17章 カーテンウォール工事 2節 メタルカーテンウォール

17章 カーテンウォール工事

2節 メタルカーテンウォール

17.2.1 一般事項

(1) この節は、メタルCWのうち、次の形態を対象としている。

(ア) 方立方式

(イ) 組立ユニット(ユニットサッシを含む。)による層間方式、スパンドレル方式及び柱・梁方式

なお、アルミニウム合金を鋳造した部材によるCWは、採用事例が少なく設計の要求によって多様な条件を設定する必要があるため、大規模工事でないと対応が難しい。「標仕」では寸法許容差が規定されていないので、仕様を含めて特記を確認する。

(2) 一般的な作業の流れを図17.2.1に示す。


図17.2.1 メタルCW作業の流れ

17.2.2 材料

(1) 一般的に使用する金属材料は、主部材、接合用材料及び取付け用金物も含め、表17.2.1から表17.2.3がある。

表17.2.1 材料の種類 品質・許容応力度
表17.2.2 接合部に使用する材料
表17.2.3 製作に使用する溶接棒

(2) シーリング材

(ア) シーリング材は、主に部材間の目地に充填するものと、ガラスの取付けに用いるものがある。このほか、メタルCW部材に隣接する他部材との目地に使用するものもある。

(イ) シーリング材の種類は、「標仕」17.2.2(2)で特記によるとされている。その参考として、CWにおいて被着体別に使用されるシーリング材の例を表17.2.4に示す。

(3) ガラスは、16.14.2(1)による。

(4) ガラス取付け材料

(ア) シーリング材

ガラスを留めるシーリング材は、「標仕」9.7.2 (1)により、種類は特記による。

(イ) 構造ガスケット

構造ガスケットは、建築構成材の開口部に取り付けて、板ガラス等と支持枠を直接支持し、風圧力に抵抗する耐力を保持するとともに、水密性及び気密性を確保するためのガスケットである。ロックストリップガスケット又はジッパーガスケットともいう。

構造ガスケットは、JIS A 5760(建築用構造ガスケット)に基づき、材質、形状等は特記による。材質には、黒色のクロロプレン系又はEPDM(エチレンプロビレンジエンゴム)系がある。

取付け形態別に数種類が製品化されているが、図17.2.2に示す主にメタルCWに使用するH型及びC型と、主にPCCWに使用するY型が一般的である。

製品の寸法は、使用するガラスの厚さや支持枠の寸法等によって異なる。

JISA 5760の抜粋を表17.2.5及び表17.2.6に示す。

表17.2.4 CW工事における被着体の組合せとシーリング材の種類(参考)


図17.2.2 構造ガスケットの種類(JIS A 5760 : 2013)

表17.2.5 構造ガスケットの一般性能(JIS A 5760 : 2013)
表17.2.6 構造ガスケットの特別性能(JIS A 5760 : 2013)
(5) 断熱材

通常、パネル裏面に施工するのが一般的である。断熱材の種類は特記によるが、一般的にはポリウレタン、ポリスチレン系の発泡体及びグラスウール等の成形板がある。さらに、断熱と結露防止の目的で、ひる石系の材料を吹き付けることもある。断熱材の種類によっては、アルミニウム等を腐食させるものもあるため、その選択には注意が必要である。

(6) 摩擦低減材〈滑り材〉

摩擦低減材は、部材の熱伸縮による発音の防止及びCW部材取付け金物のスライドホール部(滑動部)の滑り性能の確保のために使用される。摩擦低減材の材質と使用形態は、ふっ素樹脂系のシート材(テフロン(商標)等)を金物間に挟んで使用する場合及び接触して滑動する金物に直接滑り塗料を塗り付ける場合がある。

(7) 取付け用金物

取付け用金物は、熱伸縮及び層間変位追従時の挙動や、風圧等の外力に対して安全であることを、計算等により確認することが直要である。

取付け用金物には、次の機能が要求され、一般的に2種類の長孔(スライドホールとルーズホール)が設けられている。

(a) CW部材の自重やCW部材に加わる外力を躯休へ伝達する機能
(b) 躯体の変位やCW部材の熱伸縮に追従させる機能(スライドホール)

(c) CW部材の取付けに際し、躯体精度、部材精度を吸収する機能(ルーズホール)

CW部材の取付け用金物の位置は、取付け躯体との関連で決まるため、一律ではない。したがって、取付け用金物の形状材質等は、メタルCWの製造所の仕様によるとしている。一般的に取付け用金物は、アルミニウム合金の押出形材や形鋼等を組み合わせて製作しているので、使用実績を確認するとよい。

「標仕」で、屋外に使用する場合のボルト・ナット類をステンレス製としているのは、防錆性を考慮したものである。

現場締付けの場合は、施工性を考慮し、溶融亜鉛めっき製を使用する場合もある。

なお、屋上工作物等、構造上大きな荷重を受けるために、認定を受けた溶融亜鉛めっき高カボルトが使われる。この場合の高カボルトの機械的等級はF8Tである。

取付け用金物の代表的な例を、図17.2.3に示す。

(8) 外壁非耐力壁としての耐火構造

耐火材料は、耐火構造を構成するための材料であり、耐火構造は、性能別に国土交通省告示によって指定されている。

一般的に、CWの耐火材料は、30分又は1時間耐火の要求性能に基づき、乾式又は湿式の材料を、外壁を構成する材料や構造によって使い分けている。

乾式材料としては、セメント系を中心に各種の材料があるが、けい酸カルシウム板が多く使われている。また、湿式材料としては、金属パネル裏面に吹き付けるロックウールが使われている。


図17.2.3 方立方式での取付け用金物の例

17.2.3 形状及び仕上げ

(1) 「標仕」表17.2.1の単一材、組立ユニットとは、次のものをいう。ただし、鋳物は除く。

なお、同表中、形材の寸法許容差項目の曲がり、ねじれ及び平面度の許容差測定法は、JIS H 4100(アルミニウム及びアルミニウム合金の押出形材)に準ずる。

(ア) 単一材

単一材とは、ノックダウン方式等、部材単体で工事現場に取り付けられるように加工した部材で、形材とパネル材がある。

① 形材

アルミニウム合金押出形材又は形鋼等の形材を、所定の寸法に切断した棒状の部材。

② パネル材

アルミニウム合金板材又は鎖板を、切断あるいは血げ加工した1枚の部材。

(イ) 組立ユニット

アルミニウム合金押出形材や鋼材等、剛性の高い細長い部材で骨組を作り、それに表面材を工場で一体に取り付けた部材。工場で一体に組み立てたユニットサッシも含まれる。

(2) 仕上げ

「標仕」では、製品の見え掛り部分の仕上げは、特記によるとされている。金属材料の表面仕上げの種類は、通常次のとおりである。

(a) アルミニウム
① JIS H 8601(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜)
② JIS H 8602(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜)
③ 塗装(アクリル系、ウレタン系、ふっ素系)

表面仕上げの種類とその特徴は、14.2.2を参照されたい。

(b) 鋼 材

屋内の見え掛り部分の仕上げは、塗装仕上げ(電気亜鉛めっき+ 錆止め+ 仕上げ塗装)が一般的である。屋外の場合は、周囲の環境が大きく影響するので注意する。

(c) ステンレス

一般的な表面仕上げは、14.2.3を参照されたい。

(3) 取付け用金物の防錆処理

「標仕」17.2.3(3)では、屋内で使用する取付け用金物(一般に耐火被覆される部分)の表面処理は、「標仕」表14.2.2のE種(JIS H 8610(電気亜鉛めっき)4級、めっきの最小厚さ12μm)、屋外(一般に雨掛りとなる部位)で使用する場合は、同表A種(JIS H 8641(溶融亜鉛めっき)、HDZT77(膜厚 77μm以上))としている。また、屋内に使用するボルト及びナットの表面処理はF種(JIS H 8610 3級、めっきの最小厚さ8μm)とし、ステンレス製とする場合には防錆処理は不要である。

(4) ガラス溝の寸法 形状等

メタルCWでのガラス溝の寸法・形状とは、次に示す面クリアランス、エッジクリアランス(サッシ下辺での水抜き機構を含む。)及び掛り代の確保を意味しており、要求性能によって必要寸法が変わるため、特記を原則とし、特記がない場合はメタルCWの製造所の仕様によるとしている(16.14.3及び(-社)日本建築学会「JASS 17 ガラス工事」参照)。

(a) 面クリアランス
CWの気密性、水密性を確保するため、ガラス回りのシーリング材が、十分に機能するための寸法である。適正値は、シーリングが確実に施工でき、かつ、設定された層間変位時のガラスの移動・回転に対してシーリング材が損傷を受けない値となる。

(b) エッジクリアランス

ガラスの層間変位追従性、ガラスのはめ込み作業性及びサッシ下辺での排水性を確保するための寸法である。適正値は、設定された層間変位時にガラス小口がサッシのガラス溝底と接しないこと(16.1.7(1)(キ) 参照)、無理なくガラスのはめ込み作業が行えること、さらに、サッシ下辺では、セッティングブロックの厚さを考慮し、長期に水と接触することを嫌う複層ガラス、合わせガラス及び網(線)入板ガラスを使用する場合は、速やかな排水が可能な隙間が必要となる。

(c) 掛り代

建具の気密性、水密性を確保するため、ガラス回りのシーリング材が十分に機能し(バックアップ材の形状も影響する。)、かつ、ガラスの耐風圧性を確保(強風時にガラスがたわみ、枠から外れない。)するための寸法である。また、ガラスの小口が屈折により室内から光って見えないことを条件とする場合には、別に検討する必要がある。

17.2.4 製 作

(1) メタルCWの製作は、CWの製造所の自主規格、製作図、製作要領書及び製作工程計画に基づき行われる。工場での製作工程は、図17.2.1を参照されたい。

(2) 接触腐食の対策

方立やパネル等に使用されるアルミニウム合金と、異種金属である鋼製下地金物とを接触させて使用することがある。屋内で使用する場合は、それぞれの通常の皮膜や塗膜による絶縁で問題にならないが、雨掛り部分や湿潤環境等で使用する場合は、膜膜塗装や絶縁シート等を用いて絶縁を確実にすることが重要である。

