7章鉄骨工事 5節普通ボルト接合

第7章 鉄骨工事
5節 普通ボルト接合
7.5.1 適用範囲
(a) 普通ボルト接合には、せん断接合、引張接合及び引張せん断接合の3種類あるが、「標仕」では,一般的に使用されるせん断接合のみ対象としている。
(b) せん断接合は、ボルト軸のせん断応力と、ボルト軸とボルト孔壁との間の支圧応カで力を伝達するため、ボルト孔とボルト軸部間の隙間のずれによる建造物の変形が避けられない。このため建築基準法施行令ではボルト接合とすることのできる鉄骨造の限度を、原則として軒の高さ9m以下で張り間が13m以下、かつ、延ベ面積3,000m2以下としている。
7.5.2 接 合
普通ボルト接合では次の事項に留意する。
(l) 孔径は、ボルトの公称軸径+0.5mm(ただし、胴縁類の取付け用ボルトの場合は+1.0mm)とする。
(2) このボルト孔径の制限は、鉄骨の実態から精度的に厳しい要求となっているので、注意する必要がある。
(3) ボルトの戻止め
建築基準法施行令では、コンクリートで埋め込む場合を除いて、ボルトが緩まないような処置をするように定めている。その方法としては、次のようなものがある。
① ナットを二重にする。
② ナットの部分を溶接する。
③ 緩み防止用特殊ナットを使用する。
なお、二重ナットを使用する場合には、下ナットを締め付けたのち、このナットをスパナで押さえたまま上ナットを別のスパナで締め付け、最後に上ナットを固定して下ナットを上ナットに対して締め付けるようにしないと、戻止めの効果が得られないので注意する(図7.5.1参照)。
図7.5.1_二重ナットの締付け.jpg
図7.5.1 二重ナットの締付け
(4) ボルトの長さは、JIS B 1180(六角ボルト)付表の呼び長さで示し、締付け長さに応じて締付け後、ナットの外側に3山以上ねじ部が出るように決める(図 7.5.2参照)。
図7.5.2_ボルトの長さ.jpg
図7.5.2 ボルトの長さ

