5章 鉄筋工事 3節 加工及び組立

第5章 鉄筋工事 


3節 加工及び組立

5.3.1 一般事項
(a) コンクリートと鉄筋の組合せは、強度のバランス等を考慮して決められる。参考として、コンクリートと鉄筋の組合せの例を表5.3.1に示す。

なお、現在丸鋼は、ほとんど使用されていないので、異形鉄筋に限定して示されている。

表5.3.1 コンクリートと鉄筋鉄骨の組合せの例

鉄筋の加工及び組立に関する規定は、(-社)日本建築学会「鉄筋コンクリート構造計算規準・同解説」2010年版(以下、この節では「RC規準(2010)」という。)、同「JASS 5 鉄筋コンクリート工事」2009年版(以下、この章では「JASS 5 (2009)」という。)並びに同「鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説」2010年版(以下、この節では「配筋指針(2010)」という。)に基づいて平成22年版「標仕」の改定時に大幅に見直されており、平成25年版「標仕」の規定も平成22年版を基本的に踏製している。

(b) 熱間圧延鉄筋でも白熱化して空気中で冷却すると鉄筋の性質が変わるので、曲げ加工の場合でも、原則として常温で加工することとしている。

(c) 冷えている鉄筋に点付け溶接を行うと、急熱、急冷されるので焼入れ(7.2.1(b) (5)参照)を行ったことになることから、熱影響部(7.6.7 (k)(2)参照)が著しく硬化し、鉄筋がもろくなり、この部分を少し曲げただけでひび割れが発生する場合があるので、「標仕」ではこれを禁止している。また鉄筋にアークストライクを起こすと 断面欠損が生じたり、局部的な急熱急冷による悪影響があるので、「標仕」ではこれを起こしてはならないとしている。

なお、溶接金網等で鉄筋の交点を電気抵抗溶接としたものは、点付け溶接とは見なさない。

5.3.2 加 工

(a) 鉄筋の切断は、一般にはシャーカッターや電動カッターにより行われているが、ガス圧接や特殊な継手では、切断面の平滑さや直角度が要求されるため、電動カッターや鉄筋冷間直角切断機等を使用することが望ましい。施工済みの鉄筋の手直しや不要な鉄筋の除去のために現場でやむを得ず鉄筋をガス切断する場合は、周囲の鉄筋やコンクリートを傷めないように慎重に施工を行う。ガス切断した鉄筋を溶接継手や機械式継手により再接合する場合は、鉄筋の切断面をグラインダー等で平滑に成形する。

なお、圧接端面となる場合はガス切断を行ってはならない(5.4.5 (b)参照)。

(b) フック及び定着の処置は次による。
(1) 異形鉄筋の柱主筋の継手部で、法規上では不要な図5.3.1の◉印の場合にも「標仕」においてフックを付けることとしているのは、組立のときの間違いや設計変更改修工事等で壁がなくなった場合の混乱を防ぐためである。
※●の出隅部分の継手は建築基準法施行令でフック付き必須

(2) 異形鉄筋の梁主筋の継手部で、図5.3.2の◉印の場合も、(1)と同じ理由から「標仕」ではフックを付けることにしている。
※●の出隅部分の継手は建築基準法施行令でフック付き必須


図5.3.1 柱主筋


図5.3.2 梁主筋

(3) 「標仕」5.3.2(b)(2)の梁主筋の末端部にフックを付ける規定は、図5.3.3のように梁内に継手部がある場合に適用される。


図5.3.3 梁主筋

(4) 柱及び梁の出隅は、火災時に二方向から加熱され、角がはく落しやすく、フックがないと鉄筋の付着効果が期待できなくなるので、建築基準法施行令第73条には上記(1)、(2)及び(3)の内容の規定がある。

(5) 「標仕」5.3.2(b)(1)では、鉄筋の組立の作業性を考慮して、最上階の柱頭の柱主筋のうち、フックを付けるのは四隅だけとしている。ただし、丸柱の場合は四隅に相当する部分がないので、フックなしで定着長さが確保できるならばフックを付ける必要はないが、配筋に無理がなければ、フックを付ける方が望ましい。

(6) 帯筋やあばら筋等のせん断補強筋は、末端部にフックを設ける。ただし、鉄筋の末端部を相互に突合せ電気抵抗溶接した閉鎖型のせん断補強筋を用いる場合はこの限りでない。

なお、溶接閉鎖型せん断補強筋の適用箇所や仕様等は設計図書の特記による。

(c) 鉄筋の折曲げ形状及び寸法は「標仕」表5.3.1による。以前は鉄筋の末端部と中間部を区分して折曲げ形状及び寸法を規定していたが、平成22年版「標仕」の改定時に,JASS 5 (2009)に基づいて末端部と中間部の区分をやめて「標仕」表5.3.1のように一本化しており、平成25年版「標仕」もこれを踏襲している。

なお、鉄筋中間部の90゜未満の折曲げ内法直径は、「標仕」表5.3.1の対象外となるために設計図書の特記によることとなっている。

(d) 高強度せん断補強筋の加工は次による。
(1) 鉄筋の折曲げ形状・寸法は、指定性能評価機関の審査を受けて評定等の技術評価を取得した設計施工指針に従う。

(2) 鉄筋の切断や折曲げ、閉鎖形筋の溶接等の加工は、上記の設計施工指針が対象とする製造工場又は加工工場で行う。その他の作業場や現場では、高強度せん断補強筋の加工を行ってはならない。

5.3.3 組 立

(a) スペーサーは、鉄筋のかぶり厚さを保つために極めて重要なものであり使用部位や所要かぶり厚さに応じて、スペーサーの材種や形状・サイズを使い分けることが大切である。

(b) 市販のスペーサーは、鋼製、合成樹脂製等があるが、「標仕」で、スラブのスペーサーを原則として鋼製としているのは、コンクリート打込み時の鉄筋の脱落等を考慮したためである。

(c) 断熱材打込み部では、普通のスペーサーでは断熱材にくい込み、かぶり厚さの確保が難しいので、めり込み防止の付いた専用スペーサーを用いる。

(d) 下端が打放し仕上げとなる場合のスラブ用スペーサーは、露出面が大きくならないようなものを使用する。また、インサート類の見え掛りとなる部分には調合ペイント又は錆止め塗料を塗り付けるよう「標仕」6.8.6(c)で規定されている。

(e) 「標仕」5.3.3では、型枠に接する部分に防鋳処理を行ったスペーサーを使用することにしている。

なお、防錆処理されたスペーサーには、次のようなものがある。

(1) 「標仕」表14.2.2のC種(JIS H 8641(溶融亜鉛めっき)で2種HDZ35)以上の防錆処理したもの。ただし、海岸等腐食が激しいところで使用する場合には検討が必要である。

(2) 鋼製のものにプラスチックコーティング又はプラスチックパイプを挿入したもの。

(f) 一般に使用されているスペーサーを表5.3.2に示す。
このほかに、梁底、基礎底等に使用するコンクリート製のスペーサーがある。

なお、モルタル製のスペーサーは、強度及び耐久性が十分でないおそれがあるので使用しない。

表5.3.2 スペーサー

(g) 結束線の端部は、かぶり厚さを確保するために内側に折り曲げる。

(h) 柱筋、壁筋等の端部で、安全管理上必要な箇所には、プラスチック製のキャップ等で保護する。

(i) コンクリート打設後の鉄筋の位置が設計図書どおりであり所定のかぶり厚さが確保されるように施工を行う。コンクリート硬化後の鉄筋の位置ずれ修正(台直し)は、その反力によって鉄筋周囲の既設コンクリートを傷めやすいため、原則として行わない。そのため、平成25年版「標仕」では、平成22年版「標仕」5.3.3 (b)の「前に打ち込まれたコンクリートから出ている鉄筋の位置を修正する場合は、鉄筋を急に曲げることなく、できるだけ長い距離で修正する」の記述が削除されており、鉄筋の位置ずれを生じた場合は、極力、台直し以外の是正方法を検討する。やむを得ず現場で台直しを行う場合は、その折曲げ勾配を1/6以下としてできる限り緩やかに曲げて、既設コンクリートを傷めないように慎重に施工する。

5.3.4 継手及び定着

(a) 建築基準法施行令第73条では鉄筋の継手及び定着に関連して、第2項が「主筋又は耐力壁の鉄筋の継手の重ね長さは、……継手を引張り力の最も小さい部分以外の部分に設ける場合にあっては、主筋等の径の40倍以上」と規定しており、同第 3項が「柱に取り付けるはりの引張り鉄筋は、……柱に定着される部分の長さをその径の40倍以上」と規定している。平成19年の施行令改正により、これらに該当する部分の継手や定着の長さは,設計者が保有水平耐力計算等を行い、平成19年国土交通省告示第594号第4の四に基づく検討を行ったうえで特記する場合を除いて施行令第73条の仕様規定が適用されることとなった。

平成22年版「標仕」では、これらの仕様規定とJASS 5 (2009)に準拠して継手及び定着の長さが定められていた。一方、施行令第73条第3項の規定に対しては、「鉄筋コンクリート造の柱に取り付けるはりの構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」(平成23年4月27日国土交通省告示第432号)によって、「柱に取り付けるはりの引張り鉄筋の付着力を考慮して当該鉄筋の抜け出し及びコンクリートの破壊が生じないことが確かめられた場合においては」適用しなくてよいこととされ、その構造計算の基準としてRC規準(2010)が挙げられている。そのため、平成25年版「標仕」5.3.4 (e)では、柱に取り付ける梁の引張り鉄筋の定着の長さに関する規定のうち、「40d(軽量コンクリートの場合は50d)」という仕様規定が削除されている。

(b) 鉄筋の継手工法としては、重ね継手、ガス圧接継手のほか、施行令第73条第2項のただし書き及び「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1463号)に規定される機械式継手と溶接継手があり、「標仕」では適用を特記することとしている。

ガス圧接継手については4節、機械式継手及び溶接継手については5節を参照されたい。

鉄筋工事に使用する材料は、一般にJIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に規定されているSD295AとSD345があるが、このうちSD295Aは、一般の壁筋、スラブ筋、帯筋、あばら筋等の細物に使用されており、一般の建築物の柱・梁の主筋については通常SD345が使用される。官庁営繕部においては従来よりこの考え方で鉄筋の使い分けがされている。また、最近ではSD390を主筋に用いる例も増えている。

鉄筋の継手工法については、工事の規模、施工場所の地理的条件等を勘案して特記によることとしている。

また、鉄筋の継手は、原則として部材応力の小さいところに設けるものとし、その位置は特記による。

(c) 鉄筋の重ね継手は次による。
(1) 柱及び梁の主筋並びに耐力壁の鉄筋の重ね継手の長さは、特記による。特記がない場合、耐力壁の鉄筋の重ね継手長さは、40d(軽量コンクリートの場合は 50d)と「標仕」表5.3.2の数値(軽量コンクリートの場合は 5d 加算した数値)のいずれか大きい方とする。

(2) (1)以外の鉄筋の重ね継手長さは、「標仕」表5.3.2による。同表は平成22年版「標仕」改定時にJASS 5 (2009)に準拠して改定されており、重ね継手の長さをフックの有無によってL1とL1hに区別して表記している。重ね継手の長さは、フックなしのL1が鉄筋の先端間距離、フックありのL1hが鉄筋の折曲げ開始点間の距離としており、いずれも異形鉄筋の呼び名 d の整数倍としている。L1とL1hの長さの規定は、鉄筋の種類とコンクリート設計基準強度の区分によって細分化されている。軽量コンクリート部材の場合は、従来どおりに普通コンクリートの数値に 5d 加算した継手長さとするが、JASS 5 (2009)では上端筋の重ね継手はフックありを原則としていることに注意する必要がある。

(d) 重ね継手や、ガス圧接継手等では、継手をある箇所に集中して設けるとその部分のコンクリートのまわりが悪くなり構造上の弱点となるおそれがある。そのため、「標仕」表5.3.3 では隣り合う継手は、細径の壁筋、スラブ筋を除き継手位置をずらすこととしている。しかし、最近施工例が増えている鉄筋先組み工法等の柱・梁主筋の場合は、特記により継手位置を同一箇所に設ける場合もある。先組み工法では、ガス圧接継手や機械式継手等が用いられるが、いずれの場合も施工上から、同一位置で全数継ぎとならざるを得ない場合がある。この場合は、鉄筋とコンクリートの断面積比の急変による応力集中やコンクリートの充填性等について、十分に検討されていることが重要である。

(e) 鉄筋の定着は次による。
(1) 柱に取り付ける梁の引張り鉄筋の定着の長さは、「標仕」表5.3.4によるが、定着長さL1とL1h又はL2とL2hの適用箇所は特記による。梁の引張り鉄筋は.常時に引張力が作用する上端筋だけでなく、地震時に引張力が作用する下端筋も適用対象となる。

(2) (1)以外の鉄筋の定着の長さは、「標仕」表5.3.4によるが、定着長さL1とL1h又はL2とL2hの適用箇所は特記による。同表では、定着長さをフックの有無によってL1とL1h、L2とL2h、L3とL3hに区別して表記しており、平成22年版の数値を踏襲している。また、軽量コンクリート部材の鉄筋の定着長さを普通コンクリートの数値 + 5dとしているのも平成22年版と同様である。このうち、割裂のおそれのない箇所への定着長さL2とL2h並びに小梁・スラブの下端筋の定着長さ L3とL3h(小梁の下端筋でフックありの定着長さ)は、JASS 5 (2009)の定着長さに基づいている。これら以外の定着長さL1とL1hは、それぞれ L2、L2hよりも長い定着が必要な箇所に用いることとし、適用箇所は特記による。

なお、適用箇所の例は、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」の巻末資料の各部配筋参考図に示されているので、参照されたい。

定着長さの測り方は、「標仕」図5.3.2による。直線定着の長さL1、L2、L3 は、定着起点(通常は仕口面)から鉄筋先端までの距離、フックあり定着の長さL1h、L2h、L3hは、定着起点から鉄筋の折曲げ開始点までの距離とする。フックありの場合の折曲開始点から鉄筋先端までの距離は、フックとして取り扱い、定着長さには含めない。90゜折曲げ定着の場合も同様であり、定着起点から鉄筋の折曲げ開始点までの距離を定着長さとし、それ以降の部分は90°フックとして扱う。

(3) 仕口内に90゜折曲げ定着する場合で、定着起点(仕口面)から折曲げ開始点までの距離Lが、「標仕」表5.3.4のフックあり定着の長さ未満となる場合の鉄筋の定着方法は「標仕」図5.3.3による。すなわち、梁主筋の柱内への折曲げ定着の場合は、仕口面から鉄筋先端までの全長が「標仕」表5.3.4の直線定着長さL2以上、余長が8d以上、仕口面から鉄筋外面までの投影定着長さが「標仕」表5.3.5のLa以上とする。

なお、梁主筋の投影定着長さLaは、原則として柱せいの3/4倍以上とする。

小梁・スラブの上端筋の梁内への折曲げ定着の場合は、仕口面から鉄筋外面までの投影定着長さが「標仕」表5.3.5のLb以上であるほかは、梁主筋の定着の場合と同様に、全長がL2以上、余長が8d以上とする。

なお、小梁・スラブの上端筋を壁内や幅の狭い梁内に定着する際に投影定着長さが「標仕」表5.3.5のLb未満となる場合は、RC規準(2010)に従って算定された投影定着長さの特記によるか、特記がない場合は、配筋指針(2010)に従って鉄筋の余長を直線定着長さL2以上とする。この場合は、鉄筋の投影定着長さを8d以上、かつ、150mm以上とすることが望ましい。

(4) 「標仕」では規定されていないが、機械式定着具を用いる場合の仕様や定着長さは特記による。機械式定着具は、指定性能評価機関による審査を受けて評定等の技術評価を取得した設計施工指針に従って施工する。

(f) その他の鉄筋の継手及び定着は「標仕」5.3.4 (f)による。

5.3.5 鉄筋のかぶり厚さ及び間隔

(a) 鉄筋のかぶり厚さ
(1) 「標仕」表5.3.6に規定される鉄筋の最小かぶり厚さは、建築基準法施行令第 79条に規定されるかぶり厚さを基本とし、仕上げなし(柱・梁・耐力壁では屋外で仕上げなし)の場合は10mm加算した数値としている。かぶり厚さが小さいと、火災時に部材の構造耐力が低下したり、過大なたわみや変形を生じたりするほか、地震時に鉄筋のコンクリートに対する付着性能が低下し、付着割裂破壊等の脆性破壊を生じたりする。また、コンクリートの中性化がかぶり厚さ以上に進行すると、酸素と水分の作用によって鉄筋が腐食されやすくなる。このように鉄筋のかぶり厚さは、部材の耐火性、耐震性、耐久性に重大な影響を与えるので、建物の全体において守られていないと重大な欠陥を生じることになる。

(2) 「標仕」5.3.5(b)では、鉄筋の加工及び組立においては最小かぶり原さを確保するために、施工誤差を考慮し、施工に当たっては柱・梁等の鉄筋かぶり厚さの最小値に 10mmを加えて(主筋を10mm内側に入れて)「加工」することとしている。ここでは、加工に用いるかぶり厚さの「最小の基準寸法」は定めているが、「最大の寸法」は規定していない。これは、梁と梁、梁と柱等の主筋が交差することによって生じる必然的な位置のずれが避けられないためである。

ただし、かぶり厚さが必要以上に大きいと、構造上の重大な欠陥となる場合があるので、施工図等で十分検討された鉄筋の位置について精度を確保することが重要である。特に、スラブ筋(端部上端筋,中央下端筋)、片持スラブの上端筋、地下外壁、断面の小さい部材等でかぶり厚さを規定以上に大きく取ることは、重大な欠陥の原因や鉄筋相互のあきが確保できないなどのおそれがある。鉄筋の納まりにより配筋位置が下がる場合は、設計担当者と打ち合わせて、構造安全性が確保されるようにしなければならない。

なお、JASS 5(2009)では、計画供用期間の級に応じて構造部材・非構造部材の設計かぶり厚さが規定されており、鉄筋工事においては、設計かぶり厚さを目標に鉄筋の加工・組立を行い、鉄筋組立完了時に最小かぶり厚さ以上を確実に確保することとしている。

(3) 柱、梁筋のかぶりは、図5.3.4のように主筋の外周りを包んでいる帯筋、あばら筋の外側から測定する。

なお、図中の最小かぶり厚さに加える10mmは、施工誤差の標準値である。


図 5.3.4 かぶり厚さ

(4) 異形鉄筋で D29以上の太物を使用する場合は、付着割裂破壊を考慮し、「標仕」5.3.5(a)では、主筋のかぶり厚さを径の1.5倍以上としている。

なお、RC規準(2010)では、コンクリートのかぶり厚さが鉄筋の径の1.5倍未満の場合には、許容付着応力度を(かぶり厚さ)/(鉄筋径の1.5倍)の数値を乗じて低減することとしているので、主筋に限らず部材の最外縁の鉄筋径が、「標仕」表5.3.6の最小かぶり厚さの 2/3倍以上の場合には、設計担当者と打ち合わせて、当該箇所のかぶり厚さを指示する必要がある。

(5) 海に近い場合で海塩粒子の浸透を考慮する場合や、コンクリートの劣化を促進させる物質のある場合等は、特記により「標仕」表5.3.6の最小かぶり厚さを割り増しする場合もあるので注意する。

なお、コンクリート中に鉄筋に有害な塩化物が含まれる場合のかぶり厚さの割増しは、6.3.2(2)⑦を参照する。

(6) 鉄筋のかぶり厚さは、仕上げの有無、屋内と屋外、また、土に接しているかどうかにより異なる。このため、同一部材であっても部分的に必要かぶり厚さの異なる場合があるので、あらかじめ、施工図等によりかぶりの取り方を十分検討しておく。

図5.3.5及び6に柱脚及び外周に面する場合を示す。


図5.3.5 土に対する柱筋の鉄筋のかぶり


図5.3.6 外周に面する梁筋のかぶり

(7) 図5.3.7に示す打継ぎ目地部分は、シーリングが長時間たつと劣化することや温度変化や乾燥収縮が起こりやすいことから仕上げなしと見なして、目地底よりかぶりを確保する。


図5.3.7 打継ぎ目地部分のかぶり厚さ

(8) 近年は主筋のみでなく、あばら筋、帯筋にも機械式継手を用いる例が見られる。機械式継手等を用いた場合、継手部にて最小かぶり厚さが決まることがあるので注意が必要である。

(b) 鉄筋相互のあき及び間隔
(1) 鉄筋相互のあきは、粗骨材の最大寸法の1.25倍、25mm及び隣り合う鉄筋の平均径(呼び名の数値)の1.5倍のうち最大のもの以上とする。

(2) 鉄筋の間隔は、(1)によるあきに鉄筋の最大外径を加えたものとする。(「標仕」図5.3.6参照)

なお、異形鉄筋の最大外径(D)は、表5.3.3及び図5.3.8による。


図5.3.8 異形鉄筋の公称直径と最大外径

表5.3.3 異形鉄筋の径(mm)

5.3.6 鉄筋の保護

(a) スラブの上端筋の下がり及び乱れが多く見られるが、これは構造耐力上危険である。

特に、コンクリートポンプによる打込みの際の乱れが多いので注意する。コンクリート打込みに際しては、直しの鉄筋工を配置する。道板等を用いて直接鉄筋の上を歩かないようにするとともに、配筋の下がりを防止するために一般のスラブにおいても、四周の上端に受け筋(D13)を配置することが推奨される。ただし、受け筋の位置にDl3の主筋がある場合には,それを兼用してよい。

一般に、スラブ筋の乱れの原因については、次のような場合が考えられる。

(1) スペーサー等の数が不足している場合
(2) スペーサーが確実に取り付けられていない場合
(3) スラブ配筋後、材料を鉄筋上に直接置く場合
(4) 設備配管等を行うことにより乱される場合
(5) コンクリートの打込み中に乱される場合(コンクリート輸送管の揺れ、ホースの移動、コンクリートの運搬、歩行等)

なお、他の部材に比べてかぶり厚さが少なく厳しい精度が要求されるスラブ配筋では、連続バーサポートを利用する方法もある。また、スラブ筋はコンクリート打込み等の作業時に乱されるおそれがあることからも連続バーサポートは有効と考えられる。

(b) 硬化し始めたばかりのコンクリート中の鉄筋に振動を与えると、付着力が低下するので振動を与えないように注意する。

(c) スペーサーの個数は、表5.3.4を標準とする。また、スラブ下端筋の梁際は、かぶり厚さが足りなくなることが多いので注意する。

表5.3.4 スペーサーの個数の標準

5.3.7 各部配筋

平成19年版「標仕」では、特記がない場合の各部配筋は別図によることとされていたが、平成22年版以降は各部配筋は特記によることされ、別図が削除されている。代わりに、国土交通省大臣官房官庁営繕部監修「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)」の巻末資料に各部配筋の参考図が掲載されているので、必要に応じて参照されたい。

5章 鉄筋工事 4節 ガス圧接

第5章 鉄筋工事 


4節 ガス圧接

5.4.1 適用範囲

ガス圧接工法は、接合しようとする鉄筋の端面を平滑に加工したのち、端面を突き合わせ、その突合せ部をガス炎で加熱し、同時に鉄筋軸方向に圧縮力を加えて接合する方法である。熱源としてのガス炎は、酸素とアセチレンの混合ガスによる酸素・アセチレン炎を使用する。

「標仕」の4節では、圧接方法を手動ガス圧接とすることを前提とした仕様を規定している。酸素・アセチレン炎によるこのほかの圧接方法には、自動ガス圧接や熱間押抜きガス圧接があり、それぞれ、(公社)日本鉄筋継手協会が標準仕様書を定めている。このうち、自動ガス圧接については、(公社)日本鉄筋継手協会の標準仕様書に優先して「標仕」を適用することが可能であるが、熱間押抜きガス圧接は圧接工程のなかでふくらみを除去するために「標仕」で規定する試験を行うことができない。したがって、本節では「標仕」の規定が適用可能な手動ガス圧接と自動ガス圧接の監理について記述するほか、熱間押抜きガス圧接を「標仕」以外の圧接工法として記載している。

なお、「標仕」では、鉄筋材料としてSD490を適用範囲に含まないため、4節でも SD490の仕様については規定していない。したがって、特記によりSD490を採用する工事においては、そのガス圧接の仕様も特記に定められた方法によらなければならない。(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」及びJASS 5(2009)では、SD490のガス圧接を行う場合には施工前試験を行うこととしているので注意する。

また、「標仕」以外のガス圧接工法として、酸素・天然ガス炎による圧接工法が開発されている。一般のガス圧接よりも大きなふくらみとする天然ガス圧接工法と、圧接端面に高分子材料を挟み込んで加熱して一般のガス圧接と同等のふくらみとする高分子天然ガス圧接工法がある。いずれも、(公社)日本鉄筋継手協会が同工法の標準仕様書(案)を定め、検定試験により高分子天然ガス圧接技量資格者の認証を行っている。

5.4.2 技能資格者

(a) 圧接作業に従事する技能資格者は、JIS Z 3881(鉄筋のガス圧接技術検定における試験方法及び判定基準)による技量を有する者で、当該工事に使用する鉄筋に相応した技量資格種別を有することが必要である。圧接作業に先立ち、技量資格証明書等を提出させて、その技量を確認する。

(b) (公社)日本鉄筋継手協会では、JIS Z 3881に基づいて手動ガス圧接技量資格者及び自動ガス圧接技量資格者の試験を行って技量を認証し、それぞれの技量資格証明書を発行している。

技量資格種別による可能範囲は、表5.4.1及び2のとおりである。

表5.4.1 手動ガス圧接技量者の圧接作業可能範囲

表5.4.2 自動ガス圧接技量資格者の圧接作業可能範囲

(c) 「標仕」1.2.2では、工種別施工計画書の提出を義務付けているが、ガス圧接工事に関して受注者等が作成する圧接施工計画書は、(公社)日本鉄筋継手協会が認定する鉄筋継手管理技士又は圧接継手管理技士の助言等を受けて作成することが望ましい。

5.4.3 圧接部の品質

(a) 圧接継手に要求される性能は、鉄筋母材と同等以上の継手強度が得られることであり、これを保証するための代用特性の一つとして圧接部の外観と内部欠陥がないことを規定している。「標仕」に規定する圧接部の品質の各項目は.「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1463号)の規定に対応するものである。

(1) ガス圧接では圧接作業の最終工程でふくらみを形成することによって圧接面にできた酸化物を拡散することができる。ふくらみの直径が鉄筋径の1.4倍以上あれば酸化物が拡散し、母材と同等以上の継手強度が安定して得られることが実験的に確かめられている。

(2) 圧接部のふくらみはできるだけなだらかな形状となっていることが力学的に好ましい。ふくらみの長さを大きくしてなだらかな形状にするためには幅焼きの範囲を広くする必要があるが、作業能率の面から幅焼きはある程度の幅にとどめた方がよい。鉄筋径の1.1倍程度以上のふくらみ長さであれば十分な継手強度が確保できることが確認されている。このふくらみ長さが得られるための幅焼きの範囲は鉄筋径と同程度である。

(3) 圧接面のずれは、圧接作業中に接合する鉄筋の突合せ面からずれた位置で加熱することによって生じる。加熱位置がずれると鉄筋同士で温度上昇が異なり適正な圧接温度に達しないままの圧接となり,良好な接合が得られない。圧接面のずれが鉄筋径の1/4以上になると十分な継手強度を確保できなくなる可能性がある。

(4) 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量は、施工の良否の指標の一つであり、管理限界値は鉄筋径の1/5以下としている。

(5) 圧接部に折れ曲りがある場合には継手の軸剛性が低下する。平成19年版では、折れ曲りの管理限界値は 3.5° 以上を目安とするとしていたが、鉄筋組立精度を向上する目的で、「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」に折れ曲りを 2°以下とする規定が定められたことを踏まえ、折れ曲りは 2°以下とするのがよい。

(6) 圧接部の片ふくらみは継手の強度に影響を及ぼすおそれがあることから、平成22年版「標仕」で監理項目に追加された。片ふくらみは圧接器の固定が不十分な場合や鉄筋端面の隙間が大きい場合に生じる。ふくらみの小さい側の圧接面には十分な加圧力が作用せず不完全な接合となり、圧接部の引張強さが低下することがある。管理限界値は、ふくらみ量の差が鉄筋径の 1/5以下としている。

(7) 「鉄筋の継手の構造方法を定める件」における圧接継手に関する規定の抜枠を次に示す。

なお、この告示のただし書きでは、繰返し加力等の実験によって耐力、靭性及び付着に関する性能が継手を行う鉄筋と同等以上であることが確認された場合は、告示で定める構造方法によらなくてよいとしている。(公社)日本鉄筋継手協会の自主的認定事業として、これらの性能の確認実験を行い、一定水準以上の施工管理の能力及び体制を有していれば、実験結果と同等以上の施工品質が確保できるとして「A級継手圧接施工会社」を認定しているので、参考にするとよい。

鉄筋の継手の構造方法を定める件
(平成12年5月31日 建設省告示第1463号)建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第73条第2項ただし書き(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定に基づき、鉄筋の継手の構造方法を次のように定める。1 建築基準法施行令(以下「令」という。)第73条第2項本文(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定を適用しない鉄筋の継手は、構造部材における引張力の最も小さい部分に設ける圧接継手、溶接継手及び機械式継手で、それぞれ次項から第4項までの規定による構造方法を用いるものとする。ただし、一方向及び繰り返し加力実験によって耐力、靭性及び付着に関する性能が継手を行う鉄筋と同等以上であることが確認された場合においては、次項から第4項までの規定による構造方法によらないことができる。

2 圧接継手にあっては、次に定めるところらよらなければならない。

一 圧接部の膨らみの直径は主筋等の径の1.4倍以上とし、かつ、その長さを主筋等の径の1.1倍以上とすること。

二 圧接部の膨らみにおける圧接面のずれは主筋等の径の1/4以下とし、かつ、鉄筋中心軸の偏心量は、主筋等の径の1/5以下とすること。

三 圧接部は、強度に影響を及ぼす折れ曲がり、焼き割れ、へこみ、垂れ下がり及び内部欠陥がないものとすること。

3 (5.5.3 (a)に記載)

4 (5.5.2 (a)に記載)

鉄筋の継手の構造方法を定める件

(b) ガス圧接継手の品質の良否は、圧接業者の品質管理体制によるところが大きい。

(公社)日本鉄筋継手協会では、品質管理要員として、①圧接計画書の作成又はその指導を行い、②その計画書に従って圧接作業が実施されていることの確認等を行う「鉄筋継手管理技士」及び「圧接継手管理技士」を認証している。

また、同協会では、圧接管理技士及び圧接作業の技量資格者の質と量、圧接機器、検査機器等の保有状況及び品質管理システムの運用状況等を審査し、品質管理体制が確立、維持されている圧接会社を「優良圧接会社」として認定しているので、参考にするとよい。

5.4.4 圧接一般

(a) 圧接装置
(1) 圧接装置は、加熱器、加圧器、圧接器からなり、これらの性能が圧接継手の良否や作業能率を左右する。圧接装置には手動ガス圧接装置と自動ガス圧接装置がある。前者は加圧器の動作及び加熱器の揺動を手動で行うものである。後者は加圧器の動作及び加熱器の揺動をプログラム制御するものである。手動ガス圧接装置の中には、加熱器の揺動は手動とし、加圧器の動作をプログラム制御する方式のものもある。

また、引張試験の際に、鉄筋が圧接器の締付け部から脆性的に破断することが ある。これは、圧接器の締付けボルトの先端形状によって鉄筋表面に圧痕が生じ、この圧痕が起点となって破断するものであり、締付けボルトの先端形状と締付けトルクが過剰とならないように注意する必要がある。締付けボルトの種類は、鉄筋表面に切欠き状の圧痕が生じない形状のものがよい。

