1章 各章共通事項 4節 材料

建築工事監理指針 1章 各章共通事項


4節 材 料

1.4.1 環境への配慮

(1)「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」は、循環型社会のためには再生品等の供給面の取組みに加え、需要面からの取組みが重要であるとの観点から、平成12年5月に循環型社会形成推進基本法の個別法の一つとして制定されたものである(参考資料の資料1 1.3(6)参照)。

同法は、国等の公的機関が率先して環境物品等(環境負荷低減に資する製品・サービス)の調達を推進するとともに、環境物品等に関する適切な情報提供を促進することにより、需要の転換を図り、持続的発展が可能な社会の構築を推進することを目指している。また、事業者及び国民についても、できる限り環境物品等を選択するよう定められている。「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」に特定調達品目及びその判断の基準等が規定されており、毎年見直しが行われている(参考資料の資料1 1.3 (7)参照)。

なお、この基本方針の「19.公共工事」における特定調達品目及びその判断の基準等の中に、配慮事項として、「資材(材料及び機材を含む)の梱包及び容器は、可能な限り簡易であって、再生利用の容易さ及び廃棄時の負荷低減に配慮されていること。」と規定されている。

(2) 平成14年7月に建築基準法が改正され、「シックハウス症候群」の原因物質の一つと考えられるホルムアルデヒドに関する規制が設けられた。平成18年4月には、改正大気汚染防止法が施行され、揮発性有機化合物の排出抑制の取組みが始まった。

このような地球環境保全や健康安全に関わる法規制が整備されてきたことを受けて、「標仕」では、使用する材料の選定に当たっては揮発性有機化合物の放散による健康への影響に配慮するとされている。

(3) 石綿(アスベスト)に関しては、平成18年9月に改正された労働安全衛生法施行令により石綿等の製造等が全面禁止とされ、石綿障害予防規則により更なる石綿暴露防止対策の充実が図られた。また、平成18年10月には建築基準法が改正され、石綿の飛散のおそれのある建築材料の使用が規制された。

「標仕」においても、工事に使用する材料は石綿を含有しないものとされている。

1.4.2 材料の品質等

(1) 工事で使用する材料については、設計図書にその品質、性能が規定されている。一般的な工業製品にあっては、通常、日本産業規格(以下「JIS」という。)の規格番号によって指定され、木材等の林産物にあっては、日本農林規格(以下「JAS」という。)が指定される。

「標仕」1.4.2 (1)では、設計図書に定める品質性能を有する新品としているが、これは通常材料に保証される品質が製造所から出荷された状態のものであり、この品質性能を前提に設計されているからである。

なお、リサイクル製品(再生クラッシャラン等)で、一般的に流通しているものは品質が確認された時点で、「新品」としての扱いと考えられる。

「新品」を明確化した背景としては、年をまたいだ製造年の電線ケーブルが検収時に引き取りを拒否された事例があり、「優越的地位の乱用」に当たるおそれがあるとして、電線の取引慣行是正に向けた通達「電線の取引条件の改善に向けた取組について(要請)(平成29年3月29日付20170323製局第5号、国土建推第37号)」が関連業団体へ発出された。

このことを踏まえ、標仕における「新品」については、製造時期(有効期限がある材料は除く)のみを判断基準とすることがないようにした。

(2) 工事材料の品質性能を証明する資料の内容等は、受注者等にゆだねており、監督職員は、提出された資料が妥当なものかどうかを判断する。

なお、品質性能を証明する資料の整備は、受注者等が「標仕」1.4.4(1)に規定する監督職員の検査を受ける以前に行っておくようにさせる。

ただし、後述するようにJIS、JASのマークが表示された材料については、そのマーク自体が所定の品質を滴たしている証明となるため、改めて証明資料を要求する必要はない。

材料の使用量が少ないもの、軽易な材料等は、品質を証明する資料そのものの人手が困難なものも少なくない。このような場合は、あらかじめ監督職員が承諾のうえ、使用材料の重要度に応じて、証明資料の提出を省略させてもよい。

(3) 製材等(製材、集成材、合板及び単板積層材)、フローリング又は再生木質ボード(パーティクルボード、繊維板及び木質セメント板)を使用する場合は、グリーン購入法に基づく「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」に「判断の基準」が定められており、一部を除き合法性が証明されたものとされている(環境省ホームページ参照)。また、合法性の確認については林野庁作成の「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」(平成18年2月15日)(林野庁ホームページ参照)に準拠して行うとされている。

「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」には合法性の確認方法として、次の三つの証明方法が示されている。

(ア) 森林認証及びCoC認証を活用した証明方法
(イ) 関係団体の認定を得て事業者が行う証明方法
(ウ) 個別企業等の独自の取組による証明方法

また、三つの証明方法に加え、新たに、都道府県等による森林や木材等の認証制度を活用する方法について、「合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する基本方針(平成29年5月23日 農林水産省、経済産業省、国土交通省告示第1号)により追加された。

(4)「標仕」1.4.2 (4)では、工事現場でコンクリートに使用するせき板の材料として合板を使用する場合は、「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」に準拠した内容の板面表示等により、合法性を確認し、監督職員に報告するとされている。

この、合板型枠に表示されている板面表示の例を、図1.4.1に示す。


図1.4.1 合板型枠の板面表示の例

(5) 使用に当たって調合を要する材料は、その調合が適切でない場合は、所定の品質性能を発揮できないことも考えられる。このため、「標仕」1.4.2(5)ではあらかじめ使用条件を考慮して調合表により確認するとしている。このとき、必要に応じて、同様な調合による使用実績等を確認しておくとよい。

(6) 仕上げ工事に使用する材料の場合は、完成する建築物のイメージを決定する重要な要索となる。この完成建築物のイメージは、設計担当者が設計時に想定しているため、これに沿うようにする必要がある。「標仕」ではこれについて、「監督職員の承諾を受ける」としているが、ここでいう監督職員は、発注者の代理人としての位置付けである。

設計担当者が色彩を決定するのに必要な時間を勘案し、受注者等に工事に使用する材料製造所等を、できるだけ早く確定するように依頼するとよい。

この場合、出来上りのイメージを確認できるようにするため、必要に応じて見本の提出を依頼する。ただし、高価な材料の場合等は、見本品を入手するのに過大なコスト、時間がかかるものもある。受注者等や材料製造所等に必要以上の負担をかけるおそれがある場合には、製造所等より借り受けて確認するようにするとよい。

(7)「標仕」で規定しているJIS等の規格は、逐次見直しや改正が行われる。特に、JISについては、近年国際規格との整合を図るための見直しが数多く行われており、「標仕」を制定したときと実際の工事施工時では、規格の内容が異なっているばかりか、規格そのものが廃止になる場合もある。

「標仕」で規定している規格類が改正されている場合には、改正された内容を確認し、発注者が求める要求品質を満足している場合には改正された規格によるものとしてもよい。規格類が廃止された場合には、要求品質に合致する製品が入手可能であるかを受注者等に調査をさせ、入手不可能の場合は、設計担当者と打ち合わせ、使用材料の変更を検討する必要がある。

(8) JIS制度、JAS制度の概要

(ア) JISマーク表示制度
(a) JISマーク表示制度とは、品質の内容や試験方法等を具体的にJISで規定して、そのJISに適合する製品には、JIS適合品であることを示す特別の表示を付けることができるという制度である。通常JISマークの表示されている製品については、的確な品質管理のもとに製造されているものとして、当該JISに適合している品質であることが保証されている。

(b) JISマーク表示制度の概要
① 国により登録された民間の第三者機関(登録認証機関)から認証を受けることにより、JISマークを表示することができる制度となっている。
なお、登録認証機関の選択は事業者に任せられている。

② JISのうち、製品に対する品質要求事項、品質確認のための試験方法、表示に関する事項が完備されたものが、原則、JISマークの認証の対象となる。また、事業者自らが行う「自己適合宣言」を行うこともできることになっている。自己適合宣言とは、平成17年10月1日施行の「工業標準化法」の改正に伴う「新JIS制度」において新たに創設された該当JIS規格適合を証明する方法で、JIS認証の取得に代えて、自社の責任において該当JIS規格に適合していることを宣言するものであり、採用する製造者が増えている。 JISマークの表示はされないため、JISマークの代わりとなる表示や、「JIS Q 1000に基づきJIS A○○○○に適合」等の表示がない場合は、「適合宣言書」等、製造者等の適合宣言の方法について、確認する。

なお、建築基準法関係法令等で規定されている材料等では、その要求事項に対して補足することが必要となる場合がある。

③ JISマーク対象事業者は、国内外の製造(又は加工)業者に加え、販売業者、国内の輸入業者、国外の輸出業者についても対象となっている。また、ある特定のロットに限る認証を取得することもできることになっている。
現在のJISマーク制度では、申請事業者の品質管理体制及び製品試験の審査を実施する方法となっており、登録認証機関が実施する製品試験を原則としている。

④ 現行のJISでは、産業界のグローバル化の流れに対応し、認証指針、品質管理、製品試験に国際基準が導入されている。

⑤ JISマークのデザインは次の3種類となっている(図1.4.1参照)。
(イ) 鉱工業品のJISに適合していることを示すマーク

(ロ) 加工技術のJISに適合していることを示すマーク

(ハ) 性能、安全度等の特定側面について定められたJISに適合していることを示す。


図1.4.1 JISマーク

⑥ JISマークとともに表示される事項は、次のとおりである(図1.4.2参照)。
(ア) JIS規格の番号は、省略される場合がある。

(イ) 種類・等級は、JIS規格に規定されている場合である。

(ウ) 認証番号は、登録認証機関と認証取得者の両方が一つの番号で特定できるように設定されている。また、認証番号から事業者名を調べることができる。


図1.4.2 JISマークの例

(c) 試験事業者登録制度(JNLA)
① 登録の対象となる試験の範囲は、JISで定める全ての鉱工業品の試験となっている。

② 試験事業者の登録は、試験所に対する国際的な基準(ISO/ IEC17025)に基づいて登録が行われる。

(イ) JAS制度
(a) JAS制度とは、「日本農林規格等に関する法律」(昭和25年 法律第175号)に基づいて、農林物資の品質の改善、生産の合理化、取引の公正化及び使用又は消費の合理化を図るためのものであり、農林水産大臣が制定した日本農林規格(JAS)による検査に合格した製品にJASマークを貼付することを認める「JAS規格制度」と、農林水産大臣が制定した品質表示基準に従った表示を全ての製造業者又は販売業者等に義務付ける「品質表示基準制度」の二つの制度から成っている。

「標仕」では、木工事に使用する木材の規格やコンクリート用型枠に使用する合板等についてJASを適用している。

(b) JAS制度の概要
① 民間の高度な流通管理を促進するとともに、流通方法に特色のある農林物資についての消費者の選択に資するため、流通の方法についての基準を内容とするJAS規格の制定が可能となっている。

② JASマークを貼付することができる製造業者等の認定は、民間の第三者機関(登録認定機関)がこれを認定する仕組みとなっており、登録認定機関から認定を受けた製造業者等がJASマークを貼付する仕組みとなっている。

③ 製造業者等に加えて、製造工程を管理し、かつ、製品がJAS規格に適合するかどうかの検査を行う能力を有する販売業者又は輸入業者も、登録認定機関の認定を受けてJASマークを貼付することができる。

1.4.3 材料の搬入

工事に使用する材料が現場に搬入されたかどうかは、受注者等の報告を受けて「標仕」1.4.4(1)に規定されている監督職員の検査を適時行うことになる。ただし、建築工事に使用する膨大な材料の全てを行うことは現実的でない。このため材料の検査は、主要な材料について行うようにするとよい。どの材料が主要であるかは、工事によって異なるものであり、一律に定めることはできない。このため、工事ごとの主要な材料が何であるのかを工種別の施工計画書の品質計画で確定するようにする。主要な材料以外のものとしては、例えば、ねじ、釘等の補助的な材料があり、これらについて は、あらかじめ監督職員が承諾した場合は、「標仕」1.4.3に規定されている搬入の報告や「標仕」1.4.4(1)に規定されている監督職員の検査を省略することができるが、製造業者の信頼度、見本、カタログ等を十分に検討して承諾する。

1.4.4 材料の検査等

(1) 「標仕」1.4.4(1)では、現場に搬入した材料について、その種別ごとに監督職員の検査を受けることにしている。これは、工事に使用する材料として特定できるのは、工事現場搬入時となるからである。この監督職員の検査に当たっては、使用する材料が設計図書に定める品質及び性能に合致していることを、「標仕」1.4.2 (2)により受注者等から提出された資料によって確認することで行う。ただし、1.4.3に記述したように軽易な材料については、これを省略してもよい。

工事用材料のうち、JIS規格品又は品質、性能等が特記されている場合で、選択可能な数社の材料がある場合の材料選定については、受注者等が行う。監督職員は、特定のものを指示するようなことをしてはならない。決定後は必ずその結果の報告を受けるものとする。

また、製品名及び製造所が指定された場合は、指定以外の材料を使用することを認めてはならない。しかし、種々の関係からやむを得ず認めようとする場合には、材料の品質、性能等の証明となる資料を添付した「同等品使用願」を提出するよう通知する。

設計図書に品質が明示されていない材料については、受注者等が市販のどのような粗悪品でも使用してよいというものではなく、また、監督職員が特定の高価な材料の使用を指示してもよいということでもない。当該現場で使用する他の材料と比べてバランスの取れた、いわゆる「均衡を得た品質」(契約書第13条)のものを用いるようにする。

なお、材料は、製造工場により品質管理がなされたものとする。

(2) 「標仕」1.4.4 (1)による監督職員の検査の結果、合格となった材料と同じ種類の材料については、その材料の製造が管理された条件で行われていることが確認できるものについては、以後はその都度材料の検査を行う必要はなく、必要な証明書類を確認し、状況に応じて抽出検査とすればよい。しかし、製造時のばらつきの大きい材料については、必要に応じて受注者等に指示をして検査を行う必要がある。

(3) 一般的に、材料・そのものにJISマーク、JASマーク等が表示された材料については、前述したように所要の品質があることが確認できるため、設計図書に適合するものとして扱ってよい。また、後述する「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」等によって評価された材料にあっては、評価書の写しを確認することにより設計図書に適合するものとして取り扱ってもよい。

なお、使用する材料によっては、製造工場から出荷されたものを直接工事現場で使用しないで、所要の加工を施した後に現場に搬入される鉄筋や鉄骨のようなものもある。このような材料の場合は、「標仕」でいう現場搬入時に品質証明をすることが困難となるため、通常、現場搬入前の材料について、検査を行うことも行われている。鉄骨工事に使用する鋼材の場合は、「標仕」7.2.10(2)に規定する規格品証明書又はそれに代わるものとして「建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン」の鉄骨工事使用鋼材等報告書により、品質証明を行うとしており、製造工場から現場搬入までの履歴が確認できるものとなっている。

しかし、鉄筋工事に使用する棒鋼の場合は、製造工場から加工工場に一旦搬入されて、加工後現場に搬入されるが、鋼材で行われているレベルの管理はなされていないのが実状である。このため、現実的な対応として、鉄筋の加工工場における材料管理の状況を把握し、適切な管理がなされていることを確認することも有効な方法と考えられる。

(4) 契約書では工事用材料の品質及び検査等について規定しており、第13条第4項では工事現場に搬入した材料の搬出禁止、第13条第5項では不合格材料の場外搬出を規定している。

(5) 工事用材料等の事前評価制度
(ア) 建槃材料・設備機材等品質性能評価事業(以下、この項において「評価事業」という。)

(-社)公共建築協会では、営繕工事に使用されている「公共建築工事標準仕様書(建築工事編・電気設備工事編・機械設備工事編)」に品質及び性能等が規定されている建築材料・設備機材等並びに(-社)公共建築協会が重要と認め、指定する材料等について評価を行う事業を実施している。これは、各工事現場ごとに確認する必要があった材料等の品質性能をあらかじめ評価を行うことにより、監督行為のなかの確認業務の簡素化及び迅速化を図るものである。

評価の対象としている材料等は、国内製品に限らず広く海外製品にも及んでおり、建設業の国際化にも貢献するとともに、材料等の情報を幅広く得られるものとなっている。

評価の内容は、材料が「公共建築工事標準仕様書」に規定されている品質及び性能等を有していることの確認のほか、製造工場における品質管理体制の確認も行っている。

評価事業は、平成6年3月より実施されており、評価の完了した材料について「建築材料・設価機材等品質性能評価書」を発行するとともに、年度当初に発行している「建築材料・設備機材等品質性能評価事業評価名簿」に掲載される。

工事における評価材料の使用に当たっては、この評価書の写しによる確認のほか、評価名簿により適切に確認を行うことができる。

(イ) 公共住宅用資機材品質性能評価事業
前述の評価事業と同様の目的で、(-財)ベターリビングにより、公共住宅の建設に使用されている「公共住宅建設工事共通仕様書」において品質性能が規定されている資機材について、評価を行う事業が実施されている。

(ウ) これらの評価制度において、両工事標準仕様書に規定されている品質性能が同等な材料(例:板ガラス、ビニル系床材)にあっては、どちらの機関により評価がなされたものであっても同等に扱ってよい。

1.4.5 材料の検査に伴う試験

(1) 工事において使用する材料は、1.4.4に記述するようにJISマーク等の表示のある材料、材料評価事業等により評価された材料を用いるのが一般的である。しかし、これら以外の材料の使用が禁止されているわけではなく、試験等によって所定の品質・性能を有することが確かめられればよい。通常、設計図書で指定されたJIS等の規格には品質・性能だけでなくその試験方法も規定されており、材料試験に当たっては、当該JIS等により行う。

なお、材料の品質・性能は、異なった試験方法による結果からは所要の品質・性能であることの確認ができない。このため、設計図書に試験方法の指定のない場合は、受注者等から提案された試験方法でよいかどうかを十分検討し、必要に応じて設計担当者とも打ち合わせのうえ、承諾しなければならない。

(2) 材料試験の計画書の記載事項は、概ね次のとおりである。
(ア) 試験方法
(イ) 試験時期
(ウ) 試験場所、試験機関

(3) 試験場所の決定に当たっては、試験が適切に行われるかどうかを判断する。また、試験機関の選定に当たっては、原則として、当事者と利害関係のない第三者機関とする。

(4) 材料の品質、性能の確認のために各地にある試験機関において試験を行う場合は、試験機関が信頼のおける機関か否かを判断し、信頼できる場合は、監督職員は試験に立ち会わなくてもよい。

しかし、試験機関の信頼性が確認できない場合及び工事現場で試験を行う場合は、原則として、監督職員が立ち会う。

(5) 受注者は、材料や施工の検査に伴う試験(「標仕」1.4.5及び1.5.6)を行った場合は、その結果について直ちに記録を作成し、監督職員に報告するとされている。試験の結果によっては、「標仕」1.1.8による協議の対象となる場合もあるので注意する。

(6) 試験により材料の品質性能を確認する場合の注意
(ア) 一般的に試験は、現場で使用する材料から抽出した試験体を用いて行うが、この試験体は、監督職員立会いのもとで採取し、封印又は検印を行い、必要事項を明確に表示させ、試験機関等に送付する。試験機関には他の試験体も多く、取り違えるおそれもあるため注意をする。

(イ) 試験用材料の抽出に当たっては、使用する工事材料を代表するように無作為に行う必要がある。一般の工業製品で製造時に品質管理をされたものであれば、製造ロットごとに必要な数量の試験体を抽出すればよい。

なお、製品が品質管理をされて製造されているかどうかは、例えば、製造工場がJISマーク表示認証を取得した製品を製造する工場であるか、ISO 9000sに基づく品質システムの審査登録を受けているかどうかなどにより確認することができる。

(ウ) 使用予定の材料が、品質管理をされて製造されたことが確認できない場合は全数現物の試験を行う必要があるが、これは現実的ではないため、原則として、そのような材料は使用させない。

(7) 試験所認定制度とは、国際基準(ISO/IEC 17025 : JIS Q 17025(試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項))に基づき、権威ある認定機関が試験機関について審査を行い、当該基準を満たす試験機関に対して特定分野の試験を行う能力を有することを認定する制度である(図1.4.3参照)。


図1.4.3 試験所認定制度の概念図

1.4.6 材料の保管

個別材料の保管に当たっての注意事項は、2章以降の各章に示されている当該材料の保管に関する解説を参照されたい。また、搬入時の検査で合格した材料であっても、現場保管中に破損、変質等により工事に使用することが適当でなくなる可能性がある。監督職員は、工事に使用することが適当でないと判断した場合は、その旨を指示し、工事現場外に搬出させる。

6章コンクリート工事  3節コンクリートの材料及び調合

第6章 コンクリート工事
3 節 コンクリートの材料及び調合
6.3.0 一般事項
建築物に使用するコンクリートが所要の性能を満足するようにするためには、使用前に、各材料が所定の品質を満足することを試験又は生産者から提出された資料等により確認するとともに、「標仕」 2 節[ コンクリートの種類及び品質]に示される各種規定を満足するよう、試し練り等を行って適切に調合することが重要である。

6.3.1 コンクリートの材料

6.2.1(c)でも述べたように、平成28年6月13日に平成12年 建設省告示第1446号の一部が改正され、エコセメントや再生骨材H を使用したコンクリートについても JIS A5308に適合したものであれば国土交通大臣の認定を受けなくても使用できるようになったため、平成28年版「標仕」からは、これらのコンクリートについても一部の材料の組合せや用途を除いて特記をせずに使用できることとなった。

(a) セメント
(1) セメントの分類
( i ) セメントの分類を図6.3.1 に示す。
わが国におけるポルトランドセメント(JIS R 5210)の全アルカリは、低アルカリ形を除くとNa2O換算( Na2O + 0.658K2O ) で 0.75 %以下であるが、使用する骨材によってはアルカリ骨材反応を起こすおそれがある。
なお、かつては「アルカリ骨材反応抑制対策に関する指針について」(平成元年 7月 建設省住指発第244号)の通達で、低アルカリ形ポルトランドセメントの使用がアルカリ骨材反応抑制対策の一つとして記されていた。 しかし、低アルカリ形が1995年に 11.000t 生産されたほかはほとんど製造されておらず、普通ポルトランドセメントのアルカリ量も低くなっていることなどから、平成12年にこの通達は廃止され、平成14年の国土交通省通達では「低アルカリ形の使用による抑制対策」の条文が削除されている。
図6.3.1_JISによるセメントの分類.jpg
図6.3.1 JIS によるセメントの分類
(ii) ポルトランドセメントは普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び耐硫酸塩ポルトランドセメントの6種類を基本とし、これに低アルカリ形の6種類を加え全部で12種類あり、その主な品質は表6.3.1に示すとおりである。
表6.3.1 ポルトランドセメントの種類 ( JIS R5210:2009)
表6.3.2_ポルトランドセメントの品質A.jpg

