9章 防水工事 3節 改質アスファルトシート防水

第09章 防水工事
3節 改質アスファルトシート防水
9.3.1 適用範囲
(a) 改質アスファルトシート防水工法は、シート状に成形された改質アスファルトシートを種々の方法により施工する工法であるが、「標仕」で取り扱う改質アスファルトシート防水工法は,改質アスファルトシートをトーチバーナーを用いて施工するトーチ工法及び粘着層付改質アスファルトシートを用いる常温粘着工法である。
トーチ工法はトーチバーナーを用いることにより、改質アスファルトシート相互の接合部及び改質アスファルトシートどうしが溶融一体化することが特徴である。トーチ工法は海外では広く普及している防水工法であり、わが国でも 1992年に JIS A 6013(改質アスファルトルーフィングシート)が制定(2005年改正)されたのをきっかけに急速に普及した工法である。一方、常温粘着工法は、裏面に粘着層を施した粘着層付改質アスファルトシートを裏面のはく離紙等をはがしながら下地に接着させる工法で、戦後まもなく導入されたものであるが、1974年に当時の日本住宅公団に採用されたことから普及した工法である。いずれの工法も、においが出ない、溶剤の使用量が少ないなど近隣への影響が少ない工法である。常温粘着工法はトーチ工法と同様な性能・耐久性をもち、施工性も良好なことから、平成25年版「標仕」で採用された。また、従来の屋根露出防水密着工法に加え、動きの大きい下地への対応として屋根露出防水絶縁工法及び建物使用時の省エネ対策として露出防水絶縁断熱工法も同じく採用された。
(b) 作業の流れを図9.3.1に示す。
図9.3.1_改質アスファルトシート防水の作業の流れ.jpg
図9.3.1 改質アスファルトシート防水の作業の流れ
(c) 準 備
(1) 設計図書の確認、施工業者の決定については、9.2.1(c)に準ずる。
(2) 施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
① 工程表(箇所別、防水の種類別の着工、完成等の時期)
② 施工業者名、作業の管理組織
③ 施工範囲及び防水層の種類
④ 工法(下地を含む)
⑤ 材料置場
⑥ 排水勾配
⑦ コンクリート打継ぎ箇所、PCコンクリート部材、ALCパネルの継目箇所における処置
⑧ 立上り・立下りの構造,納まり
⑨ ルーフドレン回り、出入口回り及び排水管(防水層貫通管)の納まり
⑩ 異種防水層接続部の処置
⑪ 品質管理、基本要求品質の確認方法等
(d) 用語の説明
・改質アスファルトシート
防水層を形成するために用いるシート状の材料
・粘着層付改質アスファルトシート
裏面に粘着層を付けた改質アスファルトシートで、粘着層を全面に設けた密着用と部分的に設けた絶縁用がある。部分的に設けたものを部分粘着層付改質アスファルトシートという。
・増張り用シート
増張りに適した形状に裁断されたシート状の材料
・トーチ工法
改質アスファルトシートをトーチバーナーで溶融しながら張り付ける工法
・常温粘着工法
粘着層付改質アスファルトシート裏面のはく離紙等をはがしながら張り付ける工法

9.3.2 材 料
(a) 改質アスファルトシート
改質アスファルトシートは、改質アスファルト等をシート状に成形したもので、合成繊維不織布等を補強材として構成したものと補強材を用いないものがある。改質アスファルトは、アスファルトにスチレン・ブタジエン・スチレン(熱可塑性ゴムの一種で、通常SBS系と略す。)やアタクチックポリプロピレン(非結晶性ポリプロピレンで、通常APP系と略す。)等の改質剤を添加してアスファルトの温度特性や耐久性を改良したものである。APP系改質アスファルトによる改質アスファルトシートは、トーチ工法に使用されることが多く、SBS系改質アスファルトによる改質アスファルトシートは、トーチ工法及び常温粘着工法に使用され,また.アスファルト防水にも使用される。
(i) 改質アスファルトシート
①「標仕」9.3.2(a)では、改質アスファルトシートは JIS A 6013(改質アスファルトルーフィングシート)により、種類及び厚さは特記によることとしている。特記がなければ、改質アスファルトシートの種類及び厚さは「標仕」表9.3.1から表9.3.3により、種類は表9.3.2によるR種とされている。また、厚さは表9.3.1に従い、トーチバーナーを用いて施工する改質アスファルトシートは、それ以外の方法で施工する改質アスファルトシートよりもそれぞれの用途による区分で1.0mm厚いものを使用するよう規定されている。「標仕」表9.3.1から表9.3.3で規定された厚さは、JIS A 6013での表示値を示しており、JIS A 6013では厚さの許容差はプラス側は規定せず、マイナス側は5%まで認められている。
② 改質アスファルトシートのR種は、合成繊維を主とした多孔質なフェルト状の不織布原反に、アスファルト又は改質アスファルトを浸透させ、改質アスファルトを被覆したもので,低温で硬化・ぜい化しにくく、伸び率も大きいので破断しにくいなど、種々の優れた特性をもっている。
③ 露出防水用改質アスファルトシートは、表面に鉱物質粒子の圧着又は金属はくの積層等の処理を行ったものとする。
(ⅱ) 粘着層付改質アスファルトシート及び部分粘着層付改質アスファルトシート
①「標仕」9.3.2(a)では、粘着層付改質アスファルトシート及び部分粘着層付改質アスファルトシートはJIS A 6013により、種類及び厚さは特記によることとしている。特記がなければ、粘着層付改質アスファルトシート及び部分粘着層付改質アスファルトシートの種類及び厚さは、「標仕」表9.3.1から表9.3.3により、いずれの粘着層付改質アスファルトシート及び部分粘着層付改質アスファルトシートの種類もR種とされている。「標仕」表9.3.1から表9.3.3で規定された厚さは、JIS A 6013での表示値を示しており、JIS A 6013では厚さの許容差はプラス側は規定せず、マイナス側は5%まで認められている。
② 改質アスファルトシートのR種は、合成繊維を主とした多孔質なフェルト状の不織布原反に、アスファルト又は改質アスファルトを浸透させ、改質アスファルトを被覆したものである。粘着層付改質アスファルトシートは改質アスファルトシートの裏面全面に粘着層を配したものである。また、部分粘着粘着層付改質アスファルトシートは改質アスファルトシートの裏面に粘着層をスポット状又はストライプ状に配して粘着層のない部分を通気層として利用するものである。また、使用前のブロッキングを防止するはく離紙又ははく離フィルムを配したもので、使用時にははく離紙又ははく離フィルムをはがしながら、下地対象面に転圧等を併用して張り付けるものである。
③ 粘着層の品質はアスファルトルーフィング類製造所ごとに異なるが、その接着強度は強風による飛散、浮き等が生じないようにその粘着層の面積比が決められている。そのため、「標仕」では、粘着層はアスファルトルーフィング類製造所の指定する製品とされている。風圧力に関しては、建築基準法施行令第82条の4の規定に基づき「屋根ふき材及び屋外に面する帳壁の風圧に対する構造耐カ上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」(平成12年5月31日 建設省告示第1458号)により算定する。
なお、同告示に基づく、屋根葺材に加わる風圧力の計算例は9.4.4(b)(11)を参照されたい。
④ 露出防水用改質アスファルトシートは、表面に鉱物質粒子の圧着又は金属はくの積層等の処理を行ったものとする。
表9.3.1 用途による区分と厚さ(JIS A 6013:2005)
表9.3.1_用途による区分の厚さ.jpg
表9.3.2 材料構成による区分(JIS A 6013 : 2005)
表9.3.2_材料鋼製による区分.jpg
表9.3.3 品質(JIS A 6013 : 2005)
表9.3.3_品質(JIS A 6013_2005).jpg
(b) 増張り用シート
「標仕」9.3.2(b)では、増張り用シートは、JIS A 6013の非露出複層防水用R種に適合するものとし、厚さ2.5mm以上としている。ただし、粘着層付改質アスファルトシートは厚さ1.5mm以上とすることとしている。増張りに適するように裁断し、下地の動きの大きいALCパネル短辺接合部及びPCコンクリート部材の目地部に用いる。また、防水層が疲労、破断しやすい出隅・入隅又は防水層の納まり上の欠陥となりやすい出入隅角、ルーフドレン回り等の要所に防水性を高めるために用いる。
(c) その他の材料
(1) プライマー、あなあきシート,絶縁用テープ、シール材及び仕上塗料は,同じ種類・用途でも原料の調合や製造法が異なる場合がある。そのため、「標仕」9.3.2 (c)(1)では、改質アスファルトシート製造所の指定する製品としている。
(i) プライマー
プライマーは、改質アスファルトシートの施工に先立って下地に塗布する材料で、下地と改質アスファルトシートとの接着効果を向上させることを目的としたものである。一般的には、アスファルトや改質アスファルトを有機溶剤に溶解させた溶剤系と水に分散させたエマルション系がある。使用又は取扱いについては、消防法、労働安全衛生法等の規定を遵守しなければならない。
(ⅱ) あなあきシート
あなあきシートは、防水層と下地との間を絶縁するために用いられる材料で、シート全面に一定の間隔で穴が開いており、トーチ工法で改質アスファルトシートの張付けの際、溶融改質アスファルトが穴から流れ込み、下地へ規則的な部分接着となる。
(ⅲ) 絶縁用テープ
絶縁用テープは、紙、合成樹脂等のテープ状のものに、粘着剤等を付着させたもので、幅50mmのものが用いられる。ALCパネル短辺接合部及びPCコンクリート部材目地部等大きな動きが予想される部分に張り付け、防水層に直接力が及ばないようにする。
(ⅳ) シール材
シール材は防水層張りじまいや貫通配管回り等に使用されるもので、防水層上の弱点を補い、防水層の水密性を確保する材料である。材質は防水層に影響を与えないものとする。
(ⅴ) 仕上塗料
仕上塗料は、露出防水用改質アスファルトシートの上に塗布し、防水層の美観と耐久性の向上(砂落ち防止、温度上昇低減)を目的として使用されるもので、一般にはエマルション系の塗料が多く使用される。
なお、仕上塗料は、塗料の品質性能上、長期的な耐久性を望むことが困難であり一定期間で塗り替える必要がある。
(ⅵ) 押え金物
押え金物は、9.2.2(f)による。
(2) 屋根露出防水絶緑断熱工法に用いる断熱材は、屋根スラブと防水層の間に設置される。「標仕」9.3.2(c)(2)では、材質及び厚さは特記により、特記がなければ材質は、JIS A 9511(発泡プラスチック保温材)によるA種硬質ウレタンフォーム保温材の保温板2種1号又は2号で透湿係数を除く規格に適合するものとしている。
この断熱材は、寸法安定性がよく、2枚の面材の間にサンドイッチ状に発泡させた耐熱型のポリウレタン系断熱材である。特に、熱伝導率が小さく耐熱性に優れている。また、独立気泡のため、水や水蒸気の浸入に対する抵抗性が大きい。
断熱材の必要厚さは、熱伝導率から計算により求められる。断熱材の厚さが 50mmを超える場合は、防火地域又は準防火地域においては建築基準法第63条の規定に、また、特定行政庁が防火地域及び準防火地域以外の市街地について指定する区域においては同第22条の規定に、それぞれ適合する屋根構造としなければならない。
なお、断熱材の固定に使用する接着剤等は、断熱材及び防水層に影響を与えないものとする。

9.3.3 防水層の種別及び工程
「標仕」9.3.3では、改質アスファルトシート防水工法は、屋根根露出防水密着工法、屋根露出防水絶縁工法及び屋根露出防水絶縁断熱工法とされ、また、それぞれの防水層の種別及び工程は「標仕」表9.3.1から表9.3.3により、適用は特記によるとしている。平成25年度「標仕」では、従来の屋根露出防水密着工法の2工法が3工法になり、更に、屋根露出防水絶縁工法の3工法及び屋根露出防水絶縁断熱工法の2工法が規定された。
(1) 屋根露出防水密着工法
(i) AS – T1
1層目の非露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチバーナーにより下地に全面密着させ、更に、2層目の露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチバーナーにより張り合わせるトーチ工法による複層仕様の防水層である。
(ⅱ) AS – T2
露出単層防水用の改質アスファルトシートをトーチバーナーにより下地に全面密着させるトーチ工法による単層仕様の防水層である。
(ⅲ) AS – J1
1層目に非露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを全面密着させ、更に、2層目に露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを張り合わせる複層の常温粘着工法による複層仕様の防水層である。
(2) 屋根露出防水絶縁工法
(i) AS – T3
1層目に非露出複層防水用の部分粘着層付改質アスファルトシートで下地に部分的に接着させ、更に、2 層目の露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチバーナーにより張り合わせるトーチ工法による複層仕様の防水層である。下地に部分的に溶着させ絶縁工法とする場合は、1層目の部分粘着層付改質アスファルトシートに代え、非露出複層防水用の改質アスファルトシートとする。立上りは1層目の部分粘着層付改質アスファルトシートに代え、非露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチ工法で密着させる工法とする。
(ⅱ) AS – T4
あなあきシートを敷き並べた上に露出単層防水用の改質アスファルトシートの裏面をトーチバーナーにより全面溶融し、穴の部分だけを下地に溶着させるトーチ工法による単層仕様の防水層である。改質アスファルトシートを下地に部分的に溶着させて絶縁工法とする場合は、あなあきシートを省略する。立上りは、あなあきシートを省略し密着工法とする。
(ⅲ) AS – J2
1層目に非露出複層防水用の部分粘着層付改質アスファルトシートで下地に部分的に接層させ、更に、2層目に露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを張り合わせる常温粘層工法による複層仕様の防水層である。立上りは1層目の部分粘着層付改質アスファルトシートに代え、非露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを密着させる工法とする。
(3) 屋根露出防水絶縁断熱工法
(i) ASI – T1
最初に断熱材を接着剤等によりド地に接着し、その上に非露出複層防水用の部分粘着層付改質アスファルトシートを張り付け、更に、2層目の露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチバーナーにより張り合わせる複層仕様の防水層である。立上りには断熱材は施工せず、1層目は非露出複層防水用の改質アスファルトシートをトーチ工法で密着させる。「標仕」表9.3.3では防湿層の設置は特記としているが、「住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する設計、施工及び維持保全の指針」(平成18年国土交通省告示第378号)の地域 I、地域 Ⅱ 及び地域Ⅲにおいては、防湿層の設置が望ましい。防湿層としては、改質アスファルトシート系の常温粘着用シートを使用する場合が一般的である。
(ⅱ) ASI – J1
最初に断熱材を接着剤等により下地に接着し、その上に非露出複層防水用の部分粘着層付改質アスファルトシートを張り付け、更に、2層目の露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを張り合わせる常温粘着工法による複層仕様の防水層である。立上りには断熱材は施工せず、1層目は非露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートを密着させる。ASI-T1と同様「標仕」表9.3.3では防湿層の設置は特記としている。
(4) ALCバネル及びPCコンクリート部材を下地とする場合のALCパネル短辺接合部及びPCコンクリート部材の目地部の処置は、改質アスファルトシート張付けに先立ち、(1)においては、増張り用シートにより増張りを行い、(2)及び(3)においては、絶縁用テープを張り付ける。また、ALCパネルを下地とした場合は、プライマーの使用量を0.4kg/m2とする。