(2) 圧接作業前には圧接装置・器具類の整備・点検を十分行って、不良圧接の原因となる不具合を排除するとともに、ガス漏れ、引火等による爆発事故を防止する。

(3) 参考として、(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書ガス圧接継手工事」の圧接装置に関する規定の抜粋を次に示す。

鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)

4.2 圧接装置
(1) 加熱器
a. 加熱器は吹管本体及び火口本体からなり、吹管本体は、JIS B 6801(手動ガス溶接器)に規定するもののうちB型溶接器のB1、B2号に適合するものとする。

b. 吹管本体の材質・品質・寸法などは、JIS B 6801に準拠するものとする。

c. 火口本体は、作業中の炎の安定性がよく、鉄筋径に適合した十分な加熱能力を有するものとする。

d. 火口先は、鉄筋表面を円周方向に均等に加熱できるものとする。

(2) 圧接器
a. 圧接器は、鉄筋に所定のアプセット量(縮み量)を与えることができる機構を有し、作業中に偏心、曲がりが生じないよう、十分な鉄筋の保持能力を有するものとする。

b. 鉄筋保持するための締付けボルトは、その先端が鉄筋に有害な傷を与えない形状のものとする。

(3) 加圧器
加圧器は、油圧器、高圧ホース及びラムシリンダーからなり、次の性能を有するものとする。

a. 加圧器は、電動式で、加熱と連動しながら加圧操作できるものとする。

b. 加圧器は、鉄筋断面(異形棒鋼の場合は、公称断面)に対し30MPa以上の加圧能力を有するものとする。また、SD490の場合は、鉄筋断面に対して40MPa以上の加圧能力を有し、上限圧及び下限圧を設定できる機能を有するものとする。

5.2 圧接装置
自動ガス圧接装置は、圧接施工記録の作成・出力が可能で、(社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたものとする。

鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)

(b) 原則として圧接をしない場合

(1) 平成22年版までの「標仕」では、鉄筋の種類が異なる場合、形状が著しく異なる場合及び径の差が5mmを超える場合は圧接をしないこととしていたが、SD345とSD390の鉄筋間の圧接は特記に基づいて一般的に行われていた。平成 25年版「標仕」では、こうした実情を踏まえて、鉄筋の種類についてSD345と SD390の圧接を許容するただし書きが追加された。したがって、特記により仕様が示される場合を除き、SD345とSD390の組合せ以外の種類が異なる鉄筋の場合、形状が著しく異なる場合及び径の差が5mmを超える場合は、圧接を行ってはならない。

(2) 径の差が大きい場合、鉄筋の熱容量が異なるために相互の鉄筋の温度上昇に差異が生じて圧接不良が生じる場合があることから、「標仕」では径の差を5mmまでに制限している。鉄筋には、D19、D22、D25、D29のように径に応じた呼び名があるが、D22とD29のように呼び名が2段階異なる場合を2段落ちあるいは2サイズ違いという。2段落ちの場合は径の差が5mm以上となるので、特記がない限り圧接してはならない。

(3) これに関連する場合のガス圧接について、(公社)日本鉄筋継手協会の資料では、次の(i)から(iii)までが示されている。

(i) 「鉄筋継手工事標準仕様書ガス圧接継手工事(2009年)」ではJIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に適合する範囲で強度区分が隣接する種類の鉄筋間の圧接は可能としており、「異種・異径鉄筋の圧接継手性能評価に関する調査研究」でその性能が検証されている。

(ii) ねじ節鉄筋とねじ節鉄筋及び竹節鉄筋とねじ節鉄筋のガス圧接については、「ねじ節鉄筋のガス圧接継手性能に関する研究」で性能確認がなされているが、「鉄筋継手工事標準仕様書ガス圧接継手工事(2009年)」にはねじ節鉄筋の圧接についての記載はない。

(iii) 製造所が異なる鉄筋のガス圧接については、「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」で圧接可能としているが、SD490についてはデータが少ないので十分な事前検討が必要としている。

5.4.5 鉄筋の加工

(a) ガス圧接では、1箇所当たり1d~1.5d (d:鉄筋の径)のアプセット〈縮み代〉が必要である。このため、梁筋や柱筋の定着長さが不足することがあるので、あらかじめ圧接による鉄筋の縮み代を見込んで鉄筋の加工を行う。

(b) 突き合わせた鉄筋の圧接端面間の隙間が大きいと圧接面が酸化しやすく、圧接部の強度が低下するおそれがある。そのため、鉄筋の圧接端面は、軸線にできるだけ直角、かつ、平滑に切断・加工し、圧接端面間の隙間をできるだけ少なくする必要がある。

従来の定置型せん断切断機によって切断された鉄筋の端部は端曲がりが生じているものが多く、再切断が必要となる場合もある。この再切断には、鉄筋冷間直角切断機を用いるのがよい。この切断機で切断し、当日圧接を行う場合にはグラインダーで研削する必要がない程度の端面が得られる。ただし、ばりが生じた場合にはこれを除去する。また、携帯型せん断切断器等を用いる方法もある。これらの方法による場合は、切断した端面をグラインダーで有害な切断跡がなくなるまで研削する必要がある。

5.4.6 圧接端面

圧接部の品質の良否は圧接端面の状態(図5.4.1参照)に大きく左右されるので、圧接端面の処理は圧接作業において極めて重要である。

(1) 圧接端面及び端面から100mm程度の範囲の鉄筋表面に錆、油脂、塗料、セメントペースト等が付着している場合には、これらをあらかじめ除去しておく必要がある。

(2) 圧接端面を平滑に仕上げることが良好な圧接継手とする基本であり、冷間直角切断機等を使用して切断することが望ましい。また、ばり等がきょう雑物として圧接端面に入り込まないように軽く面取りを行う必要がある。

(3) 圧接端面は完全な金属肌の状態でなければ良好な接合が得られないので、冷間直角切断機による端面処理やグラインダー研削は圧接作業当日に行い、錆がないことなど、端面の状態を確認する必要がある。このような状態に仕上げられていることの確認を、施工者の自主管理として全数行い、監督職員も抜取り的に確認するのがよい。また、圧接作業の前日以前に、鉄筋加工場や現場において圧接端面の処理を行うに当たり、処理後の防錯等のために、(公社)日本鉄筋継手協会が認定した端面保護剤が使用されることもある。


図5.4.1 圧接端面の状態

5.4.7 天候による処置

(a) 寒冷期には、溶解アセチレンの気化率が悪いため、温湯、専用電熱器又は照明具等を用いて容器を加温して気化を促進する場合がある。この場合、容器は40℃以上にならないように注意する。

なお、火気による加温は労働安全衛生規則第256条によって厳禁とされている。

(b) 高温期における容器は40℃以下に保つようにする。夏期の野外では直射日光を避けるため容器をシートで覆うなどの処置を講ずる。

(c) 一般作業のできる程度の降雨量であれば健全な圧接ができることが実験的に確認されているが、降雨雪に気をとられて圧接作業に集中できず不良圧接を生じかねないので、降雨雪時の圧接作業は中止とする。ただし、適切な防護を施せば作業を行ってもよい。

圧接時に強風が当たると炎が吹き流され、圧接面が酸化しやすく不良圧接になることがあるので注意する。やむを得ず強風下で圧接を行う場合には、完全な遮へいを施して圧接作業を行う。

5.4.8 圧接作業

(a) 鉄筋に圧接器を取り付けて突き合わせた場合の圧接端面間の隙間は鉄筋径にかかわらず2mm以下とする。この値は現場における管理限界を示したもので、基本はあくまでも隙間をなくすことである。平成19年版「標仕」では、この値を3mm以下としていたが「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」が隙間を2 mm以下とする規定に改訂されたことに合わせ、平成22年版「標仕」で2mm以下とするように改められた。また、偏心、曲がりがあると、圧接面全体に十分な加圧ができず、不良圧接になりかねないので、これらの有無を確認する必要がある。

(b) 圧接する鉄筋の軸方向へ母材断面に対して30MPa以上の加圧を行いつつ、加熱炎が突き合わせた鉄筋の圧接端面からはずれないようにし、圧接端面相互が密着するまで還元炎で加熱する。

鉄筋の圧接には、酸素及びアセチレンの混合ガスによる酸素・アセチレン炎が用いられる。このガス炎は、それぞれのガスの供給量の割合に応じて中性炎(標準炎)、還元炎(アセチレン過剰炎)、酸化炎(酸素過剰炎)に分類される(図15.4.2参照)。圧接の初期加熱時に圧接端面間の隙間が閉じるまでは加熱中における圧接端面の酸化を防ぐために鉄筋の中心まで届くフェザー長さの還元炎で端面を完全に覆うようにして加熱し、端面相互が密着したあとは、火力の強い中性炎で圧接面を中心としてバーナーを左右に揺動しながら加熱する。

接合の良否は、圧接端面相互が密着するまでの初期加熱時に端面が還元炎で十分に覆われていたかどうかによって決まることをよく認識しておく必要がある。


図5.4.2 中性炎(標準炎)と還元炎(アセチレン過剰炎)

(c) 圧接端面相互が密着したのちは還元炎より熱効率の高い中性炎で加熱する。
なお、突合せ部を集中的に加熱すると、圧接面の中心部まで適正な圧接温度(約1,250 ~ 1,300℃)に達しないうちに鉄筋表面部のみが溶融し、正常な圧接が困難となる。したがって、圧接面を中心に鉄筋径の2倍程度の範囲を揺動加熱(幅焼き)する。

(d) 圧接終了直後に圧接器を取り外すと、鉄筋の重みにより赤熱されている圧接部のふくらみ終端部あたりから容易に折れ曲りが生じるため、火色消失後に圧接器の取外しを行う必要がある。

(e) 加熱中にバーナー不調のために逆火等が生じて加熱を中断した場合、そのまま再圧接すると圧接面が酸化して不良圧接となるおそれがあるので,冷間直角切断機等を使用して圧接部を切り取り再圧接する必要がある。ただし、圧接端面相互が密着したあとであれば圧接面の酸化は生じないので再加熱して圧接作業を続行してもよい。

5.4.9 圧接完了後の試験

「標仕」では、圧接完了後に圧接箇所の全数について外観試験を行い、その後、超音波探傷試験又は引張試験による抜取試験を行うこととしている。

なお、ここでいう「抜取試験」は、一般には「抜取検査」と呼ばれている。

(1) 外観試験
(i) 圧接部のふくらみの形状及び寸法、圧接面のずれ、圧接部における鉄筋中心軸の偏心量、圧接部の折れ曲り、片ふくらみ、焼割れ、へこみ、垂下がりについて外観試験を行い、結果を記録する。

① 圧接部のふくらみの形状及び寸法については、図5.4.3に示すように、ふくらみの直径は母材鉄筋径の1.4倍以上、ふくらみの長さは母材鉄筋径の1.1倍以上でなければならない。圧接部のふくらみの外周に軸方向の小さなひび割れが発生することがあるが、これは鉄筋のアプセットに伴うもので、多少のひび割れは特に支障はない。ただし、ひび割れが著しい場合には欠陥となるので、加熱温度、加熱時間、加圧速度等を再検討して,ひび割れの発生を防ぐ。


図5.4.3 圧接部のふくらみの形状及び寸法

② 圧接面のずれは、図5.4.4による。圧接面のずれとは.圧接面がふくらみの中央からずれた位置に存在する場合をいう。これは、加熱位置が鉄筋を突き合わせた位置からずれてしまい、加熱が片方の鉄筋に偏り、適正な圧接作業が行われなかったことを示すものである。ずれが大きくなると強度の低い不良圧接となるので注意する必要がある。


図5.4.4 圧接面のずれ

③圧接部における鉄筋中心軸の偏心量は図5.4.5による。偏心量の大小は、施工の良否を示す指標の一つであるので注意する。


図5.4.5 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量

④鉄筋同士の角度が 2°以上となる圧接部の折れ曲りがあってはならない。

⑤圧接部の片ふくらみは図5.4.6による。


図5.4.6 圧接部の片ふくらみ

(ii) ①~⑤の外観試験の方法は目視によって行い、必要に応じて外観試験用測定治具を使用するとよい。圧接部測定用ゲージを用いると、簡単に圧接部の形状や軸心の食違い等を測ることができ迅速な試験が可能となる(図5.4.7参照)。


(イ)デジタルノギス


(ロ)圧接部測定ゲージ
図5.4.7 外観試験用測定治具の例

(iii) 外観試験は比較的簡単に実施できるので全圧接部を対象としている。

(2) 抜取試験
ガス圧接部の抜取試験には超音波探傷試験と引張試験があるが、「標仕」では、特記がない場合には、超音波探傷試験によるとしている。ただし、特定行政庁によっては引張試験を行う基準を運用していることがあるので、事前に確認しておく必要がある。

① 超音波探傷試験は、次のような特徴がある。
1) 非破壊試験であり、検査のための切取りによる再圧接がない。
2) 試験の抜取り箇所数を増減することができ、必要に応じて全数検査も可能である。
3) 試験従事者の技量に信頼性が依存する。
4) 工事現場において試験ができ、すぐ結果が分かる。

② 引張試験は.次のような特徴がある。
1) 切取りによる破壊試験であり、抜き取った継手の品質を直接的に確認できる。
2) 切取りによる全数検査は、不可能である。
3) 切取りによる再圧接箇所数が増える。
4) 試験結果を得るまでに時間がかかることが多い。

(3) 超音波探傷試験による抜取試験
(i) 超音波探傷試験の試験箇所数
「標仕」では、超音波探傷試験における抜取試験のロットの大きさを1組の作業班が1日に施工した継手箇所としている。1ロットの継手数は、鉄筋の径や継手位置等によって異なり、D22の場合100〜200箇所、D32の場合80〜 150箇所、D38の場合50〜100箇所程度と想定される。また、試験の箇所数は1ロットに対して30箇所であり、ロットから無作為に抜き取る。

(ii) 超音波探傷試験の方法と合否判定基準
超音波探傷試験は、鉄筋軸線に対して20度領いた超音波ビームを圧接面に当てて、圧接面に欠陥がある場合に検知される反射波の強さを測定する試験である。

超音波探傷試験の試験方法及び判定基準は、JIS Z 3062(鉄筋コンクリート用異形棒鋼ガス圧接部の超音波探傷試験方法及び判定基準)によるが、この規格の合否判定基準は、図5.4.8に示す欠陥からの反射波の強さと圧接部の引張強さの相関について調べた実験結果に基づいて定められている。図5.4.8において、横軸は鉄筋母材を透過させたときの透過波の強さ(基準レべルという。)に対する反射波の強さの比(エコー高さ)を示し、縦軸には同じ継手を引張試験して得られた圧接部の引張強さを鉄筋母材のJIS規格引張強さの下限値で除した値を示している。この図の関係より、基準レベルに対して-24dB(反射波の強さは基準レベルの約1/250)以上のエコー高さを示す圧接部を不合格とし、-24dB未満を合格としている。


図5.4.8 エコー高さと引張強さの関係

JIS Z 3062(鉄筋コンクリート用異形棒鋼ガス圧接部の超音波探傷試験方法及び判定基準)の抜粋を次に示す。

JIS Z 3062 : 2009

1 適用範囲
この規格は、JIS G 3112に規定する異形棒鋼(以下鉄筋という。)のガス圧接部の超音波探傷試験方法及び試験結果の判定基準について規定する。

3 用語及び定義
この規格で使用する用語の定義は、JIS Z 2300によるほか、次による。

3.1 リブ間距離
鉄筋の表面突起のうち、 軸線方向の突起をリブといい、この相対するリブ外面間の距離(図1参照)。


図1 – 鉄筋リブ間距離

3.2 透過走査
相対するリブの上に探触子を配置し、一方の探触子の超音波送信パルスを他方の探触子で受信する方法。

3.3 基準レベル
透過走査で求められる透過パルスの最大値。

3.4 合否判定レベル
基準レベルに基づいて、試験結果を判定するために定めたレベル。

3.5 はん(汎)用探傷器
基本表示のパルス反射式超音波探傷器。

3.6 専用探傷器
鉄筋ガス圧接部の探傷のために操作を簡易化したパルス反射式超音波探傷器。

4 試験技術者
鉄筋ガス圧接部の探傷試験を行う技術者は、超音波探傷試験の原理及び鉄筋ガス圧接部に関する知識をもち、かつ、その超音波探傷試験方法について十分な技術及び経験をもつ者とする。

5 探傷装置の機能及び性能
5.1 探傷装置の機能及び性能
探傷装置は、次の機能及び性能をもつものとする。
a) はん用探傷器の機能及び性能
はん用探傷器の機能及び性能は、附属書Aによる。(附属書A省略)

b) 専用探傷器の機能及び性能
専用探傷器の機能及び性能は、附属書Bによる。(附属書B省略)

5.2 探触子の性能
探触子の性能は、附属書Cによる。(附属書C省略)

5.3 接触媒質
接触媒質は、濃度75%(質量分率)以上のグリセリン水溶液、グリセリンペースト又は音響結合がこれらと同等以上と確認されたものとする。

5.4 探傷装置の点検
探傷装置は、次の点検を行い異常の有無を確認する。

a) 点検の種類及び時期
1) 始業時点検
始業時の点検は、探傷作業開始前に行う。

2) 作業中点検
作業中の点検は、作業中1時間ごと、又は1時間以内であっても少なくとも試験箇所20か所ごとに行う。

3) 終業時点検
終業時の点検は、探傷作業終了後速やかに行う。

4) 定期点検
定期点検は、1年に1回以上行う。

5) 特別点検
特別点検は、次の場合に行う。

5.1) 探傷装置の修理を行ったとき。
5.2) 探傷装置の一部を交換したとき。
5.3) その他特別に点検する必要があると認められたとき。

b) 点検の方法
1) 始業時、作業中及び終業時の点検方法は、次による。
1.1) 透過走査を行って基準レベルが設定できることを確認する。
1.2) 基準レベルに基づいて合否判定レベルを設定した後、透過走査を行って透過パルスが容易に受信できることを確認する。

2) 定期点検及び特別点検は、次による。
2.1) はん用探傷器の点検方法は、JIS Z 2352による。
2.2)専用探傷器の定期点検方法は、附属書Dによる。(附属書D省略)

c) 異常の場合の処置
a)及びb)の点検で異常が発見された場合の処置は、次による。
1) 点検で異常が認められた探傷装置は、使用しない。
2) 作業中及び終業時点検で異常が認められた場合には、その点検の直前の点検以降に実施した試験は無効とする。

6 探傷試験の準備

6.1 確認事項
探傷試験を開始する前に、鉄筋の種類、呼び名及びリブ間距離(図1参照)を確認する。

6.2 探傷の時期
探傷試験は、圧接部の温度が常温になってから行う。

6.3 探傷面の手入れ
探触子を接触させるリブ上の探傷面に、超音波の伝達を妨げるもの(浮いたスケール、コンクリート、セメントペースト、著しいさび、塗料など)が存在する場合には、これらを除去する。

7 探傷装置の調整
7.1 測定範囲の調整
測定範囲の調整は、次による。
a) はん用探傷器
はん用探傷器の場合には、探傷する鉄筋の透過パルスが時間軸の範囲に表示できるように、JIS Z 2345に規定する標準試験片(STB-A3)を用いて、測定範囲を設定する。

b) 専用探傷器
専用探傷器の場合には、ゲートの設定を探傷する鉄筋の呼び名に合わせる。

7.2 基準レベルの設定
基準レベルは、探傷する鉄筋の製造業者、種類及び呼び名が異なるごとに以下のように設定する。
a) はん用探傷器
はん用探傷器の場合には、透過走査によって透過パルスの最大値を求める(図2参照)。この透過パルスの高さを表示器目盛の50%となるように探傷器のゲイン調整器を講整し、これを基準レベルとする。


図2 – 基準レベルを得るための透過走査

b) 専用探傷器
専用探傷器の場合には、透過走査によって透過パルスの最大値を求める(図2参照)。探傷器の警報ランプ、バー表示又は音で最も高い透過パルスであることを確認し、これを基準レベルとする。

7.3 合否判定レベルの設定
合否判定レベルは、基準レベルの -24dBとする。

8 探傷試験
8.1 探傷方法
探傷は、鉄筋のリブ上での斜角二探触子によって、圧接部のふくらみの両側で行う(図3参照)。


図3 – 斜角二探触子法

8.2 走査方法及び走査範囲

走査方法及び走査範囲は、次による(図4参照)。

a)最初に、一方の探触子を圧接部のふくらみに近接した位置①に置き、他方を圧接部のふくらみに近接した位置④と圧接面から約2Dの位置⑤の範囲で前後走査する。

b) 次に、一方の探触子を圧接面から約1.4Dの位置②に置き、他方を圧接部のふくらみに近接した位置④と圧接面から約2Dの位置⑤の範囲で前後走査する。

c) 最後に、一方の探触子を圧接面から約2Dの位置③に置き、他方を圧接部のふくらみに近接した位置④と圧接面から約2Dの位置⑤の範囲で前後走査する。


図4 – 走査方法

8.3 走査速度
走査速度は、60mm/s以下とする。

9 合否判定
圧接部を挟んで両側における探傷試験で、合否判定基準レベル以上のエコーが検出されなかった場合は合格とする。

10 記録
探傷試験を行った後、次の事項を記録する。

a) 工事名
b) 圧接工事施工者名(会社名)
c) 圧接工法
d) 試験年月日
e) 試験を実施した試験技術者の氏名
f) 試験箇所
g) 合否判定結果
h) 鉄筋の製造業者名、種類及び呼び名
i) 探傷器の形式及び製造番号
j) 探触子の製造業者名及び製造番号
k) その他参考となる事項(指定事項、協議事項、試験材の抜取方法など)

JIS Z 3062 : 2009

(iii) 探傷不能領域の存在

超音波探傷試験では、鉄筋のリブ上の探触子から入射させる超音波で圧接面のできるだけ広い範囲が探傷できるように、探触子をリブ上で前後に移動させて走査を行うが、それでも圧接面には探傷不能領域と呼ばれる超音波が届かない部分が存在する。この探傷不能領域は図5.4.9に示すように圧接面の周辺部となるため、この部分に存在する欠陥は検出できないことになる。しかし、この探傷不能領域の存在を前提としたうえで、図5.4.8の関係が成り立っている。


図5.4.9 探傷不能領域

(iv) 試験従事者
試験従事者は当該工事のガス圧接工事に関連のない立場の者とし、監督職員は、受注者等から提出された知識及び経験等の証明となる資料により確認することになるが、圧接作業、圧接条件等についても必要な知識を有する者であることが要件となる。

一例として、(公社)日本鉄筋継手協会では「鉄筋継手部検査技術者技量資格」(1G種,1W種,1M種,2種,3種)の認証を行っている。1G種,1W種,1M種は、それぞれ、圧接継手部、溶接継手部、機械式継手部の、2種は圧接継手部と溶接継手部の、3種は圧接継手部と溶接継手部、機械式継手部の超音波探傷検査及び外観検査を行うことができる資格である。したがって、ガス圧接継手の検査を行うことができる検査技術者は、1G種,2種,3種のいずれかの技量資格を有する者である。

これらの者は、「標仕」5.4.9(2)(ⅰ)④に規定する試験従事者としての要件のうち、必要な知識等を有するものと見なすことができる。

(v) ロットの合否判定
ロットの合否判定は、抜き取った試験箇所数のすべてが合格と判定された場合に当該ロットを合格とすることとしている。この「標仕」の抜取り方式(ロットの大きさ:200程度、抜取り数:30箇所、不合格品個数:0)では、品質のレベルを表すAOQL( Average Outgoing Quality Limit:平均出検品質限界)は約1%となる。

(4) 引張試験による抜取試験
(i) 引張試験の試験箇所数
引張試験による抜取試験の場合、超音波探傷試験による抜取試験の場合と同じく1検査ロットの大きさは、1作業班が1日に施工した箇所数としている。

また、試験片の採取数は1ロットに対して3本としている。作業班ごとの外観試験に合格したもののうち最とも外観の悪いものについて行い、その採取箇所は監督職員が指定することが望ましい。

試験片を採取した箇所は、同種の鉄筋を再圧接により継ぎ足して修正する。ただし、鉄筋がD25以下の場合にはコンクリート打込み等に問題がなければ鉄筋の納まりを考慮し、設計担当者と協議したうえで重ね継手として修正させてもよい。

(ii) 試験片の形状、寸法及び試験方法は、JIS Z 3120(鉄筋コンクリート用棒鋼ガス圧接継手の試験方法及び判定基準)による。この規格の抜粋を次に示す。

JIS Z 3120 : 2009

1 適用範囲
この規格は、構造物の鉄筋としてJIS G 3112に規定する棒鋼を用いる場合の手動ガス圧接法、自動ガス圧接法及び熱間押抜きガス圧接法によるガス圧接継手の試験方法及び判定基準について規定する。

3 用語及び定義
この規格で用いる主な用語及び定義は、JIS Z 3001-1及びJIS Z 3001-2によるほか、次による。

3.1 ガス圧接継手
酸素 – アセチレンガス炎を用いて加熱し、機械的圧力を加えて溶接した突合せ継手。

3.2 手動ガス圧接法
加圧工程とバーナー躯動とを自動的に制御しない手動ガス圧接装置を使用してガス圧接を行う方法。

3.3 自動ガス圧接法
加圧工程とパーナー駆動とを自動的に制御する自動ガス圧接装置を使用してガス圧接を行う方法。

3.4 熱間押抜きガス圧接法(略)

3.5 圧接面
圧接によって得られた接合面。

3.6 圧接部
圧接によって得られた熱影響部を含む継手部全体。

3.7 追試験
試験片の不合格の原因を確認するための試験。

4 試験の種類
試験の種類は、外観試験と引張試験とする。ただし、やむを得ない場合は、継手施工の受渡当事者間の合意によって、引張試験を曲げ試験に代えてもよい。

5 試験片
試験片の形状及び寸法は、表1による。試験片はガス圧接のままとし、引張試験片又は曲げ試験片は外観試験に合格したものを用いる。ただし、手動ガス圧接法又は自動ガス圧接法によって作製した曲げ試験片については、試験片を正しく曲げるために、押し金具が当たる側のふくらみを母材外接線まで削るのが望ましい。

表1 – ガス圧接継手試験片の形状及び寸法

6 試験方法

6.1 外観試験
圧接部の外観試験は、ふくらみの形状・寸法、圧接接面のずれ、鉄筋中心軸の偏心量、折れ曲がり、その他有害と認められる欠陥の有無などについて、目視又は必要に応じてノギス、スケールなどの器具を用いて行う。

6.2 引張試験方法
引張試験方法は、JIS Z 2241による。ただし、継手の引張強さを求める場合の断面積は、異形棒鋼については JIS G 3112に規定する公称断面積とし、棒鋼についてはJIS G 3191に示す標準径によって求めた断面積とする。

6.3 曲げ試験方法
曲げ試験方法は、JIS Z 2248に規定する押曲げ法による。ただし、 曲げ角度は45° 以上とし、内側半径は JIS G 3112による。

7 判定基準
7.1 外観試験の判定基準
すべての試験片が次の判定基準を満足しなければならない。

a) 手動ガス圧接法及び自動ガス圧接法によって作製された試験片の場合は、次による。

1) 圧接部のふくらみの直径(D)は、鉄筋の径又は公称直径の1.4倍以上とする。ただし、JISG3112に規定するSD490の場合は1.5倍以上とする(図1参照)。

2) 圧接部のふくらみの長さ(ℓ)は、鉄筋の径又は公称直径の1.1倍以上とする。ただし、JISG3112に規定するSD490の場合は1.2倍以上とする(図1参照)。


図1 – 圧接部のふくらみの直径及びふくらみの長さ

3) 圧接面のずれ( δ) は、鉄筋の径又は公称直径の1/4以下とする(図2参照)。


図2 – 圧接面のずれ

4) 圧接部における相互の鉄筋中心軸の偏心量 ( e ) は、鉄筋の径又は公称直径の1/5以下とする(図3参照)。


図3 – 偏心量

5) 目視によって明らかな圧接部の折れ曲がりがないものとする。

6) 目視によって圧接部に過熱による著しいたれ・割れ・溶けがないものとする。

b)(略)

7.2 引張試験の判定基準
すべての試験片の引張強さがJIS G 3112の規定に合格しなければならない。

7.3 曲げ試験の判定基準
いずれの試験片も圧接面に破断又は割れがあってはならない。

JIS Z 3120 : 2009

(iii) ロットの合否判定
ロットの合否判定は、抜き取った試験片の全数が母材のJIS規格引張強さ以上で、かつ、圧接面での破断がない場合を当該ロットの合格としている。母材のJIS規格引張強さ以上でも、圧接面で破断した場合に不合格としているのは、圧接面破断が生じる際の強度には、ばらつきが大きい場合もあり、3本の抜取試験では強度の推定が困難なためである。

母材のJIS規格引張強さ未満で圧接面破断した場合は、原因が母材鉄筋自身にあることも考えられるので、鉄筋母材の材料試験をしてみることが望ましい。

また、母材破断した場合でも、母材の規格引張強さ未満で破断した場合は不合格となる。その場合で、破断部位が圧接器の締付けボルトによる圧痕に起因していると考えられる場合には、締付けボルトを変更する必要がある。

圧接面で破断し不合格となった場合には、再試験を行うことができることとし、その場合の抜取り数は当該ロットの5%以上とし、すべての試験片について引張強さが母材のJIS規格値以上の場合を合格としている。

5.4.10 不合格となった圧接部の修正

不良圧接部の判定手順及び修正について、図5.4.10に示す。
(1) 外観試験で不合格となった圧接部の修正
(i) 圧接部のふくらみの直径とふくらみの長さがそれぞれ鉄筋径の1.4倍、1.1倍に満たない場合の修正は、鉄筋を切断せずに再加熱・加圧して、所定のふくらみの直径及びふくらみの長さとしてもよい。これは再加熱・加圧によって圧接部の品質を劣化させることなく形状を修正することができるためである。

(ii) 圧接面のずれが鉄筋径の1/4を超えた場合は、十分な接合強度が得られず圧接面破断となりやすい。この場合には、圧接部を切り取って再圧接する。

(iii) 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量が鉄筋径の1/5を超えた場合には、圧接面に必要な加圧力が作用しなかった可能性があるので圧接部を切り取って再圧接する。

(iv) 圧接部に折れ曲りが生じている場合は、これによる強度低下は少ないが、鉄筋の軸方向の剛性が低下するので再加熱によって修正する。

(v) 圧接部のふくらみ量の差が鉄筋径の1/5を超える片ふくらみとなった場合は、部分的に十分な加圧力が作用しなかった可能性があるので圧接部を切り取って再圧接する。

(vi) 圧接部のふくらみがつば形となるのは、バーナーの揺動幅が狭く、幅焼き不足によって生じるもので、箸しいつば形の場合には圧接面の中心部まで適正な圧接温度に達していない可能性がある。

また、短時間の加熱で加圧すると圧接部表面にひび割れが生じやすい。著しいひび割れは鉄筋内部が適正温度に達していない可能性がある。

いずれの場合にも、圧接部を切り取って再圧接する。

(2) 抜取試験で不合格となったロットの処置
(i) 超音波探傷試験あるいは引張試験による抜取試験で不合格ロットが生じた場合には、直ちに圧接作業を中止し、欠陥の発生箇所、圧接面に発生している欠陥の種類等を調べて欠陥の発生原因を究明する。原因が明らかになれば、再発防止のための改善措置を検討し、施工計画書の修正等を行ったのち、作業を行う。

