2章 仮設工事 1節 共通事項

2章 仮設工事


1節 共通事項

2.1.1 一般事項

(1) 仮設については、公共工事標準請負契約約款に基づく工事請負契約書第1条第3項において、「仮設、施工方法その他工事目的物を完成するために必要な一切の手段については、この契約書及び設計図書に特別の定めがある場合を除き、受注者がその責任において定める。」と規定しており、受注者がその責任において履行することができる。

したがって、「標仕」2章では、工事の施工に当たり発注者として示すべき最低限の事項について規定している。

(2) 仮設工事計画に当たっては、仮設物によって建物の品質を損なうことなく、安全で効率的な作業を行えるよう検討する必要がある。また、現場近隣の環境保全に配慮するとともに、仮設資材の有効活用も省資源対策上必要である。

(3) (1)で述べたとおり仮設計画は監督職員の承諾事項ではないが、参考までに工事の総合仮設をまとめた施工計画書の記載事項を示すと、概ね次のようになる。

① 工事目的物の位置と敷地との関係(配置と高低)
② 仮囲いの位置、構造及び主要部材の種類
③ 材料運搬経路と主な作業動線
④ 仮設物等の配置(監督職員事務所、受注者事務所、休憩所、危険物貯蔵所、材料置場、下小屋、廃棄物分別置場等)
⑤ 排水経路、工事用電力並びに水道の引込み位置及び供給能力
⑥ 足場並びに仮設通路の位置、構造及び主要部材の種類
⑦ 揚重機(リフト、クレーン、エレベーター、ゴンドラ等)の種類及び配置
⑧ 作業構台の位置、構造及び主要部材の種類
⑨ 墜落防止及び落下物防止並びに感電防止の施設
⑩ 近隣の安全に対する処置(近隣使用道路の配置計画図等)

2.1.2 仮設材料

(1) 一般事項

仮設に使用する材料は、それぞれの用途に応じ、品質、性能等が適正でなければならない。一般に仮設材料は、工事現場において長期間にわたり、かつ、繰り返し使用されることから、品質の確認が容易で性能の低下が生じにくいものでなければならない。

また、仮設材料には、その品質又は使用方法等について労働安全衛生法、消防法、 JIS (日本産業規格)、その他団体等の定める基準による規制等を受けるものがあるので、これらについてあらかじめ検討・確認しておくことが必要である。

特に、足場を構成する仮設機材については、長期間繰り返して使用されるうちにその強度が低下し倒壊事故等重大な災害につながるところから、労働安全衛生法令及び厚生労慟大臣が定める規格に規定される要件を具備するものを使用することが必要である。また、生産、流通段階での安全性の確保を図るために、(-社)仮設工業会では仮設機材に対し、材科、構造及び強度等を規定した認定基準を定めている。

さらに、経年仮設機材(現場で一度でも使用されたことのある仮設機材)が、繰り返し使用されている間の品質、性能等確保のために、原生労働省から経年仮設機材の適正な管理のための通達「経年仮設機材の管理指針」(平成8年4月4日労働省基発第223号の2)(以下、この章では「管理指針」という。)が示されている。

(2) 仮設機材の強度等の確認及び適正な管理
作業現場の安全確保には、仮設機材の製造時における強度等の確認・保証及び経年仮設機材の適正な管理が重要である。仮設機材の強度等の確認・保証について、(-社)仮設工業会では、製造時における足場用機材は、厚生労働大臣が定める規格及び認定基準に適合する旨を、刻印等により機材の全数に表示することを行っている。その表示等は、機材の種類により表2.1.1のとおりである。

なお、足場用機材の規格等に定めるもの以外のものの使用に当たっては、当該機材の製造者あるいは使用者により強度等について確認されたものであることが必要である。

現在製造されている主要な仮設機材は、防錆処理としてめっき、特に、浴融亜鉛めっきが施されているため、錆による肉厚の減少の懸念が少なくなった一方で、より長期にわたって使用される傾向となっており、経年による性能低下がないように適正に管理された仮設機材の使用が必要となる。仮設機材は、変形(曲がり、へこみ、反り等)及び損傷(亀裂、摩耗等)が直接性能低下の要因となるので、経年仮設機材の適正な管理は欠かすことができない。

このことから、厚生労働省の管理指針で規定している経年仮設機材に対して行う管理は、各機材ごとに定められた部位及び項目ごとに変形、損傷、錆等の程度による「選別」、経年仮設機材をいつでも使用できる状態に保持するための「整備」、機材を再使用可能な状態に復元する「修理」(部品交換を含む。)、さらに、性能試験、廃棄及び表示にわたるまで一連の管理基準等が明らかにされている。管理指針に基づき、(-社)仮設工業会では、仮設機材の整備、修理等を行っている機材センター等に対し、「適用工場制度」により、管理が適正である工場を認定し、経年仮設機材が適正な管理のもとに作業現場に提供されるようにしている。

表2.1.1 主な仮設機材とその表示

3章 土工事 1節 一般事項 

第3章 土工事 


01節 一般事項

3.1.1 適用範囲

(a) この章は、建築物の建設工事に伴う根切りや地下掘削後の埋戻し、建物周辺の盛土等の土工事並びに山留め工事を対象とするもので、大規模な敷地造成工事等は対象としていない。

(b) 作業の流れを図3.1.1に示す。

図3.1.1 土工事の作業の流れ

(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を作成する。

① 工程表(山留め設置、根切り、埋戻し、山留め撤去等の時期)
② 山留めの工法及び安全を確認できる構造計算書(荷重、振動等に対する安全性の確認等)
③ 根切りの工法(順序、掘削機の種類と能力、予定搬出土量等)
④ 残土の処理方法(場外処理の場合は、地番、距離、処分地の種類等)
⑤ 法勾配並びに法面の養生方法及び法面の滑動のおそれがある場合の観測方法
⑥ 排水計画(排水溝の位置、釜場の位置、地下水の状況、揚水ポンプ能力と台数、台風あるいは停電時の対策、揚水停止時期の検討、流末の処置)
⑦ 埋戻し土の種類、締固め方法及び余盛り高さ
⑧ 安全管理対策(3.1.3の具体的実施方法及び関連対策等)
⑨ 公害対策(3.1.3の具体的実施方法等)
⑩ 作業のフロー、管理の項目・水準、方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等

3.1.2 基本要求品質

(a) 一般に根切りの寸法や形状については設計図書に示されることはないが、法面の勾配等は、その掘削深さや土質等によって労働安全衛生法等によって定められている。したがって「形状及び寸法が所定のもの」としては、これらに基づき安全性を確保できるように、具体的な工法や安全対策等を提案させ、これによって施工させるようにする。

また、床付け面より下を深掘りしたり掘削機の刃先で乱したりして、地盤をかく乱すると、上部構造に沈下等の悪影響を与えるおそれがある。このため、掘削に当たっては床付け面をいかにかく乱しないような工法を採用するのか、また、もし万一床付け面を乱した場合の処置方法も含めて品質計画として提案させるようにするとよい。ここで床付け地盤が設計時に想定した条件と異なる場合は、設計担当者と打ち合わせて、処理方法を検討し、必要に応じて「標仕」1.1.8による協議を行い処理する。

(b) 埋戻しや盛土の材料は、一般に天然のものであり、「標仕」表3.2.1による種別の同じものが指定されていても、工事現場により材料の品質性状は異なったものとなる場合が多い。

一般に、土の場合は、その種類や含水状態によって、適切な締固めの方法や使用する機器等が異なる。したがって最も適切な締固めの方法及び管理の基準や方法等を品質計画で定め、それに従って管理したことが分かるようにしておく。

3.1.3 災害及び公害の防止

(a) 災害防止のために、特に注意する必要のある事項は、次のとおりである。

(1) 周囲の建物等の安全の確保
(2) 地中埋設物等に対する確認及び処置
(3) 土砂の崩壊による危険防止のための次の観測、測定等

なお、危険箇所については、常時巡視する態勢が必要である。
① 周辺地盤、法面に発生するひび割れ
② 周辺地盤の沈下、移動
③ 湧き水、漏水
④ 山留めの土圧、変形

(4) 法面保護
法面保護の方法には、通常次のようなものがある。

① メッシュ入りモルタル吹付け
② モルタル吹付け
③ 短期間及び大雨に対してはシートによる覆い
④ 吹付けは種

(b) 公害防止のために、特に注意する必要のある事項は、次のとおりである。
(1) 騒音、振動の防止
生活環境の保全と建設工事の円滑化を図るため、住居が集合している地域、病院又は学校周辺の地域等で、設計図書に、低騒音型・低振動型建設機械を使用するよう指定された場合は、「低騒音型・低振動型建設機械の指定に関する規程」(平成9年7月31日建設省告示第1536号)により指定された建設機械を使用する必要がある。

(2) 建設副産物の処理
建設副産物については.1.3.8を参考に適切に処理する。

(3) 土壌汚染対策については.1.3.11(a)による。

(4) 近隣の水位の低下並びに油滴、塵あいの飛散による汚れの防止等の調査及び防護、養生の検討

(5) 工事現場以外(運搬途中、敷地周辺)の道路、排水路の土砂、泥水による汚れ等の防止及び堆積しておく埋戻し土の雨による流出るの防止

(6) 連搬車の事故防止
(i) 土砂等を運搬する車両は、交通事故の防止対策等からダンプカー協会に加入している車両を優先的に使用する(土砂等を運搬する大型自動車による交通事故の防止等に関する特別措置法(昭和42年法律第131号))。

(ⅱ) 工事現場へ出人りする際の事故防止に努める。

3章 土工事 2節 根切り及び埋戻し

第3章 土工事 


02節 根切り及び埋戻し

3.2.1 根切り

(a) 根切りの留意点
根切りに先立ち処置する必要のある事項は、おおむね次のとおりである。

(i) 地盤調査の結果による地層及び地下水の状況把握
(ii) 近接した建物等への影響の有無(2.2.1 (a)(iii)参照)
(iii) 地中埋設物(2.2.1(a)(ii)参照)で根切りに掛かるもの及び周辺にあるものの移設養生等の処置
(iv) 山留めの安全性の確認(建設工事公衆災害防止対策要綱(建築工事編)(平成5年1月12日建設省経建発第1号)では、根切り深さ1.5 mを超える場合には、原則として山留めを設けるとしている(同要綱第45参照)。)
(v) 機械掘削を行う場合の転倒、転落の防止
(vi) 構台を架設した場合の荷重、振動に対する安全性の確認

(b) 根切りの概要
(1) 根切りの種類
(i) 総掘り :地下室等がある場合に建物全面を掘る。
(ii) 布掘り :連続基礎等の場合に帯状に掘る。
(iii) つぼ掘り:独立基礎等の場合、角形又は丸形に掘る。

(2) 根切り深さ
根切り深さは、砂利地業等の突固めによるくい込み量〈突代、突べり〉(土質等により0 ~ 30mm位まで)を見込んだ深さとする。

(3) 根切り範囲の計画
根切り範囲を定めるには、山留め、コンクリート型枠の組立、取外し等の作業がある場合においても作業が十分できるよう、山留めと型枠組立材料との間に作業者が入れる間隔を見込んでおく。その間隔は、通常の場合は図3.2.1のように、布掘りでは基礎幅から300~600mm、総掘りの場合は 1m 程度とする。ただし、除去の必要のないラス型枠材料等による場合や、連続地中壁やソイルセメント壁による山留め壁を直接外型枠として使用する場合等ではこの限りではない。


(イ)布掘りの場合


(ロ)総掘りの場合(外型枠が必要な場合)


(ハ)総掘りの場合(外型枠がない場合)
図 3.2.1 根切り範囲

(4) 根切り工事の計画
根切り工事では、掘削と山留め支保エの架設がバランスよく、かつ、 タイミングよく行われることが非常に大切である(図3.2.2参照)。また、掘削の実施においては、山留めの設計条件を十分に確認し、設計条件に合致した方法により施工を行うとともに安全を確認して工事を実施する必要がある。


(イ) バランスのとれた掘削方法


(ロ) バランスがくずれやすい掘削方法
図3.2.2 掘削方法

(5) 根切り底の施工
根切り底は、水平にしなければならないのは当然のことであるが、機械掘削をする場合には所定の深さより深く掘り過ぎないこと及び地盤面を乱さない(荒らさない)ことに注意する必要がある。深く掘り過ぎたり、乱したりした場合は、砂地盤の場合には、ローラー等による転圧や締固めによって自然地盤と同程度の強度にする。シルトや粘性土等の場合には、自然地盤以上の強度をもつ状態に戻すということは非常に困難なので、砂質土と置換して締め固め、自然地盤と同程度の強度にする処置が必要となる。また、砂質土による置換では強度の回復が困難と判断される場合は、セメント、石灰等の改良材を用いて地盤の改良を行う方法もあるので、地盤強度の確保の方法等について設計担当者と打ち合わせる。

一般的なバケットを用いた機械掘削では、通常床付け面より300~500mmの位置より手掘りとするか、バケットに平板状の特殊なアタッチメント(鋼板等)を取り付けたもので、根切り底が乱されるおそれのないものとして、機械を後退させながら施工する(図 3.2.3参照)。杭間ざらいでは、杭体に損慟を与えることや地盤の乱れを生じることのないよう、小型の機械に変更するなどし、十分に注意して施工を行う。

また、地下水処理が十分でない場合、根切り底が乱されるため、地下水の処理は十分に行う。


図 3.2.3 機械掘削の例

(6) 根切り底の検査
根切り底は、レベルチェック及び地盤状態の検査をしたのちに、捨コンクリートや基礎スラプの施工にかからなければならない。レベルチェックは、レベルを用いたり、遣方に水糸を張りスケールを用いるなどして行う。測定部分の大きさにもよるが、つぼ掘りは周囲4点と中央1点、布掘りは2 ~ 3 mごとに1点、総掘りは 4mごとに1点程度を目安として実施することが望ましい。地盤の状態(根切り底の乱れ及び地層の種類・強さ等)に関する検査は、通常、床付け地盤が設計図書、地盤調査報告書に示された地層、地盤に合致していることを土質試料等を参考に目視によって確認するが、その確認が難しい場合には「標仕」1.1.8の規定に基づき土質試験や原位置試験等の適切な試験によって確認する。

参考として地盤の状態の簡易判別法を示す(表 3.2.1 参照)。

表 3.2.1 地盤の状態の簡易判別法( JASS 3(一部修正)より)

(c) 掘削深さと法面の勾配

(1) 法面の勾配
法付けオープンカット工法により掘削を実施する場合、法面の勾配は、土の安息角や粘着力により決まるが、特に粘着力は土の含水量によっても変化する。切土における法面勾配の目安として表 3.2.2 が示されている。法面の勾配は、規模が大きくなれば安定計算によって安全を確かめて決定する。また、法面及び法尻は安定勾配以下であっても、降雨・乾燥のくり返しにより崩れやすくなるので、存置期間中に異常を生じないように、排水・養生を行う。地下水位が浅い場合は、排水溝、集水桝等による地下水処理を行う(図 3.2.4参照)。


(イ)ウェルポイントによる地下水位の低下


(ロ)法面の崩壊防止


(ハ)砂粒子の流出防止


(ニ)法面の養生
図 3.2.4 法面の排水、養生の例( JASS 3より)

表3.2.2 切土に対する標準法面勾配(山留め設計施工指針より)

(2) 手掘り掘削時の規定
手掘りとする場合は、労慟安全衛生規則に勾配と高さが定められているので、これらを基に安全性を確保しながら掘削する(表 3.2.3参照)。

表3.2.3 手掘りによる掘削作業での掘削面の勾配の基準(労例安全衛生規則)

(d) 寒冷期における施工時の注意

(1) 施工上の留意点
寒冷地の冬期施工に当たって、特に注意をしなければならないものに凍結現象がある。凍結した土は強度的にみて良質な地盤と間違えやすいが、氷が溶けると体積が減少し、沈下現象に結びつく。したがって、凍結させないような施工管理が必要である。

(2) 凍結時の対策
床付け地盤が凍結した場合、この土は乱された土と同様に扱い、良質土と置換するなどの処置を行う。

(e) 土工事用機械
土工事に用いられる主な使用機械を、表 3.2.4に示す。また、根切り用の掘削機械の種類を図 3.2.5に示す。

施工に用いる機械については、近接住民の生活環境の保全の必要性のある場合について、昭和51年に「建設工事に伴う騒音振動対策技術指針」(昭和62年全面改正)が定められているので、これによって施工する。

表 3.2.4 土工事作業と主な使用機械

図 3.2.5 根切り用掘削機械の種類

3.2.2 排 水

(a) 地下水処理工法の概要

地下水処理工法には、大別して排水工法、止水工法、リチャージ工法があり、図 3.2.6 に示すようにそれぞれ多くの種類がある。工法の選定に当たっては、必要とする揚水量・排水を行う地下水の深度等の目的に対する適合性・施工性・工期・コストのほか、揚水による地下水位低下に伴う井戸枯れや地盤沈下等の周辺への影響を考慮しなくてはならない。多くの場合、止水工法は山留め工法に直接かかわるため地下水処理工法と山留め工法は同時に検討すべきである。

また、最近では周辺の井戸枯れや地盤沈下防止等を目的にリチャージ工法を採用することもある。


図 3.2.6 地下水処理上法の種類(山留め設計施工指針より)

(b) 排水工法
排水工法は、地下水の揚水によって水位を掘削工事に必要な位置まで低下させる工法で、地下水位の低下量は揚水量や地盤の透水性等によって決まり、通常、透水係数が 10-4cm/s程度より大きい地盤(帯水層)に適用される。

土粒子の径と排水工法の適用範囲を図 3.2.7に示す。

図 3.2.7 土粒子の径と排水工法の適用範囲(根切り工事と地下水より)

この排水工法を集水原理で分ければ、ウェル等の排水設備に流入する水を揚水する重力排水工法と、負圧等を利用して強制的に水を流入させ排水する強制排水工法とがある。現在よく用いられる工法は、釜場工法、ディープウェル工法、ウェルポイント工法及びバキュームディープウェル工法であり、工法は排水の実施位置及び必要とする揚水量等を考慮し決定する。

(c) 各種排水工法の特徴と注意点は次のとおりである。
(1) 釜場工法
根切り部へ浸透・流水してきた水を、釜場と称する根切り底面よりやや深い集水場所に集め、ポンプで排水する最も単純で容易な工法である(図 3.2.8参照)。釜場は、根切りの進行に合わせて下げるとよい。

また、この工法の注意点は次のとおりである。

① 湧水に対して安定性の低い地盤への適用は、ボイリングを発生させ地盤を緩めることにつながるので好ましくない。

② 主として、雨水を処理する場合は、根切り底に排水溝(明きょ)を設けるなどして雨水を集水桝に集めてポンプで排出する。この場合、集水桝は 図 3.2.9 のように基礎に影響を与えない場所に設ける。

③ べた基礎のように上部構造の応力を地盤に伝えるために設けた基礎スラプ下の地盤は、その影評範囲を地下水で乱してはならない。床付け地盤面に地下水が流入する場合には適当な排水処置をとり、地下水により基礎スラプ下の床付け地盤の支持力が低下しないようにしなければならない。

④ 釜場にはフィルターを設け、地盤中の砂分を揚げないようにしなければならない。


図 3.2.8 釜場工法


図 3.2.9 集水枡の位置

(2) ディープウェル工法
根切り部内あるいは外部に径500~1,000mmで帯水層中に削孔し、径300~600 mmのスクリーン付き井戸管を設置してウェルとし、水中ポンプあるいは水中モーターポンプで帯水層の地下水を排水する工法である(図 3.2.10 参照)。砂層や砂礫層等、透水性のよい地盤の水位を低下させるのに用いられる。この工法は、ウェル1本当たりの揚水量が多く、また、深い帯水層の地下水位を大きく低下させることが可能であるなどの特徴があるが、(4)のウェルポイント工法等に比べて設置費用が多額である。したがって、必要排水量が非常に多い場合、対象帯水層が深い場合、帯水層が砂礫層であるなどによりウェルポイント工法では処理できない場合、ウェルポイントの設置によってだめ工事(手直し工事)が多くなる場合等に採用すると有効である。

また、ディープウェル工法による揚水は、周辺地下水位も大きく低下させることが多く.周辺の井戸枯れや地盤沈下等を生じるおそれがあるので、採用に当たってはこの点を考慮しなくてはならない。


図 3.2.10 ディープウェル工法

(3) 明きょ・暗きょ工法
明きょ工法は排水溝により集水し、暗きょ工法は地中に設置した暗きょにより集水し、排水する方法をいう。

(4) ウェルポイント工法
根切り部に沿ってウェルポイントという小さなウェルを多数設置し、真空吸引して揚排水する工法であり( 図 3.2.11参照)、透水性の高い粗砂層から低いシル卜質細砂層程度の地盤に適用される。可能水位低下深さはヘッダーパイプより4~6m程度である。1本当たりの揚水量は土質によって異なるが、通常10~20ℓ/min程度、場合によっては50ℓ/minになることもある。

また、この工法の注意点は次のとおりである。

① 地下水位低下により、周囲地盤が多少とも沈下するため、計画時にその影響を調査・検討する。

② 地下水をくみ上げるため、周囲の井戸水等の水位低下や井戸枯れを生じることもあるので事前に調査する必要がある。

③ ポンプが故障した場合、水位の上昇により山留め崩壊等の大事故になるおそれがあるので、予備ポンプの設置が必要である。

④ 排水により、根切り底・法面・掘削面に異常が起こらないように排水処理を確実に行う。

⑤ ウェルポイントの排水を停止する場合は、地下水位の上昇により、建物、地中埋設物等の浮上がりによる破壊、損傷等を起こさないように、排水停止時期について十分に検討する。

⑥ 気密保持が重要であり、パイプの接続箇所で漏気が発生しないようにする。


図 3.2.11 ウェルポイント工法

(5) バキュームディープウェル工法
ディープウェルに真空ポンプを組み合わせた排水工法で、帯水層の透水性が低い場合やディープウェルの設置方法が悪いため、水位低下しにくい場合に採用することが多い。ウェル内を負圧にして地下水を吸引するため、ウェルの気密性を保つ必要がある。

(d) 止水工法
止水工法は、図 3.2.12 に示すように、根切り部周囲に止水性の高い壁体等を構築し根切り部への地下水の流入を遮断する工法で、大別すると地盤固結工法・止水壁工法及び圧気工法がある。

