18章 塗装工事 1節 共通事項

18章 塗装工事
01節 共通事項

18.1.1 一般事項
(1) この章は、美装及び防食を目的とした建築物の内外部の塗装工事を対象としている。
対象とする素地は、木部、鉄鋼面・亜鉛めっき鋼面及びモルタル面・プラスター面等の左官塗り面、コンクリート面・ALCパネル面・押出成形セメント板面、せっこうボード・その他のボード面等である。
「標仕」での塗装工事は、一般的な工事現場(一部工場等)で行う常温での塗装を想定しており、工場等で行う焼付け塗装については対象外である。
なお、「標仕」各節名称(    )内の略号は、原則的には「JASS 18 塗装工事」に準拠したものである。
(2) 作業の流れを図18.1.1に示す。
図18.1.1_塗装工事の作業と流れ.jpeg
図18.1.1 塗装工事の作業の流れ
(3) 施工計画書の記載事項は、概ね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
① 工程表(色見本の決定、施工(全体、部屋別、階別等)等の時期)
② 製造所名、施工業者名及び作業の管理組織
③ 塗装箇所及び素地若しくは下地の材料の種類による塗料の種別(防火材料の指定がある場合には認定品)並びに工程
④ 色調別による塗装範囲
⑤ 工場及び現場塗装の区分
⑥ 工法(はけ、吹付け、ローラー等)
⑦ 養生方法(施工中及び完了後)
⑧ 塗料の保管方法、安全管理の方法等
⑨ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
18.1.2 基本要求品質
(1) 塗装は建築物の内外部に施され、仕上げとしての美装の目的のみでなく、各種劣化外力(雨水、結露水、飛散・浮遊物質、二酸化炭素ガス、紫外線等)から塗装された材料を保護することによって、建築物の耐久性を向上させることを目的としている。
塗膜の性能に影響を及ぼす要因の一つとして、使用する塗料の耐久性があげられる。これは上塗り塗料だけでなく、中塗り、下塗り及び素地ごしらえに用いる材料についても同様である。これらの材料によって総合的な塗膜が構成され、硬化塗膜としての性能を発揮する。
したがって、塗装に使用する塗料その他の材料は、定められた品質及び性能を有するものとし、そのことが分かるように整理しておかなければならない。
(2) 塗装仕上り面の出来ばえとしての要求は、各塗り工程の種別であるA種、B種等としてグレードを指定される。実際の工事に際しては、要求に合わせて塗装部位ごとに、どの程度の出来ばえとするかをあらかじめ品質計画で定めておくことが必要である。
この仕上り面は、最終の上塗りだけではなく、各塗り工程ごとで考えるようにする。例えば、下塗りであれば次に塗る中塗りとの付着性を確保できるような面の状態となるように仕上げるとともに、所定の表面状態とする。
塗料の種類と塗装工程の組合せによっても、塗装の仕上りが異なることに注意することが重要である。
「標仕」では、一般的な塗装工程を考慮して、指定する標準的な工法、塗付け量、工程間隔時間及び最終養生時間等を守れば、所要の表面状態を確保できるようになっている。
(3) 硬化塗膜に対する要求性能としては、使用する塗料だけではなく適正な塗装工程との組合せで示されている。
塗膜は、所定の材料を所定の塗付け量、塗り工程で施工することによって要求される耐久性を有し、素地の耐火性等の性能を損なうものであってはならない。そのためには、これらの性能を阻害するような欠陥がない塗膜にすることは当然である。
塗膜の構成は耐久性に及ぼす影響が大きく、例えば、素地や塗膜の表面を調整するために使用するパテ材料の介在が著しい場合には耐久性が劣ってくる。このようなことを避けるためには、塗り工程の前に施す素地ごしらえの段階で、適切な処理を十分に行うことが重要である。
塗料に対する防火材料の認定は、所定の塗膜厚さで基材と同等の防火性能をもっものとして認められているものである。出来ばえを重視して、いたずらに厚く塗り過ぎることは防火性能に悪影響を及ぽすため、避けなければならない。
18.1.3 材料
(1)「標仕」では、屋内で使用する材料の選定に当たっては、揮発性有機化合物の放散による健康への影響に配慮することにしている。
本章では、シックハウス症候群の原因物質の一つであると考えられているホルムアルデヒドに関して、屋内で使用する塗料からの放散量は、JIS等の材料規格において放散等級の規定がある場合には特記によることとし、特記がなければ、F☆☆☆☆の塗料を用いることにしている。
建築基準法に関連するシックハウス症候群対策及びホルムアルデヒド放散量等の詳細、また、告示対象及び告示対象外でJIS等に放散等級等が規定されている塗料の表示とその確認方法等は、19章10節を参照されたい。
(2)「標仕」では、防火材料の指定がある場合は、建築基準法に基づき、指定又は認定を受けたものとしている。防火材科の確認は、(-社)日本塗料工業会の防火材料等証明書又は製品容器の表示マークによればよい。図18.1.2に表示マークの例を示す。
図18.1.2_製品容器の表示マークの例.jpeg
図18.1.2 製品容器の表示マークの例
(3) 塗料の色は、繊細なものであり、大量の塗料を現場において混合して同じ色調とすることは不可能に近い。このため、上塗塗料は指定した色の色彩や品質にばらつきが生じないよう、製造所において調合を行う。
製造所での調合には、所定の期間が必要であるため、工程に適合する時期に設計担当者と色彩計画を打ち合わせて決定する。
なお、一度に調色することが可能な少量の場合に限って、標仕では、同一の上塗登料の製造所の塗料を用いて現場調色することを認めている。
(4) 「標仕」では、塗装に用いる副資材は上塗塗料の製造所が指定する製品とすることを規定している。
(5) 「標仕」で規定された塗付け量は被塗物に塗り付けた量を示し、ロスを含まない。塗付け量を測定する場合は平らな面で行う。また、施工時に調整用として加えたシンナー等は含まないものとする。
(6) 塗料の種類と適用素地
(ア)「標仕」で規定している塗料の種類と適用素地との組合せを、表18.1.1に示す。
(イ)「標仕」では規定していないその他の主な塗料の種類と特徴を、表18.1.2に示す。
表18.1.1 塗料の種類と適用素地
表18.1.1_塗料の種類と適用素地.jpg
表18.1.2 「標仕」に規定されていない主な塗料の種類と特徴
表18.1.2_[標仕」に規定されていない主な塗料の種類と特徴.jpg
18.1.4 施工一般
(1) 塗装準備
(ア) 塗料の状態
(a) 搬入された塗料及び溶剤(シンナー)は、消防法等による危険物に指定されているものが多く、保管、貯蔵に当たっては、これら法令等を厳守しなければならない。
(b) 消防法関連法令とその略称を表18.1.3に示す。
表18.1.3 消防法関連法令とその略称
表18.1.3_消防法関連法令とその略称.jpeg
(c) 危険物と指定された塗料容器には、危険物の類別、危険物の等級について図18.1.3の例に示すような表示をすることが義務付けられており、この内容に応じた対応をしなければならない。
図18.1.3_危険物の種類、等級の表示の例.jpeg
図18.1.3 危険物の種別、等級の表示の例
なお、消防法で定められる第四類(引火性液体)となる危険物の等級区分は、次のとおりである。
① 危険等級 Ⅰ :特殊引火物(発火点が100℃以下のもの又は引火点が−20℃以下で沸点が40℃以下のもの)
② 危険等級Ⅱ:第一石油類(引火点21℃未満のもの)とアルコール類(炭素の原子数が1~3個までの飽和一価アルコール)
③ 危険等級Ⅲ:第二石油類(引火点が21℃以上70℃未満のもの)、第三石油類(引火点が70℃以上200℃未満のもの)、第四石油類(引火点が200℃以上250℃未満のもの)、動植物油類(引火点が 250℃未満のもの)
(d) 現場で使用する塗料関係の危険物の指定、貯蔵等についての消防法及び関連法令の関連部分の抜粋を次に示す。
危険物の指定及び貯蔵に関する法令
消防法(昭和23年法律第186号、最終改正令和3年5月19日法律第36号)
(用語の定義)
第2条
この法律の用語は左の例による。
⑦ 危険物とは、別表第1の品名欄に掲げる物品で、同表に定める区分に応じ同表の性質欄に掲げる性状を有するものをいう。
(危険物等の貯蔵等の基準設定の市町村条例への委任)
第9条の4
危険物についてその危険性を勘案して政令で定める数量(以下「指定数量」という。)未満の危険物及びわら製品、木毛その他の物品で火災が発生した場合にその拡大が速やかであり、又は消火の活動が著しく困難となるものとして政令で定めるもの(以下「指定可燃物」という。)その他指定可燃物に類する物品の貯蔵及び取扱いの技術上の基準は、市町村条例でこれを定める。
② 指定数量未満の危険物及び指定可燃物その他指定可燃物に類する物品を貯蔵し、又は取り扱う場所の位置、構造及び設備の技術上の基準(第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準を除く。)は、市町村条例で定める。
(危険物の貯蔵及び取扱いの制限等)
第10条
指定数量以上の危険物は、貯蔵所(車両に固定されたタンクにおいて危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「移動タンク貯蔵所」という。)を含む。以下同じ。)以外の場所でこれを貯蔵し、又は製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所でこれを取り扱ってはならない。ただし、所轄消防長又は消防署長の承認を受けて指定数量以上の危険物を、10日以内の期間、仮に貯蔵し、又は取り扱う場合は、この限りでない。
② 別表第1に掲げる品名(第11条の4第1項において単に「品名」という。)又は指定数量を異にする2以上の危険物を同一の場所で貯蔵し、又は取り扱う場合において、当該貯蔵又は取扱いに係るそれぞれの危険物の数量を当該危険物の指定数量で除し、その商の和が1以上となるときは、当該場所は、指定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱つているものとみなす。
③ 製造所、貯蔵所又は取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱いは、政令で定める技術上の基準に従つてこれをしなければならない。
④ 製造所、貯蔵所及び取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準は、政令でこれを定める。
(危険物取扱者)
第13条
政令で定める製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、甲種危険物取扱者(甲種危険物取扱者免状の交付を受けている者をいう。以下同じ。)又は乙種危険物取扱者(乙種危険物取扱者免状の交付を受けている者をいう。以下同じ。)で、 6月以上危険物取扱いの実務経験を有するもののうちから危険物保安監督者を定め、総務省令で定めるところにより、その者が取り扱うことができる危険物の取扱作業に関して保安の監督をさせなければならない。
② 製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、前項の規定により危険物保安監督者を定めたときは、遅滞なくその旨を市町村長等に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする。
③ 製造所、貯蔵所及び取扱所においては、危険物取扱者(危険物取扱者免状の交付を受けている者をいう。以下同じ。)以外の者は、甲種危険物取扱者又は乙種危険物取扱者が立ち会わなければ、危険物を取り扱ってはならない。
別表第1 (第2条、第10条、第11条の4関係)第四類抜粋
危険物の指定及び貯蔵に関する法令_別表第1第四類抜粋.jpeg
備 考