(3) 溶接加工に対する注意事項

溶接加工すると、表面仕上げ塗膜の変色や部材のゆがみは避けられない。再塗装できる場合を除き、溶接加工後に表面仕上げ塗装することが重要である。また、ゆがみの防止は、適切な溶接工程と矯正工程により対応する。

なお、防錆処理は、一般部、溶接部とも行うが、特に溶接部は適切な防錆処理が必要である。ただし、アルミニウム合金の場合は、通常の使用条件では耐食性に問題がないため、見え隠れ部分では防錆処理は行われていない。

17.2.5 取付け

(1) 躯体付け金物の取付け

(ア) 躯体付け金物の取付けは、躯体コンクリートヘ埋め込む場合と、鉄骨部材(梁)ヘ固定する場合がある。

躯体コンクリートに埋め込む場合には、躯体付け金物のアンカーと躯体鉄筋の位置に注意するほか、コンクリート打込み時に位置がずれないように注意する。

鉄骨部材へ溶接固定する場合は、本体鉄骨の製作に合わせてあらかじめ鉄骨工場で行う。また、所定の溶接長を確保するなど、必要な強度が得られるように注意する。

(イ) 躯体付け金物の取付け位置の寸法許容差

「標仕」表17.2.2に示す値は、「JASS 14 カーテンウォール工事」に準じたものである。取付け用金物(連結金物又は部材付け金物)には、この誤差を吸収するためのルーズホールを設けておき、取付け墨を基に取付け位置の仮調整を行ってボルト締め等を行う。

取付け用金物の位置決めの例を、図17.2.4に示す。


図17.2.4 取付け用金物の位置決めの例
(「カーテンウォールってなんだろう」より)

(2) 主要部材の取付け

(ア) CW部材等の取付けは、所定の取付け順序及び方法によって行う。取付けに際しては、安全を十分に確保するとともに、部材に損傷を与えないように注意する。また、仮留め時には、部材の脱落に十分注意する。

(イ) 主要部材の取付け位樅の寸法許容差

「標仕」表17.2.3に示す値は、「JASS 14 カーテンウォール工事」に準じたものである。

(ウ) CW部材は、建物の層間変他に対して追従し、部材の損傷・脱落防止を図っている。したがって、本留め後は、その挙動を拘束しないように仮留めボルト等は速やかに撤去する必要がある。

(エ) 取付け位置を調整し、許容差内にあることを確認した後、精度吸収のためのルーズホール部は、ボルト締め又は溶接で固定する。

一方、変位追従のためのスライドホール部は、滑動する必要があり、滑動を阻止するような強固なボルト締めや溶接等を行ってはならない。一般的には、手締め〈当たり締め〉程度とし、緩止めを施す。

溶接箇所は、腐食を防止するため、溶接スラグ、錆、水分、汚れ等を除去し、「標仕」表18.3.2のA種の錆止め塗料を途り付ける。

なお、「標仕」7.8.2で、耐火被覆材の接着する面の塗装範囲は、特記によると規定されているのは、錆止め塗装によって耐火被覆材の接着性が阻害される場合があるためである。

(3) 耐火構造
外壁の耐火構造と、延焼のおそれのある部分での防火設備は、法令に指定又は認定されている材料、工法に従って施工する(防火戸については16.1.3参照)。

上階への延焼と火炎を防止するための層間ふさぎ(CW部材と躯体との隙間の耐火処理)の施工は、次の事項に留意して行う。

(a) 関連工事の進捗に合わせ、適切な時期に施工する。

(b) 耐火材を隙間に吹き付ける場合は、耐火材の飛散によって、周辺部材が腐食、汚染しないように適切な養生を行う。

(c) CW部材の挙動によって、耐火材が脱落しないように取り付ける。

(d) 施工後の雨水等による耐火被覆材の流出防止処置を確実に行う。

17.2.6 ガラスの取付け

 

(1) メタルCWでのガラスの取付け方法は、「標仕」では、特記によるとしている。方法としては、シーリング材又は構造ガスケットによる4辺支持などがあるが、材料、支持方法等は特記による。

シーリング材によるガラスの取付けは、4辺支持のほか、2辺支持、構造シーラントで接着した辺も支持辺とみなすSSG構法もある。いずれの場合も、ガラス支持辺では、ガラスの内外両面ともにシーリング材を充填する方法が一般的であるが、次のような場合には、ガラス内外面のいずれか一方に、先付け又はあと付けグレイジングビードを使用する場合がある。

(ア) スパンドレル部等、梁によってガラス内面側のシーリング施工ができない部位

(イ) トップライト〈スカイライト〉等、将来内部からのガラス交換作業が、コストの点で不利な部位(ガラス内面側のシーリング材切断が困難)

(ウ) 超高層建物で、ガラス外面側のシーリング施工が困難な部位

(エ) ガラス外面側のシーリング材による汚れを極力避けたい場合

(2) CWでは、スパンドレル部や大きな開口部(ガラス板厚が増し、1枚当たりの質量が大きくなる。)のように、ガラスの取付け作業が困難な場合が多くある。ガラスの取付けを外部側、室内側のどちらからとするか、サッシ枠にどのように納めるか(左右又は上下やり返しの可否)、専用機械〈グレイジングマシーン〉を使用するかなど、施工性の検討が必要である。

また、高層建物で次のような場合は、将来のガラス交換コストが割高になる。

(ア) サッシ枠の形状や内装との関連で、ガラスの脱着が外部側に限定される場合

(イ) エレベーター等の機器では、内部揚重ができない大型ガラスの場合

(3) 構造ガスケットの枠への取付けは、四隅を先に決め、次に各辺の中央部を決め、たるみが出ないように均ーに納める。

構造ガスケットヘの板ガラスの取付けは、耐風圧性を確保するため、掛り代を左右均等に納める。

なお、「JASS 17 ガラス工事」では、構造ガスケットによる複層ガラスの施工は行わないとしている。これは、構造ガスケットは、ガスケットの先端(リップ部という。)の圧着(接着ではない。)で止水するため、施工時にリップ部に傷等の欠陥が生じると、ガラス溝内へ雨水が浸入するおそれがあること、また、ガラス小口とガラス溝底(ゴム)との隙間がシール工法に比べ小さく、ガラスに悪影響を与えやすい構造であるため、ガスケットのガラス溝部に排水機構を設け、さらに、複層ガラス小口の封着処理を増強しなければならないためである。したがって、複層ガラスを採用する場合は、小口の封着処理の強化を維持できるような処理が特記されていることを確認しておく必要がある。同じ観点から、合わせガラス及び網(線)入ガラスの小口処理も同様である。

また、CWではないが、これらのガラスを使用することの多い、勾配の少ないトップライトでは、さらに条件が悪くなるので同様の特記が必要となる。

17.2.7 シーリング材の施工及び試験

 

メタルCWの目地は、CW部材及びガラスの熱伸縮や層間変位による挙動が繰り返され、かつ、大きいため、シーリング材にとっては厳しい環境となる。シーリング施工に際し、次の事項の確認が重要である。

なお、シーリング材の施工及び試験は、「標仕」9章7節による。

(ア) 「標仕」9.7.5では、外部に面する金属、コンクリート、建具等に使用する場合は、プライマーを含めた事前の接着性試験を行うこととしている。CW部材の表面仕上げには、シーリング材との接着性があまりよくないもの(ふっ素樹脂等)があるため、接着性試験での確認が重要である。ただし、同じ材料の組合せで、過去に実施した信頼できる資料(試験成績書等)がある場合は、これにより代用できる。

(イ) CWの納まりによっては、例えば、方立方式の方立と無目の納まりのようにCW部材の取付けとシーリング施工を交互に行う(相番作業という。)場合がある。

複雑な納まりでは、連統した止水ラインが得られるように、実大見本や施工計画書等で適切な施工順序を確認することが重要である。

(ウ) CWでは、複数の仕上げ材に応じて成分の我なるシーリング材を連続させる(打ち継ぐ)箇所が生じる場合がある。異種シーリング材の施工順序によっては、連続性(打継ぎ接着性)が損なわれる組合せ(例えば、変成シリコーン系とポリサルファイド系、シリコーン系と他のシーリング材等)があるため、施工計画書等で施工順序を明確にし、周知させる必要がある。

なお、一般的に、メタルCWでは、工場で先行シールする箇所のシーリング材は、シーリング材の連続性を考慮してポリサルファイド系を使用している。

(エ) 2段階止水工法として、室内側の二次シールに中空状ガスケットを使用する場合では、中空状ガスケットの交点に隙間が生じ、気密性、水密性等の不良箇所となりやすいので、交点周辺にシールをするなど注意が必要である。

17.2.8 養 生

 

CW部材は、取付け完了後に、上階や同一階における他の工事に起因するじんあい等の付着、堆積によって変色、汚染等の化学的劣化のほか、排水経路の目詰まり、物の接触、衝突による破損等の不具合を生じることがある。

これらを防止するために工場で部材の養生が行われるが、工事現場における養生の管理方法によって、清掃の難易、引渡し時の仕上り具合に影響を及ぼす。

一般的に、じんあい等が付着した箇所は、雨が滞留しやすくなり、汚れがますます付着し、放置しておくと固着して除去し難くなり、腐食等を生じて素材を傷める場合がある。部材の表面仕上げに悪影響を与える物質は、早急に除去する必要があり、全面清掃のほかに汚れの状況に応じて中間で清掃することが望ましい。また、上階で溶接作業を行う場合は、溶接火花の飛散によるガラスの損傷等を防止するために必ず防炎シートで周囲を養生する。

養生材の選定に当たっては、日射及び大気汚染によって材料が変化し、除去時に接着材等が残存することがないよう注意する。

また、長期に渡る養生材の貼付によるウォータースポットにも注意する。ウォータースポットとは、アルミニウムの陽極酸化塗装複合皮膜表面に雨水等の水分が長時間付着し、塗膜と皮膜界面や、皮膜の微細孔中まで浸透した結果、部分的に水に濡れた状態となり、皮膜のもつ透明感が消え、乳白色になることで生じる斑点模様のことである。

