9章 防水工事 5節 塗膜防水

第09章 防水工事

5節 塗膜防水

9.5.1 適用範囲

(a) この防水層は塗膜防水材を塗り重ねて連続的な膜を構成する、いわゆるメンブレン防水の一種である。

JIS A 6021(建築用塗膜防水材)で規定されている屋根用塗塗膜防水材のうち、「標仕」ではウレタンゴム系とゴムアスファルト系のものについて規定されている。

ウレタンゴム系塗膜防水材は屋根、ひさし、開放廊下、バルコニーに、ゴムアスファルト系塗膜防水材は地下外墜、屋内に適用する場合が多い。

塗膜防水の保護層の種類は、モルタル、現場打ちコンクリート、ブロック敷き、塗装等がある。ウレタンゴム系塗膜防水材に対して、「標仕」では仕上塗料塗りが規定されている。ゴムアスファルト系塗膜防水材を地下外壁等に施工事する場合は、埋戻し用保護緩衝材や保護用コンクリート等の保護層が必要となる。

(b) 作業の流れを図9.5.1に示す。

 

(c) 準備

(1) 設計図書の確認、施工業者の決定については,9.2.1(c)に準ずる。
(2) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
① 工程表(箇所別、防水の種類別の着工、完成等の時期)
② 施工業者名、作業の管理組織
③ 施工範囲及び防水層の種類
④ 工法(下地の状態、施工法等)
⑤ 材料搬入(置場、数量等)
⑥ 消防法による消防署への届出
⑦ 排水勾配
⑧ コンクリート打継ぎ箇所における処置
⑨ 立上り、納まり
⑩ ルーフドレン回り、排水管等、役物回りの納まり
⑪ 保護層の確認
⑫ 異種防水層接続部の処置

⑬ 品質管理、基本要求品質の確認方法等

9.5.2 材 料

(a) 塗膜防水材

塗膜防水材はJIS A 6021(建築用塗膜防水材)に適合するものを用いる。

(i) 屋根用ウレタンゴム系には、高伸長形(旧1類)及び高強度形の2種類があり(JIS A 6021)、「標仕」では高伸長形(旧1類)を標準としている。2011年のJIS改正により、非露出用及び露出防水における1類の下層として用いられる2類は廃止された。

① ウレタンゴム系塗膜防水材
ウレタンゴム系塗膜防水材には、使用時に主剤と硬化剤を混合する2成分形と1成分形がある。
2成分形ウレタンゴム系は、主剤と硬化剤が反応硬化して塗膜を形成するものであり、1成分形ウレタンゴム系は、空気中の水分を硬化に利用するものである。

1成分形、2成分形とも使用部位に応じて、一般用、立上り用、共用がある。

② ゴムアスファルト系塗膜防水材
ゴムアスファルト系塗膜防水材は、環境に配慮した防水材として広く使用されており、塗り工法用と吹付け工法用がある。
塗り工法用には、ゴムアスファルトエマルションだけで乾燥造膜するもの(乾燥造膜型)と硬化剤により促進造膜するもの(反応硬化型)がある。

吹付け工法用には、乾燥造膜型のほかに、主剤と分解剤又は硬化剤を専用の吹付け機を用いて吹き付けることにより、短時間で促進造膜するもの(凝固造膜型)や反応硬化型がある。

(ii) 「標仕」表9.5.1は、ウレタンゴム系塗膜防水材の使用量を、硬化物密度 1.0Mg/m3の材料で示したものである。硬化物密度の異なるウレタンゴム系塗膜防水材における標準使用量を、表9.5.1に示す。

表9.5.1 硬化物密炭の異なる防水材における標準使用量

(iii) 「標仕」表9.5.1では、ウレタンゴム系塗膜防水材を、種別X-1では2工程、種別X-2では3工程で所定量を塗るよう規定されているが、実際の施工に当たっては、材料の特性、下地の状況等に応じて工程数を増やすことができる。

(iv) 「標仕」表9.5.2は、ゴムアスファルト系塗膜防水の防水材使用量を.固形分60%(質絨)の材料で示したものである。固形分の質量比が異なるものを使用する際は、この表と同等以上となるよう換算する。換算によって各固形分のゴムアスファルト系塗膜防水材の使用量に違いが生じ、統一することが困難なため、工程数及び各工程の使用量は、主材料製造所の仕様によることとした。

(v) 希釈剤を使用する際は、その量を含まないものとする。

(vi) JIS A 6021(建築用塗膜防水材)の抜粋を、次に示す。

JIS A 6021 : 2011
1 適用範囲
この規格は、主に鉄筋コンクリート造建築物の屋根及び外壁などの防水工事に用いる塗膜防水材(以下、防水材という。)について規定する。ただし、JIS A 6909に規定する建築用仕上塗材には適用しない。3 種  類

3.1 主要原料による区分
主要原料による区分は、次による。a) ウレタンコム系
ポリイソシアネート、ポリオール、架橋剤を主な原料とするウレタンゴムに充填材などを配合したウレタンゴム系防水材。引張強さ、伸び率、抗張積などの特性によって、高伸長形(旧1類)と高強度形とに区分する(表1参照)。
注記 JIS A 6021 : 2006に基づき、ウレタンゴム系1類の指定がある場合は、高伸長形(旧1類)で置き換えることができる。b) アクリルゴム系
アクリルゴムを主な原料とし、充填材などを配合したアクリルゴム系防水材。c) クロロプレンゴム系
クロロプレンゴムを主な原料とし、充填材などを配合したクロロプレンゴム系防水材。di ゴムアスファルト系
アスファルトとゴムとを主な原科とするゴムアスファルト系防水材。e) シリコーンゴム系
オルガノポリシロキサンを主な原料とし、充填材などを配合したシリコーンゴム系防水材。3.2 製品形態による区分
製品形態による区分は、次による。a) 1成分形
あらかじめ施工に供する状態に調製したもので、必要によって硬化促進剤、充填材、希釈剤などを混合して使用する防水材。

b) 2成分形
加工直前に主剤、硬化剤の2成分に、必要によって硬化促進剤、充填材、着色剤、希釈剤などを混合して使用するように調製した防水材。

3.3 適用部位による区分
適用部位による区分は、次による。

a) 屋根用
主として、屋根に用いる防水材。
なお、屋根用防水材には、次のものがある。
1) 一般用
主として一般平場部に用いる防水材。
2) 立上がり用
主として立上がり部に用いる防水材。
3) 共用
一般平場部と立上がり部との両方に用いる防水材。

b) 外壁用
主として、外壁に用いる防水材。

5 性 能
防水材の性能は、箇条6によって試験し、屋根用は表1に、外壁用は表2にそれぞれ適合しなければならない。ただし、劣化処理後の引張性能及び伸び時の劣化性状における促進暴露処理は、オープンフレームカーボンアークランプ又はキセノンアーク光源による暴露試験のいずれか一方でよい(箇条6及び表2省略)

表1ー屋根用塗膜防水材の性能

JIS A 6021:2011

(b) その他の材料

(1) プライマー

防水の種別によって、使用するプライマーが異なるので、防水材製造業者の指定するものとしている。ウレタンゴム系塗膜防水には、ウレタン樹脂等の高分子材料を有機溶剤に溶解した溶液形又は合成高分子材料を主成分とするエマルション樹脂系(1成分形及び2成分形)並びに無溶剤系(1成分形及び2成分形)のもの、ゴムアスファルト系塗膜防水には、アスファルト又は合成高分子材料を主成分とするエマルション形のものを用いることが多い。

(2) 接着剤

接着剤は、通気緩衝シートの張付けに用いるもので、合成ゴム等の高分子材料を有機溶剤に溶解した溶液形のもの、高分子材料工マルション形のもの並びにウレタン樹脂系(1成分形及び2成分形)のものがある。

(3) 通気緩衝シート
特殊加工したプラスチック発泡体、改質アスファルトシート、ゴムシート又は不織布等から構成されるシート状の材料で、塗膜防水層の破断やふくれの発生を低減する目的で用いられる。
通気緩衝シートは、防水材となじみがよく、下地の挙動に対する追従性が高く、下地に含まれる水蒸気を分散する効果を有し、また、寸法安定性の良いものを用いる。

なお、通気緩衝シートには、接着剤塗布工程を除くことができる自着層付きのタイプや、固定金具によって下地に固定する機械固定タイプもある。

(4) 補強布

補強布は、合成繊維及びガラス繊維の織布又は不織布を用いる。補強布は、必要な塗膜厚さの確保、立上り部等における防水材の垂下がりの防止及び下地に発生したひび割れからの防水層の破断対策に有効である。

(5) シーリング材

塗膜防水では、下地ひび割れ、ルーフドレン及び配管回りその他の異種下地の取合い等の処理に、シーリング材を用いるのが一般的である。ウレタンゴム系抱膜防水ではポリウレタン系(1成分形又は2成分形)のもの、ゴムアスファルト系塗膜防水では、改質アスファルト系のものを用いることが多い。

(6) 仕上塗料
仕上塗料は、防水層を紫外線等から保護して耐久性を向上させる目的と、意匠上の目的で防水層の表面に塗布するものである。2成分形アクリルウレタン樹脂系が一般的であるが、ふっ索樹脂系、アクリルシリコン樹脂系等の高耐候型をはじめ、環境配慮型や高日射反射型の実績が増加している。また、仕上塗料の選択により、平滑仕上げ、つや消し仕上げ、粗面仕上げ等ができる。
「標仕」表9.5.1では、仕上塗料をー工程で所定量を塗るよう規定されているが、実際の施工に当たっては材料の特性等に応じて工程数を増やしてもよい。

なお、仕上げの種類により材料使用量が異なる場合がある。

(7) 防水保護材
ゴムアスファルト系塗膜防水に用いる保護材には、保護緩衝材、絶縁用シートがある。

9.5.3 防水層の種別及び工程

 

(a) 種 別

「標仕」では、ウレタンゴム系2種類、ゴムアスファルト系2種類が規定されている。部位別の適用の例を次に示す。

(i) 屋根            :種別X-1, X -2
(ii) ひさし、開放廊下、バルコニー:種別X-2
(iii) 地下外墜          :種別Y-1
(iv) 屋内            :種別Y-2

なお、ゴムアスファルト系については、上記以外にも屋根保護防水工法の施工事例がある。

(b) 工法の種類

「標仕」で規定している種別及び工程を、工法の種類別にすると次の密着工法と絶縁工法になる。

(i) 密着工法( X-2、Y-1、Y-2 )

下地の含水率が高いと、水蒸気によりふくれが生じることがあるので下地の乾燥状態には注意を要する。

(ii) 絶縁工法( X -1 )
下地に、通気緩衝シートを張り付けた上に、塗膜を構成するもので、下地亀裂等による動きを、通気緩衝シートで吸収する。水蒸気を大気中に排出するために脱気装置を設ける。「標仕」ではその種類及び設置数量は特記することと規定されているが、50m2に1箇所程度が目安となる。

ただし、絶縁工法は平たん面に適用する工法で、立上り面には密着工法X-2の立上り仕様を適用する(図9.5.2参照)。


図9.5.2 平たん面とX-1とX-2立上り仕様の接合例

9.5.4 施 工

(a) 防水下地

(1) 下地コンクリート面は、平たんで凹凸がないようにする。また鉄筋・番線等の突起物、粗骨材、モルタルのこぼれ等は防水層を損傷する原因となるので完全に除去する。

一般屋根防水層の下地の仕上げの程度は、9.2.4 (a)(1)による。

(2) 入隅は通りよく直角とし、出隅は通りよく45°の面取りとする。

(3) 下地の乾燥については9.2.4 (a)(1)を参照する。

(4) ルーフドレン等の金物は、ワイヤブラシ又は溶剤で防錆剤、錆.油分等を除去する。

(b) プライマー塗り

(1) プライマー塗りに先立ち、下地の乾燥を入念に行い、下地が十分乾燥したのちにプライマー塗りを行う。

(2) プライマーは、種類に応じてローラーばけ、毛ばけ又は吹付け機を用いて塗布する。2日以上にわたって防水材を施工する大面積の現場では、1日の防水材施工範囲のみのプライマー塗布を行う。

(3) プライマー塗りは、防水下地以外の箇所を汚さないように行う。プライマーの乾燥時間は、気象条件や下地乾燥条件等により遅れる場合があるので、十分に乾燥したことを確認したのちに次の工程に移る。

(c) 下地の補強

出隅及び入隅の下地補強塗りにおいて、種別Y-1は補強布を省略することができる。ただし、補強布を省略する場合には増吹き及び増塗りにより補強塗りを行うようにする。

(d) 通気緩衝シート張付け
通気緩衝シートは、接着剤を塗布し、塗布した接着剤のオープンタイムを確認して接着可能時間内に、隙間や重なり部をつくらないようにシート相互を突き付けて張り付け、ローラー転圧をして接着させる(図9.5.3参照)。

通気緩衝シートは、立上りから、ウレタンゴム系塗膜防水材製造所の指定する寸法だけ離し、端部はウレタン系シーリング材等で処理する。突付けとした箇所は、ウレタンゴム系塗膜防水材製造所の指定するジョイントテープ等で処理する。

また、自着層のある通気緩衝シートでは、シート下面の自着層の接着力で下地に接着させる。

機械的に固定する場合は、固定金具と固定釘で取り付ける。

なお、通気緩衝シートの張付け作業中に降雨・降雪が予想される場合は、シートの下に水が回らないように養生する。

図9.5.3 通気緩衝シートの張付け

(e) 防水材塗り

(1) 2成分形防水材は、防水材製造所の指定する配合により、可使時間に見合った量を、かくはん機を用いて十分練り混ぜる。また、1成分形は充填材等の成分が沈降・分離している場合があるので、内容物が均ーになるよう注意しながら再分散させる。

(2) 補強布を張り付けるときは、防水材を塗りながら張り付けるが、曲がらないように注意をする。

(3) 塗り工法用防水材は、ゴムベら、金ごて又は毛ばけで均ーに塗り付ける(図9.5.4及び5参照)。

 

 

図9.5.4 ウレタンゴム系塗膜防水材塗り
図9.5.5 ゴムアスファルト系塗膜防水材塗り

(4) 吹付け工法用防水材は、防水材製造所の指定する吹付け機を用いて、指定する配合により、混合・吹付けを行う(図9.5.6参照)。

なお、「標仕」表9.5.2の Y-1においては、吹付け工法が一般的であるが、

周辺環境・施工面積によっては、塗付け工法で行う場合もある。

図9.5.6 ゴムアスファルト系塗膜防水材吹付け

(5) 防水材塗継ぎの重ねは幅を100mm以上、補強布の重ねは幅を50mm以上とする。

(6) 塗重ねと塗継ぎは、下層が造膜したあととする。

(f) ウレタンゴム系塗膜防水層の仕上塗料塗り

(1) 仕上塗料は、かくはん機を用いて十分練り混ぜる。2成分形は、練混ぜ不十分による硬化不良を生じないよう、また、1成分形は顔料及び骨材等が十分分散するよう注意しながら練り混ぜる。

(2) 仕上塗料塗りは、ローラーばけ、毛ばけ又は吹付け機を用いて行う。

(g) ゴムアスファルト系塗膜防水層の保護
地下外壁面には保護緩衝材を用いる。屋内、地下平面には、ポリエチレンフィルム又はフラットヤーンクロス等の絶縁用シートを用い、コンクリート又はモルタルを打ち込む。

