1節 共通事項
1.1.1 一般事項
(1) 公共建築工事標準仕様書(以下「標仕」という。)は、公共工事標準請負契約約款(以下「公共約款」という。)に準拠した契約書により発注される公共建築工事において使用する材料(機材)、工法等について標準的な仕様を取りまとめたものであり、当該工事の設計図書に適用する旨を記載することで請負契約における契約図書の一つとして適用されるものである。「標仕」の適用により、建築物の品質及び性能の確保、設計図書作成の効率化並びに施工の合理化を図ることを目的として、建築、電気設備及び機械設備工事の「標仕」が制定されている。「標仕」は国土交通省をはじめとする各府省庁が官庁営繕事業を実施するための「統一基準」として位置づけられており、その改定周期は3年となっている。また、地方公共団体等の公共建築工事においても広く用いられている。
(2) 適用範囲については、「標仕」1.1.1 (1)に新築及び増築と明記されており、官庁営繕工事における適用の対象としては、一般的な事務庁舎を主に想定している。ただし、想定と異なる特殊な条件がある場合の適用に際しては、その工事工種を十分検討し、必要に応じて特記により補足等を行わなければならない。
また、改修工事については、別に国土交通省大臣官房官庁営繕部において、「公共建築改修工事標準仕様書」が、木造工事については、「公共建築木造工事標準仕様書」が制定されている。
(3) 公共工事に関する標準請負契約約款としては、中央建設業審議会で定める公共約款があり、各省庁等の国の機関、都道府県等の地方公共団体、独立行政法人等の機関や電気事業者、ガス事業者等の民間企業に対し、これを実施約款に採用することが勧告されている。国土交通省においても勧告を受けて工事請負契約書(以下、この節では「契約書」という。)を改正し、公共約款の改正に対応している。平成22年7月26日には公共約款が改正され、契約当事者間の対等性確保、施工体制の合理化、不良不適格業者の排除等について改善が図られ、平成29年7月25日の改正では、法定福利費の適正な負担等の規定が新設された。また、令和2年12月21日の改正では、民法や建設業法などの改正に合わせ譲渡制限の特約や契約不適合の責任、契約解除等の内容が改正された。契約不適合の責任は、改正民法の「瑕疵」が「契約の内容に適合しないもの」と文言が改められたことを踏まえ、約款もこれまでの「瑕疵担保」から「契約不適合責任」に変更された。
なお、「標仕」は、公共約款が適用されることを前提として作成されているので、公共約款に基づかない契約書が適用された工事の場合には、注意が必要である。
(4) 「標仕」に規定している事項は、一般的に契約書の規定により定められた現場代理人に対する内容となっており、契約を履行するに当たっての最終的な責任は、当該工事請負契約の受注者が負うものである。ただし、工事請負契約が双務契約であり、契約書第9条に基づき、発注者からの権限の一部を委任された監督職員は、その責務を全うすべく、誠意をもって職務を行わなければならない(善良なる管理者としての注意義務)。
(5) 「標仕」の1章には、契約書の補足事項のほか、2章以降の各章に共通する事項がまとめられている。大きくは①材料や施工の承諾、検査等、工事を実施していくうえでの手順を定めた事項、②配置すべき技術者の役割や、施工中の安全確保等に関し発注者が期待し求めている事項、③工期の変更や、工事検査等に関し、発注者が的確な判断を下すために監督職員が対応すべき事項を定めており、各章を部分的に適用する場合には、基本となるこれらの事項が欠落しないよう留意しなければならない。また、「標仕」の2章以降の各章において、1節の一般事項は、2節以降の規定と併せて適用される。
(6) 契約書と設計図書とを併せて、ここでは、「契約図書」という。
契約書第1条(総則)によれば、「設計図書」には、別冊の図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書がある。「仕様書」とは、材料・製品・工法等について、要求する特定の形状・構造・寸法・成分・能カ・精度・性能・製造方法・試験方法等を定め、文書化したものであり、一般的には、工事に対する設計者の指示のうち、図面では表すことができない点を文章・数値等で表現したものといえる。