17章 カーテンウォール工事 3節 PCカーテンウォール

17章 カーテンウォール工事

3節 PCカーテンウォール

17.3.1 一般事項

(1) 「標仕」では、PCCWを対象としている。

(2) 一般的な作業の流れを図17.3.1に示す。


図17.3.1 PCCW作業の流れ

17.3.2 材 料

(1) コンクリート

(ア) 普通コンクリートや軽量コンクリートのほか、特殊な軽量骨材を用いた軽量コンクリート及び炭素繊維、ガラス繊維、ビニロン繊維、鋼繊維等を混入し、鉄筋で補強しない材料(CFRC、GRC、VFRC、SFRC等)も使用されている。「標仕」では、実績が最も多く、PCCWの製造所で一般的に取り扱っている普通コンクリートや軽量コンクリート1種を使用することとしている。

「標仕」に規定されたコンクリートの品質は一般的な値であり、多くの PCCWの製造所では、スランプは12cm(スランプの許容差は、「標仕」表6.5.1による。)が標準的である。

(イ) コンクリートの調合は、所要強度、ワーカビリティー、均一性、耐久性等が得られるものが必要である。調合設計では、次に示した事項を考慮して所定の品質が得られるように決定する。

(a) 品質基準強度
(b) 脱型時強度
(c) コンクリート製造条件及び強度の標準偏差
(d) 加熱養生条件

一般的に、PCCWの製造所では、それぞれ基雄とする標準調合を定めており、強度等の条件が合う場合は、PCCWの製造所の標準調合を使用する方が問題が少ない。

(2) 鉄筋類

一般的に、主筋には、JIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に規定される SD295の異形棒鋼(径:D13、D10)を使用することが多い。また、これらの異形鉄筋を格子状に溶接した鉄筋格子も使用されている。

さらに、PC版の形状が、薄い平板の場合や乾燥収縮等のひび割れ防止のために、 JIS G 3551(溶接金網及び鉄筋格子)の溶接金網の線径6mmを主筋として使用する ことも多い。また、細部の補強等には、JIS G 3532(鉄線)の普通鉄線又はJIS G 3551の溶接金網の線径 3.2mm程度のものも使用されている。

JIS G 3551の溶接金網には丸鉄線と異形鉄線があり、一般的には、丸鉄線を使用することが多いが、異形鉄線も使用される。溶接金網を主筋に用いる場合の引張強度は、SD295に準じた引張強度とすることが多い。

(3) シーリング材

(ア) シーリング材は、PC版間の目地に充填するものが主であるが、このほか、PC版に先付け(打込み)したサッシ枠回り及び張り石間並びにPC版に隣接する他部材との目地に使用するものもある。

(イ) シーリング材の種類は、「標仕」17.3.2(4)で特記によると規定されている。その参考として、CWにおいて被着体別に使用されるシーリング材の例を表17.2.4に示す。

(ウ) 17.2.2の表17.2.4では、PCCWの部材間目地に使用するシーリング材を2成分形変成シリコーン系(MS-2、耐久性による区分9030)としている。これは、 PC版間の目地やPC版に隣接する他部材との目地に、水密や気密性能のほかに、地震時の建物層間変位による目地変形に追従する性能が必要なためである。

(4) 断熱材
PC版の裏面に直接施工するのが一般的である。断熱材の種類は特記によるが、一般的には、現場発泡形のポリウレタンが多い。そのほか、ポリウレタン、ポリスチレン系の発泡体及びグラスウール等の成形板がある。さらに、断熱と結露防止の目的でひる石系の材料を吹き付けることもある。断熱材の種類によっては、アルミニウム等を腐食させるものもあるため、その選択には注意が必要である。

また、断熱材は、工事中の雨掛りを避けるため、一般的に、現場でPC版を取り付けた後に施工することが多い。

(5) ガラスは、16.14.2による。ガラス取付け材料は、17.2.2(4)による。

(6) 取付け用金物と摩擦低減材〈滑り材〉

PC版の部材付け金物の位置は、取付け躯体との関連で決まるため一律ではない。したがって、取付け用金物の形状・材質等は、PCCWの製造所の仕様によるとしている。一般的に、取付け用金物は、形鋼や鋼板等SS400材を組み合わせて製作するものと、専用品として市販しているものとがあり、使用実績を確認するとよい。取付け用金物の防錆処理は、「標仕」17.3.3(3)では、屋外に使用する鋼材、ボルト及びナットの表面処理は表14.2.2のC種、屋内に使用する鋼材の表面処理は、同表E種、ボルト及びナットは同表F種としている。

取付け用金物は、PC版の層間変位追従時の挙動や風圧等の外力に対して安全であることを、計算等により確認することが重要である。

摩擦低減材は、スライドホール部(滑動部)の滑り性能を確保するため、金物間に挟んで使用する。材質は、ステンレス板、ステンレス板等にカーボングラファイトを加工したもの、フッ索樹脂系のシート(テフロン(商標))等があり、摩擦係数は、0.2〜0.3程度のものが多い。

取付け用金物に要求される機能及びCW部材の留付けについては、17.2.2(7)を参照されたい。

(7) 先付け材料

PC版の型枠に先付けし、コンクリートに埋め込む(打ち込む)ものには、タイル、石材等の仕上げ材料とサッシ枠やゴンドラ用ガイドレール及びPC版の部材付け金物やあと付けするサッシ等の取付け金物がある。

(a) タイル等の仕上げ材は、特記による。
(b) サッシ枠やゴンドラ用レール等は、特記による。
(c) PC版の部材付け金物は、PCCWの製造所の仕様による。

(d)あと付けするサッシ等の取付け金物は、それぞれの製造所の仕様による。

17.3.3 形状及び仕上げ

(1) PC版の製作精度

製作精度は、層間変位追従性や目地幅等に直接かかわるが、PC版は、単品ごとに製造するコンクリート製品であるため、製作精度をあまり厳しく設定すると現実の問題として製造が困難になる。

「標仕」17.3.3(1)に規定されているPC版の見え掛り部分の寸法許容差は、標準的な大きさ(4m × 2.5m程度)の平板状PC版の寸法許容差であり、標準を大きく上回る版、リブ付き形状版、パラペット部を含む長大版並びにL形コーナー版等では、PC版の形状、大きさと建物の条件等を考慮し、PCCWの諸性能に影響を与えない範囲で寸法許容差を決めることが重要である。

受注者等が受入検査として行うPC版の寸法検査の頻度は、辺長、開口部の内法寸法、先付け金物位置については全数、その他についてはロット単位の検査で確認するとよい。

(2) PC版に先付けする表面仕上材

表面仕上材は、美観だけではなく、耐久性にも影響を与えるので、その選択には十分な配慮が必要である。また、仕上材の種類や材料によっては、PC版製作に先立ち、試験体を製作して付着力又はアンカー耐力等の確認が必要である。

(3) Y型構造ガスケットの取付け溝

一般的に、PCCWでは、PC版にサッシ枠を使用しないで直接ガラスを留める場合は、Y型構造ガスケット(17.2.2 (4)(イ) 参照)を使用する。

Y製構造ガスケットをPC版にはめ込むための溝の形状例を、図17.3.2に示す(「JASS 14 カーテンウォール工事」参照)。溝幅・位置等の精度は、ガラスのはめ込みやガスケットのガラス保持性及び水密性に影響するため、十分な精度管理が必要である。


図17.3.2 Y型構造ガスケットによるPC版へのガラスのはめ込み

17.3.4 製作

(1) 型枠の製作

型枠は、PC版の仕上げ程度及び製品精度に影響を与えるので、所定の要求品質が得られるものとする。一般的に、PC版の型枠は次のような理由から、鋼製の型枠を使用する。

(a) 剛性があり、組立及び脱型時の外力や振動による変形が小さい。
(b) 脱型が容易で、反復使用ができ、製品のばらつきが少ない。
(c) 吸水による変形がない。
(d) 加熱等の養生条件に耐える。

(e) コンクリートの品質に有害な影響を与えない。

なお、型枠の製作は、十分な精度管理が必要であるので、PCCWの製造所の型枠寸法許容差を確認する。

(2) 鉄筋の組立

(ア) 配筋は特記によるが、特記がない場合、監督職員は、PCCWの製造所が行うPC版の構造計算を確認して、承諾をする。

(イ) 鉄筋は、所定の形状に合わせ正確に配筋する。鉄筋は、型枠とは別の場所で組み立てられた後、運搬、仮置きされることが多く、その間に変形したり、あるいは型枠内でコンクリート打込み作業中に位置がずれることのないように堅固に組み立てたものとする。また、断面の小さな部分やひび割れの生じやすい部分は、配筋図に記載されていなくとも必要に応じて補強筋を配することが重要である。

なお、製造上やむを得ない場合や、実績がありPC版の性能上問題がないと思われる場合は、監督職員の承諾を受けて鉄筋の組立を溶接とすることができるが、溶接による鉄筋の断面欠損が生じないようにすることが重要である。

(ウ) PC版の鉄筋のかぶり厚さは、「標仕」表5.3.6により、耐久性上有効なタイルや石材仕上げ等がある場合は20mm、有効な仕上げがない場合は30mmを最小値とする。また、鉄筋相互のあきは「標仕」5.3.5(4)による。

(3) コンクリートの打込みは、各種の振動機(バイプレーター)を用いて密実に締め固め、気泡、豆板、クレーター状の跡等が生じないように行う。また、振動のかけ過ぎはコンクリートの分離を招くので、状況により適切な時間を選択しなければならない。

(4) コンクリートの養生及び脱型

(ア) PC版は、脱型強度を確保するため一般に加熱養生を行う。加熱養生は、次のような事項を考慮して養生計画を立てる。

(a) 加熱開始までの前置き時間

コンクリート打込み後、水引き前後の初期硬化開始直後の加熱養生は、コンクリートの強度発現性に悪影響を与えるため、前置き時間を2〜3時間とることが必要である。

(b) 養生温度の上昇勾配と下降勾配

上昇及び下降勾配は、15℃/h以下が望ましく、20℃/hを超えてはならない。

(c) 最高養生温度

最高養生温度は、40〜50℃前後が望ましく、70℃以上では有害とされている。

(d) 部材を養生槽から取り出したときの部材温度と外気温との差

20℃以下が望ましく、冬期等で、温度差が大きいと急激な収縮により内部応力が働き、ひび割れの要因となるので注意が必要である。

加熱養生条件の例を図17.3.3に示す。


図17.3.3 加熱養生条件の例

(イ) PC版の脱型は、脱型強度の確認後、有害なひび割れや欠け等が生じないように注意して行う。脱型時のコンクリート強度は12N/mm2以上とし、PC版の形状、大きさ等により適宜強度を増す。一般的には12〜15 N/mm2程度である。

