3章 土工事 2節 根切り及び埋戻し

第3章 土工事 


02節 根切り及び埋戻し

3.2.1 根切り

(a) 根切りの留意点
根切りに先立ち処置する必要のある事項は、おおむね次のとおりである。

(i) 地盤調査の結果による地層及び地下水の状況把握
(ii) 近接した建物等への影響の有無(2.2.1 (a)(iii)参照)
(iii) 地中埋設物(2.2.1(a)(ii)参照)で根切りに掛かるもの及び周辺にあるものの移設養生等の処置
(iv) 山留めの安全性の確認(建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事編)(平成5年1月12日建設省経建発第1号)では、根切り深さ1.5 mを超える場合には、原則として山留めを設けるとしている(同要綱第45参照)。)
(v) 機械掘削を行う場合の転倒、転落の防止
(vi) 構台を架設した場合の荷重、振動に対する安全性の確認

(b) 根切りの概要
(1) 根切りの種類
(i) 総掘り :地下室等がある場合に建物全面を掘る。
(ii) 布掘り :連続基礎等の場合に帯状に掘る。
(iii) つぼ掘り:独立基礎等の場合、角形又は丸形に掘る。

(2) 根切り深さ
根切り深さは、砂利地業等の突固めによるくい込み量〈突代、突べり〉(土質等により0 ~ 30mm位まで)を見込んだ深さとする。

(3) 根切り範囲の計画
根切り範囲を定めるには、山留め、コンクリート型枠の組立、取外し等の作業がある場合においても作業が十分できるよう、山留めと型枠組立材料との間に作業者が入れる間隔を見込んでおく。その間隔は、通常の場合は図3.2.1のように、布掘りでは基礎幅から300~600mm、総掘りの場合は 1m 程度とする。ただし、除去の必要のないラス型枠材料等による場合や、連続地中壁やソイルセメント壁による山留め壁を直接外型枠として使用する場合等ではこの限りではない。


(イ)布掘りの場合


(ロ)総掘りの場合(外型枠が必要な場合)


(ハ)総掘りの場合(外型枠がない場合)
図 3.2.1 根切り範囲

(4) 根切り工事の計画
根切り工事では、掘削と山留め支保エの架設がバランスよく、かつ、 タイミングよく行われることが非常に大切である(図3.2.2参照)。また、掘削の実施においては、山留めの設計条件を十分に確認し、設計条件に合致した方法により施工を行うとともに安全を確認して工事を実施する必要がある。


(イ) バランスのとれた掘削方法


(ロ) バランスがくずれやすい掘削方法
図3.2.2 掘削方法

(5) 根切り底の施工
根切り底は、水平にしなければならないのは当然のことであるが、機械掘削をする場合には所定の深さより深く掘り過ぎないこと及び地盤面を乱さない(荒らさない)ことに注意する必要がある。深く掘り過ぎたり、乱したりした場合は、砂地盤の場合には、ローラー等による転圧や締固めによって自然地盤と同程度の強度にする。シルトや粘性土等の場合には、自然地盤以上の強度をもつ状態に戻すということは非常に困難なので、砂質土と置換して締め固め、自然地盤と同程度の強度にする処置が必要となる。また、砂質土による置換では強度の回復が困難と判断される場合は、セメント、石灰等の改良材を用いて地盤の改良を行う方法もあるので、地盤強度の確保の方法等について設計担当者と打ち合わせる。

一般的なバケットを用いた機械掘削では、通常床付け面より300~500mmの位置より手掘りとするか、バケットに平板状の特殊なアタッチメント(鋼板等)を取り付けたもので、根切り底が乱されるおそれのないものとして、機械を後退させながら施工する(図 3.2.3参照)。杭間ざらいでは、杭体に損慟を与えることや地盤の乱れを生じることのないよう、小型の機械に変更するなどし、十分に注意して施工を行う。

また、地下水処理が十分でない場合、根切り底が乱されるため、地下水の処理は十分に行う。


図 3.2.3 機械掘削の例

(6) 根切り底の検査
根切り底は、レベルチェック及び地盤状態の検査をしたのちに、捨コンクリートや基礎スラプの施工にかからなければならない。レベルチェックは、レベルを用いたり、遣方に水糸を張りスケールを用いるなどして行う。測定部分の大きさにもよるが、つぼ掘りは周囲4点と中央1点、布掘りは2 ~ 3 mごとに1点、総掘りは 4mごとに1点程度を目安として実施することが望ましい。地盤の状態(根切り底の乱れ及び地層の種類・強さ等)に関する検査は、通常、床付け地盤が設計図書、地盤調査報告書に示された地層、地盤に合致していることを土質試料等を参考に目視によって確認するが、その確認が難しい場合には「標仕」1.1.8の規定に基づき土質試験や原位置試験等の適切な試験によって確認する。

参考として地盤の状態の簡易判別法を示す(表 3.2.1 参照)。

表 3.2.1 地盤の状態の簡易判別法( JASS 3(一部修正)より)

(c) 掘削深さと法面の勾配

(1) 法面の勾配
法付けオープンカット工法により掘削を実施する場合、法面の勾配は、土の安息角や粘着力により決まるが、特に粘着力は土の含水量によっても変化する。切土における法面勾配の目安として表 3.2.2 が示されている。法面の勾配は、規模が大きくなれば安定計算によって安全を確かめて決定する。また、法面及び法尻は安定勾配以下であっても、降雨・乾燥のくり返しにより崩れやすくなるので、存置期間中に異常を生じないように、排水・養生を行う。地下水位が浅い場合は、排水溝、集水桝等による地下水処理を行う(図 3.2.4参照)。


(イ)ウェルポイントによる地下水位の低下


(ロ)法面の崩壊防止


(ハ)砂粒子の流出防止


(ニ)法面の養生
図 3.2.4 法面の排水、養生の例( JASS 3より)

表3.2.2 切土に対する標準法面勾配(山留め設計施工指針より)

(2) 手掘り掘削時の規定
手掘りとする場合は、労慟安全衛生規則に勾配と高さが定められているので、これらを基に安全性を確保しながら掘削する(表 3.2.3参照)。

表3.2.3 手掘りによる掘削作業での掘削面の勾配の基準(労例安全衛生規則)

(d) 寒冷期における施工時の注意

(1) 施工上の留意点
寒冷地の冬期施工に当たって、特に注意をしなければならないものに凍結現象がある。凍結した土は強度的にみて良質な地盤と間違えやすいが、氷が溶けると体積が減少し、沈下現象に結びつく。したがって、凍結させないような施工管理が必要である。

(2) 凍結時の対策
床付け地盤が凍結した場合、この土は乱された土と同様に扱い、良質土と置換するなどの処置を行う。

(e) 土工事用機械
土工事に用いられる主な使用機械を、表 3.2.4に示す。また、根切り用の掘削機械の種類を図 3.2.5に示す。

施工に用いる機械については、近接住民の生活環境の保全の必要性のある場合について、昭和51年に「建設工事に伴う騒音振動対策技術指針」(昭和62年全面改正)が定められているので、これによって施工する。

表 3.2.4 土工事作業と主な使用機械

図 3.2.5 根切り用掘削機械の種類

3.2.2 排 水

(a) 地下水処理工法の概要

地下水処理工法には、大別して排水工法、止水工法、リチャージ工法があり、図 3.2.6 に示すようにそれぞれ多くの種類がある。工法の選定に当たっては、必要とする揚水量・排水を行う地下水の深度等の目的に対する適合性・施工性・工期・コストのほか、揚水による地下水位低下に伴う井戸枯れや地盤沈下等の周辺への影響を考慮しなくてはならない。多くの場合、止水工法は山留め工法に直接かかわるため地下水処理工法と山留め工法は同時に検討すべきである。

また、最近では周辺の井戸枯れや地盤沈下防止等を目的にリチャージ工法を採用することもある。


図 3.2.6 地下水処理上法の種類(山留め設計施工指針より)

(b) 排水工法
排水工法は、地下水の揚水によって水位を掘削工事に必要な位置まで低下させる工法で、地下水位の低下量は揚水量や地盤の透水性等によって決まり、通常、透水係数が 10-4cm/s程度より大きい地盤(帯水層)に適用される。

土粒子の径と排水工法の適用範囲を図 3.2.7に示す。

図 3.2.7 土粒子の径と排水工法の適用範囲(根切り工事と地下水より)

この排水工法を集水原理で分ければ、ウェル等の排水設備に流入する水を揚水する重力排水工法と、負圧等を利用して強制的に水を流入させ排水する強制排水工法とがある。現在よく用いられる工法は、釜場工法、ディープウェル工法、ウェルポイント工法及びバキュームディープウェル工法であり、工法は排水の実施位置及び必要とする揚水量等を考慮し決定する。

(c) 各種排水工法の特徴と注意点は次のとおりである。
(1) 釜場工法
根切り部へ浸透・流水してきた水を、釜場と称する根切り底面よりやや深い集水場所に集め、ポンプで排水する最も単純で容易な工法である(図 3.2.8参照)。釜場は、根切りの進行に合わせて下げるとよい。

また、この工法の注意点は次のとおりである。

① 湧水に対して安定性の低い地盤への適用は、ボイリングを発生させ地盤を緩めることにつながるので好ましくない。

② 主として、雨水を処理する場合は、根切り底に排水溝(明きょ)を設けるなどして雨水を集水桝に集めてポンプで排出する。この場合、集水桝は 図 3.2.9 のように基礎に影響を与えない場所に設ける。

③ べた基礎のように上部構造の応力を地盤に伝えるために設けた基礎スラプ下の地盤は、その影評範囲を地下水で乱してはならない。床付け地盤面に地下水が流入する場合には適当な排水処置をとり、地下水により基礎スラプ下の床付け地盤の支持力が低下しないようにしなければならない。

④ 釜場にはフィルターを設け、地盤中の砂分を揚げないようにしなければならない。


図 3.2.8 釜場工法


図 3.2.9 集水枡の位置

(2) ディープウェル工法
根切り部内あるいは外部に径500~1,000mmで帯水層中に削孔し、径300~600 mmのスクリーン付き井戸管を設置してウェルとし、水中ポンプあるいは水中モーターポンプで帯水層の地下水を排水する工法である(図 3.2.10 参照)。砂層や砂礫層等、透水性のよい地盤の水位を低下させるのに用いられる。この工法は、ウェル1本当たりの揚水量が多く、また、深い帯水層の地下水位を大きく低下させることが可能であるなどの特徴があるが、(4)のウェルポイント工法等に比べて設置費用が多額である。したがって、必要排水量が非常に多い場合、対象帯水層が深い場合、帯水層が砂礫層であるなどによりウェルポイント工法では処理できない場合、ウェルポイントの設置によってだめ工事(手直し工事)が多くなる場合等に採用すると有効である。

また、ディープウェル工法による揚水は、周辺地下水位も大きく低下させることが多く.周辺の井戸枯れや地盤沈下等を生じるおそれがあるので、採用に当たってはこの点を考慮しなくてはならない。


図 3.2.10 ディープウェル工法

(3) 明きょ・暗きょ工法
明きょ工法は排水溝により集水し、暗きょ工法は地中に設置した暗きょにより集水し、排水する方法をいう。

(4) ウェルポイント工法
根切り部に沿ってウェルポイントという小さなウェルを多数設置し、真空吸引して揚排水する工法であり( 図 3.2.11参照)、透水性の高い粗砂層から低いシル卜質細砂層程度の地盤に適用される。可能水位低下深さはヘッダーパイプより4~6m程度である。1本当たりの揚水量は土質によって異なるが、通常10~20ℓ/min程度、場合によっては50ℓ/minになることもある。

また、この工法の注意点は次のとおりである。

① 地下水位低下により、周囲地盤が多少とも沈下するため、計画時にその影響を調査・検討する。

② 地下水をくみ上げるため、周囲の井戸水等の水位低下や井戸枯れを生じることもあるので事前に調査する必要がある。

③ ポンプが故障した場合、水位の上昇により山留め崩壊等の大事故になるおそれがあるので、予備ポンプの設置が必要である。

④ 排水により、根切り底・法面・掘削面に異常が起こらないように排水処理を確実に行う。

⑤ ウェルポイントの排水を停止する場合は、地下水位の上昇により、建物、地中埋設物等の浮上がりによる破壊、損傷等を起こさないように、排水停止時期について十分に検討する。

⑥ 気密保持が重要であり、パイプの接続箇所で漏気が発生しないようにする。


図 3.2.11 ウェルポイント工法

(5) バキュームディープウェル工法
ディープウェルに真空ポンプを組み合わせた排水工法で、帯水層の透水性が低い場合やディープウェルの設置方法が悪いため、水位低下しにくい場合に採用することが多い。ウェル内を負圧にして地下水を吸引するため、ウェルの気密性を保つ必要がある。

(d) 止水工法
止水工法は、図 3.2.12 に示すように、根切り部周囲に止水性の高い壁体等を構築し根切り部への地下水の流入を遮断する工法で、大別すると地盤固結工法・止水壁工法及び圧気工法がある。

盤ぶくれ防止のために被圧帯水層を遮断したり、山留め背面地盤に砂質土層があってこれを止水する必要のある場合や、地下水の低下によって周辺の井戸枯れや地盤沈下、あるいは地下水塩水化等が問題になり排水工法が適用できない場合等に、止水工法が採用される。更に、下水道・水路等の放流場所がない場合や、放流場所の可能放流(排水)量が小さく排水工法が採用できない場合、下水道料金や排水工法の設備設置費のために止水工法を採用した方が低コストで済む場合等にも採用される。また、現場条件やコスト等から止水工法と排水工法を併用する場合もある。

止水工法としてよく用いられるのは、止水壁工法と地盤固結工法であり、工法選定の際の主な注意点は次のとおりである。

① 止水壁は山留め堅としても用いることが大部分であり、設計の際はこの点を考慮しなくてはならない。

② 工法によって施工深度や適用地盤等が異なり、また、敷地条件によって採用できない場合がある。

③ 一般には仮設であるが、止水矢板工法を除き撤去できない。


図 3.2.12 止水工法による地下水処理

(e)リチャージ工法
リチャージ工法は復水工法ともいい、ディープウェル等と同様の構造のリチャージウェル(復水井)を設置して、そこに排水(揚水)した水を入れ、同一のあるいは別の帯水層にリチャージする工法である(図 3.2.13参照)。この工法は、周辺の井戸枯れや地盤沈下等を生じるおそれがある場合の対策として有効な工法である。

本工法の注意点を次に示す。

① 同一帯水層にリチャージする場合、排水工法だけを採用する場合に比べて必要排水(揚水)量が増加するので、ディープウェル等の排水設備も増える。その程度はリチャージウェルが揚水井に近いほど多くなる。したがって、リチャージウェルは揚水井とできるだけ離す方が効果的である。

② 山留め壁の根入れ以浅の帯水層けリチャージする場合、山留め壁への側圧(水圧)が増加するので検討が必要となる。

③ リチャージ量は、水中の鉄分、細粒分のほか、バクテリア等によって目詰りし、次第に減少する。したがって、必要に応じてリチャージウェルの洗浄が必要である。


図 3.2.13 リチャージ工法の例(根切り工事と地下水より)

3.2.3 埋戻し及び盛土

(a) 埋戻しに当たっては、埋戻しが不十分な場合沈下が生じ、建物周辺の外構や埋設管等に影響を及ぼす可能性がある。

施工に当たっては、埋戻し材料の選定と締固め管理が重要となる。

(b) 埋戻し部の型枠材等の撤去
埋戻しに先立ち、埋戻し部の型枠材等を撤去したのち、埋戻し作業を実施する。これは、型枠材を存置すると腐食により地盤の沈下を生ずる場合があるためである。なお、腐食に伴う沈下の発生のおそれのない型枠材としてはラス型枠材料等があり、これを使用した場合には撤去の必要はない。

(c) 材料及び工法等
(1) 埋戻し及び盛土の種別等
「標仕」では、埋戻し及び盛土の種別を、土の種類とそれに適した工法の組合せとして「標仕」表 3.2.1のように区分し、その種別を特記することとしている。
このうちA種は、山砂で一般的には水締めのきく砂質土を想定している((3)参照)。

また、B種は、当該現場で発生した根切り土の中で、有機物、コンクリート塊等を含まない良質土を想定しているが、このような良質の発生土が埋戻し等に必要な量として不足する場合は、設計担当者と打ち合わせ、必要に応じて「標仕」 1.1.8による協議を行う。

C及びD種については、建設発生材の有効活用が社会的命題であり、積極的に使用することが望ましい。

国土交通省では、建設工事に伴い副次的に発生する建設汚泥の処理に当たって、基本方針、具体的実施手順等を示すことにより、建設汚泥の再生利川を促進し、最終処分場への搬出量の削減、不適正処理の防止を図る目的から、「建設汚泥の再生利用に関するガイドライン」(平成18年6月12日)を作成した。

このガイドラインは、国土交通省所管の直轄事業に適用するとともに、その他の事業においてもガイドラインに準拠して建設汚泥を取り扱うことを期待しているものであるが、環境基本法に基づく土壌汚染対策法に定める特定有害物質の含有量基準に適合しない建設汚泥は対象外としている。

なお、上記以外として「標仕」には規定されていないが、最近では、建設発生土に水や泥水を加えて泥状化したものに固化材を加えて混練した流動化処理土が用いられる場合がある( JASS 4参照)。

(2) 埋戻し土の性状
埋戻し土には腐食土や粘性土の含有量が少なく、透水性の良い砂質土を用いるのがよい。また、均等係数が大きいものを選ぶ。均等係数の算定は土の粒度試験結果の片対数用紙の対数目盛に粒径を、算術目盛に通過質量百分率をとって、図 3.2.14のような粒径加積曲線として描く。そしてその性質を定量的に示す係数として、均等係数 Ucと曲率係数 U’c を次式から求める。


図 3.2.14 粒径加積曲線

(3) 埋戻し及び盛土材料の粒度組成
山砂、川砂及び海砂の粒度組成の一般的な比較は表 3.2.5のようになり、埋戻し土には山砂が最も適している。これは埋戻し土としては、分離作用を強く受けて均一粒子となっている砂(海砂等)よりも砂に適度の礫やシルトが混入された方が大きい締固め密度が得られるからである。
また、使用する埋戻し土については、必要に応じて粒度試験等を実施するのが望ましい。表 3.2.6 に埋戻しに適した材料の粒度と性質を示す。

表 3.2.5 山砂、川砂及び海砂の一般的な粒度特性

表 3.2.6 埋戻しに適する材料の粒度と性質( 山留め設計施工指針より)

(4) 土質と締固め方法
締固めは、川砂及び透水性のよい山砂の類の場合は水締めとし、透水性の悪い山砂の類及び粘土質の場合はまき出し厚さ約300mm程度ごとにローラー、ランマー等で締め固めながら埋め戻すのが原則である。埋戻し時には、建物躯体のコンクリートが締固めを行うのに必要な強度を発現していることを確認する。建築物周囲の深い根切りの部分は、機械で締め固めるのは困難なことが多いので、整地後の地盤沈下を防止するには、川砂又は透水性のよい山砂の類を使用し、水締めをする必要がある。設計屈瞥の指定が適当でないと思われる場合は、設計担当者と打合せを行い決定する。

(5) 土の含水と締固め
土は、ある適当な含水比のとき最もよく締め固まり、締固め密度を最大にすることができる。このような含水比を最適含水比という。

(6) 寒冷期の施工時の注意
凍結土を埋戻し、盛土や地均しの材料として使用すると、凍結土が浴けた際に、地表面に凹凸・舗装面や犬走りにひび割れ等が発生しやすくなるので、使用してはならない。

(d) 余盛り
埋戻し及び盛土には、土質による沈み代を見込んで余盛りを行う。余盛りの適切 な標準値はなく、表 3.2.7 は一つの参考値であるが、これにより推定することは容易でない。通常の埋戻し( 地下2階で幅 1m程度 )において、砂を用い十分な水締めを行う場合 50~100mm、粘性土を用い十分な締固めを行う場合、100~150mm程度が余盛りの目安と考えられるが、重要な盛土では、試験により余盛りを決めるのがよい。

表 3.2.7 余盛りの参考値

3.2.4 地 均 し

地均しは、均しを行う地表面の不陸を修正し、草木の除去及び清掃をして、一様にかき均したのち、仕上げ面を一様になじみ起こしをして、良質土をまきかけ、歩行に耐えうる程度に締め固める。ここで、地表面は施工時に工事車両の走行や作業通路として締め固められており、地均し面の不陸の発生要因となるため、なじみ起こしは確実に実施する。また、寒冷期の施工に当たっては、凍結土を使用しないようにする。

3.2.5 建設発生土の処理

(a) 建設発生土処理についての注意事項
建設発生土を搬出する際、工事用車両の作業所出入口には、標識・点滅灯等を設置し、第三者に工事用車両の出入りを明示するほか、車両誘導員を配置して人身事故の防止及び作業所周辺道路に交通渋滞を生じさせないよう努力する必要がある。

また、建設発生土の運搬に当たっては過積載防止に努めるとともに、運搬中に土砂がこぼれ落ちないようにシート等を掛けて養生する。タイヤに付着した泥土は作業所内で洗浄し、通行する逍路を汚損しないようにする。

なお、平成14年に制定された土穣汚染対策法により、「その土地が特定有害物質によって汚染されており、当該土地の形質の変更をしようとするときの届出をしなければばらない区域」として都道府県知事が指定した区域内で土工事等を行う場合は、施行方法等の計画を事前に知事に届け出ることとされているので注意する (1.3.11 (a)参照)。

