14章 金属工事 2節 表面処理

14章 金属工事
2節 表面処理
14.2.1 ステンレスの表面仕上げ
(a) ステンレスの表面仕上げの一般事項
(1) ステンレスの一般的な表面仕上げを表14.2.1に示す。
表14.2.1 ステンレス板の表面仕上げ(その1)
表14.2.1_ステンレス板の表面仕上げ(その1).jpeg
表14.2.1 ステンレス板の表面仕上げ(その2)
表14.2.1_ステンレス板の表面仕上げ(その2).jpeg
(2) ステンレスの表面仕上げで表14.2.1以外には、めっき(金、銅、アルミ)、ドライコーティング等があるが、これらは、製作所が限定される。
(b) 建築材料としては、反射率の高いものは嫌われる領向にあるが、耐食性ではこの方が優れている。屋根等の防眩性が必要な部位については、防眩性に優れたダル仕上げを選定することがある。
表面を荒らすと大気中のほこり等がたまりやすく、腐食の原因になりやすい。しかし、「標仕」14.2.1では、美観を重視し、板材に限らずステンレスの表面仕上げは、指定がなければJIS G 4305(冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼幣)のHL仕上げ程度と定められている。
なお、「標仕」でいう軽易な場合とはフード等である。
(c) 一般にヘアライン仕上げという場合は、HL仕上げのことをいう。この仕上げは、加工後生じた傷や溶接部分等に対し容易に補修ができるが、錆等がつきやすい。
その他の仕上げについては、加工後の傷の補修が困難であり、使用に当たっては、その点を考慮しなくてはならない。
14.2.2 アルミニウム及びアルミニウム合金の表面処理
(a) 表面処理の分類
アルミニウム表面処理の種類及び種別は図14.2.1に示すとおりである。また、これらの処理に意匠的な仕上げとして、研磨、エッチング、染色等の処理も行われることがある。
図14.2.1_アルミニウム表面処理の種類及び種類.jpeg
図14.2.1 アルミニウム表面処理の種類及び種別
(b) 各種表面処理の概要
(1) 陽極酸化皮膜
アルミニウムを陽極として、硫酸、その他の電解液で電気分解すると、表面にち密な酸化皮膜を生成し、耐食性、耐摩耗性を向上させることができる。この皮膜を模型図で示すと図14.2.2のようになっており、多数の微細孔がある。この微細孔に金属等を析出させ、容易に着色させることができる。また、この微細孔は封鎖する必要があり、一般に沸騰水等で処理し酸化皮膜が沸騰水との反応により水和化合物を生成し、不活性化すると同時に体積膨張等により封鎖する。これを水和封孔処理という。
図14.2.2_陽極酸化皮膜の模型図.jpeg
図14.2.2 陽極酸化皮膜の模型図
なお、水和封孔処理された酸化皮膜は大気中に暴露されたのちも不活性状態が保持され優れた耐食性及び耐汚染性を示す。
JIS H 8601(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜)では、皮膜厚さの種類と耐食性、耐摩耗性及び封孔度について規定している。
(i) 無着色陽極酸化皮膜
陽極酸化皮膜及び封孔処理を行い、着色や染色を行わないでアルミニウム素地のシルバ一色のままを無着色仕上げとするもので、「標仕」表14.2.1では皮膜の種類(厚さ)により、A-1種、C-1種として規定している。
(ii) 着色陽極酸化皮膜
着色傷極酸化皮膜は、「標仕」表14.2.1では皮膜の厚さにより、A-2種、C-2種を規定している。
なお、着色方法には、次の種類がある。
① 二次電解着色皮膜
二次電解着色とは、陽極酸化処理後、金属塩類を含む電解液中で二次的な電解処理により、皮膜の微細孔中に金属を析出することにより着色(ゴールドアンバー、ブロンズ.プラック等)する方法である。
なお、「標仕」14.2.2(b)では、特記がなければ、着色方法は、二次電解着色としている。
② 自然発色皮膜
自然発色皮膜には、素材中の合金成分を皮膜中に残存させ発色させる合金発色法、電解液に有機酸を用いて皮膜を発色させる電解発色法及びこれらを組み合わせて発色させる方法がある。
(2) 陽極酸化塗装複合皮膜
陽極酸化塗装複合皮膜は、アルミニウムに平均皮膜厚さ 5μm以上の陽極酸化処理を施したのち、塗装を施すことによって陽極酸化皮膜の性能に塗膜の性能を付加して、耐食性、耐候性、装飾性等の品質を更に向上させた皮膜であり、アルミニウム建材の表面処理で主流となっている。
JIS H 8602(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜)は、2010年1月に改正されており、従来の皮膜厚さ及び塗膜厚さを規定した仕様規定から、用途及び適用環境により要求される特性項目とその合格基準を定める性能規定に変更された。この規格では複合皮膜の種類を複合耐食性及び耐候性により「A1、A2、B、C」の4種類に区分し、その品質を定めている。
「標仕」表14.2.1では、無着色陽極酸化塗装複合皮膜を「種別 B-1種」、着色陽極酸化塗装複合皮膜を「種別 B-2種」と規定しており、これに対応するJISの種類は「B(一般的な環境の屋外)」としている。しかし、使用する環境によっては、表14.2.3により適切な種類のものが選定される。
なお、改正JISの「種類B」は内容が変更されており、表C.1のように「旧種類B (透明系塗膜)」と「旧種類P(着色系塗膜)」の両方が含まれる形となって いる。したがって、これまで「標仕」では、「B-1種」は陽極酸化皮膜が無着色のもの、「B-2種」は皮膜が着色されたものとしていたが、JISの改正により、図14.2.1のように「B-1種」は陽極酸化皮膜及び塗膜のいずれも無着色のもの、「B-2種」は陽極酸化皮膜及び塗膜のいずれか又は両方が着色されたものとなっている。
塗装方法については、工場で行う主なものとして、電解塗装及び静電塗装がある。
(3) 化成皮膜の上に塗装(JIS H 4001による塗装)
アルミニウム及びアルミニウム合金の焼付け塗装板及び条(通称、カラーアルミ)の製品については、JIS H 4001(アルミニウム及びアルミニウム合金の焼付け塗装板及び条)が定められており、JIS H 4001では、種類及び記号(原板による区分、色による区分、つやによる区分)、品質(外観、膜厚、鉛筆引っかき硬度、付着性、耐曲げ性、耐おもり落下性、耐塩水噴霧性、耐候性、耐酸性及び耐アルカリ性、耐湿性)、寸法及び寸法許容差、質別及び機械的性質、試験及び検査等について規定されている。
「標仕」表14.2.1のD種の表面処理では、JIS H 4001における塗装が規定されている。塗装方法としては、通常、化成皮膜処理を施した上にロールコータ塗装である。
(4) 着色塗膜
「標仕」表14.2.1に規定する A~D種以外の表面処理の種類としてアルミニウム製カーテンウォール等に用いられる着色塗膜がある。
アルミニウムは、そのままでは塗料の付着性が良くないので通常下地処理として化成皮膜又は陽極酸化皮膜が施される。下地皮膜は、それ自体による防食性よりも、その上に施される塗膜との適合性が大切であり、塗膜の付着性をはじめとする種々の性能を考慮し、下地を選択する必要がある。
着色塗膜に使用する塗料の種類としてアクリル樹脂系、ポリエステル樹脂系、ポリウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、ふっ素樹脂系等のものがあり、一般にはアクリル樹脂系やポリウレタン樹脂系の塗料が使用される。より耐候性が要求される環境で使用される場合は、ふっ素樹脂系塗料が施される。
塗膜の厚さは 20~50μm程度であるが、色の均一性、隠ぺい性、使用環境や耐久性等を考慮して定める必要がある。また、塗装方法は、静電塗装、吹付塗装で行われる。
(5) 塗装に関する説明
(2)、(3)及び(4)の具体的な塗装方法については次のとおりである。
① 下地処理
1) 化成皮膜処理
酸性の水溶液中に浸せき処理し、アルミニウム表面に酸化皮膜、クロム酸塩皮膜、りん酸・クロム酸塩皮膜等を生成させる方法である。
皮膜は、陽極酸化皮膜より極めて薄く,柔らかいもので、耐食性を必要とするところにはそのままでは使用できない。
また、着色も不均ーであるため装飾用には不適当である。したがって、アルミニウムと塗料との密着性を増加させるため、塗装下地処理として使用される。「標仕」表14.2.1で規定しているD種は、化成皮膜の上に着色塗装を施したものである。
処理方法の一例を表14.2.2に示す。
表14.2.2 化成皮膜処理方法の特徴
表14.2.2_化成皮膜処理方法の特徴.jpeg
2) 陽極酸化皮膜
塗装下地としての陽極酸化皮膜は、(1)の陽極酸化皮膜と同様であるが、それ自体の性能よりも塗膜の性能を安定して付与する目的から皮膜厚さ等の規定はない。
② 塗装方法
1) 電装塗装
電気泳動法によって塗装する方法である。水溶性塗料中で被塗物を陽極として、直流電流を用いて塗装する方法であり、複雑な形状のものでも比較的均ーな膜厚が得られる。
2) 静電塗装
塗装損失が少なく高能率の塗装法として広く採用されている。被塗物(陽極)と塗料のノズル(陰極)の間に60,000〜100,000Vの直流電圧をかけ、帯電した塗料粒子を付着させる。静電塗装には形状、霧化方式により多くの種類がある。
3) 吹付け塗装
塗料をスプレーガンで吹き付ける方法であり、常温又は加熱塗料( 70〜80℃)を空気圧で霧化する方法と、塗料自体に高圧をかけその膨張により霧化するエアレス塗装の2種類がある。
4) ロールコータ塗装
金属平板やコイル塗装に適用され、ナチュラル形とリバース形がある。前者は17μm以下の薄膜塗装、後者は20μm以上の膜厚塗装に適する。
5) 粉体塗装
溶剤や水等の溶媒を含まないで粉体塗料粒子を被塗物に付着させる方法である。一般に他の塗装方法に比べて厚膜になる。
③ 乾燥及び焼付け条件
乾燥及び焼付け条件は、使用する塗料の種類により異なり、通常工場塗装ではポリウレタン樹脂系塗料は100℃ × 30分間、アクリル樹脂系塗料は180℃ × 30分間、ふっ素樹脂系塗料では低温型:100℃ × 30分間、中温型:160℃ × 30分間、高温型:230℃ × 20分間が標準とされている。
(c) 「標仕」表14.2.1のアルミニウム及びアルミニウム合金の表面処理の種別による適用は、次のようなものを想定している。
(1) A – 1、2種はメタルカーテンウォール等
(2) B – 1、2種は一般アルミサッシ、外装材等
(3) C – 1、2種はカーテンボックス等建物内部に使用する内装材
(4) D種は建物内部に使用する成形板及び屋根材
上記のうち、A種、C種は陽極酸化皮膜のままのため「標仕」14.2.2(c)(1)では、アルカリ材料と接する箇所は耐アルカリ性の塗料を塗布すると規定している。
また、シーリング接着面については、水和封孔処理を施した表面には生成物が付着していることがあるため「標仕」14.2.2(c)(2)では、この生成物を取り除くこととしている。塗装品についても、シーリング材との接着性を確認のうえ、選定することが必要である。
なお、「標仕」表14.2.1では種別が示されているが、これは一般的な斑対iの屋外や屋内に適用されるものであり、海浜や沿岸等腐食・劣化の激しい環境や過酷な条件で使用する場合には、耐久性向上のため皮膜等級や複合皮膜の種類が高いものを使用する必要がある。
(d) 陽極酸化皮膜の性能
陽極酸化皮膜の性能については、JIS H 8601(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜)に規定されており、その抜粋を次に示す。
JISでは、使用環境別試験の項目を規定しており、一般的な建築部材の場合、外観、皮膜厚さ、キャス耐食性、耐摩耗性が規定されている。
なお、JIS規格中の各試験方法については、(g)による。
JIS H 8601 : 1999
6. 特性及び品質
皮膜の特性及び品牲については、6.1から6.12に示す。このうち、適用される製品に必要な特性及び品質は、用途を考慮して取り決めるものとするが、一般に広く必要とされる重要な特性と用途を表1に示す。
なお、受渡当事者間による特別な協定がなされていない限り、表1の使用環境別試験項目及び各品質項目の規定を適用する。その他の品質項目については、特別な用途についてだけ要求される場合があり、必要に応じて受渡当事者間の協定で取り決めるものとする。試験は、7.に規定する試験方法によって行う。( 6.の一部及び 7.は省略)
表1 使用環境別試験項目
JIS H 8601_表1_使用環境別試験項目.jpeg
6.1 外観及び色
6.1.1 外観
皮膜の外観は、有効面上に、きず、表面上のむら、粉ふきなどの用途上有害な欠陥がないものとする。外観の品質は、必要に応じて受渡当事者間で合意した標準見本又は限度見本によって行ってもよい。
6.1.2 色とその許容範囲
色とその許容範囲は、受渡当時者間の協定によって取り決める。色とその許容範囲の品質は、必要に応じて受渡当事者間で合意した標準見本又は限度見本によって行ってもよい。
6.2 皮膜厚さ
6.2.1 皮膜厚さの等級
皮膜厚さは.平均皮膜厚さ(μm)によって表し、表2に適合しなければならない。
なお、皮膜厚さの等級は、製品の用途及び使用環境などを考慮して選択するが、受渡当事者間で特別な協定がない限り、表2による。
表2 皮膜厚さの等級
JIS H 8601_表2_皮膜厚さの等級.jpeg
6.2.2 皮膜厚さの等級と主な用途例
皮膜厚さの等級は、製品の用途及び使用環境を考慮して選択するが、受渡当事者llりで特別な協定がない限り、表3による。
なお、用途によって特別な皮膜厚さが要求される場合は、表2に規定する平均皮膜厚さの等級にない平均皮膜厚さを決めてもよい。
表3 皮膜厚さの等級と主な用途例
JIS H 8601_表3_皮膜厚さの等級と主な用途例.jpeg
6.3 耐食性
皮膜の耐食性は、各種の環境に耐える特性で、用途によっては酸性、アルカリ性及び塩水雰囲気などの環境に耐える特性が要求される場合があるが、その品質は表 4又は表5に適合しなければならない。
表4 アルカリ耐食性
JIS H 8601_表4_アルカリ耐食性.jpeg
表5 キャス耐食性
JIS H 8601_表5_キャス腐食性.jpeg
6.4 耐摩耗性
皮膜の耐摩耗性は、摩耗環境に耐える特性であり、用途によっては摩耗性物質の衝突による摩耗、しゅう(摺)動摩耗及び転がり摩擦などの摩耗環境に耐える特性が要求される場合が、あるがその品質は表6のいずれかに適合しなければならない。
 
