5章 鉄筋工事 1節 一般事項

第5章 鉄筋工事 


1節 一般事項

5.1.1 適用範囲

(a) この章は,鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造等の鉄筋工事に適用されるほか、補強コンクリートブロック造やプレキャストコンクリート工事等でも引用されている。

(b) 作業の流れを図5.1.1に示す。

図5.1.1 鉄筋工事の作業の流れ

(c) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。ただし、継手の工法については「標仕」5.3.4(a)で標準としているガス圧接継手を対象として示す。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

(1) 鉄筋工事の施工計画書

工程表
(材料、柱、壁、梁、階段スラブ等の検査時期及び関連設備工事の期間)
② 施工業者名、作業の管理体制
鉄筋の種別、種類、製造所名及びその使用区分
④ 規格品証書(7.2.10 (a)(1)参照)の提出時期
荷札の照合と提出時期(ラベル、鉄筋のマーク等の確認方法)
鉄筋の試験(試験所、回数、試験成績書)
⑦ 材料の保管場所及び貯蔵方法
⑧ 材料の加工場所(現楊又は工場の別、規格及び機械設備)
⑨ 鉄筋加工機具(切断、曲げ)
鉄筋の継手位置、継手長さ、定着長さ及び余長
異形鉄筋にフックを付ける箇所
鉄筋のかぶり厚さ及びスペーサーの種類
梁、壁、スラブ等の開口部補強、
屋根スラブ、片持スラブ、壁付きスラブ、パラペット等の特殊補強の要領

鉄筋位置の修正方法(台直し等)
⑮ 鉄筋組立後の乱れを防止する方法(歩み板の使用等)
⑯ 関連工事との取合い(柱付きコンセント、スラブ配管、壁配管、貫通孔等)
作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者.品質記録文書の書式とその管理方法等

(2)ガス圧接の施工計画書

① 工程表(圧接の時期)
② 施工業者名及び作業の管理体制
ガス圧接技技量資格者の資格種別等(資格証明書等)
④ ガス圧接技量資格者の人数
⑤ ガス圧接器具
圧接部の外観試験(全圧接部)
圧接部の超音波探傷試験(本数、試験方法、試験位置、探傷器、試験従事者、成績書)
圧接部の引張試験(本数、採取方法、作業班ごとの施工範囲、試験所、成績書、鉄筋切断後の補強方法)
不良圧接の修正方法


5.1.2 基本要求品質

(a) 鉄筋工事では,使用するコンクリートの強度との組合せにおいて必要な品質性能の鉄筋コンクリート構造物となるようにその種類が設計図書に指定される。基本要求品質としては、指定された種類の材料が工事に正しく使用され、その本数や配筋状態に誤りがなく、定着や継手が正しく施工されていることであり、このことを証明できるようにしておく必要がある。

具体的な例としては、使用する鉄筋材がJISマーク表示品であれば、ミルシート及びチャージ番号の表示された鋼板(メタルタック)並びに製造所、加工場から現場までの経歴を証明する資料を整備することが考えられる。

(b)「組み立てられた鉄筋は、所定の形状及び寸法を有し、所定の位置に保持されていること。」とは鉄筋コンクリート構造物の一部として出来上がった状態をいっており、これをコンクリート打込み後に確認することは現実的には不可能となる。完成時にこれらの要求事項を満足していることを証明するためには、施工途中の適切な時点で施工が正しく行われていることを何らかの方法で確認し記録することが重要である。

具体的には、鉄筋の加工段階での形状・寸法の確認・記録、組み上げた鉄筋のかぶり厚さの確認・記録等が考えられる。また、この寸法及び位置には施工上必要な許容誤差を含んだものとして考える必要があり、部材の大きさ立地条件、取り合う部材の状況等を勘案して適切に定める。ただし、「標仕」表5.3.6で規定する鉄筋の最小かぶり厚さは、法律に定められたものであり、これを下回ることのないようにしなければならない。

「鉄筋の表面は、所要の状態であること。」とは施工途中の、特にコンクリート打込み直前における鉄筋に、コンクリートとの付着性能を阻害するような油脂類、錆、泥、セメントペースト等が付着していない表面状態とすることであり、その程度を定める必要がある。具体的には、油脂類、浮き錆、セメントペースト類は、コンクリート打込み前に除去しておく必要があり、この付着物の程度、除去のための方法と処理後の確認方法をあらかじめ施工者に提案させ、また、確認したことを記録に残す。

なお、錆のうち、浮いていない赤錆程度のものについては、コンクリートとの付着を阻害することがないので、無理にこれを落とす必要はない。

(c) 鉄筋は、鉄筋コンクリートの構成部材として、主として引張力を負担しているが、部材に作用するこれらの力をスムーズに伝達させる必要がある。このために必要となる継手及び定着の方法が設計図書に指定されている。「標仕」においては、一般的な場合における継手及び定着の方法が示されており、通常は、定着の方法及び長さ、継手の位置及び長さを確保すればよい。特別な形状の部材にあっては、設計図書に特記されるため、これによる。

なお配筋の状況により、規定された定着や継手を設けることができない場合にあっては、「作用する力を伝達」できるような定着や継手の方法を施工者に提案させ、これを元に設計担当者と打合せを行うなどの方策をとらなければならない。

5.1.3 配筋検査

(a) 一般事項
(1) 材料の種類、鉄筋の加工・組立及びかぶり厚さの精度は、鉄筋コンクリートの構造性能及び耐久性に著しく影響する。このため、「標仕」5.1.3では主要な構造部の配筋はコンクリート打ちに先立ち監督職員が検査を行うこととしている。

(2) 鉄筋が完全に組み立てられたあとでは、修正が困難な場合があるので、工程の進捗に対応した適切な時期に検査を行う必要がある。

(3) 配筋検査終了後に埋込み配管が設けられる場合があるので、コンクリート打ちに先立ち、必要に応じて、再度検査を行う。

(b) 検査内容
(1) 組立時の確認
① 種別、径、本数
② 折曲げ寸法、余長、フック
③ 鉄筋のあき、かぶり厚さ
④ 定着・継手の位置、長さ
⑤ 補強筋、差し筋
⑥ スペーサーの配置、数量
⑦ ガス圧接継手の抜取試験(超音波探傷試験又は引張試験)
⑧ 機械式継手等の試験(全数又は抜取り)
⑨ 配管等の取合い

(2) 検査後の手直し修正確認

5章 鉄筋工事 2節 材料

第5章 鉄筋工事 


2節 材 料

5.2.1 鉄 筋

(a) 鉄筋は、形状から異形鉄筋と丸鋼に分けられる。また、製造原料の違いから鉄筋コンクリート用棒鋼と鉄筋コンクリート用再生棒鋼に分けられる。鉄筋コンクリート用棒鋼(JIS G 3112)は転炉、電炉又は平炉により鋼塊から熱間圧延によって製造され、鉄筋コンクリート用再生棒鋼(JIS G 3117)は鋼材製造途上に発生する再生用鋼材を材料としてこれらを再圧延して製造される。

(b) 鉄筋には、1こん包ごとに荷札が付けてあり、種別の記号、径又は呼び名、溶鋼番号(7.2.10(a)(1)(ⅱ)参照)、製造業者名等が表示される。

(c) 規格品証明書については,7.2.10(a)(1)(ⅱ)を参照する。

(d) 異形鉄筋の直径及び断面積は、その異形鉄筋と同じ質量の丸鋼に換算したときの直径及び断面積であり、これを公称直径及び公称断面積と呼んでいる。

(e) 主要構造部等に使用する鉄筋は、「建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すぺき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術的基準を定める件」(平成12年5月31日 建設省告示第1446号)で、JIS G 3112及び JIS G 3117並びに国土交通大臣の認定品とされたが、「標仕」では、このうちから標準的に使用するものの種類の記号を、「標仕」表5.2.1に掲げている。

なお、鉄筋コンクリート用棒鋼に丸鋼も掲げられているが、現在ではほとんど使用されていない。

(f)「標仕」表5.2.1には、SD490が含まれていない。SD490が使用される場合には、折曲げ形状及び寸法並びに継手・定着長さ及び継手方法を含め、特記されることになる。

(g) 近年では、せん断補強として、高強度せん断補強筋が用いられることがある。これは、降伏点が685 N/mm2、785 N/mm2等の材料であり、せん断補強筋量を低減させることができる。また、梁貫通の補強筋としても、鉄筋径を低減させることができることから、使用されている。最近では、許容応力度 1,275N/mm2 の材料も用いられることがある。ただし、これらは大臣認定品であり、強度式とリンクしていることや折曲げ寸法についても注意が必要である。

(h) 異形鉄筋の圧延マークの例を図5.2.1に示す。


図5.2.1 異形鉄筋の圧延マークの例

(g) JIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)の抜粋を次に示す。

JIS G 3112:2010

1.適用範囲

この規格は、コンクリート補強に使用する熱間圧延によって製造された丸鋼1)及び異形棒鋼1)について規定する。ただし、JIS G 3117に規定する鉄筋コンクリート用再生棒鋼には適用しない。
1) コイル状のものを含む。

3.種類及び記号
丸鋼の種類は2種類、異形棒鋼の種類は5種類とし、その記号は表1による。

表1- 種類の記号

5.化学成分
丸鋼及び異形棒鋼は、9.1によって試験を行い、その溶鋼分析値は、表2による。

表2-化学成分 a)

注a) 必要に応じて、この表以外の合金元素を添加してもよい。

6.機械的性質
丸鋼及び異形棒鋼は、9.2によって試験を行い、その降伏点又は耐力、引張強さ、伸び及び曲げ性は、表3による。

なお、曲げ性の場合は、その外側にき裂を生じてはならない。

表3 – 機械的性質

a) 異形棒鋼で、寸法が呼び名D32を超えるものについては、呼び名3を増すごとにこの表の伸びの値からそれぞれ2を減じる。ただし、減じる限度は4とする。

7.2.2 形状・寸法、質置及び許容差

異形棒鋼の形状、寸法、質品及び許容差は、次による。
a) 異形棒鋼の寸法は、呼び名で表しその寸法、単位質量及び節の許容限度は、表4による。

表4 – 異形棒鋼の寸法、単位質量及び節の許容限度

a) 公称断面積、公称周長、及び単位質量の算出方法は、次による。

なお、公称断面積(S)は有効数字4けたに丸め、公称周長( ℓ )は少数点以下1けたに丸め、単位質量は有効数字3けたに丸める。


b) 節の平均間隔の最大値は、その公称直径(d)の70%以下とし、算出した値を小数点以下1けたに丸める。
c) 節の高さは、表5によるものとし、算出値を少数点以下1けたに丸める。(表5省略)
d) 節のすき間の合計の最大値は、ミリメートルで表した公称周長( ℓ )の25%とし、算出した値を小数点以下1けたに丸める。ここでリブと節とが離れている場合、及びリブがない場合には節の欠損部の幅を、また、節とリブとが接続している場合にはリブの幅を、それぞれ節のすき間とする。

b) 異形棒鋼の標準長さは、表6による。ただし、コイルの場合には、適用しない。

表6 – 標準長さ

11.表 示

11.1 1本ごとの表示

丸鋼及び異形棒鋸の1本ごとの表示は,次による。ただし、丸鋼のコイル及び寸法が呼び名D4、D5、D6、D8の異形棒鋼のコイルの表示は、1結束ごとの表示とし、11.2による。

a) 丸鋼及び異形棒鋼は、表10によって種類を区別する表示を行う。ただし、異形棒鋼の種類を区別する表示は、SD 295Aを除き圧延マークによることとし、寸法が呼ぴ名D4、D5、D6、D8の異形棒鋼及びねじ状の節をもった異形棒鋼に限り、色別塗色としてもよい。

b) 異形棒鋼は、圧延マークによって製造業者名又はその略号による表示を行う。ただし、寸法が呼び名 D4、D5、D6、D8(コイルを除く。)の異形棒鋼及び異形表面の形状によって製造業者名が明確な異形棒鋼に限り、この表示を省略してもよい。

表10 – 種類を区別する表示方法

11.2 1結束ごとの表示
丸鋼及び異形棒鋼の1結束ごとの表示は、次の項目を適切な方法で行う。

a) 種類の記号
b) 溶鋼番号又は検査番号
c) 径、公称直径又は呼び名
d) 製造業者名又はその略号

JIS G 3112:2010

5.2.2 溶接金網

JIS G 3551(溶接金網及び鉄筋格子)抜粋を次に示す。

JIS G 3551 : 2005

1.適用範囲
この規格は、鉄線又は棒鋼を材料として、主にコンクリート構造物及びコンクリート製品の補強に使用する溶接金網及び鉄筋格子について規定する。

3.定 義
この規格で用いる主な用語の定義は次による。
a) 溶接金網
鉄線を直交して配列し、それらの交点を電気抵抗溶接して、格子状にした金網。次のレギュラー溶接金網及びデザイン溶接金網がある。

1) レギュラー溶接金網
網目形状が定められた正方形のもので、各縦線・各横線がそれぞれ定められた同一の線径又は公称線径をもち、輻1m × 長さ2m 及び 幅2m × 長さ4mの溶接金網。

2) デザイン溶接金網
レギュラー溶接金網以外のもの。

b) 鉄筋格子
棒鋼を直交して配列し、それらの交点を磁気抵抗溶接して、格子状にした鉄筋網。次のレギュラー鉄筋格子及びデザイン鉄筋格子がある。

g) 突出し長さ(overhang)
縦線又は横線の外側線の中心から、横線又は縦線の先端までの長さ。次の横線突出し長さ及び縦線突出し長さがある。

1) 横線突出し長さ
縦線の外側線の中心から横線の先端までの長さ(図1参照)。

2) 縦線突出し長さ
横線の外側線の中心から縦線の先船までの長さ(図1参照)。

h) 網目寸法(spacing)
隣接した縦線又は横線の中心から中心までの距離。次の横網目寸法及び縦網目寸法がある。

1) 横網目寸法 縦線の中心から隣の縦線の中心までの距離(図1参照)。
2) 縦網目寸法 横線の中心から隣の横線の中心までの距離(図1参照)。


図1 溶接金網又は鉄筋格子(例)

8.寸法,質量及びその許容差
8.1 標準線径,標準公称線径,標準径及び公称直径並びにそれらの許容差
a) 溶接金網
1) 丸鉄線
丸鉄線を用いた溶接金網(WFP、WFC、WFP-D及びWFC-D)の縦線及び横線の標準線径は,表5による。また、線径の許容差は、表6による。(表6は省略)
表5 溶接金網に用いる丸鉄線の標準線径

8.4 網目寸法及びその許容差
a) レギュラー溶接金網及びレギュラー鉄筋格子
レギュラー溶接金網及びレギュラー鉄筋格子の網目寸法は、表9による。また、標準線径、呼び名又は標準径に対する網目寸法は、それぞれ表10、表11、表12及び表13による。また、網目寸法の許容差は、網目寸法に対して±10mm又は7.5%のうち、いずれか大きい値とする。(表10~13は省略)

b) デザイン溶接金網及びデザイン鉄筋格子
デザイン溶接金網及びデザイン鉄筋格子の網目寸法の許容差は、それぞれ網目寸法に対して±10mm又は7.5%のうち、いずれか大きい値とする。

表9 レギュラー溶接金網及びレギュラー鉄筋格子の網目寸法

JIS G 3551 : 2005


5.2.3 材料試験

「標仕」5.2.3は、鉄筋の品質を試験により証明する場合について定めたものであるが、この規定によりJISに適合することを証明するためには、機械的性質だけでなく、化学成分等を含めてその適合性を確認しなければならない。このため、JIS規格品以外でこの品質を確認することは現実的でないことが多く、一般的には,JISに適合することを証明する資料のある製品を使用することになる。

5章 鉄筋工事 3節 加工及び組立

第5章 鉄筋工事 


3節 加工及び組立

5.3.1 一般事項
(a) コンクリートと鉄筋の組合せは、強度のバランス等を考慮して決められる。参考として、コンクリートと鉄筋の組合せの例を表5.3.1に示す。

なお、現在丸鋼は、ほとんど使用されていないので、異形鉄筋に限定して示されている。

表5.3.1 コンクリートと鉄筋鉄骨の組合せの例

鉄筋の加工及び組立に関する規定は、(-社)日本建築学会「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」2010年版(以下、この節では「RC規準(2010)」という。)、同「JASS 5 鉄筋コンクリート工事」2009年版(以下、この章では「JASS 5 (2009)」という。)並びに同「鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説」2010年版(以下、この節では「配筋指針(2010)」という。)に基づいて平成22年版「標仕」の改定時に大幅に見直されており、平成25年版「標仕」の規定も平成22年版を基本的に踏製している。

(b) 熱間圧延鉄筋でも白熱化して空気中で冷却すると鉄筋の性質が変わるので、曲げ加工の場合でも、原則として常温で加工することとしている。

(c) 冷えている鉄筋に点付け溶接を行うと、急熱、急冷されるので焼入れ(7.2.1(b) (5)参照)を行ったことになることから、熱影響部(7.6.7 (k)(2)参照)が著しく硬化し、鉄筋がもろくなり、この部分を少し曲げただけでひび割れが発生する場合があるので、「標仕」ではこれを禁止している。また鉄筋にアークストライクを起こすと 断面欠損が生じたり、局部的な急熱急冷による悪影響があるので、「標仕」ではこれを起こしてはならないとしている。

なお、溶接金網等で鉄筋の交点を電気抵抗溶接としたものは、点付け溶接とは見なさない。

5.3.2 加 工

(a) 鉄筋の切断は、一般にはシャーカッターや電動カッターにより行われているが、ガス圧接や特殊な継手では、切断面の平滑さや直角度が要求されるため、電動カッターや鉄筋冷間直角切断機等を使用することが望ましい。施工済みの鉄筋の手直しや不要な鉄筋の除去のために現場でやむを得ず鉄筋をガス切断する場合は、周囲の鉄筋やコンクリートを傷めないように慎重に施工を行う。ガス切断した鉄筋を溶接継手や機械式継手により再接合する場合は、鉄筋の切断面をグラインダー等で平滑に成形する。

なお、圧接端面となる場合はガス切断を行ってはならない(5.4.5 (b)参照)。

(b) フック及び定着の処置は次による。
(1) 異形鉄筋の柱主筋の継手部で、法規上では不要な図5.3.1の◉印の場合にも「標仕」においてフックを付けることとしているのは、組立のときの間違いや設計変更改修工事等で壁がなくなった場合の混乱を防ぐためである。
※●の出隅部分の継手は建築基準法施行令でフック付き必須

(2) 異形鉄筋の梁主筋の継手部で、図5.3.2の◉印の場合も、(1)と同じ理由から「標仕」ではフックを付けることにしている。
※●の出隅部分の継手は建築基準法施行令でフック付き必須


図5.3.1 柱主筋


図5.3.2 梁主筋

(3) 「標仕」5.3.2(b)(2)の梁主筋の末端部にフックを付ける規定は、図5.3.3のように梁内に継手部がある場合に適用される。


図5.3.3 梁主筋

(4) 柱及び梁の出隅は、火災時に二方向から加熱され、角がはく落しやすく、フックがないと鉄筋の付着効果が期待できなくなるので、建築基準法施行令第73条には上記(1)、(2)及び(3)の内容の規定がある。

(5) 「標仕」5.3.2(b)(1)では、鉄筋の組立の作業性を考慮して、最上階の柱頭の柱主筋のうち、フックを付けるのは四隅だけとしている。ただし、丸柱の場合は四隅に相当する部分がないので、フックなしで定着長さが確保できるならばフックを付ける必要はないが、配筋に無理がなければ、フックを付ける方が望ましい。

(6) 帯筋やあばら筋等のせん断補強筋は、末端部にフックを設ける。ただし、鉄筋の末端部を相互に突合せ電気抵抗溶接した閉鎖型のせん断補強筋を用いる場合はこの限りでない。

なお、溶接閉鎖型せん断補強筋の適用箇所や仕様等は設計図書の特記による。

(c) 鉄筋の折曲げ形状及び寸法は「標仕」表5.3.1による。以前は鉄筋の末端部と中間部を区分して折曲げ形状及び寸法を規定していたが、平成22年版「標仕」の改定時に,JASS 5 (2009)に基づいて末端部と中間部の区分をやめて「標仕」表5.3.1のように一本化しており、平成25年版「標仕」もこれを踏襲している。

なお、鉄筋中間部の90゜未満の折曲げ内法直径は、「標仕」表5.3.1の対象外となるために設計図書の特記によることとなっている。

(d) 高強度せん断補強筋の加工は次による。
(1) 鉄筋の折曲げ形状・寸法は、指定性能評価機関の審査を受けて評定等の技術評価を取得した設計施工指針に従う。

(2) 鉄筋の切断や折曲げ、閉鎖形筋の溶接等の加工は、上記の設計施工指針が対象とする製造工場又は加工工場で行う。その他の作業場や現場では、高強度せん断補強筋の加工を行ってはならない。

5.3.3 組 立

(a) スペーサーは、鉄筋のかぶり厚さを保つために極めて重要なものであり使用部位や所要かぶり厚さに応じて、スペーサーの材種や形状・サイズを使い分けることが大切である。

(b) 市販のスペーサーは、鋼製、合成樹脂製等があるが、「標仕」で、スラブのスペーサーを原則として鋼製としているのは、コンクリート打込み時の鉄筋の脱落等を考慮したためである。

(c) 断熱材打込み部では、普通のスペーサーでは断熱材にくい込み、かぶり厚さの確保が難しいので、めり込み防止の付いた専用スペーサーを用いる。

(d) 下端が打放し仕上げとなる場合のスラブ用スペーサーは、露出面が大きくならないようなものを使用する。また、インサート類の見え掛りとなる部分には調合ペイント又は錆止め塗料を塗り付けるよう「標仕」6.8.6(c)で規定されている。

(e) 「標仕」5.3.3では、型枠に接する部分に防鋳処理を行ったスペーサーを使用することにしている。

なお、防錆処理されたスペーサーには、次のようなものがある。

(1) 「標仕」表14.2.2のC種(JIS H 8641(溶融亜鉛めっき)で2種HDZ35)以上の防錆処理したもの。ただし、海岸等腐食が激しいところで使用する場合には検討が必要である。

(2) 鋼製のものにプラスチックコーティング又はプラスチックパイプを挿入したもの。

(f) 一般に使用されているスペーサーを表5.3.2に示す。
このほかに、梁底、基礎底等に使用するコンクリート製のスペーサーがある。

なお、モルタル製のスペーサーは、強度及び耐久性が十分でないおそれがあるので使用しない。

表5.3.2 スペーサー

(g) 結束線の端部は、かぶり厚さを確保するために内側に折り曲げる。

(h) 柱筋、壁筋等の端部で、安全管理上必要な箇所には、プラスチック製のキャップ等で保護する。

(i) コンクリート打設後の鉄筋の位置が設計図書どおりであり所定のかぶり厚さが確保されるように施工を行う。コンクリート硬化後の鉄筋の位置ずれ修正(台直し)は、その反力によって鉄筋周囲の既設コンクリートを傷めやすいため、原則として行わない。そのため、平成25年版「標仕」では、平成22年版「標仕」5.3.3 (b)の「前に打ち込まれたコンクリートから出ている鉄筋の位置を修正する場合は、鉄筋を急に曲げることなく、できるだけ長い距離で修正する」の記述が削除されており、鉄筋の位置ずれを生じた場合は、極力、台直し以外の是正方法を検討する。やむを得ず現場で台直しを行う場合は、その折曲げ勾配を1/6以下としてできる限り緩やかに曲げて、既設コンクリートを傷めないように慎重に施工する。

5.3.4 継手及び定着

(a) 建築基準法施行令第73条では鉄筋の継手及び定着に関連して、第2項が「主筋又は耐力壁の鉄筋の継手の重ね長さは、……継手を引張り力の最も小さい部分以外の部分に設ける場合にあっては、主筋等の径の40倍以上」と規定しており、同第 3項が「柱に取り付けるはりの引張り鉄筋は、……柱に定着される部分の長さをその径の40倍以上」と規定している。平成19年の施行令改正により、これらに該当する部分の継手や定着の長さは,設計者が保有水平耐力計算等を行い、平成19年国土交通省告示第594号第4の四に基づく検討を行ったうえで特記する場合を除いて施行令第73条の仕様規定が適用されることとなった。

平成22年版「標仕」では、これらの仕様規定とJASS 5 (2009)に準拠して継手及び定着の長さが定められていた。一方、施行令第73条第3項の規定に対しては、「鉄筋コンクリート造の柱に取り付けるはりの構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」(平成23年4月27日国土交通省告示第432号)によって、「柱に取り付けるはりの引張り鉄筋の付着力を考慮して当該鉄筋の抜け出し及びコンクリートの破壊が生じないことが確かめられた場合においては」適用しなくてよいこととされ、その構造計算の基準としてRC規準(2010)が挙げられている。そのため、平成25年版「標仕」5.3.4 (e)では、柱に取り付ける梁の引張り鉄筋の定着の長さに関する規定のうち、「40d(軽量コンクリートの場合は50d)」という仕様規定が削除されている。

(b) 鉄筋の継手工法としては、重ね継手、ガス圧接継手のほか、施行令第73条第2項のただし書き及び「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1463号)に規定される機械式継手と溶接継手があり、「標仕」では適用を特記することとしている。

ガス圧接継手については4節、機械式継手及び溶接継手については5節を参照されたい。

鉄筋工事に使用する材料は、一般にJIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に規定されているSD295AとSD345があるが、このうちSD295Aは、一般の壁筋、スラブ筋、帯筋、あばら筋等の細物に使用されており、一般の建築物の柱・梁の主筋については通常SD345が使用される。官庁営繕部においては従来よりこの考え方で鉄筋の使い分けがされている。また、最近ではSD390を主筋に用いる例も増えている。

鉄筋の継手工法については、工事の規模、施工場所の地理的条件等を勘案して特記によることとしている。

また、鉄筋の継手は、原則として部材応力の小さいところに設けるものとし、その位置は特記による。

(c) 鉄筋の重ね継手は次による。
(1) 柱及び梁の主筋並びに耐力壁の鉄筋の重ね継手の長さは、特記による。特記がない場合、耐力壁の鉄筋の重ね継手長さは、40d(軽量コンクリートの場合は 50d)と「標仕」表5.3.2の数値(軽量コンクリートの場合は 5d 加算した数値)のいずれか大きい方とする。

(2) (1)以外の鉄筋の重ね継手長さは、「標仕」表5.3.2による。同表は平成22年版「標仕」改定時にJASS 5 (2009)に準拠して改定されており、重ね継手の長さをフックの有無によってL1とL1hに区別して表記している。重ね継手の長さは、フックなしのL1が鉄筋の先端間距離、フックありのL1hが鉄筋の折曲げ開始点間の距離としており、いずれも異形鉄筋の呼び名 d の整数倍としている。L1とL1hの長さの規定は、鉄筋の種類とコンクリート設計基準強度の区分によって細分化されている。軽量コンクリート部材の場合は、従来どおりに普通コンクリートの数値に 5d 加算した継手長さとするが、JASS 5 (2009)では上端筋の重ね継手はフックありを原則としていることに注意する必要がある。