(b) 建設発生土処理に関する法規
建設発生土の運搬は、「土砂等を運搬する大型自動車による交通事故の防止等に関する特別措置法」に基づき、地方運輸局長から表示番号の指定を受けたトラックとする必要がある。また、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」並びに各地方公共団体による規制・指導に基づき建設発生土処理計画を作成し、これに従って適切に処理する。

なお、これらのほかに、(一財)土木研究センターの「建設発生土利用技術マニュアル」等が参考となる。

(c) 建設発生土の再利用
国土交通省が推進している「建設発生土情報交換システム」により、近隣地域での建設発生土や購入希望土等の情報がデータベース化されている。これを活用することにより、建設発生土の再利用を図ることが望ましい。
また、建設発生土の再利用については、平成3年建設省令第19号に技術基準が示されている。その抜粋を次に示す。

建設業に属する事業を行う者の再生資源の利用に関する判断の基準となるべき事項を定める省令
(平成3年10月25日 建設省令第19号 最終改正 平成13年3月29日)
(建設発生土の利用)
第4条
建設工事事業者は、建設発生土を利用する場合において、別表第1の上欄に掲げる区分に応じ、主として下欄に掲げる用途に利用するものとする。
2 前項の場合において、建設工事事業者は、建設発生土の品質等に関する技術的知見に基づき、建設工事の施工又は完成後の工作物(建築物を含む。以下同じ。)の機能に支障が生じないよう、適切な施工を行うものとする。
3 建設工事事業者は、建設発生土の利用に当たって、あらかじめ建設発生土の発生又は利用に係る必要な情報の収集又は提供に努めるものとする。

3章 土工事 3節 山留め

第3章 土工事 


3節 山留め

3.3.1 山留めの設置

(a) 山留めの計画及び施工
(1) 山留めの概要
山留めは、地下構造物、埋設物等の施工中、掘削の側面を保護して周囲地盤の崩壊や土砂の流出を防止するためのもので、敷地に余裕のある場合、あるいは掘削が簡易な場合は、掘削部周辺に安定した斜面を残し、山留め壁等を設けない工法(図3.3.1 法付けオープンカット工法)とするのが一般的である。建築現場の周囲の状況、掘削の規模、地盤の状態等により、前記工法ができない場合は、山留め壁又は支保工による山留めを設置する。

山留めにかかる荷重としては、土圧、水圧、載荷荷重等があるが、それらを仮定するには、土質、地下水位、周辺の建築物や地盤上の荷重、周辺の状況等により異なり、種々の計算方法がある。


図3.3.1 法付けオープンカット工法〈索掘り、空掘り〉

(2) 山留めの種類
(i) 山留め工法の分類
山留めの種類には自立式,切張り式地盤アンカー式等種々のものがある。山留め工法の種類と特徴を表3.3.1に示す。

表3.3.1 山留め工法の種類と特徴(その1)(山留め設計施工指針 JASS 3(一部修正)より)

表3.3.1 山留め工法の種類と特徴(その2)(山留め設計施工指針・JASS 3(一部修正)より)

(ii) 山留め壁の種類
建築工事で用いられる山留め壁は、図3.3.2に示すように多くの種類がある。適切な工法を選択するためには地盤条件、掘削の規模、山留め壁に要求される剛性・止水性、振動・騒音等の公害、工期・工費等を総合的に検討する必要がある。これらの条件と山留め壁の選定基準の目安を表3.3.2に示す。山留め壁の種類と特徴をまとめたものを表3.3.3に示す。


図3.3.2 建築工事で多用される山留め壁の種類(山留め設計施工指針より)

表3.3.2 与条件に対する山留め壁選定基準の目安(山留め設計施工指針より)

表3.3.3 山留め壁の種類と特徴(山留め設計施工指針より)

従来、山留め壁としては、親杭横矢板壁、鋼矢板壁くシートパイル>等の打込み式によるものが一般的であった。しかし、近年では、振動・騒音、周辺地盤の沈下等の山留め壁の施工に伴う公害の防止や、掘削工事に伴う周辺地盤・構造物等への影響を防止するため、公害が少なく、また、比較的山留め壁の剛性・止水性に優れたソイルセメント柱列壁等が多く用いられるようになった。

ソイルセメント柱列壁工法は、注入液として用いるセメント系注入液を原位置土と混合・かくはんし、オーバーラップ施工した掘削孔にH形鋼等の心材を適切な間隔で挿入することにより柱列状に設置した山留め壁である。

なお、心材は、山留め壁の設計条件に応じ挿入間隔を決定する。

オーガーの形状や軸数は種々あるが、軸数が多ければ遮水性能の確保が有利であり、施工効率も上げられるなどの特徴もある。

心材としては、H形鋼・I 形鋼・鋼管等が用いられる。ソイルセメント柱列壁では通常450~550mm径のものが多く用いられる。また、大深度の掘削工事においては、1m程度の径を有するものが用いられることもある。ソイルセメント柱列壁の特徴を次に示す。

1) 騒音・振動が少ない。
2) かくはん翼のラップ施工により構築されるので、止水性が高い。
3) 泥水処理が不要で、排出泥土も他のRC山留め壁に比べて少ない。
4) 注入液の調合については、固化強度のばらつきが大きく、混合試験による事前検討が必要である。圧縮強度は、一般的に粗粒土になるほど大きいが、粒度分布・コンシステンシー・有機物含有量等により影響されるので十分注意する必要がある。
5) 掘削に伴う周辺地盤の緩みが少ないため、近接構造物に与える影響が少ない。

(iii) 山留め支保工の種類
山留め支保工は、掘削時に山留め壁に作用する土圧・水圧を安全に支えるとともに、山留め壁の変形をできるだけ小さくして周辺地盤並びに構造物に有害な影響を及ぼさないことを目的として架設する。したがって、山留め支保工の選定に当たっては、土圧・水圧の大きさのみならず、山留め壁との適切な組合せや、施工条件等を十分考慮しなくてはならない。通常の掘削工事において用いられる山留め支保工の種類を図 3.3.3に示す。また、これらの特徴を表 3.3.4に示す。


図 3.3.3 山留め支保工の種類と分類

表 3.3.4 山留め支保工の種類と特徴(山留め設計施工指針(一部修正)より)

① 鋼製支保工
鋼製支保工は、山留め壁に作用する土圧・水圧を鋼製腹起し、切張りの水平材で支える工法であり、市街地の掘削工事では最も実施例が多く信頼性が高いオーソドックスな方法である。現在ではほとんどリース材で施工されており、また、どの種類の山留め壁とも組合せが可能で、適用範囲が広い(図 3.3.4参照)。


図 3.3.4 鋼製支保工による山留め架構(山留め設計施工指針(一部修正)より)

② 地盤アンカー
地盤アンカー工法は、切張り工法では安全性に問題があるような不整形な掘削平面の場合、敷地の高低差が大きくて偏土圧が作用する場合、掘削面積が大きい場合、山留め変形を極力少なく抑えたい場合等には有効である。

地盤アンカー工法は、一般に切張りで支えている土圧や水圧を、山留め壁背面の地盤中に設けた地盤アンカーで支える工法である(図 3.3.5参照)。アンカーとなるPC鋼材を背面土にどのように定着させるかによって、工法が異なってくる。図 3.3.6に親杭横矢板工法の場合の地盤アンカー用腹起しの例を示す。


図 3.3.5 地盤アンカー工法の使用例(建築地盤アンカー設計施工指針・同解説より)


図 3.3.6 地盤アンカー用腹起し例(建築地盤アンカー設計施工指針・同解説より)

地盤アンカー工法の特徴と注意点等を次に示す。

1) 切張りがないため大型機械を使用することができ、施工効率が上がる。

2) 傾斜地等で片側土圧(偏土圧)となる場合の処理が容易である。

3) アンカーの設置に使用する機械は、地質調査に使用される程度の小型機であり、作業スペースが狭い所でも施工できる。

4) 山留め壁の背面地盤が軟らかい粘性土地盤の場合は、耐力があまり期待できず、定着長さが長くなり施工上の問題が発生しやすくなるので注意する。

5) 地中埋設物に十分注意して施工する必要がある。

6) 山留め壁は敷地境界近くに設置される場合が多いため、敷地から外にアンカ一部分がでる場合もある。この場合は、事前に隣地管理者等関係者の了解が必要となるので注意する。

7) 地盤アンカーの引抜き耐力は、全数について設計アンカーカの1.1倍以上であることを確認する(一般に山留め様にはプレストレスを導入する場合が多いので、この時点で耐力の確認が行われている)。

8) 山留め壁には鉛直力が作用するので、山留め壁は十分な鉛直支持性能を有する地盤に支持させる必要がある。

(iv) 薬液注入工法
薬液注入工法は、地盤の止水性又は強度増大を目的として、建築の山留め工事では主に補助工法として用いられる。小型のボーリングマシンで施工可能なため、施工場所の制約や地中障害物との干渉等の理由により止水壁の施工が困難な部分や、止水壁欠捐部の補修等に適用されている。薬液注入工法を用いる場合は、薬液による水質汚染のおそれがあるので注意しなくてはならない。また、山留め壁には注入圧が作用し、山留め壁が変位することもあるので注意する。

なお、薬液注入工法については、「薬液注入工法による建設工事の施工に関する暫定指針について」(昭和49年7月10日 建設省官技発第160号)、「薬液注入工法の管理について」(昭和52年4月21日 建設省官技発第157号)、「薬液注入工事に係る施工管理について」(平成2年4月24日 建設省技調発第110号の1)及び「薬液注入工事に係る施工管理等について」(平成2年9月18日 建設省技調発第188号の1)が定められているので、これに基づき施工及び管理を行うようにする。

(3) 山留め支保工(切張り式)の架設
山留め支保工の架設に当たっては、次の点に留意し施工を行うようにする。

① 支保工の架設は、施工図に基づき確実に行う。架設材の安全率は低くとってあるので、施工に当たっては組立順序、工法等に十分注意する。

② 支保工の架設、法面養生作業と掘削速度は,均衡を図りながら作業を進める。

③ 1段目の支保工架設前は、山留め壁の倒れに注意する。

④ 2段目の支保工を架けたら、1段目の腹起しと山留め壁の間に隙間ができていないか点検し、隙間があれば、くさび〈キャンバー〉をかうなどして外力が切張りに均等に加わるようにする。

⑤ 根切り面積の広いところでは、切張りが座屈しないよう水平精度に留意し、中間を適当な間隔の支柱で安全に支持する。

⑥ 支保工にできるだけ衝撃を与えないように工事を進める。特に、横からの衝撃は、座屈の原因となるので注意する。

⑦切張り、腹起しの曲がり、ねじれ、接合部及び交差部のUボルト、当て板溶接等による緊結状態に十分注意する。

⑧ 地下水の湧水量の増減に常時注意し、工事に支障のある場合は、関係者と協議し、工事の安全及び進捗を図る。

⑨ 山留め及び支保工は、常時巡回点検し、異状の発見に努める(3.3.2 (b)参照)。また、異常が発見された場合は、速やかに対策をとるとともに、関係者と協議する。

⑩ 切張りにプレロード(事前に側圧に対抗する力を切張りに導入しておくこと。図 3.3.7 ~9 参照)を導入する場合は、地盤条件、荷重条件、山留め設計図書及び山留め壁の応カ・変形、切張り軸力の計測結果等を総合的に検討し適切なプレロード量を設定する。また、プレロードの導入に際しては、切張り材の日射等による温度変化から生じる温度応力についても事前に検討し、切張り耐力の安全性を確認しておくことが望ましい。

次に、プレロードの加圧時には、軸力が平面的に均等に加わるように注意し、山留め壁の応カ・変形、切張り軸力等を計測するとともに、異状がないか点検する。特に、多段切張りによる支保工を用いる場合は、上段に架設されたり切張りの軸力が著しく低下しないよう留意する。


図3.3.7 切張りジャッキ施工例


図3.3.8 ジャッキ補強ピース施工例


図3.3.9 プレロード導入のための加圧装置の例

(b) 山留めの構造
山留めの構造は、掘削工事に伴う崩壊あるいは過大な変形が発生することがないよう、掘削工事時に作用する側圧に対し安全な構造とし、十分な強度と剛性を有するものとする。

山留め構造の計画は、(一社)日本建築学会「山留め設計施工指針」に設計及び評価方法が示されているので参考にするとよい。

(i) 山留めに作用する側圧
① 山留めに作用する側圧は、土質及び地下水位に応じ設定する。

②切張り及び腹起しの断面算定に当たっては、支保工の状態に応じて分布形を設定し、断面の算定を行う。

③ 構造物やその他の積載物に近接した山留めを計両する際には、①②のほかに、これらの近接物の影響を考慮した側圧評価を行い、山留めの検討を実施する。

④ 山留め壁、切張り、腹起し等は、強度及び変形量に対して、構造条件に適合した方法で検討するとともに、継手及び仕口部は、部材応力を無理なく伝達できる構造とする。

(ii) 山留め壁の許容応力度
山留め壁の材料の許容応力度は、各材料に対して設定された許容応力度を用いる。山留め壁に用いる材料の許容応力度は、「山留め設計施工指針」及び(一社)日本建築学会「建築地盤アンカー設計施工指針・同解説」に示されているので参考にするとよい。

3.3.2 山留めの管理

(a) 点検・計測管理
(1) 点検・計測管理の目的と要点
点検・計測管理の目的は、周辺地盤、隣接構造物、地中埋設物の沈下・移動及び土圧・水圧、山留め架構の応力、変形等を測定し、計画上の諸条件と比較検討して、周辺地盤の防害、隣接構造物の領斜・転倒、地中埋設物の損傷、ヒービング、ボイリング、山留めの傾斜・崩壊等の危険を事前に把握して、速やかに対処することである。

点検とは、目視及びスケール等による確認行為、計測とは、機械式,光学式測定機器を使用する簡易計測及び電気式測定機器を使用する計器計測による確認行為である。

点検・計測管理の計画で最も重要なことは、点検・計測結果に対して、適切な判断をすることであり、あらかじめ限界となる値を定めておき、その値に近づいてきたとき、対策又は具体的な措置がとれるよう準備しておくことである。

(2) 点検・計測について
(i) 点検・計測の対象項目.方法期間及び頻度
点検・計測の対象、項目及び方法の例を表 3.3.5に、また、点検・計測の期間及び頻度の例を表 3.3.6に示す。点検・計測には労力と経費を要することは当然であるが、工事の規模や地盤条件、周辺の状況等を考慮して、どの程度の点検・計測を行う必要があるかを検討し、山留め計画の一部として点検・計測管理の計画を立てておくことが望ましい。

表3.3 5 点検・計測の対象項目及び方法の例( JASS 3(一部修正)より)

表3.3.6 点検・計測の期間及び頻度の例( JASS 3(一部修正)より)

(ii) 計測の方法
山留めの計測方法には、電気的なセンサーとデータ収録・処理装骰等を用いた電気的計測と、ダイヤルゲージ、レベル、トランシット、盤圧計等を用いた機械的・光学的計測とがある。

1) 電気的計測は比較的大規模な工事や重要度・難易度の高い工事で採用されることが多く、手動計測から自動計測まで種々のシステムがある。計測システムは測定の目的、測点数、経費等に応じて選定される。

2) 機械的・光学的計測は、前記以外の工事において採用されるほか、電気的計測を行う工事での補助的な計測としても用いられる。一般的な現場で実施されている計測の概要は次のとおりである。

まず、掘削周辺の地盤の動きを測るために地上の適切な場所に測点を設置し、この点の垂直、水平の動きをトランシット、レベル、スケール等を用いて測る。山留め壁の変形は、壁の頂点に各通りごとに、何箇所か測点を設け、事前に設置した不動点を通してトランシットとスケール、又はピアノ線とスケールを使い山留め壁の面外への変位を計測する(図 3.3.11参照)。

土圧の計測には、これを直接測る方法も取られているが、一般的には山留め切張りにかかる軸力を図3.3.10に示すような盤圧計(ブルドン管形式)で測り安全性を確認している。設置箇所は掘削平面形状が単純な矩形で、周辺も特殊な条件がない場合、切張り各段ごとにX方向、Y方向に各1箇所ずつが一般的である。


図 3.3.10 切張り軸力計測の盤圧計取付け部例


図3.3.11 トランシットによる山留め変形測定の例

(iii) 盤圧計の設置方法

① 腹起しと切張りの接合部に設置する場合
火打材を用いない山留め支保工の場合に適し、盤圧計を取り付けても山留め支保工の安全にはほとんど影響を与えない。この場合は、火打材を入れると火打材に作用する力は測定できない(図3.3.12(イ)参照)。

② 火打材の基部に設置する場合
この場合は、切張りにかかる全荷重を測定することができるが、山留め支保工の安全性を阻害するおそれがあるので図 3.3.12(ロ)のような位置に必ず支柱を配置するなど、十分に注意する必要がある。盤圧計の取付け実施例を図 3.3.13に示す。

③ 切張りの中央に設置する場合
この場合は、腹起しから盤圧計位置までの距離が長いので、その間で荷重がつなぎ材や直角方向の切張り等に吸収されてしまい、全荷重を示さない。また、山留め支保工の安全から望ましくない(図 3.3.12(ハ)参照)。


図 3.3.12 盤圧計の設置方法

図 3.3.13 盤圧計の取付け実施例

(iv) 温度による影響
切張り材に鋼材を用いた場合は、温度変化の影響を考慮しなければならない。したがって、土圧を測定するときは気温も同時に測定するとともに、鋼材の膨張による応力変化を考慮する必要がある。

(3) 管理方法
計測結果を効果的に工事にフィードバックするには、迅速なデータ整理と計測結果の的確な評価、並びに安全性を損なう事態が発生した場合の対処方法について、計画時点で明確にしておく必要がある。管理計画においては、計測結果の検討方法や評価基準を明確にするとともに、異状時の対処についても管理体制を明確にしておくことが必要である。

計測結果の検討法の一例を図 3.3.14に示す。測定値はこの図のフローに従って検討する。

図中に示した管理基準値は測定値の評価基準となるものであり、設計条件や周辺環境条件から定められる。管理基準値は、計測項目によって異なるが、基本的な考え方として「一次管理値」、「二次管理値」、「限界値」というように細分化しておくと使用しやすい。例えば、「一次管理値」は設計計算値の80%、「二次管理値」は設計計算値、「限界値」はこれを超えると山留め架構の崩壊や周辺に障害が発生する値といった要領である。この場合、「一次管理値」は工事の努力目標、あるいはこれを超えると要注意といった注意信号であり、「二次管理値」は赤信号でこれを超えると抜本的な対策が必要という考え方である。

計測結果を評価することにより、計測時点の安全性を確認できるとともに、その後の推測もある程度可能であり、計測管理を工事ヘフィードバックしていることになる。最近では、更に一歩進めて計測時点の安全性はもちろんその後の挙動予測を行い安全性の確認,過大設計の修正に役立てようという試みがなされている。これは「情報化施工」あるいは「観測施工法」等と呼ばれている方法である。

なお、「限界値」の目安を表 3.3.7に示す。


図 3.3.14 測定値の検討フロー例(山留め設計施工指針より)

表 3.3.7 限界値の例(山留め設計施工指針(一部修正)より)

(b) 山留め設置期間中の異状

(1) 異状の発見及び観測
(i) 周辺地盤の沈下及びひび割れ

(ii) 山留め壁の変形:山留め壁頭部の移動量をトランシット、下げ振り等により測定する(図 3.3.11参照)。

(iii) 山留め支保工の変形

(iv) 切張りに作用する側圧測定

(v) 山留め壁からの漏水

(vi) 山留め壁背面土の状態(親杭横矢板工法の場合)
①横矢板をたたいて背面土の状態を点検
②横矢板の配列の乱れ

(2) 特殊な異状現象
(i) ヒービング
軟弱粘性土地盤を掘削するとき、山留め壁背面の土の重量によって掘削底面内部に滑り破壊が生じ、底面が押し上げられてふくれ上がる現象(図 3.3.15参照)。

(ii) ボイリング、クイックサンド、パイピング
上向きの水流のため砂地盤の支持力がなくなる現象、つまり砂地盤が水と砂の混合した液状になり、砂全体が沸騰状に根切り内に吹き上げる現象をボイリングといい(図 3.3.16参照)、このような砂の状態をクイックサンドという。
また、山留め壁の下部内側にクイックサンドが起きると山留め壁の上部外側からも土砂が運ばれてパイプ状の水みちができる。このような現象をパイピングという。

図 3.3.15 ヒービングの説明図


図 3.3.16 ボイリングの説明図

(iii) 盤ぶくれ
掘削底面下方に、被圧地下水を有する帯水層がある場合、被圧帯水層からの揚圧力によって、掘削底面の不透水性土層が持ち上げられる現象(図 3.3.17参照)。


図 3.3.17 被圧地下水による盤ぶくれの説明図

(c) 建築基準法施行令及び労働安全衛生規則に定められている災害防止関係の規定の概要を次に示す。

(1) 建築基準法施行令第136条の3(根切り工事、山留め工事等を行う場合の危害の防止)
(i) 地下埋設物(ガス管、ケーブル、水道管及び下水道管)の損壊による危害の発生を防止する措置を講じなければならない。

(ii) 建築工事等における地階の根切り工事その他の深い根切り工事(これに伴う山留め工事を含む。)は、地盤調査による地層及び地下水の状況に応じて作成した施工図に基づいて行わなければならない。

