3節 山留め
3.3.1 山留めの設置
(a) 山留めの計画及び施工
(1) 山留めの概要
山留めは、地下構造物、埋設物等の施工中、掘削の側面を保護して周囲地盤の崩壊や土砂の流出を防止するためのもので、敷地に余裕のある場合、あるいは掘削が簡易な場合は、掘削部周辺に安定した斜面を残し、山留め壁等を設けない工法(図3.3.1 法付けオープンカット工法)とするのが一般的である。建築現場の周囲の状況、掘削の規模、地盤の状態等により、前記工法ができない場合は、山留め壁又は支保工による山留めを設置する。
山留めにかかる荷重としては、土圧、水圧、載荷荷重等があるが、それらを仮定するには、土質、地下水位、周辺の建築物や地盤上の荷重、周辺の状況等により異なり、種々の計算方法がある。
図3.3.1 法付けオープンカット工法〈索掘り、空掘り〉
(2) 山留めの種類
(i) 山留め工法の分類
山留めの種類には自立式,切張り式地盤アンカー式等種々のものがある。山留め工法の種類と特徴を表3.3.1に示す。
表3.3.1 山留め工法の種類と特徴(その1)(山留め設計施工指針 JASS 3(一部修正)より)
表3.3.1 山留め工法の種類と特徴(その2)(山留め設計施工指針・JASS 3(一部修正)より)
(ii) 山留め壁の種類
建築工事で用いられる山留め壁は、図3.3.2に示すように多くの種類がある。適切な工法を選択するためには地盤条件、掘削の規模、山留め壁に要求される剛性・止水性、振動・騒音等の公害、工期・工費等を総合的に検討する必要がある。これらの条件と山留め壁の選定基準の目安を表3.3.2に示す。山留め壁の種類と特徴をまとめたものを表3.3.3に示す。
図3.3.2 建築工事で多用される山留め壁の種類(山留め設計施工指針より)
表3.3.2 与条件に対する山留め壁選定基準の目安(山留め設計施工指針より)
表3.3.3 山留め壁の種類と特徴(山留め設計施工指針より)
従来、山留め壁としては、親杭横矢板壁、鋼矢板壁くシートパイル>等の打込み式によるものが一般的であった。しかし、近年では、振動・騒音、周辺地盤の沈下等の山留め壁の施工に伴う公害の防止や、掘削工事に伴う周辺地盤・構造物等への影響を防止するため、公害が少なく、また、比較的山留め壁の剛性・止水性に優れたソイルセメント柱列壁等が多く用いられるようになった。
ソイルセメント柱列壁工法は、注入液として用いるセメント系注入液を原位置土と混合・かくはんし、オーバーラップ施工した掘削孔にH形鋼等の心材を適切な間隔で挿入することにより柱列状に設置した山留め壁である。
なお、心材は、山留め壁の設計条件に応じ挿入間隔を決定する。
オーガーの形状や軸数は種々あるが、軸数が多ければ遮水性能の確保が有利であり、施工効率も上げられるなどの特徴もある。
心材としては、H形鋼・I 形鋼・鋼管等が用いられる。ソイルセメント柱列壁では通常450~550mm径のものが多く用いられる。また、大深度の掘削工事においては、1m程度の径を有するものが用いられることもある。ソイルセメント柱列壁の特徴を次に示す。
1) 騒音・振動が少ない。
2) かくはん翼のラップ施工により構築されるので、止水性が高い。
3) 泥水処理が不要で、排出泥土も他のRC山留め壁に比べて少ない。
4) 注入液の調合については、固化強度のばらつきが大きく、混合試験による事前検討が必要である。圧縮強度は、一般的に粗粒土になるほど大きいが、粒度分布・コンシステンシー・有機物含有量等により影響されるので十分注意する必要がある。
5) 掘削に伴う周辺地盤の緩みが少ないため、近接構造物に与える影響が少ない。
(iii) 山留め支保工の種類
山留め支保工は、掘削時に山留め壁に作用する土圧・水圧を安全に支えるとともに、山留め壁の変形をできるだけ小さくして周辺地盤並びに構造物に有害な影響を及ぼさないことを目的として架設する。したがって、山留め支保工の選定に当たっては、土圧・水圧の大きさのみならず、山留め壁との適切な組合せや、施工条件等を十分考慮しなくてはならない。通常の掘削工事において用いられる山留め支保工の種類を図 3.3.3に示す。また、これらの特徴を表 3.3.4に示す。
