18章 塗装工事 1節 共通事項

18章 塗装工事

1節 共通事項
18.1.1 一般事項

(1) この章は、美装及び防食を目的とした建築物の内外部の塗装工事を対象としている。

対象とする素地は、木部、鉄鋼面・亜鉛めっき鋼面及びモルタル面・プラスター面等の左官塗り面、コンクリート面・ALCパネル面・押出成形セメント板面、せっこうボード・その他のボード面等である。

「標仕」での塗装工事は、一般的な工事現場(一部工場等)で行う常温での塗装を想定しており、工場等で行う焼付け塗装については対象外である。

なお、「標仕」各節名称(    )内の略号は、原則的には「JASS 18 塗装工事」に準拠したものである。

(2) 作業の流れを図18.1.1に示す。


図18.1.1 塗装工事の作業の流れ

(3) 施工計画書の記載事項は、概ね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(色見本の決定、施工(全体、部屋別、階別等)等の時期)
② 製造所名、施工業者名及び作業の管理組織
③ 塗装箇所及び素地若しくは下地の材料の種類による塗料の種別(防火材料の指定がある場合には認定品)並びに工程
④ 色調別による塗装範囲
⑤ 工場及び現場塗装の区分
⑥ 工法(はけ、吹付け、ローラー等)
⑦ 養生方法(施工中及び完了後)
⑧ 塗料の保管方法、安全管理の方法等

⑨ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等

18.1.2 基本要求品質

(1) 塗装は建築物の内外部に施され、仕上げとしての美装の目的のみでなく、各種劣化外力(雨水、結露水、飛散・浮遊物質、二酸化炭素ガス、紫外線等)から塗装された材料を保護することによって、建築物の耐久性を向上させることを目的としている。

塗膜の性能に影響を及ぼす要因の一つとして、使用する塗料の耐久性があげられる。これは上塗り塗料だけでなく、中塗り、下塗り及び素地ごしらえに用いる材料についても同様である。これらの材料によって総合的な塗膜が構成され、硬化塗膜としての性能を発揮する。

したがって、塗装に使用する塗料その他の材料は、定められた品質及び性能を有するものとし、そのことが分かるように整理しておかなければならない。

(2) 塗装仕上り面の出来ばえとしての要求は、各塗り工程の種別であるA種、B種等としてグレードを指定される。実際の工事に際しては、要求に合わせて塗装部位ごとに、どの程度の出来ばえとするかをあらかじめ品質計画で定めておくことが必要である。

この仕上り面は、最終の上塗りだけではなく、各塗り工程ごとで考えるようにする。例えば、下塗りであれば次に塗る中塗りとの付着性を確保できるような面の状態となるように仕上げるとともに、所定の表面状態とする。

塗料の種類と塗装工程の組合せによっても、塗装の仕上りが異なることに注意することが重要である。

「標仕」では、一般的な塗装工程を考慮して、指定する標準的な工法、塗付け量、工程間隔時間及び最終養生時間等を守れば、所要の表面状態を確保できるようになっている。

(3) 硬化塗膜に対する要求性能としては、使用する塗料だけではなく適正な塗装工程との組合せで示されている。

塗膜は、所定の材料を所定の塗付け量、塗り工程で施工することによって要求される耐久性を有し、素地の耐火性等の性能を損なうものであってはならない。そのためには、これらの性能を阻害するような欠陥がない塗膜にすることは当然である。

塗膜の構成は耐久性に及ぼす影響が大きく、例えば、素地や塗膜の表面を調整するために使用するパテ材料の介在が著しい場合には耐久性が劣ってくる。このようなことを避けるためには、塗り工程の前に施す素地ごしらえの段階で、適切な処理を十分に行うことが重要である。

塗料に対する防火材料の認定は、所定の塗膜厚さで基材と同等の防火性能をもっものとして認められているものである。出来ばえを重視して、いたずらに厚く塗り過ぎることは防火性能に悪影響を及ぽすため、避けなければならない。

18.1.3 材 料

(1)「標仕」では、屋内で使用する材料の選定に当たっては、揮発性有機化合物の放散による健康への影響に配慮することにしている。

本章では、シックハウス症候群の原因物質の一つであると考えられているホルムアルデヒドに関して、屋内で使用する塗料からの放散量は、JIS等の材料規格において放散等級の規定がある場合には特記によることとし、特記がなければ、F☆☆☆☆の塗料を用いることにしている。

建築基準法に関連するシックハウス症候群対策及びホルムアルデヒド放散量等の詳細、また、告示対象及び告示対象外でJIS等に放散等級等が規定されている塗料の表示とその確認方法等は、19章10節を参照されたい。

(2)「標仕」では、防火材料の指定がある場合は、建築基準法に基づき、指定又は認定を受けたものとしている。防火材科の確認は、(-社)日本塗料工業会の防火材料等証明書又は製品容器の表示マークによればよい。図18.1.2に表示マークの例を示す。


図18.1.2 製品容器の表示マークの例

(3) 塗料の色は、繊細なものであり、大量の塗料を現場において混合して同じ色調とすることは不可能に近い。このため、上塗塗料は指定した色の色彩や品質にばらつきが生じないよう、製造所において調合を行う。

製造所での調合には、所定の期間が必要であるため、工程に適合する時期に設計担当者と色彩計画を打ち合わせて決定する。

なお、一度に調色することが可能な少量の場合に限って、標仕では、同一の上塗登料の製造所の塗料を用いて現場調色することを認めている。

(4) 「標仕」では、塗装に用いる副資材は上塗塗料の製造所が指定する製品とすることを規定している。

(5) 「標仕」で規定された塗付け量は被塗物に塗り付けた量を示し、ロスを含まない。塗付け量を測定する場合は平らな面で行う。また、施工時に調整用として加えたシンナー等は含まないものとする。

(6) 塗料の種類と適用素地

(ア)「標仕」で規定している塗料の種類と適用素地との組合せを、表18.1.1に示す。

(イ)「標仕」では規定していないその他の主な塗料の種類と特徴を、表18.1.2に示す。

表18.1.1 塗料の種類と適用素地
表18.1.2 「標仕」に規定されていない主な塗料の種類と特徴

18.1.4 施工一般

(1) 塗装準備
(ア) 塗料の状態

(a) 搬入された塗料及び溶剤(シンナー)は、消防法等による危険物に指定されているものが多く、保管、貯蔵に当たっては、これら法令等を厳守しなければならない。

(b) 消防法関連法令とその略称を表18.1.3に示す。

表18.1.3 消防法関連法令とその略称

(c) 危険物と指定された塗料容器には、危険物の類別、危険物の等級について図18.1.3の例に示すような表示をすることが義務付けられており、この内容に応じた対応をしなければならない。


図18.1.3 危険物の種別、等級の表示の例

なお、消防法で定められる第四類(引火性液体)となる危険物の等級区分は、次のとおりである。

① 危険等級 Ⅰ :特殊引火物(発火点が100℃以下のもの又は引火点が−20℃以下で沸点が40℃以下のもの)

② 危険等級Ⅱ:第一石油類(引火点21℃未満のもの)とアルコール類(炭素の原子数が1~3個までの飽和一価アルコール)

③ 危険等級Ⅲ:第二石油類(引火点が21℃以上70℃未満のもの)、
第三石油類(引火点が70℃以上200℃未満のもの)、
第四石油類(引火点が200℃以上250℃未満のもの)、
動植物油類(引火点が 250℃未満のもの)

(d) 現場で使用する塗料関係の危険物の指定、貯蔵等についての消防法及び関連法令の関連部分の抜粋を次に示す。

危険物の指定及び貯蔵に関する法令

消防法(昭和23年法律第186号、最終改正令和3年5月19日法律第36号)

第2条(用語の定義)
この法律の用語は左の例による。

⑦ 危険物とは、別表第1の品名欄に掲げる物品で、同表に定める区分に応じ同表の性質欄に掲げる性状を有するものをいう。

第9条の4(危険物等の貯蔵等の基準設定の市町村条例への委任)
危険物についてその危険性を勘案して政令で定める数量(以下「指定数量」という。)未満の危険物及びわら製品、木毛その他の物品で火災が発生した場合にその拡大が速やかであり、又は消火の活動が著しく困難となるものとして政令で定めるもの(以下「指定可燃物」という。)その他指定可燃物に類する物品の貯蔵及び取扱いの技術上の基準は、市町村条例でこれを定める。

② 指定数量未満の危険物及び指定可燃物その他指定可燃物に類する物品を貯蔵し、又は取り扱う場所の位置、構造及び設備の技術上の基準(第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準を除く。)は、市町村条例で定める。

第10条(危険物の貯蔵及び取扱いの制限等)
指定数量以上の危険物は、貯蔵所(車両に固定されたタンクにおいて危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「移動タンク貯蔵所」という。)を含む。以下同じ。)以外の場所でこれを貯蔵し、又は製造所、貯蔵所及び取扱所以外の場所でこれを取り扱ってはならない。ただし、所轄消防長又は消防署長の承認を受けて指定数量以上の危険物を、10日以内の期間、仮に貯蔵し、又は取り扱う場合は、この限りでない。

② 別表第1に掲げる品名(第11条の4第1項において単に「品名」という。)又は指定数量を異にする2以上の危険物を同一の場所で貯蔵し、又は取り扱う場合において、当該貯蔵又は取扱いに係るそれぞれの危険物の数量を当該危険物の指定数量で除し、その商の和が1以上となるときは、当該場所は、指定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱つているものとみなす。

③ 製造所、貯蔵所又は取扱所においてする危険物の貯蔵又は取扱いは、政令で定める技術上の基準に従つてこれをしなければならない。

④ 製造所、貯蔵所及び取扱所の位置、構造及び設備の技術上の基準は、政令でこれを定める。

第13条(危険物取扱者)
政令で定める製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、甲種危険物取扱者(甲種危険物取扱者免状の交付を受けている者をいう。以下同じ。)又は乙種危険物取扱者(乙種危険物取扱者免状の交付を受けている者をいう。以下同じ。)で、 6月以上危険物取扱いの実務経験を有するもののうちから危険物保安監督者を定め、総務省令で定めるところにより、その者が取り扱うことができる危険物の取扱作業に関して保安の監督をさせなければならない。

② 製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、前項の規定により危険物保安監督者を定めたときは、遅滞なくその旨を市町村長等に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする。

③ 製造所、貯蔵所及び取扱所においては、危険物取扱者(危険物取扱者免状の交付を受けている者をいう。以下同じ。)以外の者は、甲種危険物取扱者又は乙種危険物取扱者が立ち会わなければ、危険物を取り扱ってはならない。

別表第1 (第2条、第10条、第11条の4関係)第四類抜粋

備 考

引火性液体とは、液体(第三石油類、第四石油類及び動植物油類にあっては、1気圧において、温度20度で液状であるものに限る。)であって、引火の危険性を判断するための政令で定める試験において引火性を示すものであることをいう。

十一
特殊引火物とは、ジエチルエーテル、二硫化炭素その他1気圧において、発火点が100度以下のもの又は引火点が零下20度以下で沸点が40度以下のものをいう。

十二
第一石油類とは、アセトン、ガソリンその他1気圧において引火点が21度未満のものをいう。

十三
アルコール類とは、1分子を構成する炭素の原子の数が1個から3個までの飽和一価アルコール(変性アルコールを含む。)をいい、組成等を勘案して総務省令で定めるものを除く。

十四
第二石油類とは、灯油、軽油その他1気圧において引火点が21度以上70度未満のものをいい、塗料類その他の物品であって、組成等を勘案して総務省令で定めるものを除く。

十五
第三石油類とは、重油、クレオソート油その他1気圧において引火点が70度以上200度未満のものをいい、塗料類その他の物品であって、組成を勘案して総務省令で定めるものを除く。

十六
第四石油類とは、ギヤー油、シリンダー油その他1気圧において引火点が200度以上250度未満のものをいい、塗料類その他の物品であって、組成を勘案して総務省令で定めるものを除く。

十七
動植物油類とは、動物の脂肉等又は植物の種子若しくは果肉から抽出したものであつて、1気圧において引火点が250度未満のものをいい、総務省令で定めるところにより貯蔵保管されているものを除く。

危険物の規制に関する政令
(昭利34年政令第306号、最終改正令和元年12月13日 政令第183号)

第1条の11(危険物の指定数量)
法第9条の4の政令で定める数量(以下「指定数量」という。)は、別表第三の類別欄に掲げる類、同表の品名欄に掲げる品名及び同表の性質欄に掲げる性状に応じ、それぞれ同表の指定数量欄に定める数量とする。

第1条の12(指定可燃物)
法第9条の4の物品で政令で定めるものは、別表第4の品名欄に掲げる物品で、同表の数量欄に定める数量以上のものとする。

第2条(貯蔵所の区分)
法第10条の貯蔵所は、次のとおり区分する。
1 屋内の場所において危険物を貯蔵し、又は取り扱う貯蔵所(以下「屋内貯蔵所」という。)

第10条 (屋内貯蔵所の基準)
屋内貯蔵所(次項及び妨3項に定めるものを除く。)の位置、構造及び設備の技術上の基準は、次のとおりとする。(省略)

別表第3 (第1条の11 関係)第四類 抜粋

別表第4 (第1条の12関係)

備 考

可燃性液体類とは、法別表第1備考第十四号の総務省令で定める物品で液体であるもの、同表備考第十五号及び第十六号の総務省令で定める物品で1気圧において温度20度で液状であるもの、同表備考第十七号の総務省令で定めるところにより貯蔵保管されている動植物油で1気圧において温度20度で液状であるもの並びに引火性液体の性状を有する物品(1気圧において、温度20度で液状であるものに限る。)で1気圧において引火点が250度以上のものをいう。

危険物の規制に関する規則
(昭和34年総理府令第55号、最終改正令和3年7月21日総務省令第71号)

第1条の3(品名から除外されるもの)
5 法別表第1 備考第十四号の組成等を勘案して総務省令で定めるものは、可燃性液体品が40パーセント以下であって、引火点が40度以上のもの(燃焼点が60度未満のものを除く。)とする。

6 法別表第1 備考第十五号及び十六号の組成を勘案して総務省令で定めるものは、可燃性液体量が40パーセント以下のものとする。

(e) 危険物貯蔵所の構造等に関して関係法令等には、主として次のような事項が定められている。

① 不燃材料で造った独立した平屋建てとし、周囲の建物から規定どおり離す。
② 屋根は軽量な不燃材料で葺き、天井は設けない。
③ 建物内の置場は、耐火構造の室を選ぶ。
④ 床には不浸透性の材料を敷く。
⑤ 消火に有効な消火器、消火砂等を備える。
⑥ 十分な換気を図る。
⑦ 窓及び出入口には防火設備を設ける。

⑧ 戸には戸締りを設け、「塗料置場」「火気厳禁」等の表示を行う。

(イ) 塗料の取扱い

(a) 塗料、シンナー等、化学物質を用いて施工する場合には、労慟安全衛生、環境対応への処置を行わなければならない。

(b) 有機溶剤中毒予防について

有機溶剤を使用して作業する場合の労働者の健康障害を防止するための措置については、労働安全衛生法、有機溶剤中毒予防規則等で、作業主任者の選任や取扱い上の注意事項等の掲示等が定められている。

① 有機溶剤作業主任者を選任しなければならない作業場所は、有機溶剤中毒予防規則第1条に次のように定められている。
 1)船舶の内部
 2)車両の内部
 3)タンクの内部
 4)ピットの内部
 5)坑の内部
 6)ずい道の内部
 7)暗きょ又はマンホールの内部
 8)箱桁の内部
 9)ダクトの内部
 10)水管の内部
 11)屋内作業場及び前各号に掲げる場所のほか、通風が不十分な場所
「通風が不十分な場所」とは、天井、床及び周壁の総表面積に対する窓その他の直接外気に向かって解放しうる開口部の面積の比率が3%以下の屋内作業場をいう。

通風が不十分な船舶の内部及び車両の内部については上記同様に取り扱う。

② 有機溶剤作業主任者の職務は、有機溶剤中毒予防規則第19条の2に次のように定められている。

事業者は、有機溶剤作業主任者に次の事項を行わせなければならない。

1) 作業に従事する労働者が、有機溶剤により汚染され又はこれを吸入しないように、作業の方法を決定し、労働者を指揮すること。

2) 局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を1箇月を超えない期間ごとに点検すること。

3) 保護具の使用状況を監視すること。

4) タンクの内部において有機溶剤業務に労働者が従事するときは、第26条各号に定める措置が講じられていることを確認すること。

(c) 安全データシート(SDS)

塗料は、複数の化学物質から構成されており、その有害物による労働者の労働災害を防止したり環境への影響を考慮して、製造業者はSDS (Safety Data Sheet:安全データシート)の交付を労働安全衛生法等で義務付けられている。

その内容には、次のようなことが記載されており、施工に当たっては、これらを十分に確認し、安全・衛生対策を講じて作業を進めるとともに、廃棄物の取扱いにおいても、(g)に示すような廃棄上の注意事項に基づき処理しなければならない。

1) 安全データシートを作業場所の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けるなどの方法により、労働者の利用に供すること。

2) 安全データシートを活用して、安全衛生教育を行うこと。

3) 安全データシートを確認して、化学物質に関わる労働災害を防止するために必要な処置を講ずること。

4) 廃棄物処理に際して安全データシートの「廃棄上の注意」に基づいた処理を行うこと。

5) 安全データシート「環境影響情報」等に基づき、第三者等への現境管理を行うこと。

6) 安全衛生委貝会において、取り扱う化学物質の有害性、その他の性質について関係者の理解を深めるとともに、その適切な取扱い方法について調査を行うこと。

(d) 製造物責任法(PL法)への対応

製造業者は、取扱い説明書、技術資料、警告ラベル、安全データシート(SDS)等を完備し、「製造物責任法(PL法)」(平成6年法律第85号)に基づいて対応し、施工業者への情報提供を徹底し、施工業者はこれら情報に従った作業及び廃棄物処理等をしなければならない。