盤ぶくれ防止のために被圧帯水層を遮断したり、山留め背面地盤に砂質土層があってこれを止水する必要のある場合や、地下水の低下によって周辺の井戸枯れや地盤沈下、あるいは地下水塩水化等が問題になり排水工法が適用できない場合等に、止水工法が採用される。更に、下水道・水路等の放流場所がない場合や、放流場所の可能放流(排水)量が小さく排水工法が採用できない場合、下水道料金や排水工法の設備設置費のために止水工法を採用した方が低コストで済む場合等にも採用される。また、現場条件やコスト等から止水工法と排水工法を併用する場合もある。

止水工法としてよく用いられるのは、止水壁工法と地盤固結工法であり、工法選定の際の主な注意点は次のとおりである。

① 止水壁は山留め堅としても用いることが大部分であり、設計の際はこの点を考慮しなくてはならない。

② 工法によって施工深度や適用地盤等が異なり、また、敷地条件によって採用できない場合がある。

③ 一般には仮設であるが、止水矢板工法を除き撤去できない。


図 3.2.12 止水工法による地下水処理

(e)リチャージ工法
リチャージ工法は復水工法ともいい、ディープウェル等と同様の構造のリチャージウェル(復水井)を設置して、そこに排水(揚水)した水を入れ、同一のあるいは別の帯水層にリチャージする工法である(図 3.2.13参照)。この工法は、周辺の井戸枯れや地盤沈下等を生じるおそれがある場合の対策として有効な工法である。

本工法の注意点を次に示す。

① 同一帯水層にリチャージする場合、排水工法だけを採用する場合に比べて必要排水(揚水)量が増加するので、ディープウェル等の排水設備も増える。その程度はリチャージウェルが揚水井に近いほど多くなる。したがって、リチャージウェルは揚水井とできるだけ離す方が効果的である。

② 山留め壁の根入れ以浅の帯水層けリチャージする場合、山留め壁への側圧(水圧)が増加するので検討が必要となる。

③ リチャージ量は、水中の鉄分、細粒分のほか、バクテリア等によって目詰りし、次第に減少する。したがって、必要に応じてリチャージウェルの洗浄が必要である。


図 3.2.13 リチャージ工法の例(根切り工事と地下水より)

3.2.3 埋戻し及び盛土

(a) 埋戻しに当たっては、埋戻しが不十分な場合沈下が生じ、建物周辺の外構や埋設管等に影響を及ぼす可能性がある。

施工に当たっては、埋戻し材料の選定と締固め管理が重要となる。

(b) 埋戻し部の型枠材等の撤去
埋戻しに先立ち、埋戻し部の型枠材等を撤去したのち、埋戻し作業を実施する。これは、型枠材を存置すると腐食により地盤の沈下を生ずる場合があるためである。なお、腐食に伴う沈下の発生のおそれのない型枠材としてはラス型枠材料等があり、これを使用した場合には撤去の必要はない。

(c) 材料及び工法等
(1) 埋戻し及び盛土の種別等
「標仕」では、埋戻し及び盛土の種別を、土の種類とそれに適した工法の組合せとして「標仕」表 3.2.1のように区分し、その種別を特記することとしている。
このうちA種は、山砂で一般的には水締めのきく砂質土を想定している((3)参照)。

また、B種は、当該現場で発生した根切り土の中で、有機物、コンクリート塊等を含まない良質土を想定しているが、このような良質の発生土が埋戻し等に必要な量として不足する場合は、設計担当者と打ち合わせ、必要に応じて「標仕」 1.1.8による協議を行う。

C及びD種については、建設発生材の有効活用が社会的命題であり、積極的に使用することが望ましい。

国土交通省では、建設工事に伴い副次的に発生する建設汚泥の処理に当たって、基本方針、具体的実施手順等を示すことにより、建設汚泥の再生利川を促進し、最終処分場への搬出量の削減、不適正処理の防止を図る目的から、「建設汚泥の再生利用に関するガイドライン」(平成18年6月12日)を作成した。

このガイドラインは、国土交通省所管の直轄事業に適用するとともに、その他の事業においてもガイドラインに準拠して建設汚泥を取り扱うことを期待しているものであるが、環境基本法に基づく土壌汚染対策法に定める特定有害物質の含有量基準に適合しない建設汚泥は対象外としている。

なお、上記以外として「標仕」には規定されていないが、最近では、建設発生土に水や泥水を加えて泥状化したものに固化材を加えて混練した流動化処理土が用いられる場合がある( JASS 4参照)。

(2) 埋戻し土の性状
埋戻し土には腐食土や粘性土の含有量が少なく、透水性の良い砂質土を用いるのがよい。また、均等係数が大きいものを選ぶ。均等係数の算定は土の粒度試験結果の片対数用紙の対数目盛に粒径を、算術目盛に通過質量百分率をとって、図 3.2.14のような粒径加積曲線として描く。そしてその性質を定量的に示す係数として、均等係数 Ucと曲率係数 U’c を次式から求める。


図 3.2.14 粒径加積曲線

(3) 埋戻し及び盛土材料の粒度組成
山砂、川砂及び海砂の粒度組成の一般的な比較は表 3.2.5のようになり、埋戻し土には山砂が最も適している。これは埋戻し土としては、分離作用を強く受けて均一粒子となっている砂(海砂等)よりも砂に適度の礫やシルトが混入された方が大きい締固め密度が得られるからである。
また、使用する埋戻し土については、必要に応じて粒度試験等を実施するのが望ましい。表 3.2.6 に埋戻しに適した材料の粒度と性質を示す。

表 3.2.5 山砂、川砂及び海砂の一般的な粒度特性

表 3.2.6 埋戻しに適する材料の粒度と性質( 山留め設計施工指針より)

(4) 土質と締固め方法
締固めは、川砂及び透水性のよい山砂の類の場合は水締めとし、透水性の悪い山砂の類及び粘土質の場合はまき出し厚さ約300mm程度ごとにローラー、ランマー等で締め固めながら埋め戻すのが原則である。埋戻し時には、建物躯体のコンクリートが締固めを行うのに必要な強度を発現していることを確認する。建築物周囲の深い根切りの部分は、機械で締め固めるのは困難なことが多いので、整地後の地盤沈下を防止するには、川砂又は透水性のよい山砂の類を使用し、水締めをする必要がある。設計屈瞥の指定が適当でないと思われる場合は、設計担当者と打合せを行い決定する。

(5) 土の含水と締固め
土は、ある適当な含水比のとき最もよく締め固まり、締固め密度を最大にすることができる。このような含水比を最適含水比という。

(6) 寒冷期の施工時の注意
凍結土を埋戻し、盛土や地均しの材料として使用すると、凍結土が浴けた際に、地表面に凹凸・舗装面や犬走りにひび割れ等が発生しやすくなるので、使用してはならない。

(d) 余盛り
埋戻し及び盛土には、土質による沈み代を見込んで余盛りを行う。余盛りの適切 な標準値はなく、表 3.2.7 は一つの参考値であるが、これにより推定することは容易でない。通常の埋戻し( 地下2階で幅 1m程度 )において、砂を用い十分な水締めを行う場合 50~100mm、粘性土を用い十分な締固めを行う場合、100~150mm程度が余盛りの目安と考えられるが、重要な盛土では、試験により余盛りを決めるのがよい。

表 3.2.7 余盛りの参考値

3.2.4 地 均 し

地均しは、均しを行う地表面の不陸を修正し、草木の除去及び清掃をして、一様にかき均したのち、仕上げ面を一様になじみ起こしをして、良質土をまきかけ、歩行に耐えうる程度に締め固める。ここで、地表面は施工時に工事車両の走行や作業通路として締め固められており、地均し面の不陸の発生要因となるため、なじみ起こしは確実に実施する。また、寒冷期の施工に当たっては、凍結土を使用しないようにする。

3.2.5 建設発生土の処理

(a) 建設発生土処理についての注意事項
建設発生土を搬出する際、工事用車両の作業所出入口には、標識・点滅灯等を設置し、第三者に工事用車両の出入りを明示するほか、車両誘導員を配置して人身事故の防止及び作業所周辺道路に交通渋滞を生じさせないよう努力する必要がある。

また、建設発生土の運搬に当たっては過積載防止に努めるとともに、運搬中に土砂がこぼれ落ちないようにシート等を掛けて養生する。タイヤに付着した泥土は作業所内で洗浄し、通行する逍路を汚損しないようにする。

なお、平成14年に制定された土穣汚染対策法により、「その土地が特定有害物質によって汚染されており、当該土地の形質の変更をしようとするときの届出をしなければばらない区域」として都道府県知事が指定した区域内で土工事等を行う場合は、施行方法等の計画を事前に知事に届け出ることとされているので注意する (1.3.11 (a)参照)。

(b) 建設発生土処理に関する法規
建設発生土の運搬は、「土砂等を運搬する大型自動車による交通事故の防止等に関する特別措置法」に基づき、地方運輸局長から表示番号の指定を受けたトラックとする必要がある。また、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」並びに各地方公共団体による規制・指導に基づき建設発生土処理計画を作成し、これに従って適切に処理する。

なお、これらのほかに、(一財)土木研究センターの「建設発生土利用技術マニュアル」等が参考となる。

(c) 建設発生土の再利用
国土交通省が推進している「建設発生土情報交換システム」により、近隣地域での建設発生土や購入希望土等の情報がデータベース化されている。これを活用することにより、建設発生土の再利用を図ることが望ましい。
また、建設発生土の再利用については、平成3年建設省令第19号に技術基準が示されている。その抜粋を次に示す。

建設業に属する事業を行う者の再生資源の利用に関する判断の基準となるべき事項を定める省令
(平成3年10月25日 建設省令第19号 最終改正 平成13年3月29日)
(建設発生土の利用)
第4条
建設工事事業者は、建設発生土を利用する場合において、別表第1の上欄に掲げる区分に応じ、主として下欄に掲げる用途に利用するものとする。
2 前項の場合において、建設工事事業者は、建設発生土の品質等に関する技術的知見に基づき、建設工事の施工又は完成後の工作物(建築物を含む。以下同じ。)の機能に支障が生じないよう、適切な施工を行うものとする。
3 建設工事事業者は、建設発生土の利用に当たって、あらかじめ建設発生土の発生又は利用に係る必要な情報の収集又は提供に努めるものとする。

3章 土工事 3節 山留め

第3章 土工事 


3節 山留め

3.3.1 山留めの設置

(a) 山留めの計画及び施工
(1) 山留めの概要
山留めは、地下構造物、埋設物等の施工中、掘削の側面を保護して周囲地盤の崩壊や土砂の流出を防止するためのもので、敷地に余裕のある場合、あるいは掘削が簡易な場合は、掘削部周辺に安定した斜面を残し、山留め壁等を設けない工法(図3.3.1 法付けオープンカット工法)とするのが一般的である。建築現場の周囲の状況、掘削の規模、地盤の状態等により、前記工法ができない場合は、山留め壁又は支保工による山留めを設置する。

山留めにかかる荷重としては、土圧、水圧、載荷荷重等があるが、それらを仮定するには、土質、地下水位、周辺の建築物や地盤上の荷重、周辺の状況等により異なり、種々の計算方法がある。


図3.3.1 法付けオープンカット工法〈索掘り、空掘り〉

(2) 山留めの種類
(i) 山留め工法の分類
山留めの種類には自立式,切張り式地盤アンカー式等種々のものがある。山留め工法の種類と特徴を表3.3.1に示す。

表3.3.1 山留め工法の種類と特徴(その1)(山留め設計施工指針 JASS 3(一部修正)より)

表3.3.1 山留め工法の種類と特徴(その2)(山留め設計施工指針・JASS 3(一部修正)より)

(ii) 山留め壁の種類
建築工事で用いられる山留め壁は、図3.3.2に示すように多くの種類がある。適切な工法を選択するためには地盤条件、掘削の規模、山留め壁に要求される剛性・止水性、振動・騒音等の公害、工期・工費等を総合的に検討する必要がある。これらの条件と山留め壁の選定基準の目安を表3.3.2に示す。山留め壁の種類と特徴をまとめたものを表3.3.3に示す。


図3.3.2 建築工事で多用される山留め壁の種類(山留め設計施工指針より)

表3.3.2 与条件に対する山留め壁選定基準の目安(山留め設計施工指針より)

表3.3.3 山留め壁の種類と特徴(山留め設計施工指針より)

従来、山留め壁としては、親杭横矢板壁、鋼矢板壁くシートパイル>等の打込み式によるものが一般的であった。しかし、近年では、振動・騒音、周辺地盤の沈下等の山留め壁の施工に伴う公害の防止や、掘削工事に伴う周辺地盤・構造物等への影響を防止するため、公害が少なく、また、比較的山留め壁の剛性・止水性に優れたソイルセメント柱列壁等が多く用いられるようになった。

ソイルセメント柱列壁工法は、注入液として用いるセメント系注入液を原位置土と混合・かくはんし、オーバーラップ施工した掘削孔にH形鋼等の心材を適切な間隔で挿入することにより柱列状に設置した山留め壁である。

なお、心材は、山留め壁の設計条件に応じ挿入間隔を決定する。

オーガーの形状や軸数は種々あるが、軸数が多ければ遮水性能の確保が有利であり、施工効率も上げられるなどの特徴もある。

心材としては、H形鋼・I 形鋼・鋼管等が用いられる。ソイルセメント柱列壁では通常450~550mm径のものが多く用いられる。また、大深度の掘削工事においては、1m程度の径を有するものが用いられることもある。ソイルセメント柱列壁の特徴を次に示す。

1) 騒音・振動が少ない。
2) かくはん翼のラップ施工により構築されるので、止水性が高い。
3) 泥水処理が不要で、排出泥土も他のRC山留め壁に比べて少ない。
4) 注入液の調合については、固化強度のばらつきが大きく、混合試験による事前検討が必要である。圧縮強度は、一般的に粗粒土になるほど大きいが、粒度分布・コンシステンシー・有機物含有量等により影響されるので十分注意する必要がある。
5) 掘削に伴う周辺地盤の緩みが少ないため、近接構造物に与える影響が少ない。

(iii) 山留め支保工の種類
山留め支保工は、掘削時に山留め壁に作用する土圧・水圧を安全に支えるとともに、山留め壁の変形をできるだけ小さくして周辺地盤並びに構造物に有害な影響を及ぼさないことを目的として架設する。したがって、山留め支保工の選定に当たっては、土圧・水圧の大きさのみならず、山留め壁との適切な組合せや、施工条件等を十分考慮しなくてはならない。通常の掘削工事において用いられる山留め支保工の種類を図 3.3.3に示す。また、これらの特徴を表 3.3.4に示す。


図 3.3.3 山留め支保工の種類と分類

表 3.3.4 山留め支保工の種類と特徴(山留め設計施工指針(一部修正)より)

① 鋼製支保工
鋼製支保工は、山留め壁に作用する土圧・水圧を鋼製腹起し、切張りの水平材で支える工法であり、市街地の掘削工事では最も実施例が多く信頼性が高いオーソドックスな方法である。現在ではほとんどリース材で施工されており、また、どの種類の山留め壁とも組合せが可能で、適用範囲が広い(図 3.3.4参照)。


図 3.3.4 鋼製支保工による山留め架構(山留め設計施工指針(一部修正)より)

② 地盤アンカー
地盤アンカー工法は、切張り工法では安全性に問題があるような不整形な掘削平面の場合、敷地の高低差が大きくて偏土圧が作用する場合、掘削面積が大きい場合、山留め変形を極力少なく抑えたい場合等には有効である。

地盤アンカー工法は、一般に切張りで支えている土圧や水圧を、山留め壁背面の地盤中に設けた地盤アンカーで支える工法である(図 3.3.5参照)。アンカーとなるPC鋼材を背面土にどのように定着させるかによって、工法が異なってくる。図 3.3.6に親杭横矢板工法の場合の地盤アンカー用腹起しの例を示す。


図 3.3.5 地盤アンカー工法の使用例(建築地盤アンカー設計施工指針・同解説より)


図 3.3.6 地盤アンカー用腹起し例(建築地盤アンカー設計施工指針・同解説より)

地盤アンカー工法の特徴と注意点等を次に示す。

1) 切張りがないため大型機械を使用することができ、施工効率が上がる。

2) 傾斜地等で片側土圧(偏土圧)となる場合の処理が容易である。

3) アンカーの設置に使用する機械は、地質調査に使用される程度の小型機であり、作業スペースが狭い所でも施工できる。

4) 山留め壁の背面地盤が軟らかい粘性土地盤の場合は、耐力があまり期待できず、定着長さが長くなり施工上の問題が発生しやすくなるので注意する。

5) 地中埋設物に十分注意して施工する必要がある。

6) 山留め壁は敷地境界近くに設置される場合が多いため、敷地から外にアンカ一部分がでる場合もある。この場合は、事前に隣地管理者等関係者の了解が必要となるので注意する。

7) 地盤アンカーの引抜き耐力は、全数について設計アンカーカの1.1倍以上であることを確認する(一般に山留め様にはプレストレスを導入する場合が多いので、この時点で耐力の確認が行われている)。

8) 山留め壁には鉛直力が作用するので、山留め壁は十分な鉛直支持性能を有する地盤に支持させる必要がある。

(iv) 薬液注入工法
薬液注入工法は、地盤の止水性又は強度増大を目的として、建築の山留め工事では主に補助工法として用いられる。小型のボーリングマシンで施工可能なため、施工場所の制約や地中障害物との干渉等の理由により止水壁の施工が困難な部分や、止水壁欠捐部の補修等に適用されている。薬液注入工法を用いる場合は、薬液による水質汚染のおそれがあるので注意しなくてはならない。また、山留め壁には注入圧が作用し、山留め壁が変位することもあるので注意する。

なお、薬液注入工法については、「薬液注入工法による建設工事の施工に関する暫定指針について」(昭和49年7月10日 建設省官技発第160号)、「薬液注入工法の管理について」(昭和52年4月21日 建設省官技発第157号)、「薬液注入工事に係る施工管理について」(平成2年4月24日 建設省技調発第110号の1)及び「薬液注入工事に係る施工管理等について」(平成2年9月18日 建設省技調発第188号の1)が定められているので、これに基づき施工及び管理を行うようにする。

(3) 山留め支保工(切張り式)の架設
山留め支保工の架設に当たっては、次の点に留意し施工を行うようにする。

① 支保工の架設は、施工図に基づき確実に行う。架設材の安全率は低くとってあるので、施工に当たっては組立順序、工法等に十分注意する。

② 支保工の架設、法面養生作業と掘削速度は,均衡を図りながら作業を進める。

③ 1段目の支保工架設前は、山留め壁の倒れに注意する。

④ 2段目の支保工を架けたら、1段目の腹起しと山留め壁の間に隙間ができていないか点検し、隙間があれば、くさび〈キャンバー〉をかうなどして外力が切張りに均等に加わるようにする。

⑤ 根切り面積の広いところでは、切張りが座屈しないよう水平精度に留意し、中間を適当な間隔の支柱で安全に支持する。

⑥ 支保工にできるだけ衝撃を与えないように工事を進める。特に、横からの衝撃は、座屈の原因となるので注意する。

⑦切張り、腹起しの曲がり、ねじれ、接合部及び交差部のUボルト、当て板溶接等による緊結状態に十分注意する。

⑧ 地下水の湧水量の増減に常時注意し、工事に支障のある場合は、関係者と協議し、工事の安全及び進捗を図る。

⑨ 山留め及び支保工は、常時巡回点検し、異状の発見に努める(3.3.2 (b)参照)。また、異常が発見された場合は、速やかに対策をとるとともに、関係者と協議する。

⑩ 切張りにプレロード(事前に側圧に対抗する力を切張りに導入しておくこと。図 3.3.7 ~9 参照)を導入する場合は、地盤条件、荷重条件、山留め設計図書及び山留め壁の応カ・変形、切張り軸力の計測結果等を総合的に検討し適切なプレロード量を設定する。また、プレロードの導入に際しては、切張り材の日射等による温度変化から生じる温度応力についても事前に検討し、切張り耐力の安全性を確認しておくことが望ましい。

次に、プレロードの加圧時には、軸力が平面的に均等に加わるように注意し、山留め壁の応カ・変形、切張り軸力等を計測するとともに、異状がないか点検する。特に、多段切張りによる支保工を用いる場合は、上段に架設されたり切張りの軸力が著しく低下しないよう留意する。


図3.3.7 切張りジャッキ施工例


図3.3.8 ジャッキ補強ピース施工例


図3.3.9 プレロード導入のための加圧装置の例

(b) 山留めの構造
山留めの構造は、掘削工事に伴う崩壊あるいは過大な変形が発生することがないよう、掘削工事時に作用する側圧に対し安全な構造とし、十分な強度と剛性を有するものとする。

山留め構造の計画は、(一社)日本建築学会「山留め設計施工指針」に設計及び評価方法が示されているので参考にするとよい。

(i) 山留めに作用する側圧
① 山留めに作用する側圧は、土質及び地下水位に応じ設定する。

②切張り及び腹起しの断面算定に当たっては、支保工の状態に応じて分布形を設定し、断面の算定を行う。

③ 構造物やその他の積載物に近接した山留めを計両する際には、①②のほかに、これらの近接物の影響を考慮した側圧評価を行い、山留めの検討を実施する。

④ 山留め壁、切張り、腹起し等は、強度及び変形量に対して、構造条件に適合した方法で検討するとともに、継手及び仕口部は、部材応力を無理なく伝達できる構造とする。

(ii) 山留め壁の許容応力度
山留め壁の材料の許容応力度は、各材料に対して設定された許容応力度を用いる。山留め壁に用いる材料の許容応力度は、「山留め設計施工指針」及び(一社)日本建築学会「建築地盤アンカー設計施工指針・同解説」に示されているので参考にするとよい。

3.3.2 山留めの管理

(a) 点検・計測管理
(1) 点検・計測管理の目的と要点
点検・計測管理の目的は、周辺地盤、隣接構造物、地中埋設物の沈下・移動及び土圧・水圧、山留め架構の応力、変形等を測定し、計画上の諸条件と比較検討して、周辺地盤の防害、隣接構造物の領斜・転倒、地中埋設物の損傷、ヒービング、ボイリング、山留めの傾斜・崩壊等の危険を事前に把握して、速やかに対処することである。

点検とは、目視及びスケール等による確認行為、計測とは、機械式,光学式測定機器を使用する簡易計測及び電気式測定機器を使用する計器計測による確認行為である。

点検・計測管理の計画で最も重要なことは、点検・計測結果に対して、適切な判断をすることであり、あらかじめ限界となる値を定めておき、その値に近づいてきたとき、対策又は具体的な措置がとれるよう準備しておくことである。