ただし、屋内の小面積の場合は、モルタルの挙動が小さいことから絶緑用シートを設けないのが普通である。

(h) 検査
塗膜防水の場合は、膜厚の確保が防水性能を左右する。しかし膜厚の計測には、針入式膜厚計が使用されることがあるが、この方法では防水層を傷つけることになり欠陥につながりやすいため、避けるべきである。

そのため、材料の使用量管理が必要であり、検査に当たっては、外観検査とともに各材料が規定通り使用されていることを確認する。

(i) 施工時の気象条件
施工時の天候・気温等については9.1.3(a)を参照する。

9章 防水工事 6節 ケイ酸質系塗布防水

第09章 防水工事
6節 ケイ酸質系塗布防水

9.6.1 適用範囲

(a) ケイ酸質系塗布防水は、コンクリート表面にケイ酸質系塗布防水材を塗布することにより、その生成物でコンクリートの毛細管空隙を充填し、防水性能を付与する工法である。したがって、この防水の適用部位はコンクリート自体に透水に対する抵抗性が要求される部位となることから、建築における地下構造物を対象としている。

適用部位は、地下構造物の外壁・内壁及び床とするが、常時水の滞留する水槽においては天井も適用部位とする場合がある。適用下地としては、建築の地下構造物のうち現場打ち鉄筋コンクリートで構築されるコンクリート面を対象とする。

「標仕」で規定するケイ酸質系塗布防水材には、C-UIタイプとC-UPタイプの 2種類がある。C-UIタイプは粉体を水で練り混ぜるタイプである。一方、C-UP タイプには、粉体を水及び専用のポリマーディスパージョンと練り混ぜるタイプのものと、再乳化形粉未樹脂が混合された粉体を水で練り混ぜるタイプのものがある。

ケイ酸質系塗布防水材は、主にポルトランドセメントとケイ酸質微粉末からなり、製造面からは環境に配慮された材料である。また、C-UPタイプに使用されるポリマーディスパージョンもすべて水系材料で、環境ホルモンや臭気、有機溶剤中毒の心配なく使用することができる。

最終的に建築物を取り壊す場合も、ケイ酸質系塗布防水材は特別管理産業廃棄物ではないので、再資源化も含めて、一般のコンクリート廃材と同じ取扱いができる。

(b) 作業の流れを図9.6.1に示す。

(c) 準備

(1) 設計図書の確認、施工業者の決定については.9.2.1 (c)に準ずる。

(2) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(箇所別、防水の種類別の着工、完成等の時期)
② 施工業者名、作業の管理組織
③ 施工範囲及び防水層の種類
④ 工法(下地の状態、施工法等)
⑤ 材料搬入(置場、数量等)
⑥ コンクリート打継ぎ箇所における処置
⑦ 木コン部の処置
⑧ 防水層共通管・貫通 H 鋼回りの処置
⑨ 保護層の確認
⑩ 養生計画

⑪ 品質管理、基本要求品質の確認方法等

 


図9.6.1 ケイ酸質系塗布防水工事の作業の流れ

(d) 防水層の位置
(1) 背面水圧側

防水層が地下水又は水と接しない側にある場合で、建物の内側又はビットの内側を指している。

(2)水圧側

防水層が地下水又は水と接する側にある場合で、建物の外側又は水槽の内側を指している。建物の外側に防水層を施す場合は、山留め壁と外壁の間に防水施工できる作業空間( 1m以上)を確保することが必要である。

(e) 適用部位

(1) 外壁の防水層は、水圧側若しくは背面水圧側のどちらか又は両側とする(図9.6.2(イ)参照)。


図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(イ)

 

(2) 床の防水層は、背面水圧側だけとする(図9.6.2(ロ)参照)。


図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(ロ)

(3) 営時水の滞留している水槽の防水層は、水圧側だけとし、施工箇所は壁、床、天井とする(図9.6.2(ハ)参照)。

なお、水槽間の間仕切壁については、未処理部分から漏水する場合があるので、両面に防水層を設ける。


図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(ハ)

(4) 排水・配線・配管等ピットの防水層は、水圧側若しくは背面水圧側のどちらか又は両側とする。ただし、床については、背面水圧側だけとする(図9.6.2(ニ)参照)。
図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(ニ)

9.6.2 材 料

 

(a) ケイ酸質系塗布防水材

日本建築学会規格 JASS 8 T-301(ケイ酸質系塗布防水材料の品質および試験方法)に規定されるケイ酸質系塗布防水材は、主にポルトランドセメント、細骨材、ケイ酸質微粉末(活性シリカとも呼ばれている。)等から構成される既調合粉体である。この既調合粉体に水を練り混ぜて用いる C-UIタイプと、既調合粉体にポリマーディスパージョン(エマルション又はラテックス)と水、又は再乳化形粉末樹脂が混合された既調合粉体に水を練り混ぜて)用いる C-UPタイプの2種類がある。表9.6.1にJASS 8 T-301の品質基準を示す。

既調合粉体に含まれるケイ酸質微粉未は、コンクリートの防水性を向上させるのに必要なケイ酸イオンを溶出するもので、活性な非品質微粉末を用いている。また、C-UPタイプに使用するポリマーディスパージョンとしては、EVA(エチレン酢酸ビニル)系、PAE(ポリアクリル酸エステル)系、SBR(スチレンブタジエンラバー)系等があり、再乳化形粉末樹脂としては、EVA系及びPAE系等がある。

表9.6.1 ケイ酸質系塗布防水材料の品質
(b) 材料の調合
調合比としては、既調合粉体100重量部に対して表9.6.2に示すものが標準的である。
表9.6.2 ケイ酸質系塗布防水材の標準的な調合比(重量部)

(c) 防水機構

一般に硬化したコンクリートの微細構造中には、図9.6.3に示すように、主に未水和セメント粒子、骨材、消石灰、ケイ酸カルシウム水和物等のほかに種々の空隙が存在している。この空隙には、主なものとしてエントラップトエア、エントレインドエア、毛細管空隙、ゲル空隙等が挙げられる。その中で全空隙量の多くを占めるものが、毛細管空隙である。これはコンクリートの練混ぜ水が、コンクリート硬化後もセメント粒子間に毛細管力によって保持されてそのまま残った空間である。その大きさは、直径3nm〜30μm 程度で、形状は細長いものから板状のものまでの連続又は不連続の空間として存在する。


図9.6.3 セメント系硬化体の微細構造の模式図 (JASS8より)

 

コンクリートの強度発現及び水密化は、セメントの水和によって生成したケイ酸カルシウム水和物量に依存し、消石灰は寄与していないと考えられている。しかし、このケイ酸カルシウム水和物の生成量には単位セメント量によって限度があり、毛細管空隙をすべて埋め尽くすには限界があるために、硬化したコンクリートは非常に多孔質なものとなりやすく、高圧水の掛かる場合に漏水を引き起こす。

ケイ酸質系塗布防水材は、このようなコンクリートの表面に塗布することによってコンクリート自体がもっている毛細管空隙を充填し、その量を減少させコンクリートを緻密なものに変化させて、透水に対して防水性能を付与する材料である。その機構として次のことが挙げられる。ケイ酸質系塗布防水材を水又は水とポリマーディスパージョンと練り混ぜたものを塗布することで、防水材中のケイ酸質微粉末(活性シリカ)からケイ酸イオンが溶出し、コンクリート中に浸透・拡散していく。このケイ酸イオンがコンクリートの空隙中にあるカルシウムイオンと化学的に反応してケイ酸カルシウム水和物を生成し、毛細管空隙を充填していく。また、このケイ酸カルシウムのほかに副次的にエトリンガイドも生成する。これらの反応はすべて水を媒体として起こる浸透・拡散現象であるため、施工前にはコンクリートに十分水を含ませ、コンクリート中の毛細管空隙を水で満たす必要がある。この機構によって毛細管空隙は走査型電子顕微鏡による図9.6.4に示すような針状の形状を有する結晶の成長促進作用で充填され、メンブレン防水とは異なるコンクリート自体の緻密化による防水が可能となる。


図9.6.4 生成した針状結晶例

(d) その他の材料

その他の材料として下地処理材があるが、下地コンクリート及び防水材との接着や防水性能に悪影響を及ぼさないものでなければならない。一般的には、表9.6.3に示す材料で防水材製造所の指定するものとする。

表9.6.3 その他の材料

9.6.3 防水層の種別及び工程

 

(a) 防水層の種別

(1) C-UIは、無機質系既調合粉体(ポルトランドセメント+細骨材+ケイ酸質微粉末)と水を練り混ぜた材料を、下地処理を行ったコンクリート面に対して2回塗布する工法である。

(2) C-UPは、無機質系既調合粉体(ポルトランドセメント+細骨材+ケイ酸質微粉末)とポリマーディスバージョンと水を練り混ぜた材料、又は再乳化形粉末樹脂が混合された粉体と水で練り混ぜた材料を、下地処理を行ったコンクリート面に対して2回塗布する工法である。

(b) 下地処理

下地処理は9.6.4(b)に準じて行う。

(c) 防水材の使用量
(1) C-UI 及び C-UPとも、2回の塗布を標準とする。
コンクリート面に対して1回塗布では、むらができやすく(ピンホール等)、塗布量が不足したり、美観上にも難点がでやすいので2回塗布しなければならない。
(2) 「標仕」表9.6.2の使用量は、防水効果が発揮できる最低の標準塗布量であり、下地の状態、特にコンクリート表面の仕上り状態が粗雑な場合、上記の使用量を超える場合がある。

9.6.4 施 工

(a) 防水施工直前の下地全般の状態は、次を標準とする。

(1) 平たんで、反り、目違い、浮き、レイタンス、ぜい弱部、著しい突起物等の欠陥がないこと。
(2) 豆板、ひび割れ部分がないこと。
(3) 床面は、たまり水部分がないこと。
(4) 接着の妨げとなる塵あい、油脂類、汚れ、錆等がないこと。
(5) 打継ぎ部は、目地棒が除去されていること。
(6) 目地棒を使用していない打継ぎ部は、打継ぎ部に対し新旧コンクリートがそれぞれ幅約30mm及び深さ約30mmにVカットされていること(表9.6.4参照)。Vカットに当たっては鉄筋に当たらないように注意を払うこと。
(7) 木コン部は、コーンが除去されていること。

(8) 漏水部がないこと。

表9.6.4 打継ぎ部及び木コン部の形状

(b) 下地処理

(1) 下地処理は、ほこり、ごみを清掃工器具を用いて除去し、かつ、防水材をコンクリート躯体とよく接着させるために水洗いを行い、余剰な水分を取り除いて下地を健全な状態にする。打継ぎ部及び木コン部等の断面復旧を伴う下地処理方法を次に示す。また、それらに用いられる下地処理材の種類及び使用方法を表9.6.5に示す。

表9.6.5 下地処理材の種類及び使用方法

(2) 打継ぎ部

打継ぎ部は、水洗い清掃し、既調合ポリマーセメントモルタルを充填するか、あるいは防水材を塗布し、既調合ポリマーセメントモルタルで埋め戻す。漏水がある場合は別途止水処理をする。

(3) 木コン部

木コン部の処理は、水洗い清掃し、硬練り防水材、既調合ポリマーセメントモルタル、成形モルタル等を充填するか、あるいは防水材塗布後、硬練り防水材、既調合ポリマーセメントモルタル、成形モルタル等を充填する(図9.6.5参照)。


図9.6.5 木コン部の処理

(c) 下地処理後の点検及び検査

(1) 下地処理後に、充填した材料の浮き・だれ等を点検し、防水材の塗布に支障のないことを確認する。

(2) 防水材を塗布する面の汚れを点検し、清掃、水湿しを行う。Z

(3) 防水材を塗布する面に手を当てて水分がついてくるような状態のときは、送風機・布・スポンジ等を用いて余剰水の除去を行う。

(d) 防水材塗り
(1) 防水材の練混ぜ
(i) 練混ぜは、防水材製造所の規定する作業可能時間等を考慮し、必要量を正確に計量器具を用いて計量したのち、容器に適量ずつ入れ練り混ぜる。
(ii) 練混ぜは、ペール缶等の丸い容器を用い、電動かくはん機又は手練りにより、空気を巻き込んだり、まま粉を生じたりしないように均質になるまで行う。
なお、取扱いには、保護具(ゴム手袋等)を着用する。

(iii) 練混ぜは、気温 5〜40℃の範囲において行なう。

(2) 防水材の塗布
(i) 防水材は、はけ、こて、吹付け、ローラーばけ(刷毛)等防水材製造所の指定する工具によりコンクリート面に「標仕」表9.6.2に規定している標準使用量を均ーに塗布する。
(ii) 1層目の防水材が指触乾燥しない状態で2層目が施工された場合、コンクリー卜躯体より1層目が引きはがされ、健全な防水層が形成されないので、必ず1層目の塗布面に手で触れて防水層の硬化状態を確認する。
(iii) 1層目の防水層にドライアウトが生じた場合、防水層は白く風化したような 状態となり、手で触れるとはく落する。これらの状態のときは防水層を除去し、再施工する。
(iv) 工程内の塗布間隔が現場の状況により24時間以上にわたる場合、健全な1層目の防水層の表層部は乾燥状態になるので、2層目のドライアウト、又は付着力低下を生じさせないために、2層目施工前に散水若しくは水湿しを行う。

(v) 地下室内の間仕切壁、床及び天井の施工ではそれぞれ、図9.6.6に示す範囲に施工する。また、外壁内側の側溝では、排水や結露水が一時的に滞留し、室内側に漏水が発生することがあるので、図9.6.7に示すように外壁内側の側溝に防水層を設ける。


   図9.6.6 施工範囲の例

 


図9.6.7 二重壁の施工範囲の例(断面図)

 

(e) 防水材塗布後の点検
施工範囲内の総点検を行い、ピンホールや塗残しのないことを確認する。
(f) 養 生

(1) 塗布完了後、48時間以上の適切な養生を行う。

(2) 直射日光や風、高温等によって急激な乾燥のおそれのある場合には、散水、シート等の養生を行う。

(3) 閉塞場所等で結露のおそれのある場合は、換気、通風、除湿等の措置を講ずる。

(4) 低温による凍結のおそれのある場合は、保温、シート等の養生を行う。

9章 防水工事 7節シーリング

第09章 防水工事

7節シーリング

9.7.1 適用範囲

(a) この節は、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄骨造建物の外壁コンクリート部分の打維ぎ目地、ひび割れ誘発目地、伸縮調整目地や化粧目地、部材の接合部及び建具枠回り、ガラス留付けにシーリング材を施す場合に適用する。

(b) 作業の流れを図9.7.1に示す。


図9.7.1 シーリング工事の作業の流れ

(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質事項を検討する。(  )内は主な管理項目を示す。

① 工程表(施工箇所別の着工、完了等)
② 製造所名、施工業者名、作業の管理組織等
③ シーリング材の材種及び色(JISでの分類等)
④ シーリング材の品質証明書等(JISに基づく試験成績書等)
⑤ プライマーの種類(品名、材種等)
⑥ バックアップ材及びボンドブレーカーの材質及び製造所名(寸法、粘着剤の有無等)
⑦ 材料の保管(消防法分類、保管条件等)
⑧ 施工箇所の形状・寸法、施工法及び養生等(目地詳細図、二面接着・三面接着、表面仕上げの有無等)

⑨ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等

 

d) 用揺の説明

・不定形シーリング材

弾性シーリング材のように、施工時に粘着性のあるペースト状のシーリング材の総称である。

・弾性シーリング材

一般にポリサルファイド、シリコーン、変成シリコーン、ポリウレタン等の液状ポリマーを主成分とし、これと鉱物質充填材等をよく練り混ぜて製造したもので、変位の比較的大きい部材や部品間の隙間に充填する不定形シーリング材をいい、施工後は硬化し、ゴム状弾性を発現する。また、弾性シーラント又はり単にシーラントとも呼ばれる。

