5章 鉄筋工事 4節 ガス圧接

第5章 鉄筋工事 


4節 ガス圧接

5.4.1 適用範囲

ガス圧接工法は、接合しようとする鉄筋の端面を平滑に加工したのち、端面を突き合わせ、その突合せ部をガス炎で加熱し、同時に鉄筋軸方向に圧縮力を加えて接合する方法である。熱源としてのガス炎は、酸素とアセチレンの混合ガスによる酸素・アセチレン炎を使用する。

「標仕」の4節では、圧接方法を手動ガス圧接とすることを前提とした仕様を規定している。酸素・アセチレン炎によるこのほかの圧接方法には、自動ガス圧接や熱間押抜きガス圧接があり、それぞれ、(公社)日本鉄筋継手協会が標準仕様書を定めている。このうち、自動ガス圧接については、(公社)日本鉄筋継手協会の標準仕様書に優先して「標仕」を適用することが可能であるが、熱間押抜きガス圧接は圧接工程のなかでふくらみを除去するために「標仕」で規定する試験を行うことができない。したがって、本節では「標仕」の規定が適用可能な手動ガス圧接と自動ガス圧接の監理について記述するほか、熱間押抜きガス圧接を「標仕」以外の圧接工法として記載している。

なお、「標仕」では、鉄筋材料としてSD490を適用範囲に含まないため、4節でも SD490の仕様については規定していない。したがって、特記によりSD490を採用する工事においては、そのガス圧接の仕様も特記に定められた方法によらなければならない。(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」及びJASS 5(2009)では、SD490のガス圧接を行う場合には施工前試験を行うこととしているので注意する。

また、「標仕」以外のガス圧接工法として、酸素・天然ガス炎による圧接工法が開発されている。一般のガス圧接よりも大きなふくらみとする天然ガス圧接工法と、圧接端面に高分子材料を挟み込んで加熱して一般のガス圧接と同等のふくらみとする高分子天然ガス圧接工法がある。いずれも、(公社)日本鉄筋継手協会が同工法の標準仕様書(案)を定め、検定試験により高分子天然ガス圧接技量資格者の認証を行っている。

5.4.2 技能資格者

(a) 圧接作業に従事する技能資格者は、JIS Z 3881(鉄筋のガス圧接技術検定における試験方法及び判定基準)による技量を有する者で、当該工事に使用する鉄筋に相応した技量資格種別を有することが必要である。圧接作業に先立ち、技量資格証明書等を提出させて、その技量を確認する。

(b) (公社)日本鉄筋継手協会では、JIS Z 3881に基づいて手動ガス圧接技量資格者及び自動ガス圧接技量資格者の試験を行って技量を認証し、それぞれの技量資格証明書を発行している。

技量資格種別による可能範囲は、表5.4.1及び2のとおりである。

表5.4.1 手動ガス圧接技量者の圧接作業可能範囲

表5.4.2 自動ガス圧接技量資格者の圧接作業可能範囲

(c) 「標仕」1.2.2では、工種別施工計画書の提出を義務付けているが、ガス圧接工事に関して受注者等が作成する圧接施工計画書は、(公社)日本鉄筋継手協会が認定する鉄筋継手管理技士又は圧接継手管理技士の助言等を受けて作成することが望ましい。

5.4.3 圧接部の品質

(a) 圧接継手に要求される性能は、鉄筋母材と同等以上の継手強度が得られることであり、これを保証するための代用特性の一つとして圧接部の外観と内部欠陥がないことを規定している。「標仕」に規定する圧接部の品質の各項目は.「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1463号)の規定に対応するものである。

(1) ガス圧接では圧接作業の最終工程でふくらみを形成することによって圧接面にできた酸化物を拡散することができる。ふくらみの直径が鉄筋径の1.4倍以上あれば酸化物が拡散し、母材と同等以上の継手強度が安定して得られることが実験的に確かめられている。

(2) 圧接部のふくらみはできるだけなだらかな形状となっていることが力学的に好ましい。ふくらみの長さを大きくしてなだらかな形状にするためには幅焼きの範囲を広くする必要があるが、作業能率の面から幅焼きはある程度の幅にとどめた方がよい。鉄筋径の1.1倍程度以上のふくらみ長さであれば十分な継手強度が確保できることが確認されている。このふくらみ長さが得られるための幅焼きの範囲は鉄筋径と同程度である。

(3) 圧接面のずれは、圧接作業中に接合する鉄筋の突合せ面からずれた位置で加熱することによって生じる。加熱位置がずれると鉄筋同士で温度上昇が異なり適正な圧接温度に達しないままの圧接となり,良好な接合が得られない。圧接面のずれが鉄筋径の1/4以上になると十分な継手強度を確保できなくなる可能性がある。

(4) 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量は、施工の良否の指標の一つであり、管理限界値は鉄筋径の1/5以下としている。

(5) 圧接部に折れ曲りがある場合には継手の軸剛性が低下する。平成19年版では、折れ曲りの管理限界値は 3.5° 以上を目安とするとしていたが、鉄筋組立精度を向上する目的で、「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」に折れ曲りを 2°以下とする規定が定められたことを踏まえ、折れ曲りは 2°以下とするのがよい。

(6) 圧接部の片ふくらみは継手の強度に影響を及ぼすおそれがあることから、平成22年版「標仕」で監理項目に追加された。片ふくらみは圧接器の固定が不十分な場合や鉄筋端面の隙間が大きい場合に生じる。ふくらみの小さい側の圧接面には十分な加圧力が作用せず不完全な接合となり、圧接部の引張強さが低下することがある。管理限界値は、ふくらみ量の差が鉄筋径の 1/5以下としている。

(7) 「鉄筋の継手の構造方法を定める件」における圧接継手に関する規定の抜枠を次に示す。

なお、この告示のただし書きでは、繰返し加力等の実験によって耐力、靭性及び付着に関する性能が継手を行う鉄筋と同等以上であることが確認された場合は、告示で定める構造方法によらなくてよいとしている。(公社)日本鉄筋継手協会の自主的認定事業として、これらの性能の確認実験を行い、一定水準以上の施工管理の能力及び体制を有していれば、実験結果と同等以上の施工品質が確保できるとして「A級継手圧接施工会社」を認定しているので、参考にするとよい。

鉄筋の継手の構造方法を定める件
(平成12年5月31日 建設省告示第1463号)建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第73条第2項ただし書き(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定に基づき、鉄筋の継手の構造方法を次のように定める。1 建築基準法施行令(以下「令」という。)第73条第2項本文(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定を適用しない鉄筋の継手は、構造部材における引張力の最も小さい部分に設ける圧接継手、溶接継手及び機械式継手で、それぞれ次項から第4項までの規定による構造方法を用いるものとする。ただし、一方向及び繰り返し加力実験によって耐力、靭性及び付着に関する性能が継手を行う鉄筋と同等以上であることが確認された場合においては、次項から第4項までの規定による構造方法によらないことができる。

2 圧接継手にあっては、次に定めるところらよらなければならない。

一 圧接部の膨らみの直径は主筋等の径の1.4倍以上とし、かつ、その長さを主筋等の径の1.1倍以上とすること。

二 圧接部の膨らみにおける圧接面のずれは主筋等の径の1/4以下とし、かつ、鉄筋中心軸の偏心量は、主筋等の径の1/5以下とすること。

三 圧接部は、強度に影響を及ぼす折れ曲がり、焼き割れ、へこみ、垂れ下がり及び内部欠陥がないものとすること。

3 (5.5.3 (a)に記載)

4 (5.5.2 (a)に記載)

鉄筋の継手の構造方法を定める件

(b) ガス圧接継手の品質の良否は、圧接業者の品質管理体制によるところが大きい。

(公社)日本鉄筋継手協会では、品質管理要員として、①圧接計画書の作成又はその指導を行い、②その計画書に従って圧接作業が実施されていることの確認等を行う「鉄筋継手管理技士」及び「圧接継手管理技士」を認証している。

また、同協会では、圧接管理技士及び圧接作業の技量資格者の質と量、圧接機器、検査機器等の保有状況及び品質管理システムの運用状況等を審査し、品質管理体制が確立、維持されている圧接会社を「優良圧接会社」として認定しているので、参考にするとよい。

5.4.4 圧接一般

(a) 圧接装置
(1) 圧接装置は、加熱器、加圧器、圧接器からなり、これらの性能が圧接継手の良否や作業能率を左右する。圧接装置には手動ガス圧接装置と自動ガス圧接装置がある。前者は加圧器の動作及び加熱器の揺動を手動で行うものである。後者は加圧器の動作及び加熱器の揺動をプログラム制御するものである。手動ガス圧接装置の中には、加熱器の揺動は手動とし、加圧器の動作をプログラム制御する方式のものもある。

また、引張試験の際に、鉄筋が圧接器の締付け部から脆性的に破断することが ある。これは、圧接器の締付けボルトの先端形状によって鉄筋表面に圧痕が生じ、この圧痕が起点となって破断するものであり、締付けボルトの先端形状と締付けトルクが過剰とならないように注意する必要がある。締付けボルトの種類は、鉄筋表面に切欠き状の圧痕が生じない形状のものがよい。

(2) 圧接作業前には圧接装置・器具類の整備・点検を十分行って、不良圧接の原因となる不具合を排除するとともに、ガス漏れ、引火等による爆発事故を防止する。

(3) 参考として、(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書ガス圧接継手工事」の圧接装置に関する規定の抜粋を次に示す。

鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)

4.2 圧接装置
(1) 加熱器
a. 加熱器は吹管本体及び火口本体からなり、吹管本体は、JIS B 6801(手動ガス溶接器)に規定するもののうちB型溶接器のB1、B2号に適合するものとする。

b. 吹管本体の材質・品質・寸法などは、JIS B 6801に準拠するものとする。

c. 火口本体は、作業中の炎の安定性がよく、鉄筋径に適合した十分な加熱能力を有するものとする。

d. 火口先は、鉄筋表面を円周方向に均等に加熱できるものとする。

(2) 圧接器
a. 圧接器は、鉄筋に所定のアプセット量(縮み量)を与えることができる機構を有し、作業中に偏心、曲がりが生じないよう、十分な鉄筋の保持能力を有するものとする。

b. 鉄筋保持するための締付けボルトは、その先端が鉄筋に有害な傷を与えない形状のものとする。

(3) 加圧器
加圧器は、油圧器、高圧ホース及びラムシリンダーからなり、次の性能を有するものとする。

a. 加圧器は、電動式で、加熱と連動しながら加圧操作できるものとする。

b. 加圧器は、鉄筋断面(異形棒鋼の場合は、公称断面)に対し30MPa以上の加圧能力を有するものとする。また、SD490の場合は、鉄筋断面に対して40MPa以上の加圧能力を有し、上限圧及び下限圧を設定できる機能を有するものとする。

5.2 圧接装置
自動ガス圧接装置は、圧接施工記録の作成・出力が可能で、(社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたものとする。

鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)

(b) 原則として圧接をしない場合

(1) 平成22年版までの「標仕」では、鉄筋の種類が異なる場合、形状が著しく異なる場合及び径の差が5mmを超える場合は圧接をしないこととしていたが、SD345とSD390の鉄筋間の圧接は特記に基づいて一般的に行われていた。平成 25年版「標仕」では、こうした実情を踏まえて、鉄筋の種類についてSD345と SD390の圧接を許容するただし書きが追加された。したがって、特記により仕様が示される場合を除き、SD345とSD390の組合せ以外の種類が異なる鉄筋の場合、形状が著しく異なる場合及び径の差が5mmを超える場合は、圧接を行ってはならない。

(2) 径の差が大きい場合、鉄筋の熱容量が異なるために相互の鉄筋の温度上昇に差異が生じて圧接不良が生じる場合があることから、「標仕」では径の差を5mmまでに制限している。鉄筋には、D19、D22、D25、D29のように径に応じた呼び名があるが、D22とD29のように呼び名が2段階異なる場合を2段落ちあるいは2サイズ違いという。2段落ちの場合は径の差が5mm以上となるので、特記がない限り圧接してはならない。

(3) これに関連する場合のガス圧接について、(公社)日本鉄筋継手協会の資料では、次の(i)から(iii)までが示されている。

(i) 「鉄筋継手工事標準仕様書ガス圧接継手工事(2009年)」ではJIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に適合する範囲で強度区分が隣接する種類の鉄筋間の圧接は可能としており、「異種・異径鉄筋の圧接継手性能評価に関する調査研究」でその性能が検証されている。

(ii) ねじ節鉄筋とねじ節鉄筋及び竹節鉄筋とねじ節鉄筋のガス圧接については、「ねじ節鉄筋のガス圧接継手性能に関する研究」で性能確認がなされているが、「鉄筋継手工事標準仕様書ガス圧接継手工事(2009年)」にはねじ節鉄筋の圧接についての記載はない。

(iii) 製造所が異なる鉄筋のガス圧接については、「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」で圧接可能としているが、SD490についてはデータが少ないので十分な事前検討が必要としている。

5.4.5 鉄筋の加工

(a) ガス圧接では、1箇所当たり1d~1.5d (d:鉄筋の径)のアプセット〈縮み代〉が必要である。このため、梁筋や柱筋の定着長さが不足することがあるので、あらかじめ圧接による鉄筋の縮み代を見込んで鉄筋の加工を行う。

(b) 突き合わせた鉄筋の圧接端面間の隙間が大きいと圧接面が酸化しやすく、圧接部の強度が低下するおそれがある。そのため、鉄筋の圧接端面は、軸線にできるだけ直角、かつ、平滑に切断・加工し、圧接端面間の隙間をできるだけ少なくする必要がある。

従来の定置型せん断切断機によって切断された鉄筋の端部は端曲がりが生じているものが多く、再切断が必要となる場合もある。この再切断には、鉄筋冷間直角切断機を用いるのがよい。この切断機で切断し、当日圧接を行う場合にはグラインダーで研削する必要がない程度の端面が得られる。ただし、ばりが生じた場合にはこれを除去する。また、携帯型せん断切断器等を用いる方法もある。これらの方法による場合は、切断した端面をグラインダーで有害な切断跡がなくなるまで研削する必要がある。

5.4.6 圧接端面

圧接部の品質の良否は圧接端面の状態(図5.4.1参照)に大きく左右されるので、圧接端面の処理は圧接作業において極めて重要である。

(1) 圧接端面及び端面から100mm程度の範囲の鉄筋表面に錆、油脂、塗料、セメントペースト等が付着している場合には、これらをあらかじめ除去しておく必要がある。

(2) 圧接端面を平滑に仕上げることが良好な圧接継手とする基本であり、冷間直角切断機等を使用して切断することが望ましい。また、ばり等がきょう雑物として圧接端面に入り込まないように軽く面取りを行う必要がある。

(3) 圧接端面は完全な金属肌の状態でなければ良好な接合が得られないので、冷間直角切断機による端面処理やグラインダー研削は圧接作業当日に行い、錆がないことなど、端面の状態を確認する必要がある。このような状態に仕上げられていることの確認を、施工者の自主管理として全数行い、監督職員も抜取り的に確認するのがよい。また、圧接作業の前日以前に、鉄筋加工場や現場において圧接端面の処理を行うに当たり、処理後の防錯等のために、(公社)日本鉄筋継手協会が認定した端面保護剤が使用されることもある。


図5.4.1 圧接端面の状態

5.4.7 天候による処置

(a) 寒冷期には、溶解アセチレンの気化率が悪いため、温湯、専用電熱器又は照明具等を用いて容器を加温して気化を促進する場合がある。この場合、容器は40℃以上にならないように注意する。

なお、火気による加温は労働安全衛生規則第256条によって厳禁とされている。

(b) 高温期における容器は40℃以下に保つようにする。夏期の野外では直射日光を避けるため容器をシートで覆うなどの処置を講ずる。

(c) 一般作業のできる程度の降雨量であれば健全な圧接ができることが実験的に確認されているが、降雨雪に気をとられて圧接作業に集中できず不良圧接を生じかねないので、降雨雪時の圧接作業は中止とする。ただし、適切な防護を施せば作業を行ってもよい。

圧接時に強風が当たると炎が吹き流され、圧接面が酸化しやすく不良圧接になることがあるので注意する。やむを得ず強風下で圧接を行う場合には、完全な遮へいを施して圧接作業を行う。

5.4.8 圧接作業

(a) 鉄筋に圧接器を取り付けて突き合わせた場合の圧接端面間の隙間は鉄筋径にかかわらず2mm以下とする。この値は現場における管理限界を示したもので、基本はあくまでも隙間をなくすことである。平成19年版「標仕」では、この値を3mm以下としていたが「鉄筋継手工事標準仕様書 ガス圧接継手工事(2009年)」が隙間を2 mm以下とする規定に改訂されたことに合わせ、平成22年版「標仕」で2mm以下とするように改められた。また、偏心、曲がりがあると、圧接面全体に十分な加圧ができず、不良圧接になりかねないので、これらの有無を確認する必要がある。

(b) 圧接する鉄筋の軸方向へ母材断面に対して30MPa以上の加圧を行いつつ、加熱炎が突き合わせた鉄筋の圧接端面からはずれないようにし、圧接端面相互が密着するまで還元炎で加熱する。

鉄筋の圧接には、酸素及びアセチレンの混合ガスによる酸素・アセチレン炎が用いられる。このガス炎は、それぞれのガスの供給量の割合に応じて中性炎(標準炎)、還元炎(アセチレン過剰炎)、酸化炎(酸素過剰炎)に分類される(図15.4.2参照)。圧接の初期加熱時に圧接端面間の隙間が閉じるまでは加熱中における圧接端面の酸化を防ぐために鉄筋の中心まで届くフェザー長さの還元炎で端面を完全に覆うようにして加熱し、端面相互が密着したあとは、火力の強い中性炎で圧接面を中心としてバーナーを左右に揺動しながら加熱する。

接合の良否は、圧接端面相互が密着するまでの初期加熱時に端面が還元炎で十分に覆われていたかどうかによって決まることをよく認識しておく必要がある。


図5.4.2 中性炎(標準炎)と還元炎(アセチレン過剰炎)

(c) 圧接端面相互が密着したのちは還元炎より熱効率の高い中性炎で加熱する。
なお、突合せ部を集中的に加熱すると、圧接面の中心部まで適正な圧接温度(約1,250 ~ 1,300℃)に達しないうちに鉄筋表面部のみが溶融し、正常な圧接が困難となる。したがって、圧接面を中心に鉄筋径の2倍程度の範囲を揺動加熱(幅焼き)する。

(d) 圧接終了直後に圧接器を取り外すと、鉄筋の重みにより赤熱されている圧接部のふくらみ終端部あたりから容易に折れ曲りが生じるため、火色消失後に圧接器の取外しを行う必要がある。

(e) 加熱中にバーナー不調のために逆火等が生じて加熱を中断した場合、そのまま再圧接すると圧接面が酸化して不良圧接となるおそれがあるので,冷間直角切断機等を使用して圧接部を切り取り再圧接する必要がある。ただし、圧接端面相互が密着したあとであれば圧接面の酸化は生じないので再加熱して圧接作業を続行してもよい。

5.4.9 圧接完了後の試験

「標仕」では、圧接完了後に圧接箇所の全数について外観試験を行い、その後、超音波探傷試験又は引張試験による抜取試験を行うこととしている。

なお、ここでいう「抜取試験」は、一般には「抜取検査」と呼ばれている。

(1) 外観試験
(i) 圧接部のふくらみの形状及び寸法、圧接面のずれ、圧接部における鉄筋中心軸の偏心量、圧接部の折れ曲り、片ふくらみ、焼割れ、へこみ、垂下がりについて外観試験を行い、結果を記録する。

① 圧接部のふくらみの形状及び寸法については、図5.4.3に示すように、ふくらみの直径は母材鉄筋径の1.4倍以上、ふくらみの長さは母材鉄筋径の1.1倍以上でなければならない。圧接部のふくらみの外周に軸方向の小さなひび割れが発生することがあるが、これは鉄筋のアプセットに伴うもので、多少のひび割れは特に支障はない。ただし、ひび割れが著しい場合には欠陥となるので、加熱温度、加熱時間、加圧速度等を再検討して,ひび割れの発生を防ぐ。


図5.4.3 圧接部のふくらみの形状及び寸法

② 圧接面のずれは、図5.4.4による。圧接面のずれとは.圧接面がふくらみの中央からずれた位置に存在する場合をいう。これは、加熱位置が鉄筋を突き合わせた位置からずれてしまい、加熱が片方の鉄筋に偏り、適正な圧接作業が行われなかったことを示すものである。ずれが大きくなると強度の低い不良圧接となるので注意する必要がある。


図5.4.4 圧接面のずれ

③圧接部における鉄筋中心軸の偏心量は図5.4.5による。偏心量の大小は、施工の良否を示す指標の一つであるので注意する。


図5.4.5 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量

④鉄筋同士の角度が 2°以上となる圧接部の折れ曲りがあってはならない。

⑤圧接部の片ふくらみは図5.4.6による。


図5.4.6 圧接部の片ふくらみ

(ii) ①~⑤の外観試験の方法は目視によって行い、必要に応じて外観試験用測定治具を使用するとよい。圧接部測定用ゲージを用いると、簡単に圧接部の形状や軸心の食違い等を測ることができ迅速な試験が可能となる(図5.4.7参照)。


(イ)デジタルノギス


(ロ)圧接部測定ゲージ
図5.4.7 外観試験用測定治具の例

(iii) 外観試験は比較的簡単に実施できるので全圧接部を対象としている。

(2) 抜取試験
ガス圧接部の抜取試験には超音波探傷試験と引張試験があるが、「標仕」では、特記がない場合には、超音波探傷試験によるとしている。ただし、特定行政庁によっては引張試験を行う基準を運用していることがあるので、事前に確認しておく必要がある。

① 超音波探傷試験は、次のような特徴がある。
1) 非破壊試験であり、検査のための切取りによる再圧接がない。
2) 試験の抜取り箇所数を増減することができ、必要に応じて全数検査も可能である。
3) 試験従事者の技量に信頼性が依存する。
4) 工事現場において試験ができ、すぐ結果が分かる。

② 引張試験は.次のような特徴がある。
1) 切取りによる破壊試験であり、抜き取った継手の品質を直接的に確認できる。
2) 切取りによる全数検査は、不可能である。
3) 切取りによる再圧接箇所数が増える。
4) 試験結果を得るまでに時間がかかることが多い。

(3) 超音波探傷試験による抜取試験
(i) 超音波探傷試験の試験箇所数
「標仕」では、超音波探傷試験における抜取試験のロットの大きさを1組の作業班が1日に施工した継手箇所としている。1ロットの継手数は、鉄筋の径や継手位置等によって異なり、D22の場合100〜200箇所、D32の場合80〜 150箇所、D38の場合50〜100箇所程度と想定される。また、試験の箇所数は1ロットに対して30箇所であり、ロットから無作為に抜き取る。

(ii) 超音波探傷試験の方法と合否判定基準
超音波探傷試験は、鉄筋軸線に対して20度領いた超音波ビームを圧接面に当てて、圧接面に欠陥がある場合に検知される反射波の強さを測定する試験である。

超音波探傷試験の試験方法及び判定基準は、JIS Z 3062(鉄筋コンクリート用異形棒鋼ガス圧接部の超音波探傷試験方法及び判定基準)によるが、この規格の合否判定基準は、図5.4.8に示す欠陥からの反射波の強さと圧接部の引張強さの相関について調べた実験結果に基づいて定められている。図5.4.8において、横軸は鉄筋母材を透過させたときの透過波の強さ(基準レべルという。)に対する反射波の強さの比(エコー高さ)を示し、縦軸には同じ継手を引張試験して得られた圧接部の引張強さを鉄筋母材のJIS規格引張強さの下限値で除した値を示している。この図の関係より、基準レベルに対して-24dB(反射波の強さは基準レベルの約1/250)以上のエコー高さを示す圧接部を不合格とし、-24dB未満を合格としている。


図5.4.8 エコー高さと引張強さの関係

JIS Z 3062(鉄筋コンクリート用異形棒鋼ガス圧接部の超音波探傷試験方法及び判定基準)の抜粋を次に示す。

JIS Z 3062 : 2009

1 適用範囲
この規格は、JIS G 3112に規定する異形棒鋼(以下鉄筋という。)のガス圧接部の超音波探傷試験方法及び試験結果の判定基準について規定する。

3 用語及び定義
この規格で使用する用語の定義は、JIS Z 2300によるほか、次による。

3.1 リブ間距離
鉄筋の表面突起のうち、 軸線方向の突起をリブといい、この相対するリブ外面間の距離(図1参照)。


図1 – 鉄筋リブ間距離

3.2 透過走査
相対するリブの上に探触子を配置し、一方の探触子の超音波送信パルスを他方の探触子で受信する方法。

3.3 基準レベル
透過走査で求められる透過パルスの最大値。

3.4 合否判定レベル
基準レベルに基づいて、試験結果を判定するために定めたレベル。

3.5 はん(汎)用探傷器
基本表示のパルス反射式超音波探傷器。

3.6 専用探傷器
鉄筋ガス圧接部の探傷のために操作を簡易化したパルス反射式超音波探傷器。

4 試験技術者
鉄筋ガス圧接部の探傷試験を行う技術者は、超音波探傷試験の原理及び鉄筋ガス圧接部に関する知識をもち、かつ、その超音波探傷試験方法について十分な技術及び経験をもつ者とする。

5 探傷装置の機能及び性能
5.1 探傷装置の機能及び性能
探傷装置は、次の機能及び性能をもつものとする。
a) はん用探傷器の機能及び性能
はん用探傷器の機能及び性能は、附属書Aによる。(附属書A省略)

b) 専用探傷器の機能及び性能
専用探傷器の機能及び性能は、附属書Bによる。(附属書B省略)

5.2 探触子の性能
探触子の性能は、附属書Cによる。(附属書C省略)

5.3 接触媒質
接触媒質は、濃度75%(質量分率)以上のグリセリン水溶液、グリセリンペースト又は音響結合がこれらと同等以上と確認されたものとする。

5.4 探傷装置の点検
探傷装置は、次の点検を行い異常の有無を確認する。

a) 点検の種類及び時期
1) 始業時点検
始業時の点検は、探傷作業開始前に行う。

2) 作業中点検
作業中の点検は、作業中1時間ごと、又は1時間以内であっても少なくとも試験箇所20か所ごとに行う。

3) 終業時点検
終業時の点検は、探傷作業終了後速やかに行う。

4) 定期点検
定期点検は、1年に1回以上行う。

5) 特別点検
特別点検は、次の場合に行う。

5.1) 探傷装置の修理を行ったとき。
5.2) 探傷装置の一部を交換したとき。
5.3) その他特別に点検する必要があると認められたとき。

b) 点検の方法
1) 始業時、作業中及び終業時の点検方法は、次による。
1.1) 透過走査を行って基準レベルが設定できることを確認する。
1.2) 基準レベルに基づいて合否判定レベルを設定した後、透過走査を行って透過パルスが容易に受信できることを確認する。

2) 定期点検及び特別点検は、次による。
2.1) はん用探傷器の点検方法は、JIS Z 2352による。
2.2)専用探傷器の定期点検方法は、附属書Dによる。(附属書D省略)

c) 異常の場合の処置
a)及びb)の点検で異常が発見された場合の処置は、次による。
1) 点検で異常が認められた探傷装置は、使用しない。
2) 作業中及び終業時点検で異常が認められた場合には、その点検の直前の点検以降に実施した試験は無効とする。

6 探傷試験の準備

6.1 確認事項
探傷試験を開始する前に、鉄筋の種類、呼び名及びリブ間距離(図1参照)を確認する。

6.2 探傷の時期
探傷試験は、圧接部の温度が常温になってから行う。

6.3 探傷面の手入れ
探触子を接触させるリブ上の探傷面に、超音波の伝達を妨げるもの(浮いたスケール、コンクリート、セメントペースト、著しいさび、塗料など)が存在する場合には、これらを除去する。

7 探傷装置の調整
7.1 測定範囲の調整
測定範囲の調整は、次による。
a) はん用探傷器
はん用探傷器の場合には、探傷する鉄筋の透過パルスが時間軸の範囲に表示できるように、JIS Z 2345に規定する標準試験片(STB-A3)を用いて、測定範囲を設定する。

b) 専用探傷器
専用探傷器の場合には、ゲートの設定を探傷する鉄筋の呼び名に合わせる。

7.2 基準レベルの設定
基準レベルは、探傷する鉄筋の製造業者、種類及び呼び名が異なるごとに以下のように設定する。
a) はん用探傷器
はん用探傷器の場合には、透過走査によって透過パルスの最大値を求める(図2参照)。この透過パルスの高さを表示器目盛の50%となるように探傷器のゲイン調整器を講整し、これを基準レベルとする。


図2 – 基準レベルを得るための透過走査

b) 専用探傷器
専用探傷器の場合には、透過走査によって透過パルスの最大値を求める(図2参照)。探傷器の警報ランプ、バー表示又は音で最も高い透過パルスであることを確認し、これを基準レベルとする。

