7章鉄骨工事 9節耐火被覆

第7章 鉄骨工事
09節 耐火被覆
7.9.1 適用範囲
本節は、建築基準法で要求される鉄骨に対する耐火構造を満足するために適用する耐火被覆を対象としている。
7.9.2 耐火被覆の種類及び性能
(a) 以前の建築基準法においては、耐火構造をはじめとする防火関係の基準は、構造や材料等を画ー的に指定する仕様規定を主体としていた。しかし、平成10年6月12日公布(平成12年6月1日施行)の同法では近年における技術的な知見の集積等を踏まえたうえで各基準に必要とされる性能を明確化するとともに各々の性能に対応する技術的な基準を定めることにより性能規定化を図っている。この法改正に伴う性能規定化によって、耐火構造の定義は「壁、柱、床その他の建築物の部分の構造のうち、耐火性能(通常の火災が終了するまでの間に当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために当該建築物の部分に必要とされる性能)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄筋コンクリート造、れんが造その他の構造で、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの」とされた。
(b) 建築基準法施行令第107条では、耐火構造を必要とする建築物の壁、柱、床、はり、屋根及び階段の各部分が通常の火災による火熱を所定の時間加えられた場合に、構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じないことを規定している。
(c) 「標仕」では、耐火材の吹付け工法、耐火板の張付け工法、耐火材の巻付け工法、ラスモルタルの左官工法等を採用しており、その種類及び建築基準法第2条第七号による耐火性能を特記することとしている。
(d) 一般的に用いられている耐火被覆工法を施工法に準じて分類すると、表7.9.1のようになる。
表7.9.1 耐火被覆工法の分類
表7.9.1_耐火被覆工法の分類.jpeg
7.9.3 耐火被覆の品質
耐火被覆は、国土交通大臣が指定又は認定した仕様に規定されている材料及び工法を用いて、指定又は認定された仕様に準じた施工をした場合に、所定の耐火性能が確保できるものである。
7.9.4 耐火材吹付け
(a) 吹付け工法に用いられる材料には、吹付けロックウール、吹付けモルタル、水酸化アルミニウム混入湿式吹付けモルタル、耐火塗料等がある。
耐火被覆材にアスベストを含有する材料を使用することは、中皮腫や肺がんを誘発するおそれがあるため、禁止されている。(7.1.6(d)参照)
(b) 施工上の留意点
(1) 鉄骨表面に浮き錆が発生している場合は、耐火被覆材の付着性を阻害するおそれがあるため、耐火被覆施工に先立ちワイヤブラシ等の適切な手工具を使用して、除去しておかなければならない。ただし、耐火塗料の場合の素地調整は(e)(3)を参照する。
(2) 吹付け機械は、資材搬入の動線等を考慮して適切な場所に設置する。
(c) 貫通部や取付け金物等は、主要鉄骨と同様に所定の耐火被覆が施されなければならない。
(d) 吹付けロックウール
(1) 現在の鉄骨造建築物に対する耐火被覆材料として最も普及しているのは、吹付けロックウールである。この吹付け工法には、現場配合のセメントスラリーによる半乾式工法と工場配合による乾式工法がある。これらの工法の特徴を表7.9.2 に示す。
表7.9.2 ロックウール吹付け工法の特徴
表7.9.2_ロックウール吹付け工法の特徴.jpg
(2) 天井裏を空調チャンバーとして使用する場合には、特記により梁等の耐火被覆材の表面にセメントスラリーを吹き付けて塵あいの発生を防止する必要がある。
(e) 耐火塗料
(1) 耐火塗料は、耐火性とともに一般塗料と同様な意匠性、施工性や耐久性を期待できる耐火被覆材である。通常、1~ 3mm程度の硬化膜厚の厚さで火災(加熱)時に雰囲気温度が250℃程度に上昇すると、数十倍の容積に発泡して断熱層を形成し、火災時における構造用鉄骨の耐力低下を抑制するもので、一般的には1時間耐火であり、一部2時間耐火も市販されている。従来の耐火塗料は、旧建築基準法第38条の特別認定に基づいて限られた用途のみしか適用できなかったが、基準法の改正に伴いほかの耐火被覆材と同様に、一般の耐火構造認定を取得することが可能となっている。
(2) 耐火塗料は、①発泡剤(ポリりん酸アンモニウム、りん酸アンモニウム、りん酸メラミン、メラミン、尿素) ②炭化剤(多価アルコール、デキストリン、糖類)③樹脂(アクリル樹脂.エポキシ樹脂、ウレタン樹脂) ④顔料(白色顔料、酸化チタン、着色顔料) ⑤溶媒(有機溶剤、水)から構成されている。耐火塗料の硬化塗膜が熱を受けると、発泡剤から放出されるりん酸と炭化剤とが結合して炭化層を形成する。更に、樹脂が溶けると同時に二酸化炭素、アンモニア、水蒸気等のガスが発生し、泡状樹脂となって炭化層を膨張させる。
(3) 塗装仕様は、素地調整、下塗り(錆止め旅料)、耐火塗料塗り、上塗りによって構成され、素地調整にはブラスト、下塗りにはジンクリッチプライマーと2液形エポキシ樹脂プライマー又は変性工ポキシ樹脂プライマー、上塗りには耐候性塗料が適用される。
(4) 耐火塗料は、認定取得企業若しくはその指定工事業者が施工しなければならない。また.塗料が乾燥したのちには電磁膜厚計によって乾燥膜厚を測定して、認定条件である塗膜厚さを確保する必要がある。上塗りは屋外で暴露されると、その種類や使用環境等により劣化が生じる。塗膜の劣化が耐火塗料の塗膜層まで進行しないうちに、上塗りの補修又は増塗りを実施することにより、耐火塗料の耐火性を長期間にわたり維持することができる。したがって、日常点検によって維持管理に努めることが重要である。
7.9.5 耐火板張り
(a) 無機繊維混入けい酸カルシウム板等の成形板耐火被覆材を釘、かすがい及び接着剤(水ガラス系)で張り付ける工法であり、塗装による化粧仕上げも可能である。
(b) 施工上の留意点
(1) あらかじめ成形板耐火被覆材の揚重計画を作成し、揚重量の軽減や揚重回数の減少等を図る。
(2) ストック場所、切断加工場、張付け用仮設足場計画等の検討が必要である。
(3) 耐火被覆成形板の切断くず等廃材の処理を検討しておく必要がある。
(4) 施工速度に制約があるため、全体工程の中でクリテイカルパスとなることが多い。
(5) この成形板耐火被覆材を鉄骨に直接張り付けることは、鉄骨面が平滑でない場合や添え板を使用して高カボルト接合をする場合、これらの接合部の突出部が段違いとなって現れるので見苦しい外観となる。したがって、この成形板耐火被覆材を化粧用として使用するためには鉄骨ウェブ部に捨板を取り付けて浮かし張りとするのが有効である。
(6) 接着剤のみに頼ると施工後の時間経過に伴い耐火被覆成形板のはく落を生じるおそれがあるので、釘やかすがい等の金物で機械的に十分緊結することが重要である。
(7) 耐火被覆成形板は一般に吸水性が大きいため、建築物の外周部に当たる鉄骨架構の耐火被覆に使用する場合には、施工時に雨水が掛らないような養生をする必要がある。
(8) 接着剤は、水ガラス系(NaSiO3)成分を主体とする材料が多いので水溶性であり耐水性は劣る。建築物の外周部に当たる柱や梁の耐火被覆材を接着する場合には、施工時に雨水が掛からないような養生をしておく必要がある。
(c) 繊維混入けい酸カルシウム板二種の直張り工法及び箱張り工法の一例を図7.9.1 に示す。
図7.9.1_耐火板張付け工法の例.jpg
図7.9.1 耐火板張付け工法の例
(d) ALCパネルや軽量コンクリート板等で耐火被覆する場合には.構造体の動きに追従できるような接合部の詳細について検討することが重要である。
(e) 強化せっこうボードは.鋼製下地材に小ねじ留めをする。
7.9.6 耐火材巻付け
(a) 高耐熱ロックウール、セラミックファイバーブランケット又はそれらを複合したものを鉄骨に巻付け、ワッシャー付き鋼製の固定ピンを鉄骨に現場でスポット溶接して留め付ける工法であり化粧仕上げも可能である。
なお、固定ビンを構造体にスポット溶接することから、構造体への影響や施工上の配慮事項等について施工の前に設計担当者と打合せを行う。
(b) 施工上の留意点
(1) 搬入された材料がそれぞれの認定に適合していること及び厚さや数量が指定どおりであることを確認する。物性の確認は検査成績書等で代用する。
(2) 材料は,あらかじめ工場でプレカットしたもの又は標準品を搬入し,現場で鉄骨の周長に合わせて切断する。
(3) 材料は屋内で雨水の掛からないところに保管する。その回りには安全通路を確保し,他の作業に支障のないようにする。
(4) 施工に支障を来すおそれのある浮き錆及び油等は、施工に先立ち十分に除去する。
(5) 取付けに際しては、材料のたるみ、ピンの溶接の不具合、各目地部の突合せの隙間等が生じないように注意する。施工した状態の断面図の例を図7.9.2に示す。
(6) 雨水が掛かる場合の施工は避ける。
(7) 必要に応じて.衝撃が掛からないように養生する。
図7.9.2_耐火材巻付け工法の施工例.jpg
図7.9.2 耐火材巻付け工法の施工例
7.9.7 ラス張りモルタル塗り
鋼材を下地として鉄網を巻き、モルタル又はパーライトモルタルを所定の厚さに塗り付けた工法が、「耐火構造の構造方法を定める件」(平成12年5月30日建設省告示第1399号)で一般指定されている。施工の速度は吹付け工法より劣る。また,下地の形状に左右されずに適用可能であるが、乾燥に伴うひび割れが発生しやすく、屋外ではモルタル内部に水が浸入して、鋼材が腐食していても気付くことが遅れやすいので、注意する。
7.9.8 試 験
(a) 耐火被覆の施工
耐火被覆の施工は、一般指定及び「耐火性能検証法に関する算出方法等を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1433号)に基づく吹付けロックウール及び繊維混入けい酸カルシウム板の材料工法を除き、個別認定取得者又は個別認定取得者が指定した施工業者のみが実施できるものである。監督職員は認定条件に基づいて施工されていることを確認することが重要である。
(b) 吹付け工法
吹付け工法による耐火被覆は、要求される耐火性能に対応した吹付け厚さ及びかさ密度の最低値が指定されているが、現場施工においては、そのばらつきを避けることができない。したがって、適切な方法で試験して性能の確認を行わなければならない。
ロックウール吹付け工法(半乾式 ・乾式工法)について、次に示す。
(ⅰ) 平成12年6月施行の改正建築基準法において、ロックウール工業会が取得していた通則認定が廃止され、各社の連名個別認定とされた。認定条件は各社共通であり、品質管理方法も共通的に作成された施工品質管理指針を遵守することとしている。
施工現場での監理等に当たっては、ロックウール工業会により作成された、施工品質管理指針を参考にするとよい。
(ii) 建設省住指発第208号(昭和62年7月1日)では、ロックウール工業会が指定した図7.9.3に示すような厚さ測定器を用いて吹付け面積5m2ごとに1箇所以上の厚さを確認しながら、吹付け施工をすることが示されている。
なお、この通達は建築基準法の改正に伴いその効力を失っているが品質管理の参考として有効なものである。
実施工では所定の密度を確保するため、計算で求めた施工面積に対する必要な材料使用量の管理だけでなく、未乾燥状態でのかさ密度を測定することにより管理を行う。
建設省住指発第208号では、厚さ確認ピンの差込みは柱1面に各1本、梁は 6mにつき3本としている。「標仕」においてもこの原則に準拠してスラブ及び壁面については2m2程度につき1箇所以上、柱は1面に各1箇所以上、梁は1本当たり、ウェブ両側に各1本、下フランジ下面に1本、下フランジ端部両側に各1本と確認の箇所数を規定している。
(iii) 材料は自然乾燥において一般に5〜7日で必要強度に達し、約3週間で気乾状態になる。また,寒冷時には吹付け直後に凍結防止対策を講ずる必要がある。
図7.9.3_厚さ測定器の例.jpg
図7.9.3 厚さ測定器の例(単位:mm)
(iv) あらかじめ吹付け厚さを測定したのち、図7.9.4に示すようなかさ密度測定用切取り器で直径 8cmの円筒状にロックウールを切り取り、一定質量になるまで乾燥器に入れて乾燥させる。測定された質量を用いて次式に基づき、かさ密度を求める。
耐火被覆のかさ密度の式.jpeg
図7.9.4_かさ密度測定用切取り器.jpg
図7.9.4 かさ密度測定用切取り器(単位:mm)
(c) 耐火板張り工法
(1) 現場搬入された材料が、所定の厚さと密度を満足していることを確認する。
(2) 成形板が鉄骨あるいは隣接する成形板と接着剤及び金物で確実に留め付けられており、耐火性能を阻害するおそれのないことを検査する。特に成形板のはく落を防止するために、釘やかすがい等の金物が適切に施工されていることを確認する。
7.9.9 耐火表示
国土交通大臣認定の条件では、施工面への表示は義務付けられていない。しかし.「標仕」では「点検可能な部分に適切な表示を行う。」こととしており.施工面に認定取得者等が定めた耐火性能等を示す表示を行う必要がある。

