10章 石工事 2節 材料 取付け金物
ⅱ)引金物、だぼ及びかすがいの径は、使用する石材の厚さとのバランスを考慮して、一般的に使用されている寸法が「標仕」に定められている。このうち、空積工法用の引金物については、この工法が内装に限定され、積上げ高さも一般的な壁高さに限定されていることから、ひとまわり細い径を許容寸法としている。一般的な湿式工法の金物の使用例を図10.3.1に示す。
ⅲ)だぼの形状として、従来より関東方面では通しだぼが、関西方面では腰掛だぼが多く使われてきた。腰掛だぼは、石材の保持性能に問題があり、阪神大震災でも被害が多かったことから、通しだぼ形式に限定されている。
表10.2.10 ステンレス鋼線の種類の例(JASS9より)
受金物は、湿式工法・空積工法の場合に、石材の荷重を受けるために設ける金物で、「標仕」10.2.2(a)(2)では、入手の容易さ等を考慮して、特記がなければ、材質がSS400の山形鋼を切断加工して用いることとしている。この鋼材の品質は、JIS G3101(一般構造用圧延鋼材)に規定されており、建築構造物に最も一般的に使用されるもので、その機械的性質を表10.2.11に示す。受金物の錆止めとして。「標仕」表18.3.1 [ 鋼材面錆止め塗料の種別」に示すA種を1回塗りすることとしており、これはJIS K5625(シアナミド鉛さび止めペイント)またはJIS K5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)に規定される塗料である。外壁の受金物に用いる場合は、上記のA種を用いるか、またはめっき防錆処理、ステンレス製アングル材の使用等の対策を施す必要がある。受金物の使用例を図10.3.4に示す。

10章 石工事 3節 外壁湿式工法
3.外壁湿式工法
10.3.1 適用範囲
湿式工法の適用が減少している主な理由として次のことが考えられる。
(1)石裏に水が浸入し、それが原因で石材のぬれ色・白華が生じ、美観を担なうことがある。
(2)コンクリート躯体と裏込めモルタルの乾燥収縮と石材の熱による膨張・収縮で石材のはく離が生じ、引金物やだぼの取付けが不備な場合には脱落することがある。
(3)地震時等の躯体の挙動に追従しにくいため、石材にひび割れが生じたり、脱落することがある。
(4)2日に1段しか施工できないために、工期が長くかかる。
(5)石厚が乾式工法に比べて薄くできるが.裏込めモルタルを含めた全重量が大きく、構造的に負担が大きい。
一方,外壁湿式工法には衝撃に強い利点もあり,1階の腰壁等、衝撃を受けやすい部位等に採用するのは有効である。
これらのことから、(2)及び(3)に述べた事項に留意して施工すれば、外壁湿式工法も十分に採用可能な工法であり、「標仕」では、RC構造(地震時の層間変位 1/500以下程度)で.小規模の中層建物(高さ10m以下)を対象としてこの工法を規定している。
図10.3.1 外壁湿式工法の例(JASS9(一部修正)より)
10.3.2 材 料
石材の厚さは、石材と下地がモルタルで接着されることから、厚さ25mmで耐衝撃性を満足すると考えられる。ただし、25mmは最小限の厚みである。石材が薄くなるとぬれ色、白華が発生しやすくなるため、石の裏面処理が必要となる。
石材の上端の横目地合端には、石材両端より100mm程度の位置に引金物用として2箇所の穴をあける。 引金物を目地部に突出させないため、金物の径に相当する溝を石材合端に彫る。これを道切りという。
同じく、石材の上端の横目地合端には、石材両端より150mm程度の位置にだぼ用の2箇所の穴をあける。 石材の下端には、石材の割付けに従い、下段の石材のだぼを受ける位置に穴をあける。
石材の荷重を受けるために用いられる山形鋼製の受金物を目地に納めるために、その厚さと寸法に相当する部分を石材合端に欠き込む。 これを座彫りという。
石材のぬれ色や白華を防ぐために、石材裏面に止水性のある変成エポキシ樹脂やアクリル樹脂製の裏面処理材を塗布する。また、衝撃により石材の破損が懸念されるときには. ガラス繊維製のメッシュのような裏打ち処理材を石材裏面に接着して補強する。 これらはいずれも特記される。
取付け作業を適切に行うために、石裏とコンクリート躯体との間隔は 40mmを標準としたが、これは躯体の施工誤差 ±15mmを見込んだ大きな寸法である。躯体をはつることのないよう、躯体の面精度を管理することが重要である。
石材は重量の大きい仕上げ材料であるため、施工後にはく離・はく落等が生じないよう、下地ごしらえを確実な工法により行う必要がある。コンクリート躯体の豆板については硬練りのセメントモルタル等で、ひび割れはエポキシ系樹脂の注入や Uカット後にシーリング材の充填等で事前に補修する。また、セパレーターについては、防錆処理を施す。下地の確認と補修が完了後、下地ごしらえを行うが、その適用は特記され、特記のない場合には流し筋工法とする。
また、横筋は石材の割付けに基づき、高さを精度良く出し、水平方向の通りがでるよう配置する(図10.3.2 参照)。
図10.3.2 流し筋工法(JASS9より)
あと施工アンカー工法ではアンカー施工に先立ち、石材の割付けに基づき、石材の引金物とアンカーの位置が一致するよう精度良く墨出しを行う。コンクリート躯体内部の鉄筋等のため所定の位置にアンカーを配置できない場合は、部分的に流し筋との併用工法が取られることがある。
図10.3.3 あと施工アンカー・横流し筋工法(JASS9より)
受金物を設ける位置は、引金物やだぼと干渉すると、これらの金物の取付けが適切にできなくなることに留意し、石材の幅寸法によって石材端部より 0~ 250mmの範囲に納める。これらの金物の配置例を図10.3.4に示す。
図10.3.4 引金物と受金物の配置例(JASS9より)
溶接箇所はすべて防錆処理を施す。ステンレス製の金物であっても溶接箇所から錆が発生するので注意を要する。また、溶接作業は火花で石材を汚損させるので、石材を張る前に完了させる。もし、溶接作業が事前に完了しない場合には、火花が石材に降り掛かる事のないように、合板や防災シート等で十分養生する。
最下部の石材の据付け精度が壁面全体の仕上りに大きく影響する。精度良く石材を取り付けるために、墨出しが重要になる。最下部の石材は、仕上げ墨に合せて水平、かつ、垂直になるよう、くさびを石材の底面及び躯体との間に差し込み、石材の上部にばね金物等を設けて位置の調整を行う。次に、底面の2箇所を取付け用セメントで固定し、石材の上部を引金物で躯体に固定する。
上段の石材の取付けは、下段の石材との間にプラスチック製のスペーサーを挟み込み、目地合端に引金物、だぽを取り付ける。だぼは、図10.3.5に示す通しだぼを用いる。腰掛だぼは耐震性が低いので、使用してはならない。
石材への引金物やだぽの固定に使用する材料は石材施工業者の仕様によるが、一般的にはエポキシ樹脂接着剤を使用する。硬化不良や石材の汚染を引き起こさないように、材料の計量、かくはん、被着物の処理、可使時間、温度管理等には十分留意する
図10.3.5 一般部の石材の据付け例(あと施工アンカー工法の場合)(JASS 9より)
目地から裏込めモルタルが流出して空隙ができると、水みちとなってぬれ色・白華等の汚れや漏水の原因になる。それを防止するために、目地に目地幅+2mm 程度の径の発泡プラスチック材を裏込めモルタルの充填に先立ち挿入する。挿入深さは 8〜10mm程度で、目地モルタル又は弾性シーリング材の底面までとする。
裏込めモルタルを充填する準備として、下地面に適度な水湿しを行う。まず下端から 200~300mmに裏込めモルタル(最下部の場合は根とろ、それ以外は下とろと呼ぶ。)を充填し、硬化後順次裏込めモルタル(注ぎとろと呼ぶ。)を充填する。注ぎとろは モルタルの圧力で石が押し出されないようにするため、2〜3回に分けて行う。
最下部については、裏込めモルタルが硬化したのを見計らって、くさびを必ず取り外し、くさび跡にモルタルを充填し、こて押えをしておく。木製のくさびの放置は、石材を著しく汚染する原因となる。
図10.3.6 裏込めモルタルの充填(JASS9より)
外接湿式工法で採用する目地幅は、一般目地では挙動が少ないと判断されることから6mm以上としている。
裏込めモルタルがある程度硬化するのを待って、流出防止用の発泡プラスチック材を取り除く。その際、目地深さが所定の寸法にあるかを確認し、不足の場合は目地をさらってそろえる。
目地部は、はけ等を用いて清掃を行ってから目地詰めをする。目地材としては、市販の既調合セメントモルタルの目地用材料を使用し、確実に目地詰めする。目地の空隙は雨水の侵入口となり、白華や漏水の原因となる。目地詰め直後に水洗いをするとセメント分が流出し、石材を汚したり化粧目地表面が傷むなどの問題があり、目地詰め前に水洗いする。
外壁面の止水性の向上を意図し、特記により一般目地シーリング材を適用することであるが、幅 6mm程度の狭い目地では確実なシーリング施工が困難である。止水性は、石材仕上げ面で確保できると考えるのは禁物であり、躯体面で確保するのが基本である。シーリング材の充填に当たっては、プライマーやシーリング材で石材表面を汚さないように注意する。
湿式工法の伸縮調整目地の位置は、鉛直方向が1スパンに1箇所程度、間隔にして 6m程度が一般的である。また、水平方向は躯体コンクリートの水平打継ぎ部に合わせて各階ごとに設ける。
伸縮調整目地は、図10.3.7に示すように、裏込めモルタルの部分にも発泡プラスチック材を挿入し、躯体面まで完全に縁を切る。更に、躯体面の打継ぎ目地や伸縮調整目地と位置を合わせるのが基本である。
伸縮縮調目地の寸法は、目地の機能を発揮でくる寸法を確保できるよう、特記を基本とする。
図10.3.7 伸縮調整目地の状況(JASS9より)
10章 石工事 4節 内壁空積工法
4.内壁空積工法(からづみこうほう)
10.4.1 適用範囲
空積工法は 内壁石張り専用として考案されたものであり、「標仕」では 一般的な天井高さを考慮して4m以下を適用範囲としている。4mを超える内壁には原則として乾式工法等を採用するようにする。
内壁の石張り工法には 従来湿式工法や帯とろ工法が採用されてきた。 前者は、外壁工法で述べたように 裏込めモルタルに起因する石材のぬれ色や白華現象, そして施工に長時間を要することなどの理由から、内装の石張りには使用されなくなった。後者は帯とろの施工が現実には適切に行えないこと、また、一部には腰掛だぼの使用に起因するはく離事故が生じたことなどの欠陥が露呈した。これらのことを背景にして、図10.4.1に示す空積工法が登場し、内壁石張りの主流になった。
図10.4.1 内壁空積候補う壁縦断面図(JASS9より)
10.4.2 材 料
内装用の石材の厚みは、経済的理由によりますます薄くなる傾向にある。石厚が簿いと小さい衝撃でも破損し、はく落の危険性があるため「標仕」では20mmを最小有効厚さと規定し、薄い石材の使用への歯止めをかけている。
石材の加工は 外壁湿式工法に準じる。内壁の石張りで石材の裏面処理が必要となる例は、風除室や浴室のように床面からら水分が取付け用モルタルを介して幅木石や根石に浸入し、 石材を破損する場合等である。
10.4.3 施 工
よって、最低石厚さ 20mm以上を考慮すると設計上の仕上げ厚さは 60mm以上となる。
下地ごしらえは、外壁湿式工法に準ずる。あと施エアンカーエ法の例を図10.4.2に示す。
受金物の設置は、外壁湿式工法に準ずる。しかし、石材の積上げ高さが3m以下、すなわち、一般的には天井高さが 3mに満たない室内の内壁では、下部の石材に伝達させる上部の荷重が小さいことから受金物を使用しなくてもよいこととしている。
防錯処理については、外壁湿式工法に準ずる。
図10.4.2 あと施工アンカー工法の例(JASS9より)
最下部の石材の取付けは外壁湿式工法に準ずる。
一般部の石材は、下段の石材の横目地合端にだぼをセットし、目違いのないように据え付け、上端を引金物で緊結していく。内壁石張り特有のねむり目地の場合には糸面をとり、ビニルテープを下段石の上端に2箇所、両端より125mm程度の位置に張り付け、石材どうしの直接的な接触を避ける。これは、小口付近の石材表面のはま欠けを防止するための策である。
深さが浅ければ強度的にさほど問題にはならない。
標準的な取付け工法の詳細を図10.4.3に示す。
図10.4.3 標準的な取付けの詳細(断面図)(JASS9より)
