9章 防水工事 5節 塗膜防水

第09章 防水工事

5節 塗膜防水

9.5.1 適用範囲

(a) この防水層は塗膜防水材を塗り重ねて連続的な膜を構成する、いわゆるメンブレン防水の一種である。

JIS A 6021(建築用塗膜防水材)で規定されている屋根用塗塗膜防水材のうち、「標仕」ではウレタンゴム系とゴムアスファルト系のものについて規定されている。

ウレタンゴム系塗膜防水材は屋根、ひさし、開放廊下、バルコニーに、ゴムアスファルト系塗膜防水材は地下外墜、屋内に適用する場合が多い。

塗膜防水の保護層の種類は、モルタル、現場打ちコンクリート、ブロック敷き、塗装等がある。ウレタンゴム系塗膜防水材に対して、「標仕」では仕上塗料塗りが規定されている。ゴムアスファルト系塗膜防水材を地下外壁等に施工事する場合は、埋戻し用保護緩衝材や保護用コンクリート等の保護層が必要となる。

(b) 作業の流れを図9.5.1に示す。

 

(c) 準備

(1) 設計図書の確認、施工業者の決定については,9.2.1(c)に準ずる。
(2) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
① 工程表(箇所別、防水の種類別の着工、完成等の時期)
② 施工業者名、作業の管理組織
③ 施工範囲及び防水層の種類
④ 工法(下地の状態、施工法等)
⑤ 材料搬入(置場、数量等)
⑥ 消防法による消防署への届出
⑦ 排水勾配
⑧ コンクリート打継ぎ箇所における処置
⑨ 立上り、納まり
⑩ ルーフドレン回り、排水管等、役物回りの納まり
⑪ 保護層の確認
⑫ 異種防水層接続部の処置

⑬ 品質管理、基本要求品質の確認方法等

9.5.2 材 料

(a) 塗膜防水材

塗膜防水材はJIS A 6021(建築用塗膜防水材)に適合するものを用いる。

(i) 屋根用ウレタンゴム系には、高伸長形(旧1類)及び高強度形の2種類があり(JIS A 6021)、「標仕」では高伸長形(旧1類)を標準としている。2011年のJIS改正により、非露出用及び露出防水における1類の下層として用いられる2類は廃止された。

① ウレタンゴム系塗膜防水材
ウレタンゴム系塗膜防水材には、使用時に主剤と硬化剤を混合する2成分形と1成分形がある。
2成分形ウレタンゴム系は、主剤と硬化剤が反応硬化して塗膜を形成するものであり、1成分形ウレタンゴム系は、空気中の水分を硬化に利用するものである。

1成分形、2成分形とも使用部位に応じて、一般用、立上り用、共用がある。

② ゴムアスファルト系塗膜防水材
ゴムアスファルト系塗膜防水材は、環境に配慮した防水材として広く使用されており、塗り工法用と吹付け工法用がある。
塗り工法用には、ゴムアスファルトエマルションだけで乾燥造膜するもの(乾燥造膜型)と硬化剤により促進造膜するもの(反応硬化型)がある。

吹付け工法用には、乾燥造膜型のほかに、主剤と分解剤又は硬化剤を専用の吹付け機を用いて吹き付けることにより、短時間で促進造膜するもの(凝固造膜型)や反応硬化型がある。

(ii) 「標仕」表9.5.1は、ウレタンゴム系塗膜防水材の使用量を、硬化物密度 1.0Mg/m3の材料で示したものである。硬化物密度の異なるウレタンゴム系塗膜防水材における標準使用量を、表9.5.1に示す。

表9.5.1 硬化物密炭の異なる防水材における標準使用量

(iii) 「標仕」表9.5.1では、ウレタンゴム系塗膜防水材を、種別X-1では2工程、種別X-2では3工程で所定量を塗るよう規定されているが、実際の施工に当たっては、材料の特性、下地の状況等に応じて工程数を増やすことができる。

(iv) 「標仕」表9.5.2は、ゴムアスファルト系塗膜防水の防水材使用量を.固形分60%(質絨)の材料で示したものである。固形分の質量比が異なるものを使用する際は、この表と同等以上となるよう換算する。換算によって各固形分のゴムアスファルト系塗膜防水材の使用量に違いが生じ、統一することが困難なため、工程数及び各工程の使用量は、主材料製造所の仕様によることとした。

(v) 希釈剤を使用する際は、その量を含まないものとする。

(vi) JIS A 6021(建築用塗膜防水材)の抜粋を、次に示す。

JIS A 6021 : 2011
1 適用範囲
この規格は、主に鉄筋コンクリート造建築物の屋根及び外壁などの防水工事に用いる塗膜防水材(以下、防水材という。)について規定する。ただし、JIS A 6909に規定する建築用仕上塗材には適用しない。3 種  類

3.1 主要原料による区分
主要原料による区分は、次による。a) ウレタンコム系
ポリイソシアネート、ポリオール、架橋剤を主な原料とするウレタンゴムに充填材などを配合したウレタンゴム系防水材。引張強さ、伸び率、抗張積などの特性によって、高伸長形(旧1類)と高強度形とに区分する(表1参照)。
注記 JIS A 6021 : 2006に基づき、ウレタンゴム系1類の指定がある場合は、高伸長形(旧1類)で置き換えることができる。b) アクリルゴム系
アクリルゴムを主な原料とし、充填材などを配合したアクリルゴム系防水材。c) クロロプレンゴム系
クロロプレンゴムを主な原料とし、充填材などを配合したクロロプレンゴム系防水材。di ゴムアスファルト系
アスファルトとゴムとを主な原科とするゴムアスファルト系防水材。e) シリコーンゴム系
オルガノポリシロキサンを主な原料とし、充填材などを配合したシリコーンゴム系防水材。3.2 製品形態による区分
製品形態による区分は、次による。a) 1成分形
あらかじめ施工に供する状態に調製したもので、必要によって硬化促進剤、充填材、希釈剤などを混合して使用する防水材。

b) 2成分形
加工直前に主剤、硬化剤の2成分に、必要によって硬化促進剤、充填材、着色剤、希釈剤などを混合して使用するように調製した防水材。

3.3 適用部位による区分
適用部位による区分は、次による。

a) 屋根用
主として、屋根に用いる防水材。
なお、屋根用防水材には、次のものがある。
1) 一般用
主として一般平場部に用いる防水材。
2) 立上がり用
主として立上がり部に用いる防水材。
3) 共用
一般平場部と立上がり部との両方に用いる防水材。

b) 外壁用
主として、外壁に用いる防水材。

5 性 能
防水材の性能は、箇条6によって試験し、屋根用は表1に、外壁用は表2にそれぞれ適合しなければならない。ただし、劣化処理後の引張性能及び伸び時の劣化性状における促進暴露処理は、オープンフレームカーボンアークランプ又はキセノンアーク光源による暴露試験のいずれか一方でよい(箇条6及び表2省略)

表1ー屋根用塗膜防水材の性能

JIS A 6021:2011

(b) その他の材料

(1) プライマー

防水の種別によって、使用するプライマーが異なるので、防水材製造業者の指定するものとしている。ウレタンゴム系塗膜防水には、ウレタン樹脂等の高分子材料を有機溶剤に溶解した溶液形又は合成高分子材料を主成分とするエマルション樹脂系(1成分形及び2成分形)並びに無溶剤系(1成分形及び2成分形)のもの、ゴムアスファルト系塗膜防水には、アスファルト又は合成高分子材料を主成分とするエマルション形のものを用いることが多い。

(2) 接着剤

接着剤は、通気緩衝シートの張付けに用いるもので、合成ゴム等の高分子材料を有機溶剤に溶解した溶液形のもの、高分子材料工マルション形のもの並びにウレタン樹脂系(1成分形及び2成分形)のものがある。

(3) 通気緩衝シート
特殊加工したプラスチック発泡体、改質アスファルトシート、ゴムシート又は不織布等から構成されるシート状の材料で、塗膜防水層の破断やふくれの発生を低減する目的で用いられる。
通気緩衝シートは、防水材となじみがよく、下地の挙動に対する追従性が高く、下地に含まれる水蒸気を分散する効果を有し、また、寸法安定性の良いものを用いる。

なお、通気緩衝シートには、接着剤塗布工程を除くことができる自着層付きのタイプや、固定金具によって下地に固定する機械固定タイプもある。

(4) 補強布

補強布は、合成繊維及びガラス繊維の織布又は不織布を用いる。補強布は、必要な塗膜厚さの確保、立上り部等における防水材の垂下がりの防止及び下地に発生したひび割れからの防水層の破断対策に有効である。

(5) シーリング材

塗膜防水では、下地ひび割れ、ルーフドレン及び配管回りその他の異種下地の取合い等の処理に、シーリング材を用いるのが一般的である。ウレタンゴム系抱膜防水ではポリウレタン系(1成分形又は2成分形)のもの、ゴムアスファルト系塗膜防水では、改質アスファルト系のものを用いることが多い。

(6) 仕上塗料
仕上塗料は、防水層を紫外線等から保護して耐久性を向上させる目的と、意匠上の目的で防水層の表面に塗布するものである。2成分形アクリルウレタン樹脂系が一般的であるが、ふっ索樹脂系、アクリルシリコン樹脂系等の高耐候型をはじめ、環境配慮型や高日射反射型の実績が増加している。また、仕上塗料の選択により、平滑仕上げ、つや消し仕上げ、粗面仕上げ等ができる。
「標仕」表9.5.1では、仕上塗料をー工程で所定量を塗るよう規定されているが、実際の施工に当たっては材料の特性等に応じて工程数を増やしてもよい。

なお、仕上げの種類により材料使用量が異なる場合がある。

(7) 防水保護材
ゴムアスファルト系塗膜防水に用いる保護材には、保護緩衝材、絶縁用シートがある。

9.5.3 防水層の種別及び工程

 

(a) 種 別

「標仕」では、ウレタンゴム系2種類、ゴムアスファルト系2種類が規定されている。部位別の適用の例を次に示す。

(i) 屋根            :種別X-1, X -2
(ii) ひさし、開放廊下、バルコニー:種別X-2
(iii) 地下外墜          :種別Y-1
(iv) 屋内            :種別Y-2

なお、ゴムアスファルト系については、上記以外にも屋根保護防水工法の施工事例がある。

(b) 工法の種類

「標仕」で規定している種別及び工程を、工法の種類別にすると次の密着工法と絶縁工法になる。

(i) 密着工法( X-2、Y-1、Y-2 )

下地の含水率が高いと、水蒸気によりふくれが生じることがあるので下地の乾燥状態には注意を要する。

(ii) 絶縁工法( X -1 )
下地に、通気緩衝シートを張り付けた上に、塗膜を構成するもので、下地亀裂等による動きを、通気緩衝シートで吸収する。水蒸気を大気中に排出するために脱気装置を設ける。「標仕」ではその種類及び設置数量は特記することと規定されているが、50m2に1箇所程度が目安となる。

ただし、絶縁工法は平たん面に適用する工法で、立上り面には密着工法X-2の立上り仕様を適用する(図9.5.2参照)。


図9.5.2 平たん面とX-1とX-2立上り仕様の接合例

9.5.4 施 工

(a) 防水下地

(1) 下地コンクリート面は、平たんで凹凸がないようにする。また鉄筋・番線等の突起物、粗骨材、モルタルのこぼれ等は防水層を損傷する原因となるので完全に除去する。

一般屋根防水層の下地の仕上げの程度は、9.2.4 (a)(1)による。

(2) 入隅は通りよく直角とし、出隅は通りよく45°の面取りとする。

(3) 下地の乾燥については9.2.4 (a)(1)を参照する。

(4) ルーフドレン等の金物は、ワイヤブラシ又は溶剤で防錆剤、錆.油分等を除去する。

(b) プライマー塗り

(1) プライマー塗りに先立ち、下地の乾燥を入念に行い、下地が十分乾燥したのちにプライマー塗りを行う。

(2) プライマーは、種類に応じてローラーばけ、毛ばけ又は吹付け機を用いて塗布する。2日以上にわたって防水材を施工する大面積の現場では、1日の防水材施工範囲のみのプライマー塗布を行う。

(3) プライマー塗りは、防水下地以外の箇所を汚さないように行う。プライマーの乾燥時間は、気象条件や下地乾燥条件等により遅れる場合があるので、十分に乾燥したことを確認したのちに次の工程に移る。

(c) 下地の補強

出隅及び入隅の下地補強塗りにおいて、種別Y-1は補強布を省略することができる。ただし、補強布を省略する場合には増吹き及び増塗りにより補強塗りを行うようにする。

(d) 通気緩衝シート張付け
通気緩衝シートは、接着剤を塗布し、塗布した接着剤のオープンタイムを確認して接着可能時間内に、隙間や重なり部をつくらないようにシート相互を突き付けて張り付け、ローラー転圧をして接着させる(図9.5.3参照)。

通気緩衝シートは、立上りから、ウレタンゴム系塗膜防水材製造所の指定する寸法だけ離し、端部はウレタン系シーリング材等で処理する。突付けとした箇所は、ウレタンゴム系塗膜防水材製造所の指定するジョイントテープ等で処理する。