7章鉄骨工事 6節溶接接合

第7章 鉄骨工事
6節 溶接接合
7.6.1 適用範囲
溶接方法には図7.6.1のような種類があるが建築鉄骨工事では、実線枠.jpeg 枠及び 破線枠.jpeg 枠で囲んだ溶接方法が使われる。「標仕」6節では、実線枠.jpeg 枠で囲んだ被覆アーク溶接(手溶接)、ガスシールドアーク溶接及びセルフシールドアーク溶接(半自動溶接)、ガスシールドアーク溶接及びサブマージアーク溶接(自動溶接)について規定している。被覆アーク溶接は手溶接とも呼ばれる。
なお、エレクトロスラグ溶接については、箱形断面材の内ダイアフラムの溶接等にしばしば用いられる自動溶接の一種であるが溶接施工能力のある鉄骨製作工場は限られるので7.2.5で溶接材料についてのみ解説している。スタッド溶接については 7節で解説している。
  図7.6.1_溶接方法の分類.jpeg
図7.6.1_溶接方法の分類
7.6.2 施工管理技術者
「標仕」7.6.2(b)に定めるJIS Z 3410(溶接管理 – 任務及び責任)による溶接管理を行う能力のある者とは、例えば、 日本溶接協会規格WES 8103 : 2008(溶接管理技術者認証基準)に定められた溶接管理技術者の認証を有する者等が該当する。WES 8103は溶接管理技術者の能力に応じて3種類の認証等級を定めており、その任務及び責任並びに知識及び職務能力は表7.6.1に示すとおりである。
なお、JIS Z 3410は ISO 14731 : 2006の翻訳である。
表7.6.1_溶接管理技術者の任務並びに知識及び職務能力.jpeg
7.6.3 技能資格者
(a) JISにおける溶接技能者の技術検定基準には、手溶接の場合はJIS Z 3801(手溶接技術検定における試験方法及び判定基準)及び半自動溶接の場合はJIS Z 3841(半自動溶接技術検定における試験方法及び判定基準)が定められている。
(b) 「標仕」7.6.3 (a)(3)では自動溶接のオペレーターは手溶接又は半自動溶接の技量を有することと定め、更に技量を証明する工事経歴を監督職員に提出することとしている。
なお、溶接ロボットのオペレーター資格には、(ー社)日本溶接協会によるWES 8111(建築鉄骨ロボット溶接オペレータの資格認証基準)及びWES 8110(建築鉄骨ロボット溶接オペレータの技術検定における試験方法及び判定基準)による資格並びにAW検定協議会によるロボット溶接オペレーター資格がある。
(c) 作業内容と溶接技能者に求められる資格の内容
(1) 溶接技能者の技量資格の標準は、溶接する板厚や作業姿勢に応じたものとするが、工場溶接で回転治具等を利用し、主に下向き又は横向き姿勢で行う場合は表7.6.2によればよい。ただし、板厚区分については1 ~ 2mmの差にこだわることなく弾力的に考えてよい。
(2) 裏当て金を用いる試験の合格者は、裏当て金を用いる溶接、両面からの溶接及びそり他の完全溶込み溶接の初層を除く溶接(初層をティグ溶接するような場合、裏はつりを行う場合を除く。)を行うことができる。裏当て金を用いない試験の合格者はすべての完全溶込み溶接を行うことができる。
表7.6.2_作業範囲と溶接技能者技量資格標準.jpeg
(d) 組立溶接は本溶接に匹敵する重要なもので、特に本溶接の一部となる組立溶接(例えば、隅肉溶接、裏はつりなしの開先内の組立溶接)、裏当て金の溶接等については、本溶接時に組立溶接を再溶融させる必要があるため、注意深く行う必要がある。このため「標仕」7.6.3(a)(4)で組立溶接は通常の溶接と同様、手溶接又は半自動溶接の技量を有することと定められている。手溶接ではJIS Z 3801の基本となる級すなわち板厚に応じた、N-1F、A-2F、N-2F、A-3F、N-3Fの資格を有する溶接技能者等、ビルドアップH形鋼(BH)等、半自動溶接で組立溶接を行う場合には、JIS Z 3841のSN-1F、SA-2F、SN-2F、SA-3F、SN-3Fの資格を有する溶接技能者等とする。
(e) 「標仕」7.6.3(a)に定めたJIS Z 3801及びJIS Z 3841による溶接の技量よりも高度な技量が必要と判断される場合には特記により溶接技能者に対して技量付加試験を実施する。
なお「標仕」では規定していないがAW検定協議会では、個々の工事において技量付加試験を実施することは非効率であるとしてあらかじめ溶接技能者に対して代表的なディテールで技量検定を実施し、これを個々の工事における技量付加試験の代替とするものとして、AW検定を実施している。
7.6.4 材料準備
(a) 開 先
(1) 開先の形状は、溶接の品質に大きく影響するので原則として特記に指定されたものとするが鉄骨製作工場には慣用している形状があるので設計担当者と打合せのうえ、多少形状を変えるだけで慣用形に合わせることができるならば変えることを認めてもよい。
(2) 開先精度が悪くてルート間隔が広くなった場合に、溶接量が増えると収縮が多くなるためひずみが増したり、また、パス数が多くなるとその他の欠陥を生じやすくなることがある。
(3) 開先の加工は、精度の良いことが必要であり、表面の状態もなるべく平らな方がよい。切り込んだような傷(ノッチ)や凹凸があると溶接に欠陥ができやすいので、精度の悪い場合の補修方法(7.6.5(a)参照)及びその限度を施工計画書に定めておく。
(4) 設計者が特記する開先形状の詳細を記したものに、(一社)日本建築学会「鉄骨工事技術指針・工場製作編」があるが、各ファブリケーターの経験や技術により開先角度等に違いがあることから、「標仕」では特記としている。
(b) 溶接材料の取扱い
「標仕」7.6.4 (c)に溶接材料の取扱いについて定められているが、特に重要なことは吸湿の防止である。吸湿した溶接材料や錆の発生したワイヤを使用すると、アークが不安定となり、スパッタが増大してビード外観を損う原因となる。また、ブローホールやピット等を発生しやすく健全な溶接を期待できない。更に、水分中の水素が原因になり、割れ等の欠陥を生じやすい。
溶接棒の乾燥温度は被覆材の種類に応じて定められているが、特に低水素系溶接棒は、乾燥温度について注意が必要である。溶接棒はヒーターや赤外線等で防湿設備を備えた専用の保管室に保管し、また、作業時には携帯用乾燥器を用い、作業量に見合った出庫量を決めることが望ましい。
一昔前には、溶接棒の取扱いを見れば、工場の品質管理能力が分かるといわれた程、溶接材料の取扱いは大切なことである。
7.6.5 部材の組立
(a) 部材の組立は、通常小形の材片を組み立ててブロックとし、次にブロックとブロックを組み立てて大きな部材をつくり上げる。このような工法では組立途中の製作誤差が開先精度にしわよせされ、しかもこの部分が最も応力の大きい重要な溶接になりやすい。特に完全溶込み溶接のルート間隔及び隅肉溶接の密着を保持することが大切であり、完全溶込み溶接の開先精度が限界許容差を超えるような場合では、「鉄骨工事技術指針・工場製作編」図14.13.33のように補修する。
なお、補修の要領を「鉄骨工事技術指針・工場製作編」から抜粋して次に示す。
鉄骨工事技術指針 工場製作編
4.13.5 組立て部材の補修要領
開先形状、ルート間隔の不良、すき間の大きい場合の補修方法の概略を示す。
(1) ルート面(ルートフェイス)
ルート面が大きすぎるときは図4.13.33のようにアークエアガウジングまたはグラインダーで削りとる。
(2) ルート間隔(ルートギャップ)
ルート間隔が狭いときは図4.13.33のようにグラインダーまたはアークエアガウジングで正規の寸法に削除する。アークエアガウジングによる凹凸のはなはだしい箇所はグラインダーで仕上げる。広いときは継手の一方または両方を肉盛りして丁寧に仕上げる。
図4.13.33_ルート面の補修.jpeg
(3) 隅肉溶接におけるすき間
被覆アーク溶接およびガスシールドアーク溶接の場合は表4.13.3、サブマージアーク溶接の場合は表4.13.4による。
表4.13.3_被覆アーク溶接ガスシールドアーク溶接の場合のすきまの補修溶接要領.jpeg
表4.13.4_サブマージアーク溶接の補修溶接要領.jpeg
(b) ノンスカラップ工法
H形断面材の開先加工については、「鉄骨工事技術指針・工場製作編」を参照するとよい。
実験結果や実施工の面で最も優れていると考えられるノンスカラップ工法の開先形状の例を図7.6.2及び3に示す。図7.6.2は内ダイアフラム形式の場合、図7.6.3は通しダイアフラム形式の場合である。
通しダイアフラム形式では、梁ウェブを切り欠いて柱側の溶接部をかわし、ダイアフラムの形状にフィットするように開先形状を加工する。更に、通しダイアフラムと梁フランジとの目違い等の施工誤差を吸収できるように通しダイアフラムの板厚は梁フランジの板厚の2サイズアップとし、ダイアフラムの外端を梁フランジの1 ~ 2mm外側にするとよい。
図7.6.4は2枚の裏当て金を用いる場合のノンスカラップ工法での裏当て金の取付け要領である。梁が同時組BHの場合は裏当て金の端は平板でよいが、梁が先組 BHやロールHの場合には、裏当て金の端部がフィレットに沿うように加工されたものを用いる。ほかに、梁のウェブのフィレット部分を裏当て金の断面状に切り欠いて、1枚の裏当て金を貫通させる方法もある。
図7.6.2_ノンスカラップ工法.jpeg
 図7.6.3_ノンスカラップ工法(通しダイア形式).jpeg
図7.6.3_ノンスカラップ工法(通しダイア形式同時組みBH梁).jpeg
図7.6.3 ノンスカラップ工法(通しダイア形式)
図7.6.4_裏当て金取り付け要領.jpeg
(c) 溶接部が再凝固するとき、溶接部は収縮しようとする。例を示せば、図7.6.5の実線の形が溶接すれば(破線.jpeg)のように変形することになる。この場合、あらかじめ板を(一点鎖線.jpeg)のように加工しておき、溶接したときに実線の形になるようにする方法を逆ひずみ法という。
逆ひずみ法が取れない場合は変形しないように治具や重量物により押さえたり、補強材を設けたりして拘束して行う。この方法を拘束法ということがある。
  図7.6.5_溶接による変形の例.jpeg
(d)高力ボルト摩擦接合と隅肉溶接を一つの紙手に使用する併用継手では、高力ボルトの締付けを溶接より先に行うならば、両者の許容耐力を累加できる。これは、主すべりを生じる以前の開カボルト接合部の剛性と関肉溶接の剛性が近いためである。一方、先に溶接を行うと溶接熱によって板にひずみが生じ、高カボルトで締め付けても接合面に十分な材面圧縮力が得られない可能性があるので、許容耐力の累加を認めていない。よって、併用継手では、高カボルトの締付けを行ったのちに溶接を行うことが原則となる。
(e) 組立溶接は本溶接の一部となって残る場合があるので、所定の強度があり欠陥がないように注意して施工する。また、溶接ビート長さが短いと溶接部が急熱・急冷され溶接部に悪影響を与えるため、ショートビードにならないように「標仕」表7.6.1でその長さを定めている。また、組立溶接は下向きだけでなく、横向き、立向き、上向き等の溶接姿勢で溶接しなければならない場合もある。一般には本溶接よりも厳しい施工条件になることが多いので溶接技能者の技量、溶接材料、溶接条件等、適切な施工管理のもとで行う必要がある。
400N/mm2級等の軟鋼(鋼種SS400,SM400,SN400等)で板厚25mm以上の鋼材及び490N/mm2級以上の高張力鋼(鋼種SM490,SN490等)の組立溶接を被覆アーク溶接で行う場合は、低水素系の溶接棒を用いる。
冷間成形角形鋼管のコーナ一部は、塑性加工が大きく割れやすいので組立溶接は避けるべきである。また、図7.6.6に示す位置も欠陥を生じやすいので組立溶接を避ける。
図7.6.6_組立溶接を避ける位置.jpeg
7.6.6 溶接部の清掃
母材の溶接面の水分、油、スラグ、塗料、鋳その他溶接の支障となる付着物は、除去する。固着したミルスケールや防錆用塗布剤は、取り除かなくてもよい。
7.6.7 溶接施工
(a) 溶接機、付属用具等には各種のものがあるが、その選定は施工業者に任せてよい。しかし、原則として溶接機は、遠隔制御装置があり、電流、電圧等の調整が溶接技能者の手元でできるものとする。また、JIS化されているものは、JISの規格に適合するものとする。
(b) 溶接長さは、「標仕」7.6.7(d)(1)では、図7.6.7 に示すように、溶接始終端の欠陥を生じやすい部分の長さを隅肉サイズの寸法程度と考え、有効長さに隅肉サイズの 2倍を加えたものとしているので、この長さを確保するように施工する。
図7.6.7_溶接長さ.jpeg
(c) 溶接の姿勢は、下向きが最も無理がなく確実な施工ができるので、大きな部材でも、治具を使ってできるだけ下向きになるようにする。
(d) 溶接入熱とパス間温度
溶接接合部の強度や靭性は、パス間温度、溶接電流、アーク電圧、溶接速度等の溶接条件及び溶接材料と密接な関係がある。
溶接入熱が大きくかつパス間温度が高過ぎると、溶接金属の強度や衝撃値が低下することが知られている。そのため、JIS Z 3312(軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ)の解説には、溶接金属の所定の機械的性質を確保するための入熱及びパス間温度の管理値が定められている。ラーメン骨組の柱梁接合部の梁端溶接部等のように塑性変形能力が期待される部位の溶接を行う際は、この入熱とパス間温度の管理が特に重要である。そのため上記の管理値を超えるような大入熱や高いパス間温度で溶接を行う場合は、あらかじめ溶接施工試験を行って溶接部の強度や衝撃値が所要の値を満たすことを確認しておく必要がある。
7.1.3 に述べた鉄骨製作工場の認定制度においても Jから Sまでの工場の各々のグレードに応じて製作可能な鋼材の種類とそれに対応する入熱及びパス間温度の溶接条件が定められている。なお、Sグレードについては、自主的に定めてよいとされている。これらの管理方法については、7.6.10(a)(2)を参照されたい。
参考に、JIS Z 3312の解説に記載されている入熱とパス間温度に関する記述の抜粋を次に示す。ここで、解説表3の値は多数の銘柄の溶接材料を用いて下向き溶接で行われた試験結果の最低値に合わせて求められた値である。また、鉄骨製作工場の工場認定制度の性能評価基準では、表7.1.2に示す管理基準値により溶接施工することになっている。また、JIS Z 3313 (軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ)においてもJIS Z 3312と同様に、入熱とパス間温度の管理に関する解説表が示されている。
JIS Z 3312 : 2009(解説)
鉄骨の柱ーはり(梁)溶接部の機械的性質の安定化及び向上は、建築物の耐震性の点で極めて重要である。したがって、社団法人日本建築学会では、柱ーはり溶接では、各適用鋼種において所定の機械的性質を確保するため、解説表3のように入熱及びパス間温度を管理する必要があるとしている。
解説表3_主な溶接ワイヤの使用区分.jpeg
ロボットを建築鉄骨溶接に使用する場合は、社団法人日本ロボット工業会による建築鉄骨溶接ロボットの型式認証が必要であり、認証書にはワイヤの種類、溶接入熱及びパス間温度の範囲などが記載されているため、それらに従うものとし、解説表3はロボット溶接には適用しない。
(e) 予熱とは、溶接開始に先立ち、溶接部及びその周辺を加熱することで、温度は 50~100℃程度とする場合が多い。溶接欠陥の中で最も重大な溶接割れを防止する最も適切な方法として、予熱による溶接後の冷却速度の緩和が推奨されている。あらかじめ加熱しておくことで、溶接後の冷却速度を遅くさせて、冷却過程での量散性水素量の溶解度の減少から鋼の中の水素が量散水素として出てくるものの外部放出を容易にし、かつ、熱影響部の硬さも減少させることで、低温割れ防止に効果がある。また、溶接部付近の温度勾配が緩やかになるので、溶接変形が少なくなり溶接応力も小さくなって低温割れ防止に効果がある。
溶接作業場所の温度による予熱等については「標仕」7.6.8に定められている。鉄骨溶接施工の必要予熱混度の目安を表7.6.3に示す。
なお、表の予熱温度等に関しては、次のような注意が必要である。
(1) TMCP鋼は溶接性が良好であるので、表7.6.3 に示す予熱温度を緩和できる可能性がある。組立溶接にも予熱が必要な場合もある。
(2) 気温(鋼材表面温度)が400N/mm2級鋼材の場合に0℃以上、490N/mm2級以上の高張力鋼の場合に5℃以上で適用する。気温が -5℃以上で表の適用温度以下の場合は、次に述べる注意事項に従って施工することができる。気温が -5℃未満の場合は溶接を行わない。気温が -5℃以上で0℃ (又は5℃)以下の場合で、表に予熱なしとあるときは40℃まで加熱(ウォームアップ)を行ってから溶接を行う。ただし、400N/mm2級鋼材で板厚が50mm超の場合、490N/mm2級及び 520N/mm2級の鋼材の低水素系被覆アーク溶接の板厚25mm以上の場合、CO2ガスシールドアーク溶接の板厚40mm以上の場合は、50℃の予熱を行う。上記の気温の範囲で表により予熱が必要な場合は、予熱温度を高めにするか、電気ヒーター等で確実に全体の温度を確保するかのいずれかを行う。
(3) 湿気が多く開先面に結露のおそれがある場合は40℃まで加熱を行う。
(4) 予熱は規定値以上、200℃以下で行うものとする。予熱の範囲は溶接線の両側 100mmを行うものとする。
(5) 溶接部の補修や組立溶接で拘束が大きいことが予想される場合は、表の値よりも1ランク上の予熱温度を適用する。ただし、1ランク上でも予熱なしとなる場合は、気温等の条件を考慮して必要に応じて50℃の予熱を行うのがよい。
(6) 拘束が強い場合、入熱が小さい場合(約10kJ/cm以下)鋼材の化学成分が規格値の上限に近い場合や溶接材料の含有水素量が多い場合は、予熱温度をより上げることが必要なこともある。また、鋼材のJISの炭素当量で0.44%を超える場合は予熱温度を別途検討する。
(7) 板厚と鋼種の組合せが異なるときは、予熱温度の高い方を採用する。
表7.6.3_予熱温度の目安.jpeg
(f) エンドタブに関する留意点等を次に示す。
(1) エンドタブは溶接の始点と終点の欠陥を防ぐために取り付ける。エンドタブは、一般に、母材と同等な材質、同厚、同開先のものが用いられる。また、母材が厚くエンドタブを薄くする場合でも12mm以上の板を使用するのがよい。
長さは母材の厚さにもよるが、次のような例が淮げられている。
(i) 手溶接35mm以上
(ii) 半自動溶接 35mm以上
(iii) 自動溶接70mm以上
鋼製エンドタブを切断せず残した場合に、梁フランジとエンドタブにより形成されるスリットの底を起点として溶接部が破断する場合がある。JASS6では、エンドタブの切断の要否及び切断要領は特記によることとしている。
(2) 柱梁接合部でのエンドタブの組立溶接は直接柱梁フランジに行わないのがよい。これはエンドタブの組立溶接がショートビードとなり、熱影響部の破壊靭性を低下させることになり、この部分がフランジ全体の脆性破壊の起点となるおそれがあるためである。図7.6.8に柱梁接合部でのエンドタブ組立溶接の例を示す。
図7.6.8_柱梁接合部エンドタブの組立溶接の例(JASS6).jpeg
(g) 回し溶接とは図7.6.9のような溶接である。回し溶接の長さは、隅肉サイズの2倍以上、かつ、15mm以上とする。
図7.6.9_回し溶接.jpeg
(h) 裏当て金の材質は、原則として母材の鋼種と同等のものが使用される。裏当て金の形状は、溶接時に溶け落ちが生じないものとする必要があるが、一般的には板厚 9mmの平鋼が用いられている。柱や梁の溶接継手や柱梁接合部等で裏当て金を用いて溶接する場合は、裏当て金は、原則としてフランジの内側に設置する(図7.6.10 ロ)。ただし、工事現場溶接の下フランジのようにやむを得ない場合は、裏当て金をフランジの外側に取り付けてよい(図7.6.10ハ)。裏当て金の組立溶接は引張力と同時にわずかではあるが曲げ応力を受けるため、この隅肉溶接が最大応力を受けることとなり、比較的簡単に破断してしまう。また、この隅肉溶接は予熱等を行わずに溶接することが多く、組立溶接はもとよりビード長さが十分であっても、溶接金属や熱影響部の破壊靭性が非常に低いこととなり、隅肉溶接の破断がそのまま接合部全体の脆性破壊につながることにもなる。これらのことから裏当て金を用いた柱梁接合部の裏当て金の組立溶接は、梁フランジの両端から5mm以内及びウェブフィレット部のR止まり又は隅肉溶接止端部から5mm以内の位置(図7.6.10イ)に行ってはならない。裏当て金の組立溶接は、梁フランジ幅の1/4の位置(図7.6.10ロ)に行う。
工事現場溶接等で、裏当て金が梁フランジの外側に取り付く場合、組立溶接は、エンドタブの位置又は開先内に行い、本溶接によって再溶融されない組立溶接は、梁フランジ及び柱フランジ母材に直接行ってはならない(図7.6.10ハ)。
図7.6.10_裏当て金の組立溶接(イ).jpeg
図7.6.10_裏当て金の組立溶接(外開先).jpeg
図7.6.10_裏当て金の組立溶接(内開先).jpeg
(i) 溶接により発生するスラグは、適切な工具を用いて適宜除去しなければならない。スラグが残っていると、スラグ巻込みや融合不良等溶接欠陥の原因となる。手溶接やセルフシールドアーク溶接ではガスシールドアーク溶接に比べてスラグの発生量が多いので各パスごとに除去する。溶接完了後も外観の確認と検査のためにスラ グを除去する必要がある。
(j) スパッタの著しい付着は、塗装等に支障を来すので、「標仕」7.6.7(a)(8)では除去することにしている。
(k) 溶接部の特徴
(1) ガスシールドアーク溶接における溶接部分の状況を図7.6.11に示す。
(2) 溶接部のミクロ組織例を図7.6.12に示す。
溶接部とは溶接金属と熱影響部を含めた部分のことをいう。
ここで熱影響部とは溶接時の熱で組織、冶金的性質、機械的性質等が変化した溶融していない母材部分であり、図7.6.12の①と②の部分である。また、溶接金属と熱影響部との境界はボンド部と呼ばれる。溶接部で最も硬化し靭性も低下するのはボンド部の両側である。熱影響部のボンド部に近い部分は結晶粒も粗大化しており硬化しやすく割れ等も生じやすい。溶接のもろさはこのボンド部近くの領域の性質に支配されることが多い。
図7.6.11_ガスシールドアーク溶接における溶接部分の状況.jpeg
図7.6.12_溶接部のミクロ組織例.jpeg
(l) 自動溶接等
(1) 自動溶接とは、溶接ワイヤの送りが自動的にでき、トーチも溶接線に沿って自動走行し、連続的に溶接が進行するが、溶接中の状況判断と対応をオペレーターが行う溶接を指し、サブマージアーク溶接やエレクトロスラグ溶接が該当する。自動溶接については鉄骨製作工場の、加工能力、溶接に対する管理能力、施工能力等を証明する資料を提出させることが望ましい。
(2) 溶接ロボットとは、JIS Z 3001-1(溶接用語 – 第1部:一般)では「溶接に用いられる産業用ロボット」と定義されており、原則として溶接が開始したら終了するまでは人間が関与しなくても溶接可能なシステムである。
近年、建築鉄骨分野における溶接ロボットの普及が著しい。溶接ロボットを用いて溶接施工を行う際には、溶接ロボットの特性を理解したうえでその操作を行う必要があり、溶接の基本的な知識・技能・経験を有し、かつ、使用する溶接ロボットの仕様を熟知した技能者(オペレーター)が担当する必要がある。このオペレーター資格については、7.6.3 (b)を参照されたい。
溶接ロボットの型式認証制度には、(一社)日本溶接協会と(一社)日本ロボット工業会による共通の認証制度 WES 8703/JARAS 1012(建築鉄骨溶接ロボットの型式認証における試験方法及び判定基準)及びWES 8704/JARAS 1013(建築鉄骨溶接ロボットの型式認証基準)がある。
半自動アーク溶接に比べて溶接ロボットの使用上の注意点としては、部材の寸法や組立の精度が半自動に比べて良くないと良好な溶接ができにくいことなどが挙げられる。
(m) 完全溶込み溶接は全断面が確実に溶接されていないと、耐力が著しく低下することがあるので次の場合以外は認めない。
(1) 裏当て金がある場合
(2)裏はつりをする場合
裏はつりは、アークエアーガウジングによる例が多く、ガスガウジングあるいはチッピング(はつり)によることもある。パネルゾーンでは裏はつりが極めて困難になる場合があるので、そのような場合には、裏はつりを必要とする溶接を避けるべきである。また、裏はつりを行う場合は不良溶接を防止するため、初層の欠陥部分を完全に除去するとともに、裏はつり部を十分に清掃したのち、裏溶接を行う。
(3) サブマージアーク溶接で十分な溶込みが保証できる場合
サブマージアーク溶接は溶込みが深いので試験により十分な溶込みが得られ、裏波が完全にできていることが確認された場合は、裏はつりを省略してよい。しかし、溶込みが完全でなければ、部分溶込み溶接(7.6.7(r)参照)とみなさなければならない。
(n) 完全溶込み溶接における余盛りは応力集中を避けるために過度の余盛りをせず、母材表面から滑らかに連続する形状とする。余盛り高さはJASS 6付則6[鉄骨精度検査基準]による(図7.6.13及び7.13.1参照)。
図7.6.13_完全溶込み溶接突合せ継手の余盛り高さ.jpeg
(o) 完全溶込み溶接T継手の余盛りは溶接部近傍の応力集中を緩和し、突き合う板の開裂やはく離の防止に重要である。余盛り高さは JASS 6付則6に従うものとし、ビードは滑らかであることが重要である(図7.6.14参照)。
図7.6.14_T継手の余盛り高さ(JASS6).jpg
(p) 板厚が異なる突合せ継手の溶接部の形状は、次による。
(1) クレーンガーダーのように低応力高サイクル疲労を受ける突合せ継手では図 7.6.15イのように厚い方の材を1/2.5以下の領斜に加工し、開先部分で薄い方と同一の高さにする。
(2) 上記以外で板厚差による段違いが薄い方の板厚の1/4を超える場合又は10mmを超える場合は、図7.6.15ロのようにT継手に準じた高さの余盛を設ける。
(3) 板厚差による段違いが薄い方の板厚の1/4以下、かつ、10mm以下の場合は、図7.6.15ハのように溶接表面が薄い方の材から厚い方の材へなめらかに移行するように溶接する。
図7.6.15_板厚が異なる突合せ継手の例(JASS6).jpeg
(q) H形断面梁を用いた柱梁溶接接合部の溶接ディテールとして開先加工や組立溶接、裏当て金等は「鉄骨工事技術指針・工場製作編」による。
(r) 部分溶込み溶接は、溶込み溶接の一種ではあるが、図7.6.16のように全断面溶接をしないものである。
図7.6.16_部分溶込み溶接.jpeg
(s) 部分溶込み溶接は主としてせん断力に耐えるものとされており、大きな引張応力、曲げ応力、繰返し応力を受ける箇所に使用してはならないとされている。一般に箱形断面材のかど溶接、圧縮力のみを受ける柱の継目等で、通常の隅肉溶接では不足するが隅肉のような形で接合したい場合等によく用いられる。