(d) 重ね継手や、ガス圧接継手等では、継手をある箇所に集中して設けるとその部分のコンクリートのまわりが悪くなり構造上の弱点となるおそれがある。そのため、「標仕」表5.3.3 では隣り合う継手は、細径の壁筋、スラブ筋を除き継手位置をずらすこととしている。しかし、最近施工例が増えている鉄筋先組み工法等の柱・梁主筋の場合は、特記により継手位置を同一箇所に設ける場合もある。先組み工法では、ガス圧接継手や機械式継手等が用いられるが、いずれの場合も施工上から、同一位置で全数継ぎとならざるを得ない場合がある。この場合は、鉄筋とコンクリートの断面積比の急変による応力集中やコンクリートの充填性等について、十分に検討されていることが重要である。

(e) 鉄筋の定着は次による。
(1) 柱に取り付ける梁の引張り鉄筋の定着の長さは、「標仕」表5.3.4によるが、定着長さL1とL1h又はL2とL2hの適用箇所は特記による。梁の引張り鉄筋は.常時に引張力が作用する上端筋だけでなく、地震時に引張力が作用する下端筋も適用対象となる。

(2) (1)以外の鉄筋の定着の長さは、「標仕」表5.3.4によるが、定着長さL1とL1h又はL2とL2hの適用箇所は特記による。同表では、定着長さをフックの有無によってL1とL1h、L2とL2h、L3とL3hに区別して表記しており、平成22年版の数値を踏襲している。また、軽量コンクリート部材の鉄筋の定着長さを普通コンクリートの数値 + 5dとしているのも平成22年版と同様である。このうち、割裂のおそれのない箇所への定着長さL2とL2h並びに小梁・スラブの下端筋の定着長さ L3とL3h(小梁の下端筋でフックありの定着長さ)は、JASS 5 (2009)の定着長さに基づいている。これら以外の定着長さL1とL1hは、それぞれ L2、L2hよりも長い定着が必要な箇所に用いることとし、適用箇所は特記による。

なお、適用箇所の例は、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」の巻末資料の各部配筋参考図に示されているので、参照されたい。

定着長さの測り方は、「標仕」図5.3.2による。直線定着の長さL1、L2、L3 は、定着起点(通常は仕口面)から鉄筋先端までの距離、フックあり定着の長さL1h、L2h、L3hは、定着起点から鉄筋の折曲げ開始点までの距離とする。フックありの場合の折曲開始点から鉄筋先端までの距離は、フックとして取り扱い、定着長さには含めない。90゜折曲げ定着の場合も同様であり、定着起点から鉄筋の折曲げ開始点までの距離を定着長さとし、それ以降の部分は90°フックとして扱う。

(3) 仕口内に90゜折曲げ定着する場合で、定着起点(仕口面)から折曲げ開始点までの距離Lが、「標仕」表5.3.4のフックあり定着の長さ未満となる場合の鉄筋の定着方法は「標仕」図5.3.3による。すなわち、梁主筋の柱内への折曲げ定着の場合は、仕口面から鉄筋先端までの全長が「標仕」表5.3.4の直線定着長さL2以上、余長が8d以上、仕口面から鉄筋外面までの投影定着長さが「標仕」表5.3.5のLa以上とする。

なお、梁主筋の投影定着長さLaは、原則として柱せいの3/4倍以上とする。

小梁・スラブの上端筋の梁内への折曲げ定着の場合は、仕口面から鉄筋外面までの投影定着長さが「標仕」表5.3.5のLb以上であるほかは、梁主筋の定着の場合と同様に、全長がL2以上、余長が8d以上とする。

なお、小梁・スラブの上端筋を壁内や幅の狭い梁内に定着する際に投影定着長さが「標仕」表5.3.5のLb未満となる場合は、RC規準(2010)に従って算定された投影定着長さの特記によるか、特記がない場合は、配筋指針(2010)に従って鉄筋の余長を直線定着長さL2以上とする。この場合は、鉄筋の投影定着長さを8d以上、かつ、150mm以上とすることが望ましい。

(4) 「標仕」では規定されていないが、機械式定着具を用いる場合の仕様や定着長さは特記による。機械式定着具は、指定性能評価機関による審査を受けて評定等の技術評価を取得した設計施工指針に従って施工する。

(f) その他の鉄筋の継手及び定着は「標仕」5.3.4 (f)による。

5.3.5 鉄筋のかぶり厚さ及び間隔

(a) 鉄筋のかぶり厚さ
(1) 「標仕」表5.3.6に規定される鉄筋の最小かぶり厚さは、建築基準法施行令第 79条に規定されるかぶり厚さを基本とし、仕上げなし(柱・梁・耐力壁では屋外で仕上げなし)の場合は10mm加算した数値としている。かぶり厚さが小さいと、火災時に部材の構造耐力が低下したり、過大なたわみや変形を生じたりするほか、地震時に鉄筋のコンクリートに対する付着性能が低下し、付着割裂破壊等の脆性破壊を生じたりする。また、コンクリートの中性化がかぶり厚さ以上に進行すると、酸素と水分の作用によって鉄筋が腐食されやすくなる。このように鉄筋のかぶり厚さは、部材の耐火性、耐震性、耐久性に重大な影響を与えるので、建物の全体において守られていないと重大な欠陥を生じることになる。

(2) 「標仕」5.3.5(b)では、鉄筋の加工及び組立においては最小かぶり原さを確保するために、施工誤差を考慮し、施工に当たっては柱・梁等の鉄筋かぶり厚さの最小値に 10mmを加えて(主筋を10mm内側に入れて)「加工」することとしている。ここでは、加工に用いるかぶり厚さの「最小の基準寸法」は定めているが、「最大の寸法」は規定していない。これは、梁と梁、梁と柱等の主筋が交差することによって生じる必然的な位置のずれが避けられないためである。

ただし、かぶり厚さが必要以上に大きいと、構造上の重大な欠陥となる場合があるので、施工図等で十分検討された鉄筋の位置について精度を確保することが重要である。特に、スラブ筋(端部上端筋,中央下端筋)、片持スラブの上端筋、地下外壁、断面の小さい部材等でかぶり厚さを規定以上に大きく取ることは、重大な欠陥の原因や鉄筋相互のあきが確保できないなどのおそれがある。鉄筋の納まりにより配筋位置が下がる場合は、設計担当者と打ち合わせて、構造安全性が確保されるようにしなければならない。

なお、JASS 5(2009)では、計画供用期間の級に応じて構造部材・非構造部材の設計かぶり厚さが規定されており、鉄筋工事においては、設計かぶり厚さを目標に鉄筋の加工・組立を行い、鉄筋組立完了時に最小かぶり厚さ以上を確実に確保することとしている。

(3) 柱、梁筋のかぶりは、図5.3.4のように主筋の外周りを包んでいる帯筋、あばら筋の外側から測定する。

なお、図中の最小かぶり厚さに加える10mmは、施工誤差の標準値である。


図 5.3.4 かぶり厚さ

(4) 異形鉄筋で D29以上の太物を使用する場合は、付着割裂破壊を考慮し、「標仕」5.3.5(a)では、主筋のかぶり厚さを径の1.5倍以上としている。

なお、RC規準(2010)では、コンクリートのかぶり厚さが鉄筋の径の1.5倍未満の場合には、許容付着応力度を(かぶり厚さ)/(鉄筋径の1.5倍)の数値を乗じて低減することとしているので、主筋に限らず部材の最外縁の鉄筋径が、「標仕」表5.3.6の最小かぶり厚さの 2/3倍以上の場合には、設計担当者と打ち合わせて、当該箇所のかぶり厚さを指示する必要がある。

(5) 海に近い場合で海塩粒子の浸透を考慮する場合や、コンクリートの劣化を促進させる物質のある場合等は、特記により「標仕」表5.3.6の最小かぶり厚さを割り増しする場合もあるので注意する。

なお、コンクリート中に鉄筋に有害な塩化物が含まれる場合のかぶり厚さの割増しは、6.3.2(2)⑦を参照する。

(6) 鉄筋のかぶり厚さは、仕上げの有無、屋内と屋外、また、土に接しているかどうかにより異なる。このため、同一部材であっても部分的に必要かぶり厚さの異なる場合があるので、あらかじめ、施工図等によりかぶりの取り方を十分検討しておく。

図5.3.5及び6に柱脚及び外周に面する場合を示す。


図5.3.5 土に対する柱筋の鉄筋のかぶり


図5.3.6 外周に面する梁筋のかぶり

(7) 図5.3.7に示す打継ぎ目地部分は、シーリングが長時間たつと劣化することや温度変化や乾燥収縮が起こりやすいことから仕上げなしと見なして、目地底よりかぶりを確保する。


図5.3.7 打継ぎ目地部分のかぶり厚さ

(8) 近年は主筋のみでなく、あばら筋、帯筋にも機械式継手を用いる例が見られる。機械式継手等を用いた場合、継手部にて最小かぶり厚さが決まることがあるので注意が必要である。

(b) 鉄筋相互のあき及び間隔
(1) 鉄筋相互のあきは、粗骨材の最大寸法の1.25倍、25mm及び隣り合う鉄筋の平均径(呼び名の数値)の1.5倍のうち最大のもの以上とする。

(2) 鉄筋の間隔は、(1)によるあきに鉄筋の最大外径を加えたものとする。(「標仕」図5.3.6参照)

なお、異形鉄筋の最大外径(D)は、表5.3.3及び図5.3.8による。


図5.3.8 異形鉄筋の公称直径と最大外径

表5.3.3 異形鉄筋の径(mm)

5.3.6 鉄筋の保護

(a) スラブの上端筋の下がり及び乱れが多く見られるが、これは構造耐力上危険である。

特に、コンクリートポンプによる打込みの際の乱れが多いので注意する。コンクリート打込みに際しては、直しの鉄筋工を配置する。道板等を用いて直接鉄筋の上を歩かないようにするとともに、配筋の下がりを防止するために一般のスラブにおいても、四周の上端に受け筋(D13)を配置することが推奨される。ただし、受け筋の位置にDl3の主筋がある場合には,それを兼用してよい。

一般に、スラブ筋の乱れの原因については、次のような場合が考えられる。

(1) スペーサー等の数が不足している場合
(2) スペーサーが確実に取り付けられていない場合
(3) スラブ配筋後、材料を鉄筋上に直接置く場合
(4) 設備配管等を行うことにより乱される場合
(5) コンクリートの打込み中に乱される場合(コンクリート輸送管の揺れ、ホースの移動、コンクリートの運搬、歩行等)

なお、他の部材に比べてかぶり厚さが少なく厳しい精度が要求されるスラブ配筋では、連続バーサポートを利用する方法もある。また、スラブ筋はコンクリート打込み等の作業時に乱されるおそれがあることからも連続バーサポートは有効と考えられる。

(b) 硬化し始めたばかりのコンクリート中の鉄筋に振動を与えると、付着力が低下するので振動を与えないように注意する。

(c) スペーサーの個数は、表5.3.4を標準とする。また、スラブ下端筋の梁際は、かぶり厚さが足りなくなることが多いので注意する。

表5.3.4 スペーサーの個数の標準

5.3.7 各部配筋

平成19年版「標仕」では、特記がない場合の各部配筋は別図によることとされていたが、平成22年版以降は各部配筋は特記によることされ、別図が削除されている。代わりに、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」の巻末資料に各部配筋の参考図が掲載されているので、必要に応じて参照されたい。

5章 鉄筋工事 4節 ガス圧接

第5章 鉄筋工事 


4節 ガス圧接

5.4.1 適用範囲

ガス圧接工法は、接合しようとする鉄筋の端面を平滑に加工したのち、端面を突き合わせ、その突合せ部をガス炎で加熱し、同時に鉄筋軸方向に圧縮力を加えて接合する方法である。熱源としてのガス炎は、酸素とアセチレンの混合ガスによる酸素・アセチレン炎を使用する。

「標仕」の4節では、圧接方法を手動ガス圧接とすることを前提とした仕様を規定している。酸素・アセチレン炎によるこのほかの圧接方法には、自動ガス圧接や熱間押抜きガス圧接があり、それぞれ、(公社)日本鉄筋継手協会が標準仕様書を定めている。このうち、自動ガス圧接については、(公社)日本鉄筋継手協会の標準仕様書に優先して「標仕」を適用することが可能であるが、熱間押抜きガス圧接は圧接工程のなかでふくらみを除去するために「標仕」で規定する試験を行うことができない。したがって、本節では「標仕」の規定が適用可能な手動ガス圧接と自動ガス圧接の監理について記述するほか、熱間押抜きガス圧接を「標仕」以外の圧接工法として記載している。

なお、「標仕」では、鉄筋材料としてSD490を適用範囲に含まないため、4節でも SD490の仕様については規定していない。したがって、特記によりSD490を採用する工事においては、そのガス圧接の仕様も特記に定められた方法によらなければならない。(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」及びJASS 5(2009)では、SD490のガス圧接を行う場合には施工前試験を行うこととしているので注意する。

また、「標仕」以外のガス圧接工法として、酸素・天然ガス炎による圧接工法が開発されている。一般のガス圧接よりも大きなふくらみとする天然ガス圧接工法と、圧接端面に高分子材料を挟み込んで加熱して一般のガス圧接と同等のふくらみとする高分子天然ガス圧接工法がある。いずれも、(公社)日本鉄筋継手協会が同工法の標準仕様書(案)を定め、検定試験により高分子天然ガス圧接技量資格者の認証を行っている。

5.4.2 技能資格者

(a) 圧接作業に従事する技能資格者は、JIS Z 3881(鉄筋のガス圧接技術検定における試験方法及び判定基準)による技量を有する者で、当該工事に使用する鉄筋に相応した技量資格種別を有することが必要である。圧接作業に先立ち、技量資格証明書等を提出させて、その技量を確認する。

(b) (公社)日本鉄筋継手協会では、JIS Z 3881に基づいて手動ガス圧接技量資格者及び自動ガス圧接技量資格者の試験を行って技量を認証し、それぞれの技量資格証明書を発行している。

技量資格種別による可能範囲は、表5.4.1及び2のとおりである。

表5.4.1 手動ガス圧接技量者の圧接作業可能範囲

表5.4.2 自動ガス圧接技量資格者の圧接作業可能範囲

(c) 「標仕」1.2.2では、工種別施工計画書の提出を義務付けているが、ガス圧接工事に関して受注者等が作成する圧接施工計画書は、(公社)日本鉄筋継手協会が認定する鉄筋継手管理技士又は圧接継手管理技士の助言等を受けて作成することが望ましい。

5.4.3 圧接部の品質

(a) 圧接継手に要求される性能は、鉄筋母材と同等以上の継手強度が得られることであり、これを保証するための代用特性の一つとして圧接部の外観と内部欠陥がないことを規定している。「標仕」に規定する圧接部の品質の各項目は.「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1463号)の規定に対応するものである。

(1) ガス圧接では圧接作業の最終工程でふくらみを形成することによって圧接面にできた酸化物を拡散することができる。ふくらみの直径が鉄筋径の1.4倍以上あれば酸化物が拡散し、母材と同等以上の継手強度が安定して得られることが実験的に確かめられている。

(2) 圧接部のふくらみはできるだけなだらかな形状となっていることが力学的に好ましい。ふくらみの長さを大きくしてなだらかな形状にするためには幅焼きの範囲を広くする必要があるが、作業能率の面から幅焼きはある程度の幅にとどめた方がよい。鉄筋径の1.1倍程度以上のふくらみ長さであれば十分な継手強度が確保できることが確認されている。このふくらみ長さが得られるための幅焼きの範囲は鉄筋径と同程度である。

(3) 圧接面のずれは、圧接作業中に接合する鉄筋の突合せ面からずれた位置で加熱することによって生じる。加熱位置がずれると鉄筋同士で温度上昇が異なり適正な圧接温度に達しないままの圧接となり,良好な接合が得られない。圧接面のずれが鉄筋径の1/4以上になると十分な継手強度を確保できなくなる可能性がある。

(4) 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量は、施工の良否の指標の一つであり、管理限界値は鉄筋径の1/5以下としている。

(5) 圧接部に折れ曲りがある場合には継手の軸剛性が低下する。平成19年版では、折れ曲りの管理限界値は 3.5° 以上を目安とするとしていたが、鉄筋組立精度を向上する目的で、「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」に折れ曲りを 2°以下とする規定が定められたことを踏まえ、折れ曲りは 2°以下とするのがよい。

(6) 圧接部の片ふくらみは継手の強度に影響を及ぼすおそれがあることから、平成22年版「標仕」で監理項目に追加された。片ふくらみは圧接器の固定が不十分な場合や鉄筋端面の隙間が大きい場合に生じる。ふくらみの小さい側の圧接面には十分な加圧力が作用せず不完全な接合となり、圧接部の引張強さが低下することがある。管理限界値は、ふくらみ量の差が鉄筋径の 1/5以下としている。

(7) 「鉄筋の継手の構造方法を定める件」における圧接継手に関する規定の抜枠を次に示す。

なお、この告示のただし書きでは、繰返し加力等の実験によって耐力、靭性及び付着に関する性能が継手を行う鉄筋と同等以上であることが確認された場合は、告示で定める構造方法によらなくてよいとしている。(公社)日本鉄筋継手協会の自主的認定事業として、これらの性能の確認実験を行い、一定水準以上の施工管理の能力及び体制を有していれば、実験結果と同等以上の施工品質が確保できるとして「A級継手圧接施工会社」を認定しているので、参考にするとよい。

鉄筋の継手の構造方法を定める件
(平成12年5月31日 建設省告示第1463号)建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第73条第2項ただし書き(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定に基づき、鉄筋の継手の構造方法を次のように定める。1 建築基準法施行令(以下「令」という。)第73条第2項本文(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定を適用しない鉄筋の継手は、構造部材における引張力の最も小さい部分に設ける圧接継手、溶接継手及び機械式継手で、それぞれ次項から第4項までの規定による構造方法を用いるものとする。ただし、一方向及び繰り返し加力実験によって耐力、靭性及び付着に関する性能が継手を行う鉄筋と同等以上であることが確認された場合においては、次項から第4項までの規定による構造方法によらないことができる。

2 圧接継手にあっては、次に定めるところらよらなければならない。

一 圧接部の膨らみの直径は主筋等の径の1.4倍以上とし、かつ、その長さを主筋等の径の1.1倍以上とすること。

二 圧接部の膨らみにおける圧接面のずれは主筋等の径の1/4以下とし、かつ、鉄筋中心軸の偏心量は、主筋等の径の1/5以下とすること。

三 圧接部は、強度に影響を及ぼす折れ曲がり、焼き割れ、へこみ、垂れ下がり及び内部欠陥がないものとすること。

3 (5.5.3 (a)に記載)

4 (5.5.2 (a)に記載)

鉄筋の継手の構造方法を定める件

(b) ガス圧接継手の品質の良否は、圧接業者の品質管理体制によるところが大きい。

(公社)日本鉄筋継手協会では、品質管理要員として、①圧接計画書の作成又はその指導を行い、②その計画書に従って圧接作業が実施されていることの確認等を行う「鉄筋継手管理技士」及び「圧接継手管理技士」を認証している。

また、同協会では、圧接管理技士及び圧接作業の技量資格者の質と量、圧接機器、検査機器等の保有状況及び品質管理システムの運用状況等を審査し、品質管理体制が確立、維持されている圧接会社を「優良圧接会社」として認定しているので、参考にするとよい。

5.4.4 圧接一般

(a) 圧接装置
(1) 圧接装置は、加熱器、加圧器、圧接器からなり、これらの性能が圧接継手の良否や作業能率を左右する。圧接装置には手動ガス圧接装置と自動ガス圧接装置がある。前者は加圧器の動作及び加熱器の揺動を手動で行うものである。後者は加圧器の動作及び加熱器の揺動をプログラム制御するものである。手動ガス圧接装置の中には、加熱器の揺動は手動とし、加圧器の動作をプログラム制御する方式のものもある。

また、引張試験の際に、鉄筋が圧接器の締付け部から脆性的に破断することが ある。これは、圧接器の締付けボルトの先端形状によって鉄筋表面に圧痕が生じ、この圧痕が起点となって破断するものであり、締付けボルトの先端形状と締付けトルクが過剰とならないように注意する必要がある。締付けボルトの種類は、鉄筋表面に切欠き状の圧痕が生じない形状のものがよい。

(2) 圧接作業前には圧接装置・器具類の整備・点検を十分行って、不良圧接の原因となる不具合を排除するとともに、ガス漏れ、引火等による爆発事故を防止する。

(3) 参考として、(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書ガス圧接継手工事」の圧接装置に関する規定の抜粋を次に示す。

鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)

4.2 圧接装置
(1) 加熱器
a. 加熱器は吹管本体及び火口本体からなり、吹管本体は、JIS B 6801(手動ガス溶接器)に規定するもののうちB型溶接器のB1、B2号に適合するものとする。

b. 吹管本体の材質・品質・寸法などは、JIS B 6801に準拠するものとする。

c. 火口本体は、作業中の炎の安定性がよく、鉄筋径に適合した十分な加熱能力を有するものとする。

d. 火口先は、鉄筋表面を円周方向に均等に加熱できるものとする。

(2) 圧接器
a. 圧接器は、鉄筋に所定のアプセット量(縮み量)を与えることができる機構を有し、作業中に偏心、曲がりが生じないよう、十分な鉄筋の保持能力を有するものとする。

b. 鉄筋保持するための締付けボルトは、その先端が鉄筋に有害な傷を与えない形状のものとする。

(3) 加圧器
加圧器は、油圧器、高圧ホース及びラムシリンダーからなり、次の性能を有するものとする。

a. 加圧器は、電動式で、加熱と連動しながら加圧操作できるものとする。

b. 加圧器は、鉄筋断面(異形棒鋼の場合は、公称断面)に対し30MPa以上の加圧能力を有するものとする。また、SD490の場合は、鉄筋断面に対して40MPa以上の加圧能力を有し、上限圧及び下限圧を設定できる機能を有するものとする。

5.2 圧接装置
自動ガス圧接装置は、圧接施工記録の作成・出力が可能で、(社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたものとする。

鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)

(b) 原則として圧接をしない場合

(1) 平成22年版までの「標仕」では、鉄筋の種類が異なる場合、形状が著しく異なる場合及び径の差が5mmを超える場合は圧接をしないこととしていたが、SD345とSD390の鉄筋間の圧接は特記に基づいて一般的に行われていた。平成 25年版「標仕」では、こうした実情を踏まえて、鉄筋の種類についてSD345と SD390の圧接を許容するただし書きが追加された。したがって、特記により仕様が示される場合を除き、SD345とSD390の組合せ以外の種類が異なる鉄筋の場合、形状が著しく異なる場合及び径の差が5mmを超える場合は、圧接を行ってはならない。

(2) 径の差が大きい場合、鉄筋の熱容量が異なるために相互の鉄筋の温度上昇に差異が生じて圧接不良が生じる場合があることから、「標仕」では径の差を5mmまでに制限している。鉄筋には、D19、D22、D25、D29のように径に応じた呼び名があるが、D22とD29のように呼び名が2段階異なる場合を2段落ちあるいは2サイズ違いという。2段落ちの場合は径の差が5mm以上となるので、特記がない限り圧接してはならない。

(3) これに関連する場合のガス圧接について、(公社)日本鉄筋継手協会の資料では、次の(i)から(iii)までが示されている。

(i) 「鉄筋継手工事標準仕様書ガス圧接継手工事(2009年)」ではJIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に適合する範囲で強度区分が隣接する種類の鉄筋間の圧接は可能としており、「異種・異径鉄筋の圧接継手性能評価に関する調査研究」でその性能が検証されている。

(ii) ねじ節鉄筋とねじ節鉄筋及び竹節鉄筋とねじ節鉄筋のガス圧接については、「ねじ節鉄筋のガス圧接継手性能に関する研究」で性能確認がなされているが、「鉄筋継手工事標準仕様書ガス圧接継手工事(2009年)」にはねじ節鉄筋の圧接についての記載はない。

(iii) 製造所が異なる鉄筋のガス圧接については、「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」で圧接可能としているが、SD490についてはデータが少ないので十分な事前検討が必要としている。

5.4.5 鉄筋の加工

(a) ガス圧接では、1箇所当たり1d~1.5d (d:鉄筋の径)のアプセット〈縮み代〉が必要である。このため、梁筋や柱筋の定着長さが不足することがあるので、あらかじめ圧接による鉄筋の縮み代を見込んで鉄筋の加工を行う。

(b) 突き合わせた鉄筋の圧接端面間の隙間が大きいと圧接面が酸化しやすく、圧接部の強度が低下するおそれがある。そのため、鉄筋の圧接端面は、軸線にできるだけ直角、かつ、平滑に切断・加工し、圧接端面間の隙間をできるだけ少なくする必要がある。

従来の定置型せん断切断機によって切断された鉄筋の端部は端曲がりが生じているものが多く、再切断が必要となる場合もある。この再切断には、鉄筋冷間直角切断機を用いるのがよい。この切断機で切断し、当日圧接を行う場合にはグラインダーで研削する必要がない程度の端面が得られる。ただし、ばりが生じた場合にはこれを除去する。また、携帯型せん断切断器等を用いる方法もある。これらの方法による場合は、切断した端面をグラインダーで有害な切断跡がなくなるまで研削する必要がある。

5.4.6 圧接端面

圧接部の品質の良否は圧接端面の状態(図5.4.1参照)に大きく左右されるので、圧接端面の処理は圧接作業において極めて重要である。

(1) 圧接端面及び端面から100mm程度の範囲の鉄筋表面に錆、油脂、塗料、セメントペースト等が付着している場合には、これらをあらかじめ除去しておく必要がある。

(2) 圧接端面を平滑に仕上げることが良好な圧接継手とする基本であり、冷間直角切断機等を使用して切断することが望ましい。また、ばり等がきょう雑物として圧接端面に入り込まないように軽く面取りを行う必要がある。

(3) 圧接端面は完全な金属肌の状態でなければ良好な接合が得られないので、冷間直角切断機による端面処理やグラインダー研削は圧接作業当日に行い、錆がないことなど、端面の状態を確認する必要がある。このような状態に仕上げられていることの確認を、施工者の自主管理として全数行い、監督職員も抜取り的に確認するのがよい。また、圧接作業の前日以前に、鉄筋加工場や現場において圧接端面の処理を行うに当たり、処理後の防錯等のために、(公社)日本鉄筋継手協会が認定した端面保護剤が使用されることもある。


図5.4.1 圧接端面の状態

5.4.7 天候による処置

(a) 寒冷期には、溶解アセチレンの気化率が悪いため、温湯、専用電熱器又は照明具等を用いて容器を加温して気化を促進する場合がある。この場合、容器は40℃以上にならないように注意する。