17.3.5 取付け

(1) 躯体付け金物の取付けは、17.2.5(1)に準じる。

なお、PC版は重いため、次に示す取付け躯体の梁は、PC版を取り付けた時の梁のたわみやねじれが、許容値以内に納まることを確認し、必要に応じて適切な補強を行う必要がある。

(ア) 階段、パイプシャフト、ダクトスペース、エレベーターシャフト部分等、スラブと一体でない梁
(イ) 屋上に突出した柱上部(設備機器等の目隠し取付け用等)の梁

(ウ) スラブコンクリートを打ち込む前の梁

(2) 主要部材の取付け

「標仕」表17.3.2に示す部材の取付け位置の寸法許容差は、「JASS 14 カーテンウォール工事」に準じたものである。その他の安全作業、仮留めボルト等のあと処理及び取付け部の固定と防錆処理は、17.2.5(2)に準じる。

(3) 耐火構造

外壁の耐火構造、延焼のおそれのある部分での防火設備及び層間ふさぎの施工は、17.2.5(3)に準じる。

17.3.6 ガラスの取付け

ガラスの取付けは、17.2.6に準ずる。

17.3.7 耐火被覆の施工

PC版が、躯体(柱、梁)の耐火構造を兼ねる合成耐火構造とする場合は、法令に基づき認定されている材料、工法に従って施工する。

なお、PC版自体のみならず、PC版の目地にも同等の耐火性能が必要であり、耐火目地材や、有効に火熱を遮断するシリコーンゴム製ガスケットが設置されていなければならない。

17.3.8 シーリング材の施工及び試験

シーリングの施工及び試験は、17.2.7に準ずる。

17.3.9 養 生

養生は、17.2.8に準ずる。

参考文献

18章 塗装工事 3節 錆止め塗料塗り

18章 塗装工事

3節 錆止め塗料塗り

18.3.1 一般事項

この節は、建築物内外の一般部、構造体、鋼製建具、設備機器類等の鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面の下塗りである錆止め塗料塗りを対象としている。令和4年版「標仕」から、鉄鋼面及び亜鉛めっき面の錆止め塗料を3節にまとめた。

18.3.2 塗料種別

(1) 鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面の防錆を目的として、下塗りに使用される錆止め塗料は、JIS K 5621(一般用さび止めペイント)、JIS K 5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)、「JASS 18 塗装工事」M-109、M-111、JPMS 28、耐候性塗料塗りで使用するJIS K 5552、JIS K 5551等がある。

(2) 「標仕」で採用されている各種錆止め塗料の特徴は、次のとおりである。

(ア) 鉛・クロムフリーさび止めペイント(JIS K 5674)

JIS K 5674に規定されており、鉛及びクロムを含まない錆止め顔料を、ビヒクル(加工乾性袖(ボイル油)又は合成樹脂ワニス)に分散させてつくる鋳止め塗料である。1種は溶剤系塗料(有機溶剤を揮発成分とする塗料)、2種は水系塗料(水を主要な揮発成分とする塗料)であり、錆止め顔料の種類は特定されていないが、りん酸亜鉛、亜りん酸亜鉛等のほかにも種々の顔料を使用するとしている。りん酸イオンは鋼面を不動態化させて、防錆効果を示す。色調は赤錆色、白色、灰色等がある。

(イ) 水系さび止めペイント(JASS 18 M-111)

水系さび止めペイントの品質は、JASS 18 M-111に規定されている。

JASS 18 M-111に規定される水系さび止めペイントの耐複合サイクル防食性は、一般用さび止めペイント1種及び2種の耐複合サイクル防食性よりも優れており、シアナミド鉛さび止めペイントの耐複合サイクル防食性と同等である。

(ウ) ジンクリッチプライマー(JIS K 5552)

JIS K 5552に規定されており、70%以上含まれている金属亜鉛が防錆効果を示す錆止め塗料である。

JISではアルキルシリケートをビヒクルとした1種(無機)と、エポキシ樹脂をビヒクルとした2種(有機)が規定されており、「標仕」表18.3.4では品質や施工性等から、下塗り(1回目)には2種を用いることにしている。

(エ) 構造物用さび止めペイント(JIS K 5551)

JIS K 5551に規定されており、種類はA種、B種、C種、D種及びE種がある。

2018年JIS K 5551の改定に伴い、水系塗料が規定に加わった。A種とB種は有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形エポキシ樹脂系塗料であり、C種は有機溶剤を揮発成分とする反応硬化形変性エポキシ樹脂系塗料又は反応硬化形変性ウレタン樹脂系塗料、D種とE種は水を主要な揮発成分とする反応硬化形エポキシ 樹脂系塗料である。塗膜厚さによる区分があり、A種とD種は約30μm(標準形)、B種、C種及びE種は約60μm(厚膜形)となっており、「標仕」表18.3.4では品質や施工性の観点から、下塗り2回目と3回目にはA種を用いることとしている。当該規格では製品の形態(荷姿)に1液形と多液形があり、主剤と硬化剤からなる多液形が使用されることが多い。下塗りとして用いる反応硬化形エポキシ樹脂系塗料の標準工程間隔時間には、7日以内と制限があるため、「標仕」表18.7.1では、「鋳止め塗料塗り」の次に、工程1「研磨紙ずり」を設けている。

(オ) 一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイント(JPMS 28)

変性エポキシ樹脂と顔料、分散剤等を主成分とする。一液形であるため、作業性に優れており、平成25年版「標仕」で採用されていた鉛酸カルシウムさび止めペイントより防錆効果が優れている。

鉛酸カルシウムさび止めペイントについては、主に、平成25年版「標仕」の建具工事において使用されていたが、関連業界による共同実験の結果、一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントが、代替品として適していることが実証されたため、廃止された。

亜鉛めっき鋼面の素地ごしらえに採用されていたエッチングプライマー塗りは、鉛酸カルシウムさび止めペイントの付着性確保のために塗布するものなので併せて廃止された。これにより「標仕」の18章[塗装工事]より、鉛、クロムを使用した仕様が完全に廃止された。一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントの色調は、白色、灰色、赤錆色などがある。

上塗り塗料としては、合成樹脂調合ペイントをはじめ、弱溶剤系のポリウレタンエナメル、弱溶剤系のアクリルシリコン樹脂エナメルなども使用でき、用途として亜鉛めっき鋼面はもちろん、鉄鋼面にも適用できるが、「標仕」表18.3.1[鉄鋼面の錆止め塗料の種別]には、JIS、JASS規格があるため、JPMS 28は規定していない。

注意点として、一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントを塗装後は、必ず標準工程間隔時間内に上塗り塗装を行う。上塗り塗装を行わなかった場合、一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントの塗膜表面に白亜化が、発生することがある。標準工程間隔時間を超える場合は、研磨紙ずり後、上塗り塗装を行う。

(カ) 変性エポキシ樹脂プライマー(JASS 18 M-109)

JASS 18 M-109に規定されており、変性エポキシ樹脂と顔料、分散剤等を主成分とする主剤と、ポリアミド樹脂やアミンアダクト樹脂を用いる硬化剤から構成される、2液形下塗り塗料である。

純粋なエポキシ樹脂系塗料に比べて、得られる塗膜性能が素地調整の程度に大きな影響を受けず、適用対象の多い下塗り塗料である。特に、亜鉛めっき鋼面に対する付着性に優れている。

(3) 鉄鋼面の錆止め塗料の種別

(ア) 塗料種別は、「標仕」表18.3.1により、A種の鉛・クロムフリーさび止めペイント1種は、18.4.3[鉄鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り]と18.8.4[鉄鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り]に使用される。

(イ) 平成25年版「標仕」から、鉛・クロムフリー化に伴い、シアナミド鉛さび止めペイントは廃止された。

(ウ) B種の水系さび止めペイント及び鉛・クロムフリーさび止めペイント2種は、18.8.4[鉄鋼面つや有合成樹脂エマルションペイント塗り]に限定して使用される。

(エ) C種のジンクリッチプライマー及びD種の構造物用さび止めペイントA種は、 18.7.2[鉄鋼面の耐候性塗料塗り]に使用される。

(4) 亜鉛めっき鋼面鋳止め塗料の種別

(ア) 塗料種別は「標仕」表18.3.2により、JPMS 28、JASS 18 M-109若しくは JASS 18 M-111 を使用するように規定している。

(イ) 塗料種別は、「標仕」表18.3.2によりA種の一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントは、18.4.4[亜鉛めっき鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り]に使用される。

(ウ) ー液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントは、JISが制定されていないが、日本塗料工業会規格によってその性能が規定されており、亜鉛めっき面に対する付着性に優れている。作業性のうち、特に速乾性に優れており、鋼製建具などに適している。

(エ) B種の変性エポキシ樹脂プライマーは、18.4.4[亜鉛めっき鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り]と18.7.3[亜鉛めっき鋼面の耐候性塗料塗り]に使用される。

(オ) 変性エポキシ樹脂プライマーについては、JISが制定されていないが、日本建築学会材料規格によってその性能が規定されており、亜鉛めっき鋼面に対する付着性が優れている。

(カ) C種の水系さび止めペイントは、18.8.5[亜鉛めっき鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り]に限定して使用される。

18.3.3 錆止め塗料塗り

(1) 鉄綱面の錆止め塗料塗り

(ア) 「標仕」表18.3.3のA種における研磨紙ずりの目的は、ごみ、ほこり等の付着物を除去するためで、塗膜が薄くならないように軽く研磨する程度とする。

(イ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り又は吹付け塗りとし、工場塗装では条件が整えば浸漬(しんし)塗りとしてもよい。