(t) 隅肉溶接のサイズ(S)の許容差(ΔS)及び余盛りの高さの許容差(Δa)は、JASS 6付則6によれば、管理許容差として0 ≦ ΔS ≦ 0.5S、かつ、 ΔS ≦ 5mm、 0 ≦ Δa ≦ 0.4S、かつ、Δa ≦ 4、限界許容差として、0 ≦ ΔS ≦ 0.8S、かつ、 ΔS ≦ 8mm、 0 ≦ Δa ≦ 0.6S、かつ、Δa ≦ 6となっている(図7.6.17参照)。溶接全長にわたって前記の管理許容差を超えるサイズ及び余盛りの過多がないことを目標に溶接を行う。前記の限界許容差を超えた場合には、原則として不良品として補修することになるが、限界許容差を超えたからといって直ちに削除する必要はなく、それよりも応力の流れがスムーズになるように、溶接ビード(軸方向と直角に切った断面で見た場合の表面)の形状が、平ら又は若干のへこみとなるような補正をするほうが望ましい。
図7.6.17_隅肉溶接のサイズ及び余盛りの高さの許容差(JASS6).jpeg
(u) 隅肉溶接の長さが短く、母材の熱容量に比較して与える熱量が少ないと、溶接部が急冷されて割れを生じやすい。また、応力の伝達が円滑に行われにくくなることもあるので、隅肉溶接の有効長さの最小値を、隅肉サイズの10倍以上で、かつ、40mm以上になるよう(一社)日本建築学会「鋼構造設計規準」に規定されている。
(v) スカラップの形状は特記によるとされているが、一般的には半径 r=35mmの1/4円の扇形とすることが多い。柱梁仕口梁端溶接部ウェブの上下にスカラップを設ける場合は、フランジ側終端の曲率半径 r を約10mmに滑らかに仕上げ、スカラップ底の応力集中を緩和する形状が用いられている。また最近では、先に図7.6.2及び3に示したように、スカラップを設けないノンスカラップ工法も普及している。
7.6.8 気温等による処置
(a) 作業場所の気温が低、-5℃未満の場合は、溶接を行わない。気温(鋼材表面温度)が低いと溶接部の冷却速度が速く、溶接部に割れが生じやすくなるためである。
(b) 作業場所の気温が、 -5℃以上、5℃以下の場合は、溶接の前に、7.6.7(e)に記した方法に従って、溶接線の両側約100mmの範囲まで加熱(ウォームアップ)を行う。また、気温が5℃以上の場合は加熱を行わないのではなく、「標仕」7.6.7(a)(5)に従い、必要に応じて適切な予熱を行う。
(c) 母材がぬれている場合は、溶接には不適当であるが、溶接に影響を及ぼすような風が吹いている場合もシールドが不完全となったり、アークが不安定になるなど作業がしにくく溶接品質にも悪影響があるので、風が吹いているときは、防風装置のない場所では作業を行わないようにする。一般に被覆アーク溶接及びセルフシールドアーク溶接で10m/sまで、ガスシールドアーク半自動溶接で 2m/sまでが限界とされているが、風による作業者の安全面も考慮しなければならない。
7.6.9 関連工事による溶接
(a) 関連工事として仮設鉄筋、カーテンウォール、電気・機械設備等があるが、7.3.9 の仮設材の取付けと同様にショートビードにならないようにする注意が必要である。
(b) 型枠緊張材に用いられるスタッド溶接は、ショートビードに相当することになるが通常は余り悪影響はない。しかし、強度の大きい高張力鋼や気温の低いときなどに行うことは望ましくない。
(c) 高力ボルト接合部分に溶接する場合は、高カボルトのセットに溶接すると高カボルトに割れを生ずることが多く、また、ボルトの軸力に変動を生じるので絶対に避けなければならない(7.4.1 (g)参照)。
7.6.10 溶接部の確認
(a) 品質の良い溶接部を得るためには、溶接後に不具合を補修すればよいとするのではなく、できるだけ溶接後の不具合を少なくすることが肝要である。そのためには、溶接着手前及び溶接作業中の試験、計測又は確認が特に重要となる。
(1) 溶接着手前
いずれの項目も重要であるが、隙間や食違いは直接、継手の強度低下に影響する。また、開先精度や溶接面の清掃が悪いと溶接欠陥の発生につながりやすい。 隙間・食違い・開先面の精度の合否判定は、JASS 6付則6による(7.13.1参照)。
柱梁仕口のダイアフラムとフランジのずれ及び溶接部の突合せ継手の食違いについては平成12年建設省告示第1464号において表7.13.1のように定められている。特に、通しダイアフラムと梁フランジの溶接では梁フランジは通しダイアフラムの板厚内に収めるよう規定されている。そのため、通しダイアフラムの板厚を原くし、図7.6.3に示すように、通しダイアフラムと梁フランジのレベルは通し、ダイアフラム側を1 ~ 2mm外側に設定するよう設計図の段階から配慮することが望ましい。
一方、組立溶接は軽視されがちであるが、急冷硬化するので割れが発生しやすい。予熱は溶接割れ発生防止のために重要であり、製作要領書に規定されている場合は、温度チョークや表面温度計で温度を測定する。
(2) 溶接作業中
溶接順序、溶接姿勢、溶接棒及びワイヤ径、溶接電流、アーク電圧、溶接入熱、パス間温度等は、いずれも健全な溶接部を得るために大切な確認項目である。
パス間温度の測定には、温度チョークや表面温度計が用いられているが、最近ではパス間温度・入熱量の管理方法を簡素化するために不可逆性の示温塗料等新しい製品も開発されている。また、あらかじめ溶接試験を行って、入熱とパス数によってパス間温度がどのように変化するのか、また、強度及び靭性がどのような値になるのかを確認しておき、それに基づいて、要求される力学的性能を満足するように溶接作業要領を作成し、実施工ではこの溶接作業要領を守って溶接を行うなどの管理方法も考えられている。
なお、溶接技能者の責任意識を喚起し、溶接部の品質向上につなげる管理方法として、当該溶接部を施工した溶接技能者の名前が分かるようにするなどが考えられる。
(b) 溶接部のビード外観のチェックは品質管理上重要であり、溶接完了後に、次の項目について確認を行う。
(1) ビード表面の不整・ピットの合否判定は、JASS 6付則6による。クレーターは、適切に処理され、割れ・ヘこみがないことを確認する。
アンダーカットの許容値については、平成12年建設省告示第1464号によって、表7.13.1のように定められている。これは、ただし書きはあるもののJASS 6 付則6よりも厳しい値であるので注意する。
(2) 溶接金属の寸法とは余盛りの高さ・隅肉部の脚長等である。これらの測定には、溶接ゲージを使用すれば便利である(図7.6.18参照)。
図7.6.18_溶接ゲージの例.jpeg
7.6.11 溶接部の試験
(a) 「標仕」では、溶接表面割れの試験方法として、JIS Z 2343-1(非破壊試験 – 浸透探傷試験ー第1部:一般通則:浸透探傷試験方法及び浸透指示模様の分類)又は JIS Z 2320-1(非破壊試験一磁粉探傷試験ー第1部:一般通則)によるとされている。
浸透探傷試験(PT)として一般に行われている方法は、カラーチェック(染色浸透探傷法)といわれる簡単な方法で溶接部に浸透性のよい赤色の液を吹き付けて割れ等に浸透させたのち、一度ふき取り、更に白色になる現像液を吹き付け、そこににじみ出た赤色により欠陥を発見する方法である。
一方磁粉探傷試験(MT)は、強磁性体に磁場を与えると、材料の不連続部(欠陥部分)で磁束が表面空間に漏えいし磁極が生じ、そこに磁粉を散布すると磁束による模様が現われるという原理を利用して微細な欠陥を検出する方法である。磁粉探傷で検出できる欠陥は、磁化によって発生する磁力線の方向に対して直角方向に存在するもののみで平行な場合はほとんど検出できない。
(b) 超音波探傷試験
(1) 完全溶込み溶接部の非破壊検査の方法としては、放射線試験(RT)、磁粉探傷試験(MT)、浸透探傷試験(PT)等もあるが、一般的には超音波探傷試験(UT)が採用されている。UTは、試験装置が簡便で取扱いに危険がなく、建築鉄骨のように入り組んでいたり狭い部分であっても適用できるためである。
試験の対象箇所は、非常に重要で欠陥があった場合の危険の大きいものは全数試験となるが、建築鉄骨の場合は溶接部の箇所数が非常に多いこともあり、全数試験をすることはまれで、一般には抜取りの方法が採用されている。抜取試験は、確率論に基づき、試験の効率(時間とコスト)と欠陥を見逃す危険とをはかりにかけて抜取率等を決定するものである。したがって、厳しい試験を行う必要がある場合は抜取率を高くしたり合否の判定基準を厳しくする。
なお、抜取検査では一定の比率で欠陥が含まれる可能性のあることが前提であることを、認識しておく必要がある。
(2) 「標仕」に規定している試験方法は、国の庁舎を基本的な対象としていることからかなり厳しい試験にも適用できること、誤用を防ぐため簡便な方法とすることを勘案して採用された。そこでは、検査のばらつきをより押さえることと工事の大規模化に対応するため、工場溶接の場合の試験に採用した方法は、抜取り回数を2回とした計数調整型抜取検査と呼ばれる方法であり、この方式では、品質の保証はAOQLという概念で行っている。AOQLは、平均出検品質限界といい、任意の工程平均不良率に対するAOQ(平均出検品質)の最大値と定義している。その値は、建物の重要度に応じて、2.5%又は4.0%のいずれかが設計図書に指定されることになっており、特記がなければ 4.0%とすることとなっている。この 4.0%という値は、JASS 6とも対応しており、一般的なレベルの鉄骨製作工場に適用できるものである。一方、2.5%という値はかなり厳しい数字であり、災害時にも拠点となるような防災庁舎等、一般の施設より高い信頼性を要求される建物等に適用するよう設定されたものである。
試験を行う個数を表すサンプルの大きさは20、ロットの合否を判定する基準も「標仕」表7.6.3にあるように一定の値と決めてあり、抜取率は検査水準によって変化することになる。サンプルの大きさ等を固定したのは、比例抜取方式とした場合に生じる可能性のある検査特性のばらつきを極力なくすためである。
検査水準とは、抜取率の大小を表すものであるが、6段階設定しており、設計者は建物の規模、使用する最大板厚、使用する鋼材の種類等を勘案し、1つあるいは複数の検査水準を選択する。「標仕」における最も低い水準は従来までの水準とほぼ同等となるよう設定しているので、小規模な場合はこの水準で十分であろう。40mmを超えるような板厚や高強度鋼材の場合は、鉄骨製作工場の実績等から、特記により高い水準を選択する必要がある。複数の水準を選択した場合は、工場での習熟の度合い、板厚が薄くなることに伴う溶接性の容易さを考慮し、上部の節にいくに従って低い水準を指定していくのが一般的である。
一方、工事現場溶接の場合は、溶接が終わり次第次の工程に移行していくなど、工場溶接で採用しているロットの取り方は採用しにくい。このため、溶接技能者ごとに、施工順序に従って連続的に抜取試験を行い、工事終了時点で要求される検査水準となるような、試験方法が採用されている。AOQL.区切りの大きさ及び連続良品個数は特記によることになっているが特記のない場合のAOQLは 4%、区切りの大きさは4、連続良品(合格)個数は15としている。この方式は、連続して合格箇所が15個出るまで各個検査を続け、もし15個にならないうちに不合格箇所が発見されれば新たに次の合格箇所から数え始める。合格箇所が15個連続すれば、以降の検査は4個ごとに区切り、各組から1個を抜き取って調べる一部検査に移る。一部検査が合格の場合は一部抜取りを続け、不合格の場合は又各個検査に戻る。したがって、ほとんどの場合はこれで十分であると考えられる。
なお、工事現場では足場の撤去、デッキプレートの敷設等あと工程がひっ迫しており、再検査に対応することが困難な場合がある。このため、工事現場溶接では全数検査を実施することも多い。
それぞれの溶接部の合否の判定の規準である検査規準は、(一社)日本建築学会「鋼構造建築溶接部の超音波探傷検査規準」によっているので、詳細はそちらを参照されたい。
なお、前述のようにこの検査に合格したからといって、その溶接部が全く欠陥 がないということではなく、微少な欠陥は許容欠陥として容認されていることも、認識しておく必要がある。
(3) 試験機関等
(i) 試験を行う機関及び試験従事者は、当該鉄骨工事に関して第三者性を確保することが必要である。このため、「標仕」では、当該工事の鉄骨製作工場に所属していないこと、かつ、当該工事の品質管理の試験を行っていない試験機関としている。したがって鉄骨製作工場の検査部門が独立した会社となっていても、工場の品質管理も行っている場合、また鉄骨製作工場とは全く独立した検査会社であっても、当該工場の品質管理を請け負っている場合は、「標仕」で規定した検査会社とは見なされない。
(ii) 鋼構造物の非破壊検査会社であっても、船舶、圧力容器等それぞれ得意分野があるので、建築鉄骨の検査に精通した検査会社であることが重要である。
溶接構造物の非破壊検査を行う検査会社等の試験機関に対する評価制度の一例として(一社)日本溶接協会による「溶接構造物非破壊検査事業者等の認定基準」(WES 8701)を適用した「CIW認定制度」がある。この審査は、検査機関の組織機構、検査技術者の数、試験・検査設備機器の数及び品質保証体制の構築状況について評価している。更に、CIW認定検査事業者の中から、建築鉄骨に精通した検査会社として「建築鉄骨検査適格事業者」を認定している。
このほかに、(公財)日本適合性認定協会から認定された品質マネジメントシステム審査登録機関が、JIS Q 9001に基づいて、検査会社の品質保証体制を審査し認証登録証を交付している。
(iii) 鉄骨溶接部の超音波探傷検査を適切に行うには、超音波探傷試験の一般的な技術のほかに建築鉄骨専門の超音波探傷試験に関する知識が必要である。
「標仕」に定められたJIS Z 2305(非破壊試験技術者の資格及び認証)は、様々な工業分野における超音波探傷試験を含む各種の非破壊試験の認証制度を対象とした規格であり、国際規格ISO 9712に対応して制定されている。JIS Z 2305に適合する資格認証として(一社)日本非破壊検査協会が、試験従事者の知識と技量を審査し、資格証明書を交付している。JIS Z 2305における非破壊試験技術者の資格を表7.6.4に示す。
JIS Z 2305の資格を有していても、建築鉄骨の検査に精通しているとは限らないので、当該工事に従事する超音被探傷試験の技能資格者には、必要に応じて、建築鉄骨工事及びその超音波探傷試験について十分な知識と技量を有していることを実績等により確認することが望ましい。
建築鉄骨を専門とする超音波探傷試験を行う技能資格の一例として、(一社)日本鋼構造協会の「建築鉄骨品質管理機構」が認定登録する「建築鉄骨超音波検査技術者」の資格を挙げることができる。この有資格者は「建築鉄骨工事に関する知識及び超音波探傷試験(UT)に関する知識を有し、かつ建築鉄骨溶接部の超音波探傷について、計画の立案、作業の実施及び結果の解読並びに合否の判定ができる高度の知識と技術を有すると認められる者」とされており、 JIS Z 2305の有資格者を受験対象としている。本資格者数は表7.1.3を参照されたい。
表7.6.4_非破壊検査技術者の資格(JIS Z2305).jpeg
7.6.12 不合格溶接の補修その他
(a) 溶接部の欠陥の名称等については、7.14.1 [ 溶接用語 ]を参照する。溶接部の欠陥の原因及び対策は、表7.6.5に示すとおりである。
補修用溶接棒はなるべく細径のものがよく、手溶接の場合は 4mm以下がよい。また、鋼材の種類によっては、予熱(7.6.7(e)参照)が必要となる。
(b) 溶接割れの種類は次のとおりである。
(1) 割れの発生時の温度による種類
① 高温割れ:溶接時の溶接凝固に伴って生じる割れで、主として溶接金属の割れである。
② 低温割れ:溶接後ある時間経過して室温付近で生じる割れであり、大部分の割れはこれに属する。
(2) 割れの発生部位による種類
① 溶接金属の割れ
溶接金属の割れ(クレーター部の割れ).jpeg
溶接金属の割れ(ビート割れ).jpeg
7.6.12_溶接金属の割れ(ルート部).jpeg
② 熱影響部の割れ
熱影響部の割れ.jpeg
③ 母材の割れ
母材の割れ(ラメラティア).jpeg
(c) 溶接により母材に割れが入った場合の処置としては、母材を取り替える方法と割れを削り取り補修溶接する方法(部分補修)がある。いずれの処置をとるかの判断が難しい場合は、設計担当者の意見等も求めて決定する。
表7.6.5_溶接部の欠陥の原因及び対策(その1).jpeg
表7.6.5_溶接部の欠陥の原因及び対策(その2).jpeg
表7.6.5_溶接部の欠陥の原因及び対策(その3).jpeg
7.6.13 溶接に関するJIS等の抜粋
(a) JIS Z 3841(半自動溶接技術検定における試験方法及び判定基準)の抜枠を次に示す。
JIS Z 3841 : 1997
1. 適用範囲
この規格は、マグ溶接及びセルフシールドアーク溶接による半自動溶接技術検定における、試験方法及び判定基準について規定する。
2. 定義
この規格で用いる主な用語の定義は、JIS Z 3001によるほか、次による。
(1) 組合せ溶接
初めの 1~3パスをティグ溶接で行い、その後をマグ溶接で行う溶接。
3. 技術検定試験の種類
技術検定試験の種類は、溶接方法、溶接姿勢、継手の種類及び試験材料の厚さの区分などによって表1のように分け、その記号は、同表のとおりとする。
表1_技術検定試験の種類.jpeg
JIS Z3841 : 1997
(b)(一社)日本建築学会「綱構造建築溶接部の超音波探傷検査規準」の抜粋を次に示す。
綱構造建築溶接部の超音波探傷検査規準(2008)
1章 総 則
1.1 適用範囲
この規準は、炭素鋼からなる鋼構造部材の完全溶込み溶接接合部(以下、溶接部という)を超音波探傷試験によって検査する場合に適用する。ただし、板厚 6mm未満のもの、直径が300mm未満の円周継手(角形鋼管柱溶接角部を除く)、鋼管長手継手および分岐継手には原則として適用しない。
超音波探傷試験方法は、手動のパルス反射法で直接接触法による。
ただし、特別な調査研究によりその信頼性が確認された超音波探傷法による場合は、この規準によらなくてよい。
1.2 一般事項
1.2.1 この規準は、溶接部に存在する欠陥の超音波探傷試験方法および合否判定を示す。
1.2.2 超音波探傷検査の範囲および判定結果の処置は、当事者間において構造物の規模、溶接部の有する構造耐力上の重要度などを考慮して定める。
1.2.3 超音波探傷試験方法に関する事項で、この規準に規定する以外の事項は、JIS Z 3060(鋼溶接部の超音披探傷試験方法)による。
1.4 探傷方法
板厚・継手形状・開先形状および溶接方法を考慮し、原則として下記に示す方法による。
(1) 平板状溶接部の一般溶接部は、斜角ー探触子法による。
(2) 鋼管溶接部の円周継手および遠心力鋳鋼管溶接部は、斜角ー探触子法による。
(3) 箱形断面内のエレクトロスラグ溶接部は、垂直ー探触子法による。
(4) 斜角ー探触子法の適用が困難なT継手や突合せ継手は、垂直探傷法またはタンデム探傷法による。
2章 探傷装置および付属品
2.3 接触媒質
原則として、グリセリンペーストまたは濃度 75%以上のグリセリン水溶液を使用する。なお、必要に応じて適正な感度補正を行う場合は、この限りではない。
2.4 標準試験片および対比試験片
2.4.1 標準試験片
JIS Z 2345(超音波探傷用標準試験片)に規定するA1形STB、A2 形系STBおよび A3 形系STBを使用する。
2.4.2 対比試験片
(1) 対比試験片の種類
被検材の形状・寸法など、または探傷方法により、ARB. JIS Z 3060に規定する RB-A6 あるいはRB-42 のいずれかを用いる。
(2) ARB試験片
ARBの形状および寸法は図2に示すもので、被検材と同じ材料で製作するか、またはその被検材と超音波特性の近似した材料で製作するものとする。また、標準穴と仕上げ面との平行度は0.3mm以下とし、仕上げ面の平行度はそれぞれ0.1mm以下とする。
3章 探傷の準備
3.2 探傷面の手入れ
探傷面に、スパッタ、浮いたスケールおよび超音波の伝播を妨げるさびなどが存在する場合には、これらを除去する。また探傷面が粗い場合には適切な方法で仕上げを行う。
なお、塗料またはめっきなどで表面を処理する場合には、処理前に探傷することを原則とする。
4章 斜角探傷法
4.1 斜角ー探触子法
4.1.1 適用範囲
探傷面が平板状の継手の溶接部および直径が300mm以上の鋼管の円周継手溶接部を、探傷する場合に適用する。なお、超音波特性が著しくA1 形STB. A2 形STB または A3 形系STBと異なる被検材の溶接部を探傷する場合には付則1に示す探傷方法を適用する。また、固形エンドタブを用いた梁端フランジ溶接始終端部を探傷する場合には、付則2に示す探傷方法を適用することができる。
4.1.6 距離振幅特性曲線によるエコー高さ区分線の作成
(1) 欠陥を評価するために、エコー高さ区分線を作成する。エコー高さ区分線は距離振幅特性曲線により、4.1.5に定めた試験片を用いて作成する。
(2) エコー高さ区分線は、原則として実際に使用する探触子を用いて、目盛板または補助目盛板(以下、 目盛板という)に記入する。
(3) A2 形系STBまたは RB-A6 を使用する場合には、φ 4X4mmの標準穴を用いてエコー高さ区分線を作成する。ARBまたはRB-42を使用する場合には、それぞれの標準穴を用いてエコー高さ区分線を作成する。
(4) エコー高さ区分線の作成にあたっては、図3 に例示する位置に順次探触子を置き、目盛板にそれぞれのエコー高さのピークをプロットする。
(5) 一定の感度におけるプロット点を直線で結び、1つのエコー高さ区分線とする( 図4参照〕。このとき、最短ビーム路程のプロット点より左はその高さで線を延長する。ただし、A2 形系STBまたはRB-A6を用いる場合で、公称屈折角が45度の探触子を用いる場合は、最短ピーム路程のプロット点は1スキップとする。
図4_エコー高さ区分線の作成例.jpeg
(6) 目盛板には、4本以上のエコー高さ区分線を記入する。隣接する区分線の感度差 は6dBとする。なお、このエコー高さ区分線を記入した目盛板を校正目盛板という。
4.1.7 U線・H線・M線および L線
さきに作成したエコー高さ区分線のうち、目的に応じて、少なくとも下位から3番目以上の線を選びこれをH線とし、これを感度調整規準線とする。H線は、原則として、欠陥エコーの評価に用いられるビーム路程の範囲で、その高さが40%以下にならない線とする。
H線から6dB高いエコー高さ区分線をU線、H線から6dB低いエコー高さ区分線をM線、12dB低いエコー高さ区分線をL線とする。
4.1.8 エコー高さの領域
U線・H線・M線およびL線で区切られたエコー高さの領域を表10に示すように名付ける。
表10_エコー高さの領域区分.jpeg
4.1.10 探傷面
(1) 突合せ継手の探傷
図5に示すように片面両側から探傷することを原則とする。
(2) T継手および角継手の探傷
図6に示すように両面片側から探傷することを原則とする。
4.1.10_図5_付合せ継手の探傷.jpeg
4.1.10_図6_T継手および角継手の探傷.jpeg
4.2 タンデム探傷法
4.2.1 適用範囲
タンデム探傷法は、狭開先溶接部の、開先面の融合不良および溶込み不良を探傷する場合に適用する。また、探傷はタンデム基準線をもとに、探傷ジグを使用して1探傷断面ごとに行う。
5章 垂直探傷法
5.1 適用範囲
垂直探傷法は、斜角探傷法の適用が困難な溶接部の欠陥検出およびエレクトロスラグ溶接で施工された箱形断面内のダイアフラム溶接部の溶込み幅の測定に適用する。
6章 欠陥の評価
6.1 一般事項
6.1.1 斜角ー探触子法とタンデム探傷法と45度を併用した場合、欠陥の評価は探傷法別に行う。
6.1.2 斜角ー探触子法で公称屈折角70度と45度または65度と45炭を併用し、同一欠陥を両探触子で検出した場合は、公称屈折角70度または65度の探傷結果を採用して欠陥の評価を行う。
6.1.3 斜角ー探触子法で公称屈折角70度と65度、または公称周波数 5MHzまたは 2MHzで同一欠陥を検出し、欠陥評価が異なる場合には、エコー高さが高い方の探傷結果を採用して欠陥の評価を行う。
6.1.4 垂直探傷法の欠陥評価は下記(1)または(2)で別々に行う。
(1) 溶接部の内部欠陥
(2) 箱形断面内に設けるダイアフラムのエレクトロスラグ溶接部の溶込み幅
6.2 合否判定の対象とする欠陥
合否判定の対象とする欠陥は、欠陥指示長さが被検材の板厚 t に応じて、表12に示す値以上の欠陥とする。ただし、板厚が異なる突合せ継手の場合は、被検材の板厚は薄いほうの板厚とする。
表12_欠陥指示長さの最小値.jpeg
6.3 欠陥評価長さ
同一断面内の欠陥群で深さ方向の位置が同一とみなされ、かつ欠陥と欠陥の間隔が長いほうの欠陥指示長さ以下の場合は、同一欠陥群とみなし、その欠陥評価長さは、それらの欠陥の欠陥指示長さとの間隔の和とする。
また、欠陥と欠陥の間隔が長いほうの欠陥指示長さを超える場合は、それぞれ独立した欠陥とみなしその欠陥評価長さはそれぞれの欠陥長さとする。
なお、欠陥群が応力に対して同一断面内であるか、また、深さ方向位置が同一であるかは、表12に示す値に応じておのおのの欠陥の欠陥エコーが最大工コー高さを示す位置との相対関係により定める。
6.4 欠陥評価長さの境界値
突き合わせる被検材の板厚 t に応じて、欠陥評価長さの境界値 S、M、ML、Lおよび LL は表13に示す値とする。
表13_欠陥評価長さの境界値.jpeg
7章 合否の判定
7.1 単位溶接線
溶接線長さが300mm以上の場合は、欠陥が最も密となるような連続した長さ300mmを、溶接線長さが300mm未満の場合は全長を、それぞれ単位溶接線とする。溶接部の合否は、単位溶接線の合否に店づいで判定する。
7.2 単位溶接線の合否
単位溶接線の合否は、溶接部に作用する応力の種類に応じて、欠陥評価長さおよびエコー高さの領域を用いて判定する。ただし、単位溶接線に複数の欠陥が存在する場合は、欠陥評価長さの総和も考慮して合否の判定を行う。なお、それぞれの欠陥でエコー高さの領域が相違する場合は、そのうちもっとも高いエコー高さ領域を採用する。
7.2.1 疲労を考慮しない溶接部
下記の(1)または(2)により単位溶接線の合否を判定する。
(1) 溶接部に引張応力が作用する場合
欠陥のエコー高さ領域に応じて、欠陥評価長さあるいはその総和が、表14に示す境界値以上ある単位溶接線は不合格とする。
表14_引張応力が作用する溶接部.jpeg
(2) 溶接部に引張応力が作用しない場合
欠陥のエコー高さの領域に応じて、欠陥評価長さあるいはその総和が、表13に示す境界値以上ある単位溶接線は不合格とする。
表15_引張応力が作用しない溶接部.jpeg
7.2.2 疲労を考慮して表面仕上げされた溶接部
欠陥を表面に近い欠陥と内部の欠陥とに分類し、それぞれ下記(1)または(2)により単位溶接線の合否を判定する。ここで表面に近い欠陥とは、欠陥の深さ方向の位置と板厚表面との間隔が板厚の1/4未満の欠陥をいい、内部の欠陥とは、欠陥の深さ方向の位置と板厚表面との間隔が板厚の1/4以上の欠陥をいう。
(1) 表面に近い欠陥
欠陥指示長さが表12に示す最小値以上の欠陥指示長さを含む単位溶接線は不合格とする。
(2) 内部の欠陥
欠陥のエコー高さの領域に応じて、欠陥評価長さが表16に示す境界値以上ある単位溶接線は不合格とする。
表16_疲労を考慮した表面仕上げされた溶接部.jpeg
綱構造建築溶接部の超音波探探傷査規準(2008)