(2) 点検・計測について
(i) 点検・計測の対象項目.方法期間及び頻度
点検・計測の対象、項目及び方法の例を表 3.3.5に、また、点検・計測の期間及び頻度の例を表 3.3.6に示す。点検・計測には労力と経費を要することは当然であるが、工事の規模や地盤条件、周辺の状況等を考慮して、どの程度の点検・計測を行う必要があるかを検討し、山留め計画の一部として点検・計測管理の計画を立てておくことが望ましい。

表3.3 5 点検・計測の対象項目及び方法の例( JASS 3(一部修正)より)

表3.3.6 点検・計測の期間及び頻度の例( JASS 3(一部修正)より)

(ii) 計測の方法
山留めの計測方法には、電気的なセンサーとデータ収録・処理装骰等を用いた電気的計測と、ダイヤルゲージ、レベル、トランシット、盤圧計等を用いた機械的・光学的計測とがある。

1) 電気的計測は比較的大規模な工事や重要度・難易度の高い工事で採用されることが多く、手動計測から自動計測まで種々のシステムがある。計測システムは測定の目的、測点数、経費等に応じて選定される。

2) 機械的・光学的計測は、前記以外の工事において採用されるほか、電気的計測を行う工事での補助的な計測としても用いられる。一般的な現場で実施されている計測の概要は次のとおりである。

まず、掘削周辺の地盤の動きを測るために地上の適切な場所に測点を設置し、この点の垂直、水平の動きをトランシット、レベル、スケール等を用いて測る。山留め壁の変形は、壁の頂点に各通りごとに、何箇所か測点を設け、事前に設置した不動点を通してトランシットとスケール、又はピアノ線とスケールを使い山留め壁の面外への変位を計測する(図 3.3.11参照)。

土圧の計測には、これを直接測る方法も取られているが、一般的には山留め切張りにかかる軸力を図3.3.10に示すような盤圧計(ブルドン管形式)で測り安全性を確認している。設置箇所は掘削平面形状が単純な矩形で、周辺も特殊な条件がない場合、切張り各段ごとにX方向、Y方向に各1箇所ずつが一般的である。


図 3.3.10 切張り軸力計測の盤圧計取付け部例


図3.3.11 トランシットによる山留め変形測定の例

(iii) 盤圧計の設置方法

① 腹起しと切張りの接合部に設置する場合
火打材を用いない山留め支保工の場合に適し、盤圧計を取り付けても山留め支保工の安全にはほとんど影響を与えない。この場合は、火打材を入れると火打材に作用する力は測定できない(図3.3.12(イ)参照)。

② 火打材の基部に設置する場合
この場合は、切張りにかかる全荷重を測定することができるが、山留め支保工の安全性を阻害するおそれがあるので図 3.3.12(ロ)のような位置に必ず支柱を配置するなど、十分に注意する必要がある。盤圧計の取付け実施例を図 3.3.13に示す。

③ 切張りの中央に設置する場合
この場合は、腹起しから盤圧計位置までの距離が長いので、その間で荷重がつなぎ材や直角方向の切張り等に吸収されてしまい、全荷重を示さない。また、山留め支保工の安全から望ましくない(図 3.3.12(ハ)参照)。


図 3.3.12 盤圧計の設置方法

図 3.3.13 盤圧計の取付け実施例

(iv) 温度による影響
切張り材に鋼材を用いた場合は、温度変化の影響を考慮しなければならない。したがって、土圧を測定するときは気温も同時に測定するとともに、鋼材の膨張による応力変化を考慮する必要がある。

(3) 管理方法
計測結果を効果的に工事にフィードバックするには、迅速なデータ整理と計測結果の的確な評価、並びに安全性を損なう事態が発生した場合の対処方法について、計画時点で明確にしておく必要がある。管理計画においては、計測結果の検討方法や評価基準を明確にするとともに、異状時の対処についても管理体制を明確にしておくことが必要である。

計測結果の検討法の一例を図 3.3.14に示す。測定値はこの図のフローに従って検討する。

図中に示した管理基準値は測定値の評価基準となるものであり、設計条件や周辺環境条件から定められる。管理基準値は、計測項目によって異なるが、基本的な考え方として「一次管理値」、「二次管理値」、「限界値」というように細分化しておくと使用しやすい。例えば、「一次管理値」は設計計算値の80%、「二次管理値」は設計計算値、「限界値」はこれを超えると山留め架構の崩壊や周辺に障害が発生する値といった要領である。この場合、「一次管理値」は工事の努力目標、あるいはこれを超えると要注意といった注意信号であり、「二次管理値」は赤信号でこれを超えると抜本的な対策が必要という考え方である。

計測結果を評価することにより、計測時点の安全性を確認できるとともに、その後の推測もある程度可能であり、計測管理を工事ヘフィードバックしていることになる。最近では、更に一歩進めて計測時点の安全性はもちろんその後の挙動予測を行い安全性の確認,過大設計の修正に役立てようという試みがなされている。これは「情報化施工」あるいは「観測施工法」等と呼ばれている方法である。

なお、「限界値」の目安を表 3.3.7に示す。


図 3.3.14 測定値の検討フロー例(山留め設計施工指針より)

表 3.3.7 限界値の例(山留め設計施工指針(一部修正)より)

(b) 山留め設置期間中の異状

(1) 異状の発見及び観測
(i) 周辺地盤の沈下及びひび割れ

(ii) 山留め壁の変形:山留め壁頭部の移動量をトランシット、下げ振り等により測定する(図 3.3.11参照)。

(iii) 山留め支保工の変形

(iv) 切張りに作用する側圧測定

(v) 山留め壁からの漏水

(vi) 山留め壁背面土の状態(親杭横矢板工法の場合)
①横矢板をたたいて背面土の状態を点検
②横矢板の配列の乱れ

(2) 特殊な異状現象
(i) ヒービング
軟弱粘性土地盤を掘削するとき、山留め壁背面の土の重量によって掘削底面内部に滑り破壊が生じ、底面が押し上げられてふくれ上がる現象(図 3.3.15参照)。

(ii) ボイリング、クイックサンド、パイピング
上向きの水流のため砂地盤の支持力がなくなる現象、つまり砂地盤が水と砂の混合した液状になり、砂全体が沸騰状に根切り内に吹き上げる現象をボイリングといい(図 3.3.16参照)、このような砂の状態をクイックサンドという。
また、山留め壁の下部内側にクイックサンドが起きると山留め壁の上部外側からも土砂が運ばれてパイプ状の水みちができる。このような現象をパイピングという。

図 3.3.15 ヒービングの説明図


図 3.3.16 ボイリングの説明図

(iii) 盤ぶくれ
掘削底面下方に、被圧地下水を有する帯水層がある場合、被圧帯水層からの揚圧力によって、掘削底面の不透水性土層が持ち上げられる現象(図 3.3.17参照)。


図 3.3.17 被圧地下水による盤ぶくれの説明図

(c) 建築基準法施行令及び労働安全衛生規則に定められている災害防止関係の規定の概要を次に示す。

(1) 建築基準法施行令第136条の3(根切り工事、山留め工事等を行う場合の危害の防止)
(i) 地下埋設物(ガス管、ケーブル、水道管及び下水道管)の損壊による危害の発生を防止する措置を講じなければならない。

(ii) 建築工事等における地階の根切り工事その他の深い根切り工事(これに伴う山留め工事を含む。)は、地盤調査による地層及び地下水の状況に応じて作成した施工図に基づいて行わなければならない。

(iii) 建築物その他工作物に近接して根切り工事や掘削工事を行う場合は、当該エ作物の傾斜、倒壊による危害の発生を防止するための措置を講じなければならない。

(iv) 深さ1.5m以上の根切り工事を行う場合で、地盤が崩壊するおそれ及び周辺の状況により危害防止上支障があるときは、山留めを設けなければならない。

(v) 山留めの切ばり、矢板、腹起しその他の主要な部分は、構造計算により安全である構造としなければならない。

(vi) 工事施工中必要に応じて点検を行い、山留めを補強し、排水を適当に行うなど、安全な状態に維持するための措置を講ずるとともに,矢板等の抜取りに際しては、周辺の地盤の沈下による危害を防止するための措置を講じなければならない。

(2) 労慟安全衛生規則第368条~第375条(掘削作業等における危険の防止(土止め支保工))
(i) 土止め支保工の材料については、著しい損傷、変形又は腐食があるものを使用してはならない。

(ii) 土止め支保工の構造については、土止め支保工を設ける箇所の地山に係る形状、地質、地層.き裂,含水,湧水,凍結及び埋設物等の状態に応じた壁固なものとしなければならない。

(iii) 土止め支保工を組み立てるときは、矢板、くい、背板、腹おこし、切りばり等の部材の配置、寸法及び材質並びに取付けの時期及び順序を示した組立図を作成しなければならない。

(iv) 部材の取付け等の注意事項
① 切りばり及び腹おこしは、脱落を防止するため、矢板、くい等に確実に取り付ける。

② 圧縮材(火打ちを除く。)の継手は、突合せ継手とする。

③ 切りばり又は火打ちの接続部及び切りばりと切りばりとの交さ部は、当て板をあててボルトにより緊結し,溶接により接合する等の方法により堅固なものとする。

④ 中間支持柱を備えた土止め支保工にあっては、切りばりを中間支持柱に確実に取り付ける。

⑤切りばりを建築物の柱等部材以外の物により支持する場合にあっては、当該支持物は、これにかかる荷重に耐えうるものとする。

(v) 土止め支保工を設けたときは、その後7日をこえない期間ごと、中震以上の地震の後及び大雨等により地山が急激に軟弱化するおそれのある事態が生じた後に、次の事項を点検し、異常を認めたときは、直ちに補強又は補修しなければならない。

① 部材の損傷、変形、腐食、変位及び脱落の有無及び状態
② 切りばりの緊圧の度合
③部材の接続部、取付け部及び交さ部の状態

(vi) 土止め支保工の切りばり又は腹おこしの取付け及び取りはずしの作業については、土止め支保工作業主任者技能講習を修了した者のうちから、土止め支保工作業主任者を選任しなければならない。

3.3.3 山留めの撤去

(a) 山留め架構の撤去方法

山留め架構の撤去は、一般に地下躯体の構築に伴い所定の強度が発現したのち、側圧を躯体で受け直し、支保工を順次解体する(図 3.3.18参照)。

この際、上記支保工の設置深さを、地下躯体の構築過程を考慮して決める必要がある。また、支保工解体によって、上部の支保工に、解体以前に比較して大きな荷重が加わることになるので注意する。地下躯体にも荷重が加わるので、躯体強度についても確認して工事を進める。

施工条件によっては、切張り地盤アンカー、腹起しといった支保工を残したまま、地下躯体を1階床まで構築し、躯体強度が十分に発現したのち、山留め壁に作用する側圧を、地下外壁で受け直して支保工を撤去することもあるが、切張り工法の場合、だめ穴が発生し,漏水の可能性が高くなるため注意する。

なお、側圧の地下外堅への受直しで、各階床間の地下外壁に盛替え切張りを用いる場合(図 3.3.19参照)で、地下外壁に補強が必要な場合の補強例を表 3.3.8に示す。


図 3.3.18 山留め架構の撤去方法(JASS 3(一部修正)より)


図 3.3.19 盛枠え切張りの例(JASS 3(一部修正)より)

表 3.3.8 躯体の補強例(JASS 3(一部修正)より)

(b} 山留め壁の撤去
鋼矢板や親杭等を引き抜くと、周囲の土もともに抜き取ってしまい、大きな地盤沈下を引き起こすこともあるので、沈下量をなるべく少なくするよう直ちに抜き跡を砂等で充填する。また、鋼矢板や親杭等の引抜きにより、近隣に支障を与えるおそれがある場合は、山留め壁の存置等について設計担当者と打ち合わせ、適切に処理する。

(c) 切張り、地盤アンカー、腹起し等の撤去
切張り、地盤アンカーには大きな荷重が作用している。このため、軸力の解放時に金物類等が飛び出す危険がある。

また、地盤アンカーの鋼線が跳ね上がることもある。したがって、軸力の解放は適切な方法で行う。軸力の急激な解放を避け、解放時に、山留めや構造体に支障が起きていないか注意する。

支柱の引抜きは、構造体に支障を及ぼさないよう適切に行う。構造体に支障があったり、引抜きが困難な場合は、支柱の切断について設計担当者と打ち合わせ、適切に処理する。

参考文献

4章 地業工事 1節 一般事項

第4章 地業工事 


1節一般事項

4.1.1 適用範囲

地業工事では、基礎や基礎スラブを支えるために、それより下の地盤に設けた各種の杭、砂利、砂及び捨コンクリート地業、並びにこれらに関する試験を対象としている。

4.1.2 基本要求品質

(a) 杭地業工事で使用する材料については、工場等で製造される既製コンクリート杭や鋼杭、並びに工事ごとに異なる調合や品質・施工管理等が必要な場所打ちコンクリート杭等に大別される。前者については、材料の品質等が、杭の種類に応じて建築基準法に基づき指定又は認定されており、設計図書の指定に従って、それぞれの規定に適合する材料を使用したことが分かればよい。

また、場所打ちコンクリート杭に使用するコンクリートについては、施工条件に応じて設計図書で要求される品質(水セメント比、スランプ、単位セメント量等)を有するコンクリートを品質計画で明確にし、その材料(コンクリート)を使用したことが、6章のコンクリート工事に準じて分かるようにしておく。

なお、水セメント比及び単位セメント量は、現場で直接確認する適切な方法が確立されていないので、一般的にコンクリートの圧縮強度をその代用特性として用い、品質計画で定めた水セメント比及び単位セメント地を満たすコンクリートの強度で、間接的に確認している。

(b) 地業の平面位置、形状及び寸法は、地業の性能(上部構造物の支持能力)に直接影響を与える。例えば、独立基礎等では寸法の不足が即支持力の不足となる。また、個々の杭は必要な支持力を有する場合でも.平面位置や形状等が許容される誤差の限度を超えると.基礎に加わる上部構造物の荷重と地業の支持力に偏心が生じ、構造物に有害な応力が発生したり、不同沈下が生じたりする。

「標仕」では、地業工事における施工誤差は避けられないものとして、その限度を「有害な影響を与えないもの」と規定している。施工誤差の許容値は、基礎の形式や杭の種類・耐力、地下階の有無や構造形式、平面形状等により異なるため、管理基準や管理の方法を品質計画で明確にし、これに基づいて管理したことが分かるようにしておく。

(c) 一般に、打込杭(支持杭)の場合には、設計図内で杭の支持力が指定され、4.3.1 (e) 及び4.3.3(b)で述べているように直接支持力の確認ができる。しかし、埋込杭や場所打ちコンクリート杭では、支持力を直接確認しながら管理をすることはできない。

このため「標仕」では、適切な施工方法でかつ、適切な品質管理を行ったことが分かれば「所要の支持力を有するもの」と見なすこととし、すべての地業について載荷試験等により支持力の確認を要求しているのではない。

具体的には、適切な施工方法を定め、施工上の管理内容や管理基準及び管理記録の方法並びに管理基準を外れた場合の処置方法等を品質計画に記載させ、これに基づき管理させる。

なお、地盤調査結果と現地の状況等から判断して、設計図書の指定に疑問が生じた場合は、直ちに設計担当者と打ち合わせ、必要な場合には「標仕」1.1.8による協議を行う。

4.1.3 施工一般

(a) 材 料
材料の入手に当たってはその後の工期に影響しないよう、納期の確認が必要である。特に遠心力高強度プレストレストコンクリート杭のB種・C種並びにSC、PRC、ST杭のような特殊な場合は注意が必要である。

(b) 施工業者
打込み工法においては、平成9年版「建築工事共通仕様書」で引用されていた昭和46年建設省告示第111号は廃止されたが、打止め時に貫入量と打撃エネルギーから支持力の推定が行えるため、これを打止め管理に利用している。一方、既製杭の埋込み工法や場所打ちコンクリート杭ではこのような管理手段がなく、施工中に所定の耐力が確保されているかを数値で確認することは困難である。したがって、杭基礎としての信頼性は施工業者の技術力に依存せざるを得ない。施工業者の技術力については、工事実績、保有する施工機械の種類や能力、施工の管理体制等によって、十分検討することが必要である。

技術の進歩に対する施工水準の確保と施工の信頼性向上を図るため、既製コンクリート杭については(-社)コンクリートパイル建設技術協会、場所打ちコンクリート杭については(-社)日本基礎建設協会で、技術講習会を実施している。

(c) 工 法
(1) 地業工事は、一般に振動、騒音等が著しく、また、機械の転倒等の事故を起こす可能性があるので、1.3.7 に記述されているような配慮、参考資料の資料 1 に記述されている騒音規制法、振動規制法に対する処置、2.2.1(a)(iii)に記述されている事前の現状調査等が必要である。特に、作業地盤は施工機械が傾斜、転倒しないよう養生する。

また、酸欠、杭孔への転落等についても、防止対策をとる。

(2) 杭の上部には、地震時に水平せん断力や大きな曲げ応力が発生するので、十分注意して施工管理を行う必要がある。特に、セメントミルク工法では杭周固定液の逸液により、杭の周囲が軟弱な泥土となっている場合があるので注意する。

(3) 排土、廃液等は、産業廃菓物として規制を受ける場合があるので、産業廃棄物処理法等に従い適切に処理する。

(d) 杭の品質管理
杭の品質管理は、要求品質に応じて適切に行う必要がある。「国土交通省総合技術開発プロジェクト「建設事業の品質管理体系に関する技術開発」報告害 建築分野編」(平成13年3月 国土交通省建築研究所)に各工法ごとの「要求品質と品質管理方法」が報告されているので、その例(打込み工法、プレボーリング根固め工法アースドリル工法)を表4.1.1~3に示す。これ以外の既製コンクリート杭(プレボーリング拡大根固め工法、中掘り拡大根固め工法)、鋼管杭(打撃工法、中掘り工法、鋼管ソイルセメント杭工法、回転貫入杭工法)及び場所打ちコンクリート杭(リバース工法、オールケーシング工法)については、この報告古を参照されたい。

なお、工法の特徴や施工方法、具体的な管理値等は、本章3節以降の関連する部分を参照されたい。

(e) その他
(1) 地中障害物、埋設物及び文化財や学術上の資料となる出土品がある場合は、関係者と協議し適切に処置する。

(2) 施工中の領斜、変形、ひび割れ、異常沈下、掘削孔壁の崩壊等予想外の異状が生じるなど、「標仕」4.1.3(f)に定める場合は、直ちに関係者と協議し、適切な処置を受注者等に指示する。

表4.1.1 打込み工法の要求品質と品質管理方法
(「建設事業の品質管理体系に関する技術開発」報告書 建築分野編より)

表4.1.2 プレポーリング根固め工法の要求品質と品質管理方法
(「建設事業の品質管理体系に関する技術開発」報告書 建築分野編より)

表4.1.3 アースドリル工法の要求品質と品質管理方法
(「建設事業の品質管理体系に関する技術開発」報告書 建築分野編より)

4章 地業工事 2節 試験及び報告書

第4章 地業工事 


2節 試験及び報告書

4.2.1 一般事項

(a) 「標仕」4章2節では、試験杭、杭の載荷試験、地盤の載荷試験及び報告書について規定している。

(b) 試験は.原則として.監督職員の立会いを受けて行うこととしている。
なお、載荷試験には、(c)のような理由で設計担当者の立会いを求めるのがよい。

(c) 「標仕」4.2.1(c)では施工試験の結果によって「その後の施工の指示を受ける。」こととしている。「施工の指示」には、増し杭等設計変更の必要な場合もあるが、この場合は、工程管理上速やかに行う必要がある。

(d) 杭の施工に併せて行う管理試験については、3節から5節に示す。

4.2.2 試験杭

試験杭とは、本杭を施工する場合の各種管理基準値等を定めるための杭を想定している。打込み工法(「標仕」4.3.3(e))の試験杭は、杭の長さの決定や支持層の確認等のため本杭と別に計画する。試験杭の位置、本数及び寸法は、設計図書に特記される。試験後の杭体の強度に十分余裕があると予想される場合には、試験杭を本杭とすることができる。

セメントミルク工法(「標仕」4.3.4(e))、特定埋込杭工法(同4.3.5 (b))、鋼杭工法(同4.4.3及び4.4.4)及び場所打ち杭(同4.5.4(b))については、一般的には最初の1本目の本杭が試験杭とされる。試験杭の位置は、地盤や土質試験の結果から、全基礎杭を代表すると判断される位置に指定される。

試験杭の施工結果を基に、試験杭以外の本杭の施工における各種管理基準値等を定める。このため、試験杭の施工設備は、原則として、本杭に用いるものを使用する。

なお、杭の支持力の確認試験や水平載荷試験を行うための試験杭や反力杭等の特別な仕様が必要な「試験杭」は「標仕」4.2.2(a)の「特記」の想定外である。その場合は、設計担当者により別途仕様が定められ設計図書に特記される。

4.2.3 杭の載荷試験

杭の載荷試験は、「標仕」では、鉛直又は水平載荷試験としている。また、試験の方法は特記によるとしている。

地盤工学会基準「杭の鉛直載荷試験方法・同解説」には、単杭に対して鉛直方向に載荷するすべての載荷試験を対象にし、
「杭の押込み試験方法(JGS 1811)」
「杭の先端載荷試験方法(JGS 1812)」
「杭の引抜き試験方法(JGS 1813)」
「杭の鉛直交番載荷試験方法(JGS 1814)」
「杭の急速載荷試験方法(JGS 1815)」
「杭の衝撃載荷試験方法(JGS 1816)」
の6種類の基準が併記されている。

また、水平載荷試験に関しては地盤工学会基準「杭の水平載荷試験方法(JGS1831)」に基準化されている。

ここでは、地盤工学会基準の概要を紹介する。

(1) 鉛直載荷試験
6種類の基準を、載荷方法から、荷重の性質、加力方法、反力装置、載荷位置及び載荷方向で分類すると表4.2.1のとおりである。

表4.2.1 載荷方法による分類(杭の鉛直載荷試験方法・同解説より)

荷重の性質からは、静的載荷試験と動的載荷試験に大別される。静的載荷と動的載荷は、杭体並びに地盤の速度及び加速度に依存する抵抗が無視できる載荷か否かで区別できる。また、動的載荷において急速載荷と衝撃載荷は、杭体の波動を無視できるか否かで区別される。

この基準では、図4.2.1に示すように、載荷時間の長さ、具体的には載荷時間 t1の、縦波が杭体を一往復するのに要する時間 2L/cに対する比である相対載荷時間 Trの大きさで区分される。