また、自着層のある通気緩衝シートでは、シート下面の自着層の接着力で下地に接着させる。

機械的に固定する場合は、固定金具と固定釘で取り付ける。

なお、通気緩衝シートの張付け作業中に降雨・降雪が予想される場合は、シートの下に水が回らないように養生する。

図9.5.3 通気緩衝シートの張付け

(e) 防水材塗り

(1) 2成分形防水材は、防水材製造所の指定する配合により、可使時間に見合った量を、かくはん機を用いて十分練り混ぜる。また、1成分形は充填材等の成分が沈降・分離している場合があるので、内容物が均ーになるよう注意しながら再分散させる。

(2) 補強布を張り付けるときは、防水材を塗りながら張り付けるが、曲がらないように注意をする。

(3) 塗り工法用防水材は、ゴムベら、金ごて又は毛ばけで均ーに塗り付ける(図9.5.4及び5参照)。

 

 

図9.5.4 ウレタンゴム系塗膜防水材塗り
図9.5.5 ゴムアスファルト系塗膜防水材塗り

(4) 吹付け工法用防水材は、防水材製造所の指定する吹付け機を用いて、指定する配合により、混合・吹付けを行う(図9.5.6参照)。

なお、「標仕」表9.5.2の Y-1においては、吹付け工法が一般的であるが、

周辺環境・施工面積によっては、塗付け工法で行う場合もある。

図9.5.6 ゴムアスファルト系塗膜防水材吹付け

(5) 防水材塗継ぎの重ねは幅を100mm以上、補強布の重ねは幅を50mm以上とする。

(6) 塗重ねと塗継ぎは、下層が造膜したあととする。

(f) ウレタンゴム系塗膜防水層の仕上塗料塗り

(1) 仕上塗料は、かくはん機を用いて十分練り混ぜる。2成分形は、練混ぜ不十分による硬化不良を生じないよう、また、1成分形は顔料及び骨材等が十分分散するよう注意しながら練り混ぜる。

(2) 仕上塗料塗りは、ローラーばけ、毛ばけ又は吹付け機を用いて行う。

(g) ゴムアスファルト系塗膜防水層の保護
地下外壁面には保護緩衝材を用いる。屋内、地下平面には、ポリエチレンフィルム又はフラットヤーンクロス等の絶縁用シートを用い、コンクリート又はモルタルを打ち込む。

ただし、屋内の小面積の場合は、モルタルの挙動が小さいことから絶緑用シートを設けないのが普通である。

(h) 検査
塗膜防水の場合は、膜厚の確保が防水性能を左右する。しかし膜厚の計測には、針入式膜厚計が使用されることがあるが、この方法では防水層を傷つけることになり欠陥につながりやすいため、避けるべきである。

そのため、材料の使用量管理が必要であり、検査に当たっては、外観検査とともに各材料が規定通り使用されていることを確認する。

(i) 施工時の気象条件
施工時の天候・気温等については9.1.3(a)を参照する。

9章 防水工事 6節 ケイ酸質系塗布防水

第09章 防水工事
6節 ケイ酸質系塗布防水

9.6.1 適用範囲

(a) ケイ酸質系塗布防水は、コンクリート表面にケイ酸質系塗布防水材を塗布することにより、その生成物でコンクリートの毛細管空隙を充填し、防水性能を付与する工法である。したがって、この防水の適用部位はコンクリート自体に透水に対する抵抗性が要求される部位となることから、建築における地下構造物を対象としている。

適用部位は、地下構造物の外壁・内壁及び床とするが、常時水の滞留する水槽においては天井も適用部位とする場合がある。適用下地としては、建築の地下構造物のうち現場打ち鉄筋コンクリートで構築されるコンクリート面を対象とする。

「標仕」で規定するケイ酸質系塗布防水材には、C-UIタイプとC-UPタイプの 2種類がある。C-UIタイプは粉体を水で練り混ぜるタイプである。一方、C-UP タイプには、粉体を水及び専用のポリマーディスパージョンと練り混ぜるタイプのものと、再乳化形粉未樹脂が混合された粉体を水で練り混ぜるタイプのものがある。

ケイ酸質系塗布防水材は、主にポルトランドセメントとケイ酸質微粉末からなり、製造面からは環境に配慮された材料である。また、C-UPタイプに使用されるポリマーディスパージョンもすべて水系材料で、環境ホルモンや臭気、有機溶剤中毒の心配なく使用することができる。

最終的に建築物を取り壊す場合も、ケイ酸質系塗布防水材は特別管理産業廃棄物ではないので、再資源化も含めて、一般のコンクリート廃材と同じ取扱いができる。

(b) 作業の流れを図9.6.1に示す。

(c) 準備

(1) 設計図書の確認、施工業者の決定については.9.2.1 (c)に準ずる。

(2) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(箇所別、防水の種類別の着工、完成等の時期)
② 施工業者名、作業の管理組織
③ 施工範囲及び防水層の種類
④ 工法(下地の状態、施工法等)
⑤ 材料搬入(置場、数量等)
⑥ コンクリート打継ぎ箇所における処置
⑦ 木コン部の処置
⑧ 防水層共通管・貫通 H 鋼回りの処置
⑨ 保護層の確認
⑩ 養生計画

⑪ 品質管理、基本要求品質の確認方法等

 


図9.6.1 ケイ酸質系塗布防水工事の作業の流れ

(d) 防水層の位置
(1) 背面水圧側

防水層が地下水又は水と接しない側にある場合で、建物の内側又はビットの内側を指している。

(2)水圧側

防水層が地下水又は水と接する側にある場合で、建物の外側又は水槽の内側を指している。建物の外側に防水層を施す場合は、山留め壁と外壁の間に防水施工できる作業空間( 1m以上)を確保することが必要である。

(e) 適用部位

(1) 外壁の防水層は、水圧側若しくは背面水圧側のどちらか又は両側とする(図9.6.2(イ)参照)。


図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(イ)

 

(2) 床の防水層は、背面水圧側だけとする(図9.6.2(ロ)参照)。


図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(ロ)

(3) 営時水の滞留している水槽の防水層は、水圧側だけとし、施工箇所は壁、床、天井とする(図9.6.2(ハ)参照)。

なお、水槽間の間仕切壁については、未処理部分から漏水する場合があるので、両面に防水層を設ける。


図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(ハ)

(4) 排水・配線・配管等ピットの防水層は、水圧側若しくは背面水圧側のどちらか又は両側とする。ただし、床については、背面水圧側だけとする(図9.6.2(ニ)参照)。
図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(ニ)

9.6.2 材 料

 

(a) ケイ酸質系塗布防水材

日本建築学会規格 JASS 8 T-301(ケイ酸質系塗布防水材料の品質および試験方法)に規定されるケイ酸質系塗布防水材は、主にポルトランドセメント、細骨材、ケイ酸質微粉末(活性シリカとも呼ばれている。)等から構成される既調合粉体である。この既調合粉体に水を練り混ぜて用いる C-UIタイプと、既調合粉体にポリマーディスパージョン(エマルション又はラテックス)と水、又は再乳化形粉末樹脂が混合された既調合粉体に水を練り混ぜて)用いる C-UPタイプの2種類がある。表9.6.1にJASS 8 T-301の品質基準を示す。

既調合粉体に含まれるケイ酸質微粉未は、コンクリートの防水性を向上させるのに必要なケイ酸イオンを溶出するもので、活性な非品質微粉末を用いている。また、C-UPタイプに使用するポリマーディスパージョンとしては、EVA(エチレン酢酸ビニル)系、PAE(ポリアクリル酸エステル)系、SBR(スチレンブタジエンラバー)系等があり、再乳化形粉末樹脂としては、EVA系及びPAE系等がある。

表9.6.1 ケイ酸質系塗布防水材料の品質
(b) 材料の調合
調合比としては、既調合粉体100重量部に対して表9.6.2に示すものが標準的である。
表9.6.2 ケイ酸質系塗布防水材の標準的な調合比(重量部)

(c) 防水機構

一般に硬化したコンクリートの微細構造中には、図9.6.3に示すように、主に未水和セメント粒子、骨材、消石灰、ケイ酸カルシウム水和物等のほかに種々の空隙が存在している。この空隙には、主なものとしてエントラップトエア、エントレインドエア、毛細管空隙、ゲル空隙等が挙げられる。その中で全空隙量の多くを占めるものが、毛細管空隙である。これはコンクリートの練混ぜ水が、コンクリート硬化後もセメント粒子間に毛細管力によって保持されてそのまま残った空間である。その大きさは、直径3nm〜30μm 程度で、形状は細長いものから板状のものまでの連続又は不連続の空間として存在する。


図9.6.3 セメント系硬化体の微細構造の模式図 (JASS8より)

 

コンクリートの強度発現及び水密化は、セメントの水和によって生成したケイ酸カルシウム水和物量に依存し、消石灰は寄与していないと考えられている。しかし、このケイ酸カルシウム水和物の生成量には単位セメント量によって限度があり、毛細管空隙をすべて埋め尽くすには限界があるために、硬化したコンクリートは非常に多孔質なものとなりやすく、高圧水の掛かる場合に漏水を引き起こす。

ケイ酸質系塗布防水材は、このようなコンクリートの表面に塗布することによってコンクリート自体がもっている毛細管空隙を充填し、その量を減少させコンクリートを緻密なものに変化させて、透水に対して防水性能を付与する材料である。その機構として次のことが挙げられる。ケイ酸質系塗布防水材を水又は水とポリマーディスパージョンと練り混ぜたものを塗布することで、防水材中のケイ酸質微粉末(活性シリカ)からケイ酸イオンが溶出し、コンクリート中に浸透・拡散していく。このケイ酸イオンがコンクリートの空隙中にあるカルシウムイオンと化学的に反応してケイ酸カルシウム水和物を生成し、毛細管空隙を充填していく。また、このケイ酸カルシウムのほかに副次的にエトリンガイドも生成する。これらの反応はすべて水を媒体として起こる浸透・拡散現象であるため、施工前にはコンクリートに十分水を含ませ、コンクリート中の毛細管空隙を水で満たす必要がある。この機構によって毛細管空隙は走査型電子顕微鏡による図9.6.4に示すような針状の形状を有する結晶の成長促進作用で充填され、メンブレン防水とは異なるコンクリート自体の緻密化による防水が可能となる。


図9.6.4 生成した針状結晶例

(d) その他の材料

その他の材料として下地処理材があるが、下地コンクリート及び防水材との接着や防水性能に悪影響を及ぼさないものでなければならない。一般的には、表9.6.3に示す材料で防水材製造所の指定するものとする。

表9.6.3 その他の材料

9.6.3 防水層の種別及び工程

 

(a) 防水層の種別

(1) C-UIは、無機質系既調合粉体(ポルトランドセメント+細骨材+ケイ酸質微粉末)と水を練り混ぜた材料を、下地処理を行ったコンクリート面に対して2回塗布する工法である。

(2) C-UPは、無機質系既調合粉体(ポルトランドセメント+細骨材+ケイ酸質微粉末)とポリマーディスバージョンと水を練り混ぜた材料、又は再乳化形粉末樹脂が混合された粉体と水で練り混ぜた材料を、下地処理を行ったコンクリート面に対して2回塗布する工法である。

(b) 下地処理

下地処理は9.6.4(b)に準じて行う。

(c) 防水材の使用量
(1) C-UI 及び C-UPとも、2回の塗布を標準とする。
コンクリート面に対して1回塗布では、むらができやすく(ピンホール等)、塗布量が不足したり、美観上にも難点がでやすいので2回塗布しなければならない。
(2) 「標仕」表9.6.2の使用量は、防水効果が発揮できる最低の標準塗布量であり、下地の状態、特にコンクリート表面の仕上り状態が粗雑な場合、上記の使用量を超える場合がある。

9.6.4 施 工

(a) 防水施工直前の下地全般の状態は、次を標準とする。

(1) 平たんで、反り、目違い、浮き、レイタンス、ぜい弱部、著しい突起物等の欠陥がないこと。
(2) 豆板、ひび割れ部分がないこと。
(3) 床面は、たまり水部分がないこと。
(4) 接着の妨げとなる塵あい、油脂類、汚れ、錆等がないこと。
(5) 打継ぎ部は、目地棒が除去されていること。
(6) 目地棒を使用していない打継ぎ部は、打継ぎ部に対し新旧コンクリートがそれぞれ幅約30mm及び深さ約30mmにVカットされていること(表9.6.4参照)。Vカットに当たっては鉄筋に当たらないように注意を払うこと。
(7) 木コン部は、コーンが除去されていること。

(8) 漏水部がないこと。

表9.6.4 打継ぎ部及び木コン部の形状

(b) 下地処理

(1) 下地処理は、ほこり、ごみを清掃工器具を用いて除去し、かつ、防水材をコンクリート躯体とよく接着させるために水洗いを行い、余剰な水分を取り除いて下地を健全な状態にする。打継ぎ部及び木コン部等の断面復旧を伴う下地処理方法を次に示す。また、それらに用いられる下地処理材の種類及び使用方法を表9.6.5に示す。

表9.6.5 下地処理材の種類及び使用方法

(2) 打継ぎ部

打継ぎ部は、水洗い清掃し、既調合ポリマーセメントモルタルを充填するか、あるいは防水材を塗布し、既調合ポリマーセメントモルタルで埋め戻す。漏水がある場合は別途止水処理をする。