(e) 化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)

① 職場で化学物質を取り扱う際に、その危険性又は有害性、適切な取扱方法等を知らなかったことによる爆発、中毒等の労働災害が発生している。このような労働災害を未然に防止するには、その化学物質の危険性又は有害性の情報が確実に伝達され、伝達を得た事業場は、その情報を活用して適切な化学物質管理を推進することが重要である。

国際的には、平成15年に引火性や発がん性等の危険有害性の各項目にかかわる分類を行い、その分類に基づいて絵表示や注意喚起語等を含むラベル及び安全データシート(SDS)を作成・交付することなどを内容とする「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)」が、国際連合から勧告として公表された。このGHS国連勧告を踏まえ、表示・文書交付制度を改普した改正労働安全衛生法が、平成18年12月1日に施行された。容器にはGHSに対応するラベル表示をして、文書としてはGHSに対応する情報を含む安全データシート(SDS)を提供しなければならない。

国内では平成23年まで、MSDS(化学物質等安全データシート)と呼ばれていたが、国際整合の観点からGHSで定義されているSDSに統一された。

(参考GHS : Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)

② GHSに対応するラベルの例を図18.1.4に示す。ラベルには、「製品の名称」、「注意喚起語」、「絵表示(標章)」、「危険有害性情報」、「注意書き」、「供給者の特定」の情報が盛り込まれる。これらの概要を次に示す。

1) 「製品の名称」は、該当品の名称が記載される。

「成分」は、表示義務対象物質に該当するものが記載される。

2) 「注意喚起語」は、GHS付属書3又はJIS Z 7253 (GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法 – ラベル、作業場内の表示及び安全データシート(SDS))附属書Aに割り当てられた「注意喚起語」の欄に示されている文言(「危険」又は「警告」)が記載される。

なお、危険有害性クラス及び危険有害性区分等が決定されない場合は、注意喚起語の記載を要しない。

3) 「絵表示(標章)」は、GHS付属書3又はJIS Z 7253附属書Aに割り当てられた「絵表示」の欄に記載されている標章が記載される。

なお、危険有害性クラス及び危険有害性区分等が決定されない場合は、絵表示(標章)の記載を要しない。

4) 「危険有害性情報」は、GHS付属書3又はJIS Z 7253付属書Aに割り当てられた「危険有害性情報」の欄に示されている文言が記載される。なお、危険有害性クラス及び危険有害性区分等が決定されない場合は、記載を要しない。

5) 「注意書き」は、貯蔵又は取扱い上の注意等が記載される。

6) 「供給者の特定」は、表示する者の氏名(法人の場合は法人名)、住所及び地話番号等が記載される。


図18.1.4 GHSに基づくラベル表示の例

(f)化学物質に関するリスクアセスメント実施義務化への対応

労働者の安全を確保するため、化学物質の管理が非営に重要な事項である。 2012年、胆管がんが発症した事例が相次いだことから、2014年6月、労働安全衛生法が改正され、SDSが交付義務の対象となっている化学物質についてリスクアセスメント実施が義務付けられることとなり、2016年6月1日に施行された。

1) リスクアセスメント実施が義務付けられるのは、塗料を扱う全ての事業者である。

2) 化学物質を取り扱う際に生じるおそれのある負傷・疾病の重篤度と発生の可能性を調査し、労働災害が発生するリスクの大きさを評価するものである。

(g) 廃棄物処理への対応

塗料をはじめ各種の産業廃棄物は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(昭和45年法律第137号)等によって規制されているが、特に留意すべき事項は次のとおりである。

1) 廃棄物の減量化とリサイクルの推進
2) 廃棄物処理に関する信頼性と安全性の確保

3) 不法投棄対策等

工事に当たっては、これら法律に従って産業廃棄物を適正に処理することになるが、特に不法投棄防止のため、産業廃棄物管理票(マニフェスト)(1.3.11参照)が全ての産業廃棄物に適用されている。

したがって、産業廃棄物の発生時には、施工者が産業廃棄物の運搬又は処分の資格を有する業者との委託基準に準じて委託契約した業者に「マニフェスト」を交付し、明確な指示を与えて、処理しなければならない。

(ウ) 塗装作業への塗料の調整
(a) 希釈(粘度調整)

原則として、調合された塗料をそのまま使用する。しかし、貯蔵中に均ーな品質を保持するため施工時の条件に適した粘度より若干高い粘度の製品になっている場合、施工時の素地の状態により粘度を下げる必要がある場合、気温が低い場合等には、所定のシンナーや水等により希釈し塗装に適した状態に粘度を調整することができる。

(b) こし分け

塗料は貯蔵中に分離、沈殿、皮ばり、凝集等の現象を生じている場合があり、使用直前によく混合し、均ーな状態とする。

この場合、かくはん等で再分散しない沈殿物、皮ばり、凝集等は、必要に応じてこし分けする。これらの操作が不十分な場合には、塗装後の膜厚に色の分離や光沢低下等の欠陥を生じる場合がある。

(2) 塗装工法
(ア) 研 磨

塗装面を研磨する目的は、次に示すとおりであり、目的に応じた施工をする。なお、研磨紙等は、JIS R 6251(研磨布)及びJIS R 6252 (研磨紙)による。

① 下地表面に付着している汚れ等を除去し、付着性向上のために行う場合で、鉄鋼面、亜鉛めっき鋼面の塗装によく用いられる。鋳止めを工場で塗装し、現場に搬入後、次の工程を塗装する場合等に行う研磨がこれに当たる。この場合、塗装された下塗りの塗膜厚を減少させないように行う必要がある。

② パテ処理面等を平滑にし、仕上げの平滑度を上げる場合に用いるもので、パテを厚付けした場合には、先に粗目の研磨紙で荒研ぎし、次に細かい目の研磨紙で目的の平滑度を得る。

(イ)パテの塗付け工法

被塗物の不陸、凹凸、穴等を処理して塗装仕上げの精度を高めるために用いる工法で、素地面に直接施工する場合と、各工程間に行う場合がある。

パテは、硬化後研磨を行うため、厚塗りを行う必要がある。このためひび割れが 生じないように、顔料や充填材の配合が多くなっている。また、一般の塗料と比べて塗膜性能の向上を期待するものではないため、塗付け量は必要最小限とする。

パテ処理の工法には、パテかい、パテしごき、パテ付けの3種類がある。

① パテかい

局部的にパテ処理するもので、素地とパテ面との肌違いが仕上げに影響するため、注意しなければならない。

② パテしごき

素地とパテ面との肌がそろう程度に平滑になるようパテを残し、過剰なパテをしごき取る。

③ パテ付け

パテで全面を平滑にするもので、特に美装性を要求される仕上げの場合に行う。パテが厚塗りされるため、耐久性能を要求される仕上げの場合は不適当である。

(ウ)塗料の塗装工法
(a) はけ塗り

はけの毛間に塗料をよく含ませて、はけ目を均ーに塗り広げる伝統的な塗装手段である。

はけ塗りの特徴は、はけの材質、形状、寸法等を、塗料の種類、素地の種類、被塗物の形状等に応じて選択して用いることによって、いかなる素地や部位においても、均ーな塗膜厚さに仕上げることができる。

はけ塗りのチェックポイントは、次のとおりである。

1) 指定の塗料に適合した毛の種類、長さ、形状を用いているか。
2) はけは、よく洗浄され、ぬけ毛の生じないものを用いているか。
3) はけ塗りは、むらきり、はけ目通し等の操作をしながら、均ーに塗装しているか。

4) 仕上り面に、だれ、すけ、むら等が生じておらず、均ーに塗られているか。

(b) 吹付け塗り

吹付け塗りは、塗料を霧化状態にして被塗物に吹きむらのないように吹き付け、均ーな塗膜を形成する。

吹付け塗りは、エアスプレ一方式とエアレススプレ一方式がある。

① エアスプレ一方式

塗料を圧縮空気によって霧化させながら、その空気圧力でスプレーガンにより吹付け塗装する方法である。適用できる塗料の種類に限界があり、高い粘度では均ーに霧化せず、低粘度に希釈するため一般的に膜厚は薄い。また、塗装時の飛散が多く風の影響を受けやすいなどの欠点がある。

エアスプレ一方式の場合のチェックポイントは、次のとおりである。

1) 塗装開始前に周辺部分は十分に養生されており、また、適切な施工条件となっているか。
2) 塗料が所定の粘度に調整されているか。
3) スプレー塗装時の所定空気圧力に設定されているか。
4) 塗装作業の被塗物とスプレーガンとの距離が一定に保たれているか。
5) スプレーガンの運行速度は一定であるか。

6) スプレーパターンの形状は膜厚が均ーで、だれ、すけ、むら等の発生はないか。

② エアレススプレ一方式

塗料自体にポンプで10 ~ 20MPa程度の圧力を加え、スプレーガンのノズルチップから霧化して吹き付ける方法である。塗料自体に圧力を加えることができるため、高粘度や高濃度の塗料が塗装可能で、厚膜に仕上げられ、エアスプレ一方式に比べ飛散ロスも少なく効率的な施工ができる。

エアレススプレ一方式の場合のチェックポイントは、次のとおりである。

1) 塗料が所定の状態になっているか。
2) 塗料に適合したノズルチップが選定されているか。
3) 塗料が所定の圧力に加圧され、均ーに霧化し、スプレーパターンにテールが発生していないか。
4) 被塗物とスプレーガンとの距離及び運行速度は一定か。

5) 仕上り塗膜は厚さが均一で、だれ、すけ、むら等の発生はないか。

(c) ローラーブラシ塗り

ローラーブラシ塗りは、昭和30年代にアメリカから導入された塗装工法で、現在では、建築工事における塗装工法の主流となっている。ローラーブラシを構成しているアクリル又はポリエステル繊維等による塗料の含みがはけより多く、1回で広い面積に対して能率よく塗装できることが特徴である。隅角部、ちり回り等は、小ばけや専用ローラーを用いて均ーに塗る。

ローラーブラシ塗りのチェックポイントは、次のとおりである。

1) 塗料に適合した大きさ、毛の種類のローラーブラシを使用しているか。
2) 塗付け量に適合した毛の長さのローラーブラシを使用しているか。
3) 塗装時におけるローラーの回転は適切な速度で均ーに塗られているか。
4) 塗装作業はローラーマークをそろえて塗られているか。
5) 隅角部、ちり回り等は専用ローラー、小ばけ等で先行して塗られているか。

6) 仕上り面に、だれ、すけ、むら等が生じていないか。

(エ)各塗装工程の工程間隔時間及び最終養生時間

各塗装工程の工程間隔時間及び最終養生時間は、用いる塗料の乾燥硬化機構によって決まる。したがって、乾燥硬化の違いにより、次の工程に移る間隔時間を定める必要があり、また、最終工程には塗膜の使用可能までの時間を定める必要もある。

なお、工程間隔時間及び最終養生時間には、良好な塗膜形成と塗膜層間の付着性を得るために、塗料の種類によって次の工程に入るまでに一定時間以上必要な場合と、ある時間から定められた一定時間以内に次の工程に移らなければならない場合とがある。特に、水系塗料(水を主要な揮発成分とする塗料)では、気温が低く湿度が高いときに乾燥硬化が遅くなる。図18.1.5に示すように塗装・乾燥として最適な温度は20℃であるが、気温がそれよりも低くなるほど乾燥硬化が遅くなるため、良好な塗膜形成を確保するには、20℃施工時の標準工程間隔時間及び最終養生時間よりもそれぞれ長い時間が必要である。湿度についても高くなるほど乾燥硬化が遅くなることから、同様な注意を要する。

18.1.5 見 本

(1) 見本の作製

施工に先立ち、色彩計画によって決定された色、光沢、模様等の仕上げの状態について、見本塗板を作製する。

この場合、各工程が確認できるような工程塗りの見本とすることが望ましい。

(2) 見本の保管

設計担当者の確認を受けた標準見本は、最終検査時まで直射日光の当たらない場所で保管する必要がある。しかし、合成樹脂調合ペイント等の油変性塗膜は直接日光の当たらない場所に保管してあっても、徐々に反応が進行して色が変わるため、初期とは異なった色調になる場合もある。これらの見本については、事前に協議して合意を得て保管する。

18.1.6 施工管理

(1) 建築物の塗装は、内外装に施され、仕上げとしての美装のためだけでなく、各種劣化外力から被塗物を保護することによって、建築物の耐久性を向上させることを目的としている。

このため、各種の素地に塗装された塗膜が所定の品質を確保できるように施工管理を行う必要がある。

塗装工事にかかわる具体的な施工管理の項目は、概ね次のとおりである。

(ア) 塗装工程
 (a) 塗装前の素地の状態
 (b) 使用材料
 (c) 塗装方法
 (d) 下塗り、中塗りの工程後の下地の状態
(塗り工程の間隔時間、養生)
(イ) 塗付け量等

下塗り、中塗りの工程ごとに見本塗板との比較を行い、最終工程完了後「標仕」18.1.7により塗装面の確認を行う(18.1.7参照)。

(2) 施工時の条件
(ア) 乾燥硬化機構の種類

建設現場で用いられる塗料は、一般的に自然乾燥形塗料といわれ、その乾燥硬化機構には次の4種類がある。

① 揮発乾燥
塗料中の溶剤が蒸発するだけで塗膜を形成するもの。

(代表例:ラッカーエナメル)

② 揮発酸化乾燥
塗料中の溶剤が蒸発しながら樹脂が空気中の酸素と反応することで、塗膜を形成するもの。

(代表例:合成樹脂調合ペイント、油性系さび止めペイント)

③ 分散粒子融着乾燥
水又は溶剤中に分散している樹脂粒子が、水又は溶剤が蒸発することで融着し塗膜を形成するもの。

(代表例:合成樹脂エマルションペイント、非水分散形塗料)

④ 反応硬化乾燥(重合乾燥)
塗膜形成要素である樹脂と副要素である硬化剤を混合することによって反応が起こり、塗膜を形成するもの。

(代表例:2液形エポキシ樹脂エナメル、常温乾燥形ふっ素樹脂エナメル)

(イ) 乾燥硬化の条件
塗料は含有成分を蒸発させたり、化学反応を生じさせて、乾燥硬化するため、施工時の温湿度に関する条件が重要となる。

図18.1.5は、一般的な塗装と養生に適する温湿度条件を示す。


図18.1.5 塗装作業と養生に適する温湿度条件

(ウ) 養 生

塗装工事における養生には、塗装しない部分に塗料が付着して汚れないようにする方法と、塗装した後の乾燥硬化過程で塗膜を正常に形成するため塗膜面に汚れが付着しないようにし、降雨、強風、直射日光等が当たるのを防いだり、温湿度を調節する方法がある。

18.1.7 塗装面の確認等

(1) 塗料及び塗膜の欠陥

塗装工事における欠陥の種類は、塗料状態における塗料の欠陥、塗装作業中における塗料の欠陥、塗装作業後における塗膜の欠陥及び塗装終了後の時間経過における塗膜の欠陥に分類でき、これらの欠陥の多くの場合は適切な予防処置を施すことにより避けることができる。これらの原因と対策を表18.1.4に示す。

(2) 塗装面の確認

塗装面の確認は、「標仕」表18.1.1による目視を標準としている。しかし、錆止め塗料塗りの場合は、塗付け量又は膜厚が防錆性能に大きく影響するため、次の方法により、これらの量又は厚さを確認することとしている。

(a) 現場における錆止め塗料塗りの場合は、膜厚測定が困難な場合が多いため、使用量から単位面積当たりの塗付け量を推定することを標準としている。

(b) 工場における鋳止め塗料塗りの場合は、電磁膜厚計等による膜厚測定の確認を標準とし、試験ロットの構成等は、施工者が品質計画で定めることとしている。

鋼製建具の工場錆止め塗装の膜厚に対する確認方法の例を以下に示す。

① 枠及び戸はそれぞれ別なロットとし、1組の作業班が1日に塗装した枠又は戸の全てについて、30個又はその端数を1ロットとする。

② 1ロットから1枠又は1枚を無作為に抽出し、膜厚を以下のように測定する。

1) 枠については、縦枠2箇所(左・右)及び上枠の中央部付近各1箇所、計3箇所を1回の試験とする。
2) 戸の両面について、上段、中段及び下段の中央部付近各1箇所、計6箇所を1回の試験とする。

3) 1箇所について3点測定し、その平均値をその箇所の膜厚とする。

③ 1回の試験の平均値が、規定された膜厚以上、かつ、全ての箇所の膜厚が規定された膜厚の85%以上の場合をロットの合格とし、これ以外を不合格とする。

④ 不合格となったロットは、全てについて再塗装し、上記に準じて再度確認を行う。

表18.1.4 塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その1)
表18.1.4 塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その2)
表18.1.4 塗料及び塗膜の欠陥に対する原因とその対策(その3)

18章 塗装工事 2節 素地ごしらえ

18章 塗装工事

2節 素地ごしらえ

18.2.1 一般事項

素地ごしらえは、塗装対象となる素地面の汚れ及び付着物を取り去り、素地に対する塗料の付着性を確保するとともに、素地面を塗装に適した状態に調整するために、塗装に先立って実施する作業である。どんなに性能が優れた塗料を使用しても、素地ごしらえが不適切であれば塗装直後の仕上りが良好でないばかりか、早い時期に塗膜のはく離や素地の劣化を招くことになる。したがって、素地ごしらえが塗装仕上げの良否を決定するといっても過言ではなく、塗装工事において特に重要な工程である。