図4.2.1 載荷時間の比較(杭の鉛直載荷試験方法・同解説より)

① 押込み試験方法
押込み試験方法は、杭頭部に軸方向押込み荷重を加える試験である。この試験方法は、実際の杭と同じ荷重条件で行うため鉛直支持力特性の評価の信頼性が高いが、反力装置に載荷梁等を使用した反力抵抗体が必要なため、ある程度の費用と工期を要する。

載荷に用いる試験装置は、加力装置、反力装置及び計測装置で構成される。図 4.2.2に一般的な載荷試験装置例として反力杭方式の試験装置を示す。


図4.2.2 反力杭を使用した場合の押込み試験装置例
(杭の鉛直載荷試験方法・同解説より)

② 先端載荷試験方法
先端載荷試験方法は、図4.2.3のように、杭体の先端付近に取り付けたジャッキによって静的な荷重を加える試験である。この試験方法では、押込み試験方法のような杭頭部の反力装置は用いずに. ジャッキの上下に生ずる抵抗力を互いに反力として載荷する。ジャッキの上方に生ずる抵抗力は.杭を押し上げるのに必要な抵抗(押上げ抵抗)であり、杭の周面抵抗力に杭の自重が加わったものとなる。ジャッキの下方に生じる抵抗力は、杭の先端抵抗力が主であり、これにジャッキより下方の部分の周面抵抗力が加わることになる。


図4.2.3 先端載荷試験の装置(杭の鉛直載荷試験方法・同解説より)

③ 引抜き試験方法
引抜き試験方法は、杭頭に静的な引抜き荷重を加える試験である。

試験装置は、押込み試験と同様に、加力装置、反力装置、計測装置で構成される。引抜き試験の反力抵抗体は、反力杭が一般的であるが反力板も用いられている。コンクリート系の試験杭では、試験杭の杭体に引張り応力が作用するため、杭体の引張り強度について注意を要する。

また、各層の周面抵抗力特性を得るために杭体の軸方向力を測定する際には、杭体のひび割れの影響についても留意しなければならない。

④ 鉛直交番載荷試験方法
鉛直交番載荷試験方法は、杭に押込み及び引抜きの軸方向鉛直交番荷重を加える試験である。地震時における構造物のロッキング動等によって杭基礎に作用する変動軸力は、鉛直交番荷重として杭頭に作用するが、従来の設計では押込み荷重及び引抜き荷重に対する抵抗力を押込み試験及び引抜き試験によってそれぞれ別々に評価してきた。しかし、近年行われるようになってきた上部構造と杭基礎との一体解析では、鉛直交番荷重に対する杭の挙動を一連の挙動として評価する必要が生じてきた。鉛直交番載荷試験は、これまで研究的に行われてきた事例はあるものの、多くの試験が実施されてきたとはいえない。しかし、兵庫県南部地震以降、常時から大地震時に至るまでの杭基礎の挙動を正確に設計に反映させる必要性が高まっており、鉛直交番載荷試験によって杭挙動を評価する機会が今後増加するものと考えられる。したがって、鉛直載荷試験方法の一つとして「杭の鉛直交番載荷試験方法(JGS 1814)」が制定され、試験の基準化を図ることとされている(図4.2.4参照)。


図4.2.4 鉛直交番載荷試験の載荷サイクル(杭の鉛直載荷試験方法・同解説より)

⑤ 急速載荷試験方法
急速載荷試験方法は、杭頭に動的な荷重を加える載荷試験の一つである。荷重の性質として油圧ジャッキ等により静的な荷重を加える押込み試験とハンマー等で衝撃荷重を加える衝撃載荷試験の中間的な位置付けにあり、基準の中では急速載荷を「杭体の波動現象は無視できるが、速度および加速度に依存する杭体と地盤の抵抗は無視することができない載荷時間を持つ載荷」と定義している。具体的には、相対載荷時間 Tr が 5 ≦ Tr < 500の範囲の載荷試験である(図4.2.5参照)。


図4.2.5 反力装置を使用しない加力装置(杭の鉛直載荷試験方法・同解説より)

⑥ 衝撃載荷試験方法
杭の衝撃載荷試験方法は、杭頭に動的な荷重を加える載荷試験の一つである。一般に、杭頭部にひずみ計及び加速度計を取り付け、ハンマー等による杭打撃時に発生するひずみ波形及び加速度波形を測定し、波動理論に基づいて解析を行い、杭の鉛直支持力特性を評価する試験方法である(図4.2.6参照)。

載荷試験においては、載荷時間が、波動が杭長分を伝播する時間に対して短くなるほど、波動の影響が大きくなる。衝撃載荷試験は、載荷時間が 0.01〜0.02秒程度であるため、波動現象を伴う試験であり、試験結果の解析は一次元波動理論に基づく必要がある。


図4.2.6 衝撃載荷試験方法の例(杭の鉛直載荷試験方法・同解説より)

(2) 水平載荷試験
杭の水平載荷試験方法は、静的載荷による杭の水平抵抗特性に関する資料を得ること、また、既に定められた杭の水平地盤反力係数等の設計値の妥当性を確認することを目的とする(図4.2.7参照)。

載荷方法は、載荷パターン及び載荷方式により分類され、対象とする構造物の種類及び試験の目的を考慮して決定する。

載荷パターンには、一方向載荷と正負交番載荷があり、いずれかを選択する。また、単サイクルと多サイクルがあり、いずれかを選択する。後者の場合は、試験の目的に応じてサイクル数を決定する。

載荷方式には、段階載荷方式と連続載荷方式があり、いずれかの方式を選択する。前者の場合は荷重(変位)段階数、各荷一重(変位)段階における荷重(変位)保持時間を、後者の場合は載荷速度を試験の目的に応じて決定する。


図4.2.7 水平載荷試験の装置例(杭の水平載荷試験方法・同解説より)

4.2.4 地盤の載荷試験
(a) 一般事項
地盤の載荷試験は、「標仕」では平板載荷試験としている。地盤の平板載荷試験は、地盤工学会基準JGS1521-2003(地盤の平板載荷試験方法)による。

(b) 平板載荷試験
(1) 試験地盤
(i) 試験地盤は、根切りのときスコップ等で荒らしたり踏み付けたり、あるいは水で埋まらないよう試験地盤の少し上で止めておき、載荷板を設置するときに、試験が自然状態で行えるようにする。

(ii) 試験孔は、一般に載荷板の5倍程度あればよいといわれているが、地盤工学会基準JGS 1521-2003によると、試験地盤面は、載荷板の中心から1.0m以上の範囲を水平に整地すると定められている(図4.2.8参照)。


図4.2.8 平板載荷試験における根切り幅と載荷板との関係を示した例

(2) 載荷板
(i) 載荷板は、直径30cm以上の円形とし、厚さ25mm以上の鋼板又は同等以上の剛性のある板を用いる。

(ii) 設置は、試験孔のほぼ中央とし、反力装置の中心の鉛直下を水平器等を用い平らに仕上げ設置する。また、地盤となじみの悪いときは薄く砂をまくか、せっこうをまいて行う。

なお、試験地盤が常水面以下の場合は、試験地盤以下に水位を下げないように注意し排水する。また、水が多く排水により地盤が緩むおそれのある場合は、設計担当者と打ち合わせる。

(3) 養 生
試験装置の上は、テント等で覆い直射日光及び降雨を避ける。また、雨水が試験孔に流入しないようにする。

(4) 最大荷重
最大荷重は設計図書の指定によるが、推定した地盤の極限支持力以上、又は設計荷重に安全率を乗じた値以上とする。

(5) 試験装置
(i) 載荷台の反力梁は、中心を載荷板の中心と一致させ、水平に設置して、変形、傾斜、転倒がないようにする。また、載荷物は偏心しないよう注意する(図4.2.9 参照)。

(ii) 加圧方法は、計画最大荷重以上の加圧能力と、変形に追随できる十分なストロークをもつジャッキによる。


図4.2.9 平板載荷試験の装置の例

(6) 計測装置
(i) 載荷荷重の計測は、荷重計(環状ばね型力計又はロードセル)を用いる。計器は試験荷重に見合ったもので、検定後の経過期間が短いものがよい。

(ii) 変位の計測は、読み精度 1/100mm、ストロークは30mm以上のダイヤルゲージ又はこれに準ずる性能の変位計を用い、セットは図4.2.10のようにする。


図4.2.10 平板載荷試験における沈下量の測定方法

(7) 試験方法
(i) 国土交通省大臣官房官庁営繕部「敷地調査共通仕様瞥」4.7.4(4)では、載荷方法は、荷重制御による段階式載荷又は段階式繰返し載荷とし、適用は特記により、特記がなければ、段階式載荷とするように定められている。

(ii) 地盤工学会基準JGS 1521-2003によると、載荷重は、計画最大荷重を 5〜 8 段階ずつ等分に載荷し、荷重の保持時間は30分程度の一定とするよう定められている。

(iii) 沈下量の測定時間は地盤工学会基準 JGS 1521-2003によると、各荷重段階において所定の荷重に達したのち、原則として表4.2.2のように定められている。

表4.2.2 沈下量測定時間

(8) 試験結果の表示
試験結果の表示の例を,図4.2.11に示す。


図4.2.11 載荷試験結果の例

(9) 報告書
地盤の載荷試験の報告書は、次の事項を記載する必要がある。

① 地盤工学会基準JGS 1521-2003と部分的に異なる方法を用いた場合には、その方法
② 試験方法
③ 試験結果の図及び表
④ 地盤反力係数
⑤ 極限支持力
⑥ 試験地盤の観察結果と地下水の状況
⑦ その他特記すべき事項

4.2.5 報告書等
地業工事の報告書の目的及び記載事項は次のとおりである。

(1) 目 的
(i) 施工記録を報告することにより施工状況を記録に残す。
(ii) 予期しない状況が生じた場合等の対策を立てる場合の参考資料とする。
(iii) 上部構造に不同沈下等の問題点が生じたときの原因究明資料とする。
(iv) 将来の近隣での建設の参考資料とする。

(2) 全般的な報告書の記載事項
(i) 工事概要
(ii) 杭材料(杭の種類、材質、形状、寸法、コンクリート強度等)
(iii) 施工機械の仕様概要
(iv) 工法の概要
(v) 実施工程表
(vi) 工事写真
(ⅶ) 試験杭の施工記録及び地業工事に伴う試験結果の記録
(ⅷ) 本杭の施工記録
(ix) 試験杭等において採取した土質資料

4章 地業工事 3節 既製コンクリート杭

第4章 地業工事 


3節 既製コンクリート杭地業

4.3.1 適用範囲

(a) この節は、打込み工法セメントミルク工法及び特定埋込杭工法による既製コンクリート杭地業に適用する。

なお、杭の施工法の分類については、JIS A 7201(遠心カコンクリートくいの施工標準)に準ずる(図4.3.3参照)。

(b) 打込み工法の作業の流れを図4.3.1に、セメントミルク工法の作業の流れを図4.3.2 に示す。

(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(施工機械及び杭の搬入時期、各ブロックごとの試験杭と本杭打込みの開始及び完了の時期等)
② 杭の製造業者名
③ 施工業者名及び作業の管理組織
④ 杭の種類、規格、寸法及び使用箇所(鋼杭の場合は、防錆処置を含む)
⑤ 材料の受入れ検査の方法及び記録
⑥ 地中埋設物・障害物の調査、移設、防護、撤去等の計画
⑦ 施工機械の仕様の概要及び性能
⑧ 施工法
⑨ プレボーリングを併用する場合はその深さ
⑩ セメントミルク工法の場合は安定液、根固め液等の調合計画及び管理方法
⑪ 杭配置図(平面図及び断面図:土質柱状図)、試験杭の位置及び杭の施工順序
⑫ 継手の工法(溶接機の種類と溶接技能者の資格を含む)
⑬ 長尺物の搬入経路
⑭ 杭支持力の確認方法(算定式、所要最終貫入量等)
⑮ 支持地盤の確認方法(地盤資料と掘削深さ、電流値との対照等)
⑯ 杭頭の処理方法(切断方法鉄筋の処理方法等)
⑰ 安全対策(施工機械の転倒防止と杭孔への転落防止等)
⑱ 公害対策(騒音、振動、油滴飛散防止策並びに掘削液の廃液処理方法等)
⑲ 施工結果報告書内容
⑳ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記緑文章の書式とその管理方法等

図4.3.1 打込み工法(打撃工法)の作業の流れ

図4.3.2 セメントミルク工法の作業の流れ

(d) 杭施工法の概要
(1) 施工の一般事項
既製コンクリート杭の施工に当たっては、地盤状況、現場状況、設計支持力等を考慮して、杭を予定深度まで正しく、かつ、安全に設置できる工法及び施工機械とする。

(2) 杭施工法の分類
杭の施工法の分類を図4.3.3に、杭の施工法の実績推移を図4.3.4に示す。
なお、(  )内は「標仕」の名称を示す。


図4.3.3 杭の施工法の分類(JIS A 7201 : 2009)


図4.3.4 杭の施工法の実績推移((-社)コンクリートパイル建設技術協会のデータによる)

① 打込み工法(図4.3.5及び6参照)
一般に杭径 600mm以下の施工に用いられる。地盤を緩めることがなく耐力は期待できるが、ハンマーを使用するため騒音、振動が大きく、市街地では問題が多い。このための対策として、油圧パイルハンマーやドロップハンマーによるプレボーリング併用打撃工法等が用いられている。

この工法は、アースオーガーで一定深度まで掘削したのち、杭を建込み打撃する工法である。中・小径で硬い中間層を抜く場合及び騒音振動を軽減し、杭の貫入を容易にする場合等に使用される。

通常、粘性土の場合のオーガーの掘削径は、杭径-50mm程度である。

なお、杭径が700mm以上の杭の施工に当たっては.施工実績が少ないため.特に注意が必要である。


図4.3.5 パイルハンマー打撃工法


図4.3.6 プレボーリング併用打撃工法

② プレボーリングによる埋込み工法(図4.3.7参照)
プレボーリングによる埋込み工法は、アースオーガーで掘削した孔に杭を設置する工法であり、セメントミルク工法と称する一般工法、最終的に打撃をする方法及び先端を拡大根固めした特定埋込杭工法がある。

杭の設置方法は、自重による設置を基本とし、圧入、軽打、回転等を併用する場合もある。掘削には地盤や工法によって水や安定液が使用されることがある。

セメントミルク工法は、アースオーガーによってあらかじめ掘削された縦孔に既製杭を建込むものである。掘削中は孔壁の崩壊を防止するために安定液をオーガー先端から噴出し、所定の深度に達したのち、根固め液に切り換え、所定量を注入完了後、杭周固定液を注入しながらアースオーガーを引き上げる。その後、杭を掘削孔内に建込む工法である。

この施工法は、国土交通省住宅局建築指導課監修「埋込み杭施工指針・同解説」に準じて施工するものである。

なお、このセメントミルク工法で、通常用いられている杭径は 300~600mm、施工深度は30m程度である。

また、特定埋込杭工法の中のプレボーリング工法については、種類が多いのでそれぞれの適用範囲を確認し、各工法に定められた条件に従って施工する。


図4.3.7 プレボーリングによる埋込み工法(セメントミルク工法の場合)

③中掘りによる埋込み工法(図4.3.8参照)
杭中空部にアースオーガー等を挿入し、杭先端地盤を掘削しながら、杭中空部から排土し、杭を設置する工法であり,比較的杭径の大きなもの(一般的にはφ 500mm以上の杭)の施工に適している。

杭の設置や排土を促進するため、圧縮空気又は水をオーガーヘッド先端から噴出させ、施工機械の自重を利用した圧入又はドロップハンマーによる軽打等を併用している場合が多い。

掘削機には、アースオーガー、オーガーバケット等が使用される。また、杭に作用する周面摩擦抵抗を低減させ、杭の沈設を容易にするために、先端にはフリクションカッターを取り付けるのが一般的である。

支持力発現方法としては、所定の深度に達したのち、杭に打撃を加える方法と杭先端部を根固めする方法がある。

杭に打撃を加える方法には、国土交通省住宅局建築指導課監修「中掘り打撃工法設計・施工指針」に準じて施工するものである。この工法の先端支持カ算定式は打込み工法と同じ取扱いである。

根固めする方法(図4.3.8(イ))には、杭先端部を根固めする方法と拡大根固めする方法とがある。拡大根固めする方法には、オーガーの先端に装備された拡大ヘッドによる方法(図4.3.8(ロ))、オーガーヘッド又はロッドから高圧又は低圧で根固め液を噴射する方法(図4.3.8(ハ))と、これらを併用し築造する方法があり、特定埋込杭工法となっている。これらの施工に当たっては、各工法に定められた条件に従って行うものとする。


図4.3.8 中掘りによる埋込み工法

④回転による埋込み工法(回転根固め工法)(図4.3.9 参照)
回転圧入による埋込み工法は、杭先端金物により掘削を行い、杭体に回転力を与えながら圧入し、杭を所定の位置に設置する工法である。回転圧入時は、水等を先端部から噴出して補助するものもある。

杭の支持力発現方法は、根固めによる方法が一般的である。


図4.3.9 回転による埋込み工法(回転根固め工法)

(e) 支持力の算定
杭の許容支持力は、地盤の許容支持力と杭体の許容耐力のうちいずれか小さいものとする。

基礎杭の許容支持力を定める方法は、その種類に応じて「地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を求めるための地盤調査の方法並びにその結果に基づき地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を定める方法等を定める件」(平成13年7月2日 国土交通省告示第1113号)(以下、この節では「告示第1113号」という。)に定められている( 24.1.9参照)。この内、一般的には次のものがある。

(i) 載荷試験による極限支持力(Ru)により、地盤の長期許容支持力(Ra)を定めるもの

(ii) 基礎杭先端付近の地盤の標準貫入試験の平均 N 値から基礎杭の先端の地盤の許容応力度( qp)を定めたもの

① 打込杭

② セメントミルク工法による埋込杭

(iii) 地盤の許容応力度及び基礎杭の許容支持力を求めるための方法として、杭打ち試験が挙げられている。ただし、告示第1113号では、具体的な算定式等については示されていない。

(iv) 特定埋込杭工法の場合は、各工法に定められた算定式とする。

4.3.2 材 料

(a) 杭の種類
一般的に用いられている既製コンクリート杭の種類を図4.3.10に示す。

図4.3.10 主な既製コンクリート杭の種類

PHC杭は、コンクリート設計基準強度が80 N/mm2以上で、形状的には全長にわたり同一断面の杭(ストレート杭という。)であるが、端部が拡大された杭(ST杭という。)や、全長にわたり等間隔で突起部が付いた杭(節杭という。)もある。これらの杭の本体部は本体部径が等しいPHC杭と同じ性能を有するので、分類上はPHC杭に含まれる。

また、最近では、コンクリート設計基準強度が100 N/mm2以上の杭や肉匝の厚い杭のほか、部分的に特殊な形状のものも開発されており、これらも分類上はPHC杭やSC杭となる。

PRC杭(ストレート杭)にも同様にPRC-ST杭やPRC-節杭がある。

これらの杭の大部分は、JIS I 類規格品又は性能評価機関により、告示第1113号に定める品質を満足する内容の(任意)評定を取得しているものである。

(b) 杭の製造工程
各既製コンクリート杭(略称でPHC杭、SC杭、PRC杭、ST杭及び節杭)の製造工程の例を、図4.3.11に示す。

なお、PRC杭、ST杭及び節杭の製造工程はPHC杭の場合と同じである。

図4.3.11 各既製コンクリート杭の製造工程の例

(c) 杭材料の品質
(1) 既製コンクリート杭については、告示第1113号第8で材料の許容応力度が定められているので、その抜粋を次に示す。

地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を求めるための地盤調査の方法並びにその結果に基づき地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を定める方法等を定める件

(平成13年7月2日 国土交通省告示第1113号 最終改正平成19年9月27日)建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第93条の規定に基づき、地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を求めるための地盤調査の方法を第1に、その結果に基づき地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力を定める方法を第2から第6に定め、並びに同令第94条の規定に基づき、地盤アンカーの引抜き方向の許容応力度を第7に、くい体又は地盤アンカ一体に用いる材料の許容応力度を第8に定める。第8 くい体又は地盤アンカ一体に用いる材料の許容応力度は、次に掲げるところによる。

二 遠心力鉄筋コンクリートくい及び振動詰め鉄筋コンクリートくいに用いるコンクリートの許容応力度は、次の表(省略)の数値によらなければならない。この場合において、設計基準強度は40N/mm2以上としなければならない。

三 外殻鋼管付きコンクリートくいに用いるコンクリートの圧縮の許容応力度は、次の表(省略)の数値にらよらなければならない。この場合において、設計基準強度は 80N/m2以上としなければならない。

四 プレストレストコンクリートくいに用いるコンクリートの許容応力度は、次の表(省略)の数値によらなければならない。この場合において、設計基準強度は50N/mm2以上としなければならない。

五 遠心力高強度プレストレストコンクリートくい(JIS A5373(プレキャストプレストレストコンクリート製品)- 2004 附属書5 プレストレストコンクリートくいに適合するものをいう。)に用いるコンクリートの許容応力度は、次の表(省略)の数値によらなければならない。この場合において、設計基準強度は80N/mm2以上としなければならない。

六 前各号の規定にかかわらず、くい体の構造方法及び施工方法並びに当該くい体に用いるコンクリートの許容応力度の種類ごとに応じて行われたくい体を用いた試験により構造耐力上支障がないと認められる場合にあっては、当該くい体のコンクリートの許容応力度の数値を当該試験結果により求めた許容応力度の数値とすることができる。

(2) 代表的な杭材料の品質の例を表4.3.1に示す。これ以外の杭は、告示第1113号第8第六号の規定により認められた許容応力度の数値とすることができる。

表4.3.1 杭材料の品質の例

(3) 代表的な遠心力高強度プレストレストコンクリート杭〈PHC杭〉には、JIS A 5373(プレキャストプレストレストコンクリート製品)附属書 E による製品規格(推奨仕様 E-1 )がある。JIS A 5373による単体長さは、4~15m(ただし、φ300及びφ350のA種は 4~13m)である。

杭体の曲げ強度を表4.3.2に示す。

表4.3.2 遠心力高強度プレストレストコンクリート杭〈PHC杭〉の曲げ強度
(JIS A 5373 : 2010 推奨仕様E-1)

また、ストレート杭のほか、拡径断面を有する杭(ST杭)や節部付きの杭(節杭)等がある。

(i) 拡径断面を有する遠心力高強度プレストレストコンクリート杭〈ST杭〉は、杭の先端部を太径にした拡底PHC杭で、大きな地盤支持力が得られるもので ある。拡径部に溝が付いた杭等もある。また、拡径部を下端ではなく、上方側で用い、その上方に拡径部と同径の杭を接続する使用方法(拡頭タイプ)もある。