空積工法の場合は、下地と石材とは引金物により緊結し、その回りを取付け用モルタルによって固めるが、この取付け用モルタルは、引金物の固定及び圧縮材として重要であり、石張り後に破損、脱落してはならない。したがって、単に引金物回りの被覆とするのではなく、躯体と石材との間に所定の寸法となるよう団子状に充槙する必要がある。このため、取付け用モルタルの充填に先立ち、引金物取合い部にポリエチレンフォームのような適切なバックアップ材を挿入し、これを型枠代わりとして充填する。
かすがいは、出隅部の隣り合う石材の相互の位置を固定するために使用する。
だぽ穴の充填材としては、一般にセメントペト又は樹脂を使用するが、ねむり目地の場合には、だぽ穴に樹脂を使用すると樹脂のはみ出しにより石材相互が接着され、石材の動きを拘束することになるため避ける。
空積工法の場合は、石材の裏面が空洞となっているため、衝撃等による割れのおそれがある。 このため、衝撃の可能性の高い床上 1.8m間の石材で、特に石材1枚当たりの寸法が大きい場合は、図10.4.4に示す引金物と取付けモルタルによる補強を行うこともある。この補強をあてとろという。
図10.4.4 あてとろの配置例
幅木に相当する壁面部分は、荷物台車、清掃用具及び靴先等による衝撃を受ける可能性がある。 これらの予期しない衝撃による石材の破損を防ぐために、幅木の裏面には裏込めモルタルを充填する。 幅木のない場合の最下部の石材裏面には、高さ 100mm程度まで裏込めモルタルを充填する。 その際、ぬれ色や白華の発生防止に留意する。
従来は、内装石張りの場合、意匠性を重視してねむり目地が採用されることが多かった。 しかし、兵庫県南部地震の被害状況調査によれば、構造体の変形により石材同士が目地部分で競い合うことによる被害が見られた。 これを避けるためには、内壁にあっても必要な目地幅を確保することが望ましい。
最下部の石材(根石)と床仕上げ材とは縁を切るため、伸縮調整目地を設ける。また、壁の出隅、入隅及び平面的に長い大壁は、通常の柱スパンごと( 6m程度 )に伸縮調整目地を設ける。 特に大理石仕上げで、ねむり目地とした場合は必須である。 窓枠等他の材料と取り合う部分にも伸縮調整目地を設ける。 地震による水平力を考慮した場合, 天井との取合い部の納まりとしては、壁面の石材を天井にのみ込ませるのではなく、図10.4.5に示すように天井をのみ込ませる方が天井材の衝突による石材の破壊を回避できる。
図10.4.5 天井との取合い部(JASS9より)
10章 石工事 5節 乾式工法
5.乾式工法
10.5.1 適用範囲
本節の適用範囲を外れる場合はもちろん、適用範囲内であっても地震力、風圧力等の外力の適切な設定と、石材物性の把握、許容耐力の設定が重要なポイントとなる。
石材の曲げ強度や仕口部耐力の設定は事前の試験により、統計的な処理に基づいて定めるのが一般的である。
③ 工程、工期短縮が図れる。
②物性値(曲げ、仕口部耐力、ばらつき)の把握が重要である。
建物高さを31m以下としているのは、建築基準法において、構造耐力上の検討条件が異なる場合があること、また、過去の実例でも高さ31mを超える建物での使用実績があまりないことにもよっている。
石厚 70mm以下としたのも実績による。1枚の施工可能な質量(40~60kg程度)からみて、厚い石材では施工性が悪くなる。
近年ではコンクリート壁以外の鉄骨下地等に石材を取り付ける場合もある。乾式工法は他の石張り工法に比べ対応しやすい工法ではあるが、下地の挙動等、個別の条件に対応したファスナー金物、目地形状等の検討が必要である。ここでは、地震時等の変形量が小さいRC造、SRC造のコンクリート壁を下地とする場合を想定している。
したがって、試験結果によっては目算と異なり、設計図書に記載の石材の寸法や厚さでは耐力上不適切で、寸法や厚さの設計変更が必要になる場合がある。この場合には、設計担当者と打ち合わせ、「標仕」1.1.8によって設計変更を行うなどの対応が必要である。
通常、4箇所のファスナーが等分に風圧力を負担することは困難であり、1箇所が遊ぶと考え、対角方向の2箇所で支持するものとして計算を行う。また、石材の性質のばらつきを考慮したうえで、更に安全率を見込んでいる。
最大強制変形角については個々の建築物によって異なるために特記によらなければならない。
したがって、外壁の乾式石張工事に先立ち、躯体コンクリートの打継ぎ部やその他の防水上の弱点部を防水処理する。
厚さは張り石の曲げ耐力や仕口部耐力に大きく影響する。 前記物性試験においても予定厚さのものに加え、5~10mm厚い石材での試験も実施しておいた方がよい。
なお 形状は矩形を原則とし、切欠き、穴あけ等を避ける。
穴あけ加工はドリルを用い、水冷しながらの工場加工とし、板厚の中央に正確にせん孔する。 振動ドリル等不要な衝撃を与える加工機器は用いない。
各種の織布・不織布と樹脂による裏打ち処理は万一の破損時に小片が脱落するのを防止すると同時に耐衝撃性の向上に効果がある。
現場打込みのコンクリート壁の精度、あと施工アンカーの精度を考慮すると、上下左右、出入り方向とも10mm程度以上の調整機構が必要となる。一次ファスナーのみの形式では調整が非常に困難になるうえ、隣接石材との調整も繁雑となることから、「標仕」では二次ファスナー用いる形式を前提としている(図10.5.1及び2参照)
図10.5.1 スライド方式のファスナーの例(JASS9より)
図10.5.2 ロッキング方式のファスナーの例(JASS9より)
乾式工法を外壁に適用する際には、建築基準法施行令第82条の4、平成12年建設省告示1458号に従って算出した風圧力に対して、張り石各部に発生する応力が部材の許容応力度を超えないよう、工法が特記される。
躯体の精度±10mmとファスナー寸法60mmから、石材裏面から躯体表面までの取付け代は70mmを標準とされた。過大に設定するとファスナーが大きくなり、経済性が損なわれる。
ファスナー金物用あと施工アンカーの施工に先立ち、躯体のセパレータ一部の止水処理、打継ぎ目地や誘発目地へのシーリング施工、場合により塗膜防水の施工を行う。コンクリートの欠陥部には適切な処置を施しておく。あと施工アンカーはそのアンカー耐力を確認する。
あと施工アンカーの穿孔が躯体鉄筋に当たることが多い。図面上の鉄筋位置と実際の位置との照合が必要であるが、鉄筋探知機等を利用するか、試験的な穿孔をする。鉄筋に当たった場合、穿孔位置を変更せざるを得ない。鉛直筋の場合には水平方向に逃げ、水平筋の場合には鉛直方向ヘ一次ファスナーの上下を反転して使用できる範囲内に逃げる。それでも納まらない場合には.ルーズホールを長くした一次ファスナーの役物の使用を検討する。
10.3.3 (b)(1)③で解説した打込み式のあと施工アンカー(めねじ形)は、許容引張耐力が小さいため.乾式工法では使用しない。
排水処理を考慮し、石材には裏面処理等のぬれ色・白華対策が必要となる(図10.5.3参照)。
図10.5.3 幅木部分の例
一次ファスナーの出入りはライナープレートを用い、上下左右はルーズホールで調整して取付け位置を定め、一次ファスナーをあと施工アンカーに固定する。 石張りの水平精度は一次ファスナーの取付け精度で決まるため.特に上下方向は載荷によるファスナーのたわみを考慮して正確に取り付ける。現場浴接は行わない。ダブルナット又は緩止め特殊ナットを使用する。
石材を二次ファスナーに連結するためのだぼを石材に固定する方法には、ファスナーの形式により二とおりがある。上の石の下部と下の石の上部を支える二次ファスナーが別個になっている場合(例えば「標仕」表10.2.4のスライド方式) には、あらかじめ上部のだぼを石材に固定しておくことができる。しかしながら、通しだぼのような場合(例えば「標仕」表10.2.4のロッキング方式)には、だぼはあと付けにならざるを得ない。
この繰返しにより、一次ファスナーで調整しきれなかった分を調整し.壁面の下部より上部に向かって石材を積み上げていく。
最下段のファスナーの場合は、張り石を仮置きし調整する。載荷によるファスナー金物のたわみやなじみにより、ファスナーと下部石材との間のクリアランスが確保できない場合は、一次ファスナで再調整する。下部石材と上部石材の間にスペーサー(アクリル製等)を用いた調整を行うと、ファスナーに荷重がかからず、上部石材の荷重が下部石材に伝達されてしまうので、このような用い方はしない。
だぼ穴充填材がはみ出すと変位吸収のためのルーズホールをふさいでしまう。充填量に留意すると同時に不要な充填材は硬化前に除去する。石材上端ファスナーとだぼでスライド機構を設ける場合は、だぼの出寸法の管理が重要である。抜け防止のため、つば付きだぼピンを用いることも多い。
乾式工法では.目地内にファスナの金物が配置されることになり、施工精度を向上させなければ十分に通りよく、クリアランスを確保した施工は難しい。そのため、上下の石材間にスペーサーを挿入して目地幅を調整することがあるが、スぺーサーを撤去しないと上部石材の荷重がファスナーではなく下部石材に伝逹されてしまう。このようなスペーサーの用い方をしてはならない。また縦長の張り石では地震に石材の回転が生じ上部ファスナーとの接触も生じかねない。目地幅は広めに設定することが望ましい。
10章 石工事 6節 床及び階段の石張り
6.床及び階段の石張り
10.6.1 適用範囲
人が直接接触する部位であること、様々な外力が作用すること、外部にも使用されることから次のようなことに留意する。
(6)部分的な凹凸がなく、平たんであること。
10.6.2 床の石張り
滑りに配慮し、本磨きや水磨きは避ける。 また、使用状況から、水掛りとなる部位や、水が持ち込まれやすい部位では粗面仕上げとする。
裏面処理材にはモルタルとの付着性が悪いものもあるので、目的に合った材料を使用して、小口部分も忘れずに処理を行う。また、ぬれ色は下地の適切な排水によっても防ぐことができるので、裏面処理材のみに頼るのではなく、排水計画の十分な検討が必要である。
また、エントランス、風除室等は外部からの雨水が持ち込まれやすく、また、外構から連続して防水がなされていることが多く、屋外側の水が、敷モルタル層を通じて屋内側に浸入し、ぬれ色や白華が発生している例がある。室内側にも防水を施す場合には防水立上りで内外を遮断し、排水経路を確保するなど、対応が望まれる。
また、外部から持ち込まれる雨水に対しては入口に排水溝を設けグレー チングを設置するなどの対策も有効である。 天候に応じてマットを設置したり、こまめなふき取りで対処するなど、維持管理面での対応も有効であり、維持管理 ・ 保全に関する情報として使用者に伝えておく必要がある。
下地コンクリー トの凹凸・不陸及び石厚の誤差を吸収するために、石厚に応じた取付け代が必要となる。 特に石厚 50mmを超える割石の場合には、石厚のばらつきが避けられないため、取付け代は 60mm程度とされている。
敷モルタルの厚さの不均ーが仕上げ面にも影響し、割れ、はがれ等の原因となるので、下地コンクリートの大きな不陸は、あらかじめモルタルで調節しておく。
柱脚部や周辺壁に記されたろく(陸)墨より張った水糸に合わせて石材を仮据えし、十分なたたき締めを行う。 あと工程の本据えで隙間が生ずると、割れ、はがれの原因となるので、特に入念に行う。
また、張付け用ペーストの量が少ないと、石裏に空隙ができ、水に接する外構や出入口回りではぬれ色が抜けにくいことがあるので十分な量を散布する。
張付け用ペースト散布後、再度石材を置き、木づちやゴムハンマー等で十分たたき締め、不陸や目違いがないように本据えを行う。
床石では、施工時の角欠けや、砂利等が挟まった時の角欠けも多いので、十分な幅の目地を取ることとしている。
目地幅は目地モルタルやシーリング材が確実に施工できるだけの幅を取る。外部は日射等による挙動の影響があるので、内部より広くする必要がある。
目地からはみ出した余分なモルタルは、乾いた布で速やかにふき取り、仕上げる。
シーリング材は2成分形ポリサルファイド系シーリング材が一般的である。まれに室内床で1成分形シリコーン系シーリング材が使用されるが、シリコーンシーリング材特有の汚染が発生したり、再施工時に新規シーリング材との接着性が阻害されるので好ましくない。
隅の立上り部分にも部材の挙動が集中する場合があるので 伸縮調整目地の設置を考慮する。
壁際等雨水のたまりやすい部位ではシーリング材も故障を起こしやすく、雨水の浸入が白華を招くことも多い。
図10.6.1 伸縮調整目地の例
10.6.3 階段の石張り
屋外階段では、躯体や下地で十分な水勾配及び排水経路を確保し、水が滞留しないことを確認する。水勾配が不十分な場合や滞留水がある場合には、モルタルで下地を補修しておく。踏面に使用する石材は防滑性を高めた粗面仕上げとする。また、床面の張り石との納まりや、排水溝との関係に留意する。 階段石がむく石の場合はアングル材等で下地コンクリートと敷モルタルのずれ防止を講ずる場合もある。
