実践11 仕上工事4 石工事

1級建築施工管理技士 実践11 仕上工事4 石工事 大理石・花崗岩

建築施工管理者にとっては、石工事の正しい施工法を見つける事はとても重要なことである。
建築材料としての石材は、金属とともに最高級の仕上げ材である。
しかも、石材は天然材なので、それぞれ性質が異なるために、材料の性質を知った上で取り扱う必要がある。
また、仕上げ方法や取付け工法も多種にわたっている。
最近では、壁は乾式工法が主流であるが、湿式工法もいまだに使われることが多く、床石はパサモル張りが主流である。

以下、石工事の施工管理のポイントを書き出す。

割付け図・施工図を作成しロスを低減する

大理石や花崗岩は、建築の仕上げ材の中では最も高価な材料である。
しかも、国外から輸入することが多く、製作・輸送期間も長いことから、追加発注が発生しないように充分注意しなければならない。
なぜなら、一度でも追加発注が発生してしまうと、海外からの運賃で高額な費用負担になるとともに、数カ月かかるので、完成の期日が遅れてしまう場合もあるためである。
石工事の施工で、一番大切なのは割付け図・施工図である。
割付け図を書く目的は、材料を正確に把握し、数量を積算し、カッティングリストを作成することにある。
もちろん発注前には設計者の承認を取得することが前提になる。
設計者は、石の割付け図・施工図にことさらこだわりを持つので、何度か修正や変更が発生する。
従って、製作期間・輸送期間と長期にわたっての調達になるので、十分な時間の余裕を持って割付け図と施工図の作成を開始しなければならない。
通常は、製作に2〜3カ月、輸送に0.5〜1ヵ月を要する場合が多い。
石を外国に直接発注する場合は、割付け図を作成する必要がある。
標準の石の大きさは、600 × 600 × 20mm、
300 × 300 × 12〜15mmなどのサイズが多い。
その場合は材料ロスが最小限になるように、割付を工夫する。
近年、現場内の分業化が進んで、現場マンが石の施工図作成に全くかかわらない場合が増えている。
石の施工店に作成させ、施工図係に調整を一任しているケースがある。これでは、納得できる細部の納まり管理、石の加工ミスの防止、無駄のない工程管理が到底できない。
施工管理者としては、施工図作成段階から関わって、品質・工程・原価管理のリーダーシップをとっていくべきである。

色合いと模様合せ

大理石や花崗岩の工事の中で、もっとも尊重されるのは、色合いと模様合わせである。
“ブックマッチ”と呼ばれているが、本を開いた時のように左側と右側、上と下の模様が連続する合わせ方がブックマッチである。
もっとも難しい工法のひとつである。
最近の主流は、既製品の小さめの石を壁や床に張る方法であるが、その場合は色合いと模様はあえて合わせないで、シャッフルして使用するようにほうがよい。
欠けや割れについては工場で選別してから梱包して運び込む方法が一般的である。
仕様の厳しい海外工事等の場合では、あらかじめ工場で色調統一を行うための選別を行うことがあるが、特別仕様である。
工場での一次選別では不揃いなものが混ざることがあるので、現場で二次選別を行う。
その場合は、工場から届いた材料を開封後、現場の空きスペースで敷き並べて不、不揃いなものを取り替えてから張る方法がとられる。
それらを行うか否かは、設計者や管理者との調整を行って判断することになる。
世界には多種多様な石材がある。
それらはきちんと施工管理することで、天然の素晴らしい色調を現すので、建築施工管理者の力量が表れる工事のひとつである。

外壁の石張りと留意点

建物の外壁に石張りする場合は、さらに注意が必要である。
張り石表面の汚染、目地部の割れ、張り石の浮き・剥離・張り石の裏面の湿気からくる濡れ色、目地部からの白華、コーキングの剥がれなどの故障例がある。
材料選定に関して、外壁には吸水率の高い大理石や砂岩の使用は控える。
花崗岩の中でも吸水率の高い材料は、故障が多いので避けるべきである。
施工法は、最近では乾式工法が一般的になっている。
30mm厚さの花崗岩もしくは大理石を直接ステンレス製のブラケットで支えて、ダボピンで、1枚ごとに固定していく方法で、ヨーロッパ発祥の工法である。
乾式工法は多くの品質問題を解決してくれる工法なので、コスト的には高価だが急速に普及した。
日本は地震が多く、温度差も大きいので、乾式工法の目地は、動きの許容できる変性シリコンが使われている。
目地はエキスパンションジョイントのシール材の中には、揮発性故に石を汚染するものもあるので、プライマとシール材の選定は注意深く行う必要がある。
1990年代初めに考案され、現在の主流になっているのは、層間変位吸収型の金物で、ルーズ穴によりスエイする方式のものである。
形状が簡素化され部品数が削減されているために、作業能率が上がり、コストも抑えられてきている。

石の汚れに対する対策と養生の励行

石工事は、取付けが終わっても、工事の終わりにはならない。
その後の汚れや傷を防ぐための養生が重要である。
例えば、吸殻が雨に打たれると、そのアクでせっかくきれいに張った床石などを汚してしまうことになる。
それらは、いちど石材に入り込んでしまうと取り除くのは困難である。コーヒーなども同様に、シミが取れないので気を付ける必要がある。
天然の石は、顕微鏡で見ると微細な巣だらけである。産地は生成の起源によって、それぞれ異なる性質がある。火山の噴火によってできる花崗岩などは、産地によって吸水率に大きな差が見られる。
白い大理石のビヤンジカララなども、浴室に使用されることが多いが、骨材は使用された水によっては、数ヶ月後に黄変し、取り替えざるを得なくなくような事故例の報告もある。
天然の材料は、常に施工のリスクを抱えているので、その材料の今までの事故例を十分調査して対応することが大切である。
最近では、石の表面に塗布するフッ素シラン系塗布剤が使用されるようになってきた。
> フッ素シラン系塗布剤

アクアシール

花崗岩や大理石の表面に塗布含浸させ、毛細管現象を抑えるメカニズムで、今まで問題だった裏面からのアクや、湿気やアルカリなどの吸上げを完全に防止できる効果がある。
また、防滑処理のためのフッ化水素系の塗布剤も使用され始めた、
床仕上げに使用されている本磨きの花崗岩は、人の動線にあたる部分の転倒防止の措置が必要で、そういった部分に処置を施すものである。
いずれにしても、石工事はできるだけ工事の終盤に行うように計画するが、それでも工事が完了するまでに、汚れたり傷ついたりする危険があるので、十分に養生することが必要である。