7.3 合否判定レベルの設定
合否判定レベルは、基準レベルの -24dBとする。

8 探傷試験
8.1 探傷方法
探傷は、鉄筋のリブ上での斜角二探触子によって、圧接部のふくらみの両側で行う(図3参照)。


図3 – 斜角二探触子法

8.2 走査方法及び走査範囲

走査方法及び走査範囲は、次による(図4参照)。

a)最初に、一方の探触子を圧接部のふくらみに近接した位置①に置き、他方を圧接部のふくらみに近接した位置④と圧接面から約2Dの位置⑤の範囲で前後走査する。

b) 次に、一方の探触子を圧接面から約1.4Dの位置②に置き、他方を圧接部のふくらみに近接した位置④と圧接面から約2Dの位置⑤の範囲で前後走査する。

c) 最後に、一方の探触子を圧接面から約2Dの位置③に置き、他方を圧接部のふくらみに近接した位置④と圧接面から約2Dの位置⑤の範囲で前後走査する。


図4 – 走査方法

8.3 走査速度
走査速度は、60mm/s以下とする。

9 合否判定
圧接部を挟んで両側における探傷試験で、合否判定基準レベル以上のエコーが検出されなかった場合は合格とする。

10 記録
探傷試験を行った後、次の事項を記録する。

a) 工事名
b) 圧接工事施工者名(会社名)
c) 圧接工法
d) 試験年月日
e) 試験を実施した試験技術者の氏名
f) 試験箇所
g) 合否判定結果
h) 鉄筋の製造業者名、種類及び呼び名
i) 探傷器の形式及び製造番号
j) 探触子の製造業者名及び製造番号
k) その他参考となる事項(指定事項、協議事項、試験材の抜取方法など)

JIS Z 3062 : 2009

(iii) 探傷不能領域の存在

超音波探傷試験では、鉄筋のリブ上の探触子から入射させる超音波で圧接面のできるだけ広い範囲が探傷できるように、探触子をリブ上で前後に移動させて走査を行うが、それでも圧接面には探傷不能領域と呼ばれる超音波が届かない部分が存在する。この探傷不能領域は図5.4.9に示すように圧接面の周辺部となるため、この部分に存在する欠陥は検出できないことになる。しかし、この探傷不能領域の存在を前提としたうえで、図5.4.8の関係が成り立っている。


図5.4.9 探傷不能領域

(iv) 試験従事者
試験従事者は当該工事のガス圧接工事に関連のない立場の者とし、監督職員は、受注者等から提出された知識及び経験等の証明となる資料により確認することになるが、圧接作業、圧接条件等についても必要な知識を有する者であることが要件となる。

一例として、(公社)日本鉄筋継手協会では「鉄筋継手部検査技術者技量資格」(1G種,1W種,1M種,2種,3種)の認証を行っている。1G種,1W種,1M種は、それぞれ、圧接継手部、溶接継手部、機械式継手部の、2種は圧接継手部と溶接継手部の、3種は圧接継手部と溶接継手部、機械式継手部の超音波探傷検査及び外観検査を行うことができる資格である。したがって、ガス圧接継手の検査を行うことができる検査技術者は、1G種,2種,3種のいずれかの技量資格を有する者である。

これらの者は、「標仕」5.4.9(2)(ⅰ)④に規定する試験従事者としての要件のうち、必要な知識等を有するものと見なすことができる。

(v) ロットの合否判定
ロットの合否判定は、抜き取った試験箇所数のすべてが合格と判定された場合に当該ロットを合格とすることとしている。この「標仕」の抜取り方式(ロットの大きさ:200程度、抜取り数:30箇所、不合格品個数:0)では、品質のレベルを表すAOQL( Average Outgoing Quality Limit:平均出検品質限界)は約1%となる。

(4) 引張試験による抜取試験
(i) 引張試験の試験箇所数
引張試験による抜取試験の場合、超音波探傷試験による抜取試験の場合と同じく1検査ロットの大きさは、1作業班が1日に施工した箇所数としている。

また、試験片の採取数は1ロットに対して3本としている。作業班ごとの外観試験に合格したもののうち最とも外観の悪いものについて行い、その採取箇所は監督職員が指定することが望ましい。

試験片を採取した箇所は、同種の鉄筋を再圧接により継ぎ足して修正する。ただし、鉄筋がD25以下の場合にはコンクリート打込み等に問題がなければ鉄筋の納まりを考慮し、設計担当者と協議したうえで重ね継手として修正させてもよい。

(ii) 試験片の形状、寸法及び試験方法は、JIS Z 3120(鉄筋コンクリート用棒鋼ガス圧接継手の試験方法及び判定基準)による。この規格の抜粋を次に示す。

JIS Z 3120 : 2009

1 適用範囲
この規格は、構造物の鉄筋としてJIS G 3112に規定する棒鋼を用いる場合の手動ガス圧接法、自動ガス圧接法及び熱間押抜きガス圧接法によるガス圧接継手の試験方法及び判定基準について規定する。

3 用語及び定義
この規格で用いる主な用語及び定義は、JIS Z 3001-1及びJIS Z 3001-2によるほか、次による。

3.1 ガス圧接継手
酸素 – アセチレンガス炎を用いて加熱し、機械的圧力を加えて溶接した突合せ継手。

3.2 手動ガス圧接法
加圧工程とバーナー躯動とを自動的に制御しない手動ガス圧接装置を使用してガス圧接を行う方法。

3.3 自動ガス圧接法
加圧工程とパーナー駆動とを自動的に制御する自動ガス圧接装置を使用してガス圧接を行う方法。

3.4 熱間押抜きガス圧接法(略)

3.5 圧接面
圧接によって得られた接合面。

3.6 圧接部
圧接によって得られた熱影響部を含む継手部全体。

3.7 追試験
試験片の不合格の原因を確認するための試験。

4 試験の種類
試験の種類は、外観試験と引張試験とする。ただし、やむを得ない場合は、継手施工の受渡当事者間の合意によって、引張試験を曲げ試験に代えてもよい。

5 試験片
試験片の形状及び寸法は、表1による。試験片はガス圧接のままとし、引張試験片又は曲げ試験片は外観試験に合格したものを用いる。ただし、手動ガス圧接法又は自動ガス圧接法によって作製した曲げ試験片については、試験片を正しく曲げるために、押し金具が当たる側のふくらみを母材外接線まで削るのが望ましい。

表1 – ガス圧接継手試験片の形状及び寸法

6 試験方法

6.1 外観試験
圧接部の外観試験は、ふくらみの形状・寸法、圧接接面のずれ、鉄筋中心軸の偏心量、折れ曲がり、その他有害と認められる欠陥の有無などについて、目視又は必要に応じてノギス、スケールなどの器具を用いて行う。

6.2 引張試験方法
引張試験方法は、JIS Z 2241による。ただし、継手の引張強さを求める場合の断面積は、異形棒鋼については JIS G 3112に規定する公称断面積とし、棒鋼についてはJIS G 3191に示す標準径によって求めた断面積とする。

6.3 曲げ試験方法
曲げ試験方法は、JIS Z 2248に規定する押曲げ法による。ただし、 曲げ角度は45° 以上とし、内側半径は JIS G 3112による。

7 判定基準
7.1 外観試験の判定基準
すべての試験片が次の判定基準を満足しなければならない。

a) 手動ガス圧接法及び自動ガス圧接法によって作製された試験片の場合は、次による。

1) 圧接部のふくらみの直径(D)は、鉄筋の径又は公称直径の1.4倍以上とする。ただし、JISG3112に規定するSD490の場合は1.5倍以上とする(図1参照)。

2) 圧接部のふくらみの長さ(ℓ)は、鉄筋の径又は公称直径の1.1倍以上とする。ただし、JISG3112に規定するSD490の場合は1.2倍以上とする(図1参照)。


図1 – 圧接部のふくらみの直径及びふくらみの長さ

3) 圧接面のずれ( δ) は、鉄筋の径又は公称直径の1/4以下とする(図2参照)。


図2 – 圧接面のずれ

4) 圧接部における相互の鉄筋中心軸の偏心量 ( e ) は、鉄筋の径又は公称直径の1/5以下とする(図3参照)。


図3 – 偏心量

5) 目視によって明らかな圧接部の折れ曲がりがないものとする。

6) 目視によって圧接部に過熱による著しいたれ・割れ・溶けがないものとする。

b)(略)

7.2 引張試験の判定基準
すべての試験片の引張強さがJIS G 3112の規定に合格しなければならない。

7.3 曲げ試験の判定基準
いずれの試験片も圧接面に破断又は割れがあってはならない。

JIS Z 3120 : 2009

(iii) ロットの合否判定
ロットの合否判定は、抜き取った試験片の全数が母材のJIS規格引張強さ以上で、かつ、圧接面での破断がない場合を当該ロットの合格としている。母材のJIS規格引張強さ以上でも、圧接面で破断した場合に不合格としているのは、圧接面破断が生じる際の強度には、ばらつきが大きい場合もあり、3本の抜取試験では強度の推定が困難なためである。

母材のJIS規格引張強さ未満で圧接面破断した場合は、原因が母材鉄筋自身にあることも考えられるので、鉄筋母材の材料試験をしてみることが望ましい。

また、母材破断した場合でも、母材の規格引張強さ未満で破断した場合は不合格となる。その場合で、破断部位が圧接器の締付けボルトによる圧痕に起因していると考えられる場合には、締付けボルトを変更する必要がある。

圧接面で破断し不合格となった場合には、再試験を行うことができることとし、その場合の抜取り数は当該ロットの5%以上とし、すべての試験片について引張強さが母材のJIS規格値以上の場合を合格としている。

5.4.10 不合格となった圧接部の修正

不良圧接部の判定手順及び修正について、図5.4.10に示す。
(1) 外観試験で不合格となった圧接部の修正
(i) 圧接部のふくらみの直径とふくらみの長さがそれぞれ鉄筋径の1.4倍、1.1倍に満たない場合の修正は、鉄筋を切断せずに再加熱・加圧して、所定のふくらみの直径及びふくらみの長さとしてもよい。これは再加熱・加圧によって圧接部の品質を劣化させることなく形状を修正することができるためである。

(ii) 圧接面のずれが鉄筋径の1/4を超えた場合は、十分な接合強度が得られず圧接面破断となりやすい。この場合には、圧接部を切り取って再圧接する。

(iii) 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量が鉄筋径の1/5を超えた場合には、圧接面に必要な加圧力が作用しなかった可能性があるので圧接部を切り取って再圧接する。

(iv) 圧接部に折れ曲りが生じている場合は、これによる強度低下は少ないが、鉄筋の軸方向の剛性が低下するので再加熱によって修正する。

(v) 圧接部のふくらみ量の差が鉄筋径の1/5を超える片ふくらみとなった場合は、部分的に十分な加圧力が作用しなかった可能性があるので圧接部を切り取って再圧接する。

(vi) 圧接部のふくらみがつば形となるのは、バーナーの揺動幅が狭く、幅焼き不足によって生じるもので、箸しいつば形の場合には圧接面の中心部まで適正な圧接温度に達していない可能性がある。

また、短時間の加熱で加圧すると圧接部表面にひび割れが生じやすい。著しいひび割れは鉄筋内部が適正温度に達していない可能性がある。

いずれの場合にも、圧接部を切り取って再圧接する。

(2) 抜取試験で不合格となったロットの処置
(i) 超音波探傷試験あるいは引張試験による抜取試験で不合格ロットが生じた場合には、直ちに圧接作業を中止し、欠陥の発生箇所、圧接面に発生している欠陥の種類等を調べて欠陥の発生原因を究明する。原因が明らかになれば、再発防止のための改善措置を検討し、施工計画書の修正等を行ったのち、作業を行う。

(ii) 不合格となったロットは、試験されていない残り全数に対して超音波探傷試験を行い、不良圧接部の選別を行う。

(iii) 超音波探傷試験の結果、不合格となった圧接箇所の処理は、圧接箇所を切り取って再圧接する。平成19年版「標仕」では不合格となった圧接箇所について、監督職員と協議したうえでの添え筋による補強を認めていた。しかし、添え筋 による補強は重ね継手によることと同じことであり、鉄筋径の制限があるとともに、鉄筋のあきを確保することや付着性能の確認が必要となる。こうした事項の確認は設計担当者が行うべきもので、現場で安易に採用すべきではないとの観点から、平成22年版「標仕」で添え筋による補強が削除された。ただし、圧接位置によっては再圧接が困難で、機械式継手等によって処理することが必要な場合もあり得るので、設計担当者により処理方法が特記されていることが望ましい。

(3) 圧接部を再加熱して修正する場合は、適正な形状となったかどうか外観試験を行って確認する必要がある。また、圧接部を切り取って再圧接する場合は、外観試験及び超音波探傷試験を行って再圧接した圧接部の品質を確認する必要がある。


図5.4.10 不良圧接部の判定手順及び修正

5.4.11 「標仕」以外の圧接工法

圧接作業方法として、「標仕」に規定する方法以外に熱間押抜きガス圧接がある。この方法は、圧接直後に圧接部のふくらみを赤熱中にせん断刃で押し抜いて除去し、このせん断面の表面外観により圧接部の品質を判定できるとともに、仕上り形状を母材鉄筋に近づけることができる。

なお、熱間押抜きガス圧接はふくらみを除去する工法であるため、平成12年建設省告示第1463号で規定する構造方法に適合しない部分がある。このため(公社)日本鉄筋継手協会が、同協会の「鉄筋のガス圧接工事標準仕様書(2003年)」に基づき適切に施工された熱間押抜きガス圧接部材について実験により性能の確認を行った結果が「鉄筋のガス圧接継手性能評価に関する調査研究(2004年)」にまとめられているので参考にするとよい。

(1) 熱間押抜きガス圧接の特徴等
(i) 加熱・加圧等の圧接工程は、従来の方法と全く同じであり、せん断除去後のふくらみ部の径は、鉄筋径よりやや大きい寸法(鉄筋径の1.2倍程度)となる。

(ii) 不良圧接の場合、熱間押抜きに伴って圧接部に生じる鉄筋軸方向の引張応力によって接合面が開口し、割れや線状傷として現れることにより品質を判定できる(図5.4.11参照)。


図5.4.11_押抜き法による表面傷の発生過程

(iii) ふくらみの押抜き直後に、圧接部表面に割れ、線状傷、へこみ等の欠陥が認められた場合には、再圧接のうえ再度押し抜くことができる。

(iv) 径の異なる鉄筋間の継手には適用できない。

(v) 押抜き作業には特別な技量を必要とするため、熱間押抜きガス圧接技量資格証明書を有する圧接技量資格者とする必要がある。

(2) 押抜き後の試験
押抜き後の試験は、全数外観試験を行う。

外観試験は、目視によって行い、必要に応じてノギス、スケール、鏡、その他適切な器具を用いる。また、外観試験の対象項目及び判定基準は、次のとおりである。

① ふくらみを押し抜いたのちの圧接面に対応する位置に割れ、線状傷、へこみがあってはならない。

② オーバーヒート等による表面不整があってはならない。

③ 圧接部のふくらみの長さℓは、鉄筋径の1.1倍以上でなければならない(図5.4.12 参照)。


図5.4.12 圧接部のふくらみの長さ

④ 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量 e は、鉄筋径の1/10以下でなければならない。(図5.4.13参照)


図5.4.13 偏心量

⑤ 目視により明らかな折れ曲りがあってはならない。

(3) 押抜き後の試験で不合格となった場合の処置
押抜き後の外観試験で不合格となった圧接部は,次に示す方法で処置する。

① 押抜き後の圧接面に対応する位置に割れ,線状傷,へこみ,オーバーヒート等による表面不整が認められた場合及びふくらみの長さが鉄筋径の1.1倍に満たない場合は、そのまま再加熱、再加圧、押抜きを行って修正し、外観検査を行う。

② 圧接部に著しい折れ曲がりを生じた場合は、再加熱して修正し、外観検査を行う。

③ 圧接部における鉄筋中心軸の偏心量が規定値を超えた場合は、圧接部を切り取って再圧接し、外観検査を行う。

5章 鉄筋工事 5節 機械式継手及び溶接継手

第5章 鉄筋工事 


5節 機械式継手及び溶接継手

5.5.1 適用範囲

(a) 現在、わが国で使用されている鉄筋継手を工法別に分類すると図5.5.1に示すとおりとなる。平成22年版「標仕」では、このうちの重ね継手とガス圧接継手を標準的な鉄筋継手工法として取り扱い、機械式継手とD16以下の細径鉄筋に用いる重ねアーク溶接継手(フレア溶接継手)を特殊な鉄筋継手として、その適用範囲を限定してきた。平成25年版「標仕」では、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1463号)に適合する機械式継手及び溶接継手についても標準的な鉄筋継手工法として取り扱うように改定された。

したがって、これまでの特殊な鉄筋継手の適用範囲であった機械式継手とD16以下の細径鉄筋に用いる重ねアーク溶接継手については従来と同様に適用範囲に含まれており、新たに突合せ溶接継手(エンクローズ溶接継手)が適用範囲に含まれたことになる。

なお、図5.5.1の溶接継手のうち、フラッシュバット溶接継手及びアプセットバッ卜溶接継手からなる突合せ電気抵抗溶接継手は、溶接閉鎖型のせん断補強筋や開口部補強筋に用いられる。これらのうち、高強度せん断補強筋の接合に用いる溶接は、5.3.2(d)(2)に記述したように、それぞれの製品の設計施工指針が対象とする製造工場又は加工工場のみで行われる。これは、評定を受けて製造される開口部補強筋製品についても同様である。一方、普通強度のせん断補強筋に用いる溶接については、(公社)日本鉄筋継手協会が審査により高品質な溶接閉鎖型せん断補強筋を製造する会社(工場)を「優良溶接せん断補強筋製造会社」として認定しているので、参考にするとよい。


図5.5.1 鉄筋継手の分類

(b) 機械式継手や溶接継手を用いる場合は設計図書に記載されるが、工事に当たっては適用の条件を確認する必要がある。設計図書に記載される事項は次のようなものである。

(1) 継手の名称
(2) 必要に応じて、接合装置名、接合用部品の材料の材質・形状・寸法等、鉄筋端あるいは表面の処理法
(3) 必要に応じて、継手位置、継手部におけるコンクリートのかぶり厚さ、継手部におけるあばら筋・帯筋の寸法・間隔、継手の位置のずらし方等
(4) 現場における継手の試験・検査の方法とその回数

(c) 継手によっては、接合装置がかさばる場合もあるので、接合する部分の鉄筋間隔についての事前の検討が必要である。

5.5.2 機械式継手

(a) 機械式継手は、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示1463号)に適合したものでなければならない。同告示では、機械式継手の構造方法として、カップラー等の接合部分における滑りやカップラーの強度、モルタルやグラウト材等の強度、ナットを用いて固定する場合の導入トルク、圧着によって固定する場合の密着状態を規定している。現在までに建築工事に適用実績のある機械式継手を次に例示する。

(1) ねじ節継手は、異形鉄筋の節形状がねじ状になるように圧延された鉄筋を雌ねじ加工されたカップラーを用いて接合する工法である。メーカーによって節形状が異なっており専用のカップラーが必要である。カップラーと鉄筋との間の緩みを解消する方法として、ロックナットを締め付けるトルク方式、カップラーと鉄筋の節との空隙にモルタル又は樹脂を注入するグラウト方式、両者を併用したナットグラウト方式がある(図5.5.2参照)。


(イ)トルク方式


(ロ)グラウト方式
図5.5.2 ねじ節継手の例

(2) 端部ねじ継手は、市販の異形鉄筋の端部をねじ加工した鉄筋、又は加工したねじ部を鉄筋の端部に摩擦圧接した鉄筋を使用し、雌ねじ加工したカップラーを用いて接合する工法である(図5.5.3参照)。


図5.5.3 端部ねじ継手の例

(3) 鋼管圧着継手は突き合わせた鉄筋の端部に鋼管(スリーブ)をかぶせたのちにこの鋼管を油圧ジャッキで圧着し、鋼管を異形鉄筋の節に食い込ませて接合する工法である。鋼管の圧着を連統的に行う方式と断続的に行う方式がある。鉄筋は異形鉄筋であれば市販のどれでも使用できる(図5.5.4参照)。


(イ) 連続圧着方式


(ロ)断続圧着方式
図5.5.4 鋼管圧着継手の例

(4) 充填継手には、充填する材料によってモルタル充填継手と、溶融金属充填継手の2種類がある。モルタル充填継手は鋳鋼製スリーブの両端から鉄筋を突き合わせるように挿入し、スリーブと鉄筋との隙間を無収縮高強度モルタルで充填し一体化して接合する工法である。溶融金属充槙継手は鉄筋を突き合わせたスリーブ内に溶融金属を流し込んで隙間を充填し接合する工法である。いずれも市販の異形鉄筋はどれでも使用できる(図5.5.5参照)。


図5.5.5 充填継手の例

(5) 併用継手は、2種類の機械式継手を組み合わせることでそれぞれの長所を取り入れ、施工性を改良したものである(図5.5.6参照)。


(イ)圧着ねじ併用継手


(ロ)充填圧着併用継手
図5.5.6 併用継手の例

(6) 「鉄筋の継手の構造方法を定める件」における機械式継手に関する規定の抜粋を次に示す。

鉄筋の継手の構造方法を定める件
(平成12年5月31日建設省告示第1463号)

建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第73条第2項ただし書(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定に基づき、鉄筋の継手の構造方法を次のように定める。

1.(5.4.3 (a)に記載)

2.(5.4.3 (a)に記載)

3.(5.5.3 (a)に記載)

4.機械式継手にあっては、次に定めるところによらなければならない。

ー カップラー等の接合部分は、構造耐力上支障のある滑りを生じないように固定したものとし、継手を設ける主筋等の降伏点に基づき求めた耐力以上の耐力を有するものとすること。ただし、引張力の最も小さな位置に設けられない場合にあっては、当該耐力の1.35倍以上の耐力又は主筋等の引張強さに基づき求めた耐力以上の耐 力を有するものとしなければならない。

ニ モルタル、グラウト材その他これに類するものを用いて接合部分を固定する場合にあっては、当該材料の強度を1平方ミリメートルにつき50ニュートン以上とすること。

三 ナットを用いたトルクの導入によって接合部分を固定する場合にあっては、次の式によって計算した数値以上のトルクの数値とすること。この場合において、単位面積当たりの導入軸力は、1平方ミリメートルにつき30ニュートンを下回ってはならない。

四 圧着によって接合部分を固定する場合にあっては、カップラー等の接合部分を鉄筋に密着させるものとすること。

(b) 隣り合う鉄筋の継手位置は、「標仕」5.3.4(d)により、カップラーの中心間で400 mm以上かつ、カップラー端部の間のあきが40mm以上となるようにずらして配置する。ただし、先組み工法等で継手を相互にずらさない場合は特記による位置とする。

(c) 現在、市販されている機械式継手は、(一財)日本建築センターの評定を受けて告示の構造方法との適合性が確認されている。したがって、工法や品質の確認方法等は、各工法の評定を受けた施工要領書に準拠しなければならず、特記及び品質計画はこれらの施工要領書に基づいて定める必要がある。

機械式継手の検査においては、カップラーに対する鉄筋の挿入長さの確認が重要である。機械式継手は、鉄筋の挿入長さが十分でなければカップラーを介して応力が伝達されず十分な機能を果たさなくなる。このため、施工作業ではマーキングによる挿入長さの確認を行うこととしており、監督職員も抜取り的に確認を行うのがよい。(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書機械式継手工事(2009年)」では、表面SH波法による鉄筋挿入長さの超音波測定検査を主要な機械式継手の仕様とともに定めているので、必要に応じて参考にするとよい。

5.5.3 溶接継手

(a) 溶接継手は、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1463号)に適合したものでなければならない。同告示では、突合せ溶接継手の構造方法が規定され、径が25mm以下の主筋等にあっては重ねアーク溶接継手とすることができるただし書きが記されている。

「鉄筋の継手の構造方法を定める件」の溶接継手に関する規定の抜粋を次に示す。

鉄筋の継手の構造方法を定める件
(平成12年5月31日建設省告示第1463号)

建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第73条第2項ただし書(第79条の4において準用する場合を含む。)の規定に基づき、鉄筋の継手の構造方法を次のように定める。

1 (5.4.3(a)に記載)

2 (5.4.3(a)に記載)

3 溶接継手にあっては、次に定めるところによらなければならない。

ー 溶接継手は突合せ溶接とし、裏当て材として鋼材又は鋼管等を用いた溶接とすること。ただし、径が25ミリメートル以下の主筋等の場合にあっては、重ねアーク溶接継手とすることができる。

二 溶接継手の溶接部は、割れ、内部欠陥等の構造耐力上支障のある欠陥がないものとすること。

三 主筋等を溶接する場合にあっては、溶接される棒鋼の降伏点及び引張強さの性能以上の性能を有する溶接材料を使用すること。

4 (5.5.2(a)に記載)

(b) 隣り合う鉄筋の継手位置は、「標仕」5.3.4(d)により、継手の中心間で400以上ずらして配置する。ただし、先組み工法等で継手を相互にずらさない場合は特記による位置とする。

(c) 現在、工事に採用できる突合せアーク溶接継手(エンクローズ溶接継手)は、告示の第1項ただし書きの規定による継手部分の性能を確認し、(一財)日本建築センターの評定又は(公社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたものがほとんどである。これらは告示の第3項にも適合しているので、性能が確認されたこれらのエンクローズ溶接継手を用いるのが望ましい。(一財)日本建築センターの評定又は(公社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたエンクローズ溶接継手の工法や品質の確認方法等は、前者では評定を受けた施工要領書に、後者では(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)」に準拠しなければならず、特記及び品質計画はこれらに基づいて定める必要がある。

(1) エンクローズ溶接継手の概要と種類
エンクローズ溶接継手は突き合わせた鉄筋の開先部を裏当て金で囲み、CO2ガスシールドにより溶接部の酸化を防止しながら、開先底部よりアークをスタートさせて鉄筋両端面に十分な溶込みを与えながら連続的に開先内を溶融金属で充填して接合するもので、溶接後の継手の伸縮は小さいという特徴がある。この溶接はI 形開先であり、ルート間隔の管理が重要である。エンクローズ溶接の例を図 5.5.7に示す。


図5.5.7 エンクローズ溶接の例

(2) エンクローズ溶接継手の検査
(一財)日本建築センターの評定又は(公社)日本鉄筋継手協会の認定を受けたエンクローズ溶接継手の検査は、その工法の施工要領書に定める方法によらなければならない。検査の種類では、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」の第3項第二号において、溶接部に割れ、内部欠陥等の構造耐力上支障のある欠陥がないものとすることと規定されていることに対応して、外観検査と超音波探傷検査が行われる。しかし、裏当て金が固着する工法では溶接部全周の外観検査ができないことや裏当て金によって超音波探触子を当てる部分が制限される。また、裏当て材が取り外せる工法でも鉄筋のリブとアークの起点が必ずしも一致しないため、ガス圧接継手の超音波探傷検査に採用される直角K走査法では欠陥が比較的生じ易いとされる溶接初層部の検査ができない場合がある。したがって、エンクローズ溶接継手については、工事の全部あるいは一部について、より広範囲な検査領域が得られる探触子走査法を併用することなどが望ましい。

(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)」では、上記の課題に対応する検査方法として、探触子を鉄筋軸に対して20゜傾斜させる斜めK走査法や斜めタンデム走査法を直角K走査法と併用する検査法が規定されているので、参考にするとよい。例として斜めK走査法による鉄筋溶接部の超音波探傷を図5.5.8に示す。


図5.5.8 斜めK走査法による鉄筋溶接部の超音波探傷

(公社)日本鉄筋継手協会「鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)」における検査の規定の抜粋を次に示す。

鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)

4章 検 査
4.1 一般事項
(1) 溶接部の検査は、外観検査と超音波探傷検査によって行う。引張試験による検査を併用する場合は、特記による。

(2) 検査は、原則として発注者又は監理・責任技術者の立会のもとに行う。

(3) 検査の時期は、工事工程を考慮して定め、監理・責任技術者の承認を得る。

(4) 検査数量は、次による。
a. 外観検査は、全数検査とする。
b. 超音波探傷検査は、抜取検査とする。
c. 引張試験による検査は、抜取検査とする。

(5) 検査は、発注者又は監理・責任技術者の承認を受けた施工者若しくはその代理者である検査会社の検査技術者が行う。また、検査技術者は、欽筋継手部検査技術者資格の1W種、2種又は3種を保有する者とする。

4.2 外観検査
(1) 外観検査の検査項目は、表2による。

(2) 外観検査は、目視によって行い、目視で判定が困難なものに対して、ノギス、スケール、その他適切な器具を用いて寸法を測定する。

(3) 外観検査の合否判定基準は、各溶接継手工法の認定条件及び表2のいずれをも満足するものとする。

表2 外観検査項目及び合否判定基準

4.3 超音波探傷検査
(1) 超音波探傷検査の検査項目は、内部欠陥の検出とする。

(2) 超音波探傷検査の方法は、(社)日本鉄筋継手協会規格 JRJS 0005(鉄筋コンクリート用異形棒鋼溶接部の超音波探傷試験方法及び判定基準(案))に規定する直角K走査法と斜めK走査法(又は斜めタンデム走査法)を併用して行う。

(3) 継手の合否判定基準は、合否判定レベルを基準レベルの –18dBとし、これ以上のエコーが検出された場合は、不合格とする。

4.4 超音波探傷検査における抜取検査
(1)抜取検査の検査ロットは、同ー作業班が同一日に施工した溶接箇所とし、その大きさは、200箇所程度を標準とする。

(2) サンプルの大きさは検査ロットごとに30箇所とし、サンプルはランダムに抽出する。

(3) ロットの合否判定は、30箇所のサンプルのうち、不合格数が、1箇所以下のときはロットを合格とし、2箇所以上のときはロットを不合格とする。

(4) ロットの処置については、合格ロットはそのまま受け人れ、不合格ロットは超音波探傷検査による全数検査を行って合格した溶接粧手を受け入れる。

4.5 引張試験による検査
(1) 溶接継手の引張試験方法は、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)による。ただし、継手の引張強さを求める場合の断面積は、JIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)に規定する公称断面積とする。なお、この場合の引張試験機による試験片のつかみ間隔は、公称直径の8倍以上とする。