・基剤

2成分形不定形シーリング材において、主成分をいう。また、主剤と呼ばれることもある。

・硬化剤

一般的には、合成樹脂に添加、混合し、加熱若しくはその他の処理を行って硬化状態にする物質のことであるが、2成分形不定形シーリング材では、基剤と混合して、架橋(「硬化」の項参照)等の化学反応を起こさせる配合物をいう。

・硬化

一般的には合成樹脂の線状分子を硬化剤の添加、熱、光、触媒等によって相互に化学的に結合させて網状構造をつくり(架橋と呼ぶ。)、物理的性質が変化することであるが、不定形シーリング材では、ジョイントに施工してから架橋等の化学反応、水分の揮散等によって、シーリング材としての性質を発現することをいう。

・被着体

不定形シーリング材によって接合されるべき物体をいう。

・二面接着

ジョイントに不定形シーリング材を充填した場合、ジョイントを構成する材料の相対する二面で接着することをいう。目地に変位が発生するワーキングジョイントに適用される。

・三面接着
ジョイントに不定形シーリング材を充填した場合、ジョイントを構成する材料の相対する面及び目地底部の三面で接着することをいう。目地の変位がないか極めて少ないノンワーキングジョイントに適用される。

なお、「標仕」では二面接着が基本であり、動きの小さい打継ぎ目地等の場合に限り三面接着とすることができるとしている。

・界面はく離

不定形シーリング材が、被着体面からはく離し、接着界面で破壊されることをいい、接着破壊、界面破壊(略号:AF)ともいう。

・モジュラス

ゴム状弾性を有する材料の物性試験において、試験片に一定の伸びを与えたときの引張応力をいう。50%の伸びを与えたときの応力を50%引張応力という。

・クレージング

ひびともいい、ウェザリング等によるシーリング材の表面の細かい亀甲状のひび割れをいう。

・グレイジング

ガラスをはめ込み固定することをいう。

9.7.2 材 料

(a) 一般事項

(1) シーリング材の定義及び機能を次に示す。

(i) シーリング材〈シール材〉とは、「シール」すなわち「密封する」材料という意味である。

(ii) 建築工事では、建築用材料の各接合部の隙間や目地に充填し、気密性、水密性等を高める材料を総称してシーリング材と呼んでいる。

(2) シーリング材の性能は気候等により変化するので、使用条件に応じた材料の選定と材料に応じた施工が必要である。

(3) シーリング材は、作業者や周辺環境に著しい害を与えるものであってはならない。

(4) シーリング材は、対象とする被着面を侵すものであってはならない。

(b) シーリング材
(1) シーリング材の適用

シーリング材の性能について、「標仕」9.7.2ではJIS A 5758(建築用シーリング材)によるとしている。また、有効期間を過ぎたものは使用してはならない。

(2) シーリング材の分類
現在一般的に行われている主成分及び硬化機構による分類を図9.7.2に示す。

「標仕」表9.7.1では、施工箇所に応じたシーリング材の種類(主成分による。)を被着体の組合せで規定している。


図9.7.2 建築用シーリング材の一般的分類

(3) シーリング材の選定

(i) 「標仕」ではシーリング材の種類及び施工箇所は特記によるとされ、特記がなければ「標仕」表9.7.1が標準とされている。「標仕」表9.7.1に示されたシーリング材の種類と特徴を表9.7.1に示す。

表9.7.1 シーリング材の種類と特徴

(ii) 「標仕」表9.7.1に示されたもの以外にも、表9.7.2に示すような目地の区分と使用材料の組合せが考えられる。「標仕」で想定していない被着体の組合せや、表9.7.3に示す異種シーリング材との打継ぎで問題がある場合で、「標仕」表9.7.1によることが困難なときには、表9.7.2を基に受注者等と協議し、設計変更等の処置を行う必要がある。

表9.7.2 シーリング材の種類と使用部位(目安)(JASS 8より)

表9.7.3 異種シーリング材の打絹ぎの目安(JASS 8より)

(iii) 硬化後のシーリング材表面に塗料等で仕上げを行う場合、シーリング材と塗料の組合せによっては、表面が軟化し塵あいの付着による汚れが発生することがあるので、適合性に関する事前確認を行うことが必要である。特に、「標仕」表9.7.1以外のシーリング材を表9.7.2より選定する場合、汚染防止のためのバリアプライマー(シーリング材中の可塑剤の移行防止を目的とした塗布材)の要否を含め、適合性に関しシーリング材製造所及び塗料製造所双方への事前確認が重要である。

表9.7.4に示すワーキングジョイントに硬質な塗装を施すと、塗装が割れてはがれたり、割れた部分に変形が集中してシーリング材が損傷することがある。ワーキングジョイントに硬質な塗装を施す際には、事前検討を行うか塗装を避ける必要がある。

(iv) 建築基準法に規定される防火設備には、その設備の仕様で規定されたシーリング材の使用が必要である。

(v) ワーキングジョイントとなるALCパネルヘのアクリル系シーリング材の使用は避けた方が望ましいが、やむを得ず使用する場合は50%引張応力が経年変化で0.3 〜0.4N/mm2程度に上昇することを考慮して事前の検討を行う。

(vi) 「標仕」9章7節ではカーテンウォール工法を除いているが、カーテンウォー ル工事の場合については、17.2.2(b)及び17.3.2(c)でも参考例を紹介している。その他シーリング材と関連するALCパネル・押出成形セメント板工事、石工事、タイル工事、建具工事等のシーリング材の選定については、該当工事各章を参考するとよい。

(4) JIS A 5758(建築用シーリング材)の抜粋を次に示す。

JIS A 5758: 2010

1 適用範囲

この規格は、金属コンクリート、ガラスなどの建築用構成材の接合部の目地に不定形の状態で充てんし、硬化後に部材に接着して水密性及び気密性を確保するために使用する建築用シーリング材(以下、シーリング材という)について規定する。

4 種 類
4.1 一般事項

シーリング材の種類は、タイプ及びクラスによって区分し、図1による。


図1 – シーリング材の種類

4.5 主成分、製品形態及び耐久性による区分

4.5.1 主成分による区分

シーリング材は、主成分によって区分し、表2による。

表2 – 主成分による区分

4.5.2 製品形態による区分

シーリング材は、製品形態によって区分し、表3による。

表3 – 製品形態による区分

4.5.3 主成分及び耐久性による区分

シーリング材は、主成分及び耐久性によって区分し、表4による。

表4 – 主成分及び耐久性による区分


JIS A 5758 : 2010

(c) プライマー

(1) プライマーは、目地に充填されたシーリング材と被着体とを強固に接着して、シーリング材の機能を長期間維持するもので、場合により被着体表面を安定させ、下地の水分やアルカリの影響を防止するシーラーの役割も果す。

(2) プライマーが被着体に適合しなかったり、プライマーが経年で劣化した場合は、はく離による目地の不具合が生じる。そのためプライマーの選定には、十分な配慮が必要である。

(3) プライマーは、被着体及びシーリング材の種類によって使い分けねばならないがシーリング材製造所の指定するものを用いる。

「標仕」9.7.5では、外部に使用するシーリング材は、接着性試験を行うことを規定しているので、事前にできるだけ実際の被着体となる部材に対し、使用予定のプライマーを用いて接着性試験をしておく。試験方法は「標仕」9.7.5による。

(4) 接着性試験の結果が不合格となった場合は、プライマー又はシーリング材を選定し直して再試験を行い、所定の接着性を確保する。

(d) 補助材料

(1) バックアップ材

(i) バックアップ材は、シーリング材の三面接着の回避、充填深さの調整あるいは目地底の形成を目的として用いる。

(ii) バックアップ材は、シーリング材と接着せず、弾力性をもつ材料で適用箇所に適した形状のものを使用する。材質はポリエチレンフォーム、合成ゴム成形材で、シーリング材に移行して変質させるような物質を含まない材料を選定する。

(iii) バックアップ材は、シーリング材と被着体の接着面積が確保でき、二面接着が確保できるように充填する。裏面粘着剤が付いているものは目地幅より 1mm程度小さいもの、粘着剤の付いていないものは、目地幅より2mm程度大きいものを使用する。

(iv) バックアップ材の使い方は図9.7.3による。


図9.7.3 バックアップ材の使い方

(2) ボンドブレーカー

(i) ボンドブレーカーは、目地が深くない場合に三面接着を回避する目的で目地底に張り付けるテープ状の材料である。

(ii) ボンドブレーカーは紙、塩ビ,ふっ索樹脂,ポリエチレン,ポリエステル等からなる粘着テープで、プライマーを塗布しても変質せず、かつ、シーリング材が接着しないものを選定する。

(3) マスキングテープ

(i) マスキングテープは、プライマー塗布及びシーリング材充填の際の汚染防止と、 目地縁の線を通りよく仕上げるために用いる粘着テープである。

(ii) マスキングテープの選定に当たっては、次の点に注意する。
① 除去後、粘着剤が外装表面に残存しないこと。
② 清掃用洗浄剤やプライマーの塗布で溶解しないこと。
③ シーリング材の接着を妨げない材料であること。

④ 外装面の凹凸になじみやすい材料であること。

(4) 清掃用洗浄剤

(i) 清掃用洗浄剤は、被着面の油分や接党剤を除去するために用いる薬剤である。

(ii) 清掃用洗浄剤は、被着体や周辺の化粧材を変質させることがなく、接着を阻害しない材料を用いる。

(iii) 引火性があるものは、密封容器に入れて冷暗所に保管する。また、取扱いに当たっては、発生する蒸気を吸わないように注意する。

9.7.3 目地寸法

(a) 目地幅は、シーリング材に過大な応力やひずみが生じない範囲とし、凹凸、広狭等がないものとする。

(b) 目地深さは、主としてシーリング材の充填・硬化が適正に行われて、十分な接着性が確保できるように設定する。また、乾燥硬化1成分形シーリング材は、硬化に伴う収縮があるので、やや深めにする必要がある。

(c) シーリングの対象となる目地は表9.7.4に示すよう、発生するムーブメントによりワーキングジョイントとノンワーキングジョイントに大別される。

「標仕」9.7.3では特記のないかぎり部位ごとに最低目地形状を規定しているが、金属笠木等の部材接合部のように温度変化等により比較的大きな挙動が発生するワーキングジョイントとなる目地の寸法は、ムーブメントを算定し使用予定のシーリング材の設計伸縮率・設計せん断変形率を超えないように求める。求められた寸法を目地輻とするが、「標仕」9.7.3の最低目地幅を満足するものとする。

表9.7.4 ムーブメントの種類と主な目地(JASS 8より)

(-社)日本建築学会「JASS 8 防水工事」における温度ムーブメントの算定に関する抜粋を次に示す。

JASS 8 : 2008

2) 温度ムーブメントの算定

部材の熱膨張・収縮に起因する温度ムーブメントは以下の算定式により求める。

i) 突付けジョイント

解説表4.6 部材の実効温度差


解説図4.1 ワーキングジョイントの目地深さDの許容範圃

解説表4.3 シーリング材の設計伸縮率・設計せん断変形率 ε の標準値(%)


JASS 8 : 2008


9.7.4 施 工

(a) 施工の体制

シーリング工事においても、施工のほかに、事前検討や施工管理を含めた検討・調整等が重要である。例えば、日本シーリング材工業会では、これらの技術及び知識を有する「シーリング管理士」を認定している。「シーリング管理士」制度は昭和46年に発足し、昭和55年から実施された建設省総合技術開発プロジェクト「建築物の耐久性向上技術の開発」においても、「シーリング管理士」の参画による効用が記述されている。

なお、「シーリング管理士」は平成24年10月現在1,502名が認定されている。

(b) 材料の保管

(1) シーリング材は、製造年月日や有効期間を確認して、高温多湿や凍結温度以下とならない、かつ、直射日光や雨露の当たらない場所に密封して保管する。

(2) プライマー及び清掃用洗浄剤については、消防関係法令に基づいて保管する。

(c) 施工環境
(1) シーリング材の施工性、硬化速度等は温度や湿度に影響される。施工環境は一般には気温 15〜20℃で無風状態が望ましく、被着体の温度が極端に低いあるいは高くなるおそれがある場合は施工を見合わせる。

やむを得ず作業を行う場合は、仮囲い、シート覆い等による保温又は遮熱を行う必要がある。

(2) 「標仕」9.7.4では、降雨、多湿等で結露のおそれのある場合は施工を中止することにしている。すなわち、湿度が極端に高い場合はプライマー中の溶媒の気化により被着体が冷却して結露し、接着性が阻害されるおそれがあるので、作業をしない方がよい。

(3) 降雨時又は降雨が予想される場合は、施工を中止し、更に、シーリング材施工済みの目地部の雨掛りを防ぐ養生を行うことが望ましい。

(d) 下地処理

(1) 被着面に付着した塵あい、油分、粘着剤、モルタル,塗料等の付着物及び金属部の錆をサンダー、サンドペーパー及び清掃用洗浄剤等を用いて完全に除去する。

(2) 目地部に水分がある場合は,十分に乾燥させる。

(e) 施工手順

(1) バックアップ材及びボンドブレーカーの取付け

(i) バックアップ材は、所定の目地深さになるようにねじれ、浮上がり及び段差等が生じないように必要に応じて治具を用いて装填する(図9.7.4参照)。

(ii) ボンドブレーカーは浮き等が生じないように目地底に確実に張り付ける。

(iii) バックアップ材及びボンドブレーカー装填後、降雨があった場合は、バックァップ材及びボンドブレーカーを取り外し、目地が乾燥したのち、再装填する。

(iv) 動きの小さいコンクリート壁の建具周囲、打継ぎ目地、誘発目地並びに単窓及び1スパン内の連続窓回り等で、所要の目地深さが確保できる位置に目地底がある場合は、三面接着の目地構造とすることができる。

(v) バックアップ材の装填状況及びボンドブレーカーの張付け状況を確認する。


図9.7.4 装填治具例

(2) マスキングテープ張り

(i) マスキングテープは、シーリング材の接着面に掛からない位置に通りよく張り付ける。

(ii) 塗装面にテープ張りをするときは、塗装が十分硬化していることを確認し、

除去に際して塗膜を引きはがさないように注意する。

(iii) テープ張りのまま長時間たつと除去し難く、粘着剤が残存しやすくなるため、施工範囲を決めて張り付ける。特に、気温の高い時期は注意する。

(iv) 粘着剤が残存した場合は、速やかに清掃用洗浄剤等で除去する。

(3) シーリング材充填

(i) プライマー塗布

① 2成分形プライマーを用いる場合は、可使時間内に使い切る量を正しく計量して入念に混合する。

② プライマーは、塗りむら、塗残しあるいは目地からはみ出しのないように均ーに塗布する。

③ プライマー塗布後、塵あい等の付着が認められたり、シーリング材充填までの時間が長すぎた場合は再清掃し、再塗布を行う。

(ii) シーリング材の線混ぜ

① 2成分形シーリング材の基剤及び硬化剤の配合割合は、製造所の指定するものとする。

② 2成分形シーリング材は、機械練混ぜを原則とし、空気を巻き込まないようにして十分かくはんする。

③ 2成分形シーリング材の練混ぜは、可使時間に使用できる量で、かつ、1缶単位で行う。

④ 「標仕」9.7.4(d)(3)では2成分形シーリング材を用いる場合は、充填されたシーリング材の硬化の過程や硬化状態を確認するために、各ロットごとにサンプリングを行うことにしている。