(ウ) 塗料の標準工程間隔時間を表18.3.1に示す。

表18.3.1 鉄鋼面の錆止め塗料の種別と標準工程間隔時間
(エ) 平成31年版「標仕」から、鉄骨等の鉄鋼面の錆止め塗料塗り工法で、2回目を鉄骨等の製作工場で塗る事が出来る規定が新たに追加された。

(オ) 耐候性塗料塗りの場合、下塗りまでは鉄骨等の製作工場で行い、現場に搬入して組立後は、塗膜の損傷程度に応じて、下地調整及びJASS 18 M-109に基づく錆止め塗料(「標仕」表18.3.2のB種)を3回塗る。

(2) 亜鉛めっき鋼面錆止め塗料塗り

(ア) 「標仕」表18.3.5のA種における研磨紙ずりの目的は、ごみ、ほこり等の付着物を除去するためで、塗膜が薄くならないように軽く研磨する程度とする。

(イ) 塗装方法は、はけ塗り又は吹付け塗りとする。

(ウ) 塗料の標準工程間隔時間を表18.3.2に示す。

表18.3.2 亜鉛めっき鋼面の錆止め塗料の標準工程間隔時間
(エ) 「標仕」18.3.3 (4)(ア) では、鋼製建具等の塗装範囲を具体的に示しているが、両面フラッシュ戸の表面板裏側部分(力骨・中骨等を含む)、枠の裏側部分及び無目・方立等の裏側部分については、密閉部分で錆の進行がほとんどないことから塗装範囲とはしていない。押縁については、ガラス施工時に取り外すことから、組立前に裏面側についても塗装することとしている。

(オ) 「標仕」で素地ごしらえをA種(化成皮膜処理)としているのは、亜鉛めっきの防錆機能を低下させずに下塗り塗料との付着性が得られることを考慮したものである。

(カ) 全ての塗装工程を鋼製建具等の製造工場で行う場合は、現場に搬入して組立後の補修方法等について事前に検討及び協識をしておく必要がある。

(キ) 下塗りまでは鋼製建具等の製造工場で行い、現場組立で生じた現場溶接部及び組立中の下塗り損傷部分は、ワイヤーブラシ、研磨布等を使用し、亜鉛めっき面を傷つけないように錆等を除去し、JASS 18 M-109(変性エポキシ樹脂プライマー(変性エポキシ樹脂プライマーおよび弱溶剤系変性エポキシ樹脂プライマー))(「標仕」表18.3.2のB種)による補修塗りを行う。ただし、鋼製建具等の製造工場にて下塗りとして一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイントが使われている場合、JPMS 28(一液形変性エポキシ樹脂さび止めペイント)(「標仕」表18.3.2のA種)でも補修塗りを行うことができる。

(ク) 使用する塗料、シンナー、調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。

(ケ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。

18章 塗装工事 7節 耐候性塗料塗り(DP)

18章 塗装工事

7節 耐候性塗料塗り(DP)

18.7.1 一般事項

この節は、長期間にわたる耐候性や美装性を要求される建築物外部の鉄骨、亜鉛めっきを施された鉄骨、鋼製建具及びコンクリート外壁等に対する着色塗装仕上げをする場合に適用する。

塗装の仕様には、海岸や工業地帯等の厳しい腐食環境における重防食仕様といわれるものと、一般的な腐食環境におけるものとがあり、この節では後者の一般的な腐食環境を前提としたものである。

平成25年版の「標仕」の耐候性塗料塗りでは、溶剤系塗料が適用されていた。しかし昨今では、環境保全や健康安全への配慮から、建築現場における塗装では、光化学オキシダントの低減、有機溶剤中毒の抑制や防止などを目的として、光化学活性の少ない弱溶剤系塗料が使用されている。このため平成28年版「標仕」から、耐候性塗料塗りに弱溶剤系塗料が採用された。

使用する材料の規格番号が、鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面の金属系素地とコンクリート面及び押出成形セメント板面のセメント系素地で異なっているため、注意が必要である。

なお、令和4年版「標仕」から、鉄鋼面及び亜鉛めっき面の錆止め塗料の記載を3節に移行した。

光化学オキシダントphotochemical oxidant
窒素酸化物や炭化水素の光化学反応において生じる、オゾンやパーオキシアシルナイトレートなどの酸化性物質(オキシダント)の総称である。オキシダント は酸化剤のこと。強力な酸化作用を持ち健康被害を引き起こす大気汚染物質であり、光化学スモッグの原因となる。

18.7.2 鉄鋼面の耐候性塗料塗り

(1) 材 料
(ア) ジンクリッチプライマー(JIS K 5552)

 18.3.2(2)(エ)を参照する。

(イ) 構造物用さび止めペイント(JIS K 5551)

 18.3.2(2)(オ)を参照する。

(ウ) 鋼構造物用耐候性塗料(JIS K 5659)

JIS K 5659に規定されているもので、種類はA種(溶剤形塗料)とB種(水性塗料)の2種類あり、各種類の中には各々、上塗り塗料と中塗り塗料がある。上塗り塗料は耐候性により等級が規定されており、品質が最も高いものを1級とし、順に2級、3級としている。「標仕」では、上塗り塗料の等級は特記されることになっている。上塗り塗料と中塗り塗料は、主剤と硬化剤からなる常温乾燥形の塗料である。使用に当たり、中塗り塗料の標準工程間隔時間が7日以内と制限があることに注意する必要がある。

JIS K 5659 A種は、旧規格JIS K 5657(鋼構造物用ポリウレタン樹脂塗料)と旧規格JIS K 5659(鋼構造物用ふっ素樹脂塗料)を統合し、両塗料の中間のグレードとして、アクリルシリコン樹脂系の耐候性区分を取り込んで制定された規格である。したがって、当該規格の1級の品質は旧規格JIS K 5659の品質に相当し、3級の品質は旧規格JIS K 5657の品質に相当するとしていた。最近では、ふっ素樹脂塗料は1級、シリコーン樹脂塗料は 1~2級、ポリウレタン樹脂塗料 は 2~3級に該当している。

2018年JIS K 5659の改定に伴い、水系塗料が規定に加わった。種類が、有機溶剤を主要な揮発成分としたA種と、水を主要な揮発成分としたB種に分類されたが、B種に関しては、2022年1月時点では JISマーク表示の認証を受けている製品がない。このため(-社)日本塗料工業会では、水系塗料を用いる建築物の鉄部仕様に対する適用性の検討及び現行の溶剤系仕様と性能を比較することを目的とし、「鉄部建築工事における高耐久水性仕様検証ワーキング」を立ち上げ実証実験を行っている。その成果については、2020年9月から日本建築学会大会学術講演会及び日本建築仕上学会大会学術講演会で発表を行っている。

弱溶剤系の鋼構造物用耐候性塗料に用いる材料は、労働安全衛生法に定めている第3種有機溶剤(ミネラルスピリットなど)を用いた塗料である。溶解力の強いトルエンやキシレンなどと比べて、溶解力の弱い第3種有機溶剤を用いた塗料で、弱溶剤系塗料と呼ばれている。弱溶剤系塗料は従来の溶剤系塗料に比べ、溶解力や臭気が低く、塗装時に既存塗膜をリフティングさせることが少なく、新設工事に用いるほか塗替工事にも用いられている。

(2) 塗 装

(ア) 「標仕」の鉄鋼面は、屋外の鉄骨を主な対象としている。

(イ) 構造物用さび止めペイントA種及び鋼構造物用耐候性塗料中塗り塗料は、その上に塗装されるまでの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間に十分注意する。

(ウ) 下塗りとして弱溶剤系塗料を使用した場合、その後の工程の中塗り、上塗りも弱溶剤系塗料を使用する。

(エ) 使用する塗料、シンナー、調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。

(オ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。

(カ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を表18.7.1に示す。

(キ) 下塗りとして用いる反応硬化形エポキシ樹脂系塗料の標準工程間隔時間には、 7日以内と制限があるため、「標仕」表18.7.1では、「錆止め塗料塗り」の次に、工程1「研磨紙ずり」を設けている。

表18.7.1 鉄鋼面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18.7.3 亜鉛めっき鋼面の耐候性塗料塗り

(1) 材 料
(ア) 鋼構造物用耐候性塗料(JIS K 5659)

 18.7.2(1)を参照する。

(イ) 変性エポキシ樹脂プライマー

 18.3.2(2)(イ)を参照する。

(2) 塗 装

(ア) 全ての塗装工程を鋼製建具等の製造工場で行う場合は、現場に搬入して組立後の補修方法等について事前に検討及び協議をしておく必要がある。

(イ) 下塗りとして弱溶剤系塗料を使用した場合、その後の工程の中塗り、上塗りも弱溶剤系塗料を使用する。

(ウ) 使用する塗料、シンナー、調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。

(エ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。

(オ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.7.2に示す。

表18.7.2 亜鉛めっき鋼面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18.7.4 コンクリート面及び押出成形セメント板面の耐候性塗料塗り

(1) 材 料

(ア) 反応形合成樹脂シーラーおよび弱溶剤系反応形合成樹脂シーラー
JASS 18 M-201に規定されているエポキシ樹脂を主成分とする反応硬化形塗料であり、セメント系素地との接着性に優れている。

塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。

(イ) 常温乾燥形ふっ素樹脂塗料用中塗り
(常温乾燥形ふっ素樹脂塗料用中塗りおよび弱溶剤系常温乾燥形ふっ素樹脂塗料用中塗り)

JASS 18 M-405に規定されている反応硬化形塗料で、エポキシ樹脂系やポリウレタン系のものがある。塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。

(ウ) アクリルシリコン樹脂塗料用中塗り
(アクリルシリコン樹脂塗料用中塗りおよび弱溶剤系アクリルシリコン樹脂塗料用中塗り)

JASS 18 M-404 に規定されている反応硬化形塗料で、エポキシ樹脂系やポリウレタン系のものがある。塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。

(エ) 2液形ポリウレタンエナメル用中塗り
(2液形ポリウレタンエナメル用中塗りおよび弱溶剤系2液形ポリウレタンエナメル用中塗り)