引火性液体とは、液体(第三石油類、第四石油類及び動植物油類にあっては、1気圧において、温度20度で液状であるものに限る。)であって、引火の危険性を判断するための政令で定める試験において引火性を示すものであることをいう。
十一
特殊引火物とは、ジエチルエーテル、二硫化炭素その他1気圧において、発火点が100度以下のもの又は引火点が零下20度以下で沸点が40度以下のものをいう。
十二
第一石油類とは、アセトン、ガソリンその他1気圧において引火点が21度未満のものをいう。
十三
アルコール類とは、1分子を構成する炭素の原子の数が1個から3個までの飽和一価アルコール(変性アルコールを含む。)をいい、組成等を勘案して総務省令で定めるものを除く。
十四
第二石油類とは、灯油、軽油その他1気圧において引火点が21度以上70度未満のものをいい、塗料類その他の物品であって、組成等を勘案して総務省令で定めるものを除く。
十五
第三石油類とは、重油、クレオソート油その他1気圧において引火点が70度以上200度未満のものをいい、塗料類その他の物品であって、組成を勘案して総務省令で定めるものを除く。
十六
第四石油類とは、ギヤー油、シリンダー油その他1気圧において引火点が200度以上250度未満のものをいい、塗料類その他の物品であって、組成を勘案して総務省令で定めるものを除く。
十七
動植物油類とは、動物の脂肉等又は植物の種子若しくは果肉から抽出したものであつて、1気圧において引火点が250度未満のものをいい、総務省令で定めるところにより貯蔵保管されているものを除く。
危険物の規制に関する政令(昭利34年政令第306号、最終改正令和元年12月13日 政令第183号)
(危険物の指定数量)
第1条の11
法第9条の4の政令で定める数量(以下「指定数量」という。)は、別表第三の類別欄に掲げる類、同表の品名欄に掲げる品名及び同表の性質欄に掲げる性状に応じ、それぞれ同表の指定数量欄に定める数量とする。
(指定可燃物)
第1条の12
法第9条の4の物品で政令で定めるものは、別表第4の品名欄に掲げる物品で、同表の数量欄に定める数量以上のものとする。
(貯蔵所の区分)
第2条 法第10条の貯蔵所は、次のとおり区分する。
1 屋内の場所において危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「屋内貯蔵所」という。)
(屋内貯蔵所の量準)
第10条 屋内貯蔵所(次項及び妨3項に定めるものを除く。)の位置、構造及び設備の技術上の基準は、次のとおりとする。(省略)
別表第3 (第1条の11 関係)第四類 抜粋
危険物の指定及び貯蔵に関する法令_別表第3第四類抜粋.jpeg
別表第4 (第1条の12関係)
危険物の指定及び貯蔵に関する法令_別表第4.jpg
備 考