この場合のサンプリングの採取方法は、1組の作業班が 1 日に行った施工箇所を1ロットとし、アルミニウム製チャンネル等に練混ぜたシーリング材を充填し、材料名・練混ぜ年月日・ロット番号・通し番号を表示する(図9.7.5参照)。


図9.7.5 サンプリング例

 

(iii) シーリング材の充填及び仕上げ

① シーリング材の充填は、吹付け等の仕上げ前に行うのが原則であるが、仕上げが施されたあとに充填することもある。その場合、目地周辺を養生し、はみ出さないように行う。

② シーリング材の充填は、目地幅に適し、底まで届くノズルを装着したガンを用い、目地底部から加圧しながら入念に行う。

③ シーリング材の充填は、交差部あるいは角部から図9.7.6の要領で行う。隙間、打残し、気泡がないように目地の隅々まで充填する。

④ シーリング材の充填は、プライマー塗布後、製造業者の指定する時間内に行う。

⑤ シーリング材の打継ぎは、目地の交差部及び角部を避けて図9.7.7のように行う。異種シーリング材との取合いの適否は、表9.7.3に示すとおりであるが、相互間の接着性試験を行うことが望ましい(9.7.5(d)参照)。

⑥ 充填したシーリング材は、内部まで力が十分に伝わるように、へら押えして下地と密着させたのち、平滑に仕上げる。


図9.7.6 シーリング材充填の順序

 


図9.7.7 シーリング材の打継ぎ(一般の打継ぎ)

(4) 着掃及び養生

(i) マスキングテープ除去及び清掃

① マスキングテープの除去は、シーリング材表面仕上げ直後に行う。

② 目地周辺の外装材に付着したシーリング材は、布等でふき取る。また、外装材を侵さない清掃用洗浄剤を利用してもよい。ただし、シリコーン系は未硬化状態でふき取ると、汚染を拡散するおそれがあるため硬化してから除去する。

(ii) 養 生

① シーリング材表面がタックフリーの状態になるまでは、触れないようにし、硬化するまでは塵あい等が付着しないように養生する。外装仕上げは、シー リング材が硬化してから行う。

② エマルション系シーリング材の場合は、硬化するまでの間に降雨が予想されるときは養生を行う。

③ あと工程でシーリング材が損傷されるおそれがあるときは、適切な養生を行う。その際、密封してシーリング材の硬化を妨げないように注意する。

(5) 確 認

(i) シーリング材の施工工程終了後、目地に対して垂れ等がなく正しく充填されているか、汚染・発泡等の著しい外観不良がないかを、目視にて確認する。不具合が認められた場合は、直ちに手直しを行う。

(ii) シーリング材が十分硬化したのち、指触によりシーリング材の硬化状態及び接着状態に異状がないかを確認する。異状が認められた場合は、サンプリングした全ロットについて確認し、受注者等、専門工事業者及びシーリング材製造所に不具合範囲及び原因の究明を行わせ、対処方法を決定する。

9.7.5 シーリング材の試験

(a) シーリング材は、同一種類のものであってもシーリング材製造所ごとにその組成 が異っており、被着本との組合せによっては、接着性能に問題の起こる場合がある。このため「標仕」9.7.5では、防水上重要な外部に面する金属、コンクリート、建 具等に用いるシーリング材の接着性試験を行うことにしている。ただし、過去に同ーのシーリング材製造所の同一種類のシーリング材と同一被着体の組合せで実施した信頼できる試験成績書がある場合には、この接着性試験を省略してもよい。

(b) 簡易接着性試験において、常温で硬化養生を行う場合は、夏場に比べ冬場は長く養生期間を設ける。試験が不合格となった場合は、プライマー又はシーリング材を選定し直し、再試験を行う。

(c) 「標仕」9.7.5(b)(2)の規定による引張接着性試験では、試験で使用した被着体に対し、シーリング材製造所が規定するシーリング材の性能を満足するか否かを確認する。不合格となった場合は、(b)と同様に再試験を行う。

(d) 打継ぎ接着性試験を行う場合は、JASS 8を参考にするとよい。

なお、JASS 8では、異種シーリング材の打継ぎ接着性試験に関して、次のように述べている。

(1) 異種シーリング材を打ち継ぐことは好ましくはないが、やむを得ず打継ぎが発生する場合、あと打ちシーリング材との接着性の確認が必要となる。

(2) 試験方法としては図9.7.8(イ)、(ロ)に示すような試験体を用いた接着性試験、あるいは図9.7.9に示すような簡易接着性試験がある。判定方法としては破壊状況に着目し、界面ではく離しなければよい。

(3) この場合、先打ちシーリング材の硬化状態は JIS A 1439(建築用シーリング材の試験方法)による養生を行ったのち、あと打ちシーリング材にも同様の養生を行うことが多い。ただし、工場施工との打継ぎに際しては、先打ちシーリング材を1〜2ヶ月屋外暴露してからあと打ちシーリング材を養生して試験を行うことが望ましい。


図9.7.8 異種シーリング材の打継ぎ接着性試験(JASS 8より)

 


図9.7.9 異種シーリング材の打継ぎ簡易接着性試験(JASS 8より)

10章 石工事 1節 一般事項

第10章 石工事

1.一般事項

10.1.1 適用範囲

a)適用除外の工法
「標仕」では、現場打ちコンクリートの表面に、天然石またはテラゾを取り付ける工事を適用範囲としている。

次の場合は、適用しない。

ⅰ)下地に鉄骨造(間柱及び胴縁)が用いられる場合もあるが、下地としての適否を個々に検討する必要があり、「標仕」では対象としていない。

ⅱ)石材に近似した用い方をする大形の陶板及び結晶化ガラス等は、物性、使用板厚等が異なることから、対象としていない。

ⅲ)薄石をセメントモルタルや接着剤を用いて壁面に張り付ける工法は対象としてない。また、帯とろ工法も、耐震性が懸念され、適用から除外されている。

b)作業の流れ


図10.1.1 石工事の作業の流れ

c)製作工場の決定

現在でも一部は国内産の石材が用いられているが、多くは外国産となっている。また、表面仕上げ方法も機械化されている。そのために、製作工場の取り扱い石種、機械能力、得手不得手等を十分に検討し、適切な工場を選定させる。一般には設計図書で指定されることが多いが、指定のない場合には次のような事項に留意する。

①工場の経歴・実績
②工場の規模及び機械の設備
③受注能力(月産加工能力)
④製品の出来ばえ

⑤その他

d)施工計画書の記載事項

施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、ゴシック部分を考慮しながら品質計画を検討する。

①工程表(見本決定、製品の検査・着工・完了等の時期)
②施工業者名、作業の管理組織
③製作工場の機械設備
④現場における揚重・運搬計画・設備
⑤石材・テラゾの種類、仕上げの種類及びその使用箇所
⑥材料加工の方法、石の裏面処理方法・材料
⑦置場の確保、整備(運搬しやすい場所、破損に対して安全な場所、角材等の受台準備等)
⑧保管方法
⑨標準的石張り工法、施工順序
⑩アンカー、下地鉄筋、引金物、だぼ、かすがい、取付け金物等の材質、形状、位置、寸法
⑪伸縮調整目地
⑫取付け後の養生

⑬作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等

e)施工図の記載内容

石工事に必要事項は特記仕様に記載されている。この記載事項について設計担当者と十分に打合わせを行い、施工図(石割り図、取り付け工作図、その他の詳細図及び原寸図等)に反映させる。施工図の内容については工事開始前に詳細な検討を行い、具体的に工事条件と照合し、相互に疑義や相違がないかを関係者と十分に協議して決定する。

施工図の内容は、おおむね次のとおりである。

①各面の石の割付け
②一般部、出隅、入隅等の各部の収まり詳細
③湿式・空積工法においては、取付け金物類(引金物、だぼ、緊結金物、受金物等)の使用箇所及びその詳細、特に落下時の危険性が高い箇所の詳細
④乾式工法においては、取付け金物類(乾式工法用ファスナー等)の使用箇所及びその詳細、特に落下時の危険性が高い箇所の詳細
⑤特殊部位(窓、出入口、エレベーター等の開口部、アーチ、上げ裏、笠木、甲板、隔て板等)周辺の詳細
⑥関連工事との取合い(設備機器等の取付けのために必要な穴あけ、欠き込み等の位置、寸法及び目地等)
⑦水切、水返し等の詳細

⑧その他必要と思われる部分の詳細

10.1.2 基本的要求品質
a)使用する材料

石材は、設計図書に指定されたものとするが、天然材料であることから、同一の種類の石材であっても、品質のばらつきが大きい。特に、石材の色調、模様、仕上げの種類や程度については意匠上の要求が厳しく、あらかじめその限度を実物見本により確認し、同時に納まりや施工方法についても、検討しておく必要がある。

また、石材は、そのほとんどが外国産であり、使用部位による石種の選定、必要量の確保が可能かどうか、加工の難易度についてもあらかじめ確認しておく必要がある。

石材が建築物に取り付けらえているのは、金物類によってである。石工事に用いる金物類は、重量物である石材に堅固に留め付ける強度、外気や水分にさらされても性能劣化しない耐久性等要求される品質は極めて高い。実際に使用する以前に、材質、形状等を十分検討しておく。

b)仕上り状態

石工事は高級な仕上げであり、その仕上りについても他の仕上材料の場合と比べて高い精度が要求される。このため、仕上り面の形状や寸法の許容差は、他の仕上材料の場合よりも小さいものとなる。石材は工場において加工されるもので、通常は建築部材として必要な精度を持つものとなっている。しかし、石工事の仕上り面は、下地に石材を取付けた結果として得られるため、単に材料としての石材の精度が良いだけでは、適切な状態とはんらない。したがって、石工事の仕上り面の精度を上げるためには、下地面の精度を適切に管理することが重要なポイントとなる。

「標仕」10.1.3(c)では、下地面の精度の標準値を示しているが、建物の規模、石張り面の見え掛りの程度等のほか、石材施工業者の施工能力も含めて総合的に必要な目標精度を定めるようにする。また、「所要の状態」とは、仕上げの不ぞろいの程度、色合の程度等について、あらかじめ限度を定めておき、この限度内に収まるように管理を行うことと考えればよい。これらの限度を定める場合にあっては、同時に限度を外れたものの処置方法についても明確にしておく。

c)機能・性能

石材の下地への取付けは、建築物の一部として必要な性能を発揮するために重要なものであり、外壁、内壁、床、特殊部位等によって適切な工法を具体的に定めている。「下地への取付けが所要の状態」とは、想定される外力等に対して安全であることを下地を含めて要求していると考えれば良い。

「品質計画」の立案に当たっては、プロセスの管理をいかに行うかという観点で、例えば、定められて工法が手順どおりに行われたことをどのように記録していくかを提案させることが考えられる。

10.1.3 施工一般

a)石材の割付け

「標仕」には一般部よりもむしろ、事故が発生しやすく最も注意しなければならない部分の割付け方法が規定されている。

ⅰ)動きのある目地周辺

水平打継ぎ部、伸縮調整目地部分等は、下地の乾燥収縮量や熱膨張量の違いなどで挙動差が生じる。また、地震時の変位量を正確に推定することは難しく、かつ予想以上に大きくなる可能性もある。したがって、この部分をまたいで一枚の石を取り付けないことを原則としている。やむを得ず取り付ける場合には、乾式工法を用い、ファスナーを工夫するなど挙動差を吸収する検討が必要である。

ⅱ)開口部回り

開口部回りは、地震の際の変位が大きくなりやすく、破損や脱落の可能性が大きい部分であり、適切な割付けが必要である。開口隅角部で不整形な石をバランスよく取り付けることは難しく、かつ、欠き込み部分に応力集中が生じて割れやすいため、L型に欠き込んだ石材を用いないような割付けとすることが望ましい。また、開口部回りは通常、建具のファスナーやフラッシングが石材に当たらないように納める。

b)石材の加工
1)加工範囲

入隅等でのみ込みとなる部分は、見え隠れとなる部分でも、施工上の誤差を考慮して、あらかじめ所定の目地位置より 15mm以上、表面仕上げと同じ仕上げをしておく。ただし、自動機械で行う石材の表面仕上げの場合は、石材全面が同一の仕上げとなるのでこの限りではない。


図10.1.2 表面仕上げの範囲 [ 壁水平断面(湿式工法) ]

2)加工場所

だぼ、引金物及びかすがいを取り付ける穴は、位置・径・深さを精度良く加工するため、工場加工を原則とする。ただし、加工の容易な大理石や砂岩等の場合には、外壁への適用を除き現場加工が一般的である。

道切りは、引金物を目地部に突き出させないために、合端に設ける溝であり、小形カッター等で溝彫りする。


図10.1.3 引金物・だぼ・かすがい取付け用穴の例

c)下地面の精度

1)下地への要求精度寸法
石材の取付けには、引金物やファスナーのような金物を用いるので、下地面と石材裏面との間隔が場所によって大きく異なると準備した金物が使えなくなる。そのため、下地には、「標仕」表10.1.1に示す精度を求めることとされている。

2)ファスナーの寸法調整範囲
乾式工法では、石材を下地に取付ける金物をあらかじめ設計寸法に合わせて製作して用いる。通常、乾式工法に用いる金物はファスナー内で ± 8mm程度の面外調整機構を組み込んでいるが、下地面精度が許容範囲を超えていると、使用できない金物が出てしまう。その結果、工期の遅れを来したり、複数の調整代を持つ金物を用意しなければならないことがる。

3)下地のはつり作業回避
仕上げ代を確保するために躯体のはつり作業は行わない。取付け金物あるいは取付け工法の変更で対応する。

10.1.4 養 生

a)雨水に対する養生
雨水時のモルタル作業及び目地詰め作業は、雨水が入らないようにシート等で養生するか、作業を中止する。また、モルタルが完全に硬化するまでは、雨・雪等が掛からないようにシート等で覆いをする。

b)壁面の養生
目地詰めまで完了した仕上げ面は、ビニルシートによる汚れ防止のほか、ものが当たりやすく破損のおそれのある所や、溶接作業による火花の飛び散るおそれのあるところでは、クッション材を挟んで合板等を用いて損傷を防ぐ。また、出隅部、作業通路等で石の破損を防止するためには、樹脂製の養生カバーを取り付ける。

c)床面の養生
床の施工終了後、建築物が完成するまで歩行禁止することは困難であるが、モルタルが硬化するまで歩行を禁止するとともに、石の表面を汚さないようにポリエチレンシートを敷き、その上に合板を敷き並べるなどにより破損防止を目的とした養生を行う。

10.1.5 清 掃

石材の清掃は。石種や仕上げによって留意点が若干異なるが、原則は「標仕」に示すとおりである。

1)花崗岩・砂岩等の粗面仕上げ
原則として水、場合によっては石けん水、合成洗剤等でナイロンブラシを用いて洗い、塩酸類に使用は極力避ける。セメント等の汚れの場合は、事前に十分含水させ、希釈した塩酸で洗う。この場合、酸洗い後も十分水洗いを行う。

2)花崗岩・大理石等の磨き仕上げ
日常の軽度な汚れは清浄な布でからぶきする。付着した汚れは、水洗い又は濡れた布でふき取り、乾いた布で水分を除去して乾燥を待ち、再度からぶきする。目地回りに付着した汚れは目地材を損傷させないように、ブラシで取り除く。水洗いで除去できない汚れは中性合成洗剤等を溶かしたぬるま湯を用いて洗い。乾いた布で水分を除去して乾燥を待ち、再度からぶきする。

