15章 左官工事 6節 マスチック塗材塗り

15章 左官工事

6節 マスチック塗材塗り

15.6.1 適用範囲

この節は、建築物の内外壁等のコンクリート,押出成形セメント板、モルタル及び ALCバネルの素地面に,マスチック塗材を多孔買のハンドローラーを用いて塗る工事を対采としている。

15.6.2 マスチック塗材塗り

(a) マスチック塗材を、材料組成や塗り工程により、5節の仕上塗材に対応させると、表15.6.1のようになる。

(b) マスチック塗材は1回塗りで厚膜の連続した特有の模様を形成する仕上げが得られ、その模様は施工方法によって、種々に変化させることができる。

(c) マスチック塗材の種類は、合成樹脂エマルションを結合材としたA 及びポルトランドセメントを結合材としたCの2種類がある。マスチックCの場合は塗材面に光沢がある仕上げとするための仕上材塗りの工程に、「標仕」では、つや有合成樹脂エマルションペイントが用いられているが、ほかにアクリル樹脂エナメルが用いられる場合もある。

(d) 塗り工程は下地調整をした面に下地押えと塗材塗りであり、マスチックC塗りの場合のみに仕上材塗りの工程がある。

マスチック塗材塗りの施工には多孔質のハンドローラーを用い、仕上材塗りは中毛のハンドローラー、はけ等を用いる。

(e) マスチック塗材塗りはローラーを用いて1回塗りで厚付けをするため、施工実績と技能等により仕上りが左右される。品質確保の一例として、全国マスチック事業協同組合連合会が検定試験を実施しているので、参考にするとよい。

(f) 施工についての責任を明確にし、精度の高い入念な施工をする目的で、設計図書で指定された場合は、例えば、図15.6.1に示す施工票を施工面に取り付けるなどの処置を行う。

表15.6.1 マスチック液材と仕上塗材との対応表


図15.6.1 施工票

15章 左官工事 7節 せっこうプラスター塗り

15章 左官工事

7節 せっこうプラスター塗り

15.7.1 適用範囲

(a) せっこうプラスターはヨーロッパにおいて古くから塗り壁材料として利用されてきた。わが国では、しつくい、土塗り、ドロマイトプラスター等が普及していたことから、本格的にせっこうプラスターが普及し始めたのは比較的新しく、昭和20年代の後半といわれている。現在、せっこうプラスターと呼ばれるものには、現場調合プラスター、既調合プラスターの2種類がある。

「標仕」では、材料及び用途からみて、次の2種類のせっこうプラスターによる塗り工事を対象としている。

(i) 現場調合によるせっこうプラスター塗り工事

JIS A 6904(せっこうプラスター)に規定される現場調合プラスターに、骨材と必要があればすさ類等を現場で調合し、水で練って一般的なプラスター塗りとするもの。

(ii) 既調合プラスターによる塗り工事

現場調合プラスター、骨材、すさ類、その他の混和材料をあらかじめ工場で調合し、現場では水のみを加えて練ることにより、直ちに塗り材料としてのせっこうプラスターが得られるようにしたもの。

従来は、現場調合によるせっこうプラスター塗り工事が一般的であったが、調合の均ー化、現場練りの省力化、品質安定性等から既調合プラスターの使用が増えている。例えば、現場では取り扱いにくい骨材をあらかじめ混入した骨材入りプラスターをはじめとして、平滑なコンクリート下地面、あるいは吸水性の大きいALCパネル下地等の薄塗り仕上げのような特定の施工対象・工法に対応するものなど多種のものが製造販売されている。また、接着性や保水性を向上させるために、骨材のほかに合成樹脂系混和剤を混入するものもある。

(b) 作業の流れを図15.7.1に示す。


図15.7.1 せっこうプラスター塗り工事(コンクリート類の下地の場合)の作業の流れ

(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(施工箇所別の着工及び完了の時期)
② 施工業者名及び作業の管理組織
③ 使用材料及び保管方法
④ 練混ぜ場所及び練混ぜ方法
⑤ 調合
⑥ 下地処置の工法(屋内、下地材の吸水の著しい箇所等の別に)
⑦ 工法(施工箇所別)及びその管理方法等
⑧ 各工程の工程間隔時間(養生期間)及びその確認方法
⑨ ひび割れ防止の方法
⑩ 浮きの確認方法及び補修方法
⑪ 養生方法(夏期の直射日光、通風、寒冷、施工後)

⑫ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等

(d) 一般事項

(1) せっこうプラスターの性質
(i) せっこうプラスターの硬化性
① せっこうプラスターは、自硬性セメントであり、主成分は焼せっこうである。焼せっこうは、半水せっこう(CaSO4・ 1/2H2O)を主成分としたもので水と練り混ぜると、水和反応を起こし、結晶水を得て2水せっこう(CaSO4・2H2O)になる。次に、結晶水以外の余剰水が発散して硬化が完了する。

結晶水として、混練水の20%(質量百分率)程度が必要であるとされている。

② JISによる凝結時間は始発が1時間以上であり、終結が8時間以内(上塗り用)である。「標仕」では、加水後の使用時間の限度として、下塗り及び中塗りでは加水後2時間以上、上塗りでは1.5時間以上経過したものを使用してはならないとしている。

③ プラスター中の半水せっこうが風化すると異常に速い凝結や凝結の際の異常膨張を起こす場合が多い。

④ 硬化したせっこうでも、少量ながら水に溶解する性質があり、長期間水に触れていると著しく強度が低下する。

(ii) せっこうプラスターは、硬化が早く比較的強度もあり、針状結晶によって硬化するため収縮ひび割れが生じにくい。

(2) せっこうプラスターは.次の場所での使用を避ける。

(i) 浴室.厨房等常時、水や水蒸気に触れるおそれのある場所

(ii) 地下室、倉庫等の多湿で、通気不良の場所

(3) せっこうラスボード下地に直接アルカリ性のプラスターを塗ると、ボードの表て紙がアルカリに侵されてはく離するので、アルカリ性以外のプラスターを用いなければならない。

15.7.2 材 料

(a) せっこうプラスターの種類

(1) JIS A 6904(せっこうプラスター)は、その種類及び用途が表15.7.1のように分類されている。

表15.7.1 せっこうプラスターの種類

(2) せっこうプラスターには、(1)に示す種類があるが、その性質は、次のように異なるので、誤りのないようにしなければならない。

(i) 下塗り用既調合プラスターは、せっこうプラスターにあらかじめパーライト、バーミキュライト、川砂、けい砂、寒水石等の骨材、すさ類、合成樹脂系混和剤等を配合し,作業性を良くしたものである。使用に当たっては試験又は信頼できる資料により品質の確認ができるものとする。

モルタル、コンクリート、せっこうボード下地等の表面に塗ることを目的としているが、下地の乾燥によっては接着性があまり期待できないので「標仕」 15.2.5(a)(1)(iii)で規定しているように、下地面をくし引きし、これにくい込ませて塗るとよい。

(ii) 従来の混合プラスターの名称はなくなったが、現場で水だけを加えて薄く塗る上塗り用プラスターは、既調合プラスター(上塗り用)として存続している。

(iii) 現場調合プラスターは、焼せっこうを主原料とし、硬化遅延材を添加し、硬化時間を調整したものである。ほぼ中性で、ボード面に塗ると、硬化の際、針状結晶が生じこれがボードに食い込むのでよく接着する。

しかし、わずかなアルカリが混入しても硬化時間が著しく遅れ、針状結晶の生成が害され、硬化不良を起こしボード面への接着も非常に悪くなり、はく離の原因となる。

一般に、中性の材料に塗るのに適している。

(b) せっこうプラスターの製造年月日は、略号で表示されているので、その略号を材料搬人報告書に記入させる。また、略号の意味を施工計画書に記載させておき、搬入した材料が4箇月を経過しているものは使用しない。

(c) せっこうプラスターに種類の違うプラスター、セメント等を混合したり、新しい材料に練残しのせっこうプラスターを混合したりすると、硬化時間や強度に影響するので絶対に避けなければならない。

(d) 砂は表15.2.1によるのがよい。砂の不純物によっては、せっこうプラスターの硬化時間の変化、硬化不良、ふくれの現象〈ふけ〉を起こすことがある。

また、細かい砂は配合過多になりやすく、配合過多になると15.7.3(b)のような理由で、ひび割れ、はく離の原因となる。

(e) 水は、清浄なものとする。モルタル塗りを行ったこてやこて板を洗った水を使用することは、アルカリが混入するので絶対に避けなければならない。

15.7.3 調合及び塗厚

(a) せっこうプラスターの標準調合表及び塗厚を表15.7.2に示す。

なお、「標仕」表15.2.3の塗厚の標準値は、これを参考として一般な場合について示したものであり、「標仕」の標準値によりがたい場合は、必要に応じて「標仕」1.1.8による協議により、工種別施工計画書で検討すればよい。