(ii) 節部付き遠心力高強度プレストレストコンクリート杭〈節杭〉は、杭本体部を約1m間隔で節部としたPHC杭で、大きな周面摩擦力が得られるものである。一部にのみ節部を有する杭もある。節杭にも拡頭タイプがある。

(4) 外殻鋼管付コンクリート杭〈SC杭〉は、大きな水平力が作用する場合に使用するために開発された杭で、鋼管(材質STK400、STK490、SKK400、SKK490、SS400、SM400ABC、SM490ABC、SN400ABC、SN490ABC、材厚 4.5~25mm)に膨張性コンクリートを遠心力で張り付かせて一体化させた複合構造であり、一般にPHC杭の上杭として使用される。最近では、不等厚鋼管を用いた製品もある。

(5) プレストレスト鉄筋コンクリート杭〈PRC杭〉は同様に水平力に抵抗するために開発されたPHC杭とRC杭の合成されたものであり、軸鉄筋としてPC鋼材のほかに鉄筋コンクリート用異形棒鋼 D10~D35を配置している。また、ストレート杭のほか、拡径断面を有する杭(ST杭)や節部付きの杭(節杭)等がある。(3)(i)及び(ii)参照。

(6) 杭先端部
杭先端部の形状は図4.3.12が標準で、土質及び工法に応じて適切なものを選定する。

一般に、打込み工法やセメントミルク工法では、平たん又は凹形の閉塞形が多く用いられ、中掘り工法や特定埋込杭工法では開放形が用いられている。最近では、大径杭や長尺杭のセメントミルク工法では、開放形が用いられている。特定埋込杭工法では、開放形の先端部に回転押込み補助用の金具を取り付けているものもある。

これらの先端部に、更に、地層や工法に適した先端金具等を取り付けて施工することが多い。

なお、杭先端部と地盤の成層状態との関係を表4.3.3に示す。


図4.3.12 杭先端部の形状

表4.3.3 杭先端部と地盤の成層状態との関係

(7) 既製コンクリート杭関係のJIS(JIS A 5372及びJIS A 5373)

(i) JIS A 5372(プレキャスト鉄筋コンクリート製品)及びJIS A 5373(プレキャ ストプレストレストコンクリート製品)は、性能規定化を目指した2004年の改正で「本体規格」-「附属書」-「推奨仕様」という形で構成され、以前の個別製品ごとの仕様規格は推奨仕様として規定された。また、これらJISでは、製品を I類、 II類に区分しており、その定義は次のとおりである。

I 類:製品の性能を満足することが、実績によって確認された仕様に基づいて製造される製品で、附属書に推奨仕様が示されているもの。

Ⅱ 類:受渡当事者間の協議によって、性能及び仕様を定めて製造される製品。なお、受渡当事者間とは、製造者と工事請負人である購入者ではなく、製造者と工事の発注者又は自ら工事を行うものをいう。

(ii) 従来は、JIS A 5373の I類のPHC杭が主流であったが、近年では、性能設計思想により多種多様の杭が用いられるようになってきている。

(iii) 現在、I 類規格品のあるものは、RC杭、PHC杭、PHC-ST杭及びPHC-節杭のみである。SC杭及びPRC杭はJISに名称はあるものの推奨仕様がないので、 JIS規格品(Ⅱ類)としての扱いとなっているため、告示第1113号による指定性能評価機関の評定品が使用されている。コンクリート設計基準強度が 100N/mm2以上のものも同様である。

4.3.3 打込み工法

(a) 打込み工法は、杭の支持力を得るために、最終工程に打撃を行うものと「標仕」では規定している。この工法は、施工の打込み時において杭の最終貫入量が測定され、推定支持力の管理基準値が定められている工法を示しており、打撃工法、プレボーリング打撃工法、中掘り打撃工法等がある。杭の取扱い及び工法はJIS A 7201(遠心カコンクリートくいの施工標準)による。

(b) 試験杭
(1) 打撃工法における試験杭の目的は、杭の推定支持力、土質状態、杭の長さ、施工時間、施工機械の適否等の確認である。本杭施工の前に行う杭打ち試験により適切な施工方法等の検討を行う。

また、杭の設計支持力は、特記により定められている。試験杭の杭打ち試験において、打込み深さ、最終貫入量等の管理基準値を確認し定めることが必要である。

(2) 試験に使用する杭は、原則として設計図書に示された諸元・材質のものを使用するが試験杭の長さは、支持層の位置が推定より深いこともあるので、本杭より2m程度長いものを用いるのが望ましい。

(3) 試験杭は、4.2.2で述べた理由で本杭の施工機械と同一機種で行うことが原則である。

(4) 調査項目及び調査方法は、打撃工法を例として次に示す。
(i) 打込み途中
杭に図4.3.13のように何m貫入したか分かるように印を付けておき、原則として、0.5~1.0mごとに次の項目について記録する。

1) 打撃回数   [ 回/m ]
2) 全打撃回数  [ 回 ]
3) 全打込み長さ [ m ]
4) 打込み所要時間[ 時分 ]

(ii) 打止まり
最終10回以上の打撃による平均値として
1) ハンマーの落下高さ[ m ]
2) 最終貫入量    [ mm ]
3) リバウンド量   [ mm ]

(iii) 支持層の確認
貫入量の減少と柱状図との比較により支持層の確認を行い、最終貫入量を測定する。

最終貫入量及びリバウンド量の測定は、図4.3.14に示すようにセクションペーパーを杭に張り付けておき、水平においたガイド材に沿って鉛筆を横に移動させていくと、図4.3.15のように杭の動きが記録される。


図4.3.13


図4.3.14 測定方法


図4.3.15 貫入量の記録

(5) 推定支持力の算定方法は特記によるとされているが、一般的には次の方法が用いられている(JIS A 7201より)。

( ⅰ )打込み杭の推定支持力

(ii) やっとこを使用した場合
やっとこを使用した場合には、算定値を0.8倍程度に低減しているが、地盤性状や杭打ち機(やっとこの構造)等によりその低減率は異なるので、やっとこを使用した場合と使用しない場合との値を実測して低減率を決めることが望ましい。

(c) 打込み工法に用いるハンマーの種類
(1) 各ハンマーの長所短所の比較を表4.3.4に示す。特に打撃工法による杭打ち施工は、大きな騒音・振動を発生するので、選定に当たっては、工事現場周辺の環境の保全に注意し、騒音・振動対策を十分に実施しなければならない。図4.3.16及び17に基礎工事用機械の騒音レベル、振動レベルの参考値を示す。

表4.3.4 各ハンマー長所短所


図4.3.16 基礎工事用機械の騒音レベル


図4.3.17 基礎工事用機械の振動レベル

(2) ディーゼルパイルハンマー
ディーゼルエンジンの原理によるハンマーである。ラム(上下動するピストン部分)の落下高さが2mを超えるような能力の小さいハンマーでは杭頭を破壊するおそれがあるので、落下高さが2m以下で杭を打ち込める能力のあるものとする。最近では、施工実績はほとんどない。

ラム質量と杭径の関係は、おおむね表4.3.5のとおりである。

表4.3.5 ラム質量と杭径の関係

(3) 油圧ハンマー
建設省技術評価制度(1983年)によって評価・普及し、油圧によってラムを作動落下させる杭打ち用ハンマーで、ディーゼルパイルハンマーに比べて大幅に騒音を低減する(15~20ホン)とともに油煙の飛散が全くない。ラムの落下高は 0.1 mごとに任意の高さに調節できる。従来のディーゼルパイルハンマーに比べて「重いラムを低い位置から落下させる」という特徴がある。

(4) ドロップハンマー〈モンケン〉
鋼製ハンマーの自然落下により打ち込むもので、自重が杭質量以上、かつ、杭長さ 1m当たり質量の10倍以上のものを使用する。落下高さは原則として、2m以下とし、杭頭の破損を防ぐ。

(d) アースオーガー
打込み工法に併用するアースオーガーは、プレボーリング工法と同様に地層に合わせた十分な性能をもち、適正な掘削速度で行わなければならない。

(e) 杭の心出し
杭の心出しは、堅固に設置した遣方から行い、小さい木杭等で、杭心を表示しておく。また、杭心合わせは円板を定規に、心を合わせて周囲に石灰で線を引くなどの方法により行い、杭ずれを防ぐ。

(f) 運搬及び取扱い
(1) 運搬及び取扱いに当たっては、杭に損傷を与えないように注意し、有害なひび割れや傷が生じた杭を使用してはならない。

(2) 運搬に際しては、適切な位置にまくら材を敷き運搬中に荷崩れしないようロープ、くさび等を使用して強固に留める。

(3) 杭の吊上げ点は、JIS A 7201(遠心カコンクリートくいの施工標準)による。また、吊上げ点の位置は、工場あるいは現場で印をつけておくことが望ましい。

(4) 杭の仮置きは地盤を水平に均し、杭の支持位置にまくら材を置き1段に並べることが望ましい。やむを得ず2段以上に積む場合には有害な応力が生じないよう、また、荷崩れしないよう適切な処置をとる。

(g) 建込み
(1) 地中障害物等が予想される場合は、杭施工に先立ち試掘等を行い必要に応じて撤去する。

(2) 杭の建込みは、杭心に正しく設置し、杭打ち機の鉛直器又は、直角二方向からトランシット、下げ振り等を用いて観測し、杭が正しく鉛直を保つようにする。

なお、先端が閉塞している杭で中に水が入っている場合は、ウォーターハンマー現象により縦割れを生じるおそれがあるので水を抜いてから建込む。

(h) 打込み
(1) 杭、キャップ、ハンマーの各軸がずれると偏打の原因となるので、クッションの交換等、十分な調整を行い、各軸を合わせてから打撃を開始しなければならない。

(2) 1群の杭の打込みは、なるべく群の中心から外側へ向かって打ち進める。逆にすると地盤が締まってしまい、中心部分で打込みが困難になる。片押しも同じような理由で避けるのがよい。

(3) 1本の杭の打込みは、なるべく中断しないで連続して行う。一時中止すると打込みが困難になることがある。

(4) ディーゼルパイルハンマーで最初から連続打撃すると、杭の傾斜や曲がりが生じやすいため、打初めは数回空打ちして、杭の貫入方向を確認するのがよい。

(5) 油圧パイルハンマーはラムの質量が比較的大きいので、杭の鉛直性が不安定な初期段階にラム落下高が大きいと、1打撃当たりの貫入量が大きくなり、杭が傾斜することがあるので、落下高さを10~20cm程度にするのがよい。

なお、ラムの最大落下高さは、杭の種類等に応じて決定する必要がある。

(6) ドロップハンマーで打込む場合には、杭が振れやすいため、杭の傾斜や座屈等が起こるおそれがあるので、初期貫入時に特に慎重な施工をしなければならない。

(7) 打込み中は、随時杭軸の変位、傾斜及び貫入状況を観測し、傾斜、変位については打込み初期に修正する。杭頭が破壊した場合は設計担当者と打ち合わせ、増杭等の処置が必要になる。

(8) 杭に傾斜が生じると貫入量が少なくなる。特に、砂質土の場合は影響が大きく、鉛直を保っていないために打込み困難となる場合がある。また、大きく貫入するはずのない箇所で急激に貫入量が増すなどの異常貫入は、杭の途中破壊、座屈等による場合がある。

(9) 杭頭のクッション材が損耗すると、クッション効果がなくなり杭頭が破壊するので、杭頭キャップのクッション材の損耗には注意する。

(10) 杭を作業地盤面以下に打込む場合には、図4.3.18のようなやっとこが用いられる。やっとこをかける長さは4m程度を限度とし、長いものは避けるようにする。

(11) 杭先端が開放の場合は、中空部に土が入り空気が圧縮されたり、また、水が入りウォーターハンマー現象等で杭が破裂する場合があるので、杭内の土及び水の上昇に対応して十分な空気抜き孔を設けたキャップを使用する。

(12) 打込み中に杭が浮き上がったり、横移動する場合には、杭先端に穴をあけたり、オーガー併用等の対策をする必要がある。

(13) 軟弱地盤に打込む場合、中間の比較的硬い地層を打ち抜く場合や長尺杭を施工する場合には、打撃力を調整(ハンマー落下高さを小さくすることや特殊キャップの使用等)して打撃を行い、杭に生じる引張力によるひび割れを生じさせないようにするか、プレストレスの大きい杭を使うなどの検討をする必要がある。


図4.3.18 やっとこ

(i) 打止め
打込みは、原則として、指定された深さまで行う。指定された深さに達しても所定の貫入量以下にならない場合又は指定された深さに達する前に所定の貫入量以下になった場合は、設計担当者と打ち合わせて、杭の長さを変更する必要がないか検討する。

また、杭に過剰な打撃を与えないための目安は、杭の長さ・形状や地盤の状況等により一義的には決められないが、JIS A 7201には、杭1本に対する打撃制限回数の目安が示されている(表4.3.6参照)。

表4.3.6 総打撃回数の目安(JIS A 7201 : 2009)

(j) 施工精度
打込み完了後の杭頭の水平方向のずれの精度は特記によるとされている。ずれが所定の値を超えた場合の処理については設計担当者と打ち合わせる。

施工精度の目安値としては、(-社)日本建築学会「JASS4 杭・地業および基礎工事」では、水平方向のずれはD/4 (Dは杭径)、かつ、100mm以下、鉛直精度は 1/100以内とすることが望ましいとされている。

杭頭の水平方向のずれの発生は、施工時における杭位置合わせの不良による場合が主と考えられるが、その他に杭心位置を表示した杭の設置違い、軟弱な施工地盤において機械移動に伴う表示杭の移動、障害物(地上、地中)の存在及び不陸な施工地盤面での工事環境等の要因も含んでいるので、杭工事の事前整備が重要となる。

4.3.4 セメントミルク工法

(a) セメントミルク工法の概要は.4.3.1(d)に示すとおりである。
この工法は国土交通省住宅局建築指導課監修「埋込み杭施工指針・同解説」もあり確立された一般的な施工法であるが、杭の耐力や精度等は施工する者の経験と技術力によるところが大きいため、専門施工業者に保有機械や施工実績等を提出させ、工事に相応した技量を有していることを確認しなければならない。

また、信頼のおける杭を施工するために、施工管理技術者として、技術士、建築士、土木施工管理技士、建築施工管理技士等、又は(-社)コンクリートパイル建設技術協会の「既製杭施工管理技士」の資格を有する者等を置くことが望ましい。

(b) 試験杭
(1) 埋込み工法における試験杭の目的は、施工機械や各種の安定液等の適否、土質状態、地下水位及び被圧水等の有無、施工時間、支持地盤の位置及び種類の確認であるが、更に、掘削試験における掘削深さ、高止まり量やセメントミルク拡等の管理基準を定めることでもある。特に打止めの深さの確認は打込み工法のような動的支持力による確認を行うことができないため、杭先端位置が設計上の支持層地盤に到達しているかを立会い確認する必要がある。

(2) 一般的な試験方法は、原則として、設計図書等で特記された位置に行い、特記がされてない場合は、地盤構成が明らかなボーリング調査実施地点に近接した杭を数本施工し、掘削機の電流計の値や掘削能率等の施工データ及びオーガースクリューに付着している土砂と土質調査資料又は設計図書との照合で、地盤構成との関係を求める。次に、10~30mm間隔で先行杭を施工し、施工データを参考に支持層を確認し、敷地全体の支持層深さを明らかにする。電流計の自動計測の例を図4.3.19に示す。

なお、電流計による値とN値の関係は定量的な関係がない。例えば、電流値の 200 AmpがN =45に相当するとの関係はなく、またその調査方法の違いからも無理があるため、現時点では地層構成の硬さの変化の傾向を調べるだけの定性的な参考値であることに注意されたい。

(3) 調査項目は、次の事項を主とし、表4.3.7の管理項目について行う。

表4.3.7 管理項目 (埋込み杭施工指針より)

(i) 掘削液、根固め液、杭周固定液等

(ii) 杭建込み
① 杭の鉛直性
② 圧入の状況
③ 高止まり量
④ 杭周固定液の溢液の確認

(iii) 掘削
① 作業地盤
② 掘削土の確認
③ 掘削所要時間
④ 孔内液面の高さ

(iv) 注入
吐出量、吐出圧、吐出時間、注人量

(4) 支持層の確認に際しては、電流計指示値や掘進速度で把握するとともに、ときどきオーガーを静かに引き上げ、羽根に付いている土を観察する。

なお、あらかじめ支持地盤の深さを示す 0.5mごとの等深線図を作成しておくとよい。


図4.3.19 自動計測記録の例

(c) セメントミルク工法による施工
(1) 掘削機
(i) アースオーガーは連続スパイラル製の中空軸のものを用いるが、性能や寸法等が各メーカーにより異なるので、十分検討して適切なものを選ぶ。スクリュー長さは所定掘削深さ+3m程度とし、曲がりのあるものは使用しない。

(ii) オーガーヘッド(オーガービット)は施工精度、施工能率等に与える影響が大きいので掘削地盤に応じて適切な形状のもの使い分ける(図4.3.20参照)。ヘッド径(ビット径)は、「標仕」4.3.4 (f)で杭径+100mm程度とされている。


図4.3.20 オーガーヘッド

(iii) 支持地盤の確認には、アースオーガーの駆動用電動機の電流値の変化が目安となる。このため「標仕」4.3.4(f)では電流値を自動記録できるものとしている。
なお、油圧式オーガーを用いた場合の支持地盤の確認については、設計担当者と打ち合わせる必要がある。

(2) 掘削
(i) 掘削は、地盤に適した速度で掘り進めることが重要である(表4.3.8参照)。粘着力の大きな地盤や硬い地盤では無理な負荷をかけるとアースオーガーが曲がったり破損したりするため十分に時間をかけて掘削排土する。

表4.3.8 掘削速度

(ii) オーガーの引上げ速度は、根固め液等の注入量に合わせて行う。
注入量に比べて引上げ速度が速いと孔内に負圧が生じ、孔壁崩壊の原因となる。
また、逆の場合には孔内圧が上がり過ぎて、逸水を生じて孔壁崩壊の原因となる。

(iii) 掘削中、オーガーに逆回転を加えるとオーガーに付着した土砂が落下するので、「標仕」4.3.4(f)では、逆回転を行ってはならないと定めている。

なお、引上げ時にも正回転とする。

(iv) 掘削深度が支持地盤に近づいたら掘削速度を一定に保ち、アースオーガーの駆動用電動機の電流値の変化を読みとって支持地盤への到達を確認する。

(v) 支持層の掘削深さや杭の支持地盤への根入れ深さは、設計支持力とも関連するため特記によるが、一般的には支持層の掘削深さを1.5m程度とし、杭を支持層中に1.0m以上根入れする。また、高止まりは0.5m以下とする(図4.3.21参照)。

(vi) 掘削は、養生期間中の杭に悪影響を与えないよう十分に注意して行う。杭の間隔は杭径の2.0倍程度とすることが多いが、セメントミルク工法の場合には掘削径を杭径+100mmとしており、透水性の高い砂質地盤等で孔壁が崩れやすい場合には、掘削によって隣接杭周囲の地盤を緩めるなどのおそれがあるので十分注意する。


図4.3.21 掘削深さと支持層との関係

(3) 各種液の管理
(i) 掘削液
① 掘削液(安定液)の機能は、孔壁の崩落を防ぐよう安定を保ち、各種の液の逸水を防ぎ、湧水やボイリングを抑えることなどである。管理については、4.5.4 (c)(3)を参照する。

② ベントナイトは粉末度200メッシュ以上、膨潤度 3g/g以上のものを使用するとよい。調合及び粘性については表4.3.9及び4.5.4(c)(3)を参照する。

表4.3 9 掘削液の調合例

(ii) 根固め液
① 根固め液の水セメント比は、施工の実績等から「標仕」では70%(質量百分率)以下としている。また、「標仕」4.3.4(f)では圧縮強度は3個の供試体の平均値で 20N/mm2以上と定めているが、これは試験結果にばらつきが大きいこと、セメントペーストの指定強度の算出が困難であること、杭の設計耐力を確保するために必要な強度として20N/mm2程度で十分であると考えられることなどから決められたものである。

② 根固め液は必ず杭の先端位置から注入しはじめ、安定液を押し上げるようにする。オーガーヘッドは常に根固め液の上面以下に保つ。また、オーガーを上下させてはならない。

なお、ポンプからの圧送時点とオーガーヘッド先端からの注入時点とで時間的ずれがあるので、試験掘削のときに十分検討しておく。

(iii) 杭周固定液
① 杭周固定液は、杭長が長く、かつ、周辺地盤が軟弱で、強度の高い根固め液を杭頭まで充填する必要がない場合に使用するほか、杭の水平抵抗と摩擦力を確保するために使用するものであり、硬化後の圧縮強度のみでなく、既製杭との付着強度が周辺地盤より高いことが必要である。

② 調合は、現場の土質条件に応じた試験練りを行ってから決定するのが望ましい。杭周固定液のブリーディングの発生を抑制するためにベントナイトが使用されるが、その調合例を表4.3.10に示す。

表4.3.10 杭周固定液の調合例

(iv) 管理面から見れば使用液の種類は少ない方がよく、なるべく2種類の液で行うことが望ましい。

なお、崩壊しやすい地盤や逸水のおそれのある地盤では、安定液と杭周固定液とを兼用することは好ましくない。

(v) 根切り後、杭と地盤の間に空隙がある場合は、杭の水平抵抗を確保するために、増粘剤を添加した杭周固定液やモルタルを使用して空隙を埋める。

(vi) 供試体の製作には 、(公社)土木学会「コンクリート標準示方書(規準編)」のプレパックドコンクリートの注入モルタルのブリーデイング率及び膨張率試験方法によるポリエチレン袋を使用することになっているが、地方等で入手が困難な場合には、(-社)コンクリートパイル建設技術協会のポリエチレン袋を使用すればよい。

(4) 杭の建込み
(i) 掘削孔壁が時間経過とともに崩壊することがあるので、速やかに杭を建込む。
(ii) 杭の建込み直前に、必要に応じて下げ振り等により検尺を行い、高止まりしないかどうかを確認しておく。

(iii) 掘削孔に杭を挿入する際、杭の先端で孔壁を削ると高止まりの原因となるので鉛直性に注意して建込む。また、挿入速度が速すぎると水流によって孔壁が崩落するので、静かに挿入する。