3)テラゾの磨き仕上げ
種石部分よりセメント部分が汚染されやすい。施工中のセメントモルタル等による汚染は、その都度速やかに清水を注ぎ、ナイロンブラシ等を用いて洗い落とす。特にテラゾは水洗いによってつやが消えやすいので、汚染しないことと乾燥した布での清掃が前提である。

4)床及び階段
石材の清掃は原則として水洗いまでであるが、維持管理のために、石工事でワックス掛けを行う場合もあるので、「標仕」ではワックス掛けの要否は特記によるとしている。ワックス掛けが特記された場合には、ワックスは仕上材を汚染しないものとし、ワックス掛けを石材の施工後すぐに行うと下地モルタルの水分により汚染が生じる場合があるので、その時期にも注意する。

10章 石工事 2節 材 料

第10章 石工事 第2節 材 料 石 材
2.材 料
10.2.1 石 材
(1)石材の品質
JIS A5003(石材)では、石材の品質は産地及び種類ごとにそれぞれ1等品、2等品及び 3等品となっているが、「標仕」では特記により等級を選択するのを原則としている。建築用の石工事では、1等品を用いるのが通常である。ただし、「標仕」では、特記がない場合に床用石材は2等品となる。
上記のJISの品質等級は、欠点の有無や色・柄のばらつきのような外観の良否を評価基準としているために、あくまで主観的な判断とならざるをえない。したがって、商取引上は、見本品を作成することにより外観上の品質を規定することが行われている。
一方、石材の品質は、外観のみならず、使用部位での要求条件に即した品質を有していることが前提となる。特に張り石では、JISで規定していない曲げ強さや金属取付部の耐力及び発錆懸念の有無等が必須の選択指標となる。いずれも、事前に検討が必要となる。10.5.1 (5) (ⅰ) に示した留意点も参照されたい。
表10.2.1 にJISに定められた品質の基準を参考までに示す。
表10.2.1品質の基準2.jpg
表10.2.1 品質の基準(JIS A5003:1995)
(2)石材の種類
ⅰ)建築用石材は使用箇所に見合った性質、色合、感触のものが用いられており、過去の使用実績が多く、物性及び取り扱い要領がよく知られている石材の種類は、花崗岩、大理石及び砂岩である。各種石材の特徴を表10.2.2 に示す。
表10.2.2 主な天然石の特徴
花こう岩(火成岩)
花こう岩はいわゆる御影石とよばれ、地下深部のマグマが地殻内で冷却固結したもので、
結晶質の石材で硬く、耐摩耗性、耐久性に優れ、磨くと光沢があり、大材が得られる石材として建築物の外部・床・階段等を中心に最も多く用いられている。耐火性の点で劣るなどの欠点もある。
大理石(変成岩)
大理石は主に建物の内部で用いられる代表的な装飾石材で、石灰岩が地中の熱で変成し、再結晶した石材である。石灰質の混入鉱物によって白・ベージュ、灰、緑、紅、黒等の色がある。また、無地のほか、しま・筋・更紗・蛇紋等の模様が入り、ち密で磨くと光沢が出る。耐酸性・耐火性に乏しく、屋外に使用すると半年から一年で表面のつやを失う。
砂岩(堆積岩)
砂粒とけい酸質・酸化鉄・石灰質・粘土等が水中に堆積し、こう結したもの。一般に耐火性に優れたものが多いが、吸水性が大きく耐摩耗性・耐凍害性・耐久性に劣り、磨いてもつやは出ない。国産は少なく、インド等かだの輸入材を用いることが多い。
石灰岩(堆積岩)
石灰岩は大部分が炭酸カルシウムからなり、炭酸石灰質の殻をもつ生物の化石や海水中の成分が沈殿しあt岩石である。大理石にくらべて粗粒であるが他の石材にない独特の風合をもつ。一般には柔らかく、加工しやすい反面、取付け部耐力、曲げ強度等は他の石材に比べると小さく、耐水性に劣り、また、産出場所による品質のばらつきが大きいために、原則として内装の壁・床材として用いることがのぞましい。
安山岩(火成岩)
花崗岩とともに代表的な硬石である。石質・色等の種類が多く、強度・耐久性に優れ、特に耐火性は大きく外装用石材としても用いられる。しかし、外見は花崗岩に劣り、磨いてもつやが出ず、大材が得られない。
凝灰岩(堆積岩)
火山の噴出物、砂、岩塊片などが水中あるいは陸上に堆積して凝固した岩石で、栃木県の大谷石、静岡県の伊豆若草石が有名。
蛇紋岩(変成岩)
かんらん岩が変質したもので、黒・暗緑・黄緑・白色等が入り混じった模様があり、磨くと美しい光沢が得られる。性状は大理石とほぼ同じで、やはり屋外で使用すると光沢を失い退色する。
ⅱ)建築に石張りを用いる箇所には意匠性、躯体保護機能等はもとより、建物の使用期間中に外観を損なったり、損傷・脱落することがなく、取付けやメンテナンスがしやすいなど、様々な性能が要求されている。現在一般的に使用されている花崗岩と大理石について、その名称・産地の例を表10.2.3および4に示すが、同一産地でも採取する山が違ったり国内の取扱い業者が違う場合には名称やカタカナ表示が異なる場合もある。石材は天然材料であり、物性値についてもあくまで参考値である。
①花崗岩は世界各地から輸入されており、現在は韓国・インド・中国が三大供給地であり、中国産が増加している。また、例示した花崗岩には磨き仕上げを施すと風化現象が目立つ石材(例えば、シェニートモンチーク)や色調の不ぞろいが出やすい石材(例えば、マホガニーレッド)も含まれているので、過去の使用例も参照し、注意して選択しなければならない。
②大理石はイタリア産が多く、最近は輸入品の6割以上が板石に加工され輸入されている。
なお、表中の組織は組織の粗さであり、級別は市場価格の目安である。
表10.2.3花崗岩の石種と物性例2.jpg
表10.2.3 花崗岩の石種と物性例
表10.2.4大理石類の石種と物性例2.jpg
表10.2.4 大理石の石種と物性例
3)石材の形状・寸法
石材の形状及び寸法は特記によるが、取付け部位や工法を考慮することが求められる。一般的には、形状は矩形とし、1枚の面積は 0.8m2以下とする。
4)石材の表面仕上げ
仕上げの種類に対応する仕上げの程度・方法や石材の種類は、「標仕」による。また、その特徴を表10.2.5に示す。同一石材でも仕上げの種類が異なると、表面状態が変わるだけでなく、色調も大きく異なるので見本品で確認する。
なお、各種仕上げの使用状況を表10.2.6に示す。
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表10.2.5仕上げの種類とその特徴
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表10.2.6各種仕上げの使用状況
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    のみ切り
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    びしゃん
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    こたたき
b)テラゾ
1)テラゾの品質
テラゾは、JIS A5411(テラゾ)に定められており、花こう岩、大理石や石灰岩の砕石を種石とした上塗りモルタル(化粧モルタル)と一般のコンクリートに用いる川砂を骨材とした下塗りモルタル(裏打ちモルタル)を2層で振動加圧成型し、十分硬化するまで養生したのち、上塗りモルタル部を切削研磨し、大理石のような光沢に仕上げたブロックおよびタイルである。JIS規格による分類を表10.2.7に、その品質規格を表10.2.8に示す。昨今では、国産テラゾの価格が輸入石材価格を上回ることとなり、テラゾブロックはほとんど姿を消している。テラゾタイルも海外製品が輸入されている。
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表10.2.7 テラゾの分類(JIS A5411:2008)
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表10.2.8 テラゾの品質(JIS A5411:2008)
2)テラゾの種類
ⅰ)種石は種類が多く、一般的には表10.2.9に示すものが使用され、寸法は 5〜12mm(3.5分下5厘止め)が標準であるが「標仕」では特記することとし、特記のない場合は、大理石で 1.5〜12mmのものとしている。
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表10.2.9 テラゾ用種石の物性
ⅱ)セメントを着色するための顔料は、耐アルカリ性・耐光性があり、コンクリートの強度や収縮等に悪影響を及ぼさない無機質系材料が使用されている。
3)テラゾの形状・寸法
テラゾブロックおよびテラゾタイルは、製作物であるため、その形状・寸法はいずれも特記される。
なお、テラゾタイルでは、規格寸法の輸入製品が流通している。
4)テラゾの表面仕上げ
テラゾブロックおよびテラゾタイルの表面仕上げは、石材の磨き仕上げに順じ、その種類・程度は特記される。

10.2.2 取付け金物
a)外壁湿式工法及び内壁空積工法用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
ⅰ)湿式工法・空積工法に使用する引金物、だぼ、かずがいは、「標仕」にステンレス(SUS304)と定められている。一般的なステンレス(SUS304)の種類の例を表10.2.10に示す。現状の石工事では、引金物には曲げ加工の比較的容易な JIS G4309(ステンレス鋼線)のSUS 304 W1(軟質2号、引張強さ 800N/mm 2程度)が多く使用されている。このほかでは、SUS304-W1/2H(半硬質、引張強さ 1,200N/mm2程度)も使用されている。
ⅱ)引金物、だぼ及びかすがいの径は、使用する石材の厚さとのバランスを考慮して、一般的に使用されている寸法が「標仕」に定められている。このうち、空積工法用の引金物については、この工法が内装に限定され、積上げ高さも一般的な壁高さに限定されていることから、ひとまわり細い径を許容寸法としている。一般的な湿式工法の金物の使用例を図10.3.1に示す。
ⅲ)だぼの形状として、従来より関東方面では通しだぼが、関西方面では腰掛だぼが多く使われてきた。腰掛だぼは、石材の保持性能に問題があり、阪神大震災でも被害が多かったことから、通しだぼ形式に限定されている。
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表10.2.10 ステンレス鋼線の種類の例(JASS9より)
2)受金物
受金物は、湿式工法・空積工法の場合に、石材の荷重を受けるために設ける金物で、「標仕」10.2.2(a)(2)では、入手の容易さ等を考慮して、特記がなければ、材質がSS400の山形鋼を切断加工して用いることとしている。この鋼材の品質は、JIS G3101(一般構造用圧延鋼材)に規定されており、建築構造物に最も一般的に使用されるもので、その機械的性質を表10.2.11に示す。受金物の錆止めとして。「標仕」表18.3.1 [ 鋼材面錆止め塗料の種別」に示すA種を1回塗りすることとしており、これはJIS K5625(シアナミド鉛さび止めペイント)またはJIS K5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)に規定される塗料である。外壁の受金物に用いる場合は、上記のA種を用いるか、またはめっき防錆処理、ステンレス製アングル材の使用等の対策を施す必要がある。受金物の使用例を図10.3.4に示す。
表10.2.11「標仕」に定められている受金物の機械的性質.jpg
表10.12.11「標仕」に定められている受金物の機械的性質
3)鉄筋
引金物緊結用の流し鉄筋は、湿式工法の場合ではモルタルで被覆されるが、外壁に使用されることから耐久性を考慮して錆止め塗料塗りを行うこととしている。錆止め塗料の詳細については 18章を参照されたい。
b)乾式工法用金物
1)「標仕」で乾式工法用金物は、スライド方式かロッキング方式を特記することとしており方式が決まると形状・寸法が決まる。いずれの方式も、仕上り面精度の確保が比較的容易であることや、躯体の変更をある程度吸収可能であること等からダブルファスナー形式としている。ファスナーに使われているステンレス鋼材は、JIS G4317(熱間成形ステンレス鋼形鋼)またはJIS G4304(熱間圧延ステンレス鋼板および鋼帯)のSUS304を加工したものが一般的である。
2)石材とファスナーとの取合いは、だぼを使用するが、石材の重量、厚さ、強度等を総合的に判断して寸法を決定する。一般に乾式工法用のだぼは湿式工法用に比べて太径のものが使われる。「標仕」には標準の形式・寸法が定められている。
3)ステンレス鋼材の場合、穴あけ加工や溶接によってひずみが発生し、取付け誤差の原因となったり、現場での加工が困難であることから、ファスナーはだぼやワッシャー等全ての部品の寸法形状を決めて、工場加工し納入することが原則である。
c)特殊部位用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
湿式工法・空積工法で施工する場合の特殊部位に使用する引金物、だぼ、かすがいは、一般部分に使用するものと同様であるが、それらの形状・寸法および用い方は、当該箇所の石材の納め方に応じて決定する。
2)ファスナー
乾式工法に用いる金物は、基本的に一般部位に用いる金物と同一のものを用いる。石材の大きさ等によっては同じ寸法の金物と取り付けられない場合もあるので、特記を原則としている。ただし、だぼの形状は、通しだぼとしている。
3)吊金物・吊りボルト
石材を上げ裏やまぐさ等の部分に取り付ける場合には、吊金物、吊りボルトや受金物等石材の自重を支える金物を用いるが、これらの場合はその都度設計し、特記された金物を用いる。軒裏側に化粧ナットを見せない場合や、各種アンカー金物を使用する場合には、材質や取付け方法とその耐力を確認して採用しなければならない。吊りボルトの頭部の処理の方法を図10.7.1に示す。
4)隔て板用金物 
隔て板に使用する金物は、隔て板どうし、隔て板と前板の取合いに使用するだぼ、かすがいがあり、「標仕」に材質、寸法、形状等が定められている。隔て板上部にはこれら以外にT型、I型等の形状のステンレス鋼板を用いる場合もある。使用例を図10.7.4に示す。
d)先付けアンカー
1)アンカーの種類
「標仕」10.2.2 (d)では、アンカーの材料および寸法は特記することを原則としているが、特記がない場合は、「標仕」10.2.2 (d)(1)または(2)によるとしている。石材を構造体に締め付けるに当たって、アンカーは重要な役割を果たす。
先付けアンカーの場合は、アンカーの種類、定着長さを適切に確保すれば、その強度はアンカーボルトの耐力で決まり、信頼性の高いアンカーである。
2)乾式工法用アンカー
乾式工法用のアンカーは、ファスナーとの耐久性等のバランスを配慮してステンレス製とする。
e)あと施工アンカー
本来、アンカーは、先付けアンカーが望ましいが、施工性や施工精度に問題があるため、最近ではあと施工アンカーが多く使われている。
あと施工アンカーの場合は、下地コンクリートの状態、配筋等により必ずしみ十分な耐力が得られるような施工がしにくことがある。接着系アンカーは埋込み長さが長いことや、養生時間を必要とすることから、金属系アンカー、なかでもめねじ形(打込み式)より信頼性の高いおねじ形(締込み式)アンカーが推奨される。あと施工アンカーの引抜き耐力を確認するために、「標仕」14.1.3(b)(4)に定められた試験を行い、その結果を提出させることを原則としている。この試験はあと施工アンカーの最大耐力(破壊耐力)を求めるものではなく、設計された引張強度不足がないことを前提としている、常時引張力の作用する箇所の使用に当たっては十分な安全率をみる必要がある。(14.1.3(a)(ⅱ)参照)
f)その他の金物
その他の金物としては、役物部分の裏側に補強のために取り付けるアングルピースや、石裏の力石を取り付けるためのだぼ、力石の代わりに取り付ける荷重受金物等、主として特殊部位に使用する金物があり、特記されたものを使用する。
特記のない場合は、実物見本、組み立て見本あるいは、物性、品質等の証明となる資料を監督職員に提出する。