①普通ポルトランドセメント(普通セメントと略称される場合もある。)は、建築のコンクリート工事用として現在最も多く使用されているセメントである。「標仕」では、特記のない場合は普通セメント又は混合セメントのA種を使用することになっているが、高炉セメント及びフライアッシュセメントともA種はほとんど生産されていないがめ、一般には普通セメントを使用することが多い。
②早強ポルトランドセメント(早強セメントと略称される場合もある。)の比表面積(ブレーン値)はJISでは表6.3.1のように定められているが、市販品では 4,700 cm2g程度である。比表面積はセメント粒子の細かさを示す値で、この値が大きいほど細かくセメントと水との化学反応(水和反応)が活発になるため、図6.3.2に示すように他のポルトランドセメントよりも早期に強度が得られる。そのため、工期の短縮に有効であると共に、硬化初期の水和発熱量(凝結・硬化中に起こる発熱を水和熱という。)が大きいことから寒中コンクリートにも適している。ただし、発熱によるひび割れ等の弊害を伴うこともあるので、使用する季節や用途に注意が必要である。
図6.3.2_モルタルの圧縮強さ(JIS R5201).jpg
図6.3.2 モルタルの圧縮強さ (JIS R 5201)
(「セメントの常識」より)
(iii) 高炉セメント(JIS R 5211)は、普通ポルトランドセメントに適量の高炉スラグ微粉末を均ーに混合したもので、その分量によってA種、B種及びC種の3種類(表6.3.2参照)が規定されているが、A種及びC種の生産量は少なく、市販品としてはB種のものが一般的である。
(iv) シリカセメント(JIS R 5212)は、普通ポルトランドセメントに適量のシリカ質の混合材を均ーに混合したもので、その分量によってA種、B種及びC種の3種類(表6.3.2参照)。耐薬品性に優れているが、2010年以降国内では生産されていない。
(v) フライアッシュセメント(JIS R5213)は、普通ポルトランドセメントに適量のフライアッシュ(火力発電所等で石炭の燃焼時に発生する微粉状の石炭灰)を均ーに混合したもので、その分量によってA種、B種及びC種の3種類(表6.3.2参照)が規定されているが、高炉セメントと同様、一般にはB種のものが多く流通している。
(vi) 上記高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントの3種類を混合セメントと呼び、このうちB種及びC種の混合セメントは、ポルトランドセメントと比較すると、化学的な作用又は海水に対する抵抗力が大きいなどの長所がある。しかし、同一調合の場合、一般に中性化の進行が早く、早期強度の発現が小さいので、かぶり厚さや型枠の存置期間の検討が必要である。
表6.3.2 混合セメントの種類 (JIS R5211 : 2009、R5212:2009及びR5213:2009)
表6.3.1_混合セメントの種類A.jpg
(ⅶ) エコセメントは、都市ごみ焼却灰を主とし、必要に応じて下水汚泥等を加えたものを主原料として製造される資源リサイクル型のセメントであり、2002年に JIS R5214 (エコセメント)として JIS化された。JIS R5214では、構成鉱物や塩化物イオン含有量によって普通エコセメントと速硬エコセメントに分類されている。2003年には、これらのうち塩化物イオン量が 0.1%以下の普通エコセメントのみが、JIS A5308(レディーミクストコンクリート)に取り入れられた。また、 2004年 4月からはグリーン購入法特定調達品目にも指定されている。

解説
ポルトランドセメントとは
固まったときの色合いが、イギリスのポートランド島の石灰石に似ているので、ポルトランドセメントと名づけられた。粘土、石灰石を粉砕、焼成して石膏を加えてつくる。
(2) 高炉セメント及びフライアッシュセメントの品質
(i) 高炉セメントは、高炉スラグ微粉末の混合比(分量)によって使用したコンクリートの硬化途中の強度発現性状等が異なるため、上記 (1)(ⅲ)でも記したように、高炉スラグ微粉末(分量)によって3種類に分類されている。B種は規格上 30%を超え60%以下となっているが、市販されている高炉セメントの高炉スラグの混合比(分量)は 43%前後のものが多い。
普通ポルトランドセメントと比較すると次のような特徴がある。
① 初期強度はやや小さいが、4週以降の長期強度は同等又は同等以上になる。
② 耐海水性や化学抵抗性が大きい。
③ 一定量以上使用した場合にアルカリ骨材反応の抑制に効果がある。
(ii) フライアッシュセメント
良質なフライアッシュはコンクリート中でボールベアリングのような働きをし、練混ぜ水を減少させることができ、ワーカビリティーの良いコンクリートが得られる。 また、水和発熱量が比較的小さく、マスコンクリートに適する。更に、高炉セメントと同様にアルカリ骨材反応の抑制にも効果がある。
なお、上記(1)(ⅴ)でも記したように、フライアッシュの混合比(分量)によって3種類に分類されており、B種は規格上 10%を超え20%以下となっている。市販されているフライアッシュセメントのフライアッシュの混合比(分量)は 17%前後のものが多い。
(b) 骨 材
(1) 骨材は、コンクリート体積の約7割を占め、その品質がコンクリートの諸性質に大きな影響を及ぼすので、良い品質のコンクリートをつくるためには原則として.堅硬で物理的・化学的に安定であり、適度な粒度・粒形を有し、有害量の不純物・塩化物等を含まない骨材を使用する。しかし、骨材の品質は、地域差もあり、あらかじめその地域の骨材の種類と品質の実態を把握しておくことが重要である。やむを得ず低品質の骨材を使用しなければならない場合には、コンクリートの要求性能と骨材の品質との関係を試し錬りを行って十分に把握し、必要に応じて計画調合等を検討することが重要である。
(2) 骨材の種類及び品質
(i) 骨材の種類は、「 標仕」6.3.1 (b)により、JIS A5308の附属書A (規定)[レディーミクストコンクリート用骨材]に規定されている砕石及び砕砂、スラグ骨材、人工軽量骨材、再生骨材H並びに砂利及び砂である。
(ii) フェロニッケルスラグ細骨材、銅スラグ細骨材及び電気炉酸化スラグ骨材は、普通骨材に比べて密度が大きく、使用される地域も限定されている。また、再生骨材H は、全国的に十分な供給量がまだ流通していない。よって、これらの骨材を使用する場合は、設計担当者が特記しなければならない。
(iii) 骨材の品質は、砕石及び砕砂は、JIS A5005(コンクリート用砕石及び砕砂)に、高炉スラグ粗骨材及び高炉スラグ細骨材は、JIS A5011-1(コンクリート用スラグ骨材ー第1部:高炉スラグ骨材)に、フェロニッケルスラグ骨材、銅スラグ骨材、電気炉酸化スラグ骨材及び再生骨材H は、それぞれ JIS A5011-2(コンクリート用スラグ骨材ー 第2部:フェロニッケルスラグ骨材)、JIS A5011-3(コンクリート用スラグ骨材ー第3部:銅スラグ骨材)、JIS A5011-4(コンクリート用スラグ骨材ー第4部:電気炉酸化スラグ骨材)及びJIS A5021(コンクリート用再生骨材H ) に規定されている。
(iv) スラグ骨材を他の骨材と併用する場合、表面がガラス質のため、使用するスラグ細骨材の種類によっては保水性が小さくなり、 天然の骨材に比ベブリーディング量がやや多くなったりブリーディング速度が速くなったりする場合があるので注意しなければならない。 このような場合には、微粉末の使用、実積率の大きい骨材の使用、高性能AE減水剤の使用等材料の選定に加え、水セメント比の低減等の検討が必要である。
(v) 骨材の密度及び吸水率
① 骨材の強さは、密度及び吸水率によりある程度の判定ができる。通常、絶乾密度は 2.5g/cm2以上、吸水率は 3.0%(細骨材は 3.5%)以下ならよいとされている(表6.3.3 参照)。
しかし、砂利や砂の場合、一部の地方では、これを満足するものが人手できない場合もある。 この場合は、絶乾密度は 2.4g/cm2以上、吸水率は 4.0%以下なら、コンクリートとして所要の性能が得られることを試し練り又は信頼できる資料等により確かめられれば使用してよい。
表6.3.3 JIS A 5005 : 2009による砕石・砕砂の物理的性質
表6.3.3_砕石・砕砂の物理的性質.jpeg
② 普通の石材の吸水率は表6.3.4 に示すとおりであるが、おおむね吸水率の少ないものほど堅硬、密実で良質の骨材になると考えられる。
表6.3.4 石材の吸水率
表6.3.4_石材の吸水率.jpeg
③骨材の絶乾状態及び気乾状態並びにその際の吸水量、含水量等の関係を図6.3.3 に記す。
図 6.3.3_骨材の含水状態.jpeg
図 6.3.3 骨材の含水状態
(3) アルカリ骨材反応抑制対策
( i ) アルカリ骨材反応に関しては、昭和60年頃から問題が顕在化し、平成元年には建設省の技術審議官通達、監督課長通知、建築指導課長通知等が出されたが、平成14年には新たに「アルカリ骨材反応抑制対策について」(平成14年国官技第112号:技術審議官等通達)と連用のための「「アルカリ骨材反応抑制対策について」について」(平成14年 国営技第55号:建築課長通達)の(別紙)「アルカリ骨材反応抑制対策(建築物)実施要領」が、平成15年には「アルカリ骨材反応抑制対策(建築物)実施要領に関する運用について」 の事務連絡が出され、その後のJIS A5308(レディーミクストコンクリート)の改正、 JIS Q1011 (適合性評価一日本工業規格への適合性の認証一分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))の制定、「標仕」の改定を経て、その対策が確立されてきた。
(ii) 「アルカリ骨材反応抑制対策(建築物) 実施要領」における検査・確認の方法を、次に示す。
① アルカリシリカ反応性試験方法(化学法)による骨材試験は、施工着手前、工事中 1回/6箇月、かつ、産地が変わった場合に、受注者等が公的試験機関に依頼して行う。 また、試験に用いる骨材の採取にも受注者等が立ち会うことが原則となる。
② アルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法)による骨材試験は、コンクリート生産工程管理用試験に規定される骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(迅速法) で骨材が無害であることを受注者等が確認する。この場合も、施工着手前、 工事中1回/6 箇月、かつ、産地が変わった場合に、公的試験機関で行い、試験に用いる骨材の採取にも受注者等が立ち会うことが原則となる。
(iii) 「標仕」では、高炉スラグ骨材を除いて、原則として骨材は「アルカリシリカ反応性試験の結果が無害と判定されるもの」(アルカリシリカ反応性による区分Aのもの)を使用することとしているのでアルカリシリカ反応性による区分を受注者等にレディーミクストコンクリート配合計画書及びアルカリシリカ反応性試験成績表で確認させておく必要がある。
なお、アルカリシリカ反応性試験方法は、JIS A1145(骨材のアルカリシリ力反応性試験方法(化学法)) 又は JIS A1146(骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法))による。
(iv) しかし、地域等によっては、上記の試験の結果が 「無害と判定されないもの」や「試験を行っていないもの」(アルカリシリカ反応性による区分Bのもの)を使用せざるを得ない場合もある。 その場合は、事前調査により設計担当者が区分Bのものを使用することを特記しなければならない。 特記により区分Bの骨材を使用する場合は「標仕」 6.3.1 (b)(2)に基づいた対策を受注者等に提案させ、その内容を設計担当者等と検討して対応の可否を判断する 。
(4) 高炉スラグ粗骨材を使用する場合は、JIS A5011-1 に基づいて使用する骨材の絶乾密度吸水率及び単位容積質量が、 同 JIS の区分Nを満足することを受注者等に確認させ、その結果を報告させることが必要である(表 6.3.5 参照)。なお、高炉スラグ粗骨材は、普通骨材より吸水率が大きく気乾状態で用いると練混ぜ運搬及び打込み中にフレッシュコンクリートの品質が変動しやすいので、事前に散水により吸水させて用いることが望ましい。
(5) 電気炉酸化スラグ骨材は、JISマーク表示認証製品で、生産工場からレディーミクストコンクリート工場に直接納入されていること及び電気炉酸化スラグ粗骨材の絶乾密度による区分が Nであること(表6.3.5 参照)、並びに再生骨材H は、 JIS マーク表示認証製品であることを受注者等に確認させ、その結果を報告させることが必要である。
表6.3.5 JIS A 5011-1 : 2013による高炉スラグ粗骨材(区分N) 及び
JIS A 5011-4 : 2013による電気炉酸化スラグ粗骨材(区分N) の材質
表6.3.5_高炉スラグ粗骨材及び電気炉酸化スラグ粗骨材(区分N).jpg
(6) 粗骨材の最大寸法等
(i) 粗骨材の最大寸法
粗骨材は、鉄筋相互間及び鉄筋とせき板との間を容易に通る大きさでなければならない。 粗骨材の最大寸法は「標仕」 において次のように定めている。
① 砕石、高炉スラグ粗骨材、電気炉酸化スラグ粗骨材及び再生粗骨材H は20mmとする。また、砂利は 25mmとする。
② 基礎等で 断面が大きく鉄筋量の比較的少ない部材の場合は、「標仕」5.3.5[鉄筋のかぶり厚さ及び間隔]の範囲で砕石、高炉スラグ粗骨材及び再生粗骨材Hは 25mm、また、砂利は 40mmとすることができる。
③ 鉄筋のあきは、粗骨材の最大寸法の 1.25倍以上とする(「標仕」5.3.5 (d)(1) 参照)
④ 無筋コンクリートの粗骨材の最大寸法は、コンクリート断面の最小寸法の1/4 以下、かつ、40mm以下とする。ただし、捨コンクリート及び防水層の保護コンクリートの場合は25mm以下とする (「 標仕 」 6.14.2 (a)参照)。
(ii) 骨材の粒度及び粒形
① 骨材は、適切な粒度分布のものでなければならない。 粒度の良否によってコンクリートのワーカビリティーや単位セメント量に著しい差が生じ、ひいてはコンクリートの強度や耐久性にも影響を与える。
② 骨材の形は、球形に近いものが理想的で、偏平、細長のもの、かど立っているものなどは、コンクリートのワーカビリティーを悪くし、同一水セメント比で同一スランプを得るための細骨材率が大きくなり、単位水量、単位セメント量も多くなる。 また、偏平、細長のものは、コンクリートが外力を受けたときに不均ーな応力分布が生じて、破壊しやすいためにコンクリートの強度も低下する。
③ 粒度分布を表すには次のような方法があり通常 1) 及び 2) が用いられる。
1) 各ふるいの通過率
2) 粗粒率〈FM〉
3) 各ふるいの累加残留率
4) 各ふるいの残留率
④ コンクリートの品質を確保して圧送性を良くするには、骨材の粒度分布が適切であるとともに 0.3mm以下の細骨材が 15~30%混入していることが望ましい。
(7) その他留意が必要な骨材の品質
(i) 骨材の単位容積質量・実積率
① 単位容積質量は、単位容積当たりの骨材質量 (kg /ℓ) で、骨材の粒度が適切であれば、最大寸法が大きいほど単位容積質量は大きい。
② 実積率は骨材を容器に詰めた場合、どの程度隙間なく詰まっているかを表す指標で、 6.3.1 式より求める。 空隙率は 6.3.2 式による。
実積率
=骨材の単位容積質量 / 骨材の絶乾密度 × 100 (%)  (6.3.1式)
空隙率 =100 - 実積率(%)..........(6.3.2式)
③ 同一粒度、同一密度の骨材では、実積率が大になるほど骨材の粒形が良いことになる。また、骨材の密度、最大寸法及び粒度が同様な場合には、粒度分布が良いほど実積率は大となる。
④ 骨材に対応する標準的実積率を表6.3.6 に示す。
表 6.3 6 骨材の実積率の標準的な値
表6.3.6_骨材の実績率の標準的な値.jpg
(ii) 骨材中の泥分
泥分が骨材表面に付着していると、骨材とセメントペーストとの付着を妨げ、コンクリートの強度を低下させる。また、コンクリート中に混合している場合は、単位水量が増加し、体積変化も大きく、ひび割れも発生しやすい。
(iii) 細骨材の有機不純物
有機不純物としては、腐植土、泥炭質等があり、これらに含まれるフミン酸やタンニン酸の量が多いと、セメントベースト中の Ca(OH)2と反応して有機酸石灰塩を生じ、コンクリートの硬化を妨げ、強度や耐久性を低下させる場合がある。
(iv) 細骨材中の塩化物
① コンクリート中の鋼材は、コンクリートの pHが10 以上の場合は、鋼の表面が鉄の水酸化物 Fe(OH)2の不働態皮膜で覆われているので錆は発生しないが、多量の塩化物が混合すると、塩化物イオンによって不働態皮膜が破壊されて錆が発生する。
② JIS A5308 附属書(規定)では、砂に含まれる塩化物量を NaCl 換算で 0.04 %以下と規定しているが、2003年の JIS R5210(ポルトランドセメント)の改正により普通ポルトランドセメントの塩化物イオンが 0.02%以下から 0.035%以下となった。これにより、コンクリートの各材料の塩化物イオンの規格上限値でコンクリート中の塩化物イオン量を算出すると0.30kg/m3を超える場合があるので、受注者等にレディーミクストコンクリート配合計画書でコンクリート中の塩化物イオン量が 0.30kg/m3を超えないことを確認させ、その結果を報告させるようにするとよい。
なお、プレテンション方式のプレストレストコンクリート部材に用いる場合は 0.02 %以下とすることになっている。
(v) 骨材を混合して使用する場合
① 最近では1種類の骨材だけでは所要の品質や量を確保することが困難となり、複数の骨材を混合して使うことが多くなった。
② 骨材を混合して使用する場合は、JIS A5308 附属書A(規定)の A.9[骨材を混合して使用する場合]による。
1) 同一種類の骨材(例:川砂利と陸砂利(玉砕も含む。)、海砂と山砂)を混合して使用する場合は、混合したものの品質が所定の規定に適合しなければならない。ただし、混合前の各骨材の絶乾密度、吸水率、安定性及びすりへり減量については、それぞれの骨材の規定に適合しなければならない。
2) 異種類の骨材(例:川砂利と砕石、海砂と砕砂あるいは高炉スラグ細骨材等)を混合して使用する場合は、混合前の骨材の品質がそれぞれの規定に適合しなければならない。ただし、粒度調整や海砂の塩化物量の低減目的に混合する場合には、粒度と塩化物量については、混合したものが所定の規定に適合していればよい。
(vi) 全国的に見た骨材の品質と種類を図6.3.4に示す。
図6.3.4_全国的に見た骨材の種類(2012暦年).jpg
図6.3.4 全国的に見た骨材の種類(2012暦年)
(経済産業省製造産業局住宅産業窯業建材課
「生コンクリート統計四半期報」のデータによる)
解説
砂(細骨材)、砂利(粗骨材)の容積比
は約30%と約40%。コンクリートの骨となる材料で、砂は細骨材、砂利は粗骨材といい、5mmを境に区別している。
(c)  水
(1) 水は、コンクリートの凝結時間、硬化後のコンクリートの強さ等の諸性質、鋼材の発錆等に影響があり、極めて重要な材料といえる。
(2) 一般に、セメントの水和に必要な水量は、セメント質量の約40%といわれ、施工時に必要な水量の内、残りの部分はコンクリートのワーカビリティーを良くするものであり、コンクリートの硬化に関与しない余剰水となる。 また、単位水量が多いと乾燥収縮が大きくなったり、透水性が高くなり、耐久性が低下しやすい。
(3) 水中の不純物が鉄筋コンクリートに与える影響
(i) 一般に、アルカリ性の強い水はセメントの凝結を遅くし、弱酸性の水は凝結を早め、強酸性では硬化しにくくなる。
(ii) 苦土や石灰は、セメントの安定性を低下させる。
(iii) 塩化物や塩素は、鉄筋の腐食を助長する 。
(iv) 水の不純物の種類と量の限度は、使用するセメントの組成、使用量等によって異なり、規定しにくいとされているが、濃度が1,000ppm 以下ならば、ほとんど影響がないといわれている。
(4) 水の使用基準等については、JIS A5308(レディーミクストコンクリート)附属書C(規定)があり、この抜粋を次に示す 。
JIS A5308: 2011
附属書C(規定) レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水
C.1 適用範囲
この附属書は、レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水(以下、水という。)について規定する。
C.2 区分 
水は、上水道水、上水道水以外の水及び回収水に区分する。
C.3 定義 
この附属書で用いる主な用語の定義は、次による。
C.3.1 上水道水以外の水
河川水、湖沼水、井戸水、地下水などとして採水され、特に上水道水としての処理がなされていないもの及び工業用水。ただし、回収水を除く。
C.3.2 回収水
レディーミクストコンクリート工場で、洗浄によって発生する排水のうち、運搬車プラントのミキサ、ホッパなどに付着したレディーミクストコンクリート及び戻りコンクリートの洗浄排水(以下、コンクリートの洗浄排水という。)を処理して得られるスラッジ水及び上澄水の総称。
C.3.3 スラッジ水

コンクリートの洗浄排水から、粗骨材、細骨材を取り除いて、回収した懸濁水。

C.3.4 上澄水
スラッジ水から.スラッジ固形分を沈降その他の方法で取り除いた水。
C.3.5 スラッジ

スラッジ水が濃縮され、流動性を失った状態のもの。

C.3.6 スラッジ固形分

スラッジを105〜110℃で乾媒して得られたもの。

C.3.7 スラッジ固形分率

レディーミクストコンクリートの配合における単位セメント量に対するスラッジ固形分の質量の割合を百分率で表したもの。

C.4 上水道水

上水道水は、特に試験を行わなくても用いることができる。

C.5 上水道水以外の水

上水追水以外の水の品買は、C.8.1 の試験方法によって試験を行い、表 C.1 に示す規定に適合しなければならない。

表 C.1 上水道水以外の水の品質
表C.1_上水道水以外の水の品質.jpg
C.6 回収水
C.6.1 品質

回収水の品質は.C.8.2 の試験方法によって試験を行い、 表C.2 に示す基定に適合しなければならない。 ただし、その原水は C.4 又は C.5 の規定に適合しなければならない。