JASS 18 M-403に規定されている反応硬化形塗料で、エポキシ樹脂系やポリウレタン系のものがある。塗料はその溶媒の種類により、溶剤系塗料と弱溶剤系塗料に区分される。

(オ) 建築用耐候性上塗り塗料

JIS K 5658(建築用耐候性上塗り塗料)は、旧規格JIS K 5656(建築用ポリウレタン樹脂塗料)と旧規格JIS K 5658(建築用ふっ素樹脂塗料)を統合したうえで、両塗料の中間となる耐候性グレードとしてアクリルシリコン樹脂系を取り込み、主要原料として、ふっ素樹脂、シリコーン樹脂又はポリウレタン樹脂を用いるもので、主剤と硬化剤を混合して使用する塗料としている。

耐候性による等級区分が設定されており、品質が最も高いものを 1級とし、順に2級、3級とされ、1級の品質は旧規格JIS K 5658の品質に相当し、3級の品質は旧規格 JIS K 5656の品質に相当するとしていた。「標仕」では、A種が主要原料ふっ素樹脂(1級)、B種が主要原料シリコーン樹脂(2級)、C種が主要原料ポリウレタン樹脂(3級)のように、等級が主要原料 により限定されているが、 JIS K 5658では樹脂系と各級を一致させないとしている。最近では、ふっ素樹脂 は1級、シリコーン樹脂は1~2級、ポリウレタン樹脂は2~3級に該当している。

弱溶剤系の建築用耐候性塗料塗りには、労働安全衛生法に定めている第3種有機溶剤(ミネラルスピリットなど)を用いた材料を使用する。溶解力の強いトルエンやキシレンなどと比べて、溶解力の弱い第3種有機溶剤を用いた塗料で、弱溶剤系塗料と呼ばれている。弱溶剤系塗料は従来の溶剤系塗料に比べ、溶解力や臭気が低く、塗装時に既存塗膜をリフティングさせることが少なく、新設工事に用いるほか塗替工事にも用いられている。

容器には規格番号と名称に加えて、等級及び主要樹脂成分の一般名称(ふっ素樹脂、シリコーン樹脂又はポリウレタン樹脂のいずれか)を表示することが規定されている。

(2) 塗 装

(ア)「標仕」のコンクリート面及び押出成形セメント板面は、外壁等を主な対象としている。

(イ) 全ての塗装工程を製造工場で行う場合は、現場に搬入して組立後の補修方法等について事前に検討及び協議をしておく必要がある。

(ウ) コンクリート面に耐候性塗料塗りを適用する場合の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.6を適用する。

(エ) 下塗りとして弱溶剤系液料を使用した場合、その後の工程の中塗り、上塗りも弱溶剤系塗料を使用する。

(オ) 使用する塗料、シンナー、調合割合、可使時間等は、塗料の製造所の指定によるものとする。

(カ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り若しくは吹付け塗りとする。

(キ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.7.3に示す。

表18.7.3 コンクリート面及び押出成形セメント板面の耐候性塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18章 塗装工事 8節 つや有合成樹脂エマルションペイント塗り(EP-G)

18章 塗装工事

8節 つや有合成樹脂エマルションペイント塗り(EP-G)

18.8.1 一般事項

この節は、建築物の内外壁面、天井等のコンクリート面、モルタル面、せっこうプラスター面、せっこうボード面及びその他のボード面等並びに屋内の木部、鉄鋼面及び亜鉛めっき鋼面に用いる、つや有合成樹脂エマルションペイント塗り仕上げを対象としている。

つや有合成樹脂エマルションペイント塗りは、ホルムアルデヒド発散建築材料に指定されていない塗料を利用した塗装仕様である。屋内の木部、鉄鋼面、亜鉛めっき鋼面に対して、本塗り仕様と同様の用途に適用できる塗装仕様として、4節の合成樹脂調合ペイント塗り及びフタル酸樹脂エナメル塗りがある。しかし、合成樹脂調合ペイント(JIS K 5516)及びフタル酸樹脂エナメル(JIS K 5572)はホルムアルデヒド発散建築材料に指定されており、特記によりF☆☆☆☆以外の材料が指定されている場合には、内装としての使用面積が制限されることになる。つや有合成樹脂エマルションペイント塗りは、ホルムアルデヒド発散建築材料に指定されている塗料を使用していないため、建築基準法のシックハウス症候群対策による規制を受けない。

つや有合成樹脂エマルションペイントは水系塗料であり、合成樹脂調合ペイントやフタル酸樹脂エナメルと比較して、揮発性有機化合物(VOC)の発生が少なく、ホルムアルデヒドの発散等級はF☆☆☆☆である。

18.8.2 コンクリート面、モルタル面、せっこうプラスタ一面、せっこうボード面、その他ボード面等のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り

(1) 材 料
(ア) 合成樹脂エマルションシーラー

JIS K 5663(合成樹脂エマルションペイント及びシーラー)に規定される品質のものとする。

(イ) つや有合成樹脂エマルションペイント(JIS K 5660)

JIS K 5660に規定されており、合成樹脂エマルションと着色顔料、体質顔料、補助剤、添加剤等から構成される水系塗料である。

水による希釈が可能で、水を加えて塗料に流動性をもたせることができ、臭気が少なく溶剤の揮散による大気汚染や中毒の危険性が少ない塗料である。そのため、従来のアクリル樹脂エナメルを使用していた部位に使われるようになってきている。

塗付された塗料は、水分が蒸発するとともに樹脂粒子が接近融着して連続塗膜を形成する。気温 –5℃以下では凍結するため、低温保管を避ける。また、気温 5℃以下では施工を避ける。

塗装用具や塗膜硬化機構は、9節に述べる「合成樹脂エマルションペイント」と同様であり、一度硬化乾燥すると表面光沢のある耐水性を有する塗膜になる。

(2) 塗 装

(ア) 「標仕」では、天井面等の見上げの部分においては、外観上特に問題がないため、工程3「研磨紙ずり」を省略することとしている。

(イ) コンクリート面に、つや有合成樹脂エマルションペイント塗りを適用する場合の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.5を適用する。

(ウ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り、吹付け塗りのいずれかとする。

(エ) 塗料の塗付けは、同じ方向にそろえ、1日の工程終了は区切りのよい所まで塗装する。途中で終了したり塗り残したりすると、色むらや光沢むら等の仕上り外観に異常を生じることがある。

(オ) 希釈に使用する水は、水道水を標準として、水道水以外の水を使用する場合は、事前に各材料との適合性を確認する必要がある。

(カ) つや有合成樹脂エマルションペイントは水系塗料であるが、塗料の飛散、粉じんの吸入、皮膚や目への付着等、安全衛生に注意する。

(キ) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.8.1に示す。

(ク) 各工程の工程間隔時間及び最終養生時間は、十分確保する。工程間隔時間及び最終養生時間が短いと研磨紙ずりの時に目詰りしたり、研磨目が出たりして、仕上り外観を損ねる場合がある。

(ケ) 下塗りに用いる合成樹脂エマルションシーラーは、上塗塗料の製造所の指定する水系塗料とする。

表18.8.1 つや有合成樹脂エマルションペイント渡りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18.8.3 木部のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り

(1) 材 料
(ア) 合成樹脂エマルションシーラー

 18.8.2(1)(ア)を参照する。

(イ) 合成樹脂エマルションパテ(JIS K 5669)

 JIS K 5669に規定される耐水形薄付け用とする。

(ウ) つや有合成樹脂エマルションペイント

 18.8.2(1)(イ)を参照する。

(2) 塗 装

(ア) 上塗りとの適合性を確保するため、合成樹脂エマルションシーラーはつや有合成樹脂エマルションペイントの製造所が指定する水系塗料とする。

(イ) 合成樹脂エマルションパテの耐水性は、エポキシ樹脂パテのような反応硬化形樹脂パテと比較すると、十分ではない。したがって、塗膜のふくれやはがれを防止するために、浴室や洗面所等の水回り部分への適用は避ける。

(ウ) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を表18.8.2に示す。

表18.8.2 木部のつや有合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18.8.4 鉄鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り

(1) 材 料
(ア) 鉛・クロムフリーさび止めペイント2種

 18.3.2(2)(ア)を参照する。

(イ) 水系さび止めペイント

 18.3.2(2)(ウ)を参照する。

(ウ) つや有合成樹脂エマルションペイント

 18.8.2(1)(イ)を参照する。

(2) 塗 装

(ア) 水系さび止めペイント又は鉛・クロムフリーさび止めペイント2種の性能を発揮させるためには、素地ごしらえを十分に行い、鉄鋼面に良くなじませるように塗装する。

(イ) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.8.3に示す。

表18.8.3 鉄鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18.8.5 亜鉛めっき鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗り

(1) 材 料
(ア) 水系さび止めペイント

 18.3.2(2)(ウ)を参照する。

(イ) つや有合成樹脂エマルションペイント

 18.8.2(1)(イ)を参照する。

(2) 塗 装

塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.8.4に示す。

表18.8.4 亜鉛めっき鋼面のつや有合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18章 塗装工事 9節 合成樹脂エマルションペイント塗り(EP)

18章 塗装工事

9節 合成樹脂エマルションペイント塗り(EP)

18.9.1 一般事項

この節は、建築物の内外壁面や天井等のコンクリート面、モルタル面、せっこうプラスター面、せっこうボード面、その他ボード面等に対する合成樹脂エマルションペイント塗りに適用する。平滑で汎用的な着色仕上げを対象としている。

18.9.2 合成樹脂エマルションペイント塗り

「標仕」18.9.2では、合成樹脂エマルションペイント塗りは、表18.9.1により種別は特記による。特記がなければB種と規定している。美粧性が求められる場合には、中塗りの1回目のあとに研磨紙ずりを行い、2回目の中塗りを行うことで平滑性と塗膜の厚みを持たせた仕上げとなるA種を適用する。

(1)材 料
(ア) 合成樹脂エマルションシーラー

 18.8.2(1)(ア)を参照する。

(イ) 合成樹脂エマルションペイント

 JIS K 5663(合成樹脂エマルションペイント及びシーラー)に規定されており、合成樹脂エマルションをベースとして、着色顔料や体質顔料、補助剤、添加剤等 を加えた水系のつや消し塗料である。