可燃性液体類とは、法別表第1備考第十四号の総務省令で定める物品で液体であるもの、同表備考第十五号及び第十六号の総務省令で定める物品で1気圧において温度20度で液状であるもの、同表備考第十七号の総務省令で定めるところにより貯蔵保
管されている動植物油で1気圧において温度20度で液状であるもの並びに引火性液体の性状を有する物品(1気圧において、温度20度で液状であるものに限る。)で1気圧において引火点が250度以上のものをいう。
危険物の規制に関する規則(昭和34年総理府令第55号、最終改正令和3年7月21日総務省令第71号)
(品名から除外されるもの)
第1条の3
5 法別表第1 備考第十四号の組成等を勘案して総務省令で定めるものは、可燃性液体品が40パーセント以下であって、引火点が40度以上のもの(燃焼点が60度未満のものを除く。)とする。
6 法別表第1 備考第十五号及び十六号の組成を勘案して総務省令で定めるものは、可燃性液体量が40パーセント以下のものとする。
(e) 危険物貯蔵所の構造等に関して関係法令等には、主として次のような事項が定められている。
① 不燃材料で造った独立した平屋建てとし、周囲の建物から規定どおり離す。
② 屋根は軽量な不燃材料で葺き、天井は設けない。
③ 建物内の置場は、耐火構造の室を選ぶ。
④ 床には不浸透性の材料を敷く。
⑤ 消火に有効な消火器、消火砂等を備える。
⑥ 十分な換気を図る。
⑦ 窓及び出入口には防火設備を設ける。
⑧ 戸には戸締りを設け、「塗料置場」「火気厳禁」等の表示を行う。
(イ) 塗料の取扱い
(a) 塗料、シンナー等、化学物質を用いて施工する場合には、労慟安全衛生、環境対応への処置を行わなければならない。
(b) 有機溶剤中覇予防について
有機溶剤を使用して作業する場合の労働者の健康障害を防止するための措置については、労働安全衛生法、有機溶剤中誨予防規則等で、作業主任者の選任や取扱い上の注意事項等の掲示等が定められている。
① 有機溶剤作業主任者を選任しなければならない作業場所は、有機溶剤中毒予防規則第1条に次のように定められている。
1)船舶の内部
2)車両の内部
3)タンクの内部
4)ピットの内部
5)坑の内部
6)ずい道の内部
7)暗きょ又はマンホールの内部
8)箱桁の内部
9)ダクトの内部
10)水管の内部
11)屋内作業場及び前各号に掲げる場所のほか、通風が不十分な場所
「通風が不十分な場所」とは、天井、床及び周壁の総表面積に対する窓その他の直接外気に向かって解放しうる開口部の面積の比率が3%以下の屋内作業場をいう。
通風が不十分な船舶の内部及び車両の内部については上記同様に取り扱う。
② 有機溶剤作業主任者の職務は、有機溶剤中毒予防規則第19条の2に次のように定められている。
事業者は、有機溶剤作業主任者に次の事項を行わせなければならない。
1) 作業に従事する労働者が、有機溶剤により汚染され又はこれを吸入しないように、作業の方法を決定し、労働者を指揮すること。
2) 局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を1箇月を超えない期間ごとに点検すること。
3) 保護具の使用状況を監視すること。
4) タンクの内部において有機溶剤業務に労働者が従事するときは、第26条各号に定める措置が講じられていることを確認すること。
(c) 安全データシート(SDS)
塗料は、複数の化学物質から構成されており、その有害物による労働者の労働災害を防止したり環境への影響を考慮して、製造業者はSDS (Safety Data Sheet:安全データシート)の交付を労働安全衛生法等で義務付けられている。
その内容には、次のようなことが記載されており、施工に当たっては、これらを十分に確認し、安全・衛生対策を講じて作業を進めるとともに、廃棄物の取扱いにおいても、(g)に示すような廃棄上の注意事項に基づき処理しなければならない。
1) 安全データシートを作業場所の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けるなどの方法により、労働者の利用に供すること。
2) 安全データシートを活用して、安全衛生教育を行うこと。
3) 安全データシートを確認して、化学物質に関わる労働災害を防止するために必要な処置を講ずること。
4) 廃棄物処理に際して安全データシートの「廃棄上の注意」に基づいた処理を行うこと。
5) 安全データシート「環境影響情報」等に基づき、第三者等への現境管理を行うこと。
6) 安全衛生委貝会において、取り扱う化学物質の有害性、その他の性質について関係者の理解を深めるとともに、その適切な取扱い方法について調査を行うこと。
(d) 製造物責任法(PL法)への対応
製造業者は、取扱い説明書、技術資料、警告ラベル、安全データシート(SDS)等を完備し、「製造物責任法(PL法)」(平成6年法律第85号)に基づいて対応し、施工業者への情報提供を徹底し、施工業者はこれら情報に従った作業及び廃棄物処理等をしなければならない。
(e) 化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)
① 職場で化学物質を取り扱う際に、その危険性又は有害性、適切な取扱方法等を知らなかったことによる爆発、中毒等の労働災害が発生している。このような労働災害を未然に防止するには、その化学物質の危険性又は有害性の情報が確実に伝達され、伝達を得た事業場は、その情報を活用して適切な化学物質管理を推進することが重要である。
国際的には、平成15年に引火性や発がん性等の危険有害性の各項目にかかわる分類を行い、その分類に基づいて絵表示や注意喚起語等を含むラベル及び安全データシート(SDS)を作成・交付することなどを内容とする「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)」が、国際連合から勧告として公表された。このGHS国連勧告を踏まえ、表示・文書交付制度を改普した改正労働安全衛生法が、平成18年12月1日に施行された。容器にはGHSに対応するラベル表示をして、文書としてはGHSに対応する情報を含む安全データシート(SDS)を提供しなければならない。
国内では平成23年まで、MSDS(化学物質等安全データシート)と呼ばれていたが、国際整合の観点からGHSで定義されているSDSに統一された。
(参考GHS : Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)
② GHSに対応するラベルの例を図18.1.4に示す。ラベルには、「製品の名称」、「注意喚起語」、「絵表示(標章)」、「危険有害性情報」、「注意書き」、「供給者の特定」の情報が盛り込まれる。これらの概要を次に示す。
1) 「製品の名称」は、該当品の名称が記載される。
「成分」は、表示義務対象物質に該当するものが記載される。
2) 「注意喚起語」は、GHS付属書3又はJIS Z 7253 (GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法 – ラベル、作業場内の表示及び安全データシート(SDS))附属書Aに割り当てられた「注意喚起語」の欄に示されている文言(「危険」又は「警告」)が記載される。
なお、危険有害性クラス及び危険有害性区分等が決定されない場合は、注意喚起語の記載を要しない。
3) 「絵表示(標章)」は、GHS付属書3又はJIS Z 7253附属書Aに割り当てられた「絵表示」の欄に記載されている標章が記載される。
なお、危険有害性クラス及び危険有害性区分等が決定されない場合は、絵表示(標章)の記載を要しない。
4) 「危険有害性情報」は、GHS付属書3又はJIS Z 7253付属書Aに割り当てられた「危険有害性情報」の欄に示されている文言が記載される。なお、危険有害性クラス及び危険有害性区分等が決定されない場合は、記載を要しない。
5) 「注意書き」は、貯蔵又は取扱い上の注意等が記載される。
6) 「供給者の特定」は、表示する者の氏名(法人の場合は法人名)、住所及び地話番号等が記載される。
図18.1.4_GHSに基づくラベル表示の例.jpeg
図18.1.4 GHSに基づくラベル表示の例
(f)化学物質に関するリスクアセスメント実施義務化への対応
労働者の安全を確保するため、化学物質の管理が非営に重要な事項である。 2012年、胆管がんが発症した事例が相次いだことから、2014年6月、労働安全衛生法が改正され、SDSが交付義務の対象となっている化学物質についてリスクアセスメント実施が義務付けられることとなり、2016年6月1日に施行された。
1) リスクアセスメント実施が義務付けられるのは、塗料を扱う全ての事業者である。
2) 化学物質を取り扱う際に生じるおそれのある負傷・疾病の重駕度と発生の可能性を調査し、労働災害が発生するリスクの大きさを評価するものである。
(g) 廃棄物処理への対応
塗料をはじめ各種の産業廃棄物は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(昭和45年法律第137号)等によって規制されているが、特に留意すべき事項は次のとおりである。
1) 廃棄物の減量化とリサイクルの推進
2) 廃棄物処理に関する信頼性と安全性の確保
3) 不法投棄対策等
工事に当たっては、これら法律に従って産業廃棄物を適正に処理することになるが、特に不法投棄防止のため、産業廃棄物管理票(マニフェスト)(1.3.11参照)が全ての産業廃棄物に適用されている。
したがって、産業廃棄物の発生時には、施工者が産業廃棄物の運搬又は処分の資格を有する業者との委託基準に準じて委託契約した業者に「マニフェスト」を交付し、明確な指示を与えて、処理しなければならない。
(ウ) 塗装作業への塗料の調整
(a) 希釈(粘度調整)
原則として、調合された塗料をそのまま使用する。しかし、貯蔵中に均ーな品質を保持するため施工時の条件に適した粘度より若干高い粘度の製品になっている場合、施工時の素地の状態により粘度を下げる必要がある場合、気温が低い場合等には、所定のシンナーや水等により希釈し塗装に適した状態に粘度を調整することができる。
(b) こし分け
塗料は貯蔵中に分離、沈殿、皮ばり、凝集等の現象を生じている場合があり、使用直前によく混合し、均ーな状態とする。
この場合、かくはん等で再分散しない沈殿物、皮ばり、凝集等は、必要に応じてこし分けする。これらの操作が不十分な場合には、塗装後の膜厚に色の分離や光沢低下等の欠陥を生じる場合がある。
(2) 塗装工法
(ア) 研 磨
塗装面を研磨する目的は、次に示すとおりであり、目的に応じた施工をする。なお、研磨紙等は、JIS R 6251(研磨布)及びJIS R 6252 (研磨紙)による。
① 下地表面に付着している汚れ等を除去し、付着性向上のために行う場合で、鉄鋼面、亜鉛めっき鋼面の塗装によく用いられる。鋳止めを工場で塗装し、現場に搬入後、次の工程を塗装する場合等に行う研磨がこれに当たる。この場合、塗装された下塗りの塗膜厚を減少させないように行う必要がある。
② パテ処理面等を平滑にし、仕上げの平滑度を上げる場合に用いるもので、パテを厚付けした場合には、先に粗目の研磨紙で荒研ぎし、次に細かい目の研磨紙で目的の平滑度を得る。
(イ)パテの塗付け工法
被塗物の不陸、凹凸、穴等を処理して塗装仕上げの精度を高めるために用いる工法で、素地面に直接施工する場合と、各工程間に行う場合がある。
パテは、硬化後研磨を行うため、厚塗りを行う必要がある。このためひび割れが 生じないように、顔料や充槙材の配合が多くなっている。また、一般の塗料と比べて塗膜性能の向上を期待するものではないため、塗付け量は必要最小限とする。
パテ処理の工法には、パテかい、パテしごき、パテ付けの3種類がある。
① パテかい
局部的にパテ処理するもので、素地とパテ面との肌違いが仕上げに影響するため、注意しなければならない。
② パテしごき
素地とパテ面との肌がそろう程度に平滑になるようパテを残し、過剰なパテをしごき取る。
③ パテ付け
パテで全面を平滑にするもので、特に美装性を要求される仕上げの場合に行う。パテが厚塗りされるため、耐久性能を要求される仕上げの場合は不適当である。
(ウ)塗料の塗装工法
(a) はけ塗り
はけの毛間に塗料をよく含ませて、はけ目を均ーに塗り広げる伝統的な塗装手段である。
はけ塗りの特徴は、はけの材質、形状、寸法等を、塗料の種類、素地の種類、被塗物の形状等に応じて選択して用いることによって、いかなる素地や部位においても、均ーな塗膜厚さに仕上げることができる。
はけ塗りのチェックポイントは、次のとおりである。
1) 指定の塗料に適合した毛の種類、長さ、形状を用いているか。
2) はけは、よく洗浄され、ぬけ毛の生じないものを用いているか。
3) はけ塗りは、むらきり、はけ目通し等の操作をしながら、均ーに塗装しているか。
4) 仕上り面に、だれ、すけ、むら等が生じておらず、均ーに塗られているか。
(b) 吹付け塗り
吹付け塗りは、塗料を霧化状態にして被抱物に吹きむらのないように吹き付け、均ーな塗膜を形成する。
吹付け塗りは、エアスプレ一方式とエアレススプレ一方式がある。
① エアスプレ一方式
塗料を圧縮空気によって霧化させながら、その空気圧力でスプレーガンにより吹付け塗装する方法である。適用できる塗料の種類に限界があり、高い粘度では均ーに霧化せず、低粘度に希釈するため一般的に膜厚は薄い。また、塗装時の飛散が多く風の影響を受けやすいなどの欠点がある。
エアスプレ一方式の場合のチェックポイントは、次のとおりである。
1) 塗装開始前に周辺部分は十分に養生されており、また、適切な施工条件となっているか。
2) 塗料が所定の粘度に調整されているか。
3) スプレー塗装時の所定空気圧力に設定されているか。
4) 塗装作業の被塗物とスプレーガンとの距離が一定に保たれているか。
5) スプレーガンの運行速度は一定であるか。
6) スプレーバターンの形状は膜厚が均ーで、だれ、すけ、むら等の発生はないか。
② エアレススプレ一方式
塗料自体にポンプで10 ~ 20MPa程度の圧力を加え、スプレーガンのノズルチップから霧化して吹き付ける方法である。塗料自体に圧力を加えることができるため、高粘度や高濃度の塗料が塗装可能で、厚膜に仕上げられ、エアスプレ一方式に比べ飛散ロスも少なく効率的な施工ができる。
エアレススプレ一方式の場合のチェックポイントは、次のとおりである。
1) 塗料が所定の状態になっているか。
2) 塗料に適合したノズルチップが選定されているか。
3) 塗料が所定の圧力に加圧され、均ーに霧化し、スプレーパターンにテールが発生していないか。
4) 被塗物とスプレーガンとの距離及び運行速度は一定か。
5) 仕上り塗膜は厚さが均一で、だれ、すけ、むら等の発生はないか。
(c) ローラーブラシ塗り
ローラーブラシ塗りは、昭和30年代にアメリカから導入された塗装工法で、現在では、建築工事における塗装工法の主流となっている。ローラーブラシを構成しているアクリル又はポリエステル繊維等による塗料の含みがはけより多く、1回で広い面積に対して能率よく塗装できることが特徴である。隅角部、ちり回り等は、小ばけや専用ローラーを用いて均ーに塗る。
ローラーブラシ塗りのチェックポイントは、次のとおりである。
1) 塗料に適合した大きさ、毛の種類のローラーブラシを使用しているか。
2) 塗付け量に適合した毛の長さのローラーブラシを使用しているか。
3) 塗装時におけるローラーの回転は適切な速度で均ーに塗られているか。
4) 塗装作業はローラーマークをそろえて塗られているか。
5) 隅角部、ちり回り等は専用ローラー、小ばけ等で先行して塗られているか。
6) 仕上り面に、だれ、すけ、むら等が生じていないか。
(エ)各塗装工程の工程間隔時間及び最終養生時間
各塗装工程の工程間隔時間及び最終養生時間は、用いる塗料の乾燥硬化機構によって決まる。したがって、乾燥硬化の違いにより、次の工程に移る間隔時間を定める必要があり、また、最終工程には塗膜の使用可能までの時間を定める必要もある。
なお、工程間隔時間及び最終養生時間には、良好な塗膜形成と塗膜層間の付着性を得るために、塗料の種類によって次の工程に入るまでに一定時間以上必要な場合と、ある時間から定められた一定時間以内に次の工程に移らなければならない場合とがある。特に、水系塗料(水を主要な揮発成分とする塗料)では、気温が低く湿度が高いときに乾燥硬化が遅くなる。図18.1.5に示すように塗装・乾燥として最適な温度は20℃であるが、気温がそれよりも低くなるほど乾燥硬化が遅くなるため、良好な塗膜形成を確保するには、20℃施工時の標準工程間隔時問及び最終養生時間よりもそれぞれ長い時間が必要である。湿度についても高くなるほど乾燥硬化が遅くなることから、同様な注意を要する。
18.1.5 見 本
(1) 見本の作製
施工に先立ち、色彩計画によって決定された色、光沢、模様等の仕上げの状態について、見本塗板を作製する。
この場合、各工程が確認できるような工程塗りの見本とすることが望ましい。
(2) 見本の保管
設計担当者の確認を受けた標準見本は、最終検査時まで直射日光の当たらない場所で保管する必要がある。しかし、合成樹脂調合ペイント等の油変性塗膜は直接日光の当たらない場所に保管してあっても、徐々に反応が進行して色が変わるため、初期とは異なった色調になる場合もある。これらの見本については、事前に協議して合意を得て保管する。
18.1.6 施工管理
(1) 建築物の塗装は、内外装に施され、仕上げとしての美装のためだけでなく、各種劣化外力から被塗物を保陵することによって、建築物の耐久性を向上させることを目的としている。
このため、各種の素地に塗装された塗膜が所定の品質を確保できるように施工管理を行う必要がある。
塗装工事にかかわる具体的な施工管理の項目は、概ね次のとおりである。
(ア) 塗装工程
(a) 塗装前の素地の状態
(b) 使用材料
(c) 塗装方法
(d) 下塗り、中塗りの工程後の下地の状態(塗り工程の間隔時間、養生)
(イ) 塗付け量等
下塗り、中塗りの工程ごとに見本塗板との比較を行い、最終工程完了後「標仕」18.1.7により塗装面の確認を行う(18.1.7参照)。
(2) 施工時の条件
(ア) 乾燥硬化機構の種類
建設現場で用いられる塗料は、一般的に自然乾燥形塗料といわれ、その乾燥硬化機構には次の4種類がある。
① 揮発乾燥
塗料中の溶剤が蒸発するだけで塗膜を形成するもの。
(代表例:ラッカーエナメル)
② 揮発酸化乾燥
塗料中の溶剤が蒸発しながら樹脂が空気中の酸素と反応することで、塗膜を形成するもの。
(代表例:合成樹脂調合ペイント、油性系さび止めペイント)
③ 分散粒子融着乾燥
水又は溶剤中に分散している樹脂粒子が、水又は溶剤が蒸発することで融着し塗膜を形成するもの。
(代表例:合成樹脂エマルションペイント、非水分散形塗料)
④ 反応硬化乾燥(重合乾燥)
塗膜形成要素である樹脂と副要素である硬化剤を混合することによって反応が起こり、塗膜を形成するもの。
(代表例:2液形エポキシ樹脂エナメル、常温乾燥形ふっ素樹脂エナメル)
(イ) 乾燥硬化の条件
塗料は含有成分を蒸発させたり、化学反応を生じさせて、乾燥硬化するため、施工時の温湿度に関する条件が重要となる。
図18.1.5は、一般的な塗装と養生に適する温湿度条件を示す。
図18.1.5_塗装作業と養生に適する温湿度条件.jpeg
図18.1.5 塗装作業と養生に適する温湿度条件
(ウ) 養生
塗装工事における養生には、塗装しない部分に塗料が付着して汚れないようにする方法と、塗装した後の乾燥硬化過程で塗膜を正常に形成するため塗膜面に汚れが付着しないようにし、降雨、強風、直射日光等が当たるのを防いだり、温湿度を調節する方法がある。
18.1.7 塗装面の確認等
(1) 塗料及び塗膜の欠陥
塗装工事における欠陥の種類は、塗料状態における塗料の欠陥、塗装作業中における塗料の欠陥、塗装作業後における塗膜の欠陥及び塗装終了後の時間経過における塗膜の欠陥に分類でき、これらの欠陥の多くの場合は適切な予防処置を施すことにより避けることができる。これらの原因と対策を表18.1.4に示す。
(2) 塗装面の確認
塗装面の確認は、「標仕」表18.1.1による目視を標準としている。しかし、錆止め塗料塗りの場合は、塗付け量又は膜厚が防錆性能に大きく影響するため、次の方法により、これらの量又は厚さを確認することとしている。
(a) 現場における錆止め塗料塗りの場合は、膜厚測定が困難な場合が多いため、使用量から単位面積当たりの塗付け量を推定することを標準としている。
(b) 工場における鋳止め塗料塗りの場合は、電磁膜厚計等による膜厚測定の確認を標準とし、試験ロットの構成等は、施工者が品質計画で定めることとしている。
鋼製建具の工場錆止め塗装の膜厚に対する確認方法の例を以下に示す。
① 枠及び戸はそれぞれ別なロットとし、1組の作業班が1日に塗装した枠又は戸の全てについて、30個又はその端数を1ロットとする。
② 1ロットから1枠又は1枚を無作為に抽出し、膜厚を以下のように測定する。
1) 枠については、縦枠2箇所(左・右)及び上枠の中央部付近各1箇所、計3箇所を1回の試験とする。
2) 戸の両面について、上段、中段及び下段の中央部付近各1箇所、計6箇所を1回の試験とする。
3) 1箇所について3点測定し、その平均値をその箇所の膜厚とする。
③ 1回の試験の平均値が、規定された膜厚以上、かつ、全ての箇所の膜厚が規定された膜厚の85%以上の場合をロットの合格とし、これ以外を不合格とする。
④ 不合格となったロットは、全てについて再塗装し、上記に準じて再度確認を行う。
表18.1.4 塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その1)
表18.1.4_塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その1).jpeg
表18.1.4 塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その2)
表18.1.4_塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その2).jpeg
表18.1.4 塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その3)
表18.1.4_塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その3).jpeg