素地ごしらえの方法は、塗装対象である木部、金属、モルタル、コンクリート、ボード類等の素地の種類によって大きく異なる。

18.2.2 木部の素地ごしらえ

(1) 材 料

(ア) 木部下塗り用調合ペイント

「JASS 18 塗装工事 」M-304の品質に適合するものとする。「標仕」では、合成樹脂調合ペイント塗り及びつや有合成樹脂エマルションペイント塗りに対する木部の素地ごしらえにおける節止めに適用している。

(イ) セラックニス

JASS 18 M-308の品質に適合するものとする。セラックニスは、昆虫の分泌物をベースとしたものをアルコール類に溶解してワニス状にしたもので、アルコール以外の溶剤には溶解しない点を生かし、節部分のやにやしみ止めに用いられる。

「標仕」では、合成樹脂調合ペイント及びつや有合成樹脂エマルションペイント以外の塗料塗りの節止めに適用され、その種類はJASS 18 M-308白ラックニス1種とされている。

(ウ) 合成樹脂エマルションパテ

合成樹脂エマルション、顔料、充填材等を配合して作られた高粘度のもので、 JIS K 5669(合成樹脂エマルションバテ)に規定されている。表18.2.1に示すように耐水形と一般形があり、それぞれに厚付け用と薄付け用がある。主として、コンクリート、モルタル用として開発されたものである。

なお、「標仕」では、屋内の木部については使用部位を限定していないため、耐水形を用いることとしている。しかし、耐水性はエポキシ樹脂系パテ等に比較して劣るので、より耐候性や耐水性を要求される外部には適用しないことにしている。

パテの使用は、塗膜の性能に影響するので、特に美装性が必要な場合以外はできるだけ使用しない方がよい。

表18.2.1 合成樹脂エマルションパテ

(2) 標仕の表18.2.1に規定される素地ごしらえの工程を行った後に、着色剤等を用いて色むら直しをする場合の詳細は各節の塗り仕様において規定されており、監理指針においても各節で解説されている。

(3) 工程間隔時間の考え方

材料の標準工程間隔時間(18.1.6 (2)(ウ) 参照)を表18.2.2に示す。工程間隔時間は温湿度条件により異なり、ここでは、標準工程間隔時間として気温20℃における時間を表示している。一般的に、高温においては時間が短く、低温においては時間が長くなる。

表18.2.2 木部の素地ごしらえ用材料の種類と標準工程間隔時間

18.2.3 鉄鋼面の素地ごしらえ

(1) 一般事項

「標仕」18.2.3では、鉄鋼面に対する素地ごしらえの種別をA、B、Cの3種類と規定している。

A種は化学薬品を用いる化成皮膜処理である。

B種は、ブラスト法を用いて鉄鋼面の錆を落とし、清浄な鋼材表面を得る素地ごしらえで、この上に施される塗膜の耐久性が向上する。7節[耐候性塗料塗り]の仕様には、必ず適用する。

C種は、主として、電動工具、手工具等を使用して、不安定な黒皮や赤錆を除去する一般的な素地ごしらえである。

錆落しの工程で「酸漬け」を適用するA種及び「ブラスト法」を適用するB種は、製作工場で行われる。

(2) 油類除去

(ア) 動・植物油(防錆油等)は、80~100℃に加熱したアルカリ性脱脂剤で分解、洗浄して除去する。

(イ) 溶剤には石油系溶剤等を用いるが、火気厳禁として排気や換気に十分留意する。

(3) 錆落し

(ア) 黒皮〈ミルスケール〉は、次の方法で除去する。

(a) 硫酸5~15%の水溶液を 50 ~70℃に加熱したもので酸洗いした後、直ちに水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムの希( 1~2%)アルカリ性溶液につけて中和し、湯洗いする。

(b) ショットブラスト、グリットブラスト、サンドブラスト等の方法を用いて除去する。

(イ) 赤錆は、デイスクサンダー、ワイヤブラシ、スクレーパー、研磨紙等で取り除くことができる。

(ウ) 素地ごしらえが終わったら、直ちに錆止め塗料を塗り付けなければならない。

(4) 化成皮膜処理

鉄にりん酸塩溶液を作用させると、化学的に結合して安定したりん酸塩鉄の皮膜を生成する。このような処理をりん酸塩処理といい、この皮膜が鉄鋼面の発錆を抑え塗膜の付着性を向上させて鉄鋼面を保護する。

なお、このような処理面は、空気中の水分等により塗装に有害な酸化皮膜を生じやすいため、処理した後は直ちに錆止め塗料を塗り付けなければならないが、出来ない場合は、適切な処理を行う。

18.2.4 亜鉛めっき鋼面の素地ごしらえ

(1) 一般事項

亜鉛めっき鋼面に施された塗膜は、はく離することが多いため、素地ごしらえに十分な注意が必要である。「標仕」18.2.4では、亜鉛めっき鋼面に対する素地ごしらえの種別として、A、Bの2種類を規定している。

A種は塗装工場で行われる化成皮膜処理による素地ごしらえで、一般的に塗装工場で実施される塗装前の工程として化成皮膜処理を施す場合に適用される。

一方、JIS規格が規定される表面処理亜鉛めっき鋼板の素地ごしらえはB種であり、亜鉛めっき鋼板の製造工程に含まれており、鋼板製造工場で行われている。

特に、鋼製建具等に使用される亜鉛めっき鋼板は、鋼板製造工場において「化成皮膜処理」まで施しており、工事現場ではB種とする。B種は汚れ、付着物の除去と脱脂のみを実施する素地ごしらえである。

(2) 油類除去は、18.2.3(2)に準ずる。

(3) 化成皮膜処理

亜鉛にりん酸塩溶液又は六価クロムを含まないクロメートフリー溶液を作用させると、化学的に結合して安定したりん酸亜鉛又はクロメートフリー亜鉛の皮膜を形成する。このような処理をりん酸塩処理又はクロメートフリー処理といい、この皮膜が亜鉛めっき鋼面の発錆を抑え亜鉛めっきと塗料との反応を抑制して、塗膜の付着性を向上させる。六価クロムは有害化学物質であるため、平成28年版「標仕」の改定から、使用しないこととなった。

(4) エッチングプライマー(JIS K 5633)

亜鉛めっき鋼面に対するエッチングプライマー塗りによる素地ごしらえは、塗膜の付着性を安定的に確保することが難しく平成28年版の「標仕」改定により「標仕」 18.3.2(2)においてJIS K 5629鉛酸カルシウムさび止めペイントが削除されたことから、併せて削除されている。

18.2.5 モルタル面及びせっこうプラスタ一面の素地ごしらえ

(1) 作業の流れを次に示す( “破線囲み”は「標仕」表18.2.4のA種の場合)。「標仕」では、特記がなければ、B種となっている。美粧性が求められる用途にはパテしごき、研磨紙ずりを行うことにより平滑性を持たせた素地ごしらえを行うA種を適用する。

(2) 乾 燥

(ア) 水分とアルカリによる影響
(a) 水分の場合

素地の含水量が多いところに塗った塗膜は、蒸発する水分を密閉したことになるため、次のような現象が生じる。

1) 塗膜が、被塗面に付着しない。

2) 塗膜と被塗面との間に水が介在し、一部塗膜が水に押し上げられてふくれができる。

(b) アルカリの場合

アルカリ性の強い場合は、塗膜自体が侵されて次のような欠陥を生じる。

1) 塗膜中の顔料が変退色する。

2) 塗膜がはく離する。

(イ) アルカリが塗膜に作用するのは、水分があるためであり、水に溶けた状態で塗膜に作用する。乾燥して塗装可能となる時期には、素地表面も弱アルカリ性となり、モルタルでは、その期間が夏期で2週間程度である。

(ウ) 塗装対象素地ごとの材齢による乾燥期間の目安は、表18.2.3に示す日数以上とする。

(エ) 素地のpH値経時変化を図18.2.1に、素地の乾燥速度を図18.2.2に示す。

表18.2.3 材齢による乾燥の目安


図18.2.1 素地のpH時経時変化

 


図18.2.2 素地の乾燥速度

(オ) 一般的に、素地の含水率の測定には高周波静電容量式水分計、pH(水素イオン濃度指数)の測定にはpH試験紙、pHメーター等が用いる場合がある。

(3) 汚れ、付着物除去

せっこうプラスター等の壁面は、汚れや付着物、ぜい弱層等を除く目的以外には、原則として研磨紙を掛けない方がよい。研磨紙を掛けると、塗料の吸込みが促進され、仕上り状態に悪影響を与える。また、粉末が付着していると、塗料の付着を妨げる。

汚れ、付着物の除去は、ブラシ類、研磨紙、ウエス等で素地を傷つけないように行う。

(4) 吸込止め

(ア) 一般的には、合成樹脂エマルションシーラーを使用するが、アクリル樹脂系非水分散形塗料塗りの場合は、塗料の製造所により適用する材料が異なるので塗料の製造所の仕様による。

(イ) 壁紙による仕上げの場合は、壁紙専用の材料を使用する。

(5) 穴埋め、パテかい

(ア) モルタル素地のひび割れや穴埋めは、外部及び水掛り部分には建築用下地調整塗材C-1を用い、屋内には合成樹脂エマルションパテ(耐水形)を用いる。

(イ) 合成樹脂エマルションパテは耐水形でも、外部及び結露しやすい箇所に使用すると、はく離の原因となるため使用を避ける。

(ウ) 壁紙による仕上げの場合は、壁紙専用のパテを使用する。

(6) 研磨紙ずり
(ア) 補修箇所が十分乾燥した後、表面を研磨紙ずりして平らにする。

なお、せっこうプラスター等にはPl20-220程度の細かいものを使用する。

(イ) 研磨紙ずり後、素地面を布でふいて付着した粉末等を取り除く。

(7) パテしごき

パテしごきは、パテを全面にへら付けし、表面に過剰のパテを残さないよう十分しごき取る。

建築用下地調整塗材C-1の施工に当たっては、次の点に注意する。

(a) 混和液と粉体の練混ぜは、混和液に粉体を徐々に加えてよくかくはんする。

練混ぜが十分でないと粉体に固まりが生じ、仕上り不良や強度不足となる場合がある。

(b) かくはん機で必要以上に練り混ぜると気泡が発生し、仕上り面に気泡跡が残る場合がある。

(c) 再調合する場合には、使用機材に付着している前回調合した材料を完全に洗い落として使用しないと、可使時間が短くなる。

(d) 素地表面に露出している金物については、防錆処理を行った後に塗り付ける。

(e) 施工後の降雨、降雪、気温の低下、直射日光や強風によるドライアウト等により、硬化不良を起こす場合がある。

(f) 壁紙による仕上げの場合は、壁紙専用の下地調整塗材又はパテを使用する。

18.2.6 コンクリート面、ALCパネル面及び押出成形セメント板面の素地ごしらえ

(1) コンクリート面及びALCパネル面の素地ごしらえ

(ア) 作業の流れを次に示す( “破線囲み” は「標仕」表18.2.5のA種の場合、 “一点鎖線囲み” は、ALCパネル面の場合)。

(イ) コンクリート面の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.5と表18.2.6に分かれているが、表18.2.5の素地ごしらえは、7節[耐候性塗料塗り]以外の塗料塗りに適用する。

(ウ) 乾燥、汚れ・付着物除去、研磨紙ずり及びパテしごきは、18.2.5による。また、材齢による乾燥の目安は表18.2.3による。

(エ) 下地調整塗りは、良好な仕上り及び耐久性を確保するため建築用下地調整務材を全面に塗り付ける。
下地調整塗材 C-1は 0.5〜1mm程度、C-2は1〜3mm程度、 CM-2は3~10mm程度、Eは0.5~1mm程度の範囲で下地の不陸に応じて使い分ける。

(オ) 屋内で、コンクリート面等に素地ごしらえをして合成樹脂エマルションペイントを直接塗装する場合は、建築用下地調整塗材を全面に平滑に塗り付けた後、全面にパテしごきを行う必要がある。この場合、「標仕」表18.2.5のA種を用いるのが望ましい。

(カ) 仕上材が壁紙の場合、吸込止め、下地調整塗り、パテしごきに用いる「標仕」表18.2.5の塗料その他は壁紙専用のものとする。

(2) コンクリート面及び押出成形セメント板面の素地ごしらえ

(ア) 作業の流れを次に示す( “破線囲み” は「標仕」表18.2.6のA種の場合、”一点鎖線囲み”は、コンクリート面の場合)。

(イ) コンクリート面の素地ごしらえは、「標仕」表18.2.5と表18.2.6に分かれているが、表18.2.6の素地ごしらえは、7節[耐候性塗料塗り]に適用する。

(ウ) 乾燥、汚れ・付着物除去及び研磨紙ずりは、18.2.5による。また、材齢による乾燥の目安は表18.2.3による。

(エ) 吸込止め及びパテしごきに使用する材料は、上に塗り重ねる塗料の製造所の仕様による。

(オ) 吸込み止めには、JASS 18 M-201(反応形合成樹脂シーラーおよび弱溶剤系反応形合成樹脂シーラー)を用いる。

18.2.7 せっこうボード面及びその他ボード面の素地ごしらえ

(1) 作業の流れを次に示す( “破線囲み” は「標仕」表18.2.7のA種の場合)。

(ア) 各ボードの継目処理部分は、十分に乾燥させてから、ボード面を傷つけないように汚れ、付着物を除去する。

(イ) 穴埋め、パテかいは、「標仕」18.2.7に規定するボード面に対して、合成樹脂エマルションパテ(一般形)を使用することにしているが、これは屋内の水掛りでないところに用いることを前提として、主要な要求性能である「仕上りの良さ」を考慮したものである。

(ウ) 大壁面や大空間では、素地面とパテ等の肌違いによる光沢むらが目立ちやすいため、「標仕」表18.2.7のA種を用いることが望ましい。

なお、素地がせっこうボードの継目処理工法の場合は、仕上りを考慮してA種とし、穴埋め、パテかい及びパテしごきには、せっこうボード用目地処理材(ジョイントコンパウンド)を使用する。

(エ) 仕上材が仕上塗材の場合、パテは、仕上塗材の製造所の仕様による。壁紙による仕上げの場合に用いるパテは、壁紙専用の製品とする。

(2) けい酸カルシウム板面の素地ごしらえ

(ア) 表面がぜい弱であるけい酸カルシウム板面の施工に当たっては、汚れや付着物を除去した後、吸込止めとしてJASS 18 M-201に基づく塗料を全面に塗り付けてから、穴埋めやパテかいを行う。

(イ) 表面補強効果がある JASS 18 M-201は、上塗塗料の製造所が指定するものとする。

(ウ) 屋内で塗装する場合、吸込止めに用いる材料は、作業者や居住者の健康配慮のため、上に塗り重ねる塗料の製造所の仕様による水性塗料で行う。

18章 塗装工事 4節 合成樹脂調合ペイント塗り(SOP)

18章 塗装工事

4節 合成樹脂調合ペイント塗り(SOP)

18.4.1 一般事項

この節は、建築物内外部の一般部、構造体、建具等の木部及び錆止め塗料を施した鉄鋼面や亜鉛めっき鋼面に対する汎用的な着色塗装仕上げを対象としている。

塗膜の耐アルカリ性が劣るため、コンクリート、モルタル、ボード類等の素地には適用できない。

本節で適用する材料の特徴は、以下のとおりである。

(1) 合成樹脂調合ペイント(JIS K 5516)

JIS K 5516に規定されており、隠ぺい力や耐候性に優れた着色顔料、体質顔料等と、耐水性や耐候性に優れる長油性フタル酸樹脂ワニスとを組み合わせて、空気中の酸素によって乾性油が酸化重合して硬化乾燥する塗料である。一般的に、鉄鋼面や亜鉛めっき鋼面に対する各種錆止めペイントを下塗りとする塗り仕様の中塗りと上塗りに、また、木部塗装における上塗りに用いられる。JISでは、1種は主に建築用、2種は大型鋼構造物用に分類されており、「標仕」では、1種を用いると規定している。

この塗料の特徴は、次のとおりである。

(a) はけ塗り作業に適しており、はけ目やだれが少なく、表面光沢をもつ平滑な仕上り塗膜が得られる。

(b) 酸化重合で硬化するため、乾燥時間は8~16時間程度と遅く、固形分が多く肉持ち感があり、硬くて汚れが付着しにくい塗膜を形成する。

(c) 硬化した塗膜は黄変しにくく、耐油性や80℃程度までの耐熱性をもつ。

(d) 塗膜の吸水性が比較的大きく、長期間に渡る耐水性は期待できない。

(e) 塗膜の耐アルカリ性が劣るため、コンクリート、モルタル等のアルカリ性を有する素地の塗装には使用できない。

(f) 暗い場所に塗装した場合、塗膜が黄味をおびて変色(黄変)する現象(暗所焼け)を生じることがあるため、白や淡彩色を暗い場所に塗装することは避けることが望ましい。

(2) 木部下塗り用調合ペイント

18.2.2(1)(ア) を参照する。木部合成樹脂調合ペイント塗りの下塗り工程に適用している。

(3) 合成樹脂エマルションパテ

18.2.2(1)(ウ) を参照する。

18.4.2 木部合成樹脂調合ペイント塗り

(1) 材 料

木部下塗り用調合ペイント及び合成樹脂エマルションパテについては、18.4.1(2)及び(3)を参照する。

(2) 塗 装

(ア) 「標仕」では、素地ごしらえ工程4「節止め」にも、「JASS 18 塗装工事」M-304(木部下塗り用調合ペイント)が規定されている。

(イ) 下塗りは、素地に対して塗料を十分なじませる目的で実施する。

(ウ) 合成樹脂エマルションパテは、耐水性が劣り、塗膜のふくれやはがれの原因になるため、浴室や洗面所等の水回りや外部には「耐水形」であっても用いない。

(エ) 塗装方法は、はけ塗り又は吹付け塗りとする。

(オ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.4.1に示す。

表18.4.1 木部合成樹脂調合ペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18.4.3 鉄鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り