7章鉄骨工事 7節スタッド溶接等

第7章 鉄骨工事
07節 スタッド溶接及びデッキプレート溶接
7.7.1 適用範囲
(a) スタッド溶接にはその熱源の違いにより図7.7.1に示すようにいくつかの種類があるが、鉄骨工事で主として使用されるのはアークスタッド溶接であり、「標仕」でもこの溶接法を適用している。
図7.7.1_スタッド溶接法の分類.jpg
    図7.7.1 スタッド溶接法の分類
(b) アークスタッド溶接は、アークシールドと呼ぶセラミックスの保護筒内で母材とスタッド間にアークを発生させ、その発熱により母材及びスタッドを溶融し、一定時間後、スタッドを母材面上に形成された溶融池に圧入して接合する溶接法である。鉄骨工事では、合成梁や柱脚のシャーコネクターとして多用されている。
7.7.2 スタッド溶接作業における技能資格者
「標仕」では、スタッド溶接技能資格者は、JASS 6付則4[スタッド溶接技術検定試験]に基づく技量を有する者としている。この技量の証明として(一社)スタッド協会が実施している「スタッド溶接技術検定試験」がある。この検定試験における技能者の資格の種別には基本級であるA級と専門級であるB級があり、A級はスタッド軸径22mmΦ以下の下向き溶接、B級は16mmΦ以下の横向きと上向き及び22mmΦ以下の下向き溶接を作業範囲と定めている。
7.7.3 スタッドの仕上り精度
(a) 適正に溶接されたスタッドの高さは溶接前の高さよりスタッド径に応じて3〜6mm減少し、所定の仕上り高さに納まる。一方、電源容量の不足等の原因でアークの発生が不十分な場合には、所定の仕上り高さより高くなり、逆にアークの発生が過度な場合には、所定の仕上り高さより低くなる。また、適正に溶接されたスタッドは、傾きのないものが得られる。
このように、スタッド溶接の溶接後の仕上り高さと頻きは溶接部の品質や施工条件の良否と密接な関係があり、これらの項目を確認することにより、溶接部の品質の良否が判定できる。
(b) 母材及びスタッド材軸部に深さ0.5mmを超えるアンダーカットが発生すると所定の強度が得られないので不合格とする。
7.7.4 スタッド溶接施工
(a) スタッド溶接は、原則として下向きで行うべきであるが、やむを得ず横向きとする場合はフラッシュがスタッド全周に回らないことが多いので注意する。
なお、横向き溶接を行う場合の技能者は、7.7.2に示す「スタッド溶接技術検定試験」のB級とするが16mmφを超える場合は横向きの技量付加試験を行うなど技量の確認が必要である。
(b) スタッド溶接は、大電流の溶接法であり、十分な溶接品質を確保するために専用電源を用いることを原則とする。やむを得ずほかの電源と併用する場合は必要な容量を用意する。
(c) 午前と午後の作業開始前に適切な溶接条件を設定するために試験溶接を行う。試験溶接は、スタッドの径ごとに2本以上のスタッド溶接を行い、30度の曲げ試験を行って溶接条件の適否を確認する。
なお、キャプタイヤケープルが発熱すると抵抗値が上がり、設定条件が変わるので注意する。
(d) 鋼板端部でスタッド溶接する場合、磁気吹き(磁力線の影響でアークが鋼板の内側に引かれる現象)の影響を受けると欠陥となりやすいので鋼板の端側に別の鋼板を置くなどの処置が必要となる場合がある。
(e) スタッドの溶接面に水分・著しい錆・塗料・亜鉛めっき等が介在すると健全な溶接が得られないことがあるため、グラインダー等によりこれらを除去して溶接を行う。
(f) デッキプレート等を貫通して行うスタッド溶接は、工事に使用されるものと同一の材料及び条件で試験溶接を行い、適正な溶接ができることを確認する必要がある。また、施工に当たってはデッキプレートと溶接母材との間の清掃に特に注意して水分やごみ等の介在物がないことを確認することが必要である。
7.7.5 スタッド溶接後の試験
(a) スタッド溶接完了後、良好な施工品質が確保されているか否かを調べるため、次に示す項目についてあらかじめ受注者等に試験をさせ、その後に監督職員の検査を行う。
(1) 外観試験
(i) アンダーカットの試験は、全数目視により行う。
(ii) 仕上り高さと傾きの試験は「標仕」に定める抜取試験により行う。仕上り高さの測定は、金属製直尺又はコンベックスルールを用いて行う。傾きは目視によりチェックし、疑わしい場合は限界ゲージ(85°)を用いて最大領斜の位置に合わせてチェックする。
(2) 打撃曲げ試験
打撃曲げ試験は、ハンマーでスタッドに打撃曲げを加えこれによって溶接部で破断したり、溶接部に割れその他の欠陥が入らないことを確認する試験法である。割れその他の欠陥の確認は通常は目視により行う。
(b) 不良スタッドについては、要求される強度が確保できないため、7.7.6に定める方法により補修を行う。
7.7.6 不合格スタッド溶接の補修
(a) 母材又はスタッド材軸部に深さ0.5mmを超えるアンダーカットが発生した場合は、50 〜 100mm程度の隣接部に打直しを行う。そのうち、母材に生じたアンダーカットは、母材強度の低下を招くので予熱をして補修溶接を行う。
(b) 仕上り寸法の不良なスタッド材や割れ又は折損の生じたスタッド材は、隣接部に打直しを行うが、欠陥が母材に及んでいる場合は、母材強度の低下を招くのでこれらを除去してグラインダーで母材表面を平滑に仕上げる必要がある。
(c) 打撃曲げ試験で合格したものは、曲がったままでも力学的な支障は少ないので、そのままとしてよい。
7.7.7 気温等による処置
(a) 鋼材の表面温度が低いと溶接部の冷却速度が速いため溶接部に割れが生じやすいことは、スタッド溶接の場合でも同様である。そのため、気温が 0℃以下では原則としてスタッド溶接を行わないこととしている。溶接部の回りを加熱してスタッド溶接を行う場合の加熱温度の 36℃とは、手で触って温かく感じる程度の温度である。
(b) 鋼材表面がぬれた状態で溶接すると、湿気によって溶接部に欠陥が発生したり感電災害の原因にもなる。やむを得ず小雨の中で溶接を行わなければならない場合は、溶接作業区域をテント等で雨養生を行い、ガスバーナー等で溶接する鋼材の表面を加熱し乾媒させた状態でスタッド溶接を行う必要がある。しかし、工事現場施工におけるスタッド溶接は作業範囲が広いので、これらの準備作業は多大な労力と時間を要するため、雨中や0℃以下の低温下でのスタッド溶接は極力避けるべきである。(7.6.8 (c)参照)
7.7.8 デッキプレートの溶接
(a) デッキプレートを鉄骨部材に溶接する場合は特記に基づいてデッキプレートの使用目的に応じた溶接方法を採らなければならない。
デッキプレートを用いた床構法には次の3種類がある。
(1) デッキプレートとコンクリートとのデッキ合成スラブ
(2) デッキプレートと鉄筋コンクリートとのデッキ複合スラブ
(3) デッキプレートをそのまま構造体としたデッキ構造スラブ
いずれの場合もデッキプレートを鉄骨部材に溶接する場合はデッキプレートを梁に密着させ、通常は床スラブから伝達される面内せん断力に対し十分耐えられるように焼抜き栓溶接を行っている(図7.7.2参照)。ただし、鉄骨梁の設計をデッキ合成スラブの効果を考慮した合成梁として行い、スタッドをデッキプレートを貫通して溶接することが特記されている場合は、焼抜き栓溶接は不要とされている。この場合16mmφ以上のスタッドを使い、デッキプレートを梁に密着させて溶接する。
なお、この場合でもデッキプレートが敷込み後に強風や突風によって飛散しないように、敷込みと同時に仮留めとしてアークスポット溶接若しくは隅肉溶接を行う必要がある。
図7.7.2_焼抜き栓溶接の施工方法の例イ.jpg
図7.7.2_焼抜き栓溶接の施工方法の例ロ.jpg
   図 7.7.2 焼抜き栓溶接の施工方法の例
(b) 溶接技能資格者
(1) 溶接技能資格者は、原則として、7.6.3に解説する溶接技能資格の有資格者とする。スタッド溶接に従事できる溶接技能資格者としては、作業姿勢、スタッド呼び名に応じた(一社)スタッド協会「スタッド溶接技術検定試験」に合格した有資格者がいる。
(2) 焼抜き栓溶接には、被覆アーク溶接棒を使用する手動方法と、炭酸ガスシールド溶接を使用する自動焼抜栓溶接機による方法がある。
前者の場合はJIS Z 3801(手溶接技術検定における試験方法及び判定基準)における基本となる級以上の有資格者、後者の場合は、JIS Z 3841(半自動溶接技術検定における試験方法及び判定基準)における基本となる級以上の有資格者とする。
いずれの場合も焼抜き栓溶接について十分な知識と技量を有している溶接技能者に従事させる。

7章鉄骨工事 8節錆止め塗装

第7章 鉄骨工事
8節 錆止め塗装
7.8.1 適用範囲
(a) 本節は、鉄骨工事における錆止め塗装を対象としている。
(b) 作業の流れ、施工計画書の具体的な記述内容や上塗り塗装の適用等については、18章に準ずる。
(c) 鋼材は大気環境で錆び、断面が減少するので、何らかの方法で防錆措置を施す必要がある。大気中での鋼材腐食のメカニズムは、酸素と水による電気化学的作用である。その進行程度は、イオウ酸化物SOxや海塩粒子等の大気中に含まれる腐食促進物質及び気温や湿度等の環境条件に支配され、海岸地域や重化学工業地域等においては特に著しい。
7.8.2 工場塗装の範囲
「標仕」では、コンクリートの付着や耐火被覆の接着、接合部の摩擦面、工事現場での溶接及び溶接後の検査等に支節を及ぼすおそれがある部分等については、塗装をしないこととしている。
「標仕」7.8.2(a)(7)の「耐火被覆材の接着する面」は、耐火材吹付けやラスモルタル塗り等の接着のみで取り付けられる場合に適用される。耐火板張りや耐火材巻付け等の機械的な取付けの場合の鉄骨面に対する塗装の要否は、耐火被覆材の種類とは関係なく、建築物が置かれる建築条件、特に湿度条件を考慮して検討される。
7.8.3 塗料の種別
「標仕」7.8.2(a)(7)により、耐火被覆材が接着する鉄骨面は、その接着性を阻害するおそれがあるため、一般的には塗装を施さないことになっている。しかし、建築物の外周部で結露や漏水等により鉄骨面の腐食が懸念される部位や、施工中に鉄骨面に生じた錆が飛散して周辺に被害を与えたり、仕上げ材等を汚染することが懸念される場合には適切な錆止め措置を溝ずる必要がある。その場合には、耐火被覆材の接着性を阻害しない錆止め検料を使用しなければならない。
なお、環境問題への配慮に関しては、7.1.6を参照されたい。
7.8.4 工事現場塗装
具体的な内容は、18章2節及び3節に準ずる。
昨今、建築用塗料に関するJISが廃止、改正及び統合が進められている。錆止め塗料の選定に当たっては、特に18章3節の内容を確認することが重要である。

7章鉄骨工事 9節耐火被覆

第7章 鉄骨工事
09節 耐火被覆
7.9.1 適用範囲
本節は、建築基準法で要求される鉄骨に対する耐火構造を満足するために適用する耐火被覆を対象としている。
7.9.2 耐火被覆の種類及び性能
(a) 以前の建築基準法においては、耐火構造をはじめとする防火関係の基準は、構造や材料等を画ー的に指定する仕様規定を主体としていた。しかし、平成10年6月12日公布(平成12年6月1日施行)の同法では近年における技術的な知見の集積等を踏まえたうえで各基準に必要とされる性能を明確化するとともに各々の性能に対応する技術的な基準を定めることにより性能規定化を図っている。この法改正に伴う性能規定化によって、耐火構造の定義は「壁、柱、床その他の建築物の部分の構造のうち、耐火性能(通常の火災が終了するまでの間に当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために当該建築物の部分に必要とされる性能)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄筋コンクリート造、れんが造その他の構造で、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたもの」とされた。
(b) 建築基準法施行令第107条では、耐火構造を必要とする建築物の壁、柱、床、はり、屋根及び階段の各部分が通常の火災による火熱を所定の時間加えられた場合に、構造耐力上支障のある変形、溶融、破壊その他の損傷を生じないことを規定している。
(c) 「標仕」では、耐火材の吹付け工法、耐火板の張付け工法、耐火材の巻付け工法、ラスモルタルの左官工法等を採用しており、その種類及び建築基準法第2条第七号による耐火性能を特記することとしている。
(d) 一般的に用いられている耐火被覆工法を施工法に準じて分類すると、表7.9.1のようになる。
表7.9.1 耐火被覆工法の分類
表7.9.1_耐火被覆工法の分類.jpeg
7.9.3 耐火被覆の品質
耐火被覆は、国土交通大臣が指定又は認定した仕様に規定されている材料及び工法を用いて、指定又は認定された仕様に準じた施工をした場合に、所定の耐火性能が確保できるものである。
7.9.4 耐火材吹付け
(a) 吹付け工法に用いられる材料には、吹付けロックウール、吹付けモルタル、水酸化アルミニウム混入湿式吹付けモルタル、耐火塗料等がある。
耐火被覆材にアスベストを含有する材料を使用することは、中皮腫や肺がんを誘発するおそれがあるため、禁止されている。(7.1.6(d)参照)
(b) 施工上の留意点
(1) 鉄骨表面に浮き錆が発生している場合は、耐火被覆材の付着性を阻害するおそれがあるため、耐火被覆施工に先立ちワイヤブラシ等の適切な手工具を使用して、除去しておかなければならない。ただし、耐火塗料の場合の素地調整は(e)(3)を参照する。
(2) 吹付け機械は、資材搬入の動線等を考慮して適切な場所に設置する。
(c) 貫通部や取付け金物等は、主要鉄骨と同様に所定の耐火被覆が施されなければならない。
(d) 吹付けロックウール
(1) 現在の鉄骨造建築物に対する耐火被覆材料として最も普及しているのは、吹付けロックウールである。この吹付け工法には、現場配合のセメントスラリーによる半乾式工法と工場配合による乾式工法がある。これらの工法の特徴を表7.9.2 に示す。
表7.9.2 ロックウール吹付け工法の特徴
表7.9.2_ロックウール吹付け工法の特徴.jpg
(2) 天井裏を空調チャンバーとして使用する場合には、特記により梁等の耐火被覆材の表面にセメントスラリーを吹き付けて塵あいの発生を防止する必要がある。
(e) 耐火塗料
(1) 耐火塗料は、耐火性とともに一般塗料と同様な意匠性、施工性や耐久性を期待できる耐火被覆材である。通常、1~ 3mm程度の硬化膜厚の厚さで火災(加熱)時に雰囲気温度が250℃程度に上昇すると、数十倍の容積に発泡して断熱層を形成し、火災時における構造用鉄骨の耐力低下を抑制するもので、一般的には1時間耐火であり、一部2時間耐火も市販されている。従来の耐火塗料は、旧建築基準法第38条の特別認定に基づいて限られた用途のみしか適用できなかったが、基準法の改正に伴いほかの耐火被覆材と同様に、一般の耐火構造認定を取得することが可能となっている。
(2) 耐火塗料は、①発泡剤(ポリりん酸アンモニウム、りん酸アンモニウム、りん酸メラミン、メラミン、尿素) ②炭化剤(多価アルコール、デキストリン、糖類)③樹脂(アクリル樹脂.エポキシ樹脂、ウレタン樹脂) ④顔料(白色顔料、酸化チタン、着色顔料) ⑤溶媒(有機溶剤、水)から構成されている。耐火塗料の硬化塗膜が熱を受けると、発泡剤から放出されるりん酸と炭化剤とが結合して炭化層を形成する。更に、樹脂が溶けると同時に二酸化炭素、アンモニア、水蒸気等のガスが発生し、泡状樹脂となって炭化層を膨張させる。
(3) 塗装仕様は、素地調整、下塗り(錆止め旅料)、耐火塗料塗り、上塗りによって構成され、素地調整にはブラスト、下塗りにはジンクリッチプライマーと2液形エポキシ樹脂プライマー又は変性工ポキシ樹脂プライマー、上塗りには耐候性塗料が適用される。
(4) 耐火塗料は、認定取得企業若しくはその指定工事業者が施工しなければならない。また.塗料が乾燥したのちには電磁膜厚計によって乾燥膜厚を測定して、認定条件である塗膜厚さを確保する必要がある。上塗りは屋外で暴露されると、その種類や使用環境等により劣化が生じる。塗膜の劣化が耐火塗料の塗膜層まで進行しないうちに、上塗りの補修又は増塗りを実施することにより、耐火塗料の耐火性を長期間にわたり維持することができる。したがって、日常点検によって維持管理に努めることが重要である。
7.9.5 耐火板張り
(a) 無機繊維混入けい酸カルシウム板等の成形板耐火被覆材を釘、かすがい及び接着剤(水ガラス系)で張り付ける工法であり、塗装による化粧仕上げも可能である。
(b) 施工上の留意点
(1) あらかじめ成形板耐火被覆材の揚重計画を作成し、揚重量の軽減や揚重回数の減少等を図る。
(2) ストック場所、切断加工場、張付け用仮設足場計画等の検討が必要である。
(3) 耐火被覆成形板の切断くず等廃材の処理を検討しておく必要がある。
(4) 施工速度に制約があるため、全体工程の中でクリテイカルパスとなることが多い。
(5) この成形板耐火被覆材を鉄骨に直接張り付けることは、鉄骨面が平滑でない場合や添え板を使用して高カボルト接合をする場合、これらの接合部の突出部が段違いとなって現れるので見苦しい外観となる。したがって、この成形板耐火被覆材を化粧用として使用するためには鉄骨ウェブ部に捨板を取り付けて浮かし張りとするのが有効である。
(6) 接着剤のみに頼ると施工後の時間経過に伴い耐火被覆成形板のはく落を生じるおそれがあるので、釘やかすがい等の金物で機械的に十分緊結することが重要である。
(7) 耐火被覆成形板は一般に吸水性が大きいため、建築物の外周部に当たる鉄骨架構の耐火被覆に使用する場合には、施工時に雨水が掛らないような養生をする必要がある。
(8) 接着剤は、水ガラス系(NaSiO3)成分を主体とする材料が多いので水溶性であり耐水性は劣る。建築物の外周部に当たる柱や梁の耐火被覆材を接着する場合には、施工時に雨水が掛からないような養生をしておく必要がある。
(c) 繊維混入けい酸カルシウム板二種の直張り工法及び箱張り工法の一例を図7.9.1 に示す。
図7.9.1_耐火板張付け工法の例.jpg
図7.9.1 耐火板張付け工法の例
(d) ALCパネルや軽量コンクリート板等で耐火被覆する場合には.構造体の動きに追従できるような接合部の詳細について検討することが重要である。
(e) 強化せっこうボードは.鋼製下地材に小ねじ留めをする。
7.9.6 耐火材巻付け
(a) 高耐熱ロックウール、セラミックファイバーブランケット又はそれらを複合したものを鉄骨に巻付け、ワッシャー付き鋼製の固定ピンを鉄骨に現場でスポット溶接して留め付ける工法であり化粧仕上げも可能である。
なお、固定ビンを構造体にスポット溶接することから、構造体への影響や施工上の配慮事項等について施工の前に設計担当者と打合せを行う。
(b) 施工上の留意点
(1) 搬入された材料がそれぞれの認定に適合していること及び厚さや数量が指定どおりであることを確認する。物性の確認は検査成績書等で代用する。
(2) 材料は,あらかじめ工場でプレカットしたもの又は標準品を搬入し,現場で鉄骨の周長に合わせて切断する。
(3) 材料は屋内で雨水の掛からないところに保管する。その回りには安全通路を確保し,他の作業に支障のないようにする。
(4) 施工に支障を来すおそれのある浮き錆及び油等は、施工に先立ち十分に除去する。
(5) 取付けに際しては、材料のたるみ、ピンの溶接の不具合、各目地部の突合せの隙間等が生じないように注意する。施工した状態の断面図の例を図7.9.2に示す。
(6) 雨水が掛かる場合の施工は避ける。
(7) 必要に応じて.衝撃が掛からないように養生する。
図7.9.2_耐火材巻付け工法の施工例.jpg
図7.9.2 耐火材巻付け工法の施工例
7.9.7 ラス張りモルタル塗り
鋼材を下地として鉄網を巻き、モルタル又はパーライトモルタルを所定の厚さに塗り付けた工法が、「耐火構造の構造方法を定める件」(平成12年5月30日建設省告示第1399号)で一般指定されている。施工の速度は吹付け工法より劣る。また,下地の形状に左右されずに適用可能であるが、乾燥に伴うひび割れが発生しやすく、屋外ではモルタル内部に水が浸入して、鋼材が腐食していても気付くことが遅れやすいので、注意する。
7.9.8 試 験
(a) 耐火被覆の施工
耐火被覆の施工は、一般指定及び「耐火性能検証法に関する算出方法等を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1433号)に基づく吹付けロックウール及び繊維混入けい酸カルシウム板の材料工法を除き、個別認定取得者又は個別認定取得者が指定した施工業者のみが実施できるものである。監督職員は認定条件に基づいて施工されていることを確認することが重要である。
(b) 吹付け工法
吹付け工法による耐火被覆は、要求される耐火性能に対応した吹付け厚さ及びかさ密度の最低値が指定されているが、現場施工においては、そのばらつきを避けることができない。したがって、適切な方法で試験して性能の確認を行わなければならない。
ロックウール吹付け工法(半乾式 ・乾式工法)について、次に示す。
(ⅰ) 平成12年6月施行の改正建築基準法において、ロックウール工業会が取得していた通則認定が廃止され、各社の連名個別認定とされた。認定条件は各社共通であり、品質管理方法も共通的に作成された施工品質管理指針を遵守することとしている。
施工現場での監理等に当たっては、ロックウール工業会により作成された、施工品質管理指針を参考にするとよい。
(ii) 建設省住指発第208号(昭和62年7月1日)では、ロックウール工業会が指定した図7.9.3に示すような厚さ測定器を用いて吹付け面積5m2ごとに1箇所以上の厚さを確認しながら、吹付け施工をすることが示されている。
なお、この通達は建築基準法の改正に伴いその効力を失っているが品質管理の参考として有効なものである。
実施工では所定の密度を確保するため、計算で求めた施工面積に対する必要な材料使用量の管理だけでなく、未乾燥状態でのかさ密度を測定することにより管理を行う。
建設省住指発第208号では、厚さ確認ピンの差込みは柱1面に各1本、梁は 6mにつき3本としている。「標仕」においてもこの原則に準拠してスラブ及び壁面については2m2程度につき1箇所以上、柱は1面に各1箇所以上、梁は1本当たり、ウェブ両側に各1本、下フランジ下面に1本、下フランジ端部両側に各1本と確認の箇所数を規定している。
(iii) 材料は自然乾燥において一般に5〜7日で必要強度に達し、約3週間で気乾状態になる。また,寒冷時には吹付け直後に凍結防止対策を講ずる必要がある。
図7.9.3_厚さ測定器の例.jpg
図7.9.3 厚さ測定器の例(単位:mm)
(iv) あらかじめ吹付け厚さを測定したのち、図7.9.4に示すようなかさ密度測定用切取り器で直径 8cmの円筒状にロックウールを切り取り、一定質量になるまで乾燥器に入れて乾燥させる。測定された質量を用いて次式に基づき、かさ密度を求める。
耐火被覆のかさ密度の式.jpeg
図7.9.4_かさ密度測定用切取り器.jpg
図7.9.4 かさ密度測定用切取り器(単位:mm)
(c) 耐火板張り工法
(1) 現場搬入された材料が、所定の厚さと密度を満足していることを確認する。
(2) 成形板が鉄骨あるいは隣接する成形板と接着剤及び金物で確実に留め付けられており、耐火性能を阻害するおそれのないことを検査する。特に成形板のはく落を防止するために、釘やかすがい等の金物が適切に施工されていることを確認する。
7.9.9 耐火表示
国土交通大臣認定の条件では、施工面への表示は義務付けられていない。しかし.「標仕」では「点検可能な部分に適切な表示を行う。」こととしており.施工面に認定取得者等が定めた耐火性能等を示す表示を行う必要がある。

