3節 工事現場管理
1.3.1 施工管理
工事現場における施工管理は、まず施工管理体制を確立し、品質・工程・安全等についての計画的な管理を実施するものである。
契約書により、工事現場には現場代理人、専任の主任技術者又は専任の監理技術者及び専門技術者を置くように定められている。これらの者の資格等については「建設業法」(昭和24年 法律第100号、最終改正令和3年9月30日)に定められている(表1.3.1参照)。
表1.3.1 建設業法における技術者制度
なお、建設業法第27条 第1項で行われている技術検定の合格者は、監理技術者又は主任技術者の資格として扱われている。また、現場代理人、主任技術者及び監理技術者並びに専門技術者は兼務が認められている。
さらに、入契適正化法及び適正化指針では工事現場においても、適正な施工体制の確保に関する一層の取組みが求められている。
適正化指針の抜粋を次に示す。
(平成13年3月9日閣議決定、一部変更 令和4年5月20日)第2 入札及び契約の適正化を図るための措置3 主として入札及び契約からの談合その他の不正行為の排除の徹底に関する事項(2) 一括下請負等建設業法違反への適切な対応に関すること
法第11条は、各省各庁の長等に対し、入札及び契約に関し、同条第1号又は第2号に該当すると疑うに足りる事実があるときは、建設業許可行政庁等に通知しなければならないこととしている。これは、不正行為の疑いがある場合に発注者がこれを見過ごすことなく毅然とした対応を行うことによって、発生した不正行為に対する処分の実施を促すとともに、再発の防止を図ろうとするものである。建設業許可行政庁等において、建設業法に基づく処分やその公表等を厳正に実施するとともに、各省各庁の長等において、その職員に対し、法の趣旨の徹底を図り、適切な対応に努めるものとする。
各省各庁の長等は、法第11条の規定に基づく建設業許可行政庁等への通知義務の適切な実施のために、現場の施工体制の把握のための要領を策定し、公表するとともに、それに従って点検等を行うほか、一括下請負等建設業法(昭和24年 法律第100号)違反の防止の観点から、建設業許可行政庁との情報交換等の連携を図るものとする。
5 主として契約された公共工事の適正な施工の確保に関する事項
(5) 施工体制の把握の徹底等に関すること
公共工事の品質を確保し、目的物の整備が的確に行われるようにするためには、工事の施工段階において契約の適正な履行を確保するための監督及び検査を確実に行うことが重要である。特に、監督業務については、監理技術者の専任制等の把握の撒底を図るほか、現場の施工体制が不適切な事案に対しては統一的な対応を行い、その発生を防止し、適正な施工体制の確保が図られるようにすることが重要である。
このため、各省各庁の長等は、監督及び検査についての基準を策定し、公表するとともに、現場の施工体制の把握を撤底するため、次に掲げる事項等を内容とする要領の策定等により統一的な監督の実施に努めるものとする。
イ 現場施工に着手するまでの期間や工事の完成後、検査が終了し、事務手続、後片付け等のみが残っている期間など監理技術者を専任で置く必要がない期間を除き、監理技術者の専任制を撒底するため、工事施工前における監理技術者惰格者証の確認及び監理技術者の本人確認並びに工事施工中における監理技術者が専任で置かれていることの点検を行うこと。
ロ 現場の施工体制の把握のため、工事施工中における法第15条第2項の規定により提出された施工体制台帳及び同条第1項の規定により掲示される施工体系図に基づき点検を行うこと。
ハ その他元請業者の適切な施工体制の確保のため、工事着手前における工事実績を記人した工事カルテの登録の確認、工事施工中の建設業許可を示す標識の掲示、労災保険関係成立累の掲示、建設業退職金共済制度の適用を受ける事業主に係る工事現場であることを示す標識の掲示等の確認を行うこと。
公共工事の適正な施工を確保するためには、元請業者だけではなく、下請業者についても適正な施工体制が確保されていることが重要である。このため、各省各庁の長等においては、施工体制台帳に基づく点検等より、元請下請を含めた全体の施工体制を把握し、必要に応じ元請業者に対して適切な指導を行うものとする。
なお、施工体制台帳は、建設工事の適正な施工を確保するために作成されるものであり、公共工事については、法第15条第1項及び第2項により、下請契約を締結する全ての工事について、その作成及び発注者への写しの提出が義務付けられたところである。各省各庁の長等は、施工体制台帳の作成及び提出を求めるとともに、粗雑工事の誘発を生ずるおそれがある場合等工事の適正な施工を確保するために必要な場合にこれを適切に活用するものとする。
公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針
これら指針等に基づき、監理技術者の専任制の徹底(監理技術者資格者証の把握、同一性の把握、常駐の把握)、適切な施工体制の確保(施工体制台帳、施工体系図、施工体制の把握)等について点検を行う必要がある。
次に、建設業法及び契約書で定められた技術者等、施工体制台帳等について述べる。
(ア) 建設業法及び契約書で定められた技術者等
(a) 現場代理人
現場に常駐し、現場の運営取締りを行う者である。受注者の代理として広い権限を与えられているが、請負代金額の変更、請負代金の請求受領等の権限は与えられていない。
(b) 主任技術者又は監理技術者の設置(建設業法第26条第1項及び第2項)
建設業者は、請け負った工事を施工する場合は必ず現場に主任技術者を置くこと、また、発注者から直接工事を請け負い、そのうち4.000万円(建築ー式工事の場合は6,000万円)以上を下請契約をして工事を施工する場合(特定建設業)は、監理技術者を現場に置くことになっている。
(c) 主任技術者及び監理技術者の要件
① 主任技術者(建設業法第7条第二号)
高等学校(旧制実業学校を含む。)卒5年以上の実務経験、大学若しくは高等専門学校(旧制専門学校を含む。)卒3年以上の実務経験を有する者で在学中に国土交通省令で定める学科を修めた者。
建設業に係わる建設工事に関し10年以上の実務経験を有する者。
国土交通大臣が前記と同等以上と認定した者(昭和47年建設省告示第352号)。
② 監理技術者(建設業法第15条第二号)
国土交通大臣が定める試験に合格した者又は国土交通大臣が定める免許を受けた者(昭和63年建設省告示第1317号)。