(iii) 建築物その他工作物に近接して根切り工事や掘削工事を行う場合は、当該エ作物の傾斜、倒壊による危害の発生を防止するための措置を講じなければならない。

(iv) 深さ1.5m以上の根切り工事を行う場合で、地盤が崩壊するおそれ及び周辺の状況により危害防止上支障があるときは、山留めを設けなければならない。

(v) 山留めの切ばり、矢板、腹起しその他の主要な部分は、構造計算により安全である構造としなければならない。

(vi) 工事施工中必要に応じて点検を行い、山留めを補強し、排水を適当に行うなど、安全な状態に維持するための措置を講ずるとともに,矢板等の抜取りに際しては、周辺の地盤の沈下による危害を防止するための措置を講じなければならない。

(2) 労慟安全衛生規則第368条~第375条(掘削作業等における危険の防止(土止め支保工))
(i) 土止め支保工の材料については、著しい損傷、変形又は腐食があるものを使用してはならない。

(ii) 土止め支保工の構造については、土止め支保工を設ける箇所の地山に係る形状、地質、地層.き裂,含水,湧水,凍結及び埋設物等の状態に応じた壁固なものとしなければならない。

(iii) 土止め支保工を組み立てるときは、矢板、くい、背板、腹おこし、切りばり等の部材の配置、寸法及び材質並びに取付けの時期及び順序を示した組立図を作成しなければならない。

(iv) 部材の取付け等の注意事項
① 切りばり及び腹おこしは、脱落を防止するため、矢板、くい等に確実に取り付ける。

② 圧縮材(火打ちを除く。)の継手は、突合せ継手とする。

③ 切りばり又は火打ちの接続部及び切りばりと切りばりとの交さ部は、当て板をあててボルトにより緊結し,溶接により接合する等の方法により堅固なものとする。

④ 中間支持柱を備えた土止め支保工にあっては、切りばりを中間支持柱に確実に取り付ける。

⑤切りばりを建築物の柱等部材以外の物により支持する場合にあっては、当該支持物は、これにかかる荷重に耐えうるものとする。

(v) 土止め支保工を設けたときは、その後7日をこえない期間ごと、中震以上の地震の後及び大雨等により地山が急激に軟弱化するおそれのある事態が生じた後に、次の事項を点検し、異常を認めたときは、直ちに補強又は補修しなければならない。

① 部材の損傷、変形、腐食、変位及び脱落の有無及び状態
② 切りばりの緊圧の度合
③部材の接続部、取付け部及び交さ部の状態

(vi) 土止め支保工の切りばり又は腹おこしの取付け及び取りはずしの作業については、土止め支保工作業主任者技能講習を修了した者のうちから、土止め支保工作業主任者を選任しなければならない。

3.3.3 山留めの撤去

(a) 山留め架構の撤去方法

山留め架構の撤去は、一般に地下躯体の構築に伴い所定の強度が発現したのち、側圧を躯体で受け直し、支保工を順次解体する(図 3.3.18参照)。

この際、上記支保工の設置深さを、地下躯体の構築過程を考慮して決める必要がある。また、支保工解体によって、上部の支保工に、解体以前に比較して大きな荷重が加わることになるので注意する。地下躯体にも荷重が加わるので、躯体強度についても確認して工事を進める。

施工条件によっては、切張り地盤アンカー、腹起しといった支保工を残したまま、地下躯体を1階床まで構築し、躯体強度が十分に発現したのち、山留め壁に作用する側圧を、地下外壁で受け直して支保工を撤去することもあるが、切張り工法の場合、だめ穴が発生し,漏水の可能性が高くなるため注意する。

なお、側圧の地下外堅への受直しで、各階床間の地下外壁に盛替え切張りを用いる場合(図 3.3.19参照)で、地下外壁に補強が必要な場合の補強例を表 3.3.8に示す。


図 3.3.18 山留め架構の撤去方法(JASS 3(一部修正)より)


図 3.3.19 盛枠え切張りの例(JASS 3(一部修正)より)

表 3.3.8 躯体の補強例(JASS 3(一部修正)より)

(b} 山留め壁の撤去
鋼矢板や親杭等を引き抜くと、周囲の土もともに抜き取ってしまい、大きな地盤沈下を引き起こすこともあるので、沈下量をなるべく少なくするよう直ちに抜き跡を砂等で充填する。また、鋼矢板や親杭等の引抜きにより、近隣に支障を与えるおそれがある場合は、山留め壁の存置等について設計担当者と打ち合わせ、適切に処理する。

(c) 切張り、地盤アンカー、腹起し等の撤去
切張り、地盤アンカーには大きな荷重が作用している。このため、軸力の解放時に金物類等が飛び出す危険がある。

また、地盤アンカーの鋼線が跳ね上がることもある。したがって、軸力の解放は適切な方法で行う。軸力の急激な解放を避け、解放時に、山留めや構造体に支障が起きていないか注意する。

支柱の引抜きは、構造体に支障を及ぼさないよう適切に行う。構造体に支障があったり、引抜きが困難な場合は、支柱の切断について設計担当者と打ち合わせ、適切に処理する。

参考文献

2章 仮設工事 1節 共通事項

2章 仮設工事


1節 共通事項

2.1.1 一般事項

(1) 仮設については、公共工事標準請負契約約款に基づく工事請負契約書第1条第3項において、「仮設、施工方法その他工事目的物を完成するために必要な一切の手段については、この契約書及び設計図書に特別の定めがある場合を除き、受注者がその責任において定める。」と規定しており、受注者がその責任において履行することができる。

したがって、「標仕」2章では、工事の施工に当たり発注者として示すべき最低限の事項について規定している。

(2) 仮設工事計画に当たっては、仮設物によって建物の品質を損なうことなく、安全で効率的な作業を行えるよう検討する必要がある。また、現場近隣の環境保全に配慮するとともに、仮設資材の有効活用も省資源対策上必要である。

(3) (1)で述べたとおり仮設計画は監督職員の承諾事項ではないが、参考までに工事の総合仮設をまとめた施工計画書の記載事項を示すと、概ね次のようになる。

① 工事目的物の位置と敷地との関係(配置と高低)
② 仮囲いの位置、構造及び主要部材の種類
③ 材料運搬経路と主な作業動線
④ 仮設物等の配置(監督職員事務所、受注者事務所、休憩所、危険物貯蔵所、材料置場、下小屋、廃棄物分別置場等)
⑤ 排水経路、工事用電力並びに水道の引込み位置及び供給能力
⑥ 足場並びに仮設通路の位置、構造及び主要部材の種類
⑦ 揚重機(リフト、クレーン、エレベーター、ゴンドラ等)の種類及び配置
⑧ 作業構台の位置、構造及び主要部材の種類
⑨ 墜落防止及び落下物防止並びに感電防止の施設
⑩ 近隣の安全に対する処置(近隣使用道路の配置計画図等)

2.1.2 仮設材料

(1) 一般事項

仮設に使用する材料は、それぞれの用途に応じ、品質、性能等が適正でなければならない。一般に仮設材料は、工事現場において長期間にわたり、かつ、繰り返し使用されることから、品質の確認が容易で性能の低下が生じにくいものでなければならない。

また、仮設材料には、その品質又は使用方法等について労働安全衛生法、消防法、 JIS (日本産業規格)、その他団体等の定める基準による規制等を受けるものがあるので、これらについてあらかじめ検討・確認しておくことが必要である。

特に、足場を構成する仮設機材については、長期間繰り返して使用されるうちにその強度が低下し倒壊事故等重大な災害につながるところから、労働安全衛生法令及び厚生労慟大臣が定める規格に規定される要件を具備するものを使用することが必要である。また、生産、流通段階での安全性の確保を図るために、(-社)仮設工業会では仮設機材に対し、材科、構造及び強度等を規定した認定基準を定めている。

さらに、経年仮設機材(現場で一度でも使用されたことのある仮設機材)が、繰り返し使用されている間の品質、性能等確保のために、原生労働省から経年仮設機材の適正な管理のための通達「経年仮設機材の管理指針」(平成8年4月4日労働省基発第223号の2)(以下、この章では「管理指針」という。)が示されている。

(2) 仮設機材の強度等の確認及び適正な管理
作業現場の安全確保には、仮設機材の製造時における強度等の確認・保証及び経年仮設機材の適正な管理が重要である。仮設機材の強度等の確認・保証について、(-社)仮設工業会では、製造時における足場用機材は、厚生労働大臣が定める規格及び認定基準に適合する旨を、刻印等により機材の全数に表示することを行っている。その表示等は、機材の種類により表2.1.1のとおりである。

なお、足場用機材の規格等に定めるもの以外のものの使用に当たっては、当該機材の製造者あるいは使用者により強度等について確認されたものであることが必要である。

現在製造されている主要な仮設機材は、防錆処理としてめっき、特に、浴融亜鉛めっきが施されているため、錆による肉厚の減少の懸念が少なくなった一方で、より長期にわたって使用される傾向となっており、経年による性能低下がないように適正に管理された仮設機材の使用が必要となる。仮設機材は、変形(曲がり、へこみ、反り等)及び損傷(亀裂、摩耗等)が直接性能低下の要因となるので、経年仮設機材の適正な管理は欠かすことができない。

このことから、厚生労働省の管理指針で規定している経年仮設機材に対して行う管理は、各機材ごとに定められた部位及び項目ごとに変形、損傷、錆等の程度による「選別」、経年仮設機材をいつでも使用できる状態に保持するための「整備」、機材を再使用可能な状態に復元する「修理」(部品交換を含む。)、さらに、性能試験、廃棄及び表示にわたるまで一連の管理基準等が明らかにされている。管理指針に基づき、(-社)仮設工業会では、仮設機材の整備、修理等を行っている機材センター等に対し、「適用工場制度」により、管理が適正である工場を認定し、経年仮設機材が適正な管理のもとに作業現場に提供されるようにしている。

表2.1.1 主な仮設機材とその表示

2章 仮設工事 2節 縄張り、遣方

2章 仮設工事


2節 縄張り、遣方、足場等

2.2.1 敷地の状況確認及び縄張り

(1) 敷地の状況確認
着工に先立ち受注者等が確認する敷地状況には次のような項目があり、監督職員は、受注者等から報告を受け、必要があれば確認、調査等に立ち会う。

(a) 敷地境界の確認
不明確な点があれば、関係者(20.5.1 (3)参照)の立会いを受けて明確にし、記録を残しておく。

(b) 既存構造物、地下埋設物の確認
建築物、工作物、地下鉄あるいは地中に埋設されたガス管、電線、電話ケーブル、給排水管、埋蔵文化財等を設計図書により確認するとともに、関係機関の協力を得て、設計図書に示されたもの以外に地下埋設物がないかを確認する。また、これらの埋設物が工事の障害となるおそれがある場合には、敷地境界、桝やマンホール等から位置を調べ、必要があれば試掘により確認して、必要な対策を講ずる。

なお、土壊汚染に関しては、1.3.10(1)を参照するとよい。

(c) 敷地の高低差及び既存樹木等の確認
敷地の高低差や既存樹木等に関しては、設計図書の指定による敷地の現場測量図等と、着工時の敷地の状況とが整合しているか確認する。また、現状測量図がない場合、必要な測量を実施するなど監督職員と協議する。

(d) 敷地周辺状況の確認
敷地周辺の交通屈や交通規制(特に通学路に注意)及び架空配線等を考慮し、建設機械や資材等の搬出入口の位置が適切かどうかを確認する。道路を占用・使用して工事を実施する場合は、事前に道路管理者及び署察署長に届ける。また、その工事エリアに柵や覆いを設けたり、交通整理員を配置するなどにより、道路交通の事故防止のための必要措置を講ずる(道路法施行令第2章参照)。テレビ電波等受信障害調査が実施されている場合は、工事中に障害が起きる可能性を考慮し、事前調査結果や近隣関係者との対応状況を確認しておく。

(e) 騒音・振動の影牌調査
騒音・振動については、周辺の環境に影響を与える工事や作業条件を事前に確認し、参考資料の資料1等を参照し、適切な処戦を検討しておく。

(f) 近隣建物調査
杭打ち工事、根切り工事等近隣に影響を与えるおそれのある工事を行う場合は、近隣建築物、工作物等に振動によるひび割れ、はく落、沈下等の事故が生じた場合の現状確認の資料とするため、関係者の立会いを求め、できるだけ写真、測量等により現状を記録しておく。さらに、工事中は常時これらの建築物等を観察し、必要な場合、悪影響を与えないよう事前の措置を講ずる。

(g) 排水経路と排水管の流末処理の確認
敷地の排水及び新設する建築物の排水管の勾配(通常1/100〜1/75)が、排水予定の排水本管・公設桝(市町村等で管理する桝)・水路等まで確保できるか、生活・事業系廃水(汚水)と雨水との区分の必要があるかなどを確認する。また、汚水の放流及び放流先(水路・溝等)の、地元管理者の同意の有無を確認しておく。

(2) 縄張り
建築物等の位置を決定するため、建築物外周の柱心、壁心が分かるよう縄等を張ることを縄張りという。建築物の位置と敷地の関係、道路や隣接建築物との関係等は、縄張りを行って確認する。

その際、監督職員は、縄張りの検査を行い、必要に応じて設計担当者の立会いを求め、建物位置を確認し、最終的に決定する。決定に当たっては、次の点に留意する。

(a) 敷地境界の確認
(b) 法規上の制約(斜線、延焼のおそれ、日影限界、避難距離等)
(c) 境界との離れ(設計図書に明示されている寸法確認、民法、施工上の問題等)

2.2.2 ベンチマーク

ベンチマークは、建築物等の高低及び位置の基準であり、移動するおそれのない既存の工作物あるいは新設した木杭、コンクリート杭等に高さの基準をしるしたものである。ベンチマークは、正確に設置し、移動のないようにその周囲を養生する必要がある(図2.2.1)。また、ベンチマークは、通常2箇所以上設け相互にチェックできるようにする。


図2.2.1 ベンチマークの例

監督職員は、ベンチマークの検査を行い、これを基にして敷地及び周辺道路の高低を測量させ、グランドライン(GL)を決定する。GLとは、基準となる地盤面の高さ又はその高さを表す線であり、現状地盤高や設計地盤高とは異なる場合がある。設計図書には設計GLだけが表示されていることが多いので、その場合には、設計GLと GLとの位置関係を明確にする。

なお、「JASS 2 仮設工事」や(-社)日本建築学会「建築学用語辞典」では、ベンチマークという用語を位置を決めるための基準点にも用いている。このように現在では、ベンチマークが高さと位置の両方を兼ねた基準として設けられる場合もある。

2.2.3 遣 方

(1) 遣方は、通常、図2.2.2のようなものであり、建築物の位置及び水平の基準を明確に表示し、次の (ア)から(ウ)のようにしてつくる。しかし、規模の大きな建築物等では遣方をつくらず、その都度測量機器を用いて、ベンチマークや固定物あるいは新設した杭等に設けた基準点から、建物のレベルあるいは建築物の基準墨を出すことが多い。


図2.2.2 遣方の例

(ア) 建築物隅角部、その中問部、根切り線の交差部等の要所で、根切り範囲から少し離れ、根切り後の移動のない位置に地杭〈水杭〉を打ち込む。昔から地杭の頭をいすか切りしているが、「いすか切り地杭」は、その頭部に物が当たったり、たたいたりした場合に、変状で移動をすぐに発見できるようにするための工夫である。

(イ) 地杭に高さの基準をしるし、かんな掛けを施した水貫の上端をその基準に合わせて水平に取り付ける。

(ウ) 工事に支障のない所に逃げ心(基準点)を設け、養生しておく。

(2) 監督職員は、追方の検査を行う。遣方の検査は、墨出しの順序を変えるなど、受注者等が行った方法とできるだけ異なった方法でチェックする。また、その工事現場専用の検査用鋼製巻尺を使用して実施する。

(3) 墨出し
墨出しとは、設計図書に示されたとおりの建築物を造るために、建築物各部の位置及び高さの基準を工事の進捗に合わせて、建築物の所定位置に表示する作業をいい、その建築物の出来上り精度に直接影響する大切な作業である。設計図書どおりの建築物を造るためには、建築物の着工から竣工に至る全工事期間を通じて一貫した位置及び高さの基準が必要である。

そのために、建築物の内外及び敷地周囲に基準高、通り心(基準墨又は親墨)、逃げ心等(ベンチマーク、基準点)を設けて、建物内の墨出し及び検査のための基準にしている。これを図面化し、「墨出し基準図」とし種々の要点を記入しておくとよい(図2.2.3)。


図2.2.3 墨出し基準図の例

墨出しの内容には、大別して表2.2.1に含まれるようなものがあるが、このうちの基準となる墨出しは、仮設工事の範ちゅうに入り、監督職員は、それらの検査を行う。

表2.2.1 施工段階の墨出し・計測作業の例

また、それぞれの墨出しは、次の(a)から(c)のような目的をもって行われる。

(a) 敷地及びその周辺の位置等の確認のための墨出し
(b) 施工のための墨出し
(c) 計測管理のための墨出し

捨コンクリートや1階床の墨出しは、上階の基準墨の基準となるので、建築物周囲の基準点から新たに測り出し、特に正確を期す必要がある。2階より上では、通常建築物の四隅の床に小さな穴を開けておき、下げ振り等により1階から上階に基準墨を上げている。この作業を「墨の引通し」という。

(4) 測量機器
墨出しに用いる一般的な測量機器には、セオドライト(又はトランシット)、レベル、鋼製巻尺、下げ振り、墨つぼ、さしがね、スタッフ(箱尺)、コンベックスルール等がある。計測距離が長い場合には、光波による計測器(光波測距儀)が用いられる。レベルやセオドライトに加えて、トータルステーション等の測定機器も用いられている。トータルステーションは光波測距像と電子式セオドライトを一体化した角度と距離を同時に測定できる測定機器である。

レベルやセオドライト、光波測距儀等の測定器は調整を必要とするので、作業所での使用に際して、事前に専門の業者により、検査、調整をさせる必要がある。
鋼製巻尺は、JIS B 7512(鋼製巻尺)に規定されている1級のものを使用する。

JIS 1級の鋼製巻尺でも1mにつき0.1mm程度の誤差が許容されており、50m巻尺では ±5mm程度の誤差を生じる可能性がある。したがって、通常は工事着手前にテープ合わせをし、同じ精度を有する巻尺を2本以上用意して、1本は基準巻尺として保管しておく。テープ合わせの際には、それぞれの鋼製巻尺に一定の張力を与えて相互の差を確認する必要がある。建築現場では、特に規定しない場合、通常50Nの張力としている。

また、鋼製巻尺は温度により伸縮するので、測定時の気温により温度補正を行う。標準温度20℃に対して、50m巻尺では10℃の温度差で5.75mm伸縮する。

2章 仮設工事 2節 足場等

2章 仮設工事


2節 縄張り、遣方、足場等

2.2.4 足場等

(1) 足場、作業構台、仮囲い等の仮設設備は、施工の安全確保、公衆災害防止のために重要なものである。このため、足場、作業構台、仮囲い等の仮設設備は、2.1.2で述べた適切な性能を有する材料の使用とともに、「標仕」2.2.4 (1)においては、労慟安全衛生法、建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)その他関係法令等に基づき、適切な構造と保守管理をすることを定めている。これら関係法令等の関係条項は、(9)に示す。

また、足場、作業構台、仮囲い等の設置や使用時においては、労働災害防止のために必要な保護具(保護帽、墜落制止用器具等)の着用、使用が必要である。

なお、平成30年6月8日公布の労働安全衛生法施行令の一部改正により、胴ベルト型(U字つりを除く)安全帯及びフルハーネス型安全帯を指す法令用語として、「安全帯」は「墜落制止用器具」に改められた。

(2) 建設工事は、工事の竣工に向け、現場の状態が日々変化し、その進捗に合わせ、仮設設備は盛替えが必要になる。本設工事が円滑に進むよう適切な時期に、適正な盛替えを施す事前計画と工程管理が必要である。

また、仮設設備が不安全状態になると、危険な施工を強いることになりかねず、施工品質、工程、安全、環境等に悪影響を及ぼすことになる。良好な仮設設備維持のためには、組立・盛替え後の保守点検を始め、作業開始前、地震・悪天候後の保守点検を確実に行い、異常があれば補修・修理し、常に適正な状態にしておくことが必要である。加えて、足場、仮囲い等の仮設設備の設置,解体時、使用時においては、架空線、埋設物、周辺環境影響(騒音・粉じん抑止、路面・周辺清掃、照明確保等)、工事車両、一般交通車両、歩行者などに対し、事故・災害防止、環境保全のための防護・保護措置が必要になるので、これらについても十分に配慮する。

(3) 足場、作業構台等は、「標仕」2.2.4 (4)において、関連工事等の関係者にも無償で使用させるよう定めている。これは、関連工事等の関係者間における一連の工程に著しいずれ、むだ等が生じ、関連工事等の関係者間での無用なトラプルがないようにするためである。

なお、関連工事等の関係者各々が、自らの工事の都合において、これらの構造を部分的な改造を含め改変すること、設置期間を延長することなどは、「標仕」2.2.4 (4)の規定外のことである。

(4) 足 場
(ア) 足場とは、作業者を作業箇所に近接させて作業をさせるために設ける仮設の作業床及びこれを支持する仮設物のことである。

足場の設置では、労慟安全衛生法、建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)その他関係法令等の遵守とともに、足場組立・解体等作業や、足場上作業の安全性を高めるために、「標仕」2.2.4 (2)は、「(別紙)手すり先行工法等に関するガイドライン」における「手すり先行工法による足場の組立て等に関する基準」、「働きやすい安心感のある足場に関する基準」に適合させることが必要であることを定めている。ただし、建築工事は、建築物の形状、周辺状況、作業方法等が様々に異なることから、工事要件に見合う足場形式の選定が必要であり、労慟安全衛生法、建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)その他関係法令等を遵守のうえに、工事を安全で効率的に実施するための各種足場(表2.2.2参照)の適用を排除するものではない。