実践12 仕上工事5 タイル工事

1級建築施工管理技士 実践12 仕上工事5 タイル工事

日本ほどタイルの施工法や材料の改善について研究されている国はない。

タイルは建築の仕上材としては3000年の歴史をもっている。ローマ時代の遺跡でも多く発掘されていおり、エジプトにおいては4500年の歴史がある。
建築材料としてのタイルは、デザイン性・耐熱性・耐久性などたくさんの優れた素晴らしい特性をもつ。
日本の建築材料としての歴史は、明治の後半から銭湯に使われて、昭和に入ってからは建築物の外壁へと拡大した。米国のフランク・ロイド・ライトの設計した旧帝国ホテルのスクラッチタイルが流行のきっかけにもなった。
しかし、日本は寒暖の差が激しく、湿気も多い。
特に外壁に使用したものには、過去、剥離やエフロなどの問題が多数発生した。
近年、モザイクタイルと45二掛けモザイクタイルの普及が著しく、メーカーや施工店、ゼネコンの努力により、材料・専用の接着剤や施工法の改善が急速に進んだ。
タイルの弱点である剥離・剥落、白華などの問題点が解決し、施工能率の向上、熟連工不足などの対策も進んだ。

タイルの種類と工法選択

日本では建物の外装にタイルが選ばれることが多い。落ち着いた焼き物タイル色が街並みに適応し、景観が長期間変わらないなど、優れた建築材料である。
一方、タイル工法はいく種類もあるので、タイルの形状によって、また建物の規模と構造によって、最適な工法を選定する必要がある。
中規模の事務所ビルの場合、もし建物の構造がRC造もしくはSRC造であれば、一般的に躯体工事が終わってから、後張り工法を選ぶ事が多いが、その場合は剥離・剥落、白華現象、施工の張りムラである平滑度不足のリスクが発生する。
もし構造体がS造であるならば、迷わずPCa板にして、工場でタイルを打ち込んでくる方が故障は少なく、平滑度も格段に向上する。
SRC造の場合、外壁をハーフPCa板にして、工場でタイルを打ち込む工法の選択もある。そうすれば、剥離・剥落リスクは解決でき、工期の短縮、よって工費の節約もできる。
タイルの種類によっても工法が変わってくる。モザイクタイルや45二丁掛けタイル、小口タイル、二丁掛けタイルの場合は、現場での”後張り”でも、工場での”打込み”でも、両方が可能である。
しかし、大きな四丁掛けタイルになると、打込みはできないので、専門家の指導のもとでの後張りもしくは乾式工法が望ましい。
また、タイルの吸水率と不具合の発生は因果関係が深い。吸水率が5%以上のものは外部に使用することができない。
湿気などで白華や白粉問題のリスクが高まる。
逆に吸水率が1%以下の磁器タイルなどで、タイルに裏足がないと、モルタルとのなじみが薄く、剥離を引き起こしやすい。

45二丁掛けの正しい張り方と点検

最近のビルやマンションの外壁タイルは、45二丁掛けタイルが普及し、バブル崩壊まで主流であった小口タイルや二丁掛けタイルは激減している。
厳しいコスト競争で、モザイクや45二丁掛けタイルに移行してきている。
また、それまでは必須であったモルタルによるタイル下地造りも変化し、最近ではコンクリート躯体への直張り工法が主流になってきている。
高圧洗浄工法の普及で剥離・剥落のリスクが減少したことや、コンクリートの平滑性技術が高まったこと、及びコストの低減がその背景にある。
しかし、コンクリート躯体に45二丁掛けタイルを直張りするには、コンクリート型枠の制度確保はもちろん、コンクリート表面の埃は汚れを高圧洗浄などで十分除去し、不陸を調整するなどの下地処理を完全にしておく必要がある。
下地処理が十分行われない場合は、仕上がりの不陸問題、剥離・剥落などの品質問題に発展する。
45二丁掛けタイルは通常、圧着張りを行う。
張り代に4~5mm程度のモルタルを塗布し、2mm程度になるまで木辺で叩き込むのが一般的である。
目地材料は専用の目地材を使用し、スポンジのふき取り仕上げを行う。タイルの裏や目地の空隙ができないように管理する。
空隙は白華現象を発生させる。
そのほかのタイル、小口タイルや二丁掛けタイルの場合は、改良圧着工法が望ましい。その場合はコンクリートの表面を洗浄し、モルタル下地を作る。タイルの張り代はタイル厚さのほかに5~6mm控えて専用のビブラートで振動を与えて張り付ける。
タイル裏面にもモルタルを塗りつけておいて、付着性を高める。
タイルには裏足のある材料を選び、タイル面と下地の面の両方にモルタルを塗ってから張り付ける。そして、ビブラート器具で振動を与えて、接着力を高める方法である。この方法は、タイルの不陸が出やすいので、平滑度を確保するための字熟練を必要とする。
張付け材料は一般的にはモルタルノロが多い。タイルメーカーによっては、専用接着剤などの開発を行っている。そのほかに、混和剤などで張り付ける範囲によって、効果時間を調整できるものも使用している。
どの組み合わせがもっともふさわしいかはケースごとに異なるので、最終的には引張り試験やモックアップによる平滑度確認などのプロセスを踏んで決定するのが望ましい。
タイルの付着確認には引張り試験を行う。付着強度は0.4PS/mm2以上を狙うが、高圧清浄により0.8PS/mm2以上が確保できる。

タイル張り施工図と納まり

建築施工管理者の重要な役割にタイル割り施工図の作成がある。その目的は、バランスのとれた美しいタイル割付けが目的であるが、そのほかに
1.平物や役物などの数量算出と材料の発注、
2.タイルの割付けに沿ったサッシュなどの
取付け位置の確定
3.エキスパンションジョイントや笠木や
コーナー役物などの納まりの確定
などである。
タイル割付け図がない場合、タイル工が現場で適当に割り出すので、不揃いは切りものが不自然に発生したり、目地幅が均等でなかったり、また不陸により張りムラが発生したりするなど、せっかくのタイルのよさが生かされないの、避けるべきである。
そのほかに、建築施工管理者として気を配ることに、工程計画がある。タイル工の仕事が一定期間連続するように、計画と準備が望まれる。
タイル工もまとまってできる環境があれば、仕事の能率も上がり、施工手順も守られて、結果的にいい仕事につながる。
近年、十分な建築施工管理者を配置できない場合や分業化で、タイル施工図も専門家に任せる場合が増えているが、建築施工管理者としては、施工図のチェックや工程計画の立案ができるように経験と知識を備えてく必要がある。

実践13 仕上工事6 防水工事1

1級建築施工管理技士 実践13 仕上工事6 防水工事1

建築施工管理者にとって屋根防水工事はもっとも重点管理するべきものの項目のひとつである。

日本においては、RC造、SRC造、S造、その他ほとんどすべての建物に、雨水の侵入防止と、建物自体の耐久性向上のために、屋上に防水が施されている。
屋上のコンクリート躯体そのものには全く防水性能は期待できない。その理由は以下による。

・コンクリートそのものは、水和反応により硬化し、収縮するので、その表面には微細な収縮亀裂が発生する。
・立ち上がり部等の打継ぎ部分にごくわずかな水の道ができる。
などである。
通常、屋上防水にはアスファルト防水工法を採用するが、その他、シート防水、塗膜防水などの採用できる場合もある。
材料や工法は進歩してはきているが、漏水問題も後は立たないので、建築施工管理者にとっては、品質管理上、最も重要な工事である。