主任技術者の資格を有し、発注者から直接請け負い、その請負金額が4,500万円以上(平成6年12月28日以前の工事については3,000万以上、昭和 59年10月1日以前の工事については1.500万円以上)のものに関して2年以上の指導監督的な実務経験を有する者。
国土交通大臣が前記と同等以上と認定した者(平成元年建設省告示第128号(建設大臣特別認定者))。
ただし、指定建設業に係る監理技術者は、ー級施工管理技士等の国家資格者又は国土交通大臣の認定を受けた者(国土交通大臣特別認定者)。
(d) 技術者の現場専任制度(建設業法第26条第3項)
① 公共性のある施設若しくは工作物又は多数の者が利用する施設若しくは工作物に関する重要な建設工事で、請負金額が3,500万円(建築ー式工事の場合は7,000万円)以上の場合は、工事の安全、かつ、適正な施工を確保するために、主任技術者又は監理技術者を、現場ごとに、専任で置くことになっている。
② 現場専任制度は、元請・下請にかかわらず適用される。ただし、令和元年6月12日に公布、令和2年10月1日から施行された建設業法改正により、次のとおり規制が合理化された。
・元請の監理技術者については、監理技術者補佐を専任で置く場合は、2現場までの兼任が容認される。その場合の監理技術者を特例監理技術者と呼ぶ(建設業法第26条第3項ただし書き、第4項)。
なお、監理技術者補佐となる必要な資格は、建設業法施行令第28条による。
・型枠工事又は鉄筋工事の下請の主任技術者について、3.500万円未満の下請負工事で、下請負人の主任技術者が行うべき職種とともに、二次下請負以下の主任技術者の職務を行うことについて注文者の承諾と下請建設業者の合意を得た場合、二次下請以下の主任技術者の設置は不要となる(建設業法第26条の3)。
③ ①の公共性のある施設若しくは工作物又は多数の者が利用する施設若しくは工作物に関する重要な建設工事は、次による(建設業法施行令第27条第 1項)。
1) 国又は地方公共団体が注文者である施設又は工作物に関する建設工事
2) 鉄道、軌道、索道、道路、橋、護岸、堤防、ダム、河川に関する工作物、砂防用工作物、飛行場、港湾施設、漁港施設、運河、上水道又は下水道及び電気事業用施設(電気事業の用に供する発電、送電、配電又は変電その他の電気施設をいう。)又はガス事業用施設(ガス事業の用に供するガスの製造又は供給のための施設をいう。)に関する建設工事
3) 石油パイプライン事業法(昭和47年法律第105号)第5条第2項第二号に規定する事業用施設、電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第五号に規定する電気通信事業者(同法第9条第一号に規定する電気通信回線設備を設置するものに限る。)が同条第四号に規定する電気通信事業の用に供する施設、放送法(昭和25年法律第132号)第2条第二十三号に規定する基幹放送事業者又は同条第二十四号に規定する基幹放送局提供事業者が同条第一号に規定する放送の用に供する施設(鉄骨造又は鉄筋コンクリート造の塔その他これに類する施設に限る。)、学校、図書館、美術館、博物館又は展示場、社会福祉法(昭和26年法律第45号)第2条第1項に規定する社会福祉事業の用に供する施設、病院又は診療所、火葬場、と畜場又は廃棄物処理施設、熱供給事業法(昭和47年法律第88号)第2条第4項に規定する熱供給施設、集会場又は公会堂、市場又は百貨店、事務所、ホテル又は旅館、共同住宅、寄宿舎又は下宿、公衆浴場、興行場又はダンスホール、神社、寺院又は教会、工場、ドック又は倉庫、展望塔に関する建設工事
④ 専任で置く期間は、原則として、元請の場合は契約工期々間、下請の場合は現場稼働期間と考えてよい。
⑤ 専任が必要な建設工事のうち、密接な関係のある二以上の建設工事を同一の建設業者が同一の場所又は近接した場所において施工する場合には、同一の専任の主任技術者がこれらの建設工事を管理することができるという特例がある(建設業法施行令第27条第2項)。
(e) 監理技術者資格者証制度
① 工事現場に専任で置かなければならない監理技術者のうち、国、地方公共団体等が発注者となる公共工事における監理技術者(特例監理技術者を含む)は、監理技術者資格者証の交付を受けた者で、かつ、5年以内に国土交通大臣の登録を受けた講習を受講した者でなければならない(建設業法第26条第5項)。
② 資格者証は、監理技術者資格を有している者に交付される。その有効期限は5年である(建設業法第27条の18)。
③ 資格者証を必要とする監理技術者が置かれている工事現場では、発注者から請求があった場合には、資格者証を提示することになっている(建設業法第26条第6項)。当該工事にかかわる職務に従事しているときは、常時資格者証を携帯している必要がある。
④ 監理技術者資格者証の取得等に関しては、(-財)建設業技術者センターのホームページを参照されたい。
(イ) 施工体制台帳及び施工体系図
(a) 施工体制台帳の作成
① 発注者から直接建設工事を請け負った特定建設業者で、当該建設工事を施工するために総額4,000万円(建築ー式工事の場合は6.000万円)以上の下請契約を締結したものは、全ての下請負業者を含む施工体制台帳を作成し、工事期間中現場ごとに備え付けることになっている(建設業法第24条の8第1項)。
建設業法の改正により平成27年4月から、公共工事においては、下請け金額の額にかかわらず、下請業者に工事を発注した場合は、施工体制台帳を整備しなければならなくなった。
なお、平成24年より、施工体制台帳の記載事項及び下請負人が特定建設業者に通知すべき事項に、健康保険等の加入状況が追記されている。
② 施工体制台帳を作成した特定建設業者は、発注者から請求があったときは、施工体制台帳をその発注者の閲覧に供することになっている(建設業法第 24条の8第3項)。
ただし、公共工事については、作成した施工体制台帳の写しを発注者に提出するとされている(1.1.5(2)参照)。発注者は、不正行為の疑いに足る事実を見つけた場合は、許可行政庁に通知しなければならない。
(b) 施工体系図の作成
施工体制台脹を作成する特定建設業者は、作成した施工体制台帳に碁づいて、施工体系図を作成し、現場の見やすいところに掲げる(1.1.5(2)参照)(建設業法第24条の8第4項)。
なお、公共工事については、施工体系図は現場の見やすい場所及び公衆が見やすい場所に掲げる。
1.3.2 施工管理技術者