7章鉄骨工事 10節工事現場施工

第7章 鉄骨工事
10節 工事現場施工
7.10.1 適用範囲
(a) ここでいう工事現場施工とは、鉄骨製作工場で加工・製作されたのち、工事現場に搬入された各部材の仕分け・建方及び部材相互の接合によって、鉄骨工事が完了するまでに要する作業並びにこれらに関する仮設工事を対象とする。
(b) 工事現場施工は、鉄骨製作工場での鉄骨製作と異なり受注者等が直接施工管理を行うものである。
(c) 工事現場においては受注者等は、必要に応じて受注者等の鉄骨工事担当技術者(以下、担当技術者という。)を別に定めて、担当業務とその責任を明確にするよう指導する。
担当技術者には、(一社)日本鋼構造協会の「建築鉄骨品質管理機構」が認定登録している「鉄骨工事管理責任者」(7.1.4 (c)参照)の有資格者等が参考となる。
(d) 計画に際し、担当技術者は、設計図書をはじめ工事現場状況や制約条件を調査・確認し、各種検査の計画を立案したうえで施工計画書を作成し、監督職員はこれを検討し品質計画について承諾をする。
(e) 担当技術者は、計画に基づいて、鉄骨工事の各工程で検査及び確認を行い、設計図書に示された品質を確保する。
(f) 受注者等が工事現場で行う検査の項目は、次のとおりである。
なお、監督職員は、受注者等が行った管理、検査の結果について報告を受けたのち、必要に応じて検査を実施する。
(1) アンカーボルトの埋込み
(位置・出の高さ、モルタル面の精度)
(2) 搬入された鉄骨製品の外観
(曲がり・傷の有無、塗装部の傷の有無等)
(3) 建方
(建入れ精度・接合部の精度)
(4) 高カボルト接合
(一次締め、マーキング、ピンテールの破断状態、
 とも回り・軸回りの有無、締付け後のナット回転量、余長等)
(5) 工事現場溶接接合
(開先部の精度、溶接外観、表面欠陥、内部欠陥)
(6) デッキプレート工事
(焼抜き栓溶接、アークスポット溶接の外観、母材への影響)
(7) スタッド工事
(溶接外観、打撃曲げ試験結果、母材への影響)
(8) 他工事との関連溶接
(ビード外観、溶接位置・長さ)
(9) 工事現場塗装
(素地ごしらえ、塗膜厚、外観)
(10) 耐火被覆
(下地処理、厚さ、かさ比重)
7.10.2 建方精度
(a) 建方精度の確保は、接合部の耐力確保と並んで工事現場施工の品質管理のかなめである。本接合完了後の建方精度を確保するためには、アンカーボルトの据付け精度、工事現場接合部の精度確保が前提となる。
(b) アンカーボルトの据付け精度は、JASS 6付則6[鉄骨精度検査基準]付表5[工事現場]による( 7.13.1参照)。
(c) 高カボルト接合部の精度はJASS 6付則6付表2[高カボルト]により、工事現場溶接接合部の精度は、JASS 6付則6付表1[工作および組立て]による。
(d) 本接合完了後、建方精度の測定を行う。その精度はJASS 6付則6付表5[工事現場]による。
特に建物外周部の柱の倒れは外装仕上げ材の納まり、SRC造での鉄筋の納まり等に影響が出る場合があるので関連工事に反映させる。なお、建方精度の測定に当たっては、温度の影響を考慮する。
7.10.3 アンカーボルト等の設置
(a) アンカーボルト
(1) 適用範囲
アンカーボルトによって鉄骨骨組(鉄骨鉄筋コンクリート造の鉄骨も含む。)を鉄筋コンクリート造部分(RC造)に接合し、固定することを定着という。
一般には、鉄骨柱とRC造の基礎との接合部すなわち柱脚を指すことが多い。
ここでは定着の代表的な部位として柱脚を取り扱うが、図7.10.1に示すようなほかの定着部位についても準用できる。
図7.10.1_定着部位の例.jpg
図7.10.1 定着部位の例
(2) アンカーボルトの役割
柱脚の形式は、骨組の規模柱からの応力伝達の条件により多岐にわたるが、基本的には、(イ)露出形式、(ロ)根巻き形式、(ハ)埋込み形式 の3つに分けることができる。その例を図7.10.2に示す。
一方、アンカーボルトに要求される役割は、次の2種に分けられる。
① 建方用アンカーボルト
躯体工事完了後は構造耐力を負担しないアンカーボルトで、主に建方の手段として用いる。
② 構造用アンカーボルト
躯体工事完了後も構造耐力を負担するアンカーボルトで、引張カ・せん断力及びこれらの組合せ力を負担する。
アンカーボルトの施工に当たっては、上の役割について留意する必要がある。
図7.10.2_柱脚の形式.jpg
図7.10.2 柱脚の形式
(3) アンカーボルトの形状・寸法及び品質
(i) アンカーボルトの形状・寸法及び品質は7.2.4による。
(ii) アンカーボルトの形状の一例を図7.10.3に示す。
図7.10.3_アンカーボルトの形状の例.jpg
図7.10.3 アンカーボルトの形状の例
(4) 「鉄骨造の柱の脚部を基礎に緊結する構造方法の基準を定める件」を次に示す。
鉄骨造の柱の脚部を基礎に緊結する構造方法の基準を定める件
(平成12年5月31日 建設省告示第1456号、最終改正平成19年9月27日)
建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第66条の規定に基づき、鉄造の柱の脚部を基礎に緊結する構造方法の基準を次のように定める。
建築基準法施行令(以下「令」という。)第66条に規定する鉄骨造の柱の脚部は、次の各号のいずれかに定める構造方法により基礎に緊結しなければならない。ただし、第一号(ロ及びハを除く。)、第二号(ハを除く。)及び第三号の規定は、令第82条第一号から第三号までに規定する構造計算を行った場合においては、適用しない。
一、露出形式柱脚にあっては、次に適合するものであること。
イ.アンカーボルトが当該柱の中心に対して均等に配置されていること。
ロ.アンカーボルトには座金を用い、ナット部分の溶接、ナットの二重使用その他これらと同等以上の効力を有する戻り止めを施したものであること。
ハ.アンカーボルトの基礎に対する定着長さがアンカーボルトの径の20倍以上であり、かつ、その先端をかぎ状に折り曲げるか又は定着金物を設けたものであること。ただし、アンカーボルトの付着力を考慮してアンカーボルトの抜け出し及びコンクリートの破壊が生じないことが確かめられた場合においては、この限りでない。
二.柱の最下端の断面積に対するアンカーボルトの全断面積の割合が20%以上であること。
ホ.鉄骨柱のベースプレートの厚さをアンカーボルトの径の1.3倍以上としたものであること。
ヘ.アンカーボルト孔の径を当該アンカーボルトの径に5 mmを加えた数値以下の数値としかつ、縁端距離(当該アンカーボルトの中心軸からベースプレートの縁端部までの距離のうち最短のものをいう。以下同じ。)を次の表に掲げるアンカーボルトの径及びベースプレートの縁端部の種類に応じてそれぞれ次の表に定める数値以上の数値としたものであること。
建告1456号ベースプレートの縁端部.jpeg
二、根巻き形式柱脚にあっては次に適合するものであること。
イ.根巻き部分(鉄骨の柱の脚部において鉄筋コンクリートで覆われた部分をいう。以下同じ。)の高さは、柱幅(張り間方向及びけた行方向の柱の見付け輻のうち大きい方をいう。第三号イ及びハにおいて同じ。)の2.5倍以上であること。
ロ.根巻き部分の鉄筋コンクリートの主筋(以下「立上り主筋」という。)は4本以上とし、その頂部をかぎ状に折りげたものであること。この場合において、立上り主筋の定着長さは、定着位置と鉄筋の種類に応じて次の表に掲げる数値を鉄筋の径に乗じて得た数値以上の数値としなければならない。ただし、その付着力を考慮してこれと同等以上の定着効果を有することが確かめられた場合においては、この限りでない。
根巻き形式柱脚の鉄筋の種類.jpeg
ハ.根巻き部分に令第77条第二号及び第三号に規定する帯筋を配置したものであること。ただし、令第3章第8節第1款の2に規定する保有水平耐力計算を行った場合においては、この限りでない。
三、埋込み形式柱脚にあっては次に適合するものであること。
イ.コンクリートヘの柱の埋込み部分の深さが柱幅の2倍以上であること。
口.側柱又は隅柱の柱脚にあっては、径9 mm以上のU字形の補強筋その他これに類するものにより補強されていること。
ハ.埋込み部分の鉄骨に対するコンクリートのかぶり厚さが鉄骨の柱幅以上であること。
鉄骨造の柱の脚部を基礎に緊結する構造方法の基準を定める件
(5) アンカーボルトの位置と高さ
(i) アンカーボルトの埋込み精度は、ボルトの平面的な位置とボルト頭部の突出し寸法が主なポイントである。また、柱建方時にアンカーボルトがベースプレートの孔に無理なく挿入でき、ナット締付け時のベースプレートとの密着度を高めるために、長さ方向の垂直度を正確に保つことも大切である。
(ii) ボルト頭部の出の高さは、二重ナット締めを行っても外にねじが3山以上出ることを標準とする。
(b) 構造用アンカーボルト及びアンカーフレーム
構造用アンカーボルト及びアンカーフレームの形状並びに寸法は、特記によることとしている。
(c) 建方用アンカーボルトの保持及び埋込み
(1) アンカーボルトの保持は、あらかじめアンカーボルトに振れ止め等を溶接し組み立てたものを、取付け場所に固定する。
組立に際しては、型板を用い正確に組み立てる。また、取付け場所に固定する場合にも、図7.10.4のように型板を用い通り心に正しく合わせる。
(2) アンカーボルトの保持及び埋込みの工法
(i) アンカーボルトの埋込み方法には、図7.10.4に示す方法があるが、上部の移動を止めるだけでなく、下部のコンクリートの流れによる移動も確実に止めなければならない。
(ii) 簡単なものではアンカーボルトの下部を基礎の鉄筋に鉄線で緊結する程度であるが、重要なものでは、下部のコンクリートに金物を埋め込んでおき、これに溶接する方法、鉄筋あるいは鉄骨を用いてフレームを作り、これを固定しておきアンカーボルトと緊結する方法がある。
「標仕」表7.10.1の工法を図示すると図7.10.4のようになる。このうち、A種は(イ)、B種は(ロ)、 C種は(ハ)である。
なお、「標仕」のC種はアンカーボルトの台直しを考慮した方法であるが、台直しは引張力の低下を招くなど構造的には好ましくないため、事前に設計担当者と打ち合わせておく。
台直しのために薄鉄板を用いた漏斗状のラッパを用いるが、ラッパはコンクリートの硬化後取り外すことになる。取り外したのちは、直ちに布等を詰め、ごみ等の入らないようにする。また、ラッパの外側のコンクリートは、厚さが薄くなると割れるおそれがあるので注意が必要である。この方法によるアンカーボルトの位置の修正は、一般に、ラッパの径の 1/4~1/5 程度とされている。ラッパの代わりにポリスチレンフォーム保温材等を用いることがあるが、あとの処置がうまくいかないので注意する。
図7.10.4_アンカーボルトの埋込み方法.jpg
図7.10.4 アンカーボルトの埋込み方法
(iii) その他の方法
① 箱抜き方法
アンカーボルト位置に塩化ビニルパイプ、紙パイプ、スパイラルチューブ等を埋め込み、 コンクリート硬化後にそのあなにアンカーボルトを挿入し、グラウト材を入れて固定する(図7.10.5参照)。この時ベースプレート下面の密着を兼ねてグラウトする方法もある。図7.10.4の(イ)~(ハ)と比較して精度については、良好な結果が期待できる。ただし、塩化ビニルパイプ、紙パイプはグラウト前に取り除いておかなければならない。
埋込み型の柱脚の場合は、柱全体について箱抜きをする場合もある。
図7.10.5_箱抜き方法.jpg
図7.10.5 箱抜き方法
② あと施工アンカー(接着系アンカー)
基礎コンクリートの打込み・硬化後に所定の位置にドリルであなをあけ、アンカーボルトをエポキシ樹脂等で固定する。使用できるボルト軸径と長さ、許容引張力、基礎鉄筋との関係について確認しておくことが必要である。これと似た方法として、エポキシ樹脂の代わりにグラウト材を使うこともできるが、この場合はあな径がやや太くなる。
③ アンカーボルトを2つに分ける方法(特許工法)
図7.10.6 のようにコンクリートに埋め込まれる部分と、あとから溶接する部分の2つに分ける方法で、コンクリート打込み・硬化後、ボルトを溶接する。引張り耐力を期待することも可能ではあるが、その場合、ロッドとボルトの心ずれ・プレート板厚により許容耐力が決められているので注意が必要である。
図7.10.6_アンカーボルトの溶接方法.jpg
図7.10.6 アンカーボルト溶接方法
(d) 養生
アンカーボルトは、コンクリートに埋め込む前に、ねじ部に打ち傷や錆がないことを、埋め込まれる部分には油類がついていないことを確認する。
また、露出部は埋め込まれてから建方までの間に、錆の発生、ねじ山の損傷、コンクリートの付着等が生じないように、布、ビニルテープ等で養生しておく。
(e) 柱底均しモルタル
(1) ベースプレートは、この下面に施工される柱底均しモルタルにより支持される。
ベースプレートが小さい場合は、全面モルタル塗りを行い仕上げるが、ベースプレートが大きい場合は、モルタルとの密着性に問題が出ることがあるため、あと詰め中心塗り工法が普通である。中心塗りモルタルは大きさ 200~300mmの角形あるいは円形とする。塗厚は特記されるが、「標仕」表7.10.2の A種の場合は50mm、B種の場合は30mmが一般的である。
(2) モルタル途りに当たっては、コンクリート面のレイタンス等を取り除き、モルタルとコンクリートが一体となるように施工する。
(3) モルタルの調合は「標仕」7.2.9による。充填する場合は、空隙の生じないよう入念に詰める。しかし、このモルタル充填は面倒な作業であるうえに、充填が不完全であると構造上問題となるため慎重な施工が必要である。構造上重要でベースプレートが大きい場合は、充填が困難なので、流動性の良い無収縮モルタルを用いるのがよい。
(4) 柱底均しモルタルの一般的な工法の例を図7.10.7に示す。「標仕」表7.10.2の工法のA種は(イ)、B種は(イ)又は(ハ)である。このほか(イ)の一種である(ロ)全面あと詰め工法がある。「標仕」では特記がなければA種としている。
なお、「標仕」ではグラウトに使用するモルタルは、A種の場合は無収縮モルタルとし、B種の場合は硬練りモルタルでもよいこととしている。また、無収縮モルタルを使用する場合の工法は、特許等の関係もあり、製造所の仕様によることとしている。
図7.10.7_ベースプレートの支持方法.jpg
図7.10.7 ベースプレートの支持方法
(f) ナットの締付け
(1) ナットの締付けは、建入直し完了後、アンカーボルトの張力が均ーになるようレンチ等で緩みのないように行う。
(2) ナットは、 コンクリートに埋め込まれる場合を除き二重ナットを用いて戻止めを行う。
(3) アンカーボルトの締付け力及び締付け方法はナット回転法で行い、ナットの密着を確認したのち 30゜回転させる。
(g) 柱脚部鉄筋の処理
柱脚部分が鉄骨鉄筋コンクリート造の場合は、建方の際柱脚の周囲にある鉄筋が障害になることが多いが、この鉄筋をなるべく傷めないように取り扱うことが必要である。曲げた鉄筋は再び元の位置に戻すので、なるべく緩やかに曲げるのがよい。鉄筋を曲げたり、元の位置に戻したりする場合、850〜900℃に加熱して曲げるのが望ましい。温度管理をせずに適当に加熱すると、低温域で曲げることになり、鉄筋がもろくなり折れることもあるので行ってはならない。
なお、鉄筋を曲げる場合の角度は30°以下が望ましい(図7.10.8参照)。
ベースプレートと鉄筋が当たる場合は、この角度が守れなくなるので、そのようなことにならないよう、鉄骨工事着手前に検討する必要がある。
図7.10.8_柱脚鉄筋の納まり.jpg
図7.10.8 柱脚鉄筋の納まり
7.10.4 搬入及び建方準備
(a) 建方計画
(1) 建方は、効率の良い建方順序を選定するとともに、建方途中の構造の不安定な状態での事故のないように、十分な検討をする。また、建方用機械の取扱いに無理がないようにし、作業員の安全、周辺に対する安全等災害予防に十分な処置が必要である。
(2) 建方計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
① 工程表
(準備開始時期、各節ごとの組立及び接合時期、完了時期)
② 施工管理体制
③ 組立順序(図面に表すのがよい)
④ 吊り足場等の仮設材や二次部材等で地組みするものの有無(図示する)
⑤ 吊上げの方法
⑥ 主な部材の質量表(部材の質量は平面図に記入するのが分かりやすい)
⑦ 建方用機械の種類、性能(吊上げ能力、作業範囲、設置位置及び保安上の注意事項)
⑧ 建方途中の建入れ測定方法及びその修正方法
⑨ 建方完了時の建入れ測定方法及びその修正方法
⑩ 部材集積場所及び集積方法
⑪ 建入れ検査の合否の基準
⑫ 建方中の強風に対する補強の方法及び仮ボルトの本数等
⑬ 接合作業の手順及び検査方法
⑭ 安全管理及び養生の方法
(3) 建方時の強風等に対する補強には、次のようなものがある。
(i) 鉄骨鉄筋コンクリート造の鉄骨には、コンクリートが打ち込まれるまでは、十分な耐力を発揮できないものがある。特にこのようなものは設計担当者と打ち合わせ、必要な補強をする。
(ii) 鉄骨に重量物を載せたり、土圧をかけたり、通常の構造設計で考えていない大きな荷重を負担させる場合には、計算書を提出させ、設計担当者と打ち合わせて安全を確認する必要がある。
(4) 鉄骨の建方では特記により技能士(とび)が適用される。(「標仕」1.5.2)
(b) 建方機械
建方機械の機種と台数は、最大荷重、作業半径、作業能率等により決定する。この際、建方機械及び建方機械を設置する構造体、架台、路盤、構台等が、自重、風圧力、地震力、クレーン運転時の衝撃力等に対して安全であることを確認する。
(c) 搬入・仕分け
(1) 製品の受入れ
受注者等の製品の受入れに際しては、鉄骨製作工場の送り状と照合し、製品の数量及び変形・損傷の有無等を確認させる。
(2) 製品の取扱い
製品の取扱いに当たっては、部材を適切な受台の上に置き、変形・損傷を防ぐ。部材に変形・損傷が生じた場合は建方前に修正させる。
7.10.5 建方
(a) 地組み
地組みを行うときは、適切な架台・治具等を使用し、地組み部材の寸法精度を確保する。
(b) 建方用設備・器具
建方に使用するワイヤロープ、シャックル、吊金物等は、許容荷重範囲内で正しく使用する。また、定期的に点検し、損傷のあるものは使用しない。
(c) 建入れ直し
(1) 建入れ直しのために加力するときは、加力部分を養生し、部材の損傷を防ぐ。
(2) ワイヤロープの取付け用ビースはあらかじめ鉄骨本体に取り付けられた強固なものとする。
(3) ターンバックル付き筋かいを有する構造物においては、その筋かいを用いて建入れ直しを行ってはならない。
(4) 建入れ直しは、本接合終了後の精度を満足できるように考慮して行う。
(5) 架構の倒壊防止用ワイヤロープを使用する場合、このワイヤロープを建入れ直しに兼用してもよい。
(6) 筋かい補強作業は必ず建方当日に行うこととし、翌日に持ち越してはならない。
(d) 仮ボルトの締付け
建方作業における部材の組立に使用し、本締め又は溶接までの間、予想される外力に対して架構の変形及び倒壊を防ぐためのボルトを仮ボルトと呼ぶ。仮ボルトは普通ボルト等を用い、ボルト1群に対して、高カボルト継手では1/3以上、2本以上、混用接合及び併用継手では1/2以上、かつ、2本以上をバランスよく配置し、締め付ける。仮ボルトのボルト1群を図7.10.9に示す。図7.4.8に示す高カボルトの1 群とは異なる。これを適用しないときは、風荷重、地震荷重及び積雪に対して接合部の安全性の検討を行い、適切な措置を施す。また、溶接継手におけるエレクションピース等に使用する仮ボルトは高力ボルトを使用して全数締め付ける(図7.10.10 参照)。
図7.10.9_仮ボルトにおける1群の考え方.jpg
図7.10.9 仮ボルトにおける1群の考え方
図7.10.10_エレクションピースの仮ボルト.jpg
図7.10.10 エレクションピースの仮ボルト
(e)建方補助部材等の工夫
建方の際に、作業を円滑に進めるために補助部材を取り付けることがよく行われる。しかし、これら取り付けられた補助部材により超音波探傷検査が不可能になったり、これらの取付けのために本来望ましくない溶接が行われるケースもある。例えば、前者の例としては、工事現場溶接する大梁を設置する際に使用する「梁受」がある。また後者の例としては、大梁フランジと柱を溶接する際の裏当て金取付けのための開先内の母材断面内での組立溶接がこれに当たる。
しかしこれらは、工事現場での工夫により回避することもできる。「梁受」を回避する工夫の例としては、図7.10.11のような梁受け治具の使用等が挙げられる。また、開先内での溶接を回避する例としては、図7.10.12のような裏当て金取付け治具の使用が挙げられる
従来より慣用的に行われている方法についても、品質管理上の問題点に意識をもち、問題点を回避する工夫を行うことが工事現場施工では重要である。
図7.10.11_梁受け治具.jpg
図7.10.11 梁受け治具
図7.10.12_裏当て金取り付け治具.jpg
図7.10.12 裏当て金取付け治具
7.10.6 工事現場施工検査
(a) 施工者は、本接合に先立ち、ひずみを修正し、建入れ検査を行い。施工管理記録を作成する。また、必要な場合は、監督職員が検査を行う。
(b) 建入れ直しは建方時の誤差、すなわち柱の倒れ・出入り等を修正し、建方精度を確保するために行うものであるが、建方がすべて完了してから行ったのでは十分に修正できない場合が多い。したがって建方の進行とともに、できるだけ小区画に区切って建入れ直しと建入れ検査を行うことが望ましい。
(c) 日照による温度の影響を避けるために早朝一定時間に計測するなどの考慮を払わなければならない。また、長期間にわたって鉄骨工事が続く場合は、気候も変わるので測定器の温度補正を行わなければならない。
7.10.7 工事現場接合
(a) 高カボルト
高カボルト接合は、4節による。
(b) 工事現場溶接
工事現場溶接は、6節によるほか、次による。
(i) 溶接方法
工事現場溶接には、一般に、被覆アーク溶接、ガスシールドアーク溶接、セルフシールドアーク溶接及びスタッド溶接が用られる。
(ii) 溶接技能資格者
工事現場溶接に従事する溶接技能資格者は、7.6.3によるほか、工事現場溶接に関し十分な知識と技量を有する者とする。
(iii) 溶接機器及び溶接材料
溶接機器は工事現場溶接に適したもので、溶接技能資格者に対して取扱いを習熟させておかなければならない。
(iv) 溶接施工
① 施工順序は、溶接ひずみの建方精度への影響を考慮して決定する(図 7.10.13参照)。
図7.10.13_平面的に見た溶接順序.jpg
図 7.10.13 平面的にみた溶接順序
② 施工時の天候については7.6.8による。
(v) 検査及び補修
工事現場溶接における検査及び補修は、特記のない場合7.6.10〜12による。
(c) 混用接合
ウェブを高カボルト接合、フランジを工事現場溶接接合とするなどの混用接合は、原則として、高カボルトを先に締め付け、その後溶接を行う。
(d) 併用継手
高カボルトと溶接との併用継手は、原則として高力ボルトを先に締め付け、その後溶接を行う。
(e) その他
増築・改築・修繕あるいは模様替え等において、既存建築物の鉄骨に溶接する場合は、あらかじめ周囲の状況を調査し、特に既存鉄骨について、その溶接性を確かめる。
7.10.8 その他の工事現場施工検査
(a) デッキプレートの種類と形状寸法については、7.2.7による。デッキプレートの敷設に伴う施工上の留意事項と検査項目は、7.7.8による。
(b) 頭付きスタッドの溶接施工の留意事項と検査項目は 7節による。
(c) 仮設、鉄筋、カーテンウォール、電気・機械設備等のため、金物、その他を鉄骨部材にあと付け溶接する場合は、母材にアンダーカット、ショートビード等の悪影響を与えるような溶接を行ってはならない。
鉄骨に溶接を行う場合は、鋼材の種類・溶接方法等について7.6.9によればよい。
(d) 工事現場接合部分及び工場塗装の損傷した部分を塗装する場合は、8節により、工場塗装に対応した仕様で検査完了後に行う。
(e) 耐火被覆の施工上の留意事項と検査項目は、9節による。