なお、噴射摩耗試験の耐摩耗性は、導通判定法によることとし、素地が露出するまでの摩耗時間 [ WJ(T)]で表す。
表6 耐摩耗性
JIS H 8601_表6_耐摩耗性.jpeg
6.5 封孔度
封孔度は、各種環境に適用した場合の耐食性、耐汚染性などを左右する重要な特性であり、特別な用途として封孔しない皮膜が要求される場合及び AA3を除き、表7のいずれかに適合しなければならない。
表7 封孔度
JIS H 8601_表7_封孔度.jpeg
JIS H 8601 : 1999
(e) 陽極酸化塗装複合皮膜の性能
陽極酸化塗装複合皮膜の性能については、JIS H 8602(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化塗装複合皮膜)に規定されており、その抜粋を次に示す。
また、適用環境(参考)における区分をJIS Z 2381(大気暴露試験方法通則)により示す。
なお、JIS規格中の各試験方法については(g)による。
JIS H 8602 : 2010
4 種 類
複合皮膜の種類は、複合耐食性及び耐候性によって区分し、表1の4種類とする。なお、種類は、複合耐食性及び耐候性の両方の性能を満足しなければならない。
表1– 陽極酸化塗装複合皮膜の種類
JIS H 8602_表1-陽極酸化塗装複合皮膜の種類.jpeg
5 品 質
5.1 外 観
外観は6.3によって試験を行い、きず、むらはがれなどの使用する上で問題となる欠点があってはならない。
なお、使用する上で問題となる欠点の判断は、受渡当事者間の協定による。欠点の程度は、限度見本によって示すのが望ましい。
5.2 性 能
複合皮膜の性能は、箇条6によって試験を行い、表2による。
表2 陽極酸化塗装複合皮膜の性能
JIS H 8602_表2_陽極酸化塗装複合皮膜の性質.jpeg
附属書 C (参考)種類
序 文
この附属書は、本体に規定する種類とJIS H 8602 : 1992に規定する種類との対比を示すもので、規定の一部ではない。
C.1 種 類
種類の対比を表C.1に示す。
表C.1 – 種類の対比
JIS H 8602_表C.1-種類の対比.jpg
JIS H 8602 : 2010
JIS Z 2381 : 2001
附属書1(参考) 暴露環境の区分
1.2 日本の気候の区分
日本の気候区分は世界的に広く使われている植生の分布に基づいて作成されたケッペンの気候区分によると、北海道は、’’冷帯多雨気候型”、その他の日本各地は、沖縄まで含めて”温帯多雨気候型”に区分される(2)。気温・降水量・日照率・水分過剰量の四つの気象要索による代表的な日本の気候区分”開口による日本の気候区分(2)”をベースにし、金属材料の腐食度に注目して区分すると、次の九つの気候区分に区分できる(3)。その気候区分図を、附属書1 図1に示す。
(2) 関口「教養の気象学」朝倉書店.p158
(3) 「鉄鋼系社会資本材料の耐候性・耐食性試験評価方法に係わる調査研究」平成8年度報告書、p50 社団法人日本建材産業協会
a) 北海道・西 北海道の日本海側
b) 北海道・東 オホーツク海、太平洋側
c) 太平洋・北 伊豆半島以北(関東・東北地方)の太平洋側、甲信地方
d) 太平洋・南 東海・中部・近畿・四国・九州地方の太平洋側
e) 瀬戸内海 四国・中国・九州地方の瀬戸内海側
f) 日本海・北 能登半島以北(北陸・東北地方)の日本海側
g)日本海・南 福井・近畿・中国地方の日本海側
h) 九州・西 玄界灘に面した九州西祁
i) 南西諸烏 鹿児島県の南部の島から琉球列島に属する島(亜熱帯海洋性気候に類似した地域)
JIS Z 2381_付属書1図1_日本の気象要素による気候区分.jpeg
附属書1図1 日本の気象要素による気候区分
1.3 大気汚染区分(大気汚染物質による区分)
大気汚染物質[硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、降下ばいじんなど]の発生源及び飛来による影響、並びに火山、温泉などの特殊環境によって、次の五つの環境に区分する(3)
a) 工業地域 生産活動に伴って、大気汚染物質を発生する地域。
b) 都市地域 商業及び生活活動に伴って大気汚染物質を発生する地域。
c) 田園地域 大気汚染物質の影響が少ない地域。
d) 酸性雨地域 酸性雨の原因物質の直接の発生源ではないが、原因物質の飛来による影響の大きな地域。
e) 火山・温泉 火山性物質及び温泉からのガス(硫化水索ガスなど)の影響を大きく受ける地域(自然現象による特殊環境として区分する)。
1.4 海塩区分(海塩粒子の影響度合いによる区分)
金属材料の腐食に大きく関与する飛来海塩粒子の影響を考慮して、海岸線からの距離によって、次の五つの環境に区分する(3)
a) 海 上
b) 海 浜
海岸線から300m以内の地域(飛来する海塩粒子の影響が最も激しい地域)。
c) 沿 岸
海岸線から300mを超えて2km以内の地域(飛来する海塩粒子の影響が比較的大きい地域.ただし、南西諸島の島は、海岸線から2kmを超えても、すべてこの区分に入れる。)。
d) 準沿岸
海岸線から2kmを超えて20km以内の地域(飛来する海塩粒子の影響が比較的小さい地域)。
e) 内 陸
海岸線から20kmを超えた地域(飛来する海塩粒子の影響が無視できる地域)。
JIS Z 2381 : 2001
(f) 使用環境による表面処理の種類
JIS H 8601及び8602では表面処理の性能に応じた種類を規定しており、使用環境や用途に応じて適切に選定を行う必要がある。
使用環境に応じた表面処理の例を表14.2.3に示す。また、特殊な用途の表面処理の例を表14.2.6に示す。
表14.2.3 環境別表面処理基準
((-社)軽金属製品協会 ビル用アルミニウム建材の環境別表面処理基準より)
表14.2.3_環境別表面処理基準.jpeg
表14.2.4 使用環境の解説
((-社)軽金属製品協会 ビル用アルミニウム建材の閑税別表面処理基準より)
表14.2.4_使用環境の解説.jpeg
表14.2.5 種別による着色塗料の種類、厚さ及び塗装方法
((-社)軽金属製品協会規格 建築用アルミニウム及びアルミニウム合金の着色塗膜より)
表14.2.5_種別による着色塗料の種類.jpeg
表14.2.6 特殊な用途の表面処理基準
((-社)軽金属製品協会 ビル用アルミニウム建材の環境別表面処理基準より)
表14.2.6_特殊な用途の表面処理基準.jpeg
(g) 表面処理の試験
アルミニウムの表面処理の試験は、JIS H 8601.、 JIS H 8602.、JIS H 4001のそれぞれに規定されており、外観、皮膜、塗膜厚さ等のほか、用途に応じて当事者間の協議により行う項目もある。
設計図書で示された表面処理の性能及び品質を満足することを証明する資料としては製造所で通常生産されている製品であれば、その品質検査記録によることができる。
ただし、生産実績が少ない場合は、必要な試験を行い、品質及び性能を確認することとなる。
JISに規定する各試験項目の概要は、次のとおりである。
(i) 外観試験
外観試験は照度が600Ix以上の場所において目視で行う。光源は常用光源 D65、高演色形の蛍光ランプ(演色AAA)又は拡散昼光とする。背景は無光沢の黒、灰色等の無彩色であることが望ましい。
(ii) 陽極酸化皮膜厚さ試験
陽極酸化皮膜厚さ試験は渦電流式測定法又は顕微鏡断面測定法等により平均皮膜厚さ(μm)の測定を行う。複合皮膜の試験片は陽極酸化皮膜に損傷を与えない方法で塗膜を除去してもよい。
(iii) キャス試験
銅塩の添加で腐食作用を促進した酢酸酸性の塩水を噴霧し、皮膜や複合皮膜の耐食性を調べる試験。判定は発生した孔食をレイティングナンバにより評価する。
(iv) 塗膜の付着性試験
①碁盤目試験
複合皮膜の塗膜に 1mm間隔(塗膜 0〜60μmの硬い素地に対して)で6本ずつのクロスカットを入れ、25のます目をつくる。セロハン粘着テープを塗膜に張り付け、その後引きはがす。このときにはがれた塗膜の状況により塗膜の付着性を評価する。塗膜のいずれのます目もはがれが認められないものを、25/25とする。
②沸騰水碁盤目試験
複合皮膜の沸騰水試験は、脱イオン水を加熱した 95℃以上の沸騰水に試験片を5時間浸漬させ引き上げ、5min以内に塗膜の外観にしわ、割れ、ふくれ及び著しい変色等の有無を評価する。続いて、碁盤目試験により付着性を評価する。
(v) 塗膜の耐溶剤性試験
塗膜の耐溶剤性試験は、キシレンを浸した脱脂綿等で塗膜を30回往復して軽くこする。試験前後の塗膜の鉛筆硬さの変化によって耐溶剤性を評価する。
(vi) 耐アルカリ性
複合皮膜の耐アルカリ性試験は、5g/Lの水酸化ナトリウム水溶液を複合皮膜の表面に接触させて、発生した孔食及びふくれの発生程度をレイティングナンバで評価する。
(vii) 複合耐食性試験
複合皮膜の複合耐食性試験は、紫外線蛍光ランプ式促進耐候性試験を行ったのち、キャス試験を行い、外観及び腐食の発生程度をレイティングナンバで評価する。
(ⅷ) 促進耐候性試験
複合皮膜の促進耐候性試験は、キセノンランプ式又はサンシャインカーボンアーク灯式促進耐候性試験機のいずれかにより所定時間の試験を行う。外観の変退色、チョーキングの程度及び光沢保持率により評価する。
(ix) 皮膜の封孔度試験
陽極酸化皮膜の封孔の効果を調べる試験。染料吸着試験及びりん酸ークロム酸水溶液浸漬試験等により評価を行う。
(x) 耐摩耗性試験
皮膜の耐摩耗性は噴射摩耗試験、砂落とし摩耗試験及び往復運動平面摩耗試験により評価する。噴射摩耗試験及び砂落とし摩耗試験は、皮膜に研磨材を噴射又は落下させ、皮膜が削り取られて素地が露出するまでの時間を測定する。往復運動平面摩耗試験は、装置の摩耗輪に研磨紙を張り付けた摩耗輪と試験片の間に一定の荷重を加えて往復連動させ、皮膜厚さの減少量を測定する。
14.2.3 鉄鋼の亜鉛めっき
(a) 亜鉛めっきの一般事項
(1) 「標仕」14.2.3には、鉄の防食を目的とする表面処理のうち、最も多く行われる亜鉛めっきについて定められている。
(2) 亜鉛の付着量は、「標仕」14.2.3(a)に定められているもののうちでは、溶融亜鉛めっきが多い。電気及び連続ラインによるものは、溶融亜鉛めっきよりはるかに少なく、大量に付着させるのは困難である。
(3) 亜鉛めっきの厚さと付着量は,14.2.1式の関係になる。
A=7.2 × t ・・・・・・(14.2.1 式)
A:亜鉛付着量(g/m2
7.2:めっき皮膜の密度(g/cm2
t :めっき膜厚(μm)
(4) 「標仕」の亜鉛めっき
(i) 「標仕」表14.2.2では亜鉛めっきの表面処理方法(溶融亜鉛めっき及び電気亜鉛めっき)やめっきの付着量により、A〜F種の種別が定められている。この他の亜鉛めっきとしては、従来の連続ラインにより製品化されていた表面処理亜鉛めっき鋼板類がある。
亜鉛めっきの種類とその使用箇所との関係は簡単には決められないが、目安を表14.2.7に示す。
表14.2.7 亜鉛めっきの種類と使用箇所
表14.2.7_亜鉛めっきの種類と使用箇所.jpeg
(ii) 「標仕」14.2.3(a)に定められている亜鉛めっきの通常の工程を図14.2.3及び4に示す。
① 溶融亜鉛めっきの工程
図14.2.3_溶融亜鉛めっきの工程.jpeg
図14.2.3 溶融亜鉛めっきの工程
② 電気亜鉛めっきの工程
図14.2.4_電気亜鉛めっきの工程.jpeg
図14.2.4 電気亜鉛めっきの工程
(b) 亜鉛めっきの各論
(1) 溶融亜鉛めっき
(i) 溶融亜鉛めっきは、溶融した亜鉛の中に鉄材を浸せきして、亜鉛めっき皮膜を生成させる方法である(どぶづけめっきとも呼ばれている。)。
(ii) めっきは素地とよく密着し、使用に際してはく離を起こしてはならない。
(iii) JIS H 8641(溶融亜鉛めっき)による溶融亜鉛めっきの種類等を次に示す。
JIS H 8641 : 2007 
4. 種類及び記号
めっきの種類及び記号は、表1による。
表1 種類及び記号
JIS H 8641_表1_種類及び記号.jpeg
6. めっきの品質
めっきの品質は、次による。
6.2 付着量及び硫酸銅試験回数
めっきの付着量は、7.3の試験を行ったとき、表2に適合しなければならない。硫酸銅試験同数は、表2の試験回数とし、7.4の試験を行ったとき、JIS H 0401の 6.8に規定する判定基準を満足しなければならない(7.3. 7.4省略)。
表2 付着量及び硫酸銅試験回数
JIS H 8641_表2_付着量及び硫酸銅試験回数.jpeg
(iv) 施工上の主な留意事項
① めっき工場に設備された製品を浸せきする槽の大きさ等により、一度にめっきできる部品の大きさが制限されるので、施工図を検討する際には細手位置等の検討を行い、最大部品の大きさとめっき槽との関係を検討しておく。特に規模の大きい工場がない地方では注意が必要である((a)(4)(ii)参照)。
② 密封した部分や空洞があると、ピンホール等から水分が浸入し,めっき槽に浸せきした際、急激に膨張し爆発することがあるので、このような部分をつくってはならない。
③ 可動部分で擦れ合う箇所は、めっき厚さを見込んだ十分な余裕がないとめっきにより動きが悪くなる。
ボルト、ナットの場合は、ナットのねじを普通より大きめにしておくか、めっき後ねじ部の亜鉛をさらう必要がある。
④ 板厚の薄い製品をめっきすると、熱のためにひずみを生じやすいため、板厚により亜鉛の付着量に限度がある。手すり、柵の類を製作するときに起こりやすいので注意する。
⑤ 溶接部には、アンダーカット、ピット、割れ等があってはならない。また、スラグは入念に除去されていなければならない。
(v) 溶融亜鉛めっきのめっき厚さは、部材を構成する板厚が異っている場合、薄い部材で決まってしまうため、「標仕」表14.2.2では最小板厚の規定をしている。
(2) 電気亜鉛めっき
(ⅰ) JIS H 8610(電気亜鉛めっき)に定められている電気亜鉛めっきの等級は表14.2.8のとおりである。
表14.2.8めっきの等級及びめっきの最小厚さ
          (JIS H 8610 : 1999)
表14.2.8_めっきの等級及びめっきの最小厚さ.jpeg
(ii) 「標仕」表14.2.2では、クロメート皮膜は JIS H 8625(電気亜鉛めっき及び電気カドミウムめっき上のクロメート皮膜)によるCM2 Cが指定されている。
(iii) 電気亜鉛めっきは、めっきの層が薄く短時間に防錆効果が失われるので、そのままで使用されることは少ない。
特に屋外においては、めっきの上に塗装するのが原則である。塗装については、18章を参照する。
(3) 表面処理亜鉛めっき鋼板
表14.2.7に示すように、表面処理亜鉛めっき鋼板には溶融亜鉛めっきによる方法及び電気亜鉛めっきによる方法とがあり、ともに工場生産品である。
① 溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯のめっきの最小付着量については,JIS G 3302(溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯)に規定されている。
② 電気亜鉛めっき鋼板及び鋼帯については JIS G 3313(電気亜鉛めっき鋼板及び鋼帯)に規定されている。そのめっきの付着量の抜粋を次に示す。
JIS G 3313: 2010
4. 1 めっきの付着量
めっきの付着量は、12.1.2によって試験を行い、それぞれの試験片の片面ごとの最小付着量は表4による。ただし、附属書 JEによってめっきの付着量を測定する場合には、JE.6.5によって求めた測定値のそれぞれに適用する。
板及びコイルには、両面のめっきの付着量が同一のもの(以下、等厚めっきという。)、両面のめっきの付着量が異なるもの(以下、差厚めっきという。)及び片面だけめっきしたもの(以下、片面めっきという。)がある。
4.2 めっきの付着量表示記号
めっきの付着量表示記号は、表4のめっきの片面付着量表示記号の組合せととしその表し方は次による。
a) 板の場合は、めっきの片面付着量表示記号を、積載された板の上面/下面の順に表す。
 例1 E16/E16
b) コイルの場合は、めっきの片面付着量表示記号を、コイルの外面/内面の順に表す。
 例2 E16/E32
c) 片面めっきの場合は、鉄面の片面付着量表示記号(ES)/板又はコイルの面のめっきの片面付着量表示記号の順に表す。
 例3 ES/E40
d) 必要に応じて板又はコイルに差厚めっきであることを表すマークを付ける場合は、マークを付けた面のめっきの片面付着量表示記号の後にDを付記する。
 例4 E8/E16D
表4 – めっきの付着量表示記号及び片面の最小付着量
JIS G 3313_表4_めっきの付着量表示記号及び片面の最小付着量.jpeg
JIS G 3313: 2010
(c) 鉄鋼の亜鉛めっきの検査
(1) 亜鉛めっきの膜厚測定
亜鉛めっきの付着量は、膜厚を測定すれば、14.2.3(a)(3)の 14.2.1式により求めることができる。膜厚測定器としては、非破壊で簡便な電磁厚み計がある。これは、多少誤差が大きいが、概略の付着量を知るのに適しているので、現場における施工管理の参考として利用できる。
測定は、1箇所につき5回以上とし、平均値をその箇所の厚さとする。
なお、亜鉛めっきの膜厚測定は、JISでは電気亜鉛めっきについてのみ規定している((2)(ii)参照)。
(2) 亜鉛めっきの試験
(i) JISによる亜鉛めっきの試験は、付着量試験として直接法と関接法、硫酸銅試験、密着性試験、性状試験等がある。
① 付着量試験では、一般に塩化アンチモン液又はヘキサメチレンテトラミン液を用いる間接法で行われるが、これは破壊試験となるので、製品と同等な条件で作られた試験片(10cm角程度)で行うことになる。
② 直接法は、素材の表面積及び質量の測定が可能なものに限られるため、小さい金物類に適用される。
③硫酸銅試験は、最小膜厚を調べるもので、塩化アンチモン液又はヘキサメチレンテトラミン液を用いる関接法と同様な試験片を用いて行う。
④ 密着性試験と性状試験は、通常行われていない。
JISによる試験の適用を表14.2.9に示す。
表14.2.9 試験方法の適用(JIS H 0401 : 2013)
表14.2.9_試験方法の適用.jpeg
(ii) 電気亜鉛めっきの皮膜厚さ試験は、JIS H 8610に次の方法が規定されている。
① 顕微鏡断面試験方法
② 磁力式試験方法
③ 電解式試験方法
④ 蛍光X線式試験方法
⑤ β線式試験方法
⑥ 測微計による試験方法の中の触針走査法
⑦ 質量計測によるめっき付着量試験方法の中のめっき破壊質量法
(iii) 表面処理亜鉛めっき鋼板における溶融亜鉛めっき鋼板のめっきの付着量試験は、JIS G 3302のめっきの付着量試験による。また、電気亜鉛めっき鋼板のめっきの付着量試験は、JIS G 3313のめっきの付着量試験による。
(d) 溶融亜鉛めっき面の仕上り及び補修について
(1) 溶融亜鉛めっき面の仕上り外観
溶融亜鉛めっき面の仕上り外観については、JIS H 8641(溶融亜鉛めっき)による。次にその抜粋を示す。
JIS H 8641 : 2007
3.2 めっき表面に見られる諸現象
a) 不めっき
局部的にめっき皮膜がなく,素材面の面出しているもの。
参考
不めっきが小さい場合は、周辺亜鉛の犠牲的保護作用によって耐食上あまり影響はない。保護作用の効果が及ぶ不めっき部の大きさは、実験的には、φ5.5mm又は5mm幅までである。
b) や け
金属亜鉛の光沢がなく、表面がつや消し又は灰色を呈したもの。甚だしい場合には暗灰色となる。
参考
この現象は合金層がめっき表面に露出したものであり、大気中での耐食性には影響ない。やけは、密着性さえ十分であれば実用上の欠陥とはならないので、外観基準を設定する場合は、この点を考慮することが必要である。
なお、金属亜鉛の光沢は酸化の進行とともに失われ、やけの表面と類似した色調となってくる。素材の鋼製造工程(脱酸法)によってけい素含有量に違いがあり、その影響でやけの発生頻度に差が生じる。
c) た れ
端部又は部分的に、亜鉛が多量に付着しているもの。
参考
一般的にやけの発生しやすい素材は、めっき温度を低くしてめっき作業をするため亜鉛の流動性が低下し、たれを発生させてしまうことが多い。たれの部分をやすりなどで研磨し、平滑面を得ようとするときは、素材表面を露出させないようにする。実用上障害とならない限りそのままにしておいたほうがよい。
d) シーム
素材にきずがあると、めっきしたときに、めっき表面に特徴ある線状の凹凸になるめっき。
参考
シームは、通常めっき皮膜が形成されているので、そのまま使用しても問題はない。しかし、その面を平滑にしようとすると素材表面を露出することがある。
e) かすびき
表面に亜鉛酸化物又はフラックス残さが著しく付着しているもの。
参考
一般に耐食性に影響がある。したがって、付着した場合はやすりなどで除去しておくほうがよい。
f) ざらつき
微粒状の突起があり、懸濁(けんだく)浮遊物質(ドロス)が付着した部分。
参考
耐食性には影響はない。
g) き ず
めっき作業中、めっき用具とめっき表面とが接触したこん(痕)。
参考
めっき表面のきずは、発生位置、大きさ及び深さによってその有害性を判断する必要がある。
h) 変 色
保管中の薬品などの付着及びめっき浴からの引上げ時に、めっき表面が変色したもの。
参考
めっき引上げ時に生じる変色は、光の干渉・反射に起因したもので、耐食性に影響はない。
i) 白さび
保管中に雨水の付着、結露などによって生じた塩基性炭酸亜鉛などの腐食生成物。
参考
白さびによるめっき皮膜の消耗はわずかで、耐食性にはほとんど影響はない。
6. めっきの品質
めっきの品質は、次による。
6.1 外 観
めっきの外観は、受渡当事者間の協定による用途に対して使用上支障のある不めっきなどがあってはならない。また、めっき表面に現れる耐食性にはほとんど影響のない、濃淡のくすみ(やけなど)及び湿気によるしみ(白さびなど)によって合否を判定してはならない。
備考
めっきの主目的は、耐食性にあり、美観的要求事項を渦足させることではない。
また、装飾の目的で施されるものでもない。めっきは表面素材を滑らかにすると考えがちであるが、素材表面より良くならないのが普通である。
JIS H 8641 : 2007
(2) めっき面の欠陥部分の補修
溶融亜鉛めっき面について不めっき、傷、かすびき、摩擦面のたれ等があるものに関しては、「標仕」表14.2.4により補修を行う。