(1) 施工管理技術者は品質確保の観点から工事内容及び工法に相応した施工の管理と指導を行う者をいう。受注者は工事に相応した能力を有する者を施工管理技術者として選定し、資格者証や工事経歴等、資格や能力を証明する資料を提出し、監督職員はこれらを確認して受領する。
(2) 「標仕」では、既製コンクリート杭地業、鋼杭地業、場所打ちコンクリート杭地業、レディーミクストコンクリートの製造工場、鉄骨製作工場、鉄骨工事の溶接作業及び溶融亜鉛めっき高カボルト接合について施工管理技術者が定められている。
(3) 建設工事が多様化・高度化してきている現在では受注者(元請負人)の施工管理には限界があり、施工の質を確保するためには、専門工事業者の技術力と責任能力を評価、活用し、専門工事においても自主的施工管理体制を確立させることが重要である。
1.3.3 電気保安技術者
「標仕」に規定されている電気保安技術者は当該工事の電気工作物の工事を行う場合に設置されるものであり、例えば、電動式のシャッターや自動ドアの取付け工事期間において、電気工作物の保安業務を行う。
(ア) 電気工作物の工事、維持等の保安業務は、電気工作物の電圧、容量に関係なく 人命、財産保護等にとって重要なことである。「標仕」では、電気工作物の工事、維持等の適切な保安体制を確立するための電気保安技術者について規定している。
(イ) 「標仕」1.3.3(1)(ア) で定められている「電気工作物の工事に必要な資格を有する者」とは、表1.3.2による資格を有する者をいい、「同等の知識及び経験を有する者」とは、表1.3.3の学歴又は資格を有する者を想定している。
表1.3.2 電気主任技術者の適用範囲
表1.3.3 学歴又は資格に応じた適用範囲
(ウ) 電気保安技術者は、その電気工作物が事業用電気工作物と一般用電気工作物によって立場が多少異なる。
(a) 事業用電気工作物では、電気事業法において、事業用電気工作物の設置者は、電気設備の技術基準の維持業務(第39条)、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安を確保するための保安規程の作成・遵守(第42条)、事業用電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督をさせるために主任技術者の選任(第43条)が定められている。
官庁営繕工事を行ううえでの国土交通省の保安規程は、官庁営繕部及び各地方整備局ごとに定められているが、この規程において電気工作物にかかわる工事の受注者は、工事に必要な資格を有する電気保安技術者を工事現場に置くように定めている。したがって、この電気保安技術者は、発注者が定めた電気主任技術者の業務を補佐する工事担当技術者(監督職員)の指示に従って電気工作物の保安業務を行う。
例として、「地方整備局営繕工事事業用電気工作物保安規程」の抜粋と電気保安体制図を図1.3.1に示す。
図1.3.1 電気保安体制図(国土交通省営繕工事の場合の例)
(b) 一般用電気工作物では、電気事業法の保安規程・主任技術者制度は適用されない。したがって、工事現場ごとに、監督職員と電気保安技術者により電気工作物の保安体制を確立し、電気工作物の工事、維持等の保安業務を行う。
地方整備局営繕工事事業用電気工作物保安規程
(工事の実施)
第11条 工事の実施における保安業務の執行は、次の各号に定めるものとする。
ー 請負者は、当該電気工作物に該当する資格を有する者又はそれと同等の知識及び経験を有すると認められる者を電気保安技術者として工事現場におくものとする。
二 工事担当技術者は、電気保安技術者を指揮するものとする。
三 工事担当技術者は、電気保安技術者に対し、電気工作物の保安上の支障のないことを確認するための自主検査を執行させるものとする。
四 工事担当技術者は、あらかじめ自主検査の要領を電気保安技術者に作成させ、提出を受けるものとする。
五 法第50条の2第1項に定める使用前自主検査は、主任技術者の監督の下に、工事担当技術者が指揮し、執行するものとする。
2 局長は、前項に関し必要な条文を当該工事請負契約に含めるものとする。
(エ) 事業用電気工作物とは、一般用電気工作物以外の危気工作物をいい、それに接続される電路、シャッター及び自動ドアの電動機等の工事も事業用電気工作物にかかわる工事に含まれる。
(オ) 一般用電気工作物とは、次に挙げる電気工作物をいう。ただし、火薬類取締法(昭和25年法律第149号)第2条第1項に規定する火薬類(煙火を除く。)を製造する事業場に設置するもの及び鉱山保安法施行規則(平成16年経済産業省令第96号)が適用される鉱山のうち、同令第1条第2項第八号に規定する石炭坑に設置するものを除く。
(a) 他の者から600V以下の電圧で受電するもの。
(b) 同一の構内に設置する600V以下の小出力発電設備の出力の合計が50kW未満のもの。ただし、小出力発電設備とは次の設備をいう。
① 太陽電池発電設備であって出力50kW未満のもの。
② 風力発電設備であって出力20kW未満のもの。
③ 水力発電設備であって出力20kW未満及び最大使用水量毎秒 1m3未満のもの(ダムを伴うものは除く。)。
④ 内燃力を原動機とする火力発電設備であって出力10kW未満のもの。
⑤ 燃料電池発電設備(固体高分子型又は固体酸化物型のものであって、燃料・改質系統設備の最高使用圧力が0.1MPa(液体燃料を通ずる部分にあっては、 1.0MPa)未満のものに限る。)であって出力10kW未満のもの。
1.3.4 工事用電力設備の保安責任者
(1) 工事用電力は、工事の進捗に伴って負荷設備が変わるため、工程と諸条件を把握して受電容量に応じた保安責任者により適切な保安管理を行う。受電容量1,000kW以上の場合は、専任となる。監督職員は受注者が定めた保安責任者について報告を受ける。
(2) 工事用電力の保安責任者となる電気主任技術者の適用範囲は、表1.3.2を参照する。
1.3.5 施工条件
(1) 建設工事は、工事ごとの条件によって工程及び工事費等に大きな影響がある。施工条件は契約条件であるので、設計図書に正確に明示するとともに、適正な施工の確保と建設業就労者の長時間労働の是正や週休2日の推進を図るために、必要な工期の確保が大切である。
建設産業における所定労働時間は、労働基準法第32条により、平成9年4月1日からは全ての事業場で週40時間労働制となっている。国土交通省は、主要公共発注機関に対して「建設産業における労働時間短縮推進要綱」を策定し、「建設産業における週所定労働時間40時間制の実施について」(平成9年3月25日建設省経労発第18号)を通知して主旨の徹底を図っている。さらに、「建設業働き方改革加速化プログラム」を平成30年3月20日に策定し、将来の担い手確保を図るなど、建設現場における週休2日制を推進している。