(1) 塗装方法は、はけ塗り又は吹付け塗りとする。

(2) 素地ごしらえ工程3「錆落し」の後は、発錆を防ぐため、標準工程間隔時間以内に次工程に移ることが重要であるが、標準工程間隔時間を超えて上に塗り重ねる場合は、適切な処理を行う。塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を表 18.4.2に示す。また、錆止め塗料塗りに用いる錆止め塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は表18.3.1による。

表18.4.2 鉄鋼面合成樹脂調合ペイント塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18.4.4 亜鉛めっき鋼面の合成樹脂調合ペイント塗り

(1) 塗装方法は、18.4.3(1)による。

(2) 塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は、表18.4.2による。また、錆止め塗料塗りに用いる錆止め塗料の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間は表18.3.2による。

18章 塗装工事 5節 クリヤラッカー塗り(CL)

18章 塗装工事

5節 クリヤラッカー塗り(CL)

18.5.1 一般事項

この節は、建築物内部の造作材、建具、造付け家具等の木部の透明塗装仕上げを対象としている。

18.5.2 クリヤラッカー塗り

(1) 材 料
(ア) 合成樹脂目止め剤

との粉、炭酸カルシウム、クレー、硫酸バリウムなどの体質顔料を合成樹脂ワニス、溶剤・添加剤などと練り合わせたものである。

(イ) 溶剤形着色剤

溶剤形染料着色剤と溶剤形顔料着色剤があり、前者は染料、後者は顔料を有機溶剤に溶解したものである。

(ウ) 油性染料着色剤

一般的にはオイルステインと呼称される着色剤であり、染料を芳香族系炭化水素・脂肪族系炭化水素と少量の油ワニスあるいは合成樹脂ワニスなどに溶解したものである。

なお、オイルステイン(油性染料着色剤)のみを利用した建築物内部の木部仕上げについては、18.11.2にオイルステイン塗りとして示している。

(エ) ウッドシーラー

JIS K 5533(ラッカー系シーラー)に規定されており、ニトロセルロースを主要な塗膜形成要素とした透明の揮発乾燥性の塗料で、木材表面に一部浸透して、自然乾燥で短時間に塗膜を形成する。

素地への吸込止め、素地押え、着色押えをする目的で下塗りに用いる。

(オ) サンジングシーラー
JIS K 5533に規定されており、ニトロセルロースを主要な塗膜形成要素とした半透明の揮発乾燥性の塗料で、自然乾燥で短時間に塗膜を形成する。

膜厚を確保して肉持ち感を与えるとともに、研磨がしやすく平滑に仕上げる目的で中塗りに用いる。

(カ) 木材用クリヤラッカー

JIS K 5531(ニトロセルロースラッカー)に規定されており、工業用ニトロセルロースとアルキド樹脂を主要な塗膜形成要素とした、液状の揮発乾燥性の塗料である。

自然乾燥で短時間に塗膜を形成する塗料であるため、吹付け塗りとするのが一般的である。比較的小面積の場合又は吹付け塗りで、塗料のロスが多く不経済となる場合等は、はけ塗りも適用される。

塗膜が薄く肉持ちが悪いため、平滑な塗膜表面を得るには塗重ねが必要となる。

湿度が高い場合には、空気中の水蒸気が塗膜面に凝縮吸着されて、白化〈かぶり〉を生じやすい。

(2) 塗 装

(ア)「標仕」では、塗装種別をA種とB種としており、種別の選定は特記により、特記がなければ B種と規定している。A種は目止めの工程が含まれ上塗り2回の工程であるため、B種と比較すると平滑で肉持ち感のある仕上がりとなる。A種は美観性を要求される場合に適用する。

(イ) 目止めは素地である木材の導管、仮導管、細胞間隙などの穴を埋めて、平滑な塗装素地面を得るための工程であり、一般的に目止め剤が使用される。A種では、目止め剤として合成樹脂目止め剤を使用することとしている。また、「標仕」表 18.5.1の(注)2に示すようにA種で着色する場合、着色に用いる塗料の種類は特記による。着色剤は、溶剤形着色剤又は油性染料着色剤(オイルステイン)としている。いずれの着色剤も使用できるが、下塗りであるウッドシーラーとの接着性を考慮すると溶剤形着色剤を使用することが望ましい。また、溶剤形着色剤には溶剤形染料着色剤と溶剤形顔料着色剤があるが、後者の方が、前者と比較して退色しない。

着色を行わない場合は、素地の色調を活かした木地(生地)仕上げとなる。

(ウ) 下塗りはウッドシーラー、中塗りはサンジングシーラーを用いる。

(エ) 下塗り、中塗り、上塗りは、はけ塗り又は吹付け塗りとする。はけ塗りの場合は、ワニスはけを用いて、できる限り木目に沿って軽く塗り付ける。中塗り、上塗りは、前工程の塗膜が十分に乾燥していることを確認した後に施工する。

(オ) クリヤラッカーは、高湿度環境で塗装すると白化を生じやすいため、相対湿度 80%以上の時は作業を中止する。

(カ) 研磨は、所定の研磨紙を用いて、塗膜が十分に乾燥していることを確認してから、目止めや着色等の素地ごしらえ面まで研ぎ出さないように注意して、平滑になるように空研ぎする。研磨が終了したら、研ぎかすを十分に除去してから次の工程に移る。

(キ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.5.1に示す。

表18.5.1 クリヤラッカー塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

18章 塗装工事 6節 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗り(NAD:Non-Aqueous-Dispersion)

18章 塗装工事

6節 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗り(NAD:Non-Aqueous-Dispersion)

18.6.1 一般事項

この節は、コンクリート、モルタル等で構成される建築物内部の平滑な着色仕上げを対象としている。

18.6.2 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗り

(1) 材 料

JIS K 5670(アクリル樹脂系非水分散形塗料)に規定されており、アクリル樹脂系非水分散形ワニスを主要な塗膜形成要素とする、分散粒子融着乾燥形の塗料である。一般的に、水を媒体として樹脂を分散安定化させたものなどをエマルションと呼ぶが、有機溶剤を媒体として樹脂を分散させたものが非水分散形ワニスで、通常 NAD (Non Aqueous Dispersion)等と略称されている。塗料は溶剤系塗料に比べ溶剤臭が少なく、常温で比較的短時間で硬化し、耐水性や耐アルカリ性に優れた塗膜が得られる。アクリル樹脂系非水分散形ワニスには、有機溶剤中毒予防規則の第三種有機溶剤等が用いられており、関係法令等に基づいた保管や塗装作業等に十分な配慮が必要である。

なお、有機溶剤中毒予防規則については、18.1.4を参照されたい。

(2) 塗 装

(ア) 下塗り、中塗り、上塗りには同一材料を使用する。

(イ) 使用するシンナーが不適切であると、塗装作業性が低下して、仕上りに欠陥を生じるため、塗料の製造所が指定するシンナーを使用する。

(ウ) 塗装方法は、はけ塗り、ローラーブラシ塗り又は吹付け塗りとし、吹付け塗りの場合は、塗料に適したノズルの径や種類を選定する。

(エ) 各塗装工程の標準工程間隔時間及び標準最終養生時間を、表18.6.1に示す。

表18.6.1 アクリル樹脂系非水分散形塗料塗りの標準工程間隔時間及び標準最終養生時間

19章 内装工事 1節 一般事項

19章内装工事

1節 一般事項

19.1.1 適用範囲

この章は、建物内部のビニル床シート張り、カーペット敷き、合成樹脂塗床、フローリング張り、畳敷き、せっこうボード張り、壁紙張り等の工事並びに断熱・防露工事等を対象としている。

19.1.2 基本要求品質

(a) 内装工事で使用する材料については、工業製品にあってはJIS、農林物資にあってはJASが指定されている。また、意匠上重要な部位にあっては、設計者から.そのほかの仕様が設計図書等に細かく指定される。JISやJASに適合することの確認方法については、他の材料と同様であるが、設計者からの特別な指定に適合することの証明としては、例えば、色・柄・材料等を見本品等により決定し、これにより確認するようにするとよい。

(b) 内装工事は、多様な材料により構成されるため、一律の仕上り状態を定めることは困難である。一般に内装工事に分類される工事種目としては、何らかの下地材料の上に施工がなされるものであり、また、何らかの仕上げの下地となることもある。

したがって、「所要の仕上り状態」としては、内装工事だけについて考えるのではなく、下地となるコンクリート工事、左官工事、金属工事、木工事等との仕上り精度とのバランス、最終的な仕上りとなる塗装工事やほかの内装材料等の仕上り状態とのバランスを考慮して定めるようにするとよい。

(c) 内装工事の完成後の性能として「標仕」19.1.2(c)では、床と断熱・防露工事について定めている。

床の出来上りとしては、「著しい不陸がないこと」としているが、その許容範囲は、部屋の用途によって一律には定められない。対象とする部屋の用途ごとにどこまでの不陸が許容できるかを定めるようにする。一般的な事務室にあっては、床のレベル計測により定めるのではなく、実際に出来上がった床を人間が歩いた時の感性による評価を考慮するとよい。この場合、(b) に示したように、単に内装工事による仕上げだけを考えるのではなく、下地の完成状態も含めて総合的に考える必要がある。床衝撃音は、床下地の構成方法によって発生する場合が多く、内装工事によるものばかりではない。床嗚りは、完成後の不具合として現れるものもあるが、少なくとも完成時においてこれが認められないことを要求事項としている。

断熱・防露工事にあっては、「断熱性に影響を与える厚さの不ぞろい、欠け等の欠陥がないこと」としているが、一般的な成形断熱材を打込み工法とする場合、コンクリート打込み時等に生じた欠け等の許容する程度、許容範囲を超えた場合の補修方法等について具体的に定めるようにするとよい。断熱材現場発泡工法を採用する場合にあっては、断熱材の吹付け厚さの管理方法として吹付け厚さの許容範囲を具体的に定め、合わせて許容範囲を超えた場合の補修方法を定めるようにする。

(d) ホルムアルデヒド放散量について、「標仕」では、基本要求品質の事項として概括的規定を設けていない。しかし、個別に、JIS又はJAS等で放散量等の品質基準が規定されている材料については、特品がなければF☆☆☆☆のものを使用するとしている。したがって、市場性、部位、使用環境等を考慮してその他の放散量のものを使用する場合は、設計図書に特記されている内容を十分確認し、要求品買を確保する必要がある。

なお、ホルムアルデヒド放散量に関する工事監理上の注意事項等は、10節を参照されたい。

19章 内装工事 2節 ビニル床シート,ビニル床タイル及びゴム床タイル張り

19章内装工事

2節 ビニル床シート、ビニル床タイル及びゴム床タイル張り

19.2.1 適用範囲

(a) この節は、ビニル床シート、ビニル床タイル及びゴム床タイル張り工事を対象としている。

(b) ビニル床シート張り工事作業の流れを図19.2.1に示す。

図19.2.1 ビニル床シート張り工事の作業の流れ

(c) 施工計画書等

(1) 施工計画内の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(必要に応じて室別・場所別の工程表の作成)
② 製造所名及び施工業者名
③ 材質、色調別に応じた施工箇所
④ 接着剤の種類(施工箇所別)
⑤ 工法(割付け、継目、見切り部分の納まり等)
⑥ 施工時及び施工後の換気方法
⑦ 養生方法

⑧ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文内の書式とその管理方法等

(2) 見本品を提出させ、色調等を設計担当者と打ち合わせて決定する。

(3) 施工図の検討は、次の事項について行う。

(i) タイルの割付け図、模様合せ(シートの場合は、はぎ目、継目の位置)
(ii) 隅部、柱回り、設備関係器具回りの切込み、取合い
(iii) 他の仕上材との取合い(見切り・目地)
(iv) 床改め口回りの納まり

(4) 床仕上げの施工に関する品質確保の一例として、 日本建設インテリア事業共同組合連合会では「床仕上管理士」及び「組合派遣指導員」・「企業内工事指導員」制度を設けており、この「床仕上管理士」の現場への常駐及び「組合派遣指導員」・「企業内工事指導員」の施工現場への派遣による自主的施工管理体制を確立し自主施工検査証を交付している。

19.2.2 材 料

(a) 張付け床材の分類
張付け床材の分類を図19.2.2に示す。


図19.2.2 張付け床材の分類
(b) ビニル床シート

(1) JIS A 5705(ビニル系床材)に規定されている床シートの種類を表19.2.1に示す。

表19.2.1 床シートの種類(JIS A 5705 : 2010)
(2) 特 性
(i) 弾性、耐摩耗性、耐水性、耐薬品性に優れている。
(ii) 熱に弱い。
(iii) 広幅、長尺シートで目地部分の溶接が可能な製品が多く、これらは、止水性及び防塵性が高い。

(iv) 床衝撃音吸収性、保温性及び抗菌性を付与したものがある。

(c) ビニル床タイル

(1) JIS A 5705に規定されている床タイルの種類を表19.2.2に示す。

表19.2.2 床タイルの種類(JIS A 5705 : 2010)
(2) 接着形床タイルの特性
(i) 単層ビニル床タイル
①耐摩耗性、耐薬品性、耐アルカリ性に優れている。また、単層であるため、摩耗が生じても意匠の変化が起きにくい。

② バインダー含有量が比較的多く、柔軟性に優れている。

(ii) 複層ビニル床タイル
① 耐水性、耐油性、耐摩耗性、耐薬品性、耐アルカリ性に優れているが、反面、熱による伸縮性が大きいため、強力な接着剤(ビニル共重合樹脂系溶剤形等)で確実に接着しておく必要がある。

② 印刷層を積層したものは、透明感があり、意匠性に優れている。

(iii) コンポジションビニル床タイル
① 無機充填剤の含有量が多いため、耐シガレット性に優れているが、反面、耐薬品性、耐アルカリ性、耐酸性、耐油性に劣る。
② 温度変化や多少の湿気にも伸縮が少ない。また、なじみ、納まり等の施工性がよい。

③ 維持管理の容易さに優れている。

(3) 置敷形床タイルの特性

(i) 置敷きビニル床タイル及び薄形置敷きビニル床タイルは、粘着はく離形接着剤を用いて施工を行う。使用時にはずれが生じにくいが、簡単にはがすことが可能で、張替えや再施工が容易な床タイルである。
① 耐水性、耐油性、耐薬品性、耐庶耗性に優れる。
② ガラス不織布等を積層し、温度変化による伸縮性を小さくしてあるため、寸法安定性に優れる。

③ フリーアクセスフロア等のOA床に施工されるものとして、帯電防止性能を付与したものがある。

(ii) 置敷きビニル床タイルと薄形置敷きビニル床タイルは、厚さによって種類分けされている。JISの規定値として、残留へこみ量が異なっている。

(d) 特殊機能床材

(1) 帯電防止床材は、電子計算機室、OA室、工場等の静電気を嫌う部位に使われる床材である。

(i) ビニル床タイルやビニル床シートに帯電防止剤や導電性充填材を練り込み、電気抵抗値を小さくしたもの。

(ii) 帯電防止剤練込み形のビニル床タイルは、吸水による伸びが大きいので、エポキシ樹脂系又はウレタン樹脂系の反応硬化形接着剤を使用する。

(iii) 実用上の注意
① 帯電防止剤練込み形のビニル系床材の抵抗値は、湿度の影響を大きく受ける。

② 歩行による人体帯電は履物の影響もあるので、静電気帯電防止靴(JIS T8103)を着用する必要がある。

(2) 視覚障害者用床タイルは、バリアフリー新法により公共建築等に使用される表面に凹凸のあるタイルである。警告型と誘導型の2種があり、これを組み合わせて使用される。

(3) 耐動荷重性床シートは、移動荷重による耐久性を高めたもので、医療施設、生産施設等に使われる床材である。

(4) 防滑性床材は、床材の表面にエンボス形状を付与することや硬質粒子を配合することにより、防滑性を高めたもので、床面の水ぬれ等によるすべり転倒を軽減させる部位に使われる床材である。

(e) ゴム床タイル

天然ゴム、合成ゴム等を主原料とした弾性質の床材料で、厚さは通常 3.0、4.0、5.0、6.0、9.0mmである。

特性は次のとおりである。
(i) ゴム特有の弾性がある。
(ii) 耐摩耗性が大きい。
(iii) 耐油性が劣る。

(iv) 熱による伸縮が大きい。

(f) リノリウム

「標仕」には規定されていないが、あまに油、松脂、コルク、木粉、石灰石等の天然素材を練り込んで、ジュート(麻布)を裏打ちとして成形されたもので、燃焼時にも有毒ガスの発生が少なく医療福祉施設等で使われている。

(g) 接着剤
(1) 床用接着剤の概要
(i) 接着剤の区分

① JIS A 5536(床仕上げ材用接着剤)では、1)ホルムアルデヒド放散、2)床材の形状、3)用途及び 4)主成分により、次のように区分されている。

1) ホルムアルデヒド放散による区分

ホルムアルデヒド放散による区分を表19.2.3に示す。

表19.2.3 ホルムアルデヒド放散による区分(JIS A 5536 : 2007)
2) 適用床材の形状による区分

床タイル用、床シート用及び床タイル・床シート用に区分されている。

3) 用途による区分
用途による区分は、「平場用」と「垂直面用」に区分され、平場用は更に「一般形」と「耐水形」に区分される。

なお、「標仕」ではJISほど細かく区分していないが、JISの「平場用 – 一般形の接着剤」は「標仕」の「一般の床」に用いる接着剤、また、「平場用 – 耐水形の接着剤」は「いわゆる耐水、耐動荷重、化学実験室等」に用いる接着剤と同様である。