図 3.3.3 山留め支保工の種類と分類
表 3.3.4 山留め支保工の種類と特徴(山留め設計施工指針(一部修正)より)
① 鋼製支保工
鋼製支保工は、山留め壁に作用する土圧・水圧を鋼製腹起し、切張りの水平材で支える工法であり、市街地の掘削工事では最も実施例が多く信頼性が高いオーソドックスな方法である。現在ではほとんどリース材で施工されており、また、どの種類の山留め壁とも組合せが可能で、適用範囲が広い(図 3.3.4参照)。
図 3.3.4 鋼製支保工による山留め架構(山留め設計施工指針(一部修正)より)
② 地盤アンカー
地盤アンカー工法は、切張り工法では安全性に問題があるような不整形な掘削平面の場合、敷地の高低差が大きくて偏土圧が作用する場合、掘削面積が大きい場合、山留め変形を極力少なく抑えたい場合等には有効である。
地盤アンカー工法は、一般に切張りで支えている土圧や水圧を、山留め壁背面の地盤中に設けた地盤アンカーで支える工法である(図 3.3.5参照)。アンカーとなるPC鋼材を背面土にどのように定着させるかによって、工法が異なってくる。図 3.3.6に親杭横矢板工法の場合の地盤アンカー用腹起しの例を示す。
図 3.3.5 地盤アンカー工法の使用例(建築地盤アンカー設計施工指針・同解説より)
図 3.3.6 地盤アンカー用腹起し例(建築地盤アンカー設計施工指針・同解説より)
地盤アンカー工法の特徴と注意点等を次に示す。
1) 切張りがないため大型機械を使用することができ、施工効率が上がる。
2) 傾斜地等で片側土圧(偏土圧)となる場合の処理が容易である。
3) アンカーの設置に使用する機械は、地質調査に使用される程度の小型機であり、作業スペースが狭い所でも施工できる。
4) 山留め壁の背面地盤が軟らかい粘性土地盤の場合は、耐力があまり期待できず、定着長さが長くなり施工上の問題が発生しやすくなるので注意する。
5) 地中埋設物に十分注意して施工する必要がある。
6) 山留め壁は敷地境界近くに設置される場合が多いため、敷地から外にアンカ一部分がでる場合もある。この場合は、事前に隣地管理者等関係者の了解が必要となるので注意する。
7) 地盤アンカーの引抜き耐力は、全数について設計アンカーカの1.1倍以上であることを確認する(一般に山留め様にはプレストレスを導入する場合が多いので、この時点で耐力の確認が行われている)。
8) 山留め壁には鉛直力が作用するので、山留め壁は十分な鉛直支持性能を有する地盤に支持させる必要がある。
(iv) 薬液注入工法
薬液注入工法は、地盤の止水性又は強度増大を目的として、建築の山留め工事では主に補助工法として用いられる。小型のボーリングマシンで施工可能なため、施工場所の制約や地中障害物との干渉等の理由により止水壁の施工が困難な部分や、止水壁欠捐部の補修等に適用されている。薬液注入工法を用いる場合は、薬液による水質汚染のおそれがあるので注意しなくてはならない。また、山留め壁には注入圧が作用し、山留め壁が変位することもあるので注意する。
なお、薬液注入工法については、「薬液注入工法による建設工事の施工に関する暫定指針について」(昭和49年7月10日 建設省官技発第160号)、「薬液注入工法の管理について」(昭和52年4月21日 建設省官技発第157号)、「薬液注入工事に係る施工管理について」(平成2年4月24日 建設省技調発第110号の1)及び「薬液注入工事に係る施工管理等について」(平成2年9月18日 建設省技調発第188号の1)が定められているので、これに基づき施工及び管理を行うようにする。
(3) 山留め支保工(切張り式)の架設
山留め支保工の架設に当たっては、次の点に留意し施工を行うようにする。
① 支保工の架設は、施工図に基づき確実に行う。架設材の安全率は低くとってあるので、施工に当たっては組立順序、工法等に十分注意する。
② 支保工の架設、法面養生作業と掘削速度は,均衡を図りながら作業を進める。