「標仕」1.3.5(1)では、建設業における週休2日制の定着を図る目的から、特に施工日及び施工時間についての規定を設けている。
施工日及び施工時間は、次による。
(ア) 「標仕」1.3.5(1)(ア) の休日に関する規定は、監督職員が現場での監督業務を行える状況の中で工事施工することが原則であることから、行政機関の休日に関する法律に定める行政機関の休日には工事を行わないことの原則を明文化したものである。
(イ) 設計図書に定められた施工日又は施工時間を変更する場合又は施工時間が定められていない場合で夜間に工事を施工する場合には、近隣住民や近接建物の勤務時間、施設管理の方法との調整が必要になることから、「標仕」1.3.5 (1)(イ) 及び(ウ) では、あらかじめ監督職員の承諾を受けることが規定されている。
(2) 「標仕」1.3.5 (2)で規定されているその他の施工条件については、次の(ア) 、(イ) のどちらに分類されるか、発注者ば受注者に対して十分説明する必要がある。
(ア) 施工中の影響等を考慮し、必要な契約条件として発注者が示し、受注者が必ず履行しなければならないもの。
(イ) 工事着手後でないと確定しない事項について発注者が考え方を示したもので、受注者の責任において異なる方法への変更が可能なもの。
(ア) は契約事項として受注者が必ず履行しなければならないものであるのに対して、(イ) は工事の着手後に決定されるもので、受注者の責任において契約条件で示されたものとは異なる方法とすることが可能なものも含まれている。したがって、監督職員は、発注当初に明示された施工条件がどちらに分類されるか、受注者に対して十分説明する必要がある。
なお、条件明示は発注者が適切に行うべきものであるが、当初の契約段階では全てを明確に示すことができない場合もあり、監督職員の調整業務が必要になる。
また、契約変更・設計変更も含めて条件を明確にするのは発注者の責務であり、監督職員としては、事前に現地や設計図書の調査を行い、発注者に対して条件明示するよう進言する必要があることを認識しておかなければならない。
(3) 適正化指針5 (4)では、次の状況が発生した場合は、発注者と受注者が対等な立場で協議を行い、設計図書の変更を行うこと、また、施工に必要な工期や工事費用が確保されるよう、適切に変更契約を締結することが規定されている。
(ア) 設計図書に示された施工条件と実際の工事現場の状態が一致しない場合
(イ) 設計図書に示されていない施工条件について予期することができない状態が生じた場合
(ウ) 災害の発生などやむを得ない事由が生じた場合
(エ) その他必要な場合
1.3.6 品質管理
(1) 設計図内で要求された品質を実現するため、品質計画に基づき、品質管理を行う。品質計画には、施工の目標とする品質、品質管理及び管理の体制等が具体的に記載されている(「標仕」1.2.2 (3)参照)。施工管理における確認、試験等は品質計画に基づき、適切な時期に行うよう指導する。
(2) 確認が必要な項目は、品質計画に基づき、試験・検査等の品質管理を行う。
(3) 品質管理の結果が管理値を外れるなど疑義が生じた場合には、監督職員と協議を行い、品質計画に従って適切な処理を施す。また、その原因を検討し、再発防止のための必要な処置をとる。
(4) 試験・検査等に必要な工事期間は、全体工期に適切に考慮する。
1.3.7 施工中の安全確保
(1) 建設産業は、天候や周辺条件等に大きく影響される個々の異なる現場条件の下で、施上の進捗に伴って多くの労働者の入替えがあるなど、安全性確保の面から特殊な業態を有するものであり、安全管理は最も重要な課題である。
(2) 建設工事の安全対策は安全設備等のハードな対策のほかに、本来の安全対策の基本である安全体制の確立とともに具体的な実施内容を定めて、改善を図るなどの自主的な対策を進めるような方向が求められている。
このことから、行政、発注者、総合工事業者、専門工事業者、経営者、現場技術者及び現場作業員がそれぞれの立場でそれぞれの役割と責任を踏まえて、安全対策に具体的に取り組むことが重要である。
(3) 安全のための技術基準
(ア) 建設工事の施工に伴う災害には、図1.3.2のように被害が工事関係者に限定されるものとしての労働災害と、被害が工事関係者以外にも及ぶものとしての公衆災害とがある。
図1.3.2 建設工事の施工に伴う災害
(イ) 「建設工事公衆災害防止対策要綱 建築工事等編」(令和元年9月2日 国土交通省告示496号)は、労働安全衛生法、建築基準法、騒音規制法、振動規制法等の諸法令により、個別に規制が行われているものを除き、「公衆災害」を防止するために必要な計画、設計及び施工の基準を示したものである。具体的な内容は、発注者及び施工者が建設工事の施工に当たって公衆災害を防止するうえで一般的に守るべき最小限の事項を定めたものであり、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「公共建築工事標準仕様書(建築工事編) 令和4年版」に巻末資料として掲載されている。
この要綱には、建築工事等編のほかに土木工事を対象とした土木工事編もある。
(ウ) 「建築工事安全施工技術指針」(平成7年5月25日 建設省営監発第13号、最終改正 平成27年1月20日 国営整第216号)は、建築工事(建築設備工事を含 む。)における現場内の事故・災害を防止し、施工の安全を確保することを目的として作成されたもので、平成27年の改正で異常気象(大雨、強風、大雪、雷等)、大地震及び大津波への対応として、最新の気象情報等の収集と安全施工に関する技術的方策を講ずることが追加されている。
指針の構成は、第I編 総則、第II編 一般・共通事項及び第Ⅲ編 各種工事となっており、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「公共建築工事標準仕様書(建築工事編) 令和4年版」に巻末資料として掲載されている。
(エ) 受注者等の工事現場における安全に関する管理体制