(3) 木コン部

木コン部の処理は、水洗い清掃し、硬練り防水材、既調合ポリマーセメントモルタル、成形モルタル等を充填するか、あるいは防水材塗布後、硬練り防水材、既調合ポリマーセメントモルタル、成形モルタル等を充填する(図9.6.5参照)。


図9.6.5 木コン部の処理

(c) 下地処理後の点検及び検査

(1) 下地処理後に、充填した材料の浮き・だれ等を点検し、防水材の塗布に支障のないことを確認する。

(2) 防水材を塗布する面の汚れを点検し、清掃、水湿しを行う。Z

(3) 防水材を塗布する面に手を当てて水分がついてくるような状態のときは、送風機・布・スポンジ等を用いて余剰水の除去を行う。

(d) 防水材塗り
(1) 防水材の練混ぜ
(i) 練混ぜは、防水材製造所の規定する作業可能時間等を考慮し、必要量を正確に計量器具を用いて計量したのち、容器に適量ずつ入れ練り混ぜる。
(ii) 練混ぜは、ペール缶等の丸い容器を用い、電動かくはん機又は手練りにより、空気を巻き込んだり、まま粉を生じたりしないように均質になるまで行う。
なお、取扱いには、保護具(ゴム手袋等)を着用する。

(iii) 練混ぜは、気温 5〜40℃の範囲において行なう。

(2) 防水材の塗布
(i) 防水材は、はけ、こて、吹付け、ローラーばけ(刷毛)等防水材製造所の指定する工具によりコンクリート面に「標仕」表9.6.2に規定している標準使用量を均ーに塗布する。
(ii) 1層目の防水材が指触乾燥しない状態で2層目が施工された場合、コンクリー卜躯体より1層目が引きはがされ、健全な防水層が形成されないので、必ず1層目の塗布面に手で触れて防水層の硬化状態を確認する。
(iii) 1層目の防水層にドライアウトが生じた場合、防水層は白く風化したような 状態となり、手で触れるとはく落する。これらの状態のときは防水層を除去し、再施工する。
(iv) 工程内の塗布間隔が現場の状況により24時間以上にわたる場合、健全な1層目の防水層の表層部は乾燥状態になるので、2層目のドライアウト、又は付着力低下を生じさせないために、2層目施工前に散水若しくは水湿しを行う。

(v) 地下室内の間仕切壁、床及び天井の施工ではそれぞれ、図9.6.6に示す範囲に施工する。また、外壁内側の側溝では、排水や結露水が一時的に滞留し、室内側に漏水が発生することがあるので、図9.6.7に示すように外壁内側の側溝に防水層を設ける。


   図9.6.6 施工範囲の例

 


図9.6.7 二重壁の施工範囲の例(断面図)

 

(e) 防水材塗布後の点検
施工範囲内の総点検を行い、ピンホールや塗残しのないことを確認する。
(f) 養 生

(1) 塗布完了後、48時間以上の適切な養生を行う。

(2) 直射日光や風、高温等によって急激な乾燥のおそれのある場合には、散水、シート等の養生を行う。

(3) 閉塞場所等で結露のおそれのある場合は、換気、通風、除湿等の措置を講ずる。

(4) 低温による凍結のおそれのある場合は、保温、シート等の養生を行う。

9章 防水工事 7節シーリング

第09章 防水工事

7節シーリング

9.7.1 適用範囲

(a) この節は、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄骨造建物の外壁コンクリート部分の打維ぎ目地、ひび割れ誘発目地、伸縮調整目地や化粧目地、部材の接合部及び建具枠回り、ガラス留付けにシーリング材を施す場合に適用する。

(b) 作業の流れを図9.7.1に示す。


図9.7.1 シーリング工事の作業の流れ

(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質事項を検討する。(  )内は主な管理項目を示す。

① 工程表(施工箇所別の着工、完了等)
② 製造所名、施工業者名、作業の管理組織等
③ シーリング材の材種及び色(JISでの分類等)
④ シーリング材の品質証明書等(JISに基づく試験成績書等)
⑤ プライマーの種類(品名、材種等)
⑥ バックアップ材及びボンドブレーカーの材質及び製造所名(寸法、粘着剤の有無等)
⑦ 材料の保管(消防法分類、保管条件等)
⑧ 施工箇所の形状・寸法、施工法及び養生等(目地詳細図、二面接着・三面接着、表面仕上げの有無等)

⑨ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等

 

d) 用揺の説明

・不定形シーリング材

弾性シーリング材のように、施工時に粘着性のあるペースト状のシーリング材の総称である。

・弾性シーリング材

一般にポリサルファイド、シリコーン、変成シリコーン、ポリウレタン等の液状ポリマーを主成分とし、これと鉱物質充填材等をよく練り混ぜて製造したもので、変位の比較的大きい部材や部品間の隙間に充填する不定形シーリング材をいい、施工後は硬化し、ゴム状弾性を発現する。また、弾性シーラント又はり単にシーラントとも呼ばれる。

・基剤

2成分形不定形シーリング材において、主成分をいう。また、主剤と呼ばれることもある。

・硬化剤

一般的には、合成樹脂に添加、混合し、加熱若しくはその他の処理を行って硬化状態にする物質のことであるが、2成分形不定形シーリング材では、基剤と混合して、架橋(「硬化」の項参照)等の化学反応を起こさせる配合物をいう。

・硬化

一般的には合成樹脂の線状分子を硬化剤の添加、熱、光、触媒等によって相互に化学的に結合させて網状構造をつくり(架橋と呼ぶ。)、物理的性質が変化することであるが、不定形シーリング材では、ジョイントに施工してから架橋等の化学反応、水分の揮散等によって、シーリング材としての性質を発現することをいう。

・被着体

不定形シーリング材によって接合されるべき物体をいう。

・二面接着

ジョイントに不定形シーリング材を充填した場合、ジョイントを構成する材料の相対する二面で接着することをいう。目地に変位が発生するワーキングジョイントに適用される。

・三面接着
ジョイントに不定形シーリング材を充填した場合、ジョイントを構成する材料の相対する面及び目地底部の三面で接着することをいう。目地の変位がないか極めて少ないノンワーキングジョイントに適用される。

なお、「標仕」では二面接着が基本であり、動きの小さい打継ぎ目地等の場合に限り三面接着とすることができるとしている。

・界面はく離

不定形シーリング材が、被着体面からはく離し、接着界面で破壊されることをいい、接着破壊、界面破壊(略号:AF)ともいう。

・モジュラス

ゴム状弾性を有する材料の物性試験において、試験片に一定の伸びを与えたときの引張応力をいう。50%の伸びを与えたときの応力を50%引張応力という。

・クレージング

ひびともいい、ウェザリング等によるシーリング材の表面の細かい亀甲状のひび割れをいう。

・グレイジング

ガラスをはめ込み固定することをいう。

9.7.2 材 料

(a) 一般事項

(1) シーリング材の定義及び機能を次に示す。

(i) シーリング材〈シール材〉とは、「シール」すなわち「密封する」材料という意味である。

(ii) 建築工事では、建築用材料の各接合部の隙間や目地に充填し、気密性、水密性等を高める材料を総称してシーリング材と呼んでいる。

(2) シーリング材の性能は気候等により変化するので、使用条件に応じた材料の選定と材料に応じた施工が必要である。

(3) シーリング材は、作業者や周辺環境に著しい害を与えるものであってはならない。

(4) シーリング材は、対象とする被着面を侵すものであってはならない。

(b) シーリング材
(1) シーリング材の適用

シーリング材の性能について、「標仕」9.7.2ではJIS A 5758(建築用シーリング材)によるとしている。また、有効期間を過ぎたものは使用してはならない。

(2) シーリング材の分類
現在一般的に行われている主成分及び硬化機構による分類を図9.7.2に示す。

「標仕」表9.7.1では、施工箇所に応じたシーリング材の種類(主成分による。)を被着体の組合せで規定している。


図9.7.2 建築用シーリング材の一般的分類

(3) シーリング材の選定

(i) 「標仕」ではシーリング材の種類及び施工箇所は特記によるとされ、特記がなければ「標仕」表9.7.1が標準とされている。「標仕」表9.7.1に示されたシーリング材の種類と特徴を表9.7.1に示す。

表9.7.1 シーリング材の種類と特徴

(ii) 「標仕」表9.7.1に示されたもの以外にも、表9.7.2に示すような目地の区分と使用材料の組合せが考えられる。「標仕」で想定していない被着体の組合せや、表9.7.3に示す異種シーリング材との打継ぎで問題がある場合で、「標仕」表9.7.1によることが困難なときには、表9.7.2を基に受注者等と協議し、設計変更等の処置を行う必要がある。

表9.7.2 シーリング材の種類と使用部位(目安)(JASS 8より)

表9.7.3 異種シーリング材の打絹ぎの目安(JASS 8より)

(iii) 硬化後のシーリング材表面に塗料等で仕上げを行う場合、シーリング材と塗料の組合せによっては、表面が軟化し塵あいの付着による汚れが発生することがあるので、適合性に関する事前確認を行うことが必要である。特に、「標仕」表9.7.1以外のシーリング材を表9.7.2より選定する場合、汚染防止のためのバリアプライマー(シーリング材中の可塑剤の移行防止を目的とした塗布材)の要否を含め、適合性に関しシーリング材製造所及び塗料製造所双方への事前確認が重要である。

表9.7.4に示すワーキングジョイントに硬質な塗装を施すと、塗装が割れてはがれたり、割れた部分に変形が集中してシーリング材が損傷することがある。ワーキングジョイントに硬質な塗装を施す際には、事前検討を行うか塗装を避ける必要がある。

(iv) 建築基準法に規定される防火設備には、その設備の仕様で規定されたシーリング材の使用が必要である。

(v) ワーキングジョイントとなるALCパネルヘのアクリル系シーリング材の使用は避けた方が望ましいが、やむを得ず使用する場合は50%引張応力が経年変化で0.3 〜0.4N/mm2程度に上昇することを考慮して事前の検討を行う。

(vi) 「標仕」9章7節ではカーテンウォール工法を除いているが、カーテンウォー ル工事の場合については、17.2.2(b)及び17.3.2(c)でも参考例を紹介している。その他シーリング材と関連するALCパネル・押出成形セメント板工事、石工事、タイル工事、建具工事等のシーリング材の選定については、該当工事各章を参考するとよい。

(4) JIS A 5758(建築用シーリング材)の抜粋を次に示す。

JIS A 5758: 2010

1 適用範囲

この規格は、金属コンクリート、ガラスなどの建築用構成材の接合部の目地に不定形の状態で充てんし、硬化後に部材に接着して水密性及び気密性を確保するために使用する建築用シーリング材(以下、シーリング材という)について規定する。

4 種 類
4.1 一般事項

シーリング材の種類は、タイプ及びクラスによって区分し、図1による。


図1 – シーリング材の種類

4.5 主成分、製品形態及び耐久性による区分

4.5.1 主成分による区分

シーリング材は、主成分によって区分し、表2による。

表2 – 主成分による区分

4.5.2 製品形態による区分

シーリング材は、製品形態によって区分し、表3による。

表3 – 製品形態による区分

4.5.3 主成分及び耐久性による区分

シーリング材は、主成分及び耐久性によって区分し、表4による。

表4 – 主成分及び耐久性による区分


JIS A 5758 : 2010

(c) プライマー

(1) プライマーは、目地に充填されたシーリング材と被着体とを強固に接着して、シーリング材の機能を長期間維持するもので、場合により被着体表面を安定させ、下地の水分やアルカリの影響を防止するシーラーの役割も果す。

(2) プライマーが被着体に適合しなかったり、プライマーが経年で劣化した場合は、はく離による目地の不具合が生じる。そのためプライマーの選定には、十分な配慮が必要である。

(3) プライマーは、被着体及びシーリング材の種類によって使い分けねばならないがシーリング材製造所の指定するものを用いる。

「標仕」9.7.5では、外部に使用するシーリング材は、接着性試験を行うことを規定しているので、事前にできるだけ実際の被着体となる部材に対し、使用予定のプライマーを用いて接着性試験をしておく。試験方法は「標仕」9.7.5による。

(4) 接着性試験の結果が不合格となった場合は、プライマー又はシーリング材を選定し直して再試験を行い、所定の接着性を確保する。

(d) 補助材料

(1) バックアップ材

(i) バックアップ材は、シーリング材の三面接着の回避、充填深さの調整あるいは目地底の形成を目的として用いる。

(ii) バックアップ材は、シーリング材と接着せず、弾力性をもつ材料で適用箇所に適した形状のものを使用する。材質はポリエチレンフォーム、合成ゴム成形材で、シーリング材に移行して変質させるような物質を含まない材料を選定する。

(iii) バックアップ材は、シーリング材と被着体の接着面積が確保でき、二面接着が確保できるように充填する。裏面粘着剤が付いているものは目地幅より 1mm程度小さいもの、粘着剤の付いていないものは、目地幅より2mm程度大きいものを使用する。

(iv) バックアップ材の使い方は図9.7.3による。


図9.7.3 バックアップ材の使い方

(2) ボンドブレーカー

(i) ボンドブレーカーは、目地が深くない場合に三面接着を回避する目的で目地底に張り付けるテープ状の材料である。

(ii) ボンドブレーカーは紙、塩ビ,ふっ索樹脂,ポリエチレン,ポリエステル等からなる粘着テープで、プライマーを塗布しても変質せず、かつ、シーリング材が接着しないものを選定する。

