9章 防水工事 2節 アスファルト防水

第09章 防水工事

2節 アスファルト防水

9.2.1 適用範囲

(a) 「標仕」で取り扱うアスファルト防水は、いわゆる積層式熱工法によるものである。わが国においても、20世紀初めには陸屋根に導入されたといわれる極めて歴史の古い防水工法であるが、防水の主体をなすアスファルトやアスファルトルーフィング類は、建築構法の変化に対応して改質・改良が加えられ、現在においても最も信頼性の高い工法とされている。

アスファルト防水熱工法は、アスファルトとルーフィング類を交互に数層重ねて密着し防水層を構成するもので、通常、6 ~ 10mm程度の厚さに仕上げられる。一般にシート防水層、塗膜防水層とともにメンブレン(膜)防水層と称されている。

この工法の特徴は、溶融アスファルトによってルーフィングを何枚か積層するという点にあり、このことが水密性に対する信頼を得る最大の理由となっている。

更に、ルーフィングの組合せと層数を変えることによって、要求レベルに応じた防水性能をもたせることが可能であり、建物の種類と部位、耐用年数に対応して、適切な防水層を選択することができる。

平成25年版「標仕」では、改質アスファルトルーフィングシート類を併用する工法及び屋根露出防水絶縁断熱工法が採用された。これらは、従来のアスファルト防水の信頼性を維持して少層化が可能で、施工時のCO2削減、省資源及び煙・臭気対策や建築物使用時の省エネルギー等の環境対応の促進並びに工期短縮及び耐久性確保の両立を目的とした工法として、近年、多く採用されているものである。

従来の溶融アスファルトを用いた熱工法以外のアスファルト防水の実績が増加しているが、これらについては 9.8.1を参照されたい。

(b) 作業の流れを図9.2.1に示す。


図9.2.1 アスファルト防水工事の作業の流れ

(c) 準備
(1) 設計図書の確認は、防水の種類、範囲(面積)、箇所等について行うとともに、関係図書(設計図、特記仕様、標準仕様書、建築工事標準詳細図、公共建築設備工事標準図等)との照合を行い、特に端部の納まり、立上り寸法、複雑な箇所の納まり、防水層貫通配管等について検討し、施工計画書、施工図の作成について備える。

(2) 施工業者の決定に当たっては、工事実績等を検討し、工事の内容、規模等に応じ、適正かどうかを判断する。

なお、設計図書に指定されている場合は、その適否を確認する。

また、(-社)全国防水工事業協会は、防水工事の基本要求品質を確保する目的で、平成15年度から防水工事の施工管理に関して、次のような防水施工管理技術者の認定制度を実施しているので参考にするとよい。

(i) 防水施工管理技術者I種(屋根・屋上、屋内、水槽類、地下等の防水工事)

(ⅱ) 防水施工管理技術者Ⅱ種(外壁の防水工事)

(3) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(箇所別,防水の種類別の着工、完成等の時期)
② 施工業者名、作業の管理組織
施工範囲及び防水層の種類
工法(下地を含む)
材料置場
⑥ アスファルト溶融がまの設置場所及び構造
⑦ 消防法による消防署への届出
排水勾配
コンクリート打継ぎ箇所における処置
立上りの構造,納まり
ルーフドレン回り、出入口回り、排水管(防水層貫通管)及び衛生設備(便器・浴槽その他)の納まり
保護コンクリートの目地割り及び目地の構造並びに仕上げ材料エキスパンションの構造と防水の納まり
異種防水層接続部の処置

品質管理、基本要求品質の確認方法等

(d) 用語の説明

・プライマー

防水層と下地をなじみよく密着させる目的で、下地に塗布する液状の材料

・ルーフィング

防水層を形成するために用いるシート状の材料

・流し張り

溶融アスファルトをひしゃく等で流しながら、ルーフィングを張り付けること。

・増張り

隅、角、ドレン回り、下地コンクリートの打継ぎ部等に、補強のためにルーフィングを張り増すこと。

・目つぶし塗り

網状アスファルトルーフィングの目をつぶすように、溶融アスファルトをはけで塗り付けること。

・絶縁用シート

防水層と保護コンクリート又は断熱材と保護コンクリートの間に設ける絶縁・養生のためのシート

・脱気装置

下地面の湿気を排出させる装置

・防水層の「立上り」と「立下り」

「標仕」及び本書の9章[防水工事]では、屋根防水の防水層の立上り・立下りは「立上り」で統一する。「立下り」は地下の外壁の防水等に使用する。

・出隅

2つの面が出会ってできる凸状の連続線

・入隅

2つの面が出会ってできる凹状の連続線

・出入隅角

出隅・入隅どうし又は相互が出会う箇所

・「出隅・入隅」と「立上りの出隅・入隅」

「標仕」及び本9章[防水工事]では、パラペット等の立上りの水平方向の隅を単に「出隅・入関」といい、それと区別するために垂直方向の隅(コーナー部等)を「立上りの出隅・入隅」という。

9.2.2 材 料

(a) アスファルトプライマー

(1) アスファルトプライマーはブローンアスファルト等を揮発性溶剤に溶解したもの、あるいはエマルションタイプのアスファルトプライマー(水性アスファルトプライマー)で常温で毛ばけ塗り又はゴムばけ塗りが容易にできる液体である。

アスファルトプライマーを防水下地に塗布すると,下地表面に付着したアスファルト皮膜を形成し、次の工程における溶融アスファルトとの接着を良くする。水性アスファルトプライマーは、脱有機溶剤に対する社会的要請や、火災、人体等に対する配慮から、従来の溶剤タイプに代えて使用される場合が多い。

通常の製品の場合、8時間以内に乾燥するが、気象条件や下地乾燥条件等により遅れる場合があるので、アスファルトプライマーを塗布し、翌日に次の工程の施工を行うのが一般的である。

揮発性溶剤には一般にミネラルスピリット等が使用されており、灯油等の揮発の遅い溶剤を加えたり、水性アスファルトプライマーに水を必要以上に加えて使用すると、乾燥を遅らせ、防水層のふくれを起こすことがあるので注意する。

(2) アスファルトプライマーはアスファルトルーフィング類製造所の指定する製品とされている。

(b) アスファルト

(1) アスファルトはJIS K 2207(石油アスファルト)の防水工事用アスファルトに適合するものを用いる。

種類は表9.2.1のとおり1種~ 4種に区分されているが、「標仕」では平成22年版から3種を使用することと規定されている。これは、防水工事用アスファルト4種が、設備の老朽化等の理由により平成21年度で製造が停止され、国内での調逹が不可能になったためである。

表9.2.1 防水工事用アスファルトの品質(JIS K 2207:2006)

従来、アスファルトの材料的特性として、3種は一般的に温暖地域に適し、4種は一般的に寒冷地域に適するとされていた。しかし、防水工事用アスファルトの実態調査によると「標仕」を適用している工事以外では、寒冷地域においても、3種アスファルトや性能的に3種に近い環境対応低煙低臭型工事用アスファルトが多用されており、その後の経過観察においても、耐久性能に支障がないことが確認されている。また、フラースぜい化点はその値が低いものほど低温特性の良いアスファルトといえるが、3種アスファルトのフラースぜい化点は4種アスファルトの規格値に近いものが一般的に製造されている。

(2) 針入度指数とフラースぜい化点は、防水工事用アスファルトの性状を表す値である。

針入度指数とは、アスファルトの軟化点と25℃における針入度から計算によって求められる値であって、数値が大きいほど、広い温度範囲において軟化あるいは硬化が起こりにくいアスファルトである。

フラースぜい化点とは、フラースぜい化点試験器によって得られる測定値で、低温時におけるアスファルトのぜい化温度を示す。その値の低いものほど、低温特性の良いアスファルトといえる。

(3) 市街地では、周辺環境への配慮や作業環境の改善等のため、JIS 3種アスファルトにおいても、低煙・低臭タイプが使われている。最近では、更に、低煙・低臭に対する要求が高まってきており、そのために、JIS規格品外ではあるが、環境対応低煙低臭型防水工事用アスファルトが開発され、使われるようになってきた。このアスファルトは、溶融施工温度を更に低温にすることで臭い、煙を大幅に低減したものである(図9.2.2参照)。


図9.2.2 発煙量(発煙係数)
(光量測定法による測定例)


図9.2.3 温度・粘度曲線
(回転粘度計による測定例)

図9.2.3の温度・粘度曲線からも分かるように、環境対応低煙低臭型防水工事用アスファルトでは約20℃も低い温度でJIS 3種アスファルトと同程度の溶融粘度になるので、従来のように温度を上げる必要がなく結果的に煙や臭いの発生が少なくなっている。

表9.2.2に環境対応低煙低臭型防水工事用アスファルトの品質の例を示す。しかしながら、低煙・低臭タイプのアスファルトでも、JIS 3種アスファルトと同様に、施工時の煙や臭いの発生をより少なくするためには、アスファルト溶融時の温度管理が重要であり、また、図9.2.9に示した「改良型無煙がま」や「アスファルト溶融保温タンク」の使用が有効である。

表9.2.2 環境対応低煙低臭型防水工事用アスファルトの品質の例

(c) アスファルトルーフィング類

(0) アスファルトルーフィング類の製法及び種類を図9.2.4に示す。


図9.2.4 アスファルトルーフィング類の製法及び種類

(1) アスファルトルーフィングの種類及び品質は、JIS A 6005(アスファルトルーフィングフェルト)に表9.2.3及び表9.2.4のように定めらている。

通常、アスファルトルーフィング1500が用いられる。

アスファルトルーフィングは、古紙、パルプ、毛くず等の有機質繊維のフェルト状シートにアスファルトを浸透させ被覆して、表裏面に鉱物質粉未を散布し冷却後、規定の長さに切断して1巻としている。

表9.2.3 アスファルトルーフィングの種類(JlSA6005:2005)

表9.2.4 アスファルトルーフィングの品質(JIS A 6005:2005)

(2) 砂付ストレッチルーフィング

(i) 砂付ストレッチルーフィングは、「標仕」9.2.2 (c)(2)では,JIS A 6022によると定められている。

(ⅱ) 一般に、保護コンクリートのない屋根防水の最上層に仕上げ張りとして用いられる。隣接ルーフィングとの重ね部となる表面の片側100mmを除いて砂粒を密着させ、残りの表裏面に鉱物質粉末を付着させたものである。

JIS A 6022に定められている種類並びに品質を表9.2.5及び表9.2.6に示す。

表9.2.5 ストレッチアスファルトルーフィングフェルトの種類及び製品の抗張積の呼び(JlS A 6022:2011)

表9.2.6 ストレッチアスファルトルーフィングフェルトの品質(JIS A 6022:2011)

(3) 網状アスファルトルーフィング
網状アスファルトルーフィングの品質は、JIS A 6012(網状アスファルトルーフィング)で原反の種類により表9.2.7のように3種類に区分されているが、「標仕」9.2.2(c)(3)では、合成繊維ルーフィングを使用するように定められている。

網状ルーフィングは、引張り、引裂き等の強度が大きく、一般に原紙を基材としたルーフィングと比べてなじみがよいので、立上り防水層の張りじまい、貫通配管回り等の増張りに用いられる。

表9.2.7 網状アスファルトルーフィングの品質(JIS A 6012 : 2005)

(4) 砂付あなあきルーフィング

(i) 砂付あなあきルーフィングは、防水層と下地を絶縁するために用いるルーフィングで、全面に規定の大きさのあなを一定間隔にあけたものである。

(ⅱ)「標仕」9.2.2(c)(4)では,JIS A 6023(あなあきアスファルトルーフィングフェルト)に規定されている「砂付あなあきルーフィング」を用いることとしている。

JIS A 6023に定められている種類並びに品質を表9.2.8及び表9.2.9に示す。

表9.2.8 あなあきアスファルトルーフィングフェルトの種類及び製品の単位面積質量の呼び(JIS A 6023: 2005)

表9.2.9 あなあきアスファルトルーフィングフェルトの品質(JIS A 6023 :2005)

(5) 改質アスファルトルーフィングシート

(i) 「標仕」9.2.2(c)(5)では改質アスファルトルーフィングシートは、JIS A 6013(改質アスファルトルーフィングシート)により、種類及び厚さは特記によることとしている(「標仕」表9.2.3.表9.2.4及び表9.2.8参照)。特記がなければ、改質アスファルトルーフィングシートは、非露出複層防水用R種又は露出防水断熱工法の最上層に使用する場合は露出複層防水用R種を使用することとし、厚さは「標仕」表9.2.3、表9.2.4及び表9.2.8によるものとされている。ただし、「標仕」で規定された厚さは、JIS A 6013での表示値を示しており、JIS A 6013では厚さの許容差はプラス側は規定せず、マイナス側は5%まで認められている。

(ⅱ) 改質アスファルトルーフィングシートR種は、合成繊維を主とした多孔質なフェルト状の不織布原反に、アスファルト又は改質アスファルトを浸透させ、改質アスファルトを被覆したものである。

(ⅲ) 改質アスファルトルーフィングシートは、腐朽、変質しにくく、ストレッチルーフィングと比較しても低温で硬化、ぜい化しにくく、伸び率も大きいので破断しにくいなど、種々の優れた特性をもっている。

JIS A 6013に定められている種類及び品質を表9.2.10から表9.2.12までに示す。

(6) 部分粘着層付改質け付改質アスファルトルーフィングシート

(i) 「標仕」9.2.2(c)(6)では、部分粘着層付改質アスファルトルーフィングシー トは、JIS A 6013により、種類及び厚さは特記によることとしている(「標仕」表9.2.5、表9.2.6、表9.2.7及び表9.2.8参照)。特記がなければ、改質アスファ ルトルーフィングシートは、非露出複層防水用R種を使用することとし、厚さは「標仕」表9.2.5、表9.2.6、表9.2.7及び表9.2.8によるものとされている。ただし、「標仕」で規定された厚さは、JIS A 6013での表示値を示しており、 JIS A 6013では厚さの許容差はプラス側は規定せず、マイナス側は5%まで認められている。

(ⅱ) 部分粘着層付改質アスファルトルーフィングシートは、合成繊維を主とした多孔質なフェルト状の不織布原反に、アスファルト又は改質アスファルトを浸透させ、改質アスファルトを被覆したものである。粘着(常温)工法で使用する部分粘着層付改質アスファルトルーフィングは、最下層に粘着力を有する粘着層をスポット状又はストライプ状に配して、粘着層のない部分を通気層として利用する。また、使用前のブロッキングを防止するはく離紙又ははく離フィルムを配したもので、使用時にははく離紙又ははく離フィルムをはがしながら、下地対象面に転圧等を併用して張り付けるものである。粘着層の品質はアスファルトルーフィング類製造所ごとに異なるが、その接着強度は強風による飛散、浮き等が生じないようにその粘着層の面積比が決められている。そのため、「標仕」では.粘着層はアスファルトルーフィング類製造所の指定する製品とされている。風圧力に関しては、建築基準法施行令第82条の4の規定に基づき「屋根ふき材及び屋外に面する帳壁の風圧に対する構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第 1458号)により算定する。

なお、同告示に基づく、屋根葺材に加わる風圧力の計算例は9.4.4 (b)(11)を参照されたい。

(ⅲ) 改質アスファルトルーフィングシートは、腐朽、変質しにくく、ストレッチルーフィングと比較しても低温で硬化、ぜい化しにくく、伸び率も大きいので破断しにくいなど、種々の優れた特性をもっている。

JIS A 6013に定められている種類及び品質を表9.2.10から表9.2.12までに示す。

表9.2.10 改質アスファルトルーフィングシートの用途による区分及び厚さ(JIS A 6013 : 2005)

表9.2.11 改質アスファルトルーフィングシートの材料構成による区分(JIS A 6013 : 2005)

表9.2.12 改質アスファルトルーフィングシートの品質(JIS A 6013 : 2005)

(7) ストレッチルーフィング

(i) ストレッチルーフィングは、「標仕」9.2.2 (c)(7)では、JIS A 6022(ストレッチアスファルトルーフィングフェルト)によるストレッチルーフィング1000を使用するように定められている。

(ⅱ) ストレッチルーフィングは合成繊維を主とした多孔質なフェルト状の不織布原反に、防水工事用アスファルトの3種又は4種を浸透させ被覆して、その表裏面に鉱物質粉末を付着させたものである。したがって、腐朽・変質しにくく、低温でも硬化・ぜい化せず、伸び率が大きいので破断しにくいなど、種々の優れた特性をもっている。また、下地とのなじみがよく施工性の良いルーフィングである。

JIS A 6022に定められている種類並びに品質を表9.2.5及び表9.2.6に示す。

(d) ゴムアスファルト系シール材

(1) ゴムアスファルト系シール材は、防水層張りじまいのシーリングに用いたり、防水層貫通配管回り等に塗り付けるものである。

(2) ゴムアスファルト系シール材は、ゴムアスファルトを原料としたもので、従来のアスファルトルーフコーチングに代わる材料である。耐候性、接・粘着性、低温可とう性、垂れにくさ等、シール材としての優れた特性をもっている。

(3) ゴムアスファルト系シール材はアスファルトルーフィング類製造所の指定する製品とされている。

(e) 絶縁用テープ
絶縁用テープは、紙、合成樹脂等のテープ状のものに、接着剤等を付着させたもので、50mm幅のものが用いられる。

ALCパネルの支持部の目地、PCコンクリート部材の継手目地、コンクリート打継ぎ部等の動きが予想される部分に張り付け、防水層に直接応力が及ばないようにする。

(f) 押え金物

押え金物は防水層の末端部に使用し、防水層のずれ落ち・ロあき・はく離等の防止に用いられるもので、材料は防水層の末端部を機械的に固定するのに十分な剛性と耐久性をもち、更には腐食等の外観上の問題点を考慮して、ステンレス鋼やアルミニウム製のものが一般に使用されている。形状は防水層末端部の形状に応じたものを選ぶ必要があるが、一般的にはアングル状のものあるいは、リブ付きのフラットバー等が用いられる。

(g) 成形キャント材

成形キャント材は、立上り隅を、45度に面取りするために用いる既製の材料で、耐熱型のプラスチックフォームを主材として傾斜面70mm程度、長さ1m前後としたもので、ルーフィング類製造所の指定するものとする。

(h) 屋根保護防水断熱工法の断熱材

(1) 屋根保護防水断熱工法に使用される断熱材には、JIS A 9511(発砲プラスチック保温材)に規定されているA種押出法ポリスチレンフォーム保温板3種b(表9.2.13参照)、A種ビーズ法ポリスチレンフォーム保温板1号等があり、これらの材料の特徴は(i)及び(ii)のとおりである。

(i) A種押出法ポリスチレンフォーム保温板

A種押出法ポリスチレンフォーム保温板(スキンあり)は、圧縮強度が大きく、耐圧縮クリープ性に優れ、また、透湿性・吸収性が小さいため安定した断熱性能を維持する。

(ii) A種ビーズ法ポリスチレンフォーム保温板

A種押出法ポリスチレンフォーム保温板に比べて、一般に圧縮強度が小さく、熱伝導率が大きいが、割れ、欠けに強く圧縮復元性が大きい。

(2) 「標仕」9.2.2(h)では、断熱材の材質及び厚さは特記により、特記がなければ材質は、A種押出法ポリスチレンフォーム保温板3種b(スキンあり)を使用することとしている。

(3) ポリスチレンフォームは、防水層と保護コンクリートの間に設けるいわゆる USD工法に使用される。A種押出法ポリスチレンフォーム保温板3種b(スキンあり)は、熱伝導率、透湿抵抗、耐圧縮性等の点で、「標仕」における防水層種別(AI-1、AI-2及びAI-3)(BI -1、BI-2及びBI-3)の工法に適した断熱材である。

(4) 断熱材の必要厚さは、熱伝導率等から計算により求められる。

表9.2.13 押出法ポリスチレンフォーム保温板の特性(JIS A 9511 : 2009)

(i) 屋根露出防水断熱工法の断熱材

(1) 「標仕」9.2.2 (i)では,断熱材の材質及び厚さは特記により、特記がなければ材質は、JIS A 9511によるA種硬質ウレタンフォーム保温板2種1号又は2号(表 9.2.14参照)の透湿係数を除く規格に適合するものを使用することとしている。

(2) この材料は、寸法安定性がよく、かつ、アスファルトとなじみのよい2枚の面材の間に、サンドイッチ状に発泡させた耐熱型のポリウレタン系断熱材である。

特に、熱伝導率が小さく耐熱性に優れている。しかし、透湿係数がJIS規格に適合するものは市販されておらず、また、断熱材の突付け部からの水蒸気の移動もあることから、屋根露出防水断熱工法で内部結露の発生を抑える必要がある場合は防湿層を配置することとされている。

(3) 断熱材の必要厚さは、熱伝導率等から計算により求められる。

断熱材の厚さが50mmを超える場合は、防火地域又は準防火地域においては建築基準法第63条の規定に、また、特定行政庁が防火地域及び準防火地域以外の市街地について指定する区域内においては建築基準法第22条の規定に、それぞれ適合する展根構造としなければならない。

表9.2.14 A種硬質ウレタンフォーム保温板の特性(JIS A 9511 : 2009)

(j) 絶縁用シート

絶縁用シートは、防水層と保護コンクリートの間又は断熱材と保護コンクリートの間に設ける絶縁及び養生のためのシートで、「標仕」9.2.2 ( j )では特記がなければ、屋根保護防水工法の場合はポリエチレンフィルム(0.15mm以上)、屋根保護防水断熱工法の場合はフラットヤーンクロスを用いることになっている。フラットヤーンクロスは、ポリブロピレン、ポリエチレン等の平織りのシート(70g/m2程度)としている。

(k) 成形伸縮目地材

成形伸縮目地材は、ポリエチレン等の高密度発泡体よりなり、キャップ側面に付着層又はアンカ一部を設けたもので、「標仕」表9.2.1に規定する品質のものとしている。従来の注入目地材は、外観、耐久性とも施工に左右される面が大きく、現在ではほとんど使用されていないため、「標仕」では成形伸縮目地材のみ規定している。

なお、(-社)公共建築協会では「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)において「標仕」の品質基準に基づき、成形伸縮目地材の評価を行っているので、その結果を参考にするとよい。

(l) 成形緩衝材

成形緩衝材は、保護コンクリートの動きによる立上り防水層の損傷を防止するために立上り隅に取り付けるもので、アスファルトルーフィング類製造所の指定するものを用いる。

(m) 保護コンクリート

「標仕」ではコンクリートの調合は、6章14節[無筋コンクリート]によるものとされている。また、保護コンクリート内にひび割れ防止のために敷設する溶接金網(鉄線径6mm、網目寸法100mm)は、すべての保護コンクリートに敷設することとされている。

(n) 乾式保護材

立上り部乾式保護工法に用いる乾式保護材(ボード)は、セメント系成形板、アルミニウム板等で構成された、既製ボード状立上り部保護材で、防水層立上り部を日射等から有効に遮る保護機能を有するものとする。

また、その取付け工法は防水層立上り部の点検維持管理が容易な機構のものとする。

「標仕」9.2.2(n)では、その適用は特記としている。

なお、乾式保護材については、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)において、評価基準を定めて評価を行っているので参考にするとよい。

(o) れんが

立上り部の保護をれんが押えとする場合に使用するれんがには、主として粘土を原料として焼成した普通れんがと、セメントモルタルでれんが状に成形したモルタルれんががあるが、「標仕」では、特記がなければ、普通れんがを用いるものとされている。

(p) メタルラス

主に室内のモルタル保護の左官工事の塗り下地に使用するメタルラスには、平ラス、こぶラス、波形ラス及びリブラスの4種類があるが、「標仕」では、特記がなければ、JIS A 5505(メタルラス)の平ラス2号を用いるものとされている。

(q) モルタル

モルタルは細粒の骨材である砂と結合材としてのセメントを、適用部位により「標仕」表9.2.2に示された調合のセメントモルタルを使用するものとされている。

(r) ルーフドレン

(1) ルーフドレンは「標仕」13章5節により、本体、防水層押え及びストレーナの材質をJIS G 5501(ねずみ鋳鉄品)のFC150又はFC200とし、「標仕」表 13.5.2によるものとされている。

(2) 平成25年版「標仕」では.ルーフドレンのつばは、水密性の確保のため、防水層の張掛け幅が100mm以上確保できる形状のものとされた。

(s) 防水材料の保管と取扱い

(1) 揮発性溶剤を使用したアスファルトプライマーやゴムアスファルト系シール材は、可燃性で低沸点の溶剤を使用しているので、引火しやすく爆発の危険性がある。したがって、密封状態で保管し、火気に十分注意することが必要である。

大量の保管又は取扱いは、消防法第3章(危険物)により処置する。

(2) アスファルトプライマーやゴムアスファルト系シール材は、使用している溶剤による皮膚のかぶれ、密閉された場所における中毒等、健康を害する場合があるので、換気をするなど作業環境には十分注意する。

(3) アスファルトを屋外に保管する場合は、雨露に当たらないように、また、土砂で汚染されないように、シートを掛けるなどの処置をする。

雨露等に当たったアスファルトを溶融すると気泡が発生し、塗った皮膜は多孔質になり、防水性能を損なうおそれがある。

なお、袋入りアスファルトを積み重ねるときは、10段を超えて積まないようにして荷崩れに注意する。

(4) ルーフィング類は、吸湿すると施工時に泡立ち、耳浮き等接着不良になりやすいので、屋外で雨露にさらしたり直接地面に置いたりしないで、屋内の乾燥した場所にたて積みにしておく。砂付ストレッチルーフィング等は、ラップ部(張付け時の重ね部分)を上に向けてたて積みにする。また、ラップ部保護のため2段積みにしてはならない。

9.2.3 防水層の種類、種別及び工程

(a) 防水層の種別
(1) 「標仕」9.2.3では、アスファルト防水層の種別を次のように定めている。

平成25年版「標仕」では改質アスファルトルーフィングシートの流し張り及び部分粘着層付改質アスファルトルーフィングシートを併用する工法が追加規定された。これらの改質アスファルトルーフィングシートを併用する工法は、従米の防水性能とその耐久性を維持してルーフィング類の層数を少層化したもので、使用する防水工事用アスファルトの使用量を削減することが可能な工法である。

(i) 屋根保護防水密着工法  (A-1、A-2、A-3)
(ⅱ) 屋根保護防水密着断熱工法(AI-1、AI-2、AI-3)
(ⅲ) 屋根保護防水絶縁工法  (B-1、B-2、B-3)
(ⅳ) 屋根保護防水絶縁断熱工法(BI-1、BI-2、BI-3)
(v) 屋根露出防水絶縁工法  (D-1、D-2、D-3、D-4)
(ⅵ) 屋根露出防水絶縁断熱工法(DI-1、DI-2)

(ⅶ) 屋内防水密着工法    (E-1、E-2)

(2) 密着工法と絶縁工法

(i) 密着工法((1)の(i)、(ⅱ)及び(ⅶ))
下地面に防水層を全面にわたって密着張りとする工法で、従来から屋上防水や室内防水に多く用いられており、最も信頻性の高い工法の一つである。

平成25年版「標仕」では、屋根保護防水密着工法((1)の(i)及び(ii))で従来のアスファルトルーフィング1500及びストレッチルーフィング1000のアスファルト流し張り2層を改質アスファルトルーフィングシートの流し張り1層で代替する少層化工法が A-3として規定された。

(ii) 絶縁工法((1)の(iii)、(iv)、 (v)及び(vi))

① 通常、屋上防水に用いられる工法で、一般部分は防水層を下地面に全面密着でなく部分接着とし、周辺部及び立上り部を密着張りとする。この工法で施工することにより、下地のき裂等によって生ずる防水層の破断を防ぐことができる。

また、屋根露出防水絶縁工法では、日射によって気化・膨張した水分が絶縁層の間を自由に拡散・移行することができる。しかし、脱気装置を設けることにより、ふくれを低減できるため脱気装置を併用して外気に拡散させる方法を取ることが標準とされている。「標仕」9.2.3(5)及び(6)では、その種類及び設置数量は、特記がなければルーフィング類製造所の指定するものとしている。

② 絶縁工法には次のような種類があるが、「標仕」9.2.3 (3)~(6)では節易な方法で確実に部分接着ができる従来の砂付あなあきルーフィングと、平成 25年版からは、部分粘着層付き改質アスファルトルーフィングシートによる工法を指定している。砂付あなあきルーフィングを用いる場合は、砂付あなあきルーフィングを敷き並べたのち、次工程の流し張りの際に使用する防水工事用アスファルトが砂付あなあきルーフィングのあなから流れ出ることにより、下地と部分的に接着する。その分、次工程で使用するアスファルトの量は、通常の流し張りで使用する量よりも多く、1.2kg/m2としている。

1) 防水層の最下層にあなあきルーフィングを用いる方法(図9.2.5(イ)参照)

2) 溝付き、突起付き又は部分粘着層付きルーフィングシートを用いる方法(図9.2.5(ロ)参照)