アスファルト防水は下地づくりからはじまる

日本では、屋上の防水工法と言えばアスファルト防水工法である。今でもアスファルト防水工法は信頼性がもっとも高く、経済的な工法である。
しかし、アスファルト防水工法の欠点は、釜焚きの煙や臭いが近隣に迷惑をかけるので、その都度事前に最寄りの消防へ連絡を入れる必要がある。
そこで、最近では改質アスファルト工法が採用されるケースも増えてきている。
アスファルトに合成ゴム系の材料を混ぜて、低温時の柔軟性を増して施工性を改善したものである。
シート状にしたものをバーナであぶり、溶かしながら下地に張り付けていく工法や、粘着層付きのルーフィングを使用する方法、両方の混合方法などがある。
アスファルト防水工法も改質アスファルト防水工法も、”下地づくり”が命である。
屋上は夏場には強い日差しを受け、冬場には外気や積雪などで冷やされるといった過酷な状況下にあるため、防水材と押えコンクリートは、一年中伸縮を繰り返すことになり、表面の温度差は40〜60℃若しくはそれ以上にもなり得る。
そのような厳しい環境下で、保証期間の10年はもちろん、それ以上の長期期間にわたって性能を維持することは困難な問題である。
管理のポイントは下地づくりと押えコンクリートにある。
下地づくりでの注意点は、躯体コンクリートの健全性と平滑性である。打継ぎ部分の処理や立上がりの”入り隅、出隅”の丸みづくり、そして、パラペットなどの立上がり部の防水層の十分な立上がり高さの確保である。
押えコンクリートの管理ポイントは、直射日光を受けて伸縮する応力を吸収するため、パラペットの周囲には切れ目なくエキスパンションジョイントの目地を配置することにある。その他の一般部は、3m × 3m程度に規則ただしいエキスパンションジョイントを設置する。
押えコンクリートの厚さは60mm以上(断熱工法では80mm以上)は確保したい。

そのほかの防水工法の選択

そのほかに、使用頻度の高い簡易な屋上防水として、シート防水やウレタン塗膜防水工法がある。
露出シート防水は鉄骨構造の屋上に使用されることが多い。
下地の動きに対する追従性がよく、軽量化を好む構造に適しているのがその理由である。
シート防水の進化によって、最近は数種類の材料が選択できるようになった。
代表的な材料には、塩化ビニルシート(PVC)、EPDMゴムシートがある。
塩化ビニルシートは意匠性・耐衝撃性にすぐれ、EPDMゴムシートは耐候性に優れている。
露出防水には屋上歩行を許す場合とそうでない場合があるが、一般的にはメンテナンスを行うルートを決めて、その部分に、増張りをする対策が多い。
この場合の施工上の大切な注意点は、やはり下地の乾燥である。
一方、ウレタン塗膜防水工法も、住宅のベランダなど簡易な防水工法として普及している。この場合もやはり、下地コンクリートの平滑度、立上がり部の均一な丸み、そして十分な下地の乾燥が重要である。
ウレタン塗膜防水は均一な塗厚の確保が必要で、また、この工法は数年後再び塗り重ねることができるので、メンテンアンスが容易であるのがメリットである。
リフォームにも多く利用されている。

建築施工管理者として、結露対策を強化する

結露のクレームは以前として多いので、、結露防止は、建築施工管理者にとっても重要な問題である。
設計図をよく読んで、結露対策が十分であるかどうかを吟味する必要もある。
結露は室内側の湿度と室外側の温度、そしてその境界にある壁や断熱材の性能など、さまざまな条件が
重なって起きるので原因究明や対策が難しい。特にマンションの押入れや、本棚の後ろの風通しの悪い部分に集中する。
一般的には、室内側に湿気が多くて風通しが悪く、室外に急激な気温の低下があると、室内側に表面結露が発生し、間仕切り内に内部結露が発生する。
木造住宅の場合は、壁の断熱性能を高め、室内の湿気を壁の中に通さないような防湿層を仕上げ材の裏に取り付けるか、空気層を設けるなどして、熱と水蒸気の伝達を遮ると効果がある。
また、窓ガラスなどは真空層をもった複層ガラスを採用するか、二重窓にするかなが一般的な対策である。
しかし、それでも窓ガラスの内側に結露が発生し、室内を濡らすおそれがあるので、サッシュの下端に結露受けのあるサッシュを選択したい。

実践14 仕上工事7 防水工事2

1級建築施工管理技士 実践14 仕上工事7 防水工事2 外断熱

ビル工事の断熱と防水は、発生源の外部から処置を行うのが物理的に適しているはずであるが、日本のおける断熱・防水工事の主流は内側から行われている例が多かった。
しかし近年では、外断熱工法や、外側からの防水工法も研究、開発され、採用例が増えてきている。

外断熱・外防水工法の注意点

屋根や外壁が受ける日中の直射日光による室内への影響は非常に大きい。
木造建築の屋根裏などは60℃を超えるケースも多々ある。
それらはすべての建物に共通しており、熱気を遮断し、冬場の冷込みを抑えるがめの外断熱工法は、居住空間の快適性を向上させるとともに、ランニングコストを抑え、また構造体の寿命を守る効果があるので、採用例が増えてきている。
断熱材には通常、硬質発泡ウレタンフォームなどの断熱ボードを使用するが、この種の材料は石油製品なので、火災に弱く、かつ、濡れると断熱効果が急減するので、施工中は雨に注意し、保管場所には火気を近づけないように管理することが大切である。
工事中の断熱材からの火災は頻繁にある。
また、断熱ボードの上はシート防水膜を張る仕様で設計されているケースが多いが、その場合、躯体との接着強度が問題となる。
昨今の巨大な台風で吹き飛ばされたケースが多々ある。その原因は、おそらく、屋根面平行に強風が吹いた際の揚力により、引っ張りがかかったことによると考えられる。
躯体と下地、下地と断熱ボード、断熱ボードとシート防水との固定方法を計算や実験によって確認し、固定ボルトの引抜き力の安全率も”2倍以上”を目安しておくことが重要である。

外防水による地下室への水の侵入防止対策

都市部の地下室のほどんどは、内側からの防水になっている。
地下鉄工事などにより、一時的、都市の地下水位が大きく低下し、竣工後の建物の地下に水がしみでる事故は少なくなっているが、近年は地下鉄工事もほぼ終了し、地下水のくみ上げも少なくなり、都市部の地下水位が回復してきているようである。
躯体の隙間から侵入した地下水は、鉄筋を腐食させ、二重壁の内側に溜まり、やがては地下の二重壁を押出し破壊する例もある。
それらの問題を発生させないためには、外側から防水をすることが有効である。
地下室の外防水には、一般的には、ポリマーセメント系塗膜防水で十分であるが、その他に、鉄板と目地部の防水シールの組合せによる方法と、ベントナイトの膨張性を利用したボルクレイ防水などがある。
前者は確実性が高いが、きわめてコスト高になるため、データセンターなどの特殊な用途の建物に限って使用されている。一方、後者のボルクレイ地下防水は環境の観点を考慮しつつも、大きなコスト負担とはならない。
約1億年前に火山灰から生じたベントナイトの膨張性能を利用したボルクレイ防水工法は、ベントナイトを不織布で挟んだシートを、山留壁に貼り付けてから、躯体コンクリートを施工する自然素材による防水である。
地下水の発生とともに、ベントナイトの粉末が地下水の流れに反応し、そこで膨張することで、半永久的に防水性能を維持する方法である。
> 東京ボルテックス