(3) マスキングテープ

(i) マスキングテープは、プライマー塗布及びシーリング材充填の際の汚染防止と、 目地縁の線を通りよく仕上げるために用いる粘着テープである。

(ii) マスキングテープの選定に当たっては、次の点に注意する。
① 除去後、粘着剤が外装表面に残存しないこと。
② 清掃用洗浄剤やプライマーの塗布で溶解しないこと。
③ シーリング材の接着を妨げない材料であること。

④ 外装面の凹凸になじみやすい材料であること。

(4) 清掃用洗浄剤

(i) 清掃用洗浄剤は、被着面の油分や接党剤を除去するために用いる薬剤である。

(ii) 清掃用洗浄剤は、被着体や周辺の化粧材を変質させることがなく、接着を阻害しない材料を用いる。

(iii) 引火性があるものは、密封容器に入れて冷暗所に保管する。また、取扱いに当たっては、発生する蒸気を吸わないように注意する。

9.7.3 目地寸法

(a) 目地幅は、シーリング材に過大な応力やひずみが生じない範囲とし、凹凸、広狭等がないものとする。

(b) 目地深さは、主としてシーリング材の充填・硬化が適正に行われて、十分な接着性が確保できるように設定する。また、乾燥硬化1成分形シーリング材は、硬化に伴う収縮があるので、やや深めにする必要がある。

(c) シーリングの対象となる目地は表9.7.4に示すよう、発生するムーブメントによりワーキングジョイントとノンワーキングジョイントに大別される。

「標仕」9.7.3では特記のないかぎり部位ごとに最低目地形状を規定しているが、金属笠木等の部材接合部のように温度変化等により比較的大きな挙動が発生するワーキングジョイントとなる目地の寸法は、ムーブメントを算定し使用予定のシーリング材の設計伸縮率・設計せん断変形率を超えないように求める。求められた寸法を目地輻とするが、「標仕」9.7.3の最低目地幅を満足するものとする。

表9.7.4 ムーブメントの種類と主な目地(JASS 8より)

(-社)日本建築学会「JASS 8 防水工事」における温度ムーブメントの算定に関する抜粋を次に示す。

JASS 8 : 2008

2) 温度ムーブメントの算定

部材の熱膨張・収縮に起因する温度ムーブメントは以下の算定式により求める。

i) 突付けジョイント

解説表4.6 部材の実効温度差


解説図4.1 ワーキングジョイントの目地深さDの許容範圃

解説表4.3 シーリング材の設計伸縮率・設計せん断変形率 ε の標準値(%)


JASS 8 : 2008


9.7.4 施 工

(a) 施工の体制

シーリング工事においても、施工のほかに、事前検討や施工管理を含めた検討・調整等が重要である。例えば、日本シーリング材工業会では、これらの技術及び知識を有する「シーリング管理士」を認定している。「シーリング管理士」制度は昭和46年に発足し、昭和55年から実施された建設省総合技術開発プロジェクト「建築物の耐久性向上技術の開発」においても、「シーリング管理士」の参画による効用が記述されている。

なお、「シーリング管理士」は平成24年10月現在1,502名が認定されている。

(b) 材料の保管

(1) シーリング材は、製造年月日や有効期間を確認して、高温多湿や凍結温度以下とならない、かつ、直射日光や雨露の当たらない場所に密封して保管する。

(2) プライマー及び清掃用洗浄剤については、消防関係法令に基づいて保管する。

(c) 施工環境
(1) シーリング材の施工性、硬化速度等は温度や湿度に影響される。施工環境は一般には気温 15〜20℃で無風状態が望ましく、被着体の温度が極端に低いあるいは高くなるおそれがある場合は施工を見合わせる。

やむを得ず作業を行う場合は、仮囲い、シート覆い等による保温又は遮熱を行う必要がある。

(2) 「標仕」9.7.4では、降雨、多湿等で結露のおそれのある場合は施工を中止することにしている。すなわち、湿度が極端に高い場合はプライマー中の溶媒の気化により被着体が冷却して結露し、接着性が阻害されるおそれがあるので、作業をしない方がよい。

(3) 降雨時又は降雨が予想される場合は、施工を中止し、更に、シーリング材施工済みの目地部の雨掛りを防ぐ養生を行うことが望ましい。

(d) 下地処理

(1) 被着面に付着した塵あい、油分、粘着剤、モルタル,塗料等の付着物及び金属部の錆をサンダー、サンドペーパー及び清掃用洗浄剤等を用いて完全に除去する。

(2) 目地部に水分がある場合は,十分に乾燥させる。

(e) 施工手順

(1) バックアップ材及びボンドブレーカーの取付け

(i) バックアップ材は、所定の目地深さになるようにねじれ、浮上がり及び段差等が生じないように必要に応じて治具を用いて装填する(図9.7.4参照)。

(ii) ボンドブレーカーは浮き等が生じないように目地底に確実に張り付ける。

(iii) バックアップ材及びボンドブレーカー装填後、降雨があった場合は、バックァップ材及びボンドブレーカーを取り外し、目地が乾燥したのち、再装填する。

(iv) 動きの小さいコンクリート壁の建具周囲、打継ぎ目地、誘発目地並びに単窓及び1スパン内の連続窓回り等で、所要の目地深さが確保できる位置に目地底がある場合は、三面接着の目地構造とすることができる。

(v) バックアップ材の装填状況及びボンドブレーカーの張付け状況を確認する。


図9.7.4 装填治具例

(2) マスキングテープ張り

(i) マスキングテープは、シーリング材の接着面に掛からない位置に通りよく張り付ける。

(ii) 塗装面にテープ張りをするときは、塗装が十分硬化していることを確認し、

除去に際して塗膜を引きはがさないように注意する。

(iii) テープ張りのまま長時間たつと除去し難く、粘着剤が残存しやすくなるため、施工範囲を決めて張り付ける。特に、気温の高い時期は注意する。

(iv) 粘着剤が残存した場合は、速やかに清掃用洗浄剤等で除去する。

(3) シーリング材充填

(i) プライマー塗布

① 2成分形プライマーを用いる場合は、可使時間内に使い切る量を正しく計量して入念に混合する。

② プライマーは、塗りむら、塗残しあるいは目地からはみ出しのないように均ーに塗布する。

③ プライマー塗布後、塵あい等の付着が認められたり、シーリング材充填までの時間が長すぎた場合は再清掃し、再塗布を行う。

(ii) シーリング材の線混ぜ

① 2成分形シーリング材の基剤及び硬化剤の配合割合は、製造所の指定するものとする。

② 2成分形シーリング材は、機械練混ぜを原則とし、空気を巻き込まないようにして十分かくはんする。

③ 2成分形シーリング材の練混ぜは、可使時間に使用できる量で、かつ、1缶単位で行う。

④ 「標仕」9.7.4(d)(3)では2成分形シーリング材を用いる場合は、充填されたシーリング材の硬化の過程や硬化状態を確認するために、各ロットごとにサンプリングを行うことにしている。

この場合のサンプリングの採取方法は、1組の作業班が 1 日に行った施工箇所を1ロットとし、アルミニウム製チャンネル等に練混ぜたシーリング材を充填し、材料名・練混ぜ年月日・ロット番号・通し番号を表示する(図9.7.5参照)。


図9.7.5 サンプリング例

 

(iii) シーリング材の充填及び仕上げ

① シーリング材の充填は、吹付け等の仕上げ前に行うのが原則であるが、仕上げが施されたあとに充填することもある。その場合、目地周辺を養生し、はみ出さないように行う。

② シーリング材の充填は、目地幅に適し、底まで届くノズルを装着したガンを用い、目地底部から加圧しながら入念に行う。

③ シーリング材の充填は、交差部あるいは角部から図9.7.6の要領で行う。隙間、打残し、気泡がないように目地の隅々まで充填する。

④ シーリング材の充填は、プライマー塗布後、製造業者の指定する時間内に行う。

⑤ シーリング材の打継ぎは、目地の交差部及び角部を避けて図9.7.7のように行う。異種シーリング材との取合いの適否は、表9.7.3に示すとおりであるが、相互間の接着性試験を行うことが望ましい(9.7.5(d)参照)。

⑥ 充填したシーリング材は、内部まで力が十分に伝わるように、へら押えして下地と密着させたのち、平滑に仕上げる。


図9.7.6 シーリング材充填の順序

 


図9.7.7 シーリング材の打継ぎ(一般の打継ぎ)

(4) 着掃及び養生

(i) マスキングテープ除去及び清掃

① マスキングテープの除去は、シーリング材表面仕上げ直後に行う。

② 目地周辺の外装材に付着したシーリング材は、布等でふき取る。また、外装材を侵さない清掃用洗浄剤を利用してもよい。ただし、シリコーン系は未硬化状態でふき取ると、汚染を拡散するおそれがあるため硬化してから除去する。

(ii) 養 生

① シーリング材表面がタックフリーの状態になるまでは、触れないようにし、硬化するまでは塵あい等が付着しないように養生する。外装仕上げは、シー リング材が硬化してから行う。

② エマルション系シーリング材の場合は、硬化するまでの間に降雨が予想されるときは養生を行う。

③ あと工程でシーリング材が損傷されるおそれがあるときは、適切な養生を行う。その際、密封してシーリング材の硬化を妨げないように注意する。

(5) 確 認

(i) シーリング材の施工工程終了後、目地に対して垂れ等がなく正しく充填されているか、汚染・発泡等の著しい外観不良がないかを、目視にて確認する。不具合が認められた場合は、直ちに手直しを行う。

(ii) シーリング材が十分硬化したのち、指触によりシーリング材の硬化状態及び接着状態に異状がないかを確認する。異状が認められた場合は、サンプリングした全ロットについて確認し、受注者等、専門工事業者及びシーリング材製造所に不具合範囲及び原因の究明を行わせ、対処方法を決定する。

9.7.5 シーリング材の試験

(a) シーリング材は、同一種類のものであってもシーリング材製造所ごとにその組成 が異っており、被着本との組合せによっては、接着性能に問題の起こる場合がある。このため「標仕」9.7.5では、防水上重要な外部に面する金属、コンクリート、建 具等に用いるシーリング材の接着性試験を行うことにしている。ただし、過去に同ーのシーリング材製造所の同一種類のシーリング材と同一被着体の組合せで実施した信頼できる試験成績書がある場合には、この接着性試験を省略してもよい。

(b) 簡易接着性試験において、常温で硬化養生を行う場合は、夏場に比べ冬場は長く養生期間を設ける。試験が不合格となった場合は、プライマー又はシーリング材を選定し直し、再試験を行う。

(c) 「標仕」9.7.5(b)(2)の規定による引張接着性試験では、試験で使用した被着体に対し、シーリング材製造所が規定するシーリング材の性能を満足するか否かを確認する。不合格となった場合は、(b)と同様に再試験を行う。

(d) 打継ぎ接着性試験を行う場合は、JASS 8を参考にするとよい。

なお、JASS 8では、異種シーリング材の打継ぎ接着性試験に関して、次のように述べている。

(1) 異種シーリング材を打ち継ぐことは好ましくはないが、やむを得ず打継ぎが発生する場合、あと打ちシーリング材との接着性の確認が必要となる。

(2) 試験方法としては図9.7.8(イ)、(ロ)に示すような試験体を用いた接着性試験、あるいは図9.7.9に示すような簡易接着性試験がある。判定方法としては破壊状況に着目し、界面ではく離しなければよい。

(3) この場合、先打ちシーリング材の硬化状態は JIS A 1439(建築用シーリング材の試験方法)による養生を行ったのち、あと打ちシーリング材にも同様の養生を行うことが多い。ただし、工場施工との打継ぎに際しては、先打ちシーリング材を1〜2ヶ月屋外暴露してからあと打ちシーリング材を養生して試験を行うことが望ましい。


図9.7.8 異種シーリング材の打継ぎ接着性試験(JASS 8より)

 


図9.7.9 異種シーリング材の打継ぎ簡易接着性試験(JASS 8より)

11章 タイル工事 1節一般事項

11章 タイル工事

01節一般事項

11.1.1 適用範囲

この章は、通常の建築の内壁、外壁及び床の表面に、仕上材として陶磁器質タイルをセメントモルタル又は接着剤を用いて手張りで施工する陶磁器質タイル張り工事、コンクリートの型枠にタイルを仮付けし、建築現場でコンクリートを打ち込む陶磁器質タイル型枠先付け工事に適用する。

11.1. 2 基本要求品質

(a) タイル工事に使用する材料としては、仕上げ材としてのタイルと張付け用材料が主なものである。このうちタイルについては、一般的な品質はJISによることにしている。また、タイルの寸法については、JISによって標準的なものが定められているが、実際の工事に当たっては、タイル割りによって若干タイルの寸法を調整することがある。この場合にあっては、指定寸法に対する許容寸法を定めるときに該当するJISの規定を適用する。タイル製品については、(-社) 公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」により評価がなされており、この結果を活用するとよい。

タイル以外の材料にあっては、指定されたJISに適合することの証明を材料製造所から提出させる。JISの指定されていない材料にあっては、設計図書の指定材料であることの確認のほか、材料製造所から実績を証明する資料を提出させることによって確認するとよい。