表15.7.2 せっこうプラスター塗りの調合(容積比)及び塗厚(JASS 15(一部修正)より)

(b) せっこうプラスターの調合で砂を入れ過ぎると、次の現象が生じる。特に容積比で 1:2 を超えると影響がでる。

(1) 硬化時間が早くなる。
(2) 強度が低下する。

(3) 気泡が入りやすくなり、下地との接着面積が減少し、接着力が低下する。

(c) 塗装、吹付け、布張り等の下地となる上塗りに、寒水石粉を混入したものを用いるのは、表面硬度を増すためと、こて切れをよくして作業性を向上させるためである。

(d) 「標仕」に定められた塗厚を図示すると、図15.7.2のようになる。


図15.7.2 せっこうプラスター塗りの工法

15. 7.4 下地処理

(a) せっこうプラスター塗り工法の下地には、コンクリート下地、コンクリートブロック下地、れんが下地、防錆処理をしたラス下地、せっこうラスボード下地、せっこうボード下地、ALCパネル下地等がある。

(b) コンクリート下地、コンクリートブロック下地、れんが下地、ALCパネル下地及びセメントモルタル下地にせっこうプラスターを塗る場合、仕上塗材製造所から指定された吸水調整材を全面塗布し乾燥させる。上塗り材として内装薄塗材 E,C,L,W 又は内装厚塗材 E,C,Lを施工する場合は、下塗り又は中塗りが乾燥したのちに仕上塗材製造所から指定された吸水調整材を塗布し、乾燥させてから行う。

(c) コンクリート下地、コンクリートブロック下地、れんが下地、ラス下地には一般に直接せっこうプラスターを塗ることはまれで、主にセメントモルタルで下ごすり、下壁り、むら直しまで行い、くし目を入れ、2週間以上放置し、完全に乾燥させてせっこうプラスターの下塗りを施工する。

(d) せっこうラスボード下地及びせっこうボード下地の場合、直接下壁り及び中塗りをして上塗りをする。上塗りとして内装薄塗材 E,C, L,W又は内装厚塗材 E,C,Lを施工する場合は、下塗り又は中塗りが乾燥したのちに仕上塗材製造所から指定された吸水調整材を塗布し、乾燥させてから行う。

ALCパネル下地には、下地に対応するせっこうプラスターを塗る。下地の吸水止めをして保水性の向上した材料を用いるとよい。

(e) 「標仕」では、下地の処理方法として、水洗い及びポリマーセメントペースト〈のろ〉塗りが定められているが、せっこうプラスターの上に、仕上塗材の内装薄塗材 E,C,L,W,内装厚塗材E. C. Lを施工する場合は、仕上塗材製造所から指定された吸水調整材を塗布し、乾燥させてから行う。

15.7.5工法

(a) 下地モルタル塗りを行うのは、金ぐしによる荒らし目により、せっこうプラスター付着の足掛りをつくるためと、型枠緊張材の頭等鉄部の錆止めのためである。

(b) メタルラスは、たるみ・しわのないように張り付け、ラスが変形しない程度のこて圧で塗り付ける。

(c) 開口部周辺やボードの継手その他ひび割れのおそれのある箇所には、しゅろ毛・パーム・繊維類・防錆処理したメタルラス等を下塗りの中へ塗り込むか、又は下塗り面に散らして伏せ込む。下塗りの水引き具合を見て、くし目を付ける。

(d) 下地モルタル塗りが乾燥不十分のうちにせっこうプラスターを塗ると、硬化の遅いモルタルがまだ収縮途中の不安定な状態であるため、せっこうプラスターの硬化後、更に収縮を続け、接着面にずれを起こしはく離を生じやすい。また、モルタルのアルカリ分がせっこうプラスターに影響して硬化不良を起こしやすい。

(e) 下地の乾燥、あるいは直射日光や強風により、塗り付けたせっこうプラスターが急激に乾燥すると、硬化不良を起こすので注意する。

(f) 下地の処理方法は、仕上塗材製造所から指定された吸水調整材を壁面全面に塗布し、吸水調整材が乾燥したのちに次の塗付け作業を行う。

(g) 一度練り混ぜたものは急速に水和反応が進むので、セメントのように練直しをして使用することはできない。

(h) 中塗りは、下塗りの硬化状態を点検して施工する。下塗りが硬化不十分の場合は、硬化するのを待って中塗りを行う。

(i) 仕上げ塗りは、中塗りの硬化状態を見計らい、通常は翌日に吸水調整材を製造所の仕様により全面に塗布し,吸水調整材乾燥後下付けと上付けの2工程として、塗り重ねるのがよい。

(j) 注意事項

(1) 「標仕」15.7.5(a)に定められている通気の調整は、せっこうプラスターの性質上どうしても必要なことであり、これを完全に行わないとはく離を生じやすい。また、硬化後に余分な水分を述やかに乾燥させないと硬化が遅れ.黄変や白華現象を起こしやすい。

(2) 上塗り完了後、通風等により通気の調整を始めるのは、24時間程度経過してからがよい。

(3) 施工時の気温が2℃以下になると、凍害を起こすので作業を行ってはならない。なお、気温が低下するおそれのある場合は、養生を行い、5℃以上に保つようにする(15.1.4参照)。

(4) 現在薄塗りタイプの下塗り材が市販されており、「標仕」では規定されていないが、せっこうボード下地、コンクリート下地、れんが下地及びセメントモルタル下地にせっこうプラスター 3〜5mm下塗りしてから上塗りする工法が行われている。

15章 左官工事 8節 ロックウール吹付け

15章 左官工事

8節 ロックウール吹付け

15.8.1 適用範囲

この節は.JIS A 9504(人造鉱物繊維保温材)に規定される材料を用いて、吸音・耐火・断熱を目的とした半乾式工法及び乾式工法によるロックウール吹付け工事を対象としている。

なお、耐火被覆は7章節による。

(1) ロックウール吹付け工法には、現場配合のセメントスラリーによる半乾式工法と工場配合による乾式工法がある。現場配合による半乾式工法は、吹付け時にノ ズル先でロックウールとセメントスラリーを混ぜ合わせて吹き付ける工法である。工場配合による乾式工法は、ロックウールとセメントをあらかじめ工場で配合混合し、吹付け時にノズル先で水と合わせて吹きつける工法である。

(2) 工場配合による乾式工法は粉塵等により衛生環境が悪くなるので、粉塵の少ない現場配合による半乾式工法が多く使われるようになってきている。

15.8.2 材料

(a) ロックウールは、JIS A 9504に適合するもので、特記がなければホルムアルデヒド放散による区分がF☆☆☆☆等級であり、かつ、国土交通大臣から不燃材料としての認定を受けたものを使用する。

なお、ロックウール保温材は、認定番号NM-8600として認定されている。また、JIS A 9504に規定された品質基準を表15.8.1に示す。

表15.8.1 ロックウール保温材の品質基準(JIS A 9504 : 2011)

(b) セメントは、ポルトランドセメント、高炉セメント又は白色セメントを使用する。

(c) 接着剤は、合成樹脂系のもので、ホルムアルデヒド放散量は、特記がなければ F☆☆☆☆のものを使用する。一般的には、アクリル樹脂系エマルション形や酢酸ビニル・アクリル共重合樹脂エマルション形のものなどが使用されている。

15.8.3 配合及び密度等

(a) 「標仕」では、防火材料として使用することを想定して、吹付けロックウールの配合及び密度を、「標仕」表15.8.1のように定めている。

なお、この配合は、吹付けロックウール(認定番号NM-8601)として認定された構造方法又は建築材料に適合している。

(b) 材料は、「標仕」で規定された品質が得られるように、所定の品質となるようにロックウールとセメントスラリーを現場で結合させる現場調合のもの(15.8.4 (b)(1)に対応)と、セメントとロックウールをあらかじめ工場で配合したもの(5.8.4 (b) (2)に対応)とがある。「標仕」表15.8.1の配合は、工場配合及び現場配合の両方に適用される。

(c) 「標仕」では、仕上げ吹付け厚さは、特記によることとしている。

15.8.4 施工

(a) 下地調整

下地調整は、下地の種類により必要に応じて行いコンクリート、プレキャストコンクリート部材、セメントモルタル及びコンクリートブロックの場合は、水湿しでドライアウト防止の調整を行い、ALCパネルの場合は、合成樹脂エマルションシーラーで吸込み防止の調整を行う。また、プレキャストコンクリート部材で、型枠はく離剤が塗られている場合は、接着力を高めるため合成樹脂エマルションシーラーで下地調整を行う。