7章鉄骨工事 10節工事現場施工

第7章 鉄骨工事
10節 工事現場施工
7.10.1 適用範囲
(a) ここでいう工事現場施工とは、鉄骨製作工場で加工・製作されたのち、工事現場に搬入された各部材の仕分け・建方及び部材相互の接合によって、鉄骨工事が完了するまでに要する作業並びにこれらに関する仮設工事を対象とする。
(b) 工事現場施工は、鉄骨製作工場での鉄骨製作と異なり受注者等が直接施工管理を行うものである。
(c) 工事現場においては受注者等は、必要に応じて受注者等の鉄骨工事担当技術者(以下、担当技術者という。)を別に定めて、担当業務とその責任を明確にするよう指導する。
担当技術者には、(一社)日本鋼構造協会の「建築鉄骨品質管理機構」が認定登録している「鉄骨工事管理責任者」(7.1.4 (c)参照)の有資格者等が参考となる。
(d) 計画に際し、担当技術者は、設計図書をはじめ工事現場状況や制約条件を調査・確認し、各種検査の計画を立案したうえで施工計画書を作成し、監督職員はこれを検討し品質計画について承諾をする。
(e) 担当技術者は、計画に基づいて、鉄骨工事の各工程で検査及び確認を行い、設計図書に示された品質を確保する。
(f) 受注者等が工事現場で行う検査の項目は、次のとおりである。
なお、監督職員は、受注者等が行った管理、検査の結果について報告を受けたのち、必要に応じて検査を実施する。
(1) アンカーボルトの埋込み
(位置・出の高さ、モルタル面の精度)
(2) 搬入された鉄骨製品の外観
(曲がり・傷の有無、塗装部の傷の有無等)
(3) 建方
(建入れ精度・接合部の精度)
(4) 高カボルト接合
(一次締め、マーキング、ピンテールの破断状態、
 とも回り・軸回りの有無、締付け後のナット回転量、余長等)
(5) 工事現場溶接接合
(開先部の精度、溶接外観、表面欠陥、内部欠陥)
(6) デッキプレート工事
(焼抜き栓溶接、アークスポット溶接の外観、母材への影響)
(7) スタッド工事
(溶接外観、打撃曲げ試験結果、母材への影響)
(8) 他工事との関連溶接
(ビード外観、溶接位置・長さ)
(9) 工事現場塗装
(素地ごしらえ、塗膜厚、外観)
(10) 耐火被覆
(下地処理、厚さ、かさ比重)
7.10.2 建方精度
(a) 建方精度の確保は、接合部の耐力確保と並んで工事現場施工の品質管理のかなめである。本接合完了後の建方精度を確保するためには、アンカーボルトの据付け精度、工事現場接合部の精度確保が前提となる。
(b) アンカーボルトの据付け精度は、JASS 6付則6[鉄骨精度検査基準]付表5[工事現場]による( 7.13.1参照)。
(c) 高カボルト接合部の精度はJASS 6付則6付表2[高カボルト]により、工事現場溶接接合部の精度は、JASS 6付則6付表1[工作および組立て]による。
(d) 本接合完了後、建方精度の測定を行う。その精度はJASS 6付則6付表5[工事現場]による。
特に建物外周部の柱の倒れは外装仕上げ材の納まり、SRC造での鉄筋の納まり等に影響が出る場合があるので関連工事に反映させる。なお、建方精度の測定に当たっては、温度の影響を考慮する。
7.10.3 アンカーボルト等の設置
(a) アンカーボルト
(1) 適用範囲
アンカーボルトによって鉄骨骨組(鉄骨鉄筋コンクリート造の鉄骨も含む。)を鉄筋コンクリート造部分(RC造)に接合し、固定することを定着という。
一般には、鉄骨柱とRC造の基礎との接合部すなわち柱脚を指すことが多い。
ここでは定着の代表的な部位として柱脚を取り扱うが、図7.10.1に示すようなほかの定着部位についても準用できる。
図7.10.1_定着部位の例.jpg
図7.10.1 定着部位の例
(2) アンカーボルトの役割
柱脚の形式は、骨組の規模柱からの応力伝達の条件により多岐にわたるが、基本的には、(イ)露出形式、(ロ)根巻き形式、(ハ)埋込み形式 の3つに分けることができる。その例を図7.10.2に示す。
一方、アンカーボルトに要求される役割は、次の2種に分けられる。
① 建方用アンカーボルト
躯体工事完了後は構造耐力を負担しないアンカーボルトで、主に建方の手段として用いる。
② 構造用アンカーボルト
躯体工事完了後も構造耐力を負担するアンカーボルトで、引張カ・せん断力及びこれらの組合せ力を負担する。
アンカーボルトの施工に当たっては、上の役割について留意する必要がある。
図7.10.2_柱脚の形式.jpg
図7.10.2 柱脚の形式
(3) アンカーボルトの形状・寸法及び品質
(i) アンカーボルトの形状・寸法及び品質は7.2.4による。
(ii) アンカーボルトの形状の一例を図7.10.3に示す。
図7.10.3_アンカーボルトの形状の例.jpg
図7.10.3 アンカーボルトの形状の例
(4) 「鉄骨造の柱の脚部を基礎に緊結する構造方法の基準を定める件」を次に示す。
鉄骨造の柱の脚部を基礎に緊結する構造方法の基準を定める件
(平成12年5月31日 建設省告示第1456号、最終改正平成19年9月27日)
建築基準法施行令(昭和25年政令第338号)第66条の規定に基づき、鉄造の柱の脚部を基礎に緊結する構造方法の基準を次のように定める。
建築基準法施行令(以下「令」という。)第66条に規定する鉄骨造の柱の脚部は、次の各号のいずれかに定める構造方法により基礎に緊結しなければならない。ただし、第一号(ロ及びハを除く。)、第二号(ハを除く。)及び第三号の規定は、令第82条第一号から第三号までに規定する構造計算を行った場合においては、適用しない。
一、露出形式柱脚にあっては、次に適合するものであること。
イ.アンカーボルトが当該柱の中心に対して均等に配置されていること。
ロ.アンカーボルトには座金を用い、ナット部分の溶接、ナットの二重使用その他これらと同等以上の効力を有する戻り止めを施したものであること。
ハ.アンカーボルトの基礎に対する定着長さがアンカーボルトの径の20倍以上であり、かつ、その先端をかぎ状に折り曲げるか又は定着金物を設けたものであること。ただし、アンカーボルトの付着力を考慮してアンカーボルトの抜け出し及びコンクリートの破壊が生じないことが確かめられた場合においては、この限りでない。
二.柱の最下端の断面積に対するアンカーボルトの全断面積の割合が20%以上であること。
ホ.鉄骨柱のベースプレートの厚さをアンカーボルトの径の1.3倍以上としたものであること。
ヘ.アンカーボルト孔の径を当該アンカーボルトの径に5 mmを加えた数値以下の数値としかつ、縁端距離(当該アンカーボルトの中心軸からベースプレートの縁端部までの距離のうち最短のものをいう。以下同じ。)を次の表に掲げるアンカーボルトの径及びベースプレートの縁端部の種類に応じてそれぞれ次の表に定める数値以上の数値としたものであること。
建告1456号ベースプレートの縁端部.jpeg
二、根巻き形式柱脚にあっては次に適合するものであること。
イ.根巻き部分(鉄骨の柱の脚部において鉄筋コンクリートで覆われた部分をいう。以下同じ。)の高さは、柱幅(張り間方向及びけた行方向の柱の見付け輻のうち大きい方をいう。第三号イ及びハにおいて同じ。)の2.5倍以上であること。
ロ.根巻き部分の鉄筋コンクリートの主筋(以下「立上り主筋」という。)は4本以上とし、その頂部をかぎ状に折りげたものであること。この場合において、立上り主筋の定着長さは、定着位置と鉄筋の種類に応じて次の表に掲げる数値を鉄筋の径に乗じて得た数値以上の数値としなければならない。ただし、その付着力を考慮してこれと同等以上の定着効果を有することが確かめられた場合においては、この限りでない。
根巻き形式柱脚の鉄筋の種類.jpeg
ハ.根巻き部分に令第77条第二号及び第三号に規定する帯筋を配置したものであること。ただし、令第3章第8節第1款の2に規定する保有水平耐力計算を行った場合においては、この限りでない。
三、埋込み形式柱脚にあっては次に適合するものであること。
イ.コンクリートヘの柱の埋込み部分の深さが柱幅の2倍以上であること。
口.側柱又は隅柱の柱脚にあっては、径9 mm以上のU字形の補強筋その他これに類するものにより補強されていること。
ハ.埋込み部分の鉄骨に対するコンクリートのかぶり厚さが鉄骨の柱幅以上であること。
鉄骨造の柱の脚部を基礎に緊結する構造方法の基準を定める件
(5) アンカーボルトの位置と高さ
(i) アンカーボルトの埋込み精度は、ボルトの平面的な位置とボルト頭部の突出し寸法が主なポイントである。また、柱建方時にアンカーボルトがベースプレートの孔に無理なく挿入でき、ナット締付け時のベースプレートとの密着度を高めるために、長さ方向の垂直度を正確に保つことも大切である。
(ii) ボルト頭部の出の高さは、二重ナット締めを行っても外にねじが3山以上出ることを標準とする。
(b) 構造用アンカーボルト及びアンカーフレーム
構造用アンカーボルト及びアンカーフレームの形状並びに寸法は、特記によることとしている。
(c) 建方用アンカーボルトの保持及び埋込み
(1) アンカーボルトの保持は、あらかじめアンカーボルトに振れ止め等を溶接し組み立てたものを、取付け場所に固定する。
組立に際しては、型板を用い正確に組み立てる。また、取付け場所に固定する場合にも、図7.10.4のように型板を用い通り心に正しく合わせる。
(2) アンカーボルトの保持及び埋込みの工法
(i) アンカーボルトの埋込み方法には、図7.10.4に示す方法があるが、上部の移動を止めるだけでなく、下部のコンクリートの流れによる移動も確実に止めなければならない。
(ii) 簡単なものではアンカーボルトの下部を基礎の鉄筋に鉄線で緊結する程度であるが、重要なものでは、下部のコンクリートに金物を埋め込んでおき、これに溶接する方法、鉄筋あるいは鉄骨を用いてフレームを作り、これを固定しておきアンカーボルトと緊結する方法がある。
「標仕」表7.10.1の工法を図示すると図7.10.4のようになる。このうち、A種は(イ)、B種は(ロ)、 C種は(ハ)である。
なお、「標仕」のC種はアンカーボルトの台直しを考慮した方法であるが、台直しは引張力の低下を招くなど構造的には好ましくないため、事前に設計担当者と打ち合わせておく。
台直しのために薄鉄板を用いた漏斗状のラッパを用いるが、ラッパはコンクリートの硬化後取り外すことになる。取り外したのちは、直ちに布等を詰め、ごみ等の入らないようにする。また、ラッパの外側のコンクリートは、厚さが薄くなると割れるおそれがあるので注意が必要である。この方法によるアンカーボルトの位置の修正は、一般に、ラッパの径の 1/4~1/5 程度とされている。ラッパの代わりにポリスチレンフォーム保温材等を用いることがあるが、あとの処置がうまくいかないので注意する。
図7.10.4_アンカーボルトの埋込み方法.jpg
図7.10.4 アンカーボルトの埋込み方法
(iii) その他の方法
① 箱抜き方法
アンカーボルト位置に塩化ビニルパイプ、紙パイプ、スパイラルチューブ等を埋め込み、 コンクリート硬化後にそのあなにアンカーボルトを挿入し、グラウト材を入れて固定する(図7.10.5参照)。この時ベースプレート下面の密着を兼ねてグラウトする方法もある。図7.10.4の(イ)~(ハ)と比較して精度については、良好な結果が期待できる。ただし、塩化ビニルパイプ、紙パイプはグラウト前に取り除いておかなければならない。
埋込み型の柱脚の場合は、柱全体について箱抜きをする場合もある。
図7.10.5_箱抜き方法.jpg
図7.10.5 箱抜き方法
② あと施工アンカー(接着系アンカー)
基礎コンクリートの打込み・硬化後に所定の位置にドリルであなをあけ、アンカーボルトをエポキシ樹脂等で固定する。使用できるボルト軸径と長さ、許容引張力、基礎鉄筋との関係について確認しておくことが必要である。これと似た方法として、エポキシ樹脂の代わりにグラウト材を使うこともできるが、この場合はあな径がやや太くなる。
③ アンカーボルトを2つに分ける方法(特許工法)
図7.10.6 のようにコンクリートに埋め込まれる部分と、あとから溶接する部分の2つに分ける方法で、コンクリート打込み・硬化後、ボルトを溶接する。引張り耐力を期待することも可能ではあるが、その場合、ロッドとボルトの心ずれ・プレート板厚により許容耐力が決められているので注意が必要である。
図7.10.6_アンカーボルトの溶接方法.jpg
図7.10.6 アンカーボルト溶接方法
(d) 養生
アンカーボルトは、コンクリートに埋め込む前に、ねじ部に打ち傷や錆がないことを、埋め込まれる部分には油類がついていないことを確認する。
また、露出部は埋め込まれてから建方までの間に、錆の発生、ねじ山の損傷、コンクリートの付着等が生じないように、布、ビニルテープ等で養生しておく。
(e) 柱底均しモルタル
(1) ベースプレートは、この下面に施工される柱底均しモルタルにより支持される。
ベースプレートが小さい場合は、全面モルタル塗りを行い仕上げるが、ベースプレートが大きい場合は、モルタルとの密着性に問題が出ることがあるため、あと詰め中心塗り工法が普通である。中心塗りモルタルは大きさ 200~300mmの角形あるいは円形とする。塗厚は特記されるが、「標仕」表7.10.2の A種の場合は50mm、B種の場合は30mmが一般的である。
(2) モルタル途りに当たっては、コンクリート面のレイタンス等を取り除き、モルタルとコンクリートが一体となるように施工する。
(3) モルタルの調合は「標仕」7.2.9による。充填する場合は、空隙の生じないよう入念に詰める。しかし、このモルタル充填は面倒な作業であるうえに、充填が不完全であると構造上問題となるため慎重な施工が必要である。構造上重要でベースプレートが大きい場合は、充填が困難なので、流動性の良い無収縮モルタルを用いるのがよい。
(4) 柱底均しモルタルの一般的な工法の例を図7.10.7に示す。「標仕」表7.10.2の工法のA種は(イ)、B種は(イ)又は(ハ)である。このほか(イ)の一種である(ロ)全面あと詰め工法がある。「標仕」では特記がなければA種としている。
なお、「標仕」ではグラウトに使用するモルタルは、A種の場合は無収縮モルタルとし、B種の場合は硬練りモルタルでもよいこととしている。また、無収縮モルタルを使用する場合の工法は、特許等の関係もあり、製造所の仕様によることとしている。
図7.10.7_ベースプレートの支持方法.jpg
図7.10.7 ベースプレートの支持方法
(f) ナットの締付け
(1) ナットの締付けは、建入直し完了後、アンカーボルトの張力が均ーになるようレンチ等で緩みのないように行う。
(2) ナットは、 コンクリートに埋め込まれる場合を除き二重ナットを用いて戻止めを行う。
(3) アンカーボルトの締付け力及び締付け方法はナット回転法で行い、ナットの密着を確認したのち 30゜回転させる。
(g) 柱脚部鉄筋の処理
柱脚部分が鉄骨鉄筋コンクリート造の場合は、建方の際柱脚の周囲にある鉄筋が障害になることが多いが、この鉄筋をなるべく傷めないように取り扱うことが必要である。曲げた鉄筋は再び元の位置に戻すので、なるべく緩やかに曲げるのがよい。鉄筋を曲げたり、元の位置に戻したりする場合、850〜900℃に加熱して曲げるのが望ましい。温度管理をせずに適当に加熱すると、低温域で曲げることになり、鉄筋がもろくなり折れることもあるので行ってはならない。
なお、鉄筋を曲げる場合の角度は30°以下が望ましい(図7.10.8参照)。
ベースプレートと鉄筋が当たる場合は、この角度が守れなくなるので、そのようなことにならないよう、鉄骨工事着手前に検討する必要がある。
図7.10.8_柱脚鉄筋の納まり.jpg
図7.10.8 柱脚鉄筋の納まり
7.10.4 搬入及び建方準備
(a) 建方計画
(1) 建方は、効率の良い建方順序を選定するとともに、建方途中の構造の不安定な状態での事故のないように、十分な検討をする。また、建方用機械の取扱いに無理がないようにし、作業員の安全、周辺に対する安全等災害予防に十分な処置が必要である。
(2) 建方計画書の記載事項は、おおむね次のとおりである。
① 工程表
(準備開始時期、各節ごとの組立及び接合時期、完了時期)
② 施工管理体制
③ 組立順序(図面に表すのがよい)
④ 吊り足場等の仮設材や二次部材等で地組みするものの有無(図示する)
⑤ 吊上げの方法
⑥ 主な部材の質量表(部材の質量は平面図に記入するのが分かりやすい)
⑦ 建方用機械の種類、性能(吊上げ能力、作業範囲、設置位置及び保安上の注意事項)
⑧ 建方途中の建入れ測定方法及びその修正方法
⑨ 建方完了時の建入れ測定方法及びその修正方法
⑩ 部材集積場所及び集積方法
⑪ 建入れ検査の合否の基準
⑫ 建方中の強風に対する補強の方法及び仮ボルトの本数等
⑬ 接合作業の手順及び検査方法
⑭ 安全管理及び養生の方法
(3) 建方時の強風等に対する補強には、次のようなものがある。
(i) 鉄骨鉄筋コンクリート造の鉄骨には、コンクリートが打ち込まれるまでは、十分な耐力を発揮できないものがある。特にこのようなものは設計担当者と打ち合わせ、必要な補強をする。
(ii) 鉄骨に重量物を載せたり、土圧をかけたり、通常の構造設計で考えていない大きな荷重を負担させる場合には、計算書を提出させ、設計担当者と打ち合わせて安全を確認する必要がある。
(4) 鉄骨の建方では特記により技能士(とび)が適用される。(「標仕」1.5.2)
(b) 建方機械
建方機械の機種と台数は、最大荷重、作業半径、作業能率等により決定する。この際、建方機械及び建方機械を設置する構造体、架台、路盤、構台等が、自重、風圧力、地震力、クレーン運転時の衝撃力等に対して安全であることを確認する。
(c) 搬入・仕分け
(1) 製品の受入れ
受注者等の製品の受入れに際しては、鉄骨製作工場の送り状と照合し、製品の数量及び変形・損傷の有無等を確認させる。
(2) 製品の取扱い
製品の取扱いに当たっては、部材を適切な受台の上に置き、変形・損傷を防ぐ。部材に変形・損傷が生じた場合は建方前に修正させる。
7.10.5 建方
(a) 地組み
地組みを行うときは、適切な架台・治具等を使用し、地組み部材の寸法精度を確保する。
(b) 建方用設備・器具
建方に使用するワイヤロープ、シャックル、吊金物等は、許容荷重範囲内で正しく使用する。また、定期的に点検し、損傷のあるものは使用しない。
(c) 建入れ直し
(1) 建入れ直しのために加力するときは、加力部分を養生し、部材の損傷を防ぐ。
(2) ワイヤロープの取付け用ビースはあらかじめ鉄骨本体に取り付けられた強固なものとする。
(3) ターンバックル付き筋かいを有する構造物においては、その筋かいを用いて建入れ直しを行ってはならない。
(4) 建入れ直しは、本接合終了後の精度を満足できるように考慮して行う。
(5) 架構の倒壊防止用ワイヤロープを使用する場合、このワイヤロープを建入れ直しに兼用してもよい。
(6) 筋かい補強作業は必ず建方当日に行うこととし、翌日に持ち越してはならない。
(d) 仮ボルトの締付け
建方作業における部材の組立に使用し、本締め又は溶接までの間、予想される外力に対して架構の変形及び倒壊を防ぐためのボルトを仮ボルトと呼ぶ。仮ボルトは普通ボルト等を用い、ボルト1群に対して、高カボルト継手では1/3以上、2本以上、混用接合及び併用継手では1/2以上、かつ、2本以上をバランスよく配置し、締め付ける。仮ボルトのボルト1群を図7.10.9に示す。図7.4.8に示す高カボルトの1 群とは異なる。これを適用しないときは、風荷重、地震荷重及び積雪に対して接合部の安全性の検討を行い、適切な措置を施す。また、溶接継手におけるエレクションピース等に使用する仮ボルトは高力ボルトを使用して全数締め付ける(図7.10.10 参照)。
図7.10.9_仮ボルトにおける1群の考え方.jpg
図7.10.9 仮ボルトにおける1群の考え方
図7.10.10_エレクションピースの仮ボルト.jpg
図7.10.10 エレクションピースの仮ボルト
(e)建方補助部材等の工夫
建方の際に、作業を円滑に進めるために補助部材を取り付けることがよく行われる。しかし、これら取り付けられた補助部材により超音波探傷検査が不可能になったり、これらの取付けのために本来望ましくない溶接が行われるケースもある。例えば、前者の例としては、工事現場溶接する大梁を設置する際に使用する「梁受」がある。また後者の例としては、大梁フランジと柱を溶接する際の裏当て金取付けのための開先内の母材断面内での組立溶接がこれに当たる。
しかしこれらは、工事現場での工夫により回避することもできる。「梁受」を回避する工夫の例としては、図7.10.11のような梁受け治具の使用等が挙げられる。また、開先内での溶接を回避する例としては、図7.10.12のような裏当て金取付け治具の使用が挙げられる
従来より慣用的に行われている方法についても、品質管理上の問題点に意識をもち、問題点を回避する工夫を行うことが工事現場施工では重要である。
図7.10.11_梁受け治具.jpg
図7.10.11 梁受け治具
図7.10.12_裏当て金取り付け治具.jpg
図7.10.12 裏当て金取付け治具
7.10.6 工事現場施工検査
(a) 施工者は、本接合に先立ち、ひずみを修正し、建入れ検査を行い。施工管理記録を作成する。また、必要な場合は、監督職員が検査を行う。
(b) 建入れ直しは建方時の誤差、すなわち柱の倒れ・出入り等を修正し、建方精度を確保するために行うものであるが、建方がすべて完了してから行ったのでは十分に修正できない場合が多い。したがって建方の進行とともに、できるだけ小区画に区切って建入れ直しと建入れ検査を行うことが望ましい。
(c) 日照による温度の影響を避けるために早朝一定時間に計測するなどの考慮を払わなければならない。また、長期間にわたって鉄骨工事が続く場合は、気候も変わるので測定器の温度補正を行わなければならない。
7.10.7 工事現場接合
(a) 高カボルト
高カボルト接合は、4節による。
(b) 工事現場溶接
工事現場溶接は、6節によるほか、次による。
(i) 溶接方法
工事現場溶接には、一般に、被覆アーク溶接、ガスシールドアーク溶接、セルフシールドアーク溶接及びスタッド溶接が用られる。
(ii) 溶接技能資格者
工事現場溶接に従事する溶接技能資格者は、7.6.3によるほか、工事現場溶接に関し十分な知識と技量を有する者とする。
(iii) 溶接機器及び溶接材料
溶接機器は工事現場溶接に適したもので、溶接技能資格者に対して取扱いを習熟させておかなければならない。
(iv) 溶接施工
① 施工順序は、溶接ひずみの建方精度への影響を考慮して決定する(図 7.10.13参照)。
図7.10.13_平面的に見た溶接順序.jpg
図 7.10.13 平面的にみた溶接順序
② 施工時の天候については7.6.8による。
(v) 検査及び補修
工事現場溶接における検査及び補修は、特記のない場合7.6.10〜12による。
(c) 混用接合
ウェブを高カボルト接合、フランジを工事現場溶接接合とするなどの混用接合は、原則として、高カボルトを先に締め付け、その後溶接を行う。
(d) 併用継手
高カボルトと溶接との併用継手は、原則として高力ボルトを先に締め付け、その後溶接を行う。
(e) その他
増築・改築・修繕あるいは模様替え等において、既存建築物の鉄骨に溶接する場合は、あらかじめ周囲の状況を調査し、特に既存鉄骨について、その溶接性を確かめる。
7.10.8 その他の工事現場施工検査
(a) デッキプレートの種類と形状寸法については、7.2.7による。デッキプレートの敷設に伴う施工上の留意事項と検査項目は、7.7.8による。
(b) 頭付きスタッドの溶接施工の留意事項と検査項目は 7節による。
(c) 仮設、鉄筋、カーテンウォール、電気・機械設備等のため、金物、その他を鉄骨部材にあと付け溶接する場合は、母材にアンダーカット、ショートビード等の悪影響を与えるような溶接を行ってはならない。
鉄骨に溶接を行う場合は、鋼材の種類・溶接方法等について7.6.9によればよい。
(d) 工事現場接合部分及び工場塗装の損傷した部分を塗装する場合は、8節により、工場塗装に対応した仕様で検査完了後に行う。
(e) 耐火被覆の施工上の留意事項と検査項目は、9節による。