実践15 仕上工事8 内装1 天井等

1級建築施工管理技士 実践15 仕上工事8 内装1 集合住宅の間仕切等

建築施工管理者として内装工事計画を担当するにあたり、もっとも優先して検討すべきことは、設計要求性能・施工要求品質・メンテナンス性などの確認に加え、仕上げディテールに自由度があるかを見極めることである。

ディテールの自由度によっては仕上げ工事の手順が変わり、工程計画も違ってくるので、設計者と十分打ち合わせる必要がある。
効率的な生産性の高い施工手順を考えるにあたり、例えば、工場生産部品と現場作業の割合、無駄のない施工手順、積極的な逃げと納まり、現場作業の平準化などが重要になる。
作業手順の決定は、水場周りの維持管理や間取りのリフォームの容易さなども関係するので配慮を怠らないようにしたい。
そのほかに、内装の耐震設計への配慮とシックハウスなどの環境問題の対策なども、前もって工事計画に組み込む配慮が必要である。

内装工事における床先行仕上げのメリット

内装工事の施工を考える際に、優先して検討することに、”取合い部のディテール”がある。
設計要求性能・施工要求品質・メンテナンス性などの良し悪しは、詳細設計と取合い部のディテールに深く関係している。
それらの目的が達成できるように、工事に先立ち設計者と十分に打ち合わせる必要がある。

例えば、集合住宅などの内装工事は、今までは壁先行工法が一般的であった。
それは、従来二重床は在来工法による方法しかなく、業界の習慣になっており、壁の強度と遮音性能の確保も容易であった。
しかし、近年は建物のライフサイクルが長くなり、世代を超えて生活スタイルに合った手軽なリフォームを考えるユーザーのニーズも増えてきた。
ライフサイクルごとのリフォームの容易さも優先されるようになり、間仕切りのバリエーションの自由性を売りにするデベロッパーの戦略が変化してきた。
それらの新しい住宅への取り組みとして、二重床先行工法のの考え方が生まれてきた。

システム化された二重床を先行して組み立て、その上から工場でプレカットされた壁の軸組みを取り付ける。
そして、その壁の下はクッションゴム付きの床材で補強し、下階への固体伝搬音を伝わりにくくしている。
この工法を採用することにより、住戸間間仕切りの移動を伴う工事の自由度と容易性が格段に向上する。
そのほかにも、設備の縦配管は共用部に面したパイプシャフトに集中させ、更新性を容易にしている。
また、住戸内配管はすべて工場で接合すみのさや管ヘッダ方式を採用し、漏水の絶無と更新性の向上がはかられている。
すなわち、躯体は長持ちさせて、内装は維持管理をしながら、間取りや水周りはリフォーム対応を考慮する。

内装工事の逃げと納まり

集合住宅・ホテルなどの内装工事は複雑で手間のかかる工事であることが多い。
現場では、多くの職人さんたちが、多種多用の材料や手順と方法の組合せは、プロジェクトごとに要求性能や仕上げが異なるために多様化しつつあり、近年その組合せはますます増加してきている。
もっとも工数が少なく無駄や手戻りのない方法、ベストな方法を選び出すのは熟練の成す業でもある。
まだまた建設業は無駄な部分が多いので、創意と工夫によっては大きなコスト削減が可能である。
一般的に、工事の進め方は、上から下へ、奥から手前へ、貴重なものは最後に取り付ける。
しかし、この手順にこだわらず、工事の特殊性や目的によって常に見直し、最適な工法と手順が選択されなかればならない。
最近では、熟練工の不足から極力向上生産部品の採用が増えてきている。
現場の工数が少なく、その取合い部に柔軟性のある納まりが必要となる。
これらを配慮したディテール設計は、美しく見えて、かつ、作業性がよいことが不可欠である。
取合い部に柔軟性があり、美しく見える納まりを、”逃げの納まり”と呼んでいる。
逃げの納まりを積極的に取り入れれば、要求性能・品質の確保はもちろん、将来のリフォームにも対応がしやすく、おさまりがより。
結果的に原価が低減でき、最終的にはエンドユーザーの満足につながる。

逃げのおさまりの目的を整理すると、
(1)工場生産への対応
(2)作業手順変更への柔軟性
(3)施工誤差の吸収
などである。

内装の耐震性への取り組み

2011年3月11日の東日本大震災は地震と合わせて津波によって甚大な建物被害を及ぼした。

調査報告による、学校や公会堂、空港などの多くの公共建築の天井材の落下など、人身事故に直結した内装工事被害も報告されている。
そこで、現場管理者としては、非構造部材である、天井や間仕切り壁の耐震性を十分検討し、今までは重要視されることの少なかった内装材の耐震性についても、施工計画書を作成してから施工する必要がある。
崩落した事故の物件には、十分な地震対策がとられていなかった設計図や施工図が作成され、そのまま施工されていたケースも報告されている。
日本の建設業界では、1995年の阪神淡路大震災以降、官庁施設の総合耐震計画基準が示され、以後の地震被害の報告と分析を受けて、技術的助言が行われるとともに法整備も進んできた。

中でも、2003年十勝沖、2005年の宮城県沖地震の後、2006年に耐震改修促進法案が成立し、2007年に間仕切りや天井などの耐震性設計指針・施工要領が日本建築学会でまとめられたので、その基準は遵守すべきである。
東日本大震災の調査報告などによれば、地震時に天井材と柱・壁が激しく衝突し合うなど、地震時の天井崩壊のメカニズムがわかってきている。
それを受けて、十分なクリアランスをもった、壁との取合いと、天井自身の振止めがきわめて重要であると提言されている。

また、間仕切り壁や外装パネルなどは、日本建築学会の耐震設計指針に示される震度5以下の中地震時に対しては、”部材が損傷せずに、破損・脱落もしない”を達成するために、必要な強度と層間変形角を確保したい。
関東大震災以降も、日本列島では中程度の地震は毎年のように発生しており、今後も予断は許されない。首都圏で大型の直下型地震が起きる可能性は、30年以内に85%以上だの報告もある。

そのほかにも、耐震対策で特に注意が必要な仕上げ・設備工事には、
①天井裏が深く面積の大きい天井工事
(特定天井にかかわらず)
②構造スリットの適正配置
③石・タイル仕上げの剥落防止
④地震時に独立して挙動する
屋上や天井内の設備機器などがある。