9.3.4 施 工
(a) 防水層の下地
防水層の下地は、9.2.4(a)を参照されたい。ただし、出隅及び入隅は図9.3.2に示す形状とする。
図9.3.2_出隅及び入隅の形状(出隅).jpg図9.3.2_出隅及び入隅の形状(入隅).jpg
図9.3.2 出隅及び入隅の形状
(b) プライマー塗り
プライマー塗りは、下地の乾燥を確認したのちに、清掃を行い、塗布する。
(i) コンクリート下地の場合は、所定量をはけ又はローラーばけ等を下地の状況に応じて適宜使い分けて、改質アスファルトシート等の張りじまい部までむらなく均ーに塗布する。この際、防水施工範囲以外の面を汚さないように注意する。
(ⅱ) ALCパネル下地の場合は、所定量をはけ等により2回に分けて塗布する。 2回目の塗布は、1回目に塗布したプライマーが乾燥したことを確認したのちに行う。
(ⅲ) プライマーは改質アスファルトシートの張付けまでに十分乾燥させる。
(c) 増張り
改質アスファルトシートの張付けに先立ち、増張り用シートを用いて次の増張りを行う。
(i) ALCパネルの短辺接合部
① 屋根露出防水密着工法において、トーチ工法(種別 AS-T1及び AS-T2)の場合は幅300mm程度の増張り用シートを用いて接合部両側に 100mm程度ずつ張り掛け、絶縁増張りを行う。常温粘着工法(種別 AS- J1)の場合は、幅50mm程度の絶縁用テープを張り付けたのち、幅300mm程度の増張り用シートを用いて増張りを行う(図9.3.3参照)。
② 屋根露出防水絶縁工法及び屋根露出防水絶縁断熱工法においては、トーチ工法(種別 AS-T3、AS-T4及びASI-T1)及び常温粘着工法(種別 AS-J2 及びASI- J1)のいずれの場合も増張り用シートによる増張りは行わず、ALCパネル短辺接合部に幅50mm程度の絶縁用テープを張り付ける処理だけでよい。
図9.3.3_屋根露出防水密着工法におけるALCパネル短辺接合部の増張り例.jpg
図9.3.3 屋根露出防水密着工法におけるALCバネル短辺接合部の増張り例
(ⅱ) PCコンクリート部材の接合部の目地部
① 屋根露出防水密着工法において、トーチ工法(種別 AS-T1及び AS-T2)の場合は部材の両側に100mm程度ずつ張り掛けることのできる幅の増張り用シートを用いて絶縁増張りを行う。常温粘着工法(種別AS_J1)の場合は、幅50mm程度の絶緑用テープを張り付けたのち、同様に行う(図 9.3.4参照)。
図9.3.4_屋根露出防水密着工法におけるPCコンクリート部接合部目地部の増張り例.jpg
図9.3.4 屋根露出防水密着工法におけるPCコンクリート部材接合部目地部の増張り例
② 屋根露出防水絶縁工法及び屋根露出防水絶縁断熱工法においては、トーチ工法(種別 AS-T3、 AS-T4 及び ASI-T1)及び常温粘着工法(種別 AS-J2及びASⅠ- J1l)のいずれの場合も増張り用シートによる増張りは行わず、PCコンクリート部材接合部目地部に幅 50mm程度の絶縁用テープを張り付ける処理だけでよい。
(ⅲ) 出隅及び入隅は、幅200mm程度の増張り用シートを100mm程度ずつ張り掛けて増張りを行う(図9.3.5参照)。
図9.3.5_出隅・入隅部の増張り例(出隅部).jpg図9.3.5_出隅・入隅部の増張り例(入隅部).jpg
図9.3.5 出隅・入隅部の増張り例
また、出入隅角は幅200mm程度の増張り用シートを用いて図9.3.6のように行う。
図9.3.6_出入隅角の増張りの例.jpg
図9.3.6 出入隅角の増張り例
(ⅳ) ルーフドレン回りは、増張り用シートをルーフドレンのつばと、つばから 100mm程度の範囲の下地に張り掛けるように張り付ける(図9.3.7参照)。トーチ工法の場合は、トーチバーナーでよく溶融させて張り付け、焼いた金ごて等で増張り用シートの段差を均す。常温粘着工法の場合は、ローラー転圧にトーチバーナーを併用するなどして張り付ける。増張り用シートの段差はトーチバーナー等を使用して均す。
図9.3.7_ルーフドレン廻りの増張り例(1枚もの).jpg図9.3.7_ルーフドレン廻りの増張り例(扇状裁断).jpg
図9.3.7 ルーフドレン回りの増張り例
(ⅴ)貫通配管回りは、150mm程度の増張り用シートを用いて貫通配管と根元を増 張りし、更に増張り用シートを貫通配管周囲の下地に150mm程度張り付ける(図 9.3.8参照)。トーチ工法の場合は、トーチバーナーでよく溶融させて張り付け.焼いた金ごて等で増張り用シートの段差を均す。常温粘着工法の場合は、ローラー転圧にトーチバーナーを併用するなどして張り付ける。増張り用シートの段差はトーチバーナー等を使用して均す。
図9.3.8_貫通配管回りの増し例.jpg
図9.3.8 貫通配管回り増張り例
(d) 改質アスファルトシートの張付け
(1) 平場の張付け(密着工法)
(i) トーチ工法の場合
① 改質アスファルトシートの張付けは、改質アスファルトシートの裏面及び下地をトーチバーナーであぶり、改質アスファルトを十分溶融させ、丁率に張り付ける。
② 改質アスファルトシート相互の接合は、原則として、水上側が水下側の上に重なるように張り重ね、重ね幅は長手・幅方向とも100mm以上とする。
③ 複層防水の場合は改質アスファルトシートの重ねが上下層で同一箇所にならないように張り付ける(図9.3.9参照)。その際、1層目の改質アスファ ルトシートの表面及び2層目の改質アスファルトシートの裏面をトーチバーナーであぶり、相互の改質アスファルトが十分溶融されていることを確認し、空気の内包、破れ、密着不良等ができないように張り付ける。
図9.3.9 改質アスファルトシートの張り方.jpg
図9.3.9 改質アスファルトシートの張り方
④ 改質アスファルトシート相互の接合に当たっては、溶融した改質アスファルトがシート端部からはみ出すように十分溶融させ施工する。
⑤ 改質アスファルトシートの3枚重ね部は、水みちになりやすいので、中間の改質アスファルトシート端部を斜めにカットする(図9.3.10参照)か、焼いた金ごてを用いて角部を滑らかにするなどの処理を行う。
図9.3.10_改質アスファルトシートの3枚重ね部の納まり例.jpg
図9.3.10 改質アスファルトシートの3枚重ね部の納まり例
⑥ 露出防水用の改質アスファルトシートの砂面に改質アスファルトシートを重ね合わせる場合、重ね部の砂面をあぶり、砂を沈めるか、砂をかき取って改質アスファルトを表面に出した上に張り重ねる(図9.3.11参照)。
図9.3.11_露出防水用改質アスファルトシートの重ね部の処理例.jpg
図9.3.11 露出防水用改質アスファルトシートの重ね部の処理例
(表面の砂をかき取る例)
⑦ 接合部からはみ出した改質アスファルトは、焼いた金ごて等を用いて処理する。この際、改質アスファルトシートの重ね部に口あき等のある箇所は、焼いた金ごてを差し込み再炭溶融して接着させる。
(ⅱ) 常温粘着工法の場合
① 改質アスファルトシートの張付けは、シートの裏面のはく離紙等をはがしながら空気を巻き込まないように、平均に押し広げ、転圧ローラー等を併用して張り付ける。
② 改質アスファルトシート相互の重ねは、(i) ②及び (i) ③による。
③「標仕」9.3.4 (d)(1)(ⅱ)では、改質アスファルトシート相互の張付けは、改質アスファルトシート製造所の仕様によるとしている。改質アスファルトシート相互の接合には、転圧ローラーによる転圧だけでなく、トーチバーナーやシール材等が併用されることが多い。
④ 改質アスファルトシートの3枚重ね部には、シール材を充填するか、トーチバーナーであぶり、焼いた金ごてを用いて滑らかにする。また、トーチ工法と同様に、中間の改質アスファルトシート端部を斜めにカットして行ってもよい。
⑤ 露出防水用の改質アスファルトシートの砂面に改質アスファルトシートを重ね合わせる場合は、砂面にゴムアスファルト系のテープ又はペースト等で処理したのちに張り付け、転圧する(図9.3.12参照)。また、トーチ工法と同様に砂をかき取って改質アスファルトを表面に出したのちに張り付け.転圧する方法もある。
図9.3.12_重ね部の処理例.jpg
図9.3.12 重ね部の処理例
(2)平場の張付け(絶縁工法)
「標仕」9.3.3 (2)及び「標仕」9.3.3 (3)では、トーチ工法の種別 AS-T3、AS-T4及びASI-T1並びに常温粘着工法の種別 AS-J2及びASI-J1を絶縁工法としている。「標仕」表9.3.2及び「標仕」表9.3.3の工程で示される各シートの張付けは、①~③による。ただし、「標仕」9.3.4 (d)(1)(i) 及び「標仕」9.3.4(d)(1)(ⅱ)では、立上り際の幅500mm程度は改質アスファルトシートを全面密着させることとしている。また、改質アスファルトシートの張付けが複数日になる場合は、作業を中断する部分の雨仕舞処理、風対策等を考慮する。
① 部分粘着層付改質アスファルトシートの張付け(種別AS-T3、 AS- J2、ASI-T1及びASI- J1)
1)部分粘着層付改質アスファルトシートの張付けは、(1)(ⅱ)①による(図9.3.13参照)。
2) 部分粘着層付改質アスファルトシート相互の重ね幅は、幅方向は100mm程度とし、長手方向は突付けとし、その部分に200mm程度の増張り用シートを張り付ける(図9.3.14参照)。
なお、部分粘着層付改質アスファルトシート相互の張付けは、改質アスファルトシート製造所の仕様による。
3) 立上り際は、風による負圧が平場の一般部より大きくなるため、立上り際の幅500mm程度は密着工法とする(図9.3.15及び図9.3.16参照)。
図9.3.13_部分粘着層付改質アスファルトシートの張付け例.jpg
図9.3.13 部分粘着層付改質アスファルトシートの張付けの例
図9.3.14_接合部の処理例.jpg
図9.3.14 接合部の処理例
図9.3.15_立上り際の部分粘着層付改質アスファルトシートの納まり例.jpg
図9.3.15 立上り際の部分粘着層付改質アスファルトシートの納まり例
図9.3.16_ASI-T1の場合の立上り際の部分粘着層付改質アスファルトシートの納まり例.jpg
図9.3.16 ASI-T1の場合の立上り際の
部分粘着層付改質アスファルトシートの納まり例
② あなあきシートの張付け(種別 AS-T4)
1) あなあきシート相互は、隙間ができないように突付けで敷き並べる。突付け部の下側に改質アスファルトシート片(200 × 100(mm)程度)を3〜4m程度の間隔で敷き込み、空気の通路を設ける(図9.3.17参照)。
2) あなあきシートの上に改質アスファルトシートを張り付ける場合、あなあきの部分に溶融した改質アスファルトが十分に流れ込んでいることを確認しながら張り付ける。
3) 立上り際は、風による負圧が平場の一般部より大きくなるため.立上り際の幅500mm程度は密着工法とする(図9.3.18参照)。
図9.3.17_あなあきシートの敷き並べ例.jpg
図9.3.17 あなあきシートの敷き並べ例
図9.3.18_立上り際のあなあきシートの納まり例.jpg
図9.3.18 立上り際のあなあきシートの納まり例
③ 改質アスファルトシートを部分溶着する場合の張付け(種別AS-T3及び種別AS-T4)
「標仕」表9.3.2では、種別 AS-T3 及び種別 AS-T4 の場合、改質アスファルトシートを部分的に溶着する方法も可能とされている。
1) 改質アスファルトシートを部分溶着する場合は、改質アスファルトシートの裏面に付けられている指定溶融箇所及び下地をトーチバーナーで十分に溶融させながら平均に押し広げ、部分的に溶着させる(図3.4.19参照)。
なお、立上り際の幅500mm程度は密着工法とする。
2) 改質アスファルトシート相互の接合部は、(1)(ⅰ)②による。
図9.3.19_部分的に溶着する張り方の例.jpg
図9.3.19 部分的に溶着する張り方の例
(3) 断熱材の張付け
「標仕」では、屋根露出防水絶縁断熱工法における断熱材の張付けは、改質アスファルトシート製造所の仕様によるとしているが、施工の際には次の点に留意する。
① 断熱材は、順次隙間なく張り付ける。
② ルーフドレン回りへの断熱材の張付けは、ルーフドレンのつばから300mm程度離れた位置に四角く逃げて、浮き及び隙間ができないように張り付ける
(図9.3.20参照)。
③ 貫通配管回りへの断熱材の張付けは、貫通配管の回りに隙間及び浮きができないように張り付ける(図9.3.21参照)。
図9.3.20_ルーフドレン廻りへの断熱材の張付け例.jpg
図9.3.20 ルーフドレン回りへの断熱材の張付け例
図9.3.21_貫通配管回りへの断熱材の張付け例.jpg
図9.3.21 貫通配管回りへの断熱材の張付け例
(4) 立上り部の張付け
(i) トーチ工法の場合
① 立上り部の張付けは(1)(i)による。
② 平場が部分粘着層付改質アスファルトシートを用いた絶縁工法の場合は、部分粘着層付改質アスファルトシートを非露出複層防水用の改質アスファルトシートに代えて張り付けて、平場へ張り重ねる。
③ 立上り部への改質アスファルトシートの末端部は、所定の位置にそろえて、押え金物を用いて留め付け、シール材を充填する(図9.3.22参照)。
(ⅱ) 常温粘着工法の場合
① 立上り部の張付けは、(1)(ⅱ)による。
② 平場が部分粘着層付改質アスファルトシートを用いた絶緑工法の場合は、部分粘着層付改質アスファルトシートを非露出複層防水用の粘着層付改質アスファルトシートに代えて張り付けて、平場へ張り重ねる。
③ 立上り部への粘着層付改質アスファルトシートの末端部は、所定の位置に
そろえて、口あきのないよう転圧し、押え金物を用いて留め付け、シール材を充填する。
図9.3.22_防水層端部の納まり例(水切りあごタイプ).jpg
図9.3.22_防水層端部の納まり例(笠木タイプ)2.jpg
図9.3.22 防水層端部の納まり例
(5) ルーフドレン、貫通配管等との取合い
(i)トーチ工法の場合
① ルーフドレン回りは、改質アスファルトシートをトーチバーナーを用いてルーフドレンのつばに100mm程度張り掛かるように、増張り用シートの上に張り重ねる。防水層端部にはシール材を塗り付ける。絶縁工法の場合は、ルーフドレンのつばから400mm程度は密着させる。
② 貫通配管回りは、改質アスファルトシートをトーチバーナーを用いて貫通配管及び周囲の増張り用シートに張り重ね、貫通配管立上りの所定の位置に防水層の端部をそろえ、ステンレス製既製バンド等で防水層端部を締め付け、防水層の末端部及び貫通配管の根元部はシール材を塗り付ける(図9.3.23 参照)。
(ⅱ) 常温粘着工法の場合
① ルーフドレン回りは、粘着層付改質アスファルトシートをルーフドレンのつばに100mm程度張り掛かるように、改質アスファルトシート製造所の仕様により増張り用シートの上に張り重ねる。防水層端部にはシール材を塗り付ける。絶縁工法の場合は、ルーフドレンのつばから 400mm程度は密着させる。
② 貫通配管回りは、粘着層付改質アスファルトシートを所定の位置に防水層の端部をそろえ、ステンレス製既製バンド等で防水層端部を締め付け、防水層の末端部及び貫通配管の根元部はシール材を検り付ける(図9.3.23参照)。
図9.3.23_貫通配管回りの取合い例.jpg
図9.3.23 貫通配管回りの取合い例
(e) 仕上塗料塗り
(1) 仕上塗料は、かくはん機等を用いて、顔料及び骨材等が分散するように注意しながら十分練り混ぜる。
(2) 仕上塗料塗りは、所定の塗布量をはけ又はローラーばけ等によりむらなく均一になるように塗布する。
(f) 検査
改質アスファルトシート防水層施工途中における検査の留意点は9.1.3(b)を参照されたい。
(g) 施工時の気象条件
施工時の気象条件については、9.1.3(a)を参照されたい。
なお、防水施工中に降雨・降雪が生じた場合は、張付けを中止し、張りじまい部を焼いた金ごてやシール材で処理する。絶縁工法の場合の防水層端部は、改質アスファルトシート類で養生張りを行う。

10章 石工事 1節 一般事項

第10章 石工事
1.一般事項
10.1.1 適用範囲
a)適用除外の工法
「標仕」では、現場打ちコンクリートの表面に、天然石またはテラゾを取り付ける工事を適用範囲としている。
次の場合は、適用しない。
ⅰ)下地に鉄骨造(間柱及び胴縁)が用いられる場合もあるが、下地としての適否を個々に検討する必要があり、「標仕」では対象としていない。
ⅱ)石材に近似した用い方をする大形の陶板及び結晶化ガラス等は、物性、使用板厚等が異なることから、対象としていない。
ⅲ)薄石をセメントモルタルや接着剤を用いて壁面に張り付ける工法は対象としてない。また、帯とろ工法も、耐震性が懸念され、適用から除外されている。
b)作業の流れ
図10.1.1 石工事の作業の流れ.jpg
図10.1.1 石工事の作業の流れ
c)製作工場の決定
現在でも一部は国内産の石材が用いられているが、多くは外国産となっている。また、表面仕上げ方法も機械化されている。そのために、製作工場の取り扱い石種、機械能力、得手不得手等を十分に検討し、適切な工場を選定させる。一般には設計図書で指定されることが多いが、指定のない場合には次のような事項に留意する。
①工場の経歴・実績
②工場の規模及び機械の設備
③受注能力(月産加工能力)
④製品の出来ばえ
⑤その他
d)施工計画書の記載事項
施工計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
なお、ゴシック部分を考慮しながら品質計画を検討する。
①工程表(見本決定、製品の検査・着工・完了等の時期)
②施工業者名、作業の管理組織
③製作工場の機械設備
④現場における揚重・運搬計画・設備
⑤石材・テラゾの種類、仕上げの種類及びその使用箇所
⑥材料加工の方法、石の裏面処理方法・材料
⑦置場の確保、整備(運搬しやすい場所、破損に対して安全な場所、角材等の受台準備等)
⑧保管方法
⑨標準的石張り工法、施工順序
⑩アンカー、下地鉄筋、引金物、だぼ、かすがい、取付け金物等の材質、形状、位置、寸法
⑪伸縮調整目地
⑫取付け後の養生
⑬作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
e)施工図の記載内容
石工事に必要事項は特記仕様に記載されている。この記載事項について設計担当者と十分に打合わせを行い、施工図(石割り図、取り付け工作図、その他の詳細図及び原寸図等)に反映させる。施工図の内容については工事開始前に詳細な検討を行い、具体的に工事条件と照合し、相互に疑義や相違がないかを関係者と十分に協議して決定する。
施工図の内容は、おおむね次のとおりである。
①各面の石の割付け
②一般部、出隅、入隅等の各部の収まり詳細
③湿式・空積工法においては、取付け金物類(引金物、だぼ、緊結金物、受金物等)の使用箇所及びその詳細、特に落下時の危険性が高い箇所の詳細
④乾式工法においては、取付け金物類(乾式工法用ファスナー等)の使用箇所及びその詳細、特に落下時の危険性が高い箇所の詳細
⑤特殊部位(窓、出入口、エレベーター等の開口部、アーチ、上げ裏、笠木、甲板、隔て板等)周辺の詳細
⑥関連工事との取合い(設備機器等の取付けのために必要な穴あけ、欠き込み等の位置、寸法及び目地等)
⑦水切、水返し等の詳細
⑧その他必要と思われる部分の詳細
10.1.2 基本的要求品質
a)使用する材料
石材は、設計図書に指定されたものとするが、天然材料であることから、同一の種類の石材であっても、品質のばらつきが大きい。特に、石材の色調、模様、仕上げの種類や程度については意匠上の要求が厳しく、あらかじめその限度を実物見本により確認し、同時に納まりや施工方法についても、検討しておく必要がある。
また、石材は、そのほとんどが外国産であり、使用部位による石種の選定、必要量の確保が可能かどうか、加工の難易度についてもあらかじめ確認しておく必要がある。
石材が建築物に取り付けらえているのは、金物類によってである。石工事に用いる金物類は、重量物である石材に堅固に留め付ける強度、外気や水分にさらされても性能劣化しない耐久性等要求される品質は極めて高い。実際に使用する以前に、材質、形状等を十分検討しておく。
b)仕上り状態
石工事は高級な仕上げであり、その仕上りについても他の仕上材料の場合と比べて高い精度が要求される。このため、仕上り面の形状や寸法の許容差は、他の仕上材料の場合よりも小さいものとなる。石材は工場において加工されるもので、通常は建築部材として必要な精度を持つものとなっている。しかし、石工事の仕上り面は、下地に石材を取付けた結果として得られるため、単に材料としての石材の精度が良いだけでは、適切な状態とはんらない。したがって、石工事の仕上り面の精度を上げるためには、下地面の精度を適切に管理することが重要なポイントとなる。
「標仕」10.1.3(c)では、下地面の精度の標準値を示しているが、建物の規模、石張り面の見え掛りの程度等のほか、石材施工業者の施工能力も含めて総合的に必要な目標精度を定めるようにする。また、「所要の状態」とは、仕上げの不ぞろいの程度、色合の程度等について、あらかじめ限度を定めておき、この限度内に収まるように管理を行うことと考えればよい。これらの限度を定める場合にあっては、同時に限度を外れたものの処置方法についても明確にしておく。
c)機能・性能
石材の下地への取付けは、建築物の一部として必要な性能を発揮するために重要なものであり、外壁、内壁、床、特殊部位等によって適切な工法を具体的に定めている。「下地への取付けが所要の状態」とは、想定される外力等に対して安全であることを下地を含めて要求していると考えれば良い。
「品質計画」の立案に当たっては、プロセスの管理をいかに行うかという観点で、例えば、定められて工法が手順どおりに行われたことをどのように記録していくかを提案させることが考えられる。
10.1.3 施工一般
a)石材の割付け
「標仕」には一般部よりもむしろ、事故が発生しやすく最も注意しなければならない部分の割付け方法が規定されている。
ⅰ)動きのある目地周辺
水平打継ぎ部、伸縮調整目地部分等は、下地の乾燥収縮量や熱膨張量の違いなどで挙動差が生じる。また、地震時の変位量を正確に推定することは難しく、かつ予想以上に大きくなる可能性もある。したがって、この部分をまたいで一枚の石を取り付けないことを原則としている。やむを得ず取り付ける場合には、乾式工法を用い、ファスナーを工夫するなど挙動差を吸収する検討が必要である。
ⅱ)開口部回り
開口部回りは、地震の際の変位が大きくなりやすく、破損や脱落の可能性が大きい部分であり、適切な割付けが必要である。開口隅角部で不整形な石をバランスよく取り付けることは難しく、かつ、欠き込み部分に応力集中が生じて割れやすいため、L型に欠き込んだ石材を用いないような割付けとすることが望ましい。また、開口部回りは通常、建具のファスナーやフラッシングが石材に当たらないように納める。
b)石材の加工
1)加工範囲
入隅等でのみ込みとなる部分は、見え隠れとなる部分でも、施工上の誤差を考慮して、あらかじめ所定の目地位置より 15mm以上、表面仕上げと同じ仕上げをしておく。ただし、自動機械で行う石材の表面仕上げの場合は、石材全面が同一の仕上げとなるのでこの限りではない。
 図10.1.2_表面仕上げの範囲.jpg
図10.1.2 表面仕上げの範囲 [ 壁水平断面(湿式工法) ]
2)加工場所
だぼ、引金物及びかすがいを取り付ける穴は、位置・径・深さを精度良く加工するため、工場加工を原則とする。ただし、加工の容易な大理石や砂岩等の場合には、外壁への適用を除き現場加工が一般的である。
道切りは、引金物を目地部に突き出させないために、合端に設ける溝であり、小形カッター等で溝彫りする。
 図10.1.3引金物・だぼ・かすがい取付用穴の例.jpg
図10.1.3 引金物・だぼ・かすがい取付け用穴の例
c)下地面の精度
1)下地への要求精度寸法
石材の取付けには、引金物やファスナーのような金物を用いるので、下地面と石材裏面との間隔が場所によって大きく異なると準備した金物が使えなくなる。そのため、下地には、「標仕」表10.1.1に示す精度を求めることとされている。
2)ファスナーの寸法調整範囲
乾式工法では、石材を下地に取付ける金物をあらかじめ設計寸法に合わせて製作して用いる。通常、乾式工法に用いる金物はファスナー内で ± 8mm程度の面外調整機構を組み込んでいるが、下地面精度が許容範囲を超えていると、使用できない金物が出てしまう。その結果、工期の遅れを来したり、複数の調整代を持つ金物を用意しなければならないことがる。
3)下地のはつり作業回避
仕上げ代を確保するために躯体のはつり作業は行わない。取付け金物あるいは取付け工法の変更で対応する。
10.1.4 養 生
a)雨水に対する養生
雨水時のモルタル作業及び目地詰め作業は、雨水が入らないようにシート等で養生するか、作業を中止する。また、モルタルが完全に硬化するまでは、雨・雪等が掛からないようにシート等で覆いをする。
b)壁面の養生
目地詰めまで完了した仕上げ面は、ビニルシートによる汚れ防止のほか、ものが当たりやすく破損のおそれのある所や、溶接作業による火花の飛び散るおそれのあるところでは、クッション材を挟んで合板等を用いて損傷を防ぐ。また、出隅部、作業通路等で石の破損を防止するためには、樹脂製の養生カバーを取り付ける。
c)床面の養生
床の施工終了後、建築物が完成するまで歩行禁止することは困難であるが、モルタルが硬化するまで歩行を禁止するとともに、石の表面を汚さないようにポリエチレンシートを敷き、その上に合板を敷き並べるなどにより破損防止を目的とした養生を行う。
10.1.5 清 掃
石材の清掃は。石種や仕上げによって留意点が若干異なるが、原則は「標仕」に示すとおりである。
1)花崗岩・砂岩等の粗面仕上げ
原則として水、場合によっては石けん水、合成洗剤等でナイロンブラシを用いて洗い、塩酸類に使用は極力避ける。セメント等の汚れの場合は、事前に十分含水させ、希釈した塩酸で洗う。この場合、酸洗い後も十分水洗いを行う。
2)花崗岩・大理石等の磨き仕上げ
日常の軽度な汚れは清浄な布でからぶきする。付着した汚れは、水洗い又は濡れた布でふき取り、乾いた布で水分を除去して乾燥を待ち、再度からぶきする。目地回りに付着した汚れは目地材を損傷させないように、ブラシで取り除く。水洗いで除去できない汚れは中性合成洗剤等を溶かしたぬるま湯を用いて洗い。乾いた布で水分を除去して乾燥を待ち、再度からぶきする。
3)テラゾの磨き仕上げ
種石部分よりセメント部分が汚染されやすい。施工中のセメントモルタル等による汚染は、その都度速やかに清水を注ぎ、ナイロンブラシ等を用いて洗い落とす。特にテラゾは水洗いによってつやが消えやすいので、汚染しないことと乾燥した布での清掃が前提である。
4)床及び階段
石材の清掃は原則として水洗いまでであるが、維持管理のために、石工事でワックス掛けを行う場合もあるので、「標仕」ではワックス掛けの要否は特記によるとしている。ワックス掛けが特記された場合には、ワックスは仕上材を汚染しないものとし、ワックス掛けを石材の施工後すぐに行うと下地モルタルの水分により汚染が生じる場合があるので、その時期にも注意する。