10.2.3 その他の材料
a)セメントモルタル
1)使用材料
セメントモルタルの材料は、15.2.2 による。基本的に、セメントは普通ポルトランドセメント、砂は粗目とする。石材が白色系や透明度の高い大理石の場合には、川砂中の不純物によって大理石を黄変させたり、裏込めモルタルあるいは取付け用モルタルの色が表面に透けて見えることがあるので、寒水石粒等白色系の砕砂を白色ポルトランドセメントを用いる。
2)調合
セメントモルタルは使用する部位に応じて、その要求する軟度が異なり、施工性および施工後の品質に影響を及ぼす。セメントモルタルの調合は、目安が「標仕」表10.2.5に定められているが、これ以外は15章に準ずる。
3)混和材料
石工事に用いるセメントモルタルに混合される混和材料は、モルタルの用途に応じていくつかの種類がある。
①裏込めモルタルは、躯体と石材の間を確実に充填し、充填部分にじゃんか等の欠陥が生じず、モルタルと石材や躯体との間に隙間が生じないことなどが要求されるために、減水材・分散剤等の混和材が用いられる。
②敷きモルタルは、いわゆるバサモルと称されるもので、混和材料が使用されることは少ない。
③張り付け用ペーストや目地モルタルには接着性・防水性等が期待され、メチルセルロース、SBRや防水剤等が用いられる。
4)取付け用モルタル
取付け用モルタルは、特に急結性を要し、硬化の早い材料を使用する。最近は止水・充填・補修用の材料である止水用セメントが多く使われている。石裏面の各種の金物は、金物表面が結露しやすく、その際にモルタル中に塩分が存在すると腐食が促進されるため、塩化カルシウムを含む急結剤は使用してはならない。
5)目地モルタル
目地モルタルは、作業性の向上、ひび割れ防止および白華防止等を目的として既調合セメントモルタルが数種類市販されており、既調合材料を使用することが望ましい。ただし、現場調合とする場合は、「標仕」表10.2.5による。
b)石裏面処理材
1)石裏面処理材が使用される目的は、主としてぬれ色および白華の防止であり、湿式工法で採用される。また、乾式工事や空積工法においても、最下段の石は水分の多い環境に取り付けられるため、ぬれ色、白華対策として石裏面処理材を使用することが望ましい。
2)石裏面処理材は、各接着剤製造所によって様々なものが開発されているが、過去の実績や不具合等の例を知っている石材施業者の指定する製品を用いるのが無難である。
3)石裏面処理材は、製作工場で施工することを原則とするが、止むを得ず現場で塗布する場合には換気に留意する。
c)裏打ち処理材
裏打ち処理材は、繊維補強タイプ(クロスヤチョップを樹脂で張り付けたもの)と、石材の荷重受けとしての力石のようなものとに分けられる。
ⅰ)繊維補強タイプは、石材が衝撃を受けた場合の飛散・脱落防止を目的として乾式工法や空積工法の壁および上げ裏等で採用される。
ⅱ)力石は、石材の小口に引金物を設けにくい箇所、石材荷重を納まり上見ばえよく受けるため、あるいは石材を補強するために石裏面に施すもので、乾式工法、湿式工法および空積工法で用いられる。
d)シーリング材
シーリング材の詳細は第9章6節を参照されたい。シーリング材は使用部位や目的に応じて使い分けなければならないが、石工事において留意すべき点は、目的周辺部の汚染である。
ⅰ)成分の移行による石材そのものの汚染は、プライマーによって防止できることが多いので、プライマーを必ず使用する。その際、表面と小口との角の部分は切断状態がシャープでなく欠けていたりして、プライマーが十分塗布できず、しみが発生する要因になることがある。目地幅は、プライマー塗布の作業性等も考慮して、最低 6mm以上を確保する。
ⅱ)ほかにもシーリング材に付着した塵あいによる汚れ等にも留意する。
ⅲ)特に大理石の場合には、シーリング材からの揮散成分が付着した目地周辺部に、汚染が比較的多いので、事前にシーリング材製造業者および石材施工業者と協議することが望ましい。
ⅳ)花こう岩等についても吸水率の大きい材種については同様である。
ⅴ)汚染の観点から評価すると、表10.2.12のようになる。シーリング材は、石工事ではなくシーリング工事の範囲で取り扱われることから、硬化後の諸性能に勝る2成分形の使用がほとんどである。
表10.2.12シーリング材による汚染の観点からの評価.jpg
表10.2.12 シーリング材による汚染の観点からの評価
e)ドレンパイプ
ドレンパイプは石裏または石目地裏に設け、浸入水の排水と通気による裏込めモルタルの乾燥促進を図り、ぬれ色や白華を防止するためのものでその仕様は特記による。石材の縦目地ごとに設けることが望ましいが、事例としては縦目地2~3本ごとおよび出隅・入隅に配置することが多い。一般的に樹脂ネット製の25〜35φのパイプに目詰まり防止用としてクロスのメッシュを巻いたものが使用されている。
f)だぼ穴充填材
だぼ穴充填材にはセメントペースト、エポキシ樹脂、ゴムチューブ等が用いられている。それらは、次の事項に留意して選定しなければならない。
ⅰ)だぼ穴に充填しやすい
ⅱ)取り付け金物の形式に応じた硬さを持つ
ⅲ)適度の接着強度をもつ
ⅳ)石材を汚染しない
ⅴ)適度の止水性能を持つ
ⅵ)変質・膨張しない。

10章 石工事 2節 材料 取付け金物

第10章 石工事 第2節 材 料 取付け金物
2.材 料
10.2.2 取付け金物
a)外壁湿式工法及び内壁空積工法用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
ⅰ)湿式工法・空積工法に使用する引金物、だぼ、かずがいは、「標仕」にステンレス(SUS304)と定められている。一般的なステンレス(SUS304)の種類の例を表10.2.10に示す。現状の石工事では、引金物には曲げ加工の比較的容易な JIS G4309(ステンレス鋼線)のSUS 304 W1(軟質2号、引張強さ 800N/mm 2程度)が多く使用されている。このほかでは、SUS304-W1/2H(半硬質、引張強さ 1,200N/mm2程度)も使用されている。

ⅱ)引金物、だぼ及びかすがいの径は、使用する石材の厚さとのバランスを考慮して、一般的に使用されている寸法が「標仕」に定められている。このうち、空積工法用の引金物については、この工法が内装に限定され、積上げ高さも一般的な壁高さに限定されていることから、ひとまわり細い径を許容寸法としている。一般的な湿式工法の金物の使用例を図10.3.1に示す。

ⅲ)だぼの形状として、従来より関東方面では通しだぼが、関西方面では腰掛だぼが多く使われてきた。腰掛だぼは、石材の保持性能に問題があり、阪神大震災でも被害が多かったことから、通しだぼ形式に限定されている。

表10.2.10 ステンレス鋼線の種類の例(JASS9より)

2)受金物

受金物は、湿式工法・空積工法の場合に、石材の荷重を受けるために設ける金物で、「標仕」10.2.2(a)(2)では、入手の容易さ等を考慮して、特記がなければ、材質がSS400の山形鋼を切断加工して用いることとしている。この鋼材の品質は、JIS G3101(一般構造用圧延鋼材)に規定されており、建築構造物に最も一般的に使用されるもので、その機械的性質を表10.2.11に示す。受金物の錆止めとして。「標仕」表18.3.1 [ 鋼材面錆止め塗料の種別」に示すA種を1回塗りすることとしており、これはJIS K5625(シアナミド鉛さび止めペイント)またはJIS K5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)に規定される塗料である。外壁の受金物に用いる場合は、上記のA種を用いるか、またはめっき防錆処理、ステンレス製アングル材の使用等の対策を施す必要がある。受金物の使用例を図10.3.4に示す。

表10.12.11「標仕」に定められている受金物の機械的性質
3)鉄筋
引金物緊結用の流し鉄筋は、湿式工法の場合ではモルタルで被覆されるが、外壁に使用されることから耐久性を考慮して錆止め塗料塗りを行うこととしている。

b)乾式工法用金物

1)「標仕」で乾式工法用金物は、スライド方式かロッキング方式を特記することとしており方式が決まると形状・寸法が決まる。いずれの方式も、仕上り面精度の確保が比較的容易であることや、躯体の変更をある程度吸収可能であること等からダブルファスナー形式としている。ファスナーに使われているステンレス鋼材は、JIS G4317(熱間成形ステンレス鋼形鋼)またはJIS G4304(熱間圧延ステンレス鋼板および鋼帯)のSUS304を加工したものが一般的である。

2)石材とファスナーとの取合いは、だぼを使用するが、石材の重量、厚さ、強度等を総合的に判断して寸法を決定する。一般に乾式工法用のだぼは湿式工法用に比べて太径のものが使われる。「標仕」には標準の形式・寸法が定められている。

3)ステンレス鋼材の場合、穴あけ加工や溶接によってひずみが発生し、取付け誤差の原因となったり、現場での加工が困難であることから、ファスナーはだぼやワッシャー等全ての部品の寸法形状を決めて、工場加工し納入することが原則である。

c)特殊部位用金物

1)引金物・だぼ・かずがい
湿式工法・空積工法で施工する場合の特殊部位に使用する引金物、だぼ、かすがいは、一般部分に使用するものと同様であるが、それらの形状・寸法および用い方は、当該箇所の石材の納め方に応じて決定する。

2)ファスナー
乾式工法に用いる金物は、基本的に一般部位に用いる金物と同一のものを用いる。石材の大きさ等によっては同じ寸法の金物と取り付けられない場合もあるので、特記を原則としている。ただし、だぼの形状は、通しだぼとしている。

3)吊金物・吊りボルト
石材を上げ裏やまぐさ等の部分に取り付ける場合には、吊金物、吊りボルトや受金物等石材の自重を支える金物を用いるが、これらの場合はその都度設計し、特記された金物を用いる。軒裏側に化粧ナットを見せない場合や、各種アンカー金物を使用する場合には、材質や取付け方法とその耐力を確認して採用しなければならない。吊りボルトの頭部の処理の方法を図10.7.1に示す。

4)隔て板用金物
隔て板に使用する金物は、隔て板どうし、隔て板と前板の取合いに使用するだぼ、かすがいがあり、「標仕」に材質、寸法、形状等が定められている。隔て板上部にはこれら以外にT型、I型等の形状のステンレス鋼板を用いる場合もある。使用例を図10.7.4に示す。

d)先付けアンカー

1)アンカーの種類
「標仕」10.2.2 (d)では、アンカーの材料および寸法は特記することを原則としているが、特記がない場合は、「標仕」10.2.2 (d)(1)または(2)によるとしている。石材を構造体に締め付けるに当たって、アンカーは重要な役割を果たす。
先付けアンカーの場合は、アンカーの種類、定着長さを適切に確保すれば、その強度はアンカーボルトの耐力で決まり、信頼性の高いアンカーである。

2)乾式工法用アンカー
乾式工法用のアンカーは、ファスナーとの耐久性等のバランスを配慮してステンレス製とする。

e)あと施工アンカー
本来、アンカーは、先付けアンカーが望ましいが、施工性や施工精度に問題があるため、最近ではあと施工アンカーが多く使われている。
あと施工アンカーの場合は、下地コンクリートの状態、配筋等により必ずしみ十分な耐力が得られるような施工がしにくことがある。接着系アンカーは埋込み長さが長いことや、養生時間を必要とすることから、金属系アンカー、なかでもめねじ形(打込み式)より信頼性の高いおねじ形(締込み式)アンカーが推奨される。あと施工アンカーの引抜き耐力を確認するために、「標仕」14.1.3(b)(4)に定められた試験を行い、その結果を提出させることを原則としている。この試験はあと施工アンカーの最大耐力(破壊耐力)を求めるものではなく、設計された引張強度不足がないことを前提としている、常時引張力の作用する箇所の使用に当たっては十分な安全率をみる必要がある。

f)その他の金物
その他の金物としては、役物部分の裏側に補強のために取り付けるアングルピースや、石裏の力石を取り付けるためのだぼ、力石の代わりに取り付ける荷重受金物等、主として特殊部位に使用する金物があり、特記されたものを使用する。
特記のない場合は、実物見本、組み立て見本あるいは、物性、品質等の証明となる資料を監督職員に提出する。

10章 石工事 2節 材料 その他の材料

第10章 石工事 第2節 材 料 その他の材料
2.材 料
10.2.3 その他の材料
a)セメントモルタル
1)使用材料
セメントモルタルの材料は、15.2.2 による。基本的に、セメントは普通ポルトランドセメント、砂は粗目とする。石材が白色系や透明度の高い大理石の場合には、川砂中の不純物によって大理石を黄変させたり、裏込めモルタルあるいは取付け用モルタルの色が表面に透けて見えることがあるので、寒水石粒等白色系の砕砂を白色ポルトランドセメントを用いる。
2)調合
セメントモルタルは使用する部位に応じて、その要求する軟度が異なり、施工性および施工後の品質に影響を及ぼす。セメントモルタルの調合は、目安が「標仕」表10.2.5に定められているが、これ以外は15章に準ずる。
3)混和材料
石工事に用いるセメントモルタルに混合される混和材料は、モルタルの用途に応じていくつかの種類がある。
①裏込めモルタルは、躯体と石材の間を確実に充填し、充填部分にじゃんか等の欠陥が生じず、モルタルと石材や躯体との間に隙間が生じないことなどが要求されるために、減水材・分散剤等の混和材が用いられる。
②敷きモルタルは、いわゆるバサモルと称されるもので、混和材料が使用されることは少ない。
③張り付け用ペーストや目地モルタルには接着性・防水性等が期待され、メチルセルロース、SBRや防水剤等が用いられる。
4)取付け用モルタル
取付け用モルタルは、特に急結性を要し、硬化の早い材料を使用する。最近は止水・充填・補修用の材料である止水用セメントが多く使われている。石裏面の各種の金物は、金物表面が結露しやすく、その際にモルタル中に塩分が存在すると腐食が促進されるため、塩化カルシウムを含む急結剤は使用してはならない。
5)目地モルタル
目地モルタルは、作業性の向上、ひび割れ防止および白華防止等を目的として既調合セメントモルタルが数種類市販されており、既調合材料を使用することが望ましい。ただし、現場調合とする場合は、「標仕」表10.2.5による。
b)石裏面処理材
1)石裏面処理材が使用される目的は、主としてぬれ色および白華の防止であり、湿式工法で採用される。また、乾式工事や空積工法においても、最下段の石は水分の多い環境に取り付けられるため、ぬれ色、白華対策として石裏面処理材を使用することが望ましい。
2)石裏面処理材は、各接着剤製造所によって様々なものが開発されているが、過去の実績や不具合等の例を知っている石材施業者の指定する製品を用いるのが無難である。
3)石裏面処理材は、製作工場で施工することを原則とするが、止むを得ず現場で塗布する場合には換気に留意する。
c)裏打ち処理材
裏打ち処理材は、繊維補強タイプ(クロスヤチョップを樹脂で張り付けたもの)と、石材の荷重受けとしての力石のようなものとに分けられる。
ⅰ)繊維補強タイプは、石材が衝撃を受けた場合の飛散・脱落防止を目的として乾式工法や空積工法の壁および上げ裏等で採用される。
ⅱ)力石は、石材の小口に引金物を設けにくい箇所、石材荷重を納まり上見ばえよく受けるため、あるいは石材を補強するために石裏面に施すもので、乾式工法、湿式工法および空積工法で用いられる。
d)シーリング材
シーリング材の詳細は第9章6節を参照されたい。シーリング材は使用部位や目的に応じて使い分けなければならないが、石工事において留意すべき点は、目的周辺部の汚染である。
ⅰ)成分の移行による石材そのものの汚染は、プライマーによって防止できることが多いので、プライマーを必ず使用する。その際、表面と小口との角の部分は切断状態がシャープでなく欠けていたりして、プライマーが十分塗布できず、しみが発生する要因になることがある。目地幅は、プライマー塗布の作業性等も考慮して、最低 6mm以上を確保する。
ⅱ)ほかにもシーリング材に付着した塵あいによる汚れ等にも留意する。
ⅲ)特に大理石の場合には、シーリング材からの揮散成分が付着した目地周辺部に、汚染が比較的多いので、事前にシーリング材製造業者および石材施工業者と協議することが望ましい。
ⅳ)花こう岩等についても吸水率の大きい材種については同様である。
ⅴ)汚染の観点から評価すると、表10.2.12のようになる。シーリング材は、石工事ではなくシーリング工事の範囲で取り扱われることから、硬化後の諸性能に勝る2成分形の使用がほとんどである。
表10.2.12シーリング材による汚染の観点からの評価.jpg
表10.2.12 シーリング材による汚染の観点からの評価
e)ドレンパイプ
ドレンパイプは石裏または石目地裏に設け、浸入水の排水と通気による裏込めモルタルの乾燥促進を図り、ぬれ色や白華を防止するためのものでその仕様は特記による。石材の縦目地ごとに設けることが望ましいが、事例としては縦目地2~3本ごとおよび出隅・入隅に配置することが多い。一般的に樹脂ネット製の25〜35φのパイプに目詰まり防止用としてクロスのメッシュを巻いたものが使用されている。
f)だぼ穴充填材
だぼ穴充填材にはセメントペースト、エポキシ樹脂、ゴムチューブ等が用いられている。それらは、次の事項に留意して選定しなければならない。
ⅰ)だぼ穴に充填しやすい
ⅱ)取り付け金物の形式に応じた硬さを持つ
ⅲ)適度の接着強度をもつ
ⅳ)石材を汚染しない
ⅴ)適度の止水性能を持つ
ⅵ)変質・膨張しない。