(b) 吹付けは、次による。

(1) 現場配合のセメントスラリーによる半乾式工法の場合

(i) 専用吹付け機を使用し、作業開始に先立って予備運転を行い、吹付け機が安全、かつ、正常に作動するかを確認する。

(ii) 水100kgに対しセメント50kg (2袋)を標準とし、かくはん機でセメントスラリーを調合する。

(iii) ロックウールとセメントスラリーの吐出量を点検し「標仕」表15.8.1の範囲となるよう吐出量を調整する。

(iv) 吹付けは、吹付け機より輸送ホースを経て吹付けノズルより吐き出されるロックウールをノズルから噴霧されるセメントスラリーで混合させながら均一に吹き付ける。

(2) 工場配合の乾式工法の場合

(i) 専用吹付け機を使用し、作業開始に先立って予備運転を行い、吹付け機が安全、かつ、正常に作動するか、また、吹付けノズルにより水が正常に噴霧されるかを確認する。

(ii) 材料の吐出量及び噴霧水量を点検し、材料の吐出量に対し必要、かつ、十分な水量を保持できるように調整する。

(iii) 吹付けは、下塗りが乾かないうちに行い、吹付け機より輸送ホースを経て吹付けノズルより吐き出される材料をノズル周囲より噴霧される水で十分湿潤させながら均ーに吹き付ける。

(c) 表面仕上げ

(1) こて均し

吹付け終了後、均ーな所定厚さを確保するため、木製の平こてにて、こて均しして仕上げる。

(2) 表面硬化

こて均し終了後、吹付け材表面を硬化させる必要がある場合、セメントスラリー0.1〜0.2kg/m2程度の吹付けを行う。

15.8.5 施工後の確認

(a) 防火材料は吹付け完了後、厚さ及び密度の検査を行う。

なお、検査は施工者の管理担当者が行う。

(b) 吹付け厚さの確認は、7.9.8による。

(c) 密度の確認は、建物1層あるいは、1,000m2に付き5箇所とする。測定器及び計算方法は7.9.8による。

参考文献

16章 建具工事 4節 鋼製建具

16章 建具工事

4節 鋼製建具

16.4.1 適用範囲

「標仕」では、主として事務庁舎の出入口に使用する標準的な建具(幅950mm × 高さ2,400mm程度以内)で、戸は片面又は両面を平らな鋼板張りとしたフラッシュ戸又はかまち戸によるドアセット及び標準型鋼製建具を対象としている。したがって、標準と著しく相違する建具については金物を含めて、適切な補強等の処置が必要である。

建具の幅950mm程度と想定しているのは、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(以下「バリアフリー新法」という。)の誘導基準(有効幅で 900mm以上)を採用しているためである。また、高さ2,400mm程度と想定しているのは、最近の建物では解放的な空間づくりから、建具を2.400mm程度まで高くすることが多くなっているためである。

16.4.2 性能及び構造

(a) 外部に面する建具の耐風圧性は16.1.7(a)(1)及び16.2.2を参照する。

(b) 気密性、水密性が定められている簡易気密型ドアセットとは、気密材が装着してあり、「標仕」表16.4.1 による性能を満足するものをいう。

(c) がらり付きドアセットは、換気を主目的としたもので、一般に気密性、水密性との両立は構造上不可能である。

(d) 遮音性は、気密材を装着した枠にグラスウール等を充填した戸の場合、T-1(旧25等級)~T-2(旧30等級)等級程度である。

なお、T-2等級を超える遮音性を必要とする場合は、簡易気密型ドアセットでは対応できないので、グレモンハンドル等を使用したエアタイトドアセット(PAT)又は、最近、よく使われているマグネット気密ゴムを使ったドアセットを使用するとよい。

(e) 耐震性は、JIS A 1521(片開きドアセットの面内変形追随性試験方法)の規定があり、JIS A 4702 (ドアセット)に耐震ドアセットとしてD-1(1/300rad)、D-2 (1/150rad)、 D-3(1//120rad)の等級がある。また、耐震設計基準として国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「官庁施設の総合耐震計画基準及び同解説」に、耐震性を配慮したドアセットについて記載されているので参照するとよい。

(f) 鋼製建具には.「標仕」で要求する品質を満たすものとして (-社)公共建築協会の「建築材科・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)で評価した製品があるので参考にするとよい。

16.4.3 材 料

(a) 鋼板類

(1) 鋼板は、特記がなければ JIS G 3302(溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯)により、めっきの付着量は標準でZ12又はF12とされていた。

最近、臨海地区の副都心化が急速に進んだことにより、内陸部の事務庁舎等を想定して「標仕」で規定していた溶融亜鉛めっき鋼板(JIS G 3302)では、耐食性が劣るために、錆が発生して問題になることが多くなっている。

平成25年版「標仕」では、これまでの溶融亜鉛めっき鋼板に比べて耐食性に優れた溶融亜鉛ー5%アルミニウム合金めっき鋼板及び鋼帯(JIS G 3317)が規定された。めっき付着量は標準でY08とされ、溶融亜鉛めっき鋼板より少ないが、約2倍の耐食性がある。また、市販されているものは、環境に配慮したクロムフリー化成処理が施されている。このほか、「標仕」では規定されていないが、耐食性に優れた溶融亜鉛ーアルミニウムーマグネシウム合金めっき鋼板及び鋼帯(JIS G 3323)のJISが新たに制定されている。

なお、JIS G 3321(溶融55%アルミニウムー亜鉛合金めっき鋼板及び鋼帯)については、耐候性は良いが、曲げ加工や溶接性等が悪く、鋼製建具には不向きなため規定されていない。

(2) 出入口のくつずりはステンレス製(16.6.3参照)とし、くつずりにレールを取り付ける場合は、16.2.4(f)を参照する。

(3) 形鋼の類は、アングルドアを想定しているので、主として形鋼、平鋼及び厚い鋼板が含まれる。

(b) その他

(1) 上吊り引戸の下枠(ガイドレール等)は、頻繁に擦れ合うことにより傷みやすいため「標仕」16.4.3 (c)ではステンレスとしている。

(2) 気密材には種々なものがあり、クロロプレンゴム発泡体(表皮付き)もよく使用されるが、皮膜が弱く破れやすいものもあるので注意する。また、はがれやすいので取付け方法にも注意する。

(3) 戸に使用する構造用接合テープは、表16.4.1に示すJIS Z 1541(超強力両面粘着テープ)に適合したものを使用する。

なお、焼付け塗装の場合は断熱仕様の1号、常温塗装の場合は2号を使用する。

表16.4.1 超強力両面粘着テープの規格(JIS Z 1541 : 2009)

16.4.4 形状及び仕上げ

(a) 出入口の枠類で、戸1枚の有効開口幅が950mm、かつ、高さが2,400mm以下のものは、内部側・外部側ともに板厚1.6mmが必要である。また、同様にくつずりの板厚は1.5mm、戸の中骨の板厚は1.6mmが必要である。

なお、「標仕」では、一般的な建物を想定しているため、有効開口幅950mm、かつ、有効高さを2,400mm以下で板厚を規定している。これを超えるような建具は、本来設計図書に特記されることが前提であるが、特記がない場合には、建具製作所の仕様によることとなる。

(b) 製品の寸法許容差は、工場組立完了後の寸法に対するものとする。

(c) 外部に面する建具のガラス溝の寸法及び形状は「標仕」表16.14.1によるものとするが、一方、押縁等でガラスをやり返ししてはめ込まなければならない場合は、施工性を考慮して溝の深さを決める。ただし、防火戸の個別認定を受けた建具の場合は,この寸法も規定されているので注意する。

(d) 塗 装

(1) 下地量整

(i) 形鋼の場合は「標仕」表18.2.2により素地ごしらえを行う。

(ii) 亜鉛めっき鋼板の場合は、鋼板製造所で、「標仕」表18.2.3工程3のりん酸塩処理後水洗い乾燥又はクロム酸処理後乾燥の二つの処理のみが行われていた。

しかし、最近では、鋼板製造所でも環境に配慮して、有害化学物質の六価クロムを含有しないクロメートフリー処理が製品化されつつあるが、平成25年版「標仕」では、表18.2.3工程3にクロム酸処理とクロメートフリー処理が併記されている。地球環境を守る見地から六価クロムの排除が世界規模で進められており、クロム酸処理は廃止していく時期にきている。したがって、平成 28年版「標仕」では、更に一歩進んでクロメートフリー処理への一本化が必要とされている。