(2) 溶接継手の引張試験の合否判定基準は、試験片の引張強さが母材の規格値以上の場合、合格とする。

(3) 引張試験による検査における抜取検査は、次による。
a. 抜取検査の検査ロットは、同ー作業班が同一日に施工した溶接箇所とし、その大きさは200箇所程度を標準とする。

b. サンプルの大きさは検査ロットごとに3本とし、サンプルはランダムに抜き取る。

c. すべての試験片の引張強さが母材の規格値以上のときはロットを合格と判定する。また、1本のみが母材の規格値未満のときは、さらに3本を抜き取り、すべての追加試験片の引張強さが母材の規格値以上のときはロットを合格と判定する。

d. 合格ロットはそのまま受け人れ、不合格ロットの処置は、監理・責任技術者 と協議し、承認を得る。

4.6 不合格溶接部等の処置
(1) 検査で不合格が生じた場合は、直ちに監理・責任技術者に報告し、処置について承認を得る。監理・責任技術者が処置方法を指定する場合以外においては、次の(2), (3)により処置を行う。

(2) 外観検査で不合格となった溶接部は、不合格溶接部を補修又は再溶接した後、外観検査及び超音波探傷検査を行う。

(3) 超音波探傷検査で不合格となった溶接部は不合格溶接部を切り取って再溶接し、外観検査及び超音波探傷検査を行う。

(4) 外観検査で10%以上の溶接部に不合格が生じた場合又は超音波探傷検査でロット不合格と判定された場合は、以後の溶接継手工事を中止し、不合格の発生原因を調査する。工事を再開するにあたっては、再発防止のために必要な措置を講じて、監理・責任技術者の承認を得る。

鉄筋継手工事標準仕様書 溶接継手工事(2009年)

(d) D16以下の細径鉄筋に対する溶接は、重ねアーク溶接(フレア溶接)とする。これについて、「鉄筋の継手の構造方法を定める件」(平成12年5月31日 建設省作示第1463号)では、径が25mm以下の主筋等の場合にあっては重ねアーク溶接継手とすることができるとあるので、「標仕」の方が厳しく制限していることに注意する必要がある。フレア溶接継手は鉄筋どうし又は鉄筋と鋼材を重ね合わせて、その重ねた部分にできる開先部分を溶接する方法である(図5.5.9参照)。主としてせん断補強筋の接合に用いられ、高強度の鉄筋での実績はほとんどない。(社)プレハプ建築協会では壁式プレキャスト工法のパネル間接合にフレア溶接を用いることから、「PC工法溶接工事品質管理規準(2004年)」を定めて運用している。同基準における鉄筋の種類の適用範岡は、JIS G 3112(鉄筋コンクリート用棒鋼)の規格品のうち、SR235,SD295A, SD295B,SD345としている。


(イ)当て金なし


(ロ)当て金付き
図5.5.9 フレア溶接継手の例

SD345以下の強度の鉄筋をフレア溶接継手によって全強継手とするための溶接有効長さは、(社)プレハプ建築協会「PC工法溶接工事品質管理規準(2004年)」の規定と同様に、片面溶接で鉄筋径の10倍以上、両面溶接で鉄筋径の5倍以上を確保する。また、同規準では、片面溶接はD13以下の細径鉄筋に制限している。

更に同規準において、フレア溶接継手の開先標準が表5.5.1のとおり定められているので、参考にするとよい。

表5.5.1 フレア溶接継手の開先標準

(e) 溶接技能者は、工事に相応した技量を有する者でなければならず、各鉄筋継手工法に定められた資格者でなければならない。

エンクローズ溶接継手については、評定又は認定を受けた施工要領書で規定する資格を有する者でなければならない。一例として、(公社)日本鉄筋継手協会では、「鉄筋溶接技量検定規定」に基づいて検定試験を行い、鉄筋溶接技量資格者を認証し、適格性証明書を発行している。すべてのエンクローズ溶接工法でこの資格者であることが規定されているものではないが、技量検定試験により一定の技量が確認されている技能者であるとしてよい。

フレア溶接継手については、7.6.3[技能資格者]の中板構造の資格者とするのが一般的であるが、これらの評価試験が板材や管材の突合せ溶接によっていることに鑑み、(社)プレハプ建築協会ではフレア溶接に関する付加技量試験を行って、手溶接に対するアーク溶接技能者(PC-M)及び半自動溶接に対する半自動溶接技能者(PC-S)を認定しているので、参考にするとよい。

参考文献

6章 コンクリート工事 1節 一般事項

第6章 コンクリート工事

1節 一般事項

6.1.1 適用範囲

(a)この章は、工事現場施工のコンクリート工事に適用する。また、平成25年版「標仕」では、コンクリート工事の品質管理の向上等を目的に、主に次の変更が行われた。

(1) 設計基準強度をコンクリートの要求品質の一つに位置付け、これを満足するための管理項目として、使用するコンクリートの強度と構造体コンクリートの強度を明示した。

(2) 材料及び調合の条件を、コンクリートの品質項目や製造から外し、「コンクリートの材料及び調合」として独立させ、調合管理強度を満たすための条件として設計基準強度や構造体強度補正値との関係を含め、セメントや骨材等のコンクリート用材料ごとの事項を一つにまとめた。

(3) 普通コンクリートの一部として扱っていた「暑中におけるコンクリートの取扱い」は新たに「暑中コンクリート」として節立てし、普通コンクリートの一般規定から独立させた。また、設計基準強度27N/mm2以上、かつ、36N/mm2以下のコンクリートは、普通コンクリートの一般規定とは別に扱っていたが、普通コンクリートと同じ扱いとし「高い強度のコンクリートの取扱い」を削除した。

(4)構造体コンクリートの仕上り状態及びかぶり厚さの確認並びにそれらの事項が所要の品質を満足しない場合の補修及びその後の検査を明記した。

(b) 作業の流れを図6.1.1に示す。

(c)施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。

なお赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。

(1) コンクリート工事の施工計画書

工程表(配合計画書の提出、試し線り、柱取外し等の時期)
配合計画書、計画調合の計算書(軽量コンクリートの気乾単位容積質量(「標仕」6.10.2(d))を含む)
コンクリートの仕上りに関する管理基準値、監理方法等
④ 仮設計画(排水、コンクリートの搬入路等)
打込み量、打込み区画、打込み順序及び打止め方法
⑥ 打込み作業員の配置、作業動線
⑦ コンクリートポンプ車の圧送能力、運搬可能距離の検討
⑧ コンクリートポンプ車の設置場所、輸送管の配置及び支持方法
⑨ コンクリート運搬車の配車
圧送が中断したときの処置
圧送後、著しい異状を生じたコンクリートの処置
打継ぎ面の処置方法
⑬ 上面の仕上げの方法(タンピング)
打込み後の養生(暑中、寒中)
コンクリートの補修方法
供試体の採取(採取場所、養生方法)

⑰ 試験所

(2) 型枠工事の施工計計画

① 型枠の準備量
型枠の材料
型枠緊張材の種別及び緊張材にコーンを使用する箇所
④ コンクリート寸法図(スケルトン、コンクリート躯体図、コンクリートプラン)
⑤ 基準部分の型枠組立図
型枠材取外しの条件(材齢又は構造計算により安全を確認する場合)

⑦ はく離剤使用の有無


図6.1.1 コンクリート工事の作業の流れ

6.1.2 基本要求品質

(a) コンクリートの「材料」に関しては、JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)に適合した材料が使用されており、JIS Q 1011(適合性評価:日本工業規格への適合性の認証ー分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))では、製造工場から提出される材料試験の結果によりその品質を確認することにしている。

(b) コンクリート部材の断面形状、寸法及び位置は、設計図書に建築物として必要な性能を有するように設計された値が指定されており、「標仕」6.2.5 (a)による許容差の範囲に収まるように施工する必要がある。「標仕」表 6.2.3 では一般的な許容差の標準値を示しているが、この数値は本来建築物の機能、部位、仕上げの程度等によって変動するものであり、共通的に定まるものではない。 例えば,石工事(「標仕」10.1.3(c)参照) や左官工事 (「標仕」15.2.3 (c)参照)等のようなコンクリート工事のあと工程となる仕上材料に要求される精度により、「標仕」 表 6.2.3 をそのまま使えない場合もある。 このため、各工事ごとにこの許容差を定めるに当たっては、寸法誤差が生じた場合の影響度等も考慮して、「品質計画」において、適切な値を定める必要がある。

コンクリートは全断面において均質なものとして設計されており、打ち上がったコンクリートはこれを満足させる必要がある。 しかし、打ち上がったコンクリートの内部を確認することは非常に困難であり表面の状態を確認することによって、内部の状態を推定することになる。一般にコンクリート部材の内部と比べて表面付近は鉄筋や型枠等の影響で欠陥が生じやすくなる。このため、「標仕」6.1.2 (b)では、「密実な表面状態」を要求事項とし、コンクリート内部の品質を含めて表面状態で確認することにしている。 コンクリート表面に豆板等の欠陥がある場合には、コンクリートの耐久性や強度に影響を及ぼすため、「標仕」では,せき板取外し後に コンクリート表面を確認することにしている。「品質計画」においては、第一に密実なコンクリートを打ち込むための具体的な方法の提案をするとともに、もし、豆板等が発生した場合、その程度に応じた補修方法等を定めるようにする。この場合の補修方法については 6.9.6 (b)を参考にするとよい。

(c) 建築物の構成部材としてのコンクリートの強度は、実際に出来上がった構造体コンクリートからコアを採取して試験によってその確認ができる。しかし、この方法は建築物を傷つけることになるため、新築建築物にあっては適切ではない。 このため「標仕」6.2.2 では、工事現場において構造体に打ち込まれるコンクリートと同ーのコンクリートを採取して、工事現場内で建築物と同様な温度条件となるように養生した試験体により構造体コンクリートの強度を推定している。 実際のコンクリートの強度は、柱、梁、壁、スラブ等の各部位によって強度の発現にばらつきがあることが分かっており、構造物のどの部位においても設計基準強度を滴足させるため、調合設計において所要の補正を行うことにしている。「所要の強度を有する」とは,こういったことを勘案して 実際の構造体コンクリートの強度が設計基準強度を満足するように適切な養生を行い、試験体の強度から構造体コンクリートの強度を確認すればよい。

「構造耐力、耐久性、耐火性」等は、コンクリートに要求される重要な性能である。これらについては、一般に本章で説明する事項を実現することで必要な性能を得ることができるようになっているが、(b)で説明したように寸法の誤差や、部分的な欠陥の発生を完全になくすことは現実的ではない。 このため、所要の「構造耐力、耐久性,耐火性」を満足させるための、寸法許容差や、欠陥が生じた場合の程度の判断基準及び補修方法をあらかじめ定めておくようにする。

6章コンクリート工事 2節 種類及び品質

第6章 コンクリート工事

2 節 コンクリートの種類及び品質

6.2.1 コンクリートの種類

(a) 平22年版「標仕」までは、使用骨材によってコンクリートの種類分けを行っていたが、近年、スラグ骨材等を含め密度の異なる各種の骨材が開発・使用され、特に細骨材は混合して使用される場合もあることから、平成25年版「標仕」では、気乾単位容積質量でコンクリートの種類を分類し、おおむね気乾単位容和質量が 2.1〜2.5 t/m3 の普通コンクリートと、より気乾単位容積質量の小さい軽量コンクリートの 2種類とされた。

(b) 寒中コンクリート、暑中コンクリート、マスコンクリート、無筋コンクリート及び流動化コンクリートは、使用材料、施工時期・施工方法・施工場所等の施工条件、要求性能等によって 10節までとは異なる品質管理が必要なため「特別仕様のコンクリート」として 11節から 15節に別記されている。

(c) 平成16年 6月に工業標準化法が改正され、平成 17年 10月 1日からJISマーク表示制度は、国による認定制度から登録認証機関による製品認証制度となった。これによって、JIS A 5308(レディーミクストコンクリ ート)もこれまでの「工場認定」 から「製品認証」へと変更された。

「標仕」でも平成22年版の改定以降、I 類コンクリートは.JIS Q1001(適合性評価一日本工業規格への適合性の認証一 一般認証指針)及び JIS Q1011 (適合性評価一日本工業規格への適合性の認証一分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))に基づき、JIS A 5308への適合を認証されたコンクリー ト II 類コンクリートは I 類以外のJIS A 5308に適合したコンクリートとされている。

「標仕」では、従来より、建築工事には特別な場合を除き、 JIS A 5308 に適合するレディーミクストコンクリートで対応できると考えられている。そのうえで、適合を認証された I 類コンクリートを使用することを原則としているが、山間部、離島等で運搬可能時間の距離内にJISマーク表示認証を取得した製品(以下、この章では「JISマーク表示認証製品」という。)を製造する工場(以下、この章では 「 JISマーク表示認証工場 」 という 。) がない場合でも.II 類コンクリートであれば、基礎、主要構造部等建築基準法第37条に規定する部分に適用できると考えてよい。

なお、建築基準法第 37条の指定建築材料が適合すべき規格及び品質に関する技術的基準を定めた平成12年建設省告示第1446号の一部が平成28年6月13日に改正(国土交通省告示第814号)され、建築物の基礎や主要構造部等に使用するコンクリートが適合すべき日本工業規格は、JIS A5308(回収骨材を使用するものを除く)に改められた。

よって、従来、国土交通大臣の認定で必要であったエコセメントや再生骨材H を使用したコンクリートについても、平成28年版「標仕」からは、一部の材料の組合せや用途を除いて特記せずに使用できることとなった。但し、回収骨材を使用したコンクリートを使用する場合には従来通り国土交通大臣の認定を取得した上で、「標仕」6.2.1(d)に基づいて特記しなければならない。参考に、上記国土交通省告示第814号と同時に国土交通省住宅局建築指導課長から発出された、技術的助言 国住指第770号 平成28年 6月13日「建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すべき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術的基準を定める件の改正について」の抜粋を下記に示す。

建築物の基礎、主要構造部等に使用する建築材料並びにこれらの建築材料が適合すべき日本工業規格又は日本農林規格及び品質に関する技術的基準を定める件の改正について(技術的助言)
(国住指第770号 平成28年 6月13日)建築基準法第37条の規定に基づく標記基準については、平成28年6月23日付け国土交通省告示第814号として別添のとおり公布されたので通知する。
中略

2. 改正概要
レディーミクストコンクリートに関する JIS A 5308が2014年に改正されたことを踏まえ、指定建築材料であるコンクリートが適合すべき日本工業規格として、JIS A5308(レディーミクストコンクリート)- 2014を定めることとする。ただし、当該 JISのうち、「回収骨材を使用するもの」については、建築材料として使用する場合における管理方法等の知見が得られたいないため、使用できないこととする。

2014年の JIS A 5308 のレディーミクストコンクリートの種類を表6.2.1 に示す。

表6.2.1 JIS A 5308 : (2019改正)によるレディーミクストコンクリートの種類
(注)荷卸し地点での値であり、50cm及び60cmがスランプフローの値である。

(d)「標仕」では、建築基準法第 37条第二号による国土交通大臣認定のコンクリートは,設計担当者が特記することとしているので、特記された場合には、認定条件等を十分に確認して使用することになる。

6.2.2 コンクリートの強度

(a)「標仕」ではコンクリートの設計基準強度は、36N/mm2 以下(軽量コンクリートでは 27N/mm2 以下)としている。

なお 従来、軽量コンクリートの設計基準強度は 27N/mm2 未満であったが、(一社)日本建築学会「JASS5 鉄筋コンクリート工事」の軽量コンクリート2種の規定に合わせ、平成 25年版「標仕」では 27 N/mm2以下に変更された。

高強度化が流れではあるが、4〜5階建て、数千m2 程度のRC造建築物では高強度コンクリートを使用することはほとんどない。

(b) 使用するコンクリートの強度とは、使用するコンクリートが本来保有していると考えられるポテンシャルの圧縮強度のことであり、荷卸し地点でコンクリート試料を採取し、標準養生した供試体の材齢 28日の圧縮強度で表される。 ポテンシャルの圧縮強度は、構造体コンクリートの強度が設計基禅強度を満足するように、設計基準強度に構造体コンクリートの強度と標準養生した供試体強度との差を考慮した値(構造体強度補正値(S):6.3.2(1)(ⅱ)を参照)を加えた調合管理強度以上でなければならない。

(c) 構造体コンクリートとは、型枠内に打ち込まれて養生され、硬化して構造体あるいは部材を形成しているコンクリートのことである。構造体コンクリートの強度は、初期に十分な湿潤養生が施されれば、材齢28日以降も長期にわたって強度が増進し、材齢 91日においても強度増進は続き、停止することはない。 しかし、コンクリート工事においては適切な材齢を定め、その材齢において設計基準強度を満足するように定める必要がある。建築基準法施行令第74条第1項第二号に基づき、昭和56年建設省告示第1102号の第1第二号では、コンクリートの強度は、コンクリートから切り取ったコア供試体について強度試験を行った場合に、材齢91日において設計基誰強度以上であることと定めている。「標仕」が定める構造体コンクリートの強度の基準となる材齢91日は、この告示の規定を適用したものである。

一方、実際のコンクリート工事において構造体コンクリートの強度をコア供試体で試験することは、構造体に損傷を与え、かつ、修復が必要となるため困難である。このため、一般には工事現場で使用するコンクリートから試料を採取し、構造体コンクリートと同じような強度発現をすると考えられる方法で養生した供試体の圧縮強度から構造体コンクリートの強度を推定し、品質管理を行っている。上記告示第1102号の第1第一号では、コンクリートの強度は、現場水中養生を行った供試体について強度試験を行った場合に、材齢 28日において設計基準がよく強度以上であることと定めている。「標仕」においても、この告示の規定に基づき構造体コンクリートの強度推定の管理材齢の一つとして28日を規定している。

なお、平成19年版「標仕」では、調合管理強度に相当する値は、材齢 28日を基準に、設計基準強度(Fc)、構造体コンクリートと供試体強度との差(△ F = 3 N/mm2 )、気温によるコンクリート強度の補正値( T ) を考慮して(Fc 十 △F+T )としていたが、平成22年版「標仕 」では、調合管理強度は、材齢 91日を基準に、△ FとTに代わり構造体強度補正値(S:「標仕」表6.3.2 を参照)を取り入れ( Fc+S )に改められている。

構造体コンクリートの強度とは、構造体あるいは部材そのものの強度ではなく、構造体あるいは部材の中に直径と高さの比が 1:2 の円柱を考え、仮にその円柱を圧縮試験したとするときに得られる強度であり、一般には構造体あるいは部材から切り取ったコア供試体の圧縮強度がそれに近いと考えられている。しかし、実際のコンクリート工事において、構造体コンクリートの強度をコア供試体で試験するのは困難である。このため、工事現場で採取した供試体を、構造体コンクリートと同じような強度発現をすると考えられる方法で養生した供試体の圧縮強度で表すこととした。

構造体コンクリートの強度に関する調査・研究によって、現場水中養生した供試体の圧縮強度は、材齢28日のコア供試体の圧縮強度より大きく、材齢91日のコア供試体の圧縮強度と同等かやや小さいことが分かってきた。また、現場封かん養生した供試体の圧縮強度は、現場水中養生した供試体の圧縮強度よりやや低いことも分かってきた。このため、「標仕」では現場水中義生した供試体あるいは現場封かん養生した供試体の圧縮強度を基に構造体コンクリートの強度を推定することとした。

(d)使用するコンクリートの強度及び構造体コンクリート強度の推定値の判定は、9節の6.9.4 及び 6.9.5 によって行う。6.2.2(b)でも記したように、使用するコンクリートとは.工事に用いるために工事現場に搬入したコンクリートのことであり、その強度は、コンクリートが本来保有していると考えられるポテンシャルの圧縮強度のことである。したがって、使用するコンクリートの強度は、荷卸し地点で採取して標準養生した供試体の材齢28日の圧縮強度で表すこととし、その値は調合管理強度以上でなければならず、かつ、JIS A5308(レディーミクストコンクリート)の呼び強度の強度値を満足しなければならない。

6.2.3 気乾単位容積質量

 

(a) コンクリートの気乾単位容積質量は、使用する骨材の密度や調合によって異なり、構造計算で固定荷重を算定するときに、鉄筋コンクリートの質量を求めるために用いる値である。平成25年版「標仕」から、従来の使用骨材の種類による区分から、新たにコンクリートの気乾単位容積質量による区分に変更され、そのための標準的な判断基準として、JASS 5 の規定値を参考に数値が示された。

(b) 軽量コンクリートの気乾単位容積質量は、別途「標仕 」10節で1種、2種の種類ごとに標準的な値の範囲が示されている。

6.2.4 ワーカビリティー及びスランプ

 

ワーカビリティーとスランプの関連等について次に示す。

(1) ワーカビリティーは、打込み場所並びに打込み方法及び締固め方法に応じて、型枠内並びに鉄筋及び鉄骨周囲に密実に打ち込むことができ、かつ、 粗骨材の分離が少ないものとする。また、スランプの所要値は、特記がなければ、基礎、基礎梁、土間スラブでは15cm又は 18cm、その他の部材では 18cmとする。

(2) ワーカビリティーは、運搬、打込み、締固め及び仕上げのフレッシュコンクリートの移動・変形を伴う作業の容易さとそれらの作業によってもコンクリートの均一性が失われないような総合的な性質であり、フレッシュコンクリートの流動性の程度を表すスランプとは別の概念である。

(3) 作業の容易さからいえば、スランプが大きく流動性が高いほうがワーカビリティーが良いといえるが、スランプが過大になると粗骨材が分離しやすくなるとともにブリーディング量が大きくなり、コンクリートの均一性が失われる。そこで、単位セメント量や細骨材率を大きくするとフレッシュコンクリートの粘性が大きくなり、粗骨材の分離は生じにくくなる。

(4) スランプを大きくし、かつ、単位セメント量や細骨材率を大きくすれば、見かけ上はワーカビリティー の良いコンクリートが得られる。 しかし 単位水量や単位セメント量が過大になると乾燥収縮率が大きくなってひび割れが生じやすくなるとともにセメントペーストやモルタル分の多いコンクリートとなって、打上りコンクリートの表面の品質が悪くなる。

(5) このため、作業の容易さだけでワーカビリティーを評価するのではなく、ブリーディングや骨材の分離ができるだけ少なくなるようにするという条件も考慮しなければならない。

(6) スランプは、打込み時のフレッシュコンクリートに要求される直要な品質項目の一つであるが、ここでいう所要スランプとは、荷卸し地点でのスランプである。所要スランプ18cmというのは、許容差を含めて考えればよく、その値は JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)の規定によれば ± 2.5cmである 。

スランプフローの基準
JIS A5308 2019年改正により
普通コンクリートにおけるスランプフローは
45±7.5cm,
50±7.5cm,
55±7.5cm,
60±10cm
の4種類となっている。

 

6.2.5 構造体コンクリートの仕上り

 

(a) コンクリート部材の位置及び断面寸法の許容差

(1) コンクリート部材の位置及び断面寸法は,所定の許容差の範囲内になければならないが、これは次の理由による。

(ⅰ) 構造体としての耐力及び耐久性の確保
(ⅱ) 仕上げ二次部材又は設備等の納まり上の要求

(ⅲ) 美観上の要求

(2) 部材の位置及び断面寸法の測定は,一般的には次のように行う。
特記された部材又はサンプリングした部材について、基準墨からスケール等を用いて測定する。 測定部分は両端及び中央の 3箇所程度行う。

柱・梁等は直接測定できることが多く問題は少ないが、床・壁等の断面寸法は、両側から測定して計算で求めると測定誤差がきく大なることがある 。 そこで、開口部等を利用して直接測定する。

むやみに測定項目や測定数を増やすことは、測定費用や時間を要し本来の目的から逸脱することになる。コンクリート部材の位置及び断面寸法は、型枠の変形等がなければ、型枠により決まるものであり、補修も困難であることから、コンクリート打込み前の型枠の設計・掛出し・組立等を確実に行うことが必要である。 コンクリート打込み後は型枠の変形が生じたと見られる部分等について、確認のために測定する。

(3) (1)及び(2)に基づいて各部材の位置及び断面寸法を測定し、その結果、位置及び断面寸法の精度が「標仕」表6.2.3 の許容値を満足しない場合は、「標仕」6.9.6 に従って監督職員に報告するとともに適切な処置等を講じなければならない。
(b) コンクリート表面の仕上り状態

(1) せき板に接するコンクリートの仕上り状態は特記によるが、コンクリートの打放し仕上げの場合は、「標仕」表6.2.4 の種別に応じた「表面の仕上り程度」を目安とする。コンクリートの仕上り状態を良好にするには、不陸を少なくするために変形量の少ない型枠設計を行い、コンクリート打込みの際は、目違い等が生じないようにコンクリートの締固めを行うことが重要である 。

(2) コンクリートの仕上りの平たんさは、せき板に接する面は型枠の変形等により、せき板に接しない床上面等は左官の均し精度により決まる。

平たんさの測定方法には、JASS5 で定められた JASS 5 T-604 (コンクリートの仕上がりの平たんさの試験方法)があるが、試験用器具が特殊で取扱い方法も難しいため、一般的には下げ振り、トランシット、レベル、水糸、スケール等を使用してコンクリート面の最大、最小を測定する方法等で行われている。

「標仕」表6.2.5 の平たんさの標準値は,仕上げの種類だけでなく、建物の規模や仕上り面に要求される見ばえ等によっても異なるので、適切な値を品質計画で提案させ、検討するとよい。

なお、25年版「標仕」では、表6.2.5 の対象となる柱、梁、壁の種類に「接着剤による陶磁器質タイル張り」が追加され、これに伴い従来のタイル工法は「セメントモルタルによる陶磁器質タイル張り」と名称が変更された。床についてもフリーアクセスフロアが追加された。 フリーアクセスフロアには,支柱調整式(下地床の不陸に伴う高さを調整する機能を有するも)のと置敷式(高さを調整する機能がなく、高さは下地床の精度に従うもの)の2 種類があり、支柱調整式は ±10〜15mm 程度の調整代があるため、従来からの「二重床」に含め、置敷式は新たに「フリーアクセスフロア(置敷式)」として追加された。

6章コンクリート工事 3節 コンクリートの材料及び調合

建築工事監理指針 第6章 コンクリート工事

3節 コンクリートの材料及び調合

6.3.0 一般事項

建築物に使用するコンクリートが所要の性能を満足するようにするためには、使用前に、各材料が所定の品質を満足することを試験又は生産者から提出された資料等により確認するとともに、「標仕」2節[コンクリートの種類及び品質]に示される各種規定を満足するよう、試し練り等を行って適切に調合することが重要である。

6.3.1 コンクリートの材料

6.2.1(3)でも述べたように、平成28年6月13日に平成12年建設省告示第1446号の一部が改正され、エコセメントや再生骨材Hを使用したコンクリートについても JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)に適合したものであれば国土交通大臣の認定を受けなくても使用できるようになったため、平成31年版「標仕」からは、これらのコンクリートについても一部の材料の組合せや用途を除いて特記をせずに使用できることとなった。また、平成30年6月14日の同告示の一部改正(国土交通省告示第750号)により、回収骨材を使用したコンクリートが国土交通大臣の認定を受けなくても使用できるようになったため、平成31年版「標仕」からは、これを特記せずに使用できることとなった。

(1) セメント
(ア) セメントの分類

(a) セメントの分類を図6.3.1に示す。


図6.3.1 JISによるセメントの分類

わが国におけるポルトランドセメント(JIS R 5210)の全アルカリは、低アルカリ形を徐くとNa2O換算(Na2O + 0.658K2O)で0.75%以下であるが、使用する骨材によってはアルカリ骨材反応を起こすおそれがある。

なお、かつては「アルカリ骨材反応抑制対策に関する指針について」(平成元年7月建設省住指発第244号)の通達で、低アルカリ形ポルトランドセメントの使用がアルカリ骨材反応抑制対策の一つとして記されていた。しかし、低アルカリ形が1995年に11,000t生産された以降はほとんど製造されておらず、普通ポルトランドセメントのアルカリ量も低くなっていることなどから、平成12年にこの通達は廃止され、平成14年の国土交通省通達では「低アルカリ形の使用による抑制対策」の条文が削除されている。

(b) ポルトランドセメントは普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント及び耐硫酸塩ポルトランドセメントの6種類を基本とし、これに低アルカリ形の6種類を加え全部で12種類あり、その主な品質は表6.3.1に示すとおりである。

表6.3.1 ポルトランドセメントの品質(JIS R 5210:2019)

① 普通ポルトランドセメント(普通セメントと略称される場合もある。)は、建築のコンクリート工事用として現在最も多く使用されているセメントである。「標仕」では、特記のない場合は普通ポルトランドセメント又は高炉セメント、シリカセメント及びフライアッシュセメント(以下、この3種類を混合セメントという。)のA種を使用することになっているが、高炉セメント及びフライアッシュセメントともA種はほとんど生産されていないため、一般的には普通ポルトランドセメントを使用することが多い。

② 早強ポルトランドセメント(早強セメントと略称される場合もある。)の比表面積(ブレーン値)は、JISでは表6.3.1のように定められているが、市販品では4,700cm2/g程度である。比表面積はセメント粒子の細かさを示す値で、この値が大きいほど細かく、セメントと水との化学反応(水和反応)が活発になるため、図6.3.2に示すように他のポルトランドセメントよりも早期に強度が得られる。そのため、工期の短縮に有効であると共に、硬化初期の水和発熱量(凝結・硬化中に起こる発熱を水和熱という。)が大きいことから寒中コンクリートにも適している。ただし、発熱によるひび割れ等の弊害を伴うこともあるので、使用する季節や用途に注意が必要である。