イ.板石を用いた例
ロ.むく石を用いた例
10章 石工事 7節 特殊部位の石張り
7.特殊部位の石張り
10.7.1 適用範囲
アーチ、上げ裏笠木、甲板等に石材を用いる場合はその条件の特殊性を十分考慮して、計画施工する必要がある。 施工面においても標準工法のほか、特殊な材料や工法等の併用が必要となる。
屋外の笠木等では真夏には石材表面が 60℃以上にもなる。 石材の熱伸縮を吸収するため、伸縮調整目地を適当な間隔に設ける。花こう岩の場合、線膨張率は 6~9 x 10-6/℃程度である。外壁等の部位が乾式工法であっても笠木、窓台等平場部分は湿式工法とすることが多い。白華の発生防止のため、笠木類を乾式工法で取り付ける時は金物が勾配なりに取り付けられるので、金物形状に注意する。
10.7.2 アーチ、上げ裏等の石張り
乾式工法同様石材の耐力が重要であるので、密度や吸水率等の一般物性のほか、曲げ、仕口部強度を十分に把握しておく。
見上げ面は原則として、目地合端にだぼ・引金物用の穴を設ける。石材の幅又は長さが、350mmを超える場合は、吊りボルト用の穴を石材 1 枚当たり2 箇所設ける。
なお、力石に代えて、アングル材をストーンアンカーで固定する方式も用いられる。
いずれの適用も特記されなければならない。
湿式工法及び空積工法の場合の取付け代(下地と石裏面の間隔)は,40mmを標準とする。
乾式工法及び吊りボルトを用いる場合の取付け代は,70mmを標準とされている。
やむを得ずあと施工アンカーを採用する場合には、上向きに削孔して取り付けなければならいため、品質のばらつきや常時の下向き荷重に対して十分な安全率を見込んで計画する。 吊りボルトの取付けも同様に考える。
役物で L型にする場合は工場で一体化してくる。 当て石を接着し、合端にはかすがいを取り付ける。
吊りボルトは化粧ボルトを用いるが、意匠上吊りボルトを見せたくない場合は、厚めの石材とし、象眼する方法もある(図10.7.1 参照)。
金物、治具の工夫により、仮支持枠類を省略できる。
図 10.7.1 上げ裏の施工
壁目地にシーリング材が施工されても裏面への雨水の浸入は長期的には防ぎようがなく、その雨水が下がり壁下部より滴下したり、上げ裏石内部に水がたまる故障例があるので、雨水排出機構を確保する必要がある(図 10.7. 2 参照)。
図10.7.2 上げ裏部 フラッシングの例
湿式工法を採用した場合には裏込めモルタルを充填するが、その方法は外壁湿式工法に準じる。
特殊部位では形状納まりが複雑となり、また、施工性も決して良くはない。加工や施工の誤差を吸収するためにも十分な目地幅を確保する。 したがって、他部位との取合い部は誤差の吸収に加え、石張り面の挙動を考慮した十分な幅の伸縮調整目地とする。
10.7.3 笠木、甲板等の石張り
笠木、甲板の石材は使用状況に応じた厚さとし、特に屋外に使用する場合は十分な厚さのものを使用する。笠木では石厚 40mm以上を採用することが 望ましい。
幅の小さい石材ではだぼに引金物を取り付け、引金物用の穴あけをなくし、加工に伴う欠陥を少なくする工夫もある。
乾式工法では目地合端両側に,2箇所だぼ用穴あけを行う(図 10.7.3 参照)。
図10.7.3 乾式工法による笠木の取付け例(JASS 9(一部修正)より)
人目に付かず軽微なうちの故障が発見されにくいので、破損時に備えた裏打ち処理も検討する。
「標仕」では、湿式工法の場合は 40mmを標準とし、乾式工法の場合は特記によるとしている。笠木下地となるパラペット天端は躯体に屋上側への水勾配を設け、雨水の滞留、流出による白華の発生等の不具合防止を固る。
石材の幅が 300mm以下の場合は、下地天端中央に引金物を設けて石材を取り付ける。
所定の位置にアンカーを設け、笠木、窓台の天端で水勾配を設ける。
(d)石材の取付け
笠木の長さは、900mm程度とし、下地清掃と十分な水湿しののち、目地合端の片側にだぼを取り付けておき、他端は、引金物を下地鉄筋に留め付け、通りよく目違い等のないように, 裏込めモルタルを隙間なく充填して固定する。
(ⅰ)石材の輻が 300mm以下の場合は、両端部及び目地合端中央に1箇所ずつファスナーを設ける。
いずれもファスナーは外れ止めで、鉛直荷重の支持は裏込めモルタルによる。全充填を基本とするが団子状に設置する場合もある。
外部の目地は 8~10mmを標準とし、シーリング材を充填する。これは、止水及び変位吸収を目的としたもので、2成分形ポリサルファイド系シーリング材の使用が多い。 内部目地ではモルタル目地としてもよい。ただし、他部材との取合い部や、変位の予想される部分では伸縮調整目地とし、シーリング材を充填する。
笠木と同じく水平部材である屋内の面台や棚板の取付けは、床の石張りと同様に行う 。
10.7.4 隔て板
特に床にのみ込ませた石材の下部は、清掃時に汚れた水を吸い上げ、内部に染み込んだ汚れとなるので注意する。
石材の加工は、目地の合端にだぼ用の穴あけ、上端の端部にはかすがい用の穴あけを行う。
隔て板と前板の固定は縦方向に 2 箇所以上のだぼを用いて固定する(図 10.7.4参照)。
図 10.7.4 隔て板の例
10.8.1 石先付けプレキャストコンクリート工法
したがって、仕上げ工程の高所での危険な作業が減り、資材運搬の効率化や労働カ・輸送の削減、工期短縮、地震力や風荷重に対する安全性向上等の長所があり、湿式工法や乾式工法では対応できない高層の建物や柔構造の建物等に多く採用されている。また、特殊な部位や特別な性能(電波吸収等)をもたせる外壁で張り石仕上げとする場合は、ほとんどがこの工法である。
石先付けプレキャストコンクリート工法では,石材裏面の処理が十分に行えるので、ぬれ色や白華の発生を防ぐことができる。また、プレキャストコンクリートに先付けされている石材は、建物の動きによる変形が直接影響しないため、割れ等を生じることがほとんどない。
11章 タイル工事 2節 セメントモルタルによる陶磁器質タイル張り
11.2.1 適用範囲
(a) セメントモルタルによるあと張り工法の場合の作業の流れを図11.2.1に示す。
図11.2.1 セメントモルタルによる陶磁器質タイル張り(あと張り上法の場合)の作業の流れ
(b) 施工計画書
タイルの製造工場は、磁器質タイルの場合、通常設計図書に指定されるが、指定されない場合は、工場の規模、受注能力等を検討して承諾することになる。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
⑱ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
外装タイルの施工に関して、(-社)全国タイル業協会では、タイル工事現場指導員制度を設けており、施工品質の確保に努めている。
11.2.2 材 料
(a) タイルの種類及び品質
(1) JIS A 5209(陶磁器質タイル)の抜粋を次に示す。
タイルのJISは国際規格との整合を図ることを目的の一つにして、平成20年に大幅に改正されている。従来のきじの質による区分(磁器質タイル、せっ器質タイル、陶器質タイル)がなくなり、吸水率の区分が設けられて吸水率によって I類、II類、Ⅲ類に分類されたが、 I類が従来の磁器質、 II類がせっ器質、Ⅲ類が陶器質にほぼ該当する。
4. 種 類
タイルの種類は、次による。
a) うわぐすりの有無による区分
1) 施ゆうタイル
2) 無ゆうタイル
b) 主な用途による区分
1) 内装壁タイル
2) 内装壁モザイクタイル
3) 内装床タイル
4) 内装床モザイクタイル
5) 外装壁タイル
6) 外装壁モザイクタイル
7) 外装床タイル
8) 外装床モザイクタイル
備 考
1. ユニットタイルとした場合の区分は、次による。
a) 内装壁ユニットタイル
b) 内装壁モザイクユニットタイル
c) 内装床ユニットタイル
d) 内装床モザイクユニットタイル
e) 外装壁ユニットタイル
f ) 外装壁モザイクユニットタイル
g) 外装床ユニットタイル
h) 外装床モザイクユニットタイル
2. モザイクタイルより大きいタイルを混用するモザイクユニットタイルは、ユニットタイル全面積の50%以上がモザイクタイルで構成されなければならない。
c) 成形方法による区分
1) 湿式成形タイル
2) 乾式成形タイル
d) 吸水率による区分
1) I類(3.0%以下)
2) II類(10.0%以下)
3)Ⅲ類(50.0%以下)
参 考
吸水率による区分は、測定方法の変更に伴い、 I類は旧規格の磁器質、 II類はせっ器質、Ⅲ類は掏器質にほぼ該当する。
5. 品質特性
タイル及びユニットタイルの品質特性は、次による。
なお、製造条件が平物と同一の役物は、 5.9~ 5.17の品質特性の試験を省略してもよい。また、ユニットタイルの場合、5.1 ~ 5.17の品質特性を満足したタイルによって構成しなければならない。5.1 表面品質a) タイルの表面品質
タイルの表面品質は、JIS A 1509-2の4.(表面品質の検査方法)に規定する検査を行ったとき、次の基準を満足しなければならない。
1) 平 物
平物の表面品質は、表1による。
表1 平物の表面品質の基準
2) 役 物
役物の表面品質は、表2による。表2 役物の表面品質の基準
b) ユニットタイルの表面品質
ユニットタイルの表面品質は、JIS A 1509-13に規定する検査を行ったとき、表3の基準を満足しなければならない。ただし、役物ユニットタイルには適用しない。
表3 ユニットタイルの表面品質の基準
5.2 形 状
タイルの形状は、製造業者が定める。通常よく使用する標準的な平物及び役物、定形タイル及び不定形タイルの例を付図1に示す。また、 タイルの表面形状は、平面以外の形状とすること又は装飾のために模様を付けることができる。なお、使用部位表示で屋外壁及び屋外床を使用可能とするタイルは、裏あしを付ける。ただし、屋外壁用の外装接着剤張り専用のタイル及び屋外床用のタイルで、適切な施工方法を、カタログ、説明書などによって明示する場合は、裏あしがなくてもよい。また.屋外壁の場合、タイルの裏あしの形状及び高さは、5.7の規定による。
備 考
使用部位で屋外壁に使用するタイルには裏あしを規定しないが、9.3に示すように、ロビー、ホールなどで階高が1階を超えるモルタル施工するタイルには、裏あしを付ける。
5.3 寸 法
タイル及びユニットタイルの製作寸法は、製造業者が定める。通前よく使用するタイルの標準的な長さ及び幅の例を付図3~付図6に、ユニットタイルの標準的な長さ及び幅の例を付図2に示す。
a) 長さ及び幅の許容差
1) タイルの長さ及び幅の許容差
タイルの長さ及び幅の製作寸法に対する許容産は、JIS A 1509-2の5.(寸法及びばちの測定方法)に規定する測定を行ったとき、表4に示す数値とする。
表4 タイルの長さ及び幅の許容差
2) ユニットタイルの長さ及び幅の許容差ユニットタイルの長さ及び幅の製作寸法に対する許容差は、JIS A 1509-13に規定する測定を行ったとき、±1.6mmとする。
b) 厚さの許容差
タイルの厚さの製作寸法に対する許容差は、JIS A 1509-2の5.(寸法及びばちの測定方法)に規定する測定を行ったとき、表5に示す数値とする。
表5 厚さの許容差
5.4 ば ちタイルのばちの基準は、JIS A 1509-2の5.(寸法及びばちの測定方法)に規定する測定を行ったとき、表6に示す数値以下とする。ただし、各辺が50mm以下のタイルについては、JIS A 1509-2の4.(表面品質の検査方法)に規定を行ったとき、目立たなければよい。なお、不定形タイルには適用しない。
表6 ばちの基準
5.5 反 り
タイルの面反り、ねじれ、辺反り及び側反りの基準は、JIS A 1509-2の6(反り及び直角性の測定方法)に規定する測定を行ったとき、表7に示す数値以内とする。ただし、役物及び各辺が50mm以下の平物については、JIS A 1509-2の4.(表面品質の検査方法)に規定する検査を行ったとき、目立たなければよい。なお、不定形タイルには適用しない。
表7 反りの基準
5.6 直角性タイルの直角性の基準は、JIS A 1509-2の6.(反り及び直角性の測定方法)に規定する測定を行ったとき、表8に示す数値以下とする。ただし、役物、各辺が50mm以下の正方形状の役物及び短辺が50mm以下の長方形状の平物については、JIS A 1509-2の4.(表面品質の検査方法)に規定する検査を行ったとき、目立たなければよい。なお、不定形タイルには適用しない。