(iii) 「標仕」表18.2.2及び表18.2.3の工程2油類除去では、B種、C種に溶剤ぶきを規定しているが、溶剤から発生する化学物質がもたらす健康や環境への悪影響や近くで溶接作業を行う場合の爆発事故の報告もあり、最近ではシンナー等の溶剤に代わる代替洗浄剤としてアルカリ系脱脂洗浄剤が開発され利用されている。

(2)錆止め塗料塗り

形鋼の場合は「標仕」表18.3.1の鉄鋼面錆止め塗料A種を塗る。ただし、つや有合成樹脂エマルションペイント塗りの場合は、B種を塗る。

16.4.5 工 法

(a) 枠等の組み方

(1) 枠等の組み方の例を図16.4.1から図16.4.4に示す。

上部の組み方は、図16.4.1の留め(イ) 又は胴付き(ロ) による溶接のほか、溶接研磨による損傷が少なく、塗装後の仕上りの美しい面落ち(ハ)でもよい。

(ロ) の組み方で吊り金具にピボットヒンジを使用する場合は、縦枠の上に上枠が伸びるいわゆる上枠伸ばし(ニ)となる。

(2) 「標仕」表16.4.3には、屋内での枠の加工及び組立が必要な場合は、溶接に代えて小ねじ留め(裏板厚さ2.3mm以上)によることができるとしている。この理由は、工場で加工し、現楊で組立しなければならない建具を想定しており、工場で加工及び組立できる建具は、溶接とするのがよい。

(3) 「標仕」表16.4.3の金物取合い補強板とは、ねじで固定する部分の強度を担保するために設ける補強材を指し、錠本体ケースカバー等は製作所の仕様による。

(4) 亜鉛めっき鋼板の場合は、特記がなければ、「標仕」表18.3.2のA種、JIS K 5629(鉛酸カルシウムさび止めペイント)を塗る。

なお、溶接部や損傷部等は、塗装に先立ち、錆止め塗料と同一の塗料で補修する。


図16.4.1 枠類の組み方

 


図16.4.2 くつずりの組み方

 


図16.4.3 方立の組み方

 


図16.4.4 無目の組み方

(b) 戸の組み方
フラッシュ戸では、中骨は間隔 300mm以下に配置する。外部に面する戸は、下部を除き三方の見込み部を表面板で包む(三方曲げ)。内部に面する戸は、上下部を除き二方の見込み部を表面板で包む(二方曲げ)。表面板と中骨の固定は、溶接又は構造用接合テープにより確実に接合する。

溶接痕は、表面を平滑に研磨仕上げし、塗装に先立ち、錆止め塗料と同一の塗料で補修する。

(c) 鋼板の曲げ寸法の限度は、表16.4.2のとおりである。

表16.4.2 端部曲げ寸法の限度

(d) 取付けは、16.2.5(b)に準ずる。

16.4.6 標準型鋼製建具

(a) 標準型鋼製建具と標準型鋼製軽量建具とは、公共工事のコスト縮減を図るために、官庁施設設計研究会(平成12年)が設定したものである。

寸法や金物の標準化により、打合せによる決定まで間接コストと建具の作図、加工等の直接コストを軽減し、更にバリアフリ一新法を考慮して幅が6種類、高さが 2,000mmと2,100mmの2種類が設定されている。戸の形状・寸法は表16.4.3のとおりであり、通常の事務庁舎等の大部分に適用が可能である。

(b) 錠、ドアクローザーは、主要製作所で「公共工事標準型」として、一般品と区別して取り扱っている。

表16.4.3 標準型鋼製建具と標準型鋼製軽量建具一覧表

16章 建具工事 5節 鋼製軽量建具

16章 建具工事

5節 鋼製軽量建具

16.5.1 適用範囲

「標仕」では、屋内の出入口に使用する標準的な建具(幅 950mm × 高さ2,400mm程度)を対象としている。なお、戸見込み寸法は 35mm以上である。

建具の幅 950mm程度及び高さ2,400mm程度と想定しているのは、16.4.1と同様である。

16.5.2 性能及び構造

(a) 「標仕」16.5.2 (b)で水密性が規定されていないのは、取付け場所を屋内に限定しているため、雨水等の影響を受けないからである。

(b) 遮音性は、気密材が装着されている枠を使用する場合で、透過損失15〜20dB(500Hz)程度である。

(c) 鋼製軽量建具には、「標仕」で要求する品質を満たすものとして、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4(e)参照)で評価した製品があるので参考にするとよい。

16.5.3 材 料

(a) 鋼板類

(1) 鋼板は、亜鉛めっき鋼板でめっき付着量は、「標仕」16.5.3(a)(1)を満足すればよい。

(2) 出入口のくつずりはステンレス製(16.6.3参照)とし、くつずりにレールを取り付ける場合は、16.2.4 (f)を参照する。

(3) ビニル被覆鋼板及びカラー鋼板は、表面仕上げした材料であり、現場での塗装を必要とせず工期の短縮に寄与する。平成25年版「標仕」では、ビニル被覆鋼板及びカラー鋼板の下地鋼板のめっき付着量について、(1)の亜鉛めっき鋼板と整合させ、F04をF06に、E16をE24とされた。

(4) カラー鋼板は、PCM(プレコートメタル)とも呼ばれ、鋼板製作所で仕上げ塗装された材料である。品質が安定しており、ビニル被覆鋼板同様に工期の短縮と塗替え等のメンテナンスが不要であるなどの利点があるが、ロール発注のため、色調は建具製作所の標準色となる。

現在、内装材に適した電気亜鉛めっき鋼板を下地としたカラー鋼板のJISは制定されていない。そのため、「標仕」では下地の電気亜鉛めっき鋼板のめっき付着量を規定している。

また、平成25年版「標仕」では、耐食性に優れた JIS G 3317(溶融亜鉛ー5%アルミニウム合金めっき鋼板及び鋼帯)及びJIS G 3321(溶融55%アルミニウムー亜鉛合金めっき鋼板及び鋼帯)は、鋼製軽量建具が屋内の使用に限定されているため、高い耐食性は必要ないことから削除された。

(b) その他

水酸化アルミ無機シートコアとは、紙状無機質材料で作られたコアを水酸化アルミニウム溶解液に浸したのち、乾燥させ燃えにくくした製品である。

16.5.4 形状及び仕上げ

(a) 表面板の厚さは、標準では 0.6mmに統一されている。また、召合せ、縦小口包み板等も 0.6mm以上であるため、表面板との意匠合わせが可能である。

(b) 出入口の枠類で、丁番、ピボットヒンジ及びドアクローザー等が取り付く部分には、2.3mmの補強板が必要である。

(c) 接着剤を使用する表面板の裏面は、接着性が悪くなるので、錆止め塗料塗りは行わない。

(d) 内装建具であるため、ガラス溝の寸法及び形状は建具製作所の仕様でよい。

(e) くつずりの板厚は、鋼製建具と同様に1.5mmである。

16.5.5 工 法

{a) 枠等の組み方は、16.4.5 (a)による。

(b) 内装建具であるため、戸の組み方は、建具製作所の仕様でよい。

また、戸の順位調整器のローラー等が接する部分及び錠のハンドル部等へこみ防止の補強板は、厚さ1.6mm以上の鋼板を使用する。

(c) 取付けは.16.2.5(b)に準ずる。

16.5.6 標準型鋼製軽量建具

16.4.6 標準型鋼製建具により、以下の表16.4.3による。

表16.4.3 標準型鋼製建具と標準型鋼製軽量建具一覧表

16章 建具工事 6節 ステンレス製建具

16章 建具工事

6節 ステンレス製建具

16.6.1 適用範囲

この節では、事務庁舎等の主な出入口等に使用する建具を対象としている。

16.6.2 性能及び構造

性能については、16章 1節及び 16.4.2を参照する。

なお、ステンレス製建具には、「標仕」で要求する品質を満たすものとして、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)で評価した製品があるので参考にするとよい。

16.6.3 材 料

「標仕」では、ステンレス鋼板はニッケルを含むオーステナイト系のSUS304を標準としていたが、これは、SUS304が加工性、耐食性及び経済性の均衡の取れた材料であったからである。しかし、最近では、世界的にニッケルを始め希少金属(レアメタル)が激減し入手に支障も出てきたため、平成22年版「標仕」に、JIS G 4305(冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯)に規定されているフェライト系(ニッケルを含まない。)のSUS430J1L及びSUS430の2種類が標準として追加された。

更に、平成22年5月には、SUS304と同等の耐食性を有するフェライト系のSUS443J1がJIS G 4035に追加されたことにより、平成25年版「標仕」にSUS443J1が規定された。

SUS430J1L及びSUS443J1は、SUS304に近い耐食性を有するため、外部や水回りに使用し、SUS430は高い耐食性を必要としない屋内の建具等に使用するというように使い分けをするとよい。