14章 金属工事 3節 溶接,ろう付けその他

14章 金属工事
3節 溶接、ろう付けその他
14.3.1 一般事項
(a) 「標仕」14.3.1(a)でステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金の溶接を、原則として工場溶接と定めているのは、これらの製品は、そのほとんどが、工場において完成品となるものであるためである。
(b) 溶接、ろう付けに際しては、被溶接材に加えられる高熱によって生じやすいひずみを防ぎ、溶接を正確に、かつ、確実に行えるようにするために、種々の治具を用いる必要がある。
14.3.2 鉄鋼の溶接
鉄鋼の溶接については、「標仕」には7章を準用するように定めているが、金属工事で扱うものには、簡易なものから相当に重要なものまで含まれるので、幅をもたせる意味で準ずることにしている。したがって、強度上重要と思われるものについては、鉄骨工事の仕様をそのまま適用する必要がある。
14.3.3 アルミニウム及びアルミニウム合金の溶接並びにろう付け
(a) アルミニウムの溶接の概要
(1) アルミニウムの溶接は.溶接形態から融接・圧接、ろう付けに大分類できる。このうち、融接の一種である不活性ガス(イナートガス)溶接、圧接の一種であるスポット溶接(スタッド溶接)、ろう接の一種であるろう付け等が、建材において広く使われる。
(2) アルミニウムの溶接性は悪くない。材料的特性から不適切な溶接による欠陥として、割れ、ブローホール、融合不良.ひずみ等が挙げられる。溶接に関する標準として、JIS Z 3604(アルミニウムのイナートガスアーク溶接作業標準)及び JIS Z 3040(溶接施工方法の確認試験方法)がある。
(3) 耐食処理としての陽極酸化皮膜は、溶接、ろう付けに妨げとなるため、接合後に皮膜処理を行うか、又は皮膜を取り除いたうえ接合する。
(4) 参考として、(-社)軽金属溶接協会では、JIS Z 3811(アルミニウム溶接技術検定における試験方法及び判定基準)により、アルミニウム溶接の資格認定制度を設けている。
(b) 主な溶接、ろう付け方法の概要
(1) 不活性ガス(イナートガス)溶接
アルミ建具、カーテンウォール等の製作で広く使われる溶接である。アルゴン、ヘリウム等のイナート(不活性)ガス雰囲気中で発生させたアークで加熱し溶接する方法であって、テイグ(TIG)溶接とミグ(MIG)溶接の2種類がある。
表面の見え掛りの重要な部分の溶接には仕上りのきれいなティグ溶接を用い、裏面の取付け部分ではミグ溶接を用いるのが一般的である。
(2) スタッド溶接
建築パネル類の取付けボルトを溶接する方法である。抵抗溶接の一種でスタッド先端と母材との間にアークを発生させ、加圧して溶接を行う。
(3) ろう付け
ブレージングとも呼ばれる溶接方法で、一般に450℃以上の融点をもつ金属又は合金を溶加材として用い、溶加材のみを溶融し、母材間隙に毛管現象を利用して流入させ、ぬれ現象で母材同士を接合する方法である。溶加材としては、アルミニウムーシリコン系合金を用いる。装飾金属に用いることが多い。
なお、450℃未満の低い融点をもつ溶加材を使用する場合は、はんだ付けと称す。
14.3.4 ステンレスの溶接及びろう付け
(a) ステンレスの溶接についての概要
(1) 溶接に際しては、その特質を損ねてはならないので、ステンレス協会規格 SAS 801(ステンレス鋼溶接施工基準)を制定し、材科、工法について詳細に定めている。
(2) ステンレスの溶接方法には、一般に被覆アーク溶接、不活性ガスアーク溶接(TIG. MIG等)、電気抵抗溶接(スポット、シーム等)がある。
(3) 建築では、オーステナイト系のSUS 304 (14.1.5(c)参照)のステンレスを多く使用している。このステンレスには次のような性質がある。
(i) 溶接による焼入れ硬化がなく、低湿脆化もないので溶接性は比較的良好である。
(ii) 溶接熱により組織的変化が生じ、溶接割れや溶接変形並びに耐食性が低下する場合があるため、溶接部の温度上昇を抑えるなど、入熱や溶接条件には十分に注意する。
(iii) 溶接によりクロムが酸化しやすく、クロム量が著しく減少した場合は耐食性が低下する。それを防止するには、酸化皮膜からなる変色部をステンレスのペーパーやプラシにて除去するか、酸洗いにより除去するなど、適切なあと処理を施さなければならない。
(iv) 熱膨張係数が炭素鋼に比べて大きく、熱伝導度が低いので、熱集中が大きくひずみの発生が多い。そのため、アーク溶接では電流調節、溶接速度により出来上りが非常に異なってくる。
(v) 不活性ガスには、アルゴンガスの使用が多いが、不純物が多いと次のような欠陥が生じゃすいので、純度99.5%以上のものを使用する必要がある。
① ビードの内部及び外部に気泡を生じる。
② ビードに褐色のスケールを生じる。
③ ビード下にひび割れを生じやすい。
(b) ステンレスのろう付け
(1) ステンレスのろう付けは、ステンレスの溶接と同じく、ステンレス協会規格SAS 801に材料工法について詳細に定められている。
(2) ステンレスのろう付けは、次の2つに分けられる。
(i) 軟ろう付け
はんだを用いたはんだ付けのことをいう。薄板は450℃以下の低温で簡単に付けられるが、強度が小さい。
(ii) 硬ろう付け
溶融温度450℃以上の銀ろう等を用いたろう付け。
(3) ステンレスのろう付けは、板厚0.3〜2.0mm程度のものが多いがそれ以上のものも可能である。
(4) ろうと母材の材質が違い、接合部が目立つので表面に表さないようにする。
(5) 継手の強度は、一般に重ね代の大きい程強くなる。
(6) 軟ろう付けの場合、強度を必要とするときは、はぎ合せ(小はぜ)にするが、スポット溶接を併用することが望ましい。
(7) SUS 304のステンレスは、熱膨張係数が大きいので、材料の膨張する量を計算しておく必要がある。
銀ろうの場合、0.05〜0.13mmが適当である。
(8) 銀及び銅を含んだろうを使用した場合は、硝酸で酸洗いしてはならない。継手部を清掃にするときは、エメリーペーパー又は非金属の粒子を使って研磨する必要がある。また、ステンレスの粉末以外の金属粉末でショットプラストを行うと、錆や腐食の原因となるので注意しなければならない。