(a) 安全体制は、工事現場の安全衛生に関する管理を現場代理人が責任者となって関係法令等に従って行うことになっている。また、「労働安全衛生法」により受注者等は、災害防止協議会を設置するなどのほか、関係請負人の労働者の数が常時50人以上となる場合には、統括安全衛生責任者及び元方安全衛生管理者を選任し、下請業者には安全衛生費任者を選任させ、安全衛生管理体制を確立することになっている(第15条、第16条)(図1.3.3参照)。
図1.3.3 作業所における安全衛生管理体制の一例
(b) 緊急連絡体制は、工事関係者が一体となって安全施工するために工事関係機関との連絡体制及び専門工事業者間の連絡体制が確立されるよう整備していなければならない(図1.3.4及び図1.3.5参照)。
図1.3.4 緊急連絡体制の一例
図1.3.5 緊急時の業務分担の一例
図1.3.6 事故報告書の例
(c) 防火管理のための組織を確立し、火元責任者及び危険物取扱責任者を明確にしておくとともに防災訓練の実施をする(図1.3.7参照)。
図1.3.7 防火管理組織編成表の一例
火気使用時はもとより、作業で火花等が発生する場合は消火器等の配置、付近の可燃物の撤去、防炎シート等による火気使用箇所周辺の養生と火花の飛散防止措置及び作業終了後の残火確認を確実に実施する。
特に発泡プラスチック系の保温材(硬質ウレタンフォーム等)は、急激な燃焼と同時に多量の黒煙を発生し重大な事故を引き起こす危険があるため、周辺や下階への火花の飛散・落下がないように確実な対応を行う。
(4) 「標仕」1.3.7(2)の規定は、「労働安全衛生法」第30条第2項を受けたものであり、同項で、建築工事、設備工事等同一現場で2以上の受注者に工事を発注する場合、作業が同一の場所において行われることによって生じる労働災害を防止するための措置を講ずる特定元方事業者を、発注者が指名するとなっている。建築工事、設備工事等として分離発注される場合には、労働安全衛生規則第643条の規定により建築工事の受注者(建築工事の受注者が2以上あるときは、最初の受注者)を指名することになる。
(5) 「標仕」1.3.7 (6)では、工事施工に当たっての近隣等との折衝は受注者等が行い、その経過を記録して監督職員に報告すると定められている。
この場合で、地域住民と工事の施工上必要な折衝を行う場合は、あらかじめその概要を監督職員に報告するとしている。
また、工事に関して第三者から説明の要求や苦情があった場合は直ちに誠意をもって対応することと定めている。対応が遅れると感情的なトラブルとなる場合があるので注意する。対応を優先することを原則としているが、緊急を要しない場合は、状況を共有するためにあらかじめ要求や苦情の概要を監督職員に報告の上、対応を行うとしている。
1.3.8 交通安全管理
建設工事では、材料及び土砂等の搬送並びに仮設工事における一時的な道路の占有等により、現場周辺の交通にも影響を与える。交通障害や安全を損うことがないよう計画するとともに、所轄の警察署や道路管理者、地方公共団体等関係機関と打合せのうえ、交通安全管理を行うよう指導する。
なお、官公署その他への届出手続きは「標仕」1.1.3による。
1.3.9 災害等発生時の安全確保
災害及び事故等が発生した場合は、人命の安全確保を全てに優先させる。併せてニ次被害の発生を予防するための安全対策を確保する。
発生時の連絡体制は1.3.7(3)(エ)(b)による。事故等が発生した時は、受注者等から速報が監督職員に連絡されるように着工当初に体制づくりとその内容及び手続きについて十分に打合せを行うことが重要である。
また、監督職員は、電話連絡等により上司に事故の概要報告を行うとともに、受注者等と連絡を取り、二次災害の防止策の報告を受けたうえで、事故原因等を把握し、復旧方法等を検討する必要がある(図1.3.6参照)。これらの対策は速やかに実施されなければならない。
なお、国土交通省においては、「建設工事事故データベースシステム」を運用しており、直轄発注機関のほか、各都道府県政令指定都市、機構等が発注する公共工事で発生した一定規模以上の事故情報を収集して工事事故防止に向けた対策の検討・立案に利用している。また、このシステムの入力項目は、「発注者用」と「受注者用」の記載事項が設けられている。
1.3.10 施工中の環境保全等
(1) 安全管理や建設副産物の処理の適正化及び再利用と並んで、周辺環境の保全も建設産業にとって重要な課題である。現場施工時には、施工計画にのっとり責任者を明確にするとともに、明示した条件のもとに工事の指導に当たる。
なお、土壌汚染対策法(平成14年5月29日法律第53号、最終改正平成29年6月2日)により、一定規模以上の形質の変更時(法第3、4条)又は形質変更時要届出区域内において土地の形質の変更をしようとする者(法第12条)は、施行方法等の計画を都道府県知事に届け出るとされている。この届出等に基づき、都道府県知事が「汚染のおそれがある」と判断したとき又は有害物質使用特定施設の廃止時等には、指定機関による土壌汚染状況調査が必要になる場合(法第3~5条)があるので注意する。
(2) 爆発性、発火性、引火性のものや労働者に健康障害を生じさせるおそれのあるものの製造者は、人体への影響や取扱い上の注意点を容器への表示や安全データシート(SDS)の交付等により、提供先に通知することが労働安全衛生法等で定められている。作業所では、仕上げ塗材、塗料、シーリング材、接着剤その他の化学製品を取り扱う場合には、容器のラベルの確認やSDSの掲示又は備え付け等により、取扱い上の注意点等を作業者に伝達する(化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針 平成24年3月16日)。
容器への表示ラベルやSDSにおける記載内容は、JIS Z 7253「ラベル.作業場内の表示及びSDSによる情報伝達の内容及びその方法」に示されているので、これを参考として次に示す。
JIS Z 7253: 2019
5 ラベル、作業場内の表示及びSDSによる情報伝達の内容及びその方法
5.1 ラベル、作業場内の表示及びSDSによる情報伝達の内容
供給者は、産業用又は業務用に製造された化学品に関わる危険有害性情報を収集し、JIS Z 7252に従って分類を実施する。化学品をJIS Z 7252 に従って分類した結果.いずれかの危険有害性クラスのいずれかの危険有害性区分に該当する場合には、ラベル及び SDSを作成しまた作業場内の表示を行うことによって情報伝達を行う。また、この規格以外に特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律、労働安全衛生法、毒物及び劇物取締法等の国内法令に規定が記載されている場合は.この規格に優先する。