図6.3.2 モルタルの圧縮強さ(JIS R 5201)
(「セメントの常識」より)

(c) 高炉セメント(JIS R 5211)は、普通ポルトランドセメントに適量の高炉スラグ微粉末を均ーに混合したもので、その分量によってA種、B種及びC種の3種類(表6.3.2参照)が規定されているが、A種及びC種の生産量は少なく、市販品としてはB種のものが一般的である。

(d) シリカセメント(JIS R 5212)は、普通ポルトランドセメントに適量のシリ力質の混合材を均ーに混合したもので、その分量によってA種、B種及びC種の3種類がある(表6.3.2参照)。耐薬品性に俵れているが、2010年度以降国内では生産されていない。

(e) フライアッシュセメント(JIS R 5213)は、普通ポルトランドセメントに適量のフライアッシュ(火力発電所等で石炭の燃焼時に発生する微粉状の石炭灰)を均ーに混合したもので、その分量によってA種、B種及びC種の3種類(表 6.3.2参照)が規定されているが、高炉セメントと同様、一般にはB種のものが多く流通している。

(f) 上記高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントのB種及びC種は、ポルトランドセメントと比較すると、化学的な作用又は海水に対する抵抗力が大きいなどの長所がある。しかし、同一調合の場合、一般的に中性化の進行が早く、早期強度の発現が小さいので、かぶり厚さや型枠の存置期間の検討が必要である。

表6.3.2 混合セメントの種類
(JIS R 5211:2019、R 5212:2019及びR 5213:2009)
(g) エコセメントは、都市ごみ焼却灰を主とし、必要に応じて下水汚泥等を加えたものを主原料として製造される資源リサイクル型のセメントであり、2002年に JIS R 5214(エコセメント)としてJIS化された。JIS R 5214では、構成鉱物や塩化物イオン含有量によって普通エコセメントと速硬エコセメントに分類されている。2003年には、これらのうち塩化物イオン量が 0.1%以下の普通エコセメントのみがJIS A 5308に取り入れられた。また、2004年4月からはグリーン購入法特定調達品目にも指定されている。このエコセメントは、東京都の西多摩地域で年間約12万トン(2020年度)生産されている。

(イ) 高炉セメント及びフライアッシュセメントの品質

(a) 高炉セメントは、高炉スラグ微粉末の混合比(分量)によって使用したコンクリートの硬化途中の強度発現性状や硬化後の化学特性等が異なるため、上記 (ア)(c)でも記したように、高炉スラグ微粉末の混合比(分量)によって3種類に分類されている。B種は規格上 30% を超え 60% 以下となっているが、市販されている高炉セメントの高炉スラグの混合比(分量)は43%前後のものが多い。

普通ポルトランドセメントと比較すると次のような特徴がある。

① 初期強度はやや小さいが、4週以降の長期強度は同等又は同等以上になる。
② 耐海水性や化学抵抗性が大きい。

③ 一定量以上使用した場合にアルカリ骨材反応の抑制に効果がある。

(b) フライアッシュセメント

良質なフライアッシュはコンクリート中でボールベアリングのような働きをし、練混ぜ水を減少させることができ、ワーカビリティーの良いコンクリートが得られる。また、水和発熱量が比較的小さく、マスコンクリートに適する。さらに、高炉セメントと同様にアルカリ骨材反応の抑制にも効果がある。

なお、上記(ア)(e)でも記したように、フライアッシュの混合比(分量)によって3種類に分類されており、B種は規格上10%を超え20%以下となっている。市販されているフライアッシュセメントのフライアッシュの混合比(分量)は 17%前後のものが多い。

(c) 混合セメントのA種は、普通ポルトランドセメントと同様に使用できる。

(ウ) 普通エコセメントの適用範囲

6.2.1(3)項等でも記したように、普通エコセメントを使用したコンクリートについては、平成28年までは国土交通大臣の認定が必要であったため建築物への施工実績はまだ少ない。そのため、普通エコセメントの使用にあたっては、次頁の文献等を参考に別途使用する材料の種類や調合、コンクリートの発注、製造、打込み、養生及び品質の管理方法等を作成し、監督職員の承諾を受けておくことが重要である。

普通エコセメントは、塩化物イオン量を含め化学成分及び鉱物組成が普通ポルトランドセメント等と異なる部分があり、使用する混和材料や調合、施工時期等によっては得られる効果・性能・品質が異なる場合も考えられる。例えば、図6.3.3に示すように、高性能AE減水剤にナフタレン系のSP1を使用した場合、普通ポルトランドセメントと比較して所要のスランプを得るための添加率は水セメント比にかかわらず2倍程度必要であるが、ポリカルボン酸を主成分とするSP2等を使用した場合は水セメント比にかかわらず普通ポルトランドセメントと同程度である。また、図6.3.4に示すように、スランプの経時変化は、ポリカルポン酸系のSP2を使用した場合にはスランプロスがほとんどないが、ナフタレン系のSP1を使用した場合にはスランプロスが大きい。また同様に、ブリーディング量や凝結時間、空気量の経時変化にも高性能AE減水剤の主成分による効果の差が認められている。これら高性能AE減水剤や流動化剤等の高性能減水剤系の化学混和剤による普通エコセメントを使用したコンクリートのフレッシュ性状の変化及び不具合発生時の適切な対処方法を施工現場で確認することは、参考となる施工実績も少ないことから、現状では困難と考えられる。


図6.3.3 セメント種類と高性能AE減水剤添加率の関係 注(1)



図6.3.4 高性能AE減水剤の種類別のスランプ経時変化 注(1)

普通エコセメントを使用したコンクリートは、普通ポルトランドセメントを使用したコンクリートに比べて凝結時間が遅く、特に気温が低い場合にはこの傾向が大きい。また、図6.3.5に示すように、材齢初期の強度発現速度も普通ポルトランドセメントを使用した場合より遅くなり、その圧縮強度差は気温の低下と共に大きくなるため、初期凍害の防止が極めて重要と考えられる。


図6.3.5 養生温度と圧縮強度の関係(封かん養生)注(1)

以上のように、①普通エコセメントを使用したコンクリートのフレッシュ性状や硬化性状は普通ポルトランドセメントを使用したコンクリートと異なる傾向にあること、②軽量コンクリートや寒中コンクリート、マスコンクリート、流動化コンクリートについて、「JASS 5」注(2)及びエコセメントを使用するコンクリートの調合設計・施工指針注(3)では、普通エコセメントの使用が規定されていない若しくは使用する場合の規定が明確に示されていないこと、③建築物への使用実績がいまだごく僅かであることなどを考慮して、「標仕」では、普通エコセメントを適用する場合は、普通コンクリート(1~ 9節まで)、暑中コンクリート(12節)、無筋コンクリート(14節)によるとされている。

注(1)建築研究所:建築研究報告 No.144「エコセメントを使用したコンクリートの物理・カ学特性ならびに調合設計・施工技術に関する研究」、2005.12
注(2)日本建築学会:建築工事標準仕様書・同解説 JASS 5 鉄筋コンクリート工事 2018 (27節)
注(3)日本建築学会:エコセメントを使用するコンクリートの調合設計・施工指針(案)・同解説、2007

(2) 骨 材
(ア) 骨材は、コンクリート体積の約7割を占め、その品質がコンクリートの諸性質に大きな影響を及ぼすので、良い品質のコンクリートをつくるためには、原則として、堅硬で物理的・化学的に安定であり、適度な粒度・粒形を有し、有害量の不純物・塩化物等を含まない骨材を使用する。しかし、骨材の品質は、地域差もあり、あらかじめその地域の骨材の種類と品質の実態を把握しておくことが重要である。

なお、再生骨材Hを使用する場合には、6.3.1及び6.3.2の記載を参考に、コンクリートの要求性能と骨材の品質との関係を試し練りを行って十分に把握し、必要に応じて計画調合等を検討することが重要である。

再生骨材には、再生骨材Hのほか、JIS A 5022の附属書A(規定)コンクリート用再生骨材M及びJIS A 5023の附属書A(規定)コンクリート用再生骨材Lがある。再生骨材M及び再生骨材Lは付着するペースト量が多く、これを用いるコンクリートは、乾煤収縮が大きくなる場合もある。

また、再生骨材コンクリートMの通常品及び再生骨材コンクリートLは、通常高い凍結融解抵抗性を確保することが難しいため、乾燥収縮の影響に加えて凍結融解作用を受けない部材又は部位に使用する。

なお、再生骨材コンクリートMについては、標準品に対して凍結融解抵抗性を高めた耐凍害品がある。

(イ) 骨材の種類及び品質

(a) 「標仕」6.3.1(2)(ア)により、骨材の種類はJIS A 5308の附属書A(規定)[ レディーミクストコンクリート用骨材 ]に規定されている砕石及び砕砂、スラグ骨材、人工軽量骨材、再生骨材H並びに砂利及び砂である。

なお、再生骨材Hを使用するコンクリートについては、6.2.1(1)でも記したように、これまで必要であった国土交通大臣の認定が不要となり、建築物の基礎、主要構造部等へも適用できることとなった。ただし、6.3.1(1)注(1)から注 (3)に記した文献では、普通エコセメントを使用するコンクリートに再生骨材Hを使用する場合は特記事項等とされ、かつ、普通エコセメントと再生骨材Hを併用する場合に参考となる技術情報等も示されていないので、「標仕」においても、普通エコセメントを使用するコンクリートに再生骨材Hを使用する場合は特記によるとされている。

(b) フェロニッケルスラグ骨材、銅スラグ細骨材及び電気炉酸化スラグ骨材は、普通骨材に比べて密度が大きく、使用される地域も限定されている。よって、これらの骨材を使用する場合は、設計担当者が特記しなければならない。

(c) 骨材の品質、砕石及び砕砂は、JIS A 5005(コンクリート用砕石及び砕砂)に、高炉スラグ粗骨材及び高炉スラグ細骨材は、JIS A 5011-1(コンクリート用スラグ骨材ー第1部:高炉スラグ骨材)に、フェロニッケルスラグ骨材、銅スラグ骨材、電気炉酸化スラグ骨材及び再生骨材Hは、それぞれ JIS A 5011-2(コンクリート用スラグ骨材ー第2部:フェロニッケルスラグ骨材)、JIS A 5011-3(コンクリート用スラグ骨材ー第3部:銅スラグ骨材)、JIS A 5011-4(コンクリート用スラグ骨材ー第4部:電気炉酸化スラグ骨材)及びJIS A 5021(コンクリート用再生骨材H)に規定されている。

(d) スラグ骨材を他の骨材と併用する場合、表面がガラス質のため、使用するスラグ細骨材の種類によっては保水性が小さくなり、天然の骨材に比ベブリーディング量がやや多くなったりブリーディング速度が速くなったりする場合があるので注意しなければならない。このような場合には、微粉末の使用、実績率の大きい骨材の使用、高性能AE減水剤の使用等材料の選定に加え、水セメント比の低減等の検討が必要である。

(e) 骨材の密度及び吸水率

① 骨材の強さは、密度及び吸水率によりある程度の判定ができる。通常、絶乾密度は2.5g/cm3以上、吸水率は3.0%(細骨材は3.5%)以下ならよいとされている(表6.3.3参照)。

しかし、砂利や砂の場合、一部の地方では、これを満足するものが入手できない場合もある。この場合は、絶乾密度は2.4g/cm3以上、吸水率は4.0%以下なら、コンクリートとして所要の性能が得られることを試し練り又は信頼できる資料等により確かめられれば、使用してよい。

表6.3.3 JIS A 5005 : 2020による砕石・砕砂の物理的性質

② 普通の石材の吸水率は表6.3.4に示すとおりであるが、概ね吸水率の少ないものほど堅硬、密実で良質の骨材になると考えられる。

表6.3.4 石材の吸水率

(f) 骨材の品質が乾燥収縮に及ぼす影響は大きく、JISの品質規格に適合する骨材であっても、それを用いたコンクリートの乾燥収縮ひずみができるだけ小さくなるものを選定することが望ましい。乾燥収縮ひずみが小さくなる骨材としては、良質の川砂利又は石灰石骨材が挙げられる。

(ウ) アルカリ骨材反応抑制対策

(a) アルカリ骨材反応に関しては、昭和60年頃から問題が顕在化し、平成元年には建設省の技術審議官通達、建築指導課長通知等が出されたが、平成14年には新たに「アルカリ骨材反応抑制対策について」(平成14年国官技第112号:技術審議官等通達)と運用のための「「アルカリ骨材反応抑制対策について」について」(平成14年国営技第55号:建築課長通達)の(別紙)「アルカリ骨材反応抑制対策(建築物)実施要領」が、平成15年には「アルカリ骨材反応抑制対策(建築物)実施要領に関する運用について」の事務連絡が出され、その後のJIS A 5308の改正、JIS Q1011(適合性評価一日本産業規格への適合性の認証ー分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))の制定、「標仕」の改定を経て、その対策が確立されてきた。

(b) 「アルカリ骨材反応抑制対策(建築物)実施要領」における検査・確認の方法を、次に示す。

① アルカリシリカ反応性試験方法(化学法)による骨材試験は、施工着手前、工事中1回/6箇月、かつ、産地が変わった場合に、受注者等が公的試験機関に依頼して行う。また、試験に用いる骨材の採取にも受注者等が立ち会うことが原則となる。

② アルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法)による骨材試験は、コンクリート生産工程管理用試験に規定される骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(迅速法)で骨材が無害であることを受注者等が確認する。この場合も、施工着手前、工事中1回/6箇月、かつ、産地が変わった場合に、公的試験機関で行い、試験に用いる骨材の採取にも受注者等が立ち会うことが原則となる。

(c) 「標仕」では、砕石、砕砂、フェロニッケルスラグ骨材、銅スラグ細骨材、電気炉酸化スラグ骨材、砂利、砂及び再生骨材Hは、原則として、「アルカリシリカ反応性試験の結果が無害と判定されるもの」(アルカリシリカ反応性による区分Aのもの)を使用するとしているので、アルカリシリカ反応性による区分を、受注者等にレディーミクストコンクリート配合計画書及びアルカリシリカ反応性試験成績表で確認させておく必要がある。

なお、銅スラグ細骨材は、JIS A 5011-3において、”無害”のものに限定して使用することが規定されている。

アルカリシリカ反応性試験方法は、JIS A 1145(骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(化学法))又は JIS A 1146(骨材のアルカリシリカ反応性試験方法(モルタルバー法))による。ただし、フェロニッケルスラグ骨材のアルカリシリカ反応性試験は、JIS A 1146による。また、再生骨材Hのアルカリシリカ反応性による区分、判定及び試験は、JIS A 5021の4.3(アルカリシリカ反応性による区分)、5.3(アルカリシリカ反応性)、7.7(アルカリシリカ反応性試験)による。

(d) レディーミクストコンクリートを製造する地域等によっては、上記の試験の結果が「無害と判定されないもの」や「試験を行っていないもの」(アルカリシリカ反応性による区分Bのもの)を使用せざるを得ない場合もある。その場合は、事前調査により設計担当者が区分Bのものを使用することを特記しなければならない。特記により区分Bの骨材を使用する場合は、「標仕」6.3.1(2)(イ) に基づいた対策を受注者等に提案させ、その内容を確認する。高炉セメントやフライアッシュセメントを、アルカリ骨材反応の抑制対策として使用する場合、高炉スラグ微粉末の混合比(分量)が40%以上の高炉セメントB種又はフライアッシュの混合比(分量)が15%以上のフライアッシュセメントB種を使用する。また、コンクリート製造業者から使用した混合セメントのセメント試験成績書を取り寄せて、高炉スラグ微粉末又はフライアッシュの混合比(分量)を確認することが必要である。

なお、フェロニッケルスラグ骨材のアルカリシリカ反応抑制対策は、JIS A 5011-2の附属書Dによる。また、再生骨材Hについては、アルカリシリカ反応性による区分がBの場合、JIS A 5308の 8.2項及び同附属書Bの B.2項により、アルカリシリカ反応抑制対策の区分はアルカリシリカ反応抑制効果のある混合セメントなどを使用する抑制対策しか規定されていないため、コンクリート中のアルカリ総量を規定する抑制対策を適用することはできない。

(エ) 高炉スラグ粗骨材を使用する場合は、JIS A 5011-1に基づいて、使用する骨材の絶乾密度、吸水率及び単位容積質量が、同JISの区分Nを満足することを受注者等に確認させ、その結果を報告させることが必要である(表6.3.5参照)。

なお、高炉スラグ粗骨材は、普通骨材より吸水率が大きく気乾状態で用いると練混ぜ、運搬及び打込み中にフレッシュコンクリートの品質が変動しやすいので、事前に散水により吸水させて用いることが望ましい。

(オ) 電気炉酸化スラグ骨材は、JISマーク表示認証製品で、生産工場からレディーミクストコンクリート工場に直接納入されていること及び電気炉酸化スラグ粗骨材の絶乾密度による区分がNであること(表6.3.5参照)並びに再生骨材Hは、 JISマーク表示認証製品であることを受注者等に確認させ、その結果を報告させることが必要である。

表6.3.5 JIS A 5011-1 : 2018による高炉スラグ粗骨材(区分N)及び
JIS A 5011-4 : 2018による電気炉酸化スラグ粗骨材(区分N)の材質
(カ) 粗骨材の最大寸法等
(a) 粗骨材の最大寸法

粗骨材は、鉄筋相互間及び鉄筋とせき板との間を容易に通る大きさでなければならない。粗骨材の最大寸法は「標仕」において次のように定めている。

① 砕石、高炉スラグ粗骨材、電気炉酸化スラグ粗骨材及び再生粗骨材Hは 20mmとする。また、砂利は25mmとする。

② 基礎等で断面が大きく鉄筋量の比較的少ない部材の場合は、「標仕」5.3.5[鉄筋のかぶり厚さ及び間隔]の範囲で、砕石、高炉スラグ粗骨材及び再生粗骨材Hは25mm、また、砂利は40mmとすることができる。

③ 鉄筋のあきは、粗骨材の最大寸法の1.25倍以上とする(「標仕」5.3.5 (4)(ア) 参照)。

④ 無筋コンクリートの粗骨材の最大寸法は、コンクリート断面の最小寸法の 1/4以下とする。ただし、捨コンクリート及び防水層の保護コンクリートの場合は25mm以下とする(「標仕」6.14.2(1)参照)。

(b) 骨材の粒度及び粒形

① 骨材は、適切な粒度分布のものでなければならない。粒度の良否によってコンクリートのワーカビリティーや単位セメント最に著しい差が生じ、ひいてはコンクリートの強度や耐久性にも影響を与える。

② 骨材の形は、球形に近いものが理想的で、偏平、細長のもの、かど立っているものなどは、コンクリートのワーカビリティーを悪くし、同一水セメント比で同一スランプを得るための細骨材率が大きくなり、単位水量、単位セメント量も多くなる。また、偏平、細長のものは、コンクリートが外力を受けたときに不均ーな応力分布が生じて、破壊しやすいためにコンクリートの強度も低下する。

③ 粒度分布を表すには次のような方法があり、通常1)及び2)が用いられる。

 1) 各ふるいの通過率
 2) 粗粒率(FM)
 3) 各ふるいの累加残留率
 4) 各ふるいの残留率

④ コンクリートの品質を確保して圧送性を良くするには、骨材の粒度分布が適切であるとともに 0.3mm以下の細骨材が15~30%混入していることが望ましい。

(キ) その他留意が必要な骨材の品質

(a) 骨材の単位容積質量・実積率
① 単位容積質量は、単位容積当たりの骨材質量(kg/ℓ)で、骨材の粒度が適切であれば、最大寸法が大きいほど単位容積質量は大きい。

② 実積率は、骨材を容器に詰めた場合、どの程度隙間なく詰まっているかを表す指標で、6.3.1式より求める。空隙率は 6.3.2式による。

・・・(6.3.1式)

・・・・・・・・・(6.3.2式)

③ 同一粒度、同一密度の骨材では、実積率が大になるほど骨材の粒形が良いことになる。また、骨材の密度、最大寸法及び粒度が同様な場合には、粒度分布が良いほど実積率は大となる。

④ 骨材に対応する標準的実積率を表6.3.6に示す。

表6.3.6 骨材の実積率の標準的な値
(b) 骨材中の泥分

泥分が骨材表面に付着していると、骨材とセメントペーストとの付着を妨げ、コンクリートの強度を低下させる。また、コンクリート中に混合している場合は、単位水量が増加し、体積変化も大きく、ひび割れも発生しやすい。

(c) 細骨材の有機不純物

有機不純物としては、腐植土、泥炭質等があり、これらに含まれるフミン酸やタンニン酸の量が多いと、セメントペースト中のCa(OH)2と反応して有機酸石灰塩を生じ、コンクリートの硬化を妨げ、強度や耐久性を低下させる場合がある。

(d) 細骨材中の塩化物

① コンクリート中の鋼材は、コンクリートのpHが10以上の場合は、鋼の表面が鉄の水酸化物Fe(OH)2の不働態皮膜で覆われているので錆は発生しないが、多量の塩化物が混合すると、塩化物イオンによって不働態皮膜が破壊されて錆が発生する。

② JIS A 5308附属書A(規定)では、砂に含まれる塩化物量をNaCl換算で0.04%以下と規定しているが、2003年のJIS R 5210(ポルトランドセメント)の改正により普通ポルトランドセメントの塩化物イオンが 0.02%以下から0.035%以下となった。これにより、コンクリートの各材料の塩化物イオンの規格上限値でコンクリート中の塩化物イオン量を算出すると0.30 kg/m3を超える場合があるので、受注者等にレディーミクストコンクリート配合計画書でコンクリート中の塩化物イオン量が0.30kg/m3を超えないことを確認させ、その結果を報告させるようにするとよい。

なお、プレテンション方式のプレストレストコンクリート部材に用いる場合は0.02%以下とすることになっている。

(e) 骨材を混合して使用する場合

① 最近では1種類の骨材だけでは所要の品質や量を確保することが困難となり、複数の骨材を混合して使うことが多くなった。

② 骨材を混合して使用する場合は、JIS A 5308附属書A (規定)のA.9[骨材を混合して使用する場合]による。

1) 同一種類の骨材(例:川砂利と陸砂利(玉砕も含む。)、海砂と山砂)を混合して使用する場合は、混合したものの品質が所定の規定に適合しなければならない。ただし、混合前の各骨材の絶乾密度、吸水率、安定性及びすりへり減量については、それぞれの骨材の規定に適合しなければならない。

2) 異種類の骨材(例:川砂利と砕石、海砂と砕砂あるいは高炉スラグ細骨材等)を混合して使用する場合は、混合前の骨材の品質がそれぞれの規定に適合しなければならない。ただし、粒度調整や海砂の塩化物量の低減目的に混合する場合には、粒度と塩化物量については、混合したものが所定の規定に適合していればよい。

(3) 水

(ア) 水は、コンクリートの凝結時間、硬化後のコンクリートの強さ等の諸性質、鋼材の発錆等に影響があり、極めて重要な材料といえる。

(イ) 一般的に、セメントの水和に必要な水量は、セメント質量の約40%といわれ、施工時に必要な水量の内、残りの部分はコンクリートのワーカビリティーを良くするものであり、コンクリートの硬化に関与しない余剰水となる。また、単位水量が多いと乾燥収縮が大きくなる場合や透水性が高くなる場合があり、耐久性が低下しやすい。

(ウ) 水中の不純物が鉄筋コンクリートに与える影響

(a) 一般的に、アルカリ性の強い水はセメントの凝結を遅くし、弱酸性の水は凝結を早め、強酸性では硬化しにくくなる。

(b) 苦土や石灰は、セメントの安定性を低下させる。

(c) 塩化物や塩素は、鉄筋の腐食を助長する。

(d) 水の不純物の種類と量の限度は、使用するセメントの組成、使用量等によって異なり、規定しにくいとされているが、濃度が1,000ppm以下ならば、ほとんど影響がないといわれている。

(エ) 水の使用基準等については、JIS A 5308 附属書C (規定)があり、この抜粋を次に示す。

JIS A 5308 : 2019 

附属書C(規定) レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水

C.1 適用範囲

この附量書は、レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水(以下、水という。)について規定する。

C.2 区分

水は、上水道水、上水道水以外の水及び回収水に区分する。

C.3用語及び定義

この附属書で用いる主な用語及び定義は,箇条3によるほか次による。

C.3.1 上水道水以外の水

河用水.湖沼水,井戸水.地下水などとして採水され,特に上水道水としての処理がなされていないもの及び工業用水。ただし,回収水を除く。

C.4 上水道水

上水道水は、特に試験を行わなくても用いることができる。

C.5 上水道水以外の水

上水道水以外の水の品質は、C.8.1の試験方法によって試験を行ったとき、表C.1に示す規定に適合しなければならない。

表C.1-上水道水以外の水の品質
C.6 回収水
C.6.1 品質

回収水の晶質は.C.8.2の試験方法によって試験を行ったとき.表C.2に示す規定に適合しなければならない。ただし,その原水は.C.4又はC.5の規定に適合しなければならない。

なお、スラッジ水を上水道水、上水道水以外の水、又は上澄水と混合して用いる場合の品質の判定は、スラッジ固形分率が3%になるように.スラッジ水の濃度を 5.7%に調整した試料 1)を用い、C.8.2.4及びC.8.2.5の試験を行う。

1) スラッジ水を希釈し濃度調整する場合には.C.4及びC.5に適合する水を用いる。

表C.2 – 回収水の品質
C.6.2 スラッジ固形分率の限度

a) スラッジ水を用いる場合には、スラッジ固形分率が3%を超えてはならない。

なお、レディーミクストコンクリートの配合において、スラッジ水中に含まれるスラッジ固形分は、水の質量には含めない。

b) スラッジ固形分率を 1%未満で使用する場合には.表10の目標スラッジ固形分率の欄には、”1%未滴”と記入することとし、表11のスラッジ固形分率の欄にも”1 %未満”と記入する。この場合.スラッジ水は練混ぜ水の全量に使用し、かつ、濃度の管理期間ごとに1 %未満となるよう管理しなければならない。

なお、このスラッジ固形分率を1 %未満で使用する場合には、スラッジ固形分を水の質量に含めてもよい。

C.6.3 スラッジ水の管理

スラッジ水の管理は、次による。また、安定化スラッジ水の管理は、バッチ濃度調整方法だけとし、C.7の管理も追加する。

a) バッチ濃度調整方法2)、又は連続濃度測定方法2)を用いる。
注2) バッチ濃度調整方法は、スラッジ水の濃度を一定に保つ独立した濃度調整槽をもつ場合に用いることができる管理方法である。スラッジ固形分率を 1%未満で使用する場合は、この方法による。独立した濃度調整槽をもたない場合には、スラッジ水の濃度を連続して測定できる自動濃度計を設置して測定することによる連続濃度測定方法を用いればスラッジ水の管理ができる。
b) C.6.2に適合するように、スラッジ水の管理状況に対応して、コンクリートに使用するスラッジ水の濃度を定めて管理する。
c) バッチ濃度調整方法を用いる場合には、スラッジ水の濃度を測定・記録し、目標スラッジ固形分率となるようにスラッジ水の計量値を決定して、スラッジ水を使用する。

なお、スラッジ水の濃度の測定は、1日1回以上、かつ、濃度調整の都度行う。

d) 連続濃度測定方法を用いる場合には、スラッジ水を使用する度にその濃度を自動濃度計によって測定・記録し、自動演算装置を用いて目標スラッジ固形分率となるようにスラッジ水の計量値を決定して.スラッジ水を使用する。

e) スラッジ水の濃度の測定精度の確認は,少なくとも3か月に1回の頻度で.C.8.2.6によって行う。また、スラッジ水の濃度の測定方法として自動濃度計を用いる場合は、始業時にスラッジ水の密度から自動濃度計の表示値を確認しこれを記憶する。

f) スラッジ水の濃度及び測定器具の精度確認の記録は、購入者からの要求があれば、スラッジ固形分率の算出根拠として提出する。

C.7 水を混合して使用する場合

2種類以上の水を混合して用いる場合には、それぞれがC.4. C.5又はC.6の規定に適合していなければならない。

JIS A 5308: 2019

(4) 混和材料

(ア) 混和材料の使用目的は、概ね次のとおりである。
(a) ワーカビリティーの改良
(b) 長期材齢又は初期材齢における強度の増大
(c) 水密性の増大
(d) 乾燥収縮の低減

(e) 耐久性の向上

(イ) 混和材料の分類を、図6.3.6に示す。


図6.3.6 混和材料の分類

混和材料について「標仕」6.3.1(4)では、種類及び適用は特記によるとし、特記がなければ、種類は次によるとしている。

(a) 混和剤の種類は、JIS A 6204(コンクリート用化学混和剤)によるAE剤、AE減水剤又は高性能AE減水剤とし、化学混和材の塩化物イオン(Cl)量による区分は、Ⅰ種とする。また、防錆剤を併用する場合は、JIS A 6205(鉄筋コンクリート用防せい剤)による防錆剤とする。

(b) 混和材の種類は、JIS A 6201(コンクリート用フライアッシュ)によるフライアッシュのI種、II種若しくはⅣ種、JIS A 6206(コンクリート用高炉スラグ微粉末)による高炉スラグ微粉末、JIS A 6207(コンクリート用シリカフューム)によるシリカフューム又はJIS A 6202(コンクリート用膨張材)による膨張材とする。