なお、更に耐食性を要求される塩害地向けには、SUS316が使われる場合がある。

16.6.4 形状及び仕上げ

(a) 裏板の板原は1.6mm以上、補強板の類の板厚は2.3mm以上である。

ステンレスに接触する鋼材は、ステンレスの腐食の原因となることがあるので、裏板、補強板等の重要な補強材は、錆止め塗装を行う必要がある。

なお、両面フラッシュ戸の中骨、力骨の類は、「標仕」18.3.3(f)(4)より塗装されない。また、超強力両面粘着テープが張り付けられる部分も、接着強度が低下するため塗装されない。

(b) 表面仕上げをHL以外とする場合は、表14.2.1[ステンレス板の表面仕上げ]を参照されたい。

(c) ガラス溝の寸法及び形状は.16.4.4(c)による。

16.6.5 工 法

(a) 普通曲げとは、特に処置しない普通の曲げ方である。角出し曲げとは、図16.6.1に示す方法で曲げるので、角が鋭くなり意匠的にはよいが、強度を著しく弱めるので、裏板を用いて補強するため高価である。その他、一部にはロール成形により曲げる方法も行われている。

なお、角出し曲げ加工ができる板厚は、1.5mm以上であり、一般に表16.6.1による3種類の加工方法が行われている。

ただし、a角については割れが生じやすいので注意を要する。一般的にはb角・c角を用いる方がよい。

また、板厚の異なる組合せの場合は、出来ばえをそろえるため、切込み後の残り寸法を1.5mmの板に合わせる場合が多い。


図16.6.1 角出し曲げの方法

表16.6.1 角出し曲げ加工の種類

(b) 取付けは、16.2.5 (b)に準じる。

16章 建具工事 7節 木製建具

16章 建具工事

7節 木製建具

16.7.1 適用範囲

(a) この節では、事務庁舎等での屋内の出入口に使用する木製建具を対象としている。

また、物入、書棚等の戸に木製フラッシュ戸を使用する場合は、これを準用できる。

(b) 近年の事務庁舎等では、防火性能を必要としない部位で、木製建具の使用が増加している。木製建具にはフラッシュ戸、かまち戸、ふすま、障子等があり、種類が多いため、「標仕」では一般的に重要な項目のみを規定し、その他は建具製作所の仕様によることとしている。

製作所の決定は、工事経歴、受注能力(作業人員、機械設備、管理体制)等により、その能力を調査することが必要である。

(c) 木製建具は、フラッシュ戸・ふすま・戸ぶすまのように内部材が外から見えない 建具と、かまち戸・ 障子のようにすべて化粧材からなる建具とに大別される。外周部材は、垂直方向の「かまち(縦かまち)」と水平方向の「かまち(上かまち、下かまち)」又は「桟(上桟、下桟)」とからなり、補強のために中間に入れる部材は、内部材が見えない建具では「中骨」といい、すべて化粧材からなる建具では「中桟」という(図16.7.1参照)。


図16.7.1 木製建具の部品名称

16.7.2 材 料

(a) 含水率

(1) 建具材は反り、ねじれ、狂い等寸法に変化が生じると、その機能が著しく損なわれるおそれがあることから、一般の木工事材料より厳しくしている。

(2) 人工乾燥と天然乾燥を区分しているのは、使用樹種と使用部位によって使い分けるためである。

(3) 天然乾燥による木材の乾燥期間は、平衡含水率は12~19%程度で、初期の含水率、気象条件、板厚、樹種等によって異なるが厚さ25~ 30mmのもので2~6箇月以上が必要である。

(4) 人工乾燥による木材は、平衡含水率より2~3%低めに乾燥した方が狂いは少ない。屋内における木材の平衡含水率は、10~15%程度と考えられる。

(5) 集成材、単板積層材、合板、パーティクルボードは、製造工程上十分乾燥しているのでA種と見なすことができる。

(b) フラッシュ戸

(1) かまち及び桟は、近年木材の集成技術やフラッシュ戸の表面材の接着技術が向上していること及びむく材のコストが高騰していることから、集成材を使用することが一般的である。ただし、使用している集成材は同一樹種を集成したものとは限らない。近年、杉の間伐材も加工・集成技術の向上に伴い使用されている。

また、単板積層材(LVLともいい、厚さ3mm程度の薄板を繊維方向を合わせて積層した材料)も使用されている。

造作用集成材及び造作用単板積層材の品質は、建具製作所の仕様によることとなっているが、ホルムアルデヒドの放散量等は、JASで品質基準が定められており、表面材の合板に準じてF☆☆☆☆のもの、非ホルムアルデヒド系接着剤使用のもの、非ホルムアルデヒド系接着剤及びホルムアルデヒドを放散しない塗料使用のものとすることが望ましい。

(2) 定規縁、化粧縁、額縁及びがらり等には、狂いの少ない十分乾燥したむく材を使用する。樹種は、かまち等の集成材等と同じものとしている。

(3) 表面材の合板で、水掛りの箇所(便所、洗面所、浴室、厨房等)は、耐水性のある1類とする。

また、普通合板の板面の品質は、「合板の日本農林規格」の「普通合板の規格」に表16.7.1の3種が規定されている。「標仕」のC-Dとは、表面材の品質がC、裏面材の品質がDであることを示している。これらは、針築樹を表面材としている普通合板の中で、市場性があるもののうちでより品質が良いものである。

普通合板のホルムアルデヒドの放散量等は、JASで品質基準が定められており、「標仕」では、特記がなければF☆☆☆☆のもの及び非ホルムアルデヒド系接着剤使用のものとすることとしている。

なお、放散量の表示や確認方法等については、19章10節を参照されたい。

表16.7.1 普通合板の板面品質(JAS)

(4) 「標仕」では、心材に使用するペーパーコアは樹脂浸透のものとしているが、市販品には、ペーパーコアに樹脂を浸透していないものもあるので注意する。

(5) ガラス押縁に使用するねじ、釘の材質は、黄銅製では強度不足のため、ステンレス製としている。

(c) かまち戸

近年は、木目を見せるクリヤラッカー(CL)仕上げ、又はオイルステイン塗りクリャラッカー(OSCL)仕上げのかまち戸が一般的である。樹種は、チーク材とかオーク材のほか、種類が多いため、「標仕」では特記としている。鏡板も、かまちと同種の板を用いた合板(厚さ9mm程度)を使用することが多いため特記となる。

なお、「標仕」でいうかまち戸とは、むく材又は練付け材のかまちや桟に鏡板(額縁付きガラスも含む。)を取り付けたものを想定しており、フラッシュ戸の中央を抜き、鏡板(額縁付きガラスも含む。)を付ける戸はフラッシュ戸に含める。
(d) ふすま

(1) ふすまの種別は、 I型とII型の2種類がある。

(2) 周囲骨、中骨にスプルースが使われることがあるが、やにに注意する。

(3) 近年、 I型では、下張り工程の合理化のため、骨しばり用の茶ちり紙と、べた張り用の黒紙又は紫紙とを製紙工程ですき合わせた紙も多く使用されている。

(4) 上張りの種類は、価格に大きく影響するので特記することとしている。

なお、新鳥の子は、茶うらとか上新鳥と呼ぶこともある。また、雲花(うんか)紙とは、ダークグリーン地に真綿を散らしたような模様のある洋紙である。

(5) 防虫処理は、減圧容器に木材を入れ、ほう砂・ほう酸を木材に含浸(含浸量 木材1m3当たり1.2kg)する方法であるが、現在、南洋材の防虫処理は産出国で行い、国内での処理は行っていないのが実状である。

(e) 戸ぶすま

(1) 戸ぶすまは、フラッシュ戸の表面と周囲とをふすまと同様に仕上げたものであり、フラッシュ戸及びふすまに使用する材料と同じとしている。

(2) 表面の合板は、普通合板が一般的であり、厚さ2.5mm以上としている。

(f) 紙張り障子

(1) 障子紙の代名詞として美濃紙と特記されることがあるが、手すき和紙に限定して解釈しなくてよい。

(2) レーヨンパルプ紙とは、一般にビニル紙と呼ばれるものである。

(3) 引手の材質には、桑等の木製と真鍮(黄銅)等の金属製、合成樹脂製のものがある。

(4) 腰板付き障子は、腰板が高価なため近年は少ない。

(g) 接着剤

「標仕」では、接着剤はJIS A 5549(造作用接着剤)又はJIS A 6922(壁紙施工用及び建具用でん粉系接着剤)で接着する材料に適したものとされており、ホルムアルデヒドの放散量は、特記がなければF☆☆☆☆のものを使用することとしている。