なお、火気による加温は労働安全衛生規則第256条によって厳禁とされている。

(b) 高温期における容器は40℃以下に保つようにする。夏期の野外では直射日光を避けるため容器をシートで覆うなどの処置を講ずる。

(c) 一般作業のできる程度の降雨量であれば健全な圧接ができることが実験的に確認されているが、降雨雪に気をとられて圧接作業に集中できず不良圧接を生じかねないので、降雨雪時の圧接作業は中止とする。ただし、適切な防護を施せば作業を行ってもよい。

圧接時に強風が当たると炎が吹き流され、圧接面が酸化しやすく不良圧接になることがあるので注意する。やむを得ず強風下で圧接を行う場合には、完全な遮へいを施して圧接作業を行う。

5.4.8 圧接作業

(a) 鉄筋に圧接器を取り付けて突き合わせた場合の圧接端面間の隙間は鉄筋径にかかわらず2mm以下とする。この値は現場における管理限界を示したもので、基本はあくまでも隙間をなくすことである。平成19年版「標仕」では、この値を3mm以下としていたが「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」が隙間を2 mm以下とする規定に改訂されたことに合わせ、平成22年版「標仕」で2mm以下とするように改められた。また、偏心、曲がりがあると、圧接面全体に十分な加圧ができず、不良圧接になりかねないので、これらの有無を確認する必要がある。

(b) 圧接する鉄筋の軸方向へ母材断面に対して30MPa以上の加圧を行いつつ、加熱炎が突き合わせた鉄筋の圧接端面からはずれないようにし、圧接端面相互が密着するまで還元炎で加熱する。

鉄筋の圧接には、酸素及びアセチレンの混合ガスによる酸素・アセチレン炎が用いられる。このガス炎は、それぞれのガスの供給量の割合に応じて中性炎(標準炎)、還元炎(アセチレン過剰炎)、酸化炎(酸素過剰炎)に分類される(図15.4.2参照)。圧接の初期加熱時に圧接端面間の隙間が閉じるまでは加熱中における圧接端面の酸化を防ぐために鉄筋の中心まで届くフェザー長さの還元炎で端面を完全に覆うようにして加熱し、端面相互が密着したあとは、火力の強い中性炎で圧接面を中心としてバーナーを左右に揺動しながら加熱する。

接合の良否は、圧接端面相互が密着するまでの初期加熱時に端面が還元炎で十分に覆われていたかどうかによって決まることをよく認識しておく必要がある。


図5.4.2 中性炎(標準炎)と還元炎(アセチレン過剰炎)

(c) 圧接端面相互が密着したのちは還元炎より熱効率の高い中性炎で加熱する。
なお、突合せ部を集中的に加熱すると、圧接面の中心部まで適正な圧接温度(約1,250 ~ 1,300℃)に達しないうちに鉄筋表面部のみが溶融し、正常な圧接が困難となる。したがって、圧接面を中心に鉄筋径の2倍程度の範囲を揺動加熱(幅焼き)する。

(d) 圧接終了直後に圧接器を取り外すと、鉄筋の重みにより赤熱されている圧接部のふくらみ終端部あたりから容易に折れ曲りが生じるため、火色消失後に圧接器の取外しを行う必要がある。

(e) 加熱中にバーナー不調のために逆火等が生じて加熱を中断した場合、そのまま再圧接すると圧接面が酸化して不良圧接となるおそれがあるので,冷間直角切断機等を使用して圧接部を切り取り再圧接する必要がある。ただし、圧接端面相互が密着したあとであれば圧接面の酸化は生じないので再加熱して圧接作業を続行してもよい。

5.4.9 圧接完了後の試験

「標仕」では、圧接完了後に圧接箇所の全数について外観試験を行い、その後、超音波探傷試験又は引張試験による抜取試験を行うこととしている。

なお、ここでいう「抜取試験」は、一般には「抜取検査」と呼ばれている。

(1) 外観試験
(i) 圧接部のふくらみの形状及び寸法、圧接面のずれ、圧接部における鉄筋中心軸の偏心量、圧接部の折れ曲り、片ふくらみ、焼割れ、へこみ、垂下がりについて外観試験を行い、結果を記録する。

① 圧接部のふくらみの形状及び寸法については、図5.4.3に示すように、ふくらみの直径は母材鉄筋径の1.4倍以上、ふくらみの長さは母材鉄筋径の1.1倍以上でなければならない。圧接部のふくらみの外周に軸方向の小さなひび割れが発生することがあるが、これは鉄筋のアプセットに伴うもので、多少のひび割れは特に支障はない。ただし、ひび割れが著しい場合には欠陥となるので、加熱温度、加熱時間、加圧速度等を再検討して,ひび割れの発生を防ぐ。


図5.4.3 圧接部のふくらみの形状及び寸法

② 圧接面のずれは、図5.4.4による。圧接面のずれとは.圧接面がふくらみの中央からずれた位置に存在する場合をいう。これは、加熱位置が鉄筋を突き合わせた位置からずれてしまい、加熱が片方の鉄筋に偏り、適正な圧接作業が行われなかったことを示すものである。ずれが大きくなると強度の低い不良圧接となるので注意する必要がある。


図5.4.4 圧接面のずれ

③圧接部における鉄筋中心軸の偏心量は図5.4.5による。偏心量の大小は、施工の良否を示す指標の一つであるので注意する。


図5.4.5 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量

④鉄筋同士の角度が 2°以上となる圧接部の折れ曲りがあってはならない。

⑤圧接部の片ふくらみは図5.4.6による。


図5.4.6 圧接部の片ふくらみ

(ii) ①~⑤の外観試験の方法は目視によって行い、必要に応じて外観試験用測定治具を使用するとよい。圧接部測定用ゲージを用いると、簡単に圧接部の形状や軸心の食違い等を測ることができ迅速な試験が可能となる(図5.4.7参照)。


(イ)デジタルノギス


(ロ)圧接部測定ゲージ
図5.4.7 外観試験用測定治具の例

(iii) 外観試験は比較的簡単に実施できるので全圧接部を対象としている。

(2) 抜取試験
ガス圧接部の抜取試験には超音波探傷試験と引張試験があるが、「標仕」では、特記がない場合には、超音波探傷試験によるとしている。ただし、特定行政庁によっては引張試験を行う基準を運用していることがあるので、事前に確認しておく必要がある。

① 超音波探傷試験は、次のような特徴がある。
1) 非破壊試験であり、検査のための切取りによる再圧接がない。
2) 試験の抜取り箇所数を増減することができ、必要に応じて全数検査も可能である。
3) 試験従事者の技量に信頼性が依存する。
4) 工事現場において試験ができ、すぐ結果が分かる。

② 引張試験は.次のような特徴がある。
1) 切取りによる破壊試験であり、抜き取った継手の品質を直接的に確認できる。
2) 切取りによる全数検査は、不可能である。
3) 切取りによる再圧接箇所数が増える。
4) 試験結果を得るまでに時間がかかることが多い。

(3) 超音波探傷試験による抜取試験
(i) 超音波探傷試験の試験箇所数
「標仕」では、超音波探傷試験における抜取試験のロットの大きさを1組の作業班が1日に施工した継手箇所としている。1ロットの継手数は、鉄筋の径や継手位置等によって異なり、D22の場合100〜200箇所、D32の場合80〜 150箇所、D38の場合50〜100箇所程度と想定される。また、試験の箇所数は1ロットに対して30箇所であり、ロットから無作為に抜き取る。

(ii) 超音波探傷試験の方法と合否判定基準
超音波探傷試験は、鉄筋軸線に対して20度領いた超音波ビームを圧接面に当てて、圧接面に欠陥がある場合に検知される反射波の強さを測定する試験である。

超音波探傷試験の試験方法及び判定基準は、JIS Z 3062(鉄筋コンクリート用異形棒鋼ガス圧接部の超音波探傷試験方法及び判定基準)によるが、この規格の合否判定基準は、図5.4.8に示す欠陥からの反射波の強さと圧接部の引張強さの相関について調べた実験結果に基づいて定められている。図5.4.8において、横軸は鉄筋母材を透過させたときの透過波の強さ(基準レべルという。)に対する反射波の強さの比(エコー高さ)を示し、縦軸には同じ継手を引張試験して得られた圧接部の引張強さを鉄筋母材のJIS規格引張強さの下限値で除した値を示している。この図の関係より、基準レベルに対して-24dB(反射波の強さは基準レベルの約1/250)以上のエコー高さを示す圧接部を不合格とし、-24dB未満を合格としている。


図5.4.8 エコー高さと引張強さの関係

JIS Z 3062(鉄筋コンクリート用異形棒鋼ガス圧接部の超音波探傷試験方法及び判定基準)の抜粋を次に示す。

JIS Z 3062 : 2009

1 適用範囲
この規格は、JIS G 3112に規定する異形棒鋼(以下鉄筋という。)のガス圧接部の超音波探傷試験方法及び試験結果の判定基準について規定する。

3 用語及び定義
この規格で使用する用語の定義は、JIS Z 2300によるほか、次による。

3.1 リブ間距離
鉄筋の表面突起のうち、 軸線方向の突起をリブといい、この相対するリブ外面間の距離(図1参照)。


図1 – 鉄筋リブ間距離

3.2 透過走査
相対するリブの上に探触子を配置し、一方の探触子の超音波送信パルスを他方の探触子で受信する方法。

3.3 基準レベル
透過走査で求められる透過パルスの最大値。

3.4 合否判定レベル
基準レベルに基づいて、試験結果を判定するために定めたレベル。

3.5 はん(汎)用探傷器
基本表示のパルス反射式超音波探傷器。

3.6 専用探傷器
鉄筋ガス圧接部の探傷のために操作を簡易化したパルス反射式超音波探傷器。

4 試験技術者
鉄筋ガス圧接部の探傷試験を行う技術者は、超音波探傷試験の原理及び鉄筋ガス圧接部に関する知識をもち、かつ、その超音波探傷試験方法について十分な技術及び経験をもつ者とする。

5 探傷装置の機能及び性能
5.1 探傷装置の機能及び性能
探傷装置は、次の機能及び性能をもつものとする。
a) はん用探傷器の機能及び性能
はん用探傷器の機能及び性能は、附属書Aによる。(附属書A省略)

b) 専用探傷器の機能及び性能
専用探傷器の機能及び性能は、附属書Bによる。(附属書B省略)

5.2 探触子の性能
探触子の性能は、附属書Cによる。(附属書C省略)

5.3 接触媒質
接触媒質は、濃度75%(質量分率)以上のグリセリン水溶液、グリセリンペースト又は音響結合がこれらと同等以上と確認されたものとする。

5.4 探傷装置の点検
探傷装置は、次の点検を行い異常の有無を確認する。

a) 点検の種類及び時期
1) 始業時点検
始業時の点検は、探傷作業開始前に行う。

2) 作業中点検
作業中の点検は、作業中1時間ごと、又は1時間以内であっても少なくとも試験箇所20か所ごとに行う。

3) 終業時点検
終業時の点検は、探傷作業終了後速やかに行う。

4) 定期点検
定期点検は、1年に1回以上行う。

5) 特別点検
特別点検は、次の場合に行う。

5.1) 探傷装置の修理を行ったとき。
5.2) 探傷装置の一部を交換したとき。
5.3) その他特別に点検する必要があると認められたとき。

b) 点検の方法
1) 始業時、作業中及び終業時の点検方法は、次による。
1.1) 透過走査を行って基準レベルが設定できることを確認する。
1.2) 基準レベルに基づいて合否判定レベルを設定した後、透過走査を行って透過パルスが容易に受信できることを確認する。

2) 定期点検及び特別点検は、次による。
2.1) はん用探傷器の点検方法は、JIS Z 2352による。
2.2)専用探傷器の定期点検方法は、附属書Dによる。(附属書D省略)

c) 異常の場合の処置
a)及びb)の点検で異常が発見された場合の処置は、次による。
1) 点検で異常が認められた探傷装置は、使用しない。
2) 作業中及び終業時点検で異常が認められた場合には、その点検の直前の点検以降に実施した試験は無効とする。

6 探傷試験の準備

6.1 確認事項
探傷試験を開始する前に、鉄筋の種類、呼び名及びリブ間距離(図1参照)を確認する。

6.2 探傷の時期
探傷試験は、圧接部の温度が常温になってから行う。

6.3 探傷面の手入れ
探触子を接触させるリブ上の探傷面に、超音波の伝達を妨げるもの(浮いたスケール、コンクリート、セメントペースト、著しいさび、塗料など)が存在する場合には、これらを除去する。

7 探傷装置の調整
7.1 測定範囲の調整
測定範囲の調整は、次による。
a) はん用探傷器
はん用探傷器の場合には、探傷する鉄筋の透過パルスが時間軸の範囲に表示できるように、JIS Z 2345に規定する標準試験片(STB-A3)を用いて、測定範囲を設定する。

b) 専用探傷器
専用探傷器の場合には、ゲートの設定を探傷する鉄筋の呼び名に合わせる。

7.2 基準レベルの設定
基準レベルは、探傷する鉄筋の製造業者、種類及び呼び名が異なるごとに以下のように設定する。
a) はん用探傷器
はん用探傷器の場合には、透過走査によって透過パルスの最大値を求める(図2参照)。この透過パルスの高さを表示器目盛の50%となるように探傷器のゲイン調整器を講整し、これを基準レベルとする。


図2 – 基準レベルを得るための透過走査

b) 専用探傷器
専用探傷器の場合には、透過走査によって透過パルスの最大値を求める(図2参照)。探傷器の警報ランプ、バー表示又は音で最も高い透過パルスであることを確認し、これを基準レベルとする。

7.3 合否判定レベルの設定
合否判定レベルは、基準レベルの -24dBとする。

8 探傷試験
8.1 探傷方法
探傷は、鉄筋のリブ上での斜角二探触子によって、圧接部のふくらみの両側で行う(図3参照)。


図3 – 斜角二探触子法

8.2 走査方法及び走査範囲

走査方法及び走査範囲は、次による(図4参照)。

a)最初に、一方の探触子を圧接部のふくらみに近接した位置①に置き、他方を圧接部のふくらみに近接した位置④と圧接面から約2Dの位置⑤の範囲で前後走査する。

b) 次に、一方の探触子を圧接面から約1.4Dの位置②に置き、他方を圧接部のふくらみに近接した位置④と圧接面から約2Dの位置⑤の範囲で前後走査する。

c) 最後に、一方の探触子を圧接面から約2Dの位置③に置き、他方を圧接部のふくらみに近接した位置④と圧接面から約2Dの位置⑤の範囲で前後走査する。


図4 – 走査方法

8.3 走査速度
走査速度は、60mm/s以下とする。

9 合否判定
圧接部を挟んで両側における探傷試験で、合否判定基準レベル以上のエコーが検出されなかった場合は合格とする。

10 記録
探傷試験を行った後、次の事項を記録する。

a) 工事名
b) 圧接工事施工者名(会社名)
c) 圧接工法
d) 試験年月日
e) 試験を実施した試験技術者の氏名
f) 試験箇所
g) 合否判定結果
h) 鉄筋の製造業者名、種類及び呼び名
i) 探傷器の形式及び製造番号
j) 探触子の製造業者名及び製造番号
k) その他参考となる事項(指定事項、協議事項、試験材の抜取方法など)

JIS Z 3062 : 2009

(iii) 探傷不能領域の存在

超音波探傷試験では、鉄筋のリブ上の探触子から入射させる超音波で圧接面のできるだけ広い範囲が探傷できるように、探触子をリブ上で前後に移動させて走査を行うが、それでも圧接面には探傷不能領域と呼ばれる超音波が届かない部分が存在する。この探傷不能領域は図5.4.9に示すように圧接面の周辺部となるため、この部分に存在する欠陥は検出できないことになる。しかし、この探傷不能領域の存在を前提としたうえで、図5.4.8の関係が成り立っている。


図5.4.9 探傷不能領域

(iv) 試験従事者
試験従事者は当該工事のガス圧接工事に関連のない立場の者とし、監督職員は、受注者等から提出された知識及び経験等の証明となる資料により確認することになるが、圧接作業、圧接条件等についても必要な知識を有する者であることが要件となる。

一例として、(公社)日本鉄筋継手協会では「鉄筋継手部検査技術者技量資格」(1G種,1W種,1M種,2種,3種)の認証を行っている。1G種,1W種,1M種は、それぞれ、圧接継手部、溶接継手部、機械式継手部の、2種は圧接継手部と溶接継手部の、3種は圧接継手部と溶接継手部、機械式継手部の超音波探傷検査及び外観検査を行うことができる資格である。したがって、ガス圧接継手の検査を行うことができる検査技術者は、1G種,2種,3種のいずれかの技量資格を有する者である。

これらの者は、「標仕」5.4.9(2)(ⅰ)④に規定する試験従事者としての要件のうち、必要な知識等を有するものと見なすことができる。

(v) ロットの合否判定
ロットの合否判定は、抜き取った試験箇所数のすべてが合格と判定された場合に当該ロットを合格とすることとしている。この「標仕」の抜取り方式(ロットの大きさ:200程度、抜取り数:30箇所、不合格品個数:0)では、品質のレベルを表すAOQL( Average Outgoing Quality Limit:平均出検品質限界)は約1%となる。

(4) 引張試験による抜取試験
(i) 引張試験の試験箇所数
引張試験による抜取試験の場合、超音波探傷試験による抜取試験の場合と同じく1検査ロットの大きさは、1作業班が1日に施工した箇所数としている。

また、試験片の採取数は1ロットに対して3本としている。作業班ごとの外観試験に合格したもののうち最とも外観の悪いものについて行い、その採取箇所は監督職員が指定することが望ましい。

試験片を採取した箇所は、同種の鉄筋を再圧接により継ぎ足して修正する。ただし、鉄筋がD25以下の場合にはコンクリート打込み等に問題がなければ鉄筋の納まりを考慮し、設計担当者と協議したうえで重ね継手として修正させてもよい。

(ii) 試験片の形状、寸法及び試験方法は、JIS Z 3120(鉄筋コンクリート用棒鋼ガス圧接継手の試験方法及び判定基準)による。この規格の抜粋を次に示す。

JIS Z 3120 : 2009

1 適用範囲
この規格は、構造物の鉄筋としてJIS G 3112に規定する棒鋼を用いる場合の手動ガス圧接法、自動ガス圧接法及び熱間押抜きガス圧接法によるガス圧接継手の試験方法及び判定基準について規定する。

3 用語及び定義
この規格で用いる主な用語及び定義は、JIS Z 3001-1及びJIS Z 3001-2によるほか、次による。

3.1 ガス圧接継手
酸素 – アセチレンガス炎を用いて加熱し、機械的圧力を加えて溶接した突合せ継手。

3.2 手動ガス圧接法
加圧工程とバーナー躯動とを自動的に制御しない手動ガス圧接装置を使用してガス圧接を行う方法。

3.3 自動ガス圧接法
加圧工程とパーナー駆動とを自動的に制御する自動ガス圧接装置を使用してガス圧接を行う方法。

3.4 熱間押抜きガス圧接法(略)

3.5 圧接面
圧接によって得られた接合面。

3.6 圧接部
圧接によって得られた熱影響部を含む継手部全体。

3.7 追試験
試験片の不合格の原因を確認するための試験。

4 試験の種類
試験の種類は、外観試験と引張試験とする。ただし、やむを得ない場合は、継手施工の受渡当事者間の合意によって、引張試験を曲げ試験に代えてもよい。

5 試験片
試験片の形状及び寸法は、表1による。試験片はガス圧接のままとし、引張試験片又は曲げ試験片は外観試験に合格したものを用いる。ただし、手動ガス圧接法又は自動ガス圧接法によって作製した曲げ試験片については、試験片を正しく曲げるために、押し金具が当たる側のふくらみを母材外接線まで削るのが望ましい。

表1 – ガス圧接継手試験片の形状及び寸法

6 試験方法

6.1 外観試験
圧接部の外観試験は、ふくらみの形状・寸法、圧接接面のずれ、鉄筋中心軸の偏心量、折れ曲がり、その他有害と認められる欠陥の有無などについて、目視又は必要に応じてノギス、スケールなどの器具を用いて行う。

6.2 引張試験方法
引張試験方法は、JIS Z 2241による。ただし、継手の引張強さを求める場合の断面積は、異形棒鋼については JIS G 3112に規定する公称断面積とし、棒鋼についてはJIS G 3191に示す標準径によって求めた断面積とする。

6.3 曲げ試験方法
曲げ試験方法は、JIS Z 2248に規定する押曲げ法による。ただし、 曲げ角度は45° 以上とし、内側半径は JIS G 3112による。

7 判定基準
7.1 外観試験の判定基準
すべての試験片が次の判定基準を満足しなければならない。

a) 手動ガス圧接法及び自動ガス圧接法によって作製された試験片の場合は、次による。

1) 圧接部のふくらみの直径(D)は、鉄筋の径又は公称直径の1.4倍以上とする。ただし、JISG3112に規定するSD490の場合は1.5倍以上とする(図1参照)。

2) 圧接部のふくらみの長さ(ℓ)は、鉄筋の径又は公称直径の1.1倍以上とする。ただし、JISG3112に規定するSD490の場合は1.2倍以上とする(図1参照)。


図1 – 圧接部のふくらみの直径及びふくらみの長さ

3) 圧接面のずれ( δ) は、鉄筋の径又は公称直径の1/4以下とする(図2参照)。


図2 – 圧接面のずれ

4) 圧接部における相互の鉄筋中心軸の偏心量 ( e ) は、鉄筋の径又は公称直径の1/5以下とする(図3参照)。


図3 – 偏心量

5) 目視によって明らかな圧接部の折れ曲がりがないものとする。

6) 目視によって圧接部に過熱による著しいたれ・割れ・溶けがないものとする。

b)(略)

7.2 引張試験の判定基準
すべての試験片の引張強さがJIS G 3112の規定に合格しなければならない。

7.3 曲げ試験の判定基準
いずれの試験片も圧接面に破断又は割れがあってはならない。

JIS Z 3120 : 2009

(iii) ロットの合否判定
ロットの合否判定は、抜き取った試験片の全数が母材のJIS規格引張強さ以上で、かつ、圧接面での破断がない場合を当該ロットの合格としている。母材のJIS規格引張強さ以上でも、圧接面で破断した場合に不合格としているのは、圧接面破断が生じる際の強度には、ばらつきが大きい場合もあり、3本の抜取試験では強度の推定が困難なためである。

母材のJIS規格引張強さ未満で圧接面破断した場合は、原因が母材鉄筋自身にあることも考えられるので、鉄筋母材の材料試験をしてみることが望ましい。

また、母材破断した場合でも、母材の規格引張強さ未満で破断した場合は不合格となる。その場合で、破断部位が圧接器の締付けボルトによる圧痕に起因していると考えられる場合には、締付けボルトを変更する必要がある。

圧接面で破断し不合格となった場合には、再試験を行うことができることとし、その場合の抜取り数は当該ロットの5%以上とし、すべての試験片について引張強さが母材のJIS規格値以上の場合を合格としている。

5.4.10 不合格となった圧接部の修正

不良圧接部の判定手順及び修正について、図5.4.10に示す。
(1) 外観試験で不合格となった圧接部の修正
(i) 圧接部のふくらみの直径とふくらみの長さがそれぞれ鉄筋径の1.4倍、1.1倍に満たない場合の修正は、鉄筋を切断せずに再加熱・加圧して、所定のふくらみの直径及びふくらみの長さとしてもよい。これは再加熱・加圧によって圧接部の品質を劣化させることなく形状を修正することができるためである。

(ii) 圧接面のずれが鉄筋径の1/4を超えた場合は、十分な接合強度が得られず圧接面破断となりやすい。この場合には、圧接部を切り取って再圧接する。

(iii) 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量が鉄筋径の1/5を超えた場合には、圧接面に必要な加圧力が作用しなかった可能性があるので圧接部を切り取って再圧接する。

(iv) 圧接部に折れ曲りが生じている場合は、これによる強度低下は少ないが、鉄筋の軸方向の剛性が低下するので再加熱によって修正する。

(v) 圧接部のふくらみ量の差が鉄筋径の1/5を超える片ふくらみとなった場合は、部分的に十分な加圧力が作用しなかった可能性があるので圧接部を切り取って再圧接する。

(vi) 圧接部のふくらみがつば形となるのは、バーナーの揺動幅が狭く、幅焼き不足によって生じるもので、箸しいつば形の場合には圧接面の中心部まで適正な圧接温度に達していない可能性がある。

また、短時間の加熱で加圧すると圧接部表面にひび割れが生じやすい。著しいひび割れは鉄筋内部が適正温度に達していない可能性がある。

いずれの場合にも、圧接部を切り取って再圧接する。

(2) 抜取試験で不合格となったロットの処置
(i) 超音波探傷試験あるいは引張試験による抜取試験で不合格ロットが生じた場合には、直ちに圧接作業を中止し、欠陥の発生箇所、圧接面に発生している欠陥の種類等を調べて欠陥の発生原因を究明する。原因が明らかになれば、再発防止のための改善措置を検討し、施工計画書の修正等を行ったのち、作業を行う。

(ii) 不合格となったロットは、試験されていない残り全数に対して超音波探傷試験を行い、不良圧接部の選別を行う。

(iii) 超音波探傷試験の結果、不合格となった圧接箇所の処理は、圧接箇所を切り取って再圧接する。平成19年版「標仕」では不合格となった圧接箇所について、監督職員と協議したうえでの添え筋による補強を認めていた。しかし、添え筋 による補強は重ね継手によることと同じことであり、鉄筋径の制限があるとともに、鉄筋のあきを確保することや付着性能の確認が必要となる。こうした事項の確認は設計担当者が行うべきもので、現場で安易に採用すべきではないとの観点から、平成22年版「標仕」で添え筋による補強が削除された。ただし、圧接位置によっては再圧接が困難で、機械式継手等によって処理することが必要な場合もあり得るので、設計担当者により処理方法が特記されていることが望ましい。

(3) 圧接部を再加熱して修正する場合は、適正な形状となったかどうか外観試験を行って確認する必要がある。また、圧接部を切り取って再圧接する場合は、外観試験及び超音波探傷試験を行って再圧接した圧接部の品質を確認する必要がある。


図5.4.10 不良圧接部の判定手順及び修正

5.4.11 「標仕」以外の圧接工法

圧接作業方法として、「標仕」に規定する方法以外に熱間押抜きガス圧接がある。この方法は、圧接直後に圧接部のふくらみを赤熱中にせん断刃で押し抜いて除去し、このせん断面の表面外観により圧接部の品質を判定できるとともに、仕上り形状を母材鉄筋に近づけることができる。

なお、熱間押抜きガス圧接はふくらみを除去する工法であるため、平成12年建設省告示第1463号で規定する構造方法に適合しない部分がある。このため(公社)日本鉄筋継手協会が、同協会の「鉄筋のガス圧接工事標準仕様書(2003年)」に基づき適切に施工された熱間押抜きガス圧接部材について実験により性能の確認を行った結果が「鉄筋のガス圧接継手性能評価に関する調査研究(2004年)」にまとめられているので参考にするとよい。