18章 塗装工事 2節 素地ごしらえ

18章 塗装工事
02節 素地ごしらえ
18.2.1 一般事項
素地ごしらえは、塗装対象となる素地面の汚れ及び付着物を取り去り、素地に対する塗料の付着性を確保するとともに、素地面を塗装に適した状態に調整するために、塗装に先立って実施する作業である。どんなに性能が優れた塗料を使用しても、素地ごしらえが不適切であれば塗装直後の仕上りが良好でないばかりか、早い時期に塗膜のはく離や素地の劣化を招くことになる。したがって、素地ごしらえが塗装仕上げの良否を決定するといっても過言ではなく、塗装工事において特に重要な工程である。
素地ごしらえの方法は、塗装対象である木部、金属、モルタル、コンクリート、ボード類等の素地の種類によって大きく異なる。
18.2.2 木部の素地ごしらえ
(1) 材 料
(ア) 木部下塗り用調合ペイント
「JASS 18 塗装工事 」M-304の品質に適合するものとする。「標仕」では、合成樹脂調合ペイント塗り及びつや有合成樹脂エマルションペイント塗りに対する木部の素地ごしらえにおける節止めに適用している。
(イ) セラックニス
JASS 18 M-308の品質に適合するものとする。セラックニスは、昆虫の分泌物をベースとしたものをアルコール類に溶解してワニス状にしたもので、アルコール以外の溶剤には溶解しない点を生かし、節部分のやにやしみ止めに用いられる。「標仕」では、合成樹脂調合ペイント及びつや有合成樹脂エマルションペイント以外の塗料塗りの節止めに適用され、その種類はJASS 18 M-308白ラックニス1種とされている。
(ウ) 合成樹脂エマルションパテ
合成樹脂エマルション、顔料、充填材等を配合して作られた高粘度のもので、 JIS K 5669(合成樹脂エマルションバテ)に規定されている。表18.2.1に示すように耐水形と一般形があり、それぞれに厚付け用と薄付け用がある。主として、コンクリート、モルタル用として開発されたものである。
なお、「標仕」では、屋内の木部については使用部位を限定していないため、耐水形を用いることとしている。しかし、耐水性はエポキシ樹脂系パテ等に比較して劣るので、より耐候性や耐水性を要求される外部には適用しないことにしている。
パテの使用は、塗膜の性能に影響するので、特に美装性が必要な場合以外はできるだけ使用しない方がよい。
表18.2.1 合成樹脂エマルションパテ
表18.2.1_合成樹脂エマルションパテ.jpg
(2) 標仕の表18.2.1に規定される素地ごしらえの工程を行った後に、着色剤等を用いて色むら直しをする場合の詳細は各節の塗り仕様において規定されており、監理指針においても各節で解説されている。
(3) 工程間隔時間の考え方
材料の標準工程間隔時間(18.1.6 (2)(ウ) 参照)を表18.2.2に示す。工程間隔時間は温湿度条件により異なり、ここでは、標準工程間隔時間として気温20℃における時間を表示している。一般的に、高温においては時間が短く、低温においては時間が長くなる。
表18.2.2 木部の素地ごしらえ用材料の種類と標準工程間隔時間
表18.2.2_木部の素地ごしらえ用材料の種類と標準工程間隔時間.jpg
18.2.3 鉄鋼面の素地ごしらえ
(1) 一般事項
「標仕」18.2.3では、鉄鋼面に対する素地ごしらえの種別をA、B、Cの3種類と規定している。
A種は化学薬品を用いる化成皮膜処理である。
B種は、ブラスト法を用いて鉄鋼面の錆を落とし、消浄な鋼材表面を得る素地ごしらえで、この上に施される塗膜の耐久性が向上する。7節[耐候性塗料塗り]の仕様には、必ず適用する。
C種は、主として、電動工具、手工具等を使用して、不安定な黒皮や赤錆を除去する一般的な素地ごしらえである。
錆落しの工程で「酸漬け」を適用するA種及び「ブラスト法」を適用するB種は、製作工場で行われる。
(2) 油類除去
(ア) 動・植物袖(防錆油等)は、80~100℃に加熱したアルカリ性脱脂剤で分解、洗浄して除去する。
(イ) 溶剤には石油系溶剤等を用いるが、火気厳禁として排気や換気に十分留意する。
(3) 錆落し
(ア) 黒皮〈ミルスケール〉は、次の方法で除去する。
(a) 硫酸5~15%の水溶液を 50 ~70℃に加熱したもので酸洗いした後、直ちに水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムの希( 1~2%)アルカリ性溶液につけて中和し、湯洗いする。
(b) ショットブラスト、グリットブラスト、サンドブラスト等の方法を用いて除去する。
(イ) 赤錆は、デイスクサンダー、ワイヤブラシ、スクレーパー、研磨紙等で取り除くことができる。
(ウ) 素地ごしらえが終わったら、直ちに錆止め塗料を塗り付けなければならない。
(4) 化成皮膜処理
鉄にりん酸塩溶液を作用させると、化学的に結合して安定したりん酸塩鉄の皮膜を生成する。このような処理をりん酸塩処理といい、この皮膜が鉄鋼面の発錆を抑え塗膜の付着性を向上させて鉄鋼面を保護する。
なお、このような処理面は、空気中の水分等により塗装に有害な酸化皮膜を生じやすいため、処理した後は直ちに錆止め塗料を塗り付けなければならないが、出来ない場合は、適切な処理を行う。
18.2.4 亜鉛めっき鋼面の素地ごしらえ
(1) 一般事項
亜鉛めっき鋼面に施された塗膜は、はく離することが多いため、素地ごしらえに十分な注意が必要である。「標仕」18.2.4では、亜鉛めっき鋼面に対する素地ごしらえの種別として、A、Bの2種類を規定している。
A種は塗装工場で行われる化成皮膜処理による素地ごしらえで、一般的に塗装工場で実施される塗装前の工程として化成皮膜処理を施す場合に適用される。
一方、JIS規格が規定される表面処理亜鉛めっき鋼板の素地ごしらえはB種であり、亜鉛めっき鋼板の製造工程に含まれており、鋼板製造工場で行われている。特に、鋼製建具等に使用される亜鉛めっき鋼板は、鋼板製造工場において「化成皮膜処理」まで施しており、工事現場ではB種とする。B種は汚れ、付着物の除去と脱脂のみを実施する素地ごしらえである。
(2) 油類除去は、18.2.3(2)に準ずる。
(3) 化成皮膜処理
亜鉛にりん酸塩溶液又は六価クロムを含まないクロメートフリー溶液を作用させると、化学的に結合して安定したりん酸亜鉛又はクロメートフリー亜鉛の皮膜を形成する。このような処理をりん酸塩処理又はクロメートフリー処理といい、この皮膜が亜鉛めっき鋼面の発錆を抑え亜鉛めっきと塗料との反応を抑制して、塗膜の付着性を向上させる。六価クロムは有害化学物質であるため、平成28年版「標仕」の改定から、使用しないこととなった。
(4) エッチングプライマー(JIS K 5633)
亜鉛めっき鋼面に対するエッチングプライマー塗りによる素地ごしらえは、塗膜の付着性を安定的に確保することが難しく平成28年版の「標仕」改定により「標仕」 18.3.2(2)においてJIS K 5629鉛酸カルシウムさび止めペイントが削除されたことから、併せて削除されている。
18.2.5 モルタル面及びせっこうプラスタ一面の素地ごしらえ
(1) 作業の流れを次に示す( “破線囲み”は「標仕」表18.2.4のA種の場合)。「標仕」では、特記がなければ、B種となっている。美粧性が求められる用途にはパテしごき、研磨紙ずりを行うことにより平滑性を持たせた素地ごしらえを行うA種を適用する。
18.2.5_モルタル面及びせっこうプラスター面の素地ごしらえ作業の流れ.jpg
(2) 乾 燥
(ア) 水分とアルカリによる影響
(a) 水分の場合
素地の含水量が多いところに塗った塗膜は、蒸発する水分を密閉したことになるため、次のような現象が生じる。
1) 塗膜が、被塗面に付着しない。
2) 塗膜と被塗面との間に水が介在し、一部塗膜が水に押し上げられてふくれができる。
(b) アルカリの場合
アルカリ性の強い場合は、塗膜自体が侵されて次のような欠陥を生じる。
1) 塗膜中の顔料が変退色する。
2) 塗膜がはく離する。
(イ) アルカリが塗膜に作用するのは、水分があるためであり、水に溶けた状態で塗膜に作用する。乾燥して塗装可能となる時期には、素地表面も弱アルカリ性となり、モルタルでは、その期間が夏期で2週間程度である。
(ウ) 塗装対象素地ごとの材齢による乾燥期間の目安は、表18.2.3に示す日数以上とする。
(エ) 素地のpH値経時変化を図18.2.1に、素地の乾燥速度を図18.2.2に示す。
表18.2.3 材齢による乾燥の目安
表18.2.3_材齢による乾燥の目安.jpg
図18.2.1_素地のpH時経時変化.jpg
図18.2.1 素地のpH時経時変化
図18.2.2_素地の乾燥速度.jpg
図18.2.2 素地の乾燥速度
(オ) 一般的に、素地の含水率の測定には高周波静電容量式水分計、pH(水素イオン濃度指数)の測定にはpH試験紙、pHメーター等が用いる場合がある。
(3) 汚れ、付着物除去
せっこうプラスター等の壁面は、汚れや付着物、ぜい弱層等を除く目的以外には、原則として研磨紙を掛けない方がよい。研磨紙を掛けると、塗料の吸込みが促進され、仕上り状態に悪影響を与える。また、粉末が付着していると、塗料の付着を妨げる。
汚れ、付着物の除去は、ブラシ類、研磨紙、ウエス等で素地を傷つけないように行う。
(4) 吸込止め
(ア) 一般的には、合成樹脂エマルションシーラーを使用するが、アクリル樹脂系非水分散形塗料塗りの場合は、塗料の製造所により適用する材料が異なるので塗料の製造所の仕様による。
(イ) 壁紙による仕上げの場合は、壁紙専用の材料を使用する。
(5) 穴埋め、パテかい
(ア) モルタル素地のひび割れや穴埋めは、外部及び水掛り部分には建築用下地調整塗材C-1を用い、屋内には合成樹脂エマルションパテ(耐水形)を用いる。
(イ) 合成樹脂エマルションパテは耐水形でも、外部及び結露しやすい箇所に使用すると、はく離の原因となるため使用を避ける。
(ウ) 壁紙による仕上げの場合は、壁紙専用のパテを使用する。
(6) 研磨紙ずり
(ア) 補修箇所が十分乾燥した後、表面を研磨紙ずりして平らにする。
なお、せっこうプラスター等にはPl20-220程度の細かいものを使用する。
(イ) 研磨紙ずり後、素地面を布でふいて付培した粉末等を取り除く。
(7) パテしごき
パテしごきは、パテを全面にへら付けし、表面に過剰のパテを残さないよう十分しごき取る。
建築用下地調整塗材C-1の施工に当たっては、次の点に注意する。
(a) 混和液と粉体の練混ぜは、混和液に粉体を徐々に加えてよくかくはんする。
練混ぜが十分でないと粉体に固まりが生じ、仕上り不良や強度不足となる場合がある。
(b) かくはん機で必要以上に練り混ぜると気泡が発生し、仕上り面に気泡跡が残る場合がある。
(c) 再調合する場合には、使用機材に付着している前回調合した材料を完全に洗い落として使用しないと、可使時間が短くなる。
(d) 素地表面に露出している金物については、防錆処理を行った後に塗り付ける。
(e) 施工後の降雨、降雪、気温の低下、直射日光や強風によるドライアウト等により、硬化不良を起こす場合がある。
(f) 壁紙による仕上げの場合は、壁紙専用の下地調整塗材又はパテを使用する。
18.2.6 コンクリート面、ALCパネル面及び押出成形セメント板面の素地ごしらえ
(1) コンクリート面及びALCパネル面の素地ごしらえ
(ア) 作業の流れを次に示す( “破線囲み” は「標仕」表18.2.5のA種の場合、 “一点鎖線囲み” は、ALCパネル面の場合)。
18.2.6_.コンクリート面、ALC面の素地ごしらえ作業の流れ.jpg
(イ) コンクリート面の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.5と表18.2.6に分かれているが、表18.2.5の素地ごしらえは、7節[耐候性塗料塗り]以外の塗料塗りに適用する。
(ウ) 乾燥、汚れ・付着物除去、研磨紙ずり及びパテしごきは、18.2.5による。また、材齢による乾燥の目安は表18.2.3による。
(エ) 下地調整塗りは、良好な仕上り及び耐久性を確保するため建築用下地調整務材を全面に塗り付ける。下地調整塗材 C-1は 0.5〜1mm程度、C-2は1〜3mm程度、 CM-2は3~10mm程度、Eは0.5~1mm程度の範囲で下地の不陸に応じて使い分ける。
(オ) 屋内で、コンクリート面等に素地ごしらえをして合成樹脂エマルションペイントを直接塗装する場合は、建築用下地調整塗材を全面に平滑に塗り付けた後、全面にパテしごきを行う必要がある。この場合、「標仕」表18.2.5のA種を用いるのが望ましい。
(カ) 仕上材が壁紙の場合、吸込止め、下地調整塗り、パテしごきに用いる「標仕」表18.2.5の塗料その他は壁紙専用のものとする。
(2) コンクリート面及び押出成形セメント板面の素地ごしらえ
(ア) 作業の流れを次に示す( “破線囲み” は「標仕」表18.2.6のA種の場合、”一点鎖線囲み”は、コンクリート面の場合)。
18.2.6_.コンクリート面、ECP面の素地ごしらえ作業の流れ.jpg
(イ) コンクリート面の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.5と表18.2.6に分かれているが、表18.2.6の素地ごしらえは、7節[耐候性塗料塗り]に適用する。
(ウ) 乾燥、汚れ・付着物除去及び研磨紙ずりは、18.2.5による。また、材齢による乾燥の目安は表18.2.3による。
(エ) 吸込止め及びパテしごきに使用する材料は、上に塗り重ねる塗料の製造所の仕様による。
(オ) 吸込み止めには、JASS 18 M-201(反応形合成樹脂シーラーおよび弱溶剤系反応形合成樹脂シーラー)を用いる。
18.2.7 せっこうボード面及びその他ボード面の素地ごしらえ
(1) 作業の流れを次に示す( “破線囲み” は「標仕」表18.2.7のA種の場合)。
18.2.7_せっこうボード面等の素地ごしらえ作業の流れ.jpg
(ア) 各ボードの継目処理部分は、十分に乾燥させてから、ボード面を傷つけないように汚れ、付着物を除去する。
(イ) 穴埋め、パテかいは、「標仕」18.2.7に規定するボード面に対して、合成樹脂エマルションパテ(一般形)を使用することにしているが、これは屋内の水掛りでないところに用いることを前提として、主要な要求性能である「仕上りの良さ」を考慮したものである。
(ウ) 大壁面や大空間では、素地面とパテ等の肌違いによる光沢むらが目立ちやすいため、「標仕」表18.2.7のA種を用いることが望ましい。
なお、素地がせっこうボードの継目処理工法の場合は、仕上りを考慮してA種とし、穴埋め、パテかい及びパテしごきには、せっこうボード用目地処理材(ジョイントコンパウンド)を使用する。
(エ) 仕上材が仕上塗材の場合、パテは、仕上塗材の製造所の仕様による。壁紙による仕上げの場合に用いるパテは、壁紙専用の製品とする。
(2) けい酸カルシウム板面の素地ごしらえ
(ア) 表面がぜい弱であるけい酸カルシウム板面の施工に当たっては、汚れや付着物を除去した後、吸込止めとしてJASS 18 M-201に基づく塗料を全面に塗り付けてから、穴埋めやパテかいを行う。
(イ) 表面補強効果がある JASS 18 M-201は、上塗塗料の製造所が指定するものとする。
(ウ) 屋内で塗装する場合、吸込止めに用いる材料は、作業者や居住者の健康配慮のため、上に塗り重ねる塗料の製造所の仕様による水性塗料で行う。