7章鉄骨工事 11節軽量形鋼構造

第7章 鉄骨工事
11節 軽量形鋼構造
7.11.1 適用範囲
この節は、冷間成形された軽量形鋼を使用する場合を対象としており、この節に規定されていないものは、1節から10節まで及び12節によればよい。
以前は、軽量形鋼によるラチス構造等が広く用いられていた。しかし、最近では二次部材として使用することが一般的である。
7.11.2 施 工
(a) 材 料
(1) 鋼 材
(i) JIS G 3350(一般構造用軽量形鋼)は、建築その他の構造物に用いる冷間成形の軽量形鋼であり、種類はSSC400 1種類で、断面形状による名称には、軽溝形鋼、軽Z形鋼、軽山形鋼、リップ溝形鋼、リップZ形鋼、ハット形鋼がある。
(ii) 鋼材の品質を試験により証明する場合は、7.2.10による。
(2) アーク溶接棒は、JIS Z 3211 (軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用被覆アーク溶接棒)を参照する。アーク溶接棒の棒径は4.0mm以下で、かつ、板厚に見合ったものを選ぶ必要がある。炭酸ガスシールドアーク半自動溶接を用いる場合には、溶落ちしないように適切な溶接条件を選定する。
(3) 高カボルトは7.2.2を、普通ボルトは7.2.3を参照する。
(b) 施 工
(1) 切 断
軽量形鋼部材は薄くて複雑な形状であるため、切断に際しては、一般の鋼材と比べて特別な注意が必要である。
① 部材の切断面は、特に図面で指定されたもの以外は軸線に垂直でなければならない。これは、以後の加工・組立・溶接の工程においてすべてこの断面が基準となるためである。また、切断の際、断面形状を損なわないように注意する必要がある。機械切断によって生じたまくれは、やすり等を用いて取り除かなければならない。
② 部材の切断は機械切断とする。①に述べたように、切断面は加工の基準となるものであり、正確さを必要とするためである。
手動ガス切断は、断面が不正確に切断されるため、避けなければならない。不正確に切断された断面をグラインダー等で正確に仕上げることは実際には無理で、体裁だけの補修になってしまうためである。
(2) 防錆
(i) 軽量形鋼構造に用いられる部材は、板厚が薄いので腐食に対する安全性が一般の鋼構造より低く、十分な防錆処置を要する。
(ii) 鋼材に防錆処理を施した場合でも、錆びにくい環境をつくり出すよう努め、足りないところを塗装で補うという考え方が大切である。また、設計上の配慮によって解決される点も多い。その場合の留意点を次に示す。
① 雨水にふれても水が滞留せず、常に乾燥するよう通風を良くする。雨水が滞留するおそれのある部材、例えばリップ溝形鋼の横架材等は、適切な水抜き孔をあけて雨水の排出を考慮する。
② 雨水の掛かる箇所では、再塗装のできない構造を避ける。特に、管形断面の部材では、必要に応じて、端部に同質材のふたをする。また、鋼板挟みの二丁合わせで閉鎖形の断面になるような部材は、隙間を密閉しなければ建築物の外回りへ露出させてはならない。
③ 錆の発生を点検できるような構造とし、再塗装が容易なように考慮する。
④ 防錆上の弱点となりやすい部位には、防ぎ得ない錆を予想し、あらかじめ断面の割増し等肉厚の大きい鋼材の仕様も考慮するとよい。
(iii) 再塗装の困難な建築物の部分及び錆の発生しやすい環境にある建築物の部分の防錆は、亜鉛めっきとするのが望ましい。亜鉛めっきに関しては12節を参照する。
(3) 高力ボルト・ボルト接合
「標仕」ではボルト接合は、特記によるとしている。孔は、組合せ材片を正しく接合するために精度良くあけるとともに、各材片の孔心を一致させるよう工作することが重要である。ドリルあけのまくれやポンチあけの変形は、組み合わせた材片間に隙間を生じてボルトの締付けや摩擦力に支障を来すので、必ず取り除かなければならない。まくれを取るにはグラインダー等で軽く取り除くのがよいが、部材を削り過ぎないよう注意を要する。
軽量形鋼構造に高カボルトを用い、設計上のすべり係数を0.23としている場合、摩擦面は、脱脂等の処理を行ったうえで、堅固な黒皮表面とすることができる。ただし.浮き錆、塵あい、油、塗料等摩擦力を低下させるものを除去する必要がある。脱脂した黒皮表面は、赤錆を発生させた表面に比べてすべり係数が低下する。しかし、軽量形鋼構造に用いられる部材は板厚が薄く形状も複雑なので.黒皮を除去するため薄く削り過ぎたりグラインダーやショットブラストが掛けられないこともあるため、堅固な黒皮は除去しなくてもよい。その場合の摩擦面は.黒皮を除去し赤錆を発生させた場合のすべり係数の1/2 (0.23)以上を確保できるようにしておかなければならない。
高力ボルト接合を行う部材は、その接触面が正確に密着するよう留意する必要がある。特に、軽量形鋼部材は、板厚が薄く、ひずみ・反り・曲がり等が生じやすい部材なので必ず矯正するか、又はフィラー鋼板を挿入するなどしてこれらを補う必要がある。
(4) 高力ボルト及び普通ボルトのピッチ、へりあき等は.7.3.2(c)による。
(5) 「標仕」では、普通ボルトの孔径の限度はボルト径+0.5mmとなっている。ただし「標仕」では、母屋、胴縁類の取付け用ボルトの場合、ボルト径+1.0mmとしている。
(6) 普通ボルトには戻止めが必要であるが、通常次のような工法がある。
(i) 二重ナット
ナットを二重にする(図7.11.1参照)。一般に戻止め用のナットは本ナットと同じ厚さのもの(2種)が用いられるが(7.2.3(b)参照)、やや厚さの薄いもの(3種)でもよい。二重ナットの締付けは、7.5.2 (3)を参照する。
図7.11.1_二重ナット.jpg
図7.11.1 二重ナット
(ii) スプリングワッシャー
特殊なスプリングになっている座金を用いる。
(iii) 溶接
ナットとボルトを溶接する。この際はボルトの全周にわたり溶接する。この方法は簡易な構造物で、かつ、見ばえに支障のない箇所以外には用いてはならない。
(7) せん断ボルト
せん断ボルトとは、図7.11.2の力Pをせん断力により伝達するボルトであり、ほとんどの普通ボルトはせん断ボルトである。このボルトの耐力は鋼板の側圧で決まる場合があるので、ねじ部分がグリップ(締付け厚さ)に掛かってはならない。このためには厚い座金が必要になる。また、強度上は必ずしも必要ではないが、材料精度等を考えると、完全なねじ山が3山以上ナットの外に出ているようにするのがよい。
図7.11.2_せん段ボルト.jpg
図7.11.2 せん断ボルト