3) ルーフィングやアスファルトパネルを点張り、線張り、袋張り等によって下地に部分密着させる方法


(イ) 砂付あなあきルーフィングの場合

 


(ロ) 部分粘着層付改質アスファルトルーフィングシートの場合
図9.2.5 絶縁工法

 

③「標仕」では、絶縁工法の工程2に砂付あなあきルーフィングを用いる場合は、「立上り部は、砂付あなあきルーフィングを省略する。」とされている。これは、砂付あなあきルーフィングは、一般平場部で防水層と下地を絶縁するためのもので防水性能を付与するものではないとの考えから、それまで 立上り部には砂付あなあきルーフィングに代えてストレッチルーフィングを密着張りしていたが、それは省略してもよいということである(図9.2.21 参照)。

(3) 保護防水と露出防水
(i) 保護防水

保護防水とは、防水層の上にコンクリート、コンクリートブロック等の保護層を設ける防水のことをいう。これらの保護層を設ける目的は、一つには、直射日光の遮断や外力による損傷の防止等によってアスファルト防水層の耐久性向上を図ることであり、もう一つの目的は、屋上を歩行可能な仕上りにして何らかの用途に供するためである。

「標仕」では、主として前者を目的として、コンクリートによる保護層を設けることとしている。

(ⅱ) 保護断熱防水

保護断熱防水は、屋根スラブの外側に防水層と組み合わせて断熱材を設ける 外断熱防水である。躯体に対する熱応力の影響、室内側の表面結露、断熱材の 内部結露、暖房停止時の室温変動等に対し、スラブの下(室内側)に断熱材を設ける方法に比べて有利な点が多く、コンクリート建築物屋根断熱の大部分で採用されている。外断熱防水には、防水層の上に断熱材を置く方法と、防水層の下に置く方法とがあるが、それぞれに適した材料と適用の選択が重要である。

「標仕」でいう断熱防水は、防水層の上に吸水性の特に小さい断熱材を設け、絶縁材シートを敷き、保護コンクリートを設けるものである。また、直射日光や外気温の高低による影響から防水層を保護する効果もある(図9.2.6参照)。


図9.2.6 屋根保護防水断熱工法

(ⅲ) 露出防水

露出防水は、最上層に比較的耐久性のある砂付ストレッチルーフィングを用いるものであるが、一般の歩行には適していない。防水層の保護や美観のためには、砂付ストレッチルーフィングの上にシルバー系やその他の着色塗料を塗り付ける。

露出防水は、補修が容易であるという利点があり、更に、コンクリート保護層等のない分、重さを軽減することができる。表9.1.1 に示すように、各種スラブ下地の屋根に、使用形態、施工性、経済性等を考慮して選定される。

平成25年版「標仕」では、防水層の保護と美観を目的として、砂付ストレッチルーフィングの上にはシルバー系やその他の着色塗料を塗布することとされた。仕上塗料の種類及び使用量は特記によるものとされている。

また、防水層押えのない露出防水では、日射によって気化・膨張した水分を、絶縁層を自由に拡散、移行させ脱気装置を併用して外気に拡散させる方法を取らなければならない。その脱気装置の種類及び設置数量は特記により、特記がなければアスファルトルーフィング類製造所の指定するものとされている。

(iv) 露出断熱防水

① 露出断熱防水は、屋根スラブの外側に防水層と組み合わせて断熱材を設ける外断熱防水である。

躯体に対する熱応力の影響、室内側の表面結露、暖房停止時の室温変動等に対し、スラブの下(室内側)に断熱材を設ける方法に比べて有利な点が多<、コンクリート建築物屋根断熱の大部分で採用されている。

② 露出断熱防水は、断熱材を防水層の下に置く方法で、特に寒冷地の場合は断熱材と防水層の間に下地の水分が透過してきて冬期に内部結面が発生する可能性がある。このため、「標仕」では、防湿層として断熱材の下にアスファルトルーフィングを流し張りした防湿層を配置している。

③ 屋根露出防水断熱工法において断熱材を併用する場合には、9.2.2 (i)の硬質ウレタンフォーム保温板を用いる。

④「標仕」においては、断熱材に防水工事用アスファルトが直接触れることで発生する気泡が経時でのふくれ発生につながらないよう、粘着層付改質アスファルトルーフィングシートを張り付けたのちに熱工法で砂付ストレッチルーフィングや露出防水用改質アスファルトルーフィングシートを流し張りして露出防水層を形成する工法が採用されている。

⑤ 平成25年版「標仕」では、防水層の保護と美観を目的として、砂付ストレッチルーフィング又は露出防水用改質アスファルトルーフィングシートの上に仕上塗料を塗布することとされた。仕上塗料の種類及び使用量は特記によるものとされている。

また、近年は高反射率塗料を仕上塗料として用いて、太陽光による防水層の温度上昇を小さくして防水層の耐用年数の向上を目指す手法も多くとられてきている。夏季における温度上昇を小さくして防水層の耐用年数を向上させることは、特に太陽光の影響を大きく受ける屋根露出防水絶縁断熱工法に有効とされている。

(b) 種別の選定

(I)通常、防水層の種別は、建物の用途、規膜、構造、気候、施工条件を考慮して「標仕」表9.2.3~表9.2.9から、更に、補修の難易耐久性等も併せて勘案して表9.1.1から選定される。

(2) 屋内防水密着工法のうちE-1については主として貯水槽、浴槽等に用いることを想定したものである。

その他の場所に用いる場合は工程3を省略することが「標仕」表9.2.9に注記されている。

9.2.4 施 工

(a) 防水層の下地

(1) 下地の状態
防水層施工前の状態について注意する事項を次に示す。
① 下地コンクリート面は、平たんで凹凸がないこと。また、鉄筋・番線等の突起物、粗骨材、モルタルのこぼれ等は防水層を損傷する原因となるので完全に除去する。特に、立上りあご下部分は、突起物や凹凸ができやすいので注意する。

仕上げの程度は、平場のコンクリート下地の場合はコンクリート直均し仕上げとし、工程を「標仕」15.3.3 (a)の(1)から(3)までとしている。また、立上りは「標仕」表6.2.4のB種のコンクリート打放し仕上げとしている。

便所、浴室等の防水層の下地は、施工精度や配管、便器の取合い等を考應してモルタル塗りとする場合は、「標仕」9.2.4 (a)(1)により図面に特記することとされている。

また、凹凸がある場合は、サンダー等で平たんにする。

② 下地は十分に乾燥していること。表面が乾燥しているように見えても、 コンクリート内部まで乾燥するには天候の状況によってかなり時間を要する。乾燥が不十分な下地に施工すると露出防水では、平場コンクリート内部の含有水分が気化・膨張してふくれが生じやすいので注意する。

③乾燥状態は、次のような方法によって判断する。
1) 高周波水分計による下地水分の測定
2) 下地をビニルシートやルーフィング等で覆い,ー昼夜後の結露の状態
3) コンクリート打込み後の経過日数

4) 目視による乾燥状態の確認

(2) 下地の形状

防水層の納まり、下地との接着、施工後の水はけ等、水密性・耐久性のうえから適切な形状の下地を確保しておかなければならない。平場・立上り部の下地施工時に十分注意するとともに、不適と思われる部分は防水層施工前に直しておく。

① 設計図による所定の勾配を確実に付ける。

② 防水層のなじみをよくするために行われる出隅・入隅の面取りは、平成25年版「標仕」では通りよく、45°の面取り(図9.2.7参照)とされ、入隅の半径50mm程度の丸面処理は、一般には行われなくなってきているため削除された。成形はモルタル又はコンクリートによる。


            図9.2.7 下地の形状

③ 露出防水における入隅は、モルタル又はコンクリートの面取りに代えて、成形キャント材を用いることができることとしている(図9.2.7参照)。

④ 入隅の面取りが斜面の場合には、一般に50mm x 50mm x 1/2でつくられることが多いが、保護コンクリートの厚さが50mm程度で断熱層のない場合には、立上り面に接する部分が鋭角になって、保護層の動きで防水層に損傷を与える危険性がある。特に、屋内防水の立上り部の入隅において、保護モルタルの厚さを十分に確保できずに鋭角になる場合には、面取りの長さを短くするなどの処置が必要である。

⑤ 屋内保護密着防水工法で、出隅・入隅の面取りにより保護層等の施工に支障が生じるおそれがある場合は、面取りを行わない場合もある。

(3) ドレン、貫通配管回り

(i) ルーフドレンをコンクリートと同時打込みとするのは、確実に固定して防水層に悪影響を与えないようにするためである。したがって、あとから位置の補正等をしないように正しい位置・高さに設ける。

ルーフドレンや排水落し口等は、スラブ面より低くし、周囲の水はけを良くする。なお、必要に応じてスラブコンクリート下面の打増しをする。

(ⅱ) 配管類の防水層の貫通は、可能な限り避ける。やむを得ない場合は、スリーブを使用しこれを完全に固定する。貫通部の周囲のスラブ面は、特に平たんにし、配管類を含め下地の汚れ除去等清掃を十分に行う。

(b) アスファルトプライマー塗り

アスファルトプライマーは、毛ばけ・ローラーばけ又はゴムばけを用いて塗り付ける。この時に防水下地以外の面を汚さないように注意する。

なお、吹付け方法は揮発性溶剤により薄め過ぎたり、吹出口が詰まって、一様に塗付けできないおそれがあるほか、飛散により周囲を汚しやすいので用いない。

(c) アスファルトの溶融

(1) アスファルト溶融がまの設置に際しては、次の事項に注意する。
(i) 溶融がまは、できるだけ施工場所の近くに設け、周辺には燃えやすいものを置かないよう整理に留意し.給油ホースは足で引っかけないように養生する。

アスファルトの引火に備え、消火器、消火砂、鉄板のふた等を溶融がまの風上側に準備しておく。

(ⅱ) コンクリートスラブの上に設置する場合は、床から250mm以上離すか、又は熱による悪影響のない構造形態の溶融がまを使用する。

(ⅲ) やむを得ず完成した防水層の上に設置する場合は、防水層に有害な影響を与えないよう保護コンクリートを打つか、コンクリート平板や繊維強化セメント板等を敷くなどして養生を行う。

(2) アスファルトの溶融は、大きな塊のまま溶融がまに投入すると、局部加熱が生じやすくなるため、小塊にして溶融がまに投入する。

(3) アスファルトの溶融温度の上限は、「標仕」ではアスファルト製造所の指定する温度としている。これは、過熱による引火及びアスファルトの物性低下を防止するためである。

低煙・低臭タイプアスファルトの溶融温度の上限は、溶融粘度が低いことと煙の発生を抑制するために 240~260℃程度とされている(9.2.2(b)(3)参照)。

自動温度制御装置を組み込んだ改良型溶融がまも使用されている(図9.2.9参照)。

「標仕」では同一アスファルトの溶融を3時間以上続けないこととされているが、これは局部加熱によるアスファルトの変質を避けるためである。工場でアスファルトを保温タンクに詰めて、現場に搬入するタイプは過熱がないため、この限りでない。

(4) 溶融アスファルトは、施工に適した温度(精度)を保つように管理する。溶融アスファルトの温度の下限は、一般の3種アスファルトで 230℃程度、低煙・低臭タイプのアスファルトでは 210℃程度とされている。

溶融アスファルトの温度低下について、図9.2.8に示す。


図9.2.8 アスファルトの温度低下推定値
(ハイスラー線図による)

 


   (イ) 改良型溶融がま


(ロ) 一般の溶融がま


(ハ) アスファルト溶融保温タンク
図9.2.9 アスファルト溶融がま

(5) 屋根保護防水断然工法の断熱材は熱により変形・溶融しやすいため、断然材に溶漁アスファルトを直接掛けずに、下地側に塗り広げたのちに断熱材を張り付けるなどする。

(6) 溶融がまは、温度管理、煙・臭いの低減、効率アップ等の面から年々改良が加えられており、近年は、大型の保温タンクに溶融アスファルトを充填して施工場所に持ち込んだり、あるいは施工場所において電気ヒーターで溶融したりすることにより、更に煙・臭いの低減を図ったものもある(図9.2.9参照)。

(d) アスファルトルーフィング類の張付け

(1) 一般平場のルーフィングの張付けに先立ち、ストレッチルーフィングを用いて次の増張りを行う。増張りのストレッチルーフィングどうしは突付けとし、突付け部分が開いた場合は、水みちとならないように、アスファルトを塗り付ける。

(i) コンクリート打継部及びひび割れ部は、幅50mm程度の絶縁用テープを張った上に、幅300mm以上のストレッチルーフィングで図9.2.10のように増張りする。ただし、絶縁工法の場合は、幅50mm程度の絶縁用テープを張り付けたのち、平場の1層目のルーフィング類を張り付ける。


図9.2.10 コンクリート打継ぎ部及びひび割れ部の処理例

(ii) 出隅・入隅、立上りの出隅・入隅及び出入隅角の増張りは次による。

① 出入隅角は、図9.2.11及び図9.2.12のように増張りする。屋根露出防水断熱工法で断熱材を立上り際まで張る場合の出入隅角の増張りは、平場の断熱材の上で行なう。


図9.2.11 出隅・入隅及び出入隅角の増張りの例(JASS 8より)

 


図9.2.12 出隅・入隅及び出入隅角の増張りの例:
立上りの出隅・入隅に増張りを行う場合(JASS 8より)

② 平成25年版「標仕」では、屋根保護防水工法で立上り部の保護が乾式工法の場合及び屋根露出防水工法の場合は、立上り部の出隅・入隅の増張りは行わず、図9.2.11のように増張りするものとされた。これは、立上りの出隅・入隅において、立上り部の保護が現場打ちコンクリート及びれんがの場合以外では、保護層の動きによる影響が防水層に及ばないためである。屋根露出防水断熱工法で断熱材を立上り部の際まで張る場合は、図9.2.13のように増張りは平場の断熱材の上で行う。


(イ)入隅部

 


(ロ)出隅部
図9.2.13 露出防水断然工法における出隅・入隅部の施工例

③ 屋根保護防水工法で立上り部の保護が現場打ちコンクリート及びれんがの場合の出隅・入隅及び立上りの出隅・人隅には、幅300mm以上のストレッチルーフィングを図9.2.12のように増張りする。

④ 増張りどうしを重ねる必要はない。ただし、突付けとした増張りどうしの間隔が開いた場合は、その部分にアスファルトを塗り付け、水みちとならないようにする。また、はみ出したアスファルトは刷毛等で均しておく。

(2)平場の張付け
(i) 部分粘着層付改質アスファルトルーフィングシートと砂付あなあきルーフィング以外の平場のルーフィング類の張付けは、溶融した防水工事アスファルトの流し張りにより空隙、気泡、しわが入らないように張り付ける。積層方法は千島張り工法とする。

なお、重ね部からはみ出たアスファルトはその都度はけを用いて塗り均しておく。

(ii) 部分粘着層付改質アスファルトルーフィングシートの張付けは、裏面のはく離シートをはがしながら、しわが入らないように張り付ける。重なり部は、上層のルーフィング類を流し張りすることにより、水密性を確保することができるが、施工途中で施工を中断する場合の重なり部の処理はアスファルトルーフィング類製造所の仕様によるものとする。

(iii) アスファルトルーフィング類の重ね幅は、幅方向、長手方向とも原則として 100mm以上重ね合わせる。また、原則として、水下側のアスファルトルーフィング類が図9.2.14のように、重ね部の下側になるように張り重ねねる。


図9.2.14 ルーフィング類の千島張り工法

 


(イ) 砂付あなあきルーフィングの継目

 


(ロ)部分粘着層付改質アスファルトルーフィングシートの継目
図9.2.15 絶縁用材料の継目の処理

 

ただし、絶縁工法の場合、砂付あなあきルーフィングの継目は突付けとし、図9.2.15(イ)のように敷設する。施工時に、風のために砂付あなあきルーフィングの移動やまくれ等のおそれのある場合には、要所をアスファルトで点付けして固定しておく。

部分粘着層付改質アスファルトルーフィングシートの継目は図9.2.15(ロ)のように張り付ける。

(iv) アスファルトルーフィング類の重ね部が各層で同じ箇所にならないよう.図9.2.14のように張り重ねる。

(v) 露出防水絶縁工法及び露出防水絶縁断熱工法の立上り部際の500mm程度は防水工事用アスファルトを用いて、立上り部の1層目のルーフィングを図9.2.16のように密着張りをする。ただし、露出防水断熱工法で、断熱材の上に防水工事用アスファルトを用いる場合は、流し張りに支障のない程度の低い温度で密着張りを行う。


(イ) 砂付あなあきルーフィングの場合

(ロ)部分粘着層付改質アスファルトルーフィングシートの場合

図9.2.16 露出防水絶縁工法における出隅・入隅部の納まり例

(vi) 「標仕」では、立上りと平場のアスファルトルーフィング類は別々に張り付けることになっているが、立上りの高さが400mm未満の場合は、平場のアスファルトルーフィング類をそのまま張り上げることができるとされている。

(vii) 保護防水絶縁工法の立上り部際の500mm程度は防水工事用アスファルトを用いて、立上り部の1層目のルーフィングを図9.2.16のように密着張りをする。

(ⅷ)屋根露出防水断然工法の断熱材は、隙間のないように、アスファルト又はルーフィング類製造所の指定する接着剤等で図9.2.17のように張り付ける。

なお、隣り合う4枚の断熱材の角が一点に集中しないようにする。


図9.2.17 屋根露出防水断然工法の断熱材の張付け方法の例(JASS 8より)

(3) 立上り部の張付け

(i) 「標仕」9.2.4(d)(3)(ⅰ)では、屋根保護防水工法における防水層の立上り部の納まりは、あごのないパラペットの天端部を含めて下層になるほど30mm程度ずつ短くして、末端部は幅100mm程度の網状ルーフィングを増張りし、溶融アスファルトで目つぶし塗りをしたのち、端部にゴムアスファルト系シール材を塗り付けるとされている。

ただし、平成25年版「標仕」では.監督職員の承諾を受けて端部を押え金物で押さえる場合とともに、立上りを乾式保護仕上げとする場合にも、所定の位置に各層の端部をそろえたうえで押え金物で固定する方法を採用することができるようになった。

れんが押えの場合で、前者の納まりの例を図9.2.18に、乾式工法の場合で、後者の納まりの例を図9.2.19に、前者の納まりの例を図9.2.20に示す。


図9.2.18 屋根保護防水密着断熱工法の例(「標仕」表9.2.4 種別 AI-2)
〔立上り:れんが押えの場合〕

 


図9.2.19 屋根保護防水密着断熱工法の例(「標仕」表9.2.4 種別 AI-3)
〔立上り:乾式工法の場合〕


図9.2.20 屋根保護防水絶縁断熱工法の例(「標仕」表9.2.6 種別 BI-3)
〔立上り:乾式工法の場合〕

 

(ii) 「標仕」9.2.4 (d)(3)(ii)では、屋根露出防水工法における防水層立上り部の納まりは、所定の位置に各層の端部をそろえ、押え金物で固定した上に、ゴムアスファルト系シール材で末端処理をするとされている(図9.2.21 ~23参照)。


図9.2.21 屋根露出防水絶縁工法の例(「標仕」表9.2.7 種別 D-2)

 


図9.2.22 屋根露出防水絶縁工法の例(「標仕」表9.2.7 種別 D-4)


図9.2.23 屋根露出防水絶縁断熱工法の例(「標仕」表9.2.8 種別 DI-2)

 

(iii) 押え金物は、特記がなければ既製のアルミニウム製 L-30×15×2.0 (mm)を用いるとしている。「標仕」9.2.4(d)(3)(iii)では、留付けはステンレスビスで 450mm程度以下のピッチとされている。

(4) ルーフドレン、便器及び貫通配管等の張付け

(i) ルーフドレン・貫通配管回りは、立上り部分以上に漏水を起こしやすい箇所であるから、入念な施工が必要である。ルーフドレンのつばへの増張り及び防水層の張掛け幅は、平成25年版「標仕」では、100mm程度とされた。配管類の防水層貫通は、配管経路を変えるか納まりを変えるなどして極力避ける。

(ii) ルーフドレン回りは300mm以上ストレッチルーフィングを増張りするとされている。また、ドレン回りの増張りとパラペットの入隅の増張りは兼用することができる。

絶縁工法における砂付あなあきルーフィング又は部分粘着層付改質アスファルトルーフィングシートとストレッチルーフィング増張りとの納まりを、図9.2.24に示す。


図9.2.24 ルーフドレン回りの納まりの例

(iii) 貫通配管及び和風便器回りに用いる網状ルーフィングは、アスファルトで十分に目つぶし塗りを行う。

貫通配管回り及び洋風便器配管回りの防水層の納まりは図9.2.25による。


図9.2.25 貫通配管回りの防水層の納まり例

(iv) 和風便器回りの防水は、施工が困難である。床を水洗いする場合は、特に納まりに注意する。便器保護のために、周囲に張り付けてある材料が、防水層になじまない場合は、上部は30mm程度これを除去し、アスファルトを厚さ3mm程度塗り付けて、なじませる(図9.2.26参照)。


図9.2.26 和風便器回りの防水層の納まりの例

 

(5) ふくれその他の補修

空隙、気泡、しわ等が生じた場合は、各層ごとに補修する。ただし、ふくれの補修箇所は防水層の欠陥部分となりやすいので、保護層のある場合でふくれに進行性がなく小面積のものは、補修をしない方がよい場合がある。

補修方法は、図9.2.27のように、ふくれ箇所をカッター等の用具で十文字又はH型に切開して、空気を押し出すようにしてアスファルトを流して張り付け、更に切開した寸法より大きめのルーフィングを増張りする。


図9.2.27 ふくれの補修例

(6) アスファルト塗り

(i) アスファルト塗りは、原則として、はけ塗りとし、均ーに所定量を塗り付ける。特殊な器具を用いる場合は、性能をよく確かめる。

(ii) アスファルトのはけ塗りは、塗付け量が十分に確保できる温度にして行う。

(7) 脱気装置

(i) 屋根露出防水絶縁工法において、下地水分の気化・膨張による防水層のふくれを低減するのに、砂付あなあきルーフィング及び部分粘着層付改質アスファルトルーフィングシートの非接着部分での拡散によるだけでは対処できない場合が多い。

このような場合には、水分を積極的に外気に拡散させる脱気装置を併用する手段が有幼である。

脱気装置には、平場に取り付けるものと、立上り部に取り付けるものとがあるが、種類及び設置数量は、特記がなければルーフィング類製造所の指定するものとしている。

なお、設置数量の目安としては、通常、防水層平場 25~100m2に1個程度であるが(表9.2.15参照)、装置によって排出能力が異なるので、正確な分担面積はルーフィング類の製造業者の資料を参考にするとよい。

(ii) 脱気装置は、通常、保護防水絶縁工法には設けない。その理由は、絶縁工法とする目的が下地のひび割れや継目の動きによる防水層の破断を防ぐことにあって、露出防水の場合のように、防水層のふくれの低減を目的とするものではないからである。

しかし、近年は、工期短縮、工費低減の要請から、デッキプレートを型枠にしてコンクリートを打ち込んだ屋根スラブが多くなっている。このコンクリートは非常に乾燥しにくいので、保護防水工法においても、絶縁工法をとるとともに脱気装置を設けて、積極的に水分の排出を図ることが必要な場合もある。

この保護防水絶縁工法に用いる脱気装置は、立上り部に設ける型式のものが適している。平場設置型のものでは、保護コンクリートの動きによって脱気装置を損壊したり、防水層に損傷を与えるおそれがある。

表9.2.15 脱気装置の種類(JASS 8より)

(e) アスファルト防水層施工の途中における検査の留意点は、次のとおりである。

(1) 防水層の構成
(2) プライマーの塗付け範囲
(3) 溶融アスファルトの温度
(4) アスファルトルーフィングの張り方(立上りの張付け、増張りその他)
(5) 末端部の処則(立上り末端部、ルーフィングの張りじまい)
(6) ドレン、配管回り等の処理
(7) 断熱材.絶縁用シートの張付け

また、防水層完成時においては、仕上り面・納まり等の外観検査とともに各材料が規定量どおりに施工されていることを確認する。この場合、アスファルトの使用量は、防水層全体としての数量を把握することを重点において、全使用量から単位面積当たりの数量を算出して確認する。

防水層の検査としては、切取りによる方法もあるが、破壊検査となることから検査後の補修が必要なことと、補修部分が防水上の欠陥につながりやすいので「標仕」では規定していない。

(f) 施工時の降雨・降雪に対する処置は.次のとおりとする

(1) 張り付けたルーフィングの末端部及び張りじまいにはアスファルトを塗り付けておく。

(2) 絶縁工法の場合の防水層末端部は、ルーフィング類で養生張りを行う。


9.2.5 保護層等の施工

(a) 成形緩衝材の取付け

(1) 「標仕」では,保護コンクリートの動きによる防水層の損傷を防ぐため、断熱層の有無にかかわらず入隅には成形緩衝材を用いることとしている。

(2) 成形緩衝材は、絶縁用シートの敷込みに先だって溶融アスファルト等で入隅に固定する。

(b) 断熱材の張付け

(1) 断熱材の張付けは、防水層の最終工程で塗り付けされたアスファルトが、断熱材に支障のない温度になったときに隙間のないように張り付ける。断熱材は、ずれない程度に固定されればよいので、ポリスチレンフォームが溶融しないように十分注意して張り付ける。

(2) 張付け後の断熱材に隙間、へこみ、欠損等が生じた場合は、防水層に傷をつけないように注意しながら断熱材を挿入するなどして補修する。

(3) ルーフドレン回り、入隅部分の断熱材の納まりは図9.2.28による。

(4) 入隅部分の断熱材は、図9.2.28のように緩衝材に接して張り付ける。

 

 


図9.2.28 断熱材の納まりの例

(c) 絶縁用シートの敷込み

 

絶縁用シートは、立上り面に30mm程度張り上げるようにする。

(i) ポリエチレンフィルムの敷込み
ポリエチレンフィルムは、防水層の完成検査後、100mm程度の重ね幅をとって平場に敷き込み、粘着テープ、ゴムアスファルト系シール材等で固定する。

また、強風時には、重ね部分の要所をモルタルで押さえ、フィルムの浮揚を防止する。

(ii) フラットヤーンクロスの敷込み

フラットヤーンクロスは、粘着テープ、ゴムアスファルト系シール材等で要所を固定する。重ね幅は100mm程度とする。

(d) 平場の保護コンクリート

(1) 平場の保護コンクリートは、一般には「標仕」6章14節による無筋コンクリートとしている。

なお、厚さは「標仕」9.2.5(d)で、特記がなければ、コンクリートこて仕上げの場合は80mm以上、タイル張り等の仕上げを行う場合は60mm以上とし、所要の勾配に仕上げることとしている。

(2) すべての保護コンクリートに、ひび割れを防止するため、溶接金網を伸縮調整目地内ごとに敷き込む。溶接金網の重ね幅は、金網部分を1節半以上、かつ、150mm以上とし、コンクリート打込み時に動かないように鉄線で結束し、コンクリート厚さの中間部にコンクリート製スペーサー等を用いて設置する。

なお、溶接金網の敷設に当たっては、防水層を損傷しないように注意する。

(3) 室内防水保護コンクリートは、屋根の場合に準拠して行う。一般に室内の場合は面積が小さく、コンクリートの動きも小さいことから、絶縁層及び伸縮調整目地は設けないのが普通である。ただし、面積が大きい場合(1辺の長さが10m程度以上)や、吸水による伸ぴ等が考えられる場合には、伸縮調整目地を適宜設ける。

また、保護コンクリートに配管を埋め込む場合等は、配管に先立ち防水層の上に厚さ 15mmの保護モルタルを施す。

(e) 立上り部の保護

立上り部の保護は次により、適用は特記としている。

(i) 乾式工法

れんがやコンクリート押えといった湿式工法に対して防水層立上り部前面にボード類を設置する乾式工法がある。

乾式工法の一例として、防水立上がり部乾式保護工法がある。この工法については、防水立上がり部乾式保護工法研究会により「防水立上がり部乾式保護工法(設計・施工)技術指針」が作成されている(図9.2.29参照)。


図9.2.29 防水立上がり部乾式保護工法の例

(ii) れんが押え

れんが積みは、図9.2.30のように立上り防水層から20mm程度離して半枚積みとし、各段ごとにその隙間にセメントモルタルを充填する。

目地幅は10mmとし、縦目地は芋目地にならないようにれんが割りする。れんが積みした表面は、セメントモルタルで仕上げる。

セメントモルタルの調合比は、セメント:砂=1 : 3 とする。


図9.2.30 立上りの保護の例(れんが押えの場合)

(iii) コンクリート押え

コンクリート押えは、無筋コンクリートを上部天端まで打ち込む。

(iv) モルタル押え

屋内等でモルタル押えとする場合は、ひび割れ防止とモルタルの脱落防止のため、防水層表面に 200mm間隔程度に千鳥状にとんぼを付けて、これに平ラス 2号を取り付けたのち、モルタルを厚さ 30mm程度に塗り付ける。