(ウ) JIS A 6204(コンクリート用化学混和材)の抜粋を次に示す。

なお、JIS A 6204は2011年の改正で、6.2のコンクリート試験における空気量は、基準コンクリートの空気量に3.0%を加えたものに対して、0.5%を超える差があってはならないこととなった。また、練混ぜのバッチ数は1バッチとすること、圧縮強度試験用供試体の養生温度は20±2℃とすること、コンクリートの試験回数は、1バッチについて1回とすること及び管理試験の名称を性能確認試験と改め、6箇月に1回の頻度で実施することとなった。

JIS A 6204: 2011

1 適用範囲

この規格は、コンクリート用化学混和剤(以下、化学視和剤という。)として用いるAE剤、高性能減水剤、硬化促進剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤及び流動化剤について規定する。

3 用語及び定義

この規格で用いる主な用語の定義は,JIS A 0203によるほか、次による。

3.1 化学混和剤

主として、その界面活性作用及び/又は水和調整作用によってコンクリートの諸性質を改善するために用いる混和材。

3.2 AE剤

コンクリートなどの中に、多数の微細な独立した空気泡を一様に分布させ、ワーカビリティー及び耐凍害性を向上させる化学混和剤。

3.3 高性能減水剤

所要のスランプを得るのに必要な単位水品を大船に減少させるか又は単位水量を変えることなくスランプを大幅に増加させる化学混和剤。

3.4 硬化促進剤

セメントの水和を早め.初期材齢の強度を大きくする化学混和剤。

3.5 減水剤

所要のスランプを得るのに必要な単位水量を減少させる化学混和材。

3.6 AE減水剤

空気連行性能をもち,所要のスランプを得るのに必要な単位水量を減少させる化学混和剤。

3.7 高性能AE減水剤

空気連行性能をもち,AE減水剤よりも高い減水性能及び良好なスランプ保持性能をもつ化学混和剤。

3.8 流動化剤

あらかじめ練り混ぜられたコンクリートに添加し、これをかくはんすることによってその流動性を増大させることを主たる目的とする化学混和剤。

3.9 標準形

化学混和剤の種類で.コンクリートの凝結時間をほとんど変化させないもの。

3.10 遅延形

化学混和剤の種類で.コンクリートの凝結を遅延させるもの。

3.11 促進形

化学混和剤の種類でコンクリートの凝結及び初期強度の発現を促進させるもの。

3.12 基準コンクリート

化学混和剤の性能を試験する場合に基準とする化学混和剤を用いないコンクリート。ただし.流動化剤の性能を試験する場合にはAE剤を使用する。

3.13 試験コンクリート

化学混和剤の性能を試験する場合に試験の対象とする化学混和剤を用いたコンクリート。

3.14 形式評価試験

製品を開発した当初に性能確認として行う全項目試験。

3.15 性能確認試験

形式評価試験で確認された性能と同等の性能をもつことを定期的に確認するために、その一部項目について行う試験。

4 種 類

化学混和剤の種類は.性能によって表1、塩化物イオン(Cl)量によって表2のとおり、それぞれ区分する。

表1- 化学混和剤の性能による区分

表2- 化学混和剤の塩化物イオン(Cl)量による区分

5 品 質
5.1 性能
化学混和剤の性能は、6.2によって試験を行ったとき、表3に適合しなければならない。(6.2省略)

表3-化学混和剤の性能

5.2 塩化物イオン(Cl)量
塩化物イオン量は.6.3によってコンクリート中の量を求め.その値が表2に適合しなければならない。(6.3省略)

5.3 全アルカリ量
全アルカリ量は、6.4によってコンクリート中の量を求め、その値が0.30kg/m3以下でなければならない。(6.4省略)

JIS A 6204 : 2011
(エ) AE剤

AE剤は、コンクリート中に無数の独立した微細な気泡を連行させることができる。この気泡は、コンクリートに次のような効果をもたらす。

① ワーカビリティーが良くなる(気泡のボールベアリング作用による。)。
② 単位水量を減少させることができる(一般的にプレーンコンクリートに比べて8%程度減少できる。)。
③ コンクリートの凍結融解に対する抵抗性を増し、耐久性を向上させる。
④ 中性化に対する抵抗性を増大させる。

⑤ 圧縮強度は、空気量にほぼ反比例して低下する。

(オ) AE減水剤

(a) AE減水剤は性能に応じて、標準形、遅延形及び促進形に分けられる。その用途等は次のとおりである。

① 標準形は、主として一般のコンクリートに用いられる。
② 遅延形は、コンクリートの凝結を遅らせ、暑中コンクリートやマスコンクリート等に用いる場合がある。

③ 促進形は、コンクリートの初期強度の発現を促進し、寒中コンクリート等に用いる場合がある。

(b) AE減水剤は、セメント粒子に対する分散作用と空気連行作用を併有する混和剤で、所要のコンシステンシーを得るための単位水量は、プレーンコンクリートに比べて 12~ 16%減少できる。

(カ) 高性能AE減水剤

高性能AE減水剤は、高い減水性とスランプ保持性能を有する混和剤で、凝結時間が通常のコンクリートとあまり変わらない標準形と、暑中コンクリートやマスコンクリート等に適した遅延形とがある。

その主成分の化学的組成からナフタリン系、ポリカルボン酸系、メラミン系、アミノスルフォン酸系に分類される。ただし、この分類は、あくまで便宜的なもので、同系統に属していてもコンクリートに用いたときの性能は、主成分の化学構造が全く同じでないこと、配合されている副次成分の違いなどから必ずしも同ーではない。

高性能AE減水剤は、従来のAE剤やAE減水剤と同様にプラントでミキサーに投入し、他の材料と同時に練り混ぜる方式により、プレーンコンクリートに対し減水率を 16~ 25%程度にすることができる化学混和剤であり、特にスランプロス防止に重点をおいて開発されたものである。

高性能AE減水剤の主な機能は、①高いセメント分散作用、②スランプ保持作用であり、用途としては次のようなものが挙げられる。

なお、最近では、JIS A 6204の規格に適合し、従来の化学混和剤にはない新たな機能を付与したタイプが使用されている。例えば、収縮低減成分や増粘成分を各種減水剤などと一液化したものがあり、これらは一般に「高機能型(タイプ)」と呼ばれている。

① 単位水量上限規制への対応
② コンクリートの高耐久性化(単位水量の大幅低減)
③ 高流動コンクリートの製造
④ 高強度コンクリートの製造

⑤ 単位セメント量低減による水和熱の低減等

(キ) 流動化剤

流動化剤は、あらかじめ練り混ぜられたコンクリートに添加、かくはんし流動性を増して、コンクリートの品質と施工性の改善をする混和剤である。

コンクリートを流動化する場合は、流動化する前のレディーミクストコンクリートからのスランプの増大量と、流動化剤によって混入されるアルカリ量をあらかじめ生産者に通知する必要がある。

なお、 I 類コンクリートであっても、レディーミクストコンクリートの受入れ後、荷卸し地点等で流動化剤を添加する場合は、JIS Q 1001(適合性評価 – 日本産業規格への適合性の認証 – 一般認証指針)及びJIS Q 1011(適合性評価 – 日本産業規格への適合性の認証 – 分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))の認証範囲から外れる可能性がある。このような場合には、II 類コンクリートとして扱わなくてはならないので、その使用には注意が必要である。

(ク) フライアッシュ

(a) フライアッシュは、燃料として微粉炭を使用している火力発電所のボイラーの煙道に設けられた集じん機で回収される鉱物質の微粉で、人工ポゾランの一種である。良質なフライアッシュは粒子表面が滑らかで球状を呈しているので、 AE剤による気泡と同様な作用をする。

(b) 良質なフライアッシュを混合すると同一スランプのコンクリートを得るのに、混合率(内割り)10%(質量比)当たり単位水量を3~4%程度減らすことができる。

(c) フライアッシュは、JIS A 6201(コンクリート用フライアッシュ)のI種、II種又はⅣ種に適合するものとし、ワーカビリテイーや圧送性の改善、ブリーディングの減少、水和熱の抑制等の目的で、セメントの一部として(内割り)あるいは骨材の一部として(外割り)用いられる(内割り、外割りについては (f)参照)。フライアッシュの品質を表6.3.7に示す。

表6.3.7 フライアッシュの品質(JIS A 6201 : 2015)

(d) フライアッシュを内割りに混合する場合の混合率の限度は、セメント量の10%以内とする。

(e) フライアッシュの混合によりコンクリートの中性化が促進されるといわれているので、鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さを確保するよう特に注意する。

(f) フライアッシュの混合の内割り、外割り

① フライアッシュを「内割りに混合する」とは、図6.3.7のような割合に混合することをいう。「標仕」6.3.2(イ)(f)③の場合に適用する。


図6.3.7 フライアッシュの混合の内割り

② フライアッシュを「外割りに混合する」とは、図6.3.8のような割合に混合することをいう。「標仕」6.3.2(イ)(f)②の場合に適用する。


図6.3.8 フライアッシュの混合の外割り

6.3.2 コンクリートの調合

コンクリートの計画調合は、所要のスランプ、空気量、強度及び耐久性が得られ、かつ、「標仕」2節に示される各規定の要求事項を満足するよう、次の項目に注意して定めなければならない。

(ア) 調合管理強度及び調合強度

(a) 調合管理強度

平成19年版「標仕」では、調合管理強度(Fm)に相当する値は、設計基準強度(Fc)、構造体コンクリートと供試体強度との差(ΔF=3N/mm2)、気温によるコンクリート強度の補正値(T)を考慮して(Fc + ΔF + T)としていたが、平成 22年版「標仕」からは、調合管理強度は、( ΔF+T)に代わって、セメントの種類及びコンクリートの打込みから材齢28日までの予想平均気温に応じて定められた構造体強度補正値(S)を取り入れ、(Fc+S)に改められている。

(b) 構造体強度補正値(S)は、セメントの種類、予想平均気混の範囲に応じて「標仕」表6.3.2に示すように、3N/mm2又は 6N/mm2としている。また、平成28年版「標仕」からは、平成12年建設省告示第1446号(平成28年国交省告示第814号)の改正に伴い「標仕」表6.3.1に普通エコセメントが追加され、「標仕」表6.3.2に「JASS 5」の27.5 b項を基に普通エコセメントの構造体強度補正値(S)が追加された。

なお、平成28年3月に改正された告示「コンクリート強度に関する基準」では、コンクリート強度の確認方法として、標準養生(水中又は飽和水蒸気圧中の養生に限る。)による方法とこれに使用する構造体強度補正値が第1第三号として追加されたが、規定された平均気温の範囲とその構造体強度補正値は、「JASS 5」に示される構造体強度補正値28S91と若干異なる数値となっている。しかし、同告示と同時に国土交通省住宅局建築指導課長から発出された技術的助言 国住指第4893号「コンクリート強度並びに型わく及び支柱の取り外しに関する基辿の改正について」では、告示第1102号第1第三号に規定する構造体強度補正値以外の値であっても、「JASS 5」に基づく管理方式については、同告示のただし書きの適用があるものとして取り扱ってよい、とされている。

「標仕」では、平成22年版より「JASS 5」の2009年版を基にコンクリートの調合設計に構造体強度補正値(S)の考え方を導入してコンクリートの品質管理を行っており、平成28年版「標仕」においても、構造体強度補正値(S)は、

「JASS 5」に示される構造体強度補正値28S91を基に定めた値(「標仕」表6.3.2)としている。

参考に、昭和56年建設省告示第1102号(最終改正平成28年国土交通省告示第502号)(告示「コンクリート強度に関する基準」)及び技術的助言 国住指第4893号平成28年3月17日「コンクリート強度並びに型わく及び支柱の取り外しに関する基準の改正について」の抜粋を下記に示す。

設計基準強度との関係において
安全上必要なコンクリート強度の基準を定める等の件
(昭和56年建設省告示第1102号
最終改正 平成28年3月17日 国土交通省告示第502号)

建築基準法施行令(昭和二十五年政令第三百三十八号)第七十四条第一項第二りの規定に基づき、設計基準強度との関係において安全上必要なコンクリートの強度の基準を次の第一のように定め、同条第二項の規定に基づき、コンクリートの強度試験を次の第二のように指定する。

第一
コンクリートの強度は、設計基準強度との関係において次の各号のいずれかに適合するものでなければならない。ただし、特別な調査又は研究の結果に基づき構造耐力上支障がないと認められる場合は、この限りでない。

中略


コンクリートの圧縮強度試験に用いる供試体で標準養生(水中又は飽和蒸気中で行うものに限る。)を行ったものについて強度試験を行った場合に、材齢が二十八日の供試体の圧縮強度の平均値が、設計基準強度の数値にセメントの種類及び養生期間中の平均気温に応じて次の表に掲げる構造体強度補正値を加えて得た数値以上であること。

コンクリート強度並びに型わく及び支柱の取り外し
に関する基準の改正について(技術的助言)

(国住指第4893号平成28年3月17日)

建築基準法施行令第74条第1項第2号及び同令第76条第2項の規定に基づく標記基準については、平成28年3月17日付国土交通省告示第502号及び同日付国土交通省告示第503号として別添のとおり公布されたので通知する。なお、「コンクリート強度に関する基準の制定について(通知)」(昭和56年6月15日付け建設省住指発第160号、建設省住宅局建築指導課長通知)は廃止する。

中略

1 コンクリート強度に関する基準(昭和56年建設省告示第1102号)の改正について

(1) 本告示は、設計基準強度との関係において安全上必要なコンクリート強度の基準及びコンクリートの強度試験方法に関する基準を定めたものである。

本告示改正は、新たなコンクリート強度の管理方式のひとつとして、標準養生(水中又は飽和水蒸気圧中で行う場合に限る。以下同じ。)供試体による場合について、材齢が28日までの供試体の圧縮強度の平均値が、設計基準強度の数値に構造体強度補正値を加えた数値以上であることとするコンクリートの強度の基準を定めたものである。

これら以外の管理方式であっても、適切な研究的裏付けのあるものについては、ただし書の適用があるものとして取り扱って差し支えない。

(2) 第1第1号に規定する現場水中養生に類する養生は、現場における湿砂中養生等所要の水分を補給しうる状態での養生を、同第2号のコア供試体に類する強度に関する特性を有する供試体は、現場封かん養生供試体等構造体中のコンクリートと類似の温度履歴を有する養生を行った供試体をそれぞれさすものである。

(3) 第1第3号に規定する構造体強度補正値は、既往の研究成果等を踏まえ、コンクリート打設時の外気温並びに部材の種類及び寸法等を考慮した上で、標準養生供試体の材齢が28日における圧縮強度の平均値とコア供試体又はこれに類する強度に関する特性を有する供試体の材齢91日における圧縮強度の平均値の差について、0以上の数値として定めたものである。これ以外の強度補正値であっても「建築工事標準仕様書 JASS 5 鉄筋コンクリート工事」((-社)日本建築学会)に基づく管理方式によるものなど、適切な研究的裏付けのあるものについては、ただし書きの適用があるものとして取り扱って差し支えない。

(4) 第1第1号及び同第2号に規定する強度試験を行うコンクリートの材齢について、コンクリートの強度発現特性を踏まえ、強度試験により28日(又は91日)より前に必要な強度が発現していることを確認した場合にあっては、28 日(又は91日)時点で強度試験を行わない場合でも、28日(又は91日)時点で必要な強度が発現しているものと扱って差し支えない。

(5) 供試体強度の平均値を求める場合の供試体数及び養生方法といった管理方式等に関する具体的な運用については、「建築工事標準仕様書JASS 5鉄筋コンクリート工事」((-社)日本建築学会)又は「建築研究資料No.169高強度領域を含めたコンクリート強度の管理基準に関する検討」(国立研究開発法人 建築研究所)等を参考とされたい。

(c) 調合強度(F)は、一般的には標準養生した供試体の材齢m日における圧縮強度で表し、6.3.3式を満足するように定めることになる。

F ≧ Fm + α × σ (N/mm2)・・・(6.3.3式)

ここで、α は、コンクリートの許容不良率に応じた正規偏差で、σは、強度のばらつきを表す標準偏差である。「JASS 5」では、αを許容不良率4%に相当する1.73を用いている。また、σは発注するレディーミクストコンクリート工場の実績に基づいた値を用いればよい。もし発注するコンクリートの生産実績が少ないなどの場合には、2.5N/mm2又は0.1Fmの大きい方の値を用いるとよい。

(イ) 調合条件

コンクリートに要求される品質として、所要の強度を確保すること、打込み時 のワーカビリティーを確保することは当然であるが、近年、鉄筋コンクリート造の構造物が劣化している様々な事例が指摘されており、コンクリートの耐久性(コンクリート中の塩化物含有量、中性化、ひび割れ、海塩粒子、アルカリ骨材反応 による影響等に対して)を確保することが、コンクリート構造物の継続的利用に極めて重要となっている。これらの理由から「標仕」では次の規定を設けている。

なお、以下の水セメント比の最大値、単位水量の最大値及び単位セメント量の最小値とは、レディーミクストコンクリート工場において調合設計を計画した時のそれぞれの目標値のことである。

(a) 「標仕」では、荷卸し地点における空気量は、4.5%と規定されている。

AE剤、AE減水剤、高性能AE減水剤を用いて、コンクリート中に微細な空気泡を連行すると、連行空気量にほぼ比例して所定のスランプを得るのに必要な単位水量を低減でき、ワーカビリティーが改善されるとともに、凍結融解作用に対する抵抗性が増大する。しかし、空気量が6%以上になるとそれ以上空気量を増やしてもフレッシュコンクリートの品質は改善されなくなり、空気量が3%未満では凍結融解作用に対する抵抗性の改善に対する効果が少ない。このため空気量の確認時期・地点を荷卸し地点とし、その時のコンクリートの空気量を4.5%としている。

(b) 鉄筋コンクリートの一般的な劣化は、コンクリート表面からの水・炭酸ガス、塩化物その他の浸入性物質によりもたらされるが、これらの劣化要因からコン クリートを健全に守るためには、一般的に水セメント比を小さくすればよい。このため強度上必要な水セメント比とは別にコンクリートのワーカビリティー・均一性・耐久性を確保するために水セメント比(W/C)の最大値を 以下のように定めている。

① 平成22年版「標仕」では、普通ポルトランドセメント及び混合セメントのA種の水セメント比の最大値(上限値)は65%、混合セメントのB種は 60%とされていたが、平成25年版「標仕」から、新たに早強ポルトランドセメント及び中庸熱ポルトランドセメントを使用する場合は65%、低熱ポルトランドセメントを使用する場合は60%とする規定が追加されている。

また、平成28年版「標仕」6.3.1 (a)(1)で追加された普通エコセメントについては、「JASS 5」及び国立研究開発法人 建築研究所の「建築研究質料 No.144」等を参考に、以下の事由から水セメント比の最大値を55%とした。

a) 普通エコセメントを使用するコンクリートの中性化深さは、普通ポルトランドセメントを使用する同一水セメント比のコンクリートよりも大きくなる。

b) 普通ポルトランドセメントを使用するコンクリートと同程度の圧縮強度を得るためには、普通エコセメントを使用するコンクリートの水セメント比を3~5%程度小さくすることが必要である。

② 6.3.1(2)(イ)(a)でも記したように、平成12年建設省告示第1446号の一部改正に伴って平成28年版「標仕」からは、再生骨材Hを使用するコンクリートを建築物の基礎、主要構造部へ適用できることとなった。ただし、再生骨材H以外の他の骨材を使用するコンクリートと同程度の圧縮強度を得るためには、再生骨材Hを使用するコンクリートの水セメント比を若干小さくする必要があることから、水セメント比の最大値が60%とされた。

(c) 「標仕」では、単位水量の最大値を185kg/m3と規定するとともに、コンクリートの強度、気乾単位容積質量、ワーカビリティー、スランプ及び構造体コンクリートの仕上り状態が「標仕」2節に規定される品質を満足する範囲で可能な限り小さくするよう規定されている。

近年、良好な砂利、砂に代わり、砕石、砕砂が多用されるようになると、スランプを一定値以下に抑えても単位水量は大きくなる一方であり、コンクリートの乾燥収縮率の増大が懸念されている。その一方で、最近は高性能AE減水剤によりコンクリートのスランプを比較的容易に変えることができるようになり、単位水量が185kg /m2以下でもスランプ18cmにすることが容易となっている。このような理由から、コンクリートの品質を確保するためにスランプの規制以外に単位水量の制限が設けられている。

(d) 「標仕」では、単位セメント量の最小値を270kg/m3とし、かつ、(b)の水セメント比及び(c)の単位水量から算出した数値とすることが規定されている。

なお、単位セメント量は、6.3.4式によって求められる。

C = W/x × 100 ・・・(6.3.4式)
C:単位セメント量(kg/m3
w:単位水量(kg/m3

x :水セメント比(%)

単位セメント量は、水和熱及び乾燥収縮によるひび割れを防止する観点から可能な限り少なくすることが望ましい。しかし、単位セメント量が過小であるとコンクリートのワーカビリティーが悪くなり、型枠内へのコンクリートの充填性の低下、豆板や巣、打継ぎ部における不具合の発生、水密性、耐久性の低下等を招きやすい。このためコンクリートの強度を確保するための条件とは別に単位セメント量の最小値が規定されている。

(e) 細骨材率

「標仕」では、「コンクリートの品質が得られる範囲内で、適切に定める」と規定されている。一般的に、コンクリートの単位水量を可能な限り小さくし、強度や耐久性を最大にするには、所要のワーカビリティーが得られる範囲内で 細骨材率を最小にすることが重要となる。ただし、細骨材率を小さくし過ぎると一般的に所要のスランプを得るための単位水量は減るが、がさがさのコンクリートとなり、また、スランプの大きいコンクリートでは、粗骨材とモルタルとが分離しやすくなり、ワーカビリティーが低下する。

一方、細骨材率を大きくすると所要のスランプを得るための単位水量を多く必要とし、流動性の悪いコンクリートとなる。

なお、レディーミクストコンクリート工場では、所要のワーカビリティーが得られる範囲内で単位水量が最小になるように試験により最適な細骨材率を定めている。

(f) 混和材料

① 混和剤の使用量
AE剤については、所定の空気量が得られるようにその使用量を定める。

AE減水剤については、セメントに対する定められた質量比等の範囲内で使用量を定め、空気量については、空気量調整剤(AE剤)で所定の空気量が得られるように調整する。

高性能AE減水剤については、セメントに対する定められた質量比等の範囲内で単位水量及びスランプが得られるように使用量を定める。また、空気量については、空気量調整剤(AE剤)で所定の空気量が得られるように調整する。

なお、6.3.1(1)(ア)(g)でも記したように、普通エコセメントは塩化物イオン量を含め化学成分及び鉱物組成が普通ポルトランドセメント等と異なる部分があり、高性能AE減水剤の主成分によって添加量や得られる効果、性能が躾なる場合があるので、事前の試し練りが必要がある。

② 良質なフライアッシュは、球形をしており、ボールベアリング効果により、ポンプの圧送性を改善する。普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートで圧送が困難な場合、フライアッシュIl種又はⅣ種を外割りで混合することができる(6.3.1(4)(ク)(f)②参照)。

③ 普通ポルトランドセメントを用いたコンクリートで水セメント比の制限等により、強度上必要なセメント量を超える場合は、その部分をセメント全量の10%(質量比)の範囲でフライアッシュI種又はⅡ種に置き換えることにより、単位水量の低下、単位セメント量の低下等が図られ、乾燥収縮等を改善することができる(6.3.1(4)(ク)(f)①参照)。

また、「標仕」では記載されていないが、高炉スラグ微粉末を適量混合することにより、水和熱の抑制、アルカリ骨材反応の抑制、硫酸塩や海水に対する化学抵抗性の向上、水密性の向上等が期待できる。

④ 上記①から③以外で混和材料として多く用いられるものには、流動化剤、膨張材、防錆剤等があるが、その使用方法、使用量については、コンクリートの種類や使用目的によって異なるので、使用が特記された場合は、コンクリートの所定の性能が得られるよう試し練り及び信頼できる資料を受注者等に提出させて確認する。

(g) 塩化物量

コンクリートは、通常pH= 12.5~13 程度の強アルカリ性を呈し、その中に埋め込まれた鉄筋の表面は薄い酸化皮膜で覆われ、不働態化して腐食から保護されている。

しかし、大気中の炭酸ガスやその他の酸性物質の浸透によって徐々にアルカリ性が失われ、中性化が鉄筋の位置まで進行すると鉄筋の腐食に対する保護作用を失い、さらに、水分と酸素が供給されると鉄筋は腐食し始める。

コンクリート中に一定量以上の塩化物が存在すると、塩化物イオンの作用によってコンクリートの中性化が進行していなくても、不働態皮膜が破壊され、鉄筋は腐食し始める。

これらの理由から、「標仕」ではコンクリートに含まれる塩化物の値に制限が設けられ、塩化物イオン量で0.30kg/m3以下と規定されている。

なお、塩化物イオン品が 0.30kg/m3を超えることがやむを得ないと判断した場合は、設計担当者と打合せのうえ、受注者等に次の基準に従った処置の方法を提案させ、「標仕」1.1.8による協識に基づいて処置する必要がある。

① コンクリート中に含まれる塩化物含有量の基準

鉄筋コンクリート造等建築物の構造耐力上主要な部分に用いられるコンクリートに含まれる塩化物量(塩化物イオン(Cl-)換算)は、原則として0.30 kg/m3以下とし、やむを得ず塩化物量が0.30kg/m3を超え0.60kg/m3以下のコンクリートを使用する場合は、次のa)からd)までの条件を満たすものとする。

a) 水セメント比は、55%以下とする。

b) AE減水剤又は高性能AE減水剤を使用し、スランプは18cm以下(流動化コンクリートではベースコンクリートのスランプは15cm以下、流動化後のコンクリートのスランプは21cm以下)とする。

c) 適切な防錆剤を使用する。

d) スラブの下端の鉄筋のかぶり原さを3cm以上とする。

② 離島等で海砂以外の骨材の入手及び除塩用水の確保が著しく困難であり、塩化物量が0.60kg/m3を超える場合においては、有効な防錆処理が施された鉄筋の使用等による防錆対策を講ずる。ここでいう「有効な防錆処理が施された鉄筋」とは、「2020年版建築物の構造関係技術基準解説書」の付録 1-7に示されるエポキシ樹脂塗装鉄筋などをいう。

なお、防錆処理を施した鉄筋の付着性能は、非処理のものと異なること、また処理方法や処理剤の種類によっても異なるため、設計担当者と防錆対策の内容について協議しておく必要がある。

③ 塩化物量の測定は、「標仕」表6.9.1による。

なお、普通エコセメントを使用するコンクリートに含まれる塩化物イオン量の測定は、従来の方法と相違する部分があるので、6.9.2(2)(オ) 項を良く理解して行う必要がある。

(h) アルカリ骨材反応

① アルカリ骨材反応とは、反応性シリカを含む骨材とセメント等に含まれる Na+、K+のアルカリ金量イオンが、水の存在下で反応してアルカリけい酸塩を生成し、これが膨張してコンクリートにひび割れ、ポップアウト等を生じさせる現象をいう。

② アルカリ骨材反応は、この反応にかかわる鉱物の種類によって、アルカリシリカ反応とアルカリ炭酸塩反応とがあり、わが国で問題となっているのは主としてアルカリシリカ反応である。

③ この反応性をもつ鉱物としてはオパール、クリストバライト、トリジマイト、火山ガラス、玉髄、石英等があり、反応性シリカ鉱物を含む岩石としては輝石安山岩、チャート等がある。

④ アルカリ骨材反応は、一般に反応性骨材、高いアルカリ量、十分な湿度の3条件がそろった場合にコンクリートに被害を生じさせるとされている。

⑤ アルカリ骨材反応の抑制対策として、次のような方法が考えられる。

a) 反応性の骨材を使用しない。
b) コンクリート中のアルカリ総量を低減する。

c) アルカリ骨材反応に対して抑制効果のある混合セメントを使用する。

⑥ 以上のことから、「標仕」ではコンクリートは、アルカリ骨材反応を生じるおそれのないものとしている。

(ウ) 計画調合の決定

(a) 「標仕」では計画調合は、試し練りによってそのコンクリートの性能及び品質を確認して定めるとしているが、 I類コンクリートを使用する場合は、試し練りは省略してもよいとしている。ただし、普通エコセメント及び再生骨材H を使用するコンクリートについては、建築物への使用実績がまだ少なく、かつ、他の普通セメントと比較してフレッシュ時及び硬化後の性能、品質が我なる部分がある。よって、これらのコンクリートについては、 I類のコンクリートで あっても原則試し練りを行って計画調合を決定することが必要である。

(b) 試し練りにおいて、計画スランプ、計画空気量、調合強度、その他コンクリートの温度や塩化物量、単位容積質量等を確認する。

試し練りの計画スランプ、計画空気量については、レディーミクストコンクリートの練混ぜから荷卸し地点までのロスを考慮した目標値であることに注意する。

また、運搬によるスランプロスや空気量ロスは、練混ぜから荷卸し地点までの距離、コンクリートのスランプ、外気温、調合条件等によって相違があるので、レディーミクストコンクリート工場の社内規格を参考にするとよい。

調合強度の確認は標準養生した材齢28日の圧縮強度によるが、受注者等から他の方法が提案された場合は、その内容を確認し採否を決める。

調合強度は、「JASS 5」の解説において、コンクリートの調合を定める場合に目標とする平均の圧縮強度のことであり、調合管理強度に強度のばらつきを考慮して割り増した強度と示されている。したがって試し練りによる調合強度の確認は、調合管理強度を基準として行うものであることに注意する。