本来仕様書は、建物の設計与条件や設計基準に基づき個々の建築工事ごとに定めるべき事項であるが、類似施設をよく発注したり、同じ仕様を用いることが多い場合等は、発注者としての標準的な仕様を「標準仕様(あるいは共通仕様)」としてあらかじめ作成しておき、個々の建築工事ごとに決定すべき仕様のみを「特記仕様」として、質的水準の統一や設計図書作成の合理化を図る発注方式が、わが国においては多くみられる。
契約書第18条(条件変更等)においては、設計図書間に相違があった場合、監督職員に確認を請求することになっているが、「標仕」においては、契約条件の明確化を図るため、「標仕」1.1.1 (4)で、設計図書間の優先順位を定めている(図1.1.1参照)。しかし、常に材料の品質や施工技術に関し全体的な均衡を考慮し、疑義が生じた場合には速やかに協議を行わなければならない。
図1.1.1 工事請負契約における図書
1.1.2 用語の定義
(1) 「標仕」1.1.2では、「標仕」において基本となる用語について定めている。
(2) 契約書に関する監督職員の権限については、契約書第9条(監督職員)で規定されている。「標仕」1.1.2(ウ) から(キ) までの用語は、受注者等の措置に対して、監督職員がその権限の範囲内において行う承諾、指示、協議、検査及び立会いについて定めている。
建設工事の性質上、工事完成後に施工の適否を判定することが困難となる部位があることや、施工後に不具合があることを発見しても、その修復に対する費用や工期の延長による影響が大きいことから、施工中の監督については、公共工事の品質を確保するうえで、その重要性が高い。
(3)「標仕」では「検査」という用語を、1.6.0のように定義して使用している。しかし、一般的には、監督職員が工事の過程で行う確認のための「配筋検査等」、検査職員が行う「完成検査」、受注者等が行う「受入検査」、専門工事業者が行う「自主検査」等、広く「検査」という用語が使用されている。
「監督職員の検査」を受けるための前提として、受注者等は、施工状況や材料の試験結果等について事前に確認し、その内容を品質管理記録として作成した後、監督職員に提出し、監督職員は必要に応じて立会い等により設計図書との適否を判断する(図1.1.2参照)。
図1.1.2 「標仕」で定める監督職員の業務
(4) 基本要求品質、品質計画及び品質管理の概念が導入されたのは、平成9年版の「建築工事共通仕様書」からであるが、その背景、考え方及び今後の展開は、次のとおりである。
(ア) 工事目的物の品質を確保するためには、発注者は受注者に「要求品質」を明確に伝え、受注者は責任をもって実現することが重要である。従来、工事に使用する材料については、JIS等に示された性能を満足することを要求品質としてきたが、施工結果(材料を加工し取り付けた後の、工事目的物の部位等)についての品質や性能については、監督職員と現場代理人が工事目的物の品質レベルについて合意形成を行い、施工計画書等に反映するとともに、施工において合意品質のつくり込みを行ってきた。
しかし、発注者としての要求品質を明確化していくことが基本であるため、各章ごとに基本要求品質を規定している。
(イ) 「基本要求品質」とは、工事目的物の引渡し(不可視部分については一工程の施工)に際し、施工の各段階における完成状態が有している品質をいい、3章以降の各章の一般事項において、①使用する材料、②仕上り状態、③機能・性能について、発注者としての基本的な要求事項を定めている。
なお、「施工の各段階」とは、次の工程に引き継ぐまでの一区切りと考えると分かりやすい。
① 「使用する材料」に関しては、「所定のものであること」としているが、一般的に、工事に使用する材料は、建築物に要求される性能を満たすものが設計担当者により選定され、設計図書に指定されている。このため、「標仕」で規定する基本要求品質の実現においては、工事において定められた品質の材料が正しく使用されたことを工事完了後においても確認できるようにしておくことが重要である。
なお、材料に関する具体的な品質の証明の例は、後述するJISマーク等の確認・記録による方法がある。
② 建築工事の「仕上り状態」としては、多分に主観的なものであるが、これを何らかの方法で客観的な状態として定めて、合意の品質を形成するようにする。これには、最終的な仕上りだけでなく、施工の各工程における出来形においても同様に考える必要がある。