表8 直角性の基準
5.7 裏あしの形状及び高さ使用部位表示で屋外壁を使用可能とするタイルの裏あしの形状及び高さは、JIS A 1509-2の7.(裏あしの形状及び高さの測定方法)に規定する測定を行ったとき、次による。
a) 裏あしの形状形状は、あり状とし、製造業者が定める。
あり状とは、図1の例1に示すように、裏あしのほぼ先端部の幅(Lo)とほぼ付根部の幅(L1)とが、Lo> L1の関係にある形状をいう。また、例2に示すような裏あしの場合、高さ( h )の中央部付近の幅( L2 )が、Lo> L2を満足しなければならない。なお、例3に示すように、例1及び例2以外の形状であっても、ほぼ付根部の幅( L3 )が、Lo> L3 の条件を滴たしているものについては、あり状とみなす。
図1 裏あしの形状の例
b) 裏あしの高さ
制作寸法で定めた部分の裏あしの高さは、表9の基準を満足しなければならない。ただし、タイルの端部に傾斜を設けたときは、その部分を除く。
表9 裏あしの高さの基準
5.8 役物の角度タイルの役物の角度の許容差は、JIS A 1509-2の8.(役物の角度の測定方法)に規定する測定を行ったとき、±1.5° とする。
役物の角度の許容差は、複数の面で構成され、かつ、隣接する面との角度が直角の関係にあるものに適用する。ただし、不定形タイル、人為的に表面を凹凸にしたタイル、及び各面又は小さい方の面の長さが 45mm未満のタイルには適用しない。5.9 吸水率タイルの吸水率は、JIS A 1509-3に規定する測定を行ったとき、表10に示す基準を渦足しなければならない。
なお、試験は、煮沸法又は真空法のいずれを採用してもよい。
表10 吸水率の基準
5.10 曲げ破壊荷重及び曲げ強度
タイルの曲げ破壊荷重及び曲げ強度は、JIS A 1509-4に規定する測定を行ったとき次による。ただし、各辺が 50mm以下のタイルには適用しない。
a) 曲げ破壊荷重
タイルの曲げ破壊荷重は、表11に示す基準を満足しなければならない。
表11 曲げ破壊荷重の基準
b) 曲げ強度
タイルの曲げ強度は、測定i結果を記録する。
5.11 耐摩耗性
使用部位表示で屋外床及び屋内床を使用可能とするタイルの耐摩耗性は、次による。
a) 無ゆうタイルの耐摩耗性
無ゆうタイルの耐摩耗性は、JIS A 1509-5に規定する試験を行ったとき、表12に示す基準を満足しなければならない。
表12 無ゆうタイルの摩耗体積の基準
b) 施ゆうタイルの耐摩耗性
施ゆうタイルの耐摩耗性は、JIS A 1509-6に規定する試験を行い、その結果を表13に示すクラスに分類して記録する。
表13 施ゆうタイルの耐摩耗性評価のためのクラス分類
5.12 耐熱衝撃性
局部的な熱衝撃を受ける箇所に使用するタイルの耐熱衝撃性は、JIS A 1509-7に規定する試験を行ったとき、切れ、貫入などの欠点が生じてはならない。
5.13 耐貫入性
施ゆうタイルの耐貫入性は、JIS A 1509-8に規定する試験を行ったとき、貫入が生じてはならない。ただし、装飾のために貫入を施したタイルには適用しない。
5.14 耐凍害性
凍害を受けるおそれのある場所に使用するタイルの耐棟害性は、JIS A1509-9に規定する試験を行ったとき、タイルの表面、裏面又は端部に、ひび割れ、素地又はうわぐすりのはがれがあってはならない。
5.15 耐薬品性
タイルの耐薬品性は、JIS A 1509-10に規定する試験を行い、その結果を表14に示すクラスに分類して記録する。
表14 タイルの耐薬品性評価のためのクラス分類
5.16 鉛及びカドミウムの溶出性
食物が直に接する箇所に使用する施ゆうタイルの鉛及びカドミウムの溶出性は、JIS A 1509-11に規定する試験を行い、その結果を記録する。
5.17 耐滑り性
水ぬれする場所の床に使用するタイルの耐滑り性は、JIS A 1509-12に規定する試験を行い.その結果を記録する。
JIS A 5209: 2010
(2) 屋外の壁に使用するタイルの裏あしについては、(1)に示すようにJIS A 5209で規定されており、形状をあり状とし、その高さは、タイル表面の面積に応じて定められている。
タイルの裏面の例を図11.2.2に示す。
図11.2.2 タイル裏面の例
(3) タイルの材料は、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)において「標仕」に基づき品質を確認し、評価しているので、この結果等を参考にするとよい。ただし、外壁の接着剤による陶磁器質タイル張りに用いるタイルは、平成26年4月以降の適用となる。
(b) タイルの呼称
一般市販タイルの呼称及び寸法を表11.2.1に示す。
表11.2.1 一般市販のタイルの呼称及び寸法
(c) ユニットタイル
モザイクタイルはユニットタイルとして用いられる。また、小口未満の外装壁夕イル並びに100角、150角程度の小型の外装床、内装床及び内装壁タイルもユニットタイルとして用いられる場合が多い。ユニットタイルの寸法及び連結方法を表11.2.2並びに連結方法の例を図11.2.3に示す。ユニットタイルは作業性が良く、接着に支障がないものでなければならない。
なお、外装壁モザイクタイルの樹脂連結ユニットは、表紙がないため、現場での産業廃棄物を減量できるという特徴がある。


図11.2.3 ユニットタイル連結方法の例
(d)役物タイル
(1) 役物タイルには一体成形のものと接着加工したものとがある。一体成形とは成形品をそのまま焼成したものであり、接着加工品は平物タイルを切断し、エポキシ樹脂等で接着したものである。二面の90°曲がりの役物は標準品として一体成形で製作される場合が多いが、三面以上の曲がりや90°以外の角度のもの、標準寸法以外のものは接着加工で製作される。ただし、接着に使用するエポキシ樹脂は耐久性に優れた品質のものでなければならない。
役物タイルの例を図11.2.4に示す。
(2) 窓まぐさ及び窓台部分に使用するタイルは、窓、出入口戸等との取合部ともなるので、その機能並びに納り等を考慮し、水切りの良いものとする。
図11.2.4 役物タイルの例
(e) 見本品等
なお、形状、寸法裏あし等について、指定の製品ができることを確認する。
(i) 特殊な色調のもの、あるいは屋外のタイルで大量に使用する場合等で特記された場合は、見本焼きを行う。
(ii) 見本焼きによってタイルの色調、色むら、配色(2色以上のタイルを混合する場合)等を確認する。
① 当該製造工場の見本タイルと同じもの及び類似の見本タイルより作る場合は3週間程度必要である。
② タイルの型から作製する場合(同形状、同寸法でも表面のテクスチュアを変える場合等を含む。)、乾式成形法のタイルは7週間程度、湿式成形法のタイルは6週間程度必要である。
(i) 試験張りは、相当量のタイル張りを行う場合でタイルの色調、配色及び目地の幅、色等を決定するために行う場合と、タイルの色調、配色を決定後、目地割り、目地幅等の決定のために行う場合があり、試験張りを行う場合には特記される。
(ii) 試験張りには、1週間程度必要である。見本焼きのあと、試験張りを行ってタイルを決定する場合は、双方に要する期間を考慮に入れておく必要がある。
陶磁器質タイルは、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」(平成12年5月31日 法律第100号)に基づく「環境物品等」の対象とされている。また、環境物品の判断基準等は、「環境物品等の調達の推進等に関する基本方針」(平成13年3月9日 環境省告示第11号)に示されているので、特記により環境物品として指定された場合は、これに適合することを製造業者等のカタログ等の資料により確認する必要がある(参考資料の資料1 1.3 (g)参照)。
11.2.3 張付け用材料
(a) セメントは、凝結時間、強度発現の速度、乾燥収縮の程度、作業性等を考慮して選択する。一般的にはJIS R 5210(ポルトランドセメント)に適合する普通ポルトランドセメントが使用されている。
(b) 細骨材は、15.2.2(b)によるが、「標仕」表11.2.1では細骨材の最大粒径が定められている。
細骨材の最大粒径が 2.5mmの場合は、川砂をふるいに通したもので得られるが、最大粒径が1.2mn及び 0.6mmの場合は、川砂をふるいに通しても量が得られないので、けい砂あるいは寒水砂が用いられる場合が多い。
(1) けい砂は、鋳型用のものが JIS G 5901(鋳型用けい砂)に粒度及び粒度分布が定められているので、これを用いるのがよい。種別は、最大粒径1.2mmの場合は20号、最大粒径 0.6mmの場合は35号である。
(2) 寒水砂は、大理石を砕いて製造される細骨材で、モルタル用骨材として用いられる粒度のものが市販されており、粒度の異なる2種類程度を現場で混合して用いるのがよい。
(c) 混和剤は、保水剤及びセメント混和用ポリマーディスパージョンが使用される。
(i) 張付けモルタルには、夏期に限らず、四季を通じて保水剤を使用するのがよい。
(ii) 保水剤は、モルタルの乾燥を防ぎ、作業性を向上させる利点をもっている。しかし、混入量を誤ると、モルタルの流動性が増し、だれを起こして作業が困難になるおそれがあるので、規定された量を守ることが重要である。混人量については,15.2.2(d)(4)を参照されたい。
(2) セメント混和用ポリマーデイスパージョン(15.2.2 (d)(5)参照)は、接着性能の向上、張付けモルタルの耐久性の向上、ドライアウトの防止等の目的で使用される。接着性を改善するためには、混入量はセメントに対するポリマーデイスパージョン中の全固形分の質量比で、5%程度混入する必要がある。5%程度とするには、セメント1、砂1~2の混合割合の場合、固形分比45%のポリマーデイスパージョンでは約4倍の希釈液で混練する。ただし、温度又は風の影響で可使時間が短くなることがあるため、試験施工等によって作業性を確認するとよい。
既製調合の張付けモルタルは、セメント、細骨材、混和剤等を工場において所定の割合に配合したものであり、現場調合モルタルに比較して品質のばらつきが少ない。
品質基準としてJIS規格はないが、 (-社)公共建築協会の「建染材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4(e)参照)において、表11.2.3のように既製調合モルタル(タイル工事用)の品質・性能基準を定め、評価を行っているので、その結果を参考にするとよい。

(e) 吸水調整材は.15.2.2(e)による。
(f) 既製調合の目地材は、セメント、細骨材、顔料、混和剤等を工場において所定の割合に配合した材料である。タイルの種類、日地幅、目地色を確認して材料を選択する。
なお、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)において、表11.2.4のように既製調合目地材の品質・性能基準を定め、評価を行っているので、その結果を参考にするとよい。

11.2.4 その他の材料
(a) 引金物は、径0.6mm以上のなましステンレス鋼線(SUS304)を使用する。銅線は、腐食しやすいので使用しない。引金物の取付けは、図11.2.5に示すように湿式成形法のタイルはタイルに設けられた穴に通し、乾式成形法のタイルはエポキシ樹脂により接着する。
図11.2.5 引金物を取り付けたタイルの例
(b) シーリング材は、9章7節による。耐久性、伸縮追随性、水密性、作業性を考慮するとともに、タイル表面を汚さないものを選択する。
11.2.5 張付けモルタルの調合
(1) モルタルの調合は「標仕」表11.2.2による。また、砂については11.2.3 (b)による。
(2) 化粧目地用モルタルは、目地幅により砂の容積比は異なる。通常、次のようにするのがよい。
(3) 既製調合モルタル及び既製調合目地材の使用に当たっては、タイルの種類、工法、目地幅等に適合することを確認する。
ただし、室内で少量の場合等は、手練りでもよい。
(2) 粉末状保水剤を使用する場合は、セメントと保水剤を空練り後、砂を加えて空練りし、次に水を加えて十分に錬り混ぜる。
(3) 液状保水剤を使用する場合は、あらかじめ所定の濃度に希釈した溶液を、空練りしたモルタルに混入し、次に水を加えて十分に練り混ぜる。
11.2.6 施工時の環境条件
(a) 外壁タイル張りにおいて、外壁面がぬれるような降雨及び降雪の場合、クレーン等が運行できない強風時等、タイル工事に支障がある時並びにこれらが予想される場合は、施工を行わない。