10章 石工事 3節 外壁湿式工法

第10章 石工事

3.外壁湿式工法

10.3.1 適用範囲

外壁湿式工法(図10.3.1参照)は、経済的な工法であり、かつては外壁石張りの主流であったが、現在では実施例も減少しており,外壁乾式工法や石先付けプレキャストコンクリート(GPC)工法に移行しつつある。

湿式工法の適用が減少している主な理由として次のことが考えられる。

(1)石裏に水が浸入し、それが原因で石材のぬれ色・白華が生じ、美観を担なうことがある。

(2)コンクリート躯体と裏込めモルタルの乾燥収縮と石材の熱による膨張・収縮で石材のはく離が生じ、引金物やだぼの取付けが不備な場合には脱落することがある。

(3)地震時等の躯体の挙動に追従しにくいため、石材にひび割れが生じたり、脱落することがある。

(4)2日に1段しか施工できないために、工期が長くかかる。

(5)石厚が乾式工法に比べて薄くできるが.裏込めモルタルを含めた全重量が大きく、構造的に負担が大きい。

一方,外壁湿式工法には衝撃に強い利点もあり,1階の腰壁等、衝撃を受けやすい部位等に採用するのは有効である。

これらのことから、(2)及び(3)に述べた事項に留意して施工すれば、外壁湿式工法も十分に採用可能な工法であり、「標仕」では、RC構造(地震時の層間変位 1/500以下程度)で.小規模の中層建物(高さ10m以下)を対象としてこの工法を規定している。


図10.3.1 外壁湿式工法の例(JASS9(一部修正)より)

10.3.2 材  料

a)石材の厚み

石材の厚さは、石材と下地がモルタルで接着されることから、厚さ25mmで耐衝撃性を満足すると考えられる。ただし、25mmは最小限の厚みである。石材が薄くなるとぬれ色、白華が発生しやすくなるため、石の裏面処理が必要となる。

b)石材の加工
1)引金物用穴あけ

石材の上端の横目地合端には、石材両端より100mm程度の位置に引金物用として2箇所の穴をあける。 引金物を目地部に突出させないため、金物の径に相当する溝を石材合端に彫る。これを道切りという。

2)だぼ用穴あけ

同じく、石材の上端の横目地合端には、石材両端より150mm程度の位置にだぼ用の2箇所の穴をあける。 石材の下端には、石材の割付けに従い、下段の石材のだぼを受ける位置に穴をあける。

3)座彫り

石材の荷重を受けるために用いられる山形鋼製の受金物を目地に納めるために、その厚さと寸法に相当する部分を石材合端に欠き込む。 これを座彫りという。

4)石材裏面の処理

石材のぬれ色や白華を防ぐために、石材裏面に止水性のある変成エポキシ樹脂やアクリル樹脂製の裏面処理材を塗布する。また、衝撃により石材の破損が懸念されるときには. ガラス繊維製のメッシュのような裏打ち処理材を石材裏面に接着して補強する。 これらはいずれも特記される。

10.3.3 施 工
a)取付け代

取付け作業を適切に行うために、石裏とコンクリート躯体との間隔は 40mmを標準としたが、これは躯体の施工誤差 ±15mmを見込んだ大きな寸法である。躯体をはつることのないよう、躯体の面精度を管理することが重要である。

b)下地ごしらえ
1)種類

石材は重量の大きい仕上げ材料であるため、施工後にはく離・はく落等が生じないよう、下地ごしらえを確実な工法により行う必要がある。コンクリート躯体の豆板については硬練りのセメントモルタル等で、ひび割れはエポキシ系樹脂の注入や Uカット後にシーリング材の充填等で事前に補修する。また、セパレーターについては、防錆処理を施す。下地の確認と補修が完了後、下地ごしらえを行うが、その適用は特記され、特記のない場合には流し筋工法とする。

①流し筋工法
流し筋工法で埋込みアンカーの設置位置は、縦筋が配置しやすいように、鉛直方向の通りをよく配置する。その際、縦筋は石材の割付けによって、引金物の位置から縦筋が100mm程度になるように、450mm程度の間隔で配置する。

また、横筋は石材の割付けに基づき、高さを精度良く出し、水平方向の通りがでるよう配置する(図10.3.2 参照)。


図10.3.2 流し筋工法(JASS9より)

②あと施工アンカー工法

あと施工アンカー工法ではアンカー施工に先立ち、石材の割付けに基づき、石材の引金物とアンカーの位置が一致するよう精度良く墨出しを行う。コンクリート躯体内部の鉄筋等のため所定の位置にアンカーを配置できない場合は、部分的に流し筋との併用工法が取られることがある。

③あと施工アンカー・横流し筋工法
あと施工アンカー・横流し筋工法でのアンカーは、石材の割付けに基づき、あとで横筋が配置しやすいように、所定の高さを精度良く出し、水平方向の通りが出るように配置する(図10.3.3参照)。特に、あと施工アンカー工法に用いるアンカーには打込み式のものが用いられている。あと施工アンカーは、めねじ形(打込み式)よりも信頼性の高いおねじ形(締込み式)アンカーが推奨される。


図10.3.3 あと施工アンカー・横流し筋工法(JASS9より)

2)受金物
石材を湿式工法で高さ方向に連続して張り上げる場合には、上方の石材の荷重を下方の石材に伝えないように、高さ 2m程度ごとに受金物を設けて荷重を受ける。また、水平の伸縮調整目地部には必ず受金物を設ける。

受金物を設ける位置は、引金物やだぼと干渉すると、これらの金物の取付けが適切にできなくなることに留意し、石材の幅寸法によって石材端部より 0~ 250mmの範囲に納める。これらの金物の配置例を図10.3.4に示す。


図10.3.4 引金物と受金物の配置例(JASS9より)

3)防錆処理

溶接箇所はすべて防錆処理を施す。ステンレス製の金物であっても溶接箇所から錆が発生するので注意を要する。また、溶接作業は火花で石材を汚損させるので、石材を張る前に完了させる。もし、溶接作業が事前に完了しない場合には、火花が石材に降り掛かる事のないように、合板や防災シート等で十分養生する。

c)石材の取付け
(1) 最下部の石材

最下部の石材の据付け精度が壁面全体の仕上りに大きく影響する。精度良く石材を取り付けるために、墨出しが重要になる。最下部の石材は、仕上げ墨に合せて水平、かつ、垂直になるよう、くさびを石材の底面及び躯体との間に差し込み、石材の上部にばね金物等を設けて位置の調整を行う。次に、底面の2箇所を取付け用セメントで固定し、石材の上部を引金物で躯体に固定する。

(2) 一般部の石材

上段の石材の取付けは、下段の石材との間にプラスチック製のスペーサーを挟み込み、目地合端に引金物、だぽを取り付ける。だぼは、図10.3.5に示す通しだぼを用いる。腰掛だぼは耐震性が低いので、使用してはならない。

(3) 出隅の石材
出隅部にはかすがいを用いて出隅を構成する石材同士を緊結する。
(4)金物の固定

石材への引金物やだぽの固定に使用する材料は石材施工業者の仕様によるが、一般的にはエポキシ樹脂接着剤を使用する。硬化不良や石材の汚染を引き起こさないように、材料の計量、かくはん、被着物の処理、可使時間、温度管理等には十分留意する


図10.3.5 一般部の石材の据付け例(あと施工アンカー工法の場合)(JASS 9より)

(d) 裏込めモルタルの充填
(1) 前作業

目地から裏込めモルタルが流出して空隙ができると、水みちとなってぬれ色・白華等の汚れや漏水の原因になる。それを防止するために、目地に目地幅+2mm 程度の径の発泡プラスチック材を裏込めモルタルの充填に先立ち挿入する。挿入深さは 8〜10mm程度で、目地モルタル又は弾性シーリング材の底面までとする。

(2) 充填作業

裏込めモルタルを充填する準備として、下地面に適度な水湿しを行う。まず下端から 200~300mmに裏込めモルタル(最下部の場合は根とろ、それ以外は下とろと呼ぶ。)を充填し、硬化後順次裏込めモルタル(注ぎとろと呼ぶ。)を充填する。注ぎとろは モルタルの圧力で石が押し出されないようにするため、2〜3回に分けて行う。

(3) 充填高さ
裏込めモルタルは図10.3.6に示すように、石材の上端から 30〜40mm下がったところまで充填しておき、上段の石の下とろと同時に充填して上下段の石の一体化を図る。ただし、伸縮調整目地部分では上下段の石の縁を切るためモルタルを上端まで充填する。

最下部については、裏込めモルタルが硬化したのを見計らって、くさびを必ず取り外し、くさび跡にモルタルを充填し、こて押えをしておく。木製のくさびの放置は、石材を著しく汚染する原因となる。


図10.3.6 裏込めモルタルの充填(JASS9より)

(e) 目地
(1) 一般目地
ⅰ)目地幅

外接湿式工法で採用する目地幅は、一般目地では挙動が少ないと判断されることから6mm以上としている。

ⅱ)目地さらい

裏込めモルタルがある程度硬化するのを待って、流出防止用の発泡プラスチック材を取り除く。その際、目地深さが所定の寸法にあるかを確認し、不足の場合は目地をさらってそろえる。

ⅲ)目地材の充填

目地部は、はけ等を用いて清掃を行ってから目地詰めをする。目地材としては、市販の既調合セメントモルタルの目地用材料を使用し、確実に目地詰めする。目地の空隙は雨水の侵入口となり、白華や漏水の原因となる。目地詰め直後に水洗いをするとセメント分が流出し、石材を汚したり化粧目地表面が傷むなどの問題があり、目地詰め前に水洗いする。

ⅳ)シーリング材の充填

外壁面の止水性の向上を意図し、特記により一般目地シーリング材を適用することであるが、幅 6mm程度の狭い目地では確実なシーリング施工が困難である。止水性は、石材仕上げ面で確保できると考えるのは禁物であり、躯体面で確保するのが基本である。シーリング材の充填に当たっては、プライマーやシーリング材で石材表面を汚さないように注意する。

(2) 伸縮調整目地
ⅰ)設置位置
伸縮調整目地は、裏込めモルタルの収縮と石材の熱伸縮による挙動の差異による悪影響等を防止するために設ける。

湿式工法の伸縮調整目地の位置は、鉛直方向が1スパンに1箇所程度、間隔にして 6m程度が一般的である。また、水平方向は躯体コンクリートの水平打継ぎ部に合わせて各階ごとに設ける。

ⅱ)設置工法

伸縮調整目地は、図10.3.7に示すように、裏込めモルタルの部分にも発泡プラスチック材を挿入し、躯体面まで完全に縁を切る。更に、躯体面の打継ぎ目地や伸縮調整目地と位置を合わせるのが基本である。

ⅲ)目地寸法

伸縮縮調目地の寸法は、目地の機能を発揮でくる寸法を確保できるよう、特記を基本とする。


図10.3.7 伸縮調整目地の状況(JASS9より)

10章 石工事 4節 内壁空積工法

第10章 石工事

4.内壁空積工法(からづみこうほう)

10.4.1 適用範囲

空積工法は 内壁石張り専用として考案されたものであり、「標仕」では 一般的な天井高さを考慮して4m以下を適用範囲としている。4mを超える内壁には原則として乾式工法等を採用するようにする。

内壁の石張り工法には 従来湿式工法や帯とろ工法が採用されてきた。 前者は、外壁工法で述べたように 裏込めモルタルに起因する石材のぬれ色や白華現象, そして施工に長時間を要することなどの理由から、内装の石張りには使用されなくなった。後者は帯とろの施工が現実には適切に行えないこと、また、一部には腰掛だぼの使用に起因するはく離事故が生じたことなどの欠陥が露呈した。これらのことを背景にして、図10.4.1に示す空積工法が登場し、内壁石張りの主流になった。


図10.4.1 内壁空積候補う壁縦断面図(JASS9より)

10.4.2 材 料

( a )石材の厚み

内装用の石材の厚みは、経済的理由によりますます薄くなる傾向にある。石厚が簿いと小さい衝撃でも破損し、はく落の危険性があるため「標仕」では20mmを最小有効厚さと規定し、薄い石材の使用への歯止めをかけている。

( b )石材の加工

石材の加工は 外壁湿式工法に準じる。内壁の石張りで石材の裏面処理が必要となる例は、風除室や浴室のように床面からら水分が取付け用モルタルを介して幅木石や根石に浸入し、 石材を破損する場合等である。

10.4.3 施 工

( a )取付け代
石材裏面から躯体面までの取付け代は、外壁湿式工法と同様に40mmとする。

よって、最低石厚さ 20mm以上を考慮すると設計上の仕上げ厚さは 60mm以上となる。

( b )下地ごしらえ
(1)工法

下地ごしらえは、外壁湿式工法に準ずる。あと施エアンカーエ法の例を図10.4.2に示す。

(2) 受金物の設置

受金物の設置は、外壁湿式工法に準ずる。しかし、石材の積上げ高さが3m以下、すなわち、一般的には天井高さが 3mに満たない室内の内壁では、下部の石材に伝達させる上部の荷重が小さいことから受金物を使用しなくてもよいこととしている。

(3)防錆処理

防錯処理については、外壁湿式工法に準ずる。


図10.4.2 あと施工アンカー工法の例(JASS9より)

( c )石材の取付け
(1)最下部の石材

最下部の石材の取付けは外壁湿式工法に準ずる。

(2)一般部の石材

一般部の石材は、下段の石材の横目地合端にだぼをセットし、目違いのないように据え付け、上端を引金物で緊結していく。内壁石張り特有のねむり目地の場合には糸面をとり、ビニルテープを下段石の上端に2箇所、両端より125mm程度の位置に張り付け、石材どうしの直接的な接触を避ける。これは、小口付近の石材表面のはま欠けを防止するための策である。