現在では、コンクリートの製造が主としてレディーミクストコンクリート工場で行われるため、調合強度はレディーミクストコンクリート工場が定めることになる。そのため、レディーミクストコンクリートを使用する場合には、調合強度がレディーミクストコンクリート工場の十分な製造実績に基づき、調合管理強度を満足するように定められたものであることを、配合計画書、配合計算書、使用するコンクリートの品質管理記録などで確認する。

(c) 計画調合の表し方

コンクリートの計画調合は、JIS A 5308の表10[レディーミクストコンクリート配合計画書]により表す。

(d) レディーミクストコンクリート工場ではI類コンクリートについては、使用する材料で調合設計を標準化している。レディーミクストコンクリート工場における計画調合の定め方の一例を図6.3.9に示す。


(注) 水セメント比最大値、単位水量最大値、単位セメント最小値で修正を受けた計画調合は、水セメント比と強度との関係より、再度、調合強度を求め、それを満足する強度値の呼び強度を発注する。
図6.3.9 レディーミクストコンクリート工場における計画調合の求め方の例

6章コンクリート工事 4節 コンクリート工場の選定、製造及び運搬

建築工事監理指針 第6章 コンクリート工事

4節 レディーミクストコンクリート工場の選定、
コンクリートの製造及び運搬

6.4.1 レディーミクストコンクリート工場の選定

(1) 工事開始前に、「標仕」で規定されている所定の品質が得られるように工事現場周辺のレディーミクストコンクリート工場を調査して、(2)から(6)の事項に適合するものであることを確認する。

(2) レディーミクストコンクリートの製造者の業界では、一般的に地域ごとの協同組合による共同販売方式又は直接販売方式が取られ、協同組合から割り当てられた一工場又は複数の工場から工事現場にコンクリートが供給されるようになっている。このような供給方式の場合、同一打込み工区に同時に複数の工場よりコンクリートが供給されると、それぞれの工場の品質責任の所在を明確化することが困難となるので、同一打込み工区への複数工場からの供給が行われないようにする。複数工場による協同納入を避けることができない場合は、打込み区画を区分し、それぞれの納入工場に振り分けて、責任の所在を明確にすることが重要である。

(3) レディーミクストコンクリートは、運搬時間によって品質が変化することもあるので、運搬時間はなるべく短い方がよい。したがって、JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)の9.4[運搬]及び「標仕」6.6.2で定められた時間の限度内にコンクリートが打ち込めるよう、工事現場内の運搬方法及び運搬時間並びに工場の製造能力、運搬能力等を考慮した工場であることを確認することが重要である。

(4) レディーミクストコンクリートの品質は、工場の技術者の技術水準に左右される。

「標仕」6.4.1(ア) でいう施工管理技術者とは、(公社)日本コンクリート工学会が、コンクリートに関して豊富な知識と優れた技術水準を有する者と認定したコンクリート主任技士、コンクリート技士若しくはコンクリート診断士又は一級建築施工管理技士、一級建築士等が該当する。また、レディーミクストコンクリート工場の 選定は監督職員の承諾事項(「標仕」6.4.1)とされているので、承諾に当たっては 品質確保及び資格運用等を適切に行っている工場であることを確認する必要がある。

レディーミクストコンクリート工場の品質管理状況に関しては、産・学・官で構成される「全国生コンクリート品質管理監査会議」がJIS Q 1011(適合性評価 −日本産業規格への適合性の認証 – 分野別認証指針(レディーミクストコンクリー ト))の規定に、ISO 9001(品質マネジメントシステム – 要求事項)の一部規定及び管理技術者の有無等の要求事項を加えた「全国統一品質管理監査基準」を策定し、毎年各工場の立入監査を行い、この基準に適合した工場に(適)マークを交付しているので、工場の選定に必要な品質確保の確認には、これらの結果を参考にするとよい(6.5.1(1)参照)。

(5) JISマーク表示認証工場の中には、表6.2.1よりも狭い範囲の組合せでJISマーク表示の認証を受けている場合もあるので、JISマーク表示認証製品の範囲を確認する必要がある。

(6) JISマーク表示認証工場が工事現場近くにない場合は、JIS A 5308の規定とJIS Q 1011を参考にして、その工場の製品規格、使用材料、製造工程管理・設備、製品の品質管理状態等を調査し、「標仕」2節に規定される品質のコンクリートが製造できると認められる工場であることを確認する必要がある。

6.4.2 レディーミクストコンクリートの発注

(1) I類コンクリートの発注に当たっては、表6.2.1に示す「レディーミクストコン クリートの種類」からコンクリートの種類、粗骨材の最大寸法、スランプ及び呼び強度の組合せを指定させるほか、表6.4.1に示すa)からd)の事項とともに、必要 に応じてe)からq)の事項を生産者と協議のうえ、受注者等に指定させる。ただし、 a)からh)については、JIS A 5308で規定している範囲とする。

表6.4.1 指定及び協議事項(JIS A 5308 : 2019)

(2) II類コンクリートの発注に当たっても、 I類コンクリートと同様に必要項目を生産者と協談のうえ、受注者等に指定させる。

(3) 練混ぜ水としてスラッジ水を使用する場合は、スラッジ固形分率(レディーミクストコンクリートの配合における、単位セメント量に対するスラッジ固形分の質量の割合)が3%を超えないように目標スラッジ固形分率が設定され、バッチ濃度調整方法又は連続濃度測定方法でスラッジ固形分率が適切に管理されていることを受注者等に確認させ、その結果を報告させることが重要である。

なお、スラッジ固形分率を1%未満で使用する場合、生産者が、JIS A 5308の 表10[レディーミクストコンクリート配合計画書]の目標スラッジ固形分率の欄に、「1%未満」と記載する。また、この場合、生産者が練混ぜ水の全量にスラッジ水を使用し、かつ、濃度の管理期間ごとに1%未滴となるよう適切に管理されていることを受注者等に確認させ、その結果を報告させることが重要である。

(4) JIS A 5308の9.5[回収した骨材の取扱い]では、自工場が出荷した戻りコンクリート並びにレディーミクストコンクリート工場において、運搬車、プラントのミキサー、ホッパーなどに付着及び残留したフレッシュコンクリートを、清水又は回収水で洗浄し、粗骨材と細骨材とに分別して取り出した骨材を、5%以下の範囲で JIS規格品のコンクリートに使用できるとされている。

なお、指定建築材料(建築基準法第37条)の規格及び技術的基準を定める平成 12年建設省告示第1446号の第1第七号(コンクリート)に掲げる材料規格(JIS A 5308-2014)から回収骨材は除外されていたが、同告示が平成30年6月14日に一部改正され、JIS A 5308に適合したものであれば、国土交通大臣の認定を受けなくても回収骨材を使用したコンクリートが使用できることとなった。

(5) 呼び強度は、呼び強度の強度値が調合管理強度(設計基準強度(Fc)+構造体強度補正値(S))以上で、かつ、コンクリートの種類に応じた単位セメント量の最小又は最大値、水セメント比の上限値を満足するように、受注者等に指定させる。

(6) 施工に先立ち、レディーミクストコンクリート工場の配合計画書とともに、製造に用いる材料、調合設計の基礎となる資料及び計算書等を受注者等から提出させ、検討、確認する必要がある。

なお、レディーミクストコンクリート工場は、調合設計の基礎となる資料として、水セメント比と圧縮強度の関係式、呼び強度ごとの標準偏差、単位水量・水セメント比・スランプの関係、単位粗骨材かさ容積・水セメント比・スランプの関係、気温・運搬時間・スランプロス・空気量ロスとの関係、使用材料の変動による調合修正の方法、コンクリートの練混ぜ量・練混ぜ時間との関係等コンクリートの調合、製造の基本となるデータ類を保有しているので、必要に応じてこれらの内から当該現場で問題となりそうな項目に関する資料を提出させるとよい。

6.4.3 コンクリートの運搬

(1) JIS A 5308の 9.4[運搬]では、運搬時間は、生産者が練混ぜを開始してから運搬車が荷卸し地点に到約するまでの時間とし、その時間は1.5時間以内としている。ただし、購入者(受注者等)と生産者とが協議のうえ、運搬時間の限度を変更することができることになっている。一方、「標仕」6.6.2では、コンクリートの練混ぜから打込み終了までの時間の限度は、外気温が25℃以下の場合は120分、25℃ 超える場合は90分と規定されており、JIS A 5308 より若千厳しくなる場合もある。

コンクリートの運搬に当たっては、これらの二つの規定を満足するように、受注者等に適切な施工計画を立てさせる。

(2) トラックアジテータからコンクリートの荷卸しを行うに際しては、その直前にトラックアジテータを高速回転させ、ミキサー内のコンクリートを均ーにした後にコンクリートを排出する。特に運搬距離が長い場合には、高速回転させる時間を少し長くするとよい。

なお、市街地でのトラックアジテータの高速回転は騒音の問題が発生するため、工事開始前に住民の理解を得ておく必要がある。

6章 コンクリート工事 5節 コンクリートの品質管理

6章 コンクリート工事

5節 コンクリートの品質管理

6.5.1 品質管理一般

(1) 「標仕」6.5.1では、打ち込まれるコンクリートが所定の品質を有していることを確認するために受入れ時に受注者等が実施する品質管理について規定している。したがって、この節においては、受注者等を主体として記述している。

(ア) 間違ったコンクリートの納入や誤配車を排除するために、レディーミクストコンクリートの受入れ時には、荷卸しされるコンクリートの種類、呼び強度、指定スランプ、粗骨材の最大寸法、セメントの種類及び容積が、発注した条件に適合していることを各運搬車の納入書によって確認することが必要である。

(イ) レディーミクストコンクリートでは、荷卸し地点までの品質についてはレディーミクストコンクリート工場が責任をもち、それ以後の品質については購入者(受注者等)が確認し、監督職員に報告する。そのため、購入者(受注者等)は、工事現場に荷卸しされるコンクリートの品質が所定の品質を有していることを常に確認し、購入者(受注者等)は、異状が認められたコンクリートは受取りを拒否し、持ち帰らせる必要がある。

レディーミクストコンクリートの受入れ時に判定できる品質は、スランプ、空気量、単位容積質量、温度及び塩化物イオン量等である。

(ウ) 所要のコンクリート性能を確保するためには、単位水量の管理が極めて重要である。打込み中に、粗骨材とモルタルの分離やスランプ、空気量の大幅な変動等、コンクリートの品質に変化が見られた場合は、直ちにコンクリートの打込みを停止し、コンクリート工場の製造管理記録に記載されている単位水量の他が「標仕」6.4.3 (6)に規定される配合計画書の数値に計量誤差の数値を加味した値に対して、所定の範囲内であることを確認する必要がある。

なお、ここでいう配合計画書とは、JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)の表8に規定されるレディーミクストコンクリート配合計画書をいう。
平成22年4月1日からは、JIS A 5308のレディーミクストコンクリート納入書の標準様式が変更され、配合表も併記されている。この配合表には、標準配合、修正標準配合、計量読取記録から算出した単位量、計量印字記録から算出した単位量若しくは計量印字記録から自動算出した単位量のいずれかが記載されている。また、購入者から要求があった場合に、生産者はレディーミクストコンクリートの納入後にバッチごとの計量記録及びこれから算出した単位量を提出しなければならないことになっている。
なお、単位水量について、配合計画書の値とコンクリート工場の製造管理記録の値とがほぼ同じ( ±1%程度)であるにもかかわらずコンクリートの品質に変化が認められる場合は、レディーミクストコンクリート工場と原因を調査し、改善を行うことが必要である。

(エ) コンクリートのワーカビリティーが安定していて状態が良いことを目視等で確認することとし、その確認時期を打込み当初と打込み中随時行うことを定めている。ワーカビリティーについては、スランプ試験後のコンクリートを目視等で観察し、粗骨材が分離していないことを確認するとともに必要に応じてスランプフローを測定するのがよい。また、試験結果は写真等で記録することが重要である。

(オ) I類コンクリートを使用する場合には、受注者等は、自らが実施する品質管理の試験結果及びレディーミクストコンクリート工場が行うJIS A 5308の品質管理の試験がJIS Q 1011(適合性評価 – 日本産業規格への適合性の認証 – 分野別認証指針(レディーミクストコンクリート))に基づいて行われているかを確認し、試験結果を監督職員に報告することとしている。

なお、受注者等はレディーミクストコンクリート工場が行う試験結果の報告があっても、受注者等が実施する検査は、省略することはできない。

(カ) JISマーク表示認証製品のI類コンクリートにおいては、使用する材料から製品の品質に至るまでの品質管理をJIS Q 1001(適合性評価 – 日本産業規格への 適合性の認証 – 一般認証指針)及びJIS Q 1011に基づいて実施している。しかし、 II類コンクリートについては必ずしもI類コンクリートと同様に管理されているとは限らない。そこで、Ⅱ類コンクリートを使用する場合には、次の方法で品質管理を行う必要がある。

(a) Ⅱ類コンクリートに使用する材料が、 I類コンクリートの製造に用いているものと同ーである場合には、 I 類コンクリートのための材料検査結果を用いることができるが、 I 類コンクリートに用いているものと異なる材料を使用している場合には、 I 類コンクリートに用いる材料と同様の品質管理検査を行い、その結果がJIS Q 1011の評価基準及びJIS A 5308の品質基準若しくは「標仕」 6.4.2のレディーミクストコンクリートの発注時に指定した評価基準及び品質基準等に適合していることを確認することが必要である。また、納入前に必ず試し練りを行い、所要の品質が得られることを確認してから使用するとともに、使用する材料及びコンクリートについての検査は、 I 類コンクリートと同様 JIS Q 1011に規定されている方法(試験を行う時期を含む。)に準じて行い、その結果により所定の品質が得られていることを確認して、その検査結果の報告を監督職員に提出することが必要である。さらに、納入されたコンクリートの受入れ検査についてもJIS A 5308に規定されている方法に従って実施し、その品質管理の結果の報告を監督職員に提出することが必要である。

(b) 型枠中に打ち込まれたコンクリートが構造体として所要の品質を確保するためには、適度な温度と水分の確保が必要であり、その具体的養生方法を「標仕」 6章7節で規定している。養生方法が適切でない場合には、コンクリートが本来有している強度の60%程度しか得られなかった、という報告もあるので、「標仕」に基づき適切な養生を行わなければならない。

(c) スランプ及び空気量が「標仕」6.5.2及び「標仕」6.5.3に示される所定の許容差を超えた場合又は調合管理強度が「標仕」6.3.2に示される所定の値を下回った場合には、調合の調整を行うことが必要になる。調合の調整が必要になる場合の条件並びに調整の方法については、「標仕」6.5.2、「標仕」6.5.3及び「標仕」6.5.5に従って実施する。

(d) フレッシュコンクリートの試験を行う場合には、「標仕」6.9.2に示されている方法で行わなければならない。

6.5.2 スランプ

打ち込まれるコンクリートのスランプが「標仕」表6.5.1に示す許容差(18cmを超える場合の許容差が ±2cmとなる条件は、平成22年版「標仕」から、高性能AE減水剤を使用し、かつ、調合管理強度が27N/mm2以上である場合に変更されている。)を超えた場合に、そのままコンクリートを打ち込むと充填不良や不均ーなコンクリートとなる場合がある。このような場合には、調合の調整や運搬(レディーミスクトコンクリート工場から荷卸し地点までの運搬及び荷卸し地点から打込み地点までの場内運搬)方法の改善を行うことが必要である。調合の調整を行う場合には、その原因を明らかにするとともに、所定の強度を確保するため水セメント比を変更しない方法で行わなければならない。

(ア) スランプの変動要固としては、次のような項目が挙げられ、要因によっては調合の調整でなく、(a)から(e)までの項目の変動を小さくすることが必要な場合もある。

(a) 骨材の粒度(特に細骨材の粒度分布)及び粒形
(b) 表面水の変動
(c) 材料の計量誤差
(d) 運搬(レディーミスクトコンクリート工場から荷卸し地点までの運搬)時間
(e) 空気量

(イ) スランプを調整する場合のおおよその目安は、次のとおりである。

(a) 水セメント比を変えないで、スランプを1cm増加させるためには、単位水量を1.2%(質量比)増加させる。

(b) 水セメント比及び単位水量を変えないで、スランプを1cm増加させるためには、細骨材率を0.5%減少させる。

6.5.3 空気量

(1) 荷卸し地点の空気量の許容差は、JIS A 5308(レディーミスクトコンクリート)の品質基準と同様に±1.5%である。

(2) 荷卸し地点の空気量の測定結果が「標仕」6.4.3で発注したときの空気量 ±1.5%の範囲を超えた場合には、補助AE剤の使用量と連行される空気量がほぼ比例関係にあるので、この関係を利用して、水セメント比を変えずに補助AE剤の使用量を増減して所定の空気量の範囲に入るように調整するとよい。空気量が許容範囲を超える原因としては、骨材の品質変動による場合が多いと考えられるが、その原因を明らかにし、以後このような原因が生じないような処置を取ることが大切である。

なお、JIS A 1128(フレッシュコンクリートの空気量の圧力による試験方法 – 空気室圧力方法)による空気室圧力法で測定する場合には、骨材中の空気量(骨材修正係数)をあらかじめ測定しておき、適切に補正しなければならない。従来、普通の骨材を用いた場合の骨材修正係数は 0.1%程度以下となることが多く、この補正を省略することが多かったが、近年では骨材資源の枯渇化とともに、普通の骨材でも骨材修正係数が 0.2%を超えるものもあるため、試し練り時等、事前にこれらの数値を確認しておくことが必要である。

6.5.4 塩化物豆及びアルカリ総量

(1) 塩化物量

(ア) 塩化物量試験は、「標仕」表6.9.1によって実施する。塩化物量(塩化物イオン(Cl)量換算)の測定結果が0.30kg/m3を超えるとコンクリート中の鉄筋の腐食が促進される可能性があるため、この値以下とすることが定められている。コンクリート中の塩化物イオン量は、使用する材料から供給される塩化物イオン量の合計として表され、レディーミクストコンクリート工場では調合ごとにその値を計算して求めている。測定結果が0.30kg/m3を超える場合には、使用する材料中の塩化物イオン量が変化していることになり、その原因を明らかにすることが必要である。しかし、コンクリートの打込みを中断するとコールドジョイントの発生等別の問題が生じやすくなる。そこで、0.30kg/m3以上の塩化物イオン量が測定された後は、連続して塩化物イオン量の測定を行い、0.30kg/m3以下であることを確認した後は、使用してよいことにしている。

なお、連続した10台の運搬車の測定結果が0.30kg/m3以下であることが確認された場合には「標仕」表6.9.1に示す通常の方法で管理してよいことにしている(「標仕」6.5.4(1)参照)。また、塩化物量の確認は、あくまでも規定値(0.30kg/m3)を下回ることが確認されればよく、例えば、適用する塩分測定方法の測定限界の下限値を下回るような塩化物量の場合において、その測定値(数値)を示すことを要求しているわけではない。

また、塩化物量の確認は、あくまでも規定値(0.30kg/m3)を下回ることが確認されればよく、例えば、適用する塩分測定方法の測定限界の下限値を下回るような塩化物量の場合において、その測定値(数値)を示すことを要求しているわけではない。

(イ) 細骨材中の塩化物
JIS A 5308附属書A(規定)[レディーミクストコンクリート用骨材]では、砂に含まれる塩化物量をNaCl換算で0.04%以下と規定している。2003年にJIS R 5210(ポルトランドセメント)に規定される普通ポルトランドセメントの塩化物イオン量が0.02 ~ 0.035%に改正されるまで、この程度であればコンクリート1m3中の塩化物量は、通幣、0.30kg/m3以下を満足していたと考えられる。しかし、JIS R 5210の改正によって、普通ポルトランドセメントの塩化物イオン量が順次増加しており、各コンクリート用材料の塩化物イオン量の上限値を守るだけでは、0.30kg/m3を超えることが懸念されるようになった。

具体的な計算例を示すと次のようになる。

①砂の塩化物量をNaCl換算で0.04%(塩化物イオン量は0.024%)、単位細骨材量を800kg/m3と仮定すると、砂から加わる塩化物イオン量は0.194 kg/m3となる。

② (-社)セメント協会によると、JISの規定値が0.02%であった当時の普通ポルトランドセメントの塩化物イオン量は最大でも0.015%で、余裕分は 0.005%であった。この余裕分を現在の規格上限値0.035%から減じ、今後予想される普通ポルトランドセメントの塩化物イオン量の最大値を0.03%と仮定すると、単位セメント量が350kg/m3の調合においてセメントから加わる塩化物イオン量は0.105kg/m3となる。

③ 水については、塩化物イオン濃度を200ppm(JIS A 5308 附属書C(規定)[レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水]に規定される品質基準値)、単位水量を185kg/m3とすれば、水からくる塩化物イオン量は0.037 kg/m3となる。

④ 化学混和剤については、海砂使用の場合は無塩化タイプを用いることとする。

以上、①から④までを加えると0.336kg/m3となる。

このような状況が予想される場合及び発生した場合には、砂・砕砂等塩化物量の少ない骨材との併用等により細骨材の塩化物量を低減させなければならないが、コンクリート中の塩化物イオン量については普段から「標仕」表6.9.1に示す方法で適切に管理し、0.30kg/m3以下であることを確認しておくことが必要である。

(2) アルカリ総量

使用している骨材について、アルカリシリカ反応性試験の結果が無害と判定されない場合で、その抑制対策としてコンクリート中のアルカリ総量を採用している場合には、JIS A 5308附属書B(規定)[アルカリシリカ反応抑制対策の方法]に規定する式(B. 1)によって、アルカリ総量が 3.0kg/m3以下であることを確認することが必要である。レディーミクストコンクリート工場では調合ごとに総アルカリ量を計算し技術資料としてもっているので、その計算の根拠となっている使用材料のアルカリ量に関する資料とともに提出を求めて確認することが必要である。

6.5.5 調合管理強度

(1) レディーミクストコンクリートの調合管理強度の管理試験の確認は、「標仕」6.9.3及び「標仕」6.9.4に従いJIS A 1132(コンクリート強度試験用供試体の作り方)による20±2℃の水中養生を行った供試体を用いて材齢28日で実施する。

(2) 管理試験の結果、不合格の場合には、原因を調査し、必要な措置を定め、監督職員の承諾を受ける。不合格となる原因としては、次のようなものがある。

(ア) 水セメント比の変動(コンクリートの強度は、主として水セメント比によって決定されるので、水セメント比の変動の影響が大きい。この原因としては細骨材の表面水の変動が挙げられる。)

(イ) 骨材の品質変動

(ウ) 空気量の変動

不合格の原因が調合にある場合には、「標仕」6.3.2により新たに調合を定めるなどの処置を定めて、改めて「標仕」6.3.2により計画調合を行うとともに、必要な処置の報告を監督職員に提出して承諾を受けることが必要である。

6章コンクリート工事 6節 コンクリートの工事現場内運搬等

建築工事監理指針 第6章 コンクリート工事

6節 コンクリートの工事現場内運搬、打込み及び締固め

6.6.1 工事現場内運搬

(1) 運搬用機器は、次による。

(ア) 工事現場内の運搬には、コンクリートポンプを用いる方法が一般的であるが、運搬距離が短い場合や時間当たりの運搬量が少ない場合にはバケット、シュート、手押し車等が用いられる。運搬機器は、運搬中におけるコンクリートの品質変化が少なく、打込み時点で所要の品質のコンクリートが得られることを基準に選定することが必要である。各種運搬機器の概要を表6.6.1に示す。

表6.6.1 コンクリートの運搬機器の概要(JASS 5より)

バケット、手押し車等及びシュートを用いる場合には、次のような点についての配慮が必要である。

(a) バケットを用いる場合

① 下部からコンクリートを排出する形式のバケットを用いる場合は、なるべく排出口が底の中央部のあるものとする。

② コンクリートをあけ移しする形式のバケットを用い、コンクリートを均質、かつ、容易に排出できるものとする。

(b) 手押し車等を用いる場合

① 運搬中にコンクリートの材料が分離することや受け桝から漏出することなどのないようにする。

② 運搬中に分離を認めた場合は、練り直し、コンクリートが均質になるようにする。

(c) シュートを用いる場合

① シュートは、コンクリートの分離や漏れを生じることなく、滑らかに流れる構造のものとする。

② シュートは、原則として、縦形フレキシブルシュートとする。ただし、やむを得ない場合は、①を満たすことを確認して、傾斜形シュートを用いることができる。

③ 高所からコンクリートを流下させる場合は、縦形フレキシブルシュートを用いることとし、その投入口と排出口との水平方向の距離は、垂直方向の章さの1/2以下とする。

④ 傾斜形シュートを使用する場合は、次による。
1) 傾斜は、4/10 ~ 7/10とする。

2) シュートの排出口には、長さ600mm以上の漏斗管を付ける。

(イ) 運搬用機器は、事前に清掃しておき、付着しているコンクリート塊や油等がコンクリートに混入しないようにする。また、動力利用の機械は、途中で故障すると計画どおりの施工ができなくなるので、十分に整備、点検をしておく必要がある。

(2) コンクリートは、所要のスランプ、強度、耐久性が得られるように材料の調合割合を定めている。スランプが少し小さいからといって工事現場内の運搬時に水を加えると、水セメント比が大きくなって所要の強度や耐久性が得られなくなる。したがって、運搬及び圧送の際には絶対に水を加えてはならない。

(3) コンクリートポンプによる圧送を採用する場合には、工事現場の立地条件、コンクリートの種類、1日の打込み量等を考慮し、適切なポンプの機種及び台数を選定する。また、ブーム付きポンプ車以外の場合のフレキシブルホースの長さ(100A管以下では6m以下、100A管を超えるものは5m以下)のほか、次に示す点に対する配慮が必要である。

(ア) 輸送管は、圧送中に前後左右に動くので、鉄筋や型枠に輸送管がじかに接していると配筋の乱れ、型枠の変形等の原因となる。したがって、輸送管の保持については、「標仕」6.6.1(3)(ア) を厳守させることが大切である。

(イ) 輸送管の径が大きいほど圧力損失が小さくなり、圧送性が向上する。したがって、輸送管の径が大きいほど圧送可能な距離や闊さが大きくなるとともに時間当たりの圧送量も増える。輸送管の径の選定に当たって考慮すべき事項については「標仕」6.6.1(3)(イ) に示されている。

(ウ) 「標仕」では、コンクリートの圧送開始前にモルタルを圧送することにしている。これを行わずに圧送すると、輸送管内にモルタル分が付着し、排出されたコンクリートがモルタル分の少ないコンクリートになり強度が低下する。

なお、この時使用するモルタルは、後から打ち込むコンクリートの品質に悪影響を与えないように富調合のものとすることが必要である。

圧送後のモルタルは、平成22年版「標仕」から「型枠内に打ち込まないことを原則とする。」としてきた。しかし、平成31年版の改定で「圧送後のモルタルは、型枠内に打ち込んではならない。ただし、これにより難い場合は監督職員と協議する。」と改められた。圧送後のモルタルは、型枠内に打ち込まないことが原則であるが、打ち込まざるを得ないような場合は、監督職員と協議して対応を決めるのがよい。やむを得ず打ち込む場合は、少量ずつ分散させる、よく混ぜるなど影響が少なくなるようにする必要がある。

なお、その場合でも、最初に排出される変質した部分は廃棄し、良質な部分のみを打ち込む必要がある。

また、環境配慮の観点からは、廃棄処分とするモルタル量は少ないことが望ましく、先送りモルタルを最小限とするような計画を立てることが大切である。

(エ) 圧送されたコンクリートで圧送途中に著しく変質した部分及び圧送中に閉塞したコンクリートは、施工上又は品質上の問題があるので廃棄する。

6.6.2 コンクリートの練混ぜから打込み終了までの時間

(1) コンクリートは、練混ぜ終了後、時間の経過に伴ってスランプや空気量等のフレッ シュ性状が変化する。レディーミクストコンクリート工場では、工事現場到着時に所定の品質を保証しているが、経過時間が長くなるとスランプの低下が大きくなり、コールドジョイント発生のおそれが高くなる。したがって、「標仕」では練混ぜ開始から打込み終了までの時間を外気温が25℃以下の場合120分以内、外気温が 25℃を超える場合90分以内と定めている。JIS A 5308(レディーミクストコンクリート)では、レディーミクストコンクリートの工事現場までの運搬時間の限度を1.5時間としているので、到着したコンクリートをできるだけ早く打込みができるように準備をしておくとともに打込み速度に合わせてコンクリートが搬入されるように配車計画を立て、現場での待ち時間をできるだけ少なくする。

また、コンクリートポンプで圧送する場合には、コールドジョイント防止の観点から長時間中断しないで圧送することが大切である。

(2) 練混ぜから打込み終了までの時間は、コールドジョイントや豆板等の施工欠陥を防止する目的で定めたものである。したがって、コンクリートの練上がり温度を下げたり、凝結を遅らせるなどの対策を取れば時間の限度を超えても欠陥を生じないで施工することは可能である。工場から工事現場までの運搬時間が長い場合等で、このような措置を講じて練混ぜから打込み終了までの時間の限度を変更する場合には、上述のような品質確保の方法が行われることを確認した後に承諾する。

6.6.3 打込み

(1) 多量の雨が降っている時にコンクリートを打ち込むと、雨水がコンクリート中に入って水セメント比が大きくなり、所要の強度が得られなくなる。また、コンクリー卜温度が 2℃未満となる低温時にはセメントの水和反応が遅れ、初期凍害を受けるおそれがある。このような場合には、コンクリート中に雨水が入らないようにしたり、コンクリート温度を高めるとともにその後の養生方法を適切に定めるなどの対策を講じたうえで打ち込むことが必要である。このような対策を取らないで打ち込むと所要の品質を確保することが困難になる。