(1) 熱間押抜きガス圧接の特徴等
(i) 加熱・加圧等の圧接工程は、従来の方法と全く同じであり、せん断除去後のふくらみ部の径は、鉄筋径よりやや大きい寸法(鉄筋径の1.2倍程度)となる。

(ii) 不良圧接の場合、熱間押抜きに伴って圧接部に生じる鉄筋軸方向の引張応力によって接合面が開口し、割れや線状傷として現れることにより品質を判定できる(図5.4.11参照)。


図5.4.11_押抜き法による表面傷の発生過程

(iii) ふくらみの押抜き直後に、圧接部表面に割れ、線状傷、へこみ等の欠陥が認められた場合には、再圧接のうえ再度押し抜くことができる。

(iv) 径の異なる鉄筋間の継手には適用できない。

(v) 押抜き作業には特別な技量を必要とするため、熱間押抜きガス圧接技量資格証明書を有する圧接技量資格者とする必要がある。

(2) 押抜き後の試験
押抜き後の試験は、全数外観試験を行う。

外観試験は、目視によって行い、必要に応じてノギス、スケール、鏡、その他適切な器具を用いる。また、外観試験の対象項目及び判定基準は、次のとおりである。

① ふくらみを押し抜いたのちの圧接面に対応する位置に割れ、線状傷、へこみがあってはならない。

② オーバーヒート等による表面不整があってはならない。

③ 圧接部のふくらみの長さℓは、鉄筋径の1.1倍以上でなければならない(図5.4.12 参照)。


図5.4.12 圧接部のふくらみの長さ

④ 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量 e は、鉄筋径の1/10以下でなければならない。(図5.4.13参照)


図5.4.13 偏心量

⑤ 目視により明らかな折れ曲りがあってはならない。

(3) 押抜き後の試験で不合格となった場合の処置
押抜き後の外観試験で不合格となった圧接部は,次に示す方法で処置する。

① 押抜き後の圧接面に対応する位置に割れ,線状傷,へこみ,オーバーヒート等による表面不整が認められた場合及びふくらみの長さが鉄筋径の1.1倍に満たない場合は、そのまま再加熱、再加圧、押抜きを行って修正し、外観検査を行う。

② 圧接部に著しい折れ曲がりを生じた場合は、再加熱して修正し、外観検査を行う。

③ 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量が規定値を超えた場合は、圧接部を切り取って再圧接し、外観検査を行う。

5章 鉄筋工事 5節 機械式継手及び溶接継手

第5章 鉄筋工事 


5節 機械式継手及び溶接継手

5.5.1 適用範囲

(a) 現在、わが国で使用されている鉄筋継手を工法別に分類すると図5.5.1に示すとおりとなる。平成22年版「標仕」では、このうちの重ね継手とガス圧接継手を標準的な鉄筋継手工法として取り扱い、機械式継手とD16以下の細径鉄筋に用いる重ねアーク溶接継手(フレア溶接継手)を特殊な鉄筋継手として、その適用範囲を限定してきた。平成25年版「標仕」では、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1463号)に適合する機械式継手及び溶接継手についても標準的な鉄筋継手工法として取り扱うように改定された。

したがって、これまでの特殊な鉄筋継手の適用範囲であった機械式継手とD16以下の細径鉄筋に用いる重ねアーク溶接継手については従来と同様に適用範囲に含まれており、新たに突合せ溶接継手(エンクローズ溶接継手)が適用範囲に含まれたことになる。

なお、図5.5.1の溶接継手のうち、フラッシュバット溶接継手及びアプセットバッ卜溶接継手からなる突合せ電気抵抗溶接継手は、溶接閉鎖型のせん断補強筋や開口部補強筋に用いられる。これらのうち、高強度せん断補強筋の接合に用いる溶接は、5.3.2(d)(2)に記述したように、それぞれの製品の設計施工指針が対象とする製造工場又は加工工場のみで行われる。これは、評定を受けて製造される開口部補強筋製品についても同様である。一方、普通強度のせん断補強筋に用いる溶接については、(公社)日本鉄筋継手協会が審査により高品質な溶接閉鎖型せん断補強筋を製造する会社(工場)を「優良溶接せん断補強筋製造会社」として認定しているので、参考にするとよい。


図5.5.1 鉄筋継手の分類

(b) 機械式継手や溶接継手を用いる場合は設計図書に記載されるが、工事に当たっては適用の条件を確認する必要がある。設計図書に記載される事項は次のようなものである。

(1) 継手の名称
(2) 必要に応じて、接合装置名、接合用部品の材料の材質・形状・寸法等、鉄筋端あるいは表面の処理法
(3) 必要に応じて、継手位置、継手部におけるコンクリートのかぶり厚さ、継手部におけるあばら筋・帯筋の寸法・間隔、継手の位置のずらし方等
(4) 現場における継手の試験・検査の方法とその回数

(c) 継手によっては、接合装置がかさばる場合もあるので、接合する部分の鉄筋間隔についての事前の検討が必要である。

5.5.2 機械式継手

(a) 機械式継手は、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示1463号)に適合したものでなければならない。同告示では、機械式継手の構造方法として、カップラー等の接合部分における滑りやカップラーの強度、モルタルやグラウト材等の強度、ナットを用いて固定する場合の導入トルク、圧着によって固定する場合の密着状態を規定している。現在までに建築工事に適用実績のある機械式継手を次に例示する。

(1) ねじ節継手は、異形鉄筋の節形状がねじ状になるように圧延された鉄筋を雌ねじ加工されたカップラーを用いて接合する工法である。メーカーによって節形状が異なっており専用のカップラーが必要である。カップラーと鉄筋との間の緩みを解消する方法として、ロックナットを締め付けるトルク方式、カップラーと鉄筋の節との空隙にモルタル又は樹脂を注入するグラウト方式、両者を併用したナットグラウト方式がある(図5.5.2参照)。


(イ)トルク方式


(ロ)グラウト方式
図5.5.2 ねじ節継手の例

(2) 端部ねじ継手は、市販の異形鉄筋の端部をねじ加工した鉄筋、又は加工したねじ部を鉄筋の端部に摩擦圧接した鉄筋を使用し、雌ねじ加工したカップラーを用いて接合する工法である(図5.5.3参照)。


図5.5.3 端部ねじ継手の例

(3) 鋼管圧着継手は突き合わせた鉄筋の端部に鋼管(スリーブ)をかぶせたのちにこの鋼管を油圧ジャッキで圧着し、鋼管を異形鉄筋の節に食い込ませて接合する工法である。鋼管の圧着を連統的に行う方式と断続的に行う方式がある。鉄筋は異形鉄筋であれば市販のどれでも使用できる(図5.5.4参照)。


(イ) 連続圧着方式


(ロ)断続圧着方式
図5.5.4 鋼管圧着継手の例

(4) 充填継手には、充填する材料によってモルタル充填継手と、溶融金属充填継手の2種類がある。モルタル充填継手は鋳鋼製スリーブの両端から鉄筋を突き合わせるように挿入し、スリーブと鉄筋との隙間を無収縮高強度モルタルで充填し一体化して接合する工法である。溶融金属充槙継手は鉄筋を突き合わせたスリーブ内に溶融金属を流し込んで隙間を充填し接合する工法である。いずれも市販の異形鉄筋はどれでも使用できる(図5.5.5参照)。


図5.5.5 充填継手の例

(5) 併用継手は、2種類の機械式継手を組み合わせることでそれぞれの長所を取り入れ、施工性を改良したものである(図5.5.6参照)。


(イ)圧着ねじ併用継手


(ロ)充填圧着併用継手
図5.5.6 併用継手の例

(6) 「鉄筋の継手の構造方法を定める件」における機械式継手に関する規定の抜粋を次に示す。

鉄筋の継手の構造方法を定める件
(平成12年5月31日建設省告示第1463号)

建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第73条第2項ただし書(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定に基づき、鉄筋の継手の構造方法を次のように定める。

1.(5.4.3 (a)に記載)

2.(5.4.3 (a)に記載)

3.(5.5.3 (a)に記載)

4.機械式継手にあっては、次に定めるところによらなければならない。

ー カップラー等の接合部分は、構造耐力上支障のある滑りを生じないように固定したものとし、継手を設ける主筋等の降伏点に基づき求めた耐力以上の耐力を有するものとすること。ただし、引張力の最も小さな位置に設けられない場合にあっては、当該耐力の1.35倍以上の耐力又は主筋等の引張強さに基づき求めた耐力以上の耐 力を有するものとしなければならない。

ニ モルタル、グラウト材その他これに類するものを用いて接合部分を固定する場合にあっては、当該材料の強度を1平方ミリメートルにつき50ニュートン以上とすること。

三 ナットを用いたトルクの導入によって接合部分を固定する場合にあっては、次の式によって計算した数値以上のトルクの数値とすること。この場合において、単位面積当たりの導入軸力は、1平方ミリメートルにつき30ニュートンを下回ってはならない。

四 圧着によって接合部分を固定する場合にあっては、カップラー等の接合部分を鉄筋に密着させるものとすること。

(b) 隣り合う鉄筋の継手位置は、「標仕」5.3.4(d)により、カップラーの中心間で400 mm以上かつ、カップラー端部の間のあきが40mm以上となるようにずらして配置する。ただし、先組み工法等で継手を相互にずらさない場合は特記による位置とする。

(c) 現在、市販されている機械式継手は、(一財)日本建築センターの評定を受けて告示の構造方法との適合性が確認されている。したがって、工法や品質の確認方法等は、各工法の評定を受けた施工要領書に準拠しなければならず、特記及び品質計画はこれらの施工要領書に基づいて定める必要がある。

機械式継手の検査においては、カップラーに対する鉄筋の挿入長さの確認が重要である。機械式継手は、鉄筋の挿入長さが十分でなければカップラーを介して応力が伝達されず十分な機能を果たさなくなる。このため、施工作業ではマーキングによる挿入長さの確認を行うこととしており、監督職員も抜取り的に確認を行うのがよい。(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書機械式継手工事(2009年)」では、表面SH波法による鉄筋挿入長さの超音波測定検査を主要な機械式継手の仕様とともに定めているので、必要に応じて参考にするとよい。

5.5.3 溶接継手

(a) 溶接継手は、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1463号)に適合したものでなければならない。同告示では、突合せ溶接継手の構造方法が規定され、径が25mm以下の主筋等にあっては重ねアーク溶接継手とすることができるただし書きが記されている。

「鉄筋の継手の構造方法を定める件」の溶接継手に関する規定の抜粋を次に示す。

鉄筋の継手の構造方法を定める件
(平成12年5月31日建設省告示第1463号)

建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第73条第2項ただし書(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定に基づき、鉄筋の継手の構造方法を次のように定める。

1 (5.4.3(a)に記載)

2 (5.4.3(a)に記載)

3 溶接継手にあっては、次に定めるところによらなければならない。

ー 溶接継手は突合せ溶接とし、裏当て材として鋼材又は鋼管等を用いた溶接とすること。ただし、径が25ミリメートル以下の主筋等の場合にあっては、重ねアーク溶接継手とすることができる。

二 溶接継手の溶接部は、割れ、内部欠陥等の構造耐力上支障のある欠陥がないものとすること。

三 主筋等を溶接する場合にあっては、溶接される棒鋼の降伏点及び引張強さの性能以上の性能を有する溶接材料を使用すること。

4 (5.5.2(a)に記載)

(b) 隣り合う鉄筋の継手位置は、「標仕」5.3.4(d)により、継手の中心間で400以上ずらして配置する。ただし、先組み工法等で継手を相互にずらさない場合は特記による位置とする。

(c) 現在、工事に採用できる突合せアーク溶接継手(エンクローズ溶接継手)は、告示の第1項ただし書きの規定による継手部分の性能を確認し、(一財)日本建築センターの評定又は(公社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたものがほとんどである。これらは告示の第3項にも適合しているので、性能が確認されたこれらのエンクローズ溶接継手を用いるのが望ましい。(一財)日本建築センターの評定又は(公社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたエンクローズ溶接継手の工法や品質の確認方法等は、前者では評定を受けた施工要領書に、後者では(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)」に準拠しなければならず、特記及び品質計画はこれらに基づいて定める必要がある。

(1) エンクローズ溶接継手の概要と種類
エンクローズ溶接継手は突き合わせた鉄筋の開先部を裏当て金で囲み、CO2ガスシールドにより溶接部の酸化を防止しながら、開先底部よりアークをスタートさせて鉄筋両端面に十分な溶込みを与えながら連続的に開先内を溶融金属で充填して接合するもので、溶接後の継手の伸縮は小さいという特徴がある。この溶接はI 形開先であり、ルート間隔の管理が重要である。エンクローズ溶接の例を図 5.5.7に示す。


図5.5.7 エンクローズ溶接の例

(2) エンクローズ溶接継手の検査
(一財)日本建築センターの評定又は(公社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたエンクローズ溶接継手の検査は、その工法の施工要領書に定める方法によらなければならない。検査の種類では、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」の第3項第二号において、溶接部に割れ、内部欠陥等の構造耐力上支障のある欠陥がないものとすることと規定されていることに対応して、外観検査と超音波探傷検査が行われる。しかし、裏当て金が固着する工法では溶接部全周の外観検査ができないことや裏当て金によって超音波探触子を当てる部分が制限される。また、裏当て材が取り外せる工法でも鉄筋のリブとアークの起点が必ずしも一致しないため、ガス圧接継手の超音波探傷検査に採用される直角K走査法では欠陥が比較的生じ易いとされる溶接初層部の検査ができない場合がある。したがって、エンクローズ溶接継手については、工事の全部あるいは一部について、より広範囲な検査領域が得られる探触子走査法を併用することなどが望ましい。

(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)」では、上記の課題に対応する検査方法として、探触子を鉄筋軸に対して20゜傾斜させる斜めK走査法や斜めタンデム走査法を直角K走査法と併用する検査法が規定されているので、参考にするとよい。例として斜めK走査法による鉄筋溶接部の超音波探傷を図5.5.8に示す。


図5.5.8 斜めK走査法による鉄筋溶接部の超音波探傷

(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)」における検査の規定の抜粋を次に示す。

鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)

4章 検 査
4.1 一般事項
(1) 溶接部の検査は、外観検査と超音波探傷検査によって行う。引張試験による検査を併用する場合は、特記による。

(2) 検査は、原則として発注者又は監理・責任技術者の立会のもとに行う。

(3) 検査の時期は、工事工程を考慮して定め、監理・責任技術者の承認を得る。

(4) 検査数量は、次による。
a. 外観検査は、全数検査とする。
b. 超音波探傷検査は、抜取検査とする。
c. 引張試験による検査は、抜取検査とする。

(5) 検査は、発注者又は監理・責任技術者の承認を受けた施工者若しくはその代理者である検査会社の検査技術者が行う。また、検査技術者は、欽筋継手部検査技術者資格の1W種、2種又は3種を保有する者とする。

4.2 外観検査
(1) 外観検査の検査項目は、表2による。

(2) 外観検査は、目視によって行い、目視で判定が困難なものに対して、ノギス、スケール、その他適切な器具を用いて寸法を測定する。

(3) 外観検査の合否判定基準は、各溶接継手工法の認定条件及び表2のいずれをも満足するものとする。

表2 外観検査項目及び合否判定基準

4.3 超音波探傷検査
(1) 超音波探傷検査の検査項目は、内部欠陥の検出とする。

(2) 超音波探傷検査の方法は、(社)日本鉄筋継手協会規格 JRJS 0005(鉄筋コンクリート用異形棒鋼溶接部の超音波探傷試験方法及び判定基準(案))に規定する直角K走査法と斜めK走査法(又は斜めタンデム走査法)を併用して行う。

(3) 継手の合否判定基準は、合否判定レベルを基準レベルの –18dBとし、これ以上のエコーが検出された場合は、不合格とする。

4.4 超音波探傷検査における抜取検査
(1)抜取検査の検査ロットは、同ー作業班が同一日に施工した溶接箇所とし、その大きさは、200箇所程度を標準とする。

(2) サンプルの大きさは検査ロットごとに30箇所とし、サンプルはランダムに抽出する。

(3) ロットの合否判定は、30箇所のサンプルのうち、不合格数が、1箇所以下のときはロットを合格とし、2箇所以上のときはロットを不合格とする。

(4) ロットの処置については、合格ロットはそのまま受け人れ、不合格ロットは超音波探傷検査による全数検査を行って合格した溶接粧手を受け入れる。

4.5 引張試験による検査
(1) 溶接継手の引張試験方法は、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)による。ただし、継手の引張強さを求める場合の断面積は、JIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に規定する公称断面積とする。なお、この場合の引張試験機による試験片のつかみ間隔は、公称直径の8倍以上とする。

(2) 溶接継手の引張試験の合否判定基準は、試験片の引張強さが母材の規格値以上の場合、合格とする。

(3) 引張試験による検査における抜取検査は、次による。
a. 抜取検査の検査ロットは、同ー作業班が同一日に施工した溶接箇所とし、その大きさは200箇所程度を標準とする。

b. サンプルの大きさは検査ロットごとに3本とし、サンプルはランダムに抜き取る。

c. すべての試験片の引張強さが母材の規格値以上のときはロットを合格と判定する。また、1本のみが母材の規格値未満のときは、さらに3本を抜き取り、すべての追加試験片の引張強さが母材の規格値以上のときはロットを合格と判定する。

d. 合格ロットはそのまま受け人れ、不合格ロットの処置は、監理・責任技術者 と協議し、承認を得る。

4.6 不合格溶接部等の処置
(1) 検査で不合格が生じた場合は、直ちに監理・責任技術者に報告し、処置について承認を得る。監理・責任技術者が処置方法を指定する場合以外においては、次の(2), (3)により処置を行う。

(2) 外観検査で不合格となった溶接部は、不合格溶接部を補修又は再溶接した後、外観検査及び超音波探傷検査を行う。

(3) 超音波探傷検査で不合格となった溶接部は不合格溶接部を切り取って再溶接し、外観検査及び超音波探傷検査を行う。

(4) 外観検査で10%以上の溶接部に不合格が生じた場合又は超音波探傷検査でロット不合格と判定された場合は、以後の溶接継手工事を中止し、不合格の発生原因を調査する。工事を再開するにあたっては、再発防止のために必要な措置を講じて、監理・責任技術者の承認を得る。

鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)

(d) D16以下の細径鉄筋に対する溶接は、重ねアーク溶接(フレア溶接)とする。これについて、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日 建設省作示第1463号)では、径が25mm以下の主筋等の場合にあっては重ねアーク溶接継手とすることができるとあるので、「標仕」の方が厳しく制限していることに注意する必要がある。フレア溶接継手は鉄筋どうし又は鉄筋と鋼材を重ね合わせて、その重ねた部分にできる開先部分を溶接する方法である(図5.5.9参照)。主としてせん断補強筋の接合に用いられ、高強度の鉄筋での実績はほとんどない。(社)プレハプ建築協会では壁式プレキャスト工法のパネル間接合にフレア溶接を用いることから、「PC工法溶接工事品質管理規準(2004年)」を定めて運用している。同基準における鉄筋の種類の適用範岡は、JIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)の規格品のうち、SR235,SD295A, SD295B,SD345としている。


(イ)当て金なし


(ロ)当て金付き
図5.5.9 フレア溶接継手の例

SD345以下の強度の鉄筋をフレア溶接継手によって全強継手とするための溶接有効長さは、(社)プレハプ建築協会「PC工法溶接工事品質管理規準(2004年)」の規定と同様に、片面溶接で鉄筋径の10倍以上、両面溶接で鉄筋径の5倍以上を確保する。また、同規準では、片面溶接はD13以下の細径鉄筋に制限している。

更に同規準において、フレア溶接継手の開先標準が表5.5.1のとおり定められているので、参考にするとよい。

表5.5.1 フレア溶接継手の開先標準

(e) 溶接技能者は、工事に相応した技量を有する者でなければならず、各鉄筋継手工法に定められた資格者でなければならない。

エンクローズ溶接継手については、評定又は認定を受けた施工要領書で規定する資格を有する者でなければならない。一例として、(公社)日本鉄筋継手協会では、「鉄筋溶接技量検定規定」に基づいて検定試験を行い、鉄筋溶接技量資格者を認証し、適格性証明書を発行している。すべてのエンクローズ溶接工法でこの資格者であることが規定されているものではないが、技量検定試験により一定の技量が確認されている技能者であるとしてよい。

フレア溶接継手については、7.6.3[技能資格者]の中板構造の資格者とするのが一般的であるが、これらの評価試験が板材や管材の突合せ溶接によっていることに鑑み、(社)プレハプ建築協会ではフレア溶接に関する付加技量試験を行って、手溶接に対するアーク溶接技能者(PC-M)及び半自動溶接に対する半自動溶接技能者(PC-S)を認定しているので、参考にするとよい。

参考文献

6章 コンクリート工事 1節 一般事項

第6章 コンクリート工事

1節 一般事項

6.1.1 適用範囲

(a)この章は、工事現場施工のコンクリート工事に適用する。また、平成25年版「標仕」では、コンクリート工事の品質管理の向上等を目的に、主に次の変更が行われた。

(1) 設計基準強度をコンクリートの要求品質の一つに位置付け、これを満足するための管理項目として、使用するコンクリートの強度と構造体コンクリートの強度を明示した。

(2) 材料及び調合の条件を、コンクリートの品質項目や製造から外し、「コンクリートの材料及び調合」として独立させ、調合管理強度を満たすための条件として設計基準強度や構造体強度補正値との関係を含め、セメントや骨材等のコンクリート用材料ごとの事項を一つにまとめた。

(3) 普通コンクリートの一部として扱っていた「暑中におけるコンクリートの取扱い」は新たに「暑中コンクリート」として節立てし、普通コンクリートの一般規定から独立させた。また、設計基準強度27N/mm2以上、かつ、36N/mm2以下のコンクリートは、普通コンクリートの一般規定とは別に扱っていたが、普通コンクリートと同じ扱いとし「高い強度のコンクリートの取扱い」を削除した。

(4)構造体コンクリートの仕上り状態及びかぶり厚さの確認並びにそれらの事項が所要の品質を満足しない場合の補修及びその後の検査を明記した。

(b) 作業の流れを図6.1.1に示す。

(c)施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

(1) コンクリート工事の施工計画書

工程表(配合計画書の提出、試し線り、柱取外し等の時期)
配合計画書、計画調合の計算書(軽量コンクリートの気乾単位容積質量(「標仕」6.10.2(d))を含む)
コンクリートの仕上りに関する管理基準値、監理方法等
④ 仮設計画(排水、コンクリートの搬入路等)
打込み量、打込み区画、打込み順序及び打止め方法
⑥ 打込み作業員の配置、作業動線
⑦ コンクリートポンプ車の圧送能力、運搬可能距離の検討
⑧ コンクリートポンプ車の設置場所、輸送管の配置及び支持方法
⑨ コンクリート運搬車の配車
圧送が中断したときの処置
圧送後、著しい異状を生じたコンクリートの処置
打継ぎ面の処置方法
⑬ 上面の仕上げの方法(タンピング)
打込み後の養生(暑中、寒中)
コンクリートの補修方法
供試体の採取(採取場所、養生方法)

⑰ 試験所

(2) 型枠工事の施工計計画

① 型枠の準備量
型枠の材料
型枠緊張材の種別及び緊張材にコーンを使用する箇所
④ コンクリート寸法図(スケルトン、コンクリート躯体図、コンクリートプラン)
⑤ 基準部分の型枠組立図
型枠材取外しの条件(材齢又は構造計算により安全を確認する場合)

⑦ はく離剤使用の有無


図6.1.1 コンクリート工事の作業の流れ

6.1.2 基本要求品質

(a) コンクリートの「材料」に関しては、JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)に適合した材料が使用されており、JIS Q 1011(適合性評価:日本工業規格への適合性の認証ー分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))では、製造工場から提出される材料試験の結果によりその品質を確認することにしている。

(b) コンクリート部材の断面形状、寸法及び位置は、設計図書に建築物として必要な性能を有するように設計された値が指定されており、「標仕」6.2.5 (a)による許容差の範囲に収まるように施工する必要がある。「標仕」表 6.2.3 では一般的な許容差の標準値を示しているが、この数値は本来建築物の機能、部位、仕上げの程度等によって変動するものであり、共通的に定まるものではない。 例えば,石工事(「標仕」10.1.3(c)参照) や左官工事 (「標仕」15.2.3 (c)参照)等のようなコンクリート工事のあと工程となる仕上材料に要求される精度により、「標仕」 表 6.2.3 をそのまま使えない場合もある。 このため、各工事ごとにこの許容差を定めるに当たっては、寸法誤差が生じた場合の影響度等も考慮して、「品質計画」において、適切な値を定める必要がある。

コンクリートは全断面において均質なものとして設計されており、打ち上がったコンクリートはこれを満足させる必要がある。 しかし、打ち上がったコンクリートの内部を確認することは非常に困難であり表面の状態を確認することによって、内部の状態を推定することになる。一般にコンクリート部材の内部と比べて表面付近は鉄筋や型枠等の影響で欠陥が生じやすくなる。このため、「標仕」6.1.2 (b)では、「密実な表面状態」を要求事項とし、コンクリート内部の品質を含めて表面状態で確認することにしている。 コンクリート表面に豆板等の欠陥がある場合には、コンクリートの耐久性や強度に影響を及ぼすため、「標仕」では,せき板取外し後に コンクリート表面を確認することにしている。「品質計画」においては、第一に密実なコンクリートを打ち込むための具体的な方法の提案をするとともに、もし、豆板等が発生した場合、その程度に応じた補修方法等を定めるようにする。この場合の補修方法については 6.9.6 (b)を参考にするとよい。

(c) 建築物の構成部材としてのコンクリートの強度は、実際に出来上がった構造体コンクリートからコアを採取して試験によってその確認ができる。しかし、この方法は建築物を傷つけることになるため、新築建築物にあっては適切ではない。 このため「標仕」6.2.2 では、工事現場において構造体に打ち込まれるコンクリートと同ーのコンクリートを採取して、工事現場内で建築物と同様な温度条件となるように養生した試験体により構造体コンクリートの強度を推定している。 実際のコンクリートの強度は、柱、梁、壁、スラブ等の各部位によって強度の発現にばらつきがあることが分かっており、構造物のどの部位においても設計基準強度を滴足させるため、調合設計において所要の補正を行うことにしている。「所要の強度を有する」とは,こういったことを勘案して 実際の構造体コンクリートの強度が設計基準強度を満足するように適切な養生を行い、試験体の強度から構造体コンクリートの強度を確認すればよい。