4) 主成分による区分
主成分による区分を図19.2.3に示す。

図19.2.3 主成分による区分

② JISによる区分の表示例を図19.2.4に示す。


図19.2.4 JISによる区分の表示例(JIS A 5536 : 2007)

(ii) エマルション・ラテックス形接着剤と溶剤形接着剤

接着剤は一般に液状である。主成分である合成樹脂やゴムは本来固体であるが、溶媒に溶かすことによって液状となっている。

溶媒として溶剤(アルコールやアセトン等)を使用したものが「溶剤形」であり、水を使用したものが「水溶液形」又は「エマルション形」である。

主成分が「ゴム」である場合の「エマルション」を特に「ラテックス」と呼ぶ。ゴムや合成樹脂は、そのままでは水に溶けないが、細かな粒子とすることで水中に「分散」させて、「水溶液」と同様に扱えるようにしたものが「エマルション」である。ゴムや合成樹脂をエマルションにすることを「乳化」という。

① エマルション・ラテックス形接着剤の特性

水系の接着剤であるから引火の危険がなく、安全性、作業性に優れる。しかし、水の蒸発によって接着力が発現するため、低温での使用に適さない。

1) エマルション形接着剤:合成樹脂を水に分散させた接着剤

2) ラテックス形接着剤:天然ゴム又は合成ゴムを水に分散させた接着剤

② 溶剤形接着剤の特性

溶剤形接着剤は一般的に水系のものに比較して、低温での使用が可能である。ゴム系については適切な待ち時間をとって使用する。使用時は換気を良くし、火気に注意する。

(iii) 反応硬化形接着剤

接着剤塗布後の硬化に至るプロセスが、溶媒(溶剤や水)の揮発による乾燥硬化であるのに対し、接着剤自体が化学反応を起こし硬化するのが、反応硬化形接着剤である。

これにはエポキシ樹脂系接着剤やウレタン樹脂系接着剤がある。

反応硬化形接着剤の化学反応を起こすタイプには、主剤と硬化剤を混合する 2液混合形と下地や空気中の水分と反応する1液形がある。

(iv) 接着剤の種類別特性

① 酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤
乾燥固化すると硬い接着層により強い接着力が得られる。

塗布作業性が良く、特に初期粘着性に優れている。本来は張付け可能時間が短い接着剤であるが、品質改良により、現在はほとんどの製品において張付け可能時間の延長が図られ、施工作業に見合った張付け可能時間が得られるようになった。

溶剤(アルコール)系の接着剤なので引火、毒性に注意し、施工時には、火気・換気等に配慮しなければならない。消防法上の危険物に相当し、集積制限を受ける。貯蔵・保管は、直射日光を避け、換気の良い室内で行なう。

また、水系接着剤と異なり、凍結することがないので、寒冷地での冬期使用が可能である。

酢酸ビニル樹脂は、本来、水によって軟化するものではなく、耐水性のある合成樹脂といえるが、アルカリ性水分との接触で接着力の小さい水溶性物質に変質(化学変化)する。

セメントが介在した下地からの水分は強いアルカリ性水分であることから、下地水分を含んだモルタル下地に対して酢酸ビニル樹脂系接着剤を使用すれば、接着力が低下し、はがれ、浮き、反り等の障害を起こすことになる。

そのため、結果的には水系接着剤と同様に、この酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤であっても、湿気のおそれのある下地には使用できない。

② ビニル共重合樹脂系エマルション形接着剤
塗布作業性と初期粘着性に優れ、張付け可能時間が長く、コストも比較的安いという長所をもつが、接着力は比較的小さい。

品質的には、後述の合成ゴム系ラテックス形接着剤とほぼ同等で、酢酸ビニル樹脂系エマルション形接着剤に比べ、共重合とすることで作業性の大幅な改善がなされているが、接着強さは逆に低下している。

水系の接着剤なので、引火・毒性がなく、容易にふき取れ、床材料を汚すことが少ないが、凍結することがあり、寒冷地での冬期使用は難しい。

湿気のおそれのある下地には、再乳化によって接着力が低下し、はがれ、浮き、反り等の事故を起こすことがあるので使用できない。また、鋼板下地には錆を発生させるので直接使用はできない。

③ ビニル共重合樹脂系溶剤形接着剤

ここでいうビニル共重合樹脂とは、酢酸ビニル樹脂にアクリル樹脂やエチレン樹脂等の他の成分を共重合させた合成樹脂を意味する(共重合体:2種類又はそれ以上の化学的に異なった分子がつながったもの)。

特性として、主成分をアクリル樹脂と共重合させたものは、接着性が大幅に高まり、従来の酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤では困難とされていた軟質のビニル床系材料にも優れた接着力を発揮することから、適用範囲が広まり、様々な床材料の直張り施工に使用される。

その他の諸特性は、前述の酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤とほぼ同等であり、塗布作業性や初期粘着性に優れている。
引火・毒性、消防法上の集積制限、湿気のおそれのある下地に使用できないことなども前述の酢酸ビニル樹脂系溶剤形接着剤と同じである。

JIS A 5536により、酢酸ビニル樹脂系溶剤形とビニル共重合樹脂系溶剤形とに分類区分されている。現状は、まだ上記分類が完全には認識されておらず、両者が混同されていることがあるので十分注意する必要がある。

④ アクリル樹脂系エマルション形接着剤
塗布作業性、初期粘着性に優れ、接着力は他のエマルション形やラテックス形に比較して大きい。塩化ビニル樹脂分の高い床材に最適で適用範囲が広く、特に、ビニル床シートの直張り施工に多く使用されている。
近年、ビニル幅木の垂直面施工において、溶剤形接着剤による室内空気質汚染対策及び危険物の使用回避等から、同施工にアクリル樹脂系エマルション形接着剤の使用が増えている。
また、タイルカーペットや二重床のビニル床タイルの張替えを安易にして、使用時にはずれを防止する粘着性を付与したアクリル樹脂系エマルション形(ピールアップ形)接着剤もある。

凍結、寒冷地での冬期使用、保管、湿気のおそれのある下地、鋼板等への使用は、他のエマルション形接着剤と同様である。

⑤ エポキシ樹脂系接着剤
様々な床材料に対して強い接着力が得られることから適用範囲が広い。また、塗布作業性が良く、初期粘着性にも優れている。
この接着剤はコストが比較的高く、2液混合の手間がいるといった欠点はあるが、エポキシ樹脂のもつ高接着力、耐水、耐酸、耐アルカリ、耐薬品等.他の接着剤にない優れた特性が高く評価され、特に湿気のおそれのある下地に対しての耐湿用接着剤としての採用が多い。
このほか、工場、実験室、屋外等の特殊条件の場所に使用されることも多い。
使用に当たっては混合比を正確にし、よく練り混ぜてから塗布しなければならず、混合した残りは保存できない。また、反応によって硬化するのであるから、特に低温時での硬化に時間がかかることに注意する。

引火・毒性等の注意すべきことは他の溶剤系の接着剤と同じであるが、反応性のため、特に、皮膚等への接触を避けるようにする。

⑥ ウレタン樹脂系接着剤
様々な床材料に対して強い接着力が得られ、適用範囲が広い。
床材料の施工に使用されるウレタン樹脂系接着剤のほとんどが、水分との化学反応による湿気硬化形の1液性で.反応硬化形接着剤の中では作業性が良く、初期粘着性にも優れている。特に湿気のおそれのある下地の耐湿用接着剤として、土間コンクリート、開放廊下、工場等の場所に多く採用されている。また、2液混合形のものは、ほとんど使用されていない。
含有する溶剤は、塩化ビニル樹脂に対して強い溶解性があるので、接着剤塗布後の待ち時間を適切にとらないと、床材のふくれや軟化を起こしやすくなる。

湿気硬化形であるため、一度缶から出した接着剤は戻すことができない。また、開缶後の余った接着剤は保管期間が短くなるので、短時間の内に使い切ることが望ましい。

引火・毒性等の取扱いに関する注意事項は他の溶剤系接着剤と同様である。エポキシ樹脂系接着剤と同様、反応性なので皮膚等への接触を避ける。

⑦ 合成ゴム系ラテックス形接着剤
床用接着剤に用いられる合成ゴム系ラテックス形接着剤はほとんどがスチレン・ブタジエンゴム(SBR)であると考えてよい。
塗布作業性と初期粘着性に優れ、張付け可能時間が長く、コストも比較的安いという長所をもつが、接着力は比較的小さい。
アクリル樹脂系エマルション形接着剤同様に、ビニル幅木の垂直面施工用途にも使用されている。
水系の接着剤なので、引火・毒性はないが、凍結することがあり、寒冷地での冬期使用は、接着強さの発現が遅れるため避けることが望ましい。

湿気のおそれのある下地には、再乳化によって接着力が低下しはがれ、浮き,反り等の事故を起こすことがあるので使用できない。錆板下地には錆を発生させるので直接使用できない。

⑧ 合成ゴム系溶剤形接着剤
ここでいう合成ゴムとは、主としてクロロプレンゴム(CR)又はアクリルニトリル・ブタジエンゴム(NBR)を指すことが多い。
合成ゴム系溶剤形接着剤は、様々な床材料に対して高い接着性を示し、初期接着力に優れるため、硬い材料やくせのある材料を使用する場合、又は垂直面の施工を行う場合には下地への納まりが良い。
しかし、合成ゴム系溶剤形接着剤が床材料の施工に使用されるのは、垂直面やその補助的な場所であって広い平場での直張り施工にはほとんど使用されない。これは、その使用方法が下地と材料への両面塗布が必要であることや塗布性の悪さによるものといえる。
配合添加する樹脂の影響で、ビニル系床材を沿色汚染させることがある。

また、一般に耐水性は良くないので.湿気のある下地には使用できない。

1) クロロプレン系

ビニル系床材又は軟質塩化ビニル幅木の可塑剤の移行を受けやすく、軟化して接着力の低下と、床材料の縮みやはがれを引き起こすことがある。

2) ニトリル系
ゴム系ではあるが、硬い皮膜が得られ、可塑剤の移行を受けにくいので、軟質のビニル系床材(特にビニル床シートや軟質塩化ビニル幅木、単層及び複層ビニル床タイル)に使用する場合は、このニトリル系を採用する。
溶剤系の接着剤なので引火・毒性に注意し、施工時には、火気・換気等に配慮しなければならず、保管時にも、消防法上の集積制限や夏期の高温に注意する。

水系接着剤と異なり、凍結することがないので、寒冷地での冬期使用が可能である。しかし,塗布量が過多であったり、溶剤が多く含まれた状態で施工すると、基材が変色することがある。

(2) 接着剤のホルムアルデヒド
「標仕」では、接着剤のホルムアルデヒド放散量は、特記がなければF☆☆☆☆としているので、放散量が指定されたものであることを確認して、接着剤の選定を行う必要がある。

なお、JISの規格品を使用する場合、規格品としての扱いができないものなどを使用する場合の確認方法等については、19.10.5を参照されたい。

(3) その他の床材用接着剤
海外資材等で「標仕」に規定されていない材料を、特記により使用する場合は、床材とともに接着剤もJIS適合品以外のものを使用する場合もある。この場合の接着剤は、床材製造所の指定するものを使用するが、品質については JIS A 5536に準じたものであることを確認する必要がある。

なお、ホルムアルデヒド放散量の確認については、(2)と同様である。

(h) 下地処理材
モルタル下地の袖修に使う材料で 0.5 ~ 1mm程度の薄塗りで使用するポリマーセメントモルタルである。

酢酸ビニル共重合樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂エマルションを主体とするもので、現場でポルトランドセメント、砂、水等を混ぜて、地べらや金ごてで仕上げる。

19.2.3 施 工
(a) 下地
(1) 木質下地の場合
(i) 下地合板は、たわみ・振動のない構造とする。
(ii) 下地合板は、不陸、目違いのないように張り付ける。

(iii) 釘頭は、合板面より沈め気味に打ち込む。

(2) コンクリート及びモルタル旅りの下地の場合
(i) 一般階でも施工後、窓の開閉、開口部等の養生に注意し、水や湿気が浸入しないようにする。

(ii) 下地は平滑で表面強度が十分ある状態とする。

(b) 下地の乾燥
施工に先立ち、下地の乾燥を確認する(9.2.4 (a)参照)。
下地乾燥の判断法の一例として、高周波水分計を用いて確認する方法がある。また、その他の簡易判断法としては次のフィルム法がある。

(i) 約1m2の下地に普通ポルトランドセメントを薄くまき、ポリエチレンフィルムをかぶせ周囲を密封し、2時間後にセメントをかき集め軽く吹いて飛散すればよい。

(ii) 約1m2の下地にポリエチレンフィルムを敷き、翌朝、フィルム下面に結露がなければよい。

また、春から雨期にかけては、地下階の床や土間コンクリートでは表面結露を生じることが多いので季節的にはこの時期の施工は避けたほうがよい。しかし、やむを得ず施工する場合には、ジェットヒーター等で床面の温度上昇を図ると同時に換気を良くする必要がある。

(c) 張付け

(1) 張付けに先立ち、下地面の清掃を十分に行う。

(2) シート類は、長手方向に縮み、幅の方向に伸びる性質があるので長目に切断して仮敷きし、24時間以上放置して巻きぐせをとり、なじむようにする。

(3) 接着剤は、製造所の指定するくし目ごてを用いて塗布する。異なるくし目ごてを用いると張付け後シート類の表面にくし目が目立つ場合がある。

(4) 接着剤塗布後、状況に応じた待ち時間を適切にとり、シート類を張り付ける。

(5) シート類の張付け後は、表面に出た余分の接着剤をふき取り、ローラー等で接着面に気泡が残らないように圧着する。

(6) ビニルを表層とした床シートは、防湿・防塵等の目的で、はぎ目及び継手を熱溶接する場合が多い。この場合の工法を次に示す(図19.2.5参照)。

(i) 床シート張付け後、接着剤が完全に硬化してから、はぎ目及び継手を電動溝切り機又は溝切りカッターで溝切りを行う。

(ii) 溝は、深さを床シート厚の2/3程度とし、V字型又はU字型の均ーな幅とする。

(iii) 熱溶接機を用いて、溶接部を材料温度160〜200℃の温度で、床シートと溶接棒を同時に溶融し、溶接棒を余盛りが断面両端にできる程度に加圧しながら溶接する。


図19.2.5 ビニル床シートの熱溶接

(iv) 溶接完了後、溶接部が完全に冷却したのち、余盛りを削り取り平滑にする。

(7) 床タイル類の張付け

(i) 冬期の施工では、張付け時の圧着を特に十分に行う必要がある。

(ii) ラテックス形接着剤やエマルション形接着剤は、床材の伸縮を完全に防止できないので、目地部のせり上がりや目地部に隙間が発生する場合がある。したがって、施工環境によっては、接着剤の種類を変える必要がある。

(iii) タイル類の張付け後の圧着は (5) のシート類と同じにする。

(iv) ゴム床タイルの張付けにゴム系溶剤形接着剤を用いるときは、接着剤を下地及びタイル裏面に塗布し指触乾燥後、張り付ける。次いで、木づち又はゴムづちでたたいて圧着する。

(8) 立上げ幅木

床面にこぼれた水や薬品が壁際から床下地へまわるのを防ぐ目的で、ビニル床シートを床面から壁に向かって、立ち上げて張り付け、幅木と床を一体に立ち上げる工法がある。シートを立ち上げると、小端処理をする必要がでてくる(図 19.2.6参照)。

処理方法としては、次のようなものがある。

① 小端をシリコーンシーリング材等でシールする方法
② キャップをかぶせる方法(金属見切りやビニル製ウォールキャップ等)

③ 入り幅木にする方法


図19.2.6 立上げ幅木の小端処理方法

(9) 表面仕上げ及び養生

(i) 張上げ後、特に通行の頻度の高いところ、材料の搬出入口、便所、洗面所の出人口等の水掛りとなるおそれのあるところでは、布やシートを掛けるなどして十分養生する。

(ii) 完全に接着強度が出るまで(1 ~ 2週間)は、水ぶき等を避ける。また、局部的な荷重を加えないように注意する。

(iii) 表面仕上げは、床材をクリーナーで洗浄後、製造所の指定するワックス類を塗布し、乾燥つや出しして仕上げる。

床材の表面処理として特殊な防汚加工(UV加工:紫外線硬化樹脂の塗工等)を施しているものがあるので、これらの床材ヘワックス類の塗布を行う場合は、製造所に確認し、必要に応じて行う。

(d) 施工時等の換気

接着剤塗布から施工時や表面仕上げ時は、室内空気汚染物質の濃度が高くなるので、作業中や養生時は、換気を十分に行い濃度の低減に努める。

(e) リサイクル
床施工時の余材・端材の発生量は、施工面積の約5%にのぼる。これらの余材・端材のうち、再資源化できる材料については、再資源化に積極的に取り組むことが望ましい。

再資源化の方法として、インテリアフロア工業会では、余材・端材のリサイクルシステムを開発している。

ビニル系床材は、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」における「特定調達品目」として追加された。判断の基準は、再生ビニル樹脂系材料の合計重量が製品の総重量比で15%以上使用されていることであり、配慮事項は、工事施工時に発生する端材の回収、再生利用システムについて配慮されていることである。備考として、JIS A 5705(ビニル系床材)に規定されるビニル系床材の種類で記号KSに該当するものについては、判断の基準の対象とする「ビニル系床材」に含まれないものとする. となっている。