(ii) 不合格となったロットは、試験されていない残り全数に対して超音波探傷試験を行い、不良圧接部の選別を行う。

(iii) 超音波探傷試験の結果、不合格となった圧接箇所の処理は、圧接箇所を切り取って再圧接する。平成19年版「標仕」では不合格となった圧接箇所について、監督職員と協議したうえでの添え筋による補強を認めていた。しかし、添え筋 による補強は重ね継手によることと同じことであり、鉄筋径の制限があるとともに、鉄筋のあきを確保することや付着性能の確認が必要となる。こうした事項の確認は設計担当者が行うべきもので、現場で安易に採用すべきではないとの観点から、平成22年版「標仕」で添え筋による補強が削除された。ただし、圧接位置によっては再圧接が困難で、機械式継手等によって処理することが必要な場合もあり得るので、設計担当者により処理方法が特記されていることが望ましい。

(3) 圧接部を再加熱して修正する場合は、適正な形状となったかどうか外観試験を行って確認する必要がある。また、圧接部を切り取って再圧接する場合は、外観試験及び超音波探傷試験を行って再圧接した圧接部の品質を確認する必要がある。


図5.4.10 不良圧接部の判定手順及び修正

5.4.11 「標仕」以外の圧接工法

圧接作業方法として、「標仕」に規定する方法以外に熱間押抜きガス圧接がある。この方法は、圧接直後に圧接部のふくらみを赤熱中にせん断刃で押し抜いて除去し、このせん断面の表面外観により圧接部の品質を判定できるとともに、仕上り形状を母材鉄筋に近づけることができる。

なお、熱間押抜きガス圧接はふくらみを除去する工法であるため、平成12年建設省告示第1463号で規定する構造方法に適合しない部分がある。このため(公社)日本鉄筋継手協会が、同協会の「鉄筋のガス圧接工事標準仕様書(2003年)」に基づき適切に施工された熱間押抜きガス圧接部材について実験により性能の確認を行った結果が「鉄筋のガス圧接継手性能評価に関する調査研究(2004年)」にまとめられているので参考にするとよい。

(1) 熱間押抜きガス圧接の特徴等
(i) 加熱・加圧等の圧接工程は、従来の方法と全く同じであり、せん断除去後のふくらみ部の径は、鉄筋径よりやや大きい寸法(鉄筋径の1.2倍程度)となる。

(ii) 不良圧接の場合、熱間押抜きに伴って圧接部に生じる鉄筋軸方向の引張応力によって接合面が開口し、割れや線状傷として現れることにより品質を判定できる(図5.4.11参照)。


図5.4.11_押抜き法による表面傷の発生過程

(iii) ふくらみの押抜き直後に、圧接部表面に割れ、線状傷、へこみ等の欠陥が認められた場合には、再圧接のうえ再度押し抜くことができる。

(iv) 径の異なる鉄筋間の継手には適用できない。

(v) 押抜き作業には特別な技量を必要とするため、熱間押抜きガス圧接技量資格証明書を有する圧接技量資格者とする必要がある。

(2) 押抜き後の試験
押抜き後の試験は、全数外観試験を行う。

外観試験は、目視によって行い、必要に応じてノギス、スケール、鏡、その他適切な器具を用いる。また、外観試験の対象項目及び判定基準は、次のとおりである。

① ふくらみを押し抜いたのちの圧接面に対応する位置に割れ、線状傷、へこみがあってはならない。

② オーバーヒート等による表面不整があってはならない。

③ 圧接部のふくらみの長さℓは、鉄筋径の1.1倍以上でなければならない(図5.4.12 参照)。


図5.4.12 圧接部のふくらみの長さ

④ 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量 e は、鉄筋径の1/10以下でなければならない。(図5.4.13参照)


図5.4.13 偏心量

⑤ 目視により明らかな折れ曲りがあってはならない。

(3) 押抜き後の試験で不合格となった場合の処置
押抜き後の外観試験で不合格となった圧接部は,次に示す方法で処置する。

① 押抜き後の圧接面に対応する位置に割れ,線状傷,へこみ,オーバーヒート等による表面不整が認められた場合及びふくらみの長さが鉄筋径の1.1倍に満たない場合は、そのまま再加熱、再加圧、押抜きを行って修正し、外観検査を行う。

② 圧接部に著しい折れ曲がりを生じた場合は、再加熱して修正し、外観検査を行う。

③ 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量が規定値を超えた場合は、圧接部を切り取って再圧接し、外観検査を行う。

5章 鉄筋工事 5節 機械式継手及び溶接継手

第5章 鉄筋工事 


5節 機械式継手及び溶接継手

5.5.1 適用範囲

(a) 現在、わが国で使用されている鉄筋継手を工法別に分類すると図5.5.1に示すとおりとなる。平成22年版「標仕」では、このうちの重ね継手とガス圧接継手を標準的な鉄筋継手工法として取り扱い、機械式継手とD16以下の細径鉄筋に用いる重ねアーク溶接継手(フレア溶接継手)を特殊な鉄筋継手として、その適用範囲を限定してきた。平成25年版「標仕」では、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1463号)に適合する機械式継手及び溶接継手についても標準的な鉄筋継手工法として取り扱うように改定された。

したがって、これまでの特殊な鉄筋継手の適用範囲であった機械式継手とD16以下の細径鉄筋に用いる重ねアーク溶接継手については従来と同様に適用範囲に含まれており、新たに突合せ溶接継手(エンクローズ溶接継手)が適用範囲に含まれたことになる。

なお、図5.5.1の溶接継手のうち、フラッシュバット溶接継手及びアプセットバッ卜溶接継手からなる突合せ電気抵抗溶接継手は、溶接閉鎖型のせん断補強筋や開口部補強筋に用いられる。これらのうち、高強度せん断補強筋の接合に用いる溶接は、5.3.2(d)(2)に記述したように、それぞれの製品の設計施工指針が対象とする製造工場又は加工工場のみで行われる。これは、評定を受けて製造される開口部補強筋製品についても同様である。一方、普通強度のせん断補強筋に用いる溶接については、(公社)日本鉄筋継手協会が審査により高品質な溶接閉鎖型せん断補強筋を製造する会社(工場)を「優良溶接せん断補強筋製造会社」として認定しているので、参考にするとよい。


図5.5.1 鉄筋継手の分類

(b) 機械式継手や溶接継手を用いる場合は設計図書に記載されるが、工事に当たっては適用の条件を確認する必要がある。設計図書に記載される事項は次のようなものである。

(1) 継手の名称
(2) 必要に応じて、接合装置名、接合用部品の材料の材質・形状・寸法等、鉄筋端あるいは表面の処理法
(3) 必要に応じて、継手位置、継手部におけるコンクリートのかぶり厚さ、継手部におけるあばら筋・帯筋の寸法・間隔、継手の位置のずらし方等
(4) 現場における継手の試験・検査の方法とその回数

(c) 継手によっては、接合装置がかさばる場合もあるので、接合する部分の鉄筋間隔についての事前の検討が必要である。

5.5.2 機械式継手

(a) 機械式継手は、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示1463号)に適合したものでなければならない。同告示では、機械式継手の構造方法として、カップラー等の接合部分における滑りやカップラーの強度、モルタルやグラウト材等の強度、ナットを用いて固定する場合の導入トルク、圧着によって固定する場合の密着状態を規定している。現在までに建築工事に適用実績のある機械式継手を次に例示する。

(1) ねじ節継手は、異形鉄筋の節形状がねじ状になるように圧延された鉄筋を雌ねじ加工されたカップラーを用いて接合する工法である。メーカーによって節形状が異なっており専用のカップラーが必要である。カップラーと鉄筋との間の緩みを解消する方法として、ロックナットを締め付けるトルク方式、カップラーと鉄筋の節との空隙にモルタル又は樹脂を注入するグラウト方式、両者を併用したナットグラウト方式がある(図5.5.2参照)。


(イ)トルク方式


(ロ)グラウト方式
図5.5.2 ねじ節継手の例

(2) 端部ねじ継手は、市販の異形鉄筋の端部をねじ加工した鉄筋、又は加工したねじ部を鉄筋の端部に摩擦圧接した鉄筋を使用し、雌ねじ加工したカップラーを用いて接合する工法である(図5.5.3参照)。


図5.5.3 端部ねじ継手の例

(3) 鋼管圧着継手は突き合わせた鉄筋の端部に鋼管(スリーブ)をかぶせたのちにこの鋼管を油圧ジャッキで圧着し、鋼管を異形鉄筋の節に食い込ませて接合する工法である。鋼管の圧着を連統的に行う方式と断続的に行う方式がある。鉄筋は異形鉄筋であれば市販のどれでも使用できる(図5.5.4参照)。


(イ) 連続圧着方式


(ロ)断続圧着方式
図5.5.4 鋼管圧着継手の例

(4) 充填継手には、充填する材料によってモルタル充填継手と、溶融金属充填継手の2種類がある。モルタル充填継手は鋳鋼製スリーブの両端から鉄筋を突き合わせるように挿入し、スリーブと鉄筋との隙間を無収縮高強度モルタルで充填し一体化して接合する工法である。溶融金属充槙継手は鉄筋を突き合わせたスリーブ内に溶融金属を流し込んで隙間を充填し接合する工法である。いずれも市販の異形鉄筋はどれでも使用できる(図5.5.5参照)。


図5.5.5 充填継手の例

(5) 併用継手は、2種類の機械式継手を組み合わせることでそれぞれの長所を取り入れ、施工性を改良したものである(図5.5.6参照)。


(イ)圧着ねじ併用継手


(ロ)充填圧着併用継手
図5.5.6 併用継手の例

(6) 「鉄筋の継手の構造方法を定める件」における機械式継手に関する規定の抜粋を次に示す。

鉄筋の継手の構造方法を定める件
(平成12年5月31日建設省告示第1463号)

建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第73条第2項ただし書(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定に基づき、鉄筋の継手の構造方法を次のように定める。

1.(5.4.3 (a)に記載)

2.(5.4.3 (a)に記載)

3.(5.5.3 (a)に記載)

4.機械式継手にあっては、次に定めるところによらなければならない。

ー カップラー等の接合部分は、構造耐力上支障のある滑りを生じないように固定したものとし、継手を設ける主筋等の降伏点に基づき求めた耐力以上の耐力を有するものとすること。ただし、引張力の最も小さな位置に設けられない場合にあっては、当該耐力の1.35倍以上の耐力又は主筋等の引張強さに基づき求めた耐力以上の耐 力を有するものとしなければならない。

ニ モルタル、グラウト材その他これに類するものを用いて接合部分を固定する場合にあっては、当該材料の強度を1平方ミリメートルにつき50ニュートン以上とすること。

三 ナットを用いたトルクの導入によって接合部分を固定する場合にあっては、次の式によって計算した数値以上のトルクの数値とすること。この場合において、単位面積当たりの導入軸力は、1平方ミリメートルにつき30ニュートンを下回ってはならない。

四 圧着によって接合部分を固定する場合にあっては、カップラー等の接合部分を鉄筋に密着させるものとすること。

(b) 隣り合う鉄筋の継手位置は、「標仕」5.3.4(d)により、カップラーの中心間で400 mm以上かつ、カップラー端部の間のあきが40mm以上となるようにずらして配置する。ただし、先組み工法等で継手を相互にずらさない場合は特記による位置とする。

(c) 現在、市販されている機械式継手は、(一財)日本建築センターの評定を受けて告示の構造方法との適合性が確認されている。したがって、工法や品質の確認方法等は、各工法の評定を受けた施工要領書に準拠しなければならず、特記及び品質計画はこれらの施工要領書に基づいて定める必要がある。

機械式継手の検査においては、カップラーに対する鉄筋の挿入長さの確認が重要である。機械式継手は、鉄筋の挿入長さが十分でなければカップラーを介して応力が伝達されず十分な機能を果たさなくなる。このため、施工作業ではマーキングによる挿入長さの確認を行うこととしており、監督職員も抜取り的に確認を行うのがよい。(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書機械式継手工事(2009年)」では、表面SH波法による鉄筋挿入長さの超音波測定検査を主要な機械式継手の仕様とともに定めているので、必要に応じて参考にするとよい。

5.5.3 溶接継手

(a) 溶接継手は、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1463号)に適合したものでなければならない。同告示では、突合せ溶接継手の構造方法が規定され、径が25mm以下の主筋等にあっては重ねアーク溶接継手とすることができるただし書きが記されている。

「鉄筋の継手の構造方法を定める件」の溶接継手に関する規定の抜粋を次に示す。

鉄筋の継手の構造方法を定める件
(平成12年5月31日建設省告示第1463号)

建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第73条第2項ただし書(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定に基づき、鉄筋の継手の構造方法を次のように定める。

1 (5.4.3(a)に記載)

2 (5.4.3(a)に記載)

3 溶接継手にあっては、次に定めるところによらなければならない。

ー 溶接継手は突合せ溶接とし、裏当て材として鋼材又は鋼管等を用いた溶接とすること。ただし、径が25ミリメートル以下の主筋等の場合にあっては、重ねアーク溶接継手とすることができる。

二 溶接継手の溶接部は、割れ、内部欠陥等の構造耐力上支障のある欠陥がないものとすること。

三 主筋等を溶接する場合にあっては、溶接される棒鋼の降伏点及び引張強さの性能以上の性能を有する溶接材料を使用すること。

4 (5.5.2(a)に記載)

(b) 隣り合う鉄筋の継手位置は、「標仕」5.3.4(d)により、継手の中心間で400以上ずらして配置する。ただし、先組み工法等で継手を相互にずらさない場合は特記による位置とする。

(c) 現在、工事に採用できる突合せアーク溶接継手(エンクローズ溶接継手)は、告示の第1項ただし書きの規定による継手部分の性能を確認し、(一財)日本建築センターの評定又は(公社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたものがほとんどである。これらは告示の第3項にも適合しているので、性能が確認されたこれらのエンクローズ溶接継手を用いるのが望ましい。(一財)日本建築センターの評定又は(公社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたエンクローズ溶接継手の工法や品質の確認方法等は、前者では評定を受けた施工要領書に、後者では(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)」に準拠しなければならず、特記及び品質計画はこれらに基づいて定める必要がある。

(1) エンクローズ溶接継手の概要と種類
エンクローズ溶接継手は突き合わせた鉄筋の開先部を裏当て金で囲み、CO2ガスシールドにより溶接部の酸化を防止しながら、開先底部よりアークをスタートさせて鉄筋両端面に十分な溶込みを与えながら連続的に開先内を溶融金属で充填して接合するもので、溶接後の継手の伸縮は小さいという特徴がある。この溶接はI 形開先であり、ルート間隔の管理が重要である。エンクローズ溶接の例を図 5.5.7に示す。


図5.5.7 エンクローズ溶接の例

(2) エンクローズ溶接継手の検査
(一財)日本建築センターの評定又は(公社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたエンクローズ溶接継手の検査は、その工法の施工要領書に定める方法によらなければならない。検査の種類では、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」の第3項第二号において、溶接部に割れ、内部欠陥等の構造耐力上支障のある欠陥がないものとすることと規定されていることに対応して、外観検査と超音波探傷検査が行われる。しかし、裏当て金が固着する工法では溶接部全周の外観検査ができないことや裏当て金によって超音波探触子を当てる部分が制限される。また、裏当て材が取り外せる工法でも鉄筋のリブとアークの起点が必ずしも一致しないため、ガス圧接継手の超音波探傷検査に採用される直角K走査法では欠陥が比較的生じ易いとされる溶接初層部の検査ができない場合がある。したがって、エンクローズ溶接継手については、工事の全部あるいは一部について、より広範囲な検査領域が得られる探触子走査法を併用することなどが望ましい。

(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)」では、上記の課題に対応する検査方法として、探触子を鉄筋軸に対して20゜傾斜させる斜めK走査法や斜めタンデム走査法を直角K走査法と併用する検査法が規定されているので、参考にするとよい。例として斜めK走査法による鉄筋溶接部の超音波探傷を図5.5.8に示す。


図5.5.8 斜めK走査法による鉄筋溶接部の超音波探傷

(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)」における検査の規定の抜粋を次に示す。

鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)

4章 検 査
4.1 一般事項
(1) 溶接部の検査は、外観検査と超音波探傷検査によって行う。引張試験による検査を併用する場合は、特記による。

(2) 検査は、原則として発注者又は監理・責任技術者の立会のもとに行う。

(3) 検査の時期は、工事工程を考慮して定め、監理・責任技術者の承認を得る。

(4) 検査数量は、次による。
a. 外観検査は、全数検査とする。
b. 超音波探傷検査は、抜取検査とする。
c. 引張試験による検査は、抜取検査とする。

(5) 検査は、発注者又は監理・責任技術者の承認を受けた施工者若しくはその代理者である検査会社の検査技術者が行う。また、検査技術者は、欽筋継手部検査技術者資格の1W種、2種又は3種を保有する者とする。

4.2 外観検査
(1) 外観検査の検査項目は、表2による。

(2) 外観検査は、目視によって行い、目視で判定が困難なものに対して、ノギス、スケール、その他適切な器具を用いて寸法を測定する。

(3) 外観検査の合否判定基準は、各溶接継手工法の認定条件及び表2のいずれをも満足するものとする。

表2 外観検査項目及び合否判定基準

4.3 超音波探傷検査
(1) 超音波探傷検査の検査項目は、内部欠陥の検出とする。

(2) 超音波探傷検査の方法は、(社)日本鉄筋継手協会規格 JRJS 0005(鉄筋コンクリート用異形棒鋼溶接部の超音波探傷試験方法及び判定基準(案))に規定する直角K走査法と斜めK走査法(又は斜めタンデム走査法)を併用して行う。

(3) 継手の合否判定基準は、合否判定レベルを基準レベルの –18dBとし、これ以上のエコーが検出された場合は、不合格とする。

4.4 超音波探傷検査における抜取検査
(1)抜取検査の検査ロットは、同ー作業班が同一日に施工した溶接箇所とし、その大きさは、200箇所程度を標準とする。

(2) サンプルの大きさは検査ロットごとに30箇所とし、サンプルはランダムに抽出する。

(3) ロットの合否判定は、30箇所のサンプルのうち、不合格数が、1箇所以下のときはロットを合格とし、2箇所以上のときはロットを不合格とする。

(4) ロットの処置については、合格ロットはそのまま受け人れ、不合格ロットは超音波探傷検査による全数検査を行って合格した溶接粧手を受け入れる。

4.5 引張試験による検査
(1) 溶接継手の引張試験方法は、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)による。ただし、継手の引張強さを求める場合の断面積は、JIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に規定する公称断面積とする。なお、この場合の引張試験機による試験片のつかみ間隔は、公称直径の8倍以上とする。

(2) 溶接継手の引張試験の合否判定基準は、試験片の引張強さが母材の規格値以上の場合、合格とする。

(3) 引張試験による検査における抜取検査は、次による。
a. 抜取検査の検査ロットは、同ー作業班が同一日に施工した溶接箇所とし、その大きさは200箇所程度を標準とする。

b. サンプルの大きさは検査ロットごとに3本とし、サンプルはランダムに抜き取る。

c. すべての試験片の引張強さが母材の規格値以上のときはロットを合格と判定する。また、1本のみが母材の規格値未満のときは、さらに3本を抜き取り、すべての追加試験片の引張強さが母材の規格値以上のときはロットを合格と判定する。

d. 合格ロットはそのまま受け人れ、不合格ロットの処置は、監理・責任技術者 と協議し、承認を得る。

4.6 不合格溶接部等の処置
(1) 検査で不合格が生じた場合は、直ちに監理・責任技術者に報告し、処置について承認を得る。監理・責任技術者が処置方法を指定する場合以外においては、次の(2), (3)により処置を行う。

(2) 外観検査で不合格となった溶接部は、不合格溶接部を補修又は再溶接した後、外観検査及び超音波探傷検査を行う。

(3) 超音波探傷検査で不合格となった溶接部は不合格溶接部を切り取って再溶接し、外観検査及び超音波探傷検査を行う。

(4) 外観検査で10%以上の溶接部に不合格が生じた場合又は超音波探傷検査でロット不合格と判定された場合は、以後の溶接継手工事を中止し、不合格の発生原因を調査する。工事を再開するにあたっては、再発防止のために必要な措置を講じて、監理・責任技術者の承認を得る。

鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)

(d) D16以下の細径鉄筋に対する溶接は、重ねアーク溶接(フレア溶接)とする。これについて、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日 建設省作示第1463号)では、径が25mm以下の主筋等の場合にあっては重ねアーク溶接継手とすることができるとあるので、「標仕」の方が厳しく制限していることに注意する必要がある。フレア溶接継手は鉄筋どうし又は鉄筋と鋼材を重ね合わせて、その重ねた部分にできる開先部分を溶接する方法である(図5.5.9参照)。主としてせん断補強筋の接合に用いられ、高強度の鉄筋での実績はほとんどない。(社)プレハプ建築協会では壁式プレキャスト工法のパネル間接合にフレア溶接を用いることから、「PC工法溶接工事品質管理規準(2004年)」を定めて運用している。同基準における鉄筋の種類の適用範岡は、JIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)の規格品のうち、SR235,SD295A, SD295B,SD345としている。


(イ)当て金なし


(ロ)当て金付き
図5.5.9 フレア溶接継手の例

SD345以下の強度の鉄筋をフレア溶接継手によって全強継手とするための溶接有効長さは、(社)プレハプ建築協会「PC工法溶接工事品質管理規準(2004年)」の規定と同様に、片面溶接で鉄筋径の10倍以上、両面溶接で鉄筋径の5倍以上を確保する。また、同規準では、片面溶接はD13以下の細径鉄筋に制限している。

更に同規準において、フレア溶接継手の開先標準が表5.5.1のとおり定められているので、参考にするとよい。

表5.5.1 フレア溶接継手の開先標準

(e) 溶接技能者は、工事に相応した技量を有する者でなければならず、各鉄筋継手工法に定められた資格者でなければならない。

エンクローズ溶接継手については、評定又は認定を受けた施工要領書で規定する資格を有する者でなければならない。一例として、(公社)日本鉄筋継手協会では、「鉄筋溶接技量検定規定」に基づいて検定試験を行い、鉄筋溶接技量資格者を認証し、適格性証明書を発行している。すべてのエンクローズ溶接工法でこの資格者であることが規定されているものではないが、技量検定試験により一定の技量が確認されている技能者であるとしてよい。

フレア溶接継手については、7.6.3[技能資格者]の中板構造の資格者とするのが一般的であるが、これらの評価試験が板材や管材の突合せ溶接によっていることに鑑み、(社)プレハプ建築協会ではフレア溶接に関する付加技量試験を行って、手溶接に対するアーク溶接技能者(PC-M)及び半自動溶接に対する半自動溶接技能者(PC-S)を認定しているので、参考にするとよい。

参考文献

6章 コンクリート工事 1節 一般事項

第6章 コンクリート工事
01節 一般事項
6.1.1 適用範囲
(a)この章は、工事現場施工のコンクリート工事に適用する。

また、平成25年版「標仕」では、コンクリート工事の品質管理の向上等を目的に、主に次の変更が行われた。
(1) 設計基準強度をコンクリートの要求品質の一つに位置付け、これを満足するための管理項目として、使用するコンクリートの強度と構造体コンクリートの強度を明示した。
(2) 材料及び調合の条件を、コンクリートの品質項目や製造から外し、「コンクリートの材料及び調合」として独立させ、調合管理強度を満たすための条件として設計基準強度や構造体強度補正値との関係を含め、セメントや骨材等のコンクリート用材料ごとの事項を一つにまとめた。
(3) 普通コンクリートの一部として扱っていた「暑中におけるコンクリートの取扱い」は新たに「暑中コンクリート」として節立てし、普通コンクリートの一般規定から独立させた。また、設計基準強度27N/mm2以上、かつ、36N/mm2以下のコンクリートは、普通コンクリートの一般規定とは別に扱っていたが、普通コンクリートと同じ扱いとし「高い強度のコンクリートの取扱い」を削除した。
(4)構造体コンクリートの仕上り状態及びかぶり厚さの確認並びにそれらの事項が所要の品質を満足しない場合の補修及びその後の検査を明記した。
(b) 作業の流れを図6.1.1に示す。
(c)施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
(1)コンクリート工事の施工計画書
工程表(配合計画書の提出、試し線り、柱取外し等の時期)
配合計画書、計画調合の計算書(軽量コンクリートの気乾単位容積質量(「標仕」6.10.2(d))を含む)
コンクリートの仕上りに関する管理基準値、監理方法等
④ 仮設計画(排水、コンクリートの搬入路等)
打込み量、打込み区画、打込み順序及び打止め方法
⑥ 打込み作業員の配置、作業動線
⑦ コンクリートポンプ車の圧送能力、運搬可能距離の検討
⑧ コンクリートポンプ車の設置場所、輸送管の配置及び支持方法
⑨ コンクリート運搬車の配車
圧送が中断したときの処置
圧送後、著しい異状を生じたコンクリートの処置
打継ぎ面の処置方法
⑬ 上面の仕上げの方法(タンピング)
打込み後の養生(暑中、寒中)
コンクリートの補修方法
供試体の採取(採取場所、養生方法)
⑰ 試験所
(2) 型枠工事の施工計計画
① 型枠の準備量
型枠の材料
型枠緊張材の種別及び緊張材にコーンを使用する箇所
④ コンクリート寸法図(スケルトン、コンクリート躯体図、コンクリートプラン)
⑤ 基準部分の型枠組立図
型枠材取外しの条件(材齢又は構造計算により安全を確認する場合)
⑦ はく離剤使用の有無
図6.1.1コンクリート工事の作業の流れ.jpg
図6.1.1 コンクリート工事の作業の流れ
6.1.2 基本要求品質
(a) コンクリートの「材料」に関しては、JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)に適合した材料が使用されており、JIS Q 1011(適合性評価:日本工業規格への適合性の認証ー分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))では、製造工場から提出される材料試験の結果によりその品質を確認することにしている。
(b) コンクリート部材の断面形状、寸法及び位置は、設計図書に建築物として必要な性能を有するように設計された値が指定されており、「標仕」6.2.5 (a)による許容差の範囲に収まるように施工する必要がある。「標仕」表 6.2.3 では一般的な許容差の標準値を示しているが、この数値は本来建築物の機能、部位、仕上げの程度等によって変動するものであり、共通的に定まるものではない。 例えば,石工事(「標仕」10.1.3(c)参照) や左官工事 (「標仕」15.2.3 (c)参照)等のようなコンクリート工事のあと工程となる仕上材料に要求される精度により、「標仕」 表 6.2.3 をそのまま使えない場合もある。 このため、各工事ごとにこの許容差を定めるに当たっては、寸法誤差が生じた場合の影響度等も考慮して、「品質計画」において、適切な値を定める必要がある。
コンクリートは全断面において均質なものとして設計されており、打ち上がったコンクリートはこれを満足させる必要がある。 しかし、打ち上がったコンクリートの内部を確認することは非常に困難であり表面の状態を確認することによって、内部の状態を推定することになる。一般にコンクリート部材の内部と比べて表面付近は鉄筋や型枠等の影響で欠陥が生じやすくなる。このため、「標仕」6.1.2 (b)では、「密実な表面状態」を要求事項とし、コンクリート内部の品質を含めて表面状態で確認することにしている。 コンクリート表面に豆板等の欠陥がある場合には、コンクリートの耐久性や強度に影響を及ぼすため、「標仕」では,せき板取外し後に コンクリート表面を確認することにしている。「品質計画」においては、第一に密実なコンクリートを打ち込むための具体的な方法の提案をするとともに、もし、豆板等が発生した場合、その程度に応じた補修方法等を定めるようにする。この場合の補修方法については 6.9.6 (b)を参考にするとよい。
(c) 建築物の構成部材としてのコンクリートの強度は、実際に出来上がった構造体コンクリートからコアを採取して試験によってその確認ができる。しかし、この方法は建築物を傷つけることになるため、新築建築物にあっては適切ではない。 このため「標仕」6.2.2 では、工事現場において構造体に打ち込まれるコンクリートと同ーのコンクリートを採取して、工事現場内で建築物と同様な温度条件となるように養生した試験体により構造体コンクリートの強度を推定している。 実際のコンクリートの強度は、柱、梁、壁、スラブ等の各部位によって強度の発現にばらつきがあることが分かっており、構造物のどの部位においても設計基準強度を滴足させるため、調合設計において所要の補正を行うことにしている。「所要の強度を有する」とは,こういったことを勘案して 実際の構造体コンクリートの強度が設計基準強度を満足するように適切な養生を行い、試験体の強度から構造体コンクリートの強度を確認すればよい。
「構造耐力、耐久性、耐火性」等は、コンクリートに要求される重要な性能である。これらについては、一般に本章で説明する事項を実現することで必要な性能を得ることができるようになっているが、(b)で説明したように寸法の誤差や、部分的な欠陥の発生を完全になくすことは現実的ではない。 このため、所要の「構造耐力、耐久性,耐火性」を満足させるための、寸法許容差や、欠陥が生じた場合の程度の判断基準及び補修方法をあらかじめ定めておくようにする。

6章コンクリート工事  3節コンクリートの材料及び調合

第6章 コンクリート工事
3 節 コンクリートの材料及び調合
6.3.0 一般事項
建築物に使用するコンクリートが所要の性能を満足するようにするためには、使用前に、各材料が所定の品質を満足することを試験又は生産者から提出された資料等により確認するとともに、「標仕」 2 節[ コンクリートの種類及び品質]に示される各種規定を満足するよう、試し練り等を行って適切に調合することが重要である。

6.3.1 コンクリートの材料

6.2.1(c)でも述べたように、平成28年6月13日に平成12年 建設省告示第1446号の一部が改正され、エコセメントや再生骨材H を使用したコンクリートについても JIS A5308に適合したものであれば国土交通大臣の認定を受けなくても使用できるようになったため、平成28年版「標仕」からは、これらのコンクリートについても一部の材料の組合せや用途を除いて特記をせずに使用できることとなった。

(a) セメント
(1) セメントの分類
( i ) セメントの分類を図6.3.1 に示す。
わが国におけるポルトランドセメント(JIS R 5210)の全アルカリは、低アルカリ形を除くとNa2O換算( Na2O + 0.658K2O ) で 0.75 %以下であるが、使用する骨材によってはアルカリ骨材反応を起こすおそれがある。
なお、かつては「アルカリ骨材反応抑制対策に関する指針について」(平成元年 7月 建設省住指発第244号)の通達で、低アルカリ形ポルトランドセメントの使用がアルカリ骨材反応抑制対策の一つとして記されていた。 しかし、低アルカリ形が1995年に 11.000t 生産されたほかはほとんど製造されておらず、普通ポルトランドセメントのアルカリ量も低くなっていることなどから、平成12年にこの通達は廃止され、平成14年の国土交通省通達では「低アルカリ形の使用による抑制対策」の条文が削除されている。
図6.3.1_JISによるセメントの分類.jpg
図6.3.1 JIS によるセメントの分類
(ii) ポルトランドセメントは普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び耐硫酸塩ポルトランドセメントの6種類を基本とし、これに低アルカリ形の6種類を加え全部で12種類あり、その主な品質は表6.3.1に示すとおりである。
表6.3.1 ポルトランドセメントの種類 ( JIS R5210:2009)
表6.3.2_ポルトランドセメントの品質A.jpg