(f) 伸縮調整目地

(1) 屋上の保護コンクリートには、「標仕」9.2.5 (f)により図9.2.31のように伸縮調整目地を設ける。

なお、目地は周辺の立上り部等まで達するように、また、保護コンクリートの下面まで達するように設ける。


 図9.2.31 伸縮調整目地割りの例

 


図9.2.32 伸縮調整目地の施工例(JASS 8より)

伸縮調整目地は、絶縁層の上に施された保護コンクリートが、乾燥収縮及び温度、水分による伸縮でひび割れが発生したり、移動によってパラペットを押し出したりすることを防ぐために設けるものである。したがって、保護コンクリートの上から下まで通して、かつ、周辺の立上り部等まで達するように目地が切られていないと、この目的が十分達成できないことになってしまう。

伸縮調整目地は、図9.2.32のように成形伸縮目地材を用いて構成する。

(2) 成形伸縮目地材を絶縁用シート表面に目地の割付け及びレベル調整の水糸に従ってコンクリートレベルまでを調節しながら目地建てを行い、コンクリート流入圧や打設圧に対して安定するように成形伸縮目地材の両サイドに据付けモルタルを盛り付けて固定する。この場合、固定用据付けモルタルを成形伸縮目地材キャップの天端まで盛り上げて固定してはならない。キャップの天端まで盛り上げた場合は、保護コンクリートの目地周辺のコンクリートに小さなひび割れが多数発生して外観上の不具合となる。したがって、据付けモルタルは成形伸縮目地材のキャップの下端にフック状のアンカーがあるところまでモルタルを盛り上げて固定することが重要である。

なお、高さ可変型の成形伸縮目地材では、保護コンクリートの打込み圧力で押し流されたり移動することを防止する目的で、固定用の粘着テープの状況や留付け高さ可変用のピンの状況を十分に確認して、目地材が確実に留め付けられてから、据付けモルタル等で確実に固定することが重要である。

(g) 屋上排水溝

屋上排水溝にはひび割れ防止のために、溶接金網を挿入したうえで、モルタル金ごて仕上げとすることが一般的であったが、平成25年版「標仕」9.2.5(g)では.屋上排水溝の適用は特記によるものとされた。

(h) 仕上塗料
屋上露出防水絶縁工法及び屋根露出防水絶縁断熱工法の仕上塗料の塗布は、アスファルトルーフィング類製造所の仕様により、ローラーばけ等を用いて行う。

9章 防水工事 3節 改質アスファルトシート防水

第09章 防水工事

3節 改質アスファルトシート防水

9.3.1 適用範囲

(a) 改質アスファルトシート防水工法は、シート状に成形された改質アスファルトシートを種々の方法により施工する工法であるが、「標仕」で取り扱う改質アスファルトシート防水工法は,改質アスファルトシートをトーチバーナーを用いて施工するトーチ工法及び粘着層付改質アスファルトシートを用いる常温粘着工法である。

トーチ工法はトーチバーナーを用いることにより、改質アスファルトシート相互の接合部及び改質アスファルトシートどうしが溶融一体化することが特徴である。トーチ工法は海外では広く普及している防水工法であり、わが国でも 1992年に JIS A 6013(改質アスファルトルーフィングシート)が制定(2005年改正)されたのをきっかけに急速に普及した工法である。一方、常温粘着工法は、裏面に粘着層を施した粘着層付改質アスファルトシートを裏面のはく離紙等をはがしながら下地に接着させる工法で、戦後まもなく導入されたものであるが、1974年に当時の日本住宅公団に採用されたことから普及した工法である。いずれの工法も、においが出ない、溶剤の使用量が少ないなど近隣への影響が少ない工法である。常温粘着工法はトーチ工法と同様な性能・耐久性をもち、施工性も良好なことから、平成25年版「標仕」で採用された。また、従来の屋根露出防水密着工法に加え、動きの大きい下地への対応として屋根露出防水絶縁工法及び建物使用時の省エネ対策として露出防水絶縁断熱工法も同じく採用された。

(b) 作業の流れを図9.3.1に示す。


図9.3.1 改質アスファルトシート防水の作業の流れ

(c) 準 備

(1) 設計図書の確認、施工業者の決定については、9.2.1(c)に準ずる。

(2) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
① 工程表(箇所別、防水の種類別の着工、完成等の時期)
② 施工業者名、作業の管理組織
③ 施工範囲及び防水層の種類
④ 工法(下地を含む)
⑤ 材料置場
⑥ 排水勾配
⑦ コンクリート打継ぎ箇所、PCコンクリート部材、ALCパネルの継目箇所における処置
⑧ 立上り・立下りの構造,納まり
⑨ ルーフドレン回り、出入口回り及び排水管(防水層貫通管)の納まり
⑩ 異種防水層接続部の処置

⑪ 品質管理、基本要求品質の確認方法等

(d) 用語の説明

・改質アスファルトシート

防水層を形成するために用いるシート状の材料

・粘着層付改質アスファルトシート

裏面に粘着層を付けた改質アスファルトシートで、粘着層を全面に設けた密着用と部分的に設けた絶縁用がある。部分的に設けたものを部分粘着層付改質アスファルトシートという。

・増張り用シート

増張りに適した形状に裁断されたシート状の材料

・トーチ工法

改質アスファルトシートをトーチバーナーで溶融しながら張り付ける工法

・常温粘着工法

粘着層付改質アスファルトシート裏面のはく離紙等をはがしながら張り付ける工法

9.3.2 材 料

(a) 改質アスファルトシート

改質アスファルトシートは、改質アスファルト等をシート状に成形したもので、合成繊維不織布等を補強材として構成したものと補強材を用いないものがある。改質アスファルトは、アスファルトにスチレン・ブタジエン・スチレン(熱可塑性ゴムの一種で、通常SBS系と略す。)やアタクチックポリプロピレン(非結晶性ポリプロピレンで、通常APP系と略す。)等の改質剤を添加してアスファルトの温度特性や耐久性を改良したものである。APP系改質アスファルトによる改質アスファルトシートは、トーチ工法に使用されることが多く、SBS系改質アスファルトによる改質アスファルトシートは、トーチ工法及び常温粘着工法に使用され,また.アスファルト防水にも使用される。

(i) 改質アスファルトシート

①「標仕」9.3.2(a)では、改質アスファルトシートは JIS A 6013(改質アスファルトルーフィングシート)により、種類及び厚さは特記によることとしている。特記がなければ、改質アスファルトシートの種類及び厚さは「標仕」表9.3.1から表9.3.3により、種類は表9.3.2によるR種とされている。また、厚さは表9.3.1に従い、トーチバーナーを用いて施工する改質アスファルトシートは、それ以外の方法で施工する改質アスファルトシートよりもそれぞれの用途による区分で1.0mm厚いものを使用するよう規定されている。「標仕」表9.3.1から表9.3.3で規定された厚さは、JIS A 6013での表示値を示しており、JIS A 6013では厚さの許容差はプラス側は規定せず、マイナス側は5%まで認められている。

② 改質アスファルトシートのR種は、合成繊維を主とした多孔質なフェルト状の不織布原反に、アスファルト又は改質アスファルトを浸透させ、改質アスファルトを被覆したもので,低温で硬化・ぜい化しにくく、伸び率も大きいので破断しにくいなど、種々の優れた特性をもっている。

③ 露出防水用改質アスファルトシートは、表面に鉱物質粒子の圧着又は金属はくの積層等の処理を行ったものとする。

(ⅱ) 粘着層付改質アスファルトシート及び部分粘着層付改質アスファルトシート

①「標仕」9.3.2(a)では、粘着層付改質アスファルトシート及び部分粘着層付改質アスファルトシートはJIS A 6013により、種類及び厚さは特記によることとしている。特記がなければ、粘着層付改質アスファルトシート及び部分粘着層付改質アスファルトシートの種類及び厚さは、「標仕」表9.3.1から表9.3.3により、いずれの粘着層付改質アスファルトシート及び部分粘着層付改質アスファルトシートの種類もR種とされている。「標仕」表9.3.1から表9.3.3で規定された厚さは、JIS A 6013での表示値を示しており、JIS A 6013では厚さの許容差はプラス側は規定せず、マイナス側は5%まで認められている。

② 改質アスファルトシートのR種は、合成繊維を主とした多孔質なフェルト状の不織布原反に、アスファルト又は改質アスファルトを浸透させ、改質アスファルトを被覆したものである。粘着層付改質アスファルトシートは改質アスファルトシートの裏面全面に粘着層を配したものである。また、部分粘着粘着層付改質アスファルトシートは改質アスファルトシートの裏面に粘着層をスポット状又はストライプ状に配して粘着層のない部分を通気層として利用するものである。また、使用前のブロッキングを防止するはく離紙又ははく離フィルムを配したもので、使用時にははく離紙又ははく離フィルムをはがしながら、下地対象面に転圧等を併用して張り付けるものである。

③ 粘着層の品質はアスファルトルーフィング類製造所ごとに異なるが、その接着強度は強風による飛散、浮き等が生じないようにその粘着層の面積比が決められている。そのため、「標仕」では、粘着層はアスファルトルーフィング類製造所の指定する製品とされている。風圧力に関しては、建築基準法施行令第82条の4の規定に基づき「屋根ふき材及び屋外に面する帳壁の風圧に対する構造耐カ上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」(平成12年5月31日 建設省告示第1458号)により算定する。

なお、同告示に基づく、屋根葺材に加わる風圧力の計算例は9.4.4(b)(11)を参照されたい。

④ 露出防水用改質アスファルトシートは、表面に鉱物質粒子の圧着又は金属はくの積層等の処理を行ったものとする。

表9.3.1 用途による区分と厚さ(JIS A 6013:2005)

表9.3.2 材料構成による区分(JIS A 6013 : 2005)
表9.3.3 品質(JIS A 6013 : 2005)
(b) 増張り用シート

「標仕」9.3.2(b)では、増張り用シートは、JIS A 6013の非露出複層防水用R種に適合するものとし、厚さ2.5mm以上としている。ただし、粘着層付改質アスファルトシートは厚さ1.5mm以上とすることとしている。増張りに適するように裁断し、下地の動きの大きいALCパネル短辺接合部及びPCコンクリート部材の目地部に用いる。また、防水層が疲労、破断しやすい出隅・入隅又は防水層の納まり上の欠陥となりやすい出入隅角、ルーフドレン回り等の要所に防水性を高めるために用いる。

(c) その他の材料

(1) プライマー、あなあきシート,絶縁用テープ、シール材及び仕上塗料は,同じ種類・用途でも原料の調合や製造法が異なる場合がある。そのため、「標仕」9.3.2 (c)(1)では、改質アスファルトシート製造所の指定する製品としている。

(i) プライマー

プライマーは、改質アスファルトシートの施工に先立って下地に塗布する材料で、下地と改質アスファルトシートとの接着効果を向上させることを目的としたものである。一般的には、アスファルトや改質アスファルトを有機溶剤に溶解させた溶剤系と水に分散させたエマルション系がある。使用又は取扱いについては、消防法、労働安全衛生法等の規定を遵守しなければならない。

(ⅱ) あなあきシート

あなあきシートは、防水層と下地との間を絶縁するために用いられる材料で、シート全面に一定の間隔で穴が開いており、トーチ工法で改質アスファルトシートの張付けの際、溶融改質アスファルトが穴から流れ込み、下地へ規則的な部分接着となる。

(ⅲ) 絶縁用テープ

絶縁用テープは、紙、合成樹脂等のテープ状のものに、粘着剤等を付着させたもので、幅50mmのものが用いられる。ALCパネル短辺接合部及びPCコンクリート部材目地部等大きな動きが予想される部分に張り付け、防水層に直接力が及ばないようにする。

(ⅳ) シール材

シール材は防水層張りじまいや貫通配管回り等に使用されるもので、防水層上の弱点を補い、防水層の水密性を確保する材料である。材質は防水層に影響を与えないものとする。

(ⅴ) 仕上塗料

仕上塗料は、露出防水用改質アスファルトシートの上に塗布し、防水層の美観と耐久性の向上(砂落ち防止、温度上昇低減)を目的として使用されるもので、一般にはエマルション系の塗料が多く使用される。

なお、仕上塗料は、塗料の品質性能上、長期的な耐久性を望むことが困難であり一定期間で塗り替える必要がある。

(ⅵ) 押え金物

押え金物は、9.2.2(f)による。

(2) 屋根露出防水絶緑断熱工法に用いる断熱材は、屋根スラブと防水層の間に設置される。「標仕」9.3.2(c)(2)では、材質及び厚さは特記により、特記がなければ材質は、JIS A 9511(発泡プラスチック保温材)によるA種硬質ウレタンフォーム保温材の保温板2種1号又は2号で透湿係数を除く規格に適合するものとしている。

この断熱材は、寸法安定性がよく、2枚の面材の間にサンドイッチ状に発泡させた耐熱型のポリウレタン系断熱材である。特に、熱伝導率が小さく耐熱性に優れている。また、独立気泡のため、水や水蒸気の浸入に対する抵抗性が大きい。

断熱材の必要厚さは、熱伝導率から計算により求められる。断熱材の厚さが 50mmを超える場合は、防火地域又は準防火地域においては建築基準法第63条の規定に、また、特定行政庁が防火地域及び準防火地域以外の市街地について指定する区域においては同第22条の規定に、それぞれ適合する屋根構造としなければならない。

なお、断熱材の固定に使用する接着剤等は、断熱材及び防水層に影響を与えないものとする。

9.3.3 防水層の種別及び工程

「標仕」9.3.3では、改質アスファルトシート防水工法は、屋根根露出防水密着工法、屋根露出防水絶縁工法及び屋根露出防水絶縁断熱工法とされ、また、それぞれの防水層の種別及び工程は「標仕」表9.3.1から表9.3.3により、適用は特記によるとしている。平成25年度「標仕」では、従来の屋根露出防水密着工法の2工法が3工法になり、更に、屋根露出防水絶縁工法の3工法及び屋根露出防水絶縁断熱工法の2工法が規定された。

(1) 屋根露出防水密着工法
(i) AS – T1
1層目の非露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチバーナーにより下地に全面密着させ、更に、2層目の露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチバーナーにより張り合わせるトーチ工法による複層仕様の防水層である。
(ⅱ) AS – T2

露出単層防水用の改質アスファルトシートをトーチバーナーにより下地に全面密着させるトーチ工法による単層仕様の防水層である。

(ⅲ) AS – J1

1層目に非露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを全面密着させ、更に、2層目に露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを張り合わせる複層の常温粘着工法による複層仕様の防水層である。

(2) 屋根露出防水絶縁工法
(i) AS – T3

1層目に非露出複層防水用の部分粘着層付改質アスファルトシートで下地に部分的に接着させ、更に、2 層目の露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチバーナーにより張り合わせるトーチ工法による複層仕様の防水層である。下地に部分的に溶着させ絶縁工法とする場合は、1層目の部分粘着層付改質アスファルトシートに代え、非露出複層防水用の改質アスファルトシートとする。立上りは1層目の部分粘着層付改質アスファルトシートに代え、非露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチ工法で密着させる工法とする。

(ⅱ) AS – T4

あなあきシートを敷き並べた上に露出単層防水用の改質アスファルトシートの裏面をトーチバーナーにより全面溶融し、穴の部分だけを下地に溶着させるトーチ工法による単層仕様の防水層である。改質アスファルトシートを下地に部分的に溶着させて絶縁工法とする場合は、あなあきシートを省略する。立上りは、あなあきシートを省略し密着工法とする。

(ⅲ) AS – J2

1層目に非露出複層防水用の部分粘着層付改質アスファルトシートで下地に部分的に接層させ、更に、2層目に露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを張り合わせる常温粘層工法による複層仕様の防水層である。立上りは1層目の部分粘着層付改質アスファルトシートに代え、非露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを密着させる工法とする。

(3) 屋根露出防水絶縁断熱工法
(i) ASI – T1

最初に断熱材を接着剤等によりド地に接着し、その上に非露出複層防水用の部分粘着層付改質アスファルトシートを張り付け、更に、2層目の露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチバーナーにより張り合わせる複層仕様の防水層である。立上りには断熱材は施工せず、1層目は非露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチ工法で密着させる。「標仕」表9.3.3では防湿層の設置は特記としているが、「住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する設計、施工及び維持保全の指針」(平成18年国土交通省告示第378号)の地域 I、地域 Ⅱ 及び地域Ⅲにおいては、防湿層の設置が望ましい。防湿層としては、改質アスファルトシート系の常温粘着用シートを使用する場合が一般的である。

(ⅱ) ASI – J1

最初に断熱材を接着剤等により下地に接着し、その上に非露出複層防水用の部分粘着層付改質アスファルトシートを張り付け、更に、2層目の露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを張り合わせる常温粘着工法による複層仕様の防水層である。立上りには断熱材は施工せず、1層目は非露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを密着させる。ASI-T1と同様「標仕」表9.3.3では防湿層の設置は特記としている。

(4) ALCバネル及びPCコンクリート部材を下地とする場合のALCパネル短辺接合部及びPCコンクリート部材の目地部の処置は、改質アスファルトシート張付けに先立ち、(1)においては、増張り用シートにより増張りを行い、(2)及び(3)においては、絶縁用テープを張り付ける。また、ALCパネルを下地とした場合は、プライマーの使用量を0.4kg/m2とする。

9.3.4 施 工

(a) 防水層の下地

防水層の下地は、9.2.4(a)を参照されたい。ただし、出隅及び入隅は図9.3.2に示す形状とする。

 
図9.3.2 出隅及び入隅の形状

(b) プライマー塗り

プライマー塗りは、下地の乾燥を確認したのちに、清掃を行い、塗布する。

(i) コンクリート下地の場合は、所定量をはけ又はローラーばけ等を下地の状況に応じて適宜使い分けて、改質アスファルトシート等の張りじまい部までむらなく均ーに塗布する。この際、防水施工範囲以外の面を汚さないように注意する。

(ⅱ) ALCパネル下地の場合は、所定量をはけ等により2回に分けて塗布する。 2回目の塗布は、1回目に塗布したプライマーが乾燥したことを確認したのちに行う。

(ⅲ) プライマーは改質アスファルトシートの張付けまでに十分乾燥させる。

(c) 増張り

改質アスファルトシートの張付けに先立ち、増張り用シートを用いて次の増張りを行う。

(i) ALCパネルの短辺接合部

① 屋根露出防水密着工法において、トーチ工法(種別 AS-T1及び AS-T2)の場合は幅300mm程度の増張り用シートを用いて接合部両側に 100mm程度ずつ張り掛け、絶縁増張りを行う。常温粘着工法(種別 AS- J1)の場合は、幅50mm程度の絶縁用テープを張り付けたのち、幅300mm程度の増張り用シートを用いて増張りを行う(図9.3.3参照)。

② 屋根露出防水絶縁工法及び屋根露出防水絶縁断熱工法においては、トーチ工法(種別 AS-T3、AS-T4及びASI-T1)及び常温粘着工法(種別 AS-J2 及びASI- J1)のいずれの場合も増張り用シートによる増張りは行わず、ALCパネル短辺接合部に幅50mm程度の絶縁用テープを張り付ける処理だけでよい。


図9.3.3 屋根露出防水密着工法におけるALCバネル短辺接合部の増張り例

(ⅱ) PCコンクリート部材の接合部の目地部

① 屋根露出防水密着工法において、トーチ工法(種別 AS-T1及び AS-T2)の場合は部材の両側に100mm程度ずつ張り掛けることのできる幅の増張り用シートを用いて絶縁増張りを行う。常温粘着工法(種別AS_J1)の場合は、幅50mm程度の絶緑用テープを張り付けたのち、同様に行う(図 9.3.4参照)。


図9.3.4 屋根露出防水密着工法におけるPCコンクリート部材接合部目地部の増張り例

② 屋根露出防水絶縁工法及び屋根露出防水絶縁断熱工法においては、トーチ工法(種別 AS-T3、 AS-T4 及び ASI-T1)及び常温粘着工法(種別 AS-J2及びASⅠ- J1l)のいずれの場合も増張り用シートによる増張りは行わず、PCコンクリート部材接合部目地部に幅 50mm程度の絶縁用テープを張り付ける処理だけでよい。

(ⅲ) 出隅及び入隅は、幅200mm程度の増張り用シートを100mm程度ずつ張り掛けて増張りを行う(図9.3.5参照)。

 
図9.3.5 出隅・入隅部の増張り例

また、出入隅角は幅200mm程度の増張り用シートを用いて図9.3.6のように行う。


図9.3.6 出入隅角の増張り例

(ⅳ) ルーフドレン回りは、増張り用シートをルーフドレンのつばと、つばから 100mm程度の範囲の下地に張り掛けるように張り付ける(図9.3.7参照)。トーチ工法の場合は、トーチバーナーでよく溶融させて張り付け、焼いた金ごて等で増張り用シートの段差を均す。常温粘着工法の場合は、ローラー転圧にトーチバーナーを併用するなどして張り付ける。増張り用シートの段差はトーチバーナー等を使用して均す。

 
図9.3.7 ルーフドレン回りの増張り例

(ⅴ)貫通配管回りは、150mm程度の増張り用シートを用いて貫通配管と根元を増 張りし、更に増張り用シートを貫通配管周囲の下地に150mm程度張り付ける(図 9.3.8参照)。トーチ工法の場合は、トーチバーナーでよく溶融させて張り付け.焼いた金ごて等で増張り用シートの段差を均す。常温粘着工法の場合は、ローラー転圧にトーチバーナーを併用するなどして張り付ける。増張り用シートの段差はトーチバーナー等を使用して均す。


図9.3.8 貫通配管回り増張り例

(d) 改質アスファルトシートの張付け

(1) 平場の張付け(密着工法)

(i) トーチ工法の場合

① 改質アスファルトシートの張付けは、改質アスファルトシートの裏面及び下地をトーチバーナーであぶり、改質アスファルトを十分溶融させ、丁率に張り付ける。

② 改質アスファルトシート相互の接合は、原則として、水上側が水下側の上に重なるように張り重ね、重ね幅は長手・幅方向とも100mm以上とする。}

③ 複層防水の場合は改質アスファルトシートの重ねが上下層で同一箇所にならないように張り付ける(図9.3.9参照)。その際、1層目の改質アスファ ルトシートの表面及び2層目の改質アスファルトシートの裏面をトーチバーナーであぶり、相互の改質アスファルトが十分溶融されていることを確認し、空気の内包、破れ、密着不良等ができないように張り付ける。


図9.3.9 改質アスファルトシートの張り方

④ 改質アスファルトシート相互の接合に当たっては、溶融した改質アスファルトがシート端部からはみ出すように十分溶融させ施工する。

⑤ 改質アスファルトシートの3枚重ね部は、水みちになりやすいので、中間の改質アスファルトシート端部を斜めにカットする(図9.3.10参照)か、焼いた金ごてを用いて角部を滑らかにするなどの処理を行う。


図9.3.10 改質アスファルトシートの3枚重ね部の納まり例

⑥ 露出防水用の改質アスファルトシートの砂面に改質アスファルトシートを重ね合わせる場合、重ね部の砂面をあぶり、砂を沈めるか、砂をかき取って改質アスファルトを表面に出した上に張り重ねる(図9.3.11参照)。


図9.3.11 露出防水用改質アスファルトシートの重ね部の処理例
(表面の砂をかき取る例)

 

⑦ 接合部からはみ出した改質アスファルトは、焼いた金ごて等を用いて処理する。この際、改質アスファルトシートの重ね部に口あき等のある箇所は、焼いた金ごてを差し込み再炭溶融して接着させる。

(ⅱ) 常温粘着工法の場合

① 改質アスファルトシートの張付けは、シートの裏面のはく離紙等をはがしながら空気を巻き込まないように、平均に押し広げ、転圧ローラー等を併用して張り付ける。

② 改質アスファルトシート相互の重ねは、(i) ②及び (i) ③による。

③「標仕」9.3.4 (d)(1)(ⅱ)では、改質アスファルトシート相互の張付けは、改質アスファルトシート製造所の仕様によるとしている。改質アスファルトシート相互の接合には、転圧ローラーによる転圧だけでなく、トーチバーナーやシール材等が併用されることが多い。

④ 改質アスファルトシートの3枚重ね部には、シール材を充填するか、トーチバーナーであぶり、焼いた金ごてを用いて滑らかにする。また、トーチ工法と同様に、中間の改質アスファルトシート端部を斜めにカットして行ってもよい。

⑤ 露出防水用の改質アスファルトシートの砂面に改質アスファルトシートを重ね合わせる場合は、砂面にゴムアスファルト系のテープ又はペースト等で処理したのちに張り付け、転圧する(図9.3.12参照)。また、トーチ工法と同様に砂をかき取って改質アスファルトを表面に出したのちに張り付け.転圧する方法もある。


図9.3.12 重ね部の処理例

(2)平場の張付け(絶縁工法)

「標仕」9.3.3 (2)及び「標仕」9.3.3 (3)では、トーチ工法の種別 AS-T3、AS-T4及びASI-T1並びに常温粘着工法の種別 AS-J2及びASI-J1を絶縁工法としている。

「標仕」表9.3.2及び「標仕」表9.3.3の工程で示される各シートの張付けは、①~③による。ただし、「標仕」9.3.4 (d)(1)(i) 及び「標仕」9.3.4(d)(1)(ⅱ)では、立上り際の幅500mm程度は改質アスファルトシートを全面密着させることとしている。また、改質アスファルトシートの張付けが複数日になる場合は、作業を中断する部分の雨仕舞処理、風対策等を考慮する。

① 部分粘着層付改質アスファルトシートの張付け(種別AS-T3、 AS- J2、ASI-T1及びASI- J1)

1)部分粘着層付改質アスファルトシートの張付けは、(1)(ⅱ)①による(図9.3.13参照)。

2) 部分粘着層付改質アスファルトシート相互の重ね幅は、幅方向は100mm程度とし、長手方向は突付けとし、その部分に200mm程度の増張り用シートを張り付ける(図9.3.14参照)。

なお、部分粘着層付改質アスファルトシート相互の張付けは、改質アスファルトシート製造所の仕様による。

3) 立上り際は、風による負圧が平場の一般部より大きくなるため、立上り際の幅500mm程度は密着工法とする(図9.3.15及び図9.3.16参照)。


図9.3.13 部分粘着層付改質アスファルトシートの張付けの例


    図9.3.14 接合部の処理例


図9.3.15 立上り際の部分粘着層付改質アスファルトシートの納まり例


図9.3.16 ASI-T1の場合の立上り際の
部分粘着層付改質アスファルトシートの納まり例

② あなあきシートの張付け(種別 AS-T4)

1) あなあきシート相互は、隙間ができないように突付けで敷き並べる。突付け部の下側に改質アスファルトシート片(200 × 100(mm)程度)を3〜4m程度の間隔で敷き込み、空気の通路を設ける(図9.3.17参照)。

2) あなあきシートの上に改質アスファルトシートを張り付ける場合、あなあきの部分に溶融した改質アスファルトが十分に流れ込んでいることを確認しながら張り付ける。

3) 立上り際は、風による負圧が平場の一般部より大きくなるため.立上り際の幅500mm程度は密着工法とする(図9.3.18参照)。


図9.3.17 あなあきシートの敷き並べ例


図9.3.18 立上り際のあなあきシートの納まり例

③ 改質アスファルトシートを部分溶着する場合の張付け
(種別AS-T3及び種別AS-T4)

「標仕」表9.3.2では、種別 AS-T3 及び種別 AS-T4 の場合、改質アスファルトシートを部分的に溶着する方法も可能とされている。

1) 改質アスファルトシートを部分溶着する場合は、改質アスファルトシートの裏面に付けられている指定溶融箇所及び下地をトーチバーナーで十分に溶融させながら平均に押し広げ、部分的に溶着させる(図3.4.19参照)。

なお、立上り際の幅500mm程度は密着工法とする。

2) 改質アスファルトシート相互の接合部は、(1)(ⅰ)②による。


図9.3.19 部分的に溶着する張り方の例

 

(3) 断熱材の張付け

「標仕」では、屋根露出防水絶縁断熱工法における断熱材の張付けは、改質アスファルトシート製造所の仕様によるとしているが、施工の際には次の点に留意する。

① 断熱材は、順次隙間なく張り付ける。

② ルーフドレン回りへの断熱材の張付けは、ルーフドレンのつばから300mm程度離れた位置に四角く逃げて、浮き及び隙間ができないように張り付ける

(図9.3.20参照)。

③ 貫通配管回りへの断熱材の張付けは、貫通配管の回りに隙間及び浮きができないように張り付ける(図9.3.21参照)。


図9.3.20 ルーフドレン回りへの断熱材の張付け例


図9.3.21 貫通配管回りへの断熱材の張付け例

(4) 立上り部の張付け
(i) トーチ工法の場合
① 立上り部の張付けは(1)(i)による。

② 平場が部分粘着層付改質アスファルトシートを用いた絶縁工法の場合は、部分粘着層付改質アスファルトシートを非露出複層防水用の改質アスファルトシートに代えて張り付けて、平場へ張り重ねる。