10章 石工事 2節 材料 取付け金物

第10章 石工事 第2節 材 料 取付け金物
2.材 料
10.2.2 取付け金物
a)外壁湿式工法及び内壁空積工法用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
ⅰ)湿式工法・空積工法に使用する引金物、だぼ、かずがいは、「標仕」にステンレス(SUS304)と定められている。一般的なステンレス(SUS304)の種類の例を表10.2.10に示す。現状の石工事では、引金物には曲げ加工の比較的容易な JIS G4309(ステンレス鋼線)のSUS 304 W1(軟質2号、引張強さ 800N/mm 2程度)が多く使用されている。このほかでは、SUS304-W1/2H(半硬質、引張強さ 1,200N/mm2程度)も使用されている。
ⅱ)引金物、だぼ及びかすがいの径は、使用する石材の厚さとのバランスを考慮して、一般的に使用されている寸法が「標仕」に定められている。このうち、空積工法用の引金物については、この工法が内装に限定され、積上げ高さも一般的な壁高さに限定されていることから、ひとまわり細い径を許容寸法としている。一般的な湿式工法の金物の使用例を図10.3.1に示す。
ⅲ)だぼの形状として、従来より関東方面では通しだぼが、関西方面では腰掛だぼが多く使われてきた。腰掛だぼは、石材の保持性能に問題があり、阪神大震災でも被害が多かったことから、通しだぼ形式に限定されている。
表10.2.10ステンレス鋼線の種類の例.jpg
表10.2.10 ステンレス鋼線の種類の例(JASS9より)
2)受金物
受金物は、湿式工法・空積工法の場合に、石材の荷重を受けるために設ける金物で、「標仕」10.2.2(a)(2)では、入手の容易さ等を考慮して、特記がなければ、材質がSS400の山形鋼を切断加工して用いることとしている。この鋼材の品質は、JIS G3101(一般構造用圧延鋼材)に規定されており、建築構造物に最も一般的に使用されるもので、その機械的性質を表10.2.11に示す。受金物の錆止めとして。「標仕」表18.3.1 [ 鋼材面錆止め塗料の種別」に示すA種を1回塗りすることとしており、これはJIS K5625(シアナミド鉛さび止めペイント)またはJIS K5674(鉛・クロムフリーさび止めペイント)に規定される塗料である。外壁の受金物に用いる場合は、上記のA種を用いるか、またはめっき防錆処理、ステンレス製アングル材の使用等の対策を施す必要がある。受金物の使用例を図10.3.4に示す。
表10.2.11「標仕」に定められている受金物の機械的性質.jpg
表10.12.11「標仕」に定められている受金物の機械的性質
3)鉄筋
引金物緊結用の流し鉄筋は、湿式工法の場合ではモルタルで被覆されるが、外壁に使用されることから耐久性を考慮して錆止め塗料塗りを行うこととしている。

b)乾式工法用金物
1)「標仕」で乾式工法用金物は、スライド方式かロッキング方式を特記することとしており方式が決まると形状・寸法が決まる。いずれの方式も、仕上り面精度の確保が比較的容易であることや、躯体の変更をある程度吸収可能であること等からダブルファスナー形式としている。ファスナーに使われているステンレス鋼材は、JIS G4317(熱間成形ステンレス鋼形鋼)またはJIS G4304(熱間圧延ステンレス鋼板および鋼帯)のSUS304を加工したものが一般的である。
2)石材とファスナーとの取合いは、だぼを使用するが、石材の重量、厚さ、強度等を総合的に判断して寸法を決定する。一般に乾式工法用のだぼは湿式工法用に比べて太径のものが使われる。「標仕」には標準の形式・寸法が定められている。
3)ステンレス鋼材の場合、穴あけ加工や溶接によってひずみが発生し、取付け誤差の原因となったり、現場での加工が困難であることから、ファスナーはだぼやワッシャー等全ての部品の寸法形状を決めて、工場加工し納入することが原則である。
c)特殊部位用金物
1)引金物・だぼ・かずがい
湿式工法・空積工法で施工する場合の特殊部位に使用する引金物、だぼ、かすがいは、一般部分に使用するものと同様であるが、それらの形状・寸法および用い方は、当該箇所の石材の納め方に応じて決定する。
2)ファスナー
乾式工法に用いる金物は、基本的に一般部位に用いる金物と同一のものを用いる。石材の大きさ等によっては同じ寸法の金物と取り付けられない場合もあるので、特記を原則としている。ただし、だぼの形状は、通しだぼとしている。
3)吊金物・吊りボルト
石材を上げ裏やまぐさ等の部分に取り付ける場合には、吊金物、吊りボルトや受金物等石材の自重を支える金物を用いるが、これらの場合はその都度設計し、特記された金物を用いる。軒裏側に化粧ナットを見せない場合や、各種アンカー金物を使用する場合には、材質や取付け方法とその耐力を確認して採用しなければならない。吊りボルトの頭部の処理の方法を図10.7.1に示す。
4)隔て板用金物 
隔て板に使用する金物は、隔て板どうし、隔て板と前板の取合いに使用するだぼ、かすがいがあり、「標仕」に材質、寸法、形状等が定められている。隔て板上部にはこれら以外にT型、I型等の形状のステンレス鋼板を用いる場合もある。使用例を図10.7.4に示す。
d)先付けアンカー
1)アンカーの種類
「標仕」10.2.2 (d)では、アンカーの材料および寸法は特記することを原則としているが、特記がない場合は、「標仕」10.2.2 (d)(1)または(2)によるとしている。石材を構造体に締め付けるに当たって、アンカーは重要な役割を果たす。
先付けアンカーの場合は、アンカーの種類、定着長さを適切に確保すれば、その強度はアンカーボルトの耐力で決まり、信頼性の高いアンカーである。
2)乾式工法用アンカー
乾式工法用のアンカーは、ファスナーとの耐久性等のバランスを配慮してステンレス製とする。
e)あと施工アンカー
本来、アンカーは、先付けアンカーが望ましいが、施工性や施工精度に問題があるため、最近ではあと施工アンカーが多く使われている。
あと施工アンカーの場合は、下地コンクリートの状態、配筋等により必ずしみ十分な耐力が得られるような施工がしにくことがある。接着系アンカーは埋込み長さが長いことや、養生時間を必要とすることから、金属系アンカー、なかでもめねじ形(打込み式)より信頼性の高いおねじ形(締込み式)アンカーが推奨される。あと施工アンカーの引抜き耐力を確認するために、「標仕」14.1.3(b)(4)に定められた試験を行い、その結果を提出させることを原則としている。この試験はあと施工アンカーの最大耐力(破壊耐力)を求めるものではなく、設計された引張強度不足がないことを前提としている、常時引張力の作用する箇所の使用に当たっては十分な安全率をみる必要がある。

f)その他の金物
その他の金物としては、役物部分の裏側に補強のために取り付けるアングルピースや、石裏の力石を取り付けるためのだぼ、力石の代わりに取り付ける荷重受金物等、主として特殊部位に使用する金物があり、特記されたものを使用する。
特記のない場合は、実物見本、組み立て見本あるいは、物性、品質等の証明となる資料を監督職員に提出する。

10章 石工事 3節 外壁湿式工法

第10章 石工事
3.外壁湿式工法
10.3.1 適用範囲
外壁湿式工法(図10.3.1参照)は、経済的な工法であり、かつては外壁石張りの主流であったが、現在では実施例も減少しており,外壁乾式工法や石先付けプレキャストコンクリート(GPC)工法に移行しつつある。
湿式工法の適用が減少している主な理由として次のことが考えられる。
(1)石裏に水が浸入し、それが原因で石材のぬれ色・白華が生じ、美観を担なうことがある。
(2)コンクリート躯体と裏込めモルタルの乾燥収縮と石材の熱による膨張・収縮で石材のはく離が生じ、引金物やだぼの取付けが不備な場合には脱落することがある。
(3)地震時等の躯体の挙動に追従しにくいため、石材にひび割れが生じたり、脱落することがある。
(4)2日に1段しか施工できないために、工期が長くかかる。
(5)石厚が乾式工法に比べて薄くできるが.裏込めモルタルを含めた全重量が大きく、構造的に負担が大きい。
一方,外壁湿式工法には衝撃に強い利点もあり,1階の腰壁等、衝撃を受けやすい部位等に採用するのは有効である。
これらのことから、(2)及び(3)に述べた事項に留意して施工すれば、外壁湿式工法も十分に採用可能な工法であり、「標仕」では、RC構造(地震時の層間変位 1/500以下程度)で.小規模の中層建物(高さ10m以下)を対象としてこの工法を規定している。
図10.3.1外壁湿式工法の例(JASS9より).jpg
図10.3.1 外壁湿式工法の例(JASS9(一部修正)より)
10.3.2 材  料
a)石材の厚み
石材の厚さは、石材と下地がモルタルで接着されることから、厚さ25mmで耐衝撃性を満足すると考えられる。ただし、25mmは最小限の厚みである。石材が薄くなるとぬれ色、白華が発生しやすくなるため、石の裏面処理が必要となる。
b)石材の加工
1)引金物用穴あけ
石材の上端の横目地合端には、石材両端より100mm程度の位置に引金物用として2箇所の穴をあける。 引金物を目地部に突出させないため、金物の径に相当する溝を石材合端に彫る。これを道切りという。
2)だぼ用穴あけ
同じく、石材の上端の横目地合端には、石材両端より150mm程度の位置にだぼ用の2箇所の穴をあける。 石材の下端には、石材の割付けに従い、下段の石材のだぼを受ける位置に穴をあける。
3)座彫り
石材の荷重を受けるために用いられる山形鋼製の受金物を目地に納めるために、その厚さと寸法に相当する部分を石材合端に欠き込む。 これを座彫りという。
4)石材裏面の処理
石材のぬれ色や白華を防ぐために、石材裏面に止水性のある変成エポキシ樹脂やアクリル樹脂製の裏面処理材を塗布する。また、衝撃により石材の破損が懸念されるときには. ガラス繊維製のメッシュのような裏打ち処理材を石材裏面に接着して補強する。 これらはいずれも特記される。
10.3.3 施 工
a)取付け代
取付け作業を適切に行うために、石裏とコンクリート躯体との間隔は 40mmを標準としたが、これは躯体の施工誤差 ±15mmを見込んだ大きな寸法である。躯体をはつることのないよう、躯体の面精度を管理することが重要である。
b)下地ごしらえ
1)種類
石材は重量の大きい仕上げ材料であるため、施工後にはく離・はく落等が生じないよう、下地ごしらえを確実な工法により行う必要がある。コンクリート躯体の豆板については硬練りのセメントモルタル等で、ひび割れはエポキシ系樹脂の注入や Uカット後にシーリング材の充填等で事前に補修する。また、セパレーターについては、防錆処理を施す。下地の確認と補修が完了後、下地ごしらえを行うが、その適用は特記され、特記のない場合には流し筋工法とする。
①流し筋工法
流し筋工法で埋込みアンカーの設置位置は、縦筋が配置しやすいように、鉛直方向の通りをよく配置する。その際、縦筋は石材の割付けによって、引金物の位置から縦筋が100mm程度になるように、450mm程度の間隔で配置する。
また、横筋は石材の割付けに基づき、高さを精度良く出し、水平方向の通りがでるよう配置する(図10.3.2 参照)。
図10.3.2流し筋工法(JASS9より).jpg
図10.3.2 流し筋工法(JASS9より)
②あと施工アンカー工法
あと施工アンカー工法ではアンカー施工に先立ち、石材の割付けに基づき、石材の引金物とアンカーの位置が一致するよう精度良く墨出しを行う。コンクリート躯体内部の鉄筋等のため所定の位置にアンカーを配置できない場合は、部分的に流し筋との併用工法が取られることがある。
③あと施工アンカー・横流し筋工法
あと施工アンカー・横流し筋工法でのアンカーは、石材の割付けに基づき、あとで横筋が配置しやすいように、所定の高さを精度良く出し、水平方向の通りが出るように配置する(図10.3.3参照)。特に、あと施工アンカー工法に用いるアンカーには打込み式のものが用いられている。あと施工アンカーは、めねじ形(打込み式)よりも信頼性の高いおねじ形(締込み式)アンカーが推奨される。
図10.3.3 あと施工アンカー・横流し筋工法.jpg
図10.3.3 あと施工アンカー・横流し筋工法(JASS9より)
2)受金物
石材を湿式工法で高さ方向に連続して張り上げる場合には、上方の石材の荷重を下方の石材に伝えないように、高さ 2m程度ごとに受金物を設けて荷重を受ける。また、水平の伸縮調整目地部には必ず受金物を設ける。
受金物を設ける位置は、引金物やだぼと干渉すると、これらの金物の取付けが適切にできなくなることに留意し、石材の幅寸法によって石材端部より 0~ 250mmの範囲に納める。これらの金物の配置例を図10.3.4に示す。
図10.3.4 引金物と受金物の配置例(JASS9より).jpg
図10.3.4 引金物と受金物の配置例(JASS9より)
3)防錆処理
溶接箇所はすべて防錆処理を施す。ステンレス製の金物であっても溶接箇所から錆が発生するので注意を要する。また、溶接作業は火花で石材を汚損させるので、石材を張る前に完了させる。もし、溶接作業が事前に完了しない場合には、火花が石材に降り掛かる事のないように、合板や防災シート等で十分養生する。
c)石材の取付け
(1) 最下部の石材
最下部の石材の据付け精度が壁面全体の仕上りに大きく影響する。精度良く石材を取り付けるために、墨出しが重要になる。最下部の石材は、仕上げ墨に合せて水平、かつ、垂直になるよう、くさびを石材の底面及び躯体との間に差し込み、石材の上部にばね金物等を設けて位置の調整を行う。次に、底面の2箇所を取付け用セメントで固定し、石材の上部を引金物で躯体に固定する。
(2) 一般部の石材
上段の石材の取付けは、下段の石材との間にプラスチック製のスペーサーを挟み込み、目地合端に引金物、だぽを取り付ける。だぼは、図10.3.5に示す通しだぼを用いる。腰掛だぼは耐震性が低いので、使用してはならない。
(3) 出隅の石材
出隅部にはかすがいを用いて出隅を構成する石材同士を緊結する。
(4)金物の固定
石材への引金物やだぽの固定に使用する材料は石材施工業者の仕様によるが、一般的にはエポキシ樹脂接着剤を使用する。硬化不良や石材の汚染を引き起こさないように、材料の計量、かくはん、被着物の処理、可使時間、温度管理等には十分留意する
図10.3.5一般部の石材の据付例.jpg
図10.3.5 一般部の石材の据付け例(あと施工アンカー工法の場合)(JASS 9より)
(d) 裏込めモルタルの充填
(1) 前作業
目地から裏込めモルタルが流出して空隙ができると、水みちとなってぬれ色・白華等の汚れや漏水の原因になる。それを防止するために、目地に目地幅+2mm 程度の径の発泡プラスチック材を裏込めモルタルの充填に先立ち挿入する。挿入深さは 8〜10mm程度で、目地モルタル又は弾性シーリング材の底面までとする。
(2) 充填作業
裏込めモルタルを充填する準備として、下地面に適度な水湿しを行う。まず下端から 200~300mmに裏込めモルタル(最下部の場合は根とろ、それ以外は下とろと呼ぶ。)を充填し、硬化後順次裏込めモルタル(注ぎとろと呼ぶ。)を充填する。注ぎとろは モルタルの圧力で石が押し出されないようにするため、2〜3回に分けて行う。
(3) 充填高さ
裏込めモルタルは図10.3.6に示すように、石材の上端から 30〜40mm下がったところまで充填しておき、上段の石の下とろと同時に充填して上下段の石の一体化を図る。ただし、伸縮調整目地部分では上下段の石の縁を切るためモルタルを上端まで充填する。
最下部については、裏込めモルタルが硬化したのを見計らって、くさびを必ず取り外し、くさび跡にモルタルを充填し、こて押えをしておく。木製のくさびの放置は、石材を著しく汚染する原因となる。
図10.3.6裏込めモルタルの充填.jpg
図10.3.6 裏込めモルタルの充填(JASS9より)
(e) 目地
(1) 一般目地
ⅰ)目地幅
外接湿式工法で採用する目地幅は、一般目地では挙動が少ないと判断されることから6mm以上としている。
ⅱ)目地さらい
裏込めモルタルがある程度硬化するのを待って、流出防止用の発泡プラスチック材を取り除く。その際、目地深さが所定の寸法にあるかを確認し、不足の場合は目地をさらってそろえる。
ⅲ)目地材の充填
目地部は、はけ等を用いて清掃を行ってから目地詰めをする。目地材としては、市販の既調合セメントモルタルの目地用材料を使用し、確実に目地詰めする。目地の空隙は雨水の侵入口となり、白華や漏水の原因となる。目地詰め直後に水洗いをするとセメント分が流出し、石材を汚したり化粧目地表面が傷むなどの問題があり、目地詰め前に水洗いする。
ⅳ)シーリング材の充填
外壁面の止水性の向上を意図し、特記により一般目地シーリング材を適用することであるが、幅 6mm程度の狭い目地では確実なシーリング施工が困難である。止水性は、石材仕上げ面で確保できると考えるのは禁物であり、躯体面で確保するのが基本である。シーリング材の充填に当たっては、プライマーやシーリング材で石材表面を汚さないように注意する。
(2) 伸縮調整目地
ⅰ)設置位置
伸縮調整目地は、裏込めモルタルの収縮と石材の熱伸縮による挙動の差異による悪影響等を防止するために設ける。
湿式工法の伸縮調整目地の位置は、鉛直方向が1スパンに1箇所程度、間隔にして 6m程度が一般的である。また、水平方向は躯体コンクリートの水平打継ぎ部に合わせて各階ごとに設ける。
ⅱ)設置工法
伸縮調整目地は、図10.3.7に示すように、裏込めモルタルの部分にも発泡プラスチック材を挿入し、躯体面まで完全に縁を切る。更に、躯体面の打継ぎ目地や伸縮調整目地と位置を合わせるのが基本である。
ⅲ)目地寸法
伸縮縮調目地の寸法は、目地の機能を発揮でくる寸法を確保できるよう、特記を基本とする。
図10.3.7伸縮調整目地の状況.jpg
図10.3.7 伸縮調整目地の状況(JASS9より)