18章 塗装工事 3節 錆止め塗料塗り

18章 塗装工事
03節 錆止め塗料塗り
18.3.1 一般事項
この節は、建築物内外の一般部、構造体、鋼製建具、設備機器類等の鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面の下塗りである錆止め塗料塗りを対象としている。令和4年版「標仕」から、鉄鋼面及び亜鉛めっき面の錆止め塗料を3節にまとめた。
18.3.2 塗料種別
(1) 鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面の防錆を目的として、下塗りに使用される錆止め塗料は、JIS K 5621(一般用さび止めペイント)、JIS K 5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)、「JASS 18 塗装工事」M-109、M-111、JPMS 28、耐候性塗料塗りで使用するJIS K 5552、JIS K 5551等がある。
(2) 「標仕」で採用されている各種錆止め塗料の特徴は、次のとおりである。
(ア) 鉛・クロムフリーさび止めペイント(JIS K 5674)
JIS K 5674に規定されており、鉛及びクロムを含まない錆止め顔料を、ビヒクル(加工乾性袖(ボイル油)又は合成樹脂ワニス)に分散させてつくる鋳止め塗料である。1種は溶剤系塗料(有機溶剤を揮発成分とする塗料)、2種は水系塗料(水を主要な揮発成分とする塗料)であり、錆止め顔料の種類は特定されていないが、りん酸亜鉛、亜りん酸亜鉛等のほかにも種々の顔料を使用するとしている。りん酸イオンは鋼面を不動態化させて、防錆効果を示す。色調は赤錆色、白色、灰色等がある。
(イ) 水系さび止めペイント(JASS 18 M-111)
水系さび止めペイントの品質は、JASS 18 M-111に規定されている。
JASS 18 M-111に規定される水系さび止めペイントの耐複合サイクル防食性は、一般用さび止めペイント1種及び2種の耐複合サイクル防食性よりも1優れており、シアナミド鉛さび止めペイントの耐複合サイクル防食性と同等である。
(ウ) ジンクリッチプライマー(JIS K 5552)
JIS K 5552に規定されており、70%以上含まれている金属亜鉛が防錆効果を示す錆止め塗料である。
JISではアルキルシリケートをビヒクルとした1種(無機)と、エポキシ樹脂をビヒクルとした2種(有機)が規定されており、「標仕」表18.3.4では品質や施工性等から、下塗り(1回目)には2種を用いることにしている。
(エ) 構造物用さび止めペイント(JIS K 5551)
JIS K 5551に規定されており、種類はA種、B種、C種、D種及びE種がある。
2018年JIS K 5551の改定に伴い、水系塗料が規定に加わった。A種とB種は有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形エポキシ樹脂系塗料であり、C種は有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形変性エポキシ樹脂系塗料又は反応硬化形変性ウレタン樹脂系塗料、D種とE種は水を主要な揮発成分とする反応硬化形エポキシ 樹脂系塗料である。塗膜厚さによる区分があり、A種とD種は約30μm(標準形)、B種、C種及びE種は約60μm(厚膜形)となっており、「標仕」表18.3.4では品質や施工性の観点から、下塗り2回目と3回目にはA種を用いることとしている。当該規格では製品の形態(荷姿)に1液形と多液形があり、主剤と硬化剤からなる多液形が使用されることが多い。下塗りとして用いる反応硬化形エポキシ樹脂系塗料の標準工程間隔時間には、7日以内と制限があるため、「標仕」表18.7.1では、「鋳止め塗料塗り」の次に、工程1「研磨紙ずり」を設けている。
(オ) 一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイント(JPMS 28)
変性エポキシ樹脂と顔料、分散剤等を主成分とする。一液形であるため、作業性に優れており、平成25年版「標仕」で採用されていた鉛酸カルシウムさび止めペイントより防錆効果が優れている。
鉛酸カルシウムさび止めペイントについては、主に、平成25年版「標仕」の建具工事において使用されていたが、関連業界による共同実験の結果、一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントが、代替品として適していることが実証されたため、廃止された。
亜鉛めっき鋼面の素地ごしらえに採用されていたエッチングプライマー塗りは、鉛酸カルシウムさび止めペイントの付着性確保のために塗布するものなので併せて廃止された。これにより「標仕」の18章[塗装工事]より、鉛、クロムを使用した仕様が完全に廃止された。一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントの色調は、白色、灰色、赤錆色などがある。
上塗り塗料としては、合成樹脂調合ペイントをはじめ、弱溶剤系のポリウレタンエナメル、弱溶剤系のアクリルシリコン樹脂エナメルなども使用でき、用途として亜鉛めっき鋼面はもちろん、鉄鋼面にも適用できるが、「標仕」表18.3.1[鉄鋼面の錆止め塗料の種別]には、JIS、JASS規格があるため、JPMS 28は規定していない。
注意点として、一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントを塗装後は、必ず標準工程間隔時間内に上塗り塗装を行う。上塗り塗装を行わなかった場合、一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントの塗膜表面に白亜化が、発生することがある。標準工程間隔時間を超える場合は、研磨紙ずり後、上塗り塗装を行う。
(カ) 変性エポキシ樹脂プライマー(JASS 18 M-109)
JASS 18 M-109に規定されており、変性エポキシ樹脂と顔料、分散剤等を主成分とする主剤と、ボリアミド樹脂やアミンアダクト樹脂を用いる硬化剤から構成される、2液形下塗り塗料である。
純粋なエポキシ樹脂系塗料に比べて、得られる塗膜性能が素地調整の程度に大きな影響を受けず、適用対象の多い下塗り塗料である。特に、亜鉛めっき鋼面に対する付着性に優れている。
(3) 鉄鋼面の錆止め塗料の種別
(ア) 塗料種別は、「標仕」表18.3.1により、A種の鉛・クロムフリーさび止めペイント1種は、18.4.3[鉄鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り]と18.8.4[鉄鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り]に使用される。
(イ) 平成25年版「標仕」から、鉛・クロムフリー化に伴い、シアナミド鉛さび止めペイントは廃止された。
(ウ) B種の水系さび止めペイント及び鉛・クロムフリーさび止めペイント2種は、18.8.4[鉄鋼面つや有合成樹脂エマルションペイント塗り]に限定して使用される。
(エ) C種のジンクリッチプライマー及びD種の構造物用さび止めペイントA種は、 18.7.2[鉄鋼面の耐候性塗料塗り]に使用される。
(4) 亜鉛めっき鋼面鋳止め塗料の種別
(ア) 塗料種別は「標仕」表18.3.2により、JPMS 28、JASS 18 M-109若しくは JASS 18 M-111 を使用するように規定している。
(イ) 塗料種別は、「標仕」表18.3.2によりA種の一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントは、18.4.4[亜鉛めっき鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り]に使用される。
(ウ) ー液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントは、JISが制定されていないが、日本塗料工業会規格によってその性能が規定されており、亜鉛めっき面に対する付着性に優れている。作業性のうち、特に速乾性に優れており、鋼製建具などに適している。
(エ) B種の変性エポキシ樹脂プライマーは、18.4.4[亜鉛めっき鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り]と18.7.3[亜鉛めっき鋼面の耐候性塗料塗り]に使用される。
(オ) 変性エポキシ樹脂プライマーについては、JISが制定されていないが、日本建築学会材料規格によってその性能が規定されており、亜鉛めっき鋼面に対する付着性が優れている。
(カ) C種の水系さび止めペイントは、18.8.5[亜鉛めっき鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り]に限定して使用される。
18.3.3 錆止め塗料塗り
(1) 鉄綱面の錆止め塗料塗り
(ア) 「標仕」表18.3.3のA種における研磨紙ずりの目的は、ごみ、ほこり等の付着物を除去するためで、塗膜が薄くならないように軽く研磨する程度とする。
(イ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り又は吹付け塗りとし、工場塗装では条件が整えば浸漬(しんし)塗りとしてもよい。
(ウ) 塗料の標準工程間隔時間を表18.3.1に示す。
表18.3.1 鉄鋼面の錆止め塗料の種別と標準工程間隔時間
表18.3.1_鉄鋼面の錆止め塗料の種別と標準工程間隔時間.jpeg
(エ) 平成31年版「標仕」から、鉄骨等の鉄鋼面の錆止め塗料塗り工法で、2回目を鉄骨等の製作工場で塗る事が出来る規定が新たに追加された。
(オ) 耐候性塗料塗りの場合、下塗りまでは鉄骨等の製作工場で行い、現場に搬入して組立後は、塗膜の損傷程度に応じて、下地調整及びJASS 18 M-109に基づく錆止め塗料(「標仕」表18.3.2のB種)を3回塗る。
(2) 亜鉛めっき鋼面錆止め塗料塗り
(ア) 「標仕」表18.3.5のA種における研磨紙ずりの目的は、ごみ、ほこり等の付着物を除去するためで、塗膜が薄くならないように軽く研磨する程度とする。
(イ) 塗装方法は、はけ塗り又は吹付け塗りとする。
(ウ) 塗料の標準工程間隔時間を表18.3.2に示す。
表18.3.2 亜鉛めっき鋼面の錆止め塗料の標準工程間隔時間
表18.3.2_亜鉛めっき鋼面の錆止め塗料の標準工程間隔時間.jpeg
(エ) 「標仕」18.3.3 (4)(ア) では、鋼製建具等の塗装範囲を具体的に示しているが、両面フラッシュ戸の表面板裏側部分(力骨・中骨等を含む)、枠の裏側部分及び無目・方立等の裏側部分については、密閉部分で鋳の進行がほとんどないことから塗装範囲とはしていない。押縁については、ガラス施工時に取り外すことから、組立前に裏面側についても塗装することとしている。
(オ) 「標仕」で素地ごしらえをA種(化成皮膜処理)としているのは、亜鉛めっきの防錆機能を低下させずに下塗り塗料との付着性が得られることを考慮したものである。
(カ) 全ての塗装工程を鋼製建具等の製造工場で行う場合は、現場に搬入して組立後の補修方法等について事前に検討及び協識をしておく必要がある。
(キ) 下塗りまでは鋼製建具等の製造工場で行い、現場組立で生じた現場溶接部及び組立中の下塗り損傷部分は、ワイヤーブラシ、研磨布等を使用し、亜鉛めっき面を傷つけないように錆等を除去し、JASS 18 M-109(変性エポキシ樹脂プライマー(変性エポキシ樹脂プライマーおよび弱溶剤系変性エポキシ樹脂プライマー))(「標仕」表18.3.2のB種)による補修塗りを行う。ただし、鋼製建具等の製造工場にて下塗りとして一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントが使われている場合、JPMS 28(一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイント)(「標仕」表18.3.2のA種)でも補修塗りを行うことができる。
(ク) 使用する塗料、シンナー、調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。
(ケ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。