14章 金属工事 4節 軽量鉄骨天井下地

14章 金属工事
4節 軽量鉄骨天井下地
14.4.1 適用範囲
(a) この節は、一般的な天井仕上材の下地となる軽量鉄骨下地材を用いた屋内及ぴ屋外軒天井の下地工事に適用する。屋外の用途としては、外部に面するピロティ、ひさし等の天井である。ただし、天井材の単位面積当たりの質量が20kg /m2を超える天井、水平でない天井等の特殊な要求性能や不整形な形体の天井は,特記による。
また、システム天井は、材料、部材等や工法においても、「標仕」とは異なり、除くものとする。
なお、天井下地材を「標仕」に規定する軽量鉄骨下地材とし、天井仕上材をせっこうポード(厚さ9.5mm)とロックウール化粧吸音板(厚さ9.0mm)の2枚張り程度とした一般的な天井の場合、天井材の単位面積当たりの質量は約15kg /m2程度である。
(b) 作業の流れを図14.4.1に示す。
図14.4.1_軽量鉄骨天井下地工事の作業の流れ.jpeg
図14.4.1 軽量鉄骨天井下地工事の作業の流れ
(c) 施工計画書等
(1) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を作成する。
① 工程表(必要に応じて室別、場所別に工程表を作成)
② 製造所名,施工業者名及び作業の管理組織
使用材料の材質、種類,形状、寸法等
④ 加工、機器場所等(切断溶接等)
⑤ 加工,組立、又は取付け工法
⑥ 風圧力による検討(屋外の条件、場所等の検討)
⑦ 耐震性の検討(大規模空間の天井に関しては崩落対策の検討)
⑧ 養生方法
作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
(2) 施工図の検討は、次について行う。
(i) 吊りボルトの割付け
(ii) 各部取合いの納まり及び補強方法(設備用機器類,改め口等)
(3) 野縁・野縁受の運搬・保管には、曲がりやねじれが生じないよう留意する。
(4) 施工箇所の点検項目としては次のような点がある。
(i) 前工事として天井内配管等の完了確認
(ii) 吊りボルト取付けのための天井インサート位置・割付けの確認
(iii) 天井周辺部の壁面の精度確認
以上のような点について確認を行い、天井下地材の施工に支障がある場合は、関係者による協議を行いその処置方法を決定する。
(5) 墨出し
基準墨をもとにして施工図に従い、周囲の壁面に天井下地材の下端の墨出しを行う。
14.4.2 材 料
(a) 天井下地材
(1) 天井下地材及び天井下地材付属金物は、JIS A 6517(建築用鋼製下地材(壁・天井))の規格を満たすものとする。図14.4.2に天井下地材の構成部材及び付属金物の名称を、表14.4.1に天井下地材の構成部材の種類及び組合せを示す。
図14.4.2_天井下地材の構成部材及び付属金物の名称.jpeg
図14.4.2 天井下地材の構成部材及び付属金物の名称
表14.4.1 天井下地材の構成部材の種類及び組合せ(JIS A 6517:2010を基に作成)
表14.4.1_天井下地材の構成部材の種類及び組合せ(JIS A 6517).jpeg
(2) 天井下地材に使用する材料の防錆処理は表14.4.2の亜鉛の付着量で示される。製品は、溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯をスリッターにより定尺幅に切断し、冷間ロールフォーミングにより成形されたものが用いられている。
(3) 天井下地材の性能は、JIS A 6517により定められており、亜鉛の付着量、部材の形状安定性試験及び載荷試験を行い、表14.4.2の規定に適合したものとなっている。
表14.4.2 天井下地材の性能(JIS A 6517 : 2010を基に作成)
表14.4.2_天井下地材の性能(JIS A 6517).jpeg
(4) 天井下地材の構成部材の寸法は、JIS A 6517により表14.4.3のように定められている。
表14.4.3 天井下地材の構成部材の寸法(JIS A 6517 : 2010)
表14.4.3_天井下地材の構成部材の寸法(JIS A 6517).jpeg
(5) 野縁受は、19形と25形で板の厚さが異なるので注意して使用する。
(b) インサート及び吊りボルト
インサートは鋼製とする。断熱材打込み等の場合で特殊インサートを用いる場合は設計図書の指定による。また、吊りボルトはJIS A 6517では転造ねじ、ねじ山径9.0mm(円筒部径8.1mm以上)としており、防錆処理としてはJIS H 8610 (電気亜鉛めっき)に規定する1級以上、JIS H 8625(電気亜鉛めっき及び電気カドミウムめっき上のクロメート皮膜)に規定する1級CM1A以上又はこれと同等以上としている。
14.4.3 形式及び寸法
(a) 天井下地の組み方の一例を図14.4.3に示す。
図14.4.3_天井下地の組み方.jpeg
図14.4.3 天井下地の組み方
(b) 屋内の野縁間隔は、「標仕」14.4.3 (b)で、図14.4.4のように定めている。
図14.4.4_屋内の野縁の間隔(イ).jpeg
図14.4.4_屋内の野縁の間隔(ロ).jpeg
図14.4.4 屋内の野緑の間隔
(c) 軒天井、ピロティ天井等屋外の野縁等の間隔は、地域性、個別性等の諸要件により風荷重が異なるので「標仕」では特記によるとしている。したがって、設計担当者等が構造計算等によって野縁等の間隔等を定めることになる。
なお、監督職員は、施工計画書で、実際に使用する部材の断面性能等を使った構造計算により確認された工法であることを確かめて、承諾することになる。
14.4.4 工 法
(a) 野縁は、一方向に配置するものであり、格子組みとすることはまずない。配置の方向は、照明器具締との関係を考慮し、なるべく野縁を切断しないようにする。
(b) コンクリート打込みのインサートを使用しないで、あと施エアンカー等を用いると、コンクリートに打ち込まれているパイプ等を損傷することがあるので避ける対応が望ましい。
(c) 野縁と野縁受の留付けクリップは、交互につめの向きを変えて留め付ける(図14.4.5 参照)。
なお、クリップのつめが野縁受の溝側にくる場合は、溝内に十分折り曲げる。特に屋外の場合は注意して行う。
図14.4.5_クリップの留付け.jpeg
図14.4.5 クリップの留付け
(d) 野縁受及び野縁同士のジョイントは、所定の付属金物を用い、それぞれ吊りボルト、野縁受の近くに設け、そのジョイント部の配置は、図14.4.6に示す千島状になるように施工することが望ましい。
図14.4.6_野縁受、野縁同士のジョイント.jpeg
図14.4.6 野緑受、野緑同士のジョイント
(e) 下地張りがなく野縁が壁等に突き付く場合の野縁端部のコ形又はL形の金物は、天井目地の目地底にするとともに野縁の通りをよくするためのものである。
下地張りがなく野縁が壁に平行する場合の端部には.ダプル野縁を用いる。
(f) 照明器具ダクトのための補強
(1) 「標仕」14.4.4 (e)には.設計図書に表示されたものについて行うことと定められているが、この表示とは、照明器具の位置、大きさ、個数が天井伏図、特記仕様書等に表示される場合のことをいう。工事との取合い等により必要となる開口部の補強が設計図書に明示されていない場合は、設計変更により処置する必要がある。
(2) 天井には,点検口,照明器具,ダクト等が設置されるので,器具類の大きさにより、野縁を切断する必要がでてくる。これらの箇所は、強度の不足を補うとともに、野縁の乱れを防止するために補強する必要がある。また、野縁等の切断には溶断は行わない。
開口部の補強は図14.4.7のように行う。
図14.4.7_開口部の補強(野縁を切断する方法).jpeg
図14.4.7 開口部の補強
(g) 下がり壁、間仕切壁を境として、天井に段違いがある場合は、補強を間隔 2.7m程度に図14.4.8の(イ)、(ロ)のように行う(「標仕」14.4.4 (g)参照)。ただし、(ハ)の場合で、床スラプ等に壁下地が固定されている場合は、補強を行わなくてもよい。
(h) 天井のふところが1.5m以上の場合は、補強用部材又は[ – 19 x 10x 1.2 (mm)以上を用いて、吊りボルトの水平補強、斜め補強を行う(「標仕」14.4.4 (h)参照)。ここでいう補強用部材とは、所定の強度を有する軽量鋼製形材である。
その補強方法は、「標仕」では特記によるとされているが、特記がない場合は、(i)及び(ii)による。
(i) 水平補強は、縦横方向に間隔1.8m程度に配置する。
(ii)斜め補強は、相対する斜め材を1組とし、縦横方向に間隔 3.6m程度に配置する(図14.4.8の(ニ)参照)。また、縦方向の相対する斜め材の接合部と横方向の相対する斜め材の接合部が同じ場所に重ならないように注意する。
天井のふところが、3.0mを超える場合の補強は、「標仕」では特記によるとされており、詳細に検討された所定の方法で行うことになる。
なお、ここでいう水平の補強及び斜めの補強は、耐震性を考慮することを意図したものではない。特別に耐梃性を考慮する必要がある天井の場合には、建物との共振の検討や周辺の構造体や墜とのクリアランスの確保等の検討をしたうえで、適切に補強材を設置するなどの対策を考える必要がある。参考として、「大規模空間を持つ建築物の天井の崩落対策について(技術的助言)」(平成15年10月15日 国住指第2402号)及び「地震時における天井の崩落対策の撤底について(技術的助言)」(平成17年8月26日 国住指第1427号)がある。
また、特定天井(脱落によって重大な危害を生ずるおそれがあるものとして国土交通大臣が定める天井をいう。)については、「特定天井及び特定天井の構造耐力上安全な構造方法を定める件」(平成25年8月5日国土交通省告示第771号)が公布された。
(i) ビル風の影響を受ける高層部分の軒天井、広いピロティの天井の端部等では、風圧による大きな力を受けるため、「標仕」14.4.4 (k)では特記により補強を行うこととしている。
具体的な補強方法は、作用する風圧力により設計されるが、一般的には耐風圧等を考慮した野縁受、野縁、吊りボルト、ハンガー及びクリップを使用する方法がある。
(j) 廊下等天井裏に通るダクト幅が広くて野縁受を吊れない場合に、ダクトフランジにアングル等を溶接して吊っている例があるが、ダクトの振動による悪影響があるので野縁受の部材断面を大きくするなどの処置をとり、必ずダクトと切り離して施工を行う。
また、ダクト等によって吊りボルトの間隔が900rnmを超える場合は、その吊りボルト間に水平つなぎ材を架構し、中間から吊りボルトを下げる2段吊りという方法で対応することができる。
図14.4.8_屋内の天井の補強(イ).jpeg
図14.4.8_屋内の天井の補強(ロ).jpeg
図14.4.8_屋内の天井の補強(ハ).jpeg
図14.4.8_屋内の天井の補強(ニ).jpeg
図14.4.8 屋内の天井の補強
(k) 現場での溶接を行った箇所には、「標仕」表18.3.2のA種の鋳止め塗料を途り付ける。
なお、高速カッター等による切断面には、亜鉛の犠牲防食作用が期待できるため、錯止め塗料塗りは行わなくてよい。
(l) 施工後の確認
仕上材取付け前の確認項目は、次のとおりである。
(i) 野縁の割付け、開口部、下がり壁等の位置及び寸法
(ii) 目違いや段差の有無
(iii) 天井の高さ
なお、天井高さの精度は測定器や水糸等を張り、±10mm以内とするのが望ましい。また、天井面にむくり(部屋の中央を若干高くすること)によって感覚的には平面に見えることが知られている。
(iv) 開口部補強の適否
(v) 溶接した箇所の錆止め塗装