③ 立上り部への改質アスファルトシートの末端部は、所定の位置にそろえて、押え金物を用いて留め付け、シール材を充填する(図9.3.22参照)。

(ⅱ) 常温粘着工法の場合

① 立上り部の張付けは、(1)(ⅱ)による。

② 平場が部分粘着層付改質アスファルトシートを用いた絶緑工法の場合は、部分粘着層付改質アスファルトシートを非露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートに代えて張り付けて、平場へ張り重ねる。

③ 立上り部への粘着層付改質アスファルトシートの末端部は、所定の位置に

そろえて、口あきのないよう転圧し、押え金物を用いて留め付け、シール材を充填する。


図9.3.22 防水層端部の納まり例

(5) ルーフドレン、貫通配管等との取合い

(i)トーチ工法の場合

① ルーフドレン回りは、改質アスファルトシートをトーチバーナーを用いてルーフドレンのつばに100mm程度張り掛かるように、増張り用シートの上に張り重ねる。防水層端部にはシール材を塗り付ける。絶縁工法の場合は、ルーフドレンのつばから400mm程度は密着させる。

② 貫通配管回りは、改質アスファルトシートをトーチバーナーを用いて貫通配管及び周囲の増張り用シートに張り重ね、貫通配管立上りの所定の位置に防水層の端部をそろえ、ステンレス製既製バンド等で防水層端部を締め付け、防水層の末端部及び貫通配管の根元部はシール材を塗り付ける(図9.3.23 参照)。

(ⅱ) 常温粘着工法の場合

① ルーフドレン回りは、粘着層付改質アスファルトシートをルーフドレンのつばに100mm程度張り掛かるように、改質アスファルトシート製造所の仕様により増張り用シートの上に張り重ねる。防水層端部にはシール材を塗り付ける。絶縁工法の場合は、ルーフドレンのつばから 400mm程度は密着させる。

② 貫通配管回りは、粘着層付改質アスファルトシートを所定の位置に防水層の端部をそろえ、ステンレス製既製バンド等で防水層端部を締め付け、防水層の末端部及び貫通配管の根元部はシール材を検り付ける(図9.3.23参照)。


図9.3.23 貫通配管回りの取合い例

(e) 仕上塗料塗り

(1) 仕上塗料は、かくはん機等を用いて、顔料及び骨材等が分散するように注意しながら十分練り混ぜる。

(2) 仕上塗料塗りは、所定の塗布量をはけ又はローラーばけ等によりむらなく均一になるように塗布する。

(f) 検査

改質アスファルトシート防水層施工途中における検査の留意点は9.1.3(b)を参照されたい。

(g) 施工時の気象条件
施工時の気象条件については、9.1.3(a)を参照されたい。
なお、防水施工中に降雨・降雪が生じた場合は、張付けを中止し、張りじまい部を焼いた金ごてやシール材で処理する。絶縁工法の場合の防水層端部は、改質アスファルトシート類で養生張りを行う。

9章 防水工事 4節 合成高分子系ルーフィングシート防水

第09章 防水工事

4節 合成高分子系ルーフィングシート防水

9.4.1 適用範囲

(a) 合成高分子系ルーフィングシート防水は、一般にシート防水と総称され、通常、厚さ1.0〜2.0mmのルーフィングシートを下地に張り付けて構成される。「標仕」では、歩行を前提としない露出防水を想定して規定されている。

(1) このルーフィングシートは、合成ゴム又は合成樹脂を主原料としており、耐候性に優れている。

(2) 「標仕」では、接着工法(種別:S – F1、S – F2)及びルーフィングシートを機械的に固定する工法(種別:S – M1、S – M2、S – M3)が規定されていたが、平成25年版「標仕」では、プラスチック系保温材を断熱材として使用する断熱工法における、接着工法(種別:SI – F1、SI – F2)及び機械的固定工法(種別:SI – M1、SI – M2)が追加された。

(3) 塩化ビニル樹脂系(種別:S – F2)では保護材不要で軽歩行ができる施工も一般化している。

(4) 耐候性が優れていること以外に、施工時に火を使わない、施工が簡単、工期が短いなどの長所があるが、ルーフィングシートは一般に薄く、施工時に傷きやすいので注意を要する。

(b) 作業の流れを図9.4.1に示す。


図9.4.1 合成高分子系ルーフィングシート防水工事の作業の流れ

(c) 準 備

設計図書の確認、施工業者の決定については、9.2.1 (c)に準ずる。
施工計画書の記載事項は,おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(箇所別、防水の種類別の着工、完成等の時期)
② 施工業者名,施工管理及び安全管理の体制
③ 施工範囲及び防水層の種類
④ 工法(下地の種類及び状態を含む)
⑤ 材料置場
⑥ 排水勾配
⑦ コンクリート打継ぎ箇所、PCコンクリート部材、ALCパネルの継目箇所における処置
⑧ 立上りの構造、納まり
⑨ ルーフドレン回り、出入口回り及び排水管(防水層貫通配管)の納まり
⑩ 異種防水層接続部の処置

⑪ 品質管理、基本要求品質の確認方法

 

(d) 用語の説明

・ルーフィングシート

防水層を形成するために用いるシート状の材料

・均質シート

合成高分子を主原料としたルーフィングシート

・複合シート

合成高分子を主原料としたルーフィングシートに基布その他を複合したルーフィングシート

・一般複合タイプ

基布又は性状の異なるシート状のものを複合して寸法安定性、力学的物性等を改善した複合ルーフィングシート

・補強複合タイプ

補強布に強度を依存する複合ルーフィングシート

・接着工法

下地ヘプライマー、接着剤を用いてシートを全面接着する工法

・機械的固定工法

下地へ固定金具を用いて機械的にシートを固定する工法

・断熱工法

プラスチック系保温材を下地とシートの間に敷設し断熱材として使用する工法

9.4.2 材 料

(a) ルーフィングシート

ルーフィングシートは、JIS A 6008(合成高分子系ルーフィングシート)に適合するものを用いる。

(i) ルーフィングシートの種類は、表9.4.1に示すように均質シートと複合シートに大別される。

表9.4.1 ルーフィングシートの種類(JIS A 6008 : 2006)
「標仕」では、使用するルーフィングシートの種類を特記することになっているが、一般に表9.4.1の種類又は略称で表示される。

「均質塩ビ」には、引張強さ1,000N/cm2以上のものと、1,800N/cm2以上のものがあり、後者は主として機械的固定工法のものに使用する。

また、ルーフィングシートの種類と特性の関係は表9.4.2のようになる。

表9.4.2 ルーフィングシートの種類と特性
(ii) JIS A 6008で規定されているルーフィングシートの厚さと「標仕」の種別による標準厚さは、表9.4.3に示すとおりである。

なお、幅は1.0m、1.2m又は1.5mのものが一般的である。

表9.4.3 製品の厚さ

(iii) ルーフィングシートは、1巻ごとに包装の見やすい箇所に次の事項が表示されている。特に「標仕」では、露出防水を標準としているので、⑨の試験が実施済みのものであることを確認する必要がある。

① 規格名称
② 種類又は略称
③ 寸法(厚さ、幅及び長さ)
④ 質量及び単位面積質量
⑤ シート相互の接合方法
⑥ 工法(全面接着、機械的固定)
⑦ 製造年月日又はその略号
⑧ 製造業者又はその略号

⑨ 促進暴露処理及びオゾン処理試験実施の有無

(b) 絶縁用シート

絶縁用シートは、種別 SI – M2 に適用するもので、敷設又は張付けに支障なく、防水層の品質を低下させないもので、面材のないA種押出法ポリスチレンフォー ム保温板への塩化ビニル樹脂系ルーフィングシートの可塑剤の移行を防止する目的で使用される。

絶縁用シートの厚さについて「標仕」では規定していないが、一般には発泡ポリエチレンシート等の厚さ1.5mm以上のもののほか、フィルムや裁維類の補強材を積層した発泡ポリエチレンシートで厚さ1.0mm程度のもの及びポリエステル系やポリプロピレン系の不織布シートで厚さ 2.0mm程度のものが使用されているので、合成高分子系ルーフィングシート製造所仕様を確認する必要がある。

なお、下地と防水層、断熱材と防水層の間を緩衝、絶縁する目的で、種別 S – M1、S – M2、S – M3、SI – M1及び SI – M2 で絶縁用シートを使用するよう設計図書で指定された場合の材料等は上記に準ずる。

(c) その他の材料

同じ種類のシートでも原料の調合や製造法が多少異なる場合がある。そのため、「標仕」9.4.2(c)では、プライマー、接着剤、仕上塗料、シール材(定形・不定形を含む。)等は、合成高分子系ルーフィングシート製造所の製品又はその指定するものとしている。

(i) プライマー

一般的には、接着剤と同質又は類似の材質のものに、溶剤等を加えて溶解させた低粘度のもの又はエマルション系のもので、下地表面にある程度浸透するようにしたものが多い。

ルーフィングシートの種類とプライマーの一般的な組合せを次に示す。

1) 種別S – F1、SI – F1 加硫ゴム系シート:
 クロロプレンゴム系プライマー
2) 種別S – F2、SI – F2 塩化ビニル樹脂系シート:
 アクリル樹脂系プライマー
 エチレン酢ビ樹脂系プライマー
 エポキシ樹脂系プライマー

 ニトリルゴム系プライマー

なお、種別S – E2でプライマーの塗布は、ALCパネル下地のみとしている。

(ii) 接着剤

接着剤は、下地に断熱材及びルーフィングシートを張り付けることと、ルーフィングシートの相互を接合するために使われる。

通常使用されている接着剤を表9.4.4に示す。

表9.4.4 接着剤の適用
(iii) 増張り用シート

増張り用シートは、ルーフドレン、貫通配管、出入隅角等に補強を目的として使用する。そのほかにPCコンクリート部材、ALCパネルの目地処理に補強を目的として使用する場合もあり、合成高分子系ルーフィングシート製造所の指定する製品としている。

(iv) 成形役物

成形役物は、出隅角、入隅角の形状に合うように、ルーフィングシートと同じ材料を成形加工したものであり、出入隅角の処理に用いられる。

(v) シール材
シール材は、防水層末端部、ルーフィングシート相互の接着部又はシートの 3枚重ね部の内部・外部等の水密性を確保するための補助材料であり、一般には、合成高分子系ルーフィングシート製造所の指定する製品が使用される。

シール材は、合成ゴム、合成樹脂を主成分としており、定形又は不定形の製品がある。定形のものにはテープ状シール材等がある。不定形のものには防水上端末シール等に用いる変成シリコーン系、ポリウレタン系等のシール材及びシート接合部小口に塗布する液状シール材がある。

(vi) 固定金具

固定金具は、機械的固定工法に使用され、厚さ0.4mm以上の防錆処理した鋼板、ステンレス鋼板及びこれらの片面又は両面に樹脂を積層加工したもので、円盤状、プレート状及びアングル状のものがある。

なお、固定金具に使用する固定用アンカー及びプラグは、合成高分子系ルーフィングシート製造所の指定する製品とする。

(ⅶ) 絶縁用テープ

絶縁用テープは、下地の接合部の動きが予想される部分に張り付け、ルーフィングシートに直接応力が及ばないようにするためのものであり、紙、合成樹脂等のテープ状のものに粘着剤等を付着させたもので、テープ幅は 50〜150mm程度のものが用いられる。

(ⅷ) 仕上塗料
仕上塗料は、種別 S − F1、SI - F1、S - M1 及び SI - M1の防水層に美観を目的に使用されるものである。材質は、溶剤タイプとエマルションタイプがある。
溶剤タイプは、塗布しやすく乾燥が早い。エマルションタイプは、溶剤タイプに比較して乾燥が遅く、冬期には凍結する場合があるので注意する。

なお、仕上塗料は経年により外観機能が低下するため、美観の維持のためには一定期間での塗替えが望ましい。

その期間は合成高分子系ルーフィングシート製造所の仕様に示されている。

(ix) 押え金物

押え金物は、適度な剛性と耐久性を有し、防水層の立上りの末端部を確実に留め付け、防水層のはがれやずれ等を防止するために用いられるもので、材質は一般に耐食アルミニウムやステンレス鋼で、厚さ1.0mm以上のプレート状やアングル状のものが用いられる。

(x) 断熱材

① 「標仕」では、断熱工法に使用する断熱材は、JIS A 9511(発泡プラスチック保温材)によるとされている。また、断熱材はルーフィングシートの品質を低下させないもので、種別 S – F1及びS – F2 の接着工法に使用するものは下地へのなじみがよく、耐溶剤性に優れたA種ポリエチレンフォーム保温材(JIS A 9511の密度及び熱伝導率の規格に適合するもの)が用いられる。

種別 SI – M1 及びSI – M2 の機械的固定工法に用いられる断熱材は、耐圧強度を必要とするもので、A種硬質ウレタンフォーム保温板2種1号又は2号(透湿抵抗を除く規格に適合するもの)又はA種押出し法ポリエチレンフォーム保温板が用いられる。

② A種押出し法ポリスチレンフォーム保温板は一般的には面材のない製品であるが、種別 SI – M2の場合、表面側に可塑剤移行防止層としての機能を有する面材を張り合わせた製品を使用することも多い。

③ 断熱材の必要厚さは、熱伝導率等から計算により求められる。

断熱材の厚さが50mmを超える場合は、防火地域又は準防火地域においては建築基準法第63条の規定に、また、特定行政庁が防火地域及び準防火地域以外の市街地について指定する区域内においては建築基準法第22条の規定に、それぞれ適合する屋根構造としなければならない。

(xi) 防湿用フィルム

機械的固定工法で断熱工法(種別SI − M1及びSI − M2)を採用する場合は、下地水分による断熱材への吸水の影響を軽減するため、下地と断熱材の間に敷設する。厚さ0.15mm程度のポリエチレンフィルムが一般的である。

(d) 保 管
溶剤タイプのプライマーや接着剤等の保管は、可燃性の有機溶剤が含まれているので、消防法及び労働安全衛生法等の規定を遵守しなければならない。

9.4.3 防水層の種別及び工程

防水層の種別及び工程は、「標仕」表9.4.1及び、「標仕」表9.4.2による。
(1) 種別 S – F1(加硫ゴム系接着工法)及び SI – F1(加硫ゴム系断熱接着工法)

(i) 加硫ゴム系ルーフィングシートを接着剤を用いて下地へ全面接着し、塗装仕上げを施す工法である。ルーフィングシートには、あらかじめ工場で加工された粘着層付又は接着剤付のルーフィングシートもある。また、「標仕」では特に規定されていないが、塗料に遮熱顔料を配合することで太陽光の近赤外領域のエネルギー反射率を高めた高反射率塗料を仕上塗料として使用することで、表面温度の低減が可能である。

なお、「標仕」では規定されていないが、あらかじめ着色したルーフィングシートもある。

(ii) 一般的なルーフィングシートの厚さは 1.0〜2.0mmであるが、「標仕」では、特記がない場合は 1.2mmを標準厚さとしている。ただし、複合シートを用いる場合は1.5mm以上とする。

(iii) ルーフィングシートは、伸びが大きい弾性体のため下地の動きによく追従し、繰返し疲労にも大きな抵抗力を有する。

(iv) ルーフィングシート相互の接合は接着剤及びテープ状シール材を用いて行う。

(v) 2.0mm程度の厚塗り塗装仕上げを施した場合は、軽歩行に供することも可能である。

(2) 種別S − F2(塩化ビニル樹脂系接着工法)及び SI − F2(塩化ビニル樹脂系断熱接箔工法)

(i) 塩化ビニル樹脂系ルーフィングシートを接着剤を用いて下地へ全面接着する工法であり、ルーフィングシート自体が着色されているので、仕上げ塗装は不要である。

(ii) 一般的なルーフィングシートの厚さは 1.2〜2.5mmであるが、軽歩行する場合も想定されるので、「標仕」では、特記がない場合は2.0mmを標準厚さとしている。

(iii) ルーフィングシート相互の接合には熱風又は溶着剤を用い、ルーフィングシートの接合面を溶かして接合する。シート端部は液状シール材を用いてシールする。

(iv) 耐摩耗性及び接合性能が良好なため、保護層なしで軽歩行に供することが可能である。

(v)「標仕」では特に規定されていないが、シートに遮熱顔料を配合することで シート自体の太賜光の近赤外領域のエネルギー反射率を高めたシート(基材 シートはJIS A 6008適合品)を使用することで表面温度の低減が可能である。

(3) 種別 S − M1(加硫ゴム系機械的固定工法)及び SI − M1(加硫ゴム系断熱機械的固定工法)

(i) 加硫ゴム系複合ルーフィングシートを固定金具を用いて下地へ機械的に固定し、塗装仕上げを施す工法である。また、「標仕」では特に規定されていないが、塗料に遮熱顔料を配合することで太陽光の近赤外領域のエネルギー反射率を高めた高反射率塗料を仕上塗料として使用することで表面温度の低減が可能である。固定金具の先付け工法で固定金具と接合する場合は、電磁誘導加熱による熱融着とする。

なお、「標仕」では規定されていないが、あらかじめ着色したルーフィングシートもある。

(ii) 機械的に固定するため下地の乾燥状態の影響を受けにくい。

(iii) この機械的固定工法に使用するルーフィングシートは、繊維等で補強された複合シートが使用され、「標仕」では、特記がない場合は 1.5mmを標準厚さとしている。

(iv) ルーフィングシート相互の接合は接着剤及びテープ状シール材を用いて行う。

(v) 立上り部は一般的に接着工法で施工されるが、機械的固定工法で行う場合もある。

(4) 種別S – M2(塩化ビニル樹脂系機械的固定工法)及びSI – M2(塩化ビニル樹脂系断熱機械的固定工法)

(i) 塩化ビニル樹脂系ルーフィングシートを固定金具を用いて下地へ機械的に固定する工法であり、ルーフィングシート自体が着色されているので、仕上げ塗装は不要である。固定金具の先付け施工法で固定金具との接合は、溶剤溶着又は熱風若しくは電磁誘導加熱による熱融着で行う。

(ii) この機械的固定工法に使用するルーフィングシートは、均質シート及び繊維等で補強された複合シートが使用され、一般に非歩行屋根に使われるので、「標仕」では、特記がない場合は1.5mmを標準厚さとしている。

(iii) ルーフィングシート相互の接合には熱風又は溶着剤を用い、ルーフィングシートの接合面を溶かして接合する。シート端部は、液状シール材でシールする。機械的に固定するため下地の乾燥状態の影響を受けにくい。

(iv) 立上り部は一般的に接着工法で施工されるが、機械的固定工法で行う場合もある。

(v) 「標仕」では特に規定されていないが、シートに遮熱顔良を配合することでシート自体の太陽光の近赤外領域のエネルギー反射率を高めたシート(JIS A 6008適合品)を使用することで表面温度の低減が可能である。

(5) S – M3(熱可塑性エラストマー系機械的固定工法)

(i) 熱可塑性エラストマー系ルーフィングシートを固定金具を用いて下地へ機械的に固定する工法であり、ルーフィングシート自体が着色されているので、仕上げ塗装は不要である。固定金具との接合は、熱風又は電磁誘導加熱による熱融着で行う。

(ii) この機械的固定工法に使用されるルーフィングシートは、繊維等で補強された複合シートが使用され、一般に非歩行屋根に使われるので「標仕」では、特記がない場合は1.2mmを標準厚さとしている。

(iii) ルーフィングシート相互の接合は熱風を用い、ルーフィングシートを溶かして接合する。シート端部は、液状シール材でシールする。機械的に固定するため下地の乾燥状態の影響を受けにくい。

(iv) 立上り部は一般的に接着工法で施工されるが、機械的固定工法で行う場合もある。

9.4.4 施 工

(a) 接着工法(種別S − F1及びSI − F1:加硫ゴム系、
       種別S − F2及びSI − F2:塩化ビニル樹脂系)
(1) 気象条件
施工時の気象条件については、9.1.3(a)に準ずる。

なお、防水施工中に降雨・降雪が予想される場合は、防水層が施工されていない部分から防水層の下に水が浸入しないように防水層端部を粘着テープ又はシール材等で処置する。

(2) 防水層の下地

防水層の下地において、入隅は通りよく直角とし、出隅は面取りとする。ALCパネル、PCコンクリート部材等の目地処理以外はアスファルト防水の下地の項を参照する。

(3) プライマー塗り

プライマーの塗布は、下地の表面を清掃したのち、その日に張り付けるルーフィングの範囲に、ローラーばけ又は毛ばけ等を用いて規定量をむらなく塗布する。

(4) 接着剤塗布

接着剤の塗布は、プライマーの乾燥を確認したのち、下地面、断熱材及びルーフィングの裏面に、ローラーばけ又はくしべら等を用いてむらなく塗布する。この際、種別S – F2ではルーフィングシートの直ね部分には接着剤を塗布しないように注意する。

なお、接着剤のオープンタイムは、15分から120分程度まである。ルーフィングシートを張る適切な乾燥状態は、気象条件によって差異があるので、指で押してもほとんどべとつかない程度を目安とする。

種別S − F2でエポキシ系又はウレタン系接着剤を用いる場合は、下地面のみにむらなく塗布する。

(5) 目地処理

ALCパネル下地で種別S − F1、SI − F1、S − F2及びSI − F2の場合は、一般部のルーフィングシートの張付けに先立ち、パネル短辺の接合部の目地部に幅50mm程度の絶縁用テープを張り付ける。

種別 S − F1、SI − F1、S − F2及びSI − F 2の場合、「標仕」ではPCコンクリート部材の目地処理は特記としているが、PCコンクリート部材の製造所により、目地幅、固定取付け方法(コッター)が異なるため、絶縁用テープの幅、増張り用シートの有無等は合成高分子系ルーフィングシート製造所の仕様を確認する。種別 S − F1及び S − F2におけるPCコンクリート部材の目地処理の方法を図9.4.2に示す。


図9.4.2 PCコンクリート部材の目地処理の例

(6) 出入隅の増張り及び処理
出入隅角及び出入隅の増張り及び処理は次による。

種別S − F1及びSI − F1の場合はルーフィングシートの張付けに先立ち、200mm角程度の増張り用シートを張り付ける(図9.4.3参照)。


図9.4.3 出入隅角の増張りの例

種別S − F2及びSI − F2の場合はルーフィングシートを施工後に、成形役物を張り付ける(図9.4.4参照)。


図9.4.4 出入隅角の処理の例

なお、種別S − F1 及びSI − F1の場合、「標仕」ではPCコンクリート部材の入隅部において増張りは特記としているが、PCコンクリート部材の製造所により、目地幅、固定取付け方法(コッター)が異なるため、増張り用シートの有無及び幅等は合成高分子系ルーフィングシート製造所の仕様を確認する必要がある。種別S − F1のPCコンクリート部材の入隅部の増張りの方法を図9.4.5に示す。また、SI − F1の場合、断熱材を固定し、断熱材の線膨張・収縮・ひずみ等による防水層に対する影響を緩和させるために、立上り際の平場には図9.4.6に示すように、幅100mm程度の非加硫ゴム系シートを張り付けている。


図9.4.5 PCコンクリート部材の入隅部増張りの例


図9.4.6 断熱材の立上り際の施工例

(7) ルーフドレン、貫通配管回りの張付け
(i) ルーフドレン回り

① 種別S – F1及びS – F2のルーフドレン回りは、図9.4.7による。ルーフドレン回りは、不具合を生じやすい部位なので、張り付けたシート類のローラー転圧を十分に行う。特に、シート類相互の接合部の段差部は、ステッチャー等で十分に転圧する。

② 種別 SI – F1及び種別 SI – F2 のルーフドレン回りの施工例を図9.4.8に示す。シート敷設に先立ち、断熱材をドレンのつばの300mm程度手前で止め、端部は45° 程度の勾配とする。

③「標仕」では、ルーフドレンのつばへのシートの張掛け幅は100mm以上とされている。

なお、「標仕」では規定されていないが、種別 S – F2 及び SI – F2で、塩ビ樹脂被覆されたルーフドレンを使用する場合は、シートを熱風融着又は溶剤溶着で水密性の高い接合が可能であるため、この場合のルーフドレンヘのシートの張掛け幅は40mm以上とすることができる。また、塩ビ樹脂被覆されたルーフドレンについては、合成高分子ルーフィング製造所の指定する製品とする。


図9.4.7 ルーフドレン回りの納まりの例


図9.4.8 ルーフドレン回りの納まりの例(断熱工法の場合)

(ii) 貫通配管回り

①種別 S − F1及び S - F2の貫通配管回りは、図9.4.9による。配管回りは、不具合を生じやすい部位なので、張り付けたシート類のローラー転圧を十分に行う。特に、シート類は、切込みを入れずに丁寧に仕上げる。

②種別SI - F1及び SI - F2 の貫通配管回りの施工例を図9.4.10に示す。シート敷設に先立ち、断熱材を配管回りに隙間ができないように張り付ける。


図9.4.9 配管回りの納まりの例


図9.4.10 貫通配管回りの納まりの例(断熱工法の場合)

(8) ルーフィングシートの張付け

(i) 張付けは、原則として水上側のシートが水下側のシートの上になるように行い、下地に全面接着とし、接着剤の適切な施工可能時間内に、できるだけルーフィングシートに引張りを与えないよう、また、しわのできないよう注意して行う。

なお、種別 S − F2で接着剤にエポキシ系及びウレタン系を使用する場合は、シート側に塗布しない。

(ii) 接合部は、不具合を生じやすいので特に注意して施工する。種別S − F1及びSI - F1の場合の接合は、接着剤をルーフィングシート両面に塗布し、かつ、テープ状シール材を併用して張り付け、ローラー等で押さえて十分に接着させる。3枚重ね部は、あらかじめ不定形シール材で接合段差部を均しておく。

種別S - F1及びSI - F1のルーフィングシートの3枚重ね部は、内部の段差部分に必ず不定形シール材を充填する。種別 S - F2及びSI - F2の3枚重ね部は、熱風融着し、よく押さえる。ルーフィングシートの端部を液状シール材を用いてシールする。図9.4.11に3枚重ね部の施工例を示す。


図9.4.11 3枚重ね処理の例

(iii) ルーフィングシートの接合部の施工は、次のように行う(図9.4.12参照)。

① 種別S - F1及びSI - F1では接着剤をルーフィングシート両面に塗布し、かつ、テープ状シール材を併用して張り付け、ローラー等で押さえて十分に接着させる。

② 種別S - F2及びSI - F2では重ね部を溶剤溶着又は熱風融着し、接合端部を液状シール材でシールする。


図9.4.12 ルーフィングシートの接合部の例

(iv) ルーフィングシートの接合幅は、表9.4.5による。

表9.4.5 ルーフィングシートの接合幅

(v) 断熱工法の場合、断熱材の敷設は、接着剤を下地と断熱材に塗布し、乾燥後隙間ができないように張り付ける。断熱材にポリエチレンフォーム保温板を使用する場合、断熱材上でのルーフィングシートの施工は、ローラー転圧時にたわみが生じやすいので十分に注意して施工する。種別SI – F1及びSI – F2の施工例を図9.4.13に示す。


図9.4.13 平場部の施工例(断熱工法の場合)

(9) 立上り部の防水層末端部の納まり

防水層の末端部は、図9.4.14に示すように端部にテープ状シール材を張り付けたのちにルーフィングシートを張り付け、押え金物を用いて留め付けて、更に、不定形シール材で処理する。


図9.4.14 防水層末端部の納まりの例(S – F1及びS – F2の場合)

(10) 仕上塗料(種別S – F1及びSI – F1:加硫ゴム系)
仕上塗料の塗布は、所定量をローラーばけを用いてむらなく塗布する。

なお、厚途りの軽歩行用仕上げの場合は、一度に厚くならないように注意する。

(b) 機械的固定工法
 (種別S − M1及びSI − M1:加硫ゴム系、
  種別S − M2及びSI − M2:塩化ビニル樹脂系.