(2) 打込み開始前に行う型枠内部の掃除では、電気掃除機等により雑物を取り除く。水洗いだけでは、柱下部等に雑物が集中することになるので、柱下部等に掃除口を設けて内部に落ち込んだ雑物を取り除く。

せき板が乾燥している場合には、打込みに先立って散水するが、寒冷時等で水が凍結するおそれのある場合には散水を行ってはならない。

(3) コンクリートの打込みは、打ち込む場所へ、コンクリートが分離しないように直接静かに入れて、十分に締め固め、そのコンクリートが落ち着いてから次のコンクリートを打ち込むことが大切である。また、壁に打ち込んだコンクリートをバイブレーターを使用して柱を通過させて横流しをすると、柱の鉄筋によって粗骨材の移動が阻害され、モルタルの多いコンクリートとなるのでこのようなことは避けなければならない。

打込みの基本的事項を次に示す。

(ア) 低い位置から落とす。
(イ) 型枠内部で横流しすることを避ける。
(ウ) 全体が均ーな高さを保つように水平に打ち込み、十分締め固めてから次の層を打ち込む。

(エ) 打ち込む位置の近くに落とし込む。1箇所に多量に打ち込み、横に流してはならない。

(4) コンクリートの打込み区画は、工程上無理のない区画とするとともに、施工欠陥を生じやすい部位については特に注意して施工することが必要である。

(ア) パラペットの立上り部分は、漏水上の欠陥を生じやすく、また、ひさし・バルコニー等は片持梁となりこれを支持する構造体部分との接合部に応力が集中する。このような部分は、構造体と同一の打込み区画とすることが必要である。

(イ) 1回に打ち込むように計画した区画内では、コールドジョイント等の施工欠陥を防止するために、連続して打ち込み一体となるようにすることが大切である。

(ウ) 同一打込み区画には、2つ以上のレディーミクストコンクリート工場のコンクリートを打ち込まないようにする必要がある。これは、それぞれの工場の品質責任の所在が不明確になるためである。そのため、同一打込み区画への複数工場からの混合使用を行わなくてもよいように、コンクリートの供給能力を考慮して工場を選定しなければならない。

(5) コンクリートの打込み速度は、打込み場所の施工条件によって大きく異なるが、十分締固めができる範囲とすることが大切である。スランプ18cm程度のコンクリートをコンクリートポンプ工法で打ち込む場合の目安は、20 ~ 30m3/h程度である。

(6) シュートやホース等の運搬用具から打ち込む位置までの自由落下高さが大きすぎたり、水平流動距離が大きいとコンクリートに材料分離を生じる。したがって、縦形シュートを用いたり、横流しをしないようにしてコンクリートの分離を防止する。

コンクリートを1箇所にまとめて打ち込み、その後バイプレーター等で横流しをすると材料分離を生じるおそれがあるので避けなければならない。コンクリートは、打ち込む場所にできるだけ近い位置に打ち込むことが原則である。

(7) 部材ごとの打込みの進め方及び打上りの欠陥を次に示す。

(ア) 基礎の打込み

(a) 捨コンクリート等の面に、水、土、木片その他支1旅となる雑物のないように掃除する。特に水の排除に注意する。

(b) 連続基礎のとき、翌日打ち込む部分との打継ぎ箇所は確実に打ち止める。流し放しにしてはならない。

(c) 長い距離を斜めシュートで打ち込むことはなるべく避けるべきであり、やむを得ない場合は、U字形断面のものを使用し、中間で一度ホッパーに受けて次のシュートに流す。また、末端部には縦形シュートを使用し、コンクリートを鉛直に落とす(図6.6.1参照)。


図6.6.1 基礎の打込み

(イ) 柱の打込み

(a) 柱の打込みは、コンクリートを一度スラブ又は梁で受けた後、柱各面から打ち込む。

梁筋と柱筋の交差している箇所から打ち込むと、特に分離しやすい(図6.6.2参照)。


図6.6.2 柱の打込み(各面から打ち込む)

(b) 吐出する向こう側のせき板にコンクリートが直接当たらないように、小形受け桝等で受けてから鉛直に落とす。

(c) 高い柱(4.5 ~ 5m以上)に打ち込む場合は、次のようにするのがよい。

① 最上部から縦形シュートが使用できるときはこれを利用して、常に打上げ面近くでコンクリートを放出する。

② 縦形シュートが使用できない時は、柱中段のせき板に打込み口を設け、外部にポケット状のたまり場をつくり、コンクリートがゆったり落ちていくようにする(図6.6.3参照)。


図6.6.3 柱の打込み(高い柱を打つ場合)

(ウ) 壁の打込み

(a) 打込み口は、原則として1 ~2m 間隔で各位置から平均に落し込むようにする。

(b) 間隔の広すぎる打込み口から落として、型枠内に大山や大傾斜をつくり、横流しで平らにすることや斜めのままで打ち込むと、分離や豆板ができやすい。

(c) 柱脇の開口部下部等にコンクリートを充填させるために、柱に打ち込まれているコンクリートを引き出してはならない(図6.6.4参照)。


図6.6.4 壁の打込み(柱脇に開口)

(エ) 梁の打込み

(a) 梁の全せいを同時に、両端から中央に向かって打ち込む。
(b) せいが高い梁は、スラブと一緒に打ち込まず、梁だけ先に打ち込む。

(c) 柱、壁等を、梁下で一度止めずに上部まで連続して打ち込むと、柱、壁等のコンクリートの沈降により、梁との境目にひび割れが発生するおそれがあるので、壁及び柱のコンクリートの沈みが落ち着いた後に梁を打ち込む。

(オ) スラブの打込み

(a) スラブは、梁のコンクリートが沈降してから打ち込まないと (エ) (c)と同様に、梁との境目にひび割れが発生するおそれがあるので、梁のコンクリートが落ち着いた後にスラブを打ち込む。

(b) 打込みは、遠方から手前に打ち続けるように行う(図6.6.5及び図6.6.6参照)。

(c) コンクリートの浮き水が多い場合は、排除する。

(d) 柱、壁の打込みでこぼれて硬化したコンクリートは、掃除してからコンクリートを打ち込む。


図6.6.5 スラブの打込み(ポンプによる打込み)


図6.6.6 スラブの打込み(バケットによる打込み)

(カ) 階段の打込み

(a) 階段のある打込み区画は、階段回りから打ち込む。

(b) コンクリートを壁又は柱からかき出さずに直接打込み、壁際取合いはふたをする。

(キ) 鉄骨鉄筋コンクリート打込み

鉄骨鉄筋コンクリートの鉄骨梁のフランジ下端や、梁と柱の接合部下端は、コンクリートの充填が最も難しいところであるので、梁せい、梁幅、フランジ幅、型枠との間隔によりコンクリートのワーカビリティー、打込み方法等を考えなければならない。軟練りのコンクリートを打ち込むと、充填後の沈降により、フランジ下端に空洞を生じやすい。特に梁せいの大きい場合は、フランジ下端が空洞になっている例が多いので、片側からコンクリートを流し込み、反対側にコンクリートが上昇するのを待って、全体に打ち込む方法をとるのがよい(図6.6.7参照)。


図6.6.7 各部位に起こりやすい打上りの欠陥

(8) 同一区画のコンクリート打込み時における打重ね時間間隔の限度は、打重ね部にコールドジョイントを発生させないで施工できる範囲で定める必要がある。コールドジョイントを発生させないためには、先に打ち込まれているコンクリートに再振動を加えられることが必要なことから「標仕」6.6.3 (8)では再振動可能な範囲と定めている。この時間の限度は、通常の場合外気温25℃以下の場合120分、外気温が25℃を超える場合90分を目安とする。

なお、凝結時間を遅らせる対策を取った場合には打重ね時間間隔の限度を長くすることが可能である。

(9) コンクリート中に埋め込まれた鉄筋、スペーサー及びバーサポート等は、打込み時のコンクリートの圧力や振動機の振動及びポンプの配管移動の影響により移動を生じやすく、このため鉄筋等のかぶり厚さが不足する場合が多く認められている。かぶり厚さが不足すると、鉄筋が腐食し建物の耐久性上間題となる。したがって、コンクリートの打込みに際しては鉄筋等が移動しないようにすることが重要である。

6.6.4 打継ぎ

(1) 打継ぎはできるだけ少なくし、応力の小さいところで打ち継ぐことが基本である。梁及びスラブに鉛直打継ぎ部を設けなければならない場合には、せん断応力の小さいスパン中央付近又は曲げ応力の小さいスパンの1/3 ~1/4のところがよい(図 6.6.8参照)。梁の付け根で打継ぎをするのは避けなければならない。

また、柱及び壁の場合の水平打継ぎ部は、スラブ、壁梁又は基礎の上端に設ける。


図6.6.8 鉛直打継ぎ位置

(2) 打継ぎ部の仕切り面の施工に当たっては、次の事項に留意する。

(ア) せき板を密に隙間なく組み立て、モルタルの流出を防ぐとともに、コンクリート打込み後せき板を取り外しやすいように仕切る。

なお、仕切り面は必要に応じて目荒らしを行った後、清掃し、コンクリート打込み前に水湿しを行う。

(イ) 梁や壁には、鉄筋を骨としてメタルラスや板を張って仕切るのがよい。打継ぎ位置付近に出入口等の開口部がある場合には、そこで仕切るとよい。

(ウ) 梁・壁で、割竹・しの竹類を差し込んで仕切る方法は、密に隙間なく差し込んでも下部からモルタルが流出することが多く、適切な方法とはいえない。また、コンクリート打込み後、時期を見て割竹等を動かしてコンクリートとの付着をなくしておかないと抜けなくなる。

(エ) スラブの仕切り面は、上端筋が下がりがちなので十分注意する。

(オ) 打継ぎ面が外部に接する箇所には、打継ぎ部の防水処理を行うため目地を設ける。

(3) 打継ぎ面に水がたまっていると、その部分に打ち込んだコンクリートの水セメント比が大きくなり、所要の品質が得られないことがあるので、水がたまらないようにする。また、水がたまってしまった場合には、コンクリート打込み前に取り除くことが必要である。

(4) 打継ぎ面は、レイタンスがたまったり、ぜい弱なコンクリートになりやすい。レイタンスやぜい弱なコンクリートの上に新しいコンクリートを打ち込んでも付着が十分得られないので、高圧水洗等によりこのような部分を取り除き、健全なコンクリートを露出させてから打ち継ぐことが必要である。

6.6.5 締 固 め

(1) コンクリートに生じる欠陥としては、気泡、豆板、不充填部等がある。これらの欠陥を生じさせないためには、棒形振動機あるいは型枠振動機を用いて十分締め固め、密実なコンクリートとすることが大切である。

コンクリートの締固めを十分行うためには、適切な締固め要員を準備することが必要である。コンクリートの配管1系統で1日の打込み量が150m3程度を想定した場合には、棒形振動機を2台準備し、振動機要員2名、打込み・締固め要員等7名以上を配置する。また、施工中に生じる型枠・鉄筋の保守・点検をするために型枠工と鉄筋工を配置しておくようにする。また、施工中に生じる埋込み配管等の不具合を修正するために設備要員を配置することも必要である。

(2) 通常締固めに用いている振動機は、JIS A 8610(建設用機械及び装置 – コンクリート内部振動機)に定めるものであり、スランプ18cm以下のコンクリートを施工する場合には、この棒形振動機を用いなければ密実な締固めを行うことはできない。棒形振動機を挿入できないところや届かないところは、型枠振動機や突き棒・たたき等を併用して締め固める必要がある。公称棒径45mmの棒形振動機1台当たりの締固め能力は、スランプ 10~15cm程度の普通コンクリートの場合で10 ~ 15m3/h程度であるので、打込み速度に応じて振動機の使用台数を定める必要がある。

(3) 公称棒径45mmの棒形振動機の長さは60 ~ 80cmであるので、1層の打込み厚さはこれ以下にし、打ち込んだコンクリートの下層まで振動機の先端が入るようにすることがコールドジョイントをはじめとする施工欠陥を防ぐために大切である。挿入間隔は、振動機の振動が伝わる有効範囲内で定める必要があり、前述した公称棒径45mmの振動機の有効範囲を参考にして60cm以下と定めている。公称棒径が45 mmより小さい振動機を用いる場合は、挿入間隔を狭くする必要がある。

なお、振動を加える時間を長くし過ぎると材料分離を生じるので、加振時間はコンクリートの表面にペーストが浮くまでと定めている。振動機を用いて締め固める場合の注意事項は次のとおりである。

(ア) 鉛直に挿入して加振し、挿入間隔は60cm以下とする。
(イ) 振動機の先端が鉄骨、鉄筋、埋込み配管、金物、型枠等になるべく接触しないようにする。

(ウ) 振動時間は、コンクリート表面にセメントペーストが浮くまでを標準とし、コンクリートに穴を残さないように加振しながら徐々に引き抜く。加振時間は、1箇所5~15秒の範囲とするのが一般的である。

(4) 型枠振動機は、新たにコンクリートが打ち込まれる部分に取り付けて、振動を加える必要がある。したがって、打込み高さと打込み速度をよく考慮して取り付けることが重要であり、既に締め固めた部分に振動を加えると材料分離を生じ、まだコンクリートが打ち込まれていない部分に振動を加えると型枠が損傷したり、変形する原因となる。

6.6.6 上面の仕上げ

(1) ここでいうコンクリート上面の仕上げとは、打込み、締固めのあと工程及び左官仕上げの前工程としての天端均しのことであり、せき板に接しないで仕上げられる床スラブ・屋根スラブの上面とパラペットの天端等が対象となる。この面の精度は、特記されるべきであるが、特記がない場合は「標仕」表6.2.5を標準として、この平たんさが得られるように沈下代を見込んで天端均しを行う。

(2) コンクリート打込み後、所定の位置と勾配に荒均しを行い、その後、凝結が終了する前にタンパー等で粗骨材が表面より沈むまでタンピングし、コンクリートのひび割れを防止する。

(3) コンクリートを打ち込む前に、床仕上げに必要な造り方定規を設ける。仕上げ精度が要求される場合にはガイドレール(鉄骨鉄筋コンクリートの場合はピアノ線等を張ることもある。)等を 3.5~4.0m間隔に設置し、基準となる造り方定規は鉄骨その他狂いの生じない箇所に設け、常に点検して正確に水平又は所要の勾配を保持するようにする。

ガイドレール等の造り方定規は、定規均し後取り外し、その跡はコンクリートを充填し、木ごてで平らに均す。

壁や柱際等で均し定規等を使用できない部分は、特に不陸の生じないよう、十分に木ごて等でタンピングして平たんに均す。

定規均しをむらなく行った後、中むら取りを木ごてを用いて行う。

木ごてずりは、コンクリート面を指で押しても少ししか入らない程度になった時期に行う。

(4) 床スラブのコンクリートを直均しで仕上げる場合には、「標仕」15章3節に従って実施する。

6.6.7 打込み後の確認等

(1) 打込み後の仕上り状況の確認時期が「標仕」6.6.7(1)に示されている。豆板、空洞、コールドジョイント等の有無の確認は、せき板取外し後に行えるが、構造体に発生しているひび割れ及びたわみについては、支保工で支えている状態では正しい確認ができないので、支保工を取り外した後に行う。補修が必要なひび割れかどうかの判断は、通常表面のひび割れ幅で行っているが、鉄筋に錆を発生させやすい条件かどうかによる耐久性上の判断と防水性が要求されるかどうかによって異なってくる。補修を必要としないひび割れ幅の値は、(公社)日本コンクリート工学会「コンクリートのひびわれ調査、補修・補強指針」では、防水性が要求される場合には0.05mm以下、防水性は要求されないが、かぶり厚さや表面被覆の有無等から見て鉄筋の錆を発生させやすいなど耐久性から見た条件が厳しい場合(塩害・腐食環境下)には 0.2mm以下、耐久性から見た条件が普通の場合(一般屋外環境下)0.3mm以下、耐久性から見た条件が緩やかな場合(土中・屋内環境下)0.4mm以下等としている。

(2) 施工欠陥が認められた場合の処置は、6.9.6による。

6章コンクリート工事 7節 養 生

建築工事監理指針 第6章 コンクリート工事

7節 養 生

6.7.1 養生温度

(1) 十分に湿気を与えて養生した場合のコンクリート強度は、材齢とともに増進するが、乾燥あるいは低温の状態においたものは増進が非常に少ない。特に硬化初期の養生は、その影響が大きい。コンクリート養生の基本は、常に水分を与え適温に保つことである。

建築基準法施行令第75条には、コンクリートの養生についての規定があり、「コンクリート打込み後5日間はコンクリート温度が 2℃を下らないように(中略)養生しなければならない。ただし、コンクリートの凝結及び硬化を促進するための特別の措置を講ずる場合においては、この限りでない。」と規定されている。「標仕」では、打込み後5日間以上、早強ポルトランドセメントの場合は強度発現が速いため3日間以上、コンクリート温度を2℃以上に保つよう規定されている。

(2) 冬期等で著しく気温が低い場合は、打込み後のコンクリートが凍結しないように保温、採暖が必要になる。

(3) 部材断面の中心部の温度が外気温より 25℃以上高くなるおそれのあるときの養生は「標仕」6.13.4による。

6.7.2 湿潤養生

打込み後のコンクリートが、透水性の小さいせき板で保護されている場合は、湿潤養生と考えてもよい。しかし、コンクリートの打込み上面等でコンクリート面が露出している場合、あるいは透水性の大きいせき板を用いる場合には、日光の直射、風等により乾燥しやすいので、初期の湿潤養生が不可欠となる。湿潤養生には、養生マッ卜又は水密シート等で覆う方法、連続又は断続的に散水又は噴霧を行う方法、膜養生剤や浸透性養生剤の塗布による方法等がある。

夏期や風の強い日に施工した床スラブ・ひさし等薄い部材では、コンクリートが急速に乾燥するため、特に初期の湿潤養生が大切である。また、混合セメントを使用するときには特に早期における乾燥を防ぐようにする。

また、「JASS 5 鉄筋コンクリート工事」8.2[湿潤養生]においては、湿潤養生の期間について、コンクリート部分の厚さが18cm以上の部材において、早強・普通・中庸熱ポルトランドセメントを用いる場合、計画供用期間の級が短期及び標準の場合 は、コンクリートの圧縮強度が10N/mm2以上、長期及び超長期の場合は15N/mm2以上に達したことが確認されれば、以降の湿潤養生を打ち切ることができるとしている。

なお、平成28年版「標仕」からは、特記された場合に普通エコセメントが使用でき、その場合の湿潤養生期間は特記によるとしている。「JASS 5」では普通エコセメントを使用する場合の湿潤養生期間を明確には示していないが、国立研究開発法人建築研究所の「建築研究報告 No.144」では、「普通エコセメントの初期の水和反応は、高炉セメントB種、C種と同様に普通ポルトランドセメントに比べていくぶん遅いので、十分に注意して養生を行う必要がある。・・・中略・・・その期間は、養生方法が適切であれば、高炉セメントB種を使用するコンクリートの場合と同様に、 7日間以上とすればよいであろう。」としており、これらを参考にするとよい。

6.7.3 振動及び外力からの保護

(1) 凝結硬化中のコンクリートに振動・外力を与えると、ひび割れが発生するなど、損傷を生じることがあり、また、早期材齢で荷重を加えるとたわみの増大につながることがある。このため、コンクリートが硬化するまでは十分な養生が必要である。

(2) コンクリート打込み後1日以内にやむを得ずスラブの上に乗るような場合には、コンクリートに振動・衝撃を与えないように静かに作業しなければならない。

6章コンクリート工事 8節 型枠

建築工事監理指針 第6章 コンクリート工事

8節 型 枠

6.8.0 概 要

(1) 鉄筋コンクリート造の建物の出来ばえは躯体コンクリートの精度によって大きく左右され、さらに、この躯体は型枠工事の優劣によって決まるといっても過言ではない。このように型枠工事は全ての工事の基本ともなるので綿密な計画と慎重な施工が肝要である。

(2) 型枠は、材料や工法の開発に伴い、合理化、複合化、システム化が進められている。これは、建築工事の大型化・高層化、熟練労働者の不足、工事の機械化、地球環境の保護等の社会状況の変化に対応し、品質の確保、工期の短縮、コスト低減等を目指したものである。

躯体工事において、型枠の占める割合は高く、品質、工期、コストの上で効果の大きいものが多いので、受注者の提案については、設計担当者に要求機能を確認し、実績等を考慮して採用の可否を検討する。

型枠の主な合理化・複合化・システム化工法を適用部位別に整理すると図6.8.1のようになる。


図6.8.1 適合部位別の合理化・複合化・システム化型枠工法

なお、図6.8.1の「打込み型枠」及び「捨型枠」はコンクリート表面の状態を確認できないため、コンクリートに豆板、空洞、コールドジョイント等が生じないように、調合、打込み、締固め等に留意し、密実なコンクリートとすることが大切である。

(3) 受注者が行う型枠計画は、他の工事との関連、納まり、施工性等を検討したうえで、材料・工法を選択し、施工計画及び施工図を作成する。

(4) 型枠計画は、安全で、かつ、要求品質に見合った精度で施工する工法を採用するという観点でチェックする。

6.8.1 型枠一般

(1) 型枠の構成は、コンクリートに直接接するせき板、せき板を支える支保工及びせき板と支保工を緊結するセパレーター、締付け金物等からなる。せき板には通常、脱型を容易にするためはく離剤が塗られている。支保工は、床・梁等を支える根太、大引、支柱(パイプサポート)、支保梁、支柱の座屈を防止する水平つなぎ・プレースのほか、柱、壁等のせき板の位置を保持するとともに転倒を防ぐ内端太、外端太、建入れ直しサポート、チェーン等から構成される。在来工法による一般的な型枠構成例を図6.8.2に示す。


図6.8.2 一般的な型枠構成例(型枠の設計・施工指針2011年版より)

(2) 型枠には、コンクリートの自重、打込み時の振動や衝撃による作業荷重、コンクリートの側圧、水平荷重等が作用するので、その荷重に対して安全であることを構造計算によって確認することが重要である。また、必要な仕上り寸法・精度が得られるように型枠の剛性についても検討することが必要である。「標仕」6.2.5では、「部材の位置及び断面寸法の許容差」と「コンクリート表面の仕上り状態(目違い・不陸等及び平たんさ)」が規定されており、これらを満足するように型枠を設計する。

型枠の構造計算の方法は、(-社)日本建築学会「型枠の設計・施工指針」に詳しく述べられているので、それを参考にするとよい。

次に型枠の構造計算に関する基本的事項を示す。

(ア) 型枠材料の許容応力度等

(a) 型枠の構造計算に用いる材料の許容応力度は、次のとおりとする。

① 支保工については、労働安全衛生規則第241条に定められた値

② 支保工以外のものについては、次の法令又は基準等における長期許容応力度と短期許容応力度の平均値
1) 建築基準法施行令第89条及び第90条

2) (-社)日本建築学会「鋼構造設計規準」、同「軽鋼構造設計施工指針」又は同「木質構造設計規準」木材の繊維方向の許容曲げ応力、許容圧縮応力及び許容せん断応力の値について、労働安全衛生規則第241条に定められている。

(b) 型枠支保工に用いる鋼材の許容応力度は、労働安全衛生規則第241条において次のように定められている。

① 鋼材の許容曲げ応力及び許容圧縮応力の値は、当該鋼材の降伏強さの値又は引張強さの値の4分の3の値のうちいずれか小さい値の3分の2の値以下とすること。

② 鋼材の許容せん断応力の植は、当該鋼材の降伏強さの値又は引張強さの値の4分の3の値のうちいずれか小さい値の100分の38の値以下とすること。

③ 鋼材の許容座屈応力の値は、限界細長比に応じて計算を行って得た値以下とすること。

(c) 型枠合板の断面性能、その他型枠に使用される材料の断面性能、支柱の許容荷重、締付け金物の許容耐力等は、「型枠の設計・施工指針」、メーカーのカタログ等を参照されたい。

(イ) コンクリート打込み時の荷重

(a) スラブ型枠設計用荷重(T.L)は、実状に応じて定めるのが原則であるが、通常のポンプ工法の場合6.8.1式により算出する。

 T.L = D.L + L.L  ・・・(6.8.1式)
D.L(固定荷重):
コンクリート、型枠等の自重で、普通コンクリートの場合は23.5 × d(kN/m2)に型枠の重量として400N/m2を加える(d=スラブの厚さ(m))
L.L(作業荷重+衝撃荷重):

「労働安全衛生規則」から1,500N/m2以上とする。

(b) 型枠設計用側圧は、「JASS 5 鉄筋コンクリート工事」によればよい。

(ウ) 曲げを受ける型枠各部材の計算方法

型枠材の計算方法には、定められた基準はないが、一般的には次により、構造計算を行い定める。

① 合板せき板の場合は、転用等による劣化を考慮し、単純梁として扱う。
② 合板以外のせき板、根太、大引等は、単純梁と両端固定梁の平均とする。
③ 各部材のたわみは、3mm以下とするが、2mm程度を許容値とすることが望ましい。ただし、打放し仕上げの場合は、1~2mm程度とすることが望ましい。
なお、構成部材の総たわみ量は、コンクリートの仕上りの平たんさ等を考慮して適切に定める。

④ 部材の応力及びたわみの計算に用いる公式は、「型枠の設計・施工指針」を参考にするとよい。

(エ) 水平荷重

型枠支保工の倒壊等を防止するため、型枠支保工の設計に当たっては、労働安全衛生規則第240条に基づき、次に示す水平荷重が作用しても安全な構造のものとする。

① 鋼管枠を支柱として用いるものであるときは、当該型枠支保工の上端に、設計荷直(鉛直荷重)の 100分の2.5に相当する水平方向の荷重が作用しても安全な構造のものとすること。

② 鋼管枠以外のものを支柱として用いるものであるときは、当該型枠支保工の上端に、設計荷重(鉛直荷重)の100分の5に相当する水平方向の荷重が作用しても安全な構造のものとすること。

(3) せき板の継目から水やモルタルが漏れ出すと、豆板や砂じま、空洞等が生じ、コンクリートの品質が低下する。また、型枠の取外しが容易でないと、コンクリートに損傷を与える危険性があるので、型枠は細部まで十分考えられたものが必要である。

(4) コンクリート打放し仕上げ(仕上塗材、塗装等の仕上げを行う場合を含む。)の場合、外部に面する部分は打増しを行うことがある。その厚さは特記によるとされている。

(5) コンクリートは乾燥により収縮するので、ひび割れの発生を完全に防止することは極めて困難である。したがって、適切な位置にひび割れ誘発目地を設置し、ひび割れを目地内に発生させて目地をシールするなどして対処するのが一般的である。ひび割れ誘発目地の形状・寸法は特記によることになっている。ここで、「標仕」 11.1.3では、ひび割れ誘発目地の深さは打増したコンクリート厚さとするとされている。

(6) その他、型枠に要求される品質としては、次のようなものが挙げられる。

(ア) 型枠は、その他の工事、特に鉄筋工事と関連して、鉄筋のかぶり厚さを確保できる材料と工法とする。

(イ) せき板はコンクリートの硬化を阻害したり、コンクリートのアルカリによってコンクリートに着色したり、木材のむしれを生じるものであってはならない。

(ウ) コンクリートが打ち込まれてからせき板と支保工が取り除かれるまでの間は、コンクリートにとって初期の養生期間になるので、型枠はコンクリートの養生を阻害するものであってはならない。

6.8.2 材 料

(1) 「標仕」では、せき板の材料は、特記によるとしている。特記のない場合は、次のように規定されている。

(ア) コンクリート打放し仕上げの場合は、「標仕」表6.2.4のコンクリート表面の仕上り程度に見合ったものとしており、打放し仕上げの種別がA種(目違い、不陸等の極めて少ない良好な面)の場合は、表面加工品を用いるようにしている。

(イ) コンクリート打放し仕上げ以外の場合は、「合板の日本農林規格」第5条「コンクリート型枠用合板の規格」によるB−C品又はその他の材料でコンクリートの所要の品質を確保できるものを用いるとしている。ここで、B-C品とは、表面の品質がB、裏面の品質がC(品質のよい順に A、B、C、D の4ランクあり)であるものをいい、現在市販されているコンクリート用型枠合板の主流となっているものである。合板型枠以外の型枠としては、金属製型枠、樹脂系の型枠(FRP・プラスチック等)、打込み型枠(断熱型枠、薄肉プレキャストコンクリート板、けい酸カルシウム板、スレート型枠等)、ブロック型枠、ラス型枠等がある。また、近年環境に配慮した型枠として、再生材樹脂系の型枠が使用されている。これらの材料を用いる場合は、型枠としての性能及び仕上げに対する影響について調査 し、設計担当者等と打ち合わせて採否を決める。

(2) 「標仕」においては、せき板に合板を用いる場合は、「合板の日本農林規格」第5条「コンクリート型枠用合板の規格」による表面加工品又はB−Cを用いるとされている。ただし、MCR工法の場合は、B–Cを用いるとされている。

なお、合板の厚さは特記によるとしているが、特記がなければ厚さ12mmのものを使用するとされている。

(3) 床型枠用鋼製デッキプレート(フラットデッキ)について、(-社)公共建築協会では、「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (5)参照)の一環として、平成4年の建設省「建設技術評価」に準じて技術評価の基準を定めて評価を行っている。