7章鉄骨工事 11節軽量形鋼構造

第7章 鉄骨工事
11節 軽量形鋼構造
7.11.1 適用範囲
この節は、冷間成形された軽量形鋼を使用する場合を対象としており、この節に規定されていないものは、1節から10節まで及び12節によればよい。
以前は、軽量形鋼によるラチス構造等が広く用いられていた。しかし、最近では二次部材として使用することが一般的である。
7.11.2 施 工
(a) 材 料
(1) 鋼 材
(i) JIS G 3350(一般構造用軽量形鋼)は、建築その他の構造物に用いる冷間成形の軽量形鋼であり、種類はSSC400 1種類で、断面形状による名称には、軽溝形鋼、軽Z形鋼、軽山形鋼、リップ溝形鋼、リップZ形鋼、ハット形鋼がある。
(ii) 鋼材の品質を試験により証明する場合は、7.2.10による。
(2) アーク溶接棒は、JIS Z 3211 (軟鋼、高張力鋼及び低温用鋼用被覆アーク溶接棒)を参照する。アーク溶接棒の棒径は4.0mm以下で、かつ、板厚に見合ったものを選ぶ必要がある。炭酸ガスシールドアーク半自動溶接を用いる場合には、溶落ちしないように適切な溶接条件を選定する。
(3) 高カボルトは7.2.2を、普通ボルトは7.2.3を参照する。
(b) 施 工
(1) 切 断
軽量形鋼部材は薄くて複雑な形状であるため、切断に際しては、一般の鋼材と比べて特別な注意が必要である。
① 部材の切断面は、特に図面で指定されたもの以外は軸線に垂直でなければならない。これは、以後の加工・組立・溶接の工程においてすべてこの断面が基準となるためである。また、切断の際、断面形状を損なわないように注意する必要がある。機械切断によって生じたまくれは、やすり等を用いて取り除かなければならない。
② 部材の切断は機械切断とする。①に述べたように、切断面は加工の基準となるものであり、正確さを必要とするためである。
手動ガス切断は、断面が不正確に切断されるため、避けなければならない。不正確に切断された断面をグラインダー等で正確に仕上げることは実際には無理で、体裁だけの補修になってしまうためである。
(2) 防錆
(i) 軽量形鋼構造に用いられる部材は、板厚が薄いので腐食に対する安全性が一般の鋼構造より低く、十分な防錆処置を要する。
(ii) 鋼材に防錆処理を施した場合でも、錆びにくい環境をつくり出すよう努め、足りないところを塗装で補うという考え方が大切である。また、設計上の配慮によって解決される点も多い。その場合の留意点を次に示す。
① 雨水にふれても水が滞留せず、常に乾燥するよう通風を良くする。雨水が滞留するおそれのある部材、例えばリップ溝形鋼の横架材等は、適切な水抜き孔をあけて雨水の排出を考慮する。
② 雨水の掛かる箇所では、再塗装のできない構造を避ける。特に、管形断面の部材では、必要に応じて、端部に同質材のふたをする。また、鋼板挟みの二丁合わせで閉鎖形の断面になるような部材は、隙間を密閉しなければ建築物の外回りへ露出させてはならない。
③ 錆の発生を点検できるような構造とし、再塗装が容易なように考慮する。
④ 防錆上の弱点となりやすい部位には、防ぎ得ない錆を予想し、あらかじめ断面の割増し等肉厚の大きい鋼材の仕様も考慮するとよい。
(iii) 再塗装の困難な建築物の部分及び錆の発生しやすい環境にある建築物の部分の防錆は、亜鉛めっきとするのが望ましい。亜鉛めっきに関しては12節を参照する。
(3) 高力ボルト・ボルト接合
「標仕」ではボルト接合は、特記によるとしている。孔は、組合せ材片を正しく接合するために精度良くあけるとともに、各材片の孔心を一致させるよう工作することが重要である。ドリルあけのまくれやポンチあけの変形は、組み合わせた材片間に隙間を生じてボルトの締付けや摩擦力に支障を来すので、必ず取り除かなければならない。まくれを取るにはグラインダー等で軽く取り除くのがよいが、部材を削り過ぎないよう注意を要する。
軽量形鋼構造に高カボルトを用い、設計上のすべり係数を0.23としている場合、摩擦面は、脱脂等の処理を行ったうえで、堅固な黒皮表面とすることができる。ただし.浮き錆、塵あい、油、塗料等摩擦力を低下させるものを除去する必要がある。脱脂した黒皮表面は、赤錆を発生させた表面に比べてすべり係数が低下する。しかし、軽量形鋼構造に用いられる部材は板厚が薄く形状も複雑なので.黒皮を除去するため薄く削り過ぎたりグラインダーやショットブラストが掛けられないこともあるため、堅固な黒皮は除去しなくてもよい。その場合の摩擦面は.黒皮を除去し赤錆を発生させた場合のすべり係数の1/2 (0.23)以上を確保できるようにしておかなければならない。
高力ボルト接合を行う部材は、その接触面が正確に密着するよう留意する必要がある。特に、軽量形鋼部材は、板厚が薄く、ひずみ・反り・曲がり等が生じやすい部材なので必ず矯正するか、又はフィラー鋼板を挿入するなどしてこれらを補う必要がある。
(4) 高力ボルト及び普通ボルトのピッチ、へりあき等は.7.3.2(c)による。
(5) 「標仕」では、普通ボルトの孔径の限度はボルト径+0.5mmとなっている。ただし「標仕」では、母屋、胴縁類の取付け用ボルトの場合、ボルト径+1.0mmとしている。
(6) 普通ボルトには戻止めが必要であるが、通常次のような工法がある。
(i) 二重ナット
ナットを二重にする(図7.11.1参照)。一般に戻止め用のナットは本ナットと同じ厚さのもの(2種)が用いられるが(7.2.3(b)参照)、やや厚さの薄いもの(3種)でもよい。二重ナットの締付けは、7.5.2 (3)を参照する。
図7.11.1_二重ナット.jpg
図7.11.1 二重ナット
(ii) スプリングワッシャー
特殊なスプリングになっている座金を用いる。
(iii) 溶接
ナットとボルトを溶接する。この際はボルトの全周にわたり溶接する。この方法は簡易な構造物で、かつ、見ばえに支障のない箇所以外には用いてはならない。
(7) せん断ボルト
せん断ボルトとは、図7.11.2の力Pをせん断力により伝達するボルトであり、ほとんどの普通ボルトはせん断ボルトである。このボルトの耐力は鋼板の側圧で決まる場合があるので、ねじ部分がグリップ(締付け厚さ)に掛かってはならない。このためには厚い座金が必要になる。また、強度上は必ずしも必要ではないが、材料精度等を考えると、完全なねじ山が3山以上ナットの外に出ているようにするのがよい。
図7.11.2_せん段ボルト.jpg
図7.11.2 せん断ボルト