実践16 仕上工事9 内装2 金属工事

1級建築施工管理技士 実践16 仕上工事9 内装2 金属工事

建築施工管理者として、全体工期を管理する上で特に注意すべき事項のひとつに金属工事の早期調達計画がある。

工事が遅れて追い込まれた現場の多くでは、金属工事の発注が後回しになっていることが多い。

金属工事は設計者にとってもオリジナリティを出す部分であるだけに、こだわりが強い。

その分、どの工事においても後回しになり、十分な時間が取れずに、工事の遅れにつながっている。

設計者と施工者との早めの打合せによって、双方の問題解決が早まる。
最近では、金属を製作物は海外に製作することが多くなっており、スケジュール管理がますます重要になってくる。

金属工事の発注を遅らせず、準備を早く始める

金属工事の多くは数種類の材料からなっている。
一般的にはスチール、メッキスチール、アルミニウム、ステンレス、ブロンズなどからなる。
ほとんどの工事の場合、設計者は独自のデザインを求める傾向が強く、既成品を使用しない。
その発注から現場取り付けまでの手順は、
①工作図
②調整
③承認
④モックアップ
⑤モックアップ承認
⑥部材発注
⑦製作
⑧製品検査
⑨梱包と輸送
⑩現場取付
と長いプロセスとなり、6ヶ月ほどかかる場合もある。
しかし、発注準備が遅れた場合、手順を飛ばしたり、急ごしらえの製作では、品質が保てなくなり、急いで製作すると間違いも発生する。
建物の完成前の忙しい時期、そのための十分な時間を取れない場合も珍しくなく、工事の遅れにつながっている。
従って、製作期間を十分確保するために、早めに発注計画を立案することが重要である。
すなわち、着工の初期段階に金属工事の発注準備を進めてしまう方が間違いが少ない。
どんな工事でも着工初期の忙しさはさほどではないので、すべての金属工事の製品について発注予定リスト作成する。
製品名、材質、数量、発注先候補などを早めにまとめ、まずは設計趣旨を確認するための簡易なサンプルを作成し、議論を開始することが必要である。
最近では、メーカーによる研究開発が進み、新しい商品が増えてきている。
デザイン的にも品質保証的にも優れており、オプションも多いことから、既製品が使用されることが増えてきている。

日本で製作設計し、海外で製作する

シンガポールや中国の最新工場では、日本の製造技術が移植され、工作図も、日本並みにレベルアップしている。
また、設計者やゼネコンとの承認プロセスも情報技術の発達で急激に距離の壁が取り払われている。
むしろ中国やアジアの工場では、欧米のCAD 、CAMを取り入れて、人為的ミスが起きないようになっている。
材料的にもJIS規格内の製品の調達も可能で、コスト的には日本以外の材料の方が圧倒的に安いし、円高の影響も受けない。
また、塗装ラインもロボット化されて、作業員は少なく、熟練を要しないライン設計になっている。
更に、梱包と輸送についても、海上輸送のグローバル化で12m× 2.4m× 2.4mのコンテナに入るものであれば、1〜2週間で近くの港に到達できる。
海外の開発途上国へのもの造りのシフトは、今や自然な流れであり、止めることができない。
積極的な海外発注のリスクとヘッジの仕方が現場マンに求められている。

マンションベランダの手すり等は標準化する

デザイン性と製作技術とのコラボレーションにより、その建築にマッチしたパターンが決まれば、あとは標準化することで品質の安定化と経済性が追求できる。
外装の重要なデザインを占めるマンションベランダの手すりなどがその例である。

実践17 仕上工事10 内装3 海外製作品

1級建築施工管理技士 実践17 仕上工事10 内装3 海外製作品

2000年以降、アジアの開発途上国の発展は目に見張るものがある。

日本がバブル経済崩壊後足踏みを続けている間に、日本からの技術者の招へい、中古機械の導入などの積極的な対策により、瞬く間に技術と生産設備を備え、日本に迫ってきている。

もともと労務賃金の安い国が多いので、旺盛なアジアの受注に支えられて、人・設備・仕組み・資本力が備わり、急激に成長してきた。

これらは自動車産業や家電産業が開発途上国に根付いた時期と一致し、建設業界にも大きく影響しているとみられる。

今や日本では、建材の海外調達を無視して完成することはできない。
鉄骨・プレキャスト製品・金属加工製品・天井材・間仕切り材・木工品・家具・床材・ガラスなどあらゆる分野の建築建材や製品が海外で製作され、日本に入ってきている。
近くのホームセンターを見ても、建築関係の道具の”メイドインチャイナ”の多さに驚く。

東南アジアからの調達品の現状

アジアの開発途上国から輸入される建築材料は、輸入コストが安いため、建設コスト管理上大きな魅力である。
日本から技術を習得したため、出来上がりもかなり日本製品にちかいが、技術を積み上げないで、そのまま似ている部分があるので、似ているようで同一でない。
現在は改良されているかもしれないが、以下の例がある。
韓国製のサンドイッチパネル、天井パネルなど、一見立派に見える場合でも、実際使用してみると、許容できない問題が発生していた。
例えば、サンドイッチパネルのロールフォーミングの歪みが、光線の加減で見えてしまう。
アルミパネルを天井に貼った後に歪んで見える点などである。
結局、足場や手直しの費用が発生してしまうといったリスクが発生した。
昨今のグローバル化に伴い、現地での生産技術が向上し、基準も統一されてきているので、文化は習慣による品質リスクは減っているものと思われるが、現場管理者としては、工場視察・実大モックアップ作成などによる”目線合わせ”などの対策は必須である。
そん他に、海外調達の具体的な製品としては、外装用パネル、ファンコイルカバー、システム天井、天井岩綿板、アルミパネル、OA床、クリーンルームの壁パネル、床のシステム、ガラスの二字加工品などがある。

東南アジアの工場

中国の沿岸部の都市でも、建築材料の製作が盛んである。
やはり東南アジアに多く輸出しているものと思われる。
中国の工場では、ドイツ製、日本製そして台湾製の機械が混在している。
台湾の資本による工場が多いこともその理由であると考えられる。
海外調達を進めるにあたり、文化と習慣の違いは大きな障壁となる。
国際的には、設計図と仕様書、そして、その国の法律に基づく規格がめざすものである。

しかし、日本のエンドユーザーのニーズは、それを超えている。
そして、日本の建設業界ではそれを認めきてきている。
需要と供給、長い歴史による労使関係がその背景にあると思われ、建物の永久保証の関係まで残っている。

しかし、アジアの開発途上国の関係者にはそんな日本の歴史はなかなか理解できない。
例えば、石の歪みは仕様書では1mm以下となっている。
日本にもってきて天井の蛍光灯のランプの反射がゆがんで見えるものは、取替えを命じられるということもある。
石材の色調にしても、少しばかり隣との色合いが違う場合でも、取替えを命じられる場合がある。
契約した仕様書では、そこまでの仕様を求められておらず、規格項目にも入っていない。
にもかかわらず、日本では「そんなことは常識だろう」と片付けられてしまう。
そんな問題がリスクをして残る。