7章鉄骨工事 12節溶融亜鉛めっき工法

第7章 鉄骨工事
12節 溶融亜鉛めっき工法
7.12.1 適用範囲
本節は、溶融亜鉛めっき(以下、この節では「めっき」という。)を施した鉄骨部材を溶融亜鉛めっきを施した高力ボルト(以下、この節では「めっき高力ボルト」という。)を用いて接合する鉄骨造建築物に適用する。
なお、本節では、溶融亜鉛めっき工法の特有な事項をまとめており、鉄骨構造として一般的な事項は1節から11節までを参照する。
接合部分をめっきしないで鋼素地を露出させ、添え板(スプライスプレート)とともに赤錆を発生させるなどして通常の高カボルトで接合したのちジンクリッチペイント等で塗装する場合は、ここでは対象にしない。
一般に普通鋼材は、めっき付着量550g/m2程度のめっきを施しても鋼材としての材質は変化しないと考えてよい。しかし、JIS B 1186(摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット)に規定される高カボルトセットの構成材料は、製造工程で熱処理(焼入れ・焼戻し)により所定の機械的性質を付与している。また、トルク係数値はセットとして必要な性能が確保されている。これらは、めっきを施すことにより著しい影響を受けるので普通の高力ボルトと同様に扱うことができないため、JISでは製品規格が定められていない。また、接合面にはめっき層が介在するため、すべり係数やリラクセーション等接合部の性能も一般の鋼材の場合とは異なるので 許容耐力等を個別に規定しなければならない。
このため、めっき高カボルトメーカーは、めっきした鋼材をめっき高カボルトで摩擦接合する材料及び工法を、旧建築基準法(以下、この節では「旧法」という。)第 38条に基づき「溶融亜鉛めっき高力ボルト接合」として建設大臣認定を受けていた。
しかし、法の改正により、めっき高力ボルトの材料については法第37条第二号の規定に基づき認定を受けることになった。また、高カボルトの許容応力度等については平成12年建設省告示第2466号で数値が示されているが、めっき高力ボルトについては、品質に応じて国土交通大臣が指定した数値とされている。
なお、「標仕」12節では、特記がなければ旧法第38条で認定された材料及び工法で施工されることを前提として、セットの種類は1種(F8T相当)、すべり係数値は 0.4以上確保できることなどを規定している。
7.12.2 施工管理技術者等
(a) 摩擦接合部の性能を確保するためには、接合摩擦面の処理とボルト締付け力の管理が不可欠である。このため、「標仕」7.12.2では,「溶融亜鉛めっき高力ボルト接合」の施工管理を行う技術者及び締付け作業を行う技能者については、必要な技術又は技能を有することを証明する資料を提出することとしている。
(b) めっき構造物の健全な普及並びに技術・技能レベルの平準化及び一般化を図るために「溶融亜鉛めっき高カボルト技術協会」(以下、この節では「技術協会」という。)では設計と施工管理(接合面の状態の適否、講ずべき必要な措置等の判断を含む。)を行うために必要な知識を有する「技術者」及びめっきボルトの締付け作業を適切に行うことのできる「技能者」を認定している。これらの「技術者」又は「技能者」は、「標仕」7.12.2で規定する「施工管理技術者等」に該当する者の一例である。
なお、技術協会では、溶融亜鉛めっき高カボルト接合の「設計施工指針」及び「施工管理要領」を定めて、「技術者」はこれに従って施工管理を行うこととしているので、必要に応じて活用するとよい。
7.12.3 亜鉛めっき
(a) 亜鉛めっき
(1) 溶融亜鉛めっき工法に使用する形鋼・鋼板類のめっきの種別は、「標仕」表 14.2.2のA種とし、めっきの付着量は550g/m2(膜厚換算約 80μm)以上としている。
(2) めっきする部材は、めっき槽の大きさによる最大寸法の制約や、めっき温度によるひずみ防止対策としての部材形状、溶接寸法並びに溶融した亜鉛の流れや空気の流出入への配慮から通常の鋼構造とは異なる部材加工が必要になる。また、溶接は、原則としてめっき前に行わなければならないことなど設計時から対応しなければならないことが多い。これらの詳細については(-社)日本鋼構造協会「建築用溶融亜鉛めっき構造物の手引き」を参照するとよい。
(3) めっき高力ボルトの孔径は、「標仕」表7.3.2による。ただし、孔あけは、鋼材のめっき前に行わなければならない。
(b) めっき高カボルト
(1) めっき高力ボルトは、7.12.1に示すように建築基準法に基づき認定されたものを使用する。
めっき高カボルトのセットの内訳を、表7.12.1に示す。
この表のとおり、JIS B 1186で規定するセットの種類の1種(F8T) Aに準ずるもののみであり、F10Tやトルシア形のものは存在しない。認定を受けているめっき高力ボルトは、頭部に「F8T」と製造所マークが刻印されている。
また、めっき高カボルトの呼び径は、M16、M20、M22、M24となっており、一部のメーカーではM27、M30がある。
表7.12.1 溶融亜鉛めっき高力ボルト
表7.12.1溶融亜鉛めっき高力ボルト.jpeg
(2) めっき高カボルトのめっき方法は、JIS H 8641(溶融亜鉛めっき)の2種 HDZ55で、めっきの付着量は550g/m2以上となっている。
(3) 7.12.1で規定する製品に対する製造管理方法及び品質管理試験の結果は、認定を受けたメーカーで行われた検査結果報告書により確認する。
めっき高カボルトの工事現場搬入時には、メーカーから提出された検査結果報告書をもとに荷姿外観・等級・サイズ・ロット等について確認する。このうち、荷姿については包装の完全なものを未開封状態のまま現場に搬入する(7.2.2(d)参照)。
7.12.4 溶融亜鉛めっき高カボルト接合
(a) 摩擦面等の処理
(1) めっき高力ボルトを使用する場合の摩擦面は、(-社)日本建築学会「鋼構造接合部設計指針」によると、溶融亜鉛めっき後、軽くブラスト処理を施し、摩擦面の表面粗度を50μmRz以上(70 ~100μm Rzが望ましい)としたのち、設計用すべり係数が 0.40以上確保できるものとあり、「標仕」でも同様に規定されている。また、フィラープレートについても同様な処理を行うとされている。摩擦面のブラスト処理の範囲は、「標仕」図7.12.1により、摩擦面の外端から5mm程度内側とし、添え板(スプライスプレート)で覆われる範囲とされている。
(2) りん酸塩処理又はその他の特別な処理とする場合は、設計図書で、その方法及びすべり耐力等の確認方法が指示されることになる。その場合、一般的には、すべり試験を実施し、すべり係数が 0.40以上あることを確認することになる。この場合のすべり試験の要領は、技術協会の「設計施工指針」を利用するとよい。
技術協会の「設計施工指針」は2009年に改定され、「溶融亜鉛めっき高カボル卜摩擦接合面のりん酸塩処理要領」が新しく規定された。そこでは、りん酸塩処理を行う場合は、すべり試験を実施し、測定値のすべてが所定の値以上であることを条件としている。りん酸塩処理作業条件が同じである場合は、他の工事についてもその条件を有効とし、以後すべり試験は不要とされている。
(b) めっき高力ボルトの締付け
(1) めっき高カボルトの締付けは、技術協会では「技能者」の有賓格者が行うこととしている。ただし、「技術者」の有資格者が作業してもよい。
(2) 締付けの手順は、4節の通常の高力ボルトと同様に、ボルトの取付け、一次締め、マーキング、本締めの順序で行うが、本締めは、ナットの回転角を制御するナッ ト回転法による。
(3) ナット回転法とは、一次締めにより鋼材、ナットが密着した状態から起算するとナットを1回転(360°)させればボルトは、おおよそねじの1ピッチ分伸びるというねじの幾何学的な原理を利用してナットの回転量(角)を制御することで、ボルトの軸力を管理するものである。したがって、ナットの回転量とボルトに導入される軸力は次式で示す関係が成り立つ。
ナットの回転量とボルトに導入される軸力の式.jpeg
この関係は、高力ボルトの等級やトルク係数とはかかわりなく成立することになる。しかし、トルク係数が大きいと、ナットを120゜回転させるのに大きな力が必要で作業性が低下するばかりでなく、ボルト軸部をねじる効果が大きくなり軸部に大きなねじり応力を生じたり、とも回りを生じたりしやすくなるので好ましくない。「標仕」ではセットの種類は1種(F8T相当)としている。
(4) ボルトの取付けは.7.4.7(e)による。
(c) 一次締め
一次締めは、仮ボルトを締め付けて部材の密着を確認したのち、全ボルトについて「標仕」表7.4.2に示すトルク値でナットを回転させて行う。この一次締めトルク値は、本締めのナット回転角の基点とするためのもので極めて重要な意味をもっている。
一次締めのボルト張力は、M16で約40kN、M20, M22で約50kN、M24で約60kN程度導入されるが、一次締めのボルト張力は本締めボルト張力に影響しないナット回転量で本締めを行うことにしてあるので、一次締め後の締付けトルクやボルト張力は検定しなくてよい。
締付け機器は、プレセット形トルクレンチを使用するのが望ましい。メガネスパナを使用する場合は.締付け作業に先立ち一次締めトルク値が得られる人力の入れ具合をトルクレンチで確認し、その要領をつかんでから作業に入ることとする。
(d) マーキングは,7.4.7(g)による。
(e) 本締め
JIS形高カボルトと同様に、めっき高カボルトについても首下長さが呼び径の5倍以下のものについては「標仕」表7.4.2に示すトルクで一次締めを行った状態を基点としてナットを120°回転させることとしている。この場合の許容差は ±30°としている。120゜の回転量はナットの角が二つ分回ることを意味しているので一次締め後のマーキングの線で容易に確認ができる。
このナットの回転量は、部材締付け実験により、標準ボルト張力に対して、必要十分なボルト張力が得られることを確認して定められているものであるから、これを厳守しなければならない。
なお、首下長さが呼び径の5倍を超えるボルトについては、実際の厚さとなる鋼板( 2~3枚積層可)に当該ボルトを挿入し、所定のトルクで一次締めした状態を起点として、ナットの回転角度と、ボルト軸力の関係を試験をして、設計ボルト張カの約1.3倍の軸力となるナット回転角を決定する。このとき試験は同一呼び径及び首下長さごとに各5本実施し、その平均値をもって、必要なナット回転角としてよい。
本締めは、ナットを規定の角度だけ回転させれば、方法は人力あるいは機械力いずれの方法によって行ってもよい。締付け本数が多い場合には、何らかの機械力を利用したほうが効率的である。
なお、ナット回転角自動制御装置の付いた機器も開発されている。
(1) 締付け機器
めっき高カボルトの締付けにはナット回転法用電動式締付け機(図7.12.1)やJISの高カボルトに用いる電動式締付け器具、手動式トルクレンチ等を用いるが、これらは所要の精度が得られるように十分整備されたものでなければならない。
図7.12.1_ナット回転法用電動式締付け機の例.jpg
図7.12.1 ナット回転法用電動式締付け機の例
(2) 締付け機器の調整
ナット回転法では、部材にボルトをセットして、工事現場で使用する締付け機で締付け、所要のナット回転角が得られることを確認する。一般に、ナット回転法での締付け機器の調整は.本締め時の最初の数本のボルトを締め付ける時に部材で行うもので、トルクコントロール法と異なり、部材と軸力計でバネ定数の迩いがあるため,軸力を測定しない。
7.12,5 搬入及び建方
(a) 搬入及び建方は、10節による。ただし、荷扱い、建入れ直しの際には,めっき面に傷がつかないように養生を行う。
(b) めっき部材の保管に当たっては,部材間に桟木を使うなど通風の良い状態で行う。
(c) 部材のめっき補修
(1) 「標仕」7.12.5 (b)では、搬入及び建方においてめっき面に傷が発生した場合の補修の規定であるが、このほかにめっきされた部材及び素材表面の異常状態によって素地の鋼材が部分的に露出することがある。
また、建方時の精度によっては、フィラープレートが新たに必要となったり、添え板を交換する場合が生じる可能性がある。フィラープレート・添え板(スプライスプレート)のめっきが部分的に欠落した部分には、めっきと同等の耐食性を備えた補修が必要となるがその方法としては次の2つの方法がある。
これらは、工場・工事現場等、環境によって、適用可能なものと、不可能なものがあるので、適切に判断しなければならない。ただし、工事現楊での施工性を考えると( i )高濃度亜鉛粉末塗料による方法が最も適している。
(i) 高農度亜鉛粉末塗料
90%以上の金属亜鉛粉末と展色剤からなる亜鉛の電気化学的防食能力をもつ塗料で、はけ1回塗りで50μm程度の塗膜が得られる。
(ii) 亜鉛の溶射
メタリコン用のガンで亜鉛を溶射するが、溶射部分はあらかじめブラスト処埋により表面を粗くしておき、被膜は80μm以上の厚みとする必要がある。
(2) 補修後の耐食性及び補修剤の密着性を確保するには次の、点に留意しなければならない。
(i) 周辺のめっき皮膜と同程度の厚さとする。
                                                                                   
(ii) 補修箇所の汚れ、錆等は完全に除去する。特に赤錆のようにはく離しやすい異物が残っていると補修剤の密着性が極端に低下する。
7.12.6 締付けの確認
(a) 締付けを完了しためっき高カボルトは全数について、一次締め後につけたマーキングにより、所要のナット回転角が与えられているかどうか目視により検査する。規定のナット回転量(首下長さが呼び径の 5倍以下、かつ、M12を超える場合は120゜)に対して+30°~ −30゜の範囲にあるものを合格とする。+30゜を超えて締め付けられたものはセットを取り替える。また、ナットの回転量の不足しているものについては、所定のナット回転量まで締め付ける。
(b) ナットとボルト・座金等がとも回りを生じているものはセットを取り替える。
(c) 一度使用しためっき高力ボルトのセットは、再使用してはならない。
(d) ナット回転法の締付け検査でトルクレンチを用いた検査を行わないのは、次の理由による。
(1) ボルトの軸力がナットの回転量により決まり、トルクと関連していない。
(2) マーキングのずれにより本締めが完了したことが外観で分かる。
なお、締付け検査は、受注者等に対する規定であり、監督職員の検査は「標仕」 7.4.8(f)に定められている。この場合は、受注者等の提出した検査記録に基づいて、適宜施工済みボルトを抽出し、検査を行う。

7章鉄骨工事 13節鉄骨工事の精度

第7章 鉄骨工事
13節 鉄骨工事の精度
7.13.1 一般事項
(a) 「鉄骨造の継手又は仕口の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1464号)により,表7.13.1に示す項目について限界値が規定された。①の限界値は、JASS 6付則6[鉄骨精度検査基準]における限界許容差と同じであるが、②の通しダイアフラムと梁フランジの関係は、JASS 6付則6では規定されていない。また、③は、JASS 6付則6よりも厳しい規定となっているので、注意が必要である。表7.13.1に示す項目についての検査方法補強方法等については、鉄骨製作管理技術者登録機構「突合せ継手の食い違い仕口のずれの検査・補強マニュアル」を参考にするとよい。
表7.13.1 溶接部の形状・寸法
表7.13.1_溶接部の形状・寸法.jpg
(b) 「標仕」7.3.3及び「標仕」7.10.2で、鉄骨の製作精度及び建方等の工事現場施工の精度は、JASS 6付則6によることとしている。次にその抜粋を示す。
鉄骨精度検査基準
この基準は、一般の構造物の主要な鉄骨の製作ならびに施工に際しての寸法精度の許容差を定めたものである。許容差は、限界許容差と管理許容差に区別して定めた。限界許容差は、これを超える誤差は原則として許されない最終的な個々の製品の合否判定のための基準値である。一方、管理許容差は、95%以上の製品が満足するような製作または施工上の目安として定めた目標値であり、寸法精度の受入検査では、検査ロットの合否判定のための個々の製品の合否判定値として用いられる。
寸法精度の受入検査において、個々の製品が限界許容差を超えた場合には不良品として、再製作することを原則とする。ただし、再製作できない場合にはそれに相当する補修を行い再検査に合格しなければならない。また、個々の製品が管理許容差を超えても限界許容差内であれば補修・廃棄の対象とはならない。管理許容差を合否判定値として抜取検査を行う場合、検査ロットが不合格となった場合は、当該ロットの残りを全数検査する。ただし、検査ロットの合否にかかわらず限界許容差を超えたものについては、工事監理者と協議して補修または再製作等の必要な処置を定める。
なお、本基準は以下に示すものには適用しない。
(1) 特記による場合または工事監理者の認めた場合
(2) 特に精度を必要とする構造物あるいは構造物の部分
(3) 軽微な構造物あるいは構造物の部分
(4) 日本産業規格で定められた鋼材の寸法許容差
(5) その他、別に定められた寸法許容差
付表1 工作および組立て
付表1_工作および組立て1.jpeg
付表1_工作および組立て2.jpeg
付表1_工作および組立て3.jpeg
付表2 高力ボルト
付表2_高力ボルト1.jpeg
付表3 溶 接
付表3_溶接1.jpeg
付表3_溶接2.jpeg
付表3_溶接3.jpeg
付表4 製 品
付表4_製品1.jpeg
付表4_製品2.jpeg
付表4_製品3.jpeg
付表4_製品4.jpeg
付表5 工事現場
付表5_工事現場1.jpeg
付表5_工事現場2.jpeg
付表5_工事現場3.jpeg
付表5_工事現場4.jpeg

7章鉄骨工事 14節資料

第7章 鉄骨工事
14節 資 料
7.14.1  溶接用語
JIS Z 3001-1(溶接用語一第1部:一般)
JIS Z 3001-2(溶接用語一第2部:溶接方法)
JIS Z 3001-4(溶接用語一第4部:溶接不完全部)
の抜枠を次に示す。
なお、JIS Z 3001-3(溶接用語一第3部:ろう接)は省略する。
JIS Z 3001-1:2013
4.1 共通
 
4.1.1 基本
JIS_Z3001-1_4.1.1_基本.jpeg
 
4.1.2 溶接部の性質
JIS_Z3001-1_4.1.2_溶接部の性質.jpeg
JIS_Z3001-1_4.1.2_溶接部の性質(溶着金属,溶融部,ボンド部).jpeg
 
4.2 試験
 
4.2.1 試験一般
JIS_Z3001-1_4.2.1_試験一般.jpeg
 
4.4 アーク溶接
 
4.4.3 溶接継手
JIS_Z3001-1_4.4.3_溶接継手.jpeg
JIS_Z3001-1_4.4.3_溶接継手(すみ肉のサイズ等).jpeg
4.4.4 溶接姿勢
JIS_Z3001-1_4.4.4_溶接姿勢.jpeg
  
4.6 特殊の溶接
 
4.6.5  ロボット溶接
JIS_Z3001-1_4.6.5_ロボット溶接.jpeg
 
4.7 ガス溶接及び熱切断
 
4.7.1 溶接・切断方法
JIS_Z3001-1_4.7.1_溶接・切断方法.jpeg 
 
JIS Z 3001-1 : 2013
JISZ3001-2:2013
 
4. 用語及び定義
4.3 融接
 
4.3.3  アーク溶接
JIS_Z3001-2_4.3.3_アーク溶接1(アーク溶接等).jpg
JIS_Z3001-2_4.3.3_アーク溶接2(サブマージアーク溶接等).jpg
JIS_Z3001-2_4.3.3_アーク溶接3(アークスタッド溶接).jpg
 