  種別S − M3      :熱可塑性エラストマー系)

(1) 「標仕」では、機械的固定工法の場合、建築基準法に基づき定まる風圧力に対応した工法は特記によるとしている。

なお、品質計画を作成するに当たっては次の事項を考砥する。

(i) 風圧力は、建物の形状・高さ、地域及び立地条件等で異なり、単位面積当たりの機械的固定強度は、固定釘の種類、固定方法等合成高分子系ルーフィングシート製造所の仕様により異なる。

なお、風圧力の鉢定方法は、(11)による。

(ii) 各部位の所定の耐風圧力を確保するには、適切なプラグや小ねじを選定(材質、寸法、打込み深さ等)し、必要な固定箇所数を定める必要があり、合成高分子系ルーフィングシート製造所の仕様を確認する。

(iii) 絶縁用シートの敷設は、「標仕」では種別SI − M2で行い、種別S − M1、S − M2、S − M3及びSI − M1では原則として行わないが、次の理由により冬期の寒冷地では絶縁用シートを敷設する必要があり、合成高分子系ルーフィングシート製作所の仕様を確認する。

① 寒冷期に湿潤状態で施工した場合は、コンクリート下地表面の棟害による凹凸の発生のおそれがある。特にモルタルで下地の不具合を補修した部分等は、数年後に凍害を受けてはく離し、小さくて鋭角な突起物や石粒等が発生する場合もある。

② 多雪・寒冷地域では、鋭利な突起物の存在は、上からの積雪荷重により、影響を受けやすい。

(2) 気象条件

施工時の天候によって次の点に注意する。

① 降雨・降‘雪中は施工を中止する。

② 雨、雪がやんだ時点で施工する場合は、たまり水をふき取り、積雪はきれいに除去してから行う。

なお、防水施工中に降雨・降雪が予想される場合は、防水層が施工されていない部分から防水層の下に水が浸入しないように、防水層端部を粘着テープ又はシール材等で処置する。

(3) 防水層の下地

防水層の下地は、入隅は通りよく直角とし、出隅は面取りとする。また、下地は乾燥状態の影響を受けにくい工法であるが、雪や雨がやんだ時点で施工する場合は、たまり水をふき取り、積雪はきれいに除去してから行う。それ以外は.アスファルト防水の下地の項を参照する。

(4) 断熱材の敷設
種別SI − M1及びSI − M2の場合、ルーフィングシートの敷設に先立ち、次のとおり断熱材を敷設する。

なお、断熱材の敷設は、平場のみに適用する。立上りに敷設する場合は、合成高分子系ルーフィングシート製造所の仕様による。

① 断熱材の敷設に先立ち、下地の上に防湿用フィルムを継目100mm程度重ねて隙間なく敷き並べる。

② 断熱材の敷設は、合成高分子系ルーフィングシート製造所が指定する工法によって断熱材及び絶縁用シートを敷き並べる。断熱材の隙間は断熱効果に影響するため、隙間ができないように十分注意して行う。断熱材が風で飛ばされないように、また、経時変化による反りやあばれを防止するため、断熱材を接着剤、テープ、固定金具等で仮止めする。固定金具の先付け工法の場合は、本固定と兼用でき、仮止めを省くことができる。入隅周囲は固定力を高めるため固定金具で固定する。

③ 種別SI − M2で断熱材をA種ポリスチレンフォーム保温板とする場合は、防水シートの敷設に先立ち、絶縁用シートを断熱材の上に敷設する。「標仕」では規定されていないが、可塑剤移行防止層を面材として張り合わせたA種ポリスチレンフォーム保温板を使用する場合は、絶縁用シートを省くことができる。この場合の断熱材は、合成高分子ルーフィング製造所の指定する製品とする。

なお、種別SI − M1では絶縁用シートは使用しない。

(5) 出入偶角の増張り及び処理

種別S − M1 及びSI − M 1ではルーフィングシートの張付けに先立ち、200 mm角程度の増張り用シートを張り付ける(図9.4.3参照)。種別S − M2、SI − M2及びS − M3ではルーフィングシートを張り付けたのち、成形役物を張り付ける(図9.4.4参照)。

(6) ルーフドレン、貫通配管回り
(i) ルーフドレン

① ルーフドレン回りは、図9.4.15による。ルーフドレン回りは、不具合が生じやすい部位なので、張付けたシート類のローラー転圧を十分に行う。特に、シート類相互の接合部の段差部は、ステッチャー等で十分に転圧する。

② 種別SI − M1及びSI − M2 のルーフドレン回りの施工例を図9.4.16に示す。シート敷設に先立ち、断熟材をドレンのつばの300mm程度手前で止め、端部は45°程度の勾配とする。

③「標仕」では、ルーフドレンのつばへのシートの張掛け幅は100mm以上とされている。

なお、種別S − M2及びSI − M2で、塩ビ樹脂被覆されたルーフドレンを使用する場合は、シートを熱風融着又は溶剤溶着で水密性の高い接合が可能であるため、「標仕」では規定されていないがこの場合のルーフドレンヘのシートの張掛け幅は40mm以上とすることができる。また、塩ビ樹脂被覆されたルーフドレンについては、合成高分子ルーフィング製造所の指定する製品とする。


図9.4.15 ルーフドレン回りの納まりの例

図9.4.16 ルーフドレン回りの納まりの例(断然工法の場合)

(ii) 貫通配管回り

① 共通配管回りは、図9.4.17による。配管回りは不具合を生じやすい部位なので、張付けたシート類のローラー転圧を十分に行う。特に、ルーフィングシート類の相互の段差は、ステッチャー等で十分に転圧し、末端部及び配管回りに浮きや口開きのないように注意して施工する。また、シート類は、できるだけ切込みを入れずに丁寧に仕上げる。

なお、施工に際し複合シートは、伸びにくいため均質シートと併用して行うこともある。

② 種別SI − M1及びSI − M2の貫通配管回りの施工例を図 9.4.18に示す。シート敷設に先立ち、断熱材を配管回りに隙間ができないように張り付ける。


図9.4.17 配管回りの納まりの例

図9.4.18 貫通配管同りの納まりの例(断熱工法の場合)

(7) ルーフィングシートの固定

(i) 平場部

ルーフィングシートを固定金具を用いて取り付ける工法には次の3種類がある。

1) 固定金具のあと付け工法(図9.4.19及び図9.4.20参照)

所定の位置にルーフィングシートを敷設したのち、合成高分子系ルーフィングシート製造所の仕様により固定金具を固定釘で取り付け、その上に適切な増張りを行う。この場合、種別S − M1及びSI − M1は接着剤による接着とし、種別S − M2及びSI − M2は溶剤溶着又は熱風融着、種別S − M3は熱風融着とする。

2) 固定金具の先付け工法(図9.4.21及び図9.4.22参照)

防水層施工下地に合成高分子系ルーフィングシート製造所の規定する箇所に固定金具を固定釘で取り付けたのち、所定の位置に敷設したルーフィングシートを固定金具に溶剤溶着又は熱風若しくは電磁誘導加熱による熱融着とする。

3) 固定金具の接合部内工法(図9.4.23及び図9.4.24参照)

所定の位置にルーフィングシートを敷設したのち、ルーフィング相互の接合部で、合成高分子系ルーフィングシート製造所の規定する箇所に固定金具を固定釘で取り付け、固定金具を覆うように隣接ルーフィングシートで接合する。


図9.4.19 固定金具のあと付け工法の例

図9.4.20 固定金具のあと付け工法の納まりの例(断熱工法の場合)

図9.4.21 固定金具の先付け工法の例


図9.4.22 固定金具の先付け工法の納まりの例(断熱工法の場合)

図9.4.23 固定金具の接合部内工法の例


図9.4.24 固定金具の接合部内工法の納まりの例(断熱工法の場合)

(ii) 入隅部

入隅部は、プレート状、アングル状等の固定金具を用いてルーフィングシートを同定する。図9.4.25及び図9.4.26に施工例を示す。


図9.4.25 入隅部納まりの例


図9.4.26 入隈部納まり(断熱工法)の例

(8) ルーフィングシート相互の接合

ルーフィングシート相互の接合幅は、表9.4.6による。接合部は、原則として水上側のシートが水下側のシートの上になるように張り重ねる。

表9.4.6 ルーフィングシートの接合幅


図9.4.27 接合部内固定工法の接合部の例

種別S – M1及びSI – M1の場合の接合は、接着剤をルーフィングシート両面に塗布し、かつ、テープ状シール材を併用して張り付け、ローラー等で押さえて十分に接着させる。3枚重ね部は、あらかじめ不定形シール材で接合段差部を均しておく。

種別S – M2及びSI – M2の場合の接合は、溶剤溶着又は熱風融着によって行い、種別S – M3の場合の接合は熱風融着によって行う。接合端部は液状シール材でシールする。3枚重ね部は熱風溶接機で熱融着させ、液状シール材でシールする。3枚重部の施工例を図9.4.28に示す。


図9.4.28 3枚重ね部の処理の例

(9) 立上り部の防水層末端部の納まり

(i) 種別S – M1及びSI – M1の場合

立上り部を接着工法で行う場合の防水層の末端部は、図9.4.14に準ずる。

立上り部を機械的固定工法で行う場合は、端部にテープ状シール材を張り付けたのちにルーフィングシートを張り付け、末端部は押え金物で固定した上にシール材を充填する。笠木タイプの納まりの例を図9.4.29に示す。


図9.4.29 笠木タイプの納まりの例

(ii) 種別S – M2、SI – M2及びS – M3の場合

立上り部を接着工法で行う場合の防水層の末端部は、図9.4.14に準ずる。
立上り部を機械的固定工法で行う場合は、端部にテープ状シール材を張り付けたのちに固定金具を固定し、種別S – M2及びSI – M2の場合は、ルーフィングシートを固定金具に溶剤溶着又は熱風融着により張り付け、種別S – M3の場合は、固定金具に熱風融着により張り付ける。末端部はシール材で処理する。

水切りあごタイプの納まりの例を図9.4.30、笠木タイプの納まりの例を図9.4.31に示す。


図9.4.30 水切りあごタイプの納まりの例


図9.4.31 笠木タイプの納まりの例

(10) 仕上塗料

仕上塗料の塗布は、所定屈をローラーばけを用いてむらなく塗布する。近年では遮熱顔料を配合することで太陽光の近赤外領域のエネルギー反射率を高め、表面温度の低減が可能な高反射率塗料を仕上塗料として使用される事例が増加している。また、「標仕」では規定されていないが、あらかじめ着色されたルーフィングシートもある。

(11) 耐風圧性
機械的固定工法の防水層は、風圧力に耐えるよう、ルーフィングシートの強度や固定金具の耐力等に応じて留付け間隔を定める必要がある。

シートの強度や固定金具の耐力等は合成高分子ルーフィングシート製造所の資料によるが、風圧力に関しては、建築基準法施行令第82条の4の規定に基づき「屋根ふき材及び屋外に面する帳壁の風圧に対する構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」(平成12年5月31日 建設省告示第1458号)により算定する。

負のピーク外圧係数に対する閉鎖型の建築物のピーク内圧係数は0である。
また、負圧による影響以外に風の吹込み対策が必要であり、シート接合部、雨仕舞部納まり、板状下地材の目地処理等の適切な処理、室内正圧を考慮した下地への固定強度の確保といった設計・材料・施工面からの検討が必要であり、ルーフィングシート製造所の仕様を確認する。

一般的な屋根で、建物高さ20m、地表面粗度区分Ⅲ、基準平均風速36mの場合の風圧力の値を表9.4.7 及び図9.4.32に示す。

Er = 0.912、V0 =36 m/s
ピーク風力係数( Cf )
Aの部位:-2.5
Bの部位:-3.2
Cの部位:-4.3

表9.4.7 陸屋根の風力計算例


図9.4.32 陸屋根面の部位位置
(c) 検査
防水層施工途中における検査の留意点は、9.1.3(b)に準ずる。

9章 防水工事 5節 塗膜防水

第09章 防水工事

5節 塗膜防水

9.5.1 適用範囲

(a) この防水層は塗膜防水材を塗り重ねて連続的な膜を構成する、いわゆるメンブレン防水の一種である。

JIS A 6021(建築用塗膜防水材)で規定されている屋根用塗塗膜防水材のうち、「標仕」ではウレタンゴム系とゴムアスファルト系のものについて規定されている。

ウレタンゴム系塗膜防水材は屋根、ひさし、開放廊下、バルコニーに、ゴムアスファルト系塗膜防水材は地下外墜、屋内に適用する場合が多い。

塗膜防水の保護層の種類は、モルタル、現場打ちコンクリート、ブロック敷き、塗装等がある。ウレタンゴム系塗膜防水材に対して、「標仕」では仕上塗料塗りが規定されている。ゴムアスファルト系塗膜防水材を地下外壁等に施工事する場合は、埋戻し用保護緩衝材や保護用コンクリート等の保護層が必要となる。

(b) 作業の流れを図9.5.1に示す。

 

(c) 準備

(1) 設計図書の確認、施工業者の決定については,9.2.1(c)に準ずる。
(2) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
① 工程表(箇所別、防水の種類別の着工、完成等の時期)
② 施工業者名、作業の管理組織
③ 施工範囲及び防水層の種類
④ 工法(下地の状態、施工法等)
⑤ 材料搬入(置場、数量等)
⑥ 消防法による消防署への届出
⑦ 排水勾配
⑧ コンクリート打継ぎ箇所における処置
⑨ 立上り、納まり
⑩ ルーフドレン回り、排水管等、役物回りの納まり
⑪ 保護層の確認
⑫ 異種防水層接続部の処置

⑬ 品質管理、基本要求品質の確認方法等

9.5.2 材 料

(a) 塗膜防水材

塗膜防水材はJIS A 6021(建築用塗膜防水材)に適合するものを用いる。

(i) 屋根用ウレタンゴム系には、高伸長形(旧1類)及び高強度形の2種類があり(JIS A 6021)、「標仕」では高伸長形(旧1類)を標準としている。2011年のJIS改正により、非露出用及び露出防水における1類の下層として用いられる2類は廃止された。

① ウレタンゴム系塗膜防水材
ウレタンゴム系塗膜防水材には、使用時に主剤と硬化剤を混合する2成分形と1成分形がある。
2成分形ウレタンゴム系は、主剤と硬化剤が反応硬化して塗膜を形成するものであり、1成分形ウレタンゴム系は、空気中の水分を硬化に利用するものである。

1成分形、2成分形とも使用部位に応じて、一般用、立上り用、共用がある。

② ゴムアスファルト系塗膜防水材
ゴムアスファルト系塗膜防水材は、環境に配慮した防水材として広く使用されており、塗り工法用と吹付け工法用がある。
塗り工法用には、ゴムアスファルトエマルションだけで乾燥造膜するもの(乾燥造膜型)と硬化剤により促進造膜するもの(反応硬化型)がある。

吹付け工法用には、乾燥造膜型のほかに、主剤と分解剤又は硬化剤を専用の吹付け機を用いて吹き付けることにより、短時間で促進造膜するもの(凝固造膜型)や反応硬化型がある。

(ii) 「標仕」表9.5.1は、ウレタンゴム系塗膜防水材の使用量を、硬化物密度 1.0Mg/m3の材料で示したものである。硬化物密度の異なるウレタンゴム系塗膜防水材における標準使用量を、表9.5.1に示す。

表9.5.1 硬化物密炭の異なる防水材における標準使用量

(iii) 「標仕」表9.5.1では、ウレタンゴム系塗膜防水材を、種別X-1では2工程、種別X-2では3工程で所定量を塗るよう規定されているが、実際の施工に当たっては、材料の特性、下地の状況等に応じて工程数を増やすことができる。

(iv) 「標仕」表9.5.2は、ゴムアスファルト系塗膜防水の防水材使用量を.固形分60%(質絨)の材料で示したものである。固形分の質量比が異なるものを使用する際は、この表と同等以上となるよう換算する。換算によって各固形分のゴムアスファルト系塗膜防水材の使用量に違いが生じ、統一することが困難なため、工程数及び各工程の使用量は、主材料製造所の仕様によることとした。

(v) 希釈剤を使用する際は、その量を含まないものとする。

(vi) JIS A 6021(建築用塗膜防水材)の抜粋を、次に示す。

JIS A 6021 : 2011
1 適用範囲
この規格は、主に鉄筋コンクリート造建築物の屋根及び外壁などの防水工事に用いる塗膜防水材(以下、防水材という。)について規定する。ただし、JIS A 6909に規定する建築用仕上塗材には適用しない。3 種  類

3.1 主要原料による区分
主要原料による区分は、次による。a) ウレタンコム系
ポリイソシアネート、ポリオール、架橋剤を主な原料とするウレタンゴムに充填材などを配合したウレタンゴム系防水材。引張強さ、伸び率、抗張積などの特性によって、高伸長形(旧1類)と高強度形とに区分する(表1参照)。
注記 JIS A 6021 : 2006に基づき、ウレタンゴム系1類の指定がある場合は、高伸長形(旧1類)で置き換えることができる。b) アクリルゴム系
アクリルゴムを主な原料とし、充填材などを配合したアクリルゴム系防水材。c) クロロプレンゴム系
クロロプレンゴムを主な原料とし、充填材などを配合したクロロプレンゴム系防水材。di ゴムアスファルト系
アスファルトとゴムとを主な原科とするゴムアスファルト系防水材。e) シリコーンゴム系
オルガノポリシロキサンを主な原料とし、充填材などを配合したシリコーンゴム系防水材。3.2 製品形態による区分
製品形態による区分は、次による。a) 1成分形
あらかじめ施工に供する状態に調製したもので、必要によって硬化促進剤、充填材、希釈剤などを混合して使用する防水材。

b) 2成分形
加工直前に主剤、硬化剤の2成分に、必要によって硬化促進剤、充填材、着色剤、希釈剤などを混合して使用するように調製した防水材。

3.3 適用部位による区分
適用部位による区分は、次による。

a) 屋根用
主として、屋根に用いる防水材。
なお、屋根用防水材には、次のものがある。
1) 一般用
主として一般平場部に用いる防水材。
2) 立上がり用
主として立上がり部に用いる防水材。
3) 共用
一般平場部と立上がり部との両方に用いる防水材。

b) 外壁用
主として、外壁に用いる防水材。

5 性 能
防水材の性能は、箇条6によって試験し、屋根用は表1に、外壁用は表2にそれぞれ適合しなければならない。ただし、劣化処理後の引張性能及び伸び時の劣化性状における促進暴露処理は、オープンフレームカーボンアークランプ又はキセノンアーク光源による暴露試験のいずれか一方でよい(箇条6及び表2省略)

表1ー屋根用塗膜防水材の性能

JIS A 6021:2011

(b) その他の材料

(1) プライマー

防水の種別によって、使用するプライマーが異なるので、防水材製造業者の指定するものとしている。ウレタンゴム系塗膜防水には、ウレタン樹脂等の高分子材料を有機溶剤に溶解した溶液形又は合成高分子材料を主成分とするエマルション樹脂系(1成分形及び2成分形)並びに無溶剤系(1成分形及び2成分形)のもの、ゴムアスファルト系塗膜防水には、アスファルト又は合成高分子材料を主成分とするエマルション形のものを用いることが多い。

(2) 接着剤

接着剤は、通気緩衝シートの張付けに用いるもので、合成ゴム等の高分子材料を有機溶剤に溶解した溶液形のもの、高分子材料工マルション形のもの並びにウレタン樹脂系(1成分形及び2成分形)のものがある。

(3) 通気緩衝シート
特殊加工したプラスチック発泡体、改質アスファルトシート、ゴムシート又は不織布等から構成されるシート状の材料で、塗膜防水層の破断やふくれの発生を低減する目的で用いられる。
通気緩衝シートは、防水材となじみがよく、下地の挙動に対する追従性が高く、下地に含まれる水蒸気を分散する効果を有し、また、寸法安定性の良いものを用いる。

なお、通気緩衝シートには、接着剤塗布工程を除くことができる自着層付きのタイプや、固定金具によって下地に固定する機械固定タイプもある。

(4) 補強布

補強布は、合成繊維及びガラス繊維の織布又は不織布を用いる。補強布は、必要な塗膜厚さの確保、立上り部等における防水材の垂下がりの防止及び下地に発生したひび割れからの防水層の破断対策に有効である。

(5) シーリング材

塗膜防水では、下地ひび割れ、ルーフドレン及び配管回りその他の異種下地の取合い等の処理に、シーリング材を用いるのが一般的である。ウレタンゴム系抱膜防水ではポリウレタン系(1成分形又は2成分形)のもの、ゴムアスファルト系塗膜防水では、改質アスファルト系のものを用いることが多い。

(6) 仕上塗料
仕上塗料は、防水層を紫外線等から保護して耐久性を向上させる目的と、意匠上の目的で防水層の表面に塗布するものである。2成分形アクリルウレタン樹脂系が一般的であるが、ふっ索樹脂系、アクリルシリコン樹脂系等の高耐候型をはじめ、環境配慮型や高日射反射型の実績が増加している。また、仕上塗料の選択により、平滑仕上げ、つや消し仕上げ、粗面仕上げ等ができる。
「標仕」表9.5.1では、仕上塗料をー工程で所定量を塗るよう規定されているが、実際の施工に当たっては材料の特性等に応じて工程数を増やしてもよい。

なお、仕上げの種類により材料使用量が異なる場合がある。

(7) 防水保護材
ゴムアスファルト系塗膜防水に用いる保護材には、保護緩衝材、絶縁用シートがある。

9.5.3 防水層の種別及び工程

 

(a) 種 別

「標仕」では、ウレタンゴム系2種類、ゴムアスファルト系2種類が規定されている。部位別の適用の例を次に示す。

(i) 屋根            :種別X-1, X -2
(ii) ひさし、開放廊下、バルコニー:種別X-2
(iii) 地下外墜          :種別Y-1
(iv) 屋内            :種別Y-2

なお、ゴムアスファルト系については、上記以外にも屋根保護防水工法の施工事例がある。

(b) 工法の種類

「標仕」で規定している種別及び工程を、工法の種類別にすると次の密着工法と絶縁工法になる。

(i) 密着工法( X-2、Y-1、Y-2 )

下地の含水率が高いと、水蒸気によりふくれが生じることがあるので下地の乾燥状態には注意を要する。

(ii) 絶縁工法( X -1 )
下地に、通気緩衝シートを張り付けた上に、塗膜を構成するもので、下地亀裂等による動きを、通気緩衝シートで吸収する。水蒸気を大気中に排出するために脱気装置を設ける。「標仕」ではその種類及び設置数量は特記することと規定されているが、50m2に1箇所程度が目安となる。

ただし、絶縁工法は平たん面に適用する工法で、立上り面には密着工法X-2の立上り仕様を適用する(図9.5.2参照)。


図9.5.2 平たん面とX-1とX-2立上り仕様の接合例

9.5.4 施 工

(a) 防水下地

(1) 下地コンクリート面は、平たんで凹凸がないようにする。また鉄筋・番線等の突起物、粗骨材、モルタルのこぼれ等は防水層を損傷する原因となるので完全に除去する。

一般屋根防水層の下地の仕上げの程度は、9.2.4 (a)(1)による。

(2) 入隅は通りよく直角とし、出隅は通りよく45°の面取りとする。

(3) 下地の乾燥については9.2.4 (a)(1)を参照する。

(4) ルーフドレン等の金物は、ワイヤブラシ又は溶剤で防錆剤、錆.油分等を除去する。

(b) プライマー塗り

(1) プライマー塗りに先立ち、下地の乾燥を入念に行い、下地が十分乾燥したのちにプライマー塗りを行う。

(2) プライマーは、種類に応じてローラーばけ、毛ばけ又は吹付け機を用いて塗布する。2日以上にわたって防水材を施工する大面積の現場では、1日の防水材施工範囲のみのプライマー塗布を行う。

(3) プライマー塗りは、防水下地以外の箇所を汚さないように行う。プライマーの乾燥時間は、気象条件や下地乾燥条件等により遅れる場合があるので、十分に乾燥したことを確認したのちに次の工程に移る。

(c) 下地の補強

出隅及び入隅の下地補強塗りにおいて、種別Y-1は補強布を省略することができる。ただし、補強布を省略する場合には増吹き及び増塗りにより補強塗りを行うようにする。

(d) 通気緩衝シート張付け
通気緩衝シートは、接着剤を塗布し、塗布した接着剤のオープンタイムを確認して接着可能時間内に、隙間や重なり部をつくらないようにシート相互を突き付けて張り付け、ローラー転圧をして接着させる(図9.5.3参照)。

通気緩衝シートは、立上りから、ウレタンゴム系塗膜防水材製造所の指定する寸法だけ離し、端部はウレタン系シーリング材等で処理する。突付けとした箇所は、ウレタンゴム系塗膜防水材製造所の指定するジョイントテープ等で処理する。

また、自着層のある通気緩衝シートでは、シート下面の自着層の接着力で下地に接着させる。

機械的に固定する場合は、固定金具と固定釘で取り付ける。

なお、通気緩衝シートの張付け作業中に降雨・降雪が予想される場合は、シートの下に水が回らないように養生する。

図9.5.3 通気緩衝シートの張付け

(e) 防水材塗り

(1) 2成分形防水材は、防水材製造所の指定する配合により、可使時間に見合った量を、かくはん機を用いて十分練り混ぜる。また、1成分形は充填材等の成分が沈降・分離している場合があるので、内容物が均ーになるよう注意しながら再分散させる。

(2) 補強布を張り付けるときは、防水材を塗りながら張り付けるが、曲がらないように注意をする。

(3) 塗り工法用防水材は、ゴムベら、金ごて又は毛ばけで均ーに塗り付ける(図9.5.4及び5参照)。

 

 

図9.5.4 ウレタンゴム系塗膜防水材塗り
図9.5.5 ゴムアスファルト系塗膜防水材塗り

(4) 吹付け工法用防水材は、防水材製造所の指定する吹付け機を用いて、指定する配合により、混合・吹付けを行う(図9.5.6参照)。

なお、「標仕」表9.5.2の Y-1においては、吹付け工法が一般的であるが、

周辺環境・施工面積によっては、塗付け工法で行う場合もある。

図9.5.6 ゴムアスファルト系塗膜防水材吹付け

(5) 防水材塗継ぎの重ねは幅を100mm以上、補強布の重ねは幅を50mm以上とする。

(6) 塗重ねと塗継ぎは、下層が造膜したあととする。

(f) ウレタンゴム系塗膜防水層の仕上塗料塗り

(1) 仕上塗料は、かくはん機を用いて十分練り混ぜる。2成分形は、練混ぜ不十分による硬化不良を生じないよう、また、1成分形は顔料及び骨材等が十分分散するよう注意しながら練り混ぜる。

(2) 仕上塗料塗りは、ローラーばけ、毛ばけ又は吹付け機を用いて行う。

(g) ゴムアスファルト系塗膜防水層の保護
地下外壁面には保護緩衝材を用いる。屋内、地下平面には、ポリエチレンフィルム又はフラットヤーンクロス等の絶縁用シートを用い、コンクリート又はモルタルを打ち込む。

ただし、屋内の小面積の場合は、モルタルの挙動が小さいことから絶緑用シートを設けないのが普通である。

(h) 検査
塗膜防水の場合は、膜厚の確保が防水性能を左右する。しかし膜厚の計測には、針入式膜厚計が使用されることがあるが、この方法では防水層を傷つけることになり欠陥につながりやすいため、避けるべきである。

そのため、材料の使用量管理が必要であり、検査に当たっては、外観検査とともに各材料が規定通り使用されていることを確認する。

(i) 施工時の気象条件
施工時の天候・気温等については9.1.3(a)を参照する。

9章 防水工事 6節 ケイ酸質系塗布防水

第09章 防水工事
6節 ケイ酸質系塗布防水

9.6.1 適用範囲

(a) ケイ酸質系塗布防水は、コンクリート表面にケイ酸質系塗布防水材を塗布することにより、その生成物でコンクリートの毛細管空隙を充填し、防水性能を付与する工法である。したがって、この防水の適用部位はコンクリート自体に透水に対する抵抗性が要求される部位となることから、建築における地下構造物を対象としている。

適用部位は、地下構造物の外壁・内壁及び床とするが、常時水の滞留する水槽においては天井も適用部位とする場合がある。適用下地としては、建築の地下構造物のうち現場打ち鉄筋コンクリートで構築されるコンクリート面を対象とする。

「標仕」で規定するケイ酸質系塗布防水材には、C-UIタイプとC-UPタイプの 2種類がある。C-UIタイプは粉体を水で練り混ぜるタイプである。一方、C-UP タイプには、粉体を水及び専用のポリマーディスパージョンと練り混ぜるタイプのものと、再乳化形粉未樹脂が混合された粉体を水で練り混ぜるタイプのものがある。

ケイ酸質系塗布防水材は、主にポルトランドセメントとケイ酸質微粉末からなり、製造面からは環境に配慮された材料である。また、C-UPタイプに使用されるポリマーディスパージョンもすべて水系材料で、環境ホルモンや臭気、有機溶剤中毒の心配なく使用することができる。

最終的に建築物を取り壊す場合も、ケイ酸質系塗布防水材は特別管理産業廃棄物ではないので、再資源化も含めて、一般のコンクリート廃材と同じ取扱いができる。

(b) 作業の流れを図9.6.1に示す。

(c) 準備

(1) 設計図書の確認、施工業者の決定については.9.2.1 (c)に準ずる。

(2) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(箇所別、防水の種類別の着工、完成等の時期)
② 施工業者名、作業の管理組織
③ 施工範囲及び防水層の種類
④ 工法(下地の状態、施工法等)
⑤ 材料搬入(置場、数量等)
⑥ コンクリート打継ぎ箇所における処置
⑦ 木コン部の処置
⑧ 防水層共通管・貫通 H 鋼回りの処置
⑨ 保護層の確認
⑩ 養生計画