(b) 冬期のセメントモルタルによるタイル張りにおいて、塗付け場所の気温が 3℃以下及び施工後 3℃以下になると予想される場合には、下地モルタル、張付けモルタル及び目地モルタルが初期凍害を受ける危険性があるため、仮設暖房・保温等による施工面の養生を行う。このような養生を施しがたい場合は、作業を中止する。
11.2.7 施 工
(1) 一般的な割付け方法には次の2つの方法があるが、タイルの割付けの場合には、(i) によることが大部分であり、(2)以下の事項を考慮して割付けを行っている。
(i) 規定された寸法の材科を用い、基準線(面の中心あるいは端部柱形、梁形、建具回りの伸縮調整目地等)を定め、その間に割り付ける方法:タイル,ボード類、ブロック等
(ii) 概略の材料寸法を定めておき、基準線の間に割付け目地を規定の寸法として正確な材料の製作寸法を定める方法:石材、プレキャストコンクリート製品等
(i) 建具寸法、位置等のわずかな変更により、タイルの割付けが整然と行える場合は建具の方を調整するとよい。
(ii) 躯体寸法等下地のわずかな変更により、タイルの割付けが整然と行える場合は、躯体等の下地を調整するとよい。
しかし、この場合でも構造体の断面不足を生じないようにする。
(iii) 規格化された寸法より多少異なった寸法のタイルも大量にまとまれば、規格品に比べて割高になるが製造できる。ただし、製造に日数を要する。形状についても、寸法が大きくなると、焼成時にひずみが増し、不良品が多くなるなどがあるので、製造に無理のないものにしなければならない。
(iv) 役物タイルは、なるべく規格化された寸法のものを用い、その種類を少なくする。
(v) 床面に勾配のある場合は、壁タイルを勾配に合わせるか、モルタル等の他の材料によって勾配を調整するかを検討する。
(vi) 目地寸法は、小口、二丁掛けで 6~11mm程度である。6mm以下では、目地押えが困難になりやすい。大形床タイルのような大きなものでは、6 ~ 10mm程度にしている。
(ⅶ) タイル面に取り付ける金物、設備機器等の位置をタイル割りに合わせる。
(ⅷ) 躯体寸法、建具寸法等を定めるときは、タイル割り図を作成しておき、これに合わせる。やむを得ない場合でも、タイル割りに無理のないことを確かめておく。
(i) 建具や躯体との関係等は、外装の場合と同様である。
(ii) タイルはすべて規格化されたものを用いるため、端部には切り物が入りやすいが、半分以下の寸法のものは用いないようにする。また、切り物はなるべく目立たない部分に用いるようにする。
なお、隅部では、切り物が隣接するのを避ける。
(iv) 棚の高さ、隔て板の大きさ等は、タイルの目地に合わせる。
(v) 電気、機械の機器の取付け位置、配管の取出し口等は、タイルの目地位置に合わせる。そのため、タイルの割付け図には、機器及び配管の取出し口の位置を記入させ、正確な位置を定めておく。
(vi) 目地寸法は 2~2.5mmが多いが、1.5mmでもできる。
図11.2.6 外部タイル割付けの例(二丁掛けの場合)
図11.2.7 外部タイル割付けの例(小口の場合)
(ii) 内装タイルを使用する場合の例
図11.2.8 隔て板の割付け
図11.2.9 棚板の納まり
図11.2.10 建具枠の納まり
図11.2.11 隔て板の納まり
図11.2.12 便所タイルの割付け
(1) コンクリート素地面をMCR工法とする場合は、「標仕」6章8節に、目荒し工法(高圧水洗)とする場合は、「標仕」15.2.4 (c)による。
(2) 張付けモルタルのドライアウトによる硬化不良や接着不良を防ぐため、下地モルタルが乾燥している場合には、タイル張り前に十分水湿しを行うか又は吸水調整材を塗布する。ただし、改良積上げ張りの場合、吸水調整材の塗布は行わない。
(iii) 吸水性のタイルは、必要に応じて、適度の水湿しを行う。
この工法は、張付け面積の小さい場合以外にも水勾配を付ける場合等、精度の高いタイル床仕上げを要求される場所に適している。しかし、下地の強度が (2)の工法より弱いため、車や重量物が乗り人れる場所への使用は避ける。
(ii) 張付けモルタルはセメントペーストではなく、「標仕」表11.2.2の調合によるモルタルを使用する。
一般床タイル又はユニットタイルは、下地に張付けモルタルを塗り付けて、木づち、たたき板等で目地部分に張付けモルタルが盛り上がるまでたたき押さえて、張り付ける。壁タイル張りと同様、モルタルの塗置き時間が長くならないように注意する。大形床タイル張りでは、タイル裏面への付着状況に注意を払う。事前に試験施工を行って、タイル裏面への充填性を確認したうえで、工法選定を行うとよい。
図11.2.13 小面積の場合の床タイル張り
(2) (1)以外の場合:張付け面積の大きい場合(エントランスホール、ポーチ、ピロティ等)(図11.2.14参照)
この工法は、車や重量物が乗り人れる場所に使用される。
(ii) 張付けモルタルの調合及びタイル張りの方法は、(1)(ⅱ)と同じである。

図11.2.14 大面積の場合の床タイル張り
(3) 水を使用する箇所の床には、必ず水勾配を付けて水たまりができないようにする。勾配は1/100~1/150にするのがよく、1/200が限度である。
なお、張付け材料の塗厚は「標仕」表11.2.3による。


図11.2.15 「標仕」の工法
(2) 密着張り(ヴィブラート工法)(図11.2.15及び図11.2.16参照)
(i) 在来の圧着張りは、下地モルタル(中塗りまで仕上げる。)面にモルタルを塗り、これにタイルを押し付けて張り、木づちの類でたたき締めてタイルとモルタルをなじませていたが、本工法は、木づちの代わりにタイル張り用振動機(ヴィブラート)を用いてタイル面に特殊衝撃を加えて、タイルをモルタル中に埋め込むようにして張り、目地部に張付けモルタルを盛り上がらせ、そのモルタルを目地ごてで押さえて、目地も同時に仕上げる工法である。この時、張付けモルタルの塗厚が薄い場合や、タイルの押さえ込み不足により深目地となりやすいが、目地深さがタイル厚さの1/2より深い場合には、張付けモルタル硬化後に目地深さがタイル1厚さの1/2以下となるように目地詰めを行う。
なお、タイル面に衝撃を加えることにより、下地モルタルと張付けモルタルの接着性が著しく向上する利点もある。
図11.2.16 密着張り(ヴィブラート工法)
(ii) 張付けモルタルを一度に厚く塗り付けると、下地に十分なこて圧で塗り付け ることが難しく、また、張付けモルタルのだれが生ずるので、必ず二度塗りとする。一度目のモルタル塗りは、下地面への付着が良くなるように、こて圧をかけてしごくように塗り付ける。張付けモルタルの塗厚は裏あしの高さ等を考慮して決める。その目安は5〜8mmとする。一度に塗付け可能な面積の限度は、一人が施工可能な面積として2m2以下、かつ、20分以内に張り終える面積とする。張付けモルタルに触ると手に付く状態のままタイル張りが完了できる作業を目安とするとよい。
なお、くし目ごてを用いるとタイル裏面への充填性が十分に確保できないため用いてはならない。
張付けモルタルの締まり具合の確認が重要である。
(iv) モルタルに混入する砂の最大粒径は、「標仕」表11.2.1では2.5mmと定められているが塗厚が5mm程度、目地幅が 8mm以下の場合は、塗付け作業及び目地部のモルタルの盛上がり及び仕上りを考え、粒径 1.2mmのものを用いるのがよい。
(v) タイル張付けは、上部より下部へと張り進めるが、まず1段置きに水糸に合わせて張り、そのあと間を埋めるようにして張る。上部より続けて張ると、タイルのずれが起きやすく目地通りが悪くなる。
(vi) 本工法のタイルの接着力は、衝撃を与える時間に影響されるので適正な衝撃時間を与えなければならない。タイルの大きさと適正な衝撃時間、衝撃位置の関係は表11.2.6のとおりである。
なお、張付けモルタルの塗置き時間は20分程度までが望ましい。

(vii) 密着張りのプロセス管理法としては、タイル裏面への充填性の検査が望ましい。密着張りの場合、タイルの裏あしに張付けモルタルがかん合して、一体性が確保されていることが、最も重要な管理ポイントの一つである。検査は、図11.2.17に示すように、タイルを張り付けた直後に、タイルをはがしてタイル面への充填性を確認する。判定基準は、タイル裏面の充填面積の割合(充填面積率)で管理することが一般的で、そのときの管理下限値を90%程度にしていることが多い。
図11.2.17 タイル裏面への充填性検査(密着張り)(JASS 19より)
(i) タイル張りの作業においては、出隅部・入隅部・開口部等を基準として、その間にタイルを張り込む形でタイル張りを行う。タイル張りの基準となる箇所には、あらかじめ決定したタイル割りに基づいて、これらを目地通りよく張り上げるため、上下引き通しの基準線を設ける。
階段が多い高層の建築物の場合は、張力をかけることができ、風等による揺れの少ないピアノ線を、また低層の建築物の場合はナイロン製の糸を水糸として用いること多い。
これらのタイル張りは、仕上り面精度を確保する基準となるので慎重に行う必要がある。
(iii) 改良積上げ張りでのタイル張りは、タイル裏面に小形の金ごてを用い、張付けモルタルを仕上り代よりも3〜4mm程度厚めに塗り、仕上り墨を見ながら隅角部の両辺にわたって位置を正確に、また均等によくたたき込む。
(iv) タイルヘのモルタルの塗付けは、外装タイルの場合はタイル裏面の裏あし先端から4〜7mm程度、内装タイルの場合はタイル裏面から13〜18mm程度隙間のないように行う。通常、タイルを手に持ち、れんがごて等を用いて塗り付けるが、タイルの隅角部にはモルタルがまわらないことがある。塗厚を一定にし、隅々までモルタルを塗り付けるため、合板等で型を作り、ここにタイルを敷き並べて塗り付けるとよい。ただし、モルタルを塗り付けたタイルは、長くとも 5分以内に張り付けることが肝要である。
(v) 一般に改良積上げ張りは、下部から張り上がる。小口・二丁掛けの形状では、ずれが生じることは少ないが、タイルの形状が大きかったり、厚さが厚かったりするとずれが生じることがある。ずれを止めるためにセメントの粉を掛けることがあるが、白華発生防止のため絶対行ってはならない。ずれが生じる場合は目地に棒等をかって上へ張り進める。
また、タイルを上へ積み上げていくとき、下部のタイルに荷重が掛かるような場合が少なくない。タイルのはく離を防ぐため、1日の施工高さを1.5m程度と「標仕」では規定している。
(vi) 内装の場合で、張付けモルタルの量が適切でなく隙間ができた場合はモルタルを補充する。
(ⅶ) 化粧目地は「標仕」11.2.7(c)(3)(iv)による。
下地側には、軟らかめに練ったモルタルを金ごてを用いて薄くこすり付けるように塗り付けて、下地面との密着を確保したのち、直ちに張付けモルタルを塗り重ねて4〜6mm程度に塗り付ける。
定規を用いて平たんな面を出したのち、木ごて・発泡スチロール板(約200 × 200 × 30mm程度)で表面を平たんにするとともに粗面i状態とする。この面の上にタイル張りを行うが、タイル張りまでの時間は、モルタル練りからタイル張り終了まで60分以内とする。
(ii) タイル裏面に張付けモルタルを塗り付ける際は、タイルを固定するための専用の治具等を用いて、3~4mm程度の厚さで、こて圧をかけて、タイル裏あし全体にモルタルが充填するように塗り付ける。この張り方の重要な管理ポイントは、張付けモルタルの塗置き時間である。作り置きをしないで、タイル裏面に張付けモルタルを塗り付けたタイルは、直ちに張り付ける作業手順とする。
(iii) タイル張りを終了したのち、目地の通りを確認し、更に、目地部の盛り上がったモルタルを目地ごて・木の棒等を用いて取り除き、ささら(細い割り竹をたばねたもの)等を用いて掃除しておく。
(iii) タイル裏面にモルタルを塗り付けるのに使用するマスク板(図11.2.18及び表11.2.7参照)は、この工法に専用のもの((-社)全国タイル業協会で入手できる)を用いる。
現在用いられているマスク板は、肉厚が 6〜7mmのモザイクタイルの場合、マスクの厚さが 3mmではタイル裏面へのモルタルの充填が不足し、また、マスクの厚さが5mmでは、張付けたタイルがずれやすく、目地部へのはみ出しが多く汚れが生じやすい 。 そのため、マスクの厚さは 4mmが適切である。
図11.2.18 マスク板の形状の一例

(iv) マスクを介しての張付けモルタルの塗付けは、金ごてを用いて行う。ゴムごて等を用いると塗厚が薄くなり、所定の塗厚が得られないため注意が必要である。