③ 「機能・性能」としては、材料レベルでは普遍的な要求となっているが、建築物としての機能・性能は直接設計図書に示されることは少ない。また、出来上がった建築物の機能・性能を直接測定することも容易ではない。したがって、この要求に対しては、定量的な確認ができない場合、設計で意図する性能・機能を満足させるようなつくり込みをどのように行うか、具体的な施工のプロセスの管理に置き換えて、これを実施させることと考えればよい。
これらの要求事項の詳細は、各章の基本要求品質の記述を参考にされたい。
なお、具体的な規定がないものについては、実際の工事に当たって、この基本的な要求事項をどの程度のレベルで実現するかを、後述の「品質計画」において明らかにしておく必要がある。
各章に規定する基本要求品質における「所定」とは、「標仕」の各節の規定をはじめとした設計図書、法令等により遵守すべき事項として定量的に定まっている仕様をいう。これに対して、建物の仕様の中には、立地条件、用途、施工部位等に応じて、一律に定めることができないものが多くある。このため「所要の状態」として、受注者等が品質計画の中で施工の目標を定め、監督職員が承諾することによって、工事目的物の所要の状態についての合意品質を形成する(「標仕」 1.2.2参照)。
(ウ) 「品質計画」とは、施工計画書の一部をなすもので、設計図書で要求された品質(基本要求品質を含む。)を満たすために、受注者等が、工事において使用予定の材料、仕上げの程度、性能、精度等の目標、品質管理及び体制について具体的に記載したものをいい、監督職員は、この品質計画が当該工事に相応して妥当なものであることを確認して、承諾することになる。
なお、監督職員は事前に十分な検討を行い、工事目的物に要求される品質や、設計意図等を総合的に判断する必要がある。
(エ) 「品質管理」とは、品質計画における目標を施工段階で実現するために行う工事管理の項目、方法等をいい、品質計画の一部をなすものである。品質計画における目標が高いレベルであればよりち密な管理を行う必要があり、目標とする品質によって受注者等が行う施工管理は変わってくる。また、監督職員の検査を行う段階についてもあらかじめ定めておくとよい。
(オ) 仕様規定は分かりやすいというメリットはあるものの、その性能がよく分からないままに、それに従うことが要請される。一方、性能規定は要求品質を明確に示すことにより、新しい材料、工法の開発等に指標を与えるものとなる。
1.1.3 官公署その他への届出手続等
工事の施工に必要な官公署への手続きには提出時期が定められていて、手続きが遅れると工事の進み方に影響するものがあるので、事前に届出の確認をし、工程の遅れの原因にならないようにする。必要な手続きのうち建築工事にかかわる主なものを表1.1.1に示す。
なお、設備工事にかかわるものについては、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「電気設備工事監理指針」及び「機械設備工事監理指針」を参照されたい。
1.1.4 工事実績情報システム(CORINS)への登録
(1) 国土交通省では、平成5年12月の中央建設業審議会の建議に基づき、入札・契約手続の透明性、客観性及び競争性をより一層高めるとともに、客観的な基準により信頼のおける建設業者を選定するための施策として、工事実績情報の登録を推進している。
(2) 「標仕」では、特記された場合には、受注時、変更時(工期、技術者(現場代理人、主任技術者、監理技術者)等に変更があった場合)及び完成時の定められた期間内に登録機関へ登録申請を行い、登録されたことを証明する資料(登録内容確認害の写し)を提出するとしている。ただし、期間には、行政機関の休日に関する法律(昭和 63年法律第91号)に定める行政機関の休日は含まないとされている。
なお、変更時と工事完成時の間が10日に満たない場合は、変更時の登録されたことを証明する資料の提出を省略できるものとされている。
表1.1.1 主な官公署への申請手続一覧表
(3) (-財)日本建設情報総合センター(JACIC)では、全国の公共発注機関(国の機関、地方公共団体及び公共・公益法人等)及び公共公益施設の整備に関する事業を営む法人(鉄道、空港、電力等)が発注した工事請負金額500万円以上の工事実績データをデータベース化し、各発注機関へ情報サービスする工事実績情報システム(コリンズ)を構築し運営している。
また、JACICでは、平成17年4月から「コリンズの工事経歴検索システム」の運用を開始している。