⑪ 品質管理、基本要求品質の確認方法等

 


図9.6.1 ケイ酸質系塗布防水工事の作業の流れ

(d) 防水層の位置
(1) 背面水圧側

防水層が地下水又は水と接しない側にある場合で、建物の内側又はビットの内側を指している。

(2)水圧側

防水層が地下水又は水と接する側にある場合で、建物の外側又は水槽の内側を指している。建物の外側に防水層を施す場合は、山留め壁と外壁の間に防水施工できる作業空間( 1m以上)を確保することが必要である。

(e) 適用部位

(1) 外壁の防水層は、水圧側若しくは背面水圧側のどちらか又は両側とする(図9.6.2(イ)参照)。


図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(イ)

 

(2) 床の防水層は、背面水圧側だけとする(図9.6.2(ロ)参照)。


図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(ロ)

(3) 営時水の滞留している水槽の防水層は、水圧側だけとし、施工箇所は壁、床、天井とする(図9.6.2(ハ)参照)。

なお、水槽間の間仕切壁については、未処理部分から漏水する場合があるので、両面に防水層を設ける。


図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(ハ)

(4) 排水・配線・配管等ピットの防水層は、水圧側若しくは背面水圧側のどちらか又は両側とする。ただし、床については、背面水圧側だけとする(図9.6.2(ニ)参照)。
図9.6.2 ケイ酸質系塗布防水層の適用部位及び防水層の位置(ニ)

9.6.2 材 料

 

(a) ケイ酸質系塗布防水材

日本建築学会規格 JASS 8 T-301(ケイ酸質系塗布防水材料の品質および試験方法)に規定されるケイ酸質系塗布防水材は、主にポルトランドセメント、細骨材、ケイ酸質微粉末(活性シリカとも呼ばれている。)等から構成される既調合粉体である。この既調合粉体に水を練り混ぜて用いる C-UIタイプと、既調合粉体にポリマーディスパージョン(エマルション又はラテックス)と水、又は再乳化形粉末樹脂が混合された既調合粉体に水を練り混ぜて)用いる C-UPタイプの2種類がある。表9.6.1にJASS 8 T-301の品質基準を示す。

既調合粉体に含まれるケイ酸質微粉未は、コンクリートの防水性を向上させるのに必要なケイ酸イオンを溶出するもので、活性な非品質微粉末を用いている。また、C-UPタイプに使用するポリマーディスパージョンとしては、EVA(エチレン酢酸ビニル)系、PAE(ポリアクリル酸エステル)系、SBR(スチレンブタジエンラバー)系等があり、再乳化形粉末樹脂としては、EVA系及びPAE系等がある。

表9.6.1 ケイ酸質系塗布防水材料の品質
(b) 材料の調合
調合比としては、既調合粉体100重量部に対して表9.6.2に示すものが標準的である。
表9.6.2 ケイ酸質系塗布防水材の標準的な調合比(重量部)

(c) 防水機構

一般に硬化したコンクリートの微細構造中には、図9.6.3に示すように、主に未水和セメント粒子、骨材、消石灰、ケイ酸カルシウム水和物等のほかに種々の空隙が存在している。この空隙には、主なものとしてエントラップトエア、エントレインドエア、毛細管空隙、ゲル空隙等が挙げられる。その中で全空隙量の多くを占めるものが、毛細管空隙である。これはコンクリートの練混ぜ水が、コンクリート硬化後もセメント粒子間に毛細管力によって保持されてそのまま残った空間である。その大きさは、直径3nm〜30μm 程度で、形状は細長いものから板状のものまでの連続又は不連続の空間として存在する。


図9.6.3 セメント系硬化体の微細構造の模式図 (JASS8より)

 

コンクリートの強度発現及び水密化は、セメントの水和によって生成したケイ酸カルシウム水和物量に依存し、消石灰は寄与していないと考えられている。しかし、このケイ酸カルシウム水和物の生成量には単位セメント量によって限度があり、毛細管空隙をすべて埋め尽くすには限界があるために、硬化したコンクリートは非常に多孔質なものとなりやすく、高圧水の掛かる場合に漏水を引き起こす。

ケイ酸質系塗布防水材は、このようなコンクリートの表面に塗布することによってコンクリート自体がもっている毛細管空隙を充填し、その量を減少させコンクリートを緻密なものに変化させて、透水に対して防水性能を付与する材料である。その機構として次のことが挙げられる。ケイ酸質系塗布防水材を水又は水とポリマーディスパージョンと練り混ぜたものを塗布することで、防水材中のケイ酸質微粉末(活性シリカ)からケイ酸イオンが溶出し、コンクリート中に浸透・拡散していく。このケイ酸イオンがコンクリートの空隙中にあるカルシウムイオンと化学的に反応してケイ酸カルシウム水和物を生成し、毛細管空隙を充填していく。また、このケイ酸カルシウムのほかに副次的にエトリンガイドも生成する。これらの反応はすべて水を媒体として起こる浸透・拡散現象であるため、施工前にはコンクリートに十分水を含ませ、コンクリート中の毛細管空隙を水で満たす必要がある。この機構によって毛細管空隙は走査型電子顕微鏡による図9.6.4に示すような針状の形状を有する結晶の成長促進作用で充填され、メンブレン防水とは異なるコンクリート自体の緻密化による防水が可能となる。


図9.6.4 生成した針状結晶例

(d) その他の材料

その他の材料として下地処理材があるが、下地コンクリート及び防水材との接着や防水性能に悪影響を及ぼさないものでなければならない。一般的には、表9.6.3に示す材料で防水材製造所の指定するものとする。

表9.6.3 その他の材料

9.6.3 防水層の種別及び工程

 

(a) 防水層の種別

(1) C-UIは、無機質系既調合粉体(ポルトランドセメント+細骨材+ケイ酸質微粉末)と水を練り混ぜた材料を、下地処理を行ったコンクリート面に対して2回塗布する工法である。

(2) C-UPは、無機質系既調合粉体(ポルトランドセメント+細骨材+ケイ酸質微粉末)とポリマーディスバージョンと水を練り混ぜた材料、又は再乳化形粉末樹脂が混合された粉体と水で練り混ぜた材料を、下地処理を行ったコンクリート面に対して2回塗布する工法である。

(b) 下地処理

下地処理は9.6.4(b)に準じて行う。

(c) 防水材の使用量
(1) C-UI 及び C-UPとも、2回の塗布を標準とする。
コンクリート面に対して1回塗布では、むらができやすく(ピンホール等)、塗布量が不足したり、美観上にも難点がでやすいので2回塗布しなければならない。
(2) 「標仕」表9.6.2の使用量は、防水効果が発揮できる最低の標準塗布量であり、下地の状態、特にコンクリート表面の仕上り状態が粗雑な場合、上記の使用量を超える場合がある。

9.6.4 施 工

(a) 防水施工直前の下地全般の状態は、次を標準とする。

(1) 平たんで、反り、目違い、浮き、レイタンス、ぜい弱部、著しい突起物等の欠陥がないこと。
(2) 豆板、ひび割れ部分がないこと。
(3) 床面は、たまり水部分がないこと。
(4) 接着の妨げとなる塵あい、油脂類、汚れ、錆等がないこと。
(5) 打継ぎ部は、目地棒が除去されていること。
(6) 目地棒を使用していない打継ぎ部は、打継ぎ部に対し新旧コンクリートがそれぞれ幅約30mm及び深さ約30mmにVカットされていること(表9.6.4参照)。Vカットに当たっては鉄筋に当たらないように注意を払うこと。
(7) 木コン部は、コーンが除去されていること。

(8) 漏水部がないこと。

表9.6.4 打継ぎ部及び木コン部の形状

(b) 下地処理

(1) 下地処理は、ほこり、ごみを清掃工器具を用いて除去し、かつ、防水材をコンクリート躯体とよく接着させるために水洗いを行い、余剰な水分を取り除いて下地を健全な状態にする。打継ぎ部及び木コン部等の断面復旧を伴う下地処理方法を次に示す。また、それらに用いられる下地処理材の種類及び使用方法を表9.6.5に示す。

表9.6.5 下地処理材の種類及び使用方法

(2) 打継ぎ部

打継ぎ部は、水洗い清掃し、既調合ポリマーセメントモルタルを充填するか、あるいは防水材を塗布し、既調合ポリマーセメントモルタルで埋め戻す。漏水がある場合は別途止水処理をする。

(3) 木コン部

木コン部の処理は、水洗い清掃し、硬練り防水材、既調合ポリマーセメントモルタル、成形モルタル等を充填するか、あるいは防水材塗布後、硬練り防水材、既調合ポリマーセメントモルタル、成形モルタル等を充填する(図9.6.5参照)。


図9.6.5 木コン部の処理

(c) 下地処理後の点検及び検査

(1) 下地処理後に、充填した材料の浮き・だれ等を点検し、防水材の塗布に支障のないことを確認する。

(2) 防水材を塗布する面の汚れを点検し、清掃、水湿しを行う。Z

(3) 防水材を塗布する面に手を当てて水分がついてくるような状態のときは、送風機・布・スポンジ等を用いて余剰水の除去を行う。

(d) 防水材塗り
(1) 防水材の練混ぜ
(i) 練混ぜは、防水材製造所の規定する作業可能時間等を考慮し、必要量を正確に計量器具を用いて計量したのち、容器に適量ずつ入れ練り混ぜる。
(ii) 練混ぜは、ペール缶等の丸い容器を用い、電動かくはん機又は手練りにより、空気を巻き込んだり、まま粉を生じたりしないように均質になるまで行う。
なお、取扱いには、保護具(ゴム手袋等)を着用する。

(iii) 練混ぜは、気温 5〜40℃の範囲において行なう。

(2) 防水材の塗布
(i) 防水材は、はけ、こて、吹付け、ローラーばけ(刷毛)等防水材製造所の指定する工具によりコンクリート面に「標仕」表9.6.2に規定している標準使用量を均ーに塗布する。
(ii) 1層目の防水材が指触乾燥しない状態で2層目が施工された場合、コンクリー卜躯体より1層目が引きはがされ、健全な防水層が形成されないので、必ず1層目の塗布面に手で触れて防水層の硬化状態を確認する。
(iii) 1層目の防水層にドライアウトが生じた場合、防水層は白く風化したような 状態となり、手で触れるとはく落する。これらの状態のときは防水層を除去し、再施工する。
(iv) 工程内の塗布間隔が現場の状況により24時間以上にわたる場合、健全な1層目の防水層の表層部は乾燥状態になるので、2層目のドライアウト、又は付着力低下を生じさせないために、2層目施工前に散水若しくは水湿しを行う。

(v) 地下室内の間仕切壁、床及び天井の施工ではそれぞれ、図9.6.6に示す範囲に施工する。また、外壁内側の側溝では、排水や結露水が一時的に滞留し、室内側に漏水が発生することがあるので、図9.6.7に示すように外壁内側の側溝に防水層を設ける。


   図9.6.6 施工範囲の例

 


図9.6.7 二重壁の施工範囲の例(断面図)

 

(e) 防水材塗布後の点検
施工範囲内の総点検を行い、ピンホールや塗残しのないことを確認する。
(f) 養 生

(1) 塗布完了後、48時間以上の適切な養生を行う。

(2) 直射日光や風、高温等によって急激な乾燥のおそれのある場合には、散水、シート等の養生を行う。

(3) 閉塞場所等で結露のおそれのある場合は、換気、通風、除湿等の措置を講ずる。

(4) 低温による凍結のおそれのある場合は、保温、シート等の養生を行う。

9章 防水工事 7節シーリング

第09章 防水工事

7節シーリング

9.7.1 適用範囲

(a) この節は、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄骨造建物の外壁コンクリート部分の打維ぎ目地、ひび割れ誘発目地、伸縮調整目地や化粧目地、部材の接合部及び建具枠回り、ガラス留付けにシーリング材を施す場合に適用する。

(b) 作業の流れを図9.7.1に示す。


図9.7.1 シーリング工事の作業の流れ

(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質事項を検討する。(  )内は主な管理項目を示す。

① 工程表(施工箇所別の着工、完了等)
② 製造所名、施工業者名、作業の管理組織等
③ シーリング材の材種及び色(JISでの分類等)
④ シーリング材の品質証明書等(JISに基づく試験成績書等)
⑤ プライマーの種類(品名、材種等)
⑥ バックアップ材及びボンドブレーカーの材質及び製造所名(寸法、粘着剤の有無等)
⑦ 材料の保管(消防法分類、保管条件等)
⑧ 施工箇所の形状・寸法、施工法及び養生等(目地詳細図、二面接着・三面接着、表面仕上げの有無等)

⑨ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等

 

d) 用揺の説明

・不定形シーリング材

弾性シーリング材のように、施工時に粘着性のあるペースト状のシーリング材の総称である。

・弾性シーリング材

一般にポリサルファイド、シリコーン、変成シリコーン、ポリウレタン等の液状ポリマーを主成分とし、これと鉱物質充填材等をよく練り混ぜて製造したもので、変位の比較的大きい部材や部品間の隙間に充填する不定形シーリング材をいい、施工後は硬化し、ゴム状弾性を発現する。また、弾性シーラント又はり単にシーラントとも呼ばれる。

・基剤

2成分形不定形シーリング材において、主成分をいう。また、主剤と呼ばれることもある。

・硬化剤

一般的には、合成樹脂に添加、混合し、加熱若しくはその他の処理を行って硬化状態にする物質のことであるが、2成分形不定形シーリング材では、基剤と混合して、架橋(「硬化」の項参照)等の化学反応を起こさせる配合物をいう。

・硬化

一般的には合成樹脂の線状分子を硬化剤の添加、熱、光、触媒等によって相互に化学的に結合させて網状構造をつくり(架橋と呼ぶ。)、物理的性質が変化することであるが、不定形シーリング材では、ジョイントに施工してから架橋等の化学反応、水分の揮散等によって、シーリング材としての性質を発現することをいう。

・被着体

不定形シーリング材によって接合されるべき物体をいう。

・二面接着

ジョイントに不定形シーリング材を充填した場合、ジョイントを構成する材料の相対する二面で接着することをいう。目地に変位が発生するワーキングジョイントに適用される。

・三面接着
ジョイントに不定形シーリング材を充填した場合、ジョイントを構成する材料の相対する面及び目地底部の三面で接着することをいう。目地の変位がないか極めて少ないノンワーキングジョイントに適用される。

なお、「標仕」では二面接着が基本であり、動きの小さい打継ぎ目地等の場合に限り三面接着とすることができるとしている。

・界面はく離

不定形シーリング材が、被着体面からはく離し、接着界面で破壊されることをいい、接着破壊、界面破壊(略号:AF)ともいう。

・モジュラス

ゴム状弾性を有する材料の物性試験において、試験片に一定の伸びを与えたときの引張応力をいう。50%の伸びを与えたときの応力を50%引張応力という。

・クレージング

ひびともいい、ウェザリング等によるシーリング材の表面の細かい亀甲状のひび割れをいう。

・グレイジング

ガラスをはめ込み固定することをいう。

9.7.2 材 料

(a) 一般事項

(1) シーリング材の定義及び機能を次に示す。

(i) シーリング材〈シール材〉とは、「シール」すなわち「密封する」材料という意味である。

(ii) 建築工事では、建築用材料の各接合部の隙間や目地に充填し、気密性、水密性等を高める材料を総称してシーリング材と呼んでいる。

(2) シーリング材の性能は気候等により変化するので、使用条件に応じた材料の選定と材料に応じた施工が必要である。

(3) シーリング材は、作業者や周辺環境に著しい害を与えるものであってはならない。

(4) シーリング材は、対象とする被着面を侵すものであってはならない。

(b) シーリング材
(1) シーリング材の適用

シーリング材の性能について、「標仕」9.7.2ではJIS A 5758(建築用シーリング材)によるとしている。また、有効期間を過ぎたものは使用してはならない。

(2) シーリング材の分類
現在一般的に行われている主成分及び硬化機構による分類を図9.7.2に示す。

「標仕」表9.7.1では、施工箇所に応じたシーリング材の種類(主成分による。)を被着体の組合せで規定している。


図9.7.2 建築用シーリング材の一般的分類

(3) シーリング材の選定

(i) 「標仕」ではシーリング材の種類及び施工箇所は特記によるとされ、特記がなければ「標仕」表9.7.1が標準とされている。「標仕」表9.7.1に示されたシーリング材の種類と特徴を表9.7.1に示す。

表9.7.1 シーリング材の種類と特徴

(ii) 「標仕」表9.7.1に示されたもの以外にも、表9.7.2に示すような目地の区分と使用材料の組合せが考えられる。「標仕」で想定していない被着体の組合せや、表9.7.3に示す異種シーリング材との打継ぎで問題がある場合で、「標仕」表9.7.1によることが困難なときには、表9.7.2を基に受注者等と協議し、設計変更等の処置を行う必要がある。

表9.7.2 シーリング材の種類と使用部位(目安)(JASS 8より)

表9.7.3 異種シーリング材の打絹ぎの目安(JASS 8より)

(iii) 硬化後のシーリング材表面に塗料等で仕上げを行う場合、シーリング材と塗料の組合せによっては、表面が軟化し塵あいの付着による汚れが発生することがあるので、適合性に関する事前確認を行うことが必要である。特に、「標仕」表9.7.1以外のシーリング材を表9.7.2より選定する場合、汚染防止のためのバリアプライマー(シーリング材中の可塑剤の移行防止を目的とした塗布材)の要否を含め、適合性に関しシーリング材製造所及び塗料製造所双方への事前確認が重要である。

表9.7.4に示すワーキングジョイントに硬質な塗装を施すと、塗装が割れてはがれたり、割れた部分に変形が集中してシーリング材が損傷することがある。ワーキングジョイントに硬質な塗装を施す際には、事前検討を行うか塗装を避ける必要がある。

(iv) 建築基準法に規定される防火設備には、その設備の仕様で規定されたシーリング材の使用が必要である。

(v) ワーキングジョイントとなるALCパネルヘのアクリル系シーリング材の使用は避けた方が望ましいが、やむを得ず使用する場合は50%引張応力が経年変化で0.3 〜0.4N/mm2程度に上昇することを考慮して事前の検討を行う。

(vi) 「標仕」9章7節ではカーテンウォール工法を除いているが、カーテンウォー ル工事の場合については、17.2.2(b)及び17.3.2(c)でも参考例を紹介している。その他シーリング材と関連するALCパネル・押出成形セメント板工事、石工事、タイル工事、建具工事等のシーリング材の選定については、該当工事各章を参考するとよい。

(4) JIS A 5758(建築用シーリング材)の抜粋を次に示す。

JIS A 5758: 2010

1 適用範囲

この規格は、金属コンクリート、ガラスなどの建築用構成材の接合部の目地に不定形の状態で充てんし、硬化後に部材に接着して水密性及び気密性を確保するために使用する建築用シーリング材(以下、シーリング材という)について規定する。

4 種 類
4.1 一般事項

シーリング材の種類は、タイプ及びクラスによって区分し、図1による。


図1 – シーリング材の種類

4.5 主成分、製品形態及び耐久性による区分

4.5.1 主成分による区分

シーリング材は、主成分によって区分し、表2による。

表2 – 主成分による区分

4.5.2 製品形態による区分

シーリング材は、製品形態によって区分し、表3による。

表3 – 製品形態による区分

4.5.3 主成分及び耐久性による区分

シーリング材は、主成分及び耐久性によって区分し、表4による。

表4 – 主成分及び耐久性による区分


JIS A 5758 : 2010

(c) プライマー

(1) プライマーは、目地に充填されたシーリング材と被着体とを強固に接着して、シーリング材の機能を長期間維持するもので、場合により被着体表面を安定させ、下地の水分やアルカリの影響を防止するシーラーの役割も果す。

(2) プライマーが被着体に適合しなかったり、プライマーが経年で劣化した場合は、はく離による目地の不具合が生じる。そのためプライマーの選定には、十分な配慮が必要である。

(3) プライマーは、被着体及びシーリング材の種類によって使い分けねばならないがシーリング材製造所の指定するものを用いる。

「標仕」9.7.5では、外部に使用するシーリング材は、接着性試験を行うことを規定しているので、事前にできるだけ実際の被着体となる部材に対し、使用予定のプライマーを用いて接着性試験をしておく。試験方法は「標仕」9.7.5による。

(4) 接着性試験の結果が不合格となった場合は、プライマー又はシーリング材を選定し直して再試験を行い、所定の接着性を確保する。

(d) 補助材料

(1) バックアップ材

(i) バックアップ材は、シーリング材の三面接着の回避、充填深さの調整あるいは目地底の形成を目的として用いる。

(ii) バックアップ材は、シーリング材と接着せず、弾力性をもつ材料で適用箇所に適した形状のものを使用する。材質はポリエチレンフォーム、合成ゴム成形材で、シーリング材に移行して変質させるような物質を含まない材料を選定する。

(iii) バックアップ材は、シーリング材と被着体の接着面積が確保でき、二面接着が確保できるように充填する。裏面粘着剤が付いているものは目地幅より 1mm程度小さいもの、粘着剤の付いていないものは、目地幅より2mm程度大きいものを使用する。

(iv) バックアップ材の使い方は図9.7.3による。


図9.7.3 バックアップ材の使い方

(2) ボンドブレーカー

(i) ボンドブレーカーは、目地が深くない場合に三面接着を回避する目的で目地底に張り付けるテープ状の材料である。

(ii) ボンドブレーカーは紙、塩ビ,ふっ索樹脂,ポリエチレン,ポリエステル等からなる粘着テープで、プライマーを塗布しても変質せず、かつ、シーリング材が接着しないものを選定する。

(3) マスキングテープ

(i) マスキングテープは、プライマー塗布及びシーリング材充填の際の汚染防止と、 目地縁の線を通りよく仕上げるために用いる粘着テープである。

(ii) マスキングテープの選定に当たっては、次の点に注意する。
① 除去後、粘着剤が外装表面に残存しないこと。
② 清掃用洗浄剤やプライマーの塗布で溶解しないこと。
③ シーリング材の接着を妨げない材料であること。

④ 外装面の凹凸になじみやすい材料であること。

(4) 清掃用洗浄剤

(i) 清掃用洗浄剤は、被着面の油分や接党剤を除去するために用いる薬剤である。

(ii) 清掃用洗浄剤は、被着体や周辺の化粧材を変質させることがなく、接着を阻害しない材料を用いる。

(iii) 引火性があるものは、密封容器に入れて冷暗所に保管する。また、取扱いに当たっては、発生する蒸気を吸わないように注意する。

9.7.3 目地寸法

(a) 目地幅は、シーリング材に過大な応力やひずみが生じない範囲とし、凹凸、広狭等がないものとする。

(b) 目地深さは、主としてシーリング材の充填・硬化が適正に行われて、十分な接着性が確保できるように設定する。また、乾燥硬化1成分形シーリング材は、硬化に伴う収縮があるので、やや深めにする必要がある。

(c) シーリングの対象となる目地は表9.7.4に示すよう、発生するムーブメントによりワーキングジョイントとノンワーキングジョイントに大別される。

「標仕」9.7.3では特記のないかぎり部位ごとに最低目地形状を規定しているが、金属笠木等の部材接合部のように温度変化等により比較的大きな挙動が発生するワーキングジョイントとなる目地の寸法は、ムーブメントを算定し使用予定のシーリング材の設計伸縮率・設計せん断変形率を超えないように求める。求められた寸法を目地輻とするが、「標仕」9.7.3の最低目地幅を満足するものとする。

表9.7.4 ムーブメントの種類と主な目地(JASS 8より)

(-社)日本建築学会「JASS 8 防水工事」における温度ムーブメントの算定に関する抜粋を次に示す。

JASS 8 : 2008

2) 温度ムーブメントの算定

部材の熱膨張・収縮に起因する温度ムーブメントは以下の算定式により求める。

i) 突付けジョイント

解説表4.6 部材の実効温度差


解説図4.1 ワーキングジョイントの目地深さDの許容範圃

解説表4.3 シーリング材の設計伸縮率・設計せん断変形率 ε の標準値(%)


JASS 8 : 2008


9.7.4 施 工

(a) 施工の体制

シーリング工事においても、施工のほかに、事前検討や施工管理を含めた検討・調整等が重要である。例えば、日本シーリング材工業会では、これらの技術及び知識を有する「シーリング管理士」を認定している。「シーリング管理士」制度は昭和46年に発足し、昭和55年から実施された建設省総合技術開発プロジェクト「建築物の耐久性向上技術の開発」においても、「シーリング管理士」の参画による効用が記述されている。

なお、「シーリング管理士」は平成24年10月現在1,502名が認定されている。

(b) 材料の保管

(1) シーリング材は、製造年月日や有効期間を確認して、高温多湿や凍結温度以下とならない、かつ、直射日光や雨露の当たらない場所に密封して保管する。

(2) プライマー及び清掃用洗浄剤については、消防関係法令に基づいて保管する。

(c) 施工環境
(1) シーリング材の施工性、硬化速度等は温度や湿度に影響される。施工環境は一般には気温 15〜20℃で無風状態が望ましく、被着体の温度が極端に低いあるいは高くなるおそれがある場合は施工を見合わせる。

やむを得ず作業を行う場合は、仮囲い、シート覆い等による保温又は遮熱を行う必要がある。

(2) 「標仕」9.7.4では、降雨、多湿等で結露のおそれのある場合は施工を中止することにしている。すなわち、湿度が極端に高い場合はプライマー中の溶媒の気化により被着体が冷却して結露し、接着性が阻害されるおそれがあるので、作業をしない方がよい。

(3) 降雨時又は降雨が予想される場合は、施工を中止し、更に、シーリング材施工済みの目地部の雨掛りを防ぐ養生を行うことが望ましい。

(d) 下地処理

(1) 被着面に付着した塵あい、油分、粘着剤、モルタル,塗料等の付着物及び金属部の錆をサンダー、サンドペーパー及び清掃用洗浄剤等を用いて完全に除去する。

(2) 目地部に水分がある場合は,十分に乾燥させる。

(e) 施工手順

(1) バックアップ材及びボンドブレーカーの取付け

(i) バックアップ材は、所定の目地深さになるようにねじれ、浮上がり及び段差等が生じないように必要に応じて治具を用いて装填する(図9.7.4参照)。

(ii) ボンドブレーカーは浮き等が生じないように目地底に確実に張り付ける。

(iii) バックアップ材及びボンドブレーカー装填後、降雨があった場合は、バックァップ材及びボンドブレーカーを取り外し、目地が乾燥したのち、再装填する。

(iv) 動きの小さいコンクリート壁の建具周囲、打継ぎ目地、誘発目地並びに単窓及び1スパン内の連続窓回り等で、所要の目地深さが確保できる位置に目地底がある場合は、三面接着の目地構造とすることができる。

(v) バックアップ材の装填状況及びボンドブレーカーの張付け状況を確認する。


図9.7.4 装填治具例

(2) マスキングテープ張り

(i) マスキングテープは、シーリング材の接着面に掛からない位置に通りよく張り付ける。

(ii) 塗装面にテープ張りをするときは、塗装が十分硬化していることを確認し、

除去に際して塗膜を引きはがさないように注意する。

(iii) テープ張りのまま長時間たつと除去し難く、粘着剤が残存しやすくなるため、施工範囲を決めて張り付ける。特に、気温の高い時期は注意する。

(iv) 粘着剤が残存した場合は、速やかに清掃用洗浄剤等で除去する。

(3) シーリング材充填

(i) プライマー塗布

① 2成分形プライマーを用いる場合は、可使時間内に使い切る量を正しく計量して入念に混合する。

② プライマーは、塗りむら、塗残しあるいは目地からはみ出しのないように均ーに塗布する。

③ プライマー塗布後、塵あい等の付着が認められたり、シーリング材充填までの時間が長すぎた場合は再清掃し、再塗布を行う。

(ii) シーリング材の線混ぜ

① 2成分形シーリング材の基剤及び硬化剤の配合割合は、製造所の指定するものとする。

② 2成分形シーリング材は、機械練混ぜを原則とし、空気を巻き込まないようにして十分かくはんする。

③ 2成分形シーリング材の練混ぜは、可使時間に使用できる量で、かつ、1缶単位で行う。

④ 「標仕」9.7.4(d)(3)では2成分形シーリング材を用いる場合は、充填されたシーリング材の硬化の過程や硬化状態を確認するために、各ロットごとにサンプリングを行うことにしている。

この場合のサンプリングの採取方法は、1組の作業班が 1 日に行った施工箇所を1ロットとし、アルミニウム製チャンネル等に練混ぜたシーリング材を充填し、材料名・練混ぜ年月日・ロット番号・通し番号を表示する(図9.7.5参照)。


図9.7.5 サンプリング例

 

(iii) シーリング材の充填及び仕上げ

① シーリング材の充填は、吹付け等の仕上げ前に行うのが原則であるが、仕上げが施されたあとに充填することもある。その場合、目地周辺を養生し、はみ出さないように行う。