「構造耐力、耐久性、耐火性」等は、コンクリートに要求される重要な性能である。これらについては、一般に本章で説明する事項を実現することで必要な性能を得ることができるようになっているが、(b)で説明したように寸法の誤差や、部分的な欠陥の発生を完全になくすことは現実的ではない。 このため、所要の「構造耐力、耐久性,耐火性」を満足させるための、寸法許容差や、欠陥が生じた場合の程度の判断基準及び補修方法をあらかじめ定めておくようにする。

6章コンクリート工事 2節 種類及び品質

第6章 コンクリート工事

2 節 コンクリートの種類及び品質

6.2.1 コンクリートの種類

(a) 平22年版「標仕」までは、使用骨材によってコンクリートの種類分けを行っていたが、近年、スラグ骨材等を含め密度の異なる各種の骨材が開発・使用され、特に細骨材は混合して使用される場合もあることから、平成25年版「標仕」では、気乾単位容積質量でコンクリートの種類を分類し、おおむね気乾単位容和質量が 2.1〜2.5 t/m3 の普通コンクリートと、より気乾単位容積質量の小さい軽量コンクリートの 2種類とされた。

(b) 寒中コンクリート、暑中コンクリート、マスコンクリート、無筋コンクリート及び流動化コンクリートは、使用材料、施工時期・施工方法・施工場所等の施工条件、要求性能等によって 10節までとは異なる品質管理が必要なため「特別仕様のコンクリート」として 11節から 15節に別記されている。

(c) 平成16年 6月に工業標準化法が改正され、平成 17年 10月 1日からJISマーク表示制度は、国による認定制度から登録認証機関による製品認証制度となった。これによって、JIS A 5308(レディーミクストコンクリ ート)もこれまでの「工場認定」 から「製品認証」へと変更された。

「標仕」でも平成22年版の改定以降、I 類コンクリートは.JIS Q1001(適合性評価一日本工業規格への適合性の認証一 一般認証指針)及び JIS Q1011 (適合性評価一日本工業規格への適合性の認証一分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))に基づき、JIS A 5308への適合を認証されたコンクリー ト II 類コンクリートは I 類以外のJIS A 5308に適合したコンクリートとされている。

「標仕」では、従来より、建築工事には特別な場合を除き、 JIS A 5308 に適合するレディーミクストコンクリートで対応できると考えられている。そのうえで、適合を認証された I 類コンクリートを使用することを原則としているが、山間部、離島等で運搬可能時間の距離内にJISマーク表示認証を取得した製品(以下、この章では「JISマーク表示認証製品」という。)を製造する工場(以下、この章では 「 JISマーク表示認証工場 」 という 。) がない場合でも.II 類コンクリートであれば、基礎、主要構造部等建築基準法第37条に規定する部分に適用できると考えてよい。

なお、建築基準法第 37条の指定建築材料が適合すべき規格及び品質に関する技術的基準を定めた平成12年建設省告示第1446号の一部が平成28年6月13日に改正(国土交通省告示第814号)され、建築物の基礎や主要構造部等に使用するコンクリートが適合すべき日本工業規格は、JIS A5308(回収骨材を使用するものを除く)に改められた。

よって、従来、国土交通大臣の認定で必要であったエコセメントや再生骨材H を使用したコンクリートについても、平成28年版「標仕」からは、一部の材料の組合せや用途を除いて特記せずに使用できることとなった。但し、回収骨材を使用したコンクリートを使用する場合には従来通り国土交通大臣の認定を取得した上で、「標仕」6.2.1(d)に基づいて特記しなければならない。参考に、上記国土交通省告示第814号と同時に国土交通省住宅局建築指導課長から発出された、技術的助言 国住指第770号 平成28年 6月13日「建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すべき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術的基準を定める件の改正について」の抜粋を下記に示す。

建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すべき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術的基準を定める件の改正について(技術的助言)
(国住指第770号 平成28年 6月13日)建築基準法第37条の規定に基づく標記基準については、平成28年6月23日付け国土交通省告示第814号として別添のとおり公布されたので通知する。
中略

2. 改正概要
レディーミクストコンクリートに関する JIS A 5308が2014年に改正されたことを踏まえ、指定建築材料であるコンクリートが適合すべき日本工業規格として、JIS A5308(レディーミクストコンクリート)- 2014を定めることとする。ただし、当該 JISのうち、「回収骨材を使用するもの」については、建築材料として使用する場合における管理方法等の知見が得られたいないため、使用できないこととする。

2014年の JIS A 5308 のレディーミクストコンクリートの種類を表6.2.1 に示す。

表6.2.1 JIS A 5308 : (2019改正)によるレディーミクストコンクリートの種類
(注)荷卸し地点での値であり、50cm及び60cmがスランプフローの値である。

(d)「標仕」では、建築基準法第 37条第二号による国土交通大臣認定のコンクリートは,設計担当者が特記することとしているので、特記された場合には、認定条件等を十分に確認して使用することになる。

6.2.2 コンクリートの強度

(a)「標仕」ではコンクリートの設計基準強度は、36N/mm2 以下(軽量コンクリートでは 27N/mm2 以下)としている。

なお 従来、軽量コンクリートの設計基準強度は 27N/mm2 未満であったが、(一社)日本建築学会「JASS5 鉄筋コンクリート工事」の軽量コンクリート2種の規定に合わせ、平成 25年版「標仕」では 27 N/mm2以下に変更された。

高強度化が流れではあるが、4〜5階建て、数千m2 程度のRC造建築物では高強度コンクリートを使用することはほとんどない。

(b) 使用するコンクリートの強度とは、使用するコンクリートが本来保有していると考えられるポテンシャルの圧縮強度のことであり、荷卸し地点でコンクリート試料を採取し、標準養生した供試体の材齢 28日の圧縮強度で表される。 ポテンシャルの圧縮強度は、構造体コンクリートの強度が設計基禅強度を満足するように、設計基準強度に構造体コンクリートの強度と標準養生した供試体強度との差を考慮した値(構造体強度補正値(S):6.3.2(1)(ⅱ)を参照)を加えた調合管理強度以上でなければならない。

(c) 構造体コンクリートとは、型枠内に打ち込まれて養生され、硬化して構造体あるいは部材を形成しているコンクリートのことである。構造体コンクリートの強度は、初期に十分な湿潤養生が施されれば、材齢28日以降も長期にわたって強度が増進し、材齢 91日においても強度増進は続き、停止することはない。 しかし、コンクリート工事においては適切な材齢を定め、その材齢において設計基準強度を満足するように定める必要がある。建築基準法施行令第74条第1項第二号に基づき、昭和56年建設省告示第1102号の第1第二号では、コンクリートの強度は、コンクリートから切り取ったコア供試体について強度試験を行った場合に、材齢91日において設計基誰強度以上であることと定めている。「標仕」が定める構造体コンクリートの強度の基準となる材齢91日は、この告示の規定を適用したものである。

一方、実際のコンクリート工事において構造体コンクリートの強度をコア供試体で試験することは、構造体に損傷を与え、かつ、修復が必要となるため困難である。このため、一般には工事現場で使用するコンクリートから試料を採取し、構造体コンクリートと同じような強度発現をすると考えられる方法で養生した供試体の圧縮強度から構造体コンクリートの強度を推定し、品質管理を行っている。上記告示第1102号の第1第一号では、コンクリートの強度は、現場水中養生を行った供試体について強度試験を行った場合に、材齢 28日において設計基準がよく強度以上であることと定めている。「標仕」においても、この告示の規定に基づき構造体コンクリートの強度推定の管理材齢の一つとして28日を規定している。

なお、平成19年版「標仕」では、調合管理強度に相当する値は、材齢 28日を基準に、設計基準強度(Fc)、構造体コンクリートと供試体強度との差(△ F = 3 N/mm2 )、気温によるコンクリート強度の補正値( T ) を考慮して(Fc 十 △F+T )としていたが、平成22年版「標仕 」では、調合管理強度は、材齢 91日を基準に、△ FとTに代わり構造体強度補正値(S:「標仕」表6.3.2 を参照)を取り入れ( Fc+S )に改められている。

構造体コンクリートの強度とは、構造体あるいは部材そのものの強度ではなく、構造体あるいは部材の中に直径と高さの比が 1:2 の円柱を考え、仮にその円柱を圧縮試験したとするときに得られる強度であり、一般には構造体あるいは部材から切り取ったコア供試体の圧縮強度がそれに近いと考えられている。しかし、実際のコンクリート工事において、構造体コンクリートの強度をコア供試体で試験するのは困難である。このため、工事現場で採取した供試体を、構造体コンクリートと同じような強度発現をすると考えられる方法で養生した供試体の圧縮強度で表すこととした。

構造体コンクリートの強度に関する調査・研究によって、現場水中養生した供試体の圧縮強度は、材齢28日のコア供試体の圧縮強度より大きく、材齢91日のコア供試体の圧縮強度と同等かやや小さいことが分かってきた。また、現場封かん養生した供試体の圧縮強度は、現場水中養生した供試体の圧縮強度よりやや低いことも分かってきた。このため、「標仕」では現場水中義生した供試体あるいは現場封かん養生した供試体の圧縮強度を基に構造体コンクリートの強度を推定することとした。

(d)使用するコンクリートの強度及び構造体コンクリート強度の推定値の判定は、9節の6.9.4 及び 6.9.5 によって行う。6.2.2(b)でも記したように、使用するコンクリートとは.工事に用いるために工事現場に搬入したコンクリートのことであり、その強度は、コンクリートが本来保有していると考えられるポテンシャルの圧縮強度のことである。したがって、使用するコンクリートの強度は、荷卸し地点で採取して標準養生した供試体の材齢28日の圧縮強度で表すこととし、その値は調合管理強度以上でなければならず、かつ、JIS A5308(レディーミクストコンクリート)の呼び強度の強度値を満足しなければならない。

6.2.3 気乾単位容積質量

 

(a) コンクリートの気乾単位容積質量は、使用する骨材の密度や調合によって異なり、構造計算で固定荷重を算定するときに、鉄筋コンクリートの質量を求めるために用いる値である。平成25年版「標仕」から、従来の使用骨材の種類による区分から、新たにコンクリートの気乾単位容積質量による区分に変更され、そのための標準的な判断基準として、JASS 5 の規定値を参考に数値が示された。

(b) 軽量コンクリートの気乾単位容積質量は、別途「標仕 」10節で1種、2種の種類ごとに標準的な値の範囲が示されている。

6.2.4 ワーカビリティー及びスランプ

 

ワーカビリティーとスランプの関連等について次に示す。

(1) ワーカビリティーは、打込み場所並びに打込み方法及び締固め方法に応じて、型枠内並びに鉄筋及び鉄骨周囲に密実に打ち込むことができ、かつ、 粗骨材の分離が少ないものとする。また、スランプの所要値は、特記がなければ、基礎、基礎梁、土間スラブでは15cm又は 18cm、その他の部材では 18cmとする。

(2) ワーカビリティーは、運搬、打込み、締固め及び仕上げのフレッシュコンクリートの移動・変形を伴う作業の容易さとそれらの作業によってもコンクリートの均一性が失われないような総合的な性質であり、フレッシュコンクリートの流動性の程度を表すスランプとは別の概念である。

(3) 作業の容易さからいえば、スランプが大きく流動性が高いほうがワーカビリティーが良いといえるが、スランプが過大になると粗骨材が分離しやすくなるとともにブリーディング量が大きくなり、コンクリートの均一性が失われる。そこで、単位セメント量や細骨材率を大きくするとフレッシュコンクリートの粘性が大きくなり、粗骨材の分離は生じにくくなる。

(4) スランプを大きくし、かつ、単位セメント量や細骨材率を大きくすれば、見かけ上はワーカビリティー の良いコンクリートが得られる。 しかし 単位水量や単位セメント量が過大になると乾燥収縮率が大きくなってひび割れが生じやすくなるとともにセメントペーストやモルタル分の多いコンクリートとなって、打上りコンクリートの表面の品質が悪くなる。

(5) このため、作業の容易さだけでワーカビリティーを評価するのではなく、ブリーディングや骨材の分離ができるだけ少なくなるようにするという条件も考慮しなければならない。

(6) スランプは、打込み時のフレッシュコンクリートに要求される直要な品質項目の一つであるが、ここでいう所要スランプとは、荷卸し地点でのスランプである。所要スランプ18cmというのは、許容差を含めて考えればよく、その値は JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)の規定によれば ± 2.5cmである 。

スランプフローの基準
JIS A5308 2019年改正により
普通コンクリートにおけるスランプフローは
45±7.5cm,
50±7.5cm,
55±7.5cm,
60±10cm
の4種類となっている。

 

6.2.5 構造体コンクリートの仕上り

 

(a) コンクリート部材の位置及び断面寸法の許容差

(1) コンクリート部材の位置及び断面寸法は,所定の許容差の範囲内になければならないが、これは次の理由による。

(ⅰ) 構造体としての耐力及び耐久性の確保
(ⅱ) 仕上げ二次部材又は設備等の納まり上の要求

(ⅲ) 美観上の要求

(2) 部材の位置及び断面寸法の測定は,一般的には次のように行う。
特記された部材又はサンプリングした部材について、基準墨からスケール等を用いて測定する。 測定部分は両端及び中央の 3箇所程度行う。

柱・梁等は直接測定できることが多く問題は少ないが、床・壁等の断面寸法は、両側から測定して計算で求めると測定誤差がきく大なることがある 。 そこで、開口部等を利用して直接測定する。

むやみに測定項目や測定数を増やすことは、測定費用や時間を要し本来の目的から逸脱することになる。コンクリート部材の位置及び断面寸法は、型枠の変形等がなければ、型枠により決まるものであり、補修も困難であることから、コンクリート打込み前の型枠の設計・掛出し・組立等を確実に行うことが必要である。 コンクリート打込み後は型枠の変形が生じたと見られる部分等について、確認のために測定する。

(3) (1)及び(2)に基づいて各部材の位置及び断面寸法を測定し、その結果、位置及び断面寸法の精度が「標仕」表6.2.3 の許容値を満足しない場合は、「標仕」6.9.6 に従って監督職員に報告するとともに適切な処置等を講じなければならない。
(b) コンクリート表面の仕上り状態

(1) せき板に接するコンクリートの仕上り状態は特記によるが、コンクリートの打放し仕上げの場合は、「標仕」表6.2.4 の種別に応じた「表面の仕上り程度」を目安とする。コンクリートの仕上り状態を良好にするには、不陸を少なくするために変形量の少ない型枠設計を行い、コンクリート打込みの際は、目違い等が生じないようにコンクリートの締固めを行うことが重要である 。

(2) コンクリートの仕上りの平たんさは、せき板に接する面は型枠の変形等により、せき板に接しない床上面等は左官の均し精度により決まる。

平たんさの測定方法には、JASS5 で定められた JASS 5 T-604 (コンクリートの仕上がりの平たんさの試験方法)があるが、試験用器具が特殊で取扱い方法も難しいため、一般的には下げ振り、トランシット、レベル、水糸、スケール等を使用してコンクリート面の最大、最小を測定する方法等で行われている。

「標仕」表6.2.5 の平たんさの標準値は,仕上げの種類だけでなく、建物の規模や仕上り面に要求される見ばえ等によっても異なるので、適切な値を品質計画で提案させ、検討するとよい。

なお、25年版「標仕」では、表6.2.5 の対象となる柱、梁、壁の種類に「接着剤による陶磁器質タイル張り」が追加され、これに伴い従来のタイル工法は「セメントモルタルによる陶磁器質タイル張り」と名称が変更された。床についてもフリーアクセスフロアが追加された。 フリーアクセスフロアには,支柱調整式(下地床の不陸に伴う高さを調整する機能を有するも)のと置敷式(高さを調整する機能がなく、高さは下地床の精度に従うもの)の2 種類があり、支柱調整式は ±10〜15mm 程度の調整代があるため、従来からの「二重床」に含め、置敷式は新たに「フリーアクセスフロア(置敷式)」として追加された。

6章コンクリート工事 9節試験

第6章 コンクリート工事

9 節   試    験

6.9.1 適用範囲

構造材料として用いるコンクリートは、フレッシュ時及び硬化後の性質が設計時に用いた値を満足していることを確認することが必要であり、「標仕」9節[試験]は、そのために実施する試験の方法とその後の処置について記されている。

なお、平成22年版の「標仕」では削除されていた「軽易なコンクリート工事の場合は、監督職員の承諾を受けて、試験を省略することができる」との緩和処置は、平成25年版の「標仕」で再び取り入れられた。「軽易なコンクリート工事」とは、「コンクリートの用途が特に重要でない場合」や「使用するコンクリートの量が少ないなどの工事」で対象となる工事の規模・内容を含め、受注者等と協議を行い、適切な場合には、該当する試験を省略してもよい。

また、平成22年版までの「標仕」ではコンクリートに使用する材料の試験に関する規定を設けていたが、「標仕」6.2.1に規定される Ⅰ類コンクリートの場合は、使用する材料の試験を行う時期や頻度、項目が、I類コンクリートの製造区分に記される JIS Q1011(適合性評価ー 日本工業規格への適合性の認証一分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))で規定されているので削除された。ただし、Ⅱ類コンクリートの場合は、Ⅰ類と同じ品質管理が行われているとは限らないため、「標仕」5節[普通コンクリートの品質管理]の 6.5.l (a)(6)でⅡ類の品質管理が規定されている。

6.9.2 フレッシュコンクリートの試験

(a) フレッシュコンクリートの試験結果は、採取する試科によって異なる場合があるため「標仕」では試料の採取を製造工場ごとに行うこととし、その場所と採取の方法を定めている。

(1)フレッシュコンクリートの性状は、工場で製造されたのち現場へ運搬され、現場内で場内運搬される間に種々変化することがあるため、試験に用いる試料の採取場所としては型枠に打ち込まれる直前が望ましい。しかし、型枠に打ち込む場所で採取する場合には、作業上危険が伴ったり、試験場所まで試料を運搬する手間が生じなるど、作業が繁雑になる。平成22年版の「標仕」からは、JASS 5の品質管理方法と整合させ、軽量コンクリートであっても Ⅰ類コンクリートの場合は荷卸し地点で試料を採取することとなっている。ただし、荷卸しから打込み直前までの間で品質が著しく変動するような場合には、品質を代表すると考えられる箇所、段階で採取する必要がある。

(2)試料の採取方法は、平成22年版「標仕」では「JIS A5308(レディーミクストコンクリート)による」とし、JIS A 1115(フレッシュコンクリートの試料採取方法)附属書1(参考)[分取試料の採取方法]を間接的に参照していたが、平成25年版「標仕」では直接JIS A1115を試料の採取方法として改めた。

JIS A 5308及び JIS A1115の抜粋を次に示す。

JIS A 5308:2011

9. 試験方法
9.1 試科採取方法
試科採取方法は、JIS A 1115(フレッシュコンクリートの試料採取方法)による。

JIS A 1115:2005

3.試 料
採取した分取試料を集めて、一様になるまでショベル、スコップ又はこてで練り混ぜたものを試料とする。試料は、練り混ぜた後、直ちに試験に供する。

4.試料の量
試料の量は、20L以上とし、かつ、試験に必要な量より 5L以上多くしなければならない。ただし、分取試料をそのまま試料とする場合には、20Lより少なくてもよい。

5.分取試料の採取方法
分取試料は、試験しようとするコンクリートを代表するように 3か所以上から採取する。分取試科の採取方法は、附属書1(参考)による。

附属書 1 (参考)分取試料の採取方法

2.トラックアジテータから分取試料を採取する場合
排出されるコンクリートから、定間隔に 3回以上採取する。ただし、排出の初めと終わりの部分から採取してはならない。
なお、トラックアジテータで30秒間高速かくはんした後、最初に排出されるコンクリート 50~100Lを除いて採取することができる。
分取試料は、コンクリート流の全横断面から採取する。この場合コンクリートの排出の速度は、トラックアジテータの回転速度を変えることによって調節しなければならない。

注(3)採取する前に、材料が分離していないことを確認する。

3.コンクリートポンプから採取する場合
配管筒先から出るトラックアジテータ 1台分又は 1バッチと判断されるコンクリート流の全横断面から定間隔に 3回以上採取するか、排出されたコンクリートの山の 3か所以上から採取する。

(b)「標仕」では、フレッシュコンクリートの試験項目、試験方法並びに試験時間及び回数を「標仕」表6.9.1に示している。試験項目は、スランプ、空気量、単位容積質量、温度及び塩化物量となっている。単位容積質量は、一般的には軽量コンクリートが対象となるが、普通コンクリートについても必要に応じて行うことになっている。また、打込み時のコンクリートの温度は硬化後の品質に大きな影響を及ぼし、あまり高い場合には長期強度の増進や耐久性に支障を生じ、低い場合には凍結するおそれがある。そのため、「標仕」では、温度測定を打込み時の気温が 25℃を超える場合(平成22年版「標仕」までは「25℃以上」であったが,「標仕」6.6.2(a)と整合させて「25℃を超える」場合となった)、寒中コンクリート工事の場合、その他温度測定が必要な場合に行うとしている。2006年 9月に JIS A 1156(フレッシュコンクリートの温度測定方法)及び附属書(参考)[温度計の取扱い方法] が制定されたので、平成 22年版「標仕」 からは JIS A 1156が温度測定の試験方法として規定されている。

なお、アルコール温度計は、トレーサビリティーの確保が困難、作業中に破損しやすい、試料に温度計を挿入してから読み取るまでの時間がほかの温度計よりも長いなどの問題点があるため、バイメタル温度計やデジタル温度計等を使用することが望ましい。

荷卸し地点で試料を採取し、その場で試験又は供試体を作成する作業は、本来受注者等が実施すべきものであるが、従来はレディーミクストコンクリートの生産者や運搬者によって行われることが多かった。試験結果の公平性や加水等の不正防止等の観点から改善が望まれており、近年、受入れ検査を専門とする第三者機関が増えている。フレッシュコンクリートの試験は多くがJISの試験方法に基づいており、作業手順が比較的簡単で、装置・器具類に特殊なものが少ない反面、作業手順の間違いや装置・器具類の整備不良により試験結果に大きな影響を及ぼす場合があるため、試験作業者は十分な知識と技能を有していることが必要である。関東や関西等大都市園を中心として、性能評価機関によるコンクリートの受入れ試験に従事する作業者の技能認定が行われている。(一財)建材試験センターや(一財)日本建築総合試験所が実施している採取試験技能者認定制度によって平成 25年 5月現在 1,845名の試験技能者が認定され,両財団法入のホームページ等で認定者とその所属先等が公開されているので参考にするとよい。

(1) スランプ試験方法

(ⅰ) スランプの試験方法は、 JIS A 1101(コンクリートのスランプ試験方法)による。

JIS A 1101:2005

3. 試験器具
3.1 スランプコーン
スランプコーンは、図1のように上端内径100mm、下端内径200mm、高さ300mm及び厚さ 5mm以上の金属製(1)とし、適切な位置に押さえと取っ手(2)を付ける。
注(1)セメントペーストに容易に侵されないもので、試験時に変形しないもの。

(2)高さの約2/3の所。
JIS A 1101_3試験器具図1スランプコーン.jpg
図 1 スランプコーン

3.2 突き棒
突き棒は、直径16mm、長さ 500~600mmの鋼又は金属製丸棒で、その先端を半球状とする。

4.試料
試料は、JIS A 1115 の規定によって採取するか、又は JIS A 1138 の規定によって作る。

5.試験
試験は次による。
a)スランプコーン(3)は、水平に設置した剛で水平性があり平滑な平板(3),(4)上に置いて押さえ、試料はほぼ等しい量の 3層に分けて詰める。その各層は、突き棒でならした後、25回一様に突く。この割合で突いて材料の分離を生じるおそれのあるときは、分離を生じない程度に突き数を減らす。各層を突く際の突き棒の突き入れ深さは、その前層にほぼ達する程度とする。
注(3)スランプコーンの内面と平板の上面は、あらかじめ湿布などでふいておく。
(4)平板の水平の確認は、水準器を用いて行うのが望ましい。

b) スランプコーンに詰めたコンクリートの上面をスランプコーンの上端に合わせてならした後、直ちにスランプコーンを静かに鉛直に引き上げ(5)、コンクリートの中央部において下がりを 0.5 cm単位で測定し、これをスランプとする。
なお、コンクリートがスランプコーンの中心軸に対して偏ったり、くずれたりして、形が不均衡になった場合は、別の試料によって再試験する。
注(5)スランプコーンを引き上げる時間は、高さ30cmで 2~3秒とする。

c)スランプコーンにコンクリートを詰め始めてからスランプコーンの引き上げ終了までの時間は、3分以内とする。

6. 試験の結果
スランプは、0.5cm単位で表示する。

(ⅱ)JISでは、コンクリートの中央部の下がりを測ることになっているが、実際にどこを測定したらよいか分からない場合がある。この場合は、一般的には 図6.9.1に示す位置で測定するとよい。

図6.9.1スランプの測定位置(ZKT-201).jpg

図6.9.1    スランプの測定位置 (ZKT-201:2007より)

(ⅲ)現在製造されているほぼすべてのコンクリートに化学混和剤が使用されているが、その種類や気温等によってスランプや空気量が大きく経時変化する場合がある。スランプや空気量の変動は、コンクリートのワーカビリティーや硬化後の強度・耐久性・凍結融解抵抗性等に大きな影響を及ぼすため、試験時期及び回数については、平成 19年版までの「標仕」に示される「6.9.3(b)(1)(ⅱ)の試料の採取ごと」に加え、平成 22年版「標仕」からは、「打込み時に品質変化が認められた場合」が追加されている。

(2) 空気量試験方法

空気量の試験方法には、JIS A 1128(フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法ー空気室圧力方法)、JIS A 1118(フレッシュコンクリートの空気量の容積による試験方法(容積方法))及びJIS A 1116(フレッシュコンクリートの単位容積質量試験方法及び空気量の質量による試験方法(質量方法))の 3種類の方法がある。これらの内、最も多く使用されているのは、JIS A 1128である。この試験の実施においては、容器の上面とふたの下面の間の空間を水で満たす方法(注水法)と水を満たさない方法(無注水法)の 2種類の測定方法がある。測定精度としては注水法の方が優れているが、一般的には、測定終了後の試料の廃棄の問題から、多くの建設現場では、無注水法で空気量の試験が行われている。ただし、いずれの方法で実施する場合でも、空気が漏れないよう容器の上面とふたの下面を正しく一致させることが必要である。

JIS A 1128の抜粋を次に示す。

JIS A 1128:2005

3. 器具
3.1 空気量測定器 空気量測定器は.次のとおりとする。
a) 空気量測定器は、図1に示すようにコンクリートとふたとの間の空間に注水して試験するように造られたものとする。
備考 注水しないで試験するように造られたものを用いてもよい。
JIS A1128_3器具_図1空気量測定器.jpg
図 1 空気量測定器

b) 容器は、フランジ付きの円筒状容器で、その材質はセメントペーストに容易に侵されないものとし、水密で十分強固なものとする。また、容器の直径は、高さの 0.75~1.25 倍に等しくし、その容積は注水して試験する場合(注水法)少なくとも 5L とし、注水しないで試験する場合(無注水法)は 7L 程度以上とする。