(4) 国土交通省はじめ各発注機関では、公共工事における一般競争入札及び公募型指名競争人札等の技術審査においてコリンズデータにより、応募してきた建設会社の施工実績や手持ち工事の状況等を適切に把握するとともに、建設業法で義務付けられている監理技術者の専任制のチェック等に活用しており、監督職員は担当する工事についての登録内容を確認し、正確な情報が速やかに登録されるように指導しなければならない。
1.1.5 書面の書式及び取扱い
(1) 書面の書式
契約書及び「標仕」では、書面により記録を整備することが求められており、その書式については、国の機関の「統一基準」である「公共建築工事標準書式」のほか、監督職員との協議によるとしている。また、書面の取り扱いと押印等の見直しが行われ、「標仕」1.1.5(2)では書面での提出が必要な「監督職員の承諾」等は電子メール等を利用できるようになり、「標仕」1.1.2(セ) の「書面」の「押印」が削除され「公共建築工事標準書式」の各書式からも押印欄が削除された。
なお、「公共建築工事標準書式」は国土交通省のホームページに掲載されているので活用するとよい。
(2) 施工管理体制に関する書類の提出
(ア) 建設業法に基づく適正な施工体制の確保等を図るため、発注者から直接建設工事を請け負った建設業者は、請負金額が 4,000万円(建築ー式工事の場合は 6,000万円)以上の場合は、全ての下請負業者を含む施工体制台帳を作成し、工事現場ごとに備え置くことになっている。ただし、建設業法施行規則第14条の2第3項及び4項では、記載すべき事項が、電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等に記録され、必要に応じて当該工事現場において電子計算機その他の機器を用いて明確に紙面に表示されるときは、当該記録をもって施工体制台帳ヘの記載及び添付害類に代えることができるとされている。
また、施工体制台帳に基づいて、施工体系図を作成し、現場の見やすい場所に掲げる必要がある。
なお、公共工事の場合は、請負金領に関係なく下請契約を締結した場合には施工台帳を作成して、施工体系図を工事関係者及び公衆が見やすい場所に掲げる必要がある。
建設業法の抜粋を次に示す。
(昭和24年5月 24日 法律第100号 最終改正 令和3年5月28日)
(施工体制台帳及び施工体系図の作成等)
第24条の8
特定建設業者は、発注者から直接建設工事を、請け負った場合において、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の,請負代金の額(当該下請契約が2以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が政令で定める金領以上になるときは、建設工事の適正な施工を確保するため、国土交通省令で定めるところにより、当該建設工事について、下請負人の商号又は名称、当該下請負人に係る建設工事の内容及び工期その他の国土交通省令で定める事項を記載した施工体制台帳を作成し、工事現場ごとに備え置かなければならない。
2.前項の建設工事の下請負人は、その請け負った建設工事を他の建設業を営む者に請け負わせたときは、国土交通省令で定めるところにより、同項の特定建設業者に対して、当該他の建設業を営む者の商号又は名称、当該者の請け負った建設工事の内容及び工期その他の国土交通省令で定める事項を通知しなければならない。
3.第1項の特定建設業者は、同項の発注者から請求があったときは、同項の規定により備え置かれた施工体制台帳を、その発注者の閲覧に供しなければならない。
4.第1項の特定建設業者は、国土交通省令で定めるところにより、当該建設工事における各下請負人の施工の分担関係を表示した施工体系図を作成し、これを当該工事現場の見やすい場所に掲げなければならない。
建設業法
(イ) 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成12年11月27日 法律第127号、最終改正令和3年5月19日)が施行され情報の公表や不正行為等に対する措置、適正な施工体制の確保等に関する措置が位置付けられ、公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針(平成13年3月9日 閣議決定)が制定されたことを踏まえ、国土交通省においては従来の取組みをさらに充実させるとともに、新たに取り組む事項を盛り込んでいる。