(v) タイル張付けは、目地通りを定めた墨に合わせて、目地部に張付けモルタルがはみ出すまで、たたき板でたたき押えをしながら張り付ける。
マスク張りの重要な品質管理ポイントは、張付けモルタルの塗置き時間の管理である。作り置きをしないで、タイル裏面に張付けモルタルを塗り付けたタイルは、直ちに張り付ける作業手順とする。マスク張りにおけるタイル浮きの最大原因は、タイルのたたき込み不足によるものである。張付けモルタルの塗布量が少なく、十分なたたき込みができないと、タイルの四隅に隙間が生じて、目地部から雨水が浸入しタイルの浮きにつながるため、目地部分の表紙張りの一部が、はみ出したモルタルにより湿るまで、表紙張りユニットタイルのたたき押えを十分に行う。
この水湿しは、水を含ませたスポンジ、霧吹きあるいは左官用水はけによるが、園芸用薬剤散布のための霧吹きが短時間で均ーに水湿しができる。紙はがし後著しい配列の乱れがある場合は、速やかにタイルの配列の乱れを、金ごてと小形ハンマーを用いて修正する。モルタルの硬化が進行してからは、タイルの接着を損ねることになりかねないため、張付けモルタルが軟らかいうちに行う。この時間の判断には十分な注意を払う必要がある。また、修正後は再度たたき板でたたき押えをする。
(i) 張付けモルタルの派付け面積を3m2以下と「標仕」では規定している。これはモルタル下地面に張付けモルタルを塗り、タイルをたたき押さえながら張り進める工法では、張付けモルタルを塗り付けたのち、タイル張りまでの時間(オープンタイム)の長短により、タイルの接着性が大きく影響を受けるので、これを規定する必要があるためである。
張付け可能なオープンタイムは、季節・風向き・湿度・日射の有無等様々な因子が作用するため、張付けモルタルの締まりや皮ばりがりしいときには、塗付け面積を小さく管理する必要がある。
(ii) 張付けモルタルの塗付けは、いかに薄くとも2度塗りとし、1度目は薄く下地面にこすりつけるように塗る。これは、下地モルタル面の微妙な凹凸にまで張付けモルタルが食い込むようにするためである。
張付けモルタルの塗付けは、金ごて押えとすることが原則である。
(iii) たたき押えは、全面にわたって十分に行う必要があるが、その目安は、タイル目地に盛り上がった張付けモルタルの水分で、紙張りの目地部分がぬれてくることによって判断する。
(iv) モザイクタイル張りのプロセス管理法としては、タイル裏面への充填性の検査が望ましい。モザイクタイル張りの場合、タイルの裏あしに張付けモルタルがかん合して、一体性が確保されていることが、最も重要な管理ポイントの一つである。検査は、 タイルを張付けた直後に、タイルをはがしてタイル面への充填性を確認する。判定基準は、タイル裏面の充填面積の割合(充填面積率)で管理することが一般的で、その時の管理下限値を90%程度にしていることが多い。
(v) 表紙張りのユニットタイルは、タイル張り終了後、張付けモルタルがやや締まったと思われるころ(夏期は 20分程度まで、冬期は40分程度まで)、ユニットタイルの紙にスポンジ又は霧吹きにより水を与えて、でんぶんのりを軟化させて紙はがしを行う。その後、目地の配列を見て、修正を要するような箇所については手厚しを行う。
(vi) タイル張りが終了したのち.張付けモルタルの締まりを見計らって、目地の掃除を行う。用いる道具は千枚通し等先端が細く鋭利なものであり、モルタルをさらっていく。特に、伸縮調整目地を設ける位置(他種の部材との取合い箇所、入隅部等)のモルタルは、入念に取り除いておくことが必要である。
なましステンレス鋼線を張付けモルタル中に埋め込む場合は0.6mm程度とし、下地側のアンカービス等に緊結する場合は0.8mm程度を使用する。
図11.2.19 まぐさタイルの取付け
図11.2.20 窓台タイルの取付け
(f) 斜め整へのタイル張り
斜め壁は、雨掛りが多いことから防水層が設けられる場合が多い。防水層の上にモルタル下地を作製してタイル張りを行うと、長年の間に防水層が劣化して、防水層からモルタル及びタイルがはく離する危険性がある。そのため、斜め整で防水附がある場合には、下地モルタル層をステンレスアンカーとステンレスメッシュによりコンクリート躯体に固定して、タイル張りを行うのがよい(図11.2.21参照)。
図11.2.21 斜め壁のタイルの取付け例
11.2.8 養生及び清掃
(1) 陶磁器質タイル張りにおいては、施工時の強い直射日光、強風等がタイルの接着に影響を及ぼすため、シートを張るなどして養生を行う。
(2) 冬期のタイル張りにおいて、気温が3℃以下に降下するおそれのある場合は、仮設暖房及び保温を行うか、日中暖かいうちに作業を止め、シート張り等の保温を行い気温が降下しても凍害を受けないようにする。
(3) 施工中及びモルタルが十分に硬化しないうちに、タイル張り面に振動、衝撃等を与えると、接着強度を低下させる原因となるので、避けなければならない。また、床タイルの場合には、同様の理由により3日間はタイル面を直接歩行しないようにする。やむを得ず道板等を使用する場合も、1 日間 は歩行しないようにするのがよい。
11章 タイル工事 3節 接着剤による陶磁器質タイル張り
03節 接着剤による陶磁器質タイル張り
11.3.1 適用範囲
有機系接着剤による外壁タイル張り工法は、建設省建築研究所(当時)が実施した官民連帯共同研究「有機系接着剤を利用した外装タイル・石張りシステムの開発」(平成5~7年度)において産学官が協力して研究開発され、その成果を参考として、JIS A 5557(外装タイル張り用l有機系接着剤)が制定された。その後、工事仕様の標準化が活発となり、平成22年4月に日本建築仕上学会から「ALCパネル現場タイル接着剤張り工法指針(案)・同解説」が刊行され、平成24年7月に(-社)日本建築学会の「JASS 19 陶磁器質タイル張り工事」の中で「有機系接着剤によるタイル後張り工法」として規定された。
(b) 接着剤による陶磁器質タイル張りの場合の作業の流れを図11.3.1に示す。
図11.3.1 接着剤による陶磁器質タイル張りの作業の流れ
(c) 施工計画書
タイルの製造工場は、通常設計図書に指定されるが、指定されない場合は、工場の規模・受注能力等を検討して承諾することになる。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
⑰ 接着力試験不合格の場合の処置方法
11.3.2 材 料
(a) タイルの種類及び品質は、11.2.2(a)による。ただし、JIS A 5209(陶磁器質タイル)が2010年の追補により、「5.7 裏あしの形状及び高さ」は、外装壁タイル接着剤張り専用タイルの場合には裏あしがなくてもよいと改正されている。
「標仕」では外壁に接着剤張りを行なうときのタイルは、原則として、接着剤張り専用タイルを使用することとしている。接着剤張り用の外装タイルは、裏あしが低い又は裏面が平滑な専用タイルであるため、原則として、これを用いる。接着剤張り専用以外のタイルを使用する場合には、タイルと接着剤との接着が確保できるように接着剤の塗布方法があらかじめ確認されたものを用いる。全国タイル工業組合では「外装タイルと有機系接着剤の組合せ品質認定制度」(Q-CAT)を平成21年12月より施行しており、この中で裏あしが高いタイルについても使用する接着剤及び接着剤の塗布方法との組合せを評価して認定しているため、参考にするとよい。
接着剤張り用タイルの裏面形状は、次の理由によりセメントモルタルによる外壁のタイル張りに用いるタイルと異なる。
セメントモルタルによるタイル張りの場合には、セメントモルタルとタイルの接着性、施工品質のばらつき、長期の接着耐久性等を考慮すると、機械的なかみ合わせによる保持が必要である。一方、接着剤張りの場合には、JIS A 5557(外装タイル張り用有機系接着剤)の解説によると、タイルと接着剤の界面や下地と接着剤の界面には何らかの化学的な結合による接着がなされていることからあり状の裏あしは必要不可欠な条件ではない。また、接着剤張りにおいては、接着剤の塗厚がモルタルより薄くなることから、タイルの裏あしが高過ぎると接着面積が減少し、接着性能が低下する。
接着剤張り専用タイルを用いない場合は、事前にタイルと接着剤との接着性を確認し、適切な接着剤の塗付方法を決定する必要がある。
(b) 役物タイルは、11.2.2 (d)による。
(c) タイルの試験張り、見本焼き等は、11.2.2 (e)による。
(d) まぐさ又はひさし先端下部に用いるタイルは、図11.2.4に示すびょうぶ曲がりを使用するか、又は標準曲がりを縦張りする。
11.3.3 張付け用材料
(a) 屋内に使用する有機系接着剤は JIS A 5548(陶磁器質タイル用接着剤)に適合するものを使用する。
(1) JISでは陶磁器質タイル用接着剤はタイプ Ⅰ ~Ⅲ に区分されるが、その用途による区分は表11.3.1 のとおりであり、下地の湿潤状態及び接着後の使用環境により分類される(表11.3.2参照)


「標仕」表11.3.1ではタイプI 又はタイプ Ⅱ を上記区分に基づいて使用することとしている。
なお、使用環境の予測が困難な場合は、タイプ I を使用する必要がある。
(2) ホルムアルデヒド放散量に関しては、この接着剤が指定建築材料(表19.10.2 参照)でないため、建築基準法では規制の対象にならない。しかし、「標仕」では、JISでホルムアルデヒド放散量に関する品質基準が規定されているため、特記がなければF☆☆☆☆のものを使用することとしている(19章10節参照)。
(b) 屋外に使用する有機系接着剤は、JIS A 5557(外装タイル張り用有機系接着剤)に適合するものを使用する。JIS A 5557 による接着強さと皮膜物性の品質規格を表11.3.3に示す。
また、JIS A 5557の主成分による区分では表11.3.4に示すように一液反応硬化形と二液反応硬化形があるが、「標仕」では一液反応硬化形に限定している。一液反応硬化形は、練混ぜの必要がなく、練混ぜ不良に起因する事故を防止することができる。

表11.3.4 主成分による区分(JIS A 5557 : 2010)
JIS A 5557の品質規格は目地詰めを行うことを前提にしている。目地詰めを行わない場合には接着剤が日射や雨水の影響を受けるため、JISの規定に加えて耐候性及び耐汚染性の確認が必要となる。「標仕」ではこれらの品質を規定している。耐汚染性は接着剤の成分が雨水等により溶出してタイル表面に付着してタイル表面を汚すことがないかを調べる試験であり、暴露試験は白又は淡色のタイルを使用して確認する。
全国タイル工業組合の「外装タイルと有機系接着剤の組合せ品質認定制度」(Q-CAT)では、耐候性、耐汚染性についても規格を作成して認定しているため、参考にするとよい。
11.3.4 シーリング材
(a) シーリング材は、9章7節による。耐久性、伸縮追従性、水密性、作業性を考慮するとともに、タイル表面を汚さないものとする。
(b) コンクリート躯体のひび割れ誘発目地、水平打継ぎ目地がある場合には、タイル 面にも伸縮調整目地を設置し、いずれもシーリング材を使用し、その位置を一致させる。タイル目地詰めを行わなく、かつ、タイルの目地幅が広い場合には図11.3.2に示すようにタイル面ではなく、下地モルタル面にシーリング材を施工する。その他の場合には図11.3.3に示すようにタイル面にシーリング材を施工する。「標仕」では、これらのシーリング材の種類は特記としている。特記がなければ、躯体については、基本的に紫外線の影響を直接受けないことから、ポリウレタン系シーリング材とする。伸縮調整目地その他の目地は、表面に露出することから、変成シリコーン系シーリング材とする。
図11.3.2 「目地詰めを行わなく、かつ、
目地幅が広い場合の伸縮調整目地の納まり例
図11.3.3 目地詰めを行う場合の伸縮調整目地の納まり例
(c) 有機系接着剤は原則としてシーリング材の表面に接触することはないが、シーリング材と接着剤が各々の小口面で接触する場合が考えられる。互いの成分の影響により組合せによっては、シーリング材及び接着剤の汚れ、はがれ、未硬化等の原因となることがあるため、事前に試験によって確認しておく必要がある。試験方法は、日本接着剤工業会規格 JAI 17(シーリング材と接着剤の相互汚染性試験)が提案されている。次に試験内容を示す。
JAI 17-2013
1. 適用範囲
本規格は外装タイル有機系接着剤と建築用外装シーリング材の互いの影響による汚染性を確認するための試験方法について規定する。
2. 引用規格