③ 1段目の支保工架設前は、山留め壁の倒れに注意する。
④ 2段目の支保工を架けたら、1段目の腹起しと山留め壁の間に隙間ができていないか点検し、隙間があれば、くさび〈キャンバー〉をかうなどして外力が切張りに均等に加わるようにする。
⑤ 根切り面積の広いところでは、切張りが座屈しないよう水平精度に留意し、中間を適当な間隔の支柱で安全に支持する。
⑥ 支保工にできるだけ衝撃を与えないように工事を進める。特に、横からの衝撃は、座屈の原因となるので注意する。
⑦切張り、腹起しの曲がり、ねじれ、接合部及び交差部のUボルト、当て板溶接等による緊結状態に十分注意する。
⑧ 地下水の湧水量の増減に常時注意し、工事に支障のある場合は、関係者と協議し、工事の安全及び進捗を図る。
⑨ 山留め及び支保工は、常時巡回点検し、異状の発見に努める(3.3.2 (b)参照)。また、異常が発見された場合は、速やかに対策をとるとともに、関係者と協議する。
⑩ 切張りにプレロード(事前に側圧に対抗する力を切張りに導入しておくこと。図 3.3.7 ~9 参照)を導入する場合は、地盤条件、荷重条件、山留め設計図書及び山留め壁の応カ・変形、切張り軸力の計測結果等を総合的に検討し適切なプレロード量を設定する。また、プレロードの導入に際しては、切張り材の日射等による温度変化から生じる温度応力についても事前に検討し、切張り耐力の安全性を確認しておくことが望ましい。
次に、プレロードの加圧時には、軸力が平面的に均等に加わるように注意し、山留め壁の応カ・変形、切張り軸力等を計測するとともに、異状がないか点検する。特に、多段切張りによる支保工を用いる場合は、上段に架設されたり切張りの軸力が著しく低下しないよう留意する。
図3.3.7 切張りジャッキ施工例
図3.3.8 ジャッキ補強ピース施工例
図3.3.9 プレロード導入のための加圧装置の例
(b) 山留めの構造
山留めの構造は、掘削工事に伴う崩壊あるいは過大な変形が発生することがないよう、掘削工事時に作用する側圧に対し安全な構造とし、十分な強度と剛性を有するものとする。
山留め構造の計画は、(一社)日本建築学会「山留め設計施工指針」に設計及び評価方法が示されているので参考にするとよい。
(i) 山留めに作用する側圧
① 山留めに作用する側圧は、土質及び地下水位に応じ設定する。
②切張り及び腹起しの断面算定に当たっては、支保工の状態に応じて分布形を設定し、断面の算定を行う。
③ 構造物やその他の積載物に近接した山留めを計両する際には、①②のほかに、これらの近接物の影響を考慮した側圧評価を行い、山留めの検討を実施する。
④ 山留め壁、切張り、腹起し等は、強度及び変形量に対して、構造条件に適合した方法で検討するとともに、継手及び仕口部は、部材応力を無理なく伝達できる構造とする。
(ii) 山留め壁の許容応力度
山留め壁の材料の許容応力度は、各材料に対して設定された許容応力度を用いる。山留め壁に用いる材料の許容応力度は、「山留め設計施工指針」及び(一社)日本建築学会「建築地盤アンカー設計施工指針・同解説」に示されているので参考にするとよい。
3.3.2 山留めの管理
(a) 点検・計測管理
(1) 点検・計測管理の目的と要点
点検・計測管理の目的は、周辺地盤、隣接構造物、地中埋設物の沈下・移動及び土圧・水圧、山留め架構の応力、変形等を測定し、計画上の諸条件と比較検討して、周辺地盤の防害、隣接構造物の領斜・転倒、地中埋設物の損傷、ヒービング、ボイリング、山留めの傾斜・崩壊等の危険を事前に把握して、速やかに対処することである。
点検とは、目視及びスケール等による確認行為、計測とは、機械式,光学式測定機器を使用する簡易計測及び電気式測定機器を使用する計器計測による確認行為である。
点検・計測管理の計画で最も重要なことは、点検・計測結果に対して、適切な判断をすることであり、あらかじめ限界となる値を定めておき、その値に近づいてきたとき、対策又は具体的な措置がとれるよう準備しておくことである。
(2) 点検・計測について