② シーリング材の充填は、目地幅に適し、底まで届くノズルを装着したガンを用い、目地底部から加圧しながら入念に行う。

③ シーリング材の充填は、交差部あるいは角部から図9.7.6の要領で行う。隙間、打残し、気泡がないように目地の隅々まで充填する。

④ シーリング材の充填は、プライマー塗布後、製造業者の指定する時間内に行う。

⑤ シーリング材の打継ぎは、目地の交差部及び角部を避けて図9.7.7のように行う。異種シーリング材との取合いの適否は、表9.7.3に示すとおりであるが、相互間の接着性試験を行うことが望ましい(9.7.5(d)参照)。

⑥ 充填したシーリング材は、内部まで力が十分に伝わるように、へら押えして下地と密着させたのち、平滑に仕上げる。


図9.7.6 シーリング材充填の順序

 


図9.7.7 シーリング材の打継ぎ(一般の打継ぎ)

(4) 着掃及び養生

(i) マスキングテープ除去及び清掃

① マスキングテープの除去は、シーリング材表面仕上げ直後に行う。

② 目地周辺の外装材に付着したシーリング材は、布等でふき取る。また、外装材を侵さない清掃用洗浄剤を利用してもよい。ただし、シリコーン系は未硬化状態でふき取ると、汚染を拡散するおそれがあるため硬化してから除去する。

(ii) 養 生

① シーリング材表面がタックフリーの状態になるまでは、触れないようにし、硬化するまでは塵あい等が付着しないように養生する。外装仕上げは、シー リング材が硬化してから行う。

② エマルション系シーリング材の場合は、硬化するまでの間に降雨が予想されるときは養生を行う。

③ あと工程でシーリング材が損傷されるおそれがあるときは、適切な養生を行う。その際、密封してシーリング材の硬化を妨げないように注意する。

(5) 確 認

(i) シーリング材の施工工程終了後、目地に対して垂れ等がなく正しく充填されているか、汚染・発泡等の著しい外観不良がないかを、目視にて確認する。不具合が認められた場合は、直ちに手直しを行う。

(ii) シーリング材が十分硬化したのち、指触によりシーリング材の硬化状態及び接着状態に異状がないかを確認する。異状が認められた場合は、サンプリングした全ロットについて確認し、受注者等、専門工事業者及びシーリング材製造所に不具合範囲及び原因の究明を行わせ、対処方法を決定する。

9.7.5 シーリング材の試験

(a) シーリング材は、同一種類のものであってもシーリング材製造所ごとにその組成 が異っており、被着本との組合せによっては、接着性能に問題の起こる場合がある。このため「標仕」9.7.5では、防水上重要な外部に面する金属、コンクリート、建 具等に用いるシーリング材の接着性試験を行うことにしている。ただし、過去に同ーのシーリング材製造所の同一種類のシーリング材と同一被着体の組合せで実施した信頼できる試験成績書がある場合には、この接着性試験を省略してもよい。

(b) 簡易接着性試験において、常温で硬化養生を行う場合は、夏場に比べ冬場は長く養生期間を設ける。試験が不合格となった場合は、プライマー又はシーリング材を選定し直し、再試験を行う。

(c) 「標仕」9.7.5(b)(2)の規定による引張接着性試験では、試験で使用した被着体に対し、シーリング材製造所が規定するシーリング材の性能を満足するか否かを確認する。不合格となった場合は、(b)と同様に再試験を行う。

(d) 打継ぎ接着性試験を行う場合は、JASS 8を参考にするとよい。

なお、JASS 8では、異種シーリング材の打継ぎ接着性試験に関して、次のように述べている。

(1) 異種シーリング材を打ち継ぐことは好ましくはないが、やむを得ず打継ぎが発生する場合、あと打ちシーリング材との接着性の確認が必要となる。

(2) 試験方法としては図9.7.8(イ)、(ロ)に示すような試験体を用いた接着性試験、あるいは図9.7.9に示すような簡易接着性試験がある。判定方法としては破壊状況に着目し、界面ではく離しなければよい。

(3) この場合、先打ちシーリング材の硬化状態は JIS A 1439(建築用シーリング材の試験方法)による養生を行ったのち、あと打ちシーリング材にも同様の養生を行うことが多い。ただし、工場施工との打継ぎに際しては、先打ちシーリング材を1〜2ヶ月屋外暴露してからあと打ちシーリング材を養生して試験を行うことが望ましい。


図9.7.8 異種シーリング材の打継ぎ接着性試験(JASS 8より)

 


図9.7.9 異種シーリング材の打継ぎ簡易接着性試験(JASS 8より)

11章 タイル工事 1節一般事項

11章 タイル工事

01節一般事項

11.1.1 適用範囲

この章は、通常の建築の内壁、外壁及び床の表面に、仕上材として陶磁器質タイルをセメントモルタル又は接着剤を用いて手張りで施工する陶磁器質タイル張り工事、コンクリートの型枠にタイルを仮付けし、建築現場でコンクリートを打ち込む陶磁器質タイル型枠先付け工事に適用する。

11.1. 2 基本要求品質

(a) タイル工事に使用する材料としては、仕上げ材としてのタイルと張付け用材料が主なものである。このうちタイルについては、一般的な品質はJISによることにしている。また、タイルの寸法については、JISによって標準的なものが定められているが、実際の工事に当たっては、タイル割りによって若干タイルの寸法を調整することがある。この場合にあっては、指定寸法に対する許容寸法を定めるときに該当するJISの規定を適用する。タイル製品については、(-社) 公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」により評価がなされており、この結果を活用するとよい。

タイル以外の材料にあっては、指定されたJISに適合することの証明を材料製造所から提出させる。JISの指定されていない材料にあっては、設計図書の指定材料であることの確認のほか、材料製造所から実績を証明する資料を提出させることによって確認するとよい。

(b) タイル工事の仕上り面は、タイルと目地によって構成され、タイルの寸法や施工方法等により異なるものとなっている。

「標仕」11.1.2 (b)でいう「所定の形状及び寸法を有する」とは、材料としてのタイルの形状や寸法でなく、タイル面の仕上り状態として、タイル寸法のばらつきによる目地の通りの精度をどのように計測し、判断するかを提案させ、実施させることと考えればよい。

(c) タイル工事の完成した状態としては、下地であるコンクリート躯体とモルタル層及びタイルが一体となっていることが最も望ましいものであるが、適切な施工方法で施工した場合であっても、「標仕」11.1.5(b)に定める打診による確認を行うと、タイル面に浮きを発見することがある。「標仕」11.1.2(c)でいう「有害な浮き」とは、下地モルタルがタイル数枚分浮いているものと考えればよい。この場合の対応としては、浮きの認められるタイル部分の目地にカッターを入れタイルを撤去し張直しを行うか、浮き部分にエボキシ樹脂等を注入する方法等により、補修を行う必要がある。

これに対して、例えば、タイル1枚の一部分のような部分的な浮きの場合、タイル張付け後どの程度の時間が経過したかによるが、これが直接はく落につながることは少なく、無理に補修しようとすれば、タイル張り撤去に伴う振動や注入時の圧力により、周囲の健全部分に対してはく離を誘発するおそれがある。このような場合は、施工後相当時間経過したのちに状況を再度確認し、必要な処置を施すなど適切な保全を行うことが重要となる。

打診による確認により浮きが認められた場合、その浮きが有害な浮きであるかどうかは、タイルの形状、寸法、施工方法、建物の部位等を勘案し総合的に判断することになるが、「品質計画」においてその限度を定めておくようにする。

11.1.3 伸縮調整目地及びひび割れ誘発目地

(a) タイル仕上げ面には、乾燥及び湿潤、日射等による温度変化.地震等の外力により、ひずみが生じる。このひずみによる力が各材料の層間の接着強度を上回るとはく離が生じるので、タイル張り面の適切な位置に伸縮調整目地を設けることで、タイル面のはく離の拡大を低減する必要がある。

また、躯体及び下地モルタルにひび割れが生じると、タイル面にもひび割れが生じ、タイルの接着性能にも悪影響を及ぼすことがあるため、これを防止するためにも躯体にひび割れ誘発目地を設ける必要がある。

このため、「標仕」6.8.2及び「標仕」11.1.3では、下地のひび割れ誘発目地、タイル型枠先付けのひび割れ誘発目地及びタイル面の伸縮調整目地の規定を設けている。「標仕」11.1.3(a)の「なお書き」は、ひび割れ謗発目地、打継ぎ目地及び構造スリットの位置に伸縮調整目地が設けられていなかったことが原因で、タイルにはく離が生じ落下事故が起こったことにより追加されたものである。したがって、「標仕」より上位の設計図書で伸縮調整目地設置の指示がない場合(「特記がない場合」)においても、ひび割れ誘発目地の位置には、必ず伸縮調整目地を設けなくてはならないということを述べている。

一方、ひび割れ誘発目地がない場合の伸縮調整目地については、効果があるという考え方と意味がないという考え方の両論があるが、一般的には前者の考え方で設計される場合が多い。したがって、伸縮調整目地の位置には、ひび割れ誘発目地がない場合もある。

なお、ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の位置は,タイルの割付けを考慮して設計される。

(b) 「標仕」では、ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の位置は、特記によることとしている。特記のない場合の標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置を図11.1.1及び2に示す。


図11.1.1 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置
(外部側に柱形がある場合)

図11.1.2 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮濶整目地とも)の位置

    (外部側に柱形がない場合)(その1)


図11.1.2 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置
    (外部側に柱形がない場合)(その2)

外部側に柱形のない場合には、特記により図11.1.3に示すような位置にひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)が設けられることがある。これは柱心からある程度離れてひび割れ誘発目地を設けると、斜めひび割れの防止に有効であるという考え方があるためである。


図11.1.3 特記によるひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置の例

(c) 屋内のタイル張りにおいては、入隅部では躯体及び下地モルタルの動きにより、また、建具等の他部材との取合い部では、タイルと他部材との挙動が異なるため.タイルに大きな力が作用する。このため、これらの部分には伸縮調整目地を設ける。

(d) ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の詳細例を図11.1.4〜6に示す。


図11.1.4 陶磁器質タイル張りのひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の例

 

図11.1.5 陶磁器質タイル型枠先付けのひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の例


       図11.1.6 垂直伸縮調整目地の例

(e)下地材料が異なる場合には、挙動が異なるため伸縮調整目地を設け、ひび割れの発生を防ぐ。意匠上、不適当な位置ならば設計担当者と打ち合わせる。

11.1.4 あと張り工法施工前の確認

(a) モルタル塗り面の下地コンクリートからの浮きの原因には、次のようなものがあり、(1)〜(3)の例が多い。

(1) 下地表層の強度不足による表層破壊(硬化不良、レイタンス等)
(2) 下地面の清掃の不足による接着不良
(3) 下地面の水湿しの不良によるモルタルの硬化不良
(4) 施工時の養生不足による硬化不良(直射日光等による急述な乾燥、寒冷期の保温加熱等の不良)
(5) モルタルの塗厚の過大による収縮

(6) 長期にわたる下地の変形(躯体膨張、収縮、ひび割れ)

(b) モルタルの浮きの検査は、テストハンマー、木づちの類で塗り面をたたき、打撃音によって判断する。一般に正常音(高く、硬い音)であれば浮きがなく、異常音(響くような大きな音)であれば浮きがある。

(c) モルタルの浮きの補修方法には次のようなものがある。

(1) 一般には、浮いている部分をはつり取ってモルタルを塗り直す。はつり方によってはかえって浮きが進むおそれがあるので、カッターで浮いている箇所の周囲を切断し、絶縁してからはつる。

はつったのちは、ワイヤブラシ等で十分に清掃し、水湿しを行ってセメントペーストを塗り、次の工程にかかる。

(2) 補修方法には、(1)のほかアンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法、アンカーピンニングポリマーセメントスラリー注入工法等があるが、これらは主として改修工事に採用される場合が多い。特にエポキシ樹脂は、湿潤状態の箇所では接着不良を起こすので、湿潤用のものを使用する。

11.1.5 施工後の確認及び試験

 

(a) 外観の確認
タイル張り面は、目を近づけて見るだけではなく、離れたところから施工面全体を眺めて、色調・仕上り状態・欠点の有無等を判断することが重要である。限度見本がある場合は、ばらつきがこの限度見本の範囲内であることを確認する。

タイル張り面は、目地の通りが基準となって不陸等がよく目立つ。外観を見て見苦しい段差・目違いがあってはならない。また、目地の深さと目地幅の不ぞろい及び目地切れは好ましいことではない。目地深さが深い場合、将来の故障につながりやすい。また、目地材の水密性を確保するためにも、目地切れがないことを確認する。

(b) 打診による確認

(1) タイルの施工面については、不陸・目違い、ひび割れ等の目視確認を行うとともに、「標仕」11.1.5 (b)により、屋外、屋内の吹抜け部分等のタイル張りは、全面にわたり、打診による確認を行う。打診は張付けモルタル硬化後で、かつ、足場の残っている期間に行うのがよい。

(2) 打診は、図11.1.7に示すような打診用ハンマーを用いて行う。


    鋼球型テストハンマー
   図11.1.7 打診用ハンマー

 

(3) 打診の結果、浮きやひび割れが発見され、それが有害と判定される場合は、国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)」により適正な方法で処理する。有害か否かの判定が困難な場合は、定期的に状態を観察して経時変化を確認し、危険度を勘案して判断するのがよい。

(4) 有機系接着剤を用いたタイル張りは、くし目ごてで施工することからタイルと接着剤とが隙間なく密着しているわけでなく、施工不良でなくてもタイルについて1枚の中で部分的に浮き音がすることがある。その場合は、浮き音がするタイルについて打診による確認を行い、 タイル1枚の中での浮き音が発生する割合を考慮して合否を判定する。判定が困難な場合は、タイルをはがして、接着状態を確認するとよい。

(c) 接着力試験

(1) 外装タイル張とり及び屋内の吹抜け部分等の環境条件の厳しい部位やはく落による危険度が高い部位についての接着力試験は、原則として、監督職員が立ち会う。ただし、通常の腰高と天井高の内壁や床のタイル張りのように、はく落による危険が少ない部位や、建物周囲こ植込等が設けられ、人が壁面等に近づけないような場合等安全上の配慮がなされている場合は、接着力試験を省略することができる。

(2) 試験体
(i) 試験の時期は、施工後2週間以上経過してから実施するのが一般的であるが、セメントモルタル張りの場合、夏期では1週間程度で強度が出るので「標仕」では強度が出たと思われるときとしている。ただし、試験を行うまでは足場を外せないので、他工事との工程の調整に注意する必要がある。
試験体は、タイルの周辺をカッターでコンクリート面まで切断したものとする。これはタイルのはく落がタイルだけではなく下地のモルタルからはく落することが多いので、この部分まで試験するためである。
なお、アタッチメントの大きさは、図11.1.8のようにタイルの大きさを標準とする。アタッチメントに合わせてタイルを切断すると誤差が大きくなるおそれがあるため注意が必要である。

ただし、二丁掛けタイル等小ロタイルより大きなタイルの場合は力のかかり方が局部に集中し、正しい結果が得られないことがあるので、小ロタイル程度の大きさに切断する。

(ii) 試験体の個数は「標仕」11.1.5(c)(ii)により3個以上、かつ、100 m2ごと及びその端数につき1個以上として、壁面全体の代表となるよう無作為に選ぶ。

(3) 試験機は、建研式引張試験機(図11.1.9)のほか、日本建築仕上学会認定の油圧式簡易引張試験器(図11.1.10)が開発されており、後者の方が軽量であるためアタッチメントや試験機の質量によって破断することが少なく、低強度まで測定が可能であり、普及している。


    図11.1.8 接着力試験の状況

 


    図11.1.9 建研式引張試験機

 


    図11.1.10 油圧式簡易り張試験器
    (日本建築仕上学会認定)

 

(4) セメントモルタル張りの場合の試験結果の判定については、引張接着強度のすべての測定結果が 0.4N/mm2以上の場合を合格とする。この引張接着試験は、施工品質を確認して、施工不良を排除することが主たる目的の試験である。昨今のタイル張りのはく離故障は、コンクリート下地と下地モルタルの接着界面が支配的になっている。このことを踏まえて、コンクリート下地の接着界面における破壊率の上限値が50%に設定された。

不合格が生じた場合には、該当するタイル施工部分の全面に対して、再び(2)(ii)に進じて試験を行う。不良部分については目地部を切断して、再施工しなければならない。

(5) 接着剤張りの場合には、接着剤層の破壊状態に基づいて合否を判定し、引張接着強度は参考値とする。一方、下地モルタル及びコンクリートに起因する破壊状態が主である場合には、セメントモルタル張りと同様に引張接着強度と破断状態で合否を判定する。

破壊モードの分類を図11.1.11に示す。タイルと接着剤の間の未接着は、くし目の谷部やタイル裏あし部に接着剤が充填されていない場合に生じる状態であり、接着剤とタイルの界面破壊と同一と判断する。

なお、接着剤の塗残し部分等の接着剤が塗付されていない部分も界面破壊と判断する。

   
図11.1.11 引張接着試験における破壊モード(JASS 19より)

合否判定のフロー図を図11.1.12に示す。凝媒破壊モードが T + A ≧ 50%(タイルの凝集破壊率と接着剤の凝集破壊率の合計が50%以上の場合)を合格とする。破壊モードがAT + MA> 50%(接着剤とタイルの界面破壊率及び下地モルタルと接着剤の界面破壊率の合対が50%を超える)ならば接着剤の界面破壊が主であり不合格とする。この条件に当てはまらない場合としては、下地の破壊が混在する場合がある。破壊モードがT + A< 50%、かつ、AT + MA<50%、かつ、M + CM + C ≦ 25%(下地モルタルの凝集破壊率、下地モルタルとコンクリートの界面破壊率及びコンクリートの凝集破壊率の合計が25%以下であれば、接着剤及びタイルの凝集破壊( T + A )が主と考えられるため、合格とする。破壊モードが T + A < 50%、かつ、AT+ MA < 50%、かつ、M + CM + C > 25%(下地モルタルの凝集破壊率、下地モルタルとコンクリートの界面破壊率及びコンクリートの凝集破壊率の合計が25%を超える)であるなら、下地の破壊比率が高いためセメントモルタル張りと同様に、下地モルタルとコンクリートの界面破壊が50%以下、かつ、引張接着強度が 0.4N/mm2以上の場合を合格とする。


図11.1.12 合否判定フロー(JASS 19より)

(d) 検査及び接着力試験の記録は保存して、維持保全時の判断資料として役立てるとよい。

12章 木工事 1節 一般事項

第12章 木工事
01節 一般事項
12.1.1 適用範囲
(a) この章は、鉄筋コンクリート造鉄骨造、組積造等における内部仕上げの下地及び造作類を対象としており、構造主体をすべて木造とした工事は対象としていない。
近年、鉄筋コンクリート造等の事務庁舎には、ほとんど施工例がなくなったため、平成22年版「標仕」から「3節小屋組」及び「4節屋根野地、軒回りその他」が 削除されたが、増築工事等で置屋根等が採用される場合もあることから、8節及び9節に、19年版「標仕」の仕様及びその解説を掲載している。
なお、国土交通省大臣官房宜庁営繕部が制定している「公共建築木造工事標準仕様書」(平成25年版)は、構造主体を木造とした建物を対象としており、軸組構法工事等で小屋組等が規定されているので参考にされたい。
(b) 小屋組工事の作業の流れを図12.1.1に、内部工事の作業の流れを図 12.1.2に示す。
図12.1.1_小屋組工事の作業の流れ.jpeg
図 12.1.1 小屋組工事の作業の流れ
図12.1.2_内部工事の作業の流れ.jpeg
図 12.1.2 内部工事の作業の流れ
(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
① 工程表(施工図完了、材料搬入、着工、完了等の時期)
② 施工業者名及び作業の管理組織
③ 加工機器等(主として仕上げ)
④ 使用する材料の種類、形状、寸法及びその使用箇所
⑤ 加工、組立又は取付けの工法
⑥ 防虫、防腐、防蟻処理
⑦ 養生方法
⑧ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
(d) 施工図(現寸図を含む。)を必要とする箇所は、おおむね次のとおりである。
① 小屋組(垂木を含む)、間仕切軸組(下地材を含む)、天井下地、床組等の構造及び継手、仕口等
② 窓、出入口等の建具回り、壁、天井、床の取合い、納まり等
③ 躯体との取合い(床、柱、壁、梁スラプ下端)
(e) 主要な材料は、あらかじめ見本を提出させ、次のような事項を検討する。
① 製材:規格、樹種、材質、等級、含水率
② 集成材:規格、樹種、形状、寸法、化粧薄板(樹種、厚さ)、仕上り等
③ 単板積層材、合板、構造用パネル、パーティクルボード:規格、材質、等級等
④ 建具枠、敷居、かもい等:加工の状態
⑤ 釘、諸金物:規格、材質、形状、寸法、防錆処置
(f) 平成22年版「標仕」から、製材等フローリング又は再生木質ボードを使用する場合(ただし、製材については、間伐材、林地残材又は小径木を使用する場合を除く。)は、受注者等が合法性を証明する資料を提出することとされている(1.4.2 (c) 参照)。
12.1.2 基本要求品質
(a) 木材については、一般にJASでその品質が定められている。また、含水率は、施工後の狂い、割れ等に大きな影響を与えるため、使用部位に応じて「標仕」表12.2.1のように規定しているので、これに適合する材料を使用することを求めている。含水率の測定方法については、12.2.1(a)(5)を参照されたい。
また、樹種については、原則として、代用樹種を使用することが認められている (12.2.1(b)(2)参照)。更に、当該部材の必要性能(強度.耐久性等)を満たすことが学術的又は技術的に確認されている場合にあっては、監督職員の承諾を受けて「標仕」表12.2.3に示す代用樹種以外の材を用いることができる。
(b) 造作材の形状及び寸法については、設計図書で指示され、施工図等が作成されるので、これに基づき正しく加工されていることを要求している。
また、造作材の仕上り面は、そのまま室内の表面に現れ出来ばえを左右するので、傷や汚れ等が許容される範囲内のものでなければならない。しかし、「仕上り面の状態」に関する品質基準については、多分に個人の主観的な判断となり、定量的・客観的に記載するのが困難な面もあるが、できるだけ具体的に施工計画書の品質計画に記載させ、監督職員と施工者の合意のもとに、公平な品質管理を行わせるようにする。
(c) 木工事における性能に関する要求では、下地材の加工、施工が適切であること、力の伝達が十分に行われるような継手及び仕口であること、並びに床嗚りが生じないこととしている。
これらについては、「標仕」で規定された材料を使用し、定められた継手及び仕口の工法で適切に施工すれば、ここで要求される性能を十分に満足していると考えてよい。このため、品質計画において、施工の具体的な方法や管理記録の残し方を提案させるようにする。
したがって、基本要求品質を満たしていることの確認は、耐力試験等により性能を確認することを求めているものではなく、「標仕」の規定に基づき適切に施工されていることが分かればよい。しかし、「標仕」12.1.2(d)において「床嗚りが生じないこと」が要求されているので、完成時に床鳴りが生じる状態であれば、手直しが必要である。
(d) ホルムアルデヒド放散量について、「標仕」では基本要求品質の事項として概括的規定を設けていない。しかし、個別に、JAS又はJIS等で放散量等の品質基準が規定されている材料については、特記がなければ、F☆☆☆☆「非ホルムアルデヒド系接着剤使用」並びに「非ホルムアルデヒド系接着剤及びホルムアルデヒドを放散しない塗料使用」のものとしている。したがって、市場性、部位、使用環境等を考慮してその他の放散量のものを使用する場合は、設計図書に特記されている内容を十分確認し、要求品質を確保する必要がある。
なお、ホルムアルデヒド放散量に関する工事監理上の注意事項等は、19章10節を参照されたい。
12.1.3 木材の断面寸法
(a) 木材の断面は、のこ減り、かんな削り等により寸法が変わるので、「ひき立て寸法」か「仕上り寸法」かを明らかにしておく必要がある。「標仕」12.1.3に定められている事項を図解すれば 図12.1.3のようになる。
なお、「ひき立て寸法」とは、所定の寸法に製材したままの寸法である。
図12.1.3_ひき立て寸法.jpeg
図12.1.3 ひき立て寸法
(b) 通常、削り代(削り仕上げにより減少する部分)は、板材及び小割り類のような狂いを取る必要のないものは、片面仕上げの場合で1.5mm程度、両面仕上げの場合で3.0mm程度である。また、角材及び平割り類のような狂いを取って用いるものは片面仕上げの場合で 3.0mm程度、両面仕上げの場合で 5.0mm程度である。
12.1.4 表面仕上げ
(a) 「標仕」表12.1.1は、木材の仕上げの程度の結果のみについて定めており、加工途中の工程は問題にしていない。
例えば、A種は超自動機械かんなで最終仕上げを行った程度の面という意味であり、手かんなで、同様の仕上げとしても差し支えない。
仕上げ機械について一例を示す(図12.1.4参照)。
図12.1.4_仕上げ機械の例.jpeg
図 12.1.4 仕上げ機械の例
(b) 表面の仕上げの程度は文章では表しにくいが、「標仕」表12.1.1に定められている仕上げの程度を強いて表せば表12.1.1のようになる。
表12.1.1 表面の仕上げの程度
表12.1.1_表面の仕上げの程度.jpeg
12.1.5 継手及び仕口
(a) 木構造では継手及び仕口が弱点になりやすいため、継手が平面的にも立面的にも同一箇所に集中することは、可能な限り避けるべきである。やむを得ず集中してしまう場合は必要な補強を行う。一方、仕口は集中することが多いが、他の工法、部材の取合い、配置等によって集中を避けることができる場合は、これを避けるべきである。
なお、継手の位置を分散することを「乱」に配置するといい、交互に配置することを「千鳥」に配置するという。
(b) 構造材では、原則として、あまり短い材料を使うことは避けるべきである。「標仕」12.1.5(b)では、継伸ばしの都合上、やむを得ず短材を使用する時は、土台で布基礎のある場合でも1m程度を限度とすると定められている。しかし、その他の部分でも同様であるが、応力伝達に支障がないように補強している場合を除き、なるべく2m程度を限度とすることが望ましい。
(c) 合板、ボード類の壁付き材は乾燥収縮によって反り、隙間等が発生しないように小穴じゃくりをつける。
(d) 継手及び仕口が、「標仕」等の設計図書に定められていない場合は、一般的に用いられている工法としてよい。しかし、継手及び仕口は重要なものであるから、「標仕」12.1.5(d)では、あまり簡略な工法になるのを避けるようにするため、適切な工法を定め、監督職員に報告するように定めている。
12.1.6 養 生
工事中は、あとから行われる作業により仕上り部分が汚されたり、傷つけられたりしやすい。特に左官、塗装を行う箇所、通路になりやすい箇所は養生の必要がある。
養生方法には、ハトロン紙やピニル加工紙の張付け、合板やハードボードの取付け等稲々な方法があるが、適宜選んで養生する。また、和室の木材削り面には、との粉塗り等の養生をすることはもちろん、木材仕上り面や天井板等には、素手で触れないように十分注意する。