さらに、容器はフランジ付きでふたと高圧下で密封される構造となっているものとし、内面及びフランジの上面を平滑に機械仕上げしたものとする。
c) ふたは、フランジ付きでその材質は容器と同様にセメントペーストに容易に侵されないものとし、水密で十分強固なもので、注水口及び排水(気)口を備えていなければならない。ふたの下面及びフランジの下面は、平滑に機械仕上げしたものとする。

d) ふたの上部には、容器の約5%の内容量をもつ空気室を取り付ける。
空気室は、圧力調整弁、空気ハンドボンプ、圧力計及び作動弁備えていなければならない。

なお、作動弁はふたと容器とを組み立てた場合に、100 kPaの圧力で空気及び水が漏れず、通常の使用圧力下において空気量の目盛で 0.1%以下の膨張に抑えられる剛性をもつものでなければならない。さらに、空気室内の高圧の空気を容器に噴出し、かつ、空気室に水が浸入しないような構造でなければならない。

e)圧力計は、容量約 100 kPa で 1 kPa 程度の感度のものとする。
その目盛板の直径は 9cm以上とし、容器中の空気量に相当する圧力の点に空気量の分率%(5.3 参照) を少なくとも8%まで目盛、また初圧力 ( 5.2参照)を明示したものとする。

f) キャリブレーションのため、必要な水量を簡単な操作で器外に取り出せるような器具(長さ 50nm のキャリブレーションパイプ、延長チューブ、図2参照)を用意する。

JIS A1128_3器具_図2キャリブレーションパイプ.jpg
図2 キャリブレーションパイプ
延長チューブを取り付けた一例

JIS A1128_3器具_図3圧力計の目盛板の例.jpg
図 3 圧力計の目盛板の一例

3.2 振動機
振動機は、JIS A 8610 に規定するものとする。

4    試料
試料は、JIS A 1115 によって採取するか、又はJIS A 1138によって作る。

5. 測定器のキャリブレ ーション
備考 測定器のキャリブレーションは 連続した測定の始めに行う。

5.1 容器のキャリブレーション

a) 容器を水平な場所に置き、容器のフランジに沿ってカップグリースを薄く塗る。

b) 容器の高さの 9割程度まで水を入れ、磨きガラス板を当て、残りの水を足しながらガラス板をフランジに沿って移動し、泡を残さないように水を悩たす。

c) このときの水温 ( t1 )℃をはかる。

d) 容器からあふれた水が付着している場合は、 水をふき取り、容器とガラス板の質量(m1)を 1g まではかる。

e) 容器内の水を捨て、容器に付着した水をふき取り容器の質量(m2)を1g まではかる。

f) ガラス板に付着した水をふき取りガラス板の質量(G1)を 1g まではかる。

g) 容器の容積は、次の式によって算出する。
Vc = (m1 - (m2 + G1))/ρw
ここに、ρw : 水温  ( t1 ) ℃のときの水の密度

5.2 初圧力の決定
初圧力の決定は、次のとおり行う。

a) 容器に水を満たし、ふたの表裏を通気できるようにしておいて、静かにふた (3) を容器に取り付ける。 ふたを取り付けた後、排水口を開け、ふたの裏側と水面との間の空気が追い出されるまで注水口から注水する。
注 (3) キャリブレーション器具(図2 参照)は、この際にふたに取り付けておく。
備考 無注水法の場合には、あらかじめ満水の質量をはかり(5.1 参照)、容器にふたを取り付けた後に、その質量だけ注水する。
b) すべての弁を閉じ、空気ハンドポンプで空気室の圧力を初圧力よりわずかに大きくする。 約 5秒後に調節弁を徐々に開いて、圧力計の指針を初圧力の目盛に正しく一致させる。

c)  作動弁を十分に開き、 空気室の気圧と容器内の圧力とを平衡させて圧力計を読み、その読みが空気量 0%の目盛と正しく一致するかどうかを調べる。これが一致しない場合には、空気及び水の漏れの有無、その他を点検した後、キャリブレーションを繰り返す。 2 〜 3 回繰り返したとき、圧力計の指針は同じ点を指すが,零点に一致しない場合には、初圧力の目盛の位置を、指針が零点にとどまるように移動する。 この後操作を繰り返し、初圧力の目盛の位置が適切であったかどうかを確かめる。
備考  無注水法の場合には、無注水用目盛( 図3 参照 )を読む。

5.3 空気量の目盛のキャリブレーション

空気量の目盛のキャリブレーションは、次のとおり行う。

a) 5.2 a) と全く同様の操作を行い、さらに、次の操作を行う。

1) 3.1 f) の器具を用いて容器内の水を約100~140ml(空気量で約 2%) メスシリンダーに取り出し、容器の容量に対する分率(%)で表す。

2) 容器内の気圧を大気圧に等しくして閉め切り、空気室内の気圧を初圧力まで高める。

3) 作動弁を開いて高圧の空気を容器内に導く。

4) 圧力計の指針が安定してから空気量の目盛を読む。

b) 再びa) に準じて容器内の水を取り出し、取り出した水量の和を容器の容量に対する分率(%)で表す。a) と同様にして空気量の目盛を読む。

c) 前記の採作を 4~5回(空気量 約 2%ピッチ)行い、取り出した水量の容器の容量に対する分率(%)と空気量の目盛とを比較する。

これらの値がそれぞれ一致しているときには、空気量の目盛は正しい。一致しない場合には、両者の関係を図示する。この図を空気量のキャリブレーションに用いる。

備考 圧力計を読む場合には、圧力計の針が安定するよう、毎回圧力計を指で軽くたたいてから読む。

6. 骨材修正係数の測定
骨材修正係数の測定は、次のとおり行う。(4)
注(4) 骨材修正係数は骨材が異なると変わる。通常同一のロットの骨材では一定としてよいが、随時試験によって確認することが推奨される。

a) 空気量を求めようとする容量 Vc のコンクリート試料中にある細骨材及び粗骨材の質量を、次の式によって算出する(5)。
mf = − VC/ VB ×  mf
mc = − VC/ VB × mc
ここに、
mf:容積 VC のコンクリート試料中の細骨材の質量(kg)
mc:容積 VC のコンクリート試料中の粗骨材の質(量kg)
VB:1 バッチのコンクリートのでき上がり容積 (L)
VC:コンクリート試料の容積(容器の容積に等しい)(L)
mf’:1 バッチに用いる細骨材の質量(kg)
mc’:1 バッチに用いる粗骨材の質量(kg)

注(5) 空気量の測定を行ったコンクリートから、150μmのふるいを用いてセメント分を洗い流し、骨材の試料を採取してもよい。

b) 細骨材及び粗骨材の代表的試料を、それぞれ質量で mf 及び mc だけ採取する 。 約 1/ 3 まで水を満たした容器の中に骨材を入れる。細骨材と粗骨材は混合して少しずつ容器に入れ、すべての骨材が水に浸されるようにする(6)。骨材を入れるときには、 できるだけ空気が入らないようにし、出てきた泡は速やかに取り去らなければならない。空気を追い出すために、容器の側面を木づち(槌)などでたたき、また細骨材を加えるごとに 25mmの深さに逹する まで突き棒で約 10 回突くものとする。

注(6) 試料骨材粒の含水状態を、コンクリート試科中の骨材粒の含水状態と同様にするため、5 分間程度水に浸すのがよい。

c) 全部の骨材を容器に入れた後、水面の泡 をすべて取り去り、容器のフランジとふたのフランジとをよくぬぐい、ゴムパッキンを入れ、ふたを容器に締め付け、排水(気)口から水があふれるまで注水する。次にすべての弁を閉じ、空気ハンドボンプで空気室の圧力を初圧力よりわずかに大きくする。約 5秒後に調節弁を徐々に開lいて、圧力指針を初圧力の目盛に一致させる。次に作動弁を十分に開き空気室の気圧と容器内の圧力とを平衡させて圧力計の空気量の目盛を読み、これを骨材修正係数  (G) とする(7)。

注(7) 必要があれば 5.3 c) によってこの読みを補正する。

7. コンクリートの空気量の測定

コンクリートの空気量の測定は、次のとおり行う。

a) 試料を容器の約1/ 3 まで入れ、ならした後、容器の底を突かないように各層を突き棒で 25回均等に突く。突き穴が なくなり、コンクリートの表面に大きな泡が見えなくなるように、容器の側面を10~15 回木づち(槌)などでたたく。さらに容器の約 2/ 3 まで試料を入れ、前回と同様の操作を繰り返す。最後に容器から少しあふれる程度に試料を入れ、同様の操作を繰り返した後、定規で余分な試料をかき取ってならし、コンクリート表面と容器の上面とを正しく一致させる。突き棒の突き入れ深さは、ほぼ各層の厚さとする。

b) 振動機で締め固める場合には、JIS A 1116 の 5.2(振動機で締め固める場合)によって行うものとする。 試料は2層に分けて入れ、各層の断面を3等分に分けて締め固める。振動機は、その層が底又は側面に触れないようにし、振動機を抜く際には、空気穴が残らないように注意する。 振動持続時間はコンクリートのワーカビリティーと振動機の性能によって定める。ただし、スランプ 8cm以上の場合は、振動機を用いない。

c) 容器のフランジの上面と、ふたのフランジの下面を完全にぬぐった後、ふたを容器に取り付け、空気が漏れないように締め付ける。排水口から排水されて、ふたの裏面と水面との間の空気が追い出されるまで軽く振動を加えながら注水口から注水する。最後にすべての弁を閉じる。

d) 空気ハンドボンプで空気室の圧力を初圧力よりわずかに大きくする。約 5 秒後に調節弁を徐々に用いて、圧力計の指針が安定するよう圧力計を軽くたたき、指針を初圧力の目盛に正しく一致させる。約 5秒経過後、作動弁を十分に開き、容器の側面を木づち(槌)などでたたく。

再び、作動弁を十分に開き、指針が安定してから圧力計の目盛を小数点以下1 けたで読む(7)。その読みを、コンクリートの見掛けの空気量(A1)とする。測定終了後は、ふたを外す前に注水口と排水(気)口を両方聞いて圧力を緩める(8)。

注(8) 容器及び空気室の両方の圧力を緩める前に作動弁を開かないように注意する。これを怠ると水が空気室に入り、その後の測定に誤差を生むことになる。

8. 計算

a) コンクリートの空気量
コンクリートの空気量(A)は、次の式によって算出する。
A = A1 − G
A : コンクリートの空気量 ( %)
A1:コンクリートの見掛けの空気量 (%)
G : 骨材修正係数(9)
注(9)  骨材修正係数が 0.1%未満の場合は、省略してよい。

b) ふるい分け前のコンクリートの空気量
試験した試料が 40mmより大きい最大寸法の骨材を用いたコンクリートの場合、ふるい分け前のコンクリートの空気量 (A) は、次の式によって算出する。
Af = 100 × A × Vc / ( 100 × Vt − A × Va )
Vc:ふるい後のコンクリートの全容積から空気量を差し引いた容積(m3
Vt:ふるい前のコンクリートの全容積から空気量を差し引いた容積(m3
Va:ふるい前のコンクリートの中の40mmを超える骨材の全容積(m3

c) モルタル部分の空気量
コンクリート中のモルタル部分の空気量(Am)は、次の式によって算出する。
Am = 100 × A × Vc / [100 × Vm + A( Vc − Vm )]
Vm : コンクリート中のモルタル部分の成分の 全容積から空気量を差し引いた容積(m3

(3) 単位容積質量
単位容積質量の試験方法は、JIS A1116(フレッシュコンクリートの単位容積質量試験方法及び空気量の質量による試験方法(質量方法))による。
空気量測定用容器の容積が正確に確認できている時には、この容器を用いて単位容積質量を測定してもよいことになっているので、空気量の試験を実施する際に質量も同時に測定しておけば、単位容積質量を容易に求めることができる。

(4) 温度
温度の測定は,JIS A 1156(フレッシュコンクリートの温度測定方法)による。フレッシュコンクリートの温度は,硬化後のコンクリートの品質に大きな影響を及ぽす重要な情報であるが、これまでは温度の測定方法に規定がなく、上限・下限の温度付近での温度管理は必ずしも適切ではなかった。現在フレッシュコンクリートの温度測定にはアルコール温度計が多く使用されているが、これらには JIS規格がなく、適正な校正が行われず、トレーサビリティーの確保も困難なうえ、実温度と比較すると 1℃程度低い温度を示す場合がある。また、アルコール温度計や水銀温度計は破損しやすく、作業中の危険を防止するためにも JIS A 1156附属書(参考)[温度計の取扱い方法]に従ってバイメタル温度計やデジタル温度計等に変更するのがよい。

JIS A 1156 の抜粋を次に示す。
JIS  A 1156: 2006

3. 試験用器具
a) 温度計
温度計は、接触方式の温度計とし、 0 ~ 50℃の測定範囲の目量が 1 ℃以下のものとする。
なお、温度計の校正は、JIS Z 8710に規定する 7.2(接触式温度計の校正方法)によって行う。

備考
接触方式とは、測定対象と温度計の検出部(感温部)とを物理的によく接触させて同じ温度に保ち、温度を測定する方法をいう。また、温度計の検出部とは、測定対象に接触し、その温度と同一温度になるべき部分をいう (JIS Z 8710参照)。

b) 容器
試料を受ける容器は、水密なものとし、内径(一辺) 及び高さが14cm以上かつ容量が2L 以上とする。(1)
注(1)  容器として一輪車を用いてもよい。

4. 試料
試料は、JIS A 1115 の規定によって 2L 以上採取する。

5. 測定方法
a) 試科を容器に入れ、直射日光や風などが当たらない平らな場所に静置する。
b) 温度計は、容器の中央部からほぼ垂直に挿入する。その際、温度計の検出部全体が試料に浸没するまで挿入する。 温度計を挿入した後、温度計周囲の試料表面を軽く押しなら(均)す。
c) 温度計は、示度が安定するまで静置し、試料に挿入した状態で示度を読み取り記録する。

参考  各温度計の取扱い方法は、附属書(参考)による。

d) 試料の採取から示度を読み取るまでの時間は、 5 分以内とする。

附属書(参考)温度計の取扱い方法
この附属書(参考は)、フレッシュコンクリートの温度測定方法における温度計の取扱い方法の標準を示すものであり、規定の一部ではない。

1. ガラス製棒状温度計による測定
ガラス製棒状温度計を用いてフレッシュコンクリートの温度測定を行う場合は、JIS Z 8705(ガラス製温度計による温度測定方法) によって行う。
ガラス製棒状温度計は、JIS B 7411(一般用ガラス製棒状温度計 ) に規定される全浸没温度計又は浸没線付温度計を用いる。

全浸没温度計を用いて温度測定を行う場合には、JIS B 7411 の 4.2 に従い、その液柱頂部がフレッシュコンクリートの表面と同一面又は 2 目盛以上、上方にならないように挿入する。

浸没線付温度計を用いて温度測定を行う場合は、球部(ガラス製棒状温度計の先端部分で、感温液が封入されている部分)から浸没線までをフレッシュコンクリート試料中に挿入するとともに、そのときの挿入深さは60mm以上とする。

温度計の示度の読取りは、上記条件に従って温度計をフレッシュコンクリートに挿入し、両者が熱的平衡に達した後、目盛面に垂直な方向から見て行う。

なお、熱的平衡に達するまでの時間(示度が安定するまでの時間)は、2 分以上とする。

全浸没温度計を感温液柱の一部を露出した状態で使用する場合、又は浸没線付温度計を正しくない浸没状態(浸没線まで挿入していない状態)で使用する場合には、温度計の示度に大きな誤差を生じることがあるので、浸没条件を満足しなければならない。

なお、温度計破損によるけがや試料へのガラス片混入等を防止するため、保護管の使用、又は飛散防止シート付きの温度計を使用することが望ましい。

2. 抵抗温度計等による測定

白金抵抗温度計やサーミスタ温度計等の抵抗式測温体による温度計を用いてフレッシュコンクリートの温度測定を行う場合は、JIS Z 8704(温度測定方法一電気的方法)によって行う。  抵抗温度計は、 JIS C 1603(指示抵抗温度計)などのJIS C 1604(測温抵抗体) 及び JIS C 1611(サーミスタ測温体) に規定された抵抗式測温体を用いたものとする。 温度計の示度の読取りは、検出部をフレッシュコンクリートに挿入し 両者が熱的平衡に達した後に行う。

なお、そのときの挿入深さは、ガラス製棒状温度計による測定と同様、60mm以上とする。

3. 熱電温度計による測定

熱電温度計を用いてフレッシュコンクリートの温度を測定する場合は、JIS Z 8704によって行う。熱電温度計は、JIS C 1601(指示熱電温度計)、JIS C 1602(熱電対)及び JIS C 1605(シース熱電対)に規定された熱電対を用いたものとする。温度計の示度の読取りは、検出部をフレッシュコンクリートに挿入し、両者が熱的平衡に達した後に行う。

なお、そのときの挿入深さは、ガラス製棒状温度計による測定と同様、60mm以上とする。

4. バイメタル式温度計による測定

バイメタル式温度計を用いてフレッシュコンクリートの温度を測定する場合は、JIS Z 8707(充満式温度計 及びバイメタル式温度計による温度測定法)によって行う。温度計の示度の読取りは、感温部全体をフレッシュコンクリートに挿入し、両者が熱的平衡に達した後に行う。

なお、熱的平衡に達するまでの時間(示度が安定するまでの時間)は、3分以上とする。

( 5 )  塩化物量試験

フレッシュコ ンクリートの塩化物含有量の試験方法は、 旧・(財)国土開発技術研究センターの技術評価を受け    た塩化物量測定器によることとしている。技術評価を受けた測定器の概要を表 6.9.1に示す 。

なお、これらの測定器による方法は簡易試験方法である。試験結果等に疑間が生じた場合は、 JIS A 1144( フレッシュコンクリート中の水の塩化物イオン濃度試験方法)によって確認するとよい。

また、最近では単位セメント量の増加や高性能 AE減水剤等の使用により試料ろ液の採取が困難な場合がある。 このような場合には、JIS A 1144 附属書A(規定)[ 試料ろ液の採取が困難なフレッシュコ ンクリート からの試 料ろ液の採取方法 ]によって試科ろ液を採取するとよい。

JIS A 1144 の抜粋を次に示す。

表6.9.1    技術評価を受けた塩化物量測定器の概要
表6.9.1 技術評価を受けた塩化物量測定器の概要.jpg
JIS   A 1144: 2010

附属書  A(規定)
試料ろ液の採取が困難なフレッシュコンクリートからの試料ろ液の採取方法

序文
この附属書は、粘性が高く試料ろ液の採取が困難なフレッシュコンクリート試料を水によって希釈し、試験に供する試料ろ液を採取する方法について規定する。

A.1  試験用器具
試験用器具は、次のものを用いる。

A.1.1  はかり
はかりは、ひょう量がフレッシュコンクリート試料とかくはん容器との合計量以上で、目量が 1 g 又はこれより小さいものとする。

A.1.2    かくはん容器
かくはん容器は、フレッシュコンクリート試料と水とを入れてかくはんを行っても漏れの生じない十分な大きさのものとする。
なお、かくはん時に転倒震とう(盪)を行う場合は、フレッシュコンクリート試料と水とを入れて転倒震とう(盪) ができる大きさのポリプロビレン製広口瓶などを用いるとよい。

A.2 希釈に用いる水
フレッシュコンクリート試料の希釈に用いる水は、蒸留法若しくはイオン交換法によって精製した水、又は逆浸透法、蒸留法、イオン交換法などを組合わせた方法によって精製した水とする。

JIS K 0557に規定する種別 A1以上又は日本楽局方に規定する精製水以上の純度に精製された水を用いるとよい

A.3 フレッシュコンクリート試料中の水の希釈倍率
フレッシュコンクリート試科中の水の希釈倍率は、3倍を標準とする。

A.4 フレッシュコンクリート試料のはかりとり量
フレッシュコンクリート試科は、2 kg 以上を 1 g のけたまではかりとる。

A.5 フレッシュコンクリート試料に添加する水の量
フレッシュコンクリート試料に添加する水の量は、次の式  (1)及び式(2)によって計算し、四捨五入によって 1g 単位で整数に丸める。

Wa = Ws × ( Dm − 1 )    ・・・(1)
Ws = (Ms × W)/ M ・・・(2)
ここに
Wa:フレッシュコンクリート試科に添加する水の量 (g )
Ws:フレッシュコンクリート試科中の水の質量 ( g )
Dm:フレッシュコンクリート試料中の水の希釈倍率
Ms :フレッシュコンクリート試料の質量(g)
W : 配合による 単位水量 (kg/m3)
M   : 配合によって求めたコンクリー トの単位容積質量  (kg/m3 )

A.6 フレッシュコンクリート試料の希釈方法
フレッシュコンクリート試科の布釈方法は、次による。

a) フレッシュコンクリート試科をはかりとる。フレッシュコンクリート試料は、かくはん容器に直接はかりとることが望ましい。

b) フレッシュコンクリート試料に A.5 で求めた規定量の水を加えかくはんする。かくはんは、フレッシュコンクリート試科中のセメントペーストと水とが十分に混ざり合い均質となるまで行う。

1 回目のかくはんが終了したらかくはん容器を静置し粗骨材 が 完全に沈降するのを待ち、この後、2回目のかくはんを行う。 2 回目のかくはんが終了したらかくはん容器を静置し粗骨材が完全に沈降するのを待つ。

なお、普通骨材を用いたコンクリートを試験する場合、かくはん容器をおよそ 5分間静置すれば、粗骨材が完全に沈降するとみなしてよい。

A.7 懸濁水及びモルタル分の採取並びに試料ろ液の抽出方法

希釈したフレッシュコンクリート試科からの試科ろ液の抽出は、次による

a) 希釈したフレッシュコンクリート試料の上部から懸濁水及びモルタル分の必要量を採取する。

b) 採取した懸濁水及びモルタル分から試料ろ液を抽出する。試料ろ液を抽出る方法は、次のいずれかとする。

なお、吸引ろ過によって試料ろ液を得るときに長い時間を要する場合には、ろ液が減圧環境下において蒸発し濃縮する可能性がある。また、環境温度が高いと蒸発が促進されるため、吸引ろ過以外の抽出方法をとることが望ましい。

1) 吸引ろ過
2) 加圧ろ過(圧搾)
3) 遠心分離

6.9.3 コンクリートの強度試験の総則
(a) コンクリートの強度試験には、調合管理強度の管理のための試験、型枠取外し時期を決定するための試験及び構造体コンクリートの圧縮強度を管理するための試験の 3 種類があり、それぞれの強度試験の回数は、製造工場ごとにコンクリートの品質のレペル及び品質変動状況等を勘案して「標仕」6.9.3 (a)のように定めている。

また、平成 25年版「標仕」では、軽量コンクリートも普通コンクリー トと同じ頻度で試験を行っても十分な品質管理が行えるとの判断から、普通コンクリートと同じ頻度で強度試験を行うことに変更された。

(b) コンクリートの強度試験の具体的方法として、 1 回の試験に用いる供試体の個数及び試料採取の方法、供試体の作製方法、養生方法及び養生温度並びに圧縮強度試験方法について「標仕」6.9.3 (b)では、次のように定めている。

(1) 1 回の試験の供試体の個数及び試料採取の方法

(i) 1 回の試験の供試体数は、「標仕」表 6.9.2 に示された「調合管理強度の管理試験用」、「型枠取外し時期の決定用」、「構造体コンクリートの圧縮強度推定用」等、試験の目的に応じてそれぞれ 3個必要である。

なお、構造体コンクリートの圧縮強度の推定試験 は、「標仕」6.9.5 に記されているように、現場水中養生を行って材齢 28日で行う推定試験と、現場封かん養生を行って材齢  28日を超え 91日以内で行う推定試験の 2種類がある。
なお、使用するセメントの種類やコンクリートの打込み・養生時期等によって、材齢 28日では所定の圧縮強度が得られないことが懸念される場合は、材齢 28日で推定試験を行うための供試体のほかに、材齢 28日を超え 91日以内で推定試験を行うための供試体を別途用意しておくとよい。

ただし、供試体の採取時期及びその方法は、調合管理強度の管理試験用とその他の試験用とで異なるので注意しなければならない(表6.9.2 参照)。

(ii) 「構造体コンクリートの圧縮強度推定用」の場合は、「標仕」 6 .9. 3 (a) の量を 1 回の試験ロットとし、この中から適切な間隔をあけて3台の運搬車を選び、各運搬車からコンクリート試料を採取して供試体を1 個ずつ合計  3 個作製する。1 回の強度試験にはこの 3個を使用する。  例えば、1 日の打込み量が 150m3 の場合は、0 ~50m3、 50~100m3、100~150 m3 のそれぞれ中程の連搬車から試料を採取し、供試体を1 個ずつ、合計 3 個作製することになる。「型枠取外し時期の決定用」も上記「構造体コンクリートの圧縮強度推定用」 と同様の方法で 3個の供試体を作製し、1 回の試験にこの 3個の供試体を使用する。
ただし、「調合管理強度の管理試験用」の場合は、「標仕」6.9.3 (a)の量を 1回の試験ロットとし、この中の任意の運搬車を1 台選び、この運搬車からコンクリート試料を採取して同時に3個の供試体を作製し、これを1 組として1 回の強度試験を行う(表6.9.2 参照)。

「標仕」に基づき、1 日の普通コンクリー トの打込み量が 270m3 の場合の、供試体の採取例を表 6.9.2 に示す。

表 6.9.2  供試体の採取例
表6.9.2_供試体の採取例.jpg
(2) 供試体の作製方法

供試体は、JIS A 1132(コンクリート強度試験用供試体の作り方 )に基づいて工事現場で作製する。コンクリートを詰め終えてから 16 時間以上 3日以内に脱型し、「標仕」6.9.3 (b)(3)に規定される試験の目的に応じた養生方法で養生を行う。ただし、現場封かん養生を行う場合は、6.9.3 (b)(3)(ⅱ) ①から③までを参考にして行う。

なお、平成 25年版「標仕」ではコンクリートを打ち込んでから脱型するまでの時間が JIS A 1132に準拠して変更されたので注意しなければならない。
また、供試体を作製したのち、すぐに、直射日光や風が当たらない屋内に静置し、脱型するまでの 24 時間から 48 時間の間はコ ンクリート表面が乾燥しないように湿布やフィルム等で覆うようにすることが重要である。

JIS A 1132の抜粋を次に示す。

 JIS  A  1132 : 2006

4 圧縮強度試験用供試体

4.1 供試体の寸法   
供試体は、直径の 2倍の高さをもつ円柱形とする。その直径は、粗骨材の最大寸法の 3倍以上、かつ、100mm以上とする。
参考)供試体の直径の標準は、100mm、125mm、150mmである。粗骨材の最大寸法が 40 mmを超える場合には、40mmの網ふるいでふるって 40mmを超える粒を除去した試料を使用し、直径150mmの供試体を用いることがある。ここで、40mmの網ふるいとは、JIS Z 8801-1に規定する公称目開き 37.5mmの網ふるいのことをいう。