(i) 点検・計測の対象項目.方法期間及び頻度
点検・計測の対象、項目及び方法の例を表 3.3.5に、また、点検・計測の期間及び頻度の例を表 3.3.6に示す。点検・計測には労力と経費を要することは当然であるが、工事の規模や地盤条件、周辺の状況等を考慮して、どの程度の点検・計測を行う必要があるかを検討し、山留め計画の一部として点検・計測管理の計画を立てておくことが望ましい。
表3.3 5 点検・計測の対象項目及び方法の例( JASS 3(一部修正)より)
表3.3.6 点検・計測の期間及び頻度の例( JASS 3(一部修正)より)
(ii) 計測の方法
山留めの計測方法には、電気的なセンサーとデータ収録・処理装骰等を用いた電気的計測と、ダイヤルゲージ、レベル、トランシット、盤圧計等を用いた機械的・光学的計測とがある。
1) 電気的計測は比較的大規模な工事や重要度・難易度の高い工事で採用されることが多く、手動計測から自動計測まで種々のシステムがある。計測システムは測定の目的、測点数、経費等に応じて選定される。
2) 機械的・光学的計測は、前記以外の工事において採用されるほか、電気的計測を行う工事での補助的な計測としても用いられる。一般的な現場で実施されている計測の概要は次のとおりである。
まず、掘削周辺の地盤の動きを測るために地上の適切な場所に測点を設置し、この点の垂直、水平の動きをトランシット、レベル、スケール等を用いて測る。山留め壁の変形は、壁の頂点に各通りごとに、何箇所か測点を設け、事前に設置した不動点を通してトランシットとスケール、又はピアノ線とスケールを使い山留め壁の面外への変位を計測する(図 3.3.11参照)。
土圧の計測には、これを直接測る方法も取られているが、一般的には山留め切張りにかかる軸力を図3.3.10に示すような盤圧計(ブルドン管形式)で測り安全性を確認している。設置箇所は掘削平面形状が単純な矩形で、周辺も特殊な条件がない場合、切張り各段ごとにX方向、Y方向に各1箇所ずつが一般的である。
図 3.3.10 切張り軸力計測の盤圧計取付け部例
図3.3.11 トランシットによる山留め変形測定の例
(iii) 盤圧計の設置方法
① 腹起しと切張りの接合部に設置する場合
火打材を用いない山留め支保工の場合に適し、盤圧計を取り付けても山留め支保工の安全にはほとんど影響を与えない。この場合は、火打材を入れると火打材に作用する力は測定できない(図3.3.12(イ)参照)。
② 火打材の基部に設置する場合
この場合は、切張りにかかる全荷重を測定することができるが、山留め支保工の安全性を阻害するおそれがあるので図 3.3.12(ロ)のような位置に必ず支柱を配置するなど、十分に注意する必要がある。盤圧計の取付け実施例を図 3.3.13に示す。
③ 切張りの中央に設置する場合
この場合は、腹起しから盤圧計位置までの距離が長いので、その間で荷重がつなぎ材や直角方向の切張り等に吸収されてしまい、全荷重を示さない。また、山留め支保工の安全から望ましくない(図 3.3.12(ハ)参照)。
図 3.3.12 盤圧計の設置方法
図 3.3.13 盤圧計の取付け実施例
(iv) 温度による影響
切張り材に鋼材を用いた場合は、温度変化の影響を考慮しなければならない。したがって、土圧を測定するときは気温も同時に測定するとともに、鋼材の膨張による応力変化を考慮する必要がある。
(3) 管理方法
計測結果を効果的に工事にフィードバックするには、迅速なデータ整理と計測結果の的確な評価、並びに安全性を損なう事態が発生した場合の対処方法について、計画時点で明確にしておく必要がある。管理計画においては、計測結果の検討方法や評価基準を明確にするとともに、異状時の対処についても管理体制を明確にしておくことが必要である。
計測結果の検討法の一例を図 3.3.14に示す。測定値はこの図のフローに従って検討する。