したがって、開発途上国からの海外品を使用する場合、3段階のリスクヘッジを検討する。
①日本への輸出経験が豊富な現地工場を選択する
②実大モックアップを現地と日本とで実施し、問題点の確認を行う
③再製作が可能な程度の時間的余裕をもつ。

海外での日本品の品質確保
(JIS認定材)
日本の大手メーカーの多くはタイに工場を進出させている。グローバルな競争を勝ち抜くために、円高・電気料金・税金・労働賃金・輸送コストなどに有利な地域を求め、日本から海外に生産拠点を移している。その中で、今やタイは中国に次いで、2番目のアジアの生産拠点になっている。
2011年9月のバンコクの洪水により、多くの日本企業が工場の一時閉鎖に追い込まれた。
その間、日本の生産ラインの増強のために、タイの技能工が日本に短期就労する状況がマスコミにも取り上げられ、中にはタイの若者の技術はすでに日本人の熟練者の技量を超えているという報道もあった。
日本の大型プロジェクトの建築資材の多くが、実はタイで加工されている。
例えば、建築鉄骨の場合、タイから日本への鉄骨の納入実績はすでに20数年ほどになる。
日本の材料、日本製の機械、日本の技術者による指導、日本の品質管理システムの採用、日本の資格の取得などまったく日本の工場とかわらない。
むしろ、最新の管理システムを採用し、3次元CAD化や一品ごとのバーコード管理も導入して、日本のファブを超えている部分もある。
鉄骨工場の場合は、ローカルマーケットにも製品を出しているが、製品規格が違うので混同を避けるため、ラインや技能者を分けて日本品の製造をしている。
その他にガラス、アルミ加工品、家具など、多くの日本向け製品を製造している。
例えば、家具の材料はゴムの木である。ゴムの木は15年ほどでその役割を終えて、若い木に植え替えられる。
その大量にでるゴムの廃材は色はなく、どんな木の色にも染めることができる。
加工と製造の技術を完成するのに苦労したようだが、今やとてもいい家具を製造している。
どの工場も、日本の資格を取得し、規格を守り、品質管理も充実してきている。

実践18 解体工事1 都心ビル

1級建築施工管理技士 実践18 解体工事1都心ビル

1964年の東京オリンピックを目指して、都心ではビル建設ラッシュが始まったが、それからすでに50年以上が経過し、社会情勢も大きく変化した。

その間に建築基準法や容積率も改定され、都市再開発が各地で進めされている。
再開発では、まず建築のリユース、リサイクル、リフォーム、そしてスクラップアンドビルドが検討される。

その場合、躯体の解体方法、建設廃棄物処理、石綿などの適正処理などが問題となる。
一方、世界の先進国では、ダイナマイトや鉄球などが今も解体工事の主流であり、それは経済性を優先する考え方からきている。
しかし、日本では破砕機(はさいき)と大倒しが主流である。
狭い敷地に立っていることや、乱暴な解体工法は環境規制で許されていない。
最近、大手ゼネコンはこぞって環境対策を優先した新工法を行っている。
その意味では、日本が解体工法の先進国であり、世界から注目を浴びている。

ビルの解体工事と問題点

(危険と隣合わせの解体工事)
市街地の建物を解体する上で最も注意しなければない事は、災害防止であり、近隣への環境対策である。
日本では通常、解体する建物の屋上に破砕機をもつ建設機械を乗せて、上階から順次解体する方法がとられる。
その場合災害防止を最優先するために、音や振動のきわめて小さな油圧の破砕機を使用する。

破砕中、コンクリートくずが埃が外部に飛散しないように、解体する建物を防音パネルで囲い、解体中は十分散水するとともに、外壁を最後まで残すなどの施工手順を工夫し、飛散防止の工夫を行っている。
したがって、安全な作業手順は、以下の手順によるものとなる。

 ①外壁を自立させず残し、

②スラブ落とし、

③梁を切断して取り外し、

④外壁を内側に倒し、

⑤最後にそこを砕いて、

⑥仮設開口から下階に落とす

⑦それを繰り返して、
順次下に降りてくる。

通常の建物であれば、3〜6ヶ月が適正な工期になる。
ただし、安全管理は特別な注意が必要である。
今でも、残した壁が反対側に倒れる事故がある。
転倒防止に引いていたワイヤが切れて、その反動で外側に倒れる。
施工計画と手順については十分に検討する必要がある。
躯体の解体に先立ち、忘れてはならないことに、アスベストなどの有害物質の調査と適正処理計画がある。
アスベスト法律が定められたので、一般の産業配廃棄物よりも厳重な管理が求められる。
廃棄物処理法に基づき、厳正に処理しなければならない。
そのほかの内装材については、躯体の解体工事に先立って、解体搬出をするが、リユースできるものと処分するものの選別、そして廃棄物の分別搬出を行う。

地下室の解体方法の選択

(地下室の解体はどうするのか)
市街地の多くのビルは、地下室をもっており、しかも敷地いっぱいに立っていることが多い。
通常の地下解体には、
①地下外壁の処理、
②地下湧水の対策、
③地下躯体の解体の方法
などの問題点が伴う。
まず、地下外壁を残すか、撤去するかがが問題になるが、多くの場合は近隣への影響を最小限にするために、地下外壁をそのまま残し、その内側に新築建物外壁を構築することが多い。
しかし、やむなく解体する場合は、グランドレベルに大型三点ヤグラを設置し、既存の地下外壁の真上から、ロックオーガーマシンで削孔して、いったんソイルセメントの充填を行う。
ソイルセメントが固まる時間を待って、その後、仮設山留め壁を設ける場合が多い。
ただし、この工法はきわめて原価が高く時間もかかるので、最後の選択肢にしたい。
最近都心部では地下水が戻っていると言われている。
井戸水をくみ上げなくなり、地下鉄工事も一巡したことによると考えれれる。
都心の一部の地域では砂礫や砂層に被圧された地下水脈がある。
もしそこをなんらかの理由で貫通すると、膨大な地下水が一気に吹き出してしまう。
したがって、地下工事の解体であってもの、それが深くなる場合や、既存の杭の引抜きも行う場合は、大きな地下水吹上げリスクになる。
そのため、その懸念がある場合は、プレボーリングを行い、地下水の状況を確認した上で、先行して地下水位を下げる処置を行う必要がある。
地下躯体の解体の問題点は、破砕機をもつ重機が十数トンになるので、既存のスラブでは支持できない。
どのような補強のサポートで対応するかが重要になる。通常は仮設の強力サポートを使用するが、スパイラルダクトと貫通孔を利用した仮設のRC柱も有効である。
その他の注意点としては、重機の排気ガス対策である。重機の排気ガスを減らす措置と、地下空間の十分な換気を行い、作業員の健康管理に留意する。
具体的な地下解体に関する計画は、以下の項目について検討を加える。
①重機のサポート方法
②地下外壁の解体工法と手順
③基礎の解体工法と手順
④既存杭の処理計画
⑤地下の湧水対策