次に、足場設置時及び足場使用時の概観的な諸条件を示すので、これらの条件を満たす足場設置計画及び使い方をするとよい。

(a) 足場に使用する部材は、所定の構造、強度等を有し、その状態が2.1.2で述べた適正な部材であること。

(b) 足場は、人、物等の積載荷重、風荷重等に十分に耐えうる安定した堅固な構造とすること。また、足場は、作業中又は足場内を通行中に、できるだけ動揺がない構造にすること。

(c) 足場には、昇降設備、手すり・さん等の墜落防止設備、メッシュシート・幅木等の物体落下防止設備を配備したものとすること。

(d) 足場上の作業、足場内の通行に対し、必要な広さを有する作業床を設けること。

なお、床材(作業床)と建地(支柱)の隙問は12cm未満とする。つり足場を除き床材間の隙間は 3cm以下、つり足場は作業床に隙間がないようにする。

(e) 作業目的物と足場作業床の間隔は可能な限り近接して設けること。

(f) 足場作業床上の作業や通行の妨げとなる不要材料は、排除すること。また、足場上には長期に部材を仮置かないこと。

(g) 足場組立・解体作業等中に墜落の危険がある場合、足場上の作業内容によって、やむを得ず臨時に手すり・さん等の墜落防止設備を取り外しての作業の場合、足場から身を乗り出すなど墜落の危険がある作業の場合等では、墜落制止用器具等を使用すること。

(h) 作業の都合で、やむを得ず臨時に手すり・さん等の墜落防止設備、メッシュシート等の物体落下防止設備を取り外した場合は、作業終了後に必ず復旧すること。

(イ) 足場は、工事の種類、規模、構造、敷地及び隣接地の状況、工期等に応じ、施工性と安全作業に適したものを選定し、足場に関する関係法令等に従って堅固に設置する。

(ウ) 足場の材料は、著しい損傷、変形、腐食等があってはならない。特に木材は強度上箸しい欠点となる割れ、節、木目の傾斜等がないものを使用する。

(エ) 鋼管足場用部材及び附属金具、合板足場板は、厚生労働大臣の定める規格に適合するものを使用しなければならない。そのほかの足場部材は、その種類に応じ JISや、2.1.2に示す認定基埠に適合し、所定の性能、品質が保証されたものを使用することが必要である。

(オ) 鋼管足場の部材及び附属金具等の経年品は、厚生労働省通達の管理指針に基づき、2.1.2(2)により適正に管理されたものを使用する。

(カ) 足場に関する関係法令により定められた構造及び規格等に適合する足場以外は、試験、構造計鉢等によりその安全性を確認する。

(キ) 足場の計画では、倒壊・破壊に対する安全性、墜落に対する安全性、資材等の落下に対する安全性を考慮しなければならない。特に倒壊事故につながる風荷重が大きく作用する工事用シート、パネル等を取り付ける場合は風荷重の検討を十分に行い、壁つなぎ材を適切に設置するなどの対策が必要である。

(ク) 足場には、足場の構造、材料に応じて、作業床の最大積載荷重を定め、これを足場の見やすい箇所に表示し、作業者に周知する。この最大積載荷重を超えて積載してはならない。

(ケ) つり足場、張出し足場、高さ5m以上の足場の組立、解体又は変更の作業では、足場組立て等作業主任者の選任と、その氏名、職務を作業場の見やすい箇所に掲示することが必要である。また、足場の組立て、解体又は変更の作業に係る業務(地上又は堅固な床上における補助作業の業務を除く。)に従事する作業者は、この業務に関する特別教脊を受けた者とすることが必要である。

(コ) 足場の組立て、解体又は変更時の点検は、点検表を作成し実施する。

点検者は、足場の組立て等を行った事業者で足場の組立て等を担当した者以外の、足場に関し十分な知識と経験を有する者及び足場の組立て等の注文者で、足場に関し十分な知識と経験を有する者の両者により,点検を行うことが必要である。

なお、「十分な知識と経験を有する者」としては、次の者が適切な,点検者と想定されるので参考にされたい。

(a) 足場の組立て等作業主任者であって、労働安全衛生法(以下「法」という。)第19条の2に基づく足場の組立て等作業主任者能力向上教脊を受けた者
(b) 法第81条に規定する労働安全コンサルタント(試験の区分が土木又は建築である者)や厚生労働大臣の登録を受けた者が行う研修を修了した者等、法第 88条に基づく足場の設置等の届出に係る「計画作成参画者」に必要な資格を有する者

(c) 全国仮設安全事業協同組合が行う「仮設安全監理者資格取得講習」、建設業労働災害防止協会が行う「施工管理者等のための足場点検実務研修」を受けた者等、足場の点検に必要な専門的知識の習得のために行う教脊、研修又は講習を修了するなど、足場の安全点検について、上記(a)又は(b)に掲げる者と同等の知識・経験を有する者

(サ) 足場からの墜落・転落災害を防止するため、厚生労働省から「足場からの墜落・転落災害防止総合対策推進要綱」が平成27年5月に発出されているので、足場の設置に当たっては、この内容を踏まえることが必要である。

また、墜落制止用器具を使用して行う作業については、厚生労働省から「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」が平成30年6月に発出されているので、これに基づくことが必要である。

なお、屋根工事及び小屋組の建方工事における墜落事故防止対策として、「標仕」 2.2.4(3)においては、JIS A 8971(屋根工事用足場及び施工方法)の施工標準に基づく足場及び装備機材を設置するとしている。

表2.2.2に、屋根面に設ける足場と装備機材との標準的な組合せを示す。
なお、詳細は同規格の「附属書A(規定)施工標準」によるものとする。
表2.2.2 屋根面に設ける足場と装備機材の組合せ(JIS A 8971より引用)

また、「足場先行工法に関するガイドライン」(平成18年2月10日付 基発第 0210001号)5 (12)には、小屋組における屋根からの墜落防止として次の3項目の措置を講ずることが示されている。

①屋根からの墜落防止のため、足場の建地を屋根の軒先の上に突き出し、その建地に手すりを設けること。手すりは、軒先から75cm(参考値[安衛則 563条]:85cm)以上(「建設業労働災害防止規程」では、90cm以上である。)の高さの位置に設け、かつ、中さんを設けること。(図2.2.4)


図2.2.4 屋根からの墜落防止措置の例

② 軒先と建地との間隔は、30cm以下とすること。

③ 屋根勾配が 6/10以上である場合又はすべりやすい材料の屋根下地の場合には、20cm以上の幅の作業床を2m以下の間隔で設置すること。(図2.2.5)


図2.2.5 屋根足場の設置の例

注図:建設業労働災害防止協会発行[木造家屋建築工事の作業指針
作業主任者技能溝習テキスト]より。(一部改変)
※:建設業労働災害防止協会
[建設業労慟災害防止規程]による数値

(シ) 足場の種類は、用途別及び構造別に分類を表2.2.3に示す。

表2.2.3 足場の用途別・構造別分類

(ス) 各足場の例を図2.2.6に示す。






図2.2.6 各足場の例

(セ) 足場の安全基準について、労働安全衛生規則等を踏まえて、その概要を表2.2.4に示す。

表2.2.4 足場の安全基準

(5) 仮囲い

(ア) 仮囲いは、工事現場周辺の道路・隣地との隔離、出入口以外からの入退場の防止、盗難の防止、通行人の安全、隣接物の保護等のために必要である。仮囲いは、工事現場の周囲に工事期間中を通し、建築基準法施行令、建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)等に従って設ける。

(イ) 木造の建築物で、高さが13m若しくは軒の高さが9mを超えるもの又は木造以外で2階以上の建築物の工事を行う場合は、高さ1.8m以上の仮囲いを設ける。ただし、上記と同等以上の効力を有するほかの囲いがある場合又は工事現場の周辺若しくは工事の状況により危害防止上支障がない場合は、仮囲いを設けなくてもよい(建築基準法施行令第136条の2の20)。

(ウ) 仮囲いは、風、振動等に対して倒壊したり、仮囲いの一部が外れ飛散したりしない堅固な構造とする。

(エ) 仮囲いに出入口を設ける場合において、施錠できる構造とし、出入口は必要のない限り閉鎖しておく。また、出入口の開閉による車両等の出入りには、交通誘導員を配置するなどして、一般車両、歩行者等の通行に支障のないようにする。

(オ) 道路を借用して仮囲いを設置する場合は、道路管理者と所轄警察署長の許可を得る。

(6) 仮設通路
(ア) 階段
(a) 高さ又は深さが1.5mを超える箇所で作業を行うときは作業者が安全に昇降するための階段等を設ける(労働安全衛生規則第526条)。階段は、作業者が昇降するために、足場内や工事の進捗に従い建築物内外の仮設通路面等に設ける。

(b) 階段は踏外し、転倒等を防止するために、勾配、踏面、蹴上げ等に留意し適切かつ堅固に設ける。また、踏面は踏板面に滑り止め又は滑り止め効果のあるものを設ける。

(c) 踊り場は階段と一体となって機能する仮設通路であり、労働安全衛生規則第552条を準用し、高さが 8m以上の階段には、7m以内ごとに踊り場を設ける。枠組足場では建枠1層又は2層ごとに設けることが多い。

(d) 階段部分の縁や床面開口部及び踊り場で墜落の危険のある箇所には、高さ 85cm以上の丈夫な手すり及び高さ35cm以上50cm以下の中桟を設ける(労慟安全衛生規則第552条)。一般には、安全性を高めるため高さ90cm以上の丈夫な手すり及び内法が45cmを超えない間隔で中さんを設ける(建設業労働災害防止協会「建設業労働災害防止規程」、(-社)仮設工業会「墜落防止設備等に関する技術基準」参照)。

(e) 足場に使用されている階段は、専用踏板と足場用鋼管とで構成する階段(図2.2.7)と足場導用の階段枠(図2.2.8)の2種類がある。


図2.2.7 専用踏板と足場用鋼管とで構成する階段の例


図2.2.8 足場専用の階段枠の例

(仮設機材認定基準とその解説より)
(f) 枠組足場に使用する階段は、鋼管足場用の部材及び附属金具の規格(厚生労働省告示)、JIS A 8951(鋼管足場)の標準建枠高(階段の高さ)やスパン(階段の輻)寸法に合った専用規格階段を用いるとよい。階段は建枠横架材に架け渡し、上下連結部分は強風時の吹上げ力、衝撃、振動等で脱落、滑り、変形等が生じないように取り付ける。

なお、足場専用の階段枠は、(-社)仮設工業会の認定基準があり、その強度及び性能を定め、保証している。

枠組足場に使用する階段の計画例を図2.2.9に示す。


図2.2.9 階段計画の例

(イ) 登り桟橋

(a) 登り桟橋は、足場の昇降又は材料運搬等に用いるために設置された仮設の斜路で、足場板を斜めに架け渡し、適切な間隔に滑り止めのための横桟を打ち付け、手すり、中さん等を設けた構造である。

(b) 登り桟橋は、労働安全衛生規則第552条の架設通路の規定により、図2.2.10のような構造となる。

図2.2.10 登り桟橋

(c) 登り桟橋の幅は90cm以上確保することが望ましい。また、登り桟橋上が、雷、氷等により滑りが予想され、やむを得ずこの状態で登り桟橋を使用する場合に は、あらかじめ滑りを防止する処置を施す必要がある。

(ウ) その他の仮設通路
その他の仮設通路としては、様々なものが使用されてきているが、代表的なものとして、次のようなものがある。これらを用いる場合は、施工条件等や取扱い説明等に沿った適正な配置、使い方をしていくことが必要である。

(a) ハッチ式床付き布枠と昇降はしごが一体となった通路(図2.2.11(イ))は、足場において、足場昇降階段の設置が困難な場合や、緊急的な昇降に使用される。


図2.2.11 その他の仮設通路 (イ)

(b) ベランダ用昇降設備(図2.2.11(ロ))は、枠組足場等から、躯体内部に渡る通路であり、特に、ベランダ等の手すりの立上りを越えるために使用される。


図2.2.11 その他の仮設通路 (ロ)

(c) 鉄骨用通路(図2.2.11(ハ))は、鉄骨上に設けられ材料置き場や足場を結ぶ通路として使用される。


図2.2.11 その他の仮設通路 (ハ)

(7) 落下物に対する防護

(ア) 工事用シート等
工事現場からの飛来・落下物により、工事現場周辺の通行人や隣家への危害を防止するために、足場の外側面に工事用シート、パネル等を取り付ける(建築基準法施行令第136条の5第2項、建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)第27参照)。また、労働安全衛生規則(第537条、第538条)では、足場等からの飛来・落下物による労働災害を防止するため、その危険のおそれのあるときは、幅木、防網(メッシュシート等)を取り付けることが定められている。

① 工事用シートは、帆布製のものと網地製のもの(メッシュシート)の2種類があり、JIS A 8952(建築工事用シート)の1類(シートだけで落下物の危害防止に使用できる)に適合するもの又はこれと同等以上の性能を有するものを使用する。シートは、通常、風荷重を緩和するメッシュシートが多く使用される。

なお、これについては、(-社)仮設工業会の認定基準がある。

② シートの取付けは、原則として、足場に水平材を垂直方向 5.5m以下ごとに設け、シートに設けられた全てのはとめを用い、隙間やたるみがないように緊結材を使用して足場に緊結する(シートに設けられたはとめの間隔は、 JIS A 8952では45cm以下としている。(-社)仮設工業会の認定基準では35 cm以下としている。)(図2.2.12)。緊結材は、引張強度が0.98kN以上のものを使用する。

③ その他にパネル、ネットフレーム等がある。

パネルは、パネル材とフレーム等で構成されたもので、工事騒音の外部への伝播を防止・軽減する役目も果たす防音パネルが一般的に用いられる。
なお、防音と落下物防護を兼ねた防音シートは、防音パネルと同様に用いられている。

ネットフレームは、金属網部(エキスパンドメタル)とフレームを溶接した構造であり、いずれも主に枠組足場に取り付けられる。

④ 建築工事用垂直ネットは、建築工事現場の鉄骨工事で飛来、落下物による災害を防ぐために、鉄骨(つり足場)等の外側面に垂直に取り付けられる。このネットは、合成繊維製の織網生地の織製ネット及び網製ネットで仕立てた、網目の寸法が 13〜18mmのもので、JIS A 8960(建築工事用垂直ネット)に適合するものを使用する。

なお、これについては、(-社)仮設工業会の認定基準がある。

(イ) 防護棚
外部足場から、ふ角75度を超える範囲又は水平距離 5m以内の範囲に隣家、一般の交通等に供せられている場所がある場合には、落下物による危害を防止するため、防護棚(朝顔)を設けなければならない(建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)第23参照)。

① 防護棚のはね出しは、水平面に対し 20〜30゜の角度で、足場から水平距離で 2m以上とする。

② 防護棚は、1段目を地上10m以下、2段目以上は下段より10m以下ごとに設ける。通常、1段目は、地上5m以下に設けるのが望ましい。

③ 一般的に、防護棚は厚み1.6mmの鋼板が用いられてきたが、アルミ合金製の本体フレームにFRP製万能板の使用が増えている。


図2.2.12 工事用シートの取付け例

(8) 作業構台
作業構台には、地下工事等の材料の集積、建設機械の設置等のための乗入れ構台と、建築置材等の一部を仮置きして、建築物の内部に取り込むことなどのための荷受け構台(荷上げ構台)がある。

作業構台上は、常に整理整頓を行うとともに、作業構台自体の状態の保守管理を行い、点検結果を記録及び保管することが必要である。

(a) 乗入れ構台
① 乗入れ構台は、根切り、地下構造物、鉄骨建方、山留め架構の組立、解体等の工事を行う際に、自走式クレーン車・トラック類・生コン車・コンクリートポンプ車等の走行と作業、各資材の仮置き等に使用する。

② 乗入れ構台は、関係法令に従って設ける。(労働安全衛生規則第575条の2〜 8)

③ 使用する鋼材については、JIS適合品又は同等以上の強度をもつものとし、断面欠損や曲がり等、構造耐力上、欠点のないものを用いる。

④ 乗入れ構台の構造は、各種施工機械・車両の重量及びその走行や作業時の衝撃荷重、仮置き資材の荷重、構台の自重、地震・風・雪等の荷重に十分耐え得るものとする。

⑤ 乗入れ構台の計画上の要点は次のとおりである。
1) 乗入れ構台の規模と配置
規模は、敷地及びその周辺の状況、掘削面積、掘削部分の地盤性状、山留め工法、各工事で採用する工法等の条件により決定する。配置は、施工機械・車両の配置や動線、施工機械の能力、作業位置等により決定する。市街地工事では、駐車スペースの確保が難しいことから、可能な限り、余裕のある面積を確保する。

2) 乗入れ構台の幅員
通常計画される幅員は 4〜10mであるが、使用する施工機械、車両・アウトリガーの幅、配置及び動線等により決定する。構台に曲がりがある場合は、車両の回転半径を検討し、コーナ一部分の所要寸法を考慮して幅員を決定する。

3) 乗入れ構台の高さ、勾配等
・高さは、地下躯体(主として1階の梁・床)の作業性を考慮して決める。

・躯体コンクリート打込み時に、乗入れ構台の大引下の床の均し作業ができるように、大引下端を床上端より20〜 30cm程度上に設定する。

・乗込みスロープの勾配が急になると、施工機械・車両の出入りに支障となるおそれがあるので、通常は1/10 ~ 1/6程度とする。

・敷地境界から乗入れ構台までの距離が短い場合は、乗入れ構台のスロープが敷地境界から外に出ないよう留意することが必要である。

⑥ 一般的な乗入れ構台の架構形式と各部材の名称を図2.2.13に示す。

(b) 荷受け構台(荷上げ構台)
① 荷受け構台は、クレーンやリフト、エレベーター類からの材料の取込みに使用される作業構台で、材料置場と兼用することもある。

② 荷受け構台は、関係法令に従って設ける。(労働安全衛生規則第575条の2〜8)

③ 使用する材科は、木材にあっては割れ、腐れ、著しい断面欠損、曲がり等、鋼材にあっては著しい断面欠損、曲がり等、構造耐力上の欠点のないものを用いる。

④ 荷受け構台は、資機材の搬出入に適した位置に設け、揚重機の能力、揚重材料の形状・寸法・数量に応じた形状、規模のものとし、積載荷重等に対して十分に耐える安全な構造のものとする。

⑤ 設置位置は、材料の取込み及び水平運搬に便利な位置を選び、2〜3階に1箇所の割りで設置し、他の階にはそこから運ぶようにしていることがある。また、工事の進捗に伴って転用が必要な場合があるので、移動方法を考慮して設置位置を決めることが必要である。

なお、荷受け構台への資機材の仮置きはできる限り短期間とする。

⑥建築物本体の鉄骨を利用して、荷受け構台を建物外部にはね出して設置した計画例と足場に設けた例を図2.2.14に示す。


図2.2.13 乗入れ構台の架構形状と各部材の名称


図2.2.14 荷受け構台の例

(9) 関係法令等
足場、仮設通路、仮囲い等に関係する関係法令等を次に示す。

(a) 主な関係法令等
① 労働安全衛生法、同施行令、労働安全衛生規則
② 建築基準法、同施行令、同施行規則
③ 建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)

(b) 主な労働安全衛生法関係
① 足場関連
・事業者の講ずべき措置等
労働安全衛生法第20条、第21条、第23条~第25条、第26条

・計画の届出等
労働安全衛生法第88条、労働安全衛生規則第86条

・計画の届出をすべき機械等
労働安全衛生規則第85条

・資格を有する者の参画に係わる工事又は仕事の範囲
労慟安全衛生規則第92条の2

・計画の作成に参画する者の資格
労慟安全衛生規則第92条の3

・作業主任者
労働安全衛生法第14条

・作業主任者を選任すべき作業
労働安全衛生法施行令第6条策十五号

・作業主任者の選任
労働安全衛生規則第16条

・足場の組立等作業主任者の選任
労働安全衛生規則第565条

・足場の組立等作業主任者の職務
労働安全衛生規則第566条

・安全衛生教育(特別教育)
労働安全衛生法第59条第3項、労働安全衛生規則第37条~第39条

・材料等
労働安全衛生規則第559条

・鋼管足場に使用する鋼管等
労働安全衛生規則節560条

・構造
労働安全衛生規則第561条

・作業床の設置等
労慟安全衛生規則第518条~第523条

・最大積載荷重
労働安全衛生規則第562条

・作業床
労働安全衛生規則第563条

・足場の組立等の作業
労働安全衛生規則第564条

・点検
労働安全衛生規則第567条

・つり足場の点検
労働安全衛生規則第568条

・鋼管足場
労働安全衛生規則第570条~第573条

・つり足場
労働安全衛生規則第574条、第575条

② 通路(登り桟橋含む)関連
・通路等
労働安全衛生規則第540条~第544条

・架設通路
労働安全衛生規則第552条

③ 階段関連
・昇降するための設備の設置等
労働安全衛生規則第526条

④ 作業構台(乗入れ構台・荷受け構台)関連
・作業構台
労働安全衛生規則第575条の2~8

⑤ 飛来落下物防護関連
・高所からの物体投下による危険の防止
労働安全衛生規則第536条

・物体の落下による危険の防止
労働安全衛生規則第537条、第563条第1項第六号

・物体の飛来による危険の防止
労働安全衛生規則第538条

・保護帽の着用
労働安全衛生規則第539条

(c) 建築基準法施行令関係
・仮囲い
建築基準法施行令第136条の2の20

・落下物に対する防護
建築基準法施行令第136条の5

・工事用材料の集積
建築基準法施行令第136条の7

(d) 建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)
・飛来落下による危険防止 第11
・仮囲い、出入ロ     第23
・歩行者用仮設通路    第24
・乗入れ構台       第25
・荷受け構台       第26
・外部足場        第27
・防設棚         第28