なお、スラッジ水を上水道水、上水道水以外の水、又は上澄水と混合して用いる場合の品質の判定は、スラッジ固形分率が 3 %になるように、スラッジ水の濃度を5.9 %に調整した試科を用い、C.8.2.4及び C.8.2.5の試験を行う。
表 C.2 回収水の品質s
表C.2_回収水の品質.jpg
C.6.2 スラッジ固形分率の限度
a) スラッジ水を用いる場合には、スラッジ固形分率が 3%を超えてはならない。なお、レディーミクストコンクリートの配合において、スラッジ水中に含まれるスラッジ固形分は水の質量には含めない。
b) スラッジ固形分率を 1%未満で使用する場合には、12.1に規定する表8(レディーミクストコンクリー ト配合計画書)の目標スラッジ固形分率の欄には、’’1 %未満’’と記述することとし、この場合のスラッジ固形分率の値は、管理期間ごとに 1%未満となることを確認すればよいこととする。
なお、このスラッジ固形分率を 1%未満で使用する場合には、スラッジ固形分を水の質量に含めてもよい。
C.6.3.3 スラッジ水の管理
スラッジ水の管理は、次による。
a) バッチ濃度調整方法 又は連続濃度測定方法を用いる。
バッチ濃度調整方法は、スラッジ水の濃度を一定に保つ独立した濃度調整槽をもつ場合に用いることができる管理方法である。独立した濃度調整槽をもたない場合には、スラッジ水の濃度を連続して測定できる自動設度計を設置して測定することによる連続濃度測定方法を用いればスラッジ水の管理ができる。
b) C.6.2 に適合するように、スラッジ水の管理状況に対応して、コンクリートに使用するスラッジ水の濃度を定めて管理する。
c) バッチ濃度調整方法を用いる場合には、スラッジ水の濃度を測定・記録し、目標スラッジ固形分率となるようにスラッジ水の計量値を決定して、スラッジ水を使用する。
なお、スラッジ水の設度の測定は、1日1 回 以上、かつ、濃度調整の都度行う。
d) 連続濃度測定方法を用いる場合に、はスラッジ水を使用する度にその濃度を自動濃度計によって測定・記録し、自動演算装置を用いて目標スラッジ固形分率となるようにスラッジ水の計量値を決定して、スラッジ水を使用する。
e) スラッジ水の濃度の測定精度の確認は、少なくとも3 か月に1 回の頻度で.C.8.2.6によって行う。 また、スラッジ水の濃度の測定方法として自動濃度計を用いる場合は、始業時にスラッジ水の密度から自動濃度計の表示値を確認し、これを記録する。
f) スラッジ水の濃度及び測定器具の精度確認の記録は、購入者からの要求があれば、スラッジ固形分率の算出根拠として提出する。
C.7 水を混合して使用する場合
2種類以上の水を混合して用いる場合には、それぞれが C.4、C.5 又はC.6 の規定に適合していなければならない。
JIS A5308:2011

(d) 混和材料
(1) 混和材料の使用目的は、おおむね次のとおりである。
(i ) ワーカビリティーの改良
(ii) 長期材齢又は初期材齢における強度の増大
(iii) 水密性の増大
(iv) 乾燥収縮の低減
(v) 耐久性の向上
(2) 混和材料の分類を、 図 6.3.5 に示す。
図6.3.5_混和材料の分類.jpeg
図6.3.5 混和材料の分類
混和材料について「標仕」 6.3.l (d)では、種類及び適用は特記 によるとし、特記がなければ.種類は次によるとしている。
( i ) 混和剤の種類は、JIS A6204(コンクリート用化学混和剤)によるAE剤、AE減水剤又は高性能AE減水剤とし、化学混和剤の塩化物イオン(Cl)量による区分は、I 種とする。また、防錆剤を併用する場合は、JIS A6205(鉄筋コンクリート用防せい剤) による防錆剤とする。
(ii) 混和材の種類は、JIS A6201(コンクリート用フライアッシュ)によるフライアッシュの Ⅰ 種、 lI 種若しくはⅣ種 JIS A6206( コンクリート用高炉スラグ微粉末)による高炉スラグ微粉末、JIS A6207(コンクリート用シリカフューム) によるシリカフューム又は JIS A6202(コンクリート用膨張材)による膨張材とする。
(3) JIS A6204(コンクリート用化学混和剤)の抜粋を次に示す。
なお、JIS A6204 は 2011 年の改正で、6.2のコンクリート試験における空気量は、基準コンクリートの空気量に 3.0%を加えたものに対して、0.5 % を超える差があってはならないこととなった。 また、練混ぜのバッチ数は 1 バッチとすること、圧縮強度試験用供試体の養生温度は 20±2℃とすること、コンクリートの試験日数は 1 日とすること及び管理試験の名称を性能確認試験と改め、 6箇月に 1回の頻度で実施することとなった。
JIS A 6204 : 2011
1 適用範囲
この規格は、コンクリート用化学混和剤(以下、化学混和剤という。)として用いる AE剤、高性能減水剤、硬化促進剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤及び流動化剤について規定する。
3 用語及び定義
この規格で用いる主な用語の定義は、JIS A0203(コンクリート用語)によるほか次による。
3.1 化学混和剤
主として、その界面活性作用及び/ 又は水和調整作用によって、コンクリートの諸性質を改善するために用いる混和剤。
3.2 AE剤
コンクリートなどの中に、多数の微細な独立した空気泡を一様に分布させワーカビリティー及び耐凍害性を向上させるために用いる化学混和剤。
3.3 高性能減水剤
所要のスランプを得るのに必要な単位水量を大幅に減少させるか、又は単位水量を変えることなくスランプを大幅に増加させる化学混和剤。
3.4 硬化促進剤
セメントの水和を早め、初期材齢の強度を大きくする化学混和剤。
3.5 減水剤
所要のスランプを得るのに必要な単位水量を減少させる化学混和剤。
3.6 AE減水剤
空気連行性能をもち、所要のスランプを得るのに必要な単位水量を減少させる化学混和剤。
3.7 高性能AE減水剤
空気連行性能をもち、AE減水剤よりも高い減水性能及び良好なスランプ保持性能をもつ化学混和剤。
3.8 流動化剤
あらかじめ練り混ぜられたコンクリートに添加し、これをかくはんすることによって、その流動性を増大させることを主たる目的とする化学混和剤。
3.9 標準形
化学混和剤の種類で、コンクリートの凝結時間をほとんど変化させないもの。
3.10 遅延形
化学混和剤の種類で、コンクリートの凝結を遅延させるもの。
3.11 促進形
化学混和剤の種類で、コンクリートの凝結及び初期強度の発現を促進させるもの。
3.12 基準コンクリート
化学混和剤の性能を試験する場合に基準とする化学混和剤を用いないコンクリート。ただし、流動化剤の性能を試験する場合にはAE剤を使用する。
3.13 試験コンクリート
化学混和剤の性能を試験する場合に試験の対象とする化学混和剤を用いたコンクリート。
3.14 形式評価試験
製品を開発した当初に性能確認として行う全項目試験。
3.15 性能確認試験
形式評価試験で確認された性能と同等の性能をもつことを定期的に確認するために、その一部項目について行う試験。
4 種類 
化学混和剤の種類は、性能によって表1、塩化物イオン(Cl)量によって表 2のとおり、それぞれ区分する。
表1_化学混和剤の性能による区分.jpg
表1 化学混和剤の性能による区分
表2_化学混和剤の塩化物イオン量による区分.jpg
表2 化学混和剤の塩化物イオン(Cl)量による区分
5 品質
5.1 性能
化学混和剤の性能は、6.2 によって試験を行ったとき、表3に適合しなければならない。 (6.2 省略)
表 3-化学混和剤の性能
表3_化学混和剤の性能A.jpg
5.2 塩化物イオン (Cl)量
塩化物イオン量は、6.3によってコンクリート中の量を求め、その値が表2に適合しなければならない。(6.3 省略)
5.3 全アルカリ量 
全アルカリ量は、6.4 によってコンクリート中の量を求め、その値が0.30kg/m2 以下でなければならない。(6.4省略)
JIS A 6204 : 2011
(4) AE剤
AE剤は、コンクリート中に無数の独立した微細気泡を連行させることができる。この気泡は、コンクリートに次のような効果をもたらす。
① ワーカビリティーが良くなる(気泡のボールベアリング作用による。)。
② 単位水量を減少させることができる(一般にプレーンコンクリートに比べて 8%程度減少できる。)。
③ コンクリートの凍結融解に対する抵抗性を増し、耐久性を向上させる。
④ 中性化に対する抵抗性を増大させる。
⑤ 圧縮強度は、空気量にほぼ反比例して低下する。
(5) AE減水剤
(ⅰ) AE減水剤は性能に応じて、標準形、遅延形及び促進形に分けられる。その用途等は次のとおりである。
① 標準形は、主として一般のコンクリートに用いられる。
② 遅延形は、コンクリートの凝結を遅らせ、暑中コンクリートやマスコンクリート等に用いる場合がある。
③ 促進形は.コンクリートの初期強度の発現を促進し、寒中コンクリート等に用いる場合がある。
(ⅱ) AE減水剤は、セメント粒子に対する分散作用と空気連行作用を併有する混和剤で、所要のコンシステンシーを得るための単位水量は、プレーンコンクリー トに比べて 12~16%減少できる。
(6)高性能AE減水剤
高性能AE減水剤は、高い減水性とスランプ保持性能を有する混和剤で、凝結時間が通常のコンクリートとあまり変わらない標準形と、暑中コンクリートやマスコンクリート等に適した遅延形とがある。
その主成分の化学的組成からナフタリン系、ポリカルボン酸系、メラミン系、アミノスルフォン酸系に分類される。ただし、この分類は、あくまで便宜的なもので、同系統に属していてもコンクリートに用いたときの性能は、主成分の化学構造が全く同じでないこと、配合されている副次成分の違いなどから必ずしも同ーではない。
高性能AE減水剤は、従来の AE剤や AE減水剤と同様にプラントでミキサーに投入し、他の材料と同時に練り混ぜる方式により、プレーンコンクリートに対し減水率を 16~25 %程度にすることができる化学混和剤であり、特にスランプロス防止に重点をおいて開発されたものである。
高性能AE減水剤の主な機能は、①高いセメント分散作用、②スランプ保持作用であり、用途としては次のようなものが挙げられる。
① 単位水量上限規制への対応
② コンクリートの高耐久性化(単位水量の大幅低減)
③ 高流動コンクリートの製造
④ 高強度コンクリートの製造
⑤ 単位セメント量低減による水和熱の低減等
(7) 流動化剤
流動化剤は,あらかじめ練り混ぜられたコンクリートに添加、かくはんし流動性を増して、コンクリートの品質と施工性の改善をする混和剤である 。
なお、 I 類コンクリートであっても、レディーミクストコンクリート工場出荷後、荷卸し地点等で流動化剤を添加する場合は、JIS Q1001(適合性評価 日本工業規格への適合性の認証 一般認証指針)及びJIS Q1011(適合性評価 日本工業規格への適合性の認証一分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))の認証範囲から外れる可能性がある。 このような場合には、II 類コンクリートとして扱わなくてはならないので、その使用には注意が必要である。
(8) フライアッシュ
( i ) フライアッシュは、燃料として微粉炭を使用している火力発電所のボイラーの煙道に設けられた集塵機で回収される鉱物質の微粉で、人工ポゾランの一種である。 良質なフライアッシュは粒子表面が滑らかで球状を呈しているので、AE剤による気泡と同様な作用をする。
(ii) 良質なフライアッシュを混合すると同ースランプのコンクリートを得るのに、混合率(内割り)10%(質量比)当たり単位水量を3~4%程度減らすことができる。
(iii) フライアッシュは JIS A 6201(コンクリー ト用フライアッシュ)の I 種、II 種 又はⅣ種に適合するものとし、ワーカビリティーや圧送性の改善、プリーディングの減少、水和熱の抑制等の目的で、セメントの一部として(内割り)あるいば骨材の一部として(外割り)用いられる(内割り、外割りについては(vi)参照)。フライアッシュの品質を表6.3.7 に示す。
表6.3.7_フライアッシュの品質(JISA6201).jpg
表6.3. 7 フライアッシュの品質 (JIS A 6201 : 2008)
(iv) フライアッシュを内割りに混合する場合の混合率の限度は、セメント量の10%以内とする。
(v) フライアッシュの混合によりコンクリー トの中性化が促進されるといわれているので鉄筋に対するコンクリー トのかぶり厚さを確保するよう特に注意する。
(vi) フライアッシュ の混合の内割り、外割り
①フライアッシュを「内割りに混合する」とは図6.3.6 のような割合に混合することをいう。「標仕」6.3.2(2)(vi)③の場合に適用する。
図6.3.6_フライアッシュの混合の内割り.jpg
図6.3.6 フライアッシュの混合の内割り
②フライアッシュを「外割りに混合する」とは図 6.3.7 のような割合に混合することをいう。「標仕」6.3.2(2)(vi)②の場合に適用する。
図6.3.7_フライアッシュの混合の外割り.jpg
図6.3.7 フライアッシュの混合の外割り
6.3.2 コンクリートの調合
コンクリートの計画調合は、所要のスランプ、空気量、強度及び耐久性が得られ、かつ、「標仕」2節に示される各規定の要求事項を満足するよう、次の項目に注意して定めなければならない。
(1) 調合管理強度及び調合強度
(i) 調合管理強度
平成19年版「標仕」では、調合管理強度(Fm)に相当する値は、設計基準強度(Fc)、構造体コンクリートと供試体強度との差(△F= 3 N/mm2)、気温によるコンクリート強度の補正値(T)を考慮して(Fc+△F+T)としていたが、平成22年版「標仕」からは、調合管理強度は、(△F+ T)に代わって、セメントの種類及びコンクリートの打込みから材齢28日までの予想平均気温に応じて定められた構造体強度補正値(S)を取り入れ(Fc+S)に改められている。
(ⅱ) 構造体強度補正値(S) はセメントの種類、予想平均気温の範囲に応じて「標仕」表6.3.2に示すように、3N/mm2、6N/mm2としている。
なお、構造体コンクリートの強度については 6.2.2(c)を参照するとよい。
(ⅲ) 調合強度(F)は、一般的には標準養生した供試体の材齢 m 日における圧縮強度で表し、6.3.3式を満足するように定めることになる。
 F ≧ Fm + α × σ ( N/mm2 ) ・・・(6.3.3 式)
 α:はコンクリートの許容不良率に応じた正規偏差
 σ:強度のばらつきを表す標準偏差
JASS5 では、αを許容不良率 4%に相当する 1.73 を用いている。また、σは発注するレディーミクストコンクリート工場の実績に基づいた値を用いればよい。もし発注するコンクリートの生産実績が少ないなどの場合には、2.5 N/mm2又は 0.1 Fm の大きい方の値を用いる。
(2)調合条件
コンクリートに要求される品質として、所要の強度を確保すること、打込み時のワーカビリティーを確保することは当然であるが、近年、鉄筋コンクリート造の構追物が劣化している様々な事例が指摘されており、コンクリートの耐久性(コンクリート中の塩化物含有量、中性化、ひび割れ、海塩粒子、アルカリ骨材反応による影響等に対して)を確保することがコンクリート構造物の継続的利用に極めて重要となっている。 これらの理由から「標仕」では次の規定を設けている。
なお、次にいう水セメント比の最大値、単位水量の最大値及び単位セメント量の最小値とは、レディーミクストコンクリート工場において調合設計を計画した時のそれぞれの目標値のことである。
① 「標仕」では.荷卸し地点における空気量は、4.5%と規定されている。
AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤を用いて、コンクリート中に微細な空気泡を連行すると、連行空気量にほぼ比例して所定のスランプを得るのに必要な単位水量を低減でき、ワーカビリティーが改善されるとともに、凍結融解作用に対する抵抗性が増大する。しかし、空気量が 6 %以上になるとそれ以上空気量を増やしてもフレッシュコンクリートの品質は改善されなくなり、空気量が 3%未満では凍結融解作用に対する抵抗性の改善に対する効果が少ない。 このため空気量の確認時期・地点を荷卸し地点とし、その時のコンクリートの空気量を 4.5%としている。
水セメント比の最大値(上限値)は、平成22年版「標仕」では、普通ポルトランドセメント及び混合セメントの A種は 65%、混合セメントのB種は60%とされていたが、平成25年版「標仕」では新たに早強ポルトランドセメント及び中庸熱ポルトランドセメントを使用する場合は65%、 低熱ポルトランドセメントを使用する場合は60%とする規定が追加されている。
鉄筋コンクリートの一般的な劣化は、コンクリート表面からの水・炭酸ガス・塩化物その他の浸入性物質によりもたらされるが、これらの劣化要因からコンクリートを健全に守るためには、一般に水セメント比を小さくすればよい。このため強度上必要な水セメント比とは別にコンクリートのワーカビリティー・均一性・耐久性を確保するために水セメント比の最大値を定めている。
③ 「標仕」では、単位水量の最大値を185kg/m3 と規定するとともに、コンクリートの強度気乾単位容積質量、ワーカビリティー、スランプ及び構造体コンクリートの仕上り状態が「標仕」2節に規定される品質を満足する範囲でできるだけ小さくするよう規定されている。
近年、良好な砂利、砂に代わり砕石、砕砂が多用されるようになると、スランプを一定値以下に抑えても単位水量は大きくなる一方であり、コンクリートの乾燥収縮率の増大が懸念されている。その一方で、最近は高性能AE減水剤によりコンクリートのスランプを比較的容易に変えることができるようになり、単位水量が 185kg/m3 以下でもスランプ 18cmにすることが容易となっている。このような理由から、コンクリートの品質を確保するためにスランプの規制以外に単位水量の制限が設けられている。
④ 「標仕」では、単位セメント量の最小値を 270kg/m3と規定するとともに、②の水セメント比及び③の単位水量から算出した数値以上と規定されている。
なお、単位セメント量は、6.3.4式によって求められる。
C =W / x ×100 ・・・・・・(6.3.4式)
C:単位セメント量 (kg/m3)
W:単位水量  (kg/m3)
x:水セメント比  ( %)
単位セメント量は水和熱及び乾燥収縮によるひび割れを防止する観点からできるだけ少なくすることが望ましい。しかし、単位セメント量が過小であるとコンクリートのワーカビリティーが悪くなり型枠内へのコンクリートの充填性の低下、豆板や巣、打継ぎ部における不具合の発生、水密性、耐久性の低下等を招きやすい。 このためコンクリートの強度を確保するための条件とは別に単位セメント量の最小値が規定されている。
⑤ 細骨材率
「標仕」 では、「2節に規定するコンクリートの品質が得られる範囲内でできるだけ小さくする」と規定されている。 細骨材率を小さくすると一般に所要のスランプを得るための単位水量は減るが、がさがさのコンクリートとなり、また、スランプの大きいコンクリートでは、粗骨材とモルタルとが分離しやすくなり、ワーカビリティーが低下する。
一方.細骨材率を大きくすると所要のスランプを得るための単位水量を多く必要とし、流動性の悪いコンクリートとなる。このため、レディーミクストコンクリート工場では、所要のワーカビリティーが得られる範囲内で単位水量が最小になるように試験により最適な細骨材率を定めている。
⑥ 混和材料
1) 混和剤の使用量
AE剤については、所定の空気量が得られるようにその使用量を定める。
AE減水剤については、セメントに対する定められた質量比等の範囲内で使用量を定め、空気量については、空気量調整剤 (AE剤)で所定の空気量が得られるように調整する。
高性能AE減水剤については、セメントに対する定められた質量比等の範囲内で単位水量及びスランプが得られるように使用量を定める。また、空気量については、空気量調整剤(AE剤)で所定の空気量が得られるように調整する。
2)良質なフライアッシュは球形をしており、ボールベアリング効果により、ポンプの圧送性を改善する。普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートで圧送が困難な場合、フライアッシュⅡ種又はⅣ種を外割りで混合することができる( 6.3.1(d)(8)(ⅵ) 参照)。
なお、フライアッシュの種類については、平成22年版「標仕」までは、I種又はⅡ種であったが、平成 25年版「標仕」では、Ⅱ種又は Ⅳ種に変更されているので、フライアッシュの混合使用が行われる場合には、受注者等に調合計画表等を提出させて確認するとよい。
3) 普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートで水セメント比の制限等により、強度上必要なセメント量を超える場合は、その部分をセメント全量の10%(質量比)の範囲でフライアッシュⅠ種又はⅡ種に置き換えることにより、単位水量の低下、単位セメント量の低下等が図られ、乾燥収縮等を改善することができる (6.3.1(d)(8)(ⅵ) ➀ 参照)。
また、「標仕」 では記載されていないが、高炉スラグ微粉末を適量混合することにより、水和熱の抑制、アルカリ骨材反応の抑制、硫酸塩や海水に対する化学抵抗性の向上、水密性の向上等が期待できる。
なお、普通ポルトランドセメントと置換できるフライアッシュの種類については、平成22年版「標仕」まではⅡ種だけであったが、平成25年版「標仕」では、新たに I種も追加されている。
4) 上記 1)~3)以外で混和材料として多く用いられるものには流動化剤、膨張材、防錆剤等があるがその使用方法使用量についてはコンクリートの種類や使用目的によって異なるので、使用が特記された場合は、コンクリートの所定の性能が得られるよう試し線り及び信頼できる資料を受注者等に提出させて確認することが重要である。
⑦ 塩化物量
コンクリートは、通常pH=12.5~13程度の強アルカリ性を呈し、その中に埋め込まれた鉄筋の表面は薄い酸化皮膜で覆われ、不働態化して腐食から保設されている。
しかし、大気中の炭醗ガスやその他の酸性物質の浸透によって徐々にアルカリ性が失われ、中性化が鉄筋の位置まで進行すると鉄筋の腐食に対する保澁作用を失い、更に、水分と酸索が供給されると鉄筋は腐食し始める。
コンクリート中に一定量以上の塩化物が存在すると、塩化物イオンの作用によってコンクリートの中性化が進行していなくても、不働態皮膜が破壊され、鉄筋は腐食し始める。
これらの理由から、「標仕」ではコンクリートに含まれる塩化物の値に制限が設けられ、塩化物イオン量で 0.30kg/m3以下と規定されている。
なお、塩化物イオン量が0.30kg/m3を超えることがやむを得ないと判断した場合は、設計担当者と打合せのうえ、受注者等に次の基準に従った処置の方法を提案させ、「標仕」1.1.8 による協議に基づいて処置する必要がある。
1) コンクリート中に含まれる塩化物含有量の基準
鉄筋コンクリート造等建築物の構造耐力上主要な部分に用いられるコンクリートに含まれる塩化物量(塩化物イオン(Cl-)換算)は、原則として 0.30 kg/m3以下とし、やむを得ず塩化物量が 0.30 kg/m3を超え 0.60 kg/m3 以下のコンクリートを使用する場合は、次のイ)からニ)までの条件を満たすものとする。
イ)水セメント比は、55%以下とする。
ロ)AE減水剤又は高性能AE減水剤を使用し、スランプは 18cm以下(流動化コンクリートではベースコンクリートのスランプは15cm以下、流動化後のコンクリートのスランプは21cm以下) とする。
ハ)適切な防錆剤を使用する。
ニ)スラブの下端の鉄筋のかぶり厚さを3cm以上とする。
2)離島等で海砂以外の骨材の入手及び除塩用水の確保が落しく困難であり、塩化物量が 0.60kg/m33を超える場合においては、有効な防錆処理が施された鉄筋の使用等による防錆対策を講ずる。
3) 塩化物量の測定は、「標仕」表6.9.1による。
⑧ アルカリ骨材反応
1) アルカリ骨材反応とは、反応性シリカを含む骨材とセメント等に含まれる Na+、K+ のアルカリ金属イオンが、水の存在下で反応してアルカリけい酸塩を生成し、これが膨張してコンクリートにひび割れ、ポップアウト等を生じさせる現象をいう。
2) アルカリ骨材反応は、この反応にかかわる鉱物の種類によって、アルカリシリカ反応とアルカリ炭酸塩反応とがあり、わが国で問題となっているのは主としてアルカリシリカ反応である。
3) この反応性をもつ鉱物としてはオパール、クリストバライト、トリジマイト、火山ガラス、玉髄、石英等があり、反応性シリカ鉱物を含む岩石としては輝石安山岩、チャート等がある。
4)アルカリ骨材反応は、一般に①反応性骨材、②高いアルカリ量、③十分な湿度の 3条件がそろった場合にコンクリートに被害を生じさせるとされている。
5)アルカリ骨材反応の抑制対策として 次のような方法が考えられる。
イ)反応性の骨材を使用しない。
ロ)コンクリート中のアルカリ総量を低減する。
ハ)アルカリ骨材反応に対して抑制効果のある混合セメントを使用する。
6) 以上のことから、「標仕」ではコンクリートはアルカリ骨材反応を生じるおそれのないものとしている。
⑨ 計画調合の決定
1) 計画調合は、試し練りによってそのコンクリートの性能を確認して定めることを原則としているが、I 類コンクリートを使用する場合は、試し練りは、省略してもよいとしている。
2) 試し練りにおいて、計画スランプ、計画空気量、調合強度(標準養生した材齢28日の圧縮強度 )、その他コンクリートの温度や塩化物量、単位容積質量等を確認する。
なお、試し錬りの計画スランプ、計画空気量については、レディーミクストコンクリートの練混ぜから荷卸し地点までのロスを考慮した目標値であることに注意する。
また、運搬によるスランプロスや空気量ロスは、練混ぜから荷卸し地点までの距離、コンクリートのスランプ、外気温、調合条件等によって相違があるので、レディーミクストコンクリート工場の社内規格を参考にするとよい。
3) 計画調合の表し方
コンクリートの計画調合は、JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)の表8[レディーミクストコンクリート配合計画書]により表す。
4) レディーミクストコンクリート工場では I類コンクリートについては、使用する材料で調合設計を標準化している。レディーミクストコンクリート工場における計画調合の定め方の一例を図6.3.8 に示す。
図6.3.8_レディーミクストコンクリート工場における計画調合の求め方の例.jpg
図 6.3.8 レディーミクストコンクリート工場における計画調合の求め方の例