水による希釈が可能で加水して塗料に流動性をもたせることができ、臭気が少なく溶剤揮散による大気汚染や中毒の危険性が少ない塗料である。

塗付された塗料は、水分が蒸発するとともに樹脂粒子が接近融着して、連続塗膜を形成する。気温 −5℃以下では凍結するため、低温保管を避ける。また、気温5℃以下では施工を避ける。

JISでは1種(主として外部用)及び2種(内部用)が規定されているが、「標仕」では1種のみをコンクリート面、モルタル面、せっこうプラスタ一面、せっこうボード面、その他ボード面等に適用している。その他木部の着色仕上げには使用可能であるが、金属面には使用できない。

(2) 塗 装

(ア) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.9.1に示す。

(イ) (ア) 以外は、18.8.2(2)に準ずる。

表18.9.1 合成樹脂エマルションペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18章 塗装工事 10節 ウレタン樹脂ワニス塗り(UC)

18章 塗装工事

10節 ウレタン樹脂ワニス塗り(UC)

18.10.1 一般事項

この節は、建築物内部の建具、手すり、床等の木質系部材に対する仕上げを対象としている。

18.10.2 ウレタン樹脂ワニス塗り

(1) 材 料
(ア) 油性顔料着色剤

一般的にはピグメントステインと呼称される着色剤であり、顔料をボイル油や合成樹脂などで練り合わせて添加剤や溶剤を加えたものである。その品質は JASS 18 M-306に規定されている。油性顔料済色剤は1液形油変性ポリウレタンワニス塗りの場合に特記により適用する。

なお、ピグメントステイン(油性顔料着色剤)のみを利用した建築物外部及び内部の木部仕上げについては、18.11.2(1)に[ピグメントステイン塗り]として示している。

(イ) 溶剤形顔料着色剤
18.5.2(1)(イ)を参照する。

なお、溶剤形顔料着色剤は2液形ポリウレタンワニス塗りの場合に特記により適用する。

(ウ) 1液形油変性ポリウレタンワニス(JASS 18 M-301)

イソシアネートと乾性油との反応により得られる、ウレタン結合を有する樹脂を主要な塗膜形成要素とした透明の酸化重合形塗料である。その品質は「JASS 18 塗装工事」M-301に規定されている。

(エ) 2液形ポリウレタンワニス(JASS 18 M-502)

ポリオールとイソシアネート化合物を、主要な塗膜形成要素とした透明の2液反応硬化形塗料で、その品質はJASS 18 M-502に規定されている。

常温で硬化乾燥して溶剤が蒸発すると、ポリオールとイソシアネート樹脂が反応してウレタン結合を有する透明塗膜を形成する。

(2) 塗 装

(ア) 「標仕」では、塗装種別をA種(3回塗り)とB種(2回塗り)としており、特記がなければB種としている。

(イ) 「標仕」表18.10.1の (注)3に示すように着色は特記により行う。また、(注)4に示すように、下塗りとの相性を考慮して、1液形湘変性ポリウレタンワニスの場合は油性顔料着色剤(JASS 18 M-306(ピグメントステイン))とし、2液形ポリウレタンワニスの場合は溶剤形顔料着色剤を使用する。

着色を行わない場合は、素地の色調を活かした木地(生地)仕上げとなる。

(ウ) 下塗り、中塗り及び上塗りの工程には、同一材料を使用する。

「標仕」には規定されていないが、上塗りに 2液形ポリウレタンワニスを使用する場合は、下塗りに2液形ポリウレタンシーラー、中塗りには 2液形ポリウレタンサンディングシーラーを使用する塗装工程も一般的である。2液形ポリウレタンシーラー及び2液形ポリウレタンサンデイングシーラーの品質はJASS 18 M-302に規定されている。

(エ) 下塗りは、素地に塗料を十分に浸透させることにより、吸込みが均ーになり、むらを防止するとともに塗膜の付着性を向上させる。

(オ) 1液形油変性ポリウレタンワニスは、油性成分の酸化重合により硬化するため、最短でも24時間程度の硬化時間を必要とする。したがって、乾燥硬化の不良による縮みやしわの発生に注意する。余裕をもった工程間隔時間及び最終養生時間が必要であり、特に、厚膜になると縮みやしわが発生しやすいため、厚塗りを避ける。

なお、ワニスの乾燥塗膜には、塗重ね時間の制約があり、長時間放置してから塗り重ねると層間はく離を生じやすくなるため注意する。

(カ) シンナーは、塗装方法や乾燥条件に応じて使い分けるのが一般的である。肌あれや発泡等の仕上り塗膜の欠陥を生じるため、塗料の製造所が指定するシンナーを用いる。

(キ) 塗装方法は、はけ塗り又はローラーブラシ塗りとする。

(ク) 2液形ポリウレタンワニスに使用しているイソシアネート化合物は反応性が強く、粘膜や皮膚に触れるとかぶれることがあるため、使用の際は安全衛生上十分な措置を講ずる。

(ケ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.10.1に示す。

表18.10.1 ウレタン樹脂ワニス塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18章 塗装工事 11節 ステイン塗り

18章 塗装工事

11節 ステイン塗り

18.11.1 一般事項

この節は、建築物の屋内における木部のオイルステイン塗り並びに建築物の屋外及び屋内における木部のピグメントステイン塗り仕上げを対象としている。

18.11.2 ステイン塗り

(1) ピグメントステイン塗り

(ア) ピグメントステイン(油性顔料着色剤)は18.10.2(1)(ア) で解説したように、顔料をボイル油や合成樹脂などで練り合わせて添加剤や溶剤を加えたものである。ビグメントステインは染料でなく顔料を使用しているため、オイルステインより耐候性は良好であり、屋外にも使用される。ピグメントステインは既調合製品であり、品質はJASS 18 M-306に規定されている。

(イ) 塗装は、着色むらが生じないように、はけ塗り又は吹付け塗りとする。塗付け後は、材料が乾き切らないうちに全面をふき、むらが生じないように余分な材料を軽くふき取る。

(ウ) 有機溶剤を用いるため、塗装作業時には換気に注意する。また、作業に使用した紙や布片等は自然発火する可能性があるため、水を入れた容器中に入れた後、乾かしてから処分する。

(エ) ピグメントステインの気温20℃における標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は、24時間以上である。

(2) オイルステイン塗り

(ア) オイルステイン(油性染料着色剤)は、18.5.2(1)(ウ)に示したように、油溶性染料を芳香族、脂肪族炭化水素系溶剤(ミネラルターペン等)と少量の油ワニスあるいは合成樹脂ワニスに溶解した着色剤である。品質はJISや日本建築学会材料規格等で規定されていないため、製造所の技術資料や公的試験結果等を参考に適切なものを選定して特記する必要がある。

オイルステインには海外からの輸入品も多い。また、原料として石油由来の溶剤やワニスではなく、自然素材由来の溶剤やワニスを使用することにより安全性に配慮するという製品がある。しかし、自然素材由来であってもホルムアルデヒドが放散する可能性があるため、屋内に使用するオイルステインではホルムアルデヒド放散量の確認が必要である。

(イ) 塗装は、着色むらが生じないように、はけ塗り又は吹付け渡りとする。塗付け後は、材料が乾き切らないうちに全面をふき、むらが生じないように余分な材料を軽くふき取る。

(ウ) 有機溶剤を用いるため、塗装作業時には換気に注意する。また、作業に使用した紙や布片等は自然発火する可能性があるため、水を入れた容器中に入れた後、乾かしてから処分する。

(エ) オイルステインの気温20℃における標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は、24時間以上である。

18章 塗装工事 12節 木材保護塗料塗り(WP)

18章 塗装工事

12節 木材保護塗料塗り(WP)

18.12.1 一般事項

この節は、建築物の屋外における木部の木材保護塗料塗りを対象としている。木材保護塗料塗りは、外壁、門柱、バルコニー等の屋外で使用される木質系素地に対する半透明塗装仕上げに用いられる。仕上り面は木質系素地の木目が見えるため、木材の質感を生かした着色仕上げとなる。

18.12.2 木材保護塗料塗り

(1) 材 料

木材保護塗料は、樹脂(アルキッド樹脂、亜麻仁油等)及び新色顔料のほかに、防腐、防かび、防虫効果を有する薬剤を含むことを特徴とする既調合の半透明塗料である。しかし、木材保護塗料に含まれる木材保存剤成分は、主として塗膜の耐久性を向上させるために配合されているもので、いわゆる木材保存剤と比較すると防腐、防かび、防虫効果は低いことに注意する必要がある。

木材保護塗料の品質は、「JASS 18 塗装工事」M-307に規定されている。

なお、JASS 18 M-307は、2013年の「JASS 18」改定(第7次)時より「かび抵抗性」に関する試験項目が追加されている。

「標仕」においてJASS 18 M-307への適合は、「かび抵抗性」を含む最新の規格への適合を要求している。したがって、「かび抵抗性」が確認されていない旧 JASS 18 M-307への適合のみでは不十分である。

(2) 塗 装

(ア) 「標仕」では、塗装種別をA種(3回塗り)とB種(2回塗り)としており、種別の選定は特記により、特記がなければB種としている。

(イ) 木材保護塗料塗りは、素地の状態がそのまま仕上りに影響するため、表18.2.1にしたがった適切な素地ごしらえが必要である。

(ウ) 木材保護塗料は、木材内部に十分浸み込ませることが重要である。また、木材保護塗料は原液で使用することを基本とし、希釈はしない。木材保護塗料は、塗り回数が多くなるにしたがって、木質系素地への浸透性が低下するので、A種の上塗り(2回目)では塗付け量を0.04kg/m2としている。

(エ) 木材保護塗料塗りは、屋外で使用される木質系素地に対して適用される。11節に示したピグメントステイン塗りは屋内及び屋外における木部に適用できる。屋外での耐候性を比較すると、一般に、ピグメントステイン塗りより木材保護塗料塗りの方が優れている。

(オ) 各塗装工程での標準工程間隔時間及び最終養生時間を、表18.12.1に示す。

表18.12.1 木材保護塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18章 塗装工事 13節 「標仕」以外の塗装仕様