4.2 器 具   
器具は、次による。
a) 型枠は、非吸水性でセメントに侵されない材料で造られたものとする。

b) 型枠は、供試体を作るときに漏水のないものとする。

参考
幾つかの部品からなる型枠の場合、その継ぎ目には油土、硬いグリースなどを薄く付けて組み立てる。

c) 型枠は、所定の供試体の精度が得られるものとする。

d) 型枠の内面には、コンクリートを打ち込む前に鉱物性の油又は非反応性のはく離材を薄く塗るものとする。

e) 突き棒を用いて締め固める場合、突き棒は、先端を半球状とした直径16mm、長さ約 500~600mmの丸鋼とする。

f) 内部振動機によって締め固める場合振動機は JIS A 8610に規定されるものとする。振動機の棒径は,供試体の最小寸法の1/4以下(1)とする。

注(1)  φ100mmの 供試体の場合、棒径28mmを用いてもよい。

g) 振動台式振動機によって締め固める場合、振動機は JIS A 8611に規定されるものとする。

備考 振動台式振動機又はその他の方法によって締め固める場合、対象となるコンクリート試科を十分締め固めることのできる性能のものとする。

4.3 コンクリートの打込み

4.3.1 コンクリートの詰め方  
コンクリートは、2層以上のほぽ等しい層に分けて詰める。各層の厚さは160mmを超えてはならない。

4.3.2 突き棒を用いる場合
各層は少なくとも1000mm2 に1回の割合で突くものとし、すぐ下の層まで突き棒が届くようにする。突いて材料の分離を生じるおそれのあるきとは、分離を生じない程度に突き数を減らす。

4.3.3   内部振動機を用いる場合  
内部振動機はコンクリート中に鉛直に挿入する。最下層を締め固める場合は、型枠底面から約 20mm上方までの深さまで突き入れる。最下層以外を締め固める場合は、すぐ下の層に 20mm程度差し込むようにする。
振動締固めは、大きな気泡が出なくなり、大きな骨材の表面をモルタル層が薄く覆うまで続ける。その後、振動機によってできた穴を残さないようにゆっくりと引き抜く。

4.3.4  振動台式振動機を用いる場合
型枠は振動台に取り付けるか、強固に押し当てる。振動締同めは、大きな気泡が出なくなり、大きな骨材の表面をモルタル層が薄く覆うまで続ける。振動のかけすぎは避けなければならない 。

4.3.5 上面のならし
型枠の上端より上方のコンクリートは取り除き、表面を注意深くならす。

備考
キャッピングを行う場合は、コンクリート上面が、型枠頂面からわずかに下になるようにする。

4.4 供試体の上面仕上げ

4.4.1 キャッピングによる場合
キャッピングは、次による。
a) キャッピング用の材料は、コンクリートによく付着するもので、かつ、コンクリートに悪影響を与えるものであってはならない。
b) キャッビング層の圧縮強度は、コンクリートの予想される強度より小さくてはならない。
c) キャッピング層の厚さは、供試体直径の2%を超えてはならない。

4.4.2  研磨による場合
研磨によって上面を仕上げる場合は、コンクリートに悪影響を与えないように行う。

4.4.3   アンボンドキャッピングの場合    
供試体打込み時に硬化後の平面度(2)が 2mm以内になるように仕上げなければならない。この供試体を強度試験に適用する場合には、JIS A 1108 の附属書による。
注(2) ここでいう平面度は、平面部分の最も高い所と最も低い所を通る二つの平行な平面を考え、この平面間の距離をもって表す。

4.5 供試体の形状寸法の許容差
供試体の形状寸法の許容差(3) は、次による。
a) 供試体の寸法の許容差は、直径で 0.5 %以内、高さで  5 %以内とする。
b) 供試体の載荷面の平面度は、直径の0.05%以内とする。ただし、JIS  A 1108 の附属書による場合の上面は除く。
c) 載荷面と母線との間の角度は、 90 ± 0.5゜とする。
注(3) 検定された型枠を用いて供試体を作る場合には、 a) 、 b) 及び c) に示した各項目の測定は省略してもよい。

附属書 1(参考) コンクリートの打込み方法
序文 この附属書(参考)は、コンクリートの打込み方法の標準を示すものであり、規定の一部ではない。

1. 圧縮強度試験用供試体の場合

1 .1  突き棒を用いる場合
コンクリートは 各層ごとに、型枠の軸にほぼ対称となるように入れ、その上面を突き棒でならす。
直径150mm、高さ300mmの 供試体の場合は、 3層に分けて詰め、各層を突き棒で25 回突く。直径の150mm以外の供試体については、各層の厚さを 100~150mmとし、上面積 700mm2について 1 回の割合で突く。
突き終わった後、型枠側面を木づち(槌)で軽くたたいて、突き棒によってできた穴がなくなるようにする。

1.2 内部振動機を用いる場合   
直径100 ~ 200mmの供試体に対しては、コンクリートをほぽ等しい2層に分けて詰める。各層ごとに、型枠の軸lにほぼ対称となるようにコンクリートを入れ、振動機を用いて締め固める。
振動機は、1層につき上面積約 6000mm2について1回の割合で差し込む。 上層のコンクリートは、振動機を差し込む際にモルタルがあふれ出るほど詰め込まない。振動機を抜き終わったら型枠側面を木づち(槌)で軽くたたく。

1.3 振動台式振動機を用いる場合   
型枠の軸にほぼ対称になるようにコンクリートを詰め、振動を与えて締め固める。
JIS A 1132: 2006

(3) 養生方法及び養生温度

(i) 供試体の養生方法は標準養生、現場水中養生及び現場封かん養生の3種類で、表 6.9.2 により、調合管理強度の管理試験用供試体の場合は  20 ± 2℃の水中養生(標準養生)とする。構造体コンクリートの強度推定用供試体の場合は、養生温度をできるだけコンクリートを打ち込んだ構造体に近い条件にした現場水中養生及び現場封かん養生とする。また、型枠取外し時期決定用の供試体の場合は、現場水中養生とする。

 解説
標準養生の規定が、20 ± 2℃の水中養生であるのは、JIS A 1132(コンクリート強度試験用供試体の作り方)による。JASS 5(2015年)によると、JIS A 0203により「温度を 20 ±3 ℃に保った水中、湿砂または飽和水蒸気中で行う供試体の養生」という用語の定義がある。
(ii) 現場封かん養生は次に示す方法を参考にして行う。

① JIS A 1132を参考に、コンクリート試料を型枠へ詰め込み、締め固めたのち、コンクリートの水分が逸散しないようにラッピングフィルム等で上面を密封する。
② 屋外の直射日光の当たらない場所に速やかに移動・静置し保管する 。
③ 鋼製型枠を使用する場合は、コンクリートを詰め終わってからおおむね 16時間から 72時間の間に脱型する。その後、再度ラッピングフィルム等で全面を密閉し、屋外の直射日光の当たらない場所に強度試験を行うまで静置・保管する。
なお、軽量型枠を使用する場合は、コンクリート試科を型枠に詰め込んでラッピングフィルム等で密閉したままの状態で、強度試験を行うまで屋外の直射日光の当たらない場所に静置・保管する方法もあるが、この方法はあくまでも簡易的な方法であり、「標仕」では、基本的には鋼製型枠を使用する場合と同様の手顛で行うことが求められている。
(iii) 現場水中養生の場合は、直射日光が当たらない屋外に水槽を設置し、型枠脱型後直ちに水槽に浸漬し、強度試験を行うまで保管する。
なお、現場水中養生における養生温度は、水槽内の最高及び最低の水温を毎日測定し、養生期間中の全測定値を平均した値とする 。
( 4 )   圧縮強度試験方法
圧縮強度試験は、 JIS A 1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)によって実施し、1 回の 試験結果の平均値は、「標仕」6.9.1 式に基づいて3 個の供試体の圧縮強度から求める。また、3 回の試験結果の平均値は、「標仕」6.9.2 式に基づいて 3 回の圧縮強度の平均値から求 める。
JlS  A 1108の抜粋を次に示す。
JlS  A 1108 :  2006

3. 供試体
供試体は、次のとおりとする。
a) 供試体は、JIS A 1132によって作製する(1)。 また、 供試体は、所定の養生が終わった直後の状態で試験が行えるようにする(2)。
注(1) 試験を行う供試体の材齢が指定されていない場合には、1 週、4 週及び13週、又はそのいずれかとする。
注(2) コンクリートの強度は、供試体の乾燥状態や温度によって変化する場合もあるので、養生が終わった直後の状態で試験を行う必要がある。
b) 損傷又は欠陥があり、試験結果に影響すると考えられるときは、試験を行わないか、又はその内容を記録する。
4. 装 置
装置は、次のとおりとする。
a) 試験機は、JIS B 7721 の 7.(試験機の等級) に規定する1 等級以上のものとする。
b) 上下の加圧板は鋼製とし、圧縮面は磨き仕上げとする(3)。
注(3) 加圧板は、JIS B 7721 附属書 B に示す。
5. 試験方法
試験方法は、次のとおりとする。
a) 直径及び高さを、それぞれ 0.1mm及び 1mmまで測定する。 直径は、供試体高さの中央で、互いに直交する2方向について測定する。
b) 試験機は、試験時の最大荷重が指示範囲の 20~100%となる範囲で使用する。同一試験機で指示範囲を変えることができる場合はそれぞれの指示範囲を別個の指示範囲とみなす。
参考)試験時の最大荷重が指示範囲の 90%を超える場合は、供試体の急激な破壊に対して、試験機の剛性などが試験に耐えうる性能であることを確認する。
c) 供試体の上下端面及び上下の加圧板の圧縮面を清掃する。
d) 供試体を、供試体直径の1%以内の誤差で、その中心軸が加圧板の中心と一致するように置く。
e) 試験機の加圧板と供試体の端面とは、直接密着させ、その間にクッション材を入れてはならない。ただし、アンボンドキャッピングによる場合を除く[アンボンドキャッビングの方法は、附属書1(規定)による。]。
f ) 供試体に衝撃を与えないように 一様な速度で荷重を加える。 荷重を加える速度は、圧縮応力度の増加が毎秒 0.6 ± 0.4 N/mm2 になるようにする。
g) 供試体が急激な変形を始めた後は、荷重を加える速度の調節を中止して、荷重を加え続ける。
h) 供試体が破壊するまでに試験機が示す最大荷重を有効数字3けたまで読み取る。
6. 計 算
圧縮強度は、次の式によって算出し、四捨五入を行って有効数字3 けたに丸める。
fc = P / ( π × ( d / 2 )2)
fc :圧縮強度 (N/mm2)
P: 5.h) で求めた最大荷重 (N)
d: 5.a) で求めた供試体の直径 (mm)
附属書1(規定) アンボンドキャッピング
1. 適用範囲  
この附属書は、ゴムパッドとゴムバッドの変形を拘束するための鋼製キャップを用いて、圧縮強度が10 ~ 60N/mm2 の 圧縮強度試験用供試体のキャッピング方法について規定する。
2. 一般事項  
この附属書に規定のない事項については、本体による。
3. 用語の定義
a) 鋼製キャップ
コンクリート供試体の上端の一部を覆うとともに、圧縮強度試験時に鋼製キャップ内に挿入したゴムパッドの水平方向水に対する変形を拘束できる金属製のキャップ。
b) ゴムパッド
鋼製キャップ内に挿入して、コンクリート供試体の打設面の凹凸を埋めるため にクロロプレン又はポリウレタンによって作られた円板状のゴム。
4. 試験用器具
4.1 鋼製キャップ
焼入れ処理を行った S45C 鋼材、SKS鋼材などを用い、圧縮試験機と接する面の平面度が、0.02mm以内であることを確認したものとする。また、鋼製キャップの寸法は、附属書1図1を参照して附属書1 表1 に示す値とする。
附属書1図1鋼製キャップ.jpg
附属書1図1  鋼製キャップ
附属書1表1  鋼製キャップの寸法
附属書1表1鋼製キャップの寸法.jpg
4.2   ゴムパッド
ゴムパッドの外径は、附属書1表1 に示す鋼製キャップの内径とほぼ等しいもので、厚さは 10mmのものとする。また、ゴムパッドの品質は附属書1表2 による。
附属書1表2 ゴムパッドの品質
附属書1表2ゴムパッドの品質.jpg
4.3 ゴム硬度計
ゴム硬度計は、JIS K 6253 に規定するタイプ A デュロメータを用いる。タイプ A デュロメー タの一例を、附属書1図2 に示す。
附属書1図2タイプAデュロメーターの一例.jpg
附属書1図2    タイプA デュロメー タの一例
5. ゴムパッドの硬さ
5.1 測定方法
ゴムパッドの硬さの測定方法は、次による。
a) ゴムパッドを鋼製キャップに挿入した状態で、パッドの外周から中心点に向かって約20mmの位置の 3か所を測定位置とする。 このとき、各測定位置はそれぞれ等間隔に選定するものとする。
b ) それぞれの測定位置においてゴム硬度計を垂直に保ち、押針がゴムパッドに垂直になるように加圧面を接触させる。
c) ゴム硬度計をゴムパッドに押し付け、5秒後の指針の値を読み取る。 このとき、押しつける力の目安は 8 ~10 N程度とするのがよい(1)。
注(1) ゴムパッドの硬さの測定には、オイルダンパを利用した定荷重装置を用いると安定した試験値が得られる。
d)  3個のゴム硬さの測定値から平均値を求め、これを整数 2けたに丸めてゴム硬さの試験値とし、この値と測定時のゴムパッドの温度(2)とを、次の式に代入して、20℃でのゴム硬さに換算する。
K20 = 1.08 × T0.03 × Ki0.96
ここに、
K20 : 温度 20℃でのゴム硬さの換算値
T:測定時のゴムパッドの温度(℃)
Ki : ゴム硬度計の読み
注(2) ゴムパッドの硬さの測定値は、ゴムパッドの温度によって相違する。ゴムパッドの温度を直接測定することができない場合で、ゴムパッドの温度と室温とに差胃がないと考えられるときには、室温を計算に用いてもよい。
5.2 使用限度の判定
未使用時の硬さに対して、測定した硬さが 2 を超えて低下した場合は、新しいものと交換しなければならない。
6. キャッピングの方法
6.1 準 備
新しいゴムパッドを使用する場合は、附属書1 図1 に示すように鋼製キャップの内面にゴムパッドを挿入し、鋼製キャップとゴムパッドとの間に空気が残らないよう、150kN程度の荷重を 2~3回載荷する 。
6.2 方 法
供試体の上面がゴムパッドに接するように鋼製キャップをかぶせる。 コンクリート供試体の側面と鋼製キャップの内側面とが接することのないよう、鋼製キャップの位置を調整する。
JIS  A 1108:2006

(5)   試験の目的
供試体の養生方法、試験の材齢、1 回の試験の供試体の個数及び試験の回数は、「標仕」表 6.9.2 による。ただし、寒中コンクリートの場合は「標仕」表 6.11.1による。

6.9.4 調合管理強度の管理試験
(a) 調合管理強度の管理に使用する供試体と構造体コンクリートの圧縮強度の推定に使用する供試体はいずれも同様のものであるが、採取方法や養生方法が異なるため判定基準も異なる。
平成 22年版「標仕」からは、使用するコンクリートを原則 I 類コンクリートとし、コンクリート発注時の呼び強度の強度値を「標仕」6.3.2 で定める調合管理強度以上としている。これにより、発注したコンクリートの強度の管理試験は、JIS A 5308(レディー ミクストコンクリート)の 4.1 a) の「購入者が指定した呼び強度の強度値」を「調合管理強度」に読み替え、同 4.1a) 1) 及び 2) の品質規定に整合させている。
1 回及び 3 回の試験結果の平均値は、「標仕」6.9.3 (b)(4)に示される 6.9.1 式及び 6.9.2 式によって求める。
なお、調合管理強度の管理試験に使用する供試体は、「標仕」6.9.3(b)(1)(ii) 及び「標仕」 6.9.3(b)(3)(i) 並びに「標仕」表  6.9.2 に示すものを使用し、他の供試体と区別して使用するように注意する。
(b) 試し練りの調合強度の判定基準については、 JASS 5 にも規定されておらず、現状では明確な判断基準はない。ただし、(一社)日本建築学会「コンクリートの調合設計指針・同解説」において「(試し練り試験の)圧縮強度試験の結果の判断基準については、圧縮強度のばらつきを考慮して所定の材齢において調合強度の0.95倍以上が得られることを目安とすればよい」と記載されており、行う場合にはこれを参考にするとよい。

6.9.5 構造体コンクリート強度の推定試験
(a)「標仕」によれば、構造体のコンクリート強度は「標仕」  6.2.2(c)(1) に規定される「材齢 91日において設計基準強度以上」でなければならないが、 6.2.2 (c) に記したように、実際のコンクリート工事において構造体のコンクリート強度をコア供試体で試験することは、構造体に損傷を与え、かつ、修復が必要となるため実施が困難である。そのため、「標仕」6.2.2(c)(2)に基づいて、「標仕」6.9.5(a)では構造体のコンクリートと同じような強度発現をすると考えられる方法で養生した次の 2種類のうちいずれかの供試体を用い、その圧縮強度から構造体のコンクリート強度を推定し、品質管理を行っている。
一つは、コンクリートを打ち込んだ構造体に近い温度条件の水中で養生(現場水中養生)した供試体を用いて、従来と同様材齢 28 日で推定試験を行う方法である。もう一つは、使用するセメントの種類やコンクリートの打込み・養生時期等によって材齢 28日では所定の圧縮強度が得られないことが推定される場合に、現場封かん養生した供試体を用いて材齢 28日を超え 91日以内で推定試験を行う方法である。
平成 22年版「標仕」までは、基本として材齢 28 日で推定試験を行い、その結果圧縮強度が判定基準を満足しなかった場合に、次の判定方法として材齢 28日を超え材齢 91日以内の推定試験を用意していた。一方、平成 25年版「標仕」では、このいずれかを満足すれば合格することとなった。
(1) 現場水中養生した供試体を用いて材齢 28 日で行う場合の試験結果の判定は、材齢 28日までの平均気温(毎日、養生水槽の水温の最高及び最低を測定し、養生期間中の全測定値を平均した値)が 20℃ 以上の場合と未満の場合で区別し、次の (i) 又は (ii) のいずれかの基準に満足すれば合格となる。
(i) 平均気温が20℃ 以上の場合は、 1回の試験結果( 3個の供試体の平均値)が調合管理強度以上である。
(ii) 平均気温が20℃ 未満の場合は、 1回の試験結果( 3個の供試体の平均値)から 3N/mm2を減じた値が、設計基準強度以上である。
この試験は、「標仕」6.9.4 に規定される JIS A 5308(レディー ミクストコンクリート)に準じた保証条件と異なっているが、 2009 年に改定された JASS 5 の構造体コンクリートの品質管理方法の考え方に基づき、平成 22 年版「標仕」のコンクリー ト調合設計で取り入れられた構造体強度補正値(S)と調合管理強度の考え方に基づく品質保証の方法であり、供試体の養生方法や養生期間中の平均気温、使用するセメントの種類等各種条件が考慮されている。
(2) 平成 22年版「標仕」では、上記(1)の (i) 及び (ii) を満足しなかった場合に、現場封かん養生を行った供試体を使用して、材齢 28日の圧縮強度の平均値が設計基準強度の 0.7 倍以上であり、かつ、材齢 28日を超え 91日以内の材齢の圧縮強度の平均値が設計基準強度に 3 N/mm2 を加えた値以上であれば合格としていた。これは、昭和 56年建設省告示第1102号の第1第二号のコンクリートの強度の規定、「コンクリートから切り取ったコア供試体又はこれに類する強度に関する特性を有する供試体について強度試験を行った場合に、材齢が 28日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値に 7/10 を乗じた数値以上であり、かつ、材齢が 91日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値以上であること。」等に基づくものであった。
しかし、近年では、強度発現の極めて遅いセメントを用いて管理材齢を最も長く ( 91日程度)取った場合を除けば、材齢 28日の圧縮強度が設計基準強度の 0.7 倍を下回るような状況にほとんどの場合至らず、JASS 5 でも 1997年の改定でこの条件が削除されている。これらのことから、平成25年版「標仕」では、この条件が判定基準から削除された。
(3) 国土交通省大臣官房官庁営繕部では、官庁営繕工事を対象に、平成 23年 5月から平成 24年 9月に打ち込まれた構造体コンクリートの材齢 28日の現場水中養生供試体と現場封かん養生供試体の圧縮強度の関係について調査を行った。その結果、図6.9.2 に示すように、設計基準強度 18 ~ 36N/mm2 で普通ポルトランドセメントを使用したコンクリートの材齢 28日の現場封かん養生供試体の圧縮強度は、同じく材齢 28日の現場水中養生供試体の圧縮強度の 0.94倍( 平均値 )で、95%の信頼限界では 0.82倍に相当することが確認されている。
前記のように現行では告示 1102号第1第二号で「材齢 28日の圧縮強度が設計基準強度の 0.7 倍以上」であることが規定されているため、建築主事から試験結果を要求されるような場合には、「標仕」6.9.5(a)(2)の規定にかかわらず、現場封かん養生した供試体を用いて材齢 28日で行った圧縮強度試験の結果が設計基準強度の 0.7 倍以上であることを示さなければならない。
しかし、現場封かん養生した供試体の材齢 28日の圧縮強度試験結果がない場合でも、現場水中養生した供試体の材齢 28日の圧縮強度試験結果があれば、図6.9.2 の調査結果を基に、現場水中養生した供試体の圧縮強度試験結果から現場封かん養生した供試体の圧縮強度を推定し、その結果に基づいて告示の規定を満足していることを提示し判断を仰ぐ方法もある。ただし、上記調査結果は普通ポルトランドセメントを使用した場合のものであり、その他のセメントを使用する場合には図6.9.2 の相関関係は適用できないので、「標仕」 6.9.5(a)(2)の規定にかかわらず、現場封かん養生した供試体を用いて材齢 28日の試験を行うよう計画することが望ましい。
図6.9.2現場封かん養生供試体と現場水中養生供試体の材齢28日圧縮強度の関係.jpg
図6.9.2 現場封かん養生供試体と現場水中養生供試体の材齢 28日圧縮強度の関係
(b) 平成 22年版「標仕」までは、材齢 28日を超え 91日以内に実施した構造体のコンクリート強度の推定試験結果が、その判定基準を満足せず不合格となった場合に行う処置を「標仕」6.10.6 (c)(平成 25年版「標仕」6.9.5 (b)に相当)で規定していた。しかし、平成 25年版「標仕」では、「標仕」6.9.5(a)に規定される推定試験で不合格になった場合に行う処置に改められた。供試体の採取は、数多く搬入されるトラックアジテータの内から数台を抜き取って行うものであり、必ずしも構造体を代表するものになるとは限らない。そこで、不合格になった場合には、構造体からコア供試体を抜き取り JIS A 1107(コンクリー トからのコアの採取方法及び圧縮強度試験方法)等監督職員が承諾した方法に従って、必要な圧縮強度が得られているか確認することになっている。
コア供試体の圧縮強度は採取する位置によって異なるため、コア供試体の抜取り位置の承諾に当たっては設計担当者の意見を聞いたうえで、使用したコンクリートを代表する位置を定める。 その他の圧縮強度の推定方法としては, 超音波伝播速度を測定したり、JIS A 1155(コンクリートの反発度の測定方法)によってリバウンドハンマー(シュミットハンマー)の反発度を測定する方法等があるが、コア供試体を用いた試験に比べると精度が悪いので、適用に際しては十分な注意が必要である。

6.9.6 構造体コンクリートの仕上り及びかぶり厚さの確認

(a) 部材の位置・断面寸法、表面の仕上り状態、仕上りの平たんさ、打込み欠陥部、ひび割れ及びかぶり厚さは、構造体コンクリー トに求められる所要の強度や耐久性等の性能を間接的に表す重要な指標である。これまでの「標仕」では、型枠作業でコンクリート打込み前に型枠の位置や寸法等の確認を行い、不具合がある場合は修正等を行うことになっていた。平成 25 年版「標仕」は、  更に出来上った構造体に対する検査が新たに盛り込まれた。これに伴って、あらかじめ、試験・測定の方法、判定の基準、実施時期、サンプリング方法や数及び検査に適合しなかった場合の処置等を、受注者等や設計担当者等と協議して定めておくことが必要となった。

なお、仕上り状態やかぶり厚さの確認作業は、一般的には受注者等自身が行う場合と受注者等が第三者に委託して行う場合のいずれかであるが、第三者が行う場合は、上記協議の際に第三者のこれまでの作業実績、資格・技能等を確認し、不十分と考えられる場合は、受注者等に十分な実績、資格・技能等を有する第三者を選定するよう指示することが重要である。

(1) 確認・検究の時期は、せき板や支柱等を取り外したあとが一般的で、内外装の仕上工事が始まるまでに行わなければならない。 次の測定方法、試験方法等と同様、あらかじめ受注者等と協議して時期を明確に定めておくことが重要である。また、報告は、判定基準に基づいて不適合となった場合だけでなく、適合した場合にも試験・測定結果とともに報告させることが重要である。
なお、不適合の場合には、設計担当者と打合せを行うことが必要である。

(2) コンクリート部材の位置及び断面寸法は、6.2.5 でも記しているように、一般的には次の (i)から(iii)の要求条件から所定の許容差の範囲になければならず、「標仕」では 6.2.5の表6.2.3でこの許容差の値を定めている 。

(i)   構造体としての耐力及び耐久性の確保
(ii) 仕上げ二次部材又は設備等の納まり上の要求
(iii) 美観上の要求

測定方法も 6.2.5(a)(2)に記しているように、特記された部材又はコンクリート打込み後に型枠の変形が生じたと見られる部分等を対象に、基準墨からスケール等を用いて測定する方法が一般的である。測定方法の詳細については、6.2.5(a) (2)を参考にするとよい。
許容値に適合しない場合は、受注者等に、試験・測定結果等とともに、直ちに報告させることが重要である。

(3) コンクリート部材表面の仕上り状態については、コンクリートの打放し仕上げの場合には、「標仕」6.2.5 (b)(1)(i) の表 6.2.4 の種別に応じた「表面の仕上り程度」が目安として定められており、これを目視等で確認することとなる。打放し仕上げ以外の場合は、「標仕」6.2.5 (b)(1)(ii)に規定されるように、ポリマーセメントベースト等を充填した型枠セパレーターの穴や砂じま、へこみ等の軽微な補修部分、突起部を取り除いた部分等を目視や触診等で確認し、内外装仕上工事や設備工事等への支障の有無を確認する。支障がある場合には、速やかに報告させることが重要である。