なお、放散量の表示や確認方法等については、19章10節 を参照されたい。

16.7.3 形状及び仕上げ

(a) フラッシュ戸

(1) 「標仕」表16.7.5の見込み寸法30mmのフラッシュ戸は、物入、書棚等の戸を想定している。

(2) 表面材の厚さは、圧着技術が進歩しているため「標仕」表16.7.6が一般的である。ただし、大きな荷重がかかることが予想される場合は、特記で合板を厚くする必要がある。

(3) 表裏で表面材の種類を変えると温湿度の差で反りや狂いが生じやすいので注意する。

(4) 特殊加工化粧合板は、ポリエステル化粧合板等が製造されている。メラミン系は化粧板と称する厚さ1.2mmのメラミン板のみが製造されており、メラミン化粧合板は近年製造されていない。

(b) その他の建具

「標仕」に示すその他の建具の見込み寸法は、一般的な値である。

なお、ふすまの見込み寸法は、どぶ縁(引手側の縦かまち)の寸法による。

16.7.4 工 法

(a) フラッシュ戸

(1) 標誰的なものとしては、主に幅950mm × 高さ2,100mm程度のものを想定している。

(2) 工法は、心材別に中骨式とペーパーコア式に分類される。現在製造されているフラッシュ戸は、中骨式の方がペーパーコア式より多い。それぞれの工法の特長は次のとおりである。

(i) 中骨式の工法(図16.7.2(イ))

従来工法を機械化製作しやすく改良し、中骨を横方向のみとして、かつ、中間2箇所の中骨を分増し(見付け幅を太くすること)しない方法である。

(ii) ペーパーコア式の工法(図16.7.2(ロ))

中骨の数を減じ、その代わりにペーパーコアを挟み込む工法である。


図16.7.2 フラッシュ戸の工法

(3) 圧着技術が進歩しているため、いずれの工法でも、上下かまちと縦かまち及びかまちと中骨の取合い部のステープル留めは組立時の仮固定の意味合いが強く、戸としての剛性は接着剤により確保している。したがって、中骨とかまちとの取合い部の欠き込みは行わない。

(4) いずれの工法でも、錠前当たりの部分には高さ300mm以上の補強を施す。

また、ドアクローザーの取付けねじが,上かまちを外れるおそれがある場合は、上かまちに増し骨する。

(5) 化粧縁は、フラッシュ戸の側面を保護するためのものであり、表面材を接着したのち、幅、高さ、曲がり具合等を修正し、縦かまちに接着剤で取り付ける。

上・下かまちには、化粧縁を取り付けないのが一般的である。化粧縁の隅の納まりを図16.7.3に示す。


図16.7.3 化粧縁の隅の納まり

(6) 開き戸の定規縁は、通称「とんぼ」と呼んでいるT形部材あるいは合じゃくり形部材を図16.7.4のように接着剤で取り付ける。


図16.7.4 定規縁の例

(7) 空気穴は、近年コールドプレス機の採用によって不要となり設けないフラッシュ戸も多い。しかし、ホットプレス機を使用する場合は、フラッシュ戸内の空気の膨張による膨らみを防止するため、すべての水平部材(上・下かまち及び横骨)に図16.7.5のように3mm角程度の穴をあける。


図16.7.5 空気穴の詳細

(8) 引戸の召合せかまちの定規縁で、いんろう付きとする場合は特記による。その例を図16.7.6に示す。


図16.7.6 召合せかまちのいんろう付きの例

(b) かまち戸

(1) ほぞの形式の例を、図16.7.7に示す。


図16.7.7 ほぞの形式の例

(2) かまち及び桟の取合いの例を図16.7.8に示す。



図16.7.8 かまち及び桟の取合いの例

(3) レールは、V形、U形又は甲丸レールを使用するのが一般的である。

(c) ふすま

(1) 通常使用されている標準的な大きさのものについて示している。

なお、「標仕」表16.7.9中の周囲骨と中骨の寸法は、見付け幅 × 見込み幅で表示している。

(2) 工法は、 Ⅰ 型とⅡ型とに分類される。それぞれの工法の特長は次のとおりである。

(i) Ⅰ 型工法
従来から行われている工法であり、周囲骨の隅をえり輪入れし、周囲骨間及び周囲骨と中骨との取合いは、釘打ちとなっている。そのほか、図16.7.9(イ)のように縦骨と横骨の取合いを相欠き、両組みとしている。
紙張りは、下張り3工程(骨しばり、べた張り、袋張り)と上張りの計4工程となっている。しかし、近年茶ちり紙(骨しばり用)と黒紙又は紫紙(べた張り用)を製紙工場ですき合わせた紙を使用して、3工程とすることも行われている。

Ⅰ型工法での下張り紙の概略は、次のとおりである。

① 茶ちり紙(骨しばり用):主として、やや厚手のダンボール又はクラフト紙(上質)を再生したもの
② 黒紙又は紫紙(べた張り用):茶ちり紙を染めたもの

③ 袋紙(袋張り用):薄手のやや良質な茶ちり紙

(ii) II型工法

機械化製作のために開発された工法であり、一般にはチップボード型と呼ばれている。周囲骨の隅は火打ちを入れ接着剤とステープルで固定し、中骨と周囲骨の取合いはステープルで固定する。その他、図16.7.9(ロ) のように縦骨と横骨の組み方は、 I型工法と同じである。

紙張りは、下張り2工程(下張り、袋張り)と上張りの計3工程となっている。

II型工法での下張り紙の概略は、次のとおりである。

① 耐水高圧紙(下張り用):厚手の再生紙(専用紙)

②袋紙(袋張り用): I 型工法に同じ。


図16.7.9 ふすまの工法

(3) 上張り紙は、四周の周囲骨より10mm程度はみ出す大きさとし、周辺10mm部分にのり付けし、周囲骨の側面に折り込んで張り付ける。

(4) 縦縁は、スクリュー釘又は折合い釘を用いて、下方から滑らせて縦周囲骨に固着する。 上下縁は上下周囲骨に釘打ち留めとする。

縁の仕上げとしては、うるし塗りは高価なため、近年極めてまれである。現在は、カシュ一樹脂塗料の2回途りが一般的である。このほか、近年白木仕上げも多く見られる。

(5) 召合せ部の重ね縁と出会い縁の例を図16.7.10に示す。


図16.7.10 召合せ部の例

(d) 戸ぶすま

両面で異なる材質の上張り(片面が洋室用のビニルクロスで、他面が和室用の紙張りの場合等)とした場合は、上張り施工時の吸水による伸びとその後の乾燥による収縮及び室内温湿度の影響等で反りが生じやすい。一般的には、ビニルクロスを張った側が凸になる傾向がある。

(e) 紙張り障子

最近の建物は、高気密、高断熱が進み木製品の含水率が大きく変化し、反りやすい環境となっている。反り対策として「標仕」表16.7.10のかまちの寸法(見込み寸法30mm、見付け寸法27mm)が主流である。高さが2,000mmを超える場合は、見付け寸法も30mmとすることが多い。

また、ほぞ組みは、かまち見付け寸法の1/2以上とする。

16章 建具工事 8節 建具用金物

16章 建具工事

8節 建具用金物

16.8.1 適用範囲

(a) この節では、建具の戸、枠に付属し、戸の動作円滑、動作制御、位置制御、締まり、操作等の機能を分担するもののうち、2節から7節までの各種の既製建具又はこれに準ずる建具に使用する建具用金物(以下、この節では「金物」という。)を対象としている。

(b) 「標仕」では、金物の材質、形状、寸法、個数等が規定されている。しかし、既製建具にこれらの金物を取り付けるためには、改良を要するものもあり、「標仕」 16.8.1では、既製建具は、製作所の仕様で建具に見合った金物が取り付けてあればよいとしている。ただし、機能及び美観上疑問のある場合(腐食、損傷等)は、協議をして取り換えられるようにしている。

なお、金物の指定がない場合でも、建具の機能上必要なものは当然取り付けなければならない。

16.8.2 材質、形状及び寸法

(a) 金物の材質

金物に使用する主要な材料としては、表16.8.1に示すものがある。

なお、ステンレスとして使用されている材料には、SUS304やSUS430系でJIS規格品のSUS430J1Lのほか、SUS304と同等の耐食性を有するJIS規格品のSUS443J1もある。

「標仕」表16.8.1では、特記がない場合の金物の材質として、見え掛り部等の材質を金物の種類に応じて細かく規定している。

なお、見え掛り部の材質の指定は、防錆又は強度上必要なもの以外は、化粧として表面に現れる部分についてのみ適用される。例えば、ピボットヒンジの本体が鉄製でも、カバーがステンレスであれば、ステンレスの指定に合うことになる。