(b) タイル工事の仕上り面は、タイルと目地によって構成され、タイルの寸法や施工方法等により異なるものとなっている。

「標仕」11.1.2 (b)でいう「所定の形状及び寸法を有する」とは、材料としてのタイルの形状や寸法でなく、タイル面の仕上り状態として、タイル寸法のばらつきによる目地の通りの精度をどのように計測し、判断するかを提案させ、実施させることと考えればよい。

(c) タイル工事の完成した状態としては、下地であるコンクリート躯体とモルタル層及びタイルが一体となっていることが最も望ましいものであるが、適切な施工方法で施工した場合であっても、「標仕」11.1.5(b)に定める打診による確認を行うと、タイル面に浮きを発見することがある。「標仕」11.1.2(c)でいう「有害な浮き」とは、下地モルタルがタイル数枚分浮いているものと考えればよい。この場合の対応としては、浮きの認められるタイル部分の目地にカッターを入れタイルを撤去し張直しを行うか、浮き部分にエボキシ樹脂等を注入する方法等により、補修を行う必要がある。

これに対して、例えば、タイル1枚の一部分のような部分的な浮きの場合、タイル張付け後どの程度の時間が経過したかによるが、これが直接はく落につながることは少なく、無理に補修しようとすれば、タイル張り撤去に伴う振動や注入時の圧力により、周囲の健全部分に対してはく離を誘発するおそれがある。このような場合は、施工後相当時間経過したのちに状況を再度確認し、必要な処置を施すなど適切な保全を行うことが重要となる。

打診による確認により浮きが認められた場合、その浮きが有害な浮きであるかどうかは、タイルの形状、寸法、施工方法、建物の部位等を勘案し総合的に判断することになるが、「品質計画」においてその限度を定めておくようにする。

11.1.3 伸縮調整目地及びひび割れ誘発目地

(a) タイル仕上げ面には、乾燥及び湿潤、日射等による温度変化.地震等の外力により、ひずみが生じる。このひずみによる力が各材料の層間の接着強度を上回るとはく離が生じるので、タイル張り面の適切な位置に伸縮調整目地を設けることで、タイル面のはく離の拡大を低減する必要がある。

また、躯体及び下地モルタルにひび割れが生じると、タイル面にもひび割れが生じ、タイルの接着性能にも悪影響を及ぼすことがあるため、これを防止するためにも躯体にひび割れ誘発目地を設ける必要がある。

このため、「標仕」6.8.2及び「標仕」11.1.3では、下地のひび割れ誘発目地、タイル型枠先付けのひび割れ誘発目地及びタイル面の伸縮調整目地の規定を設けている。「標仕」11.1.3(a)の「なお書き」は、ひび割れ謗発目地、打継ぎ目地及び構造スリットの位置に伸縮調整目地が設けられていなかったことが原因で、タイルにはく離が生じ落下事故が起こったことにより追加されたものである。したがって、「標仕」より上位の設計図書で伸縮調整目地設置の指示がない場合(「特記がない場合」)においても、ひび割れ誘発目地の位置には、必ず伸縮調整目地を設けなくてはならないということを述べている。

一方、ひび割れ誘発目地がない場合の伸縮調整目地については、効果があるという考え方と意味がないという考え方の両論があるが、一般的には前者の考え方で設計される場合が多い。したがって、伸縮調整目地の位置には、ひび割れ誘発目地がない場合もある。

なお、ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の位置は,タイルの割付けを考慮して設計される。

(b) 「標仕」では、ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の位置は、特記によることとしている。特記のない場合の標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置を図11.1.1及び2に示す。


図11.1.1 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置
(外部側に柱形がある場合)

図11.1.2 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮濶整目地とも)の位置

    (外部側に柱形がない場合)(その1)


図11.1.2 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置
    (外部側に柱形がない場合)(その2)

外部側に柱形のない場合には、特記により図11.1.3に示すような位置にひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)が設けられることがある。これは柱心からある程度離れてひび割れ誘発目地を設けると、斜めひび割れの防止に有効であるという考え方があるためである。


図11.1.3 特記によるひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置の例

(c) 屋内のタイル張りにおいては、入隅部では躯体及び下地モルタルの動きにより、また、建具等の他部材との取合い部では、タイルと他部材との挙動が異なるため.タイルに大きな力が作用する。このため、これらの部分には伸縮調整目地を設ける。

(d) ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の詳細例を図11.1.4〜6に示す。


図11.1.4 陶磁器質タイル張りのひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の例

 

図11.1.5 陶磁器質タイル型枠先付けのひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の例


       図11.1.6 垂直伸縮調整目地の例

(e)下地材料が異なる場合には、挙動が異なるため伸縮調整目地を設け、ひび割れの発生を防ぐ。意匠上、不適当な位置ならば設計担当者と打ち合わせる。

11.1.4 あと張り工法施工前の確認

(a) モルタル塗り面の下地コンクリートからの浮きの原因には、次のようなものがあり、(1)〜(3)の例が多い。

(1) 下地表層の強度不足による表層破壊(硬化不良、レイタンス等)
(2) 下地面の清掃の不足による接着不良
(3) 下地面の水湿しの不良によるモルタルの硬化不良
(4) 施工時の養生不足による硬化不良(直射日光等による急述な乾燥、寒冷期の保温加熱等の不良)
(5) モルタルの塗厚の過大による収縮

(6) 長期にわたる下地の変形(躯体膨張、収縮、ひび割れ)

(b) モルタルの浮きの検査は、テストハンマー、木づちの類で塗り面をたたき、打撃音によって判断する。一般に正常音(高く、硬い音)であれば浮きがなく、異常音(響くような大きな音)であれば浮きがある。

(c) モルタルの浮きの補修方法には次のようなものがある。

(1) 一般には、浮いている部分をはつり取ってモルタルを塗り直す。はつり方によってはかえって浮きが進むおそれがあるので、カッターで浮いている箇所の周囲を切断し、絶縁してからはつる。

はつったのちは、ワイヤブラシ等で十分に清掃し、水湿しを行ってセメントペーストを塗り、次の工程にかかる。

(2) 補修方法には、(1)のほかアンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法、アンカーピンニングポリマーセメントスラリー注入工法等があるが、これらは主として改修工事に採用される場合が多い。特にエポキシ樹脂は、湿潤状態の箇所では接着不良を起こすので、湿潤用のものを使用する。

11.1.5 施工後の確認及び試験

 

(a) 外観の確認
タイル張り面は、目を近づけて見るだけではなく、離れたところから施工面全体を眺めて、色調・仕上り状態・欠点の有無等を判断することが重要である。限度見本がある場合は、ばらつきがこの限度見本の範囲内であることを確認する。

タイル張り面は、目地の通りが基準となって不陸等がよく目立つ。外観を見て見苦しい段差・目違いがあってはならない。また、目地の深さと目地幅の不ぞろい及び目地切れは好ましいことではない。目地深さが深い場合、将来の故障につながりやすい。また、目地材の水密性を確保するためにも、目地切れがないことを確認する。

(b) 打診による確認

(1) タイルの施工面については、不陸・目違い、ひび割れ等の目視確認を行うとともに、「標仕」11.1.5 (b)により、屋外、屋内の吹抜け部分等のタイル張りは、全面にわたり、打診による確認を行う。打診は張付けモルタル硬化後で、かつ、足場の残っている期間に行うのがよい。

(2) 打診は、図11.1.7に示すような打診用ハンマーを用いて行う。


    鋼球型テストハンマー
   図11.1.7 打診用ハンマー

 

(3) 打診の結果、浮きやひび割れが発見され、それが有害と判定される場合は、国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)」により適正な方法で処理する。有害か否かの判定が困難な場合は、定期的に状態を観察して経時変化を確認し、危険度を勘案して判断するのがよい。

(4) 有機系接着剤を用いたタイル張りは、くし目ごてで施工することからタイルと接着剤とが隙間なく密着しているわけでなく、施工不良でなくてもタイルについて1枚の中で部分的に浮き音がすることがある。その場合は、浮き音がするタイルについて打診による確認を行い、 タイル1枚の中での浮き音が発生する割合を考慮して合否を判定する。判定が困難な場合は、タイルをはがして、接着状態を確認するとよい。

(c) 接着力試験

(1) 外装タイル張とり及び屋内の吹抜け部分等の環境条件の厳しい部位やはく落による危険度が高い部位についての接着力試験は、原則として、監督職員が立ち会う。ただし、通常の腰高と天井高の内壁や床のタイル張りのように、はく落による危険が少ない部位や、建物周囲こ植込等が設けられ、人が壁面等に近づけないような場合等安全上の配慮がなされている場合は、接着力試験を省略することができる。

(2) 試験体
(i) 試験の時期は、施工後2週間以上経過してから実施するのが一般的であるが、セメントモルタル張りの場合、夏期では1週間程度で強度が出るので「標仕」では強度が出たと思われるときとしている。ただし、試験を行うまでは足場を外せないので、他工事との工程の調整に注意する必要がある。
試験体は、タイルの周辺をカッターでコンクリート面まで切断したものとする。これはタイルのはく落がタイルだけではなく下地のモルタルからはく落することが多いので、この部分まで試験するためである。
なお、アタッチメントの大きさは、図11.1.8のようにタイルの大きさを標準とする。アタッチメントに合わせてタイルを切断すると誤差が大きくなるおそれがあるため注意が必要である。

ただし、二丁掛けタイル等小ロタイルより大きなタイルの場合は力のかかり方が局部に集中し、正しい結果が得られないことがあるので、小ロタイル程度の大きさに切断する。

(ii) 試験体の個数は「標仕」11.1.5(c)(ii)により3個以上、かつ、100 m2ごと及びその端数につき1個以上として、壁面全体の代表となるよう無作為に選ぶ。

(3) 試験機は、建研式引張試験機(図11.1.9)のほか、日本建築仕上学会認定の油圧式簡易引張試験器(図11.1.10)が開発されており、後者の方が軽量であるためアタッチメントや試験機の質量によって破断することが少なく、低強度まで測定が可能であり、普及している。


    図11.1.8 接着力試験の状況

 


    図11.1.9 建研式引張試験機

 


    図11.1.10 油圧式簡易り張試験器
    (日本建築仕上学会認定)

 

(4) セメントモルタル張りの場合の試験結果の判定については、引張接着強度のすべての測定結果が 0.4N/mm2以上の場合を合格とする。この引張接着試験は、施工品質を確認して、施工不良を排除することが主たる目的の試験である。昨今のタイル張りのはく離故障は、コンクリート下地と下地モルタルの接着界面が支配的になっている。このことを踏まえて、コンクリート下地の接着界面における破壊率の上限値が50%に設定された。

不合格が生じた場合には、該当するタイル施工部分の全面に対して、再び(2)(ii)に進じて試験を行う。不良部分については目地部を切断して、再施工しなければならない。

(5) 接着剤張りの場合には、接着剤層の破壊状態に基づいて合否を判定し、引張接着強度は参考値とする。一方、下地モルタル及びコンクリートに起因する破壊状態が主である場合には、セメントモルタル張りと同様に引張接着強度と破断状態で合否を判定する。

破壊モードの分類を図11.1.11に示す。タイルと接着剤の間の未接着は、くし目の谷部やタイル裏あし部に接着剤が充填されていない場合に生じる状態であり、接着剤とタイルの界面破壊と同一と判断する。

なお、接着剤の塗残し部分等の接着剤が塗付されていない部分も界面破壊と判断する。

   
図11.1.11 引張接着試験における破壊モード(JASS 19より)

合否判定のフロー図を図11.1.12に示す。凝媒破壊モードが T + A ≧ 50%(タイルの凝集破壊率と接着剤の凝集破壊率の合計が50%以上の場合)を合格とする。破壊モードがAT + MA> 50%(接着剤とタイルの界面破壊率及び下地モルタルと接着剤の界面破壊率の合対が50%を超える)ならば接着剤の界面破壊が主であり不合格とする。この条件に当てはまらない場合としては、下地の破壊が混在する場合がある。破壊モードがT + A< 50%、かつ、AT + MA<50%、かつ、M + CM + C ≦ 25%(下地モルタルの凝集破壊率、下地モルタルとコンクリートの界面破壊率及びコンクリートの凝集破壊率の合計が25%以下であれば、接着剤及びタイルの凝集破壊( T + A )が主と考えられるため、合格とする。破壊モードが T + A < 50%、かつ、AT+ MA < 50%、かつ、M + CM + C > 25%(下地モルタルの凝集破壊率、下地モルタルとコンクリートの界面破壊率及びコンクリートの凝集破壊率の合計が25%を超える)であるなら、下地の破壊比率が高いためセメントモルタル張りと同様に、下地モルタルとコンクリートの界面破壊が50%以下、かつ、引張接着強度が 0.4N/mm2以上の場合を合格とする。


図11.1.12 合否判定フロー(JASS 19より)

(d) 検査及び接着力試験の記録は保存して、維持保全時の判断資料として役立てるとよい。

12章 木工事 1節 一般事項

第12章 木工事

01節 一般事項

12.1.1 適用範囲

(a) この章は、鉄筋コンクリート造鉄骨造、組積造等における内部仕上げの下地及び造作類を対象としており、構造主体をすべて木造とした工事は対象としていない。

近年、鉄筋コンクリート造等の事務庁舎には、ほとんど施工例がなくなったため、平成22年版「標仕」から「3節小屋組」及び「4節屋根野地、軒回りその他」が 削除されたが、増築工事等で置屋根等が採用される場合もあることから、8節及び9節に、19年版「標仕」の仕様及びその解説を掲載している。