14章 金属工事 5節 軽量鉄骨壁下地

14章 金属工事
5節 軽量鉄骨壁下地
14.5.1 適用範囲
(a) この節は、一般的な壁仕上材の下地となる軽量鉄骨壁下地工事に適用する。天井の場合とは異なり、壁の場合は外部に面する部分や外壁等の使用は対象外としている。
(b) 作業の流れを図14.5.1に示す。
図14.5.1_軽量鉄骨壁下地工事の作業の流れ.jpeg
図14.5.1 軽量鉄骨壁下地工事の作業の流れ
(c) 施工計画書等
(1) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を作成する。
① 工程表(必要に応じて室別、場所別の工程表の作成)
② 製造所名、施工業者名及び作業の管理組織
使用材料の材質、種類、形状、寸法等
④ ランナー取付工具
⑤ 開口部等の補強方法
⑥ 養生方法
作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
(2) 施工図の検討は、各部取合いの納まりのほか、開口部補強方法等について行う。
(3) ランナー・スタッド等の運搬・保管に当たっては、曲りやねじれが生じないよう留意する。
(4) 施工箇所の点検
床・梁下・スラブ下面・壁面の位置、平たんさ(凹凸)を確認し、躯体の面精度が下地材の建込みの支障となる場合には、事前に修正する。
(5) 墨出し
基準墨や地墨等により、施工図に基づき間仕切、壁下地材、ランナー両面等の墨出しを行う。墨出しが直接下地材の取付け位置に出せない場合は、適切な場所に逃げ墨を出す。開口部については、開口枠の取付け方法やクリアランス等を考慮し、補強材位置の墨を正確に出す。
14.5.2 材 料
(a) 壁下地材
(1) 壁下地材及び壁下地材付属金物は、JIS A 6517(建築用鋼製下地材(壁・天井))の規格を満たすものとする。図14.5.2に壁下地材の構成部材及び付属金物の名称を、表14.5.1に壁下地材の構成部材の種類及び組合せを示す。
図14.5.2_壁下地材の構成部材及び付属金物の名称.jpeg
図14.5.2 壁下地材の構成部材及び付属金物の名称
表14.5.1 壁下地材の構成部材の種類及び組合せ(JIS A 6517:2010を基に作成)
表14.5.1_壁下地材の構成部材の種類及び組合せ.jpeg
(2) 壁下地材に使用する材料の防錆処理は表14.5.2の亜鉛の付着量で示される。製品は、溶融亜鉛めっき鋼板及び鋼帯をスリッターにより定尺幅に切断し、冷間ロールフォーミングにより成形されたものが用いられている。
(3) 壁下地材の性能は、JIS A 6517により定められており、亜鉛の付着量、部材の形状安定性試験及び載荷試験を行い、表14.5.2の規定に適合したものとなっている。
(4) 壁下地材の構成部材の寸法は、JIS A 6517により、表14.5.3のように定められている。
表14.5.2 壁下地材の性能(JlS A 6517: 2010を基に作成)
表14.5.2_壁下地材の性能(JIS A6517).jpeg
表14.5.3 壁下地材の構成部材の寸法(JJS A 6517: 2010)
表14.5.3_壁下地材の構成部材の寸法(JIS A6517).jpg
(b) スペーサー等
スペーサーの板厚は、0.7mm以上(板厚の許容差は、JIS G 3302(溶融亜鉛めっ き鋼板及び鋼帯)又はJIS G 3321(溶融55%アルミニウムー亜鉛合金めっき鋼板 及び鋼帯)による。)とする。また、防錆処理は、JIS G 3302表示記号のZl2以上、JIS G 3321表示記号のAZ90以上と同等のものとする。スペーサーの形状は製造所によって多少異なるが、その目的はスタッドの強度を高め、ねじれを防止し、また、振れ止めを固定するためのものである。
打込みピン・タッピンねじ・ボルト等については、JIS H 8610(電気亜鉛めっき)に規定する1級以上、JIS H 8625(電気亜鉛めっき及び電気カドミウムめっき上のクロメート皮膜)に規定する1級CM1A以上又はこれと同等以上の防錆処理を施したものとする。
14.5.3 形式及び寸法
壁下地材に用いる鋼材は、JIS A 6517(建築用鋼製下地材(壁・天井))の規定に適合するものとする。「標仕」表14.5.1では、50形、65形、90形、100形を示しているが、同JISにはこの他に75形があり、スタッドの高さによって使い分けられている。また、「標仕」では50形は、RC壁等への片面張りの下地を想定しており、自立壁の下地は適用外としている。
表14.5.3にJIS A 6517に規定されている壁下地材の構成部材の寸法を、表14.5.2に壁下地材の性能を示す。
なお、「標仕」表14.5.1でスタッドの高さにより種類を変えているのは、壁の剛性を確保するためである。同一壁面でスタッドの高さが異なる場合は、高い方のスタッドに合わせる。
14.5.4 工法
(a) ランナーの取付け
ランナー両端部の固定位置は、端部から50mm内側とする。継手は突付け継ぎとし、端部より約50mm内側に固定する。ランナーの固定間隔は、ランナーの形状や断面性能及ぴ軽量鉄骨壁の構成等から900mm程度を限度としている。コンクリートスラブヘの固定には、低速式びょう打ち機による発射打込みびょう(JIS A 5529)等を用いるが、使用に当たっては、安全管理に十分注意する。上部梁が鉄骨の場合は、耐火被覆等の終了後、あらかじめ取り付けられた先付け金物にスタッドボルト、タッピンねじの類又は溶接で固定する。
(b) スタッド・スペーサーの取付け
(1) スタッドの切断
スタッドは、ねじれのないものを使用し、上部ランナーの高さに合わせて切断する。上部ランナーの上端とスタッド天端の隙間は、10mm以下とする。また、振れ止めが水平に通るように、スタッドに設けられた振れ止め用の貫通孔の位置を調節する。
(2) スペーサーの取付け
スタッドの両端のスペーサーは、スタッドの建込みを容易にするため、端部よりずらして取り付け、建込み後に上下のランナーの近くにセットする。また、振れ止め位置のスペーサーについても振れ止めを取り付けたのち、振れ止め固定を兼ねてスペーサーを固定する。いずれも、緩み・がたつきのないようスペーサーの間隔は、600mm程度に固定する。
(3) スタッドの建込み
スタッドを上下ランナーに差し込み、半回転させて取り付ける。仕上げのボード類はスタッドに直接タッピンねじの類で取り付けられるため、間隔を精度良く建て込む。また、スタッドにねじれや倒れがあると、仕上げボードに目違いを生じるので、建入れ、通りに十分注意する。
スタッドがコンクリート壁等に添え付く場合は、ランナーと同様に、振れ止め上部(間隔 約1.2m程度)を打込みピン等で固定する。
(c) 振れ止めの取付け
振れ止めは、床ランナー下端より間隔 約1.2mごとに設ける。ただし、上部ランナー上端から400mm以内に振れ止めが位置する場合には、その振れ止めは省略することができる。
振れ止めは、フランジ側を上向きにしてスタッドに引き通し、振れ止めに浮きが生じないようスペーサーで固定する。設備配管や埋込みボックス等で振れ止めを切断する場合は、振れ止めと同材又は吊りボルト(ねじ山径9.0mm)で補強する。
(d) 開口部の補強
(1) 出入口等
(i) 垂直方向補強材
垂直方向補強材は、建具が留め付けられるため、戸の開閉による振動や衝撃荷重に耐えられるように、「標仕」では、上は梁又はスラブ下に達するものとし、上下ともあと施エアンカー等で固定した取付け用金物に溶接又はボルトの類で取り付けることとしている。65形で補強材の長さが4.0mを超える場合は、同材の補強材を2本抱き合せ、上下端部及び間隔 600mm程度に溶接したものを用いる。
垂直方向の補強材は、上部ランナーが鋼製天井下地材に取り付けられる場合でも、上部は梁下・スラブ下に固定する必要がある。階高が大きく補強材が長くなり過ぎる場合は、補強材を支持するための鉄骨梁等を設け、これに固定する場合もあるが、十分な支持強度を確保する必要がある。
なお、補強材とスタッドは直接接触させず、戸の開閉に伴う振動がなるべくスタッドに伝わらないようにすることを原則とするが、開口部の形状等により、剛性が求められる場合や補強材の変形が大きくなるおそれのある場合はスタッ ドと溶接するなどの方法で剛性を確保する。
(ii) 水平方向補強材
開口部の補強材は、補強材の断面性能等から開口幅は2m程度、取り付く建具等の質量も一般的な物を対象に選定されているため、開口幅が大きい場合や重量物が取り付く場合等は、別途強度計算等によって補強材を選定する必要がある。
(2) そで壁端部の補強
そで壁端部の補強は、開口部の垂面方向の補強材と同材を用いて行う。
(3) ダクト等
ダクト類の小規模な開口部の垂直方向の補強材は、水平方向の補強材と組み合わせ、溶接等により固定する。分電盤等の重量物が取り付く場合には、出入口等の開口部補強材取付け用金物と同様の取付け用金物を添えて、溶接又はタッピンねじの類で取り付ける。
ダクト類の四周については、下地材・補強材等がダクトに接触して、振動が伝わらないように注意する。また、設備の配管等がスタッドを貫通して設けられる場合、貫通孔が1箇所に媒中しないように配慮し、必要に応じて補強等の処置を行う。
(e) 緩止め
下地相互のボルト・小ねじによる固定箇所が繰返し外力や振動を受ける場合、ばね座金等を用いるか、又は緩止めの溶接を行う。
(f) 施工後の確認
仕上材料取付け前の確認項目は、次のとおりである。
(i) 開口部補強の適否
(ii) スタッドの建込み間隔の精度(通常の天井高では ±5mm以下とする。また、スタッドの垂直の精度 約 ±2mmとする。)
(iii) 溶接した箇所の鋳止め塗装
錆止め塗料塗りは、14.4.4 (k)を参照する。
(g) 軽量鉄骨壁下地の解説図を図14.5.3に示す。
図14.5.3_軽量鉄骨壁下地(イ)展開図(65形).jpg
図14.5.3_軽量鉄骨壁下地(ロ)a部詳細.jpeg図14.5.3_軽量鉄骨壁下地(ハ)a部詳細.jpeg
図14.5.3_軽量鉄骨壁下地(ニ)b部詳細.jpeg図14.5.3_軽量鉄骨壁下地(ホ)c部詳細.jpeg
   図14.5.3_軽量鉄骨壁下地(ヘ)d部詳細.jpeg
図14.5.3 軽量鉄骨壁下地
14.5.5 「標仕」以外の工法
変位追従性を有する壁下地工法は、耐震性を考慮してRC壁、ALC壁等ヘボードを片面張りしたもので、地震時の挙動に有効な工法である。施工する躯体壁に鋼製下地材(スタッド)を所定の間隔に特殊弾性接着剤で固定し、その後にボード片面張りを行う。高い安全性と変形追従性を有する工法である。

14章 金属工事 6節 金属成形板張り

14章 金属工事
6節 金属成形板張り
14.6.1 適用範囲
(a) この節は,建築物の天井の金属成形板張りを対象としている。
(b) 作業の流れを図14.6.1に示す。
図14.6.1_金属成形板張り工事の作業の流れ.jpeg
図14.6.1 金属成形板張り工事の作業の流れ
(c) 施工計画書等
(1) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を作成する。
① 工程表(必要に応じて場所別の工程表の作成)
② 製造所名、施工業者及び管理組織
使用材料の材質(あと施工アンカーも含む)、寸法
④ 施工手順及び養生方法
作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
(2) 施工図の検討は、次について行う。
(i) 場所別割付け図
(ii) 各部取合いの納まり
(3) 見本品又はカタログを提出させ、設計担当者と打ち合わせて決定する。
14.6.2 材料
(a) 金属の成形板〈モールディングスパンドレル〉には、通常、鋼板製、ステンレス板製、アルミニウム板製があるが、最も一般的なものは、アルミニウム板製である。
ステンレス板、アルミニウム板の場合の表面処理は、2節に示されたようなもののうちから選定することになるが、鋼板製の場合は、各種の仕上げを施したものが、既製品として市販されている。
(b) 小ねじは特記なき場合、「標仕」14.6.2(b)で使用材料に適したものと定められている。成形板が材質、着色仕上げ等多様化されているため取付け方法、化粧として適切なものを選択する。
14.6.3 工 法
(a) 取付け下地は、一般に軽量鉄骨下地材である。下地材の材料・工法は.設計図書に指示されるものであるが、指示のない場合、「標仕」14.4.2及び4では屋内と屋外に分けて、野縁の材料及び工法を定めている。
なお、野縁の間隔は、屋内では360mm程度と定められている。しかし、屋外については、建築基準法で風圧力に対して安全であることを構造計算により確認することが義務付けられており、野縁の間隔は、設計図書で指定することとしている。
(b) 成形板は、定尺の既製品であるから、必ず割付けを行い、途中に半端な材料が入らないように配置する。
(c) 現場で成形板を切断することが多いが、切り粉が材料に付約したままにしておくと、そこから腐食を起こすことがあるので、切り粉はすべて除去しなければならない。
(d) 成形板の留付けは、目地底で目立たないように小ねじ留めとする。
(e) 納まりの関係で、板継ぎ部分から雨水が浸入して腐食を起こすおそれのある部分は、シーリングの必要があり、設計図書で指示するのがよい。
(f) 金属は伸縮が大きいので、製品の長さに応じて伸縮調整継手が必要になる。しかし、伸縮調整継手からは漏水のおそれがあり、意匠にも関係するので「標仕」 14.6.3(e)には納まりも含めて設計図書で指定するように定められている。
(g) タイル張りあるいは石張りに隣接して取り付けられている金属面では、タイルや石張りの清掃に用いられる塩酸等が付着し、仕上げ面が汚染、あるいは腐食するおそれがあるので、十分注意する必要がある。

14章 金属工事 7節 アルミニウム製笠木

14章 金属工事
7節 アルミニウム製笠木
14.7.1 適用範囲
(a) 「標仕」ではアルミニウム製笠木は、通常の鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の屋上パラペットに使用するオープン形式(国土交通省大臣官房官庁営繕部整備課「建築工事標準詳細図」の屋上パラペット(アルミニウム製笠木)参照)を想定している。
(b) 作業の流れを図14.7.1に示す。
図14.7.1_.アルミニウム製笠木工事の作業の流れjpeg.jpg
図14.7.1 アルミニウム製笠木工事の作業の流れ
(c) 施工計画書等
(1) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字は品質計画に関する事項を示す。
① 工程表(必要に応じて場所別の工程表の作成)
② 製造所名、施工業者及び管理組織
使用材料の材質(表面処理方法も含む)、寸法
風圧力及び積雪荷重に対応した固定金具の間隔、固定方法、管理の方法等
⑤ 施工手順及び養生方法
(2) 施工図の検討は、次の事項について行う。
(i) 場所別割付け図
(ii) 各部取合いの納まり
(3) 見本品又はカタログを提出させ、設計担当者と打ち合わせて決定する。
14.7.2 材 料
(a) 「標仕」14.7.2では、アルミニウム製笠木の構成部材による種類を、250・300・350形の3種類とし、その適用は特記によるとしている。材質等については、JIS H 4100(アルミニウム及びアルミニウム合金の押出形材)に規定する種類及び等級がA6063S(普通級)のものとしている。
なお、断面寸法の許容差の普通級とは、建材に使用する押出形材の通常の精度を示したものである。
(b) また、「標仕」表14.7.1の最小呼称肉厚は、経済性を考慮し、かつ、耐久性、剛性等についての必要な性能を満たす寸法とし、表に示された寸法を上回るものは同等以上の材料と見なされている。
なお、部材の断面寸法に対する耐積雪耐力や耐風圧力等の安全性については、製品や設置条件等により異なるため、「標仕」14.7.3(a)の規定により、検討されることになる(14.7.3(c)(1)参照)。
(c) 笠木を受雷部システム(棟上げ導体)として利用する場合については、JIS A 4201(建築物等の雷保護)に断面寸法の最小値等が規定されているので注意する。
(d) 表面処理については、「標仕」14.7.2(c)では、特記によるとされている。一般的には、「標仕」表14.2.1のB-1種又はB-2種が適用されている(14.2.2参照)。
14.7.3 工 法
(a) アルミニウム製笠木の構成部材の概要及び取付け状態(図14.7.2及び3参照)製造所により細部で違いがあるが、構成部材の概要、取付けについて次に示す。
図14.7.2_部材の構成例.jpeg
図14.7.2 部材の構成例
図14.7.3_笠木の取付状態の例.jpeg
図14.7.3 笠木の取付け状態の例
(b) 笠木本体は固定金具に対し、はめあい方式により固定される断面形状のものである。
直線部材及びコーナ一部材(入隅、出隅)が用意されている。
(c) 笠木と笠木との継手部(ジョイント部)は、ジョイント金具とはめあい方式によりはめあい、取付けを行うものとする。ジョイント部はオープンジョイントを原則とし、温度変化による部材の伸縮への対応のため、5〜10mmのクリアランス(目地)を設ける(定尺が4m程度の場合)。
(1) 固定金具
(i) 固定金具は、通常1.3m程度の間隔で取り付けられるが、「標仕」14.7.3(a) (1)では、建築基準法に基づき定まる風圧力及び積雪荷重に対応した固定金具の間隔、固定方法等は特記によることとしている。
(ii) 固定金具は、パラペット天端にあと施エアンカー等により所定の位置に堅固に取り付ける。
(iii) コンクリート下地モルタル塗りの上に取り付ける場合は、コンクリート部分へのアンカー長さを確保する。
(2) ジョイント金具
笠木と笠木の各ジョイント部に取り付けられるジョイント金具は、笠木のジョイントでの雨水に対して排水機構の溝形断面形状をもつものとする。
(d) 施工上の注意
(1) 固定金具は笠木が通りよく、かつ、天端の水勾配が正しく保持されるように、あらかじめレベルを調整して取り付ける。
(2) あと施エアンカーによる固定金具、ジョイント金具の取付けに際して、特に強い風圧の予想される箇所に使用する場合は、風荷重に対して十分な引抜き耐力を有するようアンカーの径・長さ・取付け間隔を検討し、施工に注意する。
(3) 笠木部材の割付け
施工図により、割付け、各部の納まり(端部、壁付き、ほかとの取合い)及び取付け手顛を事前に検討する。
取付けは、コーナ一部分笠木(通常 l = 500mm程度)を先に取り付け、直線部材については、パラペット全体の形状を勘案し、定尺を中心に割り付ける。調整部分を中心部にもってくる方法、両端に割り振る方法、片端にもってくる方法がある。
(e) コーナー、その他の役物の笠木は、パラペットの形状によりあらかじめ用意するが、直角コーナー以外は特注となる場合が多い。各種コーナー笠木の例を図14.7.4に示す。
図14.7.4_入角・出隅コーナー.jpg
(イ) 入隅・出隅コーナー
図14.7.4_T字形ジョイント.jpg
(ロ) T字形ジョイント
図14.7.4_Z形コーナー.jpg
(ハ) Z形コーナー
図14.7.4_角度違いコーナー.jpg
(ニ) 角違いコーナー
図14.7.4_下り勾配.jpg
(ホ) 下り勾配
図14.7.4_上がり勾配.jpg
(ヘ) 上がり勾配
図14.7.4_幅違いコーナー.jpg
(ト) 幅違いコーナー
図14.7.4_Rコーナー.jpeg
(チ) Rコーナー
図14.7.4 各種コーナー笠木の例