5.2 ラベルによる情報伝達方法
供給者は.産業用又は業務用に製造された化学品を供給するときは,容器又は包装に箇条6に規定するラベル要素などを印刷するか又はラベル要素などを印刷したラベルを貼付する。ただし、小さい容器等容器又は包装にラベル要素などの全てを印刷することが困難な場合、又はラベル要素などの全てを印刷したラベルを貼付することが困難な場合は、国内法令によって容器又は包装に印刷、若しくは印刷したラベルを貼付することが求められる事項以外のラベル要素などについてはこれらを印刷したタグを容器又は包装に結び付ける等によって表示してもよい(附属書F参照)。
なお、”ラベル要素”などはラベル要素に国内法令によって表示が求められる事項(例えば、消防法令によって表示が求められる”危険等級”など)を追加したものであり、具体的な内容は、次による。
ー 危険有害性を表す絵表示
一 注意喚起語
ー 危険有害性情報
ー 注意書き
ー 化学品の名称
ー 供給者を特定する情報
ー その他国内法令によって表示が求められる事項
5.3 作業場内の表示による情報伝達方法
5.3.1 一般
産業用又は業務用に製造された化学品の危険有害性に関する明確な情報の伝達が作業場内においても徹底しなければならない。また作業場で用いられる化学品の危険有害性に関する情報の内容について、化学品を取り扱う者が理解できるよう周知されなければならない。
受領者が作業環境に関する特定の指示書を作成する場合には、関連するSDSに記載された事項を考慮することが望ましい。
5.3.2 作業場の容器への表示
受領者は、作業場に供給された容器に貼付されたラベルを作業場内でもそのまま添付しておきラベルの情報を活用できるようにする。また作業場に供給された容器以外の作業場内で使用する容器にもラベルの情報を活用できるようにする。
5.3.3 作業場内の表示の代替手段
作業場の容器への表示は,通常5.3.2によって行うが容器にラベルを貼付することが困難である場合は,容器に入っている化学品に関し,危険有害性等の知見のあるものについてはその化学品のラベル要素などをラベル以外の方法で化学品を取り扱う者に伝えることによって代替することができる。この場合、作業場においてより適切で必要な情報が容器へのラベル貼付と同様に化学品を取り扱う者に有効に伝達されるようにする。また、容器の取違えを防止するため、容器に化学品の名称(略称、記号、番号などで代替することができる。)を表示する。化学品の名称の表示は、タンク名、配管名などを周知した上で,当該タンク、配管などの内容物を示すフロー図、作業手順書又は作業指示書によって、化学品を取り扱う者に化学品の名称を伝えることを含む。
容器にラベルを貼付することの代替手段の例を、次に示す。
ー 作業場にラベルに記載された情報を掲示する。
ー 作業場にラベルを一覧の形で備え付ける。この場合に、SDSを利用してもよい。
注記 容器にラベルを貼付することが困難である場合の例
ー 反応中の化学物質が入っているもの、内容物が短時間に入れ替わるものなどラベルと内容物との一致が困難なもの
ー 小さい容器、多くの成分を含んでいるもの
ー ラベルの貼付によって視認性及び作業性に支障が生じる場合
5.4 SDSによる情報伝達方法
産業用又は業務用に製造された化学品を5.1に従って分類し、危険有害性クラス及び危険有害性区分に該当する化学品を事業者に供給をするときは、受領者にSDSを提供することによって、危険有害性を通知する。ただし、受領者が承諾した場合は,電子媒体の交付、ファクシミリ(FAX)などの方法で提供してもよい。
混合物の場合は、JIS Z 7252で規定する混合物のGHS分類基準に基づき、危険有害性があると判断され、かつ、成分が健康及び環境の各危険有害性クラスに対するSDSを作成する濃度(表1参照)以上含有する場合は、情報伝達を行うことが望ましいが、表1に示す濃度より低い場合でも、GHS分類基準に基づき、危険有害性があると判断される場合には、SDSを提供することが望ましい。国内法令によって情報伝達が求められている場合は、この限りではない。
組成及び成分についての機密情報は、D.4を遵守すれば別の方法で提供してもよい。
また、供給者は、化学品について新たな知見が得られたときにはSDSを更新し、受領者に最新版を提供するのがよい。
さらに、同一の化学品を同一の受領者に反復して供給する場合は、受領者から請求された場合を除き、既にSDSの提供が行われている場合には、SDSの提供を省略してもよい。
表1- 健康及び環境の各危険有害性クラスに対するSDSを作成する濃度
JIS Z 7253: 2019
(3) 「標仕」1.3.10(3)では、工事期間中の作業環境の改善、工事現場の美化等に努めることが定められている。
参考までに、作業環境の改善、工事現場の美化等の実施内容の例を表1.3.4に示す。
表1.3.4 作業環境の改善、工事現場美化等の実施内容の例
1.3.11 発生材の処理等
(1) 建築物の解体作業や土工事等、建築物の生産過程において建設副産物の発生は避けられない。しかし、従来の生産手法を見直し、建設副産物の発生を抑制するとともに、発生した副産物を有効に活用し、資源の有効利用を図ることにより、地球環境に優しい建設生産システムの確立を行うことが重要であり国土交通省の建設リサイクル推進計画が策定されている。
建設行為は、物を造り出す生産行為ととらえることもできるが、地球資源の側面からみると、多種多様な資源を利用した消費行為でもある。大量な資源を消費するため、生産方式を見直し、資源の有効活用を図り、ひいては、地球環境の保全に努めなければならない。これらの目的を実現するために、個々の建設工事において推進すべき対策として、次のようなものが考えられる。
(ア) 建設副産物の発生抑制
使用材料の計画的な搬入や、こん包材を減らした材料の選定、規格材料を考慮した設計等、資源の有効利用を図るよう、きめ細かく配慮する。
(イ) リサイクル活動の推進
建設副産物のうち、当該工事において活用できるものについては、積極的に活用することが必要であるが、活用できない場合であっても、再資源化工場において処理・リサイクルが可能なように適切に分別し、搬出することによりリサイクルに努める。また、再生材(建設工事以外から発生したものを含む。)を積極的に活用することによって、資源循環の円滑化を図る。
(ウ) 建設副産物の処理の適正化