10章 石工事 4節 内壁空積工法

第10章 石工事
4.内壁空積工法(からづみこうほう)
10.4.1 適用範囲
空積工法は 内壁石張り専用として考案されたものであり、「標仕」では 一般的な天井高さを考慮して4m以下を適用範囲としている。4mを超える内壁には原則として乾式工法等を採用するようにする。
内壁の石張り工法には 従来湿式工法や帯とろ工法が採用されてきた。 前者は、外壁工法で述べたように 裏込めモルタルに起因する石材のぬれ色や白華現象, そして施工に長時間を要することなどの理由から、内装の石張りには使用されなくなった。後者は帯とろの施工が現実には適切に行えないこと、また、一部には腰掛だぼの使用に起因するはく離事故が生じたことなどの欠陥が露呈した。これらのことを背景にして、図10.4.1に示す空積工法が登場し、内壁石張りの主流になった。
  図10.4.1内壁空積工法2.jpg
図10.4.1 内壁空積候補う壁縦断面図(JASS9より)
10.4.2 材 料
( a )石材の厚み
内装用の石材の厚みは、経済的理由によりますます薄くなる傾向にある。石厚が簿いと小さい衝撃でも破損し、はく落の危険性があるため「標仕」では20mmを最小有効厚さと規定し、薄い石材の使用への歯止めをかけている。
( b )石材の加工
石材の加工は 外壁湿式工法に準じる。内壁の石張りで石材の裏面処理が必要となる例は、風除室や浴室のように床面からら水分が取付け用モルタルを介して幅木石や根石に浸入し、 石材を破損する場合等である。
10.4.3 施 工
( a )取付け代
石材裏面から躯体面までの取付け代は、外壁湿式工法と同様に40mmとする。
よって、最低石厚さ 20mm以上を考慮すると設計上の仕上げ厚さは 60mm以上となる。
( b )下地ごしらえ
(1)工法
下地ごしらえは、外壁湿式工法に準ずる。あと施エアンカーエ法の例を図10.4.2に示す。
(2) 受金物の設置
受金物の設置は、外壁湿式工法に準ずる。しかし、石材の積上げ高さが3m以下、すなわち、一般的には天井高さが 3mに満たない室内の内壁では、下部の石材に伝達させる上部の荷重が小さいことから受金物を使用しなくてもよいこととしている。
(3)防錆処理
防錯処理については、外壁湿式工法に準ずる。
図10.4.2あと施工アンカー工法の例.jpg
  図10.4.2 あと施工アンカー工法の例(JASS9より)
( c )石材の取付け
(1)最下部の石材
最下部の石材の取付けは外壁湿式工法に準ずる。
(2)一般部の石材
一般部の石材は、下段の石材の横目地合端にだぼをセットし、目違いのないように据え付け、上端を引金物で緊結していく。内壁石張り特有のねむり目地の場合には糸面をとり、ビニルテープを下段石の上端に2箇所、両端より125mm程度の位置に張り付け、石材どうしの直接的な接触を避ける。これは、小口付近の石材表面のはま欠けを防止するための策である。
はま欠け:
エッジに強い力が加わることでエッジを基点に貝殻状に表面が欠けた状態。
深さが浅ければ強度的にさほど問題にはならない。
標準的な取付け工法の詳細を図10.4.3に示す。
図10.4.3標準的な取り付けの詳細.jpg
図10.4.3 標準的な取付けの詳細(断面図)(JASS9より)
(3)金物の固定
( i )引金物
空積工法の場合は、下地と石材とは引金物により緊結し、その回りを取付け用モルタルによって固めるが、この取付け用モルタルは、引金物の固定及び圧縮材として重要であり、石張り後に破損、脱落してはならない。したがって、単に引金物回りの被覆とするのではなく、躯体と石材との間に所定の寸法となるよう団子状に充槙する必要がある。このため、取付け用モルタルの充填に先立ち、引金物取合い部にポリエチレンフォームのような適切なバックアップ材を挿入し、これを型枠代わりとして充填する。
(ⅱ)かすがい
かすがいは、出隅部の隣り合う石材の相互の位置を固定するために使用する。
(ⅲ)だぼ穴充填材
だぽ穴の充填材としては、一般にセメントペト又は樹脂を使用するが、ねむり目地の場合には、だぽ穴に樹脂を使用すると樹脂のはみ出しにより石材相互が接着され、石材の動きを拘束することになるため避ける。
(4)補強
空積工法の場合は、石材の裏面が空洞となっているため、衝撃等による割れのおそれがある。 このため、衝撃の可能性の高い床上 1.8m間の石材で、特に石材1枚当たりの寸法が大きい場合は、図10.4.4に示す引金物と取付けモルタルによる補強を行うこともある。この補強をあてとろという。
図10.4.4あてとろの配置例.jpg
    図10.4.4 あてとろの配置例
( d )裏込めモルタルの充填範囲
幅木に相当する壁面部分は、荷物台車、清掃用具及び靴先等による衝撃を受ける可能性がある。 これらの予期しない衝撃による石材の破損を防ぐために、幅木の裏面には裏込めモルタルを充填する。 幅木のない場合の最下部の石材裏面には、高さ 100mm程度まで裏込めモルタルを充填する。 その際、ぬれ色や白華の発生防止に留意する。
( e )目地
(1)一般目地
従来は、内装石張りの場合、意匠性を重視してねむり目地が採用されることが多かった。 しかし、兵庫県南部地震の被害状況調査によれば、構造体の変形により石材同士が目地部分で競い合うことによる被害が見られた。 これを避けるためには、内壁にあっても必要な目地幅を確保することが望ましい。
(2)伸縮調整目地
最下部の石材(根石)と床仕上げ材とは縁を切るため、伸縮調整目地を設ける。また、壁の出隅、入隅及び平面的に長い大壁は、通常の柱スパンごと( 6m程度 )に伸縮調整目地を設ける。 特に大理石仕上げで、ねむり目地とした場合は必須である。 窓枠等他の材料と取り合う部分にも伸縮調整目地を設ける。 地震による水平力を考慮した場合, 天井との取合い部の納まりとしては、壁面の石材を天井にのみ込ませるのではなく、図10.4.5に示すように天井をのみ込ませる方が天井材の衝突による石材の破壊を回避できる。
図10.4.5天井との取合い部.jpg
  図10.4.5 天井との取合い部(JASS9より)

10章 石工事 5節 乾式工法

第10章 石工事
5.乾式工法
10.5.1 適用範囲
乾式工法は石材を1枚ごとにファスナーで保持する工法で、躯体と石材間での自重、地震力、風圧力等伝達はファスナーを介してなされる。
本節の適用範囲を外れる場合はもちろん、適用範囲内であっても地震力、風圧力等の外力の適切な設定と、石材物性の把握、許容耐力の設定が重要なポイントとなる。
石材の曲げ強度や仕口部耐力の設定は事前の試験により、統計的な処理に基づいて定めるのが一般的である。
(1)利点及び注意点
( ⅰ )利点
 ① 躯体の変形の影響を受けにくい。
 ② 白華現象、凍結による被害を受けにくい。
 ③ 工程、工期短縮が図れる。
( ⅱ )注意点
 ①風圧、衝撃で損傷した場合、脱落に直結する。
 ②物性値(曲げ、仕口部耐力、ばらつき)の把握が重要である。
(2)適用高さ
建物高さを31m以下としているのは、建築基準法において、構造耐力上の検討条件が異なる場合があること、また、過去の実例でも高さ31mを超える建物での使用実績があまりないことにもよっている。
(3)適用石材
石厚 70mm以下としたのも実績による。1枚の施工可能な質量(40~60kg程度)からみて、厚い石材では施工性が悪くなる。
(4)適用下地
近年ではコンクリート壁以外の鉄骨下地等に石材を取り付ける場合もある。乾式工法は他の石張り工法に比べ対応しやすい工法ではあるが、下地の挙動等、個別の条件に対応したファスナー金物、目地形状等の検討が必要である。ここでは、地震時等の変形量が小さいRC造、SRC造のコンクリート壁を下地とする場合を想定している。
(5)品質確保の留意点
( ⅰ )石材の試験
石材は天然材料であり、同じ種類の石材であっても採石場所により性質にばらつきが生じる。このため設計図書に石材名が明記されていたとしても、各種の試験を実施し、乾式工法を採用する際に構造計算上から必須となる曲げ強さ及びだぼ部耐力等を把握しなければならない。通常、設計段階で試験が実施されることはなく、慣行的に工事着工後の初期段階で実施されている。石工事では、ALCパネルや押出成形セメント板のような製品データの定まった工業材料とは設計の考えが根本的に異なり、施工の段階で設計の品質をつくり込むことが行われる。
したがって、試験結果によっては目算と異なり、設計図書に記載の石材の寸法や厚さでは耐力上不適切で、寸法や厚さの設計変更が必要になる場合がある。この場合には、設計担当者と打ち合わせ、「標仕」1.1.8によって設計変更を行うなどの対応が必要である。
( ⅱ )耐風圧性
乾式工法は、石材を通常4箇所のファスナーで保持しており、実際には4本のだぼでファスナーに取り付けている。外壁に作用する風圧力は.負圧が高まることから建物の隅角部で最大値を示すのが通常である。この最大風圧力(引張力)に対して、乾式工法で取り付けられた石材が曲げ破壊やだぼ部の破壊を生じることのないように設計する必要がある。
通常、4箇所のファスナーが等分に風圧力を負担することは困難であり、1箇所が遊ぶと考え、対角方向の2箇所で支持するものとして計算を行う。また、石材の性質のばらつきを考慮したうえで、更に安全率を見込んでいる。
(ⅲ)耐震性
地震の作用としてどの程度の力をみるかについては論議がある。現状では、(社)日本建築学会「非構造部材の耐設設計施工指針・同解説および耐震設計施工要領」にのっとるのが一般的である。同書によれば、水平力は1.0G、鉛直力は0.5Gが最大値となる。水平力に対して石材は十分な耐力を有すると考えられるが、鉛直力に対しては石材下辺の2箇所のファスナーで支えられることとなり、鉛直力に石材自重を加えた力が作用した場合にも有害な残留変形が生じないようにファスナーを設計することとなる。
最大強制変形角については個々の建築物によって異なるために特記によらなければならない。
(ⅳ)水密性
外壁の水密性は、外壁に作用する最大風圧力の1/2の風圧力時にも屋内側へ漏水を起こさないようにするのが一般的である。外壁の乾式工法では石材間の目地・石材とサッシのような他材料との目地等、数多くの目地があり、いずれも防水性のある目地としなければならない。一般的には目地にシーリング材が充填されるが、シーリング材の寿命に依存することとなる。この外壁表面を一次止水面と考え 更に躯休表面を二次止水面に設定し.防水性を高めることが多い。
したがって、外壁の乾式石張工事に先立ち、躯体コンクリートの打継ぎ部やその他の防水上の弱点部を防水処理する。
10.5.2 材 料
( a )石材の厚み
「標仕」では、特記のない場合の石材の最小厚さを有効厚さで規定している。ジェットバーナー仕上げ(表10.2.5参照)等の粗面仕上げでは出来上りの厚さで 2mm以上厚くなるように設定しておく。
厚さは張り石の曲げ耐力や仕口部耐力に大きく影響する。 前記物性試験においても予定厚さのものに加え、5~10mm厚い石材での試験も実施しておいた方がよい。
物性試験の結果によっては設計外力に対し、十分な強度が得られず、割付けの変更(張り石の見付け寸法の変更) が必要となる場合がある。 また仕口部耐力は石厚さを数mm増した程度では耐力が増加しないという試験結果もあるので慎重な検討が必要である。
なお 形状は矩形を原則とし、切欠き、穴あけ等を避ける。
( b )石材の加工
(1)穴あけ
だぼ用の穴あけは石材両端より辺長の1/ 4程度の位置に設置するのが、一般的である。 両端はね出しの梁と考えたときにも曲げ応力が有利になる。
穴あけ加工はドリルを用い、水冷しながらの工場加工とし、板厚の中央に正確にせん孔する。 振動ドリル等不要な衝撃を与える加工機器は用いない。
(2)石材裏面の処理
乾式工法の裏面処理については 内壁空積工法と同様に考える。
各種の織布・不織布と樹脂による裏打ち処理は万一の破損時に小片が脱落するのを防止すると同時に耐衝撃性の向上に効果がある。
( c )ファスナー
現場打込みのコンクリート壁の精度、あと施工アンカーの精度を考慮すると、上下左右、出入り方向とも10mm程度以上の調整機構が必要となる。一次ファスナーのみの形式では調整が非常に困難になるうえ、隣接石材との調整も繁雑となることから、「標仕」では二次ファスナー用いる形式を前提としている(図10.5.1及び2参照)
図10.5.1スライド方式のファスナーの例.jpg
図10.5.1 スライド方式のファスナーの例(JASS9より)
図10.5.2ロッキング方式のファスナーの例.jpg
図10.5.2 ロッキング方式のファスナーの例(JASS9より)
10.5.3 施 工
( a )工法の決定
乾式工法を外壁に適用する際には、建築基準法施行令第82条の4、平成12年建設省告示1458号に従って算出した風圧力に対して、張り石各部に発生する応力が部材の許容応力度を超えないよう、工法が特記される。
( b )取付け代
躯体の精度±10mmとファスナー寸法60mmから、石材裏面から躯体表面までの取付け代は70mmを標準とされた。過大に設定するとファスナーが大きくなり、経済性が損なわれる。
( c )下地ごしらえ
ファスナー金物用あと施工アンカーの施工に先立ち、躯体のセパレータ一部の止水処理、打継ぎ目地や誘発目地へのシーリング施工、場合により塗膜防水の施工を行う。コンクリートの欠陥部には適切な処置を施しておく。あと施工アンカーはそのアンカー耐力を確認する。
あと施工アンカーの穿孔が躯体鉄筋に当たることが多い。図面上の鉄筋位置と実際の位置との照合が必要であるが、鉄筋探知機等を利用するか、試験的な穿孔をする。鉄筋に当たった場合、穿孔位置を変更せざるを得ない。鉛直筋の場合には水平方向に逃げ、水平筋の場合には鉛直方向ヘ一次ファスナーの上下を反転して使用できる範囲内に逃げる。それでも納まらない場合には.ルーズホールを長くした一次ファスナーの役物の使用を検討する。
隣り合うあと施工アンカーの間隔及び躯体隅角部端部からの離れ距離は100mm以上確保する。
10.3.3 (b)(1)③で解説した打込み式のあと施工アンカー(めねじ形)は、許容引張耐力が小さいため.乾式工法では使用しない。
( d )幅木の取付け
壁最下部の幅木石は台車等の衝突による破損が多い。衝撃対策として10.4.3(b) (4)に示したようにモルタルを充填する。
排水処理を考慮し、石材には裏面処理等のぬれ色・白華対策が必要となる(図10.5.3参照)。
図10.5.3幅木部分の例.jpg
    図10.5.3 幅木部分の例
( e )ファスナー及び石材の取付け
(1)一次ファスナーの取付け
一次ファスナーの出入りはライナープレートを用い、上下左右はルーズホールで調整して取付け位置を定め、一次ファスナーをあと施工アンカーに固定する。 石張りの水平精度は一次ファスナーの取付け精度で決まるため.特に上下方向は載荷によるファスナーのたわみを考慮して正確に取り付ける。現場浴接は行わない。ダブルナット又は緩止め特殊ナットを使用する。
(2)二次ファスナーと石材の取付け
一次及び二次ファスナーの緊結は、(1)と同様にボルトによる摩擦接合とし.現場浴接を行わない。
石材を二次ファスナーに連結するためのだぼを石材に固定する方法には、ファスナーの形式により二とおりがある。上の石の下部と下の石の上部を支える二次ファスナーが別個になっている場合(例えば「標仕」表10.2.4のスライド方式) には、あらかじめ上部のだぼを石材に固定しておくことができる。しかしながら、通しだぼのような場合(例えば「標仕」表10.2.4のロッキング方式)には、だぼはあと付けにならざるを得ない。
次に.スライド形式のファスナーを用いた場合の石材の代表的な取付け手順を示す。まず石材の上部のだぼを事前にだぼ穴充填材を用いて確実に取り付ける。出人り及び左右の精度を調整して二次ファスナーを一次ファスナーに取り付ける。 石材下部のだぼ穴にだぼ穴充填材を充填し、直ちに二次ファスナーに取り付いているだぼに石材を乗せ、二次ファスナーに荷重をあずける。次に.石材の上部のだぼを通して上部用の二次ファスナーを一次ファスナーに取り付ける。出入墨・割付け墨に合わせて張ったピアノ線等を指標として.石材の取付け精度を確認する。確認後、上部の二次ファスナーの固定を緩まないように確実に締め付ける。
この繰返しにより、一次ファスナーで調整しきれなかった分を調整し.壁面の下部より上部に向かって石材を積み上げていく。
最下段のファスナーの場合は、張り石を仮置きし調整する。載荷によるファスナー金物のたわみやなじみにより、ファスナーと下部石材との間のクリアランスが確保できない場合は、一次ファスナで再調整する。下部石材と上部石材の間にスペーサー(アクリル製等)を用いた調整を行うと、ファスナーに荷重がかからず、上部石材の荷重が下部石材に伝達されてしまうので、このような用い方はしない。
(3)だぼの固定
だぼ穴充填材がはみ出すと変位吸収のためのルーズホールをふさいでしまう。充填量に留意すると同時に不要な充填材は硬化前に除去する。石材上端ファスナーとだぼでスライド機構を設ける場合は、だぼの出寸法の管理が重要である。抜け防止のため、つば付きだぼピンを用いることも多い。
( f )目 地
(1)目地幅の設定
乾式工法では.目地内にファスナの金物が配置されることになり、施工精度を向上させなければ十分に通りよく、クリアランスを確保した施工は難しい。そのため、上下の石材間にスペーサーを挿入して目地幅を調整することがあるが、スぺーサーを撤去しないと上部石材の荷重がファスナーではなく下部石材に伝逹されてしまう。このようなスペーサーの用い方をしてはならない。また縦長の張り石では地震に石材の回転が生じ上部ファスナーとの接触も生じかねない。目地幅は広めに設定することが望ましい。
(2)シーリング材の充填
乾式工法の目地には、壁面の防水のためにシーリング材を充填する。目地幅・深さともに8mmを最低値と考える。
シーリング材は2成分形ポリサルファイド系シーリング材が一般的である。シリコーン系や1成分形ポリサルファイド系シーリング材では、シーリング材の成分による石材の汚れが発生する。他部位との取合いで2成分形変成シリコーン系シーリング材も使用される。