19.2.4 寒冷期の施工

張付け時の室温が5℃以下又は接着剤の硬化前に5℃以下になるおそれがある場合は、接着剤が硬化せず、所要の接着強度が得られないので施工を中止する。

やむを得ず施工する場合は、ジェットヒーター等による採暖等を行う。
なお、全国月別平均気温は、参考資料の資料3を参照されたい。

19章 内装工事 3節 カーペット敷き

19章内装工事

3節 カーペット敷き

19.3.1 適用範囲

(a) この節は、織じゅうたん、タフテッドカーペット、ニードルパンチカーペット及びタイルカーペットの敷込みを対象としている。

(b) 作業の流れを図19.3.1に示す。


図19.3.1 カーペット敷込み工事の作業の流れ

(c) 施工計画書等

(1) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(製作期限、搬入、敷込みの時期、必要に応じて室別敷込み工程)
② 施工業者名及び防炎表示者登録番号
③ 構成材料の品質、密度
④ 取付け用付属品
⑤ 割付け要領:継目の位置
⑥ 各部取合い納まり(他の仕上材、床改め口、設備機器との取合い)
⑦ 工 法
⑧ 施工時及び施工後の換気方法
⑨ 養生方法

⑩ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等

(2) 見本品を提出させ、風合(肌触り、踏み感触)、色合等について、設計担当者と打ち合わせて決定する。

(3) 床仕上げの施工に関しての「床仕上管理士」及び「組合派遣指導員」・「企業内工事指導員」制度等については、19.2.1(c)(4)と同様である。

19.3.2 一般事項

(a) パイル糸

(1)羊毛
そ(梳)毛糸及び紡毛糸は、毛(混紡を含む。)とし新毛80%以上のものとする。
ただし、再生羊毛及びくず羊毛を含まない。
①そ(梳)

そ(梳)毛糸は、細くて長い繊維が用いられている(通常7 〜12番手)。

② 紡毛糸(ぼうもうし)

紡毛糸は.太く短い繊維が用いられている(通常3 ~7番手)。

(2) 化学繊維

化学繊維には木材パルプから造るレーヨン及び石油から造られるアクリル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル等がある。これらの繊維を用いる場合は、長所、短所をよく把握し、使用目的に応じた最適なものを選ぶのがよい。

例えば、羊毛にナイロン糸を混ぜ耐久性の向上を図る。また、通行量の多い廊下等は、洗浄性が良く、耐久性に富んだナイロンフィラメント糸を用いるなど、使用場所に応じたものがよい。

フィラメント(Filament) :JIS用語「連続したきわめて長い繊維」。無ねん(撚)又はわずかなより糸として用いられ、紡績糸より滑らかである。

紡糸の際、不規則に凝固させる又は熱可塑性を利用し断面形状を変えることなどにより、かさ高加工したものがある。

(b) 染色方法

パイル糸の染色方法は大別して先染と後染があり、羊毛は先染とするが、更にそ毛糸は糸染、紡毛糸は原毛染(綿染)とする。ナイロンは、原着又は後染とする。

(i) 先染
① 原着

繊維にする前に顔料を入れて着色する。

② 綿染

糸になる前に染色する方法。

③ 糸染

糸を紡いだのち、染色する方法で、1色に染める浸染と部分ごと異色染をするものがある。

(ii) 後染
① 反染(ピース染)

製織後、裏加工する前に染色する方法で、1色に染める浸染と繊維により着色性が異なることを利用して1液で2〜4色に染める異染があり、それぞれバッチ染色法と連続染色法がある。

②捺染(なっせん)(プリント)

パイル面に直接柄を表現する方法。

(c) 防虫加工

「標仕」19.3.3(a)(3)で、羊毛については、パイル糸は防虫加工をするように定められている。また、ウールマーク、ファーンマークのあるものは、防虫加工がなされている。化学繊維は、虫害に対しては極めて強い。

ファーンマーク:
ウールズ・オブ・ニュージーランドのシンボルマークであり、美しい自然環境の象徴でもある、植物の「シダ」を形どったニュージーランド羊毛の品質保証マークである。
(d) 帯電防止

(1) カーペットの上を人が歩くと、摩擦により人体に静電気がたまる場合がある。静電気(人体帯電圧)が3kV程度以上になったときに,導電体と接触すると、放電され. ショックを感じるといわれている。

静電気の発生は、繊維の種類、カーペットに接するもの(靴底等)、湿度等によって異なるため、帯電しにくい素材の選択又は湿度を上げるなどの対策が必要である。

(2) 帯電防止には色々な加工方法があるが、その帯電防止性能については、「標仕」 19.3.3(a)(4)では、JIS L 1021-16(繊維製床敷物試験方法ー第16部:帯電性一歩行試験方法)による人体帯電圧の値の3kV以下とし、その適用は特記によるとしている。

(e) 防炎性能

(1) 消防法令により、高層建築物(高さ31mを超える。)、地下街、劇場、公会堂等は防炎規制の対象となっている(法第8条の3第1項、令第4条の3第1項)。

(2) 防炎規制の対象物品は、法で定める基準以上の防炎性能を有するものとし、防炎性能を有するものである旨の表示(防炎表示)をしなければならない。

(3) 防炎表示は、ピース物(置敷き)の場合は裏面張付け、施工もの(室内等に固定されたもの等)は、各部屋ごとに主要な出入口(1箇所以上)等に防炎ラベル(図19.3.2参照)を張り付ける。

なお、防炎表示を附するものは消防庁長官の登録を受けたものでなければならない。

(4) 「標仕」では、公共建物を対象としているため、高さ31m以下の場合でも3節「カーペット敷き」を適用する工事では防炎性能を有し、防炎表示のあるものと定めている。

防炎性をもたせる方法としては、繊維製造の段階で防炎成分を加えるなどがある。


図19.3.2 防炎ラベル

(f) ウールマーク、ファーンマーク、ステッキマーク

パイル糸の種類が毛(混紡を含む。)のカーペットを用いる場合は、ザ・ウールマークカンパニー(AWI)で登録し、管理されているウールマーク及びウールマークブレンド(図19.3.3(イ)及び(ロ)参照)、ウールズ・オブ・ニュージーランドで登録し、管理されているファーンマーク(図19.3.3(ハ)参照)、又は英国羊毛公社で登録し、管理されているステッキマーク(図19.3.3(ニ)参照)の張り付けられたものを用いるのがよい。


図19.3.3 ウールマーク・ファーンマーク・ステッキマーク

19.3.3 材 料

(a) カーペットの分類を図19.3.4に示す。


図19.3.4 カーペットの分類

(b) 織じゅうたん(機械織りカーペット)

ウィルトンカーペットは、18世紀の中ごろ、イギリスのウィルトン市で初めて機械織りとして作られたカーペットである。

色は1〜5色を使い美しい模様を織り出すことができる。また、パイルの長さも自由に変えられるので、無地物でも表面のテクスチャーに変化をつけた柄が出せる。

織り方は、基礎となる布地部とパイル糸を同時に織り込み、地よこ糸3本ごとにパイル糸をすくい上げてループ状としたもの(三越織り)で、2本のよこ糸でパイル糸を完全に押さえるので抜毛がない。また、よこ糸2本ごとにパイル糸をすくい上げてループ状にしたもの(二越織り)が、ブラッセルカーペットであり、これをカットしたものをベルベット織りという。このようにたて糸、よこ糸とパイル糸を同時に織り込んでいるので、組織がしっかりしており施工後伸びてしわができず、物理的にも、外観的にも品質が安定して優れている。

なお、ウィルトンカーペット及びブラッセルカーペットの製織構成と各部の名称を図19.3.5及び6に示す。

JIS L 4404(織じゅうたん)では、他にアキスミンスターカーペット等があるが、「標仕」ではこれらを織じゅうたんとし、種別、織り方等は特記によることとしている。


図19.3.5 ウィルトンカーペットの製織構成


図19.3.6 ブラッセルカーペットの製織構成

(c) タフテッドカーペット

普及用として考案された機械刺しゅう敷物で、生産速度が早く価格が安い。製造方法は一列に並んだ千数百本のミシン針によって基布(ジュート、合成繊維等)にパイルを植え付け、パイルの変形、抜けを防ぐため基布の裏から固着剤(ラテックス等)で加工する。通常は、基布(第一基布)の裏にもう1枚裏布(第二基布)を張り付けて、カーペットの変形を防ぎ、踏み心地を良くしている。ループパイルやカットパイルのものがある。パイルの材質は化学繊維、羊毛等の天然繊維及びこれらの混紡が用いられる。

なお、タフテッドカーペットの製織構成と各部の名称を図19.3.7に示す。

ジュート:
黄麻(こうま)という植物の繊維から作られる素材。通気性・保温性に優れ、丈夫な点が特徴で、織り方によって、ヘッシャンクロス、ガンニークロス、ジュートフェルトなどがある。

 


図19.3.7 タフテッドカーペットの製織構成

(d) ニードルパンチカーペット

シート状の繊維を基布に積み重ね又は基布を挟み込み、かえりのあるニードル(針)で突き刺してフェルト状にしたものである。ゴム等のバックコーティング剤等で補強したり、目の荒い織物を心材としてその両面にフェルト状とした繊維層を置き、織物を通して繊維相互を刺し絡めて作ることが多い。一種の不織布であるので、裁断面から糸のほつれがなく自由にカッティングでき、施工は容易である。繊維層の材質は、ポリエステルが最も多く用いられている。

(e) タイルカーペット

タフテッドカーペット等を基材として裏面に強固なバッキング材(図19.3.8参照)を裏打ちしたタイル状カーペットであって、500 × 500(mm)の正方形が大半を占める。官庁、オフィス、学校、病院、銀行、工場、研究所等ではOA機器の普及及び発展に伴い、多く使用されるようになってきた。二重床と組み合わせても使用されている。

タイルカーペットの特性としては、施工が迅速であり、部分補修が容易であるが施工に際しては下地の平たん性が要求される。タイルカーペットの構造は、図 19.3.9のとおりである。


図19.3.8 バッキング材の種類


図19.3.9 タイルカーペットの構造

(f) 下敷き材(アンダーレイ)

グリッパー工法で使用する下敷き材は、「標仕」19.3.3(e)ではJIS L 3204(反毛フェルト)の第2種2号、呼び厚さ8mmを用いるように定められている。

なお、一般的な下敷き材の材質.製法等を表19.3.1に示す。

表19.3.1 下敷き材の材質、製法等

(g) 取付け用付属品

(1) グリッパー

グリッパーは、米国で製作され普及したものであるが、現在市販されているグリッパーは、厚さ6〜7mm、幅23~25mm、長さ1.2mの米松合板に、とび出し 4~5.6mmの針が60度の角度で15mm程度の間隔に2列に逆さに打ち込んであるもので種類には、木床用、コンクリート床用がある(図19.3.10参照)。


図19.3.10 グリッパー

(2) 釘・木ねじ

黄銅製、ステンレス製又は防錆処理を施したコンクリート用釘を用いるのがよい。

(h) 接着剤

「標仕」では、接着剤は JIS A 5536(床仕上げ材用接着剤)により、カーペット製造所の指定するものとしホルムアルデヒド放散量は、特記がなければF☆☆☆☆としている。

なお、タイルカーペット用接着剤はJIS A 5536に規定する粘着はく離形(ピールアップ形)のアクリル樹脂系エマルション形接着剤が一般的に使用されているが、過度なせん断荷重が加わる場所では、ずれやはがれが生ずる場合があるため、粘着はく離形ではなく、接着強度の高い接着剤を選択する必要がある。

19.3.4 工 法

(a) 共通事項
(1) 工法には次の種類がある。
(i) グリッパー工法

床の周囲に釘又は接着剤で固定したグリッパー(スムースエッジ)にカーペットの端部を引っ掛け、緩みのないよう一定の張力を加えて敷き詰める工法である。耐衝撃性を高めるために下敷き材が使用される。

(ii) 全面接着工法

接着剤を使ってカーペットを床に固定する工法で温・湿度の変化による伸縮を防ぎ、維持・補修も容易である。

(iii) タイルカーペット全面接着工法

カーペット製造所の指定する粘着はく離形接着剤を使用し、市松張りを原則とする。

タイルカーペットの特徴は、部分的に簡単にはがせて、かつ、簡単に張り替えることができる点にある。

(2) 基準床高(下地床高)

下地床高の基準は、一般に下敷き厚さ+毛足長さ=カーペット敷き厚さとして定めてよい。

なお、国土交通省大臣官房官庁営繕部整備課「建築工事標準詳細図」には、下敷き厚さ+カーペット厚さ=総厚さよりグリッパー工法では 3mm、全面接着工法では2mm差し引いた厚さと定められている(図19.3.11参照)。


図19.3.11 「建築工事標準詳細図」による基準床高

(3) 敷き方の種類

(i) 敷詰め:床面いっぱいにカーペットを敷き詰める方法

(ii) センター敷き:廊下や階段等の床の中央部に長手方向に連続して敷く方法

(iii) 置敷き:カーペットを床に置いて敷くだけで、ピース敷き、中敷き等がある。

(iv) 重ね置き:敷き詰めたカーペットの上にアクセントを付けるために部分的に敷く方法

(4) 下地

下地の不陸は、カーペットを敷き込んだ場合に表面に現れ、見苦しくなるので注意する。

(b) グリッパー工法
(1)下敷き

下敷き材のはぎ合せは、通常突付けとし、下地がモルタル塗りの場合等は、ジョイント及び四方を接着剤で接着する。木造の場合は.釘等で留め付ける。

(2) グリッパー取付け

グリッパー取付けは.カーペットの厚さに応じて、周辺に沿って連続して図19.3.12のように均等な溝(隙間)をつくり、釘又は接着剤で取り付ける。


図19.3.12 カーペットの厚さに応じたグリッパーの取付け位置

(3) 上敷き

仕上げをする前には継目は真直ぐになっているか、模様があっているか、毛並みは同一方向にそろっているか、十分によく伸び切っているかを検査する必要がある。施工直後に表面に多少の凹凸が残る程度でも、その後の歩行によってたるみやしわを生じトラプルの原因となる。

(4) 留付け及び敷込みの工法

(i) 張りじまいは、ニーキッカー(図19.3.14(イ))で伸展しながらグリッパーに引っ掛け、カーペットの端を図19.3.13のようにステアツール(図19.3.14(ロ))を用いて溝に巻き込むように入れる。30m2( 6 × 5 [ m ] )程度を超える施工にはパワーストレッチャー(図19.3.14(ハ))を使用して施工する。


図19.3.13 カーペット張りじまい


図19.3.14 カーペット敷込み用工具

(ii) センター敷きの張りじまいの各部納まりを図19.3.15に示す。


図19.3.15 センター敷きカーペット張りじまい

(iii) センター敷き、置敷きのカーペットの切り口の端部は、30mmまでパイル糸をはさみで刈り取り、裏面に折り返して千烏縫い(図19.3.16参照)とするか、接着剤で張り付ける。


図19.3.16 千鳥縫い

(5) 階段の納まりを図19.3.17に示す。


図19.3.17 階段敷きの納まり

(6) 硬質の床材及び他のカーペットと取り合う場合の納まりを図19.3.18に示す。


図19.3.18 取り合う場合の納まり

(7) 接 合

(i) 「標仕」19.3.4 (c)(6)では、はぎ合せ、幅継ぎは次のいずれかによると定めている。

① つづり縫いは、従来から一般に行われている工法で、丈夫な綿糸、亜麻糸又は合成繊維糸で間ぜまに手縫いで行う(図19.3.19参照)。


図19.3.19 つづり縫い

② ヒートボンド工法

ヒートボンド工法は、図19.3.20のように接着テープ(シーミングテープ)をアイロン(160℃程度)で加熱しながら、接着はぎ合せをする工法である。


図19.3.20 ヒートポンド工法

(ii) ウイルトンカーペットの接合部のカット
接合部を織目にそってはさみで切りそろえたのち、両端を突き合わせて接合部に不自然な線がないことを確認して接合する。

なお、切口に合成ゴム系の接着剤を塗りほつれ止めを行う。

(iii) タフテッドカーペット接合部のカット
クッションバックカッター(図19.3.21(イ))を用い目通しカットを行う。

なお、ループパイルの場合は、ループパイルカッター(図19.3.21(ロ))を使用するのがよい。


図19.3.21 カッター

(iv) 丈継ぎ及び斜め継ぎ

割付け計画の段階でできるだけ避ける。やむを得ず行なう場合は、図 19.3.22のように重ね合わせ、カーペットを裁断する。両方のカーペットをまくり上げ、接着テープを継目の部分に置き、のりを付け、押さえて接着する(図 19.3.23参照)。


図19.3.22 ダブルカット


図19.3.23 幅継ぎ

(c) 全面接着工法
(1) 接着剤

接着剤は、カーペット自体の収縮を押さえるため、はく離強度よりもせん断強度を重視したタイプを使用する(図19.3.24参照)。

なお、せん断強度は.0.15N/mm2程度以上のものが望ましい。


図19.3.24 はく離強度とせん断強度

(2) 接合部のカット

(i) 幅接合〈幅継ぎ、幅ジョイント〉は、ループパイルカッターを使用して目通しカットを行う。

(ii) 丈接合〈丈継ぎ、丈ジョイント〉は、割付け計画の段階でできるだけ避ける。やむを得ず行う場合は、ダブルカット(図19.3.22参照)とし、カット面の基布部に瞬間接着剤を使用して、接合線を押え板(木づくり)で押さえて24時間程度養生を行う。

(d) タイルカーペット全面接着工法
(1) 接着剤

タイルカーペット接着剤は、カーペット製造所の指定する粘着はく離形(ピールアップ形)を使用する。

(2) 割付け

割付け寸法は、基本的にビニル床タイルと同様であり、材料のサイズと部屋のサイズ(実測値)とから計算される。この時、パイル目の方向を確認するとともに端部に細幅のタイルカーペットがこないようにする。