7章鉄骨工事 12節溶融亜鉛めっき工法

第7章 鉄骨工事
12節 溶融亜鉛めっき工法
7.12.1 適用範囲
本節は、溶融亜鉛めっき(以下、この節では「めっき」という。)を施した鉄骨部材を溶融亜鉛めっきを施した高力ボルト(以下、この節では「めっき高力ボルト」という。)を用いて接合する鉄骨造建築物に適用する。
なお、本節では、溶融亜鉛めっき工法の特有な事項をまとめており、鉄骨構造として一般的な事項は1節から11節までを参照する。
接合部分をめっきしないで鋼素地を露出させ、添え板(スプライスプレート)とともに赤錆を発生させるなどして通常の高カボルトで接合したのちジンクリッチペイント等で塗装する場合は、ここでは対象にしない。
一般に普通鋼材は、めっき付着量550g/m2程度のめっきを施しても鋼材としての材質は変化しないと考えてよい。しかし、JIS B 1186(摩擦接合用高力六角ボルト・六角ナット・平座金のセット)に規定される高カボルトセットの構成材料は、製造工程で熱処理(焼入れ・焼戻し)により所定の機械的性質を付与している。また、トルク係数値はセットとして必要な性能が確保されている。これらは、めっきを施すことにより著しい影響を受けるので普通の高力ボルトと同様に扱うことができないため、JISでは製品規格が定められていない。また、接合面にはめっき層が介在するため、すべり係数やリラクセーション等接合部の性能も一般の鋼材の場合とは異なるので 許容耐力等を個別に規定しなければならない。
このため、めっき高カボルトメーカーは、めっきした鋼材をめっき高カボルトで摩擦接合する材料及び工法を、旧建築基準法(以下、この節では「旧法」という。)第 38条に基づき「溶融亜鉛めっき高力ボルト接合」として建設大臣認定を受けていた。
しかし、法の改正により、めっき高力ボルトの材料については法第37条第二号の規定に基づき認定を受けることになった。また、高カボルトの許容応力度等については平成12年建設省告示第2466号で数値が示されているが、めっき高力ボルトについては、品質に応じて国土交通大臣が指定した数値とされている。
なお、「標仕」12節では、特記がなければ旧法第38条で認定された材料及び工法で施工されることを前提として、セットの種類は1種(F8T相当)、すべり係数値は 0.4以上確保できることなどを規定している。
7.12.2 施工管理技術者等
(a) 摩擦接合部の性能を確保するためには、接合摩擦面の処理とボルト締付け力の管理が不可欠である。このため、「標仕」7.12.2では,「溶融亜鉛めっき高力ボルト接合」の施工管理を行う技術者及び締付け作業を行う技能者については、必要な技術又は技能を有することを証明する資料を提出することとしている。
(b) めっき構造物の健全な普及並びに技術・技能レベルの平準化及び一般化を図るために「溶融亜鉛めっき高カボルト技術協会」(以下、この節では「技術協会」という。)では設計と施工管理(接合面の状態の適否、講ずべき必要な措置等の判断を含む。)を行うために必要な知識を有する「技術者」及びめっきボルトの締付け作業を適切に行うことのできる「技能者」を認定している。これらの「技術者」又は「技能者」は、「標仕」7.12.2で規定する「施工管理技術者等」に該当する者の一例である。
なお、技術協会では、溶融亜鉛めっき高カボルト接合の「設計施工指針」及び「施工管理要領」を定めて、「技術者」はこれに従って施工管理を行うこととしているので、必要に応じて活用するとよい。
7.12.3 亜鉛めっき
(a) 亜鉛めっき
(1) 溶融亜鉛めっき工法に使用する形鋼・鋼板類のめっきの種別は、「標仕」表 14.2.2のA種とし、めっきの付着量は550g/m2(膜厚換算約 80μm)以上としている。
(2) めっきする部材は、めっき槽の大きさによる最大寸法の制約や、めっき温度によるひずみ防止対策としての部材形状、溶接寸法並びに溶融した亜鉛の流れや空気の流出入への配慮から通常の鋼構造とは異なる部材加工が必要になる。また、溶接は、原則としてめっき前に行わなければならないことなど設計時から対応しなければならないことが多い。これらの詳細については(-社)日本鋼構造協会「建築用溶融亜鉛めっき構造物の手引き」を参照するとよい。
(3) めっき高力ボルトの孔径は、「標仕」表7.3.2による。ただし、孔あけは、鋼材のめっき前に行わなければならない。
(b) めっき高カボルト
(1) めっき高力ボルトは、7.12.1に示すように建築基準法に基づき認定されたものを使用する。
めっき高カボルトのセットの内訳を、表7.12.1に示す。
この表のとおり、JIS B 1186で規定するセットの種類の1種(F8T) Aに準ずるもののみであり、F10Tやトルシア形のものは存在しない。認定を受けているめっき高力ボルトは、頭部に「F8T」と製造所マークが刻印されている。
また、めっき高カボルトの呼び径は、M16、M20、M22、M24となっており、一部のメーカーではM27、M30がある。
表7.12.1 溶融亜鉛めっき高力ボルト
表7.12.1溶融亜鉛めっき高力ボルト.jpeg
(2) めっき高カボルトのめっき方法は、JIS H 8641(溶融亜鉛めっき)の2種 HDZ55で、めっきの付着量は550g/m2以上となっている。
(3) 7.12.1で規定する製品に対する製造管理方法及び品質管理試験の結果は、認定を受けたメーカーで行われた検査結果報告書により確認する。
めっき高カボルトの工事現場搬入時には、メーカーから提出された検査結果報告書をもとに荷姿外観・等級・サイズ・ロット等について確認する。このうち、荷姿については包装の完全なものを未開封状態のまま現場に搬入する(7.2.2(d)参照)。
7.12.4 溶融亜鉛めっき高カボルト接合
(a) 摩擦面等の処理
(1) めっき高力ボルトを使用する場合の摩擦面は、(-社)日本建築学会「鋼構造接合部設計指針」によると、溶融亜鉛めっき後、軽くブラスト処理を施し、摩擦面の表面粗度を50μmRz以上(70 ~100μm Rzが望ましい)としたのち、設計用すべり係数が 0.40以上確保できるものとあり、「標仕」でも同様に規定されている。また、フィラープレートについても同様な処理を行うとされている。摩擦面のブラスト処理の範囲は、「標仕」図7.12.1により、摩擦面の外端から5mm程度内側とし、添え板(スプライスプレート)で覆われる範囲とされている。
(2) りん酸塩処理又はその他の特別な処理とする場合は、設計図書で、その方法及びすべり耐力等の確認方法が指示されることになる。その場合、一般的には、すべり試験を実施し、すべり係数が 0.40以上あることを確認することになる。この場合のすべり試験の要領は、技術協会の「設計施工指針」を利用するとよい。
技術協会の「設計施工指針」は2009年に改定され、「溶融亜鉛めっき高カボル卜摩擦接合面のりん酸塩処理要領」が新しく規定された。そこでは、りん酸塩処理を行う場合は、すべり試験を実施し、測定値のすべてが所定の値以上であることを条件としている。りん酸塩処理作業条件が同じである場合は、他の工事についてもその条件を有効とし、以後すべり試験は不要とされている。
(b) めっき高力ボルトの締付け
(1) めっき高カボルトの締付けは、技術協会では「技能者」の有賓格者が行うこととしている。ただし、「技術者」の有資格者が作業してもよい。
(2) 締付けの手順は、4節の通常の高力ボルトと同様に、ボルトの取付け、一次締め、マーキング、本締めの順序で行うが、本締めは、ナットの回転角を制御するナッ ト回転法による。
(3) ナット回転法とは、一次締めにより鋼材、ナットが密着した状態から起算するとナットを1回転(360°)させればボルトは、おおよそねじの1ピッチ分伸びるというねじの幾何学的な原理を利用してナットの回転量(角)を制御することで、ボルトの軸力を管理するものである。したがって、ナットの回転量とボルトに導入される軸力は次式で示す関係が成り立つ。
ナットの回転量とボルトに導入される軸力の式.jpeg
この関係は、高力ボルトの等級やトルク係数とはかかわりなく成立することになる。しかし、トルク係数が大きいと、ナットを120゜回転させるのに大きな力が必要で作業性が低下するばかりでなく、ボルト軸部をねじる効果が大きくなり軸部に大きなねじり応力を生じたり、とも回りを生じたりしやすくなるので好ましくない。「標仕」ではセットの種類は1種(F8T相当)としている。
(4) ボルトの取付けは.7.4.7(e)による。
(c) 一次締め
一次締めは、仮ボルトを締め付けて部材の密着を確認したのち、全ボルトについて「標仕」表7.4.2に示すトルク値でナットを回転させて行う。この一次締めトルク値は、本締めのナット回転角の基点とするためのもので極めて重要な意味をもっている。
一次締めのボルト張力は、M16で約40kN、M20, M22で約50kN、M24で約60kN程度導入されるが、一次締めのボルト張力は本締めボルト張力に影響しないナット回転量で本締めを行うことにしてあるので、一次締め後の締付けトルクやボルト張力は検定しなくてよい。
締付け機器は、プレセット形トルクレンチを使用するのが望ましい。メガネスパナを使用する場合は.締付け作業に先立ち一次締めトルク値が得られる人力の入れ具合をトルクレンチで確認し、その要領をつかんでから作業に入ることとする。
(d) マーキングは,7.4.7(g)による。
(e) 本締め
JIS形高カボルトと同様に、めっき高カボルトについても首下長さが呼び径の5倍以下のものについては「標仕」表7.4.2に示すトルクで一次締めを行った状態を基点としてナットを120°回転させることとしている。この場合の許容差は ±30°としている。120゜の回転量はナットの角が二つ分回ることを意味しているので一次締め後のマーキングの線で容易に確認ができる。
このナットの回転量は、部材締付け実験により、標準ボルト張力に対して、必要十分なボルト張力が得られることを確認して定められているものであるから、これを厳守しなければならない。
なお、首下長さが呼び径の5倍を超えるボルトについては、実際の厚さとなる鋼板( 2~3枚積層可)に当該ボルトを挿入し、所定のトルクで一次締めした状態を起点として、ナットの回転角度と、ボルト軸力の関係を試験をして、設計ボルト張カの約1.3倍の軸力となるナット回転角を決定する。このとき試験は同一呼び径及び首下長さごとに各5本実施し、その平均値をもって、必要なナット回転角としてよい。
本締めは、ナットを規定の角度だけ回転させれば、方法は人力あるいは機械力いずれの方法によって行ってもよい。締付け本数が多い場合には、何らかの機械力を利用したほうが効率的である。
なお、ナット回転角自動制御装置の付いた機器も開発されている。
(1) 締付け機器
めっき高カボルトの締付けにはナット回転法用電動式締付け機(図7.12.1)やJISの高カボルトに用いる電動式締付け器具、手動式トルクレンチ等を用いるが、これらは所要の精度が得られるように十分整備されたものでなければならない。
図7.12.1_ナット回転法用電動式締付け機の例.jpg
図7.12.1 ナット回転法用電動式締付け機の例
(2) 締付け機器の調整
ナット回転法では、部材にボルトをセットして、工事現場で使用する締付け機で締付け、所要のナット回転角が得られることを確認する。一般に、ナット回転法での締付け機器の調整は.本締め時の最初の数本のボルトを締め付ける時に部材で行うもので、トルクコントロール法と異なり、部材と軸力計でバネ定数の迩いがあるため,軸力を測定しない。
7.12,5 搬入及び建方
(a) 搬入及び建方は、10節による。ただし、荷扱い、建入れ直しの際には,めっき面に傷がつかないように養生を行う。
(b) めっき部材の保管に当たっては,部材間に桟木を使うなど通風の良い状態で行う。
(c) 部材のめっき補修
(1) 「標仕」7.12.5 (b)では、搬入及び建方においてめっき面に傷が発生した場合の補修の規定であるが、このほかにめっきされた部材及び素材表面の異常状態によって素地の鋼材が部分的に露出することがある。
また、建方時の精度によっては、フィラープレートが新たに必要となったり、添え板を交換する場合が生じる可能性がある。フィラープレート・添え板(スプライスプレート)のめっきが部分的に欠落した部分には、めっきと同等の耐食性を備えた補修が必要となるがその方法としては次の2つの方法がある。
これらは、工場・工事現場等、環境によって、適用可能なものと、不可能なものがあるので、適切に判断しなければならない。ただし、工事現楊での施工性を考えると( i )高濃度亜鉛粉末塗料による方法が最も適している。
(i) 高農度亜鉛粉末塗料
90%以上の金属亜鉛粉末と展色剤からなる亜鉛の電気化学的防食能力をもつ塗料で、はけ1回塗りで50μm程度の塗膜が得られる。
(ii) 亜鉛の溶射
メタリコン用のガンで亜鉛を溶射するが、溶射部分はあらかじめブラスト処埋により表面を粗くしておき、被膜は80μm以上の厚みとする必要がある。
(2) 補修後の耐食性及び補修剤の密着性を確保するには次の、点に留意しなければならない。
(i) 周辺のめっき皮膜と同程度の厚さとする。
                                                                                   
(ii) 補修箇所の汚れ、錆等は完全に除去する。特に赤錆のようにはく離しやすい異物が残っていると補修剤の密着性が極端に低下する。
7.12.6 締付けの確認
(a) 締付けを完了しためっき高カボルトは全数について、一次締め後につけたマーキングにより、所要のナット回転角が与えられているかどうか目視により検査する。規定のナット回転量(首下長さが呼び径の 5倍以下、かつ、M12を超える場合は120゜)に対して+30°~ −30゜の範囲にあるものを合格とする。+30゜を超えて締め付けられたものはセットを取り替える。また、ナットの回転量の不足しているものについては、所定のナット回転量まで締め付ける。
(b) ナットとボルト・座金等がとも回りを生じているものはセットを取り替える。
(c) 一度使用しためっき高力ボルトのセットは、再使用してはならない。
(d) ナット回転法の締付け検査でトルクレンチを用いた検査を行わないのは、次の理由による。
(1) ボルトの軸力がナットの回転量により決まり、トルクと関連していない。
(2) マーキングのずれにより本締めが完了したことが外観で分かる。
なお、締付け検査は、受注者等に対する規定であり、監督職員の検査は「標仕」 7.4.8(f)に定められている。この場合は、受注者等の提出した検査記録に基づいて、適宜施工済みボルトを抽出し、検査を行う。

7章鉄骨工事 13節鉄骨工事の精度

第7章 鉄骨工事
13節 鉄骨工事の精度
7.13.1 一般事項
(a) 「鉄骨造の継手又は仕口の構造方法を定める件」(平成12年5月31日建設省告示第1464号)により,表7.13.1に示す項目について限界値が規定された。①の限界値は、JASS 6付則6[鉄骨精度検査基準]における限界許容差と同じであるが、②の通しダイアフラムと梁フランジの関係は、JASS 6付則6では規定されていない。また、③は、JASS 6付則6よりも厳しい規定となっているので、注意が必要である。表7.13.1に示す項目についての検査方法補強方法等については、鉄骨製作管理技術者登録機構「突合せ継手の食い違い仕口のずれの検査・補強マニュアル」を参考にするとよい。
表7.13.1 溶接部の形状・寸法
表7.13.1_溶接部の形状・寸法.jpg
(b) 「標仕」7.3.3及び「標仕」7.10.2で、鉄骨の製作精度及び建方等の工事現場施工の精度は、JASS 6付則6によることとしている。次にその抜粋を示す。
鉄骨精度検査基準
この基準は、一般の構造物の主要な鉄骨の製作ならびに施工に際しての寸法精度の許容差を定めたものである。許容差は、限界許容差と管理許容差に区別して定めた。限界許容差は、これを超える誤差は原則として許されない最終的な個々の製品の合否判定のための基準値である。一方、管理許容差は、95%以上の製品が満足するような製作または施工上の目安として定めた目標値であり、寸法精度の受入検査では、検査ロットの合否判定のための個々の製品の合否判定値として用いられる。
寸法精度の受入検査において、個々の製品が限界許容差を超えた場合には不良品として、再製作することを原則とする。ただし、再製作できない場合にはそれに相当する補修を行い再検査に合格しなければならない。また、個々の製品が管理許容差を超えても限界許容差内であれば補修・廃棄の対象とはならない。管理許容差を合否判定値として抜取検査を行う場合、検査ロットが不合格となった場合は、当該ロットの残りを全数検査する。ただし、検査ロットの合否にかかわらず限界許容差を超えたものについては、工事監理者と協議して補修または再製作等の必要な処置を定める。
なお、本基準は以下に示すものには適用しない。
(1) 特記による場合または工事監理者の認めた場合
(2) 特に精度を必要とする構造物あるいは構造物の部分
(3) 軽微な構造物あるいは構造物の部分
(4) 日本産業規格で定められた鋼材の寸法許容差
(5) その他、別に定められた寸法許容差
付表1 工作および組立て
付表1_工作および組立て1.jpeg
付表1_工作および組立て2.jpeg
付表1_工作および組立て3.jpeg
付表2 高力ボルト
付表2_高力ボルト1.jpeg
付表3 溶 接
付表3_溶接1.jpeg
付表3_溶接2.jpeg
付表3_溶接3.jpeg
付表4 製 品
付表4_製品1.jpeg
付表4_製品2.jpeg
付表4_製品3.jpeg
付表4_製品4.jpeg
付表5 工事現場
付表5_工事現場1.jpeg
付表5_工事現場2.jpeg
付表5_工事現場3.jpeg
付表5_工事現場4.jpeg

7章鉄骨工事 14節資料

第7章 鉄骨工事
14節 資 料
7.14.1  溶接用語
JIS Z 3001-1(溶接用語一第1部:一般)
JIS Z 3001-2(溶接用語一第2部:溶接方法)
JIS Z 3001-4(溶接用語一第4部:溶接不完全部)
の抜枠を次に示す。
なお、JIS Z 3001-3(溶接用語一第3部:ろう接)は省略する。
JIS Z 3001-1:2013
4.1 共通
 
4.1.1 基本
JIS_Z3001-1_4.1.1_基本.jpeg
 
4.1.2 溶接部の性質
JIS_Z3001-1_4.1.2_溶接部の性質.jpeg
JIS_Z3001-1_4.1.2_溶接部の性質(溶着金属,溶融部,ボンド部).jpeg
 
4.2 試験
 
4.2.1 試験一般
JIS_Z3001-1_4.2.1_試験一般.jpeg
 
4.4 アーク溶接
 
4.4.3 溶接継手
JIS_Z3001-1_4.4.3_溶接継手.jpeg
JIS_Z3001-1_4.4.3_溶接継手(すみ肉のサイズ等).jpeg
4.4.4 溶接姿勢
JIS_Z3001-1_4.4.4_溶接姿勢.jpeg
  
4.6 特殊の溶接
 
4.6.5  ロボット溶接
JIS_Z3001-1_4.6.5_ロボット溶接.jpeg
 
4.7 ガス溶接及び熱切断
 
4.7.1 溶接・切断方法
JIS_Z3001-1_4.7.1_溶接・切断方法.jpeg 
 
JIS Z 3001-1 : 2013
JISZ3001-2:2013
 
4. 用語及び定義
4.3 融接
 
4.3.3  アーク溶接
JIS_Z3001-2_4.3.3_アーク溶接1(アーク溶接等).jpg
JIS_Z3001-2_4.3.3_アーク溶接2(サブマージアーク溶接等).jpg
JIS_Z3001-2_4.3.3_アーク溶接3(アークスタッド溶接).jpg
 
4.3.6 エレクトロスラグ溶接
JIS_Z3001-2_4.3.6_エレクトロスラグ溶接.jpeg
 
4.4 アーク溶接の施工
 
4.4.1 溶接施工
JIS_Z3001-2_4.4.1_溶接施工1(パス、ビード等).jpeg
JIS_Z3001-2_4.4.1_溶接施工2(溶込み等).jpeg
JIS_Z3001-2_4.4.1_溶接施工3(クレータ,止端,ウィービング等).jpeg
4.4.2 溶接施工管理
JIS_Z3001-2_4.4.2_溶接施工管理.jpeg
4.4.3 溶接補助材
JIS_Z3001-2_4.4.3_溶接補助材1(始端タブ、終端タブ).jpeg
JIS_Z3001-2_4.4.3_溶接補助材2(裏当て).jpeg
 
JIS Z 3001-2:2013
JIS Z 3001-4:2013
 
4. 用語及び定義
 
4.2 溶接不完全部一般
JIS_Z3001-4_4.2_溶接不完全部一般.jpeg
 
4.4 空洞
JIS_Z3001-4_4.4_空洞.jpg
 
4.5 介在物
JIS_Z3001-4_4.5_介在物.jpeg
4.6 融合不良・溶込不良
JIS_Z3001-4_4.6_融合不良・溶込不良.jpeg
 4.7 形状不良
JIS_Z3001-4_4.7_形状不良、4.8_その他の不完全部.jpeg
 
 
JIS Z 3001-4:2013
7.14.2 建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン
(a) 「建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン」が.これまでの「建築構造用鋼材の新しい品質証明方式」に代わり,2009年12月に(-社)日本鋼構造協会 建築鉄骨品質管理機構から発行された。本ガイドラインの骨子を次に示す。
(1) 鋼材等の品質確認は、書類による品質確認と現物の品質確認で行われる。
(2) 規格品証明書の原本を保有する工程(会社)が使用した鋼材の規格品証明料の内容をリスト化し,原品証明書(用紙C)を作成発行する。
(3) 用紙Cに基づき鉄骨製作業者は鉄骨工事使用鋼材等報告書(用紙B)を作成する。
(4) 用紙B、Cの表紙として用紙A1、A2を作成する。
(5) ミルシート及びその写しの提出を不要とする。
(6) ミルシートを提出する従来方式の場合によるか本方式によるかは事前に合意しておく。
(b) 「建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン」(2009年12月25日1版)の抜粋を次に示す。
なお、実際の工事に適用する場合は、ガイドライン本文を参照する必要がある。
建築構造用捐材の品質証明ガイドライン
 
1.2 本ガイドラインの活用の前提
 
1.2.1 自工程管理に基づく品質管理
 
施工者は鉄骨製作に必要な設計図書を設計者から受理して後、鉄骨製作業者へ支給する。その仕様に基づき鉄骨製作業者が材料を発注する。鉄骨製作業者が製作した鉄骨製品は施工者の受入検査を経て工事現場へ搬入され,工事現場で組立て、接合され鉄骨が完成する。そして施工者は建物完成後、施主へ引き渡す。このように鉄骨工事においては、施主と施工者、施工者と鉄骨製作業者という2段階の契約関係があり、施工者は建築工事の元請けとして鉄骨製品の品質についても責任を有する。
 
建築基準法で鋼材類(鋼板、形鋼)はJIS規格適合であることが規定されている。また、鋼材類は初期(製造出荷)段階でJIS規格適合も含む製品の個別識別がなされている。その鋼材類は、製造メーカーから鉄骨製作工場へ直接、あるいは切断などの中間加工をされて納入される。いずれの場合も初期段階で特定された鋼材類が、工程の各段階で間違いなく流通しなければならない。
 
鋼材類の流通過程の各段階で使用されている鋼材類の品質を確認し、その結果を書類に残し次の工程へ渡すことで結果として流通段階で間違い無く使用されたことが証明できる。
 
鋼材等の品質確認は「書類確認」と「現物確認」によって行われる。そして「書類確認」については、「規格品証明書の確認」がポイントとなる。(注1)
 