2章 仮設工事 3節 仮設物

2章 仮設工事


3節 仮 設 物

2.3.1 監督職員事務所

(1) 仮設建物は、床荷重、風荷重等で倒壊しない構造とし、建築基準法、消防法等に従って設置する。

(2) 監督職員事務所

(ア) 「標仕」では、監督職員事務所に設ける電灯、給排水等の設備については、特記によるとされているが、特記がない場合は、監督職員と協議するとなっている。また、備品等の種類及び数量も、特記によるとされているが、これらは必要最小限にすべきである。

(イ) 「標仕」2.3.1(2)(ウ)の規定では、通信費は、受注者の負担となっているが、遠距離のため受注者に著しい負担をかけるような場合は、契約の際、明らかにしておくのがよい。また、光熱水費についても同様である。

(3) 受注者事務所その他
受注者事務所及びその他の仮設建物である休憩所、詰所、守衛所、便所、洗面所、更衣室、シャワー室等の設置に際しては、敷地条件等を考慮し、構造上、安全上、防火上及び衛生上支障のないように関係法令に基づき計画する。便所及び洗面所の 設置については、工事に影響がなく安全で利用しやすい場所に配置する。喫煙場所 は、屋外喫煙所の設置あるいは、屋内に設置する場合は空間分煙とした上で適切な 換気設備を設置するなど受動喫煙防止措置を講じるとともに消火器の配置を行う。また、清潔な食事スペースの確保、熱中症予防としての休憩所への冷房・冷水機等 の配備等、職場生活支援施設や疲労回復支援施設の充実を図る。

なお、作業員宿舎を設置する場合は、工事現場内から分離するものとし、建設業附属寄宿舎規程を遵守する。

(4) 表示板等
(ア) 地域住民への工事に関する情報提供のため、現場表示板を設ける。表示板には、工事名称、発注者名、施工者名、連絡先等を簡明に示す(図2.3.1参照)。

(イ) その他法令等による次の表示板を見やすい所に掲げる。
(a) 建設業の許可票(建設業法第40条、建設業法施行規則第25条)

(b) 建築基準法による確認済の表示(建築基準法第89条、建築基誰法施行規則第11条)

(c) 労災保険関係成立票(労働保険の保険科の徴収等に関する法律施行規則策77条)

(d) 道路占用許可証(道路法第32条、道路法施行令第7条)

(e) 道路使用許可証(逍路交通法第77条)

(f) その他(施工体系図(建設業法第24条の7)、建設業退職金共済制度適用事業主工事現場標識(中小企業退職金共済法)等)


図2.3.1 現場表示板の例

2.3.2 危険物貯蔵所

危険物には、灯油、塗料、油類、ボンベ類、火薬等があり、危険物貯蔵所は、次の事項に注意して設ける。

(ア) 仮設建物、隣地の建築物、材料費場等から離れた場所に設ける。設置スペースがないなど、やむを得ず工事目的物の一部を危険物置場として使用するときは、貯蔵戴等の関係法令が遵守されているか注意する。

(イ) 不燃材料を用いて囲い、周囲に空地を設ける。

(ウ) 各出入口には錠をかけ、「火気厳禁」の表示を行い、消火器等を設け、安全対策を講ずる。

(エ) 塗料、油類等の引火性材料の貯蔵所については、18.1.4(1)(ア)(e)を参照する。
また、ボンベ類置場は、通気がよく、他の建物と十分な離隔距離をとった直射日光を遮る構造とし、危険物や火気厳禁の表示及び消火器の配置を行う。

(オ) 取扱いについては、次に示す関係法令に規定されているので注意する。

(a) 消防法(第3章危険物第10条~第16条の9)
(b) 危険物の規制に関する政令
(c) 危険物の規制に関する規則
(d) 労慟安全衛生規則(第2編第4章第2節危険物等の取扱い等、第4節火気等の管理等)
(e) 建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事等編)(第19危険物貯蔵)

2.3.3 材料置場、下小屋

必要に応じて材料費場、下小屋を設ける。また、廃棄物の再費源化に努めるため、分別作業が可能なスペースと分別容器が設置可能な廃棄物分別置場(ヤード)を設ける。

なお、材料置場は、良好な材料保管ができるような構造とする。

(ア) 砂、砂利、セメント、鉄筋、鉄骨等の材料置場は、泥土等で汚れないように留意する。砂、砂利の場合、床を周囲地盤より高くしたり、水勾配を付けるなどの処理を行う。鉄筋や鉄骨の場合、受材を置き、泥土が付かないようにする。セメント等、吸水してはならないものは、雨水が掛からないように、屋根の付いた置場に保管する。

(イ) 下小屋とは、型枠や鉄筋の加工場やその他配管のねじ切り等の加工場をいう。

(ウ) 廃棄物分別置場(ヤード)は、廃棄物の搬出が容易な場所に設置する。
なお、現場に持ち込まれるこん包材等の減量化にも努めることが必要である。

2.3.4 工事用電気設備、工事用給排水設備

(1) 工事用電気設備は、工事を進めるための動力、照明、通信等に必要とする電力を供給する設備であり、着工から竣工までのほぼ全工程にわたって使用され、仮設工事の中でも重要な位置を占めるものである。

工事の進捗に伴い、負荷設備の増設・変更、設備の移動・盛替え等が多くなり、それに対応する配線等の保守管理が複雑になる。また、配線等は損傷を受けやすく、劣化も早く、粗雑に扱えば感電災害のリスクが高くなる。したがって、受電設備、幹線配線、負荷設備等一連の計画は、現場の条件や工程を十分に把握して、綿密な 事前計画が重要になる。また、運用管理に当たっては、十分な保守が必要である。

なお、工事用電気設備工事では、電気工事士法による電気工事士の資格等(1.3.3及び表1.3.3参照)、労働安全衛生規則の電気取扱い業務特別教育が必要になる。
工事用電気設備の計画から撤去までの作業手順を図2.3.2に示す

(ア) 申請手続き
電気設備の設置及び電力の使用に当たっては、電力会社への電力使用の申込みのほかに、契約電力によっては、経済産業大臣(又は所轄の経済産業局長)及び所轄の消防署長へ届け出なければならない(電気使用制限等規則)。

なお、電力使用申込みから受電までに1箇月余りを要するので、手続きはこの
期間を見込んでおく必要がある。

(イ) 保安責任者
工事用電力設備の保安責任者が、法令に基づいた有資格者であることを確認する(1.3.4及び表1.3.2参照)。


図2.3.2 工事用電気設備の計画から撤去までの作業手順の例

(ウ) 本設への切替え
竣工が近づき、本設の電気設備が受電され、工事用電気設備を撤去する際は、受注者等からの申出を受け、本設への切替えについて協議し、工事用電気設備の撤去の時期や本設への切替えの方法等を事前に決定するとともに、切換え時における感電災害の防止措置を講じる。

(2) 工事用給排水設備には、工事関係者が飲料あるいは洗顔・水洗等に使用する生活水や、基礎杭の施工や型枠の清掃等、工事に使用する工事用水を供給する給水設備と、生活水から生じる雑排水、地下水や雨水を処理する排水設備とがあり、工事を進めるのための重要な設備である。

(ア) 計画
給水設備は、施工計画や工事工程表から、生活用水や工事用水の使用時期、使用場所、使用水量を把握し、水源、要求される水質、水圧、水量等を勘案して、引込み設備、貯水設備、ポンプ設備、配管設備等を計画する。

排水設備は、各工事の施工方法、工事に従事する人員等を確認して、汚水、雑排水、地下水・雨水、特殊排水等、排水の種類ごとに排水時期、排水場所、排水量等を把握し、公共下水道の利用の可否等を勘案して、適切な排水方法を選定する。

(イ) 申請手続き
給水装置を新設、改造又は増設する場合は、水道事業者(地方公共団体の水道局)に届け出る(水道法)。

また、公共下水道に排水するために必要な排水設備を新設、改造又は増設する場合は、公共下水道管理者(地方公共団体の下水道局)に届け出る(下水述法)。
なお、給水、排水の届け出から認可までに1箇月余りを要するので、手続きはこの期間を見込んでおく必要がある。

2章 仮設工事 4節 仮設物撤去等

2章 仮設工事


4節 仮設物撤去等

2.4.1 仮設物撤去等
(1) 工事の進捗に伴い、あるいは外構工事等のために既設の監督職員事務所、受注者事務所等が障害となり、これを撤去し、他の場所に新設あるいは移設する必要がでてくる。

このような場合、通常は工事を行っている敷地内の別の場所に新設あるいは移設することになるが、そのような場所がない場合には工事を行っている建築物の一部を使用することになる。

工事敷地内に新設あるいは移設する場合には、場所や敷地内の人や工事で使用する車両等の通行状況を、また、工事目的物の一部を使用する場合には、工事完成後の入居の予定を、管理官署と事前に打ち合わせておく必要がある。

(2) 工事が完成する時までには、工事で使用した仮設物を撤去する。
工事目的物の一部を使用した場合には、設計図書で示されたとおりにして工事を完成させる。仮設物を撤去した跡及び付近は清掃、地均し等を行っておく。

(3) 仮設物を解体する際には、あらかじめ解体手順を決定し、解体中の仮設物が崩壊・倒壊しないよう災害防止に努める。解体時に作業主任者等の有資格者が必要な場合には、関係法令に従い、有資格者が配置されている必要がある。

2章 仮設工事 5節 揚重運搬機械

2章 仮設工事


5節 揚重運搬機械

2.5.1 一般事項
近年、建築工事の大型化、新工法の開発等に伴い、揚重機も多種多様となりその性能も格段と向上している。この節では、一般的な揚重機の分類、機種の特徴について記述し、その設置計画の考え方を示す。

また、安全(災害・事故防止)については、建築基準法、労働安全衛生法関係法令以外の必要な法令(所轄省庁)についても記述し、留意事項を解説する。

揚重運搬機械使用例を図2.5.1に示す。


図2.5.1 揚重運搬機械使用例

2.5.2 分 類

揚重運搬機械の分類を図2.5.2に示す。

図2.5.2 揚重運搬機械の分類

2.5.3 機種の特徴及び姿図

揚重機種の特徴及び姿図を表2.5.1に示す。

表2.5.1 揚重機種の特徴及び姿図(その1)

表2.5.1 揚重機種の特徴及び姿図(その2)

表2.5.1 揚重機種の特徴及び姿図(その3)

表2.5.1 揚重機種の特徴及び姿図(その4)

2.5.4 設置計画

揚重機械の設置に当たっては、工法の特徴、施工計画全体のねらいに合致した機械を採用する。特に、構造物との納まりや強度を確認し、機械の搬入組立及び解体搬出方法まで考慮して計画を立案する。図2.5.3に計画の検討手順を示す。


図2.5.3 設置計画の検討手順

2.5.5 安全に関する法令

(1) クレーン等安全規則
クレーン等安全規則による諸届を表2.5.2に、クレーン等の運転資格を表2.5.3に示す。

表2.5.2 クレーン等安全規則による諸届

表2.5.3 クレーン等の運転資格

(2) 運搬・移送時に適用を受ける法規

道路運送車両法、道路法、道路交通法について留意する。

(a) 道路関係各法の主な制限基準値を、表2.5.4に示す。

表2.5.4 主な制限基準値

(b) 各法令における車両諸元の測り方を次に示す。

① 道路運送車両の保安基準

② 車両制限令

車両:人が乗車し、又は貨物が積載された状態のもの。けん引している場合はけん引されている車両を含む。

③ 道路交通法施行令

(3) 送配電線の最小離隔距離を確保しなければならない法規

送電線のように電圧が高くなると、直接電線に触れなくても、接近しただけで、電気は空気中を放電してアークが発生し危険である。労働安全衛生規則では、送配電線部分と人体、ワイヤロープ、つり荷の離隔距離を常に保つよう規定している。また、該当する送配電線で、各電力会社の規定と比べ、最小離隔距離が異なる場合は、大きい値を採用する(表2.5.5及び図2.5.4参照)。

表2.5.5 送電線からの最小離隔距離


図2.5.4 離隔距離の例

(4) 航空法による高さの規制
(ア) 地表又は水面から60m以上の高さのクレーンの先端に航空障害灯等の設置
(イ) 空港近辺の高さの制限

(5) 電波法による電波等の規制
(ア) マイクロウェーブ等への障害
(イ) 作業に使用する無線機の許可
(ウ) テレビ等の電波障害

(6) 鉄道近接で適用を受ける法規
鉄道の近接工事は、(-社)日本建設業連合会の「鉄道工事安全管理の手引」に準拠して、必要な手続き・対策及び処置を講ずる(図2.5.5参照)。


図2.5.5 営業線近接工事

2.5.6 安全に関する留意事項

安全に関する留意事項には次のようなものがある。そのほかには、クレーン等安全規則の措置事項を遵守することが必要である。

(ア) 風
クレーンについては、10分間平均風速 10m/s以上の場合、クレーン作業を中止し転倒防止を図る。

(イ) 落雷
落雷のおそれがある場合はクレーン作業を中止する。
なお、オペレーターは、運転室にいる場合、被害を受けることは少ないが、玉掛け者は被災するおそれがあるので退避する。

(ウ) 地盤
移動式クレーンの作業地盤の支持力不足に起因する転倒事故を防止するため、事前に地盤調査を行い、支持力の確保が可能か否かを検討し支持地盤の適切な養生を行う。アウトリガー又は拡幅式クローラーは、最大限に張出し、転倒するおそれのない位置に設置する。

(エ) 安全設備
(a) 組立・解体時の安全対策と設備
クレーン等の組立・解体等は高所作業が多く、特に危険作業となるので、作業指揮者を選任し、作業開始前に十分な打合せ(危険作業事前打合せ)のうえ、作業を行う必要がある。特に、墜落・落下等の労働災害防止対策として安全ネット及び親綱等の設備を設け、また、関係者以外の立入禁止等の措置が必要である。悪天候の場合は作業を中止する。

(b) 使用時の安全対策と設備
クレーン等の使用は、あらかじめ定められる作業計画に従って行う。また、日常の保守管理を十分行い、特に、機器に設置された各種安全装置(過負荷防止装置、巻過防止装置等)の働きを正常に保つよう留意する。

1) リフト、エレベーターの停止階には、必ず出入口及び荷の積卸し口の遮断設備を設ける。

2) リフト、エレベーターの昇降路は人が出入りできないように、また、積荷の落下、飛散がないように外周をネット、金網等で養生する。

3) 機械等の設置に伴って、発生する開口部は、養生の目的に合わせてネット・金網等の適正な材料で養生する。

(オ) 玉掛け作業
玉掛けは、揚重作業に欠かせない作業であり、危険性が高いため有資格者を配置する必要がある(クレーン等安全規則第221条、第222条)。また、玉掛け用ワイヤーロープ、つりチェーン、フック、シャックル、繊維ロープ等は、クレーン等安全規則第213条~第219条の2に規定されたものを用い、作業開始前には玉掛け用具の点検を行い適正なものを使用する(クレーン等安全規則第220条)。

(カ) 表示
クレーン、リフト、エレベーター等は、設置に当たり、作業員に安全作業上の遵守事項、当該機械の運転者、性能等を周知するための表示を行う。また、旋回体範囲内、つり荷の下等への立入禁止の表示等を行う。

(キ) 運転の合図及び通信・信号設備
クレーン、リフト、エレベーター等の運転については一定の合図を定め、合図を行う者を指名してそれに従う。通信・信号設備は、設置条件・使用目的に合わせ最も適したものを選定使用する。

(例)クレーン:無線及び有線装置による通信設備、テレビカメラエレベーター・リフト:インターフォン

参考文献

1章 各章共通事項 序節 監督職員の立場及び業務

建築工事監理指針 1章 各章共通事項


序節 監督職員の立場及び業務

1.0.1 監督職員の立場

工事の監理は、契約図書に基づいて良好な施工品質を確保するために実施するものであり、官民を問わず建築士法に基づいて業務を実施する必要がある。さらに、会計法又は地方自治法においては、契約の適正な履行を確保するため必要な監督を実施しなければならないことが定められており、官公庁施設の施設を実施している国又は地方公共団体等において監督を命ぜられた職員は関係法令等に従い、その職務を遂行しなければならない。ここでは、国の職員が監督職員に任命された場合について記述する。
監督職員は、監督業務の内容を十分理解するとともに、その遂行に当たっては、どのような立場にあるかを認識していなければならない。すなわち、監督職員と受注者等の関係、国の組織の中での立場を認識して業務に当たる必要がある。さらに、建築技術者としての心構え等について十分に承知していなければならない。

(ア) 受注者との関係

受注者とは、発注者と請負契約を結んだ相手方のことであり、請負工事は、受注者が契約したとおりの工事を完成させるために、受注者及び発注者が対等の立場における合意に基づいて契約されている。工事途中で当初の契約を変更することはあるが、契約変更を含め受注者は契約図書どおりの工事を完成するということになる。
契約図書(1.1.1(6)参照)の一部である工事請負契約書には、受注者に対する監督職員の権限、職務等についても定められている。一方、会計法(1.0.2(ア) 参照)には「契約の適正な履行を確保するため必要な監督をしなければならない。」と定められている。会計法で定める監督の職務を遂行するためには、工事が契約図書に定められたとおり適正に行われるように、指示・承諾・協議・謁整等の業務を確実に行うことが必要となる。
工事の中で、受注者等が適正であると主張するものでも、監督職員には適正と判断できない場合がある。このような場合には、両者の協議が必要になるが、判断の基準は全て契約図書である。
なお、契約は双方が対等であることを認め合った、いわゆる双務契約であるが、安易な妥協や譲歩があってはならない。しかし、双務契約である以上契約の内容に盛り込まれていないことを強制してはならないし、感情的な対立も避けるようにしなければならない。監督職員は、常に良識をもって厳正に問題の解決を図るようにしなければならない。

(イ) 国等の発注組織における監督職員・検査職員の立揚

監督職員は、国の組織の一員として一般職員が従わなければならない一般の行政法令等のほかに、監督業務という特別な職務を担っているので、「予算執行職員等の責任に関する法律」等により、監督職員に適用される「予算執行職員」としての義務と責任を持つことになる。
すなわち、職員が所属する部・課等の組織のほかに、監督業務を行うための組識体制がつくられていて、総括監督員、主任監督員及び一般の監督員により構成され、それぞれの業務も定められている(1.0.2(エ) 参照)。いわば、監督職員は二重の組織に属していることになるので、それぞれの立場を混同して、監督業務の運用に支障を生じることがあってはならない。
監督職員の属する組織は上述のとおりであるが、建設工事は多くの人の協同作業によって進められるものであり、特に人の和を重んじ、良い公共建築物を造るという点で、心を一つにして仕事に取り組めるようにする必要がある。受注者等、関連専門工事業者はもちろん、設計者、入居官署の担当者、また、必要に応じて 近隣住民等関係者と広く意思の疎通を図り、相互の信頼の上に立って業務を行う ように努力することが望まれる。
公共工事については、平成13年に施行された「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」(以下、この章では「入契適正化法」という。)において、情報の公表、不正行為に対する措置、施工体制の適正化を図るための措置が規定され、さらに、平成17年に施行された「公共工事の品質確保の促進に関する法律」(以下、この章では「公共工事品確法」という。)において、工事の品質確保に関する基本的理念と国等の責務が明確にされた。監督・検査分野については、特に検査について、会計法等に基づく給付のための検査と技術検査が明確に分離され、また、発注者が行う監督・検査及び施工状況の確認・評価が基本方針で明確にされた。
さらに、工事の監督・検査に関する基準、工事の技術検査要領、工事の成績評定要領、そして施工体制把握の要領は「公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針」(以下、この章では「適正化指針」という。)による公表対象である。このように、公共工事の入札・契約の適正な実施及び品質確保が、ー工事にとどまらず公共工事全体に対する国民の信頼、そして建築業の健全な発展につながるものとして位置付けられたことに関係者は留意すべきである。
平成26年に「公共工事品確法」は、担い手3法として、「入契適正化法」及び「建設業法」とともに改正され、計画的な発注、適切な工期設定、適切な設計変更等の発注者の責務が明確化された。このことを踏まえ、監督職員においては、適切な設計変更等が行えるように調整等を行うことが重要になっている。
さらに、令和元年には、新・担い手3法として改正され、災害時の緊急対応の充実強化、働き方改革への対応、生産性向上への取組、調査・設計の品質確保の内容が見直された。営繕工事における働き方改革の取組として、適正な工期設定、工事関係図書等に関する効率化の徹底が行われている。
参考として、国土交通省の営繕工事における建築工事監理業務の業務委託について述べる。国土交通省大臣官房官庁営繕部では、透明性、客観性の高い契約関係を構築するとともに、営繕工事の適切な品質確保をより一層図るために、平成 13年2月15日付で「建築工事監理業務委託契約書」及び「建築工事監理業務委託共通仕様害」を制定し、この業務委託をより適正に実施するために「建築工事監理業務委託の基本方針」についても定めている。
工事監理業務を委託する場合の営繕工事においては、発注者の代理人としての監督職員のほかに、工事監理業務の受注者等による確認が行われる。この体制において、監督職員と工事監理業務に係る発注者の代理人としての調査職員に同一職員を任命しており、当該職員が工事請負契約と監理業務委託契約とによりその職務を使い分けつつ、意思疎通の円滑化が図られるようにしている。工事監理業務を委託する場合(設計意図伝達業務を設計者に委託し、設計者とは異なる者に工事監理業務を委託する場合)における工事関係者の役割を図1.0.1に示す。