なお、国土交通省大臣官房宜庁営繕部が制定している「公共建築木造工事標準仕様書」(平成25年版)は、構造主体を木造とした建物を対象としており、軸組構法工事等で小屋組等が規定されているので参考にされたい。

(b) 小屋組工事の作業の流れを図12.1.1に、内部工事の作業の流れを図 12.1.2に示す。

図 12.1.1 小屋組工事の作業の流れ

図 12.1.2 内部工事の作業の流れ

(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(施工図完了、材料搬入、着工、完了等の時期)
② 施工業者名及び作業の管理組織
③ 加工機器等(主として仕上げ)
④ 使用する材料の種類、形状、寸法及びその使用箇所
⑤ 加工、組立又は取付けの工法
⑥ 防虫、防腐、防蟻処理
⑦ 養生方法

⑧ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等

(d) 施工図(現寸図を含む。)を必要とする箇所は、おおむね次のとおりである。

① 小屋組(垂木を含む)、間仕切軸組(下地材を含む)、天井下地、床組等の構造及び継手、仕口等
② 窓、出入口等の建具回り、壁、天井、床の取合い、納まり等

③ 躯体との取合い(床、柱、壁、梁スラプ下端)

(e) 主要な材料は、あらかじめ見本を提出させ、次のような事項を検討する。
① 製材:規格、樹種、材質、等級、含水率
② 集成材:規格、樹種、形状、寸法、化粧薄板(樹種、厚さ)、仕上り等
③ 単板積層材、合板、構造用パネル、パーティクルボード:規格、材質、等級等
④ 建具枠、敷居、かもい等:加工の状態

⑤ 釘、諸金物:規格、材質、形状、寸法、防錆処置

(f) 平成22年版「標仕」から、製材等フローリング又は再生木質ボードを使用する場合(ただし、製材については、間伐材、林地残材又は小径木を使用する場合を除く。)は、受注者等が合法性を証明する資料を提出することとされている(1.4.2 (c) 参照)。

12.1.2 基本要求品質

(a) 木材については、一般にJASでその品質が定められている。また、含水率は、施工後の狂い、割れ等に大きな影響を与えるため、使用部位に応じて「標仕」表12.2.1のように規定しているので、これに適合する材料を使用することを求めている。含水率の測定方法については、12.2.1(a)(5)を参照されたい。

また、樹種については、原則として、代用樹種を使用することが認められている (12.2.1(b)(2)参照)。更に、当該部材の必要性能(強度.耐久性等)を満たすことが学術的又は技術的に確認されている場合にあっては、監督職員の承諾を受けて「標仕」表12.2.3に示す代用樹種以外の材を用いることができる。

(b) 造作材の形状及び寸法については、設計図書で指示され、施工図等が作成されるので、これに基づき正しく加工されていることを要求している。

また、造作材の仕上り面は、そのまま室内の表面に現れ出来ばえを左右するので、傷や汚れ等が許容される範囲内のものでなければならない。しかし、「仕上り面の状態」に関する品質基準については、多分に個人の主観的な判断となり、定量的・客観的に記載するのが困難な面もあるが、できるだけ具体的に施工計画書の品質計画に記載させ、監督職員と施工者の合意のもとに、公平な品質管理を行わせるようにする。

(c) 木工事における性能に関する要求では、下地材の加工、施工が適切であること、力の伝達が十分に行われるような継手及び仕口であること、並びに床嗚りが生じないこととしている。
これらについては、「標仕」で規定された材料を使用し、定められた継手及び仕口の工法で適切に施工すれば、ここで要求される性能を十分に満足していると考えてよい。このため、品質計画において、施工の具体的な方法や管理記録の残し方を提案させるようにする。

したがって、基本要求品質を満たしていることの確認は、耐力試験等により性能を確認することを求めているものではなく、「標仕」の規定に基づき適切に施工されていることが分かればよい。しかし、「標仕」12.1.2(d)において「床嗚りが生じないこと」が要求されているので、完成時に床鳴りが生じる状態であれば、手直しが必要である。

(d) ホルムアルデヒド放散量について、「標仕」では基本要求品質の事項として概括的規定を設けていない。しかし、個別に、JAS又はJIS等で放散量等の品質基準が規定されている材料については、特記がなければ、F☆☆☆☆「非ホルムアルデヒド系接着剤使用」並びに「非ホルムアルデヒド系接着剤及びホルムアルデヒドを放散しない塗料使用」のものとしている。したがって、市場性、部位、使用環境等を考慮してその他の放散量のものを使用する場合は、設計図書に特記されている内容を十分確認し、要求品質を確保する必要がある。

なお、ホルムアルデヒド放散量に関する工事監理上の注意事項等は、19章10節を参照されたい。

12.1.3 木材の断面寸法
(a) 木材の断面は、のこ減り、かんな削り等により寸法が変わるので、「ひき立て寸法」か「仕上り寸法」かを明らかにしておく必要がある。「標仕」12.1.3に定められている事項を図解すれば 図12.1.3のようになる。

なお、「ひき立て寸法」とは、所定の寸法に製材したままの寸法である。


図12.1.3 ひき立て寸法

(b) 通常、削り代(削り仕上げにより減少する部分)は、板材及び小割り類のような狂いを取る必要のないものは、片面仕上げの場合で1.5mm程度、両面仕上げの場合で3.0mm程度である。また、角材及び平割り類のような狂いを取って用いるものは片面仕上げの場合で 3.0mm程度、両面仕上げの場合で 5.0mm程度である。

12.1.4 表面仕上げ

(a) 「標仕」表12.1.1は、木材の仕上げの程度の結果のみについて定めており、加工途中の工程は問題にしていない。
例えば、A種は超自動機械かんなで最終仕上げを行った程度の面という意味であり、手かんなで、同様の仕上げとしても差し支えない。

仕上げ機械について一例を示す(図12.1.4参照)。


図 12.1.4 仕上げ機械の例

(b) 表面の仕上げの程度は文章では表しにくいが、「標仕」表12.1.1に定められている仕上げの程度を強いて表せば表12.1.1のようになる。

表12.1.1 表面の仕上げの程度


12.1.5 継手及び仕口

(a) 木構造では継手及び仕口が弱点になりやすいため、継手が平面的にも立面的にも同一箇所に集中することは、可能な限り避けるべきである。やむを得ず集中してしまう場合は必要な補強を行う。一方、仕口は集中することが多いが、他の工法、部材の取合い、配置等によって集中を避けることができる場合は、これを避けるべきである。

なお、継手の位置を分散することを「乱」に配置するといい、交互に配置することを「千鳥」に配置するという。

(b) 構造材では、原則として、あまり短い材料を使うことは避けるべきである。「標仕」12.1.5(b)では、継伸ばしの都合上、やむを得ず短材を使用する時は、土台で布基礎のある場合でも1m程度を限度とすると定められている。しかし、その他の部分でも同様であるが、応力伝達に支障がないように補強している場合を除き、なるべく2m程度を限度とすることが望ましい。

(c) 合板、ボード類の壁付き材は乾燥収縮によって反り、隙間等が発生しないように小穴じゃくりをつける。

(d) 継手及び仕口が、「標仕」等の設計図書に定められていない場合は、一般的に用いられている工法としてよい。しかし、継手及び仕口は重要なものであるから、「標仕」12.1.5(d)では、あまり簡略な工法になるのを避けるようにするため、適切な工法を定め、監督職員に報告するように定めている。

12.1.6 養 生

工事中は、あとから行われる作業により仕上り部分が汚されたり、傷つけられたりしやすい。特に左官、塗装を行う箇所、通路になりやすい箇所は養生の必要がある。
養生方法には、ハトロン紙やピニル加工紙の張付け、合板やハードボードの取付け等稲々な方法があるが、適宜選んで養生する。また、和室の木材削り面には、との粉塗り等の養生をすることはもちろん、木材仕上り面や天井板等には、素手で触れないように十分注意する。

12章 木工事 2節 材料

第12章 木工事
02節 材 料
12.2.1 木 材
(a) 一般事項
(1) 木材の狂い、割れ、耐久性等は含有水分の多少に大きく影響されるので使用木材の含水率について注意する。
例えば、設計時に許容応力度計算等を要する木造建築物を建設する際に用いる木材は、昭和62年建設省告示第1898号により、原則として,含水率は15%以下、乾燥割れ等により接合部の耐力低下が生じない接合部による構法を採る場合は、20%以下とすることが要求されている。「標仕」では、主として構造計算等を必要としない程度の内部工事を想定しているが、前述の値を木工事に用いる材料の含水率の目安としてもよい。
(2) 乾燥方法には、天然乾燥法〈天乾〉と人工乾燥法〈人乾〉とがあるが、短期間のうちに含水率の低い木材を得るには人工乾燥によらなければならない。特に、狂いと割れは、一度十分に乾燥しておけば、以後は生じにくいので効果的である。
(3) 木材は工事現場では長時間の乾燥が期待できないので、一般的には、含水率を工事現場搬入時に確認している。
なお、含水率は全断面の平均の推定値としているが、その測定は次によって推定してよい。
( i ) 測定は、電気抵抗式水分計又は高周波水分計による。
(ii) 測定箇所は、異なる二面について、両小口から300mm以上離れた箇所及び中央の計6箇所とする。
(iii) 材の含水率は、6箇所の平均値とする。
(4) 木材の腐朽と含水率の関係は、含水率が20%以下ならば腐朽の可能性は低いが、30%以上が維持されるようになると腐朽する可能性が高くなる。
(5) 含水率
( i ) 含水率は、全乾材の質量に対する含有水分の質量の比で表す。

含有水分の木材内部における状態は、図 12.2.1に示すとおりである。


図 12.2.1 木材の乾燥過程

(ii) 含水率の測定方法には次のようなものがある。
① 全乾法

乾燥によって水分を含まない木材の質量(m0)を求めるもので、JISでは 100〜105℃の換気良好な炉中で恒量に達した状態を全乾と定めている。水分を含んでいる木材の質量を(m)とすると、含水率(u)は12.2.1式で表される。

7%以下又は繊維飽和点以上の含水率を測定する場合は、この方法による。
② 電気抵抗式水分計(図12.2.2参照)

直流や低周波電流に対する木材の比抵抗の対数が含水率と線形関係にあることを利用して含水率を推定する方法である。比抵抗は、温度の影響を受けるので補正が必要であり、また、繊維飽和点以上の含水率の測定はできない。木材に打ち込まれた針の深さまで測定できるが、通常は7 mm程度である。


図12.2.2 電気抵抗式水分計(打込み式)の例

③ 高周波水分計(図 12.2.3参照)

高周波からマイクロ波域における木材の誘電率あるいは誘電損率が含水率と線形関係にあることを利用して含水率を推定する方法である。誘電率は温度の影響は小さいが、比重の影響が大きく、木材の比重に応じて補正が必要である。木材の表面に当てるだけで、30mm程度の深さの平均含水率が測定できる。


図12.2.3 高周波水分計の例

(iii) 全乾状態〈絶乾状態〉(図12.2.1参照)
含有水分 0 の状態であるが、実験的には100〜105℃に保ち、質量変化のなくなった状態をいう。このような木材を全乾材あるいは絶乾材という。
(iv) 繊維飽和点(図 12.2.1参照)
含有水分が結合水100%飽和、自由水 0 の状態である。このときの含水率は約30%になる。
(v) 平衡含水率〈気乾含水率〉(図12.2.1参照)

大気中の水分と木材の含有水分が平衡になった状態の含水率で、気温20℃、相対湿度65%において、約15%である。このような木材を気乾材という。しかし、図12.2.4に示すように、気乾材の含水率には変動があるので.「標仕」12.2.1 (a)(2)(ⅰ)ではやや平均値を上回る値を上限としている。


図12.2.4 気乾材の含水率の変動

(vi) 木材の比重
木材は細胞からなっているために内部に空隙が多いが、空隙部分を除いた実質部分の比重である真比重は、樹種に関係なく約1.5〜1.6といわれている。実用上は、重量を体積で除した見掛け比重で表し、通常、含水率15%のときの見掛け比重による。これを気乾比重という。
気乾比重別による樹種を表12.2.1に示す。

表12.2.1 各樹種の比重

(b) 製 材
(1) 品質
(i) 製材の品質の規定には「製材の日本農林規格」(平成19年農林水産省告示第 1083号、最終改正、平成25年同第1920号)がある。また、外国製品のうち、 JASと同等以上であるとの相互認証を得ている製材もある。

製材のJASマークを図12.2.5に示す。


図12.2.5 製材のJASマーク

① 製材のJASにおける「目視等級区分構造用製材」は、構造用製材のうち、節、丸身等材の欠点を目視により測定し、等級区分したものをいい、主として高い曲げ性能を必要とする部分に使用される甲種構造材と、主として圧縮性能を必要とする部分に使用される乙種構造材とに区分されている。また、製材の寸法は、木口の短辺、木口の長辺及び材長により区分されている。「構造用製材」の標準寸法(仕上げ材にあっては、規定寸法)を表12.2.2に示す。