10章 石工事 6節 床及び階段の石張り

第10章 石工事
6.床及び階段の石張り
10.6.1 適用範囲
建物内部及び建物周辺の外部床又は階段に、石材を仕上材としてセメントモルタル並びに張付け用ペーストで施工する工事に適用する。下地コンクリートとして土間スラブ、構造スラブ、防水層保護コンクリート等がある。
人が直接接触する部位であること、様々な外力が作用すること、外部にも使用されることから次のようなことに留意する。
 (1)吸水率が少ないこと。   
 (2)耐酸性があること。
 (3)耐摩耗性があること。    
 (4)汚れにくいこと。
 (5)ぬれた状態でも滑りにくい表面加工とすること。
 (6)部分的な凹凸がなく、平たんであること。
10.6.2    床の石張り
(a)材料
(1)石材の厚みと加工
床用の石材は歩行等の外力が常に作用するので、外壁よりは厚めのものが用いられる。有効厚さ30mm以上が一般的で車両通行部位では40~50mm以上が用いられる。
薄い場合には割れ等の欠陥が出やすい。
滑りに配慮し、本磨きや水磨きは避ける。 また、使用状況から、水掛りとなる部位や、水が持ち込まれやすい部位では粗面仕上げとする。
(2)石材裏面の処理
裏面処理はぬれ色・白華防止を目的としてなされるが、
裏面処理材にはモルタルとの付着性が悪いものもあるので、目的に合った材料を使用して、小口部分も忘れずに処理を行う。また、ぬれ色は下地の適切な排水によっても防ぐことができるので、裏面処理材のみに頼るのではなく、排水計画の十分な検討が必要である。
また、エントランス、風除室等は外部からの雨水が持ち込まれやすく、また、外構から連続して防水がなされていることが多く、屋外側の水が、敷モルタル層を通じて屋内側に浸入し、ぬれ色や白華が発生している例がある。室内側にも防水を施す場合には防水立上りで内外を遮断し、排水経路を確保するなど、対応が望まれる。
また、外部から持ち込まれる雨水に対しては入口に排水溝を設けグレー チングを設置するなどの対策も有効である。 天候に応じてマットを設置したり、こまめなふき取りで対処するなど、維持管理面での対応も有効であり、維持管理 ・ 保全に関する情報として使用者に伝えておく必要がある。
(b)取付け代
下地コンクリー トの凹凸・不陸及び石厚の誤差を吸収するために、石厚に応じた取付け代が必要となる。 特に石厚 50mmを超える割石の場合には、石厚のばらつきが避けられないため、取付け代は 60mm程度とされている。
(c)下地ごしらえ
下地コンクリートにワイヤブラシをかけ水洗いするなど、十分な清掃を行ったのち、水湿しを行い、コンクリートとの付着阻害やドライアウトを防止する。 敷モルタルは所定の厚さで均等に定規で均しながらむらなく敷く。
敷モルタルはセメント1に対し、砂4程度に少量の水を加え、手で握って形が崩れない程度の硬純りモルタルとする。
敷モルタルの厚さの不均ーが仕上げ面にも影響し、割れ、はがれ等の原因となるので、下地コンクリートの大きな不陸は、あらかじめモルタルで調節しておく。
(d)石材の据付け
(1)仮据え
柱脚部や周辺壁に記されたろく(陸)墨より張った水糸に合わせて石材を仮据えし、十分なたたき締めを行う。 あと工程の本据えで隙間が生ずると、割れ、はがれの原因となるので、特に入念に行う。
(2)張付け用ペーストの散布
普通ポルトランドセメントに水を加えた張付け用ペーストを敷モルタルの上に、石材の裏面全面に行きわたるように十分に散布する。
張付け用ペーストは、石材と敷モルタルを付着させるだけでなく、荷重を分散させる目的もある。
また、張付け用ペーストの量が少ないと、石裏に空隙ができ、水に接する外構や出入口回りではぬれ色が抜けにくいことがあるので十分な量を散布する。
(3)本据え
張付け用ペースト散布後、再度石材を置き、木づちやゴムハンマー等で十分たたき締め、不陸や目違いがないように本据えを行う。
(e)目 地
目地は意匠や調整代の目的だけでなく、目地を設けることにより、石材を面として一体化させたり(目地モルタルによる一般目地)、取合い部等での挙動吸収を目的としてシーリング材を施す目地もある。目地部分から雨水や清掃水が流れ込み、ぬれ色・白華の発生等様々な障害を起こしやすい。
床石では、施工時の角欠けや、砂利等が挟まった時の角欠けも多いので、十分な幅の目地を取ることとしている。
(ⅰ)一般目地
①   目地幅
目地幅は目地モルタルやシーリング材が確実に施工できるだけの幅を取る。外部は日射等による挙動の影響があるので、内部より広くする必要がある。
②目地材の充填
石材の上に乗って作業しても差し支えない程度に敷モルタルが硬化したのちに目地材の充填を行う。
目地モルタルはゴム付きへら(ワイパーモップ)を用いて全体に行きわたるよう目地モルタルを詰め込む。
目地からはみ出した余分なモルタルは、乾いた布で速やかにふき取り、仕上げる。
③ シーリング材の充填
シーリング材は2成分形ポリサルファイド系シーリング材が一般的である。まれに室内床で1成分形シリコーン系シーリング材が使用されるが、シリコーンシーリング材特有の汚染が発生したり、再施工時に新規シーリング材との接着性が阻害されるので好ましくない。
(i)伸縮調整目地
① 設置位箇
石材そのものあるいは躯体側コンクリート・下地コンクリートの膨張や収縮によって、部材の割れ、せり上り、目地割れ等の障害が予想される場合には、伸縮調整目地を設ける。
床面積が広い場合や、細長い通路で一方向の変動が大きい場合は床面積 30m2程度ごと、細長い通路の場合 6 m 程度ごとに伸縮目地を設ける。
隅の立上り部分にも部材の挙動が集中する場合があるので 伸縮調整目地の設置を考慮する。
② 設置工法
伸縮調整目地は図10.6.1に示すように発泡プラスチック材等の弾性目地材で敷モルタルを仕切り、目地とする。
防水層保護コンクリートを下地とする場合も、防水層保護コンクリートの伸縮目地と同じ位置に伸縮目地を設け
る。 位置がずれていると、下地の挙動で石材等にひび割れが発生する場合が多い。
伸縮調整目地にはシーリング材を充填し、仕上げる。
2成分形ポリサルファイド系シーリング材が一般的である。
壁際等雨水のたまりやすい部位ではシーリング材も故障を起こしやすく、雨水の浸入が白華を招くことも多い。
図10.6.1_伸縮調整目地の例.jpg
図10.6.1 伸縮調整目地の例
10.6.3    階段の石張り
階段の踏石は床の石張りに準じ、け上げ石は外壁湿式石張りに準じて施工する(図10.6.2 参照)。
屋外階段では、躯体や下地で十分な水勾配及び排水経路を確保し、水が滞留しないことを確認する。水勾配が不十分な場合や滞留水がある場合には、モルタルで下地を補修しておく。踏面に使用する石材は防滑性を高めた粗面仕上げとする。また、床面の張り石との納まりや、排水溝との関係に留意する。 階段石がむく石の場合はアングル材等で下地コンクリートと敷モルタルのずれ防止を講ずる場合もある。
板石を用いた例.jpg
イ.板石を用いた例
むく石を用いた例.jpg
ロ.むく石を用いた例
   図10.6.2 階段石の例

10章 石工事 7節 特殊部位の石張り

第10章 石工事
7.特殊部位の石張り
10.7.1 適用範囲
アーチ、上げ裏笠木、甲板等に石材を用いる場合はその条件の特殊性を十分考慮して、計画施工する必要がある。 施工面においても標準工法のほか、特殊な材料や工法等の併用が必要となる。
組積造に見られるアーチでは、石材には圧縮力しか作用しないようになっているが、現在、わが国で施工されるアーチ、上げ裏の石材は板材を吊る形式のため、石材に自重が長期荷重として作用するので、長期の曲げ及び引張り耐力が必要である。 石材の耐力も含め、いかに安全策を講ずるかが重要である。
屋外の笠木等では真夏には石材表面が 60℃以上にもなる。 石材の熱伸縮を吸収するため、伸縮調整目地を適当な間隔に設ける。花こう岩の場合、線膨張率は 6~9 x 10-6/℃程度である。外壁等の部位が乾式工法であっても笠木、窓台等平場部分は湿式工法とすることが多い。白華の発生防止のため、笠木類を乾式工法で取り付ける時は金物が勾配なりに取り付けられるので、金物形状に注意する。
10.7.2    アーチ、上げ裏等の石張り
(a)    材料
(1)石材の厚み
石材の厚さは長期の耐力を見込み、十分な寸法を確保する。 溝加工や切欠きは避ける。
乾式工法同様石材の耐力が重要であるので、密度や吸水率等の一般物性のほか、曲げ、仕口部強炭を十分に把握しておく。
(2)石材の加工
(ⅰ)見上げ面
見上げ面は原則として、目地合端にだぼ・引金物用の穴を設ける。石材の幅又は長さが、350mmを超える場合は、吊りボルト用の穴を石材 1 枚当たり2 箇所設ける。
(ii) 下がり壁 ・カ石
下がり墜部分等は原則 として、縦目地合端にだぽ ・引金物用の穴を設け、引金物で保持する。
受金物用の力石は、斜めだぼ 2 本と接着剤併用で石材裏面に1枚当たり2箇所設ける。
なお、力石に代えて、アングル材をストー ンアンカーで固定する方式も用いられる。
(3)石材裏面の処理
アーチ、上げ裏の石材が万が一にも破損すると、すぐさま落下の危険が生じるため、ガラス繊維メッシュ等による裏打ち処理は有効である。
また、躯体コンクリートを伝わる雨水によるぬれ色や白華を防ぐために石裏面処理が有効である。
いずれの適用も特記されなければならない。
(b)取付け代
(1)湿式工法・空積工法
湿式工法及び空積工法の場合の取付け代(下地と石裏面の間隔)は,40mmを標準とする。
(2)乾式工法
乾式工法及び吊りボルトを用いる場合の取付け代は,70mmを標準とされている。
(c)下地ごしらえ
(1)見上げ面
湿式工法の場合は、流し筋工法を採用するが、上向きの溶接作業となるので防錆処理も含めて施工管理が重要となる。
乾式工法の場合は、壁面の場合とは異なり、先付けアンカーの適用を原則としている。
やむを得ずあと施工アンカーを採用する場合には、上向きに削孔して取り付けなければならいため、品質のばらつきや常時の下向き荷重に対して十分な安全率を見込んで計画する。 吊りボルトの取付けも同様に考える。
(2)下がり壁部分
荷重受金物を石材 1 枚当たり 2 箇所設骰する。
役物で L型にする場合は工場で一体化してくる。 当て石を接着し、合端にはかすがいを取り付ける。
(d)石材の取付け
(1)見上げ面
見上げ部分の石材の固定は、湿式工法では堅固な仮支持枠等で仮支えし、あいだぼ入れとし、引金物、受金物、吊金物を用いて,堅固に取り付ける。
吊りボルトは化粧ボルトを用いるが、意匠上吊りボルトを見せたくない場合は、厚めの石材とし、象眼する方法もある(図10.7.1 参照)。
乾式工法では石材自重による長期荷重が曲げや引張りとして作用するので、十分な安全率を見込む必要がある。   
石材寸法を必要以上に大きくしないとか、金物個数を増やすなどである。
金物、治具の工夫により、仮支持枠類を省略できる。
図10.7.1_上げ裏の施工.jpg
図 10.7.1 上げ裏の施工
( 2) 下がり壁部分
湿式工法では荷重受けとなる力石又は金物を下地に取り付けた受金物に乗せ掛け、引金物、あいだぼにより下地に緊結する。
乾式工法では石材側面のだぼを介しファスナーで面外と鉛直方向の支持を兼用する例もあるが、施工性を考慮して自重受けとなる力石や金物を用いる場合が多い。
湿式工法、乾式工法とも上げ裏部の石材を工場で一体化したL型部材を用いる場合、上げ裏部の石材合端にもだぼを設け、引金物、ファスナーを設置する。
壁目地にシーリング材が施工されても裏面への雨水の浸入は長期的には防ぎようがなく、その雨水が下がり壁下部より滴下したり、上げ裏石内部に水がたまる故障例があるので、雨水排出機構を確保する必要がある(図 10.7. 2 参照)。
図10.7.2_上げ裏部のフラッシングの例.jpg
図10.7.2 上げ裏部 フラッシングの例
(e)裏込めモルタルの充填
湿式工法を採用した場合には裏込めモルタルを充填するが、その方法は外壁湿式工法に準じる。
( f )目 地
特殊部位では形状納まりが複雑となり、また、施工性も決して良くはない。加工や施工の誤差を吸収するためにも十分な目地幅を確保する。 したがって、他部位との取合い部は誤差の吸収に加え、石張り面の挙動を考慮した十分な幅の伸縮調整目地とする。
10.7.3    笠木、甲板等の石張り
(a)    材料
(1)石材の厚み
笠木、甲板の石材は使用状況に応じた厚さとし、特に屋外に使用する場合は十分な厚さのものを使用する。
笠木では石厚 4Omm以上を採用することが 望 ましい。
(2)石材の加工
(i)湿式工法
湿式工法では、石材の幅が、300mmを超える場合は、目地合端の片側、両端部より50mrn程度の位置に引金物用の穴あけ、目地合端両側、両端部より85mm程度の位置にだぼ用穴あけを行う。 石材の幅が、300mm以下の場合は、目地合端の片側、中央1箇所に引金物用の穴あけ、目地合端両側の両端部2箇所にだぼ用穴あけを行う。
幅の小さい石材ではだぽに引金物を取り付け、引金物用の穴あけをなくし、加工に伴う欠陥を少なくする工夫もある。
(ii) 乾式工法
乾式工法では目地合端両側に,2箇所だぼ用穴あけを行う(図 10.7.3 参照)。
図10.7.3_乾式工法による笠木の取付け例.jpg
図10.7.3 乾式工法による笠木の取付け例(JASS 9(一部修正)より)
(3)石材裏面の処理
モルタルが比較的多く使用される部位であること、また、笠木は雨水を直接受けるので、白華防止のための石裏面処理は積極的に行うべきである。
外整にゴンドラを降ろすときの養生不備による損傷や、無理な加力もあり、笠木には不具合が発生しやすいが、
人目に付かず軽微なうちの故障が発見されにくいので、破損時に備えた裏打ち処理も検討する。
(b)取付け代
「標仕」では、湿式工法の場合は 40mmを標準とし、乾式工法の場合は特記によるとしている。笠木下地となるパラペット天端は躯体に屋上側への水勾配を設け、雨水の滞留、流出による白華の発生等の不具合防止を固る。
(c)下地ごしらえ
(1)湿式工法
石材の幅が、300mmを超える場合は、径 9mmのアンカーを下地天端で2 列に、間隔 400mm程度に設けておき、これに引金物緊結用鉄筋を添え溶接する。
石材の幅が 300mm以下の場合は、下地天端中央に引金物を設けて石材を取り付ける。
(2) 乾式工法
所定の位置にアンカーを設け、笠木、窓台の天端で水勾配を設ける。
(d)石材の取付け
(1)湿式工法
笠木の長さは、900mm程度とし、下地清掃と十分な水湿しののち、目地合端の片側にだぼを取り付けておき、
他端は、引金物を下地鉄筋に留め付け、通りよく目違い等のないように, 裏込めモルタルを隙間なく充填して固定する。
(2)乾式工法
(ⅰ)石材の輻が 300mm以下の場合は、両端部及び目地合端中央に1箇所ずつファスナーを設ける。
(ⅱ)石材の幅が 300mmを超える場合は、両端部及び目地合端に2箇所ずつファスナーを設ける。
いずれもファスナーは外れ止めで、鉛直荷重の支持は裏込めモルタルによる。全充填を基本とするが団子状に設置する場合もある。
(e)目 地
外部の目地は 8~10mmを標準とし、シーリング材を充填する。これは、止水及び変位吸収を目的としたもので、2成分形ポリサルファイド系シーリング材の使用が多い。   内部目地ではモルタル目地としてもよい。ただし、他部材との取合い部や、変位の予想される部分では伸縮調整目地とし、シーリング材を充填する。
(f ) 面台、棚板の据付け
笠木と同じく水平部材である屋内の面台や棚板の取付けは、床の石張りと同様に行う 。
10.7.4 隔て板
(a)材料
(1)石材の厚み
隔て板は一般的に自立壁となるので.薄い石材では思わぬ衝撃が加わった際に破損につながるため、厚さが特記される。 特記のない場合には40mmを標準とされている。
便所、浴室等に用いられるり隔て板の石質はテラゾが一般的であったが、近年は意匠上花こう岩や大理石の使用例が多い。
ただし、水回りでの大理石の使用には光沢の低下等の不具合が生じやすいので、その特質を踏まえて使用すべきである。
特に床にのみ込ませた石材の下部は、清掃時に汚れた水を吸い上げ、内部に染み込んだ汚れとなるので注意する。
(2) 石材の加工
石材の加工は、目地の合端にだぼ用の穴あけ、上端の端部にはかすがい用の穴あけを行う。
(b)工 法
隔て板と前板の固定方法は、一般的には石板上端を径 6mmのステンレス製かすがいを用い、併せて、縦方向に 2~3 箇所程度径5mmのだぼを用いて固定する。
自立する隔て板は、床仕上げ内に 20mm以上のみ込ませ、モルタルにより固定する。適宜補強金物を用いる。
隔て板と前板の固定は縦方向に 2 箇所以上のだぼを用いて固定する(図 10.7.4参照)。
図10.7.4_隔て板の例.jpg
図 10.7.4 隔て板の例
10.8.1 石先付けプレキャストコンクリート工法
「標仕」に示された湿式工法、空積工法、乾式工法以外に、よく用いられるエ法として「石先付けプレキャストコンクリートエ法」がある。  石先付けプレキャストコンクリート工法は、石材をあらかじめ工場でプレキャストコンクリートに先付けすることによって仕上げとし、カーテンウォールのような部材として取り扱う工法である。
したがって、仕上げ工程の高所での危険な作業が減り、資材運搬の効率化や労働カ・輸送の削減、工期短縮、地震力や風荷重に対する安全性向上等の長所があり、湿式工法や乾式工法では対応できない高層の建物や柔構造の建物等に多く採用されている。また、特殊な部位や特別な性能(電波吸収等)をもたせる外壁で張り石仕上げとする場合は、ほとんどがこの工法である。
石先付けプレキャストコンクリート工法では,石材裏面の処理が十分に行えるので、ぬれ色や白華の発生を防ぐことができる。また、プレキャ ストコンクリートに先付けされている石材は、建物の動きによる変形が直接影響しないため、割れ等を生じることがほとんどない。
詳しくは 17章 3節 日本建築学会 「JASS 9 張り石工事」、同「JASS14 カーテンウォール工事」等を参照