表16.8.1 金物に使用される主要な材料と製法(JASS 16より)

(b) 金物への名称又は略号の表示の目的は、メンテナンスや交換等の際の識別を容易にするためである。したがって、金物製造所又は建具製作所のいずれかの名称又は略号が表記されたものを使用する。

(c) アルミニウム製建具に使用する金物で、黄銅製のものにクロムめっきを行うのは、アルミニウムとの接触腐食を防止するためである。また、亜鉛合金製のものにクロムめっきを施すのは美観上の必要からである。

(d) 便所、洗面所、浴室、厨房等に使用するステンレス以外の金物にクロムめっき又はJIS H 8602(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜)による協極酸化塗装複合皮膜(種類B)処理を行うのは、水分による腐食を防止するためである。陽極酸化旅装複合皮膜処理はアルミニウム合金の場合の表面処理である。

(e) 金物の種類

「標仕」表16.8.1では、金物が過度にならないように建具の形式に応じた金物の種類を規定している。

表中の*印の付いた金物の適用は、特記によって指定することとしている。

なお、表に示された金物は、建具に付属するすべての金物を網羅しているものではなく、この表以外で建具の機能上必要な金物は補足して付けなければならない。

また、表中でピボットヒンジの使用を屋内に限定しているのは、ガラス戸等で、ピボットヒンジをフロアヒンジと組み合わせて使用する場合の防犯性を考慮したものである。

(i) 開き戸の主な金物を図16.8.1に示す。


図16.8.1 開き戸の主な金物

(ii) 引戸の主な金物を図16.8.2に示す。


図16.8.2 引戸の主な金物

(iii) 「標仕」には規定されていないが、近年、鋼製建具や木製建具でよく使われるようになってきた折り戸の金物を次に示す。

① 防火戸に使われる折り戸の主な金物を図16.8.3に示す。 .


図16.8.3 折り戸の主な金物(防火戸)

②物入等に使われる折り戸の主な金物を図16.8.4に示す。


図16.8.4 折り戸の主な金物(物入等)

(f) 錠のグレード

平成25年版「標仕」では、「標仕」表16.8.1のシリンダー箱錠及び本締り錠について、JIS A 1541-2(建築金物-錠-第2部:実用性能項目に対するグレード及び表示方法)によるグレード3以上と規定されたが、これは、主に事務庁舎を想定したものであり、鋼製建具、鋼製軽量建具及びステンレス製建具を対象としている。

JIS A 1541-2では、
① 使用頻度による性能
② 外力に対する性能
③ 使用扉の質量による性能
④ かぎ(鍵)違い
⑤ デッドボルトの出寸法

⑥ 耐じん性能

の6項目について、それぞれグレードが定められており、「標仕」では、耐じん性能を除く5項目についてグレード3以上としている。耐じん性能は、使用する場所により要求性能が異なるため規定されていないが、ちりやほこりの多い場所では、グレード2の製品を使用するのが望ましい。

また、枠類の厚さが1.5mm以上のものの場合の外力に対する性能のストライクの仕様については、グレード3の規定を適用しないこととされている。

なお、本締り付きモノロック及びモノロックについては、耐じん性能を除く実用性能項目の5項目のすべてでは、グレード3を満足してはいない。

JIS A 1541-2については、16.8.5(b)(2)を参照されたい。

錠前類には、「標仕」で要求する品質を満たすものとして、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4(e)参照)で評価した製品があるので参考にするとよい。

(g) 閉鎖金物のストップ装置

「標仕」表16.8.1では、フロアヒンジ、ヒンジクローザー(丁番形・ピボット形)、ドアクローザーについて、防火扉の場合ストップなしとされているが、これは防火区画に用いる防火戸を前提としたものである。

(h) 金物の寸法 個数(枚数)

「標仕」16.8.2(g)、(h)及び(i)では、金属製建具及び樹脂製建具に使用する丁番及び戸車並びに木製建具に使用する丁番、ビボットヒンジ,戸車及びレールについて、寸法、個数を細かく規定している。

なお、「標仕」表16.8.2の丁番の長さ127 (125)、152(150)は、それぞれ 5インチ、6インチをmmに換算した寸法なので、建具金物製造所によりばらつきがある。そのため、127 及び 152 は一般的な呼び寸法を表し、(  )内は最小呼び寸法を表している。

16.8.3 取付け施工

 

(a) 金物の取付け位置は、特記によるが、どこを基準とする寸法なのかを明記する。一般的な寸法は、次のようであり、図16.1.3に開き戸での錠、取っ手、丁番の位置、及び図16.1.4に引戸での引手、クレセントの位個の取り方を示す。

(1) 取っ手類の位置は、床上から高さ1.0m(押板類は1.1m)程度が一般的である。バックセットは「標仕」表16.8.1では、握り玉の場合 60mm以上、レバーハンドルの場合 50mm以上とされており、前者の場合 60~70mm、後者の場合50~60mmが一般的である。

(2)排煙窓に手動開放装置を設ける場合の位置は、16.1.7(b)(3)による。

(b) 金物の取付けは、水平垂直に留意して、建具が円滑に作動するように注意を払いながら、他部材との納まり具合(金物の作動時に他部材と接触しないなど)、戸と枠との適正な隙間、出入りを調整し、支持部材に堅固に取り付ける。

なお、取付けに際しては、戸や枠が正確に施工されていることを前提とするが、現実には、戸や枠に微妙な誤差が生じているため、両者を調整しながら取り付けることになる。

(c) 金物の取付けに使用するねじ類(小ねじ、タッピンねじ、木ねじ)は、所定の数量及び長さのものを使用する。「標仕」では、ねじ山が金属板に3山以上掛かるようにまた、ねじの先端が金属板の外に3山以上出るように規定している。

(d) フロアヒンジ等金物をコンクリートに埋設するものは、主要な構造躯体を損傷しないように配置する。やむを得ず梁等と取り合う場合は、主筋とぶつからないようにあらかじめ梁を下げるなどの処置が必要となる。また、フロアヒンジの内部に水が入らないよう、水掛りでは多少高目に取り付ける必要がある。周囲がカーペット敷きの場合は、鋭いカバープレートの角が靴に当たるので、角がとがらない特殊なカパープレートを用いたり、フロアヒンジを低く取り付け、戸を上げてカーペットに擦らないようにする。ただしその場合は特注品となる。

(e) 金物の取付け後、金物のきしみ、緩み、がたつき、建具の異常な応力、たわみ変形等が生じず、円滑に作動するように調整及び確認を行う。

16.8.4 鍵

(a) マスターキー

鍵(キー)は、各錠ごとに異なっているが、建物管理上は多くの鍵を持ち歩くことになり、極めて不便である。そのため多数の錠を一つの鍵で操作できる鍵(マスターキー)を作ることになる。「標仕」では、マスターキーの扱いについては、特記によるとしている。錠と鍵の関係を組織的に管理する方式をキーシステムといい、表16.8.2に示すような方式がある。

なお、一つの建物に2以上の製作所の錠を使用する場合や施錠システムが異なる錠を混用する場合は、マスターキーを1つにすることは難しい。

表16.8.2 キーシステムの種類

(b) 製作者、施工者及び監督職員、場合によっては施設管理担当者の立会いのうえ、錠と鍵を照合し、確認する。特に操作が複雑と思われる金物は、操作取扱説明書を提出させ、必要に応じ施設管理担当者立会いのもとで操作実習を行う。

(c) 鍵は、整理し、鍵箱に収納して提出させる。「標仕」では、鍵箱は、鍵の個数に応じた鋼製の既製品としている。また、フック棒等の金物の付属部品もそろえて引き取る。

なお、コンストラクションキーシステムを用いた場合は、工事用シリンダーから本設シリンダーに切り替えたのち、不用になった工事用の鍵を提出させて、その確認を行う。

(d) 「特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律」(平成15年法律第65号)に基づき、「指定建物錠の防犯性能の表示に関する基準」が平成16年4月より施行されている。

(-社)日本サッシ協会、(-社)日本シャッター・ドア協会及び (-社)カーテンウォール・防火開口部協会では、 日本ロック工業会の協力を得て、子鍵の袋の中に同法第7条に規定された表示カードを入れることで正確な情報が建物の発注者、使用者に間違いなく届くように指導している。

16.8.5 JIS、資料他

(a) 錠を構成する部品の名称等を表16.8.3及び図16.8.5に示す。

表16.8.3 錠を構成する部品の名称及び機能

図16.8.5 錠を鋼製する部品の形状例及び名称

(b) 建具用金物関係のJIS

(1) JIS A 1541-1(建築金物一錠ー第1部:試験方法)

