗り塗料としては、合成樹脂調合ペイントをはじめ、弱溶剤系のポリウレタンエナメル、弱溶剤系のアクリルシリコン樹脂エナメルなども使用でき、用途として亜鉛めっき鋼面はもちろん、鉄鋼面にも適用できるが、「標仕」表18.3.1[鉄鋼面の錆止め塗料の種別]には、JIS、JASS規格があるため、JPMS 28は規定していない。
注意点として、一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントを塗装後は、必ず標準工程間隔時間内に上塗り塗装を行う。上塗り塗装を行わなかった場合、一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントの塗膜表面に白亜化が、発生することがある。標準工程間隔時間を超える場合は、研磨紙ずり後、上塗り塗装を行う。
(カ) 変性エポキシ樹脂プライマー(JASS 18 M-109)
JASS 18 M-109に規定されており、変性エポキシ樹脂と顔料、分散剤等を主成分とする主剤と、ボリアミド樹脂やアミンアダクト樹脂を用いる硬化剤から構成される、2液形下塗り塗料である。
純粋なエポキシ樹脂系塗料に比べて、得られる塗膜性能が素地調整の程度に大きな影響を受けず、適用対象の多い下塗り塗料である。特に、亜鉛めっき鋼面に対する付着性に優れている。
(3) 鉄鋼面の錆止め塗料の種別
(ア) 塗料種別は、「標仕」表18.3.1により、A種の鉛・クロムフリーさび止めペイント1種は、18.4.3[鉄鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り]と18.8.4[鉄鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り]に使用される。
(イ) 平成25年版「標仕」から、鉛・クロムフリー化に伴い、シアナミド鉛さび止めペイントは廃止された。
(ウ) B種の水系さび止めペイント及び鉛・クロムフリーさび止めペイント2種は、18.8.4[鉄鋼面つや有合成樹脂エマルションペイント塗り]に限定して使用される。
(エ) C種のジンクリッチプライマー及びD種の構造物用さび止めペイントA種は、 18.7.2[鉄鋼面の耐候性塗料塗り]に使用される。
(4) 亜鉛めっき鋼面鋳止め塗料の種別
(ア) 塗料種別は「標仕」表18.3.2により、JPMS 28、JASS 18 M-109若しくは JASS 18 M-111 を使用するように規定している。
(イ) 塗料種別は、「標仕」表18.3.2によりA種の一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントは、18.4.4[亜鉛めっき鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り]に使用される。
(ウ) ー液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントは、JISが制定されていないが、日本塗料工業会規格によってその性能が規定されており、亜鉛めっき面に対する付着性に優れている。作業性のうち、特に速乾性に優れており、鋼製建具などに適している。
(エ) B種の変性エポキシ樹脂プライマーは、18.4.4[亜鉛めっき鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り]と18.7.3[亜鉛めっき鋼面の耐候性塗料塗り]に使用される。
(オ) 変性エポキシ樹脂プライマーについては、JISが制定されていないが、日本建築学会材料規格によってその性能が規定されており、亜鉛めっき鋼面に対する付着性が優れている。
(カ) C種の水系さび止めペイントは、18.8.5[亜鉛めっき鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り]に限定して使用される。
18.3.3 錆止め塗料塗り
(1) 鉄綱面の錆止め塗料塗り
(ア) 「標仕」表18.3.3のA種における研磨紙ずりの目的は、ごみ、ほこり等の付着物を除去するためで、塗膜が薄くならないように軽く研磨する程度とする。
(イ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り又は吹付け塗りとし、工場塗装では条件が整えば浸漬(しんし)塗りとしてもよい。
(ウ) 塗料の標準工程間隔時間を表18.3.1に示す。
表18.3.1 鉄鋼面の錆止め塗料の種別と標準工程間隔時間
表18.3.1_鉄鋼面の錆止め塗料の種別と標準工程間隔時間.jpeg
(エ) 平成31年版「標仕」から、鉄骨等の鉄鋼面の錆止め塗料塗り工法で、2回目を鉄骨等の製作工場で塗る事が出来る規定が新たに追加された。
(オ) 耐候性塗料塗りの場合、下塗りまでは鉄骨等の製作工場で行い、現場に搬入して組立後は、塗膜の損傷程度に応じて、下地調整及びJASS 18 M-109に基づく錆止め塗料(「標仕」表18.3.2のB種)を3回塗る。
(2) 亜鉛めっき鋼面錆止め塗料塗り
(ア) 「標仕」表18.3.5のA種における研磨紙ずりの目的は、ごみ、ほこり等の付着物を除去するためで、塗膜が薄くならないように軽く研磨する程度とする。
(イ) 塗装方法は、はけ塗り又は吹付け塗りとする。
(ウ) 塗料の標準工程間隔時間を表18.3.2に示す。
表18.3.2 亜鉛めっき鋼面の錆止め塗料の標準工程間隔時間
表18.3.2_亜鉛めっき鋼面の錆止め塗料の標準工程間隔時間.jpeg