7章鉄骨工事 2節材料

第7章 鉄骨工事
2節 材 料
7.2.1 鋼 材
(a) 鋼材の製造
建築用に使用される鋼材は、その用途に応じて種々の特性を有し、その素材である鉄鉱石、鉄くずから多くの製造工程を通して製造される。図7.2.1 に、製鉄所における素材の一貫製造工程の概略を示す。
図7.2.1_製鉄所における素材の一貫製造工程.jpg
図 7.2.1 製鉄所における素材の一貫製造工程
鉄鋼製造工程の中で鋼の特性を決める主な要因は、製鋼工程における鋼の成分・鋳造法、圧延・機械成形工程における加工・溶接や熱処理条件、表面処理工程におけるめっき・塗料の成分や被覆方法等で、これらを適切に組み合わせることにより所定の特性をもった素材が製造される。特に注目すべきことは、技術の向上により1970年代まで主流であった造塊・分塊法が、連続鋳造法に移行して、現在では 95%以上の鋼材が連続鋳造により製造されるようになったことで、結果として鋼材の品質向上に大きく貢献している。また、製造された素材は、試験や検査によって所定の特性をもっていることが確認される。表7.2.1は、製鉄所が行っている主な試験や検査項目である。
なお、製造された素材について、製造業者より品質の証明書として規格品証書(ミルシート、検査証明書、試験成績書等)が発行される。
表7.2.1 製鉄所における主な試験や検査項目
表7.2.1_製鉄所における主な試験や検査項目.jpg
(b)構造用鋼材の性質と種類
(1) 鋼の物理的性質
通常の鋼がもつ基本の物理定数を、表7.2.2 に示す。
表7.2.2 鋼の物理定数
表7.2.2_鋼の物理定数.jpg
(2)鋼中の炭素含有量と材質
鉄骨工事に使用される構造用鋼は、そのほとんどが炭素鋼(普通鋼)と呼ばれるものである。炭素鋼は、炭素含有量が通常0.02~約2%の範囲の鋼であり、鋼中の炭素(C)含有量によりその材質が大きく変化する。一般的には、炭素量が多くなると引張強さと硬さは増加するが、伸びや靭性(ねばり強さ)が低下する。そして、炭素量が多くなり過ぎると材質はもろくなり構造用鋼材として使用できなくなる。図7.2.2 に炭素量と材質変化を示す。
図7.2.2_炭素量と材質変化.jpg
図 7.2.2 炭素量と材質変化
※シェルフエネルギーとは、鋼のシャルピー試験において、完全延性破壊を呈する温度のエネルギーをいう。
(3)高温度における材質変化
建築構造物の設計や工事の際の、鋼材の材質特性は、一般的に常温の値を使用することが多い。しかし、鋼材は、温度の上昇とともに強度が低下することがよく知られており、鋼材の使用場所や環境によって高温度になるような場合は、この強度の低下をあらかじめ見込んで使用しなければならない。図7.2.3 に、鋼材の主な材質が、温度とともに変化する状況を示す。
図7.2.3_温度と鋼材の材質変化の関係.jpg
図 7.2.3 温度と鋼材の材買変化の関係
(4) 鋼の成分と溶接性
鉄骨工事にとって重要な溶接性は、鋼材の炭素量と密接な関係にある。炭素が多く含まれる鋼材の溶接性は一般的には悪い。したがって、炭素量を適切に抑えて、ほかのマンガン(Mn)やけい素(Si)等の成分を添加して引張強さ、硬さ、伸びを確保しながら溶接性の改善を図ることが多い。 鋼材の溶接性への影響度を表す数値が炭素当量(Ceq)、溶接割れへの影響度を表す数値が溶接割れ感受性組成(PCM)である。これらは、添加されたほかの成分の影響を、次式(JIS G3106、JIS G 3136より引用)によって換算した数値である。
鋼の成分,炭素当量と溶接割れ感受性組成.jpeg
炭素当量及び溶接割れ感受性組成は、溶接材料、溶接条件、溶接部の形状等とともに溶接部の性能を確保するための重要な指標の一つであり、例えば、JIS G 3136(建築構造用圧延鋼材)(SN材)では、炭素当量を 400N/mm2の B,C材で 0.36%以下、490N/mm2 の B、C材で 0.44%以下(厚さ 40mm以下)、0.46%以下 (厚さ 40mをm超え 100mm以下)と規定している。 また、溶接割れ感受性組成もSN400B,C材で 0.26%以下、SN490B, C材で 0.29%以下としている。
なお、式中の元素記号は、その含有量を重量%で示したものである。
(5) 熱処理と材質変化
鋼は, 熱処理によって材質を変化させることができる。 素材に行われる熱処理や溶接部又はその周辺に残る有害な影響を解除する溶接後の熱処理は、この性質を利用したものである。
通常行われている熱処理には、次のような種類がある。
①焼入れ
鋼を硬くし、強度を増加するためにある特定の温度以上まで加熱したのち、急冷する方法
②焼戻し
焼入れした鋼の硬さや強度を減少して、靭性(ねばり強さ)をもたせるため適切な温度(400~650℃程度)まで加熱したのち、自然に冷却する方法
③焼ならし
加工した鋼の結晶組織を微細化・均一化するため、ある特定の温度以上まで加熱したのち、自然に冷却する方法
④焼なまし
鋼を軟らかくするために結品組織の大きさを整えたり、内部応力の除去のため、適当な温度で一定時間加熱したのち、ゆっくりと冷却する方法(炉の中で冷却することが多い。)
溶接構造物や溶接機械部品の内部応力除去のために行われる熱処理を、応力除去焼鈍ということがある。
(6) 鋼材の用途と分類
鋼材には.多くの種類があり用途に応じて使用される。各々の鋼材は、品質要求に適合するように製造されているから、十分な配慮(例えば、構造物の荷重・圧力・温度等の条件、切削・溶接・熱処理・表面処理等の加工条件に合うかどうか)をして、適切な鋼材を使用する。
構造部位の視点に立つと、激震時に部材が塑性化する部位か弾性範囲に留まる部位かによって、降伏点又は耐力、降伏比、板厚方向性能の保証の有無を使い分けることが直要である 。
(7)主な鋼材の種類
(i) 建築基準法に基づく告示に規定された主な鋼材の種類とその概要を表7.2.3に示す。
なお、JIS G 3106(溶接構造用圧延鋼材)で熱処理を行ったときは、記号の末尾に焼ならしN、焼入れ焼戻しQ、熱加工制御 TMC の各記号を付記することになっている 。
また、JIS G 3106 で内部欠陥のないことを立証するために超音波探傷試験を行ったときは、記号の末尾に UT を付加して表す。 超音波探傷試験は、JIS G 0901(建築用鋼板及び平鋼の超音波探傷試験による等級分類及び判定基準)による。
なお SN400C、SN490Cは出荷前に超音波探傷試験が実施されている。また、SN400B、SN490B はオプションで超行波探傷試験ができることになっている 。
JIS G 3101 (一般構造用圧延鋼材)に規定されるSS400 材と JIS G 3106 に規定される SM490A材は建築用鋼材として多く使用されているが、溶接性、衝撃特性及び板厚方向の性能が必要となる箇所に使用する場合は、特にりん(P)と硫黄(S) の不純物の含有量に注意して使用する。
溶接性において、高温割れの主因は溶接金板のデンドライト境界面に残存する低融点の不純物にあるとされており、 P や S 等が割れを促進する元素として知られている。また、T 継手あるいは隅肉多層盛溶接部に発生するラメラテアは、圧延方向に伸長した鋼板の層状介在物 (MnS) が原因の一つとされている。更に、この層状介在物 (MnS) は、板厚方向の絞り値にも大きく影響する。参考として、各鋼種の P 及び S の JIS 規格値を表 7.2.4 に示す。
なお、溶接接合の場合は、その部位の重要度に応じてP や S の少ないものを使用することが望ましい。
(ⅱ) 表 7.2.3 に掲げるもののほか 建築基準法に基づき指定又は認定を受けた構造用鋼材及び鋳鋼がある。
表 7.2.3 主な綱材の種類と概要
表7.2.3_主な鋼材の種類と概要.jpg
表 7.2.4 各鋼種のP及びS のJIS 規格値(単位:%)
表7.2.4_各鋼種のP及びSのJIS規格値.jpg
(8)建築構造用圧延鋼材( SN材)
(ⅰ) 建築物の主要構造部に用いられる鋼材として、SS材、SM 材の JIS 規格値を満足するだけでなく、次のような条件も満足する。
① 降伏点の上限値規定
② 降伏比(降伏点/ 引張強さ) の上限値規定
③ 板厚方向の絞り値の下限値規定 (C材のみ)
④ 化学成分のうち、より厳しい P, S 値の規定
⑤ 炭素当量又は溶接割れ感受性組成の規定
⑥ JIS G 0901 による超音波探傷試験による内部品買の保証(C 材では規格として義務付けられている。 また、B材でもオプションで超音波探傷試験による内部品質の保証も可能である。)
(ⅱ) JIS の概要は、次のとおりである。
名     称:建築構造用圧延鋼材
鋼種種類の記号:SN400A,B,C、SN490B, C
製 造 範 囲 :板厚 6mm以上、100mm以下の鋼板、帯鋼、平鋼及び熱間圧延形鋼
この鋼材の特徴は、次のとおりである。
① これまでの溶接性による識別のための鋼種記号SS材、SM材とは別に、建築用鋼材として鋼種記号 SN材とする。
② 溶接性の保証の有無、板厚方向の引張り特性の保証等を、強度区分の末尾記号 A, B. C で表示する。
A : 主として弾性設計の範囲内で使用し、主要な溶接を行わない部材( 小梁、間柱、母屋、胴縁等の 二次部材 )に適用するもの 。
B : 溶接を行う部材であり かつ,塑性変形能力を期待する部材(柱、梁等耐震用主要構造部材) に適用するもの。
C : 溶接性、塑性変形能力を必要としたうえで、更に板厚方向引張応力が作用する部材(溶接組立箱形断面柱のスキンプレート、通しダイアフラム等)に適用するもの。このため、C 材では板厚方向引張り性能として絞り試験及び鋼板では UT (超音波探傷)試験が実施される。
③ 引張強さの区分は、これまでの 400Nと 490N と同じ 2種類とする。それぞれに対する F値はこれまでと同じ扱いである。
④ ミルシートに記載される化学成分の種類は増える。化学成分値については、B,C 材にあっては溶接性を重視する材料であることから P,S値が大幅に低減されている。 また、予熱管理も考慮して Ceq 又は PCMを保証するものとなっている。
⑤ 機械的特性に関する規定としては、若干の例外はあるが、通常使用される範囲の板厚のものに対しては次のとおりとなっている。
降伏点又は耐力:下限と上限を規定
引張強さ   :下限と上限を規定
降伏比    :上限を規定
0℃シャルピー吸収エネルギー値:下限を規定
これは、現行の耐震設計の基本理念が鋼部材の塑性変形能力によって地震入力エネルギーを吸収するものとしていることに対応させたものである。
⑥ 鋼板、形鋼の板要素の板厚マイナス側の公差が大輻に縮小された。これによって、これまで存在していた公称板厚りより薄い板要素の鋼材はほとんど排除された。
⑦ すべてのH 形鋼 ( (11)の外法一定 H 形鋼を含む。)のフィレットの r 寸法が H形鋼のサイズごとに統一され、8,13,18,22,26 mm の 5 つに集約された。
(9) 鋼板のマーキング
建築構造圧延鋼材 (SN材)には、切板に切断された段階でも明らかに規格材であると識別できるように、鋼板表面全面に社章あるいはドットマーク・規格名称をマーキングができることになっているので、マーキングのある材料を使用するとよい。
なお、形鋼には全面マーキングは行っていないが.全長にわたって連続マーキングしているものがある。
マーキングの内容は、次のとおりである
① マーク表示面:表(おもて)面全面
② マーク表示項目:社章又は規格分別マーク又はドットマーク
 1) SN400B,C  社章と菱形
 2) SN490B,C  社章と円形
 3) その他   社章
③ マーク表示ピッチ:長手、幅方向ともに 350mmピッチ程度
④ マーク 寸 法:80mm × 80mm程度
(10) その他の鋼材
( i ) 建築構造用 TMCP鋼
従来の鋼材の製造法は、アズロール(圧廷のまま)又は焼ならし処理が主体であった。この方法だと化学成分で強度を確保せざるを得ないが、炭素量や合金成分が高くなると、炭素当量が高くなり溶接性に悪影響を及ぼす。特に、厚肉鋼板ではこの領向が著しかった。
最近、超高層建築等板厚の大きい場合に使用頻度の高い TMCP鋼は、この点を解決したものである。TMCP は Thermo Mechanical Control Process の略称で「熱加工制御」又は「加工熱処理」とも呼ばれている。TMCP は、鋼材製造法を指し、TMCP 鋼はその方法で作られた鋼材のことである。
TMCP は熱間圧延時の圧延温度の制御と、その直後の冷却方法との組合せにより最適な材質をつくり込む。冷却方法は水冷型と非水冷型に分類されるが、建築用鋼材では通常水冷型が用いられている。
TMCP鋼と従来鋼の圧延方法の比較を図 7.2.4 に.TMCP鋼の炭素当量と強度の関係を図7.2.5 に示す。
図7.2.4_TMCP鋼と従来鋼の圧延方法の比較.jpg
図 7.2.4 TMCP鋼と従来鋼の圧延方法の比較
図7.2.5_TMCP鋼の炭素当量と強度の関係.jpg
図 7.2.5 TMCP鋼の炭素当量と強度との関係
大手高炉メーカー各社は、建築構造用 TMCP鋼材で、建築基準法に基づく認定を取得している。 これによると、この材料は厳格な品質管理のもとで、化学成分の調整と水冷型熱加工制御法による製造法で板厚 40mmを超え 100mm以下の材でも、40mm以下と同じ基準強度( F値 )が保証されている。
(ii) 冷間成形角形鋼管
冷間成形角形鋼管には、JIS による冷間成形角形鋼管(JIS G 3466 一般構造用角形鋼管 )と建築構造用に使用することを目的とした国土交通大臣認定による冷間成形角形鋼管があり、鋼板をプレス成形して製造される冷間プレス成形角形鋼管と鋼帯からロール成形により製造される冷間ロール成形角形鋼管に分けられる。
この国上交通大臣認定による冷間成形角形鋼管は、①塑性変形能力の確保、②溶接性の確保、③公称断面寸法の確保、④角部コーナー Rの曲率半径の統ーを特徴とする材料である。冷間プレス成形角形鋼管は、辺長及び板厚が 200 × 6(mm) ~1,000 × 40(mm)の範囲で製造され、鋼管の引張強度レベルは400N/mm2級と490N/mm2級の 2種類がある。 490N/ mm2級の鋼管には、角部の靭性(試験温度 0℃でのシャルピー吸収エネルギー70J以上)を保証した角形鋼管もある。冷間ロール成形角形鋼管は,辺長及び板厚が150 × 6(mm) ~ 550 × 22(mm) の範囲で製造され、鋼管の造管前の鋼帯の強度は 400N/ mm2級であるが、造管後の降伏点の下限値を 295N/ mm2としている 。 詳細は、(独)建築研究所監修 「冷間成形角形鋼管設計・施工マニュアル」を参照されたい。
なお.冷間状態で円形鋼管にしたのち、熱間状態で角形にする熱間成形角形鋼管もある 。
( iii ) 高強度鋼
近年の鉄骨造建築物の高層化・大型化に伴い、厚くなる鋼部材の板厚を抑え軽量化等を図るため、490N/mm2 級鋼を超える 550、590、780、1,000N/ mm2級の高強度鋼が開発されている。
これらには、使用ニーズに合わせて、低降伏化、高降伏化、溶接施工の難易度軽減のための予熱低減を可能とするなどの性能を有する製品も製造されている。
(iv) 耐火鋼( FR鋼)
鋼材は高温になると強度が低下するため、耐火被覆が必要となる。 耐火鋼は、耐熱性を高めるためにモリブデン等の合金を添加することで高温強度を向上させ、耐火被覆を軽減若しくは無被覆にできる鋼材である。 600℃においても、常温規格値の 2/ 3 以上の降伏耐力を保証している。
(v) 低降伏点鋼
制振構造において低降伏点鋼を使用する制振デバイスは他のデバイスに比較して安価で、かつ、信頼性や耐久性も高いことから急速に普及してきた鋼材である。 低降伏点鋼は通常の柱梁の主架構の鋼材よりも降伏点が低く、地震時に
低降伏点鋼を早期に降伏させることで地震入カエネルギーを鋼材の塑性エネルギーに変換して制振効果を発揮させる。
なお、低降伏点鋼は、降伏点又は耐力が 225N/mm2級及び 100N/mm2級の 2種類が主に使用される。
(11) 外法一定 H形鋼 (定形H 形鋼)
従米の H形鋼は、圧延製造上の制約から、同一シリーズでは内法が一定であり、フランジ厚の変化によってせいが異なっていた。 このため、柱梁接合部に極端に厚いダイアフラムを要したり、継手部にフィラープレートの挿人が必要であった。
圧延製造技術の進歩により、上記の問題点を解決した製品が外法一定 H形鋼である。 この H 形鋼は同一シリーズ内のサイズ構成も豊富で、経済的なサイズ選択の自由度が広がった。各社のサイズはほぽ同じである。フィレット寸法は全メーカーで統一寸法(13、18mm)となっている。 また、この H 形鋼のフランジ、ウェブの板厚は、鋼板の常用板厚とほとんど同厚になっている( 例外は板厚14mmのみ)。
(c) 鋼材のJIS の抜粋
JIS G3136(建築構造用圧延鋼材)の抜粋を次に示す。
JIS G3136:2012
1.適用範囲
この規格は、建築構造物に用いる熱間圧延鋼材(以下、鋼材という。)について規定する。
3.種類及び記号並びに適用厚さ
鋼材の種類は 5種類とし、その記号及び適用厚さは、表1による。
表1種類の記号
JIS_G3136_表1_種類の記号.jpeg
4.化学成分
鋼材は、11.1によって試験を行い、その溶鋼分析値は、表2 による。
表 2 化学成分
JIS_G3136_表2_化学成分.jpeg
5. 炭素当量又は溶接割れ感受性組成
5.1 炭素当量又は溶接割れ感受性組成
鋼材の炭素当量又は溶接割れ感受性組成は、次による。
a) 炭素当量は、表3による。炭素当量の計算は、11.1 の溶鋼分析値を用い、式(1)による。
なお、計算式に規定された元素は、添加の有無にかかわらず、計算に用いる。
5.1_炭素当量.jpeg
ここに、Ceq:炭素当量(%)
表3 炭素当量
JIS_G3136_表3_炭素当量.jpeg
b) 受渡当事者間の協定によって、炭素当量の代わりに溶接割れ感受性組成を適用してもよい。この場合の溶接割れ感受性組成は、表4 による。溶接割れ感受性組成の計算は、11.1 の溶鋼分析値を用い、式(2)による。
なお、計算式に規定された元素は、添加の有無にかかわらず、計算に用いる。
JIS_G3136_PCM_溶接割れ感受特性組成.jpeg
ここに、
PCM :溶接割れ感受性組成(%)
表4 溶接割れ感受性組成
JIS_G3136_表4_溶接割れ感受性組成.jpeg
6. 機械的性質
6.1 降伏点又は耐力、引張強さ、降伏比及び伸び
鋼材は、11.2 によって試験を行い、その降伏点又は耐力、引張強さ、降伏比及び伸びは、表5による。
6.2 シャルピー吸収エネルギー
厚さ12mmを超える鋼材は、11. 2 によって試験を行い、そのシャルピー吸収エネルギーは表 6 による。 この場合、シャルピー吸収エネルギーは.3個の試験片の平均値とする。
なお.個々の試験結果のうち 1個は、27J 未満になってもよいが、19J 以上でなければならない。
表6 シャルピー吸収エネルギー
JIS_G3136_表6_シャルピー吸収エネルギー.jpeg
6.3 厚さ方向特性
鋼材は、11.3 によって試験を行い、その厚さ方向特性は表 7による。
表7 厚さ方向特性
JIS_G3136_表7_厚さ方向特性.jpeg
表5 降伏点又は耐力、引張強さ、降伏比及び伸び