なお、適正化指針は、平成23年8月9日(閣議決定。一部変更 令和4年5月20日)に変更されている。また、入契適正化法では施工体制台帳の提出等に関して次のように定めている。
(平成12年11月27日 法律第127号 最終改正令和3年5月19日)
(施工体制台帳の作成及び提出等)
第15条
公共工事についての建設業法第24条の8第1項、第2項及び第4項の規定の適用については、これらの規定中「特定建設業者」とあるのは「建設業者」と、同条第1項中「締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が2以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が政令で定める金額以上になる」とあるのは「下請契約を締結した」と、同条第4項中「見やすい場所」とあるのは「工事関係者が見やすい場所及び公衆が見やすい場所」とする。
2 .公共工事の受注者(前項の規定により読み替えて適用される建設業法第24条の8第1項の規定により同項に規定する施工体制台帳(以下単に「施工体制台帳」という。)を作成しなければならないこととされているものに限る。)は、作成した施工体制台帳(同項の規定により記載すべきものとされた事項に変更が生じたことに伴い新たに作成されたものを含む。)の写しを発注者に提出しなければならない。この場合においては、同条第3項の規定は、適用しない。
3.前項の公共工事の受注者は、発注者から、公共工事の施工の技術上の管理をつかさどる者(次条において「施工技術者」という。)の設置の状況その他の工事現場の施工体制が施工体制台帳の記載に合致しているかどうかの点検を求められたときは、これを受けることを拒んではならない。
公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律
1.1.6 設計図書等の取扱い
(1) 事務処理要領第12 (1.0.2(エ) 参照)に基づく監督に関する図書は、表1.0.1を参照のこと。工事においては、仕様書等において適用される図書に基づいて施工を行うこととなるが、必要な図書は、受注者の負担で整備するとしている。
なお、監督職員は、計画通知図書(副本)を、建築基準法第89条第2項に基づき、現場に保管し、管理しなければならない。
(2) 工事において使用する工事関係図書や、それらの内容等については無断で第三者に公表すると、建物用途等により完成後における安全や防犯上問題が生じることが考えられる。また、これらの図書の帰属によっては、著作権上の問題が生じることもあるので、「標仕」では、原則として受注者等が工事関係図書を工事の施工の目的以外で第三者に使用又は閲覧させることを禁止している。
なお、漏洩についても禁止している。
1.1.7 関連工事等の調整
契約書第2条(関連工事の調整)では、受注者が施工する工事と発注者の発注に係る第三者の施工する他の工事が、躯体工事と設備工事のように施工上密接に関連する場合において、発注者の調整義務と受注者の工事全体の円滑な施工の協力に関して規定されており、「標仕」1.1.7はこれを受けている。
当該施設の内容や工事の進捗等に精通した監督職員が、関連工事等との調整を行うことは、施工品質の確保、契約の適正な履行、工期の遵守等にとって重要であり、受注者は、当該契約の内容を履行するだけでなく、関連工事等の受注者と協力して、工程や納まり等を検討することで、工事目的物全体の品質確保や、施工における合理化を図ることができる。
なお、平成31年版「標仕」までは「別契約の関連工事」と記載されていたが、令和4年版から「関連工事等」に修正された。公共約款第2条の表現と整合されたものであるが、仮設足場などを関係者に無償で利用させる場合など、関連工事との調整は、必ずしも「別契約」とは限らないこともある。
1.1.8 疑義に対する協議等
(1) 「標仕」では、設計図書の内容や現場の納まり等で疑義が生じた場合、受注者等は監督職員と協議することが定められている。疑義が生じた場合に受注者等が独自の解釈で施工を行うと、設計意図に反する結果となる場合があり、手戻りによって受注者等の不利益となるばかりでなく、工期が遅れたり、修正等によって発注者が要求する本来の品質が確保できなくなる可能性があるなど、これらの問題を未然に防止するために設けられた規定である。