①普通ポルトランドセメント(普通セメントと略称される場合もある。)は、建築のコンクリート工事用として現在最も多く使用されているセメントである。「標仕」では、特記のない場合は普通セメント又は混合セメントのA種を使用することになっているが、高炉セメント及びフライアッシュセメントともA種はほとんど生産されていないがめ、一般には普通セメントを使用することが多い。
②早強ポルトランドセメント(早強セメントと略称される場合もある。)の比表面積(ブレーン値)はJISでは表6.3.1のように定められているが、市販品では 4,700 cm2g程度である。比表面積はセメント粒子の細かさを示す値で、この値が大きいほど細かくセメントと水との化学反応(水和反応)が活発になるため、図6.3.2に示すように他のポルトランドセメントよりも早期に強度が得られる。そのため、工期の短縮に有効であると共に、硬化初期の水和発熱量(凝結・硬化中に起こる発熱を水和熱という。)が大きいことから寒中コンクリートにも適している。ただし、発熱によるひび割れ等の弊害を伴うこともあるので、使用する季節や用途に注意が必要である。
図6.3.2_モルタルの圧縮強さ(JIS R5201).jpg
図6.3.2 モルタルの圧縮強さ (JIS R 5201)
(「セメントの常識」より)
(iii) 高炉セメント(JIS R 5211)は、普通ポルトランドセメントに適量の高炉スラグ微粉末を均ーに混合したもので、その分量によってA種、B種及びC種の3種類(表6.3.2参照)が規定されているが、A種及びC種の生産量は少なく、市販品としてはB種のものが一般的である。
(iv) シリカセメント(JIS R 5212)は、普通ポルトランドセメントに適量のシリカ質の混合材を均ーに混合したもので、その分量によってA種、B種及びC種の3種類(表6.3.2参照)。耐薬品性に優れているが、2010年以降国内では生産されていない。
(v) フライアッシュセメント(JIS R5213)は、普通ポルトランドセメントに適量のフライアッシュ(火力発電所等で石炭の燃焼時に発生する微粉状の石炭灰)を均ーに混合したもので、その分量によってA種、B種及びC種の3種類(表6.3.2参照)が規定されているが、高炉セメントと同様、一般にはB種のものが多く流通している。
(vi) 上記高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントの3種類を混合セメントと呼び、このうちB種及びC種の混合セメントは、ポルトランドセメントと比較すると、化学的な作用又は海水に対する抵抗力が大きいなどの長所がある。しかし、同一調合の場合、一般に中性化の進行が早く、早期強度の発現が小さいので、かぶり厚さや型枠の存置期間の検討が必要である。
表6.3.2 混合セメントの種類 (JIS R5211 : 2009、R5212:2009及びR5213:2009)
表6.3.1_混合セメントの種類A.jpg
(ⅶ) エコセメントは、都市ごみ焼却灰を主とし、必要に応じて下水汚泥等を加えたものを主原料として製造される資源リサイクル型のセメントであり、2002年に JIS R5214 (エコセメント)として JIS化された。JIS R5214では、構成鉱物や塩化物イオン含有量によって普通エコセメントと速硬エコセメントに分類されている。2003年には、これらのうち塩化物イオン量が 0.1%以下の普通エコセメントのみが、JIS A5308(レディーミクストコンクリート)に取り入れられた。また、 2004年 4月からはグリーン購入法特定調達品目にも指定されている。

解説
ポルトランドセメントとは
固まったときの色合いが、イギリスのポートランド島の石灰石に似ているので、ポルトランドセメントと名づけられた。粘土、石灰石を粉砕、焼成して石膏を加えてつくる。
(2) 高炉セメント及びフライアッシュセメントの品質
(i) 高炉セメントは、高炉スラグ微粉末の混合比(分量)によって使用したコンクリートの硬化途中の強度発現性状等が異なるため、上記 (1)(ⅲ)でも記したように、高炉スラグ微粉末(分量)によって3種類に分類されている。B種は規格上 30%を超え60%以下となっているが、市販されている高炉セメントの高炉スラグの混合比(分量)は 43%前後のものが多い。
普通ポルトランドセメントと比較すると次のような特徴がある。
① 初期強度はやや小さいが、4週以降の長期強度は同等又は同等以上になる。
② 耐海水性や化学抵抗性が大きい。
③ 一定量以上使用した場合にアルカリ骨材反応の抑制に効果がある。
(ii) フライアッシュセメント
良質なフライアッシュはコンクリート中でボールベアリングのような働きをし、練混ぜ水を減少させることができ、ワーカビリティーの良いコンクリートが得られる。 また、水和発熱量が比較的小さく、マスコンクリートに適する。更に、高炉セメントと同様にアルカリ骨材反応の抑制にも効果がある。
なお、上記(1)(ⅴ)でも記したように、フライアッシュの混合比(分量)によって3種類に分類されており、B種は規格上 10%を超え20%以下となっている。市販されているフライアッシュセメントのフライアッシュの混合比(分量)は 17%前後のものが多い。
(b) 骨 材
(1) 骨材は、コンクリート体積の約7割を占め、その品質がコンクリートの諸性質に大きな影響を及ぼすので、良い品質のコンクリートをつくるためには原則として.堅硬で物理的・化学的に安定であり、適度な粒度・粒形を有し、有害量の不純物・塩化物等を含まない骨材を使用する。しかし、骨材の品質は、地域差もあり、あらかじめその地域の骨材の種類と品質の実態を把握しておくことが重要である。やむを得ず低品質の骨材を使用しなければならない場合には、コンクリートの要求性能と骨材の品質との関係を試し錬りを行って十分に把握し、必要に応じて計画調合等を検討することが重要である。
(2) 骨材の種類及び品質
(i) 骨材の種類は、「 標仕」6.3.1 (b)により、JIS A5308の附属書A (規定)[レディーミクストコンクリート用骨材]に規定されている砕石及び砕砂、スラグ骨材、人工軽量骨材、再生骨材H並びに砂利及び砂である。
(ii) フェロニッケルスラグ細骨材、銅スラグ細骨材及び電気炉酸化スラグ骨材は、普通骨材に比べて密度が大きく、使用される地域も限定されている。また、再生骨材H は、全国的に十分な供給量がまだ流通していない。よって、これらの骨材を使用する場合は、設計担当者が特記しなければならない。
(iii) 骨材の品質は、砕石及び砕砂は、JIS A5005(コンクリート用砕石及び砕砂)に、高炉スラグ粗骨材及び高炉スラグ細骨材は、JIS A5011-1(コンクリート用スラグ骨材ー第1部:高炉スラグ骨材)に、フェロニッケルスラグ骨材、銅スラグ骨材、電気炉酸化スラグ骨材及び再生骨材H は、それぞれ JIS A5011-2(コンクリート用スラグ骨材ー 第2部:フェロニッケルスラグ骨材)、JIS A5011-3(コンクリート用スラグ骨材ー第3部:銅スラグ骨材)、JIS A5011-4(コンクリート用スラグ骨材ー第4部:電気炉酸化スラグ骨材)及びJIS A5021(コンクリート用再生骨材H ) に規定されている。
(iv) スラグ骨材を他の骨材と併用する場合、表面がガラス質のため、使用するスラグ細骨材の種類によっては保水性が小さくなり、 天然の骨材に比ベブリーディング量がやや多くなったりブリーディング速度が速くなったりする場合があるので注意しなければならない。 このような場合には、微粉末の使用、実積率の大きい骨材の使用、高性能AE減水剤の使用等材料の選定に加え、水セメント比の低減等の検討が必要である。
(v) 骨材の密度及び吸水率
① 骨材の強さは、密度及び吸水率によりある程度の判定ができる。通常、絶乾密度は 2.5g/cm2以上、吸水率は 3.0%(細骨材は 3.5%)以下ならよいとされている(表6.3.3 参照)。
しかし、砂利や砂の場合、一部の地方では、これを満足するものが人手できない場合もある。 この場合は、絶乾密度は 2.4g/cm2以上、吸水率は 4.0%以下なら、コンクリートとして所要の性能が得られることを試し練り又は信頼できる資料等により確かめられれば使用してよい。
表6.3.3 JIS A 5005 : 2009による砕石・砕砂の物理的性質
表6.3.3_砕石・砕砂の物理的性質.jpeg
② 普通の石材の吸水率は表6.3.4 に示すとおりであるが、おおむね吸水率の少ないものほど堅硬、密実で良質の骨材になると考えられる。
表6.3.4 石材の吸水率
表6.3.4_石材の吸水率.jpeg
③骨材の絶乾状態及び気乾状態並びにその際の吸水量、含水量等の関係を図6.3.3 に記す。
図 6.3.3_骨材の含水状態.jpeg
図 6.3.3 骨材の含水状態
(3) アルカリ骨材反応抑制対策
( i ) アルカリ骨材反応に関しては、昭和60年頃から問題が顕在化し、平成元年には建設省の技術審議官通達、監督課長通知、建築指導課長通知等が出されたが、平成14年には新たに「アルカリ骨材反応抑制対策について」(平成14年国官技第112号:技術審議官等通達)と連用のための「「アルカリ骨材反応抑制対策について」について」(平成14年 国営技第55号:建築課長通達)の(別紙)「アルカリ骨材反応抑制対策(建築物)実施要領」が、平成15年には「アルカリ骨材反応抑制対策(建築物)実施要領に関する運用について」 の事務連絡が出され、その後のJIS A5308(レディーミクストコンクリート)の改正、 JIS Q1011 (適合性評価一日本工業規格への適合性の認証一分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))の制定、「標仕」の改定を経て、その対策が確立されてきた。
(ii) 「アルカリ骨材反応抑制対策(建築物) 実施要領」における検査・確認の方法を、次に示す。
① アルカリシリカ反応性試験方法(化学法)による骨材試験は、施工着手前、工事中 1回/6箇月、かつ、産地が変わった場合に、受注者等が公的試験機関に依頼して行う。 また、試験に用いる骨材の採取にも受注者等が立ち会うことが原則となる。
② アルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法)による骨材試験は、コンクリート生産工程管理用試験に規定される骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(迅速法) で骨材が無害であることを受注者等が確認する。この場合も、施工着手前、 工事中1回/6 箇月、かつ、産地が変わった場合に、公的試験機関で行い、試験に用いる骨材の採取にも受注者等が立ち会うことが原則となる。
(iii) 「標仕」では、高炉スラグ骨材を除いて、原則として骨材は「アルカリシリカ反応性試験の結果が無害と判定されるもの」(アルカリシリカ反応性による区分Aのもの)を使用することとしているのでアルカリシリカ反応性による区分を受注者等にレディーミクストコンクリート配合計画書及びアルカリシリカ反応性試験成績表で確認させておく必要がある。
なお、アルカリシリカ反応性試験方法は、JIS A1145(骨材のアルカリシリ力反応性試験方法(化学法)) 又は JIS A1146(骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法))による。
(iv) しかし、地域等によっては、上記の試験の結果が 「無害と判定されないもの」や「試験を行っていないもの」(アルカリシリカ反応性による区分Bのもの)を使用せざるを得ない場合もある。 その場合は、事前調査により設計担当者が区分Bのものを使用することを特記しなければならない。 特記により区分Bの骨材を使用する場合は「標仕」 6.3.1 (b)(2)に基づいた対策を受注者等に提案させ、その内容を設計担当者等と検討して対応の可否を判断する 。
(4) 高炉スラグ粗骨材を使用する場合は、JIS A5011-1 に基づいて使用する骨材の絶乾密度吸水率及び単位容積質量が、 同 JIS の区分Nを満足することを受注者等に確認させ、その結果を報告させることが必要である(表 6.3.5 参照)。なお、高炉スラグ粗骨材は、普通骨材より吸水率が大きく気乾状態で用いると練混ぜ運搬及び打込み中にフレッシュコンクリートの品質が変動しやすいので、事前に散水により吸水させて用いることが望ましい。
(5) 電気炉酸化スラグ骨材は、JISマーク表示認証製品で、生産工場からレディーミクストコンクリート工場に直接納入されていること及び電気炉酸化スラグ粗骨材の絶乾密度による区分が Nであること(表6.3.5 参照)、並びに再生骨材H は、 JIS マーク表示認証製品であることを受注者等に確認させ、その結果を報告させることが必要である。
表6.3.5 JIS A 5011-1 : 2013による高炉スラグ粗骨材(区分N) 及び
JIS A 5011-4 : 2013による電気炉酸化スラグ粗骨材(区分N) の材質
表6.3.5_高炉スラグ粗骨材及び電気炉酸化スラグ粗骨材(区分N).jpg
(6) 粗骨材の最大寸法等
(i) 粗骨材の最大寸法
粗骨材は、鉄筋相互間及び鉄筋とせき板との間を容易に通る大きさでなければならない。 粗骨材の最大寸法は「標仕」 において次のように定めている。
① 砕石、高炉スラグ粗骨材、電気炉酸化スラグ粗骨材及び再生粗骨材H は20mmとする。また、砂利は 25mmとする。
② 基礎等で 断面が大きく鉄筋量の比較的少ない部材の場合は、「標仕」5.3.5[鉄筋のかぶり厚さ及び間隔]の範囲で砕石、高炉スラグ粗骨材及び再生粗骨材Hは 25mm、また、砂利は 40mmとすることができる。
③ 鉄筋のあきは、粗骨材の最大寸法の 1.25倍以上とする(「標仕」5.3.5 (d)(1) 参照)
④ 無筋コンクリートの粗骨材の最大寸法は、コンクリート断面の最小寸法の1/4 以下、かつ、40mm以下とする。ただし、捨コンクリート及び防水層の保護コンクリートの場合は25mm以下とする (「 標仕 」 6.14.2 (a)参照)。
(ii) 骨材の粒度及び粒形
① 骨材は、適切な粒度分布のものでなければならない。 粒度の良否によってコンクリートのワーカビリティーや単位セメント量に著しい差が生じ、ひいてはコンクリートの強度や耐久性にも影響を与える。
② 骨材の形は、球形に近いものが理想的で、偏平、細長のもの、かど立っているものなどは、コンクリートのワーカビリティーを悪くし、同一水セメント比で同一スランプを得るための細骨材率が大きくなり、単位水量、単位セメント量も多くなる。 また、偏平、細長のものは、コンクリートが外力を受けたときに不均ーな応力分布が生じて、破壊しやすいためにコンクリートの強度も低下する。
③ 粒度分布を表すには次のような方法があり通常 1) 及び 2) が用いられる。
1) 各ふるいの通過率
2) 粗粒率〈FM〉
3) 各ふるいの累加残留率
4) 各ふるいの残留率
④ コンクリートの品質を確保して圧送性を良くするには、骨材の粒度分布が適切であるとともに 0.3mm以下の細骨材が 15~30%混入していることが望ましい。
(7) その他留意が必要な骨材の品質
(i) 骨材の単位容積質量・実積率
① 単位容積質量は、単位容積当たりの骨材質量 (kg /ℓ) で、骨材の粒度が適切であれば、最大寸法が大きいほど単位容積質量は大きい。
② 実積率は骨材を容器に詰めた場合、どの程度隙間なく詰まっているかを表す指標で、 6.3.1 式より求める。 空隙率は 6.3.2 式による。
実積率
=骨材の単位容積質量 / 骨材の絶乾密度 × 100 (%)  (6.3.1式)
空隙率 =100 - 実積率(%)..........(6.3.2式)
③ 同一粒度、同一密度の骨材では、実積率が大になるほど骨材の粒形が良いことになる。また、骨材の密度、最大寸法及び粒度が同様な場合には、粒度分布が良いほど実積率は大となる。
④ 骨材に対応する標準的実積率を表6.3.6 に示す。
表 6.3 6 骨材の実積率の標準的な値
表6.3.6_骨材の実績率の標準的な値.jpg
(ii) 骨材中の泥分
泥分が骨材表面に付着していると、骨材とセメントペーストとの付着を妨げ、コンクリートの強度を低下させる。また、コンクリート中に混合している場合は、単位水量が増加し、体積変化も大きく、ひび割れも発生しやすい。
(iii) 細骨材の有機不純物
有機不純物としては、腐植土、泥炭質等があり、これらに含まれるフミン酸やタンニン酸の量が多いと、セメントベースト中の Ca(OH)2と反応して有機酸石灰塩を生じ、コンクリートの硬化を妨げ、強度や耐久性を低下させる場合がある。
(iv) 細骨材中の塩化物
① コンクリート中の鋼材は、コンクリートの pHが10 以上の場合は、鋼の表面が鉄の水酸化物 Fe(OH)2の不働態皮膜で覆われているので錆は発生しないが、多量の塩化物が混合すると、塩化物イオンによって不働態皮膜が破壊されて錆が発生する。
② JIS A5308 附属書(規定)では、砂に含まれる塩化物量を NaCl 換算で 0.04 %以下と規定しているが、2003年の JIS R5210(ポルトランドセメント)の改正により普通ポルトランドセメントの塩化物イオンが 0.02%以下から 0.035%以下となった。これにより、コンクリートの各材料の塩化物イオンの規格上限値でコンクリート中の塩化物イオン量を算出すると0.30kg/m3を超える場合があるので、受注者等にレディーミクストコンクリート配合計画書でコンクリート中の塩化物イオン量が 0.30kg/m3を超えないことを確認させ、その結果を報告させるようにするとよい。
なお、プレテンション方式のプレストレストコンクリート部材に用いる場合は 0.02 %以下とすることになっている。
(v) 骨材を混合して使用する場合
① 最近では1種類の骨材だけでは所要の品質や量を確保することが困難となり、複数の骨材を混合して使うことが多くなった。
② 骨材を混合して使用する場合は、JIS A5308 附属書A(規定)の A.9[骨材を混合して使用する場合]による。
1) 同一種類の骨材(例:川砂利と陸砂利(玉砕も含む。)、海砂と山砂)を混合して使用する場合は、混合したものの品質が所定の規定に適合しなければならない。ただし、混合前の各骨材の絶乾密度、吸水率、安定性及びすりへり減量については、それぞれの骨材の規定に適合しなければならない。
2) 異種類の骨材(例:川砂利と砕石、海砂と砕砂あるいは高炉スラグ細骨材等)を混合して使用する場合は、混合前の骨材の品質がそれぞれの規定に適合しなければならない。ただし、粒度調整や海砂の塩化物量の低減目的に混合する場合には、粒度と塩化物量については、混合したものが所定の規定に適合していればよい。
(vi) 全国的に見た骨材の品質と種類を図6.3.4に示す。
図6.3.4_全国的に見た骨材の種類(2012暦年).jpg
図6.3.4 全国的に見た骨材の種類(2012暦年)
(経済産業省製造産業局住宅産業窯業建材課
「生コンクリート統計四半期報」のデータによる)
解説
砂(細骨材)、砂利(粗骨材)の容積比
は約30%と約40%。コンクリートの骨となる材料で、砂は細骨材、砂利は粗骨材といい、5mmを境に区別している。
(c)  水
(1) 水は、コンクリートの凝結時間、硬化後のコンクリートの強さ等の諸性質、鋼材の発錆等に影響があり、極めて重要な材料といえる。
(2) 一般に、セメントの水和に必要な水量は、セメント質量の約40%といわれ、施工時に必要な水量の内、残りの部分はコンクリートのワーカビリティーを良くするものであり、コンクリートの硬化に関与しない余剰水となる。 また、単位水量が多いと乾燥収縮が大きくなったり、透水性が高くなり、耐久性が低下しやすい。
(3) 水中の不純物が鉄筋コンクリートに与える影響
(i) 一般に、アルカリ性の強い水はセメントの凝結を遅くし、弱酸性の水は凝結を早め、強酸性では硬化しにくくなる。
(ii) 苦土や石灰は、セメントの安定性を低下させる。
(iii) 塩化物や塩素は、鉄筋の腐食を助長する 。
(iv) 水の不純物の種類と量の限度は、使用するセメントの組成、使用量等によって異なり、規定しにくいとされているが、濃度が1,000ppm 以下ならば、ほとんど影響がないといわれている。
(4) 水の使用基準等については、JIS A5308(レディーミクストコンクリート)附属書C(規定)があり、この抜粋を次に示す 。
JIS A5308: 2011
附属書C(規定) レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水
C.1 適用範囲
この附属書は、レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水(以下、水という。)について規定する。
C.2 区分 
水は、上水道水、上水道水以外の水及び回収水に区分する。
C.3 定義 
この附属書で用いる主な用語の定義は、次による。
C.3.1 上水道水以外の水
河川水、湖沼水、井戸水、地下水などとして採水され、特に上水道水としての処理がなされていないもの及び工業用水。ただし、回収水を除く。
C.3.2 回収水
レディーミクストコンクリート工場で、洗浄によって発生する排水のうち、運搬車プラントのミキサ、ホッパなどに付着したレディーミクストコンクリート及び戻りコンクリートの洗浄排水(以下、コンクリートの洗浄排水という。)を処理して得られるスラッジ水及び上澄水の総称。
C.3.3 スラッジ水

コンクリートの洗浄排水から、粗骨材、細骨材を取り除いて、回収した懸濁水。

C.3.4 上澄水
スラッジ水から.スラッジ固形分を沈降その他の方法で取り除いた水。
C.3.5 スラッジ

スラッジ水が濃縮され、流動性を失った状態のもの。

C.3.6 スラッジ固形分

スラッジを105〜110℃で乾媒して得られたもの。

C.3.7 スラッジ固形分率

レディーミクストコンクリートの配合における単位セメント量に対するスラッジ固形分の質量の割合を百分率で表したもの。

C.4 上水道水

上水道水は、特に試験を行わなくても用いることができる。

C.5 上水道水以外の水

上水追水以外の水の品買は、C.8.1 の試験方法によって試験を行い、表 C.1 に示す規定に適合しなければならない。

表 C.1 上水道水以外の水の品質
表C.1_上水道水以外の水の品質.jpg
C.6 回収水
C.6.1 品質

回収水の品質は.C.8.2 の試験方法によって試験を行い、 表C.2 に示す基定に適合しなければならない。 ただし、その原水は C.4 又は C.5 の規定に適合しなければならない。

なお、スラッジ水を上水道水、上水道水以外の水、又は上澄水と混合して用いる場合の品質の判定は、スラッジ固形分率が 3 %になるように、スラッジ水の濃度を5.9 %に調整した試科を用い、C.8.2.4及び C.8.2.5の試験を行う。
表 C.2 回収水の品質s
表C.2_回収水の品質.jpg
C.6.2 スラッジ固形分率の限度
a) スラッジ水を用いる場合には、スラッジ固形分率が 3%を超えてはならない。なお、レディーミクストコンクリートの配合において、スラッジ水中に含まれるスラッジ固形分は水の質量には含めない。
b) スラッジ固形分率を 1%未満で使用する場合には、12.1に規定する表8(レディーミクストコンクリー ト配合計画書)の目標スラッジ固形分率の欄には、’’1 %未満’’と記述することとし、この場合のスラッジ固形分率の値は、管理期間ごとに 1%未満となることを確認すればよいこととする。
なお、このスラッジ固形分率を 1%未満で使用する場合には、スラッジ固形分を水の質量に含めてもよい。
C.6.3.3 スラッジ水の管理
スラッジ水の管理は、次による。
a) バッチ濃度調整方法 又は連続濃度測定方法を用いる。
バッチ濃度調整方法は、スラッジ水の濃度を一定に保つ独立した濃度調整槽をもつ場合に用いることができる管理方法である。独立した濃度調整槽をもたない場合には、スラッジ水の濃度を連続して測定できる自動設度計を設置して測定することによる連続濃度測定方法を用いればスラッジ水の管理ができる。
b) C.6.2 に適合するように、スラッジ水の管理状況に対応して、コンクリートに使用するスラッジ水の濃度を定めて管理する。
c) バッチ濃度調整方法を用いる場合には、スラッジ水の濃度を測定・記録し、目標スラッジ固形分率となるようにスラッジ水の計量値を決定して、スラッジ水を使用する。
なお、スラッジ水の設度の測定は、1日1 回 以上、かつ、濃度調整の都度行う。
d) 連続濃度測定方法を用いる場合に、はスラッジ水を使用する度にその濃度を自動濃度計によって測定・記録し、自動演算装置を用いて目標スラッジ固形分率となるようにスラッジ水の計量値を決定して、スラッジ水を使用する。
e) スラッジ水の濃度の測定精度の確認は、少なくとも3 か月に1 回の頻度で.C.8.2.6によって行う。 また、スラッジ水の濃度の測定方法として自動濃度計を用いる場合は、始業時にスラッジ水の密度から自動濃度計の表示値を確認し、これを記録する。
f) スラッジ水の濃度及び測定器具の精度確認の記録は、購入者からの要求があれば、スラッジ固形分率の算出根拠として提出する。
C.7 水を混合して使用する場合
2種類以上の水を混合して用いる場合には、それぞれが C.4、C.5 又はC.6 の規定に適合していなければならない。
JIS A5308:2011