12章 木工事 2節 材料

第12章 木工事
02節 材 料
12.2.1 木 材
(a) 一般事項
(1) 木材の狂い、割れ、耐久性等は含有水分の多少に大きく影響されるので使用木材の含水率について注意する。
例えば、設計時に許容応力度計算等を要する木造建築物を建設する際に用いる木材は、昭和62年建設省告示第1898号により、原則として,含水率は15%以下、乾燥割れ等により接合部の耐力低下が生じない接合部による構法を採る場合は、20%以下とすることが要求されている。「標仕」では、主として構造計算等を必要としない程度の内部工事を想定しているが、前述の値を木工事に用いる材料の含水率の目安としてもよい。
(2) 乾燥方法には、天然乾燥法〈天乾〉と人工乾燥法〈人乾〉とがあるが、短期間のうちに含水率の低い木材を得るには人工乾燥によらなければならない。特に、狂いと割れは、一度十分に乾燥しておけば、以後は生じにくいので効果的である。
(3) 木材は工事現場では長時間の乾燥が期待できないので、一般的には、含水率を工事現場搬入時に確認している。
なお、含水率は全断面の平均の推定値としているが、その測定は次によって推定してよい。
( i ) 測定は、電気抵抗式水分計又は高周波水分計による。
(ii) 測定箇所は、異なる二面について、両小口から300mm以上離れた箇所及び中央の計6箇所とする。
(iii) 材の含水率は、6箇所の平均値とする。
(4) 木材の腐朽と含水率の関係は、含水率が20%以下ならば腐朽の可能性は低いが、30%以上が維持されるようになると腐朽する可能性が高くなる。
(5) 含水率
( i ) 含水率は、全乾材の質量に対する含有水分の質量の比で表す。
含有水分の木材内部における状態は、図 12.2.1に示すとおりである。
図12.2.1_木材の乾燥過程.jpeg
図 12.2.1 木材の乾燥過程
(ii) 含水率の測定方法には次のようなものがある。
① 全乾法
乾燥によって水分を含まない木材の質量(m0)を求めるもので、JISでは 100〜105℃の換気良好な炉中で恒量に達した状態を全乾と定めている。水分を含んでいる木材の質量を(m)とすると、含水率(u)は12.2.1式で表される。
(12.2.1式)含水率の式.jpeg
7%以下又は繊維飽和点以上の含水率を測定する場合は、この方法による。
② 電気抵抗式水分計(図12.2.2参照)
直流や低周波電流に対する木材の比抵抗の対数が含水率と線形関係にあることを利用して含水率を推定する方法である。比抵抗は、温度の影響を受けるので補正が必要であり、また、繊維飽和点以上の含水率の測定はできない。木材に打ち込まれた針の深さまで測定できるが、通常は7 mm程度である。
③ 高周波水分計(図 12.2.3参照)
高周波からマイクロ波域における木材の誘電率あるいは誘電損率が含水率と線形関係にあることを利用して含水率を推定する方法である。誘電率は温度の影響は小さいが、比重の影響が大きく、木材の比重に応じて補正が必要である。木材の表面に当てるだけで、30mm程度の深さの平均含水率が測定できる。
図12.2.2_電気抵抗式水分計(打込み式)の例.jpeg
図12.2.2 電気抵抗式水分計(打込み式)の例
図12.2.3_高周波水分計の例.jpeg
図12.2.3 高周波水分計の例
(iii) 全乾状態〈絶乾状態〉(図12.2.1参照)
含有水分 0 の状態であるが、実験的には100〜105℃に保ち、質量変化のなくなった状態をいう。このような木材を全乾材あるいは絶乾材という。
(iv) 繊維飽和点(図 12.2.1参照)
含有水分が結合水100%飽和、自由水 0 の状態である。このときの含水率は約30%になる。
(v) 平衡含水率〈気乾含水率〉(図12.2.1参照)
大気中の水分と木材の含有水分が平衡になった状態の含水率で、気温20℃、相対湿度65%において、約15%である。このような木材を気乾材という。しかし、図12.2.4に示すように、気乾材の含水率には変動があるので.「標仕」12.2.1 (a)(2)(ⅰ)ではやや平均値を上回る値を上限としている。
図12.2.4_気乾材の含水率の変動.jpeg
図12.2.4 気乾材の含水率の変動
(vi) 木材の比重
木材は細胞からなっているために内部に空隙が多いが、空隙部分を除いた実質部分の比重である真比重は、樹種に関係なく約1.5〜1.6といわれている。実用上は、重量を体積で除した見掛け比重で表し、通常、含水率15%のときの見掛け比重による。これを気乾比重という。
気乾比重別による樹種を表12.2.1に示す。
表12.2.1 各樹種の比重
表12.2.1_各樹種の比重.jpeg
(b) 製 材
(1) 品質
(i) 製材の品質の規定には「製材の日本農林規格」(平成19年農林水産省告示第 1083号、最終改正、平成25年同第1920号)がある。また、外国製品のうち、 JASと同等以上であるとの相互認証を得ている製材もある。
製材のJASマークを図12.2.5に示す。
図12.2.5_製材のJASマーク.jpeg
図12.2.5 製材のJASマーク
① 製材のJASにおける「目視等級区分構造用製材」は、構造用製材のうち、節、丸身等材の欠点を目視により測定し、等級区分したものをいい、主として高い曲げ性能を必要とする部分に使用される甲種構造材と、主として圧縮性能を必要とする部分に使用される乙種構造材とに区分されている。また、製材の寸法は、木口の短辺、木口の長辺及び材長により区分されている。「構造用製材」の標準寸法(仕上げ材にあっては、規定寸法)を表12.2.2に示す。
表12.2.2 構造用製材の標準寸法(JAS)
表12.2.2_構造用製材の標準寸法(JAS).jpeg
② 製材のJASにおける「造作用製材」は、建築物の内部の敷居、かもい等に使用される造作類と、内外装用板に使用される壁板類とに区分されている。
③ 製材のJASにおける「下地用製材」は、建築物の屋根、床、壁等の下地の外部から見えない部分に使用される製材品である。
④ 製材のJASにおける「仕上げ材」と「未仕上げ材」の含水率による区分を表12.2.3に示す。
表12.2.3_仕上げ材と未仕上げ材の含水率による区分.jpeg
表12.2.3 仕上げ材と未仕上げ材の含水率による区分
(構造用製材の場合)
なお、「仕上げ材」とは、乾燥処理を施したのち、材面調整(又は修正挽き)を行い,寸法仕上げをしたものをいい、「未仕上げ材」とは,乾燥処理を施したのち、寸法仕上げをしないものをいう。
⑤ 実際の商取引では、ひき割り類、ひき角類という材種名や慣習的な材種名が一般的に用いられており、JAS以外の品質表示で流通している製品も多い。
⑥ 木材の用途、使用部位によって求められる性能、寸法安定性等が異なるので、それらに応じた等級、性能区分、使用薬剤であることを確認する必要がある。
(ii) 平成25年版「標仕」では,「製材の日本農林規格」以外の製材が採用されたが、その品質基準は「製材の日本農林規格」に準じたものとなっている。JASマークが付されていない材料については、その品質基準に適合することを十分に説明する資料を提出させることが重要である。
(iii) 用語
一般に用いられている用語の説明を表12.2.4に表す。
表12.2.4 用語の説明
表12.2.4_用語の説明.jpeg
(2) 樹 種
(i) 樹種は、「標仕」12.2.1 (b)(2)(ⅳ)では、特記によることとされるが、図面等で代用樹種の使用が禁止されていなければ、両者は同等として取り扱ってよい。しかし、造作材の代用樹種を選定する場合は、室の仕上りを考慮し部位ごとにバランスのよい樹種を選定する必要がある。
(ii) 造作材で、つがが使用されないのは、組立後、反り、ねじれ、曲がり等の狂いが比較的生じやすいからである。
なお、乾燥を十分に行った場合等で、組立後の反り、ねじれ、曲がり等の狂いが生じないことが経験的、技術的に明らかな場合は、それらの樹種も代用樹種として扱ってよい。
(iii) 代用樹種を禁止された松は、赤松又は黒松のいずれかとする。ただし、強度性能上、外見上、寸法安定性、耐久性その他当該部位に要求される性能すべてを満たす樹種が存在する場合は、代用樹種としてよい。
(iv) 木れんが及びくさびには、釘の保持力、耐腐朽性等の優れたひのきのほか広業樹も適している。ただし、広業樹がすべて耐腐朽性に優れているとは限らない。
(v) 込み栓はかし、けやきの類の広葉樹又はこれと同等以上の強度性能をもつ樹種又は加工材料とする。込み栓は構造材のずれ止め、抜け止めに用いられるが、現在では金物で代用されることも多い。
「標仕」表12.5.1の吊束及び敷居に、込み栓並びに横栓として使用している。
(vi) 輸入木材は、同一種に別な名称があったり、種類が異なるものを同一名称で呼んだりしているので、樹種を見分けるのは難しいが、一般には次の左の樹種名に右のものが該当する。
米ひ  :ポートオーフォードシダー
米ひば :イエローシダー、アラス力シダー
米とうひ:ホワイトスプルース、エンゲルマンスプルース
     ブラックスプルース、レッドスプルース、
     コーストシト力スプルース
米つが :ウェスターンヘムロック
米もみ :ノーブルファー、ホワイトファー、
     バルサムファー、アマビリスファー
米杉  :ウェスターンレッドシダー
米赤杉 :レッドウッド
米松  :ダグラスファー
台ひ  :台湾ひのき
北洋えぞ松:(ロシア)えぞ松
輸入木材のそれぞれの特徴等を表12.2.5に示す。
表12.2.5 樹種の特徴等
表12.2.5_樹種の特徴.jpeg
(c) 造作用集成材
(1) 集成材は、ひき板又は小角材等をその繊維方向を互いにほぽ平行にして、厚さ、幅及び長さの方向に集成接着したもので、「集成材の日本農林規格」が制定され ている(平成19年農林水産省告示第1152号、最終改正 平成24年農林水産省告示第1587号)。集成材の分類、区分とその定義を表12.2.6に示す。
表12.2.6 JASによる集成材
表12.2.6_JASによる集成材.jpeg
(i) 造作用集成材
手すり、力ウンターの甲板等に用いられることが多いが、用いられるひき板がそのまま仕上材になる。ひき板は、薄いものの方が高級とされるが、10〜15mm位が標準となっている。
(ii) 化粧ばり造作用集成材
① 化粧薄板(一般には化粧単板あるいは化粧突き板という。)の厚さを、敷居、かまち及び階段板の上面にあっては 1.5mm以上、柱にあっては1.2mm以上、その他のものにあっては0.6mm以上であることと規定している。
② 通常用いられる化粧薄板は突き板といい、通常厚さは、0.2、0.3、0.6mm程度であるが、0.8mm以上のものもある。化粧として単板を張る場合に3mm程度のものを用いることもある。
③ 化粧薄板は、製作工場の手持ちの材料のうちから選ぶことになるが、素材のままでは仕上がった状態を想像するのは難しい。また、小さな見本板では大きな製品と全く違うものもあるので注意しなければならない。
(iii) 化粧ばり構造用集成柱
所要の耐力を目的としてひき板(ラミナ)をその繊維方向に対しほぽ並行にして集成接着し、その表面に美観を目的として化粧薄板を張り付けた集成材で、主として在来軸組工法住宅の柱材として用いられる。心材には積層数が5以上で、化粧薄板の厚さは1.2mm以上のものが用いられ、強く、狂いが少ないのが特徴である。
(2) 平成25年版「標仕」では、「集成材の日本農林規格」以外の造作用集成材が採用されたが、JASマークが付されていない材料については、特記された品質に適合することを十分に説明する資料を提出させることが重要である。
(d) 造作用単板積層材
(1) 単板積層材(LVL)は、ロータリーレース又はスライサー等により切削した単板を、主としてその繊維方向を互いにほぼ平行にして積層接着したものである。単板の厚さは 2〜4mm程度が普通で、積層数は数層から数十層に及ぶものがある。幅反りを防止するために若干の直交層を挿入する場合がある。LVLは平行層の割合が圧倒的に多いことと、一般に製品の厚さが厚く、主な用途が骨組材(棒状製品、軸材)であることなどが合板と異なっている。
LVLには「単板積層材の日本農林規格」が制定されており、住宅のドア枠、窓枠、胴縁等の内装部材としての使用を対象とした「造作用単板積層材の規格」と建築構造部材としての使用を対象とした「構造用単板積層材の規格」が規定されている(平成20年農林水産省告示第701号)。
(2) 平成25年版「標仕」では、「単板積層材の日本農林規格」以外の単板積層材が採用されたが、JASマークが付されていない材料については、特記された品質に適合することを十分に説明する資料を提出させることが重要である。
(e) 床張り用合板等
(1) 「標仕」表12.6.1の厚さ5.5mmの普通合板は、ビニル床シート等の下地の二重張り等に使用することを想定して、合板製造に使用する接着剤の耐水性を1類とし、板面の品質は塗装下地とならないため、広葉樹では2等、針業樹では C – Dとしている(16.7.2(b)(3)参照)。
また、厚さ12mmの合板は、カーペットや畳床の下地材等に使用することを想定して耐水性、曲げ性能等を考慮して、構造用合板の1類2級の C – D ( C – Dは板面の品質)としている。
(2) 合板の接着の程度による分類
JASによる接着性能の分類は、次のとおりである。
① 特類(フェノール樹脂接着剤等)
屋外又は常時湿潤状態の場所(環境)において使用される構造用合板。
② 1類(メラミン樹脂接着剤等)
断続的に湿潤状態となる場所(環境)において使用可能な合板。コンクリート型枠用合板・住宅下地用・建築物外装用合板等。
③ 2類(ユリア樹脂接着剤等)
時々湿潤状態となる場所(環境)において使用可能な合板。住宅・船舶・車両等の内装用合板・家具用合板等。
(3) 合板の用途による区別
(i) 普通合板(1類・2類)
建築物の内装、家具、建具等一般的な用途に広く使われる合板。寸法は、厚さは 2.3〜24.0mm、幅は 910~1,220mm、長さは910~3,030mmが標準である。
(ii) コンクリート型枠用合板(1類)
コンクリート打込み時にそのせき板として使用される合板で、ラワンのほか針葉樹のものもある。寸法は、厚さは12.0~24.0mm、幅は500~1,200mm、長さは1,800~2,400mmが標準である。
(iii) 表面加工コンクリート型枠用合板(1類)
通常のコンクリート型枠用合板の表面に塗装・オーバーレイ等の加工をしたもの。打放し仕上げに良好な結果が得られるとされているので、土木用型枠として多用される。
(iv) 構追用合板1級(特類・1類)
軸組構法、枠組壁工法住宅等の建築物の構造耐力上主要な部位に使用される合板で〈Kプライ〉と呼ばれる。単板の厚さの範囲、合板の厚さごとの積層数、単板の構成比率が規定され、曲げ試験によって強度保証している。寸法は、厚さは 5.0 〜35.0mm、幅は900 ~1,220mm、長さは1.800 ~ 3.030mmが標準である。
(v) 構造用合板2級(特類・1類)
1級と同様に使用されるが針葉樹合板が主である。寸法は、厚さは、5.0〜35.0mm、幅は900〜1.220mm、長さは1,800〜3,030mmが標準である。
(4) パーティクルボード
近年、床張り用面材としてパーティクルボードを使用することが多くなっている。
パーティクルボードの品質及びその分類は、JIS A 5908(パーティクルボード)による。
① パーティクルボードの裏表面の状態による区分
1) 素地パーティクルボード
両面が素地の状態で研磨品と無研磨品があるが通常は研磨品が中心である。
2) 単板張りパーティクルボード
素地パーティクルボードの両面に単板を張った板で研磨品と無研磨品がある。
② パーティクルボードの曲げ強さによる区分
1) 素地パーティクルボードは18タイプ(曲げ強さが18.0N/mm2以上、以下同様)、13タイプ、8タイプがあるが,床下地には18, 13タイプが用いられる。
2) 単板張りパーティクルボードは30−15タイプがあり、単板の繊維方向により縦、横の強さが違う。
③ パーティクルボードの接着剤による区分
1) Uタイプ
ユリア樹脂系又はこれと性能が同等以上のもので、耐水性が劣るので主に家具、キャビネット等に適する。
2) Mタイプ
ユリア・メラミン樹脂系又はこれと性能が同等以上のもので、建築下地等に適する。
3) Pタイプ
フェノール樹脂系又はこれと性能が同等以上のもので、Mタイプと同様建築下地等に適する。
④ パーティクルボードのホルムアルデヒド放散量による区分
F☆☆☆☆、 F☆☆☆、 F☆☆に分類される。F☆☆の製品はほとんど生産されていない。
(5) 構造用パネル
木材の小片を接着し板状に成形したパネル又はこれにロータリーレース、スライサー等により切削した単板を積層接着したパネルのうち、主として構造物の耐力部材として用いられるむのをいう。その品質は「構造用パネルの日本農林規格」に規定されている(昭和62年農林水産省告示第360号、最終改正平成20年農林水産省告示第938号)。
(6) 繊維板(ファイバーボード)
繊維板の品質及びその分類は、JIS A 5905(繊維板)による。
繊維板の密度による区分
1) インシュレーションファイバーボード(インシュレーションボードともいう。密度0.35g/cm3未満)
畳床用、断熱用、外壁下地用等があり、難燃性を付与したものもある。
2) ミディアムデンシティファイバーボード(MDF、密度0.35g/cm3以上)
主に構造耐力を要求される部分に使用する。曲げ強さによって30タイプ(曲げ強さが 30.0N/mm2以上、以下同様)、25タイプ、15タイプ、5タイプに区分され、接着剤によってUタイプ、Mタイプ、Pタイプに区分される。接着剤の区分、適した用途はパーティクルボードと同様である。
3) ハードファイバーボード(ハードボードともいう。密度0.80g/cm3以上)
油、樹脂等の特殊処理、表面の状態、曲げ強さ等によって分類される。最近は床等の養生板として用いられている。
(f) その他の木材
(1) 木質接着成形軸材料
木材の単板を積層接着又は木材の小片を集成接着した軸材をいう。PSL(Parallel Strand Lumber)、LSL (Laminated Strand Lumber)等がこれに相当し、その品買は、平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(2) 木質複合軸材料
製材、集成材、木質接着成形軸材料その他の木材を接着剤により I 形、角形そ の他所要の断面形状に複合構成した軸材をいう。I 形複合梁、ボックス・ビーム等がこれに相当し、その品質は平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(3) 木質断熱複合パネル
平板状の有機発泡剤の両面に構造用合板その他これに類するものを接着剤により複合構成したパネルのうち、枠組がないものをいう。サンドイッチパネル等がこれに相当し、その品質は平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(4) 木質接着複合パネル
製材、集成材、木質接着成形軸材料その他の木材を使用した枠組に構造用合板その他これに類するものを接着剤により複合構成したパネルをいう。プレハプ建築用接着バネル等がこれに相当し、その品質は平成12年建設省告示第1446号に規定されている。
(g) ホルムアルデヒド放散量
「標仕」では、集成材、単板積層材、合板等のホルムアルデヒド放散量等については、特記がなければ、F☆☆☆☆、非ホルムアルデヒド系接着剤使用、非ホルムアルデヒド系接着剤及びホルムアルデヒドを放散しない塗料使用等としている。
しかし、構造用集成材においては、接着耐久性の確保からF☆☆☆☆の基準を満たす材料の人手が困難であること、また、使用される量が相対的に少ないなどの理由でその他の放散量のものを使用する場合もある。その場合は、特記されていることが必要であるが、市場に該当する品質の材料がない場合は「標仕」1.1.8による協議事項とすればよい。
なお、ホルムアルデヒド放散量に関する建築基準法上の扱いや現場における確認方法等については、19章10節を参照されたい。
12.2.2 接合具等
(a) 釘等
(1) 下地材及び造作材に用いる釘は、JIS A 5508(くぎ)による。「標仕」では、材質は表面処理された鉄又はステンレス鋼としている。
なお、鉄丸くぎ(Nくぎ)は、JISで規定される寸法より細いものが流通している場合が多い。特に、従来市場に出回っている梱包用のFNくぎを使用してはならない。釘の太さはそのせん断耐力に大きく影響する場合が多いので、釘の太さに十分注意するか、同等以上の材質、太さを有するほかの種類の釘を使用することも検討すべきである。
また、釘打ち機により施工する場合は、木材の硬さを十分考慮して、その打込み強さを設定する必要がある。打込み強さが必要以上に大きいと釘頭が材面にめり込み、あとから施工するものに対して影響を及ぼす場合がある。また、釘頭のめり込みは釘の側面抵抗力を減じる場合があるので、構造耐力を要する部分は、更に注意が必要である。
JIS A 5508の抜粋を次に示す。
JIS A 5508: 2009
1 適用範囲
この規格は、主として一般に使用するくぎについて規定する。ただし、自動くぎ打機用のくぎに用いる場合の連結材料及びその方法については規定しない。
3 種類及び記号
くぎの種類及び記号は、表1による。また、くぎは、頭部及び胴部の形状によって表2及び表3の区分による。(表2及び表3は省略)
表1 くぎの種類及び記号
JISA5508_表1_くぎの種類及び記号.jpeg
7 材料
7.1 鉄線
鉄線は、JIS G 3532に規定するくぎ用鉄線又はこれと同等以上の品質をもつものとする。ただし、せっこうボード用くぎ及びシージングボード用くぎについては、JIS G 3532に規定する普通鉄線又はこれと同等以上の品質をもつものを用いてもよい。
7.2 ステンレス鋼線
ステンレス鋼線は、JIS G 4309に規定するSUS304又はこれと同等以上の品質をもつものを用いてもよい。
JIS A 5508 : 2009
(2) 釘の長さは、図12.2.6のように留め付ける材料に留め付けられる材料の厚さの1.5倍以上打ち込まないと、構造材では十分な強さを発揮できない。
釘径は、板厚の1/6以下とし、釘の長さは打ち付ける板厚の 2.5〜 3倍のものとする。ただし、板厚10mm以下の場合の釘の長さは4倍を標準とする。
(3) 造作材の釘打ちの標準的な配置を図12.2.7から図12.2.9までに示す。
図12.2.6_釘の打込み長さ.jpeg
図12.2.6 釘の打込み長さ
図12.2.7_下地材に平行する場合.jpeg
図12.2.7 下地材に平行する場合
図12.2.8_下地材と交差する場合.jpeg
図12.2.8 下地材と交差する場合
図12.2.9_幅の広い場合.jpg
図12.2.9 幅の広い場合
(4) 隠し釘の工法には次のような方法があるが、釘の機能と材料の性質及び釘打ち箇所の意匠上の必要性によって定めることになる。
( i ) 釘頭を切断して打ち込む。
(ii) 釘頭をつぶして打ち込む。
(iii) あらかじめ穴をあけておき釘を打ち込んだのち埋木する。
(iv) ななめ釘打ちにより.見え隠れとなる部分に打ち込む。
(5) 釘配置は、特記のない限り、その最小間隔を表12.2.7とする。ただし、この場合は、釘は木材の繊維に対して乱に打つものとする。
表12.2.7 くぎ間隔の標準
表12.2.7_くぎ間隔の標準.jpeg
(6) 木ねじは、JIS B 1112(十字穴付き木ねじ)、JIS B 1135(すりわり付き木ねじ)又はこれと同等以上の品質を有するものとする。JISでは、原則として、表12.2.8の材料が規定されているが、「標仕」ではステンレスとしている。
表12.2.8 材 料
表12.2.8_材料.jpeg
(b) 諸金物
(1) 諸金物には、JIS A 5531(木構造用金物)があるが、これに適合するものがないか、又は入手しにくいので、「標仕」12.2.2では,市販品としている。
(2) 金物は一般的には彫り込む必要がないが、部材が交差するような箇所では木部を彫り込み、金物を沈めておかなければならない場合もある。
(3) コンクリートに埋め込まれる部分以外の金物には、錆止め処置として、「標仕」ではJIS H 8610(電気亜鉛めっき)のCM2 C 3級程度の電気亜鉛めっきとしている。
(4) 土台等に使用するアン力ーボルトは先埋込みが望ましいが、位置、埋込み深さ等が不正確になりやすいので、「標仕」12.2.2ではあと施工アン力ーを使用することを認めている。あと施工アン力ーについては14.1.3 (a)(ii)を参照されたい。
(c) 接着剤
接着剤は、非常に多くのものが市場に出回っているが、接着剤の種類によって適用できる被着体や施工時及び使用時の環境条件が異なる。「標仕」では,接着する材料に適したものとしているので、材料や施工部位等を考慮して適切なものを選ぶ。ただし、ホルムアルデヒド放散量は、特記がなければF☆☆☆☆としているので注意する。
12.2.3 木れんが
(a) 木れんがは、枠類、下地材等を釘、木ねじ等で取り付ける場合に用いられるが、図 12.2.10のように四角のものをJIS A 5537(木れんが用接着剤)で張り付けるか又はあと施工アン力ーで取り付ける。
なお、取付け間隔は.仕上材や下地材を考慮して決める。
図12.2.10_木れんがの取付け.jpeg
図12.2.10 木れんがの取付け
(b) 木れんがの材料は.「標仕」12.2.1 (b)(2)(iv) ③により、ひのき又はひのきの代用樹種(ひば、米ひ、米ひば)を用いなければならない。
(c) JISの木れんが用接着剤は、主成分により2種類に区分され、次のように使い分けられる。
(1) 酢酸ビニル樹脂系溶剤形:コンクリート面、ブロック面の類に用いる。
なお、水掛りのおそれのある箇所、構造耐力を要する箇所には適しない。
(2) エポキシ樹脂系:2液混合形(主剤+硬化剤)で使用直前に混合する必要がある。やや高価になるが、湿気のおそれのある箇所、コンクリート面、ブロック面に加えて鋼材面等にも適している。ただし、鋼材面等は脱脂処理やプライマー処理を要する場合があるので注意する必要がある。
(3) ホルムアルデヒド放散量は、いずれの場合も、特記がなければF☆☆☆☆のものである。

12章 木工事 3節 防腐・防蟻・防虫処理

第12章 木工事
03節 防腐・防蟻・防虫処理
12.3.1 防腐・防蟻処理
直接外気にさらされる部分や、常時湿気を受けやすい部分の木材は、腐朽防止の措置が必要になる。防腐処理とは、薬剤等で木材を処理することをいい、耐朽性の高い樹種を使用するなどして、腐朽防止の対策を講じることを含めて、防腐措置という。
(1) 防腐・防蟻処理が必要な樹種による製材及び集成材
「標仕」では、「製材の日本農林規格」及び「枠組壁工法構造用製材の日本農林規格」によるD1の樹種(表12.3.1参照)の心材のみを用いた製材又はこれらの樹種を使用した集成材は、薬剤による処理を省略してもよいとしている。
(2) 薬剤の加圧注入による防腐・防蟻処理
(i) JASでは、保存木材の性能区分を木材の使用環境を考慮して表12.3.2のようにK1からK5までの5段階に分け、心材の耐久性区分(表12.3.1)に基づき、使用薬剤の浸潤度については表12.3.3に示す基準、また、吸収量については 表12.3.4に示す基部が設定されている。
なお、「標仕」では、保存処理のK2からK4までの区分に適合するものとしている。
(ii) 使用薬剤は従来CCAが主に用いられてきたが、JASでは規定から除外されている。近年、環境への配慮からACQ等、他の薬剤が用いられるようになってきており、例えば、(公財)日本住宅・木材技術センターによるAQ認証等による新しい薬剤でも必要な条件を渦たしているものが追加された規定になっている(薬剤の記号は表12.3.4参照)。
(iii) 通常の加圧注入法では、通導性の低い樹種において規定の薬剤含浸状態を容易に得るために注入処理に先立つインサイジングを認めており、えぞ松、とど松等にも薬剤が十分浸透しうるよう配慮している。一方、JISの土台用加圧式防腐処理木材は、土台専用の製材品で、樹種は、米つが、アピトン、えぞ松及びとど松に限られ、断面寸法長さ等も決められている。使用薬剤はJAS製品とほぼ同じである。
表12.3.1 JASにおける耐久性区分
表12.3.1_JASにおける耐久性区分.jpeg
表12.3.2 JASにおける性能区分と木材の使用状態(わかりやすい新製材JASの解説より)
表12.3.2_JASにおける性能区分と木材の使用状態.jpeg
表12.3.3 浸潤度の適合基準(JAS)
表12.3.3_浸潤度の適合基準(JAS).jpeg
表12.3.4 吸収量の適合基準(JAS)(その1)
表12.3.4_吸収量の適合基準(JAS)(その1).jpeg
表12.3.4 吸収量の適合基準(JAS)(その2)
表12.3.4_吸収量の適合基準(JAS)(その2).jpeg
(3) 薬剤の塗布等による防腐・防蟻処理
一般的には、次の部分に人体への安全性及び環境への影響に配慮した表面処理用木材保存剤を2回塗り付けることが行われている(図12.3.1参照)。環境に配慮した表面処理用木材保存剤としては、(公社)日本木材保存協会で認定している薬剤等がある。
なお、塗り付けた箇所は見え隠れとなるので、適切な時期に確認をする必要がある。
① 鉄筋コンクリート造、組積造等の最下階
図12.3.1_防腐剤塗付面(その1).jpeg
  図12.3.1 防腐剤塗付面(その1)
② 上間スラプ等の場合
 1) 土間スラプ等の上に載る部分
図12.3.1_防腐剤塗付面(その2).jpeg
  図12.3.1 防腐剤塗付面(その2)
 2) 土間以外のコンクリートに接する部材
図12.3.1_防腐剤塗付面(その3).jpeg
  図12.3.1 防腐剤塗付面(その3)
(4) 防蟻処理
(i) しろありの代表的なものは、ヤマトシロアリとイエシロアリであり、地域によっては相当な被害があるが、防蟻剤が特殊なものであり、地域も指定しにくいので、設計図書で指定されることになる。
(ii) 防蟻剤は、クロルピリホスを含有しない有機りん化合物やピレスロイド系化合物等を主成分とし、(公社)日本木材保存協会や(公社)日本しろあり対策協会で認定している。これらの薬剤は、労働安全衛生法等に従った取扱いが必要である。
12.3.2 防虫処理
(a) ラワン等広業樹の辺材(白太)部分等は、ヒラタキクイムシの食害を受けやすい。食害を防ぐには、薬剤による防虫処理が効果的である。
(b) ラワン材等の食害に対応した防虫処理材の性能区分、浸潤度及び吸収量の適合基準については、表12.3.2. 3及び4を参照する。
(c) 造作材に.ラワン材等を用いる場合はJASによる保存処理K1を行ったものを使用するよう「標仕」12.3.2に定められている。