図中に示した管理基準値は測定値の評価基準となるものであり、設計条件や周辺環境条件から定められる。管理基準値は、計測項目によって異なるが、基本的な考え方として「一次管理値」、「二次管理値」、「限界値」というように細分化しておくと使用しやすい。例えば、「一次管理値」は設計計算値の80%、「二次管理値」は設計計算値、「限界値」はこれを超えると山留め架構の崩壊や周辺に障害が発生する値といった要領である。この場合、「一次管理値」は工事の努力目標、あるいはこれを超えると要注意といった注意信号であり、「二次管理値」は赤信号でこれを超えると抜本的な対策が必要という考え方である。
計測結果を評価することにより、計測時点の安全性を確認できるとともに、その後の推測もある程度可能であり、計測管理を工事ヘフィードバックしていることになる。最近では、更に一歩進めて計測時点の安全性はもちろんその後の挙動予測を行い安全性の確認,過大設計の修正に役立てようという試みがなされている。これは「情報化施工」あるいは「観測施工法」等と呼ばれている方法である。
なお、「限界値」の目安を表 3.3.7に示す。
図 3.3.14 測定値の検討フロー例(山留め設計施工指針より)
表 3.3.7 限界値の例(山留め設計施工指針(一部修正)より)
(b) 山留め設置期間中の異状
(1) 異状の発見及び観測
(i) 周辺地盤の沈下及びひび割れ
(ii) 山留め壁の変形:山留め壁頭部の移動量をトランシット、下げ振り等により測定する(図 3.3.11参照)。
(iii) 山留め支保工の変形
(iv) 切張りに作用する側圧測定
(v) 山留め壁からの漏水
(vi) 山留め壁背面土の状態(親杭横矢板工法の場合)
①横矢板をたたいて背面土の状態を点検
②横矢板の配列の乱れ
(2) 特殊な異状現象
(i) ヒービング
軟弱粘性土地盤を掘削するとき、山留め壁背面の土の重量によって掘削底面内部に滑り破壊が生じ、底面が押し上げられてふくれ上がる現象(図 3.3.15参照)。
(ii) ボイリング、クイックサンド、パイピング
上向きの水流のため砂地盤の支持力がなくなる現象、つまり砂地盤が水と砂の混合した液状になり、砂全体が沸騰状に根切り内に吹き上げる現象をボイリングといい(図 3.3.16参照)、このような砂の状態をクイックサンドという。
また、山留め壁の下部内側にクイックサンドが起きると山留め壁の上部外側からも土砂が運ばれてパイプ状の水みちができる。このような現象をパイピングという。
図 3.3.15 ヒービングの説明図
図 3.3.16 ボイリングの説明図
(iii) 盤ぶくれ
掘削底面下方に、被圧地下水を有する帯水層がある場合、被圧帯水層からの揚圧力によって、掘削底面の不透水性土層が持ち上げられる現象(図 3.3.17参照)。
図 3.3.17 被圧地下水による盤ぶくれの説明図
(c) 建築基準法施行令及び労働安全衛生規則に定められている災害防止関係の規定の概要を次に示す。
(1) 建築基準法施行令第136条の3(根切り工事、山留め工事等を行う場合の危害の防止)
(i) 地下埋設物(ガス管、ケーブル、水道管及び下水道管)の損壊による危害の発生を防止する措置を講じなければならない。
(ii) 建築工事等における地階の根切り工事その他の深い根切り工事(これに伴う山留め工事を含む。)は、地盤調査による地層及び地下水の状況に応じて作成した施工図に基づいて行わなければならない。
(iii) 建築物その他工作物に近接して根切り工事や掘削工事を行う場合は、当該エ作物の傾斜、倒壊による危害の発生を防止するための措置を講じなければならない。
(iv) 深さ1.5m以上の根切り工事を行う場合で、地盤が崩壊するおそれ及び周辺の状況により危害防止上支障があるときは、山留めを設けなければならない。
(v) 山留めの切ばり、矢板、腹起しその他の主要な部分は、構造計算により安全である構造としなければならない。
(vi) 工事施工中必要に応じて点検を行い、山留めを補強し、排水を適当に行うなど、安全な状態に維持するための措置を講ずるとともに,矢板等の抜取りに際しては、周辺の地盤の沈下による危害を防止するための措置を講じなければならない。
(2) 労慟安全衛生規則第368条~第375条(掘削作業等における危険の防止(土止め支保工))