(d) 混和材料
(1) 混和材料の使用目的は、おおむね次のとおりである。
(i ) ワーカビリティーの改良
(ii) 長期材齢又は初期材齢における強度の増大
(iii) 水密性の増大
(iv) 乾燥収縮の低減
(v) 耐久性の向上
(2) 混和材料の分類を、 図 6.3.5 に示す。
図6.3.5_混和材料の分類.jpeg
図6.3.5 混和材料の分類
混和材料について「標仕」 6.3.l (d)では、種類及び適用は特記 によるとし、特記がなければ.種類は次によるとしている。
( i ) 混和剤の種類は、JIS A6204(コンクリート用化学混和剤)によるAE剤、AE減水剤又は高性能AE減水剤とし、化学混和剤の塩化物イオン(Cl)量による区分は、I 種とする。また、防錆剤を併用する場合は、JIS A6205(鉄筋コンクリート用防せい剤) による防錆剤とする。
(ii) 混和材の種類は、JIS A6201(コンクリート用フライアッシュ)によるフライアッシュの Ⅰ 種、 lI 種若しくはⅣ種 JIS A6206( コンクリート用高炉スラグ微粉末)による高炉スラグ微粉末、JIS A6207(コンクリート用シリカフューム) によるシリカフューム又は JIS A6202(コンクリート用膨張材)による膨張材とする。
(3) JIS A6204(コンクリート用化学混和剤)の抜粋を次に示す。
なお、JIS A6204 は 2011 年の改正で、6.2のコンクリート試験における空気量は、基準コンクリートの空気量に 3.0%を加えたものに対して、0.5 % を超える差があってはならないこととなった。 また、練混ぜのバッチ数は 1 バッチとすること、圧縮強度試験用供試体の養生温度は 20±2℃とすること、コンクリートの試験日数は 1 日とすること及び管理試験の名称を性能確認試験と改め、 6箇月に 1回の頻度で実施することとなった。
JIS A 6204 : 2011
1 適用範囲
この規格は、コンクリート用化学混和剤(以下、化学混和剤という。)として用いる AE剤、高性能減水剤、硬化促進剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤及び流動化剤について規定する。
3 用語及び定義
この規格で用いる主な用語の定義は、JIS A0203(コンクリート用語)によるほか次による。
3.1 化学混和剤
主として、その界面活性作用及び/ 又は水和調整作用によって、コンクリートの諸性質を改善するために用いる混和剤。
3.2 AE剤
コンクリートなどの中に、多数の微細な独立した空気泡を一様に分布させワーカビリティー及び耐凍害性を向上させるために用いる化学混和剤。
3.3 高性能減水剤
所要のスランプを得るのに必要な単位水量を大幅に減少させるか、又は単位水量を変えることなくスランプを大幅に増加させる化学混和剤。
3.4 硬化促進剤
セメントの水和を早め、初期材齢の強度を大きくする化学混和剤。
3.5 減水剤
所要のスランプを得るのに必要な単位水量を減少させる化学混和剤。
3.6 AE減水剤
空気連行性能をもち、所要のスランプを得るのに必要な単位水量を減少させる化学混和剤。
3.7 高性能AE減水剤
空気連行性能をもち、AE減水剤よりも高い減水性能及び良好なスランプ保持性能をもつ化学混和剤。
3.8 流動化剤
あらかじめ練り混ぜられたコンクリートに添加し、これをかくはんすることによって、その流動性を増大させることを主たる目的とする化学混和剤。
3.9 標準形
化学混和剤の種類で、コンクリートの凝結時間をほとんど変化させないもの。
3.10 遅延形
化学混和剤の種類で、コンクリートの凝結を遅延させるもの。
3.11 促進形
化学混和剤の種類で、コンクリートの凝結及び初期強度の発現を促進させるもの。
3.12 基準コンクリート
化学混和剤の性能を試験する場合に基準とする化学混和剤を用いないコンクリート。ただし、流動化剤の性能を試験する場合にはAE剤を使用する。
3.13 試験コンクリート
化学混和剤の性能を試験する場合に試験の対象とする化学混和剤を用いたコンクリート。
3.14 形式評価試験
製品を開発した当初に性能確認として行う全項目試験。
3.15 性能確認試験
形式評価試験で確認された性能と同等の性能をもつことを定期的に確認するために、その一部項目について行う試験。
4 種類 
化学混和剤の種類は、性能によって表1、塩化物イオン(Cl)量によって表 2のとおり、それぞれ区分する。
表1_化学混和剤の性能による区分.jpg
表1 化学混和剤の性能による区分
表2_化学混和剤の塩化物イオン量による区分.jpg
表2 化学混和剤の塩化物イオン(Cl)量による区分
5 品質
5.1 性能
化学混和剤の性能は、6.2 によって試験を行ったとき、表3に適合しなければならない。 (6.2 省略)
表 3-化学混和剤の性能
表3_化学混和剤の性能A.jpg
5.2 塩化物イオン (Cl)量
塩化物イオン量は、6.3によってコンクリート中の量を求め、その値が表2に適合しなければならない。(6.3 省略)
5.3 全アルカリ量 
全アルカリ量は、6.4 によってコンクリート中の量を求め、その値が0.30kg/m2 以下でなければならない。(6.4省略)
JIS A 6204 : 2011
(4) AE剤
AE剤は、コンクリート中に無数の独立した微細気泡を連行させることができる。この気泡は、コンクリートに次のような効果をもたらす。
① ワーカビリティーが良くなる(気泡のボールベアリング作用による。)。
② 単位水量を減少させることができる(一般にプレーンコンクリートに比べて 8%程度減少できる。)。
③ コンクリートの凍結融解に対する抵抗性を増し、耐久性を向上させる。
④ 中性化に対する抵抗性を増大させる。
⑤ 圧縮強度は、空気量にほぼ反比例して低下する。
(5) AE減水剤
(ⅰ) AE減水剤は性能に応じて、標準形、遅延形及び促進形に分けられる。その用途等は次のとおりである。
① 標準形は、主として一般のコンクリートに用いられる。
② 遅延形は、コンクリートの凝結を遅らせ、暑中コンクリートやマスコンクリート等に用いる場合がある。
③ 促進形は.コンクリートの初期強度の発現を促進し、寒中コンクリート等に用いる場合がある。
(ⅱ) AE減水剤は、セメント粒子に対する分散作用と空気連行作用を併有する混和剤で、所要のコンシステンシーを得るための単位水量は、プレーンコンクリー トに比べて 12~16%減少できる。
(6)高性能AE減水剤
高性能AE減水剤は、高い減水性とスランプ保持性能を有する混和剤で、凝結時間が通常のコンクリートとあまり変わらない標準形と、暑中コンクリートやマスコンクリート等に適した遅延形とがある。
その主成分の化学的組成からナフタリン系、ポリカルボン酸系、メラミン系、アミノスルフォン酸系に分類される。ただし、この分類は、あくまで便宜的なもので、同系統に属していてもコンクリートに用いたときの性能は、主成分の化学構造が全く同じでないこと、配合されている副次成分の違いなどから必ずしも同ーではない。
高性能AE減水剤は、従来の AE剤や AE減水剤と同様にプラントでミキサーに投入し、他の材料と同時に練り混ぜる方式により、プレーンコンクリートに対し減水率を 16~25 %程度にすることができる化学混和剤であり、特にスランプロス防止に重点をおいて開発されたものである。
高性能AE減水剤の主な機能は、①高いセメント分散作用、②スランプ保持作用であり、用途としては次のようなものが挙げられる。
① 単位水量上限規制への対応
② コンクリートの高耐久性化(単位水量の大幅低減)
③ 高流動コンクリートの製造
④ 高強度コンクリートの製造
⑤ 単位セメント量低減による水和熱の低減等
(7) 流動化剤
流動化剤は,あらかじめ練り混ぜられたコンクリートに添加、かくはんし流動性を増して、コンクリートの品質と施工性の改善をする混和剤である 。
なお、 I 類コンクリートであっても、レディーミクストコンクリート工場出荷後、荷卸し地点等で流動化剤を添加する場合は、JIS Q1001(適合性評価 日本工業規格への適合性の認証 一般認証指針)及びJIS Q1011(適合性評価 日本工業規格への適合性の認証一分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))の認証範囲から外れる可能性がある。 このような場合には、II 類コンクリートとして扱わなくてはならないので、その使用には注意が必要である。
(8) フライアッシュ
( i ) フライアッシュは、燃料として微粉炭を使用している火力発電所のボイラーの煙道に設けられた集塵機で回収される鉱物質の微粉で、人工ポゾランの一種である。 良質なフライアッシュは粒子表面が滑らかで球状を呈しているので、AE剤による気泡と同様な作用をする。
(ii) 良質なフライアッシュを混合すると同ースランプのコンクリートを得るのに、混合率(内割り)10%(質量比)当たり単位水量を3~4%程度減らすことができる。
(iii) フライアッシュは JIS A 6201(コンクリー ト用フライアッシュ)の I 種、II 種 又はⅣ種に適合するものとし、ワーカビリティーや圧送性の改善、プリーディングの減少、水和熱の抑制等の目的で、セメントの一部として(内割り)あるいば骨材の一部として(外割り)用いられる(内割り、外割りについては(vi)参照)。フライアッシュの品質を表6.3.7 に示す。
表6.3.7_フライアッシュの品質(JISA6201).jpg
表6.3. 7 フライアッシュの品質 (JIS A 6201 : 2008)
(iv) フライアッシュを内割りに混合する場合の混合率の限度は、セメント量の10%以内とする。
(v) フライアッシュの混合によりコンクリー トの中性化が促進されるといわれているので鉄筋に対するコンクリー トのかぶり厚さを確保するよう特に注意する。
(vi) フライアッシュ の混合の内割り、外割り
①フライアッシュを「内割りに混合する」とは図6.3.6 のような割合に混合することをいう。「標仕」6.3.2(2)(vi)③の場合に適用する。
図6.3.6_フライアッシュの混合の内割り.jpg
図6.3.6 フライアッシュの混合の内割り
②フライアッシュを「外割りに混合する」とは図 6.3.7 のような割合に混合することをいう。「標仕」6.3.2(2)(vi)②の場合に適用する。
図6.3.7_フライアッシュの混合の外割り.jpg
図6.3.7 フライアッシュの混合の外割り
6.3.2 コンクリートの調合
コンクリートの計画調合は、所要のスランプ、空気量、強度及び耐久性が得られ、かつ、「標仕」2節に示される各規定の要求事項を満足するよう、次の項目に注意して定めなければならない。
(1) 調合管理強度及び調合強度
(i) 調合管理強度
平成19年版「標仕」では、調合管理強度(Fm)に相当する値は、設計基準強度(Fc)、構造体コンクリートと供試体強度との差(△F= 3 N/mm2)、気温によるコンクリート強度の補正値(T)を考慮して(Fc+△F+T)としていたが、平成22年版「標仕」からは、調合管理強度は、(△F+ T)に代わって、セメントの種類及びコンクリートの打込みから材齢28日までの予想平均気温に応じて定められた構造体強度補正値(S)を取り入れ(Fc+S)に改められている。
(ⅱ) 構造体強度補正値(S) はセメントの種類、予想平均気温の範囲に応じて「標仕」表6.3.2に示すように、3N/mm2、6N/mm2としている。
なお、構造体コンクリートの強度については 6.2.2(c)を参照するとよい。
(ⅲ) 調合強度(F)は、一般的には標準養生した供試体の材齢 m 日における圧縮強度で表し、6.3.3式を満足するように定めることになる。
 F ≧ Fm + α × σ ( N/mm2 ) ・・・(6.3.3 式)
 α:はコンクリートの許容不良率に応じた正規偏差
 σ:強度のばらつきを表す標準偏差
JASS5 では、αを許容不良率 4%に相当する 1.73 を用いている。また、σは発注するレディーミクストコンクリート工場の実績に基づいた値を用いればよい。もし発注するコンクリートの生産実績が少ないなどの場合には、2.5 N/mm2又は 0.1 Fm の大きい方の値を用いる。
(2)調合条件
コンクリートに要求される品質として、所要の強度を確保すること、打込み時のワーカビリティーを確保することは当然であるが、近年、鉄筋コンクリート造の構追物が劣化している様々な事例が指摘されており、コンクリートの耐久性(コンクリート中の塩化物含有量、中性化、ひび割れ、海塩粒子、アルカリ骨材反応による影響等に対して)を確保することがコンクリート構造物の継続的利用に極めて重要となっている。 これらの理由から「標仕」では次の規定を設けている。
なお、次にいう水セメント比の最大値、単位水量の最大値及び単位セメント量の最小値とは、レディーミクストコンクリート工場において調合設計を計画した時のそれぞれの目標値のことである。
① 「標仕」では.荷卸し地点における空気量は、4.5%と規定されている。
AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤を用いて、コンクリート中に微細な空気泡を連行すると、連行空気量にほぼ比例して所定のスランプを得るのに必要な単位水量を低減でき、ワーカビリティーが改善されるとともに、凍結融解作用に対する抵抗性が増大する。しかし、空気量が 6 %以上になるとそれ以上空気量を増やしてもフレッシュコンクリートの品質は改善されなくなり、空気量が 3%未満では凍結融解作用に対する抵抗性の改善に対する効果が少ない。 このため空気量の確認時期・地点を荷卸し地点とし、その時のコンクリートの空気量を 4.5%としている。
水セメント比の最大値(上限値)は、平成22年版「標仕」では、普通ポルトランドセメント及び混合セメントの A種は 65%、混合セメントのB種は60%とされていたが、平成25年版「標仕」では新たに早強ポルトランドセメント及び中庸熱ポルトランドセメントを使用する場合は65%、 低熱ポルトランドセメントを使用する場合は60%とする規定が追加されている。
鉄筋コンクリートの一般的な劣化は、コンクリート表面からの水・炭酸ガス・塩化物その他の浸入性物質によりもたらされるが、これらの劣化要因からコンクリートを健全に守るためには、一般に水セメント比を小さくすればよい。このため強度上必要な水セメント比とは別にコンクリートのワーカビリティー・均一性・耐久性を確保するために水セメント比の最大値を定めている。
③ 「標仕」では、単位水量の最大値を185kg/m3 と規定するとともに、コンクリートの強度気乾単位容積質量、ワーカビリティー、スランプ及び構造体コンクリートの仕上り状態が「標仕」2節に規定される品質を満足する範囲でできるだけ小さくするよう規定されている。
近年、良好な砂利、砂に代わり砕石、砕砂が多用されるようになると、スランプを一定値以下に抑えても単位水量は大きくなる一方であり、コンクリートの乾燥収縮率の増大が懸念されている。その一方で、最近は高性能AE減水剤によりコンクリートのスランプを比較的容易に変えることができるようになり、単位水量が 185kg/m3 以下でもスランプ 18cmにすることが容易となっている。このような理由から、コンクリートの品質を確保するためにスランプの規制以外に単位水量の制限が設けられている。
④ 「標仕」では、単位セメント量の最小値を 270kg/m3と規定するとともに、②の水セメント比及び③の単位水量から算出した数値以上と規定されている。
なお、単位セメント量は、6.3.4式によって求められる。
C =W / x ×100 ・・・・・・(6.3.4式)
C:単位セメント量 (kg/m3)
W:単位水量  (kg/m3)
x:水セメント比  ( %)
単位セメント量は水和熱及び乾燥収縮によるひび割れを防止する観点からできるだけ少なくすることが望ましい。しかし、単位セメント量が過小であるとコンクリートのワーカビリティーが悪くなり型枠内へのコンクリートの充填性の低下、豆板や巣、打継ぎ部における不具合の発生、水密性、耐久性の低下等を招きやすい。 このためコンクリートの強度を確保するための条件とは別に単位セメント量の最小値が規定されている。
⑤ 細骨材率
「標仕」 では、「2節に規定するコンクリートの品質が得られる範囲内でできるだけ小さくする」と規定されている。 細骨材率を小さくすると一般に所要のスランプを得るための単位水量は減るが、がさがさのコンクリートとなり、また、スランプの大きいコンクリートでは、粗骨材とモルタルとが分離しやすくなり、ワーカビリティーが低下する。
一方.細骨材率を大きくすると所要のスランプを得るための単位水量を多く必要とし、流動性の悪いコンクリートとなる。このため、レディーミクストコンクリート工場では、所要のワーカビリティーが得られる範囲内で単位水量が最小になるように試験により最適な細骨材率を定めている。
⑥ 混和材料
1) 混和剤の使用量
AE剤については、所定の空気量が得られるようにその使用量を定める。
AE減水剤については、セメントに対する定められた質量比等の範囲内で使用量を定め、空気量については、空気量調整剤 (AE剤)で所定の空気量が得られるように調整する。
高性能AE減水剤については、セメントに対する定められた質量比等の範囲内で単位水量及びスランプが得られるように使用量を定める。また、空気量については、空気量調整剤(AE剤)で所定の空気量が得られるように調整する。
2)良質なフライアッシュは球形をしており、ボールベアリング効果により、ポンプの圧送性を改善する。普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートで圧送が困難な場合、フライアッシュⅡ種又はⅣ種を外割りで混合することができる( 6.3.1(d)(8)(ⅵ) 参照)。
なお、フライアッシュの種類については、平成22年版「標仕」までは、I種又はⅡ種であったが、平成 25年版「標仕」では、Ⅱ種又は Ⅳ種に変更されているので、フライアッシュの混合使用が行われる場合には、受注者等に調合計画表等を提出させて確認するとよい。
3) 普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートで水セメント比の制限等により、強度上必要なセメント量を超える場合は、その部分をセメント全量の10%(質量比)の範囲でフライアッシュⅠ種又はⅡ種に置き換えることにより、単位水量の低下、単位セメント量の低下等が図られ、乾燥収縮等を改善することができる (6.3.1(d)(8)(ⅵ) ➀ 参照)。
また、「標仕」 では記載されていないが、高炉スラグ微粉末を適量混合することにより、水和熱の抑制、アルカリ骨材反応の抑制、硫酸塩や海水に対する化学抵抗性の向上、水密性の向上等が期待できる。
なお、普通ポルトランドセメントと置換できるフライアッシュの種類については、平成22年版「標仕」まではⅡ種だけであったが、平成25年版「標仕」では、新たに I種も追加されている。
4) 上記 1)~3)以外で混和材料として多く用いられるものには流動化剤、膨張材、防錆剤等があるがその使用方法使用量についてはコンクリートの種類や使用目的によって異なるので、使用が特記された場合は、コンクリートの所定の性能が得られるよう試し線り及び信頼できる資料を受注者等に提出させて確認することが重要である。
⑦ 塩化物量
コンクリートは、通常pH=12.5~13程度の強アルカリ性を呈し、その中に埋め込まれた鉄筋の表面は薄い酸化皮膜で覆われ、不働態化して腐食から保設されている。
しかし、大気中の炭醗ガスやその他の酸性物質の浸透によって徐々にアルカリ性が失われ、中性化が鉄筋の位置まで進行すると鉄筋の腐食に対する保澁作用を失い、更に、水分と酸索が供給されると鉄筋は腐食し始める。
コンクリート中に一定量以上の塩化物が存在すると、塩化物イオンの作用によってコンクリートの中性化が進行していなくても、不働態皮膜が破壊され、鉄筋は腐食し始める。
これらの理由から、「標仕」ではコンクリートに含まれる塩化物の値に制限が設けられ、塩化物イオン量で 0.30kg/m3以下と規定されている。
なお、塩化物イオン量が0.30kg/m3を超えることがやむを得ないと判断した場合は、設計担当者と打合せのうえ、受注者等に次の基準に従った処置の方法を提案させ、「標仕」1.1.8 による協議に基づいて処置する必要がある。
1) コンクリート中に含まれる塩化物含有量の基準
鉄筋コンクリート造等建築物の構造耐力上主要な部分に用いられるコンクリートに含まれる塩化物量(塩化物イオン(Cl-)換算)は、原則として 0.30 kg/m3以下とし、やむを得ず塩化物量が 0.30 kg/m3を超え 0.60 kg/m3 以下のコンクリートを使用する場合は、次のイ)からニ)までの条件を満たすものとする。
イ)水セメント比は、55%以下とする。
ロ)AE減水剤又は高性能AE減水剤を使用し、スランプは 18cm以下(流動化コンクリートではベースコンクリートのスランプは15cm以下、流動化後のコンクリートのスランプは21cm以下) とする。
ハ)適切な防錆剤を使用する。
ニ)スラブの下端の鉄筋のかぶり厚さを3cm以上とする。
2)離島等で海砂以外の骨材の入手及び除塩用水の確保が落しく困難であり、塩化物量が 0.60kg/m33を超える場合においては、有効な防錆処理が施された鉄筋の使用等による防錆対策を講ずる。
3) 塩化物量の測定は、「標仕」表6.9.1による。
⑧ アルカリ骨材反応
1) アルカリ骨材反応とは、反応性シリカを含む骨材とセメント等に含まれる Na+、K+ のアルカリ金属イオンが、水の存在下で反応してアルカリけい酸塩を生成し、これが膨張してコンクリートにひび割れ、ポップアウト等を生じさせる現象をいう。
2) アルカリ骨材反応は、この反応にかかわる鉱物の種類によって、アルカリシリカ反応とアルカリ炭酸塩反応とがあり、わが国で問題となっているのは主としてアルカリシリカ反応である。
3) この反応性をもつ鉱物としてはオパール、クリストバライト、トリジマイト、火山ガラス、玉髄、石英等があり、反応性シリカ鉱物を含む岩石としては輝石安山岩、チャート等がある。
4)アルカリ骨材反応は、一般に①反応性骨材、②高いアルカリ量、③十分な湿度の 3条件がそろった場合にコンクリートに被害を生じさせるとされている。
5)アルカリ骨材反応の抑制対策として 次のような方法が考えられる。
イ)反応性の骨材を使用しない。
ロ)コンクリート中のアルカリ総量を低減する。
ハ)アルカリ骨材反応に対して抑制効果のある混合セメントを使用する。
6) 以上のことから、「標仕」ではコンクリートはアルカリ骨材反応を生じるおそれのないものとしている。
⑨ 計画調合の決定
1) 計画調合は、試し練りによってそのコンクリートの性能を確認して定めることを原則としているが、I 類コンクリートを使用する場合は、試し練りは、省略してもよいとしている。
2) 試し練りにおいて、計画スランプ、計画空気量、調合強度(標準養生した材齢28日の圧縮強度 )、その他コンクリートの温度や塩化物量、単位容積質量等を確認する。
なお、試し錬りの計画スランプ、計画空気量については、レディーミクストコンクリートの練混ぜから荷卸し地点までのロスを考慮した目標値であることに注意する。
また、運搬によるスランプロスや空気量ロスは、練混ぜから荷卸し地点までの距離、コンクリートのスランプ、外気温、調合条件等によって相違があるので、レディーミクストコンクリート工場の社内規格を参考にするとよい。
3) 計画調合の表し方
コンクリートの計画調合は、JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)の表8[レディーミクストコンクリート配合計画書]により表す。
4) レディーミクストコンクリート工場では I類コンクリートについては、使用する材料で調合設計を標準化している。レディーミクストコンクリート工場における計画調合の定め方の一例を図6.3.8 に示す。
図6.3.8_レディーミクストコンクリート工場における計画調合の求め方の例.jpg
図 6.3.8 レディーミクストコンクリート工場における計画調合の求め方の例

6章コンクリート工事 2節 種類及び品質

第6章 コンクリート工事
2 節 コンクリートの種類及び品質
6.2.1 コンクリートの種類
(a) 平22年版「標仕」までは、使用骨材によってコンクリートの種類分けを行っていたが、近年、スラグ骨材等を含め密度の異なる各種の骨材が開発・使用され、特に細骨材は混合して使用される場合もあることから、平成25年版「標仕」では、気乾単位容積質量でコンクリートの種類を分類し、おおむね気乾単位容和質量が 2.1〜2.5 t/m3 の普通コンクリートと、より気乾単位容積質量の小さい軽量コンクリートの 2種類とされた。
(b) 寒中コンクリート、暑中コンクリート、マスコンクリート、無筋コンクリート及び流動化コンクリートは、使用材料、施工時期・施工方法・施工場所等の施工条件、要求性能等によって 10節までとは異なる品質管理が必要なため「特別仕様のコンクリート」として 11節から 15節に別記されている。
(c) 平成16年 6月に工業標準化法が改正され、平成 17年 10月 1日からJISマーク表示制度は、国による認定制度から登録認証機関による製品認証制度となった。これによって、JIS A 5308(レディーミクストコンクリ ート)もこれまでの「工場認定」 から「製品認証」へと変更された。
「標仕」でも平成22年版の改定以降、I 類コンクリートは.JIS Q1001(適合性評価一日本工業規格への適合性の認証一 一般認証指針)及び JIS Q1011 (適合性評価一日本工業規格への適合性の認証一分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))に基づき、JIS A 5308への適合を認証されたコンクリー ト II 類コンクリートは I 類以外のJIS A 5308に適合したコンクリートとされている。
「標仕」では、従来より、建築工事には特別な場合を除き、 JIS A 5308 に適合するレディーミクストコンクリートで対応できると考えられている。そのうえで、適合を認証された I 類コンクリートを使用することを原則としているが、山間部、離島等で運搬可能時間の距離内にJISマーク表示認証を取得した製品(以下、この章では「JISマーク表示認証製品」という。)を製造する工場(以下、この章では 「 JISマーク表示認証工場 」 という 。) がない場合でも.II 類コンクリートであれば、基礎、主要構造部等建築基準法第37条に規定する部分に適用できると考えてよい。

なお、建築基準法第 37条の指定建築材料が適合すべき規格及び品質に関する技術的基準を定めた平成12年建設省告示第1446号の一部が平成28年6月13日に改正(国土交通省告示第814号)され、建築物の基礎や主要構造部等に使用するコンクリートが適合すべき日本工業規格は、JIS A5308(回収骨材を使用するものを除く)に改められた。
よって、従来、国土交通大臣の認定で必要であったエコセメントや再生骨材H を使用したコンクリートについても、平成28年版「標仕」からは、一部の材料の組合せや用途を除いて特記せずに使用できることとなった。但し、回収骨材を使用したコンクリートを使用する場合には従来通り国土交通大臣の認定を取得した上で、「標仕」6.2.1(d)に基づいて特記しなければならない。参考に、上記国土交通省告示第814号と同時に国土交通省住宅局建築指導課長から発出された、技術的助言 国住指第770号 平成28年 6月13日「建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すべき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術的基準を定める件の改正について」の抜粋を下記に示す。
建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すべき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術的基準を定める件の改正について(技術的助言)
(国住指第770号 平成28年 6月13日)
建築基準法第37条の規定に基づく標記基準については、平成28年6月23日付け国土交通省告示第814号として別添のとおり公布されたので通知する。
中略

2. 改正概要
レディーミクストコンクリートに関する JIS A 5308が2014年に改正されたことを踏まえ、指定建築材料であるコンクリートが適合すべき日本工業規格として、JIS A5308(レディーミクストコンクリート)- 2014を定めることとする。ただし、当該 JISのうち、「回収骨材を使用するもの」については、建築材料として使用する場合における管理方法等の知見が得られたいないため、使用できないこととする。

2014年の JIS A 5308 のレディーミクストコンクリートの種類を表6.2.1 に示す。
表6.2.1 JIS A 5308 : (2019改正)によるレディーミクストコンクリートの種類
表6.2.1_JISA5308レディーミクストコンクリートの種類(2019改正).jpg
(注)荷卸し地点での値であり、50cm及び60cmがスランプフローの値である。
(d)「標仕」では、建築基準法第 37条第二号による国土交通大臣認定のコンクリートは,設計担当者が特記することとしているので、特記された場合には、認定条件等を十分に確認して使用することになる。
6.2.2 コンクリートの強度
(a)「標仕」ではコンクリートの設計基準強度は、36N/mm2 以下(軽量コンクリートでは 27N/mm2 以下)としている。
なお 従来、軽量コンクリートの設計基準強度は 27N/mm2 未満であったが、(一社)日本建築学会「JASS5 鉄筋コンクリート工事」の軽量コンクリート2種の規定に合わせ、平成 25年版「標仕」では 27 N/mm2以下に変更された。
高強度化が流れではあるが、4〜5階建て、数千m2 程度のRC造建築物では高強度コンクリートを使用することはほとんどない。
(b) 使用するコンクリートの強度とは、使用するコンクリートが本来保有していると考えられるポテンシャルの圧縮強度のことであり、荷卸し地点でコンクリート試料を採取し、標準養生した供試体の材齢 28日の圧縮強度で表される。 ポテンシャルの圧縮強度は、構造体コンクリートの強度が設計基禅強度を満足するように、設計基準強度に構造体コンクリートの強度と標準養生した供試体強度との差を考慮した値(構造体強度補正値(S):6.3.2(1)(ⅱ)を参照)を加えた調合管理強度以上でなければならない。
(c) 構造体コンクリートとは、型枠内に打ち込まれて養生され、硬化して構造体あるいは部材を形成しているコンクリートのことである。構造体コンクリートの強度は、初期に十分な湿潤養生が施されれば、材齢28日以降も長期にわたって強度が増進し、材齢 91日においても強度増進は続き、停止することはない。 しかし、コンクリート工事においては適切な材齢を定め、その材齢において設計基準強度を満足するように定める必要がある。建築基準法施行令第74条第1項第二号に基づき、昭和56年建設省告示第1102号の第1第二号では、コンクリートの強度は、コンクリートから切り取ったコア供試体について強度試験を行った場合に、材齢91日において設計基誰強度以上であることと定めている。「標仕」が定める構造体コンクリートの強度の基準となる材齢91日は、この告示の規定を適用したものである。
一方、実際のコンクリート工事において構造体コンクリートの強度をコア供試体で試験することは、構造体に損傷を与え、かつ、修復が必要となるため困難である。このため、一般には工事現場で使用するコンクリートから試料を採取し、構造体コンクリートと同じような強度発現をすると考えられる方法で養生した供試体の圧縮強度から構造体コンクリートの強度を推定し、品質管理を行っている。上記告示第1102号の第1第一号では、コンクリートの強度は、現場水中養生を行った供試体について強度試験を行った場合に、材齢 28日において設計基準がよく強度以上であることと定めている。「標仕」においても、この告示の規定に基づき構造体コンクリートの強度推定の管理材齢の一つとして28日を規定している。
なお、平成19年版「標仕」では、調合管理強度に相当する値は、材齢 28日を基準に、設計基準強度(Fc)、構造体コンクリートと供試体強度との差(△ F = 3 N/mm2 )、気温によるコンクリート強度の補正値( T ) を考慮して(Fc 十 △F+T )としていたが、平成22年版「標仕 」では、調合管理強度は、材齢 91日を基準に、△ FとTに代わり構造体強度補正値(S:「標仕」表6.3.2 を参照)を取り入れ( Fc+S )に改められている。
構造体コンクリートの強度とは、構造体あるいは部材そのものの強度ではなく、構造体あるいは部材の中に直径と高さの比が 1:2 の円柱を考え、仮にその円柱を圧縮試験したとするときに得られる強度であり、一般には構造体あるいは部材から切り取ったコア供試体の圧縮強度がそれに近いと考えられている。しかし、実際のコンクリート工事において、構造体コンクリートの強度をコア供試体で試験するのは困難である。このため、工事現場で採取した供試体を、構造体コンクリートと同じような強度発現をすると考えられる方法で養生した供試体の圧縮強度で表すこととした。
構造体コンクリートの強度に関する調査・研究によって、現場水中養生した供試体の圧縮強度は、材齢28日のコア供試体の圧縮強度より大きく、材齢91日のコア供試体の圧縮強度と同等かやや小さいことが分かってきた。また、現場封かん養生した供試体の圧縮強度は、現場水中養生した供試体の圧縮強度よりやや低いことも分かってきた。このため、「標仕」では現場水中義生した供試体あるいは現場封かん養生した供試体の圧縮強度を基に構造体コンクリートの強度を推定することとした。
(d)使用するコンクリートの強度及び構造体コンクリート強度の推定値の判定は、9節の6.9.4 及び 6.9.5 によって行う。6.2.2(b)でも記したように、使用するコンクリートとは.工事に用いるために工事現場に搬入したコンクリートのことであり、その強度は、コンクリートが本来保有していると考えられるポテンシャルの圧縮強度のことである。したがって、使用するコンクリートの強度は、荷卸し地点で採取して標準養生した供試体の材齢28日の圧縮強度で表すこととし、その値は調合管理強度以上でなければならず、かつ、JIS A5308(レディーミクストコンクリート)の呼び強度の強度値を満足しなければならない。
6.2.3 気乾単位容積質量
(a) コンクリートの気乾単位容積質量は、使用する骨材の密度や調合によって異なり、構造計算で固定荷重を算定するときに、鉄筋コンクリートの質量を求めるために用いる値である。平成25年版「標仕」から、従来の使用骨材の種類による区分から、新たにコンクリートの気乾単位容積質量による区分に変更され、そのための標準的な判断基準として、JASS 5 の規定値を参考に数値が示された。
(b) 軽量コンクリートの気乾単位容積質量は、別途「標仕 」10節で1種、2種の種類ごとに標準的な値の範囲が示されている。
6.2.4 ワーカビリティー及びスランプ
ワーカビリティーとスランプの関連等について次に示す。
(1) ワーカビリティーは、打込み場所並びに打込み方法及び締固め方法に応じて、型枠内並びに鉄筋及び鉄骨周囲に密実に打ち込むことができ、かつ、 粗骨材の分離が少ないものとする。また、スランプの所要値は、特記がなければ、基礎、基礎梁、土間スラブでは15cm又は 18cm、その他の部材では 18cmとする。
(2) ワーカビリティーは、運搬、打込み、締固め及び仕上げのフレッシュコンクリートの移動・変形を伴う作業の容易さとそれらの作業によってもコンクリートの均一性が失われないような総合的な性質であり、フレッシュコンクリートの流動性の程度を表すスランプとは別の概念である。
(3) 作業の容易さからいえば、スランプが大きく流動性が高いほうがワーカビリティーが良いといえるが、スランプが過大になると粗骨材が分離しやすくなるとともにブリーディング量が大きくなり、コンクリートの均一性が失われる。そこで、単位セメント量や細骨材率を大きくするとフレッシュコンクリートの粘性が大きくなり、粗骨材の分離は生じにくくなる。
(4) スランプを大きくし、かつ、単位セメント量や細骨材率を大きくすれば、見かけ上はワーカビリティー の良いコンクリートが得られる。 しかし 単位水量や単位セメント量が過大になると乾燥収縮率が大きくなってひび割れが生じやすくなるとともにセメントペーストやモルタル分の多いコンクリートとなって、打上りコンクリートの表面の品質が悪くなる。
(5) このため、作業の容易さだけでワーカビリティーを評価するのではなく、ブリーディングや骨材の分離ができるだけ少なくなるようにするという条件も考慮しなければならない。
(6) スランプは、打込み時のフレッシュコンクリートに要求される直要な品質項目の一つであるが、ここでいう所要スランプとは、荷卸し地点でのスランプである。所要スランプ18cmというのは、許容差を含めて考えればよく、その値は JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)の規定によれば ± 2.5cmである 。
スランプフローの基準
JIS A5308 2019年改正により
普通コンクリートにおけるスランプフローは
 45±7.5cm,
 50±7.5cm,
 55±7.5cm,
 60±10cm
の4種類となっている。
6.2.5 構造体コンクリートの仕上り
(a) コンクリート部材の位置及び断面寸法の許容差
(1) コンクリート部材の位置及び断面寸法は,所定の許容差の範囲内になければならないが、これは次の理由による。
(ⅰ) 構造体としての耐力及び耐久性の確保
(ⅱ) 仕上げ二次部材又は設備等の納まり上の要求
(ⅲ) 美観上の要求
(2)部材の位置及び断面寸法の測定は,一般的には次のように行う。
特記された部材又はサンプリングした部材について、基準墨からスケール等を用いて測定する。 測定部分は両端及び中央の 3箇所程度行う。
柱・梁等は直接測定できることが多く問題は少ないが、床・壁等の断面寸法は、両側から測定して計算で求めると測定誤差がきく大なることがある 。 そこで、開口部等を利用して直接測定する。
むやみに測定項目や測定数を増やすことは、測定費用や時間を要し本来の目的から逸脱することになる。コンクリート部材の位置及び断面寸法は、型枠の変形等がなければ、型枠により決まるものであり、補修も困難であることから、コンクリート打込み前の型枠の設計・掛出し・組立等を確実に行うことが必要である。 コンクリート打込み後は型枠の変形が生じたと見られる部分等について、確認のために測定する。
(3) (1)及び(2)に基づいて各部材の位置及び断面寸法を測定し、その結果、位置及び断面寸法の精度が「標仕」表6.2.3 の許容値を満足しない場合は、「標仕」6.9.6 に従って監督職員に報告するとともに適切な処置等を講じなければならない。
(b) コンクリート表面の仕上り状態
(1) せき板に接するコンクリートの仕上り状態は特記によるが、コンクリートの打放し仕上げの場合は、「標仕」表6.2.4 の種別に応じた「表面の仕上り程度」を目安とする。コンクリートの仕上り状態を良好にするには、不陸を少なくするために変形量の少ない型枠設計を行い、コンクリート打込みの際は、目違い等が生じないようにコンクリートの締固めを行うことが重要である 。
(2) コンクリートの仕上りの平たんさは、せき板に接する面は型枠の変形等により、せき板に接しない床上面等は左官の均し精度により決まる。
平たんさの測定方法には、JASS5 で定められた JASS 5 T-604 (コンクリートの仕上がりの平たんさの試験方法)があるが、試験用器具が特殊で取扱い方法も難しいため、一般的には下げ振り、トランシット、レベル、水糸、スケール等を使用してコンクリート面の最大、最小を測定する方法等で行われている。
「標仕」表6.2.5 の平たんさの標準値は,仕上げの種類だけでなく、建物の規模や仕上り面に要求される見ばえ等によっても異なるので、適切な値を品質計画で提案させ、検討するとよい。
なお、25年版「標仕」では、表6.2.5 の対象となる柱、梁、壁の種類に「接着剤による陶磁器質タイル張り」が追加され、これに伴い従来のタイル工法は「セメントモルタルによる陶磁器質タイル張り」と名称が変更された。床についてもフリーアクセスフロアが追加された。 フリーアクセスフロアには,支柱調整式(下地床の不陸に伴う高さを調整する機能を有するも)のと置敷式(高さを調整する機能がなく、高さは下地床の精度に従うもの)の2 種類があり、支柱調整式は ±10〜15mm 程度の調整代があるため、従来からの「二重床」に含め、置敷式は新たに「フリーアクセスフロア(置敷式)」として追加された。