18章 塗装工事

13節 「標仕」以外の塗装仕様

18.13.1 「標仕」以外の塗装仕様の位置付け

「標仕」に規定されている塗料以外にも新しい塗料が開発されているが、まだ塗装の標準化がされていないこと、また、使用実績も少ないことから一般的な仕様とはなっていない。

しかし、塗装に要求される性能が高まりつつある中で、特記による適用も考えられることから、本節では参考としてこれらの塗料に対する仕様の例を示す。

また、従来の「標仕」には規定されていたが、諸般の事情により平成25年版以降の改定において「標仕」では規定されていない仕様についても、特記による適用の可能性があるので、参考として示している。

18.13.2 合成樹脂エマルション模様塗料塗り(EP-T)

合成樹脂エマルション模様塗料塗りは、建築物の内壁面や天井等のコンクリート面、モルタル面、せっこうプラスター面、せっこうボード面、その他ボード面等に対するスチップル等の模様仕上げに用いられる塗装である。

(1) 材 料
(ア) 合成樹脂エマルションシーラー

 18.8.2(1)(ア)を参照する。

(イ) 合成樹脂エマルションペイント

 18.9.2(1)(イ)を参照する。

(ウ) 合成樹脂エマルション模様塗料(JIS K 5668)
JIS K 5668に規定されており、合成樹脂エマルション、顔料、充填材、添加剤等を配合した高粘度形塗料で、吹付けやローラー塗りでスチップル模様やゆず肌模様等の表面テスクチャーがあり、表面光沢がほとんどない硬化塗膜を形成する。
平成31年版「標仕」のA種では、色調の調整や色替えにJIS K 5663(合成樹脂エマルションペイント及びシーラー)の合成樹脂エマルションペイント1種を仕上げ塗りとして用いていた。

JISでは1種(屋外用)、2種(屋内用)、3種(屋内の天井用)等が規定されているが、平成31年版「標仕」では、上塗りに2種を用い、下塗りと仕上げ塗りには合成樹脂エマルションペイントの1種を用いていた。

(2) 塗 装

(ア) 色調の調整は、一部可能であるが、濃彩色になると粘性が変化して仕上り模様が異なることもあるため、適切な粘度で塗装する必要がある。

(イ) 各材料の希釈割合は、塗料の製造所の指定とする。

合成樹脂エマルション模様塗料は、希釈割合や吹付け塗装ガンの種類、ノズル口径、吹付け圧力、ローラーブラシの種類等によって、表面模様の仕上りや外観が変化するので十分注意する。また、現場においては、あらかじめ塗り見本により仕上りの状態を確認しておく。

(ウ) 材料の保管、調合(水希釈乱、かくはん等)、使用有効期限等は、各材料の製造所の仕様を遵守する

(エ) 合成樹脂エマルション模様塗料塗りは、一般的には次のような塗装方法を適用する。

(a) 下塗りは、はけ塗り、吹付け塗り又はローラーブラシ塗り

(b) 仕上げ塗りと上塗りは、ローラーブラシ塗り又は吹付け塗り

(オ) 希釈に使用する水は、水道水を標準とする。

(カ) 各工程間の工程間隔時間及び最終養生時間が不十分であると、仕上り模様が変化することがあるため注意する。

18.13.3 コンクリート系素地に対する透明塗装

 

打放しコンクリートの外観を生かした透明塗装である。コンクリートの外観が濡れ色になるのを防止するため、下塗りの段階で、濡れ色にならないタイプの浸透性吸水防止材を塗付する場合が多い。透明塗装用の塗料としては、常温乾燥形ふっ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、ポリウレタン樹脂等をビヒクルとしたクリヤ塗料が使用されている。

表18.13.1に塗装仕様の例を示す。この塗装仕様はコンクリート系素地のみではなく、石材等にも適用されている例がある。また、簡易な仕上げとして塗装種別B種のように、浸透性吸水防止材のみを塗り付ける仕様もある。

表18.13.1 コンクリート系素地面に対するクリヤ塗装の工程例

18.13.4 抗菌塗料

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染や0-157対策のため、部位によっては抗菌塗料を用いた塗装が実施されている。よく知られているように、ペニシリン等の抗生物質は多くの細菌性疾息の治療に役立つが、一方では、抗生物質に耐性を有する細菌が病院等の施設にはびこり、各種感染症の原因となることが問題となっている。このような院内感染の原因となる細菌の約1割がMRSAである。この細菌はペニシリン系の抗生物質であるメチシリンに耐性を有しており、通常、健康な人であればほとんど感染の心配はないといわれているが、抵抗力の弱い新生児、老人、入院患者等には感染する場合があり、問題となっている。

抗菌塗料は、このような背景から開発された塗料であり、簡単に説明すれば塗料中に抗菌作用のある薬剤(溶出タイプ)や銀イオン(接触タイプ)等を混人した塗料である。

抗菌塗料の性能は、抗菌性の他に、効果の持続性や安全性により評価される。表18.13.2には、溶出タイプと接触タイプの塗料の特徴を示す。溶出タイプ抗菌塗料は各種抗菌剤が利用されるため抗菌性は高いが、抗菌剤の特徴により細菌に対する効果が異なったり、耐性菌を生じる可能性も否定できない。また、安全性に関しても接触タイプより低い。

一方、接触タイプの抗菌塗料としては銀イオンを混入した製品が多い。銀イオンの抗菌メカニズムについてはまだ完全に解明されていないようであるが、細菌の基本代謝経路の酵素阻害や、細胞膜の物質移動阻害を起こすと考えられている。接触タイプ抗菌塗料は、表18.13.2に示すように適応できる菌種が広く、持統性も高いが、塗膜の汚れ等によって接触が阻害され効果が低下する。したがって、必要最小限の抗菌剤を混入している場合も多い。

さらに、抗菌塗料には、以下のような性能が要求される。

(ア) 消毒剤や塗膜の洗浄に耐える塗膜を形成すること。

(イ) 水性のエマルション塗料で臭気も少ない塗料であること。

(ウ) 乾燥が早く、塗装の工期が短期間で済むこと。

(エ) 特殊な工法や工具を利用するのでなく、一般的な塗装技能で施工可能であること。

(オ) 各種素地や旧塗膜に対して付着性が良好であること。

このような要求性能を満足するため、現状ではアクリル樹脂エマルションを中心とした合成樹脂エマルション塗料を利用した抗菌塗料が多い。

表18.13.2 抗菌塗料のタイプ別比較

18.13.5 粉体塗料

従来から、建築用塗料としては「溶剤系塗料」が一般的であり、これは塗膜形成成分である樹脂に顔料を加えて、作業性の向上を図る目的から有機溶剤で希釈されたものであり、大気中へ放出される揮発性成分が全量の1/2程度含まれている。昨今では、環境保全や健康安全への配慮から、非溶剤系塗料への変換が世界的な規模で強く求められており、建築施工の現場における塗装では、有機溶剤を含まない「水系塗料」あるいはトルエンやキシレン、ベンゼンのような有機溶剤ではなく、光化学反応性が低い溶剤を用いた「弱溶剤系塗料」の適用が推進されている。

「溶剤系塗料」に対して、塗料中に有機溶剤や水等の溶媒を全く用いず、塗膜形成成分を粉末化して、塗装工場で静電塗装によって吹付けた後に加熱して、塗膜を形成させるのが「粉体塗料」である。従来の建築分野では、住宅用の門扉やフェンス等ごく限れられた工場製の既製部材 部品についてのみに適用されていたが、VOCを100%削減して、塗装対象の素地に付着しなかった塗料の回収及び再使用が可能で廃棄物も低減できるため、環境保全の観点からは工場塗装において大きな注目を集めている。

既に、民間建築工事の一部ではあるが、アルミニウム合金製サッシ、カーテンウォール及び鋼製建具等に対する工場塗装において「粉体塗料」が適用されている。従来の「溶剤系塗料」に対する塗装仕様とは異なり、下塗りは不要であり、塗膜の付着性確保や素地に対する防食性の観点から、適切な素地ごしらえ(陽極酸化皮膜処理や化成皮膜処理)との組合せが重要となる。現在の建築分野で適用されている「粉体塗料」は海外製品のポリエステル系が主流であるが、硬化形式による塗膜性能の差が顕著であり、製品による性能のばらつきも見られる。特に、日本国内では建築外装に対して、耐候性に優れるふっ素樹脂を含む複合樹脂粉体塗料が採用されている。

2018年10月には、日本建築仕上学会編「建築用アルミニウム合金材料 粉体塗装仕様標準指針・同解説」が発行され、塗装仕様の標準化と使用材料の品質規格及び使用上の留意事項が示されている。採用に当たっては、参考にすることが望ましい。

18.13.6 高日射反射率塗料

高日射反射率塗料は、JIS K 5675(屋根用高日射反射率塗料)に規定されており、太陽光のうち、熱に関与するといわれている近赤外領域を塗膜表面で反射させるという高機能性塗料で、近年開発された技術である。都市部のヒートアイランド現象の緩和や省エネルギー対策を目的として実用化され、特に改修工事における採用が増加している。原理としては、日射熱、特に熱に関与する近赤外線を選択的に反射する、濃色(特に黒や茶色系)の特殊顔料を使用することにより効果を出している。また、平成22年2月5日の閣議決定に基づき、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」の特定調達品目に指定されたことから、大きな注目を集めている。環境省の「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」(令和4年2月25日変更閣議決定)では、高日射反射率塗料とは、日射反射率の高い顔料を含有する塗料であり、建物の屋上・屋根等において、金属面等に塗装を施す工事に使用されるものとしている。その判断の基準としては、次の(ア) 及び(イ) が規定されている。

(ア) 近赤外波長域日射反射率が表18.13.3に示す数値以上であること。

(イ) 近赤外波長域の日射反射率保持率の平均が80%以上であること。

表18.13.3 近赤外波長城日射反射率

なお、近赤外波長域日射反射率、明度L*値、日射反射率保持率の測定及び算出方法は、JIS K 5675によるとしている。

JIS K 5675に適合する資材は、本基準を満たすものとしている。

参考文献