JIS A 1510-1は廃止となり、2006年にJIS A 1541-1が制定されている。この規格では、錠に対する試験条件、試験装置及び試験方法が規定されている。試験項目としては、耐久性試験、強度試験、耐食性試験、安定性試験、電気的試験、シリンダの耐じん性試験、表面仕上げ試験が規定されている。

(2) JIS A 1541-2(建築金物 – 錠 – 第2部:実用性能項目に対するグレード及び表示方法)

この規格では、建築物の開口部の戸に用いる錠の実用性能項目、

① 使用頻度による性能
② 外力に対する性能
③ 使用扉の質量による性能
④ かぎ(鍵)違い.
⑤ デッドボルトの出寸法

⑥ 耐じん性能

の6項目について、それぞれのグレード及び表示方法について規定されている。

JIS A 1541-2で規定されている6項目の性能について、表16.8.4から表 16.8.9に示す。

表16.8.4 使用頻度による性能(JIS A 1541-2 : 2006)

表16.8.5 外力に対する性能(JIS A 1541-2 : 2006)
表16.8.6 使用扉の質量に対する性能(JIS A 1541-2: 2006)

表16.8.7 かぎ(鍵)違い(JIS A 1541-2 : 2006)

表16.8.8 デッドボルトの出寸法(JIS A 1541-2 : 2006)

表16.8.9 耐じん性能(JIS A 1541-2: 2006)

(3) JIS A 1510-2(建築用ドア金物の試験方法ー第2部:ドア用金物)

建築物の開口部の戸に使用する金物のうち、丁番、グラビティヒンジ(トイレブース等に使用するせり上り丁番をいい、閉戸は戸の自重によって行われるもの)、戸当り、上げ落し、用心鎖及びガードアーム(鎖の代わりに棒状ループ状又は板状の部品を用いて開戸を制限するドア用金物)の試験方法について規定されている。

(4) JIS A 1510-3(建築用ドア金物の試験方法ー第3部:フロアヒンジ、ドアクローザ及びヒンジクローザ)

(5) JIS A 5545(サッシ用金物)

JIS A 4706(サッシ)に規定するスライデイングサッシに使用する金物のうち、戸車及びクレセントについて規定されている。

(c) 錠及び吊り金物類の用語の解説を表16.8.10及び表16.8.11に示す。

表16.8.10 錠(その1)

表16.8.10 錠(その2)

表16.8.11 吊り金物類(その1)

表16.8.11 吊り金物類(その2)

16章 建具工事 9節 自動ドア開閉装置

16章 建具工事

9節 自動ドア開閉装置

16.9.1 適用範囲

(a) この節では、建築物の出入口に使用する標準的なスライデイング及びスイングタイプの自動ドア開閉装置(以下、この節では「開閉装置」という。)を対象としている。

開閉装置とは、JIS A 4702 (ドアセット)に規定するドアセットに開閉のための制御部及び駆動部(懸架部を含む。)を取り付け、歩行者等を検出する検出装置(以下「センサー」という。)の信号でドアが開閉する装置のことである。

(b) 施工計画書の作成は,16.1.1(c)を参照する。

(c) 開閉装置の施工範囲は、関連工事との区分を明確にすることが必要である。

16.9.2 性 能

標準的な開閉装置の性能値は、「標仕」表16.9.1及び2に示されているが、ドアの質量,面積がこれを超える場合は.設計図書に性能が特記される。

また、自動ドアの安全対策については、全国自動ドア協会から「自動ドア安全ガイドライン(スライド式自動ドア編)」及び「多機能トイレ用自動ドア安全ガイドライン」が発行されているので参考にされたい。

16.9.3 機 構

(a) 開閉装置は、駆動装置、制御装置及びセンサーより構成される。図16.9.1はスライデイングドア用の納まりの例で各部の名称を示す。


図16.9.1 引分け開閉装置の納まりの概略図

(1) 駆動装置
動力部、作動部、ドア懸架部よりなり、制御装置から指令を受けてドアを開閉する。駆動方式には、表16.9.1に示すものがある。

なお、ドア懸架部とは、吊り戸車及びハンガーレールをいう。

表16.9.1 駆動方式の種類
(2) 制御装置

センサーから開閉信号を受けて駆動装置を制御する装置をいう。

(3) センサー

人体の自動検出又は人為操作によって制御装置へ制御を送る装置をいう。センサーには、表16.9.2に示すものがある。また「標仕」16.9.3(e)はドア走行部の安全を考慮して、すべてに補助センサーを併用することとしている。補助センサーには、図16.9.1にある補助光電スイッチのように、センサーと分かれている「分離型」と、センサーの中に補助センサー機能が含まれる「一体型」がある。

表16.9.2 センサーの種類

(4) ドアの開閉方式

表16.9.3に示すものがある。

表16.9.3 ドアの開閉方式の種類

(5) 自動扉機構については、「標仕」で要求する品質を満たすものとして(-社)公共建築協会の「建槃材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)で評価した製品があるので参考にするとよい。

(b) 停電及び電源を切った場合に、ドアは手動で開閉できるものとする。

(c) 開閉装置を床又は屋外に設置する場合は、絶縁低下を起こさず、また、支障なく使用できるなど、常に正常な機能を維持するため、開閉装置内部に水が浸入しても直ちに排水できる構造とする。

16.9.4 工 法

(a) 施工の注意事項は、次のとおりである。

(1) 建具枠及びドア等の取付けに十分耐え得る構造であることを確認する。

(2) 開閉装置を取り付ける前に、ドア回りの関連工事が、開閉装置の取付けやドアの作動に支障のないように施工されていることを確認する。

(3) 床又は屋外に設置する開閉装置の埋込み部分及びマットスイッチのマット敷込み部分には、呼び径65mm程度の排水管が設けられていることを確認する。

また、高齢者、障害者等の通過が予想される場合は、国土交通省大臣官房官庁営繕部整備課監修「建築設計基準及び同解説」3.5.3(4)[スライド式自動扉]による。

(4) マットスイッチのリード線の接続部は、自己融着テープ等で防水処理を行う。なお、多雪寒冷地で凍結のおそれがある場合は、電熱ヒーターを敷設するなどマットスイッチやガイドレール部分の凍結を防止する装置が必要である。

(5) 引戸は、全閉時での戸先隙間が一定で、また、ドアとガイドレール、無目及び中間方立との隙間が一定であることを確認する。

(6) 開き戸は、ピボット軸と駆動軸との同心、無目及び床埋込みケースの水平を確認し、また、ドア全周とサッシ及び床との隙間、全閉時での戸先隙間が一定であることを確認する。

(b) 取付け及び調整完了後に、表16.9.4に示す項目を確認する。

表16.9.4 取付け及び調整完了後の確認項目

表16.9.5 ドア質量とドア開速度・閉速度

(c) 「建築設計基準及び同解説」の自動ドアに関する項の抜粋を次に示す。

建築設計基準及び同解説

3.5.3 扉

(4) スライド式自動扉

高齢者、障害者等の通行を考慮し、開閉速度、センサー等を設定する。


図3.5.13 自動ドア感知域と留意事項

16章 建具工事 10節 自閉式上吊り引戸装置

16章 建具工事

10節 自閉式上吊り引戸装置

16.10.1 適用範囲

主に高齢者、障害者等の利用を配慮した出入口に使用する標準的な自閉式上吊り引戸(手動で開放し、自動で閉鎖する戸、有効開口幅 900mm、高さ2,000mm程度)の開閉装置を対象としている。

開閉方式には、片引きと引分けがあり、引分けの場合、左右の戸が連動せずに個別に動くのが一般的である。

16.10.2 材 料

屋外に使用する上吊り引戸装置の材料は「標仕」によるが、引戸本体の材料についても雨水の浸入や防錆性能を考慮する必要がある。

16.10.3 性能等

(a) 開閉繰返し性能については、標準的な使用状態を想定して20万回を設定している。(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4(e)参照)では、「標仕」表16.10.1の規定に基づいた評価を行っている。「標仕」表16.10.1で規定されている手動閉じ力とは、ストップ装置を働かせた状態を手動で解除するのに要する力を指している。

(b) 自閉式上吊り引戸装置は、上吊り機構、自閉装置、制御装置により構成される。

図16.10.1に一例を示す。


図16.10.1 自閉式上吊り引戸装置の一例

16.10.4 工 法

上吊り引戸装置の上吊り機構は、建具枠の取付け誤差や床の不陸等を調整できるものとする。

16.10.5 高齢者、障害者等の利用に対する配慮

高齢者、障害者等の利用に対する配慮としては、開閉しやすいこと及び車椅子が通過できる幅があり、通過を妨げる段差がないことなどが挙げられる。