はま欠け:
エッジに強い力が加わることでエッジを基点に貝殻状に表面が欠けた状態。

深さが浅ければ強度的にさほど問題にはならない。

標準的な取付け工法の詳細を図10.4.3に示す。


図10.4.3 標準的な取付けの詳細(断面図)(JASS9より)

(3)金物の固定
( i )引金物

空積工法の場合は、下地と石材とは引金物により緊結し、その回りを取付け用モルタルによって固めるが、この取付け用モルタルは、引金物の固定及び圧縮材として重要であり、石張り後に破損、脱落してはならない。したがって、単に引金物回りの被覆とするのではなく、躯体と石材との間に所定の寸法となるよう団子状に充槙する必要がある。このため、取付け用モルタルの充填に先立ち、引金物取合い部にポリエチレンフォームのような適切なバックアップ材を挿入し、これを型枠代わりとして充填する。

(ⅱ)かすがい

かすがいは、出隅部の隣り合う石材の相互の位置を固定するために使用する。

(ⅲ)だぼ穴充填材

だぽ穴の充填材としては、一般にセメントペト又は樹脂を使用するが、ねむり目地の場合には、だぽ穴に樹脂を使用すると樹脂のはみ出しにより石材相互が接着され、石材の動きを拘束することになるため避ける。

(4)補強

空積工法の場合は、石材の裏面が空洞となっているため、衝撃等による割れのおそれがある。 このため、衝撃の可能性の高い床上 1.8m間の石材で、特に石材1枚当たりの寸法が大きい場合は、図10.4.4に示す引金物と取付けモルタルによる補強を行うこともある。この補強をあてとろという。


図10.4.4 あてとろの配置例

( d )裏込めモルタルの充填範囲

幅木に相当する壁面部分は、荷物台車、清掃用具及び靴先等による衝撃を受ける可能性がある。 これらの予期しない衝撃による石材の破損を防ぐために、幅木の裏面には裏込めモルタルを充填する。 幅木のない場合の最下部の石材裏面には、高さ 100mm程度まで裏込めモルタルを充填する。 その際、ぬれ色や白華の発生防止に留意する。

( e )目地
(1)一般目地

従来は、内装石張りの場合、意匠性を重視してねむり目地が採用されることが多かった。 しかし、兵庫県南部地震の被害状況調査によれば、構造体の変形により石材同士が目地部分で競い合うことによる被害が見られた。 これを避けるためには、内壁にあっても必要な目地幅を確保することが望ましい。

(2)伸縮調整目地

最下部の石材(根石)と床仕上げ材とは縁を切るため、伸縮調整目地を設ける。また、壁の出隅、入隅及び平面的に長い大壁は、通常の柱スパンごと( 6m程度 )に伸縮調整目地を設ける。 特に大理石仕上げで、ねむり目地とした場合は必須である。 窓枠等他の材料と取り合う部分にも伸縮調整目地を設ける。 地震による水平力を考慮した場合, 天井との取合い部の納まりとしては、壁面の石材を天井にのみ込ませるのではなく、図10.4.5に示すように天井をのみ込ませる方が天井材の衝突による石材の破壊を回避できる。


図10.4.5 天井との取合い部(JASS9より)

10章 石工事 5節 乾式工法

第10章 石工事

5.乾式工法

10.5.1 適用範囲

乾式工法は石材を1枚ごとにファスナーで保持する工法で、躯体と石材間での自重、地震力、風圧力等伝達はファスナーを介してなされる。

本節の適用範囲を外れる場合はもちろん、適用範囲内であっても地震力、風圧力等の外力の適切な設定と、石材物性の把握、許容耐力の設定が重要なポイントとなる。

石材の曲げ強度や仕口部耐力の設定は事前の試験により、統計的な処理に基づいて定めるのが一般的である。

(1)利点及び注意点
( ⅰ )利点
 ① 躯体の変形の影響を受けにくい。
 ② 白華現象、凍結による被害を受けにくい。

 ③ 工程、工期短縮が図れる。

( ⅱ )注意点
 ①風圧、衝撃で損傷した場合、脱落に直結する。

 ②物性値(曲げ、仕口部耐力、ばらつき)の把握が重要である。

(2)適用高さ

建物高さを31m以下としているのは、建築基準法において、構造耐力上の検討条件が異なる場合があること、また、過去の実例でも高さ31mを超える建物での使用実績があまりないことにもよっている。

(3)適用石材

石厚 70mm以下としたのも実績による。1枚の施工可能な質量(40~60kg程度)からみて、厚い石材では施工性が悪くなる。

(4)適用下地

近年ではコンクリート壁以外の鉄骨下地等に石材を取り付ける場合もある。乾式工法は他の石張り工法に比べ対応しやすい工法ではあるが、下地の挙動等、個別の条件に対応したファスナー金物、目地形状等の検討が必要である。ここでは、地震時等の変形量が小さいRC造、SRC造のコンクリート壁を下地とする場合を想定している。

(5)品質確保の留意点
( ⅰ )石材の試験
石材は天然材料であり、同じ種類の石材であっても採石場所により性質にばらつきが生じる。このため設計図書に石材名が明記されていたとしても、各種の試験を実施し、乾式工法を採用する際に構造計算上から必須となる曲げ強さ及びだぼ部耐力等を把握しなければならない。通常、設計段階で試験が実施されることはなく、慣行的に工事着工後の初期段階で実施されている。石工事では、ALCパネルや押出成形セメント板のような製品データの定まった工業材料とは設計の考えが根本的に異なり、施工の段階で設計の品質をつくり込むことが行われる。

したがって、試験結果によっては目算と異なり、設計図書に記載の石材の寸法や厚さでは耐力上不適切で、寸法や厚さの設計変更が必要になる場合がある。この場合には、設計担当者と打ち合わせ、「標仕」1.1.8によって設計変更を行うなどの対応が必要である。

( ⅱ )耐風圧性
乾式工法は、石材を通常4箇所のファスナーで保持しており、実際には4本のだぼでファスナーに取り付けている。外壁に作用する風圧力は.負圧が高まることから建物の隅角部で最大値を示すのが通常である。この最大風圧力(引張力)に対して、乾式工法で取り付けられた石材が曲げ破壊やだぼ部の破壊を生じることのないように設計する必要がある。

通常、4箇所のファスナーが等分に風圧力を負担することは困難であり、1箇所が遊ぶと考え、対角方向の2箇所で支持するものとして計算を行う。また、石材の性質のばらつきを考慮したうえで、更に安全率を見込んでいる。

(ⅲ)耐震性
地震の作用としてどの程度の力をみるかについては論議がある。現状では、(社)日本建築学会「非構造部材の耐設設計施工指針・同解説および耐震設計施工要領」にのっとるのが一般的である。同書によれば、水平力は1.0G、鉛直力は0.5Gが最大値となる。水平力に対して石材は十分な耐力を有すると考えられるが、鉛直力に対しては石材下辺の2箇所のファスナーで支えられることとなり、鉛直力に石材自重を加えた力が作用した場合にも有害な残留変形が生じないようにファスナーを設計することとなる。

最大強制変形角については個々の建築物によって異なるために特記によらなければならない。

(ⅳ)水密性
外壁の水密性は、外壁に作用する最大風圧力の1/2の風圧力時にも屋内側へ漏水を起こさないようにするのが一般的である。外壁の乾式工法では石材間の目地・石材とサッシのような他材料との目地等、数多くの目地があり、いずれも防水性のある目地としなければならない。一般的には目地にシーリング材が充填されるが、シーリング材の寿命に依存することとなる。この外壁表面を一次止水面と考え 更に躯休表面を二次止水面に設定し.防水性を高めることが多い。

したがって、外壁の乾式石張工事に先立ち、躯体コンクリートの打継ぎ部やその他の防水上の弱点部を防水処理する。

10.5.2 材 料
( a )石材の厚み
「標仕」では、特記のない場合の石材の最小厚さを有効厚さで規定している。ジェットバーナー仕上げ(表10.2.5参照)等の粗面仕上げでは出来上りの厚さで 2mm以上厚くなるように設定しておく。

厚さは張り石の曲げ耐力や仕口部耐力に大きく影響する。 前記物性試験においても予定厚さのものに加え、5~10mm厚い石材での試験も実施しておいた方がよい。

物性試験の結果によっては設計外力に対し、十分な強度が得られず、割付けの変更(張り石の見付け寸法の変更) が必要となる場合がある。 また仕口部耐力は石厚さを数mm増した程度では耐力が増加しないという試験結果もあるので慎重な検討が必要である。

なお 形状は矩形を原則とし、切欠き、穴あけ等を避ける。

( b )石材の加工
(1)穴あけ
だぼ用の穴あけは石材両端より辺長の1/ 4程度の位置に設置するのが、一般的である。 両端はね出しの梁と考えたときにも曲げ応力が有利になる。

穴あけ加工はドリルを用い、水冷しながらの工場加工とし、板厚の中央に正確にせん孔する。 振動ドリル等不要な衝撃を与える加工機器は用いない。

(2)石材裏面の処理
乾式工法の裏面処理については 内壁空積工法と同様に考える。

各種の織布・不織布と樹脂による裏打ち処理は万一の破損時に小片が脱落するのを防止すると同時に耐衝撃性の向上に効果がある。

( c )ファスナー

現場打込みのコンクリート壁の精度、あと施工アンカーの精度を考慮すると、上下左右、出入り方向とも10mm程度以上の調整機構が必要となる。一次ファスナーのみの形式では調整が非常に困難になるうえ、隣接石材との調整も繁雑となることから、「標仕」では二次ファスナー用いる形式を前提としている(図10.5.1及び2参照)


図10.5.1 スライド方式のファスナーの例(JASS9より)


図10.5.2 ロッキング方式のファスナーの例(JASS9より)

10.5.3 施 工
( a )工法の決定

乾式工法を外壁に適用する際には、建築基準法施行令第82条の4、平成12年建設省告示1458号に従って算出した風圧力に対して、張り石各部に発生する応力が部材の許容応力度を超えないよう、工法が特記される。

( b )取付け代

躯体の精度±10mmとファスナー寸法60mmから、石材裏面から躯体表面までの取付け代は70mmを標準とされた。過大に設定するとファスナーが大きくなり、経済性が損なわれる。

( c )下地ごしらえ

ファスナー金物用あと施工アンカーの施工に先立ち、躯体のセパレータ一部の止水処理、打継ぎ目地や誘発目地へのシーリング施工、場合により塗膜防水の施工を行う。コンクリートの欠陥部には適切な処置を施しておく。あと施工アンカーはそのアンカー耐力を確認する。

あと施工アンカーの穿孔が躯体鉄筋に当たることが多い。図面上の鉄筋位置と実際の位置との照合が必要であるが、鉄筋探知機等を利用するか、試験的な穿孔をする。鉄筋に当たった場合、穿孔位置を変更せざるを得ない。鉛直筋の場合には水平方向に逃げ、水平筋の場合には鉛直方向ヘ一次ファスナーの上下を反転して使用できる範囲内に逃げる。それでも納まらない場合には.ルーズホールを長くした一次ファスナーの役物の使用を検討する。

隣り合うあと施工アンカーの間隔及び躯体隅角部端部からの離れ距離は100mm以上確保する。

10.3.3 (b)(1)③で解説した打込み式のあと施工アンカー(めねじ形)は、許容引張耐力が小さいため.乾式工法では使用しない。

( d )幅木の取付け
壁最下部の幅木石は台車等の衝突による破損が多い。衝撃対策として10.4.3(b) (4)に示したようにモルタルを充填する。

排水処理を考慮し、石材には裏面処理等のぬれ色・白華対策が必要となる(図10.5.3参照)。


図10.5.3 幅木部分の例

( e )ファスナー及び石材の取付け
(1)一次ファスナーの取付け

一次ファスナーの出入りはライナープレートを用い、上下左右はルーズホールで調整して取付け位置を定め、一次ファスナーをあと施工アンカーに固定する。 石張りの水平精度は一次ファスナーの取付け精度で決まるため.特に上下方向は載荷によるファスナーのたわみを考慮して正確に取り付ける。現場浴接は行わない。ダブルナット又は緩止め特殊ナットを使用する。

(2)二次ファスナーと石材の取付け
一次及び二次ファスナーの緊結は、(1)と同様にボルトによる摩擦接合とし.現場浴接を行わない。

石材を二次ファスナーに連結するためのだぼを石材に固定する方法には、ファスナーの形式により二とおりがある。上の石の下部と下の石の上部を支える二次ファスナーが別個になっている場合(例えば「標仕」表10.2.4のスライド方式) には、あらかじめ上部のだぼを石材に固定しておくことができる。しかしながら、通しだぼのような場合(例えば「標仕」表10.2.4のロッキング方式)には、だぼはあと付けにならざるを得ない。

次に.スライド形式のファスナーを用いた場合の石材の代表的な取付け手順を示す。まず石材の上部のだぼを事前にだぼ穴充填材を用いて確実に取り付ける。出人り及び左右の精度を調整して二次ファスナーを一次ファスナーに取り付ける。 石材下部のだぼ穴にだぼ穴充填材を充填し、直ちに二次ファスナーに取り付いているだぼに石材を乗せ、二次ファスナーに荷重をあずける。次に.石材の上部のだぼを通して上部用の二次ファスナーを一次ファスナーに取り付ける。出入墨・割付け墨に合わせて張ったピアノ線等を指標として.石材の取付け精度を確認する。確認後、上部の二次ファスナーの固定を緩まないように確実に締め付ける。

この繰返しにより、一次ファスナーで調整しきれなかった分を調整し.壁面の下部より上部に向かって石材を積み上げていく。

最下段のファスナーの場合は、張り石を仮置きし調整する。載荷によるファスナー金物のたわみやなじみにより、ファスナーと下部石材との間のクリアランスが確保できない場合は、一次ファスナで再調整する。下部石材と上部石材の間にスペーサー(アクリル製等)を用いた調整を行うと、ファスナーに荷重がかからず、上部石材の荷重が下部石材に伝達されてしまうので、このような用い方はしない。

(3)だぼの固定

だぼ穴充填材がはみ出すと変位吸収のためのルーズホールをふさいでしまう。充填量に留意すると同時に不要な充填材は硬化前に除去する。石材上端ファスナーとだぼでスライド機構を設ける場合は、だぼの出寸法の管理が重要である。抜け防止のため、つば付きだぼピンを用いることも多い。

( f )目 地
(1)目地幅の設定

乾式工法では.目地内にファスナの金物が配置されることになり、施工精度を向上させなければ十分に通りよく、クリアランスを確保した施工は難しい。そのため、上下の石材間にスペーサーを挿入して目地幅を調整することがあるが、スぺーサーを撤去しないと上部石材の荷重がファスナーではなく下部石材に伝逹されてしまう。このようなスペーサーの用い方をしてはならない。また縦長の張り石では地震に石材の回転が生じ上部ファスナーとの接触も生じかねない。目地幅は広めに設定することが望ましい。

(2)シーリング材の充填
乾式工法の目地には、壁面の防水のためにシーリング材を充填する。目地幅・深さともに8mmを最低値と考える。
シーリング材は2成分形ポリサルファイド系シーリング材が一般的である。シリコーン系や1成分形ポリサルファイド系シーリング材では、シーリング材の成分による石材の汚れが発生する。他部位との取合いで2成分形変成シリコーン系シーリング材も使用される。