4.3.6 エレクトロスラグ溶接
JIS_Z3001-2_4.3.6_エレクトロスラグ溶接.jpeg
 
4.4 アーク溶接の施工
 
4.4.1 溶接施工
JIS_Z3001-2_4.4.1_溶接施工1(パス、ビード等).jpeg
JIS_Z3001-2_4.4.1_溶接施工2(溶込み等).jpeg
JIS_Z3001-2_4.4.1_溶接施工3(クレータ,止端,ウィービング等).jpeg
4.4.2 溶接施工管理
JIS_Z3001-2_4.4.2_溶接施工管理.jpeg
4.4.3 溶接補助材
JIS_Z3001-2_4.4.3_溶接補助材1(始端タブ、終端タブ).jpeg
JIS_Z3001-2_4.4.3_溶接補助材2(裏当て).jpeg
 
JIS Z 3001-2:2013
JIS Z 3001-4:2013
 
4. 用語及び定義
 
4.2 溶接不完全部一般
JIS_Z3001-4_4.2_溶接不完全部一般.jpeg
 
4.4 空洞
JIS_Z3001-4_4.4_空洞.jpg
 
4.5 介在物
JIS_Z3001-4_4.5_介在物.jpeg
4.6 融合不良・溶込不良
JIS_Z3001-4_4.6_融合不良・溶込不良.jpeg
 4.7 形状不良
JIS_Z3001-4_4.7_形状不良、4.8_その他の不完全部.jpeg
 
 
JIS Z 3001-4:2013
7.14.2 建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン
(a) 「建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン」が.これまでの「建築構造用鋼材の新しい品質証明方式」に代わり,2009年12月に(-社)日本鋼構造協会 建築鉄骨品質管理機構から発行された。本ガイドラインの骨子を次に示す。
(1) 鋼材等の品質確認は、書類による品質確認と現物の品質確認で行われる。
(2) 規格品証明書の原本を保有する工程(会社)が使用した鋼材の規格品証明料の内容をリスト化し,原品証明書(用紙C)を作成発行する。
(3) 用紙Cに基づき鉄骨製作業者は鉄骨工事使用鋼材等報告書(用紙B)を作成する。
(4) 用紙B、Cの表紙として用紙A1、A2を作成する。
(5) ミルシート及びその写しの提出を不要とする。
(6) ミルシートを提出する従来方式の場合によるか本方式によるかは事前に合意しておく。
(b) 「建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン」(2009年12月25日1版)の抜粋を次に示す。
なお、実際の工事に適用する場合は、ガイドライン本文を参照する必要がある。
建築構造用捐材の品質証明ガイドライン
 
1.2 本ガイドラインの活用の前提
 
1.2.1 自工程管理に基づく品質管理
 
施工者は鉄骨製作に必要な設計図書を設計者から受理して後、鉄骨製作業者へ支給する。その仕様に基づき鉄骨製作業者が材料を発注する。鉄骨製作業者が製作した鉄骨製品は施工者の受入検査を経て工事現場へ搬入され,工事現場で組立て、接合され鉄骨が完成する。そして施工者は建物完成後、施主へ引き渡す。このように鉄骨工事においては、施主と施工者、施工者と鉄骨製作業者という2段階の契約関係があり、施工者は建築工事の元請けとして鉄骨製品の品質についても責任を有する。
 
建築基準法で鋼材類(鋼板、形鋼)はJIS規格適合であることが規定されている。また、鋼材類は初期(製造出荷)段階でJIS規格適合も含む製品の個別識別がなされている。その鋼材類は、製造メーカーから鉄骨製作工場へ直接、あるいは切断などの中間加工をされて納入される。いずれの場合も初期段階で特定された鋼材類が、工程の各段階で間違いなく流通しなければならない。
 
鋼材類の流通過程の各段階で使用されている鋼材類の品質を確認し、その結果を書類に残し次の工程へ渡すことで結果として流通段階で間違い無く使用されたことが証明できる。
 
鋼材等の品質確認は「書類確認」と「現物確認」によって行われる。そして「書類確認」については、「規格品証明書の確認」がポイントとなる。(注1)
 
鉄骨の品質は関連する全ての工程で作りこむという自工程責任による自主管理を尊重することで過度の費用が発生しないようにする事ができる。本ガイドラインは特に鋼材類の流通や各工程段階での自主管理を明確に打ち出したものと考えることができる。
 
施工者は鉄骨製作業者を通して提出される書類の内容を確認することで材料管理の証しとすることになる。そのため、書類の内容について施主や行政機関に説明ができるように鉄骨製作業者の材料管理体制・方法や鉄骨製作業者から材料の切断などの発注を受ける中間加工業者の管理体制を把握しておくことも重要である。
 
 
なお、規格品証明書の記載内容(機械的性質、化学成分)のレベル(例えば、化学成分値の多少など)や実際に使用された鋼材類から試験片を採取して、機械試験や化学成分分析を行って記載内容と照合を行うなどは考えていない。但し、当事者間の協議などで化学成分値を試験する場合、携帯型分析器で分析したり鋼材から試験片を採取して分析する方法がある。なお携帯型分析器には機械によって分析可能な成分に違いがあったり、シールドガスが必要となるなど特徴があるので使用にあたっては注意が必要である。
 
本ガイドラインでは、流通過程で切断などの工程がある「鋼材類」を主に対象とする。但し、証明書には溶接材料、高力ボルトなどを含むため呼称は「鋼材等」としている。
 
(注1)
規格品証明書の定義はJASS6による。JASS6では、規格証明書について「JIS、その他の団体などの公的に認知された規格があり、その報告規定に基づいて製造業者が発行する証明書。もしくは、国土交通大臣認定品に適合することを証明する書類で、社名・捺印のあるものを言う。」と規定されている。
 
 
1.2.2 裏書ミルシートに代わる原品証明書の採用
 
本ガイドラインで提案されている鋼材品質証明の方法は、いわゆるミルシート提出方式に代わるものである。結果としてミルシートの提示・提出が不要となるものである。一見、管理レベルが下がったかのように思われるが実際に切断を行う業者にとっては材料の出所を明確にし、記録に残すことが求められ、本ガイドラインによって原品証明書を作成・管理するのは、むしろ厳しい管理方法である。また、作成した書類が最終的に使用材料のJIS適合証明の証拠となるものであり責任も重くなる。
 
したがって、原品証明書の採用にあたっては、提出方法、保管方法、保管期間、業務対価等について事前に工事関係者で文書合意しておくこととする。
 
また、ミルシートについては提出を義務としないこととしているが、本ガイドラインによる証明方法へ移行するまでの間、鋼材の品質確認を”原品証明書による”のか”規格品証明原本、裏書きミルシートの提出による”のかについても、事前に工事関係者の合意により決定しておく。(注2)
 
(注2)
ミルシート提出方式においては、いわゆる紐付き材について、材料と工事名を紐付け管理するために、規格品証明書に需要家名として材料を購入した会社名でなく、部材を使用する需要家・工事名称を記載する場合がある。
切板会社やファブリケーターの在庫材についてはミルシートの需要家名や工事名が異なっていても、トレーサビリティが確保されていれば使用に問題はない。
今後、原品証明書方式を基本とすることから、原則として需要家名は材料購入会社名を記載することとし、材料の取り扱い(他工事への使用など)は購入会社の自由裁量とする。
 
 
1.2.3 証明コストの負担と発注仕様への明示
 
本ガイドラインに沿って.鋼材の加工業者等が使用した鋼材について証明書の作成を行うために必要な作業や記録の保全については、一定のコストが生じることは事実である。このため、建築の施工者は鉄骨製作業者等に対して、証明書の作成.提出を発注仕様書に明示する等により契約業務として明確化しその費用を支払う必要があり、鉄骨製作業者は.その前段の鋼材の流通、加工、生産業者に対して同様の対応をとる必要がある。
 
こうしたコストは、最終的に建築費の一部となり建築主が負担することになるが、建築用鋼材の品質は建物利用者の生命等の安全に直結するものでありかつ、万一鋼材が誤用されたときの被害の大きさに鑑みれば、建築主においては、使用鋼材等が明らかにされていない建築物の受け渡しを受けるべきでなく、コスト削減を名目に省略されてはならない不可欠な負担であることを理解する必要がある。さらに建築主は、建築主事等による検査受検の申請者として、使用鋼材等が法令に適合していることに関する書類等を提出する立場にもある。
 
このため、建築主に対する意識啓発について行政も含め建築界全体として取り組む必要があるとともに、施工者においては、建築主との個別の契約において、本ガイドラインに沿った報告書等の提出を業務内容とする必要がある。
 
なお、鋼材を使用したそれぞれの工程で使用鋼材を明らかにする本ガイドラインの方法は、施工者が施工現楊における成分検査により使用鋼材を事後的に特定するなどの他の方法よりも合理的で、全体としての証明コストが低いことは明らかである。
 
 
2. 鋼材等の品質確保のフロー
 
2.1 書類による品質確認
 
書類による品質確認の流れの概略を以下に示す。
 
(1) 各工程(会社)が行った品質確認の結果は原品証明書(用紙C)にとりまとめ次の工程(会社)へ提出する。
 
この原品証明書は鋼材等の規格品証明書原本(ミルシート)を保有し加工を行った工程が作成する。この会社には一般流通業者(問屋)で自社保有材を少量販売する会社も含まれる。
 
原品証明書を取りまとめた工程は、その鋼材等の品質を確認した結果について保証する責任を負う。但し、規格品証明書の記載内容に関して保証責任は無い。
 
(2) 原品証明書を作成する工程は、原品証明書から規格品証明書原本へ遡れることが可能な仕組みを構築しなければならない。
 
(3) 鉄骨製作業者は.使用した鋼材等の品質を確認した結果を「鉄骨工事使用鋼材等報告書」(用紙B)にまとめ、用紙Cとともに施工者に提出する。(注3)
 
なお、鉄骨製作業者の確認は前工程(会社)の発行した原品証明書を確認する方法と自社工程を確認する方法の二つがある。
 
また,鉄骨製作業者の会社様態によっては、製作を担当する製作工場が行う場合もある。
 
 
(4) 施工者は.書類および現物の確認後その結果を「鉄骨工事使用鋼材等報告書」(用紙A2を表紙として、用紙B、Cとともに)として工事監理者に提出する。
 
(5) 工事監理者は、内容を確認し発注者である施主に報告する。その後、施主の代理として中間検査・完了検査時に特定行政庁、建築主事ないしは、確認検査機関に提出または提示する。(用紙A1を表紙として、用紙A2,用紙B,   Cとともに)鉄骨工事における鋼材、確認書類の流れ、関連関係者の行為については、付録aも参照。
 
(注3)  JASS6では、鉄骨工事の元請けとして施工者(ゼネコン)、鉄骨製作の受注者を鉄骨製作業者(ファブリケータ)としている。本書でも、定義はこれに倣う。
 
 
2.2 現物の品質確認
 
(1) 本ガイドラインでは鋼材類の現物での確認方法を原則、塗色識別によることとしている。従ってSS・SM材のようなプリントマークの無いSN鋼材以外にも適用できる。
 
現物確認の方法としてSN材でのプリントマーク、形鋼類でのラベル確認も有効であるが、保管期間、取扱い不備で消える、読み難い、剥がれるなどが懸念される。このような不具合が無く明瞭に識別可能な場合にはSN材でのプリントマーク、形鋼類でのラベル確認も適用できる。なお、鋼材の識別表示は原則、付録bに示す日本鋼構造協会規格(JSS I 02 2004)による。また、鋼材のマーキング、ラベル表示例を付録c、高力ボルトヘッドマーク一覧表を付録d、溶接材料の原品表示例を付録 e、およびアンカーボルトの表示例を付録 f に示す。(注4)
 
(注4)
原品の識別方法として、切断部材に部材番号を記入する場合がある。規格識別の番号記入や多桁数の番号記入など要求仕様は様々であり、また番号記入ができない小物部材等もあり、部材番号記入については、事前に記入方法、作業費用等につき文書合意しておくこととする。
 
 
3. 本ガイドラインで使用される書類について
 
3.1 原品証明書〈用紙C〉
 
(1) 規格品証明原本を保有し最初に作業する工程(会社)は保有する規格品証明書原本内容をリスト化し、原品証明書を作成・発行する。(注5)
 
原品証明書の発行タイミングは、工事の節・工区などの単位に纏めて発行することを基本とし、事前に関係者にて取り決めておくこととする。
 
これ以降の工程は直前工程の発行した原品証明書から必要項目を転記し、原品証明書を作成する。
 
 
(2) 規格品証明書原本、規格品証明書原品のコピー、原品証明書は適切な期間保有する。保管期間が過ぎた場合は破棄できる。
保行期間が法令で定められた場合、あるいは設計図書の特記のような別規定がある場合はそれに従う。改正建設業法において、「営業に関する図書の保存が引渡し後、10年」と定められた。これに準拠して保存期間を定める施主、施工者などもあると考えられるので工事開始前に関係者で保存の方法・期間・管理費用等について文書合意しておくことが重要である。なお、鉄鋼メーカーにおいては規格品証明書の現物やデータの保存期間は、各社の判断となっている(今後JIS認証制度等において保存期間を定めることも提案されている)。
なお、通常の商行為で使用する納品書などの扱いについてはここでは関与しない。
一般流通業者(問屋)が自社保有材料を少量販売する場合、規格品証明書原本、原本相当規格品証明書、原品証明書に対応する鋼材類が全て使用された場合は、保管期間の間はファイルする必要がある。
また、鉄骨製作業者は、一般流通業者や切板会社への発注の際には、発注先の会社がトレーサビリティーをとれているところかどうかを留意して選定する必要がある。
 
 
(3) 原品証明書を受け取る工程(会社)は、原品証明書を発行する工程(会社)の発行に関わる管理が適切に行われているかの確認を適時行う義務がある。
特に、残材(端材)の管理方法(ラベル、ステンシルが残されているか、あるいは転記されているか。切断報告書にこれらの記載があるか等)に留意する必要がある。
なお、その確認の頻度は特に定めないが、ISO認証の有無などを考慮して当事者間で協議する。
 
 
(4) 使用鋼材が発注仕様に適合していることの説明責任(立証責任)は鉄骨製作業者他、鋼材を調達した者が負う。従って、鉄骨製作業者の材料管理責任者は、原品証明書から規格品証明書原本へ遡ることが可能かどうかなどを確認しなければならない。
 
 
(5) 原品証明書の記載事項は以下の通りとする。
・日付、当該業者名、責任者名、署名あるいは捺印
・整理番号
・部材・部品あるいは記号:柱・梁(フランジ・ウェブ)、ブレース、アンカーボルト、ダイアフラム
・規格、種類:JIS規格、国土交通大臣認定
・寸法、数量(重量)
・メーカー名:鉄鋼メーカー、中間加工業者
・証明書番号、製品番号
製品番号:規格品証明書原本において個々の製品を特定できる項目名とする。
スプライスプレート、リブプレート、ガセットプレートについては.記載項目は、部位・部材、規格、メーカー名のみとする。
なお、納品書、送り状など既に使用している帳票を利用する場合で、上記項目で鋼板番号等の不足な項目がある場合は別途、同帳票に追記し、原品証明書とすることもできる。
(記載スペースが無い、価格が表示されているなどで当事者外への提出が難しい場合は規格品証明書原本をリスト化した原品証明書を作成する)。
(6) 原品証明書以外の添付書類は原則不要とする。
添付書類の提出を求める場合は、必ず事前に書類内容、提出方法、対価等につき関係者の合意により決定しておくこととする。
(注5)
JASS 6では、「原品証明書とは、規格品証明書(原本相当規格品証明書を含む)のついている鋼材の切断・切削・孔あけなど中間加工を施す業者、あるいは一般流通業者(問屋)が少量販売する鋼材に付して発行する証明書」と定義しているが、本ガイドラインでは規格品証明再原本を保有する鉄骨製作業者が作成する証明書も加える。
 