14章 金属工事 8節 手すり及びタラップ

14章 金属工事
8節 手すり及びタラップ
14.8.1 適用範囲
(a) この節は,建物内外部の手すり及びタラップを対象としている。
(b) 作業の流れ(手すり(アンカー先付け)の場合)を図14.8.1に示す。
図14.8.1_手すり工事の作業の流れ.jpeg
図14.8.1 手すり工事の作業の流れ
(c) 施工計画書等
(1) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を作成する。
① 工程表(必要に応じて場所別の工程表の作成)
② 製造所名、施工業者及び管理組織
使用材料の材質(あと施工アンカーも含む)、寸法
工法管理の方法等
⑤ 施工手順及び養生方法
(2) 施工図の検討は、次の事項について行う。
(i) 場所別割付け図
(ii) 各部取合いの納まり
(3) 見本品又はカタログを提出させ、設計担当者と打ち合わせて決定する。
14.8.2 手すり
(a)材料・仕上げ
(1) 手すりに用いる金属材料は、多くの場合、鋼、ステンレスあるいはアルミニウム合金である。
(2) アルミニウム合金の表面処理は、通常2節に記述したとおりであり、設計図書に指定される。
(3) 鋼製品の塗装
鋼製品の錆止め塗装は、工場で行われることが多いが、「標仕」表18.3.1により、屋外の手すりの類の塗装についてはA種とし、屋内についてはB種を標準としている。
(4) BL認定部品
(-社)ベターリビングでは、住宅の廊下・バルコニー・窓等に使用する手すりについて基準を設け、強度等各種の試験に合格したものをBL認定部品としている。
(b) 工 法
(1) 手すりと手すり支柱又は手すり子との取合いは、鋼製以外は通常小ねじ留めにする。安全のため小ねじは、手すりの中に入れて留めるものが多い(図14.8.2参照)。ステンレスは溶接する場合もあるが、溶接部の取合いの仕上げには注意する必要がある。
一般的な手すりの例を図14.8.3に示す。
図14.8.2_手すりと手すり支柱又は手すり子との取合い(イ).jpeg図14.8.2_手すりと手すり支柱又は手すり子との取合い(ロ).jpeg
図14.8.2 手すりと手すり支柱又は手すり子との取合い
図14.8.3_一般的な手すりの例(手すり子タイプ).jpeg
図14.8.3_一般的な手すりの例(パネルタイプ).jpeg
図14.8.3 一般的な手すりの例
(2) 溶接は3節による。
(3) 手すりが長くなる場合には金属の温度変化による部材の伸縮を考慮して、伸縮調整部を設けるのがよい(通常 5~10m間隔程度)。伸縮調整部を設ける間隔及び伸縮調整幅は、使用する金属の膨張係数を考慮して決めるのが望ましい。
部材伸縮の目安(温度差40℃の場合)は、鋼は1m当たり0.5mm程度、アルミニウム合金は1m当たり1.0mm程度である。
伸縮調整部の例を図14.8.4に示す。
図14.8.4_伸縮調整部(壁付けの場合).jpeg
図14.8.4_伸縮調整部(一般の場合).jpeg
図14.8.4 伸縮調整部
(4) 手すりの小口は、安全性,美観等を考慮して、「標仕」では同材でふたをする ことにしているが、共色(ともいろ)の樹脂製キャップが用いられることもある。その場合は、取換えが可能な納まり及び形状とする。
(5) 手すり支柱はコンクリートあるいはモルタルの中に入る部分であっても、錆止めの処置を行うことが望ましい。
なお、モルタル充填に際して、こて押え等が不十分になりがちなため、充填を確実に行う。
取付け例を図14.8.5に示す。
図14.8.5_手すりの取付け(あと施工アンカー).jpeg図14.8.5_手すりの取付け(スリーブ抜き).jpeg
図14.8.5 手すりの取付け
14.8.3 タラップ
(a) 材料・仕上げ
(1) タラップに用いる金属材料は、通常鋼及びステンレスが用いられる。
(2) タラップに用いられる金属材料の表面処理の種別は、2節による。
(3) 塗装については18章による。
(b) 工 法
(1) 取付けに際して、ボルト及びナットを使用する場合は、手足に当らないように取り付ける。
(2) タラップを屋外に取り付ける場合は、関係者以外に使用できないようにし、特に、子供の使用による不測の事故を防止する対策が必要であり、一般的には最下段の踏子(足掛り)高さを床から2.0m程度とするのがよい。また、足掛り部は、スリップ止め加工とするのがよい。
なお、落下防止対策のための背もたれ付きのものもある。

15章 左官工事 1節一般事項

15章 左官工事
01節一般事項
15.1.1 適用範囲
この章は、塗装、仕上塗材仕上げ、壁紙張り等の各種仕上げ工事の下地となるモルタル塗り及びせっこうプラスター塗り、床コンクリートの仕上げ又は下地調整を行う床コンクリート直均し仕上げ及びセルフレベリング材塗り、建築用仕上塗材を用いる仕上塗材仕上げ、マスチック塗材を用いるマスチック塗材塗り、半乾式工法及び乾式工法によるロックウール吹付け等を対象としている。
15.1.2 基本要求品質
(a) 左官工事に使用する材料は、各種仕上材の下地となる場合とそれ自体が仕上げとなる場合があるが、下地の平たんさ、平滑さの確保や美装を施すだけでなく、長期にわたって建築物を保護するものとなる。このため、設計図書ではこれまでの実績に基づいて、必要な品質性能を有する材料としている。これらの材料のうち、JIS規格が定められているものは、一般的な材料と同様に扱えばよい。JISの定められていない材料のうち(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」により評価がなされたものは、この結果を活用するとよい。また、これら以外の材料で、主材料製造所の指定する製品にあっては、その指定によるものとする。
使用材料のうち、モルタル塗り等に使用する細骨材は、粒度等について「標仕」に具体的な数値が規定されているため、工事現場においてふるい分け試験により確認するとよい。
なお、防火材料として内壁下塗り用軽量モルタル、仕上塗材及びロックウールを用いる場合は建築基準法に基づき認定又は指定を受けた材料を使用しなければならない。
(b) 左官工事による仕上げ層は、躯体を外的な劣化要因から保護することによって建築物の耐久性を向上させることが重要な目的の一つであり、そのために「所定の塗厚」が確保されている必要がある。この左官工事による仕上げは、通常下塗り、中塗り、上塗りといった複数の塗り層によって構成されており、その各層ごとに所定の塗厚を確保できるようにする必要がある。具体的には「標仕」に規定されている各塗り層ごとの厚さをどのように確保するか、施工の許容誤差をどの程度とするかなどを含めて品質計画として提案させ、実施させることと考えればよい。
また、仕上り面が「所要の状態である」とは、各塗り層ごとにその上層となる材料との接着性を確保できる状態と考えればよく、最上層にあっては仕上りとして適切である状態と考えればよい。
なお、左官工事による塗り層の仕上り状態を適切なものとするためには、単にその塗り仕上げだけで実現できるものではなく、下地の仕上り精度から総合的に考慮する必要がある。
(c) 左官工事の施工に当たっては、塗付け層の表面状態が適切であり、各層ごとに浮き部分がないように補修を行っていけば、完成状態として仕上げ層に必要な接着性や耐久性は確保される。したがって、「標仕」15.1.2(c)でいう「有害な浮きがないこと」とは、下地の処理を含めて施工のプロセスをいかに管理するかを具体的に「品質計画」で提案させ、これを実施させることと考えればよい。
なお、屋外のタイル張りや届内吹抜け部分等のタイル下地の場合には「標仕」11.1.5によりタイルの打診による確認や接着力試験がモルタル下地を含めて行われることになる。この場合にあっては11.1.2を参照する。
また、同様な部位のモルタル塗りでは、「標仕」11.1.5に準じて打診等による「浮きのないことの確認方法」、「有害量の浮きの判断基準」、「浮きがあった場合の補修方法」等を品質計画として提案させ,これによって管理させるようにする。
15.1.3 見 本
色合、模様等の確認は、事前に設計担当者と打合せを行ったうえで、見本帳又は見本板を提出させて行う。この場合、取り合うほかの材料の見本を一緒に提出させて確認するとよい。
15.1.4 養 生
(a) モルタルは硬化後、各種材質に付着して取り除くことが困難であるだけでなく、アルミサッシに付着した場合等は、セメントのアルカリによってアルミが腐食するおそれがあるので、適切な養生を行う。
(b) 夏期における施工や風の強い場合等、モルタル塗付け後に急激な乾燥が起こると、硬化に必要な水分が失われてセメントが十分に水和せず、強度が発現しないので、適切な措置を講ずる。
(c) 気温が低い場合には、モルタルの硬化時間が長くなり、強度の発現も遅れるため、作業終了後、夜間の気温低下により凍害を受けるおそれがある。寒冷期の施工における注意点を次に示す。
(1) 寒冷期には、暖かい日を選んで施工するか、昼間の比較的気温の高い時期に施工し、早めに作業を切り上げる。塗付け後は適切な養生を行い、凍結防止に努める。
(2) 月間平均気温が5℃以下で、かつ、最低気温が2℃以下となる期間にやむを得ず施工する場合は、工事箇所の周辺を板囲い、帆布シート、ビニルシート等の防寒・防風設備で囲い、その内部をヒーター等の加熱器を用いて保温する。
なお、全国月別平均気温は参考資料の資料3を参照されたい。
(3) 熱源に灯油熱風器を用いる場合は、塗付けモルタルの品質、仕上材との付着性、仕上材の品質等に悪影響を及ぼすことがないような適切な対策を講ずる。
(4) 塗付け作業終了後も所要の硬化状態が確認されるまでは、適切な養生を継続する。
15.1.5 ひび割れ防止
(a) コンクリートの打継ぎ部、せっこうラスボード類の継目等は、熱冷や乾湿の繰返しにより伸縮するために、塗り付けたモルタルは、この部分でひび割れを生じやすく、「標仕」で示されているように適切なひび割れ防止対策を行うことが重要である。
(b) 下地が異なる材料の取合いとなる部分や躯体のひび割れ誘発目地部分は動きが大きく、「標仕」15.1.5 (a)で規定するひび割れ防止措置でもこれを防止することはできない。このため、「標仕」15.1.5(b)では、原則として、目地や見切り縁等を設けることにしている。