JIS_G3136_表5_降伏点又は耐力,引張強さ,降伏比及び伸び.jpeg

7. 超音波探傷試験
SN400C 及び SN490C の厚さ16 mm 以上の鋼板及び平鋼は、11.4 の試験を行い、判定は 表8 による。 SN400B及びSN490Bの厚さ 13 mm以上の鋼板及び平鋼は、受渡当事者間の協定によって超音波探傷試験を実施してもよい。その場合、試験は、11.4 によって行い、その判定は表8 による。
表8 超音波探傷試験
JIS_G3136_表8_超音波探傷試験.jpeg
14. 表示
検査に合格した鋼材は、鋼材ごと又は 1結束ごとに、次の項目を適切な方法で表示する。 ただし、受渡当事者間の協定によって、項目の一部を省略してもよい。
a ) 種類の記号(超音波探傷試験を行ったことを示す記号及び熱処理の記号を含む。)
b ) 溶鋼番号又は検査番号
c ) 寸法
d ) 結束ごとの数量又は質量 (鋼板と鋼帯の場合)
e ) 製造業者名又はその略号
JIS G3136:2012

7.2.2 高カボルト
(a) トルシア形高カボルト
トルシア形高カボルトは、JIS形の高力ボルトに形状が似たもので、ボルトの締付けにより、図 7.2.6 に示すように、ボルトのネック部が破断することによりボルトの締付けが確認でき、国土交通大臣の認定が必要である。 機械的性質による種類は、ボルトの等級で代表し、2種の JIS 形高カボルトに相当するものをS10T と記す。その形状を図 7. 2.6 に示す。
図7.2.6_トルシア形高力ボルト.jpg
図 7.2.6 トルシア形高力ボルト
(b) JIS 形高カボルト
(1) JIS に定められている高カボルトであり、詳細については、JIS B 1186(摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット) の抜粋を参照する。
(2) セットとは、図 7.2.7 の 1組をいう。
図7.2.7_JIS形形高力ボルトのセット.jpg
図7.2.7 JIS形高カボルトのセット
(3) JIS 形高カボルトは、1種、2種及び 3種があるが、1種はほとんど製造されていないこと、3種は遅れ破壊等材質的に多少問題のある場合があるので 「標仕」では 2種に限定している。
(4)機械的性質による種類を、ボルトの等級により代表させることがある。 例えば、2種のボルトを、F10T のボルトと呼ぶ。( 1種は F8T、3 種は F11Tと称す)
(5)トルク係数値による種類はナットの回転しやすさ(締付けやすさ)の種類であり、ナット、ボルトの表面処理によって定めている。通常表面処理にはボンダリューベという処理が行われ、処理のあるものは種類が Aになり、処理してないものは Bになる。
一般に、種類 A・B の使用別径は 20mmを境にして区分し、径の大きいものを Aとして、Bに比べると小さいトルクで締付けが容易に行えるようにしている。
(c ) 高カボルトの日本鋼構造協会規格 JSS 及びJIS の抜粋
(1) JSS Ⅱ 09(構造用トルシア形高カボルト・六角ナット・平座金のセット)の抜粋を次に示す。
JSS Ⅱ 09-1996
1,適用範囲
この規格は、主として鋼構造にセットの温度が 0℃~ 60℃の範囲で使用する構造用トルシア形高カボルト・六角ナット・平座金のセット(以下、セットという。) について規定する。
3,構成及び種類・等級
3.1 構 成
セットの構成は、3.2 に規定する構造用トルシア形高カボルト(以下、ボルトという。)1個、構造用高力六角ナット(以下、ナットという。)1個、構造用高力平座金(以下、座金という。)1 個によって構成する。
3.2 種類・等級
セットの種類・等級は、1種類、1等級とし、セットを構成する部品の機械的性質による等級の組合せは、表1 による。
表1 セットの種類及び構成部品の機械的性質による等級の組合せ
JSS_2_表1_セットの種類及び構成部品の機械的性質による等級の組合せ.jpeg
JSS Ⅱ 09-1996
(2) JIS B 1186(摩擦接合用高力六角 ボルト・六角ナット・平座金のセット) の抜粋を次に示す。
JIS B 1186:2013
1. 適用範囲
この規格は、主として鋼構造に使用する摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット(以下、セットという。) について規定する。
4 セットの構成及び種類・等級
4.1 セットの構成
セットの構成は.4.2 に規定する摩擦接合用高力六角ボルト(以下、ボルトという。) 1個、摩擦接合用高力六角ナット(以下、ナットという。)1個及び摩擦接合用高力平座金(以下、座金という。)2個によって構成する。
4.2 種類・等級
セットの種類は、セットを構成する部品の機械的性質によって、1種及び 2種とし、さらにトルク係数値によってそれぞれ Aと Bとに分け、セットを構成する部品の等級は、表 2~表5 に示すそれぞれの機械的性質によって決まる。 (表 2 ~ 5省略)
セットの種類及び適用する構成部品の機械的性質による等級の組合せは、表1 による。
表1 セットの種類及び構成部品の機械的性質による等級の組合せ
JIS_B1186_表1_セットの種類及び構成部品の機械的性質による等級の組合せ.jpeg
6. セットのトルク係数値
セットのトルク係数値は、12.4 によって試験したとき、表6に適合しなければならない。 この場合、トルク係数値は、次の式によって求める。
JIS_B1186_トルク係数値.jpeg
ここに
k:トルク係数値
T:トルク(ナットを締め付けるモーメント)(N・m)
d:ボルトのねじ外径の基準寸法(mm)
N:ボルト軸力( N )
表6 セットのトルク係数値
JIS_B1186_表6_セットのトルク係数値.jpeg
11. 潤滑及び防せい(錆)処理
ボルト、ナット及び座金には、それらの品質に有害な影響を与えない潤滑及び防せい(錆)処理を施すことができる。
13. 検査
13.5 セットのトルク係数値検査
セットのトルク係数値検査は、12.4 によって試験を行ったとき、箇条 6に適合しなければならない。 また、この検査では検査ロットの保証品質水準は、次による。
a) 検査ロットのトルク係数値の標準偏差の保証品質水準は、危険率5%以下、相対標準誤差 8%以下とする。 適用に当たっては、工程が安定状態にある場合は、品質管理データ又は検査データを用いてもよい。 また、特に必要がある場合は、受渡当事者間の協定によって、相対標準誤差を規定の値より若干多くとり、サンプルの大きさを少なくしてもよい 。
b) 検査ロットのトルク係数値の平均値の保証品質水準は、表13 に示す値以上とする 。標準偏差は、a) によって求められた値を用いる 。
注 )この検査ロットとは、4.3.5 に示す 1セットロットを指す。
表13 トルク係数値の平均値の保証品質水準
JIS_B1186_表13_トルク係数値の平均値の保証品質水準.jpeg
14. 製品の呼び方
セットの呼び方は、規格番号又は規格名称、セットの機械的性質による種類、セットのトルク係数値による種類、ねじの呼び × ボルトの長さ(ℓ)及び指定事項による。
注)特に指定事項がある場合は、括弧で示す。
JIS_B1186_高力ボルトセットの製品の呼び方.jpeg
15 表 示
15.1 製品の表示
セットの構成部品に関する表示は、次による。
a) ボルト頭部の上面に、次の事項を浮き出し又は刻印で表示しなければならない。
1) ボルトの機械的性質による等級を示す表示記号( F8T 又は F10T )
2) 製造業者の登録商標又は記号
b) ナット上面に、ナットの機械的性質による等級を示す表示記号を、表14 の表示記号を用いて浮き出し又は刻印で表示しなければならない。
なお、受渡当事者間の協定によって、製造業者の登録商標又は記号を表示してもよい。
表14 ナットの表示記号
JIS_B1186_表14_ナットの表示記号.jpeg
c) 座金には、機械的性質の等級を示す記号は、表示しない。
なお、受渡当事者間の協定によって、製造業者の登録商標又は記号を表示してもよい。
15.2 包装の表示
包装には、次の事項を明瞭に表示しなければならない。
a) 規格名称
b) セットの機械的性質による種類
c) セットのトルク係数値による種類
d) ねじの呼ひ × ボルトの長さ(ℓ)
e) 数量
f ) 指定事項
g) 製造業者名又は登録商標
h) セットのロット番号
i ) セットの検査年月
JIS B 1186 : 2013
(d) 溶融亜鉛めっき高カボルト
(1) JIS が定められていないので、建築基準法第 37条に基づく大臣認定を受けた製品を使用する。
(2) 大臣認定を受けた製品は、JIS B 1186 に準拠して製造されており、セットの種類は 1種 (F8T 相当)である。 F 10T やトルシア形のものは製造されていない。
なお、平成25年 8月現在、大臣認定を受けている製造所は、8社 9工場である。
(3) ボルトの材料はF10T 高カボルトに使われているもの(低炭素マルテンサイト系ボロン鋼等)を使用しており、ボルト成形後の熱処理(焼入れ・焼戻し)で焼戻し温度を 500℃程度にして F8T の機械的性質を付与している。 このため、450℃程度のめっき浴で浸漬めっきしても機械的性質が変化しない靭性が高く耐遅れ破壊性の高い高カボルトになっている。
(4) 溶融亜鉛めっきの付着量は、550g/m2(膜厚換算約 80μm) 以上である。
(5) ボルトのねじは、転造した正規の有効径のままとし、めっきの付着による径の量大を考慮して径を細くすることはしない。ナットのねじは、めっきの前にオーバータップして有効径を量大し、めっき後はねじさらいをしない。
(6) 締付けは、ナット回転法(7.12.4 (b)(3)参照)で行うため、トルク係数値の調整のための表面潤滑処理は、めっき後のナットで行う。ただし、やむを得ず頭締めを行う場合は、めっき後のボルトに表面澗滑処理を行い、ナットはめっきのままとするのがよい。 また、ボルト締め用のセットは、製造時に「頭締め用」等とこん包に表示し、「ナット締め用」と区別する必要がある。
なお、「ナット締め用」でボルトの頭締めを行うと、ボルトとナットのとも回りが生じたり、トルク値が高くなり過ぎるなどして、適正な締付けができなくなるので注意する。
7.2.3 普通ボルト
(a) 軽量形鋼構造において普通ボルトを使用することが多い。一般に普通ボルト接合は、小規模な構造物に使用されている。
(b)ボルト及びナットは、「標仕」では、JIS による鋼製六角ボルト及びナットで、仕上程度が中、ねじの等級が 6g (ボルト)、6H(ナット)の規格に合うものであれば、強度区分は、ボルト4.6 以上、ナット5 以上のいずれを用いてもよい。
ナットの形状は通常JIS B 1181 (六角ナット)の区別 1・2 ・4 種のどれでもよい。なお、戻止めには 3種を用いてもよい。 また、強度区分の高いボルト及びナットを溶接により戻止めする場合には、使用する溶接材料等で溶接割れが生じる場合があるので注意する。
(c)「鋼材等及び溶接部の許容応力度並びに材料強度の基準強度を定める件」(平成12年12月26日 建設省告示第 2464 号)では、強度を必要とするボルトには JIS B 1051(炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質ー 第1部:ボルト、ねじ及び植込みボルト)によるボルトを使用することとなっている。その他、国土交通大臣が認定したボルト又は国土交通大臣が基準強度を指定したボルトを使用することとなっている。
7.2.4 アンカーボルト
アンカーボルトの材質の種類は通常設計図書に指定されるが、ねじ、ナット及び座金は、特別な指定がないことが多い。 その場合は六角ボルトに相当するものを用いる。
なお、完成後構造的に耐力等を期待するものを構造用アンカーボルトと称し、建方用にのみ用いるものを建方用アンカーボルトと称する。
(一社)日本鋼構造協会では平成 12 年に伸び能力を有する建築構造用アンカーボルトの規格として、JSS II 13(建築構造用転造ねじアンカーボルト・ナット・座金のセッ ト)及びJSS II 14 (建築構造用切削ねじアンカーボルト・ナット・座金のセット)を制定している。また、アンカーボルトのJIS 規格としては、JIS B 1220(構造用転造両ねじアンカーボルトセット)と JIS B 1221(構造用切削両 ねじアンカーボルトセット) が平成22年 10 月に制定されている。構造設計上の必要に応じて特記される場合があるので注意する。
7.2.5 溶接材料
(a) 溶接材料は、溶接方法 ( 7.6.1参照 )あるいは鋼材の種類により種々なものが用いられているが、「標仕」に直接関連のある材料のうち、主なものを次に挙げる。
なお、2001年の日本工業標準調査会(JISC)の「標準化戦略」におけるISO整合化 JIS改正指針を受けて、溶接材料についても ISO整合化JIS改正作業が行われた。今回の改正で、溶接材料の引張強さの単位が、鋼材のJISの場合と異なり、MPa( = 1N/mm2)で表示されたことに注意が必要である。
溶接材料は鉄骨製作工楊で使いなれたものが無難であり、良質で当該溶接に適したものであれば選定は鉄骨製作工場に任せるのがよい。また、溶接材料は種々の特徴があるので、選定に当たっては鋼種、板厚、継手の種類、溶接姿勢、作業性、能率性等を総合して、これらの特徴を生かし正しく選ぶ必要がある。
(1) 被覆アーク溶接
被覆アーク溶接棒のJISは、JIS Z 3211(軟鋼用被覆アーク溶接棒)とJIS Z 3212 (高張力鋼用被覆アーク溶接棒)が統合一本化され、2008年にJIS Z 3211(軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用被覆アーク溶接棒)として改正された。
軟鋼用被覆アーク溶接棒は種々な特徴をもっているが、表 7.2.5 に溶接性、作業性及び能率性からみた溶接棒の選び方の例を示す。
高張力鋼用被覆アーク溶接棒としては、拡散性水素による遅れ割れの発生防止の観点から、国内では低水素系溶接棒が使用されてしいる。
表7.2.5 溶接棒の溶接性、作業性、能率性からみた選び方の例
表7.2.5_溶接棒の溶接性,作業性,能率性絡みた選び方.jpeg
JIS Z 3211 : 2008 の溶接棒の種類の区分記号の表し方を図 7.2.8 に示す
図7.2.8_JIS_Z_3211-2008_溶接棒の種類の区分記号.jpg
図7.2.8 JIS Z 3211 : 2008 の 溶接棒の種類の区分記号
(2) ガスシールドアーク溶接
ガスシールドアーク溶接用ワイヤのJIS は、ソリッドワイヤについては、JIS Z 3312 (軟鋼及び高張力鋼用マグ溶接ソリッドワイヤ)が 新名称「 軟鋼、高張加鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ」として 2009年に改正され、フラックス入りワ イヤについても、JIS Z 3313(軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ)が同じく 2009年に改正された。
JIS Z 3312 の溶接ワイヤの種類の新旧対照を表7.2.6 に、JIS Z 3312: 2009の溶接ワイヤの種類の区分記号の表し方を図7.2.9 に示す。
なお、低温用鋼は、建築の鉄骨工事ではほとんど使われないので省略した。
表7.2.6 JIS Z 3312の溶接ワイヤの種類の新旧対照
表7.2.6_JIS_Z_3312溶接ワイヤの種類の新旧対照.jpg
図7.2.9_JIS_Z_3312-2009_溶接ワイヤの種類の区分記号.jpg
図 7.2.9 JIS Z 3312 : 2009の溶接ワイヤの種類の区分記号
JIS Z 3313 の溶接ワイヤの種類の新旧対照を表7.2.7 に、JIS Z 3313 : 2009 の溶接ワイヤの種類の区分記号の表し方を図7.2.10 に示す。
なお、低温用鋼は、建築の鉄骨工事ではほとんど使われないので省略した。
表7.2.7 JIS Z 3313 の溶接ワイヤの種類の新旧対照
表7.2.7_JIS_Z_3313溶接ワイヤの種類の新旧対照.jpg
図7.2.10_JIS_Z_3313-2009_フラックス入り溶接ワイヤの種類の区分記号.jpg
図 7.2.10 JIS Z 3313 : 2009のフラックス入り溶接ワイヤの種類の区分記号
JIS Z 3312 のソリッドワイヤは普通の針金状のもの、JIS Z 3313のフラックス入りワイヤは 外皮金属の内部にフラックスが充填されているものである。
シールドガスは、一般には、炭酸ガス(CO2 100%)、アルゴンガス (Ar 100%)及び炭酸ガスとアルゴンガスを混合したものが使用されている。使用されるガスの JIS としては、JIS Z 3253 : 2011( 溶接及び熱切断用シールドガ ス)が 2003年に制定されて以降、これが一般化されつつある。 当該JISでは、炭酸ガスについては、種類 C1 が使用されている。しかし、JIS Z 3253 制定以前から使用されているJIS K 1106(液化二酸化炭素(液化炭酸ガス))の 3種を、現在も使用しているところがある。 参考として、両方の JIS の炭酸ガスの品質を表7.2.8 及び表7.2.9 に示す。
表7.2.8 JIS K 1106 の品質(JIS K 1106:2008)
表7.2.8_JIS_K_1106の品質(JIS K 1106-2008).jpg
表7.2.9 JIS Z 3253 の品質(JIS Z 3253:2011)
表7.2.9_JIS_Z_3253の品質(JIS Z 3253-2011).jpg
(3) セルフシールドアーク溶接
この溶接法は建築の鉄骨工事ではほとんど使われていないが、2009年にセルフシールドアーク溶接用のワイヤの JIS (JIS Z 3313) が改正されている。 一般に、セルフシールドアーク溶接用のワイヤは薄鋼板を折り曲げ、その中に脱酸剤や脱窒剤等の溶剤(フラックス)を充填成形したものであり、シールドガスなしで溶接できる。心線の径は、交流用では 3.2mm、直流専用では 2.0mm以下のものが適用される。このワイヤには脱酸、脱窒剤が多量に添加されているため、多量のヒュームが発生し、通風の悪い場所では溶接線が見えにくく、人体への影響がある。
(4) サブマージアーク溶接
サブマージアーク溶接では、ワイヤとフラックスの組合せにより様々な性質の溶接金属を作り出すことができる。 そのため、JIS Z 3183(炭素鋼及び低合金鋼用サブマージアーク溶着金属の品質区分)の規定には、溶着金属の品質区分(機械的性質及び化学成分)及び試験方法が定められており、溶接を行う鋼種、要求される機械的性質に応じて、 ワイヤとフラックスの組合せ時の溶着金属の機械的性質をこの品質区分により選定して使用されている。
建築基準法では溶着金属強度の記載がある JIS Z 3183が指定建築材料として規定されているが、実際の溶接は JIS Z 3183 の引用規格である JIS Z 3351に規定されている炭素鋼及び低合金鋼用サブマージアーク溶接ソリッドワイヤと JIS Z 3352 に規定されているサブマージアーク溶接用フラックスを用いて行われる。そのため「標仕」では、JIS Z 3183 のほかに 指定建築材料ではないが JIS Z 3351 及び JIS Z 3352 も記載している。
(5) エレクトロスラグ溶接
エレクトロスラグ溶接用材料としては、JIS Z 3353(軟鋼及び高張力鋼用のエレクトロスラグ溶接ワイヤ及びフラックス)の規定により、ワイヤ、フラックス、消耗ノズルの分類が示されている。溶接金属の機械的性質は、使用するワイヤの種類別により規定されており、機械的性質が満足されれば組み合わせるフラックスの種類は特定されない。
なお,国土交通大臣認定によるエレクトロスラグ溶接材料もある。
エレクトロスラグ溶接は高能率な立向き自動溶接施工法で、主にボックス柱のスキンプレートとダイアフラムとの溶接に用いられる。
(6) 耐火鋼材、耐候性鋼材等の特殊な鋼材には、それぞれ鋼材に応じた溶接材料がつくられている。これらの鋼材に応じた溶接材料にも、被覆アーク溶接及びガスシールドアーク溶接の場合において、JIS は適用される。
(b) 頭付きスタッド
建築構造物において頭付きスタッドが多く使われており、その材質や形状は JIS B 1198(頭付きスタッド)で規定されている。
7.2.6 ターンバックル
建築用ターンバックルは JIS A 5540(建築用ターンバックル)に規定されており、ターンバックルは胴1個とボルト2個とから構成されている。 胴は JIS A 5541(建築用ターンバックル胴)に、ボルトは JIS A 5540に規定されており、胴とボルトの組合せは、JIS に示す同一製品とする。
7.2.7 デッキプレート
(a) 構造床として使用するデッキプレートについては、デッキプレート版に関する告示(平成14年国土交通省告示第 326号)に規定されており、その基準解説書である国土交通省国土技術政策総合研究所他「デッキプレート版技術基準解説及び設計・計算例」 及び設計マニュアルである(独)建築研究所監修「デッキプレート床構造設計・施工規準」を参考にするとよい。
(1)この「規準」は、第 Ⅰ 編「デッキプレートとコンクリートとのデッキ合成スラブ」、第Ⅱ編「デッキプレートと鉄筋コンクリートとのデッキ複合スラブ」及び第Ⅲ編「デッキプレートをそのまま構造体としたデッキ構造スラブ」で構成されており、デッキプレートは主要な構造材として規定されている。
なお、「標仕」では、名称を基準解説書に合わせて、第 I 編のデッキプレートを「デッキプレート版(デッキプレートとコンクリートとの合成スラブとする構法)」、第Ⅲ編のデッキプレートを「デッキプレート版(デッキプレート単独の構法)」としている。
(ⅰ) 主として、床又は屋根構造に使用する。
(ⅱ) 対象とするデッキプレートは、JIS G 3352(デッキプレート)の規定を満足するものとする。
(ⅲ) 原則として、板厚は 1.0mm以上(ただし、デッキ複合スラブの場合は、0.8mm以上)としている。
(ⅳ) 許容応力度は、平成 12年建設省告示第2464号に規定されているF値によっているが、一部高強度材料については、幅厚比より求まる有効幅の取り方を簡便にするため、235N/mm2 以下で適用することにしている。
(v) 合成スラブ構造には、(一社)日本建築センター等により、告示第326号に定めるデッキプレート版に適合していることについて、任意の評定を取得している製品がある。
(2) 材料の品質確認は製造業者の品質証明書(使用鋼材の試験成績表、亜鉛の付着量等)によって行う。
(b) デッキプレートを主要構造材として用いた床スラブの耐火設計については、「デッキプレート床構造設計 ・施工規準」 を参考にするとよい。
(1) デッキ合成スラブ床では、耐火被覆のいらない連続支持合成スラブ及び単純支持合成スラブが耐火構造認定仕様として一般に使用されている。
(2) これら認定仕様では、スパン、許容積載荷重、コンクリート厚さ、溶接金網、デッキタイプ等の仕様が認定条件として定められているので、これに従って監理を行う。合成スラブ工業会「合成スラブの設計・施工マニュアル」を参考にするとよい。
(3) デッキ複合スラブ床は、平成12年建設省告示第 1399号に示されている例示仕様があり、この仕様では、デッキプレートの溝に配する鉄筋のかぶり厚さは 31mm以上、コンクリート厚さは、100mm以上(2時間)、70mm以上(1時間)となっている。この例示仕様に該当しないコンクリート厚さのもので、床2時間耐火構造の認定を取得したものがあるが、個別に仕様を確認する必要がある。
(4) デッキ構造スラブ床では、認定仕様である「吹付けロックウール被覆耐火構造(FP060FL- 9128 :15mm以上、FP120FL- 9129:20mm以上)」がよく使用される。
(5) このほか、デッキプレート単体で屋根30分耐火認淀構造のものもあるが、個別に仕様を確認する必要がある。
(c) 床型枠用鋼製デッキプレートは、6.8.3 参照のこと。
7.2.8 レール
(a) 「標仕」では、主として天井クレーン走行用に使用するレールを想定している。
(b) レールの種類は、JIS E 1101(普通レール及び分岐器類用特殊レール)及び JIS E 1103(軽レール)で、レール1m当たりの質量に相当する呼称で分類している。その種類を表7.2.10 及び 11に示す。
(c) レールの種類は、クレーンの定格荷重等によって選ばれ、設計図内で指定される。
(d) 材料の品質は、JISマーク表示か規格品証明書確認する。(7.2.10(a)参照)
表7.2.10 普通レールの種類(JIS E 1101:2012)
表7.2.10_普通レールの種類(JIS_E_1101-2012).jpg
表7.2.11 軽レールの種類(JIS E 1103:1993)
表7.2.11_軽レールの種類(JIS_E_1103-1993).jpg
7.2.9 柱底均しモルタル
(a) 柱底均しモルタルに使用される材料は、左官工事で一般に使用されるセメントや細骨材が用いられる。
(b) ベースプレートが大きい場合等では、施工性の良さ等から鉄骨柱下無収縮モルタルが用いられることが多い。
(1) 「標仕」では、無収縮モルタルは、品質や施工性等を考慮して特記することとしている 。
(2) (一社)公共建築協会では、建築材料・設備機材等品質性能評価事業(1.4.4 (e)参照)の一環として、無収縮モルタルの品質・性能等に関する評価基準を定め、これに合格する材料を評価しているので、材料の選定に当たってはこれらが参考となる。
7.2.10 材料試験等
(a) 適用範囲
(1)鋼材
(ⅰ) 鋼材の品質基準は、「建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すべき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術的基準を定める件」(平成12年5月31日 建設省告示第1446号)に定められている。そこでは、形状・寸法・外観等のほか、引張試験における降伏点又は 0.2バーセント耐力の上下限・降伏比・引張強さ及び伸び、化学成分、炭素当量あるいは溶接割れ感受性組成.シャルピー吸収エネルギー等の基地値が定められていることが要求されている。
(ⅱ) JIS 規格品には、規格品証明書(ミルシート、検査証明書、試験成績等)が添付される。規格品証明書は、JISに基づいて行った管理試験及び検査の結果を記載した品質の保証書である。図7.2.11に規格品証書の例を示す。
規格品証明書には、溶鋼番号(製鋼番号、鋼番、チャージナンバー等)が記載されているので、鋼板形鋼等に表示されている溶鋼番号と対照して当該鋼材の規格品証明書であることを確認することができる。
図7.2.11_規格品証明書の例.jpg
図7.2.11 規格品証明書の例
なお、SN材は、7.2.1(b)(9)に示すように鋼材表面に識別マーク、あるいは鋼種が印字してあるので、切断後でも SN材であるか否かは、証明書がなくても判別できることになっている。
規格品証明書は原本とする。使用量が少ないなどやむを得ない場合は、その写しでもよいが、写しが当該鋼材と整合していることを保証した会社の社名・社印、保証責任者の氏名・押印及び日付の明示されているものでなければならない。流通が多岐にわたる場合には、写しの都度これが必要とされる。
1999年11月に鋼材の新しい品質保証システムが、(一社)日本鋼構造協会の「建築鉄骨品質管理機構」から提案され、「標仕」7.2.10(b)では、これによる「鉄骨工事使用鋼材証明書」を規格品証明書に代えて用いることもできるとしていた。しかし、建築鉄骨品質管理機構では、より信頼性を高める方法の検討を行い、2009年12月に「建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン」を発行した。そのため、「鉄骨工事使用鋼材証明書」は廃止された。本ガイドラインでは、JIS規格等の適合性証明は、原則として、「鉄骨工事使用鋼材等報告書」によるとしているので、「標仕」でいう 「その他規格を証明できる書類」とは、「建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン」の「鉄骨工事使用鋼材等報告書」と考えてよい。(7.1.2(a)参照)
(ⅲ) 鋼材の機械的性質等を特記した場合等、材料試験等によりその性能を確認する必要がある場合には、試験項目、方法等に応じて相応する規格の規定により鋼材の適否を判定する。
(ⅳ) 建築鉄骨では、鋼材の板厚方向に力が作用する部位(通しダイアフラム、溶接組立箱形断面柱のスキンプレート等)がある。それらの当該箇所に使用される鋼材の板厚方向の性能において、板厚方向の強度及び鋼材の内部品質(板厚内の傷の有無)が必要とされる場合がある。JIS G 3136(建築構造用圧延鋼材)(SN材)のC種は、このような部位に使用することを想定し、次の二つが規定されている。
① 板厚方法の強度:板厚方向(Z方向)の引張試験で絞り値が規定されている。
② 板厚内の内部品質:超音波による検査が規定されており、JIS G 0901(建築用鋼板及び平鋼の超音波探傷試験による等級分類及び判定基準)で行うとなっている。
一方、SM材や SS材等にはこれらについての規定がないため、内部品質確認が必要とされる場合の試験方法として JIS G 0901が適用される。 板厚方向の引張強度について試験を必要とされることは極めて少ないため、規定する必要はないとし、「標仕」では、板厚方向に引張力を受ける鋼板の試験が必要とされた場合は、「JIS G 0901により、適用は特記による。」としている。
(2)溶接材料
溶接材料の規格は、そのこん包容器及びワイヤリール等に表示されているので、これより「標仕」7.2.5 に規定する適切な溶接材料であることが確認できる。「鉄骨造の継手又は仕口の構造方法を定める件」(平成12年 5月31日 建設省告示第1464号)では溶接される鋼材の種類に応じて溶着金属としての性能(降伏点又は 0.2パーセント耐力及び引張強さ)が定められており、これに適合していることを確認する意味からも、必要に応じて、試験成績表あるいは化学成分表の提出を求めるのがよい。
(b) 試験方法及び試験片
鋼材の試験方法については、JIS G 0404 (鋼材の一般受渡し条件)、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)、JIS Z 2242(金属材料のシャルピー衝敷試験方法)にそれぞれ引張及び衝撃試験方法が定められている。
試験片についても、JIS Z 2241、JIS Z 2242にそれぞれ材料に応じた試験片が定められている。
その他、ボルト、リベット等のような特殊な材料の試験についてはそれぞれのJISに定められている。 また、化学成分の分析試験についてもそれぞれ JISが定められている。
(c) 材料試験関係用語
(1)JIS Z 2241に定められている用語の意味(JIS G 0202(鉄鋼用語(試験))参照)
(ⅰ) 降伏点とは、引張試験の経過中において生じる上降伏点及び下降伏点の総称。紛らわしくないときには、上降伏点を単に降伏点と呼ぶことがある。
上降伏点とは、引張試験の経過中、図7.2.12 に示すように試験片平行部が降伏し始める以前の最大荷重を平行部の原断面積で除した値をいう。
下降伏点とは、引張試験の経過中、図7.2 12 に示すように試験片平行部が降伏し始めた後のほぼ一定の荷重状態における最小の荷重(慣性効果によるものを除く。)を平行部の原断面積で除した値いう。
図7.2.12_降伏点.jpg
図7.2.12 降伏点
(ⅱ) 耐力とは、引張試験において,規定された永久伸びを生じるときの荷重を平行部の原断面積で除した値をいう。降伏点が明瞭でない材料では、その代わりに耐力が用いられる。JISでは、特に規定のない場合は、永久伸びの値を0.2% としている。
(ⅲ) 最大引張荷重とは、引張試験の経過中、試験片の耐えた最大荷重をいう。
(ⅳ) 引張強さとは、最大引張荷重を平行部の原断面積で除した値をいう。
(v) 永久伸びとは引張試験において、ある荷重を加え、次にこれを除去した後における標点間の長さと標点距離との差の標点距離に対する百分率をいう。
(vi) 破断伸びとは、試験片破断後における永久伸びをいう。紛らわしくないときには、単に伸びと呼ぶことがある。
(ⅶ) 絞りとは、引張試験において、試験片破断後における最小断面積とその原断面積との差の原断面積に対する百分率をいう。
(2) 鋼材の硬さ
測定方法は、通常次の3種類が用いられ、それぞれJISが定められている。
① ブリネル硬さ
超硬合金球の圧子を用い,試験面に球面形のくぼみをつけたときの荷重をくぼみの直径から求めたくぼみの表面積で除した値をいい、記号HBWで表す。
JIS Z 2243(ブリネル硬さ試験一試験方法) が定められている。
② ビッカース硬さ
対面角が 136度のダイヤモンド四角すい圧子を用い、試験面にくぼみをつけたときの試験力をくぼみの表面積で除した値をいい、硬さ値、硬さ記号の順に表示し、例えば、硬さ値が640で試験力 294.2Nでは、640HV30のように表す。
JIS Z 2244(ビッカース硬さ試一験試験方法)が定められている。 荷重が変わっても、硬さの数値は変わらないという特徴がある。くぽみが微細なので溶接部の硬さ分布を測るのに用いられる。
③ ロックウェル硬さ
円すい角が 120度のダイヤモンド圧子を用い、試験面に押し込み、その深さから算出する。試験力 1471Nの場合をCスケールといい記号HRCで表す。
なお、鋼球又は超硬合金球の圧子を用い、試験 980.7Nの場合をBスケールといい、記号HRBで表す。
JIS Z 2245(ロックウェル硬さ試験一試験方法)が定められている。