7章鉄骨工事 1節一般事項

第7章 鉄骨工事
01節 一般事項
7.1.1 適用範囲
(a) 「標仕」で規定している「構造上主要な部材に鋼材を用いる工事」とは、建物を鉄骨構造とするもののほか、鉄骨造の玄関ひさし、車庫等を想定しており、既製の鋼製階段、水槽の架台等は対象外と考えてよい。
(b) 工事の流れを図7.1.1 に、作業の流れを図7.1.2 に示す。
図7.1.1鉄骨工事の流れ.jpg
図7.1.1 鉄骨工事の流れ
図7.1.2_鉄骨工事の作業の流れ.jpg
図7.1.2 鉄骨工事の作業の流れ
(c) 施工計画書の記載事項は、7.1.5 を参照されたい。
(d) 構造上主要な部材にステンレス鋼を使用する場合は特記による。その際には、(-社) 日本鋼構造協会「ステンレス建築構造設計基準・同解説」を参照されたい。
7.1.2 基本要求品質
(a) 鉄骨工事で使用する鋼材は,建物の構造耐力上必要な材質並びに断面形状及び寸法が設計図内で指定される。
基本要求品質としては、指定された材料が正しく使用されていることを求めているので、材質や寸法等を含めて、これを証明できるようにしておく必要がある。
板材等を切断して鉄骨部材を製作する場合は、一般に、鋼材は製造工場(メーカー)又は商社等から切板工場(シャーリング工場)等に出荷され、ここで必要な断面形状に切断され、更に、鉄骨製作工場(ファブリケーター等)で加工・組立が行われる。この過程において、鋼材の大半を物件ごとにロール注文する場合には問題になることは少ないが、鋼材問屋(特約店)を通して市中購入する場合には、鋼材は順次小口に細分され、多様なユーザー等にわたっていくことがある。この時、鋼材そのものと、その規格品証明書(ミルシート) が対になって動いていないことがある。特に鋼材等を部品に切断した場合、その切断された部品とミルシートの対応ができていないことがある。切断する前の鋼材の製品番号等とミルシートが一致していることを前提とし、ミルシートの内容をリスト化して鋼材の品質証明を行う方法の一例として(-社)日本鋼構造協会・建築鉄骨品質管理機構から、2009年12月に「建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン」が提案されている。すなわち、流通段階ではミルシートの内容をリスト化した「原品証明書」で品質証明を行い、これに基づいて鉄骨製作工場の材料管理買任者(鉄骨製作管理技術者資格保有者が望ましい。)が「鉄骨工事使用鋼材等報告書」を作成・発行する。施工者側は、鉄骨工事管理買任者がこの報告書で品質を確認する。更に、これを工事監理者に提出して、使用鋼材等の品質を確認するシステムである(7.14.2 参照)。
なお、SN材の識別については、7.2.1(b)(9)を参照されたい。
(b)「鉄骨は、所定の形状及び寸法を有し、所定の位置に架構されていること」とは、鉄骨の部材が設計図書あるいは工作図のとおりに製作され、工事現場において架構されていることを要求したものである。この場合の鉄骨の製作精度及び建方精度は、建物等の規模や構造的重要度等を勘案して特記することとしているので、特記事項を満たしていること、また、特記のない場合は、(ー社)日本建築学会「JASS 6 鉄骨工事」付則6[鉄骨精度検査規準]によることとしているので、これに適合していることが条件となる。
(c)「鉄骨は、構造耐力、耐久性、耐火性等に対する有害な欠陥がなく、接合部及び定着部は、作用する力を伝逹できるものであること」とは、(b)が仕上りの状態に関する要求事項であるのに対し、鉄骨の製品が有すべき性能に関する要求である。
構造耐力、耐久性、耐火性等に対する有害な欠陥とは、例えば、溶接割れ等、部材の加工・組立時の欠陥のほかに、運搬及び建方中の損傷や建方後の補助部材の溶接等による損傷も含まれるので、有害な欠陥を生じさせないような施工の手順や品質基準、養生方法等を品質計両で明確にし、これによって施工を進める。また、有害な欠陥を発生するおそれのある場合は、その処置や補修方法についてもあらかじめ定めておくことが望ましい。
接合部や定着部の力の伝達では、構造設計上必要な断面寸法等が指定されている。しかし、例えば、高力ボルト摩擦接合の場合では、ボルトの種類や数量等は指定されたものであっても、摩擦面の処理やボルトの保管方法等が適切でなかった場合、あるいは、溶接部では、溶接の方法や施工条件、母材の材質と溶接材料の種類との組合せ等が適切でなかったりすると、作用する力を伝達することができなくなる。したがって、これらのことについても品質計画に適切な施工方法と管理方法について定め、更に、これらに従って適切に管理が行われたことの分かる資料があれば、要求品質を満たしているものといえる。
7.1.3 鉄骨製作工場
(a)鉄骨製作工場は,設計図書に特記された加工能力等及び施工管理技術者の適用に適合するものとする。これらの特記がない場合は、受注者等が選定した適切な鉄骨製作工場について、次の事項を記載した文書等から加工能力等を確認すればよい。
(1) 工事経歴
(2) 鉄骨製作工場の規模,契約電力及び機械設備
(3) 生産能力(月産能力及び加工能力の余裕)
(4) 他工事の製品の出来ばえ
(5) 鉄骨製作業者の資格基準
(6) 鉄骨製作管理技術者、溶接施工管理技術者、非破壊検査技術者、溶接技能者の資格・人数
(7) 品質管理システム等
(8) その他
(b)「指定性能評価機関」による工場認定制度とは、所定の要件を整えて国土交通大臣から指定された民間機関が、工場の品質管理体制、規格類の整備状況等を評価し、その評価を基に国土交通大臣が認定を行うものである。
指定性能評価機関には、㈱日本鉄骨評価センター及び㈱全国鉄骨評価機構がある。どちらも評価基準は共通であり、その内容は表 7.1.1 及び 2のとおりである。
表7.1.1 工場認定に関わる評価項目
表7.1.1工場認定に関わる評価項目+.jpg
表7.1.2 工場認定のグレード別の適用範囲と別記事項(その1)
表7.1.2工場認定のグレード別の適用範囲と別記事項(その1).jpg
表7.1.2 工場認定のグレード別の適用範囲と別記事項(その2)
表7.1.2工場認定のグレード別の適用範囲と別記事項(その2).jpg
表7.1.2 工場認定のグレード別の適用範囲と別記事項(その3)
表7.1.2工場認定のグレード別の適用範囲と別記事項(その3).jpg
表7.1.2 工場認定のグレード別の適用範囲と別記事項(その4)
表7.1.2工場認定のグレード別の適用範囲と別記事項(その4).jpg
表7.1.2 工場認定のグレード別の適用範囲と別記事項(その5)
表7.1.2工場認定のグレード別の適用範囲と別記事項(その5).jpg
7.1.4 施工管理技術者
(a)「標仕」7.1.3 の規定により「施工管理技術者を適用する」旨の特記がある場合には、次の事項を記載した施工計画書を提出させ、当該製作工場に、監督職員が「標仕」7.1.4(a)で規定する能力があると認める者が常駐することを確認する必要がある。
なお、(3)又は(4)の資格に該当するものの例としては、(b)及び(c)(4)に示すものがある。
(1) 工事実績
(2) 鉄骨製作工場での立場(役職等)
(3) 資格証明
(4) ほかの有資格
(5) その他
(b) 平成 9年版「共仕」で規定されていた鉄骨製作管理技術者は、「建築設計等関連業務に関する知識及び技術の審査・証明事業認定規程」に基づき認定された資格であったが、審査・証明事業の廃止に伴い民間資格となった。しかし、この有資格者は、「標仕」7.1.4(a)で規定する能力のある者の一例と見なすことができる。
なお、「鉄骨製作管理技術者」は、(-社)鉄骨建設業協会及び(-社)全国鐵構工業協会の 2団体で設立した「鉄骨製作管理技術者登録機構」により評価されている。
(c)「標仕」では規定されていないが、(-社)日本鋼構造協会の「建築鉄骨品質管理機構」では、鉄骨造建築物の安全性と品質の確保を目的として、平成 10年度から「建築鉄骨技術者制度」を実施し、現在、次の 4資格について技術者の認定登録を行っている。平成 25年 4月 1日 現在の認定登録状況を表7.1.3 に示す。
(1)建築高力ボルト接合管理技術者
建築鉄骨の高カボルト接合が適切に実施されるよう、作業者を指導し、工事の監理・管理・検査をする技術者
(2)建築鉄骨超音波検査技術者
建築鉄骨の溶接部の施工の良否を判断する超音波探傷検査(UT)技術者
(3)建築鉄骨製品検査技術者
建築鉄骨の製作過程及び製作後に、製品の良否を判定する検査技術者
(4)鉄骨工事管理責任者
鉄骨工事が適正に施工されるよう、施工計画から工事の完了に至るまでの品質管理・施工管理等の全般を管理する技術者
表 7.1.3 技術者の認定登録状況(平成 25年 4月1日現在)
表7.1.3技術者の認定登録状況.jpg
7.1.5 品質管理
(a) 鉄骨工事の品質管理とは、要求される鉄骨の品質をつくり出すために、設計から製作・建方までの各工程で品質をつくり込む一連の活動であり、この品質管理の確実な実施によって品質保証を可能にする。
(b) 施工品質を保証する受注者等・鉄骨製作業者の品質管理は、次の 4段階に大きく分けられる。
(1) 設計図書の把握と疑義事項の解明
(2) 要求された品質を実現するための計画作成
(3) 計画どおりの継続的な実施
(4) 施工品質が要求された品質を確保していることの証明
(c) 受注者等は、鉄骨製作業者の品質管理システムを十分に理解し、双方の合意に基づき、品質管理実施要領を計画する。また、計画の実施においても、協力して効果的な体制をつくることが重要である。
(d) 受注者等及び鉄骨製作業者が、要求品質を確保するため、保有すべき機能は次のとおりである。
(1) 品質管理方針を提示する機能
(2) 設計図料の内容を確認し、製作・施工の目標品質を設定する機能
(3) 製作・施工の目標品質を実現するための計画を行う機能
(4) 計画に従って品質をつくり込む機能
(5) 施工品質を確認・評価する機能
(6) 品質評価情報に基づき品質改善・生産性向上を行う機能
(7) 標準化を促進する機能
(8) 不具合の再発防止と予防する機能
(9) 品質の証明に必要な記録を残す機能
(10) 鋼材の製造工場又は商社等から最終の鉄骨製作工場までの流通経路を証明する機能
(e) 受注者等及び鉄骨製作業者が工場製作及び工事税場施工に先立ち作成する施工計画書・工場製作要領書・工事現場施工要領書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を作成する。
(1) 施工計画書:(鉄骨工事全体の品質管理要領を含む)
① 総則及び工事概要
② 実施工程表
③ 受注者等の管理組織、工事担当及び協力業者
④ 仮設計画
⑤ 建方計画
⑥ 接合計画
⑦ 他工事との関連
⑧ 安全管理
⑨ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制、管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法
(2)工場製作要領書(工場製作範囲の品質管理要領を含む)
① 総則及び工事概要
② 鉄骨製作業者の管理組織、工事担当(施工管理技術者・溶接施工管理技術者・検査技術者の氏名、所持資格等)
③ 溶接技能者の氏名、所持資格等
④ 製造設備の能力(製作関連の機械設備、配置図等)
⑤ 工程表(工作図・材料調達・製作・製品検査・搬出等の時期)
⑥ 使用材料の名称、規格、製造所及び使用箇所
⑦ 工作・溶接(加工・組立・溶接の製作手順、開先形状、溶接工法等 )
⑧ 品質管理・検査計画( 管理・検査項目、方法、管理値、不具合処置方法等)
⑨ 塗装計画(材料・エ法・塗装範囲等)
⑩ 製品の輸送計画(輸送方法・養生方法・安全対策等)
(3)工事現場施工要領書(工事現場施工範囲の品質管理要領を含む)
① 総則及び工事概要
② 工程表(アンカーボルトの設置・建方・高力ボルト締付け・溶接作業・完成検査等の時期)
③ 作業の管理組織及び協力業者、工事担当(施工管理技術者・溶接施工管理技術者・非破壊検査技術者・溶接技能者の氏名、所持資格等)
④ アンカーボルトの保持及び埋込み工法と検査方法
⑤ 定着の工法
⑥ 建方作業順序と建入れ直し及び建入れ検査方法並びに不具合処理方法
⑦ 高力ボルト接合作業手順と締付け後の検査方法並びに不合格処理方法
⑧ 溶接接合作業手順と精度・外観・内部検査方法並びに不合格処理方法
⑨ 超音波探協試験の検査機関及びその管理組織
(f) 提出された施工計画書・工場製作要領書・工事現場施工要領書から、品質管理実施要領及び保有する品質管理機能が適切であるかを判断する。
(g) 工場製作及び工事現場施工における検査の項目・方法・管理値等の基準は、特記がなければ、JASS 6 付則6[鉄骨精度検査規準]を満足しなければならない。検査の項目・方法・管理値等を満足することが不可能な場合は、満足することができない原因を明確にし、問題の原因を取り除く処置方法や、品質を損なわない対処方法を受注者等と協議して確定する。
(h) 鉄骨製作業者と受注者等が実施する検査内容は、次のとおりである。
(1) 鉄骨製作業者の社内検査
工場製作要領書・工事現場施工要領書に記載した計画に基づき、工場製作・工事現場施工の各工程と完了時に自主的に社内検査を実施し、検査の結果を記録して、受注者等に報告する。
(2) 受注者等の中間検査・受入検査
鉄骨製作業者の社内検査結果の報告を受け、検査成績書の内容確認と抜取りによる製品と施工結果の現物検査を実施する受入検査を行い合格したものを受け入れる。受入検査の結果を記録し監督職員に提出する。
なお、最終の製品となってしまってからでは検査できない項目については、各製作工程途中で検査が終了していなくてはならない。このような検査を中間検査といい、社内検査、中間検査、受入検査の3種類の検査で製品の品質が確保される。
(i) 監督職員の検査については、受注者等が作成した受人検査成績書の内容を確認し、適否を判断することが原則であるが、必要に応じて受注者等の受入検査時に実際の製品に対して直接検査を行う。
(j) 鉄骨工事の品質管理を合理的に行うためには、設計者、受注者等、鉄骨製作工場間の情報の伝逹が、確実に行われることが不可欠である。そのような品質管理の具体的あり方を述べたものとして、「国土交通省総合技術開発プロジェクト「建設事業の品質管理体系に関する技術開発」報告者 建築分野編」(平成13年 3月)の第3章[鉄骨造建築物の品質管理]がある。
7.1.6 環境問題への配慮
(a) 鉄骨工事と環境問題の関わりとしては、次の 3つに分けられる。
(1) 地球環境への配慮
(2) 地域環境への配慮
(3) 室内環境への配慮
中でも、地球環境問題については、気候変動抑止に向けた低炭素社会実現の動きが、一層加速しつつある。特に高炉鋼材は1t 製造するのに 約 2tのCO2 が排出されることが知られており天然資源枯渇はもとより、CO2排出削減の観点からもその利用に当たっては充分な配慮が必要である。
(b) 地球環境問題の関わりとして留意すべき事項には、次のようなものが挙げられる。
(1) 電炉鋼材の活用等リサイクルの促進
(2) 鋼材のリュースの促進
(3) 鉄骨製作段階における加工スクラップ等の削減
(4) 建物の長寿命化の雅進
電炉鋼材の活用は、天然資源の枯渇抑止の観点からはもとより、CO2 排出量が高炉鋼材の約1/4 程度に削減されることからも、有用である。従来、電炉鋼材は、不純物の混入により、溶接性・破壊靭性等が高炉材に比べ劣ることがいわれてきた。しかし、近年においては、不純物の除去技術の進歩により、性能において高炉材とそん色のない製品が供給されるようになってきており、建築構造用の規格であるSN規格を満足する製品も多く出回っている。
ただし、JISでは成分量の規定のない元素で、溶接性、破壊靱性に悪影評を及ぼす元素が一部存在するので注意が必要である。溶接性、破壊靭性等において特に通常より高い性能を期待する部位等においては、規格とは別に当該元素の含有量、目標靭性値等を指定することが望ましい。
建物の長寿命化推進もまた、天然資源の枯渇抑止、CO2排出削減の観点から重要である。最近、構造躯体等の長寿命化を意図して、ステンレス鋼材等の活用が提案される場合がある。しかし、例えばステンレス鋼材と普通鋼材の混用は、場合によっては電食等の新たな問題を引き起こすおそれもあり、十分な注意が必要である。
(c) 地域環境問題の関わりとして留意すべき事項は、工事中の近隣への錆の飛散等の問題が挙げられる。
(d) 室内環境問題としてはシックハウス・シックビル問題があるが、それと鉄骨工事の関連については、塗装の問題が挙げられる。これについての詳細は、18章、19章等を参照されたい。
通常、塗装の仕様については、設計段階で十分に配慮がなされており、その指示に従って施工が行われれば比較的問題は少ないと思われるが、まれに工事現場において安易に仕様変更が行われ、結果として問題が生じることがあるので注意する。
その他の室内環境問題としては、耐火被覆の問題が挙げられる。従来、耐火被覆には主成分として長くアスベスト(石綿)が使用されてきたが、発がん性等の理由からその危険性が指摘されていた。
アスベストを原材料とする吹付け耐火被覆材については大気汚染防止法により、解体工事の届出、マニュアル遵守等が義務付けられている。また、平成 18年 9月に改正された労働安全衛生法施行令により石綿等の製造等が全面禁止とされ、石綿障害予防規則により更なる石綿暴露防止対策の充実が図られた。平成18年 10月には建築基準法が改正され、石綿の飛散のおそれのある建築材料の使用が規制された。
「標仕」でも平成19年版の改定で、工事に使用する材料はアスベストを含有しないものとされている。
今日では、耐火被覆材の脱アスベスト化が達成されている。

7章鉄骨工事 2節材料

第7章 鉄骨工事
2節 材 料
7.2.1 鋼 材
(a) 鋼材の製造
建築用に使用される鋼材は、その用途に応じて種々の特性を有し、その素材である鉄鉱石、鉄くずから多くの製造工程を通して製造される。図7.2.1 に、製鉄所における素材の一貫製造工程の概略を示す。
図7.2.1_製鉄所における素材の一貫製造工程.jpg
図 7.2.1 製鉄所における素材の一貫製造工程
鉄鋼製造工程の中で鋼の特性を決める主な要因は、製鋼工程における鋼の成分・鋳造法、圧延・機械成形工程における加工・溶接や熱処理条件、表面処理工程におけるめっき・塗料の成分や被覆方法等で、これらを適切に組み合わせることにより所定の特性をもった素材が製造される。特に注目すべきことは、技術の向上により1970年代まで主流であった造塊・分塊法が、連続鋳造法に移行して、現在では 95%以上の鋼材が連続鋳造により製造されるようになったことで、結果として鋼材の品質向上に大きく貢献している。また、製造された素材は、試験や検査によって所定の特性をもっていることが確認される。表7.2.1は、製鉄所が行っている主な試験や検査項目である。
なお、製造された素材について、製造業者より品質の証明書として規格品証書(ミルシート、検査証明書、試験成績書等)が発行される。
表7.2.1 製鉄所における主な試験や検査項目
表7.2.1_製鉄所における主な試験や検査項目.jpg
(b)構造用鋼材の性質と種類
(1) 鋼の物理的性質
通常の鋼がもつ基本の物理定数を、表7.2.2 に示す。
表7.2.2 鋼の物理定数
表7.2.2_鋼の物理定数.jpg
(2)鋼中の炭素含有量と材質
鉄骨工事に使用される構造用鋼は、そのほとんどが炭素鋼(普通鋼)と呼ばれるものである。炭素鋼は、炭素含有量が通常0.02~約2%の範囲の鋼であり、鋼中の炭素(C)含有量によりその材質が大きく変化する。一般的には、炭素量が多くなると引張強さと硬さは増加するが、伸びや靭性(ねばり強さ)が低下する。そして、炭素量が多くなり過ぎると材質はもろくなり構造用鋼材として使用できなくなる。図7.2.2 に炭素量と材質変化を示す。
図7.2.2_炭素量と材質変化.jpg
図 7.2.2 炭素量と材質変化
※シェルフエネルギーとは、鋼のシャルピー試験において、完全延性破壊を呈する温度のエネルギーをいう。
(3)高温度における材質変化
建築構造物の設計や工事の際の、鋼材の材質特性は、一般的に常温の値を使用することが多い。しかし、鋼材は、温度の上昇とともに強度が低下することがよく知られており、鋼材の使用場所や環境によって高温度になるような場合は、この強度の低下をあらかじめ見込んで使用しなければならない。図7.2.3 に、鋼材の主な材質が、温度とともに変化する状況を示す。
図7.2.3_温度と鋼材の材質変化の関係.jpg
図 7.2.3 温度と鋼材の材買変化の関係
(4) 鋼の成分と溶接性
鉄骨工事にとって重要な溶接性は、鋼材の炭素量と密接な関係にある。炭素が多く含まれる鋼材の溶接性は一般的には悪い。したがって、炭素量を適切に抑えて、ほかのマンガン(Mn)やけい素(Si)等の成分を添加して引張強さ、硬さ、伸びを確保しながら溶接性の改善を図ることが多い。 鋼材の溶接性への影響度を表す数値が炭素当量(Ceq)、溶接割れへの影響度を表す数値が溶接割れ感受性組成(PCM)である。これらは、添加されたほかの成分の影響を、次式(JIS G3106、JIS G 3136より引用)によって換算した数値である。
鋼の成分,炭素当量と溶接割れ感受性組成.jpeg
炭素当量及び溶接割れ感受性組成は、溶接材料、溶接条件、溶接部の形状等とともに溶接部の性能を確保するための重要な指標の一つであり、例えば、JIS G 3136(建築構造用圧延鋼材)(SN材)では、炭素当量を 400N/mm2の B,C材で 0.36%以下、490N/mm2 の B、C材で 0.44%以下(厚さ 40mm以下)、0.46%以下 (厚さ 40mをm超え 100mm以下)と規定している。 また、溶接割れ感受性組成もSN400B,C材で 0.26%以下、SN490B, C材で 0.29%以下としている。
なお、式中の元素記号は、その含有量を重量%で示したものである。
(5) 熱処理と材質変化
鋼は, 熱処理によって材質を変化させることができる。 素材に行われる熱処理や溶接部又はその周辺に残る有害な影響を解除する溶接後の熱処理は、この性質を利用したものである。
通常行われている熱処理には、次のような種類がある。
①焼入れ
鋼を硬くし、強度を増加するためにある特定の温度以上まで加熱したのち、急冷する方法
②焼戻し
焼入れした鋼の硬さや強度を減少して、靭性(ねばり強さ)をもたせるため適切な温度(400~650℃程度)まで加熱したのち、自然に冷却する方法
③焼ならし
加工した鋼の結晶組織を微細化・均一化するため、ある特定の温度以上まで加熱したのち、自然に冷却する方法
④焼なまし
鋼を軟らかくするために結品組織の大きさを整えたり、内部応力の除去のため、適当な温度で一定時間加熱したのち、ゆっくりと冷却する方法(炉の中で冷却することが多い。)
溶接構造物や溶接機械部品の内部応力除去のために行われる熱処理を、応力除去焼鈍ということがある。
(6) 鋼材の用途と分類
鋼材には.多くの種類があり用途に応じて使用される。各々の鋼材は、品質要求に適合するように製造されているから、十分な配慮(例えば、構造物の荷重・圧力・温度等の条件、切削・溶接・熱処理・表面処理等の加工条件に合うかどうか)をして、適切な鋼材を使用する。
構造部位の視点に立つと、激震時に部材が塑性化する部位か弾性範囲に留まる部位かによって、降伏点又は耐力、降伏比、板厚方向性能の保証の有無を使い分けることが直要である 。
(7)主な鋼材の種類
(i) 建築基準法に基づく告示に規定された主な鋼材の種類とその概要を表7.2.3に示す。
なお、JIS G 3106(溶接構造用圧延鋼材)で熱処理を行ったときは、記号の末尾に焼ならしN、焼入れ焼戻しQ、熱加工制御 TMC の各記号を付記することになっている 。
また、JIS G 3106 で内部欠陥のないことを立証するために超音波探傷試験を行ったときは、記号の末尾に UT を付加して表す。 超音波探傷試験は、JIS G 0901(建築用鋼板及び平鋼の超音波探傷試験による等級分類及び判定基準)による。
なお SN400C、SN490Cは出荷前に超音波探傷試験が実施されている。また、SN400B、SN490B はオプションで超行波探傷試験ができることになっている 。
JIS G 3101 (一般構造用圧延鋼材)に規定されるSS400 材と JIS G 3106 に規定される SM490A材は建築用鋼材として多く使用されているが、溶接性、衝撃特性及び板厚方向の性能が必要となる箇所に使用する場合は、特にりん(P)と硫黄(S) の不純物の含有量に注意して使用する。
溶接性において、高温割れの主因は溶接金板のデンドライト境界面に残存する低融点の不純物にあるとされており、 P や S 等が割れを促進する元素として知られている。また、T 継手あるいは隅肉多層盛溶接部に発生するラメラテアは、圧延方向に伸長した鋼板の層状介在物 (MnS) が原因の一つとされている。更に、この層状介在物 (MnS) は、板厚方向の絞り値にも大きく影響する。参考として、各鋼種の P 及び S の JIS 規格値を表 7.2.4 に示す。
なお、溶接接合の場合は、その部位の重要度に応じてP や S の少ないものを使用することが望ましい。
(ⅱ) 表 7.2.3 に掲げるもののほか 建築基準法に基づき指定又は認定を受けた構造用鋼材及び鋳鋼がある。
表 7.2.3 主な綱材の種類と概要
表7.2.3_主な鋼材の種類と概要.jpg
表 7.2.4 各鋼種のP及びS のJIS 規格値(単位:%)
表7.2.4_各鋼種のP及びSのJIS規格値.jpg
(8)建築構造用圧延鋼材( SN材)
(ⅰ) 建築物の主要構造部に用いられる鋼材として、SS材、SM 材の JIS 規格値を満足するだけでなく、次のような条件も満足する。
① 降伏点の上限値規定
② 降伏比(降伏点/ 引張強さ) の上限値規定
③ 板厚方向の絞り値の下限値規定 (C材のみ)
④ 化学成分のうち、より厳しい P, S 値の規定
⑤ 炭素当量又は溶接割れ感受性組成の規定
⑥ JIS G 0901 による超音波探傷試験による内部品買の保証(C 材では規格として義務付けられている。 また、B材でもオプションで超音波探傷試験による内部品質の保証も可能である。)
(ⅱ) JIS の概要は、次のとおりである。
名     称:建築構造用圧延鋼材
鋼種種類の記号:SN400A,B,C、SN490B, C
製 造 範 囲 :板厚 6mm以上、100mm以下の鋼板、帯鋼、平鋼及び熱間圧延形鋼
この鋼材の特徴は、次のとおりである。
① これまでの溶接性による識別のための鋼種記号SS材、SM材とは別に、建築用鋼材として鋼種記号 SN材とする。
② 溶接性の保証の有無、板厚方向の引張り特性の保証等を、強度区分の末尾記号 A, B. C で表示する。
A : 主として弾性設計の範囲内で使用し、主要な溶接を行わない部材( 小梁、間柱、母屋、胴縁等の 二次部材 )に適用するもの 。
B : 溶接を行う部材であり かつ,塑性変形能力を期待する部材(柱、梁等耐震用主要構造部材) に適用するもの。
C : 溶接性、塑性変形能力を必要としたうえで、更に板厚方向引張応力が作用する部材(溶接組立箱形断面柱のスキンプレート、通しダイアフラム等)に適用するもの。このため、C 材では板厚方向引張り性能として絞り試験及び鋼板では UT (超音波探傷)試験が実施される。
③ 引張強さの区分は、これまでの 400Nと 490N と同じ 2種類とする。それぞれに対する F値はこれまでと同じ扱いである。
④ ミルシートに記載される化学成分の種類は増える。化学成分値については、B,C 材にあっては溶接性を重視する材料であることから P,S値が大幅に低減されている。 また、予熱管理も考慮して Ceq 又は PCMを保証するものとなっている。
⑤ 機械的特性に関する規定としては、若干の例外はあるが、通常使用される範囲の板厚のものに対しては次のとおりとなっている。
降伏点又は耐力:下限と上限を規定
引張強さ   :下限と上限を規定
降伏比    :上限を規定
0℃シャルピー吸収エネルギー値:下限を規定
これは、現行の耐震設計の基本理念が鋼部材の塑性変形能力によって地震入力エネルギーを吸収するものとしていることに対応させたものである。
⑥ 鋼板、形鋼の板要素の板厚マイナス側の公差が大輻に縮小された。これによって、これまで存在していた公称板厚りより薄い板要素の鋼材はほとんど排除された。
⑦ すべてのH 形鋼 ( (11)の外法一定 H 形鋼を含む。)のフィレットの r 寸法が H形鋼のサイズごとに統一され、8,13,18,22,26 mm の 5 つに集約された。
(9) 鋼板のマーキング
建築構造圧延鋼材 (SN材)には、切板に切断された段階でも明らかに規格材であると識別できるように、鋼板表面全面に社章あるいはドットマーク・規格名称をマーキングができることになっているので、マーキングのある材料を使用するとよい。
なお、形鋼には全面マーキングは行っていないが.全長にわたって連続マーキングしているものがある。
マーキングの内容は、次のとおりである
① マーク表示面:表(おもて)面全面
② マーク表示項目:社章又は規格分別マーク又はドットマーク
 1) SN400B,C  社章と菱形
 2) SN490B,C  社章と円形
 3) その他   社章
③ マーク表示ピッチ:長手、幅方向ともに 350mmピッチ程度
④ マーク 寸 法:80mm × 80mm程度
(10) その他の鋼材
( i ) 建築構造用 TMCP鋼
従来の鋼材の製造法は、アズロール(圧廷のまま)又は焼ならし処理が主体であった。この方法だと化学成分で強度を確保せざるを得ないが、炭素量や合金成分が高くなると、炭素当量が高くなり溶接性に悪影響を及ぼす。特に、厚肉鋼板ではこの領向が著しかった。
最近、超高層建築等板厚の大きい場合に使用頻度の高い TMCP鋼は、この点を解決したものである。TMCP は Thermo Mechanical Control Process の略称で「熱加工制御」又は「加工熱処理」とも呼ばれている。TMCP は、鋼材製造法を指し、TMCP 鋼はその方法で作られた鋼材のことである。
TMCP は熱間圧延時の圧延温度の制御と、その直後の冷却方法との組合せにより最適な材質をつくり込む。冷却方法は水冷型と非水冷型に分類されるが、建築用鋼材では通常水冷型が用いられている。
TMCP鋼と従来鋼の圧延方法の比較を図 7.2.4 に.TMCP鋼の炭素当量と強度の関係を図7.2.5 に示す。
図7.2.4_TMCP鋼と従来鋼の圧延方法の比較.jpg
図 7.2.4 TMCP鋼と従来鋼の圧延方法の比較
図7.2.5_TMCP鋼の炭素当量と強度の関係.jpg
図 7.2.5 TMCP鋼の炭素当量と強度との関係
大手高炉メーカー各社は、建築構造用 TMCP鋼材で、建築基準法に基づく認定を取得している。 これによると、この材料は厳格な品質管理のもとで、化学成分の調整と水冷型熱加工制御法による製造法で板厚 40mmを超え 100mm以下の材でも、40mm以下と同じ基準強度( F値 )が保証されている。
(ii) 冷間成形角形鋼管
冷間成形角形鋼管には、JIS による冷間成形角形鋼管(JIS G 3466 一般構造用角形鋼管 )と建築構造用に使用することを目的とした国土交通大臣認定による冷間成形角形鋼管があり、鋼板をプレス成形して製造される冷間プレス成形角形鋼管と鋼帯からロール成形により製造される冷間ロール成形角形鋼管に分けられる。
この国上交通大臣認定による冷間成形角形鋼管は、①塑性変形能力の確保、②溶接性の確保、③公称断面寸法の確保、④角部コーナー Rの曲率半径の統ーを特徴とする材料である。冷間プレス成形角形鋼管は、辺長及び板厚が 200 × 6(mm) ~1,000 × 40(mm)の範囲で製造され、鋼管の引張強度レベルは400N/mm2級と490N/mm2級の 2種類がある。 490N/ mm2級の鋼管には、角部の靭性(試験温度 0℃でのシャルピー吸収エネルギー70J以上)を保証した角形鋼管もある。冷間ロール成形角形鋼管は,辺長及び板厚が150 × 6(mm) ~ 550 × 22(mm) の範囲で製造され、鋼管の造管前の鋼帯の強度は 400N/ mm2級であるが、造管後の降伏点の下限値を 295N/ mm2としている 。 詳細は、(独)建築研究所監修 「冷間成形角形鋼管設計・施工マニュアル」を参照されたい。
なお.冷間状態で円形鋼管にしたのち、熱間状態で角形にする熱間成形角形鋼管もある 。
( iii ) 高強度鋼
近年の鉄骨造建築物の高層化・大型化に伴い、厚くなる鋼部材の板厚を抑え軽量化等を図るため、490N/mm2 級鋼を超える 550、590、780、1,000N/ mm2級の高強度鋼が開発されている。
これらには、使用ニーズに合わせて、低降伏化、高降伏化、溶接施工の難易度軽減のための予熱低減を可能とするなどの性能を有する製品も製造されている。
(iv) 耐火鋼( FR鋼)
鋼材は高温になると強度が低下するため、耐火被覆が必要となる。 耐火鋼は、耐熱性を高めるためにモリブデン等の合金を添加することで高温強度を向上させ、耐火被覆を軽減若しくは無被覆にできる鋼材である。 600℃においても、常温規格値の 2/ 3 以上の降伏耐力を保証している。
(v) 低降伏点鋼
制振構造において低降伏点鋼を使用する制振デバイスは他のデバイスに比較して安価で、かつ、信頼性や耐久性も高いことから急速に普及してきた鋼材である。 低降伏点鋼は通常の柱梁の主架構の鋼材よりも降伏点が低く、地震時に
低降伏点鋼を早期に降伏させることで地震入カエネルギーを鋼材の塑性エネルギーに変換して制振効果を発揮させる。
なお、低降伏点鋼は、降伏点又は耐力が 225N/mm2級及び 100N/mm2級の 2種類が主に使用される。
(11) 外法一定 H形鋼 (定形H 形鋼)
従米の H形鋼は、圧延製造上の制約から、同一シリーズでは内法が一定であり、フランジ厚の変化によってせいが異なっていた。 このため、柱梁接合部に極端に厚いダイアフラムを要したり、継手部にフィラープレートの挿人が必要であった。
圧延製造技術の進歩により、上記の問題点を解決した製品が外法一定 H形鋼である。 この H 形鋼は同一シリーズ内のサイズ構成も豊富で、経済的なサイズ選択の自由度が広がった。各社のサイズはほぽ同じである。フィレット寸法は全メーカーで統一寸法(13、18mm)となっている。 また、この H 形鋼のフランジ、ウェブの板厚は、鋼板の常用板厚とほとんど同厚になっている( 例外は板厚14mmのみ)。
(c) 鋼材のJIS の抜粋
JIS G3136(建築構造用圧延鋼材)の抜粋を次に示す。
JIS G3136:2012
1.適用範囲
この規格は、建築構造物に用いる熱間圧延鋼材(以下、鋼材という。)について規定する。
3.種類及び記号並びに適用厚さ
鋼材の種類は 5種類とし、その記号及び適用厚さは、表1による。
表1種類の記号
JIS_G3136_表1_種類の記号.jpeg
4.化学成分
鋼材は、11.1によって試験を行い、その溶鋼分析値は、表2 による。
表 2 化学成分
JIS_G3136_表2_化学成分.jpeg
5. 炭素当量又は溶接割れ感受性組成
5.1 炭素当量又は溶接割れ感受性組成
鋼材の炭素当量又は溶接割れ感受性組成は、次による。
a) 炭素当量は、表3による。炭素当量の計算は、11.1 の溶鋼分析値を用い、式(1)による。
なお、計算式に規定された元素は、添加の有無にかかわらず、計算に用いる。
5.1_炭素当量.jpeg
ここに、Ceq:炭素当量(%)
表3 炭素当量
JIS_G3136_表3_炭素当量.jpeg
b) 受渡当事者間の協定によって、炭素当量の代わりに溶接割れ感受性組成を適用してもよい。この場合の溶接割れ感受性組成は、表4 による。溶接割れ感受性組成の計算は、11.1 の溶鋼分析値を用い、式(2)による。
なお、計算式に規定された元素は、添加の有無にかかわらず、計算に用いる。
JIS_G3136_PCM_溶接割れ感受特性組成.jpeg
ここに、
PCM :溶接割れ感受性組成(%)
表4 溶接割れ感受性組成
JIS_G3136_表4_溶接割れ感受性組成.jpeg
6. 機械的性質
6.1 降伏点又は耐力、引張強さ、降伏比及び伸び
鋼材は、11.2 によって試験を行い、その降伏点又は耐力、引張強さ、降伏比及び伸びは、表5による。
6.2 シャルピー吸収エネルギー
厚さ12mmを超える鋼材は、11. 2 によって試験を行い、そのシャルピー吸収エネルギーは表 6 による。 この場合、シャルピー吸収エネルギーは.3個の試験片の平均値とする。
なお.個々の試験結果のうち 1個は、27J 未満になってもよいが、19J 以上でなければならない。
表6 シャルピー吸収エネルギー
JIS_G3136_表6_シャルピー吸収エネルギー.jpeg
6.3 厚さ方向特性
鋼材は、11.3 によって試験を行い、その厚さ方向特性は表 7による。
表7 厚さ方向特性
JIS_G3136_表7_厚さ方向特性.jpeg
表5 降伏点又は耐力、引張強さ、降伏比及び伸び