15章 左官工事 2節モルタル塗り

15章 左官工事
02節モルタル塗り
15.2.1 適用範囲
(a) セメントモルタル塗りは現場打ちコンクリート下地、コンクリートブロック下地等の内外壁及び床等の面に、セメント・細骨材・水を主成分とし、これに混和材料等を加えて作ったセメントモルタルを、主として次の部位に塗る工事を適用の対象とする。
(1) 鉄筋コンクリート造の内外壁,床等のモルタル仕上げ及びタイル張り下地
(2) ブロック、れんが積み下地の壁モルタル仕上げ
(3) ラスシート、ワイヤラス下地等のモルタル仕上げ
(b) 作業の流れを図15.2.1に示す。
図15.2.1_モルタル塗り工事の作業の流れ.jpg
図15.2.1 モルタル塗り工事の作業の流れ
(c) 施工計画書の記載事項は,おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
① 工程表(施工箇所別の着工及び完了の時期)
② 施工業者名及び作業の管理組織
③ 使用材料及び保管方法
④ 練混ぜ場所及び練混ぜ方法
⑤ 調合
⑥ 下地処置の工法(屋外、屋内、下地材の吸水の著しい箇所等の別)
⑦ 工法(施工箇所別)
⑧ モルタル仕上げの種類(施工箇所別)
⑨ 各工程の工程間隔時間(養生期間)及びその確認方法
⑩ ひび割れ防止の方法
⑪ 浮きの確認方法及び補修方法
⑫ 養生方法(夏期の直射日光、通風、寒冷、施工後)
⑬ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者.品質記録文書の書式とその管理方法等
(d) 「標仕」では、セメント、砂、細骨材、混和材料等を建築現場で調合して使用するモルタルを対象としている。しかし、近年においては良質な天然骨材の入手が困難な状況もあり、天然骨材の品質低下やモルタルの品質確保の観点から、あらかじめこれらの原料を工場で調合した既調合モルタルが普及してきている。
なお、既調合モルタルのうち、10mm程度以下の塗厚を前提としたものは、JIS A 6916(建築用下地調塗材)に品質が規定されているので、特記等により既調合モルタルが採用された場合は参考にするとよい。
15.2.2 材 料
(a) セメントは、作業性が良く、塗り上げた面が良好で、収縮の少ないものがよい(6.3.1(a)参照)。一般に左官用としては、普通ポルトランドセメントを用いる。モルタルとして骨材を多く配合すれば収縮は小さくなるが、作業をしやすくするため富配合で使用されることが多い。このため収縮が大きくなりひび割れを生じやすく、外部では吸水膨張、温度変化による膨張収縮等によってひび割れ、はく離等を生じやすい。したがって、骨材を多く配合し、作業性改善のための各種の混和材料を配合して用いることが望ましい。また、長期間の保存又は湿気等により風化し始めて塊りのあるようなセメントは、強度が発現せず、強度不足等の原因となるので使用してはならない。
(b) 細骨材
(1) 砂
(i) 左官に用いる砂の粒度は、コンクリートの場合と同様に、重要な役割をもっており作業性、仕上り、硬化後のひび割れ等に大きく影響する。
原則として、川砂を用いることが望ましいが、山砂を用いる場合は、泥分・有機物の含有量に注意し、粒度は表15.2.1に示すようなものであることが望ましい。
表15.2.1 砂の標準粒度
表15.2.1_砂の標準粒度.jpg
(ⅱ) 砂の泥分、有機不純物等については 6.3.1(b)を参照する。
(2) 内壁下塗り用軽量モルタル(サンドモルタル)の細骨材
(ⅰ) 内壁下塗り用軽量モルタルの細骨材には、セメント混和用軽量発泡骨材が用いられる。(-社)日本建築学会「JASS 15 左官工事」では左官用軽量発泡骨材と称されているものであるが、発泡粒状の軽量骨材、混和剤及び繊維があらかじめ工場で調合されており、建築現場でセメントと混合し、水を加えて使用される。
セメント混和用軽量発泡骨材には、一般に内部用、外部用と称するものがあり、スチレン樹脂発泡粒は内部用でその他の軽量骨材は外部用として使い分けられていた時期もあったが、外部用のスチレン樹脂発泡粒も十分な実績があることから、単純に軽量骨材の種類によって内部用と外部用とを区分することは困難とされている。
参考として、セメント混和用軽量発泡骨材の組成例を表15.2.2に示す。
表15.2.2 セメント混和用軽量発泡骨材の組成例
表15.2.2_セメント混和用軽量発砲骨材の組成例.jpg
(ⅱ) 内壁下塗り用軽量モルタル塗りの施工フロー図を図15.2.2に示す。
図15.2.2_内壁下塗り用軽量モルタル塗りの施工フロー図.jpg
図15.2.2 内壁下塗り用軽量モルタル塗りの施工フロー図
(iii) 内壁下塗り用軽量モルタルの適用に当って防火材料の指定がある場合は、国土交通大臣認定を受けた軽量モルタルを使用しなくてはならない。参考として、NPO法人湿式仕上技術センターが認定を受けている不燃材料の条件を表15.2.3に示す。
表15.2 3 軽量セメントモルタルの認定条件
表15.2.3_軽量セメントモルタルの認定条件.jpg
(iv) セメント混和用軽量発泡骨材を用いた軽量モルタルは、民間工事において外壁の下地調整にも使用されているが、公共工事での実績が不十分なことから「標仕」では適用外としている。ただし、JASS 15及び(-社)日本建築学会「JASS 19 陶磁器質タイル張り工事」では、特記により適用可とされており、日本建築学会品質基準 JASS 15 M-104(下地調整用軽量セメントモルタルの品質規準)にその品質が示されている。
なお、JASS 15 M-104は、日本建築仕上学会の外部用軽量モルタル性能評価委貝会で、平成6年度から9年度にわたって実施された研究の成果「外部用軽量モルタルの性能評価試験および品質基準(案)」並びに製造所の団体である日本建築仕上材工業会の団体規格「NSKS-009 セメント混和用軽量発泡骨材」を参考として、2007年のJASS 15改定に当たって新たに定められたものである。
セメント混和用軽量発泡骨材を用いた下地調整用モルタルは、通常のセメントモルタル(砂モルタルともいう。)に比べると、軽くて施工性が良いため広く普及している。容積吸水率はほぼ等しいかむしろ小さい傾向にある。また、コンクリートの圧縮ひずみに対する追従性が高い特性から、壁面の中で拘束がなく自由に伸縮する部位への適用が好ましいとされている。
しかし、内部用の骨材を外部に使用したり、製造所の指定する量のポリマーディスバージョンを混入しないで使用するなど、使用方法が間違っていると所要の性能が得られず、はく落の一因ともなるため、JASSでは仕様書に基づいて正しく使用することが前提とされている。
(c) 水は、水道水又はJIS A 5308(レディーミクストコンクリート)附属書C(規定)[レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水]による水の品質規定に適合するものを用いる。表15.2.4に水の品質規定を示す。
表15.2.4 上水道水以外の水の品質(JIS A 5308 : 2011)
表15.2.4_上水道水以外の水の品質(JISA5308).jpg
(d) 混和材料
(1) 「標仕」15.2.2(e)(1)に記載されている混和材は、「標仕」表15.2.3の上塗りに入れる混和材で内壁用の材料である。その混入量は一般的にセメントに対する容積比で左官用消石灰及びドロマイトプラスターの場合10%程度以下までとされている。ドロマイトプラスターは上塗り用を用いる。
(2) 混和材料を使用する主な目的は、次のとおりであるが、効果を上げるには調合等の管理が重要である。
(i) 作業性の改善
(ii) 性質の改良(ひび割れ、はく離等の防止)
(iii) 保水性の向上
(iv) 仕上り面の改善
(v) 使用水量の減少
(vi) 凍害の防止
(3) 寒冷時に施工する場合は、気象と養生条件を考慮し、混和剤を使用する必要がある。
(i) 使用水量を減少させるためには、AE剤、AE減水剤等を使用する。
(ii) 凍害の防止には、塩化物を含まない凍結防止剤等の使用を検討する。
安易に凍結防止剤を使用すると、モルタルの収縮が大きくなり、ひび割れや浮きの発生につながるので十分に注意する必要がある。
(4) 保水剤
(i) 保水剤は混和剤の一種で、モルタルの初期乾燥収縮によるひび割れの防止、接着力の安定化、作業性の向上を目的として使用されるもので、メチルセルロース(MC)等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール(PVA)等があるが、メチルセルロースが一般的に使用されている。図15.2.3に、保水剤入りモルタルの保水性の一例を示す。
図15.2.3_保水剤入りモルタルの保水性.jpg
図15.2.3 保水剤入りモルタルの保水性
(ii) 混入量は、一般的にセメント質量に対して0.1~0.15%程度で、夏期には 0.2%程度である。
(5) ポリマーセメントモルタル、ポリマーセメントペースト用の混和剤は、JIS A 6203(セメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂)の規格に適合するものを用いる。信頼できる試験成績書及び製造所の仕様を確認して承諾する。
JIS A 6203の抜粋を次に示す。
JIS A 6203 : 2008
3. 定 義
この規格で用いる主な用語の定義は、次による。
a) セメント混和用ポリマー
セメントモルタル及びコンクリートの改質を目的にそれらに混和して用いるセメント混和用ポリマーディスバージョン及び再乳化形粉末樹脂の総称。
b) ポリマーセメントモルタル
結合材にセメントとセメント混和用ポリマーを用いたモルタル。
c) ポリマーセメントコンクリート
結合材にセメントとセメント混和用ポリマーを用いたコンクリート。
d) ポリマーセメント比
ポリマーセメントモルタル及びコンクリートにおけるセメントに対するセメント混和用ポリマーディスパージョン及び再乳化形粉末樹脂の全固形分の質量比。
e) 全固形分
セメント混和用ポリマーディスパージョンにおいては不揮発分、セメント混和用再乳化形粉末樹脂においては揮発分以外の成分。
4. 種 類
セメント混和用ポリマーの種類は、その形態及び主な化学組成によって、次のように区分する。
a) セメント混和用ポリマーディスパージョン
セメント混利用ポリマーディスパージョン(以下、ディスパージョンという。)は、水の中にポリマーの微粒子が分散している系。次の2種類に区分する。
1) セメント混和用ゴムラテックス
セメント混和用ゴムラテックスは、合成ゴム系、天然ゴム系、ゴムアスファルト系などのゴムラテックスに安定剤、消泡剤などを加えて、よく分散させ均質にしたもの。以下、ゴムラテックスという。
2) セメント混和用樹脂エマルション
セメント混和用樹脂エマルションは、エチレン酢酸ビニル系、アクリル酸エステル系、樹脂アスファルト系などの樹脂エマルションに安定剤、消泡剤などを加えて、よく分散させ均質にしたもの。以下、樹脂エマルションという。
b) セメント混和用再乳化形粉末樹脂
セメント混利用再乳化形粉末樹脂(以下、粉末樹脂という。)は、ゴムラテックス及び樹脂エマルションに安定剤などを加えたものを乾燥して得られる、再乳化可能な粉末状樹脂。
5. 品 質
ディスパージョン及び粉末樹脂の品質は、表1による。
表1 品 質
表1_品質.jpg
JIS A 6203 : 2008
(6) 内壁下塗り用軽量モルタル及び既調合モルタルに用いる混和剤は、製造所の指定するものを用いることとし、品質及び仕様を確認して承諾する。
(7) 顔料は、耐アルカリ性のある無機質のものを主材料とし、太陽の直射や100℃程度の温度にあっても著しく変色せず、金物を錆びさせないものでなければならない。顔料は、無機顔料と有機顔料に分類され、無機顔料は発色成分が無機質で、一般に熱・光・アルカリ等に対して化学的に安定であり、隠ぺい力(下地や骨材の色を見えなくする能力)が大きいが、その色調は有機顔料に比べれば鮮明でない。有機顔料は色調が鮮明で着色力も大きいが、熱や光に対して耐久性がないものが多く、色あせしやすい。一般的に無機顔料が望ましいが、色によっては有機顔料を使わなければならない場合もあるので、製品の性能を確認のうえ選定する必要がある。
セメント、プラスター等の着色に使用できる顔料を表15.2.5に示す。
表15.2.5 使用できる顔料とその発色成分
表15.2.5_使用できる顔料とその発色成分.jpg
(e) 吸水調整材
(1) 吸水調整材とは、モルタル塗りの下地となるコンクリート面等に直接塗布することで下地とモルタル界面に非常に薄い膜を形成して、モルタル中の水分の下地への吸水(ドライアウト)による付着力の低下を防ぐものである。
従来は、モルタル接着増強剤、あるいはモルタル接着剤と呼ばれていたため、たくさん塗れば付着力が増大するという誤った使い方をされていた。これは、塗り過ぎることにより下地とモルタルの界面の膜が厚くなり、塗り付けたモルタルがずれやすくなりモルタルの付着力を低下するおそれがある。
(2) 吸水調整材は、「標仕」表15.2.2の品質に適合するものを用いる。信頼できる試験の試験成績書及び製造所の仕様を確認して承諾する。
なお、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)において、「標仕」の規定に基づき吸水調整材の評価基準を定め、評価を行っているので参考にするとよい。
(f) 下地調整塗材
(1) 下地調整塗材とは、壁タイル接着剤張りの求める下地精度を確保するため、躯体コンクリートの不陸の調整に用いるものである。
(2) 下地調整塗材は、JIS A 6916(建築用下地調整塗材)によるセメント系下地調整厚塗材2種(下地調整材CM-2)の規格適合品を用いることとし、製造所の仕様を確認して総塗厚10~15mm程度を2回に分けて塗り付けることができるものを用いる。
JIS A 6916の抜粋を次に示す。
JIS A 6916: 2006
4. 種類及び呼び名
下地調整塗材の種類及び呼び名は、表1による
表1 種類及び呼び名
表1_種類及び呼び名.jpg
5. 品 質
下地調整塗材の品質は、7.によって試験し、表2の規定に適合しなければならない。(7.は省略)
表2 品 質
表2_品質.jpg
15.2.3 調合及び塗厚
(a) ポリマーセメントモルタルは、一般的に、内・外壁の下塗りに用いられる。混和剤(セメント混和用ポリマー)の混入量は、安定した接着性が得られるように、セメント質量の5%(全固形分換算)程度とする。ポリマーセメントモルタルの調合例を表15.2.6に示す。
表15.2.6 ポリマーセメントモルタルの調合例
表15.2.6_ポリマーセメントモルタルの調合例.jpg
(b) 平成2年建設省の「外壁タイル等落下物対策専門委貝会」で、外壁の診断及びタイル張り・モルタル仕上げ工法の問題点を洗い出すとともに、正しい診断方法やはく落事故の生じにくい適正な施工方法についての検討がなされた。1回のモルタル塗厚及び全塗厚についても「タイル外壁およびモルタル塗り外壁の剥落防止のための設計・施工上の留意事項」の中に規定されており「標仕」ではこの値を採用している。
塗厚が厚くなると、こて押えが効かなくなり、壁でははく落、ひび割れ等の発生の危険性が大きくなるので、通常床を除き1回の塗厚は、原則として7mm以下としている。
1回ごとの塗付け層の表面形状は、次に塗る材料の種類によって平滑さの要求度合が異なる。一般に、粗面度が大きいほど接着性が向上することから、平滑さの要求度合に応じて、できるだけ粗面になるような表面形状にするのがよい。
(c) 仕上げ厚又は全塗厚は、あまり厚くするとはく離するおそれがあるので、床を除き 25mm以下としている。
(d) 内壁下塗り用軽量セメントモルタル(サンドモルタル)の調合はセメント混和用軽量発泡骨材の製造所の仕様によるが、一般的な調合例と標準塗厚を表15.2.7に示す。
表15.2.7 軽量セメントモルタルの調合例・標準塗厚
表15.2.7_軽量セメントモルタルの調合例・標準塗厚.jpg
内壁下塗り用軽量セメントモルタル塗りは、こて圧が十分にかかり、ポリマーセメントののろが接着界面に十分に回り接着性を確保し、表面がくし目を引く代わりに、凹凸状になるように、標準塗厚を 5mmとしているので注意する必要がある。
なお、普通モルタルの下塗りでは金ぐし類で荒らし目をつけるが、軽量モルタルの場合は荒らし目をつけないので注意する。
(e) モルタルの練混ぜは、機械練りを原則とし、所要量のセメント・砂をミキサーで空練りし、これに無機質系の粉末混和材料等計量したものを加え空練りし、水を加えて均ーなモルタルとする。液状の混和材は、あらかじめ所要量を水で希釈して用いる。
(f) 水を加え練り混ぜたモルタルは、気温・水温及び混和材料の種類により凝結時間が異なるが、品質確保のため練混ぜ量は60分以内に使い切れる量とする。
(g) 建具枠回り、ガラスブロックの金属枠回りの充填モルタルに用いる防水剤、凍結防止剤は、塩化カルシウム系等のように金属の腐食を促進するものでないものを用いる。雨掛りの部分の防水性能を付与するために使用するものであり、成分、性能、実績等を考慮して検討する。凍結防止剤を使用すると、モルタルの収縮が大きくなり、ひび割れや浮きを生じやすくなるので十分に注意する必要がある。やむを得ず凍結防止剤を使用する場合は、防水剤を練り水に加えてモルタルを十分に固練りしたのちに、凍結防止剤を添加して再度混練りし、充填モルタルとする。
15.2.4 下地処理
(a) 補修をポリマーセメントペースト又はポリマーセメントモルタルで行う場合には、ポリマーの種類によって混入量、可使時間が異なるので、工事監理に当たっては製造所の工事仕様や施工容量書を確認しておくことが肝要である。
(b) 塗り面の下地コンクリートからの浮きの原因のうち、下地に関する原因には次のようなものがあるが、(1)及び(2)は、モルタル塗りを行う前に下地の清掃を行うことにより十分防止可能なものであるので、デッキブラシ等を用いて十分水を掛けながら洗い落とす。屋内のように十分な水洗いができない場合には、水湿しのうえデッキブラシ等を用いて清掃する方法も検討する。
(1) 下地表層の強度不足による表層破壊(硬化不良、レイタンス等)
(2) 下地の清掃不足による接着不良
(3) 下地面への吸水によるモルタルの硬化不良
(4) 施工時の養生不足による硬化不良(直射日光等による急速な乾燥、寒冷期の保湿、加熱等の不良)
(5) モルタルの塗厚の過大による収縮
(6) 長期にわたる下地の変形(躯体膨張、収縮、ひび割れ)
(c) 「標仕」では、目荒し工法として、高圧水洗処理を採用している。
(1) 高圧水洗処理は、一般には高圧水洗浄や超高圧水洗浄と呼ばれ、コンクリートの強度に応じて、用いられる水圧が異なる(図15.2.4参照)。Fc = 100N/mm2を超える高強度コンクリートには、100~200Mpsの水圧が用いられている。
(2) 高圧水洗処理は、接着性の阻害要因を除去するとともに、コンクリート表面を粗面化してモルタルの接着面積を増加したり、投びょう効果を向上させたりすることが期待できる。(-社)建築研究新興協会の研究によって、コンクリート表面を高圧水で洗浄及び目荒しした場合の処理程度やコンクリートとモルタルとの接着性改善に関する定量的な成果が得られている。これらの研究成果を活用して、全国ビルリフォーム工事業協同組合では、高圧水洗によるコンクリート面の処理限度見本(図15.2.5参照)を作製したり、作業員の資格者制度を設けたりしている。また、高圧水の取扱いは危険を伴うため、安全な作業をするには上記のような有資格者を活用することが望ましい。
(3) 高圧水洗処理では、ノズルの形状等の違いにより目荒しの程度にばらつきがでること、コンクリート強度により用いる水圧が異なることから、必ず試験施工を行わせて目荒しの限度見本を作製させ、それを承諾したうえで、実施工を行わせることが、品質管理上重要である。
  図15.2.4_高圧水洗処理による目荒し後のコンクリート表面状態(イ).jpg
  図15.2.4_高圧水洗処理による目荒し後のコンクリート表面状態(ロ).jpg
  図15.2.4_高圧水洗処理による目荒し後のコンクリート表面状態(ハ).jpg
図15.2.4 高圧水洗処理による目荒し後のコンクリート表面状態(JASS 19より)
図15.2.5_コンクリート表面の処理限度見本(合板型枠).jpg
図15.2.5_コンクリート表面の処理限度見本(表面処理合板型枠).jpg
図15.2.5_コンクリート表面の処理限度見本(鋼板型枠).jpg
     ①下限見本              ②上限見本
図15.2.5 コンクリート表面の処理限度見本
(d) コンクリート床面の場合、コンクリート打込み後なるべく早い時期に仕上げ工事を行うことが望ましいが、一般的には木工事、壁等の工程上の都合から長期間放置することが多い。モルタルの浮きを防止するために、粉塵等十分に清掃し、水洗いのうえ、ポリマーセメントペースト又は吸水調整材を塗布し、モルタル塗りを行う。
清掃が不十分な場合、ポリマーセメントペースト又は吸水調整材を塗布しても、モルタルの浮きの防止に効果がないので注意が必要である。
(e) 総塗厚が25mm以上になる場合は、ステンレス製アンカーピンを打ち込み、ステンレス製ラスを張るか、溶接金網、ネット等を取り付け、安全性を確保したうえでモルタルを塗り付ける。はく落防止工法の例を図15.2.6に示す。
最近、既存建築物の外壁改修工事において、ピンとネットを複合して用い、仕上げ層のはく落に対する安全性を確保できる改修構工法が数多く実施されている。
建設省では、平成7年度建設技術評価制度公募課題「外壁複合改修構工法の開発」で外壁複合改修構工法の評価を実施した。評価された工法の中には改修工事だけでなく、安全性を確保する工法として、新築工事に利用できる工法もあるので参考にするとよい。
図15.2.6_はく落防止工法の例(イ).jpg
        図15.2.6_はく落防止工法の例(ロ).jpg
     図15.2.6 はく落防止工法の例
(f) 塗装合板、金属製型枠を用いたコンクリート下地は、平滑過ぎるため、モルタルとの有効な付着性能が得られにくいのでポリマーセメントペースト又は吸水調整材を塗布し、モルタル塗りを行う。
15.2.5工 法
(a) 下塗り前の注意事項
(1) 吸水調整材使用時の注意事項
(i) 吸水調整材は、製造所の指定する希釈倍率及び塗布量を厳守して使用する。
(ii) 吸水調整材塗布後、下塗りまでの間隔時間は施工時の気象条件によって異なるが、一般的には1時間以上とする。長時間放置するとほこり等が付着し、接着を阻害することがあるので、1日程度で下塗りをすることが望ましい。
(2) ポリマーセメントペースト使用時の注意事項
(i) ポリマーセメントペーストは、一度乾くとはく離しやすくなるので、塗ったのち直ちに下塗りモルタルを塗る必要がある。
(ii) ポリマーセメントペーストの塗厚が厚いことは好ましくない。一般的には1mm程度とされている。
(iii) ポリマーセメントペーストに保水剤を混入すると、保水性、作業性が向上する。混入量は15.2.2 (d)(4)を参考にし、粉体の保水剤を使用する場合は十分に空練りして用いる。
(b) 内壁下塗り用軽量セメントモルタル(サンドモルタル)施工の注意事項
(1) セメント混和用軽量発泡骨材製造所指定の吸水調整材を指定の仕様で全面塗ることを標準とする。
(2) 特に、内壁下塗り用軽量セメントモルタル施工後は、硬化乾燥状態に注意し、原則として施工日又は翌日に散水養生を行う。
(c) タイル張り下地モルタル等の均しモルタル施工の注意事項
(1) 下地調整塗材は、材料の組合せ及び吸水調整材の製造所の仕様を、確認して使用する。
(2) 有機系接着剤張りでは、金ごて1回押えとし、梨目程度の仕上りとすることが望ましい。
(3) 近年、タイルのはく離は、下地モルタルとコンクリート下地の間のはく離が多いため、平成25年版「標仕」ではモルタルの硬化後、全面にわたり打診を行うこととされている。モルタル工事完了後に接着力試験を行う場合は特記されるが、この場合はあらかじめ接着力試験を想定した施工計画を行う。
(d) 下塗りモルタル施工後の注意事項
下塗りモルタル施工後は、硬化乾燥状態により、原則として施工日又は翌日に水湿しを行い下塗りモルタルを十分に硬化させる。
(e) 既製目地材
目地は、モルタルの収縮によるひび割れ、部分的なはく離及び外壁では雨水の浸透による湿潤・乾燥の繰返し、温度変化に伴う膨張収縮等によるひび割れ防止.異種下地の接合部のひび割れ防止のために設けるものであるが、既製目地材はその形状等から意匠的に用いられるもので、ひび割れ防止を目的としたものではない。