鉄骨の品質は関連する全ての工程で作りこむという自工程責任による自主管理を尊重することで過度の費用が発生しないようにする事ができる。本ガイドラインは特に鋼材類の流通や各工程段階での自主管理を明確に打ち出したものと考えることができる。
 
施工者は鉄骨製作業者を通して提出される書類の内容を確認することで材料管理の証しとすることになる。そのため、書類の内容について施主や行政機関に説明ができるように鉄骨製作業者の材料管理体制・方法や鉄骨製作業者から材料の切断などの発注を受ける中間加工業者の管理体制を把握しておくことも重要である。
 
 
なお、規格品証明書の記載内容(機械的性質、化学成分)のレベル(例えば、化学成分値の多少など)や実際に使用された鋼材類から試験片を採取して、機械試験や化学成分分析を行って記載内容と照合を行うなどは考えていない。但し、当事者間の協議などで化学成分値を試験する場合、携帯型分析器で分析したり鋼材から試験片を採取して分析する方法がある。なお携帯型分析器には機械によって分析可能な成分に違いがあったり、シールドガスが必要となるなど特徴があるので使用にあたっては注意が必要である。
 
本ガイドラインでは、流通過程で切断などの工程がある「鋼材類」を主に対象とする。但し、証明書には溶接材料、高力ボルトなどを含むため呼称は「鋼材等」としている。
 
(注1)
規格品証明書の定義はJASS6による。JASS6では、規格証明書について「JIS、その他の団体などの公的に認知された規格があり、その報告規定に基づいて製造業者が発行する証明書。もしくは、国土交通大臣認定品に適合することを証明する書類で、社名・捺印のあるものを言う。」と規定されている。
 
 
1.2.2 裏書ミルシートに代わる原品証明書の採用
 
本ガイドラインで提案されている鋼材品質証明の方法は、いわゆるミルシート提出方式に代わるものである。結果としてミルシートの提示・提出が不要となるものである。一見、管理レベルが下がったかのように思われるが実際に切断を行う業者にとっては材料の出所を明確にし、記録に残すことが求められ、本ガイドラインによって原品証明書を作成・管理するのは、むしろ厳しい管理方法である。また、作成した書類が最終的に使用材料のJIS適合証明の証拠となるものであり責任も重くなる。
 
したがって、原品証明書の採用にあたっては、提出方法、保管方法、保管期間、業務対価等について事前に工事関係者で文書合意しておくこととする。
 
また、ミルシートについては提出を義務としないこととしているが、本ガイドラインによる証明方法へ移行するまでの間、鋼材の品質確認を”原品証明書による”のか”規格品証明原本、裏書きミルシートの提出による”のかについても、事前に工事関係者の合意により決定しておく。(注2)
 
(注2)
ミルシート提出方式においては、いわゆる紐付き材について、材料と工事名を紐付け管理するために、規格品証明書に需要家名として材料を購入した会社名でなく、部材を使用する需要家・工事名称を記載する場合がある。
切板会社やファブリケーターの在庫材についてはミルシートの需要家名や工事名が異なっていても、トレーサビリティが確保されていれば使用に問題はない。
今後、原品証明書方式を基本とすることから、原則として需要家名は材料購入会社名を記載することとし、材料の取り扱い(他工事への使用など)は購入会社の自由裁量とする。
 
 
1.2.3 証明コストの負担と発注仕様への明示
 
本ガイドラインに沿って.鋼材の加工業者等が使用した鋼材について証明書の作成を行うために必要な作業や記録の保全については、一定のコストが生じることは事実である。このため、建築の施工者は鉄骨製作業者等に対して、証明書の作成.提出を発注仕様書に明示する等により契約業務として明確化しその費用を支払う必要があり、鉄骨製作業者は.その前段の鋼材の流通、加工、生産業者に対して同様の対応をとる必要がある。
 
こうしたコストは、最終的に建築費の一部となり建築主が負担することになるが、建築用鋼材の品質は建物利用者の生命等の安全に直結するものでありかつ、万一鋼材が誤用されたときの被害の大きさに鑑みれば、建築主においては、使用鋼材等が明らかにされていない建築物の受け渡しを受けるべきでなく、コスト削減を名目に省略されてはならない不可欠な負担であることを理解する必要がある。さらに建築主は、建築主事等による検査受検の申請者として、使用鋼材等が法令に適合していることに関する書類等を提出する立場にもある。
 
このため、建築主に対する意識啓発について行政も含め建築界全体として取り組む必要があるとともに、施工者においては、建築主との個別の契約において、本ガイドラインに沿った報告書等の提出を業務内容とする必要がある。
 
なお、鋼材を使用したそれぞれの工程で使用鋼材を明らかにする本ガイドラインの方法は、施工者が施工現楊における成分検査により使用鋼材を事後的に特定するなどの他の方法よりも合理的で、全体としての証明コストが低いことは明らかである。
 
 
2. 鋼材等の品質確保のフロー
 
2.1 書類による品質確認
 
書類による品質確認の流れの概略を以下に示す。
 
(1) 各工程(会社)が行った品質確認の結果は原品証明書(用紙C)にとりまとめ次の工程(会社)へ提出する。
 
この原品証明書は鋼材等の規格品証明書原本(ミルシート)を保有し加工を行った工程が作成する。この会社には一般流通業者(問屋)で自社保有材を少量販売する会社も含まれる。
 
原品証明書を取りまとめた工程は、その鋼材等の品質を確認した結果について保証する責任を負う。但し、規格品証明書の記載内容に関して保証責任は無い。
 
(2) 原品証明書を作成する工程は、原品証明書から規格品証明書原本へ遡れることが可能な仕組みを構築しなければならない。
 
(3) 鉄骨製作業者は.使用した鋼材等の品質を確認した結果を「鉄骨工事使用鋼材等報告書」(用紙B)にまとめ、用紙Cとともに施工者に提出する。(注3)
 
なお、鉄骨製作業者の確認は前工程(会社)の発行した原品証明書を確認する方法と自社工程を確認する方法の二つがある。
 
また,鉄骨製作業者の会社様態によっては、製作を担当する製作工場が行う場合もある。
 
 
(4) 施工者は.書類および現物の確認後その結果を「鉄骨工事使用鋼材等報告書」(用紙A2を表紙として、用紙B、Cとともに)として工事監理者に提出する。
 
(5) 工事監理者は、内容を確認し発注者である施主に報告する。その後、施主の代理として中間検査・完了検査時に特定行政庁、建築主事ないしは、確認検査機関に提出または提示する。(用紙A1を表紙として、用紙A2,用紙B,   Cとともに)鉄骨工事における鋼材、確認書類の流れ、関連関係者の行為については、付録aも参照。
 
(注3)  JASS6では、鉄骨工事の元請けとして施工者(ゼネコン)、鉄骨製作の受注者を鉄骨製作業者(ファブリケータ)としている。本書でも、定義はこれに倣う。
 
 
2.2 現物の品質確認
 
(1) 本ガイドラインでは鋼材類の現物での確認方法を原則、塗色識別によることとしている。従ってSS・SM材のようなプリントマークの無いSN鋼材以外にも適用できる。
 
現物確認の方法としてSN材でのプリントマーク、形鋼類でのラベル確認も有効であるが、保管期間、取扱い不備で消える、読み難い、剥がれるなどが懸念される。このような不具合が無く明瞭に識別可能な場合にはSN材でのプリントマーク、形鋼類でのラベル確認も適用できる。なお、鋼材の識別表示は原則、付録bに示す日本鋼構造協会規格(JSS I 02 2004)による。また、鋼材のマーキング、ラベル表示例を付録c、高力ボルトヘッドマーク一覧表を付録d、溶接材料の原品表示例を付録 e、およびアンカーボルトの表示例を付録 f に示す。(注4)
 
(注4)
原品の識別方法として、切断部材に部材番号を記入する場合がある。規格識別の番号記入や多桁数の番号記入など要求仕様は様々であり、また番号記入ができない小物部材等もあり、部材番号記入については、事前に記入方法、作業費用等につき文書合意しておくこととする。
 
 
3. 本ガイドラインで使用される書類について
 
3.1 原品証明書〈用紙C〉
 
(1) 規格品証明原本を保有し最初に作業する工程(会社)は保有する規格品証明書原本内容をリスト化し、原品証明書を作成・発行する。(注5)
 
原品証明書の発行タイミングは、工事の節・工区などの単位に纏めて発行することを基本とし、事前に関係者にて取り決めておくこととする。
 
これ以降の工程は直前工程の発行した原品証明書から必要項目を転記し、原品証明書を作成する。
 
 
(2) 規格品証明書原本、規格品証明書原品のコピー、原品証明書は適切な期間保有する。保管期間が過ぎた場合は破棄できる。
保行期間が法令で定められた場合、あるいは設計図書の特記のような別規定がある場合はそれに従う。改正建設業法において、「営業に関する図書の保存が引渡し後、10年」と定められた。これに準拠して保存期間を定める施主、施工者などもあると考えられるので工事開始前に関係者で保存の方法・期間・管理費用等について文書合意しておくことが重要である。なお、鉄鋼メーカーにおいては規格品証明書の現物やデータの保存期間は、各社の判断となっている(今後JIS認証制度等において保存期間を定めることも提案されている)。
なお、通常の商行為で使用する納品書などの扱いについてはここでは関与しない。
一般流通業者(問屋)が自社保有材料を少量販売する場合、規格品証明書原本、原本相当規格品証明書、原品証明書に対応する鋼材類が全て使用された場合は、保管期間の間はファイルする必要がある。
また、鉄骨製作業者は、一般流通業者や切板会社への発注の際には、発注先の会社がトレーサビリティーをとれているところかどうかを留意して選定する必要がある。
 
 
(3) 原品証明書を受け取る工程(会社)は、原品証明書を発行する工程(会社)の発行に関わる管理が適切に行われているかの確認を適時行う義務がある。
特に、残材(端材)の管理方法(ラベル、ステンシルが残されているか、あるいは転記されているか。切断報告書にこれらの記載があるか等)に留意する必要がある。
なお、その確認の頻度は特に定めないが、ISO認証の有無などを考慮して当事者間で協議する。
 
 
(4) 使用鋼材が発注仕様に適合していることの説明責任(立証責任)は鉄骨製作業者他、鋼材を調達した者が負う。従って、鉄骨製作業者の材料管理責任者は、原品証明書から規格品証明書原本へ遡ることが可能かどうかなどを確認しなければならない。
 
 
(5) 原品証明書の記載事項は以下の通りとする。
・日付、当該業者名、責任者名、署名あるいは捺印
・整理番号
・部材・部品あるいは記号:柱・梁(フランジ・ウェブ)、ブレース、アンカーボルト、ダイアフラム
・規格、種類:JIS規格、国土交通大臣認定
・寸法、数量(重量)
・メーカー名:鉄鋼メーカー、中間加工業者
・証明書番号、製品番号
製品番号:規格品証明書原本において個々の製品を特定できる項目名とする。
スプライスプレート、リブプレート、ガセットプレートについては.記載項目は、部位・部材、規格、メーカー名のみとする。
なお、納品書、送り状など既に使用している帳票を利用する場合で、上記項目で鋼板番号等の不足な項目がある場合は別途、同帳票に追記し、原品証明書とすることもできる。
(記載スペースが無い、価格が表示されているなどで当事者外への提出が難しい場合は規格品証明書原本をリスト化した原品証明書を作成する)。
(6) 原品証明書以外の添付書類は原則不要とする。
添付書類の提出を求める場合は、必ず事前に書類内容、提出方法、対価等につき関係者の合意により決定しておくこととする。
(注5)
JASS 6では、「原品証明書とは、規格品証明書(原本相当規格品証明書を含む)のついている鋼材の切断・切削・孔あけなど中間加工を施す業者、あるいは一般流通業者(問屋)が少量販売する鋼材に付して発行する証明書」と定義しているが、本ガイドラインでは規格品証明再原本を保有する鉄骨製作業者が作成する証明書も加える。
 
 
3.2 鉄骨工事使用鋼材等報告書〈用紙B〉
 
(1) 鉄骨製作業者は、製作の元請けとして原品証明書に基づき「鉄骨工事使用鋼材等報告書」を作成する。
 
記載項目は以下の通りとする。
 
・日付、鉄骨製作業者名、材料管理責任者名・捺印、鉄骨製作管理技術者登録番号
・部位・部材:柱・梁(フランジ、ウェブ)、ブレース、アンカーボルト、ダイアフラム、溶接材料、高カボルト、スプライスプレート、リブなど
・規格、種類:JIS規格、国土交通大臣認定
・品種、形状:鋼板、鋼管、切板、H形鋼・・
・納入者  :鉄鋼メーカー、中間加工業者
・規格確認方法:現物・書類確認の方法
・証明書ページ:原品証明書の検索用
 
 
(2) 書類構成
 
表紙、鉄骨工事使用鋼材等証明書、原品証明書
・添付科類について
原則として添付書類は不要とする。
 
(3) 作成対象とする部位・部材を以下に示す。
 
下記の部位・部材を対象とする。但し、別途指示がある場合はそれによる。
柱:柱体、仕口内スチフナー、ダイアフラム、フランジ ・ウェブ
大梁、小梁:フランジ ・ウェブ
ブレース、アンカーボルト、スプライスプレート、リブプレートなど
 
 
3.2. 補  鉄骨工事使用鋼材等証明書作成時の対象部位・部材について
ガイドライン_3.2.補_鉄骨工事使用鋼材等証明書作成時の対象部位・部材について.jpeg
ガイドライン_3.2.補_鉄骨工事使用鋼材等証明書作成時の対象部位・部材について2.jpeg
 
 
3.3 鉄骨工事使用鋼材等報告書〈用紙A2〉
 
施工者が工事監理者に提出する際に作成するもの。前記の原品証明書、鉄骨工事使用鋼材等証明書を確認した上、これらの表紙として用紙A2を作成する。
 
 
3.4 鉄骨工事使用鋼材等報告書〈用紙A1〉
 
工事監理者が建築主事等に提出する際に作成するもの。前記の原品証明書、鉄骨工事使用鋼材等証明書、施工者が発行した鉄骨使用鋼材等報告書を確認した上、これらの表紙としてA1を作成する。
 
 
4. 鋼材類と報告書の流れ例
 
鋼材類と報告書の流れをいくつかのケースに分けて示す。これらは代表的な流通過程のモデル化である。この他にも流通形態があると思われるが、本ガイドラインの主旨を理解して適用することが必要である。
 
また、流通過程で関与する商社など一部の機能は省略している。
 
このフローで示している「納品書、送り状」は、加工された製品に関するものを指している。
 
【 ケース1 】
 規格品証明書原本は鉄骨製作業者が保有する場合。
ケース 1-1
鉄骨製作業者がロール発注し、鋼材、規格品証明書原本がメーカーから鉄骨製作業者へ送られる場合。
ガイドライン_4.鋼材類と報告書の流れ(ケース1-1).jpeg
ケース 1-2
鉄骨製作業者がロール発注する。鋼材は中間加工業者で切断などの加工をされ鉄骨製作業者へ送られる。規格品証明書原本は中間加工業者を経由しないで、メーカーから鉄骨製作業者へ送られる場合。
ガイドライン_4.鋼材類と報告書の流れ(ケース1-2).jpeg

 ● 中間加工業者は、厚板シャーリング業者(外注・委託シャーリング業者を含む)、ガセットなど専門の中間加工業者、BH業者、B-BOX業者、コラム業者が該当する。中間加工業者は、鉄骨製作業者からの発注者に基づいた加工を行い、納品書、送り状を添え、製品を納入する。
なお、コラムについてはケース4、BH業者、B-BOX業者についてはケース5に示している。

 
 

鉄骨製作業者が、孔明け、切断、溶接等の作業を単に外注した場合は、その元請けたる鉄骨製作業者の責任の範囲とし書類の作成を行う。

 
 
【 ケース2】
規格品証明書原本は問屋または中間加工業者が保有する場合。
 
 
ケース2-1
1次問屋または中間加工業者は自社保有の材料を使用して鉄骨製作業者からの発注書に基づいた加工を行い、用紙Cを作成し、提出する。納品書、送り状を添え、加工済鋼材類を納入する。
ガイドライン_4.鋼材類と報告書の流れ(ケース2-1).jpeg
 
ケース2-2
 
鉄骨製作業者には、1次の中間加工業者から納入される。1次の中間加工業者へは2次問屋または中間加工業者から鋼材等が納入される。
 
鉄骨製作業者と売買を行う1次中間加工業者は鉄骨製作業者からの発注書に基づいた加工を行い、2次問屋または中間加工業者の発行した原品証明書、納品書、送り状を基に用紙Cを作成し、納品書、送り状を添え、加工済鋼材類を納入する。
ガイドライン_4.鋼材類と報告書の流れ(ケース2-2).jpeg
 
 

● 中間加工業者の定義、作業を単に外注した場合の考え方は、ケース1-2と同様である。中間加工業者間で材料(在庫材)手配を含め切断を委託する場合は、ケース2-2に相当する。

 
 
【 ケース3】
鉄骨製作業者が手持ちの余材を使用した場合。
 
 ガイドライン_4.鋼材類と報告書の流れ(ケース3).jpeg

ケース3-1 ケース1の場合の余材:ケース1の方法による。
ケース3-2 ケース2の場合の余材:ケース2の方法による。

 
 
 
5.2 書 式
 
5.2.1 用紙A1表紙
ガイドライン_5.2.1_用紙A1表紙.jpeg
 
5.2.2 用紙A2表紙
 ガイドライン_5.2.2_用紙A2表紙.jpeg
 
5.2.3 用紙B:鉄骨工事使用鋼材等報告書
ガイドライン_5.2.3_用紙B_鉄骨工事使用鋼材報告書.jpeg
ガイドライン_5.2.3_用紙B_鉄骨工事使用鋼材報告書、節毎の2ページ以降.jpeg
 
5.2.4 用紙C:ケース1-1, 1-2 鉄骨製作業者が証明書を作成する場合

●ケース1-1 鋼材、規格品証明書原本は鉄件製作業者へ

ガイドライン_5.2.4_用紙C:ケース1-1_鉄骨製作業者が証明書を作成する場合1.jpeg
ガイドライン_5.2.4_用紙C:ケース1-1_鉄骨製作業者が証明書を作成する場合1.jpeg
 

● ケース1-2 規格品証明再原本は鉄骨製作業者へ,中間加工業者が加工する。

 ガイドライン_5.2.4_用紙C:ケース1-2_鉄骨製作業者が証明書を作成する場合2.jpeg
 
 

●ケース3:鉄骨製作業者が手持ちの余材を使用した場合
ケース1の場合の余材の時はケース1に、ケース2の場合の余材の時はケース2に倣う。

 
 
5.2.5 用紙C:ケース2  中間加工業者が証明書を作成する場合      
【用紙C】
 
 

● ケース2 :規格品証明書原本は中間加工業者:原本を持つところが証明書を作成する。

ガイドライン_5.2.5_用紙C(ケース2)中間加工業者が証明書を作成する場合.jpeg
建築構造用鋼材の品質証明ガイドライン

7.14.3 SN鋼材材質識別表示記号・位置及び鋼材の識別表示標準
(a)「SN鋼材材質識別表示記号・位置」(新しい建築構造用鋼材より)を次に示す。
SN鋼材材質識別表示記号・位置
7.14.3_SN鋼材材質識別表示記号・位置及び鋼材の識別表示標準.jpeg
(b) 日本鋼構造協会規格JSS I 02(鋼材の識別表示標準)の抜粋を次に示す。
JSS  I 02-2004
  表 – 1 識別色および塗色方法
JSS_Ⅰ_02-2004_表-1_識別色および塗色方法.jpeg
参考文献
参考文献.jpeg