(i) 土止め支保工の材料については、著しい損傷、変形又は腐食があるものを使用してはならない。
(ii) 土止め支保工の構造については、土止め支保工を設ける箇所の地山に係る形状、地質、地層.き裂,含水,湧水,凍結及び埋設物等の状態に応じた壁固なものとしなければならない。
(iii) 土止め支保工を組み立てるときは、矢板、くい、背板、腹おこし、切りばり等の部材の配置、寸法及び材質並びに取付けの時期及び順序を示した組立図を作成しなければならない。
(iv) 部材の取付け等の注意事項
① 切りばり及び腹おこしは、脱落を防止するため、矢板、くい等に確実に取り付ける。
② 圧縮材(火打ちを除く。)の継手は、突合せ継手とする。
③ 切りばり又は火打ちの接続部及び切りばりと切りばりとの交さ部は、当て板をあててボルトにより緊結し,溶接により接合する等の方法により堅固なものとする。
④ 中間支持柱を備えた土止め支保工にあっては、切りばりを中間支持柱に確実に取り付ける。
⑤切りばりを建築物の柱等部材以外の物により支持する場合にあっては、当該支持物は、これにかかる荷重に耐えうるものとする。
(v) 土止め支保工を設けたときは、その後7日をこえない期間ごと、中震以上の地震の後及び大雨等により地山が急激に軟弱化するおそれのある事態が生じた後に、次の事項を点検し、異常を認めたときは、直ちに補強又は補修しなければならない。
① 部材の損傷、変形、腐食、変位及び脱落の有無及び状態
② 切りばりの緊圧の度合
③部材の接続部、取付け部及び交さ部の状態
(vi) 土止め支保工の切りばり又は腹おこしの取付け及び取りはずしの作業については、土止め支保工作業主任者技能講習を修了した者のうちから、土止め支保工作業主任者を選任しなければならない。
3.3.3 山留めの撤去
(a) 山留め架構の撤去方法
山留め架構の撤去は、一般に地下躯体の構築に伴い所定の強度が発現したのち、側圧を躯体で受け直し、支保工を順次解体する(図 3.3.18参照)。
この際、上記支保工の設置深さを、地下躯体の構築過程を考慮して決める必要がある。また、支保工解体によって、上部の支保工に、解体以前に比較して大きな荷重が加わることになるので注意する。地下躯体にも荷重が加わるので、躯体強度についても確認して工事を進める。
施工条件によっては、切張り地盤アンカー、腹起しといった支保工を残したまま、地下躯体を1階床まで構築し、躯体強度が十分に発現したのち、山留め壁に作用する側圧を、地下外壁で受け直して支保工を撤去することもあるが、切張り工法の場合、だめ穴が発生し,漏水の可能性が高くなるため注意する。
なお、側圧の地下外堅への受直しで、各階床間の地下外壁に盛替え切張りを用いる場合(図 3.3.19参照)で、地下外壁に補強が必要な場合の補強例を表 3.3.8に示す。
図 3.3.18 山留め架構の撤去方法(JASS 3(一部修正)より)
図 3.3.19 盛枠え切張りの例(JASS 3(一部修正)より)
表 3.3.8 躯体の補強例(JASS 3(一部修正)より)
(b} 山留め壁の撤去
鋼矢板や親杭等を引き抜くと、周囲の土もともに抜き取ってしまい、大きな地盤沈下を引き起こすこともあるので、沈下量をなるべく少なくするよう直ちに抜き跡を砂等で充填する。また、鋼矢板や親杭等の引抜きにより、近隣に支障を与えるおそれがある場合は、山留め壁の存置等について設計担当者と打ち合わせ、適切に処理する。
(c) 切張り、地盤アンカー、腹起し等の撤去
切張り、地盤アンカーには大きな荷重が作用している。このため、軸力の解放時に金物類等が飛び出す危険がある。
また、地盤アンカーの鋼線が跳ね上がることもある。したがって、軸力の解放は適切な方法で行う。軸力の急激な解放を避け、解放時に、山留めや構造体に支障が起きていないか注意する。
支柱の引抜きは、構造体に支障を及ぼさないよう適切に行う。構造体に支障があったり、引抜きが困難な場合は、支柱の切断について設計担当者と打ち合わせ、適切に処理する。
参考文献