11章 タイル工事 1節一般事項

11章 タイル工事
01節一般事項
11.1.1 適用範囲
この章は、通常の建築の内壁、外壁及び床の表面に、仕上材として陶磁器質タイルをセメントモルタル又は接着剤を用いて手張りで施工する陶磁器質タイル張り工事、コンクリートの型枠にタイルを仮付けし、建築現場でコンクリートを打ち込む陶磁器質タイル型枠先付け工事に適用する。
11.1. 2 基本要求品質
(a) タイル工事に使用する材料としては、仕上げ材としてのタイルと張付け用材料が主なものである。このうちタイルについては、一般的な品質はJISによることにしている。また、タイルの寸法については、JISによって標準的なものが定められているが、実際の工事に当たっては、タイル割りによって若干タイルの寸法を調整することがある。この場合にあっては、指定寸法に対する許容寸法を定めるときに該当するJISの規定を適用する。タイル製品については、(-社) 公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」により評価がなされており、この結果を活用するとよい。
タイル以外の材料にあっては、指定されたJISに適合することの証明を材料製造所から提出させる。JISの指定されていない材料にあっては、設計図書の指定材料であることの確認のほか、材料製造所から実績を証明する資料を提出させることによって確認するとよい。
(b) タイル工事の仕上り面は、タイルと目地によって構成され、タイルの寸法や施工方法等により異なるものとなっている。
「標仕」11.1.2 (b)でいう「所定の形状及び寸法を有する」とは、材料としてのタイルの形状や寸法でなく、タイル面の仕上り状態として、タイル寸法のばらつきによる目地の通りの精度をどのように計測し、判断するかを提案させ、実施させることと考えればよい。
(c) タイル工事の完成した状態としては、下地であるコンクリート躯体とモルタル層及びタイルが一体となっていることが最も望ましいものであるが、適切な施工方法で施工した場合であっても、「標仕」11.1.5(b)に定める打診による確認を行うと、タイル面に浮きを発見することがある。「標仕」11.1.2(c)でいう「有害な浮き」とは、下地モルタルがタイル数枚分浮いているものと考えればよい。この場合の対応としては、浮きの認められるタイル部分の目地にカッターを入れタイルを撤去し張直しを行うか、浮き部分にエボキシ樹脂等を注入する方法等により、補修を行う必要がある。
これに対して、例えば、タイル1枚の一部分のような部分的な浮きの場合、タイル張付け後どの程度の時間が経過したかによるが、これが直接はく落につながることは少なく、無理に補修しようとすれば、タイル張り撤去に伴う振動や注入時の圧力により、周囲の健全部分に対してはく離を誘発するおそれがある。このような場合は、施工後相当時間経過したのちに状況を再度確認し、必要な処置を施すなど適切な保全を行うことが重要となる。
打診による確認により浮きが認められた場合、その浮きが有害な浮きであるかどうかは、タイルの形状、寸法、施工方法、建物の部位等を勘案し総合的に判断することになるが、「品質計画」においてその限度を定めておくようにする。
11.1.3 伸縮調整目地及びひび割れ誘発目地
(a) タイル仕上げ面には、乾燥及び湿潤、日射等による温度変化.地震等の外力により、ひずみが生じる。このひずみによる力が各材料の層間の接着強度を上回るとはく離が生じるので、タイル張り面の適切な位置に伸縮調整目地を設けることで、タイル面のはく離の拡大を低減する必要がある。
また、躯体及び下地モルタルにひび割れが生じると、タイル面にもひび割れが生じ、タイルの接着性能にも悪影響を及ぼすことがあるため、これを防止するためにも躯体にひび割れ誘発目地を設ける必要がある。
このため、「標仕」6.8.2及び「標仕」11.1.3では、下地のひび割れ誘発目地、タイル型枠先付けのひび割れ誘発目地及びタイル面の伸縮調整目地の規定を設けている。「標仕」11.1.3(a)の「なお書き」は、ひび割れ謗発目地、打継ぎ目地及び構造スリットの位置に伸縮調整目地が設けられていなかったことが原因で、タイルにはく離が生じ落下事故が起こったことにより追加されたものである。したがって、「標仕」より上位の設計図書で伸縮調整目地設置の指示がない場合(「特記がない場合」)においても、ひび割れ誘発目地の位置には、必ず伸縮調整目地を設けなくてはならないということを述べている。
一方、ひび割れ誘発目地がない場合の伸縮調整目地については、効果があるという考え方と意味がないという考え方の両論があるが、一般的には前者の考え方で設計される場合が多い。したがって、伸縮調整目地の位置には、ひび割れ誘発目地がない場合もある。
なお、ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の位置は,タイルの割付けを考慮して設計される。
(b) 「標仕」では、ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の位置は、特記によることとしている。特記のない場合の標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置を図11.1.1及び2に示す。
図11.1.1_標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置.jpeg
図11.1.1 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置
    (外部側に柱形がある場合)
図11.1.2_標準的なひび割れ誘発目地の例(その1).jpeg
図11.1.2 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮濶整目地とも)の位置
    (外部側に柱形がない場合)(その1)
図11.1.2_標準的なひび割れ誘発目地の例(その2).jpeg
図11.1.2 標準的なひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置
    (外部側に柱形がない場合)(その2)
外部側に柱形のない場合には、特記により図11.1.3に示すような位置にひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)が設けられることがある。これは柱心からある程度離れてひび割れ誘発目地を設けると、斜めひび割れの防止に有効であるという考え方があるためである。
図11.1.3_特記によるひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置の例.jpeg
図11.1.3 特記によるひび割れ誘発目地(伸縮調整目地とも)の位置の例
(c) 屋内のタイル張りにおいては、入隅部では躯体及び下地モルタルの動きにより、また、建具等の他部材との取合い部では、タイルと他部材との挙動が異なるため.タイルに大きな力が作用する。このため、これらの部分には伸縮調整目地を設ける。
(d) ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の詳細例を図11.1.4〜6に示す。
   図11.1.4_陶磁器質タイル張りのひび割れ誘発目地及び伸縮目地の例(垂直目地).jpg
図11.1.4_陶磁器質タイル張りのひび割れ誘発目地及び伸縮目地の例(水平目地).jpg
図11.1.4 陶磁器質タイル張りのひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の例
図11.1.5_陶磁器質タイル型枠先付ひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地.jpeg
図11.1.5 陶磁器質タイル型枠先付けのひび割れ誘発目地及び伸縮調整目地の例
  図11.1.6_垂直伸縮調整目地の例(良い例).jpg
  図11.1.6_垂直伸縮調整目地の例(悪い例).jpg
   図11.1.6 垂直伸縮調整目地の例
(e)下地材料が異なる場合には、挙動が異なるため伸縮調整目地を設け、ひび割れの発生を防ぐ。意匠上、不適当な位置ならば設計担当者と打ち合わせる。
11.1.4 あと張り工法施工前の確認
(a) モルタル塗り面の下地コンクリートからの浮きの原因には、次のようなものがあり、(1)〜(3)の例が多い。
(1) 下地表層の強度不足による表層破壊(硬化不良、レイタンス等)
(2) 下地面の清掃の不足による接着不良
(3) 下地面の水湿しの不良によるモルタルの硬化不良
(4) 施工時の養生不足による硬化不良(直射日光等による急述な乾燥、寒冷期の保温加熱等の不良)
(5) モルタルの塗厚の過大による収縮
(6) 長期にわたる下地の変形(躯体膨張、収縮、ひび割れ)
(b) モルタルの浮きの検査は、テストハンマー、木づちの類で塗り面をたたき、打撃音によって判断する。一般に正常音(高く、硬い音)であれば浮きがなく、異常音(響くような大きな音)であれば浮きがある。
(c) モルタルの浮きの補修方法には次のようなものがある。
(1) 一般には、浮いている部分をはつり取ってモルタルを塗り直す。はつり方によってはかえって浮きが進むおそれがあるので、カッターで浮いている箇所の周囲を切断し、絶縁してからはつる。
はつったのちは、ワイヤブラシ等で十分に清掃し、水湿しを行ってセメントペーストを塗り、次の工程にかかる。
(2) 補修方法には、(1)のほかアンカーピンニングエポキシ樹脂注入工法、アンカーピンニングポリマーセメントスラリー注入工法等があるが、これらは主として改修工事に採用される場合が多い。特にエポキシ樹脂は、湿潤状態の箇所では接着不良を起こすので、湿潤用のものを使用する。
11.1.5 施工後の確認及び試験
(a) 外観の確認
タイル張り面は、目を近づけて見るだけではなく、離れたところから施工面全体を眺めて、色調・仕上り状態・欠点の有無等を判断することが重要である。限度見本がある場合は、ばらつきがこの限度見本の範囲内であることを確認する。
タイル張り面は、目地の通りが基準となって不陸等がよく目立つ。外観を見て見苦しい段差・目違いがあってはならない。また、目地の深さと目地幅の不ぞろい及び目地切れは好ましいことではない。目地深さが深い場合、将来の故障につながりやすい。また、目地材の水密性を確保するためにも、目地切れがないことを確認する。
(b) 打診による確認
(1) タイルの施工面については、不陸・目違い、ひび割れ等の目視確認を行うとともに、「標仕」11.1.5 (b)により、屋外、屋内の吹抜け部分等のタイル張りは、全面にわたり、打診による確認を行う。打診は張付けモルタル硬化後で、かつ、足場の残っている期間に行うのがよい。
(2) 打診は、図11.1.7に示すような打診用ハンマーを用いて行う。
図11.1.7_打診用ハンマー.jpeg
    鋼球型テストハンマー
   図11.1.7 打診用ハンマー
(3) 打診の結果、浮きやひび割れが発見され、それが打害と判定される場合は、国土交通省大臣官房官庁営繕部「公共建築改修工事標準仕様書(建築工事編)」により適正な方法で処理する。有害か否かの判定が困難な場合は、定期的に状態を観察して経時変化を確認し、危険度を勘案して判断するのがよい。
(4) 有機系接着剤を用いたタイル張りは、くし目ごてで施工することからタイルと接着剤とが隙間なく密着しているわけでなく、施工不良でなくてもタイルについて1枚の中で部分的に浮き音がすることがある。その場合は、浮き音がするタイルについて打診による確認を行い、 タイル1枚の中での浮き音が発生する割合を考慮して合否を判定する。判定が困難な場合は、タイルをはがして、接着状態を確認するとよい。
(c) 接着力試験
(1) 外装タイル張とり及び屋内の吹抜け部分等の環境条件の厳しい部位やはく落による危険度が高い部位についての接着力試験は、原則として、監督職員が立ち会う。ただし、通常の腰高と天井高の内壁や床のタイル張りのように、はく落による危険が少ない部位や、建物周囲こ植込等が設けられ、人が壁面等に近づけないような場合等安全上の配慮がなされている場合は、接着力試験を省略することができる。
(2) 試験体
(i) 試験の時期は、施工後2週間以上経過してから実施するのが一般的であるが、セメントモルタル張りの場合、夏期では1週間程度で強度が出るので「標仕」では強度が出たと思われるときとしている。ただし、試験を行うまでは足場を外せないので、他工事との工程の調整に注意する必要がある。
試験体は、タイルの周辺をカッターでコンクリート面まで切断したものとする。これはタイルのはく落がタイルだけではなく下地のモルタルからはく落することが多いので、この部分まで試験するためである。
なお、アタッチメントの大きさは、図11.1.8のようにタイルの大きさを標準とする。アタッチメントに合わせてタイルを切断すると誤差が大きくなるおそれがあるため注意が必要である。
ただし、二丁掛けタイル等小ロタイルより大きなタイルの場合は力のかかり方が局部に集中し、正しい結果が得られないことがあるので、小ロタイル程度の大きさに切断する。
(ii) 試験体の個数は「標仕」11.1.5(c)(ii)により3個以上、かつ、100 m2ごと及びその端数につき1個以上として、壁面全体の代表となるよう無作為に選ぶ。
(3) 試験機は、建研式引張試験機(図11.1.9)のほか、日本建築仕上学会認定の油圧式簡易引張試験器(図11.1.10)が開発されており、後者の方が軽量であるためアタッチメントや試験機の質量によって破断することが少なく、低強度まで測定が可能であり、普及している。
図11.1.8_接着力試験の状況.jpeg
    図11.1.8 接着力試験の状況
図11.1.9_建研式引張試験機.jpg
    図11.1.9 建研式引張試験機
図11.1.10_油圧式簡易引張試験器.jpeg
    図11.1.10 油圧式簡易り張試験器
    (日本建築仕上学会認定)
(4) セメントモルタル張りの場合の試験結果の判定については、引張接着強度のすべての測定結果が 0.4N/mm2以上の場合を合格とする。この引張接着試験は、施工品質を確認して、施工不良を排除することが主たる目的の試験である。昨今のタイル張りのはく離故障は、コンクリート下地と下地モルタルの接着界面が支配的になっている。このことを踏まえて、コンクリート下地の接着界面における破壊率の上限値が50%に設定された。
不合格が生じた場合には、該当するタイル施工部分の全面に対して、再び(2)(ii)に進じて試験を行う。不良部分については目地部を切断して、再施工しなければならない。
(5) 接着剤張りの場合には、接着剤層の破壊状態に基づいて合否を判定し、引張接着強度は参考値とする。一方、下地モルタル及びコンクリートに起因する破壊状態が主である場合には、セメントモルタル張りと同様に引張接着強度と破断状態で合否を判定する。
破壊モードの分類を図11.1.11に示す。タイルと接着剤の間の未接着は、くし目の谷部やタイル裏あし部に接着剤が充填されていない場合に生じる状態であり、接着剤とタイルの界面破壊と同一と判断する。
なお、接着剤の塗残し部分等の接着剤が塗付されていない部分も界面破壊と判断する。
   図11.1.11_引張接着試験における破壊モード(JASS19).jpg
   図11.1.11_引張接着試験における破壊モード(JASS19)破壊モード.jpg
図11.1.11 引張接着試験における破壊モード(JASS 19より)
合否判定のフロー図を図11.1.12に示す。凝媒破壊モードが T + A ≧ 50%(タイルの凝集破壊率と接着剤の凝集破壊率の合計が50%以上の場合)を合格とする。破壊モードがAT + MA> 50%(接着剤とタイルの界面破壊率及び下地モルタルと接着剤の界面破壊率の合対が50%を超える)ならば接着剤の界面破壊が主であり不合格とする。この条件に当てはまらない場合としては、下地の破壊が混在する場合がある。破壊モードがT + A< 50%、かつ、AT + MA<50%、かつ、M + CM + C ≦ 25%(下地モルタルの凝集破壊率、下地モルタルとコンクリートの界面破壊率及びコンクリートの凝集破壊率の合計が25%以下であれば、接着剤及びタイルの凝集破壊( T + A )が主と考えられるため、合格とする。破壊モードが T + A < 50%、かつ、AT+ MA < 50%、かつ、M + CM + C > 25%(下地モルタルの凝集破壊率、下地モルタルとコンクリートの界面破壊率及びコンクリートの凝集破壊率の合計が25%を超える)であるなら、下地の破壊比率が高いためセメントモルタル張りと同様に、下地モルタルとコンクリートの界面破壊が50%以下、かつ、引張接着強度が 0.4N/mm2以上の場合を合格とする。
図11.1.12_合否判定フロー(JASS19より).jpeg
図11.1.12 合否判定フロー(JASS 19より)
(d) 検査及び接着力試験の記録は保存して、維持保全時の判断資料として役立てるとよい。