JIS H 4000 アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条
JIS H 4100 アルミニウム及びアルミニウム合金の押出形材
JIS A 5557 外装タイル張り用有機系接着剤
JIS A 5758 建築用シーリング材
JIS K 7100 プラスチックー状態調節及び試験のための標準雰囲気
3. 試 験
3.1 試験の一般条件
a) 試験体の作製は、特に指定のない限り、JIS K 7100に規定する標準状態(温度 23± 2℃、湿度50±10RH%)で行う。
b) 接着剤、シーリング材及び試験に用いる材料は、標準状態の室内に作製前24時間養生しておかなければならない。
3.2 試験材料
a) 接着剤 JIS A 5557 外装タイル張り用接着剤
b) シーリング材 JIS A 5758 建築用シーリング材
c) 基材JIS H4000に規定するアルミニウム合金又はこれらにJIS H 8601に規定する陽極酸化被膜を施したアルミニウム板で、寸法75 × 75 × 2mm。
d) セバレータ JIS H 4100に規定するアルミニウム合金又はこれらにJIS H 8601に規定する陽極酸化被膜を施したアルミニウム角材で、寸法12 × 75 × 6 mm。
e) スペーサ 高さ6mm長さ75mmの角材で表面及び側面に離型処置を施したもの
たとえば、
①セパレータと同様のアルミニウム角材で、寸法約6 × 75 × 6mm。表面及び側面3面に離型材を塗布したものあるいはマスキングテープを張ったもの
②シーリング材に用いる発泡ポリエチレン製 6mm角型バックアップ材
などが良い。
3.3 試験方法
3.3.1 汚染性試験体の作製
a) スペーサの取り付け
基材に図1のような配置でスベーサを両面テーフ等で取り付ける
図1 汚染試験体スペーサ取り付け
b) 先打ち材の充填
二成分シーリング材もしくは二液反応硬化型接着剤の場合は、あらかじめ製造業者の指示に従って計量、混合したのち、試料をスペーサで挟まれた図1の左側①で示した部分全体に、スペーサに沿って充填する。プライマーを使用する場合は製造業者の指示に従う。
c) 先打ち材の養生及び後打ち材の充填
先打ち材を23℃ 50%にて3日間養生後、中央のスベーサを取り除き、硬化した先打ち材表面端部をマスキング等で養生する。後打ち材が二成分シーリング材もしくは二液反応硬化型接着剤の場合は、あらかじめ製造業者の指示に従って計量、混合したのち、試料を先打ち材と図1の右端のスベーサに沿って、充填塗布(図2)する。プライマーを使用する場合は製造業者の指示に従う。 充填後、ただちに先打ち材表面の養生を取り除く。
d) 後打ち材の養生
作製した試験体を23℃ 50%RH1日養生し、スペーサを取り除いて試験体とする。
図2 汚染試験体(後打ち材充填後)
3.3.2 比較用試験1本の作製
a) スペーサ及びセパレータの取り付け
基材に図3のような配置でスペーサ及びスペーサを両面テープ等で取り付ける。
図3 比較用試験体スペーサ取り付け
b) 先打ち材の充填
二成分シーリング材もしくは二液反応硬化型接着剤の場合は、あらかじめ製造業者の指示に従って計量、混合したのち、試料をスペーサで挟まれた図3の左側①で示した位置に充填する。プライマーを使用する場合は製造業者の指示に従う。
c) 先打ち材の養生及び後打ち材の充填
先打ち材を23℃50%にて3日間養生後、セパレータ表面をマスキング等で養生する。
後打ち材が二成分シーリング材もしくは二液反応硬化型接着剤の場合は、あらかじめ製造業者の指示に従って計量、混合したのち、試料をスベーサに沿って図3の右側の位置に充填する(図4)。プライマーを使用する場合は製造業者の指示に従う。
d) 後打ち材の養生
作製した試験体を 23℃ 50% RH 1日養生し、スペーサを取り除いて試験体とする。
図4 比較用試験体(後打ち材充填後)
3.3.3 促進試験
2.3.1で作製した汚染性試験体及び 2.3.2で作製した比較用試験体を恒温室内にて 50 ± 2℃で 7 日間養生する。
3.3.4 汚染性確認試験
a) 目視による確認
促進試験後、目視にて汚染試験体及び比較検討用試験体のシーリング材及び接着剤を観察し、汚れ、色相、界面での剥離の有無について目視にて確認し、変化のあったものを記録する。
b) 指触による確認
促進試験後、指触にて汚染試験体及び比較検討試験体のシーリング材及び接着剤を観察し、硬さ、タックの変化、表面ブリードの有無について確認し.変化のあったものを記録する。
c) 界面の状態確認試験
汚染確認試験体を、図5のように短手方向約10mmのところで切り出し試験体とする。シーリング材と接着剤の接触部から各々15mmのところに標線を引き、標線間が40 mmまで開くように、図6の矢印の方向にゆっくり引張り、相互の界面の状態を観察し記録する。
図5 引張り試験体の採取
図6 界面の状態確認試験
JAI 17-2013
11.3.5 施工時の環境条件
(a) 降雨時や降雪時には、施工に支障があるばかりでなく、接着面が湿潤状態になり、引張接着強度の低下を生じさせる可能性があるため、作業を行わない。
(b) 塗付け場所の気温が 5℃以下又は施工後 5℃以下になると予想される場合には、接着剤の塗付け作業性が悪化したり、接着剤が硬化する時間が遅くなる危険性があるため、作業を中止する。やむを得ず作業を行う場合には、仮設暖房、保温等により施工面の養生を行って、5℃以上になるようにする。
11.3.6 施工前の確認
タイル張りを行ううえで必要な下地の乾燥の程度は、使用する接着剤の種類によっても異なるため、接着剤によって管理基準を決める。11.3.3(a)に示すように屋内に使用する接着剤においては、タイプ Ⅱ では乾燥していることが必要であり、タイプ Ⅰ は湿っている下地に使用できる。
屋内のボード下地の場合は、ボード下地が乾燥していることを確認する。モルタル下地でタイプ Ⅱ の接着剤を使用する場合は、水分計で測定して含水率が 8%以下であることを確認する。乾燥期間が十分でなく含水率が 8%を超える場合には、施工後の使用環境に水や温水の影響がなくてもタイプ I の接着剤を使用する必要がある。
屋外のモルタル下地の場合は、目視で下地表面が乾燥した色をしていることを確認する。降雨のあとなどで、モルタル下地表面がぬれ色になっている状態では接着性能が非常に悪くなるため、タイル張りを行ってはならない。
11.3.7 施 工
(1) コンクリート素地面をMCR工法とする場合は、「標仕」6章8節、目荒し工法(高圧水洗)とする場合は「標仕」15.2.4 (c)による。
(2) 外装壁タイル接着剤張りは、下地の動きや温度変化によるディファレンシャルムーブメントを緩和してタイルのはく離を防止する工法であり、接着剤張りの特徴を生かすためには型枠精度を上げてモルタル下地の厚みを低減した方がよい。このため、「標仕」ではコンクリートの打放し仕上げの種別をA種とし、コンクリートの仕上りの平坦さは3mにつき7mm以下にするように求めている。また、モルタル塗りの材料は、JIS A 6916(建築用下地調整塗材)によるセメント系下地調整厚塗材2種(下地調整塗材CM-2)を使用し,2回塗りを行うこととしている。モルタル下地の塗厚としては、10〜 15mm程度となり、従来からのモルタル塗りの約20mmに比較して簿くなる。ただし、モルタルの塗厚が薄すぎるとA種を採用したとしてもタイル下地として必要な精度を確保できないことから、10mm以上の塗厚が必要である。
接着剤張りの場合は、下地表面に凹凸があると下地と接着剤との接着性が悪くなるため、モルタルの仕上げは金ごて1回押えとする。また、接着剤張りは接着剤の塗厚がセメントモルタルによるタイル張りに比べて薄いため、仕上りが下地精度の影響を受けやすいため、精度の良い下地が必要である。
モルタルの浮きの原因と補修方法については、11.1.4を参照されたい。
(3) 内装壁タイル接着剤張りのモルタル下地は、15.2.5による。ボード下地は、せっこうボード、けい酸カルシウム板のタイプ2、合板が使用される タイル張りに先立ち、ボード間にタイル張りに支障となる段差がないかを確認する。
(4) 接着剤張りは、下地が乾燥していた方がよいため、水湿しを行ってはならない。また、吸水調整材を塗布すると、吸水調整材と接着剤との接着が悪くなる場合があるため、塗布してはならない。
(1) 外装壁タイル接着剤張りは、「標仕」では、原則として、接着剤張り専用タイルを使用することとするとともに、タイルの種別、大きさ、裏あし高さと裏面反りにより接着剤の使用量を規定している。接着剤の塗布に使用するくし目ごては、一般的に表11.3.5に示すこてが使用される。
接着剤張り専用タイル以外のタイルは、裏あしが高いため、表11.3.5に示す接着剤の使用量とくし目ごてでは、タイルと接着剤の接着割合が少なくなる場合がある。したがって、事前に試験施工等を行い、タイルと接着剤の接着割合が 60%以上を確保できるように、使用するくし目ごてと接着剤の塗布量を決定する。 Q-CATでは、タイルによって使用する接着剤と使用するくし目ごてが決められているため、それに従う。
表11.3.5 接着剤塗布に使用するくし目ごての種別
内装壁タイル接着剤張りは、くし目高さが 3〜5mmのくし目ごてを使用して接着剤を塗布する。
(2) 内装壁タイル接着剤張り
なお、接着剤が2液混合形の場合は、季節や施工時の温度によって張付け可能時間が異なるので注意する。
(ii) 接着剤を金ごて等でモルタル下地又はボード下地に塗布し(通常、3mm厚程度)、 くし目ごてでくし目を立て、タイルを張り付ける。
(iii) 目地間隔を正確に保つようにする。
目地直しは、張り付けたタイルが自由に動く間(通常、タイル張付け後 30分程度)に行う。
(v) タイルの吸水が大きく、目地詰めの際の水湿しを行う場合は、接着剤が硬化してから行う。ボード下地のけい酸カルシウム板は、比重1.0のものを使用する。繊維強化セメント板等の乾湿による挙動が大きいものは、反りが発生し、タイルのひび割れやはく離が生じることがあるため使用しない。
(vi) タイル面の清掃は他のタイル張りと同様に行う。
(ⅶ) 業務用厨房のレンジ周りの壁等高温になるおそれのある箇所への使用は、接着剤が劣化してタイルがはく離する危険性があるため避ける。
(i) 1回の塗布面積の限度は、「標仕」では30分以内に張り終える面積としている。これは、接着剤の張付け可能時間内に張り終えるようにするためである。
(ii) 接着剤の塗付けは、くし目ごてを用いて下地面に平たんに塗り付け、次に接着剤の塗厚を均ーにし、かつ、厚みを確保するために図11.3.4に示すように壁面に対してくし目ごてを60°の角度を保ってくし目を付ける。くし目の角度が小さく、こてを寝かした状態でくし目を立てると、くし目の高さが低くなり、接着剤の塗布量が少なくなる。また、くし目の角度が大きすぎても施工性が悪く、くし目がきちんと立たなくなることがあるため、塗布量が少なくなる傾向がある。また、図11.3.5に示すように、タイルの裏あしとくし目の方向が平行となると、タイルと接着剤との接着率が少なくなることがあるため、裏あしに対して直交又は斜め方向にくし目を立てる。
図11.3.4 こての角度(JASS 19より)
図11.3.5 くし目と裏あしが平行になった場合の接着状態(JASS 19より)
接着剤の塗布方法としては、図11.3.6に示すようにくし目を立てたままにする方法と、図11.3.7に示すようにくし目を立てたのちに平たんにならす方法とがある。平たんに塗り付ける場合にも、塗厚を均ーにするために一旦くし目を立てる。
図11.3.6 くし目を立てて接着剤を塗布する場合の手順(JASS 19より)
図11.3.7 接着剤を平たんに塗布する場合の手順(JASS 19より)
(iii) 二丁掛け等のタイル1枚張りの場合は、手でもみ込んだのちに、タイル張りに用いるハンマーでたたき押さえるか、又は密着張りで使用する振動工具で加振して張り付ける。ユニットタイルの場合は、モザイクタイル張りやマスク張りに用いるたたき板でたたき押さえて張り付ける。意匠上、表面に段差があるユニットタイルは、たたき板だけではユニットタイル全体が十分に押さえきれない場合があるので、手で均等にもみ込んだのちにたたき板でたたき押さえる必要がある。
うとよい。検査方法としては、タイルを張り付けた直後に図11.3.8のようにタイルをはがし、タイルと接着剤の接着状態を確認する。合否の判定は接着割合で行い、タイル裏面への接着剤の接着率が60%以上、かつ、タイル全面に均等に接着していることを基準にするのが一般的である。図11.3.9(ニ)に示すように接着割合が大きくても接着している箇所が一方に偏っているとタイル裏面に大きな空隙ができるため不合格とする。