表12.2.2 構造用製材の標準寸法(JAS)

② 製材のJASにおける「造作用製材」は、建築物の内部の敷居、かもい等に使用される造作類と、内外装用板に使用される壁板類とに区分されている。
③ 製材のJASにおける「下地用製材」は、建築物の屋根、床、壁等の下地の外部から見えない部分に使用される製材品である。
④ 製材のJASにおける「仕上げ材」と「未仕上げ材」の含水率による区分を表12.2.3に示す。
表12.2.3 仕上げ材と未仕上げ材の含水率による区分
(構造用製材の場合)
なお、「仕上げ材」とは、乾燥処理を施したのち、材面調整(又は修正挽き)を行い,寸法仕上げをしたものをいい、「未仕上げ材」とは,乾燥処理を施したのち、寸法仕上げをしないものをいう。
⑤ 実際の商取引では、ひき割り類、ひき角類という材種名や慣習的な材種名が一般的に用いられており、JAS以外の品質表示で流通している製品も多い。
⑥ 木材の用途、使用部位によって求められる性能、寸法安定性等が異なるので、それらに応じた等級、性能区分、使用薬剤であることを確認する必要がある。
(ii) 平成25年版「標仕」では,「製材の日本農林規格」以外の製材が採用されたが、その品質基準は「製材の日本農林規格」に準じたものとなっている。JASマークが付されていない材料については、その品質基準に適合することを十分に説明する資料を提出させることが重要である。
(iii) 用語
一般に用いられている用語の説明を表12.2.4に表す。
表12.2.4 用語の説明

(2) 樹 種

(i) 樹種は、「標仕」12.2.1 (b)(2)(ⅳ)では、特記によることとされるが、図面等で代用樹種の使用が禁止されていなければ、両者は同等として取り扱ってよい。しかし、造作材の代用樹種を選定する場合は、室の仕上りを考慮し部位ごとにバランスのよい樹種を選定する必要がある。
(ii) 造作材で、つがが使用されないのは、組立後、反り、ねじれ、曲がり等の狂いが比較的生じやすいからである。
なお、乾燥を十分に行った場合等で、組立後の反り、ねじれ、曲がり等の狂いが生じないことが経験的、技術的に明らかな場合は、それらの樹種も代用樹種として扱ってよい。
(iii) 代用樹種を禁止された松は、赤松又は黒松のいずれかとする。ただし、強度性能上、外見上、寸法安定性、耐久性その他当該部位に要求される性能すべてを満たす樹種が存在する場合は、代用樹種としてよい。
(iv) 木れんが及びくさびには、釘の保持力、耐腐朽性等の優れたひのきのほか広業樹も適している。ただし、広業樹がすべて耐腐朽性に優れているとは限らない。
(v) 込み栓はかし、けやきの類の広葉樹又はこれと同等以上の強度性能をもつ樹種又は加工材料とする。込み栓は構造材のずれ止め、抜け止めに用いられるが、現在では金物で代用されることも多い。
「標仕」表12.5.1の吊束及び敷居に、込み栓並びに横栓として使用している。
(vi) 輸入木材は、同一種に別な名称があったり、種類が異なるものを同一名称で呼んだりしているので、樹種を見分けるのは難しいが、一般には次の左の樹種名に右のものが該当する。
米ひ  :ポートオーフォードシダー
米ひば :イエローシダー、アラス力シダー
米とうひ:ホワイトスプルース、エンゲルマンスプルース
     ブラックスプルース、レッドスプルース、
     コーストシト力スプルース
米つが :ウェスターンヘムロック
米もみ :ノーブルファー、ホワイトファー、
     バルサムファー、アマビリスファー
米杉  :ウェスターンレッドシダー
米赤杉 :レッドウッド
米松  :ダグラスファー
台ひ  :台湾ひのき
北洋えぞ松:(ロシア)えぞ松
輸入木材のそれぞれの特徴等を表12.2.5に示す。

表12.2.5 樹種の特徴等

(c) 造作用集成材
(1) 集成材は、ひき板又は小角材等をその繊維方向を互いにほぽ平行にして、厚さ、幅及び長さの方向に集成接着したもので、「集成材の日本農林規格」が制定され ている(平成19年農林水産省告示第1152号、最終改正 平成24年農林水産省告示第1587号)。集成材の分類、区分とその定義を表12.2.6に示す。

表12.2.6 JASによる集成材

(i) 造作用集成材
手すり、力ウンターの甲板等に用いられることが多いが、用いられるひき板がそのまま仕上材になる。ひき板は、薄いものの方が高級とされるが、10〜15mm位が標準となっている。
(ii) 化粧ばり造作用集成材
① 化粧薄板(一般には化粧単板あるいは化粧突き板という。)の厚さを、敷居、かまち及び階段板の上面にあっては 1.5mm以上、柱にあっては1.2mm以上、その他のものにあっては0.6mm以上であることと規定している。
② 通常用いられる化粧薄板は突き板といい、通常厚さは、0.2、0.3、0.6mm程度であるが、0.8mm以上のものもある。化粧として単板を張る場合に3mm程度のものを用いることもある。
③ 化粧薄板は、製作工場の手持ちの材料のうちから選ぶことになるが、素材のままでは仕上がった状態を想像するのは難しい。また、小さな見本板では大きな製品と全く違うものもあるので注意しなければならない。
(iii) 化粧ばり構造用集成柱
所要の耐力を目的としてひき板(ラミナ)をその繊維方向に対しほぽ並行にして集成接着し、その表面に美観を目的として化粧薄板を張り付けた集成材で、主として在来軸組工法住宅の柱材として用いられる。心材には積層数が5以上で、化粧薄板の厚さは1.2mm以上のものが用いられ、強く、狂いが少ないのが特徴である。
(2) 平成25年版「標仕」では、「集成材の日本農林規格」以外の造作用集成材が採用されたが、JASマークが付されていない材料については、特記された品質に適合することを十分に説明する資料を提出させることが重要である。
(d) 造作用単板積層材
(1) 単板積層材(LVL)は、ロータリーレース又はスライサー等により切削した単板を、主としてその繊維方向を互いにほぼ平行にして積層接着したものである。単板の厚さは 2〜4mm程度が普通で、積層数は数層から数十層に及ぶものがある。幅反りを防止するために若干の直交層を挿入する場合がある。LVLは平行層の割合が圧倒的に多いことと、一般に製品の厚さが厚く、主な用途が骨組材(棒状製品、軸材)であることなどが合板と異なっている。
LVLには「単板積層材の日本農林規格」が制定されており、住宅のドア枠、窓枠、胴縁等の内装部材としての使用を対象とした「造作用単板積層材の規格」と建築構造部材としての使用を対象とした「構造用単板積層材の規格」が規定されている(平成20年農林水産省告示第701号)。
(2) 平成25年版「標仕」では、「単板積層材の日本農林規格」以外の単板積層材が採用されたが、JASマークが付されていない材料については、特記された品質に適合することを十分に説明する資料を提出させることが重要である。
(e) 床張り用合板等
(1) 「標仕」表12.6.1の厚さ5.5mmの普通合板は、ビニル床シート等の下地の二重張り等に使用することを想定して、合板製造に使用する接着剤の耐水性を1類とし、板面の品質は塗装下地とならないため、広葉樹では2等、針業樹では C – Dとしている(16.7.2(b)(3)参照)。
また、厚さ12mmの合板は、カーペットや畳床の下地材等に使用することを想定して耐水性、曲げ性能等を考慮して、構造用合板の1類2級の C – D ( C – Dは板面の品質)としている。
(2) 合板の接着の程度による分類
JASによる接着性能の分類は、次のとおりである。
① 特類(フェノール樹脂接着剤等)
屋外又は常時湿潤状態の場所(環境)において使用される構造用合板。
② 1類(メラミン樹脂接着剤等)
断続的に湿潤状態となる場所(環境)において使用可能な合板。コンクリート型枠用合板・住宅下地用・建築物外装用合板等。
③ 2類(ユリア樹脂接着剤等)
時々湿潤状態となる場所(環境)において使用可能な合板。住宅・船舶・車両等の内装用合板・家具用合板等。
(3) 合板の用途による区別
(i) 普通合板(1類・2類)
建築物の内装、家具、建具等一般的な用途に広く使われる合板。寸法は、厚さは 2.3〜24.0mm、幅は 910~1,220mm、長さは910~3,030mmが標準である。
(ii) コンクリート型枠用合板(1類)
コンクリート打込み時にそのせき板として使用される合板で、ラワンのほか針葉樹のものもある。寸法は、厚さは12.0~24.0mm、幅は500~1,200mm、長さは1,800~2,400mmが標準である。
(iii) 表面加工コンクリート型枠用合板(1類)
通常のコンクリート型枠用合板の表面に塗装・オーバーレイ等の加工をしたもの。打放し仕上げに良好な結果が得られるとされているので、土木用型枠として多用される。
(iv) 構追用合板1級(特類・1類)
軸組構法、枠組壁工法住宅等の建築物の構造耐力上主要な部位に使用される合板で〈Kプライ〉と呼ばれる。単板の厚さの範囲、合板の厚さごとの積層数、単板の構成比率が規定され、曲げ試験によって強度保証している。寸法は、厚さは 5.0 〜35.0mm、幅は900 ~1,220mm、長さは1.800 ~ 3.030mmが標準である。
(v) 構造用合板2級(特類・1類)
1級と同様に使用されるが針葉樹合板が主である。寸法は、厚さは、5.0〜35.0mm、幅は900〜1.220mm、長さは1,800〜3,030mmが標準である。
(4) パーティクルボード
近年、床張り用面材としてパーティクルボードを使用することが多くなっている。
パーティクルボードの品質及びその分類は、JIS A 5908(パーティクルボード)による。
① パーティクルボードの裏表面の状態による区分
1) 素地パーティクルボード
両面が素地の状態で研磨品と無研磨品があるが通常は研磨品が中心である。
2) 単板張りパーティクルボード
素地パーティクルボードの両面に単板を張った板で研磨品と無研磨品がある。
② パーティクルボードの曲げ強さによる区分
1) 素地パーティクルボードは18タイプ(曲げ強さが18.0N/mm2以上、以下同様)、13タイプ、8タイプがあるが,床下地には18, 13タイプが用いられる。
2) 単板張りパーティクルボードは30−15タイプがあり、単板の繊維方向により縦、横の強さが違う。
③ パーティクルボードの接着剤による区分
1) Uタイプ
ユリア樹脂系又はこれと性能が同等以上のもので、耐水性が劣るので主に家具、キャビネット等に適する。
2) Mタイプ
ユリア・メラミン樹脂系又はこれと性能が同等以上のもので、建築下地等に適する。
3) Pタイプ
フェノール樹脂系又はこれと性能が同等以上のもので、Mタイプと同様建築下地等に適する。
④ パーティクルボードのホルムアルデヒド放散量による区分
F☆☆☆☆、 F☆☆☆、 F☆☆に分類される。F☆☆の製品はほとんど生産されていない。
(5) 構造用パネル
木材の小片を接着し板状に成形したパネル又はこれにロータリーレース、スライサー等により切削した単板を積層接着したパネルのうち、主として構造物の耐力部材として用いられるむのをいう。その品質は「構造用パネルの日本農林規格」に規定されている(昭和62年農林水産省告示第360号、最終改正平成20年農林水産省告示第938号)。
(6) 繊維板(ファイバーボード)
繊維板の品質及びその分類は、JIS A 5905(繊維板)による。
繊維板の密度による区分
1) インシュレーションファイバーボード(インシュレーションボードともいう。密度0.35g/cm3未満)
畳床用、断熱用、外壁下地用等があり、難燃性を付与したものもある。
2) ミディアムデンシティファイバーボード(MDF、密度0.35g/cm3以上)
主に構造耐力を要求される部分に使用する。曲げ強さによって30タイプ(曲げ強さが 30.0N/mm2以上、以下同様)、25タイプ、15タイプ、5タイプに区分され、接着剤によってUタイプ、Mタイプ、Pタイプに区分される。接着剤の区分、適した用途はパーティクルボードと同様である。
3) ハードファイバーボード(ハードボードともいう。密度0.80g/cm3以上)
油、樹脂等の特殊処理、表面の状態、曲げ強さ等によって分類される。最近は床等の養生板として用いられている。
(f) その他の木材
(1) 木質接着成形軸材料
木材の単板を積層接着又は木材の小片を集成接着した軸材をいう。PSL(Parallel Strand Lumber)、LSL (Laminated Strand Lumber)等がこれに相当し、その品買は、平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(2) 木質複合軸材料
製材、集成材、木質接着成形軸材料その他の木材を接着剤により I 形、角形そ の他所要の断面形状に複合構成した軸材をいう。I 形複合梁、ボックス・ビーム等がこれに相当し、その品質は平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(3) 木質断熱複合パネル
平板状の有機発泡剤の両面に構造用合板その他これに類するものを接着剤により複合構成したパネルのうち、枠組がないものをいう。サンドイッチパネル等がこれに相当し、その品質は平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(4) 木質接着複合パネル
製材、集成材、木質接着成形軸材料その他の木材を使用した枠組に構造用合板その他これに類するものを接着剤により複合構成したパネルをいう。プレハプ建築用接着バネル等がこれに相当し、その品質は平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(g) ホルムアルデヒド放散量
「標仕」では、集成材、単板積層材、合板等のホルムアルデヒド放散量等については、特記がなければ、F☆☆☆☆、非ホルムアルデヒド系接着剤使用、非ホルムアルデヒド系接着剤及びホルムアルデヒドを放散しない塗料使用等としている。
しかし、構造用集成材においては、接着耐久性の確保からF☆☆☆☆の基準を満たす材料の人手が困難であること、また、使用される量が相対的に少ないなどの理由でその他の放散量のものを使用する場合もある。その場合は、特記されていることが必要であるが、市場に該当する品質の材料がない場合は「標仕」1.1.8による協議事項とすればよい。
なお、ホルムアルデヒド放散量に関する建築基準法上の扱いや現場における確認方法等については、19章10節を参照されたい。
12.2.2 接合具等
(a) 釘等
(1) 下地材及び造作材に用いる釘は、JIS A 5508(くぎ)による。「標仕」では、材質は表面処理された鉄又はステンレス鋼としている。
なお、鉄丸くぎ(Nくぎ)は、JISで規定される寸法より細いものが流通している場合が多い。特に、従来市場に出回っている梱包用のFNくぎを使用してはならない。釘の太さはそのせん断耐力に大きく影響する場合が多いので、釘の太さに十分注意するか、同等以上の材質、太さを有するほかの種類の釘を使用することも検討すべきである。
また、釘打ち機により施工する場合は、木材の硬さを十分考慮して、その打込み強さを設定する必要がある。打込み強さが必要以上に大きいと釘頭が材面にめり込み、あとから施工するものに対して影響を及ぼす場合がある。また、釘頭のめり込みは釘の側面抵抗力を減じる場合があるので、構造耐力を要する部分は、更に注意が必要である。
JIS A 5508の抜粋を次に示す。