11章 タイル工事 2節 セメントモルタルによる陶磁器質タイル張り

11章 タイル工事
02節 セメントモルタルによる陶磁器質タイル張り
11.2.1 適用範囲
(a) セメントモルタルによるあと張り工法の場合の作業の流れを図11.2.1に示す。
図11.2.1_セメントモルタルによる陶磁器質タイル張りの作業の流れ 2.jpg
図11.2.1 セメントモルタルによる陶磁器質タイル張り(あと張り上法の場合)の作業の流れ
(b) 施工計画書
施工計画瞥の記載事項は、おおむね次のとおりであるが、その作成に当たってはタイル施工業者の協力を得て、十分検討されたものとする必要がある。
タイルの製造工場は、磁器質タイルの場合、通常設計図書に指定されるが、指定されない場合は、工場の規模、受注能力等を検討して承諾することになる。
なお、赤文字を考慮しながら品質計画を検討する。
① 工程表(見本決定、施工図完了、材料搬入、着工・ 完了、試験等の時期)
② タイルの製造工場名、施工業者名及び作業の管理組織
③ タイルの種類、形状、寸法(裏あしの形状、高さ、乾式・湿式の別)
④ 張付け用モルタル(調合、塗厚)、保水剤の使用
⑤ タイルの施工箇所、張付け工法、目地工法
⑥ まぐさ、窓台等のタイルの施工法
⑦ タイル割りの基準(基準線目地寸法)
⑧ 伸縮調整目地(位置、構成、施工法)
⑨ 関連工事との取合い(電気、機械、仮設)
⑩ タイル施工箇所の張付け順序
⑪ 下地モルタルの浮きの試験方法及び補修方法
⑫ 1回の張付けモルタルの塗付け量、練混ぜ方法及びその量の確認方法、練置き時間
⑬ タイル張り施工中及び施工後の養生方法(特に外壁の場合)
⑭ 排水勾配(雨掛り、水掛りの場合)
⑮ 水洗い
⑯ タイルの打診試験及び接着力試験方法(箇所、使用機器、試験体の作成方法)
⑰ 接着力試験不合格の場合の処置方法
⑱ 作業のフロー、管理の項目・水準・方法、品質管理体制・管理責任者、品質記録文書の書式とその管理方法等
(c) その他
外装タイルの施工に関して、(-社)全国タイル業協会では、タイル工事現場指導員制度を設けており、施工品質の確保に努めている。
11.2.2 材 料
(a) タイルの種類及び品質
(1) JIS A 5209(陶磁器質タイル)の抜粋を次に示す。
タイルのJISは国際規格との整合を図ることを目的の一つにして、平成20年に大幅に改正されている。従来のきじの質による区分(磁器質タイル、せっ器質タイル、陶器質タイル)がなくなり、吸水率の区分が設けられて吸水率によって I類、II類、Ⅲ類に分類されたが、 I類が従来の磁器質、 II類がせっ器質、Ⅲ類が陶器質にほぼ該当する。
JIS A 5209 : 2010
4. 種 類
タイルの種類は、次による。
a) うわぐすりの有無による区分
 1) 施ゆうタイル
 2) 無ゆうタイル
b) 主な用途による区分
 1) 内装壁タイル
 2) 内装壁モザイクタイル
 3) 内装床タイル
 4) 内装床モザイクタイル
 5) 外装壁タイル
 6) 外装壁モザイクタイル
 7) 外装床タイル
 8) 外装床モザイクタイル
備考1. ユニットタイルとした場合の区分は、次による。
  a) 内装壁ユニットタイル
  b) 内装壁モザイクユニットタイル
  c) 内装床ユニットタイル
  d) 内装床モザイクユニットタイル
  e) 外装壁ユニットタイル
  f ) 外装壁モザイクユニットタイル
  g) 外装床ユニットタイル
  h) 外装床モザイクユニットタイル
2. モザイクタイルより大きいタイルを混用するモザイクユニットタイルは、ユニットタイル全面積の50%以上がモザイクタイルで構成されなければならない。
c) 成形方法による区分
 1) 湿式成形タイル
 2) 乾式成形タイル
d) 吸水率による区分
 1) I類(3.0%以下)
 2) II類(10.0%以下)
 3)Ⅲ類(50.0%以下)
参 考
吸水率による区分は、測定方法の変更に伴い、 I類は旧規格の磁器質、 II類はせっ器質、Ⅲ類は掏器質にほぼ該当する。
5. 品質特性
タイル及びユニットタイルの品質特性は、次による。
なお、製造条件が平物と同一の役物は、 5.9~ 5.17の品質特性の試験を省略してもよい。また、ユニットタイルの場合、5.1 ~ 5.17の品質特性を満足したタイルによって構成しなければならない。
5.1 表面品質
a) タイルの表面品質
タイルの表面品質は、JIS A 1509-2の4.(表面品質の検査方法)に規定する検査を行ったとき、次の基準を満足しなければならない。
1) 平 物
平物の表面品質は、表1による。
 表1 平物の表面品質の基準
表1_平物の表面品質の基準 2.jpg
2) 役 物
役物の表面品質は、表2による。
表2 役物の表面品質の基準
表2_役物の表面品質の基準 2.jpg
b) ユニットタイルの表面品質
ユニットタイルの表面品質は、JIS A 1509-13に規定する検査を行ったとき、表3の基準を満足しなければならない。ただし、役物ユニットタイルには適用しない。
表3 ユニットタイルの表面品質の基準
表3_ユニットタイルの表面品質の基準 2.jpg
5.2 形 状
タイルの形状は、製造業者が定める。通常よく使用する標準的な平物及び役物、定形タイル及び不定形タイルの例を付図1に示す。また、 タイルの表面形状は、平面以外の形状とすること又は装飾のために模様を付けることができる。
なお、使用部位表示で屋外壁及び屋外床を使用可能とするタイルは、裏あしを付ける。ただし、屋外壁用の外装接着剤張り専用のタイル及び屋外床用のタイルで、適切な施工方法を、カタログ、説明書などによって明示する場合は、裏あしがなくてもよい。また.屋外壁の場合、タイルの裏あしの形状及び高さは、5.7の規定による。
備 考
使用部位で屋外壁に使用するタイルには裏あしを規定しないが、9.3に示すように、ロビー、ホールなどで階高が1階を超えるモルタル施工するタイルには、裏あしを付ける。
5.3 寸 法
タイル及びユニットタイルの製作寸法は、製造業者が定める。通前よく使用するタイルの標準的な長さ及び幅の例を付図3~付図6に、ユニットタイルの標準的な長さ及び幅の例を付図2に示す。
a) 長さ及び幅の許容差
1) タイルの長さ及び幅の許容差
タイルの長さ及び幅の製作寸法に対する許容産は、JIS A 1509-2の5.(寸法及びばちの測定方法)に規定する測定を行ったとき、表4に示す数値とする。
表4 タイルの長さ及び幅の許容差
表4_タイルの長さ及び幅の許容差 2.jpg
2) ユニットタイルの長さ及び幅の許容差
ユニットタイルの長さ及び幅の製作寸法に対する許容差は、JIS A 1509-13に規定する測定を行ったとき、±1.6mmとする。
b) 厚さの許容差
タイルの厚さの製作寸法に対する許容差は、JIS A 1509-2の5.(寸法及びばちの測定方法)に規定する測定を行ったとき、表5に示す数値とする。
表5 厚さの許容差
表5_厚さの許容差 2.jpg
5.4 ば ち
タイルのばちの基準は、JIS A 1509-2の5.(寸法及びばちの測定方法)に規定する測定を行ったとき、表6に示す数値以下とする。ただし、各辺が50mm以下のタイルについては、JIS A 1509-2の4.(表面品質の検査方法)に規定を行ったとき、目立たなければよい。
なお、不定形タイルには適用しない。
表6 ばちの基準
表6_ばちの基準 2.jpg
5.5 反 り
タイルの面反り、ねじれ、辺反り及び側反りの基準は、JIS A 1509-2の6(反り及び直角性の測定方法)に規定する測定を行ったとき、表7に示す数値以内とする。ただし、役物及び各辺が50mm以下の平物については、JIS A 1509-2の4.(表面品質の検査方法)に規定する検査を行ったとき、目立たなければよい。
なお、不定形タイルには適用しない。
表7 反りの基準
表7_反りの基準 2.jpg
5.6 直角性
タイルの直角性の基準は、JIS A 1509-2の6.(反り及び直角性の測定方法)に規定する測定を行ったとき、表8に示す数値以下とする。ただし、役物、各辺が50mm以下の正方形状の役物及び短辺が50mm以下の長方形状の平物については、JIS A 1509-2の4.(表面品質の検査方法)に規定する検査を行ったとき、目立たなければよい。
なお、不定形タイルには適用しない。
表8 直角性の基準
表8_直角性の基準 2.jpg
5.7 裏あしの形状及び高さ
使用部位表示で屋外壁を使用可能とするタイルの裏あしの形状及び高さは、JIS A 1509-2の7.(裏あしの形状及び高さの測定方法)に規定する測定を行ったとき、次による。
a) 裏あしの形状
形状は、あり状とし、製造業者が定める。
あり状とは、図1の例1に示すように、裏あしのほぼ先端部の幅(Lo)とほぼ付根部の幅(L1)とが、Lo> L1の関係にある形状をいう。また、例2に示すような裏あしの場合、高さ( h )の中央部付近の幅( L2 )が、Lo> L2を満足しなければならない。
なお、例3に示すように、例1及び例2以外の形状であっても、ほぼ付根部の幅( L3 )が、Lo> L3 の条件を滴たしているものについては、あり状とみなす。
図1_裏あしの形状の例 2.jpg
図1 裏あしの形状の例
b) 裏あしの高さ
制作寸法で定めた部分の裏あしの高さは、表9の基準を満足しなければならない。ただし、タイルの端部に傾斜を設けたときは、その部分を除く。
表9 裏あしの高さの基準
表9_裏あしの高さの基準 2.jpg
5.8 役物の角度
タイルの役物の角度の許容差は、JIS A 1509-2の8.(役物の角度の測定方法)に規定する測定を行ったとき、±1.5° とする。
役物の角度の許容差は、複数の面で構成され、かつ、隣接する面との角度が直角の関係にあるものに適用する。ただし、不定形タイル、人為的に表面を凹凸にしたタイル、及び各面又は小さい方の面の長さが 45mm未満のタイルには適用しない。
5.9 吸水率
タイルの吸水率は、JIS A 1509-3に規定する測定を行ったとき、表10に示す基準を渦足しなければならない。
なお、試験は、煮沸法又は真空法のいずれを採用してもよい。
表10 吸水率の基準
表10_吸水率の基準 2.jpg
5.10 曲げ破壊荷重及び曲げ強度
タイルの曲げ破壊荷重及び曲げ強度は、JIS A 1509-4に規定する測定を行ったとき次による。ただし、各辺が 50mm以下のタイルには適用しない。
a) 曲げ破壊荷重
タイルの曲げ破壊荷重は、表11に示す基準を満足しなければならない。
表11 曲げ破壊荷重の基準
表11_曲げ破壊荷重の基準 2.jpg
b) 曲げ強度
タイルの曲げ強度は、測定i結果を記録する。
5.11 耐摩耗性
使用部位表示で屋外床及び屋内床を使用可能とするタイルの耐摩耗性は、次による。
a) 無ゆうタイルの耐摩耗性
無ゆうタイルの耐摩耗性は、JIS A 1509-5に規定する試験を行ったとき、表12に示す基準を満足しなければならない。
表12 無ゆうタイルの摩耗体積の基準
表12_無ゆうタイルの摩耗体積の基準 2.jpg
b) 施ゆうタイルの耐摩耗性
施ゆうタイルの耐摩耗性は、JIS A 1509-6に規定する試験を行い、その結果を表13に示すクラスに分類して記録する。
表13 施ゆうタイルの耐摩耗性評価のためのクラス分類
表13_施ゆうタイルの耐摩耗性評価のためのクラス分類 2.jpg
5.12 耐熱衝撃性
局部的な熱衝撃を受ける箇所に使用するタイルの耐熱衝撃性は、JIS A 1509-7に規定する試験を行ったとき、切れ、貫入などの欠点が生じてはならない。
5.13 耐貫入性
施ゆうタイルの耐貫入性は、JIS A 1509-8に規定する試験を行ったとき、貫入が生じてはならない。ただし、装飾のために貫入を施したタイルには適用しない。
5.14 耐凍害性
凍害を受けるおそれのある場所に使用するタイルの耐棟害性は、JIS A1509-9に規定する試験を行ったとき、タイルの表面、裏面又は端部に、ひび割れ、素地又はうわぐすりのはがれがあってはならない。
5.15 耐薬品性
タイルの耐薬品性は、JIS A 1509-10に規定する試験を行い、その結果を表14に示すクラスに分類して記録する。
表14 タイルの耐薬品性評価のためのクラス分類
表14_タイルの耐薬品性評価のためのクラス分類 2.jpg
5.16 鉛及びカドミウムの溶出性
食物が直に接する箇所に使用する施ゆうタイルの鉛及びカドミウムの溶出性は、JIS A 1509-11に規定する試験を行い、その結果を記録する。
5.17 耐滑り性
水ぬれする場所の床に使用するタイルの耐滑り性は、JIS A 1509-12に規定する試験を行い.その結果を記録する。
JIS A 5209: 2010
(2) 屋外の壁に使用するタイルの裏あしについては、(1)に示すようにJIS A 5209で規定されており、形状をあり状とし、その高さは、タイル表面の面積に応じて定められている。
タイルの裏面の例を図11.2.2に示す。
図11.2.2_タイル裏面の例 2.jpg
図11.2.2 タイル裏面の例
(3) タイルの材料は、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)において「標仕」に基づき品質を確認し、評価しているので、この結果等を参考にするとよい。ただし、外壁の接着剤による陶磁器質タイル張りに用いるタイルは、平成26年4月以降の適用となる。
(b) タイルの呼称
一般市販タイルの呼称及び寸法を表11.2.1に示す。
表11.2.1 一般市販のタイルの呼称及び寸法
表11.2.1_一般市販のタイルの呼称及び寸法 2.jpg
(c) ユニットタイル
モザイクタイルはユニットタイルとして用いられる。また、小口未満の外装壁夕イル並びに100角、150角程度の小型の外装床、内装床及び内装壁タイルもユニットタイルとして用いられる場合が多い。ユニットタイルの寸法及び連結方法を表11.2.2並びに連結方法の例を図11.2.3に示す。ユニットタイルは作業性が良く、接着に支障がないものでなければならない。
なお、外装壁モザイクタイルの樹脂連結ユニットは、表紙がないため、現場での産業廃棄物を減量できるという特徴がある。
表11.2.2 ユニットタイルの寸法及び連結方法
表11.2.2_ユニットタイルの寸法及び連結方法 2.jpg
  図11.2.3_ユニットタイル連結方法の例(表紙張りの例) 2.jpg
図11.2.3_ユニットタイル連結方法の例(樹脂連結の例) 2.jpg
  図11.2.3_ユニットタイル連結方法の例(裏ネット張りの例) 2.jpg
図11.2.3 ユニットタイル連結方法の例
(d)役物タイル
(1) 役物タイルには一体成形のものと接着加工したものとがある。一体成形とは成形品をそのまま焼成したものであり、接着加工品は平物タイルを切断し、エポキシ樹脂等で接着したものである。二面の90°曲がりの役物は標準品として一体成形で製作される場合が多いが、三面以上の曲がりや90°以外の角度のもの、標準寸法以外のものは接着加工で製作される。ただし、接着に使用するエポキシ樹脂は耐久性に優れた品質のものでなければならない。
役物タイルの例を図11.2.4に示す。
(2) 窓まぐさ及び窓台部分に使用するタイルは、窓、出入口戸等との取合部ともなるので、その機能並びに納り等を考慮し、水切りの良いものとする。
図11.2.4_役物タイルの例 2.jpg
図11.2.4 役物タイルの例
(e) 見本品等
(1) タイルは見本を提出させ、色調等を設計担当者と打ち合わせて決定する。
なお、形状、寸法裏あし等について、指定の製品ができることを確認する。
(2) 見本焼き
(i) 特殊な色調のもの、あるいは屋外のタイルで大量に使用する場合等で特記された場合は、見本焼きを行う。
(ii) 見本焼きによってタイルの色調、色むら、配色(2色以上のタイルを混合する場合)等を確認する。
(iii) 見本焼きの所要期間
① 当該製造工場の見本タイルと同じもの及び類似の見本タイルより作る場合は3週間程度必要である。
② タイルの型から作製する場合(同形状、同寸法でも表面のテクスチュアを変える場合等を含む。)、乾式成形法のタイルは7週間程度、湿式成形法のタイルは6週間程度必要である。
(3) 試験張り
(i) 試験張りは、相当量のタイル張りを行う場合でタイルの色調、配色及び目地の幅、色等を決定するために行う場合と、タイルの色調、配色を決定後、目地割り、目地幅等の決定のために行う場合があり、試験張りを行う場合には特記される。
(ii) 試験張りには、1週間程度必要である。見本焼きのあと、試験張りを行ってタイルを決定する場合は、双方に要する期間を考慮に入れておく必要がある。
(f) グリーン購入法適合タイル
陶磁器質タイルは、「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)」(平成12年5月31日 法律第100号)に基づく「環境物品等」の対象とされている。また、環境物品の判断基準等は、「環境物品等の調達の推進等に関する基本方針」(平成13年3月9日 環境省告示第11号)に示されているので、特記により環境物品として指定された場合は、これに適合することを製造業者等のカタログ等の資料により確認する必要がある(参考資料の資料1 1.3 (g)参照)。
11.2.3 張付け用材料
(a) セメントは、凝結時間、強度発現の速度、乾燥収縮の程度、作業性等を考慮して選択する。一般的にはJIS R 5210(ポルトランドセメント)に適合する普通ポルトランドセメントが使用されている。
(b) 細骨材は、15.2.2(b)によるが、「標仕」表11.2.1では細骨材の最大粒径が定められている。
細骨材の最大粒径が 2.5mmの場合は、川砂をふるいに通したもので得られるが、最大粒径が1.2mn及び 0.6mmの場合は、川砂をふるいに通しても量が得られないので、けい砂あるいは寒水砂が用いられる場合が多い。
(1) けい砂は、鋳型用のものが JIS G 5901(鋳型用けい砂)に粒度及び粒度分布が定められているので、これを用いるのがよい。種別は、最大粒径1.2mmの場合は20号、最大粒径 0.6mmの場合は35号である。
(2) 寒水砂は、大理石を砕いて製造される細骨材で、モルタル用骨材として用いられる粒度のものが市販されており、粒度の異なる2種類程度を現場で混合して用いるのがよい。
(c) 混和剤は、保水剤及びセメント混和用ポリマーディスパージョンが使用される。
(1) 保水剤
(i) 張付けモルタルには、夏期に限らず、四季を通じて保水剤を使用するのがよい。
(ii) 保水剤は、モルタルの乾燥を防ぎ、作業性を向上させる利点をもっている。しかし、混入量を誤ると、モルタルの流動性が増し、だれを起こして作業が困難になるおそれがあるので、規定された量を守ることが重要である。混人量については,15.2.2(d)(4)を参照されたい。
(2) セメント混和用ポリマーデイスパージョン(15.2.2 (d)(5)参照)は、接着性能の向上、張付けモルタルの耐久性の向上、ドライアウトの防止等の目的で使用される。接着性を改善するためには、混入量はセメントに対するポリマーデイスパージョン中の全固形分の質量比で、5%程度混入する必要がある。5%程度とするには、セメント1、砂1~2の混合割合の場合、固形分比45%のポリマーデイスパージョンでは約4倍の希釈液で混練する。ただし、温度又は風の影響で可使時間が短くなることがあるため、試験施工等によって作業性を確認するとよい。
(d) 既製調合モルタル
既製調合の張付けモルタルは、セメント、細骨材、混和剤等を工場において所定の割合に配合したものであり、現場調合モルタルに比較して品質のばらつきが少ない。
市販されている既製調合モルタルは数多くあり、その使用に当たっては、実績等の資料によりタイルの種類や工法に適合するものであることを確認するとともに、その性能(作業性や接着性等)も十分に検討しておく必要がある。
品質基準としてJIS規格はないが、 (-社)公共建築協会の「建染材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4(e)参照)において、表11.2.3のように既製調合モルタル(タイル工事用)の品質・性能基準を定め、評価を行っているので、その結果を参考にするとよい。
表11.2.3 既製調合モルタル(タイル工事用)の品質・性能基準
表11.2.3_既製調合モルタル(タイル工事用)の品質・性能基準 2.jpg
(e) 吸水調整材は.15.2.2(e)による。
(f) 既製調合の目地材は、セメント、細骨材、顔料、混和剤等を工場において所定の割合に配合した材料である。タイルの種類、日地幅、目地色を確認して材料を選択する。
なお、(-社)公共建築協会の「建築材料・設備機材等品質性能評価事業」(1.4.4 (e)参照)において、表11.2.4のように既製調合目地材の品質・性能基準を定め、評価を行っているので、その結果を参考にするとよい。
表11.2.4 既製調合目地材の品質・性能基準
表11.2.4_既製調合目地材の品質・性能基準 2.jpg
11.2.4 その他の材料
(a) 引金物は、径0.6mm以上のなましステンレス鋼線(SUS304)を使用する。銅線は、腐食しやすいので使用しない。引金物の取付けは、図11.2.5に示すように湿式成形法のタイルはタイルに設けられた穴に通し、乾式成形法のタイルはエポキシ樹脂により接着する。
図11.2.5_引金物を取り付けたタイルの例 2.jpg
図11.2.5 引金物を取り付けたタイルの例
(b) シーリング材は、9章7節による。耐久性、伸縮追随性、水密性、作業性を考慮するとともに、タイル表面を汚さないものを選択する。
11.2.5 張付けモルタルの調合
(a) モルタルの調合
(1) モルタルの調合は「標仕」表11.2.2による。また、砂については11.2.3 (b)による。
(2) 化粧目地用モルタルは、目地幅により砂の容積比は異なる。通常、次のようにするのがよい。
(i) 目地幅が3mm以下で屋内の場合は、0.5 程度とする。
(ii) 目地幅が3mm以下で屋外の場合は、0.5~1.0 程度とする。
(iii) 目地幅が3mmを超えるものの場合は、0.5 ~ 1.5 程度とする。
(3) 既製調合モルタル及び既製調合目地材の使用に当たっては、タイルの種類、工法、目地幅等に適合することを確認する。
(b) モルタルの練混ぜ方法
(1) 1回の練混ぜ量はモルタルの硬化が始まる前に完了するように、60分以内に張り終わる量としている。モルタルの練混ぜを均ーに行うために、機械練りとする。
ただし、室内で少量の場合等は、手練りでもよい。
(2) 粉末状保水剤を使用する場合は、セメントと保水剤を空練り後、砂を加えて空練りし、次に水を加えて十分に錬り混ぜる。
(3) 液状保水剤を使用する場合は、あらかじめ所定の濃度に希釈した溶液を、空練りしたモルタルに混入し、次に水を加えて十分に練り混ぜる。
11.2.6 施工時の環境条件
(a) 外壁タイル張りにおいて、外壁面がぬれるような降雨及び降雪の場合、クレーン等が運行できない強風時等、タイル工事に支障がある時並びにこれらが予想される場合は、施工を行わない。