(iv) 杭が所定の支持地盤に逹したのち、杭先端を根固め液中に投入させるため 2t 程度のドロップハンマーで軽打する(落下高さは0.5m程度とする。)。

軽打できない場合は、杭打ちゃぐらの重量を反力として圧入する。杭頭を設計高さにそろえるために、杭を中吊りにしたり圧入量を調整してはならない。

(v) 施工後、根固め液や杭周固定液が十分硬化する以前に杭が動くことのないよう適切な保持治具を用いて養生する。

(vi) 継杭を行う場合は、下杭の杭頭を地上約1m程度に保持しておき、上杭を建込み、継手の接続を行う。図4.3.22に保持装置の一例を示す。


図4.3.22 保持装置の一例

(5) 杭の運搬、取扱い、施工精度は4.3.3による。

(6) 廃液処理、排土処理は場所打ちコンクリート杭に準ずる。

4.3.5 特定埋込杭工法

(a) 一般事項
特定埋込杭工法は、平成13年国土交通省告示第1113号第6の規定に基づいて許容支持力が定められた埋込み工法のことをいい、下記の種類がある。

(i) 平成14年1月11日付けの国土交通省住宅局建築指導課の事務連絡に基づく旧38条認定工法

(ii) 建築基準法施行規則第1条の3第1項の規定に基づく認定工法

(iii) 指定性能評価機関による技術評定を取得している杭で、地盤の条件等が評定の適用範囲と見なせる場合

(iv) その他、上記以外で許容支持力が求められた工法

(b) 試験杭
(1) 特定埋込杭工法の試験杭は、本工事の初期あるいは本工事に先立ち、設計・施工計画の妥当性を確認するために実施するもので、使用機械や各種の使用液の適否、施工能率、特記で定められた支持層の位置及び種類の確認が主な目的である。

(2) 特定埋込杭工法の試験杭の施工については、各工法に定められた施工条件に従って行う。

(c) 施 工
特定埋込杭工法の杭は各施工法によって機械機種や施工方法も異なるので各工法に定められた施工条件に従って行うものとする。一般的な事項を次に示す。

(i) 掘削法
プレボーリング工法に用いるアースオーガーは、スパイラルオーガー、特殊ロッド、両者の併用等があり、中掘り工法では、連続スパイラルオーガーが用いられる。

駆動装置は、掘削径、長さ及び地盤条件により、一般に 40~250kWが使用される。

オーガーヘッドについては、地層に合わせた形状や工法仕様によりいろいろな構造が選定される。

支持層の確認には、駆動用電動機の電流値を自動記録し、目安とすることが行われてきたが、これは掘進速度や駆動機容量に左右され、明確にできないことも多い。したがって、消費電流値と時間を掛けた積分電流値で目安とする技術が進められ、従米より正確であるとして試験杭において用いられ普及しつつある。

(ii) プレボーリング工法による施工
① プレボーリング工法による掘削径は、工法により異なるが、杭径よりも +30~100mm程度が多く、できるだけ過大とならないことが望ましい。

② 掘削は周囲の地盤をできるだけ乱さないように行う。

③ 孔壁崩壊のおそれのある場合又はボイリングのおそれがある場合は、掘削液を使用し、適切な処置をして施工する。崩壊のおそれがない場合は、掘削液を使わず施工してもよい。

④ 継手接続作業中は、杭の孔内落下を防止する処置をしなければならない。

⑤ その他については、施工計画書、施工仕様書等に従って適切に施工する。

(iii) 中掘り工法による施工
① 中掘り工法に使用するスパイラルオーガー径は、杭の内径 -(30~60)mmが一般的である。

② 掘削中は過度に先掘り及び拡大掘りをしてはならない。

③ 中空部の排土を促進するため、オーガー先端からエアーを噴出させ、効果的に排土することが多い。一般に常用圧力 0.7 ~ 1.0MPaのものが使われている。

④ 最終打撃によって支持力を得ようとする工法の場合、過度の先掘りをしてはならない。中掘り設置後の打込み長さは地盤状態に影響されるため試験杭において定められるが一般には杭径の 3~5倍程度を目安としている。

(iv) 根固め
① 埋込み工法で先端部を根固めする場合は、施工計画書、施工要領書等による方法で先端部を処理して支持力の確保を図らねばならない。

② 根固め作業に使用するミキシングプラント、グラウトポンプは、十分な性能を有すること。材料の計量及び作液については、自動的に行うとともに、その計量記録をプリントアウトするプラントが製造され、一部使用されつつある。最近では、根固め部の品質確認のために、根固め部から試科を採取して固化強度等を調査する管理手法が、研究・開発されている。

(v) 杭の運搬及び取扱い、施工精度等については.4.3.3 による。

また、杭頭中空部に基礎コンクリートを打ち込む方式で、短い杭の場合、根固め液や杭周固定液が砂や礫で増量し、杭頭まで上昇して固化することがある。

この場合、溶液の使用量について試験打ちで検討する。

(vi) 廃液処理、排土処理は、場所打ちコンクリート杭に準ずる。

(vii) 施工管理者は、当該工法の施工管理講習会を受講した者や (-社)コンクリートパイル建設技術協会が定める既製杭施工管理技士の資格を有する者が望ましい。
また、専門工事業者の技術レベルを確認する場合は、当該工法の施工実績等を提出させる。

4.3.6 継 手

(a) 現場継手方法

(1) 杭の現場継手は、溶接による工法と接続金具による無溶接継手工法とが採用されており、「標仕」では杭の継手の工法の適用は特記とされている。

(2) 技能者
(i) 溶接継手は「標仕4.3.6(c)」に定めた資格を有する者

(ii) 無溶接継手は、接続方法の講習会を修了し、接続方法を理解したと認められる者

(3) 溶接棒は、JIS Z 3211(軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用被覆アーク溶接棒)の規格によるものとし、自動溶接又は半自動溶接を用いるときには、これに適した溶接ワイヤを用いる。

JIS A 7201(遠心力コンクリートくいの施工標準)では、表4.3.11のように定められている。

表4.3.11 溶接棒、ワイヤの種類及び径(JIS A 7201 : 2009)

(4) 継手部の開先の目違い量は2mm以下、許容できるルート間隔の最大値は 4mm以下とする(図4.3.23参照)。


図4.3.23 杭の継手部許容値(JIS A 7201 : 2009)

(b) 溶接施工
(1) 溶接の方式には端板式と円筒式とがあるが、現在はほとんどの杭が端板式(図4.3.24参照)である。なお、端板式の溶接部は部分浴込み溶接である。


図4.3.24 端板式溶接継手

(2) 上下の杭軸が一直線になるように上杭は頭部を支持して仮付け溶接を行う。

必要がある場合は仮締め治具を用いて支持する。仮付けは、点付け程度のものでなく、必ず 40mm以上の長さとし本溶接と同等の完全なものとする。

(3) 溶接部は接合前にワイヤブラシ等を用いて泥土、ごみ、錆、油脂、水分等、溶接に有害なものを除去する(7.6.6参照)。

(4) 降雨時、降雪時、強風時(10m/秒程度以上)には溶接を行ってはならない。
また、原則として気温が 0℃以下の場合は溶接を行ってはならない。ただし、気温が0℃から-15℃の場合は、溶接部から100mm以内の部分を36℃以上に予熱して行う場合はこの限りではない。

(5) 多層溶接を行う時は、下層のスラグ及び有害物の除去を十分に行ったのち、次層を溶接する(7.6.7 (i)参照)。

(6) 盛上げの不足があってはならないが、余盛りは3mm以下とし、不要な余盛りは行わない。

(7) 半自動アーク溶接による溶接条件の参考例を表4.3.12に示す。

(c) 溶接部の確認
溶接部は JIS A 7201(遠心力コンクリートくいの施工標準)の8.2[溶接継手による場合]のg)目視による確認で、全数検査を行う。

(d) 継手部に接続金具を用いた方式(無溶接維手)
継手部に接続金具を用いた方式は、数種類が建築基準法に基づく指定性能評価機関において性能を評価されている。施工は、各工法に定められた施工条件によるものとする。図4.3.25及び26にその代表例を示す。

表4.3.12 杭の半自動アーク溶接条件例(JIS A 7201 : 2009)


図4.3.25 無溶接継手例1


図4.3.26 無溶接継手例2

4.3.7 杭頭の処理

(a) 最近の既製コンクリート杭は、特定埋込杭工法による施工が多く、この工法は掘削深度を管理して杭の打設を行うために、杭頭の高さもそろえて施工されるので、切断することが少ない。したがって、その他の工法等で杭頭を切断する必要がある場合には、設計担当者が特記することとされている。

(b) 所定の高さより低い場合は、設計担当者と打ち合わせる。

(c) 杭頭を切断する方法には、次のように油圧ポンプによる外圧方式と回転モーターによるダイヤモンドカッタ一方式等がある。

(1) 外圧方式
所定の切断面より100mm上がり程度の位置に鋼製バンドを締付け、杭頭切断機用いて切断したのち、バンドを取り外し、所定の高さまで、はつりのみを用い、手はつりを行う。この場合、押圧方向は軸筋位置を避け、手はつりでは軸筋をたたかないようにし、縦ひび割れが生じないように注意して行う。プレストレス量の大きい杭は特に注意が必要である(図4.3.27及び28参照)。

この方法は広く使われており、切断面がはつり面のため基礎との付着が期待でき、軸筋を残す場合も有利な方法である。

(2) ダイヤモンドカッタ一方式
所定の切断面にブレードが位置するように切断機をセットし、杭の周りをガイドリングを介して一周し、切断又は軸筋サークルより内側までの切込みを入れてタガネ割りする方法である(図4.3.27参照)。

この方法は、切断面が平滑で作業の衝撃も小さく軸筋も同時に切断してしまう特徴がある。


図4.3.27 杭切断機の例


図4.3.28 手はつりの例

(d) プレストレストコンクリート杭の頭部を切断した場合は、切断面から350mm程度まではプレストレスが減少しているので、設計図書により補強を行う。

(e) 基礎コンクリート打込み時に、コンクリートが杭の中空部に落下しないように図4.3.29のように杭頭をふさぐ処置をしておく。


図4.3.29 コンクリート落下防止の例

4.3.8 施工記録

(a) 施工記録の目的及び全般的な報告書の記載事項については,4.2.5 (1)及び(2)を参照する。

(b) 打込み工法の施工記録
(1) 記録報告する事項等は、次のとおりであり、分かりやすく整理しておく。
(i) 一般事項
① 杭位置図(位置のずれを含む)
② 杭種類材質、形状寸法製造工場名
③ 打込み機の名称と性能諸元

(ii) 打込みに関する事項
① 打撃回数    [ 回/m ]
② 全打撃回数   [ 回 ]
③ 打込み深さ   [ m ]
④ 打込み所要時間 [ 時分 ]
⑤ ハンマー落下高さ[ m ]
⑥ 最終貫入量   [ mm ]
⑦ リバウンド量  [ mm ]
⑧ 推定支持力

(iii) その他
①溶接施工記録
②杭頭切断記緑

(2) 試験杭の施工記録試及び杭頭切断記録書式は、JIS A 7201(遠心力コンクリートくいの施工標準)に示す。

(c) 特定埋込杭工法の施工記緑
特定埋込杭工法の報告書については、各工法に定められた書式に従って作成する。

(d) セメントミルク工法の施工記録
(1) 報告する事項等は、次による。
(i) 一般事項
① 杭位置図(位置のずれを含む)
② 杭種類、材質、形状、寸j法、製造工場名
③ 打込み機の名称と性能諸元
④ 各掘削・固定液等の諸元

(ii) 掘削に関する事項
① 掘削液の記録(標準調合、比重、使用量)
② 根固め液(強度、使用量)
③ 杭周固定液(強度、使用量)
④ 掘削土の確認事項
⑤ 掘削所要時間
⑥ 等深線図と掘削深さの関係
⑦ アースオーガー駆動用電動機の電流値
⑧ 注入材の吐出量、吐出圧、注入量

(iii) その他
(b)に準ずる

(2) 「埋込み杭施工指針・同解説」に定められている杭の施工記録の例を図4.3.30に示す。

図4.3.30 杭の施工記録の形式及び記入例(埋込み杭施工指針より)

4章 地業工事 4節 鋼杭地業

第4章 地業工事 


4節 鋼杭地業

4.4.1 適用範囲

(a) この節は、鋼管又はH形鋼を用いる鋼杭地業に適用する。

(b) 鋼杭の特徴としては次のような事項が挙げられる。
(1) 工場製作品であるため、安定した材料品質が得られる。
(2) 曲げに強く、水平力を受ける杭に適する。
(3) 応力に応じて材質や肉厚を変えた合理的な設計ができる。
(4) 支持地盤の不陸に対応しやすい。
(5) コンクリート杭と比較して質量が軽く、取扱いが簡単である。
(6) 腐食に対する対策が必要である。
(7) 大口径で薄肉の鋼管は、局部座屈を生じることがある。
(8) 先端開放形の打込杭では、支持地盤への根入れが十分でないと支持力が低下する場合がある

(c) 施工計画書の記載事項は.4.3.1(c)を参考にするとよい。

(d) 杭施工法の概要
(1) 施工の一般事項
鋼管杭の施工に当たっては、地盤状況、現場状況、設計支持力等を考慮して、杭を予定深度まで正しく、かつ、安全に設置できる工法及び施工機械とする。

(2) 施工法の分類
杭の施工法の分類を図4.4.1に示す。


図4.4.1 鋼杭の施工法の分類

現在は、騒音・振動の問題により、市街地での打込み工法の採用実績は非常に少なく、埋込み工法が主流である

なお、特定埋込杭工法とは、4.3.5(a)に示す工法である。

① 打撃による打込み工法(図4.3.5及び6参照)
一般に杭径600mm以下の施工に用いられる。地盤を緩めることがなく支持力は期待できるが、ハンマーを使用するため騒音、振動が大きく市街地では問題となる場合が多い。これらの対策としては、油圧パイルハンマーの使用、プレボーリング工法、中掘り工法との併用等が挙げられる。

プレボーリング併用打撃工法は、アースオーガーで一定深度まで掘削し、杭を建て込んだのち、打撃により所定深度まで施工する方法である。中掘り打撃工法は、中掘り工法により一定深度まで杭を埋設したのち、打撃により所定深度まで施工する方法である。

開放形の鋼管杭を使用した場合、硬い中間層でも比較的容易に打ち抜くことができる。また,施工深度としては、80m程度まで可能である。

なお、杭径が600mmを超える開放形の鋼管杭を施工する場合は、先端閉塞効果の問題があるため、別途、載荷試験等で支持力を確認する必要がある。

② 振動による打込み工法
バイブロハンマーにより杭に上下方向の強制振動を加え、杭周面摩擦力及び先端抵抗を動的な摩擦力と抵抗力に減少させて貫入させる工法である。中間層があり、打抜きが困難と予想される場合には、ウォータージェット等を併用する場合がある。

一般に杭径600mm以下の施工に用いられるが、バイブロハンマーを使用するため、市街地では問題となる場合がある。

杭に強制振動を加えるため、杭頭部の補強又は適切な管厚の設定が必要である。施工実績が少ないため、載荷試験等で支持力を確認するなど、工法の適用に当たっては注意を要する。

③ プレボーリングによる埋込み工法(図4.3.7参照)
アースオーガーによってあらかじめ掘削された縦孔に鋼管杭を建て込み、軽打、圧入により支持地盤に定着させる工法で、一般にセメントミルク工法と称される。掘削中は孔壁の崩壊防止を兼ねた杭周固定液(貧配合のセメントミルク)をオーガー先端から噴出し、所定深度に達したのち、根固め液に切り替え所定量を注入する。その後、オーガーを引き上げ、杭を建込み、軽打又は圧入により支持地盤に定着させる。

なお、オーガーを引き上げる際は、必要に応じて杭周固定液を充填するなどの注意が必要である。

この施工法は、国土交通省住宅局建築指導課監修「埋込み杭施工指針・同解説」に準じて施工するものであり、鋼管杭に適用する場合は、先端閉塞杭を使用する。通常用いられる杭径は 300〜600mm、施工深度は30m程度以下である。

④ プレボーリングによる球根拡大埋込み工法(特定埋込杭工法 図4.4.2参照)
アースオーガーによってあらかじめ掘削された縦孔に鋼管杭を建て込み、回転埋設により支持地盤に定着させる工法である。掘削中は、孔壁の崩壊防止を兼ねた掘削液又は杭周固定液(貧配合のセメントミルク液)をオーガー先端から噴出しながら原地盤と混合かくはん、所定深度に達したのちに根固め液(富配合のセメントミルク液)に切り替え、拡大球根を築造する。所定量の根固め液を注入後、オーガーを引き上げ、杭を建て込む。支持地盤への杭の定着は、施工機械の自重を利用して回転埋設される。杭周固定液を使用する場合としない場合がある。

支持地盤に築造された拡大根固め部と杭先端部の一体化を図るため、杭先端部には特殊な金物が取り付けられている。根固め部を拡大することで大きな支持力を得ようとするものである。

なお、この工法は建築基誰法に基づく特定埋込杭工法となっており、施工に当たっては工法で定められた条件に従って行うものとする。


図4.4.2 プレポーリングによる球根拡大埋込み工法

⑤ 中掘りによる埋込み工法(特定埋込杭工法 図4.3.8参照)
杭中空部にオーガーを挿入、地盤を掘削しながら土砂を排出し、杭を設置する工法である。支持地盤の土砂とセメントミルク液を混合かくはんすることにより、支持力を得ようとするものである。

杭の設置や排土を促進するため、圧縮空気又は水をオーガー先端から噴出させながら掘削する場合が多く、施工機械の自重を利用した圧入装置やドロップハンマーによる軽打等を併用する場合もある。

掘削機には、通常アースオーガーが使用される。また、杭の設置を容易にする目的と補強の目的で,杭先端には補強バンド又はその他付属品が取り付けられる。
支持地盤の土砂とセメントミルク液を混合かくはんする方法には、高圧ジェットによる方法、低圧の機械かくはんによる方法等がある。いずれの工法も建築基準法に基づく特定工法となっており、施工に当たっては、工法で定められた条件に従って行うものとする。

⑥ 中掘りによる球根拡大埋込み工法(特定埋込杭工法 図4.4.3参照)
杭中空部にオーガーを挿入し、地盤を掘削しながら杭を圧入する工法である。支持地盤において先端部を拡大掘削し、支持地盤の土砂とセメントミルク液を混合かくはんすることにより、大きな支持力を得ようとするものである。杭周固定液を使用する場合としない場合がある。

掘削機には、通常アースオーガーが使用されるが、支持地盤に築造された拡大根固め部と杭外周部の付着を増加させる目的で、杭先端部にはスパイラル状の突起、補強バンド又はその他付属品が取り付けられる。

支持地盤の土砂とセメントミルク液の混合かくはんは、低圧による機械かくはんによる方法が用いられる。杭は施工機械の自重を利用した圧入装置やドロップハンマーによる軽打等を併用し埋設される。杭を回転させながら圧入する方法もある。

なお、この工法は建築基準法に基づく特定埋込杭工法となっており、施工に当たっては、工法で定められた条件に従って行うものとする。


図4.4.3 中堀りによる球根拡大埋込み工法

⑦ 地盤改良と併用した埋込み工法(特定埋込杭工法 図4.4.4参照)
杭中空部にオーガーを挿入し、オーガー先端からセメントミルク液を噴出しながら原地盤と混合かくはんすることで、ソイルセメント柱を造成しつつ杭を設置する工法である。支持地盤においては、高濃度のセメントミルク液とその土砂を混合かかくはんし支持力を発現させるもので、ソイルセメント柱との付着を高めるために外面に突起(リブ)の付いた鋼管杭が使用される。地盤改良と併用することにより、大きな支持力を得ようとする工法である。

掘削機にはアースオーガーが使用されるが、オーガーヘッドは地盤の掘削と混合かくはんの機能を兼用した特殊なものが使用される。また、杭の設置を 容易にするために、杭を回転させながら施工機械の自重を利用して圧入する。

なお、この工法は建築基準法に基づく特定埋込杭工法となっており、施工に当たっては、工法で定められた条件に従って行うものとする。


図4.4.4 地盤改良と併用した埋込み工法

⑧ 回転圧入による埋込み工法(特定埋込杭工法 図4.4.6参照)
杭先端にスパイラル状の鉄筋又はつばさ状、スクリュー状の掘削翼を取り付けた鋼管杭(図4.4.5参照)を回転圧入により所定深度まで設置する工法である。


図4.4.5 回転圧入による埋込み工法の杭先端部の例

施工に当たっては三点支持式の杭打ち機、全回転型の圧入装置等が使用される。支持地盤にねじり込むことにより、支持力を発現させるものであり、大きな支持力と無排土を特徴としている。

地盤に鋼管杭をねじり込むため、管厚の設定には注意を要するほか、中間層がある場合の打抜きの可否等、事前検討が必要である。

なお、この工法は建築基準法に基づく特定埋込杭工法となっており,施工に当たっては,工法で定められた条件に従って行うものとする。


図4.4.6 回転圧入による埋込み工法

(e) 支持力の狩定
杭の許容支持力は、4.3.1(e)による。

4.4.2 材 料

(a) 鋼 杭
鋼杭としては、JIS A 5525(鋼管ぐい)とJIS A 5526 (H形鋼ぐい)が規定されている。これらは一般構造用炭素鋼管や一般構造用圧延鋼材で作られた H形鋼と材質的には同等であるが、形状・寸法許容差等が杭専用のものとなっている。また、鋼管杭においてはその使用目的から大口径・厚肉の製品がラインナップされている。

(b) 許容応力度
鋼材の許容応力度については、建築基準法施行令第90条では基準強度(F値)に応じて定めることとしている。鋼杭に使用されるSKK400・SKK490及び SHK400・SHK490の設計基準強度は、「鋼材等及び溶接部の許容応力度並びに材料強度の基準強度を定める件」(平成12年12月26日 建設省告示第2464号)に定められている。鋼杭の許容応力度を表4.4.1に示す。

表4.4.1 鋼杭の許容応力度

また、鋼杭においては、許容応力度を求めるに際し、腐食や局部座屈等を考慮しなければならない。

(c) JIS A 5525(鋼管ぐい)の抜粋を次に示す。

JIS A 5525 : 2009

1 適用範囲
この規格は、土木・建築などの構造物の基礎に使用する溶接鋼管ぐい(以下、くいという。)の単管について規定する。この規格が適用される寸法範囲は、通常、外径318.5mm〜2000mmとする。