JIS_G3136_表5_降伏点又は耐力,引張強さ,降伏比及び伸び.jpeg

7. 超音波探傷試験
SN400C 及び SN490C の厚さ16 mm 以上の鋼板及び平鋼は、11.4 の試験を行い、判定は 表8 による。 SN400B及びSN490Bの厚さ 13 mm以上の鋼板及び平鋼は、受渡当事者間の協定によって超音波探傷試験を実施してもよい。その場合、試験は、11.4 によって行い、その判定は表8 による。
表8 超音波探傷試験
JIS_G3136_表8_超音波探傷試験.jpeg
14. 表示
検査に合格した鋼材は、鋼材ごと又は 1結束ごとに、次の項目を適切な方法で表示する。 ただし、受渡当事者間の協定によって、項目の一部を省略してもよい。
a ) 種類の記号(超音波探傷試験を行ったことを示す記号及び熱処理の記号を含む。)
b ) 溶鋼番号又は検査番号
c ) 寸法
d ) 結束ごとの数量又は質量 (鋼板と鋼帯の場合)
e ) 製造業者名又はその略号
JIS G3136:2012

7.2.2 高カボルト
(a) トルシア形高カボルト
トルシア形高カボルトは、JIS形の高力ボルトに形状が似たもので、ボルトの締付けにより、図 7.2.6 に示すように、ボルトのネック部が破断することによりボルトの締付けが確認でき、国土交通大臣の認定が必要である。 機械的性質による種類は、ボルトの等級で代表し、2種の JIS 形高カボルトに相当するものをS10T と記す。その形状を図 7. 2.6 に示す。
図7.2.6_トルシア形高力ボルト.jpg
図 7.2.6 トルシア形高力ボルト
(b) JIS 形高カボルト
(1) JIS に定められている高カボルトであり、詳細については、JIS B 1186(摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット) の抜粋を参照する。
(2) セットとは、図 7.2.7 の 1組をいう。
図7.2.7_JIS形形高力ボルトのセット.jpg
図7.2.7 JIS形高カボルトのセット
(3) JIS 形高カボルトは、1種、2種及び 3種があるが、1種はほとんど製造されていないこと、3種は遅れ破壊等材質的に多少問題のある場合があるので 「標仕」では 2種に限定している。
(4)機械的性質による種類を、ボルトの等級により代表させることがある。 例えば、2種のボルトを、F10T のボルトと呼ぶ。( 1種は F8T、3 種は F11Tと称す)
(5)トルク係数値による種類はナットの回転しやすさ(締付けやすさ)の種類であり、ナット、ボルトの表面処理によって定めている。通常表面処理にはボンダリューベという処理が行われ、処理のあるものは種類が Aになり、処理してないものは Bになる。
一般に、種類 A・B の使用別径は 20mmを境にして区分し、径の大きいものを Aとして、Bに比べると小さいトルクで締付けが容易に行えるようにしている。
(c ) 高カボルトの日本鋼構造協会規格 JSS 及びJIS の抜粋
(1) JSS Ⅱ 09(構造用トルシア形高カボルト・六角ナット・平座金のセット)の抜粋を次に示す。
JSS Ⅱ 09-1996
1,適用範囲
この規格は、主として鋼構造にセットの温度が 0℃~ 60℃の範囲で使用する構造用トルシア形高カボルト・六角ナット・平座金のセット(以下、セットという。) について規定する。
3,構成及び種類・等級
3.1 構 成
セットの構成は、3.2 に規定する構造用トルシア形高カボルト(以下、ボルトという。)1個、構造用高力六角ナット(以下、ナットという。)1個、構造用高力平座金(以下、座金という。)1 個によって構成する。
3.2 種類・等級
セットの種類・等級は、1種類、1等級とし、セットを構成する部品の機械的性質による等級の組合せは、表1 による。
表1 セットの種類及び構成部品の機械的性質による等級の組合せ
JSS_2_表1_セットの種類及び構成部品の機械的性質による等級の組合せ.jpeg
JSS Ⅱ 09-1996
(2) JIS B 1186(摩擦接合用高力六角 ボルト・六角ナット・平座金のセット) の抜粋を次に示す。
JIS B 1186:2013
1. 適用範囲
この規格は、主として鋼構造に使用する摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット(以下、セットという。) について規定する。
4 セットの構成及び種類・等級
4.1 セットの構成
セットの構成は.4.2 に規定する摩擦接合用高力六角ボルト(以下、ボルトという。) 1個、摩擦接合用高力六角ナット(以下、ナットという。)1個及び摩擦接合用高力平座金(以下、座金という。)2個によって構成する。
4.2 種類・等級
セットの種類は、セットを構成する部品の機械的性質によって、1種及び 2種とし、さらにトルク係数値によってそれぞれ Aと Bとに分け、セットを構成する部品の等級は、表 2~表5 に示すそれぞれの機械的性質によって決まる。 (表 2 ~ 5省略)
セットの種類及び適用する構成部品の機械的性質による等級の組合せは、表1 による。
表1 セットの種類及び構成部品の機械的性質による等級の組合せ
JIS_B1186_表1_セットの種類及び構成部品の機械的性質による等級の組合せ.jpeg
6. セットのトルク係数値
セットのトルク係数値は、12.4 によって試験したとき、表6に適合しなければならない。 この場合、トルク係数値は、次の式によって求める。
JIS_B1186_トルク係数値.jpeg
ここに
k:トルク係数値
T:トルク(ナットを締め付けるモーメント)(N・m)
d:ボルトのねじ外径の基準寸法(mm)
N:ボルト軸力( N )
表6 セットのトルク係数値
JIS_B1186_表6_セットのトルク係数値.jpeg
11. 潤滑及び防せい(錆)処理
ボルト、ナット及び座金には、それらの品質に有害な影響を与えない潤滑及び防せい(錆)処理を施すことができる。
13. 検査
13.5 セットのトルク係数値検査
セットのトルク係数値検査は、12.4 によって試験を行ったとき、箇条 6に適合しなければならない。 また、この検査では検査ロットの保証品質水準は、次による。
a) 検査ロットのトルク係数値の標準偏差の保証品質水準は、危険率5%以下、相対標準誤差 8%以下とする。 適用に当たっては、工程が安定状態にある場合は、品質管理データ又は検査データを用いてもよい。 また、特に必要がある場合は、受渡当事者間の協定によって、相対標準誤差を規定の値より若干多くとり、サンプルの大きさを少なくしてもよい 。
b) 検査ロットのトルク係数値の平均値の保証品質水準は、表13 に示す値以上とする 。標準偏差は、a) によって求められた値を用いる 。
注 )この検査ロットとは、4.3.5 に示す 1セットロットを指す。
表13 トルク係数値の平均値の保証品質水準
JIS_B1186_表13_トルク係数値の平均値の保証品質水準.jpeg
14. 製品の呼び方
セットの呼び方は、規格番号又は規格名称、セットの機械的性質による種類、セットのトルク係数値による種類、ねじの呼び × ボルトの長さ(ℓ)及び指定事項による。
注)特に指定事項がある場合は、括弧で示す。
JIS_B1186_高力ボルトセットの製品の呼び方.jpeg
15 表 示
15.1 製品の表示
セットの構成部品に関する表示は、次による。
a) ボルト頭部の上面に、次の事項を浮き出し又は刻印で表示しなければならない。
1) ボルトの機械的性質による等級を示す表示記号( F8T 又は F10T )
2) 製造業者の登録商標又は記号
b) ナット上面に、ナットの機械的性質による等級を示す表示記号を、表14 の表示記号を用いて浮き出し又は刻印で表示しなければならない。
なお、受渡当事者間の協定によって、製造業者の登録商標又は記号を表示してもよい。
表14 ナットの表示記号
JIS_B1186_表14_ナットの表示記号.jpeg
c) 座金には、機械的性質の等級を示す記号は、表示しない。
なお、受渡当事者間の協定によって、製造業者の登録商標又は記号を表示してもよい。
15.2 包装の表示
包装には、次の事項を明瞭に表示しなければならない。
a) 規格名称
b) セットの機械的性質による種類
c) セットのトルク係数値による種類
d) ねじの呼ひ × ボルトの長さ(ℓ)
e) 数量
f ) 指定事項
g) 製造業者名又は登録商標
h) セットのロット番号
i ) セットの検査年月
JIS B 1186 : 2013
(d) 溶融亜鉛めっき高カボルト
(1) JIS が定められていないので、建築基準法第 37条に基づく大臣認定を受けた製品を使用する。
(2) 大臣認定を受けた製品は、JIS B 1186 に準拠して製造されており、セットの種類は 1種 (F8T 相当)である。 F 10T やトルシア形のものは製造されていない。
なお、平成25年 8月現在、大臣認定を受けている製造所は、8社 9工場である。
(3) ボルトの材料はF10T 高カボルトに使われているもの(低炭素マルテンサイト系ボロン鋼等)を使用しており、ボルト成形後の熱処理(焼入れ・焼戻し)で焼戻し温度を 500℃程度にして F8T の機械的性質を付与している。 このため、450℃程度のめっき浴で浸漬めっきしても機械的性質が変化しない靭性が高く耐遅れ破壊性の高い高カボルトになっている。
(4) 溶融亜鉛めっきの付着量は、550g/m2(膜厚換算約 80μm) 以上である。
(5) ボルトのねじは、転造した正規の有効径のままとし、めっきの付着による径の量大を考慮して径を細くすることはしない。ナットのねじは、めっきの前にオーバータップして有効径を量大し、めっき後はねじさらいをしない。
(6) 締付けは、ナット回転法(7.12.4 (b)(3)参照)で行うため、トルク係数値の調整のための表面潤滑処理は、めっき後のナットで行う。ただし、やむを得ず頭締めを行う場合は、めっき後のボルトに表面澗滑処理を行い、ナットはめっきのままとするのがよい。 また、ボルト締め用のセットは、製造時に「頭締め用」等とこん包に表示し、「ナット締め用」と区別する必要がある。
なお、「ナット締め用」でボルトの頭締めを行うと、ボルトとナットのとも回りが生じたり、トルク値が高くなり過ぎるなどして、適正な締付けができなくなるので注意する。
7.2.3 普通ボルト
(a) 軽量形鋼構造において普通ボルトを使用することが多い。一般に普通ボルト接合は、小規模な構造物に使用されている。
(b)ボルト及びナットは、「標仕」では、JIS による鋼製六角ボルト及びナットで、仕上程度が中、ねじの等級が 6g (ボルト)、6H(ナット)の規格に合うものであれば、強度区分は、ボルト4.6 以上、ナット5 以上のいずれを用いてもよい。
ナットの形状は通常JIS B 1181 (六角ナット)の区別 1・2 ・4 種のどれでもよい。なお、戻止めには 3種を用いてもよい。 また、強度区分の高いボルト及びナットを溶接により戻止めする場合には、使用する溶接材料等で溶接割れが生じる場合があるので注意する。
(c)「鋼材等及び溶接部の許容応力度並びに材料強度の基準強度を定める件」(平成12年12月26日 建設省告示第 2464 号)では、強度を必要とするボルトには JIS B 1051(炭素鋼及び合金鋼製締結用部品の機械的性質ー 第1部:ボルト、ねじ及び植込みボルト)によるボルトを使用することとなっている。その他、国土交通大臣が認定したボルト又は国土交通大臣が基準強度を指定したボルトを使用することとなっている。
7.2.4 アンカーボルト
アンカーボルトの材質の種類は通常設計図書に指定されるが、ねじ、ナット及び座金は、特別な指定がないことが多い。 その場合は六角ボルトに相当するものを用いる。
なお、完成後構造的に耐力等を期待するものを構造用アンカーボルトと称し、建方用にのみ用いるものを建方用アンカーボルトと称する。
(一社)日本鋼構造協会では平成 12 年に伸び能力を有する建築構造用アンカーボルトの規格として、JSS II 13(建築構造用転造ねじアンカーボルト・ナット・座金のセッ ト)及びJSS II 14 (建築構造用切削ねじアンカーボルト・ナット・座金のセット)を制定している。また、アンカーボルトのJIS 規格としては、JIS B 1220(構造用転造両ねじアンカーボルトセット)と JIS B 1221(構造用切削両 ねじアンカーボルトセット) が平成22年 10 月に制定されている。構造設計上の必要に応じて特記される場合があるので注意する。
7.2.5 溶接材料
(a) 溶接材料は、溶接方法 ( 7.6.1参照 )あるいは鋼材の種類により種々なものが用いられているが、「標仕」に直接関連のある材料のうち、主なものを次に挙げる。
なお、2001年の日本工業標準調査会(JISC)の「標準化戦略」におけるISO整合化 JIS改正指針を受けて、溶接材料についても ISO整合化JIS改正作業が行われた。今回の改正で、溶接材料の引張強さの単位が、鋼材のJISの場合と異なり、MPa( = 1N/mm2)で表示されたことに注意が必要である。
溶接材料は鉄骨製作工楊で使いなれたものが無難であり、良質で当該溶接に適したものであれば選定は鉄骨製作工場に任せるのがよい。また、溶接材料は種々の特徴があるので、選定に当たっては鋼種、板厚、継手の種類、溶接姿勢、作業性、能率性等を総合して、これらの特徴を生かし正しく選ぶ必要がある。
(1) 被覆アーク溶接
被覆アーク溶接棒のJISは、JIS Z 3211(軟鋼用被覆アーク溶接棒)とJIS Z 3212 (高張力鋼用被覆アーク溶接棒)が統合一本化され、2008年にJIS Z 3211(軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用被覆アーク溶接棒)として改正された。
軟鋼用被覆アーク溶接棒は種々な特徴をもっているが、表 7.2.5 に溶接性、作業性及び能率性からみた溶接棒の選び方の例を示す。
高張力鋼用被覆アーク溶接棒としては、拡散性水素による遅れ割れの発生防止の観点から、国内では低水素系溶接棒が使用されてしいる。
表7.2.5 溶接棒の溶接性、作業性、能率性からみた選び方の例
表7.2.5_溶接棒の溶接性,作業性,能率性絡みた選び方.jpeg
JIS Z 3211 : 2008 の溶接棒の種類の区分記号の表し方を図 7.2.8 に示す
図7.2.8_JIS_Z_3211-2008_溶接棒の種類の区分記号.jpg
図7.2.8 JIS Z 3211 : 2008 の 溶接棒の種類の区分記号
(2) ガスシールドアーク溶接
ガスシールドアーク溶接用ワイヤのJIS は、ソリッドワイヤについては、JIS Z 3312 (軟鋼及び高張力鋼用マグ溶接ソリッドワイヤ)が 新名称「 軟鋼、高張加鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ」として 2009年に改正され、フラックス入りワ イヤについても、JIS Z 3313(軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ)が同じく 2009年に改正された。
JIS Z 3312 の溶接ワイヤの種類の新旧対照を表7.2.6 に、JIS Z 3312: 2009の溶接ワイヤの種類の区分記号の表し方を図7.2.9 に示す。
なお、低温用鋼は、建築の鉄骨工事ではほとんど使われないので省略した。
表7.2.6 JIS Z 3312の溶接ワイヤの種類の新旧対照
表7.2.6_JIS_Z_3312溶接ワイヤの種類の新旧対照.jpg
図7.2.9_JIS_Z_3312-2009_溶接ワイヤの種類の区分記号.jpg
図 7.2.9 JIS Z 3312 : 2009の溶接ワイヤの種類の区分記号
JIS Z 3313 の溶接ワイヤの種類の新旧対照を表7.2.7 に、JIS Z 3313 : 2009 の溶接ワイヤの種類の区分記号の表し方を図7.2.10 に示す。
なお、低温用鋼は、建築の鉄骨工事ではほとんど使われないので省略した。
表7.2.7 JIS Z 3313 の溶接ワイヤの種類の新旧対照
表7.2.7_JIS_Z_3313溶接ワイヤの種類の新旧対照.jpg
図7.2.10_JIS_Z_3313-2009_フラックス入り溶接ワイヤの種類の区分記号.jpg
図 7.2.10 JIS Z 3313 : 2009のフラックス入り溶接ワイヤの種類の区分記号
JIS Z 3312 のソリッドワイヤは普通の針金状のもの、JIS Z 3313のフラックス入りワイヤは 外皮金属の内部にフラックスが充填されているものである。
シールドガスは、一般には、炭酸ガス(CO2 100%)、アルゴンガス (Ar 100%)及び炭酸ガスとアルゴンガスを混合したものが使用されている。使用されるガスの JIS としては、JIS Z 3253 : 2011( 溶接及び熱切断用シールドガ ス)が 2003年に制定されて以降、これが一般化されつつある。 当該JISでは、炭酸ガスについては、種類 C1 が使用されている。しかし、JIS Z 3253 制定以前から使用されているJIS K 1106(液化二酸化炭素(液化炭酸ガス))の 3種を、現在も使用しているところがある。 参考として、両方の JIS の炭酸ガスの品質を表7.2.8 及び表7.2.9 に示す。
表7.2.8 JIS K 1106 の品質(JIS K 1106:2008)
表7.2.8_JIS_K_1106の品質(JIS K 1106-2008).jpg
表7.2.9 JIS Z 3253 の品質(JIS Z 3253:2011)
表7.2.9_JIS_Z_3253の品質(JIS Z 3253-2011).jpg
(3) セルフシールドアーク溶接
この溶接法は建築の鉄骨工事ではほとんど使われていないが、2009年にセルフシールドアーク溶接用のワイヤの JIS (JIS Z 3313) が改正されている。 一般に、セルフシールドアーク溶接用のワイヤは薄鋼板を折り曲げ、その中に脱酸剤や脱窒剤等の溶剤(フラックス)を充填成形したものであり、シールドガスなしで溶接できる。心線の径は、交流用では 3.2mm、直流専用では 2.0mm以下のものが適用される。このワイヤには脱酸、脱窒剤が多量に添加されているため、多量のヒュームが発生し、通風の悪い場所では溶接線が見えにくく、人体への影響がある。
(4) サブマージアーク溶接
サブマージアーク溶接では、ワイヤとフラックスの組合せにより様々な性質の溶接金属を作り出すことができる。 そのため、JIS Z 3183(炭素鋼及び低合金鋼用サブマージアーク溶着金属の品質区分)の規定には、溶着金属の品質区分(機械的性質及び化学成分)及び試験方法が定められており、溶接を行う鋼種、要求される機械的性質に応じて、 ワイヤとフラックスの組合せ時の溶着金属の機械的性質をこの品質区分により選定して使用されている。
建築基準法では溶着金属強度の記載がある JIS Z 3183が指定建築材料として規定されているが、実際の溶接は JIS Z 3183 の引用規格である JIS Z 3351に規定されている炭素鋼及び低合金鋼用サブマージアーク溶接ソリッドワイヤと JIS Z 3352 に規定されているサブマージアーク溶接用フラックスを用いて行われる。そのため「標仕」では、JIS Z 3183 のほかに 指定建築材料ではないが JIS Z 3351 及び JIS Z 3352 も記載している。
(5) エレクトロスラグ溶接
エレクトロスラグ溶接用材料としては、JIS Z 3353(軟鋼及び高張力鋼用のエレクトロスラグ溶接ワイヤ及びフラックス)の規定により、ワイヤ、フラックス、消耗ノズルの分類が示されている。溶接金属の機械的性質は、使用するワイヤの種類別により規定されており、機械的性質が満足されれば組み合わせるフラックスの種類は特定されない。
なお,国土交通大臣認定によるエレクトロスラグ溶接材料もある。
エレクトロスラグ溶接は高能率な立向き自動溶接施工法で、主にボックス柱のスキンプレートとダイアフラムとの溶接に用いられる。
(6) 耐火鋼材、耐候性鋼材等の特殊な鋼材には、それぞれ鋼材に応じた溶接材料がつくられている。これらの鋼材に応じた溶接材料にも、被覆アーク溶接及びガスシールドアーク溶接の場合において、JIS は適用される。
(b) 頭付きスタッド
建築構造物において頭付きスタッドが多く使われており、その材質や形状は JIS B 1198(頭付きスタッド)で規定されている。
7.2.6 ターンバックル
建築用ターンバックルは JIS A 5540(建築用ターンバックル)に規定されており、ターンバックルは胴1個とボルト2個とから構成されている。 胴は JIS A 5541(建築用ターンバックル胴)に、ボルトは JIS A 5540に規定されており、胴とボルトの組合せは、JIS に示す同一製品とする。
7.2.7 デッキプレート
(a) 構造床として使用するデッキプレートについては、デッキプレート版に関する告示(平成14年国土交通省告示第 326号)に規定されており、その基準解説書である国土交通省国土技術政策総合研究所他「デッキプレート版技術基準解説及び設計・計算例」 及び設計マニュアルである(独)建築研究所監修「デッキプレート床構造設計・施工規準」を参考にするとよい。
(1)この「規準」は、第 Ⅰ 編「デッキプレートとコンクリートとのデッキ合成スラブ」、第Ⅱ編「デッキプレートと鉄筋コンクリートとのデッキ複合スラブ」及び第Ⅲ編「デッキプレートをそのまま構造体としたデッキ構造スラブ」で構成されており、デッキプレートは主要な構造材として規定されている。
なお、「標仕」では、名称を基準解説書に合わせて、第 I 編のデッキプレートを「デッキプレート版(デッキプレートとコンクリートとの合成スラブとする構法)」、第Ⅲ編のデッキプレートを「デッキプレート版(デッキプレート単独の構法)」としている。
(ⅰ) 主として、床又は屋根構造に使用する。
(ⅱ) 対象とするデッキプレートは、JIS G 3352(デッキプレート)の規定を満足するものとする。
(ⅲ) 原則として、板厚は 1.0mm以上(ただし、デッキ複合スラブの場合は、0.8mm以上)としている。
(ⅳ) 許容応力度は、平成 12年建設省告示第2464号に規定されているF値によっているが、一部高強度材料については、幅厚比より求まる有効幅の取り方を簡便にするため、235N/mm2 以下で適用することにしている。
(v) 合成スラブ構造には、(一社)日本建築センター等により、告示第326号に定めるデッキプレート版に適合していることについて、任意の評定を取得している製品がある。
(2) 材料の品質確認は製造業者の品質証明書(使用鋼材の試験成績表、亜鉛の付着量等)によって行う。
(b) デッキプレートを主要構造材として用いた床スラブの耐火設計については、「デッキプレート床構造設計 ・施工規準」 を参考にするとよい。
(1) デッキ合成スラブ床では、耐火被覆のいらない連続支持合成スラブ及び単純支持合成スラブが耐火構造認定仕様として一般に使用されている。
(2) これら認定仕様では、スパン、許容積載荷重、コンクリート厚さ、溶接金網、デッキタイプ等の仕様が認定条件として定められているので、これに従って監理を行う。合成スラブ工業会「合成スラブの設計・施工マニュアル」を参考にするとよい。
(3) デッキ複合スラブ床は、平成12年建設省告示第 1399号に示されている例示仕様があり、この仕様では、デッキプレートの溝に配する鉄筋のかぶり厚さは 31mm以上、コンクリート厚さは、100mm以上(2時間)、70mm以上(1時間)となっている。この例示仕様に該当しないコンクリート厚さのもので、床2時間耐火構造の認定を取得したものがあるが、個別に仕様を確認する必要がある。
(4) デッキ構造スラブ床では、認定仕様である「吹付けロックウール被覆耐火構造(FP060FL- 9128 :15mm以上、FP120FL- 9129:20mm以上)」がよく使用される。
(5) このほか、デッキプレート単体で屋根30分耐火認淀構造のものもあるが、個別に仕様を確認する必要がある。
(c) 床型枠用鋼製デッキプレートは、6.8.3 参照のこと。
7.2.8 レール
(a) 「標仕」では、主として天井クレーン走行用に使用するレールを想定している。
(b) レールの種類は、JIS E 1101(普通レール及び分岐器類用特殊レール)及び JIS E 1103(軽レール)で、レール1m当たりの質量に相当する呼称で分類している。その種類を表7.2.10 及び 11に示す。
(c) レールの種類は、クレーンの定格荷重等によって選ばれ、設計図内で指定される。
(d) 材料の品質は、JISマーク表示か規格品証明書確認する。(7.2.10(a)参照)
表7.2.10 普通レールの種類(JIS E 1101:2012)
表7.2.10_普通レールの種類(JIS_E_1101-2012).jpg
表7.2.11 軽レールの種類(JIS E 1103:1993)
表7.2.11_軽レールの種類(JIS_E_1103-1993).jpg
7.2.9 柱底均しモルタル
(a) 柱底均しモルタルに使用される材料は、左官工事で一般に使用されるセメントや細骨材が用いられる。
(b) ベースプレートが大きい場合等では、施工性の良さ等から鉄骨柱下無収縮モルタルが用いられることが多い。
(1) 「標仕」では、無収縮モルタルは、品質や施工性等を考慮して特記することとしている 。
(2) (一社)公共建築協会では、建築材料・設備機材等品質性能評価事業(1.4.4 (e)参照)の一環として、無収縮モルタルの品質・性能等に関する評価基準を定め、これに合格する材料を評価しているので、材料の選定に当たってはこれらが参考となる。
7.2.10 材料試験等
(a) 適用範囲
(1)鋼材
(ⅰ) 鋼材の品質基準は、「建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すべき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術的基準を定める件」(平成12年5月31日 建設省告示第1446号)に定められている。そこでは、形状・寸法・外観等のほか、引張試験における降伏点又は 0.2バーセント耐力の上下限・降伏比・引張強さ及び伸び、化学成分、炭素当量あるいは溶接割れ感受性組成.シャルピー吸収エネルギー等の基地値が定められていることが要求されている。
(ⅱ) JIS 規格品には、規格品証明書(ミルシート、検査証明書、試験成績等)が添付される。規格品証明書は、JISに基づいて行った管理試験及び検査の結果を記載した品質の保証書である。図7.2.11に規格品証書の例を示す。
規格品証明書には、溶鋼番号(製鋼番号、鋼番、チャージナンバー等)が記載されているので、鋼板形鋼等に表示されている溶鋼番号と対照して当該鋼材の規格品証明書であることを確認することができる。
図7.2.11_規格品証明書の例.jpg
図7.2.11 規格品証明書の例
なお、SN材は、7.2.1(b)(9)に示すように鋼材表面に識別マーク、あるいは鋼種が印字してあるので、切断後でも SN材であるか否かは、証明書がなくても判別できることになっている。
規格品証明書は原本とする。使用量が少ないなどやむを得ない場合は、その写しでもよいが、写しが当該鋼材と整合していることを保証した会社の社名・社印、保証責任者の氏名・押印及び日付の明示されているものでなければならない。流通が多岐にわたる場合には、写しの都度これが必要とされる。
1999年11月に鋼材の新しい品質保証システムが、(一社)日本鋼構造協会の「建築鉄骨品質管理機構」から提案され、「標仕」7.2.10(b)では、これによる「鉄骨工事使用鋼材証明書」を規格品証明書に代えて用いることもできるとしていた。しかし、建築鉄骨品質管理機構では、より信頼性を高める方法の検討を行い、2009年12月に「建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン」を発行した。そのため、「鉄骨工事使用鋼材証明書」は廃止された。本ガイドラインでは、JIS規格等の適合性証明は、原則として、「鉄骨工事使用鋼材等報告書」によるとしているので、「標仕」でいう 「その他規格を証明できる書類」とは、「建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン」の「鉄骨工事使用鋼材等報告書」と考えてよい。(7.1.2(a)参照)
(ⅲ) 鋼材の機械的性質等を特記した場合等、材料試験等によりその性能を確認する必要がある場合には、試験項目、方法等に応じて相応する規格の規定により鋼材の適否を判定する。
(ⅳ) 建築鉄骨では、鋼材の板厚方向に力が作用する部位(通しダイアフラム、溶接組立箱形断面柱のスキンプレート等)がある。それらの当該箇所に使用される鋼材の板厚方向の性能において、板厚方向の強度及び鋼材の内部品質(板厚内の傷の有無)が必要とされる場合がある。JIS G 3136(建築構造用圧延鋼材)(SN材)のC種は、このような部位に使用することを想定し、次の二つが規定されている。
① 板厚方法の強度:板厚方向(Z方向)の引張試験で絞り値が規定されている。
② 板厚内の内部品質:超音波による検査が規定されており、JIS G 0901(建築用鋼板及び平鋼の超音波探傷試験による等級分類及び判定基準)で行うとなっている。
一方、SM材や SS材等にはこれらについての規定がないため、内部品質確認が必要とされる場合の試験方法として JIS G 0901が適用される。 板厚方向の引張強度について試験を必要とされることは極めて少ないため、規定する必要はないとし、「標仕」では、板厚方向に引張力を受ける鋼板の試験が必要とされた場合は、「JIS G 0901により、適用は特記による。」としている。
(2)溶接材料
溶接材料の規格は、そのこん包容器及びワイヤリール等に表示されているので、これより「標仕」7.2.5 に規定する適切な溶接材料であることが確認できる。「鉄骨造の継手又は仕口の構造方法を定める件」(平成12年 5月31日 建設省告示第1464号)では溶接される鋼材の種類に応じて溶着金属としての性能(降伏点又は 0.2パーセント耐力及び引張強さ)が定められており、これに適合していることを確認する意味からも、必要に応じて、試験成績表あるいは化学成分表の提出を求めるのがよい。
(b) 試験方法及び試験片
鋼材の試験方法については、JIS G 0404 (鋼材の一般受渡し条件)、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)、JIS Z 2242(金属材料のシャルピー衝敷試験方法)にそれぞれ引張及び衝撃試験方法が定められている。
試験片についても、JIS Z 2241、JIS Z 2242にそれぞれ材料に応じた試験片が定められている。
その他、ボルト、リベット等のような特殊な材料の試験についてはそれぞれのJISに定められている。 また、化学成分の分析試験についてもそれぞれ JISが定められている。
(c) 材料試験関係用語
(1)JIS Z 2241に定められている用語の意味(JIS G 0202(鉄鋼用語(試験))参照)
(ⅰ) 降伏点とは、引張試験の経過中において生じる上降伏点及び下降伏点の総称。紛らわしくないときには、上降伏点を単に降伏点と呼ぶことがある。
上降伏点とは、引張試験の経過中、図7.2.12 に示すように試験片平行部が降伏し始める以前の最大荷重を平行部の原断面積で除した値をいう。
下降伏点とは、引張試験の経過中、図7.2 12 に示すように試験片平行部が降伏し始めた後のほぼ一定の荷重状態における最小の荷重(慣性効果によるものを除く。)を平行部の原断面積で除した値いう。
図7.2.12_降伏点.jpg
図7.2.12 降伏点
(ⅱ) 耐力とは、引張試験において,規定された永久伸びを生じるときの荷重を平行部の原断面積で除した値をいう。降伏点が明瞭でない材料では、その代わりに耐力が用いられる。JISでは、特に規定のない場合は、永久伸びの値を0.2% としている。
(ⅲ) 最大引張荷重とは、引張試験の経過中、試験片の耐えた最大荷重をいう。
(ⅳ) 引張強さとは、最大引張荷重を平行部の原断面積で除した値をいう。
(v) 永久伸びとは引張試験において、ある荷重を加え、次にこれを除去した後における標点間の長さと標点距離との差の標点距離に対する百分率をいう。
(vi) 破断伸びとは、試験片破断後における永久伸びをいう。紛らわしくないときには、単に伸びと呼ぶことがある。
(ⅶ) 絞りとは、引張試験において、試験片破断後における最小断面積とその原断面積との差の原断面積に対する百分率をいう。
(2) 鋼材の硬さ
測定方法は、通常次の3種類が用いられ、それぞれJISが定められている。
① ブリネル硬さ
超硬合金球の圧子を用い,試験面に球面形のくぼみをつけたときの荷重をくぼみの直径から求めたくぼみの表面積で除した値をいい、記号HBWで表す。
JIS Z 2243(ブリネル硬さ試験一試験方法) が定められている。
② ビッカース硬さ
対面角が 136度のダイヤモンド四角すい圧子を用い、試験面にくぼみをつけたときの試験力をくぼみの表面積で除した値をいい、硬さ値、硬さ記号の順に表示し、例えば、硬さ値が640で試験力 294.2Nでは、640HV30のように表す。
JIS Z 2244(ビッカース硬さ試一験試験方法)が定められている。 荷重が変わっても、硬さの数値は変わらないという特徴がある。くぽみが微細なので溶接部の硬さ分布を測るのに用いられる。
③ ロックウェル硬さ
円すい角が 120度のダイヤモンド圧子を用い、試験面に押し込み、その深さから算出する。試験力 1471Nの場合をCスケールといい記号HRCで表す。
なお、鋼球又は超硬合金球の圧子を用い、試験 980.7Nの場合をBスケールといい、記号HRBで表す。
JIS Z 2245(ロックウェル硬さ試験一試験方法)が定められている。