 
3.2 鉄骨工事使用鋼材等報告書〈用紙B〉
 
(1) 鉄骨製作業者は、製作の元請けとして原品証明書に基づき「鉄骨工事使用鋼材等報告書」を作成する。
 
記載項目は以下の通りとする。
 
・日付、鉄骨製作業者名、材料管理責任者名・捺印、鉄骨製作管理技術者登録番号
・部位・部材:柱・梁(フランジ、ウェブ)、ブレース、アンカーボルト、ダイアフラム、溶接材料、高カボルト、スプライスプレート、リブなど
・規格、種類:JIS規格、国土交通大臣認定
・品種、形状:鋼板、鋼管、切板、H形鋼・・
・納入者  :鉄鋼メーカー、中間加工業者
・規格確認方法:現物・書類確認の方法
・証明書ページ:原品証明書の検索用
 
 
(2) 書類構成
 
表紙、鉄骨工事使用鋼材等証明書、原品証明書
・添付科類について
原則として添付書類は不要とする。
 
(3) 作成対象とする部位・部材を以下に示す。
 
下記の部位・部材を対象とする。但し、別途指示がある場合はそれによる。
柱:柱体、仕口内スチフナー、ダイアフラム、フランジ ・ウェブ
大梁、小梁:フランジ ・ウェブ
ブレース、アンカーボルト、スプライスプレート、リブプレートなど
 
 
3.2. 補  鉄骨工事使用鋼材等証明書作成時の対象部位・部材について
ガイドライン_3.2.補_鉄骨工事使用鋼材等証明書作成時の対象部位・部材について.jpeg
ガイドライン_3.2.補_鉄骨工事使用鋼材等証明書作成時の対象部位・部材について2.jpeg
 
 
3.3 鉄骨工事使用鋼材等報告書〈用紙A2〉
 
施工者が工事監理者に提出する際に作成するもの。前記の原品証明書、鉄骨工事使用鋼材等証明書を確認した上、これらの表紙として用紙A2を作成する。
 
 
3.4 鉄骨工事使用鋼材等報告書〈用紙A1〉
 
工事監理者が建築主事等に提出する際に作成するもの。前記の原品証明書、鉄骨工事使用鋼材等証明書、施工者が発行した鉄骨使用鋼材等報告書を確認した上、これらの表紙としてA1を作成する。
 
 
4. 鋼材類と報告書の流れ例
 
鋼材類と報告書の流れをいくつかのケースに分けて示す。これらは代表的な流通過程のモデル化である。この他にも流通形態があると思われるが、本ガイドラインの主旨を理解して適用することが必要である。
 
また、流通過程で関与する商社など一部の機能は省略している。
 
このフローで示している「納品書、送り状」は、加工された製品に関するものを指している。
 
【 ケース1 】
 規格品証明書原本は鉄骨製作業者が保有する場合。
ケース 1-1
鉄骨製作業者がロール発注し、鋼材、規格品証明書原本がメーカーから鉄骨製作業者へ送られる場合。
ガイドライン_4.鋼材類と報告書の流れ(ケース1-1).jpeg
ケース 1-2
鉄骨製作業者がロール発注する。鋼材は中間加工業者で切断などの加工をされ鉄骨製作業者へ送られる。規格品証明書原本は中間加工業者を経由しないで、メーカーから鉄骨製作業者へ送られる場合。
ガイドライン_4.鋼材類と報告書の流れ(ケース1-2).jpeg

 ● 中間加工業者は、厚板シャーリング業者(外注・委託シャーリング業者を含む)、ガセットなど専門の中間加工業者、BH業者、B-BOX業者、コラム業者が該当する。中間加工業者は、鉄骨製作業者からの発注者に基づいた加工を行い、納品書、送り状を添え、製品を納入する。
なお、コラムについてはケース4、BH業者、B-BOX業者についてはケース5に示している。

 
 

鉄骨製作業者が、孔明け、切断、溶接等の作業を単に外注した場合は、その元請けたる鉄骨製作業者の責任の範囲とし書類の作成を行う。

 
 
【 ケース2】
規格品証明書原本は問屋または中間加工業者が保有する場合。
 
 
ケース2-1
1次問屋または中間加工業者は自社保有の材料を使用して鉄骨製作業者からの発注書に基づいた加工を行い、用紙Cを作成し、提出する。納品書、送り状を添え、加工済鋼材類を納入する。
ガイドライン_4.鋼材類と報告書の流れ(ケース2-1).jpeg
 
ケース2-2
 
鉄骨製作業者には、1次の中間加工業者から納入される。1次の中間加工業者へは2次問屋または中間加工業者から鋼材等が納入される。
 
鉄骨製作業者と売買を行う1次中間加工業者は鉄骨製作業者からの発注書に基づいた加工を行い、2次問屋または中間加工業者の発行した原品証明書、納品書、送り状を基に用紙Cを作成し、納品書、送り状を添え、加工済鋼材類を納入する。
ガイドライン_4.鋼材類と報告書の流れ(ケース2-2).jpeg
 
 

● 中間加工業者の定義、作業を単に外注した場合の考え方は、ケース1-2と同様である。中間加工業者間で材料(在庫材)手配を含め切断を委託する場合は、ケース2-2に相当する。

 
 
【 ケース3】
鉄骨製作業者が手持ちの余材を使用した場合。
 
 ガイドライン_4.鋼材類と報告書の流れ(ケース3).jpeg

ケース3-1 ケース1の場合の余材:ケース1の方法による。
ケース3-2 ケース2の場合の余材:ケース2の方法による。

 
 
 
5.2 書 式
 
5.2.1 用紙A1表紙
ガイドライン_5.2.1_用紙A1表紙.jpeg
 
5.2.2 用紙A2表紙
 ガイドライン_5.2.2_用紙A2表紙.jpeg
 
5.2.3 用紙B:鉄骨工事使用鋼材等報告書
ガイドライン_5.2.3_用紙B_鉄骨工事使用鋼材報告書.jpeg
ガイドライン_5.2.3_用紙B_鉄骨工事使用鋼材報告書、節毎の2ページ以降.jpeg
 
5.2.4 用紙C:ケース1-1, 1-2 鉄骨製作業者が証明書を作成する場合

●ケース1-1 鋼材、規格品証明書原本は鉄件製作業者へ

ガイドライン_5.2.4_用紙C:ケース1-1_鉄骨製作業者が証明書を作成する場合1.jpeg
ガイドライン_5.2.4_用紙C:ケース1-1_鉄骨製作業者が証明書を作成する場合1.jpeg
 

● ケース1-2 規格品証明再原本は鉄骨製作業者へ,中間加工業者が加工する。

 ガイドライン_5.2.4_用紙C:ケース1-2_鉄骨製作業者が証明書を作成する場合2.jpeg
 
 

●ケース3:鉄骨製作業者が手持ちの余材を使用した場合
ケース1の場合の余材の時はケース1に、ケース2の場合の余材の時はケース2に倣う。

 
 
5.2.5 用紙C:ケース2  中間加工業者が証明書を作成する場合      
【用紙C】
 
 

● ケース2 :規格品証明書原本は中間加工業者:原本を持つところが証明書を作成する。

ガイドライン_5.2.5_用紙C(ケース2)中間加工業者が証明書を作成する場合.jpeg
建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン

7.14.3 SN鋼材材質識別表示記号・位置及び鋼材の識別表示標準
(a)「SN鋼材材質識別表示記号・位置」(新しい建築構造用鋼材より)を次に示す。
SN鋼材材質識別表示記号・位置
7.14.3_SN鋼材材質識別表示記号・位置及び鋼材の識別表示標準.jpeg
(b) 日本鋼構造協会規格JSS I 02(鋼材の識別表示標準)の抜粋を次に示す。
JSS  I 02-2004
  表 – 1 識別色および塗色方法
JSS_Ⅰ_02-2004_表-1_識別色および塗色方法.jpeg
参考文献
参考文献.jpeg

8章 コンクリートブロック工事等 1節 共通事項

8章 コンクリートブロック、ALCパネル及び押出成形セメント板工事

01節 共通事項
8.1.1 一般事項

この章で取り扱う主要な材料ごとの適用範囲は次のとおりである。

(ア) コンクリートブロック:
小規模補強コンクリートブロック造、帳壁(内・外壁)及び塀(高さ2.2m以下)

(イ) ALCパネル:屋根(非歩行用)、床、外壁及び間仕切壁

(ウ) 押出成形セメント板(ECP):外壁及び間仕切壁

8.1.2 基本要求品質

(1) この章で対象とするコンクリートブロック、ALCパネル及び押出成形セメント板は、いずれもセメント系の工場生産品であり、材料の寸法や品質等の規格がJISで定められているので、これに適合するものを用い、そのことが分かるようにしておく。

(2) コンクリートブロック、ALCパネル及び押出成形セメント板は、一般的に、仕上材の下地として用いられる。したがって、適切な位置に正しい方法で精度よく取り付けられていないと、次工程の仕上げに悪影響を及ぼすだけでなく、耐震性や構造耐力上の欠陥となる場合もある。このため、施工方法や取付けの詳細、施工精度や管理の方法等を品質計画として 施工計画書や施工図等で明確にし、これによって施工を進め、管理した結果が分かるようにしておく。

(3) コンクリートブロック、ALCパネル及び押出成形セメント板では、構造耐力上必要な強度や耐久性をもつものが特記されることが原則となっている。また、「標仕」で、取付け工法や耐火性能を確保するために必要な事項等が規定されている。「構造耐力、耐久性、耐火性等に対して有害な欠陥がないこと。」とは、例えば、ブロック工事では、設計図書で鉄筋の種類や径、継手や定着の位置、長さ、かぶり)厚さ等が定められているので、これらの仕様をまもり、施工の手順、精度、管理の方法等について、品質計画で具体的に記載し、これによって施工及び管理したことが分かれば、要求された性能を満たしていることになる。

8章 コンクリートブロック工事等 2節 補強コンクリートブロック造

8章 コンクリートブロック、ALCパネル及び押出成形セメント板工事

2節 補強コンクリートブロック造

8.2.1 一般事項

(1) 「標仕」8.2.1で規定している適用範囲は、空洞ブロックを組積し、鉄筋で補強された耐力壁による小規模な構造物としており、補強コンクリートブロック造の3階建以下を想定している。部分的に型枠状ブロックを用いる場合も基本的には本節を参考にして工事を行う。

(2) 作業の流れを図8.2.1に示す。

図8.2.1 補強コンクリートブロック造工事の作業の流れ

(3) 施工計画曹の記載事項は、概ね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(施工図の作成、各工区別の着工・完了等の時期)
② 施工業者名、作業の管理組織
使用材料及び品質(コンクリートブロック、コンクリート、鉄筋、モルタル)
コンクリート及びモルタルの調合並びに充填方法
⑤ ブロック割りの基準
⑥ 一般部分の工法(鉄筋間隔、定着方法、継手の工法及び位置、ブロックの積み方)
⑦ 一日の枚上げ高さの限度(1.6m)
ブロック壁の取合い部の工法
開口部まぐさの工法及びその周辺の補強方法
がりょうの工法
⑪ 建具枠の取付け方法
⑫ アンカーボルト、木れんが、諸金物等の埋込みの必要な箇所及び処置の方法
⑬ 他の材料による柱、壁等との取合い部の処置の方法
⑭ 設備配管、ボックス類の取付け方法
⑮ 寒冷期の施工に関する対策(シート養生、採暖養生等)

作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等

(4) コンクリートブロックの施工に関して、「ブロック建築技能士」の資格制度が設けられている。

8.2.2 材 料

(1) ブロックの種類は、「標仕」8.2.2ではJIS A 5406(建築用コンクリートブロック)に適合するものとし、種類、モデュール呼び寸法及び正味厚さは全て特記により指定されることになっている。特記のない場合、空洞ブロック、圧縮強さC(16)とするとよい。正味厚さは、構造物の規模や使用場所等で決まる。モデュール呼び寸法は、長さ400mm、高さ200mmであり、市販されているブロックのほとんどのものがこのモデュール呼び寸法であるが、これ以外のモデュール呼び寸法のものが用いられる場合には、必ず特記される。

JIS A 5406では、2017年の改正で、環境保全の立場から、セメントとしてJIS R 5214(エコセメント)に規定する普通エコセメントが認められることになった。これは、強度及び耐久性に関する試験データの蓄積が認められ、また、関係官庁において用途拡大について検討されてきた結果、国土交通省における建築材料への利用制限が解除されたことによる。同様に骨材も、スラグ骨材(JIS A 5011-1、JIS A 5011-2、JIS A 5011-3、JIS A 5011-4)、コンクリート用再生骨材(JIS A 5021、JIS A 5022)やこの規格に規定するブロックを破砕した再生骨材も認められており、ブロックヘの表示も不要となった。これらの使用に当たっては法規上の制限もあるので、注意と確認が必要である。

(ア) JIS A 5406では種類として次の6つに区分している。

(a) 断面形状による区分としては、図8.2.2に代表的な形状を示すように空洞ブロック及び型枠状ブロックの2種類に分けられ、空洞ブロックの配筋されている部分には必ずモルタル又はコンクリートを充填することを想定したものであり、型枠状ブロックは空洞部全てにコンクリートが充填される打込み型枠としての機能をもつものである。

(b) 外部形状による区分として、空洞ブロックは基本形ブロック、基本形横筋ブロック及び異形ブロックの3種類に、型枠状ブロックは基本形横筋ブロック及び異形ブロックの2種類に区分された。用語の定義が変更され、基本形ブロックとは空洞ブロックのうち、建築物の組積体に使用する基本的な形状のもので、一方向だけ鉄筋の配置が可能な空洞部をもつ形状のブロックである。基本形横筋ブロックとは、縦横二方向の鉄筋の配置が可能な空洞部をもつ形状のブロックであり、空洞ブロックではこの形状のみで構築されることの多い「ブロック塀」用が想定されたと考えられる。型枠状ブロックの基本形は、基本形横筋ブロックとなる。異形ブロックは隅(コーナー)用、まぐさ用、半切などの用途 によって外部形状の異なるブロックで、基本形ブロック及び/又は基本形横筋ブロックと組み合わせて使用するブロックと定義されている。

(c) 圧縮強度による区分では、空洞ブロックの正味断面圧縮強さの20N/mm2を追加し、D(20)とした。これは高強度ブロックや肉厚を薄くして軽量化したブロックなどが開発されていることも考慮したものである。また、角柱切出し試験体で求める正味断面圧縮強さにより区分し、整理した。

(d) 化粧の有無による種類として素地ブロックと化粧ブロックの2種類に区分される。

化粧ブロックとは、フェイスシェル表面に、割れ肌仕上げ、こたたき仕上げ、研磨仕上げ、塗装仕上げ、ブラスト仕上げ、リブなど、意匠上有効な仕上げをほどこしたブロックと定義され、素材そのものへの着色等は除外されている。

(e) 防水性による種類として普通ブロック及び防水性ブロックの2種類に区分され、防水性ブロックの記号はWが表示される。型枠状ブロックの透水性規格値が変更されたので使用する場合には注意が必要である。

(f) 寸法の許容差による種類として普通精度ブロックと高精度ブロックの2種類に区分され、高精度ブロックの記号はHが表示される。記号が「E」から「H」に変更されたのは、圧縮強さの区分に「D」が追加されたことにより「D」に連続する「E」では誤解を招くおそれがあると懸念されたためである。ほとんどのブロックは、普通精度ブロックである。

図8.2.2 建築用ブロックの断面形状の例(JIS A 5406 : 2017)
(イ) ブロックの種類を表8.2.1に示す。
表8.2.1 ブロックの種類(JIS A 5406 : 2017)

(ウ) ブロックの性能を表8.2.2に示す。

表8.2.2 ブロックの性能(JIS A 5406 : 2017)
(エ) 基本形ブロックのモデュール呼び寸法及び標準目地幅を図8.2.3に、長さ、高さ、実厚さ、正味厚さの例を図8.2.4に示す。
なお、補強コンクリートブロック造では、空洞・基本形ブロックで10mm目地とし、長さ×高さのモデュール呼び寸法は400×200(mm)が一般的である。したがって、長さ×高さの実寸法は390×190(mm)となる。正味厚さは補強コンクリートブロック造の規模(階数)や部位(耐カ・非耐力壁等)によって最小厚さが定められているので規定の厚さ以上とする。100mm、120mm、150mm、190mmが一般的である。化粧ブロックを用いる場合の厚さとは、実厚さではなく、正味厚さを示すので注意が必要である。