設計・施工に当たっては、「床型枠用鋼製デッキプレート(フラットデッキ)設計施工指針・同解説」が参考になる。本設計施工指針では、平成18年版でフラットデッキの材料(鋼材)の機械的性質として引張強さを295N/rmm2以上(平成16年版では 270N/mm2以上)と改めている。これは、(-社)日本建築学会「鋼構造設計規準」(2005)に準拠し、鋼材の降伏点又は耐力と引張強さの70%のうち小さい方の値をもって許容応力度を決定する場合の基準値とする趣旨を満足するようにしたためである。

フラットデッキの施工上の要点を次に示す。

(ア) 施工荷重によるたわみを考慮して、フラットデッキには10mm程度のキャンバー(むくり)が付いている。そのため、梁との隙間からのろ漏れ等が生じないように施工する。

(イ) RC造・SRC造の場合のフラットデッキと型枠の接合方法例を図6.8.3に示す。フラットデッキは図中の横桟木で受けるため、横桟木で受けた荷重が縦桟木で支持できる型枠設計とする必要がある。


図6.8.3 型枠との接合方法(RC・SRC造、スラブ厚300mm以下)
(床型枠用鋼製デッキプレート(フラットデッキ)設計施工指針・同解説より)

(ウ) 鉄骨梁とフラットデッキの接合方法の例を図6.8.4に示す。

鉄骨梁継手部や柱取合い部はアングル又はF.B(フラットバー)を溶接留めとし、その上に現場切断したフラットデッキを留め付ける。


図6.8.4 鉄骨梁との接合方法(S造、スラブ厚300mm以下)

(エ) フラットデッキは衝撃に弱く、曲がったりへこんだり変形したりしやすい。そのため、敷設時にはめ込みにくいなどの手戻りが生じるので養生方法、揚重方法、吊り治具等に注意する。

(オ) 設備配管等の貫通口が規則的な場合又は集中している場合は、局部破壊の原因となるので、補強する必要がある。

なお、フラットデッキは、リブでコンクリート等の施工荷重を負担しているので、リブを切断する場合等は、デッキ受けを設け荷重を梁や型枠に確実に伝えるようにしなければならない。

(4) 断熱材兼用型枠工法として、建設技術評価規程(昭和53年建設省告示第976号)に基づき建設大臣が評価した工法がある。この工法は、鉄筋コンクリート造等の建築物の内断熱施工部分について、在来の型枠用合板の代わりに断熱材を兼用した型枠を使用する工法である。せき板としての性能を有した断熱材を主体とし、支保工と一体となってコンクリート型枠としての性能を発揮するものである(図6.8.5参照)。型枠の断熱材は、「標仕」19.9.3(1)に示すもののほか、木毛板の類、磁気テープ廃材等があり、また、その構成板材は単板、複合板、サンドイッチパネル等となっている。型枠の解体がないため現場内での作業の軽減等の施工合理化が図られること、また、建設廃棄物の発生を抑制することができる。


図6.8.5 断熱材兼用型枠の納まり例

(5) MCR工法は外壁タイル張りのはく離防止を図る工法として開発されたものである。コンクリート型枠に専用のシート(「標仕」6.8.3 (6)参照)を取り付けておき、コンクリートを打ち込むことによりコンクリート表面に多数のあり状の穴を設け、躯体コンクリートとモルタルとを機械的にかみ合わせることではく離を防止する工法である(図6.8.6参照)。この工法の特徴は、ばらつきが少なく安定した接着強度が得られるとともに、かみ合わせ効果により面内方向のせん断応力に対する抵抗性が高いことにある。

シートは、表6.8.1に示す3種類がある。型枠の種類、型枠の幅等によって使い分ける必要があるが、600mm幅の合板型枠あるいは表面処理合板型枠であれば両端フラットタイプを使用したほうが、シート間からのセメントペーストの漏出しがなく、仕上りはよい。シートを取り付けた状態の例を図6.8.7に示す。

シートは、コンクリートの養生のためにせき板を外した後も極力存置し、モルタル塗りの直前にシートを取り外すようにする。


図6.8.6 MCR工法の施工手顛

表6.8.1 MCR工法専用シートの種類と特徴

図6.8.7 シートを取り付けた状態

(6) ボルト式型枠緊張材には各種あるが、図6.8.8にその代表的なものを挙げる。


図6.8.8 各種締付け金物の組立例

(7) はく離剤は次の性能を有するものとする。

(ア) せき板とコンクリートのはく離性が良好であること。
(イ) せき板あるいはコンクリートの成分と反応し、コンクリートに悪影響を与えないもの。
(ウ) 木製せき板のように吸水性のあるものは、その吸水性を減少することができるもの。

(エ) はく離剤自身による汚れをコンクリート面に残さないこと。

(8) 資源の有効活用の面から、型枠は積極的な転用や再使用が望まれる。転用や再使用する場合は、コンクリートに接する面をよ清掃し、締付けボルト等の貫通孔あるいは補修箇所を修理のうえ、必要に応じてはく離剤を塗って用いる。

(9) スリーブには、鋼管のほか、硬質ポリ塩化ビニル管や溶融亜鉛めっき鋼板、つば付き鋼管などが用いられるが、径が大きくなった場合は、コンクリート打込み時の変形防止のための補強を十分に行う必要がある。

なお、「標仕」では、スリーブの材種、規格等は特記によるとされているが、柱及び梁以外の部分で、開口補強が不要であり、かつ、スリーブ径が200mm以下の部分は、紙チューブとすることができるとされている。

最近では、基礎梁の人通孔等、大口径のスリーブには土木用排水管(樹脂製コルゲート管)が、軽量で、変形しにくいため使用される場合も多い。

また、取付けに際しては、コンクリート打込み時にスリーブが浮いて移動しないように、型枠に堅固に留め付ける。

(10) スリット材は腰壁や垂れ壁のある建物で、柱が短柱になることを防ぐために腰壁等を柱際で縁を切るために設けるものである(図6.8.9参照)。防火区画となる部分に使用する場合は、材質等について注意する。


図6.8.9 スリット用材料の例

(11) 合板によるコンクリート表面の硬化不良について次に示す。

(ア) せき板の中には、木材成分中の糖類、タンニン酸等がコンクリートのアルカリに抽出されて、セメントの硬化を妨げるものがある。

(イ) 硬化不良を起こしたコンクリートの表面の状態

(a) コンクリートの打上り面が暗黒色になり、ざらつく。

(b) 極端な硬化不良の場合には、表面数mmがまったく硬化しないため、触れると粉状にはく落又は薄い板状にはく離する。

(ウ) 硬化不良を起こしやすいせき板

(a) 取扱い不良等により変質し、抽出物の量が増大したもので、長期間太陽光線(紫外線)の照射を受けた場合に多く、シート等で覆えば防止できる。

また、長時間空気中に暴露された場合や腐朽菌が表面に生じた場合にも硬化不良が生じる。

(b) 木材の成分によるもので、赤松、米杉等がある。

(c) 広業樹は、針業樹より硬化不良を起こしやすい。

(d) 硬化不良を起こしやすいせき板を現場で見分けるには、せき板表面にセメントペーストを塗り付け2~3日後にはがして、その表面状態を調べるのがよい。

6.8.3 型枠の加工及び組立

(1) コンクリート寸法図、型枠の加工及び組立等を次に示す。

(ア) コンクリート工事を行うには、必ず各部のコンクリートの形状及び寸法を詳細に表した施工図を作成する。多くの場合、平面図を中心にし、必要に応じて部分的断面図を補助として記入している。このような施工図をコンクリート寸法図、スケルトン、コンクリート躯体図等と呼んでいる。

コンクリート寸法図は、単にコンクリート型枠作製のためだけでなく、他の関述工事に対しても基本になる施工図であるから、次の事項を十分検討する。

(a) 構造体の形状、寸法、位置関係
① 通り心、壁心等の基準線からの構造材の位置
② 構造材(柱、梁、壁、スラブ、基礎、階段等)の形状、寸法、割付け及び符号
③ 軒高、階高及びGLと1階床高との関係
④ 梁、スラブその他の基準階高との上下関係
⑤ 打継ぎ箇所

⑥ 構造材相互の取合い

(b) 仕上げ、納まり等の関係
① 仕上げ(左官、タイル下地等)と関連して必要な増打ち等のコンクリート寸法図
② 建具、造作等の納まりによる開口及び周辺の形状寸法
③ タイル、石等の割付けによるコンクリート寸法の増減
④ 躯体に断熱材等を打込みとする場合の寸法
⑤ インサート、ブロック壁の位置及び差し筋の径並びにビッチ、アンカーボルト、丸環、ルーフドレンその他の取付け金物類の位置
⑥ 打放しのコンクリート部分(化粧目地、伸縮調整目地、ひび割れ誘発目地)

⑦ その他特にコンクリートを欠き込む必要のある場合及びコンクリートに打込みとなるもの

(c) 防水上の納まり
① 屋根面の勾配、パラペット回り等の立上り部分、笠木等の防水の納まり
② 便所、浴室等の防水層の納まり(スラブの高さ、周囲の納まり)
③ エキスパンションジョイントの納まり
④ 水を使用する部分のスラブ勾配や排水

⑤ 地階二重壁内の水抜きパイプ

(d) 設備関係
① 梁、壁等の貫通孔(スリーブ等)
② 便所、洗面所、浴室等の衛生器具用開口
③ ダクト用の開口
④ 設備機器用機械台及び機械吊上げ用フック類
⑤ 分電盤、端子盤、消火栓、改め口等の開口あるいはプルボックス等のコンクリート打込みとなる箇所
⑥ マンホールの大きさ及び位置(タラップの位置、二重スラブ内に設置するポンプ類の大きさ)
⑦ 槽類の位置及び総重量
⑧ エレベーター関係
 1)ピット内の幅及び深さ
 2)機械室の床開口
 3) 敷居受け用ブラケット
 4) ガイドレールの位置と取付けボルト
 5) エレベーター据付け用の吊上げフック類
 6) インジケーター、押しボタン穴

⑨ 二重スラブ内の水抜き及び通気パイプ、集水桝、スラブ勾配

(e) 仮設関係
① 材料搬出入口(建物内外への出入口及び上下の運搬用開口)
② 設備用大型機械の搬入開口部、搬入経路及び総重量
③ パイプシャフトの器材搬入口
④ 切張り支柱用開口
⑤ タワークレーン用開口

⑥ 外部足場つなぎ用インサート

(f) その他コンクリートと関連するもの

(イ) 一般的に、型枠工事の実施に先だち、型枠材料とその仕様の設計を行う。これらは型枠工事の品質、コスト、工程に大きく影響するが、コンクリート寸法の標準化が大きな要索となる。そこで、設計担当者と打合せのうえ、コンクリート寸法をできるだけ標準化する方向で検討するとよい。

(ウ) 型枠の加工には、現場加工と工場加工がある。これらは、建物形状、加工場所、工期、輸送方法、組立方法等を検討して決定される。

工場加工には、在来の合板型枠と合理化・システム化型枠の場合がある。在来の合板型枠の場合は、型枠パネル加工を設備の整った工場で集中的に行うもので、最近はCAD/CAMを利用して効率化した工場もある。

(エ) 柱型枠建込み前に柱脚部の清掃水洗い等を行っておく。建込み後には、ごみ・おがくず等が入らない処置をとり、万ー入った時は水洗い又はとがらせた鉄筋等で除去する。除去が難しい場合は下部に掃除口を設ける。

(オ) 型枠組立の例を次に示す。

(a) 柱、梁の例を図6.8.10に示す。


図6.8.10 型枠組立の例

(b) 柱、壁の下部の例を図6.8.11に示す。


図6.8.11 柱、壁の下部組立の例

(c) 階段型枠の例を図6.8.12に示す。


図6.8.12 階段型枠の組立の例

(d) 窓及び階段は、図6.8.13のようにコンクリートが盛り上がるのを防ぐために端部にふたをする。窓の場合は、外側へ勾配を付ける。また、小さい窓等の下枠は全閉とし、空気穴を設けてコンクリートの充填具合を点検する。


図6.8.13 窓及び階段のふたの例

(e) 型枠の建入れ補強の例を図6.8.14に示す。


図6.8.14 型枠の建入れ補強の例

(カ) 支柱に関する労働安全衛生規則の抜粋を次に示す。

労慟安全衛生規則

(昭和47年9月30日 労働省令第32号
最終改正令和3年12月1日)

(型枠支保工についての措置等)
第242条
事業者は、型枠支保工については、次に定めるところによらなければならない。

一 敷角の使用、コンクリートの打設、くいの打込み等支柱の沈下を防止するための措置を講ずること。

二 支柱の脚部の固定、根がらみの取付け等支柱の脚部の滑動を防止するための措置を講ずること。

三 支柱の継手は、突合せ継手又は差込み継手とすること。

四 鋼材と鋼材との接続部及び交差部は、ボルト、クランプ等の金具を用いて緊結すること。

五 型枠が曲面のものであるときは、控えの取付け等当該型枠の浮き上がりを防止するための措置を溝ずること。

五の二 H型銅又はI型鋼(以下この号において「H型鋼等」という。)を大引き、敷角等の水平材として用いる場合であって、当該H型鋼等と支柱、ジャッキ等とが接続する箇所に集中荷重が作用することにより、当該H型鋼等の断面が変形するおそれがあるときは、当該接続する箇所に補強材を取り付けること。

六 鋼管(パイプサポートを除く。以下この条において同じ。)を支柱として用いるものにあっては、当該鋼管の部分について次に定めるところによること。

イ 高さ2メートル以内ごとに水平つなぎを2方向に設け、かつ、水平つなぎの変位を防止すること。

口 はり又は大引きを上端に載せるときは、当該上端に鋼製の端板を取り付け、これをはり又は大引きに固定すること。

七 パイプサポートを支柱として用いるものにあっては、当該パイプサボートの部分について次に定めるところによること。

イ パイプサポートを3以上継いで用いないこと。

ロ パイプサポートを継いで用いるときは、4以上のボルト又は専用の金具を用いて継ぐこと。

ハ 高さが3.5メートルを超えるときは、前号イに定める措置を講ずること。

八 鋼管枠を支柱として用いるものにあっては、当該鋼管枠の部分について次に定めるところによること。

イ 鋼管枠と鋼管枠との間に交差筋かいを設けること。

ロ 最上層及び 5以内ごとの箇所において、型枠支保工の側面並びに枠面の方向及び交差筋かいの方向における5枠以内ごとの箇所に、水平つなぎを設け、かつ、水平つなぎの変位を防止すること。

ハ 最上層及び 5層以内ごとの箇所において、型枠支保工の枠面の方向における両端及び5枠以内ごとの箇所に、交差筋かいの方向に布枠を設けること。

二 第六号口に定める措置を講ずること。

九 組立て鋼柱を支柱として用いるものにあっては、当該組立て鋼柱の部分について次に定めるところによること。

イ 第六号口に定める措置を講ずること。

口 高さが4メートルを超えるときは、高さ4メートル以内ごとに水平つなぎを2方向に設け、かつ、水平つなぎの変位を防止すること。

九の二 H型銅を支柱として用いるものにあっては、当該H型鋼の部分について第六号ロに定める措置を構ずること。

十 木材を支柱として用いるものにあっては、当該木材の部分について次に定めるところによること。

イ 第六号イに定める措置を溝ずること。

口 木材を継いで用いるときは、2個以上の添え物を用いて継ぐこと。

ハ はり又は大引きを上端に載せるときは、添え物を用いて、当該上端をはり又は大引きに固定すること。

十ー はりで構成するものにあっては、次に定めるところによること。

イ はりの両端を支持物に固定することにより、はりの滑動及び脱落を防止すること。

口 はりとはりとの間につなぎを設けることにより、はりの横倒れを防止すること。

(2) コンクリート打込み後、強度発現が不十分な状態で作業を開始すると、その荷重を受けるコンクリートに有害なひび割れやたわみ等の障害が生じるおそれがあるので、注意が必要である。コンクリートが有害な影響を受けない材齢は、直上階の作業に伴う荷重の大きさによって異なり、一概に示せないが、愚出し等の軽微な作業であれば大きな影響はない。資材を置く場合は、1箇所に集中させないなどの配慮が必要である。また、床が、コンクリート金ごて仕上げの場合、床面を傷つけないように養生期間を確保することや資材等の仮置き場所に養生を施すことが必要である。

(3) 各種配管、ボックス、埋込金物等を構造躯体に埋め込む場合は、構造耐力上及び耐久性上支障のない位置に配置する必要がある。また、コンクリートの打込み時の流れによって位置がずれないよう、堅固に取り付ける。コンクリートの流れの力は予想以上に大きいので注意が必要である。

(4) 上下階の支柱が同一位置にないと、強度が十分発現していないコンクリートスラブに悪影響を与えることになるので、可能な限り平面上の同じ位置に配置する。また、地盤上に直接支柱を立てる場合には、支柱の下に剛性のある板を敷くなどして、支柱の沈下を防がなくてはならない。

(5) 型枠に、足場や遣方等の仮設物を連結させると、足場等が動いた時に型枠位置がずれたり寸法が狂ったりするおそれがあるので、避けなければならない。

(6) 監督職員は、施工者が行う型枠の品質管理・検査の報告を受け、必要と思われる事項については確認する。施工者が行う型枠工事の品質管理・検査の例を表6.8.2に、型枠の計画から取外しまでの作業工程と主要管理項目の例を表6.8.3に示す。

表6.8.2 型枠の材料・組立・取外しの品質管理・検査の例(JASS 5より)

表6.8.3 型枠の計画から取外しまでの作業工程と主要管理項目の例(JASS 5)

6.8.4 型枠の存置期間及び取外し

(1) せき板は、コンクリート形状を決定するだけでなく、若材齢のコンクリートを寒気や外力、乾燥から保護する役割がある。また、支柱は、梁やスラブが自立し、有害なひび割れやたわみが生じなくなるまで支持する役割をもっている。したがって、それぞれ必要な最小存置期間が定められており、その期間を経過した後に型枠を取り外すことになる。

(2) せき板及び支柱の存置期間

(ア) 「標仕」では、せき板の最小存置期間は「標仕」表6.8.2に、支柱の最小存置期間は「標仕」表6.8.3に定められている。

(a) せき板の最小存置期間は、材齢による場合とコンクリートの圧縮強度による場合とに分けられており、そのどちらかを満足すればよいことになっている。圧縮強度による場合は、若材齢のコンクリートが初期凍害を受けることなく、また、容易に傷つけられない最低限必要な強度として5N/mm2と定められている。材齢による場合は、存置期間中の平均気温とセメントの種類の組合せにより必要な期間が定められており、これは、上述の 5N/mm2の圧縮強度が得られる期間から定められている。

なお、「現場打コンクリートの型わく及び支柱の取りはずしに関する基準」(昭和46年1月29日建設省告示第110号、最終改正平成28年3月17日)(以下、告示「型わく等取りはずしに関する基準」という。)の改正に伴い、平成 28年版「標仕」から表6.8.2及び表6.8.3中のセメントの種類に中庸熱ポルトランドセメントと低熱ポルトランドセメントが追加された。また、普通エコセメントを使用する場合の最小存置期間は特記としており、コンクリートの材齢による場合は、「JASS 5」では普通ポルトランドセメントと同様の日数、国立研究開発法人建築研究所の「建築研究報告 No.144」では平均気温20℃以上で5日、20℃未満10℃以上で8日とあり、これらを参考にするとよい。

(b) 支柱の最小存置期間もせき板の場合と同様、材齢による場合とコンクリートの圧縮強度による場合とに分かれている。圧縮強度による場合は、スラブ下で設計基準強度の85%以上又は12N/mm2以上、梁下では設計基準強度以上となっている。

なお、告示「型わく等取りはずしに関する基準」では、梁下の場合、「設計基準強度以上又は12N/mm2以上」としているが、「標仕」において、「又は12N/mm2以上」が削除されたのは、安易に若材齢(低い強度)での取外しを認めるべきではないとの考え方によっている。さらに、「施工中の荷重及び外力について、構造計算により安全であることが確認されるまで」となっており、施工中の荷重について検討が必要である。ただし、ここでいう構造計算とは型枠支柱を取り外した後の施工中の荷重、コンクリートの変形、外力等について行っ

た構造計算であり、設計時の構造計算とは別のものである。

材齢による場合は、せき板と同様、存置期間中の平均気温とセメントの種類の組合せにより必要な期間が定められている。

(イ) 支柱の存置期間を構造計算によって算定する方法については、「型枠の設計・施工指針」等に記載されている。参考として、「JASS 5」9節[型枠]における存置期間の考え方の骨子を次に示す。

(a) 支柱は、コンクリートが施工中の荷重によって有害なひび割れやたわみを生じることのない圧縮強度以上になるまで取り外さないことを基本とする。

(b) 床スラブが、有害なひび割れを起こす可能性のある条件として、施工荷重時の曲げひび割れ強度 0.64./Fc(Fc:設計基準強度に対応した 28日圧縮強度 N/mm2)以上となる場合を一つの目安としている。ただし、梁部材は一般的に鉄筋量も多く、部材せいも大きいので、たわみやひび割れへの影響は小さいと考えこの規定から除外する。

(c) 支保工を早期に(設計基準強度未満)取り外すための条件として、上述の 0.64√Fcを安全率1.25で除した許容曲げ応力0.51/Fcを掲げ、施工荷重時の曲げ応力 σ0が、この数値以下となることとしている。

(d) 施工荷重は最下階支持スラブ、梁に作用する施工荷重の値を示している。この場合、コンクリート打込み時、支保工1層受けと2層受け以上でそれぞれ異なる。

(e) 構造体コンクリートの強度発現は、現場水中養生供試体又は現場封かん養生供試体の圧縮強度から推定することとし、上の条件を満たすのに必要な強度管理として現場水中登生供試体又は現場封かん養生供試体の試験値を使用する。

すなわち、施工荷重による曲げ応力 σ0 に対して取外し可能なコンクリートの圧縮強度F1を「所要圧縮強度」と定義し、F1= σ02/0.512として、圧縮強度試験により管理する。

(ウ) 告示「型わく等取りはずしに関する基準」が平成28年3月17日に改正され、新たに第1第一号口に「コンクリートの温度の影響を等価な材齢に換算した式に よって計算する方法(以下「等価材齢換算式による方法」という。)が追加された。受注者等から、この方法によって基礎、梁側、柱及び壁のせき板の取り外しを行 うことを提案された場合は、実施の可否、実施方法等について、受注者等と協議 して定める。

なお、同方法の具体的な運用については、同告示と同時に国土交通省住宅局建築指導課長より発出された技術的助言 国住指第4893号平成28年3月17日「コンクリート強度並びに型わく及び支柱の取り外しに関する基準の改正について」の「2  型わく及び支柱の取り外しに関する基準(昭和46年建設省告示第110号)の改正について」に基づいて、国立研究開発法人建築研究所の「建築研究資料 No.168 型わくの取り外しに関する管理基準の検討」の[第Ⅱ編 せき板の取り外しに係わる積算温度を用いた管理要領(案)]を参考にするとよい。

「型わく等取りはずしに関する基準」告示に関連する技術的助言の抜枠を次に示す。

コンクリート強度並びに型わく及び支柱の取り外しに関する基準の
改正について(技術的助言)

(平成28年3月17日 国住指第4893号)

建築基準法施行令第74条第1項第ニ号及び同令第76条第2項の規定に碁づく標記基準については、平成28年3月17日付国土交通省告示第502号及び同日付国土交通省告示第 503号として別添のとおり公布されたので通知する。

中略

2 型わく及び支柱の取り外しに関する基準(昭和46年建設省告示第110号)の改正について

(1) 本告示は、現場で打設するコンクリートの型わく及び支柱の取り外しに関する基準を定めたものである。

本告示改正は、コンクリートの圧縮強度に応じて、基礎、はり側、柱及び壁のせき板を取り外す場合の当該コンクリート強度の確認方法として、従来、実施してきた日本工業規格 A1108(コンクリートの圧縮強度試験方法)による方法に加えて、コンクリートの温度の影響を等価な材齢に換算した式によって計算する方法(以下、「等価材齢換算換式による方法」という。)を追加するものである。この場合、「建築工事標準仕様書 JASS 5 鉄筋コンクリート工事」(一般社団法人日本建築学会)等を参考にして、適切に養生を行うことが必要である。

これら以外のコンクリート強度の確認方法であっても、適切な研究的裏付けのあるものは、ただし書きの適用があるものとして取り扱って差し支えない。

(2) 第1第1項第一号口に規定する式中の fc28について、「日本工業規格 A5308(レディーミクストコンクリート)ー2014に規定する呼び強度の強度値」及び「建築基準法(昭和25年 法律第201号)第37条第ニ号の国上交通大臣の認定を受けたコンクリートにあっては、設計基準強度に当該認定において指定された構造体強度値を加えた強度値」を保証する材齢は28日」に限るものとする。

(3) 第1第1項第一号口に規定する式の Tiの温度の測定に当たっては、建築物の部分及びコンクリートの打設日ごとに、コンクリート表面の温度が適切に測定できる十分な箇所において、1時間に1回以上測定するものとする。また、温度計等の測定機器の使用条件、測定誤差等に注意し、適切に測定結果を扱うものとする。

(4) 測定機器による測定箇所や使用条件等の温度測定方法といったコンクリートの温度の測定方法等に関する具体的な運用については、「建築研究資料 No.168 型わくの取り外しに関する管理基準の検討」(国立研究開発法人建築研究所)を参考とされたい。

(3) 片持梁やひさしは静定構造であり、ひび割れが発生すると大きなたわみにつながるおそれがあるので、支柱の存置期間を必要に応じて延長するのがよい。また、「標仕」では、長大スパンの梁、大型スラブ等の型枠を支持する支柱及び施工荷重が大きくコンクリートに支防が生じるおそれがある場合の支柱等は、必要に応じて存齢期間を延長するとされている。

(4) 「標仕」では、スラブ下及び梁下のせき板は、支柱を取り外した後に取り外すことにしているが、施工方法によっては、支柱を取り外すことなくせき板を取り外せる場合がある。その場合は、昭和46年建設省告示第110号の第1第一号で定めるスラブ下及び梁下のせき板の存慨期間の規定を準用し平均気温による存置日数又はコンクリートの設計基準強度の50%以上の強度を確認することにより、支柱を取り外す前にせき板を外す方法もある。ただし、この方法は「標仕」6.8.4(4)に示す「これにより難い場合」に相当するため、監督職員は、工種別施工計画書(品質計画)に記載された内容を確認して承諾する必要がある。

また、支柱の盛替え作業は、無造作に行われやすく、また、若材齢のコンクリートに荷重が作用することは望ましくないので、「標仕」では支柱の盛替えは行わないこととしている。

6.8.5 型枠締付け金物等の措置

(1) 型枠緊張材(セパレーター)の主なものは、コーンを使用しないもの(丸セパC型)とコーンを使用するもの(丸セパB型)がある。

セパレーターの例を表6.8.4に示す。

表6.8.4 セパレーターの例

型枠取外し後、丸セパC型の場合はコンクリート表面に座金及び頭(ねじ部分)が露出する。頭はハンマーでたたくことにより、簡単に折れ除去できるが、座金の部分は残る。丸セパB型の場合はコーンを取り外した穴が残るが、ねじ部分は穴の奥となり穴をモルタル等で埋めれば、表面には何も露出しない。

コーンを使用する目的は、次のように考えられる。

(ア) 止水(地下外堅等でセパレーターを伝わってくる水をモルタル防水等で防ぐ。)

(イ) 表面の平滑化(防水下地、簿い仕上げ下地等)

(ウ) 金物を露出させない(打放し仕上げ面、断熱材埋込み面等)。
型枠締付け金物の頭処理に当たっては、これらのことを考慮し、部位別に適切な処理をする。

見え掛りで仕上げがない箇所(設備シャフトの中等)では、丸セパC型を用いるが、頭を折って除去した跡の座金部分に鉛・クロムフリーさび止めペイント1種(JIS K 5674)を塗り付ける。手の届きにくい部分ではスプレーを用いる場合もある。

(2) コーン穴の処理方法の例は次のとおりである。

(ア) 漏水のおそれのある地下外整等では、丸セバB型を用い、コーンの跡の穴に防水剤入りのモルタルを充填する。さらに、確実な止水が必要な場合は防水工事を施す。

(イ) 防水下地や薄い仕上げの下地等の場合は、丸セバB型を用いコンクリート面と同一にモルタルを充填する。普通のモルタルでは、垂れ下がり乾燥収縮のおそれがある場合は、水量の少ない硬練りモルタルを用いることがある。

(ウ) 打放し仕上げ面等の場合は、丸セパB型を用い、穴はコンクリート表面よりわずかに内側にへこませて面内にモルタルを充填する。

コーンの穴埋めは、上記のように左官材料で行う方法と、既製品を用いる場合がある。主な既製品の例を次に示すが、使用する部位の目的にあったものを使用する。

(a) 埋込みプラグ

プラスチック製のプラグをコーン穴にたたき込んで埋める。

(b) 接着剤付きコーン(図6.8.15参照)

モルタルコーンの先端に接着剤カプセルがセットされており、これをコーン穴に取り付けて指で押し、接着剤カプセルを破壊して接着する。


図6.8.15 接着剤付きコーン(止水・はく離防止)

(a) モルタルコーン

モルタルコーンを、エポキシ系接着剤を用いて取り付ける。

(b) 打込み式コーン(図6.8.16参照)

打込み式コーンは、防水機能をもたせたコーンであり、従来のコーンと異なり廃材が生じないのが特長である。

断熱材の部分では、「標仕」19.9.2[断熱材打込み工法](2)(オ) によるとされており、そこでは、コーンの除去跡には断熱材を張り付けるか断熱材を充填するようになっている。


図6.8.16 打込み式コーンの例