15章 左官工事 3節 床コンクリート直均し仕上げ

15章 左官工事
03節 床コンクリート直均し仕上げ
15.3.1 適用範囲
(a) 床コンクリート直均し仕上げの適用の対象となるものは、次のように直均し仕上げのまま使用される場合と、張物・敷物等の下地がある。
なお、直均しのまま使用される工場・倉庫等の耐摩耗性を要求される床では、表面仕上げ材を散布して仕上げることもあり、「モノリシック仕上げ」とも呼ばれている。
(1) 一般室内床の張物・敷物等の下地
(2) 工場、倉庫、駐車場、建物外構等で耐摩耗性・ノンスリップ効果を要求される床仕上げ
(b) 「標仕」では、木ごて等によるタンピング仕上げまでを「標仕」6.6.6で規定し、木ごてによる中むら取り以降の工程について、この節で規定している。
15.3.2 床面の仕上り
仕上げの精度としては、一般室内床の場合で張物等の下地となるときも仕上げの精度が、そのまま張物仕上げ面に表れるので注意を要する。合成高分子系ルーフィングシート防水・塗膜防水の露出工法の場合も防水層の厚さが 1~2mm程度であるため、下地の精度がそのまま仕上げ面に表れ、防水層の耐久性にも影響する。したがって、仕上げの程度については、それぞれ要求される精度が異なるので各部分の使用目的、用途等を十分に考えて仕上げを行う。
床コンクリート直均し仕上げの程度として、「標仕」表6.2.5では床コンクリート直均し仕上げの程度として平たんさの程度を 3mにつき 7mm以下としている。
なお、平たんさの測定方法については、(-社)日本建築学会「JASS 5 鉄筋コンクリート工事」に、日本建築学会規格としてJASS 5 T-604(コンクリートの仕上がりの平たんさの試験方法)が定められているので、参考にするとよい。
また、床の材料・施工に関連する団体、研究者、技術者等で構成される日本床施工技術研究協議会では、コンクリート床下地表面の凹凸や不陸の簡易測定方法を団体規格「コンクリート床下地表層部の諸品質の測定方法、グレード」(2006年4月)に定めているので、併せて参考にするとよい。
15.3.3 工 法
(a) コンクリートを打ち込む前に、床仕上げに必要な造り方定規やレーザーレベルの設置を行う。仕上げ精度が要求される場合にはガイドレール(鉄骨鉄筋コンクリートの場合はピアノ線等を張ることもある。)等を3.5~4.0m間隔に設置し、基準となる造り方定規は鉄骨その他狂いの生じない箇所に設け、常に点検して正確に水平又は所要の勾配を保持するようにする。
(b) コンクリート打込み後、所定の高さに荒均しを行い、タンパ等で粗骨材が表面より沈むまでタンピングし同時に造り方定規にならい、定規ずりして平たんに敷き均す。
ガイドレール等の造り方定規は、定規均し後取り外し、その跡はコンクリートを充填し、木ごてで平らに均す。
壁や柱際等で均し定規等を使用できない部分は、特に不陸の生じないよう、十分に木ごて等でタンピングして平たんに均す。
定規均しをむらなく行ったのち、中むら取りを木ごてを用いて行う。
木ごてずりは、コンクリート面を指で押しても少ししか入らない程度になった時機に行う。
(c) 金ごて仕上げの初回は跨板の上に乗ってもほとんど沈まなくなったときに行い、セメントペースト類を十分に表面に浮き出させる。屋内の作業や多湿又はブリーデイングが多い場合、中ずりを木ごてで行うとよい。
金ごて中ずりは、こてむらと凹凸をなくして、表面が十分に平滑になるように行う。この場合、表面にペーストがあまり浮き出るほどこそをかけ過ぎてはならない。
(d) 金ごて仕上げの最終回は、コンクリートの硬さがとそのかかる最終段階の時機に、締まり具合を見ながら適切な力で押さえる。この最終の押さえは、コンクリートの調合、気温、スラブ厚さ等により、その時機の判断が難しく、真夜中になることもあるのでおろそかにならないように注意する。
(e) 粗面仕上げとする場合は(c)の工程ののち定規を当てがいデッキブラシ等で目通りよく粗面に仕上げる。
(f) こて仕上げに際しては移動歩み板等を使用し、直接コンクリート面上を歩行してはならない。
(g) 金ごて仕上げの段階で、コンクリートが締まり過ぎ、不陸・こてむらがとれなくなったりしたとき、セメントや水等を表面に散布したりすると、耐摩耗性がなくなったり、その部分がはく離するなどの支障を来す。部分的にモルタルを散布して押さえたときもタイミングが悪いとはく離し、モルタルの乾燥収縮等の影響によるひび割れ・はく離等の故照が生じやすいので注意する。
(h) 最近、機械ごて(トロウェル)が使用されることが多いが、夏季にスラブ硬化の速度が急激で人力では仕上げ作業が間に合わない場合や仕上げ作業の省力化目的で使用されている。しかし、比較的差し筋の多いスラブ、小さな間口部やだめ穴が多いスラブ等には、機械ごてを使用できない場合もある。
(i) 最終金ごて押えに機械ごてを用いる場合、押え過ぎに注意する。機械ごてを何度も強くかけ過ぎると故障が生じやすい。また、機械ごてを用いても、必ず最終仕上げは金ごてで行う。
15.3.4 養 生
表面仕上げ後はコンクリートが急激に乾燥しないように適切な養生を行う。一般には金ごて仕上げのまま、張物下地等では最終こて押え後、12時間程度を経てから 2~3日間散水養生を行い、また、ポリエチレンシート等を敷き詰めるか、砂・おがくず等を敷き詰める。このようにしておけば上階のコンクリートのこぼれ、セメントペースト等も付着しにくくなる。防水下地等では散水養生を3日間以上続ける。特に夏期等急激な乾燥のないように注意する。