18章 塗装工事 4節 合成樹脂調合ペイント塗り(SOP)

18章 塗装工事
4節 合成樹脂調合ペイント塗り(SOP)
18.4.1 一般事項
この節は、建築物内外部の一般部、構造体、建具等の木部及び錆止め塗料を施した鉄鋼面や亜鉛めっき鋼面に対する汎用的な着色塗装仕上げを対象としている。
塗膜の耐アルカリ性が劣るため、コンクリート、モルタル、ボード類等の素地には適用できない。
本節で適用する材料の特徴は、以下のとおりである。
(1) 合成樹脂調合ペイント(JIS K 5516)
JIS K 5516に規定されており、隠ぺい力や耐候性に優れた着色顔料、体質顔料等と、耐水性や耐候性に優れる長油性フタル酸樹脂ワニスとを組み合わせて、空気中の酸素によって乾性油が酸化重合して硬化乾燥する塗料である。一般的に、鉄鋼面や亜鉛めっき鋼面に対する各種錆止めペイントを下塗りとする塗り仕様の中塗りと上塗りに、また、木部塗装における上塗りに用いられる。JISでは、1種は主に建築用、2種は大型鋼構造物用に分類されており、「標仕」では、1種を用いると規定している。
この塗料の特徴は、次のとおりである。
(a) はけ塗り作業に適しており、はけ目やだれが少なく、表面光沢をもつ平滑な仕上り塗膜が得られる。
(b) 酸化重合で硬化するため、乾燥時間は8~16時間程度と遅く、固形分が多く肉持ち感があり、硬くて汚れが付着しにくい塗膜を形成する。
(c) 硬化した塗膜は黄変しにくく、耐油性や80℃程度までの耐熱性をもつ。
(d) 塗膜の吸水性が比較的大きく、長期間に渡る耐水性は期待できない。
(e) 塗膜の耐アルカリ性が劣るため、コンクリート、モルタル等のアルカリ性を有する素地の塗装には使用できない。
(f) 暗い場所に塗装した場合、塗膜が黄味をおびて変色(黄変)する現象(暗所焼け)を生じることがあるため、白や淡彩色を暗い場所に塗装することは避けることが望ましい。
(2) 木部下塗り用調合ペイント
18.2.2(1)(ア) を参照する。木部合成樹脂調合ペイント塗りの下塗り工程に適用している。
(3) 合成樹脂エマルションパテ
18.2.2(1)(ウ) を参照する。
18.4.2 木部合成樹脂調合ペイント塗り
(1) 材 料
木部下塗り用調合ペイント及び合成樹脂エマルションパテについては、18.4.1(2)及び(3)を参照する。
(2) 塗 装
(ア) 「標仕」では、素地ごしらえ工程4「節止め」にも、「JASS 18 塗装工事」M-304(木部下塗り用調合ペイント)が規定されている。
(イ) 下塗りは、素地に対して塗料を十分なじませる目的で実施する。
(ウ) 合成樹脂エマルションパテは、耐水性が劣り、塗膜のふくれやはがれの原因になるため、浴室や洗面所等の水回りや外部には「耐水形」であっても用いない。
(エ) 塗装方法は、はけ塗り又は吹付け塗りとする。
(オ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.4.1に示す。
表18.4.1 木部合成樹脂調合ペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.4.1_木部合成樹脂調合ペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.4.3 鉄鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り
(1) 塗装方法は、はけ塗り又は吹付け塗りとする。
(2) 素地ごしらえ工程3「錆落し」の後は、発錆を防ぐため、標準工程間隔時間以内に次工程に移ることが重要であるが、標準工程間隔時間を超えて上に塗り重ねる場合は、適切な処理を行う。塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を表 18.4.2に示す。また、錆止め塗料塗りに用いる錆止め塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は表18.3.1による。
表18.4.2 鉄鋼面合成樹脂調合ペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.4.2_鉄鋼面合成樹脂調合ペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.4.4 亜鉛めっき鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り
(1) 塗装方法は、18.4.3(1)による。
(2) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は、表18.4.2による。また、錆止め塗料塗りに用いる錆止め塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は表18.3.2による。

18章 塗装工事 5節 クリヤラッカー塗り(CL)

18章 塗装工事
5節 クリヤラッカー塗り(CL)
18.5.1 一般事項
この節は、建築物内部の造作材、建具、造付け家具等の木部の透明塗装仕上げを対象としている。
18.5.2 クリヤラッカー塗り
(1) 材 料
(ア) 合成樹脂目止め剤
との粉、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウムなどの体質顔料を合成樹脂ワニス、溶剤・添加剤などと練り合わせたものである。
(イ) 溶剤形着色剤
溶剤形染料着色剤と溶剤形顔料着色剤があり、前者は染料、後者は顔料を有機溶剤に溶解したものである。
(ウ) 油性染料着色剤
一般的にはオイルステインと呼称される着色剤であり、染料を芳香族系炭化水素・脂肪族系炭化水素と少量の油ワニスあるいは合成樹脂ワニスなどに溶解したものである。
なお、オイルステイン(油性染料着色剤)のみを利用した建築物内部の木部仕上げについては、18.11.2にオイルステイン塗りとして示している。
(エ) ウッドシーラー
JIS K 5533(ラッカー系シーラー)に規定されており、ニトロセルロースを主要な塗膜形成要素とした透明の揮発乾燥性の塗料で、木材表面に一部浸透して、自然乾燥で短時間に塗膜を形成する。
素地への吸込止め、素地押え、着色押えをする目的で下塗りに用いる。
(オ) サンジングシーラー
JIS K 5533に規定されており、ニトロセルロースを主要な塗膜形成要素とした半透明の揮発乾燥性の塗料で、自然乾燥で短時間に塗膜を形成する。
膜厚を確保して肉持ち感を与えるとともに、研磨がしやすく平滑に仕上げる目的で中塗りに用いる。
(カ) 木材用クリヤラッカー
JIS K 5531(ニトロセルロースラッカー)に規定されており、工業用ニトロセルロースとアルキド樹脂を主要な塗膜形成要素とした、液状の揮発乾燥性の塗料である。
自然乾燥で短時間に塗膜を形成する塗料であるため、吹付け塗りとするのが一般的である。比較的小面積の場合又は吹付け塗りで、塗料のロスが多く不経済となる場合等は、はけ塗りも適用される。
塗膜が薄く肉持ちが悪いため、平滑な塗膜表面を得るには塗重ねが必要となる。
湿度が高い場合には、空気中の水蒸気が塗膜面に凝縮吸着されて、白化〈かぶり〉を生じやすい。
(2) 塗 装
(ア)「標仕」では、塗装種別をA種とB種としており、種別の選定は特記により、特記がなければ B種と規定している。A種は目止めの工程が含まれ上塗り2回の工程であるため、B種と比較すると平滑で肉持ち感のある仕上がりとなる。A種は美観性を要求される場合に適用する。
(イ) 目止めは素地である木材の導管、仮導管、細胞間隙などの穴を埋めて、平滑な塗装素地面を得るための工程であり、一般的に目止め剤が使用される。A種では、目止め剤として合成樹脂目止め剤を使用することとしている。また、「標仕」表 18.5.1の(注)2に示すようにA種で着色する場合、着色に用いる塗料の種類は特記による。着色剤は、溶剤形着色剤又は油性染料着色剤(オイルステイン)としている。いずれの着色剤も使用できるが、下塗りであるウッドシーラーとの接着性を考慮すると溶剤形着色剤を使用することが望ましい。また、溶剤形着色剤には溶剤形染料着色剤と溶剤形顔料着色剤があるが、後者の方が、前者と比較して退色しない。
着色を行わない場合は、素地の色調を活かした木地(生地)仕上げとなる。
(ウ) 下塗りはウッドシーラー、中塗りはサンジングシーラーを用いる。
(エ) 下塗り、中塗り、上塗りは、はけ塗り又は吹付け塗りとする。はけ塗りの場合は、ワニスはけを用いて、できる限り木目に沿って軽く塗り付ける。中塗り、上塗りは、前工程の塗膜が十分に乾燥していることを確認した後に施工する。
(オ) クリヤラッカーは、高湿度環境で塗装すると白化を生じやすいため、相対湿度 80%以上の時は作業を中止する。
(カ) 研磨は、所定の研磨紙を用いて、塗膜が十分に乾燥していることを確認してから、目止めや着色等の素地ごしらえ面まで研ぎ出さないように注意して、平滑になるように空研ぎする。研磨が終了したら、研ぎかすを十分に除去してから次の工程に移る。
(キ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.5.1に示す。
表18.5.1 クリヤラッカー塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.5.1_クリヤラッカー塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg

18章 塗装工事 6節 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗り(NAD:Non-Aqueous-Dispersion)