なお、本体に規定する項目のほかに、注文者があらかじめ製造業者との協定によって指定することができる突起付き単管の品質規定を附属書Aに、単管に取り付ける附属品の代表的な形状及び寸法を附属書Bに、単管に施す加上及び塗装・被覆の代表的な例を附属書Cに示す。

注記1
地すべり抑止用の継目無鋼管及び遠心力鋳鋼管には、それぞれ JIS G 3444 及びJIS G 5201がある。

注記2
くいの構成及び各地の呼び名を、図1に示す。
単管とは、素管のまま、又は素管を工場で円周溶接した継ぎ管をいい、くいは、単管又は単管の組合せをいう。現場で連結する単管は、上側を上ぐい、中側を中ぐい、下側を下ぐいという。ただし、中ぐいが2本以上になる場合は、下側から中1ぐい、中2ぐいという。

注記3
工場円周溶接とは、素管と素管とを製造業者が円周溶接によって単管にする場合をいい、現場円周溶接とは、単管と単管とを施工業者が円周溶接によってくいにする場合をいう。

注1) 地すべり抑止用のくいを含む。

図1- くいの構成

3 種類の記号
くいの種類は、2種類としその記号は、表1による。

表1- 種類の記号

4 製造方法
くいの製造方法は、次による。

a) 素管は、アーク溶接によるスパイラルシーム溶接若しくはストレートシーム溶接、又は電気抵抗溶接によって製造する。

なお、工場円周溶接における素管のシーム溶接部は、互いに円周方向の1/8以上ずらさなければならない。

b) 突起付きくいの素管は、圧延方向に平行な連続した突起を設けた鋼帯を、突起が鋼管の内面及び/又は外面になるようにスバイラルシーム溶接によって製造する。

c) 単管は、素管を工場で円周溶接して製造する場合及び素管をそのまま使用する場合がある。

5 化学成分
素管は、11.1によって試験を行い、その沿鋼分析値は、表2による。

表2 – 化学成分

6 機械的性質
素管は、11.2によって試験を行い、その引張強さ、降伏点又は耐力、伸び、溶接部引張強さ及びへん平性は、表3による。へん平性の場合は、試験片にきず又は割れを生じてはならない。ただし、溶接部引張強さは、アーク溶接によって製造した素管に適用し、へん平性は、電気抵抗溶接によって製造した素管に適用する。

表3 – 機械的性質

8 附属品、加工及び塗装・被覆

注文者は、くいに付随する附属品、加工及び塗装・被覆を指定してもよい。その場合の外観、検査、表示などは、受渡当事者間の協定による。また、附属品の代表的な形状及び寸法を、附属書Bに、加工及び塗装・被覆の代表的な例を附属書Cに示す。

9 単管の形状,寸法,質屈及び寸法許容差
9.1 管端の形状 単管の管端形状は、図2による。厚さの異なる素管を継ぐ場合は、通常、図3に示すように、あらかじめ工場で加工する。ただし、補強又は加工について特に要求のある場合は、受渡当事者間の協定によってもよい。

注記
図2において、頭部端面とは、くいの上端部をいい、先端部端面とは、くいの下端部をいう。


図2 – 単管の両端及び現楊円周溶接部の形状


図3 – 厚さの異なる管の円周溶接部の形状

附属害B(参考) 附属品の形状及び寸法の代表例

序 文
この附属書は、注文者の指定によって単管に取り付ける附属品の形状、寸法などの代表例を示すもので、規定の一部ではない。

注 記
附属品とは、くいの施工時に一時的に必要となる仮設部材をいう。

B.1 附属品の材料及び溶接材料
附属品の材料は、機械的性質がJIS G 3101のSS400と同等又はそれ以上とし、附属品取付け用の溶接材料は、附属品の規定引張強さ以上のものを得るため、次のいずれか又は組合せによる。

JIS Z 3211、 JIS Z 3312、JIS Z 3313、JIS Z 3351、JIS Z 3352

なお、素管と附属品との強度が異なる場合には、低強度側の規格値と同等若しくはそれ以上の引張強さをもつ溶接材料を用いる。

B.2 附属品の外観検査及び表示
附属品の外観、検査及び表示は、次による。

a) 外観
附属品の外観は、使用上有害な欠点があってはならない。

b) 検査
附属品の材料及び溶接部は、B.1に適合しなければならない。また、外観は、 目視によって検査し、a)に適合しなければならない。

c) 表示
工場において本体に取付けない附属品には、種類及びサイズが識別できる表示をしなければならない。

B.3 附属品の形状及び寸法の例
B.3.1 補強バンド
B.3.1.1 補強バンドの形状
補強バンドの形状は.図B.1による。


図B.1 – 補強バンドの形状の例

B.3.1.2 取付寸法
取付寸法は、次による。

a) 取付位置 (ℓ1) : 18mm
b) 溶接脚長 (a) : 6mm(溶接は、すみ肉溶接による。)

B.3.1.3 寸法許容差
補強バンドの寸法許容差は、表B.1による。
表B.1 – 補強バンドの寸法許容差

B.3.2 つり金具
つり金具の形状及び寸法は.図B.2による。

図B.2 – つり金具の形状及び寸法の例

B.3.3 裏当てリング及びストッパー
単行の現場円周溶接部の裏当てリング、及び中ぐい又は下ぐいにストッパーを取り付ける場合、その形状及び寸法は特に指定のない限り図B.3による。


図B.3 – 裏当てリング及びストッパーの形状並びに寸法の例
JIS A 5525 : 2009

(d) 鋼管杭にはJISの附属書に記載されている付属品のほかに、表4.4.2に示す付属品が一般的に使われている。材質はSS400と同等又はそれ以上とする。

表4.4.2 付属品の名称

(e) 鋼杭の腐食の要因と防食方法
(1) 腐食の要因には、次のようなものがある。
(i) 土又は水の化学的性質
(ii) 鋼材の自然電位及び付近の電気施設の影響
(iii) 水や空気の流動性
(iv) 地中温度
(v) 細菌

(2) 防食方法には、次のような方法がある。
(i) 杭自体に腐食代を見込む方法
(ii) 塗装による方法
(iii) コンクリートを巻き立てる方法
(iv) 電気防食による方法

4.4.3 打込み工法

(a) 鋼杭の打込み工法には、打撃によるもの、振動によるものなどがあるが、打撃によるもの(打撃工法)が一般的に用いられる。施工は4.3.3によるが、大口径で薄肉の鋼管杭の場合は局部座屈を生じる場合があるため、杭頭部の補強又は t/D ( t:管厚、D:管の外径)を検討する必要がある。また、杭を座屈させず、かつ、効率よく施工するためには、ハンマーの質量も適正なものを選定することも必要である。

打撃工法の打止めは、4.3.3 (i)による。杭に過剰な打撃を与えないための目安は、杭の長さ・形状や地盤状況等により一義的には決められないが、通常の施工においては、繰返し打撃による杭体の疲労破壊が生じた事例はほとんどない。しかし、非常に硬質で厚い中間層を打ち抜く場合や岩盤等の支持地盤に打ち込む場合は、疲労破壊が起こる場合もあるので、別途、検討する必要がある。

(b) H形鋼杭
H形の方向が指定された場合は、その方向を規制するキャップを用いるか、その他適切な方法により.杭の断面形状を指定された方向に合わせなければならない。

(c) 杭先端部の処理
杭先端部の形状としては、補強を行う場合、補強を行わない場合及び先端部にシューを付ける場合等がある。「標仕」4.4.2 (b)では、特記がない場合、鋼管杭は開放形で補強バンドはJISの解説に合わせることとしている。

(d) 杭頭部の処理
一般に打込み時の杭頭部の処理は、適切なハンマーを選定し適切な作業を行えば、杭頭部の補強は特に必要としないが、大口径で薄肉の鋼管杭( t/Dで1%未満)を使用する場合や疲労破壊が懸念される場合等は、管厚を厚くするなどの処置をする。


4.4.4 特定埋込杭工法

(a) プレボーリングによる球根拡大埋込み工法(特定埋込杭工法)

(1) 試験杭
(i) 試験杭は本工事の初期あるいは本工事に先立ち、設計・施工計画の妥当性を確認するために実施するもので、使用機械や施工方法の適否、施工能率、支持地盤の確認が主な目的である。

(ii) 試験杭の施工については、工法で定められた条件に従って行う。

(2) 施工
(i) 施工方法
地盤の掘削及び杭の設置には、アースオーガーを装備した三点支持式杭打ち機が使用される。駆動装置は、杭径、長さ及び地盤条件により異なるが、一般に 90kW〜150kWが使用される。

支持地盤の確認は、施工機械から送られてくる駆動用電動機の消費電流値や貫入速度等の施工情報と貫入深度を基に行う。

(ii) 一般部の掘削及びかくはん
所定深度までの掘削は、掘削水又は杭周固定液にて行う。掘削完了後に杭の埋設に支障がないよう、孔内泥土をかくはんする。

杭周固定液を使用する場合は、掘削ヘッド先端より所定の配合条件で混練されたセメントミルク液を所定量吐出しながら、一定の速度にてアースオーガーを上下反復し、孔内泥土と混合かくはんする。

(iii) 先端部の掘削及び根固め
孔内泥土のかくはん作業が完了したのち、掘削水又は根固め液にて先端部を所定の形状に拡大掘削する。

掘削水を使用して拡大掘削する場合は、拡大掘削完了後に根固め液に切り替え、原位置地盤と混合かくはんし、根固め部を築造する。
根固め液を使用して拡大掘削する場合は、一定の速度にてアースオーガーを上下反復しながら原位置地盤と混合かくはんし、根固め部を築造する。

(iv) 杭の運搬及び取扱い
杭の運搬及び取扱いは、4.3.3 (f)によるが、杭先端部に特殊な金物が取り付けられているため、特に注意を要する。

(v) 施工精度
施工精度は、4.3.3( j )による。

(3) 杭先端部の処理
杭先端部の形状は、工法で定められた条件によるものとする。

(b) 中掘りによる埋込み工法(特定埋込杭工法)

(1)中掘りによる埋込み工法の概要は、4.4.1 (d) に示すとおりである。施工は、4.3.5 による。

(2)杭先端部の処理
杭先端部の形状は、工法で定められた条件により異なるため、特記によるものとする。

(c) 中掘りによる球根拡大埋込み工法(特定埋込杭工法)
(1) 試験杭
(i) 試験杭は本工事の初期あるいは本工事に先立ち、設計・施工計画の妥当性を確認するために実施するもので、使用機械や施工方法の適否、施工能率、支持地盤の確認が主な目的である。

(ii) 試験杭の施工については、工法で定められた条件に従って行う。
(2) 施 工
(i) 施工方法
杭の設置には、地盤の掘削をしながら杭を圧入する装置を装備した三点支持式杭打ち機が使用される。駆動装置は、杭径、長さ及び地盤条件により異なるが、一般に115kW 〜 150kWが使用される。

支持地盤の確認は、施工機械から送られてくる駆動用電動機の消費電流値や貫入速度等の施工情報と貫入深度を基に行う。

(ii) 一般部の掘削
所定深度までの掘削は、一定速度にて行う。杭内の掘削土が圧密され掘進性が低下する場合は、圧縮空気等で掘削土を排出する。また、杭先端より掘削ヘッドを必要以上に先行させる掘削は、杭の領斜や周辺地盤を乱す可能性があるため行ってはならない。

掘削時に杭周固定液を注入する場合は、掘削ヘッド先端より所定の配合条件で混練されたセメントミルク液を所定量吐出する。

(iii) 先端部の掘削及び根固め
所定深度まで掘削したのち、先端部を所定の形状に拡大掘削する。拡大掘削完了後、根固め部用の配合条件にて混練されたセメントミルク液に切り替え、原位置地盤と混合かくはんし、根固め部を築造する。

(iv) 杭の運搬及び取扱い
杭の運搬及び取扱いは、4.3.3(f)によるが、杭先端部にスパイラル状の鋼板や金物が取り付けられているため、特に注意を要する。

(v) 施工精度
施工精度は、4.3.3 ( j )による。

(3) 杭先端部の処理
杭先端部の形状は、工法で定められた条件によるものとする。

(d) 地盤改良と併用した埋込み工法(特定埋込杭工法)
(1) 試験杭
(i) 試験杭は本工事の初期あるいは本工事に先立ち、設計・施工計画の妥当性を確認するために実施するもので、使用機械やセメントミルク液の適否、ソイルセメント柱(固化体)の出来形、施工能率、支持地盤の確認が主な目的である。

(ii) 試験杭の施工については,工法で定められた条件に従って行う。

(2) 施工
(i) 掘削及びかくはん方法
原位置地盤の掘削と混合かくはんは、心ずれ防止装置付き特殊ロッドの先端に掘削翼とかくはん翼を装備した特殊ヘッドにて行う。駆動装置は、掘削径、長さ及び地盤条件により異なるが、一般に115〜150kWが使用される。

固化体の造成と鋼管の設置は、掘削かくはんヘッド先端より所定の配合条件にて混練されたセメントミルク液を所定量吐出しながら、一定の速度にて行う。これにより、均質な固化体を築造する。

支持地盤の確認には、施工機械から自動的に送られてくる掘削深度、駆動用電動機の消費電流値、掘進速度等の施工情報を基に、積分電流値・掘進抵抗値等を表示させる施工モニター装置が使用される。この総合的な情報に基づき、支持地盤の確認を行う.。

(ii) 先端部の掘削及びかくはん方法
先端部の築造に際しては、先端部用の配合条件にて混練されたセメントミルク液に切り替えたのち、所定の掘進速度にて掘削及びかくはんを行う。

(iii) 杭の運搬及び取扱い
杭の運搬及び取扱いは、4.3.3 (f)によるが、外面に突起の付いた鋼管杭を使用するため、特に注意を要する。

(iv) 施工精度
施工精度は、4.3.3 ( j )による。

(v) 廃液及び排土処理
廃液及び排土処理は、場所打ちコンクリート杭に準ずる。

(3) 杭先端部の処理
杭先端部の形状は、工法で定められた条件(特記)によるものとする。

(e) 回転圧入による埋込み工法(特定埋込杭工法)

(1) 試験杭
(i) 試験杭は本工事の初期あるいは本工事に先立ち、設計・施工計画の妥当性を確認するために実施するもので、使用機械や施工方法の適否、施工能率、支持地盤の確認が主な目的である。

(ii) 試験杭の施工については、工法で定められた条件に従って行う。

(2) 施 工
(i) 施工方法
杭の設置には、回転圧入装置を装備した三点支持式杭打ち機又は据骰き式の全回転型圧入装置が使用される。駆動装置は、杭径、長さ及び地盤条件により異なるが、一般に三点支持式杭打ち機の場合 75〜90kWが使用される。

支持地盤の確認は、施工機械から送られてくる駆動用電動機の消費電流値や貫入速度又は回転トルク値等の施工情報と貫入深度を基に行う。

(ii) 杭の運搬及び取扱い
杭の運搬及び取扱いは、4.3.3 (f)によるが、杭先端にスパイラル状の鉄筋又はつばさ状、スクリュー状の掘削翼の付いた鋼管杭を使用するため、特に注意を要する。

(iii) 施工精度
施工精度は、4.3.3 ( j )による。

(3) 杭先端部の処理
杭先端部の形状は、工法で定められた条件(特記)によるものとする。

(f) プレボーリングによる埋込み工法(「標仕」以外の埋込み工法)

(1) プレボーリングによる埋込み工法の概要は、4.4.1(d)に示すとおりである。施工は、4.3.4による。

(2) 杭先端部の処理
「埋込み杭施工指針・同解説」によれば、杭はすべて閉端杭を使用することになっているため、杭先端部にはシュー等を取り付け、閉端杭としなければならない。

4.4.5 継手

(a) 鋼管杭の継手は現場溶接、H形鋼杭の継手は高カボルト継手が一般的である。高カボルト継手は、7章4節による。

「標仕」では、鋼管杭の溶接は、原則として、半自動又は自動アーク溶接とすることが定められている。半自動溶接はセルフシールドアーク溶接、自動溶接はセルフシールドアーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接が用いられている。

(b) 溶接技能者
溶接技能者は、4.3.6(a)(2)による。

(c) 継手
鋼管杭の溶接継手部の仕様は、JISで規定されている( 4.4.2(c)参照)。
開先及びストッパーは、原則として製造所で加工される。たれ止めは必要に応じて図4.4.7のような銅バンドを使用する。

図4.4.7 たれ止め用銅バンド

また、建築基準法に基づく指定機関において性能を評価された無溶接継手があるが、これを使用する際の継手部の仕様は、工法に定められた条件によるものとする(図4.4.8参照)。


図4.4.8 鋼管杭の無溶接継手の例

(d) 溶接施工
鋼管杭の現場溶接施工において必要な注意事項は次のとおりである。
(i) 母材の溶接部は、溶接に先立ち、水分、油、スラグ、塗料等溶接に支障となるものを除去する。ただし、丈夫なワイヤプラシでも取れないミルスケール及び溶接に支障のない塗料は、除去しなくてもよい。

(ii) 溶接機とその附属用具は、溶接条件に適した構造及び機能を有し、安全に良好な溶接が行えるものとする。

(iii) 溶接部は、有害な欠陥のないもので、表面は、できるだけ滑らかなものとする。

(iv) スラグの除去は、各パス及び溶接完了後入念に行う。

4.4.6 杭頭の処理

(a) 杭頭の処理は特記が原則であるが、打込み完了後、設計図書で指定された高さに切りそろえることが望ましい。

(b) 杭頭を切断する場合、定規を用いガス切断により、水平、かつ、できるだけ平滑に仕上げる。

(c) 杭頭の位置が所定の高さに達していない場合は、設計担当者と打ち合わせて、杭の継足しを行うか、基礎の位置を下げるなどの処置を決め、受注者等と「標仕」1.1.8に基づく協議を行う。

(d) 継足しを行う場合の溶接は、「標仕」4.4.5の規定によるが、溶接部の開先形状等を含めて、設計担当者と打ち合わせて検討する必要がある。

4.4.7 施工記録

施工記録は、4.3.8 に準ずる。

4章 地業工事 5節 場所打ちコンクリート杭地業

第4章 地業工事 


5節 場所打ちコンクリート杭地業

4.5.1 適用範囲

(a) 「標仕」では、アースドリル工法、リバース工法、オールケーシング工法及び場所打ち鋼管コンクリート杭工法並びにこれらと組み合わせた拡底杭工法について規定している。

(b) 作業の流れを図4.5.1に示す。

図4.5.1 アースドリル工法、リバース工法及びオールケーシング工法の作業の流れ

(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

① 工程表(機械搬入、段取り、鉄筋加工、掘削とコンクリート打込み、機械搬出及び片付けの時期)
② 施工業者名、施工管理技術者名(資格証明書等、工事経歴書等)及び作業の管理組織
③ コンクリートの計画調合表及び計算書
④ 鉄筋の種類と規格

⑤ 地中埋設物・障害物の調査、移設、防護、撤去等の計画
⑥ 施工機械の仕様の概要及び性能
⑦ 施工方法(掘削精度の確認方法を含む)
⑧ 杭の配置図及び施工順序
⑨ 安定液等を用いる場合の調合計画及び管理方法
⑩ 支持地盤の確認方法
⑪ スライム(沈殿物)の処理方法
⑫ 鉄筋加工及び建込み方法(浮上がり防止方法を含む)
⑬ コンクリートの打込み及び養生方法

⑭ 安全対策(酸欠、有毒ガス、施工機械の転倒等)
⑮ 公害対策(土砂の運搬によるこぼれ、ベントナイト廃液等の飛散と処理、騒音及び振動の対策等)
⑯ 施工結果報告書内容(4.5.7参照)
⑰ 作業のフロー,管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者.品質記録文書の書式とその管理方法等

4.5.2 施工管理技術者

(a) 場所打ちコンクリート杭工法は、建設工事の大型化・高層化に伴い、大口径で長尺の杭を、低騒音・低振動で築造できるという大きな特徴をもっている。しかし、その反面、次の問題点が指摘されている。

(1) 杭先端及び周辺地盤の緩み
(2) 杭壁崩壊の懸念(安定液及び水頭圧の管理)
(3) コンクリートの打込み管理ミスによる品質の低下
(4) スライム沈積による支持力の低下

これらの問題点を解決し、信頼のおける場所打ちコンクリート杭を築造するには、豊富な経験と知識を必要とするため、「標仕」4.5.2では施工に際し施工管理技術者を置くように定めている。

(b) 平成9年版「共仕」では、場所打ちコンクリート杭の施工管理技術者は、「場所打ちコンクリートくい工事に関する知識及び技術及び・証明事業認定規程」(昭和60 年7月12日 建設省告示第1016号)に基づく「基礎施工士」を規定していた。しかし、この告示は平成13年3月で廃止され、代わりに建設業法施行規則第17条の2により「基礎施工士検定試験」(実施(-社)日本基礎建設協会)が規定されていたが、それも平成17年12月に廃止された。

(-社)日本基礎建設協会では、技術者の育成を推進するために、引き続き「基礎施工士検定試験」を実施しており、この「検定試験」に合格した者を「標仕」4.5.2に規定する「施工管理技術者」として能力のある者として扱うことができる。

なお、旧告示第1016号に基づき認定された「基礎施工士」及び建設業法施行規則第17条の2により規定された「基礎施工士検定試験」に合格した者も、「標仕」 1.3.2(a)の規定により同等以上の能力のある者と見なすことができる。

4.5.3 材料その他

(a) 鉄 筋
(1) 鉄筋の品質は、特記されたものとし、5章2節による。
(2) 鉄筋の加工及び組立は、4.5.4 (h) 及び5章3節を参照する。

(b) コンクリート
(1) 「標仕」表4.5.1では、コンクリートの種別と水セメント比の最大値、所要スランプ、粗骨材の最大寸法、単位セメント量の最小値を定めているので、これらを満足する調合強度のものを選ぶ。

なお、単位水量の最大値は、「標仕」6章の規定により一般には185kg/m3となる。しかし、骨材の地域性等により、これにより難い地域もある。その場合は、場所打ち杭に使用するコンクリートについては、地中に構築されるため充填性を優先させるべきであり、またコンクリート打込み後の養生条件も良いことなどから、設計担当者に確認のうえで、(-社)日本建築学会「JASS 5 鉄筋コンクリート工事」 24節[水中コンクリート]で規定している200kg/m3までは、品質計画を明確にすることにより認める場合も考えられる。

(2) 「標仕」では、水や泥土等によるコンクリートの品質の劣化等を考慮して単位セメント量の最小値を定めている。したがって、掘削孔中に水がないA種の場合には、品質の劣化も小さいためB種より単位セメント量の最小値が小さくなっている。