10章 石工事 2節 材 料

第10章 石工事 第2節 材 料 石 材
2.材 料
10.2.1 石 材
(1)石材の品質
JIS A5003(石材)では、石材の品質は産地及び種類ごとにそれぞれ1等品、2等品及び 3等品となっているが、「標仕」では特記により等級を選択するのを原則としている。建築用の石工事では、1等品を用いるのが通常である。ただし、「標仕」では、特記がない場合に床用石材は2等品となる。
上記のJISの品質等級は、欠点の有無や色・柄のばらつきのような外観の良否を評価基準としているために、あくまで主観的な判断とならざるをえない。したがって、商取引上は、見本品を作成することにより外観上の品質を規定することが行われている。
一方、石材の品質は、外観のみならず、使用部位での要求条件に即した品質を有していることが前提となる。特に張り石では、JISで規定していない曲げ強さや金属取付部の耐力及び発錆懸念の有無等が必須の選択指標となる。いずれも、事前に検討が必要となる。10.5.1 (5) (ⅰ) に示した留意点も参照されたい。
表10.2.1 にJISに定められた品質の基準を参考までに示す。
表10.2.1品質の基準2.jpg
表10.2.1 品質の基準(JIS A5003:1995)
(2)石材の種類
ⅰ)建築用石材は使用箇所に見合った性質、色合、感触のものが用いられており、過去の使用実績が多く、物性及び取り扱い要領がよく知られている石材の種類は、花崗岩、大理石及び砂岩である。各種石材の特徴を表10.2.2 に示す。
表10.2.2 主な天然石の特徴
花こう岩(火成岩)
花こう岩はいわゆる御影石とよばれ、地下深部のマグマが地殻内で冷却固結したもので、
結晶質の石材で硬く、耐摩耗性、耐久性に優れ、磨くと光沢があり、大材が得られる石材として建築物の外部・床・階段等を中心に最も多く用いられている。耐火性の点で劣るなどの欠点もある。
大理石(変成岩)
大理石は主に建物の内部で用いられる代表的な装飾石材で、石灰岩が地中の熱で変成し、再結晶した石材である。石灰質の混入鉱物によって白・ベージュ、灰、緑、紅、黒等の色がある。また、無地のほか、しま・筋・更紗・蛇紋等の模様が入り、ち密で磨くと光沢が出る。耐酸性・耐火性に乏しく、屋外に使用すると半年から一年で表面のつやを失う。
砂岩(堆積岩)
砂粒とけい酸質・酸化鉄・石灰質・粘土等が水中に堆積し、こう結したもの。一般に耐火性に優れたものが多いが、吸水性が大きく耐摩耗性・耐凍害性・耐久性に劣り、磨いてもつやは出ない。国産は少なく、インド等かだの輸入材を用いることが多い。
石灰岩(堆積岩)
石灰岩は大部分が炭酸カルシウムからなり、炭酸石灰質の殻をもつ生物の化石や海水中の成分が沈殿しあt岩石である。大理石にくらべて粗粒であるが他の石材にない独特の風合をもつ。一般には柔らかく、加工しやすい反面、取付け部耐力、曲げ強度等は他の石材に比べると小さく、耐水性に劣り、また、産出場所による品質のばらつきが大きいために、原則として内装の壁・床材として用いることがのぞましい。
安山岩(火成岩)
花崗岩とともに代表的な硬石である。石質・色等の種類が多く、強度・耐久性に優れ、特に耐火性は大きく外装用石材としても用いられる。しかし、外見は花崗岩に劣り、磨いてもつやが出ず、大材が得られない。
凝灰岩(堆積岩)
火山の噴出物、砂、岩塊片などが水中あるいは陸上に堆積して凝固した岩石で、栃木県の大谷石、静岡県の伊豆若草石が有名。
蛇紋岩(変成岩)
かんらん岩が変質したもので、黒・暗緑・黄緑・白色等が入り混じった模様があり、磨くと美しい光沢が得られる。性状は大理石とほぼ同じで、やはり屋外で使用すると光沢を失い退色する。
ⅱ)建築に石張りを用いる箇所には意匠性、躯体保護機能等はもとより、建物の使用期間中に外観を損なったり、損傷・脱落することがなく、取付けやメンテナンスがしやすいなど、様々な性能が要求されている。現在一般的に使用されている花崗岩と大理石について、その名称・産地の例を表10.2.3および4に示すが、同一産地でも採取する山が違ったり国内の取扱い業者が違う場合には名称やカタカナ表示が異なる場合もある。石材は天然材料であり、物性値についてもあくまで参考値である。
①花崗岩は世界各地から輸入されており、現在は韓国・インド・中国が三大供給地であり、中国産が増加している。また、例示した花崗岩には磨き仕上げを施すと風化現象が目立つ石材(例えば、シェニートモンチーク)や色調の不ぞろいが出やすい石材(例えば、マホガニーレッド)も含まれているので、過去の使用例も参照し、注意して選択しなければならない。
②大理石はイタリア産が多く、最近は輸入品の6割以上が板石に加工され輸入されている。
なお、表中の組織は組織の粗さであり、級別は市場価格の目安である。
表10.2.3花崗岩の石種と物性例2.jpg
表10.2.3 花崗岩の石種と物性例
表10.2.4大理石類の石種と物性例2.jpg
表10.2.4 大理石の石種と物性例
3)石材の形状・寸法
石材の形状及び寸法は特記によるが、取付け部位や工法を考慮することが求められる。一般的には、形状は矩形とし、1枚の面積は 0.8m2以下とする。
4)石材の表面仕上げ
仕上げの種類に対応する仕上げの程度・方法や石材の種類は、「標仕」による。また、その特徴を表10.2.5に示す。同一石材でも仕上げの種類が異なると、表面状態が変わるだけでなく、色調も大きく異なるので見本品で確認する。
なお、各種仕上げの使用状況を表10.2.6に示す。
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表10.2.5仕上げの種類とその特徴
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表10.2.6各種仕上げの使用状況
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    のみ切り
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    びしゃん
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    こたたき
b)テラゾ
1)テラゾの品質
テラゾは、JIS A5411(テラゾ)に定められており、花こう岩、大理石や石灰岩の砕石を種石とした上塗りモルタル(化粧モルタル)と一般のコンクリートに用いる川砂を骨材とした下塗りモルタル(裏打ちモルタル)を2層で振動加圧成型し、十分硬化するまで養生したのち、上塗りモルタル部を切削研磨し、大理石のような光沢に仕上げたブロックおよびタイルである。JIS規格による分類を表10.2.7に、その品質規格を表10.2.8に示す。昨今では、国産テラゾの価格が輸入石材価格を上回ることとなり、テラゾブロックはほとんど姿を消している。テラゾタイルも海外製品が輸入されている。
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表10.2.7 テラゾの分類(JIS A5411:2008)
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表10.2.8 テラゾの品質(JIS A5411:2008)
2)テラゾの種類
ⅰ)種石は種類が多く、一般的には表10.2.9に示すものが使用され、寸法は 5〜12mm(3.5分下5厘止め)が標準であるが「標仕」では特記することとし、特記のない場合は、大理石で 1.5〜12mmのものとしている。
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表10.2.9 テラゾ用種石の物性
ⅱ)セメントを着色するための顔料は、耐アルカリ性・耐光性があり、コンクリートの強度や収縮等に悪影響を及ぼさない無機質系材料が使用されている。
3)テラゾの形状・寸法
テラゾブロックおよびテラゾタイルは、製作物であるため、その形状・寸法はいずれも特記される。
なお、テラゾタイルでは、規格寸法の輸入製品が流通している。
4)テラゾの表面仕上げ
テラゾブロックおよびテラゾタイルの表面仕上げは、石材の磨き仕上げに順じ、その種類・程度は特記される。

10.2.2 取付け金物
a)外壁湿式工法及び内壁空積工法用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
ⅰ)湿式工法・空積工法に使用する引金物、だぼ、かずがいは、「標仕」にステンレス(SUS304)と定められている。一般的なステンレス(SUS304)の種類の例を表10.2.10に示す。現状の石工事では、引金物には曲げ加工の比較的容易な JIS G4309(ステンレス鋼線)のSUS 304 W1(軟質2号、引張強さ 800N/mm 2程度)が多く使用されている。このほかでは、SUS304-W1/2H(半硬質、引張強さ 1,200N/mm2程度)も使用されている。
ⅱ)引金物、だぼ及びかすがいの径は、使用する石材の厚さとのバランスを考慮して、一般的に使用されている寸法が「標仕」に定められている。このうち、空積工法用の引金物については、この工法が内装に限定され、積上げ高さも一般的な壁高さに限定されていることから、ひとまわり細い径を許容寸法としている。一般的な湿式工法の金物の使用例を図10.3.1に示す。
ⅲ)だぼの形状として、従来より関東方面では通しだぼが、関西方面では腰掛だぼが多く使われてきた。腰掛だぼは、石材の保持性能に問題があり、阪神大震災でも被害が多かったことから、通しだぼ形式に限定されている。
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表10.2.10 ステンレス鋼線の種類の例(JASS9より)
2)受金物
受金物は、湿式工法・空積工法の場合に、石材の荷重を受けるために設ける金物で、「標仕」10.2.2(a)(2)では、入手の容易さ等を考慮して、特記がなければ、材質がSS400の山形鋼を切断加工して用いることとしている。この鋼材の品質は、JIS G3101(一般構造用圧延鋼材)に規定されており、建築構造物に最も一般的に使用されるもので、その機械的性質を表10.2.11に示す。受金物の錆止めとして。「標仕」表18.3.1 [ 鋼材面錆止め塗料の種別」に示すA種を1回塗りすることとしており、これはJIS K5625(シアナミド鉛さび止めペイント)またはJIS K5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)に規定される塗料である。外壁の受金物に用いる場合は、上記のA種を用いるか、またはめっき防錆処理、ステンレス製アングル材の使用等の対策を施す必要がある。受金物の使用例を図10.3.4に示す。
表10.2.11「標仕」に定められている受金物の機械的性質.jpg
表10.12.11「標仕」に定められている受金物の機械的性質
3)鉄筋
引金物緊結用の流し鉄筋は、湿式工法の場合ではモルタルで被覆されるが、外壁に使用されることから耐久性を考慮して錆止め塗料塗りを行うこととしている。錆止め塗料の詳細については 18章を参照されたい。
b)乾式工法用金物
1)「標仕」で乾式工法用金物は、スライド方式かロッキング方式を特記することとしており方式が決まると形状・寸法が決まる。いずれの方式も、仕上り面精度の確保が比較的容易であることや、躯体の変更をある程度吸収可能であること等からダブルファスナー形式としている。ファスナーに使われているステンレス鋼材は、JIS G4317(熱間成形ステンレス鋼形鋼)またはJIS G4304(熱間圧延ステンレス鋼板および鋼帯)のSUS304を加工したものが一般的である。
2)石材とファスナーとの取合いは、だぼを使用するが、石材の重量、厚さ、強度等を総合的に判断して寸法を決定する。一般に乾式工法用のだぼは湿式工法用に比べて太径のものが使われる。「標仕」には標準の形式・寸法が定められている。
3)ステンレス鋼材の場合、穴あけ加工や溶接によってひずみが発生し、取付け誤差の原因となったり、現場での加工が困難であることから、ファスナーはだぼやワッシャー等全ての部品の寸法形状を決めて、工場加工し納入することが原則である。
c)特殊部位用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
湿式工法・空積工法で施工する場合の特殊部位に使用する引金物、だぼ、かすがいは、一般部分に使用するものと同様であるが、それらの形状・寸法および用い方は、当該箇所の石材の納め方に応じて決定する。
2)ファスナー
乾式工法に用いる金物は、基本的に一般部位に用いる金物と同一のものを用いる。石材の大きさ等によっては同じ寸法の金物と取り付けられない場合もあるので、特記を原則としている。ただし、だぼの形状は、通しだぼとしている。
3)吊金物・吊りボルト
石材を上げ裏やまぐさ等の部分に取り付ける場合には、吊金物、吊りボルトや受金物等石材の自重を支える金物を用いるが、これらの場合はその都度設計し、特記された金物を用いる。軒裏側に化粧ナットを見せない場合や、各種アンカー金物を使用する場合には、材質や取付け方法とその耐力を確認して採用しなければならない。吊りボルトの頭部の処理の方法を図10.7.1に示す。
4)隔て板用金物 
隔て板に使用する金物は、隔て板どうし、隔て板と前板の取合いに使用するだぼ、かすがいがあり、「標仕」に材質、寸法、形状等が定められている。隔て板上部にはこれら以外にT型、I型等の形状のステンレス鋼板を用いる場合もある。使用例を図10.7.4に示す。
d)先付けアンカー
1)アンカーの種類
「標仕」10.2.2 (d)では、アンカーの材料および寸法は特記することを原則としているが、特記がない場合は、「標仕」10.2.2 (d)(1)または(2)によるとしている。石材を構造体に締め付けるに当たって、アンカーは重要な役割を果たす。
先付けアンカーの場合は、アンカーの種類、定着長さを適切に確保すれば、その強度はアンカーボルトの耐力で決まり、信頼性の高いアンカーである。
2)乾式工法用アンカー
乾式工法用のアンカーは、ファスナーとの耐久性等のバランスを配慮してステンレス製とする。
e)あと施工アンカー
本来、アンカーは、先付けアンカーが望ましいが、施工性や施工精度に問題があるため、最近ではあと施工アンカーが多く使われている。
あと施工アンカーの場合は、下地コンクリートの状態、配筋等により必ずしみ十分な耐力が得られるような施工がしにくことがある。接着系アンカーは埋込み長さが長いことや、養生時間を必要とすることから、金属系アンカー、なかでもめねじ形(打込み式)より信頼性の高いおねじ形(締込み式)アンカーが推奨される。あと施工アンカーの引抜き耐力を確認するために、「標仕」14.1.3(b)(4)に定められた試験を行い、その結果を提出させることを原則としている。この試験はあと施工アンカーの最大耐力(破壊耐力)を求めるものではなく、設計された引張強度不足がないことを前提としている、常時引張力の作用する箇所の使用に当たっては十分な安全率をみる必要がある。(14.1.3(a)(ⅱ)参照)
f)その他の金物
その他の金物としては、役物部分の裏側に補強のために取り付けるアングルピースや、石裏の力石を取り付けるためのだぼ、力石の代わりに取り付ける荷重受金物等、主として特殊部位に使用する金物があり、特記されたものを使用する。
特記のない場合は、実物見本、組み立て見本あるいは、物性、品質等の証明となる資料を監督職員に提出する。