図8.2.3 モデュール呼ぴ寸法及び標準目地幅(JIS A 5406 : 2017)

図8.2.4 長さ、高さ、実厚さ、正味厚さ及び正味肉厚の例(JIS A 5406 : 2017)

また、モデュール呼び寸法、正味厚さ及び標準目地幅を表8.2.3に示した。要求のある場合には、受渡し当事者間の協議によって表に示す範囲を超えてもよいこととなった。

表8.2.3 モデュール呼び寸法、正味厚さ及び標準目地幅(JIS A 5406 : 2017)

(2)充填用コンクリートの粗骨材の最大寸法は、鉄筋を挿入する空洞部最小径の1/5以下、かつ、砂利は20mm以下、砕石の場合は15mm以下としている。鉄筋を挿入する空洞部の寸法を表8.2.4及び図8.2.5に示す。例えば、空洞部の最小幅を70mmとした場合、70mm×1/5 =14mmとなり通常粗骨材最大寸法10mmの豆砂利を用いることになる。

表8.2.4 鉄筋を挿入する空洞部の寸法(JIS A 5406 : 2017)


 図8.2.5 鉄筋を挿人する空洞部(JIS A 5406 : 2017)

(3) 鉄筋は5.2.1を参照する。ただし、鉄筋はSD295、SD345とする。また、曲戻し等の有害な加工を行ったものを用いてはならない。

(4) モルタル用材料は、「標仕」15.3.2を参照する。ただし、セメントは「標仕」6.3.1によるものを用いる。

(5) ブロックは、種類によって区分し、雨水を吸水しないように、又汚れの付着や欠けなどが発生しないように、適切な養生を行って保管する。

8.2.3 モルタルの調合

モルタルの調合は、特記によるとしている。従来は、目地幅が10mmでの組積が一般的であり、「標仕」表8.2.1で対応可能であった。この調合で通常の場合は、「JASS 7 メーソンリー工事」に解説されているとおり、18N/mm2以上の強度は担保されている。しかし、近年は薄目地(5mm程度)用のブロックが用いられる場合もあり、D(20)の ブロックがJIS規格に追加されたことなどから、薄目地等の場合は、特記により調合計画を作成し監督職員の承諾を受けることとなった。また、既調合モルタルの使用も増加している。(-社)日本建築学会「補強コンクリートブロック造設計基準」では、壁体の目地及び空洞部の充填に使用するモルタルの4週圧縮強度を18N/mm2以上としている。

8.2.4 コンクリートの調合

「標仕」8.2.4による空洞部への充填用コンクリートの調合は、「標仕」表8.2.2の容積調合又は呼び強度 21、スランプ21cmのレディーミクストコンクリートとしている。通常、充填用コンクリートには、空洞部の大きさを考慮して豆砂利コンクリートが用いられる。
「標仕」表8.2.2に示すコンクリートのスランプは、「標仕」表6.2.2に示すスランプの値より大きいので、目視による分離の有無を必ず確認する。

充填部以外のまぐさ、がりょう、立上り基礎、スラプ等に使用するコンクリートは「標仕」6章[コンクリート工事]によるとしている。

8.2.5 鉄筋の加工及び組立

(1) 一般事項

(ア) 縦横筋のかぶり厚さは、鉄筋を覆うコンクリートやモルタルの厚さの最小値をいい、空洞ブロックのフェイスシェルの厚さは含まない。「標仕」の最小値20mmは、図8.2.6による。

縦筋は、基礎コンクリート打込み時に移動しないように、縦筋中間部への振れ止め用の足場等の設置や頂上部のフックの位置を正確な位置に固定する(図8.2.7参照)。

縦筋が、施工中に揺れを生じると、モルタルとの付着力低下や目地切れを誘発するおそれがあるので、必ず振れ止めで固定する。

図8.2.6 かぶり厚さ

図8.2.7 基礎梁配筋工事における補強ブロック造耐力壁縦筋固定方法の例

(イ) 横筋は、図8.2.6及び図8.2.8に示すように壁端部縦筋に180゜フックとし、かぎ掛けとする。直交壁がある場合は、直交壁に定着させるか、直交壁の横筋に重ね継手とする。

横筋の重ね継手長さは45d、定着長さは40dとし、かぶり厚さ確保のために、できるだけ縦に重ねる。

また、横筋と縦筋の交差部の要所を径0.8mm以上の鉄線で結束する。

図8.2.8 補強ブロック造耐力壁の配筋例(壁式構造配筋指針より)
(2) 各部の配筋

(ア) 壁の配筋(交差部、端部の補強筋を含む。)は特記によるとしている。最近では、交差部及び端部に型枠を用いることはほとんどなく、異形ブロックを加工して構成する場合や、型枠状ブロックを加工して構成する場合が多い。

(-社)日本建築学会「壁式構造配筋指針・同解説」、同「壁式構造関係設計規準集・同解説(メーソンリー編)」、「JASS7」等、を参考にするとよい。

(イ) まぐさは出入口又は窓等の開口部の上部に設ける水平部材で、まぐさの上部の荷重を受け持つため、鉄筋コンクリート造とし、配筋は特記による。プレキャストコンクリート製等の既製まぐさを用いる場合は配筋、曲げ強度、寸法等を考慮する。

8.2.6 縦遣方

縦遣方は、ブロックが所定の位置に正しく組積できるように図8.2.9のように他の作業中に移動しないように独立したものとする。縦遣方が正確に設置されないとコンクリートブロック造の性能に大きく悪影響を及ぼすだけでなく、他工事にも影響を及ぼすので、監督職員は位置や固定状況等について確認を行う。

図8.2.9 縦遣方の建方の例(比較的大工事の場合)

8.2.7 ブロック積み等

ブロック積みは、「標仕」8.2.7によるほか、次の点に注意する。

(ア) 根付け部分のコンクリートが過度に乾燥している場合や防水性ブロック以外で吸水率の高いブロックを使用する場合は、モルタルの水分が吸収されてドライアウトし、硬化に悪影響を及ぼすので、水湿しを行う。ただし、吸水率の低いブロックを水湿しすると、余剰水が界面部のモルタルの水セメント比を高くし、強度低下となる場合もあり、このような場合は水湿しを行わない。

(イ) 縦遣方を基準として水糸を張り、水糸にならって隅角部より各段ごとに順次水平に積み回る。

(ウ) テーパーにより上下でシェル厚が異なるブロックは、シェル厚の厚い方を上にして構む。

(エ) 目地モルタルは、構造耐力上・防水上支障が生じないように、ブロック接合面全面(フェイスシェル及びウェプ部分)に設ける。

(オ) 所定のかぶり厚さが確保でき、縦筋位置が固定できる箇所や開口部・端部等のフック部分等の縦筋と横筋の交差部の要所は、結束線で緊結する。ただし、縦筋が固定され、移動のおそれがない場合は、結束線による緊結を省略できる。

(カ) 積終わりには降雨時に水がたまらないよう養生する。

(キ) がりょうは、ブロック壁の頂部を固定する役目がある。がりょうに打ち込むコンクリートがブロック壁空洞部に落下しないようにがりょうのすぐ下のブロックには基本形横筋ブロックを使用する。また、がりょう部の型枠とブロックとの取合い部は目地棒等を用い、水漏れがないようにする。

(ク) まぐさは、開口幅が比較的大きい場合は図8.2.10及び図8.2.11に示すように配筋してコンクリートを打ち込んだRC造とする。型枠には合板のほか、溝型ブロック、型枠状ブロック等も用いることができる。

 

図8.2.10 現場打ちコンクリートによるまぐさ

図8.2.11 既製まぐさ用部材使用例

(ケ) 目地モルタルの硬化以前に目地ごてで目地ずりをするとともに、化粧積み面の汚れをブラス等で清掃する。目地ずりは目地モルタルの表面強度を高め、ブロックと目地モルタルとの接着性を良くするので、耐力上、防水上重要な作業である。

(コ) 化粧目地仕上げは、目地モルタルがある程度硬化後に行い、そのちり(ブロック表面の面と目地仕上げ面の差)が目視で違和感がない状態に仕上げる。

8.2.8 モルタル及びコンクリートの充填

(1) ブロックの吸水率が大きい場合や、夏期で高温乾燥状態の場合は、充填モルタルやコンクリートの水分がブロックに吸収されドライアウトとなりやすいので、充填する空洞部に適度の水湿しを行う。

(2) 逐次充填工法では、縦目地空洞部へのモルタル又はコンクリートの充填は、目地モルタルが安定した後、ブロック2段以下ごとに丸棒等を用いて、鉄筋の移動がないように注意しながら丁寧に突き固める。1日の作業終了時は、ブロックの上端から5cm程度下がり位置で止める。

(3) 充填材料としてのモルタル又はコンクリートの混練量、配合や骨材の最大寸法は、一度に充填する量、空洞部の寸法等を考慮して決める。

(4) 空洞部の寸法が小さいので打込み高さが高いと充填が不完全になりがちである。

打継ぎ位置はブロック上端から5cm程度下がった位置とする。これは防水上の目的と充填モルタル又はコンクリートの打継ぎ面が水平目地と一致してせん断強度を低下させないように配慮したことによる。

(5) 耐力壁のまぐさを受ける壁面部分ではブロックの幅20cm以上の部分の空洞部は、全て最下部からまぐさの下端までモルタル又はコンクリートを充填する。

8.2.9 ボルトその他の埋込み

ボルト、とい受金物、配管の支持金物等の挿入された空洞部にはモルタル又はコンクリートを密実に充填する。金物の埋込み深さ及び定郊方法は、取り付けられるものの質紐を考慮して決める。取付位置は原則として目地位置とするが、これにより難い場合は監督職員と協議して決める。

8.2.10 電気配管

構造躯体であるブロック壁内に上下水道・ガス等の配管を行うと、配管のメンテナンス時に壁を傷つけることになり、建物の耐久性や構造耐力上支障が生じることもあるため、これらの配管をブロック壁内に埋め込んではならない。ただし、電気配管はメンテナンスが不要であり径も細いため、ブロック壁内に埋め込んでもよい。

電気配管を埋め込む場合は、ブロック空洞部を利用し、横筋等の配筋のかぶり厚さに支障がないように空洞部の片側に寄せて配管するほか、管の出口にモルタル又はコンクリートを充填し固定する。

8.2.11 養 生

「標仕」によるほか、目地モルタル及び充填したモルタル又はコンクリートが十分硬化するまで、有害な振動、衝撃、荷重等を与えないようにする。また、直射日光、降雨、凍結等を防止するための上屋やシート掛け等の養生を行う。

(ア) 夏期は直射日光等による水分の蒸発を防ぎ、一定の湿潤状態を保つため、モルタル又はコンクリート充填後、組積終了後等はビニルシート等で壁体、打込み部分を覆う。

(イ) 寒冷期は強風による乾燥や低温による初期凍害を防ぐために、上屋・シート等で躯体を覆い保温の処置をして養生する。

(ウ) 出隅部や突出部の欠けやすい部分や、踏付け面等のブロックに破損や若しい汚染のおそれのある部分は板等で養生する。

(エ) 降雨による空洞部への雨水の浸透、目地モルタルの流出等を防止するために上屋、シート等で養生する。

8.2.12 「標仕」以外の構工法

「標仕」に示された補強コンクリートブロック造のほかに、図8.2.12に示す「鉄筋コンクリート組積造」がある。これは建築基準法施行令第80条の2に基づく平成 15年国土交通省告示第463号による工法の名称である。従前は、JIS A 5406に規定する「型枠状ブロック」を用い、空洞部分にグラウト材(コンクリート又はモルタル)を全充填する工法として「型枠コンクリートブロック造」の名称が普及し、設計・構造規準も(-社)日本建築学会「壁式構造関係設計基準集・同解説(メーソンリー編)」 2006年版に示されていた。しかし、材料としてJIS A 5406だけでなくJIS A 5210(建築用セラミックメーソンリーユニット)も使用可能であり、より自由度が高く合理的な工法として「鉄筋コンクリート組構造」に集約されてきており、(-社)日本建築学会より告示に準拠した「鉄筋コンクリート組積造(RM造)建物の構造設計・計算規準(案)・同解説」が2021年3月に出版された。また、施工方法としても「JASS 7」では2009年版から「鉄筋コンクリート組積造」のみとなっている。表8.2.5に補強コンクリートブロック造と鉄筋コンクリート組積造の比較を示す。

図8.2.12 鉄筋コンクリート組積造(RM造)の例

表8.2.5 補強コンクリートブロック造と鉄筋コンクリート組積造の比較

8章 コンクリートブロック工事等 3節帳壁及び塀

8章 コンクリートブロック、ALCパネル及び押出成形セメント板工事

3節 コンクリートブロック帳壁及び塀

8.3.1 一般事項

(1) この節の適用範囲は、鉄筋で補強された非構造部材の帳壁及び高さ2.2m以下の塀としているが、これらは、組積する行為は同じであっても目的や考え方が異なる部分が多いので注意する。特に、地震時や暴風時に転倒・倒壊や破損などが懸念される塀の基礎、控壁等については、5章[鉄筋工事]及び6章[コンクリート工事]によることが重要である。

また、コンクリートブロックの施工に関して、「ブロック建築技能士」の資格制度が設けられている。

(2) 帳壁工事の作業の流れを図8.3.1に示す。


図8.3.1 コンクリートブロック帳壁工事の作業の流れ

(3) 施工計画書の記載事項は概ね次のとおりである。

また、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 帳壁の位置と主体構造の種別及び寸法
② 帳壁の主要支点間距離及び主要支持辺の位置
鉄筋の種類、径及び定着・継手の方法・位置
コンクリートブロックの種類、形状寸法
⑤ ブロック割りとその組積パターン(関口部、金物取付け位置を明示)
鉄筋のかぶり厚さ及び鉄筋の間隔・あき
帳壁の施工方法(先積み工法とあと積み工法で、鉄筋の組立順序が異なる)
主体構造との緊結方法(主体構造に対するクリアランスの大きさによる固定緊結又は可動緊結を明示)
鉄筋の継手又は定着方法(溶接の場合は溶接方法)
⑩ 壁端部又は開口部周囲の補強方法
⑪ 仕上げの有無と仕上げ材の種類
⑫ 孔あけ等の位置と寸法
⑬ 先付け金物の位置と取付け方法
⑭ 配管位置とその形状寸法

作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制,管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等

 

(4) コンクリートブロック帳聖(間仕切壁)

(ア) 帳壁とは、柱・梁で構成される主体構造物の中に構築され、建築物にかかる水平荷重及び鉛直荷重を負担させない壁であるが、壁体にかかる地震や風によって生じる面外方向の力に耐える必要がある。組積の時期は主体構造が完成した後であり、あと積み工法になるので主体構造体への鉄筋の緊結が重要になる。また、主体構造物の変形を阻害しないためのスリットを適宜設ける。

(イ) (ー社)日本建築学会「壁式構造関係設計規準集・同解説(メーソンリー編)」に規定されている「コンクリートブロック帳壁構造設計規準」には帳壁の規模について次のように記述されている。

なお、主要支持辺とは帳壁を主として支持する辺をいう。主要支点間とは一方の主要支持辺と他方の主要支持辺との間をいう。主要支点間の方向により、主筋と配力筋の方向が定まるので必ず確認する。

(a) ブロック帳壁は地盤面より20mを超える外壁部分に用いてはならない。これは、厳しい風圧や変形性能の規定に、ブロック帳壁で設計することは不可能ではないが、施工方法等も考慮して20m以内としている。10~20mの場合でも告示や本規準等を遵守し構造安全性を確保しなければならない。

(b) 一般帳壁の主要支点問距離(L1)は、3.5m以下とする。ただし、地下部分にある階で、当該階の周囲壁面の見付面積が平均して階高の2/3以上地中に埋没している場合は、4.2m以下とする(図8.3.2参照)。