(3) コンクリートは地中に打ち込まれるため外気温による影響が少ないので、一般には養生温度による強度の補正は行わないが、北海道や東北地方の寒冷地では、地中温度が 8〜12℃と低くなることがあるため、必要に応じコンクリートの養生温度による調合強度の補正を行う。

(4) コンクリートの構造体強度補正値(S)の値は特記によるが、特記がない場合は、3N/mm2とする。ただし、4.5.5に規定する場所打ち鋼管コンクリート杭工法及び拡底杭工法において、(-財)日本建築センター等の評定取得時に、構造体強度補正値(S) を0 N/mm2(平成22年5月以前は、品質保証強度(ΔF)が 0 N/mm2 にて評定を取得している工法は、その条件の値でよい。平成20年8月以前のコンクリート強度補正についての評定を取得していない工法においては、特記がない場合は、3 N/mm2とする。

4.5.4 アースドリル工法、リバース工法及びオールケーシング工法

(a) 一般事項
(1) 工法の概要
アースドリル工法、リバース工法、オールケーシング工法の特性を表4.5.1に示す。

表4.5.1 工法の特性

①アースドリル工法
この工法は、図4.5.2の機械を用い、図4.5.3のような工程により杭を築造する。

図4.5.2 アースドリル掘削機


図4.5.3 アースドリル工法

② リバース工法
この工法は、図4.5.4の機械を用い、図4.5.5のような工程により杭を築造する。


図4.5 4 リバース掘削機


図4.5.5 リバース工法

③ オールケーシング工法

この工法は、図4.5.6の機械を用い、図4.5.7のような工程により杭を築造する。


図4.5.6 オールケーシング掘削機

図4.5.7 オールケーシング工法

(2) 各工法の施工機械と近接建物等との標禅的な必要距離を図4.5.8に示す。



図4.5.8 施工機械と建物との必要距離の例

(b) 試験杭
(1) 本杭を施工するに当たり、施工機械や各種安定液の適否、土質状態、地下水位及び被圧水等の有無、施工時間、支持地盤の確認等の種々の調査を行い、以後の本杭の参考とするために試験杭の施工を行う。

(2) 試験杭は、4.2.2で述べたように、本杭の最初の1本目の杭を試験杭とする場合には、報告を求めて打ち合わせ、その処置について検討する。

(3) 試験杭の調査項目としては表4.5.2を参照する。

表4.5.2 試験杭の施工時における調査項目

(c) アースドリル工法
(1) 掘削機の据付け
(i) 掘削機の据付けは、その作業地盤の耐力に応じて、道板、鋼板、砂利等を敷き、作業中に機械が傾斜することを防ぐ(機種によっては90tを超えるものがある。)。

(ⅱ) ケリーバーの中心を杭心に正確に合わせ、機体を水平に据え付ける。

(2) 掘削
(i) 最初のうち掘削孔が鉛直になるまでは慎重に掘削を行い、表層ケーシングを鉛直に建て込む。

(ⅱ) 土質に応じバケットの回転速度を調節しながら掘削を進める。掘削された土砂を常に観察し、崩壊しやすい地盤になったら安定液を用いる。

なお、バケットにリーマーを用いる拡幅掘削は、表層ケーシンク建込み深度までとし、それ以深の掘削にはリーマーを用いてはならない。

(ⅲ) 掘削深さが所定の深度に達し、排出される土により予定の支持地盤に達したことが確認されたらスライム処理をして検測を行う。

なお、検測とは、検測テープにより掘削深度を測定することであり、孔底の2箇所以上で行う。

(ⅳ) 支持層の確認は、バケット内の土砂を、土質柱状図及び土質資料と対比して行う。また、その際にケリーバーの振れや回転抵抗等も参考にする。

(v) 掘削孔の側墜の確認を、超音波等により行う装置が開発されている。なお、この装置を使用して確認を行う場合は、特記で指定される。

(3) 安定液
(i) アースドリル工法における孔壁保護は、通常安定液によって行う。

(ⅱ) 安定液には、ベントナイト系安定液とCMC系安定液があり、どちらも使用する材料は同じであるが、その違いはベントナイトとCMCの配合率の違いである。

(ⅲ) (ⅱ)の安定液の選択と配合は、土質や地下水条件を考慮して決める。また、適時試験を行って安定液を調整し、安定液の劣化を防ぐことが大切である。表4.5.3は、砂質土の場合の安定液の配合例である。

表4.5.3 砂質土の場合の安定液の配合例(単位:%)

(ⅳ) 安定液の性質
① 主な材料

② 繰り返し使用する場合の安定液の管理基準は、実状に応じたものとするが、その例を表4.5.4に示す。

表4.5.4 安定液の管理基準の例

③ 標準比重は、清水とベントナイトのみの新液の比重とし表4.5.5に示す。

表4.5.5 安定液の標準比重

④ 必要粘性とは、対象地盤に必要とする粘性をいう。

⑤ 作液粘性とは、新しく作った安定液の粘性をいう。アースドリル工法では、安定液を繰返し使用すると粘性が小さくなる例が多いので、一般的には作液 粘性は必要粘性より大きくする。

⑥ 安定液には、適当な量と質の分散剤が添加されていることを原則とする。

(d) リバース工法
(1) 掘削機の据付け
(i) サクションポンプユニットとロータリーテープルを切り離して作業できる(本体と10m程度切り離した位置で施工できる。)ため、杭施工場所に特別な養生を必要としない。

(ⅱ) スタンドパイプの建込みを行う。スタンドパイプは、表層地盤の崩壊防止及び自然地下水に対し2.0m以上の水頭差を保持し、静水圧により孔壁の崩壊を防止するために用いるもので、建込みは油圧ジャッキ又はバイブロハンマーにより行う。

スタンドパイプの径は、孔径より150〜200mm大きいものとする。また、根入れは地下水位、表層の土質の軟弱度により異なり、スタンドパイプ内の水圧で周囲の軟弱土が外側に移動あるいはパイピングを起こさないだけの深さとする。

(2) 掘削
(i) この工法は、静水圧 0.02N/mm2以上に保つことにより孔壁の崩壊を防ぐ工法であるので、掘削に際しては地下水位を確認し水頭差を2.0m以上保つように十分注意する。

(ⅱ) 掘削順序は、掘削ビットを埋設するだけの孔をハンマーグラプで掘削して孔内に水を満たし、所定の水圧を保ちながらロータリーテープルでビットを回転させ掘削をする。掘削土砂は楊水とともに沈殿槽に排出され、ここで掘削土砂を沈殿させ除去する。掘削土砂を除去し比重が小さくなった泥水は、再び掘削孔内に還流する。

(ⅲ) 本工法は掘削土をそのままで地上に排出しないため、支持層の確認はデリバリホースの末端から掘削土砂を採取し、土質柱状図及び土質資料と対比して行う。

(ⅳ) 三翼ビットを使用して掘削した孔底は、中心部は深く、外周ほど浅くなっている。このため検測は外局部に近い位置で2点以上行う。

(v) 側壁測定装置による掘削孔の確認は、(c)(2)(v) による。

(3) 孔内水
(i) リバース工法では、周辺の施工機械や作業による振動等の影響を受けない地盤に至るまでスタンドパイプを建込み、掘削中に地盤の粘性土を含んだ泥水が孔堡にマッドケーキを形成することと、孔内水頭を地下水位より2m以上高く保つことにより、スタンドパイプ先端以深の孔壁を保護し安定させる。

(ⅱ) 粘性土が多く介在する地盤は、掘削初期の使用水は清水であってもマッドケーキ形成に必要な循環水となる。

(ⅲ) 砂質系の地盤では、マッドケーキの形成に必要なコロイドが不足するので、事前に泥水を作液し掘削を開始しなければならないので注意が必要である。

(ⅳ) 泥水の比重は、掘削能率を高めるためには低く、孔壁保護面からは高いほうがよいという二面性を持つ。この両者を考慮して、その適正比重を 1.02〜1.08とする。

(e) オールケーシング工法
(1) 掘削機の据付け
(i) 掘削機の据付け地盤の補強については、(c)(1) による。

(ⅱ) 揺動式の場合の掘削土砂の排出は、機械の前方に限られるので、隣地より杭までの距離がない場合は作業動線に注意しなければならない。

(ⅲ) ケーシングチューブは、杭心に合わせ直角二方向からトシランシット又は下げ振りでチェックして鉛直に建込む。

(ⅳ) ファーストチューブの建込みは、水平精度と鉛直精度に直接影響を及ぼすので次のような方法で行うとよい。

① 杭心を正しくセットさせるため、図4.5.9に示すような治具を用い、ファーストチューブをセットする。


図4.5.9 ファーストチューブ建込み杭心合わせの定規の例

② 使用するファーストチューブは、鉛直性の監視が容易に行えるよう6m程度の長さにする。

③ ファーストチューブは、杭心に合わせ直角二方向からトランシット又は下げ振りでチェックして鉛直に建て込む。

(2) 掘 削
(i) 掘削は、ケーシングチューブを先に揺動又は回転圧入し、土砂の崩壊を防ぎながらハンマーグラブにより掘削をする。掘削が鉛直にできるかどうかは、最初のケーシングチューブ 1〜2本の建込み状況によって決まる。

(ⅱ) 被圧地下水等によるボイリングを起こしやすい砂又は砂礫層の場合及び軟弱粘性土層でのヒービングを起こしやすい地盤の場合は、孔内に水を張り防止する。

(ⅲ) 常水面以下に細かい砂層が 5m以上ある場合は、ケーシングチューブの外面を伝って下方に流れる水の浸透流や揺動による振動によって、周囲の砂が締固められケーシングチューブが動かなくなること(ケーシングチューブが食われる。)があるので注意する。

(ⅳ) 掘削終了時、ファーストチューブ刃先を杭底面より先行させないように注意する。

(v) 掘削深さが所定の深さに達し、排出される土から予定の支持地盤に達したことが確認されたら、スライムを処理し検測を行う。

(vi) 支持層の確認は、ハンマーグラブでつかみ上げた土砂を土質柱状図及び土質資料と対比して行う。

(3) 孔内水
オールケーシング工法では、掘削孔全長にわたりケーシングチューブを用いて孔壁を保護するため、杭壁崩壊の懸念はほとんどない。しかし、(2)(ⅱ)の場合や孔内水位と地下水位に水頭差がある場合は、掘削底周辺部の緩みの発生が想定されるので、孔内へ注水し水圧のバランスを図る。

(f) スライム処理
(1) スライムとは、孔内の崩落土、泥水中の土砂等が孔底に沈殿、沈積したものである。この上にコンクリートを打ち込むと、荷重がかかったときに杭が沈下するので、スライムの処理は重要である。

このほか、スライムは強度を含めたコンクリートの品質低下、杭の断面欠損及び支持力低下の原因となる。

(2) スライムの処理には、一次処理と二次処理がある。一次処理は掘削完了直後に行うスライム処理で、二次処理はコンクリート打込み直前に行うスライム処理である。各スライム処理方法の例を、図4.5.10に示す。


図4.5.10 スライム処理方法の例

(3) アースドリル工法のスライム処理は、一次処理として底ざらいバケットにより行う。バケットは杭径より10cm小さいものを用い、バケットの昇降によって孔壁が崩壊することのないよう緩やかに行う。

鉄筋かご建込みの際の孔壁の欠損によるスライムや建込み期間中に生じたスライムは、二次処理としてコンクリート打込み直前に水中ポンプ方式又はエアーリフト方式等により除去する。

(4) リバース工法のスライム処理は、一次処理として掘削完了後ビットを孔底より若干引き上げて緩やかに空回しするとともに、孔内水を循環させて比重を下げ、鉄筋かごやトレミー管建込み期間中のスライム沈積量を少なくする。

二次処理は、コンクリート打込み直前にトレミー管とサクションポンプ等により孔底に沈積したスライムを除去する。

(5) オールケーシング工法のスライム処理は、ドライ掘削や孔内水位の低い場合は、掘りくずや沈殿物の量が少ないので、掘削完了後にハンマーグラプで静かに孔底処理(孔底のさらい)を行う。また、孔内水位が高く沈殿物の多い場合には、ハンマーグラプで孔底処理をしたのち、更に、スライムバケットによる処理を行う。

なお、コンクリート打込み直前までに沈殿物が多い場合には、二次処理として、水中ポンプ方式等によりスライムを除去する。

(g) 排液及び排土処理
(1) 掘削時には相当の量の排液がでるが、排液は沈殿槽あるいは直接真空ポンプ車に集め場外へ搬出して指定場所へ投棄するか、排液槽に収集し凝集剤を添加して、上澄と回収泥土とに分け、回収泥土を更に脱水処理等をして含水比を小さくし投棄する。

(2) 掘削された排土は、含水比が大きい( 50〜200%)ので敷地内に集積して、天日乾燥させ、その含水比を小さくする。更に、セメントを添加して固形化する場合と、石灰と混合しその化学反応の熱を利用して水分を除去し固形化する場合がある。

(3) これらの排液及び排土処理に当たっては、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」の適用を受ける場合があるので、法律に従った処理が必要になる。

この場合、元請業者は産業廃棄物の排出事業者に該当するので、処分の方法、形態、場所等を確認させたうえで、許可を取得している業者に委託して処理を行わせるようにする。

(h) 鉄筋の加工及び組立
(1) 鉄筋は、かご形に組み立てる(図4.5.11参照)。
主筋と帯筋を溶接している例が見られるが、点付け溶接は注意しても主筋が断面欠損をするおそれがあるので「標仕」4.5.3(a)では、主筋への点付け溶接は行わないこととしている。また、帯筋の重ねは特記が原則であるが、10 d以上の片面溶接(両面の場合は5d)とすることが望ましい。補強リングは、主筋に断面欠損を起こさないように十分注意し堅固に溶接する。また、補強リングは、鉄筋かごの径により主筋の内、外周のいずれに取り付けてもよい。


図4.5.11 鉄筋かご

(2) 溶接技能者は、7.6.3を参照する。

(3) 溶接施工は、7章6節による。

(4) 鉄筋かごの継手は、「標仕」表5.3.2により、鉄線(通常10#以上)で、ずり落ちないように結束する。安易に溶接を用いるとアンダーカットや急冷により材質に悪影評を与えるので注意する。

なお、鉄筋かごの建込みは、かごを変形させないように静かに行い、自由落下させてはならない。

(5) 鉄筋かごには、かぶり厚さを確保するためにスペーサーを深さ方向に 3〜5m間隔を目安として、最低で1断面4箇所以上取り付ける。スペーサーは、ケーシングチューブを用いる場合は、D13以上の鉄筋を用いる。ケーシングチューブを用いない場合に鉄筋を用いると、孔壁を損傷するので、杭径 1.2m以下の場合は鋼板 4.5 x 38(mm)、1.2mを超える場合は鋼板 4.5 x 50(mm)程度のものとする。

(6) オールケーシング工法におけるケーシングチューブの引抜き時には、ケーシングチューブと鉄筋かごの接触により、鉄筋かごが浮き上がる場合(共上がり)があるので、次の事項について注意する。

① ケーシングチューブの内面をよく消掃しておく。
② スペーサーの高さ及び位置に注意する。
③ 鉄筋かごを曲がりや変形のないように建込む。

なお、共上がりが発生した場合は、共上がり量を最小限に止めなければならない。そのためには、早期発見が大切で、鉄筋頂部から共上がりチェック用の鉄線をケーシングチューブ天端まで伸ばしておき、引抜き初期にチェックを行う。

( i ) コンクリート打込みその他

(1) コンクリートの打込みは、トレミー管を用いる。また、コンクリートの打込み開始時にはプランジャーをトレミー管に設置して、コンクリートと泥水等が混り合うのを防ぎ、下部から泥水等を押し上げるように行う。また、トレミー管及びケーシングチューブは、これを引き抜きながらコンクリートの打込みを行う。このときトレミー管及びケーシングチューブの先端は、コンクリートの中に常に 2m以上入っているようにする。また、トレミー管のコンクリート中への挿入長さが長くなると、トレミー管先端からのコンクリート押出し抵抗が大きくなり、コンクリートの流出が悪くなるので、最長でも 9m程度にとどめておいた方がよい。

(2) ケーシングチューブを急速に引き抜くと、コンクリートに泥水を巻き込むことになるので十分に注意をしなければならない。

(3) コンクリート打込み時に、その浮力等で鉄筋かごの浮上がりが生じる場合があるので注意する。

また、コンクリートがある程度打ち上がってから、今まで動かなかった鉄筋かごが共上がりし始めることもあるので十分注意が必要である。

(4) コンクリートの打込みは、泥水等を上に押し上げるように行うので、頂部に低品質のコンクリートができる。このため余分に打ち上げて余盛りをつくる。余盛りの高さは、「標仕」4.5.4 (c)(10) では、泥水が多くコンクリートの劣化が著しいと考えられる「標仕」表4.5.1のB種の場合は800mm以上、掘削孔底にほとんど水がたまっていないような状態を想定したA種の場合(無水掘り)を500mm以上としている。

なお、コンクリート打込み後、ブリーディングに伴ってコンクリート表面にレイタンスと呼ばれるぜい弱な物質の層が形成されるが、このような骨材を含まないモルタル状の固化物は余盛りには含まれない。

(j)埋戻し
コンクリート打込み後、杭孔が残る場合は、孔への落下防止と孔周辺地盤の崩壊防止のため埋戻しを行う。

埋戻しは、硬化し始めた杭に悪影響を与えないように敷地内の良土を静かに投入して行う。この良土は、根切りの際、杭位置の目印にもなる。

4.5.5 場所打ち鋼管コンクリート杭工法及び拡底杭工法

場所打ち鋼管コンクリート杭工法及び拡底杭工法の施工は、建築基準法に基づき認定された施工仕様により行い、それ以外については、4.5.4による。

4.5.6 杭頭の処理

「標仕」4.5.4(c)(10)で規定する余盛り部分は、根切り後、所定の位置まではつり処理をする。

はつり作業に際しては、杭本体へのひび割れや損傷の防止、はつり高さ、形状寸法に注意をする。

処理の時期は、コンクリートの硬化の程度及び後工程への影響を考慮して、「標仕」では、コンクリート打込み後14日程度経過したのちとしている。

4.5.7 施工記録

場所打ちコンクリート杭を築造するに当たり、管理した結果を記録し、杭工事の完了とともに報告書を提出させる。

(1) 施工報告書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
(i) 一般事項
① 工事概要
② 杭仕様(杭の工法形状,寸法コンクリート強度等)
③ 施工機械の仕様・概要
④ 実施工程表
⑤ 杭位置
⑥ 鉄筋かご加工仕様
⑦ 工事写真

(ⅱ) 掘削に関する事項
① 掘削所要時間
② 掘削土砂量
③ 安定液等の記録
④ 孔底スライムの沈積状況と処理時間
⑤ 支持地盤の確認記録

(ⅲ) その他
① 鉄筋かごの建込み時間
② コンクリートの打込み時間
③ コンクリートの使用量

(2) 場所打ちコンクリート杭の施工、記録の例を図4.5.12に示す。


図4.5.12 施工記録の例

4章 地業工事 6節 砂利、砂及び捨コンクリート地業等

第4章 地業工事 


6節 砂利、砂及び捨コンクリート地業等

4.6.1 適用範囲

この節は、砂利、砂及び捨コンクリート地業等に適用する。

4.6.2 材 料
(a) 砂利及び砂地菜
(1) 砂に、シルト等の泥分が多量に混入しているものは、締固めが困難となるので、使用してはならない。

草木根、木片等の有機物が含まれていない砂を使用する。

(2) 砂利は、(3)の再生クラッシャラン、切込砂利又は切込砕石を使用する。砂利の締同めは、砂利を比較的薄い層にまき出して行うので、砂利の粒径は.JIS A 5001(道路用砕石)によるC-40程度で、あまり大きくない方がよく、粒径がそろっていない砂混じりの方がよい。

上記(1)の砂と同様、砂利に泥分の混入が多いものや、有機物が含まれているものは使用しない。

(3) 砂利には.次のものを用いる。
(i) 再生クラッシャラン
建設副産物であるコンクリート塊を破砕したものであり、品質にばらつきがある。使用箇所によっては、強度、吸水率等を確認して使用する必要がある。

(ii) 切込砂利
採取したままでふるいを通さず砂と砂利の混合したものであるが、なるべく砂利の多いものの方がよい。

(iii) 切込砕石
砕石楊の破砕したままの砕砂と砕石の混合したものである(ここでいう切込砕石は、22章でいうクラッシャランを想定していない。)。

(b) 捨コンクリート地業
コンクリートの品買は、「標仕」6.14.3による。

(c) 床下防湿層
標仕では、床下防湿層は、ポリエチレンフィルム等で、厚さ 0.15mm以上とされている。

4.6.3 砂利及び砂地業

(a) 工法は図4.6.1のように行う。

図4.6.1 砂利及び砂地業

(b) 締固めに用いる機械には、自重によるもの、自重と合わせ振動を加えて締め固めるものがある。これらの機械には、大小さまざまな大きさのものがあるので施工条件に合わせて使用する。

(1) 自重によるもの
(i) ロードローラー 線圧200〜490N/cm
(ii) タイヤローラー 輪圧3.9~49kN/1輪

(2) 自重に振動を加えるもの
(i) 振動ローラー 線圧 4.9~1,900N/cm
(ii) 振動コンパクター 自重 490~5,900N:ハンドガイド
(iii) タンパ 自重 290~1,200N:メーカーによりランマーと呼称

なお、締固め前に,機械の効果を確認するため、試験施工を行い、まき出し層厚、転圧回数等を決めるのがよい。

(c) 締固めを過度に行うと床付け地盤を破壊し、更に深い地盤をも乱すこともあるので、注意して適度な締固めを行う。また、締固めによる沈下量を事前に見込んでおき、締固め後に、地業表面が所定の高さになるようにする。締固めによるくぼみ等には、砂利又は砂を用い表而を平らにする。

4.6.4 捨コンクリート地業
捨コンクリート地業の目的を次に示す。

(1) この上に墨出しを行い、型枠等を正確に設置する。
(2) 鉄筋の組立を正確に行う。
(3) 基礎底面を平らにする。

4.6.5 床下防湿層
防湿層は、土間スラプ(土間コンクリートを含む。)の直下、断熱材がある楊合は断熱材の直下とされている。

床下防湿層の納まりの例を図4.6.2に示す。


図4.6.2 床下防湿層の納まりの例

4.6.6 施工記録

「標仕」4.6.6に規定された項目について確認し、記録する。