超高層ビル解体現場の最先端工法

ゼネコン各社は、都心部の高層ビルの無振動無騒音解体工法の開発にしのぎを削っている。
霞ヶ関ビルで始まった超高層建築ブームからもうすでに約50年、その間に建設された超高層ビルは1000棟以上になるという。
それらの超高層ビルも徐々に建替えのニーズが到来しつつある。
超高層ビルは、今までとは異なる解体工法が望まれる。
すなわち、振動、騒音以外に、高さによる風や地震や落雷などの影響を受けやすいので、全天候型の解体工法開発が主流となっている。
K社のだるま落とし工法、T社のHAT DOWN工法などが代表的である。

実践19 解体2 アスベストの処理

1級建築施工管理技士 実践19 解体工事2 アスベストの処理

今や建設工事現場においては、アスベスト問題の対処は避けて通れない。

アスベストは石綿(いしわた、せきめん)とも呼ばれる天然に産する鉱物で、耐火性、耐熱性、耐磨耗性、絶縁性などに優れた建材として建築物の各所に多く使用されてきた。

しかし、アスベスト吸引による肺がんや中皮腫などの健康障害発症の危険性が問題となり、1975年に建築物への吹付けが原則禁止された。
その後も段階的に規制が強化され、2004年には吹付け以外のアスベストについても製造、輸入、使用などについて全面的に禁止された。

しかし、1970〜80年代に建設された建物にはアスベストを含む建材が多く残置しており、今後これらの建築物の解体工事が増加することが見込まれる中で、アスベストの飛散防止(ばく露防止)対策を確実に実施することが重要になっている。
環境省では、建築物の解体によるアスベストの排出量が2020年〜2040年頃にピークを迎えると予測し、年間100万トン前後のアスベストが排出されると見込んでいる。

事前調査

アスベストが健康被害を引き起こすことが問題視され、建設リサイクル法によって、建物を解体・改修する時は、その建物にアスベストが使用されているか否かの事前調査が義務付けられた。

使用されているとわかった場合、大気汚染防止法、石綿障害予防規則、自治体の環境の保全等に関する条例、並びに廃棄物処理法に基づいて、石綿含有建材の処理を計画しなければならない。

事前調査は、石綿が含まれている可能性がある建材すべてに対して、サンプリングし、JISに基づく定性・定量分析を行い、その結果に基づき解体される石綿含有建材を種類ごとにレベル1〜3に分類する必要がある。

①レベル1
吹付け石綿などの著しく発じん量の多い作業
②レベル2
発じんしやすい製品、断熱材、石綿入り耐火被覆板などの比重が小さい作業
③レベル3
Pタイル、スレート、大平板などの発じんの比較的低い作業

に分けられる。
作業計画を立案するにあたり、上記のように分類された三つレベルに応じた適切な対策を講じる必要がある。

作業計画の作成の注意事項
(アスベストの処理計画と届出)
アスベストが使用されている建築物の解体作業を行うときは、あらかじめ作業方法・手順などの作業計画を定め、自治体の環境局と労働基準監督署に届出た上で作業を開始することが義務付けられている。

更に、作業開始前にはお知らせ看板を作業所の出入り口横に掲示し、関連労働者や近隣住民に作業内容を告知しなければならない。
作業計画の内容
①作業の方法および手順
②アスベスト粉じんの暴露を防止する方法
③労働者へのアスベスト粉じん暴露
を防止する方法
石綿吹付け建材の除去作業をする場合は、開始の14日前までに労働基準監督署に届出なれればならない。
また、石綿作業主任者を設置する必要がある。

アスベスト対策工事の具体例

まずは作業員の健康障害防止の義務があり、作業員は必ず防護服を着用する。
作業場から持ち出すこは禁止。
また、作業に従事する作業者以外の立入は禁止
アスベスト除去工事中は、石綿の飛散を防ぐために、作業場所を隔離するとともに、作業場ないの気圧を機械的に下げて、負圧(ー2Pa以上)を確保しながら作業を行う。
また、隔離された作業スペースは負圧監視装置により常時管理し、かつ警報を発信する仕組みとする。
また、作業前と作業中は大気中の濃度測定を行い、アスベストが飛散しないように管理する。
除去されたアスベストは廃棄物処理法に基づき、収集・運搬並びに適正な処理を行う。

(1)アスベスト対策工事の対応手順

アスベスト対策工事を実施する労働者保護および周辺への粉じん飛散防止のために適正な手順、確実な処置を行うとともに、関係行政に届出、報告などを行わなければならない。
アスベスト処理工事に関わるフロー

 

(2)アスベストの確認、調査

建物の解体工事あるいは改修工事を行う場合は、事前にアスベスト建材の有無および使用箇所について性格に把握しておくことが重要である。
①建物図面調査:
建物の設計図面、施工図、仕上表などにより、
アスベストが使用されている可能性がある箇所を特定する。
②現地事前調査、確認、分析調査:
図面調査の結果を元に、
現地にてアスベストの使用状況、範囲、
建材の種類(作業レベル)などの調査を行う。
図面による確認ができなかった場合は、使用の可能性のある箇所について調査を行うが、仕上材による隠蔽部などを見落とさないように注意する。
また、アスベストの含有が疑われる建材についてはサンプルを採取して成分調査を行い、含有の有無を確認する。
アスベストの作業レベルとは、解体されるアスベスト建材の発じん量のレベル差により、作業方法、ばく露対策レベルなどを分類したもののことである。

(3)アスベスト対策工事施工計画と事前届出

アスベスト対策工事を行う場合は、あらかじめ作業方法・手順、粉じん発散防止方法、ばく露防止方法などの作業計画を定め、自治体(役所)および労働基準監督署に事前に届出なければならない。
また、作業開始前には”お知らせ看板”を作業所の出入り口横に掲示し、関係労働者や近隣住民に作業内容を告知しなければならない。

(4)対策工事施工

アスベストの対策工事は、除去、封じ込め、囲い込みの3種類の工法に分類される。封じ込め工法はアスベストの表面に飛散防止剤を吹き付けてアスベストを固化し、飛散の防止をするもの。囲い込み工法は露出したアスファルトをボード類などで完全に覆うことにより、アスベストの飛散・損傷を防止する。

アスベスト(レベル1)の除去工事の遵守事項
①作業員は特別教育終了者とし、
作業主任者を選任する。
②作業員は保護具類を必ず着用する。
・防塵マスク
・防護衣
③アスベスト除去工事中は作業場所を隔離養生し、
負圧除じん機などにより隔離区域内を負圧に保持する。
また、出入り口には前室(クリーンルーム)を設け、
更衣、エア洗浄などによりアスベストを区域外に持ち出さないようにする。
④作業に従事する作業員以外は立入禁止とし、
その旨を掲示する。
⑤作業前と作業中は大気中の粉じん濃度測定を行い、
アスベスト飛散のないことを確認する。