18章 塗装工事
6節 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗り(NAD:Non-Aqueous-Dispersion)
18.6.1 一般事項
この節は、コンクリート、モルタル等で構成される建築物内部の平滑な着色仕上げを対象としている。
18.6.2 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗り
(1) 材 料
JIS K 5670(アクリル樹脂系非水分散形塗料)に規定されており、アクリル樹脂系非水分散形ワニスを主要な塗膜形成要素とする、分散粒子融着乾燥形の塗料である。一般的に、水を媒体として樹脂を分散安定化させたものなどをエマルションと呼ぶが、有機溶剤を媒体として樹脂を分散させたものが非水分散形ワニスで、通‘常 NAD (Non Aqueous Dispersion)等と略称されている。塗料は溶剤系塗料に比べ溶剤臭が少なく、常温で比較的短時間で硬化し、耐水性や耐アルカリ性に優れた塗膜が得られる。アクリル樹脂系非水分散形ワニスには、有機溶剤中毒予防規則の第三種有機溶剤等が用いられており、関係法令等に基づいた保管や塗装作業等に十分な配慮が必要である。
なお、有機溶剤中毒予防規則については、18.1.4を参照されたい。
(2) 塗 装
(ア) 下塗り、中塗り、上塗りには同一材料を使用する。
(イ) 使用するシンナーが不適切であると、塗装作業性が低下して、仕上りに欠陥を生じるため、塗料の製造所が指定するシンナーを使用する。
(ウ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り又は吹付け塗りとし、吹付け塗りの場合は、塗料に適したノズルの径や種類を選定する。
(エ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.6.1に示す。
表18.6.1 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.6.1_アクリル樹脂系非水分散形塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg

18章 塗装工事 7節 耐候性塗料塗り(DP)

18章 塗装工事
7節 耐候性塗料塗り(DP)
18.7.1 一般事項
この節は、長期間にわたる耐候性や美装性を要求される建築物外部の鉄骨、亜鉛めっきを施された鉄骨、鋼製建具及びコンクリート外壁等に対する着色塗装仕上げをする場合に適用する。
塗装の仕様には、海岸や工業地帯等の厳しい腐食環境における重防食仕様といわれるものと、一般的な腐食環境におけるものとがあり、この節では後者の一般的な腐食環境を前提としたものである。
平成25年版の「標仕」の耐候性塗料塗りでは、溶剤系塗料が適用されていた。しかし昨今では、環境保全や健康安全への配慮から、建築現場における塗装では、光化学オキシダントの低減、有機溶剤中毒の抑制や防止などを目的として、光化学活性の少ない弱溶剤系塗料が使用されている。このため平成28年版「標仕」から、耐候性塗料塗りに弱溶剤系塗料が採用された。
使用する材料の規格番号が、鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面の金属系素地とコンクリート面及び押出成形セメント板面のセメント系素地で異なっているため、注意が必要である。
なお、令和4年版「標仕」から、鉄鋼面及び亜鉛めっき面の錆止め塗料の記載を3節に移行した。
18.7.2 鉄鋼面の耐候性塗料塗り
(1) 材 料
(ア) ジンクリッチプライマー(JIS K 5552)
 18.3.2(2)(エ)を参照する。
(イ) 構造物用さび止めペイント(JIS K 5551)
 18.3.2(2)(オ)を参照する。
(ウ) 鋼構造物用耐候性塗料(JIS K 5659)
JIS K 5659に規定されているもので、種類はA種(溶剤形塗料)とB種(水性塗料)の2種類あり、各種類の中には各々、上塗り塗料と中塗り塗料がある。上塗り塗料は耐候性により等級が規定されており、品質が最も高いものを1級とし、順に2級、3級としている。「標仕」では、上塗り塗料の等級は特記されることになっている。上塗り塗料と中塗り塗料は、主剤と硬化剤からなる常温乾燥形の塗料である。使用に当たり、中塗り塗料の標準工程間隔時間が7日以内と制限があることに注意する必要がある。
JIS K 5659 A種は、旧規格JIS K 5657(鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料)と旧規格JIS K 5659(鋼構造物用ふっ素樹脂塗料)を統合し、両塗料の中間のグレードとして、アクリルシリコン樹脂系の耐候性区分を取り込んで制定された規格である。したがって、当該規格の1級の品質は旧規格JIS K 5659の品質に相当し、3級の品質は旧規格JIS K 5657の品質に相当するとしていた。最近では、ふっ素樹脂塗料は1級、シリコーン樹脂塗料は 1~2級、ポリウレタン樹脂塗料 は 2~3級に該当している。
2018年JIS K 5659の改定に伴い、水系塗料が規定に加わった。種類が、有機溶剤を主要な揮発成分としたA種と、水を主要な抑発成分としたB種に分類されたが、B種に関しては、2022年1月時点では JISマーク表示の認証を受けている製品がない。このため(-社)日本塗料工業会では、水系塗料を用いる建築物の鉄部仕様に対する適用性の検討及び現行の溶剤系仕様と性能を比較することを目的とし、「鉄部建築工事における高耐久水性仕様検証ワーキング」を立ち上げ実証実験を行っている。その成果については、2020年9月から日本建築学会大会学術講演会及び日本建築仕上学会大会学術講演会で発表を行っている。
弱溶剤系の鋼構造物用耐候性塗料に用いる材料は、労働安全衛生法に定めている第3種有機溶剤(ミネラルスピリットなど)を用いた塗料である。溶解力の強いトルエンやキシレンなどと比べて、溶解力の弱い第3種有機溶剤を用いた塗料で、弱溶剤系塗料と呼ばれている。弱溶剤系塗料は従来の溶剤系塗料に比べ、溶解力や臭気が低く、塗装時に既存塗膜をリフティングさせることが少なく、新設工事に用いるほか途替工事にも用いられている。
(2) 塗 装
(ア) 「標仕」の鉄鋼面は、屋外の鉄骨を主な対象としている。
(イ) 構造物用さび止めペイントA種及び鋼構造物用耐候性塗料中塗り塗料は、その上に塗装されるまでの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間に十分注意する。
(ウ) 下塗りとして弱溶剤系塗料を使用した場合、その後の工程の中塗り、上塗りも弱溶剤系塗料を使用する。
(エ) 使用する塗料、シンナー、調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。
(オ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。
(カ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を表18.7.1に示す。
(キ) 下塗りとして用いる反応硬化形エポキシ樹脂系塗料の標準工程間隔時間には、 7日以内と制限があるため、「標仕」表18.7.1では、「錆止め塗料塗り」の次に、工程1「研磨紙ずり」を設けている。
表18.7.1 鉄鋼面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.7.1_鉄鋼面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.7.3 亜鉛めっき鋼面の耐候性塗料塗り
(1) 材 料
(ア) 鋼構造物用耐候性塗料(JIS K 5659)
 18.7.2(1)を参照する。
(イ) 変性エポキシ樹脂プライマー
 18.3.2(2)(イ)を参照する。
(2) 塗 装
(ア) 全ての塗装工程を鋼製建具等の製造工場で行う場合は、現場に搬入して組立後の補修方法等について事前に検討及び協議をしておく必要がある。
(イ) 下塗りとして弱溶剤系塗料を使用した場合、その後の工程の中塗り、上塗りも弱溶剤系塗料を使用する。
(ウ) 使用する塗料、シンナー、調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。
(エ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。
(オ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.7.2に示す。
表18.7.2 亜鉛めっき鋼面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.7.2_亜鉛めっき鋼面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.7.4 コンクリート面及び押出成形セメント板面の耐候性塗料塗り
(1) 材 料
(ア) 反応形合成樹脂シーラーおよび弱溶剤系反応形合成樹脂シーラー
JASS 18 M-201に規定されているエポキシ樹脂を主成分とする反応硬化形塗料であり、セメント系素地との接着性に優れている。
塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。
(イ) 常温乾燥形ふっ素樹脂塗料用中塗り(常温乾燥形ふっ素樹脂塗料用中塗りおよび弱溶剤系常温乾燥形ふっ素樹脂塗料用中塗り)
JASS 18 M-405に規定されている反応硬化形塗料で、エポキシ樹脂系やポリウレタン系のものがある。塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。
(ウ) アクリルシリコン樹脂塗料用中塗り(アクリルシリコン樹脂塗料用中塗りおよび弱溶剤系アクリルシリコン樹脂塗料用中塗り)
JASS 18 M-404 に規定されている反応硬化形塗料で、エポキシ樹脂系やポリウレタン系のものがある。塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。
(エ) 2液形ポリウレタンエナメル用中塗り(2液形ポリウレタンエナメル用中塗りおよび弱溶剤系2液形ポリウレタンエナメル用中塗り)
JASS 18 M-403に規定されている反応硬化形塗料で、エポキシ樹脂系やポリウレタン系のものがある。塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。
(オ) 建築用耐候性上塗り塗料
JIS K 5658(建築用耐候性上塗り塗料)は、旧規格JIS K 5656(建築用ポリウレタン樹脂塗料)と旧規格JIS K 5658(建築用ふっ素樹脂塗料)を統合したうえで、両塗料の中間となる耐候性グレードとしてアクリルシリコン樹脂系を取り込み、主要原料として、ふっ素樹脂、シリコーン樹脂又はポリウレタン樹脂を用いるもので、主剤と硬化剤を混合して使用する塗料としている。
耐候性による等級区分が設定されており、品質が最も高いものを 1級とし、順に2級、3級とされ、1級の品質は旧規格JIS K 5658の品質に相当し、3級の品質は旧規格 JIS K 5656の品質に相当するとしていた。「標仕」では、A種が主要 原料ふっ素樹脂(1級)、B種が主要原料シリコーン樹脂(2級)、C種が主要原 科ポリウレタン樹脂(3級)のように、等級が主要原料 により限定されているが、 JIS K 5658では樹脂系と各級を一致させないとしている。最近では、ふっ素樹脂 は1級、シリコーン樹脂は1~2級、ポリウレタン樹脂は2~3級に該当している。
弱溶剤系の建築用耐候性塗料塗りには、労働安全衛生法に定めている第3種有機溶剤(ミネラルスピリットなど)を用いた材料を使用する。溶解力の強いトルエンやキシレンなどと比べて、溶解力の弱い第3種有機溶剤を用いた塗料で、弱溶剤系塗料と呼ばれている。弱溶剤系塗料は従来の溶剤系塗料に比べ、溶解力や臭気が低く、塗装時に既存塗膜をリフティングさせることが少なく、新設工事に用いるほか塗替工事にも用いられている。
容器には規格番号と名称に加えて、等級及び主要樹脂成分の一般名称(ふっ素樹脂、シリコーン樹脂又はポリウレタン樹脂のいずれか)を表示することが規定されている。
(2) 塗 装
(ア)「標仕」のコンクリート面及び押出成形セメント板面は、外壁等を主な対象としている。
(イ) 全ての塗装工程を製造工場で行う場合は、現場に搬入して組立後の補修方法等について事前に検討及び協議をしておく必要がある。
(ウ) コンクリート面に耐候性塗料塗りを適用する場合の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.6を適用する。
(エ) 下塗りとして弱溶剤系液料を使用した場合、その後の工程の中塗り、上塗りも弱溶剤系塗料を使用する。
(オ) 使用する塗料、シンナー、;調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。
(カ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。
(キ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.7.3に示す。
表18.7.3 コンクリート面及び押出成形セメント板面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.7.3_Con面及びEPC面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg

18章 塗装工事 8節 つや有合成樹脂エマルションペイント塗り(EP-G)