11.3.8 養生及び清掃
寒冷期に施工する場合には、11.3.5(b)による。
接着剤がタイルに付いた場合には、硬化前に溶剤でふき取るか、又は接着剤が硬化したのちに汚れ除去用の発泡樹脂製品、砂消しゴム等で削り取る。表面が粗いタイルは、溶剤等でふき取ると、接着剤がタイル表面に残り、あとに汚れとなる場合があるので接着剤が硬化したのちに除去した方がよい。溶剤を使用する場合には、接着面に溶剤が掛からないように注意する。
目地材による汚れ、他の工事による汚れ等の清掃は、11.2.8(b)による。
図11.3.8 接着状態の検査(JASS 19より)
図11.3.9 接着状態(JASS 19より)
11章 タイル工事 4節 陶磁器質タイル型枠先付け
11.4.1 適用範囲
(a) 作業の流れを図11.4.1に示す。

図11.4.1 陶磁器質タイル型枠先付け工法の作業の流れ
(b) 施工計画書
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
㉓ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
(c) タイル型枠先付け工法用部材の用語
タイル表面に合成樹脂フィルム又はクラフト紙を台紙として接着剤等で張り付けて、ユニット化したシート(台紙が軟らかいものは合板の裏打ちを行う。) (11.4.3(a)(1)参照)
硬質ゴム等を用いて、目地部分を桝目状に成形したタイル保持用の目地枠材(11.4.3(a)(2)参照)。
タイルシート又は目地枠材によって所定の形状及び寸法にユニット化された部材で、平ユニット、柱形ユニット等がある。
型枠緊張材が型枠を貫通する箇所に用いる発泡プラスチック製等の埋め板。脱型後にタイルを張り付けるモルタル厚さを含めた厚さとする。
タイルの目地部分に打ち込んだコンクリートが、所定の深さ以上にはみ出したり、セメントペーストがタイル表面を汚染しないように、タイルシートにあらかじめ取り付ける目地部充填材。
また、本工法は、建物の外壁タイル張り部分に全面的に採用されるほか、はく離した場合事故につながるような箇所に採用される場合もある。例えば、梁底、軒裏等の上げ裏となる部分、ひさしの出の小さい開口の上部の壁等である。この場合、先付け部分とあと張り部分の納まりに注意する必要がある。納まりの例を図11.4.2に示す。
図11.4.2 型枠先付けとあと張り部の納まり
(1) 足場は、作業能率と仕上りに影響するので安全を確保したうえで、取付け位置や揚重設備等については十分検討する必要がある。
(2) 鉄骨等の溶接がある箇所では、タイルシートや目地桝等に直接溶接火花が当たらないように養生する。
(3) SRC造の柱・梁形等は、外型枠建込み後のタイル配列ができないので、足場上であらかじめタイルユニットを外型枠に配列固定できるように足場を組むことが必要である。
(4) 著しい降雨の場合やコンクリート打込み間隔が長い場合には、シート養生を行い、雨水によるタイルの脱落及び日射による粘着剤やフィルム材の変質・劣化を防止することが必要である。
11.4.2 材 料
(a) タイルの種類及び品質は11.2.2(a)によるほか、主に外壁に用いられるので、耐凍害性を有するタイルを使用しなければならない。
また、隅角部に用いる役物タイルの形状は、角度の不ぞろいを目立たなくするため、等辺(図11.4.3(イ))でなく不等辺(図11.4.3(ロ))にするのがよい。
図11.4.3 隅角部に用いる役物タイルの形状
陶磁器質タイル先付け工法の場合には、躯体工事開始時にタイルを必要とするので、目地桝法及び桟木法では躯体工事開始の2箇月程度前、シート加工の期間を要するタイルシート法では3箇月程度前にタイルが決定されていなければならない。見本焼き及び試験張りのスケジュールは、これを考慮して決定する必要がある。
なお、タイルユニットには次のような性能が要求される。
⑨ 廃材(裏打ちシート等)が少ない。
(ii) タイルシートによるタイルユニットのタイルの割付け寸法、ユニットの寸法及び許容差、対角線長の差、目地深さの標準を表11.4.1に示す。

(iii) 目地桝によるタイルユニット(アルミ専用型枠の場合を除く。)の目地枠の形状、タイルの割付け寸法、ユニットの寸法及び寸法許容差、対角線長の差、桝目の内法寸法の許容差、ベース厚さ並びに目地深さの標準を表11.4.2に示す。

(iv) タイルユニットの寸法の測定位置を図11.4.4に、目地枠材の桝目及びベース
厚さの測定位置を図11.4.5に示す。
図11.4.4 タイルのユニット寸法の測定位置
図11.4.5 目地枠材の桝目及びベース厚さの測定位置
(v) タイルシートのはく離性については、製造所の実績表により確認する。
(2) 型枠に用いるせき板には、コンクリート型枠用合板や金属製タイル先付け用パネル(図11.4.8(ロ)参照)がある。
(3) 型枠緊張材を目地部分に通す場合には、コンクリート中に残る金物のかぶり厚さが確保できるように専用のものを用いる。型枠緊張材及びその取付け方法の例を図11.4.6に示す。
図11.4.6 型枠緊張材を目地部分に通す場合の例
(i) 伸縮調整目地の目地材は、取り外す際にタイルをはがすことがないように、材質は発泡プラスチック等を用いる。
(ii) タイルユニットの取付けは、ステープル又は専用のゴム付きの頭なし釘を用いる。
11.4.3 タイル型枠先付けの種類
(a) タイル型枠先付けには、型枠にタイル又はタイルユニットを取り付ける工法によって次の3種類に大別される。
タイルシートを型枠内面に仮付けしてコンクリートを打ち込む方法である(図11.4.7参照)。
図11.4.7 タイルシート法
目地桝を型枠に取り付け、タイルをはめ込みコンクリートを打ち込む方法である。釘打ちによりゴム等の目地桝を型枠に固定したのち、タイルを目地桝に取り付ける方法(図11.4.8参照)。
図11.4.8 目地桝法
大形特殊タイルの取付け方法には、桟木法がある。これは、自重の大きい大形タイルを桟木に引っ掛け、特殊釘で仮止めしてコンクリートを打ち込む方法である(図11.4.9参照)。
図11.4.9 桟木法
(b) タイル型枠先付け各工法の材料、型枠の条件等を表11.4.3に示す。

(c) タイル型枠先付け工法の種類は、「標仕」11.4.3では、特記するよう定められているが、種類は先付けするタイルの大きさ等により表11.4.3のようになる。
11.4.4 施 工
(1) 割付けは、原則として、陶磁器質タイル張り工法と同様である。ただし、躯体工事開始時にタイルを必要とするので、早期に割付けを決定する必要がある。
このため設計の当初から、役物タイル及び役物ユニットを少なくするよう階高やスパン幅をできるだけ統一する必要がある。
(3) タイルユニットの割付けの一例を図11.4.10に示す。
図11.4.10 タイルユニットの割付け図(小ロタイルの例)
(b) 伸縮調整目地及びひび割れ誘発目地
コンクリートの乾燥収縮によって起こるひび割れに対処するために設けるひび割れ誘発目地、建物の隅角部等の作業が困難なとき、又はタイルやタイルユニットの寸法精度、取付け精度等、施工の誤差を考慮して設ける目地を「標仕」では伸縮調整目地といっている。
(2) 伸縮調整目地は目地幅も大きく、また、細かく入れる必要があるので意匠上への影響が大きい。したがって、設計担当者と十分打ち合わせて決定する。
(3) 伸縮調整目地の大きさは、図11.1.5に示してあるが、作業性を考慮すれば幅25mm以上が望ましい。
(c} 小口以上の大きさのタイルをまぐさ又はひさし先端下部に用いる場合、何らかの不具合が生じてもタイルがはく落することのないよう、図11.2.5に示す引金物を取り付ける。しかし、型枠先付け工法の場合、コンクリート打込みにより、引金物が型枠面あるいはタイル裏面に密着しては目的を果たさないばかりか、かえってコンクリートの未充填部を作ることとなってしまう。したがって、コンクリート打込み前に引金物がコンクリート躯体の斜め上方向に、確実に定着できる手段を講ずることが必要である。
(1) タイル先付け用の型枠には打放し仕上げと同程度の精度が要求される。
(2) 型枠は、仕上げ及び経済性を考え大型パネルとするのがよい。大型パネルを用いる場合転用ができないと不経済になるので、階高及びスパン幅等設計上の配慮が必要である。
(3) 型枠の精度を高めるには、特に次の点に注意する。
(vi) セパレータの締付け程度(締付け過度に注意)
また、コンクリート打込み後も目標とする精度が保てるよう、支保工を十分に用い、コンクリートの打込み方法及びコンクリートの側圧による誤差をなくすようにしなければならない。
(5) この工法に用いる大型パネル及びその頂部と脚部の納まりの一例を図11.4.11に示す。
図11.4.11 大型パネルの詳細及びその頂部と脚部の納まり
(1) コンクリートは、通常のRC造に用いられている設計甚準強度 21N/mm2、スランプ18cm程度のものであればよいが、(3) に示す締固め作業に困難を伴うような断面形状のSRC造等の場合、流動性のよいコンクリート等を検討するとよい。
(2) タイルを打ち込む壁の増打ちは、構造上必要な壁厚に20〜40mm程度増やしたものとされている。「標仕」11.4.4 (e)(3)(i)では、棒形振動機による締固めは、加振部がタイルに直接触れないように操作することが定められており、壁厚や配筋に対する設計上の配慮が必要である。
(3) 先付け工法の場合、コンクリートの締固めは、タイルの接着力を確保するため特に重要である。このため、「標仕」11.4.4(e)(3)ではコンクリートの輸送管1系統につき、型枠振動機2台以上を、「標仕」6.6.5(e)に定めている配置に追加することにしている。
なお、締固めは、6.6.5の注意事項を十分守らなければならない。また、先付け工法を意識しすぎて振動機による振動及びたたき締めを過度に行うとかえって悪い影響がある。
(4) 型枠取付け型振動機を用いる場合、内壁側の型枠に取り付けて、上部の梁、スラブは棒形振動機を使う併用方式がとられている。型枠取付け振動機による締固めの留意事項として次のような事項が挙げられ、事前に十分な施工計画の検討が必要である。
④ 電源の確保
型枠の精度及び事前のチェック
かけ過ぎの防止
② 改良形緊張材の使用
型枠の振動によるタイルのはく離落下の防止
(vi) その他
また、必要に応じ、前もってポリエチレンシート等でタイル面を養生する。
(1) タイル取付け面の型枠を取り外す場合、タイル表面に傷をつけないように注意して作業する必要がある。
(2) タイル面に粘着テープ、接着剤等が残った場合は汚れが残らないよう速やかに清掃する。また、セメントペーストがタイル表面に付着した場合も速やかに清掃する。
(3) タイル及びタイルユニット取付けに用いた釘、ステープル等の金属類が壁面に残った場合、錆により汚れが生じるので速やかに取り除かなければならない。
この場合、仮付けタイルの厚さは張付けモルタルの厚さを含めたものを用いる。
(g) 材料保管等
(1) タイルユニット及び副骰材は、直射日光や雨水による材料の変質・劣化がおきる場合があるので、シート養生を行い保管する。
(2) タイルシートや目地桝はプラスチック製が多いので、火気には十分注意して保管する。
(h) タイル壁面の補修
(1) 先付け工法では、先付けされたタイルに不良箇所のないように施工すべきであるが、不良箇所が生じた場合は、将来はく離を起こさないよう、工法を十分検討し補修しなければならない。
(2) 施工不良の発生要因及び対策、判定方法、補修方法を表11.4.4に示す。
なお、はつり範囲が構造体部分にまで及ぶ補修の場合は、タイル張付けモルタルは、平成13年国土交通省告示第1372号に規定されているポリマーセメントモルタルを用いる。
図11.4.12 タイル張替え工法
打診試験及び引張接着試験の方法及び試験結果の判定は11.1.5 (b)及び(c)による。ただし、型枠先付け工法においては次の点が異なる。
(i) 接着力試験の試験体は、タイルの周辺をタイル裏面まで切断する。
打診検査によってはタイル裏面の軽微なじゃんかが検知されない場合がある。目視でタイル目地を詳細に調べることがじゃんかの発見に有効なので、打診検査の際、目視によるじゃんか検出を行うのが望ましい。
11.4.5 漬 掃
清掃については、11.2.8(b)を参照する。