図1.0.1 第三者監理方式における工事関係者の役割と責任
(監督職員が工事監理業務の調査職員を兼務した場合の例)

(ウ) 公共建築物にかかわる建築技術者としての心構え

最近の建築工事(改修を含む)を取り巻く環境の変化には著しいものがある。次はその例である。

① 地球環境への配慮(温室効果ガス排出の削減、特定フロン対策、資源の有効利用、建設副産物の発生抑制・再使用・再利用等の促進、環境マネジメントシステムの導入等)

② 公共工事品確法と入札制度の改定(公共工事への総合評価落札方式の適用、技術提案等)

③ 公衆災害の防止と安全対策の推進(工事騒音・振動の抑制、建設重機の転倒事故防止、エスカレーター・エレベーター利用者の事故防止等)

④ 労働環境の改善(週40時間労働、週休2日制の推進、各工程の適正な施工期問の確保、休憩・リフレッシュスペースの確保等によるクリーンなイメージの現場環境整備等)

⑤ 受注者等による品質管理(鋼材等の品質確認、工場加工における品質確保、品質マネジメントシステムの導入等)

⑥ 情報化対策、新技術の開発と導入(情報共有システム、ASP、VE提案の採用等)

⑦ 生産性の向上(省人化・施工合理化技術、ICT、BIM、電子小黒板、現場作業の軽減と工場生産化、工事関係書類の簡素化、監督職員の遠隔臨場)

⑧ コスト縮減(契約後VEの検討、海外材料・新技術・新工法の採用、施工の合理化、適正工期の確保等)

⑨ 規制緩和への取組み(性能仕様としての規定、国際規格の認証、海外資機材の使用等)

⑩ 健康安全環境の保全(石綿(アスベスト)・鉛・ホルムアルデヒド・ダイオキシン等有害物質への配慮、産業廃棄物の適正処理等)

監督職員は、契約図書に従って工事を完成させるだけでなく、これらの課題に対して、受注者等とともに個々の現場で、誠意をもってその解決を図る努力をしていくことが求められており、それらの努力により、建設産業としての魅力が生まれてくるのである。また、問題の解決に当たっては、個々の現場での対応だけではなく、公共建築物を建設する組織として対応し、検討していかなければならないものも多い。

1.0.2 監督及び監督職員に関する関係法令

監督業務に関係する法律、基準等を国土交通省の場合について次の(ア) から(タ) までに挙げる。(ア) から(シ) までの法令等については、関連箇所の抜粋等を示す。

(ア) 会計法
(イ) 予算決算及び会計令
(ウ) 契約事務取扱規則
(エ) 地方建設局請負工事監督検査事務処理要領
(オ) 予算執行職員等の責任に関する法律
(カ) 予算執行職員等の責任に関する法律について
(キ) 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律
(ク) 公共工事の品質確保の促進に関する法律
(ケ) 建築基準法、同施行令、関連告示・通達
(コ) 建築士法
(サ) 建築士法第25条規定、平成31年1月21日国土交通省告示第98号
(シ) 工事請負契約書
(ス) 労働基準法
(セ) 労働安全衛生法
(ソ) 消防法
(タ) 人事院規則

(ア) 会計法
会計法の抜粋を次に示す。

会 計 法

(昭和22年3月31日 法律第35号 最終改正平成29年6月2日)

第29条の11
契約担当官等は、工事又は製造その他についての請負契約を締結した場合においては、政令の定めるところにより、自ら又は補助者に命じて、契約の適正な履行を確保するため必要な監督をしなければならない。

(イ) 予算決算及び会計令〈通称「予決令」〉
予算決算及び会計令の抜粋を次に示す。

予算決算及び会計令

(昭和22年4月30日 勅令第165号 最終改正令和4年6月15日)

(監督の方法)
第101条の3 会計法第29条の11第1項に規定する工事又は製造その他についての請負契約の適正な履行を確保するため必要な監督(以下本節において「監督」という。)は、契約担当官等が、自ら又は補助者に命じて、立会い、指示その他の適切な方法によって行なうものとする。

参照 【補助者(予貨法2①十二)[監督の実施細目(契約規則21)、実施細目制定事務の委任(会計規則39)、国土交通大臣が定める一般準則(監督検査要領)[監督ー監督の体制(監督検査要領第3)、監督職員の職務等(契約規則18、監督検査要領第4・第5・第11・第12)

(ウ) 契約事務取扱規則
契約事務取扱規則の抜粋を次に示す。

契約事務取扱規則

(昭和37年8月20日 大蔵省令第52号最終改正令和2年12月4日)

(監督職員の一般的職務)
第18条 契約担当官等、契約担当官等から監督を命ぜられた補助者又は各省各庁の長若しくはその委任を受けた職員から監督を命ぜられた職員(以下「監督職員」という。)は、必要があるときは、工事製造その他についての請負契約(以下「請負契約」という。)に係る仕様書及び設計書に基づき当該契約の履行に必要な細部設計図、原寸図等を作成し、又は契約の相手方が作成したこれらの書類を審査して承認をしなければならない。

2 監督職員は、必要があるときは、請負契約の履行について、立会い、工程の管理、履行途中における工事製造等に使用する材料の試験若しくは検査等の方法により監督をし、契約の相手方に必要な指示をするものとする。

3 監督職員は、監督の実施に当たっては、契約の相手方の業務を不当に妨げることのないようにするとともに、監督において特に知ることができたその者の業務上の秘密に属する事項は、これを他に漏らしてはならない。

(監督職員の報告)
第19条 監督職員は、関係の契約担当官等と緊密に連絡するとともに、当該契約担当官等の要求に基づき又は随時に、監督の実施についての報告をしなければならない。

契約事務取扱規則

(エ) 地方建設局請負工事監督検査事務処理要領
監督については、その体制、業務内容、任命基準、監督に関する図書等が定められている。
なお、現在、地方建設局は地方整備局に組織変更されているが、基本となる会計法令の該当する部分は改正されていないことなどから、事務処理要領の改正は行われず、従前の地方建設局の各部等(港湾航空関係を除く。)が発注する工事については、この事務処理要領が適用されている。
事務処理要領の抜粋を次に示す。

地方建設局請負工事監督検査事務処理要領

(昭和42年3月30日 建設省厚第21号 最終改正令和3年3月31日)

(監督業務の分類)
第4 監督業務は、監督総括業務、現場監督総括業務及び一般監督業務に分類するものとし、これらの業務の内容は、それぞれ次の各号に掲げるとおりとするものとする。

ー 監督総括業務
ィ 工事請負契約書(平成7年6月30日付け建設省厚契発第25号)に基づく契約担当官等の権限とされる事項のうち契約担当官的が必要と認めて委任したものの処理

ロ 契約の履行についての契約の相手方に対する必要な指示、承謡又は協議で重要なものの処理

ハ 関連する2以上の工事の監督を行なう場合における工事の工程等の調整で重要なものの処理

二 工事の内容の変更、一時中止又は打切りの必要があると認めた場合における当該措置を必要とする理由その他必要と認める事項の契約担当官等(法第29条の3第 1項に規定する契約担当官等をいう。以下同じ。)に対する報告

ホ 現場監督総括業務及び一般監督業務を担当する監督職員の指揮監督並びに監督業務の掌理(しょうり)

二 現場監督総括業務
イ 契約の履行についての契約の相手方に対する必要な指示、承諾又は協議(重要なもの及び軽易なものを除く。)の処理

ロ 設計図、仕様書その他の契約関係図書(以下「契約図書」という。)に基づく工事の実施のための詳細図等(軽易なものを除く。)の作成及び交付又は契約の相手方が作成したこれらの図書(軽易なものを除く。)の承諾

ハ 契約図書に基づく工程の管理、立会い、工事の実施状況の検査及び工事材料の試験又は検査の実施(他の者に実施させ、当該実施を確認することを含む。以下阿じ。)で重要なものの処理

二 関連する2以上の工事の監督を行なう場合における工事の工程等の調整(重要なものを除く。)の処理

ホ 工事の内容の変更、一時中止又は打切りの必要があると認めた場合における当該措置を必要とする理由その他必要と認める事項の監督総括業務を担当する監督職員に対する報告

へ 一般監督業務を担当する監督職員の指揮監督並びに現場監督総括業務及び一般監督業務の掌理

三 一般監督業務
イ 契約の履行についての契約の相手方に対する必要な指示、承諾又は協議で軽易なものの処理

ロ 契約図書に基づく工事の実施のための詳細図等で軽易なものの作成及び交付又は契約の相手方が作成したこれらの図書で軽易なものの承諾

ハ 契約図書に基づく工程の管理、立会い、工事の実施状況の検査及び工事材料の試験又は検査の実施(重要なものを除く。)

ニ 工事の内容の変夏、一時中止又は打切りの必要があると認めた場合における当該措置を必要とする理由その他必要と認める事項の現場監督総括業務を担当する監督職員に対する報告

ホ 第6第4項の規定により任命された監督員にあっては、第6第6項の規定により任命された監督員の指揮監督及び一般監督業務の掌理

(監督職目の担当業務)
第5 本官契約又は分任官契約の監督を行う監督職員は、総括監督員、主任監督員及び監督員とし、それぞれ監督総括業務、現場監督総括業務及び一般監督業務を担当するものとする。(第2項省略)

(監督に関する図書)
第12 監督職員は、次の各りに掲げる図書(契約の相手方から提出された図書を含む。)をそれぞれの担当事務に応じて作成し、及び整理して監督の経緯を明らかにするものとする。

ー 工事の実施状況を記載した図書

二 契約の履行に関する協議事項(軽易なものを除く。)を記載した書類

三 工事の実施状況の検査又は工事材料の試験若しくは検査の事実を記載した図書

四 その他監督に関する図書

地方建設局請負工事監督検査事務処理要領

(オ) 予算執行職員等の責任に関する法律〈通称「予責法」〉
監督職員に任命された者は、「予責執行職員」となるので、場合によってはその責任を問われることもあり得ることを示している。
予責執行職員等の責任に関する法律の抜粋を次に示す。

予責執行職員等の責任に関する法律

(昭和25年5月11日 法律第172号 最終改正令和元年5月31日)

(定義)
第2条 この法律において「予責執行職員」とは、次に掲げる職員をいう。

ー 会計法(昭和22年法律第35り)第13条第3項に規定する支出負担行為担当官
二 会計法第13条の3第4項に規定する支出負担行為認証官
三 会計法第24条第4項に規定する支出官
四 会計法第17条の規定により資金の交付を受ける職員
五 会計法第20条の規定に基き繰替使用をさせることを命ずる職員
六 会計法第29条の2第3項に規定する契約担当官
七 前各号に掲げる者の分任官
八 前各号に掲げる者の代理官
九 会計法第46条の3第2項の規定により第一号から第三号まで又は前三号に掲げる者の事務の一部を処理する職員
十 会計法第29条の11第4項の規定に基づき契約に係る監督又は検査を行なうことを命ぜられた職員
十一 会計法第48条の規定により前各号に掲げる者の事務を行う都道府県の知事又は知事の指定する職員
十二 前各号に掲げる者から、政令で定めるところにより、補助行としてその事務の一部を処理することを命ぜられた職員

(予算執行職員の義務及び責任)
第3条 予算執行職員は、法令に準拠し、且つ、予算で定めるところに従い、それぞれの職分に応じ、支出等の行為をしなければならない。

2 予算執行職員は、故意又は重大な過失に因り前項の規定に違反して支出等の行為をしたことにより国に損害を与えたときは、弁償の責に任じなければならない。

3 前項の場合において、その損害が2人以上の予算執行職員が前項の支出等の行為をしたことにより生じたものであるときは、当該予算執行職員は、それぞれの職分に応じ、且つ、当該行為が当該損害の発生に寄与した程度に応じて弁償の責に任ずるものとする。

(予算執行職負の弁償責任の転嫁)
第8条 予算執行職員は、その上司から第3条第1項の規定に違反すると認められる支出等の行為をすることの要求を受けたときは、書面をもって、その理由を明らかにし、当該上司を経て任命権者(当該上司が任命権者(宮内庁長官及び外局の長であるものを除く。)である場合にあっては直ちに任命権者、当該上司が宮内庁長官又は外局の長である任命権者である場合にあっては各省各庁の長)にその支出等の行為をすることができない旨の意見を表示しなければならない。

2 予算執行職員が前項の規定によって意見の表示をしたにもかかわらず、さらに、上司が当該職員に対し同一の支出等の行為をすべき旨の要求をしたときは、その支出等の行為に基く弁償責任は、その要求をした上司が負うものとする。

予算執行職員等の責任に関する法律

(カ) 予算執行職員等の責任に関する法律について
「予算執行職員等の責任に関する法律について」の抜粋を次に示す。

予算執行職員等の責任に関する法律について

(昭和25年7月3日 大蔵省計発第484号)

標記の件について会計検査院とも打合の結果現在の段階においてとりあえず別紙のとおり法律の解釈と運用方針が決定したから通知する。

よってその趣旨の徹底並びに事務処理に遺憾のないことを期せられたい。

別 紙
予算執行職員等の責任に関する法律の解釈及び運用方針

第2条(定義)
2 「補助者としてその事務の一部を処理することを命ぜられた職員」とは、第1項第ー号から第七号〔注・現在の第八号にあたる〕までに掲げる者から直接その所掌すべき事務の範囲を明示された書面による特別の命令を受けた職員のみをいい、人事系統からする勤務辞令はここに言う命令とはみない。又その補助者の実際上の補助者もここにいう補助者ではない。補助力者の再補助者は認めない。従ってその取扱として補助者は当該予算執行員を直接補助する身分と地位を有する者に限ることとする。

第3条(予算執行職員の義務及び責任)
1「それぞれの職分に応じ」とは、支出負担行為担当官、同認証官、支出官等の職務の範囲を明確にしたものであって、本法により職分に応ずべきあらたな特別の義務を課したものではない。

2 「故意」とは、支出等の行為が法令又は予算に違反していることを認識することである。その行為の結果国に損忠を与えることの認識を必要としない。

3 「重大な過失」とは、全良な管理者の注意を著しく欠くことである。善良な竹理者の注意義務とは、社会の一般的観念において、その戦にある人に当然要求せられる注意義務をいい、特定の個人の注意能力が標準となるものではない。

4 補助者が、補助を命ぜられた範囲内の事務について、その内容が専ら補助者の責に帰すべき性質のものであるときは、補助者が全責任を負うことになる。

5 「損害」とは経済的な実損をいう。従って反対給付があったときの当該処分価格の如きは、すくなくとも損害とは見られない。

第8条(予算執行職員の弁償責任の転嫁)
1 「上司」とは予算の執行に関し、予算執行職員の指揮監督権を有する者をいい、上司の上司も含まれるが、国の予算の執行を掌る史員に対して都道府県又は特別市の長は、「上司」ではない。

2 予算執行職員が支出等の行為をすることができない旨の意思表示をしたのにさらに上司からの要求によりやむをえず支出等の行為をした場合において、その責任を免れるためには、上司からの要求があったことを証明するに足る資料を後日のためととのえて置くことが望ましい。

予算執行職員等の責任に関する法律について

(キ) 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律人契適正化法の抜枠を次に示す。

公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律

(平成12年11月27日 法律第127号 最終改正 令和3年5月19日)

(目的)
第1条 この法律は、国、特殊法人等及び地方公共団体が行う公共工事の入札及び契約について、その適正化の基本となるべき事項を定めるとともに、情報の公表、不正行為等に対する措置、適正な金領での契約の締結等のための措置及び施工体制の適正化の措置を講じ、併せて適正化指針の策定等の制度を整備すること等により、公共工事に対する国民の信頼の確保とこれを請け負う建設業の健全な発達を図ることを目的とする。

(ク) 公共工事の品質確保の促進に関する法律
公共工事においては、調達時点で品質を確保できる物品購入等とは異なり、価格だけでなく技術や品質を含めた評価のもとで、他全な競争が行われることが重要な課題であるため、平成17年4月に、公共工事品確法が施行され、公共工事の品質確保について、基本理念や国等の責務が明らかにされた。
公共工事品確法の抜粋を次に示す。

公共工事の品質確保の促進に関する法律

(平成17年3月31日 法律第18号 一部改正 令和元年6月14日)

(目的)
第1条 この法律は、公共工事の品質確保が、良質な社会資本の整備を通じて、豊かな国民生活の実現及びその安全の確保、環境の保全(良好な環境の創出を含む。)、自立的で 個性豊かな地城社会の形成等に寄与するものであるとともに、現在及び将来の世代にわたる国民の利益であることに鑑み、公共工事の品質確保に関する基本理念、国等の責務、基本方針の策定等その担い手の中長期的な育成及び確保の促進その他の公共工事の品質確保の促進に関する基本的事項を定めることにより、現在及び将来の公共工事の品質確保の促進を図り、もって国民の福祉の向上及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

(定義)
第2条 この法律において「公共工事」とは、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成12年法律第127号)第2条第2項に規定する公共工事をいう。

(基本理念)
第3条 公共工事の品質は、公共工事が現在及び将来における国民生活及び経済活動の基盤となる社会資本を整備するものとして社会経済上重要な意義を有することに鑑み、国及び地方公共団体並びに公共工事等(公共工事及び公共工事に関する調査等をいう。以下同じ。)の発注者及び受注者がそれぞれの役割を果たすことにより、現在及び将来の国民のために確保されなければならない。

公共工事品確法では、公共工事の品質は、「経済性に配慮しつつ価格以外の多様な要索をも考慮し、価格及び品質が総合的に優れた内容の契約がなされることにより、確保されなければならない。」と規定されており、公共工事の品質確保のための主要な取組みとして総合評価方式の適用を掲げている。

公共工事の品質確保を図るためには、発注者は競争参加者の技術的能力の審査を適切に行うとともに、品質の向上に係る技術提案を求めるよう努め、落礼者の決定においては、価格に加えて技術提案の優劣を総合的に評価することにより、最も評価の高い者を落札者とすることが原則となる。

総合評価方式の適用により、公共工事の施工に必要な技術的能力を有する者が施工することとなり、工事品質の確保や向上が図られ、工事目的物の性能の向上、長寿命化・維持修繕費の縮減・施工不良の未然防止等による総合的なコストの縮減、交通渋滞対策・環境対策、事業効果の早期発現等が効率的、かつ、適切に図られる。また、民間企業が技術力競争を行うことによりモティベーションの向上が図られ、技術と経営に優れた他全な建設業が育成されるほか、価格以外の多様な要素が考慮された競争が行われることで、他全な入札環境が整備される。

なお、総合評価落札方式で受注者を決定した場合は、評価に反映された技術提案について、全て契約料にその内容を記載することになるため、発注者は技術提案の履行について確認しなければならない。

施工において技術提案の内容が履行できなかった場合は、再施工を原則とするが、再施工が困難あるいは合理的でない場合は、施工できなかった評価項目の加算点に相当する契約金額の減額、違約金等の請求を行うことがある。また、工事成績評定についても、施工できなかった評価項目の加算点に応じた減点を行うことになる。

さらに、引渡し後において、技術提案の不履行が確認された場合は、再施工の義務等を課すとともに、工事成績評定の減点を行うことがある。
契約後の措置等については、入札説明書等に記載しているので確認する必要がある。

(ケ) 建築基準法
建築主は、第5条の6第1項の建築士の設計によらなければならない建築物の工事をする場合には、工事監理者を定めなければならず、これに違反した工事はすることができないとしている。

(コ) 建築士法
建築物の災害等に対する安全性を確保し、建築物の質の向上と良好な市街地環境の形成を図ることにより、国民の生命及び財産の保護と公共の福祉の増進に資するためには、建築物の設計及び工事監理を適正に行うことが必要である。このため、この法律では建築物の設計及び工事監理に携わる建築技術者の資格並びに業務を定めている。

(サ) 建築士法第25条規定、平成31年1月21日 国土交通省告示第98号

「建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準」において、工事監理等に関する業務と報酬の算定方法等を定めている。
別添ー第2項「工事監理に関する標準業務及びその他の標準業務」の第一号と第二号で示す項目は、基本的に民間(旧四会)連合協定工事標準請負契約約款の第9条(監理者)の各項目と整合するものである。

建築士法による工事監理者の法定業務とは、第一号「工事監理に関する標準業務」の表の項目(4)から(6)までである。項目(4)「工事と設計図書との照合及び確認」の業務内容に示す「確認対象工事に応じた合理的方法」として、「工事監理ガイドライン」が示されている。

なお、工事請負契約書第9条(監督職員)第2項第二号の一部の業務は、告示第98号の別派ー第1項第三号の「工事施工段階で設計者が行うことに合理性がある実施設計に関する標準義務」に位置づけられている。

建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準

(平成31年1月21日 国土交通省告示第98号)

別添ー
2 工事監理に関する標準業務及びその他の標準業務

ー 工事監理に関する標準業務(本文及び表の業務内容欄省略)

二 その他の標準業務(本文及び表の業務内容欄省略)

(シ) 工事請負契約書(平成7年6月30日建設省厚契発第25号、最終改正令和3年3月26日。以下、この節では「契約書」という。)
契約書第9条(監督職員)で発注者権限のうち監督職員が担当する権限の手続きと範囲を規定する(図1.0.1参照)。監督職員の権限等は、総括監督員、主任監督員及び監督員のそれぞれの権限(役割分担)について受注者に通知することで有効になる。運用基準と関連する通達類をもとに適用される。

1.0.3 用語の解説
「標仕」1.1.2で定められている以外で、本書の中で使われている用語の解説を次に示す。

(ア) 確認
工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかを確かめる監督職員の行為のことをいう(「標仕」においては、受注者が行う行為に対して使用される。ほかには、会計法等による給付の確認に該当する事項及び工事契約に直接かかわらない分野で行う監督職員の行為に対しても使用される。)。