7章鉄骨工事 3節工作一般

第7章 鉄骨工事
3節 工作一般
7.3.1 適用範囲
本節は、鉄骨の製作に係る工作一般、製作精度及び製品検査を対象としている。
7.3.2 工作図
(a) 工作図
(1) 工作図は、設計図書の内容を実現するに当たり製作・建方における指示書的な役割を果たすものであり、設計図書の記載内容を正しく織り込み、製作・建方が可能であることを確認したものでなければならない。施工性や構造細部の納まりの確認が工作図のみで困難な場合は現寸図・模型等を補助的に作成し確認する。
(2) 「標仕」1.2.3 (a)では、施工図等(工作図を含む。)については監督職員の承諾を受けることとしているので、鉄骨の製作・建方の工程に支障がでないように提出させる。
(3) 工作図は、監督職員・受注者等・鉄骨製作工場が協議確定した設計図書に関する疑義事項及び施工の手段・手法に関する提案事項を反映したものとする。
(4) 工作図は、軸組図・伏図・柱詳細図・梁詳細図・継手基準図、溶接基準図等で構成し、記載内容は次のとおりである。
i) 鉄骨部材の詳細な形状・寸法・材質・製品数量・製品符号
(ii) 溶接及び高カボルト接合部の形状・寸法・ボルトの種類・等級・継手符号
(iii) 設備関係・内外装関係付属金物、仮設金物、コンクリート関係・鉄筋関係孔、ファスナー類
(5) 工作図の検討事項は、次のとおりであり、工場製作や工事現場施工においてトラブルが生じないように十分な検討を行う。
(i) 柱・梁・工場組立部材等の符号(建物の通り符号を利用する場合や通し番号による場合が多い。)
(ii) 建物の基準線と鉄骨の基準線との関係
(iii) スパン(梁間)、階高等の基準寸法・基準線と柱・梁・工場組立部材等との位置関係、床からベースプレート下端までの寸法
(iv) 柱・梁・工場組立部材等の形状・寸法及び構成部材の形状・寸法
(v) 各部の部分的詳細
①柱と梁の取合い
② ベース回りの納まり
③ スリーブ貫通部の補強等、また、隣接部材の接近のために、作業空間が狭く、ボルト締付け・溶接等の作業が困難な箇所の発見と処置
(iv) 接合部の添え板(スプライスプレート)・フィラープレート・クリアランス等及び次の①から④の事項に関する設計図書との照合
① 高カボルトの種類・径・本数・ゲージ・ボルト間隔・最小縁端距離等
② 溶接の種類・開先形状・大きさと寸法・長さ・位置等
③ アンカーボルトの種類・径・長さ・本数・位置等
④ SRC造の場合の鉄筋工事との関係
また、高カボルト及び普通ボルトの縁端距離等を確認する場合は(c)(4)~(6)を参照する。
(vii) 他の建築工事との関連
① 内外装材料との関係
② 建具類の埋込み金物の納まり、特にフロアーヒンジ・シャッターケース等
③ コンクリートの充填性を考慮した空気孔の設置等
④ SRC造の場合の鉄筋工事との関係
(ⅷ) 仮設工事との関連
① クレーンの設置、重量物の積載、風・地震に対する倒壊防止、土圧に対する支持等のために鉄骨を補強する場合は、設計担当者と打ち合わせる。
② 安全タラップ・吊りピース・足場用ピース・建入れ直し用ピース・親綱掛け用ピース等の仮設用金物の必要性
③ ウェブ板厚が薄く、溶接・運搬・建方の際に変形のおそれがある場合、溶接組立上必要な場合、又は施工上タラップとして必要な場合を除き、原則としてバンドプレートは取り付けない。
(ix) 設備工事との関連
① 主に、スリーブ位置、大きさ及び間隔の確認をする。(構造耐力上の制約についても確認する。)
② ダクト、配符等の系統を確認し、スリーブの数、大きさ等が不足しないようにする。
③ 鉄骨の近くで交差する配管等の系統は、保温被覆材を含めて、施工性を確認する。
④ 排水管等一定の勾配を必要とするもの、柱・梁の近くで方向を変えるものは特に注意する。
⑤ ウェブ貫通孔板厚部分の耐火被覆材の厚さと保温被覆材を考慮した配管径の関係を確認する。
(b) 現 寸
(1) 鉄骨製作工場では、工作図のみでは不足する製作情報を作業者に伝える手段として、また、工場製作の能率向上を目的に現寸作業を行う。この現寸作業では、実物と同一寸法の定規(シナイ)・型板(フィルム)を作成する。一般には定規・型板の作成は、完備されている工作図から直接読み取り、作業をする方法が採用されており、標準的形状の建築物の場合、実物大の床書き現寸図については、通常作成する必要はない。
(2) 次のような場合は床書き現寸図やCADシステムから出力される実寸大のフィルムで作業性等を検討するのがよい。
(i) 曲率や90° 以外の取合い角度を有する変形した建築構造物の場合
(ii) 溶接作業及び高カボルトの締付けが困難と判断される箇所が存在する場合
(iii) 納まりが複雑で工作図からの直接読取りが困難な箇所が存在する場合
(3) NC(数値制御)加工装置を用いてけがき・切断・孔あけを行う場合は、定規・型板の作成に代わって、加工データが作成される。
(c) 「標仕」7.3.2 (b)では、高カボルト、普通ボルト及びアンカーボルトの縁端距離、ボルト間隔、ゲージ等は特記事項となっている。参考として、高力ボルト及び普通ボルトのゲージ、ボルト間隔、最小縁端距離等の標準を(1)から(6)までに示す。
(1) ボルトの表示記号の例を表7.3.1に示す。
表7.3.1 ボルトの表示記号の例
表7.3.1_ボルトの表示記号の例.jpeg
(2) ボルト孔の径を表7.3.2に示す。(「標仕」表7.3.2参照)
表7.3.2 ボルト孔の径 (単位:mm)
表7.3.2_ボルト孔の径.jpeg
(3) 高カボルトの締付け長さに加える長さを表7.3.3に示す。(「標仕」表7.2.2参照)
表7.3.3 高力ボルトの締付け長さに加える長さ (単位:mm)
表7.3.3_高力ボルトの締付け長さに加える長さ.jpeg
(4) 縁端距離及びボルト間隔を表7.3.4に示す。
表7.3.4 縁端距離及びボルト間隔(単位:mm)
表7.3.4_縁端距離及びボルト間隔.jpeg
(5) 千烏打ちのゲージ及びボルト間隔を表7.3.5に示す。
表7.3.5 千烏打ちのゲージ及びボルト間隔(単位:mm)
表7.3.5_千鳥打ちのゲージ及びボルト間隔.jpeg
(6) 形鋼のゲージ及びボルトの最大軸径を表7.3.6に示す。
表7.3.6 形鋼のゲージ及びボルトの最大軸径
表7.3.6_形鋼のゲージ及びボルトの最大軸径.jpeg
(7) (4)から(6)までの値は標準であり、高カボルト及び普通ボルトの縁端距離を変更する必要がある場合は、「鉄骨造の継手又は仕口の構造方法を定める件」(平成12年5月31日 建設省告示策1464号)に規定される値を下回らないようにしなければならない。
アンカーボルトの縁端距離は、「鉄骨造の柱の脚部を基礎に緊結する構造方法の基準を定める件」(平成12年5月31日 建設省告示第1456号)に定められているので、変更を行う場合はこの規定値を下回らないようにしなければならない。
(i) 図7.3.1のように配置されたボルトは、締付け機器の形によって、標準ピッチのままでは締付け機器が直角方向のボルトに当たって施工困難となることがある。
(ii) 部材が接近している場合には、締付け機器が入らないとか、トルクレンチのような長い締付け機器が動かせないことがある。(図7.3.2参照)
図7.3.1_直交するボルトの締付け.jpeg
図 7.3.1 直交するボルトの締付け
図7.3.2_締付け機器の大きさの検討.jpeg
図 7.3.2 締付け機器の大きさの検討
7.3.3 製作精度
鉄骨の製作にかかる精度及び製品精度は、「標仕」7.3.3では、JASS 6付則6[鉄骨精度検査基準]によるとしている(7.13.1参照)。
なお、JASS 6では次に示すものには適用しないとしている。
(1) 特記による場合または工事監理者の認めた場合
(2) 特に精度を必要とする構造物あるいは構造物の部分
(3) 軽微な構造物あるいは構造物の部分
(4) 日本工業規格で定められた鋼材の寸法許容差
(5) その他、別に定められた寸法許容差
7.3.4 けがき
けがきは、工作図又は型板・定規等により、加工・組立時の情報を直接鋼材上に記入する作業である。
一般に墨差し・水糸等を用いるが、目的に応じけがき針・ポンチ・たがねを使用することもある。最近では、自動けがき装置が使用される場合もある。
しかし、けがき作業に使用するポンチやたがね等による打痕は、応力集中を招くことから鋼材の耐力を著しく低下させる原因となる。そのため「標仕」7.3.4(b)では、溶接により溶融する箇所又は切断、切削及び孔あけにより除去される箇所を除き、高張力鋼、曲げ加工される外側へのポンチによるけがきやたがね等で傷をつけることを禁止している。
けがき寸法は、製作中に生ずる収縮や変形等を考慮した値とする。また、あと工程の作業者に製作情報が正確に伝わるように、工事名略号、材質、加工情報等が明瞭に記入されていなければならない。
7.3.5 切断及び曲げ加工
(a) 素材切断面の直角度の許容差は、JASS 6付則6付表(11)による。(7.13.1参照)
(b) 切断方法には次のようなものがある。
(1) 機械切断法
(i) せん断によるもの
切断速度は速いが、短所として切断面でのまくれ・かえり等の発生、板の変形、切断面の硬化等の問題があり、「標仕」7.3.5 (a)(3)では適用範囲を13mm以下に限定し、更に主要部材の自由端及び溶接接合部への適用を禁止している。
なお、主要部材の自由端とは、梁や柱のフランジのへり等である。
(ii) 切削によるもの
切断線を削りとることで切断する方法で、次の方法がある。
1) のこぎり切断によるもの
バンドソーやコールドソーがあり、前者は切断速度はやや速く精度はよく斜め切りができ、後者は切断速度は近いが高い精度が得られる。
2) 砥石切断によるもの
切断速度は速く、丸鋼、角鋼、軽量形鋼等の切断に用いられる。
(2) ガス切断法
鉄と酸索の急激な化学反応を利用した切断法であり、機器としては手動ガス切断機、自動ガス切断機。形鋼切断機、鋼管切断機、フレームプレーナ、NC切断機等がある。また、手動ガス切断機にアタッチメント、ガイドを取り付け半自動装置として使用することもできる。切断速度は遅いが、最もよく使用されている。切断面の精度も良く、経済的である。
(3) プラズマ切断法
プラズマアークの熱及び気流を利用した切断法であり、適用板厚は0.5~50 mm程度である。切断速度は速いが切断溝幅が大きい。
(4) レーザー切断法
光エネルギーの集光熱による切断法であり、適用可能板厚は 0.1~25mm程度である。高速切断が可能で切断溝幅が狭く孔あけ加工が可能である。
(c) 切断面の許容差は、JASS 6付則6付表1 (9)・(10)による。(7.13.1参照)凹凸、ノッチ等の不良箇所はグラインダー等で修正する。特にやむを得ない理由から手動でガス切断した場合には、切断面の精度を確保することが困難であるため、注意する必要がある。
(d) 切断面のうちメタルタッチが指定されている部分は、フェーシングマシン又はロータリープレーナ等の切削加工機を使用し、仕上げ加工面が50μmRz程度、直角度が 1.5/1,000 以下になるように平滑に仕上げる。
(e) 切断加工(シャーリング工場での切断材も含む。)後の鋼材の材質確認は、識別色、識別マークの表示、あるいはマーキング(7.2.1 (b)(9)参照)による。
なお、JIS G 3136(建築構造用圧延鋼材)によるSN材の識別は、7.14.3 [ SN鋼材材質識別表示記号・位置及び鋼材の識別表示標準]によることもできる。
(f) 曲げ加工は鋼材の機械的性質等を損なわない方法で行う。次に示す平成12年建設省告示第2464号では、500℃以下の加熱、厚さ 6mm以上の鋼材等(鋳鉄及び鉄筋を除く。)の曲げ加工においては外側曲げ半径が材厚の10倍以上の場合は加工前後で同じ基準強度及び材料強度としてよいとしている。したがって、この範囲外で曲げ加工を行う場合は、加工後の機械的性質等が加工前の機械的性質等と同等以上であることを確認しなければならない。
ただし、200~400℃の範囲は青熱脆性域といわれ鋼材が常温よりもろくなる。加熱曲げ加工を行う場合はこの範囲を絶対に避けなければならない(図7.2.3参照)。
鋼材等及び溶接部の許容応力度並びに材料強度の基準強度を定める件
(平成12年12月26日 建設省告示第2464号 最終改正 平成19年5月18日 )
第1 鋼材等の許容応力度の基準強度
一 鋼材等の許容応力度の基準強度は、次号に定めるもののほか、次の表の数値とする。
 (表省略)
二 建築基準法第37条第一号の国土交通大臣の指定するJISに適合するもののうち前号の表に掲げる種類以外の鋼材等及び同条第二号の国土交通大臣の認定を受けた鋼材等の許容応力度の基準強度は、その種類及び品質に応じてそれぞれ国土交通大臣が指定した数値とする。
三 前2号の場合において、鋼材等を加工する場合には、加工後の当該鋼材等の機械的性質、化学成分その他の品質が加工前の当該鋼材等の機械的性質、化学成分その他の品質と同等以上であることを確かめなければならない。ただし、次のイからハまでのいずれかに該当する場合は、この限りでない。
イ.切断、溶接、局部的な加熱、鉄筋の曲げ加工その他の構造耐力上支障がない加工を行うとき。
ロ.摂氏500度以下の加熱を行うとき。
ハ.鋼材等(鋳鉄及び鉄筋を除く。以下ハにおいて同じ。)の曲げ加工(厚さが6mm以上の鋼材等の曲げ加工にあっては、外側曲げ半径が当該鋼材の厚さの10倍以上となるものに限る。)を行うとき。
第2 溶接部の許容応力度の基準強度
(省略)
第3 鋼材等の材料強度の基準強度
一.(省略)
二.(省略)
三.第1第三号の規定は、前2号の場合に準用する。
第4 溶接部の材料強度の基準強度
 (省略)
(g) 曲げると外側は伸び、内側は縮むが、形鋼のようなものは曲げ角度が大きくなるとその影響が著しくなるので図7.3.3のように切曲げとするのがよい。ただし、曲げ半径は (f) による。
図7.3.3_形鋼の切曲げ加工.jpeg
図7.3.3 形鋼の切曲げ加工
(h) H形断面材の材端部の開先、スカラップ加工は.7.6.4(a)及び7.6.5 (b)による。
7.3.6 ひずみの矯正
(a) ひずみの矯正は、常温若しくは局部加熱して行う。
(b) 400N/mm2、490N/mm2 級鋼材を局部加熱で矯正する場合の温度範囲は、次を標準とする。これ以外の鋼について、設計担当者と打ち合わせる。
(1) 加熱後空冷する場合    850~900℃
(2) 加熱後直ちに水冷する場合 600~650℃
(3) 空冷後水冷する場合    850~900℃
(ただし.水冷開始温度650℃以下)
なお、この温度は、加熱表面の温度を示している。温度測定には、接触温度計等が用いられる。
7.3.7 鉄筋の貫通孔径
(a) 鉄骨鉄筋コンクリート造では、鉄骨製作の段階で、鉄筋の買通孔をあけておかなければならない場合がある。
(b) 貫通孔径は、「標仕」表7.3.1による。
鉄筋が斜めに貫通する場合や鉄骨の形が複雑な場合には貫通孔の径を増す必要があるが、鉄筋の間隔によっては鉄骨の断面欠担が大きくなり、構造上問題となることがあるため、必要に応じて設計担当者と打ち合わせる。
なお、同一の部位に種々の径がある場合には、混同しやすいのでなるべく統一するのがよいが、その場合は、必ず設計担当者と打ち合わせる。
(c) 鉄筋の貫通孔の位置を決めるには、仕口部分の鉄筋の状態が分かっていなければならないが、簡単な場合の例を示せば図7.3.4のようになる。
図7.3.4 の作成に当たっての主な注意事項を次に示す。
(1) 鉄筋の交差位置では、どちら方向の鉄筋を上にするか決めなければならない。
一般的な基準はないが、通常梁せいの小さい方の主筋を外側にするなどの配慮が必要である。
(2) 四隅の梁筋の位置は、図7.3.4(ハ)の梁部分詳細に示すようにして定める。梁筋の仮想の直径 dを下式の値とする。
d ≦ 公称直径+節の最小高さ × 2
梁筋が2段になる場合は、内側になる鉄筋が特に鉄骨に当たりやすい。
(3) 鉄骨面と平行となる鉄筋の間隔は「標仕」5.3.5(d)及び(e)に定める鉄筋の間隔以上にする。
(4) 加工した鉄筋を、どのようにして差し込んだらよいか検討しながら鉄筋の位置及び継手位置等を定める。特に最外端の梁筋は注意を必要とする。
(5) 鉄骨フランジの鉄筋貫通は、耐力低下を招くので行ってはならない。
図7.3.4_仕口部分の梁筋貫通孔の例.jpg
図7.3.4 仕口部分の梁筋貫通孔の例
7.3.8 ボルト孔
(a) 高カボルト用の孔あけ加工は、鉄骨製作工場で行い、ドリルあけとする。加工精度の確保が可能なことを工場製作要領書の提出等によって確認できる場合は、小・中形山形鋼等にせん断孔あけを使用することができる。高カボルト接合面をブラスト処理する場合は、ブラスト前に孔あけ加工を行う。
(b) ボルト孔、アンカーボルト孔、鉄筋貫通孔は、ドリルあけを原則とするが、板厚 13mm以下の場合は、せん断孔あけとすることができる。
(c) 設備配管用貫通孔、付属金物等の孔で、孔径が 30mm以上の場合はガス孔あけを使用できる。ガス孔あけを行う場合の切断面の粗さは100mRz以下、ノッチ深さは1mm以下とし、孔径の精度は ± 2mm以下とする。
(d) 高力ボルト、普通ボルト及びアンカーボルトの公称軸径に対する孔径は、「標仕」表7.3.2による。溶融亜鉛めっき高カボルトの公称軸径に対する孔径は表7.3.2による。
(e) 孔あけ加工は、孔あけされる部材表面に対して直角度を保ち、正規の位置に行う。ドリル孔あけ後の孔周辺のばり、切り粉、せん断孔あけ後のばり、まくれ及びガス孔あけ後の凹凸.ノッチはグラインダー等により除去する。
7.3.9 仮設用部材の取付け等
仮設用部材のほか、設備関係、コンクリート・鉄筋関係、内・外装関係等の付属金物類や付属金物をあと付けするための金物類の取付けには主に隅肉溶接が用いられるが、この隅肉溶接は「仮付け溶接」と称されることが多く、安易に施工されがちである。したがって、その取付けは作業環境が悪く溶接品質の確保が困難な工事現場を極力避け、可能な限り鉄骨製作工場で行う。ただし、製品完成後に鉄骨製作工場の屋外滞貨場で溶接した場合には、工事現場の作業環境とほとんど変わらない。それを避けるためには、製作工程に合わせた適切な時期に付属金物類の取付け要領を決定し、本体の工場製作と同時に付属金物類の取付けを行うことが必要である。このために、仮設用部材・付属金物類の取付けに関しては、施工図・工作図の作成段階に必要なものを盛り込んでおく必要がある。
やむを得ず工事現場で溶接する場合も、原則として、JIS Z 3801又は3841の有資格者が従事し、ショートビードを避けるほか、外観検査の実施等、主要部材の溶接と同等の品質が得られるように施工することが必要である。
7.3.10 仮 組
(a) 一般の建築鉄骨では例が少ないが、仮組の実施が特記されている場合には、仮組要領書を提出させ、特記内容と照合・確認する。
仮組を行う目的の主なものは、次のとおりである。
(1) 部材数が多く、製品精度が工事現場の出来形に影響を及ぼす場合
(2) 複雑な構造物で、工事現場の作業に支障がないことを確認しなければならない場合
(3) 大架構部材のたわみ量を工事現場の建方以前に確認しておく必要がある場合
(4) 遠隔地や交通が不便な土地で、不具合が発生したとき補修に多大な費用を要する場合
(5) 鉄道線路等に近接した工事現場のため、建方時間に制約を受ける場合
(b) 仮組要領書の主な記載内容は、次のとおりである。
(1) 仮組の範囲
仮組の目的、工場敷地、設備能力等から総合的に決定される。
(2) 仮組の方法
(i) たわみ量の測定が目的の場合は、工事現場の建方と同一条件になる方法を採用する。
(ii) 寸法精度・納まりの確認の場合は、分割や横転の方法等により、安全と作業性を考慮した方法を採用する。
(3) 確認項目・測定方法及び許容差
仮組における確認項目を次に示す。許容差はJASS 6付則6を参考にし、規定がないものはあらかじめ受注者等・鉄骨製作工場と打合せをしておく必要がある (7.13.1参照)。
① 全体寸法
② 部材相互の接合部納まり
③ 部材組立の可否
④ たわみ量
7.3.11 巻 尺
(a) 鋼製巻尺は、JIS B 7512(鋼製巻尺)の1級品を使用する。
(b) 鉄骨工事では、工事現場と鉄骨製作工場で異なる基準巻尺を使用することから、双方の基準巻尺を照合し、その誤差が工事に支障のないことを確認しなければならない。確認は工事現場用と鉄骨製作用の基準巻尺を並べた状態で一定の張力(鋼製巻尺に指定された張力とする。一般には50N)を与え、基準巻尺間の目盛り差を読み取って行う。JIS 1級構製巻尺の長さ10mにおける最大許容差は ± 1.2mmである。したがって、長さにおいて最大相対誤差が2.4mmとなる場合が生じる。
(c) 工場製作の各工程において使用する鋼製巻尺は、鉄骨製作用基準巻尺と照合し、その誤差を確認する。使用する鋼製巻尺は、誤差が最大許容差の1/2程度の精度を有するものを選択して使用するのが望ましい。(2.2.3(d)参照)
(d) 工事現場で鋼製巻尺を使用する場合は、気温による鋼製巻尺の伸縮を考慮して測定時刻を定めるか、気温変化による温度補正を行う必要がある。(2.2.3(d)参照)
7.3.12 製品検査
(a) 受注者等及び鉄骨製作工場が実施している製品検査の内容は、次のようなものである。鉄骨製作工場の行う社内検査、受注者等の行う中間検査・受入検査については、7.1.5(b)を参照のこと。また、受注者等が行う受入検査には書類検査と対物検査がある。
(1) 形状及び寸法精度の検査
製品寸法について、所定の形状及び寸法精度であることを確認する検査であり、検査項目・方法・許容差はJASS 6付則6等を基に、工場製作要領書等で定められた値によって行う。 (7.13.1参照)
(2) 取合い部の検査
仕口部・取合いプレートについて、設計図書の指示通りであるかを確認する検査である。
(3) 外観の検査
部材表面・切断面・工事現場溶接部の開先について、傷・ノッチ等の有無を確認する検査であり、検査項目・方法・許容差は「標仕」の規定のほか、7.3.5、7.6.7、7.6.10を参考にする。
(4) 高カボルト接合面の検査
高カボルト接合面について、所定の形状・寸法精度・外観であることを確認する検査であり、検査項目・方法・許容差は「標仕」7.4.2の規定による。工場締め高力ボルトの締付け検査も含み、方法等は「標仕」7.4.7及び8の規定による。
(5) 溶接部の検査
溶接部の表l面欠陥・内部欠陥について、所定の許容範囲にあるかを確認する検査であり、検査項目・方法・許容差・合否判定は「標仕」7.6.10及び11の規定による。
(6) スタッド溶接部の検査
スタッド溶接部について、所定の形状・寸法精度・外観であることを確認する検査であり、検査項且・方法・許容差は「標仕」7.7.3及び5の規定による。
(7) 塗装部の検査
素地調整した面と塗装面について、所定の外観であることを確認する検査である。塗膜厚等の詳細な検査については、検査の有無、測定方法、測定時期、測定箇所等について特記に従う。
(b) 塗装部の検査以外の製品検査は、原則として溶接外観検査その他の検査指摘事項の修正等が可能な塗装前の時期に実施する。
途装の指定がある場合は、原則として塗装部の検査以外の検査を終了したのちに塗装する。