(b) 冬期のセメントモルタルによるタイル張りにおいて、塗付け場所の気温が 3℃以下及び施工後 3℃以下になると予想される場合には、下地モルタル、張付けモルタル及び目地モルタルが初期凍害を受ける危険性があるため、仮設暖房・保温等による施工面の養生を行う。このような養生を施しがたい場合は、作業を中止する。
11.2.7 施 工
(a) タイルの割付け
(1) 一般的な割付け方法には次の2つの方法があるが、タイルの割付けの場合には、(i) によることが大部分であり、(2)以下の事項を考慮して割付けを行っている。
(i) 規定された寸法の材科を用い、基準線(面の中心あるいは端部柱形、梁形、建具回りの伸縮調整目地等)を定め、その間に割り付ける方法:タイル,ボード類、ブロック等
(ii) 概略の材料寸法を定めておき、基準線の間に割付け目地を規定の寸法として正確な材料の製作寸法を定める方法:石材、プレキャストコンクリート製品等
(2) 屋外の壁の場合
(i) 建具寸法、位置等のわずかな変更により、タイルの割付けが整然と行える場合は建具の方を調整するとよい。
(ii) 躯体寸法等下地のわずかな変更により、タイルの割付けが整然と行える場合は、躯体等の下地を調整するとよい。
しかし、この場合でも構造体の断面不足を生じないようにする。
(iii) 規格化された寸法より多少異なった寸法のタイルも大量にまとまれば、規格品に比べて割高になるが製造できる。ただし、製造に日数を要する。形状についても、寸法が大きくなると、焼成時にひずみが増し、不良品が多くなるなどがあるので、製造に無理のないものにしなければならない。
(iv) 役物タイルは、なるべく規格化された寸法のものを用い、その種類を少なくする。
(v) 床面に勾配のある場合は、壁タイルを勾配に合わせるか、モルタル等の他の材料によって勾配を調整するかを検討する。
(vi) 目地寸法は、小口、二丁掛けで 6~11mm程度である。6mm以下では、目地押えが困難になりやすい。大形床タイルのような大きなものでは、6 ~ 10mm程度にしている。
(ⅶ) タイル面に取り付ける金物、設備機器等の位置をタイル割りに合わせる。
(ⅷ) 躯体寸法、建具寸法等を定めるときは、タイル割り図を作成しておき、これに合わせる。やむを得ない場合でも、タイル割りに無理のないことを確かめておく。
(3) 屋内の壁で内装タイル(陶器質施ゆうタイル)の場合
(i) 建具や躯体との関係等は、外装の場合と同様である。
(ii) タイルはすべて規格化されたものを用いるため、端部には切り物が入りやすいが、半分以下の寸法のものは用いないようにする。また、切り物はなるべく目立たない部分に用いるようにする。
(iii) 壁が天井面までタイル張りで、天井目地の場合は、目地底を基準線として割り付け、床はのみ込みにすることが多い。
内幅木〈サニタリー〉(図11.2.4 (ロ)参照)タイルを用いる場合は、当然床面が下の基準線になる。
なお、隅部では、切り物が隣接するのを避ける。
(iv) 棚の高さ、隔て板の大きさ等は、タイルの目地に合わせる。
(v) 電気、機械の機器の取付け位置、配管の取出し口等は、タイルの目地位置に合わせる。そのため、タイルの割付け図には、機器及び配管の取出し口の位置を記入させ、正確な位置を定めておく。
(vi) 目地寸法は 2~2.5mmが多いが、1.5mmでもできる。
図11.2.6_外部タイル割付けの例(二丁掛けの場合) 2.jpg
図11.2.6 外部タイル割付けの例(二丁掛けの場合)
図11.2.7_外部タイル割付けの例(小口の場合) 2.jpg
図11.2.7 外部タイル割付けの例(小口の場合)
(ii) 内装タイルを使用する場合の例
図11.2.8_隔て板の割付け 2.jpg
図11.2.8 隔て板の割付け
図11.2.9_棚板の納まり 2.jpg
図11.2.9 棚板の納まり
図11.2.10_建具枠の納まり 2.jpg
図11.2.10 建具枠の納まり
図11.2.11_隔て板の納まり 2.jpg
図11.2.11 隔て板の納まり
図11.2.12_便所タイルの割付け 2.jpg
図11.2.12 便所タイルの割付け
(b) 下地及びタイルごしらえ
(1) コンクリート素地面をMCR工法とする場合は、「標仕」6章8節に、目荒し工法(高圧水洗)とする場合は、「標仕」15.2.4 (c)による。
(2) 張付けモルタルのドライアウトによる硬化不良や接着不良を防ぐため、下地モルタルが乾燥している場合には、タイル張り前に十分水湿しを行うか又は吸水調整材を塗布する。ただし、改良積上げ張りの場合、吸水調整材の塗布は行わない。
(i) 水湿しは、夏期等で乾燥が著しい場合には、前日に散水しておくようにする。
(ii) 吸水調整材の途布は、15.2.5(a)(1)による。
(iii) 吸水性のタイルは、必要に応じて、適度の水湿しを行う。
(c) 床タイル張り
(1) 張付け面積の小さい場合(トイレ、浴室等)(図11.2.13参照)
(i) 敷モルタルを敷き込み、敷モルタルが硬化したのちに、張付けモルタルを用いてタイル張りを行う。敷モルタルの調合はセメント1に対して砂 3~ 4程度の貧調合とし、少量の水を加えてモルタルを手で握って固まる程度のぱさばさ状にする。
この工法は、張付け面積の小さい場合以外にも水勾配を付ける場合等、精度の高いタイル床仕上げを要求される場所に適している。しかし、下地の強度が (2)の工法より弱いため、車や重量物が乗り人れる場所への使用は避ける。
(ii) 張付けモルタルはセメントペーストではなく、「標仕」表11.2.2の調合によるモルタルを使用する。
一般床タイル又はユニットタイルは、下地に張付けモルタルを塗り付けて、木づち、たたき板等で目地部分に張付けモルタルが盛り上がるまでたたき押さえて、張り付ける。壁タイル張りと同様、モルタルの塗置き時間が長くならないように注意する。大形床タイル張りでは、タイル裏面への付着状況に注意を払う。事前に試験施工を行って、タイル裏面への充填性を確認したうえで、工法選定を行うとよい。
図11.2.13_小面積の場合の床タイル張り 2.jpg
図11.2.13 小面積の場合の床タイル張り
(2) (1)以外の場合:張付け面積の大きい場合(エントランスホール、ポーチ、ピロティ等)(図11.2.14参照)
(i) 「標仕」15.2.5(c)(1)により下地モルタルを作製し、硬化後にタイル張りを行う。タイル張りの前に下地のレイタンスを除去しておく。
この工法は、車や重量物が乗り人れる場所に使用される。
(ii) 張付けモルタルの調合及びタイル張りの方法は、(1)(ⅱ)と同じである。
図11.2.14_大面積の場合の床タイル張り 2.jpg
図11.2.14 大面積の場合の床タイル張り
(3) 水を使用する箇所の床には、必ず水勾配を付けて水たまりができないようにする。勾配は1/100~1/150にするのがよく、1/200が限度である。
(d) 壁タイル張りの工法
(1) 壁タイル張り工法の種類、工法とタイルの組合せ等を表11.2.5に示す。また、「標仕」の工法を図11.2.15に示す。
なお、張付け材料の塗厚は「標仕」表11.2.3による。
表11.2.5 壁タイル張り工法
表11.2.5_壁タイル張り工法 2.jpg
図11.2.15_「標仕」の工法 2.jpg
図11.2.15 「標仕」の工法
(2) 密着張り(ヴィブラート工法)(図11.2.15及び図11.2.16参照)
(i) 在来の圧着張りは、下地モルタル(中塗りまで仕上げる。)面にモルタルを塗り、これにタイルを押し付けて張り、木づちの類でたたき締めてタイルとモルタルをなじませていたが、本工法は、木づちの代わりにタイル張り用振動機(ヴィブラート)を用いてタイル面に特殊衝撃を加えて、タイルをモルタル中に埋め込むようにして張り、目地部に張付けモルタルを盛り上がらせ、そのモルタルを目地ごてで押さえて、目地も同時に仕上げる工法である。この時、張付けモルタルの塗厚が薄い場合や、タイルの押さえ込み不足により深目地となりやすいが、目地深さがタイル厚さの1/2より深い場合には、張付けモルタル硬化後に目地深さがタイル1厚さの1/2以下となるように目地詰めを行う。
なお、タイル面に衝撃を加えることにより、下地モルタルと張付けモルタルの接着性が著しく向上する利点もある。
図11.2.16_密着張り(ヴィブラート工法) 2.jpg
図11.2.16 密着張り(ヴィブラート工法)
(ii) 張付けモルタルを一度に厚く塗り付けると、下地に十分なこて圧で塗り付け ることが難しく、また、張付けモルタルのだれが生ずるので、必ず二度塗りとする。一度目のモルタル塗りは、下地面への付着が良くなるように、こて圧をかけてしごくように塗り付ける。張付けモルタルの塗厚は裏あしの高さ等を考慮して決める。その目安は5〜8mmとする。一度に塗付け可能な面積の限度は、一人が施工可能な面積として2m2以下、かつ、20分以内に張り終える面積とする。張付けモルタルに触ると手に付く状態のままタイル張りが完了できる作業を目安とするとよい。
なお、くし目ごてを用いるとタイル裏面への充填性が十分に確保できないため用いてはならない。
(iii) 振動工具による加振は、一枚のタイル全体に張付けモルタルが均等に充填されるように加振位置を複数筒所とし、張付けモルタルがタイルの周囲から目地部分に盛り上がる状態になるまで行う。張付けモルタルを塗ってからタイルを張り始めるタイミングが早過ぎると水分が浮き出て水膜を生じる。タイミングが遅過ぎると薄皮状の膜が生じてタイルと張付けモルタルの接着が悪くなる。
張付けモルタルの締まり具合の確認が重要である。
(iv) モルタルに混入する砂の最大粒径は、「標仕」表11.2.1では2.5mmと定められているが塗厚が5mm程度、目地幅が 8mm以下の場合は、塗付け作業及び目地部のモルタルの盛上がり及び仕上りを考え、粒径 1.2mmのものを用いるのがよい。
(v) タイル張付けは、上部より下部へと張り進めるが、まず1段置きに水糸に合わせて張り、そのあと間を埋めるようにして張る。上部より続けて張ると、タイルのずれが起きやすく目地通りが悪くなる。
(vi) 本工法のタイルの接着力は、衝撃を与える時間に影響されるので適正な衝撃時間を与えなければならない。タイルの大きさと適正な衝撃時間、衝撃位置の関係は表11.2.6のとおりである。
なお、張付けモルタルの塗置き時間は20分程度までが望ましい。
表11.2.6 タイルの大きさと衝撃時間、衝撃位置
表11.2.6_タイルの大きさと衝撃時間、衝撃位置 2.jpg
(vii) 密着張りのプロセス管理法としては、タイル裏面への充填性の検査が望ましい。密着張りの場合、タイルの裏あしに張付けモルタルがかん合して、一体性が確保されていることが、最も重要な管理ポイントの一つである。検査は、図11.2.17に示すように、タイルを張り付けた直後に、タイルをはがしてタイル面への充填性を確認する。判定基準は、タイル裏面の充填面積の割合(充填面積率)で管理することが一般的で、そのときの管理下限値を90%程度にしていることが多い。
図11.2.17_タイル裏面への充填性検査(密着張り)(JASS19より) 2.jpg
図11.2.17 タイル裏面への充填性検査(密着張り)(JASS 19より)
(3) 改良積上げ張り
(i) タイル張りの作業においては、出隅部・入隅部・開口部等を基準として、その間にタイルを張り込む形でタイル張りを行う。タイル張りの基準となる箇所には、あらかじめ決定したタイル割りに基づいて、これらを目地通りよく張り上げるため、上下引き通しの基準線を設ける。
階段が多い高層の建築物の場合は、張力をかけることができ、風等による揺れの少ないピアノ線を、また低層の建築物の場合はナイロン製の糸を水糸として用いること多い。
(ii) コーナ一部や開口部回りの役物タイルは、その他の平部分のタイル張りに先立ち、基準を設けるために施工する。また垂直の目地通りを確保するため.建物最上部のコーナータイル又は平タイルを基準タイル張りとして先に施工する。
これらのタイル張りは、仕上り面精度を確保する基準となるので慎重に行う必要がある。
(iii) 改良積上げ張りでのタイル張りは、タイル裏面に小形の金ごてを用い、張付けモルタルを仕上り代よりも3〜4mm程度厚めに塗り、仕上り墨を見ながら隅角部の両辺にわたって位置を正確に、また均等によくたたき込む。
(iv) タイルヘのモルタルの塗付けは、外装タイルの場合はタイル裏面の裏あし先端から4〜7mm程度、内装タイルの場合はタイル裏面から13〜18mm程度隙間のないように行う。通常、タイルを手に持ち、れんがごて等を用いて塗り付けるが、タイルの隅角部にはモルタルがまわらないことがある。塗厚を一定にし、隅々までモルタルを塗り付けるため、合板等で型を作り、ここにタイルを敷き並べて塗り付けるとよい。ただし、モルタルを塗り付けたタイルは、長くとも 5分以内に張り付けることが肝要である。
(v) 一般に改良積上げ張りは、下部から張り上がる。小口・二丁掛けの形状では、ずれが生じることは少ないが、タイルの形状が大きかったり、厚さが厚かったりするとずれが生じることがある。ずれを止めるためにセメントの粉を掛けることがあるが、白華発生防止のため絶対行ってはならない。ずれが生じる場合は目地に棒等をかって上へ張り進める。
また、タイルを上へ積み上げていくとき、下部のタイルに荷重が掛かるような場合が少なくない。タイルのはく離を防ぐため、1日の施工高さを1.5m程度と「標仕」では規定している。
(vi) 内装の場合で、張付けモルタルの量が適切でなく隙間ができた場合はモルタルを補充する。
(ⅶ) 化粧目地は「標仕」11.2.7(c)(3)(iv)による。
(4) 改良圧着張り
(i) 改良圧着張りは、張付けモルタルを下地側とタイル災面の両方に途って、タイルを張り付ける工法である。
下地側には、軟らかめに練ったモルタルを金ごてを用いて薄くこすり付けるように塗り付けて、下地面との密着を確保したのち、直ちに張付けモルタルを塗り重ねて4〜6mm程度に塗り付ける。
定規を用いて平たんな面を出したのち、木ごて・発泡スチロール板(約200 × 200 × 30mm程度)で表面を平たんにするとともに粗面i状態とする。この面の上にタイル張りを行うが、タイル張りまでの時間は、モルタル練りからタイル張り終了まで60分以内とする。
(ii) タイル裏面に張付けモルタルを塗り付ける際は、タイルを固定するための専用の治具等を用いて、3~4mm程度の厚さで、こて圧をかけて、タイル裏あし全体にモルタルが充填するように塗り付ける。この張り方の重要な管理ポイントは、張付けモルタルの塗置き時間である。作り置きをしないで、タイル裏面に張付けモルタルを塗り付けたタイルは、直ちに張り付ける作業手順とする。
(iii) タイル張りを終了したのち、目地の通りを確認し、更に、目地部の盛り上がったモルタルを目地ごて・木の棒等を用いて取り除き、ささら(細い割り竹をたばねたもの)等を用いて掃除しておく。
(5) マスク張り
(i) マスク張りは、25mm角を超え、小口未満のタイルの張付けに用いられる。
(ii) 張付けモルタルには、メチルセルロース等の混和剤を用いる。
(iii) タイル裏面にモルタルを塗り付けるのに使用するマスク板(図11.2.18及び表11.2.7参照)は、この工法に専用のもの((-社)全国タイル業協会で入手できる)を用いる。
現在用いられているマスク板は、肉厚が 6〜7mmのモザイクタイルの場合、マスクの厚さが 3mmではタイル裏面へのモルタルの充填が不足し、また、マスクの厚さが5mmでは、張付けたタイルがずれやすく、目地部へのはみ出しが多く汚れが生じやすい 。 そのため、マスクの厚さは 4mmが適切である。
図11.2.18_マスク板の形状の一例 2.jpg
図11.2.18 マスク板の形状の一例
表11.2.7 マスク板の大きさ及び開口率
表11.2.7_マスク板の大きさ及び開口率 2.jpg
(iv) マスクを介しての張付けモルタルの塗付けは、金ごてを用いて行う。ゴムごて等を用いると塗厚が薄くなり、所定の塗厚が得られないため注意が必要である。
(v) タイル張付けは、目地通りを定めた墨に合わせて、目地部に張付けモルタルがはみ出すまで、たたき板でたたき押えをしながら張り付ける。
張り手と塗り手とが、2人1組で作業を行うと効率が上がる。
マスク張りの重要な品質管理ポイントは、張付けモルタルの塗置き時間の管理である。作り置きをしないで、タイル裏面に張付けモルタルを塗り付けたタイルは、直ちに張り付ける作業手順とする。マスク張りにおけるタイル浮きの最大原因は、タイルのたたき込み不足によるものである。張付けモルタルの塗布量が少なく、十分なたたき込みができないと、タイルの四隅に隙間が生じて、目地部から雨水が浸入しタイルの浮きにつながるため、目地部分の表紙張りの一部が、はみ出したモルタルにより湿るまで、表紙張りユニットタイルのたたき押えを十分に行う。
(vi) 表紙張りのユニットタイルは、張り付けたのち、紙に水湿しを行い、これをはがす。紙をはがす時期は、タイル張り後速やかに行うのがよい。
この水湿しは、水を含ませたスポンジ、霧吹きあるいは左官用水はけによるが、園芸用薬剤散布のための霧吹きが短時間で均ーに水湿しができる。紙はがし後著しい配列の乱れがある場合は、速やかにタイルの配列の乱れを、金ごてと小形ハンマーを用いて修正する。モルタルの硬化が進行してからは、タイルの接着を損ねることになりかねないため、張付けモルタルが軟らかいうちに行う。この時間の判断には十分な注意を払う必要がある。また、修正後は再度たたき板でたたき押えをする。
(6) モザイクタイル張り
(i) 張付けモルタルの派付け面積を3m2以下と「標仕」では規定している。これはモルタル下地面に張付けモルタルを塗り、タイルをたたき押さえながら張り進める工法では、張付けモルタルを塗り付けたのち、タイル張りまでの時間(オープンタイム)の長短により、タイルの接着性が大きく影響を受けるので、これを規定する必要があるためである。
張付け可能なオープンタイムは、季節・風向き・湿度・日射の有無等様々な因子が作用するため、張付けモルタルの締まりや皮ばりがりしいときには、塗付け面積を小さく管理する必要がある。
(ii) 張付けモルタルの塗付けは、いかに薄くとも2度塗りとし、1度目は薄く下地面にこすりつけるように塗る。これは、下地モルタル面の微妙な凹凸にまで張付けモルタルが食い込むようにするためである。
次いで、張付けモルタルを塗り重ね 3mm程度の厚さとし、定規を用いてむらのないよう塗厚を均ーにする。
張付けモルタルの塗付けは、金ごて押えとすることが原則である。
(iii) たたき押えは、全面にわたって十分に行う必要があるが、その目安は、タイル目地に盛り上がった張付けモルタルの水分で
、紙張りの目地部分がぬれてくることによって判断する。
(iv) モザイクタイル張りのプロセス管理法としては、タイル裏面への充填性の検査が望ましい。モザイクタイル張りの場合、タイルの裏あしに張付けモルタルがかん合して、一体性が確保されていることが、最も重要な管理ポイントの一つである。検査は、 タイルを張付けた直後に、タイルをはがしてタイル面への充填性を確認する。判定基準は、タイル裏面の充填面積の割合(充填面積率)で管理することが一般的で、その時の管理下限値を90%程度にしていることが多い。
(v) 表紙張りのユニットタイルは、タイル張り終了後、張付けモルタルがやや締まったと思われるころ(夏期は 20分程度まで、冬期は40分程度まで)、ユニットタイルの紙にスポンジ又は霧吹きにより水を与えて、でんぶんのりを軟化させて紙はがしを行う。その後、目地の配列を見て、修正を要するような箇所については手厚しを行う。
(vi) タイル張りが終了したのち.張付けモルタルの締まりを見計らって、目地の掃除を行う。用いる道具は千枚通し等先端が細く鋭利なものであり、モルタルをさらっていく。特に、伸縮調整目地を設ける位置(他種の部材との取合い箇所、入隅部等)のモルタルは、入念に取り除いておくことが必要である。
(e) まぐさ、窓台等へのタイル張り
まぐさ、ひさし先端下部等は、特にはく落のおそれが大きいので、原則として、タイル張りを避けるのがよい。設計図書で役物のタイル張りを指定された場合は、図11.2.19及び図11.2.20のような工法で行う。この時、はく落防止用引金物(なましステンレス鋼線0.6mm以上のもの)をタイルに取り付けることが必要である。
なましステンレス鋼線を張付けモルタル中に埋め込む場合は0.6mm程度とし、下地側のアンカービス等に緊結する場合は0.8mm程度を使用する。
図11.2.19_まぐさタイルの取付け 2.jpg
図11.2.19 まぐさタイルの取付け
図11.2.20_窓台タイルの取付 2.jpg
図11.2.20 窓台タイルの取付け
(f) 斜め整へのタイル張り
斜め壁は、雨掛りが多いことから防水層が設けられる場合が多い。防水層の上にモルタル下地を作製してタイル張りを行うと、長年の間に防水層が劣化して、防水層からモルタル及びタイルがはく離する危険性がある。そのため、斜め整で防水附がある場合には、下地モルタル層をステンレスアンカーとステンレスメッシュによりコンクリート躯体に固定して、タイル張りを行うのがよい(図11.2.21参照)。
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図11.2.21 斜め壁のタイルの取付け例
11.2.8 養生及び清掃
(a) 養生
(1) 陶磁器質タイル張りにおいては、施工時の強い直射日光、強風等がタイルの接着に影響を及ぼすため、シートを張るなどして養生を行う。
(2) 冬期のタイル張りにおいて、気温が3℃以下に降下するおそれのある場合は、仮設暖房及び保温を行うか、日中暖かいうちに作業を止め、シート張り等の保温を行い気温が降下しても凍害を受けないようにする。
(3) 施工中及びモルタルが十分に硬化しないうちに、タイル張り面に振動、衝撃等を与えると、接着強度を低下させる原因となるので、避けなければならない。また、床タイルの場合には、同様の理由により3日間はタイル面を直接歩行しないようにする。やむを得ず道板等を使用する場合も、1 日間 は歩行しないようにするのがよい。
(b) 消 掃
タイル面の水洗いを十分に行っても清浄にならない場合は、やむを得ず酸類を用いて汚れを落とすことがある。この場合は、その周辺及び酸が流れる途中の材料を汚染あるいは腐食させることのないように、十分注意する必要がある。酸は30倍程度に希釈した工業用塩酸を用いることが多いが、酸洗い後の水洗いが特に大切であり、酸が目地に残らないように手早く入念に行う必要がある。また、濃度の高い酸で洗うと、タイル面の汚れは落ちやすくなるが、目地材が侵されるので使用してはならない。酸性フッ化アンモニウム等のフッ酸系の溶液は、溶液の濃度、使用時の条件(温度、洗浄時間)及びタイルの種類により、タイル表面を傷めることがあるため注意を要する。ラスタータイルは、タイル表面の損傷が目立ちやすいため、特に注意する必要がある。使用を検討する場合は、必ずサンプルを用いて、実際の清掃時と同じ条件で試験を行い、タイル表面の損傷の有無を確認して判断する。