(イ) 調整
監督職員が関連する工事との間で、工程等について相互に支障がないように協議し必要事項を受注者等に対し指示することをいう。ほかには、工事契約に直接関わらない分野で行う監督職員の行為に対しても使用している。
また、設計図書に基づいて、工事目的物が具体化されていく段階で生じる数々の問題を適切に処理し、工事の進捗を円滑に保つことをいう。

(ウ) 記録
工事における監督の経緯を明らかにしたものをいう(1.2.4参照)。

1.0.4 監督職員の業務の概要

(1) 監督職員の業務の概要
(ア) 監督職員の基本的業務を大別すると次のようになる。

(a) 予算執行職員として、契約図書に基づく履行の確認、調整及びそれらの記録
(b) 工事監理者として、設計図書の具現化の段階における確認、調整及びそれらの記録
(c) 国の職員として、国の政策の実施における指導
入契適正化法による不正行為等に対する措置(建設業法第28条の一部、施工体制台帳の提出等の違反)、適正化指針及び関連通知に従い講ずるべき措置(特に工事契約締結から完成までの間。施工体制台帳確認や監理技術者の確認等)
公共工事品確法及び「公共工事の品質確保の促進に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針について」により必要となる措置等。工事の監督(検査)及び施工状況の確認・評価等。
実施に当たっては、発注関係事務を適切に実施できる者を活用するよう努めるものとしている。

(イ) (ア) に関する監督職員の検査は数量、出来形、出来高、品質・性能がその主なものとなる。
国土交通省の監督職員が行う出来形確認は、「地方整備局営繕工事既済部分出来高算出要領(案)(平成29年3月29日 国営整第236号 国営設166号)」により、受注者が作成した出来形部分確認資料により確認するとされている。対象は監督職員の検査に合格した部分等である。
契約書第18条(条件変更等)による確認の請求が受注者より提出されたときは、契約書に従い調査のうえ、結果を受注者へ通知する。
例えば、設計図書相互の齟齬や土工事中の地中障害物の発生等が、受注者等より主任監督員に対し通知と確認の請求が提出された場合の対処は、概ね次のとおりとなる。
(a) 問題の実態を把掘する(現場に関する問題は、極力監督職員が現地で状況を把握する。)。
(b) 緊急度に応じて、まず上司へ報告する。
(c) 必要資料を作成(監督職員又は受注者等が行う。)する。この際なるべく最善と思われる処理方法を立案する。
(d) 資料を上司へ提出し、設計担当者と協議を行う。
(e) 上司からの指示を受ける。

(ウ) (イ) (b)の段階において、監督職員が自己の権限で判断、処理できると思われる場合は、調整を行った後、その調整内容を記録に残し、随時上司の閲覧を受けられるようにしておくことが大切である(1.0.7参照)。
なお、監督職員の権限については、「事務処理要領」(1.0.2(エ) 参照)に分類されている。

(エ) 発注者の代理人である監督職員の契約上の責任としては、(イ) に示す講整の結果、契約図書に基づく変更処理をする必要があると認めた場合に契約担当官等へ報告することにある。また、原設計で構造設計ー級建築士・設備設計ー級建築士による法適合確認に該当となった建築物は、設計変更においても、その必要がある。

(2) 業務遂行に当たっての注意事項
(ア) 入居官署(管理官署)、設計担当者等との打合せ
監督職員は、必要に応じて、入居官署、設計担当者等と打合せを行う。その際、発注者組織の中の職員として打合せ内容を記録し、発注者組織の内部で当該事項に関する主務課が別途存在する場合は、実務上、当該課と連絡を取って対処する必要がある。自己の権限を超えるものは、上司に報告し指示を受ける必要がある。

(イ) 受注者の自主施工の取扱い
契約書(第1条第3項)においては、「仮設、施工方法その他工事目的物を完成するために必要な一切の手段については、この契約書及び設計図書に特別の定めがある場合を除き、受注者がその責任において定める。」と規定されている。
しかし、受注者の施工計画によっては、契約条件どおり(工期も含まれる。)の工事目的物が得られないと判断される場合、あるいは社会的・技術的常識に反すると判断される場合には、監督職員はその理由を示して受注者に注意を与える必要がある。さらに、事態が著しく深刻な場合及び注意が受け入れられない場合には、時期を失することなく、発注者から文書による申入れを行う必要がある。

(ウ) 下請負人の通知
発注者は、工事受注者が選定した下請負人の称号又は名称その他必要事項の通知を請求することができる(契約書第7条)。また、下請負人等が工事の施工上著しく不適当と認められるとき、発注者は受注者に必要な処置をとることを請求することができる(契約書第12条)。
一定金額以上の工事を受注した受注者は、平成6年の建設業法改正により法律上の義務として施工体制台帳を整備しなければならなくなった。さらに平成26年6月の建設業法の改正により、平成27年4月から公共工事において受注者は下請け金額にかかわらず、下請業者に工事を発注した場合は、施工体制台帳の整備を行わなければならなくなった。一方、監督職員(発注者側)は入契適正化法に基づき、元請業者だけではなく、下請業者を含めた適正な施工体制の把握・点検を行うとされている。これらは、工事の進捗に伴い新規に決定する下請業者に対しても適用されるので注意が必要である。
この条項を設けているのは、実際の作業にあたる下請負人の良否が工事の出来ばえに影響を与えるので、前項と同様に契約の履行上支障がある場合には是正を求める必要があるからである。

(エ) 問題解決に当たっての監督職員の態度
会計法に、「契約の適正な履行を確保する」と規定されているとおり(1.0.2 (ア) 参照)、監督職員は問題の解決に当たっては、迅速、かつ、適正な決定を行うよう努力しなければならない。
建築工事現場において、発注段階では予見不可能であった諸問題が発生した場合、対処に必要な発注者の意思決定に時間を費やす場合があるため、実働工期が短くなり工事等の品質が確保されないケースが発生していると指摘されている。そのため、発注者はワンデーレスポンスの実施等、問題解決のための行動の迅速化を図る必要がある。
ワンデーレスポンスは、従来監督職員が実施していた「現場を待たせない」、「速やかに回答する」という対応を、より組織的、システム的なものとし、工事現場において発生する諸問題の解決に対し迅速な対応を実現し、これによって効率的な事業執行を行うことを目的とする。

(オ) 監督職員の指示及び受注者等との協議
「標仕」に「監瞥職員の指示」によると定められている事項では、発注者の代表としての監督職員を表現しているもので、監督職員が自己の権限を超えるものは、上司、関係者等とよく協議する必要がある。すなわち、指示の内容により、監督総括業務、現場監督総括業務又は一般監督業務に分類されている(1.0.2(エ) 参照)ので、それぞれの業務権限に応じた者の了解を得て指示(「標仕」1.1.2(エ) )しなければならない。また、受注者等との協謡についても、発注者の代表としての協議を意味するもので、指示の場合と同様に対応する必要がある。

1.0.5 確認業務
(1) 確認に対する心構え
1.0.4で述べたとおり、出来形・出来高や設計図書に基づく品質の承諾は、監督職員の基本的な業務である。この確認の手順としては、一般的に「標仕」に基づく品質の確認を積み重ねていくことによって、出来形の確認を行うことになる。しかし、「標仕」に規定されている事項を全て現場において確認すると、現場における作業量は膨大なものとなる。特に巡回監督の場合には、全ての確認を現場で行うことが困難である。対応として、施工工程の目的を正確に認識するとともに、工程の重要度を勘案して限られた時間・体制で効率良く、要点を見逃さないで監督ができるように常に工夫しなければならない。
平成31年国土交通省告示第98号別添ー第2項第一号の項目(4)の業務内容で、「工事施工者の行う工事が設計図書の内容に適合しているかについて、設計図書に定めのある方法による確認のほか、目視による確認、抽出による確認、工事施工者から提出される品質管理記録の確認等、確認対象工事に応じた合理的方法により確認を行う。」とされており、この「確認対象工事に応じた合理的方法」について具体的に例示する工事監理ガイドラインが策定されている。
これらを総合的に勘案して、立会い確認、書類確認等の方法、抽出による確認による場合の抽出率等を決定する必要がある。

(2) 確認業務の分類
分類は次の3項目である。これらはそれぞれ準備段階と施工段階とに分けることができる。

(a) 工事材料と品質、施工結果の検査(設計図書どおりかを確認。立会いを含む)。
(b) 工期内の完成を確認すること。
(c) 受注者の責任に属する範囲の施工内容について把握していること。
なお、工事監理を業務委託する場合は、受託者が上記業務を実施し、結果を監督職員に報告する。
(3) 準備段階
(ア) 施工段階において巡回監督による監督職員の確認を行う前提としては、受注者等による自主的管理が適切に行われていることが必要になる。このため、施工計画書等により受注者の施工体制の確認が必要となる。具体的には、「標仕」1.3.1で規定するように、実際に施工を行う下請負人と受注者(元請負人)の責任範囲がどのようになっているか、施工の管理に対してどのような取組みを行うのか、また、監督職員に対してどのように施工の報告を行うのかなどが挙げられる。
なお、国土交通省の施策に挙げられている工事の安全については、建築工事安全施工技術指針等により、必要に応じて指導を行う。

(イ) 準備段階とは、施工に先立ち、工程表、施工計画書、施工図、見本等(2節参照)により、設計図書の内容を具体化する段階である。また、これらを通して施工時期、材料、工法等を監督職員と受注者等とがお互いに確認し、そのとおりに施工することを約束しあう段階でもある。施工品質はこの処理いかんで決定するといっても過言ではない。

(ウ) 提出された図書等については、「この図書等により施工して、設計図書と違うものができないか、要求品質を満たすか又は設計図書に明記されていない箇所の記述・作図等が、明記されている部分と均衡を得ているか、さらに、将来不具合 や故障の原因となるおそれのある納まりになっていないか」という観点で確認し、承諾する。ただし、受注者等と意見が相違する点については、十分に協議するものとし、設計図書に含まれていない事項については、設計担当者とも協議し、受注者等の計画を承諾するか計画の修正を求めるか、設計変更を行う必要はないか などを適切に決定する必要がある。経緯については、記録等を取らなければならない。

(4) 施工段階
(ア) 施工計画書に従い受注者等が施工を行う段階においては、材料及び施工の確認(受入検査)も受注者等が自己の責任で行い、準備段階で定められた条件に適合することを受注者等が確認し、その確認した結果を監督職員に逐次報告して、施工を進めていくことになる。
これに対して監督職員は、受注者等の自主管理が適正であるかどうかを確認するため「監督職員の検査」を行うことになる。
(イ) 材料及び施工の確認についての詳細は、4節及び5節を参照する。
(5) 確認業務の体系
前述した確認業務内容をまとめると、図1.0.2のような体系になる。


図1.0.2 確認業務の体系

1.0.6 調整業務

(1) 主な調整業務
現場における調整業務として予想される事項とその処理方法は、契約書及び「標仕」に定められている。最近では、発注者としての調整が必要な近隣等との折衝や周辺環境の保全、受注者等からの施工方法の提案への対応等、監督職員の調整業務が広がりつつある。この項では、主として「標仕」に規定されている次の項目について記述するが、調整を行った結果としては、請負工事の変更を伴う場合もあり、予算の裏付けや変更仕様の決定等、監督体制の中だけでなく関係者との調整が必要になる。

(a) 疑義に対する協議(「標仕」1.1.8参照)

(b) 工事箇所並びにその周辺にある地上及び地下の既設構造物、既設配管等に対して、支障を来たさないような施工方法等を定めることが困難な場合(「標仕」1.3.7(4)参照)

(c) 災害時の安全確保(「標仕」1.3.9参照)

(d) その他

(2) 主な調整方法
(ア) (1)(a)による調整
通常、工事現場で生じる調整は、疑義に対する協議によるものが主であり、その処理方法は、「標仕」1.1.8に定められている。
この調整の対象は、受注者等の単なる思い違いに属することから、設計図書作成時には予想できなかった事項に至るまで多種多様である。単なる思い違い等は別として、処理方法には次の二つがある。

① 設計変更
1) 契約変更と同時に行う場合
2) あらかじめ文書により変更内容を通知しておき、後でまとめて契約変更する場合

② 設計変更に至らない事項
「標仕」1.1.8 (3)でいう「設計図書の訂正又は変更に至らない事項」であるかどうかは、主として監督職員が自己の権限の範囲で判断することになる。しかし、判断の誤りを防ぐために1.0.4(1)(イ) に記述したとおり、上司への報告や記録の提出を確実に行わなければならない。

(イ) (1)(b)及び(c)による調整
協議又は報告のあった場合には、速やかに上司に報告しなければならない。特に、一般的な処置では、災害又は公害等の発生を未然に防ぐことが困難な場合を想定した(1)(b)に関する調整及び災害又は公害が発生した場合を対象とした(1)(c)に関する調整は、その内容の判断が難しい場合が多いので、直ちに上司に報告しなければならない。また、事態が急を要し、報告とともに対策も監督職員に迫られるような非常の場合には、被害の拡大の防止(特に二次災害の防止)、必要関係方面との連絡、現場保存、記録及び情報の収集に努めなければならない。このような場合に備えて、工事現場内の電話機のそばに非常時連絡先の一覧表を掲示しておくなどの処置が必要である。
なお、事故発生時には、現場代理人が監督職員に直ちに通報することを徹底しておくことが重要である。

(ウ) (1)(d)による調整
「不合格施工が発見された場合」に、それが容易に修正できるものの場合は再施工を指示すればよいが、例えば、構造体のコンクリート強度の推定試験が不合格となった場合(「標仕」6.9.5(2)参照)、あるいは、材料・施工等に大量の不合格が発生した場合等は、調整が必要となるので、処理方法に従って速やかに上司に報告し、その指示を受けなければならない。また、監督職員が調整に努めても受注者等が非協力的であるなど、監督職員の権限に基づく指示を受け入れない等の場合も同様である。

(3) 主な調整業務の体系
上述した調整業務をまとめると図1.0.3のようになる。


図1.0.3 主な調整業務の体系

1.0.7 監督業務の記録

監督業務の記録としては、事務処理要領の第12 (1.0.2(エ) 参照)に「監督に関する図書」が定められている。また、「標仕」には、受注者等が監督職員に報告するものが定められているが、それらの事項のうち事務処理要領の分類と対応するものを次に示す(表1.0.1参照)。
なお、受注者の提出する図書の書式は、「公共建築工事標準書式」(国土交通省官庁営繕部制定)によるほか、受注者との協議による(「標仕」1.1.5(1))。

(ア) 第一号に対応するもの
契約料に基づく工事の履行報告に当たり、監督督職員に提出すると特記された書面等。
(「標仕」1.2.4 (1)参照)

(イ) 第二号に対応するもの
「監督職員の指示した事項及び監督職員と協議した結果についての記録」
(「標仕」1.2.4(2)参照)
「工程表、施工計画書その他」(「標仕」1章2節参照)

(ウ) 第三号に対応するもの
「材料」及び「施工」に関する報告及び検査並びに立会いの記録
(「標仕」1章4節及び5節参照)
表1.0.1 現場に必要な主な書類

1章 各章共通事項 1節 共通事項

建築工事監理指針 1章 各章共通事項


1節 共通事項

1.1.1 一般事項

(1) 公共建築工事標準仕様書(以下「標仕」という。)は、公共工事標準請負契約約款(以下「公共約款」という。)に準拠した契約書により発注される公共建築工事において使用する材料(機材)、工法等について標準的な仕様を取りまとめたものであり、当該工事の設計図書に適用する旨を記載することで請負契約における契約図書の一つとして適用されるものである。「標仕」の適用により、建築物の品質及び性能の確保、設計図書作成の効率化並びに施工の合理化を図ることを目的として、建築、電気設備及び機械設備工事の「標仕」が制定されている。「標仕」は国土交通省をはじめとする各府省庁が官庁営繕事業を実施するための「統一基準」として位置づけられており、その改定周期は3年となっている。また、地方公共団体等の公共建築工事においても広く用いられている。

(2) 適用範囲については、「標仕」1.1.1 (1)に新築及び増築と明記されており、官庁営繕工事における適用の対象としては、一般的な事務庁舎を主に想定している。ただし、想定と異なる特殊な条件がある場合の適用に際しては、その工事工種を十分検討し、必要に応じて特記により補足等を行わなければならない。
また、改修工事については、別に国土交通省大臣官房官庁営繕部において、「公共建築改修工事標準仕様書」が、木造工事については、「公共建築木造工事標準仕様書」が制定されている。

(3) 公共工事に関する標準請負契約約款としては、中央建設業審議会で定める公共約款があり、各省庁等の国の機関、都道府県等の地方公共団体、独立行政法人等の機関や電気事業者、ガス事業者等の民間企業に対し、これを実施約款に採用することが勧告されている。国土交通省においても勧告を受けて工事請負契約書(以下、この節では「契約書」という。)を改正し、公共約款の改正に対応している。平成22年7月26日には公共約款が改正され、契約当事者間の対等性確保、施工体制の合理化、不良不適格業者の排除等について改善が図られ、平成29年7月25日の改正では、法定福利費の適正な負担等の規定が新設された。また、令和2年12月21日の改正では、民法や建設業法などの改正に合わせ譲渡制限の特約や契約不適合の責任、契約解除等の内容が改正された。契約不適合の責任は、改正民法の「瑕疵」が「契約の内容に適合しないもの」と文言が改められたことを踏まえ、約款もこれまでの「瑕疵担保」から「契約不適合責任」に変更された。
なお、「標仕」は、公共約款が適用されることを前提として作成されているので、公共約款に基づかない契約書が適用された工事の場合には、注意が必要である。

(4) 「標仕」に規定している事項は、一般的に契約書の規定により定められた現場代理人に対する内容となっており、契約を履行するに当たっての最終的な責任は、当該工事請負契約の受注者が負うものである。ただし、工事請負契約が双務契約であり、契約書第9条に基づき、発注者からの権限の一部を委任された監督職員は、その責務を全うすべく、誠意をもって職務を行わなければならない(善良なる管理者としての注意義務)。

(5) 「標仕」の1章には、契約書の補足事項のほか、2章以降の各章に共通する事項がまとめられている。大きくは①材料や施工の承諾、検査等、工事を実施していくうえでの手順を定めた事項、②配置すべき技術者の役割や、施工中の安全確保等に関し発注者が期待し求めている事項、③工期の変更や、工事検査等に関し、発注者が的確な判断を下すために監督職員が対応すべき事項を定めており、各章を部分的に適用する場合には、基本となるこれらの事項が欠落しないよう留意しなければならない。また、「標仕」の2章以降の各章において、1節の一般事項は、2節以降の規定と併せて適用される。

(6) 契約書と設計図書とを併せて、ここでは、「契約図書」という。
契約書第1条(総則)によれば、「設計図書」には、別冊の図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書がある。「仕様書」とは、材料・製品・工法等について、要求する特定の形状・構造・寸法・成分・能カ・精度・性能・製造方法・試験方法等を定め、文書化したものであり、一般的には、工事に対する設計者の指示のうち、図面では表すことができない点を文章・数値等で表現したものといえる。

本来仕様書は、建物の設計与条件や設計基準に基づき個々の建築工事ごとに定めるべき事項であるが、類似施設をよく発注したり、同じ仕様を用いることが多い場合等は、発注者としての標準的な仕様を「標準仕様(あるいは共通仕様)」としてあらかじめ作成しておき、個々の建築工事ごとに決定すべき仕様のみを「特記仕様」として、質的水準の統一や設計図書作成の合理化を図る発注方式が、わが国においては多くみられる。

契約書第18条(条件変更等)においては、設計図書間に相違があった場合、監督職員に確認を請求することになっているが、「標仕」においては、契約条件の明確化を図るため、「標仕」1.1.1 (4)で、設計図書間の優先順位を定めている(図1.1.1参照)。しかし、常に材料の品質や施工技術に関し全体的な均衡を考慮し、疑義が生じた場合には速やかに協議を行わなければならない。


図1.1.1 工事請負契約における図書

1.1.2 用語の定義

(1) 「標仕」1.1.2では、「標仕」において基本となる用語について定めている。

(2) 契約書に関する監督職員の権限については、契約書第9条(監督職員)で規定されている。「標仕」1.1.2(ウ) から(キ) までの用語は、受注者等の措置に対して、監督職員がその権限の範囲内において行う承諾、指示、協議、検査及び立会いについて定めている。

建設工事の性質上、工事完成後に施工の適否を判定することが困難となる部位があることや、施工後に不具合があることを発見しても、その修復に対する費用や工期の延長による影響が大きいことから、施工中の監督については、公共工事の品質を確保するうえで、その重要性が高い。

(3)「標仕」では「検査」という用語を、1.6.0のように定義して使用している。しかし、一般的には、監督職員が工事の過程で行う確認のための「配筋検査等」、検査職員が行う「完成検査」、受注者等が行う「受入検査」、専門工事業者が行う「自主検査」等、広く「検査」という用語が使用されている。

「監督職員の検査」を受けるための前提として、受注者等は、施工状況や材料の試験結果等について事前に確認し、その内容を品質管理記録として作成した後、監督職員に提出し、監督職員は必要に応じて立会い等により設計図書との適否を判断する(図1.1.2参照)。

図1.1.2 「標仕」で定める監督職員の業務

(4) 基本要求品質、品質計画及び品質管理の概念が導入されたのは、平成9年版の「建築工事共通仕様書」からであるが、その背景、考え方及び今後の展開は、次のとおりである。