また、監督職員が設計図書の内容に疑義を抱いた場合においても、設計担当者等に疑義の内容を確認し、設計図書の訂正や変更が生じた場合は、速やかに契約書の規定に従い、受注者に対する措置を講ずる。
(2) 受注者等にとって、疑義が生じる原因には、次のようなものが考えられる。
① 受注者等に起困するもの:理解が不十分、思い違い等
② 監督職員に起因するもの:思い違い、不徹底、調整不足等
③ 設計図書に起因するもの:誤びゅう、脱漏、不均衡、不整合[当該工事及び関連工事]等
④ 契約条件に起因するもの:誤びゅう、脱漏、不整合等
(ア) ①は、契約図書の内容が正しい場合で、受注者等が設計図書の内容を完全に把握できなかったり、間違って理解した場合に生じるものであるが、監督職員は受注者等に十分な説明を行い、設計図書に従って施工がなされるように指導する必要がある。この場合は、「協議」に至らないことが多い。
(イ) ②は、契約図書の内容が正しい場合で、監督職員が設計図書の内容を間違って理解していたり、「指示」や「調整」の内容を全ての関係者に周知しなかったり、中途半端な「指示」や「調整」を行った場合に生じるものであるが、このようなことがないように、設計図書を十分把握するとともに、序節で説明した「監督職員の立場及び業務」を十分に理解し、的確な業務を行わなければならない。
なお、監督職員が間違った指示を行いそれに従って工事が進められ、その結果として受注者に損害を与えた場合には、発注者としての責任が生じるばかりでなく、監督職員個人にも予算執行職員等の責任に関する法律による弁償責任を求められる場合がある(1.0.2(オ) 参照)。
(ウ) ③及び④は、設計図害及び契約条件が不備な場合に生じるものであるが、契約内容の変更にかかわるため、監督職員は、受注者等及び発注者側の関係者(設計者、関連工事の担当監督職員等)と十分な調整を行う必要がある。
なお、この場合は、内容の軽重を問わず「協議」の対象となる。
(3) 契約書第18条(条件変更等)では、設計図書や質問回答書等の相互の不一致がある場合、設計図書に誤りやもれがある場合、設計図書の表示が不明確な場合、設計図書に示された施工条件が実際と一致しない場合及び工事の施工条件について予期し得ない特別の状態が生じた場合は、受注者等は、その旨を発注者に通知し、確認を請求しなければならず、発注者は、確認の請求を受けたとき又は自らその事実を発見したときは、受注者の立会いのうえ、調査を行い、必要と考えられる指示を含めて一定機関内に書面により結果を通知しなければならない。
協議を行った結果、設計図内の訂正又は変更を行う場合は、契約行第18条第4項第一号から第三号の規定に従って行うこととなる。
契約内容の変更については、契約書第19条から第25条までに設計図書、工期、請負代金額の変更に係る事項が定められており、該当する規定に従って適切な措置を行わなければならない。
(4) 「標仕」1.1.8(3)では、設計図書の訂正又は変更に至らない事項については記録を整備することが定められている。このうち発注者と受注者との協議対象となる事項について、監督職員と現場代理人とが事前に整理を行うことによって、現場における業務や書類の簡素化に努めなければならない。
1.1.9 工事の一時中止に係る事項
契約書第20条(工事の中止)では、工事用地の確保ができないときや、自然的又は人為的な事象であって受注者の責に帰すことができない事由により工事が施工できない場合には、発注者は工事を中止させなければならない。また、この場合以外でも発注者は、必要があるときは工事を一時中止させることができると規定している。
これを受けて「標仕」では、人為的な事象の具体的例を示し、発注者が工事の一時中止の必要性を認められる状態にまで達しているかどうかについて判断するため、受注者等にその状況を監督職員に報告することを求めている。
なお、「標仕」で定めた場合以外でも工事現場の状態が変動し、工事の施工に支障が生じていると監督職員が判断した場合には、現場代理人に報告を求めるなど、状況を的確に把捉し、適切な現場運営に努めなければならない。
工事の一時中止については、「営繕工事請負契約における設計変更ガイドライン(案)」(平成27年5月(令和2年6月一部改定))中の工事中止ガイドラインを参照されたい。
1.1.10 工期の変更に係る資料の提出