10.2.3 その他の材料
a)セメントモルタル
1)使用材料
セメントモルタルの材料は、15.2.2 による。基本的に、セメントは普通ポルトランドセメント、砂は粗目とする。石材が白色系や透明度の高い大理石の場合には、川砂中の不純物によって大理石を黄変させたり、裏込めモルタルあるいは取付け用モルタルの色が表面に透けて見えることがあるので、寒水石粒等白色系の砕砂を白色ポルトランドセメントを用いる。
2)調合
セメントモルタルは使用する部位に応じて、その要求する軟度が異なり、施工性および施工後の品質に影響を及ぼす。セメントモルタルの調合は、目安が「標仕」表10.2.5に定められているが、これ以外は15章に準ずる。
3)混和材料
石工事に用いるセメントモルタルに混合される混和材料は、モルタルの用途に応じていくつかの種類がある。
①裏込めモルタルは、躯体と石材の間を確実に充填し、充填部分にじゃんか等の欠陥が生じず、モルタルと石材や躯体との間に隙間が生じないことなどが要求されるために、減水材・分散剤等の混和材が用いられる。
②敷きモルタルは、いわゆるバサモルと称されるもので、混和材料が使用されることは少ない。
③張り付け用ペーストや目地モルタルには接着性・防水性等が期待され、メチルセルロース、SBRや防水剤等が用いられる。
4)取付け用モルタル
取付け用モルタルは、特に急結性を要し、硬化の早い材料を使用する。最近は止水・充填・補修用の材料である止水用セメントが多く使われている。石裏面の各種の金物は、金物表面が結露しやすく、その際にモルタル中に塩分が存在すると腐食が促進されるため、塩化カルシウムを含む急結剤は使用してはならない。
5)目地モルタル
目地モルタルは、作業性の向上、ひび割れ防止および白華防止等を目的として既調合セメントモルタルが数種類市販されており、既調合材料を使用することが望ましい。ただし、現場調合とする場合は、「標仕」表10.2.5による。
b)石裏面処理材
1)石裏面処理材が使用される目的は、主としてぬれ色および白華の防止であり、湿式工法で採用される。また、乾式工事や空積工法においても、最下段の石は水分の多い環境に取り付けられるため、ぬれ色、白華対策として石裏面処理材を使用することが望ましい。
2)石裏面処理材は、各接着剤製造所によって様々なものが開発されているが、過去の実績や不具合等の例を知っている石材施業者の指定する製品を用いるのが無難である。
3)石裏面処理材は、製作工場で施工することを原則とするが、止むを得ず現場で塗布する場合には換気に留意する。
c)裏打ち処理材
裏打ち処理材は、繊維補強タイプ(クロスヤチョップを樹脂で張り付けたもの)と、石材の荷重受けとしての力石のようなものとに分けられる。
ⅰ)繊維補強タイプは、石材が衝撃を受けた場合の飛散・脱落防止を目的として乾式工法や空積工法の壁および上げ裏等で採用される。
ⅱ)力石は、石材の小口に引金物を設けにくい箇所、石材荷重を納まり上見ばえよく受けるため、あるいは石材を補強するために石裏面に施すもので、乾式工法、湿式工法および空積工法で用いられる。
d)シーリング材
シーリング材の詳細は第9章6節を参照されたい。シーリング材は使用部位や目的に応じて使い分けなければならないが、石工事において留意すべき点は、目的周辺部の汚染である。
ⅰ)成分の移行による石材そのものの汚染は、プライマーによって防止できることが多いので、プライマーを必ず使用する。その際、表面と小口との角の部分は切断状態がシャープでなく欠けていたりして、プライマーが十分塗布できず、しみが発生する要因になることがある。目地幅は、プライマー塗布の作業性等も考慮して、最低 6mm以上を確保する。
ⅱ)ほかにもシーリング材に付着した塵あいによる汚れ等にも留意する。
ⅲ)特に大理石の場合には、シーリング材からの揮散成分が付着した目地周辺部に、汚染が比較的多いので、事前にシーリング材製造業者および石材施工業者と協議することが望ましい。
ⅳ)花こう岩等についても吸水率の大きい材種については同様である。
ⅴ)汚染の観点から評価すると、表10.2.12のようになる。シーリング材は、石工事ではなくシーリング工事の範囲で取り扱われることから、硬化後の諸性能に勝る2成分形の使用がほとんどである。
表10.2.12シーリング材による汚染の観点からの評価.jpg
表10.2.12 シーリング材による汚染の観点からの評価
e)ドレンパイプ
ドレンパイプは石裏または石目地裏に設け、浸入水の排水と通気による裏込めモルタルの乾燥促進を図り、ぬれ色や白華を防止するためのものでその仕様は特記による。石材の縦目地ごとに設けることが望ましいが、事例としては縦目地2~3本ごとおよび出隅・入隅に配置することが多い。一般的に樹脂ネット製の25〜35φのパイプに目詰まり防止用としてクロスのメッシュを巻いたものが使用されている。
f)だぼ穴充填材
だぼ穴充填材にはセメントペースト、エポキシ樹脂、ゴムチューブ等が用いられている。それらは、次の事項に留意して選定しなければならない。
ⅰ)だぼ穴に充填しやすい
ⅱ)取り付け金物の形式に応じた硬さを持つ
ⅲ)適度の接着強度をもつ
ⅳ)石材を汚染しない
ⅴ)適度の止水性能を持つ
ⅵ)変質・膨張しない。

10章 石工事 2節 材料 その他の材料

第10章 石工事 第2節 材 料 その他の材料
2.材 料
10.2.3 その他の材料
a)セメントモルタル
1)使用材料
セメントモルタルの材料は、15.2.2 による。基本的に、セメントは普通ポルトランドセメント、砂は粗目とする。石材が白色系や透明度の高い大理石の場合には、川砂中の不純物によって大理石を黄変させたり、裏込めモルタルあるいは取付け用モルタルの色が表面に透けて見えることがあるので、寒水石粒等白色系の砕砂を白色ポルトランドセメントを用いる。
2)調合
セメントモルタルは使用する部位に応じて、その要求する軟度が異なり、施工性および施工後の品質に影響を及ぼす。セメントモルタルの調合は、目安が「標仕」表10.2.5に定められているが、これ以外は15章に準ずる。
3)混和材料
石工事に用いるセメントモルタルに混合される混和材料は、モルタルの用途に応じていくつかの種類がある。
①裏込めモルタルは、躯体と石材の間を確実に充填し、充填部分にじゃんか等の欠陥が生じず、モルタルと石材や躯体との間に隙間が生じないことなどが要求されるために、減水材・分散剤等の混和材が用いられる。
②敷きモルタルは、いわゆるバサモルと称されるもので、混和材料が使用されることは少ない。
③張り付け用ペーストや目地モルタルには接着性・防水性等が期待され、メチルセルロース、SBRや防水剤等が用いられる。
4)取付け用モルタル
取付け用モルタルは、特に急結性を要し、硬化の早い材料を使用する。最近は止水・充填・補修用の材料である止水用セメントが多く使われている。石裏面の各種の金物は、金物表面が結露しやすく、その際にモルタル中に塩分が存在すると腐食が促進されるため、塩化カルシウムを含む急結剤は使用してはならない。
5)目地モルタル
目地モルタルは、作業性の向上、ひび割れ防止および白華防止等を目的として既調合セメントモルタルが数種類市販されており、既調合材料を使用することが望ましい。ただし、現場調合とする場合は、「標仕」表10.2.5による。
b)石裏面処理材
1)石裏面処理材が使用される目的は、主としてぬれ色および白華の防止であり、湿式工法で採用される。また、乾式工事や空積工法においても、最下段の石は水分の多い環境に取り付けられるため、ぬれ色、白華対策として石裏面処理材を使用することが望ましい。
2)石裏面処理材は、各接着剤製造所によって様々なものが開発されているが、過去の実績や不具合等の例を知っている石材施業者の指定する製品を用いるのが無難である。
3)石裏面処理材は、製作工場で施工することを原則とするが、止むを得ず現場で塗布する場合には換気に留意する。
c)裏打ち処理材
裏打ち処理材は、繊維補強タイプ(クロスヤチョップを樹脂で張り付けたもの)と、石材の荷重受けとしての力石のようなものとに分けられる。
ⅰ)繊維補強タイプは、石材が衝撃を受けた場合の飛散・脱落防止を目的として乾式工法や空積工法の壁および上げ裏等で採用される。
ⅱ)力石は、石材の小口に引金物を設けにくい箇所、石材荷重を納まり上見ばえよく受けるため、あるいは石材を補強するために石裏面に施すもので、乾式工法、湿式工法および空積工法で用いられる。
d)シーリング材
シーリング材の詳細は第9章6節を参照されたい。シーリング材は使用部位や目的に応じて使い分けなければならないが、石工事において留意すべき点は、目的周辺部の汚染である。
ⅰ)成分の移行による石材そのものの汚染は、プライマーによって防止できることが多いので、プライマーを必ず使用する。その際、表面と小口との角の部分は切断状態がシャープでなく欠けていたりして、プライマーが十分塗布できず、しみが発生する要因になることがある。目地幅は、プライマー塗布の作業性等も考慮して、最低 6mm以上を確保する。
ⅱ)ほかにもシーリング材に付着した塵あいによる汚れ等にも留意する。
ⅲ)特に大理石の場合には、シーリング材からの揮散成分が付着した目地周辺部に、汚染が比較的多いので、事前にシーリング材製造業者および石材施工業者と協議することが望ましい。
ⅳ)花こう岩等についても吸水率の大きい材種については同様である。
ⅴ)汚染の観点から評価すると、表10.2.12のようになる。シーリング材は、石工事ではなくシーリング工事の範囲で取り扱われることから、硬化後の諸性能に勝る2成分形の使用がほとんどである。
表10.2.12シーリング材による汚染の観点からの評価.jpg
表10.2.12 シーリング材による汚染の観点からの評価
e)ドレンパイプ
ドレンパイプは石裏または石目地裏に設け、浸入水の排水と通気による裏込めモルタルの乾燥促進を図り、ぬれ色や白華を防止するためのものでその仕様は特記による。石材の縦目地ごとに設けることが望ましいが、事例としては縦目地2~3本ごとおよび出隅・入隅に配置することが多い。一般的に樹脂ネット製の25〜35φのパイプに目詰まり防止用としてクロスのメッシュを巻いたものが使用されている。
f)だぼ穴充填材
だぼ穴充填材にはセメントペースト、エポキシ樹脂、ゴムチューブ等が用いられている。それらは、次の事項に留意して選定しなければならない。
ⅰ)だぼ穴に充填しやすい
ⅱ)取り付け金物の形式に応じた硬さを持つ
ⅲ)適度の接着強度をもつ
ⅳ)石材を汚染しない
ⅴ)適度の止水性能を持つ
ⅵ)変質・膨張しない。

10章 石工事 2節 材料 取付け金物

第10章 石工事 第2節 材 料 取付け金物
2.材 料
10.2.2 取付け金物
a)外壁湿式工法及び内壁空積工法用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
ⅰ)湿式工法・空積工法に使用する引金物、だぼ、かずがいは、「標仕」にステンレス(SUS304)と定められている。一般的なステンレス(SUS304)の種類の例を表10.2.10に示す。現状の石工事では、引金物には曲げ加工の比較的容易な JIS G4309(ステンレス鋼線)のSUS 304 W1(軟質2号、引張強さ 800N/mm 2程度)が多く使用されている。このほかでは、SUS304-W1/2H(半硬質、引張強さ 1,200N/mm2程度)も使用されている。

ⅱ)引金物、だぼ及びかすがいの径は、使用する石材の厚さとのバランスを考慮して、一般的に使用されている寸法が「標仕」に定められている。このうち、空積工法用の引金物については、この工法が内装に限定され、積上げ高さも一般的な壁高さに限定されていることから、ひとまわり細い径を許容寸法としている。一般的な湿式工法の金物の使用例を図10.3.1に示す。

ⅲ)だぼの形状として、従来より関東方面では通しだぼが、関西方面では腰掛だぼが多く使われてきた。腰掛だぼは、石材の保持性能に問題があり、阪神大震災でも被害が多かったことから、通しだぼ形式に限定されている。

表10.2.10 ステンレス鋼線の種類の例(JASS9より)

2)受金物

受金物は、湿式工法・空積工法の場合に、石材の荷重を受けるために設ける金物で、「標仕」10.2.2(a)(2)では、入手の容易さ等を考慮して、特記がなければ、材質がSS400の山形鋼を切断加工して用いることとしている。この鋼材の品質は、JIS G3101(一般構造用圧延鋼材)に規定されており、建築構造物に最も一般的に使用されるもので、その機械的性質を表10.2.11に示す。受金物の錆止めとして。「標仕」表18.3.1 [ 鋼材面錆止め塗料の種別」に示すA種を1回塗りすることとしており、これはJIS K5625(シアナミド鉛さび止めペイント)またはJIS K5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)に規定される塗料である。外壁の受金物に用いる場合は、上記のA種を用いるか、またはめっき防錆処理、ステンレス製アングル材の使用等の対策を施す必要がある。受金物の使用例を図10.3.4に示す。

表10.12.11「標仕」に定められている受金物の機械的性質
3)鉄筋
引金物緊結用の流し鉄筋は、湿式工法の場合ではモルタルで被覆されるが、外壁に使用されることから耐久性を考慮して錆止め塗料塗りを行うこととしている。

b)乾式工法用金物

1)「標仕」で乾式工法用金物は、スライド方式かロッキング方式を特記することとしており方式が決まると形状・寸法が決まる。いずれの方式も、仕上り面精度の確保が比較的容易であることや、躯体の変更をある程度吸収可能であること等からダブルファスナー形式としている。ファスナーに使われているステンレス鋼材は、JIS G4317(熱間成形ステンレス鋼形鋼)またはJIS G4304(熱間圧延ステンレス鋼板および鋼帯)のSUS304を加工したものが一般的である。

2)石材とファスナーとの取合いは、だぼを使用するが、石材の重量、厚さ、強度等を総合的に判断して寸法を決定する。一般に乾式工法用のだぼは湿式工法用に比べて太径のものが使われる。「標仕」には標準の形式・寸法が定められている。

3)ステンレス鋼材の場合、穴あけ加工や溶接によってひずみが発生し、取付け誤差の原因となったり、現場での加工が困難であることから、ファスナーはだぼやワッシャー等全ての部品の寸法形状を決めて、工場加工し納入することが原則である。

c)特殊部位用金物

1)引金物・だぼ・かずがい
湿式工法・空積工法で施工する場合の特殊部位に使用する引金物、だぼ、かすがいは、一般部分に使用するものと同様であるが、それらの形状・寸法および用い方は、当該箇所の石材の納め方に応じて決定する。

2)ファスナー
乾式工法に用いる金物は、基本的に一般部位に用いる金物と同一のものを用いる。石材の大きさ等によっては同じ寸法の金物と取り付けられない場合もあるので、特記を原則としている。ただし、だぼの形状は、通しだぼとしている。

3)吊金物・吊りボルト
石材を上げ裏やまぐさ等の部分に取り付ける場合には、吊金物、吊りボルトや受金物等石材の自重を支える金物を用いるが、これらの場合はその都度設計し、特記された金物を用いる。軒裏側に化粧ナットを見せない場合や、各種アンカー金物を使用する場合には、材質や取付け方法とその耐力を確認して採用しなければならない。吊りボルトの頭部の処理の方法を図10.7.1に示す。

4)隔て板用金物
隔て板に使用する金物は、隔て板どうし、隔て板と前板の取合いに使用するだぼ、かすがいがあり、「標仕」に材質、寸法、形状等が定められている。隔て板上部にはこれら以外にT型、I型等の形状のステンレス鋼板を用いる場合もある。使用例を図10.7.4に示す。

d)先付けアンカー

1)アンカーの種類
「標仕」10.2.2 (d)では、アンカーの材料および寸法は特記することを原則としているが、特記がない場合は、「標仕」10.2.2 (d)(1)または(2)によるとしている。石材を構造体に締め付けるに当たって、アンカーは重要な役割を果たす。
先付けアンカーの場合は、アンカーの種類、定着長さを適切に確保すれば、その強度はアンカーボルトの耐力で決まり、信頼性の高いアンカーである。

2)乾式工法用アンカー
乾式工法用のアンカーは、ファスナーとの耐久性等のバランスを配慮してステンレス製とする。

e)あと施工アンカー
本来、アンカーは、先付けアンカーが望ましいが、施工性や施工精度に問題があるため、最近ではあと施工アンカーが多く使われている。
あと施工アンカーの場合は、下地コンクリートの状態、配筋等により必ずしみ十分な耐力が得られるような施工がしにくことがある。接着系アンカーは埋込み長さが長いことや、養生時間を必要とすることから、金属系アンカー、なかでもめねじ形(打込み式)より信頼性の高いおねじ形(締込み式)アンカーが推奨される。あと施工アンカーの引抜き耐力を確認するために、「標仕」14.1.3(b)(4)に定められた試験を行い、その結果を提出させることを原則としている。この試験はあと施工アンカーの最大耐力(破壊耐力)を求めるものではなく、設計された引張強度不足がないことを前提としている、常時引張力の作用する箇所の使用に当たっては十分な安全率をみる必要がある。

f)その他の金物
その他の金物としては、役物部分の裏側に補強のために取り付けるアングルピースや、石裏の力石を取り付けるためのだぼ、力石の代わりに取り付ける荷重受金物等、主として特殊部位に使用する金物があり、特記されたものを使用する。
特記のない場合は、実物見本、組み立て見本あるいは、物性、品質等の証明となる資料を監督職員に提出する。

12章 木工事 2節 材料

第12章 木工事
02節 材 料
12.2.1 木 材
(a) 一般事項
(1) 木材の狂い、割れ、耐久性等は含有水分の多少に大きく影響されるので使用木材の含水率について注意する。
例えば、設計時に許容応力度計算等を要する木造建築物を建設する際に用いる木材は、昭和62年建設省告示第1898号により、原則として,含水率は15%以下、乾燥割れ等により接合部の耐力低下が生じない接合部による構法を採る場合は、20%以下とすることが要求されている。「標仕」では、主として構造計算等を必要としない程度の内部工事を想定しているが、前述の値を木工事に用いる材料の含水率の目安としてもよい。
(2) 乾燥方法には、天然乾燥法〈天乾〉と人工乾燥法〈人乾〉とがあるが、短期間のうちに含水率の低い木材を得るには人工乾燥によらなければならない。特に、狂いと割れは、一度十分に乾燥しておけば、以後は生じにくいので効果的である。
(3) 木材は工事現場では長時間の乾燥が期待できないので、一般的には、含水率を工事現場搬入時に確認している。
なお、含水率は全断面の平均の推定値としているが、その測定は次によって推定してよい。
( i ) 測定は、電気抵抗式水分計又は高周波水分計による。
(ii) 測定箇所は、異なる二面について、両小口から300mm以上離れた箇所及び中央の計6箇所とする。
(iii) 材の含水率は、6箇所の平均値とする。
(4) 木材の腐朽と含水率の関係は、含水率が20%以下ならば腐朽の可能性は低いが、30%以上が維持されるようになると腐朽する可能性が高くなる。
(5) 含水率
( i ) 含水率は、全乾材の質量に対する含有水分の質量の比で表す。

含有水分の木材内部における状態は、図 12.2.1に示すとおりである。


図 12.2.1 木材の乾燥過程

(ii) 含水率の測定方法には次のようなものがある。
① 全乾法

乾燥によって水分を含まない木材の質量(m0)を求めるもので、JISでは 100〜105℃の換気良好な炉中で恒量に達した状態を全乾と定めている。水分を含んでいる木材の質量を(m)とすると、含水率(u)は12.2.1式で表される。

7%以下又は繊維飽和点以上の含水率を測定する場合は、この方法による。
② 電気抵抗式水分計(図12.2.2参照)

直流や低周波電流に対する木材の比抵抗の対数が含水率と線形関係にあることを利用して含水率を推定する方法である。比抵抗は、温度の影響を受けるので補正が必要であり、また、繊維飽和点以上の含水率の測定はできない。木材に打ち込まれた針の深さまで測定できるが、通常は7 mm程度である。


図12.2.2 電気抵抗式水分計(打込み式)の例

③ 高周波水分計(図 12.2.3参照)

高周波からマイクロ波域における木材の誘電率あるいは誘電損率が含水率と線形関係にあることを利用して含水率を推定する方法である。誘電率は温度の影響は小さいが、比重の影響が大きく、木材の比重に応じて補正が必要である。木材の表面に当てるだけで、30mm程度の深さの平均含水率が測定できる。


図12.2.3 高周波水分計の例

(iii) 全乾状態〈絶乾状態〉(図12.2.1参照)
含有水分 0 の状態であるが、実験的には100〜105℃に保ち、質量変化のなくなった状態をいう。このような木材を全乾材あるいは絶乾材という。
(iv) 繊維飽和点(図 12.2.1参照)
含有水分が結合水100%飽和、自由水 0 の状態である。このときの含水率は約30%になる。
(v) 平衡含水率〈気乾含水率〉(図12.2.1参照)

大気中の水分と木材の含有水分が平衡になった状態の含水率で、気温20℃、相対湿度65%において、約15%である。このような木材を気乾材という。しかし、図12.2.4に示すように、気乾材の含水率には変動があるので.「標仕」12.2.1 (a)(2)(ⅰ)ではやや平均値を上回る値を上限としている。