(5)アスベストの廃棄物処理

アスベストの除去作業に伴って発生する廃材(アスベスト吹付け材、養生材、保護衣など)は二重袋に詰めて密封し、特別管理産業廃棄物として処理する。
また、アスベストを一時保管する場合は、管理保管場所に掲示板を設置し、保管場所であること、保管量、特別管理産業廃棄物管理責任者の氏名および連絡先などを明示しなければならない。

実践20 解体工事3 改修工事

1級建築施工管理技士 実践 解体工事3 改修工事

環境問題に対する社会的関心が高まる中、廃棄物処理法や建設リサイクル法などの法の整備に伴い、建設業界では建設副産物の適正処理活動に20年以上前から積極的に取り組んできいる。

また、最終埋立処分場の残余年数も少なくなってきたこともあり、1990年代より廃棄物の再資源化を図るためのリサイクル中間処理施設などが建設され始めた。

このような背景から、2000年代に入ってからは各建設事業所も混合廃棄物を削減し、リサイクル率の向上活動に本格的に取り組む動きが活発化してきている。

2010年頃には、活発に取り組んでいる事業所ではリサイクル率も80%以上になり、資源循環型社会の構築に貢献し、成果を上げてきているようである。

建設現場の建設副産物減量化のポイント

建築施工管理者の役割の中に、建設副産物の減量化とリサイクルの推進、そして産業廃棄物の適正な処理をする役割がある。

処理計画は廃棄物処理計画書として文書化し、再生資源利用計画・促進計画については、計画書の作成をするとともに、工事完成後1年間の保存が義務付けられている。
建設副産物の減量化とは重量または容積を減らすことで、最初の計画が重要である。

目標とその達成のための手段を検討する必要がある。
脱水・乾燥・焼却などの中間処理はもちろんであるが、工事そのものにおいてごみを出さない計画的工事方法も考える必要がある。

そのためには徹底した計画により、プレファブ化、プレカット化の推進、梱包の削除、分別収集の徹底などが必要である。
1990年代はBCSの目標は延べ床面積当たり30kgであったが、2000年に入ると最先端の工事では延べ面積当たり10g程度まで低減してきている。

分別収集のルールづくり

1990年代から工事現場では建設副産物の分別が進んでいる。
それらは大きく分けて、

①コンクリートガラ
②プラスチック
③金属・ダンボール
④梱包材
⑤可燃物(木くず・紙くず)
⑥産業廃棄物
の6種類に分類される。

これらはリサイクル可能なものがほとんどであるが、分別できない混合廃棄物や産業廃棄物も更なる中間処理施設で最終的に再資源化や埋立ての分別ができるようになっている。

しかし、基本は施工計画を作成する際に廃棄物を出さない建築資材、工事方法を考えることが大切である。

リサイクルを進めるには、作業員も一体になった行動が欠かせない。

1°.3R活動の推進
最終的な建築副産物を削減するためには、廃棄物の発生抑制(Reduce)、再使用(Reuse)、再生利用(Recycle)、すなわち3R活動を積極的に進めることが必要である。

2°.発生抑制(Reduce)
発生抑制とは、事前の減量化計画により廃棄物として発生するものを極力減らすことである。
養生材の再利用、材料のプレカット化、建築材料、設備機器などの梱包材の削減、PCF型枠の採用による南洋材の削減、山留めソイルの発生汚泥削減などが挙げられる。
これらは早い段階から計画し、準備をする必要がある。

3°.再使用(Reuse)
再使用とは材料を繰返し転用して使ったり、ほかの材料として使用したりすることである。
例えば、タイルカーペットの余材を仮設事務所の床材として再利用したり、使用済の溶接用ワイヤリールを回収、メーカーに返却して再利用するなどが挙げられる。

4°.再生利用(Recycle)
建築副産物を破砕し加工して、製品の材料の一部として再び資源として使用すること。
廃材となった木くずや廃石膏ボードをリサイクル施設にて破砕し、パーティクルボードや石膏ボードに製品化して再び建築材料として使用する取組みなどがある。

なお、リサイクルを推進するためには作業所内で廃棄物を品目別に正しく分別することが重要である。
このためには、分別品目をわかりやすく掲示したコンテナを配置した廃棄物分別ヤードを作業所敷地内に設置し、分別のルールを関係者に周知して混合廃棄物を極力なくすように取り組む必要がある。
わかりやすい分別のルールや方法を決めて徹底させ、活動を活発化させることで、成果をさらに上げることができる。
掲示や表彰制度を活用している作業所もある。

建設現場のリサイクルの現状

1°.コンクリートのリサイクル
改修・解体工事から発生する大量のコンクリートガラは現場から専門業者に直送し、再生砕石として販売(有価売却)される。
公共工事の減少、東日本大震災の影響などにより、再生砕石の利用が低迷し、専門業者の在庫過多状態が続いている。
また、そのことによる専門業者の受入単価高騰および受入量調整により、改修解体コンクリートガラが行き場を失ってきている。

2°.骨材、ボード、木材、プラスチックリサイクル
骨材、木材に関してはマテリアルリサイクルが進み、特に木材に関しては建設リサイクル法の施行以前よりリサイクルの流れが確立されている。

3°.石膏ボード
新品の端材(新築系)は、現場分別による石膏ボードメーカーへの直送、または専門業者・総合中間処理業者を通した搬入によるリサイクルが確立されている。
(石膏ボードメーカー直送は新品端材のみ)
改修・解体石膏ボードに関しては、専門業者、総合中間処理業者において付着物・他品目混入および複合の状況により、リサイクルもしくは埋立ての処分が行われている。
改修・解体石膏ボードは他品目との混合排出のケースも多く、その状態からの選別 → リサイクルは困難で、埋立てに回る割合が高くなっている。

4°.廃プラスチック類の現状
建設工事発生の廃プラスチック類は、工事現場特有の土砂・油分の付着などリサイクルに適さない状態のものが多く、焼却処分や埋立処分とされる割合も高い。
また、現場分別においても、塩ビ系・非塩ビ系・PPなど種類も多岐に渡り混合状態となっているため、リサイクルが困難な状態にある。
その結果として、事業系に比べ建設系のリサイクル率は低くなっている。

5°.リサイクルの問題点
建設系廃棄物の特徴は、他品目との混合および複合品の排出があり、徹底した分別排出がなされないのが現状であり、リサイクル率を押し下げている原因となっている。
また、土砂・油分の付着混入もリサイクルを困難なものにしている。

6°.リサイクルの今後
建設廃棄物に関する排出事業者からの処分委託コストが、処理業者の適正処理コストを圧迫している。
こういう状況が続くことで不適正処理業者の台頭を招くのではないかと処理業界全体が危惧されている。