(1) 工期の変更方法については、契約書第24条(工期の変更方法)に発注者と受注者が協議して定めることが原則的に規定されているが、「標仕」1.1.10では、協議対象となる事項について、必要な変更日数の算出根拠、変更工程表その他発注者との協議に必要な資料を受注者が作成し、監督職員に提出することを求めている。
(2) 契約書第23条(発注者の請求による工期の短縮)第1項では、特別の理由があるときは、発注者は工期の短縮等をすることができると規定されているが、工期の短縮等の協議対象となる事項について、可能な短縮日数の算出根拠、変更工程表その他発注者との協議に必要な資料を受注者等が作成し、監督職員に提出することを求めている。
これは、発注者が工期短縮等の請求を行う場合に、可能な短縮R数、工期を短縮した場合の全体工程への影響、請負代金額の変更、受注者の損害等について発注者が的確に把握し、受注者と協議して施工能力上可能な日数を定める際の根拠とするものである。
(3) 契約書第23条は、工期の短縮等について発注者から請求を行う場合の規定であるのに対し、契約書第24条は、条件変更等による設計図書の変更等による工期の変更のほか、受注者からの請求による工期の延長、工事の一時中止による工期の変更について、発注者と受注者が提出された資料を基に、協議する場合の規定である。
いずれの場合においても、一定期間内に協議が整わない場合には、発注者が工期の変更決定を行うことになるので、監督職員としては、契約書第21条(著しく短い工期の禁止)を鑑み、当該工事の延長又は短縮を行う場合は、工事に従事する者の労働時間その他の労働条件が適正に確保されるように、やむを得ない事由により工事等の実施が困難であると見込まれる日数等を考慮し、提出された資料の内容について現場の工程や施工体制が的確に反映されているか検討しておく必要がある。
1.1.11 特許の出願等
工事の施工上の必要から行った考案や技術開発に関する権利が、発注者又は受注者のどちらにどの程度帰属するかは、一律に定めることができない。このため、「標仕」では、特許の出願等をしようとする場合は、あらかじめ発注者と協議するとしており、受注者が一方的に権利を主張することを制限している。
なお、契約書第8条(特許権等の使用)は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権等の日本国の法令に基づき保護される第三者の権利の対象となっている工事材料、施工方法等の使用責任についての規定であり、この使用責任は、原則として受注者が負うとしている。ただし、発注者が工事材料、施工方法等を指定した場合で、設計図書 に特許権等の対象であることが明示されておらず、受注者が特許権等の対象であることを知らなかった場合には、発注者が使用に関して要した費用を負担するとしている。
1.1.12 埋蔵文化財その他の物件
契約書第1条(総則)第1項に日本国の法令を遵守することが明記されているとおり、埋蔵文化財を発見した場合には、「文化財保護法」等、関係法令に従い、適正に処理しなければならない。
「標仕」では、工事に関連した埋蔵文化財その他の物件に係る権利は、発注者と受注者の契約において、発注者に帰属するものとしている。また、文化財としての判断を行う場合があるので、埋蔵物を発見した場合は、直ちにその状況を監督職員に報告することを受注者等に求めているので、報告を受けた場合は、直ちに関係者と打ち合わせ、その後の措置を受注者等に指示しなければならない。
発注者と受注者の契約において、権利の帰属を約することができる「発見者としての権利」は、埋蔵物の発見に関連して受注者が発見者となる場合(受注者が文化財発掘作業を行わせた場合)における受注者(=発見者)の権利のみである。
しかし、これに加えて、作業員が発見者となる場合(偶然に作業員が発見した場合)においても、通常は当該作業員を雇用する受注者が、関係機関との調整や当該作業員への助言等を通じて当該文化財の取り扱いに関与するものと思われるため、公共建築の進捗に権限と責任を有する発注者としても、広く受注者が行う発見者たる作業員への助言、関係機関との調整等の行為に関与していく権利をも含む趣旨で「発見にかかる権利」としている。
1.1.13 関係法令等の遵守
法令の遵守は契約書第1条(総則)でも明記されており当然のことであるが、「標仕」改定の時点では想定されていない法令の改正等への対応も考慮した規定である。