(エ) 「標仕」18.3.3 (4)(ア) では、鋼製建具等の塗装範囲を具体的に示しているが、両面フラッシュ戸の表面板裏側部分(力骨・中骨等を含む)、枠の裏側部分及び無目・方立等の裏側部分については、密閉部分で鋳の進行がほとんどないことから塗装範囲とはしていない。押縁については、ガラス施工時に取り外すことから、組立前に裏面側についても塗装することとしている。
(オ) 「標仕」で素地ごしらえをA種(化成皮膜処理)としているのは、亜鉛めっきの防錆機能を低下させずに下塗り塗料との付着性が得られることを考慮したものである。
(カ) 全ての塗装工程を鋼製建具等の製造工場で行う場合は、現場に搬入して組立後の補修方法等について事前に検討及び協識をしておく必要がある。
(キ) 下塗りまでは鋼製建具等の製造工場で行い、現場組立で生じた現場溶接部及び組立中の下塗り損傷部分は、ワイヤーブラシ、研磨布等を使用し、亜鉛めっき面を傷つけないように錆等を除去し、JASS 18 M-109(変性エポキシ樹脂プライマー(変性エポキシ樹脂プライマーおよび弱溶剤系変性エポキシ樹脂プライマー))(「標仕」表18.3.2のB種)による補修塗りを行う。ただし、鋼製建具等の製造工場にて下塗りとして一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントが使われている場合、JPMS 28(一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイント)(「標仕」表18.3.2のA種)でも補修塗りを行うことができる。
(ク) 使用する塗料、シンナー、調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。
(ケ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。

18章 塗装工事 4節 合成樹脂調合ペイント塗り(SOP)

18章 塗装工事
4節 合成樹脂調合ペイント塗り(SOP)
18.4.1 一般事項
この節は、建築物内外部の一般部、構造体、建具等の木部及び錆止め塗料を施した鉄鋼面や亜鉛めっき鋼面に対する汎用的な着色塗装仕上げを対象としている。
塗膜の耐アルカリ性が劣るため、コンクリート、モルタル、ボード類等の素地には適用できない。
本節で適用する材料の特徴は、以下のとおりである。
(1) 合成樹脂調合ペイント(JIS K 5516)
JIS K 5516に規定されており、隠ぺい力や耐候性に優れた着色顔料、体質顔料等と、耐水性や耐候性に優れる長油性フタル酸樹脂ワニスとを組み合わせて、空気中の酸素によって乾性油が酸化重合して硬化乾燥する塗料である。一般的に、鉄鋼面や亜鉛めっき鋼面に対する各種錆止めペイントを下塗りとする塗り仕様の中塗りと上塗りに、また、木部塗装における上塗りに用いられる。JISでは、1種は主に建築用、2種は大型鋼構造物用に分類されており、「標仕」では、1種を用いると規定している。
この塗料の特徴は、次のとおりである。
(a) はけ塗り作業に適しており、はけ目やだれが少なく、表面光沢をもつ平滑な仕上り塗膜が得られる。
(b) 酸化重合で硬化するため、乾燥時間は8~16時間程度と遅く、固形分が多く肉持ち感があり、硬くて汚れが付着しにくい塗膜を形成する。
(c) 硬化した塗膜は黄変しにくく、耐油性や80℃程度までの耐熱性をもつ。
(d) 塗膜の吸水性が比較的大きく、長期間に渡る耐水性は期待できない。
(e) 塗膜の耐アルカリ性が劣るため、コンクリート、モルタル等のアルカリ性を有する素地の塗装には使用できない。
(f) 暗い場所に塗装した場合、塗膜が黄味をおびて変色(黄変)する現象(暗所焼け)を生じることがあるため、白や淡彩色を暗い場所に塗装することは避けることが望ましい。
(2) 木部下塗り用調合ペイント
18.2.2(1)(ア) を参照する。木部合成樹脂調合ペイント塗りの下塗り工程に適用している。
(3) 合成樹脂エマルションパテ
18.2.2(1)(ウ) を参照する。
18.4.2 木部合成樹脂調合ペイント塗り
(1) 材 料
木部下塗り用調合ペイント及び合成樹脂エマルションパテについては、18.4.1(2)及び(3)を参照する。
(2) 塗 装
(ア) 「標仕」では、素地ごしらえ工程4「節止め」にも、「JASS 18 塗装工事」M-304(木部下塗り用調合ペイント)が規定されている。
(イ) 下塗りは、素地に対して塗料を十分なじませる目的で実施する。
(ウ) 合成樹脂エマルションパテは、耐水性が劣り、塗膜のふくれやはがれの原因になるため、浴室や洗面所等の水回りや外部には「耐水形」であっても用いない。
(エ) 塗装方法は、はけ塗り又は吹付け塗りとする。
(オ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.4.1に示す。
表18.4.1 木部合成樹脂調合ペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.4.1_木部合成樹脂調合ペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.4.3 鉄鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り
(1) 塗装方法は、はけ塗り又は吹付け塗りとする。
(2) 素地ごしらえ工程3「錆落し」の後は、発錆を防ぐため、標準工程間隔時間以内に次工程に移ることが重要であるが、標準工程間隔時間を超えて上に塗り重ねる場合は、適切な処理を行う。塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を表 18.4.2に示す。また、錆止め塗料塗りに用いる錆止め塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は表18.3.1による。