図8.3.2 主要支点間距離

(c) 小壁帳壁の持出し長さ(L2)は、1.6m以下とする。また、スパンが持出し長さの2倍半を超える場合は、小壁帳壁となる(図8.3.3参照)。


図8.3.3 主となる方向の持出し長さ

(ウ) 壁厚は、仕上げの部分を除き表8.3.1に示す数値以上とする。

なお、外壁で地盤面からの高さが10mを超える部分に使用する場合は、告示や日本建築学会規準等を参考にして定める。

表8.3.1 壁 厚


(5) ブロック塀

ブロック塀は工法が比較的簡単であることから管理も安易に行われやすい。しかし、補強コンクリートブロック造やコンクリートブロック帳壁と比較して、直接風雨にさらされ、荷重の支持も主として地盤面の基礎によっていることから、かぶり厚不足による鉄筋の腐食、配筋不良、基礎構造不備等の原因による地震時の倒壊が多い。また、道路側に建てられることも多く、倒壊による人的被害の危険性は極めて高い。したがって、適切な設計と施工を心掛ける必要がある。建築基準法施行令62条の8 には、高さ、壁の厚さ、控壁の設置、配筋など7項目が定められており、確実に順守しなければならない。

なお、基礎の寸法や配筋については特記となっているため、(-社)日本建築学会の「ブロック塀設計規準・同解説」等を参考に、安全な塀とする必要がある。

「標仕」での適用範囲は、高さ2.2m以下としているが、地盤の特性、基礎の形状、控壁、根入れ深さ、ブロックの厚さ等を検討し、風圧力、地震力に対し安全なブロック塀を構築する必要がある。安全性を確かめるための構造計算の基準は「補強コンクリートブロック造の塀の構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」(平成12年5月23日建設省告示第1355号)に定められている。塀の高さの測り方を図8.3.4に示す。作業の流れは帳壁の図8.3.1を参照する。施工計画書は基礎工事・フェンス工事等を塀全体として作成するとよい。


図8.3.4 塀の高さの測り方(コンクリートブロック塀設計規準・同解説より)


8.3.2 材 料
(1) ブロック

使用するブロックは、「標仕」8.3.2ではJIS A 5406(建築用コンクリートブロック)の規格に適合するもので、種類、圧縮強さ、モデュール呼び寸法及び正味厚さは、特記によるとしている。

なお、一般的には「標仕」表8.3.1に示した空洞ブロックC(16)を用いる。空洞・基本形・化粧無しブロックで10mm目地とし、長さ×高さのモデュール呼び寸法は 400×200(mm)、実寸法は390×190(mm)である。

(a) 帳 壁

ブロックの厚さは、表8.3.1に示すように帳壁の規定に適合していることを確認する。化粧ブロックを用いる場合の厚さとは、実厚さではなく、正味厚さを示すので注意が必要である。

(b) ブロック塀

ブロックの厚さは、「標仕」8.3.2に示すように、特記がなければ塀の高さが2m以下の場合は120mm、2mを超え2.2m以下の場合は150mmとする。建築基準法施行令第62条の8 第二号には「壁の厚さは、15cm(高さ2m以下の塀にあっては、10cm)以上とすること。」と定められているが、厚さ100mmのブロックでは鉄筋のかぶり厚さ等十分な耐久性が確保できない可能性があり、「標仕」や(-社)日本建築学会「コンクリートブロック塀設計規準・解説」では120mm以上としている。転倒等の安全性を考慮すると塀の高さがおおよそ1.2mを超える場合は、厚さ150mmとすることが望ましい。化粧ブロックを用いる場合の厚さとは、実厚さではなく、正味厚さを示すので注意が必要である。

ブロック塀に化粧ブロックを用いる場合は、基本形横筋ブロックのみで構築される場合がほとんどで、また、縦目地と横目地の幅が異なる寸法の化粧ブロックが多くなっている。例えば、長さ× 高さのモデュール呼び寸法が 400 × 200 (mm)の場合で、縦目地が1mm、横目地は10mmの製品では、製品の実寸法は399 x 190(mm)となる。モデュール呼び寸法体系も多種になっているので、長さ× 高さのモデュール呼び寸法、製品寸法や実厚さについてはメーカーのカタログ等を参考にされたい。

なお、控壁は、RC造とするか型枠状ブロック又は空洞ブロックを用いてコンクリートを全充填する。

8.3.3 モルタル及びコンクリートの調合

モルタル及びコンクリートの調合は、基本的に補強コンクリートブロック造に用いるものと同じと考えてよい。ただし、標誰目地幅が10mmと異なるブロックを用いる場合は、監督職員と協議し、既調合モルタルの使用も検討すると良い。

8.3.4 鉄筋の加工及び組立

(1) 加工及び組立一般

壁体に加わる外力で考慮しなければならないのは、主として面外方向の外力である。この外力に抵抗するのは鉄筋であり、鉄筋によって主体構造や基礎に伝達される。この伝達を受け持つのが主筋であり、それと直行方向に配筋されて面材として一体化する役目を持つのが配力筋である。したがって、主筋は、帳壁の場合には主要支点間方向に配置され、主要構造物に十分に緊結されなければならない。塀の場合には、基礎に緊結されなければならない。

(a) 外力は、面外方向の正負両方向に加わるために厚さ方向の中心部に配置する必要から、「標仕」ではブロック空洞部の中心部に配筋するとしている。また、中心部に配筋するためには、鉄筋の位置決め及び床や基礎のコンクリート打設時に移動がないように堅牢な振れ止めを設ける必要がある。

(b) 「標仕」では、壁鉄筋の継手、定着及び末端部の折り曲げ形状は、特記によるとしている。従来は、主筋には継手を設けないとしていたが、帳壁では上下階への定着が困難な場合が多いことや施工性なども考慮して、応力伝達が可能な溶接接合等による継手も認められている。ただし、塀の主筋の場合には、継手は認められていない。

配力筋は、壁端部鉄筋に180度フックによりかぎ掛けすることや、直交壁に定着させる方法などが (-社)日本建築学会の規準に定められている。

「標仕」では、これらについて、特記としており、参考としては (-社)日本建築学会の「壁式構造関係設計基準集・同解説」「壁式構造配筋指針」「JASS 7メーソンリー工事」等の該当部分を用いるとよい。

帳壁の各部配筋を表8.3.2及び表8.3.3に、配筋例を図8.3.5に示す。

表8.3.2 一般帳壁の壁筋(コンクリートブロック帳壁構造設計規準・同解説より)

表8.3.3 小壁帳壁の配筋(コンクリートブロック帳壁構造設計基準・同解説より)

図8.3.5 ブロック帳壁の種類・鉄筋の名称・主要支点間・主要支持辺等(壁式構造配筋指針より)

(c) 帳壁を土間コンクリート上に設置する場合は、帳壁の鉄筋を土間コンクリート内に定着させるとともに、帳壁下部には補強を行う。

(d) 帳壁工事では、現場作業工程上やむを得ずコンクリート躯体へあと施工アンカーを施工したり、鉄骨躯体へ溶接施工したりして帳壁を緊結させる必要が生じる場合がある。あと施工アンカーの使用は監督職貝の承諾事項である。特に、小壁帳壁のように、曲げ・せん断力が加わる場所に使用する場合は、専門業者による検討や施工も必要である。また、「(-社)日本建築あと施工アンカー協会」等に確認して、適切なものを使用する。

(e) ブロック塀

① ブロック塀の配筋は、塀を補強するのみならず、塀と基礎、控壁等と緊結する役目を担っている。地震時の塀の転倒は部材間の連結(継手、定着)不良によるところが多いので、十分施工の確認を行う必要がある。控壁は3.4m以下ごとに設け、鉄筋コンクリート造又は型枠コンクリートブロック造とする。

② 主筋をブロック中心部に配筋するためには、基礎コンクリート打込み前の主筋の位置決め及びコンクリートの打込み時に移動がないように図8.3.6に示すように堅牢な振れ止めを設ける必要がある。縦筋は継手を設けてはならない。


図8.3.6 縦筋頂部の高さそろえ、振れ止めの例

 

③ ブロック塀頂上部は、横揺れを生じやすい。横筋は壁頂を一体化し横揺れを防止する役目をもっている。したがって、縦筋は頂上部の横筋にかぎ掛けとするか又は90゜フックで余長10d以上とする。頂上部の横筋に縦筋を正確にかぎ掛けするためには図8.3.6に示すように振れ止めを設ける。さらに、頂部の横筋の端部は控壁に定着するか縦筋に180度フックでかぎ掛けすることが望ましい。しかし、現実には控壁との高さの違いなどによりかぎ掛けが困難な場合があり、この場合は横筋を鉛直に曲げ、縦筋と25d以上の定着を取るようにする(図8.3.7)。塀の重ね継手長さ及び定着長さを表8.3.4に示す。


図8.3.7 ブロック塀の配筋例

 

表8.3.4 定着及び重ね継手の長さ(コンクリートブロック塀設計規準・同解説より)
(2) 各部の配筋

各部の配筋は、特品によるとしている。各部の配筋は、(-社)日本建築学会「壁式構造配筋指針・同解説」、同「壁式構造関係設計規準集・同解説(メーソンリー編)」を参考にするとよい。帳壁の配筋例を図8.3.8に示す。


図8.3.8 帳壁の配筋例図

8.3.5 縦やり方

塀の縦やり方は、8.2.6による。特に、基礎部分の位置、形状や配筋位置などに合わせた指標として、やり方は小規模工事であっても設けられることが多い。ブロック塀でのやり方の例を図8.3.9に示す。

図8.3.9 コンクリートブロックの組積におけるやり方の例

なお、縦やり方については、電子式の自動式レベル器などが進歩しており、やり方を省略する工事現場が多くなっている。丈夫な基礎の上部に、水平で鉛直な塀の構築が重要である。

8.3.6 ブロック積み等

ブロックの積み方は8.2.7によるほか次による。

(ア) 帳壁

(a) 最上段のブロックと主体構造体との取合い部の一例を図8.3.10に示す。最上段を組積し、溝部分にモルタルを充填する。

(b) 開口部に設けるまぐさは、8.2.7 (ク) と同様に行う。


図8.3.10 最上段の納まり例

(イ) ブロック塀

笠木は、汚れ防止や耐久性向上等の観点から雨水が直接壁面に当たらないようなはね出しのあるものが望ましい。笠木ブロックを用いる場合は、モルタルが充填でき、鉄筋のかぶり厚を十分に確保できる空洞を有し、地震時の脱落防止の対策が考慮されている形状が望ましい。

8.3.7 モルタル及びコンクリートの充填

モルタル及びコンクリートの充填は、8.2.8による。

あと施工の帳壁でスラブ若しくは梁下まで充填する場合は、頂部に投入穴を設ける。部分的であっても、型枠状ブロックを使用する場合には、コンクリートを全充填することを原則とする。

8.3.8 ボルトその他の埋込み

ボルトその他の埋込みは、8.2.9による。

8.3.9 電気配管

電気配管は、8.2.10による。

8.3.10 養生

養生は、8.2.11による。特に、ブロック塀は、屋外工事がほとんどであるため、気象状況に応じた養生に注意する。

9章 防水工事 1節 一般事項

第09章 防水工事

1節 一般事項
 

9.1.1 適用範囲

(a) 建築物で防水を必要とする部位は屋根、ひさし、バルコニー、外壁及び室内の水回り等である。これらの部位への防水層が必要となる。この防水層を形成するために行う工事が防水工事である。

防水工事の仕様は一般に経験と実績データによるといわれている。このことから「防水工事の仕様」は信頼性のあるものが用いられる。「標仕」に採用している仕様は材料・工法とも常に技術の進歩と実績による検証を含めて検討されたものである。このため新しい防水工法はあまり採用されていないが、これらの工法の防水性能が劣るものではない。新しい防水工法を採用する場合には、施工例等を十分検討したうえで用いるとよい。

(b)「標仕」では、メンブレン防水として、アスファルト防水、改質アスファルトシート防水、合成高分子系ルーフィングシート防水及び塗膜防水を規定している。また、地下構造物を対象とした防水としてケイ酸質系塗布防水を規定している。更に、目地防水として、不定形弾性シーリング材を用いたシーリングの規定がある。

(c) メンブレン防水工事は、不透水性被膜を形成することにより防水するものである。選定に当たっては建物の用途、規模、構造、気候及び施工条件を考慮する必要がある。更に、保全のしやすさ、耐久性等も併せて検討することが大切である。メンブレン防水層の種別選定の目安を表9.1.1に示す。

(d) ケイ酸質系塗布防水工事は、コンクリート表面にケイ酸質系塗布防水材を塗布し、その生成物でコンクリートの毛細管間隙を充填し、防水性能を付与するものである。選定に当たっては部位、用途等を考慮し、更に下地の状態に十分な配慮を行い適用する必要がある。ケイ酸質系塗布防水の適用部位は「標仕」表9.6.1を参照されたい。

(e) シーリング工事は不定形弾性シーリング材を用いて部材の接合部等を充填するものである。シーリング材の種類は被着体に適応するものを選定する。シーリング防水の種別選定の目安は7節を参照されたい。

9.1.2 基本要求品質

(a) 防水工事及びシーリング工事に使用する材料の品質は主としてJISによるものとしており、このJISに適合することの証明方法は1章4節に示すとおりである。 JISのない材料にあっては、主要な材料製造所の指定する製品としており、この指定された製品であることの確認ができる資料を提出させることによって証明ができるようにする。

(b) 防水工事及びシーリング工事は、使用する材料の品質規定だけでなく、指定材料により防水層等を構成する工程についても、官庁営繕工事の実績により「標仕」に詳細に定めている。「所定の形状及び寸法」とは出来上がった状態に対する要求であるが出来形の確認として完成した防水層を切り取ることを要求しているわけではない。品質はプロセスによってつくり込まれるという考え方に立って.定められた材料を定められた手順で施工することで結果として所定の形状及び寸法を確保するようにする。具体的には、このための管理項目、「標仕」で定める以外の詳細な手順を明確にし、プロセスの途中における施工の良否の判定基準及びこれらの限度を超えた場合の処置方法を「品質計画」において提案させるとよい。

完成した防水層やシーリングは、防水上重要あるだけでなく、出来形として見え掛り面に表れてくることから、意匠上も重要になる。このことを踏まえて「所要の仕上り状態」とは、防水機能を果たす部位としての寸法及び形状を満足するだけでなく、見え掛りとなる部分については、取り合う仕上材料とのバランスを考慮して出来形の許容範囲を具体的に定め、これを確実に実施するための管理を行うと考えればよい。

(c) 「標仕」9.1.2(a)(3)、(b)(3)でいう「漏水がない。」とは、例えば、屋上の防水の場合等に水張り試験を行って確認することを要求しているわけではなく、漏水のない品質をプロセスでつくり込むという考えが重要である。つまり、(a)及び(b)と関連して、防水工事及びシーリング工事の施工プロセスをいかに管理するかを具体的に「品質計画」で提案させ、これを実施した結果として、防水工事の基本である漏水のない建物ができると考えればよい。

9.1.3 施工一般
(a) 施工時の気象条件

(1) 防水層の施工の良否は、施工時の気象条件に大きく左右されるので十分注意する必要がある。次の場合は施工を中止する。

(i) 気温が著しく低い場合
(ⅱ) 降雨・降雪等のおそれがある場合
(ⅲ) 降雨・降雪等のあとで、下地が十分乾燥していない場合

(ⅳ) 強風及び高湿の場合

(2) 施工時の降雨、降雪に対する処置

防水施工中、降雨・降雪のおそれが生じた場合には一時中止し、既に施工した防水層について必要な養生を行う。

(b) 施工の各段階における監督職員の検査
本来期待する防水機能は、材料と工法の選択により決まるものであるが、更には、施工段階の合理的な品質管理によってつくり込まれるものである。
したがって、使用する材料の確認だけでなく、実際の施工の各段階における適切な時期に、適切な作業が行われていることを確認することが重要である。

このため「標仕」9.1.3(b)では、防水層の施工は随時検査を行うことを規定している。

(c) 防水層施工後は、機材等によって防水層を損傷しないように注意するとともに、他の工種の作業員等が防水層に上がらないようにする。やむを得ない場合は必要な養生を行う。

表9.1.1 メンブレン防水層種別選定の目安