(4) コンクリート部材の平たんさについて、「標仕」では 6.2.5(b)(2)の表 6.2.5のコンクリー トの内外装仕上げに応じた「適用部位による仕上げの目安」が定められている。測定方法としては、下げ振りやトランシット、レベル、水糸、スケール等を使用して、コンクリート面の最大、最小を測定する方法等が一般的であるが、その他、JASS5 で規定している   JASS 5 T-604(コンクリートの仕上がりの平たんさの試験方法)や日本床施工技術研究協議会が定めている「コンクリー卜床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」 (2006 年4月 ) 等が参考になる。「コンクリート床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」には、品質グレードの分け方も規定さ れているので 参考にするとよい。
平たんさが「標仕」表 6.2.5の標準値を超えた場合は、直ちに報告させることが重要である。

(5) 空洞や豆板、打継ぎ不良、コールドジョイント、気泡等の打込み欠陥は、コンクリートの耐力、耐久性に与える影響が大きい。測定・確認方法としては、最初に目視検査を行い、異状が懸念される箇所を必要に応じてはつりで確認するのが一般的である。
なお、目視検査の場合は、測定者の判定基準が必ずしも明確でないため、なるべく立ち会うことが望ましい。

(6) ひび割れについては、支保工で支えている状態では正しい確認ができないので、検査は支保工を取り外したあとに行うことが重要である。試験・測定方法としては、 目視で数を計るとともに、その幅や長さ、深さをクラ ックスケールやノギスで測定するのが一般的であるが、必要に応じて金づち等ではつって深さを測る場合もある。この場合もなるべく立ち会うことが望ましい。 ただし、幅を評価指標とし、耐久性や防水性に基づく補修の可否が判断基準になる場合が多い。例えば、(公社)日本コンクリート工学会の「コンクリートのひび割れ調査・補修・補強指針」では、防水性が要求される場合には 0.05mm以下、防水性は要求されないがかぶり厚さや表面被覆の有無等から鉄筋の錆を発生させやすいなど耐久性から見た条件が厳しい場合(塩害・腐食環境下)には 0.2mm以下、 耐久性から見た条件が普通の場合(一般屋外環境下) 0.3mm以下、耐久性から見た条件が緩やかな場合(上中・屋内環境下)0.4mm以下、としているので、参考にするとよい。

(7) かぶり厚さについては、まず最初に目視によってコンクリート表面の外観検査を行い、豆板や錆汁の漏出の有無、コンクリー ト表面の鉄筋模様の有無、垂直部材の立上り鉄筋の位置等から、かぶり厚さ不足の兆候がないことを確認するとともに、かぶり部分のコンクリートが密実で、有害な打込み欠陥がないことを確認することが重要である。かぶり厚さの不足が懸念される場合や不足の兆候が認められる場合には、電磁誘導法やレーダー法、超音波法、X 線法等の非破壊試験、若しくはドリル穿孔等の微破壊試験によってかぶり厚さの検査を行う。近年、非破壊試験の精度が急速に向上しており、JASS  5 では、2009 年の改定で検査方法、検査時期・頻度及び判定基準を含むかぶり厚さの検査(11.10 構造体コンクリートのかぶり厚さの検査)が導入され、電磁誘導法を用いた JASS 5 T-608(電磁誘導法によるコンクリート中の鉄筋位置の測定方法)が規定されているので、非破壊検査を実施する場合には、判定基準の考え方を含めこれらを参考にするとよい。
なお、これらの確認・検査の時期についても、あらかじめ受注者等と協議して定めておくことが重要である。

表 6.9.3 に構造体コンクリートの仕上り及びかぶり厚さの検査方法の一例を記す。

表 6.9.3   仕上り及びかぶり厚さの検査方法(一例)
表6.9.3仕上り及びかぶり厚さの検査方法(一例).jpg
(b) (a)で確認を行った結果、部材の位置・断面寸法、表面の仕上り状態、仕上りの平たんさ、打込み欠陥部、ひび割れ及びかぶり厚さの精度が設計図書に定められた許容値に適合しない場合は、該当する部材のすべて及び 一部を補修することになるが、はつり等を行う場合は、構造体を傷めるおそれがある。あらかじめ設計担当者と打合せのうえ、他の部分への影響を最小限にして、その部材の耐久性を確保するように補修方法を定めて受注者等に指示しなければならない。また、補修完了後は、直ちに補修箇所の確認・検査を行わなければならない。
(1) 部材の位置及び断面寸法の精度が許容値に適合しない場合は、はつり等を行って補修することになるが、この方法は構造体そのものを傷めるおそれがあるので、受注者等や設計担当者と協議して、他の部分への影響を最小限にして、その部材の耐力及び耐久性を確保できる適切な補修方法を策定させ、提案させて了承後に補修を行わせる。
(2) 表面の仕上りが不適格の場合は、不適格な箇所に再度ポリマーセメントペースト等を追加し、基準に適合するよう丁寧にこて均しを行う。
(3) 平たんさは、仕上げの種類だけでなく、建物の規模や仕上げ面に要求される見ばえ等によって異なるので、ポリマーセメントモルタル等を使用した適切な補修方法を策定させ、提案させて了承後補修を行わせる。
(4) 空洞や豆板、打継ぎ不良、コールドジョイント、気泡等の打込み欠陥は、下記の豆板の補修方法等を参考に適切な補修方法を策定させ、提案させて了承後に補修を行わせる。
(i) コンクリートに生じた豆板の程度は 表6.9.4 を参考にして分類する。
表6.9.4 豆板の程度
表6.9.4豆板の程度.jpg
(ii) コンクリートの豆板の補修方法

① 硬練りモルタルの充填方法による場合
1) 表 6.9.4 のB 程度のものに適用する。
2) 健全部分を偽めないように不良部分をはつり、水洗いしたのち、木ごて等で1 : 2 の硬練りモルタルを丁寧に塗り込み、必要に応じて打継ぎ用接着剤を使用する。
3) はつり穴の深さは 30mm以上が望ましい。 浅いと充填部分にひび割れが入るなどして効果が望めない。
4) 充填後は急激な乾燥を防ぐ。

② コンクリートの打直しによる場合
1)  表 6.9.5 のD又はC でもD の状態に近いものに適用する。
2) 砂利等でたたいて落ちるようなものが残らないように、密実なコンクリート部分まで十分はつり取る。
3) 露出した鉄筋は、図6.9.3のようにその周囲に最少 30mm以上の隙間をとる。
4) 穴の深さは少なくとも 100mm以上とする。
5) はつり取った開口部の上端は、図6.9.3 のようにコンクリートを打ち込む側が広くなるように約100mm以上の差をつける。
6) コンクリー トの打込み前には、必ず清掃・水洗し、既存コ ンクリート部分を湿潤にしておく 。
7) 打ち込むコンクリートは、硬練りコンクリートとして十分に締め固める。
8) 打ち込むコンクリートの量が多い場合は、沈降と収縮を少なくするために膨張材等を使用するとよい。
図6.9.3鉄筋が露出した場合の補修方法.jpg
図   6.9.3 鉄筋が露出した場合の補修方法

③  表 6.9.4 のC 程度のものは、状況によりセメントペースト又はモルタルの注入を行う。

④ 柱下部等で鉄筋が多く、内部のコンクリートのはつりが困難な場合は鉄筋面まで露出させ、セメントガン吹付けあるいは注入(グラウト) 等の方法による。

(5) ひび割れは次のエポキシ樹脂を用いた補修方法等を参考に適切な補修方法を策定させ、提案させて了承後に補修を行わせる。

(i) エポキシ樹脂の使用上の注意事項

① エポキシ樹脂は種類も多く、硬化剤、希釈剤、充填剤等の配合によっていろいろな性状とすることができるので、補修の目的、施工条件等を十分検討して選定する。

② コンクリート面は十分な表面強度をもつ必要があるので、油、ほこりの類は、ワイヤブラシ等で清掃する。また、コンクリート面は完全に乾燥していなければならない。

③ エポキシ樹脂は、10℃以下では硬化が著しく遅れ、接着強度が低下するので冬期の補修には十分注意する。
なお、炎天下の作業は硬化が早くなるので日除け等の養生が必要になる。

④ エポキシ樹脂をパテ状で使用する場合は、低粘度形のエポキシ樹脂プライマーを塗布する。

(ii) 注入補修方法
注入補修方法を体系的に示すと図6.9.4 のようになる。
図6.9.4_補修方法.jpg
図 6.9.4 補修方法

具体的な工法については、国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)」及び同監修「建築改修工事監理指針」の 4章[外壁改修工事]を参考にするとよい。

(6) かぶり厚さの不足が確認された場合も、上記(1)から(5)と同様、受注者等に適切な補修方法を提案させ、了承後に補修を行わせることが重要である。補修の方法は大別して2種類ある。 1 つは、新たに仮枠等を設けてコンクリートを増打ちする、あるいは母材であるコンクリートに用いられているものと同等以上の性能を有するセメントモルタルを使用して補修する方法で、この方法で補修を行った部材は、母材と補修材が一体化した鉄筋コンクリート造の部材と見なすことができる。

一方、ポリマーセメントモルタルやエポキシ樹脂モルタル等のコンクリート以外の材料を使用して補修する場合は、使用する材料の品質や強度及び防火上の性能と使用範囲で法令(平成13年国土交通省告示第1372 号及び平成12年建設省告示第 1399 号、他)上の条件が設けられており、補修部分の断面積は、部材断面の5%以下(ただし、母材と同等以上の強度を有し、架構の一部のみである場合には部材断面積の 30%以下)であることが想定されている。また、これらの材料を使用する場合には防火上支障のないものであることが求められており、防火上支障のないものの一例として、ポリマーセメント比が 4%以下で、かつ,補修部分の厚さが 20mm以下の場合がある。このほか、防火上支障のない補修材料・工法の具体的な選定方法については、独立行政法入建築研究所の建築研究報告 No.147「鉄筋コンクリート造建築物のかぶり厚さ確保に関する研究」等を参考にするとよい。

また、エポキシ樹脂モルタルはそれ自体が可燃性材料なので、亀裂や軽微な欠損部に充填する場合等、使用量の少ない軽微な補修では使用できるが、かぶりコンクリートとして部材表面等に塗布するような使用方法はできないので、注意しなければならない。
【解説】
なお、品確法においては、ポリマーセメントを用いた対応は認められていないので、注意が必要である。その際は、新たに仮枠等を設けてコンクリートを打増しする。そのコンクリートの仕様はもちろん母材と同じもので、その補修方法は補修施工計画書を策定させて確認する。

6章コンクリート工事 10節軽量コンクリート

第6章 コンクリート工事
10節 軽量コンクリート
6.10.1 一般事項
(a)細骨材及び粗骨材の全部に人工軽量骨材を用いるコンクリート及び粗骨材のみに人工軽量骨材を用いるコンクリートを対象としている。細骨材の全部又は一部に人工軽量骨材、粗骨材に普通骨材を用いる組合せも考えられるが、このような使用方法はほとんど実施されておらず、対象外である。
【解説】
軽量コンクリートの適用範囲.jpg
軽量コンクリートを、常時、土又は水に接する部分(地下の外壁、擁壁等)に使用できることになっている。ただし、この場合には「標壮」 6.10.2(h)に示されているように単位セメント量を 340kg/m3以上としなけれぱならない。
(b)普通コンクリートと同様の扱いでよい内容については、「標仕」10節では規定していない。したがって、「標仕」10節に規定していない事項については「標仕」1節から9節の規定を適用する。同一事項について 1節から9節と10節とで重複した規定がある場合には、10節の規定を優先する。
(c)「標仕」表6.10.1に示されているように、粗骨材のみに人工軽量骨材を用いるコンクリートを 1種、粗骨材に主として人工軽量骨材を用い、細骨材に人工軽量骨材若しくは人工軽量骨材に普通細骨材を混合した骨材を用いるコンクリートを2種としている。かつて、2種の粗骨材は人工軽量粗骨材のみとされていたが、普通骨材を混合することで、強度やヤング係数等の力学的性能に対する要求に対応する技術も出てきたことから、人工軽量粗骨材に「主として」という記述が加えられている。軽量コンクリートの要求品質である気乾単位容積質量の標準的な値の範囲は、「標仕」表6.10.1 に示されている。特記により、軽量骨材を用いて高強度コンクリートを製造する場合を考慮して1種の場合の気乾単位容積質量の標準的な値の範囲の最火値は 2.1 t/m3 としている。
なお、具体的な気乾単位容積質量の概略値をあらかじめ推定したい場合には、使用する粗骨材と細骨材の絶乾密度の組合せから表6.10.1により求めることが可能である。
表6,10.1 骨材の絶対密度とコンクリートの気乾単位容積質量の推定値との関係 JASS5より
表6.10.1骨材の絶乾密度とコンクリートの気乾単位容積質量の推定値との関係.jpg
(d) 軽量コンクリートの主要な品質である気乾単位容積質量については、対象建物ごとに設計で用いる値を特記することになっている。
6.10.2 材料及び調合
(a)人工軽量骨材の種類、区分や品質は JIS A 5002(構造用軽量コンクリート骨材)に規定されている。「標仕」 6.3.1(b)(1)ではJIS A 5002に規定する人工軽量骨材のうち、JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)の附属書A (規定)[レディミクストコンクリート用骨材]によるものとしている。この附属書A (規定)では,粗骨材の浮粒率の限度を、10.0%としている。本節で用いる人工軽量骨材の品質は、この附属書A(規定)の規定に加えて、骨材の実績率による区分はA (モルタル中の細骨材の実績率 50.0%以上、粒骨材の実績率 60.0%以上)に限定し、コンクリートとしての圧縮強度による区分は3以上(圧縮強度 30 N/mm2 以上)に限定している。これらは JASS5 M-201(人工軽量骨材の性能判定基準)に準拠している。
(b)人工軽量粗骨材の最大寸法は、15mm とする。
なお、現在市販されている人工軽量骨材の大部分のものは最大寸法が15mmであり、JIS A 5002 においても 2003年版より最大寸法 20mm のものは削除されている。
(c)人工軽量骨材は.骨材中に多くの空隙を含むことにより密度が軽くなっている。このため普通骨材に比べて吸水率か大きくなるが、すべての空隙を水で満たすことは困難である。実際の使用に当たっては、コンクリートの運搬中におけるスランプの低下や圧送中における圧力吸水が生じないように、あらかじめ十分吸水させたものを使用することが必要である。人工軽量骨材製造所では、表6.10.2 に示すすように出荷時の含水率の管理を行っているので、レディーミクストコンクリート工場では人荷したのち乾燥しないようしに管理することが重要である。
表6.10,2 市販人工軽量骨材の代表的品質(JASS5 より)
表6.10.2市販人工軽量骨材の代表的品質.jpg
(d) 軽量コンクリートの気乾単位容積質量の値は、(乾燥状態の粗骨材の質量 + 乾燥状態の細骨材の質量 + 自由水を含まないセメントペースト硬化体の質量 + コンクリート中の自由水量)として求めることができる。セメントペースト硬化体の質量はセメントの乾燥質量に 25%の結合水を加えた値とし、コンクリート中の自由水量を実験結果に基づいて 120kg/m3 とした式が「標仕」6.10.1式である。この式によって求めた値が特記され値より小さいことか必要である。ただし、特記された値に比べて小さ過ぎると構造上の問題を生じる場合が考えられるので -100kg/m3以内とすることが必要である。
(e) 軽量コンクリートは、普通コンクリートに比べて多量の水を含んでいるため凍結融解作用に対する抵抗性が小さい傾向が認められる。そこで、調合設計時の目標空気量を普通コンクリートより 0.5%大きくし 5.0%としている。
(f) 軽量コンクリートのスランプの値は、特記がなければ、21cm以下で定めることにしている。
(g) 軽量骨材中には多くの空隙があるため、同じ水セメント比では圧縮強度や凍結融解抵抗性が小さく、中性化が早くなる傾向が認められる。そこで、水セメント比の最大値を55%としている。
(h) 軽量粗骨材の最大寸法が 15mmと小さいこと及び水セメント比の最大値を小さくしているため単位セメント量の最小値を 320kg/m3としている。ただし、常時土又は水に接する部分に用いるコンクリートでは、透水に対する抵抗性を確保するため単位セメント量の最小値を 340kg/m3 とし、水セメント比を小さくするよう配慮している。
(i)軽量コンクリートの試し練りでは、計画スランプ、計画空気量及び調合強度に加えて所要の気乾単位容積質量が得られることを確認することとしている。
6.10,3 製造,運搬,打込み及び締固め
(a) ホンプ圧送を行う軽量コンクリートの練混ぜ時の人工軽量粗骨材の吸水率の値を 20%以上とすることを定めている。これは、6.10.2(c)に示されるスランプの低下や、圧送による圧力吸水を防止するための対策である。表6.10.2に示すように製造所出荷時の吸水率はこれらの値を満足するように管理されているので、入荷後の乾燥を防止する対策が十分とられていることを確認することが大切である。
(b) 軽量コンクリートを圧送する場合には、骨材の圧力吸水によるスランプの低下や輪送管内での閉塞を生じるおそれがあり、この傾向は特に圧送距離が長い場合に顕箸である。この対策としては、輸送管の径を大きくするほかに中継ポンプの使用や他の運搬方法との併用等が考えられるが、「標仕」では輸送管の径を大きくする方法を採用し、輸送管の水平換算距雜が150m以上になる場合には輸送管の呼び寸法を 125A 以上とし、圧送を容易にしている。
(c) 軽量コンクリートの運搬時においては、骨材への時間の経過に伴う吸水が考えられることや密度の小さい人工軽量粗骨材が上部に集まりやすいので注意が必要である。したがって、事前吸水を十分行うことと材料分雜をできるだけ生じない方法で運搬し、荷卸しに当たっては、トラックアジテータを高速で回転し、均一にしてから排出することが重要である。
(d) 軽量コンクリートの打込み及び締固めでは、人工軽量粗骨材の密度が小さいためモルタルが沈降し、粗骨材が浮き上がって分離する傾向にあり。また、自重が軽いため型枠の隅々や鉄筋の回りにいきわたりにくくなる。バイブレーターによる横流しを厳禁したり、高所からのコンクリートの投入を避けるなど分離を生じない方策を徹底するとともに、ハイブレーターの選定に当たっては、周波数の高いものを用いるようにする。振動機の1度の差込み時間は 5秒程度とし、かけ過ぎないようにする。
(e) 軽量コンクリートは、普通コンクリートに比べてブリーディングによる沈降が大きく打込み順序を適切に定めないと沈降に伴うひび割れを発生する。したがって、壁及び柱に打ち込んだコンクリートが落ち着いたのちに梁を打ち込み、梁のコンクリートが落ち着いたのちにスラブを打ち込む基本(「標仕」6.6,4(g))を忠実に守る必要がある。
(f) 人工軽量骨材は、密度が小さいため上向へ浮き上がってくる。これを防止するための対策として、骨材の品質規定で粒骨材の浮粒率を10%以下としている。しかし、施工時に粗骨材が上面に浮き上がる場合には、図6.10.1に示す道具(ジッターバッグ)等を用いてコンクリートが硬化する前に粗骨材をコンクリート内部に押さえ込んでから表面仕上げを行うことが必要である。この粗骨材の浮上がりは、夏期より冬期、富調合より貧調合のコンクリートほど著しくなる傾向にある。
図6.10.1ジッターバッグ.jpg
図6.10.1ジッターバッグ
6.10.4 試験
気乾単位容積質量の試験は、コンクリートの質量変化がほとんどなくなる気乾状態にすることが必要なため長期間(例えば91日間)を要し、品質管理には不向きである。計画調合どおりの調合で製造されていれば必要な気乾単位容積質量が得られるので、計画調合に基づくフレッシュコンクリートの単位容積質量の基準値と実際の測定値との差を管理することにより必要な気乾単位容積質量か得られたかどうかの確認を行うことが可能である。このような考え方に基づいて、品質管理を行う方法が示されており、実測値と基準値の差が±3.5%の範囲にあれば合格と判定することにしている。
なお、計画調合に基づくフレッシュコンクリートの基準値は製造時の骨材の吸水状況によって変化するので練混ぜに使用した骨材の吸水率を用いて求めることが大切である。

6章コンクリート工事 11節寒中コンクリート

第6章 コンクリート工事
11 節 寒中コンクリート
6.11.1 一般事項
寒中コンクリートの適用は「標仕」では特記によることになっており、その適用期間の原則はコンクリート打込み後の養生期間にコンクリートが凍結するおそれのある期間である。寒中コンクリートでは、初期凍害の防止と低温による強度発現の遅れに対する対応の2点が技術的課題である。
JASS 5 12節[寒中コンクリート工事]では、初期凍害防止の対策を講じなければならない期間を、打込み日を含む旬の日平均気温が 4℃以下の期間とし、低温による強度発現の遅れに対する調合上の対策及び養生条件の検討が必要な期間を、材齢 91日までの積算温度が 840°D・D を下回る期間としており、解説の中で、表6.11.1のような地域と期間を定めている。
気象庁による 1981~2010年の平滑平年値を各旬ごとに表6.11.2 に示す。
気象記録のある気象台、測候所、観測所等の高さと異なる場合は、100m 高くなるごとに平均気温は 0.5~0.6℃低くなるものとして扱う。
表6.11.1 寒中コンクリート工事の適用期間(その1)
(JASS 5 (2009)の表を気象庁平年値 (1981~2010年)により修正)
表6.11.1寒中コンクリート工事の適用期間(その1).jpg
表6.11.1 寒中コンクリート工事の適用期間(その2)
表6.11.1寒中コンクリート工事の適用期間(その2).jpg
表6.11.2 旬平均気温 (0.1℃)(その1)(気象庁平年値データより)
(統計期間:1981~2010年)
表6.11.2旬平均気温(その1).jpg
表6.11.2 旬平均気温(0.1℃)(その2)(気象庁平年値データより)
表6.11.2旬平均気温(その2).jpg
6.11.2 材料及び調合
(a) 寒中コンクリートにおいても、構造体コンクリートの強度は、普通コンクリートと同様、材齢 91日までに所定の設計基準強度(Fc)が得られるものでなければならない。普通コンクリートと異なるのは,圧縮強度 5 N/mm2が得られるまでは、コンクリートが凍結しないように適切な養生を行うことが必要ということである。調合は、養生計画に応じて、養生期間内に圧縮強度 5 N/mm2 が得られるように定めなければならない。
(b)「標仕」では、かつて積算温度により管理することを原則としていた。しかしながら、積算温度方式は、一般的な現場での適用が難しいため、普通コンクリートと同じく、設計基準強度(Fc)に、「標仕」表 6.3.2 の構造体強度補正値(S)を加えた値以上となるように調合管理強度を定めて管理をすることとしている。
「標仕」6.11.2(c)の「ただし書き」における積算温度とは「材齢(日)」と「温度 + 10(度)」の積で求められる値であり、 28日間 20℃で養生した場合に 28(日) × ( 20 + 10 )(度)= 840°D・D となる。適切に初期養生が行われた場合には、日数と温度の組合せが変わっても、積算温度が同じであれば同程度の強度が得られるといわれている。経済的な養生方法で、材齢 91日までの積算温度が 840°D・D 以上となる場合には、普通コンクリートと同じく、設計基準強度(Fc)に、「標仕」表6.3.2 の構造体強度補正値(S)を加えた値以上となるように、調合管理強度を定めて管理をすれば、20℃で 28日間の場合と同様、設計基準強度の確保が期待できる。
しかし、北海道等では、保温養生によって材齢 91日までの積算温度を 840°D・D以上とするのが 不経済となる場合も多い。JASS 5 12節及び(-社)日本建築学会「寒中コンクリート施工指針・同解説」では、コンクリートの積算温度と強度の関係から、設計基準強度が得られる積算温度を、調合管理強度に応じて求める方法が示されており、材齢 91日までの積算温度が840°D・D を下回る場合の調合管理強度の決定、養生計画の立案の際の参考にするとよい。
(c) 混和剤として、AE減水剤遅延形や高性能AE減水剤を用いる場合には、コンクリートの凝結や硬化が遅れて初期棟害を生じる危険性が増すため、初期養生に注意する(6.11.4 参照)。
6.11.3 製造、運搬及び打込み
(a) 寒冷期にはコンクリートの輸送時間が長いと、コンクリートが冷されて、打込み時に「標仕」に定められた所定のコンクリート温度が得られないことがあるため、コンクリート製造工場の選定に当たっては、運搬時間を考慮する必要がある。
(b)「標仕」にコンクリートの荷卸し時の温度は10℃以上、20℃未満と定められているが、理由は次のとおりである。
(1) ワーカビリティーに対する影響がでる。
(2) 打込み中、湯気により作業に支障がでる。
(3) コンクリートの硬化が始まる前に、部分的に凍結するおそれがある。
コンクリートの練上がり時の温度は、6.11.1式で求められる。
6.11.1式.jpg
(c)セメント投入直前の材料の温度が 40℃を超える場合には、セメントが異常凝結を起こすおそれがあり、「標仕」では禁止されている。
(d)運搬中及び施工中のコンクリートの温度低下は、1時間当たり外気温とコンクリート温度との差の15%程度といわれている。
6.11.4 養 生
(a) 寒中コンクリートでは、初期養生が最も重要であるが、これは初期凍害の防止のためである。コンクリートが凝結中に凍結すると、その後の強度の上昇・回復は期待できない。
養生方法については、信頼できる資料を基に、工期、経済性等を十分に検討して決定しなければならない。
(b)「標仕」6.11.4(b)で、初期養生の期間を圧縮強度が 5 N/mm2に達するまでと定めているのは、凍害は硬化体の組織が粗いほど、また、引張強度が小さいほど激しいので、硬化体形成の目安を、上記の圧縮強度としているからである。
「寒中コンクリート施工指針・同解説」では、「コンクリート温度またはその周囲の温度の中でもっとも低い部分において求めた積算温度による強度の推定値および JASS 5 T- 603(構造体コンクリートの強度推定のための圧縮強度試験方法)による強度が、5.0 N/mm2 以上となった段階で初期養生を打ち切ってよい。」と定めている。
6.11.5 型 枠
型枠の取外しは、圧縮強度によることとし、「標仕」6.8.5では、せき板は圧縮強度が 5N/mm2 以上、支柱はスラブ下で圧縮強度が設計基準強度の 85%以上又は12N/mm2 以上であり、かつ、施工中の荷重及び外力について、構造計算により安全であることが確認されるまでとしている。また、梁下では圧縮強度が設計基準強度以上であり、かつ、施工中の荷重及び外力について、構造計算により安全であることが確認されるまでとしている。
6.11.6 試 験
(a) 初期養生期間の決定、任意材齢の強度の推定、強度上の水セメント比の決定等は、「寒中コンクリート施工指針・同解説」の試料3及び4に示された図表等を参考にして行うとよい。
(b)「標仕」6.11.6(c)は、従来「標仕」6.9.5[構造体コンクリート強度の推定試験]の中で規定されていたものであるが、材齢28日の現場封かん養生供試体の試験が寒中コンクリートを除いて削除されたため、ここに改めて規定されたものである。