JIS A 5508: 2009

1 適用範囲
この規格は、主として一般に使用するくぎについて規定する。ただし、自動くぎ打機用のくぎに用いる場合の連結材料及びその方法については規定しない。

3 種類及び記号
くぎの種類及び記号は、表1による。また、くぎは、頭部及び胴部の形状によって表2及び表3の区分による。(表2及び表3は省略)

表1 くぎの種類及び記号

7 材料

7.1 鉄線
鉄線は、JIS G 3532に規定するくぎ用鉄線又はこれと同等以上の品質をもつものとする。ただし、せっこうボード用くぎ及びシージングボード用くぎについては、JIS G 3532に規定する普通鉄線又はこれと同等以上の品質をもつものを用いてもよい。

7.2 ステンレス鋼線
ステンレス鋼線は、JIS G 4309に規定するSUS304又はこれと同等以上の品質をもつものを用いてもよい。

JIS A 5508 : 2009

(2) 釘の長さは、図12.2.6のように留め付ける材料に留め付けられる材料の厚さの1.5倍以上打ち込まないと、構造材では十分な強さを発揮できない。

釘径は、板厚の1/6以下とし、釘の長さは打ち付ける板厚の 2.5〜 3倍のものとする。ただし、板厚10mm以下の場合の釘の長さは4倍を標準とする。

(3) 造作材の釘打ちの標準的な配置を図12.2.7から図12.2.9までに示す。


  図12.2.6 釘の打込み長さ


  図12.2.7 下地材に平行する場合

 


  図12.2.8 下地材と交差する場合

 


  図12.2.9 幅の広い場合

(4) 隠し釘の工法には次のような方法があるが、釘の機能と材料の性質及び釘打ち箇所の意匠上の必要性によって定めることになる。

( i ) 釘頭を切断して打ち込む。
(ii) 釘頭をつぶして打ち込む。
(iii) あらかじめ穴をあけておき釘を打ち込んだのち埋木する。

(iv) ななめ釘打ちにより.見え隠れとなる部分に打ち込む。

(5) 釘配置は、特記のない限り、その最小間隔を表12.2.7とする。ただし、この場合は、釘は木材の繊維に対して乱に打つものとする。

表12.2.7 くぎ間隔の標準

(6) 木ねじは、JIS B 1112(十字穴付き木ねじ)、JIS B 1135(すりわり付き木ねじ)又はこれと同等以上の品質を有するものとする。JISでは、原則として、表12.2.8の材料が規定されているが、「標仕」ではステンレスとしている。

表12.2.8 材 料
(b) 諸金物

(1) 諸金物には、JIS A 5531(木構造用金物)があるが、これに適合するものがないか、又は入手しにくいので、「標仕」12.2.2では,市販品としている。

(2) 金物は一般的には彫り込む必要がないが、部材が交差するような箇所では木部を彫り込み、金物を沈めておかなければならない場合もある。

(3) コンクリートに埋め込まれる部分以外の金物には、錆止め処置として、「標仕」ではJIS H 8610(電気亜鉛めっき)のCM2 C 3級程度の電気亜鉛めっきとしている。

(4) 土台等に使用するアン力ーボルトは先埋込みが望ましいが、位置、埋込み深さ等が不正確になりやすいので、「標仕」12.2.2ではあと施工アン力ーを使用することを認めている。あと施工アン力ーについては14.1.3 (a)(ii)を参照されたい。

(c) 接着剤

接着剤は、非常に多くのものが市場に出回っているが、接着剤の種類によって適用できる被着体や施工時及び使用時の環境条件が異なる。「標仕」では,接着する材料に適したものとしているので、材料や施工部位等を考慮して適切なものを選ぶ。ただし、ホルムアルデヒド放散量は、特記がなければF☆☆☆☆としているので注意する。

12.2.3 木れんが

(a) 木れんがは、枠類、下地材等を釘、木ねじ等で取り付ける場合に用いられるが、図 12.2.10のように四角のものをJIS A 5537(木れんが用接着剤)で張り付けるか又はあと施工アン力ーで取り付ける。

なお、取付け間隔は.仕上材や下地材を考慮して決める。


図12.2.10 木れんがの取付け

(b) 木れんがの材料は.「標仕」12.2.1 (b)(2)(iv) ③により、ひのき又はひのきの代用樹種(ひば、米ひ、米ひば)を用いなければならない。

(c) JISの木れんが用接着剤は、主成分により2種類に区分され、次のように使い分けられる。

(1) 酢酸ビニル樹脂系溶剤形:コンクリート面、ブロック面の類に用いる。

なお、水掛りのおそれのある箇所、構造耐力を要する箇所には適しない。

(2) エポキシ樹脂系:2液混合形(主剤+硬化剤)で使用直前に混合する必要がある。やや高価になるが、湿気のおそれのある箇所、コンクリート面、ブロック面に加えて鋼材面等にも適している。ただし、鋼材面等は脱脂処理やプライマー処理を要する場合があるので注意する必要がある。

(3) ホルムアルデヒド放散量は、いずれの場合も、特記がなければF☆☆☆☆のものである。

12章 木工事 3節 防腐・防蟻・防虫処理

第12章 木工事

03節 防腐・防蟻・防虫処理

12.3.1 防腐・防蟻処理

直接外気にさらされる部分や、常時湿気を受けやすい部分の木材は、腐朽防止の措置が必要になる。防腐処理とは、薬剤等で木材を処理することをいい、耐朽性の高い樹種を使用するなどして、腐朽防止の対策を講じることを含めて、防腐措置という。

(1) 防腐・防蟻処理が必要な樹種による製材及び集成材

「標仕」では、「製材の日本農林規格」及び「枠組壁工法構造用製材の日本農林規格」によるD1の樹種(表12.3.1参照)の心材のみを用いた製材又はこれらの樹種を使用した集成材は、薬剤による処理を省略してもよいとしている。

(2) 薬剤の加圧注入による防腐・防蟻処理

(i) JASでは、保存木材の性能区分を木材の使用環境を考慮して表12.3.2のようにK1からK5までの5段階に分け、心材の耐久性区分(表12.3.1)に基づき、使用薬剤の浸潤度については表12.3.3に示す基準、また、吸収量については 表12.3.4に示す基部が設定されている。

なお、「標仕」では、保存処理のK2からK4までの区分に適合するものとしている。

(ii) 使用薬剤は従来CCAが主に用いられてきたが、JASでは規定から除外されている。近年、環境への配慮からACQ等、他の薬剤が用いられるようになってきており、例えば、(公財)日本住宅・木材技術センターによるAQ認証等による新しい薬剤でも必要な条件を渦たしているものが追加された規定になっている(薬剤の記号は表12.3.4参照)。

(iii) 通常の加圧注入法では、通導性の低い樹種において規定の薬剤含浸状態を容易に得るために注入処理に先立つインサイジングを認めており、えぞ松、とど松等にも薬剤が十分浸透しうるよう配慮している。一方、JISの土台用加圧式防腐処理木材は、土台専用の製材品で、樹種は、米つが、アピトン、えぞ松及びとど松に限られ、断面寸法長さ等も決められている。使用薬剤はJAS製品とほぼ同じである。

表12.3.1 JASにおける耐久性区分

表12.3.2 JASにおける性能区分と木材の使用状態(わかりやすい新製材JASの解説より)

 

表12.3.3 浸潤度の適合基準(JAS)

 

表12.3.4 吸収量の適合基準(JAS)(その1)

表12.3.4 吸収量の適合基準(JAS)(その2)

(3) 薬剤の塗布等による防腐・防蟻処理
一般的には、次の部分に人体への安全性及び環境への影響に配慮した表面処理用木材保存剤を2回塗り付けることが行われている(図12.3.1参照)。環境に配慮した表面処理用木材保存剤としては、(公社)日本木材保存協会で認定している薬剤等がある。

なお、塗り付けた箇所は見え隠れとなるので、適切な時期に確認をする必要がある。

① 鉄筋コンクリート造、組積造等の最下階

  図12.3.1 防腐剤塗付面(その1)

② 上間スラプ等の場合

 1) 土間スラプ等の上に載る部分

  図12.3.1 防腐剤塗付面(その2)

 

 2) 土間以外のコンクリートに接する部材


  図12.3.1 防腐剤塗付面(その3)

(4) 防蟻処理

(i) しろありの代表的なものは、ヤマトシロアリとイエシロアリであり、地域によっては相当な被害があるが、防蟻剤が特殊なものであり、地域も指定しにくいので、設計図書で指定されることになる。

(ii) 防蟻剤は、クロルピリホスを含有しない有機りん化合物やピレスロイド系化合物等を主成分とし、(公社)日本木材保存協会や(公社)日本しろあり対策協会で認定している。これらの薬剤は、労働安全衛生法等に従った取扱いが必要である。

12.3.2 防虫処理

(a) ラワン等広業樹の辺材(白太)部分等は、ヒラタキクイムシの食害を受けやすい。食害を防ぐには、薬剤による防虫処理が効果的である。

(b) ラワン材等の食害に対応した防虫処理材の性能区分、浸潤度及び吸収量の適合基準については、表12.3.2. 3及び4を参照する。

(c) 造作材に.ラワン材等を用いる場合はJASによる保存処理K1を行ったものを使用するよう「標仕」12.3.2に定められている。

12章 木工事 4節 鉄筋コンクリート造等の内部間仕切軸組及び床組

第12章 木工事

4節 鉄筋コンクリート造等の内部間仕切軸組及び床組

12.4.1 木 材

(a) 「標仕」では、間仕切軸組に用いる木材の樹種は特記によるものとし、特記がなければ又はを標準としている。

(b) 「標仕」では、床組に用いる木材の樹種は特記によるものとし、特記がなければ又はを標準としている。ただし、土間スラブの類の場合の土台、転ばし大引及び転ばし根太は、ひのき又は保存処理木材を標準としている。

12.4.2 工 法

「標仕」に記載されている工法等の図解を、表12.4.1に示す。

表12.4.1 間仕切軸組及び床組の工法(その1)

 

表12.4.1 間仕切軸組及び床組の工法(その2)

 

表12.4.1 間仕切軸組及び床組の工法(その3)

 

表12.4.1 間仕切軸糾及び床組の工法(その4)

 

表12.4.1 間仕切軸組及び床組の工法(その5)

12章 木工事 5節 窓、出入口その他

第12章 木工事

5節 窓、出入口その他

12.5.1 木 材

「標仕」では、窓出入口その他に用いる木材の樹種は、特記によるものとし、特記がなければ、窓、出入口等の水掛り部で乾きにくい下枠や強度の必要な吊元枠及び敷居では、ひのきを標準とし、その他は、松又は杉を標準としている。

12.5.2 工 法

「標仕」に記載されている工法等の図解を、表12.5.1に示す。

表12.5.1 窓出入口その他の工法(その1)

表12.5.1 窓出人口その他の工法(その2)

表12.5.1 窓出人口その他の工法(その3)

 

表12.5.1 窓出人口その他の工法(その4)

12章 木工事 6節 床板張り

第12章 木工事

6節 床板張り

12.6.1 木 材

「標仕」では、縁甲板及び上がりがまちに用いる木材の樹種は特記によるものとし、特記がなければひのきを標準としている。

12.6.2 工 法

「標仕」に記載されている工法等の固解を表12.6.1に示す。

表12.6.1 床板張りの工法(その1)

表12.6.1 床板張りの工法(その2)
表12.6.1 床板張りの工法(その3)