(ア) 工事目的物の品質を確保するためには、発注者は受注者に「要求品質」を明確に伝え、受注者は責任をもって実現することが重要である。従来、工事に使用する材料については、JIS等に示された性能を満足することを要求品質としてきたが、施工結果(材料を加工し取り付けた後の、工事目的物の部位等)についての品質や性能については、監督職員と現場代理人が工事目的物の品質レベルについて合意形成を行い、施工計画書等に反映するとともに、施工において合意品質のつくり込みを行ってきた。

しかし、発注者としての要求品質を明確化していくことが基本であるため、各章ごとに基本要求品質を規定している。

(イ) 「基本要求品質」とは、工事目的物の引渡し(不可視部分については一工程の施工)に際し、施工の各段階における完成状態が有している品質をいい、3章以降の各章の一般事項において、①使用する材料、②仕上り状態、③機能・性能について、発注者としての基本的な要求事項を定めている。

なお、「施工の各段階」とは、次の工程に引き継ぐまでの一区切りと考えると分かりやすい。

① 「使用する材料」に関しては、「所定のものであること」としているが、一般的に、工事に使用する材料は、建築物に要求される性能を満たすものが設計担当者により選定され、設計図書に指定されている。このため、「標仕」で規定する基本要求品質の実現においては、工事において定められた品質の材料が正しく使用されたことを工事完了後においても確認できるようにしておくことが重要である。

なお、材料に関する具体的な品質の証明の例は、後述するJISマーク等の確認・記録による方法がある。

② 建築工事の「仕上り状態」としては、多分に主観的なものであるが、これを何らかの方法で客観的な状態として定めて、合意の品質を形成するようにする。これには、最終的な仕上りだけでなく、施工の各工程における出来形においても同様に考える必要がある。

③ 「機能・性能」としては、材料レベルでは普遍的な要求となっているが、建築物としての機能・性能は直接設計図書に示されることは少ない。また、出来上がった建築物の機能・性能を直接測定することも容易ではない。したがって、この要求に対しては、定量的な確認ができない場合、設計で意図する性能・機能を満足させるようなつくり込みをどのように行うか、具体的な施工のプロセスの管理に置き換えて、これを実施させることと考えればよい。

これらの要求事項の詳細は、各章の基本要求品質の記述を参考にされたい。

なお、具体的な規定がないものについては、実際の工事に当たって、この基本的な要求事項をどの程度のレベルで実現するかを、後述の「品質計画」において明らかにしておく必要がある。

各章に規定する基本要求品質における「所定」とは、「標仕」の各節の規定をはじめとした設計図書、法令等により遵守すべき事項として定量的に定まっている仕様をいう。これに対して、建物の仕様の中には、立地条件、用途、施工部位等に応じて、一律に定めることができないものが多くある。このため「所要の状態」として、受注者等が品質計画の中で施工の目標を定め、監督職員が承諾することによって、工事目的物の所要の状態についての合意品質を形成する(「標仕」 1.2.2参照)。

(ウ) 「品質計画」とは、施工計画書の一部をなすもので、設計図書で要求された品質(基本要求品質を含む。)を満たすために、受注者等が、工事において使用予定の材料、仕上げの程度、性能、精度等の目標、品質管理及び体制について具体的に記載したものをいい、監督職員は、この品質計画が当該工事に相応して妥当なものであることを確認して、承諾することになる。

なお、監督職員は事前に十分な検討を行い、工事目的物に要求される品質や、設計意図等を総合的に判断する必要がある。

(エ) 「品質管理」とは、品質計画における目標を施工段階で実現するために行う工事管理の項目、方法等をいい、品質計画の一部をなすものである。品質計画における目標が高いレベルであればよりち密な管理を行う必要があり、目標とする品質によって受注者等が行う施工管理は変わってくる。また、監督職員の検査を行う段階についてもあらかじめ定めておくとよい。

(オ) 仕様規定は分かりやすいというメリットはあるものの、その性能がよく分からないままに、それに従うことが要請される。一方、性能規定は要求品質を明確に示すことにより、新しい材料、工法の開発等に指標を与えるものとなる。

1.1.3 官公署その他への届出手続等

工事の施工に必要な官公署への手続きには提出時期が定められていて、手続きが遅れると工事の進み方に影響するものがあるので、事前に届出の確認をし、工程の遅れの原因にならないようにする。必要な手続きのうち建築工事にかかわる主なものを表1.1.1に示す。

なお、設備工事にかかわるものについては、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「電気設備工事監理指針」及び「機械設備工事監理指針」を参照されたい。

1.1.4 工事実績情報システム(CORINS)への登録

(1) 国土交通省では、平成5年12月の中央建設業審議会の建議に基づき、入札・契約手続の透明性、客観性及び競争性をより一層高めるとともに、客観的な基準により信頼のおける建設業者を選定するための施策として、工事実績情報の登録を推進している。

(2) 「標仕」では、特記された場合には、受注時、変更時(工期、技術者(現場代理人、主任技術者、監理技術者)等に変更があった場合)及び完成時の定められた期間内に登録機関へ登録申請を行い、登録されたことを証明する資料(登録内容確認害の写し)を提出するとしている。ただし、期間には、行政機関の休日に関する法律(昭和 63年法律第91号)に定める行政機関の休日は含まないとされている。

なお、変更時と工事完成時の間が10日に満たない場合は、変更時の登録されたことを証明する資料の提出を省略できるものとされている。

表1.1.1 主な官公署への申請手続一覧表

(3) (-財)日本建設情報総合センター(JACIC)では、全国の公共発注機関(国の機関、地方公共団体及び公共・公益法人等)及び公共公益施設の整備に関する事業を営む法人(鉄道、空港、電力等)が発注した工事請負金額500万円以上の工事実績データをデータベース化し、各発注機関へ情報サービスする工事実績情報システム(コリンズ)を構築し運営している。

また、JACICでは、平成17年4月から「コリンズの工事経歴検索システム」の運用を開始している。

(4) 国土交通省はじめ各発注機関では、公共工事における一般競争入札及び公募型指名競争人札等の技術審査においてコリンズデータにより、応募してきた建設会社の施工実績や手持ち工事の状況等を適切に把握するとともに、建設業法で義務付けられている監理技術者の専任制のチェック等に活用しており、監督職員は担当する工事についての登録内容を確認し、正確な情報が速やかに登録されるように指導しなければならない。

1.1.5 書面の書式及び取扱い

(1) 書面の書式
契約書及び「標仕」では、書面により記録を整備することが求められており、その書式については、国の機関の「統一基準」である「公共建築工事標準書式」のほか、監督職員との協議によるとしている。また、書面の取り扱いと押印等の見直しが行われ、「標仕」1.1.5(2)では書面での提出が必要な「監督職員の承諾」等は電子メール等を利用できるようになり、「標仕」1.1.2(セ) の「書面」の「押印」が削除され「公共建築工事標準書式」の各書式からも押印欄が削除された。
なお、「公共建築工事標準書式」は国土交通省のホームページに掲載されているので活用するとよい。

(2) 施工管理体制に関する書類の提出

(ア) 建設業法に基づく適正な施工体制の確保等を図るため、発注者から直接建設工事を請け負った建設業者は、請負金額が 4,000万円(建築ー式工事の場合は 6,000万円)以上の場合は、全ての下請負業者を含む施工体制台帳を作成し、工事現場ごとに備え置くことになっている。ただし、建設業法施行規則第14条の2第3項及び4項では、記載すべき事項が、電子計算機に備えられたファイル又は磁気ディスク等に記録され、必要に応じて当該工事現場において電子計算機その他の機器を用いて明確に紙面に表示されるときは、当該記録をもって施工体制台帳ヘの記載及び添付害類に代えることができるとされている。

また、施工体制台帳に基づいて、施工体系図を作成し、現場の見やすい場所に掲げる必要がある。

なお、公共工事の場合は、請負金領に関係なく下請契約を締結した場合には施工台帳を作成して、施工体系図を工事関係者及び公衆が見やすい場所に掲げる必要がある。

建設業法の抜粋を次に示す。

建設業法
(昭和24年5月 24日 法律第100号 最終改正 令和3年5月28日)

(施工体制台帳及び施工体系図の作成等)
第24条の8
特定建設業者は、発注者から直接建設工事を、請け負った場合において、当該建設工事を施工するために締結した下請契約の,請負代金の額(当該下請契約が2以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が政令で定める金領以上になるときは、建設工事の適正な施工を確保するため、国土交通省令で定めるところにより、当該建設工事について、下請負人の商号又は名称、当該下請負人に係る建設工事の内容及び工期その他の国土交通省令で定める事項を記載した施工体制台帳を作成し、工事現場ごとに備え置かなければならない。

2.前項の建設工事の下請負人は、その請け負った建設工事を他の建設業を営む者に請け負わせたときは、国土交通省令で定めるところにより、同項の特定建設業者に対して、当該他の建設業を営む者の商号又は名称、当該者の請け負った建設工事の内容及び工期その他の国土交通省令で定める事項を通知しなければならない。

3.第1項の特定建設業者は、同項の発注者から請求があったときは、同項の規定により備え置かれた施工体制台帳を、その発注者の閲覧に供しなければならない。

4.第1項の特定建設業者は、国土交通省令で定めるところにより、当該建設工事における各下請負人の施工の分担関係を表示した施工体系図を作成し、これを当該工事現場の見やすい場所に掲げなければならない。
建設業法

(イ) 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成12年11月27日 法律第127号、最終改正令和3年5月19日)が施行され情報の公表や不正行為等に対する措置、適正な施工体制の確保等に関する措置が位置付けられ、公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針(平成13年3月9日 閣議決定)が制定されたことを踏まえ、国土交通省においては従来の取組みをさらに充実させるとともに、新たに取り組む事項を盛り込んでいる。
なお、適正化指針は、平成23年8月9日(閣議決定。一部変更 令和4年5月20日)に変更されている。また、入契適正化法では施工体制台帳の提出等に関して次のように定めている。

公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律
(平成12年11月27日 法律第127号 最終改正令和3年5月19日)

(施工体制台帳の作成及び提出等)
第15条
公共工事についての建設業法第24条の8第1項、第2項及び第4項の規定の適用については、これらの規定中「特定建設業者」とあるのは「建設業者」と、同条第1項中「締結した下請契約の請負代金の額(当該下請契約が2以上あるときは、それらの請負代金の額の総額)が政令で定める金額以上になる」とあるのは「下請契約を締結した」と、同条第4項中「見やすい場所」とあるのは「工事関係者が見やすい場所及び公衆が見やすい場所」とする。

2 .公共工事の受注者(前項の規定により読み替えて適用される建設業法第24条の8第1項の規定により同項に規定する施工体制台帳(以下単に「施工体制台帳」という。)を作成しなければならないこととされているものに限る。)は、作成した施工体制台帳(同項の規定により記載すべきものとされた事項に変更が生じたことに伴い新たに作成されたものを含む。)の写しを発注者に提出しなければならない。この場合においては、同条第3項の規定は、適用しない。

3.前項の公共工事の受注者は、発注者から、公共工事の施工の技術上の管理をつかさどる者(次条において「施工技術者」という。)の設置の状況その他の工事現場の施工体制が施工体制台帳の記載に合致しているかどうかの点検を求められたときは、これを受けることを拒んではならない。
公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律

1.1.6 設計図書等の取扱い

(1) 事務処理要領第12 (1.0.2(エ) 参照)に基づく監督に関する図書は、表1.0.1を参照のこと。工事においては、仕様書等において適用される図書に基づいて施工を行うこととなるが、必要な図書は、受注者の負担で整備するとしている。
なお、監督職員は、計画通知図書(副本)を、建築基準法第89条第2項に基づき、現場に保管し、管理しなければならない。

(2) 工事において使用する工事関係図書や、それらの内容等については無断で第三者に公表すると、建物用途等により完成後における安全や防犯上問題が生じることが考えられる。また、これらの図書の帰属によっては、著作権上の問題が生じることもあるので、「標仕」では、原則として受注者等が工事関係図書を工事の施工の目的以外で第三者に使用又は閲覧させることを禁止している。
なお、漏洩についても禁止している。

1.1.7 関連工事等の調整

契約書第2条(関連工事の調整)では、受注者が施工する工事と発注者の発注に係る第三者の施工する他の工事が、躯体工事と設備工事のように施工上密接に関連する場合において、発注者の調整義務と受注者の工事全体の円滑な施工の協力に関して規定されており、「標仕」1.1.7はこれを受けている。

当該施設の内容や工事の進捗等に精通した監督職員が、関連工事等との調整を行うことは、施工品質の確保、契約の適正な履行、工期の遵守等にとって重要であり、受注者は、当該契約の内容を履行するだけでなく、関連工事等の受注者と協力して、工程や納まり等を検討することで、工事目的物全体の品質確保や、施工における合理化を図ることができる。

なお、平成31年版「標仕」までは「別契約の関連工事」と記載されていたが、令和4年版から「関連工事等」に修正された。公共約款第2条の表現と整合されたものであるが、仮設足場などを関係者に無償で利用させる場合など、関連工事との調整は、必ずしも「別契約」とは限らないこともある。

1.1.8 疑義に対する協議等

(1) 「標仕」では、設計図書の内容や現場の納まり等で疑義が生じた場合、受注者等は監督職員と協議することが定められている。疑義が生じた場合に受注者等が独自の解釈で施工を行うと、設計意図に反する結果となる場合があり、手戻りによって受注者等の不利益となるばかりでなく、工期が遅れたり、修正等によって発注者が要求する本来の品質が確保できなくなる可能性があるなど、これらの問題を未然に防止するために設けられた規定である。

また、監督職員が設計図書の内容に疑義を抱いた場合においても、設計担当者等に疑義の内容を確認し、設計図書の訂正や変更が生じた場合は、速やかに契約書の規定に従い、受注者に対する措置を講ずる。

(2) 受注者等にとって、疑義が生じる原因には、次のようなものが考えられる。

① 受注者等に起困するもの:理解が不十分、思い違い等
② 監督職員に起因するもの:思い違い、不徹底、調整不足等
③ 設計図書に起因するもの:誤びゅう、脱漏、不均衡、不整合[当該工事及び関連工事]等
④ 契約条件に起因するもの:誤びゅう、脱漏、不整合等

(ア) ①は、契約図書の内容が正しい場合で、受注者等が設計図書の内容を完全に把握できなかったり、間違って理解した場合に生じるものであるが、監督職員は受注者等に十分な説明を行い、設計図書に従って施工がなされるように指導する必要がある。この場合は、「協議」に至らないことが多い。

(イ) ②は、契約図書の内容が正しい場合で、監督職員が設計図書の内容を間違って理解していたり、「指示」や「調整」の内容を全ての関係者に周知しなかったり、中途半端な「指示」や「調整」を行った場合に生じるものであるが、このようなことがないように、設計図書を十分把握するとともに、序節で説明した「監督職員の立場及び業務」を十分に理解し、的確な業務を行わなければならない。
なお、監督職員が間違った指示を行いそれに従って工事が進められ、その結果として受注者に損害を与えた場合には、発注者としての責任が生じるばかりでなく、監督職員個人にも予算執行職員等の責任に関する法律による弁償責任を求められる場合がある(1.0.2(オ) 参照)。

(ウ) ③及び④は、設計図害及び契約条件が不備な場合に生じるものであるが、契約内容の変更にかかわるため、監督職員は、受注者等及び発注者側の関係者(設計者、関連工事の担当監督職員等)と十分な調整を行う必要がある。
なお、この場合は、内容の軽重を問わず「協議」の対象となる。

(3) 契約書第18条(条件変更等)では、設計図書や質問回答書等の相互の不一致がある場合、設計図書に誤りやもれがある場合、設計図書の表示が不明確な場合、設計図書に示された施工条件が実際と一致しない場合及び工事の施工条件について予期し得ない特別の状態が生じた場合は、受注者等は、その旨を発注者に通知し、確認を請求しなければならず、発注者は、確認の請求を受けたとき又は自らその事実を発見したときは、受注者の立会いのうえ、調査を行い、必要と考えられる指示を含めて一定機関内に書面により結果を通知しなければならない。
協議を行った結果、設計図内の訂正又は変更を行う場合は、契約行第18条第4項第一号から第三号の規定に従って行うこととなる。

契約内容の変更については、契約書第19条から第25条までに設計図書、工期、請負代金額の変更に係る事項が定められており、該当する規定に従って適切な措置を行わなければならない。

(4) 「標仕」1.1.8(3)では、設計図書の訂正又は変更に至らない事項については記録を整備することが定められている。このうち発注者と受注者との協議対象となる事項について、監督職員と現場代理人とが事前に整理を行うことによって、現場における業務や書類の簡素化に努めなければならない。
1.1.9 工事の一時中止に係る事項

契約書第20条(工事の中止)では、工事用地の確保ができないときや、自然的又は人為的な事象であって受注者の責に帰すことができない事由により工事が施工できない場合には、発注者は工事を中止させなければならない。また、この場合以外でも発注者は、必要があるときは工事を一時中止させることができると規定している。

これを受けて「標仕」では、人為的な事象の具体的例を示し、発注者が工事の一時中止の必要性を認められる状態にまで達しているかどうかについて判断するため、受注者等にその状況を監督職員に報告することを求めている。
なお、「標仕」で定めた場合以外でも工事現場の状態が変動し、工事の施工に支障が生じていると監督職員が判断した場合には、現場代理人に報告を求めるなど、状況を的確に把捉し、適切な現場運営に努めなければならない。

工事の一時中止については、「営繕工事請負契約における設計変更ガイドライン(案)」(平成27年5月(令和2年6月一部改定))中の工事中止ガイドラインを参照されたい。

1.1.10 工期の変更に係る資料の提出

(1) 工期の変更方法については、契約書第24条(工期の変更方法)に発注者と受注者が協議して定めることが原則的に規定されているが、「標仕」1.1.10では、協議対象となる事項について、必要な変更日数の算出根拠、変更工程表その他発注者との協議に必要な資料を受注者が作成し、監督職員に提出することを求めている。

(2) 契約書第23条(発注者の請求による工期の短縮)第1項では、特別の理由があるときは、発注者は工期の短縮等をすることができると規定されているが、工期の短縮等の協議対象となる事項について、可能な短縮日数の算出根拠、変更工程表その他発注者との協議に必要な資料を受注者等が作成し、監督職員に提出することを求めている。

これは、発注者が工期短縮等の請求を行う場合に、可能な短縮R数、工期を短縮した場合の全体工程への影響、請負代金額の変更、受注者の損害等について発注者が的確に把握し、受注者と協議して施工能力上可能な日数を定める際の根拠とするものである。

(3) 契約書第23条は、工期の短縮等について発注者から請求を行う場合の規定であるのに対し、契約書第24条は、条件変更等による設計図書の変更等による工期の変更のほか、受注者からの請求による工期の延長、工事の一時中止による工期の変更について、発注者と受注者が提出された資料を基に、協議する場合の規定である。

いずれの場合においても、一定期間内に協議が整わない場合には、発注者が工期の変更決定を行うことになるので、監督職員としては、契約書第21条(著しく短い工期の禁止)を鑑み、当該工事の延長又は短縮を行う場合は、工事に従事する者の労働時間その他の労働条件が適正に確保されるように、やむを得ない事由により工事等の実施が困難であると見込まれる日数等を考慮し、提出された資料の内容について現場の工程や施工体制が的確に反映されているか検討しておく必要がある。

1.1.11 特許の出願等

工事の施工上の必要から行った考案や技術開発に関する権利が、発注者又は受注者のどちらにどの程度帰属するかは、一律に定めることができない。このため、「標仕」では、特許の出願等をしようとする場合は、あらかじめ発注者と協議するとしており、受注者が一方的に権利を主張することを制限している。
なお、契約書第8条(特許権等の使用)は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権等の日本国の法令に基づき保護される第三者の権利の対象となっている工事材料、施工方法等の使用責任についての規定であり、この使用責任は、原則として受注者が負うとしている。ただし、発注者が工事材料、施工方法等を指定した場合で、設計図書 に特許権等の対象であることが明示されておらず、受注者が特許権等の対象であることを知らなかった場合には、発注者が使用に関して要した費用を負担するとしている。

1.1.12 埋蔵文化財その他の物件

契約書第1条(総則)第1項に日本国の法令を遵守することが明記されているとおり、埋蔵文化財を発見した場合には、「文化財保護法」等、関係法令に従い、適正に処理しなければならない。

「標仕」では、工事に関連した埋蔵文化財その他の物件に係る権利は、発注者と受注者の契約において、発注者に帰属するものとしている。また、文化財としての判断を行う場合があるので、埋蔵物を発見した場合は、直ちにその状況を監督職員に報告することを受注者等に求めているので、報告を受けた場合は、直ちに関係者と打ち合わせ、その後の措置を受注者等に指示しなければならない。

発注者と受注者の契約において、権利の帰属を約することができる「発見者としての権利」は、埋蔵物の発見に関連して受注者が発見者となる場合(受注者が文化財発掘作業を行わせた場合)における受注者(=発見者)の権利のみである。

しかし、これに加えて、作業員が発見者となる場合(偶然に作業員が発見した場合)においても、通常は当該作業員を雇用する受注者が、関係機関との調整や当該作業員への助言等を通じて当該文化財の取り扱いに関与するものと思われるため、公共建築の進捗に権限と責任を有する発注者としても、広く受注者が行う発見者たる作業員への助言、関係機関との調整等の行為に関与していく権利をも含む趣旨で「発見にかかる権利」としている。

1.1.13 関係法令等の遵守

法令の遵守は契約書第1条(総則)でも明記されており当然のことであるが、「標仕」改定の時点では想定されていない法令の改正等への対応も考慮した規定である。