発生材の処理については、(3)に示す方法により、適正に処理する。
また、新築工事の設計においても、将来の建物解体時の建設副産物による影響を考慮し、材料を選定する必要がある。
(2) 「標仕」1.3.11(1)では、上記(ア) 建設副産物の発生抑制、(イ) リサイクル活動の推進、(ウ) 建設副産物の処理の適正化を個々の建設工事において推進するため、発生材の再利用、再資源化及び再生質源の積極的活用に努めることを受注者に求めている。設計図書に定められた以外に、発生材の再利用、再資源化及び再生資源の活用を行う提案がある場合は、積極的に監督職員と協議することを期待しており、必要に応じて設計図書の変更を行うことを明確にしている。
(3) 「標仕」1.3.11(2)は、発生材の処理についての規定であるが、その方法等について次に示す。
(ア) 建設副産物の種類とその具体例を図1.3.8に示す。
図1.3.8 建設副産物の種類と具体例
(イ) 発生材のうち、引渡しを要するものは特記されたものだけでよいことになっているが、事前に施設の管理官署と引き渡す品目及び引渡し時期等について協議しておく。
なお、引き渡す時は、必ず特記を確認し関係者が立会い、品目、数量等を調書と照合し、確認を行う。
(ウ) 特別管理産業廃棄物の種類及び処理方法は特記によるとされている。
特記により施設管理者に引き渡す場合は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(昭和45年法律第137号、最終改正平成29年6月16日。以下、この節では「廃棄物処理法」という。)に従い施設管理者が保管するとされている。
現在、PCB廃棄物は、「ポリ塩化ビフェニル廃業物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(平成13年法律第65号、最終改正平成28年5月2日)により、所有者に対して、保管及び処分の状況の届出のほか、処理施設での処理が義務付けられている。PCB廃棄物の処理施設としては、日本環境安全事業(株)(JESCO) の事業所が全国5箇所(北悔道、東京、他田、大阪、北九州)に整備され、適正処理が推進されている。
なお、PCB使用安定器を中心としたPCBに関する情報については、経済産業省及び環境省のホームページに掲載されているので参照するとよい。
(エ) 引渡しを要しないもののうち、廃棄物となるものについては、受注者(排出事業者)が廃業物処理法に基づき処理する。処理の方法としては次の二とおりがある。
なお、委託処理のフローは図1.3.9に示すとおりである。
(a) 自己処理・・・処理基準に基づき、受注者が自ら処理する。
(b) 委託処理・・・委託基準に従い、廃棄物処理業(収集運搬業・処分業)の許可を持つ業者に処理を委託する。
図1.3.9 廃業物処理のフロー
(オ) 産業廃棄物を委託処理する場合には、受注者等は、廃棄物の種類・性状等を十分に把握し、委託基準に従い、次の措置を講ずる。
(a) 委託する廃棄物の種類に応じた許可を有する収集運搬業者、処分業者と、それぞれ書面により処理委託契約を締結する。
(b) 処理委託契約書には、必要事項を記載するとともに、委託する処理業者の許可証等を添付する。
(c) 中間処理業者に委託する場合には、処理委託契約書に中間処理後の最終処分の場所を記載する。
(d) 処理の再委託は、原則禁止されている。ただし、真にやむを得ない場合には、受注者(排出事業者)の書面による承諾があれば再委託できるとされており、この場合、受注者はその承諾書を5年問保管しなければならない。
なお、e文書法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成16年12月1日 法律第149号)及び環境省の所管する法令に係る民聞事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律施行規則(平成17年3月29日 環境省令第9号)により、平成17年4月から産業廃業物処理委託契約にも電子契約が認められている。
また、平成23年4月より、受注者の処理責任を撤底するため、受注者に処理状況の確認の努力義務が課せられた。これに基づき、最終処分終了までの処理が適正に行われているかを確認するための必要な措置を講ずることが求められている。
(カ) 産業廃棄物管理票
(a) 処理委託した産業廃棄物を搬出する際には、受注者等は産業廃棄物管理票(以下、この項では「マニフェスト」という。)を交付し、廃棄物が適正に最終処分されたことを確認する。
(b) 受注者等は、マニフェストの交付から90日以内(特別管理産業廃棄物の場合は 60日以内)にD票が、180日以内にE票が返送されてこない場合には、廃棄物の処理状況を確認するとともに、都道府県知事等に報告しなければならない。
(c) 監督職員は、これらの処理が適正になされていることを受注者等が保管しているマニフェストにより確認する。
(d) マニフェストの流れを、図1.3.10に示す。
図1.3.10 マニフェストの流れ(収集運搬業者1社で中間処理業者に委託する場合)
なお、上記のマニフェストによる確認方法以外に、廃棄物処理法の規定による情報処理センター((公財)日本産業廃棄物処理振典センター)の運営する電子情報処理組織(JWNET)への登録(電子マニフェスト)を使用して確認する方法もある。工事完成検査資料として、マニフェストの写しの提出を求められた場合、電子マニフェスト使用時はJWNETが検収・発行するCD-ROMを提出する。
(キ) 発生材の処理に関しては、資源の有効利用、廃棄物の適正処理の観点から、「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」(平成12年5月31日 法律第104号、最終改正 令和3年5月19日。以下、この節では「建設リサイクル法」という。)により、コンクリート、コンクリート及び鉄から成る建設資材、木材及びアスファルト・コンクリートについては、その分別解体・再資源化が義務付けられている。また、「資源の有効な利用の促進に関する法律」(平成3年4月26日 法律第48号、最終改正 令和4年5月20日)により、発生土、再生砕石、再生アスファルト・コンクリートの積極的な利用に努めるとされている。