(3) 下地

コンクリート下地に張り付ける場合、下地の乾燥が十分でないと異臭の原因となることがあるため、下地が十分乾燥していることを確認する。

(4) 張付け

基準線に沿ってタイルカーペットを押し付けながら部屋の中央部から端部へ敷込んで行く。

特に指定がない限り市松張りを原則とする。

タイルカーペットのバッキングの種類によって、目地詰めの要領が異なることに注意する。

出入口部分には、「3分の2以上の大きさのもの」がくるように割り付ける。これは出入口部分に切断された小さなタイルカーペットがくると、歩行によってはがされるからである。

ビチューメンバッキングの場合は、軟らかで、かつ、弾力性をもたないために、圧縮の力を吸収し変形したままになってしまうが、塩ビバッキングの場合は、ガラス繊維等の心材が入っていることもあって、硬いため圧縮の力に反発し、無理に押し込むと反りやふくれとなってしまうことがある。

(5) フラットケーブルを敷設する床(アンダーカーペット配線)への施工

基本的には、フラットケーブルの敷設の前にタイルカーペットを施工することを前提とするが、事前に発注者・設計者・建築業者・電気工事業者等の関係者がお互いに確認をしておくことが重要である。

(6) フリーアクセスフロア(二重床)への施工

床パネルの段違いや隙間を1mm以下に調整したのち、タイルカーペットを施工する。タイルカーペットの割付けは、床パネルの目地とタイルカーペットの目地を100mm程度ずらして行う。

19.3.5 品質確認

(a) 検査項目

カーペットの品質を確認するための検査を行う場合は、カーペットの種類に応じてJIS L 4404(織じゅうたん)、JIS L 4405(タフテッドカーペット)又は JIS L 4406(タイルカーペット)による。

(b) 染色堅ろう度

パイル糸の染色堅ろう度は、(a)のJISによって試験した耐光堅ろう度及び摩擦堅ろう度(乾燥)の等級が、4級以上のものであればよい。ただし、特に濃色のもの又は淡色のものは、いずれか一方の堅ろう度が3級であってもよい。

(c) 外観の品質

外観の品質は、JIS L 4404、JIS L 4405及びJIS L 4406に定められている。なお、JISが制定されていないニードルパンチカーペットはこれに準ずる。

検査を行う場合は、敷物の検査を専門に行っている (-財)ケケン試験認証センター又は公認の検査機関がよい。

(-財)ケケン試験認証センター

(d) ホルムアルデヒド放散量

カーペットは指定建築材料(19.10.3(b)参照)ではなく又 JISでもホルムアルデヒド放散量に関する品質基準が定められていないため、「標仕」においても放散量を規定していない。

なお,関係業界団体等では、平成14年の国土交通省告示(19.10.3(b)参照)に準じて自主基準を作成し、これに基づきホルムアルデヒド発散等級を表示しているものもある。

19章 内装工事 4節 合成樹脂塗床

19章内装工事

4節 合成樹脂塗床

19.4.1 適用範囲

(a) この節は、主にコンクリート床面に塗床材を塗り付けて、シームレスな床を形成し、機械的強度(耐荷重性、耐摩耗性、耐衝撃性等)、化学的特性(耐水性、耐薬品性、耐熱性、耐候性等)及び居住性(歩行感、美観、防音性等)等を付与する塗床工事のうち、厚膜型塗床材(弾性ウレタン樹脂系塗床材及びエポキシ樹脂系塗床材)、薄膜型塗床材(エポキシ樹脂系塗床材)を用いて、床仕上げを行う工事を対象としている。平成25年版「標仕」より薄膜型塗床材が追加された。

なお、「標仕」では規定されていないが硬化の速いメタクリル樹脂系塗床材と耐熱性に優れる水性硬質ウレタン系塗床材についても参考に示す。

(b) 作業の流れを図19.4.1に示す。


図19.4.1 合成樹脂塗床工事の作業の流れ

(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(必要に応じて室別・場所別工程表の作成:下地ごしらえ、塗床材施工、養生等)
② 製造所名、銘柄、色番及び施工業者名
③ 材料保管方法、取扱い注意事項(消防法、労働安全衛生法等により管理)
④ 室別・場所別の工法
(表面仕上り状態:平滑、防滑、つや消し
工法:流し展べ、樹脂モルタル仕上げ)
⑤ 下地コンクリートの水分管理、表層強度の確認、下地ごしらえ(下地状況別)
⑥ 施工時期・工期(他の仕上げ工事との関係)
⑦ 施工環境(気温、湿度、結露、塵あい、臭気、騒音等)
⑧ 施工時及び施工後の換気方法
⑨ 養生方法( 塵あい、傷、汚れ、雨水、硬化前の歩行等からの保護)
⑩ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の様式とその管理方法等

⑪ 廃材の分別処理(不燃物、可燃物、劇毒物等)

(d) 施工図の検討は、次の事項について行う。
(1) 隅部、柱回り(幅木)との取合い
(2) 設備関係器具回り、グレーチング回りの納まり
(3) 他の仕上材との取合い(見切り、目地)

(4) 床改め口回りの納まり

(e) 塗床の詳細に関しては、日本塗り床工業会「塗り床のソリューション塗り床の不具合抑止対策集」や「塗り床ハンドブック」に不具合対策だけでなく材料選定から保守管理に至るまでの注意点等がまとめられているので、参考にするとよい。

塗り床ハンドブック(日本塗り床工業会)

19.4.2 材 料

(a) 塗床材の種類と特徴

(1) 塗床材の種類を図19.4.2に示す。


図19.4.2 塗床材の種類

(2) 各種合成樹脂塗床材の特徴と主な用途を、表19.4.1から表19.4.3までに示す。

表19.4.1 無溶剤形塗床材の特徴と主な用途
表19.4.2 溶剤形塗床材の特徴と主な用途
表19.4.3 水性形塗床材の特徴と主な用途
(3) 主な合成樹脂塗床材の性能と使い分け

(i) 厚膜型塗床材は、材料の比重によって異なるが約1mm以上の厚塗りが可能で、機械的、化学的性能を要求される床に用いられる。厚みがつくことからコンクリート素地の細かい凹凸を軽減する効果があるため、掃き掃除の時の防塵効果はもとよりモップ拭きやゴムレーキ掃除に適する平滑性を与えることも可能である。コンクリートに水が浸み込むことなくすぐに乾くことから、より衛生的な環境を提供することができる。

(ii) 厚膜型のウレタン樹脂系塗床は、弾力性、耐摩耗性に優れた材料で歩行感に優れ.靴音を低減できることから、一般事務所、廊下、病院等人が歩行する場所に適する。

(iii) 厚膜型のエポキシ樹脂塗床は、機械的強度、耐薬品性、美装性のバランスが良く、最も汎用的な無溶剤形塗床材である。ただし、低温硬化性と耐候性に欠点があるため、冬季の施工では施工管理に注意を要する。また、耐候性付与のためにアクリル系・ウレタン系のトップコートを塗装する場合がある。

(iv) 平成25年版「標仕」で規定された薄膜型塗床材は、下地の凹凸がそのまま 仕上りに現れる塗床材で、ローラー刷毛で簡単に施工することができる。厚膜型塗床材より簡易な塗床材で防塵性があり台車の通行や人の歩行程度の用途に用いる。庁舎の場合、電気室、機械室、倉庫、搬入口、軽作業の床に使用され、コンクリートからの発塵を抑え、容易に掃き掃除ができる環境が得られる。また、簡易的に雨水・水の浸透を防ぎ、コンクリートを保護する。

(v) 「標仕」では規定されていない塗床材として、メタクリル樹脂系塗床材は低温環境下での施工、短時間施工が可能で、耐薬品性、耐候性に優れるため、主に食品関連床、屋外の床等に使用されている。また、水性硬質ウレタン系塗床材は、特に耐熱水性や耐衝撃性の要求が高い食品工場、厨房、学校の給食室、給食センター等の施設に適する。

(b) 下地調整材
(1) 樹脂パテ

塗床材と同質の樹脂に無機質系充填材あるいはセメント等の水硬性物質又はよう変性付与材等を加えパテ状とし、φ2mm以下のピンホール、巣穴及びひび割れ等の目つぶしあるいは不陸の修正に用いる。

(2) 樹脂モルタル

床面の不陸が大きな場合あるいは欠損部分が大きな場合は、無溶剤形の樹脂に質量比で 3〜10倍の骨材(けい砂等)を混合した樹脂モルタルで充填する。

(3) ポリマーセメントモルタル

水硬性のセメント系粉体に合成樹脂エマルションを混入したポリマーセメントモルタルやセルフレベリング材で、下地の不陸や巣穴を修正する場合がある。しかし、ポリマーセメントモルタルは、塗床材に含まれる溶剤や可塑剤の影響により強度の低下を来し、はく離やふくれの原因となることがあるので、塗床材の下地に適用する場合は注意する。

(c) 塗床材

(1) 塗床材は、一般に、プライマー、ベースコート及びトップコートで構成される。ベースコートとは、「標仕」でいう、弾性ウレタン樹脂系塗床材塗り、エポキシ樹脂系塗床の流し展べ工法における下塗り及び上塗り、厚膜流し展べ工法の骨材混合ペースト塗り、樹脂モルタル工法の樹脂モルタル塗り等の金ごてで塗り付けるものがある。これに加えて薄膜型塗床の工法の下塗り及び上塗りのローラーばけを用いて塗布するものも含む。

(2) 主材/硬化材又はA/B等と表示される2成分形の材料は、混合することにより化学反応で硬化するため、混合不十分な材料を用いると硬化不良となるので注意する。

(3) 使用季節の表示がある材料は、表示の期間に使用する。

(4) 塗床材には皮膚に接触すると湿疹・かぶれを生じるものがあるので取扱いに注意する。

(5) プライマーは塗床材を塗布する場合に下地コンクリートとの接着性を高めるために用いられるもので、下地コンクリートの湿潤状態、油潤状態等により特殊なプライマーを使い分ける場合がある。

(6) 無溶剤形の塗床材に骨材等の充填材を混合すると厚膜流し展べ材や樹脂モルタル材等ができる。

(7) 表面仕上げを滑りにくくする場合には、材料にけい砂やウレタンチップ等の骨材を混合して塗布するか又は材料が硬化する前に骨材を散布して防滑仕上げとするのが一般的であるが、材料によう変剤を加えローラー塗りでスチップル模様として防滑を行うこともある。

(d) 合成樹脂塗床材の品質

(1) 「標仕」表19.4.1から表19.4.3までに、各塗床材の品質と試験方法が規定されている。しかし、これらに規定された試験方法は塗床材を対象として規定されたものではないため、具体的な塗床の試験方法の一例としては、JISに準拠して定められた日本塗り床工業会の「塗り床試験方法」による試験結果が「標仕」に規定する品質を満たしていることを確認すればよい。

(2) 薄膜型塗床材は諸性能のバランスに優れたエポキシ樹脂系とされている。エポキシ樹脂は物理的性能・耐汚染性に優れるが、直射日光により、経時で黄変やチョーキング(白亜化)が生じる場合がある。

(3) ホルムアルデヒド放散量については、特記がなければ F☆☆☆☆としているので、指定された品質のものであることを確認して使用する。

なお、ホルムアルデヒドの放散量とその確認方法等については、19.10.5を参照されたい。

(4) 薄膜型塗床材は、溶剤形と水性形がある。一般には溶剤形が使用されるが、キシレン・エチルベンゼン等の有機溶剤を含むので、一般の人が立ち入る居室の床に施工する場合には水性形とし、ホルムアルデヒドの放散量や学校環境衛生基準(平成21年3月31日文部科学省告示第60号)に指定される化学物質を放散しない材料であるかを安全データシート(SDS)等で確認して使用する。

19.4.3 工 法

(a) 下地の処理

(1) コンクリート床下地の表層部分はレイタンスやぜい弱層があるため、あらかじめ研磨機、研削機等でコンクリート表層のぜい弱な層を除去し強固な面とする。

また、油分等が付着している場合は脱脂処理をする。

(2) 幅木との取合い、グレーチングの納まり等異種材との取合い部分の納まりは、あらかじめ同材のパテ材や樹脂モルタルで平滑に処理しておく。

(3) 合成樹脂を配合したパテ材や樹脂モルタルで下地調整を行う場合は、プライマーを塗布したのちに行うのが一般的である。

(4) 下地のひび割れ、ピンホール、巣穴等の樹脂パテ処理が不十分な場合には、塗床材がその中に流れ落ち、塗床にピンホールや欠損が生じるので、同材のベースコートでしごくとよい。

(b) プライマーの塗布

(1) プライマーを塗布する場合には、施工場所の換気を十分に行い、プライマーの所定量をローラーばけ、はけ、金ごて等を用いてたまりを生じないように塗り付るる。プライマーの吸込みが激しく塗膜を形成しない場合は、全体が硬化したのち、吸込みが止まるまで数回にわたり塗る。

(2) 下地調整はプライマーが乾燥後、下地のくぼみや隙間等の大きさにより適宜 19.4.2(b)の材料を使い分け平滑に仕上げる。

(c) 塗床材の塗付け

(1) 塗床の仕上げの形態には薄膜型塗床工法、流し展べ工法、樹脂モルタル工法等があり、ベースコートの種類、塗付け方法で区分される。塗床の形態と特徴を表 19.4.4に示す。

表19.4.4 塗床の形態と特徴

(2) トップコートはベースコートの保護を主目的として用いられ、耐候性、意匠性、機能性(防滑性、帯電防止性、防汚性)等の性能が付与される。表19.4.5にトッ プコートの種類と用途例を示す。

表19.4.5 トップコートの種類と用途例

(3) 各工程における塗り間隔は、塗床材の種類により上限と下限がある場合があるので注意する。この間、前工程の塗り面には塵あいや水が付着しないようにあらかじめ十分に養生しておく。

(4) ベースコートの塗布は、気泡が混入しないようにして練り混ぜた塗床材を床面 に流し、ローラーばけ又は金ごてを用い塗りむらにならないよう平滑に仕上げる。

(5) 立上り面の施工はだれを生じないよう、よう変剤を混入した材料を用いる。

(6) 弾性ウレタン樹脂系塗床は、硬化する時に少量のガスを発生することがあり、1回の塗付け量があまり多いと内部にガスを封じ込めて仕上り不良となるので 、1回の塗付け量は2kg /m2以下とし、これを超える場合は塗り回数を増す。塗付け量2kg/m2以下は、硬化物比重1.0の場合で、塗付け厚さ2mm以下となる。

(7) エポキシ樹脂系塗床

(i) 樹脂モルタル工法は、流し展べ工法に比べて塗布厚みがあり、かつ、圧縮強度が高いので耐荷重性のある床をつくることができる。

(ii) 樹脂モルタル工法では、プライマーと樹脂モルタルの間にタックコートを塗布する。タックコートの役割は、下地と樹脂モルタルとの密着性を良くし金ごてによる樹脂モルタル塗りの作業性を良くする。タックコートを施工した塗面がゲル化する前に樹脂モルタルを塗り付ける。

(iii) 樹脂モルタルの塗付けは、こてむらとなりやすいので、定規を用いてあらかじめ平たんに塗り広げるなどして平滑に仕上げる。硬化後に目止めを行う。

(8) 防滑のための骨材の散布は、下塗りが硬化する前に製造所が指定する骨材をむらのないように均ーに散布する。散布は手まきが一般的であるが、より均ーに散布するためにガン吹きとする場合もある。

(9) メタクリル樹脂系塗床

(i) 施工前に下地の表面温度を測定し、製造所の指定するプライマー、ベースコート及びトップコート樹脂液に対する硬化剤又は硬化促進剤の添加量を決定する。

(ii) メタクリル樹脂系塗床材は、一般に可使時間が 10〜20分と短いので広い面積の施工を行う場合は、テープ見切りを行うなどして塗継ぎにならないように注意する。

(iii) 塗膜厚が薄過ぎるとワックスの造膜を阻害し、硬化不良の原因となることがあるのでいずれの工程でも薄過ぎないよう注意する。

19.4.4 施工管理

(a) 下地コンクリート

(1) 塗床材を施工するコンクリート又はモルタル下地の養生期間は、夏期で3週間以上、冬期で4週間以上を目安とするが、天候に大きく左右されるためこれで下地が十分に乾燥したと判断することは早計である。下地の乾燥状況を簡易的に判定する方法については、日本床施工技術研究協議会の「コンクリート床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」(2006年4月)中の「水分量」の測定方法を参考にするとよい。この試験は、床面に乾燥度試験紙を不透湿性透明ビニル粘着テープで張り付け、試験紙が水分により変色した程度を色で判定する方法と、コンクリート・モルタル用高周波静電容量式水分計により測定する方法の二とおりがある。

>日本床施工技術研究協議会

(2) 春から雨期にかけては、地階の床や土間コンクリートでは表面結露を生じることが多いので、この時期の施工は避けた方がよい。しかし、やむを得ず施工する場合には天候の安定した日を選ぶとともに換気を十分に行う必要がある。

(3) コンクリート床の表面はブリーディング水に伴うレイタンスやドライアウトによるぜい弱層があったり、油分や塵あい等が付着して十分な接着力が得られなくなることがあるので事前に表面強度を確認しておく必要がある。また、原則として軽量コンクリートは、塗床下地に不適当であるが、下地の状態や条件により施工できる場合もある。

下地の表面強度を簡易に測定する方法として「コンクリート床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」中の「表面強度」の測定方法を参考にするとよい。この試験は、超硬質のピンに一定の荷重を加えながら下地表層を引っかき、その傷跡の形状と幅で下地の表面強度を判定するものである(図19.4.3参照)。