図12.2.4 気乾材の含水率の変動

(vi) 木材の比重
木材は細胞からなっているために内部に空隙が多いが、空隙部分を除いた実質部分の比重である真比重は、樹種に関係なく約1.5〜1.6といわれている。実用上は、重量を体積で除した見掛け比重で表し、通常、含水率15%のときの見掛け比重による。これを気乾比重という。
気乾比重別による樹種を表12.2.1に示す。

表12.2.1 各樹種の比重

(b) 製 材
(1) 品質
(i) 製材の品質の規定には「製材の日本農林規格」(平成19年農林水産省告示第 1083号、最終改正、平成25年同第1920号)がある。また、外国製品のうち、 JASと同等以上であるとの相互認証を得ている製材もある。

製材のJASマークを図12.2.5に示す。


図12.2.5 製材のJASマーク

① 製材のJASにおける「目視等級区分構造用製材」は、構造用製材のうち、節、丸身等材の欠点を目視により測定し、等級区分したものをいい、主として高い曲げ性能を必要とする部分に使用される甲種構造材と、主として圧縮性能を必要とする部分に使用される乙種構造材とに区分されている。また、製材の寸法は、木口の短辺、木口の長辺及び材長により区分されている。「構造用製材」の標準寸法(仕上げ材にあっては、規定寸法)を表12.2.2に示す。

表12.2.2 構造用製材の標準寸法(JAS)

② 製材のJASにおける「造作用製材」は、建築物の内部の敷居、かもい等に使用される造作類と、内外装用板に使用される壁板類とに区分されている。
③ 製材のJASにおける「下地用製材」は、建築物の屋根、床、壁等の下地の外部から見えない部分に使用される製材品である。
④ 製材のJASにおける「仕上げ材」と「未仕上げ材」の含水率による区分を表12.2.3に示す。
表12.2.3 仕上げ材と未仕上げ材の含水率による区分
(構造用製材の場合)
なお、「仕上げ材」とは、乾燥処理を施したのち、材面調整(又は修正挽き)を行い,寸法仕上げをしたものをいい、「未仕上げ材」とは,乾燥処理を施したのち、寸法仕上げをしないものをいう。
⑤ 実際の商取引では、ひき割り類、ひき角類という材種名や慣習的な材種名が一般的に用いられており、JAS以外の品質表示で流通している製品も多い。
⑥ 木材の用途、使用部位によって求められる性能、寸法安定性等が異なるので、それらに応じた等級、性能区分、使用薬剤であることを確認する必要がある。
(ii) 平成25年版「標仕」では,「製材の日本農林規格」以外の製材が採用されたが、その品質基準は「製材の日本農林規格」に準じたものとなっている。JASマークが付されていない材料については、その品質基準に適合することを十分に説明する資料を提出させることが重要である。
(iii) 用語
一般に用いられている用語の説明を表12.2.4に表す。
表12.2.4 用語の説明

(2) 樹 種

(i) 樹種は、「標仕」12.2.1 (b)(2)(ⅳ)では、特記によることとされるが、図面等で代用樹種の使用が禁止されていなければ、両者は同等として取り扱ってよい。しかし、造作材の代用樹種を選定する場合は、室の仕上りを考慮し部位ごとにバランスのよい樹種を選定する必要がある。
(ii) 造作材で、つがが使用されないのは、組立後、反り、ねじれ、曲がり等の狂いが比較的生じやすいからである。
なお、乾燥を十分に行った場合等で、組立後の反り、ねじれ、曲がり等の狂いが生じないことが経験的、技術的に明らかな場合は、それらの樹種も代用樹種として扱ってよい。
(iii) 代用樹種を禁止された松は、赤松又は黒松のいずれかとする。ただし、強度性能上、外見上、寸法安定性、耐久性その他当該部位に要求される性能すべてを満たす樹種が存在する場合は、代用樹種としてよい。
(iv) 木れんが及びくさびには、釘の保持力、耐腐朽性等の優れたひのきのほか広業樹も適している。ただし、広業樹がすべて耐腐朽性に優れているとは限らない。
(v) 込み栓はかし、けやきの類の広葉樹又はこれと同等以上の強度性能をもつ樹種又は加工材料とする。込み栓は構造材のずれ止め、抜け止めに用いられるが、現在では金物で代用されることも多い。
「標仕」表12.5.1の吊束及び敷居に、込み栓並びに横栓として使用している。
(vi) 輸入木材は、同一種に別な名称があったり、種類が異なるものを同一名称で呼んだりしているので、樹種を見分けるのは難しいが、一般には次の左の樹種名に右のものが該当する。
米ひ  :ポートオーフォードシダー
米ひば :イエローシダー、アラス力シダー
米とうひ:ホワイトスプルース、エンゲルマンスプルース
     ブラックスプルース、レッドスプルース、
     コーストシト力スプルース
米つが :ウェスターンヘムロック
米もみ :ノーブルファー、ホワイトファー、
     バルサムファー、アマビリスファー
米杉  :ウェスターンレッドシダー
米赤杉 :レッドウッド
米松  :ダグラスファー
台ひ  :台湾ひのき
北洋えぞ松:(ロシア)えぞ松
輸入木材のそれぞれの特徴等を表12.2.5に示す。

表12.2.5 樹種の特徴等

(c) 造作用集成材
(1) 集成材は、ひき板又は小角材等をその繊維方向を互いにほぽ平行にして、厚さ、幅及び長さの方向に集成接着したもので、「集成材の日本農林規格」が制定され ている(平成19年農林水産省告示第1152号、最終改正 平成24年農林水産省告示第1587号)。集成材の分類、区分とその定義を表12.2.6に示す。

表12.2.6 JASによる集成材

(i) 造作用集成材
手すり、力ウンターの甲板等に用いられることが多いが、用いられるひき板がそのまま仕上材になる。ひき板は、薄いものの方が高級とされるが、10〜15mm位が標準となっている。
(ii) 化粧ばり造作用集成材
① 化粧薄板(一般には化粧単板あるいは化粧突き板という。)の厚さを、敷居、かまち及び階段板の上面にあっては 1.5mm以上、柱にあっては1.2mm以上、その他のものにあっては0.6mm以上であることと規定している。
② 通常用いられる化粧薄板は突き板といい、通常厚さは、0.2、0.3、0.6mm程度であるが、0.8mm以上のものもある。化粧として単板を張る場合に3mm程度のものを用いることもある。
③ 化粧薄板は、製作工場の手持ちの材料のうちから選ぶことになるが、素材のままでは仕上がった状態を想像するのは難しい。また、小さな見本板では大きな製品と全く違うものもあるので注意しなければならない。
(iii) 化粧ばり構造用集成柱
所要の耐力を目的としてひき板(ラミナ)をその繊維方向に対しほぽ並行にして集成接着し、その表面に美観を目的として化粧薄板を張り付けた集成材で、主として在来軸組工法住宅の柱材として用いられる。心材には積層数が5以上で、化粧薄板の厚さは1.2mm以上のものが用いられ、強く、狂いが少ないのが特徴である。
(2) 平成25年版「標仕」では、「集成材の日本農林規格」以外の造作用集成材が採用されたが、JASマークが付されていない材料については、特記された品質に適合することを十分に説明する資料を提出させることが重要である。
(d) 造作用単板積層材
(1) 単板積層材(LVL)は、ロータリーレース又はスライサー等により切削した単板を、主としてその繊維方向を互いにほぼ平行にして積層接着したものである。単板の厚さは 2〜4mm程度が普通で、積層数は数層から数十層に及ぶものがある。幅反りを防止するために若干の直交層を挿入する場合がある。LVLは平行層の割合が圧倒的に多いことと、一般に製品の厚さが厚く、主な用途が骨組材(棒状製品、軸材)であることなどが合板と異なっている。
LVLには「単板積層材の日本農林規格」が制定されており、住宅のドア枠、窓枠、胴縁等の内装部材としての使用を対象とした「造作用単板積層材の規格」と建築構造部材としての使用を対象とした「構造用単板積層材の規格」が規定されている(平成20年農林水産省告示第701号)。
(2) 平成25年版「標仕」では、「単板積層材の日本農林規格」以外の単板積層材が採用されたが、JASマークが付されていない材料については、特記された品質に適合することを十分に説明する資料を提出させることが重要である。
(e) 床張り用合板等
(1) 「標仕」表12.6.1の厚さ5.5mmの普通合板は、ビニル床シート等の下地の二重張り等に使用することを想定して、合板製造に使用する接着剤の耐水性を1類とし、板面の品質は塗装下地とならないため、広葉樹では2等、針業樹では C – Dとしている(16.7.2(b)(3)参照)。
また、厚さ12mmの合板は、カーペットや畳床の下地材等に使用することを想定して耐水性、曲げ性能等を考慮して、構造用合板の1類2級の C – D ( C – Dは板面の品質)としている。
(2) 合板の接着の程度による分類
JASによる接着性能の分類は、次のとおりである。
① 特類(フェノール樹脂接着剤等)
屋外又は常時湿潤状態の場所(環境)において使用される構造用合板。
② 1類(メラミン樹脂接着剤等)
断続的に湿潤状態となる場所(環境)において使用可能な合板。コンクリート型枠用合板・住宅下地用・建築物外装用合板等。
③ 2類(ユリア樹脂接着剤等)
時々湿潤状態となる場所(環境)において使用可能な合板。住宅・船舶・車両等の内装用合板・家具用合板等。
(3) 合板の用途による区別
(i) 普通合板(1類・2類)
建築物の内装、家具、建具等一般的な用途に広く使われる合板。寸法は、厚さは 2.3〜24.0mm、幅は 910~1,220mm、長さは910~3,030mmが標準である。
(ii) コンクリート型枠用合板(1類)
コンクリート打込み時にそのせき板として使用される合板で、ラワンのほか針葉樹のものもある。寸法は、厚さは12.0~24.0mm、幅は500~1,200mm、長さは1,800~2,400mmが標準である。
(iii) 表面加工コンクリート型枠用合板(1類)
通常のコンクリート型枠用合板の表面に塗装・オーバーレイ等の加工をしたもの。打放し仕上げに良好な結果が得られるとされているので、土木用型枠として多用される。
(iv) 構追用合板1級(特類・1類)
軸組構法、枠組壁工法住宅等の建築物の構造耐力上主要な部位に使用される合板で〈Kプライ〉と呼ばれる。単板の厚さの範囲、合板の厚さごとの積層数、単板の構成比率が規定され、曲げ試験によって強度保証している。寸法は、厚さは 5.0 〜35.0mm、幅は900 ~1,220mm、長さは1.800 ~ 3.030mmが標準である。
(v) 構造用合板2級(特類・1類)
1級と同様に使用されるが針葉樹合板が主である。寸法は、厚さは、5.0〜35.0mm、幅は900〜1.220mm、長さは1,800〜3,030mmが標準である。
(4) パーティクルボード
近年、床張り用面材としてパーティクルボードを使用することが多くなっている。
パーティクルボードの品質及びその分類は、JIS A 5908(パーティクルボード)による。
① パーティクルボードの裏表面の状態による区分
1) 素地パーティクルボード
両面が素地の状態で研磨品と無研磨品があるが通常は研磨品が中心である。
2) 単板張りパーティクルボード
素地パーティクルボードの両面に単板を張った板で研磨品と無研磨品がある。
② パーティクルボードの曲げ強さによる区分
1) 素地パーティクルボードは18タイプ(曲げ強さが18.0N/mm2以上、以下同様)、13タイプ、8タイプがあるが,床下地には18, 13タイプが用いられる。
2) 単板張りパーティクルボードは30−15タイプがあり、単板の繊維方向により縦、横の強さが違う。
③ パーティクルボードの接着剤による区分
1) Uタイプ
ユリア樹脂系又はこれと性能が同等以上のもので、耐水性が劣るので主に家具、キャビネット等に適する。
2) Mタイプ
ユリア・メラミン樹脂系又はこれと性能が同等以上のもので、建築下地等に適する。
3) Pタイプ
フェノール樹脂系又はこれと性能が同等以上のもので、Mタイプと同様建築下地等に適する。
④ パーティクルボードのホルムアルデヒド放散量による区分
F☆☆☆☆、 F☆☆☆、 F☆☆に分類される。F☆☆の製品はほとんど生産されていない。
(5) 構造用パネル
木材の小片を接着し板状に成形したパネル又はこれにロータリーレース、スライサー等により切削した単板を積層接着したパネルのうち、主として構造物の耐力部材として用いられるむのをいう。その品質は「構造用パネルの日本農林規格」に規定されている(昭和62年農林水産省告示第360号、最終改正平成20年農林水産省告示第938号)。
(6) 繊維板(ファイバーボード)
繊維板の品質及びその分類は、JIS A 5905(繊維板)による。
繊維板の密度による区分
1) インシュレーションファイバーボード(インシュレーションボードともいう。密度0.35g/cm3未満)
畳床用、断熱用、外壁下地用等があり、難燃性を付与したものもある。
2) ミディアムデンシティファイバーボード(MDF、密度0.35g/cm3以上)
主に構造耐力を要求される部分に使用する。曲げ強さによって30タイプ(曲げ強さが 30.0N/mm2以上、以下同様)、25タイプ、15タイプ、5タイプに区分され、接着剤によってUタイプ、Mタイプ、Pタイプに区分される。接着剤の区分、適した用途はパーティクルボードと同様である。
3) ハードファイバーボード(ハードボードともいう。密度0.80g/cm3以上)
油、樹脂等の特殊処理、表面の状態、曲げ強さ等によって分類される。最近は床等の養生板として用いられている。
(f) その他の木材
(1) 木質接着成形軸材料
木材の単板を積層接着又は木材の小片を集成接着した軸材をいう。PSL(Parallel Strand Lumber)、LSL (Laminated Strand Lumber)等がこれに相当し、その品買は、平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(2) 木質複合軸材料
製材、集成材、木質接着成形軸材料その他の木材を接着剤により I 形、角形そ の他所要の断面形状に複合構成した軸材をいう。I 形複合梁、ボックス・ビーム等がこれに相当し、その品質は平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(3) 木質断熱複合パネル
平板状の有機発泡剤の両面に構造用合板その他これに類するものを接着剤により複合構成したパネルのうち、枠組がないものをいう。サンドイッチパネル等がこれに相当し、その品質は平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(4) 木質接着複合パネル
製材、集成材、木質接着成形軸材料その他の木材を使用した枠組に構造用合板その他これに類するものを接着剤により複合構成したパネルをいう。プレハプ建築用接着バネル等がこれに相当し、その品質は平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(g) ホルムアルデヒド放散量
「標仕」では、集成材、単板積層材、合板等のホルムアルデヒド放散量等については、特記がなければ、F☆☆☆☆、非ホルムアルデヒド系接着剤使用、非ホルムアルデヒド系接着剤及びホルムアルデヒドを放散しない塗料使用等としている。
しかし、構造用集成材においては、接着耐久性の確保からF☆☆☆☆の基準を満たす材料の人手が困難であること、また、使用される量が相対的に少ないなどの理由でその他の放散量のものを使用する場合もある。その場合は、特記されていることが必要であるが、市場に該当する品質の材料がない場合は「標仕」1.1.8による協議事項とすればよい。
なお、ホルムアルデヒド放散量に関する建築基準法上の扱いや現場における確認方法等については、19章10節を参照されたい。
12.2.2 接合具等
(a) 釘等
(1) 下地材及び造作材に用いる釘は、JIS A 5508(くぎ)による。「標仕」では、材質は表面処理された鉄又はステンレス鋼としている。
なお、鉄丸くぎ(Nくぎ)は、JISで規定される寸法より細いものが流通している場合が多い。特に、従来市場に出回っている梱包用のFNくぎを使用してはならない。釘の太さはそのせん断耐力に大きく影響する場合が多いので、釘の太さに十分注意するか、同等以上の材質、太さを有するほかの種類の釘を使用することも検討すべきである。
また、釘打ち機により施工する場合は、木材の硬さを十分考慮して、その打込み強さを設定する必要がある。打込み強さが必要以上に大きいと釘頭が材面にめり込み、あとから施工するものに対して影響を及ぼす場合がある。また、釘頭のめり込みは釘の側面抵抗力を減じる場合があるので、構造耐力を要する部分は、更に注意が必要である。
JIS A 5508の抜粋を次に示す。

JIS A 5508: 2009

1 適用範囲
この規格は、主として一般に使用するくぎについて規定する。ただし、自動くぎ打機用のくぎに用いる場合の連結材料及びその方法については規定しない。

3 種類及び記号
くぎの種類及び記号は、表1による。また、くぎは、頭部及び胴部の形状によって表2及び表3の区分による。(表2及び表3は省略)

表1 くぎの種類及び記号

7 材料

7.1 鉄線
鉄線は、JIS G 3532に規定するくぎ用鉄線又はこれと同等以上の品質をもつものとする。ただし、せっこうボード用くぎ及びシージングボード用くぎについては、JIS G 3532に規定する普通鉄線又はこれと同等以上の品質をもつものを用いてもよい。

7.2 ステンレス鋼線
ステンレス鋼線は、JIS G 4309に規定するSUS304又はこれと同等以上の品質をもつものを用いてもよい。

JIS A 5508 : 2009

(2) 釘の長さは、図12.2.6のように留め付ける材料に留め付けられる材料の厚さの1.5倍以上打ち込まないと、構造材では十分な強さを発揮できない。

釘径は、板厚の1/6以下とし、釘の長さは打ち付ける板厚の 2.5〜 3倍のものとする。ただし、板厚10mm以下の場合の釘の長さは4倍を標準とする。

(3) 造作材の釘打ちの標準的な配置を図12.2.7から図12.2.9までに示す。


  図12.2.6 釘の打込み長さ


  図12.2.7 下地材に平行する場合

 


  図12.2.8 下地材と交差する場合

 


  図12.2.9 幅の広い場合

(4) 隠し釘の工法には次のような方法があるが、釘の機能と材料の性質及び釘打ち箇所の意匠上の必要性によって定めることになる。

( i ) 釘頭を切断して打ち込む。
(ii) 釘頭をつぶして打ち込む。
(iii) あらかじめ穴をあけておき釘を打ち込んだのち埋木する。

(iv) ななめ釘打ちにより.見え隠れとなる部分に打ち込む。

(5) 釘配置は、特記のない限り、その最小間隔を表12.2.7とする。ただし、この場合は、釘は木材の繊維に対して乱に打つものとする。

表12.2.7 くぎ間隔の標準

(6) 木ねじは、JIS B 1112(十字穴付き木ねじ)、JIS B 1135(すりわり付き木ねじ)又はこれと同等以上の品質を有するものとする。JISでは、原則として、表12.2.8の材料が規定されているが、「標仕」ではステンレスとしている。

表12.2.8 材 料
(b) 諸金物

(1) 諸金物には、JIS A 5531(木構造用金物)があるが、これに適合するものがないか、又は入手しにくいので、「標仕」12.2.2では,市販品としている。

(2) 金物は一般的には彫り込む必要がないが、部材が交差するような箇所では木部を彫り込み、金物を沈めておかなければならない場合もある。

(3) コンクリートに埋め込まれる部分以外の金物には、錆止め処置として、「標仕」ではJIS H 8610(電気亜鉛めっき)のCM2 C 3級程度の電気亜鉛めっきとしている。

(4) 土台等に使用するアン力ーボルトは先埋込みが望ましいが、位置、埋込み深さ等が不正確になりやすいので、「標仕」12.2.2ではあと施工アン力ーを使用することを認めている。あと施工アン力ーについては14.1.3 (a)(ii)を参照されたい。

(c) 接着剤

接着剤は、非常に多くのものが市場に出回っているが、接着剤の種類によって適用できる被着体や施工時及び使用時の環境条件が異なる。「標仕」では,接着する材料に適したものとしているので、材料や施工部位等を考慮して適切なものを選ぶ。ただし、ホルムアルデヒド放散量は、特記がなければF☆☆☆☆としているので注意する。

12.2.3 木れんが

(a) 木れんがは、枠類、下地材等を釘、木ねじ等で取り付ける場合に用いられるが、図 12.2.10のように四角のものをJIS A 5537(木れんが用接着剤)で張り付けるか又はあと施工アン力ーで取り付ける。

なお、取付け間隔は.仕上材や下地材を考慮して決める。


図12.2.10 木れんがの取付け

(b) 木れんがの材料は.「標仕」12.2.1 (b)(2)(iv) ③により、ひのき又はひのきの代用樹種(ひば、米ひ、米ひば)を用いなければならない。

(c) JISの木れんが用接着剤は、主成分により2種類に区分され、次のように使い分けられる。

(1) 酢酸ビニル樹脂系溶剤形:コンクリート面、ブロック面の類に用いる。

なお、水掛りのおそれのある箇所、構造耐力を要する箇所には適しない。

(2) エポキシ樹脂系:2液混合形(主剤+硬化剤)で使用直前に混合する必要がある。やや高価になるが、湿気のおそれのある箇所、コンクリート面、ブロック面に加えて鋼材面等にも適している。ただし、鋼材面等は脱脂処理やプライマー処理を要する場合があるので注意する必要がある。

(3) ホルムアルデヒド放散量は、いずれの場合も、特記がなければF☆☆☆☆のものである。

1級建築施工管理技士 く体工事 コンクリート用化学混和剤

第5章 コンクリート工事 材料


コンクリート用化学混和剤

コンクリート用化学混和剤は、JIS A 6204(コンクリート用化学混和剤)に規定されている。

【AE剤】
界面活性作用により微細な気泡(エントレインドエア)を連行させる混和剤で、規定されている項目を以下に示す。
・減水率
・凝結時間の差分
・圧縮強度比
・長さ変化比
・凍結融解に対する抵抗性

【AE減水剤】
セメントの分散作用と空気連行作用の双方を有する混和剤で、規定されている項目を以下に示す。
・減水率
・ブリーディング量の比
・凝結時間の差分
・圧縮強度比
・長さ変化比
・凍結融解に対する抵抗性

【高性能AE減水剤】
高い減水性能と優れたスランプ保持性能を有する混和剤で、規定されている項目はAE減水剤の項目に加え、スランプおよび空気量の経時変化量の規定がある。

・単位水量の低減を目的とした普通コンクリート、流動性の保持を目的とした高流動・高強度コンクリートには不可欠な混和剤。
・コンクリートの凝結時間を遅延させる効果もあるので、暑中コンクリートにも適している。

【高性能減水剤】
高い減水性能を有し、空気連行性や凝結遅延性はないので、使用量が増加しても空気量の増大や凝結が遅延することはなく、高強度コンクリートの製造に最適である。

【発泡剤】
特殊処理したアルミニウム粉末であり、その発泡作用でコンクリートを膨張させる。
その他、
コンクリート用化学混和剤協会のJIS A 6204規格参照