さらに、関係法令を踏まえ、具体的内容を示した指針として「建設副産物適正処理推進要綱」(平成5年1月12日 建設省経建発第3号、平成14年5月30日 改正)があり、建設発生土、建設廃棄物等の発生抑制・再利用推進、適正処理の確保のために、建設工事の発注者及び施工者に対して、管理体制の整備、遵守すべき計画、設計、施工等の基準が明らかにされている(国土交通省大臣官房官庁 営繕部監修「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和4年版」巻末資料参照)。
(ク) 建設リサイクル法は、特定の建設資材について、その分別解体等及び再資源化等を促進するための措置とともに解体工事業者の登録制度の実施を行うことにより、再生資源の十分な利用及び廃棄物の減量等を通じて、資源の有効な利用の確保及び廃棄物の適正な処理を図るとしている。特定建設資材廃業物(政令に規定されている特定建設資材が廃棄物となったもの)には、コンクリート塊、建設発生木材、アスファルト・コンクリート塊が規定されており、これらを用いた建築物等に係る解体工事又はこれらの資材を使った新築工事等の発注者は、都道府県知事に工事内容を届けるとともに、工事の受注者は、原則として分別解体及び分別解体に伴って生じた特定建設資材廃棄物を再資源化しなければならない。
(ケ) 再生砕石に混入する石綿(アスベスト)対策について、解体現場に対する対応として、国土交通省、厚生労働省及び環境省の三省合同で、解体工事及び廃棄物の処理に係る関係団体あてに、「再生砕石への石綿含有産業廃業物の混入防止等の徹底について(通知)」(平成22年9月9日 国総建第112号他)が出され、分別解体の徹底、廃棄物の適正処理を始めとする関係法令等の遵守、解体等の作業における労働者の石綿への暴露防止対策の徹底について周知された。その通知における留意事項を次に示す。
(a) 解体工事業を営む者は、建設リサイクル法に基づく特定建設資材廃棄物(コンクリート、コンクリート及び鉄からなる建設費材、木材、アスファルト・コンクリート)に、特定建設資材廃棄物の再資源化に支障を来す石綿含有産業廃棄物等の有害物質が付着・混入することがないよう、分別解体を徹底すること。
(b) 建設工事の元請業者等事業者は、廃棄物の処理を委託する場合には、廃業物処理法に基づく委託基準を遵守すること。また、石綿含有産業廃棄物が再生砕石等リサイクル製品に混入することがないよう、廃棄物処理法に基づく保管基準及び処理基準を遵守するとともに、下請負人に対してもその遵守を撒底させること。
(c) 産業廃業物処理業者は、廃業物の処理を行う場合には、石綿含有産業廃棄物が再生砕石等リサイクル製品に混入することがないよう、廃棄物処理法に基づく処理基準を遵守すること。
1.3.12 養 生
(1) 「標仕」1.3.12の規定は工事の施工済み部分についてのものである。建具工事におけるガラスの取付け完了時点、内装工事における塗床仕上げ完了時点、玄関・ 階段室等の施工中の通路となる部分の仕上げ完了時点等において、合板、紙、布等を用いて、他の材料の搬入並びに交通による汚損を防止するために行うものである。
例えば、玄関出入口の戸や玄関床仕上げの施工済み部分の養生をせずに他の作業を行った場合は、これらに対して汚損を与えるおそれがある。汚損を補修しても当初要求の品質及び出来ばえが得られない場合があるので注意する。
なお、工事の施工途中での各工事に必要な養生については、工種別の施工計画書の中で明確にし、これに従って実施することになる。
(2) 増築工事や同一敷地内での工事の場合は(1)のほかに、既存の施設等に汚損を与えないようにする。また、安全対策(人・交通)を目的とした養生のための設備の計画を十分検討して実施する。この場合に、養生のための設備について、設計図書で条件明示されることもある。
例えば、外部開口部及び外装面全体を組立パネル及びシートを用いて養生する場合等である。
1.3.13 後片付け
(1) 工事完成時点では建築物等の内外部について、後片付け及び清掃を行って引渡しをする。後片付けのための工事期間は、全体工期に適切に考慮する。
(2) 建物等の内部については、天井裏、二重壁、床下等の点検口を利用して工具類の置忘れ、使用材料及び足場材や脚立等の残置について、その有無を確認する。もしこれらのものがあった場合は撤去、片付けを行う。特に地下倉庫や二重床下、配管ピット内等の清掃を忘れやすいので注意する。
(3) 建物等の外部については、「標仕」2.4.1 (1)及び「標仕」3.2.4の規定に留意する。この場合に公道の側溝及び桝並びに隣地境界部分の片付け及び清掃に留意する。
また、市街地で外装の水洗いを行う場合は、洗浄水の飛散等に十分配慮して行う。
1.3.14 工事の保険
(1) 工事の保険は、契約書第57条において、「設計図書に定めるところにより火災保険、建設工事保険その他の保険に付さなければならない。」とされており、国土交通省では、現場説明内において、その保険の加入期間は、原則として、工事着工の時とし、その終期は工事完成期日後14日として契約するように指導している。これは契約書第32条において工事の検査及び引渡しが、完成通知を受けた日から14日」以内に行うように規定されているためである。
(2) 工事で利用される主な保険は、火災保険、建設工事保険、組立保険、労働災害保険、請負業者賠償責任保険等であり、それぞれ次に示す役割がある。
(ア) 火災保険
出来上がる建物の価値に応じて掛けられる保険で、工事目的物がその保険の対象となる。
(イ) 建設工事保険
請負契約額に応じて掛けられる保険で、工事目的物がその保険の対象となる。建築物を主として対象としている。
(ウ) 組立保険
請負契約額に応じて掛けられる保険で、工事目的物がその保険の対象となる。鉄骨組立、機械の設置等を主な対象としている。
(エ) 労働災害総合保険
労災保険には強制加入としているが、最近の補償金額は高額のため、労働者の災害に対してこの保険がある。
(オ) 請負業者賠償責任保険
第三者に対して起こした事故等では、(ア) から(エ) までの保険は対象とならない。また、元請業者でなく、下請業者が起こした事故の場合、一般的には元請業者の責任と見られ、当面は工事の元請業者が、直接的な補償に当たらなければならず、元請業者と下請業者の間の請求は後になることが多い。このため、元請業者はこの保険に加入していることが多い。
(カ) 労働者を使用する事業所が法律に基づき加入しなければならない労働者災害補償保険以外の、建設工事に関連する主な保険の名称とその特徴等を表1.3.5に示す。
表1.3.5 建設工事に関連する保険の名称とその特徴等