表18.4.2 鉄鋼面合成樹脂調合ペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.4.2_鉄鋼面合成樹脂調合ペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.4.4 亜鉛めっき鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り
(1) 塗装方法は、18.4.3(1)による。
(2) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は、表18.4.2による。また、錆止め塗料塗りに用いる錆止め塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は表18.3.2による。

18章 塗装工事 5節 クリヤラッカー塗り(CL)

18章 塗装工事
5節 クリヤラッカー塗り(CL)
18.5.1 一般事項
この節は、建築物内部の造作材、建具、造付け家具等の木部の透明塗装仕上げを対象としている。
18.5.2 クリヤラッカー塗り
(1) 材 料
(ア) 合成樹脂目止め剤
との粉、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウムなどの体質顔料を合成樹脂ワニス、溶剤・添加剤などと練り合わせたものである。
(イ) 溶剤形着色剤
溶剤形染料着色剤と溶剤形顔料着色剤があり、前者は染料、後者は顔料を有機溶剤に溶解したものである。
(ウ) 油性染料着色剤
一般的にはオイルステインと呼称される着色剤であり、染料を芳香族系炭化水素・脂肪族系炭化水素と少量の油ワニスあるいは合成樹脂ワニスなどに溶解したものである。
なお、オイルステイン(油性染料着色剤)のみを利用した建築物内部の木部仕上げについては、18.11.2にオイルステイン塗りとして示している。
(エ) ウッドシーラー
JIS K 5533(ラッカー系シーラー)に規定されており、ニトロセルロースを主要な塗膜形成要素とした透明の揮発乾燥性の塗料で、木材表面に一部浸透して、自然乾燥で短時間に塗膜を形成する。
素地への吸込止め、素地押え、着色押えをする目的で下塗りに用いる。
(オ) サンジングシーラー
JIS K 5533に規定されており、ニトロセルロースを主要な塗膜形成要素とした半透明の揮発乾燥性の塗料で、自然乾燥で短時間に塗膜を形成する。
膜厚を確保して肉持ち感を与えるとともに、研磨がしやすく平滑に仕上げる目的で中塗りに用いる。
(カ) 木材用クリヤラッカー
JIS K 5531(ニトロセルロースラッカー)に規定されており、工業用ニトロセルロースとアルキド樹脂を主要な塗膜形成要素とした、液状の揮発乾燥性の塗料である。
自然乾燥で短時間に塗膜を形成する塗料であるため、吹付け塗りとするのが一般的である。比較的小面積の場合又は吹付け塗りで、塗料のロスが多く不経済となる場合等は、はけ塗りも適用される。
塗膜が薄く肉持ちが悪いため、平滑な塗膜表面を得るには塗重ねが必要となる。
湿度が高い場合には、空気中の水蒸気が塗膜面に凝縮吸着されて、白化〈かぶり〉を生じやすい。
(2) 塗 装
(ア)「標仕」では、塗装種別をA種とB種としており、種別の選定は特記により、特記がなければ B種と規定している。A種は目止めの工程が含まれ上塗り2回の工程であるため、B種と比較すると平滑で肉持ち感のある仕上がりとなる。A種は美観性を要求される場合に適用する。
(イ) 目止めは素地である木材の導管、仮導管、細胞間隙などの穴を埋めて、平滑な塗装素地面を得るための工程であり、一般的に目止め剤が使用される。A種では、目止め剤として合成樹脂目止め剤を使用することとしている。また、「標仕」表 18.5.1の(注)2に示すようにA種で着色する場合、着色に用いる塗料の種類は特記による。着色剤は、溶剤形着色剤又は油性染料着色剤(オイルステイン)としている。いずれの着色剤も使用できるが、下塗りであるウッドシーラーとの接着性を考慮すると溶剤形着色剤を使用することが望ましい。また、溶剤形着色剤には溶剤形染料着色剤と溶剤形顔料着色剤があるが、後者の方が、前者と比較して退色しない。
着色を行わない場合は、素地の色調を活かした木地(生地)仕上げとなる。
(ウ) 下塗りはウッドシーラー、中塗りはサンジングシーラーを用いる。
(エ) 下塗り、中塗り、上塗りは、はけ塗り又は吹付け塗りとする。はけ塗りの場合は、ワニスはけを用いて、できる限り木目に沿って軽く塗り付ける。中塗り、上塗りは、前工程の塗膜が十分に乾燥していることを確認した後に施工する。
(オ) クリヤラッカーは、高湿度環境で塗装すると白化を生じやすいため、相対湿度 80%以上の時は作業を中止する。
(カ) 研磨は、所定の研磨紙を用いて、塗膜が十分に乾燥していることを確認してから、目止めや着色等の素地ごしらえ面まで研ぎ出さないように注意して、平滑になるように空研ぎする。研磨が終了したら、研ぎかすを十分に除去してから次の工程に移る。
(キ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.5.1に示す。
表18.5.1 クリヤラッカー塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.5.1_クリヤラッカー塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg