杉板の本実工法
打放し型枠工法には、ベニヤ合板と本実板とがあるが、杉板の本実型枠コンクリート打放し仕上げは、もっとも管理が難しい型枠工法の一つである。
コンクリート壁の型枠として杉板もしくは檜板を使用するので、木目をコンクリートに転写させるための工夫を求められる。
また、杉板の選定・前処理・加工・建込み方・打設時の技量など、もっとも高い技術が要求される。特に、杉板は自然素材であるため、木材がもつ性質やアクがコンクリートに影響しないように、入念な準備と選定が要求される。
更に、コンクリート打設までに雨などで濡らさないように、施工時期と雨養生に特に注意を払う必要がある。
①杉(檜)材面材の選定とコンクリートの調合
現場マンにとって、型枠工事の担当をすることは、最高の学びの機会である。
鉄筋コンクリート工事と型枠工事は、もっとも関係が深く、型枠工事を語らずして、コンクリート工事は語れない。
その中でも、杉板本実型枠コンクリート打放し仕上げは、もっとも高い技量を要する。
工法の成功のためにもっとも大切なことは、施工計画をきちんと立案することであり、そのためには必要な調査を含めて関係者との打合わせ・施工方法の確認などの調査を十分に行い、自分なりに大切な管理ポイントを把握することが大切である。
杉(檜)面材は、赤身の強い部分は使用せず、十分な自然乾燥をしたものを選ぶ。
そして、石灰水によるアク出しを行うことで、コンクリートの凝結に配慮する。
コンクリートの調合は試験練りを行って決定するが、充填性を考慮すれば、スランプは18~21㎝が望ましい。
セメントを指定される場合があるが、その際には、今までの実績と問題点をあらかじめ調査しておく。
②美しい転写とシャープな感じを出すための工夫
杉板の本実型枠コンクリート打放しの狙いは、コーティングしたベニヤ板の時と比べて、杉の木目がコンクリートに転写することで、木目の柔らかな表情を醸し出すところにある。
したがって、木目の転写が美しくきれいに仕上がるには、「コンクリートの凝結水を逃がさない」ことが、もっとも大切である。
そのためには、まず十分乾燥した材料を使用し、木材のねじれを防止する。
更に、出隅、入隅のコーナー部や型枠の足元から凝結水が逃げ出さないように留意する。
特に足元は濡れやすいので、隙間にはテープなどを張って凝結水の流出防止に努める。
その他、型枠工事作業では、施工要領書に沿った、型枠大工の注意深い施工も求められる。
そして、コンクリート打設においては、コールドジョイントを作らないような打設順序が大切であり、コンクリートが十分鉄筋と型枠の間に回るように、必要以上のかぶりを確保することが大切である。
杉板本実コンクリートの型枠の脱型時期は、木目を美しくコンクリートに転写させるために、通常より長めにとる。
何日間型枠を存置させるかは、JASS-5の規定に加えて決定する必要がある。
シーズンによって異なるが、夏場では5日、冬場では7日以上を確保したい。
いずれにしても、施工計画書に基づき、実物材のモックアップを実施し、打上がりの色や転写の具合、そしてエッジの出来上がりと型枠存置期間の関係などを確認し、「計画書の修正」を行うなど用意周到に行うことが望ましい。
③きれいな素肌を長く維持するための対策
打放しコンクリート表面に塗布する浸透性吸水材には、コンクリートの中性化を抑制し、表面の吸水を抑えてカビの発生を遅らせる効果がある。
コンクリートは、アルカリ性であるが、内部の鉄筋が長期間の空気にさらされ、コンクリートの中性化が進み、その結果、内部の鉄筋が錆びるようになってくる。
その錆でコンクリートが爆裂し、躯体の強度が弱くなり建物全体の寿命が短くなる。といった中性化の問題がある。
浸透性吸水材には、その中性化を遅らせるねらいがある。
打放しコンクリート表面に塗布する浸透性吸水材には、いくつかの種類があるが、それぞれ耐用年数と値段の関係で大別する。
①シリコン系の浸透性吸水防止材:耐用年数は5年程度
②アクリルシリコン系の浸透性吸水防止材:耐用年数は10年程度
③フッ素系の浸透性吸水防止材:耐用年数は10〜15年程度