図19.4.3 引っかき試験

(4) コンクリート床の表面凹凸(表面の細かい凹凸)や不陸(表面全体的なたわみやうねり)が大きい場合には、塗床材が流れたり、材料使用量が予想以上に多くなる場合が多いので、あらかじめ確認しておくとよい。

表面の凹凸や不陸を測定する方法として「コンクリート床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」中の「表面凹凸、不陸」の測定方法を参考にするとよい。この試験は、長さ2mの直定規と長さ1.8mの水準器を使って容易にできる方法である。

(b) 塗床材の塗付け

(1) 施工場所の気温が低い(5℃以下)場合や湿度が高い(80%以上)場合等は、低温による塗床材の硬化不良や結露による仕上り不良を防止するため施工を中止する。

(2) 使用季節の表示(夏タイプ、冬タイプ)あるいは促進剤の添加量による硬化時間の表示がある場合、硬化時期に対応した材料及び添加量の確認をする。

低温下(5℃以下)の施工あるいは2時間以内で塗床を使用したい時は、メタクリル樹脂系塗床材を用いるとよい。

(3) 塗床材は種類により、また、防滑仕上げやつや消し仕上げは骨材の散布量により仕上り状態や色調等の風合に差があるので、採用に際しては塗り見本等を確認する必要がある。

(4) 引火性の塗床材を塗り付ける場合は、通風、換気、火気に注意する。

(5) 仕上げ後、適度な表面強度を得るためには、エポキシ樹脂系やウレタン樹脂系の場合、冬期で3日間、春秋期で2日間、夏期で1日間程度の養生が必要である。

19章 内装工事 5節 フローリング張り

19章内装工事

5節 フローリング張り

19.5.1 適用範囲

(a) この節は、一般的用途のフローリングを用いて行う床張り工事を対象としている。なお、縁甲板張りについては、「標仕」12.6.1による。

(b) 作業の流れを図19.5.1に示す。


図19.5.1 フローリング張り工事の作業の流れ

(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
 ① 工程表
 ② 製造所名等及び施工業者名
 ③ 使用材料の材質(JAS等)、板厚
 ④ 取付け釘類及び接着剤の種類、品質等
 ⑤ 工法、管理の方法等
 ⑥ 施工時及び施工後の換気方法

 ⑦ 養生方法

19.5.2 材 料

(a) JASによるフローリングの適用範囲

主として板その他の木質系材科からなる床板であって、表面加工その他所要の加工を施したものに適用する。

(b) JASによるフローリングの品名及び用途による分類、並びに主な樹種を図19.5.2 に示す。


図19.5.2 フローリングの分類(JAS)等

(c) JASによる用語の定義を表19.5.1に示す。

表19.5.1 用語の定義(JAS)

(d) JASによるフローリングの標準寸法を、表19.5.2及び3に示す。

表19.5.2 単層フローリングの標準寸法(JAS)

表19.5.3 複合フローリングの標準寸法(JAS)

表19.5.4 表示事項(JAS)

(f) JASによるフローリングの品質は、材料の仕上りや節等の適合基準により判定するもののほか、一定のルールに基づき、試料を抽出して試験片を作成し、性能試験等を行って性能を保証している。次に試験の項目等を示す。

(1) 含水率試験
(i) 適用範囲

すべてのフローリングに適用される。

(ii) 試験方法

全乾質量を測定して含水率を求める(含水率計で測定することもできる。)。

(iii) 試験片の適合基準(平均値)
① 単層フローリング

1) 人工乾燥材:針葉樹 15%以下、広葉樹13%以下

2) 天然乾煤材:針葉樹 20%以下、広葉樹17%以下

② 複合フローリング:14%以下

(2) 浸せきはく離試験
(3) 曲げ強度試験
(4) 曲げ試験
(5) 摩耗試験
(6) 防虫処理A試験
(7) 防虫処理B試験
(8) 吸水厚さ膨張率試験
(9) ホルムアルデヒド放散量試験

木質フローリング並びにフローリングに使用される接着剤及び塗料等のホルムアルデヒドに関する表示や確認方法等については、19.10.5を参照されたい。

(g) フローリングのホルムアルデヒドの放散量等は、JASで品質基準が定められており、「標仕」では特記がなければ、単層及び複合フローリングは、F☆☆☆☆のもの、非ホルムアルデヒド系接着剤使用のもの、非ホルムアルデヒド系接着剤及びホルムアルデヒドを放散しない塗料等使用のものとしており、単層フローリングに限っては、更に、接着剤等不使用のもの、ホルムアルデヒドを放散しない塗料等使用のものも含まれている。

19.5.3 工法一般

(a) 「標仕」ではフローリング張りの工法を、大きくは乾式工法と湿式工法(モルタル埋込み工法)の二つに区分し、乾式工法は、更に釘留め工法(根太張り工法・直張り工法)と接着工法の二つに区分している。

どの工法を適用するかは特記によることとしている。

(b) 工法ごとに対応するフローリング及び下地の種類の例を図19.5.3に示す。

なお、工法の分類等については、「標仕」と整合しない部分があることに注意する。


図19.5.3 工法ごとに対応するフローリング及び下地の種類の例
((-社)日本フローリング工業会「フローリング張り標準仕様書」より)

19.5.4 釘留め工法

(a) 根太張り工法
(1) 下地の工法等

(i) 根太の上にフローリングボード(根太張用)又は複合フローリング(根太張用)を接着剤と釘打ち併用にて張り込む工法。また、この場合は、根太間隔を 300mm程度とする。

(ii) 下地は、次のことに留意する。

① ゆるみ・がたつきがなく、きしみ音がないこと。また,壁際、かまち、見切り等に接する部分にあっても適切に処理されていること。

② 張込むフローリングの張り代が適正に確保されていること。また、出入口、壁際の納まりが適切に処理されていること。

③ 強度、剛性、平滑性等が確保され、また、十分乾燥していること。

(2) 材 料

(i) フローリングは、フローリングボード(根太張用)及び複合フローリング(根太張用)とし、樹種はならを標準としている。

(ii) フローリングの厚さは、フローリングボードの場合は15mm(「標仕」表19.5.1)、複合フローリングの場合は、板厚15又は12mm以上(「標仕」表19.5.2)としている。

(iii) 釘は、原則として、スクリュー釘、フロア釘及びフロアー用ステープルとする。

(iv) 接着剤は、「標仕」ではJIS A 5536(床仕上げ材用接着剤)によるウレタン樹脂系としている。

なお、ホルムアルデヒド放散量は特記がなければF☆☆☆☆としているので注意する。

(3) 工 法
(i) フローリングボード張り

張込みに先立ち、板の割付けを行い、継手を乱にし(隣接する板の継手は 150mm程度離して)、板そば、木口等のさね肩、しゃくり溝等を損傷しないように通りよ<敷き並べて、根太当たりに雄ざねの付け根から隠し釘留めとする。また、その際、接着剤を根太の全面又はビート状(300mm程度の間隔で、150g/m2程度)に塗布し、釘と接着剤との併用で留め付ける(図19.5.4参照)。

なお、幅木下及び敷居下の板そばには、必要に応じて適切な隙間を設ける(図19.5.5参照)。

(ii) 複合フローリング張り
張込みに先立ち、木理、光沢等配置よく割り付け、接着剤を根太の全面又はビート状(150g/m2程度)に塗布し、通りよく並べ、板そばと木口のさね肩を損傷しないように、平滑に根太へ向け、雄ざねの付け根から隠し釘留めとする

(図19.5.4参照)。


 図19.5.4 根太張り工法

 


    図19.5.5 敷居際の納まりの例

(b) 直張り工法
(1) 下地の工法等

(i) 根太の上に下張り用床板を張り、その上にフローリングボード(直張用)又は複合フローリング(直張用)を釘打ちにて張り込む工法。必要に応じて接着剤を併用する。

なお、下張り用床板は、「標仕」表12.6.1[床板張りの工法]で、厚さ12mmの合板又は厚さ15mmのパーティクルボードとしている。また、この場合は根太間隔を300mm程度とし、下張りと上張りとの継手が合わないようにする。

(ii) 下地は、次のことに留意する。

① ゆるみ・がたつきがなく、きしみ音がないこと。また、壁際、かまち、見切り等に接する部分にあっても適切に処理されていること。

② 張込むフローリングの張り代が適正に確保されていること。また、出入口、壁際の納まりが適切に処理されていること。

③強度、剛性、平滑性等が確保され、また十分乾燥していること。

(2) 材 料

(i) フローリングは、フローリングボード(直張用)及び複合フローリング(直張用)とし、樹種はならを標準としている。

(ii) フローリングの厚さは、フローリングボードの場合は12mm以上(「標仕」表19.5.3)、複合フローリングの場合は、板厚15又は12mm以上(「標仕」表19.5.4)としている。

(iii) 釘は、スクリュー釘、フロア釘及びフロアー用ステープルとしているが、接着剤を併用する場合はその他のものを用いる場合もある。

(iv) 接着剤は、「標仕」ではJIS A 5536(床仕上げ材用接着剤)によるウレタン樹脂系としている。

なお、ホルムアルデヒド放散量は、特記がなければF☆☆☆☆としているので注意する。

(3) 工 法
(i) フローリングボード張り

張込みに先立ち、板の割付けを行い、通りよく敷き並べ、板そばと木口のさね肩を損傷しないように、雄ざねの付け根から隠し釘留めとする。また、必要に応じて、接着剤を下地の全面又はビート状(300mm程度の間隔で、150g/m2程度)に塗布し、釘と接着剤との併用で留め付ける(図19.5.6参照)。

なお、幅木下及び敷居下の板そばには、必要に応じて適切な隙間を設ける(図19.5.5参照)。

(ii) 複合フローリング張り

張込みに先立ち、木目・色調等を配置よく割り付け、接着剤を下張り材全面又はビート状(300mm程度の間隔で、150g/m2面程度)に塗布し、通りよく並べ、板そばと木口のさね肩を損傷しないように、雄ざねの付け根から隠し釘留めとする(図19.5.6参照)。


図19.5.6 直張り工法

19.5.5 接着工法

(a) 下地の工法等

(1) 接着工法は、モルタル下地の類に接着剤を用いて直張用のフローリングを張り込む工法である(図19.5.7参照)。


図19.5.7 接着工法の例

(2) 下地は次のことに留意する。

(i) 張り込むフローリングに応じた張り代が確保されていること。また、出入口、かまち、見切り、幅木回り等の精度が確保されていること。

(ii) フローリング張りの平滑性及び接着性を確保するために必要な下地面の強度及び精度が確保され、また、十分乾燥していること。

なお、日本床施工技術研究協議会では、コンクリート及びモルタル金ごて押え、セルフレベリング材塗り等の表面強度.水分量(乾燥度)、不陸等の測定方法及びその等級区分等について「コンクリート床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」(2006年4月)を定めているので参考にするとよい。

(b) 材 料

(1) フローリングは、直張用の単層フローリング及び複合フローリングとし、樹種は,モザイクパーケットを除きならを標準としている。

(2) フローリングの寸法は、モザイクパーケットを除き「標仕」表19.5.3,及び5で規定されている。

(3) モザイクパーケットは、ピースの組合せにより市松模様とプレパークと呼ばれる並列模様とがある(図19.5.8参照)。

なお、表面塗装したものが多く用いられ、裏面材のあるもの(厚さ10mm)とないもの(厚さ8mm)とがある。


図19.5.8 ピースの組合せ

(4) フローリング裏面の緩衝材は、下地コンクリート面の不陸の吸収及び防湿効果を目的としたものであり、特記がなければ、合成樹脂発泡シートとされている。したがって、発泡体シートはクリープ特性を有し、透湿率の低い独立気泡体のものがよい。このような性質をもったものには、ポリオレフィン樹脂系(無機質 60%、ポリオレフィン樹脂40%)のものがある。

(5) 接着剤は、「標仕」では JIS A 5536によるエポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系又は変成シリコーン樹脂系としている。

なお、ホルムアルデヒド放散量は、特記がなければF☆☆☆☆としているので注意する。

(c) 工 法

(1) 張込みに先立ち、木目・色調等を配置よく割り付け、所定の接着剤を下地に塗布し、通りよく並べ表面を損傷しないように十分に押さえ込んで平滑に張り込む。

(2) 接着剤は専用のくしべらを用いて均等に伸ばし、全面に塗残しのないよう入念に塗布する。

(3) 2液形接着剤は、所定の配合比で専用容器を用いてよくかくはんして使用する。

なお、一回のかくはん量は、接着剤の可使時間を考慮し、作業量に合わせて決める。

(4) 寒冷期に室温5℃以下で接着剤を使用する場合は、採暖等を行う。

(5) 張込み作業中に接着剤が製品の表面に付着した場合は、専用の溶剤で速やかにふき取る。

(6) 「標仕」では規定していないが、直張用としての裏面及び寸法加工を施していない単層フローリングをコンクリート系の下地に用いる場合には、合板等を介して張り込む工法がよく行われている。その場合には、接着剤が固まるまでの反り防止のため隠し釘留めを行い、その釘類はフローリングの厚さに応じた、かつ、下地の合板を貫通しない長さとする(図19.5.9参照)。


図19.5.9 単層フローリング(裏面緩衝材なし)
を合板を介してモルタル下地に張り込む場合の例

19.5.6 モルタル埋込み工法

(a) フローリングブロック(複数の板を並べて接着剤又は波釘等でブロック状に形成し、裏面に防水処理を施し、木口面にモルタルにフローリングを定着させるための足金物を取り付けた製品)をコンクリートスラブの上にモルタルを敷き均して埋め込む工法である(図19.5.10参照)。


図19.5.10 モルタル埋込み工法の例

(b) 下地は、次のことに留意する。

(1) 張り代は、床仕上り面より50mmを標準とすること。特に、壁際や出入口部は高い精度の下地レベルであること。

(2) コンクリートスラブは、打込み後3週間以上経過し、下地としての強度が十分確保されていること。

(3) 土間スラブ等、土に接する部分には、「標仕」4.6.5[床下防湿層]による防湿処理が施されていること。

(c) 張込みに先立ち、割付け図を作成させ、小片は用いないようにする。

(d) 張込み

(1) 調合は、容積比でセメント1:砂 3 程度のよく混ぜた硬練りモルタルを平らに敷き均し、セメントペーストを2mm 程度むらなく表面に流して張り込む。

(2) フローリングブロックは、割付け図に基づき水糸を引き通し、水糸に合わせて水平に、市松模様に張り、不陸、目違いのないよう、目通りよく十分たたき締めて張り込む。

(e) 張込み後、雨等の掛からないようにし、夏期で 4 から 7日間、冬期で10日間程度の養生をする。

19.5.7 現場塗装仕上げ

目違い払い後のフロアサンディングと塗装との関係は次のようになる。

(1) 特記がなければ、ウレタン樹脂ワニス塗りを行う。詳細は、18章11節による。

(2) 樹脂系塗装を行う場合のサンドペーパーは、P80〜100程度とする。

(3) オイルステインワックス、ワックス、フロアオイル塗りの場合のサンドペーパーは、P60~80程度とする。

(4) サンデイング後直ちに塗装しない場合は、厚手の紙等を用いて床面の汚れを防ぎ、かつ、雨等の掛からないように窓を閉めるなどして保護する。

(5) オイルステイン塗付け後、乾燥時間として8時間以上とる。

(6) ワックス・フロアオイル仕上げ後、乾燥時間として8時間以上必要である。

19.5.8 養 生

(a) 張込み後の養生
(1) 湿式の工法(フローリングブロック)

張込み後、表面に軽油等を塗布して汚れ、しみ、狂いを防ぎ、雨等の掛からないようにし、夏期で7日間、冬期で10日間程度の養生期間を置いたのち、仕上げ塗装を行う。

(2) 乾式の工法

張込み後、接着剤使用の場合は、その硬化を待ち、すぐに仕上げ塗装工事を行わない場合は養生紙等を敷き、傷、汚れ、しみ、狂いを防ぎ、雨等の掛からないようにする。

なお、コンクリート下地等の場合は水分の放散を妨げないよう配慮する。

(b) 塗装仕上げの養生

樹脂塗装仕上げ後は、塗料の硬化まで湿気、汚れ、ほこり、雨等の掛からないようにし、使用するまで傷等がつかないよう1週間程度の養生期間を設ける。

19.5.9 「標仕」以外の工法

体育館用フローリングの工法(のり釘併用工法)

(1) この工法は体育館、武道場等の床の強度、弾力性、平滑性等を特に必要とされる広い床に適用されるものである。

(2) 特殊加工されたフローリングボード、複合フローリング、複合フローリング(大型積層型式)を、接着剤を全面塗布した下張り板の上に、隠し釘留めとする工法である。

(3) 工法の概要を次に示す。

(i) 下張りは、19.5.4(b)(1)により、板そば、継手(受材心で)とも突き付けて、根太上に小ねじ留めとする。

(ii) フローリングの割付けは乱張りとし室の中心から両側に張り付ける。

(iii) 下張り板の表面にくし目ごてを用いて接着剤(JIS A 5536によるウレタン樹脂系又はエポキシ樹脂系)を塗布(300g/m2程度)し、フローリングの継手を乱にし、通りよく並べ、板そば、木口のさね肩を損傷しないように、スクリュー釘、フロア釘、フロア用ステープルその他引抜き強度が高い釘で隠し釘留めとする(図19.5.6(イ)参照)。

(iv) 壁際の幅木との取合いを図19.5.11に、コンクリートその他の材料との取合いを図19.5.12に示す。


図19.5.11 幅木との取合い


図19.5.12 異種材料との取合い

(4) この工法については (-社)日本フローリング工業会「フローリング張り標準仕様書(平成22年版)」第9章[体育館用フローリングの工法]を参考にされたい。