18章 塗装工事
8節 つや有合成樹脂エマルションペイント塗り(EP-G)
18.8.1 一般事項
この節は、建築物の内外壁面、天井等のコンクリート面、モルタル面、せっこうプラスター面、せっこうボード面及びその他のボード面等並びに屋内の木部、鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面に用いる、つや有合成樹脂エマルションペイント塗り仕上げを対象としている。
つや有合成樹脂エマルションペイント塗りは、ホルムアルデヒド発散建築材料に指定されていない塗料を利用した塗装仕様である。屋内の木部、鉄鋼面、亜鉛めっき鋼面に対して、本塗り仕様と同様の用途に適用できる塗装仕様として、4節の合成樹脂調合ペイント塗り及びフタル酸樹脂エナメル塗りがある。しかし、合成樹脂調合ペイント(JIS K 5516)及びフタル酸樹脂エナメル(JIS K 5572)はホルムアルデヒド発散建築材料に指定されており、特記によりF☆☆☆☆以外の材料が指定されている場合には、内装としての使用面積が制限されることになる。つや有合成樹脂エマルションペイント塗りは、ホルムアルデヒド発散建築材料に指定されている塗料を使用していないため、建築基準法のシックハウス症候群対策による規制を受けない。
つや有合成樹脂エマルションペイントは水系塗料であり、合成樹脂調合ペイントやフタル酸樹脂エナメルと比較して、揮発性有機化合物(VOC)の発生が少なく、ホルムアルデヒドの発散等級はF☆☆☆☆である。
18.8.2 コンクリート面、モルタル面、せっこうプラスタ一面、せっこうボード面、その他ボード面等のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り
(1) 材 料
(ア) 合成樹脂エマルションシーラー
JIS K 5663(合成樹脂エマルションペイント及びシーラー)に規定される品質のものとする。
(イ) つや有合成樹脂エマルションペイント(JIS K 5660)
JIS K 5660に規定されており、合成樹脂エマルションと着色顔料、体質顔料、補助剤、添加剤等から構成される水系塗料である。
水による希釈が可能で、水を加えて登料に流動性をもたせることができ、臭気が少なく溶剤の揮散による大気汚染や中毒の危険性が少ない塗料である。そのため、従来のアクリル樹脂エナメルを使用していた部位に使われるようになってきている。
塗布された塗料は、水分が蒸発するとともに樹脂粒子が接近融着して連続塗膜を形成する。気温 –5℃以下では凍結するため、低温保管を避ける。また、気温 5℃以下では施工を避ける。
塗装用具や塗膜硬化機構は、9節に述べる「合成樹脂エマルションペイント」と同様であり、一度硬化乾燥すると表面光沢のある耐水性を有する塗膜になる。
(2) 塗 装
(ア) 「標仕」では、天井面等の見上げの部分においては、外観上特に問題がないため、工程3「研磨紙ずり」を省略することとしている。
(イ) コンクリート面に、つや有合成樹脂エマルションペイント塗りを適用する場合の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.5を適用する。
(ウ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り、吹付け塗りのいずれかとする。
(エ) 塗料の塗付けは、同じ方向にそろえ、1日の工程終了は区切りのよい所まで塗装する。途中で終了したり塗り残したりすると、色むらや光沢むら等の仕上り外観に異常を生じることがある。
(オ) 希釈に使用する水は、水道水を標準として、水道水以外の水を使用する場合は、事前に各材料との適合性を確認する必要がある。
(カ) つや有合成樹脂エマルションペイントは水系塗料であるが、塗料の飛散、粉じんの吸入、皮膚や目への付着等、安全衛生に注意する。
(キ) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.8.1に示す。
(ク) 各工程の工程間隔時間及び最終養生時間は、十分確保する。工程間隔時間及び最終養生時間が短いと研磨紙ずりの時に目詰りしたり、研磨目が出たりして、仕上り外観を損ねる場合がある。
(ケ) 下塗りに用いる合成樹脂エマルションシーラーは、上塗塗料の製造所の指定する水系塗料とする。
表18.8.1 つや有合成樹脂エマルションペイント渡りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.8.1_つや有合成樹脂EP塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.8.3 木部のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り
(1) 材 料
(ア) 合成樹脂エマルションシーラー
 18.8.2(1)(ア)を参照する。
(イ) 合成樹脂エマルションパテ(JIS K 5669)
 JIS K 5669に規定される耐水形薄付け用とする。
(ウ) つや有合成樹脂エマルションペイント
 18.8.2(1)(イ)を参照する。
(2) 塗 装
(ア) 上塗りとの適合性を確保するため、合成樹脂エマルションシーラーはつや有合成樹脂エマルションペイントの製造所が指定する水系塗料とする。
(イ) 合成樹脂エマルションパテの耐水性は、エポキシ樹脂パテのような反応硬化形樹脂パテと比較すると、十分ではない。したがって、塗膜のふくれやはがれを防止するために、浴室や洗面所等の水回り部分への適用は避ける。
(ウ) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を表18.8.2に示す。
表18.8.2 木部のつや有合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.8.2_木部のつや有合成樹脂EP塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.8.4 鉄鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り
(1) 材 料
(ア) 鉛・クロムフリーさび止めペイント2種
 18.3.2(2)(ア)を参照する。
(イ) 水系さび止めペイント
 18.3.2(2)(ウ)を参照する。
(ウ) つや有合成樹脂エマルションペイント
 18.8.2(1)(イ)を参照する。
(2) 塗 装
(ア) 水系さび止めペイント又は鉛・クロムフリーさび止めペイント2種の性能を発揮させるためには、素地ごしらえを十分に行い、鉄鋼面に良くなじませるように塗装する。
(イ) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.8.3に示す。
表18.8.3 鉄鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.8.3_鉄鋼面のつや有合成樹脂EP塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg
18.8.5 亜鉛めっき鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り
(1) 材 料
(ア) 水系さび止めペイント
 18.3.2(2)(ウ)を参照する。
(イ) つや有合成樹脂エマルションペイント
 18.8.2(1)(イ)を参照する。
(2) 塗 装
塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.8.4に示す。
表18.8.4 亜鉛めっき鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.8.4_亜鉛めっき鋼面のつや有合成樹脂EP塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg

18章 塗装工事 9節 合成樹脂エマルションペイント塗り(EP)

18章 塗装工事
9節 合成樹脂エマルションペイント塗り(EP)
18.9.1 一般事項
この節は、建築物の内外壁面や天井等のコンクリート面、モルタル面、せっこうプラスター面、せっこうボード面、その他ボード面等に対する合成樹脂エマルションペイント塗りに適用する。平滑で汎用的な着色仕上げを対象としている。
18.9.2 合成樹脂エマルションペイント塗り
「標仕」18.9.2では、合成樹脂エマルションペイント塗りは、表18.9.1により種別は特記による。特記がなければB種と規定している。美粧性が求められる場合には、中塗りの1回目のあとに研磨紙ずりを行い、2回目の中塗りを行うことで平滑性と塗膜の原みを持たせた仕上げとなるA種を適用する。
(1)材 料
(ア) 合成樹脂エマルションシーラー
 18.8.2(1)(ア)を参照する。
(イ) 合成樹脂エマルションペイント
 JIS K 5663(合成樹脂エマルションペイント及びシーラー)に規定されており、合成樹脂エマルションをベースとして、着色顔料や体質顔料、補助剤、添加剤等 を加えた水系のつや消し塗料である。
水による希釈が可能で加水して塗料に流動性をもたせることができ、臭気が少なく溶剤揮散による大気汚染や中毒の危険性が少ない塗料である。
塗付された塗料は、水分が蒸発するとともに樹脂粒子が接近融着して、連続塗膜を形成する。気温 −5℃以下では凍結するため、低温保管を避ける。また、気温5℃以下では施工を避ける。
JISでは1種(主として外部用)及び2種(内部用)が規定されているが、「標仕」では1種のみをコンクリート面、モルタル面、せっこうプラスタ一面、せっこうボード面、その他ボード面等に適用している。その他木部の着色仕上げには使用可能であるが、金属面には使用できない。
(2) 塗 装
(ア) 飲料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.9.1に示す。
(イ) (ア) 以外は、18.8.2(2)に準ずる。
表18.9.1 合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.9.1_合成樹脂EP塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg

18章 塗装工事 10節 ウレタン樹脂ワニス塗り(UC)

18章 塗装工事
10節 ウレタン樹脂ワニス塗り(UC)
18.10.1 一般事項
この節は、建築物内部の建具、手すり、床等の木質系部材に対する仕上げを対象としている。
18.10.2 ウレタン樹脂ワニス塗り
(1) 材 料
(ア) 油性顔料着色剤
一般的にはピグメントステインと呼称される着色剤であり、顔料をボイル油や合成樹脂などで練り合わせて添加剤や溶剤を加えたものである。その品質は JASS 18 M-306に規定されている。油性顔料済色剤は1液形油変性ポリウレタンワニス塗りの場合に特記により適用する。
なお、ピグメントステイン(油性顔料着色剤)のみを利用した建築物外部及び内部の木部仕上げについては、18.11.2(1)に[ピグメントステイン塗り]として示している。
(イ) 溶剤形顔料着色剤
18.5.2(1)(イ)を参照する。
なお、溶剤形顔料着色剤は2液形ポリウレタンワニス塗りの場合に特記により適用する。
(ウ) 1液形油変性ポリウレタンワニス(JASS 18 M-301)
イソシアネートと乾性油との反応により得られる、ウレタン結合を有する樹脂を主要な塗膜形成要素とした透明の酸化重合形塗料である。その品質は「JASS 18 塗装工事」M-301に規定されている。
(エ) 2液形ポリウレタンワニス(JASS 18 M-502)
ポリオールとイソシアネート化合物を、主要な塗膜形成要索とした透明の2液反応硬化形塗料で、その品質はJASS 18 M-502に規定されている。
常温で硬化乾燥して溶剤が蒸発すると、ポリオールとイソシアネート樹脂が反応してウレタン結合を有する透明塗膜を形成する。
(2) 塗 装
(ア) 「標仕」では、塗装種別をA種(3回塗り)とB種(2回塗り)としており、特記がなければB種としている。
(イ) 「標仕」表18.10.1の (注)3に示すように着色は特記により行う。また、(注)4に示すように、下塗りとの相性を考慮して、1液形湘変性ポリウレタンワニスの場合は油性顔料着色剤(JASS 18 M-306(ピグメントステイン))とし、2液形ポリウレタンワニスの場合は溶剤形顔料着色剤を使用する。
着色を行わない場合は、素地の色調を活かした木地(生地)仕上げとなる。
(ウ) 下塗り、中塗り及び上塗りの工程には、同一材料を使用する。
「標仕」には規定されていないが、上塗りに 2液形ポリウレタンワニスを使用する場合は、下塗りに2液形ポリウレタンシーラー、中塗りには 2液形ポリウレタンサンディングシーラーを使用する塗装工程も一般的である。2液形ポリウレタンシーラー及び2液形ポリウレタンサンデイングシーラーの品質はJASS 18 M-302に規定されている。
(エ) 下塗りは、素地に塗料を十分に浸透させることにより、吸込みが均ーになり、むらを防止するとともに登股の付着性を向上させる。
(オ) 1液形油変性ポリウレタンワニスは、油性成分の酸化重合により硬化するため、最短でも24時間程度の硬化時間を必要とする。したがって、乾燥硬化の不良による縮みやしわの発生に注意する。余裕をもった工程間隔時間及び最終養生時間が必要であり、特に、厚膜になると縮みやしわが発生しやすいため、厚塗りを避ける。
なお、ワニスの乾燥塗膜には、塗重ね時間の制約があり、長時間放置してから塗り重ねると層間はく離を生じやすくなるため注意する。
(カ) シンナーは、塗装方法や乾燥条件に応じて使い分けるのが一般的である。肌あれや発泡等の仕上り塗膜の欠陥を生じるため、塗料の製造所が指定するシンナーを用いる。
(キ) 塗装方法は、はけ塗り又はローラーブラシ塗りとする。
(ク) 2液形ポリウレタンワニスに使用しているイソシアネート化合物は反応性が強く、粘膜や皮膚に触れるとかぶれることがあるため、使用の際は安全衛生上十分な措置を講ずる。
(ケ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.10.1に示す。
表18.10.1 ウレタン樹脂ワニス塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間
表18.10.1_ウレタン樹脂ワニス塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間.jpeg